2: ◆S6NKsUHavA[saga]
2017/05/09(火) 01:45:37.56 ID:whF7ja/yO
「連休も終わったのになんでこんなに忙しいんだッ!」
「仕方ないだろう、そう言うスケジュールなんだから……」
雑誌のグラビア撮影を終えて次の仕事に向かう車中で、美玲は口をとがらせる。隣で運転するプロデューサーは次の現場までの最短距離を頭の中で確認しながら、湯気でも噴き出しそうな彼女を軽くたしなめた。
大型連休も終わった最初の週の平日は、街も全体に気怠げだ。いつもはノートパソコンやタブレットを広げて趣味や仕事に興じる人々が散見されるオシャレなオープンカフェも今は閑散としており、日が傾きつつあるにも関わらず下がらぬ気温に茹だったサラリーマンがだらりと机に突っ伏している。
「ていうか、車の中暑いぞッ! クーラーつけないのか、プロデューサー!」
「窓開ければ風が来るだろ……」
「風切り音がうるさくて寝れない!」
「寝るなよ。すぐ着くぞ」
プロデューサーの言葉通り、五分も車を走らせたところで目的地へと到着した。今日の仕事のトリを飾るのは、大型CDショップでのインストアイベントだ。ファンとの距離の近いイベントなだけに、美玲にも若干緊張の色が見え隠れしている。
楽屋代わりの従業員控え室で着替えとメイクを施して、出番を待つ。ミニライブの後に握手会も控えているため、今回は大きな爪は無しだ。何となく落ち着きなさそうに指を組んだり眼帯をもてあそんでいる彼女を見て、様子を見に来ていたプロデューサーは軽く吹き出した。
「な、なんだよッ! 緊張してるんじゃ無いぞッ! ちょっと手元が落ち着かないだけだッ!」
「分かってるよ」
そう言いながらも上向きの口角を隠せていないプロデューサーに、美玲は頬を膨らませる。重ねて文句を言おうとするも本番のお呼びがかかり、彼女はプロデューサーに「イーッ!」と威嚇の表情を向けてからパチンと両頬を叩いて切り替え、イベントの舞台へと足を向けた。
「待たせたな、オマエらッ!! ウチが来たからには、今日は最高の日になるぞッ!!」
「うぉぉぉぉッッッッ!!」
勢いよく壇上に上がるやいなや、勝ち鬨のごとく雄叫びを上げる美玲。彼女の登場を待ち侘びていたファンの声に応え、彼女は全三曲を歌いきった。その後の握手会では汗が目に入って途中から眼帯を外さざるを得なくなるハプニングもあったものの、概ね盛況のうちにイベントは終了した。
後片付けも終わり、再び普段着に着替えた美玲は、打ち合わせを終えて戻ってきたプロデューサーと合流した。まだ興奮冷めやらぬ様子の彼女はいつもより饒舌にイベントの様子を話し、プロデューサーはそれをニコニコしながら聞いている。
再び車に乗り込み、二人は会場を後にした。このまま寮まで直帰したいところだが、美玲は事務所に学校の荷物を置きっ放しにしているため、いったんそちらに戻らねばならない。車に置いとけば良かったと後悔する美玲に苦笑いを返しながら、プロデューサーは事務所へと進路を取った。
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