130: ◆WEXKq961xY[saga]
2020/06/29(月) 20:58:09.02 ID:unvIEQ1X0
…
部屋に入ってきたのは、ローブにマントを羽織った赤毛の女であった。ゆったりとしたローブの上からでも分かるほど、胸が大きい。
彼女は大きな鞄を置くと、一礼した。
「勇者様の、魔術に対する理解、探究心に、感謝します。私は宮廷魔道士のシエラと申します」
「よろしくお願いします…」
シエラと名乗った女魔導士は、鞄を開けると、一振りの杖を取り出した。
「魔力とは空気や香りのように、目に見えず、それでいて確かに身の回りにあるもの。人の持つ五感に、新たなる知覚のまなこを開く…それこそが、魔術の根幹にございます」
「は、はあ」
「…と、理屈っぽく言っても頭がこんがらがるだけでしょう。感覚で理解するには、体験するのが一番。さあ、目を閉じて」
言われた通り、目を閉じる。静かな部屋に、シエラの声が通る。
「何も考えずに、周りに意識を向けて…それっ」
「わっ!」
うなじに冷たいものが触れて、アスラは竦み上がった。と思ったら、今度はラッパの音が大音量で響き渡った。
「わ、わあっ!? 何が起きてるの!? これが魔術…」
焼きたてのパンの匂いが漂う。
思わず目を開けると…
「…え?」
彼の鼻先に、焼きたてのパンが突き出されていた。
それを持つシエラの、もう片方の手には、ラッパと、濡れた銀のスプーン。
「…なにそれ、子供だましじゃん」
「ふふっ、失礼しました」
シエラはいたずらっぽく笑うと、パンを脇に挟んで杖を振った。次の瞬間、パンもラッパもスプーンも、光の粒子となって消えた。
「!!」
「このように、目の見えない、訓練せねば感じることも出来ないエネルギーを、手に取ることのできる形に落とし込むのが、魔術の実践でございます」
シエラは、鞄の中から一本の杖を取り出し、アスラに差し出した。
「練習用の杖を差し上げます。これから、この杖で魔術を練習していきましょう」
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