過去ログ - 橘ありす「その扉の向こう側へと」
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14: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/04/09(日) 15:49:08.96 ID:L8J356lk0



「――慰めなんかじゃ、ないよ」

否定。ああ、否定してもらえた。
頭に上った熱が、すっと引いていく。
それは否定される恐怖によるものかもしれないけれど、肯定される恐怖と比べれば些細なものだった。

「そうしたいなら、私はありすちゃんの手を引いてあげなきゃいけないから」

言葉の示す意味合いがはっきりと分かったわけじゃないけれど。
プロデューサーに手を引かれて、どこかへ連れて行ってもらう自分を想像してみる。
それは私が忌避する、そうなりたくないと感じ続けている私の姿によく似ていた。
プロデューサーもそれを望んでいるわけじゃないとわかっただけで勇気がわく私は、ひどく単純だ。

「もう一つたとえ話、いいかな?」

頷いて、それがプロデューサーさんには見えないことに気付いてから、あわててはい、と返事した。
プロデューサーが望んでいる私。それを少しでも知りたかった。

「橘さんは今、扉の前にいる。それを押し開けようとするんだけど、どんなに力を込めても開きそうにない……どうする?」

「ええと、押して駄目なら引いてみる。扉に関するたとえ話の基本です」

「そうだね。じゃあ、引く以外にも色んな開け方を試してみたけれど、どれも駄目だったとしたら?」

それは謎かけだろうか。それとも心理テスト?
少なくとも、比喩ではあるのだろう。
今私が直面している問題を、開かない扉になぞらえた、そんな比喩。

「…………扉を、ノックしてみます。向こうにいる誰かが、気づいて開けてくれるかもしれません」

「そっか。橘さんなら、そうするんだ。……じゃあ、その助けをどれくらいの間待っていられる?」

「誰も、その先に居ないって言うんですか。そんなの八方ふさがりじゃないですか」

「……ううん、助けはいつか来るよ。必要なら、私がその役目になるから」

だけどね、と。プロデューサーは続ける。

「扉の鍵は、自分で見つけた方がきっと素敵に思えるはずなんだ。これは私の希望的観測」

扉の鍵、その先に進むために必要な物……ああ、ようやく話がつながった。
くす、と小さく笑ってしまう。だって。

「プロデューサー、言い方が少しロマンチックすぎます。伝わらなかったらどうするんですか」

単純に、私を応援してくれているだけの話じゃないか。
直接的な言葉に反発してしまう私を、回りくどいたとえ話でごまかして。

「う、友達にも家族にも言われるんだよね、たまにふわっとしたこと言うって。壁とでも話してろって感じだよね」

素だったんだ。今度は、完璧に吹き出してしまう。
どうやら気にしていたらしくて、そういえばたとえ話をすると言った時の声音はどこか窺うような感じだったことを思い出す。
私の機嫌に対しての言葉だと思っていたけれど、案外こっちだったのかも。

「ふふっ……鍵、どんなに探してもうまく合うものが見つかりません。いつかちゃんと見つけられますか?」

「もちろん。いろんな場所を探してごらん、何度だって試させてあげる」

窓から見える景色が少しだけ見覚えのあるものになってきた。
話の方も、これで終わりらしい。

「着いたよ、ありすちゃん」

頷いて車を降りた。
車の前側を回り込んで、鍵をしまっているプロデューサーに対面する。

「減点いちです、プロデューサー。次に提出する歌詞がそのまま通ったら、その時は」

そうして私は悪戯っぽく、そしてアイドルらしく笑ってみるのだ。

「ちゃんと名字で呼んでくださいね」



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