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佐天「変身! アルカイザー!!」 - 製作速報VIP(クリエイター) 過去ログ倉庫

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1 : ◆S7msF7zQV2 :2010/11/15(月) 02:27:33.81 ID:qXlsPVg0
・とある科学の超電磁砲とサガフロンティアのクロスSSです。

・時系列など調べて考えましたが、アニメ版超電磁砲と原作でズレがあるため、
 アニメ超電磁砲の2クール目以降をそもそもパラレルであると判断し、
 時系列的にはアニメ最終回後となります。つまり、まだ妹達編が起こっていない世界です。

・独自解釈で設定を変更していたり、原作と違う部分が多々あるかと思われます。

・一応。超電磁砲、サガフロンティアの両方を知らない方でも読めるように書いています。
 そのため、説明文などを書く必要から、地の文ありのSSとなっています。
 ですが、極力文章量を減らすため、セリフの前にキャラクター名を表記しています。

・作者の作風で、キャラクターをマイナスイメージに描くことが多いです。
 好きなキャラクターが嫌な奴にされていて、それが気に食わない場合は趣味が合わなかったのでしょう。
 申し訳ありませんが、そっとスレを閉じてください。

・最終回までの基礎プロットは完成していますが、細かい部分は投下しつつ書くことになります。
 書き上がった分から投下していきますので、更新する間隔は変動します。
 ご了承ください。
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小テスト @ 2024/03/28(木) 19:48:27.38 ID:ptMrOEVy0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/zikken/1711622906/

満身創痍 @ 2024/03/28(木) 18:15:37.00 ID:YDfjckg/o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1711617334/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part8 @ 2024/03/28(木) 10:54:28.17 ID:l/9ZW4Ws0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1711590867/

旅にでんちう @ 2024/03/27(水) 09:07:07.22 ID:y4bABGEzO
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にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:18.81 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459578/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:02.91 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459562/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:25:33.60 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459533/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:23:40.62 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459420/

2 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 02:31:29.61 ID:qXlsPVg0

 佐天涙子(さてん るいこ)は学園都市で改造された無能力者である。

佐天「何この空しいナレーション」

初春『はい? どうかしました?』

佐天「ううん。なんでも無いよ」

 私は名前は佐天涙子。科学の街・学園都市に住む、ごく一般的な学生だ。

 親友の初春飾利(ういはる かざり)に誘われて、新しく出来たアイスクリーム屋に向かっているのだが…



佐天「この辺りの筈なんだけどなー……」

 そう呟き、携帯のナビで現在位置を確認する。
 あまり来ることの無い学区のため勝手が分からないが、かれこれバスを降りて三十分。
 流石に迷ったのは間違いないようだ。

佐天「あ! さっきの道、一本間違えてた……」

初春『やっぱり……遅いと思ったら。迎えに行きましょうか?』

佐天「ああ、いいよ。大丈夫。すぐ行くから先に食べてて」

初春『そうですか? じゃあ……早く来てくださいね?』

 そう言って、初春は電話を切った。
 
 それにしても今日は天気がいい。
 だから、今日は平穏無事ないつもの日曜日のはずだ。
 たまには、少しぐらいの回り道は構わないよね。

 そう思って振り返り、気付いた。

佐天「あれ? ここ通れば早く着きそう……」

 携帯の液晶に移された地図と、目の前にある光景を見比べる。
 どうやら、地図上には出ない裏道らしい。

 回り道は、どうやらしなくても済みそうだった。

 【プロローグ・衝撃! 佐天涙子死す!!】
3 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 02:33:52.15 ID:qXlsPVg0

 学園都市は最先端の科学技術に守られている。
 親元を離れ、未成年者が寮暮らしをする街なのだから、それ位のことはやってもらわないと困る。

 しかし、実情は違った。
 毎日、どこかしらで問題が起こっては、それを解決するために風紀委員やら警備員やらが出動する。
 中途半端に『力』を手に入れた輩。手に入れ損なってヘソを曲げた輩。
 そういった連中が群れを成して、自分達よりも弱い人間で憂さを晴らす。
 それが学園都市の日常茶飯事だった。
 そういった事件の多くは、私が今歩いているような、薄暗く小汚い路地裏で起こる。

 だから、それもそういう類のものだと思ったんだ。

佐天「……」

 「キー」
         「キー」
              「キー」
   「キー」

 赤、青、黄、それからピンク? の全身タイツの集団が、そこにいた。


 ナニコレ?

佐天「えっと……コスプレパーティ?」

 路地裏を進むと、少し開けた場所に出た。
 目論見どおり、そこを抜ければ目的地の近くに出るようだ。

 が、この光景は一体どうしたものか……

佐天「新手の新興宗教……って感じじゃないけど……」

 関わらないに越したことは無い。
 そう判断して、こっそりとその場を離れることにした。
4 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/15(月) 02:34:00.40 ID:Yaz8IBso
スケジュールがパンパンなだけで別にアニレーと原作でズレはないよ
5 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 02:35:34.92 ID:qXlsPVg0

 幸い、何やら連中は一箇所に集まって相談でもしているようだ。
 こちらには気付いていない。

佐天「じ、じゃあ。そろ〜っと、見つからないように……」

 長居は無用。慎重に、且つ素早くここを通り抜けよう。

 抜き足、差し足、忍び足。


 そして千鳥足。

 ガシャーン! と大きな音を立て、足元にあったゴミ箱が倒れた。

?「キーーーーーーーー!!?」

 タイツの男達が一斉にこちらを向く。

佐天「う、うわああああああぁぁぁぁぁ!!?」

 「キーーー!」
                「キーーー!」
       「キーーー!」

 タイツの男達が奇声を上げながら迫ってくる。
 その異様さに恐怖を感じ、私は全力で路地裏を駆ける。

 目をつぶって駆ける。
 走る。走る。
 全力で走る。

 そして、背後で金属音がしたことに気付いたときには、もう――

佐天「――――あれ?」

 全身の力が抜け、私は地面に倒れ付していた。
 目の前を、ネズミが一匹、通り過ぎた。
6 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 02:37:31.17 ID:qXlsPVg0

 ――――背中が熱い。

 何が起こっているのかわからないが、とにかく非常事態だ。

佐天「何……これ?」

 力の入らない体を起こすことを早々に諦めた私は、
 自分の状態を確認しようと、さっきから妙に熱っぽい背中に触れた。

 ヌルリ――――とした感触。

 恐る恐る、その右手に目をやると、何やら赤い液体がベッタリと付いていた。


 「見られたか……」

 何者かの声が聞こえる。
 野太い男の声。忌々しげに、こちらを睨んでいるのを背中越しに感じた。

 「まぁ、構わん。目撃者の一人や二人、消してしまうだけだ」

 そう言って、男は私に近づいてきた。
 殺される――――それだけは、はっきり分かっていた。

佐天「やだ……嘘……」

 視界が霞んで、目蓋が重くなってきた。
 このままここに放置されるだけでも、きっと私は死ぬだろう。
 それなのに、男は確実に息の根を止めようと近づき、そして――――


 「死体は有効利用してやろう。怪人としてな」


 重い、金属がぶつかる様な音を響かせた。
7 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 02:38:52.63 ID:qXlsPVg0
 「ぬう……!?」

 動くことすらままならない、死に損ないの小娘にトドメを刺す為の一撃。
 しくじりようの無いその凶刃は、黒い閃光と共に阻止された。


 「貴様……何者だ!?」


 地面に伏した少女と、彼女を狙う巨漢の間に、いつの間にか黒い男が立っていた。
 全身を闇色の鎧で包み、同じ色のマントが風になびいている
 顔は見えない。シャープな輪郭の仮面が、陽光に照らされ鈍く輝いている。


 「そこまでだ……ブラッククロス」


 黒い男の一言に、巨漢は目を見開いた。

 「我々のことを知っているだと……?」

 「知っているとも。お前はシュウザー。ブラッククロス四天王の一人だ」

 次々に、極秘であるはずの情報を口にする黒い男。
 シュウザーと呼ばれた巨漢の顔が、見る見る歪んでいく。
 それに伴い、彼から発せられる怒りも、明確な殺意へと変貌していった。

 「そこまで知られているとはな……最早生かしては帰さん……!」

 シュウザーは地を蹴り、黒い男へと突進した。
8 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 02:40:48.85 ID:qXlsPVg0

 それは、身の丈2メートルを優に越す大男とは思えないスピードだった。
 一瞬で距離を詰めると、同時にその豪腕を打ち下ろす。


 『ブライトナックル!!!』


 しかし、黒い男はその攻撃に対し真正面から打ち合った。
 再び黒い閃光が走り、男の右腕が真っ直ぐに突き出される。
 力は互角。お互いの拳がぶつかり合い、動きを止めた。

 シュウザーの拳は凶器だった。
 比喩ではない。本来拳があるべき部分が、巨大な鋼鉄の爪になっているのだ。
 そこに付着した血液は、先ほど切り裂いた少女の背中から溢れたものだった。

シュウザー「ぬうう……! 俺がパワーで互角だと!?」

 「そう。そしてスピードは私の方が上だ」

 そう告げて、黒い男は体を半回転させる。
 そしてその勢いを殺さず、そのままシュウザーの横っ腹へ叩きつけた。

 『スパークリングロール!!!』

 二度、三度。半回転しながら叩きつけられる裏拳。
 一度打つたびに今度は逆方向への半回転。
 その不合理な動きで、何故それ程のスピードが出せるのかは分からないが、ともかく――
 シュウザーはそのトリッキーな攻撃に反応しきれず、黒い閃光が上がる度、苦悶の声を上げた。

 その乱打から逃れようと、シュウザーは再びその豪腕を奮う。
 爪だけではない。彼の腕は肩から先が全て鉛色の分厚い鋼鉄で覆われている。
 当たれば骨が折れる程度の話ではない。

 必然、黒い男は回避のため後方へ跳ぶ。
 しかし、地に足を着けたのは一瞬だった。
 あんな大振りの攻撃。素人同然の隙を見逃すほど、この男は甘くない。
 人間離れした脚力で衝撃を吸収し、そのまま全身をバネの様に跳ね返す。
 少女への凶行を阻止したときと同じ。男の体は黒い弾丸となって撃ち出された――――


 『シャイニング……キック……!!!!!』


 慌てて防御の構えを取るシュウザー。だが、間に合わない。

 衝撃が、その心臓を貫いた…………!
9 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 02:41:36.74 ID:qXlsPVg0
 「逃がしたか……」

 そう呟いたのは黒い男だった。

 確かに、放たれた黒い弾丸はシュウザーの胸を貫いた。
 が、そこに心臓は無かった。

 「すでに、全身を改造済みか……」

 最早人間ではないあの男を倒すには、その全身を焼き尽くすしかないのかも知れない。

佐天「う、うぅ……っ……」

 「! まずいな……これは……」

 思いのほか手間取った。
 戦いの間にも、少女は衰弱している。

 「しっかりしろ! いかん、このままでは助からない……!」
10 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 02:43:02.35 ID:qXlsPVg0

 体が光っている……

 もう、熱いのは背中だけではない。
 心臓から、熱い何かが全身を駆け巡る感覚。

 力が湧いてくるような……

 おかしいな? 私は死ぬはずなのに……
 体に力が入らなくなって、視界が霞んで、目蓋が重くなったはずなのに……

 「…………おい! しっかりしろ!」

 誰かの呼ぶ声が聞こえて、私は軽くなった目蓋を開く。


 目の前に、黒い男が居た。


佐天「きゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!?」


 「うわっ!? ビックリした!」

佐天「いやぁ! 変態! 変態! コスプレ!!!」

 「この格好が変態だと? 自分の姿をよく見てみろ」

佐天「うわぁ!? 私も着てる!? 何で!!?」
11 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/15(月) 02:43:12.94 ID:LPPWiQAO
サガフロリメイクしないかな
八人目の主人公ヒューズをプレイしたいわ
もちろんレッド編が一番好き
12 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 02:44:20.45 ID:qXlsPVg0

 廃ビルの割れた窓ガラスに自分の姿を映す。

 私の体は、全身を赤い鎧で覆われていた。青いマントが、そよそよと情けなく揺れている。
 顔は見えない。仮面の額に、一本の角が生えていて何ともマヌケだ。

佐天「な、何よこれ!? あなたたち何なの!?」

佐天「私にまでこんなもの着せて……ふざけてるの!?」

 「落ち着きたまえ。自己紹介しよう。私はアルカール。サントアリオのヒーロー協会から来た。」

 そう名乗って、黒い男・アルカールはヤレヤレといった様子で溜息をついた。


アルカール「いいか、君の命を救うにはこれしか方法が無かった」

アルカール「君をヒーローにするしかなかったのだ」


 ヒーロー? 何を言ってるのこの人……


アルカール「君にその資格があるかどうかを細かく調べている余裕がなかった」


 でも……そうだ。朦朧とした意識の中で確かに見た。
 あの凶悪な大男相手に、この自称ヒーローが大立ち回りして見せたのを。


アルカール「だが、今日から君はヒーロー『アルカイザー』だ」


佐天「私が……ヒーロー……?」


 アルカイザー、と。初めてそう呼ばれた。
 
13 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 02:45:01.68 ID:qXlsPVg0

アルカール「ヒーローになってしまったからにはヒーローの掟に従わなければならない」

佐天「掟?」

アルカール「ヒーローにふさわしくないと判断されれば、消去される」

佐天「消……去?」

 それはつまり……殺されるということ?

 折角助かったのに。今度はその助けてくれたはずのヒーローに殺されるの?

アルカール「一般人に正体を知られた場合は、全ての記憶を消去される」

 記憶の消去……
 そんなの、死ぬのと変わらないじゃない!

佐天「何それ!? い、いらないよこんな力!」

 怖い怖い怖い!


アルカール「ならば、使わないことだ」


佐天「へ?」

アルカール「力を使わなければ、君はただの一般人として生きられる」

アルカール「悪用さえしなければいい。今日のことを忘れて、元の生活に戻りなさい」


 それだけ言い残して、アルカールは姿を消した。
14 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 02:45:32.29 ID:qXlsPVg0

 約束の場所に、親友は所在なさげに立っていた。そして――

初春「あ、佐天さーん! 遅いじゃないですかー」

佐天「ごめん初春ー。また道間違えちゃったー」

初春「もー。だから迎えに行きましょうかって言ったのにー」

佐天「あはは……あれ? アイスもう食べ終わっちゃった?」

初春「まだですよ……だって一緒に食べたかったんですもん!」

 そんな、言われたこっちが恥ずかしくなるようなこと言う。


 屈託無く笑う親友。

 おいしいのかおいしくないのか微妙な新作アイスクリーム。

 平穏無事ないつもの日曜日。

 それなのに、私一人が変わってしまった。


初春「どうかしました?」

佐天「ううん。なんでも」


 出来の悪い、幼稚なお話。


 落ちこぼれのヒーローは、まだ自覚すら持っていない。
15 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 02:46:07.05 ID:qXlsPVg0

 【次回予告】

 ヒーローの力を得た佐天涙子!
 しかし! 彼女はまだ己の運命に気付いていない!

 乙女の悲鳴が木霊し、友に危機が迫るとき!
 学園都市に、新たなヒーローが現れる!!

 次回! 第一話!! 【変身! アルカイザー!!】!!

 ご期待ください!!
16 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 02:52:46.00 ID:qXlsPVg0
とりあえずプロローグだけ

何話構成になるかはまだ把握できていませんが、大体二十話前後になるのではないかと思います
今現在第三話まで完成していますので、日を改めて、一話づつ更新させて頂きます

>>4
マジですか……
漫画の方は時系列どうりで、アニメの方は説明できないと聞いたんですが
自分で考えてもよく分からないし

まぁ、じゃあこのSSはパラレルということでお願いします
ていうかそんなカツカツのスケジュールに組み込めないので……
17 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/15(月) 02:53:33.26 ID:LPPWiQAO
乙、燃やし尽くさなければ倒せない云々はあの技の伏線だな、巧いな
両方好きだから期待大だわ
18 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/15(月) 02:56:02.70 ID:qXlsPVg0
>>4半角にするの忘れました
すみません

ああ、sagaも忘れてるや
真面目な長編SS投下するの初めてだからヤバイ緊張してる

では今日はこの辺で……
19 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/15(月) 08:19:58.29 ID:F.GwujE0
>>1
懐かしいなぁサガフロ…

ところでアルカイザーは普通にカッコイイと思う俺っておかしい?
20 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/15(月) 11:54:36.54 ID:U9z6UsAO
サガフロは知らんけど、面白そうなので期待してる
21 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/15(月) 14:01:50.28 ID:ob96joY0
解体新書を見てからアセルス編が不完全版にしか見えなくなった
続き期待
22 : ◆S7msF7zQV2 :2010/11/15(月) 23:09:48.90 ID:qXlsPVg0
改めまして、第一話投下していきます。

もう一度注釈しておきますが、独自解釈で設定を変更している部分があります。
特にサガフロンティア側はそれが顕著です。ご了承ください。

 (とある側の設定自体は、時間軸がパラレルであること以外は意図的に弄っているつもりはありませんので、間違っていたら注意して下さると助かります)
23 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 23:10:49.00 ID:qXlsPVg0

 あれから三日経った。


 「でねー。その店員さんがさー」

 「へー。あ、でもー」

 「そうじゃなくってさー」

佐天「あはは。なにそれー?」

 佐天涙子は、いままでとなんら変わらない学生生活を送っていた。

 あの異能が周囲にばれる心配も無い。
 だって、あれから一度も力を使っていないのだから。
 体中調べたが、傷一つ残っていなかった。
 ここに居るのは、ただの何の『力』も持たない女の子だ。

佐天「平和だねー……」

 何とは無しに、そんな風に呟いた。
 だというのに――


 「そうでも無いみたいだよ?」


 友人の一人が、そんなことを言い出した。


 【第一話・変身! アルカイザー!!】
24 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 23:13:45.75 ID:qXlsPVg0
黒子「一体どうなっていますのやら……」

 白井黒子(しらい くろこ)は頭を抱えていた。


 そこは風紀委員の第一七七支部。
 風紀委員『ジャッジメント』とは、学生によって構成される街の治安維持組織の一つだ。
 彼女は同僚である花飾りの少女を待ちながら、一人考え込んでいる。
 最近この学園都市で起こっている、ある事件についてだ。


黒子「今週だけでもう三人も……目撃者もゼロだなんて……」

 連続行方不明事件。生徒がある日、突然姿を消す。
 何の証拠も残さず。それがすでに、一ヶ月で二十人以上も続いていた。

固法「それも、全員がレベル3以上の能力者。不思議なんてモンじゃないわね」

 黒子の先輩にあたる固法美偉(このり みい)もまた、その事件の捜査に頭を悩ませていた。


 学園都市で行われる「能力開発」。
 簡単に言えば超能力を身につけるためのカリキュラムである。
 能力者はレベル0〜5までに分けられ、レベル0は無能力者、つまり能力の使えない、ないし低い者。
 レベル5になると、一人で軍隊と戦えるとまで言われており、学園都市にも七人しか存在しない。
 行方の知れない生徒のレベルは3〜4。学園都市の基準でいえば、十分にエリートである。


固法「誘拐であれば、何かしらの抵抗にあうはず。並大抵の芸当じゃないわ」

 再び二人は口を閉じ、それぞれ思考を廻らせた。
 そこへ――

初春「お、遅れましたー!」

 花飾りの少女、初春飾利がやってきた。
25 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 23:16:26.32 ID:qXlsPVg0
佐天「連続行方不明事件……ねー……」

 私は珍しい場所に来ていた。図書館だ。
 それどころか、新聞を読んでいるというのだから更に珍しい。
 友人曰く、「明日は火の雨が降る」だそうだ。

 街燃えるわ。


 事件のことを聞こうと初春に声をかけたところ――

初春『駄目ですよー! 危ない事件なんですから首を突っ込まないでください!』

 とのこと。

 仕方なく、私は自分で調査することにしたのだった。

佐天「……って。言ってもなー……」

 新聞に書いてあることなんて、大した情報になるはずが無い。
 だって、もしそれ程の大事件なら、尚更情報開示には慎重になるはずだから。

 それに、事件について分かったところで、私には手の打ち様が無い。

佐天「つまるところ。こんなことやっても無駄なんだよねー」

 それでも調べることを止められなかったのは、やはり――

 あの、『ブラッククロス』という組織の存在を知ってしまったから。
 『シュウザー』と呼ばれた大男の、「死体を有効利用する」という言葉が、耳から離れないから。


 でも、それを誰かに話すことは出来ない。

 記憶を失うことが、恐ろしいから……
26 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 23:18:41.23 ID:qXlsPVg0
佐天「結局手がかり無しかー」

 当たり前だけど。


佐天「ふむ。完全下校時刻までまだあるし、初春の様子でも見に行きますか」

 最近根をつめてるみたいだし。
 ひょっとしたら、この間のお出かけは初春なりの気分転換だったのかも。
 だとしたら、約束どおりに行けなかったのは、ちょっと悪かったなぁ……

佐天「何か差し入れでもしてあげようかな」

 ふと、脇にあるガラス張りの建物を覗き込む。
 そこは時々通っているケーキ屋さん。
 値段が高いのでたまにしか来れないが、味は申し分なかったりする。


 が、止めた。

 こんな気まぐれで高いケーキを買っていたんじゃ、私の薄ーい財布が悲鳴をあげる。
 私はレベル0。成績に応じて貰える奨学金も少ないのだから、無駄遣いは駄目だ。


 そう、レベル0。
 ガラスに映った私は、赤いヒーローではなく、ただの無能力者の中学生だった。
27 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 23:21:48.52 ID:qXlsPVg0
初春「やっぱり、何の成果もありませんでしたね……」

黒子「仕方ありませんわ。」


 白井黒子と初春飾利は、手がかりを求め街を巡回していた。

黒子「一日二日パトロールしただけで見つけられる大間抜けなら、そもそも問題ではありませんもの」

初春「ですよねぇ……」


 黒子は苛立っていた。

 自分が守るこの街で、生徒が何者かに誘拐されている。
 それだけでもう、使命感の強い彼女には我慢ならなかった。


黒子「初春? 提案がありますの」

初春「何ですか? 改まって……」

黒子「やはり私、一人で歩いてみますの」

初春「ええ!?」

 狙われるのはレベル3以上の能力者。
 であれば、レベル4である自分が一人で歩いていればあるいは……

初春「あ、危ないですよそんな……!」

黒子「これ以上被害を増やすわけにはまいりませんわ!」

初春「白井さん! 待って――」


 一瞬で、白井黒子は姿を消した。
 彼女の能力、レベル4の空間移動『テレポート』だ。


初春「もー! 勝手なんだからー!!」

 帰ったらまた始末書ですからねー!
 と、一人残された初春の声が、夕暮れの学園都市に木霊した。
28 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 23:24:19.36 ID:qXlsPVg0
黒子「ここならば……」

 黒子が訪れたのは、学区内でも特に人気のない裏通り。
 不良たちでさえ滅多に現れないその場所なら、正体不明の犯人も襲撃しやすいはず。


黒子「犯人は証拠を残していませんの。ということは、姿を見られることを極力避けているということ」

 「臆病な卑怯者め」と、黒子は心の中で罵った。

黒子「さぁ……どこからでも……かかっておいでませ!」


 一対一の戦いに敗れるような無様は見せない。
 実際、白井黒子を相手取ってまともな戦いになる人間など数えるほどだ。
 だから、自分に迫ってくる悪人がいるのなら、絶対に仕留めてみせる自信があった。


黒子「………………」

 しばらく歩いて……

 路地裏を……



 抜けた。


黒子「………………はぁ」

 結局は徒労だった。
 犯人は襲ってこない。

黒子「まぁ、そう上手くはいきませんわよね……」

 気を張っていたのが馬鹿馬鹿しくなる。


 そこへ、一本の電話が掛かってきた。
 相手は、他の場所を巡回していた風紀委員の同僚。

黒子「もしもし? 白井ですの………………え?」


 電話から聞こえたのは、怪人が街で暴れているというふざけた報告だった。
29 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 23:26:43.40 ID:qXlsPVg0
佐天「あ。初春ー」

初春「佐天さん。こんな時間まで何やってるんですか?」

 たまたま、道を歩いていると向こうからやってきた印象的なシルエットが目に留まった。

 初春だ。

佐天「ちょっと調べ物しててさ……」

初春「あ! 事件のこと調べてたんでしょ! 駄目ですっていったのに〜!」

佐天「だってさ……自分の街でそんなことになってるの、ほっとけないじゃん……?」

初春「それは風紀委員の仕事です! 佐天さんは一般生徒なんですから!」

 怒られた。
 ちぇっ……やっぱりケーキ買わなくて正解だったなー……

佐天「捜査進んでるの?」

初春「駄目ですねー……やっぱりどこにも証拠が……って! 佐天さん!!」

佐天「ご、ごめんってばー!」


 まぁ。元気そうでなにより。

 そう。そんな物騒な事件なんかより。ヒーローや悪の組織より。
 私には、平和な日常と、この親友が何よりも大切なんだ……


 だから、その平穏を脅かすそんな音を、私は聞きたくなかったんだ。


  「キャーーーー……」


佐天「悲鳴……?」

 脇の路地裏から微かに、女の子の声が聞こえたような……


初春「!!!」

 私が戸惑っている間に、初春は走り出していた。

佐天「初春!!?」

 暗闇の奥へと遠ざかる親友の背中を、私は知らず追いかけていた……
30 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 23:29:33.43 ID:qXlsPVg0

 薄暗く細い路地裏を抜け、初春飾利は声の主の下へたどり着き――

初春「そこまでです! 風紀委員です! 大人しく抵抗を……止め…………!?」

 ――そして、言葉を失った。
 その光景が、あまりに想像からかけ離れていたからだ。

 倒れているのは常盤台中学の制服を来た少女。
 そして、それを囲んでいる全身タイツの男達。

 その奥で、身長3メートルはあろうかといういう巨人が、こちらを見下ろしていた。
 眼光は鋭く、口からは牙がはみ出している。浅黒い、筋骨隆々の肉体。
 角の生えたその姿はまさに、昔話に登場する鬼だった。


巨人「ジャッジメント? IRPO……か?」

初春「あ、あぁ…………」

 恐怖に、初春飾利の体が固まった。
 元々、初春の戦闘能力は皆無に等しい。デスクワーク派で、事実小学生よりも貧弱だ。
 それでも、凶悪な犯罪者と戦う覚悟はある。みんなを守るために命を懸ける覚悟もある。

 しかし、こんな怪物と戦う覚悟なんて、決めた覚えは無い。


巨人「ふん。ただの小娘か……そいつを連れて行け戦闘員ども」

 巨人の指示で、タイツの男達が意識の無い少女を抱え上げた。
 それを見て、初春飾利は正気を取り戻す。

 そう、『みんなを守るために命を懸ける覚悟』ならあるのだ――

初春「や、止めなさい! その子を離し――」

 駆け出そうとする初春。その顔面を、巨人のつま先が捕らえた。
31 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 23:31:04.04 ID:qXlsPVg0
佐天「初春……?」

 それを、ただ見ていた。

 巨人の一撃で、親友の体は宙に浮いた。

 鼻の骨が折れたのか、鼻血が噴出して、辺りに点々と付着した。


佐天「嘘……だ」


 嘘じゃない。


佐天「ヤダよ。こんなの」


 嫌でも起こる。
 現実。目の前で、初春が――


初春「う……ゲホッ!?」

佐天「初春!!」

 生きている!


 でも――
 あの巨人がトドメをさそうと迫っている……!

 あの日、私を殺そうとしたあの男のように……!!
32 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 23:35:52.18 ID:qXlsPVg0

 止める手段ならある。

 けど怖かった。

 怖いけど……けど――――


 『そんな物騒な事件なんかより。ヒーローや悪の組織より。
  私には、平和な日常と、この親友が何よりも大切なんだ……』


 なら、『平和な日常』と、その『親友』ならどちらが大切か


 考えるまでもない。


 世界がスローモーションに見える。

 心臓が燃えているようだ。

 体中を、何か熱いものが駆け巡る。

 握る拳は炎になる。

 踏み出す足は光になる。

 向かい風を額で斬り裂き、蒼いマントをなびかせた

 気付けば、私の体は紅く染まっていた――!


佐天「変身! アルカイザー!!」

33 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 23:38:44.58 ID:qXlsPVg0
巨人「むぅ!?」

 巨人の反応は速い。
 こちらの存在に気付くや、すぐさま距離をとり身構えた。

 ともかく、これで初春は安全だ。

 いや――

佐天「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 私がこいつらを退けて、初めて安全といえる。

 生まれて初めてかもしれない格闘戦。
 私は、記憶の何処かから無理やり戦いの記憶を呼び覚ます。

 テレビで見た格闘技。漫画で読んだバトル。
 映画で見たアクション。先日のヒーロー・アルカールの戦い。

 そして――あの超電磁砲(レベル5)の少女を……!


佐天「お願い……当たってぇ!」

 願いをこめた右の拳。
 ストレートなのかフックなのかも分からないただのパンチ。
 それを巨人の腹めがけて力いっぱい打ち込んだ。

 巨人の体はその衝撃を受けて後退する。
 確かな手ごたえ。
 喧嘩なんかしたことないけど、これは綺麗に決まったと確信できる。


 それなのに――

巨人「うむ……なかなか!」

 巨人は平然と立っていた。
34 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 23:41:21.80 ID:qXlsPVg0
巨人「むむぅ……なるほど! 貴様がシュウザーの言っていた!!!」

佐天「シュウザー……?」

 あの男か――!
 なら、やっぱりこいつも!


巨人「うむ! 今の一撃! 我が敵と認識しよう!!」

 効いていない……私のパンチはこの巨人に効いていない……!

巨人「名乗ろう! 俺の名はベルヴァ!! ブラッククロス四天王が一人よ!!!」

佐天「ブラッククロス……!」


 悪の組織。誘拐犯。巨人。改造人間。
 ヒーローが、正義の味方として倒さなければならない敵……!


ベルヴァ「名乗れ仮面の! 褒美に『覚えて』やろう!!」

 名前――?

佐天「悪党に――名乗る名前は無い!!!」
35 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 23:44:55.19 ID:qXlsPVg0
 「キー!」  「キー!」

 いつの間にか、戦闘員と呼ばれるタイツの男達が私を囲んでいた。
 脅威は感じない。

 「キー!!」

 動きが全て見える。

 右から飛び掛ってきた男の顔面に蹴りを入れる。
 バランスを崩そうと、逆方向からもう一人が右手を突き出してくる。
 それを左手で受け止めて捻り上げる。
 そのまま勢いを殺さず、後ろから迫っていた男に投げつけて、振り向きざまに前方の男を殴り飛ばした。


ベルヴァ「むむぅ……見事な反射神経……!」

佐天「褒められても嬉しくないな」

 やりたくてやってるんじゃない。
 やらなければならないだけ。


 記憶を呼び覚ます。
 三日前、あのアルカールはどうやって戦った?

 覚えているのは黒い閃光。
 アルカールの攻撃は光を帯びて放たれていた。
 あれがヒーローの戦い方なんじゃないのか?

 でも、あんなことができるの?
 私は無能力者。自分の才能すら操れない人間に、人から貰ったものをどうこうできるの?


ベルヴァ「もはや雑魚の出る幕は無い! 俺が自ら相手しよう!!」

佐天「来る!?」


ベルヴァ『魔人三段ッ!!!』


 振りかぶられたベルヴァの巨大な拳。
 それを回避しようと前かがみになり、気付いた。


 この攻撃は避けられない……!!
36 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 23:46:50.96 ID:qXlsPVg0
佐天「ぐ、うううううううううううう!!?」

 両腕を交差させ拳を受けると、巨大な岩か何かで殴られたような衝撃が、全身に走った。
 骨が軋んで悲鳴を上げる。
 でもかわせなかった。
 何故なら。

初春「………………」

 初春がそこに居たから。


 初春は気を失っている。怪我は大したことが無いようだ。
 この巨人の本気の一撃、というわけではなく、軽く小突いた程度だったのだろう。
 鼻血は流れているが、顔が潰れるようなことはなかったらしい。


 続けざまに、もう一度巨人の拳が迫る。
 しかし、静かに眠る親友を守るために、私はこの位置でこの打撃を受け続けなければならない。

佐天「ぐ、うあああああああああああ!!!」

 再び全身を走る強烈な衝撃。
 防戦一方では、このまま初春もろとも潰される……!


ベルヴァ「何だ! どうしたアルカイザー!! そのままその小娘共々潰れる気か!!!」

 トドメとばかりに、三段目の拳が迫り来る。

 やるしかない……!
 心臓が、一つ大きく跳ねた。


佐天『うわあああああああ!! ブライトナックルッ!!!』


 放たれた一撃に迷いは無い。拳に火が灯ったように熱い。
 光を帯びた拳は、巨人の一撃に正面からぶつかり、そして――

ベルヴァ「む……ううううううううううううう!!!!?」


 巨人の拳を四散させた。
37 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 23:48:19.10 ID:qXlsPVg0
ベルヴァ「よもや、一撃でこの拳を木っ端微塵にする威力とはな!!!」

佐天「はぁ……はぁ……!?」

 出来た。
 それも予想以上の出来だ!
 あのアルカールでさえ、この技で大男の一撃を止めることしかできなかった。
 それなのに、私の技はこの巨人に打ち勝ったんだ!!


佐天「勝てる……!」

 もう一度、拳に力をこめる。
 自らの正義を示すように、再び光り輝いた。


ベルヴァ「うむ……その技こそ貴様の奥義というわけか」

 巨人に防御の隙は与えない!
 すぐさま踏み込んで――

佐天「トドメだ! ブライト――」

ベルヴァ「だが、『覚えた』!!!」



  『ベルヴァカウンター』



 気付くと、私の体は空に浮いていた。
38 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 23:50:34.10 ID:qXlsPVg0
ベルヴァ「そのまま叩き落す!!!」

 巨人が遥か上空まで追ってくる。
 何て脚力。あの巨体が、一瞬で地上十数メートルまで飛び上がった。

ベルヴァ「捉えた!」

 残った左手で私の体を掴み、巨人はそのまま急降下する。

佐天「!?」


ベルヴァ『雷炎ッ!! パワーボムッ!!!』


 何が起きたのかも分からないまま、私の体は上空からコンクリートの地面へ叩きつけられた。


 口から血の塊を吐き出した。
 内臓がシェイクされたような気持ち悪さ。
 痛みで体が動かない。視界が霞む。
 いつだったか経験した虚脱感。

 ああ……また、私は死のうとしている。


 どこか遠くから喧騒が聞こえる。
 悲鳴? ざわめき? コスプレ? あ、私のことか。

佐天「ここ……」

 私が叩き落されたのは、大通りのど真ん中だった。
39 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 23:52:25.05 ID:qXlsPVg0
佐天「う、ぐ……!」

 体は動く。何だ、大したこと無い。
 いや、実際一度は死に掛けたのか。それが、このヒーローの体のおかげで回復したんだ。

佐天「と、言っても、万全なはずは無いわけで……!」


 瞬間、辺りが暗くなる。

佐天「ベルヴァ!?」

 目の前に、巨人が立っていた。

 通行人達が、ベルヴァの姿に慄き、一斉に逃げ出した。


ベルヴァ「やはり、片手落ちの技ではトドメにはいたらぬか……!」

佐天「冗談……! 十分効いたっつーの……」

ベルヴァ「しかし参った……まさか衆目に晒されるとは……」

 ………………自分から出て来たんじゃん。

ベルヴァ「うむ! 戦いに我を忘れた!!」

佐天「……ははは……いいね。そのメンタリティ。うらやましいよ」


 ウ〜ウ〜と警報が鳴り響く。
 通報を受けて警備員が駆けつけたらしい。

ベルヴァ「早く済ますとしよう」

佐天「同感」

 再び距離を開け、にらみ合ったまま膠着した。
40 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 23:55:19.65 ID:qXlsPVg0
黒子「な、何ですの? あれは……」

 白井黒子は戦慄した。
 あまりに馬鹿げた光景に、現実感が薄れていく。

 全身紅い鎧に身を包んだマントの変人。
 そしてその変人と対峙する三メートルの巨人。
 その右腕は、手首から先が無い。

 ただ、肌をひりつかせる得体の知れないプレッシャーが、黒子に「これは現実だ」と突きつけた。


黒子「じゃ、ジャッジメント……ですの……」

 いつもの決め台詞も、ここからでは当事者には届かない。
 それに、今黒子に出来ることは何も無いだろう。
 何故なら、怪人達を取り囲む警備員達さえ、身動きできずにその様子を伺っているのだから。


 「黒子」


 そんな黒子に、一人の少女が声をかけた。

黒子「お姉さま! どうしてここに……!」

 黒子がお姉さまと慕う、レベル5の少女。超電磁砲。常盤台中学二年、御坂美琴(みさか みこと)。


美琴「あれは何?」

黒子「いえ。黒子に聞かれましても……」

美琴「まぁ。そうよね」

 そんな会話をしつつ、美琴の目は警備員達が包囲するその奥に向けられていた。
 また、この街で良くない事が起こっている。
 無意識に、美琴はポケットに手を入れ、一枚のコインを握り締めていた。
41 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 23:57:09.09 ID:qXlsPVg0
 佐天とベルヴァ、ヒーローと怪人は睨み合っていた。

 佐天は満身創痍。ベルヴァは右腕を失い、すでに多量の血液を流している。

 全ては次の一撃で決まる。

 ベルヴァは、佐天の攻撃を確実に受ける自信があった。
 何故なら、すでに『覚えた』からだ。
 一度でも『覚えた』なら、その技はベルヴァにとって脅威ではない。
 絶対の一撃をもって『返す』ことが出来る。

 一方、佐天にはベルヴァの攻撃を受ける体力などない。

 つまり、先に動こうが後に動こうが、必勝。
 もはや、ベルヴァの勝ちは揺らがなかった。

 だから、早くこの戦いを終わらせなければならない彼は、当然の行動に出る。


ベルヴァ「見よ……これが俺の奥の手だ……!!」

 ベルヴァの左掌に、高出力のエネルギーが凝縮されていく。
 灼熱色に輝くそれを構え、巨人は眼前の敵へと狙いを定めた。

 エネルギーの余波が、周囲の建物を崩壊させる。
 包囲していた警備員達も、装甲車両ごと吹き飛ばされそうになる。
42 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 23:59:16.78 ID:qXlsPVg0
黒子「お姉さま!!」

美琴「平気よ。黒子は逃げて」

黒子「で、ですが……!?」

美琴「見極めたいの。あれが何なのか」

 美琴の決意が固いと知り、彼女を理解している黒子は小さく溜息をついた。

黒子「わかりましたわ。ですが、無茶をなさらないように」

美琴「大丈夫。あれに乱入する気はないわ」

 美琴の横顔をもう一度確認し、黒子は空間転移した。


美琴「あの巨人……機械?」

 美琴は、巨人から放射される電磁波を体で感じていた。
 そこから構造を理解しようと、さらに自分の電磁波を飛ばそうとし、止めた。

美琴「こっちに攻撃が向いたら危ない……か」

 自分がでは無い。自分を守るように壁になっている警備員達がだ。


 美琴は、もう一人の紅い鎧に目をやる。
 一見、ただのコスプレにしか見えない。
 しかし妙な違和感を感じる。

美琴「背が低い……私と同じくらい?」

 あれは子どもだ。
 超常の力で戦う子どもなど、学園都市では珍しくも無い。
 それこそ、御坂美琴本人がまさしくそうだ。

 でも……子どものヒーロー?

美琴「子どものヒーロー……ん? ヒーロー?」

 美琴が自分の言葉に疑問を持ったその瞬間。


 巨人が動いた。
43 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/16(火) 00:00:28.44 ID:9Z5ekEE0
ベルヴァ「終わりだ……!!!」

 高エネルギーを放出する左掌を持ち上げ、巨人は疾走した。

佐天「……!!」

 考えるまでもない。
 あれをまともに受ければ、この体は塵も残さず消し飛ぶ。


 脳裏に、親友の笑顔が浮かんだ。

 彼女達は……力の無い私を受け入れてくれた……

 認めてくれた……それでいいと思った……

 でも…… 今必要なのは……!


 ずっと欲しかった『力』……!!
 ずっと憧れるだけだった『力』……!!
 掴んだと思って、期待して、すぐに無くしてしまった『力』……!!!



ベルヴァ『ゴッドハンドッ!!!』



佐天『シャイニング――――』


 佐天に、ベルヴァの一撃を受ける用意は無い。
 しかし――――ー


佐天『キック!!!!』


 打ち破る術ならある……!!!
44 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/16(火) 00:02:28.60 ID:9Z5ekEE0

 …………


 御坂美琴はその一部始終を観た。


 音速に迫る速さで距離を詰めた巨人は、あの光輝く掌を敵めがけ突き出した。

 しかし、次の瞬間。そこにあの紅い鎧は存在しなかった。
 代わりに、掌と胸を一直線に打ち貫かれた巨人の残骸が、ヒザから崩れ落ちていた。


 巨人の胸を貫いたのは光の弾丸。
 紅い鎧の脚部が輝き、その足をもって分厚い胸板を蹴り抜いたのだ。

 だが、そのスピードが異常。

 まるで疾風。


美琴「空力使い『エアロハンド』? ……いや、あの動きは肉体強化系の……?」


 やがて、巨人の体は爆散した。

 上空に舞い上がった燃える巨人の破片が、炎の雨を降らせる。

 周囲を取り囲む警備員と、御坂美琴に見つめられるその中で――


 紅い鎧が、一人佇んでいた……
45 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/16(火) 00:03:45.04 ID:9Z5ekEE0

 「お前は……お前は一体誰じゃん!?」

 一人の警備員が叫んだ。
 特徴的な口調の、気の強そうな女性だ。

 「名前を……それと、所属と……この騒ぎの詳細を……!」

 混乱の中、彼女は自分の責務を果たそうとする。


 なら、答えないといけない。
 でも何て?


 『君は――』

佐天「私は――」

 『今日から君はヒーロー――――』

佐天「私はヒーロー……」



          『アルカイザー』



 「アル……カイザー……?」

 「アルカイザー……」

 「アルカイザー……」


美琴「……アルカイザー……ヒーロー……!?」



佐天「私は、ヒーロー。正義のヒーロー『アルカイザー』!!!」


 落ちこぼれのヒーローは、初めてそう名乗った。
46 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/16(火) 00:04:41.04 ID:9Z5ekEE0
 【次回予告】

 最先端技術と科学の結晶! その名は学園都市!!

 その学園都市に、次々現れるブラッククロスの怪人達!!

 それに立ち向かうのは大人か! それとも子どもか!
 雷を操る超能力少女が、謎のキャンベルビルに挑む!!

 次回! 第二話!! 【音速! 常盤台の超電磁砲!!】!!

 ご期待ください!!
47 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/11/16(火) 00:13:49.91 ID:9Z5ekEE0
と、いうわけで第一話でした。

第三話までは毎日更新できると思います。
では、今日はこの辺で。

【補足】
アルカイザーになった佐天さんは相変わらず佐天さんサイズです。
つまり体格は中学生女子で、見た目がアルカイザーです。

 アルカイザー参考画像・ttp://up3.viploader.net/game/src/vlgame028029.png

ベルヴァカウンターは本来なら近接技を全てカウンターする技なんですが
このSSではベルヴァが見切った技に限りカウンターできるという設定になっています。
48 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 00:16:59.16 ID:xz7DG.AO
乙、かなり良かったわ熱いぜ
美琴も戦うならやっぱり連携期待だわ
49 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 00:26:23.55 ID:cQMyfPUo
乙なんだよ!
50 : ◆S7msF7zQV2 [sage]:2010/11/16(火) 00:30:14.36 ID:9Z5ekEE0
すみません。
途中ベルヴァが「どうしたアルカイザー」と呼ぶシーンがありました。

佐天は名乗っていないので間違いです。
見なかったことにして下さい……
51 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 00:53:08.35 ID:KGjUTOs0
>>1乙!
テメェこの野郎。
このSSの為に進行中だったブルー編を投げてレッド編始める事になったじゃないか。
頑張れ!

PSPのアーカイブス良いね!
12年振りにレッド編を楽しみ、このSSも楽しむぜ!
52 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 00:55:26.65 ID:xz7DG.AO
>>51
クイックリセットやりずらくねPSPは
53 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 01:22:46.39 ID:KGjUTOs0
>>52
慣れれば無問題
54 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 08:10:19.03 ID:Ji7kKUAO
乙〜
続き待ってる
55 : ◆S7msF7zQV2 :2010/11/16(火) 23:26:16.75 ID:9Z5ekEE0
>>48
連携! そういうのもあるのか!
……美琴との共闘いつになるだろう……考えときます。


さて、みんな大好き御坂さんが動き始める、第二話。
投下開始します。

 ( 改変部分については投下終了後に補足が入ります )
56 : ◆S7msF7zQV2 :2010/11/16(火) 23:26:44.30 ID:9Z5ekEE0
>>48
連携! そういうのもあるのか!
……美琴との共闘いつになるだろう……考えときます。


さて、みんな大好き御坂さんが動き始める、第二話。
投下開始します。

 ( 改変部分については投下終了後に補足が入ります )
57 : ◆S7msF7zQV2 :2010/11/16(火) 23:27:52.09 ID:9Z5ekEE0
エラーで二重書き込みしました……

次から始めます
58 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/16(火) 23:29:45.38 ID:9Z5ekEE0

 あれから、また三日後……


 「こっちに避難するじゃん!!」

 「せ、先生! あっちからも来ました〜!」


 街に、逃げ惑う人々の悲鳴と、彼らを守ろうと奔走する警備員達の怒号が飛び交う。
 重装備で街を駆けていた警備員の一人が、足を止め、暗くなった空を見上げた。

 「くっ……! 馬鹿でかい芋虫の次は空飛ぶライオンじゃん!?」


 太陽を隠していたのは獅子。 
 体長3メートルを越す巨大な獅子だ。

 だが、ただの獣ではない。
 背中から生えた白い翼が、羽ばたくたびに突風を巻き起こす。
 その風が、巨体を蒼穹に舞わせていた。


 獅子は警備員の一人に狙いを定め、威嚇する様に吼えると、凄まじい速度で地上に落下する。


 「そうだ! やるならこっちを狙え! ケダモノ相手なら容赦しないじゃん!!」

 迎え撃とうと、警備員は重火器を構える。

 しかし分かっていた。
 そんな装備で太刀打ちできる相手ではないと。
 それでもそうせざるを得ないのは、彼女が子ども達を守る警備員であり、教師だからだった。


 「せめて……! せめて手傷を負わせるくらいは……!!」

 彼女が覚悟を決めた、その瞬間だった――


 キンッ――――――


 何かを弾いた様な小さな金属音。そして――――――


 【第二話・音速! 常盤台の超電磁砲!!】
59 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/16(火) 23:31:26.13 ID:9Z5ekEE0

 ある日の昼下がり。
 そこは、ひと時の安らぎを求め学生達が集まる、古風な雰囲気の喫茶店。
 コーヒーの芳醇な香りに誘われ店内に入ると、そこに流れるのは今どき珍しいレコードの音。
 そしてそれを引き裂く――


 「フッザけんじゃないわよおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 怒号。


 店の角に位置する四人掛けのテーブルを両手で叩き付け、御坂美琴は立ち上がった。


黒子「お姉さま。落ち着いてくださいまし。お静かに――」

美琴「はぁ!? これが落ち着いていられるかってのよ!!」

黒子「いえ……あの……店内ですの」


 そう言われ、美琴は我に返り店内を見回した。

 何事かとこちらを伺う学生たちと、訝しげな表情のマスターが視界に入る。

 コホンッ。と、一つ咳払いして、美琴はイスに座った。


美琴「……でも、納得いかないわよ……」

 こころなしか小さい声で、美琴は不満を口にする。

美琴「どうしてこんな状況なのに、何の対策も打たれないワケ?」

黒子「確かに……風紀委員の方にも、巡回の強化以外の許可が下りませんの」


 それは、不可解なことだった。
60 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/16(火) 23:33:11.85 ID:9Z5ekEE0

 あの日、あの『アルカイザー』と名乗った紅い『ヒーロー』が現れたあの日。
 あれ以来、学園都市に堂々と現れるようになった怪物たち。
 自分達を『ブラッククロス』と名乗る奴らは、日々その活動を活発にしていた。


黒子「わざわざ名前を名乗るだなんて。まるでこちらを馬鹿にしているようでムカつきますわ」

美琴「そう。『お前達如きに止められるものか』ってね……!」


 今まではコソコソしていたクセに……
 たった一度姿を見られた程度のことで、今度は逆に自分達から表舞台に出てくるなんて!

 その挑発的な態度が、御坂美琴の精神を逆撫でした。


 そこへ、カランカラン……とベルの音を立て、二人の少女が入店してきた。

初春「こんにちわー。待ちました?」

黒子「遅いですわよ初春」

 白井黒子の相棒。風紀委員所属の花飾りの少女。初春飾利。

 そして――


佐天「どうもー。『佐天』さんが喫『茶店』に舞い降りましたよー」

 レベル0の無能力者。佐天涙子。つまり私だ。


美琴「こんにちわ初春さん。それと――」

佐天「それと……?」

美琴「今のは無いと思う。佐天さん」

佐天「ガーン! 鉄板ネタなのにぃ〜!!」
61 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/16(火) 23:34:48.92 ID:9Z5ekEE0

 四人が知り合ったのは、そう昔の話ではない。

 ある日、同僚である白井黒子の紹介で、初春と私は、憧れのレベル5である御坂美琴と出会った。
 最初こそ超能力者に反感を持っていたけど、共に過ごすうちにその悪感情は消えていった。


 そして何よりも。あの一連の事件が、私達の距離を劇的に縮めた。


佐天「へー……また御坂さんお手柄じゃないですか〜」

美琴「まあね」

黒子「まあね……ではありませんの! お姉さまは一般人ですのよ!」

初春「そうですよ〜! もう『怪人』に向かっていったりしちゃ駄目ですよ!」


 『怪人』とは、ブラッククロスが街に放っている怪物達の総称だ。
 怪物を『怪人』。それに従う大勢のタイツの男達を『戦闘員』と呼ぶらしい。


美琴「なによ……じゃあ、あの時あの警備員を見殺しにすれば良かったっての?」

黒子「いえ……そうは言いませんが……」

美琴「ふん……私はそこら辺の、誰かが不良に絡まれてても見てみぬふりする様な奴らとは違うのよ」

佐天「……」


 御坂さんは、真っ直ぐで真っ直ぐで真っ直ぐな人だ。
 絶対に曲がらない。
 曲がらないがゆえに、努力に努力を重ねて学園都市の頂点に立ったような人なのだ。
62 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/16(火) 23:36:55.22 ID:9Z5ekEE0

美琴「そもそもおかしな話なのよ! 生徒が何人犠牲になってると思う?」

初春「数えるのも嫌になります……」

美琴「そう。それなのに、学園都市の上層部は動こうとしない」

黒子「ですが……」

美琴「だったら。私たち自身が自分で動くしかないでしょう?」

佐天「…………」


 レベル5。常盤台の超電磁砲。第三位。

 どこまでも快活に大胆に、自分がコレと決めたことを貫き通す、物語の主人公。

 私のともだち。

 私の憧れの人。

 私の目標。


美琴「でもさ。あいつは一体なんだったのかしら?」

初春「あいつ?」

美琴「アルカイザーよ!」

佐天「ブッ!!?」
63 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/16(火) 23:38:10.07 ID:9Z5ekEE0

初春「さ、佐天さん!?」

佐天「ゲホッゲホッ!? い、いや何でも……! 気管に入っちゃっただけ……!」


 な、何で御坂さんが私のことを!?


美琴「あいつ……あれからぜんっぜん姿を現さないじゃない!」

黒子「いえ、ですから一般人の方は……」

美琴「あんな恥ずかしい格好の一般人がいるはずないじゃない!!」


 …………ですよねー。


美琴「つーか! アイツの所為じゃないの!? 今の状況って!!」

初春「どうしてですか?」

美琴「だってあいつが街中で暴れたから、連中は開き直って暴れるようになったわけでしょ?」

佐天「そ、それはちょっと〜……言いすぎじゃ……」

美琴「そう? でもさ〜。あいつヒーロー名乗ったのよ?」

初春「ヒーローですか」

美琴「そうよヒーローよ! アルカイザーよ! 恥ずかしげも無く!!」


 ごめんなさいごめんなさいもう許してください。
 あの日もベッドの中で「あああああああああああああ〜」ってなったんです。

64 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/16(火) 23:41:03.56 ID:9Z5ekEE0

黒子「いいえお姉さま。いずれにせよ、連中が活動していたのは間違いありませんの」

初春「そうですよ。むしろ表面化した分こちらも対処できますし……」

美琴「むぅ〜……まぁ……でも、ヒーロー名乗るなら責任ぐらいは取って欲しいわよね」

佐天「……です……かねぇ…………?」


 そこで、御坂さんの怒りは一段落した。

 その後は、とくに当たり障りのない現状報告と、ケーキとお茶の感想。
 最近流行っている都市伝説『バイオ肉』のことなんかを話し、完全下校時刻に合わせて解散となった。


 御坂さん達と別れ、私と初春は自分達の寮へ向かう。
 楽しい時間は早く過ぎるもので、いつのまにか、空は赤く染まっていた。

初春「御坂さん荒れてましたね〜」

佐天「しょうがないよ。最近、ずっとこんななんだもん」

 きっと。御坂さんのことだから、自分達に降りかかる火の粉は残らずぶっ飛ばす気なんだろうな。


佐天「ねぇ……もう、鼻大丈夫なの?」

 ――先日の一件。あのベルヴァと名乗った巨人が、初春の顔面を蹴り飛ばした。

 実際に戦った私には分かる。あの巨人の一撃は半端じゃない。
 それが、手を抜いていたとはいえ女の子の顔を捉えたのだ。

初春「大丈夫ですよ〜。包帯も取れましたし〜」

佐天「ならいいけどさ……」

初春「私は風紀委員ですから。怪我をすることぐらい覚悟の上です」

佐天「……」

初春「でも。佐天さんは無茶しちゃ駄目ですよ?」

佐天「うん。大丈夫だよ! 御坂さんじゃないんだから!」
65 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/16(火) 23:42:42.65 ID:9Z5ekEE0

 ごめんね初春。

 あの時戦ったことは、初春には聞かせられないね。
 また秘密ができちゃったね。


 でも大丈夫だよ。
 私はもう変身しない。

 私は無能力者の佐天涙子。
 ヒーロー・アルカイザーじゃない。

 だから大丈夫だよ。


 もうこんな力、本当にいらないんだ。


 望んで得た力じゃない。

 記憶と日常を犠牲にした力なんて、私の身に余る。


 だから――――

 今は、無力な無能力者の佐天涙子。それでいい。


 そう、夕日に照らされた彼女の顔を見て、誓った。
66 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/16(火) 23:44:14.00 ID:9Z5ekEE0

 ある日の昼下がり。
 そこは、ひと時の安らぎを求め一仕事終えた教師達が集まる、場末の屋台。
 焼酎の芳醇な匂いに誘われて暖簾をくぐると、そこに聞こえるのは別に珍しくも無い酔っ払いの愚痴。
 そしてそれを引き裂く――


 「フッザけんじゃないじゃああぁぁぁぁぁぁん!!!!!」


 怒号。


 「黄泉川先生……呑みすぎですよぉ……」

 「鉄装! これが呑まずに居られるか!!!」

 眼鏡をかけた女性が、先輩にあたる黄泉川に注意し、逆に怒られた。


 鉄装綴里(てっそう つづり)と黄泉川愛穂(よみかわ あいほ)。
 この学園都市を守る警備員『アンチスキル』に所属する教師である。
 二人とも、抜群のプロポーションをもつ若い女性だが、自ら志願して危険に身を晒している。

 能力を持つ生徒で構成される風紀委員と違い、全員が無能力者の教師で構成される警備員。
 次世代兵器が配備された彼らは風紀委員よりも権限が高く、より踏み込んだ危険な捜査を任されている。


黄泉川「ってぇ! その私らにさえこれ以上の深入りを許可しないってどういうことじゃんっ!!!」

鉄装「ひぃえええぇぇぇ……!? あ、暴れないでくださいぃぃぃ!!!」
67 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/16(火) 23:48:37.50 ID:9Z5ekEE0
>>66
訂正

「ある日の昼下がり。」じゃなくて「ある日の夜。」です。

先生が昼間から酒呑んじゃ駄目です。
68 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/16(火) 23:49:56.57 ID:9Z5ekEE0

 「本当ですよね〜。一体どうなっちゃうんでしょう……」

黄泉川「そうじゃん! 小萌先生もそう思うじゃん!」


 黄泉川に同意したのは、同じく教師の月詠小萌(つくよみ こもえ)。
 一見こどもにしか見えないが、れっきとした成人女性である。

 小萌は警備員には所属していないが、黄泉川と同じ学校で教鞭を振るう同僚であり、
 彼女達三人はこうして集まっては酒を呑んでいる。


小萌「うちの生徒も怪人に一人襲われて、不幸だぁ〜! って言いながら逃げ帰ってきたんですから」

黄泉川「これ以上生徒に被害が広がるのは許せないじゃん!」

鉄装「それは……そうですけど……」

黄泉川「………………」

鉄装「黄泉川先生?」

黄泉川「決めた」

鉄装「な、何をでしょう?」

黄泉川「鉄装。私等だけでも連中を調べ上げるじゃん!!!」

鉄装「はいぃ!!?」

黄泉川「そうと決まれば今日は景気づけじゃん! オヤジ! もう一杯!!」

小萌「おじさん! ワニのお刺身ですー!!」

鉄装「まだ呑むんですか〜!?」
69 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/16(火) 23:52:05.41 ID:9Z5ekEE0

黒子「キャンベルカンパニー?」

 風紀委員第一七七支部。
 その事務所のデスクで報告書を処理しつつ、白井黒子は固法美偉の話に耳を傾けていた。

固法「そう。例の巨人の破片の一つが見つかってね。私が能力で透視してみたの」


 固法美偉の能力はレベル3の透視能力『クレアボイアンス』。
 視覚に頼らずに物を見る能力で、彼女の場合は主に透視を行う。


黒子「あの巨人の……? あれはどこかの研究機関が根こそぎ回収したと……」

 街中で赤い鎧の人物と死闘を繰り広げた謎の機械仕掛けの巨人。
 あれがブラッククロスの一員であることが判明し、警備員がその破片を回収したが、
 上層部からの命令で、その全てを研究施設に渡してしまった。

固法「ええ。でも、その回収作業から漏れた物が残っていてね」

黒子「それを固法先輩が? 一体どういう経緯で……」

固法「たまたま。取り押さえたスキルアウトが隠し持っていたのよ」


 スキルアウトとは、能力を持たない無能力者たちが徒党を組んだ武装集団のことである。
 学校に通わず、集団で行動して問題を起こす、いわゆる不良たちの総称だが、
 犯罪行為に手を染めることが多いため、度々風紀委員によって補導されていた。


固法「でね。あの巨人の人工筋肉の下、骨格の部分だと思うんだけど。そこにロゴがあったのよ」

黒子「それがキャンベルカンパニーの……」

 だとしたら、その会社がブラッククロスと関わっている可能性が高い。

 今後の調査の方針が決まった。
 報告書も仕上がり、黒子は一息つこうと、美琴から差し入れられた、缶ジュースを一口飲んだ。

 ちなみに新製品の「無農薬キャベツソーダ」である。
70 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/16(火) 23:53:28.00 ID:9Z5ekEE0

初春「ただいま戻りました」

 そこへ、巡回を終えた初春飾利が戻ってきた。


黒子「ああ、初春。いいところに戻ってきましたわ」

初春「何ですか?」

黒子「あなた向けの仕事が出来たところですの。キャンベルカンパニーについて調査して下さいな」

初春「キャンベルカンパニーですか? どうして……」

黒子「例の巨人の部品がそこで作られていましたの。おそらく、兵器か何かの製作に携わっているはず」


 普段踏み込まないような、重大な学園都市の暗部に調査を進めようとしている。
 黒子は、自分達がとんでもないことに首を突っ込もうとしているのではないかと、内心震えていた。

 しかし、見過ごすわけにはいかない。


 『だったら。私たち自身が自分で動くしかないでしょう?』


 敬愛する先輩。御坂美琴の言葉。
 彼女の言うことは常々正しいと、黒子は思っていた。
 自分達にできることを。学園都市を守るために……!

 美琴の勇気を分けてもらおうと、差し入れのジュースをもう一口――


初春「でもそれって、白井さんが飲んでるそのジュースを作ってる会社ですよね? ほらロゴが」

黒子「ブーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

固法「汚いわよ白井さん」
71 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/16(火) 23:55:40.53 ID:9Z5ekEE0

黒子『ブーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!』

美琴「きったないわねぇ……あの子……」


 御坂美琴は、あるオープンカフェのテラスでケーキを食べていた。
 くつろいでいるわけではない。
 耳につけているのは小型の盗聴器。マイクは黒子の持つ缶ジュースの裏側だ。

美琴「まさかこうも早く情報が出てくるとはね……」

 黒子を問い詰めても情報は得られない。
 戦う力があろうと一般人は一般人。
 事件に巻き込んでいけないというのが白井黒子のルールだ。

 特に突っ走りがちな美琴になら尚更だ。


美琴「さて。それじゃあこの先は、私の個人的な喧嘩よね……」

 理由は、そうだなー。
 あの馬鹿みたいにでかいビルが目障りだから――とか。


美琴「乗り込んで、社長でも専務でもいいや。このくだらない騒ぎに加担した連中を――」


 ビリビリっと。

 ――――叩きのめす。


 美琴は立ち上がり、振り返って空を見上げた。
 いや。そこにそびえ立つ、キャンベルカンパニー本社ビル。
 通称キャンベルビルの最上階を睨み付け、右手で作った指鉄砲で狙いを定めた。


美琴「――――――バン!」
72 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/16(火) 23:57:05.31 ID:9Z5ekEE0

 「お引取り下さい」

美琴「………………」


 あれから、御坂美琴は調子よく店を出て、鼻歌交じりに真っ直ぐビルへと向かった。
 威風堂々といった様相で自動ドアをくぐると、屈強な守衛の見守る中、臆することなく突き進み――


 「申し訳ございませんが、本日の面会者リストに御名前がございません」


 受付のお姉さんに笑顔で止められた。


美琴「いや……あのね? 私は別に怪しいものじゃぁ……」

受付「お引取り下さい」

美琴「ただね? ほら? 最近物騒じゃない? そのね――」

受付「申し訳ございませんが」

美琴「そこを……さ? ………………ね?」

受付「本日の面会者リストに御名前がございません」


 潜入。


 失敗。
73 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:00:25.63 ID:dd8yCy60

守衛「来い」

美琴「……っ!」

 仕方が無い……こうなったら……!
 と、美琴が実力行使に出ようとしたその瞬間。


 「ちょーっといいじゃん?」


 武装した二人の女性が乱入した。


受付「おはようございます。どちら様でしょうか?」

 「警備員の者じゃん。2,3聞きたいことがあるんだけど」

 「お時間は取らせませんので、社長さんにお目通り願えますか?」

受付「お待ちください……」

 受付嬢は表情を崩すことなく受け答えし、何処かへ内線で連絡する。
 会話の内容から、どうやら社長に直接繋がっているらしい。


受付「お待たせいたしました。そちらのエレベーターをご使用ください」

 促され、警備員を名乗ったうちの一人がエレベーターへ向かう。
 しかしもう一人はその場で振り返り――

 「来るじゃん」

 と、美琴に声をかけた。


美琴「え?」

 「うちに協力してくれてる子なんだけど、一人で先行しちゃってね……放してやって欲しいじゃん」


 こうして、美琴はキャンベルビルに潜入することに成功した。
74 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:01:46.80 ID:dd8yCy60

 美琴たちは指定されたエレベーターに乗り込んだ。
 エレベーターガールがパネルを操作すると、社長室のある最上階を目指し上り始める。

エレベーターは広く、直径十メートルほどの円形。
 全面ガラス張りで、夕焼けの、オレンジの光が差し込んでいる。
 

美琴「あ、ありがとうございます。でも……どうして?」

 「そうですよ。見ず知らずの子どもをどうして……」

 美琴が疑問を投げかけ、眼鏡の警備員がそれに同意した。


 「ん? 覚えて無い?」

美琴「あ! いえ! この間の空飛ぶライオンの時の警備員さんですよね?」

 それに、あー! と、眼鏡の警備員が納得したように手を打った。


 「それだけじゃないじゃん……前の幻想御手事件とか、テレスティーナ木原の件とか」

美琴「はい。覚えてます。その節はどうも……」

 「お。流石は。まぁ、学園都市の第三位がそんな記憶力じゃ困るじゃん?」

 なぁ鉄装? と、隣で激しく頷く眼鏡の警備員に目線を送る。
 睨まれて、彼女は「す、すみません……」と呟いて小さくなった。


 「オホン……じゃあ改めて、私は黄泉川愛穂。で、こっちが鉄装」

美琴「は、はい。よろしく……」
75 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:03:30.52 ID:dd8yCy60

鉄装「あれ? じゃあこの子を連れてきたのはその時のお礼ってことですか?」

黄泉川「ま。あれだけ活躍されて、命まで救われたらちょっと恩返ししたくなるじゃん?」

美琴「あはは。そんなつもりは無いんですけど……情けは人のためならず……って奴ですか?」

黄泉川「そういうこと」

鉄装「へー……それってどういう意味でしたっけ?」


 空気が『フリーズバリア』――


鉄装「あ、あれ?」

黄泉川「私が教育委員会だったら、お前今すぐ免許剥奪じゃん?」

鉄装「え、ええ〜〜〜!!?」

黄泉川「まあ冗談は置いといて。本当に危なくなったらこの子は逃がすじゃん」

美琴「な…………!?」

黄泉川「当たり前じゃん。連れて来たのも、あのままだと暴れだしそうだったってのがデカイじゃん?」

美琴「……それは…………」

 言い返せないけど……


黄泉川「それだったら目に付く場所に置いといたほうが安全じゃん」

鉄装「流石黄泉川先生……そこまで考えてたんですね〜……」

黄泉川「……本当に免許剥奪するじゃん?」


 と、敵地に乗り込んだという緊張感もないまま、美琴たちの乗るエレベーターは上り続けた。
76 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:04:25.99 ID:dd8yCy60

 エレベーターが上っている間、美琴は思案していた。

 もし、ここが敵の中枢だったら?
 街にあふれ出した、あの怪人達が山のようにいるのだろうか?
 だとしたら……


黄泉川「安全装置のチェックは?」

鉄装「は、はい! 大丈夫です!」


 この二人はどうする?


 きっと、先ほどの言葉の通り、彼女達は自分を守ろうとするだろう。
 しかし、正直言って守られる筋合いはない。
 むしろこちらが守る側だろうと、美琴は自惚れではなく、事実としてそう判断した。

 人を二人守りながらの戦い。
 それは真剣勝負の場において、どうしても不利だ。


 あの日の、紅い鎧と巨人の戦いを思い出す。

 あのレベルの敵が相手だとしたら。
 自分はどの程度戦えるだろう?

 勿論。負けるつもりなどさらさらないが…………


 その時だった――


美琴「!!?」

黄泉川「な、何!?」

鉄装「ひゃあぁぁぁぁ!!!!??」

 エレベーターが揺れ――――止まった。
77 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:05:35.30 ID:dd8yCy60

黄泉川「ど、うやら……落下はしないみたいじゃん……?」

鉄装「じ、事故でしょうか?」

 そんなはずがない。
 このタイミングで、自分達の乗ったエレベーターが偶然止まるなんてそんなはず――


 『ようこそ、警備員の皆さん』


美琴「誰!?」

 エレベーター内に声が響く。
 どこかにスピーカーが仕掛けられているのか。

 『私はキャンベル。キャンベルカンパニーの社長取締役であり、このビルのオーナー。そして――』


 『ブラッククロス四天王の一人――妖魔アラクーネよ……!!』


 次の瞬間。エレベーターの天井が開き、十を超える影が飛び降りてきた。


鉄装「ひゃああぁああ!!!?」

黄泉川「戦闘員……! ちっ! 本当にブラッククロスの基地だったじゃん!!!」


 黄泉川は銃を構え、迫り来る戦闘員に向かって引き金を引いた。
 バララララッ! と、リズミカルに打ち出される弾丸が、戦闘員に命中しその度破裂音を響かせる。

 その衝撃で弾き飛ばされた戦闘員は、手足をあらぬ方向へ投げ出し、二度と動かなくなった。


黄泉川「ちっ……! 人間を撃ち殺してるみたいで気分が悪いじゃん……!!」


鉄装「ひっ! こ、こっちこないでぇ!!」

 鉄装も同じように銃を乱射するが、狙いが甘くかわされる。
 戦闘員の一人が素早く鉄装に接近し、手の甲から延びた鉤爪を突き出した。

黄泉川「鉄装!!!」
78 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:07:01.07 ID:dd8yCy60

 閃光。

 否、稲光。

 戦闘員の鉤爪が鉄装の腹を引き裂こうとした瞬間。
 エレベーター内に激しい雷鳴が轟き、十体近くいた戦闘員が残らずショートした。


美琴「上等じゃない……騙まし討ち。不意打ち。それでこそ悪党ってもんよね……!」

黄泉川「御坂美琴……」


 御坂美琴。
 世界に七人しか居ない超能力者、レベル5の第三位。
 常盤台中学の誇る、学園都市最強の電撃姫。

 その能力は電撃使い『エレクトロマスター』。
 体から電気を発生させ、それを自在に操る能力。
 常に発せられている微弱な電磁波はレーダーとして機能し、危険を察知する。
 磁力を操り、鉄くずや砂鉄を自在に武器に変える。
 電気信号を制御し、プロレベルのハッキングをもこなす。
 そして、音速を超える、彼女の代名詞ともいえる必殺技――


鉄装「あ! 危ない! 御坂さん頭の上――!!」

 エレベーターの遥か上から降ってくる、黒服の男の姿が見えた。
 交差した両手に機関銃を持ち、周囲に円柱形の清掃用ロボットを三機引き連れている。
 頭上十メートルほどまで落下し、明らかに美琴に狙いを定めていた。

黄泉川「怪人……!!? 避けるじゃん! 御坂美琴ぉ!!」
79 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:07:58.46 ID:dd8yCy60

 
 キンッ――――


 美琴が右手を頭上に向け、親指でコインを弾く。

 黒服の怪人は銃を構え、清掃用ロボットの前部からも銃口が飛び出した。
 男と三機のロボットによる頭上からの一斉射撃。

 しかし――間に合わない……!

 御坂美琴の、代名詞ともいえる必殺技。
 彼女の通り名でもある、その一撃が放たれた――――



 『超電磁砲』



 その轟音を聞いたときにはもう遅い。
 音速の三倍の速度で撃ち出されたコインは、頭上から襲い掛かって来た黒服の怪人を粉々にした。
 その破片が、一旦風圧に巻き込まれて上昇し、再び落下してきた。
 血液ではなくオイル。筋繊維ではなく金属繊維。

美琴「よかった。やっぱりこいつも機械仕掛けだったのね。一瞬人を殺しちゃったかと思ったわ……」

 床に散らばったオイル塗れの金属片を確認し、美琴は溜息を洩らした。


鉄装「す、すごい……これがレベル5……」

黄泉川「はは……相変わらずとんでもないじゃん……」
80 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:08:47.04 ID:dd8yCy60

黒子「やられましたの…………」

 白井黒子は、自分の不注意を悔いていた。


黒子「まさか盗聴器とは……お姉さまも狡いことをしますの……」

初春「ど、どうしましょう!? きっと御坂さん、今頃キャンベルビルに乗り込んでますよぉ!!」

黒子「あそこがブラッククロスの関連施設だとしたら……」


 ジュースの裏に仕掛けられていた盗聴器に気付いたのは、美琴がビルに乗り込んだ直後だった。


固法「……実はね? 警備員にも、この情報は回しておいたの」

黒子「警備員に?」

固法「今頃、向こうさんも調査に乗り出してるはず。ひょっとしたら、御坂さんと鉢合わせしているかも」

初春「な、なら! その人たちに――」

固法「言われて止まると思う? あの御坂さんが……」

黒子「こうしてはいられませんわ! 黒子もお姉さまの手助けに!!」

固法「駄目よ! まだそうと決まったわけじゃない……私達には、待つ以外に出来ることは無いわ」

黒子「……っ!」


 沈黙。
 人を助ける風紀委員でありながら、待つしか出来ない。
 いつもいつも後手後手に回るのは、風紀委員のいつもの悪習慣だった。


初春「……………………?」

黒子「どうしましたの?」

初春「いえ……気のせいです」
81 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:09:34.94 ID:dd8yCy60

佐天「大変だ……」


 とんでもないことを聞いてしまった。

 私は、初春達に差し入れでもと思い、いつもの調子で一七七支部を訪れた。
 そこで――


黒子『ああ〜……それにしてもお姉さまが黒子に差し入れだなんて……』

黒子『黒子……感激ですの〜〜〜!!!』

黒子『そうですの! この空き缶は大切に大切に保管して――……?』

黒子『これは……缶の裏に何か……マイク? …………まさか盗聴器ですの!?』

初春『はい!? ……た、たしかにこれは……』

固法『ちょっと待って! じゃあまさか……さっきの話を御坂さんが!?』

黒子『やられましたの…………』

黒子『まさか盗聴器とは……お姉さまも狡いことをしますの……』

初春『ど、どうしましょう!? きっと御坂さん、今頃キャンベルビルに乗り込んでますよぉ!!』

黒子『あそこがブラッククロスの関連施設だとしたら……』


 どうする……?

佐天「どうする……って……」

 どうする……?

 どうする……? どうする? どうする?


 どうする………………?
82 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:10:08.61 ID:dd8yCy60

 気付けば、夜の街を走り出していた。

 どうして……?

 あの御坂さんだよ? それを私なんかが心配して駆けつけるなんて……


佐天「どうかしてる……どうかしてるよ……私……!」


 でも止まらない。


 『何処へ行くんだ?』


 ――――――!

佐天「貴方は……」

 聞き覚えのある声に振り向くと、あの黒い男が立っていた。
 相変わらず、風にマントをなびかせ、仰々しく、厳しく、そして優しく。そこに立っていた。

アルカール「何処へ行くんだ? 佐天涙子……」

佐天「アルカール……さん」

アルカール「また戦う気かね?」

佐天「……私は……」

アルカール「ヒーローに、なる気はあるのかね?」

佐天「……」
83 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:10:44.31 ID:dd8yCy60

アルカール「正直に言おう。君には才能がある」

佐天「……!」


 才能……? 私に……?


アルカール「だが。同時に危うくもある。私では判断しかねる所だ……」

佐天「え? 危うく……?」

アルカール「だから、君が自分で決めなさい。進むか。それとも辞めるか」


 私に……才能が……ある……?

 無能力者の……私に?

 レベル0で、落ちこぼれで、いつも守ってもらっていた私に?


アルカール「辞めるのなら。今すぐ力を返してもらうことも出来る」

佐天「え? 今……?」

アルカール「いや。今のこの街は危険だ。ブラッククロスを打倒し、しかるべき日にもう一度来よう」

佐天「……」

アルカール「その際には、君からヒーローに関する記憶を消去することになるが――」

佐天「待って下さい――――」
84 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:11:55.18 ID:dd8yCy60

佐天「できるん……ですか?」

アルカール「……」

佐天「私が、御坂さんを助けることが……出来るんですか?」


アルカール「ああ。出来る」


佐天「…………!!!」


 守れるんだ……
 私でも、御坂さんを……


佐天「やり……ます……」


 ゴメンね。初春。


佐天「私……もう一度……!!」


 だって。御坂さんは……私の……
 大切な友達だから……


アルカール「……分かった。君がそう言うのなら」


 じっとなんて……
 していられない……!!
85 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:13:21.77 ID:dd8yCy60

アルカール「持って行け」

 そう言って、彼は何かを投げてよこした。
 両手で受け止めて確認したけど、それが何なのか分からなかった。

佐天「? これは……?」

アルカール「私が使うつもりだったが、やはり君が使うんだ」

佐天「あの? コレって一体……」

アルカール「必要なものだ。走りながら話そう。すでに戦いが始まったようだ……」

佐天「!?」


 御坂さん、どうか無事で。
 私も、すぐに行きますから……!


アルカール「行こう。露払いは引き受ける。君は友人の下へ」

佐天「はい!!!」


 もう。記憶を失う恐怖なんて、頭の片隅に追いやられていた。


 落ちこぼれのヒーローは、再び走り出した。

86 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:13:58.95 ID:dd8yCy60

 【次回予告】

 遂に姿を現したブラッククロス四天王・妖魔アラクーネ!!

 アラクーネの予期せぬ攻撃に、美琴は窮地に陥る!!

 急げ佐天! 急げアルカイザー!

 その魂が燃え尽きるまで!!

 次回! 第三話!! 【凶悪! キャンベルビルの蜘蛛女!!】

 ご期待ください!!
87 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 00:16:26.87 ID:yUZhvoAO
>>1超乙です。燃える展開だ!!!
88 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/11/17(水) 00:21:19.94 ID:dd8yCy60
と、いうわけで第二話でした。
色々と失敗してすみません。

 【補足という名の言い訳のコーナー】

・キャンベルカンパニーについて。
 原作でのキャンベルの会社はこんな名前じゃありません。
 そもそも何の会社なのかよく分からないんですけど……
 BUCCIが社名? アパレル関係の会社に偽装してるってことでいいのかな?
 なので当然ジュースは売ってません。
 (裏解体は持っていないので確認できません。違ったら教えてください)

・黒服+ロボットについて。
 原作では黒服さんロボットじゃありません。
 でも美琴に殺させないといけなかったので怪人にしました。
 連れているのも「オートポリッシャー」ですが、折角だから学園都市の清掃用ロボにしました。

・空気がフリーズバリア。
 サガフロに出てくる状態異常です。
 分かりにくいボケでした。
89 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 00:36:25.87 ID:WplQorUo
乙!
90 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 00:53:15.89 ID:Wv4xZ9k0
乙!ところで前々から気になっている事があるんだが
いや、どうでもいい事なんだが…
アルカイザー佐天さんver.の鎧は女性的なフォルムになっているのかそれとも
それとも元と殆ど変らず厚みがあって人間時の体系ちょっとわからないぜ!って感じなのか?
91 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 00:59:01.48 ID:A05uvsAO
アニメじゃキャラ付けで巨乳だが元々の漫画じゃ普通だからな佐天さんは

是非とも連携最大数の五人連携見たいが戦えるキャラがな
92 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/17(水) 18:13:58.02 ID:daHSpwko
ttp://www.youtube.com/watch?v=t_N1TFWh7ac&feature=related
93 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 18:20:55.41 ID:daHSpwko
>>92はネタバレあるから気を付けて
94 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/11/17(水) 23:28:22.05 ID:dd8yCy60
>>90,91
うん? 変身したらおっぱいが分からない? 漫画だと巨乳じゃない?
うん……え? 何語?

>>92
これ俺も書き込もうか悩んでたんだけど、やっぱり今後の展開ネタバレになっちゃうからなぁ……
サガフロプレイ済みの人は見てほしいかも。
歌詞の出来がいいから。


というわけで第三話投下開始します。
美琴大好きだよ? 本当だよ?

 (※ここから改変が本格化します。本編投下終了後、補足が入りますのでご了承ください)
95 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 23:30:04.75 ID:dd8yCy60

黄泉川「鉄装! 早く来るじゃん!」

鉄装「は、はい! それじゃあ、ここでじっとしてて下さいね? すぐ救援が来ますから」

エレベーターガール「は……はい……分かりました……」

黄泉川「てっそーーー!!」

鉄装「はい! 今行きます〜!」


 停止したエレベーターを脱出し、美琴、黄泉川、鉄装の三人は、キャンベルビルの奥へと向かった。

 一方、アルカールと再会し、再びアルカイザーになることを決意した佐天は――


佐天「うわ……警備員が囲んでる……!」

 美琴の助けになるため、キャンベルビルのすぐ傍まで来ていた。
 そこで目にしたのは、ビルの周囲を取り囲む大勢の警備員達。

佐天「ど、どうしましょう? これじゃ入れないですよ……」

アルカール「問題ない。元々真正面から突入するつもりはない」

佐天「と……言うと?」

アルカール「向かいにビルがあるだろう?」

佐天「ありますね」

アルカール「跳ぶぞ」

佐天「ですよね〜……」


 【第三話・凶悪! キャンベルビルの蜘蛛女!!】
96 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 23:35:13.35 ID:dd8yCy60

美琴「うおおらあああぁああ!!!」

 気合の咆哮と共に、御坂美琴の全身から放射状に電撃が放たれる。
 灯りの消えた真っ暗な通路を照らし出し、その奥から迫る黒い戦闘員達をショートさせた。


黄泉川「こういう暗い場所だと、あの妙な格好もちゃんとした迷彩になってるじゃん……」

美琴「と、いうより。元々こういう場所で活動する連中なんでしょう」

黄泉川「だったら、白昼堂々と生徒に襲い掛かるのはやめて欲しいじゃん!!」


 言い終わるや否や。黄泉川は振り返りざまに奇妙な形の銃を手に取った。
 その銃口から細い光の線が照射され、通路を横断する。

 「「ぎぎぃぃぃぃいいいいいいいい!!?」」

 そこに居た数体の戦闘員は、光線が通ったライン通りに切断され、バラバラと崩れ落ちた。


美琴「うわ……それビームサーベルみたいな物? えげつないなぁ……」

黄泉川「人間相手にはこんなもん使わないさ。こいつらが出てきてから配備されたじゃん」

鉄装「なんでも最新の試作兵器で、『ハンドブラスター』って言うらしいよ」

美琴「……ふーん」


 警備員は能力を持たない人間。
 それゆえに侮っていたが、これだけの装備を持っているとは。
 尚且つ、それを使っている黄泉川という警備員は、元々戦闘のセンスが図抜けている。


美琴「正直、警備員に背中を任せるなんて思わなかったけど。驚きました」

鉄装「そ、そうかな〜? エヘヘ……」

美琴「……」
97 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 23:36:32.17 ID:dd8yCy60

黄泉川「つーか……結局ついて来ちゃってるじゃん……」

 不満げに、黄泉川は眉を顰めた。


美琴「あら。帰らせたかったらどうぞ。力づくで構いませんよ?」

鉄装「そんなの無理に決まってるじゃな〜い!!」

 御坂美琴は、非常事態をいいことに、堂々と突入に参加していた。


美琴「でも。これだけの数を相手に、相手の手の内も分からないのに私を追い返すんですか?」

黄泉川「むぅ……」


 正直な話。レベル5の超能力者が協力してくれるというのは相当心強い話だった。
 しかも、黄泉川たちは美琴が怪物相手に圧倒する場面を何度も目撃している。

 「子どもだから」というだけで追い返すには、理由が足りなかった。


黄泉川「くそぅ……情けない大人じゃん……」


 それでも。黄泉川は内心納得できていない。
 彼女にとって子どもは守る対象。
 それを危険に晒すどころか、自分達を守らせるなんて。


黄泉川「いや。いざとなったら、私達が盾になってでも無事に帰すじゃん……!」



美琴「…………」
98 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 23:39:57.18 ID:A05uvsAO
ショチトルよりは胸小さいのは確かだな佐天さん
99 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 23:41:09.50 ID:dd8yCy60

 「駄目ね」


 ビルの最上階。
 オーナーであり社長でもある、その女のために作られた部屋。
 その部屋のモニターでビル内の様子を眺めながら、キャンベルは一人ごちた。


キャンベル「やっぱり試作品なんて役に立たないわ。シュウザーめ……碌なモノを寄越さない」

 彼女の目に映るのは、次々と無残に破壊される己が部下の姿。
 それに対する同情の念は無く。むしろ憎しみさえこもっている。


キャンベル「仕方ないわね……この『肉体』も潮時か……」


 革張りの、見るからに高級そうなソファから腰を浮かし、ヒールの踵を鳴らして窓際へ向かった。

 そこから見えるのは、最先端科学の結晶。学園都市の街並み。
 空は、すっかり暗くなっていた。

キャンベル「この夜景は気に入っていたのだけど……」


 アイシャドーで彩られた目蓋を悩ましげに閉じ、再び開く。
 そこにあったのは人ならざる者の眼。
 紅い眼光。

 青く艶やかなショートヘアが、腰まで伸び真紅に染まる。
 血の気を失い、青白くなった肌の下で、筋肉が蛇の群れの如く流動した。
 背が破れ、黒く細長い、『節の付いた足』が次々と伸びていく。
 部屋に生臭い血の臭いが充満していく……


キャンベル「ああ……何だかお腹がすいたわ…………」
100 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 23:43:04.75 ID:dd8yCy60

黄泉川「しかし妙な話じゃん」

 延々続く螺旋階段を上りつつ、黄泉川は疑問を口にした。


美琴「何がですか?」

黄泉川「いや。ここに突入する前に、一応この会社のことは調べたじゃん」

鉄装「きっと、怪しげな商売をしてる会社だろうって予想してたの。でも――」

美琴「健全な会社だった……ってことですか? そんなの、表向きはそうでしょ?」

黄泉川「まあ。普通に考えたらそうじゃん。けどなぁ……」

鉄装「それにしても、普通過ぎるんですよね」

黄泉川「結構大きいグループで、下部組織は一応精密機械やらも扱ってはいるじゃん」

美琴「じゃあ、そこがパワードスーツ用の部品を横流ししてたとか……」

黄泉川「ロボット用のパーツはあっても、戦闘用のはリストに無かったじゃん」

鉄装「他にも、農薬を使わない有機野菜とか果物とか……それで作ったジュースとか」

黄泉川「健全すぎるほど健全じゃん。隠れ蓑としては良いかもしれないけど……」


 何となく腑に落ちない。

 そもそも、昨日今日出来た会社ではない。
 現社長のキャンベルは、曾祖母から名前を貰った四代目。

 そんなに前から、ブラッククロスという組織が活動していたというのだろうか?


黄泉川「そう……そもそも連中は、一体いつからこの学園都市にいるじゃん?」
101 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 23:44:48.01 ID:dd8yCy60

美琴「危ない! 端に寄って!!」


 美琴の声に反応し、黄泉川は螺旋階段外側の手すりまで飛び退く。
 片手で鉄装を引っ張り寄せつつ、何事か確認しようと振り返ると、
 螺旋階段のちょうど中心、空間が出来ている部分で球状の光が弾け、眼前まで迫ってきた。
 網目状に広がったそれは、しばらくバリバリと音を立てて猛り、数瞬後に消えた。


黄泉川「今のは……!?」

美琴「電気の網? それほど電圧が高かったわけじゃないけど……」


鉄装「だ、誰ですか!!?」

 鉄装が銃を構え、左右に振り回す。
 しかし、その銃口の先には影も形もない。


美琴「………………上!!」


 遅かった。

 光の網は再び、そして更に広範囲に広がり、美琴たち目掛け落下していた。


黄泉川「うわあああああああああああ!!!?」

鉄装「きゃああああああああああ!!!!?」

 光に包まれた黄泉川と鉄装が悲鳴を上げた。
 彼女達の全身に装備された機械という機械がショートし、火花を上げたのだ。

102 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 23:46:20.58 ID:dd8yCy60

 『ライトニングウェブ……やっかいなモノは破壊させてもらったわ……』


 頭上から声が聞こえ、美琴達は視線を上げた。


鉄装「あ……ああぁぁぁ……!!?」


 遥か頭上から一本の糸でぶら下がり、こちらを見下ろす影。
 それは、巨大な蜘蛛だった。

 眼と髪は血の様な紅。肌は青白く生気が無い。
 肘から先は人ではなく。伸ばせば二メートルはありそうな、禍々しい虫の足になっている。
 そんなこの世のものとは思えない女の下半身は、黒と黄の混じったサイケデリックな蜘蛛の腹。

 人間さえ捕食してしまいそうな、巨大な女郎蜘蛛……!


鉄装「ば、化物……」

黄泉川「……怪人…………!! 今度は蜘蛛女じゃん……!!」


 「あらあら。人がわざわざ会いに来てあげたのに……その言い方は酷くない?」


 蜘蛛は、ニヤニヤと嫌らしく、こちらを見下しきった表情を浮かべる。

 が、その余裕の笑みは、頬をかすめた雷の矢に剥ぎ取られた。


 「貴様……小娘っ!!」

美琴「残念だけど。私にはあんなちゃちな電撃は効かないわ……」
103 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 23:47:46.48 ID:dd8yCy60

美琴「……! 答えなさい! アンタたちは一体何!? ブラッククロスって――」

 「答える義務があるのかしら? エサ如き相手に……」

黄泉川「エサ……!?」

 「そうよ。私の巣にかかったエサ。だって、このビルは私の物だもの」

黄泉川「お前の……!? まさかお前はキャンベル……!!」

鉄装「ええ!?」


 二人の驚く顔が気に入ったのか、蜘蛛は上機嫌に笑い、芝居じみた仕草で答える。


 「名乗ったはずよ……私はブラッククロス四天王の一人。妖魔アラクーネ……!」



 「ねぇ。お嬢さん?」

美琴「どうでもいいわよ!! アンタの名前なんてぇ!!!」


 叫ぶと同時に、美琴の体から高圧の電流が放たれた。


アラクーネ「オホホ! 品が無いわねぇ!」


 電流は階段に命中し、そこから更に放射状に広がった。

 激しい稲光が周囲を照らし出し、黄泉川と鉄装はその眩しさに目を背けた。
104 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 23:49:24.89 ID:dd8yCy60

 電撃が止む。

 体を吊るす糸を引き戻して、電撃を回避したアラクーネはそのまま上階へ昇っていった。

美琴「ちっ……! 逃げた……!!」


美琴「黄泉川さん、鉄装さん! 大丈夫ですか!?」

黄泉川「あ、ああ……けど。装備がオジャンじゃん」

鉄装「これじゃあ……あんなの相手に戦えないですよ黄泉川先生……」

黄泉川「くそ……! こうなったらこの防具でぶっ叩いてでも……!」

美琴「ちょ!? 無茶しないで下さいよ!!?」


 「キーーーーーーーーーーーー!!!」

 話している隙に、 またも戦闘員に囲まれていた。
 その数ざっと二十――!


黄泉川「まだこんなにいたじゃん!!?」

鉄装「? あ!? ちょっと御坂さん!!?」


 二人が戦闘員に気を取られた一瞬をついて、美琴は階段の手すりへと駆け上る。
 そこから飛び上がると、上階の手すりへと引き寄せられるように体が浮かび上がった。

 二人には悪いが、アレと戦わせるわけには行かない。
 ここで戦闘員相手にてこずって貰おう。

美琴「一人ならこういう芸当も出来んのよね!」

 磁力を操り、金属製の手すりを次々に飛び移っていく美琴。


 黄泉川が連れ戻そうと駆け出すが、戦闘員が立ちはだかった。

黄泉川「くっそ……! やられたじゃん!!」

鉄装「ど、どうするんですか黄泉川先生!?」

黄泉川「とりあえず……今はこいつらを何とかするじゃん!!」
105 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 23:50:41.59 ID:dd8yCy60

美琴「見えた……!」

 長い螺旋階段を上りきり、ビルの天井が目前に迫った。
 このまま最上階へと突入しようと、美琴が気合を入れた瞬間――


 「きゃあああああああああ!!!?」


美琴「悲鳴!? 上から!!?」

 階段の隙間を通過し、手すりを掴むと、その手を軸に体を翻し、着地した。
 顔を上げて悲鳴の主を確認する。


 「た、助けて……」

 若いOLが、体を震わせて立ち尽くしていた。
 雨に濡れた捨て犬のように、涙を浮かべた瞳でこちらを見つめ、助けを求めている。


 その全身に、二十センチほどの蜘蛛がびっしりとひしめいていた……!


美琴「……!?」

OL「く、蜘蛛が……! 突然襲い掛かってきて……!!」

 一匹の蜘蛛が、彼女の首筋に前足を添えた。
 その先端には鎌状の爪が生えている。

 「それ以上動くな」と、そう言いたいようだ。


美琴「本当…………姑息なマネするじゃない」

OL「え……?」


 美琴は迷わず雷撃を放つ。
 光速で走る雷が、『OLごと』蜘蛛を焼き殺した。
106 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 23:53:57.25 ID:dd8yCy60

美琴「私がレベル5の電撃使いだって忘れてない? 分かるのよ。その体から出てる『電磁波』で」

 美琴の電撃で焼け死んだ蜘蛛の山。その中から黒焦げになったOLが、ゆらり……と立ち上がった。


OL「……容赦ないのね……人間じゃなければ良いってものじゃないでしょう……?」

美琴「そうね。勿論よ。でもあんた達は別」

OL「私の肌こんなにしちゃって……酷いわ……許せない!!!」


 OLの両脚がもぎり取れ、そこから巨大な蛇の尾が延びた。
 地面を素早く蛇行して美琴に接近し、あっという間に全身に巻きついた。


OL「そんな悪い子は! このまま絞め殺してあげるわ!!」


 が――


OL「ぴぎゃああああああああああああああああああああ!!?」

 ゼロ距離から放たれた電撃が、蛇の鱗さえ突き破り、その肉を焦がした。

美琴「許せないのはこっちよ」

 ザン! と、動かなくなった蛇女を踏みつけ、奥の通路へと歩を進める。


美琴「どこまで私をおちょくれば気が済むわけ……?」


 社長室と書かれたプレートを睨み付ける美琴。
 怒りのあまり、全身がビリビリと帯電していた。
107 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 23:54:56.18 ID:dd8yCy60


 キンッ――――


 そして放たれた、本日二発目の超電磁砲。

 社長室のドアをぶち破り、上品なインテリアも、高価そうなワインも、ビル内を映し出すモニターも、
 部屋にあった全てを吹き飛ばしながら、ビルの壁を破壊してその先の敵をかすめた。


アラクーネ「危ないわね」

美琴「危ないからやったのよ」


 すっかり見晴らしの良くなった部屋の奥。
 ビルの外に、巨大な蜘蛛の巣が張り巡らされていた。

 その中心に、ブラッククロス四天王の一人。妖魔アラクーネの姿がある。


美琴「先手必勝!」

 もう一度、今度は直撃させようとコインを取り出す美琴。

美琴「……ッ!?」

 しかし、突然走った鋭い痛みに膝を付いた――


美琴「いっつ……!? 何よコレ……!?」

 右足のふくらはぎから血が滲んでいた。

 周囲を見回し、物陰で何かが動くのを見つけた。
 先ほどの蜘蛛だ。
 そのうちの一匹の前足の鎌が、赤く血塗れている。

美琴「コイツら……!」
108 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 23:56:01.03 ID:dd8yCy60

アラクーネ「残念だけど。私社長なの。現場の仕事は部下の仕事よね」

美琴「はぁ!? ふざけんじゃ……!!」



アラクーネ『ミニオンストライク』



 アラクーネの腹部が裂け、中から数え切れないほどの二十センチの蜘蛛が噴出した。

美琴「どこにそんなに入ってんのよ!!? あんた堀ち○み!?」

 それにあわせ、室内に居た蜘蛛も同時に飛び掛る。


 全周囲包囲同時攻撃――――!!


 しかし、常盤台の超電磁砲には通用しない。
 美琴の周囲が輝き、襲い掛かった蜘蛛は一匹残らずスミになった……!


美琴「何度も同じことさせないでくれる?」

アラクーネ「やっかいな能力ね……」

美琴「じっとしてなさい。一瞬であの世に送ってあげる……!」

 美琴は立ち上がり、再び右手を突き出した。


アラクーネ「……その傷で撃てるのかしら? 当てる自信はあるの?」

美琴「……こんなかすり傷でどうこうなるはず無いでしょ。直撃よ……!」


 そう……と、アラクーネの頬が釣り上がった……
109 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 23:58:06.64 ID:dd8yCy60

美琴「でも、その前にもう一度聞いておくわ」

アラクーネ「何かしら? 特別粋のいいエサですもの。特別に答えてあげるわ……」

美琴「あんた達――ブラッククロスって何?」


 威嚇するように、美琴はアラクーネを睨み付けた。
 右手はいつでもトドメをさせる様に構えられたまま、照準はアラクーネの頭部に定められている。

 その真剣な姿を嘲笑うかのように口元を歪ませて、アラクーネは真実だけを口にした。



アラクーネ「悪の秘密結社よ」



 馬鹿馬鹿しい……

 これ以上何も答えないと判断し、親指でコインを弾く。
 次の瞬間には決着が付いている。

 筈だった――――


 キィィィィィィィィィィィィン……!!!


美琴「……!!? な、何この音……!!!?」

 まさかキャパシティダウン……!?


 キャパシティダウン――。
 美琴が思い出したのは、以前自分を苦しめた、ある科学者が用意した兵器。
 あれは、高位の能力者であればあるほど、演算を乱され苦しむ対能力者用の音波を放った。
 

 違う――!
 あれはこんな生易しいものじゃ……なら、何!?

美琴「……!? これって……」


 音は、アラクーネの喉から発せられていた。
110 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 23:58:55.28 ID:dd8yCy60

 音が止む……


アラクーネ「……ふぅ……こんなものかしら」

美琴「超音波攻撃のつもり……? こんなもので演算を掻き乱されるほどヤワじゃ――」


 ズキンッッッ!!!!!


美琴「があああああああああああああああああああああああああああ!!!!!???」


 何事が起こったのか?

 右足に激痛が走った――!

 まるで千切れ飛んだかのように。まるでねじ切れたかのように。

 美琴の右足の、あの『かすり傷』が痛む――!!!


美琴「な……なに……これぇ…………!!!!?」


 全身から脂汗が噴出す。
 右足のかすり傷だけではない。全身が痛み出す――!!

 立ち上がることなど、出来ない。

 かつて味わったことの無い痛みに耐えかね、苦悶の表情を浮かべる美琴の耳に、癇に障る声が届く。


アラクーネ『ちょっと、痛覚を倍増させてもらったのよ……!』
111 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 00:02:22.46 ID:nfnX4cA0

 感覚器が受け取った情報は、電気信号として神経を伝わる。
 神経からの情報が真っ先に向かうのは大脳。
 そこで自分の状態を分析し、的確な感覚を体に伝える。

 聴覚も、痛覚も、それは同じだ。

アラクーネ「さっきの声で、大脳の働きを少し弄ってみたの……」


 通常伝えられる痛みを仮に『1』として、今の美琴の脳はそれを『100』と感じている。

 注射針が刺さる瞬間のチクリという痛みが、その百倍。
 丸太の杭で貫かれたように感じたら……?

 戦闘の繰り返しで疲労した筋肉。疲労による筋繊維の消耗をその百倍。
 全身の筋肉を擦り削られたように感じたら……?

 小さな鎌で切られた、血が滲む程度のかすり傷がその百倍。
 チェーンソーで切り刻まれたように感じたら……?


アラクーネ「どうしたのお嬢さん?」

美琴「………………!!?」

アラクーネ「ほら。撃ってご覧なさいよ」


 撃てるはずが無い。
 今の美琴は、このまま痛みで気を失ってもおかしくないの状態なのだから。


アラクーネ「じゃあ、トドメといきましょう」

 アラクーネが右腕を上げた。
 その先端に、一匹の蜘蛛が鎌をもたげて立っている。
 その様子は奇しくも、美琴の超電磁砲の構えのようだった――――
112 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 00:03:25.60 ID:nfnX4cA0


 『シャイニングキック――――!!!』


 掛け声と共に、紅い弾丸が駆け抜けた――!

アラクーネ「……? っ!!? あああああああああああああああ!!!!??」


 いつのまにか、アラクーネの右腕が消し飛んでいた。
 その断面がショートし、火花を発している。


アラクーネ「手! てて……てててて手がああああああああああああ!!!!?」

 慌ててその火を消化しようと暴れるアラクーネ。

 その腹に――


 『ブライトナックル――――!!!』


 閃光が、再び夜空に輝いた――


アラクーネ「があああああああ!!? 寄るな! 寄るなあああああ!!!」

 残った左腕の鎌を振り回す。
 何度も何度も、器用に動く鎌を振り回し続けると、その一振りが運よく敵の皮膚を切り裂いた。

 ダメージを受けた敵は、距離を開けようと後ろへ飛ぶ。

 同じく。アラクーネもまた、得体の知れない乱入者との距離を開く。
113 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 00:04:19.75 ID:nfnX4cA0

美琴「……あ、あんた……は……!!?」

 美琴の目の前まで近づいた乱入者の姿が、月明かりに照らし出される――

アラクーネ「貴様は……貴様は……!!」

美琴「あんたは……!!」



 「「アルカイザー……!!!」」



 紅い鎧のヒーロー。
 アルカイザーが再び、学園都市に現れた――!

 地上百メートルを超えるビルの最上階は風が強く。
 蒼いマントが音を立てなびいている。
 紅い拳を握り締め、隙なく構えたアルカイザーは、アラクーネを真っ直ぐに見つめていた……


 正体不明のヒーローは、やはりブラッククロスと戦うために現れたのだろうか?

 美琴は、痛みを堪え意識を集中させた。
 今はまだ、気を失うわけにはいかない――!


 と――


アルカイザー「大丈夫……ですか?」

美琴「……え…………?」


 アルカイザーはアッサリ構えをとき、美琴を振り返った。
114 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 00:05:30.66 ID:nfnX4cA0

 心配されているのか?
 敵が目の前にいるというのに、わざわざ振り返ってまでこちらに話しかけるなんて……

美琴「え……ええ……大丈夫……っ」

 感覚が、大分戻ってきていた。
 元々、そんなに長時間効果のある技では無いようだ。

 しかし、まだ戦闘が可能な状態ではない。
 あくまで、意識を保っていられる程度だ。


アルカイザー「そうですか……良かった」

美琴「子ども……やっぱりあんた子どもなのね……!!」

 この高い声。このシルエット。間違いない!

 それも、おそらく女。
 自分と同年代の女の子だ――!!


アルカイザー「はい? ……あ!」

 しまった! と、アルカイザーは口を押さえた。


 ……仮面なのに。


美琴「………………」

 こんな奴に助けられたのか……
115 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 00:11:53.57 ID:nfnX4cA0

美琴「!? 危ない!!」


 戦闘中に、敵に背を向けて話し込むなんて、はっきりいって論外だった。

 それも、相手はレベル5の超能力者を翻弄するような怪人。
 背後から迫っていた無数の蜘蛛が、アルカイザーの全身を切り刻んだ――!


アルカイザー「…………!!」


 まずい――――!!

 たった一つのかすり傷がアレほどの痛みを発したのだ。
 それが全身に……!


美琴「あ、アル……カイザー! アイツの声に――!!」

 あいつの声に注意して。

 言い終わる前に――


アラクーネ『痛覚倍増』


 キィィィィィィィィィィィィン……!!!


美琴「ぎっ…………!!?」


 美琴に再び激痛が走る。が、さっき以上に痛みが増すことは無かった。
 どうやらこれが上限らしい……

 今度も何とか耐えられた……
 だが、自分は助かっても彼女は…………!!
116 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 00:14:15.96 ID:nfnX4cA0

アルカイザー「〜〜〜〜〜〜っ!! あーっもう!!! うるっさいなぁ!!!!!」



アラクーネ「…………………………は?」


 理解できない光景。

 紅いヒーローは、耳を仮面の上から塞いだだけで、平然と立っていた。

 立っているどころか、そのままスタスタと蜘蛛の巣へ歩を進める。


美琴「………………何……で?」

 会話は出来ているのだ。
 あの仮面に防音機能がついているとは考えにくい。

 ならどうして?

 たった一つのかすり傷が、耐えられないほどの痛みなのに。
 全身を切り刻まれたアイツが、どうして平然と歩けるのか。


アルカイザー「さあ。さっさと終わらせようか……!」


 アルカイザーの拳が輝く。

 右手を引き、アラクーネに狙いを定めるように腰を落とした。

117 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 00:18:19.75 ID:nfnX4cA0

アラクーネ「……っ!!」

 勝てないと踏んだのか。
 危機を察知したアラクーネは、臀部から白い糸を噴出し隣のビルへ吸着させた。
 そしてその糸を巻き戻しながら七本の足で飛び上がる。


美琴「あいつ……! 逃げる気!?」

 身を乗り出すが、再び走る激痛に動きが止まった。

 視線だけを戻すと――


アルカイザー『アル……』


 その場を動かないアルカイザー。

 右手の輝きが増し、光の塊がみるみる膨れ上がっていく。


アルカイザー『ブラスターァァァァァァ!!!』


 その右腕を真っ直ぐに振りぬき、腕にまとわり付いていた輝きが撃ち出されるた――

 無数に分かれた光の弾は、まるで流星のように夜空を駆ける。

 照準は隣のビル。その屋上に着地したアラクーネ――――!


アラクーネ「ひッ!? も、燃え……キャアアアアアアアアアアアア!!?」

 アルブラスターに打ち抜かれた大蜘蛛は、体中から火を噴出し、しばらくの間もがき苦しんだ。
 炎に巻かれた蟲の末路……
 足も髪も、全てがボロボロと崩れていき、やがて、体を丸めて一塊の炭になった……
118 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 00:23:28.88 ID:nfnX4cA0

美琴「……」


 死んだ敵には、もう興味は無い。

 そこからは何の情報も得られない。

 なら、今は――――


美琴「アルカイザー……!」


 今にも倒れそうな体に鞭を打ち、意識を保つ。

 この紅い女を問い詰める…………!


美琴「あんたは……何者なの……!?」


 強い風が吹いた。

 風に乗って、アラクーネの体がサラサラと巻き上げられて跡形もなくなった。

 キラキラと輝いているのは、体に金属が使われているからか……

 蒼いマントをなびかせ、紅いヒーローが、美琴に近寄ってくる。

 あと数メートル。


美琴「そこで止まって……っ!」

 油断は出来ない……!

 正体が分かるまで……敵か味方か……!




アルカイザー「良かった」
119 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 00:24:28.73 ID:nfnX4cA0

 美琴は――


アルカイザー「良かった。その程度の怪我なら、心配要りませんよね?」


 警戒も疑問も失った――――




美琴「…………………………………………あ?」


 満身創痍だと思っていた。

 が――

 客観的に見て、自分の姿はどう見える?

 目立った外傷はふくらはぎのかすり傷一つ。
 それも、血が滲む程度の。


 それだけで。たったそれだけの傷で動けない……?


アルカイザー「すぐに警備員が駆けつけるはずですから。無茶しないでくださいね」


美琴「――――――」

 今。私はこいつに心配されているのか?
120 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 00:25:48.16 ID:nfnX4cA0

 全身を切り刻まれても平然と戦ったこいつは、私をどう見てる?

 心配してる?

 心配して優しく声をかけてる?

 ヒーローだから?

 哀れな弱い一般人に――――


 同情してる――――?


美琴「……けんな」

アルカイザー「はい?」

美琴「ふざけんなあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 頭が真っ白になった。

 美琴は握り締めたままだったコインを――



 弾いた――――
121 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 00:28:39.28 ID:nfnX4cA0

黄泉川「な、何事じゃん!!?」

鉄装「じ、地震ですかぁ!!?」


 黄泉川と鉄装が階段を上り終えたとき。
 ビル全体が揺れた。

 さっきまでも何度か小さい揺れを感じていたが、今度のは特別大きい。


黄泉川「……ちっ!! まさか……御坂美琴!!」


 最悪の光景を想像し、黄泉川は自分が足を怪我していることも忘れて走り出した。

 そして、破壊されたドアを潜り抜け、部屋へ飛び込み――




 えぐれた床の前で、御坂美琴が一人倒れているのを発見した。
122 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 00:34:25.10 ID:nfnX4cA0

黒子「お姉さま……」


 白井黒子は、キャンベルビルに駆けつけていた。

 警備員が邪魔をしてそれ以上近づけまいとしたが、彼女のテレポートの前では無力。
 黒子は玄関ホールの中へと足を踏み入れた。


黄泉川「お前……風紀委員の……」

 そこへ、美琴を連れた黄泉川、鉄装が降りてきた。

 力無くうな垂れる美琴は、鉄装に肩をかりて、かろうじてヨロヨロと歩いていた。


黒子「お姉さま!!」


 黒子はビルの外から、上空で行われている戦いを見ていた。
 紅い鎧と大蜘蛛が数度激突し、最後には逃げ出した蜘蛛が撃ち抜かれ、おそらく死んだ。

 そこに、愛する御坂美琴の姿が確認できず、居ても立っても居られなくなったのだった。


黒子「心配しましたのお姉さま! 姿がお見えにならないので、よもや中で力尽きているのではと――」

 それが余計なことと知らず。黒子は素直に、自分の気持ちを伝えてしまった――


美琴「心配した……?」

黒子「はい! 黒子は心配で心配で……」

美琴「はっ……はははっ…………!」

黒子「お姉……さま?」





美琴「触るな」
123 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 00:35:17.40 ID:nfnX4cA0

佐天「はぁぁ……どうしよう……」


 憂鬱だ……

 自宅に帰ってきたものの、問題は山積み。


佐天「このピアス穴……なんて言おう?」

 鏡を覗き込み、自分の耳に開いた小さな穴を観察する。


佐天「ああああー……もう! アルカールさんも何でわざわざピアスなんかにしたのさー!!」

 洗面台に置かれた二つのピアス。
 銀製だが、ただの銀ではない。


アルカール『そのピアスはな。「精霊銀」で出来ているのだ』

佐天『精霊銀?』

アルカール『害になる音波だけを弾き飛ばす効果がある金属だ』

佐天『へ〜。不思議な物なんですね〜』

アルカール『調査で分かったのだが。アラクーネは人の神経を音波で操ることが出来るらしい』

佐天『神経を……?』

アルカール『そう。だから、奴と戦うのならそれを着けなければならない』

佐天『え? でも、私ピアスなんて……別に学校で禁止もされて無いと思いますけどでも――』

アルカール『問題ない。すぐに開くし、変身すれば血も止まる』

佐天『は? え!? ちょ!! ま!!??』


 キャアアアアアア〜〜〜

124 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 00:36:20.68 ID:nfnX4cA0

佐天「……」

 いや。

 そんなことはどうでもいい。

 どうでもよくないけど。


 それより――


佐天「御坂さん……」


 本気で、私に向かって超電磁砲を撃った……?


 睨んでた。

 まるで誰かのカタキみたいに。


佐天「何で……」


 いや。

 いやいや。

 別に『私』に向かってじゃないよね。

 あれは、『アルカイザー』に向かって撃ったんだ。


佐天「うん……そう……私は、御坂さんに嫌われてなんて居ないはず」


 そもそも、どうして御坂さんは……?
125 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 00:37:01.22 ID:nfnX4cA0

佐天「勝っちゃったから……?」

 御坂さんが勝てなかった敵に勝っちゃったから……

 でも、あれはアルカールさんが助けてくれたからで。
 たまたま、私は対処法を知っていたからで。

 別に御坂さんより強いわけじゃ……


佐天「――――――!!?」


 ………………御坂さんより強い?


 誰が? え? 私――――?


佐天「い、いやいやそんな……! あはは!」


 もし戦ったら、どうなるんだろう?


佐天「負ける負ける! そんなまさか……流石に、ねぇ?」


 勝てる。


佐天「勝てない」


 勝てる。


佐天「………………」
126 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 00:38:34.29 ID:nfnX4cA0


 その夜は、何時までたっても胸の鼓動が収まらなくて。


 結局。朝まで寝付けなかった。


 落ちこぼれのヒーローは、胸に歪なモノを感じた。
127 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 00:40:29.25 ID:nfnX4cA0

 【次回予告】

 ヒーローとして戦うことを選んだ佐天!!
 街に跳梁跋扈する怪人達を退治するため、日々アルカイザーとして駆け回るのだった!!

 そんなある日!! 以前知り合った幻想御手事件の被害者達と再会する!!

 お互いの無事と近況を確かめ合う佐天たちだったが、そこへブラッククロスの魔の手が迫る!!

 次回!! 第四話!! 【困惑! アルカイザー変身不可能!!】

 ご期待ください!!
128 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/11/18(木) 00:47:39.13 ID:nfnX4cA0
はい、というわけで第三話でした。

美琴大好きだよ? 本当だよ? ただちょっと虐めたいだけだよ?


 【補足という名の言い訳のコーナー】

 ・痛覚倍増について。
  一番ツッコミ入るだろう改変点。
  原作では邪術の一つで、効果は「減った体力分のダメージを与える」というもの。
  つまり音波属性の攻撃ではないので、本来精霊銀では防げません。
  ですが、サガフロの二次創作ということで、個人手にはやっぱり音波耐性(=精霊銀装備)はやっておきたかった。
  それと、美琴には効くけど佐天には効かないという状況が必要だったので。
  大脳やら何やらの解説? あれはまあ適当に「ふ〜ん」ぐらいなもんでスルーして下さい。

 ・ライトニングウェブについて。
  原作では「メカをスタン(1ターン行動不能)にする」という技。
  警備員に脱落してもらうため、機械をショートさせるという風に解釈しました。

 ・堀ち○み
  ごめんなさい。
129 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/11/18(木) 00:50:25.69 ID:nfnX4cA0

PS.黄泉川さんが使ってたハンドブラスターは「ブラスターのリーチでブラスターソード」を使っています。
 ゲームに登場した警察『パトロール』の標準装備ですね。
130 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/18(木) 01:30:19.35 ID:13pfd2AO
連携どころかやり合う展開かよ
まさか鋼鉄黒の役をやらせたりしないよな、信じていいのか不安になってきた

それにしてもアルカイザーの剣使わないな
131 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/18(木) 02:05:53.48 ID:rnlC5hw0
>>1
アルカールよ…考えてやれ、校則を…!
精霊銀の腕輪で良いじゃないか
132 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/18(木) 08:22:18.02 ID:zhuGvAAO
乙〜
御坂も佐天さんも、なんか良くないフラグが建ってるなぁ。
この御坂が実験のこと知ったら、どう暴走するのやら
133 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/18(木) 11:49:42.76 ID:xjfUKQMo
ヤンに走りそうな美琴は見ていてキツい・・・
面白いけど最後までついていけるか不安だ・・・ww
134 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/18(木) 19:40:36.75 ID:cikzAASO
レイブレードは元ネタでも空気気味だったからな…
ところでメタル佐天の登場はまだですか?
135 : ◆S7msF7zQV2 [saga sage]:2010/11/18(木) 22:56:57.57 ID:nfnX4cA0
今4話から7話を書いています。

この辺りは佐天の心境や展開が繋がっているので、投下するのはまとめて完成してからにしたいと思います。
レイブレードも普通に登場してますので、ニッチなレイブレードマニアの皆さんにも楽しんでもらえると思います。

多分第四話の投下は明日か、早ければ今日の深夜に出来ると思います。

それと、サガフロ未プレイの方も居ますので、皆さんできるだけ本編のネタバレは避けていただけるとありがたいです……
136 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/19(金) 00:42:21.42 ID:S7LuBcAO
SSじゃ技ある程度揃ってるが
サガフロの楽しさは閃きが大きいからやっぱヒーロー技の基礎レイブレード欠かせないのよ
137 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/19(金) 19:07:37.46 ID:kXePBJo0
どうでもいいがエフェクトのカッコよさは
ブラスターソード>>>>>>レイブレードだよな
なんで逆にせんのかと
138 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/11/19(金) 23:12:27.21 ID:n36z4560
第四話投下開始します

うわ〜……これから数話超不安だ……
139 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/11/19(金) 23:13:38.07 ID:n36z4560


 『フラッシュスクリュー!!』


 片腕が鉤爪になった、一見着ぐるみのような鴨型怪人の腹深くに拳をめり込ませた。
 拳に溜め込まれたエネルギーが膨張し、引き抜くと同時に爆発を起こす……

 怪人は体内から光り輝き、四方に爆散した。
 
 それを見た戦闘員たちが一斉に逃げ出す。

黒子「お、お待ちなさい!!」

 戦闘員を追って、白井黒子は一人走り出した。



アルカイザー「……ふぅ」


 戦うことに慣れてきているのを感じる。
 まるで体が戦い方を知っているかのように。

 戦えば戦うほど、このヒーローの力の使い方が理解できるようになってきた。


初春「あ、ありがとうございます……アルカイザーさん」

アルカイザー「いえいえ。どういたしまして!」

 その場に取り残された初春がおずおずと頭を下げた。
 そんなつもりはないけど。お礼を言われるのはやっぱり気分がいい。


初春「それにしても……佐天さんは大丈夫かな?」

アルカイザー「え!? あ、ああ!! 向こう! 向こうで休んでます!!」


 【第四話・困惑! アルカイザー変身不可能!!】
140 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 23:15:56.57 ID:n36z4560

初春「あの……聞いてもいいですか?」

アルカイザー「え、ええ? はい……何でしょう?」


 どうしてこうなった……


アルカイザー『じゃあ私はこれで……』

初春『ま、待って下さい!』

アルカイザー『はい?』

初春『ひょっとしたら、佐天さんの方にもまだ怪人がいるかも知れません。一緒に来てもらえませんか?』

アルカイザー『ええ!? いや……大丈夫じゃ……ないかな?』

初春『そんな! どうして分かるんですか!?』

アルカイザー『え!? いや、だって――』

初春『正義の味方なんでしょう!? もし佐天さんに何かあったらどうするんですか!!?』

アルカイザー『はい……ごめんなさい……』


 いやいや……! このままじゃ戻れ無いじゃん!


初春「その……その格好って……趣味ですか?」

アルカイザー「……」

 何を聞いてるんだろうね、この子は。
141 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 23:17:11.42 ID:n36z4560

初春「あ! ごめんなさい! カッコよかったのでつい!!」

 苦しい。その言い訳は苦しいよ初春。


アルカイザー「うん。ありがと。趣味ではないよ?」

初春「はぁ……じゃあ、やっぱり駆動鎧『パワードスーツ』かなにかですか?」

アルカイザー「そうだね。まあそんなようなものかな」


 適当に流そう。
 それよりも、この状況をどうするか……


初春「警備員ではないんですよね?」

アルカイザー「ええ……一人で活動してます……」

初春「そうなんですかー……へー」


 いや。興味湧くのは分かるけどね?
 風紀委員的にも知っときたいんだろうし……


アルカイザー「あの……機密なんで。これ以上はちょっと……」

初春「あ! そ、そうですよね! すみません……」

 ……何だかなー?
142 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 23:18:24.35 ID:n36z4560

初春「あ! 御坂さん!!」

アルカイザー「!?」

 まず――!

 いや――ナイス!!


初春「御坂さーん!」

美琴「……初春さん。どうしたの? こんな所で」

初春「いえ。あ! そうだアル――」

美琴「アル?」

初春「あれ?」

美琴「どうしたの? 中国人?」

初春「いえ……あれぇ? ど、何処行っちゃったんですかぁ??」

美琴「??」


 うーいーはーるー!


初春「あ! 佐天さん!」

佐天「どうしたの?」

初春「い、今アルカイザーさんが!!」

美琴「――――!?」

初春「どこ行っちゃったんだろ……? 佐天さん! 私本物のアルカイザー見ちゃいました!」

佐天「へ、へー……」

初春「カッコよかったんですよー! 紅くて! 角生えてて!!」


 マジかよこの子。
143 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 23:19:31.63 ID:n36z4560

 あれから、私はアルカイザーとしての活動を本格化させた。


 『ブライトナックル!!』


 怪人が現れるとすぐさま変身し、駆けつける。


 『シャイニングキック!!!』


 学園都市中に、アルカイザーの名が響き渡った。


 『アルブラスター!!!』


 何故か?
 そんなの決まってる――


 皆を守るためだ。
144 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 23:20:38.55 ID:n36z4560

佐天「あーー……疲れた……」

 これだけ怪人が暴れているというのに、何故学校というものは平常運転なのだろう?


佐天「休みになってもいいと思わない? ねぇ?」

 公園のベンチに座り、となりで日向ぼっこしている猫に話しかけてみる。
 猫は「にゃー」としか返さない。


佐天「宿題なんかしてる暇ないよねー」

猫「にゃー」

佐天「にゃー」

猫「にゃー」

 「にゃー」

佐天「にゃー?」

 「にゃー」

佐天「……」

 「どうも……お久しぶりです」


 そこに立っていたのは、眉を前髪で隠した、良く知った少女。

 「重福(じゅうふく)です。またお会いできましたね」


佐天「……にゃー…………恥ずかしくて死にたいにゃー……」
145 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 23:22:01.83 ID:n36z4560

 重福さんに強引に引っ張られ、私は近所のファミリーレストランに入った。

 その一番奥のテーブルに――

 「あ……ひ、ひさしぶり……」

 「……おう」

 「……ふん……」

 胡散臭い面々。


佐天「この人たちって……」

重福「うん。幻想御手事件の被害者……」



 幻想御手『レベルアッパー』。

 使用者の能力を強化し、レベルを上昇させてくれる夢の装置。
 かつて都市伝説として出回り、その実態を突き止めた低レベルの学生達に出回った。


 ある者は、才能の無い自分の救いを求めた。

 ある者は、その力で犯罪を犯した。

 ある者は、純粋に力が欲しかった。

 ある者は、高位能力者への復讐を企てた。


 レベルに振り回される、この学園都市の学生達。
 その中でも、私達低レベルの能力者は弱者であり、踏みにじられる対象だ。

 そう――

 私もまた、幻想御手の使用者だった…………
146 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 23:23:32.76 ID:n36z4560

 それをズルだと知りつつ、誘惑に勝てなかった。

 目の前で、誰かが傷ついている。
 目の前で、高位の能力者が力を使う。
 目の前で、レベルの低さを、才能の無さを突きつけられる……

 力を手に入れた私達は歓喜した。
 初めての感覚。
 能力を発動する感覚。

 
 が、その使用者たちは皆、謎の昏睡に見舞われる――


 それは、反則を犯してまで力を求めた代償だったのか。

 結局。風紀委員や警備員の活躍で、幻想御手の開発者は逮捕され、事件は決着した。


 それが――
 私と御坂さん、白井さん、そして初春の絆を深くした、一連の事件の、その一端だ。



重福「連絡先の分かる人だけ集めて、久しぶりに集まったの」

佐天「そうだったんだ」

重福「そうだったんだ、って。やっぱり。佐天さん手紙まだ読んでなかったんだ……」

佐天「へ?」

重福「……手紙に……書いておいたんだけど……」

佐天「ご、ごめん! 最近忙しくて!!」

 やべー。やべー。
 毎回長々と愛のポエムが書いてあるからスルーしてたよ……
147 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 23:24:41.28 ID:n36z4560

 私以外に集まっていたのは四人。

 重福省帆(じゅうふく みほ)。
 介旅初矢(かいたび はつや)。
 鋼盾くん。

 そして――

 「おい! 何見てんだよコラ!」

佐天「ちょ……! 店員さんに絡むの止めてくださーい!!」

 姉御さん(?)。


姉御「つーかよぉ! お前らも折角集まってやってんのにしけた面ばっかしやがってよぉ!!」

介旅「……何でいるんだよこの女」

姉御「ああ!? 何か言ったかガリ眼鏡!?」

鋼盾「わ、あわわわ……や、やめましょうよぉ……」

 いや、本当に何で来てるんだろうこの人……意外と人付き合い良いのか?


重福「うふふふ〜……佐天さんの隣〜」

 あんたもちょっと周りを見なさい。
148 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 23:26:33.71 ID:n36z4560

姉御「んで? あんたらどうしてんのよ?」

介旅「……」

姉御「何か言えよ!!」

鋼盾「ぼ、僕は……ちょっとだけ……評価上がった……」

重福「え? 鋼盾くんレベル上がったの?」

鋼盾「い、いやいや!! まだ……ちょっと……評価が上がっただけ……」

介旅「そりゃそうだろ。んな簡単にレベル上がるかよ」

姉御「でなきゃ。アタシらだってあんなモン使わないっつーの」


 一瞬、空気が凍った――――

 なんつーこと言うんだこの人は!!
 話を! 話を進めなきゃ!!


佐天「じ、重福さんは?」

重福「全然。まだどうしたらいいかも分からないよ」

介旅「みんなそうだろぉ? どうせ……」

姉御「学校まじめに通ってもなぁ……教師も役に立つこと言わねぇしよぉ」

 「何だよ猫がどうとかって」と、はき捨てるように呟いて、姉御さんはコーラを一気飲みした。


佐天「学校通ってるんですね。姉御さん……」

姉御「ああ?」

佐天「いえ……何でも……」

 ああ。やっぱり根は真面目なんだこの人。
149 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 23:28:13.91 ID:n36z4560

 常盤台中学のシャワールーム。
 頭から熱いシャワーを浴び、白井黒子はあの日のこと思い出していた。

黒子「お姉さま……」


 『触るな』


黒子「何がありましたの……?」


 あれから毎日。街中を駆けずり回って、アルカイザーの情報を集めているようだ。


黒子「あのビルの中で……何が?」


 いや、御坂美琴だけではない。
 この学園都市全体でなにかが起こっている……

 これまでに、黒子が立ち向かったことの無いような巨大な敵が、この街に潜んでいる……!


黒子「いつまでも落ち込んではいられませんの!」


 黒子は歯を食いしばり、パンッ! と頬を打った。
 気合を入れなおし、シャワールームを出る。


黒子「お姉さまが戻ってくるまで。この街は私が守りますの!!」
150 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 23:29:21.70 ID:n36z4560

鋼盾「最近さ。アルカイザーっての、居るらしいね」

姉御「ああ……あの妙なコスプレ野郎な」

佐天「あ、姉御さん……見たことあるんですか?」

姉御「あるよ。遠くからだけど……ありゃ駄目だ。脳みそが」

佐天「……」

介旅「ふん……どうせどっかの高レベル能力者の暇つぶしだろ?」


 何だかんだで。


重福「でね? その女の子が後ろを振り返ると……」

鋼盾「な、何があったの……?」

重福「その男の乳首に……何故か星型のニプレスが……!!」

介旅「くだらね」

姉御「マジくだらね」

佐天「何か息合ってきてません?」

介旅・姉御「「ねーーよ!!!」」


 時間は過ぎる。

 元々、同じコンプレックスを持つ、同類ばかりだ。
 負い目も同じ。相手の傷も理解できる。
 そりゃ、居心地もいいだろう。

 その中で――


佐天「……」

 何となく。居心地の悪さを感じ始めていた……
151 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 23:30:12.75 ID:n36z4560


 ウーーー!! ウーーー!!


佐天「!? 警報!!?」

 まさか――

鋼盾「か……怪人だ!!」

佐天「!!?」


怪人「ブヒャあああああああああああああ!!!!!」


 鉄球を振り回す豚男。

 その巨大な鉄の塊をそこら中にぶつけ、建物を崩壊させていく。
 倒壊する瓦礫の下敷きになって動けなくなった学生を、戦闘員達が攫っていこうとする。


佐天「な、なんつー大雑把でいい加減な作戦……」

 何にせよ、私の目の前でそんなことやらせるもんか!
 よし、変身して……


重福「佐天さん! 隠れて!!」

 飛び出そうとした瞬間。重福さんに腕を引っ張られて、テーブルの下に引き摺りこまれた。

佐天「え!? ちょ……!!」

重福「静かに……! ここでじっとしてよ?」


 あ――――まずい。

 みんなが居たら……変身が――
152 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 23:31:23.64 ID:n36z4560

介旅「……くそ……まただ……またかよクソ!!」

姉御「うるせぇよ!! 黙って隠れてろ!!」

介旅「まただ……何時も何時も……何で助けてくれないんだよ……!!」

佐天「……」

介旅「俺が困ってるとき……風紀委員も……警備員も……いつも奴ら現れない……!」

姉御「おい!」

介旅「いつも……全部終わってから現れやがる!! 何で今ここに――」


 ここに助けてくれる人間が居ないんだよ……!!!


佐天「……」

 今、私が変身すれば皆助かる……?

 けど、記憶が……!

重福「だ、大丈夫だよ……最近は警備員も風紀委員も巡回強化してるし……」

鋼盾「そ、そうそう! すぐ来てくれるって……」


姉御「……だいたいよぉ。連中が襲ってんのってレベル3以上の奴らだろ?」


佐天「え……」

姉御「だったらアタシら平気じゃん? 悪の組織も、こんな雑魚共には興味ないってよ!!」

鋼盾「……確かに……そうかも……」


 そんな……
 自分達だけ助かろうだなんて……

 そんなこと……!
153 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 23:32:25.65 ID:n36z4560

 それなのに……
 姉御さんの言葉で、テーブルの下に安心したような空気が流れる……


 違う――――!!

 私は違う! 私は戦える!! 
 私はそんなんじゃない!! 私はヒーローになれるのに!!


 私は戦うことを決意したのに……!!



佐天「だ……けど……」

 
 だけど…………どうする?
 変身は出来ない……


佐天「みんな……」


 変身できなくても……
 何とか、注意を引いたりとか……
 いや……けど……


佐天「……」


 背中の熱を思い出す。

 体が冷たくなっていく感覚。
 視界が霞んで、目蓋が重くなる感覚。


 所詮は借り物の力……

 変身できなければ、私は……相変わらず無力だ……
154 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 23:33:35.78 ID:n36z4560

 「ブヒキィアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!?」

 怪人の悲鳴が聞こえた。


佐天「な、何!?」

重福「あ! 佐天さん!!」

 思わずテーブルから飛び出し、辺りを見回す。
 そこにいたのは――


美琴「……」


 体を帯電させて、怪人に対峙する御坂さんだった。

 周囲を囲むように戦闘員が倒れている。
 御坂さんに倒されたのだろう。体から漏電して、ピクピクと蠢いている。


美琴「あいつ……今日は現れないの……?」

怪人「ブキィイイイイイイイイイイイ!!!」

美琴「あんたも……こんなとこで暴れてんじゃないわよぉ!!!」


 御坂さんの腕から激しい稲妻が発生し猛り唸る。
 それをかわした豚男は、あっさり背を向けて走り出した。


美琴「逃げる気……!? 待て!!!」

 見た目よりも素早い豚男を追って、御坂さんは瓦礫の山を駆け上った。


 跡に残されたのは――

介旅「ほらな……やっぱりだよ」

 それを見ていることしか出来ない、落ちこぼれ達だった。
155 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 23:34:32.35 ID:n36z4560

介旅「やっぱそうなんだよ。何とかできんのはああいう連中なんだよ」

佐天「……」

姉御「……ふん」


 取り残された私達は、以前にも感じた無力感に打ちひしがれていた。


鋼盾「で、でも……ぼくらにも、何か出来たかも……」

介旅「は! いまさらそれかよ……大体何が出来るってんだよ?」

重福「……怪我人。助けよ?」

姉御「……警備員の仕事だろ?」

佐天「そうしよ。ね? 介旅くん? 姉御さん?」

介旅「……ちっ」


 それくらいしか、今の私達には出来ない。
 怪人と戦うことは出来ない。
 誰かを守ることも出来ない。


佐天「だから……あの時も力が欲しかったんだよね……」

 幻想御手に手を出したあの時――
 守られてばかりの自分が嫌だった。


佐天「……ねぇ? 重福さん? 力があったら、戦えたよね?」

重福「え? う、うん……」

佐天「誰かを守るために力が欲しいって、間違ってないよね?」

重福「……うん」


 間違ってない……

 この気持ちに間違いはないはずなんだ……
156 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 23:37:55.07 ID:n36z4560

美琴「待てやゴラぁあああああああああああ!!!」

 御坂美琴は咆哮した。

 その目は怪人を追っていない。
 美琴の目に映っているのは、紅い女。
 アルカイザーの幻影は、馬鹿にするように美琴を振り返る。


美琴「負けてない……! 負けてないんだからあああ!!!」

 美琴の体から、二度、三度、雷撃が放たれる。
 がむしゃらに撃ち出された稲妻が、豚男をかすめ地面をえぐった。

美琴「ちぃぃ! 豚のクセにちょこまかとぉぉ!!!」


 走って走って、いつの間にか街を出て公園の中に入った。
 いつもは子どもで賑わっている公園だ。
 だが、怪人が出るようになったころから、警戒して子どもを一人で遊ばせないようにしていた。


美琴「いた! そこ動くなぁあぁあ!!!」

 美琴の全身を駆け巡っていた電流が、右腕に集中する。
 振りかぶり、ハンドボールの要領で放り投げた電撃は、標的を貫こうと槍のように延びた。
 雷の槍は豚男を壁際に追い詰め――


 あっさりと横にかわされ、その奥に居た男の子に襲い掛かった……!


美琴「……!!? あ、あぶな――――」


 最近静かだった公園。

 気の立っていた美琴は、誰も居ないと決め付け周囲に気を配らなかった。

 我に返った美琴は手を伸ばす。しかし、一度放たれたモノは止まらない。
 雷鳴を轟かせ、男の子に迫る電撃は――



 パキィィィィィィィィィン……!



 と、音を立てて消え去った。
157 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 23:40:11.73 ID:n36z4560

 「危ないだろうが!!」

美琴「……あんた」

 「こんな所で、そんな能力振り回してんじゃねぇよ!!」


 美琴の目の前に、ツンツン頭の少年が立っていた。
 美琴の渾身の電撃を受けとめた右手には、傷一つ付いていない。

 豚男は、美琴が驚いている隙にさっさと逃げてしまった。

 男の子も、大声で泣きながら走り去っていった。


美琴「あんた……何でこんな所に!」

 「それより先に、言うべきことがあるだろ!?」

美琴「うるさい!! 今はアンタの説教なんか聞いてる場合じゃないのよぉ!!!」

 「!! っ! このビリビリ女!!」

美琴「ビリビリっていうな! 私は御坂美琴だって何度も言ってんでしょぉ!!!」


 美琴の激情を体現した電撃が、彼女の額から溢れ出す。

 が――
 またもあっさり、彼の右手に掻き消された。


美琴「……相変わらずムカつく能力ね……!」

 「…………」
158 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 23:41:30.48 ID:n36z4560

 さて、どうしてもんか……?

 ツンツン頭の少年・上条当麻(かみじょう とうま)は困惑していた。


美琴「ビリビリっていうな! 私は御坂美琴だって何度も言ってんでしょぉ!!!」

 どうやら、彼女は自分の知り合いらしい。


 実は、上条当麻はとある事情で記憶を失っている。

 それは、ある少女を助けようとした代償だった。
 しかし今はそのことは重要ではない。


 目の前に雷撃が迫る。
 それを再び右手で迎え撃ち、掻き消す――

美琴「……相変わらずムカつく能力ね……!」

 彼の右手に備わる特別な力。
 それが異能の力であれば、神さまの奇跡でさえ問答無用で打ち消す。


 幻想殺し『イマジンブレイカー』。


 この力で、彼女の攻撃は全て防ぐことが出来そうだ。
 だが、問題は――


上条「お前……何をそんなに取り乱してんだよ?」

美琴「……は?」
159 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 23:42:31.99 ID:n36z4560

上条「普段のお前なら、良くわかんねぇけど……こういうことしないんじゃないのか?」

美琴「……はあ? ……何言ってんのよ?」

上条「いや、何って……」

美琴「私がアンタを追い掛け回して電撃浴びせるのなんて、いつものことじゃない」


 そうなのか……
 うわ……嫌な事実が発覚してしまった……


 が――上条当麻が言いたいのはそうじゃない。

上条「じゃあお前は、いつもこんな風に所構わず……誰が巻き込まれようと構わずに!」

上条「あんな小さな子どもを危険に晒すようなマネやってんのかよ!!!」


美琴「な……!?」


上条「それだったら……俺ももう容赦しねぇぞ! 手加減無しでお前を止めてやる!!」


 それを聞いて、少女の表情が変わった――

 そうだ……アンタも……


上条「え?」

美琴「アンタも……私のこと見下して!! 手加減して!! 馬鹿にしてぇ!!!」

 少女の全身から、いまだかつて無いほどの電撃が迸った……!!
160 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 23:44:42.92 ID:n36z4560

上条「馬鹿に……って!? お前何言って――」

美琴「アルカイザー……」

上条「アル……?」

美琴「私の方が……強い! 私の方がぁぁぁぁぁぁ!!! 見下すなあああああああああああ!!!!!」



 ………………いいぜ。

美琴「……!?」


上条「そのアルカイザーってのはよく分かんねぇけど、お前が苦しんでるのは分かった!!」

上条「けど、それを誰彼構わず撒き散らすってんなら話は別だ!!」

上条「苦しいなら! 痛いなら! 自分以外の人間の痛みだって分かるはずだろう!?」

上条「本当は気付いてんじゃねぇのか? 今の自分がおかしいってことに!!」

上条「だったら人の所為にしてんじゃねぇよ!! 今、人を傷つけてんのはお前だろ!!!」

上条「それでも、どうしたって耐えられないっていうのなら、この俺が相手になってやる!!」

上条「手加減なんかじゃねぇ! 同情でも見下してんでもねぇ! これが俺に出来る全力だ!!」

上条「思う存分かかって来い! そんで、その怒りも苦しみも全部吐き出しちまえばいいだろ!!」

上条「幻想なんかに掻き乱されて、そんな風に自分で自分を殺してんじゃねぇよ!!!」

上条「そんなにお前が強いってんなら! そんな下らねぇ被害妄想なんか振り切って見せろよ!!!!!」


美琴「知ったような口を聞くなぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 駆け出す少女。

 それを受け止めるために、少年は右手に力を込める……!


上条「いいぜ。お前の目が現実を映さないのなら……まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!!!」

 ……………………

 …………
161 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 23:45:57.34 ID:n36z4560

佐天「……ただいま」


 自宅に帰って、私はすぐベッドに倒れこんだ。

 色々な思いが頭を駆け巡って、もう何が何だか分からなくなって……


佐天「……」


 あの時の御坂さんも、こんな気分だったんだろうか?

 自分にどうすることもできない何かを、誰かが目の前で何とかしてしまう。


佐天「でも私はずっと、それを経験し続けてきたんですよ?」


 貴女の隣で、貴女が、貴女たちが何かを成し遂げるたびに。


 お前は無能力者なんだって、そう突きつけられているようで。


 だから、幻想御手になんか手を出したんだ……


佐天「力が欲しい……誰にも負けない力が……」


 ヒーローに、なりたい……。



 落ちこぼれのヒーローは、過去に囚われた。
162 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 23:46:41.90 ID:n36z4560

 【次回予告】

 学園都市に蔓延する怪しいクスリ!

 その裏に、ブラッククロスの黒い影が!!

 戦え黒子! 風紀委員の意地を見せるときだ!!

 次回! 第五話!! 【錯綜! 人のココロ!!】

 ご期待ください!!
163 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/11/19(金) 23:48:51.16 ID:n36z4560
はい、というわけで第四話でした。

姉御×介旅という新ジャンルを提案してみる。


 【補足という名の言い訳のコーナー】

 ・上条さんについて。
  禁書目録本編の主人公さん。ヒロインのインデックスを助けるために記憶喪失になった後です。
  妹達編前なので、記憶喪失後はこれが初対面ですね。
  超電磁砲のSSということで、上条さんがからんでくるのはどうかと思ったのですが、
  やっぱり美琴を救うのは上条さんの役割だと思います。
  上条さんっぽい説教は書くの難しいです。かまちーのセンスパネェ。
  
 ・星ニプレス
  彼です。本編には出てきません。多分。
  誰のことか分からないサガフロ未プレイの方は、一方さんが新しい趣味でも始めたと思ってください。
  魔術師の仕業です。多分。
164 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/20(土) 00:06:12.94 ID:wLcQ3oAO
乙、美琴は心配してたよりはいい感じだな、上条さんに救われるなら美琴も本望だろ
彼が居たってことはアセルスが学園都市に来たのかもなww
165 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/20(土) 00:21:55.15 ID:T6cc45so
乙ー
御坂のフラグは、無事そげぶされたようでなにより。
あとは、佐天さんが立ち直るだけか
166 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/20(土) 18:02:35.91 ID:446p25U0
乙です!
サガフロファンとしては小ネタでニヤニヤしちゃいますな。

○○ル・○○○ックスとメイルシュトロームで連携すると
メチャクチャ格好よかったのを思い出したわ。
167 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/20(土) 22:32:21.91 ID:uuC2oko0
佐天さんレイブレード使う

ヒーロー技ではなく通常剣技を閃く

ヒーロー技のつもりで使い続ける

ふと変身前一人でバットを使い素振ってみる

無月散水発動

スキルアウトにバットで無月散水

そんな妄想をした。
168 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/11/20(土) 23:23:58.92 ID:RMClIhY0
第五話ですね。

プレイ済みの皆様はどうかネタバレ厳禁でお願いします。
内心でほくそ笑んでいただきたい。
ただし、レッド編以外の話題は構いませんのでご自由にどうぞ。

未プレイの方のために、地の文での描写に気をつけ、本編投下後補足を行いますが、
「理解できない」「描写不足」と感じたのであればご忠告お願いします。

では投下開始します。
169 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 23:25:32.77 ID:RMClIhY0

固法「困ったものね……」


 固法美偉は、その日何度目になるか分からない溜息をつく。

 「風紀委員として見逃してはいけない」と自分に言い聞かせ、目の前の少年に声をかけた。


固法「ちょっといいかしら?」

少年「ああ?」

固法「風紀委員『ジャッジメント』よ。鞄の中を確認させてくれないかしら?」

少年「!?」


 慌てて逃げ出す少年。

 焦ることなく、固法は少年の足を引っ掛け転ばせると、手首を掴んでひねり上げた。


少年「痛い痛い痛い痛い!!!!」

固法「大人しくしないからよ……確認!」


 固法の指示で、後輩の風紀委員が少年の鞄を開ける。

 すると、そこから出てきたのは袋に入った白い錠剤。


風紀委員「麻薬ですね」

固法「まったく……今日これで何人目?」


 風紀委員の仕事は、悪の秘密結社と戦うことではなく、街の治安維持だ。


固法「はぁ……誰か手を貸してくれる人、いないかしら?」


 【第五話・錯綜! 人のココロ!!】
170 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 23:26:41.60 ID:RMClIhY0

 常盤台中学。

 いわずと知れた名門女子校で、例え王侯貴族だろうとレベル3未満は入学できない。
 学園都市でも五指に入る名門中の名門。

 学舎の園に存在するお嬢様学校の中でも、注目度は一際高い。
 何故なら。
 学園都市に七人しか存在しないレベル5。その内の二人が在籍しているからである。


 その内の一人――

美琴「ん〜〜……今日はいい天気ねぇ……」

 御坂美琴が、学生寮のベッドで目を覚ました。


 年齢や評判に見合わない幼稚趣味なパジャマを脱ぎ、制服に着替える。

 シャワーを浴びようかと思ったが、やはりやめておく。
 今日は気乗りしない。

 出来れば、この部屋からすぐに出たい……


黒子「おはようございますの。お姉さま」

美琴「……うん。おはよう」


 ルームメイトの白井黒子。

 先日のキャンベルビルでの一件以来、二人の間に気まずい空気が流れていた。
171 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 23:27:40.28 ID:RMClIhY0

美琴「ねぇ黒子? 今日も遅いの?」

黒子「ええ。最近は怪人だけでなく、能力者の犯罪も増えていますの」

美琴「治安悪いのねー……相変わらず」

黒子「えぇ。まったくですわね」


 …… …… ……。

 会話終了。


 美琴は悩んでいた。

 あの日は気が立っていた。
 そのことは黒子も分かっているし、謝れば許してくれるだろう。

 が――


黒子「では。先に出ますので」

美琴「え? あ……う、うん……」


 リズムが合わない。


 結局、上手くタイミングが計れず、部屋に居る間ずっと息が詰まりそうになる。


美琴「………………はぁ……何て不器用」
172 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 23:28:51.09 ID:RMClIhY0

 先日の公園。

 ツンツン頭の少年・上条当麻との、久しぶりの喧嘩。

 美琴は思いのたけを思いきりぶつけ、上条はそれを全て受け止めた。
 結局それは、叫んで暴れて、体力も気力も尽きた美琴が倒れるまで、一時間ほど続いたのだった。


上条『さて。すっきりしたんならさっさと帰れよ。フラフラじゃねえか……』

美琴『……やだ』

上条『はい?』

美琴『だって……居づらいんだもん……』


 その日と同じく気の立っていた自分は、八つ当たりで黒子を傷つけた。
 それを気にしないように気を使っている黒子。

 そのことが、美琴の機嫌をさらに悪くしていたのだ。


上条『後輩と喧嘩したぁ?』

美琴『……うん』

上条『何だ……そんなことかよ……』

美琴『そんなことって……!』


 言い返そうとしたが、少年はあっさり、真実を述べる。


上条『だって。自分が悪くて喧嘩したなら謝りゃすむじゃねーか』

美琴『うぐっ…………!?』



美琴「そんな簡単に出来たら苦労しないってのよ……あの馬鹿!」
173 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 23:29:59.32 ID:RMClIhY0

 風紀委員第一七七支部。
 慌しい空気の中、私は親友とのスキンシップを図る。


佐天「初春ー?」

初春「……」

佐天「初春ー?」

初春「……」


 返事が無い。ただのお花畑のようだ。
 おのれ初春……この私を無視するとはいい度胸だ……!

 目標補足! 目標を掴むと同時に捲り上げる!!!

佐天「うーーいーーはーー……るーーー!!」

初春「……」


 馬鹿な!? スカートを捲っても無反応だと!!?



佐天「……」

初春「……」



佐天「えい! おお!! きれいなお尻だ!!」

初春「ひゃああああああああああああああああああああ!!!!???」


 バチーーーーーン!!! と、部屋中に綺麗な破裂音が響き、私は意識を失った……
174 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 23:31:06.84 ID:RMClIhY0

初春「ななななななななななななななな何をするんですかーーーーーー!!!??」

佐天「いや……返事が無いから。コレは更に先に進めということなのかと……」

初春「忙しいんですよ!!! 見たら分かるでしょう!!!?」


 おー。珍しく本気で怒ってらっしゃる。
 いや、これは恥ずかしさを誤魔化すためにオーバーになってるな?


初春「もう……邪魔するんなら出てってくださいよ……」

佐天「えー? 初春が難しい顔してるから、気を紛らわせてあげようと思っただけなのにー」

初春「セクハラを人の所為にしないで下さい!!」


 本当なのになー……
 まぁ元気になったからいっか。


固法「戻ったわ……」


 そこへ、巡回に出ていた固法先輩が帰ってきた。
 なにやら暗い面持ちで、やっぱり、こちらも相当お疲れのようだ。

 ……いや。期待されても流石に先輩にはしないよ?

 ……ホントダヨ?
175 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 23:33:31.38 ID:RMClIhY0

初春「どうでした?」

固法「どうもこうも無いわ……酷いなんてものじゃないわね」


 風紀委員はここのところ、著しい治安の乱れに悩まされていた。

 それはブラッククロスだけではなく、学生達による犯罪の増加や、なにより――

固法「ほら。戦利品」

佐天「これって……クスリですか?」

 麻薬。ドラッグ。
 いわゆる違法薬物が横行していた。


固法「今日だけでこれだけの数よ……あー、目の毒だわ……」

 固法先輩は透視能力を使い、街中で違法薬物の取締りを行っている。

固法「やっぱりこれだけ治安が悪いとね……皆不安になって、こういうものに頼り出すのよ……」

初春「そういうもの……でしょうか?」


 嫌な話だ……


初春「でも。薬物は出所さえ掴めば何とか出来ますからね。ブラッククロスの件よりはマシです」

固法「その出所が分からないから困ってるんでしょ……」

佐天「出所……スキルアウトとか?」

固法「どうかしら……それだけじゃない気もするけどね……」
176 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 23:34:59.62 ID:RMClIhY0

固法「白井さんは? まだ戻ってないの?」

初春「ええ。出てったきりです」

 無理してなきゃいいけど……と、呟いて、個法先輩は机に向かった。
 報告書を作るらしい。

 初春に視線を移すが、彼女もまたパソコンで何やら調べもの中の様子。


 ……ここのところ、ずっとこの調子である。

 風紀委員は大忙し。
 以前のようにみんなでお出かけしましょうというワケにもいかず、会話も減っている。

 これはいけない。
 こういう空気が長く続くと人は良くない方向へ転がるものだ……


佐天「ふむ……」


 さて、私こと佐天涙子がするべきことはなんだろう?

 考えるまでも無い。
 そんなことは決まっている――――


佐天「じゃあ。私もそろそろ行くね? 邪魔にならないように……」

 私がドアを開けて出て行こうとすると、初春が無言で手だけをひらひらさせて挨拶してくれた。
 それに「じゃあね」と返し、私は駆け出した。


佐天「さぁて。ヒーローの仕事は戦いだけじゃない――ってね!」


 ヒーロー・アルカイザーが、街に蔓延るドラッグを駆逐しちゃいますよ!
177 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 23:36:06.45 ID:RMClIhY0

 一七七支部を出た私は、人気の無い路地裏へ駆け込んだ。

 誰にも見られないようにするためだ。


佐天「ふー…………この瞬間はいつまで経っても慣れないねぇ……」


 何せ、正体を見られたら記憶を消されるのだ。

 命がけの変身。慣れるはずが無い。


 念入りに周囲を調べる。
 物陰。通路の先。人が何処からも見ていないか?

 最後に前後左右をもう一度見回して、目を閉じ、意識を集中する……


佐天「……」


 心臓が一つ大きく跳ねる――

 体の中心から、全身の血管へ。
 血が廻るのを感じる。毛細血管の一本一本まで……

 心臓で生まれた熱量が、指先、つま先まで広がっていく。

 力が湧いてくる――――!


佐天「変身! アルカイザー!!」


 佐天涙子の体が輝き、視界が光に包まれる……!
178 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 23:37:45.78 ID:RMClIhY0


ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!


佐天「………………え?」


 突然のアラーム音に驚き、私は、さっき確認しなかった『頭上』を見上げた。

 そこに『居た』のは――――


 「異常な数値の周波数を発見。ライブラリに該当無し。未知のエネルギーと断定。発生源、確認」


 白くて丸っこい、大体40センチくらいの、何やら可愛らしい空飛ぶ機械。


 「学園都市学生名簿と照合……該当者・佐天涙子」

佐天「……え? え?」


 これって――――


 「佐天涙子より、未知のエネルギーを検出。映像、データを検証」


佐天「――――――」


 やばい。


 私、死んだ。
179 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 23:40:50.97 ID:RMClIhY0

 「おい、あの頭、見ろよ!」

 「ツインテールか?」

 「ツインになってねーじゃん! 分かれちゃってるじゃん! 蛸の足じゃん!」

 「ハハハ! いっぱい分かれてるテールじゃねーの?」


黒子「……ここはいつ来ても不快ですわね」


 不潔で嫌な臭いが充満している。
 そういう場所はいる人間も不快で下劣だ。


 ――しかし、昔の私なら蹴り入れてましたの。私も淑女になったということですわね……フッ。


 白井黒子が居るのは工業地区の外れ。
 古くなった建物や、廃棄された製品が溢れる、掃き溜めのような場所。


黒子「流石に遠出しすぎましたの……第七学区を出てしまいましたわ」


 どんな場所だろうとテレポートで移動できる。
 それゆえに、よく考えずに行動するとどこまでも来てしまう。


 ……どうしても。あの時のことが頭をチラついて……


黒子「……集中しませんと……気付いたら『壁の中に居た』では笑えませんの」


 もう戻ろう。

 黒子は踵を返し、今来た道を戻ろうとする。



 「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

黒子「!?」
180 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 23:42:45.66 ID:RMClIhY0

 先ほどのスキルアウトの一人が突然苦しみだした。


黒子「何事ですの!? 貴方達――!?」

 「わ、わからねぇ……! コイツが突然……」

 「く、クスリ……」

黒子「薬?」

 「怪しい奴から買った、新しいブツを試したんだよ、そ、そしたら……」


 ……呆れた。何故怪しいと思って買うのか……


 いや、そんなことよりも今は――!


 「ウゴ、ググッげ……ぐるあああああああああああああああああああああ!!!」


黒子「こ、これは!?」



 苦しんでいたスキルアウトの体がボコボコと流動している。

 歯が抜け落ち、その代わりなのか、歯茎から牙が生えてきた。

 肌が黒く変色し、アンバランスに膨れ上がった筋肉で皮膚が破れ、体毛が伸びる。


黒子「怪物……いえ、まさか怪人……に……?」
181 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 23:44:23.85 ID:RMClIhY0

怪人「ぐるる……ぐっぅあああああああああああああ!!!!!??」


 怪人になった男は苦しんでいる。

 無理も無い。ただの人間が、どういう理屈なのか、突然怪物にされてしまったのだ。


黒子「――――!」


 戦いますの――――?
 だって、相手はただの人間ですのよ!?


 「ひ、ひいいぃいいいい!!!?」

黒子「ちぃっ……!」


 とにかく、今は一般人の避難を――!

 例えスキルアウトでも、罪を犯していないなら守るべき対象。
 黒子はテレポートで逃がそうと考えたが、止める。

黒子「……三人……!」


 いくら黒子でも一度に運べるのは二人まで。
 ということは、一人がここに残されることになる……!!


黒子「貴方たち! 早くお逃げなさい!!」

 「は、はひぃぃ!!!」

黒子「……!!」


 男達を逃がし、一人戦場に残った黒子は、怪人になった男と対峙した――――
182 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 23:45:20.89 ID:RMClIhY0


 ……………………


 どうしてこうなった。


 「どうしたんだ涙子? 心拍数が落ちているぞ?」

佐天「うん……そろそろ落ち着いてきたんだよ……」

 「そうか」


 私の部屋に、あの白くて丸っこい機械がいる。


佐天「ねぇラビット? 本当にどこにも連絡してないのね?」

 「ああ。私は嘘はつかない。メカだからな」

 ラビットと名乗ったそのロボットは、私に興味があるらしくここまで着いてきてしまった。


 しかし、この場合どうなるんだろう?

 相手はロボットだ。
 決して『一般人』とは言えないだろう。
 と、いうことは――

佐天「セーフ?」

ラビット「何がだ?」

佐天「なんでもないよ」

ラビット「そうか」


 うん。大丈夫のはず。
 もしアウトだったら、きっと今ごとアルカールさんが現れているだろう……
183 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 23:46:46.87 ID:RMClIhY0

佐天「あのさ。さっきのアレについて聞かれても、私は何も答えられないよ?」

ラビット「そうか。残念だ」

佐天「……」

ラビット「……」

 出て行かないんかい。


ラビット「何か悩んでいるな?」

佐天「はい?」

 いや、あんたのことで悩んでるんだけどね?

ラビット「涙子。何を悩む?」

 ………………何だコイツ……


佐天「……何を悩んでるのか分からないのよ」

ラビット「そういうときもあるだろう。まだ若いのだからな」

 …………ロボット相手に人生相談か。


ラビット「己のココロというものは見えづらいものだ」

佐天「心……」

ラビット「私には無いものだ」

佐天「そうなの……? あなたのAIってすごく性能よさそうだけど?」

ラビット「ココロを求めれば求めるほど、己の中にはココロが無いことを確信することになる」


 ふーん……変なロボット。


佐天「私はさ。この街に来てから悩んでばっかりだよ」

 ラビットは黙ってぷかぷかと浮かんでいる。
 話を聞いてくれてるのかな?

佐天「最近はそうでもなかったんだけどね。今はちょっと、嫌なことを思い出しちゃって」
184 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 23:49:32.58 ID:RMClIhY0

美琴「…………」

 美琴は行くアテもなく街をうろついていた。
 馴染みの自販機でジュースを『頂き』、それをチビチビ飲みながらふらついている。


上条『喧嘩したなら謝りゃすむじゃねーか』


美琴「はぁ………………」

 コンビニで立ち読みしていても落ち着かないし、初春や佐天とは連絡がつかない。

美琴「…………ひょっとして、私って友達すくない……?」


 いや、分かっていたことだ。
 だからこそ、尚更白井黒子が大切な存在なのだと。

 レベル5の自分のことを憧れの先輩だと言いつつも遠慮しない。

 ずけずけと、それこそ風呂場にまで入り込んでくるずうずうしさ。


美琴「黒子……」

 いつの間にか、彼女は心の中にまで入り込んできていたらしい。


 それにしても、まさか自分がたった一度の失敗でここまで落ち込むなんて。

美琴「うん。謝ろう。今度こそ。次こそ!」

 そう強く決意し、美琴は空になったジュースの缶を清掃用ロボットの傍に投げ込んだ。


 が――
 その前に突然一人の男が割り込んできた。


 カコーーーーーーーーーン。


美琴「……………………私の所為じゃないわよね?」
185 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 23:50:49.92 ID:RMClIhY0

美琴「だ、大丈夫?」

 おそるおそる近づく。


美琴「ねぇ? 怪我とか――」


 妙だ。

 男は、何かに怯えるようにガタガタと震えていた。


美琴「ねえ? ちょっと、どうしたのよ?」

 「か……怪人……」

美琴「怪人!?」


 また街の中で――――!?


 「怪人に……だ、ダチが……怪人に……なっちまった……!」

美琴「…………え?」
186 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 23:52:08.30 ID:RMClIhY0

黒子「くっ……!!」


 黒子は苦戦していた。

 相手がただの人間なら、スカートの下に忍ばせた『鉄矢』で動きを封じて捕縛できる。
 相手がただの怪人なら、容赦なく致命傷を与えて倒すことが出来る。

 だが――
 この相手は「怪人になってしまった一般人」なのだ。


黒子「一体どうすればいいんですの!?」


 苦しそうに暴れる怪人。

 薬の作用なのか、無理やり太くされた筋肉をフル稼働し、黒子に突撃する。

 駄々っ子のように腕を振り回して、まるで助けを求めるように――


黒子「――――」


 攻撃できない。

 黒子が風紀委員である以上。
 例え麻薬の常習者だろうと。ロクデナシのスキルアウトであろうと。

 この学園で生活する学生は皆、守るべき対象なのだから。

 それが、『悪の組織』に利用されている被害者だとしたら、なおさらだ。


 自分の行動に、自信が持てない――
187 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 23:53:16.14 ID:RMClIhY0

佐天「わたしはさ。自分に自信が持てないんだと思う……だから無能力者なのかな……」


 能力を使うために必要なのは自分だけの現実『パーソナルリアリティ』。
 つまり、他の誰が何と言おうと、自分自身を信じるということ。

 それこそ、この世の常識を捻じ曲げるほどに……


ラビット「無能力者……カリキュラムを受けてなお超能力を使えない人間か」

佐天「……改めて説明しないでよ」

 佐天涙子は学園都市で改造された無能力者である。

佐天「そのナレーションをやめろ!!」


ラビット「チカラか」

佐天「うん。それさえあれば。何だって出来るのに」


 もう、あんな無力感を味わわなくててすむのに。


ラビット「私の主もそう言っていた」

佐天「あるじ?」

ラビット「ああ。私の主もまた、涙子と同じく『万能の力』を求めている」

佐天「万能の……力……」

ラビット「それゆえ、私もまた、チカラを渇望してやまない」
188 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 23:54:25.37 ID:RMClIhY0

佐天「ふーん……まぁ、だからさ。コンプレックスなんだよね。単純に」

ラビット「しかし、理解できない。何故だ?」

佐天「何故って……」

ラビット「今の涙子にはもうチカラがあるではないか。強力なチカラが」

佐天「え――――」


 アルカイザー。


ラビット「それ以上のチカラを求めているのか?」

佐天「いや。でも……これは借り物で……」

ラビット「それは紛れも無い涙子のチカラだ。何を臆することがある」

佐天「………………」

ラビット「自信を持て。強者にはそれが必要だ」

佐天「強……者……?」


 私が。

 強者?

189 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 23:55:56.85 ID:RMClIhY0

 まだ、怪人と黒子の戦いは終わらない。


黒子「っ! 一体いつまで続けますの……?」

 攻撃自体はどうということはない。
 例えどんな豪腕であろうと、攻撃が予測できればテレポートでかわせる。


怪人「ぐうあああああああああああああああああ!!!!??」


 怪人が突撃し、それをまたテレポートで回避する。
 すでに十数回。これを繰り返していた。

 攻撃をかわされた怪人はジャンクの山に激突し、鉄くずの下敷きになる。


黒子「はぁ、はぁ……これで動きを止めてくれればいいのですが……」


 ぐるるがあああああああああああああああああああああああ!!!


 止まらない。
 怪人は鉄くずを吹き飛ばし、再び黒子へと迫る。

 その体当たりをまたもテレポートで回避。


黒子「いい加減に……っ!?」


 そう――いい加減に、黒子の集中力は途切れていた。

 黒子がテレポートした先。そこへ、先ほど怪人が吹き飛ばした鉄くずが落下して来る――!

黒子「……!??」

 動揺で演算が狂い、テレポートが発動しない。

 絶望。間に合わない。
190 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 23:57:45.01 ID:RMClIhY0


 否――間に合った――!


 鉄塊に潰されることなく、黒子は着地に成功した。


黒子「………………お姉さま! どうしてここへ!?」

美琴「……黒子」


 黒子の絶望は一瞬に満たなかった。

 御坂美琴が放つ電撃は、音速を超えるのだから――


 黒子に迫る鉄塊は、美琴の放った電撃で再び宙に浮いた。


黒子「お姉さま……黒子を助けに……?」

美琴「当然でしょ? だって――」


 大切な、可愛い後輩だもの。


美琴「黒子。この前はゴメンね……」

黒子「……いいえ。いいのですお姉さま……黒子は……黒子は分かっていましたから……」


 お姉さまがそのことを気に病んでいることも。
 お姉さまが自分を大切に思ってくれていることも。

 お姉さまが、どんな苦境に立たされても再び立ち上がって、真っ直ぐに進むということを――!
191 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 23:58:46.39 ID:RMClIhY0

 二人に向かって、怪人が迫る。
 今までと同じ。腕を振り回しての体当たり。


美琴「行くわよ黒子!!」

黒子「はいですの! お姉さま!!」


 もはや迷いはない!

 お姉さまがいる!

 自分は正義の側にいる!

 正しいことを! 自分が正しいと思えることを!!

 今はただ全力で信じる!!!


美琴「行っけぇっ――!!」

 美琴がコインを弾く。


 『超電磁砲』


 それは怪人ではなくゴミの山に命中し、鉄くずを天高く巻き上げた。
 怪人の行く手を阻むように鉄塊が降り注ぐ――!

 が、怪人は止まらない……!

 鉄の板だろうが、車の残骸だろうが。
 何にぶつかろうが、意に介することなく進撃を続ける……!!


美琴「頑丈ね……! なら――――!!」
192 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/21(日) 00:00:40.44 ID:Epx87lY0

 美琴の額から電撃が放たれる。
 それは直接怪人にではなく、怪人の周囲にばら撒かれた鉄くずに向かった。

 磁力によって鉄くずが浮かび上がり、怪人目掛けて一斉に集まって行く。


美琴「黒子!!」

黒子「はいですのお姉さま!!」


 美琴が操る鉄くずは怪人の体に絡み付いていく。
 鉄の山を吹き飛ばす怪力だが、決して剥がれない鉄の塊に手足を固定されては暴れることも出来ない。

 そして、完全に動けなくなった怪人を――

黒子「触れられるのなら、私の能力でどうとでもなりますの!!!」

 黒子が天高く転移させた。

黒子「体も意識も落ちて下さいませ!!!」

 全身に重りを付けられた怪人が、上空から落下――

 否――まだ終わらない……!!

美琴「あれだけ頑丈なら……死にはしないでしょう……!!」

 落下する怪人に、ダメ押しとばかりに電撃が浴びせられた……!!

 テレポートと電撃を間髪居れずに叩き込む、二人の能力による連携――


  『空間電撃』


 頭から地面に落下した怪人は、電撃による追撃で完全に沈黙した。

 それを確認し、黒子は隣に立つ美琴へ顔を向けた。
 美琴も、黒子を見つめていた。
 知らず口元が緩む。

 場所がこんな所でなければ、素敵なムードでしたのに。

 そんな軽口を叩ける。いつもの二人だった。
193 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/21(日) 00:02:29.15 ID:Epx87lY0

 ピーーー! ピーーー!


佐天「な、何!? 故障!!?」

ラビット「呼び出しだ。戻らなければ」

佐天「そう……帰るんだ」

ラビット「また近いうちに会える」


 そう言って彼は、フワフワとした軌道で窓から出ていった。

 完全に外に出ると、空中で一度停止して数回光り、一気にスピードを上げて飛び去った。


佐天「また近いうちに……か」


 彼の相談で、悩みは解消されたのだろうか?

 ただ、胸にふつふつと燃えるようなものがあるのは確かだ。


 彼は、私には力があると言った。
 この力を、私のものだと言った。


 戦いたい……

 戦って、それを証明したい。


 そうすれば、大嫌いな、無力な自分を塗り替えられる。


 主人公になれる。



 落ちこぼれのヒーローは、不思議な友達と出会った。
194 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/21(日) 00:03:18.06 ID:Epx87lY0

 【次回予告】

 ついに発見されたブラッククロスの麻薬工場!!

 アルカイザーは街の平和を守るため、謎の麻薬工場へと挑む!!

 そして邂逅する佐天と美琴!!

 共に正義を求める二人が、一体何故戦わなければならないのか!!


 次回! 第六話!! 【激突! アルカイザーVS超電磁砲!!】!!

 ご期待ください!!
195 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/11/21(日) 00:09:03.90 ID:Epx87lY0
と、いうわけで第五話でした。

以前意見を頂いた連携を試してみました。
描写と演出でもっとカッコよく出来たかもしれない。力不足でした。

今回、色々な場面が入り乱れて読みづらかったかもしれません。
僕は「一レス=漫画の見開き」と考えているので、こういった突然場面が切り替わる書きかたをすることがあります。

 【補足という名の言い訳のコーナー】

 ・ラビットについて。
  セリフでピンと来た人も居ると思うけど、一応ネタバレ禁止でお願いします。

 ・連携について。
  試しに出してみました。サガフロのシステムの一つで、連携すると技名が合体します。
  今回の技名は「空間移動」と「電撃」を混ぜて空間電撃です。
  テレポ電撃と迷いましたが、真面目なシーンであまりにもダサかったので没です。

 ・怪人になった男について。
  クーロンで戦うイェティです。原作でもあった人間が薬でモンスターになるシーンです。
  あのグラフィックをどう文章で表現するのか分からず何かグロいことに……

 ・いっぱい分かれてるテール。
  なんかラジオで言ってた気がする
196 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 00:09:19.07 ID:6Cu92ew0
>>1乙!!!

よぉっしゃー!美琴と黒子の技連携来たぜ来たぜ!
人数増えて連携名も長くなって欲しいなぁ。
『ブライト空間電撃ベクトル殺し』
みたいな感じで。
197 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/11/21(日) 00:15:06.62 ID:Epx87lY0
>>196
技名が繋がっていくと、ゴロも悪くてかっこ悪いはずなのに、逆にカッコよく感じる不思議。

五連携は今からパターンを考えてます。

……正直こいつらの技ってどれもこれも一撃必殺過ぎて繋がりづらいんですよ?
198 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 00:51:32.14 ID:xggrAMAO
乙、ついに連携来たか
199 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 01:09:09.62 ID:rVTcQos0
思い出すなぁ…ロボ編で多段多段多段多段斬りばっかり使っていたのを…
200 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 01:15:32.48 ID:nm8H1gAO
LV5組『すごいベクトルレールダウナーマター』

必要悪の教会上条勢力組『竜の唯七刃紅十字ノ式』

確かにゴロ悪いなwww
201 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 17:06:43.71 ID:B2XwHsAO
久しぶりにレッド編始めてしまったよ。
やっぱりサガフロは面白いね。
202 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/11/21(日) 23:36:19.85 ID:Epx87lY0

こんばんわ。

第六話投下始めます。

ところで気になったのですが、「サガフロは知ってるけどとあるは知らない」という人は流石にここには居ないのでしょうか?
どちらか片方しか知らない人や、どちらも知らない人でも楽しんでいただけたら光栄です。
二次創作なのにね。
203 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/21(日) 23:37:41.16 ID:Epx87lY0

美琴「人間に戻せそうですか……?」


 どうだろうね。と、科学者は言った。
 希望的観測は述べない。典型的な現実主義の科学者だ。


 美琴たちは、捕らえた『怪人になってしまった男』を研究所に連れてきた。

 生命科学研究所という、あらゆる生物の肉体について研究している場所だ。


 そこへ、初春がやってきた。


初春「あ、あの――!」

美琴「初春さん! どうしてここに?」

黒子「私が連絡しましたの。そうしたら、何か考えがあるというので……」


 初春は全力で走ってきたのか、苦しそうに肩で息をしている。

 それだけ必死なのだ。


美琴「初春さん。それで、考えって?」

初春「…………その人――」

 初春が指差したのは、『怪人になってしまった男』。
 その禍々しい姿でも、まだ、初春は『人』と呼んだ。


初春「その人の映像――インターネットで配信できませんか?」


 【第六話・激突! アルカイザーVS超電磁砲!!】
204 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/21(日) 23:39:24.01 ID:Epx87lY0

 初春の考えはこうだ。

 彼は謎の薬によって、怪人に変えられてしまった。
 今、警備員や風紀委員によってその事実が学園都市中に喧伝されている。

 だが実際に効果はどうだろう?

 薬で怪人に変わってしまうだなんて信じるだろうか?

 「どうせドラッグを止めさせるためのデマだろう」と、タカを括られては困る。

 だから、その証拠に……


 実際に変わってしまった人間と、その友人の証言を映像として流す。



初春「被害者を利用するみたいで、嫌な気分ですけど……」

黒子「いいえ。それは正しいことですの。そうするべきでしたわ」


 初春の案は採用され、早速インターネット上で映像が公開された。

 それを見た学生達は、今自分が持っている薬がそうではないかと不安になった。

 結果――


黒子「通常の麻薬やドラッグも一掃できましたわ。初春のお手柄ですの」
205 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 23:40:45.18 ID:xggrAMAO
此処にSS読みに来る人の大半は禁書系読みに来た人なんだろうな
スパロボや00のも読んでるが、ぶっちゃけ自分もそうだし
206 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/21(日) 23:41:13.72 ID:Epx87lY0

固法「ただいま」

初春「固法先輩。どうでした?」

固法「うん。流石に今回の騒動で、スキルアウトたちも協力的になったみたい」

黒子「自分達や自分達の顧客が怪人にされては困りますものね」

固法「そうね……それで、ビッグスパイダーのメンバーと接触できたの」

初春「ビッグスパイダー!? でも、それって……!」


 ビッグスパイダー。
 スキルアウト集団の一つである。
 この第七学区で暴れていたが、リーダーの黒妻が逮捕されたことを期に完全に解散した。

 固法は風紀委員に入る前、そのビッグスパイダーに所属するスキルアウトだった……


固法「安心して。元……よ。もうビッグスパイダーとしての活動はしていないわ」

黒子「…………それで?」

固法「連中。今は人目につかない場所を点々としててね。たまり場を探してるらしいんだけど……」

初春「なら、人が寄り付かない場所には詳しい……?」

固法「……見つけたってさ」

黒子「!? それは……聞き出せたんですの!?」

固法「教えてくれたわよ。昔のヨシミなのか、それとも今の学園都市が怖いのかは知らないけど……」


 固法は、ずれた眼鏡を直し、すぅっと息を吸って、呼吸を整えた。


固法「ブラッククロスの、麻薬工場を発見したわ…………!!」
207 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/21(日) 23:44:00.02 ID:Epx87lY0

佐天「いないな〜…………」


 今日は日曜日。

 休日だというのに相変わらず忙しそうな初春たちを放っておいて、私は彼を探していた。

佐天「お〜い。ラビット〜?」

 昨日はこの辺りに居たはずなのに……
 
 ひょっとしたら、あの子は何処かの研究所で開発された、試作機か何かかもしれない。
 だとしたら、きっとそこへ帰ったのだろう。


佐天「………………ああ。何て私って馬鹿なんだろう……」

 何故彼を探しているのか。

 それは、私がアルカイザーであることを彼が知っているからだ。

佐天「どこにも連絡してないって……あれから研究所に帰ってデータを調べられたらマズイじゃん!!」


 正体を知られたら記憶を消される。
 だからこそ、今まで細心の注意をはらってきたはずなのに……


 そこへ――


 ウ〜〜〜!! ウ〜〜〜!!


佐天「あれって……警備員の装甲車両?」

 サイレンをならし道路を進んでいく、装甲車両。

 どうやらただの事件じゃない……数が多すぎる……!!


佐天「…………これって」

 私の力を確かめるチャンスかも知れない……

 胸が高鳴って、私は今何をしていたのかも忘れてしまった。
208 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/21(日) 23:45:27.49 ID:Epx87lY0

 変身して装甲車両を追いかけた。
 アルカイザーになれば、車に追いつくなんてワケない。

 たったそれだけのことが無性に嬉しい。

 求め続けた力。
 それを、私は使いこなしてるんだ。


佐天「……! あれって……!?」


 警備員が取り囲んでいるのは寺院だった。
 たしか、手抜き工事か何かが発覚してすぐに使われなくなった……


佐天「あの数で取り囲むってことは……まさか!!」


 あそこが、ブラッククロスのアジト!!!


 屋根に飛び上がり、警備員達の様子を伺う。

 どうやら突入の準備をしているようだ。
 テキパキと装備を確認し、順次配置についていく。

 まるでよく訓練された軍隊。とても全員教師だとは思えない……


佐天「でも。教師なんだよね。警備員って」


 そうだ。ただの教師。あれは、ただの教師。


 悪の組織との戦いは、教師じゃなくてヒーローの仕事だ。
209 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/21(日) 23:48:10.17 ID:Epx87lY0

 突入準備をする警備員の中に、黄泉川愛穂と鉄装綴里の姿があった。
 キャンベルビルでの傷が癒えたのか、黄泉川の動きに淀みは無い。

黄泉川「鉄装。風紀委員からの情報だと、この寺の地下に工場があるじゃん?」

鉄装「は、はい! ……掛け軸の裏に隠し通路があるって……まるっきり、映画に出てくる秘密基地みたい……」

黄泉川「映画じゃなくて特撮じゃん。戦闘員に怪人だからな……何を考えてるんだか」


 気になっていることがあった。

 あのとき、キャンベルは自分を四天王と呼んだ。
 『四天王・妖魔アラクーネ』と……
 それがただの通り名なのか? それとも、そちらが本名なのか?

黄泉川「こんな場所の地下に……誰にも気付かれずに基地を作れる力のある組織……」

 黄泉川の知る限り、そんなものの気配は今まで感じたことが無い。


黄泉川「連中は本当に……一体いつどこから、どうやって学園都市に現れたじゃん?」


 そのとき突然、爆発音が響いた――!!


黄泉川「何!?」

 突然の轟音に黄泉川が振り返る。

 爆発したのは寺院の屋根。
 そこに開いた巨大な穴と、立ち上る黒い煙……

黄泉川「鉄装!? 何事じゃん!!?」

鉄装「あ、ああああ、アルカイザーが……!!」

黄泉川「何ぃ!!?」


 戦闘員に怪人。四天王。そして、ヒーローまで駆けつけやがった……!!!
210 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/21(日) 23:49:11.12 ID:Epx87lY0

 さあ――待ち望んだ戦いだ。

 正義のための戦いだ。


 「キィィーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 迫り来る戦闘員。

 右手に力を込める。
 火が灯ったように熱くなり、光り輝く。

 それを、叩き込む……!!


 「キイイィィィーーーーー!!?」


 次――!!


 足に集中する。
 火が灯ったように熱くなり、光り輝く。

 それで、打ち貫く……!!


 「「キキィィーーーー!!」」


 囲まれた。

 こういうときは、両手にエネルギーを集める。

 手のひらに集中した光を、拡散させて解き放つ……!!


 こんな奴らじゃ相手にならない……!

 もっと……もっと強い奴は……!?
211 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/21(日) 23:51:15.17 ID:Epx87lY0

 「グルルギャアアアアアアアアアアアア!!!」


 おっと。怪人だ!

 いいところに来てくれた!


 紅い鱗を全身に纏った龍。

 口から炎を吐き。
 壁を壊しながら向かってくる。


 以前の私なら――恐れただろう。

 けど、今の私はヒーローだ。

 アルカイザーだ。

 止められるものか……!!


 龍の爪を回避し、壁を蹴って移動する。

 炎に巻かれないように、柱から柱へ、壁から壁へ飛び回る。

 全身に光を灯す。

 力が漲ってくる……!!


 『ディフレクトランス――――!!!』


 全身を光の矢と化し、龍の息を切り裂いて、口から背中まで、一直線に貫いた……!!!


 「あは……あははははははははは!!!!!」


 あなたの言った通りだったよラビット!

 この力は本物だ!!

 私のものだ!! 私はやっと、この苦しみから解放される!!!
212 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/21(日) 23:53:22.06 ID:Epx87lY0

 美琴と黒子が寺院に到着したのは、黄泉川が屋根の爆発を確認した直後だった。


美琴「黄泉川さん!!」

黄泉川「超電磁砲! どうしてここに来た!?」


美琴「……ブラッククロスを倒すためです!」

黄泉川「馬鹿かお前ら! そういうのは私達に…………」

黒子「ですが、私たちもお力になりたいんですの!」

美琴「これ以上……被害者を出すわけにはいかないの!!」

黄泉川「お前達…………!」


 二人の目は澄んでいた。

 以前のような、ただの無茶ではない。
 心の底から、「誰かが傷つくことを許せない」と、そう願う者の瞳……


黄泉川「……行くじゃん。アタシらはここで連絡を待つ。人が多かったら邪魔じゃん?」

鉄装「え!? い、良いんですか!?」

美琴「黄泉川さん!!」


 こんな奴らを止めるほど――無粋じゃないじゃん?


美琴「行きましょう黒子!」

黒子「ええ! お姉さま!!」

黄泉川「あー……ちょっと待って」

美琴「え?」

黄泉川「もう一人。救ってやって欲しい奴がいるじゃん」
213 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/21(日) 23:54:58.31 ID:Epx87lY0

 美琴と黒子は、黄泉川の許可を得て地下基地に潜入した。


美琴「まぁ、見事に暴れたもんねぇ……」

黒子「本当に……お里が知れますの」


 その通路に転がる無数の戦闘員の死体。

 無残に頭部を破壊されたもの。

 両腕を千切られたもの。

 何度も踏み拉かれた警備ロボットの残骸。


美琴「……こいつ。力を楽しんでる……!」

黒子「力を楽しむ?」

美琴「ええ……」


 経験がある……

 誰にも負けない自身があるから……

 誰でもいいからぶっ飛ばしたくなった……

 誰でもいいから喧嘩を売って、何でもいいから実験台にしたかった……


美琴「あの頃の私だ……!」
214 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/21(日) 23:55:56.87 ID:Epx87lY0

黒子「お姉さま!!」

美琴「っ!?」


 通路を走る美琴めがけ、高速で飛来する影……!
 それは地面に激突すると、周囲の死体を巻き込んで爆発した。

 黒子がとっさにテレポートを使わなければ、美琴もその中に巻き込まれていただろう……


美琴「な……ロケットランチャー!?」

黒子「地下で何て無茶なものを……」


 現れたのは、ロケットランチャーを肩に担いだ人型のロボット。
 肩に『Mechanical-DOBBY』と刻まれている。

黒子「……! 学園都市で作られたものでは無さそうですわね……」

 ロボットはロケットランチャーを構えなおし、再び美琴たちを狙う。


黒子「お姉さま! 先に進んでくださいまし!!」

美琴「黒子!?」

黒子「すぐに追いつきますの!!」


 黒子のまっすぐな瞳に促され、美琴は通路の先に進んだ。

 その先にいるはずなのだ……

 あの、紅い女が……!
215 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/21(日) 23:57:08.18 ID:Epx87lY0

美琴「………………」


 いた――


 「あれぇ? 御坂さんじゃないですかぁ」


美琴「久しぶりね。この間はどうも……」


 「気にしてませんよ。別に――」


 朗らかな雰囲気の紅い女。


 「ほら! 傷一つついてないですから!」


 学園都市に現れた、悪の秘密結社と戦う謎のヒーロー。

 仮面に素顔を隠した、紅い鎧の少女。

 アルカイザーが、瓦礫の山の上に座っていた。


アルカイザー「でも、遅かったですね。もう全部壊しちゃいましたよ」
216 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/21(日) 23:58:13.09 ID:Epx87lY0

 おそらく、そこが麻薬を作っていた設備だったのだろう。

 何本ものパイプが繋がった巨大な大釜が、砕かれ、へこみ、曲がって、中身をぶちまけて転がっていた。


美琴「あんたが全部一人でやったわけだ」

アルカイザー「ええ。全部。一人で出来ました」

美琴「どうして?」


 その質問が理解できなかったらしい。
 キョトンとして――

アルカイザー「へ?」

 なんてマヌケな返事をした。


美琴「どうしてアンタは戦ってるのさ?」

アルカイザー「やだなー。そんなのヒーローだからに決まってるじゃないですかー!」

美琴「本気で言ってるの?」


アルカイザー「もう……嫉妬するのやめてくださいよ」


 ………………。

美琴「……ねぇ? ヒーローって何?」

アルカイザー「悪人を倒す人間のことです」

美琴「へえ……私はてっきり、手柄を独り占めしたがる奴のことかと思っちゃった」

アルカイザー「………………ははは……何ですか?」
217 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/21(日) 23:58:48.33 ID:Epx87lY0

 何言ってるの……?

美琴「どうしてアンタは戦ってるのさ?」

 はあ? 何でそんなこと聞くんですか?

 御坂さん。
 やっぱりまだあの時のことを怒ってるんだ。

 本当に怒りっぽいんだから。


アルカイザー「やだなー。そんなのヒーローだからに決まってるじゃないですかー!」


 当たり前のことでしょ?

 その為に力を手に入れたんだから!

 私、がんばっちゃいますよ!


美琴「本気で言ってるの?」


 ………………は?


 ナニソレ……




 意味わかんない……
218 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/21(日) 23:59:34.81 ID:Epx87lY0

アルカイザー「もう……嫉妬するのやめてくださいよ」

 いい加減にしてよ……

 この間だって……人がせっかく助けに行ってあげたのに!
 勝手に嫉妬して!! 人に向かって超電磁砲なんか撃ってきて……!!


美琴「……ねぇ? ヒーローって何?」


 はい? そんなことも分からないの?
 レベル5のくせに?


アルカイザー「悪人を倒す人間のことです」

美琴「へえ……私はてっきり、手柄を独り占めしたがる奴のことかと思っちゃった」


 …………っ!!? それはお前のことだろう!!!!!


アルカイザー「………………ははは……何ですか?」


 ………………ははあ……そっか。

 私があんまり強いもんだから。


アルカイザー「喧嘩……売ってるんですか?」


 本当……弱い人間って惨めだよね……
219 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:00:37.50 ID:H0W/ZHA0

美琴「昔……能力を始めて使えるようになったころ」

美琴「それが嬉しくて、何でもできるような気がして……」

美琴「そこら中で電気を飛ばしたり。流したり」

美琴「……怒られたわ」


美琴「昔……磁力を操れるようになったとき」

美琴「それが楽しくて、そこら中の物を浮かしたり飛ばしたりした」

美琴「危ないって、やっぱり注意された」


美琴「昔……電気信号を操れることに気付いたとき」

美琴「好奇心を抑え切れなくて、わくわくしながらパソコンに向かったわ」

美琴「ぶっ壊しちゃった。怒られたうえ弁償させられた」


美琴「昔……初めて10億ボルトの電圧を操れるようになったとき」

美琴「もう自分には敵はいないと思って、誰でもいいから戦いたくなったの」

美琴「何人もぶっ飛ばした。誰も怒ってくれなくなったわ」

美琴「最近まではね……」


アルカイザー「……何ですか?」

美琴「私ね。レベル1だったの。努力して、レベル5になった」

アルカイザー「だから。何ですか?」

美琴「あなた――――」


美琴「その力。突然手に入れたのね?」

アルカイザー「………………っ!!!??」
220 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:02:24.37 ID:H0W/ZHA0

アルカイザー「だから? 何ですか? 自分は苦労したから偉いって? 努力しなきゃ駄目だって?」

美琴「そうじゃないわ……! 苦労したとか、頑張ったから偉いとか……そんなんじゃないの!」

アルカイザー「だったら! 何なんですか!!? 突然振って湧いた力がそんなにいけないの!!?」

美琴「人間は段階を踏むのよ……! 一つずつ分かっていくの!! 少しずつみんなが教えてくれるの!!」


美琴「私もあなたと同じだった! それこそ、徐々に力を手に入れたくせに……分かってなかった!!」

美琴「一人で何でもできると思って……調子にのって……結局みんなに助けられた……」


美琴「あなたは今、力に酔ってるのよ! でなければ――」

アルカイザー「私はヒーローなんだ!! どんな力だろうと! 人を助けて悪いはずが――」

美琴「ならどうして警備員と協力しなかったの!? どうして一人で戦ってるの!!?」


 ………………


黄泉川『アイツ。アルカイザーを救って欲しいじゃん……』

美琴『……アルカイザーを?』

黄泉川『無茶しすぎる。悪人と戦うのはいいじゃん。でも、それがズレてしまうと……』

美琴『ズレる?』

黄泉川『……ありがちな話じゃん…………』


 ………………


美琴「今の貴女は……ただ、ヒーローごっこがしたいだけの子どもよ……!!」


アルカイザー「――――――っ!!!!???」
221 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:04:22.69 ID:H0W/ZHA0

アルカイザー「貴女が! それを言うのかあああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 気付いたときには、拳を振りかぶって飛び出していた……!!


美琴「……!!」

 御坂さんは予想していたらしく、真っ直ぐこちらを見据えて、隙無く構えている。

 実際に対峙してみて分かる。
 この人は、本当に戦いなれしているんだ……!

アルカイザー「いつもいつも……! 貴女は!!」

 拳に火が点いたように熱い。
 この技で殴られたら、御坂さんだってただじゃすまない……!

 けど…… けど……! 我慢なんて出来ない……!!!


アルカイザー『ブライトナックルッ!!!』


 光り輝く拳を打ち込み――

アルカイザー「……!? 弾かれ――!!?」

美琴「……! よし!!」

 御坂さんの眼前で発生した雷の壁に弾かれ、パンチの軌道が反れた……!!

 バランスを崩して、左側に倒れそうになる。

美琴「お前達はいつも……何よ!?」

 今度は逆に、御坂さんのヒザが鳩尾目掛けて飛んで来た……!

 それを左手で受け止め、態勢を立て直すために一旦飛び退く。

アルカイザー「っく!!?」
222 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:05:28.85 ID:H0W/ZHA0

訂正

美琴「お前達はいつも……何よ!?」

 ↓

美琴「貴女はいつも……何よ!?」
223 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:06:57.61 ID:H0W/ZHA0

美琴「言いたいことは! 全部言いなさいよ!!」

 御坂さんから雷撃が放たれ、後ろに下がる私を追ってくる。

アルカイザー「……!! 分かるもんか……!!」

アルカイザー「御坂さんに……私達の気持ちが分かるもんかあああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


美琴「!?」

 電撃をブライトナックルで相殺し、そのままの勢いで接近する……!

アルカイザー「いつも! いつだって後ろで見てることしかできなかった!!」

 御坂さん目掛けてパンチを打ち込む。
 ストレートなのかフックなのかも分からない、ただのパンチ。
 御坂さんはそれを電撃で受け止める。

アルカイザー「私がうらやむことしか出来ないものを……いつだって当たり前って顔で!!」

 パンチ。パンチ。パンチ。

 すべて弾かれる。

アルカイザー「だから……望んで得た力じゃなくったって……!」

 パンチ。

 弾かれる。

アルカイザー「ただ……悪い奴を……やっつけられたら……」

 「私は……価値の無い人間じゃないって……無力な……出来損ないの欠陥品じゃないって……」

佐天「私は……やっと……自分を好きになれそうだったのに…………!!」


美琴「――――あ」


アルカイザー「それさえも奪うのかあああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
224 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:10:52.43 ID:H0W/ZHA0

 一瞬、御坂さんに隙が出来た。
 すかさず拳を叩き込む。


アルカイザー「希望を持って! 夢を見て学園都市に来たのに!!」

 右拳。

 命中。御坂さんの頬を捉えた。
 御坂さんがよろける。


アルカイザー「いきなりお前には才能がないって!! はっきりそう突きつけられて!!!」

 左拳。

 命中。よろけた御坂さんを倒れさせない。
 御坂さんは目の焦点が合っていない。


アルカイザー「馬鹿やって!! 皆に心配かけて!! それでも立ち直れたから!!!」

 右。

アルカイザー「だからそんな皆を守りたいって!! 命を懸けて皆を守るヒーローになるんだって!!!」

 左。

アルカイザー「そう思ったのに!! そうなれたと思ったのに!! それさえも否定された!!!」


アルカイザー「どうして皆で寄ってたかって!! 私を否定するのよぉおおおおおおおお!!!?」

 御坂美琴との間に距離をとる!

 次の一撃で決める! 証明するんだ!! 勝てる!!
 全身に力を込めろ!! 輝け!! 燃えろ!!! 勝てる!!! もっとだ!!!!
 ヒーローの体が眩く光り輝く。
 正義の光。正しく強い者であることを証明する純白の輝き……!
 勝てる!! 勝てる!! 勝てる!! 勝て!! 勝て!! 勝て!! 勝て!! 勝て!!
 勝って、私の方が正しいって証明するんだ! この人を超えて!! 今度こそ主人公になるんだ!!!
225 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:12:54.27 ID:H0W/ZHA0

 同じだ……

 あの時と同じ……


美琴「幻想御手『レベルアッパー』……!」


 レベルに対するコンプレックスが、力のある人間への悪意に変わって……


美琴「アルカイザー……あなたは……」


 あの時と同じだというのなら……
 私達、力のある人間の傲慢が、この事態を起こしているというのなら……

 今度は、気付いてあげたい――――

 私には一人で暴走する自分を止めてくれる友達がいた……!

 助けてくれる親友たちがいた……!

 だから……私もこの子を助けたい……!!


美琴「駄目なんかじゃないわ!!」


アルカイザー「!?」


美琴「貴女は、本当に優しい人だもの」


アルカイザー「…………」


美琴「だから。あなたならなれるわよ。きっと本物の――――」




アルカイザー『………………シャイニングキック』
226 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:14:36.79 ID:H0W/ZHA0


 戦いは終わった。


 二つの力が正面からぶつかり合った。

 空中で生じた爆発的な衝撃が、床も、天井も、壁も、その残骸さえも破壊した。


 眩い閃光は、二人の視界を真っ白に染め上げた。


 それは一瞬だったのか?
 それとも一時間だったのか?


 激突した二人は、互いに死を覚悟した。


 走馬灯が過ぎった。



 私の敗因を述べよう。




 距離をとったのが失敗だった。


 本当は、あの位置からアルブラスターを撃つつもりだったのだけど。

 突然の優しい言葉に動揺して、気付いたら飛び出していた。

 ベルヴァの胸板だろうが貫く、私のシャイニングキック。

 だけど、超電磁砲『レールガン』は、それよりも速く、強力で、何より私と違って、迷いが無かった。


アルカイザー「………………負けた」

美琴「勝ち負けなんてどうでもいいわよ」


 大の字になって倒れた私の隣に、御坂さんが腰を下ろした。
227 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:17:03.39 ID:H0W/ZHA0

アルカイザー「どうでもよくないです……」

美琴「……やっぱり向いてないなぁ。こういうの」

アルカイザー「え?」

美琴「誰かを導くとか。誰かに何かを教えるとか……どうしても喧嘩になっちゃう」

アルカイザー「御坂さん短気ですもんね」

美琴「む……あんたねぇ!!」

アルカイザー「あはは…………………………………………はぁ」

美琴「……負けた経験って、結構大事よ?」

アルカイザー「御坂さんじゃないんだから、いっぱいありますよそんなの……」

美琴「……暴れてすっきりした?」

アルカイザー「……ですね」

美琴「私ね。貴女と戦いたいって思ってたのよ? 悔しくってさ」

アルカイザー「私も、一度戦ってみたかったです。ていうか、勝ちたかった」

美琴「キャンベルビルのとき私より強かったじゃない」

アルカイザー「あれは……ズルしましたから……」

美琴「ズル?」

アルカイザー「あの攻撃のこと、元々知ってたから対策してたんです」

美琴「対策……?」

アルカイザー「はい。ピアスで」

美琴「…………よく分かんないんだけど……」

アルカイザー「…………ああー! くやしいなー!!」

美琴「大事なことよ……それ」
228 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:18:19.56 ID:H0W/ZHA0

アルカイザー「はーあ……あんまり自信を持つのも問題なんだなー……」

美琴「…………あなた。ひょっとして無能力者?」

アルカイザー「……ばれました?」

美琴「真面目にやってれば認めてくれるわよ……きっと誰かが」

アルカイザー「…………私、真面目じゃないからなぁ」

美琴「じゃあ駄目だわ」

アルカイザー「………………ですよねぇ」

美琴「そうですよぉ……」

アルカイザー「……」

美琴「……」

アルカイザー「強いって……大変ですね」

美琴「大変よ……抱えるものが増えるんだから」

アルカイザー「だから……段階が必要なんですか?」

美琴「一気には解消できないわよ。心って不完全なものだもん」

アルカイザー「力があれば、何でもできるってわけじゃないんですね」

美琴「人間だもの」

アルカイザー「み○を」

美琴「……」

アルカイザー「ごめんなさい」
229 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:19:22.98 ID:H0W/ZHA0

 お姉さまー……

美琴「黒子!」


 白井さんが駆けつけたらしく、御坂さんが立ち上がった。

 やってきた白井さんは、御坂さんの頬が腫れているのを見て目を丸くした。

 そしてこちらに視線を落としてさらに顔を引きつらせた。

 しばらく考え込んで……あ、納得した。


黒子「お姉さま……やらかしましたのね?」

美琴「……何をよ?」


 あはは…… さて……私も行こう……

 痛みの引いた体を起こして立ち上がる。

 この基地を脱出しよう。


 全て終わった。



 そう、思ったのに――――






 「やってくれたものだな」



 落ちこぼれのヒーローは、もう一つの試練に挑まなければならない。
230 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:19:53.11 ID:H0W/ZHA0

 【次回予告】

 佐天達の前に姿を現す、ブラッククロス四天王・メタルブラック!!

 鋼の侍が駆ける! そのとき、友の血が戦場に流れた!!

 美琴は? 黒子は? そして佐天はどうなるのか?

 最強の敵を前に、アルカイザーはどう戦うのか!!

 次回! 第七話!! 【死闘! さらば友よ!!】!!

 ご期待ください!!
231 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/11/22(月) 00:22:24.29 ID:H0W/ZHA0

と、いうわけで第六話でした。

やっと佐天と美琴が仲直りしてくれました。
このSSの美琴はアニメ超電磁砲バージョンの美琴なので結構温いです。
AIMバースト相手に「ごめんね」とか言っちゃう子です。


 【補足という名の言い訳のコーナー】

 ・佐天と美琴について。
  正直に言います。もっと引っ張って鬱々展開にするつもりでした。
  単純に禁書SSだったらそれでも良かったんですけどね。
  でもこれサガフロのSSでもあるし。冷静に考えたらそんなアルカイザーみたくねーや。
  ということで中止。スコーーン、と負けて頭冷やさせました。
  このSSはサクサクとスナック感覚で読める軽い娯楽作品を目指そうかと。
  そもそも「強さ」がテーマの原作じゃなくて、「友情」メインのアニメ超電磁砲がモデルだからね。
232 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 00:33:35.64 ID:r9Je0kAO
良かったわ熱いねコンちくしょう
233 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 00:49:05.65 ID:1R7MOAAO
シュウザーは最後か。
まぁその方が色々展開燃えるもんね。
234 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/11/22(月) 23:00:55.95 ID:H0W/ZHA0

第七話投下始めます。

BGM
ttp://www.youtube.com/watch?v=6ZVrfXJGdnc&feature=related
235 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 23:02:34.20 ID:H0W/ZHA0

 基地の設備を破壊し、御坂さんとも仲直りできた。

 全ては終わった……はずだったのに。



 「我が基地を破壊するとは見事な腕前……」


美琴「……っ!!?」


 高速で接近する影。

 間一髪それを回避した御坂さん。
 だが――

美琴「……っ! 斬られた……!?」


 御坂さんのわき腹から鮮血が噴出した。


 「一手、御手合わせ願おう……!!」


アルカイザー「あんたは……!?」


 「我が名はメタルブラック……ブラッククロス四天王・メタルブラック」

 「人は私をこう呼ぶ……鋼の侍と!!!」


 【第七話・死闘! さらば友よ!!】
236 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 23:03:41.97 ID:H0W/ZHA0

 メタルブラックと名乗ったのは、黒いロボット。
 侍を名乗るだけあって、全身甲冑風の装甲。額には三日月の前立てまで付いている。
 右手には、上下両側に刃の付いた、全長二メートル程の巨大な得物を持っている。

 細身で、人間の男性とほぼ同サイズ。

 これまでに出会った四天王は、皆大きく禍々しく、見ただけで人々が怯えすくむような外見だった。

 それが無いということは……つまり。
 わざわざ外見で怯えさせる必要が無いほどに、強い――ということなのか……?


黒子「お姉さま!!」

 御坂さんを心配して、白井さんが駆け寄った。

美琴「大丈夫。この程度の傷……!」

アルカイザー「御坂さん……無理はしないで下さい。さっき私が殴っちゃったダメージもあるんですから」

美琴「分かってる。けど、超電磁砲を真正面から受けたあなたに言われたくないわね」

 軽口を叩いて、御坂さんはクスクスと小さく笑った。

アルカイザー「御坂さん?」

美琴「まさか……あなたと組むことになるなんてね……」


 御坂さん……

 ええ、私もそうです。
 まさか、あなたの隣に並んで戦えるなんて思いもしませんでした……


アルカイザー「行きましょう……御坂さん!! 白井さん!!」

美琴「ええ!!」

黒子「え、ええっと……わ、分かりましたの!!」


メタルブラック「準備は出来たようだな……いざ尋常に……勝負!!!」
237 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 23:05:11.58 ID:H0W/ZHA0

 掛け声と共に、メタルブラックの背中で爆発が起こる。

アルカイザー「速っ……!!?」

 それは加速装置――
 
 メタルブラックの背に装着された、常識はずれな量のロケットブースターが轟音を立て暴れ出した。

メタルブラック「さあ!! 私にどこまでついて来れる!!!」


 一箇所に固まっていたらまとめてやられてしまう。

 三対一の状況を生かすため、三人でバラバラに散った。


美琴「喰らえぇ!!!」

 御坂さんの右手から電撃が放たれる。

 が、当たらない……!!


美琴「くっそ……! これで……!!!」


 今度は、額から放射状に電撃をばら撒く――!

 点ではなく、線でもなく、面での攻撃。


 それを、

美琴「………………っ!!?」

 メタルブラックは正面から立ち向かい突破した……!!
238 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 23:08:41.43 ID:H0W/ZHA0

メタルブラック「温い……! そんな出力で私が止まると思うか!!」

 ブースターによる高機動性と、あの強固な甲冑だからこそなせる業――!

 加速した侍は、まさに電光石火のスピードで御坂さんの電撃の壁をぶち破り――

メタルブラック「悠長に構えるからこういう目に遭う……!!」

美琴「ずぁっ……!!?」

 御坂さんのわき腹。先ほどの斬撃で出来た、まだ血の溢れている切り傷に蹴りを浴びせた……!!


美琴「………………ッ!!!」


 ロボットの蹴り――つまり、加速した鋼鉄を傷口に叩き込まれ、御坂さんは悶絶する……


 追撃を加えようとするメタルブラック。

 それを防いだのは――

黒子「やらせませんの!!」

 白井さんの飛ばした瓦礫の雨……!


 破壊された室内のいたるところに落ちている瓦礫の山。

 それを空中に転移させ、落下させたのだ。


 そして、それを回避した先には――

アルカイザー『ブライトナックルッ!!』

 私が居る……!!
239 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 23:08:54.95 ID:4vdkCeEo
メタルブラックきた!
240 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 23:10:00.59 ID:H0W/ZHA0

メタルブラック「ぬうっ……!!」


 私が放ったブライトナックルを、メタルブラックは手に持った得物でガードした。

 一瞬、メタルブラックの動きが止まる――!


黒子「止まったが最後ですの!!」


 白井さんのテレポートは、転移地点に物体がある場合、それに割り込んで出現する。
 つまり、例えどんな強度だろうが、関係なく破壊する。

 問題は高速で動き続ける敵の座標を求めること。

 それを私が、こうやってカバーすれば……!


メタルブラック「何っ!?」


 連携――!



 『ブライトポート』



 真っ二つになれ!!!
241 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 23:11:15.93 ID:H0W/ZHA0

メタルブラック「やる……!」


黒子「……冗談みたいな方ですの」

アルカイザー「……あれをかわしちゃうんだ」


 メタルブラックの胴を切断しようと転移した鉄板は、かろうじて――

メタルブラック「指……二本か……!」

 左手の指を二本、第二間接から落としただけだった。


美琴「げほっ……! っつー……どういう反射神経よ?」

アルカイザー「御坂さん! 大丈夫なんですか!?」

美琴「ちょっときつい……けど、寝てらんないでしょ……?」


 御坂さんは気丈に振る舞い、ポケットから一枚のコインを取り出した。

 超電磁砲……! 撃てるのか……!?

美琴「流石に走り回るのはキツイわ……だから、協力して……!」

アルカイザー「……! はい!!」


 作戦。
 御坂さんの全力の超電磁砲は音速の3倍のスピードで放たれる。
 それならメタルブラックのスピードでも、そうそうかわすことは出来ない。
 あとの問題はさっきと同じ。アイツの動きを止めること。

 ただし――

美琴「私は思うように動けないし、射出する前の超電磁砲は隙だらけなの……」

 だから、何処でも狙えたテレポートと違い、特定の場所におびき出さなければならない……!!
242 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 23:12:36.07 ID:H0W/ZHA0

メタルブラック「作戦会議は済んだか?」

 侍は腰を落とし、右手の武器を振りかぶった。


美琴「余裕ね? 悠長に構えたら痛い目見るんじゃないの?」

メタルブラック「相手が格上ならな」

美琴「……上等」


アルカイザー「白井さん。私がアイツを引き付けます。そうしたらもう一度瓦礫で攻撃を……」

黒子「了解しましたの。あの大釜の前に誘導しますのね?」

 超電磁砲で狙うのは、麻薬を精製していた大釜に決まった。
 御坂さんの位置からも狙え、何より遮蔽物が少ない。
 超電磁砲の威力を減らすことなく、叩き込むことができる……!!


アルカイザー「行くぞ!! メタルブラック!!!」


 作戦開始――!!!


メタルブラック「仕切り直しだな……!!!」

 再び、メタルブラックの背中で爆発が起こる。

 空気を振動させ、真っ直ぐにこちらに吹き飛んできた……!!


アルカイザー「せーのっ!!!」


 私は右側に、白井さんは左側に飛び退く。

 そこですかさず――


 キンッ


 一人その場に残った御坂さんが超電磁砲を放った――!
243 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 23:14:31.10 ID:H0W/ZHA0

メタルブラック「ふんっ……!!」


 一発目の超電磁砲は軽々と回避される。

 これで決まっていれば苦労無いのだが……


アルカイザー『アルブラスター!!』

 すかさず、連続で攻撃を叩き込む。

 私の右手から放たれた弾は十数発。
 それぞれが意思を持ったように曲線を描きながら侍に迫った。

 が、アラクーネの体を貫いた流星も、当たらなければ意味は無い。

メタルブラック「まずは貴様が相手をしてくれるのか?」

 アルブラスターの弾幕をを掻い潜った侍が目前に迫る。

 迎え撃つため、拳に力を込める。


 それは囮。


 先ほどの超電磁砲で巻き上がった土煙で姿を隠し、白井さんが瓦礫の山の前で待機。
 私の合図と同時に鉄の雨を降らせる。


 まずは、その為の合図を放つ……!


アルカイザー『ブライトナックル!!!』

 この閃光と同時に白井さんが――!!

244 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 23:15:22.60 ID:H0W/ZHA0

 渾身のブライトナックルが命中し、光り轟いた。

 だが、それを受け止めたのは、奴の右手。


 馬鹿な――――


 その手には確か、あの巨大な武器が握られていたはずじゃ……


メタルブラック「どうした……?」

 奴の声にハッとする。


メタルブラック「ここで『援護射撃』が来るはずだったか?」


 白井さん――――


 部屋に渦巻いていた土煙が晴れる。

 部屋の反対側に、白井さんが立っていた。



 腹を刃物に貫かれ、壁に貼り付けにされて――――
245 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 23:19:53.16 ID:H0W/ZHA0

アルカイザー「うわああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 ワケも分からず。
 ただ頭が真っ白になって。

 目の前の敵に向かって拳を乱打した。

 奴は、それを全て見切っている。



メタルブラック『タイガーランページ…………!!!』



 武器を手放し自由になった奴の両手が唸りを上げる。
 さっきまで受けるだけだったメタルブラックが、拳が打ち返してくる。

 マシンガンのように打ち出される鉄(くろがね)の拳。

 拳と拳がぶつかり合う。
 奴の拳は徐々に速度を増し、ついに私のスピードを超えた――

アルカイザー「ぐっ……つ……がぁッ!!?」

 こちらの攻撃は届かなくなり、メタルブラックの鋼の拳が何度も打ち込まれる。

 肩。腹。あばら。

 高速で鉄塊を叩きこまれ、私の体が壊れていく。

メタルブラック「ふんっ!!!」

 鋼の侍は、ただ打たれるだけになった私の顔面を左手で掴み、そのまま腕ごと加速させ――


 背後の壁に、思いきり叩きつけた…………!!


アルカイザー「………………っが!!?」

メタルブラック「……当てが外れたな」
246 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 23:21:10.36 ID:H0W/ZHA0

 顔面を掴まれたまま、壁にめり込んだ頭を引きずり出され、片手で持ち上げられた。


メタルブラック「貴様なら。もう少し足掻くと思ったのだが……」

アルカイザー「……っ」

メタルブラック「やはり昨日言っていた通り。所詮は借り物の力なのか……」


 ――――――


 今、何て言った?


メタルブラック「もう終わらせよう……涙子」



 ――――――――――



アルカイザー「……………………ラビット?」



 バキィイ!!!!


 乾いた空気の中、何か硬いものをへし折る音が響いた――
247 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 23:23:10.41 ID:H0W/ZHA0

メタルブラック「ぬう!?」


 へし折れたのはメタルブラックの左腕。

 さっきまで少女の腹に突き刺さっていたはずの凶器が、その持ち主の腕を切り裂いていた……!!


メタルブラック「己……! まだ息が……!!」


 メタルブラックが振り返る前に、風を切る音が頭上から聞こえた。


黒子「落し物ですの!!」

 空中に現れた白井さんが、メタルブラックの頭部に回し蹴りを浴びせた――!


メタルブラック「……ッ!?」

 バランスを崩し後退するメタルブラック。

 そこへ――


美琴「喰ぅらえぇえええええええええええええええええ!!!!!」


 二発目の超電磁砲――!!


メタルブラック「……!! そうそう上手く行くものかっ!!!」

 ギリギリ。無理やり体をひねって回避するメタルブラック。
 勢いよく飛び上がり、空中で体制を立て直して瓦礫の上に着地する。

 しかし、今度は超電磁砲によって右足を失っていた。


メタルブラック「………………見事!!」
248 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 23:24:14.34 ID:H0W/ZHA0

黒子「はぁ……はぁ……これでも駄目……ですの?」

美琴「いや……もう一押し!! 黒子……あんた……!」

黒子「……ッ!? マズイですわね……今まで、痛覚が麻痺していてくれていましたのに……ッ!!」


 顔中に汗が滴っている。

 おそらく、二人とも立っているのがやっとの状態だろう。

 その状態での大技。


 それでトドメに至らなかったという痛恨のミス……


アルカイザー「………………っ!」


 私が……私がもう一度追撃していれば。


 あいつの言葉に動揺した。


アルカイザー「……ラビット」


 本当に?


 どうして……どうしてあんな姿をしてるの?


 どうして、ブラッククロスなんかに?
249 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 23:25:21.14 ID:H0W/ZHA0

メタルブラック「最早、遠慮はいらぬ……」


 メタルブラックの背中で、三度目の爆発が起こる。

 見れば、その衝撃に耐え切れず手足のパーツがボロボロと崩れている。
 人間ならとっくに死んでいるだろう損傷でも、痛みを感じない機械の体であれば戦える。

 そう、彼には心が――


 ココロがないのだから――――


 メタルブラックの右手に、いつの間に拾ったのか、再びあの「武器」が握られている。

 そして、いままでに見せたことのない「構え」――



メタルブラック「全身全霊を持って挑もう……括目せよ! これぞ我が奥義!!」




  『ムーンスクレイパー』…………!!!!!


250 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 23:27:52.44 ID:H0W/ZHA0

 爆発的に加速した鋼の侍は、まず御坂さんに向かった。


 壱撃。


 そのまま減速することなく、ブースターから噴出する白い炎で弧を描き、白井さんへ。


 弐撃。


 そして、気が散り、何が起こっているのか理解できていない私の下へ。


 惨劇。


 慣性の法則に従い、彼の体はしばらくそのままの軌道で走り――



 その三日月の軌跡が消える頃には、私たち三人の体から、紅い紅い血の花が咲き乱れていた。



メタルブラック「斬り捨て御免……!!」


 静かになった室内に、少女達の倒れる音が響いた……
251 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 23:30:04.17 ID:H0W/ZHA0

 ………………霞んだ視界に、紅く染まった御坂さんの背中が見える。


 ………………過敏になった耳に、白井さんの呻く声が聞こえる。


 ………………脳裏に、初春の笑顔が蘇る。



メタルブラック「……何故立ち上がる?」

アルカイザー「……」


 私は意識を失わなかった。

 失うわけにいかなかった。


アルカイザー「ラビット……」

メタルブラック「それは、あの探索用ボディの名だ」

アルカイザー「なら、それが貴方の本当の姿なの?」

メタルブラック「力を求めるのが私の使命だ。そういう風に作られた」

アルカイザー「貴方の求める力って何? 『万能の力』って、つまり人を傷つけることなの?」

メタルブラック「力の使い方には興味が無い。主が求めている。だから私も求める」

アルカイザー「貴方の主って……」

メタルブラック「……Drクライン。ブラッククロスの幹部だ」

アルカイザー「………………ねぇ?」

メタルブラック「何だ?」

アルカイザー「私が敵だって知ってたから。だから私に着いて来て。色々話したの?」



メタルブラック「それ以外に理由があるのか?」


 彼には、心が――
252 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 23:31:22.32 ID:H0W/ZHA0

アルカイザー『レイブレード……!!』


 掌に意識を集中する。
 拳に宿った光が形を変え、蒼く輝く光の剣となった。

 その柄を両手で握り締め、いつだったかテレビで見た剣道の構えを取る。


メタルブラック「剣……か?」

アルカイザー「侍なんでしょう?」


 私に呼応するように、メタルブラックも武器を構えた。

 左手と右足がない彼は、片足で器用にバランスを取り衝撃に備えている。


メタルブラック「一体何度、仕切り直させる気なのか……?」

アルカイザー「何度でも。何度でも」

 お前を倒すまで――


 部屋に静寂が訪れる。


 ……


 これまでの戦いでひび割れた天井が……

 崩れて、地面に落ちた――


 「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」


 両者同時に、踏み出す……!!!
253 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 23:39:06.95 ID:H0W/ZHA0

 例え初めて使う武器だろうと、このヒーローの体は戦い方を知っている!


 面!

 お互い、上段に振りかぶった剣を振り下ろし、ぶつかり合う。
 鍔迫り合い。火花が弾ける。

 腕力は互角。


 胴!!

 剣を引いて腹をなぎ払う。
 メタルブラックの武器は長い。攻撃しながらも腹はカバーしている。


 小手!!!

 手首を返し、相手の手元を狙う。
 アッサリとかわされ、その隙をつこうと敵の刃が降ってくる。


 それを受け流し、お互いの位置が入れ替わる。


 ……!

 こんなギリギリの戦い方……私の集中力じゃあそうは持たない……!

 次で決める――!!

254 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 23:45:25.95 ID:r9Je0kAO
剣戟カッケェー
255 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 23:45:25.87 ID:H0W/ZHA0

 体中ののエネルギーをかき集め、剣に流し込む。

 最大出力のレイブレードで、最後の賭けに出る……!!


アルカイザー『カイザースマッシュ!!!』


 大上段に構えた私は、踏み込むと同時にレイブレードを振り下ろす――

メタルブラック「見え見えの攻撃だ!!!」

 メタルブラックの武器は上下に刃のついた特殊な刃物。

 片方の刃でレイブレードの打ち下ろしを受けると、その反動を生かして反対側の刃で攻撃を仕掛けてくる。


アルカイザー「……そっちこそ! この位反応されるのは分かってた!!」


 だが、カイザースマッシュは神速の三段斬撃……!!!

 その反撃にはすでに斬り返した!!


メタルブラック「……!?」

アルカイザー「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 三撃目が、メタルブラックの肩口から叩き込まる。

 レイブレードは唸りを上げ、火花を散らし装甲を破り、鋼の肉体に深々と食い込んだ……!


メタルブラック「………………一本だな」
256 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 23:47:35.72 ID:H0W/ZHA0

 レイブレードで彼の体を刺したまま、お互い前のめりになり動けずにいた。

 勝利した私も、もう体力の限界だ。
 体が自由に動かない。

 目の前には、彼の無機質な胸板がある。


メタルブラック「見誤った……お前は、やはり強かったのだな」

アルカイザー「……」

メタルブラック「早くトドメを刺せ。勝った者の勤めだ……」

アルカイザー「ラビット……ううん。メタルブラック」


 彼の体から火花が上がり、背中のブースターが炎を上げた。


アルカイザー「私は強くないよ……やっぱり、私はまだ、まだまだ無力な、無能力者みたいだ」

メタルブラック「……」

アルカイザー「御坂さんたちが居たから勝てたんだよ。白井さんが助けに来てくれたから生きてるんだよ」

メタルブラック「三対一では納得いかないか? 数も力の一つだ。お前の力だ」

アルカイザー「うん、それは分かる。でも多分、私の言ってる意味と、貴方の言ってる意味は違う」

メタルブラック「分からないな……やはり、人間のココロは……」

アルカイザー「いつか分かるよ……だって」


 あなたも私の、友達なんだから。
257 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 23:49:15.24 ID:H0W/ZHA0

 その時だった――

 部屋のあちこちが爆発で起こり、基地全体が揺れ始めた。


メタルブラック「限界か……基地が自爆する」

アルカイザー「……!?」

メタルブラック「私の体に異変があった場合、五分後に全壊する仕組みになっている」

アルカイザー「そんな……!!」


 御坂さん――! 白井さん――!!


黒子「っ…………どうやら、まだ寝かせては貰えないようですわね?」

アルカイザー「白井さん!!」

 いつ目を覚ましたのか。
 白井さんが起き上がり、穴の開いた腹を抑えて立ち上がった。

美琴「う……ん……」

アルカイザー「!! 御坂さんも……!!」
 
 振動と爆音で、気を失っていた御坂さんも目を覚ました。

 白井さんがふらつきながらも傍により、肩を担いだ。


黒子「……っ! テレポートで脱出しますの……さぁ、貴方も早く……!」

アルカイザー「……はい!!」


 レイブレードを消し、震える足で一歩踏み出そうとした。


 が――――


アルカイザー「――――!?」


 すぐ傍の柱が倒れ、天井が降ってきた――
258 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 23:51:09.16 ID:H0W/ZHA0

 あーあ。しょうがないな。

 もう、私にこの障害を突破する力は残されていない。


アルカイザー「……これは……無理かな」


 気付くと、私は瓦礫の下敷きになっていた。


黒子「そん……な!?」

美琴「黒子……!」

黒子「お姉さま!?」

美琴「テレポートで……あいつを……!!」

黒子「…………あ……」

美琴「黒子?」

黒子「……どうやら……もうテレポートが使えないようですの…………」

美琴「そんな……!!?」


 空間移動の使用には複雑な演算が必要だ。
 朦朧とした意識で無理をしても発動しない……


黒子「……アルカイザーさんを助けるどころか……私たちの脱出も……!」

美琴「……嘘…………?」


 御坂さんの顔から血の気が引いていく。


 天井が崩れ、御坂さんたちの頭上にその破片が降り注いだ。
259 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 23:53:16.47 ID:H0W/ZHA0

美琴「――――!?」

 御坂さんたちに降り注いだ、「粉々になった」天井の破片が土煙を巻き起こした。

 風が吹き、土煙が晴れるとそこに――


アルカール「間に合ったようだな……」


 アルカールさんが立っていた。


美琴「あんたは……?」

黒子「……黒い、アルカイザー……さん?」


 アルカールさんは、御坂さんと白井さんを抱え上げた。

アルカール「アルカイザー。動けそうか?」


 ……さっきまで激痛を訴えていた神経が、その働きを放棄し始めている。

 ……指先しか動かない。


アルカイザー「……無理そうです」


 答えたとたん、私と御坂さんたちの間で爆発が起こり、火柱が立った。

 まるで、ここから先に進むなと言う様に……


 それを受けて、アルカールさんが答えた。


アルカール「そうか。残念だ。私はもう脱出する」


 ……やっぱりなー。

 四天王のところに私一人送り込むような人だもん……
260 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 23:55:14.73 ID:H0W/ZHA0

美琴「ふざけないでよ! 私たちだけ逃がすっていうの!!?」

 御坂さんが怒ってる。

黒子「あなた……! ヒーローなのではありませんの……ッ!!」

 白井さんも怒ってる。


アルカール「この炎では無理だな。私にはこの炎に耐える性能はない」

黒子「……っ」

アルカール「それに、いますぐ脱出しなければ君たちが死ぬことになる……」

美琴「……彼女は?」

アルカール「命を犠牲にしてでも一般人を守るのがヒーローだ。アルカイザーにはその責任がある」


 彼の言うことは事実だろう。

 崩壊が進む。


 それにしても、問答無用で脱出すればいいのに……アルカールさんは律儀に応答している。

 ……ああ。そっか。
 彼は仰々しくて、厳しくて、そして優しいんだった。

 待ってくれてるんだ。


アルカイザー「御坂さーん……」

美琴「……アルカイザー?」


 別れの言葉を。


アルカイザー「私ね。本当はヒーローになりたかったんじゃないんです」



アルカイザー「本当は私、御坂さんになりたかっ――



261 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 23:56:00.56 ID:H0W/ZHA0


 それから、一週間が過ぎた――。

262 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 23:57:58.58 ID:H0W/ZHA0

 「どうやら、もう問題はなさそうだね?」

 重症の美琴たちはとある病院に運ばれて、そこの主治医であるカエル顔の医者の手術を受けた。

 彼は名医で、内臓に致命的なダメージを受けていたにも拘らず、二人の傷を癒してしまった。


 「まあ、しばらくは入院生活だね? 無理は禁物だね」

初春「ありがとうございます。先生」


 医者が部屋を出て、残されたのはベッドに横たわる美琴と黒子。
 そして、面会謝絶がとけ、いち早くかけつけた見舞い客の初春。


初春「でも、命に別状が無くてよかったです……病院に運び込まれたって聞いたときは……」

黒子「心配をかけましたわね……」

初春「本当です! それに、かけたのは心配だけじゃありません!!」

黒子「はて?」

初春「もしものときのために生命保険を賭けておきました!! これで安心!」


 初春の頭に黒子のチョップが振り下ろされた。


黒子「お姉さまと添い遂げるまでは死にませんの!!」

初春「え〜ん。冗談なのに白井さんがぶった〜」

黒子「なんですのその白々しい泣きマネは……」


 穏やかな空気が流れる。

 しかし……


美琴「………………」
263 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 23:59:20.97 ID:H0W/ZHA0

黒子「お姉さま……お姉さまに責のあることではありませんの……あれは仕方が……」

美琴「………………」


 あの日、美琴から笑顔が消えた。

 自分達だけが生き残ってしまったということ。

 そして、せっかく友達になれると思った矢先の別れ……


美琴「これからさ。一緒に戦えるんじゃないかなって……思ったのに……」

黒子「……彼女は、きっとお姉さまに後悔して欲しいとは思っていませんの」

美琴「だって……」


初春「……御坂さん、どうしたんですか?」

黒子「ご友人を亡くされたんですの……」

初春「そんな!?」

黒子「あの基地に、私達以外にもう一人居ましたのよ……」

初春「初耳です……」


 誰も何も言えず、重苦しい空気だけが、病室に漂った。
264 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 00:00:07.14 ID:hPujq1g0

初春「……ちょっと、換気しますね」

 初春がイスから立ち上がり、窓へ向かった。
 優しい彼女らしい気配り。

 窓を開けると、外の風が部屋に流れ込み、白いカーテンを揺らした。


 美琴は、風になびくカーテンを見て、彼女のマントを思い出した。


 瞳に浮かんだ涙を見せないように、布団を頭まで被る。


 なんとか元気付けてあげたい……

 初春はそう思い、とりとめもない話を切り出した。



初春「あの……実はさっき、病院の前でアルカイザーさんに会ったんですけど……」



美琴「…………」

黒子「…………」



美琴・黒子「「はぁ!!!!!?」」
265 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 00:01:52.37 ID:hPujq1g0

初春「いえ、あのですね? どうも御坂さん達に会いに来たらしいんですけど」

 ………………

初春『こんな所でどうしたんですか?』

アルカイザー『おやお嬢さん。奇遇ですね』

初春『ひょっとしてこの病院に怪人が!?』

アルカイザー『いえいえ。カエルによく似たお医者さんは居ますが、彼は怪人じゃありませんよ』

初春『そうですかー……よかったー……』

アルカイザー『実は先日お世話になった御坂さんと白井さんに会いに来たのですが』

初春『え! 御坂さんたちに!?』

アルカイザー『私はヒーローなので病院に入るわけにはいかないのだ』

佐天『そうだったんですかー』

アルカイザー『そうだったのだー』

 ハッハッハー!!

 ………………

初春「と、いうわけで。御坂さんと白井さんにお見舞いを伝えておいてくれって……」


美琴「……」

黒子「……」

初春「あ! そうだ……それから――――」


アルカイザー『いやー。私も流石に死ぬかと思ったんですけどね』

アルカイザー『体の方は治癒が始まってたから良いとして、炎と爆発がね』

アルカイザー『でも何か平気でした。アルカールさんいわく、「特性」だそうです』

アルカイザー『なので心配要りません。ではごきげんよう』


初春「ですって。何のことでしょう?」
266 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 00:02:57.48 ID:hPujq1g0

美琴「……」

初春「……御坂さん?」

美琴「……ふ……ふふふ……特性とか……対策とか……!」

黒子「お姉さま?」

初春「じ、じゃあ私帰りますね!? 失礼しまーす!!!」



 フザケンナアノヤロー!!! ビリビリー!!!

 シビレアバババババ!!? オネエサアビブッベベベ!!!?



初春「うわ〜避難してよかった〜。白井さん入院長引きそうだな……」


 騒がしい病室。

 そこへ向かう廊下に、静かな足音が響く。

 初春が振り返った。


初春「あ……もう! 遅かったじゃないですかー!!」





佐天「ごめん! ちょっとやることがあったから!」





 落ちこぼれのヒーローは、一つの戦いを超えた。
267 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 00:04:41.58 ID:hPujq1g0

 【次回予告】

 佐天たちがメタルブラックに挑んでいた頃、もう一つの物語があった!!

 奇妙な生き物と、学園都市の動物たちが出会うとき!!

 物語は始まる!!

 次回! 第八話!! 【迷走! コットンの冒険!!】!!

 ご期待ください!!
268 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/11/23(火) 00:08:49.76 ID:hPujq1g0

 と、いうわけで第七話でした。
 やっと物語も一段落。残す四天王も一人となりました。
 次回は番外編です。

 ところで、ここで問題が発生しました。
 残りのプロットを確認したところ、もうやることが半分終わってしまっていました。
 全二十話前後の構成のつもりだったのが、このままだと十数話で終わってしまいそうです。

 ということで、明日の更新を最後にしばらくお休みしてプロットの練り直しを行います。
 一週間を目処に復帰しますので、それまで待っていていただけるとありがたいです……


 【補足という名の言い訳のコーナー】

  ・メタルブラックについて。
   「なんでラビットやねん」というツッコミにお答えします。
   まず、佐天を焚きつけて美琴と戦わせる一因が必要でした。
   それから、メタルブラックとの因縁を深くしたいというのもありました。
   というわけで、原作のゲームではラビットとメタルブラックはまったく無関係のキャラクターです。
   では何故ラビットなのかというと、一番マスコットキャラっぽいから佐天と絡ませたかったのです。

  ・レイブレードについて。
   ニッチなマニアとか言ってごめんなさい。
   レイブレードめちゃくちゃ好きです。ニッチなマニアは俺です。
   だからメタルブラック戦で特別扱いしたかったんだよぉ!!
   武人キャラ相手に剣で一騎討ち挑むアルカイザー書きたかったんだよぉ!!

 

269 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 00:13:46.70 ID:Jel1pIAO
乙。
270 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 00:17:30.63 ID:bv2og6AO
乙、良かったわレイブレードの描写燃えたよ
美琴と黒子のダメージデカかったから最後の聖戦来ると期待してしまったよ
最強技にも期待してるが最後の聖戦使うイベントも期待してる
話数気にするなら本編終わった後に他のサガフロで番外編書いてみたら
とりあえずこれからも期待して待ってます
271 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 01:19:22.50 ID:GhI7X6AO
乙ん。
面白かったぜぃ。
だがしかし……コットン……だとっ!?
272 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 07:15:53.26 ID:6vAEHPM0
乙!
273 : ◆S7msF7zQV2 [sage]:2010/11/23(火) 23:23:38.43 ID:hPujq1g0

バトル回が続いたので、今回は第一部の〆ということで番外編です。

いつもとはかなり毛色が違うのでご注意を。

次回の更新は来週以降になります。
274 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 23:25:11.73 ID:hPujq1g0

 このお話は、私たちが地下で戦っていたとき、別の場所で起きていた出来事です。


 このお話の主人公の名前は「コットン」。


 コットンはクリーム色でフサフサです。


 でも、じまんの前がみと長いしっぽ、それからたてがみは、青と赤が混ざったふしぎな色です。


 コットンは猫より大きいです。でも犬より小さいです。


 コットンはモグラに似ています。でもモグラじゃありません。


 泣き声は「キュー」とか「ミュー」とか。


 コットンは学園都市の、「生命科学研究所」に住んでいます。


 どうして研究所に住んでいるんでしょう?


 それは、コットンがふしぎな生き物だからです。


 【第八話・迷走! コットンの冒険!!】
275 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 23:26:19.91 ID:hPujq1g0

 ある日、ビリビリの女の子と、デスノの女の子がやってきました。


 二人は、黒くて毛むくじゃらの人を連れてきました。


 黒くて毛むくじゃらの人は、オリに入れられました。


 コットンは怖かったので、オリには近づきませんでしたし、近づけませんでした。


 なぜなら、コットンもオリに入れられているからです。


 でも数日後、黒くて毛むくじゃらの人は暴れてオリをこわしてしまいました。


 そのとき、コットンのオリもいっしょにこわれました。


 研究所のあやしい学者さんたちは大慌てでしたが、コットンは知らんぷりをしてにげました。
276 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 23:27:16.98 ID:hPujq1g0

 コットンは、ひさしぶりに外に出てうれしくなりました。


 気分良く道を歩いていると上から「お腹がすいたんだよー!」という大きな声が聞こえました。


 コットンは人間の言葉がわかるので、「ごはんがもらえるのかな?」と思って上を見上げました。


 大きな声は、目の前の白い建物から聞こえてきます。


 「とーま! お腹がすいて死んじゃいそうなんだよー!」


 「今月は金がないからモヤシしか食べられないって言ってるだろ!」


 何だか悲しい話をしています。


 コットンはモヤシを見たことがありますが、ごちそうでないことは分かりました。


 「不幸だー!!」と、大きな大きな声が聞こえました。
277 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 23:27:51.91 ID:hPujq1g0

 すると、白い建物から何かが降りてきました。


 猫でした。


 猫は「にゃー」と鳴きました。


 コットンは動物の言葉が分かるので、今のは「はじめまして」だと分かりました。


 猫は「スフィンクス」と名のりました。


 「ここに居てもごはんが食べられにゃいから、どこか他の場所に行こうと思うにゃ」


 スフィンクスがそう言うので、コットンはいっしょに行くことにしました。
278 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 23:28:49.30 ID:hPujq1g0

 コットンとスフィンクスは、暗くてせまい道に来ました。


 そこに、白くて細い男の人が居ました。


 「あァ? 何ですかァこの妙な生き物はァ?」


 白くて細いので、コットンは「モヤシみたいだなぁ」と思いました。


 スフィンクスが「にゃにか食べ物をくださいにゃ〜」と鳴きました。


 「あン? 何だよ、エサでもたかってンのかァ?」


 モヤシみたいな人は、手に持っていた缶を半分にわって、コットンとスフィンクスの前に置きました。


 中に入っていた黒い水を、コットンとスフィンクスは恐る恐るなめました。


 苦いです。


 コットンは、「こんな物を飲んでるから白くて細いんだなぁ」と、一人でなっとくしました。
279 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 23:29:52.46 ID:hPujq1g0

 コットンとスフィンクスが歩いていると、きれいな場所に出ました。


 女の子がたくさんいて、甘いニオイがそこらじゅうからしています。


 「まあ。何かしらこの生き物は」


 黒くて長いかみのお姉さんが、コットンをひょいっと持ち上げました。


 「あら。プレートに名前が書いてありますわ。コットン……あなたはコットンちゃんですのね」


 お姉さんは少しこまった顔をしました。


 でも、すぐにニッコリ笑って、「すぐにお家を探してあげますわ」と言いました。


 コットンは「優しいお姉さんだな」と思いました。


 「でも、まずはお風呂に入りましょう。どこを歩いてきましたの? ドロドロですわよ」
280 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 23:30:50.12 ID:hPujq1g0

 コットンとスフィンクスはお姉さんといっしょにお風呂に入りました。


 スフィンクスが「ウチのツンツン頭が聞いたらうらやましがるにゃ」と言いました。


 コットンは良く分からないので「そうかもね」と答えました。


 「お腹はすいてませんの? 今キャットフードとミルクを持ってきますわ」


 お風呂から出て、コットンとスフィンクスはベッドで寝ころんでいました。


 「本当に優しいお姉さんだにゃ」とスフィンクス。


 「そうだね」とコットン。
281 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 23:31:35.82 ID:hPujq1g0

 でも突然。スフィンクスが毛を逆立ててうなりました。


 コットンのうしろに、大きな何かが現れました。


 「あなたたち。ここがエカテリーナと光子の部屋と知ってのろうぜきですの?」


 そこに居たのは大きなヘビでした。


 ヘビのエカテリーナが、コットンとスフィンクスをにらんでいます。


 スフィンクスがエカテリーナをひっかきました。


 エカテリーナは怒って、コットンとスフィンクスを追いかけてきました。


 「お待ちなさい! 丸のみにしてさしあげますわ!!」


 スフィンクスが窓からにげだして、コットンも後を追いました。
282 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 23:32:35.51 ID:hPujq1g0

 にげだしたコットンとスフィンクスは、公園につきました。


 ベンチに、目つきの悪い、美人だけど残念な女の人が座っています。


 「おや。変わった生き物だな」


 残念美人さんは、手に甘そうなものを持っています。


 「これが欲しいのか?」


 残念美人さんは甘そうなものを差し出してきました。


 コットンとスフィンクスはそれを食べてみました。


 甘くありませんでした。むしろ辛くて、苦くて、しょっぱくて、やっぱりちょっと甘かったです。


 でも、コットンとスフィンクスはハラペコだったので全部食べました。


 「ああ……こんなところにまでソースやらクリームやらが飛んできた……」


 残念美人さんがよごれた服を脱ぎました。


 まわりが何だかさわがしかったようですが、コットンにはよく分からないので放っておきました。
283 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 23:33:21.96 ID:hPujq1g0

 コットンとスフィンクスが歩いていると、さわがしい場所に出ました。


 見ると、あの黒くて長いかみの優しいお姉さんが、鳥と亀の怪獣におそわれていました。


 エカテリーナもいっしょです。


 お姉さんが車にさわると、ふしぎなことに車が飛んで、鳥の怪獣に命中しました。


 鳥の怪獣は落ちてきて、そのまま動かなくなりました。


 お姉さんがもう一度車にさわります。


 車が飛んでいきましたが、亀の怪獣のこうらに当たってはじかれてしまいました。


 亀の怪獣が、ゆっくりお姉さんに近づいてきます。
284 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 23:34:27.19 ID:hPujq1g0

 スフィンクスが飛び出しました。


 スフィンクスは、亀の怪獣の顔をひっかきました。


 エカテリーナも、怪獣の首にまきつきました。


 その間に、コットンは落ちている鳥の怪獣のところへ走って行きました。


 コットンが息を吸うと、鳥の怪獣から白い光が飛び出してきて、コットンの口に吸いこまれました。


 とつぜんのことに、お姉さんはおどろいています。


 亀の怪獣が暴れて、スフィンクスもエカテリーナもふり払われました。


 お姉さんが「お下がりなさい!」と言ったので、スフィンクスとエカテリーナはお姉さんのそばによりました。


 亀の怪獣は、まだ止まりません。


 じりじりと、お姉さんたちに近づいてきます。


 お姉さんたちは怖くてふるえました。
285 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 23:35:12.35 ID:hPujq1g0

 そのときでした。


 つばさの生えた大きな生き物が現れて、亀の怪獣に立ち向かいました。


 大きな生き物は、一見大きな鳥でした。でもトカゲのようなしっぽがありますし、首が長くてドラゴンみたいでした。


 全身クリーム色でフサフサですが、所々が青と赤の混ざったふしぎな色でした。


 「キューーーーー!」と鳴いています。


 「あなた、ひょっとしてコットンちゃんですの?」


 大きな生き物は「キュー!」と答えて、亀の怪獣にかみつきました。


 それからしっぽで打って、怪獣をひっくり返してしまいました。
286 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 23:35:55.69 ID:hPujq1g0

 ウー! ウー! と、うるさい音のする車がやってきて、中から鉄砲をもった人たちがおりてきました。


 鉄砲は亀の怪獣とコットンに向けられています。


 「違いますわ! その子は怪人じゃありませんのよ!!」


 お姉さんが叫びました。


 すると――


 「うわ! なんだこいつ!?」


 エカテリーナがその人に巻きつきました。


 コットンは、お姉さんの前にしっぽを垂らしました。


 お姉さんとスフィンクスとエカテリーナは、しっぽを上ってコットンの背中に乗りました。


 そして、コットンは大きなつばさを羽ばたかせ、空高く舞い上がりました。
287 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 23:36:41.71 ID:hPujq1g0

 空の上からは、今日歩いた場所がぜんぶ見えます。


 スフィンクスと出会ったあの白い建物も、モヤシみたいな人のいた暗い道も。


 お姉さんと出会ったキレイな場所も、残念美人がいた公園も。


 「ステキな景色ですわね……」


 お姉さんがそう言って、スフィンクスとエカテリーナが「ニャー」とか「シャー」とか答えました。


 もちろんコットンも「キュー」と答えました。


 でも、楽しい時間は続きません。


 みんなはお家に帰らなければいけないのです。
288 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 23:37:55.72 ID:hPujq1g0

 白い建物に行きました。


 白い女の子とツンツン頭の男の子がおどろいていました。


 「それじゃあにゃ」と、スフィンクスがあいさつしました。


 キレイな場所に下りました。


 女の子たちがおどろいていました。


 「では。また会いましょうねコットンちゃん」とお姉さんがあいさつします。


 「今度は食べようとしませんわ。アゴが外れてしまいますもの」とエカテリーナが続きました。


 そして、コットンは一人になりました。


 でも、コットンはもう研究所には行きたくありません。


 だって、あそこはコットンの本当の家ではないからです。


 コットンはビルの上に降りました。
289 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 23:38:33.95 ID:hPujq1g0

 コットンには友だちが居ました。


 乱暴だけど優しいお兄さん。


 キレイだけど強いお姉さん。


 無口で良く分からないお兄さん。


 他にもたくさん居ました。


 でも、とつぜんここに来てからは、一度も会えません。


 コットンは悲しくなって泣き出しました。


 「キューーー! キューーー!」


 すっかり赤くなった空に、コットンのさびしげな声がひびきます。
290 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 23:39:39.33 ID:hPujq1g0

 コットンの声を聞きつけて、だれかやって来ました。


 黒いかっこうをしたおじさんでした。


 「君は怪人ではないんだな?」


 黒いおじさんが聞きました。


 コットンはうなずきました。


 「君はここに居てはいけない。私がもといた所に帰してあげよう」


 コットンはおどろきました。


 おじさんは、コットンが本当はどこから来たのか知っていたのです。


 「いますぐには帰れないから、それまでは私を手伝ってくれ」


 コットンはよろこんで、おじさんの手伝いをすることにしました。
291 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 23:40:17.14 ID:hPujq1g0

 そのとき、ドカーン! と、どこかで大きな音がしました。


 「しまった! 彼女たちを逃がさない気か!?」


 おじさんが慌てているので、コットンは背中に乗せてあげることにしました。


 コットンは飛行機よりもはやく飛んでいきます。


 おじさんは女の子の心配をしていました。昔助けた女の子だそうです。


 怖いおじさんでないことが分かって、コットンはうれしくなりました。


 飛びながら、コットンは思いました。


 「帰る前に、もう一度、スフィンクスとエカテリーナとあの優しいお姉さんに会いたいな」


 学園都市に、コットンの鳴き声がこだましました。



 落ちこぼれのヒーローは、こうして友だちを助けてもらいました。
292 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/11/23(火) 23:43:22.09 ID:hPujq1g0

 というわけで第八話、番外編でした。
 次回の内容が未定なので予告は無しです。

 第二部ではシュウザーとの戦いを中心にプロットを練り直しています。
 案が固まりしだい、書き溜めつつ投下していきます。

 必ず来週中には再開いたしますので、今後ともよろしくお願いします。


 【補足という名の言い訳のコーナー】

 ・コットンについて。
  ゲームに登場する、生命科学研究所に捕まっている味方モンスターです。
  サガフロではキャラクターごとに種族が設定されていて、コットンの種族はモンスターです。
  モンスターは敵の能力を吸収することで変身して強くなります。
  この話の場合、「鳥の怪獣」から技「翼」吸収して「グリフォン」に変身しました。
  サガ的にはたぶん肉を食べているのですが、グロいので変更しました。

 ・「鳥の怪獣」「亀の怪獣」
  エアエレメンタルと玄武です。
293 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 00:46:14.83 ID:zU1UGMAO
乙ん。
夕方コットンをスフィンクスに進化させたから混乱したよww
294 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 00:58:10.23 ID:IVlhuUAO

>>293やっぱり子供誘拐でスフィンクスにしとくと楽だよね
リセットで強風来たときは苦渋の決断をしたな
295 : ◆S7msF7zQV2 [saga sage]:2010/11/24(水) 01:25:27.97 ID:o5EfEoc0
いつも感想ありがとうございます

やはり子供誘拐で変身するのが定番だったので、最初はスフィンクスにしようと思ったのですが、
すでに黄泉川に襲い掛かる「空飛ぶライオン」として登場させてしまったので変更しました。
色合い的にもグリフォンの方がティディに似ていましたし。
296 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 21:19:35.25 ID:4d.vVsc0
あれ?コットンって囮捜査のために生命科学研究所に潜入してるIROPの隊員だったような気が…
でもラビットがメタルブラックだったりしてるからそんなに問題ないか
297 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/26(金) 00:51:43.12 ID:0Iv9aAAO
続きはまだなのか……レッド編クリアしちゃったじゃないか……。
298 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/28(日) 15:17:14.67 ID:qfEx0HIo
追いついた
7話の戦闘シーンかっこよかったー
しかし既に死にかけに思えた黒子と美琴が>>250で更に攻撃喰らった時はマジで死んだかと思って泣きそうになった
ヒーロー化してる佐天さんはともかく基本的には生身の二人も結構しぶといのね・・・ww
299 : ◆81V5xC6iVY [saga]:2010/11/30(火) 23:40:50.34 ID:6tWXdeE0

一週間ぶりです。お待たせいたしました。

まだ途中までしか書き溜められていませんが、とりあえず今日のところは第九話を投下します。

またお付き合いいただけましたら光栄です。
300 :トリップ間違えました  ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/11/30(火) 23:42:57.88 ID:6tWXdeE0

 とある学生寮。

 その夜は蒸し暑く、少女は中々寝付けずに布団から這い出した。
 パジャマ代わりに着ていた白いシャツが、汗で肌に張り付いている。

 時計の針は午前一時を指していた。

 「こんな時間まで起きてるなんて珍しいな……」

 少女は冷蔵庫から冷たい麦茶を出して、コップに注いだ。
 ベタベタのシャツを着替えようか考えて、面倒だと思い、コップの中身を飲み干す。
 もう一度布団に戻ろうとしたが、窓から入る風の音を聞き――――

 「外は涼しそうだな……」

 そんな風に思った。

 コップを流し台に置き、玄関に向かう。
 チェーンを外して扉を開けた。


 「わっ!?」


 少女は驚きの声を上げた。
 部屋の前に、髪の真っ白な女の子がしゃがみ込んでいたのだ。

 「あの? 気分でも悪いんですか?」

 恐る恐る、少女が女の子の肩に触れる。
 すると――――


 コロン……


 と、女の子の頭が転がり落ちて、肉の無い、むき出しのドクロがこちらを向いて笑った。
 首の断面からは、青い血が噴出して、少女の白いシャツを汚した。


 「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!??」


 【第九話・悪夢! 雨の夜の再会!!】
301 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/30(火) 23:43:00.70 ID:/WC793go
>>1きたー
302 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/30(火) 23:45:09.37 ID:6tWXdeE0

美琴「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!??」

黒子「うひゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」


 とある病院の一室。
 すっかり日の落ちるのも早くなり、夕暮れの赤い日が、白いカーテンの隙間から差し込んでいる。
 その部屋に、二人の少女の悲鳴が木霊した。

 一人は友人の話のオチに驚き、もう一人は隣から飛んできた電撃に驚いた。


佐天「あははははは!! いい! いいリアクションですよ御坂さん!!」


 私、佐天涙子は腹を抱えてその様子を眺めていた。


美琴「ひ、ひどいわよ佐天さん!? 最近の外の様子はどうだって聞いたのに! それ怪談じゃない!?」

佐天「ええ。ですから、最近外で流行ってる話です。『青い血の女の子』の話」

黒子「もう夏も終わりだというのに、今更怪談話も無いものですの……」


 あれから、さらに一週間が過ぎた。

 御坂さんと白井さんの傷は随分回復して、御坂さんは今日退院する。
 白井さんは、流石に内臓へのダメージが大きいため、もうしばらく様子を見るらしい。


佐天「あはは。でもまぁ。御坂さんたちの怪我も大丈夫みたいですし、心配事が一つ減りました」

美琴「ええ。ごめんね? 毎日お見舞いに来てもらって」

佐天「いいですよ。好きで来てるんですから」
303 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/30(火) 23:46:12.01 ID:6tWXdeE0

佐天「さて……それじゃあ、私はこの辺で」

 荷物を持って、丸イスから立ち上がる。


美琴「え? でも、私ももう出るけど……?」

佐天「いえ。ちょっと急いでるんで」


 私は慌しく立ち上がり、病室の扉に手をかける。

 そこで立ち止まり、振り返らずに、二人に声をかけた。


佐天「……御坂さん。白井さん」

美琴「何?」

佐天「私、二人に会えてよかったです」


 突然の言葉に、二人は呆気にとられているらしい。
 一瞬静まり返って、御坂さんが困ったように返事した。


美琴「あはは……何よ佐天さんったら! 突然そんなこと言って!」

黒子「本当ですの! それじゃあ私たちが死んでしまうみたいじゃありませんの!」

佐天「はは! なんでもないです! それじゃ!!」


 そして、そのまま部屋を後にした。

 閉じた扉の向こうから電話の着信音が聞こえた。

 私は、足早にその場を離れた。
304 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/30(火) 23:47:37.36 ID:6tWXdeE0

美琴「どうしたのかしら……佐天さんったら」

黒子「きっと心配してくれていたのですわ。お姉さまの元気なお姿に感動したのでは?」

美琴「ふ〜ん……佐天さんってそんなにロマンチストだっけ?」


 美琴は自分の荷物を鞄に詰め込みながら、佐天から感じた違和感について考えていた。

 黒子は、「私たちが死んでしまうみたいじゃありませんの」と言った。
 けど、あれはどちらかというと……


 そのとき、美琴の携帯電話から着信音が響いた。


黒子「お姉さま。病院では携帯の電源は……」

美琴「わ、分かってるわよ! さっき久しぶりに電源つけて忘れてたのよ!」


 黒子の突っ込みに反論しながら電話に出た。

 電話の相手は――

美琴「もしもし? 初春さん?」

 花飾りの少女。初春飾利。


美琴「ごめんね初春さん。今まだ病院だからさ。あとでかけ直すから――――」

初春『御坂さん……』

美琴「……? 初春さん?」

 初春の声が震えている。
 何かあったのだろうか?

美琴「どうしたの? 何かあった?」

初春『……さんが……』

美琴「え?」

初春『佐天さんが……行方不明で……』
305 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/30(火) 23:48:52.92 ID:6tWXdeE0

 その言葉の意味がわからなかった。
 だから、きっと続きがあるのだろうと、初春の言葉を待った。

 だが――――


初春『佐天さんが……夕べから連絡取れなくて……』

美琴「佐天さん……が?」

初春『学校にも、来なかったし……今も、携帯も通じなくて……』


 それは、きっと病院に居たから電源を……


美琴「ちょ、ちょっとまって初春さん! それって、勘違いってことない?」

初春『そんなはずありません!! だって、実際連絡が――――!!!』

美琴「だ、だって! 佐天さんなら今、ここに居たもの!!」

初春『――――え?』


 きっと、初春にとってその言葉は予想外だったのだろう。
 先ほどの美琴のように、初春は黙り込んでしまった。


美琴「だから、ね? たまたま連絡が取れなかっただけじゃ……」

初春『そんなはず……ないです……』

美琴「どうして?」

初春『だって……佐天さん、部屋の鍵も開けっ放しで、他の誰にも連絡が無くて……』

美琴「たまたまよ……大丈夫。佐天さん急いでるって言ってたから、きっとそれでじゃない?」

初春『……』
306 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/30(火) 23:50:43.09 ID:6tWXdeE0

 初春は納得がいかなそうではあったが、とりあえずは落ち着きを取り戻し、電話を切った。


美琴「ふぅ……どういうことかしら?」

黒子「なんだか嫌な感じがしますの……」

美琴「また、ろくでもないことが起こってるんじゃないでしょうね……!」


 美琴は、手に持った携帯電話をギュッと握り締めた。

 体調は万全とはいかないまでも、絶対安静というワケではない。


黒子「無茶は――――止めても無駄ですわね」

美琴「よく分かってるじゃない」


 呆れて溜息をつく黒子を尻目に、美琴は荷物の詰まった鞄を提げて、病室の扉に向かった。


美琴「佐天さんは、私の親友は私が守るわ……」


 美琴の脳裏に過ぎるのは、今まで戦ってきた敵。
 ブラッククロスの怪人。四天王。そして、学園都市の裏側で暗躍する科学者や能力者の影……


佐天『私、二人に会えてよかったです』


美琴「そう思ってるのは、私たちだって同じなんだから……!」
307 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/30(火) 23:52:10.62 ID:6tWXdeE0

 風紀委員第一七七支部。

 初春飾利は、美琴への電話を切ってからも落ち着かない気分で居た。


初春「佐天さんが病院に……?」


 なら。今からでも向かえば会えるかも……

 いや、もし何事もないのなら、ワザワザそんなことをしても意味は無い。

 そして、何かあったのだとしたら、きっと彼女は自分と鉢合わせしない方法を考えているだろう。
 だから、やはり意味は無い。


初春「……心配かけて……もう!!」


 嫌な想像を断ち切ろうと、大きな声を出してみた。
 しかし、胸のモヤモヤが晴れることはなかった。

 不安に駆られたまま、初春はその日の業務を片付けるためPCに向かった。
308 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/30(火) 23:54:16.24 ID:6tWXdeE0

 御坂美琴は常盤台中学の学生寮に帰ってきた。

 途中、どこかに佐天の姿がないか注意を払っていたが、どこにもその影はなかった。


美琴「とにかく。一旦荷物を部屋に置いて、それから寮監に挨拶して……」

 これからやることを頭の中で整理する。

 一つ。退院の報告を各所に済ませる。

 二つ。寄って来るであろう後輩たちにも挨拶。それからついでに情報収集。

 三つ。結局それでは何も得られないだろうから、自分の足で学園都市中を探して回る。

美琴「よし。まずは二週間ぶりの我が家に――――って、きゃっ!?」


 玄関を開けて中に入ろうとした途端、前から同じようにやってきた少女とぶつかってしまった。
 少女は後ろに倒れて、尻餅をついている。


美琴「ご、ごめん! 大丈――――」


 少女を引っ張りあげようと右手を出しかけて、美琴は固まってしまった。
 思わず悲鳴を上げそうになって、差し出そうとした右手を口にあて、無理やり何とかそれを押さえ込んだ。


 ぶつかった相手は常盤台の制服を着ている。
 どうやらこの寮に住んでいる生徒のようだ。

 ただ――――

 「すみません…………あの? どうかしましたか?」

 少女の髪も肌も、色が抜け落ちたように真っ白だった。


 おいおい……今はまだ日が落ちたばかりだし、別に寝苦しくもないわよ?
309 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/30(火) 23:55:49.93 ID:6tWXdeE0

 少女は、鈴科百合子と名乗った。
 何かの縁だからと、荷物の片づけを手伝ってくれるという。

 しかし……こんな子がこの寮にいただろうか?

 こんなに目立つ外見なのだから、学校にいたって気付きそうなものなのに……


鈴科「この髪、目立つでしょう? 生まれつきなんです……」

美琴「へぇ……アルビノ……っていうんだっけ?」

鈴科「ええ。肌が白いのはいいんですけど、髪はちょっと変ですよね……」


 「第一位みたいに、能力の弊害とかならカッコいいんですけどね」と、彼女は漏らした。

 学園都市の第一位・一方通行『アクセラレータ』。

 今まであまり興味も無く、詳しく調べたりもしなかったのだが、彼女によると第一位の能力者もまた、
 白い髪と白い肌、そして赤い目を持つらしい。「能力の弊害」と、彼女は言った。


美琴「ねぇ? 鈴科さんってさ。前から常盤台に居たっけ?」

鈴科「いいえ。先週転入して来たんです。レベルが上がって……」

 ああ、なるほど。
 自分が入院している間のことだったのか。

 まったく心臓に悪いなぁ……とは思ったが絶対に口には出さない。
 流石に失礼すぎる。


美琴「そっか。じゃあ、これからよろしくね鈴科さん」

鈴科「ええ! よろしくおねがいしますね、御坂さん!」


 美琴は差し出された鈴科の手を握ろうとした。

 そして気付く――――
310 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/30(火) 23:57:04.52 ID:6tWXdeE0

美琴「……あれ?」


 たしか、アルビノっていうのは、髪や肌なんかのメラニン色素が欠乏してる人のことで……

 ということは、別に血の色に変化は無いはずよね?


美琴「ねぇ、鈴科さん……指、さっき倒れたときに切ったんじゃない?」

 
 差し出された掌。
 その人差し指の小さな傷から、「青い」血が滲んでいた。


 鈴科の顔を見る。
 青い目がギョロリとこちらを見つめていた。

 幽霊なんかではない。怪談なんてものは何かの見間違いか思い込みか、でなければ作り話。

 もしくは、実際に存在する『何か』が、人の口を渡り渡って変化したもの。


美琴「貴女まさか――――!?」



鈴科『ナイトメア』



 室内が冷たい空気に包まれる。
 この世ならざるモノの気配。

美琴「………………馬?」

 鈴科の背後から、突然馬が現れて、嘶いた。


 そしてその光景を最後に、美琴の意識は途切れた―――― 
311 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/30(火) 23:57:56.18 ID:6tWXdeE0

 同時刻。

 まだ、佐天との連絡は付かない。

 今、初春飾利は、佐天涙子の部屋にいる。

 いつ帰ってきても良いように。


初春「まったくもう! 部屋の鍵を開けっ放しにするなんて無用心なんですから!」


 携帯電話が放置されていた。
 近所に出かけるのなら、そういうこともあるだろう。

 だけど帰ってこない。

 何となく、このまま待っていても一生帰ってこないのだろうと思った。

 時計の針が、カチカチとうるさい。


初春「……どうしたっていうんですか?」


 携帯電話に着信は無い。

 時計がうるさい。


初春「何で……何も言ってくれなかったんですか?」


 その音に急かされて、初春は部屋を飛び出した。
312 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/30(火) 23:59:21.90 ID:6tWXdeE0

 待っていても会えない。
 嫌な、確信めいたものがあった。

初春「……っ! 佐天さん……お願い! 無事でいて!!」

 心の叫びが口に出る。


 気付けば、初春は一七七支部に進入していた。
 ここのPCからなら、学園都市のセキュリティーにだってハッキングできる。

 PCが立ち上がるまでの僅かな時間さえもどかしく、初春は落ち着き無く指を動かした。


初春「佐天さんの行きそうなところはどこ……?」

 頭脳をフル回転させる。
 初春は、決して感の良い人間ではない。

 ただ、世界で一番の親友だと信じている彼女のことなら、誰よりも分かるつもりだった。

初春「夕べから連絡が取れない……なのに今日御坂さんと会っていた?」

 ということは、誘拐ではない。自分の意思で姿を隠したのだ。
 なら、人気のないところを通って移動しているはず。
 まずは人通りの多いエリアを無視して、監視カメラの映像をハッキングする。

 ブラッククロスの出現以降その数は減っているものの、それでも夜遊びを控えない者も多い。
 スキルアウト達の溜まり場にも佐天は寄り付かないはず。
 治安の悪いエリアもカット。

 あとは――――


初春「お願い……ここに居て……!!」


 願いを込めて、エンターキーを叩いた。
313 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 00:01:02.36 ID:OUuqoB20

 雨が降っていた。

 ここは、地盤沈下や建物の老朽化で危険区域とされている廃墟群の真ん中。
 私は雨宿りしようと、古くなった、今にも崩れ落ちそうなビルの軒先にしゃがみ込んだ。

 こう天気が悪いと、ただでさえ憂鬱な気分が余計に滅入る。


 御坂さんは思ったよりも元気そうだった。
 流石は、私の憧れの人。

 白井さんも同じく。
 でも、無茶をさせてしまったのは事実だ。
 二人には感謝してもしきれないな……


 そして、初春……


 「結局、お別れは言えなかったな……」


 アルカールさんからのアドバイスだった。

 会えば別れが辛くなる。
 だから、初春にだけは絶対に会えなかった。

 連絡も、誰よりも早く切った。
 携帯を持つ手が震えた。

 そして着信拒否にしたあとで気付いた。


 「もう、携帯なんか持たないんだから関係ないじゃん」


 最後の最後まで、なんか抜けちゃってるんだよなぁ……
314 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 00:02:13.59 ID:OUuqoB20

 考え事をしていると、バチャバチャという誰かの足音が聞こえてきた。

 こんな時間に、雨の中こんな所を……?

 すぐに動けるように身構えた。
 腰に隠した拳銃に手を添える……


 足音が近づいてきた……


 「…………」


 すぐそこの角まで近づいている。

 ……来る――――!!


 「止まれぇ!!」


 飛び出して銃を突きつけた。
 初めて持つ殺人の道具の重みに、手が震えている。

 このまま撃っても当たらないだろう。

 いや――――

 「……え?」

 撃つ必要は無かったのだから、どうでもいい。


初春「……佐天さん」

佐天「……初……春……?」


 どうして――――?
315 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 00:04:09.48 ID:OUuqoB20

佐天「うわっ!?」


 初春が飛びついてきた。

 暴発しないよう、慌てて銃から手を離す。
 銃は、カラカラと乾いた音を立てて地面を滑った。


初春「佐天さん……良かった……また、会えた……!」

 私の腕の中で、初春が泣いている。
 いや、雨の所為で、どれが涙なのかは分からないのだが。
 全身ずぶ濡れなのは、きっと傘もささずにここまで走ってきたから。


佐天「初春……どうして?」

初春「それはこっちのセリフです!! 何なんですかその拳銃は!? どうしてそんな物を……!?」

佐天「……」

初春「何を……隠してるんですか……?」

佐天「それは――――」


 それは、言えない。


 いや。別に言ってしまっても構わないのだ。
 本来なら、説明してしまったほうが手間が省けるというものだ。

 何故なら、そうすれば記憶を消去されて、この関係も忘れることができるのだから。


 この胸の痛みさえ、消し去ってくれるというのだから……
316 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 00:05:01.75 ID:OUuqoB20

 そのとき――――


 「感動の再会だな」


 闇の中から声が聞こえた。

 二度と聞きたくないと思っていた、地の底から響いてくるような、悪魔のようなその声。


 私を殺した男の声だ。


佐天「……シュウザー!!」


 深い闇の中から、鉛色の両腕をぎらつかせ、二メートルを超える巨体が現れた。
 銀の髪を逆立たせた厳つい大男は、歪で醜悪な笑みを浮かべている。

 ブラッククロス四天王。最後の一人。
 不死身の男。

 シュウザー。


シュウザー「くくく……!! まさか本当に、あのときの小娘がなぁ……!!」


 よくもまぁ……ここまで対照的な再会があるものだ……!
317 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 00:07:12.29 ID:OUuqoB20

初春「ブ、ブラッククロス……!?」

佐天「下がってて初春!!」


 私は初春を庇うように一歩前に出た。

 前とは違う。
 もう、むざむざ殺されたりはしない!!


シュウザー「麗しき友情というわけだな。だが……いかんせんその気持ちは友人には伝わらなかったらしい」

 シュウザーの目が初春に向けられる。

 止めろ……そんな邪な目で初春を見るな……!


初春「さ、佐天さん……? こ、これって……!?」

佐天「――――逃げて初春……! 早く!!」


シュウザー「逃がすものかよ……!!」

 シュウザーが右腕を振りかぶり駆け出した。
 こっちに突っ込んでくる。

 このままでは、初春もろともあの爪で刻み殺される……!?


 背中の熱を思い出す。

 鼻血を噴出して倒れる友の姿を思い出す。


 させるわけにはいかない――――


 どうやら、先延ばしもここまでのようだ。
318 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 00:08:13.79 ID:OUuqoB20

 あの時と同じだ。

 
 戦う手段ならある。

 けど怖かった。

 怖いけど……けど――――


 『一般人に正体を知られた場合は、全ての記憶を消去される』


 でも、『記憶』と、『親友』ならどちらが大切か。


 考えるまでもない。


 世界がスローモーションに見える。

 心臓が燃えているようだ。

 体中を、何か熱いものが駆け巡る。

 握る拳は炎になる。

 踏み出す足は光になる。

 吹き荒ぶ風を額で切り裂き、蒼いマントをなびかせる。

 身を包む紅い鎧は、手探りの闇の中でも鮮烈に輝いていた――!


佐天「変身! アルカイザー!!」
319 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 00:09:08.84 ID:OUuqoB20

佐天『ブライトナックルッ!!』


 光の拳が、シュウザーの斬撃を迎え撃つ。
 以前アルカールによって放たれたブライトナックルは、この男の豪腕に対して互角に渡り合った。

 そして――――


佐天「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 アルカイザー、佐天涙子のブライトナックルは、その一撃を遥かに凌駕する……!


シュウザー「ぬぅおおッ!!?」

 振り下ろされた鋼の爪は木っ端微塵に吹き飛び、鉛色の豪腕をも巻き込んで炸裂した。

シュウザー「ふ……ふはは!! たしかに……! 報告の通りの強さだ!!」

 自身の腕が破壊されたというのに、シュウザーはその事実に驚喜している。


シュウザー「くくく……これだ……これこそが……!」

佐天「……っ!?」


 不気味さを感じ、それ以上の追撃を躊躇ってしまう。
320 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 00:09:42.69 ID:OUuqoB20

初春「――――」


 初春飾利は信じられない光景に言葉を失っていた。


 ようやく、居なくなった親友に会えたと思ったら、突然銃を突きつけられた。


 そのことを問い詰めようと思ったら、今度はブラッククロスの怪人が現れた。


 だから、逃げないといけないと思った。


 けど足が動かず、逃げそこなった。


 怪人が迫ってくる。死ぬと思った。


 そうしたら、目の前の親友が、紅いヒーローに変身していた。



 これは『夢』?



 それとも、『悪い夢』?

321 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 00:10:38.80 ID:OUuqoB20

佐天「シュウザー……! 私の友達には、指一本触れさせない!!」

シュウザー「……くっ、くくくかかかかかか!!! そうだ! それでいいのだアルカイザーよ!!」

 嫌らしい笑みを浮かべ、シュウザーはビルの上へ飛び上がった。

シュウザー「追って来い!! 決着をつけよう!!」


 逃がさない……!

 アイツだけは放ってはおけない! 絶対に!!


初春「佐天さん!!」


 ふいに、背後から声をかけられた。

 この姿のときに本名を呼ばれて、頭が冷えていく感覚を覚える。


佐天「ごめんね……初春。今まで黙ってて……」

初春「行かないで……」

佐天「もう、行かないと」

初春「何で、佐天さんが……?」

佐天「……」


初春「行かないで……佐天さん……」


 残念だけど。
 その願いは聞けない。
322 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 00:11:05.14 ID:OUuqoB20


 もう終わったから。


 佐天涙子は。


佐天「初春」

初春「……」


 今日。


 死んだ。



佐天「バイバイ、初春。貴女に会えて、本当に、本当に良かった……」



 落ちこぼれのヒーローは、日常を捨てた。
323 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 00:11:49.85 ID:OUuqoB20

 【次回予告】

 雨の夜! 再びまみえる佐天とシュウザー!!

 青い血の少女・鈴科百合子は一体何者なのか?

 暗躍するブラッククロスの黒い影!

 そして、佐天を襲う新たな絶望とは!?


 次回! 第十話!! 【再来! ブラッククロス四天王!!】

 ご期待ください!!
324 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/01(水) 00:16:19.78 ID:OUuqoB20

はい、ということで第九話、一週間ぶりの更新になりました。

第二部はシュウザー編ということで、ゲームのイメージどおり、常に夜のシーンになります。
日常ほのぼのシーンがしばらく書けそうにないのが残念です。

あと、友人から「補足が語り入ってきててウザイ」という指摘があったので、少し控えめにします。

第十話の更新は明日できると思いますので、またしばらくの間よろしくお願いいたします。

 【補足】

 ・鈴科百合子について。
  一方通行では無いです。名前だけ貰いました。
  ちなみに、実際には人間はアルビノでもウサギのように目が赤くはならないそうです。
  なので血が青かろうが目が青くなることはないのですが、演出でそうしています。
325 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 00:22:31.55 ID:ZzN3LUU0
投下乙
佐天さんマジイケメンww
326 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 00:26:15.29 ID:5u7.RwAO
乙ん。
冒頭の怪談で噴いたww
うん、初めてあのイベント見たときは怖かったよww
327 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 00:28:52.79 ID:.3BKwwAO
乙、怒涛の展開だな
ナイトメア幻術だよな、零姫じゃなさそうだし何なんだいったい?
明日の続きに期待
328 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 00:47:09.83 ID:Slsijzko
乙!

アルビノは色素が先天的に少量しか、あるいは全く作られないから、白人にあるような青い色になる事もあるし、血液の色そのまま赤ってこともある。
さらに言うと、部分的に色素がつかないこともあるらしいから、眼だけ赤とか、毛だけ白、他は普通、なんてこともあるとか。
329 : ◆S7msF7zQV2 [sage]:2010/12/01(水) 02:14:33.69 ID:OUuqoB20
>>328
補足ありがとうございます。
実在する病気のため、悪役として登場させるなどしてしまい、不快になる方もいるかもしれません。
できるだけ誤解を招かないように書きたかったのですが、個人差によって色々症状が違うようですね。
鈴科に関しては、「目が血の色をしている=本来赤いところが青くなっている」という
単純な構図のため、こういう簡単な説明になりました。
間違った知識を書いてしまっていたらすみません。
330 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/01(水) 23:30:11.38 ID:OUuqoB20
こんばんわ。第十話の投下を始めます。

確認を兼ねてレッド編を再プレイしているのですが、色々忘れてる部分も多いようで……
331 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/01(水) 23:31:30.50 ID:OUuqoB20

 青い馬が追ってくる……


 白い髪の女を乗せた、青い馬が……


 ……い……


 女の首が転がってくる……


 ……い! ……さか……


 肉の無い、ドクロが笑って……青い……血が……


 ……おい! ……御坂! ……!


 馬が……女が……青い血……ドクロ……


 おい! 起きろ御坂!! いつまで寝ているつもりだ!!


 …………

 ……


 その声に目を覚ました。
 仰向けになった自分の顔を、妙齢の女性が覗き込んでいる。


美琴「寮監……ここは?」

寮監「……少しばかり散らかっているがお前の部屋だ。馬鹿者」


 【第十話・再来! ブラッククロス四天王!!】
332 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/01(水) 23:32:54.68 ID:OUuqoB20

 上体を起こし、頭を振る。
 まるで、一日ベッドの中で寝て過ごしたときのように頭が痛い。


 部屋の中を見回す。

 時計によると、あれから三十分も経っていないようだ。

 ベッドのシーツは焼け焦げ、机やらの家具は吹き飛ばされてシッチャカメッチャカだ。
 窓側の壁に大きな穴が開いて、外から雨が吹き込んでいる。

美琴「……やりすぎたかな?」

寮監「やはり貴様の仕業か……まったく」


 記憶を辿る。

 あの時、鈴科百合子から人外の気配を感じ取った。
 今まで何度も相対してきたブラッククロスの怪人達、そして――――

 あの得体のしれない『馬』。

 あれを見たとたん、意識が消えそうになって、とっさに電撃を放った。

 それで意識を保てなくても、相打ちにできるかもしれない。
 もしそれさえ叶わなくても、この異変を誰かに知らせることができる。


美琴「……! 寮監! 鈴科は!?」

寮監「やはり鈴科か……」

 寮監は眼鏡の位置を直し、横目に壁の方を見た。
 いや、正確には壁ではなく、そこに開いた大穴の外の景色を。

美琴「逃げられたか……」

寮監「どうかな?」

美琴「え?」


寮監「御坂美琴。貴様、ここをどこだと思っているのだ?」
333 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/01(水) 23:35:01.00 ID:OUuqoB20

 土砂降りの雨の中を、白い影が駆けていた。
 ビルからビルへ飛び移っていく。およそ、人間の運動能力を凌駕していた。

 髪も肌も真っ白な少女。
 全身から流れているのは人ならざるものの証。青い血しぶき。

 美琴を襲った謎の転入生。
 鈴科百合子だ。


鈴科「……っくそ! あのガキ何てことをするのよ!?」

 鈴科は、美琴からの予想外の反撃に手傷を負い、ほうほうの体で逃げ出した。

 本来なら、そのまま美琴を連れて学生寮を脱走。
 待ち合わせた仲間と合流する予定だった。

 それが、美琴の拉致どころかいまや――――


鈴科「……!?」

 空中に飛び出した鈴科の左側から、巨大な物体が高速で吹き飛んできた。
 それは、ビルの屋上に設置されている貯水タンク。

 悪天候とはいえ、この程度の雨風で飛ばされるものではない。


鈴科「このっ!!」

 突然のことに驚いた鈴科は、左掌をかざし電撃を放った。
 貯水タンクは爆散し、内包した水を辺りに撒き散らした。

 その反動を利用して、すぐそばのビルの屋上に着地する。


 「おーっほっほっほっほ!!」


 向かいの屋上から、甲高い声が響いた。
334 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/01(水) 23:39:46.06 ID:OUuqoB20

 声の主らしき少女は、扇子を開き口元を隠した。
 トレードマークの長い黒髪が雨風に揺られ、街の明かりにキラキラと照らし出されている。


 「そんな様で逃げおおせようだなんて……この私を常盤台の婚后光子と知っての狼藉ですの?」


 鈴科は、美琴の部屋から逃げ出してすぐに、常盤台の生徒たちによって捕捉されてしまった。

 彼女の失敗は、御坂美琴をただの一個人と侮ったこと。
 「常盤台の超電磁砲」の異名の通り、御坂美琴は――――


婚后「泡浮さん! 湾内さん!」


 掛け声ののちに、鈴科の背後の物陰から、二人の少女が現れる。
 そうして、三人が鈴科を逃がさない様に取り囲んだ。

 泡浮万彬(あわつき まあや)と湾内絹保(わんない きぬほ)。
 そして婚后光子(こんごうみつこ)の三人は常盤台中学に通う、美琴とも交友のある少女たちだ。

 当然、常盤台中学の生徒ということは三人とも能力者。
 泡浮と湾内はレベル3の水流操作『ハイドロハンド』。
 そして婚后はレベル4の空力使い『エアロハンド』。


湾内「この雨なら……!」

泡浮「ええ! 私たちの独壇場です!!」


 本来、婚后たちは美琴とは別の寮に住んでいる。
 それがこの騒ぎを聞き、急いで駆けつけたのだ。

 彼女達だけではない。
 常盤台中学の多くの生徒たちが、「御坂美琴が何者かに襲われた」という話を聞きつけ動き出した。

 そう、御坂美琴は、常盤台中学の多くの生徒から慕われている。
 彼女たちが、日々派閥を作って争っているような関係であっても、それは変わらない。
 そんな枠に収まりきらないのが、レベル5の第三位・御坂美琴という人間だ。
 その大スターを相手にした時点で、それは常盤台中学全体を敵に回したのと変わらないのだ。
335 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/01(水) 23:43:22.27 ID:OUuqoB20

鈴科「ちぃっ……!!」


 鈴科は慌てて逃げ出そうと踵を返す。

 しかし――――

鈴科「何!? これは……水が!!?」

 鈴科の足が、水溜りに拘束されて動かなかった。

 泡浮と湾内、二人の水流操作能力者によって操られた雨水が、鈴科を取り囲むように渦巻いた。
 降り注ぐ雨を演算に含むことは難しいが、ビルの屋上にできた大量の水溜りなら自在に操れる。

湾内「動きを止めます!」

 湾内が手をかざすと、水の流れは鈴科の手足にまとわり付き、その動きを封じた。

泡浮「これで……!」

 泡浮の操る水流は鈴科の顔を覆い、呼吸を止めた。

 そして――――

婚后「お安心なさい。丘の上で溺死だなんて惨めな死に方はさせませんわ」

 婚后が、屋上に並べられていたコンテナの一つに触れた。
 そうして物体に噴射点を作り出し、そこから空気を噴出させることでミサイルのように物を飛ばす。
 「トンデモ発射場ガール」の異名を持つ婚后光子の得意技。



 三連携――『ハイドロハイドロガール』



 真正面から鉄製のコンテナを叩きつけられ、鈴科は悲鳴をあげる暇もなく瓦礫に沈んだ。


婚后「怪人相手に手加減はしませんことよ! 御坂さんの弔い合戦ですもの!!」

湾内「と、弔い!?」

泡浮「み、御坂様は、別に亡くなってはいませんよね……!?」
336 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 23:45:21.68 ID:.3BKwwAO
おぉ流石は力でホワイトハウスを制圧出来る中学生物騒だなwwww
337 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 23:47:34.07 ID:OUuqoB20

婚后「ともかく! これでこの怪人は一歩も動けませんわ!!」

湾内「……と、いうか……これ、死んでしまってませんか……?」

婚后「それならそれもまた良しですわ! 当然の報いです!」

 そう言って、婚后は能力を使い体を浮かすと、湾内たちのいるビルへ渡った。

 三人は鈴科の埋まった残骸に近寄る。
 ひしゃげたコンテナが、コンクリートの屋上に突き刺さっている。

 人間なら即死。
 怪人でも、ただではすまないはずだ。


泡浮「今警備員に連絡をいれました。すぐに来てくれるそうです」

婚后「そう。お疲れ様でした。泡浮さんも湾内さんも、もう寮に戻っても宜しくてよ」

湾内「婚后さんはどうなさるんですか?」

婚后「私はこの騒ぎの顛末を見届けますわ。この方のおかげで、この私が濡れ鼠になったのですから」



 いいえ……三人とも帰ることは出来ないわ……



婚后「!?」

 湾内と泡浮の顔から血の気が引いた。
 コンテナに背を向けていた婚后が、二人の顔を見て振り返ると――――


 『ブレードネットッ!!!』


 コンテナに幾筋もの閃光が疾り、「鉄の輪切り」になった。
 その下から、すっかり青く染まった白い少女が立ち上がる。


鈴科「……クッ! クキキャキャキャキャキャ!! これっぽっちで殺したつもりだったの……?」


 その背中から、黒く、長く、禍々しい蜘蛛の足が伸びている。


鈴科「このブラッククロス四天王……妖魔アラクーネをっ!!!」
338 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 23:51:10.02 ID:OUuqoB20

 同時刻。学園都市第七学区、廃墟群上空。

 鮮烈な、紅い光が空を駆けた。


佐天『シャイニングキック!!!』


 アルカイザーとなった佐天涙子は、仇敵を貫こうと死力を尽くす。
 その仇敵、シュウザーはシャイニングキックを受け止めようと鉛色の左腕を突き出した。


 無駄だ!

 ブライトナックルでも破壊できた程度の強度なら、その数段上の威力を持つシャイニングキックを防げるはずが無い。

佐天「ここまでだ! シュウザぁあああ!!!」


 しかし――――


佐天「……!? 腕の先が……無い!!?」

 シュウザーの左腕は、ひじの部分までしか存在しなかった。
 その二の腕は筒状になっており、大砲のような勢いで火炎が放射された。

 火炎自体は、炎に耐性のあるアルカイザーにはそれほどの脅威ではない。
 だが、逆方向からの衝撃にシャイニングキックの勢いが殺された。

シュウザー「技は何度も見せるものではない!!」

 勢いの衰えたキックを、シュウザーが肩のアーマーで受ける。
 衝撃は分散され、装甲を貫くことは出来なかった。

シュウザー「奥の手とは、隠し続け、最高のタイミングで使うものだ!!」

佐天「っ!?」

 背後から、何かが勢いよく迫って来る。

 それは、いつの間にか無くなっていた、シュウザーの左腕だった――!
339 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 23:52:53.23 ID:OUuqoB20

佐天「……づッ!!?」

 間一髪。
 強引に身を捻り、飛来した爪に貫かれるのを回避した。

 しかし完全にかわすことは出来ず、佐天の背には三本線の深い傷が刻まれていた。


佐天「……ハァ……ハァ……!」


 背に感じる熱が、あの死の恐怖を呼び覚ました。
 命が終わろうとする絶望感。

 あんなものを、大切な友人達に味わわせるわけにはいかない……!


シュウザー「どうしたアルカイザー? 息切れか?」

佐天「……うるさい!」

シュウザー「くっく! 所詮は小娘だ……無理をするなよ?」

佐天「うるさい!!」


 何故この男はこうも人の神経を逆撫ですのか……!

 いや、そもそも、いまの私は気が立っている。
 こうなることを避けるために、私は姿を隠すはずだったのに……!


佐天「初春…………!」


 どうして私を探したりしたの?
 私なんか放っておけば良かったのに。

 私が姿を消せば、これは私個人の問題でしかなかった。
 少なくとも、そうなる可能性は十分にあったはずだ。
340 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 23:55:55.66 ID:OUuqoB20

 それは数日前のこと。
 夜道を歩く佐天の前に、アルカールが現れた。


佐天『いつもいつも突然ですね』

アルカール『すまないと思っているさ。これでも忙しい身でね』

佐天『四天王。三人まで倒しましたよ』


 それは嫌味であり、ちょっとした期待だった。

 ひょっとしたら、褒めてもらえるかもしれない。
 この人は、厳しそうに見えてその実、本当に甘い人なのだ。

 だが、その想像はアッサリと打ち破られる。

 彼は、衝撃的で絶望的な事実を佐天に突きつけるため、ここに現れたのだ。


アルカール『姿を隠せ。アルカイザー』


佐天『……え?』

アルカール『君の正体がばれた。ブラッククロスは、変身前の君個人を敵視している』


 メタルブラックに知られた素性。
 彼を倒した時点でその心配は無くなったものだと思っていたのだ。


アルカール『それに、四天王はいまだ健在だ。誰一人欠けることなくな』

佐天『そんな……!? どうして!!?』

アルカール『今はそのことよりも、君は自分と、自分の周囲を心配しなければならない』


 アルカイザーは、いまやブラッククロス最大の障害だ。
 それゆえに、その正体がただの小娘だとわかれば彼らは容赦なくその周囲を巻き込もうとする。

 拉致され、人質になるか、拷問されるか……
 それ以上のことも容易に想像できる。

 特に、あの男はそういったことを率先して行うサディストだ――――
341 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 23:58:25.92 ID:OUuqoB20

佐天「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 雲の切れ間から差し込む僅かな月明かりに照らし出された廃ビルの屋上。
 佐天は気合の咆哮と共に駆け出した。

 右拳が光り輝いた。
 心臓から生まれた熱いエネルギーが、佐天の全身を駆け巡る。
 彼女の体に触れた雨粒が、蒸発して湯気になり宙に消えた。


シュウザー『クロービット!!!』


 シュウザーの体を離れ、追尾ミサイルのように飛び回る左腕が佐天を襲う。
 視界に捕らえたそれをかわすが、攻撃のタイミングは失ってしまう。

 上下左右。
 360度全方位どこから飛んでくるか分からないその攻撃に、佐天は思うように動くことが出来ない。

 とはいえシュウザーの攻撃によって致命傷を受けることも無い。
 ただひたすら、お互いに距離をとりつつチャンスを伺いながら、屋上から屋上へ移動する。

 気付けば、もう随分長いことそうしていた。


佐天「シュウザー! まともに戦う気がないの!?」

シュウザー「メタルブラックでさえ貴様を倒すことは出来なかった!」

 飛び回っていた左腕が、主の下に帰ってきた。
 あるべき位置に戻った鋼の爪が、チャキチャキと耳障りな金属音を鳴らす。

シュウザー「そんな相手と、正面切って戦うというのは俺の流儀に反するな……」

佐天「女の子相手に、後ろからしか斬りかかれないのがアンタの流儀?」

シュウザー「くっくっく! 良く分かっているじゃないか! だが――――」



シュウザー「自分のしでかした『ミス』は、分かっていなかったらしいなぁ?」
342 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/02(木) 00:01:46.06 ID:pOZ.Nqk0

 コンテナを破壊し、鈴科百合子は立ち上がった。

 だが、その姿はおぞましく変貌し、彼女の本性を白日の下にさらけ出した。


婚后「四天王……?」


 ブラッククロス四天王・妖魔アラクーネ。
 彼女はそう名乗った。


鈴科「こんなに短期間で体を交換するのは久しぶりだわ……クキャッ!」

 鈴科の体はすでに動ける状態ではない。
 腕は捻じ曲がり、額が割れ、止め処なく青い血が噴出している。

 その姿に、自分達がやったとはいえ、婚后たち三人は同情さえ覚えた。


 だが、鈴科百合子は歩みを進める。
 頬まで裂け上がった口を歪ませるように笑い、婚后らが怯えているのを楽しむように。

婚后「と、止まりなさい! それ以上近づけば……こ、今度こそ容赦なく――――」

鈴科「ケキャキャ! 意地を張るのはお止めなさいな……みっともなくってよ?」

 茶化すように言い、鈴科は背中から伸びた黒い足を婚后たちに向ける。

鈴科「震えているじゃない……可愛い子。そういう素直な態度の方が好きよ?」


 一歩、また一歩とにじり寄り、黒い足を振り上げ――――

鈴科「素直になるように、三人とも……手足を斬ってしまいましょう……!!」

 その鋭い爪を振り下ろそうとした――――



 「体罰はPTAに通報されちゃうからお勧めしないじゃん!!」
343 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/02(木) 00:03:12.47 ID:pOZ.Nqk0

 突如現れた、武装した女は鈴科に目掛けて引き金を引いた。
 彼女の機関銃から放たれた弾丸が、鈴科の体を削り取りながら、数メートル吹き飛ばした。

 その正体は、特徴的な口調の警備員。
 黄泉川愛穂。

黄泉川「通報を受けて最速で駆けつけたじゃん。なんせ、『足』は空間移動じゃん!」


 「ジャッジメントですの!」


 いつもの決め台詞を言い放ち、白井黒子もまた、この騒ぎに駆けつけた。

黒子「本調子で無いと言っても。人二人を送り届けるくらいは朝飯前ですの」

 そう、黒子が届けたのは二人。
 一人は黄泉川。そしてもう一人は――――


 「今夜はいい天気ね……」


 厚く黒い雲が、雷鳴を轟かせる。
 まるで、自分達の主を出迎えるように。


 「これだけ水気があれば……それはもう良く通るんでしょうよ!!!」


 雷の主は、その全身から高圧の電流を解き放った。
 呼応するように、天空から落雷が迫る。

 全身をずぶ濡れにした鈴科の体は、その電撃の槍に抵抗する術もなく貫かれた。


 「借りは返すわ。蜘蛛女!」


 鈴科百合子。否、アラクーネの最大の失敗。
 それはやはり、「御坂美琴」を敵に回したことだった。
344 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/02(木) 00:04:22.04 ID:pOZ.Nqk0

美琴「しっかし……本当に往生際の悪い奴ね」

 それを見た美琴は、呆れを通り越して感心していた。

黄泉川「まったくじゃん。何であれで意識があるじゃん?」


 落雷の直撃を受けたというのに、アラクーネはまだ意識を保っていた。

 とはいえ、その体はもう使い物にならないだろう。
 全身が焼け焦げ、おそらく神経も筋肉も焼き切れている。

 その上、湾内、泡浮の能力によって再び拘束されているのだ。

 もはや、抵抗は叶わない。


美琴「それじゃあ聞かせてもらおうかしら。あんたは、本当にあのアラクーネなのね?」


 キャンベルカンパニーの社長。シンディ・キャンベルとして美琴たちの前に姿を現した怪人。
 ブラッククロス四天王の一人。妖魔アラクーネ。

 彼女はたしかにあの日、あの場所でアルカイザーの光の弾丸によって撃ち殺された。

 それが、今度は常盤台の生徒として、学生寮にまで住み着いていた。


黄泉川「私からも聞きたいじゃん。お前は、シンディ・キャンベルと同一人物なのか?」


 鈴科はニヤニヤと笑っている。
 だが、もう自分に選択権がないことは悟っているのだろう。
 やがて嘲るように笑いながらも答え始めた。


鈴科「ええ、そうよ。私はシンディ・キャンベルであり鈴科百合子であり、そしてアラクーネでもある」
345 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/02(木) 00:06:47.19 ID:pOZ.Nqk0

黄泉川「ブラッククロスはいつから学園都市で活動している?」

鈴科「ず〜っと前からよ」

黄泉川「ふざけるな。お前個人がブラッククロスと繋がっていたのか? それとも会社ごとか?」

鈴科「……どこまで調べたのかしら?」


 黄泉川は、鈴科の額に銃口を突きつけたまま語りだした。


黄泉川「まず、例の巨人のパーツ。あれ自体に大した技術は使われてないじゃん」

黄泉川「重要だったのは、おそらくあれの原材料の方。『能力者の協力を得て作られた特殊合金』……!」

 調査してみたところ。キャンベルカンパニーにとって、ロボット技術は末端の事業でしかなかった。
 ブラッククロスの怪人はどいつもこいつも、精密機械の塊みたいな連中だ。
 それなのに、その一味であるキャンベルの会社では、それが重要視されていなかった。
 資金集めとして企業を利用するなら、その技術の一部を売り出すだけで大儲けできただろうに。

 初めは隠れ蓑かと思ったが、それならまったくの無関係を装ったほうが良い。
 わざわざ、わずかな儲けしか得られないような事業展開をする必要は無い。

 あの「合金」も、数年前には開発が始まっていたものの、「利益が見込めない」という理由で
 計画自体が凍結されている。

 それが数ヶ月前に突然再会。一気に開発が進められた……!

 潤沢な資金を当てられ、キャンベルカンパニーという大企業が持つコネクションをフルに活用。
 ついに、高位の能力者の協力を得ることに成功。
 出来上がった合金を加工して、「何かの試作品」を作るところまで漕ぎ着けていた。

 何故だ?

 どうして突然、キャンベル社長はそんな心変わりを?
 もしキャンベルが初めからブラッククロスの関係者なら、もっと早い段階で、もっと上手い方法を取れたはずだ。

黄泉川「そこで……こういう仮説を立ててみた」


 鈴科はその様子をニヤニヤと楽しそうに眺めている。
 その顔が癇に障ったのか、黄泉川は逆に不機嫌そうに眉を顰めた。


黄泉川「お前。シンディ・キャンベルとも鈴科百合子とも、入れ替わったじゃん?」


鈴科「……ふふ……まあ、及第点かしら」
346 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/02(木) 00:09:17.49 ID:pOZ.Nqk0

黄泉川「そうか……合金の存在を知って、それを入手するために社長の座を奪ったのか……」

美琴「待って! 入れ替わったって言うのなら、二人はどうなったの!?」

鈴科「目の前にいるでしょ?」

美琴「……ふざけてると、後悔するわよ?」


 美琴の体が帯電する。

 うっかり感電しないように、黒子たちは身を引いた。


鈴科「だから……この体がまさしく正真正銘の鈴科百合子よ」

黄泉川「……やっぱりか」

美琴「それって……まさか!?」


アラクーネ「体を貰ったのよ。外側だけだけどね。……中身はぶっ壊しちゃったから」


美琴「お前ぇええええええええええ!!!」

 美琴から電流が放たれ、鈴科の体がのたうつ。
 が、それを意に介さずアラクーネは嗤っている。

黒子「お止めになってくださいましお姉さま!!」

美琴「けど……!?」

黒子「気持ちは分かりますの! けど! それは鈴科百合子さんの体ですのよ!?」

美琴「……っ!!」


 美琴の電撃が止み、みな沈黙した。
 雨の中に響くのは、アラクーネの耳障りな笑い声だけだった。
347 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/02(木) 00:09:36.91 ID:.J2SEQAO
四天王復活か
そういえば幻術は零姫の専売特許じゃなかったな
348 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/02(木) 00:11:22.85 ID:pOZ.Nqk0

黄泉川「なら、シンディ・キャンベルも、もう……?」

アラクーネ「そうよ。居心地のいい体だったわ。燃え尽きちゃったから抜け出したけど……」

黄泉川「……目的は、能力を利用した物質の入手で間違いないじゃん?」

アラクーネ「ええ。私たちが学園都市にいる理由は『能力』の存在だけだもの」

黄泉川「なるほど。誘拐する能力者がレベル3以上なのも、手っ取り早く能力を手に入れるためじゃん」

アラクーネ「そう。それ以外の科学技術なんていらないわ。私達からしたら、こんなの石器時代みたいなものよ」


 それはつまり。
 「ブラッククロスの科学技術は学園都市のそれを凌駕している」ということか……?

 この世界のどこに、そんな組織があったというのか……


アラクーネ「おもしろいわねぇ、超能力。この体で少し試したけど、『術』とも違うようだし……」

美琴「術……あの馬のこと……?」

アラクーネ「失われた『幻術』使いとこんな形で会えるなんてね」

 「幻術使い『イリュージョニスト』」。
 確かに、それは学園都市で確認されている能力の一つだ。

 おそらく、鈴科百合子の本来の能力。

 だが、失われたとはどういうことか?

アラクーネ「と言っても、所詮はまやかしね。本物の術には程遠かったわ」
349 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/02(木) 00:14:04.36 ID:pOZ.Nqk0

美琴「『術』ってのは何? それに、どうやって体を入れ替えたの?」

 もし、脳移植なんて方法なら、自分だけの現実『パーソナルリアリティ』まで入れ替えることになる。
 ということは、そんな単純な方法ではない……


アラクーネ「そうね。じゃあちょっとお見せしようかしら」

美琴「……!?」


 空気が変わる――

 肌が粟立つような、気味の悪い風が、鈴科百合子の体を中心に吹き上がった。



アラクーネ『邪霊憑依ッ!!!』



 その掛け声と共に、鈴科の体から、巨大な半透明の蜘蛛が抜け出してくる。
 あの幻の馬と同じ。この世ならざる者の気配。

 おそらく、これがアラクーネの本体……!

黄泉川「これは……!?」

婚后「ゆ、幽霊……?」


アラクーネ『その体! もらったぁ!!』

美琴「う、うわぁぁ!!?」

 蜘蛛が飛び掛り、美琴の体に入り込んできた。

 意識が混濁する……

美琴「う……うあ……あ!?」

黒子「お姉さま!?」

 美琴は膝をつき、頭を抱え苦しみ出した……!
350 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/02(木) 00:16:30.24 ID:pOZ.Nqk0

 くくく……クキキャキャキャキャ!!!

 やったぞ! ついに! レベル5の体を手に入れた!!

 これで……能力の解析も一気に進む……!!

 我々ブラッククロスの悲願も近い!!

 シュウザーの奴め! 調子に乗って私をアゴで使ったりするから足元をすくわれる!!

 四天王のトップに立つのは私だ!!!


 …………


 ? 何だ?


 ………………へぇ?


 !? 貴様!? 何故……!!?


 なるほどね……こうやって心の中に入り込んで、内側から乗っ取っていたわけだ……

 信じられないけど。これが『術』って奴?


 や、止めろ!! 逆流する!!?


 これっぽっちのちっぽけな意識で……この私の――――

 レベル5の『パーソナルリアリティ』に勝てると思ってんの!!!!?


 やめ……! やめろ……!! 消える……消え…………っ!!!??


 人間の心を、舐めてんじゃないわよぉぉぉ!!!!!!


 ―――――――

 ――――

 ――
351 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/02(木) 00:18:14.13 ID:pOZ.Nqk0

アラクーネ『ぎゃあああああああああああああああ!!!??』

美琴「うあああああああああああ!!!!!」


 悲鳴と共に、美琴の体から半透明の蜘蛛が飛び出してきた。

 無防備に跳ね上がった蜘蛛は、床に叩き付けられると、足をバタバタさせてもがき出した。
 その体がボロボロと崩れていく……


アラクーネ『馬鹿な……馬鹿な……!? 私が消滅する!?』

美琴「また私の勝ちみたいね……蜘蛛女!」

アラクーネ『嘘だ……上級妖魔でもない人間に!? 私が消滅させられるなんて……!!?』

 蜘蛛はしばらく苦しむようにもがいた。
 そして、やがて動かなくなる。

アラクーネ『……くく……クキャキャキャ……!』

美琴「可哀想だとは思わないわよ……あんたがやってきたことを考えたらね……!」

アラクーネ『そうね……報いだわ…………じゃあ、最期に罪滅ぼしでもしようかしら?』

 蜘蛛は、半分以上その体を消滅させながらも、余裕を取り戻したように語った。

アラクーネ『私の本来の目的はね……貴女を、御坂美琴を足止めすること』

美琴「私を?」

アラクーネ『そうよ……今頃、別の場所でアルカイザーを倒すための作戦が進んでいるわ……』

美琴「!!?」

アラクーネ『間に合うかしら……お友達が、まだ無事だといいわね?』


 そして、蜘蛛は甲高い笑い声を上げながら、完全に消滅した……
352 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/02(木) 00:22:14.67 ID:pOZ.Nqk0

 土砂降りの雨の中……
 アルカイザーこと、佐天涙子は立ち尽くしていた。

佐天「……」

 シュウザーは逃げた。
 突如現れたヘリに取り付き、そのまま逃げおおせた。

 そのさい、佐天に向かって一枚のデータチップを投げてよこした。


シュウザー『その中に、我が城の位置情報が入っている。来たければ来るがいい』


 シュウザーからの呼び出し。
 行く必要がある。


 絶対に。


 シュウザーは、確かに言ったのだ。


シュウザー『いま、別の場所ではアラクーネとメタルブラックが動いている』


シュウザー『貴様のおかげだよ。いまや俺は四天王のトップだ。いいコマが出来て作戦もスムーズだ』


シュウザー『貴様が俺を追っている間にな、コマに命じて拉致させた……!』




シュウザー『初春飾利をな……!!!』



 落ちこぼれのヒーローは、友達を守ることさえ出来なかった。
353 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/02(木) 00:23:16.54 ID:pOZ.Nqk0

 【次回予告】

 すべてはアルカイザーを倒すため!!

 蘇ったメタルブラックは、その手を悪に染めたのか!?

 覚悟を決めろ! 友のために!!

 再会したアルカイザーと美琴は、初春の為に再び手を組む!!


 次回! 第十一話!! 【激震! シュウザー城の戦い!!】!!

 ご期待ください!!
354 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/02(木) 00:26:49.94 ID:pOZ.Nqk0

と、いうわけで第十話でした。

書き溜めが万全でないため、明日は休みます。


 【補足】

 ・邪霊憑依について。
  原作では、霊を相手にぶつけて攻撃する術です。
  なお、原作では完全にアラクーネ=キャンベルです。取り付かれていたわけではありません。

 ・ナイトメアについて。
  失われた術系統、幻術の一つです。
  原作ではアラクーネも普通に使うことが出来ますが、このSSでは鈴科の能力を利用して使用しています。
  禁書に登場する能力の一覧に「幻術使い」があったので絡ませてみました。

 ・妖魔について。
  「人間」「妖魔」「モンスター」「メカ」が、サガフロに登場する種族です。
  妖魔は不老不死ですが、自分よりも上級の妖魔によってのみ消滅させられます。

 ・以前の補足でのミスについて。
  調べたところ、会社はキャンベル貿易という貿易会社だそうです。
  キャンベル自身の名前についても「シンディ」が名前だということを完全に忘れていました。
  ミスに関しては気付きしだい訂正と謝罪をさせていただきます。すみません。
355 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/02(木) 00:32:45.76 ID:.J2SEQAO
乙、原作で心理掌握出てたら掌握が良いところかっさらうのも有りな展開だったな
356 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/02(木) 00:43:44.16 ID:VLR8FmMo
なんかヒーロー物としての熱い王道展開って感じがして面白いなぁ
サガフロの方の知識がないから、元ネタがそうなのかもしれないけどww
357 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/02(木) 22:28:29.37 ID:kM2M09U0

原作知らないから補足見る度にそんなに
変えて大丈夫なの?って思う俺
358 : ◆S7msF7zQV2 [sage]:2010/12/02(木) 23:53:20.23 ID:pOZ.Nqko
現状の報告を……
とりあえずこれからしばらくは隔日更新になりそうです

>>357
どうなんでしょう?
正直、自分でもちょっとやり過ぎてるとは思ってたんですが……
アニメ化したりコミカライズしたりとかで、たまに設定弄られまくってる奴あるじゃないですか?
僕は昔からそういう「無茶苦茶な改変」は大好きなんです
(ただの人気取りに走って原作ファンを無視した物は論外ですが……)
それでもやっぱり、原作ファンの方からすると不快だったりするでしょうが……
正直、僕自身はこの設定弄り自体をけっこう楽しんでやっているので、これからも続けると思います

SSは書くほうも読むほうも楽しむのが一番だと思いますが、読んでいてむかついたなら「ふざけんな馬鹿野郎」と吐き捨てるのも
また自由だと思っています
もちろんそれが原因でスレ自体が荒れるようなら問題ですが、僕自身はSSへの批評はどんなものでも大切に受け止めさせて頂きます
今後のための勉強にもなりますから
359 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/03(金) 12:06:13.73 ID:WWzQ7nMo
幸いにもサガフロの方を知らない自分はお話的に面白い演出だと思う程度で
何がどう改変されてるのかさっぱりだから普通に楽しめてるなww
超電磁砲側の設定はあんまし意識して読んでないから分からないけど
もしそっちの改変があっても今のところ引っ掛かる所は無いと思うですはい

強いて言えば思い入れのあるキャラが痛めつけられる描写が妙に丁寧で時々胸が痛い程度だけど
それもその後のカタルシスを高めているので止めて欲しいとまでは思わないなww
360 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/03(金) 23:28:44.84 ID:LR086G.o
初めてJane使ってみてるんだが……
大丈夫かな?

第十一話の投下を始めます。

>>359
暴力はちゃんと書くのがポリシーです
カッコいいだけの戦闘とか嘘くさいもの
361 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 23:30:23.54 ID:LR086G.o

初春「こ、こないで……!」

 初春は地面に落ちた銃を拾い上げた。
 佐天涙子が残していった、アグニSSPという小さな拳銃だ。

 それを、眼前に迫る黒い影に向けて構える。

 そんな豆鉄砲がこの相手に通じるだろうか?
 おそらく、あの黒い装甲には傷一つ付かないだろう。

 それでも、そのくらいしか初春にできることはない。

 御坂美琴に電話をかけたがつながらなかった。

 人通りなどまったくない廃墟群の真ん中だ。
 他の助けには期待できない。


 重い金属音を鳴らし、影が迫る。


初春「……っ!」

 意を決し、拳銃の引き金を引いた。
 一発目、ニ発目を外し、三発目は装甲に弾かれてどこかへ跳ね返った。

 恐怖に固まる初春へ、影がその厳つい手を伸ばした。


メタルブラック『好きなだけ恨め。お前にはその権利がある……涙子』


 メタルブラックはもはや鋼の侍では無い。
 巨大な黒いボディは、まさしく「破壊兵器」と呼ばれるものだった。


 【第十一話・激震! シュウザー城の戦い!!】
362 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 23:32:30.87 ID:LR086G.o

黄泉川「探せ探せー! どっかその辺にアルカイザーの奴が転がってるはずじゃん!!」

鉄装「よ、黄泉川先生!? まだそうと決まったワケじゃないですよぉ!!?」


 警備員たちによるアルカイザー捜索は続いていた。

 アラクーネは言った。
 「アルカイザーを倒すための計画が進んでいる」

 その言葉が事実なら、今こうしている間にも、彼女の身に危険が迫っているかもしれない。


美琴「あいつめ……勝手に死んだりしたら許さないわよ」

 美琴は警備員の車両の中で休んでいた。
 雨で濡れた髪と体をタオルで拭い、水を吸って重たくなったセーターを脱いだ。

 黒子や婚后たちは先に帰した。
 黒子はまだ傷が癒えきっていないし、婚后たちの体力は限界だっただろう。


美琴「絶対もう一度会ってやるって決めてるんだから……!」

 地下基地での戦いを思い出す。

 崩れ落ちる基地の中、美琴たちを逃がし一人残されたアルカイザー。
 そんな窮地でもあっさりと生き残った彼女を倒す……?

 一体どんな手を……?


鉄装「黄泉川先生! あれ……!!」


 鉄装が指差した先から、トボトボと赤い人影が歩いてくる。
 背を丸め、雨に打たれながら歩くそのみすぼらしい姿に、鉄装は息を飲んだ。

 ともあれ、アルカイザーは無事発見された。
363 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 23:35:00.77 ID:LR086G.o

 車両に乗せられ、アルカイザーを含めた一行は警備員の詰め所へ向かう。

 治療を受けろと勧められたが、アルカイザーは「もう殆ど治ってるから」と断った。
 その右手が何かを握り締めている。


美琴「久しぶりね?」

アルカイザー「……そうですね」

美琴「私が入院してた間も活躍してたみたいじゃん?」

アルカイザー「……そうでも、ないですよ」

美琴「ふーん。随分殊勝になったじゃない?」


 仮面に隠れて素顔は伺えないが、きっと酷い表情をしているのだろう。

 ……今本題を切り出しても大丈夫だろうか?


アルカイザー「……」


 ……やめておこう。

 いまは、ともかく彼女の無事を喜ぼう。
 そして――

美琴「しっかし頑丈ねぇ、あんた。体鍛えてる?」

アルカイザー「……ヒーローですから」

 軽口でも叩いて安心させてあげよう。
 いつも、友人の「佐天さん」がそうしてくれるように……
364 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 23:37:41.65 ID:LR086G.o

 車が到着し、美琴たちは詰め所内にある取調室に入っていった。

 アルカイザーに何かの容疑がかかっているわけではない。
 まずは美琴たちにだけ話したいと、アルカイザーに頼まれたからだ。


 狭い、中心に机が一つ置かれているだけの簡素な部屋。

 机に対面して座るのはアルカイザーと黄泉川。
 美琴はアルカイザーのすぐ隣に立ち、鉄装が入り口の前で待機している。

 安物の机とパイプイスに、全身コスプレの真っ赤な少女が座っているというシュールな光景だが、それを気にするような空気ではない。


黄泉川「さて、色々聞きたいことはあるけど……まずは現状を把握するじゃん」

 黄泉川が口火を切る。


黄泉川「まず、お前のその惨状はどういうことじゃん?」

アルカイザー「……怪我は平気です」

黄泉川「それは聞いた。今日何があったのか話せってこと」

アルカイザー「……その前に、一ついいですか?」

黄泉川「何?」

アルカイザー「もし、私が協力して欲しいといったら……警備員は力を貸してくれますか?」


 その質問に、黄泉川は大きな溜息をついた。
 そして、アルカイザーをキッと睨みつける。


黄泉川「……舐めてるのか?」
365 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 23:40:00.66 ID:LR086G.o

アルカイザー「ははは……やっぱり、駄目ですか……」


 アルカイザーは自嘲して、背を丸め俯いた。

 やっぱり、こんな素性の知れない怪しい人間に心を許してくれるはずが――


 そして、ポコン、と頭を叩かれた。


アルカイザー「……?」

黄泉川「アホかお前は? わざわざ聞かなきゃそんなことも分からないんじゃん!?」

アルカイザー「え……」


黄泉川「協力するに決まってるじゃん! 大人は子供を助けるものだろ!!」


 そう言いきって、黄泉川はニカッと笑う。
 無邪気な笑顔。

 ああ……この人は信用できる……


アルカイザー「……分かりました。私の知っていることは、すべてお話します」

黄泉川「おう。こっちも助かるじゃん」

アルカイザー「まず……今一番、急いで取り掛からないといけない問題から……」


 黄泉川も美琴も、真剣な表情で話に聞き入る。
 入り口前の鉄装も聞き耳を立てている。

 少し間をおいて、辛そうに、アルカイザーは話し始めた。


アルカイザー「私の友人……初春飾利が、拉致されました……」
366 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 23:43:20.38 ID:LR086G.o

美琴「――――え?」


 どうしてその名前が?

 予想だにしなかった展開に、美琴は困惑した。

 友人……と、アルカイザーはそう言った。
 それは、つまり――――


アルカイザー「たぶん、私が身動きを取れないように……」

黄泉川「つまり人質……わっかりやすい悪役じゃん……!」

アルカイザー「これに、連中のアジトの場所が入っているはずです……」

 アルカイザーは、右手に大切そうに握っていた物を机の上に置いた。
 それは小さなデータチップ。

 黄泉川が手にとり、鉄装に調査するよう指示を出した。

アルカイザー「ブラッククロス四天王の、シュウザーという男が残していった物です」

黄泉川「四天王……ていうのは?」

アルカイザー「ブラッククロスの幹部のことです。シュウザーは、そのトップに立ったと……」

黄泉川「ふ……ん。まぁ、間違いなく罠じゃんよ」


 しかし――

黄泉川「行かないワケには行かないじゃん」

 当然。

 生徒が拉致され人質になっているのだ。


 すっかり雨の上がった夜空に、反撃の狼煙が上がる……!
367 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 23:47:00.39 ID:LR086G.o

 学園都市の深夜。
 それは彼らスキルアウトの時間だ。

 今日も今日とて、あれだけの騒ぎがあったというのに、雨が上がったとたん街に繰り出してはいつもの溜まり場へ。

 「よう。浜面の馬鹿が何かやらかしたって?」

 「ああその話か? たしか――」

 最近ではブラッククロスの所為で物騒になり、優等生の能力者たちは家から出てこない。
 集団で能力者を襲うなどして憂さ晴らししていた彼らは、クスリを流して資金集めをしていたが、それもすっかり下火だ。
 けっきょく、こうして暇をもてあまして駄弁るくらいしか、やることは残っていなかった。


 「お、おい!! 誰がヘマしやがった!?」

 そこへ、一人の少年がドタバタと駆け込んできた。


 「あん? どうかしたのか?」

 「警備員がこっちに向かって来てるんだよ!」

 「ちっ、何かばれたか? それで数は?」

 「十……い、いや! 二十だ! それよりもっと多いかも……」

 「はぁ!? 二十人だぁ!?」

 「何だそりゃ!? 俺達そこまでのことはしてねぇだろ!!?」

 「ち、違う……」

 「あ?」

 「『台』……だ……『二十台』だよ!!」


 ウーウーと警笛を鳴らし、薄暗い路地裏へ二十を超える装甲車両の大所帯が突入してきた。

 スキルアウトたちは何事が起きたのかも分からず、ただ無我夢中で逃げ出した。
368 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 23:52:58.81 ID:LR086G.o

 「全隊止まれ!! ここからは徒歩で進行する!!」

 装甲車両から、それぞれ十名余りの警備員たちが駆け下りてくる。
 隊列を組み、各部隊長の指示の下、軍隊張りの動きで路地裏を駆け抜けた。

 全身を隠せる巨大な盾。
 腰にはハンドブラスター等の小型兵器。
 肩から機関銃を提げ、体力に自身のある者はさらに大型の重火器を背負っている。


美琴「これは……壮観ね……」


 まるで戦争映画のワンシーンだ。

 荒事に慣れている美琴でも、流石にこれだけ本格的な出撃を見ることはそう無い。
 ましてや、その中に自分が含まれることなど、想像もしなかった。


黄泉川「確かにここじゃん?」

鉄装「は、はい! あのデータチップにあった地図をもとに検証しましたが、ここしか出入り口は……」


 黄泉川が訝しむのも無理は無い。
 その、アジトへの出入り口というのは――

美琴「……マンホール……ですか?」

 そう、マンホール。
 小汚い、ただの錆びたマンホールである。
369 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 23:54:27.52 ID:LR086G.o

鉄装「だ、だって〜! 本当なんですよ〜!!」

黄泉川「あ〜、分かった分かった! 別に疑って無いじゃんよ!!」

アルカイザー「でも、どうしてここが出入り口になるんですか? ひょっとして敵のアジトは地下?」

鉄装「いいえ地上です……ただ、区画整理がその……滞っていたみたいで……」

 佐天が隠れていた廃墟群。
 そのさらに奥に、シュウザーの基地は存在した。

 たしかに、あの辺りを散策していると行き止まりによく突き当たったが……まさか。

鉄装「ビルとか色んなものに囲まれて、地上からは出入り不可能になってる地帯が……」


 そんなマヌケな都市計画があるだろうか……?


鉄装「い、いえ! 勿論最初は通れてたみたいなんですよ!?」

鉄装「でも新しい建物が無計画に乱造されたりとか、この一帯の地盤沈下で人が出て行ったりとかで……」

 色々な偶然が積み重なり、結局住むどころか入ることすら出来ない秘境が、学園都市の真ん中に完成していた。


美琴「空からも入れないの?」

黄泉川「ミサイルとかで迎撃されたらやばいじゃん……」

美琴「たしかに……空の上で撃墜されるよりは徒歩の方がましか……」

 それにしたって、おそらくは敵の術中にはまっているのに変わりは無いのだろうが……


黄泉川「……どうでもいいけど。何でお前がそんなに必死に弁護してるじゃん?」

鉄装「いえ、何か……他人事と思えなくて……」

 ああ、ドジっぷりが……
370 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 23:56:14.36 ID:LR086G.o

黄泉川「よし! 一人ずつ突入! 道順は覚えてるじゃん?」

 ニ百人を超える警備員達が、次々に下水道へと入っていく。
 手際がよく、思ったよりも時間は掛からなかった。

黄泉川「私が入ったら、しんがりがお前らじゃん」

 そう言って、黄泉川がマンホールの中に消えた。


 残されたのは――

美琴「……」

アルカイザー「……」

 この二人。


 美琴は焦っていた。
 初春との関係を聞きたい。
 一人残ったことの文句を言ってやりたい。

 そして――

アルカイザー「あの? 先にどうぞ……」

美琴「へ? あ、あぁ……うん」

 元気を出せと、そう言って励ましたい。


 美琴は下水道へ続く梯子に足をかけた。

 どうやって切り出そうか……?
 完全にタイミングを逸してしまった。
371 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 23:57:06.52 ID:LR086G.o

アルカイザー「……あの、御坂さん」

美琴「な、何よ!?」

 ああ、何で切れ気味なのよ……


アルカイザー「ごめんなさい」

美琴「……何が?」

アルカイザー「初春のこと……巻き込んでしまいました」

美琴「……」


 この馬鹿。


美琴「アンタの所為じゃないわよ」

アルカイザー「けど……」

美琴「あー……もう!! またそうやってうじうじしてる!!!」


 らしくないでしょ?
 そんなのは――


美琴「あんたが今やるべきなのは、そうやって悩むことなの?」

アルカイザー「けど……やっぱり……」

美琴「……アルカイザー」
372 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 23:57:41.31 ID:LR086G.o




美琴「いま、あんたの目に何が見えてる?」



373 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 23:59:21.99 ID:LR086G.o


アルカイザー「――――」


美琴「私はさ。あんたのことも友達だと思ってるのよ?」


 それは、御坂美琴と、その親友達の物語の中で――


美琴「一人で背負い込んでんじゃないわよ。あんたの重荷、半分よこしなさい!」


 佐天涙子が、かつて担った役割だった。


アルカイザー「……ははっ!」

美琴「何よ……そんなに可笑しかった……?」

アルカイザー「御坂さん」

美琴「……うん?」



アルカイザー「私、御坂さんのこと好きですよ」


374 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:00:42.01 ID:AhbveM.o

美琴「――なっ!?」

 驚いて足を滑らせた。
 マンホールの中に真っ逆さま。


美琴「うわぁ!!?」


黄泉川「おっと!?」

 しかし、ちょうど下にいた黄泉川が受け止めたおかげで事なきを得た。


黄泉川「……なにやってるじゃん?」

美琴「いえ……何でも……」

黄泉川「いいから、妙なところ触ってないで退くじゃん……」

美琴「はい? ……ふひゃ!?」

 自分の手の位置にまた驚いて、美琴は飛び退いた。


 アルカイザーが、何事も無かったかのように梯子を無視して飛び降り、見事に着地した。

黄泉川「よし。全員降下したな? 先発部隊がもう先に進んでるから、さっさと合流するじゃん」

 さっさと行ってしまう黄泉川とアルカイザー。
 その後を、慌てて美琴が追いかける。


美琴(くっそ〜……何なのよアイツ〜!)

 並んで歩く二人を睨みつける。
 そして思う。

美琴(……それにしても……う〜ん、でかい。二人とも……!!)


 また借りが増えたような、ただの逆恨みのような……
375 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:01:57.96 ID:AhbveM.o

 ……来たか。


 「くくく……飛んで火に入る……という奴だ」


 それはどうかな?


 「なんだ? 不服そうだな?」


 ……そんなことは無い。敗者はただ、強者に従うのみだ。


 「しかし。アラクーネには失望したよ。まさか消滅させられるとはな」


 貴様の作戦に従ったのだろう?


 「そうだとも。俺はな、奴ならあの程度は切り抜けると踏んでいたんだぞ?」


 どうだかな……


 「くはは! 所詮は、誇りを捨てて科学に頼るような下級妖魔でしか無かったわけだ!!」


 貴様の口から誇りなどと……


 「しかし……超電磁砲がそのまま戦線に復帰しているのはまずいな……」


 何故だ? 人質がいるのだぞ?


 「だからこそだよ……そうだな。手を打っておこう」


 ……私が出るか?


 「いや。適任がいる」
376 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:05:26.46 ID:AhbveM.o

黄泉川「進めぇ!! びびってんじゃないじゃん!!!」


 秘密結社の基地へと続く道程が、容易いはずが無かった。

 汚水の中から現れたのは、骸骨の剣士たち。
 ボロボロの青いマントを纏い、細身の剣で襲い掛かってくる。

 一匹一匹の強さは大した物ではないが、倒しても倒しても無数に現れる、呪われた円卓の騎士団。


黄泉川「二列横隊!! 全隊、前方へ銃構え!!」

 部隊長である黄泉川の檄が飛ぶ。
 それに従って、彼女の部下十数名がきびきびと隊列を組み替えた。

黄泉川『十字砲火!!』

 一斉掃射を受け、骸骨たちがバラバラと砕け散っていく。
 粉砕された白骨死体が下水を流されていく様は、何とも形容しがたい空しさがあった。


鉄装「黄泉川先生!? あの管から何か音が……ひゃぁああ!!?」


 こんどは、全長数メートルの巨大な芋虫が、下水管の中からヌルリと顔を出した。

 B級の洋画にでも登場しそうな、紫色のグロテスクな外見。
 ヒルというか、ミミズというか、ナマコというか。大きく口を開け、ダラダラと緑色の粘液を垂れ流している。

黄泉川「うーわ……エンガチョ」

鉄装「言ってる場合じゃないですよぉ!!?」

 巨蟲は、そこかしこの下水管から次々に這い出してくる。

黄泉川「骸骨剣士の次は、トレ○ーズじゃん? ここ、ホラー映画のロケに使えそうじゃん!」
377 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:07:15.69 ID:AhbveM.o

 巨蟲が体を震わせ粘液を飛ばした。

 警備員達は盾に隠れてやり過ごそうとする。
 が、強酸性の粘液がその表面を溶かす。

 装備が破壊されていき、防具を失った者は後退を余儀なくされた。


黄泉川「ちっ……! 厄介な攻撃じゃん!!」

鉄装「どうします……? 迂回して別の道を……」

黄泉川「そんな時間があるか! このまま突破するじゃん! 全隊突貫!!」

鉄装「ええ!?」

黄泉川「この先に敵の根城があるんだ! 拉致された生徒たちも居るかも知れないじゃん!!」


 逃げ腰になった警備員達が、彼女の声に耳を傾けた。


黄泉川「私たちが怖がって逃げていたら、子供を助けられない! それでも聖職者っていえるじゃん!!?」


 黄泉川の訴えが通じたのか、警備員達が雄たけびを上げ駆け出した。

 ここに居るのはみな、愛する教え子達を守るために命を懸けた者達ばかり。
 この程度の妨害に、いつまでも怯んではいられない……!

 機関銃が火を噴き、敵の群れに手榴弾が投げ込まれた。

 傷ついた男が、仲間の手で助け出され命拾いする。

 硝煙と血と汚水の臭いが漂うここは、さながら戦場だった。
378 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:09:48.81 ID:AhbveM.o

 無我夢中で戦い抜き、いつしか、彼らは目的地へとたどり着いた。

 傷ついた者を帰し、残ったのは半数に満たない。
 しかし、彼らはやり遂げた。

 ついに、敵の根城への潜入を果たすのだ。

黄泉川「気を抜くなよ……ここから先は、本当に命がけの戦場じゃん」

 誰も異議を申し立てる者は居ない。
 決意は固い。

 マンホールの蓋が開けられ、長い暗闇での戦いを終えた彼らを、月の明かりが迎え入れた。


 地上に出た彼らの目に飛び込んできたのは、雨に濡れた夜の街だった。
 明かりはついていない。

 警備員の一人が、ゴクリと唾を飲む。

 荒廃したビルが所狭しとひしめき合い、一つの巨大な要塞に見えた。

 その入り口に――


 「ほう、たかが教師の集団がこれほど生き残ったか……大した物だ」


 地獄の鬼が立ち塞がっていた。


 「まぁ、シュウザーには先に進ませるなと言われている。ここまでだな」
379 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:11:40.54 ID:AhbveM.o

黄泉川「あ、あいつは……!?」

 見覚えのあるその鬼の登場に、警備員達はざわめく。


 「では始めようか! 有象無象の木っ端ども!!」


 勢いよく振り回された豪腕が、隊列の最前列の警備員たちを薙ぎ払った。

 大の男たちを軽々と吹き飛ばし、前進を続ける鬼。


黄泉川「う、撃てぇぇぇ!!!!」

 その進撃を食い止めようと、無数の弾丸が撃ち込まれた。
 だが、それは全て徒労に終わる。

 「無駄無駄無駄……! この肉体を、そんな魂の篭らない物が通るものか!!」


黄泉川「やるぞ鉄装!!」

鉄装「は、はい! ……えぇ〜い!!!」

 黄泉川と鉄装が回り込み、ハンドブラスターに備えられた『パラライザー』を起動した。
 それは、いうなれば遠距離用スタンガン。
 耳障りな音を立てて、電撃が放たれた。
 使えば、どんなに凶暴な悪党でも一網打尽に出来るという優れもの。

 が――


 「マッサージか何かか?」


黄泉川「……冗談じゃん?」


 その褐色の巨人に、警備員達の持つ装備は通用しない……

 鬼が咆えた。


 「このブラッククロス四天王・ベルヴァを倒せるのは、真の戦士のみよ!!!」
380 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:12:59.58 ID:AhbveM.o

ベルヴァ「ふんッ!!」

 巨人の強襲をかわそうと、警備員達の隊列が見る見る崩れていく。

 先ほどまでの怪人たちとは桁が違う。


 そもそも、警備員は街の治安維持がその主な任務だ。

 学園都市における警察機構とはいえ、その実態は教職員のボランティア集団だ。
 けっして、本職の「戦士」などではない。

 このベルヴァが初めて姿を現したあのときも、警備員はただ見ているしかなかった。


 何故なら――――


 「皆さん! 下がってください!!」

 「ここから先は私たちの出番ってわけね……!」


 悪の秘密結社と戦うのは、『ヒーロー』の務めだから。


 否。


アルカイザー「さぁ、御坂さん!」

美琴「ええ……行きましょう。アルカイザー!」


 この街を救うのは、『ヒロイン達』の役割だ――!!
381 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:14:58.86 ID:AhbveM.o

ベルヴァ「アルカイザー! 久しいな!!」

 褐色の巨人。ベルヴァは嬉しそうに頬を吊り上げた。
 アルカイザーによって粉々に粉砕されたはずの肉体は、彫刻のように完璧なままだ。


アルカイザー「どうしてまだピンピンしてるの……?」

美琴「そうよ。あんたは私の目の前で吹っ飛んだはずでしょ?」

ベルヴァ「何……頭脳パーツさえ回収できれば、後は何とでも再生できるらしい」


 警備員によって回収されたパーツは、どこかの研究所が全て引き上げたという。
 つまり、それ自体がブラッククロスによるベルヴァの回収だったのか……?

ベルヴァ「詳しいことは俺に聞かれても分からんよ。俺はただこの力を楽しむだけだ」

 ブラッククロスの計画など、ベルヴァにとっては娯楽の一つに過ぎない。
 組織の指示に従いはするが、そこに思惑があるわけではない。
 彼はただ、その「悪行」が楽しいからそうしているだけだ。

 生き方をブラッククロスに捧げることで、無敵の肉体と無限の命を得ようとした獣。

 それがベルヴァという魔物の正体だった。


ベルヴァ「第二ラウンドだアルカイザー!! 今度は決着をつけてやる!!!」


 意気込むベルヴァ。

 が――


美琴「ちょろっとー? 私のことは見えてないってわけ?」

ベルヴァ「……むぅ?」
382 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:16:55.52 ID:AhbveM.o

アルカイザー「悪いけどね。もう、そういうノリに付き合ってあげる余裕はないから」

 アルカイザーの手に、蒼き光の剣・レイブレードが握られる。

美琴「そういうこと。あんたなんかに構ってる暇無いのよ」

 美琴が右手を伸ばし、コインを弾いた。



ベルヴァ「貴様ら……俺を侮辱して――――



 『超電磁ウイング』



 レイブレードから放たれた紅い疾風は、超電磁砲に巻き込まれ加速していく。
 周囲を切り刻みながら、音速の三倍のスピードでそれは放たれた。

 巨人が何か言いかけたが、そんな戯言は、この暴風の前に掻き消される。

 そう――
 巨人の肉体ごと、おそらく頭脳パーツさえも粉々に粉砕する、紅い竜巻によって……!!


アルカイザー「あんたの出る幕じゃない……!」

美琴「今度はしっかり成仏しなさいよね!」



 落ちこぼれのヒーローは、仲間を得た。
383 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:17:55.03 ID:AhbveM.o

 【次回予告】

 無敵かと思われた美琴とアルカイザー!

 だが、卑劣な策略が二人を襲う!!

 そしてシュウザーから告げられる死の宣告!!

 果たして、初春を無事助け出すことは出来るのか!?


 次回! 第十二話!! 【出現! トワイライトゾーン!!】


 ご期待ください!!
384 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/04(土) 00:20:46.76 ID:AhbveM.o

と、いうわけで第十一話でした。

タイトルが「シュウザー城の戦い」なのにシュウザー城に入る直前で終わってしまった……


 【補足】

 ・う〜ん、でかい。
  原作の主人公・レッドの名ゼリフですね。

 ・超電磁ウイング。
  「超電磁砲+カイザーウイング」のニ連携。カイザーウイングはまだSS未登場でした。
  さりげに佐天と美琴の初連携です。

 ・ト○マーズ。
  名作B級映画。
  紫の蟲はラバーウォームというモンスターだったのですが、あの外見をどう説明していいものか……
385 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 00:48:24.34 ID:BDAWF6AO
乙ん。
ベルヴァ弱いwwww
まぁサガフロでもカウンターがうざいだけだから、連携すれば瞬殺だけれどもwwwwww
386 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 01:52:49.67 ID:U98u5cAO
乙、そういえば三倍空間まだ出てなかったな
387 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 03:38:09.33 ID:40n0c0k0
乙!
しかし佐天さんアルカイザー状態なのに「うーん、でかい」が出るって事は、相当ピチピチなのか?
ぜひ見たい
388 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 23:02:29.95 ID:TNxZPoAO
>>超電磁ウイング

どこのコン・バトラーVかと
389 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/05(日) 23:50:08.40 ID:hcU14dYo

いつもより開始時間が遅くなりました。
この土日はちょっと忙しくて、今まで今日の更新分の推敲してました。

じゃあ投下を始めます。
390 :感想に全レスしていった方が良いとアドバイスされたんだが忘れてた [saga]:2010/12/05(日) 23:53:05.18 ID:hcU14dYo

 シュウザー城……

 学園都市の秘境に潜むそれは、無数の廃墟が連なり、折り重なって形成された一つの要塞。
 窓と窓、屋上から屋上へと橋が渡され、建物の内と外が交互に入り乱れている。
 自分が先に進んでいるのか、それとも、更なる混沌の中へと迷い込んでいるのか。
 方向感覚を乱された侵入者は自分の存在を見失い、闇の中に潜む魔物達に葬られることになる……

 その魔城へと足を踏み入れたアルカイザー、御坂美琴、そして黄泉川を初めとしたおよそ百人の警備員達。


 この夜。
 学園都市における、アルカイザーと四天王「最後の聖戦」が始まろうとしていた――


 【第十二話・出現! トワイライトゾーン!!】
391 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/05(日) 23:55:01.64 ID:hcU14dYo

黄泉川「第一から第三部隊まではここで待機! 残りはアルカイザー、御坂美琴を先頭に突入開始!!」


 黄泉川の檄が飛ぶ。

 一部隊の人数は十余名。三部隊・三十人がシュウザー城の出入り口に待機し、突入部隊の援護に回る。
 そして、下水道で体力を温存したアルカイザー、御坂美琴両名が先陣を切り、シュウザー城攻略作戦の幕が上がった。


美琴「私は最初っから全開で行くわ……アルカイザー。アンタは何が何でもシュウザーって奴を倒しなさい」

アルカイザー「はい! 行きましょう!」


 二人が階段を駆け上り、警備員達が後に続いた。
 唯一の出入り口である鉄の扉に向かって、まずは開戦の狼煙をあげる。


 キンッ……!


 小さな金属音。
 そして、ノック代わりの超電磁砲が放たれた。

 扉の奥に待機していた戦闘員達が木っ端微塵に砕かれて吹き飛ぶ。


アルカイザー「……これ、建物崩れませんよね?」

美琴「全開で行くって言ったでしょ?」


 遂に、いくつものわだかまりを乗り越えた二人のヒロイン。

 「悪の組織を倒し、友達を助け出す」

 共通の目的を持ち、共に信頼を得たこの二人に、果たして敵があるだろうか?


 あるとすれば、それは――
392 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/05(日) 23:58:42.50 ID:hcU14dYo

 城内は入り組み、扉一つ隔ててまったく別の場所へと通じている。
 分かれ道のたび、警備員を一部隊ずつ調査に向かわせ、残った面子で先へと進んだ。

 何故こんな大人数の警備員を導入することが出来たのか?


黄泉川「これだけの規模の基地を、余所者の連中がこれ以外に作れるとは思えないじゃん」

鉄装「ということは、ここがブラッククロスの本拠地ですか……?」

黄泉川「かも知れないじゃん!!」


 少なくとも、ここを叩けばこれ以上の活動を続けることは出来ないだろう。
 つまり警備員達にとって、これは学園都市における事実上の「ブラッククロス殲滅作戦」なのだ。

 これで一連の事件に終止符を打つことが出来るかもしれない。

 その事実が二百を超える警備員達の心を団結させ、上層部への伺いも立てず即座に出撃するという決断をさせた。


黄泉川「各部隊! 生徒を見つけたらすぐに連絡を入れて脱出しろ!!」


 そして、これだけ大規模な基地であれば、おそらくは攫われた学生たちが捕らえられているはず。
 彼ら警備員の第一の目的は、被害児童の救出だった。


黄泉川「アルカイザー! 御坂美琴! あんまり離れすぎるな!!」

美琴「大丈夫ですよ! こんなの、全然相手にならないんですから!!」


 やれやれ、と呆れつつも、黄泉川は安心していた。
 二人は、四天王とかいう化物を一蹴してしまうような実力者なのだ。
 余計な心配か。

 それに、彼女らが居る限り、自分達は行方不明者の捜索に専念出来るだろう。
393 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 00:01:07.27 ID:QiKIqhoo

黄泉川「アルカイザー! 御坂美琴! あんまり離れすぎるな!!」

美琴「大丈夫ですよ! こんなの、全然相手にならないんですから!!」


 美琴は、そう言って前方に電撃を放った。
 無数の戦闘員たちが、その一撃で撃破される。

 だが、その陰に隠れていた、青い獣の群れが飛び出してきた。
 さそりの尾、蝙蝠の羽、そして犬の体。人のような顔で、長い舌を出しニヤニヤ笑っているように見えた。

美琴「ちっ!」

 獣の群れは美琴の電撃を察知していたのか、ひらりとかわして迫ってくる。
 狭い廃墟の中は、美琴たちには歩き辛く、逆にああいった柔軟な生物には恰好のフィールドだ。

 獣の群れは、壁を蹴って立体的に跳び回る。
 電撃をことごとく回避し、その爪を突き立てようと、美琴目掛けて飛び掛った。


 『カイザーウイング!!』


 紅い風が獣の体を真っ二つにした。
 上半身と下半身に分けられた獣が空中で爆発し、それに巻き込まれたモノが誘爆した。


アルカイザー「御坂さん!」

美琴「大丈夫よ。ありがとう……ねぇ、今の見た?」

アルカイザー「爆発ですか? 不自然でしたよね……?」

美琴「こいつら、腹ん中に爆弾が入ってるわね……!」

アルカイザー「そんな……!? じゃあ、特攻!?」


 もはや、敵は手段を選んでいない……!
 通路の奥からは次々に、爆弾つきの獣の群れが現れる……


美琴「とにかく……敵を接近させないことね……!」

 意識を戦いに戻し、美琴が獣達を睨む。
 アルカイザーはレイブレードを消し、両手に光の弾を用意した。
394 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 00:04:17.52 ID:QiKIqhoo

美琴「おうりゃぁあ!!」

 美琴から放射状に電撃が放たれ、獣の半数を仕留めた。
 電撃を回避した獣達は空中に跳びあがる。

アルカイザー『アルブラスター!!』

 それを、アルカイザーの光の弾丸が撃ち抜いていく。
 爆弾が起動し、美琴の攻撃で一箇所に誘導されていた獣達が大爆発を起こした。
 壁が破れ、そこから外の風景が覗ける。


美琴「ここから隣のビルの屋上に出れるわね。 ショートカットかしら? どうする?」

アルカイザー「……たぶんですけど、シュウザーはその先に居ます」


 奴の性格を考える。
 一言で言えば「卑怯者」。手段を選ばず、危なくなれば迷わず逃げる。
 私たちを呼び出しておいて、おそらく自分に危険が迫った時のため脱出の準備をしているはずだ。

 この間の戦いでは、突如現れたヘリで逃走した。
 空に逃げられては私には追うことが出来ないからだ。

 そして今日も、私たちは地上ルートでここに来た。
 空の足は用意していない。


アルカイザー「アイツの脱出経路は、たぶん空です」

美琴「オッケー。じゃあ上に進めばいいのね」


 そう言って、美琴は大胆にも壁の穴から飛び出した。
 危なげなく隣のビルの屋上に着地する。

アルカイザー「ちょ、ちょっと!? そんな無用心に……!」

美琴「ちんたらしてる暇ないでしょ? さっさと来る!!」


 ここが敵の根城だと分かっているんだろうか……?

 しかし、その気持ちも分かる。
 ……順調すぎるのだ。
395 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 00:07:01.13 ID:QiKIqhoo

美琴「……何?」

 屋上の中心近くまで進んだ美琴が、何か違和感を感じた。

美琴「……!? 来ちゃ駄目!!!」


 美琴の足元が膨らんだ。
 下から、何かが屋上を押し上げているのだ。

 ボゴンッ! ボゴンッ! と、ひび割れて持ち上げられるコンクリートの床。

 そしてついに――――


美琴「うわぁあああ!!?」

 屋上のど真ん中を貫通し、緑の巨人が現れた。
 額に一本の角を生やし、ベルヴァ以上の巨大を誇るその肉体は、所々に分厚い装甲を装着している。
 顔の中心に、一つだけ大きな目が付いていた。

 その衝撃で、美琴は天高く打ち上げられた。
 屋上の瓦礫に含まれた鉄骨に磁力を流し、何とか体勢を整える。

 しかし、着地はどうする?


 「グオォォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 いや、まずはこの巨大な怪人を何とかしなければ、落下する前にひねり潰されかねない。
396 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 00:08:52.87 ID:QiKIqhoo

 緑の巨体が宙高く飛び上がり、打ち上げられた美琴を追撃する。

 振りかぶられる拳。
 一緒に吹き飛んだ瓦礫を磁力で操り、美琴はそれを防ぐ。

美琴「……ぐ!!」

 巨大なコンクリートの塊が、たった一撃で粉砕された。


アルカイザー「御坂さん!」

 アルカイザーが美琴を追って飛び上がり、彼女を受け止めて着地した。

 単眼の巨人も着地するが、その重量に耐え切れなかった地面が崩壊し、そのままビルの中へ沈んでいった。


美琴「な、何よあれ!?」

アルカイザー「自爆の次は、自分達の基地を壊しながら暴れてる……」

美琴「本当に、もうなりふり構わず倒しに来てるわけね……!!」


黄泉川「おい! お前ら!!」

アルカイザー「こっちは危険です! 来ないで下さい!!」

 今にも駆けつけて来そうだった黄泉川をいさめ、二人は次の襲撃に備えた。

 まるで巨大なもぐら叩き。
 次は、どこから現れる……?
397 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 00:12:09.96 ID:QiKIqhoo

 足元に注意する。

 さきほどの応酬を見るに、別に能力自体は大したこと無い。
 そもそも、四天王であるベルヴァでさえ、今のアルカイザーたちには手も足も出ないのだ。

 正攻法で勝てないからこその不意打ち。
 なら、その策を破ってやればいい。

アルカイザー「出てくる前に叩き込めば……」

 アルカイザーの右手に光が灯った。
 気配を感じた瞬間に、渾身のブライトナックルを叩き込む。


 静まり返る屋上。


美琴「……」

 美琴も、体を帯電させて迎撃態勢に入っている。

美琴「……?」


 それが幸いした。
 電磁波の流れがおかしいのに、いち早く気付けた。



美琴「アルカイザー!! 後ろよ!!!」

アルカイザー「!?」


 背後にそびえる、この屋上よりも背の高いビル。
 その壁をブチ破り、単眼の巨人が姿を現した。

アルカイザー「しまっ――――!?」

 予想しなかった方角からの攻撃。
 反応が遅れ、敵の接近を許してしまった。

美琴「間に合えぇええ!!」

 美琴がアルカイザーの前に飛び出し、そして――――
398 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 00:13:15.80 ID:QiKIqhoo

アルカイザー「――――」

黄泉川「どう……なった……?」


 そして、美琴と巨人の姿が忽然と消えた。


アルカイザー「御坂……さん……?」

 呼んでも、どこにもその影は無い。


 消滅。

 消失。


 何故?


アルカイザー「御坂さん!! 返事してください御坂さん!!!」


 「無駄だアルカイザー……!」


 巨人が飛び出してきた背の高いビル。
 その頂点に、満月を背に受けて男が立っていた。

 銀の髪を逆立て、鉛色の腕を胸の前で組んでいる。
 二メートルを超える巨漢でありながら、真っ向からの戦いを拒否し策を弄する卑劣漢。


アルカイザー「シュウザァァアアア!!!」


 ブラッククロス四天王・シュウザーが、ついにその姿を現した。
399 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 00:14:24.15 ID:QiKIqhoo

 …………

 ……

 ……ここは?


 気が付くと、目の前が真っ暗になっていた。

 まさか死んだのか?
 たったあれだけのことで?

 ……

 いや、違う。
 体の感覚はある。

 自分がどこかに立っていることも分かる。
 何かぶよぶよとした足元の感触……


 ……あの怪人は?

 アルカイザーは?
 黄泉川さんたちはどうなったの?


 『ようこそ御坂美琴……』


 どこからともなく声が響く。

 誰……!?


 『私はブラッククロス。ブラッククロス首領だ』


 …………!!?
400 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 00:16:52.63 ID:QiKIqhoo

 へぇ……首領さんが直々に相手してくれてるってわけ?

首領『そうではない。貴様の相手は、その目の前のサイクロップスだ』

 サイクロ……?


 そして、唐突に視界が戻った。


美琴「……!? な、何よこれぇ!!?」

 いつの間にか、周囲は暗闇に包まれている。
 目の前に立っているのは、おそらく『サイクロップス』という名の単眼の巨人。
 どうやらブラッククロス首領の姿は無い。

 そして足元には――

美琴「悪趣味ここに極まれり……って感じね」

 巨大な円盤状の眼球が、唯一つ、この暗闇の中に存在する「床」になっていた。

 それらの光景が、何重にも「ブレて」折り重なるように見える。


 ぶよぶよしてたのはこの目玉の感触ってわけね……
 それにしてもこの「ブレ」は……残像ってワケでもないし、世界がゆっくり揺れているような――

 うげ……気持ち悪くなってきた……


首領『ようこそ御坂美琴。不思議空間「トワイライトゾーン」へ』


 トワイライトゾーン……?
 つまり、どこかへ閉じ込められたのか?

 冷静さを失わないように、ゆっくりと深呼吸をする。

 ……アラクーネの「術」を体験しておいて良かった。
 この状況でも、まだ頭の回転は鈍らない。
401 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 00:18:32.38 ID:8fZqXAAO
オリ展開熱いぜ
最後の聖戦フラグも来たぽいし
402 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 00:18:37.94 ID:QiKIqhoo

美琴「つまり、私は『術』か何かでここに閉じ込められてるわけね……?」

首領『そういうことだ。流石に物分りがいいな』

美琴「で? どうやったらここから出られるわけ?」

首領『何、簡単だ。術の核となっているサイクロップスを倒せばいい』

美琴「へぇ……答えてくれるんだ……?」


 舐められているのか……

 いや、違うな。


美琴「悪いけど。あんなのが相手じゃあ私の足は止まらないわよ?」


 時間稼ぎ……

 私を倒すんじゃなく、私とアルカイザーをバラバラに戦わせるのが目的か。


首領『どうかな?』

美琴「私を止めたいなら、四天王クラスを連れてきなさい……!!」


 一閃――――

 迷うことなく、初手で超電磁砲を放った。
 こんな茶番に付き合うつもりは無い。

 あの怪人を瞬殺して、アルカイザーたちに合流する……!
403 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 00:20:32.48 ID:QiKIqhoo

美琴「うそ……?」


 しかし、全力の超電磁砲を受けた巨人は平然とそこに立っていた。


美琴「そんな!?」

首領『言い忘れたがな……』



 トワイライトゾーン内では、ブラッククロスの怪人の能力は三倍に膨れ上がる……!!



美琴「三倍……?」

 それはつまり、単純に「攻撃力」も「防御力」も、さきほどまでの三倍の性能になったということ?

 ……一体どういう仕組みなのか。

美琴「何でもありなわけ? その『術』っていうのは……!?」


首領『ではな。健闘を祈る』


 そして、ブラッククロス首領の声はそれっきり聞こえなくなった。


美琴「いつか引っ張り出してやる……!!」


 その言葉がきっかけになったのか。サイクロップスが動き出した。

 ビルを粉々にして移動する馬鹿力。その三倍の攻撃力だという。
 それだけは、確実に回避しなければならない。

 美琴は身をかがめ、慎重に敵の動きを観察した……
404 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 00:22:29.98 ID:QiKIqhoo

美琴「……っ! 速い!?」


 サイクロップスの巨体は尋常でない速度で加速した。
 まるでアクセルを全開にした大型トラック。

 電磁波で動きを察知していなければ、今ごろ轢死体が一つ出来上がっていただろう。

 サイクロップスの突撃を横に飛び退いて回避した美琴は、電撃による攻撃を試みる。


美琴「いくら頑丈ったって!!」


 しかし――


美琴「うわわっ!?」

 そんなものを意に介さず、巨人の腕が振るわれた。

 美琴の電撃はサイクロップスの皮膚を貫けない。


美琴「超電磁砲も効かない……電撃も効かない……!?」

 他に攻撃手段は?

 例えば、ここに巨大な鉄塊でもあれば、さっきとは比べ物にならない全力全開の超電磁砲が撃てる。
 例えば、ここに大量の砂鉄があれば、それでチェーンソーを作り出してあの皮膚を切り刻める。

 だが、ここには何も無い。

 無限に続く闇と、ただこちらを見据える巨大な眼球。

美琴「歩きにくいうえに役にも立たない! 人のスカートの中をじろじろ見るな!!」

 短パンだけど。
405 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 00:25:51.18 ID:QiKIqhoo

 「グゴオォォオオオオオオオオオオオ!!!」


 雄たけびを上げ、サイクロップスが天高く飛び上がった。
 三倍の脚力による跳躍。
 なるほど、先ほどの急加速も頷ける。つまり「機動力」までも3倍なのだ。

 普通、あんな風に宙に浮くのは自殺行為だ。
 何故なら、空中では身動きが取れない。
 地上からの狙い撃ちで、あっさり迎撃されてしまうだろう。

 だが――この戦いにおいては別だ。


美琴「くっそぉ!!」

 美琴には攻撃手段が無い。
 どんなに電撃を浴びせても、超電磁砲で狙い撃ちにしても、あの体を貫けない。

 今の美琴には、ただ逃げるしか出来ない。


 サイクロップスの『ボディプレス』――!


 激しい衝撃が、円盤状の眼球を揺らした。

美琴「うわあぁあ!?」

 美琴は、揺れ動く眼球から振り落とされないようにしゃがみ込んだ。

 ここから落ちたら、そこに待っているのはおそらく無限の闇……
 宇宙空間に放り出されるようなものである。

 踏ん張りの利かない眼球の表面にしがみつこうと両手を付いた。
406 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 00:27:33.31 ID:QiKIqhoo

 そこへ、再びサイクロップスが迫る。

美琴「しまった!?」

 この体勢では飛び退くこともできない。

 叩き潰される……!?


 サイクロップスの腕が振り上げられる。
 その腕には、金属製の分厚い装甲が装着されている。

 せめて……あの腕を切り取ることが出切れば、それで渾身の超電磁砲を――


美琴「……なんだ。いけるじゃない……!!」

 攻略法が見えた。
 俄然、力が湧いてくる。

 そして美琴は、逃げるのではなく、その場に踏みとどまることを選んだ。

美琴「いっけぇ!!」


 美琴の額から放たれた放射電撃が、迫り来るサイクロップスの全身に浴びせられた。
 しかし、電撃がその皮膚を貫くことは無い。

美琴「まだだぁあああ!!」

 それでも、美琴は電撃を浴びせ続ける。

 何故なら――――
407 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 00:29:28.96 ID:QiKIqhoo

 「グ、グルォ……?」

 サイクロップスの動きが止まった。

 美琴の電撃がダメージを与えたのではない。
 彼女の放った電流は攻撃のためのものではなく――


美琴「ラッキー……その装甲、どうやら鉄製みたいね!」


 サイクロップスの装甲を磁力で操り、押し返すためだったのだ。


 美琴の腕力は女子中学生のそれ。決して強くはない。
 だが、能力を使えばこの通り。どんな強靭な筋肉も、その出力を上回ることは出来ない。

 それゆえに『レベル5』。それゆえに『第三位』。

 例え、その肉体が通常の三倍などという、ふざけた現象を起こしていたとしても。


 否――

 「グルォオオオオオオオオオオオ!??」

 なればこそ、この状況はまずいのだ。

 サイクロップスは、ただ押し返されているだけだというのにも関わらず、体の異常を訴える。


美琴「そもそもおかしいのよ……このトワイライトゾーンっていうのは」
408 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 00:31:51.69 ID:QiKIqhoo

 何故、そんな便利なものを今まで使わなかったのか?

 例えば、四天王がこのトワイライトゾーンで戦っていたら、おそらくアルカイザーでさえ手も足も出ないだろう。
 だがそうしなかった。


美琴「無理やり能力を引き上げれば、必ずその反動がある!」


 幻想御手『レベルアッパー』。
 その使用者は、一時的にとはいえ数レベル上の能力を身に着けた。

 そして、その後昏睡状態に陥った。


美琴「限界を超えて体を酷使している状態で、さらにそれを上回る負荷がかかれば……!」

 サイクロップスの腕が、ショートして火花を上げた。
 人工筋肉の千切れる音がする。


 だが、それでも――

美琴「っぐ!!」

 サイクロップスは尚、美琴を押しつぶそうと肉体を酷使する。
 己の生命を何とも思わない機械兵士の戦い方。

 ある意味で、命がけの戦いを挑む巨人の圧力に、美琴も怯む。

美琴「上等じゃない……力比べってワケね!!」

 戦いは続く。どちらかが力尽きるまで。
 恐らく、この力比べに美琴は勝利するだろう。


 しかし――


 この戦いは美琴を足止めするために仕組まれたものだ。
 つまり、サイクロップスを瞬殺できなかった時点で、すでに――


 美琴は敗北していた。
409 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 00:33:38.12 ID:QiKIqhoo

アルカイザー「シュウザァァアアア!!!」


 アルカイザーは、姿を現したシュウザーへ飛び掛ろうと地を蹴った。


黄泉川「危ない! 下がれアルカイザー!!」

アルカイザー「!?」


 黄泉川の声で、間一髪後ろへ飛び退いた。

 さっきまでアルカイザーの立っていた場所に、眩い光線が撃ち込まれる。

 それは、赤と青の二重螺旋。
 光のドリルが、コンクリートを穿ち爆発を起こした。

 土煙が晴れる。
 そこには、何一つ残されていなかった。

 回避が遅れれば、アルカイザーでさえ骨も残さず掻き消えていただろう。


シュウザー「ふふ……その女のおかげで命拾いしたな……」

 シュウザーは、ビルの奥へと消えていった。


アルカイザー「待てっ!」

黄泉川「落ち着けアルカイザー!!」


 再び、黄泉川によっていさめられる。
410 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 00:34:54.42 ID:QiKIqhoo

黄泉川「頭に血がのぼってる……それじゃあ、みすみす殺されに行くようなもんじゃん……」

アルカイザー「……」


 ……たしかに気が立っている。
 あの男が絡むと、どうしても冷静さを失ってしまう。


黄泉川「……今、他のルートに進んだ別働隊から連絡あった。拉致された学生たちが見つかったらしい」

アルカイザー「!! 初春は!?」

黄泉川「残念ながら、彼女は特別扱いじゃん……」


 初春の無事はまだ確認できない……だが、それはつまり。


黄泉川「この先に、必ず居る……お前への人質として……!」


黄泉川「私たちは別働隊と合流して学生達の脱出を手伝う。だから――」



 初春飾利は、お前の手で助け出せ!!



黄泉川「冷静にな……? 初春飾利も、お前も死んだりしたら許さないじゃん!」

アルカイザー「……はい!」
411 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 00:37:32.52 ID:QiKIqhoo

 瓦礫の山を超える。

 もう、雑魚の出る幕は無いということか、私の進行を邪魔する敵は現れなかった。
 ビルの中を素通りし、シュウザー城で最も高い屋上へ出る。


 そこに待っていたのは、意外なことにシュウザーただ一人だった。


アルカイザー「……一対一で正々堂々と戦う……ってつもりじゃないんでしょ?」

シュウザー「くっくっ……そう見えたか?」

 初春は……彼女はどこに……?

シュウザー「お前は、この俺がいたいけな少女にナイフを突きつけて脅しをかけるような、そんな二流の悪党だと思っていたのか?」

アルカイザー「……どういう意味?」

 人質は使わないとでも……?

シュウザー「そんなものはな、何の意味も無いのだ。殺せば人質としての価値はなくなってしまう」

 男は、ベラベラと聞いてもいない講釈をたれ始めた。

シュウザー「と、いうことはだ。自暴自棄にでもならない限り、人質の安全は保障されているようなものだ」

アルカイザー「いい加減にしろ! 初春は――」

シュウザー「初春飾利はな……俺を殺せば、同時に死ぬことになっている」

 別の場所か……?

アルカイザー「初春はどこに居るの……?」


シュウザー「ここだ」


 シュウザーは自分の「こめかみ」を指差した。
 あの鋼の爪でだ。少し動かせば、簡単に貫いてしまいそうに見える。

 そこを指差して――――
412 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 00:38:35.33 ID:QiKIqhoo






シュウザー「俺の頭には、初春飾利の脳が埋め込んである……! やれるか、アルカイザー……!!」






 落ちこぼれのヒーローは、最悪の再会を果たした。
413 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 00:39:39.52 ID:QiKIqhoo

 【次回予告】

 初春飾利の脳が、宿敵シュウザーの頭に?

 絶望し、なされるがままになるアルカイザー!

 美琴もいない! 黄泉川もいない!!

 ならば、一体誰が彼女を救えるというのか!?


 次回! 第十三話!! 【決着! 不死鳥の如く!!】!!

 ご期待ください!!
414 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/06(月) 00:42:46.70 ID:QiKIqhoo

と、いうわけで第十二話でした。

遂にここまで来ましたよ。
補足後、前回分からのレス返しを行います。


 【補足】

 ・トワイライトゾーンについて。
  原作では割と序盤から登場するこの設定。
  でも四天王戦ではやっぱり使われなかったんだよね。
  なので、「どうして使わなかったのか?」って考えたらやっぱり副作用でもあんのかな……と。
415 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/06(月) 00:43:40.69 ID:V5nmo.AO
乙フェニックス!
初春……駄目だたか……。
416 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 00:48:16.88 ID:Z2PehgEo
乙でした
脳の件は一応、ブラフで言ってる可能性もあるよね…?
417 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/06(月) 00:52:13.98 ID:QiKIqhoo

>>385
ベルヴァは第一話で戦った敵なので、その時との対比の意味でも瞬殺です。
佐天さんは仲間も得て強くなりました。

>>386
実は最初からこのシーンまで出てくる予定はありませんでした。
引っ張ったワリに呆気なかったかも。

>>387
プラグスーツ的な感じかと……

>>388
最初は「超ウイング」でした。サガフロ的に。
地の文で「超電磁の竜巻によって」って書こうとしてやめた。

>>401
シュウザー城のイベントは原作の完成度が高いのであんまり弄らないつもりでした。
でも、原作とは登場するキャラクターやここまでの展開を変えて来ているので、その分変更しなければいけなくなります。
それに、オリ展開を入れていけば、原作プレイ済みの方も先の展開が読めたり読めなかったりで楽しいんじゃないかと。
418 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 01:01:45.17 ID:8fZqXAAO
乙、原作だと親父さんに思い入れないから大したことないが
これは結構胸を締め付けるな
アレで倒してアレで助けるのか
419 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 01:34:28.12 ID:zym8HGMo
初春…
420 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 02:27:28.89 ID:V4d77Sko
乙乙、相変わらずの熱い展開いいねぇ・・・!

無粋なツッコミとなるかもだけど、原作設定の佐天さんは確かバスト81〜82くらいの筈
421 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/07(火) 23:36:15.96 ID:yz5FM/Io

シュウザー編クライマックス行くぜ……!
と、いう感じで気合入れて書いてたらいつもより長くなってしまった。

佐天さんも初春も大好きだよ? 本当だよ?

第十三話投下を始めます。
422 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 23:37:30.18 ID:yz5FM/Io

 ――今、この男は何を言ったのだろう?


 『俺の頭には、初春飾利の脳が埋め込んである……!』


 ウイハル……


 カザリ……の……脳……?



 う……


 あ……






佐天「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!???」






 【第十三話・決着! 不死鳥の如く!!】
423 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 23:38:42.57 ID:yz5FM/Io

シュウザー「ふんっ!」

アルカイザー「……ッ!?」


 シュウザーの爪が、アルカイザーの胸を切り裂いた。
 致命傷に至らない程度の、しかし、鋭い痛みを伴う傷。


 反撃することは出来ない。

 胸を貫こうが、腕を吹き飛ばそうが平気で笑っている男だ。
 倒せるとすれば、それは「全身」ないし「頭」を破壊すること。

 それはつまり、「初春飾利の脳が破壊される」ということに他ならない。


シュウザー「ほぉ? 頑張るじゃないか?」

アルカイザー「……」


 『脳を無傷で返して欲しくば、ただそこで突っ立っていろ』


 それが、シュウザーから突きつけられた条件だ。

 無論信じてなどいない。
 だが、それ以外に手立てが無い。


シュウザー「ほれ」

アルカイザー「……ッ!?」


 傷の上から蹴りを入れられた。
 飛びそうになる意識を、歯を食いしばり保ち、倒れないように足を踏ん張る。

 シュウザーの執拗なリンチは、徐々にエスカレートしていった。
424 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 23:44:15.98 ID:yz5FM/Io

シュウザー「ふむ……こうも反応が無いのでは張り合いが無いな」


 アルカイザー、佐天涙子は、わざと声を殺していた。

 「こんな男を喜ばせるものか……!」

 だから、どんな痛みだろうと身じろぎ一つしなかった。


 しかしシュウザーという男はおそらく――「こういったこと」に慣れている。


 アルカールは言っていた。

 「拷問。人質。それ以上のこと。あの男はそういったことを率先して行うサディストだ――」

 だからこそ、この男にだけは初春を渡すわけにはいかなかったのに……


シュウザー「よし。なら次はこうだ……!」

アルカイザー「……ッグ!?」


 ヒザの皿を正面から蹴り付けられた。

シュウザー「そらそらっ! いつまで耐えられる!!」

アルカイザー「ッ! グッ!?」

 足元を崩されれば誰だって立っていられない。
 関節が逆に曲がるのではと思うほど、ヒザの皿を蹴られ続ければ尚更だ。


 ついに、ヒーローが悪の前に膝をついてしまった……
425 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 23:45:58.20 ID:yz5FM/Io

シュウザー「さあ。何をしている? 立て」

アルカイザー「……」


 「ただそこで突っ立ていろ」

 それはつまり、「抵抗するな」ではなく「倒れるな」ということ。
 延々、この責め苦を受け続けろという命令。


シュウザー「どうした? 立てないのか? なら、仕方が無い……」

 シュウザーはアルカイザーを見下し、その鋼の爪を自らの頭部へ向ける。


アルカイザー「な、何を……!? 人質を捨てる気!?」

シュウザー「馬鹿な。アレだけ講釈をたれておいて、そんな真似をするかよ」


 大切な人質だ、それを失うことは出来ない。
 「もしかしたら助け出せるかも」という希望を残すことが大切なのだ。

シュウザー「この脳はまだ生きている。体に戻せば助かるかも知れん」

 勿論保障はない。学園都市の医療技術が進んでいるといっても、一度取り出した脳を体に戻すなんて……
 しかし、希望が僅かでも残っていれば、人はそれにすがってしまうものだ。


シュウザー「だが……脳を損傷した人間はどうなるだろうなぁ?」

アルカイザー「……!?」
426 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 23:49:15.64 ID:yz5FM/Io

 初春を助けるには、まずはあの「脳」を取り戻さなければならない。
 それができれば、学園都市の優秀な医者が助けてくれるかもしれない。

 もしくは、ひょっとしたらアルカールさんに何か案があるかもしれない。
 あのピアスのように、不思議なアイテムを持っているかも。


 でも……「どんな状態でも」というワケではないだろう。


 例え命を拾っても、障害が出るかもしれない。

 記憶を失っているかもしれない。

 もっと、人間的に大切なものを欠如しているかもしれない。


 脳を傷つけるということは、少しずつ助かる可能性を奪っていくということ。


 希望を全ては奪わず残し。

 かといって従わなければ、少しずつ「それ」を奪っていくことも出来る。

 尚且つ、絶対に反撃される心配はない。
 助けに来た人間は勿論、人質自身もだ。

 何せ「脳」だけなのだから。文字通り手も足も出ない。
 人質に抵抗されて逃げられるような二流の悪党とは違う。

 人質を奪われる心配は無い。


 これが、シュウザーの歪んだ妄執のはてにたどり着いた『究極の人質の取り方』の、その一旦だ……
427 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 23:50:04.07 ID:yz5FM/Io

 立ち上がるしかない。


シュウザー「良し良し。それでいい……そら!!」

アルカイザー「うっ!?」


 太ももを切られた。


アルカイザー「ぐ……ぅ!」


 立ち上がっても――


シュウザー「ハハハハハ! もう一度だ! 無様にこけて見せろ!!」

アルカイザー「がぁあああ!!?」


 傷の上から更に刻まれ、踏みにじられる。


アルカイザー「はぁ……はぁ……!」


 それでも、アルカイザーは立ち上がる。


 ヒーローの再生力が無ければ、すでに気を失っているだろう……

 それは幸運なのか、それとも――
428 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 23:51:01.34 ID:yz5FM/Io

 ……見ていられない。

 何だこの悪趣味は?


 これが、自分の所属する組織の正体か?

 あれが、あの醜悪な男が今の自分の主なのか?

 胸に埋め込まれた「プログラム」はそうだと言っている……


 このために、自分はこの新しい肉体を得たのだろうか?


 あの地下での誇り高き決闘で、自分は死んだはずだった。

 それで、自分の役目は果たされたのではなかったのか?


 だが、Drクラインは言った。

 「弱者は強者と共に在らねばならない」と……

 「そのために、このボディが存在するのだ」と……


 自分が今何をするべきなのか分からない。


 このまま、彼女が嬲り殺されるのを、ただ見ているのか?

 この光景こそが、「万能の力」の為す事なのか?
429 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 23:52:52.73 ID:yz5FM/Io

シュウザー「そうだ……一つ性能テストに協力してもらおう」


 シュウザーはアルカイザーの頭を左手で鷲づかみにした。
 右腕のひじから先がボロリと落ち、筒状の二の腕が現れる。


シュウザー「この火炎放射器に覚えがあるだろう? これはな、毒ガスを可燃させているんだ……」

 シュウザーは、これまでで一番醜悪な笑みを浮かべた。 

シュウザー「ヒーローというものは初めて見るのでな。効き目を試したい」


 シュウザーの二の腕から、悪臭の漂うガスが噴出された。
 顔面にそれを浴びたアルカイザーがむせ込む。

アルカイザー「ゲホッ!? ゴフ……ッ!?」

 外からは分からないが、仮面の中で吐血した。
 体に苦しみが侵食してくる感覚を覚える。


シュウザー「ふはは! その仮面は風通りがいいみたいじゃないか!!」

アルカイザー「ガハッ!? ゴ……グッ!!?」


 初めて味わう苦痛。

 だが、どんなに内臓を蝕む毒ガスでも、変身したアルカイザーの体は治癒を始める。
 毒の進行とほぼ同じ速度で行われるそれが、皮肉にも彼女の苦しみを長引かせることになった……

 いつまで経っても、気を失うことが出来ないのだ。


 いや、人質がいる限り、どちらにせよ彼女は耐え続けるしかない……
430 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 23:54:15.49 ID:yz5FM/Io

 苦しみにのた打ち回るアルカイザー。

 佐天涙子。


 柵川中学一年。無能力者。
 そう、彼女はまさに、凡人を絵に描いたような、ただの少女でしかない。

 小学校を卒業して一年も満たない。
 まるっきり子どもでしかない。

 手足も細く、運動が特別得意なわけでもないし、もちろん殴り合いの喧嘩なんかしたこともない。


 それなのに、今こうしてヒーローとして戦っているのは、ひとえに友人達の存在があるからだ。


 レベル5の少女。常盤台の超電磁砲・御坂美琴。

 風紀委員に所属する空間移動能力者・白井黒子。


 そして花飾りの少女。唯一無二の佐天涙子の親友。

 初春飾利。



 初めて話したときから――


 『佐天さん。私、立派な風紀委員になりたいんです!』


 今でもずっと――


 『佐天さんは欠陥品なんかじゃありません……!』


 大切な――


佐天「大切な……!!」


 そして、佐天涙子は再び立ち上がる。
431 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 23:55:03.20 ID:yz5FM/Io

 ……何故立ち上がる?


 約束など守られるはずがない。

 それが分からない訳ではあるまい?


 何故だ? 何故立ち上がるんだ?



 『私は強くないよ……』



 分からないな……人間のココロは……



 『いつか分かるよ……』



 分からない。私にはココロが無い。

 求めても求めても、己の中にココロがないことを確信するだけだ。


 それは……虚しい……


 『だって――』


 『あなたも私の、友達なんだから』
432 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 23:57:28.04 ID:yz5FM/Io

 「もう……止めて……下さい……!」


 分厚い鉄の壁に囲まれた小さな部屋で、一人の少女が涙を流していた。

 そこは、シュウザー城の一室。
 他の学生たちとは別に、この少女のためだけに用意されたVIPルーム。

 扉は厳重に閉じられ、門番として特別製の怪人が目を光らせている。
 壁には大型のモニターが設置され、屋上での戦いが映し出されていた。

 画面から、何度も何度も呻き声が聞こえた。


 「お願いだから……もう……」


 画面に映しだされるのは、少女の親友。

 少女は全てを知っていた。
 何故彼女があんなに苦しんでいるのかも。
 これがどんなに悪趣味な道楽なのかも。


 「佐天さん……もういいんです……私はここです! そこにはいないんです!!」


 少女の名は初春飾利。

 メタルブラックによって誘拐された、佐天涙子の親友。
 この悪夢の全てを把握しつつ、それを終わらせることが出来ずに苦しみ続ける、シュウザーの第二の標的。


 そう、すべては茶番劇。
 初春は脳を移植されてなどいない。
 それは佐天を苦しめるためのくだらない嘘に過ぎない。

 これは、あの男のネジレ狂った欲望を満たすためのショウでしかないのだ。

 親友同士がお互いの為に自身を傷つけあう。
 そんなふざけた演目を、誰もが強制的に演じさせられているのだ。
433 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 00:00:07.18 ID:UOdUykAo

初春「佐天さん! 戦って!! お願いだから!!」


 どんなに叫んでも、あの場所には届かない。


 初春には一つだけ、「ルール」が言い渡されていた。


 こうしている間にも、画面に映る親友は傷ついていく。

 毒ガスを浴びせられ、苦しそうにのた打ち回っていた。
 立ち上がったと思ったら、腹に蹴りを入れられた。
 あの鉛色のゴツイ腕で、頭を殴られた。

 そして倒れるたびに、虚像の人質で脅しをかけられ立ち上がる。
 人質、つまり「自分」だ。


 だがついに、画面の親友が倒れたまま動かなくなった。


 初春には一つだけ「武器」が与えられていた。


初春「佐天さん……! 佐天さん……!!」


 こちらの声は届かない。だが、向こうの声はこちらに届く。

 『もう終わりか……? まぁ、持った方か……』

 『そうだ……貴様は炎に耐性があるそうじゃないか?』

 『最後にそれを試すとしよう……』

 男が、動かなくなった親友に火を放った。
 全身を真っ赤な炎に包まれ、その姿が見えなくなる。


 初春には一つだけ「選択肢」が与えられていた。


初春「……!」


 初春はついに覚悟を決め、唯一の武器をその手にとった。
434 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 00:01:42.92 ID:UOdUykAo

 初春に言い渡された「ルール」。

 それは「初春が自害すれば佐天を助ける」というもの。


 初春に与えられた「武器」。

 それは「一振りのナイフ」。


 初春に与えられた「選択肢」。

 それは「そのナイフで胸を刺す事」。


初春「……」


 もはや画面を見てはいなかった。
 初春の視線は、右手に持ったナイフに釘付けになっている。

 視線をそらしても、耳には親友がその身を焦がす音が届く。


 今更かもしれない。約束はきっと破られる。

 親友も先輩も、きっと怒るだろう。


 でも――


初春「佐天さん……ありがとう……」


 ごめんなさい……



 少女の胸を、刃が紅く染めた。
435 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 00:05:08.15 ID:UOdUykAo

 毒の炎が、城の屋上に火柱を起していた。

シュウザー「……ちっ! しぶとい……」

 初めはニヤニヤとその様子を見つめていたシュウザーだったが、次第に苛立ちを募らせた。

 アルカイザーの体が、いつまで経っても焼けないのだ。


 シュウザーは考える。
 この異常な耐性は何だ?

 『紅炎石』という物がある。
 あれは、持つだけで炎への耐性をその身に宿す魔力の篭った石だ。
 初めはそれが鎧の原料に使われているのだと考えた。

 だが、それにしては耐久力がありすぎる。
 どんなに耐性があっても、燃える物は燃えるのだ。

 では、これは何だ?


 ……嫌な予感がした。

 これは「耐性」ではないのではないか?
 そう、「耐性」ではなく……「特性」。

 炎への耐性はその一端でしかなく、本来の力は別の――


シュウザー「……っ! ええい!! もういい!!」


 シュウザーは臆病な男だ。
 それゆえに慎重で思慮深い。

 危なくなれば直ぐ保身に走る。


 シュウザーは、再びアルカイザーから距離をとった。

シュウザー『クロービット!! アルカイザーの心臓を抉り取ってしまえ!!!』

 主の指示に従い、足元でスタンバイしていた鋼の爪が飛翔する。
436 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 00:07:48.66 ID:UOdUykAo

 刃を回転させ標的を穿つ、シュウザーのクロービット。
 彼の意思に従い自在に飛翔するそれは、彼の臆病さの象徴でもあった。

 自分はその場を動かず、遠くから不意を付き、死角から襲撃する。


 そんな物にこの大切な場面を任せたのが、彼の運の尽きだった。


 アルカイザーを狙って放たれたそれは、目標に届く前に撃墜された。
 空中で突如、何かに打ち抜かれ爆発したのだ。


シュウザー「ミサイル!? 何者だ! どこから……!?」


 重厚な足音が、夜空に響いた。

 炎に照らし出された装甲は『黒』。

 彼はもはや『鋼の侍』ではない。

 ミサイルを発射した「ヒザ」から煙が吹き出ている。

 巨大な両肩は敵の骨さえ残さず破壊する。

 赤い目が闇の中でぎらつく。

 まさに、今の彼は『破壊兵器』と呼ぶにふさわしい。


シュウザー「貴様……何のつもりだメタルブラック!!」


メタルブラック「シュウザー。私はお前の『力』を認めない」


 人を危める為に作られたはずのその腕に、花飾りの少女が抱えられていた。
437 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 00:09:31.40 ID:UOdUykAo

シュウザー「裏切る気か?」

メタルブラック「そうなるな」


 しばし睨み合い、シュウザーが心底可笑しそうに声を出し笑った。


シュウザー「不可能だ! 分かっているだろう? 今のお前の主は俺様なんだよ!!」


 メカであるメタルブラックは、インプットされた主の命には逆らえない。
 新しいボディを得て『メタルブラック改』となった時点で、彼の主は「シュウザー」になったのだ。


メタルブラック「確かに。敗者である私には、未だ強者であるお前に従う義務がある」

シュウザー「ならば!」

メタルブラック「だが無駄だ。そんな義務は破棄した」

シュウザー「破棄だと? ……貴様! その胸は!?」


 メタルブラックの胸の装甲を破り、深々と穴が開いている。


メタルブラック「私を縛るプログラムなど、電子頭脳ごと破壊した」

シュウザー「正気か貴様!? 一歩間違えれば、貴様の人格も消去されるぞ!!?」


 メタルブラックは、腕の中で眠る、胸を赤く染めた少女に目を落とした。
 そして、いまだ火中に倒れる、紅いヒーローにも視線を送る。


メタルブラック「女子供が命を投げ打っているのだ。私に出来ない道理があるものか……!!」
438 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 00:11:14.14 ID:UOdUykAo

 メタルブラックの肩が振動し、エネルギーがチャージされる。
 それは新たなメタルブラックの切り札。


シュウザー「『反重力クラッシャー』か!?」


 眩い閃光と共に、赤と青の二重螺旋が放たれる。

 ビルの屋上をチリも残さず消滅させた光のドリル。
 あのときは、シュウザーの命令で仕方なく不意を撃った。

 だが、今度は自分の意思で、真正面から敵を狙い撃つ……!


シュウザー「うおぉおおお!!?」


 咆えながら無様に飛び退き、シュウザーは間一髪のところで回避した。

 爆音と共に膨大な土煙が巻き起こる。
 シュウザー城の頂上に、巨大なクレーターが完成した。

 シュウザーの額から脂汗が流れ、引きつった顔を濡らしている。


シュウザー「ま、待てメタルブラック! 俺を殺しても貴様には何の得もないぞ!?」

メタルブラック「どこまでも見苦しい男だ……」


 第二撃を放とうと、両肩が振動しチャージを始める。

 だが――


メタルブラック「……!!?」


 自分で貫いた胸が、小さな爆発を起こし黒煙を噴出した。
439 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 00:12:33.19 ID:UOdUykAo

シュウザー「く……くはははは!! やはり無理が祟ったようだな裏切り者め!!」


 打って変わって、シュウザーの頬がつり上がる。


シュウザー「所詮貴様は只のメカに過ぎんということだ! 分を弁えろ鉄屑め!!」

メタルブラック「……」


 そうだな……これ以上は自分の役割ではないらしい。



 「初春は……生きてるの?」



 凛とした、それでいて幼さの残る声がした。


メタルブラック「素人が自分の心臓なぞ刺せるか。肺を破って死に掛けているだけだ」


 「……それは助かるの?」


メタルブラック「時による。急げ」



シュウザー「何故だ……? 何故お前がまた立ち上がるぅぅ!!?」





アルカイザー「――友達のためだ!!!」
440 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 00:14:59.59 ID:UOdUykAo

 燃え盛る火柱の中、アルカイザーは立ち上がった。


 炎が輝きを増していく。
 まるで彼女の放つ拳のように清浄な輝きだ。

 炎に含まれていた毒など、その輝きの前に浄化されることだろう。


シュウザー「く、来るなぁぁ!?」


 炎が勢いを増していく。


 まるで命を持つように。意思を持つように。

 アルカイザーを中心に、炎の渦を巻いていく。


シュウザー「炎……炎か……!? これが貴様の力か!!?」


 炎を操る能力……?


 違う。


 アルカイザー・佐天涙子の特性は、そんな「超能力」じみた物ではない。

 アルカイザーの鎧は炎に対する耐性など持っていない。
 これまでのことはただ、炎が勝手にアルカイザーの味方をしていただけのこと。

 決して、『炎』は操られているわけではないのだ。
441 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 00:16:08.34 ID:UOdUykAo

 佐天涙子は学園都市で改造された無能力者である。


 彼女に能力の才能は皆無だ。

 その為の努力をする才も、彼女は持っていない。
 それ程熱心でまじめではない。


 だが、彼女は――


美琴『こんにちは佐天さん!』

黒子『あら、佐天さんじゃありませんの』

固法『今日も元気ね佐天さん』

アケミ『やっほー涙子!』

むーちゃん『ねぇ知ってる涙子?』

マコちん『涙子おっはー!』

重福『久しぶり、佐天さん……』

鋼盾『あ、佐天さん』

介旅『おう……佐天だったか?』

姉御『何やってんだよ佐天涙子』

ラビット『涙子。何を悩む?』


初春『おはようございます! 佐天さん!!』


 彼女は、みんなの友達なのだ。
442 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 00:19:20.62 ID:UOdUykAo

 私は一人では何も出来ない。

 でも、今は力が必要なの。


佐天「お願い……力を貸して……!」


 『ふふ……いいよ』

 『まかせろアルカイザー!』

 『やっちゃえやっちゃえー』


アルカイザー「ありがとう……『みんな』!!」


 そう、彼女はみんなの『友達』……


 その身を焼き尽くそうと猛り狂う炎でさえも、彼女は『友達』にしてしまったのだ……!



シュウザー「来るな……来るなぁぁ!!!」

アルカイザー「嫌だ。お前はここで倒す……!」


 後退りするシュウザー。
 その姿には、もはや四天王としての尊厳など微塵も存在しない。


アルカイザー「ブラッククロス四天王・シュウザー、お前は多くの罪も無い人々を苦しめた! 許すわけにはいかない!!」

シュウザー「罪の無い人間など居るものか! 俺も元は人間だぞ!? 人間を殺すのかアルカイザー!!?」

アルカイザー「そんな人間はもう死んだ! ここにいるのは只の怪物だ!!」
443 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 00:20:12.39 ID:UOdUykAo

アルカイザー「うおぉおおおおおおおおおお!!!」


 炎を纏ったアルカイザーが駆ける。
 シュウザーは悲鳴を上げ、存在しない腕を振り回す。

 眩く輝く炎の渦が、敵を貫こうとその形を変えた。



 たとえ、何度切り刻まれようと。


 たとえ、何度蹴り抜かれようと。


 たとえ、何度骨を砕かれようと。


 たとえ、何度心を壊されようと。


 たとえ、何度死の恐怖に晒されようと。



 アルカイザーは立ち上がる。

 その胸に希望がある限り、何度でも――



 不死鳥の如く――――!!!
444 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 00:21:47.02 ID:UOdUykAo






アルカイザー『アル・フェニックス!!!!!!』





445 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 00:23:10.67 ID:UOdUykAo

シュウザー「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!???」


 アルカイザーの拳が叩き込まれた。

 シュウザーは轟炎と共に吹き飛ばされ、全身を灼熱に貫かれる。


 シュウザーは、腹を貫かれようが、胸を破られようが、頭を粉砕されようが死なない。


 しかし、そんなことは関係無い。
 この正義の灼熱は、全ての悪は等しく焼き尽くす。


シュウザー「ひぃぃ……!? い、嫌だ! 嫌だぁぁぁぁぁぁ!??」



アルカイザー「その邪悪な魂ごと、燃え尽きろぉぉぉ!!!」



 シュウザーは炎の渦によって天高く打ち上げられた。
 その全てを燃やし尽くされ、大爆発を起こし、チリと化す。

 悪の権化は、そのまま空の闇へと消えていった。


 これでもう、あの男に苦しめられる者は居ないだろう。
446 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 00:24:09.22 ID:UOdUykAo

 戦いが終わった。

 いや、まだ一つ残っている。


 「アルカイザー!」


 振り向くと、御坂美琴が駆けつけていた。


美琴「やったのね! シュウザーを!!」

アルカイザー「ええ、奴は倒しました……でも――」


 視線を移す。

 美琴もそれに気付いた。


美琴「初春さん……?」


 メタルブラックの姿は無い。

 代わりに、初春飾利の体がそっと寝かされていた。
 胸にはナイフが刺さったままになっている。


美琴「初春さん!? 嘘……そんな!!?」


 美琴が混乱しつつも駆け寄る。
 アルカイザーも、急いで彼女の傍へ向かった。
447 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 00:27:05.34 ID:UOdUykAo

 その凄惨な光景に顔を青ざめさせ、口を押さえて震える美琴。

 美琴に代わり、アルカイザーが初春を抱き寄せた。


美琴「し、死んでるの……?」

アルカイザー「……いいえ。まだ息は……」


 しかし、病院まで連れて行く猶予はないだろう。

 今思えば、脳を取り戻して頭に直すなんて、馬鹿馬鹿しい話だった。
 人は、ただ胸を一突きするだけで死ぬのだ。


美琴「ど、どうしたら……」

アルカイザー「……手はあります」

美琴「本当!?」


 助けられる。
 リスクは伴うが、いまさら関係ない。


アルカイザー「御坂さん」

美琴「何? 私に出来ることなら……」


アルカイザー「あと、任せます」


 アルカイザーは、初春の胸に突き刺さるナイフを強引に引き抜いた。
 傷口から血が噴出し、アルカイザーの仮面を濡らす。

アルカイザー「……!!」

 血の温もり、初春の命の温度を感じるように、その胸に手のひらを重ねた。
448 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 00:28:32.03 ID:UOdUykAo

 アルカイザーの体が光を放ち、それが広がっていく……

 敵を討つための光ではない。
 暖かい、柔らかく、包み込むような……


美琴「これは……?」

 傍に立っていた美琴も光に包まれる。

美琴「痛みが、引いていく……」

 ここまでの戦いで負った傷が治っていく。


 ヒーローは悪を倒すものではない。
 ヒーローは、弱者を護るための存在。

 だから、ヒーローには傷ついたものを癒す力があって当然なのだ。



アルカイザー『ファイナルクルセイド……』



 ドクン……

 ドクン……

 心臓の鼓動が、手のひらに伝わった。

 もう大丈夫だ。


初春「……う」


 初春が意識を取り戻す。
 胸の傷はもう無い。失った血もすぐに戻るだろう。
449 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 00:30:16.56 ID:UOdUykAo

アルカイザー「初春……」

初春「助けて……くれたんですね……」


 よかった。
 初春は無事だ。


 もういい。

 これで、もう――



 そして、アルカイザーは意識を失った。



 自らの生命力を分け与えることで、他人の傷を癒す技、『ファイナルクルセイド』。

 限界を超えたアルカイザーには、もう、変身を続ける力も残らなかった。
 紅い鎧が、蜃気楼のように掻き消える。


美琴「え……?」


 初春に寄りかかるように、佐天涙子は倒れた。


美琴「佐天……さん?」



 空が白み始めた。

 長い夜が明ける。
450 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 00:31:34.71 ID:UOdUykAo

黒子「まったく。私の居ない間にどれだけ無茶をなさりますのやら……」

美琴「別にいいでしょ。無事だったんだから……」

黒子「いいえ良くありませんの! 今度という今度は、お姉さまには身の振り方というものを……」


 黒子の傷が癒え、退院の準備を手伝いに病院を訪れていた。

 人が折角来てあげたというのに、と美琴はうんざりした顔でお小言を聞き流す。


初春「……」

美琴「初春さん?」

初春「あ、は、はい!」

美琴「大丈夫……?」

初春「はい! 大丈夫です!」


 初春は、黒子の病室に並ぶ、もう一つのベッドを見つめていた。

 そこに眠っているのは、彼女の親友。


 アルカイザーの正体。佐天涙子だ。


 もう三日間眠り続けている。


黒子「体に異常は無いそうですから……いつ目覚めてもおかしくありませんの」

美琴「そう……なら――」


 今は、ゆっくり眠らせてあげよう。
451 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 00:32:44.32 ID:UOdUykAo

美琴「……ねぇ、佐天さん?」


 どうして黙ってたの?

 言ってくれれば……力になれたのに。


 仮面なんかで隠さずに、貴女の顔を見て話したい。


 ねぇ、答えてよ。

 私、今度は上手くやれるよね?


 貴女の力にだってなれるよね……?


黒子「お姉さま〜?」

美琴「な、何よ?」

黒子「そんなに熱い視線を佐天さんに……ま、まさか!? 黒子というものがありながらお姉さまは――!!?」

美琴「己の脳みそはそれっばっかりかぁぁぁ!!!」

初春「御坂さんここ病院ですよぉ〜!?」



 ああ、戦いの後はいつもこうだなぁ……



佐天「楽しそう過ぎて……寝てられないや……!」



 落ちこぼれのヒーローは、再び立ち上がる。
452 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 00:33:43.44 ID:UOdUykAo

 【次回予告】

 ついに正体を白日の下に晒した佐天!

 佐天の前に、ヒーローの掟に従いあの男が立ちはだかる!!

 アルカイザーに、佐天涙子に明日はあるのか!?


 次回! 第十四話!! 【宿命! アルカールの掟!!】!!

 ご期待ください!!
453 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/08(水) 00:38:43.48 ID:UOdUykAo

と、いうわけで第十三話でした。

やっほぅ! 何かもうこの話書くために今までもう何やかんやありましたさ!!
ご都合主義? 知るか! ヒーローはこういうものなんだよ!

補足後前回分のレス返し始めます。

次回は明後日、もしくは明々後日になりますが、どちらにせよ明後日には一度連絡に来ます。


 【補足】

 ・シュウザーについて。
  外道ですぐ逃げる卑怯者というイメージをさらに膨らませてみました。
  脳みそのイベント。これが余りにも衝撃的で、当時小学生だった自分にとってシュウザーは思い入れのある悪役です。
  原作では普通にトドメをさす主人公ですが、佐天さんにそれは出来ないだろうとこの形に。

 ・アルフェニックスについて。
  アルカイザーといえばこの技です。アルカールも使えるのかなぁ?
  個人的には「アルカイザー専用技」であって欲しいという願望があって、「佐天さんらしさ」を交えて、
  「炎を友達にした」という解釈をしてみました。
  原作では只単なる「炎で突進する技」で、炎への耐性も無いんですよアルカイザー。
  炎への耐性は、原作主人公のレッドではなく、佐天さんが変身したからこその「特性」ということです。
  この辺は当SSの「テーマ」でもあるので、序盤から伏線も張ってきました。

 ・メタルブラック改について。
  原作ではシュウザーの部下ではありません。そもそも復活前の四天王は倒す順番が自由です。
  味方にもなりませんでした。残念。
454 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/08(水) 00:51:12.66 ID:UOdUykAo
>>415
こちらこそ、ここまでお付き合いいただいて乙フェニックス。
プレイ済みの皆さんは、初春が攫われた段階でこの展開を予想されていたでしょうね。

>>416
原作はあれどっちなんでしょう?
僕は本当だと思ってますけど、良く分からない……

>>418
原作初プレイ時、小学生だった俺は10ターン位無抵抗でシュウザーに殴られ続けました。
アレで倒してアレで助けましたとも。

>>419
そのリアクションを期待して書きました。
楽しんで頂けると嬉しいです。

>>420
その幻想は殺させない。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1288925.jpg
455 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/08(水) 00:58:23.33 ID:4ZaXnQAO
やはりアニメ佐天さんはどう考えてもバストアッパーを使ったよな
乙、アル・フェニックスの独自解釈いい感じじゃん
真なる炎にも期待してる
456 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/08(水) 01:08:56.01 ID:pE5NUoo0
乙!熱い展開で楽しめた
ちなみに原作での脳が移植云々はブラフじゃなくて真実だったらしい
表だか裏だかの解体新書のインタビューでこんな感じのことが書かれていたはず
「博士の脳は移植されているけどそれでも意識を持っていて、アルカイザーを攻撃するシュウザーにやめろ!とか頭の中で叫んでる、でもそれをシュウザーは楽しんでいるので無論止めない」
シュウザーはほんまドSやわぁ・・・
457 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/08(水) 01:13:25.83 ID:ViU3wUAO
うひゃあ! シャイニング乙ん!
初春生きてたーww良かったわー。
俺は原作だと容赦なくロザリオで串刺しにしてやってたから、完全に死んだと思ってたww
458 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/08(水) 01:41:56.28 ID:CxuzGP20
投下乙
原作知らないんだけど、元がクロスに向かないハードストーリーだから
マイルドにアレンジしたのかと思いきや、犠牲にならないルートもあるんだね。
このSS完結したら原作ストアで買ってみようかな。
459 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/08(水) 01:49:28.69 ID:UOdUykAo
ああ、ちょっと覗いたら俺の書き方が誤解を招いている!?

>>455
ありがとうございます。
これからも精進させていただきます。

>>456
そうですか、やっぱり。
シュウザーさんマジ鬼畜。

>>457
初春殺しちゃったらどう頑張ってもハッピーエンドになれませんからね。
何としても助け出しますとも。

>>458
ごめんなさい。上で書いた「10ターン待った」とか「アレで助けた」とかは違います。
「10ターン」は俺が勝手にやっただけで何のイベントも起こりません。諦めてトドメをさすしかないです。
「アレで助けた」はこのSSでファイナルクルセイドを使って初春を助けたことです。
紛らわしいことを書いてすみませんでした……
ゲームは是非やってみてください。アセルス編もおすすめです。
460 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 14:31:43.88 ID:EDvROKwo
相変わらずの王道ヒーロー展開、流石でございます
雰囲気的にそろそろ終わりそうな感じがしてなんだか寂しいな・・・
でも次回も楽しみにしてます!

それと佐天さんの胸ですが、アニメ版はおっきく描かれてるのは確かです
まあなんというか、かまち先生版とアニメ版ではパラレルワールドが展開されている事は確かのようです
そしてどちらの佐天さんも可愛い、これが真理ではないでしょうかとか適当な事を言ってみる

ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1291039.jpg
461 : ◆S7msF7zQV2 [saga sage]:2010/12/09(木) 20:47:58.43 ID:fOj427.o

どうも。報告に来ました。

今後の展開との兼ね合いもあって、今日の更新は見送らせていただきます。
明日には第十四話を投下できると思います。

お待たせしてしまいすみません。


>>460
ありがとうございます。アルカイザーのような正統派ヒーローは王道が一番だと思います。
ダークヒーローも好きですけどね。
そしておっぱいの大きさ如何に関わらず、佐天さん好きに悪い人はいません。本当です。

次回の更新から最終章に突入します。
あと五話から七話といったところだと思いますので、最後まで読んでいただけるとありがたいです。
462 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/10(金) 23:31:06.67 ID:Fa.plI2o

お待たせしました。

第十四話の投下を始めます。
463 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/10(金) 23:32:20.97 ID:Fa.plI2o

 遂にこのときが来たか……


 「キュー……?」

 「大丈夫だコットン。心配はいらん」


 あの日、彼女をヒーローにしたときに覚悟したはずだ。
 いまさら無かったことになどできない。


 彼女は……ヒーローとして余りに戦いすぎた。


 「まさか……な」

 ブラッククロス四天王。
 その全てを相手取り、勝利を収めるとは。

 今の彼女の実力は如何ほどだろうか?


 「さぁ。彼女をヒーローとして戦わせてきた。その責任を取るとしよう」


 存分に今を楽しめ、佐天涙子。

 お前の日常を破壊しに、この漆黒のヒーローが参る。


 【第十四話・宿命! アルカールの掟!!】
464 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/10(金) 23:33:47.10 ID:Fa.plI2o

初春「出来たー!」

佐天「おぉー!」

黒子「あらあら。上達したじゃありませんの」


 お皿の上に、ウサギの形にカットされたリンゴが並ぶ。
 初春渾身の作品だ。


佐天「上手くなったねー初春―」

初春「そりゃそうですよー! 皆さんがあんまりにも入院ばっかりするんですから!」

佐天「ごめんなさい」

黒子「ごめんなさい」

初春「や、いやですよー! 別にそんなつもりじゃ……」

佐天「なんつってな! いただきー!」

初春「あ! ちょっと佐天さん!?」

 みんなの隙をつき、一番乗りでウサちゃんリンゴを口に運ぶ。

 うん! 湿っぽいのが続いちゃったからね!
 こういうノリこそ我らが佐天さんの真骨頂なワケですよ――


 「ああああああああああああああああああああああ!!!??」


佐天「ゲホッ!? ……な、何ですか御坂さん……?」

美琴「た、食べちゃうの……?」

佐天「いや……そりゃリンゴですから……」

美琴「……」

黒子「お姉さま。リンゴですの」

美琴「……うん」


 ……初春印のウサちゃんも、御坂さんにクリーンヒットなのか。
465 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/10(金) 23:35:57.72 ID:Fa.plI2o

 松葉杖を借りて、佐天は美琴と二人廊下に出た。
 初春たちにはジュースを買いに行くと言ってある。


美琴「佐天さん。調子はどう?」

佐天「えぇ、もう大丈夫ですよ。体はアチコチ痛いですけど」


 佐天が目を覚ましてから一晩経った。

 昨日はまだ全身にダルさを感じて起き上がれなかったが、今はこうして談笑できる所まで回復した。
 しかし、ファイナルクルセイドによって体力を使い果たし、強制的に変身が解かれたため、怪我は治りきっていなかった。


美琴「そう……無理しなくてもいいからね?」

佐天「あはは。御坂さんやっさしー!」

美琴「佐天さん」

佐天「……」


 そうだ。
 いつまでも、こうして「今まで通り」を演じているわけにはいかない……

 すでに佐天の秘密は、彼女達の知るところとなってしまったのだから。


美琴「……ねぇ? どうして黙ってたのか、聞いてもいい?」

佐天「……そうしろって、アルカールさんに言われたんです」

美琴「アルカール? って、あの黒いアルカイザー?」

佐天「私の恩人です。あの人が居なかったら、私は今頃シュウザーに殺されてました」


 黙って考え込む美琴。

 そして答えに至ったのだろう。
 暗い面持ちで、佐天に尋ねた。

美琴「ひょっとして……今、やばい?」

佐天「……たぶん」
466 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/10(金) 23:38:50.58 ID:Fa.plI2o

美琴「黒子にも、誰にも貴女のことは話してないわ……」

 美琴が言うには、あの日、あの場所に佐天が居たのは、
 「初春と一緒に攫われていたから」
 と、いうことになっているらしい。

美琴「あんまり人に話すことじゃないだろうと思ったんだけど……」

佐天「そうですね。でも、もうこうなったら関係ないですよ」


 あの人が現れなかったのは、まだ正体がばれたと知らなかったからか……
 もしあの日はそうだったとしても、四日も経った。
 もう彼の耳には入っているだろう。

 それとも、あの日は、まだ「証人が生き残るとは限らなかった」からだろうか?

 ……いや。詮無いことだ。
 もしそうだとしても、彼の性格からして、“消される”のは一般人ではないだろう……


佐天「何にしても。もう時間は無いと思います……」

美琴「……どうするの?」

佐天「とりあえず変身します」

美琴「そう、変身……は?」

佐天「体中痛いんですよ〜。変身して治癒力上げちゃいたいんです〜」

美琴「そ、そういうものなの?」

佐天「どっか人目につかない場所ありませんかね……トイレとか?」

美琴「じゃあ、黒子に頼みましょう」

佐天「え? それって……」

美琴「テレポートでどっか飛ばしてもらいましょう」


 ……わーい。退院早々、白井タクシー平常運転だー。

 容赦ねー。
467 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/10(金) 23:42:00.21 ID:Fa.plI2o

 そして、佐天たちはとある学校のグラウンドに居た。
 何でも、怪人が校舎を荒らしてしまったため、しばらく休校になっているそうだ。

 ここに居るのは、佐天と美琴、ここまで送ってくれた黒子。

 そして――

初春「……」

 初春飾利。


 もう、彼女達に隠してはいられない。

 「いま、御坂さんの目には何が見えていますか?」

 佐天は、一人暴走する美琴にそう言ったことがあった。
 それは、「周りを見ろ。貴女には頼ってもいい友達がいる」そういう意味。

 時が経った今、美琴が自分に対し、その言葉を返した。


佐天「さて……じゃあ、済ませちゃおっか……」


 目を閉じて集中する。
 今まで何度もそうしたように。

 体の中心。生命力の源から、全身に熱いエネルギーが流れていく。

 体が光を放ち、力が湧いてくるいつもの感覚。


佐天「変身……!」


 この言葉を何度呟いただろう?
 時には叫んだし、無言だったこともある。

 いつのまにか、この掛け声が自分のアイデンティティになっているような錯覚さえあった。


 光を吹き払う一迅の風。

 少女達の前に、紅い鎧のヒーローが現れた。
468 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/10(金) 23:45:24.88 ID:Fa.plI2o

 美琴は真剣な表情でそれを見届けた。

 黒子は、まだ信じきっていなかったのだろう。目を丸くしている。

 そして初春は、今にも泣き出しそうな顔をしていた。


 全身の痛みが引いていく。
 骨に入ったヒビがくっ付き、傷口がふさがっていく。

 ヒーローになると治癒力が増す。
 特に、変身するときは急速な肉体の再生が起こる。


 いらなくなった松葉杖を置き、深呼吸した。


佐天「改めまして――」


 声に振るえはない。



佐天「私が、アルカイザーです」



 その名を、彼女達の前で名乗った。

 そして、それが意味するものとは――



 「覚悟を決めたようだな。アルカイザー」



 突如吹き荒れた暴風と巨大な影。
 空から、何か翼を広げた生き物が現れた。


 見慣れたはずの黒い男が、佐天には地獄からの使者に見えた。
469 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/10(金) 23:48:54.75 ID:Fa.plI2o

美琴「怪人!?」

 美琴たちが身構える。

 グラウンドの砂を巻き上げ、その生物が地上に降りた。

 クリーム色の毛に覆われた、大きな鳥のような生き物。
 しかし、爬虫類のような尻尾と長い首は、伝説のドラゴンを思わせる。
 赤と青の入り混じった不思議な色の羽が美しい。


 その背から――

 「ならば、私がここに来た理由も分かっているな?」

 漆黒のヒーロー・アルカールが降り立った。


アルカイザー「アルカールさん……」

アルカール「いつかこの日が来ると思っていたよ」


 ただならぬ気配に、事情を知らない黒子と初春は固唾を呑む。
 大体の予想が付いている美琴も、二人のやり取りを黙って見守っている。


アルカイザー「私を殺しに来たんですね」

アルカール「人聞きが悪いな。記憶を消すだけだ」


 冷たく言い放つその声に迷いはない。


アルカイザー「同じです。今の私が居なくなるのなら……」


 彼女達のことを忘れてしまうというのなら――


アルカイザー「私は命がけで、それを拒否しますから……!」

アルカール「……そう言うと思っていたよ。残念だアルカイザー」



アルカール「君をヒーローに相応しくないと判断し、掟に従い『消去』する……!!」
470 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/10(金) 23:50:48.92 ID:Fa.plI2o

 アルカールが踏み出そうとする。
 その足元へ――

アルカール「む……!」

 一本の鉄矢が突き刺さった。


黒子「そこまでですの」

美琴「それ以上近づけさせないわよ」

初春「……!」


アルカイザー「みんな……」


 アルカイザーを守るように、三人の少女が立ちはだかった。

 黒子の手には鉄矢が、美琴の手にはコインが握られている。
 初春は落ちていた松葉杖を拾って構えた。


アルカール「……やれやれだ。これでは、まるで私が悪党みたいだな」

美琴「私の友達に危害を加えるってんなら、誰だって悪党よ!」

黒子「たとえ命の恩人とはいえ、そのような物騒な話を目の前でされては――」

初春「風紀委員として、見過ごすわけにはいきません!!」


 少女達の目は、闘志に満ちている。
 「絶対に守り抜く」
 それは、彼らヒーローと同じ信念だ。

 だが、その光景にアルカールが怯むことはない。
 想定済みだ。


アルカール「……だ、そうだぞ? どうするのだ、アルカイザー?」

アルカイザー「え……?」

アルカール「彼女らを私と戦わせるのか、と聞いている」
471 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/10(金) 23:53:01.78 ID:Fa.plI2o

アルカイザー「……」


 そんなことは出来ない。

 何故ならこれは、自分が乗り越えなければならない試練だから。

 巻き込むとか、頼るとか。
 そんな次元の話じゃない。


初春「佐天さん! 下がっててください!!」

アルカイザー「いいんだ、初春。 私が戦わないといけないの」

美琴「……」

アルカイザー「私が決着をつけます。これは、『私』の戦いだから」


 ヒーローになることで命を救われ、アルカイザーとして戦ってきた。
 そしてあの日。私はこの運命を選択した。

 そのけじめをつける。


アルカール「よく言った。アルカイザー」

アルカイザー「……手加減は、してくれませんよね」

アルカール「当たり前だ馬鹿者」


 こうして、紅いヒーローと黒いヒーローが対峙した。


 場所はとある学校のグラウンド。
 時刻は昼過ぎ。

 命がけの決戦には不似合いなそのロケーション。


 逃れることの出来ない宿命の戦いが、容赦なく幕を上げる。
472 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/10(金) 23:56:13.30 ID:Fa.plI2o

アルカイザー「おおおおおおおおおおおおお!!!」

アルカール「おおおおおおおおおおおおお!!!」


 二つの影が、お互いに向かって真っ直ぐに駆けて行く。

 アルカイザーは右手に光を灯した。
 『ブライトナックル』なら、アルカールのそれを見たことがある。
 自分の方が威力は高い。打ち合いになれば確実に勝てる。

 だが――


アルカイザー「――――え?」


 このとき、まだ佐天はアルカールという男を甘く見ていた。
 彼は歴戦の勇者なのだ。
 それが、何故わざわざ自分の予想どおりに動いてくれると思ったのか。

 接近戦に臨もうとしていたのは、アルカイザーだけだったのだ。

 アルカールのそれは「フリ」。
 実際には――


アルカイザー「足――!?」


 砂埃に紛れて、鉛玉による『地上掃射』がアルカイザーに迫っていた。
 足元を狙うそれに気付き、慌てて跳びあがる。


アルカール「また、一手遅れたぞ?」


 アルカールの手に握られた二丁拳銃が、空中に浮いたアルカイザー目掛け『集中連射』を仕掛けた。

アルカイザー「う、うわぁ!?」

 自分に迫る十発の弾丸を、とっさの『アル・ブラスター』で撃ち落とす。


アルカイザー「け、拳銃……?」


 想定外の攻撃に戸惑い、足が地面に付くと同時に再び距離を取った。
473 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/10(金) 23:58:02.60 ID:Fa.plI2o

アルカール「何故飛び退いた? 接近するチャンスをみすみす逃すか」

アルカイザー「……!?」


 確かに。相手は飛び道具を持っているのだ。
 なら、接近するのが上策じゃないか。

 そもそも、自分はさっき接近戦なら勝てると踏んでいたはずなのに……!


アルカール「分かるか? アルカイザー……これが『差』だ」

アルカイザー「……『差』?」

アルカール「そうだ。確かにお前の方が、私よりも遥かにヒーローとしての才能は高い」


 アルカールは弾を撃ちつくした銃を捨て、アルカイザーに向き直った。


アルカール「だが、どんな才能も開花させなければ意味は無い」

アルカイザー「……」

アルカール「所詮お前は、急ごしらえのヒーローに過ぎないということだ……!」


 アルカールの体が光を放ち、一瞬で目の前に飛び込んで来た。
 今度こそ、正真正銘の接近戦。

 しかし、さっきの銃撃の残像を拭いきれず、アルカイザーは瞬時に反応できない。


アルカイザー「しまっ――!?」

 腰を低く落とし、右掌に光を圧縮させる、この構え――、
 『フラッシュスクリュー』……!?



アルカール『金剛神掌!!!』



 ――違う!? また予想が外れた!!?
474 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/11(土) 00:03:24.14 ID:GpKnA5Uo

 アルカイザーの腹に叩き込まれたのは「掌打」。
 内部から爆発を起こし、敵を木っ端微塵に吹き飛ばす『フラッシュスクリュー』ではない。


アルカイザー「ゴフッ……がぁああ!!?」

 打ち込まれた途端、掌から膨れ上がったエネルギーに包み込まれ、全身を焼かれる。
 掌打による衝撃で吹き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がった。


 『金剛神掌』……?

 そんな技、この体は教えてくれなかった――!


アルカイザー「こ、れが……アルカールさんの『特性』……!?」

アルカール「違う。これはただの『経験』だ!」


 再び、アルカールの右手が振りかぶられた。
 立ち上がったアルカイザーは、今度こそ防ごうと、両腕を交差させる。

 今度は間に合った。アルカールの手のひらは、アルカイザーの腕に向かって伸び――


アルカール「近接格闘は打撃しか知らないのか? 『掴み』は防御できない……!」


 腕を掴まれたアルカイザーは、そのまま前に引っ張られバランスを崩す。
 その隙を突いて、アルカールは背後を取り、両脚で頭を挟み固定させた。
 上体を反らされ、バク宙するように足が地面から離れた。

 ぷ、プロレス!!?

 「ぐるり」と、天地がひっくり返る。


アルカール『バベルクランブルッ!!!』


 一瞬の無重力の後に、頭から地面へと落下した。

アルカイザー「……ッあ……!?」

 脳が揺れる。
 視界が飛びそうになった。
475 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/11(土) 00:10:28.19 ID:GpKnA5Uo

アルカール「どうした? 立て……」

アルカイザー「う……ぐっ!!」


 頭を振り意識を戻す。大丈夫、まだ立てる。

 シュウザーの拷問も、メタルブラックとの死闘もこんなものじゃなかった。
 御坂さんの『超電磁砲』を受けたときなんて、走馬灯さえ見えたんだ。


アルカイザー『レイブレード!!』

アルカール『次は剣か……レイブレード!!』


 二人のヒーローは、互いに蒼い光の剣を構え、間合いを取った。
 睨み合い、必殺の一撃を打ち込もうと隙を伺う。


 ここまでの戦い。佐天の読みはことごとく外されている。

 それで何となく分かった。
 彼は、こちらに失敗を繰り返させ「心を折りに来ている」のだと。

 抵抗する気力を奪うつもりなのだ。
 
 なら、圧倒的なスピードで、小細工する暇を与えなければ!


アルカイザー『カイザースマッシュ!!!』


 メタルブラックを破った神速の三段斬撃。


アルカール『ディフレクト!!』


 一撃目は受けられた。
 だが二撃目がすでに放たれている。

アルカイザー「入った!!」

 一撃目を受けてアルカールの剣は止まった。
 もう防ぐものは無い――!
476 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/11(土) 00:14:28.12 ID:GpKnA5Uo

アルカイザー「嘘……!?」


 彼女の目に、信じられない光景が写った。

 左側に打ち込まれた『カイザースマッシュ』が、受けられている。
 アルカールの左手に、いつの間にかもう一本、逆手に『レイブレード』が握られていたのだ。

アルカイザー「二刀流ってこと!?」

アルカール「後の先……取った!!」


 度重なる想定外の出来事に混乱し、アルカイザーは三撃目を放てなかった。
 ついに、思考が途切れた。

 隙だらけの彼女に、アルカールの刃が奮われる。


アルカール『二刀……烈風剣!!!』


 疾風が走りアルカイザーの胸を十字に切り裂いた。

 遂に、アルカイザーはヒザから崩れ落ちるように倒れた。


アルカール「もう一度言おう……お前は所詮、急ごしらえのヒーローに過ぎない!!」


 アルカールが、倒れる彼女に歩み寄る。


アルカール「危険なのだ……力を得ただけの素人は……」



アルカール「もうここまでだ。佐天涙子。力と記憶をこちらに渡し、楽になれ」


 そして、レイブレードが振り下ろされる――――


…………

……
477 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/11(土) 00:16:34.22 ID:GpKnA5Uo

 そこは深い闇の中……


 私は地獄の底にでも落ちたのか……?

 悪魔か、鬼の声が聞こえる。


 「お前の記憶を確認させてもらったぞ」


 「面白いものが見られた。イマジネーションが掻き立てられたぞ……!」


 「そこでだ。提案がある」


 「お前に新しい体を用意しようと思う」


 「勿論、お前の頭脳はそのままだ。その革命的な頭脳こそ、このボディに相応しい」


 「やってくれるな?」


 答えはいつも一つしか用意されない。

 『YES』だ。


 望むとおりの答えを聞き、彼は地に響くような声で嗤った。


 「よくぞ辿りついた……メタルブラックよ!!!」


 Drクライン。
 私の本来の主であり、製作者だ。


 しかし、彼は本当に分かっているのだろうか?

 彼女の強さを、科学者であるDrに理解できるのだろうか?


 死に瀕しても、何故彼女が立ち上がるのか――――
478 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/11(土) 00:18:53.14 ID:GpKnA5Uo

 蒼い剣は、蒼い剣に受けられ、動きを止めていた。


アルカール「……まだ立つつもりか」

アルカイザー「当然……ですよ……」


 まだまだだ。

 まだまだ、彼女の心を折るには足りない。


 何故なら……


初春「佐天さん!!」

黒子「いけませんの初春! これは佐天さんの――」

初春「で、でも……!」

美琴「佐天さん……!」


アルカイザー「……はい」

美琴「私達は、いつだって手を貸すわよ?」

アルカイザー「……いいえ! 冗談じゃないですよ!!」


 みんなの見ている前で大見得切っておいて、その信頼を裏切るなんて出来るものか!


アルカール「何故抵抗する……」

アルカイザー「そっちこそ。どうしてそんなに私を消したがるんですか?」

アルカール「そういう決まりだ」

アルカイザー「……その『決まり』が私達を傷つけるなら――」


アルカイザー「そんな『ただルールを守るためのヒーロー』なんてクソ喰らえだ!!!」
479 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/11(土) 00:22:03.26 ID:GpKnA5Uo

アルカール「なら――打ち勝ってみせろ!!!」


 アルカールの気配が変わる。
 さっきまでの、あからさまな手加減が終わった。

 そう、手加減されていた。
 その位のことは、佐天にも分かっていた。

 彼は、厳しく、仰々しく、そして優しい男だ。


 ゆえに、あと一撃だけチャンスをくれた。

 あの老獪な戦い方を続けられれば、こちらは手も足も出ず、じわじわと削り取られたのに。
 「心を折るための戦い」を、「納得させるための戦い」に切り替えた。


 打ち勝って見せろと。


 なら、答えよう。

 私の全部をこの拳に乗せる――!!



 御坂さん。白井さん。初春。

 見ていて。

 私は消えないし、みんなのことだって消させない。


 この力はただ一つ、「大切なモノ」のために在るのだから……!!!


アルカイザー「私は『ヒーロー』になりたいんじゃない!」


アルカイザー「『ヒーローごっこ』は、もう卒業だ!!」



アルカイザー「『私たちの世界』を守るためなら! 『正義』だって倒してみせる!!!」
480 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/11(土) 00:23:36.77 ID:GpKnA5Uo

 拳が炎で燃えるように熱い。
 全身のエネルギーがそこに送り込まれる。


アルカイザー『ブライト――――』


アルカール『ブライト――――』


 白と黒。二つの光が衝突する――――



アルカール『ナックルゥゥゥ!!!!!!』



アルカイザー『ナックルゥゥゥ!!!!!!』



 グラウンドを、白と黒が埋め尽くす。

 初春たちが巻き込まれないように、美琴が地面を引っぺがして盾にした。

 ただでさえ荒れていた校舎が更に崩壊する。

 白い生物が上空からその様子を見下ろしていた。


 白と黒が混ざり合い、打ち消しあい、やがて掻き消えた。
481 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/11(土) 00:25:03.06 ID:GpKnA5Uo

 グラウンドには――

アルカイザー「……」

アルカール「……」

 アルカイザーとアルカール、どちらも倒れては居なかった。


アルカール「……仕方がないな」

アルカイザー「アルカールさん……まだ!」


 再び身構えるアルカイザー。

 だが――


アルカール「さて。ここにはもう用はない」


アルカイザー「――――はい?」


 アルカールはさっさと構えをとき、上空の白い生物を呼び寄せた。


美琴「ちょ、ちょっと! 帰る気!?」

アルカール「何だ? 私は任務を遂行したぞ?」

アルカイザー「いや……任務って……」

アルカール「ヒーローに相応しくない者の消去だが?」

アルカイザー「えっと……え?」

アルカール「だが無理だった。対象は私一人で処理出来るモノではなかった」



アルカール「つまり。任務失敗だ」
482 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/11(土) 00:27:10.79 ID:GpKnA5Uo

 呆気にとられる佐天たちを余所に、アルカールはのん気にストレッチなどしている。

アルカール「いや……久しぶりに体を動かした。いい準備運動になったな」

アルカイザー「じゅ、準備……運動……?」

 私、結構全力だったんですけど……


アルカール「ここの所、統括理事会だの魔術結社だの。妙な連中との会合が続いてな」

美琴「と、統括理事会? 魔術……結社……?」

黒子「会合……って、一体何の話を……?」

アルカール「腹の探りあいは苦手だ。こういう分かりやすい相手の方が良い。気楽だ」


 さて、と。
 アルカールは空を見上げた。



アルカール「そろそろ時間だ」



 その瞬間。

 まるで台風が直撃したような激しい暴風が吹き荒れた。

 校舎の窓ガラスが全て割れる。
 へし折れた風車が飛んでいった。

初春「きゃあぁあ!!?」

アルカイザー「な、何これ!??」

美琴「……見て! 空が!!?」



 空が――割れる――――!!!??
483 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/11(土) 00:28:28.05 ID:GpKnA5Uo

黒子「な、何ですの、あれは?」

初春「……宇宙船?」

美琴「白鳥だわ……いや、アヒルかしら?」

アルカイザー「御坂さん……そんな場合じゃないです……」


 割れた空から出現したのは、銀色に輝く、巨大な白鳥だった。

 否、正確には白鳥を模した「リージョン・シップ」――



 『キグナス号』――――!!!



アルカイザー「あ、アルカールさん……?」

アルカール「これから、私はあの『キグナス』で戦いに挑む」

美琴「戦い……?」

アルカール「ああ、そうだ。我々とブラッククロスの――」



アルカール「最終決戦だ!!!」


アルカイザー「!!?」
484 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/11(土) 00:29:38.10 ID:GpKnA5Uo

 最終決戦……! 遂に……!?


アルカール「どうする? アルカイザー……来るか?」

アルカイザー「わ、私は……」


 胸の鼓動が激しい。

 これが……これで戦いが終わる……!?


 これで……!!


美琴「さぁ。行きましょう佐天さん!」

アルカイザー「――え」


 彼女は、あっさりそんなことを言う。


佐天「み、御坂さん!?」

美琴「何よ?」

アルカイザー「いや、あの……何で御坂さんが……?」

美琴「は? 何でって……」

アルカイザー「だって……この戦いは……」


初春「我々とブラッククロスの最終決戦……ですよ。佐天さん」


アルカイザー「初春……まさか初春まで!?」

初春「勿論、着いていきますよ?」

アルカイザー「む、無茶だよぉ!?」


初春「――――そんなことは分かってます」
485 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/11(土) 00:31:28.59 ID:GpKnA5Uo

初春「それでも……連れて行ってください!」

アルカイザー「どうして……」

黒子「貴女と同じですの。佐天さん」

アルカイザー「白井さん?」

黒子「目の前で友達が困っていますの。それも、命がけの戦いだなんて……」

美琴「なら、微力でも何でも、自分の持てる力で助けるのが、『友達』でしょ?」



 ――――――。



 まったくもう……みんな勝手なんだから……



アルカール「もういいのか?」

アルカイザー「はい……覚悟は決まりました!」

アルカール「……アルカイザー。私はな、ヒーローは孤高なものだと思っていた」

アルカイザー「……」

アルカール「友を作れば、必ず巻き込んでしまう。だから、孤高でなければならない……」


 それが、「正体をばらしてはならない」という規則が出来た一因。


アルカール「だが、必ずしもそうではないらしい」



アルカール「いい友を持ったな。佐天涙子!」

アルカイザー「……はい!!」



 落ちこぼれのヒーローは、最後のステージへ進む。
486 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/11(土) 00:35:39.99 ID:GpKnA5Uo

 【次回予告】

 キグナスに乗り込み、いざ最終決戦へ!

 そして、アルカールから明かされる、この世界の秘密!!

 驚愕する佐天たちに、戦闘艦・ブラックレイが迫る!!

 ブラックレイを突破する、初春の作戦とは!?


 次回! 第十五話!! 【潜入! ブラックレイ!!】!!

 ご期待ください!!
487 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/11(土) 00:41:05.50 ID:GpKnA5Uo

と、いうわけで第十四話でした。

これから最終章に向けて、申し訳ありませんが少しお休みさせていただきます。
一週間以内には復帰できるかと思いますので、ご了承下さい……


 【補足】

 ・アルカールについて。
  原作では殆ど出番のないアルカール。老練なベテランヒーローというイメージで書いてみました。
  原作では彼の技もアルカイザーと同じグラフィックですが、差異を出すため「黒い閃光」としています。
  ちなみにこの話で使っている技はヒーロー用の技ではなく通常の人間の技です。

 ・キグナスについて。
  原作で主人公・レッドが勤めていたリージョン・シップです。
  「リージョン」に関してはまた次回。

 ・バベルクランブルについて。
  あれってフランケンシュタイナーみたいな認識でいいのかな?
  グラフィック良く分からないんだけど……
488 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/11(土) 03:16:54.49 ID:bxs74IAO
乙ん。
体術メインのアルカール、DSCでも使うのかと思ったぜww
キグナスあるってことはアルカールの正体は原作と一緒なのかな?
489 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/11(土) 04:19:15.71 ID:9ZlWY6Yo
バベルクランブルがでた時に、俺もDSC使うのかと思った。
490 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/11(土) 11:25:01.24 ID:eULVb6AO
熱い展開が続くな、乙
491 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/15(水) 01:08:58.67 ID:WTUHFoAO
まっだかなー。
492 : ◆S7msF7zQV2 :2010/12/15(水) 22:57:08.49 ID:967Fx/Eo
どうも、中間報告に来ました

書き溜め自体は微妙ですが、明日から再開できると思います


>>488
アルカールの正体は原作の彼です
ただ原作ではヒーロー時と正体時で雰囲気が違ったので、ヒーロー時の彼を意識して書いています
イメージ的にはキャプテンブラボーですけどね

>>489
手加減してるからそんなガチ技つかいませんww
ていうか佐天さん死んじゃうwwwwww

>>490
もう鬱々展開は捨てました
ヒーロー物の王道、熱血で行かせて頂きます

>>491
お待たせしてすみません
また隔日更新だと思いますが、明日の夜から再開させていただきます

楽しみにして頂いていると思うと力が湧きます
ご期待に添えるか分かりませんが、読んで下さる方が楽しめるよう、そして僕自身も楽しめるよう頑張ろうと思います
493 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/16(木) 23:36:23.50 ID:UbWL9M2o

お久しぶりです。第十五話の投下を始めます。

説明回です。

慣れない事をして突っ込みどころ満載ですが、まぁいつものことか。
494 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/16(木) 23:38:34.23 ID:UbWL9M2o

 突如、割れた空の中から現れた『キグナス』。

 佐天たち四人とアルカールを乗せ、銀の白鳥は再び空へ舞い上がった。


初春「それにしても、こんな物まであるなんて……」

黒子「まぁ、非常識は今に始まったことではありませんの」

美琴「っていうか、これどこに向かってるのよ?」

アルカール「それを含めて後で説明しよう。私は機関室に向かう。君たちはしばらく休んでいろ」

佐天「はー……何かSF映画みたいですよね。ひょっとして未来からやって来たとか――」

アルカール「ほう、勘がいいな。その通りだ」

佐天「え?」

アルカール「あとで放送を入れる。部屋で待っていてくれ」


 それだけ言い残し、アルカールはさっさと廊下の奥へ消えた。


佐天「」

美琴「未来……」

黒子「って、言いましたわね」

初春「はい。はっきり」

佐天「え――」


 「「「「えぇえええええええええええええええええええ!!!??」」」」



 【第十五話・潜入! ブラックレイ!!】
495 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/16(木) 23:40:52.94 ID:UbWL9M2o

 学園都市第七学区。

 そこに、「窓のないビル」は存在した。


 「……やあ。突然来るものだから驚いたよ」


 薄暗い部屋に備えられた「生命維持槽」。
 その中に、逆さまに浮かぶ男が居た。

 学園都市統括理事会の長。
 アレイスター=クロウリー。

 男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見えるその人物の前に、得体の知れない男が立っていた。

 蒼いローブに身を包んだ西洋人。
 整った顔立ちで、若くして老成した雰囲気を持つ青年だ。


 「一応。責任を取りに来た」


 礼儀正しいようで、腹の底ではこちらを見下しているような態度。
 一見素直だが、それでいて信用ならない。
 まるで二人の人間を同時に相手にしているように感じる。


アレイスター「わざわざご足労頂いて申し訳ないが、まだ猶予がある。しかし、あと一日もすれば事は済むだろう」

青年「ならば、そのときに」

アレイスター「そう焦ることもないだろう? 君の話を聞きたいな、たとえば――」

青年「断る。『俺たち』はお前が嫌いだ。『あいつら』と同じ臭いがする」


 そう言って、『彼ら』は一瞬にして姿を消した。


アレイスター「ふふ……宿命の双子か」
496 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/16(木) 23:42:57.08 ID:UbWL9M2o

佐天「しかし、未来と来たか……」


 キグナスを散策中、豪華な客間を見つけた。
 もともと客船だったのか、キグナス内にはいくつもの客間や、食堂まで備えられていた。

 佐天は折角だからと、一番高価そうな部屋のベッドでくつろいでいる。


佐天「初春〜? どう思う?」

初春「……」

佐天「初春? う〜い〜は〜る〜?」

初春「……はい? 呼びました?」

佐天「なにやってんのさ?」

初春「ああ、これですか? さっき見つけた情報端末です。性能は凄いんですけど、プログラミングとかは私でも――」


 初春は新しいおもちゃを見つけご機嫌のようだ。
 小学校に入学する子どものように目を輝かせている。


佐天「あー……そういう話は私には分かんないや……」

初春「そうですか?」

佐天「こんなSFじみた場所のコンピューター扱えるのなんて初春ぐらいのもんだよ〜」

初春「ん〜……でもちょっと不思議なんですよね」

佐天「何が?」

初春「技術力にムラがあるっていうか……とんでもなく高レベルの部分と、すごく古いものが混じってて……」


 ちょっと弄っただけでそんなことまで分かるのか……

 たまにはインターネット以外の使い方も覚えてみようかと、ぼんやりと考えた。
497 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/16(木) 23:44:33.34 ID:UbWL9M2o

 そこへ、船内の探索を続けていた美琴と黒子が帰ってきた。


美琴「ダーメだわ。良く分かんない」

佐天「どうかしたんですか?」

美琴「積荷とか置いてあるものからさ、色々推測できんじゃないかと思ったんだけど……」

黒子「私たちの記憶にあるものはありませんでしたの。会社名も何もかも、少なくとも学園都市にあるものとは違いますわね」

美琴「ていうか……何で普通に重火器の類まで積んであるわけ? 何かでっかいミサイルとかあったんだけど」

佐天「えぇ!?」

黒子「この事件が終わったら捜査してやりますの……」


 あー、疲れた。と、美琴は佐天の隣に大の字で寝転がった。
 黒子はソファーに腰を下ろし、「あら、なかなか良い物使ってますわね」などと鑑定している。

 初春は相変わらず、佐天には良く分からない銀色の箱と睨み合っている。


 のどかだ……

 これが、「悪の組織との最終決戦」を目前に控えた者たちの態度だろうか?


佐天「……」


 いや、だから尚更なのだろう。

 余りにも事態が大き過ぎて、逆にこんな風なのだ。

 「今から気を張っていても仕方ない」

 きっとそういうものなのだろう。
498 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/16(木) 23:46:39.46 ID:UbWL9M2o

 ピンポンパンポーン。

 この上さらに、緊張感の欠けらもないチャイム音が鳴り響いた。


 『これからリージョンの脱出を開始する。機体が揺れるから注意しろ』


 室内のスピーカーから聞こえてきたのは、アルカールの声。


佐天「『リージョン』の脱出?」

黒子「機体が揺れる……とは、つまり気流にでもぶつかるのでしょうか?」


 それから間もなく、放送の通りキグナスが激しく揺れ始めた。
 それだけではなく、何かバチバチという音が――

美琴「ねぇ……あれって何?」

 美琴が窓の外を指差した。
 驚きの余り、目を見開いて、口は半開きになっている。

佐天「……何でしょう」

黒子「……もう何があっても驚きませんの」

初春「え? 何ですか?」


 キグナスの進行方向に、まるで空が捲れ上がるように、巨大な渦が展開していく。

 その奥には、青い“歪み”が漂い、波打つ海のように広がっていた。


美琴「ちょ……! ま、まさかあそこに突っ込む気!?」

佐天「あ、アルカールさぁぁぁん!? 説明! 先に説明をぉぉぉ!!!」

黒子「いやあぁああ!! 前言撤回ですのぉ〜! 驚きましたからスト〜ップ!!」


 悲鳴を木霊させ、佐天たちを乗せたキグナスは渦の中へと飛び込んでいった……
499 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/16(木) 23:48:57.79 ID:UbWL9M2o

アルカール「はっはっは! シップに初めて乗る子どもはみんなそういうリアクションをするから楽しくてな」

佐天「……」

美琴「……」

黒子「……」

初春「以外とお茶目な人なんですね」


 キグナスはすっかりあの青い歪みに侵入し、出入り口らしい渦も消えた。


 佐天たちはアルカールに呼び出され、白鳥の頭の部分に位置する船橋(ブリッジ)に集められていた。

 本来は複数の人間で操縦しているのだろう。
 ブリッジ内のモニターは、そのほとんどが「AUTO PAILOT」と表示されている。


アルカール「そう睨むな。緊張をほぐすためのほんの冗談だ」

佐天「私、いまだにアルカールさんのキャラがつかめません」

アルカール「だが無駄ではない。少し現実離れした話をするからな。実際に見た後の方が早いだろう?」

美琴「今更って感じだけどね……」

アルカール「違いない。さぁ、何から話そうか」

美琴「まずはここが何処なのか教えて。ブラッククロスはここにいるの?」

アルカール「そうだな、まずはこの世界のことからだ……ここは『混沌』。『リージョン界』の全てを内包する空間だ」

佐天「『リージョン』……?」

アルカール「『リージョン』とは世界のこと。つまり、『混沌』とは――」



アルカール「無数の異世界が漂う“海”だ」


佐天「異……世界……?」
500 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/16(木) 23:51:47.32 ID:UbWL9M2o

美琴「……つまり、私達の世界と別の世界、『リージョン』だっけ? それを、貴方たちは行き来できるってこと?」

アルカール「正確には、君達の世界は『リージョン』と呼ばれるものとは違うのだが、まぁ概ねそんな所だ」

佐天「……えっと……ていうことは、アルカールさんは『異世界人』ってことですか?」

アルカール「君から見ればそうなる」


 異世界? リージョン? 混沌?

 世界と世界を行き来するリージョン・シップ?


 私は、いつの間にかそんな大層な物に巻き込まれてたってこと?


 そんな意味不明な単語を羅列されても、突然すぎてさっぱり……


黒子「で……私たちの世界が『リージョン』とは違うというのは?」

佐天「え!? もう次行っちゃうんですか!? 皆理解してるの!?」

黒子「パラレルワールドの存在は科学的にも可能性を示唆されていますの」

美琴「今更驚いてたってしょうがないでしょ? やることをやるだけよ」

佐天「はぁ……」


 常盤台組はそうでしょうけど……


初春「うわ〜……異世界ですか〜」

佐天「……」


 あんたはそんだけかい!

 もっとこう……何!? 戸惑ってるの私だけ!!?
501 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/16(木) 23:54:01.96 ID:UbWL9M2o

アルカール「本来、リージョンとは“小”世界だ。君達の世界は、リージョンと呼ぶには大き過ぎる」

美琴「サイズの問題?」

アルカール「いや……そもそも、君達の世界はこのリージョン界に存在しなかったはずなのだ」

佐天「存在しなかった……」

アルカール「そうだ。何故なら――」



アルカール「君達の世界は、我々の世界よりも、遥か“過去”の世界だからだ」



佐天「過去……」

 未来からやってきた……っていうのは、つまりそういうこと?


アルカール「例えリージョン同士が異世界とはいえ、時間軸自体は同一のはずなのだ」

美琴「なのに、突然過去の世界が現れた……」

アルカール「そうだ……それも、我々の間で『超古代文明』と呼ばれているような時代が、だ」

黒子「それはまた……随分見下げられている気分ですの」

アルカール「正確には、その更に過去にあたる。我々の時代には君達の時代を呼び表す言葉がそれ以外に残っていないのだ……」

黒子「あらま」

佐天「あらま……って……」

アルカール「おそらく、我々が知っているのは君達の時代より数百から数千年後のことだろうな」


 超古代文明とまで呼ばれていた、リージョン界に本来存在しないはずの巨大な世界。

 それが、突然混沌の中に姿を現した。


 一体何故?
502 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/16(木) 23:56:28.86 ID:UbWL9M2o

アルカール「リージョン界には、『術』というものが存在する」

美琴「それは実際に経験したわ。能力とは違うのね?」

アルカール「ああ。そしてその術の中でも、特に強力な『時術』と『空術』というものがある」


 『時術』は時を操る術。

 それを会得した妖魔は『時の君』と呼ばれ、永遠に止まった時の中で閉じこもっていたという。


 『空術』は空間を操る術。

 『麒麟』と呼ばれる生物が唯一それを使い、自分で作り出したリージョンで暮らしていたという。


美琴「時間に空間か。そりゃまたとんでもないわね……」

黒子「能力で言えば、軽くレベル5を越えてますの……」


 時や空間を操れれば、それこそ無敵だろう。
 神と呼ばれる存在と大差ないのではないだろうか?


 だが、アルカールの口から、信じられない事実が語られる。



アルカール「その二つの術の所有者が、同時期に“殺された”のだ」



佐天「!?」

美琴「ちょ……そんな化物みたいなのが殺されたって……!?」

アルカール「重要なのは何故殺されたかではない……」


アルカール「彼らが死んだことで、この混沌の中に『時空の歪み』が生み出されたのだ」
503 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/16(木) 23:59:08.29 ID:UbWL9M2o

 二つの巨大な力に起こった突然の変動。
 それだけの力だ。バランスが崩れれば、どうなるか分かったものじゃない。

 事実。
 その結果、混沌の壁がブチ破られ、時間を超越し、空間を捻じ曲げ、存在しないはずの門が開いた。


美琴「なにそれ!? 死んだあとまで人に迷惑かけてんじゃないわよ!」

黒子「お姉さま。それは流石に不謹慎ですの……」

佐天「それに、どっちかというと迷惑してるのは殺された二人のほうなんじゃ……」

美琴「う……い、いいのよそんな細かいことは!」


 ともかく、佐天達の世界は未来とつながってしまった。
 それに気付いた未来人、つまり『ブラッククロス』が時空を越え侵入した。

 アルカールはその後を追ってきたのだ。


アルカール「ブラッククロスの目的は超古代文明の遺産。つまるところ、我々の時代に存在しない『能力』だ」

佐天「能力を手に入れて、連中は何を……」

美琴「世界征服でしょ?」

黒子「子供向け番組じゃないんですから……」

アルカール「いや、それであっている」

黒子「……マジですの?」

アルカール「少なくとも、連中はそのふざけた幻想を本気にしている。実際にそれが可能かどうかは分からないが――」



 その過程で、多くの犠牲者を生むことは間違いない……!
504 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:02:31.61 ID:qmj8FT2o

佐天「犠牲者……」


 シュウザーに攫われ、殺されかけた少女がいた。


美琴「“悪”の秘密結社だなんて、自分で名乗る連中だもんねぇ……」


 体を奪われた少女たちがいた。


黒子「いまさら確認するまでもありませんわね」


 未知の薬で怪物に変えられた少年がいた。


初春「……やりましょう!」


 友達が、命がけで戦っていた。



アルカール「覚悟は決まったようだな! このままブラッククロスの基地に乗り込むぞ!!」



 アルカールの号令。

 誰一人異論を挟む者はいない。
 当然だ。覚悟も何も、そんなものはとうに決まっているのだから。

 少女達の真っ直ぐな目がそれを語っていた。
505 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:05:02.56 ID:qmj8FT2o

 そのときだった――

 意気込む一行に水を指すように、けたたましくアラームが鳴り響いた。


アルカール「……!? 発見されたか!!?」

佐天「アルカールさん!? これは……」

アルカール「敵が接近している……! 戦闘用のシップか!!?」


 美琴と黒子が外の様子を伺おうと窓際に駆け寄った。

 そこから見えたもの、それは――


美琴「エイ……?」

黒子「あれが、ブラッククロスの戦闘機ですの!?」


 混沌の中を泳ぐ黒い「エイ」。

 サイズはキグナスと同程度だが、スピードが段違いだ。
 キグナスは元々旅客機であり、デザインも機能性より見栄えを重視して造られている。

 だが、向こうは正真正銘の戦闘用シップ。

 無風の混沌の中では航空力学など意味を成さないが、それとは別の技術体系が発達しているのだろう。
 キグナスの二倍以上の速度で距離を詰めてくる。


アルカール「『ブラックレイ』!? 実在したのか!!?」


 ブラッククロスの戦闘艦・ブラックレイ。


 船乗りの間で噂される、伝説級のリージョン・シップ。

 混沌を舞い泳ぐ悪魔が、その姿を現した。
506 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:06:39.15 ID:qmj8FT2o

アルカール「伏せていろ!!」


 オートパイロットを解除し、アルカールがキグナスの操縦桿を握った。

 機体が大きく左側に反れる。


佐天「きゃぁあああああああ!!?」


 船体にミサイルの直撃を受け、キグナス全体が激しく揺れた。


初春「こ、これ当たってますよねぇええ!?」

アルカール「黙っていろ! 舌を噛むぞ!!」


 アルカールはわざと、ミサイルの存在を知りながらそちらへ突っ込んでいた。

 何故なら――


美琴「来た……!!?」

アルカール「ぐぅうううう……!! 耐えろキグナス!!!」


 ミサイルの回避コースへは、ブラックレイの主砲が撃ちこまれていたからだ。

アルカール「アレに当たれば、このキグナスが消滅してしまう……!!」

 多少の無茶をしてでも、それだけは避けなければならない。


佐天「お、追いつかれますよぉ!?」

 この状況では、いかにヒーローに変身しようと役に立たない。
 艦隊戦は佐天たちの専門外だ。


アルカール「振り切れないか……!」
507 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:10:02.85 ID:qmj8FT2o

アルカール「ええい! 一か八かだ!!」

 アルカールの操縦で、船体が急激に旋回する。

 佐天たちはバランスを崩し床を転がった。

佐天「痛たた……一か八かって、どうするんですか!?」

アルカール「『ハイペリオン』を使う……あのブラックレイに対抗出来るとすればアレしか……」

美琴「ハイペリオン?」

アルカール「陽子ロケット弾だ。弾は二発しかないが、やるしかない!!」


 ミサイルによる対空砲火を掻い潜り、キグナスは上方からブラックレイに接近する。

 距離は800……500……300……


アルカール「ハイペリオン発射!!」


 キグナスの首元から「陽子ロケット弾」が発射された。

 目標へ向かうのを確認し、キグナスは再び急加速して上方へ飛び去る。
 爆発に巻き込まれないためだ。


美琴「当たった!!」

 ブラックレイの甲板にロケット弾が命中し、球形の爆炎が広がっていく。
 その余波がキグナスまで伝わり、船体を揺らした。

 確かに、あの爆発なら大抵のものは一溜まりもないだろう。


 だが、ブラックレイは伝説級のシップなのだ。
 それは、スピードや主砲の威力だけのことではない。


アルカール「……駄目だったか……」


 ブラックレイを何かが包み込み、空間が歪んで見えた。

 ブラックレイの防御装置だろうか?
 ハイペリオンの爆撃は、その装甲に傷一つ付けていなかった。
508 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:11:29.83 ID:qmj8FT2o

黒子「……もう一度接近を」

アルカール「何?」

黒子「私のテレポートで乗り込みますの。内部からエンジンでも何でも破壊すれば……!」

アルカール「馬鹿を言え! そんなことをすれば、爆発に巻き込まれるぞ!!」

黒子「ですが!!」


 黒子の言い分には一理ある。

 このままではジリ貧。ミサイルを受け続けるような耐久性はこのキグナスには無いし、こちらの攻撃は通用しない。
 なら、内部からの攻撃以外に術はない。

 だが、常に接近していられるわけではないし、何より戦闘中なのだ。
 常に動き回るシップの間を行き来するなど、一歩間違えれば即死。

 とてもじゃないが、分が悪すぎて賭けにもなっていない。


初春「なら……あの障壁を何とかできれば……」

佐天「初春……何かアイディアがあるの?」

初春「……あの戦艦に私達が直接乗り込むことが難しいのなら、ネットワークを繋げることは出来ませんか?」

アルカール「ネットワークだと? ……たしかに、シップ間の通信にネットを使うことはあるが……」



初春「なら、やらせて下さい!! こちらから向こうのメインコンピューターにハッキングをかけて、あの障壁を解除させます!!!」
509 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:12:48.08 ID:qmj8FT2o

初春「私の技術でどこまで出来るかわかりません……でも、やらせてください!!」

アルカール「……無理だ。どうやって電波を繋げる?」

美琴「……私が中継をするわ。初春さんのコンピューターと、あの戦艦のメインコンピューターを繋げばいいのね?」

佐天「そんなことできるんですか?」

美琴「やったことはないけど……一番可能性がある方法なんじゃない?」

初春「御坂さん……」

美琴「ハッキングなら私も得意分野だし、二人で協力すれば、未来のセキュリティだって破れるかもよ?」

アルカール「……分かった。やってみよう」



 こうして、彼女達の……いや――

 学園都市の命運は、初春飾利に託された。



佐天「初春……」

初春「大丈夫です……私、頑張りますから……!」

佐天「……」


 気丈に振舞っているが、彼女はまだ幼い女の子だ。
 こんな大役を任されて、平気なはずが無い。

 震える彼女の手を、佐天はギュッと握り締めた。


佐天「信じるよ。初春」

初春「……はい!」
510 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:13:56.60 ID:qmj8FT2o

 通信の中継点を志願した美琴は、白鳥の首の下、艦橋と本体を繋ぐ第二通路に立っていた。
 そこは壁が無くむき出しになっているので、遮蔽物を無視して電波を届けられる。

 この作戦では美琴がブラックレイに対して電波を飛ばし続ける必要がある。

 戦闘中、ブラックレイの動きを捉えきれず通信が切断されるかもしれない。
 常にブラックレイの姿を監視するためにも、誰かが外で見張っている方がいい。

 しかし本来、シップの航行(ドライブ)中に外に出るのは自殺行為だ。
 混沌に飲まれれば永遠に漂流し続けることになる。

 それを防ぐため、シップには特殊なフィールドが張られているが、長時間は持たない。


 しかし、そこはレベル5。
 自分で磁場を形成して混沌への障壁を張り、体が飛ばされないように固定することに成功した。


美琴「さーて……じゃあ始めるわよ」

黒子「背中は任せてくださいまし」

美琴「信頼してるわよ黒子!」

黒子「お、お姉さまがこの黒子をそこまで!! この戦いはまさに二人の愛の共同作業ですのね!!?」

美琴「……余力ないから突っ込まないわよ?」


 集中する美琴の身を守るため、黒子が見張り番として着いた。


 アルカールがキグナスの操縦を行い、常に一定の距離を保つ。
 佐天は彼のサポート役として、機関室で動力炉の管理を受け持った。


 そしてキグナスが耐えている間に、初春がハッキングを完了させる。



初春「……行きます!!!」


 遂に、ブラックレイへの潜入作戦が始まった。
511 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:14:52.63 ID:qmj8FT2o

 …………

 …………

 Pass word?

 ※※※※※※※※……


 Error The password is different

 Try again

 ※※※※※※※※……


 …………


 OK

 Access granted

 Welcome to Black ray
512 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:16:00.79 ID:qmj8FT2o

美琴「ぐ……ううぅぅ!!」


 通路の上に立つ美琴は、キグナスの加速に苦しめられていた。

 キグナスの装甲は薄い。
 ゆえに、ミサイル攻撃を受け続けるわけにはいかず、急加速、急旋回を繰り返している。


美琴「これは……思った以上に……!!」


 キツイ。

 とてもじゃないが、ハッキングの方にまで手が回らない。

 美琴に出来るのは、キグナスとブラックレイの間に通された電波の経路を、途切れないように保つことだけ。
 あとは、初春の腕に任された。


美琴「初春さん……さっき読み取った信号だと、システムへの侵入は成功したみたいね……!」


 初春の腕がどの程度なのか、美琴は知らない。
 だが、信じるより他にない。


黒子「お姉さま! またミサイルを迎撃しますの! 爆風に巻き込まれないようにして下さいな!!」

美琴「了解! そっちは任せた!!」


 黒子の指に挟まれていた鉛の弾が、ミサイルの弾頭に転移された。
 たちまち爆発を起こし、キグナスにはその爆風と破片だけが届く。


黒子「いつまで持ちこたえられるか分かりませんわね……」


 愛用の鉄矢を温存するため、黒子はハンドバルカン用の弾丸を使っている。
 空になった弾薬ポッドを混沌の中に投げ捨て、次の弾丸を引っ張り出した。
513 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:17:48.72 ID:qmj8FT2o

アルカール「涙子! あと3つ上げろ!!」

佐天『りょ、了解!!』

アルカール「遅い! ウチで雇えんぞ!!」

佐天『必死でやってますよぉ〜!!』


 アルカールから、機関室の佐天に通信で檄が飛ぶ。

 その後ろで、初春はもくもくとキーボードを叩き続けていた。

 艦橋の大型コンピューターから、ブラックレイへの潜入には成功したが、まだ油断はならない。
 何せ、初春にとってこの世界のコンピューターを使うのは初めてのことなのだ。

 美琴の能力で初春のノートパソコンからハッキング用のプログラムを移し変えたが、まともに動作しないものもある。

 初春はハッキングと平行して、新たにプログラミングの組みなおしを行っていた。


初春「コード形式が違う……構造は同じだから、たぶんこれで……」


 基本になっている文字がアルファベットであることに驚いた。
 超古代文明の遺産とでもいうのか。だが、初春からすれば都合がいい。
 アルファベットと数列の組み合わせであれば、大抵のものは解析できる。


初春「セキュリティ自体は甘い……これなら解読できる……」


 初春は能力者としてのレベルは低いものの、こと情報処理に関しては学生の中でも最高クラスの実力をもつ。

 巷のハッカー達の間では、彼女のことを守護神『ゴールキーパー』と呼び、噂する者もいる。

 相手が伝説級の戦闘艦であっても、こちらは伝説級のスーパーハッカーなのだ。


初春「この内のどれかが対応してるなら……よし! 引き当てた!!」


アルカール「いけそうか!?」

佐天『やっちゃえ初春!!』

初春「いきます!!!」
514 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:19:40.44 ID:qmj8FT2o

 …………

 …………


 ID?


 ※※※※※※……


 …………


 Error

 I connecting to your computer

 …………Complete

 Hello Cygnus!

 Hack Hack Hack !


 I am Black cross

 Game over…





初春「――――――ダミー!? やられた!!?」

アルカール「何!!?」


 室内の電灯が点滅し、アラームが鳴り響く。合成音声が警告文を読み上げた

 『危険! システムにトラブル発生!! 機関部が暴走しています!!』

 キグナスがバランスを崩し、明後日の方向へ落ちていく。


 ハッキングが逆探知され、こちらのシステムが掌握されたのだ。
515 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:24:49.76 ID:qmj8FT2o

 あまりにも簡単なセキュリティが続き油断した。
 この時代のプログラムは、「高度」な物と「原始的」な物が入り混じっているのを失念していた。

 超古代文明の遺産と、それ以前の遺物。そして新たにこの時代に開発された物が入り混じっているのだ。


初春「……やっぱり……私じゃ駄目なの……?」


 初春は、学園都市の学生として優秀とは言いがたい。

 レベル1の低能力者であり、通っている学校も柵側中学という二流校。
 風紀委員には、情報処理能力の一転突破で入隊した。

 だが、その唯一得意科目である情報処理で敗北した。


 目の前が真っ暗になる初春。

 だが、繋げっぱなしになっていた通信から、悲鳴が聞こえた。


 『きゃあぁあ!!?』

初春「佐天さん!!」


 「機関部が暴走している」と、確かさっき……


 機関部には佐天がいる。

 自分のために、自身を限界まで傷つけた少女が、今また自分のために傷つこうとしている。


 させない……!


 あのとき彼女は、何度だって立ち上がったじゃないか!!!


初春「……! まだ繋がってる! 御坂さんも耐えてるんだ!!」

 電波は届いている。
 道が開いている。


 なら……行け! 風紀委員・初春飾利の意地を見せてやる!!
516 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:27:02.89 ID:qmj8FT2o

 …………

 ID?


 ※※※※※※……


 …………OK

 Access granted


 Retrieval

 Defense system


 …………It found it


 Gravity field


 All system down


 …………

 …………

 OK

 Gravity field is deleted


 Connecting cut

 
 Over


 Bye Goal keeper…
517 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:28:32.39 ID:qmj8FT2o

初春「防御壁のシステムをダウンさせました! 通信切ってください!!」

アルカール「よくやった!! 中に入れ御坂美琴! 旋回する!!」


 キグナスの操縦権が戻ってきた。

 加速と同時に大きく弧を描き、再びブラックレイの上方へ浮かび上がる。

 白鳥はすでに片翼が破れ、黒い煙を噴出している。
 背中の装甲は剥がれ、ミサイルに焼かれた跡が無数に刻まれていた。

 対するブラックレイは外見上無傷。
 瀕死の白鳥を撃ち落とそうと、艦体の前部が開き、主砲のチャージを開始した。

 同時に、退路を断つためのミサイル掃射が行われる。


アルカール「このまま突っ込むぞ!!!」


 キグナスが、最大船速のままミサイルの群れに突撃する。

 あわや、蜂の巣になる寸前――

黒子「細かい位置の把握まで無理ですけど……!!」

 黒子が残りの弾丸を一つ残らずテレポートさせ、キグナスの正面から迫るミサイル群の半数を撃破した。


 爆風の中を潜り抜け、ブラックレイをハイペリオンの射程距離に捉えた。



アルカール「これは我々からの手向けだ!! 地獄まで持って行けぇぇ!!!」
518 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:32:09.53 ID:qmj8FT2o

 再び放たれた陽子ロケット弾が、黒い装甲に激突した。

 今度は、それを妨げる障壁は無い。

 弾頭が甲板に突き刺さり、その衝撃を受け、ロケット弾内部で化学反応が引き起こされる。


 一瞬のうちに広がった光が、ブラックレイを包み込んでいく。


 衝撃波が退避したキグナスまで届き、船体を揺らした。



佐天「や、やったの……?」


 機関室の床にへたり込む佐天。

 機関室の中は暑く、汗でシャツがへばりついている。
 ただ一人、聞いたこともないシップの機関制御なんてことをやらされていたのだから、緊張も疲労もひとしおだ。

 その上、暴走した機関部から漏れ出すエネルギー波の脅威に晒されていたのだ。
 腰が抜けて、しばらく立てそうにない。


 アルカールから通信が入った。

アルカール『作戦成功だ。ブラックレイは跡形もなく消え去った』

佐天「……!! やったぁぁ!! 初春ばんざーい!!!」

アルカール『それは直接本人に言ってやれ』

佐天「はい! 戻りますね!」


アルカール『その前にゲージをもう二つ下ろせ。以上通信終わり」

佐天「……りょーかーい……」
519 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:34:20.09 ID:qmj8FT2o

美琴「初春さん!」

黒子「初春! やりましたのね!!」


 艦橋に戻った二人が初春に駆け寄った。


初春「はぁ〜……疲れました〜……」


 作戦の功労者は、そのまま溶けてしまいそうなほど全身の力を抜いて倒れこんだ。
 さっきまでの気迫が嘘のようで、この少女が本当にあれだけのことをやったのかと疑いたくなる。

 ……だが、たしかにやったのだ。

 花飾りの少女。
 風紀委員第一七七支部所属・初春飾利は、この極限状態でその意地を見せた。


佐天「初春!」


 扉を開き、佐天が勢い良く艦橋に入ってきた。

 すると――


佐天「っおわ!?」


 その胸に、初春が飛び込んだ。


佐天「初春……」

初春「……私。がんばりました」

佐天「…………うん。がんばったね初春……!」


 佐天は初春を抱きしめ、そっと彼女の頭を撫でた。



 彼女の戦いは終わった。
520 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:35:10.25 ID:qmj8FT2o

 次は――


美琴「私たちが頑張る番ね……」

アルカール「ああ。学園都市にはもうブラッククロスはいない。戦闘艦ブラックレイも撃沈した」

佐天「残すは連中の本拠地だけですね」

黒子「直接対決……ですわね」



 佐天たちを乗せ、キグナスは混沌の奥へと進む。

 その先に待ち受けるのは悪の居城。



 ブラッククロス基地――――!



 落ちこぼれのヒーローは、友からのバトンを受け取った。
521 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:36:04.95 ID:qmj8FT2o

 【次回予告】

 混沌の奥底に巣食うブラッククロスの本拠地!

 アルカイザーたちは、その奥へと突き進む!!

 待ち受けるのは蛇か邪か!!

 ブラッククロスの大幹部、Drクラインの恐るべき野心とは!!


 次回! 第十六話!! 【激走! 混沌のさらに奥へ!!】!!

 ご期待下さい!!
522 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:40:10.20 ID:qmj8FT2o

と、いうわけで第十五話でした。
久しぶりの更新で不安要素満載ですよ。

ヒーローやってるよりこうやって裏方やってる方が似合ってるなー佐天さん……


 【補足】

 ・ブラックレイについて。
  原作では内部に潜入、メタルブラック改と戦いそのままブラッククロス基地へ突入するイベントです。
  初春の見せ場の確保と、いつもいつも同じように戦っていたのではマンネリだと思い、
  キグナスVSブラックレイというSFチックな展開にしました。
  防御壁とかミサイルなんかの装備は創作です。

 ・世界観について。
  再三に渡って書いてありますが、僕は裏解体新書を持っていないので、具体的な設定をしりません。
  超古代文明と現在のリージョン界の関係性などは全て推測であり、また禁書とリンクさせるための創作が含まれています。
  僕が把握している原作設定は、「超古代文明というものがあった」「混沌の中に無数のリージョンが存在する」
  「この世界をリージョン界と呼び、トリニティという組織によって管理されている」
  「超古代文明時代、すでに混沌とリージョンは存在していた」
  「超古代文明の遺産が各地に残されている」このぐらいです。

 ・ハッキングについて。
  ハッキングとか分かんないよ……洋画に出てくるハッカーの描写ぐらいの適当イメージ映像ですよ……
523 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/17(金) 00:40:48.16 ID:0IGsooAO
マグニファイ乙!
まさかの青紅wwww
しかももう合体してる?
錬金術士でも勝てねぇよwwww

っていうか艦隊戦気合い入れすぎww無茶苦茶テンション上がったわww
次も超期待してます!
524 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/17(金) 08:48:29.72 ID:8P3Wlkso
青があの術とあの術のコンボやったら誰も勝てねぇ
525 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/17(金) 23:08:15.76 ID:MpuCZuI0
超期待
526 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/18(土) 23:46:47.57 ID:0nnGaZUo

どうもです。

第十六話の投下を始めます。

今年中には終わるかなぁ……
527 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/18(土) 23:49:02.78 ID:0nnGaZUo

 無限の宇宙を思わせる混沌の海。
 そこに一体いくつの世界が存在するのだろう?

 数十だろうか? それとも数百だろうか?

 たとえ何千何万であろうとも、元は一つの世界だった。


 過去の世界。
 超古代文明以前の世界。


 これは、そのたった一つの世界を、そして、自分達の未来を守るため戦う少女達の物語。

 数々の戦いを、数々の友情を紡いできたこの英雄譚も、最終章を迎える。


 その終焉を告げる一筋の光。

 リージョンシップ・キグナス号が見せる最後の輝き。

 少女達を決戦の地に送り届けるため、白鳥はその羽を散らせて飛ぶ。


 闇の深遠に潜むブラッククロス基地。

 悪の居城へ、希望を乗せた流れ星が落ちた。



 【第十六話・激走! 混沌のさらに奥へ!!】
528 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/18(土) 23:52:20.54 ID:0nnGaZUo

アルカール「よく頑張った……お別れだな、キグナス」


 ブラッククロス基地の対空砲火を掻い潜り、ほぼ特攻の形で基地への突入を果たした。

 今や、キグナス号は豪華客船だったころの栄光の面影も無く。
 無残にもその銀に輝く装甲を焦がし、羽ばたくための両翼さえ失っていた。
 シップの魂である機関部は、火の手が上がり今にも爆発を起こしそうだ。

 もはや、彼が混沌の海を渡ることは無いだろう……


 役目を果たした相棒に別れを告げ、アルカールは新たな仲間たちに振り返った。


アルカール「ここがブラッククロスの本拠地だ。この奥に奴らの首相と大幹部がいる」

美琴「残る敵は?」

アルカール「まず言うまでもなく、首領・ブラッククロス」


 組織の名を冠する男。

 この男の最後こそ、まさにブラッククロスという秘密結社の最後となるだろう。


アルカール「……だが、私が一番警戒しているのは奴ではない」

美琴「他に強敵が? 四天王はもう倒したはずだし……」

黒子「では、ブラックレイのような兵器が他にも?」

アルカール「……大幹部、Drクライン」
529 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/18(土) 23:56:00.14 ID:0nnGaZUo

 『マッドサイエンティスト・クライン』

 かつては、とある研究機関に所属する著名な科学者であった。
 そのIQは1300と言われ、大天才の名を欲しいままにした男。

 だが、あるときから彼は学会で厄介者として扱われるようになった。

 彼の破壊的な思想に、他の研究者たちが危機感を感じたのだ。


アルカール「奴は、自分にとって不利な証拠をつかんだ小此木博士とその家族を襲撃し、殺した」

初春「そんな……!」


 そして、クラインは裏の世界の深みへと沈み、表には姿を見せなくなった。

 学会での居場所を無くした彼を受け入れた組織。
 それが、秘密結社ブラッククロスだった……!


アルカール「奴が加入してからのブラッククロスは異常な速度でその力を増していった」

黒子「それだけの科学者、それも遥か未来の技術力を持っているなら、怪人の存在も納得がいきますの……」

アルカール「怪人だけではない。四天王に強化改造を施し、ブラックレイなどの超兵器を開発し続けている」

美琴「つまり、そいつが居る限り敵の戦力は増強され続けるってわけね……」


 危険思想の科学者。

 美琴たちの脳裏に浮かぶのは、かつて対峙した「木原」という科学者の名。

 学園都市の内でも外でも。
 結局のところ、彼女らは理不尽な大人のわがままに振り回される。

 「科学」という名の宗教を信仰する、イカれた大人たちに……
530 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/18(土) 23:57:43.23 ID:0nnGaZUo

初春「あの〜? 本当に私はこのまま行くんですか?」

アルカール「安心したまえ。むしろ最善だ」


 不安げな表情を浮かべる初春。

 それもそのはず。
 彼女には戦闘能力は皆無だ。このまま戦列に加えることはできない。

 だが、彼女一人をここに残していくわけにはいかないし、見張りに誰かが残ることもできない。


 そこで――


アルカール「そいつは『コットン』という。グリフォンは最上位種のモンスターだが、気性は穏やかだ」

コットン「きゅ〜〜!」

美琴「……かわいい」


 初春は、キグナスに同乗していた白く巨大な生物、コットンの背に乗って行くことになった。


アルカール「そう見えて、我々の世界の警察機構IRPOに所属しているらしい」

美琴「らしいって……アルカールさんが連れてきたんじゃないの?」

アルカール「私はコイツを向こうで拾ったんだよ」


 コットンは、どうやら時空の歪みに巻き込まれ、学園都市に漂流していたらしい。

 学園都市で迷子になっているところを、アルカールによって助けられたのだった。


アルカール「……本人は潜入捜査だと言い張っているがな」

コットン「キューー!!」


 アルカールの物言いに、コットンが「キュー」と抗議した。
531 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/19(日) 00:00:16.71 ID:TIcGIvEo

アルカール「とにかく、これから我々は基地の中枢へ向かう」

黒子「脱出は、途中でシップを見つけて奪えばよろしいんですのね?」

アルカール「最悪脱出ポッドでもいい。とにかく混沌に耐えられる設備を見つけることが脱出の条件だ」

美琴「まぁ……その辺は何とかなるでしょ。なんせ基地なんだから」


 今後の方針がまとまり、一行がその場を離れようとした、そのとき――



「「「キキィーーー!!!」」」



 周囲を取り囲むように、戦闘員達が現れた。

 その数、およそ百。


美琴「……なんせ基地なんだから、ね」

黒子「数ばっかりそろえても話になりませんの」

アルカール「さて、肩慣らしにでもなるかな?」

初春「……! 頑張りましょうコットンさん!」

コットン「キュー!!」


 美琴たちに迫る戦闘員の群れ。

 そこ中心へ、放物線を描き、十数発の光球が撃ち込まれた。
 光に撃ち抜かれた戦闘員が、周囲を巻き込んで吹き飛んでいく。


アルカイザー「行こう! これが最後の戦いだ!!!」


 一瞬にして数十体の戦闘員を倒した紅いヒーローが、仲間たちに号令をかけた。
532 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/19(日) 00:04:37.10 ID:TIcGIvEo

 基地内は上下に広く、そこら中にパイプやリフトが張り巡らされている。
 薄暗い通路にオレンジ色の照明。

 SFチックな鋼鉄の要塞に、戦いの音が轟いた。


黒子「さあおいでませ! 今日の黒子は大盤振る舞いですの!!」


 白井黒子。

 レベル4の空間移動能力者『テレポーター』。

 風紀委員に所属する、名門常盤台中学の一年生。
 能力だけでなく風紀委員としての体術も会得し、年上の男相手にも引けを取らない。

 信じる正義と、敬愛する者のために命をかける勇敢な少女。


 左右から戦闘員の群れが飛び掛る。

 その急所に、的確に鉄の矢が刺さっていく。
 投げたわけではない。彼女の能力によって転移された鉄矢がそこに現れ、材質も硬度も無視して貫いたのだ。

 いかに痛覚を持たない機械兵士といえども、心臓部を貫かれては停止せざるを得ない。


 「キィィー!!」


 背中を狙う戦闘員に対しては、さらにその背後に自身を転移し、蹴りをお見舞いする。


黒子「そのような粗野な動きでは、私に触れることすらできませんことよ?」


 黒子の肩から、彼女の体を何週もする長さのベルトがかけられている。
 そこに、無数の鉄矢が仕込まれていた。

 白井黒子の最終決戦用装備だ。


黒子「ジャッジメントですの! 学園都市の風紀を乱す輩は、一人残らず成敗して差し上げますの!!」

533 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/19(日) 00:05:57.72 ID:TIcGIvEo

アルカール「……これだけか?」


 アルカールの前に、およそ二十体の戦闘員が並んだ。
 攻撃を仕掛けるタイミングを図っているのか、じりじりとその距離を縮めている。


アルカール『レイブレード』


 アルカール。

 正体不明の漆黒のヒーロー。
 闇色の鎧に仮面。真紅のマントをなびかせ、悪在る所に現れる。

 彼はヒーローのリージョン『サントアリオ』からやってきたという。

 佐天涙子を救い、ヒーローの力を授け、アルカイザーの名を与えた。

 その後も、度々姿を見せては佐天の手助けをしてきた。
 厳しく、仰々しく、そして優しい男。

 彼の力は、ヒーローとしての能力だけではない。
 それは戦い続けてきた男の磨きぬかれた戦闘センス。


 一斉に襲い掛かる戦闘員たち。

 しかし、そこに彼の姿はなかった。

 彼が背後に立っていることに気付いた時にはもう遅い。


アルカール『無拍子……!!』


 背中に爆音を聞きつつ、アルカールは蒼い剣を納めた。
534 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/19(日) 00:09:20.93 ID:TIcGIvEo

 初春を背に乗せたコットンの方へ、戦闘員たちが迫る。
 しかし、コットンの口から吐き出されたガスを浴び、次々に「石化」して砕けていった。


初春「わ〜……コットンさんすご〜い……」

コットン「キュキュー!」


 初春飾利。

 花飾りの少女。佐天涙子の親友。
 風紀委員に所属する、レベル1の低温保存『サーマルハンド』。

 情報処理能力に優れ、ハッキングの腕は伝説級である。


 コットン。

 リージョン界の警察機構『IRPO』に所属するモンスター。
 他のモンスターから能力を吸い取り、自身の姿を変化させる生態を持つ不思議な生き物。

 現在の姿は最上位種「グリフォン」。
 クリーム色の体毛と、青と赤が混じった不思議な色の羽を持つ。


 初春たちの下へ、新たな敵影が接近していた。
 戦闘員ではない。怪人だ。

 馬に乗った、「頭の無い」鎧騎士。
 伝説に登場する『デュラハン』と呼ばれる悪霊。

 鎧騎士は、コットンを刺し殺そうと槍を構え――


コットン『キュゥゥーーーー!!!』


 『石化ガス』によって吹き飛ばされ、やはり石になった。


初春「……きゃっ!!?」

 騎士が放り投げた「盾」が、初春の手元に飛んでくる。

初春「……何だろう。物凄く得した気がする……」

 初春は、『デュラハンの盾』を手に入れた。
535 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/19(日) 00:11:40.48 ID:TIcGIvEo

美琴「相手にならないわね……」

 通路に蒼い稲妻を走らせ、次々に敵をショートさせていく美琴。
 その背中を守るようにアルカイザー、佐天涙子が並んだ。

アルカイザー「油断大敵ですよ、御坂さん」

美琴「むしろ不安な位よ。敵の本拠地がこの程度だなんてね」


 そんな二人を嘲笑う声が、頭上から降ってきた。


 「「くすくすくす……調子にのってるね」」


 美琴とアルカイザーが、声のした方向を見上げる。

 遥か上方。天に向かって延びるパイプの上。
 そこに、ドレス風の洋服を着た幼い双子の少女が立っていた。


美琴「……今更見た目に騙されたりはしないわよ?」

アルカイザー「怪人、ですね」


 「「あらあらばれちゃった」」

 「どうしよう? やっつける?」

 「そうしましょう。 やっつけよう」

 「私たち」

 「私たち」

 「強いわよ?」

 「とってもね!」


 双子の体が回転し、大きく膨らみ出す。

 ふわふわだった服が変化し、頑強な鎧となった。
 手にはそれぞれ槍と剣が握られた。
536 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/19(日) 00:14:40.75 ID:TIcGIvEo

 その巨体を宙に浮かせ、双子の女騎士が滑空した。
 手に持った凶器をぎらつかせ、心臓を一突きにしようと迫る。


 『『グライダースパイクッ!!!』』


 バチバチ……と、少女の全身から紫電が流れ出す。
 少女の手のひらに集められたそれは、電撃の渦となって放たれた。

 戦闘によって、そこかしこで燃え上がる炎。
 その灼熱が、勢いを増して一箇所に集っていった。


 放射状にばら撒かれた電流が、双子を同時に捕らえた。
 そこへ、意思を持ったように炎が駆け上っていく。



 『『エレクトロフェニックス――!!!』』



 “雷”と“炎”の二重奏。

 華麗に宙を舞うはずだった双子の騎士は、痺れ、焼かれ、無様に地に落ちた。


 「わたしたち」

 「わたしたち」

 「弱いのね」

 「悲しいわ」


 落下と同時に爆発する双子の怪人。

 その爆炎の中に、少女とヒーローのシルエットが浮かび上がった。

 ピンと伸びた背筋。
 迷い無く、行く先を見据える二つの影は、互いの信頼を表すように背中を合わせている。
537 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/19(日) 00:16:09.65 ID:TIcGIvEo

美琴「この調子で、さっさとこのふざけた戦いを終わらせるわよ」


 御坂美琴。

 学園都市に七人しか存在しないレベル5の第三位。

 名門常盤台中学の二年生。
 能力は電流使い『エレクトロマスター』。
 通称・超電磁砲『レールガン』。
 学園都市最強の電撃姫。

 努力に努力を重ね、ついに学園都市の頂点までたどり着いた、真っ直ぐな少女。


アルカイザー「はい! そして、私たちも皆で帰りましょう!!」


 アルカイザー。
 佐天涙子。

 学園都市で最底辺とされる、レベル0の無能力者。

 己の無能を悔いる日々を越え、己の無力に絶望した。
 そしてその命さえ、無益に無慈悲に摘み取られようとした。

 その日常と引き換えに手に入れたヒーローの力。

 翻弄されつつも、やがてその自覚を身に着けた。


 紅い鎧の落ちこぼれのヒーロー。


 そして、みんなの友達。
538 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/19(日) 00:17:18.99 ID:TIcGIvEo





 五人と一匹の英雄(ヒーロー)が、ここに集った。




539 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/19(日) 00:21:03.07 ID:TIcGIvEo

 その様子を、怪人の目に内蔵されたカメラから盗み見る男がいた。
 機械油と“鉄サビ”の臭いが充満する部屋で、アゴをさすりながら感嘆の息を漏らす。


 「すばらしい……百体の戦闘員と三騎士の怪人が、ものの数分で返り討ちか……」


 自らが放った刺客が敗れるたびに、彼は身を乗り出してモニターに見入っていった。

 彼の興味は「力」。その一点のみである。
 そのためなら、他の者の犠牲などなんとも感じていない。
 むしろ、「礎となれることを喜べ」とさえ思っている。

 男の名は『クライン』。
 ブラッククロス大幹部。通称、Drクライン。

 外見は、何の変哲も無いただの中年男性。
 唯一特徴的なのは、隻眼なのか、顔に巻かれた眼帯。


クライン「あれが超古代文明の遺産。いや、原点か」


 報告書は読んでいたし、メタルブラックの頭脳から抽出した映像で確認もした。
 だが、実際にその目で、リアルタイムの映像を見たのは始めてだ。

 興奮冷め止まぬ彼は、ぶつぶつと独り言を呟きながら、自分の世界へと没頭する。

 そんな彼を現実に引き戻す、冷静沈着な声。


 「Dr。このまま中枢まで通す気か?」

クライン「ん? おお、そうだった。別に構わんが……必要なのはアルカイザーだけか……」

 「他の者はどうする……?」

クライン「能力の解析はほぼ終わっているしな……黒い男よりも、あのアルカイザーに興味がある」

 「……そうか。では?」

クライン「“奴”に行かせよう。何、この私が強化改造したのだ……心配はいらんよ」
540 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/19(日) 00:23:30.68 ID:TIcGIvEo

 何度もリフトを乗り換え、セキュリティ付きのドアを吹き飛ばし、一行は順調に進む。

 その途中、研究ラボらしき部屋に立ち寄っていた。

 初春がコンピューターから基地内部の地図を見つけ出す。
 それによると、中枢は基地の最深部。
 脱出用の船がありそうな発着場はその間逆に位置している。


黒子「チームを分けますの?」

アルカール「いや……ドックの制圧はあとでいい。人数が減れば危険も増える」

美琴「そうね。ただでさえ少数精鋭なんだもの」


 シュウザー基地での戦いのように、数に物を言わせた作戦はとれない。

 出来ることは絞るべきだ。


アルカイザー「なら、今はとにかく中枢へ?」

初春「はい。基地のメインコンピューターもそこにありますから、そこさえ制圧すればこちらの勝ちです!」


 全員揃ったまま、一転突破で攻略する作戦に決定。

 ここまで大した障害もなかった。
 おそらく、戦いが激化するのはここから――


美琴「っ! そこ!!」


 美琴が何かを察知し、とっさに電撃を放った。


アルカイザー「敵!?」

初春「怪人ですか!?」
541 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/19(日) 00:26:00.53 ID:TIcGIvEo

 背後から迫っていた敵影は、電撃に吹き飛ばされ、部屋の片隅に倒れていた。

 軟弱そうな細身のロボットで、両手にハサミが付いている。
 赤いマントを着て、その中に隠していた武器が散乱していた。

 顔に、大きなバッテンのついた怪人。


美琴「何よ……あっけないわねぇ」


 肩透かしにも程がある。
 奇襲にしても、もっとやり様があっただろうに。
 ご丁寧に、電撃使いの美琴を相手に電磁波駄々漏れで挑むなど……


アルカイザー「ブラッククロスも人材不足ですかね?」

黒子「だったらいいのですけど……」


 何となく、そのロボットが気にかかる。


アルカール「……」

アルカイザー「アルカールさん?」

アルカール「いや。気のせいだろう……」


アルカールも同じようだ。

一体何なのか?


美琴「……まだやる気みたいよ?」

アルカイザー「!」


 ムクリと、ロボットが立ち上がった。
542 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/19(日) 00:28:57.96 ID:TIcGIvEo

 『……チェーンヒート』


 ロボットはノイズ混じりの声で呟くと、手首を捻って外し、地面に落ちていたチェーンソーと付け替えた。
 取替え式の、偉く原始的な武器。

 ギィィィ! と、激しい音を立てて、ロボットはこちらに向かって飛び掛った。


美琴「このぉ!!」


 美琴の電撃が、再びロボットの体を貫いた。

 だが、ショートしてガクガクと全身を震わせながらも、ロボットは腕のチェーンソーを振り回す。


美琴「な、何なのコイツ……?」


 まるでゾンビ。
 フラフラとただ凶器を振り回すだけの乱暴な攻撃を繰り返す。

 皆、その異様さに気付いた。


 「私……私は……」


 ロボットが、ノイズ混じりの声で語りだす。


 「私は……ブラッククロス……」


美琴「何……?」



 「私は、ブラッククロス……“首領”……」



アルカイザー「――――え?」


 聞き間違えか?
 ロボットは、『ブラッククロス首領』を名乗った。
543 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/19(日) 00:32:30.73 ID:TIcGIvEo

首領「あるアルカイザー……! アルカイザーか……?」

アルカイザー「……これが、首領?」


 プルプル震える四肢。
 弱弱しく、今にも倒れそうなその姿は、年老いた老人のよう。
 この巨大な悪の秘密結社を束ねる首領が、こんな……?

 いや、そもそも何故、首領が自らこんな場所に現れたのか――


 『いかにも。それが我らが首領だ』


 ラボのモニターが点き、男が映し出された。
 眼帯を付けた中年の男。


 『よくここまでたどり着いたな。流石は超古代文明人といった所か』

アルカール「Drクライン!!」

美琴「この男が!!」

黒子「Drクラインですの!?」


 モニターの男、Drクラインは嬉しそうに笑い、じっとこちらを観察している。

 ……気のせいか?
 ずっと、一点を凝視しているように見える。


アルカール「あれが、本当にブラッククロスの首領なのか?」

クライン『ああ。つい先日までな』


 先日まで……?


美琴「……改造……したのね?」

クライン『そういうことだ。今は私が実権を握っている』


 悪びれもせず、クラインは堂々と言ってのけた。
544 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/19(日) 00:34:40.28 ID:TIcGIvEo

クライン『しかし……元が悪いと、どう改造しても駄目だということを証明しただけだったよ』

美琴「……! 人の命をなんだと!!」

クライン『おやおや。心優しいお嬢さんだ。悪の組織の首領にまで同情するのかね?』


 クラインは、今度はこちらを馬鹿にするようにクックッと笑いだす。


クライン『四天王以下の性能しかないそいつは、シュウザーにすらこき使われる程度のスクラップだが……』

美琴「もういいわ……あんた、黙ってなさい……!!」

アルカール「クライン……貴様の命運は、今尽きることが決まったようだ」

初春「絶対に許しません……! 貴方は!!」

クライン『あー……構わん構わん。好きに咆えろ。だが、私に所には君らは来れんよ』


 じっと一点を見つめたまま、クラインは片手を振り上げ――


クライン『忘れているようだ御坂美琴君……そいつはウチの首領だよ? 君は、直接話したのではないかね?』

美琴「……!? まさか、しまっ――――」

クライン『トワイライトゾーンだ。行ってきたまえ』


 その手を振り下ろした。

 それと同時に、その場に居た“一人を除く”全員が姿を消す。
 あの、シュウザー城での戦いと同じ構図。


クライン『やあ。やっと二人で話せるな……アルカイザー君』

アルカイザー「……!」


 クラインが、さっきから見つめ続けていた少女。
 アルカイザー・佐天涙子だけがその場に残った。
545 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/19(日) 00:36:05.77 ID:TIcGIvEo

 闇が晴れ、視界が戻る。
 そこは、いつか見た光景。

 無限の暗闇の中、円盤形の眼球が浮かぶ幻惑的な空間。


 不思議空間『トワイライトゾーン』。


黒子「こ、これは……!?」

初春「何が……?」

コットン「キュキュ〜……」

アルカール「……チッ! やられたか……!!」


 思い思いの感想を漏らす面々。

 唯一この世界を経験していた美琴が指揮を取る。


美琴「みんな落ち着いて。これが『術』の中よ」

黒子「術……例の術ですのね……!」

美琴「核になってる敵を倒せば、ここから出られるはず。」

アルカール「核……か」


 彼女らの目の前に、マントの怪人が立っていた。

 哀れにも、改造され自我を奪われ、道具として利用される男。
 元、ブラッククロス首領。


首領「アルカイザー……」


 一体、どんな幻想を見せられているのか。
 宿敵の名を呟き、両手の武器を構えた。
546 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/19(日) 00:40:02.23 ID:TIcGIvEo

美琴「気をつけて……ここでは、連中の性能は三倍に引き上げられるらしいわ」

黒子「どういう理屈ですの? それ……」

美琴「私が聞きたいわよ」

アルカール「空術……いや、魔術や秘術に近いか……それとも妖術の類か、心術の『覚醒』を応用したものか……」

美琴「……聞いても分かりそうにないわね」


 初春を除いても四対一。
 三倍になってところで元が“アレ”なら、負けることはない。

 この術の目的は、シュウザー城の時と同じく、あくまで“分断”と“時間稼ぎ”だろう。

 思えばあの時すでに、彼は改造され道具として利用されていたのだろうか?


 怪人は、ゆっくりとした口調で語りだした。


首領「……来たな、アルカイザー。ブラッククロスに対するこれまでの数多くの不遜な行為、許すわけにはいかん!」


 首領らしく堂々と振舞おうとするその声は、電撃でショートしたからか、音程もズレ雑音が酷い。


首領「――ブラッククロスの『首領』である私が自ら鉄槌を下してくれるわ!!」


 酷く滑稽で哀れな、操り人形の舞踏が始まった……


黒子「参りましょう。お姉さま」

美琴「ええ……こんな悪夢、すぐに終わらせてあげるわ」


 マリオネットの糸を切るため、美琴たちは、『ブラッククロス』との決戦を開始する。
547 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/19(日) 00:42:00.25 ID:TIcGIvEo

 モニターの男は薄ら笑いを浮かべて、アルカイザーをじろじろと嘗め回すように観察している。

 女性である佐天にとって、その視線は生理的にも耐え難い。


アルカイザー「わ、私に何の用なの!?」


 嫌悪感を丸出しにして、精一杯語気を強める。
 この威容な男に気おされないように……


クライン『おっと。レディに対して失礼だったかな? そういったことには疎くてね……』

アルカイザー「……ふざけないで」

クライン『……力を求めているらしいな。佐天涙子君』

アルカイザー「……!」


 本名で呼ばれ、その上、友人にだけ話した事をズケズケと――

 Drクラインという名を聞いたときから、佐天の脳裏にはあるロボットの姿が浮かんでいた。

 ラビット。
 メタルブラック。

 二つの名をもつ、佐天にとっては、敵であり、友人であり、恩人でもある黒いロボット。


クライン『君の戦いは、メタルブラックの頭脳から読み取らせてもらった。実に見事だ』

アルカイザー「彼の……主……!」

クライン『ああ、そうだとも。私が彼を作り、改造し、強化した。それもこれも、“最強”を手に入れるためだ』

アルカイザー「“万能の力”……そんなものを手に入れてどうするの!?」

クライン『知っているだろう? 我々の目的を……』


アルカイザー「……世界征服」
548 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/19(日) 00:45:02.89 ID:TIcGIvEo

クライン『メタルブラックが不思議がっていたよ。君は最強であるにも拘らず、それ以上の力を求めているとな』

アルカイザー「それは違う。私は最強なんかじゃなかった。御坂さんと直接戦って負けたもの」

クライン『それは初耳だ……いつだね?』

アルカイザー「地下基地で……」

クライン『ああ……よかった。なら問題ない。そんな過去のデータはいらない』


 この男と話しているとイライラする。
 見下されているような……

 いや、評価されているだろうことは伝わってくる。
 だが、それはあくまで“被検体”として、“モルモット”としての価値。

 この男は同じだ。
 あの、「木原」の名を持つ科学者と。

 人間を自分の研究のための道具だと思っている……!


クライン『それでだ。君の戦いを検証した結果……どうやら――』

アルカイザー「……?」


 ガシャン、ガシャン、と音が近づいてくるのが聞こえる。

 この音……金属同士がぶつかり合う音、また機械仕掛けの怪人か?



クライン『君の能力をコピーするのが、今一番確実な、最強への近道だと分かった』



アルカイザー「……っ!!?」



 壁を突き破り、黒い影が、部屋の中へ飛び込んできた――
549 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/19(日) 00:47:33.66 ID:TIcGIvEo

 「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


 黒い影は、凄まじい勢いでアルカイザーを攫っていった。

 そのままスピードを落とすことなく壁を次々にブチ破り、奥へ奥へと突き進んでいく。


アルカイザー(……!!???? これは……黒い……炎!!?)


 アルカイザーに激突し、彼女の体を吹き飛ばしているのは『黒い炎の渦』。

 炎であれば、アルカイザーにとって脅威ではない。
 そのはずなのに――


アルカイザー(燃える……!!?)


 アルカイザーの体が燃えていく。
 初めて味わう、その身が焼かれる感覚。

 それでも彼女は耐え切った。
 全身を光り輝かせ、そのエネルギーで身を守った。


 時間にして、わずか30秒のドライブ。

 たったそれだけの間に、彼女の体は数箇所の複雑骨折と、大火傷に見舞われた。


アルカイザー「う……ぐ……っ!?」


 体に走る激痛を無理やり堪えて、エネルギーを重点的に送り込むことで治癒を早めた。

 意識は保っている。

 アルカイザーは黒い炎に攫われて、基地の奥深くへと連れ込まれたらしい。

 そこは広い空洞。
 赤い大きな証明が灯っている。

 その中心にある円形の舞台に、アルカイザーは一人倒れていた。
550 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/19(日) 00:50:02.60 ID:TIcGIvEo

 「変身を解け、涙子」


 黒い影の正体。
 漆黒の炎を操り、アルカイザーを吹き飛ばした怪人が、その姿を現した。


 「変身するときが、一番傷の治りが早いのだろう?」

アルカイザー「……よく知ってるね」

 「お前が変身する際のデータは、初めて会ったときに取ったものだからな……」


 聞き覚えのある声。

 痛みが引いてきたことを確認すると、彼の言葉に従い、アルカイザーは一旦変身を解いた。
 ブラッククロス基地の奥底で、ただの中学生、佐天涙子がその姿を晒す。


佐天「そのかっこう……さっきの話からすると、そういうことなの?」

 「そういうことなのだろうな」

佐天「……ていうかさ。不意打ちしといて、今更傷を治せってのも変な話じゃない?」

 「ただの移動だ。この中枢部を目指していたのだろう?」

佐天「もうちょっとやり方ってものがさ……」


 いや。止めておこう。
 コイツに何言っても無駄だ……

 何せ人の話を聞いてるんだか聞いてないんだか、理解してんだか何なんだか、分からない奴だ。
551 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/19(日) 00:51:25.41 ID:TIcGIvEo

佐天「ひさしぶり……でもないか。また会ったね、メタルブラック……」



 旧友に、挨拶を送る。

 彼も、それに返答する。



 「私はもうメタルブラックではない……アルカイザーだ」



 不思議な気分だ。
 目の前に、自分とそっくりなロボットがいるなんて。

 しかもそれが、良く知った因縁の相手だなんて。



 落ちこぼれのヒーローは、もう一人の自分と出会った。
552 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/19(日) 00:52:28.57 ID:TIcGIvEo

 【次回予告】

 佐天涙子とメタルアルカイザー!

 二人のアルカイザーが、今、激突する!!

 Drクラインに従い続けるメタルアルカイザー!

 何故だ!? 佐天の言葉は、黒い機械戦士のココロに届くのか!?


 次回! 第十七話!! 【再誕! 真実の炎!!】!!

 ご期待下さい!!
553 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/19(日) 00:56:14.32 ID:TIcGIvEo

 と、いうわけで第十六話でした。

 う〜ん。
 まぁ今回は次回への繋ぎだったかな?


 【補足】

 ・小此木博士について。
  原作の主人公・レッドの父親。
  レッドに出てこられても困るのでこんな扱いに……正直すまんとしか……

 ・デュラハンの盾。
  デュラハンからしか取れないレアな盾。強い。
554 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/19(日) 01:01:35.76 ID:TIcGIvEo

>>523
いつも感想ありがとうございます。
慣れない事をして不安でしたが、そう言って貰えて嬉しいです。

>>524
下手したらアレイスターより強いかも……
まぁ、彼は原作でもチートキャラでしたから……

>>525
期待に沿えるよう頑張らせて頂きます。
その言葉が原動力です。
555 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/19(日) 03:07:39.69 ID:LeKFsQAO
ヴァーミリオン乙!

ついにラスメン突入!
お気に入りの双子妖魔の登場に鼻血出たぜ!
そしてレッド死んでるし!ww

初春さん、そいつは一晩狩り続けても取れないこともある最強の盾でっせ……。

次で、ついにあの力が……っ!
超期待です!
556 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/19(日) 03:22:20.15 ID:lUYsrHE0
メタルアルカイザーが仲間になっても面白いかもなw
何はともあれ乙
557 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/19(日) 04:14:42.18 ID:KiTzzFg0
>>1乙ぅ〜

初春ぅぅぅ〜!!!
それ!その!盾を!よこせ!

10時間以上、生命科学研究所でデュラハン狩りしてる俺に頂戴!


関係ないけど、ソードダンサーなエミリアがデュラハンに濁流剣をやり続けても無月散水を閃かないのに、メイレンがSTR上げ(という名のWP上げ)の為に初めて剣で攻撃した際に無月散水を閃いた時は複雑な気持ちが満載になった。
習得剣術が無月散水のみとかありえん。
558 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/19(日) 15:09:10.96 ID:VWkDOgAO
首領不憫すなww
やっぱりタイマンは燃えるぜ
559 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/20(月) 23:42:17.18 ID:dhvBBUMo

では、第十七話の投下を始めます。
560 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/20(月) 23:44:09.75 ID:dhvBBUMo

 ラビットというロボットと出会った。

 彼は丸っこくて、白いボディに、所々ピンクのパーツが使われた可愛らしいロボットだった。
 それなのに、その外見に似合わない哲学的な話をする不思議な“友達”だった。


 メタルブラックというロボットと出会った。

 彼は自らを侍と名乗る、黒い鎧で、巨大な得物を操る戦闘ロボットだった。
 ブラッククロス四天王の一人として立ちはだかる、最強の“敵”だった。


 再び、メタルブラックと出会った。

 彼は厳ついボディに生まれ変わり、侍ではなく破壊兵器だった。
 窮地の親友と自分を助けてくれた“恩人”だった。


 その彼が、今また、目の前に立っている。

 今の彼を表す言葉は何だろう?

 とても、一言では言い表せないように思う……


佐天「アルカイザー……そう名乗ったよね?」

 「ああ。だが、正確には少し違う。私はあくまでも私だからな……」

佐天「なら、何て呼べば良い?」



 名を問われ、黒い機械戦士が、自分自身を確かめるように名乗る。



 「鋼(メタル)……メタルアルカイザーだ」



 【第十七話・再誕! 真実の炎!!】
561 :※メタルA=メタルアルカイザーの略です [saga]:2010/12/20(月) 23:46:07.11 ID:dhvBBUMo

 体の調子を確かめるように、佐天はゆっくりと立ち上がった。

 単純な骨折は直りかけているようだが、まだそこら中がズキズキと痛む。
 複雑骨折したらしい左腕を押さえると、電流を流されたように全身が跳ねる。
 激痛を、歯を食いしばって耐えた。

 まだ変身はしない。

 その前にもう一度だけ、この佐天涙子の姿で聞かなければならないことがある。


佐天「メタル……アルカイザー? どうして私の回復を待つの?」

メタルA「傷ついたお前を倒しても、最強の証明にはならんからだ」

佐天「貴方は以前言ったわ。数の差も力だって……なら、不意を打って倒す事だって、力じゃないの?」

メタルA「……奴の非道を目の当たりにして、考えが変わった」

佐天「……」

メタルA「真に最強の戦士とは、正面から堂々と戦うものだ。相手がどんな手を使おうとな……」

佐天「そう思っているなら……どうして、どうしてブラッククロスなんかに居るの!?」


 それが信じられなかった。

 彼はあのとき、確かに自分達を助けてくれたはずなのに。
 ブラッククロスという組織がどんなものなのか、弱者が踏みにじられることが、どんなことなのか知ったはずなのに。


佐天「どうしても……私たち戦わなきゃいけないの……?」

メタルA「……愚問」



メタルA「私は“メカ”だ。そして、主の名はDrクライン」



メタルA「ならばそれが、私の戦う意味の全てだ」
562 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/20(月) 23:47:58.95 ID:dhvBBUMo

 彼の意思は固い。


 意思?

 そうか……彼はやっと手に入れたんだ……


 なら、戦おう。

 それしか道は無い。



 ……それでも。私は友達を救いたいと思う。


 だから、そのためにこの力を使おう。


 この力はただ一つ。“守る”ためにあるのだから。



 願いを込めて、希望を込めて。

 何度もこの名を叫んできた。


 そして今、もう一度、全ての想いを込めて叫ぼう。






佐天「変身!!! アルカイザァアアアアアアア!!!!!!」





563 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/20(月) 23:49:48.58 ID:dhvBBUMo

 舞い上がる塵の一つ一つの動きが見える。


 魂が破裂しそうなほど鼓動する。


 細胞を、生命力が塗り替えていく。


 打ち出す拳が灼熱に燃える。


 駆け抜ける足は光速を超える。


 蔓延る闇を額で切り裂き、蒼いマントが烈風に舞う。


 輝く光が希望を示し、守るべき信念を照らし出す。


 その眼光は曇りなく、進むべき道を見据えている。




 願う通り、その体は紅く染まった――――!!!!!!
564 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/20(月) 23:50:52.02 ID:dhvBBUMo






 これが、佐天涙子の最後の変身だった。





565 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/20(月) 23:52:32.11 ID:dhvBBUMo

メタルA「直接手合わせするのは久しぶりだな」

アルカイザー「強くなったよ。私は」

メタルA「私は? 私“も”だろう?」


 ……冗談まで言えるようになったのね。


 肩を回し、傷の治り具合を確認する。

 大丈夫だ。
 複雑骨折していた左腕も、自由自在に動かせる。


 ……いつも思っていたことだが。
 この傷の治り方は異常じゃないだろうか?

 常識を超えた力なのだろうことは分かる。
 でも、こんなことをして何のリスクも無いとも思えない。


 『ファイナルクルセイド』という技がある。

 あれは、自らの生命力を周囲に分け与えることで傷を癒す。


 なら、この力の源はやはり――――


アルカイザー「……私は“長生き”できるかな?」

メタルA「生き延びたければ、構えろ」


 二人は距離を空け、円形の舞台の上で向かい合った。

 アルカイザーが、拳を握り締めて腰を落とす。
 すると、メタルアルカイザーも同じように構える。


 まるで、合わせ鏡。
 もう一人の自分との決闘だ。
566 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/20(月) 23:55:26.50 ID:dhvBBUMo

 二人は動き出すのも同時だった。

 空洞に、二人の雄たけびが響き渡る。


 「「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」


 互いに右腕を振りかぶり、エネルギーを送り込む。
 拳が光り輝き、眼前に迫った敵に打ち出された。


アルカイザー『ブライトナックル!!!』

メタルA『タイガーランページ!!!』


 速い――!

 機械戦士は以前、ヒーローさえも苦しめる圧倒的な戦闘能力を見せた。
 パンチのスピード一つとっても、二人の差は歴然としていたものだ。


 だが――


メタルA「……ッ!? 互角か!!?」


 アルカイザーのパンチは、メタルアルカイザーのそれに匹敵する速度と精密性を持っていた。
 メタルアイルカイザーとなった彼の性能は、メタルブラックだったときよりも向上されているというのに……!

メタルA「チィ!!」

 キリが無い。
 メタルアルカイザーは、そう判断し体を捻る。

 姿勢を低くし、全身を回転させての後ろ回し蹴り。
 竜巻を起こすほどの勢いで放たれた蹴りが、アルカイザーのわき腹をえぐる。


アルカイザー「……ゲホッ!?」


 内臓にめり込む鋼鉄のカカト。
 一瞬呼吸が止まり、口の中に鉄サビの味が広がる。
567 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/20(月) 23:58:13.60 ID:dhvBBUMo

メタルA「もう一度だ!!」


 メタルアルカイザーは、その勢いで押し切ろうと一歩踏み出す。

 しかし、今度の攻撃には反応された。
 振り上げた足を、がっちりと腋の下で固定される。


アルカイザー「接近戦は……打撃だけじゃない!!」


 彼女は、そのまま彼の足を抱え振り回し、壁に向かって放り投げた。

 激突しそうになる直前、くるりと体勢を立て直した彼は壁に“着地”する。


アルカイザー「まだまだぁ!!」


 追撃しようと、アルカイザーが右拳を振りかぶって飛び出した。


メタルA「それで間に合うと思うかぁ!!!」


 メタルアルカイザーの背中から、蝙蝠のような翼が飛び出した。
 同時に腕が開き、中から鋼の剣が現れる。



メタルA『ムーンスクレイパー!!!!!』



 急激に加速し、弧を描きながら宙を駆ける異形の黒い戦士。

 空中に飛び出したアルカイザーの左側面に回りこみ、剣を両手で構えた。


メタルA「首……貰った!!!」


 かつて、少女らの腹を切り裂いた凶刃が、再び奮われる。
568 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 00:01:56.84 ID:LirsPmco

メタルA「――――!!?」


 ありえない。

 読んでいたというのか。


 アルカイザーの視線がこちらを向いて、しかも――


アルカイザー『カイザーウイング……!!』


 その手に、蒼い光の剣が煌めいていた――!
 振るわれた剣が空を裂き、紅い烈風を巻き起こす――!!



メタルA「……ならば、こちらがそれを凌駕すればいい……っ!」



 メタルアルカイザーの体が、空中で急停止した。

 以前の無茶なロケットブースターによる加速では不可能だった。
 安定した『翼型』への改造を経て、彼の機動性能は格段にアップしている。

 紅い風を飛び越え、さらに上昇していく。



メタルA『ムーンスクレイパァァアアアア!!!』



 飛行中の急速な方向転換。
 アルカイザーの頭上を飛び越え、逆方向から旋回して戻ってきた。

 彼女は反応できていない。

 立体的な動きで、今度こそ、空中に三日月の軌跡が現れる。


アルカイザー「――――っ」


 切り裂かれた“紅い鎧”は地に崩れ落ち、血の“紅い花”を舞い散らす……
569 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 00:04:16.08 ID:LirsPmco

メタルA「……これでも仕留め切れんか……!!」


 確かな手ごたえだった。

 確実に相手の裏をかき、手心など加えずに急所を狙った。

 だが、生きている。


 生きて、立ち上がり……なお攻撃の手を休めない!!


アルカイザー『アル・ブラスタァアア!!!』

メタルA『喰らうか!! サンダァァァボォォル!!!』


 光の弾丸を、雷の球で迎撃した。

 その際に起こった閃光に紛れ、彼女は自らも弾丸となって飛び込んでくる。


アルカイザー『シャイニングキックッ!!!』

メタルA「ぬおっ!!?」


 上体を反らせて回避する。
 持ち上げたアゴをギリギリ掠めていった。

 鋼の剣で、振り返りざまに斬りかかる。

 蒼い剣も同じく、空中から無茶な体勢のまま振り下ろされていた。


 切り結び、距離を空けるため後ろに飛び退いた。

 向こうも、剣を弾いた反動を利用して飛び上がり、一回転して着地した。
570 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 00:05:23.24 ID:LirsPmco

メタルA「……強くなった……確かに……強くなった……!!」


 何故この短期間にこれ程の成長を?


 メタルアルカイザーは知らない。
 彼女とアルカールの一戦を。

 あれは、アルカールによる特別授業だった。

 佐天の覚悟を確かめ、足りない経験を自分と戦わせることで補う。


 もちろん。
 それだけで強くなどなれない。


 御坂美琴。

 白井黒子。

 初春飾利。


 今のアルカイザーは、彼女たちの信頼で成り立っている。


 佐天涙子には、ずっと足りないものがあった。

 それが「自信」。

 無能力者のレッテルが、それを彼女から奪い去った。


 だが、今は違う。

 数々の戦いを乗り越え、自分に何が出来るのかを知った。
 自分が、何をしなければならないのかを知った。

 その精神の変化が、彼女のヒーローとしての資質を高め、“覚悟”を決めさせたのだ。


 ゆえに、今のアルカイザーには“制限”がない。

 彼女自身、無意識のうちに掛けていた“制限”が――外れた。
571 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 00:06:52.96 ID:LirsPmco

メタルA「今確信した……貴様を乗り越えたときこそ、私は『最強』を名乗る……!」

アルカイザー「……最強……万能の力……!」

メタルA「そうだ! それだけが我が望み!! そのためならば――」


メタルA「涙子!!! 貴様さえも供物としよう!!!!!!」


 メタルブラックの両腕の装甲が開き、漆黒の煌きが舞い踊った。

 燃え盛る『黒炎』。
 こんな禍々しいものなど、聞いたこともない。


アルカイザー「黒い炎……!?」


 どういう原理なのか。
 それはアルカイザーの紅い鎧さえ燃やす。


アルカイザー「なら……こっちも!!」


 右手を床に付き、そのまま走り出す。

 その摩擦で火花が散り、それが火種になって燃え上がった。
 焦げ跡を地面に残して、拳が紅い炎を纏う。



アルカイザー『アル・フェニックス!!!』



 鋼鉄を燃やし尽くす轟熱。

 この技を放つということは、すなわち敵対するものの消滅を意味する。
572 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 00:07:17.42 ID:Y9vWzUAO
略すとブレドランに破壊された不憫な子を思い出す
強化されて片腕になると信じてたのに
573 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 00:14:25.69 ID:LirsPmco

 黒炎を纏ったメタルアルカイザーは、腰を深く落とし構えた。

 紅い渦が、周囲の物を無差別に溶かし、突き進んでくる。

 不死身と呼ばれた男さえも一撃で葬った灼熱。
 真正面から受け止めるなど愚の骨頂だ。


 だが――

 黒い戦士は退く事を知らない。


メタルA「この程度乗り越えずして、何が『最強』……!!!」


 迫り来る不死鳥に対し、自ら突貫した。
 無論、自分ならば“勝てる”と踏んだのだ。

 勢いを増した黒い炎が、彼を守るように渦巻き、突き出した右拳から放たれた――



メタルA『ダークフェニックス……!!!』



 ギラギラと殺意を放つ黒炎が、真っ直ぐに突き進んで征く。
 「不死鳥」というよりも「凶鳥」。
 眼前の全てを、その業火で焼き尽くさんと牙を剥く……!


 紅い炎と黒い炎。
 二つの炎が激突し混ざり合う。

 勢いは互角。

 だが――


アルカイザー「失敗したね……!」

メタルA「……!?」


 アルカイザーの技は、まだ完了していない……!
574 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 00:18:52.58 ID:LirsPmco

 メタルアルカイザーは、黒炎を紅い炎にぶつけようと技を“放った”。

 だが、アルカイザーは違う。

 彼女は、まだ炎を纏ったままだ。
 いまだ、ぶつかり合う炎の中心に自らを置いている。


アルカイザー「逃げたね……! メタルアルカイザー!!!」

メタルA「逃げただと……? 私が……!?」

アルカイザー「確実に私を倒そうとするなら、炎は放つべきじゃなかった……」


アルカイザー「距離を保って、安全な場所で見物してたんじゃぁ届かないよ!!!」


 彼女の気合に呼応して、紅い炎が勢いを増していく。
 紅い炎はやがて、黒炎を包み込み巨大な塊になった。


アルカイザー「アンタの技も、そっくりそのまま返してやる!!!」


 床を踏みしめ、再び炎の渦を纏おうと前進する。


 しかし――機械戦士は、冷静に状況を分析していた。



メタルA「……ならば、そのセリフをそっくり返そう……」



メタルA「失敗したのは貴様だ。アルカイザー!!」



アルカイザー「――――っ!?」



 炎が、一瞬にして全て――


 黒く染まった……!!
575 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 00:21:08.90 ID:LirsPmco

 炎の奥から、こちらに飛び出してくる影が見える。

 翼を広げ、凄まじいスピードに加速して――



メタルA『ダークフェニックス!!!!!!』



 今度こそ、黒炎を纏った鋼の拳が、アルカイザーの心臓に叩き込まれた――!!!


アルカイザー「があぁああああああっ!!???」


 体が燃える。

 こんなこと、これまでには無かった。

 いつだって、彼らは味方だったはずだ。

 友達に、なったのだから。

 それなのに……


 黒く反転した彼らは、紅い鎧を焼き尽くそうと猛り狂う。


アルカイザー「どう……して……!?」


 どうして……裏切ったの……?


 …………


 ……
576 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 00:23:11.33 ID:LirsPmco

 やがて炎は掻き消え、舞台の上に静寂が訪れた。


 そこに見えるのは、静かに佇む黒い機械戦士。


 そして、燃え尽きることなく、炎の猛攻を耐え切ったアルカイザーの疲弊しきった姿だった。

 蒼いマントは塵になって飛散した。
 床に付いた手のひらは、鎧が熔け、酷い火傷を負い、指一本動かせない。
 全身の至る所に、焼け焦げや熔解の跡が残っている。

 だが、死んではいない。

 ヒザをつき、俯いて、立ち上がれずにいるだけだ。


メタルA「……なるほど。やはり、貴様の言うことも正しかったようだ」


 メタルアルカイザーが歩くたび、金属が床を叩く音が空洞に木霊する。
 ゆっくりと、もはや目線すら合わせない宿敵に近づく。


メタルA「トドメを刺しそこなった……まだ迷いがあったらしい……」

アルカイザー「……っは……はははは!」


 金属音が止まり、その代わりに乾いた笑い声が響いた。


メタルA「何が可笑しい……気でも触れたか?」

アルカイザー「ははは……いや……」

メタルA「貴様は我が最大の好敵手だ。最後まで誇り高くあってくれ」

アルカイザー「ふ……ふふっ! 誇り……あはははは!!!」

メタルA「……何だと言うんだ」



アルカイザー「……“迷い”に“誇り”……本当に人間臭いことをいうんだね」
577 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 00:26:02.26 ID:LirsPmco

アルカイザー「どうしてだって聞いたらさ……炎が教えてくれたよ」

メタルA「……」

アルカイザー「あの黒い炎……火の中に“何か”混ぜてあって、それで操ってるのね?」

メタルA「……ご名答だ。あれは、『ナノマシン』によって作られた炎だ」


 超ミクロサイズのナノマシン。
 黒い炎は、それを通常の炎に混ぜることによって生み出されていた。

 本体であるメタルアルカイザーからの指示を受け、ナノマシンが炎を自在に操るという仕組み。
 それは細菌のように数を増やしていき、炎から炎へと移り広がっていく。

 だから、たとえ拳から離れていても、そんなことは関係ない。

 本体からの情報伝達さえ果たされれば、アル・フェニックスにさえ乗り移り、黒く染め上げてしまうのだ。


メタルA「これが、貴様の技を元にDrが作り出した、私の『ダークフェニックス』だ」

アルカイザー「そっか……ふふっ」

メタルA「……いい加減にその笑いを止めろ。不愉快だ」

アルカイザー「あははははは!! 不愉快だって! あはははははは……!!!」


 ダンッ!
 ……と、メタルアルカイザーが床を踏み締めた。


メタルA「安い挑発は止めろと言っている!!」


 その態度が気に食わなかった。
 まるで、この戦いを侮辱しているようだ。

 それはつまり、『メタルアルカイザー』という存在の否定に他ならない。
 彼は、このためだけに作られたのだから。


アルカイザー「……怒れるんじゃん」

メタルA「……なんだと?」
578 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 00:27:18.12 ID:LirsPmco

アルカイザー「そうやってさ。怒って、悲しんで、喜んで……」


 アルカイザーが、顔を上げた。

 仮面越しだが、その瞳はしっかりと彼を見つめている。


アルカイザー「手に入れたんでしょう……『ココロ』をさ?」

メタルアルカイザー「――――!?」


 ラビットと名乗っていたころ、彼にはココロが無かった。
 メタルブラックだったころも、彼にはそれが理解できなかった。

 彼はロボット。メカなのだから、それはしょうがないことだ。


 しかし、シュウザー基地での戦いの際、彼の電子頭脳は奇跡を起こした。


 主を裏切り、自身を傷つけ、敵を救い出すという「理屈に合わない行為」。

 およそメカらしくないその行動は、決して「故障」などではない。


アルカイザー「なら……考えたんでしょう? この戦いの意味を――」


アルカイザー「何のために、『万能の力』なんてものが必要なのかを!!」

メタルA「……っ!!」


 彼女のしていることは、不可解だ。

 メカに対して、こんな説得は意味が無い。
 彼らはただ、冷酷に冷静に、真実だけを述べ、使命だけを果たすものなのだから。


 だが、こと『メタルアルカイザー』に限ってはその範疇ではない。


 彼の行動原理は、メカとしての使命ではなく、『固い意思』によってのモノなのだから……
579 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 00:29:10.77 ID:LirsPmco

アルカイザー「教えてよ……世界征服なんて馬鹿な真似を、どうして……?」

メタルA「……君が居た時代とは、事情が違うんだ」


 黒い戦士が拳を下ろした。

 態度と口調が柔らかくなる。
 それはまるで、旧知の友と語り合っているかのようだ。


メタルA「このリージョン界は今、『トリニティ』という組織が牛耳っている」

アルカイザー「トリニティ……?」

メタルA「奴らは軍事力を盾に全てのリージョンを支配下に置いた。実際に、ワカツというリージョンが滅ぼされている」

アルカイザー「そんな……それじゃあまるで!?」


 まるっきり、『悪の組織』の『世界征服』じゃないか――!!


メタルA「だからこそ……奴らから世界を取り戻さなければならない……」

アルカイザー「じゃあ……そのために、ブラッククロスは世界征服を?」

メタルA「私は……」


 メタルアルカイザーは、少し困ったように首を振り、間を置いてから――

メタルA「そう、聞かされている」

 真実だけを述べた。


アルカイザー「……待って。聞かされている……って……」

メタルA「それ以上言うな。分かっている」


アルカイザー「嘘だよ……そんなの……!!」
580 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 00:32:39.70 ID:LirsPmco

 世界を悪い奴らから開放するために、自分達が世界を征服しなおす?

 それだけで、もうふざけてる!


 しかも、そのために人の命を散々弄ぶようなことを繰り返して……?


 ありえない。

 そんな『正義』はありえない――!!!


アルカイザー「メタルアルカイザー! そんなのは嘘よ!!」

メタルA「分かっていると言った!!! だが……」


 メタルアルカイザーは、必死に理由を探している。

 らしくない。
 いつもの彼なら、すっぱりと一言、事実だけを述べている。

 それが、彼がココロを持っている証。

 ココロがあるゆえの苦しみ。


アルカイザー「なら、言い訳なんてしないでよ! 気付いてるなら!!」

メタルA「これは『ブラッククロス』の話だ! 私の主はDrで、組織は利用していただけだ!!」

アルカイザー「それも詭弁!! 人を利用して、犠牲にして得る力に意味なんて無い!!!」

メタルA「五月蝿い!! だが……なら――――」




メタルA「私が信じずに……誰が“父”の味方になれるというんだ!!!??」




アルカイザー「――――“父”……」
581 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 00:34:26.14 ID:LirsPmco

 メタルアルカイザーの両腕から、再び黒炎が噴出し燃え盛った。


メタルA「父は……その才能ゆえに世界から追い出されたのだ……!」

メタルA「誰一人、彼の言葉に耳を貸さなかった!!」

メタルA「あげく……道を外れた彼を、奴らはこう罵った!!!」


 『マッドサイエンティスト』


メタルA「人より優れ! 人とは違う感覚を持った彼を! 誰も救おうとはしなかった!!!」


 黒い炎は、際限なくその勢いを増していく。

 まるで、彼の小さな電子頭脳に溜め込まれ続けた感情が、その姿を現したかのように……


メタルA「確かに……彼は『狂人』なのだろう……『悪人』なのだろう……!」

メタルA「だが、それはこの世界が今、“こうなっている”からだ!!!」

メタルA「反転した世界なら……我々が征服した世界なら!!!」



メタルA「こんな世界など……一度滅びてしまえば良い!!!!!!」



 漆黒の炎に包まれ、メタルアルカイザーは灼熱の化身と化した。

 放っておけば、彼は『最強』の力で、このまま世界を焼き尽くすだろう。

 怒りに任せ。
 感情に任せ。

 願い求め、やっと手に入れたその『ココロ』を、“悲しみ”のみに染め上げて……
582 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 00:35:37.70 ID:LirsPmco

 ……なんて悲しい声だろう。


 子ども。

 生まれたての子どもは、泣いて感情を表す。


 きっと、彼は感情の表し方がまだ分からないんだ。

 胸を苛む苦しみに、どう向き合えばいいのか。


アルカイザー「……大丈夫」


 ズキズキと痛む体に鞭を打ち、上体を持ち上げる。


アルカイザー「人は、段階を踏むんだよ」


 ヒザに力をいれ、立ち上がった。


アルカイザー「一気には解消できないんだよ。ココロって不完全なものだから」


 彼女が私にそうしたように、私は彼の想いを――――


アルカイザー「力があれば、何だって出来るわけじゃない……」



アルカイザー「強いって、大変なんだよ。抱えるものが増えるんだから……」



 受けて立とう……!
583 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 00:37:59.50 ID:LirsPmco

 アルカイザーに黒炎の渦が迫る。

 もう一度同じことを繰り返せば、今度は立ち上がることはないだろう。
 焼き尽くされ、灰になって、混沌の中に飲み込まれる。


メタルA「オォォオオオォォオォオオオオォォオオオオオオオオオォオオオ!!!!!!」


 すっ……と、むきだしになった手のひらで、黒炎に触れた。

 そこから――


アルカイザー「行きます……御坂さん!!!」


 黒い炎が反転し、紅へと帰っていく――――!!!


メタルA「な、何故だ……!? ナノマシンが、駆逐されて……!!!?」

アルカイザー「炎の温度に上限はない……」

メタルA「!!?」

アルカイザー「そのナノマシンっていうのは、一体何度まで耐えられるのかなぁ!!!」


 炎の渦が、瞬く間に本来の色を取り戻していく。

 例えばウイルス。
 人間の体に入ったウイルスは、体温の上昇で滅菌される。

 炎が、自分の中に混入した異物に対して反旗を翻した。


メタルA「何故だ……何故だ!? ナノマシンに操られて、何故そんなマネが出来る!!?」

アルカイザー「何故かって? そんなこと……決まってる!!」


アルカイザー「アル・フェニックスの炎は、操られているんじゃない……自分の意思で、力を貸してくれてるんだ!!!」


 全ては、友のために――!!
584 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 00:41:33.64 ID:LirsPmco

アルカイザー「人には人の……炎には炎の意思がある……!!」

メタルA「炎の……意思……?」

アルカイザー「そして、メカにはメカの……意思があるんでしょぉがぁああ!!!」


 そして、炎は全て紅に帰り、アルカイザーの全身を包み込んだ。


アルカイザー「機械のプログラムで無理やり言うことを聞かせるなんて……そんなのが『最強』のはずがない……」

アルカイザー「メタルアルカイザー……あの黒い炎は、まるで貴方そのものだよ……」


 アルカイザーの鎧が、炎のエネルギーを吸って修復を始めた。
 火傷した手のひらが癒え、また、拳を握ることが出来た。

 炎がその形を変えていく。

 そう、この紅い炎もまた、佐天涙子という人物を写している。

 一度焼き尽くされただけで、もう力を失うようなナノマシンとは違う。


 倒れても、傷ついても、友のために何度でも立ち上がる、あの親友達から授かった、高潔な心を……!


アルカイザー「大切な人が間違ったことをしているのなら……それに気付いたなら!」

アルカイザー「例え敵対してでも、止めて見せるのが真実(ほんとう)なんだ!!」



アルカイザー「だから……私は貴方に立ち向かう!!!」



 炎が翼となって羽ばたいた。

 アルカイザーの体が宙に舞い上がる。

 この炎は、真実の強さを持つヒーロー・アルカイザーの化身。

 かくして不死鳥は顕現し、全ての悪を焼き尽くす――――!!
585 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 00:42:14.46 ID:LirsPmco







 『真アル・フェニックス』――――!!!!!!!






586 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 00:43:03.98 ID:LirsPmco

アルカイザー「メタルアルカイザー……貴方は強かったよ。でも、間違った強さだった……」



 落ちこぼれのヒーローは、真実を見つけた。
587 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 00:43:51.16 ID:LirsPmco

 【次回予告】

 悪は滅びたのか……?

 世界に平和が訪れたのか……?

 否! まだだ!!

 全てはまだ終わってはいなかった!!

 ここからが……始まりなのだ!!


 次回! 第十八話!! 【驚愕! 全てを支配する者!!】!!

 ご期待下さい!!
588 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 00:47:45.38 ID:LirsPmco

と、いうわけで第十七話でした。

長かった……ここまで長かった……彼との戦闘は十話ぶりですよ。


 【補足】

 ・メタルアルカイザーについて。
  「石には石の心があると。ならば、メカにもメカの心があって然るべきだ」
  という原作での彼のセリフが、一連の展開の元になりました。
  Drクラインへの想いやココロの葛藤などはこのSSでの創作です。
  推測ですが、原作の彼は結局、プログラムされた武士道精神のみで、心は手に入れては居なかったように思います。
  ちなみにダークフェニックスの設定も創作です。
  佐天さんのアル・フェニックスが「協力」の力なのに対して、「強制」の力にしてみました。

 ・トリニティについて。
  リージョン界を統べる軍事組織。
  反トリニティの革命軍なども存在する、ブラッククロスなんかより更に大きな存在。
  ワカツは、トリニティの執政官が無実の罪を着せて滅ぼしたリージョンで、
  原作では悪霊の蔓延る廃墟として登場します。
  ブラッククロスの目的を考えると、どうしてもこことやりあうことになると思うんですが……
589 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/21(火) 00:53:22.52 ID:HOBMNwAO
跳弾ランページ乙ん!

真アル+名台詞キター!!
しかし、最後の変身か……やっぱりそうなるのか……。

超期待!
590 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/21(火) 01:00:55.05 ID:LirsPmco
>>555
双子はちょっとした小ネタのつもりで登場させたのですが、喜んでもらえたなら幸いです。
今回は満を持しての真アル・フェニックス登場でした。
原作でも最高に盛り上がった展開ですので、どう書いたものか悩みました。
少しでも期待に答えていられたら嬉しいです。

>>556
誰もが妄想した展開ですね。
アルカールも仲間になれよとずっと思ってましたよええ。

>>557
今日も狩られ続けるデュラハン……
閃きは運もありますからね。ウチのメンバーは中々三花仙覚えませんでしたよ。

>>558
初見で分かる噛ませボス。
チェーンヒート以外の武器も使わせたかったなぁ。

>>572
ググりました。
ゴセイジャー……見てないや……
591 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 01:14:03.26 ID:Y9vWzUAO
素晴らしいわ本当に素晴らしい
ダークフェニックスの設定がアルフェニックスの対極になってんのも凄いや
目玉の大将の設定も期待しちまうぜ
592 : ◆S7msF7zQV2 [sage]:2010/12/22(水) 22:44:39.13 ID:35cwBIMo

すみません。
今日の投下は延期します。

ここから最終回まで整合性を保つため一気に書き切りたくなったので、二、三日下さい。

お待たせしてすみません。
また明後日来ます。

593 : ◆S7msF7zQV2 [sage]:2010/12/24(クリスマスイブ) 21:36:56.95 ID:nHtHxoQo

報告に来ました

今マイケル聞きながら十九話執筆中です
十八話投下は明日になります

あと三話とエピローグで終わりです

では、皆さんメリークリスマス
594 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/26(日) 00:01:33.90 ID:OXBGM92o

おひさしぶりです

今回は余り話は進みません

第十八話投下開始します
595 :クリスマス終了のお知らせ [saga]:2010/12/26(日) 00:02:57.74 ID:OXBGM92o

 「おい。ちょっと待てよアンタ」


 声に、男が振り向く。
 振り向いた先にいたのは、ツンツン頭の幸薄そうな少年だった。

 訝しげな表情で、少年は男に問いかける。


 「なぁ……ひょっとして、アンタ、魔術サイドの人間じゃないか?」

 「……どうとも言えんな」

 「どうともって、つまり魔術のことを知ってるってことだよな!?」

 「……何か用か?」


 少年が声をかけたのは、ちょっとした勘のようなものだった。

 いや。極めて勘の悪いこの少年が、それだけで答えを出すことなどありえない。
 少年が男を怪しんだのは、ひとえに男の服装が異常だったからだ。
 この学園都市で「蒼いローブ」など着ていれば、いかに少年といえども気付くはずである。


 「ここんところさ……この街で、ブラッククロスなんてのが暴れてるだろ?」

 「それがどうした」

 「あれってさ。やっぱり、裏で何かでかいことでも起こってて、魔術サイドも動き出してんじゃないかと……」

 「お前の知ることじゃあ無い」

 「ああ!? ちょ、ちょっと待てよ!!」


 少年の右手が触れる前に、男は姿を消した。
 まるで初めから何も無かったかのように。音も無く。


 「……何なんだよ。これから何が起きるってんだ!?」


 【第十八話・驚愕! 全てを支配する者!!】
596 :クリスマス終了のお知らせ [saga]:2010/12/26(日) 00:05:53.83 ID:OXBGM92o

 そして――コインは男の頭を吹き飛ばした。

 頭部を失った機械仕掛けの男が、ヒザから崩れ落ち、ピクピクと痙攣する。


美琴「ハァ、ハァ……終わった……?」


 時間は、わずかに遡る。

 佐天涙子が、基地中枢部にて黒い戦士と死闘を繰り広げている頃。
 隔離された空間で、美琴たち五人とブラッククロス首領による決戦が行われていた。

 怪人の性能を三倍に引き上げる特殊な術式によって、首領は強化されている。
 とはいえ、美琴たちにとって、あの程度の敵が三倍に強化されようと話にならない。

 それ程の戦力差がハッキリと存在していた。

 それゆえに、油断を招いた。

 この『不思議空間』は、彼女達の常識の外にあるというのに……


 気付けば、暗闇に浮かぶ眼球は一つではなかった。
 十数個の視線が、美琴たちに降り注いでいた。

 一斉に放たれた美琴たちの攻撃を掻い潜り、首領は常識外れの動きで距離を詰めてくる。
 あきらかに、「三倍」どころの強化ではない。

 いつかのトワイライトゾーンとは違う。
 おそらくは、“禁じ手”の類。
 目玉の数が一つにつき三倍だとすると、その数は三十倍以上になる。

 ただでさえ、肉体に対する負担が半端でないこの術を、限界を超えて使えばその結末は……


 “絶体絶命”――


 そんな無謀を、本人の意思に関わらず、彼は使った。

 いや、“あの男”に、使わされた。
597 :クリスマス終了のお知らせ [saga]:2010/12/26(日) 00:07:17.66 ID:OXBGM92o

美琴「Drクライン……!」


 ギリッ……と、美琴は歯を食いしばる。
 御坂美琴がこれほど人を憎んだことが、未だかつてあっただろうか。

 今後彼女は、いくつもの戦いを乗り越えることになる。
 感情に囚われ、自ら死地に赴くこともあるだろう。

 だが、今は――


黒子「お姉さま。今は、怒りに身を任せるときではありませんの」

美琴「……ええ」


 今は、その無茶を止めてくれる者がすぐ傍にいる。
 だから彼女はまだ、「お姉さま」であり、「憧れの先輩」でいることが出来る。

 彼女が一個人、「御坂美琴」として戦いに挑むのは、もう少しだけ先の話になる……


初春「……! 景色が!!」


 術者が倒れ、トワイライトゾーンが晴れていく。
 暗闇は蜃気楼のように溶け、無限に広がっていた景色が狭い室内に変わる。
 大きなモニターのある、四方を壁に囲まれた研究ラボ。


黒子「やれやれですの。もう術だのなんだのと、オカルトチックなのはゴメンですの……」

美琴「まったくね。みんな無事?」

アルカール「問題ない」

初春「た、盾が無ければ即死でした……」

コットン「キュー!」


 誰一人欠けていないことに胸を撫で下ろし、周囲を見回す。

 そして気付いた――


初春「佐天さんが居ない……!?」
598 :クリスマス終了のお知らせ [saga]:2010/12/26(日) 00:08:27.55 ID:OXBGM92o

美琴「Drクライン……!」


 ギリッ……と、美琴は歯を食いしばる。
 御坂美琴がこれほど人を憎んだことが、未だかつてあっただろうか。

 今後彼女は、いくつもの戦いを乗り越えることになる。
 感情に囚われ、自ら死地に赴くこともあるだろう。

 だが、今は――


黒子「お姉さま。今は、怒りに身を任せるときではありませんの」

美琴「……ええ」


 今は、その無茶を止めてくれる者がすぐ傍にいる。
 だから彼女はまだ、「お姉さま」であり、「憧れの先輩」でいることが出来る。

 彼女が一個人、「御坂美琴」として戦いに挑むのは、もう少しだけ先の話になる……


初春「……! 景色が!!」


 術者が倒れ、トワイライトゾーンが晴れていく。
 暗闇は蜃気楼のように溶け、無限に広がっていた景色が狭い室内に変わる。
 大きなモニターのある、四方を壁に囲まれた研究ラボ。


黒子「やれやれですの。もう術だのなんだのと、オカルトチックなのはゴメンですの……」

美琴「まったくね。みんな無事?」

アルカール「問題ない」

初春「た、盾が無ければ即死でした……」

コットン「キュー!」


 誰一人欠けていないことに胸を撫で下ろし、周囲を見回す。

 そして気付いた――


初春「佐天さんが居ない……!?」
599 :ミスった…… [saga]:2010/12/26(日) 00:11:13.44 ID:OXBGM92o

美琴「どこ!? 佐天さん!!」

黒子「お姉さま! あれを!!」

美琴「……!? 何よこれ!!?」


 壁に空いた大穴に気付く。

 基地の奥深くまで延々と続く、何かによって熔かされブチ抜かれた痕。
 力まかせに造りだされたその通路の先は、暗くて見通せない。

 だが、間違いなく、佐天涙子はその先にいる……


美琴「行きましょう……」


 おそらくは、基地の中枢部。
 敵の本丸に、佐天はただ一人挑んでいるのだ。

 美琴が先陣を切って、通路の先に進む。
 黒子たちも後に続き、全員が大穴の奥に広がる暗闇を見つめている。



 だから、誰も気付かなかった。



 頭を吹き飛ばされた彼の腕が、チェーンソーから大きなハサミに付け替えられていることに。

 その彼が、音も無く立ち上がり後ろに立っていることに。


初春「――――あ」

アルカール「下がれ!!!」


 無防備だった初春を突き飛ばし、アルカールが立ちはだかる。

 そして広げたその腕が、血しぶきを撒き散らして、宙に飛んだ。

 紅い紅い、生ぬるい鮮血が、呆然とへたり込む初春の顔に、かかった。
600 :クリスマス終了のお知らせ [saga]:2010/12/26(日) 00:15:50.43 ID:OXBGM92o

初春「いやあぁああああああああああああ!!!???」


 絹を裂くような悲鳴。

 それを掻き消す轟音。

 戻ってきた美琴によって、全身金属の塊である首領の体は『超電磁砲』となって吹き飛んだ。
 壁を何枚も破り、やがて粉々になって、今度こそ機能を停止した。


黒子「アルカールさん!!」

コットン「キュ〜〜!!!」

アルカール「ぐっ……! う、腕を、拾ってくれ……!!」


 流石のヒーローも、肩から先を切断されては堪らない。
 出血を止めようともう一方の手で断面を抑え、苦しそうにうずくまっている。


初春「あ、ああぁ……あの。これ」

アルカール「……すまないっ」


 初春が、怯えながらも腕を拾って手渡した。
 アルカールはそれを受け取り、断面を合わせる。


アルカール『……克己(こっき)!!』


 合わせた切断面から光が漏れ出し、それが収まる頃には――

美琴「……うっそぉ……」

 斬り飛ばされた腕は、元の場所に戻っていた。
601 :クリスマス終了のお知らせ [saga]:2010/12/26(日) 00:17:20.16 ID:OXBGM92o

美琴「本当に何でもアリね……」

アルカール「そうでもない。力には代償が付き物だ」

美琴「そう? 佐天さんもそうだったけど、ヒーローの体って、殆ど不死身なんじゃないの?」

アルカール「……私が今使ったのは、ヒーローとしての能力ではない。『心術』という術の一種だ」


 アルカールは、くっ付いた腕の調子を確かめるようにグルグルと肩を回しながら、語り出す。
 その口調はどこか、いつにも増して真剣味を滲ませている。


アルカール「私は極力、ヒーローとしての力は使わないようにしている」

初春「どうしてですか?」

アルカール「……術は、使用するのに『魔力』を使う。我々の時代の人間なら、誰もが持つ力だ」

美琴「ん〜と……ゲームとか漫画なんかでよくある、“オーラ”みたいな感じ?」

アルカール「そう、人間の精神的な力だ。それを利用して、変換して体を癒した」


 燃料を消費して現象を起こす。
 分かりやすい、当たり前の構図。

 術の場合、発動する代償は魔力。


アルカール「だが、誰でもそれが出来るわけではない。術を使うには、専門家からの指導が必要だ」

美琴「まぁ、そりゃそうね……」

アルカール「だから……“彼女”にはそれを教えることは出来なかった……」


 彼女――

 その一言だけで、美琴には、彼の言いたいことが伝わった。



美琴「――ヒーローの力の、代償って何……?」
602 :クリスマス終了のお知らせ [saga]:2010/12/26(日) 00:18:22.60 ID:OXBGM92o

 不死鳥が闇を討ち払い、自分の体を貫いた。

 そう、思っていた。


メタルA「……何故、生きている……?」


 メタルアルカイザーは、まだ意識を失ってはいなかった。
 ただ、全身の至る所を破損して、動くことが出来ないだけ。

 それもそのはずだ、彼は機械なのだから。
 痛みで意識を失うことも、疲労で眠ることもない。

 彼の電子頭脳と動力部、そして循環系が無傷であれば、活動は続けられる。


アルカイザー「メタルアルカイザー……」

メタルA「涙子。何故、トドメを刺さなかった?」


 アルカイザー・佐天涙子は、彼の肩を抱きかかえ介抱していた。
 両手足をだらりと投げ出したメタルアルカイザーは、力なく、彼女の体にもたれかかっている。


アルカイザー「私は貴方を倒しに来たんじゃなくって、助けに来たんだよ……」

メタルA「……そうか。私は、お前に助けられたのか」

アルカイザー「……ねぇ。Drクライン……お父さんのこと――」

メタルA「世迷言だ」


 堪らずに漏らした本心を、世迷言と斬り捨てた。

 彼は、冷静さを取り戻している。
603 :クリスマス終了のお知らせ [saga]:2010/12/26(日) 00:19:10.66 ID:OXBGM92o

メタルA「しかし……大したものだな。お前のその“能力”は……」

アルカイザー「そんなことないよ。危なかった」

メタルA「謙遜するな。我々はお前に負けたのだ。なら、我々が無様じゃないか」

アルカイザー「ごめん……そうだね」

メタルA「そうだ。勝者は勝ち誇れ。胸を張れ」

アルカイザー「……慣れないなぁ、それは」


 きっと、彼に感情表現の機能があれば、ここで笑っているだろう。

 全部終わった。
 妄執も、因縁も、頑なな強がりも。

 すっきりして、その全部を笑い飛ばそうと、声を上げているだろう。


 すっきり――

 いや、一方の佐天は、すっきりなどしていなかった。
 さっきの彼の言葉が引っかかっている。

 それは、以前から胸の奥で燻っていた疑問。


アルカイザー「ねぇ……メタルアルカイザー。聞いてもいい?」

メタルA「私に答えられることならな」

アルカイザー「……どうして、ブラッククロスは『能力』を欲しがったの?」

メタルA「……? どうして、だと? それは、『最強』を目指して――」

アルカイザー「でも……最強を目指して作られたはずの貴方には、『能力』の力がないじゃない?」

メタルA「なんだと……? だが、その“アルカイザーの力”は……?」



アルカイザー「これは――学園都市の『能力』じゃないよ……?」
604 :クリスマス終了のお知らせ [saga]:2010/12/26(日) 00:19:56.18 ID:OXBGM92o

メタルA「――――!!?」


 考えても見なかった。

 最強の力を求め、そのために必要だと言われたから「それ」を探っていた。

 「それ」とは、つまり学園都市に存在する『能力』のこと。

 ならば、最強を目指して作られた体にも、「それ」が使われているに決まっている。


 『メタルアルカイザー』のモデルが『アルカイザー』なら、『アルカイザー』は『能力』のはずなのに……


 それが……違った――――?


アルカイザー「私は無能力者だって、言ったよ?」

メタルA「たしかに……聞いた」


 だが、それはデータベース上のことで、実際には能力を持ち、それを“隠している”のだと……


メタルA「だ、だが……Drもまた、私と同じ間違いを……」

アルカイザー「……『AIM拡散力場』って、知ってる?」

メタルA「――――能力者が、無意識に放つフィールド……」

アルカイザー「多分だけど……ブラッククロスの技術力なら、それを判別できてると思う……」


 何より、IQ1300とかいう馬鹿げた大天才が、それに気付かないだろうか?

 気付くはずだ。
 彼らは、すでに何十人もの能力者を攫っている。
 人体実験もしただろう。データベースへのハッキングも行っている。

 なら、知っているはずだ。
605 :クリスマス終了のお知らせ [saga]:2010/12/26(日) 00:20:51.10 ID:OXBGM92o

 では、何故使わなかったのか?

 超電磁砲・御坂美琴との一件でも分かる。
 アルカイザーの力は、能力と比べてもそこまで優秀なものではない。

 たしかに『万能』といえば『万能』。
 傷を癒し、炎を従え、純粋な身体能力のみでも相当なものだ。
 四天王全てを相手取り、勝利を収めてきた。


 だが、それがどうした?


 そんなことが、能力を使わないことの理由にはならない。
 むしろ、能力者がヒーローの力を使えば、鬼に金棒じゃないか。

 ましてや、学園都市には超電磁砲を上回る能力者が二人も存在するのだ――

 なら、考えられる可能性はあと一つ。


アルカイザー「使わなかったんじゃなくて、使えなかった?」


 メカである彼に、人間の脳や心理を利用して奇跡を起こす『能力』は流用できなかった……?

 いや、それこそ意味不明だ。
 それなら、何のために『能力』を求める?

 ベルヴァのパーツのように、『能力』を応用した部品が欲しかった?
 ただそれだけ?


 ……考えても分からない。
 仕方が無い……このことは一旦置いておこう。


 それよりも、今は――“もう一つの疑問”を先に晴らそう。



アルカイザー「……で、さっきからこっちを見てる。“アレ”は何……?」
606 :クリスマス終了のお知らせ [saga]:2010/12/26(日) 00:22:21.96 ID:OXBGM92o

クライン「馬鹿な……馬鹿な……」


 薄暗い室内に、Drクラインの姿があった。

 中枢部のすぐ近く。
 二人のアルカイザーの戦いをモニターに映し出し、彼はその結末を見物していた。

 しかし、彼の思惑は外れる。
 メタルアルカイザーは破れ、彼の妄執の果てにたどり着いた「最強」への答えは否定された。

 所詮。彼一人でそこに届くはずなど無かった。
 それに、仮にアルカイザーを破ったところで、それが「最強」を示すはずが無い。
 彼女は万能でも何でもない。
 ただの一人のヒーローでしかない。
 それが何故、「最強」と呼べるだろう?

 この世には、思いも至らない「神」に辿りつこうとする者が、存在しているというのに。


 「ここまでだな。クライン」

クライン「……アルカール」


 分厚い扉をぶち破り、黒いヒーローが現れた。

 ここに、Drクラインの人生を賭けた戦いが決着する。

 だが、それは“敗北”ではない。
 “間違い”だった。


 いやむしろ。
 初めから。
 全て丸ごと。


 “勘違い”だった――――
607 :クリスマス終了のお知らせ [saga]:2010/12/26(日) 00:23:08.63 ID:OXBGM92o

 地の底から、何かの声がする……

 古の扉が開き、そこから、何者かが這い出してくる……

 それは人知を超えたもの……

 人の法を超えたもの……



 『超古代文明の遺産』――――



 遥か昔。
 人の手によって生み出され、人の手によって封じられたモノ。
 人の手に余る奇跡の所業。

 なれば仕方ない。

 あの哀れな、首領を名乗った男が飲み込まれようと仕方が無い。
 あの哀れな、天才を気取った男が、手のひらの上で転がされようと仕方が無い。

 誰も彼も、それに気付かなくても仕方が無い。


 この戦いのその奥に、そんなモノの影が潜んでいることに。


 知っていても、接していても、それが例え今現在明らかに目の前に存在していても――


 誰も、その存在を気にかけることなど出来はしなかった。





 ただ一人、“彼女”以外は――――


アルカイザー「……で、さっきからこっちを見てる。“アレ”は何……?」


 アルカイザーのみが、その存在を前にして“正気”を保っていた。
608 :クリスマス終了のお知らせ [saga]:2010/12/26(日) 00:24:07.99 ID:OXBGM92o

メタルA「アレ……?」


 メタルアルカイザーには知覚出来ない。
 メカである彼は、それから発せられるジャミングを防げない。
 彼をここに送り込んだDrクラインも、ここにそれがあることを“知っていた”はずなのに“知らなかった”。


アルカイザー「アレだよ! ほら、あの天井にある――」

メタルA「どれだ? 私には何も……」

アルカイザー「……どうして?」


 どうして?

 それを知りたいのは、おそらく“それ”の方だろう。
 本来知られるはずのない自分の存在を、“目の前”の紅い少女が知覚しているのだ。

 自分の体をあの天才科学者に“整備”させたときでさえ、自分の存在は心理の外にあったのに。


 その『支配』が、少女には通用していない。


アルカイザー「何なの……? “アナタ”は、なんなの!?」


 アルカイザーの目には、赤い照明の奥に、ギョロリとした「黒目」がハッキリと見えていた。

 これだけハッキリと、それもこの部屋の中心にあるというのに。
 自分以外誰もソレに気付いていない……!?



アルカイザー「答えろ! お前は――何なんだ!!?」
609 :クリスマス終了のお知らせ [saga]:2010/12/26(日) 00:25:16.23 ID:OXBGM92o

アルカール「何だ……?」


 別室でモニターを見ていたアルカールが、その異変に気付いた。

 さっきまで、倒れた敵に手を差し伸べていたアルカイザーが、天に向かって咆えた。


美琴「佐天さん、どうしたの……?」

黒子「あそこに何かが……まさか他に敵が!?」


 皆の目が、一斉にクラインに向いた。

 クラインは抵抗を諦め、後ろ手に手錠をかけられて地面に座り込んでいる。
 その表情は、その場の皆と同じ。
 何が起こっているのか分かっていない。


クライン「何だ……? そこに何がいる?」

アルカール「貴様も知らないというのか」

クライン「知らん。少なくとも、あそこはただメインコンピューターが……ん?」

初春「メイン……コンピューター……?」


 おかしい。


クライン「何故だ……? 何故私はそんな所で戦わせた……?」

初春「おかしいですよ! そんな大事な場所を戦場に選ぶなんて!!」

美琴「……なんだっていうの?」

アルカール「クライン! ブラッククロスに他に誰が――」

クライン「居ない!! 私が首領を改造し、全てを掌握した!!!」

美琴「だったら! 佐天さんは誰と話してるのよ!!?」
610 :クリスマス終了のお知らせ [saga]:2010/12/26(日) 00:26:19.31 ID:OXBGM92o

アルカイザー「答えろぉおおおおおおお!!!」


 胸がざわつく。

 まだ終わってない。

 まだ、脅威が残っている。


アルカイザー「ッ!!?」


 基地が揺れ出した。

 地震?
 いや、ここは混沌の中だ。


 “何か”が動き出したのだ。

 巨大で途轍もない、“何か”が。



 そして、地の底から声が響く。



 『I am…』


 おそらく、声は基地全体に届いている。

 声は、ゆっくりと、高々と宣言する――――


 『I am the real Master of BlackCross』(私は、ブラッククロスの真の首領)


 『I contorol everything』(全ては私の思うがままに)


 『I rule everyreagion』(私は、あらゆる世界を支配する)


 自分こそ――『ブラッククロスの真の首領』だと……!!!
611 :クリスマス終了のお知らせ [saga]:2010/12/26(日) 00:27:45.83 ID:OXBGM92o

アルカイザー「ブラッククロスの……」

メタルA「真の……首領だと……?」


アルカール「そんなものが……」

美琴「つまり、黒幕ってわけ?」

黒子「こうしてはいられませんの!」

初春「すぐに佐天さんの所へ!!」

コットン「キュキュキュキュー!!!」


クライン「……くくく……はははははは……!!」


 クラインが、心底可笑しそうに笑い出した。


クライン「そうか……私はお前のために、動いていたというわけか……」

アルカール「クライン……!」

クライン「メタルアルカイザーが敗れるはずだ……そうか、私の持てる技術は全て……」



クライン「お前を治すために使われていたのか!! 真の首領よ!!!」

クライン「学園都市の能力は!!! 『能力者』であるお前を治す為に!!!!!」



美琴「ブラッククロスの真の首領が……『能力者』!!!??」
612 :クリスマス終了のお知らせ [saga]:2010/12/26(日) 00:28:21.73 ID:OXBGM92o

アルカイザー「おぉおおおおおお!!!」


 ヒーローとしての勘が告げる。
 アレは倒さなければならないものだ。

 アルカイザーは跳躍し、赤い照明へと拳を向ける。


 だが――



 『You shall die!!!』



 天井が崩壊し、赤と青の二重螺旋が迫る。

 『反重力クラッシャー』

 アルカイザーはとっさに身をかわし、光のドリルは爆発と共に地面を抉り取った。


 それが呼び水となったのか、基地全体の崩壊が始まる……!


アルカイザー「メタルアルカイザー!!!」

メタルA「ぬぉお!!?」


 地面が裂け、動けなくなったメタルアルカイザーが落ちていく。

 天井が崩れ、瓦礫の山が降り注ぐ。


 真の首領が暴れ出した。


 もう、この破壊は止まらない……!!
613 :クリスマス終了のお知らせ [saga]:2010/12/26(日) 00:30:32.20 ID:OXBGM92o

美琴「きゃあぁああああああああああああ!!!??」

黒子「お姉さま……! 手を――」


 もはや、脱出どころではない。
 基地そのものが崩壊していく。


アルカール「リージョンを包むフィールドが……破れたのか!!?」

初春「どうなるんですかぁぁあ!!!???」

コットン「ミュ〜〜〜〜!!???」


 敵も味方もない。
 混沌に沈んだものは、混沌へと帰る。

 壁に空いた穴から、崩れ落ちた天井から、割れた床から、混沌の渦が押し寄せる。

 宇宙船に穴が開けば、空気は真空へと流れ出す。
 それと同じく、フィールドが破れたリージョンは、崩れて流れ出す……!


 上下左右の区別も付かない無重力空間。

 体が浮かび上がり、瓦礫と一緒に流されていく。


クライン「くはははははは……滅びる……いや、支配されるのか……」

クライン「ブラッククロスとは、元々貴様のためにのみ存在したものだったのか……」

クライン「学園都市に攻め入ったのも……貴様の体を私に治させるためか……」

クライン「誰も彼も……皆貴様に操られていたのだ」

クライン「……おお、そうか……学園都市に帰るのか?」

クライン「行け行け。行ってしまえ。清々する……」



クライン「過去も未来も全部……支配してしまえ!! 真の『万能』よぉ!!!」
614 :クリスマス終了のお知らせ [saga]:2010/12/26(日) 00:31:42.26 ID:OXBGM92o

美琴「きゃあぁああああああああああああ!!!??」

黒子「お姉さま……! 手を――」


 もはや、脱出どころではない。
 基地そのものが崩壊していく。


アルカール「リージョンを包むフィールドが……破れたのか!!?」

初春「どうなるんですかぁぁあ!!!???」

コットン「ミュ〜〜〜〜!!???」


 敵も味方もない。
 混沌に沈んだものは、混沌へと帰る。

 壁に空いた穴から、崩れ落ちた天井から、割れた床から、混沌の渦が押し寄せる。

 宇宙船に穴が開けば、空気は真空へと流れ出す。
 それと同じく、フィールドが破れたリージョンは、崩れて流れ出す……!


 上下左右の区別も付かない無重力空間。

 体が浮かび上がり、瓦礫と一緒に流されていく。


クライン「くはははははは……滅びる……いや、支配されるのか……」

クライン「ブラッククロスとは、元々貴様のためにのみ存在したものだったのか……」

クライン「学園都市に攻め入ったのも……貴様の体を私に治させるためか……」

クライン「誰も彼も……皆貴様に操られていたのだ」

クライン「……おお、そうか……学園都市に帰るのか?」

クライン「行け行け。行ってしまえ。清々する……」



クライン「過去も未来も全部……支配してしまえ!! 真の『万能』よぉ!!!」
615 :クリスマス終了のお知らせ [saga]:2010/12/26(日) 00:34:08.28 ID:OXBGM92o

美琴「きゃあぁああああああああああああ!!!??」

黒子「お姉さま……! 手を――」


 もはや、脱出どころではない。
 基地そのものが崩壊していく。


アルカール「リージョンを包むフィールドが……破れたのか!!?」

初春「どうなるんですかぁぁあ!!!???」

コットン「ミュ〜〜〜〜!!???」


 敵も味方もない。
 混沌に沈んだものは、混沌へと帰る。

 壁に空いた穴から、崩れ落ちた天井から、割れた床から、混沌の渦が押し寄せる。

 宇宙船に穴が開けば、空気は真空へと流れ出す。
 それと同じく、フィールドが破れたリージョンは、崩れて流れ出す……!


 上下左右の区別も付かない無重力空間。

 体が浮かび上がり、瓦礫と一緒に流されていく。


クライン「くはははははは……滅びる……いや、支配されるのか……」

クライン「ブラッククロスとは、元々貴様のためにのみ存在したものだったのか……」

クライン「学園都市に攻め入ったのも……貴様の体を私に治させるためか……」

クライン「誰も彼も……皆貴様に操られていたのだ」

クライン「……おお、そうか……学園都市に帰るのか?」

クライン「行け行け。行ってしまえ。清々する……」



クライン「過去も未来も全部……支配してしまえ!! 真の『万能』よぉ!!!」
616 :何でこんなに書き込み難いんだ……? [sage]:2010/12/26(日) 00:35:34.49 ID:OXBGM92o

 …………

 ……


美琴「――――」


 体が痛い。

 ……重力がある?

 どこかに落ちたのか……


 良かった。

 あのまま、混沌の中を永遠に彷徨うのかと……


 「――リ?」


美琴「ん……んん……」


 「おい! ……ビリ!!」


 「起きろ!! ビ……ビリ!!!」


美琴「誰がビリビリじゃぁああああああああ!!!!!」


 怒りに任せて電撃を放った。
 それが、彼の右手に触れた瞬間消えうせる。


美琴「あんた……」

 「よ、よう……大丈夫か?」


 目の前に、あのツンツン頭の少年・上条当麻が立っていた。
617 :クリスマス終了のお知らせ [saga]:2010/12/26(日) 00:37:56.71 ID:OXBGM92o

美琴「学園都市……!!」


 気付くと、学園都市の、それも第七学区に居た。
 見覚えのあるビルの群れ。
 ゆっくりと回る風車。

 何がどうなっているのか……


美琴「と、とにかく! 黒子たちを探さないと!!」


 全員無事なのか?
 敵に一人で立ち向かっていった佐天はどうなったのか?

 疑問が山積みだ。


上条「ま、待てよ御坂! 前! 前!!」

美琴「――――え!?」


 ビルの陰から、一メートルを越す大きな花が現れた。
 茎をくねくねと踊らせ、蒼い花びらをこちらに向けている。


美琴「……! また学園都市に怪人が!?」


 良く周囲を見回せば、そこら中を怪人や戦闘員が跋扈している。
 金色のロボットが、巨大蟷螂が、青い巨人が。
 四天王を倒し、全て追い出せたと思ったのに……

 真の首領。
 おそらく奴が、自分と同じようにあの混沌から送り込んだのだ――!


上条「御坂、俺も……!!」

美琴「アンタは下がってなさい!!」


 体を帯電させ、美琴は駆け出した。


美琴「これ以上、好き放題やらせるかっつーのよぉ!!!」
618 :クリスマス終了のお知らせ [saga]:2010/12/26(日) 00:38:38.10 ID:OXBGM92o

 その頃別の場所で、初春飾利が目を覚ました。


初春「――――」


 この二ヶ月ほどの戦いを経て、初春の身には数多くの苦難があった。

 だから、彼女の精神は強くなり、しかし、同時に衰弱していた。


初春「――――さ」


 それこそ、何か一つでも、心の支えを失ったら……


初春「佐天さん……?」


 彼女の心は、きっともう持たない。


初春「佐天さん……佐天さん……」


 学園都市で目を覚ました初春飾利。
 その目の前で――――



 アルカイザーが、四肢を失い、腹を破られ、血だまりに沈んでいた。



 息は――――無い。





 落ちこぼれのヒーローは、紅く紅く染まった。
619 :クリスマス終了のお知らせ [saga]:2010/12/26(日) 00:39:26.81 ID:OXBGM92o

 【次回予告】

 正真正銘の最後の決戦!!

 学園都市に巨体が下り立つ!

 まるで終末の地獄絵図!!

 この学園都市最大の危機に、ヒーローの拳が立ち向かう!!!


 次回! 第十九話!! 【終幕! 落ちこぼれ英雄譚!! (前編)】!!

 ご期待下さい!!
620 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/26(日) 00:41:48.82 ID:OXBGM92o

と、いうわけで第十八話でした。

エラーが出まくって、書き込みミスだらけになりました……
見苦しくて済みません。
回線が重いんでしょうか?


 【補足】

 ・首領について。
  原作ではラスボス戦どころかメタルアルカイザー戦と復活した四天王戦の前座でした。
  三十倍トワイライトゾーンも使えません。
  ていうかセリフも一言しかありません。合掌。

 ・Drクラインについて。
  原作ではメタルアルカイザー戦が終わった時点で出番が終了します。
  なので真の首領の存在を知っていたのか知らなかったのか……

 ・克己。
  心術の一つ。効果は自分の体力を全回復。
621 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/26(日) 00:48:17.29 ID:OXBGM92o

>>589
あのセリフだけは絶対に外せないと思っていました。
あと二回とエピローグで終わりです。
物語も最後が近づいてきました……

>>591
本当にありがとうございます。
プロットも設定も変更を繰り返しながら、なんとか納得いくものをと頭を捻ってきました。
それが認めてもらえたようで本当に嬉しいです。
622 :2010/12/26 1:36:13縺医☆縺翫シ縺医☆蝗」 - 縺縺セ縺セ縺ァ縺ョ縺ゅi縺吶§ [sage]:2010/12/26(日) 01:38:26.25 ID:nOz2I2AO
首領の補完も巧いな
最終決戦は電磁砲以外のキャラのちょい出に期待
623 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/26(日) 22:10:12.61 ID:0xWMgoAO
圧縮レーザー乙!

昨日読み忘れて、たった今読み終わったら……、
カールさん死んでるし!

さらに仲間はバラバラだし、連携ないと真の首領倒すのはキツいぞ……。
青紅様なら瞬殺してくれるが……どうなるっ!?

次も期待!
624 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/26(日) 22:12:23.14 ID:0xWMgoAO
×カール
○カイザー

カールさんが死ぬかよ!ww
失礼しましたー。
625 : ◆S7msF7zQV2 :2010/12/27(月) 23:28:23.03 ID:AgQ/tHIo

第十九話を投下します。

最終回前編です。
626 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/27(月) 23:29:16.65 ID:AgQ/tHIo


 【第十九話・終幕! 落ちこぼれ英雄譚!! (前編)】

627 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/27(月) 23:31:42.21 ID:AgQ/tHIo

上条「御坂、前だ!」

美琴「分かってる!!」


 美琴の体から高圧電流が放出され、戦闘員たちをショートさせていく。
 しかし、連中はいつものように簡単には倒れず、次々に仲間を集めていく。


美琴「しぶといわねぇ!!」


 一気にトドメをさそうと駆け出す美琴。
 が――横から現れた、『トリケラトプス』に吹き飛ばされる。


美琴「……っ!? 恐竜まで飼ってるわけ!!?」


 体勢を立て直し、再び帯電する美琴。
 対するトリケラトプスは、ギロリとこちらを見据え、いつでも飛びかかってきそうだ。

 その隙に、負傷した戦闘員達が、他の戦闘員に連れて行かれる。


美琴「くそっ……逃がした!!」

上条「御坂、大丈夫か?」

美琴「へ、平気よこのぐらい!」

上条「そうか……なら、あの恐竜を!」

美琴「分かってるてば! アンタは引っ込んでて!!」


 いまや、この学園都市は紛争地帯だ。
 街中のいたる所で、ブラッククロスとの戦闘が行われている。

 能力者はまだいいが……無能力者たちは……

 ともかく、美琴に出来ることは目の前の敵を倒すことだけだ。
 隣にいる上条当麻のためにも、いつも以上に活躍しなければ。
628 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/27(月) 23:32:34.90 ID:AgQ/tHIo

 騒がしい市街地から少し離れた、人気のない公園。

 そこで、初春飾利は血だまりに沈む親友の亡骸を抱きかかえていた。
 白いセーラー服が血に染まることも、鼻をつく悪臭も気にならない。


初春「佐天さん……」


 両手両脚が無い。
 ひょっとしたら、腹の中身さえ無いかもしれない。

 そんな、無残なアルカイザーの顔を、ずっと覗き込んでいた。
 仮面の奥にうっすらと、眠るように目を閉じる佐天涙子の顔が見える。


初春「ごめんなさい……ごめんなさい……」


 初春の口から、無意識に謝罪の言葉が漏れ出した。


初春「私が、風紀委員なのに……頼りないから……」

初春「だから……佐天さんはいつも無茶して……こんな……ことに……」


 ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 ごめんなさい。


 無敵のヒーローは、もう立ち上がれない。
 立ち上がる足が無い。


 だから、初春は絶望に暮れる。


 謝るしか、できない。
629 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/27(月) 23:35:02.53 ID:AgQ/tHIo

黒子「……そういうことでしたのね」


 白井黒子が目を覚ますと、そこには怪人と戦う美琴の姿があった。

 怪人を次々に蹴散らしていく美琴。
 加勢しようと、黒子が鉄矢を構え走り出す。

 だが――


 『アル・ブラスタァアア!!!』


 声が響くと同時に、光の弾丸が、美琴の体を撃ちぬいた。

 重力に従い、ドサリと重い音を立て、地面に横たわる美琴。

 初めは信じられなかったが、すぐに合点がいった。


黒子「佐天涙子……あなたは、ブラッククロスの人間でしたのね……」

アルカイザー「……」


 騙されていた。

 皆騙されていたのだ。

 だから、お姉さまも簡単に背中を撃たれた。

 だから、お姉さまをあれほど苦しめた。

 だから、あの黒いロボットと親しげにしていた。

 だから、アレだけの力を突然手に入れた。


黒子「ジャッジメントですの!!!」


 憎きカタキの眼前に転移し、強烈な蹴りを叩き込んだ。

 突然顔面を蹴られ、アルカイザーが後ろに吹っ飛ぶ。
630 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/27(月) 23:37:50.17 ID:AgQ/tHIo

 何がどうなってるの……!?


黒子「ジャッジメントですの!!!」


 人を襲う金色のロボットを、アル・ブラスターで撃破した。
 電流をそこら中に垂れ流す、危険なロボットだった。

 その途端、突然現れた白井黒子が、私の顔を蹴っ飛ばした。


アルカイザー「白井さん……?」

黒子「馴れ馴れしく呼ばないで頂きたいですわね……裏切り者!!」

アルカイザー「何を言って!?」

黒子「お姉さまのカタキ!!!」

アルカイザー「!!?」


 テレポート――――!

 目の前から忽然と姿を消し、再び別の空間から現れる。
 その度一撃ずつ攻撃が加えられ、何をされたのかも分からない間に戦いが終わっている。

 いや、打撃ならいい。
 問題は、鉄矢による串刺し。

 一瞬で、全身のあらゆる場所に鉄の棒が突き刺さる。


アルカイザー「……づっ!!!??」


 頭や心臓を狙わないのは、流石に良心からか?

 ……なら、ここは――


アルカイザー『ブライトナックルッ!!!』

黒子「な……!!?」


 打ち出された拳から、眩い閃光が走る――!!
631 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/27(月) 23:40:14.37 ID:AgQ/tHIo

アルカイザー「ハァ……ハァ……!」


 ブライトナックルを地面に叩き込み、その閃光を目眩ましにして逃げ出した。
 ビルの窓枠に足を掛け飛び上がり、上階へ駆け上っていく。


アルカイザー「白井さん……お姉さまのカタキって……?」


 意味が分からない。さっきから、何もかもおかしい。
 体に刺さった鉄の棒を引き抜きながら、考えを廻らせる。

 白井黒子だけじゃない。
 警備員も、一般人も、みんながまるで暴徒のように、敵も味方も無く街中で暴れている。
 佐天自身も、学園都市で目を覚ましてから、もう何度も襲撃を受けている。
 本物の怪人や戦闘員も混じってはいるが、それで起きた混乱にしては規模が大きすぎる。

 と、いうことは――


アルカイザー「やっぱり……アレしかないよね?」


 ビルの屋上に辿り着き、更に上空を見上げる。

 そこに、まるで神のように地上を見下ろす、巨大な目玉が浮かんでいた。
 直径何kmになるのか、途方も無く巨大な眼球。


 そして……


 その真下。
 立ち並ぶビル群の中に、一際目立つ白い物体が存在していた。

 高層ビルに勝るとも劣らない巨体。
 明らかな人工物でありながら、どこか生物じみた雰囲気。
 キノコ型の胴体と、三本の足。
 長く伸びた腕の先端に、子供向け番組に登場するビーム銃みたいなものが付いている。
 胴体の中心には一つ目。

 ギョロリとした目が動き、佐天と視線を合わせた。


アルカイザー「……『真の首領』――!!!」
632 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/27(月) 23:41:54.25 ID:AgQ/tHIo

 おそらく、あの巨大な目を見たせいで、皆は“ああ”なっているのだろう。
 誰もアレの存在を気にかけていないのがその証拠だ。

 そしてこれこそがきっと、『真の首領』の存在をブラッククロスの人間さえ知らなかった理由。
 Drクラインや元首領だった男も、こうして操られていたのだ。

 自分にそれが効かないのは、これもまたヒーローとしての能力だろうか?
 それとも単純に、この仮面がサングラスのように目を保護しているのか?

 ともかく、アレを何とかするのが専決だ。
 高位の能力者同士が戦い出したりしたら、手に負えない。


アルカイザー「……っ!!?」


 そこへ、何かが凄まじいスピードで飛来した。
 直感的にソレを感じ取り、何とかギリギリで回避する。

 だが、目の前を突き抜けたそれは、見覚えのあるものだった。
 いままで何度と無く見てきた、ある少女の必殺技――


美琴「ちっ……外した!!」

アルカイザー「御坂さん!!?」


 紫電を纏い、御坂美琴が駆け出す。
 敵意。殺意。
 まるで仇敵をみるような目で、こちらを睨みつけている。

 何の予告も無く、死角から超電磁砲を撃ってきたことからも、それが本気だと分かる。


アルカイザー「御坂さん……あなたも!!?」

美琴「食らえやぁああああああああああ!!!」


 高圧電流が放射状に放たれ、その度、ビルの屋上が崩壊していく……
 瓦礫の紛れて逃げようとしたが、ぴったりと付いてくる……!

 流石は第三位。
 ただでは済みそうにない……
633 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/27(月) 23:44:01.24 ID:AgQ/tHIo

 少女達の戦いが始まった頃。
 別の場所で、別の物語が進行していた。

 白い修道服を着たシスターを、髪が赤い長身の男が襲う。
 それを、ツンツン頭の少年が阻止した。

 少年、上条当麻はこの喧騒の中、何度か正気を失いかけつつも、未だ自分を見失っていない。

 それもひとえに、右手に宿る『幻想殺し』のおかげである。
 意識を奪われそうになるたび、右手で頭を抑えてそれを無効化する。

 どうやら『幻想殺し』は、あの巨大な目玉の呪縛にさえ効果を発揮するようだ。


上条「……ってことは、やっぱりアレって能力か魔術だよなぁ……?」


 シスターを安全な場所に避難させ、長身の男は気絶させた。
 上条は一人、町を駆けまわっていた。

 まともなアテなどない。
 だが、ひょっとしたら――――


 「僕を探しているのか?」

上条「お前――!」


 蒼いローブの青年。
 おそらくは魔術師である不審な青年に、上条は一縷の望みをかけ詰め寄る。


上条「これは、お前がやったのか?」

青年「違う……とも言い切れんか。原因は俺たちだが、僕が直接手を下したワケじゃあない」

上条「どういうことだよ?」

青年「連中が通ってきた『通路』が出来た原因は僕だ。だが、この騒ぎには関与していない」

上条「……つまり、お前はブラッククロスとは関係ないってことか?」

青年「俺は――あの『通路』を閉じる為に来た」
634 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/27(月) 23:46:59.43 ID:AgQ/tHIo

 胡散臭い男だ。
 だが、どこか信じてもいいように感じる。

 それは、彼の“半身”の影響ではなく。
 彼自身もまた、裏切られ、騙され、利用されて生きてきたからだ。
 利用される“ために”生きてきたからこそ、他の者の不幸を許容できない。

 実直な熱血漢である上条当麻と、論理的で現実主義な魔術師の青年。

 間逆なようで、自身を犠牲にしてでも他を守ろうと決意した二人は、実は近しいのかもしれない。


上条「そうか、お前はこの事件を解決しに来たんだな……なら、協力できないか?」

青年「協力だと?」

上条「そうだ! 俺のこの右手・幻想殺し『イマジンブレイカー』で、皆を元に戻せるんだ!!」

青年「お前が幻想殺しか……なら、あの目玉をなんとかしろ」

上条「目玉――っと!? あぶねぇ……あれモロに見たらまた意識が飛ぶところだった……」

青年「あれがこの現象の核だ。あの目から出る力が、“不安”や“願望”を増幅させ、幻覚を見せている」


 そう言って、青年は上条に背を向けて構えた。

 視線の先。建物を壊しながら、体長3〜4メートルはある、大きな”イカ”が現れる。
 長い触手を持ち上げ、「キィイイイイ!!!」と金切り声を上げた。


上条「前から思ってたけど、あれって怪“人”ではないんじゃなイカ!!?」

青年「さっさと行け」

上条「けど――!!」

青年「お前はアレとは戦えん。武器は右手のソレだけだろう」


 事実だ。

 だが、この状況で、上条当麻に人を置いて行けというのは……
635 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/27(月) 23:49:41.99 ID:AgQ/tHIo

上条「駄目だ! 俺一人逃げるなんて――」

青年「誰が逃げろといった?」

上条「え……」

青年「“行け”と言ったんだ。お前はさっさとあの鬱陶しい目玉を何とかしろ」


 そうこうしているうちに、イカの怪人が青年に襲い掛かる。
 触手が鞭のように振り下ろされ、風斬り音が轟く。

 鞭が青年を押し潰す直前――


 『インプロージョン』


 空中に透明な壁が現れ、球形に触手を囲みこむと爆発を起こした。
 紫の体液をばら撒き、イカは狼狽して後退りする。


青年「ここに居られると邪魔だ」

上条「そ、そうみたいだな……」


 上条は納得し、青年に背を向けて走りだす。
 出来るだけ早く、この異変を止めるために。

 自分にしか出来ないことをするために。

 と――


上条「あ、そうだ! あのさー?」

青年「何だ……早く行け……」

上条「お前、名前なんていうんだー?」


 青年は少し考えて、仕方なく、昔使っていた“一つの名前”を教えた。
 彼のトレードマークである、蒼いローブが示す、とある魔術師の名を。
636 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/27(月) 23:50:36.96 ID:AgQ/tHIo

 アルカイザーは、迫り来る雷撃を避けて避けて、逃げ続けた。

 反撃は出来ない。
 相手は御坂美琴なのだ。
 ただ、正気を失っただけの……


アルカイザー「御坂さん! 私です佐天涙子です!!」

美琴「……大丈夫」

アルカイザー「御坂さん……?」

美琴「大丈夫よ……私は平気……アンタこそ、大丈夫なの……?」


 さっきから、彼女は度々、見えない誰かに話しかけている。
 ニヤニヤと表情を緩ませて、頬を赤らめながら、お互いを気遣いあう言葉を一方的に呟く。

 ――――正直言って、不気味だ。

 今すぐ、ここから逃げ出したい。
 だが、悪いことは続くものだ。


 「お姉さま!!」


 白井黒子が追いついてきた。

 どうやら、彼女は美琴のことは認識出来ているらしい。
 だが、その会話は――


黒子「お姉さま! よくぞご無事で!!」

美琴「そうね……早く倒しちゃいましょう……!」

黒子「黒子は心配しましたの! さぁ、あの不届き者を成敗しましょう!!」

美琴「誰がビリビリよ……! 次言ったら許さないわよ……!」


 ……不気味さが増した。
637 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/27(月) 23:52:18.91 ID:AgQ/tHIo

 いや――そんな冗談を言っている余裕はない……!


黒子「参りますのっ!!!」

美琴「行けぁあああああああ!!!」


 黒子の登場によって、ただでさえ困難だった状況が厄介さを増す。

 放射状に放たれ、広範囲をカバーする電撃。
 逆に、的確に急所を狙い撃ってくる空間移動。

 足元を狙った雷の槍を飛び越えて避けると、着地地点にピンポイントで鉄矢が打ち込まれた。


アルカイザー「〜〜っ!?」


 足が地面に縫い付けられた。
 鋭い痛み。
 だが、ここに留まる訳にも行かない。

 力ずくで足を引き剥がして、無理な姿勢のまま、また駆け出す。

 鉄矢を抜く余裕はないので、足の甲を貫いたままになっている。
 一歩走るごとに激痛が走る。


アルカイザー「うわっ!?」


 無理が祟ったのか、足が滑った。

 いや――足が引っ張られている。

 横着が過ぎた。
 例え、多少の危険があっても、足の鉄矢をそのままにするべきじゃなかった。


美琴「捕まえた……」


 電撃にばかり目を奪われ、美琴が磁力を操れることを、完全に失念していた。
638 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/27(月) 23:54:11.28 ID:AgQ/tHIo

アルカイザー「がぁあああああああああああ!!!??」


 足を貫通している鉄の棒が、グニャリと捻じ曲がり、釣り針状になった。
 それが再び足の甲に突き刺さり、そのまま、まさに釣りの要領で引きづられる。


美琴「もう逃がさない……ふん、褒められても嬉しくないわよ……!」

黒子「さっすがお姉さま! 見事なお手際ですの!!」

美琴「本当に反則よね……あんただけは……もう……」


 まずいまずいまずい!!
 このままじゃ、鉄の棒で針ネズミか、それとも黒焦げになるかの二択だ――!!

 指をアスファルトにひっかけ、何とか抵抗を試みる。
 だが、いくら踏ん張っても磁力は無限に強くなる。

 彼女は正気を失っているだけで、正真正銘、レベル5の第三位、御坂美琴なのだ。
 アルカイザーになったところで、その全力の電力に対抗できるとは思えない。

 抵抗すれば抵抗するだけ、足の甲に食い込んだ釣り針が深く刺さっていく……!


美琴「そうね……そろそろ終わりにしましょう……」

黒子「私がトドメを!」

美琴「ええ……私がやるわ……!」


 会話にならない会話。


 嫌だ……

 こんな彼女たちを最後に見て死ぬなんて嫌だ……

 こんな彼女たちに殺されるなんて絶対に嫌だ……



 誰か――――!!
639 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/27(月) 23:55:16.62 ID:AgQ/tHIo

上条「さぁ。やっちゃおうぜ御坂」

美琴「そうね。終わりにしましょう!」


 追いかけっこはここまで。
 しぶとく逃げ回ったけど、これでこの赤い怪人もおしまいだ。

 所詮、私たちに敵うはずが無いのよ。

 私のとなりには、コイツがいるんだから……


上条「御坂。まかせたぜ」

美琴「ええ。私がやるわ」


 アイツに期待されてる。
 アイツに頼られてる。

 嬉しい……
 断然。体に力が湧いて来る。


 私は、右手に全身の電流を集中させる。
 この距離なら、簡単に電撃で焼き尽くせる。


美琴「これで終わりよ……バイバイ!!」


 数万ボルトの電撃の槍が撃ちだされる。
 それは、轟音を上げて目標へと真っ直ぐに伸び――


美琴「……何よ……コイツ!!?」


 突然現れた、紫色の龍に邪魔された。
640 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/27(月) 23:56:49.89 ID:AgQ/tHIo

 怪人を守るように立ちはだかる紫の龍。
 赤い髪をツンツンと逆立たせ、こちらを威嚇している。


上条「御坂……」

美琴「わ、分かってるわ!!」


 邪魔しないで……!

 もう一度、今度はさっきよりも威力を増した電撃を放つ。

 が、またも、龍には通用しない。


黒子「お姉さまの邪魔をするなぁ!!!」


 となりに居た黒子が飛び出す。

 ……あれ? 居たっけ?

 けれど、龍の鋭い爪が彼女を切り裂き、黒子は真っ二つになって消えた。


美琴「黒子……?」

上条「美琴……あいつを……倒すんだ……」

美琴「分かってる……うん。分かってるから」


 そうだ。倒さなきゃ。

 コイツがそう言ってるんだから。

 ほら、あの公園での礼を返さなきゃ。

 それだけ。

 うん。それだけだ。

 今の私には――それだけでいい。

641 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/27(月) 23:58:29.33 ID:AgQ/tHIo

上条「あっぶねぇ……ビリビリの奴! 本気で撃ってやがるな!?」

アルカイザー「あなたは……?」


 突然現れたツンツン頭の少年に困惑する佐天。

 美琴の電撃をいとも簡単に打ち消し、飛び掛ってきた黒子を、右手で触れただけで止めてみせた。


黒子「うぅ……ここは……?」

アルカイザー「白井さん!!」

黒子「……佐天さん……? 私は、一体……」


 黒子は正気に戻っている。
 何が起こっているのか。
 あの少年は何なのか。

 美琴から放たれた電撃を、さっきからもう、右手一本で二度も三度も防いでいる。


黒子「あなたは……確かお姉さまのお知り合いの……ってお姉さまは何を!!?」

上条「気が付いたか!? 気をつけろ! 絶対に空を見上げるなよ!!」

アルカイザー「あなたは正気なんですね!?」

上条「ああ! 俺の右手は、能力だろうが魔術だろうが掻き消しちまうんでな!!」


 能力を掻き消す右手!?

 良くは分からない……けど、なら――


アルカイザー「お願いがあります! あの空の目を!!」

上条「分かってる! けど、まずは御坂を何とかしないと……!」

黒子「何だか分かりませんが……逼迫してるみたいですわね……」
642 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/27(月) 23:58:31.75 ID:JlOvKEAO
洗脳恐るべし
643 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/28(火) 00:00:26.97 ID:QduhIGso

上条「とにかく……まずは近づかねぇと!!」


 上条が美琴の頭に触れるため、一歩にじり寄る。
 すると――

上条「うお!!?」

 地面が捲れ上がり、中の水道管が突き出してきた。


美琴「電気が効かないなら……他の方法で……」


 今度は、崩れ落ちたビルの瓦礫から、鉄骨が吸い寄せられて飛んでくる。


上条「あぶねぇぇぇ!!?」


 上条が走ってかわすたび、地面に鉄骨が突き刺さっていく。
 鉄骨を一通り消費すると、今度は電柱や交通標識が地面から引き抜かれて空中を翔る。

 辺りの迷惑も法律も顧みない。
 いつもの美琴なら、可能でも、街のど真ん中で、ただの人間相手には使用しないような戦法。

 正気を失っている今だからこそ、こんな無茶が出来る。


美琴「待っててね……今……やっつけちゃうんだから……!」

上条「あいつめ! 無茶苦茶しやがって!!」


 あの飛来する鉄の塊を、幻想殺しで何とか出来るか?

 磁力を消せば、動き自体は止まるかもしれない。
 だが、下手すれば下敷き……何にせよ、無事では済むまい。


アルカイザー「それじゃあ駄目ですね」

上条「お前……!?」


 彼には、これから無茶をしてもらうんだから。
 せめて……無事に送り届けないと。
644 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/28(火) 00:02:22.30 ID:QduhIGso

 足の鉄矢を引き抜いて、しっかりと立ち上がる。
 このぐらいの傷なら、一分も経たずに回復する。


美琴「一対一でやろうってワケ?」

アルカイザー「倒すわけじゃなくて、あくまでも足止めだっていうなら……!」


 少年が黒子のテレポートで移動できないというので、走って移動することになった。
 その間、この電撃姫が他で暴れないように、アルカイザーが引き付けておく。

 改めて二人が向かい合い、まるであの地下基地での戦いを再現するように、アルカイザーが駆け出した。


美琴「そんな直線に突っ走って……!!」


 さっきまで瓦礫を操っていた美琴が、また電撃による攻撃に切り替えた。
 青い電流が、地面を這って迸る。


アルカイザー『ブライトナックル!!!』


 光を纏った拳が、その電撃を真っ向から打ち砕く。

 そのまま、勢いを殺さずに飛び掛り、美琴を組み伏せようとする。


美琴「触るなぁ!!!」


 飛び上がったところを、真横から鉄骨が激突して吹き飛ばした。

 アルカイザーはゴロゴロと地面を転がって、そのまま瓦礫の山に突っ込む。


アルカイザー「ゲホッ! ゲホッ! ひっどいなぁ……」


 土ぼこりの中、あっけらかんと立ち上がる。

 ……怪我は、“もう”治っている。
 力の出し惜しみは無しだ。
645 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/28(火) 00:04:30.97 ID:QduhIGso

黒子「……ショックですの」


 上条と黒子は、移動しながら情報を交換していた。
 上条から、幻覚の正体が“不安”や“願望”であることを聞かされ、黒子は考え込む。

 さっき見ていた幻覚を、徐々に思い出してきたのだ。


黒子「私は、佐天さんに嫉妬していたのでしょうか……」

上条「増幅されるって言ってたぜ? 本当の気持ちじゃないさ」

黒子「ですが、元が0なら、増幅も何もありませんの。きっと、どこかにあった気持ちですわ」


 不覚。
 短く呟いて、それで気持ちを切り替えた。

 構えなおし、行く手を阻む戦闘員に鉄矢を打ち込んでいく。


黒子「失態は、この任務の遂行を持って返上しますの!!」


 黒子の任務は上条を目玉まで送り届けること。
 反省は後で十分。
 始末書ぐらい何枚でも書ける。


黒子「しかし、問題は空を飛ぶ方法ですの」

上条「俺はテレポートできないからな……」


 飛行機?
 そんなものは飛ばせないし、そもそも無い。

 あのキグナスがあれば良かったが、ブラッククロス基地で大破した。


上条「白井!!」

黒子「はっ!!?」


 黒子が思案に耽っていると、突然、上条に突き飛ばされた。
646 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/28(火) 00:06:15.22 ID:QduhIGso

 空を見ないように走っていた所為で、接近に気付かなかった。
 何かが、上空から滑空してきていた。

 突然のことに受身を取れず、黒子は尻餅をついている。


黒子「痛た……」

上条「す、すまん……」

黒子「構いませんの……それより!」

上条「……あれ? コイツはたしか……」

黒子「……ラッキーですの」


 二人は、襲い掛かってきた影を見上げる。

 クリーム色の体毛。青と赤の混ざった不思議な色の羽。
 長い首、トカゲの尻尾、細い目。

 コットンだ。

 混乱して襲い掛かってきたのかと思いきや、どうやら――

上条「ちょっ!? おま! 舐め……上条さんはおいしくありませんよー!!?」

 ……まごうことなきコットンだ。


 ともかく――


黒子「さあ、参りましょう!!」

上条「ひとっ飛び頼むぜコットン!!」

コットン「キュー!!」


 これで、あの神気取りの目玉に“手が届く”。

 正気を取り戻したコットンが翼を広げた。
 背に二人を乗せて、天に飛び立つ。
647 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/28(火) 00:08:47.36 ID:QduhIGso

アルカイザー「……くそ……流石に御坂さんだなぁ……」


 足止めを引き受けていた佐天だったが、その場に踏みとどまることが出来ず逃げ回っていた。

 電撃だけならまだしも、無法地帯と化している今の学園都市は、美琴にとって武器の山だ。


美琴「次はこれぇ……!」


 公園の遊具を引っこ抜き、アルカイザー目掛けて投げつける。

 アルカイザーはその場にしゃがみ込み、その頭上を滑り台が飛んでいった。
 滑り台はそのまま生垣に突っ込み、街路樹をへし折る。

 美琴が戦った跡は、戦車が通ったように無残だ。

 これが、レベル5という存在。
 その本気の破壊活動。


美琴「そーだ……いいことおもいつーいた……」


 すっかり正体を無くした美琴は、フラフラと、公園に設置された時計台へと向かう。
 噴水の真ん中に備え付けられた、五メートルほどの高さをもつ鉄の柱。
 それを、さっきまでと同じように磁力で引っこ抜く。

 もちろん、さっきまでの様にただ飛ばすのではない。
 彼女が撃ち出せる“弾丸”は、何もコインだけではないということだ。


アルカイザー「さすがに……それはまずいってぇ!!?」


 慌てて逃げ出す。できるだけ遠くへ。

 だが、生垣を飛び越えた途端、ソレが目に入り足が止まった。


アルカイザー「――――初春!!?」


 地べたにしゃがみ込んで、泥水の中で泣き崩れる、初春飾利だ。
648 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/28(火) 00:09:31.90 ID:QduhIGso

美琴「にがさない……わよ?」


 美琴が追ってきた。
 どうやら、初春の存在を認識できていない。

 初春は初春で周りの状況が見えていない。
 後生大事に、手足のない人形を抱き寄せている。


アルカイザー「……っ!!!」


 失敗した。
 直線に並んでしまった。

 宙に浮いた鉄柱を、美琴の拳が叩く。


 コインとは比べ物にならない破壊力。


 かわせない。

 かわさない。



 受け止める……!!!



アルカイザー「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」



 両手を広げて、足を踏ん張り、全身全霊で超電磁砲に立ち向かった――――
649 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/28(火) 00:11:01.69 ID:QduhIGso

上条「もうちょっとだ! もうちょっと!!」

黒子「邪魔はさせませんの!!」

コットン「キュゥゥゥゥウウウウ!!」


 黒子とコットンは目を閉じたままだ。
 コットンは、ただひたすら全速力でまっすぐに飛んでいく。
 黒子は音と上条の声を頼りに、進行方向の敵を撃ち落としていく。

 雲をつきぬけ、学園都市の町並みは遥か後方。

 もうここまでくれば、怪人の攻撃も無いだろう。


上条「白井! 両手でしがみつけ!!」

黒子「何をする気ですの!?」

上条「こっから先は、垂直に真上に飛ぶんだ! もう時間がないかもしれない!!」

コットン「キュ、キューーー!!!」


 コットンの体が持ち上がり、時間短縮のため、最短距離で飛ぶ。
 二人は振り落とされないように両手で必死にしがみついた。

 宇宙に向かうロケットのように、真っ直ぐ天頂へと白い影が疾る。


上条「もうちょっと……もうちょっとだぁぁ!!!」


 もう、まさに眼前。

 そこへ――


上条「嘘だろぉ!? 今度は宇宙人の襲来ですかぁぁ!!?」


 古いSF映画に登場するような銀色の円盤が現れた。
 円盤の底が開き、中から無数の『ミサイル』が発射され、上条たちに迫る。

 黒子は両手でしがみついている。
 鉄矢での迎撃が出来ない――!!
650 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/28(火) 00:13:34.30 ID:QduhIGso



 『アル・ブラスタァアアアアアアアアアアア!!!!!』



 地上から放たれた光の弾が、上条たちに迫るミサイルを撃ち抜いた。
 一発残らず、目標に届く前に空中で爆散した。


アルカール「また出遅れてしまったようだが……今度は間に合った!!」


 爆風を掻き分け、コットンは速度を落とさず突き抜けていく。
 上条はコットンの首をよじ登り、その鼻先を蹴っ飛ばして飛び上がった――


上条「人の心を弄びやがって……こんなもんが、あいつらの本心だって言うのなら――」



 まずは――その幻想をぶち殺す――――!!!!!



 上条の右手が、巨大な瞳に触れる。

 その途端、一瞬にして眼球は掻き消え、光が降り注いだ。

 重力に従って、上条の体が落下する。
 コットンが彼の体を空中でキャッチし、そのまま降下を始めた。


上条「や、やった……やったぞーーー!!!」

黒子「ええ……やりましたわね……“よくも”」

上条「うわぁ!? ご、誤解です! 上条さんは紳士で――」


 上条の顔が、コットンにうつ伏せでしがみついていた黒子の「おしり」に埋まっていた。


上条「不幸だぁぁあああああああああああ!!!!??」
651 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/28(火) 00:16:44.93 ID:QduhIGso

美琴「は――――?」


 上条が上空で使命を果たしたことで、美琴も正気に戻る。

 しかし――もう超電磁砲は放たれていた。
 一度放たれれば、もう止めることはできない。


美琴「佐天さん……佐天さん!!!」


 本気の超電磁砲を受け止め、アルカイザーは地面を削り取りながら、後ろへ押されていく。
 そのまま吹き飛ばされそうになる。
 だが、そんなわけにはいかない。
 耐える。

 背後には、初春が居る。

 もう体中ボロボロだ。
 鎧は焼け焦げているし、マントも消し飛んだ。
 きっと腕の骨も折れている。
 足の筋肉が引きつる。

 仮面にヒビが入った――


初春「――――佐天さん!!!!!!」


アルカイザー「わあぁああああああああああああああ!!!!!!」


 アルカイザーの体が激しく光る。

 心臓がこれまでに無いほど早く鼓動し、エネルギーを搾り出す。
 そして、それを全部攻撃力に変えて、叩き込む。

 何度も言う。

 もう、『出し惜しみ』はない。



652 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/28(火) 00:18:35.86 ID:QduhIGso

 超電磁砲が掻き消え、アルカイザーは地面に倒れた。


美琴「佐天さん! 私……私……!!」

アルカイザー「分かってます……正気に戻って良かった……」


 彼女は、ゆっくりと体を持ち上げる。

 後ろから、泥だらけの初春も駆けつけた。


初春「良かった……生きて……たんですね……」

アルカイザー「死なないよ」


 まだ死ねない。


アルカイザー「あの人……ちゃんとやってくれたんだ」


 空を見上げる。

 そこにあったのは、いつもどおりの蒼い空。
 もう、不気味で威圧的な目玉は無い。

 街のみんなも正気に戻っているだろう。


 アルカイザーは立ち上がる。

 これまでと同じように、傷ついた体で立ち上がる。


 超電磁砲の衝撃で半分に割れた仮面から、佐天涙子の素顔が覗いていた。

 長い黒髪を風に揺らし、最後の敵に向き直る。
 幼さの残る少女の顔は、いまや『覚悟』を決めた戦士の表情だった。


 その視線の先で、白い異形の巨体が、咆哮を上げた――――
653 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/28(火) 00:19:39.94 ID:QduhIGso

 …………

 常盤台中学学生寮。

 その一室に、優雅に佇む少女がいた。


 さっきまで夢うつつだった彼女は、そのアンニュイな外見とは裏腹に、複雑な心境にあった。


 「私に入ってくるなんて、身の程知らずが居たものね……」


 心に触れられた。
 それが腹立たしかったので、逆に触れ返してやった。

 そうすると、頭の中に膨大な情報が入ってきた。

 いや、一夜の夢のように、一瞬で通り過ぎていっただけだったのだが……


 「私にこんなことを伝えて、どういうつもりだったのかしら……」


 助けてくれとでも、言うつもり?

 冗談。

 私が、この常盤台で何と呼ばれているのか知らないのか?


 ……知らないのだろうな。


 「やれやれね……」


 一人で呟いて、少女、レベル5の第五位『心理掌握』はソファーから立ち上がった。



 To be continued…
654 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/28(火) 00:22:07.83 ID:QduhIGso

と、いうわけで第十九話でした。

このSSも、残すところあと一回となりました。
ここまでついて来て下さった皆様。
本当にありがとうございます。

補足及びレス返しは次回終了後まとめて行います。

ではまた明後日。

ご期待下さい!!
655 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/28(火) 00:25:31.74 ID:Z4M8BgAO
乙、精神支配マジチート
656 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/28(火) 00:29:30.03 ID:iFKhWfYo
657 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/28(火) 00:44:55.29 ID:arEIQnI0
乙!
佐天の成長に何のとも言えない感慨が!
ここでの第5位参戦にwktk、エツァリはastk

上条さんは頑張ったけど、お約束のラッキースケベだなwwwwww
蒼いローブの彼が使った術は酒をたらふく飲んだ後によく助けてもらったなぁ。
彼には
オーヴァードライブ→シャドーサーバント→超風×n→塔
をやって欲しいなwwwwww
658 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/29(水) 23:08:11.01 ID:DNq2VjYo

最終回です。
エピローグ等含むとかなり長いですが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。

本編終了後に補足とあとがきの様なものが入ります。

では、投下を始めます。
659 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/29(水) 23:10:12.21 ID:DNq2VjYo

 佐天涙子は、学園都市で改造された無能力者である。


 才能無しと烙印を押され、その通り、凡俗として過ごしてきた。

 彼女はアルカイザーとなったあとも、『最高の英雄』ではなかった。

 勝っては調子に乗り。
 負けては悔しがり。

 それはそれは、凡庸な少女のままだった。


 だから、彼女には助けが必要だった。

 幸い、彼女には友達がいた。
 たくさん、たくさん友達がいた。

 そして今も、それは増え続けている。

 浅く広い関係かもしれない。
 深い相手は数えるほどかもしれない。
 その数えるほどの何人かも、数年後にはそこに居ないかもしれない。

 それでも、彼女はみんなと、仲良くしたいと思っていた。


 自分を支えるモノが、『力』ではなく、『人』だと知っているから。


 だから彼女は、もうきっと、二度と望まない。

 英雄になることなんて望まない。

 大切な人を守る。
 大切な日常を過ごす。
 大切な未来へ進む。

 それが、彼女の望みだから。


 だから、これでこのお話は、もうおしまい。



 【最終話・終幕! 落ちこぼれ英雄譚!! (後編)】
660 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/29(水) 23:11:39.37 ID:DNq2VjYo

黒子「ここまでで結構ですの」

上条「けど……」


 役目を果たした上条を地上に降ろす。
 上条は、まだ不服そうに口元を動かしている。


黒子「辛辣ですが、これ以上できることはありませんの」

上条「……」

黒子「……あなたにも、待っている方がいらっしゃるのでは?」

上条「それは……確かに……」

黒子「今は、その方と一緒に居てあげるのが、あなたのするべきことですわ」


 そう言って、黒子は肩にかかった髪をかき上げた。
 コットンが翼を広げ、彼女を背に乗せて飛び立った。

 地上に残された上条が、別れ際に大声で尋ねる。


上条「じゃあ……お前のするべきことはなんなんだ!!」


 黒子は、振り返らずに答えた。


黒子「決まってますの! 私はお姉さまのパートナーですのよ!!」


 迷い無くそう宣言し、少女は去っていく。

 小さくなる背中を見送って、上条も、自宅へと走っていった。


 これで、この話における彼の活躍は終わりである。

 二つの世界を股にかける少年も、この物語の中では、ただの「協力者A」にすぎない。
 これはあくまで、彼女たちの物語なのだから。
661 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/29(水) 23:12:47.96 ID:DNq2VjYo

美琴「何かしら……?」


 ビル群の中に佇む白い巨体。
 真の首領は、たった一度大きく咆えたのを最後に、じっとしたまま動かない。

 腕のビーム銃や、例の『反重力クラッシャー』で暴れるかと思いきや、ピクリともしない。

 まったくの静止。


美琴「……不気味ね」

佐天「嵐の前の静けさ……ですか?」


 美琴のとなりには、顔半分が露出した佐天涙子。
 仮面の破れた彼女のことを、アルカイザーと呼ぶのは憚られる。

 ひょっとしたら、今この瞬間こそ、佐天が目指していたものなのかも知れない。
 「御坂美琴の隣に、対等な者としてならぶ」
 それは、名と顔を伏せた、アルカイザーの姿では成し得なかったこと。

 御坂美琴の友人、佐天涙子その人が、素顔のまま、同格の戦士として立っている。

 その背中を、初春は不思議な気持ちで見つめていた。


 そのとき――沈黙が破られた。
 真の首領の目玉が裏返り、紅く点滅する。


佐天「あれ……何やってるでしょう?」


 真の首領の頭部が、ゆっくりと開いた。

 そして、その中から――


美琴「UFO……よね?」


 銀の円盤が、無数に飛び立っていく。
 空を埋め尽くす大軍勢。
662 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/29(水) 23:14:23.72 ID:DNq2VjYo

 地の底から響くような声が、学園都市中に轟く。


 『I came back』 (私は帰ってきた)


 『But, there is no whereabouts of me』 (だが、ここは私の居るべき場所ではない)


 『I don’t permit』(許せない)


 『Judgment X…』


 言い終えるやいなや、百機を超える円盤の軍勢が、地上に対して爆撃を始めた。

 ミサイルだ。

 無数のミサイルが、豪雨の如く降り注ぐ。


美琴「――――」


 一瞬の出来事に、脳が理解を受け付けない。

 まるで映画のワンシーン。
 まるで現実味が無い。



 UFOの群れが、あっというまに第七学区を火の海に変えた。



初春「何……これ?」

美琴「嘘……冗談よね? また、幻覚よね?」


 街が燃えていく。
 住み慣れた景色が崩壊して、そこら中から阿鼻叫喚が聞こえる。

 蹂躙。
 戦争。

 侵略戦争の光景――――
663 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/29(水) 23:15:56.23 ID:DNq2VjYo

 そこへ――

 「何を呆けてるの? 悪の首領との最終決戦なんでしょ?」

美琴「え……あんたは!?」


 火の海の中から、人影が近づいてきた。
 常盤台の制服を着た、年端もいかない少女。

 レベル5である美琴に、対等に口をきく慇懃無礼な態度。


美琴「……心理掌握『メンタルアウト』……!?」

心理「ごきげんよう。超電磁砲『レールガン』」


 美琴と並ぶ、常盤台のもう一人のレベル5。
 第五位。
 心理掌握。


佐天「この人が、第五位……?」

心理「ごきげんようアルカイザーさん。あら。そんなに驚いては馬鹿みたいよ?」

佐天「は……えぇ!?」

美琴「……何をしにきたのよ? まさか手伝いにじゃないでしょ?」

心理「ちょっと人助け」

美琴「は?」

心理「うん。さびしんぼさんのお子ちゃまが居るみたいだから」



心理「ちょっと。あのデカイ子どもを助けてやってくれない? ねぇ、ヒーローさん?」


 こともなげに、彼女は言った。
664 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/29(水) 23:19:00.82 ID:DNq2VjYo

 地獄と見紛う火の海の中、まだ、この街の住人は希望を捨てていない。

 崩れ落ちた建物が、瓦礫の山になって鎮座する。
 それを細腕で掘り返そうと、一人奮闘している者が居た。

 ウェーブのかかった長髪。白衣に身を包んだ、妙齢の女性。
 木山春生(きやま はるみ)。
 元教師の経歴を持つ科学者で、幻想御手を作り出した張本人だ。


 「いたいよぉ〜!!」

木山「もうちょっとだ……! もう少しだけ待ってくれ!!」


 瓦礫の下敷きになって、身動きがとれずにいる子どもを見つけた木山。
 彼女とは直接関係の無い、見ず知らずの子どもだ。

 だが、放っては置けない。
 自身の避難も忘れ、必死に、なれない肉体労働に挑んでいた。


 そこへ――

 「手を貸すじゃん……!」

木山「警備員……」

 特徴的な口調の警備員、黄泉川愛穂が、協力を申し出た。


鉄装「よ、黄泉川先生! 駄目ですよ! 安静に――」

黄泉川「そんな場合じゃないじゃん……! これを切り抜けたらいくらでも入院してやるじゃんよ」


 救護室に運ばれていた黄泉川が、のそのそと抜け出して来ていた。
 不器用に巻かれた包帯も、よれよれの湿布も、鉄装が施したものだった。
 治療のため晒された肌には、火傷の痕が残っている。


黄泉川「ちっ……左手が動かないか……あいつめ! 誰が『トリケラトプス』じゃん!!」

鉄装「無茶しないで下さい先生!」

黄泉川「無茶は通す! 道理は引っ込んでるじゃん!!」
665 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/29(水) 23:21:25.08 ID:DNq2VjYo

 そこから少し離れた位置。

 UFOから発射されたミサイルが、その歩道へ真っ直ぐに飛んでくる。

 が――
 どういうわけか、棒立ちの少年にぶつかった途端、爆発することも無く地面にころがった……


少年「ケッ。こンなもンで俺を殺せるかよ」

少女「そうですね。そうであれば、どれだけ気が楽だったか……」


 少年の言葉に、少女が皮肉を言う。

 真っ白い少年と、ゴーグルをつけた奇妙な少女。
 二人は今しがたまで、とある理由で“殺し合い”をしていた。

 だが、この騒ぎでそれどころではなくなった。
 少年は自身の能力で幻覚を跳ね除けたが、少女はそうはいかなかった。
 幻想に囚われ、何度も何度も“死”を経験“し直した”。
 そして――


少女「……」

少年「まだ拗ねてやがンですかァ? このガキはァ……」

少女「ミサカは……アナタに殺される為に生まれました。それなのに……」

少年「……ケッ。てめェが言ったんだろうが」


 『殺さないで……助けて……!!』


少女「あれはノーカンです。ミサカは正気ではありませんでした、とミサカは指摘します」

少年「うっせェ。言ったもンは言ったンだよ」


 少年は少女の発言を力ずくでねじ伏せる。

 それは、彼が心の底で、ずっと聞きたかった言葉だったから。
 だから、誰がなんと言おうと覆させたりはしない。
666 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/29(水) 23:23:44.37 ID:DNq2VjYo

 少年は悪党だ。

 だから今まで何度も殺してきた。
 ……“何度”と数えてきたことが、たったの一言で、“何人”に変わった。

 だから、悪人はそれを受け止めて、そして、その“続き”を取りやめることにした。


少女「殺してくれないと困ります、とミサカは――」

少年「うるせェ下がってろ」


 二人に怪人が襲い掛かる。剣を持った、蒼い体躯の巨人。
 だがどんな怪力だろうが、この少年を傷つけることは叶わない。
 少年に少し触れただけで、へし折れ、大地に沈んだ。


少年「……うざってェな。とりあえず芳川(よしかわ)の奴でも探すか……」


 いつもどおりのぶっきら棒な態度を取りつつも、少年の顔はどこか不安げだった。

 崩れて落ちていく街並みを見つめ、物思いに耽っている。
 自分の行いを思い返しているのか。
 それとも――自分の未来を想像しているのだろうか。
 自分がこの街並のように、大きな力によって捻じ伏せられる様を。


 ――――。


 その視線の先で、何かが煌めいた。

 炎の中から飛び出した一筋の光。

 それが、得体の知れない白い人工物へと向かって伸びていく。


 少年はその光を知らない。

 光も、少年を知らない。

 二つの物語は今後交わらず。
 二人は知り合うことなく、ただ、少年の人生を僅かに逸らした。

 ……それが良かったのか、それとも悪夢を招くのかは、まだ定かではない……
667 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/29(水) 23:25:10.30 ID:DNq2VjYo

 ビルの屋上を飛び渡り、目標を目指す佐天。
 行く手を阻む怪人と円盤を蹴散らし、真っ直ぐに空を突き進んでいく。

 地上では――

美琴「邪魔すんじゃないわよぉ!!!」

 地を駆け街を蹂躙する機械兵士を、美琴が数万ボルトの電撃で駆逐していく。


 そこへ――黒子がテレポートで現れた。


黒子「お姉さま!」

美琴「黒子! アイツ……と、コットンは?」

黒子「あの殿方でしたら帰しましたわ。コットンは、何処かへ飛んでいってしまいましたの」

美琴「そ、そう……無事なのね……」


 黒子と、他一名の安否を確認し、ひとまず胸を撫で下ろす美琴。

 と言っても、今のような状況では、いつ誰がどうなるか、分かったものではない。

 この町に住むほかのレベル5は――
 いや、当てにならない。
 あの『心理掌握』がまさにそうだった。


美琴『そこまで言うんなら、あんたも手伝いなさいよ』

心理『……は?』

美琴『は? じゃないわよ! あんたの能力なら、怪人の軍勢でもなんでも引き連れて――』

心理『嫌よ。そんなの』


 取り付く島もなく、美琴の提案を一蹴してさっさと行ってしまった。
 言いたいことだけはハッキリ言い、あとのことは人任せである。

 伊達に、常盤台で「女王サマ」などと気取っているわけではなかった。
668 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/29(水) 23:27:27.64 ID:DNq2VjYo

アルカール「無事かアルカイザー!」

佐天「アルカールさん……!」


 空の上でも、佐天がアルカールと合流していた。
 二人のヒーローが、第七学区の上空を駆け抜ける。

 最後の敵を前に、バラバラだった仲間が揃っていく。
 地上と空中、二つのルートで目標に迫り、そして――


佐天「戦闘開始だぁあ!!!」


 上空の二人に、円盤の編隊が接近する。
 ミサイルの照準を合わせ、二人のいるビルに目掛けて、一斉に発射される。

 空を縦横無尽に飛び交う弾道弾。
 その一発一発が、ビル一つを崩壊させるほどの火力を持つ。


 だが、そんなものに怯むヒーローなどいない。


『『アル・ブラスタアァアアアアア!!!』』


 二人から、四方八方に無数の流星群が放たれる。
 迫り来るミサイルを対空砲火で全段叩き落し――


佐天『ディフレクトランスッ!!』

アルカール『スカイツイスタァアア!!!』


 爆煙を突き破り、二つの閃光が上空へ飛翔する。

 佐天の体が光の槍となり、数機の円盤を串刺しにした。
 アルカールの巻き起こした竜巻が、周囲の物を巻き込み、粉々に砕いていく。

 遠目には、光学兵器が空中編隊を貫いていくように見えるだろう。
 だが実際には、たった二人の人間による、ただの『体術』でしかない。

 これが超人。
 これがサントアリオの戦士。
669 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/29(水) 23:30:23.78 ID:DNq2VjYo

佐天「見えたっ!!」


 円盤をアルカールに任せ、佐天がコッソリと、真の首領へと接近した。
 まず近くのビルに降り立ち、敵の背後へ回りこむ。

 いかに巨大な“目”を持っていても、正面にしか付いていないのだから。
 あの巨体は死角だらけである。


 地上に目をやると、すぐそこまで美琴たちが迫っていた。

 仕掛けるなら今だ。
 二人も合わせてくれるはず。

 ビルの屋上で助走をつけ、一気に、白い装甲へと飛び込む――!


佐天『ブライトナックルッ!!!』


 右拳を光に変え、真の首領の後頭部へと叩き込んだ。
 しかしこの装甲、予想外に分厚く、硬い。

 打ち込んだ拳が痺れる。


佐天「くっそ……カッコつけて小手調べなんかするんじゃなかった……!」


 続けて攻撃するため、装甲にしがみ付く。

 しかし今の攻撃で、当然こちらの存在には気付かれただろう。
 上空で編隊を組んでいた円盤のうち何機かが、こちらへ降下してくる。
 背後はアレに守らせているらしい。

 もちろん、他の迎撃システムも備えている。
 例えば、四天王に組み込まれていたような兵器も。


 『Lightning web』

佐天「……づっ!!??」


 紫電が、装甲の表面を迸る。
 佐天の体にも電流が流れ、ショックで体が浮き上がった。
670 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/29(水) 23:32:02.14 ID:DNq2VjYo

佐天「……っ!? 落ち――!!?」


 思わず手を離し、バランスを崩してしまった。
 空中に放り出された佐天を、円盤が空から狙い撃つ。


美琴「させるか!」


 落下する佐天の目の前に、美琴と黒子の背中が現れる。
 テレポートで助けに来たのだ。

 美琴の手のひらから、膨大な電撃が放出された。
 貫かれた円盤が次々に爆散していく。
 その破片を避けるため、黒子が美琴と佐天を抱え、再びテレポートする。

 転移先は、またも首領の死角となるビルの上。


佐天「ありがとうございます……助かりました……」

美琴「いいのよ……私も散々迷惑かけちゃったからね」

黒子「佐天さんの攻撃、効かないみたいですわね……」


 作戦会議。

 このままがむしゃらに攻撃しても、戦果は期待できない。

 と、いっても――


美琴「まぁ。“一点突破”しかないでしょう?」

黒子「……ですわね」


 決定。
 至極単純明快。

 「超電磁砲と、アル・フェニックスで集中攻撃。装甲を突き破る」

 ただ、それだけ。
671 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/29(水) 23:35:10.34 ID:DNq2VjYo

 真の首領が移動を開始した。
 三本の足を器用に動かし、邪魔な建物を崩しながら前進する。

 補足くびれた胴体を捻り、一つ目がキョロキョロと忙しなく動き回っている。


美琴「探し物はこっちよ!!」


 黒子に転移された美琴が、首領の真上に出現した。
 重力に従い、風に制服をはためかせて落下していく。

 首領が声に反応し、視線を上げた。
 迎撃するため、ビーム銃のついた長い右腕を持ち上げようとする。


 しかし、視線の真ん前に突如現れた黒子に、判断力を奪われた。
 首領の動きが一瞬止まる。


黒子「スカートのレディを見上げるものではありませんの!!」


 その隙に、黒子は両手に“束”で構えた鉄矢を、首領の“黒目”に針山の如く転移させた。

 そして再び、“射線”から離れるため姿を消す。


 『!!?』


 首相の巨体が仰け反り、わずかに後退した。

 痛みがあるのではないだろう。
 突然の出来事に驚いている。


 ――そう。
 こんな事「想像もしていなかった」。

 何せ、「デカイ子ども」なのだから。

 そこまでの予想なんて出来ていない。
672 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/29(水) 23:37:05.71 ID:DNq2VjYo

 黒子が奇襲をかけているあいだも、美琴の体は降下を続けていた。
 もうすっかり、首領の“目と鼻の先”まで迫っている。

 当然――その右手には“コイン”。

 腕を電流が流れ、弾かれると同時に――――
 音速の三倍で撃ちだされる……!


 狙いは首領の大きな目玉――

 その、『少し上』。つまり『額』。


 『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!??』


 首領の体が更に仰け反る。


 勿論。まだ終わらない。

 火の海と化した第七学区は、彼女にとって、まるで一万の軍勢を背負うようなモノだ。
 燃え盛る街並のあちこちから、彼女の力になろうと『炎達』が集まってくる。

 宙に浮いた少女の体を、紅蓮の炎が包みこむ。
 紅い翼を羽ばたかせ、学園都市上空に、不死鳥が舞い上がった……!



 『空間超電磁フェニックス』――――!!!



 火の鳥が首領の額に突貫した。
 衝突の余波が、辺り一面の建物を瓦解させていく。

 奇声を上げて、首領が長い両腕を振り回す。


 「こんなのは嫌だ」と、駄々をこねる。
673 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/29(水) 23:39:37.17 ID:DNq2VjYo

美琴「行け……そのまま……!」


 美琴は超電磁砲を撃ったあと、磁力でビルに吸い付き、その様子を見守っていた。
 黒子も、どこか近くにいるのだろう。

 やることはやった。

 あとは、彼女に任せる。


美琴「”ヒーローごっこ”は、もう終わりにしましょう!! 佐天さん!!!」


 不死鳥となった『主役』が、巨大な『悪役』に食らい付いている……!


佐天「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 炎の渦の中、佐天の長い髪が激しく靡いている。

 ……このときすでに、佐天は自身の“異変”に気付いていた。
 さっきから目の前をチラつくそれが、目の錯覚だとは微塵も思っていない。
 『時』が来たのだと、ただそうとしか思わない。

 だから――まだ力は緩めない。


佐天「あぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 “絞りきる”。
 出し惜しみは一切無しで、彼女はやり遂げた。


 全身全霊の『真アル・フェニックス』を――――







 首領の左手に掴まれ、無為に終わるまで……。
674 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/29(水) 23:41:40.17 ID:DNq2VjYo

佐天「――――そんな」


 手のひらにまで施された分厚い装甲が、ろうそくの火を揉み消すように、不死鳥の羽をもいだ。



 まだ、足りない。



 ――握りつぶされる。
 いや、こいつ、腕を振りかぶ――――


 思考が間に合う前に、佐天の体は高速で吹き飛んでいた。

 真の首領から見れば、人間など取るに足らない小ささだ。
 軽く放り投げるだけで、とんでもない勢いで飛んでいく。

 ジェット機並みのスピードで飛行する佐天の体はやがて、”とある”ビルに激突して止まる。

 いまや無人となった「キャンベルビル」が、想定外の衝撃に耐え切れずへし折れ、そのままガラガラと崩れ去った……



 壮絶。
 というよりは、まるっきり冗談。

 どこかの少年漫画のワンシーンか、そうでなければCG満載のハリウッド映画か。

 そんな光景を見せられて、ただ呆然とする以外の選択肢など、美琴には無かった。



美琴「………………………………………………………………………………さてんさん?」



 そう呟くのが、精一杯の抵抗。

 次の瞬間には、美琴の居るビルも首領の右手に撃ち抜かれ。
 跡形も残さず崩壊したのだから……
675 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/29(水) 23:42:47.45 ID:DNq2VjYo

 ……あれだけやっても、まだ足りなかった。

 私たち三人じゃあ、足りなかった……?


 ……このまま終わるのか?



 ふざけるな――――!



 しゃきっとしろ!


 上等だ!
 駄々っ子め!!

 よくも好き放題やってくれたな……

 今、怖い“お姉さん達”が行ってやる。

 そのデカイ目で、ワンワン泣かせてやる。



 調子に乗るなよ。

 この――――



 『甘えんぼ』め。



 瓦礫の中から、御坂美琴が立ち上がった。

 視界はぼやけているし、体のあちこちがおかしい。
 立っていることがすでに『奇跡』だ。

 だが、彼女は歩き出す。

 もう一度、『奇跡』を起こすために――
676 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/29(水) 23:44:59.10 ID:DNq2VjYo

 学舎の園。
 常盤台中学の存在するその特別区にも、当然ブラッククロスの手が回っていた。

 むしろ、ただでさえ高位能力者の多いこの地域は尚更危険地帯といえる。
 あの「目玉」に幻覚を見せられ、多くの能力者が暴れまわっていたのだ。


 「婚后光子」たち三人も、この騒ぎに巻き込まれた被害者だった。

 幸いにも外に遊びに出ていたため、学舎の園内部程の戦いには巻き込まれなかったものの、無事とは言い難い。

 三人の内の一人、湾内絹保が、怪人に捕まり投げ飛ばされたのだ。

 上空数十メートルの高さ。
 ヒーローであるアルカイザーや、磁力によって衝撃を和らげられる美琴とは違う。
 普通の女子中学生でしかない湾内の体では、その高さからの落下は致命的だ。

 婚后が泣き叫び、泡浮が目をそらした。


 次の瞬間――空から滑空する白い生物が、その背で落下する湾内を受け止めた。

 そしてそのまま怪人に突進すると、口からガスを吹き浴びせて石に変え砕いてしまった。


婚后「コットンちゃん……?」

コットン「キュー!」


 優しいお姉さんと、不思議な生き物の再会だった。
677 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/29(水) 23:46:30.73 ID:DNq2VjYo

婚后「コットンちゃん……良く帰ってきてくれましたわね」

泡浮「湾内さんをありがとうございます! ……えっと、コットン“さん”?」


 コットンは、黒子と上条を下ろしたあと、一人で婚后を探していた。
 もう一度会いたいと思っていたし、この騒ぎを見て心配になったのだ。

 そして勿論、それだけしかしていなかったわけではない。

 彼は腐っても警察機構IRPOの一員なのだ。
 “するべきこと”は、きちんとこなしている。


 コットンの背で、気を失っていた少女が目を覚ました。

 友人の無事を確かめようと、婚后たちが駆け寄ると――――

婚后「あら? あなたは……」

泡浮「たしか……佐天さ……え……“アルカイザー”!?」

 キャンベルビルの残骸から掘り起こされた「佐天涙子」が、体を無理やりに引き起こしていた。
 湾内はその隣で、未だ気を失っている。


佐天「…………婚后さん」

婚后「は、はい!」

佐天「アナタたしか……空力使いでしたよね……?」


 全力の『真アル・フェニックス』を破られたというのに、彼女の心はまだ折れない。

 彼女一人なら折れていたかもしれない。
 しかし今は――


佐天「御坂さんが待ってるんです……いえ、多分待ってくれません。だから、早く――」


 一人で戦っているわけではない。


 だから、絶対に、決して、死にそうだとしても、『折れない』――――!!
678 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/29(水) 23:48:20.79 ID:DNq2VjYo

婚后「……無茶をなさる方ですわ」

泡浮「ええ……ですが、カッコよかったですね」

婚后「ふふ、それはそうですわ。なんと言ってもあの方は――――」


婚后「あの“御坂美琴の友達”ですのよ?」



 佐天は今、空を飛んでいる。

 正確には、空を飛ばされている。


 走ったのでは間に合わない。
 コットンに乗っていたのでは、勢いが足りない。

 だから、「婚后の『発射台』で飛んだ」――

 ビルの隙間から覗く、真の首領目掛けて、射出してもらったのだ。


 さっきまで飛び回っていた円盤がもう居ない。
 アルカールが何とかしてくれたのか。

 道は開けている。


佐天「……行こう。皆、“もう一度だけ”力を貸して……限界まで!!!」


 街の煉獄が、意思をもって佐天へと集まっていく。
 破壊の為の炎が、正義の翼へと変わっていく。

 婚后の射出に炎の羽ばたきが追加され、更に速度を増していく。


 間に合え。


 信じても居ない神に、祈りを捧げた。
679 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/29(水) 23:49:51.83 ID:DNq2VjYo

美琴「ハァ……ハァ……!!」


 ガタガタの体に鞭打って、美琴が階段を駆け上っていく。

 ちょうど、首領の額の位置と高さが同じビルを見つけ、その内部へ踏み込んだ。
 当然エレベーターなど動いていない。
 中の通路を走りぬけ、屋上へ出られる螺旋階段を見つけた。


美琴「もうちょっと……もうちょっと……だから……!!」

美琴「動け……動きなさい……私の体……!!!」


 何故、ここまで出来るのだろう?

 不思議だ。何の保証も無いのに。
 自分でも分からないが、今はこうしなければならない。

 いや、こうしなければ、いてもたってもいられないのだ。


 一人で無意味なことをしているようにも思える。

 それでも――


美琴「ついた……屋上……!!!」


 ドアを思い切りブチ開け、全速力でコンクリートの床を疾走した。

 真の首領の“真正面”。

 思いっきり息を吸い込み、歯を食いしばり、そのまま――



 壊れた手すりを無視して、屋上から飛び出した――――!!!



 手には何も持っていない。
 コインなどとっくに使い果たした。

 打ち出す弾丸は“そこ”にはない。
680 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/29(水) 23:51:17.65 ID:DNq2VjYo

 肺いっぱいに吸い込んだ息を、一気に吐き出して、叫んだ。

 呼んだ。

 この世で、最も信じている、最も信じてくれている「パートナー」の名を――



美琴「黒子ォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」



 はい――!!



黒子「はい!!! お姉さま!!!!!」



 テレポートで、相棒が弾丸を運んでくれた。

 1メートル四方のUFOの残骸。

 調度いい。
 そっくりそのまま、その空っぽの頭に返してやる。



 電流を纏った拳が、弾丸に叩き込まれた。

 それが、この“銃”の引き金。



 『常盤台の超電磁砲』が、全力全開で撃ち出された――――!!!!



 目標は、ブラッククロス、真の首領の“額”。

 分厚い装甲には、さっきの攻防での焼け跡が残っている。


 もう一度、“連続”で技を叩き込めば、あるいは――――!!
681 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/29(水) 23:52:57.15 ID:DNq2VjYo

 そう、“連続”で叩き込まなければならない。

 何せ分厚い、未知の金属の装甲だ。
 あれを焼き切るには、超電磁砲から間髪入れず、この炎を届けなければならない。


 だが、祈ったところで神は居なかった。


佐天「……っ!!???」


 佐天の行く手を阻むように、黒い龍が現れた。
 大きく口を開け、牙をぎらつかせ、佐天を待ち構えている。

 そんなものの相手をする猶予はない。
 一瞬でも早く行かなければない。

 そんな都合などお構いなく、黒龍の喉からガスが噴出す。

 ガスで、炎が押し戻される。
 勢いを失う。

 間に合わなくなる……!!





佐天「――――え」


 突然――目の前の龍が消えた。

 跡形も無い。


佐天「…………!!!」


 構わない。
 好都合なら、何かを考えている暇など無い。


 もう一度、不死鳥が大きく羽ばたいた。
682 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/29(水) 23:56:35.58 ID:DNq2VjYo

 「……何か?」

 「いや。見事なものだな」


 佐天が通過したあと、そこから数百メートル離れた鉄橋の上に、二人の男が居た。

 一人は、蒼い魔術師の青年。
 そしてもう一人は、漆黒のヒーロー。


アルカール「『オーヴァドライブ』か。時術。実際に見るのは初めてだよ……まぁ、見えてはいないのだがね」

青年「……ここで何をしている」

アルカール「あとは彼女たちに託した。君を守るのが、これからの私の仕事だ」

青年「……」

アルカール「術の発動中は無防備なのだろう?」

青年「ふん……術式を開始する」


 魔術師の青年が、目蓋を閉じ精神を集中させる。


 陰。陽。
 ルーン。アルカナ。
 魔術。妖術。
 心。
 命。

 そして、時と空間。

 相反する全ての属性を併せ持つ、過去現在未来において、唯一の存在。

 蒼い魔術師の、世界の成り立ちに踏み込む禁忌の術式が、この喧騒の中で産声をあげた。


 この術が発動すれば、世界は再び隔絶される。

 二度と間違いが起きないように、青年は慎重に、厳重に魔力を練り上げていく。


青年「間違いは、僕の手で正そう。それが俺の、生き残った者の使命だ……!」
683 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/29(水) 23:58:05.75 ID:DNq2VjYo

美琴「…………来た」


 本当に来た。

 あの子……ああ、本当に……


 超電磁砲が首領の額を穿ち、今弾丸が燃え尽きた。
 その直後――天空を駆け、不死鳥のように舞い戻ってきた。


佐天「おおぉおおおおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 真の首領の、その額に手を伸ばす。

 分厚い装甲が邪魔だ……
 “用”があるのは、その奥だ……!


 心理掌握は言った。


心理『“あの子”、この街の出身らしいわね』

心理『生まれたときから研究所暮らし。物心が付くと同時に能力を発現。以降は軟禁状態』

心理『でも体が弱くてね。それ以上の能力開発に、そっちの方がもたなかったの』

心理『そうしたら研究所の連中は、あの子の“脳みそだけ”を摘出した』

心理『……それだけで十分だってさ』

心理『その後。紆余曲折を経てああなりました。めでたしめでたし』

心理『……あんまりピーピー五月蝿く泣かれると、同じタイプの能力者として恥だから』

心理『さっさと助けて。黙らせちゃってくれないかしら?』
684 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/29(水) 23:59:31.98 ID:DNq2VjYo

 悪の秘密結社に、怪人に戦闘員。

 合点がいった。
 幼稚なはずだ。

 だってその黒幕が、「ただの子ども」だったんだから。


 ただ特異な環境で特異な才能を持ち合わせていただけの、孤独な子どもだったのだ。

 脳みそだけの存在にされて、暗闇で何千何万の時を一人で過ごしてきただけだったのだ。

 つまり――


佐天「寂しかったんだね……だから、みんなが幸せそうにしてるのが、許せなかったんだね……」


 悪の秘密結社を作って、悪い科学者に、幸せな一般人を殺させて。
 そういう自分の遊びに、誰も彼もを巻き込みたかった。

 それもこの、「学園都市」で。


佐天「分かるよ……幸せな……何もかも持ってるような人に、腹が立つ感覚って……」


 でも――


佐天「それは、人に押し付けちゃいけない感情だよ」


 だから。

 いけないことをした悪い子には、お仕置きが必要だ。


 火力を増し、額の装甲を熔かしていく。

 あと少し。

 あと少し。
685 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/30(木) 00:01:58.97 ID:2Jf0oToo

 ここで、さっきは失敗した。


美琴「っ!? ――佐天さんっ!!!」


 地上から見上げていた美琴の目に、また同じ絶望が映しだされた。
 首領の左腕が、額を啄ばむ小鳥を捕まえようと迫る。

 このままでは、またさっきの繰り返し。

 いや、今度はおそらく立ち上がれない。
 美琴も、佐天も。
 これがラストチャンスだ。


佐天「ここまで……来て……!」


 届かない……
 もう少しなのに……

 足りない……?


佐天「私たちだけじゃ……駄目だ……お願い……誰か……」



 誰か――助けて。



佐天「助けてくれたら……私は……絶対に負けないのに……!!」



…………



 ……それは「ポジティブ」というのか?

 まったく、おかしな女だ。



佐天「………………来てくれたんだ……」
686 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/30(木) 00:06:39.04 ID:2Jf0oToo

 黒い炎が、首領の腕を押し返す。


 紅い不死鳥の隣に、黒い凶鳥が現れた。



 「これで負けられないぞ! 涙子!!」

佐天「うん……! メタルアルカイザー!!」



 紅と黒、二つの炎が混じりあい、遂に――――



佐天「届いたぁっ!!!!!!」



 額の装甲をブチ破り、その奥にある、「脳の入ったカプセル」に手を伸ばした――!!!



心理『目玉の上。額のど真ん中に、あの子の「脳みそ」が埋まってるわ』

心理『……本当に……私に言われても困るわよ。ねぇ?』



 そうだろう。

 もし、何の力も無い私が同じことを言われたら、きっと何も出来なかった。



 だから、私は今だけ「借りる」ことにしたんだ。


 助けてみせるさ。


 例え「借り物」でも、少なくとも――

 今の私は『ヒーロー』なんだから!!!
687 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/30(木) 00:08:18.69 ID:2Jf0oToo








 『 空間超電磁空力真アル・ダークフェニックス 』――――!!!!!!!







688 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/30(木) 00:09:38.17 ID:2Jf0oToo

 ………………


 夕日が沈む。


 怪人たちは、その殆どが駆逐された。


 街に燃え広がった炎は、能力者の協力もあり、すぐに消化された。


 残されたのは、瓦礫と化した街。


 疲弊した人々。


 傷ついた人々。


 ……大切な人を亡くした人々。


 もちろん、ここで物語は終わらない。


 悪の組織を滅ぼして、それで「はい、めでたし」とはいかない。



 …………



 佐天が歩き出した。


美琴「待って」

佐天「……」


 その背中を、美琴が呼び止める。
689 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/30(木) 00:10:36.66 ID:2Jf0oToo

美琴「させないわよ」

佐天「何をですか?」

美琴「とぼけないで」


 ……ばれてる。

 そりゃそうか。


美琴「ヒーローの力の“代償”。その“髪”が、ハッキリ示してくれてるわね」

佐天「……仮面、治しとけばよかった」


 佐天の長い髪は。
 長く、艶やかだった“黒髪”は、ところどころが、“白く”脱色していた。


佐天「私の体です。私の命です」

美琴「違うわ」

佐天「好きに……使わせてください」

美琴「違うって言ってるでしょ」

佐天「勝手なこと、言わないで下さいよ……」

美琴「あの技は使わせない。悪の組織がいないなら、もうヒーローは終わりでしょ?」

佐天「終わってません……みんな、助けを求めてる……!!」

美琴「それが何? どうして佐天さんが犠牲にならなきゃいけないの!?」

佐天「それで全部、本当に終わるんです!!」

美琴「そうね! 終わるわよ!! あんたの人生がね!!!」


 どちらも譲らない。
 命を懸けて、この意見だけはどうしても通す。
690 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/30(木) 00:11:42.62 ID:2Jf0oToo

 「佐天さん……」


佐天「――――っ」


 背後から声をかけられ、佐天が、美琴を振り切って走り出した。

 といっても、そんなに速度は出ていない。
 はっきり言って遅い。

 それでも、美琴には追いつけない。

 もう、歩くのがやっとなのだから……


美琴「待ちなさい……!」

 「御坂さん……無理しないで下さい!」

美琴「……ごめん……止められなかった」


 声の主は、ニッコリと微笑む。

 「全部分かってるから」

 そう言いたげな、優しい、包み込むような表情だ。


黒子「お姉さま。行きましょう」

美琴「黒子……でも、どうするの?」

 「どうにかするんです」

美琴「どうにかなるの?」

 「なります」

黒子「駄目ですのよお姉さま。こうなったら、この子はいうこと聞きませんもの」
691 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/30(木) 00:15:14.89 ID:2Jf0oToo

 佐天は、重い足取りで街を徘徊した。

 目に映る全てが、自分に助けを求めているように感じる。
 佐天の、最初から一つしかなかった選択肢が、それでより決定的になっていく。


 行くあてもなく彷徨っていたが、偶然、柵側中学に行き当たり、中に入っていった。

 ここには、思い出が詰まっている。
 “あの子”との思い出が。


 足を引きずって、階段を上っていく。
 4階まで上り、そのまま寄り道せず屋上に出た。

 フェンスに囲まれているが、見晴らしのいい場所だ。


 そこに、三人は先回りしていた。


佐天「何で……?」

美琴「勘だってさ」

佐天「でたらめ……」

黒子「意外とそういうものですわよ? それに、ここは学園都市ですもの」

佐天「何でもあり、ですか?」

美琴「自分だけの現実『パーソナルリアリティ』よ」

黒子「信じれば叶う。そういう場所ですの」

佐天「……」


 ああ、私が無能力者なわけだ。
 そんな風には、今の自分には考えられない。
 自分を信じるなんて出来ないもの。


 でも――――

佐天「……出来るかな?」

 そう尋ねたら、きっと彼女は、こう答えてくれるのだ。
692 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/30(木) 00:16:25.60 ID:2Jf0oToo




初春「 はい! 」




 ……敵わないなぁ。





佐天「いいですか?」

美琴「せーのっ……ね?」

黒子「わっとと!? ……お姉さま、紛らわしいですの」

初春「あはは! じゃあ、行きましょう!!」


 四人で円陣を組んで、輪になるように手を繋いだ。

 目を閉じて、お互いの体温を感じる。
 ドクン、ドクン、と、鼓動が伝わる。

 これが、命の気配。

 ヒーローの力の“代償”。


 ……いや。


 ヒーローの、力の“源”。




佐天「せーのっ!!!」
693 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/30(木) 00:17:08.11 ID:2Jf0oToo










 『『『『 ファイナルクルセイド 』』』』









694 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/30(木) 00:19:36.48 ID:2Jf0oToo

 民家から、男女の声が聞こえてくる。


 「何よレン! あなたっていつもそう!!」

 「エミリア……何が気に入らないんだ?」

 「その落ち着き払った態度よ!! どうせ私のこと、馬鹿な女だと思ってるんでしょ!!?」

 「そんなこと……おい、エミリア――」

 「別れる!!」

 「ちょっと待てよ! エミリア!!」


 ………………


 「痴話喧嘩か」

 「ちわげんか?」

 「人間の男女は、色々と大変なモノらしい」

 「あのふたり、きらいなの?」

 「ん? ……ああ、いや。どうせすぐに仲直りするさ」

 「そうなの?」

 「複雑なのだよ。人間の心は。」

 「ふーん。あなたは、メカなのにそんなことまでしってるんだね」


 そう言って感心する、小さな、丸くて白いロボット。
 その隣で、黒くて細身の、傷だらけのロボットが、肩を揺らして“笑った”。


 「知ってるさ。教えてもらったからな」



 【エピローグ・拝啓! 親愛なる友へ!!】
695 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/30(木) 00:21:01.09 ID:2Jf0oToo

 「あれー? また迷ったかな……?」


 ある日曜日。
 私は親友に誘われ、新しく出来たアイス屋に向かっているのだが……


 「この辺りの筈なんだけどなー……」


 そう呟き、携帯のナビで現在位置を確認する。
 あまり来ることの無い学区のため勝手が分からないが、かれこれバスを降りて三十分。
 流石に迷ったのは間違いないようだ。


 「あ! さっきの道、一本間違えてた……」


 仕方ない、引き返そう。

 それにしても今日は天気がいい。
 だから、今日は平穏無事ないつもの日曜日のはずだ。
 たまには、少しぐらいの回り道は構わないよね。

 そう思って振り返り、気付いた。


「あれ? ここ通れば早く着きそう……」


 携帯の液晶に移された地図と、目の前にある光景を見比べる。
 どうやら、地図上には出ない裏道らしい。

 回り道は、どうやらしなくても済みそうだった。
696 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/30(木) 00:22:09.92 ID:2Jf0oToo

 学園都市は最先端の科学技術に守られている。
 親元を離れ、未成年者が寮暮らしをする街なのだから、それ位のことはやってもらわないと困る。

 しかし、実情は違った。
 毎日、どこかしらで問題が起こっては、それを解決するために風紀委員やら警備員やらが出動する。

 中途半端に『力』を手に入れた輩。
 手に入れ損なってヘソを曲げた輩。

 そういった連中が群れを成して、自分達よりも弱い人間で憂さを晴らす。

 それが学園都市の日常茶飯事だった。

 そういった事件の多くは、私が今歩いているような、薄暗く小汚い路地裏で起こる。


 「よう。どこ行くんだい?」

 「……」


 ほら。言ったとおり。

 たちの悪い連中が、ずらりと周囲を取り囲んだ。


 「ちょっと俺たちと遊ぼうや。なぁ?」

 「へっへっ! ガキだけど、まぁ上玉じゃねぇの?」


 ……ロリコン野郎。


 面倒だが、仕方ない。

 こういうときは――――


 「お−い! お待たせー!!」


 そこへ、割って入ってくる奴がいた。
697 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/30(木) 00:23:08.04 ID:2Jf0oToo

 「あん? 何だぁ?」

 「すみませーん。ウチのツレがお世話になったようでー……」

 「……ちょっと待てよオイ」

 「それじゃ! 失礼しまーす!!」


 そいつは、私の手を掴んで一気に走り出した。


 「ちょ、ちょっと! 私は――」

 「いいからいいから!」


 そして路地を抜けて、その先の広い公園へ出た。
 差し込む太陽が眩しい。

 当然、連中が後を追ってくる。

 だが――


 「ジャッジメントですの!」

 「大人しくお縄について下さい!」


 二人の少女が――正確には一人の少女が、不逞の輩を一網打尽にした。

 手際がいい。
 流石は――私のパートナーを名乗るだけのことはある。


美琴「お疲れ黒子」

黒子「はぁ……何故わざわざ問題を引き連れてきますの……?」

美琴「私の所為じゃないわよ。ねぇ?」


 私は、親友に同意を求め、振り返った。
698 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/30(木) 00:24:38.91 ID:2Jf0oToo

 そこにいたのは、スキルアウトに囲まれる私を颯爽と救い出した正義の“元”ヒーロー。

 長く“白い”髪が、日光に照らされてキラキラと輝いている。


美琴「……それも似合ってるよ」

佐天「あはは! 無理しなくてもいいですよ! ほら、生え際の辺りちょっと黒いんですよ!」

美琴「そう。なら、すぐに黒い佐天さんも見れるのね」

佐天「『黒い佐天さん』って……初春じゃないんだからそんな黒い感じじゃないですよ、私は」

初春「……どういう意味でしょう、佐天さん?」


 佐天さんの力は、完全に失われた。

 あの後。私たち四人が仲良く気を失っている間に、アルカールさんが回収してしまったらしい。
 今の佐天さんは、街を救った“証”を残すだけで、今までどおり、ただの女の子に戻っている。


黒子「固法先輩に引き継いで来ましたわ」

初春「お疲れ様です白井さん。先にアイス食べてますよ」

黒子「ぬが!? ちょっとは待ってくれても良くありませんの!!?」

美琴「さっさと来ないからよ」

黒子「元はといえば……! ぬ、ぐぐ……我慢ですのよ黒子……!!」

佐天「あはは!」


 私たちの町は救われた。

 彼女は、最強の英雄なんかではなかったけれど。
 英雄なんてガラじゃなかったけれど。

 そんなことはどうでもいいのだ。
 ヒーローとして落ちこぼれでも、全然構わない。



 落ちこぼれのヒーローは、私のかけがえのない友達なのだから。
699 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/30(木) 00:25:31.40 ID:2Jf0oToo





700 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/30(木) 00:26:04.58 ID:2Jf0oToo



 ここに悪は滅びた!


701 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/30(木) 00:26:35.24 ID:2Jf0oToo



 しかし


 あらたなる敵がぼくらの街を襲う!


702 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/30(木) 00:27:06.43 ID:2Jf0oToo



 正義は!?


703 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/30(木) 00:27:34.88 ID:2Jf0oToo



 Does justice ever exit?


704 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/30(木) 00:29:13.50 ID:2Jf0oToo

 ……あるところに、最強の少年が居た。


 少年は『最強』を越える『無敵』を目指し、人を殺し続けてきた。


 だが、あるときそれをスッパリ止めてしまう。


 当然、彼の仲間だった男は怒り、その原因となった少女を殺害してしまった。
 さらに、彼女らのリーダーである少女に細工を仕掛け、抹殺しようと企んだ。


 少年をそれを阻止するため奔走し――



 『無敵』どころか『最強』どころか、『普通』の生活までも失った。



 もはや、一人で生きることも出来ない彼を、少女達は、懸命に救おうとした。


 そして――




 「目を覚ましたまえ、『アクセラレータ』。いいや……」




 少年は、再び力を手に入れた。


 愛すべき、少女達を守る為。

 全ての罪を償う為に――!!
705 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/30(木) 00:30:15.36 ID:2Jf0oToo



 【新番組】!



 【超能力戦士・アクセラレータ3X】!!


706 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/30(木) 00:30:59.89 ID:2Jf0oToo

 Coming soon…
707 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/30(木) 00:31:58.65 ID:2Jf0oToo



 佐天「変身! アルカイザー!!」 

                          完


708 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/30(木) 00:33:22.56 ID:2Jf0oToo

 【大補足】

 ・真の首領について。
  原作、サガフロンティア・レッド編のラスボスです。
  原作では正体不明。
  幻覚は全体状態異常技の『超凝視』で、本来はあらゆる状態異常や即死効果のある技です。
  凝視技はヒーローには効かず、佐天さんや耐性がありそうな人は逃れることが出来ました。
  『ジャッジメントX』は真の首領専用の全体大ダメージ技。
  演出のUFOの集団をそのまま登場させました。
  あと原作ではそんなにデカくないです。

 ・蒼いローブの魔術師の青年について。
  サガフロンティアの主人公の一人、ブルーです。
  時の君や麒麟を殺して、その術を奪いました。
  双子の弟と合体して全ての術を使える唯一の人間になっています。
  このSSは、彼がラストダンジョンから無事生還したあとの話です。

 ・アルカイザーについて。
  ヒーローの力の源だとかの話は完全に創作です。
  原作では、普通にアルカールがヒーローの力を剥奪していきます。
  白髪にもなりません。
  あまりにも万能設定過ぎたので、これはいかんと思い作った設定でした。

 ・新番組。
  原作のエンディングのパロディ。
  本当はもっと本格的に、一方通行が演算補助用駆動鎧「T260G」になる設定を考えていました。
  悪乗り過ぎるし、長くなるから没です。
709 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/30(木) 00:36:46.32 ID:2Jf0oToo

 ・このSSについて。
  佐天さんが主人公の長編クロス物を書こうと思い、サガフロのパッケージが目に留まりました。
  最初の発想は「アルカイザーになった佐天が美琴と戦って不満をぶちまける話」でした。

  このSSを書くにあたり、絶対に順守しようと思っていた決まりがありました。
  それは「佐天の成長物語にはしないこと」です。
  僕の中で佐天というキャラクターは、「普通に駄目な子」です。
  だから、作中でも頻繁に「落ちこぼれ」だの「無能力者」だの悪く言ってきました。
  彼女は原作第一話から、子どもを守るために強盗に立ち向かうなど、突発的な行動力や、
  人を気遣うことのできる優しさをもっていました。
  でも、どうみても努力を続けているようには見えず、絶えず不平不満を口にする弱さを持っています。
  そういう等身大のキャラクターだからこそ、佐天さんは魅力的なのだと思うわけです。
  だから、「駄目な佐天に誰かが説教かまして更生させる話」にだけはしたくなかった。
  美琴との喧嘩のシーンも、説教ではなくて「お姉さんに相談してみな?」的なイメージです。
  初春を守ろうと頑張ったり、美琴と喧嘩したり、メタルブラックと仲良くなったり。
  そういう「友情のために頑張る駄目な子の話」のつもりで、このSSを書きました。

  ちなみにこのSSのヒロインは初春です。
  美琴と佐天のコンビも好きだけどね。


  とりあえずこんなもんです。
  初めての長編SSの執筆でしたが、無事終えることができました。
  これも、読者の皆様のおかげです。
  今後長編を書く予定はありませんが、創作活動は続けるつもりです。

  このスレはしばらく残しておきます。
  ひょっとしたら、サガフロと禁書関係の短編でも書くかもしれません。

  最後に、原作である名作、サガフロンティアと禁書目録、超電磁砲に敬意を表して。


  ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございました。
710 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 00:45:25.07 ID:at3H5cAO
乙、面白かったこの一言に尽きる
このSS読めて本当良かったわ
711 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/30(木) 00:50:19.08 ID:2Jf0oToo

前回もレスを返せていなかったので、これからまとめて返させていただきます。

>>622
本当にちょい出でした。
垣根やら削板の出番も考えていましたが、尺が足りないので全面カットでした。
ここまで読んで頂きありがとうございます。

>>623>>624
毎回特徴的な文体と挨拶で感想を頂き、ありがとうございました。
いいリアクションを頂けると、書き手としてはこれ以上無いほどやる気が出るものです。
毎日更新をチェックして頂いていたようで、それも嬉しく思っています。
また、どこかで会えることを期待しております。

>>642
洗脳幻覚の類はハッキリ言って反則かと思いました。
ズルイですよね。能力的にもお話的にも。
リアルタイムでレスを頂くことも喜びの一つでした。ありがとうございます。

>>655
はいチートでした。
書き始めた当初から予定していた展開でしたけどね。
ご感想いただき、ありがとうございます。

>>656
その一言で十分です。
ありがとうございました。

>>657
佐天さんは、能力者としてはともかく、きっと何か得たものはあった筈ですね。
オーヴァドライブからのコンボは……まぁ、ご想像にお任せします。
楽しんで読んで頂き、ありがとうございます。
712 : ◆S7msF7zQV2 [saga]:2010/12/30(木) 00:54:53.21 ID:2Jf0oToo

>>710
そこまで言っていただけると、こちらとしても書いたかいがあるというものです。
最終回をリアルタイムで読んで貰えたのでしょうか?
僕もその一言が聞けて、本当に良かったです。


では、また会いましょう。
ここまで読んでくださった全ての読者様へ、感謝を送ります。
713 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 02:48:20.76 ID:nGwfzIAO
ぶっちゃけ両方全然詳しくないが楽しめたぜ乙
714 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 06:25:27.81 ID:NdMzEC2o

この一ヵ月半ずっと楽しませてもらったよ
佐天さん好きとしては>>709みたいなこだわりが感じられて良かった
次の作品にも期待してる

アーカイブスでサガフロ落としてプレイしたけど、敵が強くなりすぎてどこへも進めなくなってしまったぜ…
715 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 10:41:39.98 ID:at3H5cAO
>>714
クーロンの下水道とか一部敵ランクが一定値以上上がらない所で鍛えれば大丈夫なはず
716 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 17:50:59.85 ID:i7WeoH5Ko
>>714
1.金を密輸して稼ぐんだ!
2.がんばって時間妖魔のリージョンまで行くんだ!
3.鍛え放題、やったねたえちゃん!
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