73:博士と助手[saga]
2017/07/08(土) 00:34:24.62 ID:gu5yu4Pmo
ぽこぽこと怪しげな液体が培養槽のなかで泡立ち
どこからかかしゅん、かしゅんと規則的に音が鳴る
いかにも怪しげな施設で、私こと助手と、端正な顔立ちの丸い眼鏡をかけた女性
(いかにも宝塚といったいでたちである、その性格を除けば)
――私は、博士と呼んでいる――が今日も今日とて実験にいそしんでいた
博士「試行回数12765回! トライアル&エラーを繰り返すこと早1年と7か月12日!!」
博士「人生にしてみればたったの100分の1程度にしか過ぎない時間、されど時間」
博士「成功をおさめるのは早ければ早いほど、いい! さぁ、今日こそはうまくいってくれたまへよ……っ!」
ふっふっふとあからさまなマッドサイエンティスト風の笑いをこぼす博士
彼女はキャラづくりのためにこのような笑い方をしているのではない
根っからのそういう、つまりはちょっと狂気じみた人なので、こういう笑い方をするのである
博士「助手!! ……各数値はどんなだ?」
助手「はい、細胞の分裂速度、液体の濃度、その他諸々を過去の実験データと比較したところ」
助手「今回の実験における被検体は99.998%という高い安定率を保った状態で成長しています」
博士「0.002という数字は、小さいようで、ものすごく大きい……」
大袈裟に体を震わせ、髪をぐしゃぐしゃとかく
色素の薄い髪が、緑や青といった蛍光色にきらきらと反射して輝いている
博士「だがしかし!! そんなものを恐れていては進歩なぞない!!」
助手「続行ということでよろしいですね?」
博士「私が今まで、いかに数値が安定しなかったときでさえ、実験を止めたことがあるか?」
助手「ありません」
彼女はぐにゃりと口角をあげ、再び大きな水槽のほうへ顔を向け、ダカダカとキーボードをたたき始めた
助手「……はぁ」
私は、この研究所で助手をかれこれ5年以上している
大学生のころ、私と同じ年齢でありながら、教授をつとめていた彼女
実は……幼稚園の頃に、近所に住んでいた私の幼馴染である
とても仲が良く、帰り道では手を繋いで歩き、つつじの花の蜜を吸ったものであった
だが、小学校に上がり、彼女の人並み外れた才能がひとたび輝きだすと
私に何も言わずに、遠く異国の地へと旅立ってしまったのだ
12〜13年ほどの年月を経て、織姫と彦星なぞ比ではない運命の出会いを果たした私たちであったが
彼女はすっかり狂人・変態と化しており、私たちの幼き日の思い出など、まったく持ち合わせていないようであった
私の10年以上分の独りよがりな悲しみと怒りとそのほかの様々な感情をごった煮にしたようなものは
思いがけぬ有力な論文の発表という形となり、彼女に力を見出され
今ここで、彼女の手と、足となっているわけである――
82Res/52.77 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20