モバP「他の誰にも」
1- 20
2:名無しNIPPER[saga]
2018/11/19(月) 01:38:11.69 ID:7D4niVl1O
そのショップには名物店員がいた。

 「大和」っていう名札は、カーキ偏重の色気ゼロの格好でさえ隠せない胸部装甲にのっかっていて、釘付けになって一発で覚えた。

 瞬間、彼女はまるで視線に気付いたみたいにばっとこっちを向いて、不敵に笑った――スナイパーは、ターゲットにレンズを覗き返された時が負けだという。

 そして撃ち返される鉛玉の様ないらっしゃいませ。

 完敗だった。

 週を跨がずに再度訪ねた時はシフト外だったみたいで、ひどく落胆した。

 その日狭い商品棚の間ですれ違う連中は、どいつもこいつも自分と同じような顔をしていたと思う。
 

 その後も、普段の何倍も服装に気を遣って店に赴き、彼女が居る時は心の中でガッツポーズしたものだったし、レジに立っていたら意地でも何か買った。

 それを知ってか知らずか、彼女は必ずと言っていいほど購入品に纏わる汗臭い蘊蓄を語り出し、後ろに築かれる行列を気にして俺の方が遮らなきゃいけないこともあった。

 そして、お釣りとレシートを差し出す指の柔らかさは、やっぱり男のそれとは違っていた。

 
 彼女はその働きぶりもさることながら、店主催の交流会では仕事中以上の存在感を発揮していた。

 上級者同士のコアな論議に参加したかと思えば、初心者に姿勢や足運びからレクチャーし、ゲームに混じれば本物の兵隊さながらに活動した。いささか脳筋気味なのは御愛嬌といったところか。


 戦い終わって日が暮れて。 

 夕焼けの中、フェイスマスクをそっと外して現れた横顔。

 光る汗の伝う額、砂埃を被った頬、ひと房流れ落ちたうなじの後ろ髪、

 きっとスコープ越しでは捉えられなかった彼女の隙。

 でも案の定、気付かれた視線を差し返され、にっかと笑った。
 
 芋には勝ち目なんて無かった。


 今、彼女は、店に置いてあるサバゲー雑誌の表紙から店内を見守っている。

 かつてと変わらない、強く、優しい目で。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
25Res/22.84 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice