355: ◆e6bTV9S.2E[saga]
2017/07/31(月) 02:45:30.36 ID:CoS0sUBf0
山中が記録を書き残して、一息ついた頃。放浪者が寝室の中に入ってきた。いつも通りの様子でベッドに腰かけたが、ここのところ普段の寡黙さから更に押し黙るような雰囲気を出している。もっとも、それがわかるのは最も近しい山中だからこそだろう。
「そろそろパラノイアとの、戦いを始めるということでいいですか?」
放浪者はその言葉に即答せず、目を閉じた。互いに総力をかけることになるそれは、全て安易に決められることでは一切ない。何より総力戦ということは、どのような結果であれ双方に血が流れることになる。メンバーに何も問題なくパラノイアを処理する。その願いは、絵空事と言ってもいい。もしできればそれは、奇跡という言葉が相応しい。
不可能を可能にする、そういえることを何度か実行した放浪者でもそれは容易なことではない。例えるなら、英雄は1人、2人なら救えるだろう。だが全ては救えない。それは放浪者も同じことだ。
それを理解し、そして戦いは避けようがない現実を突きつけられている。その上で放浪者は、誰も死なず、その上でパラノイアを処理するという不可能に挑む。そう、結局のところ、やらなければ永遠にそれは成せない。
「…三日後だ」
短くもはっきりと彼は答えた。山中は頷き、ゆっくりと近づいて彼の手に触れる。何も言わず、そのままゆっくりと撫でる。温かみの中に、武骨で力強い手触りだった。
「どうされようと、貴方を信じます」
「…あぁ、苦労をかける」
そのやり取りの意味がわかるのは、2人だけだった。
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