23:名無しNIPPER[saga]
2017/05/21(日) 23:56:22.54 ID:ywFCEYI/0
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昼休みの終わり、校庭から教室に戻る途中で、他の奴に言われて気が付いた。上から2番目のシャツのボタンがどっかに消えて、白いひもだけがひょろひょろ飛び出していた
後半くらいにファールもいいとこの掴みかかり方をしてきやがったやつのせいだろう。そういえばイヤな感じの音がしたのを覚えてる。
「あっはっは、かーちゃんに怒られんぞおまえー」
教室に戻ってもしつこく絡んでくるそいつをそろそろシメようかと立ちあがった瞬間、
「きゃっ!」
すぐ横で誰かが驚いた声で、オレ自身もビビってしまった。
「あ――ごめんね、ボタン、取れちゃったんだなって思って、じーって見ちゃってたの」
恥ずかしそうに微笑みながら言ったのは、佐々木だった。教室では隣の席で、そこにはもう教科書もノートもきちんとそろえて置いてあった。
まだ汗だくのオレたちとはえらい違いだ。はん、だか、ふん、だか言って、オレは顔を背ける。
とりあえずもう一回かーちゃんがどうだとダチが言おうもんなら、その時はぶん殴ってやるぞと心に決める。
「――ママに怒られちゃうの?」
まさか佐々木から言われるとは思わなかった。ハンシャ的に悪口を言いそうになるその前に、もうひとこと、佐々木は。
「……千枝、できるかも、ボタン、取ってある?」
オレは佐々木を見た。まじまじと、正面から、佐々木の顔を見てしまった。
「じゃあ、脱いで?」
放課後、二人きりの教室で佐々木にそう言われ、背筋によくわからないものがはしった。言われるがまま無事だったボタンをひとつひとつ外して、もたつきながらソデを抜いた。
汗を吸ってじっとりとしたそれを佐々木はイヤな顔一つせず受け取り、ちょこんと座った膝の上に広げた。
「似たようなボタンならたぶんあるから……えへへ、男子、元気だもんね」
裁縫箱をまさぐる佐々木は、あまりにオレが見つめたせいか、はにかみながらそんなことを言う。
少し待っててね――そう言う佐々木の小さな手につままれた針のするどさが、ふしぎなほどオレの目に焼き付いた。
迷い無くはしる裁縫針が、夕日を受けてキラキラ光る。それはまるで、佐々木の指先が輝いているみたいだった。
「すごいな、佐々木は……オトナ、だな」
思わず出てきた言葉に、佐々木は、子供っぽく笑った。
「はい、これで大丈夫」
佐々木の手から、オレのシャツが返ってくる。ほんのり残った体温は、もともとか、それとも、佐々木のか。
あんまり目立たないとは思うから――そう付け加える佐々木の言うとおり、よっぽどじっくり見なきゃ分からないくらい同じようなボタンで、同じような付き方だった。
「ごめんね、千枝、レッスンだから急いで帰らなくちゃ」
慌ただしく裁縫箱をしまっていた佐々木は、本当にすぐにでも席を立ちそうだった。オレが礼を言うかどうかなんて気にしてもいない感じだった。それをどう思えばいいのか、オレには分からなかった。
一緒に校門をくぐって、道を別れてから、着てるシャツをもういっかい見る。ほとんど同じボタン。よく見れば、違うボタン。
オレと佐々木だけが知っている、ボタンのひみつ。
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