過去ログ - 安斎都「ドレスが似合う女」
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18:名無しNIPPER[saga]
2017/04/18(火) 14:52:16.48 ID:MEjdUG/c0
 私はそっと姿を消そうとしたが、その前にあいさんに気づかれてしまった。
「おや、都くんじゃないか…ひょっとして見ていたのかい?」
「いいえ、私はあいさん以外なにも見えません」
 あいさんも、みんなと同じ笑い方をしているのが悲しくて、私は咄嗟にそんなことを言った。自分らしくない、キザなセリフだ。
「都くんは……いや、私になにか用かい?」
 あいさんは何かを言いかけて、やめた。それが気になったけど、深入りせず、託されたお酒について話した。
「なるほど、ボトルキープね…楓くんらしいな」
 あいさんは、こめかみに指をあてて目を閉じた。何か考えているときの仕草。
 少し風が吹いて、あいさんの綺麗なまつげがふわふわと揺れた。
「川島さんが彼女の遺品を整理している。彼女に渡すのが一番いいだろう。
 ご実家にある仏前まで直接行くのは、私たちの身分では難しいからな」
 高垣さんのご両親の顔を、私はうまく想像できない。
 高垣さんには、人間から生まれてきたとは信じられないくらい、天から舞い降りたような、「純真・無垢」というイメージがあった。だからみんな、彼女の死に深く動揺している。
 ともすれば、人間としての高垣さんの死を悲しんであげられるのは、彼女のご両親だけかもしれない。私は、そんなふうに考えた。
「それじゃあ仕事が終わったら、川端さんの家までドライブと行こうじゃないか」
「私が…」
 私が行ってもいいのだろうか。あの部屋での出来事を考えると、これ以上高垣さんについて、立ち入るべきでないような気がした。
 でもあいさんは優しく微笑んで、私を諭してくれた。
「それを君に託した人は、君を信じていたのだろう?
 私がここで受け取るのは筋じゃないさ」
 私を信じてくれた人。あのおじさんの顔を思い出して、私は決心した。



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