過去ログ - 橘ありす「その扉の向こう側へと」
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3: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/04/09(日) 15:32:50.15 ID:L8J356lk0
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いつだっただろう。二年くらい前かな。
私は親の買い物のために、大きなショッピングモールに連れて行かれた。
残念なことに本屋とか、私の興味を引いてくれるお店はそこにはなく、かといって買い物について行っても退屈してしまうだろうし、邪魔になってしまうかもしれなかった。
だから私は自分からここで待ってる、なんて言って、ちょっとしたステージと一緒に用意されていた休憩スペースで、一人パズルゲームをして待っていたのだ。
そんな折、唐突に辺りの照明が落とされた。
私の持つゲーム機から発される光はとても目立ってしまっていて、だから大慌てで電源を落とし、周りをきょろきょろと窺っていた。
ステージにだけ照明が向けられていたから、何かのイベントがあるのだということはすぐに理解できた。
司会の放送とか、そういうものもあったと思うのだけど、私はそれを全く覚えていない。
だって、仕方がないのだ。
私の印象は、私の衝撃は、私の記憶は。
全て、その後に起きた出来事に支配されているのだから。
舞台の袖から、一人の女の人が歩み出る。
その人は高校生くらいのお姉さん。背筋をぴしりと伸ばして静かに礼をする姿に、息をのんだ。
どこかに置かれているスピーカーからピアノの音が流れる。
イントロを終えて、女の人が歌い始める。
その瞬間から、私はその歌のとりこになった。
こういった歌を披露するようなステージに生で立ち会うのが初めてだったことも、きっと関係しているのだろう。
だけど、そんなのはとても些細なことで。
歌が耳に届くたび、頭になにかががつんとぶつかる心地がした。
その綺麗すぎて怖くなる、張り詰めた歌声の節々から感じる力強さ、切実さ。
息が詰まるような感情の奔流は、どうしてか私に大人というものを強く意識させた。
きっと、この切実さが、大人になることなんだ。
私と10年も生きてきた時間の違わないであろうお姉さんの歌に、しかし私は大人というものを確かに感じ取ったのだ。
以来、私はあの歌を自分のものにしたくて、あの感情を自分の中に見つけたくて、音楽に傾倒するようになった。
それは小学生ながらに私が見つけた、夢と呼べるあこがれだった。
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