892:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/26(土) 16:55:25.39 ID:G+GE+eRUo
・ ・ ・
「〜♪」
身支度を整え、テーブルにつきながら、
機嫌良さげに鼻歌を歌っている彼女をチラリと見る。
テレビから流れてくるニュースの音声よりも、
私の耳は彼女の奏でる音色に傾いているようだ。
「〜♪」
聞こえてくるのは、彼女のソロ曲。
本来の調子ではなく、アップテンポにアレンジされている。
時折、リズムが跳ねるのは、フライパンを持ち上げたり、
食器を用意し、料理をそれに盛り付けているからか。
「どうしたの?」
私の視線に気づいたのか、彼女が問いかけてきた。
だが、それに対する答えは無い。
彼女の姿を眺めていただけ。
ただ、それだけなのだから。
「……すぐ出来るから、ちょっと待ってて」
それを察したのか、彼女は呆れた顔をし、鼻歌を再開した。
曲は、『お願い! シンデレラ』。
先程よりも、より大胆にアレンジされている。
澄ました顔からは、今にも笑顔が零れ落ちそうだ。
「……」
幸せな夢。
しかし、これは私が見てはいけないものだ。
早く、目を覚まさなければいけない。
そうでなければ、‘彼女’に対して失礼であるし、
私が、自分自身を許せないからだ。
「……」
左腕に巻いた時計を確認する。
いくら目を凝らしても、針はぼんやりとしか見えず、
ハッキリとわかるのは、12のアワーマークのみ。
目に入る時刻を表すものは、ずっとこの調子だ。
「お待たせしました」
コトリと、横から皿がテーブルの上に置かれた。
丁寧な口調なのは、時間を確認していた私へのちょっとした抗議だろう。
焦らせるつもりはなかったのだが、機嫌を損ねてしまっただろうか。
ここで余計なことを言っても、何にもならない。
「いただきます」
私が口にするのは、それだけ。
美しく輝くスクランブルエッグの味がしなかったのは、
彼女が頬を膨らませているからか、私を気遣って塩分を控えているからか。
きっと、これが夢だからなのだろうが、
そう断じてしまうのは、あまりにも味気ない理由な気がする。
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