過去ログ - 橘ありす「その扉の向こう側へと」
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16: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/04/09(日) 15:52:02.25 ID:L8J356lk0



「ありすちゃん、添削届いたよ!」

明るく、うれしそうな声。私の名前を呼ぶ声。
それだけでもう、だいたいわかった。

「橘です。今度はどうでしたか?今までと全然違う歌詞だったので、困惑させてしまったのではないかと」

「ううん、むしろようやくありすちゃんの意図がわかった、って。そう書いてあったよ」

「……ちなみに、それは原文そのままでしょうか。特に私の呼び方について」

訂正したらとりあえず名前呼びを直すくらいのことはしてくれていたと思うのだけど。
早めの権利主張か、あるいは単に素が出ているのか。

「え?あ、えぇっと……ノーコメントかな?」

……ああ、後者だと予想がつく。
プロデューサーがそれだけ喜んでくれているのだとわかるから、あんまり強くは言えなかった。

「まあ、一回でOKが出たわけじゃないので名字で呼ぶことを強制はできませんけど。……添削、読ませてください」

たまには名前を呼ばれてもいい、と主張するための口実とともに受け取ったそれには、「in fact(仮)」とまだ決まっていなかったタイトルが記されている。
また、いくつかの歌詞の言い回しが、ぼかしたり、ダブルミーニングを添えられたりしながら調整されていた。
今までのかみ合わないような違和感はなく、私の想いが詩として昇華されて、そこにあった。

「プロデューサー。やっと歌詞、完成しそうです」

「うん、それはよかった。……でね、そんな橘さんにもう一つステキなお知らせ!」

ずい、とさらに私に歩み寄って、イヤホンをつまんだ手を伸ばしてくる。
その所作に思い当たることが一つあって、期待が高まるのを感じた。
イヤホンをつけて、流れてきたのは静かで寂しげな旋律。
だけど少しずつ熱を持っていく。ボリュームもテンポも特別インパクトがあるわけじゃない。
それなのに、どんどんと熱く、たたきつけるみたいな気持ちが湧き上がってくる。

「プロデューサー、これ……」

「作曲家さんにもお願いして、曲のほうもベースを作ってもらいましたっ。どうかな?」

歌ってみたい。自然とそんな風に言葉が出てきた。
私の歌うこの歌がこの詩を乗せて誰かの心に届くなら。
アイドルって、きっとそういうものを言うのだろう。

「それじゃあ、これから忙しくなるよ。レッスンも曲に合わせたものになるだろうし、発売イベントもあるから、ね」

「イベント……人前で、歌えるんですか?」

「もちろん。ステージの主役になるのは、橘さんにとっても初めての経験だよね」

話として聞いているだけじゃ実感なんて湧いてこないけど、手元の詩とさっきまで聴いていたメロディは夢とかじゃない現実で。
レッスンを重ねて、CDの宣伝なんかを目にしたりする機会もあるかもしれない。
そうやって日々を重ねていくたび、この胸の高鳴りがどんな風に変わっていくのか、楽しみでならなかった。



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