16:名無しNIPPER[saga]
2017/04/23(日) 22:39:19.07 ID:M/h/fDsR0
俺の追い突きは、中野有香の鼻先で止まっていた。
拳は止まっても、一緒に連れて行った風は止まらなくて、彼女の黒髪をふわりと揺らす。
「負けました。あたしもまだまだ、ですね」
今度は、彼女は笑わなかった。
どうしてだろう。
やっと、勝てたのに。
二度と勝てないと思っていた相手に、勝てたのに。
どうして、こんなにも胸が苦しいのか。
どうして、俺の両の目からは、涙が溢れているのか。
何もかも、わからなかった。
「ど、どうしましたか? もしかして、あたしの蹴りが当たっちゃいましたか?」
何も言わない道場長と、おろおろする中野有香。
ああ、なんでだろう。
どこで間違えた。
「…………こんなつもりじゃなかった」
震える声で、そう言って、俺は人生で初めて、練習をサボった。
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