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97:tears その訳を[sage saga]
2014/10/15(水) 00:47:46.62 ID:Wpuqqfl+O
「……大丈夫?」

二度と泣かせたりしない。ずっと大切にする。そう誓ったはずだった。……なのに。

「平気。なんでも……ないから」

それなのに、この有り様。あたしには自分の愛する人の笑顔さえ守れない。

「……ごめんね」

部屋を飛び出した彼女の背中を追うことも出来ず、あたしは呆然と台所に向かう。

流しの下の扉を開ければ、其処には鈍く光る包丁が納められていて。

あたしはその中から一番大きくずっしりと重みのある出刃包丁を取り出す。

残りは全て、あたしがやる。後始末も、片付けも。あの子の手は汚させない。

怒りと僅かな戸惑い。それを胸奥に押し込めて、標的を一瞥する。

既にあの子の手によって四等分に切り刻まれたソレは、けれど未だ不細工で不完全で。

「……細切れにしてやるッッ」

首掛けタイプのエプロンを着て、まな板の前に立つ。

「跡形もなく。影も形もなく。この世界に存在していたかどうかさえ、疑る程にッッ」

怒りでその身が震える。

否、もしかすると怒りのみではないのかもしれない。

畏れ。慈しみ。その他の名もなき感情が奔流となってあたしを押し潰そうとする。

「……あれ?」

気付くと頬には涙が伝っていた。悲しくなんて、ないはず。なのに、どうして……。

「ティッシュをね」

気付くとあの子が居た。震える私の肩を抑えるように。抱き締めるように。

「鼻に詰めると、出ないんだって」

「涙」

催涙性物質、硫化アリル。

鼻から侵入して、目の回りの神経を刺激する、迷惑な成分。

こんなやつは、玉ねぎ共々滅びてしまえば良い。

鼻の穴にティッシュを詰めて微笑む女神の隣で。

あたしは思う。そっと、密かに。

『平気。なんでも……ないから』

あの時、彼女の涙を綺麗だと思ったこと。

もちろんそれも、あたしだけの秘密。

だって別に、泣かせたいという訳ではないのだから。


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