過去ログ - タイトルを書くと誰かがストーリーを書いてくれるスレ part6
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名無しNIPPER
[saga]
2019/07/15(月) 00:11:00.82 ID:+8luKHZt0
>>849
「まーた本に夢中になってる」
放課後のチャイムがなってから三時間二六分。
手元へと視線を落とした私に掛けられた穏やかな声に、ハッと顔を上げる。
「もう暗くなっちゃうよ? ほら、帰ろ」
夏の日差しに焼かれた彼女は真っ赤に染めた笑顔で私を急かすと、左肩からまっすぐ下げたスポーツバッグを重たそうに担ぎ直した。
その様子をぼけっと見つめ、もう一度ハッと我に返る。オドオドと頷きを返してから、右手に持った本に左手で栞を挟んで立ち上がり、私の定位置──彼女の右隣に並んだ。
「待ってなくてもいいよって言ってるのに。せっかく帰宅部なんだから、家でのんびりすればいいんだよ」
私はブンブンと左右に首を振る。
せっかくの帰宅部だからこそ私はこうして待っていたんだよ、と。
「ふふっ。待っててくれるの嬉しいんだけどねっ。ありがと、待っててくれて!」
「あっ、そうそう! もうすぐ夏休みじゃん? 空いてる日ってあるかな? 分かる分だけ全部教えて!」
言い終わる前に彼女はぴたりと足を止め。子供のように、或いは恋する乙女のように、キラキラと目を輝かせながら私の顔を覗き込む。
……まだ予定を聞かれただけ。それだけなのに。
「ん? あれ? 珍しい顔してるね?」
ふにゃふにゃとマヌケに歪む唇を必死に均して、だけど我慢できずにへにゃりと笑う。
「あははっ♪ そっかそっか! じゃあさ、二人で遊びに行こうよ!」
「あたしは結構空いてる日あってさ。部活の休み、思ってたより多いんだよね〜」
ふわりと吹いた風が、私の頬を熱く彩る。
いつもなら私はただ頷くだけ。一歩踏み出すだけの勇気なんて持っていなくて。
だけど。
「…………私」
「うん。どこか行きたいところ、ある?」
彼女が吹かせる穏やかな風。私の心に鬱蒼と茂った気恥ずかしさや遠慮を、いとも容易く枯らしていく。
「ほ、本屋さん……の、隣に、ね? アイスクリーム屋さんが出来て……」
「アイス! いいねいいねっ! まずはそこに行こう♪ 本屋さんにも寄ろうね!」
ゆっくりと、同じ歩調で歩き出す。
いつもより半歩だけ近い彼女との距離。
左手にコツンと触れる彼女の右手。交じり合う視線。夕焼け色の夏空コガラシ。
夏はまだ始まったばかり。
おしまい
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