891:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/26(土) 16:20:43.40 ID:G+GE+eRUo
「あ、起きた?」
仰向けに寝ていた顔の上に、声が降り注いだ。
出所は近く、少し体を起こせば触れてしまう距離。
瞼が一気に開き、脳が瞬時に覚醒する。
――何故、彼女が此処に?
「……」
何と言うのが正解かわからず、しばし黙考する。
その間にも、向けられた視線は私を捉えて離さず、
彼女の微かな息遣いが私の頬をくすぐってくる。
――何故、彼女はこんな真似を?
「寝ぼけてる? 珍しいね」
確かに、彼女の前でこんな姿を見せたことは、無い。
しかし、それは当然の事であるし、そもそも、
私達の関係性からして、あって良い事では無いのだ。
――何故、貴女は、
「……良い、笑顔です」
そんな笑みを私に向けているのでしょうか?
「っふふっ!」
不意を突かれたのか、彼女は目を見開き、笑いながら顔をあげた。
それは、とても良い笑顔。
私の見たことのない、美しい表情だった。
「それ、久々に聞いた」
そう、だっただろうか?
口癖だと言われる程、繰り返して言っていると思うのだが。
顔を横にし、ベッドの横に立つ彼女を見上げる。
「ほら、早く起きないと遅刻するよ」
その姿は、私の知る彼女よりも幾分か年齢を重ねている。
声も、ほんの少しだが低くなっていて、
何より、落ち着きの中に……穏やかさを感じるのだ。
駆け抜ける風ではなく、朗らかな春風のように。
「二度寝なんかしたら、承知しないから」
そう言い残し、部屋を出ていく彼女の後ろ姿を見る。
閉まる、ドア。
「……はあ」
私は、右手を首筋にやって、人知れずため息をついた。
……なんという夢を見ているのだろうか。
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