過去ログ - 傘を忘れた金曜日には -SS速報VIP

過去ログ - 傘を忘れた金曜日には

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39:名無しNIPPER[saga]
2018/04/20(金) 00:04:07.61 ID:J2kwVBQyo

◇

　文芸部室の壁には、一枚の絵が飾られている。

40:名無しNIPPER[saga]
2018/04/20(金) 00:04:39.92 ID:J2kwVBQyo

　海と空とが向かい合い、それぞれの果てで重なり合うその絵の中心に、黒いグランドピアノが悠然と立っている。
　グランドピアノは、水面の上に浮かび、鍵盤を覗かせたまま、椅子を手前に差し出している。

　ある者は、このピアノは主の訪れを待ち続けているのだ、と言う。またある者は、いや、このピアノの主は忽然と姿を消してしまったのだ、と言う。そのどちらにも見えた。

以下略

41:名無しNIPPER[saga]
2018/04/20(金) 00:05:06.87 ID:J2kwVBQyo

「ウユニ塩湖みたい」と、真中柚子がそう呟いた。

　彼女もまた、その絵を眺めている。

以下略

42:名無しNIPPER[saga]
2018/04/20(金) 00:05:39.11 ID:J2kwVBQyo

　天空の鏡とあだ名されるその塩原は、標高約四○○○メートルの高さに広がっている（富士山よりも高いんだよ、と真中は言った）。

　物見遊山で準備もなく向かえば、高山病の症状は避けられないだろう。
　また、その面積は一万平方キロメートルにも及ぶという（岐阜県と同じくらいなんだよ、とやはり真中は言った）。

以下略

43:名無しNIPPER[saga]
2018/04/20(金) 00:06:13.52 ID:J2kwVBQyo

◆

「桜の森の満開の下には、秘密がある。春になるたびにうつくしい花が咲き誇るのを見て、人はおそろしさのあまり正気を失う。

以下略

44:名無しNIPPER[saga]
2018/04/20(金) 00:07:26.23 ID:J2kwVBQyo

◇

　その日、部活を終えて家に帰る途中に、俺はひとりで『トレーン』という名前の喫茶店に立ち寄った。

以下略

45:名無しNIPPER[saga]
2018/04/20(金) 00:07:58.57 ID:J2kwVBQyo

　俺がカウンターに座ると、ちどりはすぐに水を用意してくれた。

「苦しゅうない」と偉ぶって見せると、「ははあー」とにこにこしたまま頭を下げてくれる。
　ノリのいい奴だ。

以下略

46:名無しNIPPER[saga]
2018/04/20(金) 00:08:33.56 ID:J2kwVBQyo

「何か用事ですか？」

「そういうわけじゃないんだけど、元気かなあと思って。最近会ってなかったし」

以下略

47:名無しNIPPER[saga]
2018/04/20(金) 00:09:02.62 ID:J2kwVBQyo

　マスターがコーヒーを届けてくれてからも、ちどりは俺の前に座ったままだった。

　こういう店では、常連と話をするのも仕事のうちという話はきくけれど、こいつの場合もそうなのだろうか。よくわからない。

以下略

48:名無しNIPPER[saga]
2018/04/20(金) 00:09:30.14 ID:J2kwVBQyo

「新入部員、入りました？」

「それがおもしろい話だったんだが……」

以下略

49:名無しNIPPER[saga]
2018/04/20(金) 00:09:59.86 ID:J2kwVBQyo

　とはいえ、少なくとも、『夜霧』も『朝靄』も、綺麗な絵だ。

『夜霧』は、霧に包まれる夜の街を、『朝靄』は、靄の立ち込める早朝の湖畔を描いているらしい。
　詳しくは知らない。どちらも、靄と霧に覆われてはいるが、曖昧に、人影のようなものを見つけることができる。

以下略

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