5: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2020/03/21(土) 02:00:46.20 ID:AoPUJLA90
軽食を済ませ、めぐると夜道を歩く。互いに会話は少なく、コツコツと、踵をそろえた音がいやに響いてくる。腕に抱きつかれて、彼女の体の柔らかい部分をどうしても意識してしまった。
道中にコンビニが見えた。横断歩道の向こう側だった。ちょうどいい、と俺は左腕に抱きつくめぐるへ声をかける
「少し、待っていてくれないか?」
「? さっき、ご飯はもう食べたよ?」
「いやお腹が減ってるんじゃなくて……」
軽食じゃ足りなかったから追加でとか、そういうのではなくて。もう女性と交際をしなくなった期間が長く、俺の家には避妊具がない。だから、それを購入するだけなんだ
隠しても仕方が無い、とオブラートに包まずダイレクトに「ゴムを買うから」とめぐるに告げた。めぐるは見上げていた顔を赤くし伏せて、何も言わなくなった
ちょうど横断歩道が青になる。めぐるに左腕から離れてもらおうと、彼女の肩に手を置いた。しかし、めぐるはより強く抱きつく。肩を手のひらで優しく叩いた。それでも離れなかった。信号は赤になった。
「……買わなくても、大丈夫だから」
……いやいや、何を言ってるんだ。
「いやいや、何を言ってるんだ」
口に出た。何を言っているんだ。めぐるはアイドルだ。避妊せずに性交渉をして、もし妊娠したらどうなる。いや、アイドルと性交渉をしようとするな、と言われればそこまでだけれど
「避妊なら……その、お薬、飲んでるし……」
「……は?」
「一週間以上前に飲み始めたから、効果もちゃんと……」
「……」
めぐるの話は、つじつまが合っていない。友人から彼氏との性行為に関する話を聞いたのは今日のことで、だか今二人こうして家に向かって歩いているはずなのだが。一週間以上も前から避妊薬を飲んでいたと言うことがそもそもおかしい
今日いきなりのお願いをしてきたこと。それが、避妊薬を服用していると言うこと。どちらかは確実に嘘だと言えよう。
また信号が青になった。車は一台も止まっていなかった。赤信号でも、無視をすれば渡れるだろう
一度深呼吸をした。肺の中に、まだ冷たい初春の夜が入り込む。息を吐いた後、俺はコンビニに行くこと無く、左腕に彼女が抱きついたまままた家に向かって踵を慣らした。
彼女の嘘を暴くつもりにはなれなかった。いきなりのお願いが嘘だった場合、彼女はずっと抱えていた不安や俺への思いをようやく今日吐き出せたと言うことになる。あの夕暮れの告白と同じだ。いきなりではなくずっと、めぐるはこうしたかったと言うことだろう
避妊薬の服用が嘘だった場合……は、めぐるの真意がよく分からない。妊娠のリスクを避ける以上、避妊具の使用は必須だ。が、めぐるがそうしたいと望むなら、俺もそうしよう。72時間以内だったらアフターピルもある。それに頼り切りになるのは避けたいところだが
どうやら俺は、めぐるのわがままに弱いようだ
マンションに着いた。エレベーターに二人で乗り込んだ。部屋の前、鍵を出すためにめぐるに腕から離れてもらうと、腕から急に熱がなくなって寂しい気持ちになった
玄関のドアをくぐる。「ただいま」と「……おじゃまします」を交わした後、靴をそろえた
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