112:名無しNIPPER[saga]
2018/02/16(金) 23:50:39.79 ID:WhUJKF2CO
「イムヤ。お前の部屋はそっ……イムヤ? 」
開けたドアの先にはまだ新築の匂い漂う真新しい玄関とリビング。
一足の靴も置かれていない玄関で靴を脱ごうとして、脱げない。
何故なら少しだけ屈んだ俺の腰に細い腕が巻き付いているから。
「…………あのね」
「? 」
「私はあなたが誰だか分からないし、もしかするといつまでも分からないかもしれない」
「……」
構わない。それすら俺のお前への愛だと信じているから。
「人間になった、って言われても私は元々人間だったとしか思えない」
「……」
それでいい。あれ以上はお前を喪う恐怖に耐えられない。
「そんな私に私が人間じゃないって思わせてくれるのはこの染めたとしか思えない色の、地毛だけ」
「……」
いいんだ。不安定なお前を守ることだってできると、俺に存在理由を与えてくれ。
「あなたの言葉も、優しい瞳も、おっかなびっくりな掌も、
それに時々見せる怯えたような顔も、“ 今の私 ”の現実でしかないの」
「……」
「それでも、私を離さないでくれるのよね? 」
「あぁ、別に責任とか憐憫でお前を引き取ったわけじゃない」
「ふふ……分かった。知ってたけど」
笑みから漏れた吐息が背中に当たった。
その息は不思議とイムヤのイムヤらしさ、とも言える何かを呼び覚ます。
言葉や手付きならばいざ知らず、そんなものでは個人など分かる筈もないのに。
「? まぁ、それはおいおい飯でも食べなが
「それに」
「ん、んん? 」
吐息で湿る背中。声は震えていないけれど、涙、だろうか。
できうることなら拭ってあげたいのだけれど、思いの外彼女が回した腕の拘束は、強い。
ただの少女になって記憶すら喪失した筈なのに。これが意志の力というやつだろうか。
せめて、顔くらいは、いや瞳くらいは見たいのだが。
「いつ、“ 元の私 ”になっても、絶対離さないからね? 」
「あ、あぁ、そんなの当たり前の
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