モバP「誰にでも見せる顔」
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18:名無しNIPPER[saga]
2017/05/14(日) 22:47:36.58 ID:+lxSeETR0


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「……たく、全員ドタキャンかよ」

 約束していたはずの勉強会。どいつもこいつもサークルだのバイトだのいろいろな理由をつけて、日曜午後のゼミ室に来たのは俺一人だった。

 レポートの提出期限間近だから、なんかやらないとまずいんだけど……みんなもう目処が付いてるから来なくてもいいやってなったのか? 焦ってるのって俺だけ?

「はぁ…………どーすっかな」 

 嘆いたところで仕方がない。まだ図書館とか喫茶店の方がやる気になりそうだと思い、腰を上げたところに――部屋の前の方でドアノブの回る音がした。お、やっと誰か来たか――そう安心して座り直したのもつかの間。


「――あ、お疲れ様! 久しぶりだね」


 遠慮がちに開かれたドアから現れたのは――同じゼミ生にして、アイドルの、新田美波だった。 

「……お、おう、久しぶり」

 返事をするのがやっとだった。 

 ゼミ仲間といっても、向こうは仕事の方が忙しいせいで普段の時間は余り出席してないし、個人間での絡みもほとんどない。まあ同じゼミに在籍してるってだけでラッキーな方だろう。

「一応だけど……時間、間違ってないよね?」 

 ドアから一歩踏み出した彼女の全身が視界に入る。特別着飾っているわけでもないのに他の女子と違う確定的な何か。その上にある柔和な表情が苦笑いに変わる。

「んー、今日ここで勉強会だって連絡貰ったんだけど……直前で、皆来れなくなったって。もしかして男子もそう?」

 質問だった。俺は動揺を押し隠して答え、ため息なんかついてみる。

「あ、ああ。みんな勝手だよな。こんなんじゃ勉強会にならないってのに……」 

 そこまでで、俺のなけなしの勇気は底をついた、これまでさんざゲスなことを考えたり吹聴したりしときながら、いざチャンスに出くわしたところで現実はそんなもんだった。

 沈黙。頭ん中をいくら掻きまわしても、それ以外が見つからなかった。

「んーと、それじゃ」

 それじゃ解散しようか、緊張に耐えかねて切り出しかけた瞬間――座っていた俺の上から、ふわりと、香りが降りてきて鼻先をくすぐった。

「その……よかったら、なんだけど」

 恐ろしく近くで新田の声がした。顔を上げる。

「最近私、全然ゼミに参加出来てなかったから、進行とか、いろいろ教えてくれないかな?」

 胸元のボタンの糸さえ見える距離に新田がいた。少し赤らんだ頬に、不安そうな形の眉。引き結んだくちびるは剥き身の柑橘類みたいにみずみずしい。

 緊張、しているのは彼女も同じだと分かった。それが分かって少しホッとして、いいぜ、なんてカッコつけて言ってみた

「……ありがとう! ごめんね? レポート提出前でそっちも忙しいのに」

 彼女の表情はぱあっと明るくなった。いそいそと俺の正面に座り、それじゃ、よろしくお願いします、ってうやうやしく頭を下げたかと思えば、はにかんで笑った。 

 こっちまでつられて笑った。

 そうして勉強をはじめて、空気が緩やかになっていくのを感じた。俺は特等席で、歳相応にころころ変わる彼女の表情を見ることができた。

 勝手に遠ざけていたのは自分の方だったのかもしれないと、途端に大胆なことを考えた。

 意外とこういうのが切っ掛けで……なんて。まあ今日はがっつくような場じゃない。

 これから、考えていけばいい。何枚にも広げたレジュメを俯瞰する、新田の真剣な表情を見ながら、そう思った。




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