798:名無しNIPPER[saga]
2017/12/05(火) 00:14:45.06 ID:HHfyV3AE0
「……お兄ちゃん。もういいよ」
目が合う。
言葉を続けようとして、彼女の口が何度か形を変える。
彼女のあどけない顔つきを見ていると、それまで硬直していた身体が自然と動きはじめる。
何か言ったら変わってしまう。この状況で対話を試みることは俺にとって害になり得る。
まず部屋に戻ろう、と思った。手を引くと、彼女は俺に聞こえる程度の大きさで安堵の息を漏らした。
すれ違うとき佑希は呆けたようにこちらを見つめたまま、何も言うことも動くこともしなかった。
階段を上がる最中も、後ろ髪を引かれる思いを感じていた。
戻らなくてはという思いは少なからずあった。
当たり前だと思う。俺はずっと彼女の抱える問題について近くで見て考えている振りをし続けていたのだから。
疚しさは肥大化していく。
彼女がこうなってしまった責任の一端は俺にある。
俺が彼女を蔑ろにできなかったのは結局自分が楽をしたかったからだ。決定を先延ばしにしたかったからだ。誰かに文句をつけられることが嫌だったからだ。
彼女を蔑ろにすることは、俺が今までとってきた言動が全て欺瞞だったと認めることになる。
今この行動を取ったからといって、この後にどうすればいいのかなんて、俺には何も判断できない。
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