14:名無しNIPPER[saga]
2017/05/10(水) 23:59:00.51 ID:Lcg4NRWM0
――――――――――――――――――――――――
「これ、よかったら食べてね?」
昼休み、見飽きた弁当箱の隣にそっと差し出されたてのひら。
その上にのった温泉まんじゅうがもちろん本題なんだけど、包装の和紙よりも白い指先に目が行ってしまうのは仕方がないことだ。
手首から、見えない血管を遡るようにして視線を上げてゆく。
そこにある柔らかな笑みが、他でも無く俺に向けられている。
「……おー、ありがとう!」
口の中に残っていたものを無理やり全部飲み下して答える。声は控えめに、代わりに頭を全力で縦に振る。
そして再びまんじゅうに視線を落とす。
それはてのひらにのったまま、一向に机に置かれる気配が無い。
もういっかい顔を上げると、高森は微笑んだまま、ハムスターのように小首を傾げてみせる。
――ひょっとして、つまんでいいのか?
思いもよらぬ機会を目の前にぶら下げられ、俺は固まる。が、
「ああ――ライブで、温泉街に行ったの。とっても素敵なところだったから、雰囲気だけでも、おすそわけって思って」
その一瞬で、彼女は机の上にちょこんとまんじゅうを置いてしまった。
「あ、ああ、そうだったんだ……ほんと、ありがとう!」
少しでも落胆に気付かれないよう努めて元気に礼を言った。
「なんてところに行ったんだ?」
聞いたことはあるが行ったことは無い街の名前が返ってきた。へー、そうなんだという適当な相槌しか打てない自分が情けない。
ここで会話を続けられたら、出る芽も――まあ万に一つくらいは――あるかもしれないってのに。
「そんなによかったんなら今度行ってみようかな、俺も」
もう一度、緩やかな笑みが返ってきた。
「うん、温泉も良かったけれど、街をお散歩するのも楽しかったから、考えてみてね」
そして彼女は次のクラスメイトに向かう。
その背中を未練がましく追う俺。と、くるり、振り返り、
「そうそう――お菓子、先生にはヒミツ、ですよ?」
今まで見たことの無い、いたずらっぽい微笑み。
これも俺に向けられたものだよな? そう思っていいんだよな?
――そう思うことにして、俺は小さく手を振った。ヒミツっぽく見えるように。
43Res/41.35 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20