大崎甘奈「キャッチャー・イン・ザ・バスルーム」
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46: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2020/04/27(月) 00:47:20.15 ID:p/DpL8uH0
互いに身だしなみを整えて、チェックアウトする。雲からは霧雨が落ちてきている。これくらいなら車まで走れば、と思っていると『待っててくれ』と言われて先に彼が駆けだした。
ぽかんとしてると、こっちまで車を回してくれた。濡れないようにとしてくれたんだ。これくらいの雨なら平気なのに、気遣いの鬼みたいな人だ。そういう所が好きなんだけど
ありがとうと言い助手席に座る。水滴が付いた髪の毛をハンカチで拭いてあげた。ありがとうと言われた。
ワイパーが雨を落としていく。窓から見える川は茶色く濁って、普通じゃない勢いをしている。昨日から続く雨が本当にとんでもないものだったんだと遅ればせながら知った
「このまま家に送るけど大丈夫か?」
「う、うん……」
ハンドルを握る手を見ていたら、赤信号の時にそう言われた。そうだ、当然だけどこれからは帰らなきゃいけないなんだ。この人と離れなきゃいけないんだ。ずっと一緒にいるってことはまだ出来ないんだし。
前までは事務所とかで「バイバイ」とか「またね」って普通に言えたけど、多分今はそうじゃ無い。一緒にいたことで、一緒じゃなくなることが嫌になってきた。なんだろうこれ。一緒じゃない時間の方が、甘奈の人生の中じゃ長いのに
「……ねぇ」
今度はいつ二人きりになれるかを訊いた。青信号になって、エンジンが動いてから彼は応えてくれた
「わからない。他のアイドルのプロデュースもあるし、甘奈も忙しいだろうからな」
「……」
「だから、今回少し寄り道して良いか?」
「えっ?」
「雨の日、一緒に行ったあのケーキ屋。昨日のお菓子はしょっぱいのばかりだったから、甘い物も食べたい」
あの雨の日に全品半額になるお店のことだ。覚えててくれたんだ。
「それに、いつでも時間は作るよ。俺だって甘奈と一緒にいたいし。バレないようにしなきゃいけないのが大変だけどな」
「……ありがとう」
フロントガラスから顔をそらしてしまう。この人は私の欲しい言葉をくれる。いつでも明るい未来を信じてくれる。それがたまらなく嬉しい
張り付いた水滴越しに空を見上げる。曇り空の切れ間から光が降りていた。とても綺麗だと思った。今日はどんなケーキを食べようか、この前食べたのと違うのにして、二人で味をシェアしてとか、甘い妄想をする。この妄想が現実になりますように、現実はもっと甘くなりますようにと祈った
車は、雨の中を走る。
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