810:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/22(火) 22:46:23.99 ID:gNI1FyNyo
「えっ、あっ……えっ!?」
彼女は、慌てふためき、視線を彷徨わせる。
その場に居る人間――私と、彼女の妹と、その足元を巡り続ける。
やがて、彼女は一つの結論を導き出した。
希望と言う名の、細い糸を離さぬように握りしめて。
「いっ、イタズラはやめてよね!」
そうであったなら、良かったでしょう。
しかし、貴女も……理解していますね。
今、この現状は、イタズラなどと可愛らしいものではなく、
戦いに破れた者が迎えざるを得なかった、過酷な現実という事が。
「イタ……ズラ……?」
普段の、大人でいようと背伸びをしている、彼女の声では無い。
理性を全て剥ぎ取られ、剥き出しになった本能。
鸚鵡返しに発された、受動的な言葉ではない。
能動的を通り越し、最早自動的と言えるようなそれは、
「――アハッ☆」
同じ血を分けた、尊敬する姉へと、
「カブトムシに見える?」
時代を切り開くカリスマ特有の鋭さで以て、容赦なく突き立てられた。
あまりの切れ味に、
「っ……!?」
先輩アイドルである彼女も、流石にたじろいだ。
それは、言葉の暴力によってか。
はたまた、吹き付ける風で、家の中に異臭が入り込まないようにするためか。
……どちらにせよ、開かれたドアが、ほんの少し、
ほんの数センチだけ、閉じようとした。
「カブトムシに、見える?」
しかし、閉じようとしたドアは、小さな手によってその動きを制限された。
よく見れば、ドアを掴む手は、微かに震えている。
手首を飾っているヒマワリのアクセサリーが、
太陽の光を浴びてキラリと輝いた。
「み……見えない」
「だよねー☆ だって、カッコよくないし☆」
食い気味の、明るい声。
「っ……!」
それを受けた彼女は、肩越しに見える私に、
――助けて。
……と、視線で救難信号をこれでもかと送ってきた。
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