385: ◆e6bTV9S.2E[saga]
2017/08/23(水) 02:31:15.46 ID:ACHivlhz0
そこには多くの群衆らしい人影がいた。壇上の上にある机には蝋燭が灯され、群衆はその前の広いフロアにある外周に身じろぎもせず立っている。そしてその中央には、両腕を一人ずつ捕まれ、膝立ちの状態になっている人間がいた。その中央部分の周囲にも蝋燭が灯され、人間を拘束しているのは、ゾンビだ。
壇上に1人だけいた人影がゆっくりとその人間に近づく。人間、男は恐怖に染まる顔が蝋燭から放たれる柔い光で浮き彫りで、足音だけが近づいてくることで増す恐怖が、身体をも震わせる。
足元が見え、そして全体が現れる。褐色肌に、赤い目。羽毛付きの白色のロングコート、腰には西洋の剣が鞘に収まっている。その存在が、ゆっくりと男に近づき、顎に手を添えた。その表情は、言ってしまえば品定めをするようなものだ。
『貴様のような下賎の者が、なぜ我が王国に来るのだろうな?』
男は衝撃を受けた表情をする。それは直接、脳の中に叩きつけられた言葉、聞く聞かないではなく。聞かされるものだった。
『だが光栄に思い給え。我が王国は、試練さえ乗り越えればどんなものでも受け入れる』
にいと、褐色肌のそれは口元を歪ませた。それは、人間が遠く昔に忘れた、捕食者の顔。本能で理解できた男は、声にならない嗚咽のような悲鳴を上げ、拘束を振りほどこうとする。だが、捕縛された際に負ったダメージが、その抵抗を弱弱しくさせている。
歪んだ口元を大きく開け、男の首元にかぶりつき、そして引きちぎる。褐色肌のそれが、口のものを吐き出すと拘束していたゾンビは男から手を離す。首元に手をやり、出血を抑えようとするが、そもそも身体に力が入らなくなった男は、そのまま床に突っ伏す。
『ほぉ…』
しばらくして、ビクンと男は身体を跳ねあがらせ、激しく痙攣を始める。それを見て、ますます褐色肌のそれは嬉しそうに微笑んだ。
『試練を乗り越えたようだな…。貴様を歓迎しよう』
見る見ると変異していく男に、その言葉が届いたかは、定かではない。
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