過去ログ - 速水奏「ここで、キスして。」
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7:znAUHOH90 6[sage]
2017/04/05(水) 01:19:51.28 ID:znAUHOH90

「ねえ、煙草吸わないの?」
「人の前では吸わないよ」
「私の前では吸ってよ、プロデューサーさん」
「吸うなっつったろう」
「……へえ、キスしたいんだ?」

事務所のソファで隣り合ってコーヒをー飲む。結局、帰社したらしたであれやこれやと仕事が出てきてしまい、一段落ついた頃にはすっかり外に出るような時間ではなくなっていた。
仕方ないので事務所の休憩スペースをカフェがわりに、コーヒブレイク。
気の利いたサービスもインテリアも無いが、そんなくだらない時間でも、奏は楽しそうにしてくれた。

「悪いな、待たせて」
「ふふ、待つのが得意な女って、良い女だと思わない?」
「恋愛映画みてえだな」
「あら、それ、ちょっとイジワルよ」

口元に手を当てて、クスクスと笑う。
いつからだろう、まっすぐ見るのがこわくなった。
女にしては大きな華奢な手も、悪戯な笑顔も、長い睫毛も、濁りひとつ無い琥珀色の瞳も、すべて眩しい。
俺が彼女と同じ17歳だったら、彼女に話しかけすら出来なかったかもしれない。そして彼女は俺の年になるまでに、もっと綺麗になって、素敵な人と出逢っていくんだろう。

「そういえばさ」
「なに?」
「はい」
「え?」
「べつにブランドとかじゃないんだけどさ」

仕事の帰り道に買ってきてその場で包装してもらった、ペンと手帳のセット。
プレゼントなんて呼べるほどの代物じゃない小物。

「え、いや、なに、これ」

ぽかんとしている。珍しい顔だ。

「あ、ごめん。ピンク嫌いだったか? 使わないか?」
「つ、使う! 使うわ。使うけど……どうして?」
「今まで青とか寒色系が好きなのかと思ってたんだが、奏はアイポッドとか小物がピンクだろ? だから意外と可愛い色も好きなのかと思ったんだ。」
「そういうことじゃなくて! あぁ、もう……」

素肌をさらした長い足を抱え込み、プレゼントを抱いた手に顔を押し付けるように丸まって、隠してしまった。
隙間からのぞく白い首筋が紅くなっていく。

「どうした、奏」
「いや、今だめ。あっちいって」
「……見してみ?」
「こないで。だめ、絶対だめ」

抵抗する奏の表情をこじ開けようと戯れる。つかんだ手首が折れてしまいそうなほど細い。顔を伏せた奏が暴れるたび、彼女の香りが鼻から脳髄まで浸透してくる。
情けない男だな。頭の隅で誰かが言う。
彼女の好意に付け込んで、いつまでこの甘やかな時間に浸っているのか。それが彼女の可能性を刻一刻と奪うことだとはわかっているのに。
彼女にはもっとずっと相応しい男がいるよ。それがわかってるのに、いつまでも自分の満足のために食い潰すつもりかい?

「……何よ」

こじ開けた両手の中から出てきた真っ赤な顔は、キッと鋭くにらみながら、口元はにやけていた。
むりやり口を閉じて隠そうとするが、どうにも止まらないらしい。
苦心の末に作る妙なしわと唇のゆがみが、まぬけというかコミカルというか。
奏らしくない締まりのなさ。
それを眺めてるだけで、とけるような心地になる。

「いや……みないでよ、もう……」

ソファの背に体を、頭を押し付けるように、目線をそらしてうなだれた。手首を掴んでいると、まるで押し倒しているかのよう。
無防備な首筋に、細い肩に、どうしようもなく噛み付きたくなった。

「俺、奏の担当外れることになった」

けど、言わなくちゃ。
深みにはまって、止められなくなる前に。


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