モバP「誰にでも見せる顔」
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34:名無しNIPPER[saga]
2017/06/25(日) 23:51:36.02 ID:zkjciDJn0



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 朝6時50分。
 
 うす暗い職員室の裏手。本校舎よりはいくらか新しい武道場。

 眠ったままの学校の空気を、鍵を外し、引き戸を開ける音が、すっと通り抜けてゆく。
 
 一礼して道場内に入り、全てのカーテンと窓を開け終えてもなお、誰も姿を現さない。

 まあ、それをとがめる気はさすがにない。なにしろ朝練は7時半からだ。

 俺自身も、いくら道場の開け閉めが部長の仕事だからといって、こんなに早く来る必要はないのだ。

 でも、こうして来てしまうのは――習性だ。

 少し前までは、いつも俺より早く道場に到着しているやつがいた。

 そいつは年度明けに転校してきて、ウチで一番弱くて、一番小さくて、だからこそ一番努力していた。名前は、脇山珠美。

 学校に一番乗りした脇山は、俺か女子の部長が来るのを待つ間、ずっと素振りだの筋トレだのをしていた。

 だから、男子の部長として妙な意地を張ったというか、あるいはあまり待たせるのも不憫になったというか――つまるところカッコ付けで俺も早く来るようになったのだ。

 その時間は、俺と脇山だけということがほとんどだった。二人で履物を脱ぎ、カーテンと窓を左右半分ずつ開けたりした。

 必然的に、俺と脇山の間にうわさが立った。

 正直なところそれは望んですらいたことだと、今なら思える。だがその時は――今思えばバカみたいなプライドと――お調子者たちの言動にイラついていた。

 そして言ったのだ。あんなちび、と。ガキんちょに興味はないと。

 もちろん本人の前で言ってはいない。だが必然的にそれは伝わっただろう。そうだと思う。

 脇山は、朝連に来なくなった。時を同じくして、脇山がアイドルの養成所に通っているということが皆に伝わった。どちらが原因なのか、俺には分からない。

 練習にもあまり来られなくなった。

 まあアイツならレギュラー争いに関係なさそうだしなとぼやいた顧問に、身勝手な怒りを抱いたりもした。俺が言ったことも五十歩百歩だというのに。

「……はあ」

 自然と零れたため息で我に返る。気が付けば全ての窓は開け終えていた。時計を見れば、まだ7時を回ったばかり。普段ならあと10分は誰も来ないだろう。

 だというのに、俺は聞いた。パタパタとそそっかしい足音を。

 表に目をやる。と、

「あ……おはようございます、部長!」

 ちょうど一礼を終えた脇山がその小さな頭を上げ、少し緊張した面持ちで俺に挨拶してきた。

 怒られるとでも、思ったのだろうか。嫌われていると、思われているのだろうか。

「……遅かったな」

 きっとこれは、口にしたかった言葉じゃなかった。

「っ、は、はい! すみません!」 

 余計縮こまる脇山に罪悪感を覚える。俺も緊張で逃げ出したくなる。

「次は、前みたいに早く来いよ」

 どうにも押し付けがましい言い方しかできなくて、それが俺の精一杯だった。 

 そんな俺の言い草に、脇山は、顔を綻ばせた。

 また来てもよいと許された――そんなことを考えたのだろうか。そんなことを考えさせてしまったのだろうか。

「は――はいっ! 以後気をつけます。今日も宜しくお願いします!」

 安心したのは俺の方だった。何もかも以前の通り、とはいかないだろうけれど。それでも。






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