このスレッドはSS速報VIPの過去ログ倉庫に格納されています。もう書き込みできません。。
もし、このスレッドをネット上以外の媒体で転載や引用をされる場合は管理人までご一報ください。
またネット上での引用掲載、またはまとめサイトなどでの紹介をされる際はこのページへのリンクを必ず掲載してください。

QB「魔法少女になってよ」らんま「てめー、ぶん殴られてーか?」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

1 : ◆awWwWwwWGE :2011/09/25(日) 14:52:51.22 ID:sF5yimZr0
本スレはらんま1/2とまどかマギカのクロスオーバースレです。

創作発表板から移転しました。
【 このスレッドはHTML化(過去ログ化)されています 】

ごめんなさい、このSS速報VIP板のスレッドは1000に到達したか、若しくは著しい過疎のため、お役を果たし過去ログ倉庫へご隠居されました。
このスレッドを閲覧することはできますが書き込むことはできませんです。
もし、探しているスレッドがパートスレッドの場合は次スレが建ってるかもしれないですよ。

【ミリマス】松田亜利沙が写真撮影を依頼される話 @ 2020/11/27(金) 00:00:13.36 ID:zlRaz8c80
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1606402813/

麦野「好きな男を攫って物にするのは暗部の常識でしょ」 @ 2020/11/26(木) 22:36:47.62 ID:Or8qE2Zw0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1606397807/

■ A雑総督府/萌竜会本部 ■ @ 2020/11/26(木) 21:20:36.48 ID:Fd6AGtjl0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1606393236/

アプリで付き合ったことあるやつちょっと来い @ 2020/11/26(木) 11:58:41.98 ID:W4Ao5errO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1606359521/

三葉ムツミ「どうにかしてタカトシ君をオカズにしたい」 @ 2020/11/25(水) 23:58:30.68 ID:HVJ4KGRV0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1606316310/

リーネ「芳佳ちゃん、何それ?」 芳佳「耳かきだよ」 @ 2020/11/25(水) 23:12:25.11 ID:euR5DOCUO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1606313545/

【モバマス】はっぴーばーすでーとうまいふれん @ 2020/11/25(水) 20:28:56.65 ID:bNcP7q9DO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1606303736/

侑「あれ?ここどこだっけ?」かすみ「私が先輩を支えます!」 @ 2020/11/25(水) 18:45:57.05 ID:yiYqiAfTO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1606297557/

2 : ◆awWwWwwWGE :2011/09/25(日) 14:56:20.19 ID:sF5yimZr0
一人の少女が暗い路地裏を一人で歩いていた。

中学生か高校生ぐらいだろうか、大人以上に育った胸を窮屈そうに制服にしまいこんでいる。

その手のひらには黄色い石が乗せられていた。

石は、裏路地のわずかな明かりを反射して鈍い光を放つ。

「反応なし…ね。」

独り言を小さくつぶやき、少女はあたりを見回した。

闇の中で鮮やかな金髪が輝き、縦ロールが小さく揺れる。

「…あっ」

少女は何かに気がついたように急に立ち止まった。

人気のない裏路地とはいえ、繁華街の一部だ。

メインストリートのざわめきが鳴り響き、小さな音はほとんどかき消されてしまう。

しかし少女は鋭く、ほんの小さな音を、ごくわずかな気配を見逃さなかった。

「出てきて、怖がらなくていいから。」

少女は中腰になり、ビルの室外機に視線を向けた。

そしておだやかな表情で微笑む。

「ぴっ!?」

小動物らしい高い声がした。

少女はゆっくりと足音を殺して室外機の裏に回り込む。

そこには黄色いスカーフを巻いた小動物がいた。

小柄な体躯、平べったい鼻。猫でもない、犬でもない。

「あら、珍しい。」

少女は思わずうれしそうな声を上げた。

ぶっそうな裏路地を徘徊する行動とは裏腹に、歳相応の少女らしく可愛いものは好きなようだ。

なかば強引に、少女はその小動物を持ち上げる。

「かわいい小豚さんね。」

その小動物…黄色いスカーフを巻いた小豚ははじめはジタバタと抵抗していたが、少女の胸に抱きしめられると急におとなしくなり抵抗をやめた。

(どうしよう?)

少女は小豚をながめながら首をかしげた。

街では普通見ることもない小豚、しかも黄色いスカーフが首に巻かれている。

ほぼ確実に誰かのペットだろう。

近くに飼い主らしき人は見当たらない。

この場合、やはり警察に預けるべきだろうか。

しかし、少女としては警察に届けるのは気が引けた。

そのひとつの理由はこの可愛い小豚を少しでもながく愛でていたいということ。

そしてもうひとつ、女子中学生が夜中に一人で裏路地をうろついていたと
分かれば、補導されかねないということだ。

優等生として知られている少女は、できればそういう事態は避けたかった。

(一日くらい預かっても、悪いことにはならないわよね?)

庇護欲と規範意識のはざまで、少女はこの小豚を自宅に連れて帰ることにした。
3 :らんまマギカ1話2 ◆awWwWwwWGE [sage:副題「良牙氏ね」]:2011/09/25(日) 14:59:44.74 ID:sF5yimZr0
住宅地の中にある家族向けマンションの、『巴』というプレートのある部屋に少女は入っていく。

「おなか減ってるでしょう? ちょっと待ってて。」

少女は、小豚をリビングに下ろすと台所に向かった。

そしてしばらくしてスープ皿に入れたミルクを小豚の前に置いた。

「ぴぃ?」

小豚は戸惑ったように、上目づかいで少女を見つめる。

少女は小豚の視線に、にっこりと微笑みを返した。

すると小豚は意を決したようにミルクを舐めはじめた。

ミルクは弱めにレンジで温めている。

この温度ならおなかを壊すことはなく、熱くて飲めないようなこともない。

ミルクひとつにもなかなか気配りがきいている。

「あら?…変な子ねぇ」

少女はつぶやいた。

なぜなら、小豚はまるで感動したかのように目から涙をこぼしつつ、 ミルクをすすっているのだ。

人間以外の動物も、ホッとしたり安心したときに涙を流すのだろうか?

少なくとも少女の知識の中において、そんなことはない。

動物が涙を流すのは乾燥や汚れから目を守るため――

(あっ!)

少女はふいに何かに感づいた。

「ちゃんと体を洗ってあげないと目も痛いわよね。ごめんね、すぐに気づかなくて。」

「ぴっ ぴ!?」

小豚はあせるように声を出したが、少女は気にも留めず、風呂場へ行った。

シャワーの音が小豚の耳に壁越しに聞こえる。

少女は、再び小豚の前に現れると身構えさせる間もなくつまみ上げた。

「ぴーっ! ぴーっ!」

小豚は激しく抵抗するが、少女はただの女子中学生とは思えない強い腕力で押さえつけてくる。

「大丈夫よ。お風呂ってとっても気持ちいいんだから、怖がらないで。」

そして、少女は小豚を風呂場へ運び、浴槽に浅く張られた湯の中に放り込む。

少女は小豚の様子をろくに確認もせずに、すぐに風呂場の扉を締めて着替え始めた。

「ちょっと待っててね。わたしも一緒にシャワー浴びるから。」

いそいそと少女は衣服を脱ぐ。

可愛いペットと一緒にお風呂、そんな平和な日常に少女は憧れていた。

だから、こうして気持ちをはやらせる。

少女はそそくさと衣服を脱ぎ捨て、そして再び風呂場の扉をあけた。

 ガチャリ

「…」

「…」

扉を開ける音を最後に、空気が固まった。

おかしい。

お風呂場には可愛い黒い小豚以外いないはずだ。

では、今目の前にうつるこの青少年は何なのか?
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/09/25(日) 15:03:40.52 ID:MKyW8e0AO
期待
5 :らんまマギカ1話3 ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/09/25(日) 15:04:05.31 ID:sF5yimZr0
 ガチャン

少女はいったん扉を閉めて、大きく深呼吸をした。

(おちつくのよ、マミ。魔女との戦いで疲れたからってあんな幻覚をみることないじゃない。冷静に、冷静になるのよ。)

気を取り直してもう一度、少女は扉を開ける。

 ガチャリ

そこにはやはり、全裸の謎の青少年が居た。

いや、正確には全裸ではなく頭に黄色いバンダナを巻いているが。

「そ、そのっ! せめて服は着るべきだと思う。」

謎の青少年は目を泳がせながら言った。

(しゃべった!? これはわたしの幻覚じゃないの?)

だとすれば一体…

「あっ!」

ここにきてようやく、少女は自分が男子の前に裸体をさらしているという事実に気がついた。

「きゃああああっ! チカン! 変態!」

金切り声をあげ、凄い勢いで少女は風呂場から逃げ出した。

**************************

「…変身体質?」

けげんな顔で、少女は言った。

「俺だってこんなバカバカしい話、信じたくもない。だがな―」

少女と向かい合う青年は、そう言って自分の頭にマグカップの水をかけた。

 コンッ

マグカップが宙を舞って床に落ち、青年の姿は消えた。

その代わりに、黒い小豚が青年の座っていた場所に現れる。

「信じられない…けど、信じるしかないみたいね。」

少女はその小豚に、こんどはヤカンのお湯をかけた。

立ち上がる湯煙に隠れるように、先ほどと同じ青年の姿が浮かび上がる。

「でも、どうしてそんな体質になったんですか?もしかして、魔女の呪い…?」

少女は質問した。

少女にはこういった非常識なことには少しだけ心当たりがあったからだ。

「いや、そんなメルヘンなものじゃない。」

しかし青年はきっぱりと否定した。

きっと『魔女の呪い』をおとぎ話か少女アニメの中のものだと思っているのだろう。

「俺はこう見えても武闘家でな、修行の旅をしている。こんな体質になってしまったのは、中国で修行をしていた時に呪いの泉とやらに落ちてしまったせいだ。」

『呪いの泉』それこそが魔女の呪いではないのか、少女はそう思ったが口には出さなかった。

この世に実在する魔女のことを語ったところでどうせ少女アニメにでも影響されたおかしな子だとしか思われない。

相手の言っていることも非常識なのだから信じてもらえるなどと余計な期待はしない方がいい。

人は、見たものしか信じないのだから。

私だって、見なければ彼の変身体質など信じようとも思わない。

そう考えて、少女はこれ以上話すことはないと判断した。
6 :らんまマギカ1話4 ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/09/25(日) 15:07:03.04 ID:sF5yimZr0
「そうなんですね。…いきなりさらっちゃった上にチカン扱いしてしまってすいませんでした。」

少女は話を終わらせるためにまとめはじめる。

「いや、むしろ世話になったな。服まで借りてしまって。」

青年も長居をするつもりはないらしい。

話が終わったと判断してそそくさと立ち上がる。

「いえ、着る人のいない服ですから。もらってくれて構いません。」

「じゃあな、ミルクうまかったぜ。」

青年は手を振って玄関から外へ立ち去った。

(『ミルクうまかったぜ』か…)

少女はそんな台詞を堂々と男らしく言う青年におかしさを感じた。

(でも、悪い人じゃなかったみたいね。)

もしかしたら秘密を打ち明けても信じてもらえたかもしれない。

そんなほのかな後悔が少女の胸に去来する。

「名前ぐらい、聞いておいてもよかったのかな?」

ひとりぼっちの広い部屋で、少女はちいさくつぶやいた。

「あかねさん…」

重い荷物を背負いながら、男はちいさくつぶやいた。

男は見知らぬ町を歩いている。

右も左も分からない、まるで迷路のような町だ。

こんな状況の時、彼の心をはげますもの、それは今口ずさんだ『あかね』という女性の存在だった。

しかし今日は不思議と『あかねさん』の顔は思い浮かばなかった。

かわりに一昨日会った少女の顔が思い浮かぶ。

少女といってもおそらく2つか3つぐらいしか歳は変わらないだろう。

小豚となった自分をもてなしてくれた優しい少女だった。

正体を知っても丁寧に対応してくれた。

もしご両親にでも見つかっていればえらいことになっただろうに…

そこまで考えたところで、男の頭の中に疑問が浮かんだ。

なぜあの時、彼女の家族はいなかったのか?

独断でペットを拾ってきたというのに誰かをはばかる様子もなく堂々と自宅に入っていったのはなぜか?

それに貸してくれた男性物の衣服についても「着る人がいない」と言っていた。

もしかして、彼女は家族もおらず、ひとりで暮らしているのだろうか?

男は、少女に同情をいだいた。

何ヶ月も親が家に帰ってこない、彼はそんな家庭環境で育ってきた。

男子らしいたくましい態度していながら、男は孤独に暮らすことの寂しさをよく知っていたのだ。

「…」

『あかねさん』の名をつぶやくように、男は少女の名前をつぶやこうとしたが
できなかった。

少女の名前を知らなかったからだ。

「名前ぐらい、聞いとけばよかったな。」

男はそんな独り言を虚空に放した。
7 :らんまマギカ1話5 ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/09/25(日) 15:10:27.74 ID:sF5yimZr0
あたりは人気のない倉庫街。

何の答えも返ってくるはずもない。

しかし、異変は起こった。

突如、目の前に西洋の城のような岩壁が広がり、ニョキニョキと地中から石柱が生えてくる。

「な、なんだ、これは!?」

あまりのわけの分からなさに混乱する男のまわりに、石柱がまるで生き物のように集まってきた。

よく見れば空中にもいくつかの石柱が浮かんでいる。

いつの間にか彼は、すっぽりと石柱に囲まれてしまった。

(よく分からんが、なんだかやばそうだ。)

男は、迷わず石柱に人差し指をぶつけた。

「爆砕点穴!」

叫び声と同時に石柱はこっぱみじんに砕け散る。

「よし、いける!」

そう判断した男は、次々に石柱を破壊していった。

指に触れただけで硬い石が粉々になっていく。

もしこの場に第三者が居たなら、この異空間に負けず劣らず男の存在も異様に感じたことだろう。

ついには無数にあった石柱のほとんどが消え去り、巨大な甲冑が男の目の前に現れた。

「お前がこいつ等のボスか? なんだか知らないがここから出しやがれ。」

彼の身長の何倍もあろう相手にも、男はまったくひるむことなく凛として言った。

しかし甲冑は聞く耳もないといった様子で、巨大な剣のような腕を男に振り落とす。

それに対して男は、なぜかベルトをするするとズボンから抜いた。

そして、頭上へと落ちてくる馬鹿でかい刃物に対してそのベルトを振りかざす。

不思議なことに、ベルトは鋼鉄のように固くまっすぐに伸び、丈夫な短刀となって巨大な剣を止めた。

「妖怪ふぜいが、俺にケンカを売ったことを後悔しな!」

男は甲冑妖怪の刃物状の腕を払いのけると一気にそのふところに飛び込んだ。

そして、甲冑妖怪をベルトで滅多切りにする。

しかし、斬れているのは外側の布切れの部分だけで、内部の鎧はほとんど傷ついていない。

「くっ、硬い!」

男がそうしている間にも、甲冑妖怪は両腕をクロスさせて男を逃がさないようにしながら、その刃物のような腕で抱きしめようとする。

もちろん、抱きしめられたら男は十字型の切り後を残して四つに裂かれることだろう。

「…まったくムカつくぜ。なんでこんなわけのわからないことに巻き込まれなきゃならねーんだよ。」

男はベルトでの攻撃をやめ、うつむき立ち尽くす。

甲冑妖怪はそれをあきらめととったのか、一気に腕を内側に、男を切り刻むように抱きつこうとした。

その時、

「獅子咆哮弾!」

強大な閃光が立ち上がり、とてつもない重量をもって甲冑妖怪の頭上に降り注いだ。

甲冑は押しつぶされ、周りの地面が隕石の落ちた後のクレーターのように大きく陥没する。

「…ふぅ」

閃光が去り、男はため息をもらした。
8 :らんまマギカ1話6 ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/09/25(日) 15:13:02.20 ID:sF5yimZr0
足元に転がる甲冑はもはや原型をとどめず、ただの鉄くずに成り果てていた。

男はあらためてあたりを見回す。

相変わらず、あたりは城壁に囲まれた中世欧州の城のようになっている。

「ボスを倒しても元にもどらないのか。」

男はわずかにいらだちを見せたが、それはまるでショッピングモールの出口が分からなくなった程度の気軽さだった。

さきほどの戦闘になど恐怖も不安も全く感じていないのだ。

「あぶないっ!魔女を相手に油断しないで!」

ふいに、どこかで聞いたような声が響いた。

あたりを振り返ると、さきほどの甲冑がぼろぼろの体をもたげて腰ぐらいまで立ち上がっている。

「しぶといっ。」

そう言った男が再び戦闘態勢に入るより早く、黄色い光線が甲冑妖怪を包んだ。

「ティロ、フィナーレ!」

こんどこそ甲冑妖怪は霧散し、まるでペンキで壁を塗り替えるようにあたりの風景が変わった。

そこは元の倉庫街だ。

男は妖怪を倒してくれた人物に礼を言おうとその姿を探す。

すると、鮮やかな金髪の少女が目に入った。

「あっ あなたは!」

「おまえは!?」

男と少女の声がかぶった。

男は茂みに隠していた自分の荷物から衣服を出して着替えていたし、少女も西洋のアンティーク人形のような格好をしている。

それゆえ以前にあったときとは全く格好が違い、互いに近づくまで気づかなかった。

しかし、近くで見ればはっきり分かる。

それほど互いに印象的だったのだ。

少女は先日、小豚状態だった男をもてなしてくれたその少女だった。

*********************

「俺の名前は響良牙、前にも言ったように武闘家だ。」

「私は巴マミ、信じられないかも知れませんが魔法少女です。」

闇夜の中、二人は改めて自己紹介をした。

「僕の名前はキュゥべえ、魔法少女を作り、サポートするのが仕事さ。」

そして、巴マミの肩の上に乗った小動物も自己紹介をする。

動物がしゃべっていることに若干の違和感を感じながらも、良牙は話を続けた。

「しかし、いったいあの化け物はなんだったんだ?バラバラに砕いてやったはずなのに蘇りやがった。」

獅子咆哮弾で決着がつかなかったことが、良牙にとっては少々屈辱だった。

彼はそれだけ戦いや強さにプライドを持つ人間だった。

「あれは魔女と言って、人々に災いをもたらすものです。魔法少女はあの魔女を倒すことが使命なんです。」

「魔女は魔法じゃないと倒しにくいようになっているからね。僕にとっては魔法を使わずに魔女を倒せる君の存在の方がおどろきだよ。」

マミとキュゥべえがそれぞれ問いに答える。

「魔法じゃないと倒しにくい?ちょっとキュゥべえそれはわたしも初耳よ。」

マミは責めるように言ったが、あまり真剣に怒っている様子ではない。

気心の知れた相手だからできる軽口なのだろう。

「いや、俺が倒したわけじゃない。」
9 :らんまマギカ1話7 ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/09/25(日) 15:15:30.61 ID:sF5yimZr0
「同じさ。あと二、三発もさっきの技をすればあの魔女は良牙ひとりで倒せていたよ。」

そういうものなのか、と良牙はどうもすっきりしない感じがした。

自分が三発以上必要な敵を巴マミは一撃で倒してしまったのだ。

巴マミが自分よりも数段強いとすればそれで納得するしかないのだが、どうもそうではなくて相性の問題らしい。

「ところで、どうして良牙さんはまだこの町に? 旅をされてるって・・・?」

今度はマミの方から質問が出た。

もっともな問いだ。

あれから二日経ったのに、流浪の生活を送っているはずの良牙とまたこの町で出会うなんて普通は考えられない。

「え、なに! もしかして、ここはまだ見滝原なのか!?」

なぜか良牙は激しく狼狽した。

「もしかしても何も、わたしの家から200mほどしか離れてませんよ。」

良牙が何をあわてているのか分からないが、マミはとりあえず冷静につっこんだ。

「そんなっ! もう何ヶ月も風林館を目指していると言うのにぜんぜん近づけない!」

「風林館ならそんなに遠くないじゃないですか。…もしかして、わたしのことバカにしてるんですか?」

良牙のわけの分からないオーバーリアクションにマミは腹を立てた。

それに対してキュゥべえは冷静に、良牙に質問をする。

「良牙、つかぬことを聞くけど、君はここからどうやって風林館に行く気だい?」

「そりゃあ、富士山が北にあるから、日の昇る方向へ歩いて―」

良牙はおそろしく大雑把な脳内地図を披露した。

しかも冗談めかしてではなくいたって真顔でそれを言っているのだ。

常識を超えたトンチンカンぶりにマミはあきれ果てた。

こうなれば一瞬でも腹を立てた自分がバカらしくなってくる。

「うん、良牙が方向音痴なことはよく分かったよ。」

「なにっ!? なんで分かったんだ?」

良牙の真剣な表情に、もはやマミもキュゥべえもつっこむ言葉すら見つからなかった。

「…ところで、良牙。僕は君の強さとさっきの技に興味があるんだ。」

間が空いたところで、すかさずキュゥべえは話題を変える。

「そこで提案なんだけど、もうしばらく見滝原に居てくれないかい?」

突然のキュゥべえの提案に、良牙もマミも目を丸くした。

「そんなこと言われても、宿を借りる金なんざないぞ。」

良牙は率直に答える。

「だったら、マミの家にいれば良いじゃないか。」

キュゥべえはけろっと言い放った。

「キュゥべえ、なに言ってるのよ!」

「そんな無茶なことできるかっ!」

マミも良牙もあわてて否定した。
10 :らんまマギカ1話8 ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/09/25(日) 15:17:45.15 ID:sF5yimZr0
「いやいや、別に無茶な話ではないよ。良牙は変身体質なんだろう?夜寝るときには良牙が変身していれば問題ないんじゃないのかな?不安なら僕も一緒に居るよ。」

「…それなら、安心だけど。」

マミは愛らしい小豚の姿を思い出し、思わずそう答えてしまった。

「マミにとって、彼ほど強くてしかもグリーフシードを消費しない味方がいるのは凄く心強いと思うよ。魔女との戦いはずいぶんやりやすくなるハズだ。」

キュゥべえの言葉に、マミは納得したようにうなずく。

秘密を共有し、ともに戦える仲間。

それはマミが心の底で求め続けてきたものだった。

図らずもそれが今、手に入るかもしれないのだ。

「良牙にとっても十分なメリットがあると思うよ。魔女との戦いは君にとって良い修行になるはずだし、風林館に行きたいのなら僕かマミが暇なときにでも案内してあげられる。それに流浪の野宿生活も良いけどさ、屋根の下でゆっくり眠ることも時には必要なんじゃないのかな?」

良牙もまた、キュゥべえの言葉に心が動いた。

魔女との戦いに納得がいっていないのがその理由のひとつ。

それに良牙は流浪の旅と言ってはいるが、実は方向音痴ゆえにろくに家にも帰れないので結果的に流浪の旅になっているに過ぎない。

修行のためというのは完全な後付だった。

だから屋根の下でちゃんと寝ることのできる生活というものには誘惑される。

「どうだい、二人とも?」

すでに勝利を確信したキュゥべえが改めて返答を求めた。

「え…」

「えっと…」

「「よろしくお願いしますっ!」」

良牙とマミは声をはもらせて互いに頭を下げる。

こうして、魔法少女と武闘家の奇妙な同居生活が始まった。
11 : ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/09/25(日) 15:19:03.15 ID:sF5yimZr0
1話ここまで。
出てきた魔女は、おりこマギカ出典の「鎧の魔女・バージニア」です。
12 :らんまマギカ2話1 ◆awWwWwwWGE [sage:副題「メタ発言は控えめに」]:2011/09/25(日) 15:23:17.92 ID:sF5yimZr0
響良牙と名乗る武闘家との出会い。

それは巴マミにとって驚きの連続だった。

変身体質もさることながら、その高い戦闘力はどうしたものか。

彼女は魔女の結界での良牙の戦いを遠巻きに見ていた。

魔女の使い魔に囲まれているから急いで助けようとした矢先、彼は自力で次々と使い魔を倒していった。

しかもその倒し方がすさまじい。

指先ひとつで触れるだけで防御力に優れた石柱型の使い魔がこっぱみじんに砕け散るのだ。

そして、ベルトを剣のようにして魔女の攻撃を防ぎ、さらには巨大な光を出して魔女をぺしゃんんこにしてしまった。

マミははじめ、男性のような体格をした魔法少女なのかと思った。

しかし近づいてみてみれば紛れもなく男性、それもつい先日会ったことのある青年だったのだ。

その日の晩はかなり長く情報交換が続いた。

魔法少女と武闘家、お互い未知との遭遇だった。

良牙によれば、魔女を倒した光やベルトを硬直させたものの正体は魔法ではなく「闘気」なのだという。

(まるで少年漫画ね。)

マミはそう思った。

気の概念の源流は格闘技にあるのだが、そんな知識をマミはもたない。

マミにとっては闘気で攻撃するなど漫画の中の話でしかなかった。

そういえば、良牙の武闘家としてひたむきに強さを求める姿勢や常識はずれな方向音痴もどことなく漫画っぽい。

(少年漫画からそのまま飛び出してきたような人…)

そう考えてマミはつい笑ってしまった。

良牙が少年漫画から飛び出てきた人間なら、わたしは少女漫画だ。

彼と対比することで自分の存在もまたありえないことをマミはあらためて実感した。

マミは良牙に、魔法でリボンを自在に操り紅茶を注いでみせた。

さすがの良牙も目を丸くしていた。

マミはリボンにもポットにも指一本触れずにお茶を注いだのだ。

格闘新体操の達人でも触れもせずにリボンを操ることはできないし闘気でティーポットを動かそうとしても、逆にティーポットを粉砕してしまうことは目に見えている。

だから、魔法と信じるしかない。それが良牙の見解だった。

もともと不思議なものには慣れっこなので別段おどろきもしないらしい。

ただの闘気や手品でないとだけ分かれば良牙にとってはそれで十分だったのだろう。

一方キュゥべえの興味は良牙が魔女を倒すために使った技、獅子咆哮弾にあった。

良牙の説明によれば、獅子咆哮弾は単純な闘気のかたまりではなく負の感情を重たい気に変化させて威力を増す技だという。

それを聞いたキュゥべえは「やはりそうか!」となにやら納得していた。

キュゥべえの言うには負の感情を力に変える獅子咆哮弾は負の感情のかたまりである魔女に近いところがある。

そのため、威力のわりに魔女にはとどめになりにくいらしい。
13 :らんまマギカ2話2 ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/09/25(日) 15:25:51.53 ID:sF5yimZr0
(でも、それだけじゃ無さそうね。)

キュゥべえが魔女や魔法少女以外のことに興味を持つのは珍しい。

付き合いの長いマミでもこんなことは初めてだった。

獅子咆哮弾には他に、キュゥべえの興味をそそる何かがある。

マミはそんな確信をいだいた。

それが何かまでは想像がつかないが、もしかしたらキュゥべえの存在そのものに関わるヒントになるかもしれない…

そこまで考えたとき、マミはハッとした。

「わたしは、キュゥべえを疑っている…?」

***************************

『今日はキュゥべえの奴はついて来ないのか?』

良牙はマミにテレパシーを送った。

『ええ。新人発掘ですって。こう言ってはなんですけど、彼は普段から営業活動には余念がないんです。』

マミはテレパシーを返しながら、自分の肩の上に乗る小豚の頭をなでた。マミとしては特に意味のない、ペットを愛でるだけの行為だ。だが、そんなことにも小豚の顔が赤くなる。

『し、しかしこの状態でも会話できるとは便利なもんだな。』

テレを隠そうと冷静をよそおう良牙。

マミはクスッと小さく笑った。

ぶっきらぼうで言葉遣いが荒いときもあるが、決して粗野ではない。

むしろ、なんだか可愛い人だ。

(いい人みたいで良かった。)

これから魔女と戦うかもしれないというのに、自然とマミの心ははずんだ。

『良牙さんがテレパシーを使えるのはわたしかキュゥべえが居るときだけですから、気をつけてくださいね。』

マミは良牙に説明をしながら、自分の指輪に触れる。

すると、指輪は丸い宝石状に形を変え、黄色い輝きを放った。

わずかながら魔翌力反応がある。マミの瞳に緊張が宿った。

(魔女が…近くにいる!)

『それは?』

マミの肩に乗った小豚が不思議そうに黄色い石を眺めていた。

『ああ、これがソウルジェムです。魔法少女の証であり、魔女を探す魔翌力探知機にもなっていて…』

「あ」

説明をはじめたと思ったら、マミは急にテレパシーを切り口で声を出した。

「良牙さんはちょっと待っててくださいね。」

そう言ってマミは小豚を肩から下ろしそそくさと立ち去った。

(へ? 一体どうしたんだ?)

取り残された良牙は、途方にくれるしかなかった。
14 :らんまマギカ2話3 ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/09/25(日) 15:28:07.84 ID:sF5yimZr0
暁美ほむらは、キュゥべえの姿を追っていた。

(ついに、まどかを見つけられてしまった。)

気持ちはあせる。

どうにかして、キュゥべえと鹿目まどかの接触を阻まなければ、『またもや』鹿目まどかが魔法少女になってしまう。

そうなれば、鹿目まどかはやがて魔女に―

「…見つけた。」

暁美ほむらの目に、白い犬のような猫のような、奇妙な小動物の姿が映る。

もはや、手段を選んでいられない。

ほむらはためらいもせず拳銃を取り出し小動物に向けて発射する。

銃弾は白い獣をかすった。

(はずしたか。)

そう思った、その瞬間、ほむらの腕に黒い小動物が飛びかかってきた。

「きゃあっ!? なに、コレは?」

手に持っていた拳銃が、その小動物の体当たりにより手からこぼれ落ちる。

それとほぼ同時に、黒い小動物は見事に着地し、ほむらに視線を向けて対峙した。

平べったい鼻、突き出た耳、その姿はどうみても豚だった。

キッとにらみつけてくるその目は、ほむらを敵視している。

(何なのこの豚は? インキュベーターの同類?)

ほむらの頭の中を無数の疑問符がかけめぐった。

どうあれ確かなことは、この小豚はキュゥべえ…彼女の言うところのインキュベーターを守ろうとした。

「敵には、違いないわね。」

ほむらは左腕につけている盾に右手をかざす。

すると、彼女以外のすべてのものが動きを止めた。

ほむらはそのまま右手で盾の裏側から銃器を取り出す。

そして無造作に、小豚にそれを撃った。

銃弾は小豚に当たる手前で、ピタリと動きを止めた。

他のすべてのものと同様にこの空間の背景と成り果てている。

動けるのはほむらただ一人のみだ。

ほむらはもう一度盾に手をかざした。

するとこの世界は再び動き出した。

が、勢いよく動き始めた弾丸は小豚にあたらず、コンクリートの地面をけずった。

小豚が時間が動き始めると同時に大きくジャンプをしたからだ。

(かわされた!?)

ほむらはおどろきを隠せなかった。
15 :らんまマギカ2話4 ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/09/25(日) 15:30:44.51 ID:sF5yimZr0
彼女は時間停止の能力を持っている。

その能力を使えば銃弾があたる寸前まで、相手は一切の回避行動がとれない。

それなのにかわされたということは、相手が高速で動いているか先読みをしているということになる。

どちらにしても、そうとうな戦闘センスの持ち主だ。

(得体が知れないわね…)

ほむらは内心で舌打ちをした。

この得体の知れない存在の相手をしている隙に白い小動物…インキュベーターはすでに逃げている。

してやられた格好だ。

そうとなれば、人に見つかる危険を冒してまでこれ以上ここにいるメリットもない。

(わたしも逃げるか…)

ほむらはどこからともなくスタングレネードを取り出し爆発させた。

すさまじい閃光と煙があたりを包み、それが過ぎた後にはほむらの姿は消えていた。

(逃げたか…キュゥべえを襲っていたようだが、あれも魔法少女なのか?)

黒い小豚こと、良牙は考えた。

あの少女がキュゥべえに向けて撃った銃撃の、発射前に間に合うように良牙は飛んだはずだった。

しかし、良牙が拳銃を体当たりで飛ばしたのは発砲した後だった。

おかしい。

構える間も狙う間もなく銃を撃てるものなのか。

いや、それどころかそもそも発砲音すら聞こえなかった。

まるで、時間が飛ばされたようなそんな不思議な気分だ。

種明かしは分からないが、相手がいつ撃ってくるか分からないのならとにかく動いてよけるしかない。

良牙はそう思い、回避行動をはじめた。

結果的にはそれが功を奏して銃弾をよけることができた。

だが不気味だ。

少女は銃を握ってすらいなかったのに、次の瞬間、すでに発砲していたのだ。

銃を構えるヒマすらはおろか取り出す時間すら全くなかったはずなのに。

(チッ、奇妙なガキだ。)

悩んでも仕方がない、早くマミちゃんのところに戻ろう、そう思い良牙はあたりを見回した。

(…ここは、どこだ?)

マミはもちろん、キュゥべえも逃げてしまったので見当たらない。そしてここは見知らぬ町。

この状態では、良牙に帰還できるあては何もなかった。

「ぴーッ! ぴ、ぴー!!」

哀れな小豚の鳴き声だけがあたりに響いた。
16 :らんまマギカ2話5 ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/09/25(日) 15:34:18.56 ID:sF5yimZr0
(我ながら、とんだ失態ね。)

巴マミは黒い小豚…良牙がいなくなっていることに気付き、頭を抱えた。

そもそもの失敗は、いつもより一杯多く紅茶を飲んだ事だ。

昨晩は話が長くなったので睡眠が足りていない。

だからカフェインを多めにとったのだが、それが裏目に出た。

男性である良牙の前で堂々と事情を説明するわけにも行かない。

しかし、魔女との戦いを控えているのに下手に我慢することもまたできない。

結果、マミはどこに行くかも言わずに良牙を置き去りにして『お手洗い』に行ってしまった。

いくら良牙でもほんの数分の間に迷子になることはあるまいと油断していたのだ。

(もし、魔女の結界にでも巻き込まれたら…)

本来の良牙なら並の魔女ぐらいあっさり倒してしまうだろう。

だが、今の小豚状態の良牙では使い魔一匹にもとうてい勝ち目がない。

(急がなきゃ)

気持ちはあせる。

『マミ、聞こえるかい?』

その時、テレパシーがマミの思考に入り込んできた。

聞きなれたこの声は、キュゥべえだ。

『キュゥべえ、どうしたの?』

『マミとつながって良かった。実は、魔女の結界に飲まれてしまったんだ。一般人も二人いる。助けに来てくれないかい?』

一般人が魔女の結界に巻き込まれた。…緊急事態だ。

魔法少女の使命を人々を魔女から守ることだと認識しているマミにとって「助けない」などという選択肢は存在しない。

『わかった。すぐ行くわ!』

マミはソウルジェムの示す方向へと走り出した。

『ところで、キュゥべえ。良牙さん見なかったかしら?』

走りながらもマミはテレパシーを飛ばす。

激しい運動をしながらでも息を切らすことなく会話できる。

これもまたテレパシーのメリットだろう。

携帯電話ではこうはいかない。

『良牙なら、さっき僕が襲われていた所を助けてくれたよ。』

『襲われた!? 魔女に?』

そうだとすれば、良牙も一緒に魔女の結界に巻き込まれたのだろうか。

小豚の状態でどうやってキュゥべえを助けたのかは知らないが事態はかなり緊急を要するようだ。

『いや、魔法少女に襲われた…どちらにしてもあの位置なら良牙もこの結界に巻き込まれている可能性が高い。』

しかし、キュゥべえはマミの予想とは全く異なることを言った。

『どういうこと? 話が見えないわ。』

『すまない。なんで魔法少女に襲われたのか僕にもよく分からないんだ。とりあえず、考えるのは後にしよう。 良牙や一般人の安全を考えれば魔女を倒すのが最優先だろう。』

『そうね。分かったわ!』

キュゥべえが「分からない」というのは珍しい。それだけ想定外の事態が起きているということだろう。

だからといってマミは混乱などしなかった。

こういう場合の優先順位ははっきりと決まっている。 第三者の命が最優先。

そう考えることにマミには迷いがなかった。
17 :らんまマギカ2話6 ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/09/25(日) 15:36:30.51 ID:sF5yimZr0
鹿目まどかと美樹さやかは混乱していた。

いつものように学校に通い、いつものように放課後はショッピングモールへ寄って、いつものように家路につくはずだった。

それなのに、この異空間は一体、何なのか。

きっかけは鹿目まどかが奇妙な『声』を聞いたことだった。

助けを求めるその声を追って鹿目まどかは閉鎖中のエリアに入り込み、美樹さやかもそれを追っていった。

暗く閑散とした空きスペースの中で、傷を負った小動物が倒れていた。

まどかがその小動物を助けようと抱きかかえたその時だった。

ショッピングモールの壁がチラシ紙を破くように裂けて、その中から不規則で奇妙な図面が現れた。

いつのまにか、あたりはその奇天烈な景色に囲まれ、元のショッピングモールの通路や部屋は消え去っていた。

「冗談だよね、あたし、悪い夢でも見てるんだよね!?」

さやかは叫んだ。

何もかもが常軌を逸している。

血のように赤い色の蝶が巨大なひげの生えた触覚をもたげて歩き回り、真っ黒なハサミが鳥のように宙を舞う。

とげとげしいイバラはまるで触手のようにあたりをうね回る。

その異形のものたちは二人の少女を取り囲みながら、徐々に距離を詰めてきた。

(もしかして、おそいかかってくるの?)

まどかもさやかも口には出さないが、その予感を感じていた。

これから自分たちはこの気持ち悪いクリーチャーに食べられて死んでしまう。

漫画やアニメになれた現代っ子だからこそ、そんな予感が頭に浮かんでしまう。

恐怖を募らせる二人に、異形のものたちはもう触れてしまう位置にまで近づいてきていた。

(もうダメ!)

そう思った瞬間、とつぜん赤い蝶が吹き飛んだ。

それだけではない、異形のものたちが次々と後ろに吹き飛び、まどかとさやかから引き離されていく。

(一体、なに?)

二人の少女は呆然としてそのようすをながめた。

「危なかったわね。でももう大丈夫。」

優しく、強い声がして、金髪の少女がまどかとさやかの目の前に現れた。

「キュゥべえも一緒ね。」

「ああ、マミ。間一髪間に合ったね。」

それまでまどかの腕の中でじっとしていた白い小動物がいきなり人間の言葉をしゃべりはじめた。

「うわっ、ホントにしゃべった!」

さやかが驚きの声を上げる。

「だから、わたしは嘘つかないよー。」

まどかがそれに答えた。

「いや、すまない。マミとのテレパシーと体の回復に集中していて君たちと会話をする余裕がなかったんだ。」

白い小動物は愛らしい姿とはうらはらに、理路整然と自分の事情をのべる。
18 :らんまマギカ2話7 ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/09/25(日) 15:38:28.63 ID:sF5yimZr0
「え? いや、謝るほどのことでも…って、ええ!?テレパシー??」

しかしさやかはなおさら混乱するだけだった。

「いろいろ聞きたいとは思うけど、その前に、ちょっと一仕事片付けちゃっていいかしら?」

余裕のある口調で、金髪の少女は怪物たちの前に出た。

彼女がスカートをたくし上げると、大量の銃が落ちてきた。

長大な、数世紀前の西洋の銃のようだ。

金髪の少女はそれを片手にひとつずつ持つと、怪物たちをめがけて発砲した。

二丁の銃から発砲された二発の弾丸は、吸い込まれるように二匹の怪物の眉間を貫いた。

金髪の少女は弾を撃った銃を投げ捨てると、そのまま別の銃を取り、流れるような動作で再び発砲した。

銃弾はまたもや怪物に命中する。

金髪の少女を敵とみなしたのか、怪物たちは奇妙な叫び声をあげ、次々に少女に襲い掛かっていった。

しかし、何者も金髪の少女に触れることすらできなかった。

少女は踊るように華麗に、全方向から襲ってくる怪物に銃弾を浴びせる。

銃を撃っては捨て撃っては捨てを繰り返し、一匹一匹確実に、しかしスピーディーに、マミは怪物たちを撃ち抜いていった。

「すごい…」

ながめているまどかはつぶやいた。

気がつけば数え切れないほどいた怪物たちはほとんど姿を消し、異様だった風景もその『メッキ』がはがれていた。

一仕事を終えた金髪の少女がまどかとさやかの方を振り返る。

「私は巴マミ。あなた達と同じ見滝原中学校の3年生よ。」

その時、どこからか小動物の鳴き声が聞こえてきた。

「ぴーっ! ぴーっ!」

「あら、よかった。良牙さんも無事ね。」

そう言って金髪の少女がしゃがんで手を地面に近づけると、そこに黒い小豚が走りこんできた。

(『りょうがさん』って、ペットに『さん』付け!?)

さやかは内心つっこむが、この異常事態の中でまだ言葉に出せるほどの余裕はない。

金髪の少女は変な顔をするさやかを気にもせず、その小豚を手のひらに乗せ、自分の肩へ移動させた。

「そして、キュゥべえと契約した魔法少女よ。」

怪物たちを一人で退治したその少女は、壮絶な戦いぶりからは想像できないほど、柔和な笑みをしていた。
19 :らんまマギカ2話7 ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/09/25(日) 15:39:24.68 ID:sF5yimZr0
2話ここまで

創作発表板掲載分は以上です。
20 :らんまマギカ3話1 ◆awWwWwwWGE [sage:副題「普段はペット扱い」]:2011/09/25(日) 15:43:23.90 ID:sF5yimZr0
「ケーキ、うまっ!」

「もう、さやかちゃん、行儀悪いよぉ」

「いいのよ、美樹さん、鹿目さん。」

鹿目まどかと美樹さやかは、巴マミの家に招かれた。

「キュゥべえに選ばれた以上、他人事じゃないしね。」

そう言ってマミはキュゥべえの方を見た。

その赤い瞳はいつもと変わることなく不思議な輝きを放っている。

長い付き合いだというのに関わらず、目を見ても何を考えているのかは分からない。

(人間じゃないから仕方ないのかな?)

少し寂しげに、マミは小豚のままの良牙を見た。

黒い小豚は、魔法少女についてすでに説明を受けているので興味なさげに、ただの小豚のフリをしてカーペットの上で寝転んでいた。

それでも、マミの視線に気付くと、その表情を感じ取り、不思議そうな顔をする。

小豚の体でも、人間は表情やしぐさで感情を伝え合うことができるようだ。

マミはこのまだ出会ったばかりの小豚にキュゥべえには感じなかった安堵を感じた。

「うんうん、何でも聞いてくれたまえ。」

「さやかちゃん、それ逆。」

良いタイミングでボケるさやかとすぐにつっこむまどか。

なかなか良いコンビらしい。

そんな二人をほほえましく眺めながら、マミは黄色い石を取り出した。

「わぁ、きれい…」

その輝きにまどかが見とれる。

「ソウルジェムというの。キュゥべえとの契約によって生み出す宝石よ。魔翌力の源で、魔法少女の証でもあるの。」

さやかとまどかは二人してソウルジェムを眺める。

「契約って、どういう?」

さやかの問いを受けて、いままで黙っていたキュゥべえが前に出た。

「僕は、君たちの願いごとをなんでもひとつだけ叶えてあげることができるんだ。」

「え!?」

「なんでも?」

『なんだって!?』

キュゥべえの言葉に、まどかとさやかは驚きの声を上げた。

しかし、それ以外にこの場には居ないはずの男性の声が聞こえた。

まどかとさやかは目を丸くしてあたりを見回す。

「あれ? マミさん、お兄さんが?」

素朴な疑問をさやかはぶつけた。

「ああ、これは違うの。良牙さんがね、テレパシーで話しかけてくれたのよ。」

そう言ってマミは黒い小豚を抱き上げた。

小豚は先ほど聞こえた男らしい声からは想像できないほど可愛らしくあたりを見回している。

その様子は思ってもいない事態にあせっているように見えた。
21 :らんまマギカ3話2 ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/09/25(日) 15:46:04.41 ID:sF5yimZr0
「ね、良牙さん。」

マミは挨拶をうながした。

『あ、ああ。驚かせてすまない。俺は響良牙だ。』

マミの腕の中で、黒い小豚はぺこりと頭を下げた。

「ええええええええ!? 小豚がテレパシー??」

「かわいい! この小豚ちゃんも魔法を使えるんですか?」

まどかとさやかは今日何度目かの驚きのリアクションをとった。

「いや、良牙は魔法を使えないよ。今は僕やマミがテレパシーを仲介してるんだ。」

キュゥべえが解説を加えた。

「じゃあ、じゃあ、魔法少女になったら動物とお話できちゃうの!?」

まどかは熱心に、キュゥべえにせまった。

「残念だけど、普通の動物は無理よ。」

急にせまられたキュゥべえに助け舟を出すように、マミが答えた。

「契約の願い事を『動物とお話』にすれば出来ると思うけどね。」

キュゥべえはすかさず、契約を結ばせるのに有利な補足説明を加えた。

さすがと言った表情でマミはキュゥべえを見つめる。

『ってことは、魔法少女になったらなんでも叶うってのは本当なのか?』

良牙は、魔法少女の契約について詳しいことを聞いていなかった。

自分にはあまり関係が無いと思っていたからだ。

しかし何でも叶うというのなら興味がある。

「うん。ただし、願いを増やしてくれとかそういうズルは無しだよ。あと、宇宙全体に関わるような大きすぎる願いだと制限が出てしまう。でも、地球規模の願いなら、たいていは叶うはずだよ。」

「たとえば、億万長者とか、不老不死とか、満漢全席とか!」

さやかの問いに、キュゥべえはこくりとうなずいた。

「うん、そういうことなら叶うよ。」

そしてあっさりと「叶う」と言ってのける。

キュゥべえの説明を聞いて、まどかとさやかと良牙は三者三様、考え込んだ。

「あ、良牙は無理だよ。男だし、魔法少女の素質も無い。」

『んがっ!』

黒い小豚はしゅんとなった。

(それ以前に人間じゃないといけないでしょ、フツー)

さやかは心の中でつっこんだ。

「願いと引き換えに魔法少女になると、魔女と戦う使命を課されるんだ。」

落ち込む良牙をよそに、キュゥべえは説明を続けた。

「…魔女ってショッピングモールで出てきた、あの?」

まどかがか細い声で質問する。

つい数時間前の恐怖を思い出したのだろう。

「あれは魔女の使い魔に過ぎないわ。本物の魔女はもっと…恐ろしいものよ。」

真剣な表情で語るマミに、まどかもさやかも息を飲んだ。

「キュゥべえに選ばれたあなたたちには、大きなチャンスがある。でも、それは死と隣りあわせなの。」
22 :らんまマギカ3話3 ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/09/25(日) 15:48:05.04 ID:sF5yimZr0
答えを決めかねたように、まどかとさやかは互いを見合わせる。

「すぐに決める必要は無いわ。…と言っても情報が足りないわよね。」

マミは何やら思案しながら二人をみつめた。

「そこで提案なんだけど、二人ともしばらく私の魔女退治に付き合ってみない?」

「え!?」

マミの提案に、まどかとさやかは素っ頓狂な声をあげた。

******************

学校の休み時間、まどかとさやかは校舎の屋上に来ていた。

「ねー、昨日のことさ、夢じゃなかったのよね?」

さやかは今朝からずっとまどかが聞きたかったことをまどかに聞いた。

「わたしも信じられないんだけど、きっと夢じゃないと思う。」

そう言ってから、まどかは少し考えた。

確かに、昨日化け物に襲われたことや『魔法少女』に助けられたこと、そして自分達がその『魔法少女』になるかも知れないこと。

あまりにも現実離れしている。

それに比べて、今朝から今まではいつもと全く変わらない日々が続いていた。

この変わらない日常を過ごしていると、どうしても夢だったと思えてしまう。

しかし、同じ経験を二人でしている。だから、夢じゃない。

「さやかちゃんとわたしが二人とも覚えてるんだから夢じゃないよ。」

まどかは自分の結論をさやかに告げた。

「へへ…二人しておんなじ夢見てたー、なんてオチだったりしてねぇ」

真剣な表情をするまどかに、さやかは自嘲気味におどけてみせた。

「ははは、もしそうだったら、また仁美ちゃんに禁断の愛だとか言われちゃうよぉ」

「ちっちっちっ、前世からの運命なのよ。例の転校生には負けないんだから。」

「なにそれ、もー」

そんな冗談を言い合って、まどかとさやかは笑いあう。

秘密を共有する相手が友だちでよかった。

二人とも心からそう思った。

その時だった。

「ちょっと、いいかしら?」

黒髪の少女が二人の目の前に立っていた。

つい昨日、二人のクラスに転校してきた暁美ほむらだ。

「お、転校生?」

「ほむらちゃん、どうしたの?」

暁美ほむらは昨日、なぜかまどかに寄ってきた。

まどかとさやかにとってはちょっとした不思議ちゃんである。

しかし、そんな程度のことは昨日の出来事のインパクトの前には二人にとってどうでも良いことになっていた。

そう、今の今までは。

「…キュゥべえや、巴マミと接触したわね?」

その台詞に、まどかとさやかの表情はこおりついた。
23 :らんまマギカ3話4 ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/09/25(日) 15:49:52.87 ID:sF5yimZr0
暁美ほむらはその二人の目の前で、自分の指にはめている指輪を宝石状のソウルジェムに変えて見せる。

「えっ!?」

「ほむらちゃんって…」

「わたしは魔法少女よ。」

まどかが言うよりも先に、ほむらは答えた。

「迷っているようなら、言っておくわ。魔法少女になるのはやめておきなさい。」

いきなりやってきて口出しするほむらに、さやかはわずかながら不快を感じた。

「…意見してくれるのは構わないけどさ、理由ぐらい言ってよ。」

「あなたは、死ぬ覚悟はできてるの?」

「!?」

突然の迫力のある言葉に、思わずさやかは押しだまってしまった。

「わたしは魔法少女になってから、何度も人が死ぬところを見てきたわ。わたし自身も、明日死んでしまうかも分からない。…その点は巴マミも同じ。あなたたちは、そんな生き方をしたいの?」

「うっ…それは…」

明日死んでしまってもおかしくない。

マミが「死と隣り合わせ」と言っていたのと意味はおんなじなのだが、具体的に明日死ぬかもしれないと言われると、しり込みしてしまう。

「忠告が無駄にならないよう、祈ってるわ。」

それだけ言うと、ほむらはきびすを返して、その場を立ち去ろうとした。

「ちょっと待って!」

それを、まどかが呼び止める。

「ほむらちゃんは、どんな願いごとをして魔法少女になったの?」

ほむらは振り返りまどかを一瞥したが、質問には答えずにそのまま去っていった。

*************

「ふぅん、転校生が魔法少女ねぇ…」

巴マミは考えるような素振りをした。

鹿目まどかと美樹さやかは放課後、巴マミと会っていた。

マミの魔女退治を見学するためだ。

「その子の言ってる事は正論よ。でも、気になるわね。」

まどかとさやかの報告によれば、その転校生はマミのことを知っているらしい。

そのわりに、マミとは接触しようとしていない。

(場合によっては、争わないといけないのかもね。)

魔法少女同士の関係は必ずしも友好的とは限らない。

ある意味魔女よりも魔法少女の方が危険な場合もありうるのだ。

『良牙さん、いざというときは二人を頼みますね。』

マミは肩に乗せた黒い小豚にテレパシーを送った。

『おう。いよいよ、魔女狩りか。』

良牙は勇ましく答えた。

伝えていないから当然なのだが、マミの危惧など伝わっていない。

「あ、そう言えば今日はキュゥべえは居ないんですか?」

出発前に、思い出したようにまどかが聞いた。
24 :らんまマギカ3話4 ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/09/25(日) 15:51:49.69 ID:sF5yimZr0
「ええ。今日は別の町に魔法少女の勧誘に行っているらしいわ。」

「そりゃまー、熱心なことで。」

マミがあきれ気味に答え、さやかも肩をすくめてみせた。

(なんか、やな感じがしやがる。)

良牙はぼんやりとそんなことを思った。

それは、少女達を死と隣り合わせの戦いに駆り立てるキュゥべえに対する嫌悪感か、それともこれから始まる魔女狩りに不吉な予感がするのか。

良牙自身にもはっきりとした判別がつかなかった。

*************

魔女の結界は古びた廃ビルで見つかった。

「かなり強い波動ね…」

マミは、自分についてきた二人を振り返った。

まどかとさやかを魔女や使い魔から守れる自信が無いわけではない。

しかし、二人が魔女に精神を乗っ取られないとも限らない。

念のために万全を期すべきだろう。

マミはそう考えて、どこからともなくティーポットを取り出した。

その口からはほのかに湯気が漏れている。

「良牙さん、お願いします。」

そう言うとマミは、ティーポットのお湯を黒い小豚にかけはじめた。

「わわっ、マミさん何を!?」

「良牙さん煮豚になっちゃう!」

まどかとさやかからは突然の奇行に見えたらしく、あわてた様子を見せる。

しかし、二人が本当に驚いたのはその後だった。

なんと、もくもくと上がる湯煙の中からたくましい青年の姿が浮かび上がってきたのだ。

「おう、任せとけ!」

青年は右の拳を左手で受け止めて、力強く答える。

「ええええええええ!?」

「豚が、人間になった!!」

まどかもさやかも、驚きを隠せず、大声をあげる。

「すごい! 魔法ってこんなことも出来るんですか!?」

「いえ、これは私の魔法じゃないの。」

興奮気味のまどかをさとす様に、マミはやさしく言った。

「俺はもともと人間だ。とある呪いのせいであんな姿になってしまったがな。」

良牙も事情を説明する。

「呪い…そうか、これが魔女の呪いなんだ!」

さやかは何やら早合点をした。

「そういう訳じゃないらしいけど…まあいいか。」

魔女に逃げられてしまう可能性もあるので、あまり説明に時間をかけることもできない。

マミは誤解をそのままに、魔女の結界をこじあけた。
25 :らんまマギカ3話6 ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/09/25(日) 15:53:23.63 ID:sF5yimZr0
結界の中では、マミが先頭になり、良牙を最後尾にして進んだ。

前から来た使い魔はマミが、後ろから来る分は良牙が片っ端から倒していく。

「すごい…」

「素手で倒せるんですか、あれ?」

ただただ感心しため息をもらすまどかと、もしかしたら自分にも倒せるんじゃないかと言いたげなさやか。

二人は対照的な反応をしていた。

「普通は無理よ。良牙さんが異常に強いだけだから。」

マミはまどかやさやかに無茶をさせないためにもきっぱりそう答えた。

「いや、俺なんかまだまだ。」

しかし良牙は強さをほめられてうれしそうな様子を隠しきれていない。

単純な良牙を見て、マミは思わず小さく笑った。

「さあ、もうすぐ結界の最深部よ。」

そう言ってマミが扉を開けると、その先には巨大な化け物が座っていた。

緑色の、何かがどろどろに溶けたような頭。

ステンドグラスのような光沢を持つ蝶の羽。

黄色い、頭と同じく何かが溶けたような胴体。

そして、三本の人型の脚は正座しているように折りたたまれている。

「う…グロい。」

「あ、あんなのと戦うんですか?」

「確かに気持ち悪いな、あれは。」

さやかとまどかのみならず、良牙まで同じような感想をもらす。

「大丈夫、下がってて。良牙さんはこの子達をお願いしますね。」

それだけ言うと、マミは前に進み、魔女と対峙した。

(さて、俺もマミちゃんの戦いぶりをみさせてもらうか。)

良牙は今までなんだかんだできちんとマミの戦いを見たことが無い。

マミが実際どの程度やるのか、それを知るには良牙にとってもいい機会だった。

さっそく、マミはマスケット銃を大量に召喚し、魔女に向かって乱れ撃つ。

だが魔女はその羽ですばやく飛び退き、銃弾をかわした。

「ちょ! マミさぁん、当たってないじゃないですか!」

さやかが叫ぶ。

「いや…もともと狙ってねーな、あれは。」

しかし良牙は冷静にマミの動きを見ていた。

「狙ってないって、それじゃ一体?」

まどかの問いに、マミの戦い方を知らない良牙は答えられない。

そうしている間にも、マミは魔女の触手に胴をつかまれ、思い切り壁にたたきつけられた。

だがマミはもがきもせずに、捕まったまま銃を撃ち続ける。

(なんだ? この戦い方は?)

良牙はマミの戦いに違和感をもった。

マミに何か狙いがあるのは分かる。

しかし捕まったままで、逃がれようともせずに戦うのはどういうことか。
26 :らんまマギカ3話7 ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/09/25(日) 15:55:00.18 ID:sF5yimZr0
倒すのには効率がいいのかも知れないが、恐怖感は無いのか。

敵に捕まってしまって屈辱は感じていないのか。

良牙はマミの表情を見た。至って冷静な表情だ。

決して焦っているわけでも怯えているわけでもない。

しかし―

(執念が感じられねぇ)

良牙にとってそれは信じがたいことだった。

今まで良牙が戦ってきた相手は、いつも並々ならぬ執念を持っていた。

それは、己の欲望を叶えるためであったり、生き残るためであったり、あるいは単純に強くありたい、勝ちたいという執念であったりする。

だがマミの戦い方からはそのどれも感じられなかった。

(あいつは、何のために戦ってるんだ?)

良牙がそんなことを思っている間にも、戦いは進展した。

マミの撃ったハズレ弾から、リボンが飛び出してきて四方八方から魔女をがんじがらめに縛ったのだ。

マミは魔女が動けなくなったのを確認すると、自分の胴に巻きついている触手を冷静に撃ち切ってスタッと地面に着地した。

「これが私の戦い方!」

そう言いながら、マミは常識外れな大きさの拳銃を右肩に出現させた。

その大きさはとても手で持てるものではなく、肩に担いでなおあまりある。

もはや拳銃というよりも大砲だ。

「ティロ・フィナーレ!!」

マミのかけ声と共に銃口から黄色い閃光が魔女に向かって放たれた。

閃光は魔女の緑色の頭部を木っ端微塵に吹き飛ばす。

それと同時に魔女の体は炎上し、やがて跡形も無く姿を消した。

「か、勝ったの?」

「すごい。」

唖然とするまどかとさやかをよそに、マミはいつのまにか魔法で紅茶を出現させて優雅にお茶をたしなんでいた。

やがて結界は崩壊し、奇妙な迷宮はただの廃ビルへとその姿を変えた。

マミは変身を解くと、なにやら刺の付いた玉のようなものを拾った。

「これがグリーフシード…魔女の卵よ。」

「た、卵ぉ!?」

そう叫んださやかだけでなく、まどかにも緊張が走る。

「大丈夫。これはね…こうして使うの。」

マミは自分のソウルジェムと拾ったグリーフシードを近づけた。

すると、ソウルジェムから濁りが抜けてグリーフシードが黒ずんだ。

「こうやって魔法少女は魔翌力を回復するの。これが魔女退治の見返り。」

まどかとさやかは「上手く出来てる」といった表情でグリーフシードを眺めていた。

しかし良牙は突然別のことを口にした。

「で、そこでコソコソしてるヤツもグリーフシードがお目あてなのか?」

「そうね。あと一回分ぐらい残っているし、あなたにも分けてあげるわ。」

マミも壁に向かって話しかけだした。
27 :らんまマギカ3話8 ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/09/25(日) 15:56:06.29 ID:sF5yimZr0
すると、壁の後ろから、一人の少女が現れた。

「え、ほむらちゃん?」

そこに居たのはまどかとさやかのクラスの転校生、暁美ほむらだった。

「あなたの獲物よ。あなただけのものにすればいい。」

ほむらはそれだけ言うと、きびすを返して去っていった。

「何よ、あの転校生。相変わらず感じ悪い。」

さやかはほむらが見えなくなったのを確認して舌を出した。

一方、良牙はマミの肩に手を置いてテレパシーで語りかける。

『昨日、キュゥべえを襲っていたのはアイツだ。』

『…そう。油断は出来ないわね。』

魔法少女同士で争わなければならない、その予感にマミは小さくうつむいた。
28 : ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/09/25(日) 15:56:54.18 ID:sF5yimZr0
今日は一気に3話アップしました。
今後週一ぐらいで更新するつもりです。
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/25(日) 15:57:31.03 ID:VGoAKZuGo

面白いよ
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/09/25(日) 16:38:54.85 ID:WQwntPqNo
これは期待。

しか、知らなかったとはいえ、ほむら、人殺しになりかけとる……
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/09/25(日) 16:58:42.20 ID:aOmgq5y7o
面白いよ
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2011/09/25(日) 17:12:52.92 ID:LB9dXWCAO
アニメしか見てないから良牙のベルトの剣は初めて知った
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/09/25(日) 17:17:09.94 ID:1M8D2yDAO
スレタイのらんまはまだかー!
性転換な変異体質だし確実に願いはアレだしどうなるのか気になりすぎる。

いや良牙&マミさんもかなり面白いが。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/25(日) 17:47:46.48 ID:0DyeAabDO
面白いな乙
らんまSSとか俺得
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/25(日) 18:05:33.43 ID:iNwjt+UWo
俺得スレ
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/25(日) 19:01:45.74 ID:8djmUQNuo
普通に発砲するほむらに吹いたww
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/09/25(日) 19:10:56.99 ID:NGrhgjFT0
猛虎高飛車なら魔女倒せるのか?
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/09/26(月) 11:15:35.67 ID:NcbzEYmAO
属性的には相性いいけど、気分の維持が難しいんじゃないかな。
ちょっとでもヤバいと思ったら威力落ちるし。

そう考えると負のエネルギーって安定してるのな。
QBがエネルギー供給源に充てるのもわかる気がする。
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/27(火) 07:40:53.65 ID:xj7t03oSO
何だこの俺得スレ
全力で期待してる
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/27(火) 12:55:19.06 ID:9kjp/XaM0
らんま実写化sage…
41 : ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/09/27(火) 21:53:19.96 ID:itYJ/b1I0
レスありがとうございます。
思ったより多くのレスが頂けて大変うれしいです。

まだ書き途中ですが、マミ・良牙サイドはいったんここまでで
次回からはらんまサイドの予定です。

あ、あと念のため、
申し訳ありませんが自分の好きなキャラを汚されるのは絶対に
嫌だって人は見ない方が良いかもしれません。
全員が全員幸せになったりファンにとって納得の結果になるとは
限りませんので。
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/09/27(火) 22:28:11.20 ID:D5Huh35po
まどかの世界観としてはそれでも良いが、らんまの世界観大丈夫か?
それだけ心配
43 : ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/09/27(火) 22:58:38.03 ID:itYJ/b1I0
ネタバレはしたくないので、あまり詳しくいえませんが
必要以上にはらんまの世界観を崩さないつもりです。
ただ、らんまには珍しいシリアス展開が多くなることは避けられないかと。
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/28(水) 10:00:22.81 ID:+zgtUQDIO
つか良牙って豚の状態でお湯かけられたら基本全裸だと思うんだが
湯煙が晴れる前に自分で高速で着替えたか、マミさんが魔法で服着せたのかな
45 : ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/09/30(金) 23:44:40.84 ID:/ESvcdpv0
あー、そこツッコミどころですね。
マミさんの魔法と考えてください。

他にも服を置いてそのなかにPが入ってからお湯をかけるとか色々方法は考えてみたんですが
個人的にはあまり面白みを感じなく、話としてもテンポが悪くなると思ったので
いっそのことと省きました。面目ない。

うpはあさってになりそうです。
46 :らんまマギカ4話1 ◆awWwWwwWGE [sage:副題「QBさんマジパネェっす」]:2011/10/02(日) 14:30:04.94 ID:JUrskdvQ0
「ジジイ、てめー待ちやがれ!」

赤髪の、おさげの少女が屋根の上を飛んだ。

「らんま、きさまぁ! 老い先短い師匠の趣味になぜ邪魔をする!?」

おさげの少女の飛んだ先には小柄な老人が居た。

彼は風呂敷に山盛りの女性用下着をかついでいる。

「下着ドロがえらそーにするな!」

少女は飛び移ったそのままの動作で老人にけりを放った。

しかし、老人は俊敏な動きでけりをかわし、すばやく別の屋根へと飛ぼうとする。

「逃がすかぁっ! 猛虎高飛車!」

少女は足で追わずに、その場で構えをとって叫んだ。

すると、少女の手のひらから光の弾が出現し、老人めがけて飛んでいった。

「ば、ばかもん! そんな技を使ったら…」

さしもの老人も空中での回避は出来ないらしく、背中から光の弾に直撃した。

「ぬおーっ」

老人は勢いを付けて落下し、思いっきり地面に衝突した。

すぐにそこへおさげの少女がやってきて、老人の頭を踏みつける。

「ケッ、ざまあ見やがれ。」

「らんま、お主というやつは…」

老人はさっきまでの元気さからは考えられないほど細い、絶望に打ちひしがれたような声を出した。

「ワシが集めてきたスイーツを見てみるのじゃ!」

少女は老人を捕まえた今、彼の言うことなどどうでも良かったが、一応言われたように彼が盗んできた下着を確認した。

「あ。」

少女の表情が固まる。

それもそのはず。

本来取り返すはずだった女性もの下着は、彼女の猛虎高飛車という技によって大半が消し炭と化していたからだ。

「らんま、貴様の愚行のせいで、ワシの宝物がこのような無残な姿になってしまったのじゃぞ!」

さっそく責任転嫁をはじめる老人。

ちょうどそこへもう一人別の、ショートカットの少女がやってきた。

「らんまー、お爺ちゃん捕まえたの?」

「あ、あかねっ! これはそのっ!」

「どうしたのよ? 捕まえたかどうか聞いてるのに。」

ショートカットの少女は歯切れの悪いお下げの少女をけげんな顔で見る。

だが、奪還品の確認をした瞬間、それではすまなくなった。

「…らんま、何これ?」

ショートカットの少女の視線の先にあるものはバラバラになり焼けた布切れの一団だった。

かつて下着だったそれは、いまや誰の目からもゴミとしか認識されない。

「ワシは、みんなの下着を守ろうと必死で止めたんじゃ。しかしらんまの奴が破壊しおって…」

老人はその場で思いつく限りの方便で、話を摩り替えようとする。

ショートカットの少女はそんな老人の肩に、やさしく自分の手を乗せた。

「お爺ちゃん…」

そうやさしく呼びかけながらも、ショートカットの少女は徐々に肩をつかむ力を強め、老人に逃げられないように体制を整える。
47 :らんまマギカ4話2 ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/10/02(日) 14:31:52.55 ID:JUrskdvQ0
そして、表情を変えて一言。

「寝言は寝ていわんかいっ!!」

ショートカットの少女は華麗に老人を蹴り上げて、地平線のかなたまで飛ばした。

「らんまももうちょっと考えて戦ってよね。」

ショートカットの少女は振り返ると、おさげの少女にも文句を言う。

「そんなこと言っても仕方ねーだろ、こっちはあのジジイを追い回すので手一杯なんだしよ。」

それに対して、おさげの少女は慣れた様子で反発した。

互いに本気で憎んでいるわけではない。

むしろ、こういう軽口を言い合える仲というのは、互いの信頼関係ができている証拠だろう。

そんな、いつものやり取りをする少女達を白い小動物が遠目に眺めていた。

(獅子咆哮弾に似た技だ。)

『それ』は思った。期待の新人の勧誘を巴マミに任せてまでこの風林館に来た甲斐があったと。

そして、お下げの少女の交友関係を知ることが出来たのも大きなメリットだった。

友人同士だと連れ立って魔法少女になってくれることも多いし、そうでなくともピンチの時には互いを守るために
契約してくれることがある。

『それ』にとって、契約を取るために友情を利用するのは常套手段の一つとなっていた。

**********************

川沿いのフェンスの上を、早乙女乱馬は歩いていた。

『彼女』の服は濡れていた。

たまたま帰り道に、近所のお婆さんの水撒きを頭からかぶってしまったのだ。

「せっかく女になったんだし、パフェでも食べにいこーかな?」

そんなことをつぶきながら、いつもの帰り道を行く。

「らんま、キミにお願いがあるんだ。」

突然、あどけない少年のような声が聞こえた。

不思議に思い、らんまは辺りを見回した。

すると、住宅の塀の隙間から、一匹の白い小動物があらわれた。

「ひゃあっ!?」

らんまは全身を震わせてやけにオーバーリアクションで驚く。

「ね、猫ぉ!? ち、近寄るんじゃねぇ!」

そして、へっぴり腰になりじりじりと後ずさった。

「そんなに驚かなくてもいいじゃないか。キミに危害を加える気は無いよ。」

一方の白い小動物はたんたんとしゃべりながら、らんまとの距離を詰めようとフェンスに上り歩み寄る。

「ひぃっ、ば、化け猫!!」

らんまは恐怖でバランス感覚を失い、ついにはフェンスから足を踏み外した。

なんとかフェンスにしがみつくらんま。

白い小動物はそのすぐ上までやってきた。

「ボクはキュゥべえ。猫じゃないよ。」

キュゥべえと名乗るその小動物は猫との違いである耳を強調するように、斜め向きで言った。

「へ…? 猫じゃない?」

おびえる小ネズミのような目で、らんまはその小動物を見上げた。
48 :らんまマギカ4話3 ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/10/02(日) 14:33:53.60 ID:JUrskdvQ0

「ハァー!ったく、びびらせやがって。猫じゃないなら最初に言えよ。」

らんまは腹の底からため息をもらした。

公園のベンチに大また開きでどっかりと腰をかけ、もう何も怖くないといった様子だ。

「清々しいほどの態度の変わりようだね。キミほどの猫嫌いは初めてだよ。」

「大きなお世話だ。」

ついでに言うなら、小動物がしゃべっていることにこれほど驚かないのもキュゥべえとしては珍しかった。

(武闘家というのは世間の常識から大きく外れた存在らしい。)

キュゥべえは響良牙というこれまたいろんな意味で常識外れの武闘家を思い出した。

「で、頼みってのは何だ?」

そう聞きつつ、らんまはキュゥべえが何者か推測していた。

こういう不思議な存在はおそらく呪泉郷がらみだろう。

もしかしたらこいつも『耳長イタチ溺泉』にでも浸かったのかもしれない。

だが、キュゥべえの頼みは全くらんまの予想外のものだった。

「ボクと契約して、魔法少女になってよ!」

「てめー、ぶん殴られてーか?」

脊髄反射的に、らんまは答える。

「わけが分からないよ。そんなに即答せずに少しは考えてくれても良いじゃないか。」

「うっせー、おめーなびきの客か同類だろ? オレは絶対あんなフリフリ着たりしねーからな。」

そう言いながら、らんまはあたりの様子を探った。

おそらく、こいつの正体はコスプレマニアか何かのオタクだ。

きっと、この小動物は良く出来たラジコンで近くに操縦者が隠れているに違いない。

らんまはそう結論付けた。

「ボクはなびきという人を知らないし、衣装を着てもらうことが目的ではないよ。」

キュゥべえは弁解するが、らんまはいかにも疑わしいといった表情でその顔をしかませる。

「それに、タダで魔法少女になってくれなんて言わない。魔法少女になってもらう見返りに何でもひとつだけ、
キミの願いを叶えてあげることが出来るんだ。」

『何でも叶えられる』、その言葉にらんまは反応してしまった。

叶えたい願いはある。本当にこの小動物にその願いを叶えられるとは思えないが、万が一を期待して、らんまは言ってみた。

「なんでも? それじゃ、いますぐオレを完全な男にしてみせろ。」

疑い半分…どころか9割が疑いだが、それでもらんまの表情は真剣だった。

「あー、それは無理だね。」

しかし、あっさりと否定され、らんまはガクッと力が抜けた。

「全然、『なんでも叶える』になってねーじゃねーか!」

「技術論で言えば可能だよ。でも、男になるということは魔法少女になるという条件を踏み倒す気満々じゃないか。
そうでなくても、男になったら魔法少女としての資質が大幅に下がってしまう。それじゃ、ボクとしては契約を
結ぶ意味が無いよ。」

キュゥべえは願いを叶えられない理由を説明する。

てっきり『現実的な願いで頼む』とか『整形外科に行ってくれ』とかそういう返しが来ると思っていたらんまは、
『技術論で言えば可能』という言葉に不気味さを感じた。

キュゥべえの言い分では、まるで説明に上がった悪条件さえなければ本当にらんまを男に変えてしまえるみたいではないか。

(いや、どうせハッタリだ。)

らんまは自分にそう言い聞かせ、キュゥべえの話に乗らないことにした。
49 :らんまマギカ4話4 ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/10/02(日) 14:36:16.78 ID:JUrskdvQ0
「そんじゃ、あいにくだったな。オレは他に叶えたい願いなんてねーんだ。とっとと帰りな。」

「そうか、わかった。ボクも無理強いはできない。残念だけど、他をあたることにするよ。」

キュゥべえはやけに諦めよくそう言うと、ベンチから降りて公園をあとにした。

「…なんだったんだ、あいつは?」

一人残されたらんまは半ば呆然とつぶやいた。

結局最後までラジコンを操っているような人影は見当たらなかった。

********************

男は大型トラックを止めて、高速のサービスエリアに入った。

高速道路から降りれば、この25tトラックを止められるような場所はなかなか無い。

また高速に戻ってくるまでの、最後の息抜きを済まさなければならない。

男はそそくさと用を足すと、タバコと夕刊を買ってトラックに戻った。

まだ予定到着時刻まで多少時間がある。男はタバコを吸って時間をつぶした。

そして、そろそろ出発しようかと思ったとき、灰皿がひっくり返ってしまった。

(なんでひっくり返ったんだ?)

自分の体は触れていないし、車はエンジンを切っているので振動もしていない。

男は不思議に思いながらも、灰皿を元に戻し落ちた灰を雑巾でふき取った。

そんなことをしていたおかげで、結局出発は時間ぎりぎりになってしまった。

高速を降りたら住宅地を抜ける。

住宅地は子供やお年寄りがよく通るので注意しなければいけない。

とくに、この時間は近所の高校の下校時間とかぶっていることを男は知っていた。

国道も狭い住宅地の中では左右1車線になり、道幅も縮む。

荷物を満載した大型トラックではどうしてもスレスレで人や物にぶつかりそうになる。

男は慎重に速度を下げ、女子高生が渡ろうとしている横断歩道の前で止まろうとした。

が、男がアクセルから足を離したのにもかかわらず、なぜかトラックは加速した。

「なんだ!?」

男は足元に目をやる。

すると、白い猫…のような生き物が前足で思い切りアクセルを踏んでいた。

「こいつ、どっから?」

男はその『猫』を蹴飛ばそうとするが、『猫』は飛び上がって男の蹴りをよけ、そのまま男の顔面にはりついた。

「うわっ、やめろ!」

男はあわててブレーキを踏むが、それがかえって仇となった。

急加速の後の急ブレーキでトラックは完全にバランスを失い、勢いよく歩道に乗り出して横転した。

*******************

「あかねの奴おそいなー」

乱馬は夕飯の席でつぶやいた。

「今日はバレーの助っ人だったわよねぇ。あの子、祝勝会でもやってるのかしら?」

天道家長女の天道かすみが言う。

三女のあかねが帰ってこない、そのためこの大家族は食卓の前で『待て』の状態を続けている。

「それじゃ、もう頂いちゃおうか?」

あかね・なびき・かすみの三姉妹の父・天道早雲も空腹に耐えられず、ゴーサインを出そうとした。

「まって。今日はただの練習のはずよ? 祝勝会なんてあるわけないじゃない。」
50 :らんまマギカ4話5 ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/10/02(日) 14:38:58.76 ID:JUrskdvQ0
はやる父親を次女のなびきが制した。

「ホントかね、なびきくん? そうだとすれば探しに行った方が良いんじゃないか?」

早乙女乱馬の父にして天道家居候の早乙女玄馬はさっそく探しに行こうと立ち上がる。

つられて早雲も立ち上がって探しにいこうとした。

「こういう事があるからさぁ、携帯ぐらい買ってって言ってるのに。」

なびきがぼやく。

「そうは言ってもねぇ、なびき。うちの稼ぎじゃこの人数養うので精一杯なんだよ?」

早雲のその言葉に、玄馬と乱馬は居心地が悪そうに目をそむけた。

その時、電話が鳴った。

すぐにかすみが応対する。

「…ええ。はい。え? あかねが? はい。わかりました。」

なにやらあかねに関する電話らしい。一同はかすみに注目した。

かすみには似つかわしくない、いつになく緊迫した声だ。

そしてかすみの受話器を持つ手が震えている。

ただ事ではないことを、居間にいた全員が理解した。

電話を終えたかすみはゆっくりと振り返った。

「お父さん、みんな、落ち着いて聞いてね。あかねが―

**********************

天道あかねは、包帯にまかれてミイラのような状態で病室に置かれていた。

「嘘だろおい、これがあかねだっていうのかよ…」

そんなはずはない。

乱馬少年は目を、耳を、そして現実を疑った。

あのあかねが車にはねられたぐらいでこんなことになるなんて、とても信じられなかった。

確かに、天道あかねの頑丈さには医者も驚いていた。よくぞ生きていたものだと。

「彼女なら、軽自動車ぐらいは軽い骨折で済んだのかもしれません。」

医者は言うべきかどうか悩むそぶりを見せたが、やがてきりっと前を向いた。

「大型トラックの直撃を受けて生きているのはもはや奇跡です。どうかみなさん命があったことを―」

「ふざけんじゃねぇ!あれが生きてるって言えるのかよ!」

乱馬は医者のむなぐらをつかんで言葉をさえぎった。

「あかねはなぁ、意地っぱりでぶきっちょで可愛くねーけどな…あかねは、あかねは、もっと騒がしくて、わがままで!!」

医者は沈痛な面持ちで視線を下げた。

なんで、こんな時にでも悪口しか出てこないのだろう。

もっと伝えたい言葉は他にあるはずじゃないか、こんな事になる前に言いたい事はもっとあったじゃないか。

乱馬は医者をつかんでいた手を離し、あかねに近寄った。

『それ』は指の一本も動かない。

ただ、呼吸のためにわずかに腹部が大きくなったり縮んだりするのを繰り返しているだけだ。

あかねであったそれは、もはやただの置物にすぎなかった。

『乱馬のバーカ! 変態!』

あかねを思い出そうとしても、ひどい言葉しか思い出せない。

「ははっ、そーだよな、考えてみたらくだらない喧嘩ばっかしてたよな、俺達。」

そのくだらない喧嘩が、どれほどかけがえのない時間だったのか。
51 :らんまマギカ4話6 ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/10/02(日) 14:41:04.93 ID:JUrskdvQ0
ただの置物と化したあかねを目の前にして、ようやく乱馬は気付いた。

その時間は二度と帰ってくることは無い―

魔法か、奇跡でもない限り。

乱馬は遠い目をして窓の外を見た。

赤い夕日は自らの滅びを受け入れるように、悠然と沈んでいっている。

それはまるで、この無常を受け入れろと乱馬に迫っているように見えた。

(そんなこと、できるかよ…)

そうだ。

こんな結末、受け入れられるはずもない。

今までだって、奇跡みたいなことや信じられないことをたくさん起こしてきたじゃないか。

今回だって、何か方法があるはずだ。

医者が無理だと言ったぐらいで諦めてたまるか。

乱馬は諦観を押し付けようとする赤い夕日をキッとにらみつけた。

すると、ふいに視界のはしを白い小動物が横切った。

(あれは!?)

乱馬には、たしかに見覚えがあった。

一見猫のように見えるが、異常に長い変な耳が歴然とその違いを主張している。

(『何でもひとつだけ、キミの願いを叶えてあげることが出来るんだ。』)

あいつの言葉が乱馬の脳裏によみがえる。

また、適当な理由をつけて願いを叶えないのかもしれない。

あとでとんでもない見返りを請求されるのかもしれない。

それでも、万が一にでもあかねが助かるのなら、なんの迷いがあるだろうか?

乱馬は急いで走り出した。

途中、病院のトイレの蛇口で水をかぶり、女に変身する。

男の状態ではキュゥべえが契約を結んでくれない可能性があるからだ。

そして、すぐさま病室の中からキュゥべえが見えた場所へ向かった。

「どうしたんだい?そんなに血相を変えて?」

らんまがやってくると、待ち構えていたかのようにキュゥべえは声をかけた。

「しらじらしいぜ。オレが来るのを待って、あかねの病室のそばに居たんだろ?」

らんまは踏みつけそうなほどにキュゥべえに近づいた。

「キミはボクの姿を病室の窓からみたんだね?」

「それがどうした?」

「いや、なんでもない。」

そう言ったものの、キュゥべえは不思議に思った。

キュゥべえ自身はおさげ髪の少年(もしくは青年)にしか姿を見せた覚えが無いのだ。

この赤髪の少女はキュゥべえの姿を見ることはおろか、あかねの病室にも入っていないはずだ。

それなのに、おさげ髪の少年に姿を見せたところ、この少女がやってきた。

しかも、少年と同じ服装で。

(おそらくは、早乙女らんまは響良牙と同じ変身体質。それも男女の変身だね。)

キュゥべえはほぼ確信を抱いた。

しかし、わざわざここで本人に確認をとったりはしない。
52 :らんまマギカ4話7 ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/10/02(日) 14:43:33.03 ID:JUrskdvQ0
今から魔法少女として契約してもらおうというのにそれを知っていたとすれば、後々不信の原因になるだろう。

知らなかったことにした方が何かと都合が良い。

「そんなことより、おめーに叶えてほしい願いがある。」

「なんだい? この間の願いはナシだよ。」

もちろん、らんまの願いが何かは分かっている。

それでもキュゥべえはしらをきった。

なるべく、誘導されたという印象を与えず、自分の意思で決めたと思わせなければならない。

そうでなければこれまた後々の不信につながるし、誘導された願いではどうしても魔法少女としての力も弱くなる。

「てめー! この状況でオレの願いが分かんないのかよ!」

らんまが激昂する。

「ボクには人間の考えは分からないよ。ちゃんと、キミの願いを口に出していってくれないと叶えることもできないしね。」

また適当にはぐらかされるのかと思い、らんまはますます憤った。

「うるせぇ! 何でも叶えられるなら、あかねを…天道あかねを治してみろよ! 事故の前みたいに不器用で、
意地っ張りで、かわいくねー元のあかねを返してくれよ!」

らんまはキュゥべえをつかみ上げ壁に押し付け、ヤンキーがカツアゲでもするような体制で願いを言った。

しかし、キュゥべえはみじろぎもせず、平然とその何を考えているのか分からない顔をらんまに向ける。

「契約したら魔法少女になって魔女と戦わなきゃいけないんだけど、それは構わないのかい?」

「妖怪退治は武闘家のつとめだ。その程度構うかよ!」

らんまはキュゥべえを壁に押し付ける力をさらに強める。

早くしろとせかしているのだ。

キュゥべえは、やれやれと呆れたような態度を装ってから、おごそかに口を開いた。

「おめでとう、キミの願いはエントロピーを凌駕した。」

その言葉と同時に、らんまは急に体全体が痛くて熱いような感覚におちいり、力なくキュゥべえを手放す。

そして、らんまの体の中から光に包まれた緋色の宝石が生まれ出て宙に浮かんだ。

「受け取るといい、それがキミの運命だ。」

らんまはその宝石をわしづかみにするように右手につかんだ。

不思議と体の痛みが治まり、同時に宝石を包んでいた光も消えていく。

「…これは?」

「それはソウルジェムと言うんだ。これかららんまには、このソウルジェムを使って魔法少女に変身して
魔女と戦ってもらうよ。」

「ふーん」

らんまは興味なさげに言った。

「そんなことよりも、あかねは本当に治ったんだろーな!?」

「キミの魔翌力とあかねの重症具合だと一瞬で全快ってわけにもいかないけど、一週間もすれば完治だと思うよ?」

キュゥべえはけろっと『完治』という言葉を出した。しかもたったの一週間で。

医者がよってたかっても生命維持がやっと。意識を取り戻す可能性すら無いと言っていたのに。

らんまはまだ魔法少女について説明したげなキュゥべえを無視してあかねの病室へと駆け出した。

力任せに扉を開け、上履きで強引に走り、息を切らしたまま病室のドアを開ける。

「あかねぇ!」

看護士の制止をふりきり、むりやりにあかねのそばに行く。

あかねはただただ静かな吐息をもらしていた。

ふと、その吐息の中に小さなノイズが混ざる。
53 :らんまマギカ4話7 ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/10/02(日) 14:45:07.27 ID:JUrskdvQ0
「…ら………」

そのほんの小さなサインに反応し、らんまは叫んだ。

「オレだ、あかね、分かるか!?」

その言葉に反応して、ゆっくりだがはっきりと、あかねは口にした。

「…ら……ん…ま……」

*************

「お医者さんの言うには奇跡か魔法みたいだってさ。」

そう言って、冷静を装うなびきの目にも泣きはらして充血した赤さや、涙が乾いた跡がはっきりと見て取れた。

「まさかもう意識を回復するとは、さすがに天道くんの娘だ。こりゃ一週間もすれば全快かも知れん。」

玄馬は早雲の肩を持って、明るく言って見せた。

「しゃおつめくん、ぽくわ、ぽくは…っ!」

その早雲は、さっきから涙が流れっぱなし、鼻水もたれっぱなしで、もはやまともな日本語も話せない。

「なーに、あかねちゃんが回復したら二度とこんなことにならないようにワシが闘気吸引のツボを…うごっ!」

「やめな、ジジイ!」

八宝斎が余計なことをしようとするのでらんまは遠慮なくぶん殴った。

「でも、本当に良かった。」

ここでようやく、警察や医者・病院との対応を冷静にこなしていたかすみの目から涙がこぼれた。

なんて、芯の強い人だろう。らんまは素直にそう思う。

かすみは人一倍やさしくて情が深いはずなのに、今の今までみんなの混乱が大きくならないように涙をこらえていたのだ。

(本当に、これでよかったんだよな…)

魔法少女になってしまったこと。その対価として奇跡を買ったこと。不安がないといえば嘘になる。

しかしらんまはこの風景を見て思う、後悔なんてあるわけが無いと。

「それじゃ、オレは風呂入ってくるぜ。」

らんまはそう言って居間を後にし、風呂場に向かった。

あわただしくて自分自身でもすっかり忘れていたが、病院で水をかぶってからずっと女のまんまだし、
水に濡れてから乾いた服がちょっと気持ち悪い。

(熱いシャワーでも浴びて、今日は何日かぶりにすっきり寝るか。)

乱雑に服を脱ぎ捨てて風呂場に入り、らんまはシャワーの栓をひねる。

湯気と共に大量のお湯があふれ出し、らんまの体全体を覆った。

柔肌をすべるように流れるお湯が感覚を刺激して心地良い。

(そーいや、あんまり熱いシャワーはお肌に悪いってあかねがいってたかな?)

一応、女だし、多少は気をつけてみるかとらんまはシャワーの温度を下げた。

「え?」

ふと、違和感をいだき、らんまは自分の腕を見てみた。乙女の柔肌が若々しい張りでお湯をはじいている。

胸を見た。ふたつの大きなふくらみはクラスの女子と比べてもトップクラスだろう。

そして、股間部には男子としてあるべきものが存在していない。

「な…あ…ああ……なんじゃこりゃぁーっ!!」

らんまの絶叫が風林館にこだました。

「乱馬くん、静かに。近所迷惑でしょーが。」

居間から聞こえるなびきのお叱りも、今のらんまには全く聞こえはしなかった。
54 : ◆awWwWwwWGE :2011/10/02(日) 14:49:08.73 ID:JUrskdvQ0
第4話うp完了。

ようやくスレタイまで行きました(汗

林原めぐみの魔法少女って、それなんて海モモ?


あ、「4話7」が二つになってしまいました。
すいません、最後は「4話8」です。
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/10/02(日) 15:12:19.14 ID:8BD8RWMAo
おいおい、待て、この流れだと、マミさんの子供の時の事故も………
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/10/02(日) 15:18:59.59 ID:iPUu3GQAO

早くもQBが原作以上に下衆いな
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/10/02(日) 17:59:47.08 ID:80xLKXi10
杏子を[ピーーー]ために嘘もついてるし
エイミーもQBの仕業っぽいよな
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/02(日) 18:10:31.42 ID:HtS4nZHg0

年末の実写化でらんまSS増えるのかな

後、創作発表板から移転って本当?
あっちの作風には見えないけど。
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/02(日) 18:28:24.90 ID:ikOfrcHj0
マミは等身大の普通の少女だし、闘気と言う未知の力が使えるとか、まどかのような超絶の素質を秘めているとかじゃないから顔見せしていつでも契約が結べる様にするけど、運転手の発言や他の魔法少女に目撃され工作が漏れる危険は冒さないと思うぞ。
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/10/02(日) 19:01:01.06 ID:sTq6U5wAO
QB外道過ぎワロタ……
ギャグマンガ体質をもってしてもギャグ無しの悪意の前には無力か……
そして変異体質治ったよ、やったねらんまちゃん(棒
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/02(日) 20:25:28.83 ID:ikOfrcHj0
良牙のライバルが消え去った。異能の域の方向音痴はPちゃんになれば解消(原作ではPちゃんの時はちゃんと目的地(天道家)に着いている。
良牙はらんまを助ける為に呪泉郷で女豚になってQBと契約するとかやりそう。雌豚の魔法少女か、まどかが割箸のシュールなSSが有ったけど、Pちゃん(♀)の魔法少女もそれに劣らないシュールな姿になりそう。
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/10/02(日) 20:30:42.66 ID:bKejUPFx0
キュゥべえは言動こそ挑発的だけど、ここまでアグレッシブじゃないだろ
実際は割とのんきなやつだよ
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/10/02(日) 20:32:52.71 ID:bKejUPFx0
キュゥべえは言動こそ挑発的だけど、ここまでアグレッシブじゃないだろ
実際は割とのんきなやつだよ
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/10/02(日) 20:49:38.20 ID:E+r2lY+T0
>>62-63
必死すぎワロたwww
さてはお前キュゥべえだな!
65 : ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/10/02(日) 21:05:27.95 ID:JUrskdvQ0
みなさん、レスありがとうございます。

QBは時と場合によって行動基準が違うように見えるので書き手によって
幅の大きいキャラだと思います。うちのQBはとことん外道路線と言うことで。

創作発表板からの移転と言うのは、訂正するほど間違ってはいません。
もともとこのSSはこちら(SS速報VIP)で載せたかったのですがたまたま
第1話の時、ここで建てられなかったので、創作発表板のスレを借りました。
しかし向こうは連投に制約があったり文字数が少なかったりと使いにくかったので
こちらでスレを建てた次第です。

普段は居場所を定めずに書き散らしていますので特に創作発表板住人というわけでも
ありません。

実写らんまは期待していますが、前の1ポンドが大幅に原作改編されていたので
その点では見るのに覚悟がいりそうですね。
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/10/03(月) 04:44:00.72 ID:5jC2DAgAO
アイヤ〜!
お疲れ様アルよ
らんま的SSは久しぶりね
やっぱりらんまはカッコいいアル
続きとっても楽しみね
作者頑張るよろし
 
 
 
 
シャンプーの出番勿論有るよな?
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/10/03(月) 12:03:32.84 ID:DsyoDuHAO
>>61
良牙が娘溺泉に入ったら普通に以前のらんまと同じ状態になるんじゃね?
混ざらないだろ、多分。

てか、ソウルジェムの強制力と呪泉郷の呪いパワーはどっちが強いんだろうか。
現在のらんまは呪い+ジェムだけど、
男溺泉に入ったら女が契約した場合呪いとジェムは相反する訳だし。
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/10/03(月) 17:36:38.83 ID:5jC2DAgAO
ジェムには別に強制力なんて無いじゃん
普通に男になって魔翌力が弱くなる(魔法を使えなくなる)だけだろ
魔翌力資質的に少女のが大きい力を持つからQBは少女と契約してるだけ
男と契約してもカスみたいなのしか出来ないからQB的に意味が無いしな
まあ所詮は漫画設定だし
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/03(月) 18:32:58.71 ID:IRkgQrpk0
>>67
パンスト太郎は新たに浸かった泉で以前の体質が消える事無く混ざる形で現れた。
パンスト太郎が特殊な例なのか、混ざるのが普通なのかは作中で特に言っていないから作者のさじ減で良いと思う。娘溺泉に入った男は、男溺泉のお湯を浴びないとふたなりになるだけ(ある意味御褒美)で男には戻れないかもしれない。
これも書き手の解釈次第だが、ジェムが体の異常を察知し魔法で修復、浸かっていると凄い勢いでジェムが濁るとか。
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/10/04(火) 12:00:53.09 ID:1a7zusoAO
>>68
>>53でらんまがお湯被っても男に戻れなくなってたから、ジェム、あるいは契約そのものによって女の状態に固定されちゃってる事を強制力って書いてみたわけよ。
ならば男溺泉に入った女が契約すれば、変異体質が押さえ込まれるのか、或いは呪いが勝って変異できるのか、ってこと。

>>69
パンスト太郎あれから更に進化したのか……アニメしか見てないから知らなかったわ。
原作読んでみようかな。
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/04(火) 20:58:36.01 ID:wPbYxHgC0
作中で、あのキメラモードに蛸が加わった。
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/10/05(水) 00:44:12.13 ID:89XT0pCS0
CV林原めぐみで魔法少女・・・ドラグスレイブとか放つんですねわかりますん
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/05(水) 18:54:16.88 ID:cDVHUfMio
「私は、3ループ目だから……」(CV林原)
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/10/10(月) 03:07:02.92 ID:Y8r6RRbAO
「あなたは死なないわ。 私が守るもの…」
と言われてまどっちを奪われるんですね
分かります
75 :らんまマギカ5話1 [sage:副題「邪悪なケロちゃんと貪欲な知世ちゃん」]:2011/10/10(月) 13:40:33.36 ID:TV00bxRh0
『♪味ないな 和えたいな 切れないな このキムチ♪』
『♪胃痛いの 癒えないの 終電逃してばかり♪』

軽快な音楽が流れる。

『♪だって だって 手羽先揚げフライで♪』
『♪からしレンコン アルコール依存したい♪』

そのリズムに合わせてモニターの中の映像が移り変わる。

『♪ほら ラオチュウ パイチュウ ピーチュウ ショウチュウ 飲んで♪』
『♪こっちを向いて 酒だと言って♪』

映像はみんなフリフリの衣装を着たらんまだ。

『♪そう rice to meat you good to sea food きっと♪』
『♪私のお酒あなたのレバーに飛んで飛んで飛んでいけー♪』
『♪ウコン汁♪』

画面の中でらんまは振り返ったり、ピースしたり、ウインクしたり、楽しそうに跳ね回っている。

(どうしてこんなことに…)

当のらんまはこの映像作品をただぼうぜんとして眺めていた。

「いやぁ、我ながらうまく出来たもんねぇ。これなら売り上げ倍増間違いなし!やったわね、らんまちゃん。」

そんならんまの肩をたたきながら、なびきは満面の笑みで言った。

「ボクとしては、できればこういう風に目立つのは止めて欲しいんだけどね。」

キュゥべえはなびきに反発するが、なびきは全く気にする様子も無い。

キュゥべえに実力行使に出られるような直接的な力が無いことをすでに把握しているのだ。

「いーじゃない、減るもんじゃなし。…にしても、あんたホントにカメラに写んないのねぇ。」

「ああ。カメラはもちろん肉眼でも普通の人には見えないよ。本来はキミにも見えないけれど、
いちいち乱馬に言葉をとりついでもらうのも時間の無駄だから姿を現しているんだよ。」

なびきのふとした疑問にキュゥべえは答える。

「面倒くさい。後ろめたい事が無いなら普段からずっと姿を見せとけば良いじゃない。」

「それは―」

キュゥべえは何か答えようとするが、なびきはその言葉は別に返答を求めているわけではないらしく、
そそくさとパソコンに向かって動画の編集作業の続きを始めた。

一方、らんまはまだ立ち直れない。

「…ああ、オレがここまで落ちるなんて。」

「何言ってんのよ。らんまくんははじめっから落ちるほど高いトコに登ってないわよ。」

なびきは傍若無人に言い放つ。こんなことになったきっかけはつい昨日にあった。

**************

「―そうか、乱馬は変身体質だったのか。」

夜遅く、天道道場の瓦屋根の上でキュゥべえは言った。

「ああ。そこだけでもどうにか元に戻してくれねぇか?」

らんまの言葉にキュゥべえは首を振る。

「残念ながらそれはできない。魔法少女になった時点でキミの体は変化をしているんだ。
前の状態に戻すなんて能力はボクには備わってないよ。」

「…変化?」

らんまは気味悪そうに自分の体を見下ろした。

「魔法を使って魔女と戦うための必要最低限の処置だけどね。
たぶんそのせいで契約を結んだ時点の姿で固定されてしまったんだと思うよ。」

「だったら、男の姿で契約したらそのまんまずっと男でいられたってことか?」

「おそらくはね。」
76 :らんまマギカ5話2 [sage]:2011/10/10(月) 13:41:44.71 ID:TV00bxRh0
キュゥべえはそこは否定しない。

「でも、よほど素晴らしい素質がない限りボクは男とは契約しないから、
どちらにしろ乱馬は契約で完全に男に戻ることは出来なかった。」

だが結局はダメだったらしい。

考えてみれば、「男にしてくれ」という願いがダメならば男のまま契約を結ぶことも
また出来ないのは当然だろう。

「どうしようもねぇのは分かったけどよ、何で体を変化させるなんて大事な事を今まで言わなかったんだ?」

らんまはキュゥべえのことをもともと胡散臭いとは思っていたが、今回のことでより不信感を強めていた。

「それは心外な言葉だね。」

しかし、キュゥべえは堂々と開き直る。

「キミが黙っていなければ今回のことは避けられた事態のハズだよ。
むしろ、ボクにはキミがあわよくば契約の対価を踏み倒そうとしていたように思えるんだけどね。」

これにはらんまも痛いところをつかれた。

確かに黙っていたのはらんまの側も同じなのだ。

契約を結ぶためにわざわざ女になった以上、「本当は男です」などという言い訳が通用するはずもない。

その上、キュゥべえが言うようにあわよくば踏み倒せるという考えも無かったわけではない。

「ば、バカヤロー。オレがそんなせこい真似するかよ!」

図星だったのを隠そうと、らんまは虚勢を張る。

「オレの言いたかったのは、今後はそういう情報の行き違いを無くそうって話だ。」

「それはボクからもぜひお願いするよ。」

結局、らんまは男に戻るどころか、現状維持のままよくわからない妥協までしてしまった。

「それじゃあ、早速だけど今からボクの説明にしたがって魔法少女の仕事を実際にしてもらうよ。」

そんならんまの心情を知ってか知らずか、キュゥべえはケロリとして言った。

そろそろ本題に入ろうといった風情だ。

「おう。」

らんまは腕をならしながら答える。

魔法少女になったこと自体はやむをえない事情に流されたに過ぎない。

しかし武闘家の本能ゆえ、らんまは『魔女』とやらとの戦いをそれなりに楽しみにしていた。

「まずはソウルジェムを取り出して―」

「ああ、取り出したぜ。」

「それを高く掲げて―」

「こうか?」

「そうそう。そして、自分の思う魔法少女をイメージしてみて。」

「うーん、魔法少女か…」

らんまは少女アニメの類など見たことがない。

魔法少女というものに関しては、なびきの商売のためにコスプレさせられそうになったり、
クラスの女子やオタクな男子が持っているアイテムを垣間見て得た知識しかないのだ。

らんまは乏しい情報をもとに精一杯頭の中で魔法少女というものを描いてみた。

すると、ソウルジェムが光を放ち、その光がらんまをつつんだ。

「おおお、これはっ!?」

やがて光が服の形を成していった。

その服装は真っ赤なゴスロリ風衣装となった。

「恥ずかしがっていたわりにはなかなか派手だね。」
77 :らんまマギカ5話2 [sage]:2011/10/10(月) 13:42:44.42 ID:TV00bxRh0
キュゥべえの言葉にうながされたように、らんまは自分の格好を確認した。

「は、派手すぎるだろ、いくらなんでも!」

「ボクじゃないよ。らんま、あくまで君の中のイメージが具現化したに過ぎない。」

らんまの責めるような視線に、キュゥべえは冷酷な事実を告げた。

「残念ながら一度変身後の姿を決めたら簡単には変えられない。
当分の間、その姿で戦ってもらうことになる。」

らんまは大きくうなだれた。どうしてこんな格好を想像してしまったのか。

言われたままに素直に魔法少女を想像したのがそもそもの過ちと言うべきだろう。

 カシャッ

その時、らんまの背後からカメラのシャッター音が鳴った。

「へ?」

音のしたほうに、らんまが振り返り、キュゥべえも視線を向ける。

「乱馬くん、そんな趣味を持ってたなら早く言ってくれたらよかったのに。
最近は単純に露出が高いのよりもその手の写真が良く売れるのよねぇ。」

そう言って現れたのは、ショートボブの女子高生、天道家次女のなびきだった。

「キミは…?」

キュゥべえがなびきに近づく。

「あら、そんなところに猫が。っていうかしゃべってる。」

なびきはキュゥべえの存在に大した驚きは見せなかった。

彼女もまた非常識には慣れっこらしい。

「あたしは天道なびき。乱馬くんの義理の姉にあたるわ。あんたは?」

「ボクはキュゥべえ。魔法少女を作るのがボクの仕事さ。」

「魔法少女?」

なびきは不思議そうな顔をする。

「キミもボクと契約して魔法少女になってくれかい?
魔法少女になってくれるなら何でもひとつ、願いを叶えてあげられるよ。」

「何でも…ですって!?」

「あんまり信じねー方が良さそうだぜ?」

欲望を刺激されたなびきにらんまが注意する。

なびきはあごに手をあて、考えるしぐさをした。

「そうね、魔法少女っていうのが何をするのか分からないし、簡単にオーケーっていうのは難しいわね。」

「それなら、ちょうど良かった。
今かららんまに魔法少女として初仕事をしてもらうところだからなびきも付いてくれば良い。」

渡りに船、とばかりにキュゥべえは提案した。

「え? なびきを連れてくのか?」

らんまは露骨に嫌そうな顔をした。

なびきが性格的にやっかいだというのもあるが、それ以上にあかねの為に契約したということを知られたくなかった。

「そうね。お願いするわ。」

「それじゃあ、決定だね。」

しかし、らんまを無視して話はとんとん拍子で進んだ。

**********************

「―こういう風に裏路地とかで魔女を探すんだ。」

「なんだかけっこう地味ねぇ。」
78 :らんまマギカ5話2 [sage]:2011/10/10(月) 13:43:42.67 ID:TV00bxRh0
「しっかし本当に魔女なんているのかよ?」

らんまとキュゥべえとなびきは町内を循環していた。

らんまのソウルジェムに反応は無い。

「この辺りは住宅地だからね。繁華街と比べれば魔女のエネルギー源になる負の感情は少ないのかもしれない。」

「もうちょっと絵的に映えるシーンを撮りたいんだけどさぁ、どうにかならないの?」

たんたんと解説をするキュゥべえ。一方なびきはカメラをらんまに向けながらつぶやく。

「なびき、お前絶対勘違いしてるだろ?」

そんなやりとりをしつつ、歩いているとようやくソウルジェムに反応が出てきた。

「光り方が変わった?」

「らんま、これは近いよ、気をつけて。」

「らんまくん、こっち向いて。戦いの前の緊張した顔でアップ撮るから。」

そんなことを言っている間にも、まわりの風景が変化しはじめる。

ピンクやうす黄色のパステルカラー中心の空間。

ありとあらゆる場所にレース風の模様がついている。

「な、なんだこりゃ!?」

これには流石にらんまとなびきも驚いている様子だった。

「これが結界さ。らんまの魔翌力が魔女を刺激したんだろう。…さっそく使い魔が来たよ。」

キュゥべえはそう言って結界の奥に顔を向けた。

らんまとなびきがその方向を振り向くと、この世の生き物とは思えない何かが歩いてくる。

「…おい、これって。」

「うわぁ、まるでお爺ちゃんの頭の中みたい。」

近づいてきた使い魔は、二種類いた。

ひとつはヒモを脚にして歩いてくるブラジャー、もうひとつは翼の生えたパンティーだった。

「おそらく、女性用下着に執着する人間の邪念に反応して変質した魔女だろう。
魔女の性質そのものを変えてしまうなんて、よほどの執念だね。」

この異常な風景にも、キュゥべえは臆することなく解説を続ける。

「その邪念の持ち主に思い当たるのが嫌なところね。」

なびきが呆れ気味に言った。

「ああ。そういや、この間ジジイが盗んだ下着を潰しちまったのはこの辺だったな…」

らんまも露骨にテンションが下がっている。

「こんな使い魔でも人死にかかわるかもしれないんだ。油断はできないよ。」

「はいはい、倒せばいいんだろ?」

キュゥべえはあくまで緊張を保とうとするが、もはやらんまはやっつけ仕事の雰囲気だ。

案の定、らんまのパンチやキックで使い魔たちは簡単に倒されていく。

「…らんまくん、魔法少女になったのよね?」

らんまが戦っている間、なびきがキュゥべえに質問する。

「そうだよ。」

「でも、魔法使ってないじゃない。」

「あれはあくまで使い魔だからね。魔女が現れたら魔法を使わざるを得ないよ。」

「うーん、それはいいんだけど絵的にねぇ。」

なびきはカメラを回しながら肩をすくめた。
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(奈良県) [sage]:2011/10/10(月) 13:46:14.53 ID:TV00bxRh0
うわ、すいませんナンバリングミスってます。

>>77は5話3
>>78は5話4

です。
80 :らんまマギカ5話5 [sage]:2011/10/10(月) 13:47:38.77 ID:TV00bxRh0
そうしている間にも、らんまは使い魔をあらかた片付けた。

「よし、魔女に逃げられないうちに結界の奥に進もう。」

キュゥべえが先導する。下着模様の迷宮の中をらんまとなびきが付いていった。

結界の最深部に、それはいた。

巨大な黒タイツとガーターベルトが2対、逆向きに合わさって四足のクモのような形になっている。

そのタイツの中には何も入っていないにもかかわらず、着用されているかのように脚の形を保ち、
2つのガーターの接合部分の上には黒いブラが乗っかっていた。

魔女はらんまたち一行に気が付くと、ブラがカエルのまぶたのように開き、中から真っ赤な目玉が現れた。

「うわぁ…キモチ悪い。」

なびきがつぶやいた。

グロテスクさの中に、『ジジイ』こと八宝斎の偏執狂ぶりがふんだんに盛り込まれている。

らんまとなびきにとっていろんな意味で常軌を逸した存在だった。

それでもらんまは臆することなく飛び蹴りで魔女に向かっていった。

しかし、魔女は軽いステップでいとも簡単にらんまの蹴りをかわし、
防御のしにくい着地のタイミングを狙って蹴り返してきた。

「ぐわっ!」

らんまはまともに蹴りを食らい、壁まで飛ばされ叩きつけられた。

「くっ…こいつ!」

「らんま、魔法を使うんだ。魔女には格闘技だけでは勝てない。」

キュゥべえがアドバイスを加える。

だが、らんまは格闘技を馬鹿にされたように思え、かえって意固地になった。

「くそ、無差別格闘流を…オレをなめるんじゃねぇ!」

今度はさっきよりも高く飛び、魔女の真上に出る。

(四つ足じゃ、真上からの攻撃にゃ対処できないはずだ。)

そう思っての作戦だった。

しかし、魔女は前足を人間のように直立状態、後ろ足を逆立ち状態になって立ち上がった。

「な、しまっ…」

そう言っている間にもらんまは逆立ち状態になっている魔女の脚に挟まれ捕まってしまった。

「もしさぁ、魔法少女になったらあたしもあんなのと戦わなきゃならないの?
らんまくんがあんなに苦戦する相手じゃちょっと自信ないわねぇ。」

観戦中のなびきは驚きもせずに、平然とキュゥべえに質問をする。

「大丈夫。魔法を使えばあの魔女にだって勝てるし、なびきもらんま以上に強くなれるかもしれない。」

「ふーん。」

キュゥべえは強さへの憧れを刺激するように煽るが、なびきは無感動に相づちをうつ。

「これなら、どうだ!!」

魔女の脚にはさまれてなかなか抜け出せないらんまは奇策に出た。

なんと、いきなり自分のスカートを大きくめくったのだ。

魔女の目がらんまの下半身に釘付けになる。

しかし、らんまのはいているのは男物のトランクスだった。

トランクスを目の当たりにした魔女は、突如苦しみだし、脚をたたんで丸くなった。

魔女の邪念の元になっている八宝斎は、男性物下着は大嫌いなのだ。

その性質を、この魔女は受け継いでしまっていた。
81 :らんまマギカ5話6 [sage]:2011/10/10(月) 13:48:17.82 ID:TV00bxRh0
魔女が脚を離すと同時に、らんまは飛んで魔女から距離をとった。

「接近戦がダメならこれでどうだ、猛虎高飛車!」

らんまは着地と同時にすかさず闘気技をくり出す。

「残念だけど、獅子咆哮弾の類似技では魔女は倒せない。」

キュゥべえがつぶやく。

その言葉になびきは思った。

(この子、良牙くんの知り合い? それでらんまくんに目を付けたのかしら?)

猛虎高飛車の光の塊を食らった魔女は全身が燃え上がりあっけなく姿を消した。

「倒せてるわよ?」

「あれ?」

キュゥべえは首をかしげてみせた。

んなことを言っている間にも、パステルカラーの魔女空間はいつの間にか普段の夜空に入れ替わっていた。

「へっ、魔女がどんなもんかと思ったけど、オレの前じゃ敵じゃねーな。」

らんまは堂々と胸を張る。

「けっこう、苦戦してたじゃない。」

冷静につっこむなびきにらんまはバツの悪そうな顔をする。

そんならんまにキュゥべえが近づいていった。

「らんま、あの技は一体?」

「ああ、あれは猛虎高飛車って言ってな。強気とか勝気を闘気に反映させて気を膨らませる技だ。」

らんまの答えにキュゥべえはしまったと思った。

強気や勝気なら魔女の「絶望」とは真逆と言って良い、非常に強い正の感情エネルギーだ。

たしかにそれなら魔法の攻撃でなくても魔女に大ダメージを与えられるだろう。

(でも、ボクは負の感情エネルギーを吸収するようにできてるんだよなぁ。)

もしかして、らんまを魔法少女にしたのは失敗だったのではないか。

早くもキュゥべえはそう思いはじめていた。

(いや、魔女を倒すのが上手い魔法少女はグリーフシードの回収役として役に立つ。)

そう考え直し、キュゥべえは今回の魔女がグリーフシードを落としていないか探した。

「らんま、なびき、これを見て。」

早速発見し、キュゥべえはらんまとなびきを呼んだ。

そこにはトゲの生えた小さな玉のようなものがあった。

「これはグリーフシードと言って、魔女を倒すと手に入るんだ。」

「『手に入る』って、何かに使うのか?」

らんまは素朴な疑問を口にする。

「ああ。魔法を使うとソウルジェムにけがれが出てくる。グリーフシードはそのけがれを吸ってくれるんだ。
つまり、使った分の魔翌力を回復してくれるアイテムと考えてくれていい。」

「なるほど。」

そう言ってらんまは自分のソウルジェムを取り出してみた。

全く魔法を使っていないので、透き通るようなきれいな緋色をしている。

「…よく分からないけど、けがれてるのかしら?」

「いや、全然。」

「じゃあ、今回は使わなくていいわけか。」
82 :らんまマギカ5話7 [sage]:2011/10/10(月) 13:49:22.15 ID:TV00bxRh0
そう言ってらんまはグリーフシードをポケットに入れた。

「そうだね。グリーフシードはけがれを吸いすぎるとまた魔女を発生させてしまう。
だから、ある程度使ったらボクを呼んでほしい。
けがれを吸ったグリーフシードを回収するのもボクの役目なんだ。」

説明しながらもキュゥべえは思った。

らんまは魔法を使わなくてもたいがいの魔女は倒せてしまうだろう。

そうすると、グリーフシードの使用はどうしても少なくなる。

だとすれば、十分にけがれを吸ったグリーフシードをらんまから回収することは困難になってしまう。

(やっぱり、らんまを魔法少女にしたのは失敗だった。
仕方がない、ここはらんまをきっかけに魔法少女を増やして…)

そう考え、キュゥべえはなびきに言った。

「さて、なびき。魔法少女についてある程度理解してもらえたと思うけど、キミも契約してくれるかい?」

「あー、あたしやっぱやめとく。」

しかし、なびきはあっさりと断った。

「叶えたい願いはないのかい?」

キュゥべえは食い下がる。

「一生あんなのと戦わなきゃならないなんてさぁ、どんなお金持ちになってもワリに合わないわよ。」

なびきはかたくなに断る。

(なびきのやつ、始めっから契約する気なんてなかったな。)

らんまは直感的にそう思った。何が目的かは分からないがなびきはそういう嫌らしい奴だ。

「そうか。残念だけど無理強いはできない。まだらんまにはフォローが必要だからボクはしばらくこの辺りに居る。
また気が変わったら言って欲しい。」

「そうね。変わればね。」

いかにも軽薄な言い方でなびきは答えた。

らんまの魔法少女初日はこうして終わった。

***************

翌日放課後、なびきはキュゥべえが居ないことを確認して、自室にらんまを呼んだ。

天道家の面々や玄馬からはまたいかがわしい撮影でもされるとしか思われない。

しかし、なびきはいつになくシリアスだった。

「らんまくん、もしかして男に戻れなくなったのって魔法少女になったから?」

「え? あ…ああ。」

そんななびきに圧され、つい聞かれるがままらんまは答えてしまう。

「それで、らんまくんは何をキュゥべえにお願いしたの?」

なびきの表情は険しい。

「そ、それは…」

『あかねのために』なんて答えられない。

それを言ってしまえば天道家全体に、そして誰よりもあかねに大きな負い目を負わせてしまうことになる。

だが、答えられないのがかえって答えになってしまった。

「あかねでしょ。」

「うっ!」

なびきとて確信まではないはずだ。

しかし、らんまの歯切れの悪さや動揺が『それが正解です』と言ってしまっている。

「…やっぱり。まあ、あたしとしてはらんまくんに『ありがとう』って言わなきゃね。」
83 :らんまマギカ5話8 [sage]:2011/10/10(月) 13:51:32.36 ID:TV00bxRh0
「ちょっと待った、これはあかねには…」

「分かってるわよ。こんなことあかねにもお父さんにも言えやしないって。」

どうやら、らんまの思考パターンはなびきには読まれているらしい。

「でもさ、らんまくんは当然、いまのまま完全に女の子になっちゃうのは嫌よね?」

「あたりめーだ。とりあえず、シャンプーとこの婆さんにでも相談してみるさ。」

「それも良いけどさ、あたしに策があるわ。もし男に戻りたいなら乗ってみない?」

なびきは表情を軽くしてウインクしてみせた。

らんまは思案した。たしかになびきは悪知恵に関してはなかなかのものだ。

自信を持って『策がある』とまで言っているからには試してみる価値はあるかもしれない。

「マジか? 何かアテがあるなら頼む!」

らんまは力強く答えた。

「その意気やよし! それじゃあ、まず魔法少女に変身してみて。」

「ああ、えーっとソウルジェムを出して…」

まだ慣れていないらんまはガサゴソとポケットを探し、ポーズもとらずに変身する。

「んー、魔法少女の変身ってさ、もうちょっと色っぽくして欲しいかな。」

「そんなのどうだって良いだろ。」

「まあいっか、それじゃ、笑顔でこっち向いてー。」

そう言ったなびきの手にはカメラが握られていた。

「おいこらまて、なんで撮影する?」

話が違う。らんまは今の完全女状態から抜け出すために話に乗るといった。

それなのに、なぜなびきの小遣い稼ぎの撮影をさせられているのか。

また騙されたと、キレ気味のらんまに対して、なびきはチッチッチッと指をふってみせた。

「分かってないわねぇ。これが男に戻るための作戦よ。」

「んなわけあるか、こんにゃろう!」

「まーまー、落ち着いて聞きなさい。あのキュゥべえってのちょっと胡散臭いでしょ?」

「…ああ。」

らんまは控えめに同意した。

キュゥべえは一応あかねの命の恩人であるはずだから、悪く言うのには同意すべきでない。

しかし、どうにも胡散臭く感じている自分も否定し切れない。

なにより同意もとらずに人の体を変化させるというのはとてもマトモな相手とは思えなかった。

「だからさ、ゆさぶりをかけてみるわけよ。
できるだけキュゥべえの嫌がりそうなことをして、反応を見てみるの。
上手く行けば『お前なんか魔法少女失格だ』なんて感じでさぁ、元に戻れるかもしれないし、
そんなに上手く行かなくてもキュゥべえの本音が見えてくるかもしんないでしょ。」

「その嫌がりそうなことのひとつが、これだってのか?」

らんまはなびきのとった写真を見ながら言った。

「まあ、あたしの実益を兼ねてることは否定しないわ。ヒトってそういうものでしょ?
あたしは、何のために行動しているのか分からないヒトは信用できないもの。」

なびきの言う「何のために行動しているのか分からないヒト」とはキュゥべえのことなのだろう。

確かに何が狙いか分からない相手よりは目的がはっきりしている相手のほうが信頼しやすい。
少なくとも予想外の裏切りということは考えにくいからだ。

「ちっ、仕方ねーな。オレがちゃんと男に戻れるようにするのが目的なんだよな?
だったら、恥は書き捨てだ。協力するよ。」

「ふふ、そう来なくっちゃ。」
84 :らんまマギカ5話9 [sage]:2011/10/10(月) 13:52:11.50 ID:TV00bxRh0
しぶしぶ同意するらんまに対し、なびきは楽しげにうなずいた。

**************

それから数時間にして、ネットアイドルとしてサイトが開設され、『魔法少女ランマちゃん』のイメージ動画が作成された。

(なびきのやつ、ぜったい利益優先だよな?)

らんまはなびきの口車に乗って、好きなように写真やビデオをとらせてしまったことを悔やんだが、もはや後の祭りだった。

「ここまでするなんて聞いてねぇ。」

「あら?心外だわ。あたしは嘘はついていないし。問題があるなら、らんまくんの確認不足ね。」

ぼやくらんまになびきは平然とそう言った。

「らんま、認識の相違を一方的に相手の責任に押し付ける態度はよくないよ。」

いつの間にか部屋にやってきたキュゥべえもらんまに追い討ちをかける。

おそらくまた魔女狩りに連れ出そうとして来たのだろう。

「へー、キュゥべえちゃん、良いこというじゃない。」

「ありがとう。でも、こういう派手な活動はやめて欲しいな。」

(くそっ、こいつら同類かよ!)

被害者はただ泣き寝入りするしかできなかった。
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(奈良県) :2011/10/10(月) 13:53:44.46 ID:TV00bxRh0

おそくなりましたが、第5話アップです。

今回は難産でした(汗
86 :らんまマギカ5話オマケ [sage]:2011/10/10(月) 13:55:02.43 ID:TV00bxRh0
【おまけ@】今回のオリ魔女

『下着の魔女』
Triumph Tuche

その性質は倒錯(性的な意味で)。
女性美を象徴するものを喜ぶが、反面、男性的なものは苦手とする。
トランクス、股引、猿股などがあれば簡単に隙を付くことができるだろう。


【おまけA】らんまの魔法少女姿
           __
     ,. -―/-、`)
   〈V〉†ヘ==べ゙ミ、
   (咒){ {从从! }ヾ
   ,.ィゝ(V ゚ -゚ノ|ノ
  〈y)' と{フ_]†[j⊃、
  〈リ .</,、,、,、ヽ.ヾ〉
    〈ノ`~(,ノU~´

※おさげが大きすぎるのは気のせいです
※基本的に某ゲートボールの魔法少女風
※頭部のぬいぐるみをウサギの代わりにパンダで


【おまけB】余談

乱「そういやなんでパソコンとビデオカメラまでもってんのに携帯買わないんだ?」

な「ただで貰えるかもしれないからに決まってるじゃない。たまにプリペイドの携帯は使ってるけどね。」

乱「ふーん、毎月携帯代払うのはきついってことか?」

な「そーいうんじゃなくって、プリペイドだと足が付きにくいでしょ。連絡取りたくない相手とは切りやすいし。」

乱「つまりは詐欺に使ってるってことじゃねーか。」

な「失礼ね、ビジネスよ、ビ・ジ・ネ・ス。」

QB(なんでだろう、なびきは人間なのにたまに同胞じゃないかと思えるよ。)
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/10/10(月) 16:13:51.59 ID:qH2M4dpAO
こんなスレがあったのか。
なんという俺得。
らんまサイドだとなびきの洞察力VSQBの営業力的展開になるのかな
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/10/10(月) 18:46:50.04 ID:Ey+tyx//0
なびきの隙の無さは異常。


飛竜昇天破→飛竜降臨弾→飛竜氷突破
火中天津甘栗拳
海千拳

魔女に対抗できそうなのはこれくらいか? 他に何かあったっけ?
八宝五円殺が効くかどうかとか、夢が広がる。

89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/10/10(月) 21:07:48.08 ID:Y8r6RRbAO
乙です
らんまの魔法が早く見たいわww
どんな設定になるやら
 
飛竜系は相手の燃える闘気が要るから魔女相手には使えないんじゃね?
ダメージも物理的だし
高飛車は正の気当てだからダメージ有る訳で
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) :2011/10/11(火) 01:32:53.26 ID:SF6PAzdN0
火中天津甘栗拳って理論上1秒間で2,500発放てるらしいぜ
北斗百裂拳よりすごくね?
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/10/11(火) 14:57:49.73 ID:pQSZP7HAO
甘栗拳はただ超早く殴ってるだけだから、ガチで殺しにかかる北斗神拳ほどの殺傷力はないだろ
ギャグマンガ体質じゃなきゃ甘栗拳でもミンチになるだろうが

甘栗拳じゃ魔女相手には火力不足だろうな……
魔翌力要らずで効果抜群の猛虎高飛車があるし、ものすごく有利なのは変わらないな
しかも素で強いのに身体強化が加わるとか元々の男乱馬以上の戦闘力は確実だしどれだけ強いんだか……
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/11(火) 20:47:28.29 ID:K2syL6pDO
北斗百烈拳はあれ全部秘孔をついてる。
決してフルスピードでパンチを連発しているわけではなく
むしろ正確な秘孔知識と精密な動作が必要とされる技。
スピードだけを求めた火中天津甘栗拳とは根本的に性質が違う。

らんま勢なら北斗の世界でも中ボスクラスだろうけどね。
93 : ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/10/16(日) 22:40:20.47 ID:dEl3/Y9C0
前回アップ時はトリップなくしましたが、今回からやっぱりまたトリップ付けます
94 :らんまマギカ6話1 ◆awWwWwwWGE [saga:副題「黄組の次は赤組」]:2011/10/16(日) 22:42:18.77 ID:dEl3/Y9C0
薄暗いゲームセンターは、まるで貸しきり状態だった。

赤髪の少女は、このゲームセンターの一角でひたすら踊り続けていた。

「音ゲー」と呼ばれるジャンルのゲームで、音楽に合わせてステップを踏むことで得点を上げるものだ。

少女は完璧にステップを踏みながら、得点に関係のない手のフリや足のターンなども加える。

単純に得点を稼ぐためのステップだけでなく見栄えも重視するのは上級者のたしなみと言えるだろう。

これが客の多い時間帯なら、ギャラリーから拍手喝さいが送られたはずだ。

しかし、それなりに設備の整ったゲームセンターでも、平日の昼間となればほとんど客は居ない。

だから、どんな凄腕プレイにも拍手が来ない代わりに、人気ゲームをどれだけ連コインしても文句は言われない。

少々寂しいことを除けば、ゲームを楽しむには理想的な状況だろう。

「よぉ、久しぶりじゃねーか?」

ダンスを続けながら、少女はおもむろに口を開いた。

「ああ。しばらくぶりだね、佐倉杏子。」

あどけない少年のような声が、少女の背後から聞こえる。

しかし少女はゲームに集中し、後ろを振り返りなどしない。

「実はちょっと困ったことになった。キミの力を借りたい。」

「魔女狩りなら、マミに当たった方がいいんじゃねーのか?」

音楽がサビに入り、少女のステップが激しくなる。今がこのゲームの佳境なのだ。

「ああ、魔女ならね。…でも、今回の相手は魔法少女だ。」

少年のような声を無視するように、少女は無言でダンスをする。

脚を広げて腰を落としたかと思うと、手のひらを地においてステップを踏み、
その手をつっぱる力を利用して華麗にターンジャンプをする。

そして、ポーズをとっての着地でフィニッシュを決める。

『ヒュー! ヒュー! マーベラス! グレイト!』

ゲームに内蔵された音声が少女のダンスを絶賛した。

少女の体はきっちりゲーム画面の逆側、声のした方に向いていた。

「へぇ、面白そうじゃん。話を聞こうか。」

彼女の視線を向けた先には、白い小動物がたたずんでいた。

******************

「新しく契約を結んだ魔法少女がね、全然魔法を使ってくれないんだ。」

白い小動物こと、キュゥべえは頭をうつむき気味にして残念そうな表情を装う。

「ふーん、魔女退治さぼって仕事しない魔法少女をシメろ、って話か。」

赤い髪の少女・佐倉杏子はお菓子をつまみながら会話をする。

ひっきりなしにモノを食べている割には、杏子の体格は貧相だった。

少し知識のある人が見れば、成長期の栄養不足や精神負荷の影響に思い当たるだろう。

「いや、魔女退治はしてくれている。」

「じゃあ、何が問題なのさ。」

杏子の疑問は当然だった。

彼女は魔法少女となって魔女と戦ってもらうとキュゥべえに説明されて契約したのだ。

それが魔法少女の仕事なら魔女と戦って退治できているなら魔法を使おうが使うまいが関係ないはずだ。

「その魔法少女の義理の姉とか言う人がね、魔法少女をアイドルにしたてて、商売にしちゃってるんだ。
そういう事をされると魔法の使えない一般人が多くこの世界に関わることになってしまう。
ボクとしてはできればそういう事態は避けたい。」
95 :らんまマギカ6話2 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/10/16(日) 22:43:20.87 ID:dEl3/Y9C0
キュゥべえの説明に、杏子はまだ納得がいかなかった。

杏子は普段、魔女の使い魔を倒さない。それは使い魔に殺される人間を見殺しにする行為だ。

そんなことをしている自分をとがめないくせに、一般人が巻き込まれる事をさけたいというのは話の筋が通らない。

杏子としては善悪などどうでもいいことだったが、胡散臭い話には乗りたくなかった。

いぶかしがる杏子の反応を見てなのか、キュゥべえは付け加えた。

「彼女達はどうやら、グリーフシードの販売もしているらしい。
管理能力のない一般人の手にグリーフシードが渡るぐらいなら、杏子、キミが持っている方が助かる。」

その言葉に杏子の目の色が変わった。

別に、一般人がグリーフシードを孵化させて自滅してもかまわない。そんなことはどうでもいい。

それよりも、その新人魔法少女を倒せば売るほどに余ったグリーフシードが手に入る。

杏子にとってはそれが重要だった。

グリーフシードが手に入るのなら、キュゥべえの目的が何かなど大した問題ではない。

「へー、初心者一匹倒してグリーフシードがっぽりか。ワリの良い仕事じゃねーか。」

そう言って、硬いアーモンドチョコレートを一気にかみ砕いたとき、すでに杏子の意思は決まっていた。

*********************

「ふむ、確かに変身せんのぉ…」

化けガエルのような顔をした老婆がうなった。

「ばーさんでも分かんねぇのかよ。」

さすがにらんまは落ち込んだ表情をしていた。

無差別格闘流創始者の八宝斎に聞いても、骨接ぎ屋の東風先生に聞いてもダメだった。

そして、最後の望みをかけた本命のこの妖怪じみた中国出身の老婆に聞いても分からなかったのだ。

もちろん、らんまとて彼らにすべてを説明したわけではない。

あかねのために怪しげな契約をしたなどと言えるわけが無かった。

結局らんまの説明は「猫のような変な奴に呪いをかけられて、男に戻れなくなった。」という
程度の抽象的なものにならざるを得なかった。

「とりあえず試せるものは試してみるのが一番じゃ。鳳凰山から開水壺を取り寄せてみるとしよう。」

開水壺と止水桶という対を成す二つのアイテムがある。

止水桶でくんだ水を浴びれば、呪泉郷の呪いを固定化し、お湯をかぶっても元の姿に戻らなくなる。

一方、開水壺は止水桶の効果を打ち消し、変身体質に戻すアイテムだ。

今回は止水桶のせいではないが、変身後の姿に固定されていると言う点では止水桶を使ったのと同じ状況だ。

開水壺で変身体質に戻れる可能性が無いとも言い切れない。

「ああ、すまねーな、ばーさん。」

「ムコ殿が謝ることはない。シャンプーのためじゃて。」

そう言って老婆は微笑んで見せた。

早乙女乱馬は色々あってシャンプーと言う中国人の少女とも許婚ということになってしまっている。

この老婆はそのシャンプーの曾祖母にあたるのでらんまのことを「ムコ殿」と呼ぶのだ。

らんまは「それじゃ」と簡単に挨拶をして、この老婆・コロンが経営する猫飯店を後にした。

(しっかし、鳳凰山から取り寄せだと当分先だな。)

鳳凰山というのは中国奥地の電気ガスもろくに通っていない未開の地だ。

下手をすれば届くのは何ヶ月も先になるかもしれない。

そのうえ、開水壺は鳳凰山の人々にとっては秘宝である。

いくらコロンの顔が広いとはいえ、そう簡単に渡してくれるものかどうかもあやしい。
96 :らんまマギカ6話3 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/10/16(日) 22:44:21.77 ID:dEl3/Y9C0
(届くのを待ってる間に他の方法も考えたほうがいいな。)

そんなことを考えながら、らんまは今日も魔女探索を始めた。

別に必ず魔女を倒さなければならないわけではない。

らんまは魔法を使う必要がないし、使い方自体まだよく分かっていないからグリーフシードは必要ない。

それでも魔女退治をする理由のひとつは、なびきが何か思うところありげに魔女退治を勧めてきたこと。

もうひとつは、魔女退治がちょうどいい修行になることだった。

魔女によって戦い方が全然違うし、ほどよく強いのでらんまは魔女との戦いに楽しみすら感じていた。

もちろん、町の人たちを守るというのも大事だと思うが、まだ一般人が巻き込まれるところに出会っていないので
その点についてはいまいち実感がわかない。

らんまが河川敷をうろついていると、突如結界が展開された。

(…来たか!)

らんまは身構える。

キュゥべえの説明では魔法少女になると、その魔力に反応して魔女やその使い魔が攻撃的になるらしい。

そのせいか、らんまとて魔法少女になるまでは魔女の結界になど巻き込まれたことは無かったが、
今では向こうから仕掛けてくる。

もっとも、らんまが意図的に魔女の出そうな場所に行っているせいもあるだろうが。

今回出てきた化け物は、子供のらくがきのような姿をしていた。

結界がところどころはげて夕焼け空が見えている。

おそらくは魔女ではなく使い魔なのだろう。

「さっそく、終わらせてもらうぜ!」

らんまは躊躇無く、使い魔に飛びかかった。

が、その目前に槍が降って来る。

「わっ、何しやがる!」

とっさにらんまは身を翻して槍をかわした。

もう一歩前に出ていたら槍はらんまにあたっていただろう。

「おいおい、そいつは使い魔だよ? グリーフシード持ってるわけないじゃん。」

まだあどけなさの残るその声は頭上から聞こえてきた。

らんまが上を向くと、長い髪を乱雑にポニーテールにまとめた少女が槍を片手に堤防の上に立っていた。

赤いノースリーブのワンピースはへその辺りから下が前に開き、その奥からひらひらのスカートがのぞいている。

普通の人が見ればきっと何かのコスプレの類かと思うだろう。

しかし、らんまには先ほどの槍と少女の格好で相手が何者か理解した。

(あいつは…魔法少女!)

いきなり現れた魔法少女は言葉を続けた。

「っていうかさ、そのカンフーみたいなカッコ、変身してないよね? アンタ、魔女退治なめてるワケ?」

その魔法少女―佐倉杏子はガムをクチャクチャとかみながらしゃべる。

そして、言い終わったらプーッとガムの風船を大きく膨らませた。

ムカつく態度でどうでもいいことに難癖を付けてくる。

喧嘩を売られているというのはらんまにもよく分かった。

「すまねーけどな、オレが強すぎるからグリーフシードも変身も必要ねえんだ。
魔女とか使い魔とかぶっ倒してるのも、ただの暇つぶしだから邪魔されたら困るんだけどなぁ」

自分以外の魔法少女の強さを測るにはちょうど良い、らんまはそう思って相手を挑発しかえした。

「へぇ、ルーキーがナマ言ってくれるじゃん。そんじゃ、これはどうだ!」
97 :らんまマギカ6話4 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/10/16(日) 22:45:19.65 ID:dEl3/Y9C0
そう言うと杏子は急に機敏な動きをして堤防から飛び降りた。

落下しながらも槍をらんまに投げてくる。

「危ねーな、おい。」

らんまはのん気につぶやきながら猛スピードで落ちてくる槍をかわした。

一方杏子は頭から落ちていたにもかかわらず、ちゃんと足から着地して、一瞬で態勢を立て直す。

そして、すぐに新しく槍を生成するとらんまに斬りかかった。

「おっ!? よっ。」

上から落下してきた槍をかわしてすぐに杏子の攻撃が襲ってきたのでらんまは反撃の余裕もなく防戦に回った。

(なかなか良い動きしやがる。)

間断なく繰り出される槍の突きを避けながら、らんまは思った。

動きだけを見れば、あかねよりは確実に強いだろう。

シャンプーと同等かそれ以上…

(けっこう、厄介だな。)

シャンプー並の実力というだけなら、らんまは女の状態でも勝てる。

だが、刃物というのがなかなか厄介だ。

らんまはかつて、自分より格下とみなしていたライバルから気付かぬうちに木刀で打ち込まれたことがあった。

木刀だから打ち身が残る程度で済んだが、もしそれが真剣だったならば致命傷を負っていたことになる。

刃物を使う相手は、たとえ格下であってもほんの一度隙をつかれただけで終わりだ。

とうてい油断できないし、下手にしかけることもできない。

(でも、あんまりマジになって大怪我させるわけにもいかねーしな。)

そんなことを考えながら避けているのがバレたのか、杏子が表情をすごませた。

「アンタ、本気で戦ってねえな!」

その言葉と同時に、槍は多節昆に化け、大きく横なぎにらんまに襲い掛かった。

予想外の攻撃に、らんまは反応が間に合わず、まともに食らってコンクリートの堤防に叩きつけられた。

その衝撃で堤防のすぐそばに置いてあったタイヤの山が崩れ、らんまの姿はその下敷きになって消える。

「ったく、ウゼェやつだ。」

杏子は吐き棄てるようにそう言った。

「さーて、後はこいつの義理の姉だかなんかって奴からグリーフシードをぶん捕ればいいわけか。」

いつの間にか使い魔は完全に逃げおおせて、もともと不完全だった結界は跡形もなく解けている。

杏子は河川敷に背を向けてその場を去ろうとする。

その時だった。

急に轟音がなったかと思うとタイヤの山がはじけ飛び、光の弾が杏子に向かって飛んできた。

「な、なんだ、コレ!?」

杏子は髪を焦がすほどの際どさで何とか光の弾を避ける。

(あいつの魔法か? でも、全く魔力を感じなかった。)

杏子がタイヤの山があった場所を振り返ると、そこには変身したらんまの姿があった。

「なによ、ソレ? 髪だけじゃなくて服の色まで被ってるじゃん。超ウゼェ。」

「うるせぇ、ホントはこんな格好したくねえんだ。大事な服に穴開けやがって。」

二人の赤い魔法少女が対峙する。

杏子はまたも右手に槍を生成した。

杏子からしてみれば、相手の魔法の性質がまるで読めない。
98 :らんまマギカ6話5 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/10/16(日) 22:47:10.95 ID:dEl3/Y9C0
その上、思い切り叩きつけたはずなのに早くも立ち上がる回復力。

正直に言えばどう攻めていいのか分からなかった。

一方のらんまも、気軽に攻めにうつることはできなかった。

槍が突然多節昆に変わるなどというありえない変化を目の当たりにして魔法が真に魔法であることを理解した。

格闘技の経験だけではどんな攻撃が来るか想像もつかない。

双方、手詰まり状態でにらみ合いが続いた。

やがて、しびれを切らしたように、杏子が突進していった。

突き出された刃をらんまは際どく避けると、距離を保ったまま相手から見て左に回る。

相手が右利きならば、左に回った方が隙が多いし、攻撃もされにくい。

とっさのことに、杏子はすばやく反応して槍を多節昆に変え、大きく右から左へ横なぎした。

らんまはそれは飛んでかわすと、さらに左に回る。

「ちっ、ちょこまかと逃げてばっかでウゼェ!」

もともと槍と素手ではリーチに差がありすぎるのでらんまが仕掛けるには杏子のふところに飛び込まなければならない。

しかし、らんまは距離を保って避け続けるだけで自分から仕掛けようとしなかった。

らんまの動きを追っていく杏子の足取りは、自然に螺旋を描く。

「アンタも早く武器を出しな! それとも、武器を出す暇も無いのかい?」

そう言いながらも杏子は攻撃の手を緩めない。

「わりぃな。オレは普段武器つかわねーんだ。魔法の使い方もよくわかんねーしな。」

らんまはわざと余裕の表情を作った。言っていること自体は本当のことだ。

しかし、杏子はそれを挑発と受け取ってさらに熱くなる。

「…だったら、このまま刺身になっちまいな!」

杏子は左手にも槍を出し、両手で突きのラッシュを繰り出す。

普通の人間ならば片手で槍を突いたところで力が入らないので槍の二刀流など意味が無い。

だが杏子の槍は片手でも十分に力強い突きを連打してきた。

「わっ! とっ!」

さすがにこれはらんまも避けるのが苦しい。

(確かにこのままじゃ刺身になっちまう…だが!)

「飛竜昇天波!」

らんまは叫ぶと同時にあろうことか誰も居ない虚空に向けてこぶしを振り上げた。

「なにっ!?」

杏子は本能的に危険を感じ、とっさに防御体勢をとる。

その直後だった。

冷たい空気が重いパンチのようにぶつかってきたかと思うと、

それを中心に竜巻がまき起こり、杏子の体は空高く舞い上げられた。

「魔法少女か…なかなかの相手だったが、無差別格闘早乙女流の敵じゃねぇな。」

大技を決めて勝利を確信したらんまがつぶやく。

(さて、あいつをキャッチしてやんねーとな。)

そう思ってらんまは空を見上げた。飛竜昇天波は高威力でも殺傷力は低い。

ただし、巻き上げられた場合に頭から落ちたりすればその限りではない。

らんまは杏子の巻き上げられたあたりから目測で落ちてきそうなところに陣取る。

が、落ちてきたのは杏子ではなく槍だった。
99 :らんまマギカ6話6 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/10/16(日) 22:48:09.67 ID:dEl3/Y9C0
「げっ! まだ攻撃できるのかよ!?」

予想外のしぶとさにらんまも思わず不意を突かれた。

杏子は落下しながらも次々とらんまに槍を投げ落とす。

らんまはそれをキリキリ舞いになってかろうじて避ける。

「あれが、アンタの魔法か! おもしれぇ!」

杏子は着地すると、地面に突き刺さった多くの槍同士の間に防壁を出し、即席のリングを作り上げた。

こうなるとらんまは逃げ場が無くなる。

一方の杏子はさきほどまでの戦いでハイテンションになったのか、目をらんらんと輝かせていた。

「へっ、こうなったら何としてでもグリーフシード分捕らせてもらおうか!」

まるで、獲物に襲い掛かる虎や狼のごとく、杏子は襲い掛かる。

だがそれは虚勢だった。

飛竜昇天波のダメージは十分に受けている。今の杏子は魔法でむりやり動かない体を動かしているに過ぎない。

そして、そのための魔力もそろそろ限界だ。

もともと杏子は回復魔法は不得意で効率が悪い上に、すでに今までの戦いでかなりの魔力を消費しているのだ。

戦い続けるだけの魔力はあと数分しかもたないだろう。

それでも、決して杏子は無謀や蛮勇のみで虚勢を張っているわけではなかった。

あれだけの大技を使ったのなら相手もそろそろ魔力の限界が近いはずだ。

だからこっちにはまだ余裕があるとアピールすることで、相手を降参させようというのが杏子の算段だった。

当然、魔法少女としては初心者のらんまには杏子の心理的駆け引きが理解できるわけも無い。

らんまはこの見た目によらずタフネスを誇る魔法少女を相手に、必死で槍を避けていた。

「ちょっと待て!」

「なにさ?」

杏子は槍を振り回しつつ答える。

「グリーフシードってそんなに大事なもんなのか?」

らんまも必死でかわしながら質問をした。

「ふざけんな!そんだけ必死で守っておいて!」

杏子は今度は演技ではなく激昂する。

それを争って今こんなに激しく戦っているのではないのか。

杏子からすればらんまの態度は自分をなめているようにしか見えなかった。

「わかった、わかった!グリーフシードならくれてやる。」

らんまはポケットに入れていたグリーフシードを取り出して杏子に向かって投げた。

「え、マジで?」

予想外のらんまの行動に戸惑いながらも杏子は槍を動かす手を止めて、しっかりとグリーフシードをキャッチした。

そのおかげで、戦闘が停止した。

杏子は一瞬、グリーフシードを得たことに喜びそうになるものの、すぐにまた嫌悪感が湧いてきた。

どう見てもらんまの態度が杏子に恐れをなして降参という様子ではないのだ。

「テメェ、やっぱあたしのことなめてるな?」

「バカやろう、タダじゃねえ。それやるから魔法とかについていろいろ教えろ。」

「取引…ってわけか。」

杏子は思った。

どうやら、こいつの身の回りには他に魔法少女がいないらしい。
100 :らんまマギカ6話7 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/10/16(日) 22:49:14.73 ID:dEl3/Y9C0
そのうえ、グリーフシードの価値もよく分からないほど情報が不足している。

敵とか味方とかいう以前に情報が欲しいのは当然だろう。

杏子は話に乗ることにした。

これ以上戦い続けるのは、ソウルジェムの限界が怖い。

倒してぶん捕ったのではなく貰うというのがプライドをつっつくが、背に腹は代えられない状況だ。

「分かった。それじゃ、腹減ったからこの辺のメシ屋つれてけ。」

そう言って杏子は変身を解いた。

こうして、らんまの魔法少女同士の初めての戦いは勝敗がつかずに終わった。

**************************

「あ、らんちゃん。いらっしゃい。」

二人がお好み焼き屋に入ると、高校生ぐらいに見える少女が出迎えた。

他に店員はいない。

「よう、うっちゃん。オレは豚玉たのむ。」

らんまは軽い挨拶をすると早速注文をした。

「あいよ。…ん? なんや、その子?」

うっちゃんと呼ばれた店員はらんまの横に居る少女に目をつけた。

杏子はらんまによく似た赤い髪をしているが、全般的に体格は貧相で顔も似ていない。

第三者から見てもまず親戚には見えないだろう。

(変な誤解を与えてはならない。)

らんまは思った。

この店員、うっちゃんこと久遠寺右京もいろいろあってらんまの許婚ということになっている。

そっちの意味での「ライバル出現」とでも思われたら面倒だ。

「いやぁ、こいつが見た目によらず強くてな。服破られちまったよ。」

そう言ってらんまは杏子の攻撃で破れた腹部を見せる。

「らんちゃんに怪我を!?」

右京は巨大なコテを握って杏子をにらみつけた。

「あー、違う違う!お互い恨みっこ無しの正々堂々とした果し合いだ。なっ?」

らんまは杏子を振り返って目で合図した。

「ああ。良い勝負だった。」

杏子は棒読みで答えた。

事情はよく飲み込めなかったが、別にことを荒立てる理由も無い。

「そんならしゃあないな。…にしても、こんな子がらんちゃんに怪我させるほどのつわもんとは、世の中広いもんやなぁ。」

ついさっき、鬼の形相でにらみつけていた右京が、すでに好奇の目で杏子を見ている。

杏子をあくまで武闘家としてのライバルだと思わせることに成功し、らんまはホッとした。

********************

「にゃに? みゃほうをふはってにゃはっただほ!(何、魔法を使ってなかっただと)」

熱々のミックス玉をほうばりながら杏子が叫んだ。

「ああ、無差別格闘流三代目当主・早乙女乱馬とはオレのことだ!」

らんまは胸をはって親指で自分を指差して答えた。

杏子は強引にお好み焼きを飲み込む。

「いや、そんな流派聞いたことねーし。」
101 :らんまマギカ6話8 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/10/16(日) 22:50:44.85 ID:dEl3/Y9C0
らんまはガクッと落ち込んだ。

しかし、杏子の方はより大きなショックを受けていた。

ルーキーのわりにやたらと動きがよかったのは確かに説明が付いた。

格闘技の道場の跡取りというのならそのぐらいのレベルでも不思議ではないだろう。

だが、魔法を使わずにこの自分と引き分けたというのだ。いや、実質は引き分け以下だ。

自分は見栄を張っていただけだが、まだらんまには余裕があったのだから。

もしこいつが本格的に魔法も使いこなすようになってしまえばどうなるのか。

自分など足元にも及ばなくなるのではないか?

(ちっ、気分わりぃや)

杏子はいらつきを抑えるように大声で注文をした。

「ねーちゃん、ビール!」

まるっきり常連のオヤジのような台詞だ。

「あいよ、お待ち!」

右京は、二つ返事で杏子にビールを差し出した。

が、それを見て杏子は固まった。

「おい、なんだこりゃあ?」

「なんや言うて、決まっとるやないか。ノンアルコールビールや。」

すごむ杏子に全く恐れるような気配も無く、右京は堂々と言った。

その態度がさらに杏子をいらだたせる。

「テメェ、あたしが頼んだのはビールだ!」

「どう見ても中学生ぐらいにしか見えへんあんたにそんなもん出せるわけないやろ。」

二人の意見はどうやらどこまで行っても平行線だった。

「おい、おまえら何やってんだ!?」

あわててらんまが止めに入るがもはや二人とも聞く耳を持たなかった。

「いくら客商売いうたかて、ウチは媚びで商売しとるわけや無い。
タチの悪いガキにはお灸をすえたらなあかんな。」

そう言って右京は巨大なヘラを構えた。

「へぇ、おもしれえ、やんのかよ?」

一方の杏子は変身こそしないもののどこからとも無く槍を取り出した。

「自分、アホやな? ガキ相手に喧嘩なんかせーへん。…ただ、性根叩きなおしたるだけや!」

言うのと同時に、右京は焼きそばの束を投げつけた。

杏子は焼きそばをかわそうとするが、身動きの不便な店の中、左腕が焼きそばに当たってしまった。

すると奇妙なことに、焼きそばは杏子の左腕に絡み付いて離れなくなった。

「なんや偉そうにしてて、こんなんも避けられへんのか?…ん?」

右京は得意になって挑発するが、杏子の様子がおかしい。

さっきから機嫌は悪そうだったが、それどころではない。

完全に目が据わっている。

ビールが出てこないとかそんな程度の怒りでないことは右京とらんまの二人にもよくわかった。

「テメェ…」

杏子は腕に焼きそばを絡ませたまま右京に近づく。

もはや槍は消えていたが、どこか、有無を言わせぬ迫力があった。
102 :らんまマギカ6話9 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/10/16(日) 22:55:46.37 ID:dEl3/Y9C0
「な、なんや。」

すぐ目の前にまで近づいてきた杏子に、右京はやや気圧されていた。

杏子は焼きそばの絡まっていない右手のほうで右京の胸倉をつかんだ。

そして一言―

「食いモンを粗末にすんじゃねえ!!」

「へ?」

「え?」

完全に予想外の言葉に、右京もらんまもあっけにとられた。

*****************

「ちょっと待ちや!」

お好み焼きも食べ終わり、もう帰ろうというときになって右京が呼び止めた。

「どうした、うっちゃん?」

らんまは振り返る。しかし、右京は首を横にふった。

「今回はらんちゃんやなくて、そっちの子や。」

「あたしか?」

杏子は嫌そうな顔をした。

初対面で乱闘直前までやらかしてしまったのだ。何を言われることやらと杏子は警戒する。

「ああ。あんたの食いモンに対する心意気が気に入った。食いっぷりもなかなかのもんや。
そこでやな、もしよかったらウチで働かへんか?」

それは、杏子にとって、いや、らんまにとっても全く意外な提案だった。

きょとんとする杏子に対して右京は言葉を続ける。

「時給700円でまかないもつけたる。どないや? きょうび中学生でこんな条件ええバイトはないで。」

現実的な交渉を持ち出されて、杏子も表情を変えて思案をする。

「…わりぃけど、通いつめるにはちょっと遠いんだわ。住み込みつきなら考えてもいいぜ?」

「うちん家でええなら泊めたるで。女の一人暮らしやさかい、物騒やと思っとったし丁度ええわ。」

とんとん拍子で話はまとまっていく。

「え? 住み込みってお前家族とかいないのかよ? うっちゃんも知らない奴をそんな簡単に…」

ただひとりらんまは話についていけない。

「あたしゃはぐれモンさ。家族なんていねーよ。ま、世話になった奴に挨拶ぐらいしてくけどな。」

自嘲気味に微笑みながら答える杏子は、なにやら背景にいろいろありそうだった。

「この食いっぷりなら、根は間違いなくええ子や。うちは問題ないで。」

確かに杏子の食いっぷりは良かった。

大盛りのミックス玉に追加でモダン焼き、さらにノンアルコールビールを丸一本。

飲食店を経営する身としては良いお客さんなのかもしれない。

しかしそんなもので人間性を評価していいものか。

(ホントにいいのかよコイツら…)

らんまの懸念をよそに、こうして佐倉杏子の風林館暮らしがはじまった。
103 : ◆awWwWwwWGE [saga]:2011/10/16(日) 22:57:42.05 ID:dEl3/Y9C0
第六話アップ完了

はじめてsaga使ってみました。

まー、魔翌力でもそんなに不都合は無いのですが。
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/10/16(日) 23:12:06.66 ID:lDJ3/w3r0
杏子は馴染むのが早いなw
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/10/16(日) 23:35:32.56 ID:vMUMsIbAO
つつつ三乙三乙三乙
これはおつじゃなくて甘栗拳なんだからね!
 
ってのは置いといて、らんまの強さは魔法無しで杏子ちゃん超えなのね。
元々器用だし魔法覚えたらメンバーでは最強だなww
黒豚さんが霞んじゃうww
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/16(日) 23:52:02.04 ID:LwHN/niN0
らんまは躁鬱が激しいのと、動揺しやすい精神面の甘さがあるから魔法少女の真実を知って何処まで耐えられるか。魔法少女のゾンビ化、魔女化を知ったら猛虎高飛車は使えない。しかし、QBの工作を知れれば悪のQBを倒す事を使命に精神の安定が図れる。
QBは不幸に付込むけど、自分から不幸を作らないのは魔法少女の精神の安定を欠く為と見れば、確かに合理的。自分の境遇が誰の所為でもない当たる先の無い自業自得が一番堪える。
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/17(月) 00:40:36.91 ID:+XONVstDO
乙!
らんまの変身時のソウルジェムはどこについてんのかな?

108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/10/17(月) 01:31:22.90 ID:Lb+xyIjAO
>>106
躁鬱自体は激しいが基本的には楽観的だろ
だいたい変身体質になってもその時だけで大して気にしてないしな
ようは短期的には起伏は激しいが基本的には主人公気質の強さを持ってる
なによりあかねを助けれた事を考えればゾンビ化しようとらんまはそこまで絶望しないよ
反対にひねくれた性格から黙ってたQB許すまじと燃える性格だよ
何だかんだでらんまは熱血主人公型だしね
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/17(月) 12:39:10.95 ID:kvAVxiO90

けど、ちょいと設定が甘くない?

らんまの髪色はアニメで視聴者がすぐ分かるように赤いだけであって、作中では変わってない設定じゃなかった?
原作でも逆輸入的な扱いだったし、アニメ原作両方作中で髪色に突っ込んだ人はいなかったと思う。

乱馬は無差別格闘早乙女流の二代目。
玄馬も早雲も八宝斎の元祖無差別格闘流は継いでおらず自分の流派。
乱馬が元祖無差別格闘流を継いだかどうかは不明だけど継いだとしても二代目。

右京には父親がいる。
しかも乱馬は右京の父親と面識がある。
110 : ◆awWwWwwWGE [saga]:2011/10/18(火) 00:33:56.60 ID:DBrAx5fy0
みなさんレスありがとうございます。

>>107
腰の辺り…と考えていますが、まだ本編中書いてないので未定ということでw

>>109
ご指摘ありがとうございます。

女らんまの髪色について、原作前半では黒だということは知っていましたが
アニメと原作後半で赤になっているのでそれで良いと思っていました(黒と明言されてはいないはずなので)
公式の設定で本当は黒髪ということになっているのですかね?

無差別格闘流のことにつきましては、完全に八宝斎登場の回の設定を失念していました。
らんまの台詞を「無差別格闘早乙女流2代目」に脳内変換していただくようお願いします。
…しかし乱馬は将来天道道場を継ぐ身なのに早乙女流を名乗ってるんですね、ちょっとヒドイ。

…たしか、風林館に右京の父親は出てなかったですよね?
右京は「うっちゃん」の店番が基本的に他に居らず、風邪になっても代わりが小夏ぐらいという状況から
風林館では一人暮らしをしているという前提で話を進めさせていただきました。
もし右京の父親がバリバリにうっちゃんで店番してたらすみません。
111 : ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/10/18(火) 00:36:22.88 ID:DBrAx5fy0
あ、あと今作中には小夏は出てこない予定です。
小夏が登場する前か、小夏が絡まない時間軸とお考えください。
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/10/18(火) 01:02:00.27 ID:v6ndp7Go0
右京は2階建ての店舗兼家屋に一人暮らしだった・・・ような
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/10/18(火) 14:28:47.72 ID:2R39rjPAO
右京は父親が居るってだけでらんまの所には1人で来てるから店には親父居ないだろ
髪は見た目優先しましたって事で良いんじゃね?
実際、あれを黒だってのは無理が有るし
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/10/18(火) 14:45:17.91 ID:2R39rjPAO
流派は早乙女、天道ともに元祖を引き継ぐ為に両父親が作った流派だから、八宝を倒せる位にらんまが成長したら元祖の二代目になる予定
現状は早乙女流二代目(当主は父親)&元祖二代目候補者って感じ
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/10/18(火) 19:09:53.36 ID:Lb6mmWaNo
八宝斎って基本的に高校生以上にはセクハラ、小学生には優しいよな
中学生にはどういう反応だっけ?
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/10/18(火) 20:10:08.39 ID:CO/uxKdO0
らんまに中学生っていなかったような…?
中学生だけ、ぽっかり空白だったような気がする。
117 : ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/10/19(水) 07:34:28.35 ID:BQcsf1QK0
いろいろな意見ありがとうございます。

本作内では、女らんまの髪は赤、乱馬は「無差別格闘早乙女流二代目」、右京は一人暮らし
という方向性でいきたいと思います。

それと、もうひとつ突っ込まれそうなところで「開水壺」や「止水桶」の持ち主である麝香王朝と
鳳凰山のサフラン一味は別勢力でありこんがらがった状態になってしまいました。
私としては呪泉郷周辺の地域名がわからなかったので鳳凰山としたのですが不適当かも知れません。
とりあえず、本作内ではサフラン一味も麝香王朝も呪泉郷も鳳凰山地域と考えて頂きたく思います。

また「開水壺」と「止水桶」の最終的な所在は原作ではどこへいったか不明ですが、
本作内ではハープ一味が持って帰ったということでお願いします。
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/10/19(水) 12:16:27.91 ID:Yejc7OhEo
女溺泉って動物でも性別関係無く人間の若い女になるよな

元が男でも良いなら、生き物を手当たり次第放り込むとか、人間限定でも老女〜男まで誰でも契約対象に出来るんじゃね?
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/20(木) 18:41:47.51 ID:1WCcxHeLo
予想はよそう
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/24(月) 03:04:51.82 ID:agv0nKx7o
今日は来ないのか
121 : ◆awWwWwwWGE [saga]:2011/10/24(月) 22:08:02.12 ID:uw73suYD0
日曜に幼児…もとい、用事が入っていたため一日遅れてしまいました。
第7話アップします。
122 :らんまマギカ7話1 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/10/24(月) 22:08:51.52 ID:uw73suYD0
巴マミは、肩に黒い小豚を乗せて魔女を探していた。

今日は鹿目まどかと美樹さやかは来ない。友人のお見舞いに行くという。

一般的な社会生活と魔法少女としての魔女退治とを両方成り立たせるのは難しい。

(せめて、協力できる魔法少女が他に居たら良いのに。)

マミはつくづくそう思った。

『たまにはサボってもいいんじゃねえのか?』

マミの心の声がテレパシーとして漏れていたのか、肩に乗せた良牙が反応した。

『ダメよ。そのほんの一日サボったおかげで死んでしまう人が居るかもしれないのよ?』

マミは小さく顔を横にふる。マミの魔法少女としての縄張りは小さくない。

一般人が巻き込まれることを防ぐためには魔女退治をサボることなど出来なかった。

(それにしても、精力的なもんだ。)

良牙は感心しつつもなかば呆れていた。

マミは近所の大人たちともそつなくやりとりできるし、学校の成績も悪くない。

クラスメートとも問題なくつきあえている。

それなのに、誰も彼女が何をしているか知らず、親友の一人も居ないのだ。

決して、パンスト太郎のように性格に難があるわけではない。

他人を巻き込まないために距離を保っているのだ。

そこまでして、名も知らない他人を守るために日々自分の時間を削り、命を危険にさらして戦っている。

良牙にはとうてい真似できそうにもなかった。

薄暗い夜の公園にさしかかったとき、良牙は急に背後に気配を感じた。

『気をつけろ。』

良牙はマミに注意をうながす。

マミが振り返るとそこには、以前の魔女退治の際に見かけた黒髪の魔法少女が立っていた。

「分かってるの? 貴女は無関係な一般人を危険に巻き込んでいる。」

あいさつもなしに、黒髪の魔法少女こと、暁美ほむらは話しはじめる。

「分からないわね。それがキュゥべえを襲った理由?」 

マミは、あえて自分が見ていないことを言った。

良牙やキュゥべえの証言を信用していないわけではない。どちらかといえば相手の反応を見たかった。

案の定、ほむらはハッとした。マミに知られるはずが無いと思っていたのだろう。

「まさか、その小豚…!?」

ほむらは何か言おうとするが、マミはそれをさえぎって自分のせりふを続けた。

「キュゥべえが死んで魔法少女が居なくなれば巻き込まれる一般人はもっと増えるわ。
あなたの守りたい一般人って何なのかしら?」

彼女は一般人を巻き込んでいると言って自分を非難したが、本人が一般人の安全のために戦っているようには見えない。

日々街の平和のために魔女退治にいそしんでいるマミにとって、ほむらの言葉はうそ臭くしか聞こえなかった。

しかし、マミの糾弾はほむらには響かなかったらしい。

ほむらは気を取り直した様子で落ち着いて答えた。

「アイツは…キュゥべえは一匹や二匹殺したってなんとも無いわ。
それよりも、鹿目まどかを魔法少女にされたら困るのよ。」

「どういうこと?」

鹿目まどかを魔法少女にしたくないという意味は、マミにも分かった。

まだ本人にも言っていないが鹿目まどかは魔法少女としてとんでもない素質を持っている。
123 :らんまマギカ7話2 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/10/24(月) 22:10:10.37 ID:uw73suYD0
もし、鹿目まどかが魔法少女となって、グリーフシードの取り合いにでもなれば勝ち目が無い。

嫌がるのも道理だ。しかし―

「キュゥべえが何匹もいるとでもいうの?」

「あら、そんなことも聞かされずにアイツの片棒を担いでいたのね。」

さも当たり前のように、ほむらは言ってのけた。

「疑わしいなら本人に聞いてみることね。あなた自身がよく知りもしないのに、
他人を魔法少女にしようなんて迷惑だわ。」

それだけ言うと、ほむらはきびすを返して消えていった。

『どうにもうさんくせえな。』

良牙がつぶやく。

『誰のこと?』

マミが質問する。

言わんとしていることは分かっている。それでも、あまり聞きたくなかった。

『両方だ。あの魔法少女もキュゥべえも。』

『…ええ。』

良牙にも言われて、マミはようやくキュゥべえの存在を疑わなければならないと自覚した。

長い付き合いであるにもかかわらず、確かにマミにはキュゥべえに関する情報が足りていなかった。

客観的に見れば、キュゥべえは十分に疑わしい存在だ。

それでも、マミの主観はキュゥべえを疑いたくは無かった。

彼は…キュゥべえは家族をすべて失って心細い自分を支えてくれた存在なのだ。

もしキュゥべえに何らかの悪意があるとしたら、自分はその事実に耐えられるだろうか?

*************************

「…良牙さんにキュゥべえも居るしさ、二匹もマスコットがいるなんてマミさんずるいよ!」

いつものように、鹿目まどかと美樹さやかは学校の帰りに病院に寄り、そこから家路へとついた。

キュゥべえを肩に乗せたまどかはいつになく強く熱弁している。

「いや、ボクはマミの専属というわけじゃないよ。」

まどかとは対照的に、キュゥべえはいつもの通り冷静だった。

「でもさ、良牙さんは専属だよね? やっぱりうらやましいよ。」

「で、猫を家に連れ込んで怒られちゃったってわけ?」

さやかは肩をすくめて『あきれた』のジェスチャーをした。

「ティヒヒ、エイミーっていうの。お部屋の中はダメだけど、お庭なら飼っても良いって。」

あきれられているのも気にせず、まどかは猫を飼う許可を得たのを思い出して笑った。

『ティヒヒ』というのはまどかの癖になっているいつもの笑い方だ。

付き合いが長いせいだろうか、それともまどかの癖が面白いからか、さやかはついつられて笑ってしまう。

「ははっ、そりゃ良かったじゃん。でもさぁ、まさかそのエイミーちゃんに熱湯かけたりしてないよね?」

さやかは軽く冗談を飛ばしてみた。

しかし、その『冗談』を聞いたまどかは急に歩みをとめて、表情が固まった。

「…さやかちゃん、どうして知ってるの?」

「マジでするなよ!?」

考えるよりも早く、光速でさやかはつっこんだ。

「だって、だって! 黒い小豚ちゃんが変身できるなら黒猫だって変身できるはずだよ!」
124 :らんまマギカ7話3 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/10/24(月) 22:11:04.10 ID:uw73suYD0
「いや、その理屈はおかしい。ってか良牙さんは人間だから。」

「まどか、念のために言っておくけど、ボクには熱湯をかけないで欲しい。」

さやかのみならずキュゥべえにもつっこまれ、まどかは軽くしょげかえった。

そうしてバツが悪くてよそ見をしたとき、まどかは異変に気が付いた。

「あそこ…何か…」

まどかの指差したところには、黒いトゲの生えた球体が突き刺さっている。

「グリーフシードだ! 孵化しかかっている!」

キュゥべえが叫ぶ。

「うそ…何でこんなところに」

「早く逃げよう! 結界が閉じればキミ達は逃げられなくなる。」

まどかだけならともかく、キュゥべえも焦っているということは本当に危ない事態なのだろう。

それでも―いや、だからこそ、さやかは捨てておけなかった。

「あたしはこいつを見張ってる。放っておけないよ。こんな場所で魔女になられたら…」

****************

「―それで、美樹さんとキュゥべえがグリーフシードのそばに居るのね?」

「はい、キュゥべえの言うにはすぐにでも孵化しそうって…」

まどかの報告を受けたマミは病院へ急ぐ。

小走りの肩の上には乗りにくいのか、黒い小豚も地面を走って付いてきた。

(まったく、美樹さんも無茶をするわね。)

マミは思った。

たしかにキュゥべえと一緒に居れば、マミはテレパシーで案内してもらって助けに行けるし、
さやか自身もその場で魔法少女になって戦えるという保険がついてくる。

なかなかの妙手と言えなくもない。

(でも、そんな風にその場の勢いで契約しちゃったら…私と同じじゃない!)

こんな形で美樹さやかを契約させてはならない。キュゥべえへの不信が、その思いを強くさせる。

しかし、まどかの案内が必要である以上、魔法少女の能力で速く走るわけにも行かない。

「あっ!」

急に、マミは足を止めた。

(この手があった!)

マミは魔法でティーポットを取り出し、やおら黒い小豚にお湯をかけた。

すると、たくましい男の肉体のシルエットが浮かび上がる。それと同時に魔法で服を着せる。

もともと魔法のバリエーションは広いという自信のあるマミだが、服を着せるのは自分の変身と
大して要領がかわらないのですぐに出来るようになった。

「…なんだ急に、こんなところで?」

湯煙の中から現れた良牙はなぜマミが自分を人間に戻したのか理解していない。

いや、良牙だけでなくまどかも首をかしげていた。

「良牙さん、鹿目さんをおぶって走れるかしら?」

それを聞いて、良牙はポンっと手を打った。

「なるほど。わかったぜ。」

そう言うとまどかが身構えるよりも早く、その両腕でまどかの足と背中を抱きかかえた。

「え、きゃぁ!…こ、こんなのって!」

驚く以上に、まどかは恥ずかしがって頬を染めた。
125 :らんまマギカ7話4 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/10/24(月) 22:12:45.61 ID:uw73suYD0
なぜならその体勢は、俗に言う『お姫様だっこ』だったからだ。

一方の良牙はまどかが子どもっぽく見えるせいか、照れる様子はまったくない。

「鹿目さん、ごめんなさい。でも一刻をあらそう事態だから。」

「ウダウダやってる暇はねえんだろ? いくぞ!」

マミと良牙は心置きなく、常人離れしたスピードで走り出した。


あっという間に、病院に着いた。

「ここね…」

マミは息も切らさず病院の壁を見つめる。

そこには黒い亀裂が走っているが、すでにグリーフシードの姿は消えている。

そして、さやかとキュゥべえもいない。

「あいつらの姿がないな…もう結界にのまれてやがるのか?」

まどかを抱きかかえたまま良牙は言った。

まどかを『お姫様だっこ』しながらかなりのスピードで走ったというのに、良牙は疲れた様子など全くなく、鼓動も変わらない。

むしろ良牙よりも、まどかの心臓のほうがはるかにドキドキと激しく脈打っていた。

「あの…そろそろ降りても?」

「ん? ああ、すまない。」

そっけない態度で地面に降ろしてもらってからも、まだまどかは頬を赤らめている。

そうしている間にも、マミは指輪状にしているソウルジェムを使って、魔女の結界への入り口を作った。

「二人とも、行くわよ!」

まだ魔女が孵化したばかりだからか、使い魔の数は少ない。

その上、ベテラン魔法少女のマミと、並みの魔法少女よりは強いであろう武闘家の良牙がいるので
使い魔は出るなりすぐに倒されていく。

一般人のまどかから見れば、気付く間もなく使い魔たちが倒されていた。

(すごい…)

こんな風になりたい。まどかは心からそう思う。

力そのものに憧れているわけではない。

彼らは人を守ることができる。

それに対してまどかはどうだろうか?

両親に守られ、学校でも美樹さやかに守られ、今はこうして巴マミと響良牙に守られている。

守られてばかりだ。

きっと、まどかが守る側に回っても昨日飼いはじめたあの黒猫すら守り切れないだろう。

仕方がない。まどかの力では自分自身を守ることすらままならないのだから。

(でも…それでいいの?)

このままみんなに守ってもらって、将来は自分のことを守ってくれる素敵な旦那さんを見つけて、
歳をとったら介護師の人や自分の子供に守ってもらって、ずっとそんな調子で…

(そんなの嫌!)

ずっと人から守られてるだけでは愛玩動物と何ら変わりない。

そんな人生で収まることを望まない、熱いものがまどかの内には確かにあった。

ただ、平素の彼女はあまりにも理想的なまでに飼いならされた状態であるがゆえに、
親も周囲の人間もまどかの内にあるものに気付かず、それを解き放つきっかけを与えてやることも出来なかった。

しかし、その『きっかけ』が、とてつもない大きな『きっかけ』が向こうからやってきたのだ。

(魔法少女に…私、なりたい!)
126 :らんまマギカ7話5 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/10/24(月) 22:14:07.50 ID:uw73suYD0
気が付けば、まどかは言葉に出していた。

「マミさん、私、マミさんのような魔法少女になりたいです!」

「え? でも、願い事は?」

「私、マミさんが誰かを助けるために戦っているのを見せてもらって、
同じことが私にもできるかもしれないって言われて、何よりもそれが嬉しかったんです。」

話し込みはじめたまどかとマミを邪魔しないように、良牙は使い魔退治に徹する。

もともと魔法少女たちの事情は良牙にとって知ったことではないし、口出しするいわれもない。

「大変だよ。怪我もするし、恋したり遊んだりしてる暇もなくなっちゃうよ。
私だって、無理してカッコつけてるだけで、本当は怖くて辛くて一人で泣いてばっかり…」

「でも、それでもがんばってるマミさんに、私、憧れてるんです!
だから、マミさんと一緒に戦います。」

凛として、まどかは言った。これは夢じゃないか、マミは思う。

ずっと、一人で戦い続けてきた。

魔女に対抗する力のない人をこの世界に巻き込むわけにはいかない。

助けた人から感謝されたことも、逆に恐れられたこともあったがいつでもこちらの対応は同じだった。

『ここで見たことは全部忘れてください』

この言葉を何回言っただろうか。

本当は、怖かったり辛かったりすることも、自分の手で人を守れたときの喜びも、ずっと誰かと共有したかったのに。

支えてくれる家族はとうに無く、クラスメイトにも本当のことは話せない。

魔法少女になったその時から孤独を運命付けられている…そう、思っていた。

しかしここ最近はどういうことだろう。

良牙さんに鹿目さんに、もしかしたら美樹さんも仲間になってくれるのかもしれない。

うれしい。

今まで何度も、もうダメだと思ったことが、魔女と戦い続ける日々にくじけそうになったことがあった。

でも今は違う、共に戦ってくれる仲間が居るなら、くじける理由なんてない。いくらでも戦える。

「ありがとう…でも、願いごとは何か考えておきなさい。」

自分でも目がうるんでいるのがわかる。涙は隠しているつもりだが、これではあまり意味が無いだろう。

「ごめんなさい、良牙さん、話し込んじゃって。」

そう言ってマミは戦闘に戻る。

その動きはいつもより軽快で、果敢だった。

(なんか…軽いな。)

良牙はよくない意味でそう思った。

見た目にはたしかになめらかで、美しいほどの戦いぶりだが、どこか心ここにあらずといった感じがする。

今回の使い魔たちはそうそう強くないのでマミならそれでも十分に勝てるだろう。

(まあいいか)

小さな懸念をそのままに、良牙は先へ進んだ。

**************

「おまたせ!」

マミは目ざとく美樹さやかとキュゥべえを見つけて合流する。

「はぁ、間にあったぁ…」

さやかは安心のため息をもらした。

「魔女の孵化までには少し時間がある…とは言えうかつに近づくのは危険だ。」
127 :らんまマギカ7話6 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/10/24(月) 22:17:51.36 ID:uw73suYD0
再開を喜ぶひまもなく、キュゥべえが状況をのべる。

「グリーフシードのうちに処理できるかしら?」

「魔女になってから倒すよりもそっちの方が安全だろうね。」

たったそれだけの、簡素な会話をかわすと、マミはグリーフシードのもとへと向かった。

真っ黒く濁りきったグリーフシードはわずかに脈打っているように見えた。

マミは、素手では触らずにリボンを召喚してそれでつかむ。

『キュゥべえ、このままグリーフシードを処理するのは無理かしら?』

『すまない、孵化直前のグリーフシードはボクの手に余る。
ある程度ダメージを与えてから渡してくれないかい?』

テレパシーで処理方法を確認すると、マミは大砲を召喚し、グリーフシードに向けて砲撃を放った。

グリーフシードを閃光が包む。

砲撃を受けた後のグリーフシードは黒から灰色へと色を変えていた。

『あとはボクが処理しよう。』

グリーフシードの状態を確認したキュゥべえはマミの居る方へ近づこうとする。

しかし―

『待って、キュゥべえ! グリーフシードがすごい勢いで濁ってる!』

マミの言うように、グリーフシードはみるみるうちに黒く変色していった。

『…そうか! 病院というこの場所が魔女のエネルギー源である負の感情を溜め込んでいるんだ!
まずいよ、すぐにでも魔女が孵化する!』

キュゥべえがそう言い終わるのも待たず、グリーフシードは完全に濁り切って、植物の芽が出るように
小さな桃色の魔女の姿が現れた。

「せっかくご登場のところ悪いけど、すぐに終わらせてもらうわ!」

マミは、長銃を大量に召喚し、片っ端から撃っては捨てる。

銃弾はことごとく魔女に命中する。

「すごい!」

圧倒的に押しまくっているマミに、まどかとさやかはいつものようにマミの勝利がそこにあることを確信した。

そんな中、良牙だけは険しい表情をしていた。

「なんだありゃあ? 効いているのか?」

「え?」

魔女は身じろぎもせず、苦痛に顔をゆがませることも無い。

もともと戦闘行為などとは無縁な上に、今までマミの一方的な勝利だけを見てきたまどかやさやかには
それもマミが強いために魔女が抵抗もできないだけにしか見えなかった。

だが、良牙には敵がはじめから避けるつもりも反撃するつもりもないようにしか見えない。

マミも十分に戦いなれている。冷静な状態ならば何かがおかしいと気付いただろう。

しかし、舞い上がっていた彼女の目には圧勝している自分の姿しか映っていなかった。

リボンでがんじがらめに縛った魔女に、トドメを刺そうとマミは特大の大砲を召喚する。

魔女は身動きひとつとれない。まどかもさやかも、マミ自身も、勝利を確信した。

―その時だった。

魔女の口の中からどす黒い塊が吐き出され、一瞬にしてそれが野太い大蛇のようにマミの眼前にまで迫った。

「―え?」

何が起こったのか分からず、マミは完全に動きを止める。

蛇に睨まれたカエル、その言葉が文字通りぴったり当てはまる状態だ。

大蛇はおもむろに口を広げ、獲物の頭にかじりつこうとした。
128 :らんまマギカ7話7 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/10/24(月) 22:18:58.37 ID:uw73suYD0
「獅子咆哮弾!」

せつな、怒号が響く。

マミを食いちぎろうとしていたどす黒い大蛇は間一髪、横殴りに飛んできた光の弾に弾き飛ばされた。

「バカやろう、戦ってる最中にボサッとすんじゃねえ!」

良牙はまどか達のいる場所から駆け下りて、魔女と対峙した。

「…え、あ、良牙さん?」

マミはまだ平常心をとりもどしていない。

そうしている間にも、黒い恵方巻きのような怪物は、傷ついた外皮を脱ぎ捨てて良牙に襲い掛かってきた。

良牙は敵を十分に引きつけると、食べられそうになる直前に落下型の獅子咆哮弾を放った。

獅子咆哮弾は重さで攻撃する技であるが故に、横に飛ばすよりも落下型の方が強力だ。

だが、落下型獅子咆哮弾を食らってもなお、この黒い魔女は脱皮を繰り返して襲いかかってくる。

「くそ、ダメだ。やっぱり獅子咆哮弾じゃラチがあかねえ。マミちゃん、早く攻撃を!」

魔女の攻撃をかわしながら、良牙が叫ぶ。

「え、ええ。ティロ・フィナーレ!」

ようやく気を取り直したマミが、さっきから溜めていた渾身の魔力を砲撃にして叩き込んだ。

轟音がうなり、どす黒い塊は炎に包まれる。

その様子を見て、ようやく良牙もマミも、そしてまどかやさやかも勝利を確信した。

「まったく、浮かれながら戦うからだ。」

汗をぬぐいながら良牙がこぼした。

「ごめんなさい…、私…」

言われるまでも無い。とっくに自分で気付いていた。

仲間が増えていくことに浮かれ切っていて、いつもの用心深さがまったく消えうせていた。

なまじ経験豊富で多少気が散っていても戦えるだけに、自分を戒めることが出来ず大きなミスをしてしまったのだ。

「マミさぁーん!」

さやかとまどか、そしてキュゥべえが二人に駆け寄ってくる。

「良牙さん、かっこいい!」

「ピンチに颯爽と登場! まるでヒーローじゃん!」

一般人二人はくちぐちに良牙を褒めはじめた。あまり褒められなれていない良牙はついつい顔を緩めてしまった。

「ま、まあな。はは、やっぱそーだよな?」

「取ったぁ!」

と、その瞬間、さやかがぺろぺろキャンディーの柄のようなステッキで良牙の頭を叩いた。

「…なにしやがる?」

「あ、ホントだぁ。浮かれたらさやかちゃんでも一本取れちゃうぐらい隙だらけなんだ。」

抗議する良牙に対し、まどかは感心したようにつぶやいた。

「ふっ、違うよまどかくん。あたしはすでに一流武闘家並みの技量を身に付けたのだよ。」

わざとらしく自慢するさやか。

どうやら良牙自身の注意した浮かれながら戦ったらどうなるかというのを実践したつもりらしい。

「おまえらなぁ…」

良牙は内心、まるで乱馬のような手を使いやがってとぼやいた。

そう、良牙こそが簡単に浮かれたり落ち込んだりして戦いに影響してしまうタイプだったのだ。

「おかしいわ。」
129 :らんまマギカ7話8 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:副題「豚野郎うらやましす」]:2011/10/24(月) 22:20:35.15 ID:uw73suYD0
「ああ、まだ終わっていないよ。」

平和なやり取りをしている中、マミとキュゥべえが言った。

「まだ、結界が解けてないもの!」

その言葉に、良牙もはっとした。

「あぶない、下がってろ!」

言っている間にも、黒い大蛇はまたもや脱皮をして襲いかかってくる。

「獅子咆哮弾!」

「ティロ・フィナーレ!」

今度はほぼ同時に、マミと良牙の攻撃が打ち込まれる。

それでもなお、漆黒の魔女は脱皮をしてその内側から襲いかかってくる。

「ええい、しつこい!」

「なんなの、この魔女!」

マミも良牙も、もはややけになって魔女を攻撃する。

しかし、何度やっても同じだった。またもや魔女は脱皮を繰り返す。

そして今度は、脱皮の勢いをそのままに、魔女はまどかに向かって突進した。

「ちっ、一番弱そうなのを狙ってきやがったか!」

良牙の気も切れてきて、獅子咆哮弾で叩き飛ばすことができない。

やむなく走って魔女を追いかける。

マミは魔力を溜めて砲撃の準備をしているが、間に合うかどうか分からない。

「え…あ…」

まさか自分が狙われるとは思っていなかったまどかは、恐怖に身がすくんで動けない。

「まどかぁ!」

さやかがまどかをかばって前に出る。

 ターンッ

その時、乾いた音が鳴り響いた。

それと同時に漆黒の大蛇は身をうねらせて倒れこんだ。

マミの銃ではあんな音はしない。

「その男は…一体何者なの?」

上のほうから声がする。

一行が声のしたところを見上げると、巨大な釘の上に拳銃を片手に持った黒い魔法少女の姿があった。

そのすぐ横には魔女の使い魔とおぼしきものが頭部を撃ち抜かれて倒れている。

「あなたは!?」

「…ほむらちゃん?」

そう、そこに居たのは鹿目まどかと美樹さやかの同級生にして、魔法少女の暁美ほむらだった。
130 : ◆awWwWwwWGE [saga]:2011/10/24(月) 22:22:07.34 ID:uw73suYD0
以上で第7話終了です。

思ったほど話が進まなかったorz
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/24(月) 23:08:45.54 ID:qK8P44kIo
乙乙
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/10/24(月) 23:22:29.65 ID:PF9orA0+0


良牙、あんまり女の子に優しくするとあかりちゃんが泣いちゃうぞww
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/25(火) 07:54:17.56 ID:Lf1Pnr/DO
乙乙
週刊連載みたいな感じで楽しんでいるよ
いやぁマミられないで良かった
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/26(水) 18:58:51.91 ID:HNJbBBUDO
乙!
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/28(金) 22:44:50.98 ID:yGhhX0BL0
良牙にまどかを抱えさせて走らせたので、原作より早く病院にたどり着けた。よって途中でほむらと遭遇せず、ほむほむ緊縛イベントも発生しなかったでOK?
136 : ◆awWwWwwWGE [saga]:2011/10/30(日) 00:03:08.34 ID:xSXU70NZ0
みなさんレスありがとうございます。
今日はまだアップできません。
もうしわけないです。

>>135
はい。そういう都合で縛り+放置プレイは無しになりました。
神視点じゃないと分からない事なのでキャラクターの口や思考を借りて
本編中に書き入れることができませんでした。
こういう違いって説明するのが難しいですね(汗

ちなみにもし途中遭遇していても、原作とは違いマミ-ほむら間はまだ決定的な
対立には至っていないので同じことになったかどうかは微妙なところです。
137 :8話1 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:副題「らんま勢出番無いorz」]:2011/10/31(月) 01:03:59.62 ID:pQvE8nTy0
「もう一度聞くわ。その男は何者なの?」

暁美ほむらは鋭い目つきで響良牙を一瞥し、また巴マミをにらみつける。

暁美ほむらの前に置かれたケーキと紅茶は全く減っていない。

巴マミは落胆していた。

形はどうあれ、暁美ほむらは鹿目まどかを守った。

鹿目まどかが魔法少女になるのを嫌がっているのなら、見殺しにしていてもおかしくない。

それでもまどかを守ったということで、最低限の信頼はできる人間だと判断し自宅に招いたのだ。

しかし、話は全く通じなかった。

助けてくれたことに礼を言っても微笑みもせず、ケーキとお茶を差し出しても食べようともしない。

どこから来たのか、なぜあの魔女の弱点を知っていたのか、何を目的に付け回してくるのか…
そう言ったこちらの質問には一切答えない。

本来社交的なマミにとっては理解しがたい相手だった。

素直な性格の美樹さやかにいたっては露骨に不快感を表情に出している。

「俺は武闘家だ。ワケあって、マミちゃんに世話になっている。」

良牙は簡潔に答えた。普段より声のトーンが一段低い。

彼もまたほむらに対する警戒心を解いてはいないようだ。

「武闘家? 魔法を使っていないというの?」

さすがにこれにはほむらも驚いた様子だった。

「ボクも驚いたけどね。確かに彼に魔力は全く感じられない。」

キュゥべえが代わって答える。

(キュゥべえが居なければ少しは事情を話してくれるのかしら?)

マミはふとそんなことを思った。ほむらがキュゥべえを敵視しているのは間違いないようだ。

キュゥべえに手の内を知られたくないがゆえに黙秘を続けているのならば、
秘密厳守を約束した上で時と場所を選べばちゃんと話してくれるのかもしれない。

もっとも、そうするにも相互の信頼がそれなりに必要だ。最低限でも、今後共存する必要がある。

「こちらからの質問、いいかしら?」

マミは言った。

「答えられることならね。」

ほむらは相変らずの対応だ。

「わたしとしては、あなたを縄張りから追い出したりするつもりは無いけれど、あなたはどういうつもりかしら?
今後、共存するために必要なものは?」

追い出したりしない…というのはマミにとっては決して軽々と決断できることではない。

縄張りの主として、よそのものの魔法少女を受け入れるということは、彼女の今までとこれからのトラブルをすべて
背負うことを意味する。

その上、まどかやさやかが魔法少女になればグリーフシードの配分なども差配しなければならなくなる。

そういった苦労がある以上、信頼できる相手で無い限り自分の縄張りには受け入れないのが普通だ。

それが魔法少女たちの常識である。

半信半疑の暁美ほむらを受け入れるというのはマミにとっては一種の賭けだった。

(彼女はキュゥべえに関して何か知っている。)

それがマミが賭けに出た理由のひとつ、そして、もうひとつは―

「『ワルプルギスの夜』を倒すことに協力すること。」

ほむらが言った。

マミは目を丸くした。ちょうど、自分の考えていたことをこのよそものの魔法少女が口にしたのだ。
138 :8話1 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/10/31(月) 01:05:17.53 ID:pQvE8nTy0
マミが魔法少女の仲間を欲しがっている理由は単に寂しがり屋というだけではない。

最大の理由は『ワルプルギスの夜』に対抗する戦力を集める必要性だ。

そのために、あえてほむらを縄張りに受け入れようとしているのだから
それがほむらの要求でもあるというのなら願ったり叶ったりの状況ではある。

しかし、それ以上に疑問が頭をよぎる。

「なんで、あなたがそれを知っているの!?」

『ワルプルギスの夜』という魔女が来るのはマミが独自に、これまでの出現のパターンや時期を調べて予測したものだ。

他の魔法少女はもちろん、キュゥべえにだってまだ言っていないのに、どうしてほむらがそれを知ることが出来たのか。

しかし、ほむらはマミのその疑問には答えようとせずに言葉を続けた。

「それと、鹿目まどかを魔法少女にしないこと。」

これもまた、マミにとっては信じがたい言葉だった。

マミを縄張りの主として共存する以上、ほむらの方からことを荒立てない限り喧嘩になることなどないのだ。

いくらまどかの魔法少女としての素質が高くてもグリーフシードの奪い合いでもしない限り害が無いはず。

それなのに、なぜ意地でもまどかを魔法少女にしたくないのか。

そんなにまどかを魔法少女にしたくないのなら見殺しにすればよかったのに、なぜ助けたのか。

「この二つさえ果たしてくれるなら、私は見滝原から出て行っても、必要ならば協力するのも構わない。」

ほむらは唖然とするマミを無視してそれだけ言うと、席を立った。

「私の話すべきことはそれだけよ。邪魔したわね。」

早くも去ろうとするほむらを、マミは呼び止めた。

「待って! あなたは何のために戦っているの?」

ほむらはちらりと振り返ったが、何も言わずそのまま巴宅から出て行った。

「分からない…」

マミはつぶやく。

「もとから仲良くするつもりなんてねーだろ、あいつは。」

良牙が言った。

言わんとすることはマミにも分かる。

暁美ほむらが魔女を倒したタイミングがあまりにも良すぎる。

まどかが魔女に襲われるまで、マミや良牙のピンチを無視して戦いを眺めていたとしか思えない。

そうだとすれば彼女にとってマミや良牙は死んでも良いと考えていたことになる。

一人でやっていく自信のある魔法少女ならそう考えても不思議は無い。

しかし、ますます不思議になることがある。

なぜ、まどかだけを守ったのか?

(もしかして、鹿目さんを魔法少女にしたくないのもキュゥべえを襲ったのも、純粋に鹿目さんを守りたいから?)

ふと、そんな推測がマミの脳裏を巡った。

だが、その推測には致命的な欠陥がある。

暁美ほむらが鹿目まどかだけを守ろうとする動機が無いのだ。

当のまどかも、あまりほむらに対して好意を持っているようには見えない。

むしろ、自分が魔法少女になることを妨げようとするほむらの発言に愕然としている。

とてもほむらがまどかの意を汲んでいるようには思えなかった。

「鹿目さん、あの子の言うことは気にしなくて良いわ。
魔法少女になるかならないか、どんなお願い事をするか、それは自分の判断で考えなさい。」

そう言ったのものの、まどかは簡単に契約できなくなったとマミは思った。
139 :8話3 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/10/31(月) 01:06:16.51 ID:pQvE8nTy0
「…はい。」

まどかは弱々しく返事をする。

今、まどかが魔法少女になれば、ほむらはマミに対して何らかの行動を起こすだろう。

まどかが契約すれば、結果としてマミに迷惑がかかる。まどかはそれを意識しないほど無神経ではない。

ほむらの言葉はすでに十分にけん制としての意味を発揮していた。

マミもまどかもそれ以上互いに何もいえなかった。

「ところで、マミさん―」

そんな膠着した空気をさやかが動かす。

「『ワルプルギスの夜』って何ですか?」

「それはね、大型の魔女で―」

マミは気を取り直して説明を始めた。

******************

授業中の教室、廊下ですれ違ったとき、休み時間、鹿目まどかは視界に入るたびに暁美ほむらをみつめていた。

決して友情でも憧れでもない。

(なんで、ほむらちゃんは私のしたいことを邪魔するの?)

昨日からその疑問がまどかの頭から離れなかった。

(やっと、なりたいものが見つかったのに、どうしてなっちゃいけないの?)

まどかにとっては考えれば考えるほど理不尽だった。

まず、まどかが魔法少女になったところで、直接的にはほむらに迷惑をかけることはない。

まどかに魔法を教えたり、フォローをするのはマミの役目だ。

マミには足手まといになって迷惑をかけるかもしれないが、ほむらに口出しされる筋合いのあることではない。

それに、ほむら自身が魔法少女なのだ。

自分は魔法少女になってもよくて、まどかはダメというのはどういう理屈なのか。

納得のいく説明など全くない。

結局は、グリーフシードを独占したいがために邪魔をしているとしか思えなかった。

形としては、ほむらは命の恩人なのかもしれない。

昨日まどかが魔女に狙われた時、ほむらがその魔女にとどめをさしたのだから。

しかし、まどかはマミや良牙を信頼している。

きっと、ほむらが来なくても間に合っただろう。根拠は特にないがまどかはそう思っていた。

だからこそ、まどかはマミへの要求という形で魔法少女になることを邪魔したほむらを憎んだ。

恩を売ってそれをかさに着ての要求というのは、気持ちの良いものではない。

誠心誠意をもって、どうして魔法少女になってはいけないのか説明ができないから政治的な手段を
使ってくるというやり方に好感を持つ方が無理がある。

(そんなことよりも―)

まどかは魔女に襲われた瞬間を思い出す。

『一番弱そうなのを狙ってきやがったか!』

響良牙はそう言っていた。

客観的に見てまどかは『一番弱そうなの』になってしまうのだ。

確かにそうだろう。実際に、まどかは怖くて動けなかったのだから。

それに比べて、魔女などという怪物を相手にすれば同じ一般人でしかないはずのさやかは
勇敢にもまどかをかばって前に出た。

自身は動くことすらできなかったのに。
140 :8話4 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/10/31(月) 01:07:50.18 ID:pQvE8nTy0
まどかは自分がいかに弱い存在かを痛感させられていた。

(…このままじゃ、私、何の役にも立たない。)

無力感を味わうほどに、まどかの中で魔法少女への憧れは強くなる。

(こんな私でも、魔法少女になれば人を助けたり守ることが出来るのに!)

しかし、魔法少女になることはできない。今まどかが魔法少女になればマミに危害が及ぶかもしれない。

たとえるなら、大空を駆け巡る日を待ち望んでいた雛鳥が、
初めて空を飛ぶ日の来る直前に羽を切られるようなものだろうか。

他人からはそうは見えないが、まどかも健全な中学生である。

人並みに、いやそれ以上に成長への欲求を持っていた。そしてその道筋が急に閉ざされてしまったのだ。

大きな落胆と、募る不満、そして取り残されていくことへの恐怖感。

その抑圧された思いは、暁美ほむらへの憎しみへと転化していた。

「まどかさん。」

不意に、背後で声がした。

「え、あっ、仁美ちゃん?」

急に頭の中の葛藤から引き戻されて、まどかは慌てた。

クラスメートで、親友の志筑仁美である。

「暁美さんと何かあったんですか? そんなに怖いお顔をされて…」

言われてまどかは初めて気が付いた。

今日はずっと、ほむらをにらみ続けていたことに。

「わたし…」

なんと言って良いのかも分からなかった。

人への憎しみで頭が一杯になって周りが見えなくなるなんて今までになかったことだ。

まどかは自分の中にそんな攻撃的な面があることにショックを受けていた。

「えーと、こないだ帰りにたまたま会ってね、その時になんか気になること言われたらしいよ。」

美樹さやかが割って入り、まどかの代わりに説明をする。

しかし言葉は曖昧で、隠し事があるということを隠せていなかった。

「大丈夫ですの?」

「うん、大丈夫、全然平気!」

まどかは目一杯、明るく元気に答えた。

そうはっきり言われては、何があったのか追求することも難しい。

気遣いをするのなら、これ以上この話題を続けないことだろう。

仁美は友だちの力になれないことを残念そうに席に戻った。

一方、事情を知っているさやかは困ったことになったと思った。

さやかとしても、あの転校生はあまり信用していないが、形の上では助けてもらったのは事実だし、
何より巴マミがさしあたっては共存するという方針をとっている、

ここで自分やまどかがことを荒立てるわけには行かない。

それなのに、まどかの暁美ほむらに対する視線は露骨過ぎる。

意外にも、ほむらはまどかににらまれて動揺しているようだった。

先生にあてられてから教科書を開いていたし、体育の幅跳びでは着地に失敗して膝をすりむいていた。

(まー、さすがに朝からずっとにらまれてたらそうなるか。)

どことなくほほえましくもあるが、あまりのん気に構えてもいられない。

そう思ったさやかは、ほむらに声をかけた。
141 :8話5 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/10/31(月) 01:09:19.42 ID:pQvE8nTy0
「なあ、転校生、ちょっと話したいことがあるから付いてきてくれる?」

****************

「いや、すまないね。まどかが変なことになってて。」

さやかは肩をすくめて「まいった」とジェスチャーして見せた。

「かまわないわ。人から憎まれることぐらい覚悟の上よ。」

ほむらは笑みをもらすこともなく答える。

あまり言語外の言葉というものが通じないのか、単純にノリが悪いのか。

どちらにしても、共感を得るより簡潔に伝えたいことを言ったほうが早そうだ。

さやかはそう判断した。

「あたしもさ、まどかが魔法少女になるのは反対なんだ。正直、あんたのことはまだよく分かんないけど
そこだけはあんたに賛成するし、協力してもかまわない。」

それは、さやかの本音だった。

巴マミすら、一歩間違ったら死んでいたかもしれないのだ。

とても戦闘に向いているようには見えないまどかは魔法少女になるべきではない。

どうしても叶えたい願いもないのならなおさらだ。

昨日の戦いを経て、さやかはそう考えるようになっていた。

「…そう。それなら鹿目まどかに魔法少女にならないように言ってくれたら助かるわね。」

ほむらは相変らず涼しい顔をして言ってのけた。

さやかとしては「もうちょっと愛想の良いこと言えないのかよ」と思うが、いちいちいらついても仕方がない。

そういう奴なのだ。ようやくそう割り切った。

「ああ。ついでに、あんまりあんたのことにらまないように言っとくよ。」

「それは―」

何か気になることがあったのか、ほむらは一瞬、言葉に詰まった。

「…どっちでもいいわ。」

そうして無関心をよそおう。しかしそれは、さやかには強がりのように感じられた。

「あと、あたしが魔法少女になるのはかまわないんだよね?」

「あまりお勧めはしないわ。それでも危険に身をさらしたいのなら好きにすれば良い。」

ほむらが魔法少女になられたら困るのは、あくまでまどかだけのようだった。

さやかとしては、こういう形でほむらと話をつけ、自分だけ魔法少女になれる状況を作ってしまうのは
抜け駆けをたくらんでいるようで心苦しい。

しかしそれでも、さやかには叶えたい願いがあったし、それはまどかのように魔法少女そのものに憧れるような
浮いた気持ちでもなかった。

(ごめん、まどか。でもあたしは魔法少女になるよ。)

さやかは心ひそかに決意を固めた。

*************************

生きた心地がしない。志筑仁美は思った。

彼女は世間がうらやむ上流階級の生まれであり、それ相応の英才教育を受けている。

しかし、それはまさに孤独との戦いだった。

無邪気にすごすべき子供のころから、いかに有能な人間か、家柄にふさわしい教養があるか、
そんな風にばかり大人たちから見られ、値踏みされて育つ。

子供同士でもそれは同じで、いかに自分のほうが有能で、正しい家柄かということを
直接的な言葉を使わずにまわりくどい態度でアピールしあう。

誰にも心を許せない、息をつく暇も与えられない。
142 :8話6 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/10/31(月) 01:10:47.56 ID:pQvE8nTy0
それが、仁美の見てきた上流階級の生活だった。

公立中学校への進学を許されたのは仁美にとって僥倖といえただろう。

ここで初めて、仁美は本当の意味で友だちといえる人間関係を構築できた。

鹿目まどかと美樹さやか、仁美にとってかけがえのない友人である。

彼女達は学力や礼儀作法といった面では仁美の知っている上流階級の子女達にはとうてい及ばないだろう。

しかし、彼らとは違って、心の底から信頼できた。

いつでも外見を飾り立てている人間とは違って、まどかとさやかはあくまで自然体なのだ。

だから仁美は思う。

どんなよく出来たお嬢様、お坊ちゃまよりも彼女達のほうがよほど素晴らしいと。

だが、仁美はその「よく出来たお嬢様」の部類に入る人間である。

ずっとまどかやさやかとベタベタしているわけにはいかない。

数多くの習い事をこなし、よく分からない偉い人たちの交流に参加し、高校は名門校にいかなければならない。

そのため学校の外でまどかやさやかと一緒にいられる時間は限られていた。

そうなれば、まどかとさやかが共有していて仁美は知らないことが増えてくる。

仁美は友人の輪の中にいながら孤立感を深めていくことになった。

特に、最近はまどかとさやかが二人して自分に対して何か隠し事をしているのが強く感じられる。

はじめから無いものがずっと手に入らない不満よりも、一度手に入れたものを失う恐怖の方が何倍も恐ろしい。

仁美は心ならずもまさに今それを体験していた。

このままでは仁美はいずれ、まどかとさやかの二人から取り残されていくだろう。

そして、自分の人生は無意味な見栄の世界に埋もれていくだろう。

それは仁美にとって絶望的な未来だった。

仁美とて、昔はたくさん習い事をして少しでも高みを目指すことにそれなりの意味を感じていた。

しかし、とある事件をきっかけにそれらが無意味としか思えなくなっていた。

仁美には小学校時代、友人…というほどの間柄でもないが、家同士の付き合いでよく会う知り合いがいた。

名を美国織莉子といった。

明朗であり、理知的であり、かと言って冷たさや必要以上の気取りを感じさせず人当たりも柔らかい。

何よりも、向上心・克己心にあふれ、決して弱音をはかない。

そんな彼女は生徒からも教員からも人気で、小学校でも中学に行っても生徒会長をつとめた。

誰もが前途洋洋たる彼女の行く末を想像しただろう。

だが、美国織莉子は突如、生徒会長を辞めさせられ、まともに学校に通うこともできなくなった。

彼女自体には何の落ち度もない。

国会議員であった父親が汚職の疑いをかけられ自殺したのだ。

汚職議員の娘という汚名をこうむった織莉子は、今までの途方もない努力がすべて水泡と帰した。

今では学校にも通えない引きこもり少女であり、途方にくれて夜な夜な徘徊しているという噂まである。

志筑家も、それまで美国家とはそれなりに深く交流してきたのに汚職が発覚するとすぐに縁を切った。

結局はじめから本心からの交流などなかったのだ。

美国織莉子の顛末は、上流階級の子女というものの存在意義を雄弁に物語っていると仁美は思う。

どんな努力をしたところで、自分という存在は家柄を飾るための装飾品に過ぎないのだ。

決して独立した一個の存在として扱われることはない。

そんなことのために貴重な青春の時間を、人生を無駄に使わなければならない。

この運命を呪わずにいられるだろうか?
143 :8話7 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/10/31(月) 01:11:54.16 ID:pQvE8nTy0
仁美は気が付けば、あらぬ方向へと足を運んでいた。

この先に何があるのだろうか?

『こっちに来なよ、きっと楽になれるよ!』

どこからともなく無邪気な声が聞こえ、仁美をいざなう。

(楽に? ああ、今より楽になれるのでしたら喜んでそちらに。)

なんとなく思考が鈍くなっているような気がしたがどうでもよかった。

楽になりたい、このどうしようもない状況から早く抜け出したい。

その道筋があるのなら、なにを戸惑うことがあるだろうか?

「仁美ちゃん…仁美ちゃんってばっ!」

いつの間にか、鹿目まどかが目の前にいる。

何をあせっているのだろう?

「今から、ここよりもずっと良いところへ行きますの。まどかさんもぜひご一緒に…」

そうだ、それがいい。仁美は思う。

苦しみのない世界へ、まどかさんと共に行けるのならばなんと素晴らしいことだろう。

違和感のある仁美の対応に、はじめはまどかも焦っていたが、急にすっと落ち着いた。

「…そうだね、私も思ってたんだ。このままずっと何の役にも立てずにここで生きていくよりももっと良い所があるって。」

まどかの言葉に、仁美は死んだ魚の目をしたまま微笑み、まどかの手をとった。

よく見ればまどかと自分の首筋に、いつの間にか同じマークが付いる。

美しいこのマークはきっと素晴らしい世界に旅立つために選ばれた者の証なだろう。

仁美はそう思い、まどかと二人で手を取り合いながら街中を進んでいった。
144 : ◆awWwWwwWGE [saga]:2011/10/31(月) 01:14:52.06 ID:pQvE8nTy0
以上で8話アップ完了になります。
上流階級同士の交流を捏造してみましたw

・・・うーん、このペースだったら30話超えるかも(汗
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/10/31(月) 02:13:05.57 ID:G+h3bvpAO
あまり長くなるようならざっくりカットするのも作者の腕かと
世の中には終幕と幕間を延々と数十話に渡って書き続けてる人もいますから…

何はともあれ、乙です
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/31(月) 03:08:20.63 ID:w6J8bZF3o
良牙というイレギュラーの介入が、
まどか→ほむらの視点を悪感情に変えたのが面白いな
今まで見てきたまどかクロスものが、クロスしてきた相手が超絶上から目線でまどかサイドのみんなを救ってさしあげる、
みたいなヤツばっかだっただけにwwktkがとまらない
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/10/31(月) 03:11:34.14 ID:flOctSsk0
>>145
そんなこというと円環の理に導かれるぞww
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/10/31(月) 10:01:46.33 ID:sA5pENtP0
らんまキャラ介入結果がまさかの鬱展開だと。
期待しすぎちまうよ……
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/01(火) 18:52:37.21 ID:SdUc+1py0
希望がSGに固定された状況だとらんまでもいずれ魔女になる。
魔法少女が魔女になるのも契約した希望に縋り続けなければならない点もある。

ほむほむもさやかにQBにSGが濁り切ったらどうなるのかを聞いて、その上で契約を結ぶか判断しろぐらいの助言を与えておけば良いのに・・・
魔法少女の特性、SGが濁り切ったらどうなるか聞かれればQBはきっちり答えると思う。魔女化の運命を受け入れても契約をしたい絶望状況に居る契約可能な少女は世界に幾らでも居るから、訊ねられれば言葉を濁すまでの事でもない。

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/01(火) 21:18:36.18 ID:g778pijU0
ここで呪泉郷にはその昔魔女or魔法少女が溺れたという悲劇的伝説が…

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/11/01(火) 21:29:21.93 ID:Yvu+E6fbo
♪まさに悲劇 絶望すると
 「魔女になっちゃうふざけた体質」
 キュゥべえの契約者♪


サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/01(火) 22:46:51.53 ID:SdUc+1py0
ある泉にかなづちの魔法少女が溺れた結果が呪泉郷かも。
陸の生き物だけでなく水鳥や水棲生物まで溺れさせるのは魔女の呪いとしか思えない。

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/02(水) 08:52:58.63 ID:H6sIrXLoo
>>150
パンスト太郎の例を考えると、あったら最強が狙えるな
阿修羅の例をみると外見的特徴だけではく、固有能力まで再現されるみたいだし
水をかぶるとSGになるだけかも知れんが
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/02(水) 18:29:19.00 ID:j4lcFvhlo
>>149
いやQBは原作でも今まで(君には)嘘をついてないとか言ってるだけで宇宙のためなら自分が悪くなっても構わない云々で嘘をつくだろ
スレ汚しスマヌ
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/02(水) 21:39:16.11 ID:xOud6Lfk0
本気でそう思っているかもしれないから何とも言えない。
嘘はばれる余地が有るけど、本当の事はばれる事がない。政治や外交でも事実を自分の都合のいい様に誤認させても、嘘ではないと言い切れるけど、嘘を言えばそれから破綻していく。長期的に見ると嘘は付かない方が良い。嘘を付けばその後の交渉でかなり不利になる。

さやかは良牙が魔女化を防ぎそうな気がする。異能の域に達した方向音痴、水を被ると子豚になる特異体質とお互い異形の者同士と慰める事が出来る。
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/11/03(木) 00:03:00.88 ID:TtTVVDBio
……オクタを娘溺泉に放り込んだら、水に濡れるとさやかに戻る体質になるのか?
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/03(木) 00:31:32.25 ID:tihOMIwAO
変わるのは見た目だけで中身は魔女のままだと思う
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(中部地方) [sage]:2011/11/03(木) 13:27:33.83 ID:idzTGyKwo
まどかを双生児溺泉にぶち込んだらどうなるの?
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/03(木) 22:16:08.63 ID:ZrC4nh8Oo
>>158
ほむほむとQBが嬉しさの余り失禁する
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/03(木) 22:30:39.42 ID:Mii/Ub5P0
魔法少女や魔女が男溺泉に入れば?
水かぶると男性化するけど人間に戻れのなら…
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/04(金) 08:46:34.19 ID:On1d+Ihto
>>159
止水桶使って一体ずつお持ち帰りすれば世の中全て丸く収まるのか
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(中部地方) [sage]:2011/11/06(日) 10:18:47.73 ID:+Lx/DE3no
>>152
呪泉郷にはプテラノドンとかサーベルタイガーになる泉もあるから、人類誕生以前から存在してると思われ
牛鶴鰻毛人溺泉みたいなキメラの可能性もあるけど
163 : ◆awWwWwwWGE [saga]:2011/11/07(月) 06:52:41.11 ID:cJMCcfD00
すいません、執筆が遅れています。
あとちょっとですのでできるだけ早く続きをアップしたいと思います。
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/07(月) 07:38:40.71 ID:pRK5/6DDO
無理すんなよ
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/07(月) 22:11:25.72 ID:dbljY7s/o
完結さえしてくれれば、 例え投下が一週間以上遅れても基本文句を言う人は居ないのがSS速報
それが作者にとって良いことか悪いことかはわからんけども
166 : ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/11/07(月) 23:26:42.43 ID:cJMCcfD00
>>164-165
お気遣い、ありがとうございます。

今から投下します
167 :らんまマギカ9話1 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:副題「らんまって結構エロかったよね」]:2011/11/07(月) 23:29:47.59 ID:cJMCcfD00
黒い小豚を肩に乗せた巴マミは、とあるOLの後をつけていた。

別に何の変哲もない、どこにでもいそうなOLさんだが、ひとつだけ普通と違うところがあった。

それは、首筋にスタンプのような黒いマークがついていることだ。

『あれが、本当にそうなのか?』

肩に乗った小豚がテレパシーで語りかける。

『ええ、魔力を感じるもの。間違いないわ、魔女の口づけよ。』

マミたちの尾行に気付かず、OLはどこかうつろな表情で工業地区へと向かっていった。

途中、歳も格好もバラバラな人たちがOLに合流していく。

誰一人、何の言葉も交わさない。

死んだ目をした人々が、無言のまま合流していく様はどう見ても異常だった。

そして彼らはよく見れば全員、このOLと同じマークが首についている。

(まいったわね、こんなにたくさん…)

ざっとみたところ10人ほどいるようだ。

多くの人数を守りながら戦うのはかなり神経を使う。このままの人数で結界に飲み込まれでもしたら大変だ。

「ピーッ!!」

肩の上の小豚こと良牙が、ふいに叫んだ。

マミは何をあわてているのかと辺りをうかがい、絶句した。

なんと、この亡者のような集団に鹿目まどかも加わったのだ。

友だちだろうか、同じ見滝原中学の制服を着た女子と手をつないでいる。

彼女らの首筋には確かに魔女の口付けがあり、二人とも死んだ魚のような生気のない目をしていた。

(そんな…どうして!?)

次に魔女の犠牲になるのは自分の知り合いかもしれない…そんなことは今までずっと肝に銘じてきたつもりだが、
やはり現実になると動揺を隠し切れない。

(何が何でも助けないと!)

マミはこぶしを強く握り締めた。

そうしている間にも、うつろな目をした一行は小さな町工場へとたどり着く。

マミは、出来るだけ一行に紛れるように静かに工場の中へ付いて行った。

工場の広間では、工場長らしい男が一行を待ち受けていた。

「俺はダメなんだ…」

人数が揃うなり、男は暗い声で演説を始めた。

「小さな町工場ひとつ切り盛りできなかった。俺の居場所なんてどこにもねえんだ!」

彼の足元には、何かの液体が満たされたバケツと、その横に空の洗剤ケースが倒れていた。

そこに、別の洗剤を持ったOLが歩み寄る。

『まずいわっ!』

マミがそうテレパシーするやいなや、良牙は飛び出し、OLが手に持っていた洗剤を体当たりで弾き飛ばした。

一方マミもすばやく変身し、リボンを出現させ工場長をしばりあげる。

これでさしあたって集団自殺は防ぐことが出来た。

しかし、魔女の呪いはなかなか強固らしい。

集まった人々への洗脳は解けず、いっせいに怒りの眼差しがマミと黒い小豚に向けられた。

「ぴっー、ぴーっ!」

良牙は「どうする?」とでも言いたげに鳴き声をあげる。確かに厄介な状況だった。
168 :らんまマギカ9話2 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/11/07(月) 23:31:32.29 ID:cJMCcfD00
魔女の口づけで操られているとはいえ、一般人に怪我を負わせることは出来ない。

(止むを得ないわね。)

マミは何を思ったか、天井や床にマスケット銃を打ち込んだ。

「プリジオーネ・ディフェンシヴァ!」

掛け声と同時に、銃弾を打ち込まれたところからリボンが伸び、上下にまっすぐ伸びて刑務所のような檻を作った。

『意味は?』

足元にかけよった良牙がたずねる。

『守りの監獄…これで、彼らは魔女や使い魔に襲われることも、私たちに危害を加えることもないわ。』

名前はともかく便利な技だ、良牙はそう思った。

たしかに閉じ込めてしまえば自分と相手の身を同時に守れる。

しかし、マミにとっては苦渋の選択だった。

最近は使い魔ばかりを相手にしていたうえにこの間の久々の魔女もほむらが倒してしまった。

そういった事情でマミは今、グリーフシードが手に入らず魔力が不足がちだ。

それなのに十数人をいっぺんに閉じ込めるという大型魔法を使ってしまった。

今度の魔女は可能な限り省エネで倒さなければならないだろう。

『良牙さん、すいません、今回もお願いします。』

マミはティーポットを出して良牙にお湯をかける。

「宿代だ。気にすんな。」

湯気の中から現れた青年は力強くそう答えた。

一方、「食事」を邪魔された魔女が黙っているわけはない。

マミが探すまでも無く風景が変わり、魔女の結界に包まれた。

「なんだこれは、家電の店か?」

良牙がつぶやく。

さもあらん、この魔女の結界ではあたり一面、テレビモニターがうずたかくレンガのように積み重なっていた。

「来るわ!」

マミと良牙に向けてわらわらと人形が飛んでくる。

美術の授業で見たことがあるようなデッサン人形に羽を付けたような使い魔たちだ。

大きさもそれらしく、数十センチといったところだろう。

マミはすぐさまマスケット銃を撃ち放った。

一見無造作に撃っているように見えるがそのことごとくが的確に小柄な使い魔たちに命中した。

良牙もまた、番傘を振り回して片っ端から使い魔を破壊していく。

(よかった、それほど強くない。)

使い魔には大した破壊力は無さそうだ。

この分なら、魔女もうんと強いということは無いだろう。

まだ使い魔しか相手にしていないものの、マミは少し安心した。

「きゃあああああ!」

その時、まどかの悲鳴が聞こえた。

マミと良牙が声の方を振り返ると、まどかが一匹の使い魔に追われ逃げ回っていた。

(え? 鹿目さんは私の「プリジオーネ・ディフェンシヴァ」で閉じ込めていたのに…?)

マミは疑問ゆえにすぐさま動けなかった。が、その間にも良牙は動く。

「いま行く!」
169 :らんまマギカ9話3 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/11/07(月) 23:33:32.88 ID:cJMCcfD00
良牙はすぐさまジャンプして使い魔にむかい、そのままとび蹴りを食らわせた。

使い魔はバラバラに砕け散った。

「大丈夫か?」

良牙がまどかに聞くと、まどかはらしくない不気味な笑みを浮かべた。

「△※○、■×▽◎×。」

そして、意味の分からないことを言って良牙の腕に抱きつく。

「何をふざけ…っ!?」

そう言っている間にも、まどかの髪の毛がみるみる長くなり色も黒く変わっていった。

気が付けば服も黒一色に染まり、顔は前髪に隠れ、完全にまどかとは別人になっていた。

(しまった、こいつが魔女だ!)

魔女に捕まった良牙は全身に力が入らなくなり、ふにゃふにゃになっていった。

魔女空間のあたり一面にあるモニターには、良牙の記憶の中の映像が再生された。

池に落ちて小豚になったシーン、中華料理屋で茹で殺されそうになったシーン、
道に迷ったあげく雨に濡れて途方にくれるシーン…

使い魔と戦うマミの前にもその映像が映し出された。

(あれ、あの人…?)

映像を見ていれば、良牙の記憶だというのは大体察しがつく。

その中でマミが特に気になったのはよく映っている赤い髪のお下げの女性だった。

良牙とケンカをしているように見えるシーンが多いが、互いに嫌っているようには見えない。

むしろ、お互いに十分な信頼関係があるが故のじゃれあいのようにマミには見える。

(もしかして、良牙さんの…)

一度気になったらもう目が離せない。

人の記憶をのぞくことは悪いと思いつつも、マミは目をそむけることが出来なかった。

お下げの女性と良牙が仲良くしているシーンも多い。

しまいには、良牙がお下げの女性を押し倒しているシーンや裸で一緒に風呂場にいるシーンまでも現れた。

マミとて年頃の中学生である。過激なシーンに動揺した。

(そ、そうよね、良牙さんなら彼女がいたって当然よね。)

けっして惚れっぽい方ではない、マミは自分をそう認識している。

しかし、マミは確かに残念なような悔しいような思いを感じた。

良牙をペットのように飼っていたせいでいつの間にか自分のものだと思い込んでいたのだろうか。

魔女退治にあけくれて恋愛もまともにしていないわが身を恨んでか、それとも―

「×◎▼※!」

「しまっ…」

映像に目を取られている隙に、気付かずマミは使い魔に腕をとられていた。

モニターの映像は早くもマミの記憶に入れ替わる。

それは、数年前のあの日、交通事故でマミが家族を失ったときの映像だ。

続いて、かつて仲間になった魔法少女が去っていくシーンも映し出される。

(わたしは…また、一人に…いや! もう一人になりたくない!)

あらがおうとするも、体に全く力が入らない。

『死んじゃえば、もう一人にならなくて済むよ。』

何者かのテレパシーがマミの思考に入り込む。
170 :らんまマギカ9話4 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/11/07(月) 23:34:47.09 ID:cJMCcfD00
(わたし、死んだら…パパとママにも会えるのかな…)

懐かしい父と母の愛情に包まれていたころの映像を映し出され、マミの精神はいくばくか退行し、
自分自身の存在を否定しそうになる。

その時だった。

「マミさん、しっかり!」

力強い少女の声とともに、青い閃光が走り、次々と魔女の使い魔たちが砕かれていく。

あまりに速い動きにはっきりとは見えないが、そこにあったのは青い服を着た魔法少女の姿だった。

少女は、ツインテールの生えたモニターを魔女と見定めると、一直線に飛び掛り、そのまま剣で突き刺した。

魔女は何かしかけるヒマも無く、黒い血しぶきをあげて結界ごと崩れ去る。

「まったくもー、まどか達だけならともかくさ、マミさんと良牙さんまで危機一髪なんて心臓に悪いよ。」

軽口をたたきながら、青い魔法少女は話しかけてきた。

マミよりもやや高めの背丈、活発そうなショートカット、まっすぐな瞳。

「み、美樹さん!」

見間違えるはずもない、彼女はまぎれもなく美樹さやかその人だった。

***************

翌日、鹿目まどかは志筑仁美とともに病院へ検査に行っていた。

昨晩「夢遊病」であらぬところで発見されたせいだ。

本当は、夢遊病なんかではない。魔女の呪いに負けてしまったのだ。

それを知っているまどかは落ち込んでいた。

(わたしって、何にも出来ない上に魔法少女にも向いてないんだ。)

絶望的なまでの無力感がまどかを支配していた。

普段なら、まどかが契約できない状態のときに抜け駆けして魔法少女になったさやかを責めていたかもしれない。

しかし、今のまどかにはそれも仕方ないと思えた。

まどかは魔女についての知識を持っていながら、親友である仁美を守れなかった。

それどころか、自分が魔女の負の感情に支配されてしまったのだ。

知識があっても魔女に操られるような貧弱な精神しかないのならば、
魔法少女になったところで簡単に負けてしまうに違いない。

鹿目まどかは魔法少女に向いていない、暁美ほむらでなくともそう思って当然だろう。

自分が魔法少女に向いていないのが悪いのであって、さやかを恨むのは筋違いなのだ。

そう思うと、悔しさと自分へのいら立ちでもうどうにかなってしまいそうだった。

「まどかさん、夢遊病ぐらいでそんなに落ち込まずに。」

仁美がやわらかくまどかを諭す。本当に夢遊病ならこんなに落ち込まない。

そう思いつつも、仁美に真実を伝えることもできない。

まどかはただ、力なくうなずくだけだった。

『志筑仁美さん』

院内のアナウンスが仁美の名を呼ぶ。

「それでは、検査が終われば先に上條さんの病室に行っていますね。」

今日は一日病院でつぶれる。

そういうわけで、どうせなら検査の合間に上條君に会いに行こうという予定だった。

まどかや仁美が思いついたわけではない。

さやかがまどかと仁美に強引にお見舞い品を持たせて上條君に渡してくれとせがんだのだ。

上條君とは、まどかや仁美のクラスメートであり、さやかの幼馴染である。
171 :らんまマギカ9話5 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/11/07(月) 23:36:19.88 ID:cJMCcfD00
一ヶ月ほど前に交通事故に会いあちこち痛めたが、彼の回復経過は順調だった。

しかし、上條恭介は最近かなり落ち込んでいた。

彼の左手は完治の可能性が無く、得意なバイオリンが二度と弾けないと医者に言われたからだ。

そんな上條にお見舞い品を渡せというさやかの意図は、まどかには分かっている。

さやかはまどか達が互いに落ち込まないように励ましあえる状況をわざわざ作ってくれたのだ。

だが今のまどかにとってはその優しさが痛かった。


上條恭介はバイオリンなどやっていることもあり、そこそこの家の息子である。

さすがに志筑家と肩を並べるほどの名家ではない。

それでも仁美は彼を「同じ世界の人間」だとみなしていた。

「なんとか、またバイオリンを弾けるようになりそうなんだ。」

恭介は仁美に語った。

まどかはまだ検査中なので、個室の病室には恭介と仁美の二人しかいない。

「大変ですわね。大怪我をしたというのにまたすぐ習い事をしなければならないなんて。」

仁美はうなずいて答える。

彼女もまた、今日の検査が終われば習い事に行かなければならない。

安息など、仁美には許されないのだ。

だが、恭介から返ってきたのは意外な答えだった。

「大変なんかじゃないさ。もし二度とバイオリンを弾けなくなっていたらと思うと、そっちの方が怖いよ。」

「え?」

仁美は一瞬あっけに取られた。

「バイオリンは親御さまに勧められたものではないのですか?」

勧めるなんて甘いものじゃない。志筑家では習い事は完全に強制だった。

仁美の意思など関係ない、嫌でもやらなければならないのだ。

「はじめは親に勧められてイヤイヤやったさ。でも今は違う。」

恭介は少し照れくさそうにしながら言った。

「バイオリンを弾くことが僕の生きがいなんだ。だから、すぐにでもまたバイオリンを弾きたい。」

「…それが、周りの人たちにとっては家柄の自慢にしかならなくてもですか?」

仁美の口からつい本音がこぼれた。

家柄を飾るためだけに、高尚な趣味を持ち、高い能力を見せ付ける。

そんな上流階級の生活に仁美は絶望すら覚えているのだ。

それはともかく仁美の言葉は聞き様によっては恭介をあるいは上條家を侮辱したともとれる発言をしてしまった。。

仁美はハッとして口をつぐんだ。

しかし恭介はとくに気に留める様子も無い。

「かまわないさ。」

恭介は力強く語る。

「利用したければすればいい。都合が悪いのなら勘当でも見ないフリでもなんでもすればいい。
バイオリンを弾けるなら、僕は人からどう思われようが、どんな暮らしをしようが関係ない。」

少し興奮しているようには見えるが、その言葉には軽薄さやその逆の必要以上の気取りも無かった。

つい最近、左手が回復傾向になったという状況が彼の気を大きくしている面はあっただろう。

しかしそれを差し引いても上條恭介は真剣にそう思っているのだ。

それは、仁美にとっては衝撃的だった。
172 :らんまマギカ9話6 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/11/07(月) 23:37:20.61 ID:cJMCcfD00
仁美は与えられた習い事をただ与えられるがままにこなしているだけで、本心では
大した興味を持っていなかった。

それゆえに本当にしたいことができず、見つからなかったのだ。

だが、上條恭介は違う。

たとえ親から勧められて始めたものでも、やりたいと思ったことにとことんひたむきで、
生まれや立場を呪うことが無い。

その恭介のひたむきさに、仁美は自分の小ささを知った。

(私は…しがらみに捕らわれず自分のしたいことは何なのかを考えるべきなのかも知れません。)

仁美はそう思い、恭介の輝きに満ちたまなざしを見つめるのだった。

***************

「でやあ…スクワルタトーレ!」

美樹さやかは青い閃光と化して響良牙に斬りかかった。

良牙は番傘を広げて幾筋もの斬撃を防ぎきる。

やがて、動きが止まったところで、さやかは良牙に蹴り飛ばされた。

「いたた…生身でそんなに強いなんて…」

しりもちをついたさやかが言った。

「ちっ、驚いてるのはこっちだ。」

ついこの間までごく一般的な女子中学生に過ぎなかったさやかが、一日にして良牙を上回るスピードと、
それなりのパワーを身に付けてしまったのだ。

目の前で巴マミの戦いを見続けてきた良牙からしても、信じがたいことだった。

「もうちょっと肉体強化を強めにできなかったの?」

さやかは横にふりむいてたずねる。

その視線の先には、白い猫のような生物―キュゥべえがいた。

「出来なくもないけど、それだと魔力消費がバカにならないよ。
それに、魔法少女の身体強化はあくまで日常生活に不便が出ないレベルまでなんだ。」

相変らず、この奇妙な生物は理屈っぽい。

「へー、だったらこれ以上強化したらどうなるの?」

「例えば、握手したり抱きついたつもりが攻撃になったり、重いものを背負っても気付かないほど
鈍感になったりすることがありうる。
もちろん、良牙のように自分で鍛えた筋力ならばその辺の繊細な力のかけ方も分かるだろうけどね。」

キュゥべえの説明に、良牙は若干耳が痛い気がした。

実は良牙は重いものを背負わされたり弱い攻撃を受けても気付かないほどの鈍感体質になっているのだ。

「じゃあさ、良牙さんはどうやって鍛えてるの?」

あっけらかんと、さやかはたずねる。

「そうだな…たとえば、これを持ってみるか?」

そう言って良牙は番傘をさやかにむかってやわらかく山なりに投げた。

「え? カサ?」

さやかは空中で番傘をキャッチしようと手を伸ばす。

しかし、キャッチした瞬間に、さやかは番傘の重さに引っ張られ、大きく前のめりにこけた。

良牙が軽く投げただけの番傘は、魔法少女となったさやかにも支えきれず地面に深く突き刺さった。

「重っ! いつもこんなの持ち歩いてんの!?」

なんとか、さやかは両手でふんばって良牙の番傘を持ち上げる。

「ああ。これだけでも少しはトレーニングになるだろ。」

良牙は自慢げにニヤリとした。
173 :らんまマギカ9話7 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/11/07(月) 23:38:24.05 ID:cJMCcfD00
「…でも、魔法少女に筋力トレーニングって意味があるのかしら?」

一連のやりとりを眺めていたマミがつぶやく。

「無意味ではないよ。魔法少女の肉体だって基本は骨と筋肉で動いているからね。
ただ、魔力の無駄遣いにならないように注意をしたほうが良いだろう。」

キュゥべえの言葉に、マミは今更ながら自分の体もそれ自体は普通の人間と大差ないことに気が付いた。

魔法少女になってからというもの、傷なんてすぐに治してしまっていた。

体の一部を貫通する程度のダメージなら、魔力に余裕がある限り簡単に回復してしまうだろう。

しかし体そのものは人間のものなのだ。

ここ最近、ベテラン魔法少女らしくもなく立て続けにピンチにあったからこそ
その事実は重く感じられた。

「良牙さん、美樹さん、そろそろ切り上げましょう。 お茶にしますよ。」

あまりトレーニングで魔力を使いすぎるわけにもいかない。

マミは良牙とさやかに声をかけた。

「はーいっ!」

元気な返事をしてさやかは駆け寄ってきた。その後ろから良牙もあるいてやってくる。

***************

その夜だった。

『おい、起きろマミ、せっかく来てやったのに寝てんじゃねぇ!』

(なによ…うるさいわね…)

頭に入り込んでくるテレパシーに寝ぼけたままの頭でマミは答える。

目をこすりながら辺りを見回すが暗い部屋があるだけだった。

テレパシーを送ってきた相手はマンションの下にでも居るのだろう。

『いつまで寝ぼけてんだ、これが魔女の襲撃だったら死んでるぞ、こら!』

『うるさいわね。前から言ってるでしょ、もうちょっと女の子らしくおしとやかにしなさいよ、杏子!』

悪態をつく相手に、マミはとっさに慣れた反応で返した。

(…え?)

そして、自分が驚くべき台詞を吐いたことに気付き、ようやく頭が醒める。

『杏子!? 杏子なの?』

『さっき自分でそう呼んだじゃねーか。』

相手はあきれたような声のテレパシーを返してきた。

『本当に、杏子なのね…』

伝えたいことは山ほどあった。

しかし、いざとなると言いたい言葉が出てこない。杏子のほうから会いにきてくれたというだけで心が一杯だった。

そんなマミの気持ちを知ってか知らずか、杏子は用件を切り出した。

『キュゥべえから聞いたぜ、新人が入ったんだってな?』

『ええ、なかなか優秀よ。情けない話だけど、いきなりピンチを助けられちゃったわ。』

『あたしさ、引っ越すことにしたんだ。』

杏子の話は急に飛ぶ。

マミはついていけずに相槌をうつことも返事も出来なかった。

『だからさ、あたしの縄張りをそいつに預けとこうと思ってな。』

『ちょっと待って、引っ越すってどこに? どうして!?』

引っ越すぐらいならなんでウチに来てくれないのか、マミは残念に思う。
174 :らんまマギカ9話8 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/11/07(月) 23:39:19.57 ID:cJMCcfD00
『あー、めんどくせーなー。』

マミの質問に対し、杏子は心底うざったそうにぼやいた。

『風見野じゃとっくにあちこちから目ぇ付けられてたからさ、そろそろトンズラここうって思ってたんだ。
そんなときにちょうど、住み込みで雇ってくれるバイトが見つかってね。』

マミはいちいちテレパシーで『うんうん』などと相槌をうって聞いていた。

『よかった、本当に。』

マミのテレパシーに感情のノイズが混ざる。それは、心の底からの喜びだった。

『ずっと、心配してたのよ。でも、あなたが社会復帰してくれるならこんなに嬉しいことはないわ。』

『だーっ! うっせぇ! お前はオカンか!?』

照れ隠しなのか本気でうざがっているのか、杏子は怒ったようなテレパシーを送る。

『ふふふ、そういう事なら分かったわ。あなたの縄張りはあたしの方でちゃんと管理するから、
新しい土地でもがんばってね、杏子。』

『お前こそ、余裕こいてくたばんなよ?』

相変らず減らず口を叩く杏子だったが、その相変らずっぷりにマミは未だに絆が消えていないことを知り
すっかりうれしくなった。

『ところで引越し先はどこ?』

『ああ、風林館のお好み焼き屋。』

『えっ、風林館!?』

予想外の地名に、またもマミは驚きを隠せなかった。
175 : ◆awWwWwwWGE :2011/11/07(月) 23:43:12.32 ID:cJMCcfD00
本日は以上で。


『プリジオーネ・ディフェンシヴァ』はオリ技です。
アニメで杏子がまどかにしたようなことをマミもできるはずと思って作りました。
技名にマミっぽさが出ていれば幸いです。

また、公式準拠(?)だとマミの杏子に対する呼び方は「佐倉さん」になると思いますが
過去の親しい関係を強調するために敢えて相互に呼び捨てにさせていただきました。
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/08(火) 00:35:04.62 ID:GpNcE+pDo
乙乙!
マミさん、その赤毛ちゃん実は男ですよ
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(関東・甲信越) [sage]:2011/11/08(火) 03:15:28.01 ID:pG6uTeCAO
お疲れ様です
楽しく読ませて頂いております
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/08(火) 08:40:17.17 ID:Ts9ucV6Wo
来てたのか、乙。

余計なお世話かもしれんが、より多くの人に見てもらう為にも、投下の1レス目だけは投下開始の合図として毎回ageた方が良いよ。
面白いのに見てる人少ないのはもったいない。
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/11(金) 09:27:50.13 ID:69MXDOrj0
高橋作品で子供を騙す詐欺商法の宇宙人というと…
キュウべえにはぜひ
「どんな衝撃も寄せ付けないスーパー・ボディースーツ。」
「時速100kmで飛べるデリシャスマント。」
「そして、ゴールデン・バックル(金のシャチホコ付き)。」
を次々商法でいたいけな少女達に売りつけて欲しい。
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/14(月) 23:10:20.11 ID:sdeYqbOAo
今日は来ないのかな?
なんらかの連絡が欲しい
181 : ◆awWwWwwWGE :2011/11/17(木) 01:01:22.29 ID:uRw5lDTl0
大変遅くなりました。
ただいまからアップしようと思います。

今後、定期的に連絡ができるように気をつけます。
182 :らんまマギカ10話1 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:副題「やっぱりあんこと呼ばせたい」]:2011/11/17(木) 01:03:45.46 ID:uRw5lDTl0
昼時のお好み焼き屋はにぎわっていた。

「へぇー、お昼も始めたのかい。助かるねぇ」

「でもキミ学校は?」

客層は主に地元の自営業者や主婦、ヒマそうな大学生などだ。

まれに、営業でやってきたらしいサラリーマンなどがまざる。

「へい、豚玉おまち!」

佐倉杏子は威勢良く言うと、すべるようにスピーディかつ静かにお皿を置いた。

「学校? なにそれ食えるの?」

わざとらしく、杏子は笑みを浮かべる。

そんな杏子に客は苦笑いを返しながら、お好み焼きにコテを入れるのだった。

こんな調子で、杏子は右京が帰ってくる午後五時まで店番をしている。

「またせたな。あんこちゃん、交代や。」

「あんこじゃねぇ、『きょうこ』だ。」

五時が来ると店長の右京と店番を変わり、杏子は自由時間を与えられる。

杏子はさっさと着替えを済ませて天道道場へ向かった。

「たのもー!」

元気よく声を張り上げると、道場の中に通される。

そこで、杏子は道場主である天道早雲の行う一般向け護身術講座にまざって型を習った。

「やっぱりあんこちゃんは筋が良いね。うちのあかねより上かもしれないなぁ。」

「いえ、あたしなんてまだまだです。」

同居人にして雇い主の久遠寺右京が杏子のことを『あんこ』と呼ぶのですでに風林館では
『あんこ』が定着してしまっている。

もはやいちいち指摘しても無駄なので、杏子も面倒くさい時は聞き流していた。

ともあれ、そんなやり取りをして、天道早雲は道場をあとにした。道場に残った杏子は掃除を始めた。

掃除をするから代わりにただで武術を教えてくれと杏子が自分から頼んだのだ。

広い道場だが、そんなにモノも無いので掃除に時間はかからない。

「いやー、良い汗かいた。帰りにビールでも買ってくか。」

掃除を終えた杏子は、宝石のように輝く汗を拭きながらつぶやいた。

早乙女らんまが帰っているなら手合わせをお願いするところだが、今日は病院へ見舞いに行ったまま、
まだ帰ってこないらしい。

やむなく杏子は、そのまま部屋に帰ることにした。

********************


杏子は右京に与えられた部屋に帰って着替えを始める。

「やあ、ごきげんだね、杏子。」

その時突然、何者かに声をかけられた。

杏子はとっさにその場にあった漫画本を投げつける。

本は部屋の隅にいた猫のような小動物にあたった。

「いきなりあんまりじゃないか。」

大して痛がる様子もなく、その小動物はしゃべる。

「のぞくんじゃねえ! バカ!」

「ボクは人間じゃないし、性別もないから気にしなくても良いよ。」
183 :らんまマギカ10話2 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/11/17(木) 01:04:57.47 ID:uRw5lDTl0
怒る杏子に対して、その小動物…キュゥべえは悪びれる様子もない。

「あたしが気にするっつーの!ったく、空気よめねー奴だな。」

「まったく、人間の価値観はよく分からないよ。」

杏子はそそくさと服を着てキュゥべえに向き直った。

「それよりも、話が違うじゃねーか。新人魔法少女があんなに強いだなんて聞いてないぜ?」

「らんまの強さについて聞かれた覚えはないね。それに、格闘技はボクの専門外だ。
魔法少女と武闘家を比べて強さを分析するなんてボクにはできないよ。」

そう前置きしてからキュゥべえは続ける。

「でも、杏子の手には負えないとなったら他の子に頼んだ方がよかったかな?」

その言葉に杏子はカチンと来た。

「ふざけんじゃねえ。格闘技やってるとか知らなかったから不覚をとっただけだ。
あたしはまだ負けちゃいないし、諦めてもいねーよ。」

「と、言うとらんまの仲間になったからここに引っ越したのではないのかい?」

キュゥべえの質問にさらに杏子は表情をすごませる。

「そんなワケねーだろ! あたしはここを縄張りにするために引っ越したんだ。」

(そうさ、あたしは寂しくなったわけでも絆されたわけでもねぇ。)

杏子は自分に言い聞かせるように強く念じる。

たしかにこの街に来てからの日々は充実していた。

だが、杏子はそんな健全な日々にうつつを抜かすつもりでここに来たわけではない。

(あたしは、もう誰にも頼らないって決めたんだ。)

だから、あくまで今の状況を利用しているに過ぎない。

風見野では魔女はあらかた狩りつくしたし、長いこと住んでいたせいで警戒され、
ホテルへの無断宿泊はおろか万引きすらやりにくくなった。

今までだって住所不定じゃなにかと不便だったし、そろそろ潮時だったのだ。

そんなタイミングで格好の縄張りと、そこでの住み込みのバイトが見つかった。

ついでにマミに借りを返すことも出来て一石二鳥どころか三鳥だ。

そう、たまたま渡りに船だった。

加えて、あのらんまという女にもマミとは別の意味で借りを返さなければならない。

「それなら良かった。ボクとしてもグリーフシードを売りさばくような魔法少女は増えて欲しくないからね。
杏子には期待しているよ。」

それだけ言うと、キュゥべえはただの猫のように窓から外に飛び出して去っていった。

(ちっ、念押しに来たのか。)

杏子はキュゥべえの前で感情を出してしまったことにいら立ちを覚え、
腹立たしい気持ちのままで見送った。

*******************

木棍が空を切る。

らんまはそれをやすやすと飛び越えるとそのままとび蹴りを放った。

杏子はかろうじて蹴りを避けるが棍をもどすのが間に合わない。

らんまは左手で棍をつかみ、右手を拳にして杏子の顔の前で寸止めした。

勝負あったらしく杏子は棍を手放して両手をあげた。

「魔法がねーとこんなもんか?」

「ちっ、悪かったな。」

杏子は舌打ちをした。
184 :らんまマギカ10話3 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/11/17(木) 01:06:09.17 ID:uRw5lDTl0
「だったら今度は魔法だけで勝負しようぜ?」

「つまり、一方的に殴られろってか?」

ふざけんなとでも言いたげな表情でらんまは返した。

らんまの魔力は低い。

キュゥべえは杏子にそう伝えていた。

その証拠か、いまだにらんまは魔法で自分の武器を出すことすらできていなかった。

らんま本人としては傷の治りなどはじゃっかん早くなったような気がするらしいが、
もともと回復力に優れているのでいまいちよく分からないとか言っていた。

「武器を出すぐらいならさ、そんなに難しくないだろ?
頭ん中で使いやすそうな武器を考えて、魔力を込めればそれで終わりだぜ。」

あまりにも魔法少女としての習熟が遅いらんまを見かねて杏子が言った。

そうは言われても、らんまは普段特定の武器になど頼らない。

臨機応変、その場にあるものを最大限生かすのが無差別格闘早乙女流のモットーだ。

そのせいか、らんまはどうしても集中してひとつの武器を創造するという作業ができなかった。

「しかし分からねえな。」

ふと、らんまはつぶやいた。

「なんでおめーはこの道場に通う? 俺が言うのも変だが、
魔法少女なら魔法で戦えば良いじゃねえか。」

たしかに、らんまは魔法少女についていろいろ聞き出すために杏子との戦いを半端に終わらせ、和解しようとした。

だが、それはらんまの事情であって、杏子の利益ではない。

杏子がなぜ「うっちゃん」に勤め、この道場にまで来てまでらんまをマークするのか、
マークされる側の当人としては不思議で仕方が無かった。

「そりゃあさ、魔法少女はいつも生きるか死ぬかの戦いをしなきゃなんないんだ。
少しでも強くなりたくって当たり前だろう?
魔法少女だって魔力切れもあるし、身体能力の高い方が有利だから
天道道場に来て鍛えてもらっている…それじゃ何かいけないのかい?」

用意してあったかのように、杏子はすらすら答えた。

その様子に、らんまはますます杏子には別の目的があると確信を強めた。

「いきなり人を襲ってきたお前にしちゃ、動機が普通すぎる。」

らんまの答えに、杏子はにやりと口元を歪ませる。

「仕方ないね、本当のこと言ってやるよ。」

らんまの疑いはもっともだろう。杏子は思った。

実際に自分は、らんまのクセや弱点を探り、グリーフシードを盗むために近づいているのだ。

(そうさ、はじめっからそれだけだ。だから、疑われても当然だ。)

自分もそう思っていて、相手からも疑われているのだ。期待に答えてやるのが当然だろう。

「あたしは前の戦いに納得がいってないんだ。だからアンタをぶっ倒して、
ついでに溜め込んでるグリーフシードをぶん捕ってやる。」

「奇遇じゃねーか。前の戦いが気に食わねーのは俺も一緒だ。
俺だって魔法があんなもんだと知ってたら不覚は食わなかったさ。」

らんまにとっても、無理に仲良くする必要はないらしく、売られた喧嘩は買ってやると言った態度だ。

らんまと杏子、二人の赤い少女は互いの視線に火花を散らせる。

「だがな、その前にひとつ聞きたい事がある。
どうやって、ここに俺っていう新人の魔法少女がいるって知ったんだ?」

こういう時、身内に被害が及ばないようにするには黙秘するのが正解だろう。

しかし、杏子にとってはキュゥべえは身内ではないし、口止めもされていない。

隠し立てするような義理はどこにもなかった。
185 :らんまマギカ10話4 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/11/17(木) 01:07:45.11 ID:uRw5lDTl0
「キュゥべえにおいしい縄張りがあるって言われてね。
あんたがグリーフシードを売りさばいてるの、キュゥべえの奴は気に入らないらしいぜ?」

「え、お前、今なんて!?」

よく聞こえなかったのか、らんまが聞きなおす。

「キュゥべえに教えられたって言ってんだ。」

「いや、俺が聞きたいのはその後だ。」

「『あんたがグリーフシード売りさばいてるのをキュゥべえが気に入らない』ってトコか?」

杏子が台詞を言いなおすと、らんまは首を横にひねった。

「お前、キュゥべえに騙されてんじゃねーのか? そんなの俺はしてねーぞ。」

らんまの言葉に、杏子もはっとした。

前々から、キュゥべえをうさんくさいとは思っていた。

しかし、今まで嘘をつかれたことは無かったのでその点は安心していたのだ。

だが、キュゥべえが場合によっては嘘を付くとすれば、これまでの情報を一から洗いなおさなければならなくなる。

「…マジかよ、本当にやってないのか? あんたの義理の姉がやってるとか聞いたぞ。」

「義理の…姉?」

らんまは頭をひねったが、すぐに怒りに満ちた表情に変わった。

「あ、あんにゃろーまさか!!」

事情の分からない杏子はいぶかしげにらんまを見つめる。

「いや、すまねー。どうやら今回悪いのはキュゥべえじゃないみてーだ。
先になびきの奴をこらしめねーとな…」

*****************

天道なびきは、帰宅後、自分の部屋に入るなり拘束された。

突如、槍が襲ってきたかと思うとその槍が無数の鞭にばらけて、なびきに巻きつき行動の自由を奪ったのだ。

「なに!? 一体コレは?」

焦るなびきの前に、魔法少女姿の杏子が現れる。

「へ、一丁上がり!」

「あ、あんこちゃん!? 助けて! らんまくん!」

驚き、おびえた様子で助けを求めるなびきは、とてもらんまの言うような女狐には見えなかった。

そのらんまがゆっくり歩いてなびきの前にやってきた。

「誰が助けるか、怯えたフリなんてしやがって。いい加減に観念しやがれ。」

そしてあっさりと、なびきの『助けて』という願いを裏切る。

らんまは知っていた。

なびきには戦力は全く無いがシャンプーや右京に襲われても平然としているような人間なのだ。

この程度の事態で怯えるなど演技に決まっている。

「分かんないわねぇ。あたしが何したって言うのよ?」

案の定、なびきはさっきまでの演技をやめて、普段の家庭内の会話と変わらない様子で文句をたれた。

「なんだコイツ? えらく態度が変わるじゃん。」

戦うすべを全く持たない人間がどうして拘束されてもこうも堂々としているのか、杏子にはよく理解できなかった。

「こーゆー奴なんだ。おめーも騙されないように気をつけろよ。」

らんまは杏子にそう警告してから、なびきを問いただす。

「さて、『預かってる』って言ったグリーフシードをなんで売りさばいてんのか説明してもらおうか?」

「あー、そのこと。いいじゃない、別に。らんまくんには無用の長物なんだし。」
186 :らんまマギカ10話5 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/11/17(木) 01:09:21.03 ID:uRw5lDTl0
凄むらんまに対して、なびきは全くひるむことなくしれっと答える。

(ああ、絵に描いたようなヒドい奴だ。)

杏子はさきほどのらんまの忠告に、内心大きくうなずいた。

「てめー、魔法少女について色々調べたいから預かってるんじゃなかったのかよ!?」

「あら、その目的はある程度達成してるわよ。」

「は?」

なびきの意外な台詞に、らんまは耳を疑った。

「あんこちゃんはさ、どうしてこの街に来たわけ?」

この事態でも親しげに『あんこちゃん』などと言ってくるなびきに、杏子は若干不気味さを感じた。

「あ、あたしはキュゥべえにグリーフシードを売りさばいてる悪い奴が居るからシメてくれって言われて、
それでグリーフシードがっぽりもらえるなら楽な仕事だと思って来たんだ。」

杏子はもうらんまにバレている部分はかまわず本音を話した。

このなびきという女はマミのように自分の正義にこだわったりはしない。

そういう人間だということだけははっきり分かったので、取り繕う必要も無いと思ったのだ。

「なるほどね。つまり、キュゥべえは魔法少女に対して公平ってわけではないし、
都合の悪い魔法少女は他をけしかけて潰そうとするような奴ってことね。」

なぎきは杏子から聞き出したばかりの情報を使った分析を披露する。

おそらく元から考えていたシナリオだったのだろう。

「確かに、そう考えると黒い奴だな。見た目は白いくせに。」

らんまがうなずく。少なくとも、キュゥべえに対する不信感を増大させるのには足る情報である。

「それに、キュゥべえが魔法少女をつくる目的は、魔女を倒すためじゃなくって、
グリーフシードが欲しいっていう推測も補強されるわよね?
しかも、使用済みグリーフシードを。」

なびきはウインクして見せた。「状況把握が前進したでしょ?」とアピールしているのだ。

「ちょっと待て。あんたたちキュゥべえの思惑なんてさぐってどうするつもりなのさ?」

らんまとなびきのやり取りを不思議そうに眺めた後、杏子が割り込んだ。

「ああ。キュゥべえとの契約でちょっと納得いかねーとこがあってな。
どうにかして契約を無くして元にもどれねーかって考えてんだ。」

「元に…戻るって!?」

杏子は狐につままれたような顔をした。。

彼女の周りには、そんなことを考えている魔法少女は今まで一人もいなかった。

(あたしだって、納得のいかなかったことはあったはずなのに…)

なぜ、そういう発想を一度もしなかったのだろうか。

考えてみて、すぐに理由にいきついた。

魔法少女でなくなったところで、杏子の取り戻したいものはもう何も戻ってこないのだ。

いや、それどころか不登校児なうえにマミのように財産があるわけでもない杏子は魔法少女で無ければ
生活していくことすら困難だっただろう。

失ったことを魔法のせいだとしても、その魔法のおかげで生かされていることになり、契約自体を
踏み倒すことはできない。

結局、すべてが自業自得とあきらめるしかなかったのだ。

だが、らんまはまだ大切なものを失う前らしい。

(ち、やっぱいけすかねぇよ。)

杏子ははきすてるようにそっぽを向いた。

そうしている間にも、らんまとなびきのやり取りは続く。
187 :らんまマギカ10話6 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/11/17(木) 01:10:29.41 ID:uRw5lDTl0
「それなりに分析が進んだことはわかった。でもな、俺が命がけで取ってきたもんをそんな風に
商売にされておとなしく引き下がってると思うか?」

「なによ、分け前よこせってわけ? あんたも結構ケチねぇ。」

「グリーフシードを返せって言ってんだ! ケチだとかお前にだけは言われたかねーよ! 」

わなわなと怒りをあらわにするらんまに対して、なびきはけろっとして言った。

「無理。もう売れちゃったから。商品は発送済み。」

そのやり取りを眺めていた杏子は、キュゥべえがなびきを嫌がっているのも分かる気がした。

自分もあまり深くかかわらない方がいいのじゃないかと思ってしまう。

「でもね、買い手がなかなか面白いわよ?」

唖然とするらんまをよそに、なびきは楽しそうに語った。

「グリーフシード買ってくれた顧客にさ、『美国織莉子』って子が居るのよ。」

らんまも杏子も「それが一体どうした」といった様子で黙っている。

「あんたたち知らないの? 何年か前に汚職疑惑で自殺した美国議員の一人娘よ。」

「ふーん。」

「そんなの知らねーよ。」

なびきは面白がって言ったが、二人の反応は薄かった。

それもそのはず、勉強なんて二の次で格闘にいそしむらんまと不登校児の杏子では
新聞なんて読まないしテレビニュースも見ないのだ。

「そんな有名人が本名書くとは思えないね。どうせ偽名だろう?」

杏子がツッコミをいれる。

「住所が美国邸だもの、本人よ。」

「だったら、アレだ。政治家の娘だったら金持ちなんだろ? 興味本位で買ったんじゃねえか?」

らんまは変な趣味を持った金持ちを何人か知っている。

おかげでらんまの頭の中では金持ちとは物好きの変わり者という思い込みがしみついていた。

「まー、その可能性は否定できないけどねぇ。
でもさ、自殺した議員の娘が魔法少女だったりしたら面白いと思わない?」

「別に。」

楽しそうに語るなびきに対して、らんまも杏子も無感動に首を振る。

「あんたたち、つまんないわねぇ。」

そんなことをつぶやきながらもなびきは別のことを考えていた。

(ふぅ…今回は危なかったけど、なんとか興味をそらして武力制裁をまぬがれたわ。)

********************

「信じられない…本当に届くなんて。」

暁美ほむらは驚きを隠せなかった。

あやしげなインターネットサイトで売られていたグリーフシード。

それを試しに注文してみたら、本当に本物のグリーフシードが配達されてきたのだ。

そのグリーフシードは完全未使用のきれいな灰色で、パンティのような模様が刻まれていた。

(さらのグリーフシードを売るなんて、よほど余っているのかしら?)

しかも、送り主の住所と名前まではっきりと明記されている。

『東京都練馬区風林館××−×× 天道方(天道道場) 早乙女乱馬』

もしこれが、このグリーフシードを取ってきた魔法少女の本当の住所ならマヌケにもほどがある。

魔法少女は巴マミのような善良な存在ばかりではない。
188 :らんまマギカ10話7 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/11/17(木) 01:11:16.48 ID:uRw5lDTl0
ある種の魔法少女に対しては売るほどに蓄えられたグリーフシードを「奪いに来い」と言っているようなものだ。

(それとも…罠?)

罠だとすれば相当に危険だ。

売るほどに余るグリーフシードをどうやって蓄えたか?

こうやってエサで魔法少女を誘い出しておいて、返り討ちにして奪い取る。

あるいは注文の際に集めた情報を元に魔法少女を探し出し、奇襲をかける。

そんな方法がありうるからだ。

そうでなくても、まっとうな方法で大量のグリーフシードを余らせることができるなんて思えなかった。

考えてみると、注文の際に本当の住所を晒してしまったのが悔やまれる。

暁美ほむらの情報は、この「早乙女乱馬」といういかにも偽名くさい魔法少女に筒抜けになってしまった。

やろうと思えば「早乙女乱馬」はいつでもほむらに奇襲を仕掛けられる状態なのだ。

「狩られる前に…狩る?」

そんな過激な選択肢も浮かんでしまう。

だが、これが罠ならばどう動こうと相手の想定の範囲内だろう。

(いえ、向こうから関わってくるまで放っておけば良いわ。)

ほむらはそう開き直った。

自分のなすべきとは…たった一人の友人を守ることだ。

自分の身が危険に晒されていようと、よそで誰かが罠を張っていようと関係ない。

興味があるとすれば、こういう輩に対してキュゥべえ…いや、インキュベーターがどう動くかということぐらいだ。

この件はそれで割り切った暁美ほむらは、グリーフシードをしまうと新聞に目を通した。

今日の新聞ではない。数年前のものだ。

(今までの時間軸と時事はあまり変わらないわね。)

そんなことを思いながら、ページをめくる。

ふと、あるページでほむらの手が止まった。

「まさか!?」

ほむらはそう言って、今度は新聞と同じ日付の週刊誌を取り出した。

さらに、自らの通う見滝原中学校の生徒名簿を調べる。

(この時間軸には、美国緒莉子と呉キリカが居る!)

ほむらは普段から硬い表情をさらに硬くして拳を握り締めた。
189 : ◆awWwWwwWGE :2011/11/17(木) 01:13:22.41 ID:uRw5lDTl0
以上、第10話でした。
次のアップは…23日の祝日にできればいいなぁ(あまり期待しないでください(汗)
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(埼玉県) [sage]:2011/11/17(木) 02:34:55.88 ID:QlJI72GW0


杏子ちゃんの社会復帰が進んでますな
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西・北陸) [sage]:2011/11/17(木) 03:46:31.28 ID:EI6vpj/AO
ほむらの目にもとまったか。そりゃそうか。
言葉通り他にも狙ってやって来るのが居そうだな。
しかしぶっちゃけ魔翌力ブーストまでかかったらんまが時止め奇襲意外で負ける気はあんまりしない。
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/17(木) 07:25:40.93 ID:EFjB1+Iso
クレカが使えない(社会的に信用が低い)ようなサイトで買い物するときは大きな駅の周囲や繁華街、ビジネス街みたいな不特定多数が利用する郵便局で局留め(宅配業者の場合は支店留め,営業所留め)にするもんじゃね?

住宅街とかの小さいところだと利用者層が絞られるから、名前から特定される可能性あるし
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/17(木) 11:51:56.06 ID:QwLvi/t1o
ついに来たか! 乙!
あんこちゃんあんあん!

>>192
何回もループしていようと、ほむほむだって中学生なんだぜ?
偽物のGSだと思って油断してたのもあって、そこまで気が回らなかったんじゃね?
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/17(木) 12:45:43.46 ID:SILIE4+AO
中学校生活を何百回繰り返そうが社会人にはなれないからな
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/17(木) 23:13:47.31 ID:Cp/A3o1R0
キュウべぇって別段、魔法少女達に守秘義務とか課してないからなあ
ネットに魔法少女の内情書きこむ娘もいるだろうし
けっこう裏サイトで魔法少女同士が情報交換してても不思議じゃないけど
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/19(土) 11:03:12.56 ID:g36rsbXDO
猛虎落地勢!
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/20(日) 06:24:26.22 ID:Rdcbc0dpo
魔犬慟哭破!
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/21(月) 00:48:01.21 ID:w/+cURtco
敵前大逆走!
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/23(水) 21:20:34.01 ID:G7uQYRJZo
全裸待機
200 : ◆awWwWwwWGE :2011/11/24(木) 02:17:26.54 ID:GujHiiOv0
>>192-193
うーん、普段、そういう買い物しないので良く知りませんでした。
ちゃんと調べて書かなきゃいけませんね。
申し訳ない

ってなわけで遅くなりましたが11話アップします。
201 : ◆awWwWwwWGE [saga:sage:副題「あかね、すっかり脇役化」]:2011/11/24(木) 02:19:19.51 ID:GujHiiOv0
柵や壁の無いテラスは、庭との境目があいまいである。

降り注ぐ太陽光は庭の木々にさえぎられ、柔らかい木漏れ日となってテラスにあふれていた。

そのテラスに置かれたテーブルの上には、温かい紅茶と小さなフィナンシェが二組置かれている。

そして、テーブルにつけられた二つのイスには二人の少女が座っていた。

「…本物ね。」

少女の一人がつぶやいた。

白い髪をやや高めのサイドテールでまとめ、スカートや肩をふくらませた時代物の西洋のお嬢様のような服装をしている。

その彼女の手の平には、灰色の、意匠を凝らした工芸品のようなものが置かれていた。

「ふーん、変わった子もいるもんだねー」

もう一人の少女はのん気に間延びした声で答えた。

黒いショートカットの髪に、見滝原中学校指定のブラウスとスカート。

ブラウスのすそは外に出して、左右で長さも模様も違うニーソックスをして、だらしない…
少なくとも優等生ではありえないいでたちをしている。

「アイドル気取りの魔法少女が現れるぐらいは想定の範囲だけど、
まさかグリーフシードを売るなんてね。」

白い髪の少女はそういってため息を吐いた。

「…で、この乱馬って子は違うのかい?」

「違うわ。『アレ』が魔法少女になれば私には分かるはずだもの。」

「ふーん。」

黒髪の少女は大きく伸びをして両手をあたまの後ろで合わせた。

そして、そのままの格好で言った。

「でも、始めるには丁度良い相手かもね。」

まるで、文通でもはじめるかのような気楽な言い方である。

しかし、白髪の少女はその意味を知っていた。

「確かに、あの子なら目立つわ。陽動としては良いマトだけど…」

白髪の少女はその目に戸惑いを見せる。

その様子を見て、黒髪の少女は急に真剣な顔つきになって相手を見つめた。

「おりこ、言ってくれ。私はおりこのためだったら平気だから。」

「…分かったわ。お願い、キリカ。行ってきて。」

白髪の少女も決意を込めたまなざしで答えた。

「魔法少女狩りの1人目は、早乙女乱馬よ。」

**********************

「先生の話だと、もうこのペースの回復ならそろそろ退院できるって。」

病室のベッドの上でショートカットの少女が明るく答えた。

右腕にはまだギブスをはめ、逆側の左腕にはチューブが刺さっている。

「ホントかよ? もうちょっと居た方がいいんじゃねーのか?」

早乙女乱馬は首をかしげた。

異常なペースで回復しているとは言え、まだ手足のギブスもとれない状態で退院となるとかえって不安になる。

「心配してくれるのは良いんだけどさ、勉強だって遅れちゃったし、武術の方も早く勘を取り戻さなきゃ。」

「ばーか、誰があかねの心配なんてするか。俺はな、お前みたいな凶暴女は当分病院に預かってて欲しいって言ってんだ。」

らんまは相変らずの減らず口を叩く。

「なんですってぇ! あんたに凶暴女とは言われたくないわよ、ら・ん・ま・ちゃーん!」
202 :らんまマギカ11話2 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/11/24(木) 02:21:09.04 ID:GujHiiOv0
あかねと呼ばれた少女はギブスの付いた手で器用に目の下を広げて見せて、あっかんべーをした。

そして、いつものように喧嘩になるかと思いきや、あかねがクスッと小さく笑った。

らんまもつられてヘヘッと微笑んだ。

「久々だな、こーゆーのも。」

「ふふっ、ホントね。」

それだけ言うと、らんまとあかねは無言で見つめ合う。

その瞳に宿るものは、敵意でもなく、情熱でもなく、もっと確かな感情だった。

「あかねがこんな状態じゃ、喧嘩もできねーや。今日はもう帰るぞ。」

しばらくしてようやくらんまが口を開いた。

「ふん、戻ったら思いっきりぶん殴ってやんだから。今から覚悟しときなさいよ!」

あかねの減らず口に、らんまは背中を向けたまま手を振って答えるのだった。

******************

「へー、あれがアンタの契約した理由かい?」

病院を出るなり、らんまは声をかけられた。

聞こえてきたのは木の上、葉に隠れて佐倉杏子がそこにいた。

「のぞきとは趣味が悪いんじゃねーのか?」

「いいだろ、別に。減るもんじゃなし。」

そう言って、杏子はひらりと木の枝から飛び降りる。

らんまから見てもなかなかの身のこなしだった。

「あんたも甘いもんだねぇ。たかが友だちのために命を棄てるなんて。」

「命を棄てる、だ?」

おおげさな杏子の表現に、らんまは顔をしかめた。

「だってそうじゃん。魔法少女はいずれ魔女との戦いで死んじまうし、
どれだけ人のために尽くしたってそれを信じてもらえない。
マトモに生きようとすればするほどピエロになっちゃう運命なのさ。」

したり顔で杏子は語る。

杏子の言うことはらんまにはいまいちピンと来なかった。

らんまの周りには魔法少女と同じぐらい非常識なものごとがあふれているから
信じてもらえないなんてことは無いように思えるし、自分が魔女ごときに殺されるとも思っていない。

「なんだか知らねーが、俺はそのうち魔法少女やめるから関係ねーな。」

「へえ、何かアテがあったのかい?」

余裕を見せようとしたらんまだったが、杏子にそう返されて言葉を失った。

コロンが取り寄せている開水壺で元に戻れるという保障はどこにもない。

元に戻れるアテなんて始めから無いのだ。そういう意味では呪泉境に行けば治る変身体質よりもタチが悪い。

「その様子だと、アテは無い…か。」

答えられないらんまをよそに杏子は語り続けた。

「あたしはひとつだけ、魔法少女をやめられそうな方法しってるよ?」

わざとらしく杏子はもったいつける。

「本当か!? 教えてくれ!」

らんまは杏子につめよった。

その熱心さに杏子は一瞬とまどったが、すぐにすまし顔に戻って言った。

「簡単さ、あのあかねって子に魔法少女になってもらえばいいのさ。
『らんまを元に戻してください』ってのをお願いにしてね。」
203 :らんまマギカ11話3 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/11/24(木) 02:22:49.14 ID:GujHiiOv0
その言葉に、らんまはしばらく考えてから首を横にふった。

「そんなことできるかよ。トラックにひかれちまうようなドジのあかねじゃ魔女に殺されちまう。
それじゃ、俺の願いが意味なくなっちまうじゃねーか。」

「難しく考えなくていいじゃん。あの子にあんたの願いで一命を取りとめたって教えりゃ
なんでも言うこと聞いてくれるぜ?」

杏子はわざと挑発的に、いやらしい笑みを浮かべる。

「そのために契約したんじゃねーのかよ?」

「てめぇっ!」

らんまは思わず杏子の胸ぐらをつかんだ。

自分は決してあかねを思い通りにするためにキュゥべえと契約を結んだわけではない。

それははっきりと自信を持って言えることだ。

だからこそ、らんまは自分の思いに泥を塗られたような気分だった。

「喧嘩するなら場所変えようか?」

杏子は胸ぐらをつかまれても焦ることなく、にやりとして言った。

(ちっ、こいつ、はじめっから喧嘩を売るために…)

らんまはまんまと乗せられたことを悔やんだが、喧嘩を売られて引く気もしなかった。

********************

らんまにとってはいつもの空き地、杏子にとっては幸せそうで癪な住宅地の一角で、二人は対峙した。

「言っておくが、万が一俺を倒せてもグリーフシードは手にはいらねーぞ。」

そう言いながららんまはゆっくりと構えをとる。

「知ってるよ。それが目的じゃないさ。
同じ街に二人魔法少女が居るんだ、どっちが上か決めといた方がいいだろ?」

杏子もその間に変身をすませた。

そして、互いににらみ合い仕掛けるきっかけを探す。

「いくぜ!」

やがて、業を煮やした杏子がらんまの元に走りこんだ。

杏子は大きく横なぎに槍を振り回す。

らんまはそれをひょいと上に避けた。

「そう来ると思った!」

叫ぶや否や、杏子は振り切った槍をそのままの体勢で斜め上に振り上げる。

丁度、宙に舞うらんまを追撃するかっこうだ。

らんまは追撃してきた槍を、なんと足で蹴った。

「へ、空中戦は早乙女流の得意だぜ。」

槍をしっかりと握っていた杏子はバランスを崩す。

そこにらんまは一気に間合いを詰めて、パンチを叩き込もうとした。

しかし杏子はすばやく槍を消すと、不用意にしかけて来たらんまの拳を、見事に腕で横にさばいた。

(早雲おじさんの型かよ!?)

らんまは目を見張る。

まだ短い期間しか練習していないのに、杏子は油断していたとは言えらんまの拳をさばけるだけの技術を天道早雲から習得していたのだ。

喧嘩を売ってきたのもうなずける。だが武術ではらんまの方が上を行く。

らんまはさばかれた勢いを逆に利用してそのまま回転し裏拳を繰り出した。

杏子はきわどくそれをかわすと一旦、後ろに飛び退いた。
204 :らんまマギカ11話4 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/11/24(木) 02:24:37.58 ID:GujHiiOv0
「へへ、あたしの武術も大したもんだろ。無差別格闘佐倉流…なんつって。」

そう言って杏子はらんまに良く似た、左腕を前に出す構えをしてみせた。

「おめー、こっちの勝負で俺に勝てると思ってんのかよ?」

らんまもいつもの構えをして応じる。

「もいっちょ、いくぜ!」

今度は杏子は無差別格闘流の型で拳を繰り出すように見せかけて、すばやく槍を作り出し、いきなり槍攻撃に切り替えた。

らんまはとっさに避けるが刃が服をかすめる。

それならと、らんまが間合いをつめようとすると、今度は槍を消して無差別格闘流の型で防御に徹する。

防御に集中されてはいかにらんまでも決定打は打てない。

やりにくいとらんまは思った。

距離をあければ魔法を使った奇抜な攻撃にさらされ、つめれば攻めあぐねる。

(なら、槍が届かない遠距離だ。)

らんまは思い切り距離をとった。

らんまには猛虎高飛車や場合によっては獅子咆哮弾という飛び道具がある。

その距離を保てば独壇場だという判断だ。

だが、その時、急に杏子は動きを止めた。

「おい。」

戦闘中の掛け合いではなく、落ち着いた口調で杏子は呼びかける。

「なんだ?」

らんまも構えを緩めた。

「感じねーのかよ? 魔女の気配。」

「なんだって!?」

杏子のブラフ…ということも考えられるが、ひとまずらんまはソウルジェムを宝石状にして手のひらに乗せてみた。

ソウルジェムの輝きは大きく揺らいでいる。

「来るぞ!」

そうしている間にも、あたりはタイルを貼りかえるように異空間に変わって行った。

それは、真っ暗な闇の中あちこちに障子が浮かぶ奇妙な世界だった。

使い魔による前置きも無く、魔女があらわれる。

落ち武者のような巨大なガイコツの下に女性ものの和服、さらにその下に一本足。

ガイコツの目のくぼみにはまたも目と口のついた顔が二つある。

「趣味のわりぃ魔女だな。」

らんまがつぶやいた。これはムースの趣味にでも影響されたかなどと考える。

「グリーフシードはあたしがもらうぜ!」

杏子はすぐさま魔女に飛びかかった。

魔女は身軽にひょいひょい飛んで杏子の槍をかわすが、あっさり追い込まれその頭蓋骨の脳天に特大の槍をくらって砕けた。

「なんだ、雑魚い魔女だな。」

杏子がつぶやく。

「やれやれ、また仕切りなおしかよ。」

らんまも杏子の勝利を確信し、肩をすくめて言った。

しかし、結界はまだ解けない。

そして気が付けばあたりは綿飴のようにもこもこした巨大な使い魔や、つぼ型の三脚の使い魔などに囲まれていた。
205 :らんまマギカ11話5 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/11/24(木) 02:26:50.63 ID:GujHiiOv0
「さっきのは使い魔だったのか!?」

状況把握に戸惑いながらも、らんまは使い魔たちを倒し始めた。

しかし、つぼ型の使い魔は小さな紙風船のような使い魔を量産し、綿飴状の使い魔にはパンチやキックがまるで利かない。

さらに、先ほどの魔女も、かち割られたガイコツを脱ぎ捨てて、目の中に入っていた顔が本体となり再び動き出した。

「こりゃあ、山盛りだな…」

杏子がつぶやく。

らんまと杏子は長期戦を迫られた。

****************

「あれ? おかしいな? 二人も魔法少女が居る?」

数の多い敵をちまちま倒しているらんまと杏子の背後から声が聞こえた。

「残念だけど、こいつはもう先約済みだぜ。グリーフシードが欲しいなら他当たりな。」

自分から魔女の結界に入れる存在は魔法少女しか居ない。

てっきり声の主を魔女の気配を感じてやってきたよその魔法少女だと思った杏子は振り返りもせずにそう言った。

「近所にまだ他の魔法少女が居たのかよ。」

らんまも同じように考えてつぶやく。

だが、新しくやってきた魔法少女は意外なことを言った。

「ま、いっか。二人とも殺しちゃえば間違いない。うん、それがいい。」

「へ?」

らんまが振り返った瞬間、いきなり黒い鉤爪がおそってきた。

「うわっ、あっぶね。」

らんまはリンボーダンスのように大きく背中をそらしてなんとか避けた。

「お? 今のをかわすとは早乙女乱馬はなかなか強敵だなあ。」

大きな独り言をつぶやきながら、黒い魔法少女が飛び退いた。

「なんだお前は!?」

杏子は叫ぶが、魔女との戦いに手をとられよその魔法少女の相手まではできない。

「じゃあコレはどうかな?」

黒い魔法少女は、先ほどは右手だけだった鉤爪を両手に生やした。

「おい、グリーフシードの取り合いなら魔女を倒した後にしろよ!」

らんまがそう言っている間にも黒い魔法少女は容赦なく斬撃をしかけてくる。

らんまは避けるのが精一杯だった。

(速い…っ!)

信じられないことに、この魔法少女はらんまが今まで戦ってきた誰よりもすばやかった。

「グリーフシードはいらないよ。もともと、私が仕掛けたグリーフシードだしね。」

言いながらも息をつく間もなく黒い魔法少女は激しく飛び回り攻撃をしかけてくる。

「しかけた!? てめー、どういうことだよ?」

らんまは防戦一方だ。

スピードで負けている上に、相手が刃物を使ってくるのではうかつに攻撃に移って隙を作れない。

「早乙女乱馬、キミを閉じ込めるためにグリーフシードを孵化させたのさ!」

黒い魔法少女はらんまの真後ろに回った。

(…そういう使い方もできるのか!)

使用限界ギリギリの、真っ黒なグリーフシードを放置すれば遠からず魔女が孵化するだろう。
206 :らんまマギカ11話6 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/11/24(木) 02:27:59.42 ID:GujHiiOv0
それを魔法少女の縄張りの中に置いておけば、そこの縄張りの魔法少女がほぼ確実に釣れる。

この黒い魔法少女は、らんまを狙ってグリーフシードのそういう裏技的使い方をしたらしい。

それはともかく、真後ろを突かれたらんまは前転で攻撃をかわすと、転がる途中で思い切り足を伸ばして飛び上がった。

らんまの頭が、勢い良く身を乗り出した黒い魔法少女のおなかにヒットする。

黒い魔法少女は血を吐き出しながら後ろに跳び下がった。

そこに、杏子が横切る。

すると今まで杏子を追っていた魔女が黒い魔法少女に目を向けた。

「てめーが仕掛けた魔女に食われちまいな!」

杏子は魔女のターゲットが変わったのを確認すると、黒い魔法少女に中指を立てた。

そしてらんまに言った。

「これで貸しイチだな。」

「いや、これでチャラだ。」

そう言って、らんまは猛虎高飛車を飛ばし、杏子の背後に居た大型の使い魔を倒した。

が、余裕を得たのもつかの間で、黒い魔法少女はあっという間に魔女を倒してしまった。

「おい、杏子、おめーあの魔法少女に負けてんぞ。」

「うるせえ、あたしが弱らせてたからだ。」

らんまと杏子が言い合っているうちに、黒い魔法少女は一瞬にして杏子に接近した。

「こいつ、遠くで見るより速っ―」

杏子が槍を構えるよりも速く、黒い魔法少女は杏子の脚に鉤爪を飛ばした。

杏子の太ももに赤い筋を作って鉤爪は地面に突き刺さる。

「思い出した。キミは佐倉杏子だ。キミは回復が苦手!」

どこで知ったのか、黒い魔法少女は杏子の名前と特性を言い当てる。

らんまは杏子を助けに行こうとするが、黒い魔法少女がやたらに飛び回るので同士討ちになりそうで割り込めない。

「だから、脚を痛めればしばらく手出しできない!」

黒い魔法少女は圧倒的なスピードで杏子を翻弄する。

「てめっ」

杏子はなんとか黒い魔法少女と渡り合おうとするが、徐々に脚に切り傷が増え、やがてひざを落とした。

(しまった。こいつは斬り合いで勝てる相手じゃない。範囲攻撃で仕留めるべきだったんだ。)

杏子は悔やむが時既に遅し、脚をやられて動けなくなった杏子を後にして黒い魔法少女はらんまに向かっていった。

「また来るか!」

らんまは構えるが、まだ特に対策は思いつかない。

らんまの持ち技には奇策があれこれあるが、自分よりすばやい相手、しかも刃物持ちにしかけられる技というのはかなり限られる。

「らんま、魔法を使え! 武器を想像しろ!」

杏子が叫ぶ。

(武器? あいつを止められるような道具…)

らんまは必死で集中した。その間にも黒い魔法少女が迫ってくる。

「これだ!」

その叫び声と、黒い魔法少女の攻撃が降りかかるのはほぼ同時だった。

黒い魔法少女の攻撃は、緑色の物体に阻まれらんまに届かずに止まっている。

「こ、これは!?」

黒い魔法少女は目をむいた。
207 :らんまマギカ11話7 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/11/24(木) 02:29:20.21 ID:GujHiiOv0
自慢の鉤爪は、なんとタタミに突き刺さり、抜けなくなってしまったのだ。

らんまは黒い魔法少女が驚いているすきに、タタミを上から押して相手の動きを封じる。

「無差別格闘早乙女流『畳替し』!」

自信に満ちた声でありふれた技名を披露し、らんまは肩を広げた異様な構えをとった。

杏子は知っている、あの技は…

「そして、猛虎高飛車!」

ふんづけたタタミの上から、らんまは容赦なく光の弾を下に向けて発射した。

黒い魔法少女は刺さった鉤爪を消して、なんとかタタミの下から抜け出そうとする。

が、すんでのところで間に合わず、タタミごと猛虎高飛車を食らった。

一方のらんまは、自分の攻撃に巻き込まれないように寸前で飛び退いている。

やがて、焼けたタタミの下からぼろぼろになった黒い魔法少女が現れた。

「まだやるか?」

らんまが問いかける。

既に杏子も槍を支えになんとか立ち上がっていた。

「残念ながら、ここまでだね。…さようなら!」

黒い魔法少女は突然、あらぬ方向へ走り始める。

「逃がすか!」

杏子が槍を投げる。が、その槍は魔女の使い魔によって阻まれた。

奇妙なことにさっきまで居なかったタイプの、シルクハットをかぶったふわふわの使い魔だ。

やがて、黒い魔法少女の姿が消えるのと同時に、結界が崩れ去った。

「ちっ、なんだったんだあいつは?」

らんまは腕を押さえながらつぶやいた。

腕だけではない。傷は浅いがあちこちに切り傷がある。

「あたしと同じようにキュゥべえがけしかけたんじゃねーのか。」

杏子は変身を解いて座り込んだ。

**************

「ごめんよ、おりこ。またキミの手をわずらわせてしまうなんて。」

あちこちを包帯で巻かれた状態で、黒い魔法少女・キリカは言った。

「十分よ。キュゥべえが目を向けるだけの出来事にはなったはずだわ。」

おりこはキリカの負傷を魔法で癒しながら答える。

「でも…」

「そんなことよりも、キリカが生きて帰ってきたことがうれしいわ。」

おりこはやさしくキリカの反論を封じる。

そう言われるとキリカは何も言えず照れたようなすねたような微妙な表情をしてみせるのだ。

「このソウルジェムでよくもったものね。」

おりこはキリカのソウルジェムを手に持って眺めた。

その魂の入れ物は、まだ機能するのが不思議なほど大きくひび割れていた。

「ああ。おかげで『なりかけ』の状態をずいぶん調整できるようになったよ。」

そのキリカのほほえみを、おりこは悲しく思った。

目的のためにはキリカの命すらも駒に使わなければならない。

そして、キリカはそれを厭わない。
208 :らんまマギカ11話8 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/11/24(木) 02:30:30.36 ID:GujHiiOv0
だが、おりこの望む本当の世界はキリカとともにある未来なのだ。

「お願い…生きて…」

おりこは搾り出したようなか細い声でつぶやくのだった。
209 : ◆awWwWwwWGE :2011/11/24(木) 02:31:41.08 ID:GujHiiOv0
以上、11話アップ完了

ほとんど戦闘だけの回になってしまいました
210 :追記 ◆awWwWwwWGE [saga]:2011/11/24(木) 02:33:05.90 ID:GujHiiOv0
今回の魔女はおりこマギカ出典の「趣の魔女・シズル」です。

シャルロットに匹敵する初見殺しの魔女
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/24(木) 18:02:36.00 ID:9XPI9TxDO

ふむ、畳か……
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/24(木) 19:33:33.22 ID:ql2iFfVAO
あんこのお尻をペロペロして溶解液で達磨にした魔女か
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/30(水) 23:18:04.56 ID:OYrnvYq8o
俺得スレ発見。一気に読んできたぜ
しかしらんまの魔法少女としての武器、まさか畳に固定…?


畳が武器の魔法少女、か…
214 : ◆awWwWwwWGE [saga]:2011/12/03(土) 20:15:46.79 ID:KU+OuFtU0
週一ペースを取り戻したいのですが、なかなか上手く行かず

第12話アップします
215 :らんまマギカ12話1 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:副題「シャンプーの魔法少女も見てみたいけどね」]:2011/12/03(土) 20:19:22.07 ID:KU+OuFtU0
その日、らんまは猫飯店を訪れた。

「待っておったぞ。」

「らんま、早くするね。」

オーナーのコロンと看板娘シャンプーが出迎える。

「おう、すまねー。」

そうして通された店の奥の居間には、木桶と鉄瓶が置かれていた。

「開水壺、やっと届いたね。」

「思ったより早かったがの。」

そう言ってシャンプーは鉄瓶を持ち上げてみせる。

一見、ただの鉄瓶だがこれが開水壺である。

「ちょっと待て、なんで止水桶まで頼んだんだ?」

らんまが疑問を口にする。

「試さねば、本物の開水壺かどうか分からんじゃろ。…シャンプー、やるぞい。」

コロンに言われて、シャンプーは開水壺を机の上に戻した。

そして、コロンが桶に汲んである水を杓子ですくって、シャンプーにかける。

「ぎゃああああ! 猫っ!」

らんまは鳥肌を立てて部屋の隅へ逃げた。

水をかけられたシャンプーが、猫に変身したからだ。

「まったく、ムコ殿の猫嫌いにも困ったものじゃな。」

そうつぶやきながら、コロンは猫になったシャンプーに、まずは普通のヤカンのお湯をかけた。

設定温度は約40度。猫は気持ち良さそうにお湯を浴びるが、人間にはもどらない。

これが止水桶の効果だ。呪泉郷の変身体質の人間を変身後の姿に固定してしまう。

次に、コロンは開水壺に水道水を入れた。

火も電気も通していないはずなのに、開水壺の中の水は一瞬で沸きたちお湯になった。

そのお湯を、コロンは遠慮がちに少量、猫にかけた。

豊満な胸を腕で隠しながら、裸体のシャンプーが現れる。

「うむ、開水壺は間違いなく本物じゃな。」

コロンが満足げにうなずいた。

「猫のままお湯あびるのも、案外気持ちよかたね。」

服をまといながら、シャンプーはのん気なことを言う。

心に決めた相手の目の前だから平気なのか、あまり羞恥心は無いらしい。

「おお、これなら多分、男に戻れる…!」

変身体質に戻るとはいえ、らんまにとって男に戻れないよりがは何倍もましだった。

プライドの問題もあるし、女のままでは日常生活上の不便も多い。

それに魔法少女としてのいろいろな厄介ごとも、面倒になったときには男になってごまかせる。

「よし、ばあさんやってくれ!」

らんまはさっきまで猫におびえてへっぴり腰だったのが嘘のように、胸を張って堂々といった。

「乱馬が男に戻れば私もうれしいあるね。」

シャンプーは殊勝な台詞を口にしたが、内心は違っていた。

今回、あかねも右京も何も出来なかったのに、自分とコロンだけが乱馬が元に戻るための手助けをしたのだ。

これから乱馬を我が物にするために、かなりのポイントになったはず。
216 :らんまマギカ12話2 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/12/03(土) 20:20:46.29 ID:KU+OuFtU0
シャンプーが目配せをすると、コロンはにやりと口元をゆがませて答えた。

(やっぱり、おばばも同じ心積もりね。)

シャンプーはニヤてしまうのを微笑で隠してらんまに開水壺を渡した。

らんまはためらうことなく熱いお湯をドバドバ頭からかぶる。

しかし―

「熱い…」

そうつぶやいたらんまの声は、女の声のままだった。

「乱馬…」

シャンプーも信じられないものをみたかのように呆然とたちつくす。

膨らんだ胸部と小さな背丈、見間違えるはずもない。らんまは女性の姿をしていた。

「ふむ、どうやら開水壺では男に戻れんようじゃの。」

落ち着いた声で、コロンは言った。

もともと開水壺が今のらんまの状態に対して有効であるという保障はどこにもない。

この結果もコロンはある程度予測していたのだろう。

「さてムコ殿。これからどうするかの?」

らんまは口を閉ざした。

開水壺でどうにもならないのなら、マトモなアテなど無いのだ。

やはりあのキュゥべえをどうにかするしかないのか。

「まあ、考えようによっては得をしたかもしれんのぉ」

つぶやくように、コロンは言う。

「お湯で変身が解けぬなら、即席男溺泉でも変身体質を治せるかも知れん。」

その言葉に、らんまはパッと顔を明るくした。

「それだ! ばあさん、その手があったか!」

もしその方法で、男に戻って変身体質からおさらばできるならばそれに越したことはない。

魔法少女になったおかげで完全な男に戻れるかもしれないなんて、まさに「災い転じて福となす」だろう。

「そういうと思ってな、ホレ、用意しておいたぞい。」

そう言ってコロンが取り出したのは一見、ただの入浴剤だった。

しかし、らんまには見覚えがある。

「それは…」

「即席男溺泉あるか!」

正確には即席男溺泉の素。

水に溶かすと、その水が一回限り男溺泉の効果を発揮する入浴剤でる。

らんまは期待に胸が広がる。

「ばあさん、はやくやってくれ!」

はやるらんまに、コロンは即席男溺泉の素をコップの水に混ぜ、遠慮なく顔面からぶっかけた。

が、

「…はぁ、効果なしかよ。」

らんまはがっかりした様子を隠しきれず、ため息をもらした。

身長も胸も声も、即席男溺泉を浴びる前と何も変わらなかった。

「むむ、どうやら呪泉郷の呪い自体が効かぬらしいの。」

コロンはあごを撫でながら頭をひねった。
217 :らんまマギカ12話3 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/12/03(土) 20:23:02.66 ID:KU+OuFtU0
コロンも即席男溺泉が通常通り一回きりの効力ぐらいは発揮するだろうと思っていたのだ。

それならば今回は失敗でも、らんまは、呪泉郷に行って今までとは逆の水をかぶると男になる変身体質になることが可能だ。

そのうえで止水桶を使えば完全な男に戻ることも出来るはずだった。

しかし、呪泉郷の呪い自体が効かないならば、それすら出来ないことになってしまう。

「乱馬、落ち込むことないね。私、乱馬のためなら何でもするね。」

シャンプーはらんまの肩に抱きつきながら言う。

「シャンプー…」

らんまは微笑むシャンプーの瞳を見つめた。

『魔法少女になってもらえばいいのさ。『らんまを元に戻してください』ってのをお願いにしてね。』

らんまの脳内に先日の杏子のセリフが再生される。

それは今のところ唯一、らんまが男に戻れそうな方法だった。

(シャンプーに魔法少女の契約をしてもらって、その願いで俺が男に戻る…)

そんな考えが脳裏を横切ったところで、らんまはあわてて首を横に振った。

(いや、ダメだ!)

あかねのためにした契約のツケをシャンプーに払わせるなんて、外道と言わざるを得ない。

魔女との戦いが命がけならばなおさらだ。

「乱馬?」

不思議そうにシャンプーがたずねる。

らんまはなんでもないと生返事をした。

「…わしとしてもムコ殿にできるだけ協力したい。
そこでじゃ、男に戻れなくなったことについて何かもうちょっと心当たりなぞないかの?」

「う…それは…」

コロンの言葉に、らんまは台詞をつまらせる。

コロンからすれば、それは何か隠しているという答えに思えた。

「あのあかねが重傷になったり、佐倉杏子という奇怪な術を使う小娘がやってきたり…
ムコ殿が男に戻れなくなったことも含めて、大きな出来事が立て続けに起きておるような気もするが、
ムコ殿は何か知らぬかの?」

「しらねーよ…た、たまたまだろ。」

らんまはあくまでとぼける。

(どうにも怪しいのう。)

コロンはますますらんまをいぶかしげに見つめるのだった。

*******************

「ボクは知らないよ。」

その猫のような生き物は平然と答えた。

風林館の空き地で、一人の少女が小動物と戯れている。

他人から見ればそんなほほえましい光景にみえなくもないだろう。

しかし、少女はあきらかに腹を立てた様子で小動物をにらんでいた・

一方のその小動物は、まるで目の前の少女の怒りなど通じないかのようだ。

「あのぶっ壊れてる魔法少女はあんたがけしかけたんじゃないっていうのか?」

その少女、佐倉杏子がたずねた。

彼女は左手で猫飯店の肉まんを食べながら、右手に槍を持って白い小動物に突きつけている。

「ああ。ボクだって見境無く攻撃をしかけるような魔法少女を呼んだりはしないよ。
あくまでグリーフシードの販売をやめて欲しいだけだからね。」
218 :らんまマギカ12話4 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/12/03(土) 20:26:46.47 ID:KU+OuFtU0
自分はまっとうである、そう言いたげな小動物キュゥべえを、杏子はキッとにらんだ。

「ここはもうあたしの縄張りなんだ。どんな魔法少女だろうとけしかけるんじゃねえ。」

「キミの縄張り…本当にそうだったらボクとしても別に文句は無いんだけどね。」

キュゥべえはかわいらしい外見とは裏腹に、嫌味交じりの反論をする。

「それに、この件に関してはボクの他にあたるべき相手がいるんじゃないのかい?」

言わんとすることは杏子にも分かった。

早乙女乱馬が魔法少女で、グリーフシードを余らせているという情報をよそにばら撒きそうなのは一人しか居ない。

「言われなくても、天道なびきからも聞いてみるさ。」

「聞くだけとは、杏子にしては控えめだね。」

このかわいらしい小動物は、杏子に暗に強硬手段をすすめた。

だが、杏子としては天道家に対して滅多な手は打てない。

早乙女乱馬だけならまだしもその父親、それに天道なびきの父親の天道早雲、この二人も相当な実力な上に
まだその後ろに八宝斎だとかいうふざけた名前の老師匠が控えているという。

さらに、無差別格闘流の一味以外にも天道家には武闘家の出入りがあるらしい。

そんな武闘派集団を相手に喧嘩を売るほど杏子は無謀ではなかった。

「あんたこそ、一般人を巻き込みたくない割には過激だね。
そんなにあの連中が気に食わないのかい?」

「ああ。他にも魔法少女のルールを乱しそうな人間がまわりにウヨウヨいるからね。
そういう人間をこれ以上かかわらせない為にも、天道なびきには早く手を引いてもらわないと。」

キュゥべえの弁を聞いて、なるほどと杏子は思った。

確かにこの近所の武闘派集団が魔女狩りに参戦すれば、らんまのようにグリーフシードを余らせる連中が
ゴロゴロ現れるだろう。

あるいは魔法少女にならなくても魔女を倒せてしまう人間もいくらか居るかもしれない。

そうなれば、キュゥべえの存在意義そのものがなくなりかねない。

「それなら、余計な手出しせずにあたしがここを縄張りにするのを黙ってときな。」

杏子はそう言って槍をひっこめた。もう行って良いという合図だ。

「健闘を期待しているよ。」

皮肉にしか聞こえない台詞を言って、キュゥべえはその場を去っていった。

***************

二人の魔法少女ににらまれ、天道なびきはため息をもらした。

「最近、あんたたち仲良いわね。」

「「そういう話じゃねえ!」」

らんまと杏子は見事に声をハモらせる。

「キュゥべえじゃなけりゃお前しか原因がいねーだろーが!」

「誰にグリーフシード売ったか吐きな。」

先日らんまと杏子を襲った魔法少女はおそらくらんまを狙っていた。

その動機になりそうなのは売るほどにたまったグリーフシードの独占。

つまり、なびきのグリーフシードの販売で情報が漏れた可能性が大きかった。

腹を立てている様子の二人に、なびきは突然、手のひらを差し出した。

「なにさ?」

いぶかしがる杏子に、なびきは平然と言い放つ。

「情報料。」

「誰が払うか。」
219 :らんまマギカ12話5 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/12/03(土) 20:29:49.05 ID:KU+OuFtU0
らんまはなびきの言うことを予想していたらしく、即答した。

「だったら言えないわね。あたしだって大事な顧客の情報をただで売ることはできないもの。」

「てめー、こないだ自分から客の情報ばらしてたくせに! ふざけて―」

カッとなってつかみかかろうとする杏子をらんまが抑える。

「それじゃ、俺が次に手に入れたグリーフシードをまたくれてやる。それでいいだろ?」

らんまの言葉に、杏子は息をのんだ。

『おい、あんたも前の戦いで魔力を消費してるんだ。そんな約束はよしとけよ。』

杏子はテレパシーでよびかける。

『いや、いいんだ。俺なら魔法無しでも魔女と戦える。それよりも、あの黒い魔法少女はいろいろ知ってそうだ。
グリーフシードを変わった使い方した上におめーの名前まで知ってたんだからな。
もしかしたら魔法少女をやめる方法もあいつに聞けば分かるかもしれねー。』

『それ以前に、会話の成り立つ相手かどうか怪しいけどな。』

吐き棄てるように、杏子は言った。

「良いわよ。その条件で。」

そう言って、なびきはおもむろに手帳を開いた。

「えーと、グリーフシードを売った相手先よね…」

その様子をもどかしそうにらんまと杏子がながめる。

「住所がはっきりしてるのは二人だけなんだけど、一人はこないだ言ってた美国緒莉子っていう議員の娘ね。」

「んー、そいつは多分違うんじゃねーか?」

らんまが首をかしげる。なびきは気にせず続けた。

「あと一人は、見滝原市だって。」

「なんだって!?」

見滝原という地名に杏子が食いついた。

らんまがいぶかしげにたずねる。

「知ってるのか?」

「ああ。見滝原の魔法少女なら知ってる。けど、あの黒い魔法少女とは見た目からして全く違う。」

杏子の脳裏には、懐かしくも複雑な感情を抱く、ある魔法少女の姿が浮かんでいた。

町の平和を守るために戦い続ける、あの金髪の魔法少女。

魔法少女としての師であり、魔法少女となってから唯一心を許した相手であり、
そして、違う道を進んだ少女、巴マミ。

彼女のことをどう説明すべきか、杏子はためらった。

「じゃあ、そいつが前の黒い魔法少女をけしかけたって可能性は?」

「違う!」

杏子は思わず即座に否定した。しかもなかなかの大声を出してしまっている。

気が付けば、らんまとなびきがきょとんとした顔で杏子をみつめていた。

(なにムキになってんだ、あたしは。)

借りも返し、もう吹っ切れたつもりでいたのに、杏子はまだマミにこだわっている自分を認識させられた。

「ああ、いや。見滝原を仕切ってる魔法少女はそういうタイプじゃない。それだけのことさ。」

できるだけ平静を装って杏子は答える。それは自分に言い聞かせる言葉でもあったかもしれない。

「ふーん、名前は『暁美ほむら』ってなってるけど、あんこちゃん知ってる?」

杏子が動揺したのを知っていてわざと気にしないような、そんな余裕ぶった態度でなびきが質問する。

その態度に杏子はじゃっかんのいらつきを覚えた。
220 :らんまマギカ12話6 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/12/03(土) 20:31:11.37 ID:KU+OuFtU0
「知らないね。そもそもさ、グリーフシードを買ったからって魔法少女かどうかも怪しいんじゃないか?
売ってる奴が魔法少女でもないくせにしゃしゃり出てきてるわけだし。」

嫌味のつもりで、杏子は余計なひとことを追加する。

しかし、なびきに悪びれる様子など全く無かった。

「まー、それでもしゃーねー。他に情報なんてねぇんだ。俺は見滝原に行ってみるぜ。」

らんまは早くも見滝原に行くことに決めたらしい。

「それならあたしも行くよ。あんたが一人で行ったら他の魔法少女に敵と思われかねないしね。」

杏子はらしくもなく、協力的な姿勢を見せた。

(もしあの黒い魔法少女が見滝原にいるなら、マミの奴が危ない。)

そんな杏子は、表向きはらんまの、内心ではマミの心配をしている。

いつからそんなお人よしになったのかと、杏子は自分に苦笑した。
221 : ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/12/03(土) 20:32:52.93 ID:KU+OuFtU0
以上、12話アップ完了。

やっぱりバトルが無いと短くなってしまう…
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 20:59:11.73 ID:7j+WPQeAo
乙!

だんだんと登場人物が交わりだしたな
今後の展開が楽しみだ
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/04(日) 00:47:55.75 ID:tiLjRrZDO
224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/04(日) 01:58:51.00 ID:yw/TKqtDO
いやあワクワクしてくるな
225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/04(日) 14:03:15.35 ID:hiAF3QTOo
乙! 今回はシャンプーが可愛かった!

次回はついにらんまとマミさん達が遭遇かな?
マミさん勘違いしてるし、すげえ楽しみだ!
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/04(日) 22:57:57.68 ID:diSdTjBu0
「お菓子の魔女、シャルロッテ!必殺脱皮!」
227 : ◆awWwWwwWGE :2011/12/11(日) 21:16:09.83 ID:owmHm4Nx0
実写らんま見逃しました……orz

13話アップします
228 :らんまマギカ13話1 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:副題「はじめは読めないよね」]:2011/12/11(日) 21:18:35.25 ID:owmHm4Nx0
次々に飛んでくる椅子や机を、巴マミはひとつひとつ正確に打ち落としていく。

地面も見えないほどに高く張られたロープの上、マミの下半身は一歩ずつ確実に歩みを進め
同時に上半身では次々と銃を放っていた。

(勝てるっ!)

十分に距離を詰めたところで、マミは巨大な大砲を出現させた。

物理法則を無視して、大砲は空中にあって落下しない。

目の前にいる、黒いセーラー服を着た六本腕の化け物へ向けて、マミは照準をしぼった。

ここでこの大砲を打ち込めば、この魔女は終わりだ。だがマミにとって魔力の消費も大きいだけにはずすことは出来ない。

マミは集中する。

が、その隙に、下半身だけのセーラー服と脚がロープの上を滑ってマミの背後からぶつかった。

「きゃあっ!」

小さく悲鳴をあげたマミは、足を踏み外して落ちそうになる。

そこを、なんとか右手を伸ばしてロープを掴んで一命をとりとめた。

しかし、魔女は容赦なく、かろうじてぶら下がっている状態のマミに大量の椅子や机を投げつける。

ロープを握り締める手を、少しでも緩めれば一巻の終わりだ。

本来の巴マミならば、このような事態でも難なく対応できただろう。

彼女にはそれができるだけの技術と経験が十分にあった。

だが――

(怖い)

その感情がマミの思考を止めた。

マミは動くことすら出来ず、大量の椅子や机が飛んでくるのを呆然とながめる。

「マミさんっ!」

「大丈夫か!?」

マミに当たる直前、椅子と机は青い光によって片っ端から叩き落された。

「え、ええ。」

なかば放心状態でマミはうなずく。

椅子と机を叩き落した青い閃光は速度を落とし、マミと同じロープの上で着地した。

その正体は、美樹さやかだ。

さやかはすぐさまマミにかけよって、彼女を持ち上げた。

一方、その間に響良牙は、椅子や机を手で払いのけながらしゃにむに魔女に駆け寄っていった。

鉄パイプと木材の塊など、彼のパワーとタフネスの前には何の障害にもなっていなかった。

「いくぜ、獅子咆哮弾っ!」

良牙は魔女の至近距離まで来て獅子咆哮弾を放つ。

直撃を受けた魔女は六本の腕をだらんと下げて弱った様子をみせた。

(今ならいける!)

魔女の状態を見たさやかは、足元に大きな魔方陣を出現させると、弾かれたかのように勢い良く飛び出した。

瞬時にスピードが上がり、さやかの姿はもはや青い光線にしか見えなくなる。

この速度で椅子や机に衝突すればシャレにならないダメージを受けるだろう。

だが獅子咆哮弾を受けてグロッキーになった魔女はそれらを飛ばしてこない。

さやかは何の抵抗もなく魔女の懐に飛び込み、一気にその胴を貫いた。

それと同時に結界が崩れ去り、元の地面と壁が現れる。そこは、市内の廃校だった。
229 :らんまマギカ13話2 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/12/11(日) 21:19:47.00 ID:owmHm4Nx0
「ふう、終わったか。」

良牙が汗をぬぐう。

「やっぱ、前衛は忙しいなー。」

さやかはばったりと尻餅をついてすわりこんだ。

「ごめんなさい、私、また……」

おどおどした様子で、魔女を倒した二人にマミが語りかけた。

「怖いと思うと、何も考えられなくなるの。今までこんなこと無かったのに…」

本人の弁解を聞くまでもなく、良牙とさやかは知っていた。

ちょっと前までの巴マミは、どんな窮地においても冷静さを失わず戦い続けることができる優秀な魔法少女だった。

「多分、あのお菓子の魔女以来。」

「気にしてないですよ、誰にだって不調はありますし。
あたしなんてマミさんが居なかったらとっくに死んじゃってたし。」

沈んだ様子で語るマミに、さやかは軽くおどけて言った。

たしかにマミはこのところ不調が続いていた。

お菓子の魔女に続き、この間のハコの魔女、そして今回の学園の魔女と、魔女との戦いに関して言えば
三回も連続でピンチにおちいり人に助けられている。

とても、ベテラン魔法少女とは思えない戦績である。

「しばらく魔女退治から離れた方が良いんじゃないのか?」

落ち込むマミを見かねて、良牙の口からそんな言葉が漏れた。

「え?」

考えてもいなかったことだったのか、マミは間の抜けた声を出す。

「あー、あたしも賛成。マミさんには休養も必要ですよ。」

「でも、魔女退治は?」

「俺もさやかちゃんも居る。それでも足んなきゃあの黒いのも呼べば良いだろう。」

黒いのとは暁美ほむらのことらしい。

たしかにマミ一人が抜けたところで戦力として不足はない。むしろ贅沢なほどだろう。

しかし、この数年間戦い続けて生きてきたマミには戦わなくて良いというのは想像もしていないことだった。

魔法少女としての使命がなくなれば、一体自分に何が残るのだろうか?

そんな不安感がマミの瞳に影をさす。

「その代わり、帰ってきたときに温かい紅茶をお願いしますね。」

冗談めかして、さやかが言った。

「ああ、俺も頼む。」

良牙も便乗する。
230 :らんまマギカ13話3 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/12/11(日) 21:21:09.68 ID:owmHm4Nx0
「え、ええ。」

マミは作り笑いを顔に浮かべてうなずいた。

*************

『ってなわけでさー、しばらくマミさんは戦えそうにないのよねー。』

翌日の授業中、さやかは居眠りのフリをして暁美ほむらにテレパシーを送った。

『困ったものね。ワルプルギスの夜が来るまでに立ち直ってくれると良いのだけど。』

一方のほむらは教科書を読むフリをしながら答える。

こんな風にまともに授業を受けていないのはさやかもほむらも一緒なのに、ほむらは先生に当てられると
ばっちりと当てられた内容を答えてしまうのだ。

どういうカラクリなのかは分からないが不公平だとさやかは思う。

『そんでさ、そっちの方はどうなの、風見野は?』

『魔女が完全に狩りつくされているわ。グリーフシードが入らない代わりに当分放置していても問題ないわね。』

マミの昔馴染みだとかという魔法少女が譲ってくれた風見野の縄張りには、今はほむらが入っている。

もともと「新人に」という話だったらしいので、本来ならさやかが治めるべき縄張りである。

しかし、いきなりひとり立ちさせるのも不安だということでマミはほむらに行かせることにしたのだ。

マミにとってはおそらく、どこまで信頼して良いか分からないほむらを遠ざけたいという意思もあっただろう。

『ふーん、風見野の前の魔法少女はマジメなんだかケチなんだか…』

『おそらく後者ね。』

『なにあんた。知ってんの?』

『ええ。多少はね。』

ほむらはあまり自分のことを語らないからよくは分からないが、彼女もおそらくベテラン魔法少女だ。

ベテラン同士がこうも知り合いだらけだと、さやかは常連客だらけの町のラーメン屋にでも間違えて入った部外者の気分だった。

(まだ先の話だけど、公園デビューってのもこんな感じなのかなぁ)

さやかはぼんやりとそんな事を考えだした。

子どもを見守る将来のさやかの隣には、一回り背丈が高くなりたくましくなった上條恭介の姿がある。

こういう未来だったら、公園デビュー程度のアウェーは怖くない。

平凡な、でも幸せなそんな未来絵図を幼いころからさやかは描いていた。

隣に居るのは、常に恭介だった。他の人物を無理やりあてはめてもどうもしっくりこない。

(あたしには、恭介しかないんだ。)

ただの思い込みかもしれない、しかしその思いは日に日に強くなっていた。

「…さん。」

誰かの声が聞こえる。

「きょーすけぇ?」

いつのまにか夢の中に居たさやかは夢見心地のまま返答をした。

「誰が、上条君ですか、美樹さん!」

露骨にいらだった、三十路過ぎの女性の声でさやかは起こされた。

「え? へ? あれ? 早乙女先生?」

混乱してあたりを見回すさやかを、クラスメート達の苦笑が包んでいた。
231 :らんまマギカ13話4 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/12/11(日) 21:21:56.40 ID:owmHm4Nx0
************************

「まったく、ほむらもこういう時こそテレパシーで教えろってのよ!」

昼休み、さやかは屋上でまどかに愚痴を言った。

「えー、それって魔法少女の職権乱用じゃないのかな?」

まどかは明るく冗談で返す。

その様子にまどかは魔法少女になることをきっぱり諦めたのかと思い、
さやかは内心胸をなでおろした。

「そういえば、上条君そろそろ退院するんだよね?」

ふいに、まどかが言った。

「え? そうなの? あたし聞いてないけど。」

「仁美ちゃんが言ってたよ。本人から聞いたって。」

「そうなんだ……」

なぜ仁美にそれを言って自分には言わないのか、さやかにはよく分からなかった。

(いや、きっとたまたまタイミングの問題でしょ。)

そうだ、そうに違いない。

さやかはそう思って、それ以上深く考えないようにした。

恭介は昔っからその辺の連絡とかは適当で、頭の中にはバイオリンの楽譜しか入っていないのだ。

いちいち気にしていたらキリがない。

そんな恭介だからこそ、彼から音楽を取り上げた運命をさやかは受け入れられなかった。

「……これで、よかったんだよね?」

独り言のように、さやかはつぶやく。

無言で、まどかはうなずいた。

「ところでね、エイミーが――」

しばらくして、まどかが何か言い出そうとしたときだった。

「あれ、ほむら?」

屋上の階段部屋のドアが開いて、そこからほむらが姿を見せた。

「美樹さやか、『ワルプルギスの夜』対策で話がしたい。」

ほむらは相も変わらず愛想のひとつもなく、一方的に用件を告げる。

「えーと……」

場所を変えるか、まどかの前で話すか、さやかは悩んで言葉を詰まらせる。

そうしている間、まどかは立ち上がり、小さな声で言った。

「私、邪魔みたいだから教室にもどってるね。」

「え、ちょっと待って、まどか。」

まどかの言葉に何か普段とは違うものを感じとり、さやかは呼び止めようとした。
232 :らんまマギカ13話5 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/12/11(日) 21:23:22.78 ID:owmHm4Nx0
「さやかちゃん、授業中もずっとほむらちゃんとお話してたんだよね?
魔法少女のお仕事だったら仕方ないよね、私なんて邪魔にしかならないし――」

振り返ってまどかはそう言うと、そのまま小走りに走り去っていく。

ひどく自分を低くしたまどかの言い回しに、さやかは狼狽した。

「ちょ……あたしは何もそんなこと言って……」

そして、引き止めようとするさやかをほむらが制止した。

「鹿目まどかを巻き込むつもり?」

「いや、そういうワケじゃなくて!」

あんたとは違ってあたしはまどかの気持ちも考えてやらないといけないんだ、さやかはそう言ってやりたかった。

しかし、有無を言わせぬほむらの表情を見て、こいつにそんなことを言っても通じないと諦める。

「……分かった。追わないよ。で、ワルプルギスの夜対策って?」

「最悪巴マミが戦えない場合に備えて――」

***************

落ち込んだ様子で、まどかは学校の廊下を歩いていた。

そこに、たまたま巴マミが通りかかる。

「あら、鹿目さん。今日は美樹さんと一緒じゃないの?」

「あ、マミさん。さやかちゃんはほむらちゃんと話し合いで……」

その時ふと頭の中に疑問がよぎり、まどかは言葉を濁した。

さやかとほむらが話し合いをするのに、なぜ見滝原の魔法少女のリーダーであるはずのマミに話がいかないのか。

「鹿目さん、ちょっとそこでお話しない?」

まどかの表情を見て何か思ったのか、マミはそう切り出した。

二人は校舎の中庭に移動した。

「……私ね、戦力外通告出されちゃった。」

マミはまどかが何か聞こうとする前に、機先を制して言った。

「え? どうしてマミさんが?」

「このところ不調続きでね。しばらく休んだ方が良いって美樹さんと良牙さんが。」

本人にとっては辛いだろう事を、マミはたんたんと言ってのける。

「不調だからって、そんな……」

「あら、もちろん二人とも私を心配して言ってくれてるのよ。
せっかくだから、それで今は休ませてもらってるの。」

「マミさんでも、そんなことがあるんですね。」

まどかは不思議な気持ちでマミの横顔をながめた。

そう言われてみればマミにも落ち込んだ様子が感じ取れないことはない。

しかし、まどかとは違いそこにもがき苦しむような暗さはなかった。

「今まではなかったわ。でもね、今は戦うのが……戦って死ぬのが怖いの。
これまでだって、恐怖感が無かったわけじゃなかったんだけど、
どれだけ怖くても頭で考えたり、体を動かしたりすることは鈍らなかった。」

その言葉に、まどかは薔薇の魔女との戦いのマミを思い出した。

あんなに大きくて怖い姿をした魔女に脚をつかまれ、壁に叩きつけられながらも冷静に罠を張って魔女の動きを封じた。

あの時のマミの様子からは、まさか怖くて動けなくなるなんて想像も付かない。

「どうして、怖くなったんですか?」

「たぶん、死にたくないから……かな。」

まどかの質問に、マミは簡潔に答えた。よく意味が分からなかったまどかは首をかしげる。
233 :らんまマギカ13話6 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/12/11(日) 21:24:33.54 ID:owmHm4Nx0
「私はね、今まで心のどこかでずっと、『死んじゃっても良い』って思ってたの。
もともと魔法少女にならなかったら死んじゃってたんだから、それで当たり前だってね。」

「そんなのって……そんなのおかしいです!」

何がどうおかしいのか、まどかにはきちんと理論立てて説明することは出来ない。

それでも、マミが本来死んでいたからといって死んでも良いと言われたら、絶対にそんなことはないとまどかは思う。

「ふふ、普通に考えたらおかしいのかも知れないわね。私は事故で全部失くしちゃったから……
どうしてもっていうほど棄てられないものも無かったし、死んだらパパとママのところに行けるって思ってた。」

マミは自嘲気味に小さく笑う。

「でもね、今は……良牙さんがいて美樹さんがいて鹿目さんがいて、まだよく分からないけど暁美さんもいて……
みんながいるから、死にたくないって思えるの。そしたらね、私、すごく臆病になっちゃった。」

「そんな……」

まどかはなんと答えたら良いか分からなかった。

ずっと一人で戦ってきたマミにとって、自分が大事なもののひとつになっているというのはうれしいことだ。

でも、大切なものを持っていることが弱さにつながっているなんて。

「私はずっと、死にそうな時でも冷静に動ける自分をそういう才能があるんだとか強くなったんだとか勘違いしてたわ。
でもね、私はほんとは弱かったみたい。ただ今までは自棄になってただけで、魔法なんて手に入れたって
本当は何にも強くなってなかったの。」

その言葉にまどかはハッとした。まどかは今まで力を手に入れたら強くなれると思っていた。

しかし、そうではないとマミは言っている。

それは、強くなるために魔法少女になりたいというまどかへの戒めだろうが、その理をとれば新たな疑問が浮かぶ。

(それじゃ、『強い』って一体なに?)

「それじゃあ、良牙さんやさやかちゃんやほむらちゃんは強いんですか?」

まどかはおずおずとたずねた。

「……そうね、みんな形は違うけど、それぞれの強さを持っていると思うわ。」

そう言ってマミは目を上の方にやり、しばし考える。

「良牙さんは強さ自体を求めている人だから、死ぬ恐怖さえ戦う強さに変えちゃいそうね。
なんてったって、自分の不幸を技に変えちゃうんだから。」

マミがおどけて言うと、まどかもつられてクスリと笑った。

「美樹さんの強さは恐れを知らない強さね。向こう見ずとか無謀に繋がっちゃうこともあるけど、
ああいう強さは時に実力以上の力を出せるタイプだと思うわ。」

実力以上の力、という言葉にまどかはお菓子の魔女との戦いの時に自分をかばって前に出たさやかを思い出した。

魔女が相手なら、契約前のさやかはまどかと何も変わらない一般人だったはずだ。

それでも前に出て戦おうとした。無謀といえば無謀だが、まどかには無い強さには間違いない。

「暁美さんの強さは……多分、生き延びるための強さだと思うわ。いつも手の内を明かさず奥の手を隠しているし、
積極的に魔女を倒しにいくよりも効率的にグリーフシードを手に入れられる立ち回りをしている。
ある意味、一番魔法少女に向いているのかもしれないわね。」

(……そんなあの子が、どうしてワルプルギスの夜を倒そうとしたり鹿目さんにこだわったりするのかは知らないけれど。)

マミは内心頭をひねった。あれだけ手の内を隠す慎重なほむらが、なぜワルプルギスの夜に挑むという無謀を行うのか。

誰かの復讐なのか、それともこの町によほど守りたいものがあるのか、何にしろよほどの執念がありそうだ。

「みんな、私とは違って強いんですね……」

そう言ったまどかの声はまだ沈んでいた。

例に挙げられた良牙、さやか、ほむらはもちろん、マミも精神的な意味を含めて十二分に強いとまどかは思う。

死んでも良いからピンチでも冷静でいられるというのはそれも十分強さのひとつに入るだろうし、
自分の弱みを見せることで励まそうとする行為はまどかから見ればむしろ立派すぎた。

少なくともまどかは自分がそれをできるとは思えない。

まどかは声と一緒に気持ちを沈ませた。
234 :らんまマギカ13話7 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/12/11(日) 21:26:11.45 ID:owmHm4Nx0
「いえ、鹿目さんには鹿目さんにしかない強さがあるわ。」

そんなまどかにマミはきっぱりと言い切った。

そのはっきりとした口調は、おせじやその場しのぎの方便ではないことを思わせる。

「私に?」

しかしそれでも、まどかにはまるで分からなかった。

自分がそんな強さを発揮したようなことに心当たりは無い。

「ええ。鹿目さんは魔法少女になってもならなくても、鹿目さんにしかない強さがある。
だから、落ち込むこともうらやむ必要も無いわ。」

「その、その強さってなんですか?」

まどかはすがるように質問する。

「言えないわ。だって、こういうのは本人が意識しちゃったらわざとらしくなるものだから。」

それに対してマミはあくまではぐらかすのだった。

****************

普段何かに集中している人間ほど、急に暇になると何をしていいのか分からず時間を持て余してしまうものだ。

帰宅後、良牙とさやかを魔女探索に送り出したマミは、とくにアテもなくテレビのチャンネルをめくっていた。

いつもなら自分が魔女をさがして駆け回っている時間である。

(いまいち面白くないわね。)

そう思ってマミは結局テレビの電源を切った。

実はテレビ番組が面白くなかったというよりも普段あまりテレビを見ていないので見方が分からない。

(やっぱりお菓子作りにしようかしら、それとも受験勉強……)

マミは自分で思っていたほど落ち込まなかった。

ずっと、マミは魔法少女として魔女を倒すことを自分の使命だと考え、それを果たしてきた。

生存と引き換えに魔法少女になったために、自分の生きる意味をそれに限定してしまっていたのだ。

だからマミとしては魔女退治をしていないとなんだかズルをしているようで落ち着かない気持ちはある。

しかし、さやかと良牙は魔法少女として戦えないマミにも存在意義を認めた。

言われたときは分からなかったが、「温かい紅茶をお願いします」とはそういう意味だ。

今まで考えたこともなかったけれど、魔法少女じゃなくても自分には生きている意味がある。

そう考えるとマミは、妙にうれしかった。

その時ふと、インターホンが鳴った。

マミの住居はオートロック式のマンションなのでインターホンを押した相手は一階のマンションの入り口前に居て、
マミが認証しないと建物の中に入れない。

そそくさとマミはモニターから相手を確認した。

「……って杏子、なにやってんの?」

思わずマミはつっこみを入れた。モニターには見紛うはずもない、佐倉杏子の姿がそこにある。

もちろんマミとしては杏子が来てくれることは一向に構わない……むしろうれしいのだが、なぜインターホンなのか。

杏子はむかしからまともにインターホンを鳴らして部屋に入るなんてほとんどしたことがない。

テレパシーで呼び出したり、窓から侵入してきたり、マミにとって佐倉杏子はそういう人間だった。

「わりぃ、ちょっとツレがいるんだけど、上がって良いか?」

連れが居るから普通にインターホンを押したのかとマミは納得する。

たしかに杏子の背後に赤い服を着た女性の人影が見えた。

(あの人……どこかで見たような?)

そうは思っても、インターホンに付いた小さなモニターではよく分からない。
235 :らんまマギカ13話8 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/12/11(日) 21:29:28.49 ID:owmHm4Nx0
「分かったわ。お茶は二人分で良いわね?」

「あー、野暮用だから茶なんていちいちいらないって。」

面倒くさそうに杏子が言う。

「そうはいかないわ。お客さんが居るもの。
それに杏子もジャンクフードばかりじゃなくてちゃんとビタミンとかポリフェノールもとらないと。」

そう言いながら、マミは杏子たちに承認を与え入り口のロックを解除する。

「…ったく、ババ臭い。」

入り口を通過する際、杏子はそんなセリフをつぶやいた。

************

「はい、どうぞ。」

「どうも頂きます。」

おさげの髪の女性は律儀にそう言ってティーカップを持ち上げた。

女性と言ったのはマミから見ればいくらか年上に見えたからだ。

「しっかし、魔法少女はおめーみたいなアバズレばっかだと思ったら、きちんとした子も居るんだな。」

「あんたにだけは言われたくないね。」

杏子は椅子の上であぐらをかいて非常に行儀が悪い。これならアバズレといわれても仕方がないだろう。

一方のおさげの女性の方は堂々と椅子に腰掛けて、行儀が悪いとは言わないがまるで男性のような立ち振る舞いだ。

マミは二人のやりとりにくすりと笑いながらも、戸惑っていた。

(この人良牙さんの……彼女よね?)

あのモニターだらけの魔女の結界の中で見た覚えがある。

この早乙女乱馬という魔法少女はまちがいなく、良牙の記憶の中に頻繁に登場したあの女性だ。

マミは気が気ではなかった。まさか良牙の彼女まで魔法少女になっていたとは予想外だったが問題はそこではない。

いくら寝るときは小豚になっているとはいえ、よその女が一緒に暮らしているというのはいろいろまずいのではなかろうか。

こうやって話している間に良牙がもどってきたらどうしよう。

下手をすれば修羅場になってしまうのではなかろうか。

しかし、そんなマミの気持ちなど杏子やらんまに分かるはずもない。

杏子はさっそく話をはじめた。

「で、マミ、『やけみほむら』を知ってるか?」

「え?」

マミは一瞬何を聞かれたのか分からず怪訝な顔をする。

「俺たちは黒い魔法少女に襲われてな、その犯人とは限らねーんだけど、
『やけみほむら』って名前だけが今のところその手がかりなんだ。」

らんまが補足説明を加える。

それを聞いてようやく、マミは『やけみほむら』が人名をさしていると把握した。

「ああ、『あけみほむら』さんなら、この町に居るわ。……たしかに黒い魔法少女と言えなくもないわね。」

やや「あ」の音を強調して、マミは答えた。

「マジか、いきなりビンゴかよ!?」

「そいつの特徴は? 見た目とか、武器とか。」

らんまと杏子は二人とも身を乗り出す勢いで聞いてきた。気おされながらもマミは答える。

「ええと、黒髪のセミロングで背はそんなに高くないんじゃないかしら……武器は銃火器を使うわ。」

マミのその説明に、二人は一気に意気消沈した。

襲ってきた黒い魔法少女は背は高めだったし、銃火器など一切使わなかった。
236 :らんまマギカ13話9 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2011/12/11(日) 21:30:14.21 ID:owmHm4Nx0
「まーそうだよなー。考えてみればあんな凶暴な奴がマミの下でおとなしくしてる方が不自然さ。」

肩をすくめて杏子が言う。

「ちっ、ヒント無しかよ。あいつを追うのは諦めるしかねーか……」

らんまも肩を落とした。

「でもあの調子だと回復したらまた襲ってきそうだし、マミも気をつけときな。」

「ええ。分かったわ。ありがとう。」

杏子の忠告にマミは素直に答える。たしかに放っておけない情報かも知れない。

さやかやキュゥべえにはもちろん、ほむらにも伝えておかなければならないだろう。

(あんまり長いこと休ませてはくれそうにないわね。)

マミはホッとしたような残念なような、複雑なため息をついた。

その時だった。

ガチャリとドアノブを回す音がして、誰かが玄関に入ってきた。

「あれ? 誰かお客さん来てるの?」

玄関から聞こえた声は美樹さやかのものだ。

『美樹さん、ストップ、ストップ! 良牙さんを隠して!』

あわててマミはテレパシーを飛ばす。

「え!? なに、どうして?」

「なんだ一体?」

しかし腹芸は通用せず、さやかともう一人は玄関でごちゃごちゃとしている。

「ん? あの声はたしか?」

玄関から聞こえたそのもう一人の声にらんまが反応した。

(ああ、もうだめ……)

マミは思わず顔を覆った。

「マミちゃん、一体何があったんだ?」

やがてそう言って上がりこんできた男に、らんまは確かに見覚えがあった。

いや、見間違えるはずもない。

彼こそは、早乙女乱馬が自ら認めるライバルにして、中学時代からの腐れ縁の響良牙だった。

「良牙、おめーこんなとこで何やってんだ?」

「え、な? 乱馬、なんでお前がここに?」

らんまと良牙は互いに目を丸くして見つめ合った。

何が起こったかよく分からないさやかはきょろきょろと辺りを見回し、
やがて同じように分からない様子の杏子を見つけると、とりあえず初対面なので頭を下げた。
237 :らんまマギカ13話9 ◆awWwWwwWGE :2011/12/11(日) 21:32:32.84 ID:owmHm4Nx0
以上で13話アップ完了
各話ごとの分量がえらくバラバラに

今回の魔女はアニメ本編の10話で出てきたパトリシアです。
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/12/11(日) 21:37:12.53 ID:KLZ0sTZDo

やべえ、良牙×乱馬は最強過ぎる
239 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 02:31:21.04 ID:B7Kddc4DO
>>238そういうことは心の中にしまっておいてくれ
場というものがある

>>1乙!次回も楽しみ
240 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 03:54:23.10 ID:Jas4A9IDO
こうなってくるともうワクワクせざるを得ないよな
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/12/12(月) 18:48:02.51 ID:jistKyTyo
>>239
ああ、ごめん。
カップリング的意味じゃなくて、共闘の意味が言いたかったんだが、
確かに誤解招きそうだったな、すまん
242 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/19(月) 01:27:40.82 ID:Ug7xQTQDO
次回アップは翌日予定です
243 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/19(月) 19:08:53.14 ID:L3F7oX+4o
>>235
ほむほむの髪をセミロングって言ってるけど、ほむほむはロングじゃね?
244 : ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/12/19(月) 22:58:27.75 ID:tEtUDdso0
PCトラブルのため鳥無しでの携帯からの報告>>242になってしまいました。
見苦しくてもうしわけありません。

>>243
そうですね、背中まで届いてますもんね
・・・・・・なんでセミロングなんて書いちゃったんだろう?orz


それでは、今からアップします。
245 :らんまマギカ14話1 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:副題「テーマは擦れ違い」]:2011/12/19(月) 23:03:25.22 ID:tEtUDdso0
男は、早乙女乱馬を追っていた。

正体を隠しての尾行である。地味な服装で帽子を目深にかぶり、普段かけているメガネを外す。

ここまですれば会話でもしない限り気付かれないだろう。

案の定、早乙女乱馬は佐倉アンコとかいうお好み焼き屋の新入りバイトを連れてどこかに出かけた。

「確かにあやしいのぅ」

男はつぶやく。

時折、早乙女乱馬と佐倉アンコが口にする『やけみ』という言葉も気になる。

焼け身……つまり火傷を意味するのだろうか、それにしては何かが違う。

そんなことを考えながら尾行を続けていると、男は駅前でらんまに撒かれてしまった。

なんと、らんまだと思って追いかけていた人間がいつの間にか郵便ポストに変身していたのだ。

見事な変わり身の術である。

「流石は乱馬じゃ、おらの尾行に気付いておったか。」

男は悔しさよりも、むしろ感心した様子でうなずいた。

郵便ポストの前でうなずく怪しげな男を周りの人が怪奇の目で見ていたことは語るまでもない。

(じゃが、行き先が見滝原であることは既に盗み聞きしておる。)

『見滝原』と『やけみ』この二つのキーワードさえあれば、何とか乱馬の元にたどり着けるだろう。

「ふふふ…乱馬きさまが何を隠し事しておるか、見定めさせてもらおう!」

不敵な笑みを浮かべて男は改札をくぐった。

「……しっかし、おババも人使いがあらいのぅ」

ついでに愚痴もつぶやいた。

**************

「へくしゅんっ」

らんまは急に鼻がむずむずしてくしゃみをした。

呆然としていた良牙は、そのらんまのくしゃみで我に返った。

「……カゼか? いや、そんなことよりもさっきの質問だ。どうしてお前がここに?」

「いや、カゼじゃねえ。誰かが俺のことを噂してやがるな。」

らんまは相変らずのナルシストっぷりに、良牙は顔をゆがめる。

「なんでかっつーとだな……」

部屋の中を見回しながら、らんまは考えた。

この巴マミという少女はベテランの魔法少女らしい。

その巴マミと知り合いだということは、良牙は魔法少女や魔女について説明しなくても分かるはずだ。

そして、良牙と一緒に部屋に入ってきた青い髪の少女もソウルジェムらしき指輪をしている。

おそらくこの部屋に居る女は全員魔法少女だろう。ならば特に隠し立てすることもない。

「良牙、絶対に笑うんじゃねーぞ。」

そう前置きしてから、らんまは思い切って言った。

「オレは……魔法少女になっちまった。」

「お前が、魔法……少女?」

良牙はゆっくりと復唱する。

なぜ乱馬が『笑うんじゃねーぞ』などという前置きをしたのか、なぜ良牙は『少女』だけを区切るのか、
当然ながら他の魔法少女たちには全く分からない。

ただ、この二人の間でなければ通じ合わない何かがあることだけは理解できた。
246 :らんまマギカ14話2 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2011/12/19(月) 23:06:05.13 ID:tEtUDdso0
「ぶっ!!」

やがて、良牙が盛大にふき出した。

「お、お前が魔法少女だって? くくっ、こりゃあ傑作だ。良かったな、キュゥべえの奴に女の子と思ってもらえて。
プク……ら・ん・ま・ちゃん。」

よほどうけたのか、良牙は腹を抱えながら笑い続ける。

「てめー! 笑うなって言ったろうが!」

らんまの必死の抗議ももはや、良牙の笑いを助長する意味しか持たない。

「何がおかしいんだ?」

「さあ?」

「早乙女さんがボーイッシュだからかしら?」

杏子、さやか、マミの三人は置いてけぼりをくらったかっこうだ。

「あ、そうそう。この子は佐倉杏子。むかし私とチームを組んでいてちょっと前まで風見野を縄張りにしていた――」

ふと思い出し、マミは紹介をはじめた。

「ああ、この人が。よろしくお願いします。」

「で、この子は美樹さやか。この前話してた期待の新人よ。」

「ん、よろしく。」

こうして杏子とさやかが簡単な挨拶をすませた間にも、らんまと良牙のいさかいは激しくなった様子で
いつの間にやららんまが良牙の胸元を握り上げていた。

『最近見ないと思ったら、新しい飼い主を見つけたわけかよこの豚野郎! あかりちゃんはどうした?』

ここで語ったらよくない情報もありそうなので、らんまはテレパシーで良牙をののしる。

「ええい、うるさい。これには深い事情がっ!」

「こーの腐れ外道が!」

マミから見れば、この状況は修羅場のようにも見えるし、慣れたやり取りにも見えた。

(もしかして良牙さんって結構な浮気者なのかしら?)

そんな疑惑がマミの脳裏をよぎる。

良牙はそういうことには真面目そうに見えるのに、意外と分からないものなのかもしれない。

マミとしては少し残念だった。

と、そんなことを思いながら眺めているうちにらんまと良牙の争いはついに手が出始めた。

胸倉をつかんだらんまの腕を、良牙が右手で乱暴に払いのけようとすると、すんでで手を離して避けたらんまが
今度は前に出た良牙の右腕を取ろうとする。

良牙はその場で回転してそれを避け、そのままの勢いで左で裏拳を放つ。

らんまは裏拳をしゃがんでかわして、良牙の足元で回し蹴りをはじめる。

小さく飛んで良牙は回し蹴りを回避し、着地をとび蹴りに変えた。

それに対してらんまは蹴りに出した足を軸に変えて身をかわし、立ち上がって良牙の背後を取った。

「ストーップ! ストップ、ストップ!」

あわててマミはリボンを出した。小競り合い中の横槍に対応できず、らんまと良牙は意外にあっさりと拘束される。

「私の家で暴れるのはやめてください!」

「すまん……いつもの癖で。」

「以下同文。」

二人はさすがに少しは反省したそぶりを見せる。

「おー、すごい、何気にレベル高くないアレ? あんなのプロの試合でも滅多に見れないよ?」

「『いつもの癖』っていつもあんなことしてんの、アイツら?」
247 :らんまマギカ14話3 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2011/12/19(月) 23:08:36.73 ID:tEtUDdso0
一方さやかと杏子はのん気に見物をしていたようだった。

*******************

同じころ、暁美ほむらは急に変な外国人に声をかけられていた。

「これ、そこのおなご、この辺りに『やけみ』という地名はねぇだか?」

その男性が外国人……いや、中国人だとほむらに分かったのは緑色の人民服を着込んでいたからだ。

「ここは風見野よ。この辺りに『やけみ』なんて土地は無いわ。」

魔女探索中、女子中学生が一人で夜道を徘徊している状況では魔女や使い魔以外にも危険なものがある。

変質者や誘拐魔、あるいは麻薬の売人。

風見野は中〜高級住宅地の見滝原と違い、ゲームセンターや低価格の飲食店、風俗店などが立ち並ぶいわゆるB級の街だ。

下手な魔女よりは人間の方がよほど危険かもしれない。ほむらは男に返事をしながらも間合いをとった。

「なに? ここは見滝原じゃないだか?」

「見滝原は一駅隣よ。もっとも、見滝原にも『やけみ』なんて地名はないわ。」

駅名はちゃんと漢字で書いてあるのに間違えるとは、この男まさか文盲だろうか。

それとも中国人ではなく漢字の読めない国の人か。おかしな訛りも気になるが。

ほむらの脳内にさまざまな疑問符が浮かび上がる。

しかし、ほむらもおバカな外国人を相手にしているほどヒマではなかった。

「むむ……もしや『やけみ』とは地名ではないだか。ならば一体?」

考え込む男の横を一瞥してほむらは過ぎ去った。

そして、繁華街の裏路地を行く。

ほむらはソウルジェムのわずかな揺らぎを頼りに奥へ奥へと進んだ。

ソウルジェムの輝きは大きく揺らぎ始める。

(来る!)

そう思うと同時に、幼稚園児がクレヨンで落書きをしたような景色があたりに広がる。

「私を結界に招き入れるとは、ずいぶんな自信家の魔女ね。」

さっそく飛行機型の落書きがほむらに向かってくる。

ほむらは何度か見たことがある。これは、落書きの魔女の使い魔だ。

良く見れば結界は所々開いている。魔女はおらず、この使い魔が単独で活動しているのだろう。

(今までは見滝原で見たけれど……活動範囲が広いようね。)

だから佐倉杏子が魔女を狩り尽くした風見野にも真っ先に飛んできたのかとほむらはひとりうなずく。

使い魔の一匹程度、時を止めるまでもない、ほむらは変身しようとソウルジェムをかかげる。

その時だった。

「そこのおなご、あぶねえだぞ!」

妙な訛りで叫び声を上げ、さきほどの人民服を着た男がビルの上から飛び降りてきた。

(……尾けられていた!?)

ほむらが変身をためらっているうちに、男は落ちながら人民服を脱ぎ捨てた。

すると、真っ白い民族衣装が現れる。

大きく垂れた袖とスネまで伸びた裾が広がって、ほむらにはちょうど白い鳥が翼と尾を広げて飛んでいるように見えた。

男は袖から銀色に輝く鉄の熊手を取り出し、使い魔に向けて投げ放つ。

勢いを付けて飛んでくる鉄の爪に、あっけなく使い魔は引き裂かれ地面に落ちた。

その使い魔が落下するのと、男が着地するのはほぼ同時だった。
248 :らんまマギカ14話4 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2011/12/19(月) 23:09:52.07 ID:tEtUDdso0
魔法少女としていささかの自負があるほむらから見ても、あざやかな手際である。

「すまんのぉ、悪気があって尾けていたわけではない。おぬしの様子がちと変じゃと思ってな。」

振り向きざまに、男は言った。

帽子を脱いだその素顔はなかなか整った顔立ちをしている。

ほむらは思わず見とれそうになって、あわてて首を振った。

「なんじゃ、おぬしどうした?」

何も言わないほむらを変に思って、男はメガネをかけてほむらをのぞき込んだ。

そんな男に対し、ほむらは突如、銃を向ける。

「なっ、今どうやってそれを取り出しただ?」

「動かないで!」

あせる男を制止して、ほむらはためらい無く銃を発砲した。

銃弾は、男には命中せず、その肩の上を抜ける。

すると、その弾丸は男の背後まで迫っていた自動車型の使い魔に命中した。

「おおっ、なんと、もう一匹妖怪がおっただか!」

男はメガネの位置を調節しながら振り向いた。

「結界が解けるまでは油断はしないことね。」

「結界……? ふむ、これを結界というだか。」

あまり興味が無さそうに男はあたりを見回してから、やがてつかつかとほむらの前によってきた。

ほむらは警戒して身構える。

「おなご。おぬし、暗器の使い手じゃな!? おらも暗器を使って長いのじゃが、
おぬしのように、おらにも全く分からないほど完璧に暗器を隠す使い手は初めてじゃぞ。」

やや興奮気味に、男は語る。

近づいてみて分かったがなかなかの長身である。加えて顔も良い。

だからこそほむらは思う。メガネと訛りが残念だと。

「暗器? なんのこと?」

そう言えばこの男は袖から大きな鉄の爪を出していながら、いつの間にかそれが見えなくなっている。

無理があるような気がするが、暗器ということは服の中にでも隠しているというのか。

「ははは、とぼけなくても良い。先ほど道をたずねたようにオラはただの通りすがりだ。」

ただの通りすがりが、魔法少女もびっくりの身体能力や技を持っていてたまるか。

ほむらはそう思い露骨に怪訝な顔をした。

「せっかく、こんなところで同じ暗器使いに合えたのじゃ、これをやろう。」

ほむらの顔色が見えていないのか、男は上機嫌にほむらにチラシらしきものを手渡した。

「猫……飯店?」

どうやら中華料理屋の割引券らしい。気前の良いことに普段1500円のフカヒレラーメンが500円となっている。

場所は風林館らしい。

「……ラーメンのためにわざわざ風林館まで行かないわよ。」

「なぁに、来てくれたらもうちょっとサービスするだ。」

こんなにほいほい値引きの約束をするとは軽率な男である。

だが、この間の抜けようではおそらく、危険な人間では裏はないだろう。

ほむらはこの外国人の雰囲気に少し安心した。

「お、そうじゃ、先ほど道をたずねたついでにじゃな…おぬし『佐倉アンコという者』をしらんか?」
249 :らんまマギカ14話5 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2011/12/19(月) 23:12:19.07 ID:tEtUDdso0
「いいえ、知らないわ。」

ほむらはきっぱりとそう答えた。

(『桜餡子という物』……多分、和菓子よね。)

中華料理屋のデザート研究だろうか。だとすれば『やけみ』というのも案外見滝原のスイーツやお菓子屋なのかもしれない。

しかし残念ながら、ほむらは和菓子やスイーツなどにはあまり詳しくなかった。

なのでほむらに答えられることなどない。

「そうか。どうやらおぬしの腕では手助けも無用じゃっただな。すまんの、尾けたりして。」

それだけ言うと男は背を向けて去ろうとした。

この男が魔法少女や魔女について知っている『こちら側』の人間なら引き止めてもうちょっと話すことも
あるかもしれない。だが使い魔を『妖怪』と言ったり、結界を知らなかったり、おそらく無関係の人間だろう。

今のまどかが契約を諦めている状態を保つためには余計な外部からの影響は排除した方がいい。

ほむらはそう判断し、引きとめようとはしなかった。

(桜餡子、さくらあんこ、さくら杏子、佐倉杏子……?)

「まさかね。」

ほむらは小さくつぶやいて町の雑踏へと消えていった。

*********************

「え!? 良牙さん行っちゃったの?」

まどかがそれを聞いたのはらんまと杏子が見滝原に来た翌日、学校の屋上でだった。

「うん、入院しているお友達のお見舞いで風林館に行くんだってさ。
そのまま、風林館の道場にお世話になるとか。」

さやかが答える。

「わたしも挨拶ぐらいしときたかったなぁ……」

まどかはしょんぼりとした。自分も仲間の一人のつもりでいたのに挨拶もなしに居なくなるとは寂しいものだ。

今はまどかは魔法少女になれないし、なる自信もない。そうなると戦闘力のない自分はやはり部外者なのか。

「少なくともワルプルギスの夜の時にはこっち来るって言ってたから、また会えるって。」

さやかは励ますように言った。まどかは小さくうなずく。

何があったのかは知らないが魔法少女の話をすること自体は、今のまどかは嫌がっていないようだ。

前はそのときの気分とかいろいろあったのだろう。さやかは内心ホッとしていた。

これならまどか相手に必要以上に会話内容を選ぶことはない。

「でさぁ、その早乙女乱馬って魔法少女がさ、ずいぶん良牙さんと仲良いみたいなんだけど
マミさんの言うには良牙さんの彼女なんじゃないかって。」

そうと分かればさっそく、さやかは恋バナに移る。

「ええ、うそ!? それだと、良牙さんがマミさんと暮らしてたのってまずいんじゃ……」

まどかも御多分にもれず、年頃の少女なので恋バナにはテンションを上げて食い付いた。

「でも良牙さんみたいにかっこいいと、やっぱり彼女居るんだ。」

「へぇー、なに、まどかまさか良牙さんのこと気になってたの?」

「えっ、えと、その、そんなことは……」

さやかに詰め寄られてまどかは以前良牙にお姫様だっこをされたことを思い出し、顔を真っ赤にした。

その態度は当然、さやかには肯定ととられる。

「ほぉー、マミさんも残念がってたみたいだけどまどかまでとは、良牙さんもやるねぇ。」

恥ずかしくて答えられないまどかの横で、ひとりケタケタとさやかは笑う。

「美樹さやか、それは本当なの?」
250 :らんまマギカ14話6 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2011/12/19(月) 23:14:40.57 ID:tEtUDdso0
そこに予想外の人間が割って入ってきた。黒い髪、黒い目、いつも澄ました表情の暁美ほむらだ。

「なに、あんたもこういう話好きなわけ?」

さやかはやけにうれしそうにニヤけてほむらに問いかける。

「な……聞いているのはそこじゃないわ。早乙女乱馬という魔法少女が来たのは本当かと聞いているのよ。」

一瞬だけ、ほむらの表情は崩れたが、すぐまた元に戻った。

(相変らずつまらない奴。)

そんなことを心の中でボヤきながらさやかは答えた。

「ああ、そのことで業務連絡なんだけど、魔法少女を襲う魔法少女が現れたから気をつけろってさ。
乱馬さんと杏子って二人が襲われたから連絡にきてくれたんだって。」

「……襲われた? その襲ってきた魔法少女の特徴は?」

ほむらは問いを続ける。その脇でまどかがつまらなそうにしていた。

「衣装が黒くて、短い刃物を使うとか……
まだキュゥべえもどの魔法少女か特定できてないらしいよ。分かったらキュゥべえからも連絡よこすんじゃない?」

「そう、分かったわ。」

おそらく、呉キリカだ。

ほむらは早くも特徴から犯人をわりだした。

『今回の時間軸』では出会ったこともないものの、あの魔法少女はよく覚えている。

(早乙女乱馬なんていう目立つ的を狙うってことはまだまどかの存在に気が付いていないわね。)

そう考え、ほむらはそっと胸をなでおろした。

それならば、キュゥべえ……インキュベーターの視線がまどかから外れるだけ呉キリカらの活動はほむらにとって好都合だ。

ほむらは安心すると、そのままきびすを返してさやかとまどかの元を去ろうとした。

が、その時ふいにまどかが呼び止める。

「あれ? ほむらちゃんお財布にハデな紙が……」

「ああ。」

ほむらは言われて気が付いた。スカートの後ろポケットから頭を出していた財布の間に赤い色のチラシが挟まっている。

昨晩、変な中国人からもらったのを財布に入れてそのままにしていたのだ。

「あげるわ。」

ほむらから渡されたチラシに、まどかとさやかは目線を落とす。

「猫飯店?」

「フカヒレラーメン安っ!」

特に、さやかは食い入るようにチラシをのぞきこんだ。

「あー、そういえばさやかちゃん中華好きだもんね。」

「そりゃもう、一時期魔法少女の願いに満漢全席を頼もうか本気で悩んだんだからね!」

「あれ、本気だったんだ……」

とんでもカミングアウトをするさやかにさすがのまどかも苦笑いをした。

「みんなで食べに行こうよ。場所が風林館みたいだから、良牙さんも呼んで。」

「うんっ、賛成!」

さやかが提案すると、まどかは文字通り二つ返事で答えた。

「よーし、そうと決まったら……」

そう言ったきり、さやかは口を閉ざしてまぶたを閉じた。

そして、しばらくしてまどかの方を向いて言った。
251 :らんまマギカ14話7 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2011/12/19(月) 23:16:50.38 ID:tEtUDdso0
「マミさんもオッケーだって。今度の土曜でいいかな?」

どうやらテレパシーを携帯代わりに使っていたらしい。

「うん。」

まどかは笑顔でうなずいた。

**************

『ってなわけで、ほむら、あんたも参加ね。』

教室へ戻るほむらの頭の中に、さやかのテレパシーが割って入った。

『……どういうワケよ?』

ほむら自身の意思を聞かないさやかの強引な誘い方に、ほむらは不快感を示す。

『だって、あんたが見つけてきたお店でしょ?』

あっけらかんとさやかは言う。

どうも今回の時間軸の美樹さやかは馴れ馴れしい。ほむらはそう思った。

好かれているようにも思えないが、インキュベーターを狩るところを見られていないことや
形の上ではマミとの協調路線を組めているという事が大きいのだろうか。

しかしほむらは別に中華料理には興味がない。

『私はチラシを押し付けられただけよ、関係ないわ。』

そう言っていつものように無愛想に断る。

『そうはいかないわ。』

そこに、今度はマミのテレパシーが飛んでくる。

『私たち、一緒にワルプルギスの夜と戦うんでしょう? それなのに、私はあなたのことをほとんど何も知らないわ。
悪いけど、何も知らない上に食事も一緒にできないような人間に、私は背中を預けられない。』

『それは、行かなければ協力の話はなくなるということかしら?』

ほむらの顔色が変わった。こんなことでワルプルギスの夜対策が崩れてしまっては困る。

『そうとってもらって構わないわ。』

『……仕方ないわね。』

ほむらはしぶしぶうなずいた。

『そういうわけで、暁美さんも参加ね。』

マミはいつもの笑顔でテレパシーを送る。

『マミさんもけっこう強引だねー。』

さやかは何も聞こえていないまどかの前で肩をすくめてみせるのだった。
252 : ◆awWwWwwWGE :2011/12/19(月) 23:19:18.87 ID:tEtUDdso0
以上、14話アップ終了です

……謎の男、誰なんだ一体!?
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/12/19(月) 23:20:18.77 ID:FY/sK8Mlo
謎の男……

むー、すっかりわからん。

254 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/19(月) 23:44:23.33 ID:ZiQwX65zo
おいおい>>1よ、もったいぶらずに教えてくれよ

白鳥みたいな服装でド近眼で中国語訛りの暗器使いの正体なんて、俺たちが分かるはずないじゃないか
255 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/19(月) 23:50:56.16 ID:clLFtB09o
乙!
あかりが話題に出るあたりだと謎の男は地蔵デート後のパワーキャラver.か
256 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/20(火) 20:47:35.65 ID:2lNFuyEEo
誰だっけ
えーっと、トニックだっけ?
257 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/20(火) 22:18:25.70 ID:Z63n2MJdo
リンスじゃなかったか?
258 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/20(火) 22:57:08.06 ID:/uhT1exDO
俺じゃなかったかな
259 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/21(水) 00:05:12.62 ID:+FJ17opt0
誰?オリキャラ?それなら水を被ると家鴨になる、なんてどうだろうか?
実は猫飯店で働いててシャンプーのことが好き、とかいう設定もアリだな
260 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/21(水) 12:04:03.08 ID:53lXeH3To
>>257
それはアニメのオリキャラでシャンプーの妹分で女だろ?
261 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/21(水) 12:41:21.81 ID:yvwCHskAO
>白鳥みたいな服装でド近眼で中国語訛りの暗器使い

えーとプリンさん?それともババロアさん?
262 : ◆awWwWwwWGE [sage]:2011/12/25(日) 22:56:12.78 ID:1Z/QTmlr0
みんなノリが良いなぁww
そのノリに感謝です。

残念ながら今日はうpできそうにありません、
なんとか明日間に合わせたいと思います……
思います、思ってます……
263 : ◆awWwWwwWGE :2011/12/27(火) 01:45:15.19 ID:7u0FI6890
おそくなりました。今からupします
264 : ◆awWwWwwWGE [saga:sage:副題「猫飯店は猫持ち込み可能でしょうか?」]:2011/12/27(火) 01:48:14.54 ID:7u0FI6890
「……男に戻れなくなっただと?」

「ああ」

らんまがそれを打ち明けたのは、見滝原からの帰り、佐倉杏子と分かれた後だった。

聞かされた良牙は目を丸くしている。

「魔法少女になっちまったせいか?」

「そうらしい。契約したその日からだ」

「な……なんてこった」

最大のライバルだと思っていた早乙女乱馬が完全に女になってしまうとは、良牙は予想もしてなかったことだ。

「まさかお前、キュゥべえに『変身体質を治してくれ』とでもお願いして、
それを女の状態で言っちまったから……」

「バカやろう、オレだってそこまで間抜けじゃねーよ」

らんまは吐き棄てるように言った。

そんな成り行きだったなら笑われても仕方なかっただろう。

「それじゃ、お前は何を願ったんだ?」

当然、良牙としてはどんな成り行きだったのかが、それが疑問になる。

だが、らんまには返せる答えが無かった。

(あかねの為に契約したなんて言えるわけがねぇ。
このアンポンタンに言っちまったらそのうちあかねに伝わるに決まってる)

「てめーにゃ関係ねーことだ」

らんまは結局、そう言うしかなかった。

************

「ありがとう良牙くん」

良牙が買ってきた花を受け取り、あかねはにっこりと微笑んだ。

あかねは一応包帯を巻いているものの、もはやギブスも点滴もなく、その動きは健康なときとなにも変わらない。

「あかねさん……トラックに弾かれたんじゃ?」

良牙は狐につままれたような気分だった。

あかねが元気すぎる。

いくら回復が早かったとはいえ、これではもうほとんど全快ではないか。

「うん、なんだかお医者さんも驚いてるみたい。へへ、あたし元気だけがとりえだから」

そんな程度の問題じゃない、相手があかねでなければ良牙は全力でそうツッコんでいただろう。

しかし、あかねの笑顔を前にすると、良牙は思考が止まる。

「だけなんてことはないさ。いや、でもあかねさんが元気でよかった。
もうそろそろ退院かな?」

「うん。もう悪いところは無くて、あとは検査だけなの。
おっきな事故だったから後遺症がないように検査はしっかりしとくんだって」

その言葉通り、あかねの体に今現在悪いところは見当たらない。

あかねがまだ入院している理由は検査だけだった。

実は病院側の本音は驚異の回復を見せた患者のデータをとっておきたいというところにあるが
あかね本人もむろん良牙もそんなことは知る由も無い。

簡単な挨拶をすませて、良牙は病院を後にした。

*********************
265 : ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2011/12/27(火) 01:49:11.88 ID:7u0FI6890
あ、>>264は15話1です
266 :15話2 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2011/12/27(火) 01:51:03.86 ID:7u0FI6890
あかねも居ないことだし天道家には小豚になって入らなければならないと思ったが、意外にも人間のまま招かれた。

「よく来てくれた、良牙くん。」

しかも、一家の大黒柱である天道早雲直々にこの言葉だ。

「あら、良牙くん。今日はお夕食良牙くんの分も作っているからぜひ食べて行ってね。」

かすみがそう言って良牙に微笑みかける。

良牙は夕食も人間のものを食べさせてもらえた。

今までも天道家の門をくぐることを嫌がられてはいなかったが、これほどの待遇を受けられることは滅多にない。

良牙は予想外の好待遇に少し戸惑った。

一方、らんまと玄馬はその様子を苦々しく眺めていた。

格闘道場を継がせるには男子の後継者が必要なのだ。

らんまが男に戻れなくなったので、天道早雲は早くも別の候補に探りを入れているということだろう。

響良牙は武闘家としての実力は男の乱馬に見劣りしない上に、あかねに好意を寄せている。

あかねも良牙を嫌っている様子はない。

しかも、良牙の拳は我流である。よその流派に遠慮をする必要も無い。

ちょっぴり無差別格闘流をかじらせればそれでもう、無差別格闘流を名乗らせることができる。

早雲が道場を継がせる人間を選ぶ上で、良牙はかなり好条件の人材だった。

結局、食事の席では早雲は何も切り出さなかったが、良牙を見る目が今までと違うことは明らかだった。

息子をエサにして天道家に居候している玄馬は気が気ではない。

もっとも、当の良牙は急に扱いがよくなった意味にまで考えが及んでいなかった。

一人にあてがわれた客間で、ふとんに入って良牙は全く別のことを考える。

早乙女乱馬の願いはいったい何だったのか、そして、早すぎる天道あかねの回復はどういうことなのか。

やがて、その二つの事象を結びつける解を、良牙は脳裏に描いた。

乱馬の願いがあかねの回復だとすれば……

「まさか、乱馬の奴っ!」

そう言って良牙ががばっと起きると、なぜか、目の前に玄馬がいた。

「あっ」

「おじさん、どうしてここに?」

マヌケな声を上げる玄馬に良牙は問いかける。

一方の玄馬はそそくさと距離を開けて構えをとった。

「くくっ、よもや海千拳が通じぬとは、この早乙女玄馬ぬかったわ。」

「ぬかったじゃねーよ、クソオヤジ!」

そこへらんまが玄馬の頭を踏みつけて割ってはいった。

「何をする、乱馬! きさま、我らの立場を分かっておるのか? 
良牙くんをこのままにしておけば、また流浪の日々を過ごさねばならぬのだぞ!?」

「じゃかあしい、オレは元々無理してまでここにいるこたねーんだ!
だいたい、寝込みを襲うなんてしたらオレ達が良牙にかなわねーみたいじゃねーか!」

らんまと玄馬は言い争いながらすさまじい攻防を繰り広げる。

「とりあえず、こっちを黙らせりゃいいんだな。」

そこへ良牙が横槍をいれ、玄馬の脳天を殴った。

「ばいーん」

パワーなら良牙は乱馬よりも上である。後ろからの攻撃に、玄馬はあえなくノックダウンした。
267 :15話3 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2011/12/27(火) 01:52:24.77 ID:7u0FI6890
*****************

「……ああ、良牙、お前の言うとおりだ。あかねを治すためにキュゥべえと契約した」

どうせ隠せることではない。そんな諦観からか、らんまはあっさりとそう答えた。

「乱馬、お前は……」

良牙はそれ以上言葉が出なかった。

許婚を死の淵から救うべく契約した代償が、完全に女になってしまい婚約解消とは、なんという皮肉か。

(俺が同じ立場だったら、あかねさんのために契約をしたか?)

良牙にそんな疑問がよぎる。

乱馬がそこまであかねのことを想っていたとは、良牙は知らなかった。

もしかすると、自分のあかねに対する愛よりも深いのかもしれない。

そう考えれば考えるほど、あかねのために契約した乱馬をほめる気にはなれなかった。

(それじゃ、何にもお前のためになってねーじゃねーか)

良牙の責めるようなまなざしをかわす様に、らんまは目をそらした。

「なーに、おめーがあかねの許婚になるなら安心だ。
おめーみてーな甲斐性無しじゃ俺とは違って浮気もできねーだろうし、
あのヤキモチ焼きのあかねにとっちゃあ幸せだろ」

おどけたような口調はわずかに震えている。

「だいたい、八宝斎のジジイすら音を上げるあかねの寝相に耐えれる奴なんておめーしかいねーしな」

「乱馬、お前は……」

良牙は先ほどと同じセリフを繰り返した。

しかし、今度は最後まで言い切る。

「……本当にそれでいいのかよ?」

***************

土曜日の猫飯店は盛況だった。

昼の時間帯に7人もの集団客が入ったのが大きい。

1人は名前は分からないがこの店の店員がチラシを渡してきた少女だ。

そして、その友人らしき少女達が2人、それぞれ黄色い髪と青い髪をしている。

なぜかその席に地元で暮らしているはずの早乙女乱馬と佐倉杏子が居て、さらには良牙まで混ざっている。

見た目の上では女6人に囲まれている良牙は、もはやうらやましいというよりは肩身が狭そうに見えた。

さらに、もう1人遅れて来るらしい。

「どうなっておるのじゃ?」

店主のコロンは首をかしげた。

こんなときに、男の店員は出前に行って戻ってこない。

やむなくコロンは数量限定のフカヒレラーメンを7人前作らなければならなかった。

こういう出血覚悟の極端な割引は、今まで来てくれなかった新規の客を呼び込むためのものである。

すでに猫飯店の味を知っている乱馬や良牙、杏子などに値引いてやっても仕方が無い。

(まったく、じゃから割引券は渡す相手を考えろと言ってやったのに……)

コロンは厨房でぶつくさ言いながら調理をはじめた。
268 :15話4 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2011/12/27(火) 01:55:06.96 ID:7u0FI6890
「……どうなってるのよ、これは?」

一方、暁美ほむらも思いもしない人数に唖然としていた。

「だって、せっかく風林館に来たなら良牙さんを呼ぶでしょ」

「杏子と早乙女さんを呼んだのは私よ。この際だから大勢集まった方がいいでしょう?」

美樹さやかと巴マミがそれぞれ答える。

『ここにいる人間は良牙さん以外全員、魔法少女よ。』

マミはテレパシーで全員に伝える。

ほむらとらんま・杏子は初対面だし、初対面でなくても一回会っただけという関係も多い。

とりあえず最低必要な情報を共有する必要があった。

『それじゃ、後からくるもう1人も魔法少女なのか?』

らんまがテレパシーを返す。

『鹿目さんは魔法少――』

『させないわ!』

マミが何か言いかけたところでほむらのテレパシーが割ってはいる。

『鹿目まどかを魔法少女にはさせない』

『え、ええと、暁美さんの言うように鹿目さんは魔法少女ではなくって、美樹さんと暁美さんのクラスメートなの』

困ったように、マミは強引につなげた。

(しかし――)

暁美ほむらは思う。

早乙女乱馬という魔法少女はグリーフシードを売るほどなのだからもっとけち臭いとか算高いイメージを持っていたのだが
実際に会ってみると、思ったより単純そうだった。

それに魔力もあまり感じない。

(これなら私の方がまだマシね)

魔力の豊富さという面ではあまり自信の無いほむらだったが、乱馬に関しては魔法の素質がもっと低いのが分かる。

自分ですらキュゥべえからあまり営業を受けなかったのに、こんな女がよく契約できたものだとほむらは内心首をかしげた。

とにもかくにも、ほむら、マミ、らんまの三人は無言で視線をぶつけ合う。

その一方で、さやかと杏子もお互いメニュー表を片手ににらみ合っていた。

険しい表情をしているが、たまにメニューを指差していることから、テレパシーで注文の相談をしていることは明らかだ。

二人とも食に関しては真剣な性格らしい。

「おまえら、頼むからテレパシーばっかで話し合うのはやめてくれ。」

良牙は思わず愚痴をこぼした。

一般人である良牙にはテレパシーは聞き取りづらいし、誰が誰と話しているのかもよく分からない状況は不気味だった。

そんな沈黙を破ったのは、やはり同じ一般人だった。

「ごめんね、みんな。エイミーがなかなか言うこと聞いてくれなくて……」

そう言って、店に入ってきた鹿目まどかは、片手に家型のかばんのようなものを持っている。

「まどか、ソレは何?」

さやかが質問する。

「ティヒヒ……猫飯店っていうぐらいだから、連れて来ちゃっても良いよね?」

まどかはその小さな家の側壁をパカッと開ける。その中には、真っ黒な猫がいた。

「ぎ……ぎゃーああああ! 猫っ!!」

猫飯店に、らんまの叫び声がこだました。
269 :15話5 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2011/12/27(火) 02:03:03.04 ID:7u0FI6890
*************

結局、猫飯店ではにらみ合いは続かなかった。

と、いうよりもらんまが猫で錯乱したために続けられなかった。

とりあえずまどかが猫をしまい、さやか、杏子が注文選びで論争をはじめ、
既に食べなれているらんまと良牙が一押し商品を選び、以後は普通の会食となった。

しまいにはしっかりラーメンの汁まで飲んでいたほむらが、意外と食い意地が張っているとかケチだとか
つっこまれて苦い顔をしていたが、とくに問題を起こすことも無かった。

そうして一行が過ぎ去った後、コロンはたった2人の店員を手元に呼んだ。

「おぬしら、見ておったか? あの言葉もかわさぬ奇妙な光景を。」

「見たね。はじめのうち、誰も話さないからあたしビックリしたアルね。」

コロンの問いに、シャンプーが答える。

「ムース、おぬしはなにか思わなかったのかの? あの黒髪の小娘に割引券を渡したのじゃろう?」

「むうぅ……おらもあの子があんなに友だちを連れてくるとは思わなかっただ」

ムースと呼ばれた男はピントのずれた回答をよこした。

コロンは彼の答えに表情をくもらせる。

「そのようなことを聞いておるのではない。 何かおかしなことがなかったのか聞いておるのじゃ」

「ふむ……そうじゃ、あの子はかなりの腕の暗器使いじゃったの。それで妖怪を退治しておった。」

「バカもん! 無茶苦茶あやしいではないか!」

コロンはさすがに声を荒げてどなる。

「ええい、おぬしはあの小娘を追って、根掘り葉掘り話を聞いて来い!
シャンプーは今後、それとなく佐倉杏子にさぐりを当ててみるのじゃ、分かったの?」

「わかたね!」

「……ああ。」

もともと、自分の花婿のためにやっていることである。シャンプーは元気良く答えた。

一方、ムースと呼ばれた男にとっては、恋敵を男に戻すための仕事である。

当然、やる気などでるはずもなく、小さくうなずいて相槌をうつだけだった。

**************

一緒に食事にいくだけのことが意外に効果があったのだろうか。

それとも巴マミの言うことを聞いて風見野で魔女退治をしているので満足したのだろうか。

ここ最近、暁美ほむらは巴マミや美樹さやかから敵意を受けていない。

ほむらは一安心していた。

『今回』はまだ、鹿目まどかは魔法少女になっていない。

そして、巴マミも美樹さやかも生存し、形の上では協力体制を築けている。

さらに、いざという時は響良牙とか早乙女乱馬とかいうイレギュラーもワルプルギスの夜との戦いに使えるだろう。

(この調子なら、今度こそ……)

そんなことを考えていた折、まるで校内放送のように見滝原中学校全体に
しかし、魔法少女だけを対象にテレパシーが鳴り響いた。

『マミ、さやか、ほむら、キミたちも黒い魔法少女が他の魔法少女を襲っていることはもうしっているね?』

キュゥべえ……いや、インキュベーターの魔法少女への業務連絡だ。

『前は風林館の魔法少女たちに返り討ちにされたんだけど、どうやら活動を再開したらしい。
すでによその地域の魔法少女が何名か襲われている。キミたちも十分に注意して欲しい』

インキュベーターの話に、マミやさやかはありがとうだとか、わかったとか返事をしている。

黒い魔法少女の目的を知らない彼女たちなら、漫然と注意をするしか仕方が無いだろう。
270 :15話6 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2011/12/27(火) 02:03:49.03 ID:7u0FI6890
だが、ほむらは反って安心感を増していた。

よその町を襲いに行くとは、まだ黒い魔法少女はまどかにたどり着いていない。

そしてまた、インキュベーターもこういった各地域の魔法少女への連絡や状況把握に追われてまどかにかまっていられない。

ほむらにとってはまさに理想的な状況だった。

授業が終わり、休憩時間に入ると学級委員の志筑仁美が急にあわただしく動きはじめた。

彼女はまどかとさやかの親友であるが、それ以上に学級委員の仕事や習い事などに追われて最近ろくに関われていない。

特に、まどかとさやかが魔法少女の世界に関わってからは疎遠になる運命である。

それは、『何度この一ヶ月を繰り返しても』仁美が魔法少女になることはなかったことからも明らかだ。

だから、彼女はほむらにとってはチェックの対象外である。

ほむらは志筑仁美の動向には強く関心を抱かなかった。

しかし――

志筑仁美は休憩時間の間、よその学校の制服を着た少女に校内を案内して回っていた。

ほむらは、その様子を見て愕然とした。そんなほむらと他校の生徒は一瞬目があう。

「どうしました? 美国さん?」

「いえ、何でもありません。」

いぶかしがる仁美に答えて、その他校の生徒は何事も無かったかのように再び悠然と歩き始めた。

やがて、他校の生徒を連れた仁美はさやかとまどかの目にとまる。

「あれ? 仁美ちゃん、その子……?」

「お、その制服は……」

「ああ、まどかさん、さやかさん、彼女は――」

紹介しようとした仁美の言葉をさえぎって、彼女は前に出た。

「はじめまして、わたしは美国織莉子と言います。見滝原中学校に転入を考えているの。」

美国織莉子は鹿目まどかに向かってにっこり微笑んで見せた。
271 : ◆awWwWwwWGE :2011/12/27(火) 02:04:45.19 ID:7u0FI6890
以上、15話うp完了しました

・・・すんません、待たせた上に短いorz
272 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 02:14:08.99 ID:3xj3znn3o
乙!
謎の男はムースだったのか! なんという驚愕的事実!

…っていう冗談はともかく。
>>268の最後のところ、もしかして猫拳フラグ?
弱点がいきすぎると本来より強くなっちゃうって設定が好きだったから、そうだったら楽しみだな
273 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 02:24:30.74 ID:HkDp8ZsDO
猫拳フラグ…だ、とガタッ
乙乙!
シャンプーは可愛いな
274 : ◆awWwWwwWGE :2012/01/04(水) 23:30:28.53 ID:BXUrfRVy0
あけましておめでとうございます

正月中、思ったほど筆が進まず、更新が遅れてしまい申し訳ありません
16話アップします
275 :16話1 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:副題「年明けからいきなりダーク」]:2012/01/04(水) 23:31:58.34 ID:BXUrfRVy0
ついに、見つけられてしまった。

暁美ほむらはいつにない焦燥感にかられていた。

(美国織莉子が、鹿目まどかを見つけた!)

きっと、美国織莉子はどんな手段でも取るだろう。

なにしろまどかは……なのだから。

だから、彼女が確信を抱く前に、始末をつけなければならない。

ほむらはギュッと拳をにぎりしめた。

しかし、戦力が足りない。

織莉子とは室内戦が想定されるが、そうなるとあまり広範囲の攻撃は自爆になってしまう恐れがあり使えない。

かと言って、拳銃などの範囲の狭い攻撃はおそらく通じない。

暁美ほむらの使える武器では織莉子に対する決め手が無かった。

できることなら、近距離で避ける間もなく連続して攻撃できる能力が欲しい。

(……1人、居たわね)

そこまで考えるとほむらは、美樹さやかにテレパシーを飛ばした。

**************

「で、ホントなの? 魔法少女狩りの犯人を知ってるってのは?」

「ええ、本当よ。こっちよ、付いて来なさい」

いぶかしげなさやかを連れて、ほむらはよその町を歩いた。

さやかは少し気圧されていた。それもそのはず、ここは日本でも有数の超高級住宅街だ。

一軒一軒の土地も広ければ、つくりもそこんじょそこらの一般家庭とはまるで違う。

「ここよ」

ほむらはそんな中の一軒に、戸惑うことなく塀を乗り越えて侵入した。

「ちょ、まってよ!」

さやかは誰か見ていないか見回してから、慌てて飛び越えた。

「大体さぁ、そんなことならなんでマミさんに言わないの?」

広い屋敷の中を歩きながら、さやかがたずねる。

「巴マミはまだスランプが続いているんでしょう? そんな状態で魔法少女同士の戦いに参加させるつもり?」

「そりゃそうだけど、報告ぐらいさ……」

ほむらはいちいちさやかの言うことに足を止めたりはしない。

まるで無視するかのように視線も向けず歩いていく。

(それだけじゃないわ……)

ほむらはひそかに思う。

巴マミは拘束魔法に長けている。もしマミを連れてきてしまえば、織莉子を捕獲して事情聴取を始めるだろう。

性格的にもおそらくそうするに違いない。

だが、それではまずい。そんなことになってしまえば、バレてしまう。

鹿目まどかが何なのか、それを知ったら誰がどんな行動を取ることか、想像するだけでも恐ろしい。

屋敷の奥の部屋では、すでに変身した魔法少女が待ち構えていた。

「まさかその日のうちに襲ってくるとは、ずいぶんとせっかちな方ね」

白い、ゆったりとしたローブのような服を着て、あたまにも白い帽子をかぶっている。

その純白の衣装と豪奢な部屋の様子が、さやかには現実離れして見えた。

「……でも、おかげで確信が持てたわ。鹿目まどかがアレの正体だったのね」
276 :16話2 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:副題「年明けからいきなりダーク」]:2012/01/04(水) 23:32:47.77 ID:BXUrfRVy0
「え? この子、今日学校に来た子じゃ? まどかが何って?」

さやかは状況が飲み込めずに困惑した。まどかと魔法少女狩りが一体何の関係があるのか。

「話はあとよ」

そんなさやかをよそにほむらは何のためらいも無く拳銃を取り出し引き金を引く。

その銃弾を、緒莉子ははじめから軌道を知っていたかのようにゆっくりと横に最小限だけ動いて避けた。

「あら、怖い。話し合うつもりすらないのね」

そう言った織莉子の声と表情には十分に余裕がありそうだった。

今度は緒莉子が大きなビー球のような光の塊をほむらに向かって飛ばす。

ほむらは光の玉が迫った瞬間に、消えたかと思うとその光の玉の前に現れた。

魔法少女の目にも留まらない速さで、いつの間にか光の玉を避けて前に出ていたのだ、

一方の織莉子も、ほむらの攻撃を、まるではじめからどこに来るのか知っているかのように攻撃される前から避け始める。

さやかから見れば、不気味な光景だった。二人とも戦い方がまるで常識の通じない異次元の世界だ。

「美樹さやか、あなたも戦いなさい!」

立ち尽くすさやかに、ほむらが檄を飛ばす。

「え? でも?」

織莉子が魔法少女狩りの犯人だという証拠は何も無い。

そのことを問い詰めるぐらいの問答はあるのかと思ったが、何も聞かずにほむらは織莉子を襲ったのだ。

さやかにはほむらが押し入り強盗を働いているようにしか見えなかった。

そういうわけで、ほむらに協力する気にはならない。

しかし、変身して待ち受けていた白い魔法少女が何かおかしいのも確かで、
一応協力体制をいままで敷いていたほむらを敵に回してまで白い魔法少女を守るために参戦することもできない。

「美樹さやかさん……と言ったわね。この女は世界を滅ぼすつもりよ、協力しては駄目」

戦いながら、織莉子がさやかに呼びかける。

「美樹さやか、美国織莉子は鹿目まどかを殺すつもりなのよ、こいつの言うことには耳を貸さないで!」

ほむらも必死で呼びかける。

「え……世界? で、なんでまどかが?」

全く事情が飲み込めないさやかはますます混乱するだけだ。

「何を戸惑っているの、美樹さやか! こいつは魔法少女狩りの犯人なのよ!」

ほむらにとってはさやかが戦おうとしないことは予想外だったのだろう。

怒鳴るような悲鳴のような、そんな必死さが伝わってくる声でほむらは叫んだ。

それでようやく、さやかは立場を決めた。

「ひっ捕らえてから、話を聞く!」

そうしなければ、ほむらか織莉子かどちらかが死んでしまうだろう。

だから一旦、織莉子を捕らえる。魔法少女狩りについてはその後で聞けば良い話だ。

とは言え、実弾と魔力弾が飛び交う中に入っていくのは危険だ。

さやかは超スピードで織莉子の後ろに回り、羽交い絞めにしようと近づく。

が、その先に待ち構えるように光の玉が現れた。

さやかは無理やり急停止して、織莉子の攻撃を避ける。

(やっぱり、こいつ変だ)

さやかは疑問を確信に変えた。

この白い魔法少女はまるであらかじめ分かっていたかのようにさやかが襲い掛かる方向に、
タイミングを合わせて攻撃をしかけてきた。
277 :16話3 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/01/04(水) 23:33:54.01 ID:BXUrfRVy0
普通に考えれば初見の相手の行動を予測するなんて出来ないはずだ。

しかし、この白い魔法少女はさやかが後ろから回り込むタイミングを完璧に読んでいた。

それに、いつ攻撃されたかもわからないほむらの攻撃をひょいひょいかわせているのもおかしい。

(なんだか分かんないけど、こっちの動きは読まれてる)

そうとしか考えられない。

(だったら――)

さやかの決断は早かった。

『ほむら、ちょっと攻撃やめて!』

それだけテレパシーを送ると、真正面から回避行動もとらずに織莉子に向かってさやかはつっこんだ。

織莉子は光の玉をさやかに向けて集中的に放つ。

腕や脚に被弾し、肌がめくれ肉が裂けても、さやかは止まらなかった。

自分自身の回復能力が極めて強いことをさやかは良く理解していた。

急所に直撃でもしない限り、ダメージなんてどうとでもなる。

そして急所も剣で守られている以上、たとえ完全に行動を読んでいたとしてもさやかの突撃を止めるすべなど無い。

良牙のように屈強な防御力で防ぎきるか、さやかより上のスピードで動いて避けるしかないのだ。

あいにく、織莉子はそのどちらも持ち合わせていなかった。

さやかとは致命的に相性が悪い、それを知った織莉子は無意識に下唇をかんだ。

(キリカが居れば、どうとでも対処できるのに)

そう思っても後悔は先に立たない。今日も呉キリカはキュゥべえの目を逸らすための魔法少女狩りに出かけてしまっているのだ。

ついに、さやかは織莉子と顔と顔がぶつかりそうになるほどに近づいた。

が、さやかはいかにも苦い表情をしている織莉子に剣を向けず、そのまま通り越した。

そして瞬時に後ろに回り、織莉子の腕を掴んで組み伏せる。

織莉子は手をひねり上げられてうつぶせの格好にされた。

「こ、これは……」

地面に顔をつけられた織莉子が、くやしそに言った。

この状態ではまともな抵抗などできない。

魔力弾で奇襲をすることは出来るかもしれないが、一回でさやかとほむらを同時に倒さなければ返り討ちにあうだけだ。

「良牙さんに習った脇固め、意外と使えるね」

さやかは得意気だった。

「よくやったわ、早く止めを刺しなさい」

ほむらが銃を構えたまま絡み合うさやかと織莉子に近づいてきた。

「まだダメ。ホントに魔法少女狩りの犯人なのかとか、もしそうだったら動機とかいろいろ聞かないと」

当然のごとく、さやかはそう答えた。

そうでなければわざわざ生け捕りにした意味が無い。

「何のいわれがあって私が襲われなければいけないのかしら?」

ほむらがさやかを扱いきれていないのを見抜いてか、織莉子が口を挟む。

「あたしもそれを知りたい」

さやかは織莉子に同調しながらも、決して脇固めをゆるめることはなかった。

(この青い魔法少女を説得できなくても構わない。時間稼ぎさえできれば……)

織莉子には見えていた。あと少しで鉤爪をもった人物がここにやってくる。

織莉子の能力は予知能力だ。数分単位でも、数秒単位でも、日にち単位でも未来を見ることができる。
278 :16話4 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/01/04(水) 23:35:06.11 ID:BXUrfRVy0
それは必ずしも明瞭な形で見えるわけではないが、見えた未来は観測者である織莉子自身が
実現を防がない限り必ず実現する。

今の織莉子の予知には鉤爪をもった人物の顔は見えない。

しかし、鉤爪をもっていて織莉子の屋敷に来る人物というだけで、誰か推測するには十分だ。

(魔法少女狩りに行っていたキリカが帰ってくる……!)

織莉子はそれをアテにして、時間稼ぎに打って出た。

「私はもう抵抗しないわ。でも、理由も無く殺されたくはないものね」

「あたしも理由無く暴力を振るうために魔法少女になったんじゃない。
ほむら、あんたがこの女を魔法少女狩りの犯人だっていう証拠がなきゃこれ以上は手を出せないね」

ほむらは思い通りにいかないことに業を煮やして、叫ぶように激しく言った。

「何をやっているの、美樹さやか! この女には仲間がいるのよ!」

そして、拳銃の引き金を引く。

 パーンッ

乾いた音が響いた。

しかし、銃弾は織莉子には届かず、熊手のように鉤爪を生やした鎖鎌のような、
へんてこな武器によって止められていた。

そして、窓の方から白い服を着た長身の男が現れる。

(……キリカじゃない? 誰?)

意味不明な人物の出現に、そしてその人物に命を助けられたことに、織莉子は困惑する。

だが、ほむらとさやかはその男に見覚えがあった。

「あれ? 中華料理屋の店員?」

「……また、つけてたのね。一体何の用かしら?」

彼女らは名前は知らないが、男は猫飯店のムースである。

ほむらはムースをにらみつけるが、ムースは臆することなくつかつかと歩み寄ってくる。

「分かってるだか? おめえらみてえな小娘どもがやって良いことじゃねえだぞ」

ムースはいつになく真剣な声で言った。

「これは、私たちの問題なの。関係ない人は口を挟まないでちょうだい」

ほむらの制止を無視して、ムースはさやかと織莉子の方へ近づいていく。

「さあ、その娘っ子を解放するだ」

ムースがさやかに言った。

「え、でも……」

さやかは迷った。確かに今この女を捕らえているのは不当な気はするが、
解放したとたんに反撃されたり逃げられたりする恐れがある。

「美樹さやか、はやくそいつに止めをさしなさい。でなければ、私はあなたごと爆破するわよ」

ほむらはいつの間にか手榴弾を片手に脅しをかける。

板ばさみになったさやかはますますどうしていいか分からない。

(どうする、どうする、どうする?)

さやかが葛藤している間にも、ほむらは手榴弾のピンを抜く。

「なっ、お主、なんてことを!」

さすがにムースも焦る。

しかしほむらは、ためらうことなく織莉子とさやかの方へとそれを投げた。

(えっ!?)

さやかは一瞬、目を疑った。手榴弾はただの脅しではなかったのか。
279 :16話5 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/01/04(水) 23:36:34.67 ID:BXUrfRVy0
一応仲間のはずの自分に対して、こうも平然と攻撃を加えてくるものなのか。

さすがに手榴弾を直撃してはさやかの回復能力でもあやうい、そんなことはほむらにも分かるはずだ。

唖然とするほかに、さやかには何もできなかった。

一方の織莉子は、すでに自分の死が避けられないことを知った。

普通なら小型手榴弾ぐらいは予知で避けられるだろう。しかし腕を掴まれて組み伏せられている状態ではどうしようもない。

だが、彼女は絶望しなかった。

青い髪の魔法少女も、いきなり現れたこの謎の男も、何も知らない。

だったら、教えてやれば良い。自分が死んでもその遺志を伝えれば、それで何かが変わるはずだ。

ほむらが手榴弾を投げた。

今から死ぬまでにしゃべれるのはホンの数秒だろう。

そこに出来るだけ核心に触れ、無知から事実を知るきっかけになる言葉を言わなければならない。

「覚えておくのよ、鹿目まどかは最悪の魔女となって世界を滅ぼす!」

織莉子が言うのとほぼ同時だろうか。

さやかは脇固めを解いて、逃げ出した。

普通の人間ならいまさら間に合わないが、さやかのスピードなら手榴弾から逃げ切れる。

だが、織莉子は間に合わない。予知能力はあっても織莉子自身は魔法少女としては決してすばやくない。

結果としてさやかは、織莉子を殺して自分が助かるその絶妙のタイミングで固めを解いてしまった。

「キュゥべえと、そこの女は信じちゃダメよ!」

今にも爆発しそうな手榴弾を目前にしながら、織莉子は毅然としてほむらを指差した。

そして、その言葉にほむらやムースやさやかが反応する暇も無く、手榴弾は轟音をあげて破裂した。

あとにはただ、無残な肉塊が残る。

「え…あ…ああ……」

さやかは言葉を失っていた。

織莉子の言った言葉の内容など今は考えられない。そんな余裕は無い。

目の前で人が殺された、その片棒を担いだのは自分自身だ。

その事実が、そして無残な死体が、さやかの思考を完全に奪っていた。

「お主……なんてことを……」

ムースもそれ以上言葉が出ない。

「終わったわ。行くわよ」

ほむらはさやかにそれだけ言うと、その場を後にした。
280 :16話6 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/01/04(水) 23:38:02.96 ID:BXUrfRVy0
**************

数時間後、呉キリカが目にしたのは赤い破片と化した親友の姿だった。

「……そ、そんな、あんまりだよ! あんまりだ!」

キリカは幼児のように泣きじゃくる。

「誰だ? 一体誰なんだ! 私は許さない」

そんなキリカの背後に、いつのまにか一匹の白い猫のような生き物が座っていた。

「やれやれ、久々に織莉子に会いに来てみたらひどい有様だね」

ひどいと言いながらも、その小動物の言葉には落胆も悲しみも感じられない。

「キュゥべえ、キミは知っているのかい? 誰がやったのか」

「知っているけど教えられないよ。もともとキミたちが魔法少女狩りなんてことをしていたからこうなったんだろう?」

キュゥべえと呼ばれた小動物は自業自得だと言いたげに、平然とキリカの感情を逆なでする。

「……いつからバレてたの?」

震える声をしぼってキリカはたずねた。

「ボクも色々情報を集めているからね、それでも確信に至ったのはつい昨日だ。だから今、織莉子に会いに来たのさ」

「それじゃあ、キュゥべえが他の魔法少女に織莉子を襲わせたわけじゃないのかい?」

「ああ、それは違うよ」

「だったら、誰が?」

いつの間にかキリカはキュゥべえに迫るように問い詰めていた。

「残念だけど、ボクは魔法少女同士の私闘には手を貸せないよ」

淡々と、キュゥべえは言う。まるでそれが規定であるかのような言い方だ。

「キミが魔法少女狩りをあちこちで教えて回ったからこうなったんじゃないか!
魔法少女同士の私闘には手を貸さないなら、それはおかしい!」

キリカは当り散らすように叫びながら、キュゥべえに鉤爪を突きつけた。

そんなことをしても無意味だとは知っている。

知っていても、体が暴力的な衝動を抑え切れなかった。

「やれやれ、仕方ないね……」

もったいぶってから、キュゥべえはゆっくりとしゃべり始めた。

「ひとつだけヒントをあげよう。織莉子を殺害したのは、見滝原から来た魔法少女だ」

キュゥべえのその言葉に、キリカは肩を振るわせた。

「ハ……ハハハ……」

涙を流したまま、かすれた声で、笑っているようなセリフをしゃべる。

キュゥべえにはキリカが泣いているのか笑っているのか分からなかった。

「答えを言ったも同然じゃないか!」

部屋には――特に織莉子の亡骸の近くには、銃痕がいたるところに見られる。

「魔法少女の中じゃ有名だ……見滝原の、銃をつかう魔法少女なんて!」

「ふうん、どうやら心当たりがあるみたいだね。でも、これ以上は言わないよ」

キュゥべえはキリカに背中を向けた。

「ああ、十分な情報さ」

キリカはもはやキュゥべえを追わなかった。

どうせ切り刻もうが焼き払おうが、キュゥべえに対しては意味が無いのだ。

それよりも、今はもっと大事なことがある。
281 :16話7 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/01/04(水) 23:38:38.08 ID:BXUrfRVy0

(織莉子、ぜったいにカタキはとるよ……必ず倒してみせる、巴マミを!)

血まみれた肉塊の前で、キリカは拳を握りしめて誓った。
282 : ◆awWwWwwWGE :2012/01/04(水) 23:40:34.70 ID:BXUrfRVy0
以上、16話アップ完了です。

やっとここまで進めた……この辺が折り返し地点です、多分
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/04(水) 23:46:06.27 ID:4C9jXLgPo
色々と酷すぎる……素晴らしい欝が待ってそうな気がしてワクワク
284 :以下、あけまして [sage]:2012/01/05(木) 00:03:24.49 ID:HZHh9kMjo
ちょwマミさんwww
とばっちりwww
285 :以下、あけまして [sage]:2012/01/05(木) 05:57:01.07 ID:IREVPnxAO
マミさん濡れ衣過ぎるww
しかしさやかは魔女化の事についてどう出るのか
まあショックで記憶から飛んでるかもだけど
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/07(土) 01:14:54.62 ID:6M3YWtnYo
うわぁ、織莉子もう退場かぁ…乙乙
さて、マミさんの運命や如何に

……ところで、このスレでゆまって出てないよな?
杏子はもう風見野に居ないし、ゆまはどういう扱いになるんだろうか
287 : ◆awWwWwwWGE :2012/01/17(火) 01:04:38.22 ID:sP2uYOMT0
うぬぅ すいません 個人的事情により週一ペースの維持は困難っぽいです

>>286
創造におまかせします
288 :らんまマギカ17話1 ◆awWwWwwWGE :2012/01/17(火) 01:06:51.12 ID:sP2uYOMT0
「火中天津甘栗拳!」

目にもとまらぬスピードでらんまの拳が叩き込まれる。

良牙はそれをガードすらせずに真っ向から胸板で受ける。

やがて、らんまの拳が止まったところで良牙はおもむろに腕を振り下ろす。

らんまはとっさに腕でガードして良牙の攻撃を受け止めた。

「どうだ? 違いはあったか?」

「……いまいち分かんねーな」

良牙の問いに、らんまは首をかしげる。

「そうだな。パンチの威力も言うほど上がっているようには思えない」

良牙は火中天津甘栗拳――つまりは高速での拳の連打を食らった感想を付け足した。

いつもの空き地で、らんまは魔法少女になってどれだけ自分の身体能力が変わったか確認していた。

小競り合いから真剣勝負まで、何度も戦っている相手だからこそ、互いの技や能力は大体知り尽くしている。

らんまにとって、自分の変化を知るには良牙は格好の相手だった。

「なんか、おかしくねーか? 魔法少女になったら、ろくにスポーツもやってないような女子中学生が
魔女に勝てるぐらい強くなるんじゃねーのかよ?」

らんまは不平をこぼした。

なりたくて魔法少女になったわけではないが、せっかくなってやったのに他の人より特典が少ないというのでは
どうしても損したような気分になってしまう。

「そういや、キュゥべえの奴が言ってやがったな。身体強化は日常生活に不便がでない程度とか
普段から魔翌力を消費するからあんまり強化することもできないだとか」

「……つまり、もうとっくに鍛え上げてて魔法の素質の低いオレみたいな奴は
魔法少女になっても大して変わらないって事か?」

「おそらく……な」

良牙の言葉に、らんまはがっくりと肩を落とした。

あかねが助かったから良いようなものの、ほとんど契約損である。

普段なら、良牙はこんな真面目に受け答えせずに、まんまと得の無い契約を結ばされたらんまを笑うだろう。

しかし、事情を知ってしまっただけにむしろ沈痛な面持ちをしていた。

らんまとしてはそんな風に同情されるのがかえって辛い。

あくまで良牙とは減らず口を叩きあうライバルでありたいのだ。

「らんまー、良牙くーん!」

その時、空き地にいる二人を呼ぶ声がした。

二人にとって聞きなれた、しかし少し懐かしい声だ。

「あかね!?」

「あかねさん?」

らんまと良牙はいっせいに振り向いた。そこには紛れも無く元気な姿の天道あかねがいる。

「おまえ、病院はどうしたんだよ?」

病院で寝ているはずのあかねが急に空き地に現れたことに、らんまは驚きを隠せない。

「え、らんま聞いて無かったの? あたし今日退院よ。」

実にあっけらかんと、ごく当たり前のようにあかねは答える。

「あかねさんは重症だったんだ。 何も1人で歩いて帰らなくても。」

「心配してくれてありがとう。でもこんなに元気なのに迎えに来てもらうのも悪いし、
久々に歩くぐらいしないと体がなまっちゃうわよ。」

あかねはそう言って、良牙に笑顔を返した。
289 :らんまマギカ17話2 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:副題「天道家舞台も久々のような」]:2012/01/17(火) 01:08:45.06 ID:sP2uYOMT0
とても、ちょっと前まで瀕死の重傷だったとは思えない健康ぶりである。

きっと、乱馬が契約しなければこの笑顔は永遠に戻ってこなかったのだろう。

そう思うとなおさらに良牙はやるせなかった。

**************

結局、らんまと良牙がそのままあかねに付き添って天道邸に帰った。

本来なら病院の連絡を受けてからあかねを迎えに行くつもりだった早雲は、
まだ快復祝いの準備中で、椅子に登ってクス玉を取り付けているところだった。

それがあかねの声を聞いたとたん驚いて椅子から落ちて、ちょっとした騒ぎになった。

かすみは予定より早いあかねの帰宅にあわてて料理をはじめる。

八宝斎はあかねの快復祝いのプレゼントに下着を買いに行ったらしい。

「あれ? オヤジとなびきねーちゃんは?」

「ああ、早乙女くんとなびきは事故の示談交渉に行ってるよ。
なんたって、やっとトラックの運転手が話し合える状態になったらしいから」

らんまの問いに早雲が答えた。らんまは思わず苦笑する。

事故被害者のはずのあかねがとっくに全快して退院だというのに、轢いた側のトラック運転手がまだまだ重傷で
ようやく会話ができるようになった程度なのだ。

いかにあかねの快復が異常であるか、医学知識など無いらんまにもよく分かる。

しばらくして、あかねの快復祝いの準備は整った。

しかしまだ玄馬となびきが帰ってこない。

その都合で時間が空いたので丁度よい機会だと思ったのか、早雲は大事な話があるといってあかねと良牙に切り出した。

「乱馬くんが男の子に戻れなくなったことは聞いているね?」

こくりとうなずいたあかねは、まだ何を言われるのか予測すらしていない。

「もしも、このまま乱馬くんが元に戻れなかった場合はだね、あかねとの許婚を解消しなけりゃならない」

「そ……」

そんなと言いかけて、あかねは口をつぐんだ。

乱馬と許婚だなんていうのはもともと早雲が勝手に言い出したことなのだ。

自分は乱馬のことを許婚だなんて思っちゃいない、少なくとも建前上は、あかねはそういう立場を貫いてきた。

ショックを受けたと思われるような言葉は口に出来ない。

「――そりゃそうよね。私としては一安心ってとこかしら」

あかねの意地っ張りを聞き流して、早雲は言葉を続けた。

「そこでね、今度はここにいる良牙くんを許婚にしないかい?」

「えっ!?」

思ってもみなかった話に、あかねは目を丸くした。

「そんな急に無茶よ! 良牙くんだって困るじゃない、ねえ良牙くん?」

あかねは良牙が自分に好意を寄せていることには全く気付いていなかった。

好意を寄せられているとしてもそれはあくまで純粋に友人としてであり恋愛感情があるとは思っていない。

「お、俺は……」

良牙は返答につまった。

本来なら二つ返事で引き受けたいほどうれしいことだ。

しかし、乱馬の契約を知ってしまった以上、何も考えずに頭を縦に振ることはためらわれた。

「良牙くんにはちゃんと彼女も居るんだから、お父さんも無茶言わないで」

そんな良牙の心境の複雑さなど知る由も無く、あかねは容赦なく良牙と許婚になることを否定する。
290 :らんまマギカ17話3 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/01/17(火) 01:09:40.32 ID:sP2uYOMT0
確かに良牙には交際中ということになっている女性が居た。

雲竜あかりという、おしとやかで可愛い、しかも無類の豚好きの少女だ。

良牙にとってあまりにも都合が良い存在。

それも良牙が努力や誠意で手に入れた愛ではなく向こうから好いてきたのだ。

だからこそ、良牙は思いのままにいかないあかねへの思いを断ち切れないのかもしれない。

「そうは言っても、まだ将来のことを誓い合ったわけでもないんだろう?
だったらあかねとの話を考えてくれても良いんじゃないかい?」

一方の天道早雲は良牙があかねを好きなことは見て分かっている。それ故、強引に話を持ちかけることができた。

「しばらく、考えさせてください」

結局良牙はそう言うことしかできなかった。

そうしてひとまず話がついたところで、タイミングよくドアチャイムが鳴った。

「ちわーす、お好み焼き『うっちゃん』でーす!」

同時に、威勢の良い少女の声が玄関から聞こえてくる。

「あ、私出るわね」

長女のかすみはまだ調理作業中である、普段お客に応対をするのはかすみの役割だが、
かすみの手がふさがっているときはあかねの仕事だった。

あかねが玄関に出ると、らんまと見慣れない赤い髪をした少女が立っていた。

どうやららんまが先に玄関にかけつけたらしい。

赤い髪の少女は少しの間「誰?」という様子であかねを眺めていたが、やがて手をぽんと叩いた。

「ああ、あんたがあかねか」

少女はおそらくあかねよりも年下のように見えるが、敬意を払う様子は全く無い。

見た目の雰囲気からしても敬語の使い方とか態度をわきまえていないタイプなのだろう。

「らんま、この子は? 『うっちゃん』って言ってたけど?」

「こいつはあかねが寝てる間に、うっちゃんとこにバイトに入った新入りで――」

らんまが説明しようとすると、杏子はそれをさえぎって自ら前に出た。

「あたしは佐倉『きょうこ』だ。よろしく」

少女はやけに『きょうこ』という名前を強く発音する。

なんだかよく分からなかったがあかねは笑顔で応じた。

「わたしは天道あかね、よろしくね」

「そうそう、今日はコレを届けに――」

佐倉杏子は手に持っていた袋を掲げて見せた。『お好み焼き うっちゃん』のプリントのあるビニール袋だ。

「配達ね……えーと、いくらかしら?」

「あー、違う違う、コレは店長から快復祝いのサービスだからタダでもらってやってよ」

「右京から? 悪いわね、ありがとう」

杏子はあかねにお好み焼きの入った袋を手渡した。

と、そんなやり取りをしているところに丁度、玄馬となびきが帰ってきた。

「ただいまー、ごめんね遅くなっちゃって」

「おお、あかねくんすっかり元気になって……おや、『あんこ』くんも来とるのか」

「『あんこ』じゃねえ、『きょうこ』だ」

そんなやり取りにあかねは杏子が『きょうこ』を自分の強調して発音した意味を知ってくすりと笑った。

悪い子では無さそうだ。

「そんじゃ、あたしはもう用事すんだから――」
291 :らんまマギカ17話4 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/01/17(火) 01:11:12.53 ID:sP2uYOMT0
そう言って帰ろうとした杏子の腕を、なびきが掴んだ。

「ちょっと待って、せっかくだからあんこちゃんもあかねの快復祝いに付き合いなさいよ」

口ではそう言いながら、なびきは触れた腕からテレパシーを送った。

『あんたたち魔法少女に話しときたいことがあるわ』

そういう話なら、杏子としても無視するわけにはいかない。

しぶしぶ杏子も天道家へあがることになった。

***************

「で、話ってのはなんだ?」

ささやかな宴が終わったあと、らんま、良牙、杏子はひそかになびきの部屋に集まっていた。

「まあ、魔法少女になって長いあんこちゃんにとっては分かってたことかもしれないけどね……」

そう前置きしてから、なびきはややうつむき加減になって話し始めた。

「今日ね、あかねを轢いたトラックの運転手の弁護士って人から話を聞いたんだけど、
運転手の言うには運転席に白い猫かウサギが入ってきたせいで運転ミスをしたんだって」

「白い……」

「ね、猫ぉ!?」

猫という言葉にらんまが過剰反応する。杏子は変な声を出したらんまに少しびびった。

「え、えっと、もしかしてキュゥべえの奴って言いたいのかい?」

「それだけなら分からないけどね――警察に聞いたらトラックには猫とか小動物がいた痕跡は全くなかったそうよ」

普通なら、その情報はトラックに猫など乗っていなかった、運転手の妄言に過ぎないという状況証拠になるだろう。

事実、警察はそう判断していた。しかし、この部屋に集まったメンバーは知っていた。

一切証拠を残さず、姿を消して行動し、都合の良いときだけ現れることが出来る猫のような小動物的存在を。

 ――ガンッ

さっきから黙ったままだった良牙が壁を叩いた。

みしみしとなびきの部屋の壁はヒビをつくってへこんでいく。

「つまり、キュゥべえがあかねさんを重体にしたってことかよ」

良牙の瞳には抑えきれない怒りが力強く宿っていた。

「いつものことだけどちゃんと修理してきなさいよ」

そんな良牙になびきは平然とツッコミをいれる。

「いつものことなのかよ!?」

杏子のごもっともなツッコミは、天道家関係者の面々には通用しなかった。

「なびきはえらく冷静じゃねーか」

良牙と同じく、いや、それ以上にらんまも怒気をはらんだ声をしていた。

キュゥべえがあかねを重体にしたとすれば、それはおそらくらんまを魔法少女にするためだ。

自分のせいで、あかねが巻き込まれた。

自分を魔法少女にするなんていうちっぽけな目的のためにあかねを半殺しにした。

あかねが無事に戻ってきたからといって許せるものではない。

そんな自己嫌悪と怒りが入り混じったらんまに対してなびきはいかにも淡々としているように見えた。

「そう見える? ……でもね、あたしは決めたわ。 キュゥべえに吼え面かかせるってね。」

その言葉に、らんまは衝撃を受けた。

「なびき!? わかってるのか、そんなことしても1円の得にもなんねーんだぞ?」

「ええ、そうよ。今までは魔法少女だなんだといっても小遣い稼ぎに使うことしか考えてなかったけど……
やっぱり自分の妹をそんな風にあつかわれちゃ許せないわね」
292 :らんまマギカ17話5 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/01/17(火) 01:12:59.32 ID:sP2uYOMT0
なびきはきっぱりと言い切る。らんまはそれでようやくなびきも自分と同じぐらいに怒りに震えているということを理解した。

「……いや、この場合金がどうとか言い出すほうがおかしいだろ?」

「なびきさんというのはそういう奴なんだ」

杏子の常識的なツッコミに、良牙が答える。

あたりまえのことを当たり前にツッコまれるというのは、らんまや良牙にはなんだか斬新な気がした。

「それでね、ひとつ聞きたいんだけど、あんたたち魔女って何だと思う?」

「なんだいきなり? そりゃ人を食う化けもんだろ……人間のマイナス感情がどうたらとか言ってたっけ?」

ふいに質問するなびきにらんまが答えた。キュゥべえから聞いた説明のまんまである。

「その人間のマイナス感情から生まれたモンスターがどうしてグリーフシードなんてものを落とすの?」

なびきは質問を続ける。

「そういう風にできてる……って答えじゃダメなのかい?」

今度は杏子が問い返した。

彼女にとって魔女は人をおびやかす怪物というよりは、エサを落とす獲物である。

魔女はエサを落とし、彼女はそれを狩る。

それが、杏子にとっての魔法少女であって、それ以上の事は今まで考える必要もなかった。

「別にかまわないけど、そのモンスターが落とすアイテムとソウルジェムが対応してるのって変だと思わない?
たまたまやっつけた化け物から便利な回復アイテムが出てきましたーなんてどこの安っぽいテレビゲームよ」

「確かに都合が良いな」

らんまがうなずく。

「都合が良いなんてレベルじゃないわよ。
この際だから言っとくけど……多分ね、グリーフシードとソウルジェムは同じ技術で出来てるわ」

「……つまり?」

いまいち分かっていない良牙がたずねる。

「ああもう、鈍いわね。魔女は、キュゥべえかその仲間が作ってるってことよ」

「なんだって!?」

良牙は唖然とした。もし魔女を作ったのがキュゥべえだとしたら見滝原で自分やマミがしてきたことは何だったのか。

魔女と魔法少女を作って戦わせあってキュゥべえは何をしたいのか。

「わかんねえな、それじゃ何のために魔法少と魔女を戦わせてるんだ?」

今度は良牙に代わってらんまがなびきに質問した。

「そんなのあたしにも分かんないわよ。でもね、今回のことで分かったでしょ?
 キュゥべえは必要とあらば自作自演ぐらいやっちゃう奴だって」

なびきの言葉に杏子が答える。

「ああ、理由は分からないけど、あいつがクズだってことだけはよく分かった。
でさぁ……他の魔法少女もそうやって騙されて契約した可能性があるわけだよな?」

「……ひょっとして、お前もか?」

らんまはまだ杏子がどういう経緯で魔法少女になり浮浪少女になったのか聞いていない。

だが、杏子が真っ当な人生を送っていないことは明らかだった。

その背後にキュゥべえの悪巧みがあるとしたら、キュゥべえはとんでもない悪党だろう。

「いや、あたしじゃない。あたしの場合は完全にただの自業自得だからさ。
でも、交通事故で魔法少女になったって奴が知り合いにいてね。」

「まさか、マミちゃんが!?」

杏子の言っている魔法少女に良牙はぴんと来た。

以前にちらっとそんな話を聞いたような気がしたからだ。
293 :らんまマギカ17話6 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/01/17(火) 01:14:08.95 ID:sP2uYOMT0
杏子は無言でうなずいて良牙の言っていることを肯定する。

「よし、俺はいったんマミちゃんの所へ行ってこのことを話してこよう!」

マミが心配になった良牙はそう決意する。

「おめー1人が行っても迷子になるだけだろーが」

そんな良牙にらんまは冷静にツッコンだ。

「じゃあ、あたしも行くよ。見滝原ならあたしの方が詳しいしな」

杏子は良牙の方向音痴が人知を超えたレベルであることを知らない。

だから地理に詳しい人間がついていくという言い回しになった。

「うーん、あんこちゃんは良いとしてさ、良牙くんは今はウチから出てかない方が良いと思うわよ」

そこでなびきが横槍を入れる。

「……へ? なんで?」

「良牙くんがそれでいいなら構わないんだけど、あかねとの許婚の話があるのにさ
それをほったらかしてよその女に会いに行ったんじゃ完全に破談だと思われるわよ?」

「あっ……確かに」

良牙は間の抜けた声を出してうなずいた。

なびきとしてはあかねの許婚が乱馬だろうが良牙だろうがどっちでもいい。

実はなびきが許婚になってもいいのだが乱馬にしても良牙にしても互いに興味が無いし、利害も無かった。

だからこれは純粋にただのアドバイスである。

それもらんまにとっては複雑な思いだった。なびきがらんまを天道家から排除したがっているように見えなくも無い。

しかし、すでに身を引くような発言をしてしまっている以上、なびきや良牙をとがめることもできない。

今のらんまには良牙とあかねがどういう結論を出すのかを見守りつつ、男に戻る方法を探るしかなかった。
294 : ◆awWwWwwWGE :2012/01/17(火) 01:16:16.55 ID:sP2uYOMT0
以上、17話アップ終了です
らんまサイドはらんまサイドで別方面から真実に……
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/01/17(火) 01:49:16.39 ID:ZRWJMXB20
乙。

QBさん脇が甘いな。
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) :2012/01/17(火) 22:38:53.71 ID:/F8pjqZa0


応援してるよ
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/01/19(木) 08:08:21.57 ID:k2S6BobAO
トラックの運転手にQBが見えたってことは魔法少女になる資質があったってことか…
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/19(木) 20:48:47.71 ID:2EZBIr9Zo
来てた! 乙乙!

なんかあれだな、なびきが金とは関係なく積極的に動くってだけで安心感が違うな
QBは間違いなく地獄を見る
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/01/25(水) 20:53:39.24 ID:6artIU9o0
早く続きを読まして
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/01/26(木) 17:06:20.76 ID:MxbaKkeAO
ageないでくれるかな
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/26(木) 19:43:26.96 ID:4YIugSeDO
>>297故意に姿を見えるようにしたんじゃないか?
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/01/26(木) 23:54:05.29 ID:UjIPw1AAO
なんでわざわざそんな事しなきゃならんの?
消えてれば目撃者を出さずにすんだのに
303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/27(金) 00:02:38.17 ID:DEulsxgDO
見えたから事故を起こしたわけでして
304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/01/27(金) 08:13:39.24 ID:azwPeoMAO
>が、男がアクセルから足を離したのにもかかわらず、なぜかトラックは加速した。
>「なんだ!?」
>男は足元に目をやる。
>すると、白い猫…のような生き物が前足で思い切りアクセルを踏んでいた。
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/27(金) 13:20:50.71 ID:DEulsxgDO
アレじゃね
QBさんも目立ちたかったんじゃね
306 : ◆awWwWwwWGE :2012/01/30(月) 23:48:19.48 ID:8dPgHRDH0
遅くなってすみません

QBがトラックの運転手に姿を見せたのはパニックにさせるためのわざとです。
だから時間調整で灰皿ひっくりかえしたりの時は姿をあらわさず

・・・・・・本文中でわかりにくくて申し訳ない
307 :らんまマギカ18話1 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:副題『アンドロメダ杏子』]:2012/01/30(月) 23:50:21.53 ID:8dPgHRDH0
まるで、この世のすべてが変わってしまったようだった。

今朝の通学路は、いつもと何も変わらないのに異次元を歩いているかのような違和感を覚える。

それでも美樹さやかはいつもと変わらぬ体を装って歩く。

「おはようございます、さやかさん」

「おはよー、仁美」

やがていつものように志筑仁美と合流する。いや、少し仁美は落ち込んでいるように見える。

それは自分の心理を仁美に投影してしまったからなのか、本当に仁美が落ち込んでいるのか、さやかには判断がつかなかった。

「どうしたんですか? 今日はひどくやつれたような……」

「え、あたしが?」

さやかとしてはいつも通りの顔でいるつもりだったのに、全然隠せていなかったらしい。

「あー、いや、昨日部屋の空調が壊れててさ、ぜんぜん寝付けなかったのよ」

無理矢理に笑って、さやかはごまかそうとする。

空調が壊れていたなんていうのは嘘八百だが、寝付けなかったというのは本当だ。

むしろ寝付ける方がどうにかしているとさやかは思う。

(あたしは人を殺した――!)

その衝撃が、あの織莉子という魔法少女の声が、彼女を捻り上げていたときの感触が、昨日一晩中さやかを責め続けていた。

そして、今もそれは止まない。

「そういや仁美もちょっと落ち込んでない、何かあった?」

とても隠せ通せない、そう思ったさやかはすばやく話題を仁美の方に切り替えた。

「ええ、それが……」

すこし間をおいてから仁美は口を開いた。

「私の知り合いが亡くなってしまったのです」

「えっ!?」

驚きの声をあげるさやかに構わず仁美は言葉を続ける。

「それが、昨日学校に来た美国織莉子という方で――」

(その子を殺したのはあたしだ!)

自分が、仁美の知り合いを殺した。受け入れたくない事実が何も知らない仁美の口から容赦なく告げられる。

「あの人は、とても由緒正しい家柄でしたのですが、とある事件をきっかけに世間から後ろ指を指されるようになって……
ご家族が自殺をされてしまい、美国さん自身もショックで学校に通えなくなってたんです」

魔法少女になるような少女にはたいてい何らかの事情があるだろう、しかしそんな重い過去を背負っていたなんて
さやかは知らなかったし、知りたくなかった。

自分が死に追い詰めた人間の話など聞いても、より心が苦しくなるだけだ。

「そんな折、美国さんからわたくしに電話がありまして、学校に復帰したいとおっしゃられたので
昨日は見滝原中学にお連れしたのです。 美国さんほどの方がわたくしを頼ってくれたのがうれしくて、
ぜひとも美国さんを学校に復帰させてあげて……わたくしやさやかさんやまどかさんの友だちの輪の中に
入れてあげたいと思っていたんです。 それが――」

(そんな……)

一歩間違えなければ、あの美国織莉子という魔法少女と仲良くやっていたのかもしれない。

それがなぜ、このような血染めの裏切りになってしまったのか。

落ち込む仁美の表情に、さやかは猛烈な後悔と自己嫌悪とを募らせる。

「そ、その死因はなんなの?」

やっとの思いで、さやかは質問を返した。

「……強盗殺人だそうです。遺体のまわりに多数の銃痕や争った後がみられるとか。
お金持ちなのに中学生の少女が1人で暮らしていたのですから、犯人にとってはねらい目だったのでしょう」
308 :らんまマギカ18話2 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/01/30(月) 23:51:17.82 ID:8dPgHRDH0
十分すぎるぐらい、さやかとほむらが暴れた跡は残っている。

仁美の言葉はそれを意味していた。

(あたし、もしかして警察に捕まるの? そうじゃなくても……仁美にあたしがやったとバレたら……)

魔法少女が本気を出して警察に抵抗をすれば逮捕はされないかもしれない。

しかしさやかにはそこまでして社会を完全に敵にまわして生きていく勇気も自信もなかった。

それならば、さやかは罪を白日の下に暴かれることをおびえ続けて生きていかなければならない。

さやかは自分の未来がすでに絶望的に暗いものに変わってしまったことを知った。

しばらくしてまどかが合流すると、まどかもやはりさやかの表情を見て、何があったのか聞いてきた。

そしてまたさやかは「エアコンが壊れて」と言ってごまかす。

『もしかして、魔法少女のことで何かあったの?』

まどかは気を使ってテレパシーであらためて語りかけてくる。

『……ごめん、今は言えない』

誤魔化しきれない、そう判断したさやかはまどかの質問をぶっきらぼうに受け流す。

案外、まどかの直感は鋭い。とくに勘ぐりもせずに平然と人の内面を見透かしてしまうようなところがあるのだ。

普段ならばさやかにとって、まどかのそういう所はありがたいのだが今回ばかりはうっとおしかった。

自分の内面を暴かれるのが怖い、さやかははじめてまどかに対してそう思った。

*****************

教室に着くと、いつもと変わらない朝の時間が流れていた。

男子も女子もいつものように他愛も無い話をして過ごしている。

暁美ほむらもいつもと変わらない様子だった。

さやかがこれだけ重荷を感じているというのに、ほむらは泰然自若としている。

彼女は自らが人殺しの主犯だというのになんとも思っていないのだ。

(きっとこいつは根っからの人非人なんだ)

さやかはそう思っておくしかできなかった。

そして、そろそろ授業が始まるという時間に、ちょっとした……しかしさやかにとってはとても大きい異変がおこった。

上条恭介が学校に来たのだ。

痛々しい松葉杖をつきながらも、恭介は男子の友人たちに笑顔で対応している。

「あれ? 上条くんが退院って聞いてた?」

まどかがつぶやく。

聞いていない、さやかは恭介が退院しただなんて、今日から学校へ来るだなんて全く聞いていなかった。

なぜ、足しげく見舞いに通った自分に連絡のひとつも無いのか。

ただでさえ精神的に参っているのに、こんなおかしな事態が起こり、さやかはどうしたらいいのか全く分からない。

結局、授業が始まる前には、さやかは上条恭介に声をかけられることすらなかった。

そして、授業終わりにさやかは作り笑顔で「退院したんだ」と、恭介に声をかけた。

恭介はぎこちなく「あ、ああ」と答える。二人の会話はそれだけだった。

さやかは恭介に何かを言いたくても昨日の出来事が重過ぎて、何も言うべき言葉が出てこなかった。

一方の恭介が何を思って自分に対してこんなに素っ気無いのかは分からない。

しかし、その理由が何であれ、さやかは自分が抱えたものが大きすぎてそれどころではないのだ。

まどかにも仁美にも、恭介にも言えない。さやかに今までそんな秘密があっただろうか。

授業など、もはや全く耳に入らなかった。先生にしかられても何とも思えない。

まさに心ここにあらずといった状態だった。
309 :らんまマギカ18話3 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/01/30(月) 23:52:42.44 ID:8dPgHRDH0
そんな状態で昼休み、さやかが校内を歩いていると偶然、仁美と恭介がなぜか一緒にいるところに出くわした。

「あっ」

驚いたような声を出して、仁美と恭介はなぜか慌てて離れる。

「えっ? どうしたの?」

「い、いえ、なんでもありませんわ」

言葉とは裏腹にどこかそわそわした、気まずそうな仁美の態度が「なんでもない」ことはないと物語っていた。

「志筑さんの知り合いが亡くなったって話を今してて――」

恭介は、朴念仁ゆえにさやかと仁美の間の微妙な空気に気が付かないのか、それとも気が付いたからフォローのつもりなのか、
クソ真面目に状況を説明しだした。

(それで、仁美は恭介になぐさめてもらってたっていうの……?)

それの意味するところはさやかにはよく分かった。

そして、なぜ仁美が気まずそうな態度を取るのかも。

「……そうなんだ、それじゃ!」

さやかはわざと平然とした態度を装って、走って二人のよこを通り過ぎた。

いつものさやかなら「あんたにゃ負けないわよ」と正々堂々と明るく競い合えたのかもしれない。しかし――

(人殺しのあたしに……そんな権利なんてない!)

織莉子を殺した自分に、そのことで悲しみにくれる仁美を、彼女をなぐさめる恭介を非難することなどできるはずもない。

ましてや、恭介に自分の胸のうちを分かってもらうことなど、許されるわけがない。

さやかは二人に見せないように涙をこぼして走り去った。

*****************

早乙女和子の担任のクラスは二年生だが、授業は三年生の分も受け持っている。

今日も、三年生のクラスで授業開始前の出席をとっていた。

「……さん」

「はい」

「……さん」

「はーい」

「……さん」

「ちょっと待ってよ!」

その最中に、誰かが割り込んだ。

「どうしました?」

早乙女和子は、出席簿に向けていた顔をあげて生徒の方を見た。

するといまいち見慣れない女子生徒が手を上げている。

「先生、ひどいや。私を飛ばしてます」

黒い短めの髪をしたその生徒が誰なのか、早乙女和子は分からなかったので再び名簿に目をやった。

(……あっ!)

そこには確かに飛ばしていた生徒の名前があった。

不登校の生徒なので、いつも出席確認のときは飛ばしていたのだ。

「呉キリカさん、あなたは何ヶ月ぶりの出席ですか?」

「そのせっかくの何ヶ月かぶりの出席を無視しないでよ」

生意気にも屁理屈を言って反発するその姿に、早乙女和子はあきれてため息を漏らした。

*****************
310 :らんまマギカ18話4 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/01/30(月) 23:53:32.43 ID:8dPgHRDH0
呉キリカは、授業が終わると巴マミをつけた。

いきなり襲うことはしない。

この見滝原には他にも何名かの魔法少女がいるらしい。

だとすれば闇雲にしかけて2対1あるいは3対1などの状況に陥る愚は避けなければならない。

同じ理由で、使用済みグリーフシードを使って結界に誘い込むことも避けるべきだろう。

以前の風林館ではその辺のリスクを軽視して失敗したのだ。今回は同じ轍を踏むわけにはいかない。

仇討ちだからといって、何もすぐに始末する必要は無いのだ。

むしろ、時間をかけてでも確実にしとめなければならない。

そのために、まずは巴マミの生活を監視し、1人になってなおかつ油断しているタイミングで仕掛ける。

それが、キリカの作戦だった。

下校するマミがぎりぎり自分の視界に入るぐらいの距離で、キリカはその後ろを歩く。

これならたまたま同じ方向に下校する中学生がいるぐらいにしか見えないだろう。

そんなことを思いながつけていると、マミはどんどん町外れへと歩いていった。

(巴マミはこんなところに住んでいるのか?)

いつの間にやら工場や資材置き場がならぶ工業地区に来てしまっている。

一般民家はあたりにほとんど見られなかった。

さすがにこのあたりで同じ中学の生徒が一定の距離をたもって歩いているのは怪しいので、キリカは身を隠しながらつけた。

(家にも帰らずそのまま魔女退治に行く気なのかな?)

キリカがそんなことを思っていると、マミはついには堤防にのぼり人気の無い河川敷に出た。

さすがに河川敷ではほとんど身を隠す場所など無い。

キリカは距離をとって、おなじく河川敷にその姿をさらす。

すると、マミははっきりとキリカの方を振り向いた。

『なにか、用かしら?』

それと同時にテレパシーを飛ばしてくる。

『まいったね、つけられてるか確かめるためにこんな所まで誘い出したのかい?』

『ええ。あなたに魔法少女の素質があることは見ただけでわかったから』

敵ながらたいした奴だ、キリカはそう思った。

ここなら魔法少女のことについて話し合っても他人に聞かれないし、戦っても一般人を巻き込まない。

彼女なりに魔法少女と人間としての生活を両立させる術が身についているのだろう。

世の中からつまはじきにされていた自分や織莉子とは違う。

その点にキリカは感心を抱くと同時に、いらだたしさを覚えるのだった。

(でも、ここに誘い出したのは結果的にはおろかだね)

巴マミは刺客である自分と一対一で対峙する状況を自ら作り出してしまったのだ。

キリカはにやりと口元をゆがめると、無言でソウルジェムを掲げ変身をした。

もう魔法少女とばれてしまっているからには、隙をうかがっても無意味だ。

町外れで一対一で向かい合っている今のこの状況以上に暗殺に良い状況など訪れないだろう。

(今この場でケリをつける)

キリカはその決意を固めた。

「どうやら、話し合いをしに来たわけじゃないみたいね」

マミとしては結界の外で変身するのはためらわれるが、そういう状況でもないらしい。

マミはしぶしぶ変身をした。
311 :らんまマギカ18話5 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/01/30(月) 23:55:26.65 ID:8dPgHRDH0
すると、マミが気持ちを切り替える間もなく、キリカは襲い掛かった。

「えっ!?」

さっきまで十分な間合いを保っていたはずの相手がいきなり目前にまで近づいてきたので、マミは思わず驚きの声を漏らす。

とっさに召喚した銃でかろうじて敵の鉤爪を受け止めるものの、何度でも持ちこたえられるようなスピードではない。

「ワケぐらい言ってから戦いなさいよ!」

マミがそう叫びながら銃を放つと、その弾丸はリボンとなって広がった。

キリカはリボンにつつまれ、マミはいったん後ろにおおきく飛び退いた。

だがすぐにキリカはリボンを切り破り、向かってくる。

マミは銃を構えるが狙いをつける暇も無い。発射した銃弾はあっさりとかわされた。

(ダメね、リボンも銃弾も効かない――)

「それじゃ、これならどう!?」

そのセリフと同時に、マミの銃から円錐状に黄色い光が広がる。いわゆる散弾銃だ。

しかしキリカは猛スピードで、散弾が広がる前まで近づいて回避する。

「しまっ……」

マミとしては予想外にまたも距離を縮められたかっこうだ。

「あぶないあぶない、あんな攻撃もあったなんてね」

急に近づかれ、マミはとっさに銃で頭から上半身をガードする。

一方のキリカは冷静に、がら空きになった太ももを切り刻んだ。

「うっ」

マミは痛みに耐えながらも、今度は発煙弾を放った。

濃い煙がまき起こり、視界をうばう。

(こんな弾もあるのか…)

キリカはマミの戦術の幅の広さに舌を巻くものの、またもニヤリと口元をゆがませた。

「隠れたって無駄だよ、これならどうだい!」

そう言ってキリカは闇雲に四方八方に鉤爪を投げまくる。

どうせ脚にダメージを負った巴マミはすばやく動けないので避けられない。

だとすれば防御するしかないだろう。その、鉤爪がぶつかる時に音がする方に巴マミはいるはずだ。

やがて金属同士のぶつかる高い音が煙の中から響いた。

キリカは迷わずその音の方向に飛び込む。

が、晴れてきた煙の隙間から、何かとてつもなく巨大なものが見え、慌ててキリカは飛び退いた。

「……大きいね」

キリカの眼前には途方も無く巨大な拳銃がそびえ立っていた。

「あなたの一撃は軽いわ。私はこの一撃で決めてみせる」

マミは毅然と、その大きな胸を張って言い切った。

「へえ、そうかい、じゃあこれならどうかな!?」

キリカは手に握っている鉤爪の本数をさらに増やす。

(それでも、決めなければならない)

敵はおそらく圧倒的なスピードに任せてまたまっすぐ前に向かってくる。

それでも小さく避けて弾が当たらないのがこの敵の恐ろしいところだ。

だが、炸裂弾を使えば小さい避け方では無意味になる。

もちろん普通に炸裂弾を撃っても、さっきの散弾がかわされたように懐にもぐりこまれておしまいだろう。
312 :らんまマギカ18話6 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/01/30(月) 23:57:14.99 ID:8dPgHRDH0
そこで、今度はマミは自分自身の眼前まで爆風の範囲になるように弾丸を炸裂させるつもりだった。

そうすれば敵がマミを標的とし、前から襲ってくる以上、回避は不可能になるはずだ。

やがて、キリカが動き出すと同時に、マミは砲を放つ。

キリカは圧倒的なスピードで弾丸の横を通り過ぎた。これは予定通りだ。

そして、瞬く間も無くマミに近づいてくる。

このタイミングで炸裂弾が爆発し、キリカの背後を襲うはずだった。

しかし、爆発は起こらない。

やむなくマミはとっさにマスケット銃を召喚して目前までせまったキリカに殴りかかった。

キリカは難なくそれをかわし、マミの太ももに深々と鉤爪を突き刺した。

そして、反撃を加える間もなく、マミの後ろへと駆け抜ける。

ヒット&アウェイを基本戦術にしているらしい。

やがて、炸裂弾が爆発したのはキリカが十分にマミから離れたそのタイミングだった。

マミが想定していたタイミングよりかなり遅い。

「うん、こうすれば、すぐには回復しないね」

大きな独り言をつぶやきながら、キリカはマミの方を振り返った。

マミはすでに地面にひざをついている。

鉤爪がささった脚ではもはや体を支えられないのだ。

「さて、これでもう避けられないな。あとは仕留めるだけだ」

満足げにうなずき、キリカはまたもマミに向かっていく。

マミは動かない脚をひきずって無理矢理キリカの方を振り返った。

まだ抵抗の意思は失っていないが、もはや策は無い。

あったとしても仕掛ける暇が無いだろう。

(当てるしかない!)

マミは銃を両手で抱え、狙撃手のように目線と銃口の向きを合わせた。

 パァン

マスケット銃は大きな音だけをならして、あっさりとキリカに避けられた。

この状況で最後の狙撃も外れ、もはや状況は絶望的だった。

(まるで、私が撃って弾を見てから避けているみたい……)

マミは自分の死が迫る中、ぼんやりとそんなことを思った。

最後まで敵の能力を分析して勝機を探っているというわけではない。

自分の死を考えたくないから半分諦めの気持ちで思考を別のことに回しているに過ぎなかった。

だが、そんな思考がふいにヒントをもたらした。

(ちょっと待って、本当に見てから避けているとしたら!?)

猛スピードで動きながら細かく弾丸を避けられる異常な反射神経、爆発のタイミングが大きく遅れた炸裂弾。

もし、キリカの周りだけ時間がゆっくり進んでいるとしたら、それですべての説明がつく。

(もっと早くに気付いていれば……)

キリカの能力は恐ろしい能力ではあるが、全く対処のしようが無いわけではない。

しかし、脚に鉤爪をめり込まされ、こちらの手の内も多く見せてしまった今となっては立て直しようもなかった。。

マミは迫ってくる黒い魔法少女に、彼女によってもたらされる確実な死を前にして瞳を閉じた。

魔法少女として生きてきた以上、いつか魔女や魔法少女に殺されて死んでしまうことは想定済みだった。

相手の魔法少女は特徴から見ておそらく杏子やらんまが言っていた魔法少女狩りの犯人だろう。
313 :らんまマギカ18話7 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/01/31(火) 00:01:16.66 ID:fK9Obdfa0
(せめて、杏子や美樹さんに彼女の能力の内容だけでも教えてから死にたかったわね)

そんなことを思い、最後の瞬間を待つ。

……が、その瞬間はなかなか訪れなかった。

不思議に思い、マミはそっと目を開ける。

そのすぐ目の前には見慣れた赤い魔法少女の姿があった。

「おいおい、戦闘中にオネンネとはずいぶん余裕じゃねーか」

聞きなれた声がマミを叱咤する。

黒い魔法少女は飛び退いて間合いを取ったらしく、やや遠くに見えた。

「……え、き、杏子!?」

なぜ今ここに杏子がいるのか、驚きとうれしさでマミは気持ちがいっぱいになった。

「ったく、昔みたいにこの河原で修行してるのかと思ったらこのザマかよ」

杏子の言葉に、マミは昔よくここの河原で一緒に魔法少女の修行をしていたのを思い出した。

(その感傷に浸って……まさかね?)

「誰かと思ったら佐倉杏子、大丈夫だ。巴マミはもう動けない、佐倉杏子と一対一なら勝てる」

再会をよろこんだり互いの無事を確認する暇も無く、キリカが間に入ってくる。

せっかくのとどめを邪魔されたキリカだったが、相手に味方が来たところで引くつもりは無かった。

ここで巴マミを殺せなければ、学校からキリカの名前や個人情報にアシがつく。状況が悪くなるだけだ。

「言ってくれるね。でもさ、あんたみたいな単純な戦い方がいつまでも通じると思うんじゃないぜ?」

キリカの言葉を挑発と取った杏子は、負けじと言い返した。

「じゃあ、やってみるかい!?」

言い切るのが早いか動き出すのが早いか、キリカはすばやく杏子に襲い掛かる。

杏子はマミを巻き込まないように、いったん大きく横に跳んだ後、長大な槍を召喚した。

槍はすぐにバラバラにわかれ、鞭のようにしなう多節棍へと変化する。

杏子はそれを振り回しながらぐるりと自分の身の回りに張り巡らした。

キリカは棍に当たりそうになって思わずあとずさる。

多節棍により全方向が防御され、どんなにすばやくてもかいくぐる術は無かった。

「かかってこないのかい? それじゃ、あたしからいくぜ!」

そう言って杏子が腕の振り方を変えると、多節棍の槍になっている先端がキリカに襲い掛かった。

それを避けることぐらいはキリカにとってわけはない。

敢えてギリギリで槍を避けると、キリカは鉤爪を槍の向かってきた方へ投げた。

鉤爪は途中ではじかれることなく杏子に向かって飛んでいった。

いかに全方向を防御しているとは言え、自分から攻撃する場所は空けておかねばならない。

キリカはそれを狙ったのだ。

しかし投げた鉤爪は簡単にかわされる。

「へぇー、あんた動き回るのは速いくせに投げた武器はそれほどでもねーな」

杏子がそんなことを言って、マミはようやく自分の言うべきことを思い出した。

「杏子、その子の能力は時間遅延よ! 自分以外のものすべてを一定範囲内でゆっくりさせるの!」

マミのその台詞にキリカは思わず舌打ちをした。

能力がばれてしまうと言うのは魔法少女の戦いにおいては明らかに不利である。

「わかったところでどうしようないさ!」

それでも、キリカは飛び上がって再び杏子に襲い掛かる。
314 :らんまマギカ18話8 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/01/31(火) 00:02:53.32 ID:fK9Obdfa0
今度は高く飛び、杏子のほぼ真上にあがった。

「なるほど、いくら振り回しても上からだったらガードが甘いってか……でもさ、」

杏子はそうつぶやくと、キリカに合わせて飛び上がった。

「こうしたら、意味無くないかい!?」

飛び上がった杏子の棍が前から、そして地に置いていた刃のついた槍の部分が下から、同時にキリカに襲い掛かった。

いくら時間遅延ができても空中では動きは大きく制約される。

キリカはついに避けきれず、杏子の棍に直撃された。

それでもなんとか受身を取って着地し、即座に反撃に移ろうとする。

が、すでにその反撃の芽は摘まれていた。

キリカの着地したところはすでに杏子の多節棍によってぐるりと囲まれていた。

「へへ、あたしの勝ちだな」

キリカよりやや遅れて着地した杏子がニヤリと微笑んで見せた。

それと同時に、キリカを取り巻いていた多節棍は蛇が獲物を締め上げるように縮まっていき、全方向からキリカに襲い掛かった。

頭上からも蛇の頭のような大型の刃がキリカに向かって落ちてくる。

どんなに素早かろうが、時間を遅延させようが、全方向から襲ってくる攻撃を避ける術など無い。

キリカは見事に締め上げられた。

やがて杏子が魔法を解いて多節棍を消すと、キリカはそのままバッタリと倒れた。

全身の骨がボキボキと折られて、いかに魔法少女と言えもはや動けないのだ。

「さて、お前が魔法少女狩りの犯人だな?」

杏子はキリカの様子をうかがいながらゆっくりと近づく。

ようやく鉤爪を抜いたマミも、脚を引きずりながらキリカに近づいた。

そして、念のためにキリカの脚を銃で撃ち抜く。

マミとしては逃げたり反撃されないようにするための措置だが、キリカには自分がやったことの仕返しをされたように思えた。

「まずはなんで私を襲ったか聞かせてもらえるかしら?」

「おまえは……織莉子を殺した」

もはや動かすこともできない体で無理矢理首だけマミに向け、キリカは言った。

「オリコ?」

聞き覚えの無い名前にマミは首をかしげる。

そして、杏子の方を向いてみるが杏子も肩をすくめて「知らないよ」とジェスチャーをした。

「キュゥべえが言っていた、織莉子は見滝原の魔法少女に殺されたとね」

そう言われても覚えの無いマミとしてはどうしようもなかった。

自分に何も言わずそんなことをする見滝原の魔法少女が居るとすれば、それはあの暁美ほむらという転校生だろう。

ここでキリカが自分を襲ってきた以外は善良な魔法少女であるなら、マミは彼女を回復させた上で
その辺りの事情を説明しただろう。

だが――

「この子、魔法少女狩りの犯人よね?」

マミは杏子を振り返る。

「ああ、あたしも襲われたんだ、間違いない。こいつの身の上話なんてどうでもいいから
とっとと始末しようぜ?」

杏子は平然と殺害をうながした。

「確かに、私は魔法少女狩りの犯人だ。でも、キミたちは間違っている!」

この期に及んで、キリカはまだ上から目線の言い方をする。冷めた目をするマミと杏子に対して、キリカは言葉を続けた。
315 :らんまマギカ18話9 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/01/31(火) 00:03:48.40 ID:fK9Obdfa0
「魔法少女狩りの目的は世界を守ることだ」

「は? せ、世界?」

マミはよく分からない言い訳に素で混乱した。

「もうひとつ、キミたちは私に勝ったつもりでいるらしいけど、これで終わりじゃない。キミたちが絶望するのは……これからだ!」

そう言ってキリカは自らのソウルジェムを掲げた。

真っ黒なソウルジェムには、大きな亀裂が走っている。

「うわっ、黒!」

杏子は思わずつぶやいた。そのぐらい、ソウルジェムは黒く染まっているのだ。

しかしソウルジェムからあふれ出した黒い濁りがそんな悠長な事態ではないと告げていた。

いつの間にやらあたりは結界に包まれ、真っ黒いソウルジェムはその形を崩していく。

やがてそのソウルジェムは、ぐんぐん大きくなり女性の上半身をいくつも連結したような奇妙な化け物へと姿を変えた。

「……え、これって?」

「まさか……」

ソウルジェムとグリーフシードは同じ技術で出来ている、その言葉が杏子の脳内に無限再生された。

(つまり、ソウルジェムとグリーフシードは同じもの……だって!?)

「う、嘘……なんで魔女が、どうして魔法少女のソウルジェムから魔女が……」

マミは戦いの準備もせず、うわ言の様にただぶつぶつと繰り返した。
316 : ◆awWwWwwWGE :2012/01/31(火) 00:04:49.03 ID:fK9Obdfa0
以上、18話アップ完了

あれ? 今回まどかサイドしか出てない?orz
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/31(火) 02:26:15.89 ID:hDkLZ+aMo
乙!

…おりことキリカも良かれと思ってやってるんだろうが、この二人がでると状況悪化しかしないな…
318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/01/31(火) 05:16:58.23 ID:vlAtahrAO
お疲れ様です
どきどきします
319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/31(火) 09:29:10.58 ID:d/JdCFCDO
マミさんマミさんマミさんマミさんマミさんうわああああああああああっ
あ、乙です
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/12(日) 17:19:47.09 ID:pnncwK+Wo
そろそろ二週間か…
まだかなー
321 : ◆awWwWwwWGE :2012/02/13(月) 22:35:10.60 ID:hdC736YI0
更新ペース落ち申し訳ないです

ただいまよりうpします
322 :19話1 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:副題「報われない子たち」]:2012/02/13(月) 22:38:44.43 ID:hdC736YI0
「わからぬのぅ」

八宝斎は苦悩していた。

天道あかねに対しては孫娘に対するような優しさで接してきたつもりだった。

それなのにどうしてあかねがあんなに怒ったのか。

「ちょっと、あかねちゃんには早すぎたかのぉ」

独り言をつぶやきながら八宝斎は胸元から女性ものの下着を取り出した。

その下着は、その役割を忘れたかのごとく、女性の大事な部分を隠さずにむしろ露出してアピールするように
本来隠すべきところに穴が開いていた。

(高かったのに……)

彼にとって、まだ誰も着ていない下着などというものはよく使われた下着に比べて大きく価値の劣るものだ。

(仕方が無い、他の子にあげるかのう)

そんなことを思いつつ、八宝斎が商店街を歩いているとお好み焼き屋「うっちゃん」の看板が見えてきた。

(おお、そうじゃ、右京ちゃんならばこれを着こなせるじゃろう! あんこちゃんにはまだ何年か早いがの)

八宝斎は本人たちに見られれば半殺しにされるであろう妄想を抱きながらお好み焼き屋の前に立つ。

だが、「うっちゃん」の扉は固く閉ざされ、『支度中』の札が下げられていた。

「なんじゃ、昼時じゃから右京ちゃんがおらぬのは分かるが、今日はあんこちゃんも休みか……つまらん。」

それならば誰にこの下着を着せるべきか。

天道家のなびきは怖いのでできない、かすみはなびき以上に、怒らせたら一番怖いので手を出せるはずもない。

ひな子という一応弟子にあたるかもしれない女教師は、大人バージョンでは背が高すぎてサイズが合わず
子供バージョンでは背も胸も小さすぎて論外だ。

やはり、あかねと大差の無い身長でそこそこスタイルの良い女の子でなければならない。

「むっ、そうじゃ!」

八宝斎はひらめいた。

「あのシャンプーという中国娘なら、スタイルは抜群じゃし、このような下着も嫌がらずに着てくれるじゃろう!」

シャンプーは恥ずかしがり屋なあかねとも、中身が男のらんまとも違い、積極的に自らの体の魅力をアピールするタイプだ。

彼女ならば、きっとこの下着を完璧に着こなしてくれるに違いない。

(猿の干物が邪魔してくるかも知れんが、この際おかまいなしじゃ!)

八宝斎は夢追う少年のように瞳を輝かせてシャンプーの住む猫飯店へと向かった。

……が、『臨時休業』

またも予想外の休業に阻まれた。

「なんじゃなんじゃ、今日は何かお祭りでもやっとるのか!?」

そのときだった。

「アイヤー!」

紛れもないシャンプーの声が店の奥から聞こえてきた。

(むむっ、居るではないか……居るのに臨時休業とはコレいかに?)

八宝斎はからっきし能天気なので、都合の良いように考えた。

(たとえウェイトレスが元気でもコックが居なくては料理屋はできん。
きっとこれは、コロンめの奴が居らぬか風邪などでくたばっとるかじゃろう)

そうとなれば、八宝斎にとってこれはまさにチャンスである。

「シャンプーちゃーん!」

八宝斎は鍵がかかっているはずの扉をいとも簡単に開け、ジャンプして文字通り店内に飛び込む。

「……ぐぇっ!」
323 :19話2 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/02/13(月) 22:41:00.11 ID:hdC736YI0
が、そのいかがわしい飛行物体はあえなく木の棒によって撃墜された。

店内に居た老婆・コロンの杖が見事に八宝斎の脳天をとらえたのだ。

「まったく、人騒がせな。邪悪な気配が近づいて居ると思ったらハッピーじゃったか」

そう言いつつコロンは冷や汗をぬぐった。

「ぐぬぬ……この猿の干物が……」

八宝斎はダメージに身悶えながらゆっくりと顔を上げた。

すぐ目の前にいるのは猿の干物こと、コロン。店の奥には青い髪の少女と黒いおかっぱ髪の男が1人。男はムースである。

(……はて?)

そこに、青い髪の少女が二人居ることに八宝斎は気がついた。

1人は民族衣装に身を包んだシャンプーだが、もう1人は見慣れない制服を着て髪型はショートカットだ。

「え、人間なの? ソウルジェムが魔女の時みたいな反応してるんだけど……」

その見慣れない少女がしゃべった。

「あの老頭子とっても邪悪ね、たぶん、魔女より邪悪あるよ」

シャンプーが説明すると、ムースとコロンもそうだそうだとうなずいた。

「ワシが邪悪じゃと! ひどいではないか、ワシはシャンプーちゃんにプレゼントを持ってきたというのに!」

「プレゼント……?」

八宝斎の言葉にシャンプーは露骨にけげんな顔をする。

「はっ!? シャンプーちゃんまでワシをそんな目で……ええい、それならそこの女子でかまわん!
ワシのプレゼントをもらってくれんかの?」

「え、ええ? プレゼントって何を?」

八宝斎のノリとテンションについていけない青い髪の少女はついつい気圧されてしまう。

「なあに、お主ならサイズも合うじゃろう、胸はちょっと足らんがのぉ」

そう言って八宝斎が胸元から取り出したものは、黒色のハードコアな雰囲気を放つ下着だった。

それを手にして八宝斎は青い髪の少女の元へ飛び込む。

「ひっ!?」

思わぬセクハラに青い髪の少女はドン引きする。

しかし、

「クソジジイ、それ以上女子に近づくでねぇだ!」

「やめんか、ハッピー」

「女の敵、くたばるね!」

見事に三方からの一斉攻撃を食らい八宝斎は撃沈された。

「え、ちょっと、人間なんでしょ? こんなにして大丈夫なの?」

過激なツッコミに青い髪の少女は少々驚いた。

ギャグのノリでやっているが、猫飯店の三人からの一斉攻撃など食らったら不通の人間はただではすまない。

いや、魔法少女でも深刻なダメージになるだろう。

「かまわねえ、このジジイはもっと懲らしめねばならぬだ」

「そうね、この程度でくたばるよなジジイなら苦労しないアル」

ムースとシャンプーは口々に言う。

「でも、いくらなんでも可哀そうじゃ……」

青い髪の少女はそう言って、地に落ちた八宝斎を拾い上げようと近づいた。

「わー、なんて優しい子なんじゃ!」
324 :19話3 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/02/13(月) 22:43:38.95 ID:hdC736YI0
その少女に対し、八宝斎はあろうことか飛び込んで胸にしがみついた。

「え?」

青い髪の少女の表情が露骨に曇る。

「さやか、ハッピー相手に遠慮も手加減も必要ないぞい」

コロンはそんな青い髪の少女を煽る。

「あたしさぁ、今ちょうどむしゃくしゃしててさ、そういう時にこういう冗談はちょっと我慢できないんだわ」

さやかと呼ばれた少女はうつむき加減で八宝斎をひとまず引き剥がす。

その顔はどこと無く影が差している。そして、いつの間にやら手に剣を握っていた。

「かまわないね、存分にやるよろし」

「まー、刃は抜いてるから悪く思わないでよ……」

本能的に危険を察知した八宝斎は素早く飛び去ろうとするが、思いも寄らず、青い髪の少女に先回りされていた。

「なっ、お主ただものでは……っ!」

言っている間に一閃、鋭い太刀筋が袈裟斬りに振り下ろされた。

「ぐえっ!」

八宝斎の予想通り、その威力もただの少女のものではない。

そのただものの威力ではない斬撃が息をつく暇も無く幾重にも繰り出される。

さしもの八宝斎も滅多打ちにされるしかなかった。

*********************

さやかは放課後、猫飯店に来ていた。

理由は昨日、「殺人現場」を猫飯店のムースという男に見られたからだ。

さやかとしては昨日のことをまどかやマミに打ち明ける勇気はない。

しかし、ほぼ知らない相手なら人格を疑われたってかまわないし、吐き出す場所が欲しかった。

だから「事情を聞きたい」というムースの求めに応じ、全部ぶっちゃけるつもりで猫飯店に来たのだ。

「しかし魔法少女とは信じにくいものじゃな」

やがてコロンが言った。

八宝斎はいつの間にやら椅子で変わり身の術をつかって逃げ延びている。

「でも、信じるしかないね。あんなに早く怪我が治るわけないあるよ」

シャンプーの言葉にムースがうなずく。

「うむ、刃物で腕を貫いてもあっというまに元通りとは、驚いただ」

ムースの言うように、さやかは魔法少女というものがどういうものか知ってもらうために、
魔法で剣を出し、その剣で自分の腕を貫いて見せた。

剣を抜くとすぐに傷口がふさがり、腕を貫いたというのにほんの数滴の血がこぼれた以外はなんの痕跡も残らなかった。

そういって驚きの声をあげる猫飯店の面々に対して、さやかは寂しげな表情をした。

(普通の人からみれば、あたしはバケモノなんだ……)

猫飯店の面々はその戦闘能力の高さや非常識さにおいて決して普通の人ではない。

しかし、さやかにとっては魔法少女でなく、人殺しにも関わっていない人間など、もはや全く異次元の存在に思えた。

いや、彼らが異次元なわけではない、自らが一般人の常識の通じない世界へと行ってしまったのだ。

「ところで、早乙女乱馬や佐倉杏子の知り合いのようじゃがどういう関係じゃ?」

「ああ、マミさん……あたしの先輩の巴マミって人が佐倉杏子と魔法少女仲間で――」

さやかが言い終わらないうちにコロンは質問を上乗せした。

「つまり、早乙女乱馬と佐倉杏子は魔法少女なのじゃな!?」
325 :19話3 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/02/13(月) 22:44:42.46 ID:hdC736YI0
「う、うん、そうだけど」

顔を近づけ迫るりながら聞いてくる老婆にさやかは気おされる。

「では、響良牙はどうなのじゃ?」

「良牙さんは違うよ、男は魔法少女になれないし。良牙さんはむしろ――」

「変身体質あるか?」

今度はシャンプーがさやかの言葉をさえぎった。

「ひとの秘密を聞いて、こっちは隠してるのじゃ不公平ね」

きょとんとするさやかの目の前で、シャンプーは水の入ったコップを手に取った。

そして思いっきり……ムースにぶっかけた。

「え? おら――ガーッ、ガーッ」

しゃべる暇もなく、ムースはあひるに変身してしまっていた。

「良牙さん以外にもいるんだ!? しかも違う動物だし!」

「ちなみに、私は猫になるね」

シャンプーはそう言ってにっこり微笑んだ。

それなら何でシャンプー自身が変身しないのかと、さやかは思わないでもなかったが。

「ふむ、それで魔法少女ではない良牙がどうしておぬしらと関わっておる?」

「えーと、あたしにもよく分かんないんだけど、良牙さんがそのマミさんっていう先輩のところで
ペットみたいになって暮らしてたよ……マミさんと良牙さんがどうして知り合ったのかはしらない」

さやかのその答えでコロンは良牙の事情について大体の察しが付いた。

おそらくどこぞで迷子になってたところを助けられて情が湧いたとか、そんなところだろう。

つまりはあかねの時と同じである。

「では、魔女は魔法少女にならずとも倒せるということじゃな?」

「良牙さんぐらい強ければね、普通の人間には無理だと思う」

「そうか、こやつでは少々荷が重いかも知れぬのぅ」

コロンはガーガーとわめくあひるを眺めて言った。

それは「おらは良牙より弱くねえだ」と必死に訴えかけているように見える。

シャンプーはそんなムースのくちばしをつまんで強引に黙らせた。

「でも大事なことわかたね、乱馬のこと、たぶん魔法少女になったせいアルよ」

「うむ、おそらくの」

コロンとシャンプーは互いにうなずく。

「え? 乱馬さんがどうかしたの?」

「乱馬も変身体質ね。でも最近変身しなくなたアル」

それを聞いたさやかは早とちりをした。

乱馬がどんな小動物に変身するのかは知らないけれど、きっと変身体質を治すことに願いを使ったのだと。

そして、猫飯店一同は変身体質から元に戻る方法を聞きだすために自分を連れ込んで話を聞いているのだと。

「あんまりさ、お勧めできないね……変身体質が治ってもさ
その代わり魔女退治とか魔法少女同士の争いの毎日じゃ意味ないよ」

その言葉は乱馬やシャンプー・ムースに言ったのか、それとも自分自身に言ったのかさやかは自分でよく分からなかった。

「うん、乱馬の場合完全に裏目ね」

シャンプーはさもあらんとうなずいた。

「それで、魔法少女というのはどうやってなるものなのじゃ?」
326 : ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/02/13(月) 22:45:33.10 ID:hdC736YI0
訂正 >>325は19話4です
327 :19話5 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/02/13(月) 22:46:38.73 ID:hdC736YI0
「えっと、キュゥべえってしゃべる猫みたいなのが居て、そいつと契約して魔法少女になる。
その契約のときに魔法少女になる代わりにどんな願いでもひとつだけ叶えてもらえるんだ」

「どんな願いでも……」

その言葉に猫飯店の三人は考え込んだ。

「じゃとすれば、間違いあるまいな」

コロンが独り言のようにつぶやくと、あひるのままのムースもガーガーと鳴いてうなずいた。

そんな中、シャンプーだけが唖然としていた。

この猫飯店の三人には分かってしまった。乱馬が何を願って魔法少女になったのか。

状況証拠としてはそれしか考えられないのだ。

「おそらく、ムコ殿……いや乱馬は重症のあかねを治すために魔法少女に――」

コロンはゆっくりと、まるで諭すような口調で言う。

「そんなハズないね!」

それに対して、シャンプーは反発するように激しい剣幕で否定した。

「乱馬が、あかねのために人生投げ出すなんて! そんなこと、あるわけ……」

なぜシャンプーが激しい剣幕になるのか、コロンがなぜ乱馬のことを「ムコ殿」などと言いかけたのか、
その辺の事情はさやかには全く分からない。

ただ、乱馬が友だちを救うために契約した、つまりさやかに近い状況で魔法少女になったらしいというのは理解できた。

そして、シャンプーがその行為を「人生投げ出す」と表現したこともまた理解できてしまった。

「人生投げ出すって、どういうこと?」

うつむき加減で、腹の底からひねり出したような低い声をさやかは響かせる。

「あ……」

さすがにシャンプーはきまずそうに口をつぐんだ。

言っていることは確かにシャンプーが正しいのかもしれない。

ただの女子学生が終わらない戦いの日々に放り込まれるなんて人生を投げ出したのと同じことだ。

そして、人を殺めてしまった自分にはもはや普通の人生、人並みの幸せなど許されないだろう。

分かっている、なのにさやかの感情はその現実を目の当たりにされることに耐えられなかった。

「ひとまず、この辺でお開きにしようかの」

険悪なムードを見て、コロンが間に入った。

ムースもガーガーと鳴いてコロンの意見への賛同を表明する。

「長々と引き止めてすまなかったの、お主の情報は非常にためになったぞい」

「え? ちょっ……」

急にお開きということになってさやかは戸惑った。

「あたしが、あたしが人殺しになっちゃったってことはほっとくの!?」

「なぁに、魔法少女のことなどどうせ警察は信じてくれまい、誰もお主を捕まえたりはせんじゃろう」

違う、あたしがここに来たのはそんな言葉をもらいに来たんじゃない。

さやかは生気のない目でゆっくりと首を横に振った。

(人を殺しても捕まらないって、それじゃ魔女と一緒じゃない!)

そう思ったところで、さやかはようやく自分で気がついた。

なぜ自分がムースの求めに応じてほいほい猫飯店に来て、いろいろ情報を暴露したのか。

(あたし……裁いて欲しかったの?)

このまま一生罪の重さにおびえて生きていたくなどない、それでは恭介にも顔向けできない。

だから第三者に自分の罪を晒し、裁いて欲しかったのだ。
328 :19話6 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/02/13(月) 22:48:21.48 ID:hdC736YI0
その望みが果たせないと知り、さやかはうなだれた。

「すまぬ、こちらのシャンプーもちと余裕がない状態での、ひとまず下がってもらいたい」

コロンはさやかの耳元でシャンプーに聞こえないように小声で言った。

さやかにはその言葉に従い出て行くしか仕方がなかった。
329 : ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/02/13(月) 22:49:08.76 ID:hdC736YI0
以上、19話終了です
330 : ◆awWwWwwWGE :2012/02/13(月) 22:50:09.99 ID:hdC736YI0
うp終わり上げ
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/13(月) 23:00:47.98 ID:dUzunTYOo
まさか今日来るとは…乙おつ!

鬱展開が続くなぁ〜…らんま達が絡んでる以上、できればハッピーエンドで終わって欲しいけど…
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/02/14(火) 00:43:40.73 ID:Jiu2YNAJo
投下乙!
さやかここまで聞いても乱馬が男→女の変異体質だと気付かないか
気づいても別に何も変わらンが
さやか織莉子が言った魔女化云々について聞きのがしてるっぽい?
333 : ◆awWwWwwWGE :2012/02/22(水) 00:46:47.98 ID:iTgb6EbE0
誰も想定してないと思いますが、今からアップします
334 :20話1 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:副題『まどマギに将棋はイメージ合わないしね』]:2012/02/22(水) 00:48:48.93 ID:iTgb6EbE0
暁美ほむらはまっすぐ帰宅すると、見滝原市の地図を広げた。

そこには真っ赤な字で『ワルプルギスの夜想定ルート』という文字とその下方から赤い線がデカデカと引かれている。

ほむらはその地図の上に、チェスの白い駒を置いていく。

悪い状況ではない。

今回はまだビショップもナイトもルークも死んでいない。

今から『ワルプルギスの夜』が来るまでの間に全滅ということは無いだろう。

たとえ彼女らの何人かが抜けたとしても、あの響良牙という男や早乙女乱馬という魔法少女がいる。

ほむらはその二人をたとえる駒が思いつかず、さしあたってポーンで代用した。

そして、クイーンの駒を見つめる。

(まどかが出る必要は……ない!)

ほむらはクイーンを地図の外に置いて、キングを赤い線の真ん中に置いた。

今までほむらは何度もこの『ワルプルギスの夜』と戦ってきた。

しかし魔法ではなく本物の兵器を使う彼女の攻撃はまともに効いたためしがない。

おそらく、物理攻撃に対して極めて高い耐性があるのだろう。

ならば、攻撃に回る人員が十分な今回は自分は別の役割を果たすべきだ。

ほむらはそんな自分の無力さをキングに例えた。

駒の大半が広い範囲に動けるチェスにおいて、1マスしか動けないキングは決して強い駒ではない。

だが、タテ・ヨコ・ナナメすべてに動けるのはクイーン以外ではキングのみである。

それは敵を引きつけ、際どく避け続けるには十分な性能だ。

オトリになって敵をひきつける。それが、今回の作戦でほむらが考える自分の役割だった。

「今度こそ……勝てる!」

「なかなかにご機嫌だね、暁美ほむら」

そこへ、白い小動物が入ってきた。

その小動物は猫のような耳から触手のようなもうひとつの耳が垂れ下がり、普通の動物ではありえない姿をしている。

「私の部屋に入ってくるとは良い度胸ね。何用かしら、インキュベーター」

ほむらは振り向いたときにはすでに拳銃を手に握り、その小動物――キュゥべえに向けていた。

しかしキュゥべえはほむらの言葉を無視して地図の置かれた机の上に飛び乗る。

「へえ、『ワルプルギスの夜』対策かい。キミも意外と魔法少女の仕事に熱心なんだね」

「何用かと聞いているのよ」

ほむらはキュゥべえの頬に拳銃を押し当てる。

「やれやれ、人間のやることは分からないなあ。ボクがインキュベーターだと知っているのなら、
そんな脅しが無意味だということも知っているんじゃないのかい?」

その言葉にほむらは自らの唇をかみ締めた。

本人の言うとおりインキュベーター相手にこんな脅しは無意味なのだ。

殺したって意味がないし、敵意を表現したところでそれが通じる相手ではない。

「それに、これは楽観的すぎるシミュレーションだよ」

キュゥべえはそう言うと、するりとほむらの拳銃の脇を抜けた。

そして前足で器用に黒いルークを握って白のビショップの前に置く。

「どういうことかしら?」

「呉キリカが、巴マミを狙っているみたいだ。この分だと今にも戦闘が始まっているかもしれない」

そのキュゥべえの言葉の背景がほむらには理解できなかった。
335 :20話2 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/02/22(水) 00:50:02.41 ID:iTgb6EbE0
「織莉子がいないのに、まだキリカが魔法少女狩りを続けているというの!?」

「どうやら巴マミを美国織莉子の仇だと思っているらしいんだ」

ありえない。ほむらはそう思った。

織莉子殺しの犯人を断定できるほどの証拠は残っていなかったはずだ。

ましてや何の関係もない巴マミを犯人と思い込むなど普通ならありえることではない。

「よく理解できないわ。インキュベーター、あなたは見ていたはずよ、私と美樹さやかが美国織莉子を倒すところを」

「へえ、気付いていたのかい」

感嘆詞などつけながらも、インキュベーターには全く動揺した様子はない。

「ええ。あなたに集中しすぎて、あの暗器使いとかいうワケの分からない男は見逃したけどね」

話しながらもほむらは考えをまとめる。

呉キリカはなぜ巴マミを仇だと勘違いしたのか。

誤解に基づく敵討ちだと知りながら、なぜインキュベーターは自ら呉キリカを説得しないのか。

「……そう、あなたがわざと呉キリカに誤解させたのね」

インキュベーターの目的までは分からない。

しかし、状況から判断してそれしか考えようが無かった。最低でも未必の故意はあるはずだ。

「暁美ほむら、それは憶測だよ」

インキュベーターのその赤い瞳からはほむらは何の感情も読み取れなかった。

こちらの憶測に本気で抗議をしているのか、それともこちらに証拠がないから余裕をかましているのか、それすら分からない。

「そんなことよりも、このシミュレーション通りに『ワルプルギスの夜』を迎え撃とうと思ったら
巴マミに死なれたら困るんじゃないのかい?」

そこだけはインキュベーターの言うとおりだった。

ほむらは舌打ちをして、部屋を飛び出した。

******************

「こんにゃろう!」

勢い良く杏子は、背の高い魔女に飛び掛る。

 ヒュッ

しかし、風が通り過ぎたような音と共に彼女の槍はいつの間にか後ろに弾き飛ばされていた。

「なっ!?」

杏子には何をされたのかもよくわからない。

だが攻撃の一種だとすれば相当に速いことは間違いない。

杏子は巴マミの方を見た。

マミは未だに事態を理解できずに呆然としている。

この状態で狙われたら簡単にやられてしまうだろう。

(どうする? 守りながら戦うか!?)

杏子の魔法のレパートリーには防御魔法もある。

マミを守りながら戦うことも技術的には十分可能である。

しかし、先ほどまで魔法少女だった呉キリカとの戦いですでにかなりの魔力を消耗していた。

(その上、能力もよくわかんねぇんじゃ戦いようもねえ)

魔法少女として時間遅延の能力を持っていたのならば、魔女となっても同じ能力だという推測はなりたつ。

が、憶測で戦うのは危険だ。

「チッ、お前、おぼえときな!」
336 :20話3 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/02/22(水) 00:51:26.56 ID:iTgb6EbE0
杏子は魔女に向かって中指を立てた。

そして素早くマミを小脇に抱えて魔女から遠ざかる。

魔女は矢印の矢の部分だけのような黒い影を飛ばして攻撃してくるが追ってまでは来ない。

杏子はひょいひょい器用にかわしながら、まだ未完成な結界の迷宮を逃げていった。

やがて、十分結界の端に行っただろうというところで、結界にきれいな一直線の切れ込みが現れた。

外に出るために杏子が結界を開いたわけではない。外部から何者かが進入してきたのだ。

杏子が身構えている間にも、その切れ込みはお菓子の紙袋の口のようにぐにゃりと曲がって外界への入り口を広げた。

そして、そこから杏子にはあまり見慣れない黒髪の少女が現れる。

彼女は魔法少女にしてはやや地味な、学校の制服に似ているようでどこかおかしな服装をしていた。

「巴マミは無事のようね」

黒髪の少女はそう言って杏子とマミを一瞥するとすぐに前を向いた。

すでに使い魔が迫ってきていたのだ。

「お前、マミの仲間だったよな……悪い、後は任せた」

たしか暁美ほむらとか言ったか。だが今は名前などどうでも良かった。

言い終わるとすぐに、杏子はマミを抱えたまま黒髪の少女の作った穴から結界の外に逃げ出した。

******************

「!?」

魔女の攻撃がきわどくほむらの髪を掠めた。

数本の長い髪が緩やかに宙を舞い、地に落ちる。

(いつ攻撃されたのかも分からなかった……)

暁美ほむらは呉キリカの能力を知っている。

もともと素早い上に時間遅延の魔法を組み合わせることで敵から見ればありえないほどの素早さを発揮する。

単純なスピードで言えばさやかの方が上になるのだろうが、時間遅延を使っている分、小回りも効き反応も早くなる
キリカの能力の方がより実戦向きと言えるだろう。

そして、それは魔女になっても変わらない――いや、その程度ではなかった。

いつ攻撃されたかもわからないのでは、いくら時間を停止させても避けきれない。

しかたなく、ほむらは時間停止を連発してはそのたびにランダムに動いた。

見てから避けるのが不可能ならば、せめて相手に狙いを絞らせないのが定石だろう。

時間を止めると良く分かる、魔女となったキリカは矢印型の黒い何かを、腕から飛ばして攻撃してきている。

その黒い何かはすさまじい速度のわりに音もなく影もほとんど見えない。

逆に言えば軽いだろうから、直撃しても魔法少女には致命傷にならないのかもしれない。

とにかく、そうやって断続的に時間を止めながら、ほむらは魔女の足元までたどり着いた。

魔女は女性の上半身がいくつも連なった細長い塔のような形をして、最上部にはシルクハットをかぶった頭と、
イカリのような武器をもった腕が見える。

ほむらは時間を止めて手榴弾を魔女の根元に放り投げた。

そして大きく横に移動してから再び時を動かした。

時間が動き出すのと同時に、すぐさっきまでほむらが居たところに巨大なイカリが振り下ろされる。

一方、魔力のこもっていないほむらの手榴弾での攻撃は、魔女に対して決定的ダメージにはなっていないようだった。

イカリの一撃を避けられた魔女はその長い体をくねらせてほむらに向かってくる。

(いちいち時間を止めてちゃ魔力がもたないわね)

そう判断したほむらは、魔女の次の一撃をワザとすれすれで避けて、魔女のそのイカリに手で触れた。

そして、魔女のその部分に魔力を送り込む。
337 :20話4 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/02/22(水) 00:53:36.41 ID:iTgb6EbE0
すると、イカリのついた魔女の腕はまるでプラモ細工か何かのように固まって動かなくなった。

(ふぅ……これで反撃は封じられたわね)

ほむらは小さく一息をつく。

これは、ほむらの時間停止の応用である。

普段使っている時間停止が『自分以外全て』の時間を止めているのに対して、今魔女の腕に仕掛けた時間停止は
対象のみの時間を止めている。

時間を止めた相手には、何のダメージも伝わらず一切の攻撃が効かなくなるが、代わりに相手も動けない。

そのため直接敵を倒すための技としては使えないが、一時的に行動を止めるには役に立つ能力だ。

この対象個別の時間停止と全体の時間停止を併用すれば、周りの人間はおろか本人にも気付かれないうちに
人間1人を瞬間移動させることも可能である。

もっとも、併用となれば魔力の消費も魔法使用にともなう集中力も半端なく必要なのでそんなことは滅多にしないが。

「これで終わりよ」

反撃の恐れが無くなったほむらは、マシンガンの弾と手榴弾をありったけ魔女にぶち込んだ。

盛大に爆風が巻き起こり、魔女の体は木っ端微塵に砕け散る。

勝利を確信したほむらは爆風に背を向けて、その場を立ち去ろうとした。

だが、その背後にちょうど魔女の腕のイカリの部分が勢い良く飛んできた。

(えっ!?)

反応が間に合わなかったほむらはまともにそれを背中で受ける。

血反吐を吐いて、ほむらは魔女のイカリの下敷きになった。

時間を止めていたために、イカリの部分だけは爆風でも砕け散らなかったのだ。

そして、それが丁度爆風でほむらの方へと飛ばされてきた。

(たまたま……それともわざと!?)

魔女になっても完全に知能が消え去るわけではない。

しかし自分の死すら利用して攻撃をしかけるなど生半可な執念ではないだろう。

もしかしたら、魔女となったキリカは織莉子殺しの犯人が自分だと気がついたのかもしれない。

そんなことを思いながら、ほむらは力づくでなんとか魔女の腕を払いのけた。

そのままフラフラと立ち上がってグリーフシードを探す。

そのほむらの目の前に、どこに隠れていたのかキュゥべえが姿を現した。

「思ったより苦戦したようだね、暁美ほむら」

「グリーフシードは?」

憎々しいインキュベーターの台詞には答えず、ほむらは今必要なものを探した。

「グリーフシードならそっちだよ」

キュゥべえはしっぽでその方角を指し示す。

ほむらはそこへ行ってグリーフシードを掴むとすぐさま自分のソウルジェムに押し当てた。

「さて、暁美ほむら。キミは呉キリカの能力を始めから知っていたね? 戦い方を見るとそうとしか思えない」

「……何を、言いたいの?」

少しずつ体を修復しながら、ほむらはキュゥべえをにらみつける。

「だけど、間の悪さから言って織莉子のような予知能力者ではない。相手の心理を読めるサイコメトラーでもないだろう。
とすれば、他に考えられるのは……ほむら、キミは時間遡行者じゃないのかい?」

「なっ……」

ほむらは言葉につまった。

「その表情は人間の言葉で言うところの『図星』という感情だね」
338 :20話5 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/02/22(水) 00:54:49.94 ID:iTgb6EbE0
キュゥべえは「そうなんだろう」とでも言いたげにほむらに近寄る。

「でも、ひとつどうしても分からないことがある。……暁美ほむら、キミの目的は一体なんだい?
何のためにわざわざワルプルギスの夜が来る前の時期を選んで時間遡行しているんだい?
もっと楽に暮らせる時間が後にも先にもいっぱいあるはずじゃないか」

「……あなたには、分からないことよ」

こうも核心に触れてこられると何を言っても理詰めで見抜かれそうな気がしてくる。

キュゥべえの物言いに流されないよう、ほむらははぐらかすしかなかった。

「そうか。てっきり、鹿目まどかを魔法少女にしたがらないことに関係があるのかと思ったよ」

その言葉に、ほむらは表情を変えた。このままではまずい。

「インキュベーター、それ以上言うなら――」

ほむらは盾の中から銃を取り出してキュゥべえに向けた。

だが、キュゥべえは身じろぎもせずこう言うのだった。

「暁美ほむら、キミが協力してくれるなら鹿目まどかを魔法少女にしないと約束しよう」

*****************

「分からない……一体どうして?」

自宅に着いてもまだ巴マミは何も手につかない状態だった。

ほむらからは先ほどテレパシーがあり、魔女はすでに倒したという。

「しっかりしろ! そんなことは後でキュゥべえの奴を問い詰めればいいんだ」

杏子は必死でマミの肩をつかむ。

「……問い詰めて、どうするの?」

マミは感情のこもっていない空っぽの瞳で、杏子に振り向いた。

その生気を感じない表情に、杏子は背筋が凍るような気がした。

何かが違う、マミを支えていた根本的な何かが崩れ去ったような、そんな違和感を杏子は感じたのだ。

「ど、どうするって、返答しだいじゃとっちめてやるに決まってる……だろ」

「いや、知りたくない!」

突然、マミはおおきく頭を振った。

どことなく仕草や言葉遣いがいつもよりも子供っぽい。

「だって、魔法少女が魔女になるなら……魔女になるために生かされてるなら……死んだ方がまだ……」

「ふざけたこと言うな!」

思わず杏子は激しく怒鳴った。

魔女になるために生かされている、この短い間に杏子はそこまで考えてはいなかった。

たとえそうだとしても杏子は死んだ方がマシだとは思わない。

彼女にとっては生きるということはあくまで自分のために生きることであって、誰が何の目的で生かしていようが
自分が生きていることでどこかで知らない他人を不幸にしていても関係ない。

だが、マミにとっては違う。杏子はそれを知っている。

巴マミは自分が魔女を倒し、人々を守るために生かされていると信じて生きてきたのだ。

そんな巴マミだからこそかつての杏子を快く受け入れ、そして
他人のために生きることに限界を感じた杏子は袂を分かつことになった。

それはさておき、交通事故でとっくに死んでいたはずのマミが生きているのは
本人にとっては町の平和を守るためということになる。

それが、町の平和を守るどころか実は魔女そのものだとしたら、そして自分の同類の魔法少女を殺し続けてきていたとしたら――

しかも、マミは幼いころから魔法少女として戦い続けてきた。

杏子は魔法少女になったことで大きく人生を変えてしまったが、マミにとっては魔法少女であることが人生そのものなのだ。
339 :20話6 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/02/22(水) 00:56:05.63 ID:iTgb6EbE0
それが真正面から否定されようとしている。それはマミの存在自体が否定されるのと同じことだった。

「ふざけたこと言うんじゃねぇ……」

杏子は同じことを二度言った。今度は怒鳴るわけではない、苦虫を噛み潰したような何かをこらえるような言い方だ。

「何のためにあたしが助け出したと思ってんだ」

「……あのままあそこで死なせてくれたら良かったのに」

「っ! てめえ!!」

思わず杏子はマミの胸倉を掴みあげた。

掴み上げられたというのに、抵抗は全く無く、マミの瞳には動揺も焦燥も見えない。

その無反応に、杏子はまたしてもゾッとした。

もはやマミは自分自身の痛みにすら興味が無いというのか。

「……もういい」

杏子は小さくそうつぶやいて、マミをそっと下ろした。

「いいか、勝手に死んだりだけはすんなよ! 絶対にな!」

それだけ言うと、杏子はマミの部屋から出た。

外に出るとすでにあたりは暗い。

杏子は人気の無い夕暮れの住宅地をしばらく歩き、やがて、薄明かりの灯る電柱にもたれかかって泣いた。

魔法少女が魔女になるという事実が恐ろしくて涙を流しているわけではない。

マミに、思いが通じなかったのが悔しかったのだ。

昔、あくまで正義の魔法少女として生きていくマミに、思いが伝わらず自分から離れていった。

それからはマミは杏子の生き方を否定することはなかった。

杏子としては自分なりの生き方で生き抜いて、昔の借りも返し、師弟を超えて対等な人間になったつもりだった。

だがそれは積極的な肯定ではなくマミにとっては自分の考えを押し付けることをやめただけに過ぎない。

それを裏付けるかのように、杏子はマミの生き方を少しも揺るがしていないのだ。

杏子がいてもいなくてもマミは正義の魔法少女として戦って死んでいく。

どうしようもなく歯がゆい。そんな思いが杏子をマミに執着させていた。

そんな時に、マミ自身がその生き方を根本から揺るがされた。

今度こそ、杏子は自分の生き方をマミに認めさせることが出来ると思った。

しかし、実際にははるかそれ以前の段階で、もっと根本的な違いを思い知らされてしまった。

巴マミは正義の魔法少女でない自分に、存在価値を認めていない。

はじめから、他人がどうなろうと構わない杏子とは結びつかないものがあったのだ。

「ちくしょう……あたしじゃ足りねぇっつーのかよ……」

杏子は暗がりをとぼとぼと歩いていった。
340 : ◆awWwWwwWGE :2012/02/22(水) 00:57:12.07 ID:iTgb6EbE0
以上、第20話でした
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/22(水) 01:09:00.63 ID:1jLu0BRDO
クロス先が鬱展開防止にここまで役に立たないのはある意味斬新な気がしてきた
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/22(水) 12:17:05.98 ID:qFfVXMxLo
乙おつ

そろそろらんま勢に鬱ブレイクして欲しいなぁ〜(チラッ
しっかしQBは何考えてるんだか…どうせ碌でもないことなんだろうけど
343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/02/22(水) 12:37:46.23 ID:te8kiAqe0
乙つ
Qべえは今度はどんな悪いこと考えてるのやら
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2012/03/09(金) 07:37:26.59 ID:78Rz0FQI0
らんまメンバーでは百戦錬磨のQBの相手は正直きつい。理性以外をかなぐり捨てたQBに知略で勝つのは難しいと思う。
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/09(金) 18:54:44.44 ID:ptcZkE72o
らんま側には最強の「コメディ補正」があるでよ
346 : ◆awWwWwwWGE :2012/03/11(日) 01:34:12.77 ID:wioBtADt0
みなさんこの低速スレにレスありがとうございます
本当にはげみになります

ってなわけでようやく21話投下です
347 :21話1 ◆awWwWwwWGE [sage:sage:副題『こいつらドSだ』]:2012/03/11(日) 01:36:44.10 ID:wioBtADt0
朝の通学路はさしていつもと変わりなかった。

「おはよう、仁美ちゃん」

まどかもいつものように通学路の途中で仁美と合流し、出来る限りいつものように挨拶をした。

いつもと違うのは、そこに美樹さやかがいないことだ。

「あら、まどかさん、おはようございます」

仁美も出来るだけいつものように装うが、どこかぎこちない。

「さやかちゃんは今日お休み?」

「私は何も聞いていませんわ……まどかさんは?」

「ううん、私も聞いてないよ」

そんな簡単な会話をかわすと、仁美は小さくため息をついた。

それに対してまどかはうつむいて仁美から視線をそらす。

二人とも精一杯いつものふりをしても、いつものような気持ちになりきれない。

目に見えない緊張感がこの二人の間の空気だけを張り詰めたものにしていた。

まどかは知っている。このごろ仁美と上条恭介の仲が良くなっていることを。

その一方でさやかと仁美・恭介との間にスキマ風がふいていることも。

そして、仁美も分かっていた。まどかとさやかが自分に対して何か大きな隠し事をしていることに。

そうでありながら、お互いこうやっていつものふりを演じて見せたのは、
どちらも関係が壊れることを恐れているからだろう。

互いに相手を尊重してはいるのだ。それゆえかえって踏み込めない。

このままではらちが明かない。そう判断して切り出したのは仁美の方からだった。

「誤解しないで欲しいのですが、私はこんな形でこそこそと進めたくはなかったのです。
もっと、正々堂々とさやかさんに切り出そうと思っていました」

何をこそこそと進めたのか、それは言わなくてもまどかには分かっている。恭介との仲を進展させたことだ。

「でも、さやかさんがこのところお忙しそうでしたり、ひどく落ち込んだようすでしたり
良いタイミングが見つからず……」

さやかが恭介のことが好きなことは、まどかも仁美も前々から知っている。

知った上でこっそりと恭介を奪ってしまうような、仁美がそんな卑怯者ではないとはまどかも思っていた。

むしろ、そう信じたかった。

だからまどかにとって、仁美のこの弁明は少しうれしかった。

仁美がさやかを裏切るつもりは無かったのなら、そして弁明する気があるのなら、このひび割れは修復できるはずだ。

「あのね、私、うまく言えないんだけど……今日さやかちゃんが休んでいるのは多分、仁美ちゃんのせいじゃないよ」

まどかは仁美が感じている重荷を軽くしたいと思った。

本音では、仁美や恭介の影響がゼロだとは言い切れない。

だが、主要因はおそらく魔法少女としての悩みなのだ。

仁美のせいではない。

「そうだったら良いのですが……まどかさんの心当たりは言っていただけないのですか?」

そう返されて、まどかは答えるべき言葉が見当たらなかった。

もっともな問いである。

考えてみれば、手の内を明かした仁美に対して、まどかは具体的なことは何一つ言っていない。

これで信用してもらおうなどとはあまりにも虫の良い話だろう。

何も言えず、まどかはうつむいた。

仁美への申し訳なさと同時に、さやかの役に立てないことにまどかは自信をなくす。
348 :21話2 ◆awWwWwwWGE [sage:sage:]:2012/03/11(日) 01:37:59.08 ID:wioBtADt0
魔法少女になれない自分はこんな事でこそさやかを支えなければならないのに、交友関係ひとつすら解決できない。

なんて無力なのだろう。

「まあ、いいですわ」

まどかまで落ち込んだ様子を見て、仁美が一歩引いた。

「まどかさんが嘘をつくとは思えませんし、
さやかさんがもっと大変なことで悩んでおられるなら話せるときが来るまで待ちましょう」

(やっぱり仁美ちゃんは私より大人だ……)

まどかは安心した。

仁美の余裕のある発言に少し劣等感を抱かないわけでもなかったが、ひとまずは丸く収まったんどあ。

*************

クラスの中で、欠席しているのは美樹さやかだけだった。

暁美ほむらも普通に出席している。

まどかはもしかして魔法少女全体に関わる大きなこと――たとえば前に巴マミが言っていた『ワルプルギスの夜』など
が起こっているのかとも勘ぐっていたが、それはなさそうだ。

それならばほむらも欠席するはずだった。

おそらくさやかの個人的に抱えた問題なのだろう。

まどかはひとつ安心するのと共に、別のところで不安を増大させた。

さやかは個人的な問題を小学校からの付き合いの自分にすら打ち明けてくれないのだ。

まどかはさやかの態度に少しの寂しさと、力になれないことへの歯がゆさを感じた。

(そうだ、マミさんに会って来よう!)

まどかは思い立った。マミならば、さやかの事情を知っているかもしれない。

また、こちらは逆にマミは知らないであろうさやかと恭介や仁美とのいきさつを知っている。

マミが情報交換すれば、もっとうまくさやかの気持ちを分かってあげて上手く支えてあげられるかもしれない。

まどかは昼休みになると昼食もとらずにそそくさと三年生の教室を訪れた。

ところが――

「えっ!? 今日はマミさんお休みなんですか?」

「ああ、しかも無断欠席だ」

三年生の男子はあきれたように言った。

マミがただのサボりで無断欠席をするとはまどかには思えない。

サボりでないとすれば――

いやな予感がまどかの脳裏をよぎる。

さやかとマミが急に二人して無断欠席……つまり連絡がつかなくなったということは、
二人とも魔女に殺されてしまったのではないだろうか。

(そんなこと……)

絶対にない、とは言えない。

それはまどかにも分かっていた。

しかし、まどかの感情は激しくさやかとマミの死という可能性を拒絶する。

真相を知るのが怖い。

(それでも、聞かないと)

まどかは自分のクラスの教室に戻ると、暁美ほむらに向かっていった。

「安心しなさい。美樹さやかも巴マミも生きているわ」

おそるおそる二人の安否をたずねたまどかに、ほむらはにべもなくそう答えた。
349 : ◆awWwWwwWGE [sage:sage:]:2012/03/11(日) 01:40:05.10 ID:wioBtADt0
んどあ ってなんだorz
すいません、消し忘れです
350 :21話3 ◆awWwWwwWGE [sage:sage:]:2012/03/11(日) 01:42:13.69 ID:wioBtADt0
「え、でも……そのっ」

それならどうして休んでいるのとか、何かあったのとかいろいろ聞きたいはずなのに、
ほむらのツンとした表情にまどかはうまく言葉がでない。

そうしてまどかがもごもごしている間にも、ほむらはきびすを返して自分の席にもどろうとする。

関わるな、ほむらの無言のプレッシャーがまどかにそう告げていた。

「どうして、二人とも休んでるのかな?」

やっとのことでまどかは声を絞り出した。

「さあ、魔女と戦って疲れたんじゃないかしら」

ほむらは振り返りもせず素っ気無く答えるだけだった。

「それじゃ私、放課後さやかちゃんやマミさんにお見舞いに行くね」

「ダメよ!」

まどかの提案に、すさまじい勢いでほむらは反対した。

その勢いに気おされるまどかを見て、ほむらは自分が過剰な反応をしてしまったことに気付く。

「美樹さやかは分からないけど、巴マミは今危険な状態なの。
魔法少女でないあなたが行ってはならないわ。」

少し気を落ち着けて、ほむらは理由を言った。

「危険だったらなおさら!」

「危険な状態なのよ! あなたが危険に身を晒すことで悲しむ人がいることが分からないの!?」

何がどう危険かと言えない、だからこそなおさら、自分の中の何かを打ち消すようにほむらは激しくまどかを責めた。

「……わからないよ」

まどかは首を小さく横に振った。

「私に何かあったら悲しんでくれる人は居るかもしれないけど、それは、マミさんでも同じだよ?
私もさやかちゃんも良牙さんも……えと、杏子ちゃんも悲しむよ。ほむらちゃんは違うの?」

そう言い返されて、ほむらは戸惑った。

まどかが言い返してくるということ自体があまりないことだったし、
そのまどかの表情はまるで得体の知れないものを見ているかのようにおびえていたからだ。

まどかが自分を疑っている。それはまるで、『かつて』キュゥべえの正体に気付いたときの顔と同じだった。

「魔法少女になった以上は、いずれは哀れな最期を迎えるしかないわ。
いちいちそれに同情してたら命がいくつあっても足りないのよ」

ほむらは自分に言い聞かせるようにそううそぶいた。

「それって――」

まどかはほむらの言い回しに不吉なものを感じ取った。

(しまった)

ほむらは悔やんだが遅かった。まどかに余計な情報を与えてしまったことはもう取り返しがつかない。

「もしあなたが無理にでも巴マミの元へ行くというのなら私も強硬手段に出るわよ」

やむをえずほむらは開き直って脅しをかけた。

「なんで……」

まどかはただ唖然とし、悲しむだけだった。

******************

刷り上ったばかりのポスターを、らんまと良牙は電柱に貼っていった。

「こんなんで本当に効果があるのか?」

「さあな」

二人が貼っているポスターには『不審者に注意』という大きな黄色い文字が浮かんでいる。
351 :21話4 ◆awWwWwwWGE [sage:sage:]:2012/03/11(日) 01:43:16.33 ID:wioBtADt0
その下には耳から何か生えている変な猫の絵が描かれていて、
『最近、このようなヌイグルミを使って女子児童らに声をかける変質者が出没しています。
見かけた際にはすぐに110番を――』などと説明文がうってある。

「たしかに俺も最初は変質者だと思ったな」

「そーゆー問題かよ」

ぐちぐち言いながらも、二人は壁に貼り終えると次の場所へと移動した。

彼らは風林館高校の校内にポスターを貼っていっている。

天道早雲が町内会では格闘家として何かと頼られる存在であり、そのおかげでらんまが防犯ポスターを貼っていても
あまり怪しまれなかったし、聞かれても『町内会の仕事で』と言えば納得してもらえた。

教師の二ノ宮先生に見つかっても『このヌイグルミ欲しい』とゴネられただけで、お咎めは無かった。

「……なにやってんだ、あんたら?」

また後ろから声をかけられた、今日何度目かの質問だ。

面倒くさいのでらんまは振り返りもせず答えた。

「あー、町内会の仕事で――」

「んなわけねーだろ」

容赦なく突っ込まれ、らんまはムッとして相手を振り返った。

「なんだ、あんこちゃんか」

良牙がつぶやくように言う。

「あんこじゃねぇ、杏子だ」

そこには一晩置いて見滝原から帰ってきた佐倉杏子の姿があった。

*************

「……魔法少女が魔女に?」

さすがになびきもキョトンとしていた。

昼休みの校庭に、風林館高校の生徒であるらんまとなびき、そして不登校児の杏子と中卒の良牙。

その四人が揃っている。

「ああ。ソウルジェムが魔女になった」

杏子は何度目かの同じ説明を繰り返す。

「敵の魔法少女の技の一種ってことはねーのか?」

らんまが角度を変えた質問をした。

「絶対無いとはいえない……けど、あたしたちの魔翌力の源のソウルジェムが魔女になったんだ。
ワザとかそんなちゃちなもんじゃねーよ、アレは」

杏子はそのときの状況を思い出し、おそろしげな顔をした。

「ってことはだ。魔女はもともと全部魔法少女だったていうのか? 魔女を作るために魔法少女を作ってたのか?」

良牙は怒りに拳を握り締めた。

もし言うとおりだとすれば、キュゥべえはとんでもない大悪党だろう。

「それは……」

杏子は言葉に詰まった。そこまで言うには情報が足りなさ過ぎる。

「ところでさ」

そこに、なびきが割り込む。

「ソウルジェムが魔女に化けたってことは……その魔法少女自身はどうなったわけ?」

「ああ、気が抜けたっていうか死んだみたいに動かなくなった。多分、死んだんだろ」

杏子はそれにはこともなげに答える。
352 :21話5 ◆awWwWwwWGE [sage:sage:]:2012/03/11(日) 01:44:17.62 ID:wioBtADt0
「……ソウルジェムが魔女になったら死ぬってことはさ、あんたたちソウルジェムぶっ壊したら死ぬんじゃない?」

「え?」

「は?」

なびきの言葉に、らんまと杏子は思わず顔を見合わせた。

考えても居なかったという表情だ。

「ものは試しにさ、ソウルジェムにデコピンでもしてみたら?」

そう言われても、もしかしたら自分が死ぬかもしれないと思うとらんまも杏子も手を出せなかった。

「それじゃためしに」

すると良牙がらんまのソウルジェムにデコピンをしようとする。

「う、うわ、やめろ! お前の馬鹿力でデコピンされたら一発で粉々になっちまう」

「安心しろ、爆砕点穴はつかわん」

良牙はそういうものの、らんまにとってやはり良牙のパワーは脅威である。

らんまは自分のソウルジェムを握り締めて逃げだした。

「おい、こら、待て!」

それを良牙が追いかける。

「ちょっとあんまり暴れないでよ?」

なびきの突っ込みもむなしくらんまは木や壁に飛んで縦横無尽に逃げ、良牙は走ってそれを追い掛け回した。

その追いかけっこの巻き添えで、踏まれる者や壊される物が続出する。

もっとも、らんまと良牙が暴れているのは風林館高校では特に珍しいことではなく、誰も不審に思うことは無かった。

「甘い!」

良牙から逃げるのに必死のらんまを、杏子が先回りして待ち伏せる。

そして鞭状にした槍でグルグル巻きにして捕まえた。

「て、てめーら、これで死んだら化けて出るからな!」

簀巻き状態になったらんまはジタバタあばれた。

おかげで良牙も杏子もうまくらんまに近づけない。

これではソウルジェムにデコピンなどできなかった。

 ペチン

が、デコピンの音が小さく響いた。

無論、らんまのソウルジェムは体ごとグルグル巻きにされているのでそんなことできない。

三人が暴れている隙に、置きっぱなしにしていた杏子のソウルジェムになびきがデコピンしたのだ。

「う、うわっ!」

杏子はもだえ苦しむようなポーズをとる……が

「……って、え? 痛くない」

「なーんだ、効かないんだ。残念」

なびきはつまらなそうにソウルジェムを杏子に手渡した。

「なーんだビビリやがって。なさけねーな、あんこ」

らんまは手のひらを返したように落ち着いた態度をとった。

「こんなの平気だろ」

そして、いかにも余裕ですと言いたげにソウルジェムでお手玉を始める。

「……なんかこいつすげームカつく」

杏子がふくれたそのときだった。
353 :21話6 ◆awWwWwwWGE [sage:sage:]:2012/03/11(日) 01:45:31.38 ID:wioBtADt0
「ぎゃあ、いてえ!」

急にらんまが身悶えて倒れる。

「おいおい、何ふざけてんだ」

良牙があきれて言った。

が、当のらんまは大真面目に苦しんでいる。

「ハァ……ハァ……ソウルジェムに闘気か魔翌力を込めてみろ」

「どれ?」

らんまに言われ、良牙はらんまのソウルジェムに闘気を込めて触れてみた。

「ぎゃあああ、ちょ、今のはあんこに、ぎえ、言った……」

息も絶え絶えにらんまが訴える。

「あ、そっかすまねー」

そう言って杏子は魔翌力を込めて、らんまのソウルジェムを握り締めた。

「うぎゃ、じ、ぎゃ、自分のでやりやがれぇ!」

「乱馬くん、迷惑だからもっと静かに」

なびきのお叱りもむなしく、らんまの絶叫が校庭にこだました。

*************

ポスターを貼り終えると風林館高校の生徒ではない良牙と杏子は帰宅の徒についた。

「マミちゃんがそんなに落ち込んでいたのか?」

「ああ。あたしが何を言っても通じねえぐらいだった」

らんまやなびきは巴マミのことをあまり知らない。

だから杏子は良牙に話をもちかけた。

「心配だな……一度会いに行くか」

「そうしてくれ。ただ落ち込んでるだけだったら良いんだけどさ、なんかすげー悪い予感がすんだ」

そんな会話をして杏子と別れた後、良牙はすぐにでもマミに会いに行くつもりだった。

しかし、天道邸についてみると事情が変わった。

「へ? 映画の鑑賞券?」

良牙が早雲から受け取ったものは二枚のチケットだった。

「いやぁ、新聞の契約期間を延長したらもらっちゃってね」

笑顔で事情を説明した後、早雲は急に真顔になって言った。

「行ってきたまえ。ちょうど二人分だ」

早雲の意味するところを理解するのに、良牙はしばらく時間を要した。

(それは、つまり……)

「あ、あかねさんと?」

良牙の問いに早雲はこくりとうなずく。

(あかねさんと……あかねさんとデートだとおぉ!?)

自分の体の中に稲妻が駆け巡るのを、良牙は確かに感じた。

あかねとデート、そんなことがこの世で起こって良いのだろうか。

まさに夢の世界への入り口が、そこに広がっていた。

うれしすぎて他のことは何もかも吹っ飛んでしまいそうだ。

そんな夢見心地の気分の中で良牙は小さく思った。

(マミちゃんを見舞うのは明日でもいいな、うん)
354 : ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2012/03/11(日) 01:47:12.03 ID:wioBtADt0
以上、21話アップ完了しました

ん? あれ? 魔翌力になってる・・・・・・
メル欄「sage:sage:」だorz
355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/11(日) 20:13:59.40 ID:jUh06tyso
来てた! 乙
つうか明らかに翌日じゃもう間に合わないフラグ立ってんじゃねぇか…良牙ェ…
356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/03/11(日) 20:36:12.91 ID:bYP5y0eAO
あーもうダメだ
さようならマミさん、こんにちはキャンデロロさん
357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/11(日) 22:21:32.05 ID:T2/JDfPU0
マミの願いは「助けて」だから即死しない致命傷を受けない限り絶望はしないと思う。
この場合、良牙の女にだらしのないところ(誤解)を治す事を生きる希望にするのではないだろうか。
杏子「も、もういいのか?」
マミ「ええ、良牙さんの女癖をどうにかしないといけないから(ゴゴゴゴゴ・・・・)」
さやか「そ、そうですよね。りょ、良牙さんを女の敵のままにしておけないというか…あはははは…」
ほむほむ(GSを使ったわけじゃないのに、巴マミのSGの濁りが薄れている!?)
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/03/12(月) 23:59:29.39 ID:cXSNNJfko
昨日スレ発見して今おいついた
らんまがコメディだから明るい展開になると思ってたらあばばばばbb
QBクズすぎワロタ
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/17(土) 11:24:04.99 ID:q7L0xV/V0
アニメでマミさんは魔女化の真実を知っても錯乱して冷静に仲間を潰していったけど、魔女にはならなかった。
体勢を整えられたら厄介な杏子を不意打ちで瞬殺、ほむほむが時間停止でどうにか出来ないように拘束ととっさに最適な作戦を立てていた。マミさんの魔女化は魔女狩り、魔法少女狩りでSGが濁りきるか、もう助からない重傷を負って絶望するかのどっちかになるのではないでしょうか。
360 : ◆awWwWwwWGE :2012/03/22(木) 23:56:39.80 ID:RGyRfc3y0
支部にこんな絵が・・・
ttp://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=23040647
はっぴー無茶しすぎww

てなわけで今から22話アップします
361 :22話1 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2012/03/22(木) 23:58:02.66 ID:RGyRfc3y0
巴マミは気付いていた。

つらいとき、落ち込んでいるとき、ソウルジェムが濁りやすいことに。

それが何を意味するのかまでは深く考えなかった。

前向きな精神状態を保てばソウルジェムは綺麗なままで保たれる。それだけで十分だった。

ソウルジェムが濁りきったらどうなるのか、そのことも気にはなっていた。

きっと魔法が使えなくなるだけに違いない、基本的にはそう考えていた。

精神状態とソウルジェムに関係性があることに気付いていながらそれ以上考えなかった。

心が濁った少女に魔法という特別な力を与えては危険だからとか、
魔法に頼りすぎるのはよくないからとか、そんな理由で制限が加えられているのだろう。

マミはそういうことにして、胸の奥にある漠然とした不安から逃げ続けていた。

(でも……)

あの黒い魔法少女のソウルジェムは真っ黒に濁りきっていた。

真っ黒に濁りきったソウルジェムは魔女になった。

それの意味することはマミにははっきりと分かってしまった。

(魔法少女は――魔女になる!)

もはや真実を知ることから逃げられない。

自分は、かつて自分と同じ魔法少女であった魔女をいっぱい殺してきた。

そして自分も人々に害をなす魔女となる。

そのことを思うと、マミは生きた心地がしなかった。

こんな運命になるのであれば、あの時、幼き日の交通事故でそのまま死んでいた方が良かったのではないか。

そのようにすら思えてくる。

暗澹たる気持ちで、マミは自分のソウルジェムを眺めた。

黒い。

さっきグリーフシードを使ったばかりなのになまじな魔女戦の後よりもよほど黒く濁っている。

この状態ではいつ魔女になってしまってもおかしくないだろう。

 ピンポーン

マミの気持ちからすれば場違いな、明るい音程でドアチャイムがなった。

「どなた?」

日頃の習性か、とてもそんな気分でないにも関わらず考えるより先にマミは受話器に出ていた。

「……マミさん! わたしです、まどかです」

モニターには見慣れた小柄な女の子が立っていた。

受話器越しの声や、マイクに話しかけるその様がなにやら必死に見える。

「鹿目……さん?」

「あの、マミさんが今日学校お休みだって聞いて、それで、その、えと……大丈夫かなって?」

言葉が見つからないのかその必死さは空回りするように徐々に勢いをうしない、やがてもじもじと煮え切らない話し方に変わる。

それでも鹿目まどかが自分を心配してやってきたことだけは、マミには分かった。

うれしい、泣いてしまいそうなほどにうれしい。

しかし、うれしさがこみ上げてくるのと同時に、恐怖感が沸き起こった。

(わたしが今ここで魔女になってしまったら、鹿目さんは……!)

マミは自分のソウルジェムに目をやった。

もともと黄金色に輝いていたはずのその宝石は、いまやべったりと塗りつぶしたような黒に見える。
362 :22話2 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:『副題:まどかしっかりしなさい』]:2012/03/22(木) 23:59:49.95 ID:RGyRfc3y0
やるべきことを忘れていた。マミはそう思った。

ベテラン魔法少女として、あってはならないミスだった。

たとえ鹿目まどかを巻き込まなくても、ここで魔女になってしまえば同じマンションに住む人たちを
犠牲にしてしまうではないか。

自分の心理的負荷に気をとられて周りの人たちの被害を考えないなんて、視野狭窄にもほどがある。

「マミさん……その……上がっていいですか?」

何も答えないマミが心配になったのか、受話器の向こうのまどかがたずねる。

「……ダメよ!」

マミはきっぱりとそう言った。

「え、でも……」

「ごめんなさい、でもね……今はちょっとダメなの」

きっぱり否定しても、事情をきちんと説明することは出来なかった。

もし事情を説明してしまえば、まどかは飛び込んできてしまうかもしれない。

まどかは臆病なようでいて、本当はさやかなんかよりもよっぽど危なっかしいのだ。

自分以外の人が何か怖い目にあっていたりすると何も考えずに飛び込んでしまう。

そんなまどかの性質を巴マミは見抜いていた。

(だけど、いえ、だからこそ、鹿目さんを死なせるわけにはいかない)

まどかはこれから孤独に戦うことになるであろう美樹さやかを支えなければならない。

「実は、ほむらちゃんにも今は危ないからマミさんに近づかないでって言われて――
その、そんなに大変なんですか?」

(なるほど……あの子は知っていたのね)

マミはひとりうなずいた。

暁美ほむらが魔法少女と魔女の関係について正しく理解していたのなら、あの不可解な言動も少しは分かる気がする。

「ええ、そうよ。近づかないで。それと――」

まどかが来たおかげで本来やるべきことを思い出せた。

マミは本当ならその感謝を述べたかった。

しかし、言うべき事は他にある。

「――美樹さんや杏子に伝えて。希望を棄てない限り、あなたはあなたでいられる」

「え? マミさん、それってどういう?」

意味が分からず、まどかは戸惑う。

それでもマミは確信を持っていた。

魔法少女が魔女になるところを見ている杏子がいれば、これだけで十分伝わるはずだと。

「話はここまでよ。早く、ここから去って!」

「マミさん……」

「出てって!」

マミはあくまで冷たく突き放した。

そうしなければ、ついつい弱音をもらしてしまいそうだった。

まどかがしぶしぶ去っていくのを確認すると、マミは魔法でマスケット銃を召喚した。

言うべき事はもう言った。

あとは今まさに生まれようとしている魔女を、生まれる前に始末するだけだ。

マミは自分のあごの下にマスケット銃の銃口を押し当てた。
363 :22話3 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2012/03/23(金) 00:00:52.04 ID:XsMR3kIl0

……

しばし、沈黙が続いた。

やがて静かに、液体が銃身を伝ってカーペットに染みを作る。

マミははじめ、それが何なのか分からなかった。

その液体が自らの頬からあごを伝って流れていることを感じて、ようやく気付いた。

自分の目からとめどなく涙があふれ出していることに。

 グスッ

静寂の中で、鼻をすする音が小さく響く。

「わたし……死にたくない……」

震えるか細い声で、マミはつぶやいた。

死ななければいけないのに、そうしなければ魔女になってたくさんの人を殺してしまうのに。

そう思っていても、引き金にかけた指をどうしてもマミは引くことが出来なかった。

やがて、銃を持っていた両腕を力なく垂れ下げる。

涙に濡れたマスケット銃は、床に落ちて跳ねた後、霧のように消え去った。

マミは今まで、いざとなったら自分は死ねるつもりだった。

実際に、危険性の高い魔女が相手でも臆することなく戦ってきたのだ。

それも名前も知らない他人を守るために。

だが、死のうと思うと勝手にまどかや、杏子やさやか、そして良牙の顔が浮かんできた。

そして、彼らとの楽しい思い出が頭から離れなくなった。

杏子以外はみんな、わずか一ヶ月たらずの関係だというのに、その思い出は強固に脳内を占拠して決して消えはしない。

死ねば父母に会えるとか、生きていてももっとつらくなるとか考えても無駄だった。

もっと彼らと笑っていたい、もっと思い出を作りたい、もっと生きていたい。

そんな思いがとめどなくあふれてくる。

「じ、じねない……」

マミはがっくりとうなだれた。

涙も鼻水も止まらず、顔はぐしゃぐしゃになっている。嗚咽も止まらない。

死ねないのは、臆病者の弱さなのか、それとも生きる強さなのか。

そうしてマミはしばらく泣き崩れていた。

「よかった、まだ死んでいないようだね。マミ」

その時、マミにとってよく聞き慣れた声が聞こえてきた。

「キュゥべえ!」

マミは一瞬、うれしそうな顔をして声のした方を振り返る。

だがすぐに複雑な表情に変わった。

ちょっと考えてみればキュゥべえは魔法少女と魔女の両方を作り上げ戦い合わせている張本人なのだ。

(いいえ、きっと何か理由があるのよ)

それでもマミはキュゥべえを信じたかった。しかし考えれば考えるほどキュゥべえの言動は不誠実で疑わしく思える。

どう接して良いか分からない、そんなためらいを見せるマミにキュゥべえはゆっくりと歩み寄った。

*************
364 :22話4 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2012/03/23(金) 00:01:49.17 ID:XsMR3kIl0
(きっと、何か理由があるんだ)

まどかは思った。

巴マミは意味も無く人を突き放したり、厳しい態度をとったりはしない。

あくまで強く優しく、それがまどかの知っているマミの姿だった。

ならば何故、マミは自分を冷たく突き放したのか。

まどかはマミが厳しい態度をとったシーンを思い出す。

確か、敵か味方か分からないときのほむらに対する態度は毅然として厳しかった。

何故そんな態度をとったのか。

それは、下手をすればまどかやまだ魔法少女になっていなかったさやかに危険が及ぶ可能性があったからだ。

つまり、優しさゆえの厳しさだった。

今回もまた、そのような優しさからくる厳しさだとしたら――

(何か大変なことがあるんだ!)

まどかは確信に近い思いを抱いた。

それに、美樹さやかが今どこに居るのか分からない。

自宅を訪ねても帰っていないという話だった。

こちらもやはり何かよほどのことがあるに違いない。

こんなときに頼りに出来る人物は誰か。

まどかの脳裏にはくっきりと1人の人物が思い浮かんだ。

(良牙さんならきっと……)

なんとかしてくれる。特に根拠は無い。

だが、そんな確信がどこかにあった。

まどかはその足で風林館に向かった。

きっと、あまり時間がない。マミの態度からしてそう思える。

暁美ほむらの警告をとことん無視しているが、今はあまり怖くなかった。

(ほむらちゃんは、私を特別扱いしてる)

ほむらが転校してきた当日からずっと、なんとなく感じていることだった。

自分の思い込みとも、単に戦いや魔法少女に向いていないから邪魔者扱いされてるだけとも、
いろいろ考えたが結論は出なかった。

しかし、今日のやりとりで確信に変わった。

理由は分からないが、ほむらはまどかだけを守ろうとしている。

あのよく分からない、自分を寄せ付けない態度はきっとマミと同じ優しさゆえの厳しさなのだろう。

ほむらのそれをまどかがうれしいと思うかといえば微妙だった。

まどかは自分だけ守って欲しいなんて思っていないし、そうしなければならない弱者と思われるのも嫌だった。

それでも、ほむらは自分には無茶なことはしてこないだろうということは分かる。

それが分かれば十分だった。

多少心苦しい気もしないではなかったが、有利な状況は利用してやる。

(絶対に、どんな手を使ってでも、さやかちゃんとマミさんを支えてみせる)

そんな日頃のまどかには似つかわしくない強気が、この時はどこからか湧いてきていた。

……しかし、風林館に着いたとき、その強気は早くもくじけそうになった。

「わたし、良牙さんが風林館のどこにいるのか知らない」

まどかはがっくりとうなだれた。
365 :22話5 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2012/03/23(金) 00:02:57.62 ID:XsMR3kIl0
*****************

虚無に近かった。

何も考えない。何も考えたくない。

美樹さやかは見滝原に戻ってきていた。

だが、家に帰る気にはなれなかった。

さいわい魔法少女の体は、疲労も空腹も消してしまえる。

ひとりでいるには好都合だった。

(あとどのぐらいもつんだろう?)

さやかはただの家出少女が財布の中身を確認するような気持ちで自分のソウルジェムを眺めた。

「え、うそ?」

思わず声が出る。

そのぐらい、ソウルジェムはかなり黒く濁っていた。

魔女と戦ったわけでもないのにこんなに濁るなんて、明らかにペースが早い。

(これが真っ黒になったら……魔法が使えなくなるのかな?)

それでも構わない。さやかはそう思った。

魔法なんて使えなければ、人殺しの片棒をかつぐことも人を守るために戦い続けなければならないこともない。

魔法が無くなればもう自分に残っているものは過ちだけだ。

(あれ? そしたら生きてる意味ないじゃん)

自嘲的に、さやかは微笑む。

いまさら恭介や仁美やまどかに、自分を受け入れてもらおうとは思わないし、受け入れてもらえるとも思えなかった。

それでも最低限、何があったのかマミにだけは伝えておこう。

彼女の慈悲や思いやりにすがるためではなく、魔法少女の義務として、さやかはそう考えていた。

見滝原に戻ってきたのはそれだけの理由だ。

もう家に帰るつもりも学校へ行くつもりもどこにも無い。

(でも、その前に――)

『見滝原までついてくるなんて物好きだね』

さやかは気配を感じる方向にテレパシーを飛ばした。

「あちゃー、バレてたあるか」

そう言って民家の屋根の上から姿を現したのは、さやかと同じ青い髪をした、中華料理屋の店員・シャンプーだった。

「まったく、ついて行くのに苦労したね。魔法少女はみんなそんなに足が速いあるか?」

「で、まだ何か用?」

さやかはシャンプーのどうでもいい質問は無視して、用件を問う。

「わたしキューベーに会いたいある。さやかと一緒にいればきっとキューベーに会えるね」

ああそれで、と納得がいったようにさやかはうなずいた。

「好きにすれば良いけどさ、あいつは神出鬼没だからいつ現れるか分かんないよ?」

「アテも無く探すよりマシね」

ずいぶんと前向きなシャンプーを見て、さやかはため息をついた。

自分の顛末を聞いていながら魔法少女がそんなに希望にあふれたものとでも勘違いしているのだろうか。

「そんなにまでしてキュゥべえを探してさ、一体何の願いを叶えたいわけ?」

甘いことを考えているのなら一言いっておこう。さやかはそう思って問いかけた。
366 :22話6 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2012/03/23(金) 00:03:59.19 ID:XsMR3kIl0
そして自分が初対面のときのほむらと似た対応をしていることに気付き、ひそかに苦笑する。

さやかは、きっとほむらも願いが裏目に出てああなったんだろうなどと勝手な想像をめぐらせる。

「決まっているね。乱馬を男に戻すある」

「乱馬さんを……え!? ええ?」

あまりにワケの分からない願いに、さやかは絶句した。

魔法少女であり紛れもなく女であるはずの乱馬を「男に戻す」というのはどういうことか。

「……もしかして、知らなかったあるか?」

さやかの様子に気付いてシャンプーが問い返す。

「何を?」

「乱馬は、わたしや良牙と同じ、変身体質ね」

「……乱馬さんが、子犬かウサギにでもなるっていうの?」

さやかは、変身体質の人間を良牙やムースでしか見ていない。

だから呪泉郷の変身体質は小動物になるものだと勝手に勘違いしていた。

(いや、ネコ嫌いってことはネズミにでもなるのかも)

そんな妙に納得のいく変身まで思い浮かぶ。

「違うね。乱馬は元々男で、水をかぶると女になるある」

「はい!?」

そんな変身体質もあるのかという驚き以上に、男が魔法少女になってその衣装を着ているという事実の方が
さやかには衝撃的だった。

「きも――」

「だから、わたしの願いで乱馬を男に戻せば、乱馬はわたしのものになるあるね」

さやかが何か言いかけたのを無視して、シャンプーが自分の願望を語りだす。

どう考えても変態にしか思えない乱馬をどうしてそこまでものにしたいのか分からないが、
シャンプーが好きな男のために願いをかなえるという、自分に近い状況であるのをさやかは知った。

「前にも言ったけど、あんまりお勧めできないよ。
あんたさぁ、乱馬さんに『わたしの契約で男に戻れたから結婚してください』って言えるわけ?」

さやかの質問にシャンプーはきょとんとした。

「乱馬さんはそのことで一生負い目感じなきゃならないよね?
それであんたは満足なの? 義理で仕方なく一生添い遂げてもらってうれしいの?」

「言えるし、うれしいあるよ」

シャンプーは迷い無く即答した。

そのあまりのあっけなさに今度はさやかがきょとんとした。

「乱馬のために契約したと言わなければ損するだけね。契約する意味ないある」

「いや、でも、それじゃきっと乱馬さんは楽しくないし、あんたも魔女と戦ってばっかになるんだよ?」

質問の意味が通じていないのではないかと、さやかは必死で説明する。

「楽しくないとか勝手に決めるのはおかしいある。そんなの努力しだいね。
魔女との戦いは……わたし、リンリン・ランランという妹分いるね。
面倒になったらその子たちに魔法少女になってもらって引退するある」

さやかは唖然とした。

シャンプーのその、どこまでも前向きで自己中心的な考え方が信じられなかった。

これがお国柄という奴なのかと感銘すら覚えた。

「そんな都合よくキュゥべえが契約むすんでくれるかどうか分かんないけど……」

「どっちにしても本人に会わないと話進まないね。さやか、はやくキューベー呼ぶよろし」

「いや、あたしは自分の用事で見滝原に来ただけでキュゥべえに会いに来たわけじゃないんだけど」
367 :22話7 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2012/03/23(金) 00:04:53.11 ID:XsMR3kIl0
「それなら用事がすんだらキューベー呼ぶね」

さやかの都合などおかまいなしと言わんばかりに、シャンプーはぐいぐいと話を強引に自分の方にひっぱる。

「あー、はいはい。先にこっちの用事すましてからね」

さすがに面倒くさくなってきたさやかは、シャンプーを適当にあしらってマミにテレパシーを飛ばそうとした。

自分とほむらが織莉子という魔法少女を殺害したことの他に、乱馬が実は男だったという新情報も伝えなければならないだろう。

前者が魔法少女としての義務なら、後者は女性としての義務だ。

(……あれ?)

マミとテレパシーがつながらない。

さやかは頑張って、見滝原中どこにいてもつながるぐらいにまでテレパシーの出力をあげるが
暁美ほむらの気配が感じられるだけで、マミとはつながらなかった。

「どうしたあるか?」

急にだまって何やら念じ始めたさやかにシャンプーが問いかける。

「えーと、テレパシーがうまく伝わらなくて」

別にシャンプーに事情を説明したところで何が解決するわけではないのだが、さやかはなんとなく律儀に答えた。

それを聞いて、シャンプーは何かを思いついたようにポンっと手を叩いた。

「振ったら通じやすくなるね」

「あたしはケータイか!」

そんな場合ではないのに、さやかはいきおいツッコミをいれた。
368 : ◆awWwWwwWGE :2012/03/23(金) 00:10:18.10 ID:XsMR3kIl0
以上、22話アップ完了しました

最初は変身体質が乱馬と玄馬だけだったことを考えれば小動物の方が特殊ですよねー
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/24(土) 14:42:47.27 ID:JPMEOsjI0
契約を結ばせようとしている相手が煮えきらず苛立って魔女化はあるかもしれないけど、シャンプーは絶望による魔女化は無さそう。
マミはゆまのような肯定してくれる誰かがいればジェムの濁りは抑えられるだろう。
370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2012/03/24(土) 18:42:09.45 ID:89u0buuAO
キャンデロロ誕生のカウントダウンが始まってるな…
マミは途中退場しちゃうのか?
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/03/25(日) 07:52:16.99 ID:Po49qyDxo
魔法少女の才能は誰にでもあるものじゃないんだが
シャンプーはそこを分かってるんだろうかww
372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/26(月) 01:11:05.39 ID:MzmU4xzSO
まあ、例え素質に乏しくても乱馬みたく気で戦えるだろうしな
もし水を被れば魔法猫になるのか…?
373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/11(水) 20:42:51.37 ID:64L1vix5o
そろそろ来ないかなー
374 : ◆awWwWwwWGE :2012/04/17(火) 04:12:15.72 ID:pWVfyT+S0
年度の変わり目でいろいろあって、ずいぶん遅くなってしまいました
23話アップします・・・この時間にww
375 :23話1 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:副題『あかねの良牙への素っ気無さは異常』]:2012/04/17(火) 04:15:07.64 ID:pWVfyT+S0
鹿目まどかは走った。

風林館の地理にうといまどかには、行くあては一つしかなかった。

この間、みんなで一緒にゴハンを食べた猫飯店だ。

もしあそこに、杏子やらんまが居れば、なんとかなるはずだ。

良牙はあの中華料理屋に行きなれているようだったから、店員さんからでも良牙が今どこに居るのか聞き出せるかもしれない。

それらがどのぐらいの確率かは分からなかった。

それでも今は、他にあてがない。

息が切れ、こけそうになりながら走って、ようやくまどかは猫飯店の前にたどり着いた。

そして勢いよく扉を開ける。

食事中のお客さんたちが「何が起こったのか」という目でまどかの方を振り向く。

知っている顔は居ない、そう判断するとまどかは迷い無く厨房の入り口までズカズカと上がりこんだ。

「おお、お客さん困るだ」

男の店員が出てきてまどかを止めようとする。

しかしまどかの目には彼は見えていなかった。

厨房の奥に、何やら調理をしている老婆が居る。

「お婆さん! 良牙さんが今どこにいるか知りませんか!?」

まわりも気にせず、まどかは大きな声でその老婆に話しかけた。

「む? おぬしはいつぞやの……?」

老婆は調理を終えた料理を男の店員に渡すと、つかつかとまどかに近づいてきた。

「えっと、あのっ」

このときようやく、まどかにいつもの臆病さが戻り、老婆に物怖じした。

(このお婆さん、なんだか……)

いや、引き戻されたといった方が近いのかもしれない。

まどかはこの老婆にそうならざるを得ない何かを感じ取った。

老婆は落ち着いていて、ごく当たり前の自然体のはずなのに、とんでもない緊迫感がある。

ただ者ではない、武闘家や魔法少女ならそんな表現を使ったかもしれない。

まどかはその強烈なプレッシャーに押しつぶされそうになり、つい口をつぐんだのだ。

「良牙に会いたいのか?」

「え、あ、はい!」

そう答えたまどかの瞳を、老婆は値踏みするように覗き込む。

しばらく沈黙が続いた後、老婆はやおらに言った。

「魔法少女のことじゃな?」

「はい! って、え、あれ!?」

まどかはつい勢いよく答えた。

しかし考えてみればおかしい、なぜこの老婆から『魔法少女』という言葉が出たのか。

「急を要するのじゃな?」

「え、えーと……多分」

まどかは控えめに答えた。

緊急事態と言える根拠が無いから自信が無いというのもある。

しかしそれ以上にこの老婆の得体の知れなさに戸惑った。

「安心せい、ワシは味方じゃ」
376 :23話2 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/04/17(火) 04:16:34.98 ID:pWVfyT+S0
一体どういう経緯で誰の味方なのか、この言葉だけでは何も分からない。

まどかはいぶかしげに首をかしげた。

「良牙は天道道場におるはずじゃ……行き方はじゃな、商店街を出て角を――」

そんなまどかに老婆は構うことなく、まどかの行くべき場所を教えはじめた。

「え、あの、ありがとうございます!」

まどかは思いっきり頭を下げる。

「そんなに頭を下げずともよい。それより、天道道場に行ったらムコ殿、いや乱馬殿を連れてきてくれんかの?」

「え……?」

ますますまどかは困惑する。

一体どうして早乙女乱馬を連れてこなければならないのか分からないという事がひとつ。

それになぜ魔法少女である早乙女乱馬を『ムコ殿』と呼んだのか、響良牙は呼び捨てなのになぜらんまは殿付けなのか。

どうツッコンでいいのか分からない。

「それと、良牙を呼んだら一旦ここに戻ってきてくれぬか」

「でも――」

そんなことをしている余裕があるだろうか。

こうしている間にも巴マミがどうにかなってしまう、そんな予感がまどかにはしていた。

「魔法少女が居なければ事態を把握できんじゃろう? 一度落ち着いて話をせねばなるまい」

まどかの戸惑いを見越して、老婆は言った。

「……あ」

確かに言われてみたらその通りだ。

魔法少女ではないまどかと良牙が集まったところで、事態の把握すらできない。

言われるまでそれに気がつかなかった自分をまどかは恥じた。

「どうせならあんことやらも呼んできてもらおうかの……お好み焼き『うっちゃん』に行ってじゃな――」

そう言って老婆は杏子の居場所も説明した。

「はい、そうします。ありがとうございました!」

まどかは再び頭を下げた。

それにしてもらんまや杏子が魔法少女だと知っていて、的確に指示も出せるこの老婆は何者だろうか。

きっと魔法少女に深く関わっているに違いない。

(もしかしたら、元魔法少女……とか?)

そうだとすれば、あの不思議な緊迫感も分かる気がする。

まどうかはそう思うことにして、天道道場へ急いだ。

「おばば、貝柱炒めまだできてねぇだか!?」

老婆は店員の声で仕事に呼び戻された。

「おお、すまんすまん」

言われて老婆は急いで厨房に戻る。

(それにしても、あの小娘……わしの気を感じおったか)

格闘技や武道をやっているようにはまるで見えず、魔法少女でもないはずのど素人の少女。

それに気を読まれたということに老婆は違和感を抱いた。

(何かとんでもないものを持っておるのかもしれんの)

老婆は考えながらも、素早く貝を剥いていった。

****************
377 :23話3 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/04/17(火) 04:18:12.36 ID:pWVfyT+S0
『この貝は……あのラッコが帰ってくるまで、ナポリの海に沈めておこう』

二枚目の俳優がささやくと、美しい女優が潤んだ瞳でうなづいた。

アクションあり恋愛あり、そして涙ありの大人気スパイ映画『008』シリーズを放映中の映画館はほぼ満席だった。

仲間の犠牲を悼む静かなラストシーンに、ときおり客席から鼻をすする音が響いてくる。

「あのラッコさん……かっこよかったね」

天道あかねもまた、やや潤んだ目で右側に呼びかけた。

「……ああ」

あかねの隣に座っている良牙は、淡白に相槌を打つだけだった。

単純な良牙のことだから、感動して熱く語ってくるのかと思っていたあかねは少し拍子抜けした。

(やっぱり、あかりちゃんとの方が楽しいわよね)

今回映画に誘われたのが父親の天道早雲の差し金だということはあかねにも分かっている。

しかし、良牙の自分への思いを知らないあかねは、むしろ良牙に申し訳ないと感じていた。

(良牙くん、あんまり楽しめてないよね?)

それを確認するために、あかねは良牙のほうをそっと振り向く。

すると、感動のあまり号泣して言葉も出ない良牙がいた。

「……十分に楽しめてるみたいね」

(ま、友達なんだし遠慮することは無いわよね)

心配が完全に徒労だったことを知り、あかねはまたも拍子抜けした。

「え? あかねさん、今なんて」

「あ、ううん、なんでもない。こっちの話」

あかねは慌ててごまかした。

映画を見終えると二人は映画館の隣の喫茶店に入った。

「あのワカメの中に隠れるシーンがさぁ――」

気まずい話題に触れたくないので、あかねはさっき見た映画の話題を振る。

「ラッコの勇気が――」

いまだ興奮冷めやらぬ良牙も熱く語った。

相変らずの良牙の単純さにあかねはホッとした。

もちろん、良牙がやや興奮気味なのは単に映画が面白かっただけではないのだが、あかねはそれに気付きもしない。

ただ、雲竜あかりという良牙のガールフレンドへの申し訳ばかりを考えていた。

許婚云々の話に触れなければ友達同士で映画を見に行っただけと言い張れる。

他の友達に頼んで複数人で行ったことにすれば、何の問題もないはずだ。

あとは、あかり本人がこの場に出くわさないことを祈るばかりだった。

雲竜あかりと言う少女は思い込んだら一直線という性格である。

例えば、もしこの喫茶店の前の通りを歩いていてお店の中に良牙の姿を見つけたら、きっと飛び込んでくるだろう。

「良牙さん!」

そうそう、こんな感じで――

(えっ!?)

あかねは自分の想像通りに喫茶店に飛び込んできた少女の方を振り返った。

が、そこに居たのはあかりとは似ても似つかぬ短めの髪をツインテールにまとめた女の子だった。

(えーと……誰?)

少女は背がかなり低く容姿も子供っぽい。
378 :23話4 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/04/17(火) 04:20:05.66 ID:pWVfyT+S0
見滝原の制服など知るはずもらないあかねは、その少女を小学生だと思った。

「やっと、見つけた……良牙さん、大変なんです!」

少女は走ってきたのか肩で息をしながら必死で叫ぶ。

よほど急いで来たのだろう、来る途中でこけたのかタイツの膝やブレザーの肘が汚れている。

「ま、まどかちゃん!? どうしてここに?」

呼び止める店員も他の客の奇異の目線も無視して、まどかと呼ばれた少女は一直線に良牙に歩み寄る。

良牙も少々戸惑っている様子だった。

「その、マミさんが大変で、良牙さん来れば多分、その、なんとか……!」

勢いよく乗り込んできた割に、まどかの言葉はしどろもどろで要領を得ない。

良牙にも何がなんだか分からないのだ、当然あかねには何の話をしているのか全く検討もつかなかった。

ただ、このまどかという少女がよほど良牙を頼りにしているらしいことと、
この不自然なデートを切り上げる格好の口実が出来たことはあかねにも分かった。

迷っている様子の良牙の肩に、あかねはポンと手を乗せた。

「良牙くん、行ってあげて」

あかねの優しげな表情には、デートを中断された不快感も、良牙が何か大変なことに巻き込まれていることへの不安感も無い。

それがどれだけ残酷なことかも知らず、あかねは力強く良牙を送り出すのだった。

*************

猫飯店のテーブルを囲んで、彼らは集まった。

いぶかしげな顔をしたらんまと杏子、ついでになびきも付いてきている、それに不適な表情のコロン、
そして彼らに囲まれておどおどしているまどか。

ムースは1人で店を回さなければならなくなったので、あわただしく厨房と客席を駆け回っている。

良牙はずっとうわ言のように「あかねさん……」と繰り返していた。

「ババァ、いつから魔法少女のこと知ってやがった?」

らんまが最初に口を開いた。

「あたしも気にくわねーな、部外者がコソコソかぎ回って、挙句にトーシロつかって呼び出しやがって」

杏子もらんまに同調する。

「ムコ殿が今のままでは我らも困るのでの……さやかという小娘から聞き出した」

「えっ!? さやかちゃんがここに来たんですか!?」

まどかは驚いた。

まさか、連絡がつかなかった美樹さやかの足取りがこんなところでつかめるとは思っていなかったのだ。

「うむ、今頃はどこをさまよっておるか知らぬが、心配せんでもあの体では死ぬにも死ねまいて」

安心させるために、コロンはわざと茶化してみせた。

「そうでもないわよ」

それを、なびきが否定する。

「まだ推測の段階だけどさ、この子達魔法少女って、ソウルジェムが壊れただけで死ぬみたい」

「うそ? そんなの……キュゥべえは何も言ってなかった……」

魔法少女の実態が自分の思っていたものとずいぶん違う、まどかもようやくそれを分かり始めた。

「あいつは……キュゥべえは食わせもんだ。信用しない方がいいぜ」

「それと、これも推測だけどさ、ソウルジェムが濁りきったら……あたしたちは魔女になる」

らんまと、それに続けて杏子が言った。

「!? そんな!?」

「それはまずいの……」
379 :23話5 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/04/17(火) 04:22:24.19 ID:pWVfyT+S0
まどかはショックの連続で表情が固まる。

一方のコロンも目を見開いた。

「あの、さやかという娘のソウルジェムはかなり黒くなっておったぞい」

「まじかよ、早いとこ見つけてやらねぇと」

杏子は手持ちのグリーフシードを確認した。

手持ちはサラがひとつと、使いかけがひとつ。

他人に使ってやるのはせいぜいひとつが限度だろう。

「さやかちゃんが……魔女に?」

まどかはうつむいて考え込んだ。

そんなことがあって良いはずは無い。

しかしどこに居るかも分からない状態で、どうやってそれを防ぐことが出来るのか。

「そういやさ、まどかちゃんは何でこっちに来たわけ?」

会話が途切れそうになったところでなびきが口をはさんだ。

「あ、それは! マミさんがその、凄く危険な状態らしくて――」

まどかは今日、マミのマンションに言って話したことをざっと伝えた。

その内容に一同は顔をしかめる。

「え……と、分かりにくかったかな」

周りの反応が怖くて、まどかはついそう聞いた。

そのまどかをさらに怯えあがらせるように、杏子が机を叩いた。

「マミの奴、自分が魔女になると思ってやがるな……」

「まー、実際そうなっちゃうかもしれないしね」

いら立ちを隠せない杏子を前に、なびきはさらりと言ってのける。

そうしてキッとにらみつけてくる杏子に、手持ちのグリーフシードを一個見せびらかした。

「今なら特別にスペシャルミックス焼きおごってくれるだけで良いわよ?」

「ちょ、あんた儲けには走らないんじゃなかったのかよ!?」

「だって、今回のことはキュゥべえに吠え面かかすのと関係無さそうだもの」

「てめー……」

そんなやり取りがはじまった所で、良牙が口を挟んだ。

「分かった。俺が払おう。それならいいだろ?」

「お前、いつ立ち直った!? ってか金持ってんのかよ?」

「金はたまに実家に帰ってもらってる。 それにマミちゃんが危ないんだろ、落ち込んでる場合かよ!」

杏子のツッコミが空回りするほど、良牙は凛々しく言った。

「私が今説得したら立ち直ってくれたよ」

まどかがにっこり微笑んで説明をした。

自分のやったことが効を奏したのがうれしかったのか、心なしか何かをやり遂げたような顔をしている。

「なあ、もしかして良牙って……」

「ああ、アイツは根っからの単細胞だ。しかも女に弱い」

あきれ果てる杏子の言わんとすることを、らんまが代弁する。

「とりあえず、話は決まったわね。それじゃ行ってらっしゃい」

なびきは良牙にグリーフシードを投げ渡した。

「魔法少女が持っといた方が良いだろ」
380 :23話6 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/04/17(火) 04:24:48.69 ID:pWVfyT+S0
良牙はそれをらんまにパスする。

「おう、行ってくるぜ」

立ち上がってグリーフシードを受け取ると、らんまは勇ましく答えた。

それにつられて、まどかも立ち上がる。

「あ、私も!」

「やめといた方が良いわよ」

それを、なびきが制止した。

「そうじゃの、事態がはっきりせんうちはここに居た方がよかろう」

コロンもそれに同意する。

「でも……」

「キュゥべえの目的は分からないけどさ、あたしがキュゥべえで契約とりたいなら『キミが契約すれば友達を助けられる』
とか言ってアンタを契約させるわよ。……だから、アンタをあたしたちの目の届かないところにはおけないわけ」

戸惑うまどかになびきは冷たく言った。

まどかがキュゥべえに騙されて契約しないようにここで監視するというのだ。

魔法少女は魔女になると知った今でも、それでさやかやマミが助かるならば契約してしまいそうな自分が居る。

なびきの懸念を否定しきれないまどかは自信なさげにうつむいた。

「ワシももうちょっと魔法少女のことをいろいろ聞きたいからのぉ、少しここで話に付き合ってくれんか?」

一方、コロンは下手に出てまどかを説得する。

「はい、わかりました」

まどかは元気なくうなずいた。

その様子を見て、良牙と杏子も立ち上がる。

「話は決まったな、それじゃ行くぜ!」

「おう!」

らんま、良牙、杏子の三人は勢いよく猫飯店を出て行った。
381 : ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/04/17(火) 04:26:32.09 ID:pWVfyT+S0
以上、23話アップしました

映画は「008 シャコ貝の報酬」を参照
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/04/18(水) 18:16:17.86 ID:Y8XRkEog0

ココ、なんか丸一日落ちてなかったか
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/18(水) 20:52:35.48 ID:cxfaHOPu0
乙!
楽天家のらんまや単細胞の良牙なら確かに暗さを吹き飛ばせるかもしれない。
まどかがQBや魔法少女、魔女とかの中二設定を妄想落ちにする願いを言ってQBを含めた全員の目が点になる所が浮かんだ。
384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/18(水) 23:34:45.66 ID:XD1eQUsDO
>>382
毎月第二か第三火曜日は鯖代の支払いだか何かの都合で落ちやすいらしい
385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2012/04/19(木) 19:27:41.43 ID:mPz68YZAO
乙。
ほむほむが何も働きかけてないのにまどかを魔法少女にさせない流れになっている。
これは新しい。
386 : ◆awWwWwwWGE :2012/05/02(水) 01:35:54.12 ID:XQfjLdnG0
ペースがなかなか上がらないorz
24話アップします
387 :24話1 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:副題『ほんとは先輩も出したかった』]:2012/05/02(水) 01:43:14.69 ID:XQfjLdnG0
巴マミと連絡がつかない。

美樹さやかは不安に襲われていた。

(そんなハズは……)

可能性は否定は出来ないが信じたくなかった。

まさかあのマミが魔女にやられただなどと。

もし、マミが魔女にやられたとすればこの見滝原はどうなるのか。

そのことを考えたとき、さやかは自分がマミに甘えていたことに気がついた。

マミがいなくなれば、自分の他に町を守る魔法少女はいなくなるのだ。

暁美ほむらは信用できないし、響良牙では魔女を探すことが出来ない。

自分の肩に町の平和がかかっていると思えば、自暴自棄になってよその町をうろついたり、
『死んでも良い』なんて考えたりすることなど許されない。

戦うしかない。

1人でも魔女と戦い続けなければならない。

そんな現実を突きつけられて、さやかはなおさらマミに生きていて欲しいと願った。

重責から逃れるためではない。

長い間その重責を背負って生きてきたマミの気高さを知ったからだ。

どれほど辛かっただろうか、どれほど苦しかっただろうか。

マミが魔女退治をしていなければ、とうの昔に死んでいたかもしれないのに、マミの苦しみなど何も知らずに
さやかはのほほんと生きてきた。

そうしている間もマミは孤独に戦い続けてきたのだ。

(お願い……生きてて)

あんな人が死んでしまって良いはずなど無い。

祈るような気持ちで、さやかはマミのマンションまで急いだ。

「さやか、ちょっと待つよろし!」

後ろからシャンプーがぴょんぴょん飛んで付いてくるがいちいち待ったりはしない。

そうして1人でマミのマンションに着き、マミの部屋番号のインターホンを押したが誰も出ない。

やむをえずさやかは力づくでマンションの玄関の扉を開けた。

たぶん鍵が故障しただろうが、この際そんなことは言っていられない。

さやかは迷わずマミの部屋に向かった。

(この感じは……!)

マミの部屋の前まで来ると、さやかのソウルジェムははっきりと反応を示していた。

ここに、魔女が居る。

(やっぱりマミさんは――)

魔女がわざわざマミの居るところを狙ってきたのか、それともマミが間違ってグリーフシードを孵化させてしまったのか。

事情は分からないが、マミの部屋に魔女が居る以上、やられてしまったと考えるしかないだろう。

(絶対に、仇は討つ!)

そんな覚悟を決めたさやかのところに、ようやくシャンプーが追いついてきた。

「まったく、足が速いね、逃げるのよくないアルよ」

「いや、あんたは逃げた方が良いよ」

さやかは素っ気無くシャンプーに言った。

「今から魔女退治だから、下がってて」

しかしそう言われて引き下がるようなシャンプーではなかった。
388 :24話2 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2012/05/02(水) 01:44:20.21 ID:XQfjLdnG0
「魔女退治……どうせ魔法少女になるなら先に体験してみるネ! さやか私も連れて行くよろし」

「悪いけど帰って。あたしはあんたを守りきれる自信はないし、今回は魔女を倒せるかどうかも分からない」

それはさやかの本音だった。

敵はおそらくマミを倒すほどの魔女なのだ。

今の、魔力残り少ない状態で一般人を守りながら勝てる自信などどこにもなかった。

「だったら、私も加勢するネ。私、良牙ほどでなくても戦えるアル」

「うーん」

さやかは首をひねった。

確かに、魔法少女の足についてこれる時点でただ者ではない。

猫飯店で老人を攻撃したときに見せたパワーからも使い魔程度は十分に倒せそうではある。

「でもダメ、あたしが死んだらあんた結界から出られなくなるから」

「魔女を倒せば問題ないネ」

「悪いけど今回はちょっと自信ないんだ。
それよりも、マミさんちに魔女が出たって良牙さんや風林館の魔法少女たちに報告してくれない?」

たんたんとさやかは指示を出した。

(なんだろう、変に落ち着いちゃったな)

さやかは思った。

さっきまで世界が終わったかのような不幸のどん底の気分だったのに、マミの危機を知った今そんなことはどうでもよくなった。

その一方で、自分の命なんてどうでも良いという投げやりさは消えていない。

この戦いで自分は死ぬかもしれない、そんな予感を特に深い感慨も無く受け入れている。

別に無為に死にに行くつもりはないが、死に向かう自分を自身で驚くほど冷静に見られるさやかがそこにはいた。

(もしかしたら、マミさんの見ていた風景もこれに近かったのかな……)

そんなことを考えながら、さやかはソウルジェムで魔女の結界をこじ開けた。

その瞬間、シャンプーは確かに見た、さやかのソウルジェムが少しだけ、輝きを取り戻していることを。

「あ」

シャンプーがソウルジェムに目を奪われている隙に、さやかは結界の中からその穴をふさいでいく。

「ずるいネ、勝手に行くの卑怯ネ!」

みるみるうちに、現実世界と魔女の世界をつなぐ隙間は埋まり、やがて何の変哲も無いマンションの廊下に変わる。

シャンプーの声は人気の無い冷たい廊下にこだまするだけだった。

******************

結界に進入したさやかに、使い魔が襲い掛かってきた。

それは青いシルエットでマントと剣を装備した、まるでさやかそっくりな使い魔だった。

(え? これって――)

使い魔の突撃をよけると同時に一閃し、さやかはあっさりとその使い魔を倒す。

すると結界の奥からさらに何匹かの使い魔がやってきた。

赤いシルエットで槍を装備したどこかで見た魔法少女のような使い魔や、黒い小動物のような使い魔。

さらにはピンク色の使い魔もいる。こいつは他の使い魔の後ろからこそこそ様子をうかがっているだけだ。

(なんなのこの魔女!?)

今までの魔女とは何かが違う。

何か底知れないものをさやかは感じ、使い魔たちと距離をとって身構えた。

そんな時、爆発音が鳴ったかと思うと、結界の奥から暁美ほむらがあらわれた。
389 :24話3 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2012/05/02(水) 01:45:06.56 ID:XQfjLdnG0
「あら? あなたがここに来てるなんてね……」

「ほむら! マミさんは?」

さやかは内心、助かっている見込みが薄いことを知りながらもマミの安否を確認した。

「……さぁ?」

ほむらはそう言って首を傾げた。その魔法少女衣装には血痕も破れたところもひとつもない。

「それよりも、あなたはここを引き上げなさい。 この魔女はあなたじゃ手に負えないわ」

「なんか、おかしくない?」

ほむらの言動に、さやかは違和感をいだいた。

「あんた、なんで結界の奥から出てきたの? そのわりに魔女と戦ったようにも見えないのは何で?
それに安否が気になるわけでもないのになんでマミさんちまで来てんの?」

「グリーフシード目当てにここに来て、魔女と一戦して形勢不利だから戻ってきただけよ」

むすっとした表情で、ほむらは答える。

「いいや、違う。それならあたしと一緒に戦うか逃げるかしようとするはずだもの。
……あんたは、何かを隠してる!」

さやかの顔はいつになく引き締まっていた。

決意、決心など、逃亡からはもっとも遠い表情だ。

ほむらは小さく舌打をすると、右手を盾にかざそうとした。

「させるかっ!」

が、それより早く、ほむらの反応できないスピードでさやかはほむらの目の前に迫り、剣の柄でほむらの右肩を叩いた。

スピードに乗った、魔法少女の全力の打撃だ。ほむらの肩は破壊され、右腕はだらしなく垂れ下がった。

とても盾に手をかざすどころではない。

「その盾で瞬間移動だかなんだかするんでしょ、いつまでも気付かないと思った?」

「くっ」

それでもほむらは、盾の方を右手に近づけてなんとか時間を止める。

そしてさやかとの距離を開けると、動かない右腕の手だけを使って盾から発炎筒を取り出し、ピンを抜いた。

発炎筒からは煙があふれ出る。

それを見計らって、ほむらは時間を再び動かした。

「――っえ!?」

さやかは一瞬目を疑った。

ほむらを追い詰めたと思ったら、次の瞬間には発炎筒からもくもくと煙があふれ、視界がふさがれていた。

だが、既にほむらの手の内をつかみ始めたさやかは、何をされたかも分からないというような混乱はしない。

『そっか、あんたの能力は時間を止めるってわけね。次はもうひっかからないよ。
コソコソ逃げずに隠してること吐いちゃってくんないかな?』

さやかは結界内に広くテレパシーをばらまく。

『あなたが悪いのよ……私の言うことを聞かないから……』

ほむらの返事はそれだけだった。

だが、さやかはその返事でほむらのおおよその位置をつかんだ。

煙など気に留めず、さやかはその方向へ飛ぶ。

そのとき、予想外の攻撃がさやかを襲った。

黄色いリボンのようなものがシュルシュルと飛んできてさやかの体に巻きつきはじめたのだ。

(えっ!? 何コレ?)

間違っても、ほむらの攻撃ではない。
390 :24話4 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2012/05/02(水) 01:46:36.17 ID:XQfjLdnG0
その黄色いリボンは、いやがおうにもさやかにマミのことを連想させた。

やがて煙が晴れると、そのリボンが使い魔からではなく、この魔女迷宮の壁から直に出ていることがわかった。

当然ながら、ほむらの姿はない。

(テレパシーでここにおびき寄せられた……)

罠にはめられたことに悔しがる以上に、さやかは不思議に思った。

なぜほむらはここまで魔女の性質を熟知していながらなぜさっさと倒しに行くことも、逃げ出すこともしないのか。

そして、そもそも何のために織莉子を殺したり、今さやかを追い出そうとしたりしているのか。

(まー、ここで考えてたって仕方ないか)

さやかはリボンから逃れようとした。しかしすでに手足に絡まれ思うように抜け出せない。

そうしているうちに、暴れるさやかを取り押さえようというのか更に多くのリボンが襲い掛かり、
やがてさやかは繭にくるまれた蛾の幼虫のように、リボンの中に閉じ込められた。

*************

「これは……?」

「どうした、良牙?」

らんま、良牙、杏子の三人は、マミのマンションの前まで来ていた。

「マンションのドアが壊れてやがる」

そう言って良牙はドアの下を指差した。

そこには無残に引きちぎられた鍵止めの金具が散らばっている。

「あんたがバカ力でぶっ壊したんじゃないのかい?」

杏子が茶化す。

「あのなぁ……俺だって、そのぐらいの力加減はできるぞ」

そんなやり取りに、らんまが横槍を入れた。

「武闘家や魔法少女ならできるだろうが、一般人にゃできねー」

もちろん、一般人にできないというのは力加減のことではなく、ドアを壊してマンションに侵入することだ。

「だったら誰か魔法少女か――」

杏子が言いかけた時、マンションの奥から青い髪の少女が現れた。

「シャンプー!? なんでここに?」

らんまが驚いていった。

目の前の少女はまぎれも無く猫飯店のシャンプーである。

「さやかの後ついてきたアル」

「さやかちゃんを知ってるのか? 今どこに居る!?」

「結界というアルか? なんか変なトコ入って魔女と戦いに行ったね」

良牙の質問にシャンプーはたんたんと答えた。

今がそれなりの緊急事態だと思っている三人には、どうにもそれがもどかしく感じる。

「おい、どこで結界に入ったんだ? さっきからソウルジェムが反応してやがるんだ、この近くだよな!?」

杏子はまくし立てるように話す。

シャンプーはさすがに度胸が座っているらしく、それにも気圧される様子はなかった。

「『巴』ってプレートの部屋ね」

その言葉に杏子と良牙が固まった。

「ま、まだそうだと決まったわけじゃねぇ、いくぞオメーら!」

らんまの呼びかけに杏子と良牙は苦虫を噛み潰したような顔でうなずいた。
391 :24話5 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2012/05/02(水) 01:47:19.17 ID:XQfjLdnG0
「乱馬も魔女と戦いにいくあるか? それなら私もつれてくよろし」

そんな真剣な空気をぶち壊すようにシャンプーは無邪気にせがむ。

一同はしばし顔を見合わせる、がやがてらんまが口を開いた。

「いや、悪ぃけど婆さんのところへ帰って伝えてくれ――『マミって子が魔女になったかもしれない』ってな」

「は?」

何を言われたのか分からず、シャンプーは思わず聞き返した。

「何を伝えれば良いあるか?」

「あー、そっか知らないんだな。……魔法少女は魔女になるんだ」

横から杏子が口を出す。

「今、猫飯店にまどかって子がいるからその子のためにも伝えといてくれ」

「『マミが魔女になった』ってな」

良牙とらんまが口々に追加説明を加えた。

(それじゃ魔法少女になってらんまを男に戻すどころか……)

さすがのシャンプーも自分の認識が甘かったことを理解した。

(替え玉を用意するのも一苦労ね。オババと一緒に別の方法を考えるよろし)

それだけ考えるとシャンプーは顔を上げて言った。

「わかたね、オババとまどかに知らせるアル」

「おう、まかせた」

らんまたちは小さく手を振ってマンションの中へと向かい、シャンプーは外へと飛び出して行った。

**********

「そんな……さやかちゃんが……」

まどかは信じられなかった。

美樹さやかが、人を殺しただなんて。

「その暁美ほむらという者の言い分によれば、魔法少女狩りの犯人じゃったそうじゃ」

コロンは落ち着いた様子で猫飯店特製プーアール茶をすする。

「グリーフシード持ってるかどうかで生き死にに関わるんだったら
そうまでして魔法少女同士でケンカするのも分かるかもねぇ」

なびきもおいしそうにお茶を飲んだ。

「さやかちゃんは、それを気に病んで家出したってことですか?」

「うむ、そういうことじゃな」

そう言ってコロンはずずっとお茶を飲み干した。

「しかし分からんのはそのほむらという魔法少女じゃな。
さやかの言うにはグリーフシードを奪いに行ったわけではないらしい」

「えっ? だって魔法少女狩りの犯人を倒しに行ったんじゃ……?」

まどかはコロンの発言に驚いた。

さきほど自分でほむらの言い分を説明しておきながら、全く信じていないのだ。

「それが理由ならどうして犯人を知っているかも説明できるじゃろう」

「何かいえない理由がある……って可能性もあるけど、単純に縄張り争いかしらねぇ?」

なびきも首をひねった。

彼女もまた、さやかとほむらが本当に魔法少女狩りの犯人を倒したとはあまり思っていないらしい。

「そこで聞きたいんだけどさ、ほむらって子はどんな子なの?
それがちょっとは真相も分かってくるかもしんないじゃない。真実はいつもひとつ!ってさ」
392 :24話6 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2012/05/02(水) 01:48:32.45 ID:XQfjLdnG0
そう言ってなびきはまどかに問いかける。

「えーと……」

ほむらがどんな子かと聞かれて、まどかはすぐに答える言葉が思いつかなかった。

捉えどころが無さ過ぎる。

「よく、分かんないです」

仕方なくそう答えたまどかに、コロンもなびきも目を丸くした。

「その、クラスメートでもあるんですけど、なんだか良くわかんない言葉が多くて……
分かってるのは成績優秀で、運動神経もよくって、魔法少女としても強いらしいってことぐらいで……」

「ふぅーん、万能だけど意味不明ってわけね……九能ちゃんみたいなのかしら?」

「はぁ……」

なびきが例を挙げるが、まどかが九能という人物を知っているはずも無い。

「ムースの言うにはもっとツンとした感じらしいぞい。九能のようなマヌケな雰囲気ではなさそうじゃ」

そこにコロンが情報を付け足す。

「万能なのにマヌケな雰囲気なんですか?」

まどかとしてはむしろ、その妙に濃いキャラ付けの九能という人が気になってくる。

(いや、まあ、ほむらちゃんも結構濃いキャラだけど)

そんな若干失礼なことを考えて、まどかは慌てて首をふった。

「そうじゃの、それなら聞き方を変えて……
見滝原の魔法少女たちの中ではどういう存在じゃ? おぬしとの関係はどうじゃ?」

コロンはぐいっとまどかに顔を近づけて問いかけた。

その皺だらけの妙に威圧感のある顔に、まどかはとっさに何かを連想した。

「さ……」

「さ?」

『猿の干物』と、連想したものを言いかけてまどかは口をつむぐ。

なんでさっきから失礼なことばかり考え付くのだろう、あんまりにも多くのことがありすぎて疲れているのだろうか。

今日の自分はどうにかしている、まどかは心の中できつく反省した。

「ええ、えーと、さ、最初は敵じゃないかみたいな雰囲気だったんですけど、
その、『ワルプルギスの夜』っていうすっごい魔女と戦うために協力するってマミさんと約束して――」

そして、まどかは失礼なことを言おうとしたのを誤魔化すためにべらべらと話し始める。

(ああ、そうか、お母さんが言ってたな『嘘吐きの営業マンほどべらべらしゃべる』って)

まどかはここで図らずも、人間は何か誤魔化したいものがある時に多弁になることを知った。

「かくかくしかじか――で、ほむらちゃんは私が魔法少女になるなって言ったり、心配するようなことを言ったりして、
なんだか分かんないけど私を特別視してるみたいなんです」

まどかが一通りしゃべり終えると、なびきが少しきょとんとした顔をしていた。

「あんた思ったよりしゃべるのね」

「あ……あはは」

まどかは笑って誤魔化す。

「自意識過剰じゃないの?」

なびきにそう詰め寄られるとまどかは少し自信をなくす。

「……かも」

そんな素直なまどかを見てなびきは小さく笑う。

その様子を、コロンだけが真剣な眼差しで見つめていた。

(やはり、この小娘自身にも何かありそうじゃの)
393 :24話7 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2012/05/02(水) 01:49:20.93 ID:XQfjLdnG0
「ん? お婆ちゃん?」

なびきは鋭く、コロンの表情に気付いた。

「いや、ふむ、暁美ほむらは見滝原においても少々浮いた存在なワケじゃな」

コロンはとっさに話題をほむらのことに変える。

まどかが恐らくとんでもない力を秘めていることを、いきなり本人に気付かせるのはためらわれたからだ。

「それに、魔法少女が魔女になるってことも始めっから知ってた臭いわね」

「じゃとすれば、どうしてそれを言わなかったかが問題じゃな
グリーフシードを独り占めしようとしていたようにも思えんしノォ」

コロンとなびきが話を進める間、まどかは一気にしゃべった疲れと緊張をいやすため胸をなでおろしていた。

「どう思うまどかちゃん? なんか心当たり無い?」

が、休まる間もなくなびきが質問を振る。

「こ、心当たり……ですか?」

まどかは胸をなでおろした手を、そのまま胸に当てて考えた。

ほむらのことでまどかが知っていることなど、ほとんど何も無い。

ほむらが転校してくる前の日の夢に、まるで予知夢のように彼女が出てきた。

強いて言えばそのぐらいのことだ。

もちろん、そんなこと情報として何の価値も無いだろうし、笑われそうだから言わない。

そうするとまどかは、とりあえずほむらに関して思うことを言ってみるしかなかった。

「あの……思い当たることは無いんですけど、その……
もっとみんなと仲良くして欲しいって思います」

「……」

「……」

まったく的外れな回答に、コロンもなびきも唖然とした。

「え、え? あの?」

「……プッ」

そして、慌てふためくまどかが面白くて、おもわずなびきは吹き出した。

「ま、まあ、そういうのは本人に言ってやるべきじゃろうな、うむ」

コロンも笑いをこらえている様子だ。

「そーそー、そういう馴染みにくい子ってさ、妙にプライドが高いから
本人が嫌がるぐらいに強引にこじ開けてやんないと心開かないわよ
優しくしすぎたら勘違いして付け上がるしねぇ」

なびきはそう言いながら、妹のあかねに付きまとう五寸釘という男子を思い出した。

あるいは、風林館に来た当初の良牙もそんなところがあっただろう。

あかねは言い寄ってきたりつっかかってくる人間以外にはかなり優しい。

そのせいで人付き合いの少ないタイプの男子によく勘違いされるのだ。

たぶん、このまどかという少女も優しすぎるタイプだ。

だからなびきは言った。

「もしその子にとってあんたがちょっとでも特別ならさ
『言うこと聞かないと絶交してやる』ってぐらいの勢いで言ってやれば良いのよ」

「でも、そんな……」

まどかは他人に対して一度たりともそんな態度に出た事は無い。

当然、そんなことを言う勇気も無かった。

「何にせよ、自分の思いをはっきりと伝えてやることが大事じゃぞ……見てみよ、あそこにいるムースを!」
394 :24話8 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2012/05/02(水) 01:50:22.45 ID:XQfjLdnG0
そう言って、コロンは1人でせっせと働く長身の店員を指差した。

「あやつはずっとシャンプーに振られ続けてもまっすぐ思いを伝え続けておる
じゃが、シャンプーはムースを振ってはおるが今は嫌っておらん。だから今もこうして同じ店で働いておれるのじゃ
もし、あやつが何も言えずにおったら、今頃中国の山奥で寂しく1人シャンプーを思っておったじゃろう」

「え? そうなんですか!?」

告白をして振った相手と振られた人が同じ店で仲良く働いている。

その現象はまどかには理解し辛かった。

あのいつも勝気なさやかですら、関係を壊すのが怖くて恭介に告白できないというのに。

「もちろん、下手をすれば嫌われて、二度と会えなくなるかもしれん……
じゃがの、思いを伝えなければ永遠に前には進まんぞ
その勇気を出せるかどうかで人の人生は大きく変わってくる」

コロンのその言葉に、まどかは真剣になって自分の心に問いかけた。

今まで自分はどれほど他人に本当の思いを伝えてきただろうか。

「相手が心を閉ざしているならこじ開けろ、特に、若いうちはそれで許されることが多いんじゃから遠慮してはならん」

まどかは思う。

むかし、自分の心はさやかがこじ開けた。同じくさやかがこじ開けた仁美ともすぐ友達になれた。

そして、お菓子の魔女との戦いの前、ちょっと興奮してマミに思いを伝えたとき確かにマミは心を開いてくれた。

(ほむらちゃんにみんなと仲良くして欲しいなら、私が開かなくちゃダメなんだ)

まどかの心の中に小さな決意が生まれた。

「おー、おばあちゃんまるで学校の先生みたいね、ってかうちの学校の教師どもよりはマトモだわ」

なびきが感心したようにつぶやく。

まどかも内心、自分の担任の早乙女先生と比較してうなずいた。

「ホッホ、村では面倒な年頃の少女達に教えておったからのぉ」

若干照れているのかコロンはにやけていた。
395 : ◆awWwWwwWGE :2012/05/02(水) 01:52:18.22 ID:XQfjLdnG0
以上、24話でした

ええ、どうしてもなびきに言わせたかったんですよ
396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/02(水) 02:02:49.31 ID:yM6nrPXmo
替え玉を用意する、か
何か嫌な予感がするな
397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/02(水) 04:20:50.74 ID:sZxxO7V90
マミさん魔女化確定か…どうなるんだ?
良牙の罪悪感がマジパナイ事になりそう
398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2012/05/02(水) 18:31:12.25 ID:jttW4ZCAO
コロンさんも聡明だけどなびきも洞察力が鋭いね。眼鏡を掛けて指差しポーズをとるなびきの姿が頭をよぎった。
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/05/04(金) 20:23:49.05 ID:ry37t0zAO
>真実はいつもひとつ!
声優ネタかww
400 : ◆awWwWwwWGE :2012/05/14(月) 00:17:30.63 ID:toZAuc3q0
400!
声優ネタなら魔法少女なびきと猫シャンプーって手もありましたねぇ

25話うpします
401 :25話1 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/05/14(月) 00:19:26.77 ID:toZAuc3q0
「なんだ、これは?」

魔女の結界の中に入った良牙はつぶやいた。

お皿のような浮島が虹の橋で繋がれている。

これがこの魔女の迷宮なのはよく分かる。

しかし、そこに住まう使い魔たちの姿は一体どうしたことか。

剣を装備した、短髪の少女か少年のような青いシルエット。

逃げ回ってはこちらの様子をうかがうだけのピンク色をした少女のようなシルエット。

良牙にはその使い魔たちが何を意味するかすぐに分かってしまった。

「……なんてこった。どう見てもさやかちゃんにまどかちゃんだろ、これ」

やりにくそうな良牙をよそに、らんまと杏子は使い魔たちと戦う。

「うわ、なんだ? これはあたしか!?」

杏子も自分にそっくりな、槍を装備した赤いシルエットの使い魔を見て思わず声を上げた。

「おー、良牙、おめーもいるぞ」

らんまは黒い小動物のような使い魔を捕まえると、勢い良く殴り飛ばした。

「つまり……」

「どうやら確定かよ」

良牙と杏子は二人してがっくりとうなだれた。

なんでもっと近くに居てやれなかったのか。

そんな後悔がそれぞれの頭をよぎる。

「お、おい、反省は良いけど、手ぇ止めんな!」

二人がうなだれている間にも戦っているらんまの元には次から次へと使い魔が寄ってきた。

使い魔のうち赤いのや黒いのは大体の動きが予想できるが、青い使い魔はモデルになった魔法少女を
よく知らないので戦いづらい。

出方を見ようとらんまが間合いを取ると、青い使い魔は一瞬でその間合いを詰めて斬りかかった。

「うわっ!」

らんまはかろうじてタタミを召喚して直撃をさけるが、タタミごと後ろに吹き飛ばされた。

「すまん、忘れてた!」

良牙はそう叫びながら、らんまに追撃をしようとする青い使い魔を蹴り飛ばして倒す。

杏子も槍を振り回して、周りの使い魔たちを遠ざけた。

そうしている間にらんまは手近にあるものに手をかけて立ち上がる。

「いてて……しっかりしてくれよ」

ちょうどデコボコになっているところに飛ばされたせいでらんまは上手く受身がとれなかった。

よろけながら痛そうに自分の尻をさする。

『……けて』

「え?」

その時、らんまは何かが聞こえた気がした。

「おい、おめーら今なんか言ったか?」

「いや、あたしは何も」

「そんなのどうでもいいだろ、乱馬お前こそ早く戦いに戻れ!」

だが杏子も良牙も、使い魔相手に忙しくかまっていられないらしい。

『たすけて』
402 :25話2 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:副題『バギクロス!』]:2012/05/14(月) 00:21:32.44 ID:toZAuc3q0
それでももう一度耳をすませてみたらんまは、今度ははっきりと聞こえた。

かすかな声だが、間違いなくテレパシーで誰かが助けを求めている。

良牙はともかく、魔法少女としてはらんまより出来るはずの杏子にも聞こえていない。

という事は、かなり微弱なテレパシーをらんまのすぐ近くから飛ばしているのだろう。

らんまは辺りを見回した。

しかし、それらしき魔法少女の姿は見えない。

『……分かってやってない?』

ついに、テレパシーを送ってきた魔法少女の方からツッコミが入った。

『いや、マジでわかんねー』

らんまはそう答えつつも考えをめぐらせた。

見て分からないということは、何かに隠れている状態なのだろう。

だから、人一人を隠せそうなほど大きなものを探せば良い。

「あ」

そしてようやくらんまは気がついた。

使い魔に叩き飛ばされてぶつかり、立ち上がる際に手をかけたこの何か大きなものに。

それは山吹色のリボンを何重にも毛糸のように巻きつけた塊だった。

らんまはそれをこじ開けようとするが、リボンをいくら剥ぎ取ってもなかなか中までたどり着かない。

「おい、良牙、杏子! ちょっと手伝え!」

「どうした!?」

らんまが叫ぶと杏子が駆け寄ってきた。

良牙も使い魔たちをいなしながら、じわじわとらんまの方へ寄ってくる。

「この中に誰か居るみたいなんだ。 なんとか開けられねーか!?」

「そんなの、魔法で刃物出せばすぐできるじゃねーか」

杏子はそう言うと槍の刃の部分を一層鋭利にして、黄色い塊に振りかざした。

そこに定規で線を引いたような綺麗な切れ目ができ、杏子が軽く蹴ると、パカッと四つに割れた。

中には青いマントをつけた魔法少女が小さく丸まって倒れていた。

「おい、大丈夫か、しっかりしろ!」

らんまは急ぎ、肩を貸してその魔法少女を立ち上げる

「確か、美樹さやかって言ったな。あたしらが分かるか?」

『ごめん、今はしゃべるのがしんどい』

美樹さやかはうつろな目で杏子を見上げると、テレパシーで語りかけてきた。

『あんたたちは風林館の……』

「ああ。ってか、話は後だ。しばらく休んでろ」

足元がおぼつかず、生気の無い顔のさやかの様子を見てらんまは言った。

「かなりソウルジェムが濁ってやがるな」

杏子が覗き込んださやかのソウルジェムはほとんど一面真っ黒で、
しかしそれでもほんの一点だけが輝きを失わず青い光を放っていた。

すぐさま杏子は使いさしのグリーフシードをさやかのソウルジェムにあてる。

おかげで魔力に余裕が出ると、さやかはすぐに体を回復させた。

みるみるうちに肌の色がよくなり、姿勢もしゃきっとする。

「ふぅ、あぶなかったー。ありがと、助かったよ、ほんと」
403 :25話3 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/05/14(月) 00:22:53.83 ID:toZAuc3q0
「お、おう……回復力半端ねーな」

ついさっきまで半死半生の衰弱状態だったさやかに、張りのある元気な声で感謝され杏子は戸惑った。

「あれ? もしかして良牙さんも来てるの!?」

「さやかちゃんか!?」

唐傘を振り回して使い魔と戦いながら、良牙は大声でさやかに答える。

「こんなに集まったってことは、みんなマミさんのこと……」

「ああ」

答えにくそうに良牙は短く返事をした。

「とりあえず、話は進みながらだ。グズグズしてる暇はねーんだろ?」

らんまがそう呼びかけ、良牙と杏子はうなずいた。

さやかは「グズグズしてる暇が無い」の意味が分からなかったが、とりあえず空気を読んで従った。

**********

「でもさ、あたしが結界に入った時より使い魔が増えてる気がするんだけど?」

さやかが質問をした。

狭い通路を四人は進んでいた。

「それは……多分、魔女になったばかりだから成長してるんだろ」

良牙はどことなくやるせない、いら立ちを押さえきれない声で答えた。

「魔女になった? ああ、グリーフシードがね」

さやかは1人で納得したようにうなずく。

その様子に、巴マミが魔女になったと説明することがためらわれ、誰も言い出せなかった。

「で、あんたは何であんなトコに居たのさ?」

話題を変えようと、杏子がさやかに質問する。

「この魔女の結界の中に罠があるんだ。はじめはヒモみたいなもので捕まえられて、どんどんグルグル巻きにされちゃうの。
みんなも気をつけた方が良いよ」

「マジか?」

「そいつは力づくじゃ対処できねーかもな」

今までのところ四人もいれば、使い魔相手は余裕だった。

だが、それがあくまで使い魔相手だ。罠に対しては警戒が必要だろう。

「あ、それと暁美ほむらが――」

さやかがそう言いかけた時、通路は終わり、大部屋に出た。

そこには盛りだくさんの使い魔がひしめいている。

「うっわー」

杏子が思わずつぶやく。

「話はいったん後だ。片付けるぞ!」

良牙は真っ先に使い魔の群れの中に飛び込む。

三人ともそれに続いた。

が――

「な、なんだ!?」

「こいつっ!」

「これ! さっき言ってた奴!」

大部屋の中に乗り込んだ瞬間に、地面からシュルシュルと黄色いリボンが伸び、あっという間に四人を捕まえてしまった。
404 :25話4 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/05/14(月) 00:24:03.97 ID:toZAuc3q0
「ちっ……獅子、咆哮弾!」

すぐさま良牙は直下型獅子咆哮弾を使って、自分を取り巻いたリボンを木っ端微塵に破いた。

「あいつ、便利な技もってんな」

杏子がつぶやく。

「わりぃ良牙、おめーのバンダナとかベルトで破ってくれねーか?」

「良牙さん、あたしもお願い!」

「おう!」

らんまとの普段のいさかいなど気にせず、良牙は威勢良く答えた。

それだけ良牙にとっても余裕の無い事態だったし、さやかや杏子が居る手前もあっただろう。

だが、勢い良く助けに行こうとしたところで、時間が止まった。


良牙が気付いたとき、彼は腕を何者かに握られていた。

振り向くと、黒髪の少女がいる。それが誰なのか、良牙にはすぐに分かった。

「お前は、暁美ほむらじゃないか……これは一体!?」

良牙がそう聞いたのも無理はない。

なにしろ、自分とほむら以外何ひとつのものが動かないのだ。

らんまや杏子やさやかも、使い魔たちも、蝋人形にでもなったかのようにピクリとも動かない。

「これが私の能力よ」

ほむらは簡潔にそう言った。

しかしこれで、良牙にもほむらの今までの謎がどういうことだったか分かった。

初めて対面したときに引き金を引きもせずに拳銃を撃っていたこと、
お菓子の魔女と戦っていたときにいつの間にかその場所にいたこと。

「時間を……止められるのか!?」

良牙は今までにいろんな能力をもつ者を見てきた。

魔法少女や魔女だけではない、妖怪変化や武闘家、変身体質……
しかし、時間を止めるというのはそれらのどんな能力よりも反則的だろう。

いざとなればいつでも誰でも暗殺できるかもしれない。

惜しむらくは、ほむらの身体能力が魔法少女としてはそれほど高くないことだろう。

これでもし、身体能力が高いならば完全無欠だ。

「今はそんなことはどうでもいいわ。それより、急いでいるんでしょう?」

「あ、ああ」

未だにどこまで信用して良いのか分からないほむらを相手に、良牙は戸惑いながらうなずく。

「だったら、このまま魔女のところまで行くわよ」

「ちょっと待て、あいつらは!?」

良牙はリボンに捕まった三人を指差した。

この使い魔だらけの部屋の中で身動き取れない状態では、無事ではすまないだろう。

「自分で抜け出せない彼女達は後回しよ。
あなたを魔女のところまで連れて行ったら、いったん引き返して解放するわ」

「だが……」

なかなか言うとおりに動かない良牙に、ほむらはいら立ちを覚えた。

しかしだからこそ、ほむらは思い切って言った。

「巴マミを助けたいんでしょ!? それにはあなたしか居ないのよ!」
405 :25話5 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/05/14(月) 00:25:00.58 ID:toZAuc3q0
それが具体的にどういう意味なのか、良牙には分からない。

ただ、自分がマミにとって特別だということに良牙の気持ちは高揚した。

「そういう事なら分かった、このままマミちゃんのところまで行こう」

「分かってくれて良かったわ」

安心に胸をなでおろしながらほむらは思った、良牙がバカでよかったと。

***************

「どういうことだ、こりゃ?」

杏子は唖然としていた。

いつの間にか、良牙の姿が忽然として目の前から消えた。

「聞かれてもわかんねぇって……」

らんまも何が起こったのか理解できなかった。

良牙に突然姿を消すような技は無い。

あったとしても、それを今使う必要は全く無いはずだ。

「良牙、ふざけてないで出て来いよ!」

らんまは叫んでみるが、何の反応も返ってこない。

ただ、周りにいる使い魔たちが徐々に迫ってきてきているだけだった。

「たぶん、ほむらだ」

さやかが、短く口を開く。

「暁美ほむらってあんたと同じ見滝原の魔法少女だよな?」

杏子がお前の仲間じゃないのかと言いたげな表情でさやかに目をやる。

「ああ、でもあいつが何を考えているのかあたしもマミさんもよく分からなくてね……
それと、あいつは多分、時間を止められる」

「マジか? そんなことも出来るのかよ」

らんまは改めて魔法の恐ろしさを知った。そんな能力は八方斎やコロンのようなバケモノすら軽く凌駕している。

本当になんでもありとしか言いようがない。

そうなるとタタミを出すのがやっとの自分がなんだかむなしくなってきた。

「って、のんびり話してる場合じゃねーぞ!」

言っているうちにも、使い魔たちが襲ってきた。

杏子はリボンに捕まって身動きが制限された状態で、際どく使い魔の斬撃をよける。

「よし、杏子、オメーはその調子でもっと闘気を出せ! さやかって言ったか、オメーもだ」

もはやほとんど蓑虫状態のらんまが指示を出した。

「闘気を……!? まさか」

杏子は天道道場にかよって多少は闘気の概念も理解しはじめている。

反撃がほぼできない状態ながらも、戦っているつもりで闘気を発散させた。

「え? 闘気って? 良牙さんみたいなの? あたし出せないよそんなの!!」

一方、さやかは必死に使い魔の攻撃から致命傷をさけるだけだ。

それでも、らんまには十分だった。らんま自身の闘気もあわせれば足りる。

(俺の魔力じゃ武器を作ったり時間を止めたりはできねぇ、でもそんぐらい微弱だからこそできる!)

らんまは使い魔の攻撃を避けながら、その弱い魔力を使って部屋の中の『気』をゆっくりと回転させる。

やがてその流れは渦となり、熱い闘気の層を作った。
406 :25話6 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/05/14(月) 00:26:03.42 ID:toZAuc3q0

「今だ、魔竜昇天波っ!」

そのらんまの叫び声と同時だった。

突如として強力な竜巻がまき起こり、使い魔もらんまたちも、すべてを巻き込んで暴れまわった。

「ええええ!? 何コレぇえええええ!?」

「コレ食らうの二度目ぇえええええ!」

さやかと杏子の絶叫がこだまする。

「しまっ……自分までぇえええ!」

ついでにらんま自身も絶叫した。

使い魔たちもこの世のものでないような叫び声をあげていたように思えるが、
魔法少女たちにそれを確認するような余裕はなかった。

ただ、竜巻が収まったときには大半の使い魔は消滅したこと、
彼女らを拘束していたリボンもズタズタに引きちぎられていたこと、
そして使い魔も魔法少女も全員がぶっ倒れていることは疑いようの無い事実だった。

「な、なんなのアレ?」

さすがの回復力というべきか、さやかが一番初めに立ち上がった。

「……へへ、飛竜昇天波のアレンジだ。魔力を使って螺旋運動無しで撃てる、魔竜昇天波の完成だぜ」

自分で食らって立ち上がることもできないまま、らんまは親指を立てて「グッド」のジェスチャーをした。

「も、もうちょっと考えて使えよ」

うつぶせたまま、杏子はつぶやいた。

事実、自分自身まで巻き込まれるのはらんまにとって想定外だった。

通常の飛流昇天波では闘気の渦に冷気を送り込む自分自身が巻き込まれることなどありえない。

しかし、闘気の操作を魔力で行うことで自分自身のいる位置が安全圏とは限らなくなっていたのだ。

「よく……わかんない」

無論、飛竜昇天波という技自体知らないさやかにはそんなこと分かるわけが無い。

ただ、分かったのはらんまが強力な自爆技を持っているということだけだった。
407 : ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/05/14(月) 00:29:31.12 ID:toZAuc3q0
以上、25話でした
408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/05/14(月) 00:56:45.00 ID:gg152ptU0
さあ絶望で終わるのか、それとも・・・
409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/14(月) 19:49:45.29 ID:62ANRGGDO
よし、ちょっと空気がらんま時空に近づいてる!
410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/18(金) 13:08:13.77 ID:GjL8F+7DO
411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/05/18(金) 16:10:46.42 ID:+xdDNudl0
てめー、ぶん殴られてーか?
412 : ◆awWwWwwWGE :2012/05/21(月) 00:11:55.51 ID:D0amhahd0
ひさびさに1週更新、いってみよう
413 :26話1 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:副題『PSP版には悩まされるね』]:2012/05/21(月) 00:14:07.77 ID:D0amhahd0
「……ここが、結界の最深部よ」

暁美ほむらは緊張した面持ちだった。

普段表情を見せないほむらでも、いつもと違うことが良牙にも分かった。

「この奥に、居るんだな?」

この先に魔女となってしまった巴マミがいる。緊張して当たり前であろう。

「私はいったん戻るわ」

「ああ、あいつらを助けてやってくれ」

良牙は疑うことも無く、ほむらと別れ前に進む。

魔女の部屋は、まるでお茶会だった。

テーブルがあり、その上にティーカップやケーキのようなものが並ぶ。

(いったいどこに居るって言うんだ?)

魔法の素質が無い上にソウルジェムも持たない良牙は目視で魔女を探すしかなかった。

しかし、魔女らしき姿はいっこうに見当たらない。

 パンッ

そうして良牙がテーブルに近づいた瞬間だった。

突然聞こえた銃声に、良牙は考える前に身をかわす。

すると、先ほどまで良牙の頭があった場所を銃弾がまっすぐに貫いていった。

(罠か? それともまさか……)

恐る恐るテーブルの上を覗き込んだ良牙の目に、水色のワンピースを着た人形が飛び込んできた。

驚いたことに、その人形は軽快に動いている。

そして、そのひも状になっている腕を良牙に伸ばして巻きつけてきた。

「なっ!? もしかしてコイツが!?」

良牙は反撃も忘れてその姿を凝視した。

過剰にボディラインを強調したデザイン、豊かな髪の毛のを連想させる黄色いかぶりもの。

そして銃撃とリボン状の腕での拘束、どうしてもそうだとしか思えなかった。

リボンでグルグル巻きになった良牙に、人形が銃を構える。

「……獅子咆哮弾」

撃たれるよりも早く、良牙は獅子咆哮弾で攻撃し、同時に拘束を解いた。

しかし、その目には涙が浮かんでいた。

「お前が……マミちゃんだって言うのかよ!」

良牙の言葉を無視するように、爆風の中からまたもシュルシュルと、その人形のように小さな魔女がリボンをのばしてくる。

獅子咆哮弾では簡単にはトドメにはならない。良牙もそれは知っていた。

それでも良牙は非情になりきれず威力をかなり加減していたのだ。

「獅子、咆哮弾っ」

そして、またも、良牙は拘束を解くのがせいぜい程度の獅子咆哮弾を放つ。

リボンが来ても怖くない、そういう判断からだった。しかし――

 パンッ

乾いた音が響いて、良牙の右肩を何か熱いものがめり込んできた。

(しまった……爆風の中からでも撃ってくるなんて……)

良牙は左手で右肩を抑える。

銃弾がめり込んではいないようだ。実体の無い魔力での攻撃なのだろう。
414 :26話2 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/05/21(月) 00:15:08.52 ID:D0amhahd0
そして鍛え抜かれた肉体は、肩を撃たれた程度では致命的なダメージには至っていない。

とは言え、当分右腕は満足に使えそうになかった。

「くそ、獅子咆哮弾!」

良牙は今までよりも強めにその技を使った。

今度は魔女はぺしゃんこに潰れ、さすがにすぐに反撃はしてきそうにない。

(どうすればいいんだ……このまま、倒しちまって良いのか?)

『何をためらっているんだい?』

迷っている良牙の心の中に、誰かの声が響いた。

そのテレパシーに、良牙は聞き覚えがあった。

「キュゥべえ!」

良牙は思わず声に出した。

その前方、部屋の一番奥に、キュゥべえはゆっくりと姿を現した。

『巴マミはもともと、死から逃れることを願いに魔法少女になったんだ。
もともと相性の悪い獅子咆哮弾だと、半端な威力では効かないよ』

キュゥべえは普段と変わらず、何も考えていないような表情でその赤い瞳を輝かせていた。

「てめぇ、なんでマミちゃんに魔法少女が魔女になるってことを教えなかった?
何のためにこんなことをしてやがる!?」

良牙は魔女と化したマミの銃弾を避けながら、キュゥべえに向かって叫ぶ。

『やれやれ、良牙、質問は一回ずつにしてくれないかな。仕方ないから、ひとつずつ答えるよ』

いつにも増してもったいぶって、キュゥべえはその口を開いた。

***************

「良牙さんをどこへやったの? あんたは一体、何をたくらんでるのさ?」

暁美ほむらは美樹さやかの質問には答えずに、部屋の様子を眺めていた。

自爆技からようやく立ち直ったらんま、杏子、さやかの三人の前に、彼女は現れた。

そしてまるで行く手をさえぎるように、通路の前に陣取っている。

「驚いたわ、てっきり使い魔にやられているかと思ったのに、あの状況から抜け出す術があるとはね」

「ほぅ、それで姿も見せずに立ち去ったってことは助けたりするつもりは全くねーわけだな」

少なくともほむらは味方ではない、らんまはそう思った。

「わかんねぇ奴だな、喧嘩売ってるなら堂々と売れよ、そうじゃないなら邪魔すんな」

杏子は理解しがたいほむらの言動にいら立ちを隠しきれずに言った。

「喧嘩を売ることになるかどうかはあなたたち次第かしら」

そう前置きをして、ほむらは髪をかき上げた。

「ひとまず、あなたたちはこの結界から出なさい」

「なんで?」

さやかが率直にたずねる。

「どうでもいいと言うなら構わないけど……巴マミの肉体が腐るわよ?」

「あっ!」

「そーいや」

らんまと杏子は思わず声を上げる。

特に杏子は自分のうかつさを恥じた。

実際に魔法少女が魔女になるところを見たにも関わらず、残された魔法少女の肉体のことをすっかり忘れていたからだ。

「悪い、あたしはいったん、結界から出てマミの体を見とく!」
415 :26話3 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/05/21(月) 00:16:19.69 ID:D0amhahd0
杏子は脱兎の如く結界の中を引き返していった。

「あなたたちは行かないの?」

残ったらんまとさやかにほむらが問いかける。

「1人行けば十分だろ、こっちは良牙のヤローも探さなきゃなんねーしな」

らんまは一切引く気はないといった様子だ。

「マミさんの……体? さっきからあんたたち何の話を?」

さやかは1人だけ話についていけていない。

「……面倒くさいわね」

「うっさい、教えてよ」

さやかは悪態をつきながらも説明を求めた。

「えーとだな、簡単に言うと魔法少女は死にかけるかなんかすると魔女になるんだ」

「え、じゃあ……」

「……この結界はその巴マミって子が魔女になった姿だ」

らんまはあえてごく簡潔に言い切った。

おそらくこのさやかという少女にとってその情報がショッキングだということは分かっている。

だからそこ、下手になだめるような言い方はできなかった。

「正確に言えばソウルジェムが濁りきったときに私たち魔法少女は魔女になるわ」

言葉も出ないさやかに追い討ちをかけるように、ほむらが説明を付け加える。

「そして、ソウルジェムは魔力を消費した時や絶望を感じた時に濁りを増す。
……あなたたちも魔女になられたら迷惑だから気をつけて欲しいものね」

ほむらのその言葉を聞いて、らんまはしまったと思った。

もしそれが本当なら、さやかに巴マミの魔女化を伝えたことは間違いだったのではないか。

そう思い、らんまが覗き込んださやかのソウルジェムはさいわいまだ余裕があった。

さっきグリーフシードで浄化したばかりなのだから当たり前だろう。

「あたしは、大丈夫」

うつむいたままそう言うさやかのソウルジェムは、さっき浄化したばかりにしては濁りが強い。

その濁りの早さがほむらの言葉が事実であるということを裏付けていた。

「ずいぶん詳しいみてぇだな……おめぇは知ってるんじゃねーのか?
キュゥべえの奴が何のために魔法少女や魔女を作ってんのかをよ」

「そうね、この際だから教えてあげるわ。
キュゥべえ……インキュベーターが何をたくらんでいるのかを――」

ほむらはゆっくりと口を開いた。

***************

「良牙、キミはエントロピー増大の法則というものを知っているかい?」

「獅子、咆哮弾!」

良牙は魔女と戦いながらキュゥべえの話を聞いていた。

「エンと……なんだって?」

「お湯に氷を入れたら溶け合って水になるけど、水を放置していたらお湯と氷に分離した……なんてことはないだろう?」

「それが、どうした!?」

そう聞きながら、銃撃を避け、間合いを開けるために魔女を蹴り飛ばす。

「熱エネルギーがそうであるようにほぼ全てのエネルギーが分散する性質を持っている
ごく簡単に言えばこのエネルギーが分散していく法則のことをエントロピー増大の法則というのさ」

魔女のリボン状の腕が伸びてきて、良牙はバンダナを飛ばしてそれを断ち切る。
416 :26話4 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/05/21(月) 00:18:40.25 ID:D0amhahd0
「だからそれがどうしたって言ってんだ! 自慢じゃないが、俺は勉強なんざ興味ねえ」

「大事なのはここからさ。エネルギーの総量自体は保存されるけど、分散されたエネルギーは使いづらい。
だからエントロピー増大の法則に従えば実質的に使えるエネルギーはどんどん目減りしていくんだ」

小さくてすばしこい魔女を追っていると、いつの間にか後ろから赤い使い魔が来ていた。

不意を突かれた良牙は文字通り横槍を食らい、うつぶせる。

「しかし、ボクたちはエントロピー増大の法則に反するエネルギー源を発見したんだ」

「くっ、獅子咆哮弾!」

良牙は上から襲い掛かってきた使い魔を獅子咆哮弾で撃ち落とした。

しかし息をつく暇も無く、またもや魔女のリボンが良牙を縛り上げてきた。

「それは、キミの獅子咆哮弾と同じ……ある種の知的生命体が生み出す感情エネルギーさ」

少し離れた場所から銃を構える魔女を巻き込むだけの、大き目の獅子咆哮弾を良牙は放った。

結界内の地面がクレーターのように大きくへこむ。

「とりわけ最も効率がいいのは、第二次性徴期の少女の、希望と絶望の相転移だ。
ソウルジェムになった魔法少女の魂がグリーフシードに変わるとき、莫大なエネルギーを生み出す」

ぺしゃんこになった小さな魔女は、それでもまだくたばらず、リボン状の腕を触手のようにして自らの体を持ち上げた。

「そして、魔法少女を魔女に変え、その時生み出されるエネルギーを回収するのがボクの役割さ」

「てめぇ! そんなことのためにマミちゃんを……」

良牙はカッとなってキュゥべえに殴りかかろうとする。

しかし、キュゥべえの元まで行く前に、またも魔女のリボンによって拘束された。

「やれやれ、そういうことは後にしてくれないかな、戦闘中だろキミは?」

あきれたようにキュゥべえは言う。

「マミちゃんだけじゃねぇ……今までやっつけてきた魔女も、みんな元々はお前に騙された人間だったのかよ」

良牙は怒りをあらわにキュゥべえをにらみつけるが魔女に捕まって蓑虫状態ではどうしようもなかった。

そんな良牙をさらに挑発するようにキュゥべえは続ける。

「騙すとは人聞きが悪いね。僕はちゃんと魔法少女になってくれとお願いしているはずだよ?
ただ、魔法少女がどんなものであるかの説明を省いただけさ。
キミたち人間が家畜に対するよりはずいぶん良心的だと思うけどね」

「こ、この野郎……」

キュゥべえがそこまで人間と相容れない価値観の持ち主だと知って、良牙は返す言葉も失った。

こうなるとただただ騙されて魔法少女に、そして魔女になった少女達が哀れになるだけだ。

「ついてねぇ奴っているもんだよなぁ……」

良牙は構えられた銃口に目も向けずにつぶやいた。

「自分のせいでもねえ事故で天涯孤独の身になってよ、それでも街を守るために必死こいて戦ってたのによ……
実は屠殺待ちの家畜扱いでしたってか……ひでぇオチもあったもんだぜ」

 パンッ

魔女が発砲するのと同時だった。

「――獅子咆哮弾!!」

魔女の部屋全体を覆うほどの巨大な光が出現し、大地震でもおきたかのように結界がゆれた。

当然、魔女もキュゥべえもその巨大な獅子咆哮弾に潰される。

それでも魔女はまたリボンを動かしてゆっくりと体を持ち上げてきた。

そして、キュゥべえは飛び散った搗きたて餅のようになっていた。が――

「……なにっ!?」

その潰れたキュゥべえのすぐそばにもう一匹のキュゥべえが現れた。
417 :26話5 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/05/21(月) 00:20:03.95 ID:D0amhahd0
「すごいエネルギーだよ、良牙! これが欲しくてキミに協力してもらったんだ!」

キュゥべえはやや興奮した様子で語る。

「お、お前は一体!?」

驚く良牙をよそに、新しく現れたキュゥべえは潰れたキュゥべえを食べはじめた。

「きゅっぷいっ」

やがて食べ終えると、キュゥべえは満足そうにゲップをした。

「ああ、このボディはいくらでもあるから構わない……
それより、その魔女はまだ生きているよ」

そのキュゥべえの言葉が終わると同時に、良牙はまたもリボンに巻きつかれた。

「巴マミはもともと死にたくなくて契約をしたんだ。
そして、死にきれなくて魔女になった。まさに生きることへの執念の塊さ」

「獅子……咆哮弾!」

閃光がリボンを焼き尽くし、魔女を叩き潰す。

「――しかも、魔女には相性の悪い獅子咆哮弾。
良牙、もっと本気にならないと、力尽きて死ぬのはキミの方だ」

潰れた魔女はまた起き上がり銃を構えてきた。

***************

「ひでぇ、そんなワケのわからねーことのために……」

らんまは唖然としていた。

さやかもうつむいたまま黙って聞いている。

「あいつは酷いとも思っていないわ。そういう存在なのよ、インキュベーターは」

ほむらは能面のようにすましきった顔をしている。

「話は分かったから、そこをどけ。どっちにしてもマミって子をこのまま放って置くわけにはいかねーだろ」

「ダメよ、通さないわ」

ほむらは相変らず通路の前から動かなかった。

「は?」

らんまは思わず聞き返す。

「分かんないね。あたしたちがこっから先に進んだら何か都合が悪いの?」

さやかもほむらに聞いた。

らんまや杏子と合流する前も邪魔されて、またもや結界から追い出そうとする。

さやかにはほむらが何か都合の悪いことを隠しているとしか思えなかった。

「一度魔女になったらもう二度と元には戻らないわ。この先に進んでも無駄だから帰れといってるのよ」

「じゃあ、あんたはここで一体何をしてるのさ? あたしが来る前からずっと、こんなとこで」

「答える義務は無いわ」

自分の事情を話そうとしないほむらが相手では何を言っても平行線だった。

その時、結界の中が大きく揺れた。

「わっ!?」

「なんだ、地震か?」

さやかとらんまは思わぬ出来事に混乱する。

「……はじまったみたいね」

そんな中、ほむらだけが落ち着いてつぶやいていた。

「はじまった? 何が?」
418 :26話6 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/05/21(月) 00:21:07.75 ID:D0amhahd0
「それも、答える義務は無いわ」

さやかの率直な質問にもほむらは答えない。

「そんなに邪魔してーなら力づくでもこの先へ進むぜ? なんかとんでもねーことが起きてるみたいだしな」

痺れを切らせたように、らんまが腕を鳴らしながら前に出る。

「悪いけど、それは不可能よ」

ほむらがそう言うと同時にらんまは飛びかかった。

ほむらはそれを見てすぐに時間を止め、正確に、らんまの腰に付いたソウルジェムを狙って銃弾を撃った。

時が再び動き出し、ガラスが割れるような高い音を響かせて、その宝石は砕け散った。

らんまの体は銃弾の衝撃で撃ち落され、そのまま真下へ落下する。

「なっ!? ほむら、あんたはらんまさんまで……」

さやかは顔を青くした。

すでにさやかはらんまと杏子にソウルジェムが魔法少女の急所だということを聞いていた。

そして今さっきほむらからもソウルジェムが本体だと説明を受けた。

ソウルジェムを破壊されるということは死を意味するということをさやかも知っているのだ。

仮にも魔法少女狩りの犯人ということになっていた美国織莉子とは違って、何の悪さもしていないはずの
らんまに対しても何のためらいも無くその命を奪うということが信じられなかった。

やはりその織莉子を殺したときに手榴弾を投げたのも、自分ごと殺しても構わなかったのだと今更ながらはっきり分かった。

「先に手を出してきたのは向こうのほうよ。文句を言われる筋合いはないわ。
あなたも死にたくなければさっさとここから立ち去りなさい」

ほむらはそう言ってさやかに銃口を向けた。しかし――

「痛ってぇ……銃弾食らったのは初めてだが、流石に効きやがるぜ」

ソウルジェムを砕かれたはずのらんまがひょっこりと立ち上がった。

「えっ!?」

あっけにとられてさやかが声を出す。

「でもよ、俺にとっちゃ耐えられねーほどでもねーな」

らんまはいつも以上に勝気な表情で顔を上げた。

「……そのソウルジェムはダミーね」

ほむらが質問する。

「あたりめーだ。ソウルジェムが弱点と知ってて外から見えるトコに出してるワケがねーだろーが」

らんまは得意げに答えた。

魔法少女の衣装のマイナーチェンジぐらいなら大して魔力も必要ない。

ソウルジェムが表面に出てこないような衣装変更も可能だろう。

「だが、これで分かったぜ。お前が平然と他人を犠牲に出来るヤツだってことがな」

ほむらはまんまと欺かれたかっこうだ。

「ああ。今まではマミさんの手前遠慮してきたけど、どうやらその必要は無さそうだね」

さやかも抜き身の剣を構えた。

「……2対1ってわけ?」

ほむらはいら立ちを隠しきれないのかわずかに顔がひきつっている。

「いつもいつもいつもいつも……あなたたちは肝心なところで余計なことを……」

「いつも? 何ワケのわかんねえ事を言ってやがる!」

再びらんまはほむらに飛び掛った。

今度は素早く、時を止めるのは間に合いそうにない。
419 :26話7 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/05/21(月) 00:23:02.23 ID:D0amhahd0
そして魔法少女としては決して優秀とはいえない自分の身体能力では避ける事もできないと、ほむらは知っていた。

そこで、ほむらはすばやく装填済みの散弾銃を取り出し、ぶっ放した。

「なっ!? そんなモンまで!」

らんまはとっさにタタミを召喚して大ダメージを避けた。

が、着地した先にはすでにほむらの姿は無い。

すでにらんまの横に回っていたほむらは、今度は大口径の銃を構えている。

そこに、今度はさやかが襲い掛かかった。

「逃げ切れると思った? 残念!」

思わぬ横槍に、ほむらは銃をしまう。

「くっ!」

そして、何を思ったのか自分の足元に手榴弾を落とした。

「わわっ!?」

たいていの手榴弾は信管を抜いてもすぐには爆発しない。

しかし、そんな知識の無いさやかはとっさにほむらから遠ざかって間合いを取った。

その一瞬の隙を見逃さず、ほむらは時間を止める。

(勝った)

そう思い、ほむらは一息ついてあたりを見回した。

美樹さやかの動きは完全に止まっている、

何一つ動かない、いつも通りの時間の止まった世界だ。

(!?)

だが、らんまがいない。

この魔女の結界内はテーブルやティーポットやお菓子をかたどった障害物があるので身を隠す場所がないわけではない。

だがそれをいちいちくまなく探しているヒマは無かった。

時間を止めるのが長ければ長いほど魔力消費が大きいのだ。

『今回』は特に、見滝原の魔女はマミ・さやか・良牙の三人で片っ端から始末されていたし、
マミから譲られた風見野にはほとんど魔女が出なかったこともあってグリーフシードに余裕が無い。

ほむらはやむなくらんまの始末は後回しにする。

先ほど自分の足元に落とした手榴弾をさやかの目の前まで飛ばして、また時間を動かした。

「え? しま――」

唐突に目の前に現れた手榴弾におどろき、さやかはとっさに腕を組んで頭を守る。

そして、轟音とともにさやかの姿は爆風につつまれた。たとえ致命打にならなくても、しばらく反撃不能だろう。

そう思い、ほむらが再びらんまの姿を探した瞬間、その背後を強烈な打撃が襲った。

「無差別格闘早乙女流、白蛇吐信掌!」

ほむらは抵抗することも出来ず、前のめりに倒れる。

「女を殴るのは趣味じゃねーが、今回ばかしはカンベンしろ」

気配も無く背後から現れたらんまはそう言ってほむらを見下ろした。

「な……何それ……」

ほむらはうつぶせで動けないままだ。

「海千拳って言ってな、無差別格闘早乙女流の中でも気配を消して隙を突くことに特化した技だ」

ほむらにとってはワケの分からない話だったがそれ以上聞く気もしなかった。

らんまはそれだけ言うとさやかの方を見た。
420 :26話8 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/05/21(月) 00:24:19.95 ID:D0amhahd0
頭を守っていたおかげで死んではいないようだが、体中血まみれである。

ほむらよりも数倍重症だろう。

「……お、おい、大丈夫か?」

「やばい、死にそう……悪いけどグリーフシード半分だけ使ってくれない?」

さやかは元気なくそう答える。

(回復力は高くても燃費悪いんだな)

らんまはひそかにそんなことを思いながら、さやかに近づいてグリーフシードを使った。

「ふう、ありがと、また助けられたわ」

そう言ったさやかの体は、すでに血糊の下は完治した健全な乙女の肌がよみがえっていた。

「なんで、トドメをささなかったの?」

そんなことをしている間に、ほむらも回復し、既に立ち上がっている。

「言っただろーが女を殴るのは趣味じゃねーんだ。
俺はマミって子を助けに来ただけだから、おめーがこれ以上邪魔をしなけりゃトドメを刺す理由なんざねえ」

「女を殴るのは……?」

さやかはそうつぶやいてから思い出した、シャンプーの言うにはらんまが男だったと。

本来なら問い詰めてでも真偽を確認したかったが、さすがにそんな状況ではないのでさやかは口をつむぐ。

「甘いヤツね。悪いけど私はそれをさせるわけにはいかないわ……
あの二人を、巴マミと響良牙を犠牲にすればこの地球が救われるのよ!」

「はい?」

ほむらの大げさに思える台詞にらんまは思わず顔をしかめた。

(こいつ、実はただの電波ちゃんか?)

そんな疑問すら脳裏に浮かんでくる。

「それで分かったよ」

が、さやかはなにやら納得した様子だった。

けげんな顔で、らんまはさやかを見つめる。

「いや、地球云々は知らないけど、あいつは始めっからマミさんを犠牲にするつもりだったんだ。
魔法少女が魔女になるとか知ってたらマミさんが魔女になることを防ぐ手立てもあったはずだし、
普通なら知っててあたしたちに何も言わないってこともありえない」

ほむらは、らんまに説明するさやかをにらみつけるが特に反論は無かった。

それは事実上の肯定になる。

「はじめはキュゥべえと対立してたのかも知んないけど……今のあんたはキュゥべえの片棒を担いでいる。
あんたがマミさんを魔女にしたんだ!」

「……く……くくくっ」

さやかに問い詰められて、ほむらは苦虫を潰すような声を出したかと思ったら、その後に乾いた笑いを続かせた。

「そうよ! 何が悪いのよ! たった二人を犠牲にするだけで全人類が助かるのよ!
そうしなければあいつは……インキュベーターはもっと恐ろしい魔女を作り出すわ。
地球上の全生物をたったの十日ほどで吸い尽くしてしまうバケモノをね」

ほむらは完全に開き直っていた。

「なん……だって?」

それだけに、らんまとさやかにとってもほむらの言っていることがただのデタラメには思えなかった。

もしそれが本当だとしたら、ほむらの邪魔をすればとんでもない結果をもたらしてしまうかもしれない。

さすがに、らんまもさやかもどうすべきか戸惑った。

「――それでも」

そこへ、誰かが小さな足音をならしてゆっくりと歩いてきた。
421 :26話9 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/05/21(月) 00:25:37.87 ID:D0amhahd0
「さやかちゃんの言ってることが本当なら、私はほむらちゃんを許せない」

その声の主は杏子に守られ、らんまたちのいる部屋へ入ってくる。

ピンク色の髪をしたその少女は、まぎれもなく鹿目まどかその人だった。
422 : ◆awWwWwwWGE :2012/05/21(月) 00:27:16.20 ID:D0amhahd0
以上、第26話でした

……いまさらながら、一回のアップってどのぐらいの分量がいいんでしょう?
423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/21(月) 00:54:25.94 ID:CMgNeDXk0
これが本音かどうかまだわからんが
もしそうならほむら下衆いなー
これでマミさんが助からなかったら険悪な関係がずっと続くぞこれ
その前にまどかに全否定されて魔女化しなければいいんだけど
424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/21(月) 01:03:45.46 ID:CMgNeDXk0
一週間に一回は投下してますし、これくらいでいいと思います
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/21(月) 02:17:52.43 ID:xkpjvnZH0
>>ついてねぇ奴っているもんだよなぁ……
>>自分のせいでもねえ事故で天涯孤独の身になってよ、それでも街を守るために必死こいて戦ってたのによ……

良牙の言うとおりだよなぁ
選択の余地がない。そのうえ生き残っても家族は全員死亡で毎日、死と隣り合わせの戦いで孤独な日々・・・
他の4人はまだ契約しない未来を選択できたかもしれないけれど(杏子は餓死する可能性もあるが)
マミさんはそれすらも出来ないんだもんなぁ
いかん、涙が・・・
426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/05/21(月) 02:23:47.56 ID:Z7ZwQwXAO
ほむら…もうまどかが助かれば自分すらどうでもいいんだな…
427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/21(月) 14:24:16.22 ID:VdZo/0sYo
この時間軸のほむらは、精神的に追い詰められてるのか、ずいぶん暴走してるね
マミさんの件が本音じゃないにしても
織莉子はためらわずに[ピーーー]し、それにつき合わせたさやかのメンタルがどうなるかのリスクも無視するし

今まで実質メインヒロイン的な引っ張り方をしてたマミさんをどう処理するかで
このSSの〆かたが見えてきそうだな

>>422

自分としては、展開がgdらなければアップしてくれる分にはいくらでも
428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/21(月) 16:28:09.45 ID:yULKWQ670
良牙「独りぼっちは寂しいもんな…マミちゃん一緒にいるよ…」
こうはならないよね?
429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/05/22(火) 08:09:48.73 ID://c0gblao
^^;
430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/22(火) 21:08:31.35 ID:wpeaFl4h0
獅子咆哮弾は絶望に酔う事で発動、爆心地は気が済んで放心した術者が残るから魔女と同調して放てば絶望が抜け放心している少女(もしくは魔法少女)が残るかもしれない。
431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/05/24(木) 19:56:44.36 ID:8YvaRHLAO
しかし、キャンデロロ強いな…。
ゲーム版での弱さが嘘みたいだ。
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/24(木) 21:19:53.42 ID:NM1bABp5o
絶望具合によって、魔女の強さに補正入ってるんじゃないかと思ってみる
433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/24(木) 22:08:10.12 ID:N9RuMU8H0
縋れる存在(良牙)がいてゲーム版と違い諦め切れなかった分が強さになっているのでは。
ほむほむは、使い魔も放たず何もしないワル夜の演目をただ見ているだけの此岸(観客)の魔女と化そう。
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/05/25(金) 00:32:43.46 ID:2Bnnm4/AO
確かゲーム版では使い魔と合体する事でティロフィナーレが撃てるんだよね
435 : ◆awWwWwwWGE :2012/05/28(月) 02:50:05.49 ID:hyG7HJmg0
投下、行きまーす
436 :第27話1 ◆awWwWwwWGE [sage:sage:副題『らんまとあかねってツンデレだよね』]:2012/05/28(月) 02:53:07.21 ID:hyG7HJmg0
「なんで……」

ほむらはしばし唖然とした。

「なんでまどかをここに連れてきたの!」

そして、激昂する。

「一般人を結界の中に連れてくるなんて、何を考えているのよ!」

「はい?」

その指摘に、らんまとさやかは目を丸くした。

確かに一般的な理屈ではそういう考えも出来るが、魔法少女を[ピーーー]ことに戸惑いのないほむらにそれを言われても
まるで説得力が無い。

「なに言ってんだ、これだけ魔法少女がいりゃ危険なんてないだろ」

杏子はあっけらかんとそう言った。

「――それとも、あんたが暴れるから危険だって言うのかい?」

そして、挑発的ににやけながらほむらを見る。

「そんな問題じゃないってことが分からないの!?」

そう叫ぶほむらに、まどかはつかつかと歩み寄った。

「え? まどか」

「ちょ、アブねえぞ」

さやかとらんまの制止も聞かず、まどかはほむらの目の前までやってきた。

そして、まどかはキッと強い目でほむらを見る。

何をしたいのか、どういう動機で動いているのか、全部がチグハグに見えるこの少女。

(きっと、この子も同じなんだ)

直感的に、まどかはそう思った。

まどか自身も何がやりたいのかわからない子と親や教師から言われることがあった。

それは、決断することや本音を口にすることを怖がっていたからだ。

(何かを怖がって、本当の気持ちを伝えることから逃げてるんだ)

まどかはマミのことでの怒りの上に、臆病な自分への怒りをも瞳に宿した。

「ま……まどか?」

ほむらは戸惑いを隠せなかった。これほど強い感情を表す『まどか』がこれまでどれだけいただろうか。

(だから、伝えなきゃ。本気で怒ってるって、伝えなきゃ)

まどかは渾身の力を込め、ぎゅっと拳を握り締める。そして――

 パチンッ

なんともか弱い、可愛らしいほどの打撃音が響いた。

――痛い

(本気で気持ちを伝えるのってこんなに痛いんだ)

それは、恐らくまどかの今までの生涯最大の攻撃だっただろう。

しかしそれでも、殴られたほむらの頬は、何事もなかったかのように透き通るような白さを保っていた。

いや、魔法少女ではないごく普通の一般人でも、まどかに殴られたって痛みは感じないだろう。

一方のまどかの手は真っ赤に腫れていた。

たった一発、貧弱なパンチを打っただけでも体が悲鳴をあげるほど、まどかはか弱かった。

そんなまどかが、魔法少女相手にちょっとでもダメージを与えられるはずなどない。

それでも、まどかは思う。
437 :27話2 ◆awWwWwwWGE [sage:sage]:2012/05/28(月) 02:53:57.80 ID:hyG7HJmg0
(もしちょっとでも、私がほむらちゃんにとって特別だったら、きっと痛みは伝わる!)

ほむらは殴られた姿勢のまま呆けたように突っ立っていた。

(――効いた!)

まどかはそれを確認すると、ほむらから目をそらし、杏子の方を向いた。

「行こう、杏子ちゃん!」

「へへっ、あんたもやるじゃん」

そうしてまどかと杏子は結界の奥へと進もうとする。

「……何が、起こったんだ?」

らんまは信じられなかった。さやかもポカンとしていた。

ほむらにあんな貧弱な攻撃が効くはずは無いのだ。

しかし、現にほむらは茫然自失とし、目の焦点すら合っていない。

いったいどんなヘビーなパンチを食らわせたら魔法少女をこんな状態にできるというのか。

「……あ、ちょっと待って、まどか! 行くってどっちへ!?」

ふと我に返り、慌ててさやかはまどかを呼び止める。

「私は……マミさんを助ける!」

まどかはわざと、ほむらにも聞こえるように大きな声で言った。

「え? どうやって?」

「策があるらしいぜ。 ま、その辺は行きながらな」

さやかの質問に、まどかに代わって杏子が答えた。

「……あるわけないじゃない」

そこに、やっとのことで気を取り戻したほむらが口を挟む。

「そんな方法あるわけ無いじゃない!」

ほむらは認めるわけにはいかなかった。

もし、方法があるなら自分のしてきたことは何だったのか。

まだ助かる見込みがある『まどか』を見捨ててきた事になってしまう。

「黙ってて! ……私はそんなふうに、やってみる前に諦めたりはしないから」

まどかはいつにない強い口調でそう言った。

「あたしも同感だ。無理といわれて『はいそーですか』と引っ込んでるなんて性に合わないんでね」

杏子も同調する。

まどかのキッと前を見つめる瞳は、ほむらがいつか見た――たった一人で絶望に挑んだ『かつてのまどか』と同じだった。

「そんな……だめよ……行ったら死んでしまうわ!」

ほむらはそのかつての光景に今を重ねた。

だが、周りで聞いている人間たちにとってみたら意味が分からない。

『なあ? 地球を守るためだったら犠牲一人ぐらい増えても良いってキャラじゃねーのか、あいつ?』

『あたしに聞かれても……一般人は巻き込まないって方針? にしても扱いの差が極端すぎるよね?』

らんまとさやかは個別テレパシーで状況を確認しあうが答えは出ない。

そうしているうちにもほむらは盾に手をかけようとした。

「――させないよ!」

すばやくさやかは剣をほむらの盾に向かって飛ばす。

またたく間も無く、剣は見事に盾に命中した。

「くっ」
438 :27話3 ◆awWwWwwWGE [sage:sage]:2012/05/28(月) 02:55:21.60 ID:hyG7HJmg0
剣がぶつかった衝撃で盾は飛ばされ、地面に落ちる。

ほむらはそれを拾おうと走りこんだ。

「やめとけ」

しかしそこにらんまが、体がぶつかりそうなほどギリギリに割って入った。

「どきなさい! まどかを殺しまではしないわ、ただ止めるだけ――」

ほむらは振り切ろうとするが、身体能力ではらんまにかなうはずもなく、あっさり腕を掴まれた。

「そんなこと言ったって、お前もう限界だろ?」

そう言ってらんまは、ソウルジェムの付いたほむらの左手を、本人の顔の前まで持っていった。

紫色の光を放っていたはずのその宝石は、いまやただの黒い塊にしか見えない。

「……そんなっ」

魔女になるつもりでない限り、こんな状態で時間停止など使えるはずも無かった。

それどころか何かひとつでも魔法を使えば危ないだろう。

「さっきの言葉そのまま返すぜ……魔女になられたら迷惑だ、しばらくそこでじっとしてろ」

らんまにそう言われなくても今の状態のほむらには、まどかが結界の奥へ進むことを阻止する術など何もない。

ほむらはがっくりとうなだれた。

「行こう」

まどかが短くそう言うと、杏子もさやかも、まどかを守るように付いていった。

「よし、行ったな」

らんまはまどかたちが奥へと進んで姿が見えなくなったのを確認すると、
何も言わずに使いさしのグリーフシードをほむらのソウルジェムに当てた。

「――っ!? どうして?」

戸惑いを見せるほむらに、らんまは軽くため息をついて見せた。

「魔女になられたら迷惑つったろ、同じこと言わせんな。
それに、オメーには聞かなきゃなんねーことがまだまだありそうだ。今回は見逃してやるからおとなしくしとけ」

それだけ言うと、らんまはほむらから離れ、まどかたちを追って結界の奥へと向かう。

(見逃してやる……ですって?)

背中を向けるらんまに、ほむらは50口径の大型拳銃を構えた。

これが直撃すれば、いかに屈強な武闘家兼魔法少女でも致命的なダメージになるはずだ。

そして、後ろを向いている状態で時間を止めれば確実に命中させることが出来る。

(あなたにそんな情けをかける余裕があるとでも?)

ほむらはそんなことを考えながら狙いを定める。

しかし結局、らんまが姿を消すまで銃を撃つことは出来なかった。

すでにまどかは魔女の方へ向かっている。

この状態でらんまを倒してもまどかの護衛を1人減らすだけ、つまり、まどかの生存率を下げることにしかならない。

(どちらにしても、巴マミがすでに魔女になっている以上、何も変わらないわ)

そう思って心を落ち着けると、ほむらは力なく、拳銃を構える腕を垂れ下げた。

***************

「――でも、さやかちゃんが無事で良かった」

結界の中を走りながら、まどかは言った。

とは言え、さやかと杏子にとっては走るにはあまりに遅く、彼女らは早歩きをしていた。

「んー、無事なのかな?」

さやかは曖昧な返事をした。
439 :27話4 ◆awWwWwwWGE [sage:sage]:2012/05/28(月) 02:56:56.53 ID:hyG7HJmg0
正直に言えば、さやかはこうしてまた普通にまどかと会話をする時を持つ気はなかった。

巴マミの件だけ済んでしまえば、後はどこかに姿を消してしまおうと思っていたからだ。

「ダメだよ、ちゃんと家に帰って学校に来てくれないと」

「……考えとくよ」

まどかに事情を話す気にもなれず、さやかは曖昧に答え続けるだけだった。

すでにまどかはその事情を知っているのかも知れないが、今はあまり込み入って話している場合でもない。

さやかは話をそらすアテを探して、杏子の方を見た。

すると杏子はなぜか顔をそむけている。

「どうしたの?」

「杏子ちゃん?」

まどかも杏子の様子に気が付き首をかしげる。

「い、いや、なんでもねー」

心配そうに見つめてくる二人に、杏子はとても自分が不登校だから耳が痛いとは言えなかった。

「よっし、追いついた!」

そこへ、らんまがやって来た。

「お、来たか……あいつはどうした?」

杏子が質問する。あいつ、とはほむらのことだ。

「放っておいた。あの様子じゃ邪魔しにもこれねーだろ」

「……ちょっと、やり過ぎちゃったかな?」

気まずそうに、まどかが言った。

「まさか、まどかがぶん殴るとはねぇ」

さやかはいつものからかう調子でつぶやく。

「イヒヒ……」

そのいつもの調子を見せたことにまどかは嬉しそうな顔をする。

(まったく、シリアスに浸らせてくんないね……)

さやかは心の中でつぶやいた。

「いいんじゃねえの、スカッとしたろ?」

一方、杏子は単純にまどかを持ち上げた。

「え、えと、そんなつもりじゃ」

まるで暴力衝動を駆り立てるかのような物言いに、まどかは慌てる。

「俺たちが手に余る相手をワンパンでのしちまうとはとんでもねぇ怪力だぜ。
どんな武闘家も魔法少女もオメーにゃかなわねーよ」

するとらんまも杏子に乗っかって、まどかを持ち上げる。

「あ、あはは……」

らんまがおだてているのか本気で言っているのかよくわからず、まどかは苦笑するしかなかった。

「――で、この怪力無双ちゃんは一体どうやって魔女を魔法少女に戻すんだ?」

そんなまどかに対してふいに、らんまは肝心の質問に移った。

「あ! えと、それは……とりあえず、マミさんに、と言っても生身の方じゃなくて
魔女の体の方にうんと近づきたいんです」

まどかの言葉に、らんまとさやかは考え込む。

「結構あぶないね。あたしが行くよ、あたしなら多少食らっても平気だから」

そして、さやかが立候補した。
440 :27話5 ◆awWwWwwWGE [sage:sage]:2012/05/28(月) 02:59:21.78 ID:hyG7HJmg0
「いや、オメーはダメだ」

しかし、即座にらんまが却下した。

「え、なんで!?」

「燃費が悪い」

「うっ、それは!」

どうやら自覚はあったらしく、的確に弱点をつかれてさやかは黙り込んだ。

「グリーフシードもさっき全部使っちまったし、俺か杏子が行くしかねーだろ」

らんまが言うと、杏子は軽く首を横に振った。

「あたしもそれが良いと思うんだけどさ、コイツがね……」

そう言って、杏子はまどかを指差す。そのまどかは眉間に皺をよせて嫌そうな表情をしていた。

「ん? まどか?」

付き合いの長いさやかにもまどかが何を考えているのか分からない。

「……その、私がやります。私にやらせてください!」

まどかはきっぱりとそう言った。

「え、マジかよ?」

らんまは流石に表情を引きつらせる。

「まどか、なんか変なもの食べた?」

さやかは容赦の無いツッコミを入れる。

「さやかちゃんまで……私がやりますぅ!」

少し意地になったようにまどかは強く言い返した。

「――だってさ。まあいいじゃねーか、どこまで出来んのか、見せてもらおうぜ?」

心配そうならんまとさやかとは違って、杏子は楽しげだった。

単純に、酔狂なヤツやど根性的なものが好きなのだろう。

らんまは、杏子が不良漫画や格闘漫画ばかり読んでいることを右京から聞いていた。

「はぁ……まあ、それは実際魔女を見てから考えるとしてだな、
具体的に何をするのか教えてくれよ」

ため息混じりのらんまの質問に、まどかは振り返った。

「猫飯店での話なんだけど――

***************

時はややさかのぼる。

らんま達と別れた後、シャンプーは急ぎ猫飯店に戻り、あったことを報告した。

「マミさんが……魔女に!?」

想像以上に沈痛なまどかの表情に、シャンプーはしまったと思った。

あまり直接的に言うべきではなかったと。

「でもま、さやかって子は大丈夫そうね」

なびきはあまり感情のこもっていない声で言った。

「うむ、ムコ殿たちが間に合ったのならば問題あるまい」

コロンもうなずくが、それでまどかの表情が晴れるはずもない。

「大丈夫ね、乱馬ならなんとかするね!」

シャンプーは落ち込むまどかを見かねて明るく言って見せた。

もちろん、根拠など無い。しかし、シャンプーは嘘をついているつもりなどなかった。
441 :27話6 ◆awWwWwwWGE [sage:sage]:2012/05/28(月) 03:00:40.39 ID:hyG7HJmg0
シャンプーは乱馬を追って中国から出てきて、いままでずっと乱馬を見てきた。

そのシャンプーの目から見た乱馬はこの程度でへこたれる男ではない。

「確かに、ムコ殿たちならば負けることは無いじゃろう……じゃが」

「そうね、魔女を元に戻す方法がわかんなきゃどうしようもないわね」

コロンとなびきの言わんとすることはまどかにも分かった。

魔女を倒すことは出来ても、巴マミを救うことは出来ない。

どんな強い力を持っていても介錯しかできない。

「そもそも魔女って何アルか?」

ここに来て、シャンプーが根本的なことを聞いてきた。

「それは……魔女は、呪いから生まれた存在で、心の弱った人をエサにして……」

まどかが自分の知る限りの情報で説明をはじめる。

「それじゃ魔法少女は何アルか?」

「ええと、願いから生まれて、希望を振りまく存在で……」

まどかの説明はキュゥべえの言ったことのほとんどそのまま受け売りだった。

「あたしも聞いた説明だけどさ、なんかすっごく曖昧よね」

なびきがツッコミをいれるまでもなく、キュゥべえの説明が何も具体的なことを言っていないことは全員に分かっていた。

魔女の発生源が魔法少女だという重要事項すらさけているのだから曖昧な説明にならざるを得ないのだろう。

「うーん、願いから呪い、希望から絶望、まるで真逆ね」

その曖昧な説明に対して、シャンプーは率直な感想をもらした。

「つまり、魔法少女が魔女になるとは、気持ちがまるで反対になるということかの?」

コロンがそこに推測を加える。

「気持ちが反対……? なんか一回そんな騒ぎ無かったっけ?」

なびきはふと、何かを思い出したような気がした。

しかしすぐには思い当たらない。

何しろ、自分の妹であるあかねを筆頭として、周りの人間には気持ちと裏腹な行動をとるツンデレさんが結構いる。

考えてみればそんな騒ぎは一回や二回どころじゃなかったかもしれない。

「あっ!」

突然、シャンプーが手のひらをぽんと叩いた。

同じくコロンも何かに気が付いたらしく、目を見開いている。

「反転宝珠ね!」

「飯店……ほうじゅ?」

うれしそうに声を上げるシャンプーに対し、まどかは首を傾げて見せた。

「え? あれって、対人感情を逆にするんじゃないの?」

話の分かっていないまどかを置き去りに、なびきが質問をした。

「……いや、あれは愛情と憎しみを反転させる道具じゃ。特に対人感情には限っておらん。
よほど日頃から鬱屈しておるとか明るすぎるとか、そういう事が無い限りはあまり変わって見えんがの。
結果的に対人感情に特に強く現れているように見えるだけじゃ」

シャンプーに代わってコロンが質問に答えた。

「感情が……反転? それを使えば、マミさんも!?」

まどかは一縷の光明を見つけて、パッと顔を明るくする。

「その可能性はあるわねー」

なびきもそれに同意した。
442 :27話7 ◆awWwWwwWGE [sage:sage]:2012/05/28(月) 03:02:21.59 ID:hyG7HJmg0
「それじゃ、反転宝珠を持ってもうひとっ走り行って来るアル!」

さっそく、シャンプーは立ち上がり行動を起こそうとする。

が――

「駄目じゃ」

コロンがそれを制止した。

「……おばあちゃん?」

「魔女はムコ殿や良牙でも苦戦するほどの敵なのじゃろう?
それを相手に懐に入り込んでブローチを取り付けるなど危険極まりないではないか」

それは確かにその通りである。シャンプーの実力でも役者不足だろう。

「でも、他に方法が……」

まどかは恐る恐る反論する。

「親類の手前もある。預かっているひ孫をそんな危険な目にあわすことは出来ん
シャンプーも考えてみろ、確かにムコ殿の前でかっこいいマネは出来るかも知れんが
直接的にわれわれに得になることは何も無いのじゃぞ?」

「むぅ……それもそうね」

得がないといわれて、シャンプーは納得してしまった。

そもそもなんとなくその場の空気で魔女を魔法少女に戻す方法を考えたものの、
それが出来たからといってシャンプーにとって得るものは何も無いのだ。

「そうよねー、魔女を1人魔法少女に戻したって、キュゥべえにとっちゃ対した問題じゃないでしょうし
命かける価値のある実験かって言われたら微妙よね」

なびきもコロンやシャンプーに乗っかるように同様の意見を言った。

「そ、そんな……」

まどかはがっくりとうなだれた。

風林館の人たちにとってはマミは所詮他人に過ぎないのだ。

マミの日々の活動によって平和な日常が守られていたわけでもないし、彼女の強さ優しさを知っているわけでもない。

悲しかった。人の命がその程度に扱われてしまうことが。

そして悔しかった。彼女らを動かせない自分の無力さが。

「私が……」

気が付けば、まどかはか細い声を出していた。

(そうか、それしかないんだ)

その自分の声に気付かされ、まどかはハッとした。

人を動かすことが出来ないのなら、自分でやるしかない。

当然過ぎる理屈、でも、今まで避けてきた行動。

無力だと思われることを嫌がっていたくせに、自分で強くなる道を探していなかった。

自分でやってみる、そんな第一歩すらろくに踏み出してこなかった。

でも、ここで前に進まなければ、自分にとって大切な人を失ってしまう。

何かを言おうとその小さな口を開けたとき、すでにまどかの中には決意が宿っていた。

「私が行きます!」

まどか以外の三人がみんな、まどかを注目する。

「だからお願いです、その反転宝珠という道具を貸してください!」

「……貸してやるのは構わんが、それ以外は手を貸さんぞ?」

まどかの決意を確かめるように、コロンはその瞳を覗き込んだ。

「はい、ありがとうございます!」
443 :27話8 ◆awWwWwwWGE [sage:sage]:2012/05/28(月) 03:04:20.09 ID:hyG7HJmg0
コロンの不適な顔に揺るぐことなく、きっぱりとそう返事をした。

「いいじゃろう、シャンプー、反転宝珠を持ってくるのじゃ」

「分かったね、おばば」

そう言ってシャンプーは席を立つ。

「……でさ、まどかちゃん、お金どのくらい持ってるの?」

話がまとまったところで、ふいになびきがまどかに質問をした。

「えっ!? 今は……二千円ぐらいですけど?」

もしかしてお金を取られるんじゃないかと警戒しながら、まどかは答える。

「それじゃ足りないわね……」

すると、驚くことになびきは自分の財布から五千円札を取り出してまどかに渡した。

「はい、貸したげる」

「え、え?」

いったい何が起こったのか分からず、まどかは混乱した。

「あんたの足じゃ間に合わないかも知んないでしょ? タクシー使いなさいよ」

「え……あ、あの、ありがとうございます!」

思いもよらぬ気遣いに、まどかは勢い良く頭を下げる。

「頭下げなくて良いから、ちゃんと後で返して頂戴。利子付きで」

なびきはそう言ってウインクをした。

***************

「オババ、私も仕事に戻るね」

まどかが出て行くと、シャンプーもムースが1人で回している店の仕事に戻っていった。

「行ってしまったの」

確実にまどかが行ったのを確認して、コロンは言った。

「なびき、お主なぜタクシーなど使わせたのじゃ?」

「決まってるじゃない、タクシー代貸したおかげでまどかちゃんは早く行けるし、あたしは儲かる。
お互いにとって得でしょ? 商売ってのはこうじゃなきゃ」

なびきはごく当然のようにそう答えた。

「それではワシが追いつけんではないか」

コロンは少し怒ったように抗議する。

「あら? おばあちゃん手は貸さないって言ってたじゃない?」

「あれはじゃな、覚悟を見たかっただけでじゃな……」

矛盾を突かれてコロンはわずかに言いよどんだ。

「なんでそんな面倒くさいことしたのよ?」

「魔法少女が魔女になるとはつまり、己の負の感情に負けたと言うことじゃろう?
そのような者を元に戻すのはかえって良くないこともあるのではないかと思っての、
果たして助ける価値がある人物かどうか見極めたかったのじゃ」

「ふーん」

コロンの説明に、なびきは興味なさげな相槌をうつ。

「そういうのも大事かもしんないけどさ、あの子ちょっと不安よね。何か変に気負っちゃったような……」

そして、まどかに対する率直な感想を漏らした。

「……お主、そこまで理解していながらなぜタクシーなど使わせたのじゃ?」

「あたしが儲かるから」
444 :27話9 ◆awWwWwwWGE [sage:sage]:2012/05/28(月) 03:05:23.24 ID:hyG7HJmg0
なびきが同じ答えを繰り返すと、コロンはげんなりとした表情を見せた。

さすがにまずいと思い、お茶で口を潤してなびきは言葉を続ける。

「――それに、乱馬くんも良牙くんもお婆ちゃんの弟子でしょ?
ちょっとは弟子を信頼してやってもいいんじゃないの?」

「知った風な口をききおって、あやつらは技をひとつふたつくれてやっただけじゃ、本弟子ではない!」

コロンは怒ったようにそう言ってから、小さく口を開いてつぶやいた。

「まぁ、負けはせんじゃろうがな」
445 :オマケという名の言い訳文 ◆awWwWwwWGE [sage:sage:]:2012/05/28(月) 03:08:55.45 ID:hyG7HJmg0
なびき「――ここでいきなり反転宝珠って急すぎない? 変な設定まで加えてさぁ」

まどか「そうですよね、私はよく知らなかったから、ご都合アイテム出現にしか……」

なびき「重要な役割を果たすならさ、序盤でチョイ役で出しておくってのが構成上の上手いやり方だとあたしは思うわけよ」

コロン「仕方なかろう、反転宝珠は本来ならそれひとつで話が腐るほど作れると言われておるほどの強力アイテムなのじゃ
    そんなものを序盤から導入してみろ、本筋そっちのけでラブコメ路線に突っ走ってしまうぞい!」

まどか「それはそれで、いいかなぁ」

なびき「まあ、この作者にそれでやってけるほどセンス無さそうね。
    この似非シリアス路線も大概だけど」

まどか「あと、気になるのが見滝原と風林館の距離なんですけども、
    見滝原のモデルは群馬県前橋市だそうなんで、もうちょっと遠いかなって……」

コロン「風林館は東京都練馬区じゃからのぉ、とてもこんなに簡単に行き来できる距離ではあるまい」

なびき「ちょっと待ってね……えーと、ケータイで調べたら前橋駅から練馬駅まで電車で2時間半かかるわね。
    7000円ぽっちのタクシー代じゃ全然足りないわよ」

まどか「えと、このSSの中での見滝原は練馬区風林館から数駅程度の距離ということでお願いします」ペコリッ

コロン「関東の地理も知らぬ分際でSSなど書き始めるからこうなるのじゃ、まったく」

なびき「それに、こんなオマケ書いてる暇あったら連載ペース乱れないように書き溜めしときなさいよ
    大体、計画性が無いのよねぇ」

まどか「あの、自己嫌悪するのにいちいちキャラに言わせるのもどうかなって……
    あ、あと、マミさんの魔女の話!」

コロン「キャンデロロがゲーム上は弱かったと言う話じゃな」

なびき「書き始めたころはキャンデロロの性能どころか、名前すら出てなかったもねぇ」

まどか「いろいろとマミさんの魔女案を考えてはいたらしいですよ
    それが、公式から全然違うの出されたからああなったと――」

なびき「そんなのPSP版が出るまでに書き上げちゃえば逃げ切れたんだから、遅筆が悪いのよ」

コロン「もし己の魔女案に自信があればキャンデロロではない別の魔女にしても良かったじゃろう
    説得力のある魔女ならSSとしてはそれでも良いはずじゃ」

なびき「そーそ、結局は自業自得よ」

まどか「あ、あはは……えと、結局のところ今作のマミさん魔女はPSPのキャンデロロと
    このSS作者の考えていた魔女の折衷案ということで、ご理解をお願いします」ペコリッ

コロン「謝らねばならぬことが多いのぅ」

まどか「至らないところは多々あると思いますが、未完で終わらせて『ごめんなさい』だけは
    絶対にしませんので、なにとぞご愛顧のほどをよろしくお願いします」

なびき「あら、絶対なんて言っちゃって。 サボりじゃなくてもさ、いつ病気や事故で書けなくなるかもわかんないのに」

コロン「なぁに、こういうものは覚悟の問題じゃて……
    それでは、まどか殿が締めてくれた所で、今週はここまでですじゃ」
446 : ◆awWwWwwWGE :2012/05/28(月) 03:09:44.58 ID:hyG7HJmg0
以上、27話アップ終了です
447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/28(月) 05:53:03.59 ID:Rl+asodjo


コロンちゃんはかわいいなぁ
仏間に置いときたいくらいだよ
448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/28(月) 06:15:21.91 ID:gBexz24v0
乙です
杏子の言う通りまどかがほむらを殴ったのはスッキリしたww
ほむらが嫌いなわけじゃなけど、あのまどかが魔法少女にならず、こんな思いきった行動に出た事が嬉しい
フラストレーションが溜まる展開が多かっただけにカタルシスがあるわ
ほむらには悪いけど、まどっちが自分に自身を持てた第一歩だと思う
449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/28(月) 08:09:21.95 ID:bP+l+AWAo
安定のまどかだけしか見てないほむほむで安心したようなかわいそうなような
450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/05/28(月) 13:09:56.15 ID:78YpcmWAO
乙です
まさか原作ではギャグ回に登場した道具に過ぎなかった反転宝珠がこんな重要なアイテムになるとは。
まどかに隠れがちだけどさやかも実力的にも精神的にも強くなってるよね。らんまとタッグを組んでたとはいえほむらを倒してるし、今まで危険な場面に直面しても魔女化はしてないし。
451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/29(火) 08:53:21.04 ID:29SW0t8DO
おつおつ
中学生のまどかキャラのメンタルが結構ややこしいのに対して、高校生のらんまキャラのドライさがなんかかっこよく見えるな
452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/02(土) 09:50:44.88 ID:J9VWwwYu0

まどか成長、らんま年長者の貫禄を見せるでした。武者修行で幼い内から見ず知らずの土地に居る事が多かったらんまのドライさは納得。

反転宝珠を付けたとしても、マミさんの性質が招待から訪問になるだけかもしれない。
反転とはいえ魔女の性質が反転するだけで魔法少女に戻るとは限らないし、人間心理の奥深さを感じるだけになる可能性も有ります。愛憎は相手に対する感心だから本質は一緒だし、反転宝珠では方向性だけが変わっている気がします。
453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/02(土) 20:53:16.79 ID:dXm2oeiro
てか、たかだか性質が反転した程度で、莫大なエネルギーを放出して相転移してしまったはずのモノが
エネルギーを放出する以前のモノに戻せてしまうなら、それはきゅうべえ達の活動にそもそも意味が無かったことになる。
そんなまどマギ世界感を台無しにしてしまうようなご都合主義展開が許されるなら、本編のほむほむはあんなに苦悩しなくてよかっただろうよ。
そして、まどまどは神になんてならなくても良かっただろうよ。

というわけで、ご都合主義で安易な救済が成立しちゃわないことを祈ってる
454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/03(日) 05:12:16.80 ID:EuO3nhDPo
>>453
変なのが涌いてるな
ギャグ漫画とのクロスになに言ってんだ。この世界じゃ手乗り豚にお湯をかけるとそれなりの身長の男になるんだぞ
455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/06/03(日) 08:45:27.51 ID:uISm8A+AO
このSSがギャグに見えるなら眼科に行け
456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/03(日) 19:33:38.83 ID:aj2WsGlDO
まず豚から人間になる、人間から豚になる時点で質量保存とかエントロピー無視してるから難しく考えすぎなくてもいいんでないの?
457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/03(日) 19:33:39.59 ID:Ext8fbc+0
まあ理屈なんてどうとでもなるだろう
問題は過程だ。あっさり解決してしまわない事を期待したい
458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/03(日) 22:52:30.42 ID:bGouWIZSo
>>453
まどマギの世界だけならそうなのだろうが
クロス先の理屈や理論も入るんだから
QBの理屈だけでは語れなくなりますよ

それがクロスSSってもんですぜ?

らんま世界だって変身のほかにも
「気」を使う必殺技全般は明らかにエントロピーや物理法則を無視してるんだし
459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/06/04(月) 09:26:19.41 ID:PEj0hK/AO
とは言え、普通の少女を卵に例えるなら魔法少女は目玉焼き、魔女はお妙さんのダークマターだしな…
460 : ◆awWwWwwWGE :2012/06/04(月) 23:29:56.53 ID:Dofo4Tk20
えーと、いろいろご意見はあると思いますが
私はひねくれ者ですので、自分の書きたいようにしか書きません
申し訳ないですが、その点はご了承お願いします

では、28話アップします
461 :28話1 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2012/06/04(月) 23:31:13.87 ID:Dofo4Tk20
地震のような揺れが断続的に続いていた。

結界の奥に行くにしたがって、その揺れは大きくなっていく。

大きな揺れが来るたびに、まどかはこけそうになって誰かにしがみついた。

それでもなんとか一行は魔女の部屋の前までたどり着いた。

「え、振動の理由って……」

「こりゃ何の冗談だよ?」

さやかと杏子は目を疑った。

「またとんでもなく威力が増してやがるな」

らんまも頭を抱えた。

入り口から見える魔女の部屋の光景、それはクレーターの上にひとりたたずみ、
ひたすら獅子咆哮弾を撃ちつづける響良牙の姿だった。

「りょ、良牙さんがこの地震を?」

まどかの疑問に答えるように、強力な光が魔女の部屋をつつみ、それと同時に大きな振動が起こる。

あまりにも常識外れの威力だった。魔法少女でもまともに食らえば致命傷になるだろう。

「とりあえず、テレパシー飛ばして止めさせるぞ」

らんまがそう呼びかけたのは、自分のテレパシー能力に自身が無いからだ。

「それが……さっきからやってるんだけどさ……」

「ああ、全然、繋がらないね」

それに対して、言われるまでも無くテレパシーを送っていたさやかと杏子は首を横に振った。

「繋がらないってどうしてなの?」

「獅子咆哮弾は不幸に浸るほど威力が上がる技だ。多分、テレパシーなんて耳に入らないぐらい不幸に浸りきってんだろ」

まどかの質問にらんまが答える。が、さやかはそれにも首を横に振った。

「そんなのじゃないよ、本当にテレパシー自体が届かないもの!」

「なんだって? 魔女の能力か?」

テレパシーを妨害する能力もありえなくはないし、もしそうならば地味にやっかいな能力だ。

「いいや、違うね。 今までそんなこと無かったし、マミの能力から考えてもらしくない」

魔法少女としては三人の中で一番ベテランの杏子は冷静に状況を分析した。

「多分……そこかっ!」

杏子は突如あらぬ方向に槍を投げた。

すると槍は、壁に突き刺さる前に何かに突き刺さり動きを止めた。

そして、槍の突き刺さったところに白い小動物の姿が浮かび上がる。

「キュゥべえ!?」

まどかが悲鳴に近い声をあげた。

「姿も見せずにテレパシー妨害なんてなぁ、テメーぐらいしかできそうな奴はいねーよ」

槍に貫かれたキュゥべえの死体に、杏子は言い捨てた。

しかし――

「ご名答。 さすがはもうベテランだね、杏子……いや、あんこと言った方がいいのかな?」

槍に突き刺されているものと同じ姿の白い小動物が、ゆっくりと歩いて現れた。

「あ……あんこじゃねぇ、『きょうこ』だ」

反射的にそう答えながらも杏子は、そして他の一同も全員驚きを隠せなかった。

そんな中キュゥべえは悠々と、槍に刺された自分の死体に近づき、それを食べ、平らげる。
462 :28話2 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2012/06/04(月) 23:32:02.61 ID:Dofo4Tk20
「な……ゴキブリみたいな生態してやがる」

「らんまも意外と詳しいね。 ゴキブリの死んだ仲間の肉体を食べる習性は非常に効率的だよ。
ボクの場合は別にゴキブリにならったわけではなくて元からやってたことだけどね」

ゴキブリ扱いされてもキュゥべえは不快な表情をすることもなく、むしろゴキブリを効率的だと褒めた。

その人間離れした感覚に、一同は言い知れぬ恐怖を覚える。

「まあ、こういうわけだから、ボクを何体殺したところで無意味だよ。テレパシーで良牙を止めることはできない。
そして、あの威力の獅子咆哮弾を食らえばキミたちでも無事ではすまない。
キミたちは良牙とマミが負のエネルギーを放出し続けるのを眺めることしかできないのさ」

「てめぇ……」

杏子はキュゥべえに掴みかかるが意味の無い行為だった。

「負のエネルギーか、まずいなそりゃ」

らんまはつぶやいて冷や汗をぬぐう。

「獅子咆哮弾は不幸になればなるほど強くなる技、不幸を呼ぶ技なんだ。
こんな威力の獅子咆哮弾を撃ち続けたら、良牙の奴もマトモじゃいられなくなるぜ」

そうは言ってもらんまは動き出すことができない、具体的な策が無いのだ。

さやかも、どうしたらいいのか手段を思いつけない。

魔法少女たちが動きを止めたその時、まどかがいきなり走り出した。

もちろん、良牙に向かって一直線にだ。

「バカッ! 何やって!」

「死ぬぞ、おい!」

らんまと杏子の制止も聞かず、まどかは普段からは想像できないぐらい速いスピードでこけそうになりながら走る。

不幸に浸りきっている良牙が後ろから来るまどかに気付くはずもなく、そこへ無情にも特大の獅子咆哮弾が落ちてきた。

そして、まどかがその巨大な重い気の塊につぶされそうになる直前――青い閃光が横切った。

轟音が響き、まどかの姿は光の中にかき消された。

しかし――

「ティヒヒ、信じてたよ、さやかちゃん」

うつ伏せに倒れたまどかの上に、さやかが覆いかぶさっていた。

「まどかったらタチ悪いよ、ほんと」

その身でまどかをかばいながら、さやかはつぶやく。

まどかはただの無謀で突っ込んだわけではなく、自分の弱さを利用して魔法少女を無理矢理引っ張り出したのだ。

いつからまどかがこんなにズル賢くなったのか、長年まどかと付き合いのあるさやかにも分からなかった。

その一方で利用されたというのに不思議と悪い気はしない。

どこかに姿を消したり魔女になって果てるよりは、こうしてまどかを守りきって死んだ方がよほど有意義に思えた。

「さ、早く行かないと!」

獅子咆哮弾の光が消えると、まどかはさやかの下から這い出て、さらに良牙のほうへ向かう。

その時、またも、獅子咆哮弾が襲ってきた。

もうソウルジェムの限界も考えず、さやかはまどかを守るためにまたも覆いかぶさる。

だが、そこに落ちてきた獅子咆哮弾の衝撃は思ったよりも大分軽いものだった。

「え……?」

さやかとまどかが上を見上げると、ボロボロのタタミがドーム状になって彼女らを覆っていた。

「防御魔法もねーくせにつっこむもんじゃねーぜ」

「あたしらが居なかったら、あんたらここで死んでたよ?」

そして、そのドームの中には二人だけではなく、らんまと杏子がいた。
463 :28話3 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:副題忘れてた『魔法のないまどマギも書いてみたい』]:2012/06/04(月) 23:34:39.30 ID:Dofo4Tk20
タタミの隙間からは杏子の槍を伸ばしたらしい格子が見える。

つまり、らんまと杏子の防御魔法による二重防壁で獅子咆哮弾を防いだのだ。

それでも完全に衝撃を殺せていないのだから、直撃の威力は相当なものだろう。

「ヒヒ……らんまさんと杏子ちゃんも信じてたよ。
だって、マミさんを助けるためにここまで来てくれる良い人たちだもん」

そう言ってまどかはイタズラな微笑を浮かべた。

「な、な、人を利用しといて何言ってやがる!」

素直に良い人と言われて、杏子は露骨にテレを見せた。

ずっと、そんなことを言われるはずのない生き様を送ってきた杏子にはむずがゆいのだ。

「おいおい、照れてないでさっさと行くぞ」

らんまが指示を出し、一同はいっせいに良牙のほうへ走った。

そして良牙のすぐ近くまで着くと、まず杏子が大型の防御魔法を展開し、獅子咆哮弾の至近距離直撃を避ける。

さやかとまどかは良牙に構わず魔女の姿を探し、らんまが良牙に呼びかけた。

「おい、良牙、いったん止めだ獅子咆哮弾を止めろ!」

しかし、良牙の耳にらんまの声は届いていなかった。

完全に不幸に浸りきり、何も見えていない。ただ獅子咆哮弾を打ち続けるだけの壊れたおもちゃのようになっていた。

「くそっ! やめろって言ってるだろ!」

らんまは本気で良牙の腹を殴る。それでもまるで良牙には効いていない様だった。

男の体でも良牙相手には一撃ではダメージにならないのだ。女の体では気をそらすこともできなかった。

「無駄だよ、良牙にはテレパシーで繰り返しマミの不幸な生い立ちを見せてあげたからね。
もともと不幸を溜め込みやすい良牙だ。こうなったら簡単には気をそらせないよ」

そこにキュゥべえが現れて解説を加える。

「これもてめえの仕業だっていうのかよ!」

キュゥべえは何も言わずにこくりとうなずく。

(だが、こいつは分かっちゃいねぇ!)

らんまはこの時、そんな確信を持った。

良牙としばらく一緒にいたはずなのにその程度しか理解していない、実は人間への理解力が低いのではないか。

そんな疑問すら出てくる。

とにかく、それならばと、らんまは取っておきの手段を使うことにした。

良牙の耳元に口を近づけて一言。

「あかねがまたオメーとデートしたいってよ」

「え?」

良牙は思わず、正気に戻った。

その瞬間、らんまは思い切り良牙の頬を殴る。

「いて、何しやがる!」

「何しやがるはこっちの台詞だ、バカヤロー。オメー一歩間違ったらこいつらに大怪我させるとこだったんだぞ!?」

そう言ってらんまは、さやかとまどかの方を指差した。

「え? あ、すまない」

良牙は真剣に落ち込んだ表情をした。

「『あかね』って誰?」

「良牙さん、マミさんどこ?」

そんな良牙に、さやかとまどかは口々に質問をする。
464 :28話4 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2012/06/04(月) 23:35:44.36 ID:Dofo4Tk20
「らんまのパンチを『いて』で済ませるって……あんたどんな化けもんなんだ?」

杏子は今さらながら良牙のタフさを目の当たりにして唖然としていた。

「あ、いや、あかねさんは……いや、それよりも今はマミちゃんだ!
そこの小さいのが魔女になったマミちゃんの本体だ」

良牙はごまかし半分に自分で作ったクレーターの少しへこんでいる部分を指差した。

まどかは周りの人間が止めるより先にそこに駆け寄り、クレーターに埋まっていた魔女らしきものを取り出した。

「マミさん魔女になってもこんなに可愛いんだ」

そして、どうでもいいことをつぶやいた。

「まどか、そんな場合じゃないってば!」

あせるさやかをよそに、まどかは余裕を見せる。

「大丈夫、これを使って――」

そう言ってまどかは反転宝珠を取り出した。

「なんだい、それは?」

「キュゥべえ、私はこれでマミさんを人間に戻すから!」

「なんだって――!?」

キュゥべえの質問にもまどかは律儀に答えて、小さな魔女にそのブローチを押し当てた。

たて続けの獅子咆哮弾でさすがにグロッキー状態の魔女はとくに抵抗も無く反転宝珠を受け入れた。

すると、立っていられないような強風が吹き荒び、魔女に向かって注ぎ込むように渦を描いた。

「す、すげ、やったか!?」

杏子が叫ぶが、その声のほとんどが風にかき消される。

「な、何も見えん」

「オメーら、全員どっかつかまってろ!」

良牙とらんまも叫ぶ。

「ま、まさか、これは!?」

キュゥべえは風に飛ばされながらつぶやいた。

これは、ただの風ではない。グリーフシードが結界を飲み込んでいるのだ。

つまり、放出された感情エネルギーが逆流している。

(これほどの技術がこの星に!?)

さしものキュゥべえも情報整理が追いつかなかった。

「ま、まどか!」

そんな中、悲鳴のようなさやかの叫び声がした。

暴風の中、誰も近づけないが、周りからは黄色いリボンに吸収されるように呑まれていくまどかの姿と
その近くで必死にまどかにしがみつくさやかの姿が見えた。

しかし、やがてまどかの姿は完全に黄色いリボンの中に消え、それと同時に風がやんだ。

「な……どうなったんだ?」

良牙はあたりを見回した。

暴風の過ぎ去った後の魔女の結界にはところどころ綻びが見え、マミの部屋がのぞけている。

そして、黄色い大きな卵のような塊と、それの前で泣き崩れるさやかの姿があった。

「呑まれちまったのか……?」

杏子がつぶやいた。

「お、おい、嘘だろ、さっきまで反転宝珠が効いてたじゃねーか?」

らんまも信じられないといった様子だ。
465 :28話5 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2012/06/04(月) 23:37:44.89 ID:Dofo4Tk20
まどかのあの自信に満ちた雰囲気から、本当になんでもできてしまうような錯覚にらんまも落ちていたのだ。

「ふぅ、さすがにボクも驚いたよ」

そこにキュゥべえがいつも通りののん気な声でしゃべりはじめた。

「良牙があんなに簡単に正気に戻ったのも驚きだけど、さっきまどかが持っていたアイテムは中国仙術系のモノかな?
あの系統の技術を発展させると面倒だから断絶させたはずなんだけど、まさか残していたとはね、しかもレベルを上げて」

そして、ほとんど独り言のように、らんま達にはよく分からない技術論を語り始める。

「まあでも、アレで魔女を魔法少女に戻すって言うのはちょっと厳しい話だったね。
方法論としては間違っていないんだけど処理能力に無理がありすぎるよ。
例えるなら、中古家電のマイコンにスーパーコンピューター並の処理をさせるようなものさ」

「はじめから無理だったって言いてえのか?」

にらみつける杏子に、キュゥべえはいつも通りののん気な顔で答えた。

「そう、その通りだ。杏子は飲み込みが良くて助かる」

「てめぇ!」

激昂して杏子はキュゥべえに掴みかかる。

「そいつは後だ! さきに鹿目まどかを!」

らんまに言われて杏子はキュゥべえを投げ捨てた。

そして、一同はまどかが包まれた魔女の繭の前に集まる。

『まどか、まどか、聞こえる!?』

さやかは必死でまどかにテレパシーを送った。

しかし、この繭の中では魔法少女のテレパシーすら途切れ途切れだったのだ。

一般人からのテレパシーの返信は中々聞こえてこない。

「らちがあかねぇ、杏子、中の子を傷つけずにコレを割れるか?」

「ああ、やってみるぜ」

らんまと杏子はとにかく、繭を破ろうとした。その時――

『まって!』

さやかを経由して、たしかに全員にまどかのテレパシーが聞こえた。

『まどか! 生きてるの? 大丈夫?』

さやかは矢継ぎ早に呼びかける。

『うん、多分生きてる。それにねー、私マミさんにキスされちゃったんだ。
ティヒヒ、良牙さんうらやましい?』

「うらやま……って何言ってんだ、おい!?」

ワケの分からないまどかの返事に良牙は思わず口で答えた。

『まどか、キスってそれもしかして魔女のくちづけ!?』

『うん、そーだよー』

魔女の口付けを受けたというのに、まどかはいたって落ち着いた声で返事をする。

「ダメだ、もうかなり魔女に洗脳されてやがる!」

「待ってろ、今助けてやるよ」

まどかの落ち着きを魔女に洗脳されたせいだと思ったらんまと杏子は急ぎ、繭を切り開こうとした。

『あーもー、だから待ってください!』

まどかは叫ぶようにテレパシーを送った。

中継役のさやかが小さなテレパシーでも聞き取れるようにと音量を大きめに設定していたので予想外の大音量となり、
思わず杏子は槍を手から落とした。

『みんなは受けたことが無いから知らないと思うけど、魔女のくちづけを受けたら魔女と直接しゃべれるんです。
466 :28話6 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2012/06/04(月) 23:38:45.39 ID:Dofo4Tk20
だから私、マミさんと話し合って来ます!』

まどかは断固とした強い口調で言った。それは間違っても負の感情に負けて魔女に洗脳されている状態ではない。

「そっか、まどかは前にも一度魔女のくちづけを受けたことがあったから――」

さやかが言った。

『それにしたって無茶苦茶だ! いったん戻れ!』

らんまが呼びかけるが、まどかの答えはノーだった。

『いいえ、できません。魔法少女は魔女の口付けを受けないからこの役割はできません。
良牙さんもマミさんの不幸に同調しちゃうからやめた方が良いと思います。
……だから、これは私しかできないんです』

普通の言葉をしゃべるのにも言いよどむまどかがスラスラとこんな理屈を言った。

そんなまどかにピンと来た杏子が詮索する。

『妙に自分が行くって言って聞かないと思ったら、あんた始めっからこのつもりだったな?』

『ティヒヒ、正解。始めから決めてたんです、もし反転宝珠で上手くいかなかったらこうしようって。黙っててごめんなさい』

もはや、一同は言葉も無かった。

黙っていた理由は問うまでもない、そんな危険な作戦を誰も許可するはずが無い。

だから、まどかはただのわがままに見せかけて自分が行くと言ったのだ。

つまり、全員まどかに騙されていたことになる。まさに、してやられたりである。

「ちっ、しゃーねーな。俺達にも別の手があるわけじゃねーし、こうなりゃ任せるしかねーみてーだな」

らんまがつぶやくように言った。

「まどか……」

不安そうに繭を見つめるさやかに、杏子が肩を叩いた。

「なに腑抜けてやがる、アイツはあたしたち全員を手玉に取りやがったんだ、簡単にやられるタマじゃないぜ、ありゃ」

杏子にそう言われても、今までの弱いまどかを見続けてきたさやかはやはり不安だった。

「キュゥべえ、お前も魔女の精神にまではちょっかい出せないんだろう?」

その一方で良牙がキュゥべえに問いかけた。

キュゥべえは基本的には魔法少女の保護無しには結界の中に入らない。

結界の中ではキュゥべえ自身も魔女の餌食になってしまうからだ。

良牙も何度かキュゥべえを守りながら魔女の結界で戦ったのでその習性は理解していた。

もし良牙にやったようにイメージを送ることで多少なりとも魔女を意のままに動かせるのならば守られる必要は無い。

「確かに、良牙の言う通りだ。 ボクにも魔女の精神界に入ったまどかをどうこうすることはできない。
手を出せないのはキミたちと同じだ。 でも、ただの人間が魔女を魔法少女に戻すなんてことはありえないよ。
そんなことがあるのなら一定確立で魔女が捕食の際に魔法少女にもどってしまう」

「どーかな?」

ありえないと言ったキュゥべえに対し、らんまは挑発的にそう言ってみせた。

「良牙の単細胞っぷりも見抜けねぇようなおマヌケさんにンなこと言われたって説得力ないぜ」

「こら、誰が単細胞だ」

良牙のらんまへの抗議を無視して、キュゥべえは答えた。

「まあ、期待するのは構わないよ。それが絶望に変わるときが楽しみだからね」

***************

まどかは、繭の中で思いっきり嫌なことを考えまくった。

真剣に自分が、この世界が、すべてが嫌になるぐらい負の感情に心をゆだねた。

本当に落ち込んでいるときならそんな努力なんてしなくても魔女のくちづけをもらえたのに、
今回の巴マミはなかなかそれをくれない。
467 :28話7 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2012/06/04(月) 23:39:55.17 ID:Dofo4Tk20
それでも、自分の家族がみんな死んでしまったらという不謹慎な妄想で不幸に浸ったら、
そこでようやくマミの声が聞こえてきた。

『ここに来れば、そんな悲しみは消えてなくなるわ――』

おそらくテレパシーの一種なのだろうが、それは間違いなく巴マミの声だった。

『マミさん……』

まどかは恐れや不幸な気持ちよりも、また再びマミの声を聞けたという喜びが先に来て、思わず涙ぐみそうになった。

『あなたは――?』

マミの声を出すそれは、精神世界の中でもはや人の形すら保っていない影絵のような存在となっていた。

そして、喜びという魔女の口付けを受ける人間にはふさわしくない感情に戸惑ったのか、まどかと距離を開ける。

『マミさん、私です、鹿目まどかです。こんなところに居ないで早くみんなのところに戻りましょう!』

『鹿目……さん?』

かつて巴マミであったそれは、鹿目まどかという名前に反応した。

『すばらしいわ、鹿目さんが来てくれるなんて、さっそくお茶にしましょう』

『え? お茶ですか、やった』

予想外の、いつもの巴マミのような対応に、まどかもついつい釣られて喜んでお茶に応じてしまう。

気が付けば、自分はテーブルに着席し、目の前には暖かい紅茶とおいしそうなケーキが並んでいた。

(は、しまった!)

まどかは思った。魔女のくちづけを受ければ思考が鈍ってしまう。

それは理解していたつもりだったが、こうも簡単にペースに乗せられてしまうとは思っていなかったのだ。

『今日はアイリッシュブレンドにしてみたんだけど、お口に合うかしら?』

ふと見ればマミはいつの間にか人間の姿をしている。

『あ、はい、とっても美味しいです。ミルク入れて良いですかね?』

『フフ、どうぞ、お砂糖はグラニュー糖にする? それともブラウン・シュガー?』

『えーと、グラニュー糖で……って違う!違う!』

まどかは慌てて首を振った。

『あら、ミルク入り砂糖無しが良いの? 鹿目さんもなかなか通ね』

マミはわざとなのか天然なのか分からない返しをしてくる。

『いや、今回はただお茶しに来たんじゃなくてですね……』

魔女になったのだからもっと露骨に負の感情をぶつけてくるかと思っていたまどかは、
マミにこういう出方をされてかえってやりづらかった。

『マミさん、今ならまだ人間に戻れます。 魔女になって人を呪い続けなくても良いんです!
だから、私と一緒に来てください!』

まどかは強引にマミの腕を引っ張って連れ出そうとした。

しかしマミの体はピクリとも動かない。

『魔女……呪い? 何の話? 怖い夢でも見てたのかしら?』

『え?』

あっけにとられるまどかの横に、いつの間にかさやかが座っていた。

『まどかってば、授業中落書きなんかしてるからそんな夢見るのよ』

さやかはそう言ってまどかの魔法少女衣装案の書かれたノートを見せびらかした。

『ゆ……夢?』

『ほら、良牙さんも呆れちゃってるよ』

さやかの台詞にあわせるように、まどかの視界にテーブルの上でケーキを食べる小豚が入ってきた。
468 :28話8 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2012/06/04(月) 23:41:44.64 ID:Dofo4Tk20
『魔女に呪いねぇ……何かいいアイデアが浮かんできそうだわ。今度の文化祭の発表作品はそれにしようかしら?』

マミは黒い小豚を撫でながら頭をひねるそぶりをした。

『えー、あたしの小豚が男の人に変身して活躍するって話は?』

『それも面白いけども、ちょっと漫画的過ぎるのよねぇ。文芸部としてはあまりそういう作風によるのも……』

マミとさやかはまどかについていけない話を始めた。

『え? それってどういう――』

質問しようとしたまどかの頭の中に、すっと、まるでそれが当たり前のことであったかのように情報が入ってきた。

(マミさんは文芸部の部長さんで、私とさやかちゃんが部員、放課後はいつもこうしてお茶してる)

『そうだったんだ』

まどかは納得したようにうなずいた。そうだ、それが現実だったに違いない。

人が死んだり殺しあったり、そんな魔法少女や魔女が現実であるはずがないのだ。

『そうなんですよ、実はとっても怖い夢を見てて――』

まどかは喜々としてお茶席に戻った。ほどほどの甘さで味が上品なケーキはいかにもマミらしい。

それはそれで美味しいのだが、甘党のまどかにはちょっと物足りないのでミルクと砂糖を入れた紅茶を飲むのだ。

(……あれ?)

紅茶が思ったよりも甘い。

今回は角砂糖をひとつしか入れていないのに、この間同じアイリッシュブレンドに角砂糖を二つ入れたのと同じ甘さだ。

『さやかちゃんごめん!』

何かおかしいと思ったまどかは横にいるさやかのレモンティーを奪って飲んだ。

『ちょっと、まどか!』

さやかは驚いた様子をしているが、まどかは構わず最後までレモンティーを飲み干す。

レモンの味が全くしない。

黄色がかったレモンティのはずなのに、さっきのミルクティーと同じ味だ。

『……マミさん』

まどかはさやかを完全に無視してマミの方を向いた。

『私の記憶を元にこの世界を作ったんですね』

ミルクティー派のまどかは久しくレモンティーを飲んでいない。

だから、まどかの記憶を使って構成された虚構の世界では、レモンティーの味など存在しないのだ。

『鹿目さん、ここが本当の世界なのよ。魔女や魔法少女なんてこの世にはいないの。
だって、その方がずっとステキでしょう?』

マミは柔和な微笑を浮かべていった。しかしそれは、まどかにはどこか空虚に見える。

『いいえ。マミさんの作ったこの世界はステキだけど、つらいことがあっても現実の方がステキです』

まどかはうつむきながら首を横に振った。

悲しかった。

まどかが入ってくるまで、マミは自分の姿をしていなかった。

今、マミがマミの姿をしているのはまどかの記憶を借りているに過ぎない。

もはや、マミは覚えていないのだ。まどかたちとの日々を。本当の自分の姿を。

『怖いことも、つらいこともあったけど、そのおかげで私はマミさんと出会えたんです。
命の恩人ってだけじゃなくて、命がけの戦いの中でも優しさを失わないマミさんからいっぱい色んなものをもらったんです。
マミさんだって、つらい中だからこそみんなと仲良く、信頼しあえるようになれたんじゃないんですか?』

まやかしは通じないと判断したのか、魔女は偽装を解き、マミとさやかの姿と共にその部屋は消えた。

その代わりに、まるで影絵芝居のようなイメージがまどかの前に映し出される。
469 :28話9 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2012/06/04(月) 23:42:32.28 ID:Dofo4Tk20
小さな女の子とその両親らしき人の影、それが無残にも巨大な岩のような怪物に踏み潰された。

まどかは思わず目を覆う。しかし、目を覆っても、その光景は消えることは無く容赦なくまどかの視覚に入り込んでくる。

完全に潰されてバラバラになった両親の影と、上半身だけが残った女の子の影。

その影の横に、頭にわっかをつけて羽根の生えた、妖精のような天使のような小さな影がよりそった。

妖精がステッキをかざすと女の子の影は元通りになり、それから女の子と妖精は一緒に過ごした。

妖精は女の子にごちそうを持ってきた。そのごちそうを、妖精と女の子は仲良く一緒に食べた。

それから一緒にお風呂に入ったり、色んなところに出かけたり、それはそれは楽しそうな日々だった。

そして、女の子が大人と変わらないぐらいの背丈にまで育ったとき――

 グシャッ

まどかは再び目を覆った。

なんと、妖精が女の子の頭を食べ始めたのだ。

そして、残った体をどこかに運んでいく。

その先には、たくさんの少女の、欠損した死体が転がっていた。

妖精はその一部を切り取ると、お皿に乗せてごちそうのように仕立てて、別の少女のもとへ運んでいった。

『こんなの……ひどすぎるよ……』

あまりの光景に、まどかは膝を落とし泣き崩れる。

そんなまどかに、そっと、黒い影がよりそった。

『お願い、一緒にいて欲しいの』

マミの声が聞こえた。

今度こそ、まどかの記憶を通した幻影ではなく本物のマミの声だ。直感的にまどかはそう思った。

『もういや、1人でいるのも裏切られるのも、みんな嫌なの!』

半狂乱的に、黒い影は揺れながら叫ぶ。

『マミさん、本当に悲しくて、寂しくて、つらかったんですね……
ごめんなさい、もっと早くに力になれなくて』

まどかはすっと立ち上がり、その黒い影に抱きついた。

『ずっと、一緒に居てくれるの? 裏切らない?』

黒い影もそっとまどかの小さな背中を抱きしめた。

『はい、ずっと一緒にいます、ずっと仲良くしましょう』

まどかがそう答えると、黒い影は人の形を失い液体のようになってまどかを包み込もうとした。

『これからここで、ずっと一緒……』

優しい声と温かい感覚に包まれて、まどかの自我は薄まっていった。

(――今だ!)

が、まどかはその瞬間、精一杯の勇気を振り絞った。

そして、精神界にまで持ち込んだ反転宝珠を自分の体に正位置につける。

鼓動が激しく鳴り響き、まどかの中の決意はこれでもかというほどの高ぶった。

『!?』

『ごめんなさい、私、マミさん裏切っちゃいました』

そう言ってまどかは舌を出した。

後一歩のところで吸収できるはずだった人間が、急に強い正の感情に満ち溢れたことに黒い影はうろたえた。

そして、急ぎ飛び退こうとする。しかし、まどかを覆いつくすように伸ばした体を戻すのには時間がかかった。
470 :28話10 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2012/06/04(月) 23:43:11.44 ID:Dofo4Tk20
まどかはそれを逃がしはしない。

即座に反転宝珠を自分からはずし、黒い影に逆位置に押し付ける。

『でも、約束は守ります。ずっと一緒に、仲良くしましょう! ただし、現世で!』

『○×△●%■☆□※▼◎!!』

魔女の、言葉にならない叫び声とともに、辺りの風景はまばゆい光につつまれた。
471 : ◆awWwWwwWGE :2012/06/04(月) 23:43:42.77 ID:Dofo4Tk20
以上、28話でした
472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/06/05(火) 00:06:15.46 ID:L5w81wjbo
おつー
仙術すげえ、発展すればQBたちを脅かすレベルの技術系統なのか
てか断絶させたって、将来それが自分たちの役に立つ可能性は考えなかったのか
473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/06/05(火) 00:48:05.08 ID:9kc96pQAO
乙です!
反転宝珠を現実世界と精神世界の二段構えで使用するとは思いませんでした!
QBが仙術を警戒しているのは感情という目に見えないエネルギーを自在に操れる技術が完成するのを恐れていたからでしょうか?
474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/05(火) 05:40:36.33 ID:Yxl/Zn38o
乙!
まどかすげえ
475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/07(木) 20:07:28.32 ID:F4Y6p2jm0
このQBはQBらしからぬほど、能動的だし、実はQBではなくQuitterie(針の魔女)!?
QBの性質から仙術にしろ革新を齎す技術はパクったり、研究対象にしても断絶はさせないと思う。
理詰めでしか考えられない自分達の問題点、弱点を理解しているし、自分達では出来ない面からの研究、研鑽は歓迎こそすれ断絶させるとは考え難い。
476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/06/08(金) 08:01:27.19 ID:PDVAVxYro
お、おう
477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/09(土) 01:46:16.45 ID:JBmvYxzWo
QB溺泉に落ちた何か別の生き物ということかね
478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/06/09(土) 07:30:16.54 ID:v8Nz0YdAO
明確に自分達に害にならない限りはほっとくだろうね
もしかしたら害になってもほっとくかも知れん
479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/09(土) 10:30:21.52 ID:IAvdInbuo
本来のQBは、エネルギー以外では
本当に何も口出ししない
魔法少女システムのヘルプ機能くらいでしか積極的には動かない

まどかのエネルギーに釣られて
回収に積極的になったのも異例な事

ってイメージがある
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/09(土) 23:13:17.58 ID:DUlxeV4F0
>>479
まどポの一週目にあたるマミ√で
マミさんを絶望させようとして色々煽ったり誘導したり積極的に活動してましたよ?
481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/06/10(日) 00:21:08.11 ID:Uc90A9bAO
まどポって仁美が名医を呼んで恭介の腕治しちゃうような展開のゲームじゃん
そんなんで治るならさやかの祈りと絶望はいったいなんだったんだよ

つか自分に都合が悪いからって技術断絶させるやつが数万年、下手すりゃ数百万年コツコツ集めたエネルギーが無駄になるまどかの願いを叶えるわけないだろ…
482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/10(日) 21:15:25.49 ID:HKbeHaIV0
>>481
それでも準公式みたいなもんだろまどポは
本編のキャラの心情とか掘り下げられて色々補完されてるし
それに恭介の腕が治ったなんて明確にされてない。あくまで治る「かも」しれないだ

QBは自分に都合が悪かったら間接的に排除する可能性ありえなくはないだろ
本編やおりこ見ろ。杏子にさやかが元に戻る可能性を聞かれ
「君達は条理を覆す存在だ」「前例はない。だから僕にはわからない」と曖昧な事を言って
杏子が死んだ後、ほむらに可能性があったのか聞かれ
「まさか、そんなの不可能に決まってるじゃないか」だぞ?
その後の台詞で無駄だとわかっていたけど自分に都合がいいから止めなかった
と認めたも同然のような発言をしてるけど?これは誘導に見えなくもないと思うけど?

更におりこでは「織莉子は世界を支配しようとしてるの“かもしれない”」と煽り
「美国 織莉子。君を処分させてもらう」とはっきり口にし他の魔法少女に収拾をかけたぞ?
嘘はつかないけど「〜かも」とか仮定形で誘導したり誤魔化したりはしているでしょQBは

それからまどかの願いについてだが
魔法少女の契約に関しては可能なら必ず叶えるみたいな習性みたいな物があるんじゃないか?
前述の通り奴は“嘘”はつかないからな

それからなんで仙術を断絶したかというと
仙術がエネルギーを回収する上で不都合な事になる技術だからじゃないか?
本来あいつらは第二次性徴期の少女の希望と絶望の相転移で生まれるエネルギーを採取するのが目的なんだろ?
それに不都合が生じるなら邪魔してもおかしくはない
483 : ◆awWwWwwWGE :2012/06/11(月) 01:30:49.79 ID:bOy9B4ns0
あわわ、このスレではあくまで私設定ですので(汗

29話アップします
484 :29話1 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:副題『逆魔女って考えたてみたら怖いね』]:2012/06/11(月) 01:37:49.33 ID:bOy9B4ns0
魔女を倒したときのように、結界はボロボロと崩壊しはじめた。

「やったのか?」

らんまの言葉に、答える者は誰もいなかった。

(これは……精神界で魔女を倒した? 鹿目まどかにそんな手段が?)

キュゥべえも自体を把握しきれていなかった。

魔女が魔法少女にくちづけをしないのは、そのむき出しの精神に直接攻撃されないようにするためだ。

物理的作用が意味を成さない精神世界において、魔法の使えない人間が魔女に対して攻撃するなどできるはずがない。

だから魔女は一般人はその精神世界に取り込んで『食事』しようとする。

(まさか、闘気?)

そうとも考えたが、今まで強い闘気を持った武闘家などが魔女のくちづけを受けた例はほとんどない。

魔女は闘気も警戒しているのだ。それは巴マミの場合も、良牙を取り込んでいない点で同じだ。

そもそも、まどかに闘気なんてものが存在するとも思えない。

やがて結界は完全に消え去り、一同はマミの部屋の中にいた。

繭のように折り重なった黄色いリボンも溶けて、中からくたくたになったまどかが現れた。

「まどか、大丈夫!? 返事して!」

さやかはまぶたを閉じたまどかを起こそうと必死でゆする。

「ん……あ……あ……」

まどかは薄目を開けるが、意識は朦朧としていた。

あわててさやかは回復魔法をほどこす。

とは言っても、本来さやかの魔力特性は自己回復なので大きな効果は無い。

「……あ……りが……と……さやか……ちゃん」

まどかはなんとかそれだけ口にすると、振るえる右手でマミの人間としての体を指差した。

「いや、まだダメだ。体は問題ないが、意識は戻らない」

良牙がまどかに答える。

その横で杏子が自分のソウルジェムを使って、マミの体を保全していた。

「こ……れ……」

そう言って、まどかは溶けたリボンに埋まっていた自分の左腕を持ち上げた。

その手の中には黄色いソウルジェムとそれにぴったりとくっついたブローチが握られていた。

「それは?」

真っ先に声をあげたのはキュゥべえだった。

「まどか、キミはまさか、巴マミの精神世界の中でそれを使ったのかい!?」

「イ……イヒ……ヒ……わた……したちの……勝ち」

まどかはやつれきった顔で無理に笑顔を作って見せた。

「はやくそいつを!」

杏子はいそいでまどかの手からその黄色いソウルジェムをとりあげると、マミの胸の上にあてがった。

しかしそれでも、マミの意識はもどらない。

「無茶苦茶だ! 生の精神に直接そんな道具を使うなんて、精神医療上の禁忌もいいところだ!」

さしものキュゥべえも驚きを隠せなかった。

体に覆われていない状態の精神はただの人間のそれと同じなのだから、確かにあの道具の能力でも十分に処理可能だろう。

そして、負の感情を失いグリーフシードとしての形態を保てなくなったその魂はソウルジェムに戻り、
中核を失った魔女の結界はただの力学的エネルギーに戻って拡散し、無に帰る。
485 :29話2 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/06/11(月) 01:38:44.82 ID:bOy9B4ns0
そこまでは理にかなっている。

しかし、相手の精神世界に入った状態でその精神をねじまげるようなアイテムを使うことは
例えるなら自分の乗っている船を海上で解体・改造するようなものだ。

一歩間違えば船ともども海の藻屑と消える、つまり、まどかもマミもともども精神崩壊してもおかしくない。

そして、船をまともに修理できるかどうか――マミの精神を元にもどせるかどうかも分かったものではない。

「ほー、だったらてめーが俺達にしたことは無茶苦茶じゃねーのかよ?」

らんまの言葉にキュゥべえは直接的には答えなかった。

「キミたちのやった荒療治は本来なら最低でもあと1000年は技術を高めてからやるべきことだ。
あんな原始的で乱暴な道具ではなくちゃんと対象の精神を破壊しないように配慮された道具を作れるようになり、
治療者が対象に飲まれてしまうような危険性の無い安全な精神介入装置を開発しなければならない。
今のキミたちの技術ではまどかの命があっただけでも奇跡的な幸運と言うべきだろう」

キュゥべえの言うことはらんまには半分ぐらいしか分からない。だが、その見下した物言いには腹が立った。

「ケッ、その原始的で乱暴なもんを恐れて断絶させたんじゃなかったのかよ?」

「……キミたち人間は、類人猿に服を与えたり手話を教えることはあっても、弓矢や銃火器を使わせることは無いだろう?
類人猿が弓矢を覚えたって、今の人類にとってかわることなどありえないにも関わらずね。
ボクたちの場合もそれと同じでね、キミたちの様な原始的な知的生物には覚えさせちゃいけないモノもあるのさ」

それだけ言うとキュゥべえは後姿を見せてその場から去っていった。

(奇跡的な幸運……か。へ、てめーの底が知れたぜ)

らんまはキュゥべえの後姿を中指を立てて見送った。

***************

「その……なんと言えば良いのか言葉が出てこないのですが……
本当に、さやかさんが学校に来てくれて……」

「いいよ、もう。それが仁美と恭介にとって幸せならさ、あたしは何も――」

朝の通学路で、二人の少女が共にもどかしい表情を浮かべていた。

「いいえ、あれから上条君とは何も話していません」

緑色の髪の少女が静かに首を横に振る。

「え? それってどうして……」

青い髪の少女はその意外な言葉に目を丸くした。

「それは、その……上条君だってさやかさんのことを気にしていましたし……」

もどかしい様子で、緑色の髪の少女は視線を横にそらした。

「……なんだか凄く話にくいんですが」

視線の先には桃色の髪の毛を小さなツインテールに束ねた背の低い少女がいた。

一晩ぐっすり寝て無事に回復した鹿目まどかだ。

まどかは目に穴が開くほど二人を凝視している。

「うん、それは同感」

そう言われても、桃色の髪の少女は凝視する姿勢を崩さなかった。

「まどか、悪いけど後は二人で話すからその顔やめてくんない」

「ダメ! さやかちゃんと仁美ちゃんが仲直りするのを確認するまでやめない!」

まどかはあくまでそう言って聞かない様子だった。

「ハァ……」

仁美は軽くため息をついた後、表情を明るく変えて顔を上げた。

「昨日の今日でこういうのも変な話ですが、まどかさん何か変わりましたね。
なんだか一回り大きくなったような」

「お、まどかもちょっとは背ぇ伸びた?」

さやかはわざと仁美の言いたいこととは違うことを言った。
486 :29話3 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/06/11(月) 01:39:51.81 ID:bOy9B4ns0
「いえ、そういう意味ではなくて――」

仁美に言われるまでも無く、さやかには分かっていた。

(そりゃ仁美にも分かるか……一番信じられてないのがあたしかもね)

まどかは確かに変わった、そんなことを思いながらさやかは当の本人を見つめる。

あのまどかが危険を恐れず、かと言って自暴自棄でもなく、やれる事を全てやって勇敢に戦った。

そして何の戦力も無いにも関わらず、誰よりも高い戦果をあげた。

(もう、誰かの後ろについてびくびくしてるまどかじゃないんだ)

それが寂しくもあり、うれしくもあった。

しかし、おそらくこれで終わりではない。

美国織莉子が最期に言った言葉、そして不可解な暁美ほむらの言動。

きっと、まどかの行く先にはもっと恐ろしいものが待ち受けている。

さやかは、つい昨日まで自分は死んでも良いと思っていた。

変な中国人とかエロジジイとかに邪魔されて欝な気分にも浸りきれなかったが、
今思うとそのおかげでたまたま魔女にならなかったようなものだろう。

そして今は、どんな重い罪を背負って生きるとしても、もう無駄に消えてしまいたいとは思わなかった。

その恐ろしいものから、まどかを守り抜く。

昨日のまどかの勇気と決して屈しない強い心に、何があっても守るべき尊いものを見たのだ。

本人の前では決して言えないが、そのためだけに自分が生きているような気持ちさえしている。

「……プッ」

さやかは思わず噴き出した。

「あ、ひどいさやかちゃん、人の顔見て笑うなんて!」

まどかはまるで、当たり前の平和がそこにあった今までと変わらないことを言う。

「だって、まどかの真剣な表情が」

さやかもそれに応じ、おなかを抱えて笑いのツボに入ったようなリアクションをとった。

しかし、噴き出した本当の理由はそれではない。

(あたしゃ同性愛者かよ!)

さやかは自分自身の感情のあり方がおかしくてつい笑ってしまったのだ。

(いやいや、さやかちゃんは性的にはいたってノーマルですよぉ)

だったら、この気持ちは一体何なのか。

ひとつだけ、当てはまりそうな言葉を見つけた。

それは、忠誠心――

「ブッ!!」

さやかは再び盛大に噴き出す。

(まどかに対して? ハハ、あたしって本当にバカだ)

「さやかちゃん、ちょっと笑いすぎ!」

「まどかさん、こういう時は真剣になればなるほど笑わせてしまいますよ」

気が付けば、今までと変わらない楽しい朝の通学になっていた。

ただ、少女達の小さな心の変化を除いて。

***************

「それで、昨日はマミさんの意思は戻らなかったんですね?」

「ああ、つっても俺も結局あの後家に帰って後は良牙と杏子に任せたから、今どうなってるかはしらねーけどな」
487 :29話4 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/06/11(月) 01:41:48.04 ID:bOy9B4ns0
見滝原のマンション街の前で、まどか・さやかとらんまは落ち合った。

「そういや不思議に思ってたんだけど、良牙さんや杏子は学校行かなくていいの?」

さやかは率直な質問をぶつける。

「あいつら元々学校通ってねーし、良いんじゃねぇか」

らんまの答えはどこか投げやりだった。そして代わりに自分の質問をする。

「――それよりも、今日はあいつは来なかったのか?」

「ほむらちゃんは……来てません」

まどかはうつむき加減で答えた。

「先生に聞けば住所ぐらいすぐ分かるだろうけど、どうする?」

「今日のうちに逃げるかもしんねーな」

さやかとらんまの言葉に、まどかは小さく首を横に振る。

「たぶん……根拠は無いけど、ほむらちゃんはこの町からは逃げません」

おどおどしながらも、まどかは自分の意見を言った。

「だから、マミさんがきちんと回復してから会いに行って、マミさん本人に対してきちんと謝らせたいです」

「ちっと甘いと思うが、ま、おめーがそう言うなら仕方ねぇな」

まるでまどかに決定権があるような、らんまの物言いにまどかはうろたえた。

「えっ、そんな……あたしなんかが」

「ハァ、分かってないね、まどか。今回は完全にあんたの1人勝ちだよ。
乱馬さんは皮肉で言ってんじゃなくて本気でまどかを認めてんだから、おどおどしないの」

そう言ってさやかはまどかの肩を軽く叩いてみせた。

そうしてマミの部屋の前につくと、玄関の前に並んで体育座りをしている良牙と杏子が居た。

「なんだ? おめーらどうした?」

うつむいて顔が見えない良牙と杏子にらんまが問いかけると、それで初めて気が付いたように二人は顔を上げた。

「あたし……魔女になっちまうかも知れねー……」

「今なら究極の獅子咆哮弾が撃てそうだ……」

その表情は、まるでどうしようもない絶望が訪れたように沈みきっていた。

「……まさかっ!?」

良牙と杏子の落ち込みようは尋常ではない。

(もしかして、マミさん、死んじゃったの!?)

三人は状況を確認するために急ぎマミの部屋に入った。

すると、足元に黄色いリボンが伸び、リズムを刻むようにうねっていた。

(また魔女に戻った!?)

沈痛な思いで三人は顔を上に向ける。しかしそこで目にしたものは――

『solti ola i amaliche cantia masa estia』

テレパシーを通して聞こえる歌声と共に、激しく飛び回り、踊る続ける巴マミの姿があった。

「ああ、この世界はなんて美しいの!! 生きてるってなんてすばらしいの!!」

半狂乱にそんな言葉を叫びながら、マミはテレパシーで休むことなく歌を歌い続ける。

『a litia dista somelite esta dia a ditto i della filioche mio sonti tola』

その歌声は、マミの好きなイタリア語やラテン系言語のように思えて、でもどこか違う。

「……えっと、これはどう反応したら良いのかな?」

あまりにも想像を超えた光景に、さやかは反応が追いつかなかった。
488 :29話5 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/06/11(月) 01:42:43.87 ID:bOy9B4ns0
「何が起こったんだ?」

らんまもどこにどうツッコめばいいのか分からない。

「マミさん……人間に戻れたんだ!」

そんな中、まどかは素直に歓喜の声をあげた。

「え!? そのリアクションでいいの?」

さやかは戸惑いを見せるが、それでも、マミが人間に戻ったということにようやく安堵した。

「そっか、どうあれマミさんは助かったんだ。 そうだよね!」

「あ、ああ」

らんまもためらいがちにうなずいた。

「つってもこの状態じゃ、反転宝珠はずしたらすぐ魔女化しちまいそうだな」

「うん、ある意味魔女より怖い」

人間に戻ったのはいいが非常に手の出しにくい状態である。

三人はひとまず、マミを置いて玄関に戻った。

「もー、ひどいよ二人とも、びっくりさせて。マミさんすごい元気じゃない」

まどかが杏子と良牙に言うが、二人はやはり暗い顔をしていた。

「部屋に入るなり銃口向けて『消えて、顔も見たくない!』って言われた。ほんとに魔女になるかも……」

「『ブタ野郎、二度と来ないで!』って言われた。もう死にてぇ……」

二人はこの世の終わりが来たかのような表情で語る。

「いや、それ反転宝珠のせいだから」

「わかった。 おめーらバカだろ」

さやかとらんまは間髪いれずにツッコミを入れた。

***************

結局、魔法少女3人と武闘家1人をもって、マミを強引に押さえ込み捕縛した。

なにしろ、誰が近づいても親の仇か何かのように死に物狂いで暴れてくるのだからそうするしか仕方が無い。

そして、人が遠ざかれば、幸せの感情でいっぱい過ぎて話が通じない

魔女と真逆なようでいて迷惑度合いは似たようなものだった。

「よし、ようやく落ち着いてきやがったな」

死ぬほど大嫌いな人たちに囲まれて、さすがにマミの高揚感も消えたところでらんまが近づいた。

「卑怯じゃないですか、近づかないでください」

マミは冷淡にそう言った。

それでも会話にならないぐらい嫌われている他四人よりらんまはマシだった。

マミと関わりが薄く、それほど好かれていなかったおかげだろう、らんまはそう納得した。

「いいか、今からそのソウルジェムについた反転宝珠をはずすが
魔女に戻っちまいそうだったらすぐにまた逆位置につけろよ?」

らんまはくれぐれも念を押す。

「勝手なことばかり言って……」

マミは敵意を示すが、杏子のムチにぐるぐる巻きに縛られて何の抵抗もできなかった。

そしてらんまは言葉どおりマミのソウルジェムの、突起に張り付いた反転宝珠を引きはがした。

その瞬間、周囲をキッとにらみつけていたマミの表情がみるみる緩んでいく。

やがて目からとめどなく涙があふれ出した。

「げっ、まずい、また魔女になっちまうんじゃねーか!?」
489 :29話6 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/06/11(月) 01:44:11.15 ID:bOy9B4ns0
泣き崩れるマミにらんまは狼狽した。

「いや、大丈夫だ……」

良牙はらんまの手に握られている黄色い宝石を指差した。

それはどこまでも澄んで、一点の曇りも無く輝いていた。

「マミさん!」

「マミ!」

さやかと杏子がマミの元に駆け寄る。

もはやマミは、涙と共にこみ上げてくる鼻水や嗚咽のせいでなかなか口もきけない。

そのマミにまどかはゆっくりと歩み寄り、静かに言った。

「……マミさん、おかえりなさい」

「わ、わたし――」

言葉はそこまでしか出なかった。

(なんで絶望なんてしちゃったんだろう、こんなに、みんなが信じてくれていたのに)

心の中で言葉を続け、マミは涙を拭う。

それでもまだ涙は止まらなかった。

(わたし、ホントに泣き虫だ)

そんなマミを、三人の少女たちがやさしく抱きかかえた。

「ひとまず、こっちは一件落着だな」

少女達を眺めて良牙がつぶやいた。

「オメーは混ざらなくていいのかよ?」

「俺だって、そこまで野暮じゃないさ」

涼しい顔でそう言う良牙を、いい意味で「らしくない」と思ったらんまは小さく笑った。

「へっ、ブタ野郎がかっこつけやがって」

このらんまの言葉がわずかに良牙を刺激した。

「……ふっ、オカマちゃんに比べりゃ俺はいつだってかっこいいぜ」

「ほー、Pちゃんが何言ってんだか」

「……」

「……」

二人はしばし見つめ合う。そして――

「この野郎! なめんじゃねぇ!」

「それはこっちの台詞だブタ野郎!!」

気が付けば二人は喧嘩を始めていた。

「おいおい、あんたら何やってんのさ」

「もー、二人とも静かに!」

「この状況でどうして喧嘩できるの? 良牙さんもらんまさんも野暮にもほどがあるよ」

そして、少女達に口々にダメだしを食らった。

***************

「そうか、巴マミは魔女から魔法少女に戻りおったか、それは良かったの」

コロンはらんまと杏子の報告を受けて、にっこり微笑んだ。

「でも、話聞く限りでは何度も出来ることじゃないネ。コレだけあっても仕方ないアル」

そう言って、シャンプーはらんまと杏子が返しにきた反転宝珠をテーブルの上に転がした。
490 :29話7 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/06/11(月) 01:45:09.99 ID:bOy9B4ns0
「ああ。それにもし上手くやれても、生身が残ってなかったら魔女即死アイテムにしかならねーしな」

「まったくネ」

らんまの言葉にシャンプーはうなずいた。

(戻れる保証が無いのなら、魔法少女にはならない方が良さそうアルナ)

シャンプーは内心つまらなく思った。

「ところで、巴マミの生身に反転宝珠をあてても効果は無かったわけじゃな?」

そこにコロンがたずねた。

「ああ、結界の中に戻る前に試してみたけど、体につけてもなんの反応もなかった」

杏子は簡単に答える。

それに対して、コロンは大きく笑って見せた。

「フォッフォッフォ、ムコ殿、これはやったかも知れんぞ」

何がおかしいのか分からないらんまと杏子は怪訝な顔をする。

「ムコ殿、とりあえずソウルジェムを見せてくれぬか?」

「ああ」

らんまはコロンに自分のソウルジェムを手渡しする。

するとコロンは、いきなりそれに急須のお茶を注いだ。

「あち! 何すんでぇ!」

らんまの抗議を無視して、コロンは今度は開水壺を持ってくる。

「生意気にも、呪いの類いに対して抵抗力があるようじゃの」

そんなことをつぶやきながら、今度は開水壺からのお湯をソウルジェムにぶっかける。

「あちぃっつってんだろ、いい加減にしろババア!」

乱馬はコロンに掴みかかった。

「ムコ殿、その辺を見回してみるのじゃ」

「何言ってやがる!」

いらだちながらも、乱馬は言われたように店内を見回してみた。

「乱馬ぁ、やったネ!」

なぜかやたら喜んでいるシャンプー。

「あ……あ……ああ……」

なぜか呆然としている杏子。

そして、その横には赤いカンフー服に赤髪のおさげの少女が倒れていた。

(まさか!?)

乱馬は視線を下に向け、自分の体を見た。

筋肉質でしまった上半身、逞しい腕。

「お、お……男に戻れた!! すげぇ!」

乱馬はコロンに掴みかかった腕を放し、シャンプーや杏子に振り向いて見せた。

「……こんの、変態が! どっから現れた、消えろ、消えやがれ!!」

しかし杏子は逆上し、いきなり槍で切りかかってきた。

「わっ、いきなり、なんなんだ一体?」

乱馬は器用に避けながら、杏子に問うた。

「乱馬、早く何か着るよろし」

杏子の代わりに、顔を真っ赤にしたシャンプーが答える。
491 :29話8 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/06/11(月) 01:46:11.64 ID:bOy9B4ns0
「あっ!」

乱馬は自分の下半身を眺めた。

そこには年頃の女子の前では晒すべきでない、男の証が垂れ下がっていた。

***************

「つまり、乱馬の奴はもともと男だったっていうのか?」

「その通りアルネ」

シャンプーの説明に、杏子は現実を疑った。

「……もう何も信じられねぇ」

その一方で、着替えを終えたらんまはコロンと話していた。

「――で、一体なにがどうなってやがるんだ?」

乱馬はいつもの赤いカンフー服に戻っている。

その衣服を着ていたらんまの女の体にはとりあえずシャンプーの服を着せておいた。

「なにがどうもない。ソウルジェムがムコ殿の本体なのじゃから、そっちに湯をかけただけじゃ」

「それで、ソウルジェムが男の体になったのか? だったら今水をかぶったら――」

「うむ、今それを確かめる」

そう言って、コロンは乱馬にコップの水を浴びせた。

「ぶはっ、いきなりやるんじゃねぇ!……え?」

らんまは声に違和感を覚え、自分の胸を揉んでみた。

やわらかい胸の感触は間違いなく女性のものだった。

「ほ、ほんとに女になった!?」

杏子もそれを見てびびっている。

その一方で、らんまの横にはチャイナ服を着たらんまがもう1人ぐっすりと眠っていた。

「そんなバカな?」

マヌケな声をあげるらんまを前にコロンは笑って見せた。

「フフ……ムコ殿はやはり強運じゃの。呪泉郷の呪いがムコ殿の本来の姿を覚えておったのじゃ。
そしてその呪いが強かったからこそ、ソウルジェムではなく女の姿に戻ることができた」

「つまり、呪泉郷に落っこちたおかげで助かったってことか?」

らんまは複雑な表情を浮かべる。

「試しに魔法を使ってみぃ、ソウルジェムがなくなったのじゃから使えんはずじゃ」

「ちょっと待てよ……おお、マジで! タタミが出せねぇ!」

魔法が使えなくなったことを、らんまは無邪気に喜んだ。

その様子を眺めていた杏子がふいに思い立ったようにコロンに問い詰めた。

「……なぁ、もしかして、あたしもその呪泉郷ってのに行ったら魔法少女をやめられんのか!?」

コロンはあいまいな表情をする。

「おそらく無理じゃろうな。 普通に湯をかけても効果が無かったソウルジェムに、新たに呪泉郷の呪いが効くとは思えん。
もし効いたとしても、湯をかければソウルジェムに戻る体質……魔法少女はやめられん。
ムコ殿の場合は魔法少女になる前に呪泉郷に落ちたからこんなことができただけじゃ」

「ぐ……」

目の前で魔法少女から解放された人間がいるというのに自分は元に戻れないだろうといわれて、杏子は歯がゆかった。

「それにの、呪泉郷はこのごろ枯れたり混ざったりして変質しておるからの。女溺泉に入れるかどうかも保障できん。
下手をすれば魔法少女から解放されても一生カエルか何かとして生きなければならぬかも知れぬぞ」

「ぜったい、嫌だ!」

結局、杏子はきっぱり諦めた。
492 :29話9 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/06/11(月) 01:47:25.49 ID:bOy9B4ns0
「――で、乱馬、この体どうするアルネ?」

シャンプーは魂の抜けた魔法少女らんまの体を抱き上げた。

「どうするって……どうすんだ?」

聞かれても、らんまにはどうしていいのか検討もつかない。

「そうじゃな、庭に埋めておいてはどうじゃ?」

「そこらの使い魔にでも食わせたらグリーフシードに変えてくれるかもな」

コロンと杏子はさらっと恐ろしい事を言った。

「じょ、冗談じゃねぇ! 猟奇殺人のいっちょ出来上がりじゃねーか!」

あわててらんまは否定する。たとえ抜け殻とは言え自分の体がそんな風に扱われるのは良い気がしない。

「じゃーどうするアルか?」

「……とりあえず、ウチに持って帰るぜ」

どこに棄てても猟奇殺人事件にしかならないし、他人に任せておく気もしない。

らんまは考えた末、そういう結論にいたった。

「そんなもん持って帰ってどう……ハッ、まさかあんた!?」

何を思ったのか、らんまの結論を聞いた杏子は汚物でも見るような目でらんまを見下ろした。

「ダメアル! そんなお人形使うぐらいなら、あたしの体使うよろし!」

シャンプーもとんでもない発言をする。

「てめーら、俺をなんだと!」

必死になってらんまは否定するが、否定すればするほど、杏子とシャンプーは疑惑を確信に変えていった。

「これこれ、ムコ殿も年頃の男性なのじゃ。その辺りは触れないでやるのが思いやりというもんじゃぞ」

「ババァ! てめーまで!」

猛抗議もむなしく、らんまは女性達に変な顔で見られながら天道道場への帰途についた。
493 : ◆awWwWwwWGE :2012/06/11(月) 01:48:57.26 ID:bOy9B4ns0
以上、29話でした
dでも続きで申し訳ないです
494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/06/11(月) 02:37:21.51 ID:MZBK+blbo
自分の死体が転がってるとかなんというSAN値直葬……そしてそれが目ぇ覚ましたらと思うとすんげぇ怖いww
まあ乱馬分裂経験あったと思うからまだ耐性はあるほうかな

しかしぼっちになるとテンション爆上がりする反転マミさんが面白すぎるww
何はともあれ助かって良かったね
495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/06/11(月) 10:02:45.58 ID:iIiLd0AAO
乙です!
オチは完全にらんまのノリだった(笑)
そういえば、ほむらは一体何処に?
496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/11(月) 11:00:28.80 ID:Hx8TNKcno

なんかあっさり戻れたが
みんなして生ダッチワイフ扱いとか酷すぎるwwwww

>>495
さやかちゃんは大丈夫そうだが
ほむほむのSGがやばいかもしれん
497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/11(月) 22:26:39.75 ID:ZAVzHjfa0
乙!
今の独断専行が過ぎる能動的なQBは確実に更迭だな。
498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/06/16(土) 09:14:25.19 ID:P7HIe21AO
てか何で戻れたのかさっぱりわからん
499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/06/16(土) 17:55:11.07 ID:0e66uNtAO
>>498
もっとちゃんと文章読もうよ。
500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/06/16(土) 19:16:22.48 ID:P7HIe21AO
だって呪泉郷の呪いで変化するのはあくまで肉体だろ?
良牙は豚になっても精神は人間のままだし、女溺泉に入った牝猿も中身は猿のままだった

ソウルジェムが本体って言っても魂を物質化して加工したものなんだから呪いの影響は受けないと思うが
501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/17(日) 01:48:21.40 ID:X3zaIBQmo
魂が呪いの影響受けないとか書いてないし
少なくともこのSSでは受けるんだよ

元々魂に呪いがかかってたとかでも良いだろ
魂の性質変化で肉体も変化するとかさ
502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) :2012/06/17(日) 06:57:30.80 ID:b8j427yAO
死体である肉体にお湯をかけても変化はないが、ソウルジェムにお湯をかければ肉体が男に戻るってんならまだしも、ソウルジェムそのものが新しい肉体になり魔法少女ですらなくなるってのはなあ…
もうちょっとQBの魔法少女システムを騙くらかす過程が欲しい
脳内補完するにも限度がありますぜ
503 : ◆awWwWwwWGE [sage]:2012/06/18(月) 23:52:48.69 ID:nzsjxwc/0
申し訳ありません
私的な事情により執筆が遅れてしまい今日はアップできそうにありません
今週中にはなんとか……
504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/19(火) 20:24:50.52 ID:FaOEaOaDO
叩かれすぎワロタ
まぁ独自設定の度が過ぎてるし仕方ないか
505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/06/19(火) 21:03:45.98 ID:goqVIodjo
>>504
批判してるの一人だけじゃねーか
506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) :2012/06/20(水) 08:26:45.97 ID:zgJIxspAO
QBがあかねに重傷を負わせた時からなんか違和感があったが、ここ2、3話で一気に表面化した感じだな
ていうか批判はその頃からあったよ
507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2012/06/20(水) 08:47:50.31 ID:40FkjMW6o
>>505
NGしとけ
508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/20(水) 09:13:42.93 ID:PnCZy9Gv0
これに限らずQBが妨害してくるssなんて腐るほどあると思うが?
新潟・東北はまず>>482に何か反論して見てから言ってみたら?
509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/06/20(水) 23:21:50.04 ID:+jtmMuQDO
気に食わない部分があっても我慢出来ないの?それが出来ないなら自分でSS書け、それか見んな
510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/20(水) 23:53:54.97 ID:bkK9E8tzo
コレすげー面白いわ
今日見つけて一気に終盤まで読めるとは運がいい
511 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/22(金) 21:45:46.29 ID:khSxFrfDO
まどかマギカ見たことないけど面白いわ、見て見ようかな
512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/06/23(土) 19:56:06.25 ID:Oe0bBbod0
マミさんは裏返っても中二病(疑惑)のままで本質は変わっていないっぽかったのは良かった。
513 : ◆awWwWwwWGE :2012/06/23(土) 21:28:25.65 ID:iHhKN47A0
あわわ、結局一週間あけちまったよ
30話アップします

またまた物議のありそうな話ですが(汗
514 :30話1 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/06/23(土) 21:30:16.50 ID:iHhKN47A0


自分が嫌いだった。



どこに行っても何をしても、他人の迷惑にしかならない自分が大嫌いだった。

治らない病気のために何度も転院を繰り返し、そのたびに両親に、医者に、看護士に迷惑をかけてきた。

両親がそうとう無理をしていることはある程度大きくなってから気が付いた。

彼らはまだそれほど歳でもないのに、年々やつれ、白髪が増えていっていた。

それもそのはずだ。

私の転院と同時に転居を繰り返しているのだから、経済的にも労力としても負担は半端なものではない。

離職を伴う転居もあった。

そして、頻繁に転職を繰り返す人の給料がそんなに良いはずは無かった。

両親ともにフルタイム勤務だったが、莫大な医療費を払った後には大したお金は残らない。

彼らは何の贅沢もせず、衣食住までもかなり切り詰めている様子だった。

しかし、病院は転院の多い患者を嫌がる場合が多い。

医者や看護士を相手にトラブルを起こすのではないか、クレーマーなのではないか、あるいは手の施しようの無い
病状なのではないか、などなど色々な疑念があるからだ。

それに、すぐに転院されては利益にもならない。

私が他人の顔色が分かるようになる頃には、既に面倒な患者としか思われていなかった。

文章の読み書きをする時間すら、この貧弱な体には十分には与えられなかった。

院内学級に行っても、急な体調不良が多くてすぐに授業を止めてしまい、先生や他の生徒に迷惑にしかならなかった。

そのうえ、どうせまたすぐに転院するのだ。

まともな人間関係など築けるはずもなかった。

ずっと、うっすらと思っていた。

『私なんていない方がみんな幸せになれるんじゃないか』と。

だが、両親は必死に私を生かそうとしている。だから生きなければならない。

それだけが当時の私の存在理由だった。



そんな小さな希望も、あっさりと踏み潰された。



何かが今までとは違う医者だった。

聴診器を当て、やけに念入りに呼吸音を聴いてくる。

私の胸に手を当てて心臓の脈拍を確かめる。

もう高学年になっていた私は、医者相手だから仕方が無いとは言え多少恥ずかしかった。

それでも、今までの医者より真剣に私のことを診てくれているように思えて、私はある種の信頼すら寄せていた。

だから、いくら恥ずかしくても、下着越しよりも素肌に聴診器を当てた方が呼吸音が聴き取りやすいと言われれば
脱いで見せたし、ベタベタ触られても我慢をしていた。

それはきっと、アイツにはOKサインだと思われたのだろう。

――ある日私は、その医者に押し倒された。

何が起きたのか、私には分からなかった。

自分のされたことも理解できないほど性知識に乏しかったわけではない。

お医者様ともあろうものが、なぜ自分のような小娘を力づくで襲ったのか。

ただ立って歩くだけでもしんどいような病人にどうしてあのような行為を行うのか。
515 :30話2 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/06/23(土) 21:31:41.24 ID:iHhKN47A0
そして何よりも信じられなかったことは、看護士達も他の医者も、アイツも、病院の全てがいつも通りに動いていたことだ。



この世界は何事もなかったかのように時を刻んでいた……私が踏みにじられたというのに――



もちろん私は、両親に訴えた。しかし、

「それは、本当なのか?」

その反応はむしろ私を疑うものだった。

確かに今まで、寂しさに任せて嘘をついたことが無いとは言わない。

だがこんな悪質な嘘はついたことがない。

何故疑われたのか分からない私は、何度も畳みかけるように必死で訴えかけた。

「分かった……何らかの手を打とう」

ようやくそう言って頷いた父親の言葉に、その語気に私は気が付いた。

まるで80の年寄りのようにしわがれて疲れきった声。

顔もよく見てみれば痩せきって肉などどこにも残っていないドクロのようで、
胴も色あせた安物のトレーナーの上からは全く体の厚みを感じなかった。

もうとっくに、限界なのだ。

この上さらに莫大な費用と労力をかけて裁判を戦うだけの余力などあるはずもない。

ましてやあの時の私には何らかの証拠を残しておくという余裕も知恵も無かった。

優秀な弁護士を雇ってくるであろう医者や病院側に対して証拠もなしに勝てるだろうか?

さらに悪いことには今まででも転院を繰り返して印象が悪かった私が、
実際に医者や病院を相手に訴訟を起こしたとなれば、今後迎えてくれる病院があるだろうか?

それも実際に戦うのは私ではない。

この哀れなほどにやつれっきった親がそれらの激戦を戦うことになるのだ。

それでも言えるだろうか? 『私のためにもっと戦いなさい』と。

「……ごめんなさい、今のは、全部嘘なの」

去り際の両親に向かって、私はそう言った――うつむいて目に涙をためたままで。

「そうか……」

その後に、父親が小さく何かボソッと言った。私にはそれが「すまない」と言っているように聞こえた。



それ以来私は、この世界が嫌いになった――


病気が治る。

以前の私なら、その言葉を聞いて跳ね上がるほど喜んだかもしれない。

だが、すでに何も信じられなくなっていた私には大きな感動は無かった。

案の定、手術が終わっても長い病院生活で弱々しく育った体が強くなるわけではなかった。

病気が治っても、自分では何も出来ずよたよたと周りに迷惑をかけ続ける存在であることは同じだ。

ただ、病院を出て学校にいくことになるだけ、それだけだった。

それでも一応、かすかな期待は抱いていた。

学校という空間が多少なりとも今より良いところであるかもしれない。

今思えば、あの踏みにじられた日からそれまでの間の私を生かしていたのはそんなちっぽけな希望だけだった。

だが、学校は病院よりも苦痛に満ち溢れていた。

騒音や排気ガスの溢れる通学路を歩き、校舎のきつい階段を登るだけでも私には壮絶な難行だった。
516 :30話3 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/06/23(土) 21:32:42.42 ID:iHhKN47A0
その挙句、何十人もの前に立たされて自己紹介しろだとか、複数人で取り囲んでの質問攻めだとか、
わざとやっているのかと言いたくなる。

そのぐらい、病弱かつ人になれていない私には苦痛だった。

幸いにも、質問攻めの最中に保健委員だという子が割って入って止めてくれた。

さすがに保健委員なら分かってくれているのかと思ったが、その子もわりといろいろ聞いてきた。

大人数に囲まれるよりがは多少はマシ、その程度の違いだった。

本人はそれなりに気を使っているつもりらしいが言っていることは如何にも屈辱も孤独も味わったことも無い
幸せそうな言葉ばかりで、私にはまるで遠い世界の出来事にしか思えなかった。

しかし――

「せっかくステキな名前なんだから、ほむらちゃんもかっこよくなっちゃえばいいんだよ」

その言葉だけは妙に頭に残った。

授業の時間もまた苦痛だった。

一時間椅子に座り机にかじり付いているだけでも私の体にはかなりの負担である。

そのうえ、病院内でろくに勉強できなかった私は、普通の学校の授業の内容についていけない。

それでも順番が来れば容赦なく回答を求められ、周囲の失笑に晒された。

体育の授業になっても、私に飛んだり走ったりできるはずもない。

ただ、校庭の隅で座っているためだけに着替えるのはなんとも言えずむなしかった。

そうして散々好奇の目と失笑に晒された学校からの帰り道、私には何の希望も残っていなかった。

『だったら、死んだ方がいいよね』

そんな私に魔女が声をかけてくるのは、むしろ当然のことだった。

いつの間にか空は夕焼けとは違う異様な赤に覆われ、
アスファルトの地面は名のある芸術家の抽象画のように奇怪な模様を描いていた。

その奇怪な風景に私は圧倒されていた。

やがてケタケタと不気味な笑い声がどこからともなく鳴り響き、地理の教科書で見た凱旋門のような建築物が目の前に現れた。

そして、その門の前から白い人影のようなものが現れた。

それは、まるで人とは思えない奇妙な動きで私に迫ってくる。

『さあ、死のうよ』

誰のものかわからない声が私の頭の中で響く。

(私……ここで死ぬの?)

崩れた輪郭で襲い掛かってくる白い化け物は、私の心の声を肯定するように襲い掛かってきた。

私は悲鳴を上げた。

しかし、この期に及んでも私は生きたいとは思っていなかった。

散々な人生を送ってきて、ついにはワケの分からない化け物に殺される、そんな自分の運命を呪い、死の恐怖に怯えた。

それでも生きて何かをしたいと、何かのために生き抜きたいという希望は全く湧いてこなかったのだ。

もとから生きていて何が楽しいとかそんなものはひとつも無いのだから当然だ。

そして、学校という空間が苦痛でしかなかった時点で、すでに未来への希望も閉ざされている。

希望も楽しみもなく、すがるべき人もいない。

ならばいっそ、ここで化け物に食べられて死んでも何も変わらないではないか。

それが私に与えられた容赦なく残酷で、なおかつ慈愛に満ちた情け深い結末だった。



そのとき、奇跡が起こった――


517 :30話4 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/06/23(土) 21:35:13.48 ID:iHhKN47A0
突如、目の前にいた白い化け物が弾き飛ばされた。

そして鮮やかな衣装に身を包んだ少女達が現れ、またたく間に化け物たちを蹴散らしたのだ。

「イヒヒ……いきなり秘密がバレちゃったね」

私の絶望を蹴散らしたその少女は、学校のクラスの保健委員――鹿目まどか、その人だった。

その日から、何も無かった私にとって鹿目まどかが唯一の希望となった。


――しかし、

「どうして? 死んじゃうって、わかってたのに……。私なんか助けるよりも、あなたに……生きててほしかったのに」

鹿目まどかの亡骸の横で、私は泣き崩れていた。

『ワルプルギスの夜』

それが、その絶望の名前だった。

史上最大級の魔女に、鹿目まどかはたった一人で挑み、死んでいったのだ。

私の中の希望もまた、消え去ったかに思えた。

そこに、悪魔がささやいた。

「暁美ほむら、その言葉は本当かい? 戦いの定めを受け入れも叶えたい望みがあるなら、僕が力になってあげられるよ」

自らを『キュゥべえ』と名乗るこの奇妙な小動物は、私にそんなことを言ってきた。

その問いは、私にとっては全てを失うか否かという二択と同じ意味だった。

当然、全てを失うことを受け入れるはずなどない。

「私は……。私は、鹿目さんとの出会いをやり直したい。彼女に守られる私じゃなくて、彼女を守る私になりたい」

正直言って頭の中がいっぱいいっぱいになっていた私は、自分の思うことを全部いっぺんに言った。

それがどういう内容の願いで、どういう能力をもたらすかなんて考えもしていなかった。

「契約は成立だ。君の祈りは、エントロピーを凌駕した」

キュゥべえのその言葉と共に、あたりは光につつまれて、私の意識は遠ざかった。



気が付けば私は、病院のベッドの上にいた。

何がどうなったのかと見回すとカレンダーの日付がまだ退院前だ。

新しい学校に対する不安と期待であんな夢を見たのかと、ひとりごちにうなずいた。

しかし、その自分の手もとには紫色の宝石――ソウルジェムが落ちていた。

「夢じゃ……無かった?」

退院後、学校までの道のりはそう苦痛ではなかった。

魔法少女になったおかげで身体能力がそうとう底上げされているらしい。

私の場合、それでも凡人並みの身体能力にしかならなかったが、その凡人並の世界すら私にとっては
今までとは全く別の、すばらしい世界だった。

勉強の内容はなかなか付いていくのが難しかったが勉強すること自体は身体的苦痛にならないし、
ろくに体を動かしたことも無い私はやっぱりドン臭かったけど、それでも体育の授業で体を動かすこと自体は
楽しいと思えた。

そして、このクラスには鹿目まどかがいる。

それだけで、私のドン臭さに対する周りの視線なんてどうでもよくなった。

今まで私の人生になかったぐらい、幸せな日々が続いた。

それでも――

「どうしたの? ねぇ、鹿目さん? しっかりして!」

鹿目まどかと巴マミと私と三人で、苦戦の末『ワルプルギスの夜』を倒した。

巴マミは死んでしまったけども、鹿目まどかは生き残った。
518 :30話5 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/06/23(土) 21:36:17.81 ID:iHhKN47A0
そのはずなのに……

鹿目まどかは苦痛に顔をゆがめていた。

真っ黒に濁りきったそのソウルジェムを浄化できれば良かったのだろうが、
『ワルプルギスの夜』との戦いですでにグリーフシードは使い切っている。



そして、鹿目まどかはその姿を魔女に変えた。



私の希望はまた絶望へと変わったのだ。

キュゥべえは私達を騙していた。

やっと得られた充実して生きられる日々が、恐るべき搾取のもとに成り立っていた。

その真の絶望を知ったとき、私の終わらない旅が始まった。



キュゥべえの正体を明かしても、信じてはもらえなかった。

時間をさかのぼる私が未来から持ってこられるのはソウルジェムだけだ。

証拠など揃えられるわけがない。

それにキュゥべえの動機も中々つかめなかった。

鹿目まどかですら、信じてくれない。

――あの時と同じ絶望だった。

それを何度も繰り返し味わうのだ。

そして、証拠が出てきたときにはもう手遅れだった。

仲間の誰かが魔女になるのだ。平静を保てず、『ワルプルギスの夜』と戦う前から壊滅してしまうのがオチだった。

それならいっそ、誰にも真相を話さず、1人で戦った方がいい。

私はまた、あの時と同じように……いや、それ以上に心を閉ざすようになっていった。

身体能力は一般人より上、プロのスポーツ選手並にまで引き上げた。

1人で戦うには多種多様な武器が必要になる。

魔力で武器をつくれない私は実物の武器・兵器を盗んで使ったが、扱いにそれなりの身体能力が必要なのだ。

また、何度も繰り返し学校に行き同じところを何度も学ぶので、当然ながら成績は極端に良くなった。

そうすると、貧弱で勉強も運動もできなかった私が一転して万能人間だ。

クラスメート達の反応はまるで手のひらを返したように変わった。

好奇と失笑しかなかったものが、憧れや尊敬にとって変わったのだ。

馬鹿馬鹿しかった。

私自身は前よりも心を閉ざしているというのに、少し能力があるだけでちやほやしてくる。

世の中の大半の人間は、人を表面的な記号でしか見ていない、

私はますます、鹿目まどか以外の全てのものがどうでもいいように思えた。

そうして繰り返すうちに、まどかが魔女になれば『ワルプルギスの夜』を超える世界を滅ぼすほどの魔女になることや
キュゥべえが負の感情のエネルギーを集めるために魔法少女と魔女を作り上げていること
まどかが魔女になることを防ぐために暗躍する美国織莉子や呉キリカの存在などを知った。

***************

「そうよ……まどかが無事ならばそれでいいはずでしょう?」

しかし、暁美ほむらのソウルジェムは黒く濁っていた。

彼らの前に姿を現すことはしなかったが、鹿目まどかの安否は確認してから逃げた。

だから、まどかが無事だったことは知っている。
519 :30話6 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/06/23(土) 21:37:59.29 ID:iHhKN47A0
魔法少女の真相を知ったまどかは決して契約しないだろう。

そして、多くの魔法少女が生存しているうえに武闘家とかいうわけのわからない連中までいるのだから
『ワルプルギスの夜』に勝てる可能性もかなり高い。

(全てが上手く行ってるじゃない、なのに……)

ソウルジェムは決して輝きを取り戻そうとはしなかった。

(まどかに私のやり方を否定されたから? それとも私が魔女になったまどかを見捨ててきたから?)

自分の心に問いかけるまでもなく答えは分かっていた。その両方だ。

時間を巻き戻すたびに、自分はまどかにとってワケの分からない人間になる。

そんなことは前から分かっていた、だがこうも真っ向から否定されたことが今まであっただろうか。

今回、巴マミが魔女から元に戻れたのは運のいい偶然がいくつも重なったに過ぎない。

普通ならやるべきではない危険を冒した上でも奇跡のようなものなのだ。

少なくとも魔法少女である自分は同じことをしても魔女になった鹿目まどかを救うことはできなかった。

だから、自分が逃げてきたのは仕方が無いことなのだ。

しかし、今までにあのまどかほど熱烈に魔女になった仲間を助けようとしたことがあっただろうか。

そんなことを考えていると、ソウルジェムはより一層濁った。

ほむらは慌てて、自室にとっておいたグリーフシードでソウルジェムを浄化した。

だが、ソウルジェムは一瞬だけ輝きを取り戻した後、みるみるうちに真っ黒に染まっていく。

「……くっ」

こうなれば少しでも魔力消費を抑えるしかない。

ほむらは止むを得ず、身体強化を解除した。

視力補正も解除したのでろくに目も見えない。

ほむらは立ち上がって、メガネを探すために机に向かう。

室内でほんのちょっとの距離を歩くだけのことだったが、それだけでも貧弱なほむらの体は悲鳴を上げる。

立ちくらみをおこし、壁などにもたれかかりながらフラフラと歩き、長い時間をかけてようやく机にたどり着く。

そして、倒れるようにどっかりと椅子に腰をおろした。

心臓がバクバクとのた打ち回り、肺がより多くの酸素を求めて息を荒げる。

ただ立って歩くだけのことでこれだ。

少し休んで呼吸と脈拍を整えてから、ほむらは引き出しの中をまさぐってメガネを取り出した。

それを鼻にかけようとするが、歩いているうちに乱れた長い髪の毛がメガネと顔の間に挟まって邪魔をする。

ほむらはいったんメガネを机に置くとゴムバンドを取り出して髪をまとめた。

ここのところ全くしていなかったとは言え10年近くやってきた三つ編みはスラスラとできた。

(出来ることと言えばこのくらいか)

そんな自分に苦笑しながら、ほむらはゆっくりメガネをかけた。

机に置いた鏡には、大嫌いな人間の姿が映っている。

弱虫で、不器用で、1人では何も出来ず、ただ一方的に虐げられるだけの存在。

誰よりも大嫌いな本当の自分、映っていたのはその姿だった。

「やあ、見違えたよ暁美ほむら」

そして、その次に大嫌いな白い小動物がいつの間にか部屋に入ってきていた。

「何をしにきたのかしら、インキュベーター?」

「その様子だと、もうすぐ魔女になってくれるみたいだね」

キュゥべえはほむらの質問には答えず、一方的に自分の話を始めた。
520 :30話7 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/06/23(土) 21:41:08.10 ID:iHhKN47A0
「誰が、なるもんですか……」

ほむらは出来るだけ余裕を見せようとするがその声はかすんだ。

体力の無さで声が張らないというのもあるが、それ以上に自信を持ちきれないのだ。

「鹿目まどかが死なず、魔法少女にもなっていないのにどうしてそんなにソウルジェムを濁らせているんだい?」

相も変わらず、この化け物は無邪気な声で核心をついてくる。

「……あんたが、ムカつくからよ」

もう頭を働かせることもしんどいほむらは虚勢だけで適当に答える。

「キミが魔女になれば、きっと鹿目まどかも心配してくれるよ」

「出て行ってちょうだい!」

ほむらは椅子にもたれかかったまま無理に声を荒げた。

そんなほむらのいら立ちを見越したように、キュゥべえは机の上に乗ってほむらの正面に出る。

「キミが魔女になったら、鹿目まどかは自分のせいだと思って落ち込むだろうね。
……上手くいったら、キミを元に戻すためにボクと契約してくれるかもしれない」

「消えなさい!」

「キミにとってもうれしいことじゃないのかい? 鹿目まどかがキミのために契約してくれるんだよ」

「このっ!」

カッと来たほむらは、即座に拳銃を取り出し、キュゥべえに向けて発砲した。

しかし、銃口はあさっての方向を向き、天井に銃痕をつくった。

「う……あ、あ……」

そしてほむらは自分の右肩をかかえて苦痛の声をあげた。

「やれやれ、拳銃は成人男性でも肩が外れることがある武器だよ。
小径口とは言えキミのその体で扱えるわけがないじゃないか」

キュゥべえは終始身じろぎもしていない。

その様がなんとも屈辱的だった。

「や……約束が……違う、わ」

苦痛に歪む顔で、ほむらは必死にキュゥべえをにらみ敵意を失っていないことを見せ付ける。

「約束を破ったのはキミの方だろう? キミが乱馬たちを通さなければ全てボクの言ったとおりになっていたんだ」

あくまで被害者は自分だ。キュゥべえはそう言いたいようだった。

「それなのに結果としては鹿目まどかは未契約で、巴マミと響良牙から集めた感情エネルギーは拡散した。
約束を破ったキミの利益が守られていて、約束を破っていないボクの利益が消えてしまったんだ。
ひどい不公平だと思わないかい?」

「……詐欺師のあなたの……言葉じゃないわ」

椅子に座ったまま屈みこむほむらを、キュゥべえは見下ろした。

「ボクが詐欺師だとは不本意だね。ボクは契約のときもちゃんと合意をとっているはずだよ。でも――」

そう言ってもったいぶって間を空ける。

それが自分をいらだたせるためだと言う事は、ほむらにはよく分かっていた。

「――キミと組んだのは失敗だったよ。敵として脅威にならない存在は味方にしても役に立たないことがよく分かった。」

「私に……そんな事を言って、どうするつもり……かしら?」

くだらない挑発だった。あわよくばこれで魔女になれば良いと思っているのだろう。

「ありのままに事実を言っているだけさ。
キミにもっと対話能力があれば、巴マミや他の魔法少女たちの信頼を得てボクの邪魔をすることも出来ただろう。
逆にキミが非情に徹することができるなら、マミの結界に入ってきた乱馬たちを有無を言わさず爆殺すれば良かったのさ。
そのどちらも出来ないキミは敵としても味方としても、何も出来ない無能なだけの存在さ」

「そういう事を言って、巴マミも魔女に変えたのね」
521 :30話8 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/06/23(土) 21:42:08.16 ID:iHhKN47A0
「そういう事を言って、巴マミも魔女に変えたのね」

「さあね。……ただ、そんなことを繰り返している限り何度やってもキミはボクには勝てないよ」

それだけ言うと、キュゥべえはどこへともなく去っていった。

やはり、ほむらのソウルジェムを濁らせるために来たのだろう。

(だとしたら逆効果だったわね、インキュベーター)

椅子にもたれて肩を抱えながらほむらは思った。

まどかはいまだ契約もせず五体満足だ。『ワルプルギスの夜』はおそらく自分がいなくても倒せる。

だったら、あとはやるべきことはひとつだ。

そして、キュゥべえが来たおかげでその決意はより強まった。

(インキュベーター、後はあなたさえ始末すれば、私の旅は全てが終わるわ)

ほむらは魔法で肩を治し、ゆっくりと立ち上がった。
522 : ◆awWwWwwWGE [副題忘れてた『ほむらストーリー+1』]:2012/06/23(土) 21:43:27.97 ID:iHhKN47A0
以上、30話でした
523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/06/23(土) 21:59:54.45 ID:DQYqg63Eo
ほむほむの悲惨さが上昇した……
524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/23(土) 22:04:02.55 ID:VHPEzbdV0
乙です
医者屑すぎだなオイ
この境遇じゃ、そりゃまどかに固執するわな
525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/24(日) 00:18:06.47 ID:acWOuPhDO
さやかをオリコごとあっさり殺そうとした時、このほむらちょっと行き過ぎじゃあと思ったが…
なるほど
526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/06/24(日) 01:15:05.07 ID:LRi9po7AO
この物語のほむらは見滝原中学生に転校してくる前から随分と荒んでたんだな…。そして表現がやたらと生々しい…
527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/24(日) 02:39:29.37 ID:3HIq8cZqo
安易な陵辱とかマジやめようや・・・
ありきたりな上に不愉快にしか感じない

別の人が書いたのかと思った
せめて注意書きくらいはすべきでしょう
528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/06/24(日) 04:12:11.60 ID:ddE0q8e80
不快すぎてこのSS見続けるの挫折するレベルだわ
今まで楽しく拝見させて頂きました
これからも頑張って下さい
529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2012/06/24(日) 06:43:08.38 ID:mcMY1UmEo
そんな微細に描いてるわけもないのにどんだけ妄想逞しいんだよww
530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/24(日) 06:47:11.94 ID:Z0Yo4XfDO
>>41
531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/24(日) 06:53:13.62 ID:x0QckVFo0
さやか「さやかちゃんイージーモード」とか、まどか「さやかちゃん」
とか読んでた身としてはこれくらいはまだ軽い方だと思う
532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/06/24(日) 06:57:03.76 ID:8iZ5+cpAO
馬鹿につける薬はないとはこのことか
533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/06/24(日) 06:58:03.70 ID:8iZ5+cpAO
あ、>>1のことじゃないからね、念のため
534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/24(日) 08:39:27.47 ID:ty46fGNuo
どこの薄い本だww
やさぐれっぷりをフォローする意図なんだろうが、この設定必要?
まあSSなんて作者の嗜好が発露されてなんぼだよね
535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/24(日) 12:22:20.33 ID:89Vpgk/Fo
お前ら落ち着け
全部されたとは書いてないだろ

ひょっとすると、チンコは入ってなくて
指で弄り回された程度で、今回の所は済んでいるかもしれないじゃないか
536 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/24(日) 15:11:57.62 ID:Z7WRBnyCo
性犯罪者がのうのうと暮らしてるって事を連想させちゃうのはなんだかな
過去の悲惨さを出すにしても胸糞の方がデカくなっちまうわ
537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/24(日) 15:25:03.60 ID:89Vpgk/Fo
>>536
大丈夫、きっとその辺で
杏子ちゃんの計略で魔女とか使い魔に食われてるよ
538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/24(日) 15:43:39.99 ID:BrnlYQyto
良し悪しは別としてクロスがらんまだから、あんまり暗い部分をねちっこく書くと
空気やノリの違いとか温度差みたいなものは気になるかも
どっちを重視するかは好みだし、まどかが主になるならよくあることだけど
539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/06/24(日) 23:16:29.80 ID:ogjxh+1N0
虚淵ならやりかねんからな
プロダクションノートによればレアCD買うために
さやかが売春やってるアイデアがあったらしいし
540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/24(日) 23:38:27.31 ID:89Vpgk/Fo
売春できるほど自分の身体に割り切れるんだったら
ゾンビ如きで悩むことないような気もするが・・・
541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/25(月) 01:00:54.03 ID:N9ppjDbAO
普通に体をまさぐられたとかでいいだろ…多感な時期の少女にはそれでも十分すぎる
て言うか心臓病煩ってる子供がレイプなんぞされたら死んでしまうわ、健康な子供でも場合によっては命に関わるってのに
542 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/25(月) 11:03:08.25 ID:v6ercYDHo
別に犯されてても良いんじゃね?
543 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/26(火) 03:04:41.67 ID:4LUusQZ1o
やれやれ
人間は架空の物語にも感情移入するんだね
僕には理解できないよ
544 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/26(火) 06:01:15.18 ID:pR6bLGI60
ほむらがふたなりになってマミやキュウベエを犯しまくるSSとかまであるのに今更何言ってんの?
545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/26(火) 06:20:39.37 ID:G6Kyg+kAO
「人によっては不快感を催すが別に無くても問題ない設定」なんて物を追加したら批判されるのは当たり前
546 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2012/06/26(火) 06:31:46.82 ID:Dcdllyr6o
「人によっては不快感を催すが別に無くても問題ない設定」があったって何の問題もない
批判されて当然はただのお前の主観ww
547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/26(火) 06:52:41.66 ID:v4pG3UXIO
乙 ほむほむちょっと可哀想だね
医者を暗殺しても許されるレベル
548 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/26(火) 07:03:01.02 ID:G6Kyg+kAO
実際に批判的な感想がついてるのに主観もクソもねえよ
549 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/26(火) 09:33:47.58 ID:eGJZ6nlio
薄い本のシチュエーション的には好みだがこの話でほむほむレイプップ描写はいらねーな
550 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2012/06/26(火) 12:08:07.27 ID:Dcdllyr6o
がっつり描写じゃねえのに馬鹿なの
嫌なら読まんくておk
551 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/26(火) 13:19:13.51 ID:+Y3YMNlWo
公式や他のSSだったら勘弁して欲しい展開だわな

ただ「このSS」ではあっていい
いつも以上にピーキーなほむらの理由付けにはなったし

こういう事があった後
水かけたら女や豚にアヒルやパンダなるとはいえ
らんま勢の男たちと話したり信頼関係が出来上がってるのを見て
どう思ってたんだろう・・とかきになる展開もあるし

552 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/26(火) 20:33:32.52 ID:7dbWfM9Go
SSなんて所詮公式でもない自慰なんだから自分がクソだと思った瞬間黙って見切りつけろ
楽しみにしてるやつだっているかもしれないしくだらん批判で作者が機嫌損ねて逃亡するかもしれない

それともこんなほむらちゃんは創作でも許せない!ってか
553 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/06/27(水) 01:02:15.81 ID:jc93DRWAO
批判なんてする奴はみんな頭足りない馬鹿と相場が決まっている
批判するなら見ない、見たのなら批判しない
見させてもらってる分際でこんな当たり前のルールも守れない馬鹿に構うだけ時間の無駄だよ

作者様もこんな程度の低い連中の下らない批判など気にせず執筆活動がんばってください
554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/06/27(水) 08:15:45.76 ID:MoevOFwy0
批判すら許さないってのも頭の悪い考え方だぞ
創作物を不特定多数の目に晒せば色んな感想が出るのは当たり前
批判意見を見たくないなら自分のノートにでも書いてろって話になる
555 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2012/06/27(水) 09:15:25.01 ID:SxcrCA8uo
んじゃ、批判の批判も受け入れなさいよ
556 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/06/27(水) 10:29:18.81 ID:jc93DRWAO
批判は感想などではない
批判なんてものは作者にとって害にしかならない
そんな物を受け入れる必要など無い
557 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/06/27(水) 11:06:29.42 ID:nly1uq/x0
らんまクロスなのに鬱設定ってのはそりゃ反発受ける罠
558 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/27(水) 12:03:29.84 ID:x1luU/Hto
だけど、これはそういう展開のありえるSSッぽいからな

今になって騒ぐくらいだったら
織莉子を爆殺したあたりから察しておけよ
559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/27(水) 14:58:01.87 ID:fruH5bRSO
こういう話にするなららんまなんかクロスさせない方が面白かったと思う
560 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/27(水) 15:30:03.50 ID:Px1KHoHIO
1が嫌になるかもって自覚のある「楽しみにしてる人がいようが俺が不快だからこれ以上書くな」って自己主張と荒れてるって現状が悲しい…
我儘かもしらんが俺は1に気分良く続き書いて欲しいんだよ…
561 : ◆awWwWwwWGE [sage]:2012/06/27(水) 20:09:58.02 ID:JWiuwT860
えーと、批判も擁護もありがたいのですが
不毛な言い争いにはならないようにお願いいたします
あと、何言われようがエタる気はありません

562 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2012/06/27(水) 20:12:19.90 ID:SxcrCA8uo
うい、スレ汚すのは不本意なので黙る
ガンバレ
563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/27(水) 20:21:45.59 ID:nHcAzDfro
みんな争いを起こすほどこのSSに対して真剣なんだよ
俺も楽しんで読ませてもらってるし期待してる人間の1人だから是非とも頑張ってくれ
564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/27(水) 20:45:21.13 ID:cjRXTdpLo
これまでエタったSSの95%くらいはエタる気なんて無かったと思うがなww
くだらん茶々はともかく頑張って完結させてくれ
そうでなきゃ好き嫌い以前の話だ
565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/28(木) 08:45:32.91 ID:i480iW/Ho
荒れてても頑張る作者を私は応援してる
566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2012/06/28(木) 20:58:45.30 ID:VxQJAJDro
面白いよ
567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/28(木) 23:17:55.64 ID:iE/Tdbh80
あえて難を言えば、虚淵世界観はともかく、基本ギャグのらんまの世界観に合わないような
笑う標的、人魚や犬夜叉だったならば
568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/29(金) 01:46:17.50 ID:2aBxmNhAO
うるせえよクソが
569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/01(日) 10:38:49.42 ID:oq/AUL0AO
>>559
らんま「なんか」とはなんだ「なんか」とは
らんまファンに喧嘩売ってんの?馬鹿なの?死ぬの?
570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/07/03(火) 03:45:08.31 ID:hBSDzAjWo
なんでこんな叩かれてんの?wwww
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/03(火) 07:06:31.30 ID:WGZYWepAO
叩いてるのはキチガイアンチだけだから気にするな
572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/07/03(火) 14:30:00.11 ID:7q+1SRtNo
アンチは自分が異端なことだけが取り柄だから、一生懸命悪い言葉使って煽ってみたり、無駄な長文でその異端さを必死で主張してるんです
自分だけはマドマギを真に理解してるんだよ!!ってね
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/07/03(火) 18:20:58.73 ID:jrj9P9cn0
頼むからアゲんなし
574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/03(火) 18:38:33.38 ID:q6hgQ8ZWo
いつまで続けるつもりだ
575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/03(火) 20:06:20.35 ID:kV9DoxOSO
そういう下らない煽りが不毛な言い争いを引き起こすと何故気づかん

576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/03(火) 21:17:01.91 ID:y01rupP7o
俺はSS楽しんでる側だけど、ハッキリ言って擁護側が荒らしに見えるよ
読んでるヤツらを不快にさせるのが目的でないなら書込ボタン押す前に自分の書いた文章を見直してくれ
577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/04(水) 12:14:37.08 ID:+dWZsMGAO
お前がそう思うんならそうなんだろう、お前ん中ではな
578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/08(日) 00:11:23.18 ID:nwJnQa0O0
>>1どうした?いつもより投下遅いな…
心配だから経過報告を…
579 : ◆awWwWwwWGE :2012/07/08(日) 13:31:52.56 ID:8m4oFGTt0
すいません、個人的な都合により遅くなりました
今から投下します

それと、意見でも感想でもない罵詈雑言はどういう立場であれ荒らしです
580 :31話1 ◆awWwWwwWGE [sage:副題『ほむホームは漫画版基準のイメージで』]:2012/07/08(日) 13:33:13.78 ID:8m4oFGTt0
 ぼふっ

柔らかな感触が杏子を襲った。

「むーっ、むぐぐっ」

抵抗するがすでに口をふさがれているため悲鳴すら上げられない。

『い、いきなり何しやがる!』

杏子はやむなくテレパシーで叫んだ。

「もー、そんなに照れなくていいのよ」

しかし、マミは抗議も聞かず、がっちりと杏子の頭を自分の胸にホールドした。

『ちげーし、ってか息苦しい、マジ苦しいから!』

杏子はついにはタップをはじめる。

「マミさん、もう離してあげなよ」

「だって、杏子がこんなに頻繁に会いに来てくれるのがうれしくて」

さやかの制止を受けてマミはしぶしぶ腕を放した。

「ぶはー、ったく、ウザさが倍増してやがる」

荒々しい呼吸をしながら杏子は汗を拭った。

しかしながらその頬は赤く染まっている。

「どこの反抗期の息子だ」

「杏子ちゃん何かかわいい」

さやかとまどかにそう言われて杏子はますます決まりが悪かった。

「それじゃ、今度は鹿目さん」

「はーいっ」

マミは今度はまどかに対して腕を広げた。

捕まえるまでも無く、まどかは自らその腕の中に飛び込み、マミの胸に顔をうずめる。

「むにむに」

「きゃっ、もう鹿目さんたら」

堂々と乳繰り合う二人を見て杏子はあきれ返った。

「……あたしはあーはなれねぇ」

「うん、それはそうだけどさ――」

さやかはうなずいてから、会話をテレパシーに切り替えた。

『――マミさんが自分からああやって甘えてくれるようになったのは良いことだと思うよ。
ずっと甘えられるような相手もいなくてさ、それでも戦い続けてきて……マミさんだってただの中学生なのに』

もちろんこれは杏子だけにあてたテレパシーである。

『ああ。情けねー話だな、自分のことでいっぱいいっぱいでそんな事にも気が回らなかったってのは』

杏子はかつて、自分の願いで運命を狂わせたときに、マミと袂を分かった。

しかし、その結果はどうだったか?

真っ当なやり方で生きていけないからといって盗み、真面目に魔女退治をしていたらもたないからといって
使い魔退治をさぼり、そんなやり方でも一人で生きていく自分は強くなったと勘違いしていた。

だが実際は、自分ひとりの露命をつないでいただけで何も成し遂げていない。

今回のことも1人ではせいぜい魔女になったマミと心中するのがオチだったろう。

強がるよりも前に、できることもやっておくべきこともたくさんあったはずだ。

それを思うと情けないとしか言えなかった。

「そんなこと言わないで美樹さんも」
581 :31話2 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/07/08(日) 13:34:33.84 ID:8m4oFGTt0
マミはまどかと離れると、自分より長身のさやかを強引に胸に抱きこんだ。

「ぶはっ、ちょ、マミさん!」

もがくさやかに、マミはテレパシーを送る。

『人のこと言う前に、美樹さんも何か1人で抱え込んでるでしょ?』

「む? むがが!?(え? 傍受されてた?)」

『あんまり1人で抱え込んでると、私みたいに魔女になっちゃうわよ』

いつものような明るい口調のテレパシーでマミは言う。

『いや、それさらっと言う台詞じゃないから!』

そしてさやかのツッコミをスルーして、杏子に顔を向けた。

「それに杏子も、落ち込んでるヒマがあるなら、もっと私とイチャイチャしなさい!」

「わけわかんねーし! ってか上から目線で甘えるなよ!」

そんなやり取りをしていると、ふいにドアチャイムが鳴った。

マミの部屋ではあるが、まどかはためらいなくインターホンに出る。

「……うん、……はい」

ほんの少しインターホンと話して、まどかは振り向いた。

「良牙さんと乱馬さんが来たよ!」

***************

「いやー、すまねぇ遅くなっちまって」

そう言ったらんまは女の姿をしていた。

今まで見滝原勢には女として認識されてきたのだから、急に男になって現れたら驚かせてしまうからという配慮だ。

そしてその横にいる良牙はうつむき、かなり落ち込んでいる様子だった。

「何かあったの?」

「あかねさん……」

さやかの質問に対して、良牙はうわ言のように答えになってない言葉を返した。

「そっか。あの道場の娘との婚約だかなんだかは結局白紙になったんだな?」

説明されるよりも早く、杏子が事情を推測した。

「ああ。それでコイツを連れてくるのが遅くなっちまったってワケだ」

らんまは呆れ顔で説明を加える。

(あの人、あかねさんって言うんだ)

まどかは自分が良牙を訪ねていった時に出会った女性を思い出した。

あかねという女性は突然乱入してきた自分に対して驚いた表情は見せたが、
良牙がデートを切り上げることに対しては全く動揺を見せなかった。

恋愛経験など皆無に等しいまどかでも「脈無し」としか思えない。

そんなあかねを相手に深刻に落ち込むほど入れ込んでいる良牙がどうにも哀れに思えた。

「あら? 話がよく分からないんですけど、ご説明お願いできます?」

マミはそう言って笑顔のまま首を傾げて見せた。

「え? えーと、だな」

良牙はどう説明すべきか分からずしどろもどろになった。

(……いま、ソウルジェムが反応したんだけど?)

(これは、魔力? 闘気? いや、殺気を感じる)

マミ相手にはテレパシーも傍受される可能性があるので、さやかと杏子は目で語り合った。
582 :31話3 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/07/08(日) 13:37:33.26 ID:8m4oFGTt0
「その説明は後でするとしてだな……今日はもうひとり来てるんだ」

らんまは言葉を濁した。

その辺りの事情を説明するには、自分の変身体質について教えなければならず話がややこしくなることが避けられない。

今日はそんなことよりも先に済ませなければならない用事があるのだ。

「こんにちはーっと、そこの青い子と黄色い子ははじめましてかしらね?」

らんまの台詞を受けて、ボブカットの女性が部屋に入ってきた。

「あ、なびきさん」

まどかがつぶやく。

「おいおい、あんたが何しに見滝原まで来たんだよ?」

天道なびきはあまり自分から動く方ではない。杏子が疑問を口にした。

「取立てよ、こないだまどかちゃんに貸した5000円に利子つけて7000円」

なびきは厳かに、手のひらを上に右手を突き出した。

「え……あ、ちょっと利子高く無いですか?」

いい人だと思っていただけに、ショックだった。たった二日で40%の利子を上乗せするなど、
闇金融をも遥かに超える無茶苦茶な利率ではないのか。

もちろん、まどかにそんなにホイホイ小遣いが沸いてくるはずもなく、しばらく払える見込みも無かった。

「……それは私が払うわ。今私がここにいるのは鹿目さんのおかげだもの」

そこにマミが自ら進み出てお金を出した。

まどかは「すみません」とマミにペコペコし、マミは「いいのよ」と軽く流す。

そんな様子を眺めながらさやかは首をひねった。

「おかしいね。まどかからお金を取り立てるためだけにここまで来るってのは採算悪くない?」

「正解」

資金回収を済ませほくほく顔のなびきはウインクをしてみせた。

「会いに行くんでしょ? 暁美ほむらって子に。あたしはその子にグリーフシードを売りつけに来たの」

「そんなトコだと思ったぜ」

杏子はため息を吐いて肩をすくめた。

***************

「……いきなりこの人数でおしかけるのもちょっと難があるわよね」

暁美ほむらが住んでいるというアパートの前まで来て、マミがつぶやいた。

魔法少女3名、武闘家2名、一般人2名の計7人。

事情がどうだろうが、この陣容で1人の少女に頭を下げさせようというのはイジメにしか見えない。

「だが、少数だと思われたら何か仕掛けてくるかもしれんぞ?」

それでも良牙は警戒をうながした。

ほむらの時間停止を共有したことのある良牙は、その能力の恐ろしさをよく分かっていた。

例えば、今こうして話し合っているところを見つけられて、手榴弾や拳銃でも撃たれたら何人かは確実に致命傷を負う。

こちらに一瞬で全滅させられず確実に反撃できるだけの戦力が無ければ、ほむらはいつでも奇襲で勝ててしまうのだ。

「私が行きます。きっと、私には攻撃してこないから」

そこにまどかが、恐る恐るでもなく自分が行くと宣言した。表情はいたって真剣である。

「ダメだよ」

が、さやかはまどかを制止した。

「確かに前に見たほむらのあの様子じゃまどかに攻撃しそうもないけどさ、
やけっぱちになってたらどうだか分かんないでしょ? ほむらが逃げ出した場合もまどかじゃ捕まえられないしね」
583 :31話4 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/07/08(日) 13:39:03.31 ID:8m4oFGTt0
「え……でも……」

戸惑うまどかになびきが追い討ちをかける。

「そうね、まどかちゃん1人ならともかく、戦える人が安全確保してくれないとあたしもグリーフシード売りにいけないし」

「誰もあんたのために言ってねーよ」

なびきの自分勝手な言い草に杏子がムッとして言った。

「あたしが行くよ。あたしならソウルジェムに直撃でもされない限り大丈夫だから」

そう言ってさやかが立候補する。

「それじゃ、俺も行くぜ」

らんまも手を上げた。

さやかとらんまの二人ならほむらに勝った組み合わせだ。

これなら大丈夫だろうというと周りもうなずいた。

***************

さやかがドアチャイムを鳴らし、らんまがすぐ側に控え、他は少し離れたところに隠れた。

さやかが進み出たのにはわけがある。

暁美ほむらはなぜ美国織莉子を殺したのか、何のためにキュゥべえの片棒を担ぎマミや良牙を犠牲にする凶行に及んだのか。

きっと、その動機にはどこかでまどかの存在が関わっている。

だからさやかは過剰なショックを与えないためにまどか抜きで話がしたかったのだ。

それに自分が何のために人殺しに手を染めなければならなかったのかを知りたいというのもある。

ボタンを押してから結構長い時間を経て、ようやく扉が開いた。

そして、よろよろと年寄りのような緩慢な動作でメガネに三つ編みの地味な少女が現れる。

「……あれ?」

「これは?」

さやかとらんまは思わず顔を見合わせ、再び少女の方を見た。

「あなたたちが呆気にとられるのも仕方がないわね、でも私が暁美ほむらよ」

ほむらはつぶやくように小さな声でそう告げる。

しかし――

「わりぃ、人違いだった」

「ごめんなさい、訪ねる家間違いました」

どうやら聞こえていないらしく、らんまとさやかはそう言って頭を下げて、足早にきびすを返した。

「え……、いや、ちょっと……」

ほむらは止めようとするが声は届かず、二人は見向きもしない。

そして、少し離れたところで立ち止まった。

「もー、まどか住所間違ってたよ! ちゃんと先生に聞いたの?」

「ぜんっぜん、ちがう子が出てきたぞ?」

さやかとらんまは口々にそんな事を言った。

「えー、ちゃんと聞いた通りの住所だよ? 早乙女先生が間違ってたのかなぁ?」

まどかはメモ帳を出して首をひねる。

『あたしが暁美ほむらだって、言ってるでしょうが!』

そこに、ほむらのテレパシーが飛んできた。

「いるじゃない? あたしにもテレパシー聞こえたわよ」

そのテレパシーははっきりしていて一般人であるなびきにも聞き取れた。
584 :31話5 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/07/08(日) 13:39:52.31 ID:8m4oFGTt0
「家族が玄関に出たんじゃないのか?」

「じゃあ、さっきのは妹か何かか?」

良牙と杏子の言葉を受けて、美樹さやかはなるほどとうなずいてから再び前に進み出た。

そして、再び三つ編みにメガネの少女の前に立って言った。

「何度もすいません、暁美ほむらさん居ますか?」

***************

「信じられない……」

さやかがつぶやいた。

魔法の有無だけでここまで変わるとは思えなかった。

暁美ほむらはまるで息をすることすらしんどそうに椅子にもたれかかっていた。

「この通り、今の私は戦うことも逃げることも出来ない……
煮るなり焼くなり好きにすればいいわ」

「言われなくてもそうさせてもらうぜ。だがな、その前にいろいろ聞かせてもらう。
わからねーことが多すぎる」

らんまはいつでも動けるように立ったままで話した。

病弱なフリをして油断させる類の作戦ということもありえるからだ。

「何を……言えば、いいのかしら?」

途切れ途切れの息を漏らしながら、ほむらはらんまとさやかを眺めた。

(どうせ何を言ってもあなた達には無駄だというのに)

侮蔑と諦めが、自然とその顔を無表情に変える。

そしてこの状況でも無表情であることは、らんまとさやかには不気味に思えた。

「それじゃ、あたしから聞かせてもらうよ。……どうして、美国織莉子を殺さなきゃならなかったの?」

「は?」

驚いたのはらんまだった。

織莉子という名前は前にどこかで聞いたような気がするが、さやかが何の話をしているのかは全く分からなかった。

「魔法少女狩りの黒幕だったから……それじゃダメかしら?」

ほむらはあくまでとぼけた。

「何言ってんだ? 魔法少女狩りの犯人は杏子とおめーが倒したんじゃ……」

らんまを置いてけぼりにして、さやかはさらに問い詰める。

「納得いくわけないよ。あんたにとっちゃ、よその魔法少女が狩られようがどうだっていいはずでしょ」

それでもほむらはゆっくりと首を横に振った。

「自分がやられる前にやっただけよ。美国織莉子と呉キリカの二人がかりで奇襲されたら勝ち目がないもの」

確かにそれは事実だろう。

ほむらの言葉を信じたわけではないが、さやかには言い返せる言葉が無かった。

「おい、何か変なのが――」

らんまが何か言っているが話に付いてきていないようなので無視して、さやかはほむらへ質問を続ける。

「あんたの言ってた、キュゥべえが作る恐ろしい魔女って……まどかのこと?」

「!?」

今度は明らかにほむらの表情が変わった。

「あたしが思いつきで言ってるわけじゃない、美国織莉子が死に際に言ってたんだ」

その言葉に、ほむらは目を見開いてさやかをにらんだ。
585 :31話6 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/07/08(日) 13:41:05.90 ID:8m4oFGTt0
「鹿目まどかにそれを言うんじゃないわよ」

うなるような低い声でほむらは言った。

「あのさー、あたしがまどかにこんなこと言えるわけ無いじゃない。頼まれたって無理」

さやかは軽いノリながらも、はっきりとそう言った。

ほむらに口出しなどされなくても、さやかはまどかのためを思って行動しているのだ。

しかし――

『……ごめんなさい、もう鹿目さんに聞かせちゃったわ』

ふいにマミのテレパシーが届いた。

「えっ!? マミさん何言って――」

ついついさやかは口で答える。

『その、らんまさんが抱えてるものよ』

マミがそう言うのと同時に、らんまは何かよく分からない黄色いひも状のものを持ち上げた。

「乱馬さん、なんでそんなのが入ってきて何も言わなかったの?」

「言わなかったんじゃなくておめーらが聞かなかったんだろうが」

ぶつくさとらんまは不平をもらす。

それはマミのお得意の拘束用の黄色いリボンに見えたが、その先端はラッパの口のように開いていた。

姿かたちはからおおよその使い道が想像される。

「つまり……この魔法伝いで私達の会話を聞いたということなの?」

そう言ったほむらの言葉には怒りがにじんでいた。

一番知られてはまずいことをあっさりと鹿目まどか本人に伝えてしまったのだ。

「とりあえず、コイツは抵抗できそうにもねーし、隠したかったこともばれちまったんだ。
面倒くさいことなしに、全員面と向かって話し合おうぜ」

混乱気味な事態をらんまはそうまとめた。

***************

「つまりだ、まどかちゃんが魔女になったらやばいから、契約を阻止しようとしたり
マミちゃんを魔女にすることでキュゥべえを満足させようとしていたわけだ」

良牙はジェスチャーを交えながら自分の理解した内容を話して見せた。

「よし、バカの良牙が分かってるならみんな大丈夫だな」

らんまは満足げにうなずく。

「誰がバカだ」

「えーと、それはともかく、まだひとつだけ分からないことがあるわ」

マミは良牙とらんまの喧嘩が始まる前にすばやく話を進めた。

「確かに、鹿目さんほどの素質の持ち主がもし魔女になったら、手がつけられないわ。
鹿目さんの契約を阻止しようとしたことは理解できるわ。
そこは私が謝らないといけないことかもね……でも――」

マミが話す横で、まどかは何も言わない。視点の定まらない目をして衝撃のあまり思考がまとまらないようだった。

「まどかを魔女にしないのなら、まどかを殺すのが一番手っ取り早い。
その織莉子とかっていう魔法少女がやろうとしていたみたいにな。あんたは何でそれをしない?」

言いよどんだマミの台詞を杏子がつないだ。

「まさか、人道的な理由だなんて言わせないよ」

さやかも言葉を付け足した。

「……私も、マミさんや他の人を犠牲にして自分だけが生き延びたいなんて思わない」

やっとのことでまどかも口を開いた。
586 :31話7 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/07/08(日) 13:42:03.63 ID:8m4oFGTt0
ほむらが何らかの理由でまどかだけは守ろうとしていたことは分かる。

しかしまどかはそれを肯定できなかった。

魔女にならないために他人を犠牲にする、その行いのどこが魔女と違うのか。

「……」

もはや、何も言わないで逃げ切れる状況ではない。ほむらはゆっくりと口を開いた。

「……鹿目まどかが、たった一人の私の友達だったからよ」

「だった?」

「過去形!? いやむしろ過去完了?」

よくわからない表現に、一同はみな怪訝な顔をした。

***************

ほむらはあくまで簡潔に話した。

自分が時間をさかのぼって未来からやってきたこと。

魔法少女であった鹿目まどかに助けられ、そのまどかが『ワルプルギスの夜』に殺されたときに契約をしたこと。

何度も同じ時間を繰り返すうちにインキュベーターのたくらみを知ったこと。

「タイムスリップってやつか?」

らんまは唖然としてつぶやいた。

「……たぶん、そういうことだろ」

自信なさそうに杏子が答える。

まわりはみな頭をひねっていた。

一人、なびきだけは興味なさ気にボトル缶のコーヒーを横において家から持ってきたらしい小説を読みふけっていたが。

やがて、まどかがほむらの前につかつかとやってきて言った。

「私は、その子じゃないよ」

「……え?」

ほむらは目を丸くした。

「魔法少女になってバリバリ活躍して、すっごく怖くて強い魔女にも1人で勇敢に戦って――
そんなのどう聞いたって私と別人だよ」

「「そりゃそうだ」」

まどかの言葉に、思わずさやかと良牙が声をハモらせる。

「そんなに納得されたらちょっと悲しいかな」

そう言ってしっかりツッコミを入れてくるまどかは、決して自信の無さから自虐的な意味で
強い魔性少女まどかが自分とは別人であると言っているわけではなかった。

「そんなことあり得ない……私は時間を巻き戻しているだけで、あなたはあくまで鹿目まどかで……」

ほむらとしては認められるはずの無いことだった。

やり直すたびに鹿目まどかが名前と顔が同じなだけの別人だとすれば、ほむらのやっていることは全てが無意味になってしまう。

「私はその子じゃないけど、その子が可哀そうだよ。
だって、その子は魔法少女になってほむらちゃんや街の人たちを助けたことを誇りに思ってたんだよね?
それを無かったことにされちゃったら、きっと悲しいと思う」

「無かったことになんてして……ないわ」

「……だったら、やっぱりほむらちゃんは私とその子を別人だと思わなくちゃ。
ほむらちゃんや街の人たちを助けたことを誇りに死んでいったのは私じゃないもの」

思いのほか、まどかに矛盾を突かれ、ほむらは傍目からも分かるほど明らかに狼狽していた。

まどかの目線や口調は諭すように優しいが、受け入れさせようとしている内容はほむらにとって何より残酷だったのだ。

『おい、グリーフシードのあまりあるなら用意しとけよ』
587 :31話8 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/07/08(日) 13:42:42.85 ID:8m4oFGTt0
ほむらが魔女になりかねない。そう判断した杏子はなびきにテレパシーを飛ばす。

『えー、でも、まだお金もらってないし』

しかし、なびきはいつも通りの返ししかしない。

『私からもお願いします。お金は後で何とかしますから』

またも傍受をしていたらしく、マミがテレパシーに割り込んでくる。

『マミ、あんたは人が良すぎだろ! 殺したいぐらい憎んでるのが普通だろ!』

『憎くないわけじゃないけど……ここで魔女になられても困るだけでしょ』

そんな杏子とマミのやり取りを聞いてなびきは思った。

(なるほど、いいカモだわ)

と。キュゥべえがよくマミと行動を共にしていたというのもよく分かる気がする。

『そうね、あなたは信用できそうだから後払いオッケーよ』

そうテレパシーの返事をしてなびきはグリーフシードをひとつマミに渡した。

「で、話は大体分かったが、こいつをどうする?」

良牙はついこの間の威勢のよさからは想像もつかないほど弱く哀れな存在に成り果てた少女を前に言った。

「その前に、まずはタイムスリップなんてことがありうるのか聞いてみましょうか」

「聞くって……誰にですか?」

マミの言葉にさやかが首をひねる。

マミは黙ったまま、先ほど暁美邸に侵入させた盗聴用リボンを虚空に巻きつけた。

すると、そこに白い小動物の姿が浮かび上がる。

「ねっ、ねこお!?」

らんまが飛び上がった。

「キュゥべえ!?」

「キュゥべえ、テメー!!」

「あらキュゥちゃんじゃない」

続いて、周りが口々に驚きの声をあげた。

「え? あ、なんだよキュゥべえかよ。驚かせやがって」

それでキュゥべえだと分かると、らんまはかえって安心のため息をもらした。

(消えたと思ったのに、まだ潜んでいたのね……)

ほむらは内心舌打ちをした。

キュゥべえがわざわざ盗み聞きをしていたのは今後の魔法少女たちの動向を探るためだろう。

「やれやれ、一度魔女になってなおさら勘が鋭くなったみたいだね、マミ」

がんじがらめに縛られながらもキュゥべえは落ち着いて話しかけた。

「おかげさまでね。……それで、質問に答えてもらえるかしら?」

冷静に嫌味を返しながらも、マミは身動きできないようにきつくキュゥべえを縛り上げ、敵意を示した。

「時間遡行がありえるかと言われればボクとしては何とも言えないよ。
魔法少女の固有能力は本人の願いと魔力資質によるものでボクが一人一人に設定して与えているわけではないからね。」

キュゥべえはマミの敵意などまるで気にも留めず淡々と話す。

「でも、話を聞く限りでは暁美ほむらは時間遡行というよりも、並行世界に移動していると考えるべきだろう。
さかのぼるたびに世界に差異が見られるようだからね。そういう意味では鹿目まどかの解釈は的を射て――」

「うそよ……それじゃ私は何のために……」

ほむらがキュゥべえの言葉をさえぎってしゃべった。

体力があれば叫んでいるところだったのだろう。今のほむらには聞こえる声を出すのが精一杯だった。
588 :31話9 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/07/08(日) 13:43:28.20 ID:8m4oFGTt0
「ふぅん、だったら少なくともこの子のハッタリや妄想じゃないわけね」

そこで急に、今まで興味なさ気だったなびきがキュゥべえに歩み寄って質問をした。

「うーん、そういう可能性も無いとは言えないね。暁美ほむらのいう事が事実であろうとなかろうと
今のこの時間軸からそれを確かめる手段はない」

意外と律儀なのか、キュゥべえは真面目に質問に答える。

「なーんだ、結局なにも分からないんじゃない」

なびきはいかにも「なんだつまらない」という素振りを見せてから片手に持ったボトル缶のキャップを開けた。

誰しも、気分転換とか単純にのどが渇いたとしか思わない。

だが、なびきはおもむろにそのボトル缶の中身をキュゥべえの体にぶちまけた。

「え?」

周囲が呆気にとられるヒマも無く、キュゥべえのヘンテコな猫のような姿は消え、
そこにはどこにでもいそうなトノサマガエルが居た。

「蛙溺泉よ、コロンおばあちゃんに頼んで仕入れといたの」

なびきはウインクして見せた。つまり、話を聞くフリをしてなびきはキュゥべえに攻撃をしたのだ。

「マミちゃん、チャンス、チャンス」

なびきにそう言われて、目を点にしていたマミはハッと気付いた。

「はい」

そして満面の笑みで、巻きつけたリボンで万力のようにカエルをひねり潰した。

グチャっという音がして黄色いリボンの隙間からえぐい汁が漏れる。

「ま……マミちゃん?」

「うわ、マミさんえぐい」

「女ってこえーな」

「いや、一緒にすんな」

マミのその挙動に恐怖の声があがった。

だが、この時一番おびえていたのはほむらだった。

自分のやったことを考えれば、一緒のことをされかねない。

最悪殺されるという覚悟はあったが、カエルにされてしかも笑顔のままグチャグチャに潰されるなんて
恐ろしい結末はほむらの想像を超えていた。

しかし――

「まったく、さすがにボクも驚いたよ。あれが呪泉郷の呪いって奴かい?」

けろっとした顔でまたも白い小動物の形をしたキュゥべえが現れた。

「ふーん、変身させてから殺しても無駄だったみたいね」

「本当、残念だわ」

なびきとマミが口々に言う。

「この体は今の時代や文化に合わせているだけで、他の体じゃダメだってわけでもないからね。
この星の生き物の体でも出入りすることができないわけじゃないよ」

呪泉郷の呪いでは自分は倒せない。キュゥべえはそう言ったつもりだった。

「あら、いいヒントくれるわね、魂だか精神だか知らないけどその体に出入りしてるのを潰しちゃえば良いってことでしょ?」

それに対してなびきは裏を返した言い回しをする。

「なるほど、そういう意味にもとれるね。……でもキミ達にそんな手段は無い」

キュゥべえはそれだけ言うと背中を見せた。

「さて、あんまり無駄に体を破壊されるのも嫌だからボクはそろそろおいとまさせてもらうよ」

そしてその姿が消えてから、また良牙が言った。
589 :31話10 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/07/08(日) 13:45:25.07 ID:8m4oFGTt0
「で、こいつはどうするんだ?」

もちろん「こいつ」とはほむらのことである。

「そうね。やっぱりまずはカエルになってもらおうかしら……」

マミが笑顔でそう言うと、さすがにほむらも素で冷や汗を流していた。

「ま、マミさん、いくらなんでもそれは――」

さやかが慌てて止めようとする。

「冗談よ。そうね、暁美さんをどうするかは、鹿目さんの判断に任せるわ」

「え!? 私ですか?」

まどかは驚きの声を上げた。マミは無言でうなずく。

「本当に、それでいいんですか?」

「ええ。どんな判断でも異を唱えるつもりはないわ」

マミにそう言われて、まどかはキッとほむらを見据える。

『おいおい、ホントにいいのかよ』

杏子がひそかにマミにテレパシーを飛ばした。

まどかの性格からすれば甘い判決が出ることは目に見えている。

それで本当に納得がいくのか杏子は不安なのだ。

『ええ、構わないわ。鹿目さんの言葉じゃないと言う事聞かなさそうな子だしね』

『そりゃそうだけどさ……』

マミと杏子がそんなやり取りをしているうちにまどかは小さく口を開いた。

「私は今までほむらちゃんが通り過ぎてきた世界に居た誰じゃない。
それでいいならそばに居てくれてもいいよ」

まどかの言葉にほむらはおそるおそる顔を上げる。

「でもその前に、マミさんにちゃんと謝ってほしい」

いっせいに視線がほむらの方に向けられた。

ここで頭を下げなければ、この時間軸に自分の居場所は無い。

まどかすら完全に見放すだろう。ほむらにもそれは分かった。

「……ごめんなさい」

ほむらは頭を下げた。

その瞬間、見た目や体力だけではなく心の中までただ弱いだけの自分に戻った気がした。

――が、次の瞬間

 コンッ

ほむらの指輪にグリーフシードが当てられた。

マミがそうしたのだ。

「えっ?」

「許したわけじゃないわよ。このグリーフシードの分も合わせて、借りはまとめて後で返してもらうわ」

戸惑うほむらにマミは言った。

「後っていつだ?」

外野のらんまが首をかしげる。

「『ワルプルギスの夜』の日です」

マミはきっぱりそう答えた。
590 : ◆awWwWwwWGE :2012/07/08(日) 13:45:57.32 ID:8m4oFGTt0
以上、31話でした
591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/07/08(日) 14:22:24.26 ID:uNduboQlo

また微妙なところに切り込んできたな……
魔女にならないのが不思議なレベル
592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/07/08(日) 15:47:22.71 ID:YkS6OE3/o
これほむら死ぬだろ冗談抜きで
593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/07/08(日) 17:50:34.20 ID:BhlsFpDAO
乙です!
無限残機のキュゥベえを完全に滅ぼす方法はあるのでしょうか?
オリジナル展開が多いから時間の経過が分かりづらいけど、ワルプルギスが来るまであとどれくらい?
594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/08(日) 20:13:51.74 ID:CUJrlvsS0
乙です
ほむら大丈夫か、これ…
まどかと信頼関係を早いとこ結ばないとこの先色んな意味でヤバい気がする
595 : ◆awWwWwwWGE :2012/07/15(日) 23:40:06.47 ID:GpaHQl9o0
32話アップします
今回は展開のんびり気味(え? いつも?
596 :32話1 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:『勝平さんの出番多目』]:2012/07/15(日) 23:41:30.80 ID:GpaHQl9o0
乱馬はあかねの部屋にあるそれを見て目を丸くした。

「お……おまえ何やってんだよ?」

「何って、身だしなみ整えてるだけでしょ」

あかねは平然と答える。

だが彼女が身だしなみを整えているのは自分自身ではない。

あかねの横には美しく着飾られた赤髪の少女がいた。

着ている服はあかねのとっておきのドレスで、かすみから借りたらしいリボンでゆるく髪の毛を束ねていた。

「それはな、着せ替え人形じゃねーんだぞ」

それは乱馬自身の分身だった。

魔法少女から解放されたときに出来てしまった女らんまの形をした副産物である。

「でも、ちゃんと体ふいたり、着替えさせたりしないと腐るわよ?
チャイナドレスはシャンプーに返さなきゃなんないし」

「ああ、そういうことか。すまねー」

あかねに言われて、乱馬は自分のずさんさを思い知らされた。

この体を持ち帰ってから乱馬のやったことと言えば部屋の奥に座らせておくだけだったのだ。

そんな扱いを続けていれば、やがてそれは腐り、近いうちにホラーなことになっていたに違いない。

「おさげほどいても伸びないみたいだから、あのいかにも髪の毛痛みそうなきつい結び方もやめた方が良いし、
胸が型崩れしないようにちゃんとブラもしないとね。化粧はかすみお姉ちゃんにしてもらったんだけど――」

「おまえ、ぜっっっったい楽しんでるだろ!?」

乱馬がツッコミを入れるとあかねは始めから用意してあったようにこう言った。

「それじゃ、乱馬が自分でこの子の体洗ったり着替えさせたりするの?」

それが周りからどういう風に見えるか、乱馬に分からないはずも無かった。

いやがおうにも、杏子とコロンの冷たい視線が思い出される。

「すみません、お願いします」

乱馬はそう答えるしかなかった。

そのとき、いきなりテレパシーが聞こえてきた。

『おい、そろそろ時間だから行くぞ』

こんな名乗りも挨拶もないぶしつけなテレパシーを飛ばす魔法少女は他に居ない。

杏子が迎えに来たのだ。

乱馬は杏子がわざわざ迎えに来てくれたことに驚きつつ、急ぎ階下へ降りた。

***************

「なんでぇ、今日は『うっちゃん』でやんのかよ」

杏子は乱馬をお好み焼き『うっちゃん』に連れてきた。

「店長がさ、猫飯店ばっかり使われるのが腑に落ちないらしくて」

「ちょっと待て、俺達の話し合いを知ってるってことは、うっちゃんに魔法少女のこと話しちまったのか!?」

乱馬は慌てた。

うっちゃんこと右京に、乱馬があかねのために契約したと知られたら、右京はひどく傷ついてしまうのではないか。

そして、かつてのように再び復讐の対象にされてしまうのではないか。

「ああ。シフト抜ける言い訳考えるのめんどくさいからゲロった」

杏子は平然と答える。

「な、なんて事を! うっちゃんはああ見えても一時期俺の命を狙ってだな――」

「あんたについてはゲロってねーよ。ただの『協力者』ってことにしといた」
597 :32話2 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/07/15(日) 23:42:21.51 ID:GpaHQl9o0
そう前置きしてから杏子が説明するには、乱馬は魔女の呪いを受けて男に戻れなくなり、その呪いを解くために
魔女と戦う存在である魔法少女と関わるようになった、その代わりに魔女退治に協力してもらっている……
という設定で右京に説明したらしい。

たしかに面倒くさいことが起こらない上手い言い方だ、と乱馬はうなずいた。

しかもただ事を荒立てないだけではなく、杏子は自分が元々は乱馬の縄張りとグリーフシードを奪いに来たという
事実には一切触れず、逆に乱馬が男に戻るための協力者として自分を説明してしまったのだ。

右京が快く杏子を送り出すようになったのは言うまでも無いことだろう。

「おめーも結構セコいな」

「あんたにも都合の良い説明だろ?」

悪びれもしない杏子に、乱馬はあきれて見せた。

「こっからが本題なんだけど、店内であんまり魔法少女だとか魔女について話し合うのもなんだから、
あたしの部屋に集まるようにしたいんだ――」

「ああ、いいんじゃねーか。それが?」

二人はお好み焼き『うっちゃん』二階に上がり、『あんこ』と書かれた札の吊るされている部屋の前で足を止めた。

ちなみに当然、『あんこ』と書いたのは杏子本人ではない。右京の手書きである。

『あんこ』の札の吊るされた引き戸を杏子は勢い良く開けた。

「つまりな……マミたちが来るまでにここをなんとかしなくちゃなんねぇんだ」

その光景に、乱馬は目を疑った。

畳を覆いつくすように散らばった衣服、漫画の単行本や雑誌、お菓子の袋。

たこ足配線のゲーム機の周りには出しっぱなしのCD-ROMが散らばっている。

そして布団は遠目から見ても分かるぐらい、じめっと湿っていた。

「そ、そんなバカな!? おめーが来てまだ一ヶ月も経ってねぇのにどうしてこんなことに!」

なぜ杏子がガラにも無く乱馬を迎えに来たのか、その謎は解けた。

見滝原の魔法少女たちが来るまでの数十分のうちに、この恐ろしい魔女迷宮を攻略しなければならない。

それが、乱馬に課せられた使命だった。

「――だいたい、一応男の俺に部屋の掃除させるなよ」

乱馬はぶつくさ言いながら漫画本を片付けた。

お前だって年頃の女の子だろ、言外にそう言っている。

「そんなの屁でもないね、元浮浪児なめんなよ」

「威張ることじゃねーよ」

さすが元浮浪児というべきか、女の子らしいものはほとんど散らばっていなかった。

漫画はだいたい少年コミックだし、ゲーム類も音ゲーを除けば格闘やアクションばかりだ。

衣服類もズボン系が多く、少年の服だといわれてもうなずけてしまう。

さすがに下着はちゃんと片付けてるらしくそれらしきものが見えない。

そして散らばったお菓子とカップラーメンの空き箱は生活力の無い独身男性を想像させた。

そんな中、乱馬は目ざとくノートが一冊落ちているのを見つけた。

(杏子が……ノートだって?)

杏子は学校に通っていないし、自主学習なんて間違ってもしない。

そんな杏子が一体、何にノートを使うのか?

不思議に思った乱馬はぺらぺらとそのノートをめくって見せた。

『だとう! 早乙女ランマ こうりゃくメモ』

赤字でデカデカと書かれたタイトルが乱馬の目に飛び込んできた。

「あ、やべ」
598 :32話3 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/07/15(日) 23:43:40.21 ID:GpaHQl9o0
乱馬の見ているものに気が付いて、杏子がそんなつぶやきを漏らした。

「おめーな、こういうもんは本人に見つけられないようにしとけよ」

そう言いながらも乱馬はページをめくる。

意外にもかなり事細かに、乱馬の技や攻撃のくせなどが分析されていた。

その情熱をもっとまともな方面に生かせていれば、と乱馬は思う。

「構わないよ、もうそれいらねーし」

しかしその情熱のかたまりを、杏子はいとも簡単にいらないという。

「あー、そっか。もう風林館は全部おめーの縄張りだからな。当初の目的達成じゃネーか」

半ば皮肉混じりに乱馬は言った。

乱馬が魔法少女でなくなったのだから風林館はまるまる杏子1人の縄張りである。

「あんまし、そんな気はしねーな」

杏子は乱馬を倒してこの縄張りを手に入れたわけではない。

そう考えると、「ここはあたしの縄張りだ」と威張る気にはなれなかった。

それ以上に、魔法少女でないどころか何の戦力も無くしかもいかにもお人よしな鹿目まどかが
自分にはできなかったことを成し遂げた、巴マミを救って見せたのだ。

杏子にはもう、魔法少女として縄張りを張って強さを誇示することにあまり意味を感じられなかった。

「それじゃ、このノートもらっていいか? けっこー使えそうだ」

杏子とは違って乱馬はあくまで強さへの情熱を失わない。

「ああ、かまわないよ」

杏子は興味なさ気にそう答えた。

***************

「まさか、杏子が『ワルプルギスの夜』のことを忘れていたなんてね……」

風林館へ向かう電車の中で、マミは言った。

「いちおう聞いた覚えぐらいはあったみたいですけどね」

さやかはうなずく。

昨日、暁美ほむら邸で『ワルプルギスの夜』のことを口にしたとき、杏子は「なんだっけ? それ」という顔をしていた。

軽く説明を入れてようやく「ああ、そういや昔そんなこといってたな」とうなずいたのだ。

らんまに至っては全くちんぷんかんぷんといった様子だった。

そうしてきちんとした説明をする必要性があると分かったので、どうせならちゃんと時間をとって話し合おうという
ことになり、今マミとさやかがそこへ向かっているのだ。

「でも、マミさん本当にもう大丈夫なんですか?」

さやかがふとたずねる。魔女から元にもどったマミは今までと同じように精力的に魔法少女として働いていた。

魔女がかつては自分達と同じ魔法少女であったとしても、人死を出さないためには誰かが戦わなければならないことは
変わりがない。『ワルプルギスの夜』のような大物ならばなおさらだろう。

「私は大丈夫よ。……それに、美樹さんやみんなが助けてくれた私は、
ひっこんで自分の身の安全だけを考えているような私じゃないでしょう?」

「そりゃそうですけど、無理はしないでくださいよ」

そう言ったさやかを、マミは強引に抱きしめた。

「わっ」

そして触れ合った肌から直にテレパシーを送る。

『こうして心配してくれたり、甘えさせてくれる人がいる限り、私は戦えるわ』

周りの乗客から変な目で見られてもマミは気にしていなかった。

『そういう美樹さんの方こそ大丈夫なの? その織莉子って人のことで悩んでたみたいだけど』
599 :32話4 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/07/15(日) 23:44:51.24 ID:GpaHQl9o0
『あたしは……』

暁美ほむらの口から真相を聞いて、さやかはまだ自分の頭の中がまとまっていなかった。

美国織莉子はまどかを殺そうとしていた。でもそれはまどかが魔女になってこの星を滅ぼすのを防ぐためだった。

話の規模が大きすぎて想像が追いつかない。

『正直、わかんないです』

そう答えたさやかを、マミはより強く抱きしめた。

『……私のこと、恨んでる?』

『え?』

何を聞かれたのか、さやかには話のつながりが見えなかった。

『私に関わらなければ、あなたはこんなことに巻き込まれずに済んだはずよ』

『そんなことないですよ』

さやかはさらっとそう答えた。

『マミさんが居なけりゃそれ以前にとっくにあたしもまどかも死んじゃってたし、
契約したのもほむらにノコノコ着いていって余計なトコに首突っ込んだのもあたしの意思です。
マミさんには恩はあっても恨むことなんてないですよ』

女の子同士であんまり抱き合ったままではそういう趣味だと誤解されかねないので
さやかはゆっくりとマミを引き剥がしてその瞳を見つめた。

さやかの言葉と表情にマミは安心の微笑を返す。

それに安心してさやかはテレパシーを続けた。

『でも、どうあれ人を殺しちゃったのは間違いないことだから、ワルプルギスの後には何かけじめを――』

「だったら、鹿目さんのそばに居てあげなさい」

マミはさやかのテレパシーをさえぎってそう答える。

またも話の脈絡が分からない言葉にさやかは首をかしげた。

『手段のよしあしはともかく、美国さんは世界を守るために意思を貫いたんでしょう?
だったら、せめて鹿目さんが魔女にならないように最善の努力をすることが彼女の死に報いることじゃないかしら』

(そっか、そうだったんだ)

マミの言葉でようやくさやかは理解した。

そのために美国織莉子はあの最期の言葉を自分に対して残したということに。

『だから、勝手にどこかに消えたり特攻したりだなんて絶対許されないわよ』

そういう自暴自棄な気持ちが残っていることがマミにはバレバレだったらしい。

ウインクするマミにさやかは苦笑いをした。

***************

「でも本当に驚いたわ。早乙女さんが男の人だったなんて……」

マミは、今さらながら驚きを口にした。

「あー、あたしもビビッたね。どこから変質者が現れたかと思ったよ」

杏子は麺をたっぷり入れたいかにも食いでがありそうなお好み焼きをほお張りながらそう言う。

『ワルプルギスの夜』についてざっとした説明はすでに終え、全員分のお好み焼きが運ばれてきたところだ。

だが、乱馬が男だとしてもハコの魔女の結界で見た良牙と女らんまのラブシーンの数々には説明が付かない。

それどころかなおさらおぞましいものが想像されてしまう。

『ねぇ、杏子、早乙女さんと良牙さんってどういう関係?』

マミは乱馬に聞かれないように杏子にだけテレパシーを送った。

『あー、なんだか中学時代からのライバルだとか、腐れ縁だとか。
ここじゃちっとは有名な好敵手同士らしいぜ』
600 :32話5 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/07/15(日) 23:45:45.30 ID:GpaHQl9o0
杏子の説明に、マミは安堵した。

杏子の言う乱馬と良牙の関係からはいかがわしいものは感じられない。

鹿目まどかの話によれば魔女になった自分もまどかの記憶を利用してウソの世界を作ったらしい。

だからあの映像が虚構であったという可能性は十分にある。

ハコの魔女が見せたあれらの映像は、きっと事実ではなく魔女が勝手に作り出したものなのだろう。

マミはそう自分を納得させた。

「その、『ワルプルギスの夜』って魔女は風林館も通るかもしれねーのか?」

あまり変身体質について問い詰められたくない乱馬は話題を変えた。

「ごめんなさい、この辺りはまだちゃんと計算していないからはっきりしたことは言えないわ。
でも、もし通るとしたらコース上こっちの方が見滝原より先になるわ」

「それだったら、みんな風林館に集まって迎撃した方が良いかもね」

マミの説明を受けて、さやかが提案する。

「ああ。それが良いな。魔法少女でなくてもいいならこっちには戦力が多い」

乱馬がうなずく。

「でもさ、魔法少女は結界の中に取り込まれでもしないと魔女は見えないはずだろ?
それでハナから結界を張らない『ワルプルギスの夜』と戦えるのかい?」

杏子が疑問を口にした。

「そうね、何か目印をつけるとか方法が無いわけじゃないけど魔法少女以外は戦力低下の可能性があるわ。
そういう意味では今回はあんまり早乙女さんや良牙さんには頼れないかも……」

一同は考え込んだ。

そこで、ふいにさやかが何かに気付く。

「そういや、良牙さんどこ行ったの?」

「あー、あいつは許婚の話が消えたら天道道場から消えちまったけど、そっちにも行ってねーのか」

こともなげに乱馬は答えた。

「どうせまたどこかで迷ってるんじゃないの?」

良牙の方向音痴に慣れ始めた杏子はそう付け足した。

「『許婚』? その話詳しく聞かせてもらえませんか?」

マミは笑顔のままそうたずねる。しかし、その表情はどこか固かった。

乱馬は冷や汗を浮かべて視線をはずした。

今回の件を説明しようと思えば、良牙のチャランポランさを晒すだけではすまない。

自分の多重許婚状態も白状しなければならない、それを乱馬は恐れた。

「……なんつーか、結論から言うとさ、良牙含めて風林館の男はよしといた方がいい。特にこいつはな。」

そう言って杏子は乱馬を指差した。

「き、杏子! おめー、それを言う気か!? 掃除手伝ってやったのに!」

「なになに? 乱馬さんってそんなにひどいの?」

露骨に焦りだした乱馬を見て、さやかも面白そうに身を乗り出した。

「なんせ、結婚詐欺で許婚が3人――」

「わー! わー!」

乱馬は大声を出して杏子を妨害しようとする。

が、すぐに黄色いリボンに口をふさがれ、さらには体全体を拘束された。

「杏子、ゆっくり聞かせて頂戴」

マミはにっこり微笑んだ。
601 :32話6 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/07/15(日) 23:46:55.12 ID:GpaHQl9o0
***************

「酷い話だよねぇ、シャンプーさん、あんなに純粋に乱馬さんのこと思ってるのに」

「ちょ、まて、シャンプーは女傑族の掟だとかで一方的にだな――」

「店長だって、むかし結婚詐欺で屋台持ち逃げされたんだぜ」

「そ、それはあのクソ親父が勝手に――」

「それだけ他に許婚が居ながら、別の許婚の道場で暮らしてるの? よく刺されないわね?」

女性三人に囲まれて、もはや乱馬はサンドバッグ状態だった。

「ちくちょう、だいたい良牙の話だったんじゃねーのかよ」

もう出せるのはそんな愚痴ぐらいだった。

「そうそう、良牙に話をもどすと、彼女と惚れてる女が別にいて、それなのにマミん家でペットになってたわけだ。
あいつもあんまりろくなもんじゃないぜ」

杏子はマミに警告を発した。

マミと良牙が相互にそれなりに好意を持っていることは分かっている。

良牙が真面目な男ならば杏子は口を挟むつもりはなかったが、許婚騒動の真相を知った今、言わずにはいられなかった。

「うーん、あたしも良牙さんがそんな人だったっていうのは残念だなー。
乱馬さんみたいに悪意があるんじゃなくて優柔不断なだけなんだろうけど、それもあんまりねぇ」

「俺だって、悪意なんかねーよ!」

さやかの言に乱馬は反論するが、誰も聞く耳は持っていなかった。

「そうね、乱馬さんとは違って元々誠実な人だとしても状況しだいで勘違いしちゃうだろうし、私も少し警戒してみるわ」

マミもいちいち乱馬を引き合いに出す。

許婚三人という乱馬の状況について、魔法少女たちはそれほど手厳しかった。

(くそ、ムースでもいいから連れてきとくべきだった)

女に囲まれる不利さを知った乱馬はそんな後悔をする。しかし――

「でも、ムースさんは一途だよね。まどかから聞いたんだけど、ちっちゃい頃からずっとシャンプーさん一筋だって話だよ」

さやかからそんな言葉が出てきたとき、ムースを連れてくればなおさら立場が不利だということを乱馬は思い知らされた。

「ああ、あいつは一途かもしんねーし、メガネとったら結構イケメンだったりもすんだけど、
ネクラでなんかちょっとストーカーっぽいのがなぁ」

杏子がまた微妙な顔をする。ムースも杏子のおめがねにはかなわないらしい。

(一途っぽくて根が暗くてメガネ外したら美形?)

マミはそれらのキーワードやうろ覚えのムースの髪型から思わず暁美ほむらを連想し、思わず吹き出しかけた。

あの田舎者っぽい中華料理屋店員と、都会的センスを感じるほむらとではあまりにも似合わない。

「あ、そーいや、今日はまどかはどうした?」

まどかの名前が出たところで、杏子が思い出したように聞いた。

「まどかはほむらに今日の授業のノートとか届けに行ったよ。クラスの保健委員だからってことだけど、
ほんとは自分のせいでへこませたっていうの気にしてるんじゃないのかな?」

さやかが答える。

そもそも担任からほむらの住所を聞き出したのも保健委員という職権を使ったことなので、
まどかは律儀にその役割を果たしているという面もあった。

「まあ今回は『ワルプルギスの夜』対策だから、いくら鹿目さんでも戦力にはならないでしょう。
それに――その戦いの中で誰かが死んだりすればそれをネタにキュゥべえが契約を迫る可能性があるわ」

マミはおごそかに『死』を口にした。

『ワルプルギスの夜』はいくら大人数で戦っても死者が出る可能性を否定できないほどの相手なのだ。

そして、そんな戦場だからこそ鹿目まどかには今回ばかりは引っ込んでいてもらわなければならない。
602 :32話7 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/07/15(日) 23:47:31.08 ID:GpaHQl9o0
「へっ、腕が鳴るぜ!」

ようやくバッシングから話題が変わったこともあり、乱馬は力強くガッツポーズをとってみせた。
603 : ◆awWwWwwWGE :2012/07/15(日) 23:48:25.62 ID:GpaHQl9o0
以上、32話でした
604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/16(月) 01:25:19.06 ID:GBcAfR/Po
乙ー
605 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/07/16(月) 05:02:59.24 ID:TmiTefjKo
乙!
結局抜け殻どうする気だろう……?
わざわざ魔法で維持する必要もないから冷凍でもしとかなきゃそのうち腐るし……
急に動き出したりしたら怖いし
あとで関わってくるのかな
606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/16(月) 08:58:42.92 ID:QnfVIEhNo
やっぱおもしれー
607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/16(月) 17:40:26.62 ID:mCmrgQqIO
朝から読み始めてやっと追い付いた
面白いわ応援してるで
608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/16(月) 18:58:52.91 ID:WriAW79M0
乱馬はあかねに抜け殻のことをなんて説明したのだろうか?

それにしても今回の話はマミ、さやか、杏子が色々と酷いな。
乱馬の女性関係についてさやかと杏子は知っているような感じだったが、シャンプーや右京のことだからどうせ自分達に有利になるように説明してるんだろうからその情報を鵜呑みにしてる可能性は高いし、挙げ句の果ては3人で自分達の意見だけを押し通して乱馬の意見は聞く耳持たないとかこいつら何様のつもりだよ。横柄すぎる態度にも程があるぞ。

良牙も3人に勝手な想像をされてて可哀想だ。
そもそも乱馬と良牙のほうが年上だってことをこいつら忘れてないか?

最後に蛇足かもしれんが言っておく。これは一個人の感想として書いただけであって、決して荒らしに来たわけじゃないからな。それだけは解ってくれ。
609 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/16(月) 20:06:27.86 ID:QnfVIEhNo
>>608
俺としてはこういう展開はある意味テンプレみたいな感じだからニヤニヤ出来たよ
深く考えないでノリで読んでれば気にならないな
610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/07/16(月) 20:23:39.88 ID:LUTXwUPAO
>>608
別にいいんじゃない?らんま本編でもよくあるノリだし。
611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/16(月) 21:54:31.84 ID:yd6hL0zvo
>>11
だよなプリキュアだって思うよな
612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/16(月) 21:55:10.51 ID:yd6hL0zvo
誤爆
613 :以下VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/17(火) 00:45:13.59 ID:XyatTdu40
乱馬のうっちゃんとの許嫁に関して一番の原因は父親の玄馬だからなぁ・・・

杏子ちゃんにはせめて乱馬の気持ちぐらいは察してもらいたいなって思います。
事情は全く違うにせよ、父親のせいで現状に繋がっているという所で2人は共通しているんだし。

まあ608さんみたいにうっちゃんがちゃんと説明してないのであれば話は別になってくるんでしょうけど・・・(-_-;)
614 : ◆awWwWwwWGE :2012/07/22(日) 19:35:04.11 ID:k2zWozC00
プリキュアだって、思います

ってなわけで33話アップします
615 :33話1 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:『スーパーぶるあぁ』]:2012/07/22(日) 19:37:42.19 ID:k2zWozC00
(こんなことは前にもあったはずだろう……)

黒い小豚が一匹、見知らぬ土地を歩いていた。

もう慣れっこのはずなのに、何気ない一言が痛烈に彼を傷つけていた。

『よかった』

彼女は……天道あかねははっきりとそう言ったのだ。

天道あかねは慌てて付け足した。

『ああ、えーと、違うのよ。良牙くんが悪いとかそういうんじゃなくて、許婚とかそういうのはまだ早いもの』

確かに、まだ高校生のうちから生涯の伴侶を決められてしまうというのは窮屈に感じるかもしれない。

ただ単純に束縛を嫌っただけで相手が悪いわけじゃない。筋の通った説明だ。

しかし――

響良牙が許婚でなくなったとしても、代わりに早乙女乱馬が許婚に戻るだけで
あかねにとって束縛された状態は何一つ変わらないはずなのだ。

それなのにあかねは『よかった』と言った。

おそらくはほとんど無意識的に出た台詞なのだろう。

だがそれでも、良牙からしてみれば乱馬の方がいいと言われているように聞こえてしまう。

それは良牙にとって死刑宣告にも等しい絶望だった。

(俺がもし魔法少女だったら魔女になってるのかもな)

黒い小豚は頭を垂れてとぼとぼと歩き続けた。

「あら?」

そこに通りかかった40手前ほどの女性が小豚に気が付いた。

「ふーん、ブタ……『a pig』」

メガネをかけた女性は妙に発音のいい英語をしゃべると、その小豚をつまみあげた。

***************

「あ、和子、おつかれー」

メガネをかけた女性が飲み屋に入ると、友人らしい同年代の女性が声をかけた。

こちらの女性はビシッとしたスーツに身を固め、いかにもキャリアウーマンといった雰囲気をかもし出している。

「あら詢子、今日は早いのね」

和子と呼ばれたメガネの女性は迷わずそのキャリアウーマンの隣に座る。

「……その動物は?」

「そこで拾ったの」

「拾った!?」

詢子と呼ばれたキャリアウーマンはけげんな顔をする。そんな友の顔など気にも留めずに和子はブタをかかげた。

「マスター、これ調理して」

「ぴっ、ぴー!! ぴー、ぴー!」

思わぬ展開に小豚が絶叫を上げる。

「お客さん、うちは食品の安全には気を使ってまして……良く分からない食材はちょっと扱いかねます」

マスターは普段から渋い顔をさらに渋くさせてそう答えた。

「和子、なんかやなことあったか?」

和子がこういうエキセントリックな言動をするときというのはたいてい、何かストレスを抱えているときだ。

詢子はそんな和子の性格をよく理解していた。

「三年生の子がね、1人行方不明になっちゃったんだけど私のせいじゃないかって職員会議で言われてね」
616 :33話2 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/07/22(日) 19:38:41.71 ID:k2zWozC00
「三年生だったら、授業だけの関わりよね?」

詢子はわざと和子に有利な情報を引き出すように質問をした。

長年の付き合いのある二人だから成り立つ『愚痴っても良いよ』という合図である。

「そーなのよ、出席の点呼し忘れただけで家出されちゃたまんないってのよ!
だいたい、元々不登校だし深夜に徘徊してたって噂もある子なんだから、
それを放置してた担任の方がどう考えてもおかしいでしょうが!
何かあってからいきなり騒ぎ出してほとんど関わりないあたしの責任だなんて酷いデタラメだわ!」

和子は一気にまくしたてた。詢子もマスターも慣れた様子で半分聞き流している。

黒い小豚だけが、何が起こったのかと慌てていた。

「なるほどね、そりゃ明らかに責任転嫁だ。担任はどういうつもりだったんだ?」

詢子は相槌を打ち、質問を続ける。

キャリアウーマンとして自分ならこうするという打開策が思い浮かばないわけではなかったがそんなことは言わない。

学校と会社では組織としての構造や規範が違うから詢子のやり方が通用するとは限らない。

それ以上に愚痴とは心情を吐露するためのものであって、解決を探るためのものではない。

だから、提案などする必要は無い。詢子は愚痴をはきやすいような質問を続け、同意をするだけでいいのだ。

「……家庭訪問もろくにしないでねぇ……」

「……教頭に目ぇかけられてるからって偉そうに……」

「……さやかちゃんの家出があったからって三年生の件まであたしに……」

和子は延々と愚痴り続けた。

小豚はだんだんとこの女性が哀れに思えてきて、マスターが差し出したコップをそっと女性の手元まで運んだ。

「ぁん? あんた気ぃ効くじゃない。あだじんとこ置いてやるわよ」

酔っ払った和子は強引に小豚を抱きかかえる。

「ぴーっ! ぴーっ!」

小豚はあがきながら全力で首を左右に振った。

「ははっ、和子、その子いやがってるよ」

詢子は笑いながらも小豚を助けようとはせずに洋酒に舌鼓を打っていた。

「ぢゃんど大ぎぐなるまで飼っでやるかからあんじしばざい。
ぞのどぎば、トンカツ食べ放題……」

「ぴぴぴーっ!!」

絶叫する小豚を、和子は強引に抱きしめた。

「そのさやかちゃんの件だけどさ、やっぱ和子も何があったかわかんないの?」

詢子は酒を呑んでもまだ呑まれてはいないらしく、落ち着いた口調で和子に質問をした。

「全っ然、わかんない。詢子ごぞ、まどかちゃんがら聞いてな……いの?」

「ダメだね、今回はまどかも口割らない。最近浮き沈み激しかったから何かあったのは間違いないんだけどねぇ」

和子と詢子の会話を聞いて、小豚はハッとした。

(さやかちゃんに、まどかちゃん? もしかしてここは見滝原か?)

さやかとかまどかという名前だけならままある名前だろう。

しかし、セットで出てくるということはそうそう無いはずだ。

「……まどかちゃんとさやかちゃんと言えばさ、最近三年生の子と仲良いのよね」

水を飲んで少し落ち着いた和子がろれつを整えながら話す。

「へえ、そりゃ知らなかった。どんな子? もしかしてその子絡みじゃないの?」

詢子が「その子絡み」と言ったのはさやかの家出や最近のまどかの浮き沈みのことだ。

「巴さんっで言っで、良くできた子なんだけどね……」
617 :33話3 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/07/22(日) 19:39:44.64 ID:k2zWozC00
和子はもう一杯水を飲んで酔いを醒ます。

「けど?」

「ちょっと複雑な事情のある子で、そのせいだと思うんだけど誰に対しても一線引いてて、
それ以上入らせないっていうか、分かり合うのを諦めてるような……」

和子の言葉を聞いて、詢子は少し考え込んだ。

「まー、とりあえず不良っぽいような子じゃないんだよな?」

詢子の最大の懸念はそこにあった。

彼女の目から見た自分の娘・まどかは、不良やサバサバした連中と混じってやっていけるほどタフではない。

まどかは夫の性質を受け継ぎすぎたのだ。

温厚でお人よしなのは良い面ではあるのだが、悪い連中と付き合っていけるようになるには時間がかかる。

その力が付くまでは十分に保護してやる必要がある、詢子はそう思っていた。

「うん、その点は安心していいわ。でもさ、不思議なのよねぇ……」

「不思議?」

詢子が首をひねる。

「教師やカウンセラーがさ、ついでにヤリモクの男子もよってたかって巴さんの心を開こうとしても全然ダメだったのに、
まどかちゃんやさやかちゃんと居るとき、本当に楽しそうな笑顔してるのよね」

「へぇ……」

詢子は心底意外そうに、つぶやいた。

その横で小豚は和子がさらりととんでもない台詞を言ったような気がしてびびっていた。

「さやかちゃんが学校に戻ってきたのもまどかちゃんが説得したみたいだし、教師の立場がないわ」

そう言って和子はため息をついた。

「流石はわたしの娘だ」

「知久さんの娘だからよ」

和子につっこまれて、詢子は舌を出した。

まどかが何をどうしたのかは知らないけれど、そうやって問題のある子に安心を与えるような性格は
間違っても自分譲りではなく夫からのものだろう。

詢子ははじめから分かってて調子に乗って見せたのだ。

「でも良かったんじゃねーのか、その三年の行方不明になっちゃった子のことはともかく、
今の和子のクラスにゃ問題らしい問題はないわけだろ?」

そう気楽に言った詢子に対し、和子はため息を返した。

「それがそうもいかないのよ……今度入ってきた転校生が、とんでもない爆弾抱えてたみたいでね」

和子はいかにも悩ましげに頭を抱えて見せた。

「あー、それあたしもまどかから聞いたな。病気が再発して引きこもってんだろ?」

「そうそう、それで保護者に電話で連絡とってみたんだけどね……」

「え?」

和子の言う「爆弾」をてっきり病気の再発のことだと思っていた詢子は肩透かしをくらった。

「あの子、二軒ほど前の病院で――」

***************

静まり返ったバーに、とても似つかわしくない幼い少女が入ってきた。

「ママ、あ、早乙女先生も」

鹿目詢子と早乙女和子は二人でしみじみと飲んでいた。

「お、まどか、どうした?」

まだ中学生の娘がバーの中まで来ることは滅多にない。
618 :33話4 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/07/22(日) 19:40:54.34 ID:k2zWozC00
鹿目詢子は疑問を口にした。

「傘をね、届けにきたの」

「今、雨か」

長い間室内に居た詢子は雨が降ったことに気が付いていなかった。

「スーパーセルだかアナゴだかが発生して、当分天気は不安定だってねぇ」

和子が口を挟む。

「先生、明日大丈夫ですか?」

カウンターテーブルにもたれかかる和子を見て、まどかは心配そうに聞いた。

「あー、ダメかも。あした二日酔いだったら保健室連れてって」

和子はまどかが保健委員であることにちなんでこういう返しをした。

と、いうことはまだ頭が回っている。少しまどかは安心した。

そこで意外なものが目に入る。なんとカウンターの上に黒い小豚が居たのだ。

「え……良牙さん!?」

「はい?」

大人たちはいっせいに怪訝な顔をした。

そして、うとうとしていた小豚もハッとして目覚める。

「りょうがさんて……誰だ?」

「そこの小豚ちゃん!」

まどかの言葉に詢子と和子は顔を見合わせた。

(ブタに『さん』付け?)

二人が言外にそう語っていることはまどかにも分かった。

「その子、マミさん……あ、いえ、三年の巴先輩のペットなんです」

またも詢子と和子は顔を見合わせた。

噂をすれば影なのか、たまたま拾ったペットがたまたま話題にしていた生徒のものだったとは大した偶然である。

「あら、そうだったの? 一匹でうろうろしてたから心配になって拾ったんだけど」

間違っても、調理しようとしたなどとは言えない。和子は善良を装った。

「ありがとうございます。この子、よく迷子になるらしいんですよ」

まどかは自分の言葉が疑われていないことに安心をした。

「ところで、その巴って先輩とはどうして仲良くなったんだ?」

そこに詢子が口を挟む。

「えーと、それは……」

まさか、魔法少女や魔女がどうこうなど言えない。

まどかは少し考えて手っ取り早い嘘を仕立てた。

「たまたま私がこの子を拾ったのがきっかけで……」

そう言ってまどかは黒い小豚を抱え込む。

和子相手には抵抗を示した小豚が、まどかの腕の中では全く抵抗せずおとなしくしている。

この小豚がまどかに慣れていることだけは間違いないだろう。

そういう判断から、詢子の目にもまどかの言うことは嘘がないように思えた。

「はぁん、なるほど。それで急に猫を飼うとか言い出したわけか」

「ティヒヒヒ」

まどかは照れ笑いのようなごまかし笑いを浮かべた。
619 :33話5 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/07/22(日) 19:42:36.69 ID:k2zWozC00
「それじゃ、この子は先生が預かっとくわね。明日、巴さんのクラスで授業あるから」

和子は教師らしい責任感から、小豚をまどかから取り上げようとした。

「ぴぴっ!」

「あ、それはダメ!」

すると、小豚とまどかが同時に抵抗を示した。

もし和子が小豚をお風呂にでも入れようとすれば、相当まずいことになるのは間違いない。

まどかはそう思って首を横に振る。

「えーと、この子、慣れてない人が相手だと結構暴れるから危ないですよ。
だから、私が明日マミさんに渡します」

「ふーん、そう」

和子は「まあ、いっか」ぐらいの表情でうなずいた。

***************

「良牙さん!」

学校の屋上で、マミは思い切り黒い小豚をその胸に抱きしめた。

『うわっ、ま、マミちゃん』

小豚はまるで人間のオスのように顔を赤らめる。

『ちょ、マミさん、ちょっとは警戒してみるんじゃ!?』

その大胆な行動に、さやかは慌ててマミだけにテレパシーを飛ばした。

『はっ、そうだったわ! 私ったら、つい』

そんな返事をしながらマミは小豚を膝の上に置いた。

「昨晩は本当、どうしようかと思いましたよ。魔法少女が居ないから良牙さんと話せないし
まさかウチで男の人に戻しちゃうわけにも行かないし」

まどかはそんな苦労話をする。

「うーん、やっぱりまどかの家で預かるってのは無理だよね。
でも、『ワルプルギスの夜』まであと1週間もないからまた迷子になられても困るよね」

さやかは話を実務的な方に持っていった。

良牙は貴重な戦力であり、確保しておきたいというのは切実な事情なのだ。

『迷う心配さえなけりゃ、俺は別にどこをねぐらにしようがかまわないぜ』

その迷う心配が大きすぎる。少女達は三人ともあきれた目で小豚を眺めた。

「それなら、今まで通り私のところに来てください。
鹿目さんが早乙女先生に私のペットだって言っちゃいましたし」

マミはそう言って小豚に向かってにっこり微笑んだ。

『マミさーん、けーかいはー?』

さやかのテレパシーはむなしく宙を舞った。

***************

さやかはまだまだ甘い。マミは内心そう思った。

ライバルが居るのならば、独占するにしても問い詰めるにしても身柄を確保した方が都合がいい。

逆に様子見なんてしていたら、他人に持っていかれるのがオチなのだ。

(そんな調子だから上条さんのことも上手く行かないのよ)

マミはさやかの恋愛事情は聞き伝でしか知らないが、今は一応休戦状態ということになっているらしい。

しかし、戦闘再開となればおそらくさやかに勝ち目はないだろう。

マミはベッドの上に横たわり、そんなことを考えていた。小豚状態の良牙はすでにクッションの上に毛布を敷いて寝ている。

そもそも、今までだってこうしてひとつ屋根の下で共に過ごしてきて、襲われたりするようなことは無かったのだ。
620 :33話6 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/07/22(日) 19:43:33.59 ID:k2zWozC00
今さら過剰な警戒などしなくてもいいではないか。

(キュゥべえだって居るんだし――)

そう思ったところでマミはハッとした。

(って、キュゥべえ居ないじゃない! 居たとしても追い出すし)

暗い寝室にマミのノリツッコミがむなしく空振りする。

(ということは……え、えーと、二人きり? 一つ屋根の下どころか一緒の部屋に男の人と二人っきり!?)

今さら、マミは激しく動揺した。

(だだだ、大丈夫よ! 良牙さんは変なことしてきたりしないわよ)

マミはできるだけ平静を保とうとするが中々落ち着かない。

なので、念のためにソウルジェムを指輪状にして指に付けたまま眠ることにした。

やがて、マミが本当に眠りかけたとき、ガサゴソと音が聞こえた。

(……良牙さん?)

すでに睡眠モードに入っている脳は疑問を抱いても目を開き立ち上がろうとはしない。

きっと、トイレに行っただけだろう。そう決め付けて本格的に睡眠に入ろうとする。

――しかし、マミは確かに自分の右腕が掴まれるのを感じた。

(えっ!?)

その瞬間、マミの意識はきっぱりと目覚めた。

(あ、あわわわわ……りょ、良牙さん? ほ、本気なのかしら?)

マミの鼓動が激しく高鳴る。

(寝込みを襲うなんて酷いわ、ちゃんと手順を踏んでから……)

こういうやり方でなびくような軽い女だと思われていたのなら心外である。

マミはムッとすると同時に、幻滅する気持ちを覚えた。しかし別の考えも頭の中に浮かぶ。

(ライバルがいるならここで既成事実を作っちゃった方が得策かも。変に抵抗して嫌われたと思われても困るし……)

(な、何をはしたないことを考えてるのよ、私ったら!)

マミの中で結論は出なかった。結論が出ないままマミは寝ているフリを続けた。

すると今度は何かが胸に触れた感覚がする。

(あ……やっぱり男の人っておっぱい好きなんだ)

気恥ずかしさと同時に、優越感と両親への感謝がマミの心の中に溢れた。

だが、その胸に伝わる感覚がどうも不自然だった。

あまりにもやわらかかった。布団の上からだとしても、とても手で触られているようには思えない。

そもそも良牙ほど筋肉質な人間にやわらかい部分などほとんど無いはずだ。

それなのに、まるで自分の胸に他の女性の胸が当たっているかのような柔らかい衝突だった。

(――しかも、私に匹敵する大物!)

マミはカッと目を見開いた。

「え? ……乱馬さん?」

マミの視界に入ってきたのは見覚えのある、赤髪の少女の顔だった。

「やっぱり起きてたね」

らんまらしきその少女は迷い無くマミにパンチを撃ち落す。

覆いかぶさるような体勢で片腕を掴まれているマミはほとんど動けない。

それでもなんとか首だけ動かしてかろうじてパンチを避けた。

その強力なパンチはベッドを突き破る。
621 :33話7 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/07/22(日) 19:44:31.96 ID:k2zWozC00
マミは赤髪の少女が拳を引き抜く隙に、空いた左腕で相手を突きはねようとした。

しかし、布団が邪魔で勢いをつけられず、相手の体を押すような緩慢な動作になってしまった。

赤髪の少女は悠々と体勢を整えて、再び左腕をマミに振り落とそうとする。

やすやすとベッドを突き抜ける威力のパンチだ。

魔法少女でもまともに食らえば致命的ダメージになるだろう。

(――やられるっ!)

そう思っても、マミに抵抗手段は残されていなかった。

――そのとき、

赤髪の少女の顔に猛スピードの何か……黒い影がぶつかった。

その瞬間、わずかに少女の押さえつける力がゆるむ。

マミはすかさず、赤髪の少女を押しのけ、ソウルジェムを使い変身をした。

無事に着地した黒い影――小豚状態の良牙も赤髪の少女に対して臨戦態勢をとる。

『マミちゃん! どうしてすぐに助けを呼ばなかったんだ!?』

良牙がテレパシーを飛ばすと、マミは気恥ずかしそうにうつむいた。

『え、えーと、それは、その……』

そうして答えあぐねている間にも、敵は動く。

『来るぞ!』

その『声』を聞くと同時にマミは正面を向き、赤髪の少女のパンチをギリギリのタイミングで銃身で防いだ。

そして少女が間髪入れずに繰り出してきた蹴りを後ろに飛んで避けると、反撃しようと銃を構える。

しかし、マミが気が付いた時にはすでに赤髪の少女はマミの懐にもぐりこみ強烈なボディーブローを放っていた。

(は、早い!)

 ドンッ

鈍い音が鳴る。

マミはとっさにリボンを召喚してクッションにして、直撃だけはさけた。

それでも腹部に破裂したような痛みが走り、口から少し血を吐いた。

だが、やられてばかりはいない。マミはすぐにマスケット銃を鈍器代わりにして反撃に出た。

赤髪の少女は落ち着いた表情と動きで悠々とそのマスケット銃をさばこうとする。

が、その直前に黒い小豚が少女に噛み付いた。

それに気を取られた隙に、少女の頭に固いマスケット銃がヒットする。

少女は頭を抱えてよろめいた。

『マミちゃん、お湯を!』

「ええ」

マミは敵がよろめいている隙に、いつもの魔法のティーポットで小豚にお湯をかけ、人間の男に戻した。

「この体の初陣で2対1はちょっときついかな」

赤髪の少女はマミと良牙を見てそんなことをつぶやく。

「てめぇ、乱馬じゃねえな!」

良牙が叫ぶ。しゃべり方だけではない。

目の前の少女は女性らしい……天道あかねが好きな薄いピンク色とフワフワスカートの服装をして、
後ろ髪は緩やかにリボンで束ねている。

どう考えても乱馬のセンスではないし、着せられても嫌がりそうな服装だ。

「まあいいや、今日のところは性能テストといこう」
622 :33話8 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/07/22(日) 19:45:40.38 ID:k2zWozC00
少女は良牙の言うことには答えず、今度は良牙をターゲットに襲い掛かってきた。

「ちっ、なめやがって! 隙だらけだぜ!」

良牙は堂々と正面から突進してくる少女を迎え撃つ形で拳を繰り出した。

しかし、少女はまるで消えたかのような素早い動きでそれをかわし、良牙のあごに一撃カウンターのアッパーを食らわせた。

(バカなっ? らんまより早いだと!?)

良牙は一瞬だけふらつくが、すぐに体勢をたてなおす。

だがその視界にはすでにらんま似の少女の姿はなかった。

「良牙さん! 上!」

マミの言葉に、良牙は迷うことなく直下型獅子咆哮弾を放つ。

その閃光が去ると同時に、ボロボロになった床の上、これまたボロボロになった畳が落ちていた。

「え?」

良牙がマヌケな声を出したそのわずかな隙に、畳の下から飛び出た少女はまたもマミに襲い掛かる。

マミが2、3銃撃すると、1発だけ命中したが少女は気にも留めずに前に進み、大振りのパンチを放つ。

しかし、その拳はマミに届く直前で止められた。少女の体に無数のリボンが巻きついて身動きを防いだのだ。

「かかったわね……キュゥべえ!」

マミはきっぱりと、このらんま似の正体不明の魔法少女を「キュゥべえ」と断言した。

「やれやれ、やっぱりキミにはばれたか」

キュゥべえと呼ばれた少女は、らんまの顔、らんまの声でそう答えた。

「なんだって?」

良牙は呆気にとられた。キュゥべえが人間の体に入ったり直接的に戦ったりすることがあるのか。

だが、本人が肯定しているし、この捕まった状態でも涼しい顔でケロッとしているのはいかにもキュゥべえらしい。

「魔法少女のことが世間に知られていないのはどうして?
魔女の正体を魔法少女ですら知ってる人がごく少数なのはどうして? 答えは簡単だわ。
キュゥべえは定期的に知りすぎた魔法少女や邪魔になる魔法少女を間引きしている……そうでしょう?」

マミは感情を押し殺した声で説明を加えた。

「正解。まあ普段は他の魔法少女をけしかけるんだけどキミ達はちょっと人数が多いし、今回は時間もないから
余ってた体をいただいたんだ。しかしご名答だよ、マミ。まるで前々から考えていたかのような模範解答だ」

「何が言いたいのかしら?」

マミは少女の頭に銃口を突きつけた。

「マミ、キミは前々から気が付いていたのに、ずっと目をそむけてきたんだろう?」

言い終わった少女を、横から良牙がぶん殴った。

「マミちゃん、こいつの言うことは気にするな!」

マミはこくりとうなずいた。

「キュゥべえ、私はあなたが二体以上同時に動いているのを見たことがないわ。
あなたの魂はひとつしかない。そしていつも殺されるまで体から離れない。
むしろこれは殺されるまで離れられないと考えた方がいいでしょうね」

そして何やら分析を始める。

「それに乱馬さんの体だといつものように体を見えなくすることもできない……
つまり、今の状態で捕らえていれば逃げ出すことも何かの悪さもあなたはできない!」

「あ、確かに!」

マミの発言に良牙がうなずいた。

らんまの体を使って強くはなったが、本来のキュゥべえの役柄である隠密的行動はむしろやりにくくなったはずだ。

「なるほど。なかなか的を射た分析だけど、ひとつだけ致命的な間違いがある」

キュゥべえはそう言って思わせぶりにためを作った。
623 :33話9 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/07/22(日) 19:47:25.50 ID:k2zWozC00
そして――

「それは、まだボクは捕まっていないってことさ」

キュゥべえがそう言うと同時に、狭い部屋の中に荒れ狂う暴風が巻き起こった。

「こ、これはっ!?」

良牙は身を守りながら叫ぶ。

「希望や絶望という感情は魔力に通じるけど、怒りは闘気に通じるらしいね」

暴風の中平然とキュゥべえは言葉を続けた。

「キミたちが怒ってくれたから、この部屋に十分な闘気が充満した――
おかげで撃てるんだ、魔竜昇天波を!」

やがて暴風は良牙とマミを巻き上げ、部屋中を荒しまわった。

暴風が去り、ボロボロになった良牙とマミが落下する。

その落下した直後のマミに、らんまの顔をしたキュゥべえは問答無用に襲い掛かった。

「くっ……ティロ・フィナーレ!」

組み付かれる直前、マミは巨大な砲撃を放った。

しかしキュゥべえはそれをすんでのところでかわし、マミの腹部に蹴りを浴びせた。

マミは壁まで飛ばされ、たたきつけられる。

「てめぇ!」

良牙はまだ立ちくらみをする状態だったが、それでも後ろを向いているキュゥべえにとび蹴りで突進して向かった。

キュゥべえは身を翻してそれをかわし、良牙の首をつかむ。

「良牙がいくらタフでも人間だ。息ができなければ死ぬよね」

「ぐっ……あ……」

良牙はもがきながら、膝蹴りを放った。

キュゥべえの首を絞める力は弱るが、手放しはしない。

『マミちゃん、もう一度ティロ・フィナーレだ!』

良牙はテレパシーを意識してそう念じてみた。

『え? でも、良牙さんを巻き込んで……』

フラフラと立ち上がるマミだったがテレパシーはしっかりと通じていた。

『構わない、俺は大丈夫だ』

『……分かったわ!』

マミは特大の拳銃を召喚する。

「無駄だよ、この体は……魔法少女らんまは防御魔法の使い手だ。この体勢からでも防御魔法を発動させられるよ」

やはりテレパシーは聞こえていたらしく、キュゥべえが言った。

『構うな、撃て!』

首を絞められて上手くしゃべれない良牙はテレパシーで叫ぶ。

「ティロ・フィナーレ!」

巨大な黄色い閃光がらんまの体と良牙に向かって放たれた。

それと同時に彼らの姿は何枚もの畳に覆われる。

『獅子咆哮弾!』

が、その畳を良牙が上昇型の獅子咆哮弾を撃って蹴散らした。

「な――」

キュゥべえが感嘆詞を言い終わるヒマもなく、ノーガードとなった彼に黄色い閃光が降り注いだ。
624 :33話10 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/07/22(日) 19:48:52.39 ID:k2zWozC00
「ぐあああ!」

良牙とキュゥべえがともども大ダメージを受ける。だが、それで終わらなかった。

良牙は更に、さっき打ち上げた獅子咆哮弾を落としたのだ。

轟音が鳴り響き、床が大きくえぐれ、コンクリートが露出する。

そこに良牙とらんまの体はともに大の字になって倒れていた。

「良牙さん!」

マミはまだふらつく体で良牙に駆け寄り肩を貸した。

「はぁ……はぁ……やったか?」

良牙は意識を保っているらしく、そんなことをつぶやいた。

一方、らんまの体は完全にのびている。

「……そのようね」

そう言いながらもマミは途方にくれた。

自分の家が、もはやただの瓦礫部屋と化している。

いったいこれからどうして生きていけばいいのか。

と、そうしてらんまの体を眺めているとみるみるうちに傷がふさがっていった。

(――まずいわ!)

マミは即座に、らんまの頭に銃弾を打ち込む。

しかしその銃弾は突如あらわれた畳によって防がれた。

「……こ、これは?」

良牙が呆気にとられる。

(意識を遮断して回復と防御に専念している!?)

だとすれば、またすぐに回復して襲い掛かってくるに違いない。

「良牙さん、逃げましょう!」

マミは良牙に肩を貸したまま、窓から自宅を飛び出した。

二人とも今は満身創痍だ。この状態でらんまに入ったキュゥべえが全快すれば、まず勝てないだろう。

生き延びるには逃げるのが一番確実な手段だ。

「逃げるって、どこへ!?」

良牙が質問した。

ここは見滝原なので、まどかやさやかに頼み込め泊めてくれるかもしれない。

しかし、キュゥべえが追ってきた場合、その家族を巻き込むことになるだろう。

とても、まどかやさやかを頼るわけにはいかなかった。

「ひとつだけ、アテがあります」

そう言って、二人は夜の闇の中へ消えていった。

***************

「逃げたみたいだね……良い判断だ」

赤髪の少女は廃墟と化した分譲マンションの一室で立ち尽くしていた。

服装こそボロボロだったが、その体は傷ひとつなく美しい張りを保っている。

やがて、消防車のサイレンが聞こえると、少女は軽快にジャンプをしてその場から姿を消した。
625 : ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/07/22(日) 19:50:22.09 ID:k2zWozC00
以上、33話でした
626 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/07/22(日) 20:01:14.28 ID:wSPKt4qE0
乙です
らんまの体がなかったらQBはどうするつもりだったんだ?
かずみのプレイアデス星団のような所から、体をくすねるつもりだったのかな
627 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/07/22(日) 21:43:21.72 ID:H26qFxDAO
乙です!
らんまの抜け殻やっぱり意味ありましたね。そしてまさかのQBが戦闘要員にw
正直そんじょそこらの魔女より遥かに強そうww
628 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/23(月) 00:47:40.69 ID:mcXlk/6z0
乙です。これは予想外の展開!

突飛なこと言うが、このQBは冷凍して固めればいいんじゃないのか?
そうすれば動くことも話すこともできないからな。

あ、でもどうやるかが問題だな・・・
629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/07/23(月) 03:20:04.17 ID:xHaVEqGTo
やっぱり動き出したー!?
しかしQBに乗っ取られるとは予想外ってか、技術まで盗んでる上魔法少女の能力補正で本人以上の戦闘力持ってやがる……
どうすんだこれ、とんでもなく厄介な相手だぞ
630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/24(火) 08:32:39.59 ID:1seavq9Ho
ここまでQBにムカつくスレは初めてだな
631 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/24(火) 10:10:21.02 ID:1XTesfEAO
そりゃ原作より悪辣に描かれてるからな
原作でもこのSSみたいだったらまどかの家族もあかねと同じ目にあってる
632 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/07/24(火) 19:35:36.73 ID:TrU0FusAO
今まで他のSSでもQBは言葉による攻撃と体が脆い代わりに何度でも復活する無限残機持ちってパターンが多いから、こういう強い力を持ったQBっていうのは新鮮だな。
633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/27(金) 23:02:17.67 ID:A/3TM/uL0
QB普段は魔女化して不要になった魔法少女の身体とか再利用して活躍してたんだろうか
キリカの身体とかどうしたんだっけ?
良牙着替える暇とか無さそうだったらからフルチン状態で戦ってたんか?
あと和子センセ、教師にも守秘義務というのがあってだな…
634 : ◆awWwWwwWGE :2012/07/28(土) 13:20:29.45 ID:YksYFjz30
今週はちょっと早め

34話アップします
635 :34話1 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:副題『先輩やっと出番です』]:2012/07/28(土) 13:21:48.51 ID:YksYFjz30
「う、うう〜ん」

目覚めたマミの視界に、斜めに傾いた木材が映った。

(あれ? ここは?)

そこそこ広い屋根裏部屋のようだが、あちこち朽ちていてクモの巣が張っていて、まるで廃屋だった。

しばらく考えてから、思い出した。

「そっか、杏子の教会だったわね」

気だるく起き上がる体は魔法少女の衣装を解いていない。

いつ追い討ちがあるかも分からないから昨晩は変身したまま寝たのだ。

すぐ横に、黒い小豚がスヤスヤと眠っている。

その体には傷跡のひとつもない。小豚になりさえすれば回復魔法もわずかですむから経済的である。

(こっちには追ってこなかったけど見滝原のみんなは襲われていないかしら?)

昨晩は一直線にここまで逃げた。

キュゥべえに襲われたということだけでも伝えるべきだっただろうか。

しかし下手に接触すればターゲットがそっちに移ってしまうかもしれないし、
なにしろマミと良牙も逃げるのに精一杯だった。

マミは小豚を強引に抱きかかえた。

それはまるで、小さな子供がヌイグルミを抱き寄せるような幼い仕草だった。

小豚は目を覚ましたが、ギュッと抱きしめてくるマミの様子に、なんとなく声をかけるのがためらわれた。

「私ね……また逃げちゃったわ」

「ぴぃ?」

小豚は不思議そうに首をかしげた。

あの場でキュゥべえから逃げたことは間違った判断ではないはずだ。落ち込む必要など無い。

「キュゥべえが何も手を打ってこないはずなんてないのに、きちんと向かい合うのが怖くて目をそむけてたの」

「ぴぃ、ぴぃ!」

そんなことはない、そう言いたくて小豚は全力で頭を左右に振る。

「鹿目さんは魔法も格闘技もできなくても逃げなかったのに……私は逃げた……」

うつむいたままのマミを小豚は不安そうに見上げる。

「でも、やっと分かったわ。逃げても目を背けても、何にも解決しないって。きちんと向き合わなきゃ……
キュゥべえにいいように利用された自分に決着をつけなきゃいけないって」

マミは決意を込めるように、小豚を潰れそうなほど強く抱きしめた。

「……お願いです、私がくじけないようにそばに居てください」

それは、か細く震えた声だったがそれだけに上っ面ではないものが感じられた。

小豚がこくりとうなずくと、マミはそっと彼を解放した。

「ありがとう……」

それだけ言って潤んだ目を拭うと、マミはすでに自信に満ちたいつもの顔に戻っていた。

「行きましょう、良牙さん」

『え? 行くってどこへ?』

ここでようやく良牙はテレパシーで語りかける。

「たぶん、次に狙われるのは早乙女さんよ」

マミはきっぱりとそう言った。

***************

「――ない!」
636 :34話2 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/07/28(土) 13:23:03.47 ID:YksYFjz30
朝起きて、異変に気が付いた早乙女乱馬は大声を上げた。

「ないって何が?」

「俺の体が!」

天道あかねの質問に乱馬は答える。

「あるじゃない」

あかねは乱馬の体をバンバンと叩いて見せた。

「ちげーよ、おめーが着せ替え人形にしてたアレがないっつってんだよ」

「ああ、アレね!」

ようやく乱馬の言いたいことが通じたあかねだったが、なぜ乱馬がそんなに焦るのかが分からなかった。

「でも、変な呪いのおかげで出来た副産物なんでしょ? むしろ無い方がいいんじゃないの?」

「そんな問題じゃ――いや、待てよ、そんな問題かもしれねーな、これは」

乱馬はふと考え込んだ。

あの抜け殻となった体があったところで何の役にも立たない。

そうならば消えてしまったほうが得ではないのか。

もしかしたら今、自分の体がどこかの変態の餌食に落ちているかもしれないと考えたら気持ち悪いが、
気にしなければそれまでの話だ。

「あ、やっぱりあの子探さないとダメだわ!」

が、ふいにあかねが叫んだ。

「私の一張羅とかすみお姉ちゃんのリボンを着けたまんまだもの!」

「そんな事かよ」

何事かと思った乱馬はあきれて見せた。

どうあれ、乱馬にもあかねにも、空になった女らんまの体を探すアテなどない。

やむなく二人はいつも通り学校へ行くことになった。あかねはともかく、乱馬は出席日数や成績が危ないのだ。

***************

「早乙女乱馬、今までどこに逃げていたのか知らんが、今日こそ覚悟だ!」

そんな登校中、九能帯刀が乱馬に襲い掛かってきた。

「おー、このノリも久しぶりだな」

乱馬はうれしそうにそう言った。

この二年生の先輩は乱馬の変身体質を知らない。

普通なら絶対気が付いているような状況でも理解しないため、もはや乱馬も周囲の人間もいちいち事情を説明しないのだ。

そういうことで帯刀は女体のらんまを別人だと思っているため、乱馬が男に戻れない間はケンカはお預けだった。

「ケンカ売られて何うれしそうにしてるんだか」

呆れ顔でつぶやくあかねをよそに、乱馬は喜々として帯刀の木刀を捌こうとした。

帯刀は剣道部主将にしてかなりの手だれだが、乱馬相手にははっきりとした実力差がある。

しかし――

乱馬は帯刀の攻撃をかわしそこね、とっさに胴をかばった左腕が木刀の直撃を受けた。

(なんだ? しばらく男の体で戦ってなかったから勘が鈍ったか?)

違和感を覚えながらも、乱馬は拳を繰り出して反撃する。

だが帯刀は上手く引いて素手の乱馬に対してアウトレンジを保ち、その攻撃をかわし続ける。

「ちっ、火中天津甘栗拳!」

やけになった乱馬は拳のスピードを最大限まで上げた。
637 :34話3 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/07/28(土) 13:23:48.49 ID:YksYFjz30
が、帯刀は大きく横に回ってそれもかわし、乱馬の頭上に木刀を振りかざした。

(動きが読まれているのか?)

乱馬はギリギリで帯刀の面をかわすと、背に腹はかえられぬという言葉どおりに、背中を向けて走って逃げた。

「フハハハ、無様だな早乙女乱馬!」

帯刀は扇子を開いて自らの勝利を祝う。

「うそ? 九能先輩が勝っちゃった」

その光景にあかねは呆気にとられていた。

「天道あかね、早乙女乱馬に勝ったからにはぼくと交際を――」

勝利の勢いでそのままあかねに迫る帯刀だったが、その台詞は突然にさえぎられた。

逃げたと思われた乱馬が上から降ってきて帯刀の頭を踏んづけたからだ。

思いっきり踏まれた帯刀は頭から地面に倒れる。

「これで俺の勝ちだな」

悪びれもせず乱馬は勝利宣言をした。

乱馬は逃げたフリをして姿を消し、民家の屋根に上って奇襲したのだ。

「いやぁ、これは負けでしょ」

しかし、あかねのジャッジは逃げた乱馬の反則負けだ。

「ん、あれは?」

ふと乱馬は帯刀のカバンからどこかで見覚えのあるノートが落ちているのを見つけた。

拾って表紙を見ると『だとう! 早乙女ランマ こうりゃくメモ』と赤字でデカデカと書かれていた。

「あれ? 九能先輩がなんでコレを持ってんだ?」

帯刀が急に強くなった理由はこれではっきりした。しかし別の謎が浮かぶ。

このノートは杏子がらんまを倒すために研究したものであり、先日乱馬がもらったのだ。

それがなぜ帯刀の手元にあるのか。

「くっ、早乙女乱馬、それを返せ! それはおさげの女がぼくにくれた愛の結晶だ!」

よろよろと起き上がりながら帯刀が言った。

『おさげの女』とは帯刀が乱馬とは別人だと思い込んでいる、女の状態のらんまのことである。

「は? 俺はお前にやった覚えはねぇよ」

「だから、おさげの女からもらったと言っとるだろうが」

乱馬と帯刀の会話は平行線だった。

「九能先輩、大丈夫ですか?」

そこに、民家のフェンスの上、漆黒のレオタードに身を包んだ少女が現れた。

「え?」

「なにっ!」

あかねと乱馬は目を疑った。

その顔はまぎれも無く女の状態のらんまだったからだ。

「おお、おさげの女。いじらしくもぼくを追いかけてきてくれたのか」

「……まあ、そんなところかな」

『おさげの女』は少し面倒くさそうに帯刀の問いに答える。

「誰だテメー?」

乱馬はその謎の少女にただならぬものを感じ、構えをとった。

「こんな使い勝手の良さそうな体と取扱説明書を一緒に置いておくだなんて、無用心にもほどがあるね」
638 :34話4 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/07/28(土) 13:24:51.99 ID:YksYFjz30
少女は澄ました顔のままそう語る。

「まさか……」

(キュゥべえなのか!?)

その話し方から乱馬にはピンと来た。しかし、あかねの前でその名を出すのははばかられた。

「九能先輩、どうしてあの子からノートもらったんですか?」

乱馬と謎の少女がにらみ合っている間に、あかねが帯刀に聞いた。

「ああ。昨夜なぜか1人でさまよっていたから声をかけたら、ウチに泊まりたいと言い出してな――
いきなりそんなことはまずいと思ったのだが、おさげの女の服がボロボロだったので見かねて泊めたのだ。
そしたら、一宿一飯の恩にとあのノートをくれた」

「な、なんだとぉ!?」

帯刀の説明に驚いたのは乱馬だった。

「お、おまえ、九能先輩ん家に泊まったのか?」

震えながら、乱馬は少女に質問をする。

「うん、泊まったよ。おかげでお風呂に入れたし新しい服も手に入れられた。
人間の体はメンテナンスに手間がかかるから、九能先輩のおかげで助かったよ」

少女は平然として言う。

「もっとまともな服があったのだがな。おさげの女が機能的だといって気に入ったようなのでやむなく妹のレオタードを譲った」

そこに帯刀が説明を加える。

「ちなみにそのボロボロになった服ってどんなのでした?」

「薄いピンク色と白の、スカートがフワフワした感じの……」

「あ、やっぱり! それ私のなんです」

「なんと! それでは至急、修繕とクリーニングをして返そう」

「すいません、お願いします」

あかねと帯刀は本筋に関係のない会話を続けた。

「え、えーと、それはともかくだな……九能先輩ん家に泊まったら当然、迫られたよな? それをどうした?」

乱馬は質問を続けた。

少女は質問の意味をよく理解していないのか、首をかしげながら口を開いた。

「宿を借りる身だからね。求められたままに応じたよ」

(なっ!?)

その瞬間、乱馬にとっての何か大切なものがガラスのように音を立てて壊れた。

ついさっきまで気にしなければどうということはないと思っていたが、仮にも自分の体だったものが、
よりにもよって帯刀に好きなように使われたというのは、乱馬に耐えられるものではなかった。

「絶対にゆるさねーぞ、こんにゃろう……」

乱馬がなぜ激怒しているのか、少女はよく分からなかったが彼女にとってそれは望みどおりの展開だった。

「ケンカするなら人気のないところにいかないかい? ボクもあまり騒がれたくはないんだ。
キミだって、周りの人が巻き込まれたら嫌だろう?」

少女は『周りの人』を出して脅しをかける。

その態度が、ますます乱馬の怒りの炎に油をそそいだ。

「上等じゃねーか、やってやるぜ!」

そうして二人はその場を飛び去っていった。

あかねと帯刀はよく分からない展開にポカンとしていた。

「――ところで、何を求めたんですか?」

しばらくしてやっとあかねが言葉を口にする。
639 :34話5 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/07/28(土) 13:26:28.28 ID:YksYFjz30
「決まっておろう、交換日誌だ!」

なぜか自信満々に日誌帳を取り出す先輩に、あかねは大きなため息をもらした。

***************

(なんでだ――?)

乱馬の疑念をあざ笑うかのように、その拳は虚空をかすめた。

悠々とよけた赤髪の少女は乱馬にもほとんど見えないスピードでパンチを繰り出す。

「ぐっ!」

乱馬は腕を交差させてその拳を受けるが、威力を殺しきれずに大きくのけぞった。

のけぞった勢いを利用して、乱馬はそのままバク転で後ろに引いた。

予想外の動きに、少女の攻撃はいったん止まった。

人気のない河原で、二人は対峙する。

(ありえねー、スピードも威力も想定してたよりずっと上だ!)

自分自身の体なので、男の状態よりも女の状態の方がスピードがあるというのはよく分かっている。

そしてその分、女になれば威力は落ちるはずだった。

しかし、目の前の自分の女の体は、想像をはるかに上回るスピードと男の状態と比べても
見劣りしないパワーを誇っていた。

「てめー、よほど魔法で身体強化してやがるな?」

乱馬にはそれしか考えられなかった。

しかし少女の体に入ったキュゥべえは首を振る。

「いや、身体強化はしていないよ。しても元からこれだけ鍛えられた体だと消費魔力に見合う力は得られない。
その点は、キミだって身をもって知ったはずだろう?」

「はぁ? そんなわけねーだろ、つまらねーウソついてんじゃねーよ」

キュゥべえの言葉を信じられず、乱馬は言った。

だが、そんなことを言い合っていても仕方がない。

どうあれ少女のスピードについていけなければ勝ち目はないのだ。

(ちっ、しかたねぇ!)

乱馬は突然走り出し、川に飛び込んだ。

「ふぅん、同じ体で戦うのかい。それなら経験の差でカバーできる……という判断かな?」

キュゥべえはあえて乱馬を追わず、川から上がるのを待った。

だが、いっこうに上がってこない。

「……もしかして、おぼれたのかい?」

状況を確認しようと、キュゥべえは川に近づいた。

その瞬間、大きく水しぶきがまき起こり、キュゥべえの視界をふさいだ。

「!?」

とっさにキュゥべえは身構える。

「猛子高飛車!」

視界をふさがれたキュゥべえに、らんまは闘気技を飛ばした。

だが、キュゥべえの姿は消え。、猛子高飛車の光の玉は河原の土手に穴を開けただけだった。

「なっ――!?」

これなら確実に当てられると思っていたらんまは呆気にとられた。

そのすぐ上の頭上から、キュゥべえはとび蹴りの姿勢で落ちてくる。

「うわっ、やっべぇ!」
640 :34話6 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/07/28(土) 13:27:19.54 ID:YksYFjz30
らんまは身軽に飛び退いた。

それに対しキュゥべえは反撃の隙すら与えず着地から切れ目なく攻撃を繰り出す。

「くそっ!」

らんまはなんとか捌き続けた。

(女になってもも直撃を避けるのがやっとかよ!)

らんまの場合、女の体の方がスピードや柔軟性が上だ。だから、女になればなんとか対応できると思っていた。

しかし、同じ女らんまの体だというのに、らんまは確実に押されていた。

そうして、徐々に小さな攻撃をもらうようになってくる。

らんまにとって、完全にジリ貧の状況だ。

そこに、キュゥべえが勝負を焦ったのか大振りのストレートパンチを飛ばしてきた。

(来た!)

ほとんど本能的に、らんまはカウンター狙いで前に出る。

それが、罠だった。

キュゥべえはらんまが攻撃に移ると同時に右手を止め、不用意に突き出したらんまの左腕にたたきつけた。

「うっ……」

そこは、さきほどの帯刀との戦いで木刀の直撃を受けた部分だった。

激痛が体中を走り、らんまは思わず動きを止める。

キュゥべえはそこに容赦なく全力の蹴りを放った。

らんまは大きく吹き飛ばされた。

「いやぁ、杏子のノートに書いてあった通りだ。分かりやすい動きだね」

そう言いながら、少女はゆっくりとらんまに近づいた。

倒れながら、らんまは思った。

(杏子のノートのせいだけじゃねぇ、絶対ほかに何かある!)

だが、キュゥべえが謎解きの時間をそう多く与えてくれるはずもなかった。

「それじゃ、そろそろとどめを刺すよ」

倒れこむらんまを見下ろして、キュゥべえは拳を振りかざした。

そのとき――

「やめるんだ! おさげの女!」

「乱馬! 大丈夫!?」

九能帯刀と天道あかねが止めに入った。

「しかし、どういうことだ? おさげの女が二人……」

帯刀は動きを止めたキュゥべえと倒れたままのらんまを見比べる。

(チャンスだ!)

らんまはその好機を決して逃がそうとはしなかった。

「九能せんぱ〜い、こいつ、私の偽者なんです。
私はいきなり男の人のおうちに泊まるなんてはしたない女じゃありません」

らんまは精一杯のぶりっ子声で帯刀に呼びかけた。

「むう、いわれて見れば確かにそうだ。
おのれ、偽者め! ぼくとおさげの女の純情をもてあそんだな!」

帯刀は怒りに震えて木刀を抜く。

「やれやれ、面倒なことをしてくれるね」

キュゥべえは落ち着き払って帯刀のほうを向いた。
641 :34話7 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/07/28(土) 13:28:03.15 ID:YksYFjz30
その隙に、らんまはゲンナリしているあかねにかけよった。

「よっしゃ、逃げるぞあかね」

「あんたよくあんな演技できるわねぇ」

呆れかえったあかねだったが、帯刀を犠牲にすることにためらいがないのはらんまと同じだ。

二人はそそくさと逃げ出した。

「でも、あいつなんなの? あたしと九能先輩の二人がかりだったら勝てたんじゃ――」

走りながら、あかねがそんな疑問を口にする。

「やめとけ、そんなレベルじゃねぇ……それに、あの時あいつは本気で俺を殺そうとしやがった」

らんまは内心わずかに恐怖を覚えていた。

あの人間らしい感情をまるで感じない、能面のように表情の変わらない顔に、確かに鋭敏な殺気を感じたのだ。

「本気で!?」

ただならぬ言葉に、あかねも驚いたようだった。

そこに、後ろから猛スピードで折れてささくれた木刀が飛んでくる。

「くそっ!」

らんまはあかねを突き飛ばしてそれを避けさせた。

木刀はらんまとあかねの横を通り過ぎて電柱にぶつかると、コンクリートに傷をつけて大きく跳ね上がった。

らんまはその木刀が飛んできた方向を振り返る。

そこには、らんまと同じ体をした少女が全くの無傷のまま立っていた。

「九能のやろう、もう負けたのかよ! 時間稼ぎにもならねー!!」

やむなくらんまはあかねの前に出て少女――その中に入ったキュゥべえと対峙するが、勝算は何もなかった。

「あかね、悪いこと言わねぇから逃げろ。こいつはちょっとマジでやべぇ」

「でも、乱馬……」

あかねは戸惑った。今のらんまは手負いだ。同じ体で戦うのなら無傷の相手に勝てるはずがない。

「天道あかね、逃げるなら見逃してあげるよ。ボクは早乙女乱馬を始末できればそれでいいからね」

らんまと同じ顔で、黒いレオタードの少女はそう語りかけてくる。

「な、なんであたしの名前を?」

得体が知れないとあかねは思った。

なぜ自分の名前を知っていたのかというだけではない、澄ましたままで少しも変わらない表情、
この淡々とした口調でありながら、真剣にらんまを殺そうとしていること。

少女は何もかもが違和感の塊だった。

「でも、退かないというのなら、覚悟をしておいた方がいい」

しかし違和感以上に強烈に、あかねにとある感情がわきあがってきた。

「ふざけんじゃないわよ! どこの誰だか知らないけど偉そうに上から目線で人様に指図して!
その体で言うからなおさら腹立つったらありゃしないわ!」

あかねは一気にまくし立てるとらんまの前に出て構えをとった。

「な……ばかっ、あかね!?」

よりにもよって自分からキュゥべえに喧嘩を売ったあかねに、らんまは唖然とした。

「誰がバカよ! 乱馬じゃあるまいし……乱馬、手負いなんだからあんたが先に逃げなさいよ。
あたしは勝てなくてもやれるだけやって逃げるから」

あかねはらんま相手には滅多に見せない男気を見せ付ける。

だが、これもさまざまなスポーツの助っ人に呼ばれるあかねの一面だった。

「だからそんなレベルの相手じゃ――」
642 :34話8 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/07/28(土) 13:29:18.96 ID:YksYFjz30
「だって、あいつの言う通りにするってすっごいムカつくじゃない!」

気持ちはよく分かるだけに、らんまは上手く説得する言葉が見当たらなかった。

「やれやれ、感情というのは面倒なものだね」

キュゥべえはまだ話し途中のあかねに、先手必勝とばかりに襲いかかった。

あかねは待ち構えていたかのように、キュゥべえの顔をめがけて正拳突きを繰り出した。

 パチンッ

キュゥべえは避けもせずにあっさりとあかねの拳を手のひらで受け取った。

想像以上の実力差に驚く暇もなく、キュゥべえはあかねの拳を掴んだまま後ろに回り腕の間接をきめた。

「う……ああ……」

痛みにあかねの表情が歪む。

「さて、乱馬。さっき言ったようにボクはキミを始末できれば天道あかねはどうなってもいいんだけど……
どうして欲しいかな?」

「てめぇ……」

らんまは拳を握り締めたが、それ以上動けなかった。

自分は片腕が使えず、あかねが捕まっている。

らんまはキュゥべえへの返答を考えるようなフリをして、反撃のチャンスをうかがった。

が、らんまが動くよりも先に、あかねが動いた。

「……あ……あ……なめんじゃないわよ!」

あかねは腕をきめられたまま頭を思い切り後ろにのけぞってキュゥべえに頭突きを食らわせる。

さすがにそんな攻撃までは予想していなかったらしく、キュゥべえはよろけて腕を手放した。

「今だ!」

らんまは素早く、右腕であかねを抱えて逃げ出す。

だが何の手も打たずみすみす逃げられるキュゥべえではなかった。

「魔竜昇天破……水平打ち」

闘気と魔力の両方を帯びた龍が、らんまとあかねを食らおうと襲い掛かる。

「まりゅう?」

「あいつ、飛竜昇天波の応用まで!?」

その龍は、走って逃げられる速度ではなかった。

らんまはあかねを下ろしその前に立って盾になった。

そして腕を十字に組んで衝撃に備える。

しかし、予期していた衝撃が襲ってくることはなかった。

らんまがガードを下げてみると、目の前には開かれた唐傘が見える。

「情けねーな、乱馬! ろくにダメージも与えられず逃げの一手とは……
だが、あかねさんを守ろうという気概だけは買ってやるぜ!」

そこには見慣れたライバルの、響良牙の姿があった。

「良牙、てめー!」

「良牙くん!」

らんまは一瞬うれしそうな顔をしたが、すぐに厳しい顔をした。

敵は良牙でもおそらく勝てない相手だ。

個人的なプライドの問題としても、勝って欲しくない気がする。

「すでにマミちゃんが『猫飯店』や『うっちゃん』に連絡をとりに言っている。
たとえ俺を倒しても、多勢に無勢だ。……年貢の納め時だぜ、キュゥべえ!」
643 :34話9 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/07/28(土) 13:29:54.64 ID:YksYFjz30
良牙の口上を聞くキュゥべえは、相変らず表情の変化がなかった。

「もっとも、その前に俺がお前を倒すがな」

良牙は鋼の唐傘を軽々と放り投げ、キュゥべえに向けて構えをとった。
644 : ◆awWwWwwWGE :2012/07/28(土) 13:30:40.82 ID:YksYFjz30
以上、34話でした
645 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/07/28(土) 14:12:47.11 ID:8fTfndyUo
乙!QB強すぎワロタ
646 : ◆awWwWwwWGE :2012/08/06(月) 01:14:57.03 ID:dMTEaYry0
35話アップします
647 :35話1 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:副題『秘境それ即ちド田舎』]:2012/08/06(月) 01:16:51.47 ID:dMTEaYry0
「わからないなぁ、良牙」

その少女は、らんまの体でありながら、言葉遣いも雰囲気も何もかもらんまとは違った。

「マミと二人がかりでボクを倒せなかったキミが一人でどうにかできると思っているのかい?」

「へっ、闇討ちに失敗して二人ともとり逃した雑魚がなにいばってやがる」

良牙は負けじと言い返し、自らその少女に向かっていった。

その様子を見て、らんまはすぐに背中を向けて逃げ出した。

もちろん、あかねの手を強引に引っ張る。

「ちょ、乱馬! 良牙くん置いて逃げるの?」

「ああ、あいつもそのつもりだ」

戸惑うあかねに、らんまは答える。

良牙がマミと一緒に風林館に来たのならば、今ここで出くわしたのは途中で良牙が道に迷ってマミとはぐれたせいだろう。

それはともかく、マミが戦力を集めている状態で良牙が勝てない相手に挑む理由は何か。

答えはひとつしか考えられない――時間稼ぎだ。

ならば、どうやら一番狙われているらしい自分と、人質にされそうなあかねは真っ先に逃げるべきだろう。

らんまはそう考えていた。

一方、良牙は力づくでらんまの体に入ったキュゥべえを攻め立てる。

「おそいね」

キュゥべえはわけもなく、カウンターでボディーブローを入れた。

だが、良牙は動きを止めることもなく拳を打ち返す。

まだ良牙の腹から腕を引いてもいなかったキュゥべえが防御を間に合わせられるはずもなく、
もろに頭にパンチを受け、大きく後ろに吹き飛んだ。

「良牙はごり押しが一番怖いんだ。よほど慎重に戦わねーとスピード差なんざ無意味になっちまうぜ」

逃げながら、らんまはつぶやく。

その恐怖はらんまが一番良く知っていた。

攻撃を当てても相手が止まらないならば、攻撃することは隙を作ることとイコールになってしまう。

そのうえ、向こうは一発当てればこちらの10発分に匹敵するほど理不尽なパワー差なのだ。

迷いなくごり押し戦術を取った良牙ならいけるかもしれない。

らんまとしては複雑な気持ちもあるが、やはり良牙は頼もしいと思えた。

しかし――

 ドサッ

逃げるらんまとあかねの行く先に、良牙が倒れこんで落ちてきた。

それも口から血を吐き、痛みにもがいている。

「うそっ、良牙くんがこんな……」

あかねはらんまの気持ちを代弁するようにつぶやいた。

「ウソだろ!? かっこよく登場してもーやられんのかよ!」

らんまは振り返り叫ぶ。

「時間稼ぎはさせないよ」

民家の屋根に上ったキュゥべえが言った。

「てめー、良牙になにをしやがった?
その体じゃどうあがいてもこんなあっさり良牙を倒せるはずがねぇ!」

らんまは男の体でも、何十発も叩き込まなければ良牙にダメージを与えることなんてできないのだ。

仮にも女の体を使っているのに良牙相手に一瞬で決着をつけるなど、らんまにはありえないように思えた。
648 :35話2 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2012/08/06(月) 01:18:39.32 ID:dMTEaYry0
「この体と魔力消費を考えた場合、常時身体強化するのは無理があるけど一時的な身体強化なら使い道もある――」

話しながらも、キュゥべえは歩いてらんまたちと間合いを詰める。

「もっとも、その力加減が難しいんだけどね」

そう言ってキュゥべえは、右手をかざしてみせた。

良牙を殴ったらしいその手は、指が全てボキボキに折れ、あらぬ方向に曲がっていた。

パンチの衝撃に、攻撃した側の拳が耐えられなかったのだ。

一瞬とは言えキュゥべえはそれだけ無茶な強化をしたことになる。

「な、なんなの、あいつ!?」

顔色一つ変えずにボロボロになった手をみせびらかすその少女に、あかねは恐怖心を抱いた。

しかも、その折れ曲がった指がみるみるうちに治っていくのだ。

あかねはまるでホラー映画でも見ているかのような気分だった。

やがて、その恐怖はらんまとあかねの眼前まで迫った。

「さて、乱馬。そろそろトドメを刺させてもらうよ」

キュゥべえは腰を低く、右腕を後ろに下げた構えをとる。

それは、腰の入った強力なパンチを繰り出すための型だ。

らんまはじりじり下がりながら逃げるタイミングをうかがった。

そして、キュゥべえが動き出した瞬間――

「おヌシがキュゥべえとやらか」

その声の主を確認するヒマもなく、キュゥべえは後ろに突き飛ばされた。

それも、奇妙なことに杖に少し触れただけなのに10メートルほども飛ばされたのだ。

「……!? これは?」

ダメージこそ無いようだったが、さしものキュゥべえも目を丸くしていた。

目の前には「ちんちくりん」という言葉がしっくりくるほど小柄な老婆がいた。

「良牙さん、早乙女さん!?」

「間に合った……みてーだな」

そして、キュゥべえの後ろ、少し離れたところに黄色と赤の少女達も現れる。

「さすがに、これだけいっぺんに相手にするのは厳しいかな」

そういってキュゥべえは首を傾げて見せた。

「キミは一体何者かな? 一個人としては限界に近い戦力を持っているみたいだね」

「はてのう? ワシはただの中国の山奥から来た老婆じゃて」

その老婆・コロンはとぼけて答えた。

「中国の山奥……か。確かに中国奥地にはボク達の手の及ばない場所もままある。
なにしろ、未だに列車やバスどころか車が通れる道もなかったりするからね」

あの反転宝珠とかいう道具もそういうところが出所か、とキュゥべえはひとりうなずいた。

「なにか今凄くバカにされた気がしたぞい」

「さて、それじゃ今回はここまでにさせてもらうよ」

コロンのツッコミを無視して、キュゥべえは腕を思い切り振り上げた。

するとその腕を中心に小さな竜巻が巻き起こる。

「やばい、身を守れ!」

らんまが叫ぶ。

それと同時にキュゥべえのまわりに竜巻が起こった。
649 :35話3 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2012/08/06(月) 01:22:01.54 ID:dMTEaYry0
「螺旋運動無しに飛竜昇天破じゃと!?」

竜巻は地面から砂や砂利を多く巻き上げ、周りの者から視界を奪った。

そして、その竜巻がやんだころには少女の姿は消えていた。

***************

「なるほど、キュゥべえという奴がムコ殿を狙う理由は分かった。
しかしどういう順序で襲ってきておるのかの?」

中華料理屋の奥の居間で、コロンが言った。

決して広くはない部屋に5人も集まっている。

家主のコロンと、らんま、良牙、マミ、杏子の顔ぶれだ。

あかねは、らんまが強引に「学校へ行け」と言って面子からはずした。

「きっと、『例外』を先に消してしまいたいんだと思います。魔女から魔法少女に戻ったとか、
魔法少女をやめたとか、そんな例外があったらキュゥべえのやり方は成り立たないもの」

それが自分の次にらんまが襲われることを予測していたマミの推論だった。

「そうでなくても、魔女の正体を知ってる魔法少女なんてあいつにとっては邪魔にしかなんねーよな」

杏子もマミに続いて発言した。

魔女になることを知っている魔法少女は新しい契約の妨げになるし、
いざとなったら自決する可能性が高いからエネルギーも十分に得られない。

それならば早く死なせて新たに契約を結ぶ方がキュゥべえにとっては効率的だろう。

「『ワルプルギスの夜』までに殺しとけば、新しい契約を取れる可能性も高いだろうしな」

マミと杏子の手によって回復した良牙が言った。

『ワルプルギスの夜』という未曾有の危機が迫っている状況なら、確かに契約はとりやすいだろう。

しかし、見滝原や風林館に『ワルプルギスの夜』を倒せそうなほどの戦力が集まっている現状では、
せっかくの一大イベントだというの新たな魔法少女の必要がなく、契約をとりにくい。

そう言う意味でも、キュゥべえにとっては見滝原・風林館の魔法少女や武闘家に死んで欲しいのだ。

特に、鹿目まどかなどは目の前で『ワルプルギスの夜』が街を蹂躙していれば、
魔女の正体を知っていても契約してくれるかもしれない。

「考えれば考えるほど、また狙ってくる可能性が高いってことか」

らんまはあきれ気味につぶやいた。

正直に言って、何度も撃退できるという自信があまりもてないのだ。

「ふぅむ、一足飛ばしにキュゥべえが始めからまどかを狙ってくる可能性はないかの?」

「少ないと思います」

コロンの問いに、マミはあいまいに答えた。

「鹿目さんと契約したところで、私達が生きている限りは魔女にさせる前に邪魔が入ります。
魔女にできないのなら契約したってキュゥべえに得はないでしょう」

「だったら、可能性はないって言い切っても良いんじゃないか?」

マミの説明に良牙が質問する。

「人質としては鹿目さんを襲うのも有効だと思います。
その場合に備えて美樹さんにはいざと言うときには鹿目さんを連れて逃げるように言っていますけど……」

マミの人質という言葉にらんまは拳を握りしめた。

さっき、キュゥべえはあかねを人質にしようとしてきた。

今のキュゥべえは魔法少女と武闘家の力を兼ね備えている。

しかしその中身は戦いにプライドを持つ武闘家でも、人々を守るために戦う魔法少女でもないのだ。

当然、卑劣な戦術もとってくるだろう。その時果たして自分はあかねを守りきれるのか。

「最悪の場合、まどかでなくても無関係の人間を人質にとってくるということもありうるの」
650 :35話4 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2012/08/06(月) 01:24:24.83 ID:dMTEaYry0
コロンも事態の危険さに冷や汗をたらした。

「いいや、それはない。100%とまでは言わないけどさ」

しかし、そんなコロンの懸念を杏子が否定した。

「キュゥべえの奴は魔法少女や魔女が一般に知れ渡っちまうことを一番嫌ってるんだ。
そのためにあたしを乱馬にけしかけたぐらいだからな」

「なるほど」

良牙が少し安心したようにうなずく。

「……そういや、あと1人。あのほむらって奴は狙われないのか?」

らんまがふと気付いたように言った。

「多分、襲われないと思うわ。今のあの子は銃も撃てないし歩くこともままならない、いくら時間を止められたって
それじゃ戦力としては一般人と変わらない……下手すれば一般人以下よ。キュゥべえの邪魔にはならないわ。それに――」

マミは悲しげに眉を下げ、言葉にわずかにタメを作った。

「あの子の装備……拳銃は射程距離が短い上に命中精度が悪くて支援射撃に不向き、
爆弾や手榴弾も当然味方が近くに居る状況では使えないわ。
つまり、常に一人で戦うことを前提に武器を選んでいるのよ、あの子」

「一人で戦うことしか考えてない奴から情報が漏れる可能性は少ないってか……」

杏子がマミの言葉を付け足した。

ある意味マミや乱馬よりも『例外』であるほむらだが、そういう意味ではキュゥべえにとっての脅威ではないと言うことになる。

杏子は少し顔を引きつらせた。

乱馬を始末するためにキュゥべえが自分に声をかけたのもそんな事情があったのかも知れないと思ったからだ。

「ふむ、キュゥべえの立場からしてみれば邪魔にはならぬが生かしておく理由もないわけじゃの……
人質としてはまどかより使いやすいかもしれんぞ?」

コロンの指摘した可能性に、一同は表情をこわばらせた。

確かに殺すわけにはいかないまどかよりも、うっかり殺してもかまわない人物の方が人質にはいいだろう。

問題は、見滝原や風林館の面々と良好な関係とはいえないほむらに、人質としての価値があるかどうかだけだ。

「もしそうなった場合――」

「見捨てるわけにはいかないでしょう」

乱馬が何か言いかけたところでマミが割って入った。

「……一番の被害者がそう言ってるんじゃ仕方ないか」

良牙がうなずく。

「マミ、あんたちょっとあいつに同情してるだろ」

杏子はあきれたようにそう言って見せた。

***************

「――と言うわけで、オラがおヌシを守るために遣わされてきただ」

「邪魔よ。帰って」

暁美ほむらは即答した。

突如押しかけてきたオモシロ外国人は、分厚い眼鏡の奥にある目をぱちくりさせている。

「そう言われても、オラとて帰るわけにはいかん。分かってくれぬだか?」

「分からないわ」

ほむらとしても、自分が人質にとられるなんて事態はごめんだ。

しかしだからといって、このバカ面の中国人を家に入れていたくはなかった。

「何も悪いことはしないだ。そんなに邪険にしねえでくれ」

バカ面の中国人ことムースはあきれたようにそう言った。
651 :35話5 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2012/08/06(月) 01:26:19.08 ID:dMTEaYry0
「それにな、オラはおヌシが友達を守るために一人で戦い続けてきたと言うのは評価しとるだ」

ムースの言葉に、ほむらの耳がぴくりと動いた。

しかし、ほむらは今まであらゆる期待が裏切られてきたのだ。

その記憶がほむらの心を閉ざす。

(いえ、どうせその場限りの都合あわせよ)

そうして冷ややかな目線を向けるほむらにまるで気付かないように、ムースは語り始めた。

「オラもな、物心ついた時からひとりの幼馴染みを慕い続け、粉骨砕身尽くしてきただ」

(自分語りウザい)

ほむらの視線に冷たさが増す。

「それでも思いはなかなか通じん。『気持ち悪い』だとか『趣味がきもい』だとか言われ続けてじゃな、
中国の山奥からその子を追って、日本まで来たのに邪魔者扱いじゃ」

ムースは話しながらいろいろ思い出して感情的になったのか、眼鏡の下から透明の液体が流れ出ていた。

(自分語りに自分で酔ってる!? 真剣にウザい。ってか国境越えて追ってくるとか普通に怖いでしょ!)

そこまで思って、ほむらはふと気付いた。

国境越えて追ってくるよりも、時空を超えて追ってきたほうが相手からみたら怖いだろうということに。

ムースのように幼馴染ならまだしも、記憶に無い相手ならなおさらだ。

「思えばあの時も――」

ムースの自分語りは勢いを増した。

本当にうっとおしければ黙らせることもできたかもしれない。

しかし、ほむらは「うざい」とは感じながらもなんとなく止めようとは思わなかった。

(特にすることもないしね……そうよ、それだけよ)

ほむらはそんなことを考えながら、できるだけ聞き流そうとつとめた。

 ピーン ポーン

そんな折、ほむらの住居のドアチャイムが鳴った。

「むっ!? 誰じゃ?」

「……」

ほむらが緩慢な動作で立ち上がってインターホンに出ようとするのをムースが制止した。

「待て、キュゥべえという奴かも知れねぇだ」

「私の護衛だと言うのなら、窓から確認してくれるかしら?」

「うむ」

ムースはほむらのなんとなく嫌味な言い回しに嫌な顔ひとつせず窓から見える風景を確認した。

シャンプーからの冷たい扱いに慣れているムースにとってはこんなのはむしろやさしい対応なのだ。

「おお、なんと、鹿目まどかと美樹さやかではないだか!」

驚いた表情を見せるムースを、ほむらは怪訝な顔で見ながら一応説明をした。

「鹿目まどかは保健委員だからいつもこの時間に学校のノートとか連絡事項とか伝えてくれるのよ」

そして、美樹さやかがついてきているのはまどかの護衛のためだろう。

ほむらは今朝の段階ですでに、巴マミからのテレパシーでキュゥべえが早乙女らんまの体を使い暴れたことと、
その対策としてさやかがまどかの護衛につくように指示を出したことを聞いていた。

「なんと!」

なぜか大げさに驚くムースをよそに、ほむらはのそのそと歩いてインターホンに出る。

フラフラした歩きを見かねたのか、ムースは途中でほむらの体を持って支えようとしたが、
ほむらは『触らないで!』とテレパシーで一喝した。
652 :35話6 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2012/08/06(月) 01:28:43.58 ID:dMTEaYry0
『あの……今日のノートなんだけど……』

受話器越しにまどかの声が響く。

「ええ、そこに置いて」

二人のやり取りはそれだけだった。

事務的な態度を通り越した、異常に簡素な会話。

お互い、それ以上どう踏み込んでいいのか分からないのだ。

部屋の中ではムースが、外ではさやかがそれぞれキョトンとする中、本当にそれだけのやり取りでまどかは帰っていった。

そして、ほむらは自分で郵便受けまで歩くのも苦痛なので、少し嫌な予感がしたがムースに取りに行かせた。

「おお、しっかりノートをとってるだな。 こんなにしてくれるとはなんていい子だ」

ほむらの嫌な予感は的中した。

ムースはしっかりと他人のノートの中身を閲覧している。

「……っ!? あなたはどういう感覚をしているの? 人の物を勝手に見るなんて」

「ん? おお、そうかよくなかっただか」

ムースは言われてはじめてそれが良くないことだと気が付いたような反応を示した。

ド田舎で育ったせいなのか、お国柄なのか、あるいは個人的な性格か、プライバシーと言う概念が無いらしい。

「しかし、オラと同じで報われてないのかと思えば、毎日ちゃんとしたノートを届けに来てくれるなど
小躍りして喜んでもいいぐらいではないだか?」

「あなたが勝手に勘違いしていただけでしょうが。大きなお世話よ」

そんな会話をしながらもムースはノートを差し出し、ほむらはそれを受け取ろうとする。

その時、ほむらがつまづいた。

ノートを持っていたために、ムースはほむらを手で支えることができず、ほむらはそのままムースの胸元に倒れこんだ。

貧相な体格の少女が一人倒れこんできたぐらいで、頑強なムースの肉体は微塵も揺らぎはしない。

気が付けば、ほむらはムースの胸板にもたれかかるような体勢になり、そのまま数秒が経過した。

「お、おい、おヌシ……」

(ハッ!)

とっさに、ほとんど本能的な動作でほむらは激しく叩くように、ムースを跳ね飛ばそうとした。

もちろん、身体強化をしていないほむらの体でムースをどうにかできるはずもない。

ほむらはむしろ、自分の体を跳ね飛ばしてムースから離れるようなかっこうになった。

そしてほむらはハァハァと肩で息をする。

さらに異様なまでに汗をかき、その瞳は瞳孔が開ききっていた。

(普通ではない)

ムースは思った。

一瞬勘違いしかけたが、これは若者特有の柑橘類のような酸い甘い、青春的な反応ではない。

ほむらの表情は生命の危機、いやそれ以上の存在そのものの危機に瀕しているような、鬼気迫ったものだ。

「……一応聞いていはいたが、本当じゃっただか」

ほむらは何も答えず、少しずつ呼吸を整える。

「おヌシは昔、病院で……その、医者に……」

「……誰から?」

絶え絶えの荒い呼吸で撃てもしないだろう銃を構えてほむらは問い詰める。

「おいおい、おヌシ、今そんなもの使ったら――」

「身体強化すれば一発ぐらい撃てるわ」
653 :35話7 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2012/08/06(月) 01:30:27.43 ID:dMTEaYry0
ムースは、「ふぅー」と長いため息を漏らした。

「良牙から聞いただ。そういう事情があるらしいから気を使ってやれとな……
良牙の奴がどこから聞いたかは知らん。まあ水を被れば小豚になる奴じゃ。
人がいるとは思わずに誰かが漏らしたのじゃろう」

ムースは両手を軽く上げ、抑えるように動かしながら答える。

そのジェスチャーは『降参』ではなく『ドードー、落ち着け』の意味だ。

しかし、ほむらは銃を下ろさない。

「帰って」

低い声で、ほむらは言った。

ムースは「やれやれまいった」という顔をする。

「分かった。この部屋からは出ていくだ。じゃが、オラはおヌシを守らねば1週間給料無しにされてしまうだ。
じゃから、屋根の上でキュゥべえの奴が来んか見晴らせてもらうだ……それでどうじゃ?」

「……ここから出て行くならどうでもいいわ」

ほむらも理性では今、キュゥべえに狙われたらまずいことは分かっている。

なのでしぶしぶそう答えた。

「決まりじゃな」

そう言ってムースは背を向けて玄関に向かった。

「ところで、オラは暗器使いじゃが――」

ふいに、背中を向けたままムースが語りかけた。

「――暗器使いの専門は暗殺じゃ。流石に今の時代に本当の殺しまではせんが、
半殺しにしたい奴がいればいつでも請け負うだ」

「!?」

全く予想外の言葉に、ほむらは耳を疑った。

実の親さえ戦う意思を持たなかったのに、ウソでも赤の他人からこんな言葉を聞くとは思っていなかったのだ。

「馬鹿馬鹿しい……そいつはもうとっくに3、4回殺してるわよ、自分の手でね」

ほむらは静かに、銃を下ろした。

そうしてムースが出て行った直後、スーパーセルの影響で見滝原は豪雨と暴風に見舞われた。
654 : ◆awWwWwwWGE :2012/08/06(月) 01:30:59.29 ID:dMTEaYry0
以上、35話でした
655 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/06(月) 01:49:23.48 ID:btZ9bQIW0
乙です
ほむら…まさか、そこまでやっていたとは
杏子以上に荒んでいるなあ
656 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/08/06(月) 03:41:56.06 ID:FUXlJSyOo
おつ、限りないループの中で3、4回……すぐに時間の無駄だと思うようになったのか
しかし体は乗っ取られる前にとっとと灰にしておくべきだったな
コロンばあちゃんクラスが出ないとまともに戦えないとか……
いうなれば格ゲーで魔改造した強キャラを廃人が使ってるような状態?
657 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/06(月) 05:18:45.44 ID:J7NZtrw1o

そういやそんな設定もあったっけ…
脳内スルーした結果首尾良く忘れてたww
今の段階では過剰反応気味だとは思うが
安直なカップリングはよく考えるべき
658 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/06(月) 07:30:43.79 ID:2MnAlQrDO
ムースが頑強な肉体?って思ったけど、そういえばあいつ地蔵とデートするうちに鍛えられたんだっけ
659 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/06(月) 12:17:47.42 ID:HmRwOOLDO
強化無しほむらと比べたら健康な男子はみんな頑強じゃね?
660 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/06(月) 18:38:01.50 ID:WxhUrGSIO
ムースの仕込んでる暗器の量を考えると絶対脱いだら凄い
661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/06(月) 21:51:56.35 ID:t3ncy5Nw0
直後に暴風と豪雨に見舞われたムース哀れ
662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/08/06(月) 23:57:53.32 ID:PvMnyP6z0
このほむらを見てるとベルセルクのガッツを思い出すな
663 : ◆awWwWwwWGE :2012/08/12(日) 16:30:15.83 ID:nSWAWvDY0
お盆休みはうきうきヲッチン

この半端な時間に36話アップします
664 :36話1 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:副題『わくわく動物ランド』]:2012/08/12(日) 16:32:30.37 ID:nSWAWvDY0
『いざと言うときは鹿目さんを抱えて全力で逃げて。美樹さんのなら、逃げることはできるはずよ』

朝一番にテレパシーで巴マミからの警告を受け、あわてて起床したさやかだったが、
その後は思いのほかいつもと変わらない日々だった。

いつものように学校へ行き、退屈な授業を受けながら空を眺め、帰りはまどかに付き合ってほむらの家まで行き……

あまりに日常的な流れについつい緊張感をなくしてしまいそうだった。

「まー、でもマミさんがああ言ってるんだからちゃんとしなきゃいけないよね?」

さやかがまどかにそうたずねると、まどかはこくりとうなずいた。

「それなら、さやかちゃん、今日うちに来てくれないかな?」

「うん」

キュゥべえが襲撃をかけてくるのは昼間とは限らないから、夜も護衛に付くべきだろう。

その点さやかなら、鹿目宅に上がりこんでも、いっそのことお泊りしても大丈夫だ。

さやかは快諾した。

「ティヒヒ、それじゃ今日はパジャマパーティーだね」

「いや、もうちょっと緊張感もとうよ」

そうつっこみつつも、実はさやかも楽しみだったりした。

***************

「わっ、こら、エイミーやめて!」

顔に張り付く黒い子猫を、さやかは必死で振り払おうとした。

しかし、傷つけないように力加減をしながらひっぺがすというのは魔法少女の力をもってしても難しい。

結果、さやかの顔面は猫に蹂躙されることとなった。

「エイミーってばそこを気に入っちゃったみたいだよ〜」

まどかはティヒヒと笑う。

「えー、ちょっと、冗談じゃないってば!!」

いかにも女の子らしいまどかの部屋で、二人の夜は笑顔のうちに過ぎていく。

「ぜぇぜぇ、はぁはぁ……しっかし、短期間でよく飼いならしたもんだね」

ようやく猫のエイミーを引き剥がしたさやかが、息を切らしながら言った。

「うんうん、抱いても抵抗しないし、粗相もしなくなったし、最近はお風呂も嫌がらないよ」

甘いミルクティーを片手に、もう片手に猫を抱いてまどかは満足げに微笑んだ。

「へぇー、大したもんだ。まどかが慣らしたの?」

さやかも息を落ち着かせるためにお茶を飲もうと、魔法瓶からティーパックの入ったカップにお湯を注ぐ。

「家にいる間は私がやってるけど、たぶんパパがやってくれた方が大きいかな」

「前から思ってたけどおじさん、ただ者じゃないよね」

雑談しながらさやかは紅茶を一口飲んで、クッキーを口にした。

さくっとした歯ごたえが心地よく、しかもやわらかく舌にとろけていく。

甘さもほどよく上品で、ショコラで描いたシンプルな幾何学模様がセンスを感じさせる。

前に仁美の家で食べさせてもらった高級クッキーにも勝るとも劣らない味と完成度だろう。

これが実はまどかのパパこと鹿目知久の手作りクッキーだというから驚きだ。

まどかのママ・鹿目詢子が知久に会社をやめさせて専業主夫にさせたのが、さやかにも分かる気がした。

「えー、パパはパパだよ」

まどかはあまり意味の通らない返事をする。

それでもさやかには、まどかが何を言いたいか大体分かった。
665 :36話2 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/08/12(日) 16:33:42.13 ID:nSWAWvDY0
だからまどかは、「パパは見たとおりのそんな凄い人じゃないよ」と言いたかったのだ。

「いや、なんかそう凄みを感じさせないのがかえって恐ろしいっていうか……」

単なる過大評価なのかも知れないが、あまり凄みを見せびらかさない人の方が底が知れないように感じられて、
凄い人のように思えてしまうものである。

そんな会話をしていたとき、ふとさやかは部屋の外に人の気配を感じた。

「ん? おじさん?」

さやかは知久かと思って声をかける。

しかし返事は無かった。

「パパは足音消したりしないよー」

まどかが知久に代わって答えた。

「じゃあ、誰?」

さやかが感覚を鋭敏に澄ませると、ただの人間ではない何かかが居るように思えた。

もちろん、知久のオーラではないだろう。

「……まどか、下がってて」

さやかはどこからともなく剣を抜いた。

『やれやれ、海千拳は難しいね。気配という概念が曖昧すぎてボクには使いづらいよ』

まどかとさやかにとって聞きなれたテレパシーを飛ばして、赤髪の少女が窓を開けてきた。

力づくで窓を開けたため、鍵の部分がひしゃげて壊れる。

しょうして部屋の中に入った少女は全身濡れ鼠だった。

豪雨による雨露が、その少女の漆黒のレオタード衣装を黒光りさせている。

「乱馬さんもずいぶん趣味が変わったね……なんつって」

赤髪の少女は顔こそ風林館の魔法少女・早乙女乱馬そのものだったが、表情、言葉遣い、衣服、なにもかもが違う。

その様子を見てさやかは今朝マミからテレパシーで聞いたことは本当だったと確信した。

「さやかちゃん……」

不安げに見つめてくるまどかに、さやかは微笑を返した。

そして、らんまの体に入ったキュゥべえが動き出すより早く叫ぶ。

「まどか、逃げて!」

「逃がさないよ」

キュゥべえは一直線にまどかに向かった。

さやかはその間に強引に、タックルで割って入った。

きわどく、後ろに飛び退いてキュゥべえはそれをかわす。

「そっか、キミは単純な速度ならトップクラスの魔法少女だったね。でも――」

キュゥべえは標的をさやかに変えた。

「捕まえてしまえばスピードなんて関係ないんだよ」

一閃したさやかの太刀を、赤髪の少女は華麗に宙を舞ってかわし、そのまま着地と同時に左手でさやかの首根っこを掴み、
一気に床まで押し倒した。

「さて、ようやく一人目だ。始末させてもらうよ」

そう言って、キュゥべえは空いた右手を手刀の構えにする。

が、そこに邪魔が入った。

「エイミー!」

まどかが黒猫をキュゥべえとさやかの方へ投げ飛ばしたのだ。

「猫?」
666 :36話3 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/08/12(日) 16:34:42.72 ID:nSWAWvDY0
「まどか、逃げてって言ったのに?」

キュゥべえとさやかはそれぞれ別の理由で首をかしげる。

「ニャーーーッ!」

そんな中、黒猫のエイミーはキュゥべえの入ったらんまの頭に張り付いた。

「ね……ねこぉ!?」

らんまの肉体は突然、大声で叫んだ。

そして黒猫を振り落とそうと飛び回った。

「……助かった?」

さやかはきょとんとして暴れまわるらんまの中のキュゥべえを眺めた。

そうしてキュゥべえがようやく猫を引き剥がしたと思った直後、頭上から熱湯がぶちまけられた。

まどかが魔法瓶を開け、その中の湯を被せたのだ。

「なっ……!」

思わずキュゥべえから素の感嘆詞がもれた。

(猫に……熱湯だって!? ダメだ、まどかはマズい!)

熱湯でただれる肌を治しもせず、キュゥべえはまた窓から飛んで逃げだした。

「あ……逃げた」

「へ? ……まどかが自力で撃退しちゃった?」

まどかがキュゥべえを撃退した。

そして、護衛のはずの自分がピンチを助けられてしまった。

さやかは信じられないものを見た気分だった。

「でも、どうして逃げたのかな?」

さやかは恐る恐るまどかにたずねる。

「前にキュゥべえが自分で言ってたの。『ボクにお湯をかけないでくれ』って。
だから、ひょっとしてキュゥべえはお湯が苦手なんじゃないかなって」

まどかはいい笑顔でそう答える。

「……うーん、いや、それはちょっと違うんじゃないかな?」

まさかここでボケをかまされると思っていなかったさやかはもう笑っていいのかあきれていいのかも分からなかった。

以前キュゥべえがお湯をかけないでくれと言ったのは、まどかがエイミーを変身させようとしてお湯をかけるという
暴挙に出たせいであって、キュゥべえの弱点どうこうという話ではないはずだ。

しかし、実際にキュゥべえが逃げたいう現象に、さやかは頭を抱えた。

***************

地球上の全ての生物はタンパク質からできている。

むしろタンパク質こそが地球生物を定義する構造だと言っても過言ではないだろう。

そのタンパク質は比較的熱に弱い。

だから、全ての地球上生物に対して、熱は有効な攻撃方法である。

また、熱を伝えるのに水は有効な媒体である。

水は固体に付着しわずかな隙間にも浸透し、空気と比べればかなり熱伝導率がよい。

熱湯攻撃、それは非力な人間が強い力を持った相手にダメージを与えるには極めて効率的な手段だと言える。

そして、猫。

キュゥべえもらんまが猫を苦手としていることは知っていたが、ここまでとは想像もしていなかった。

なにしろワケの分からない信号が体中を駆け巡り、ほとんど完全に制御不能状態におちいってしまったのだ。

いったいどうすればこれほど猫の恐怖を体に染み込ませることができるのか、理解できない。
667 :36話4 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/08/12(日) 16:35:41.36 ID:nSWAWvDY0
しかし、本当に警戒すべきは熱湯でも猫でもなかった。

(やはり、鹿目まどかはただ者ではない)

この体の持ち主である早乙女乱馬ですら手も足も出なかったのに、まどかは次々と有効な攻撃を繰り出してきたのだ。

魔法も使えず武術もできないにも関わらず。

とてもではないが一筋縄ではいかない人物であることは確かだろう。

(異常なまでの因果量もただの偶然ではないのかもしれない)

そのようにすら、キュゥべえには感じられた。

まどかに限らず歴史上まれに、市井に生まれながら莫大な因果量を抱える人間がいた。

キュゥべえの知る限りそういった人間の多くは画期的な発明をしたり英雄と呼ばれるほどの活躍をしたり
時代を変えた偉人として人類史にその名を残しているのだ。

今はまだ想像もつかないが、鹿目まどかもそういう類の人間なのかもしれない。

(過大評価? いや、用心するにこしたことはない)

おそらく、逃げなければまどかはさらに三の手四の手を打ってきただろう。

人質にするには危険性が高い。やはり、人質にするにはもうちょっと弱い相手を選ぶべきだ。

キュゥべえはそう結論付けた。

「標的は……暁美ほむらだ」

焼けただれた皮膚の回復が終わると、キュゥべえは嵐の舞う闇の中を飛んでいった。

***************

『屋根の上に居ても会話できるとは、テレパシーとはすごいだな!』

ムースはやや興奮気味に語った。

『魔力に余裕が無いの。無駄話はしないで頂戴』

ほむらは冷淡な返事をする。

『むぅ……シャンプー以上に素っ気無いだな』

残念そうに、ムースはつぶやいた。

そうして真面目に見張りを続ける眼鏡の奥に、ムースは赤い頭の人間が屋根の上を飛び移っていくのを見つけた。

しかも、それはこちらに向かっている。

『――来ただ、逃げるぞ!』

『なんですって!?』

ほむらは言うことを聞かない体に鞭打って、急いで外に出た。

早乙女乱馬の肉体を使うキュゥべえから、自分の足で逃げられるとは思えない。

背に腹は変えられない、恥ずかしいが最悪おぶってもらうしかないか……

ほむらはそんなことを考えながら屋根の上を見上げた。

「ガァー」

間の抜けた、アヒルの鳴き声がする。

「があ?」

なぜここにアヒルが居るのか、わけが分からずほむらは頭をひねった。

アヒルは思いのほか俊敏な動作で屋根から降りて、ほむらの足元にやってきた。

奇妙なことにそのアヒルは牛乳瓶の底のような分厚く丸いメガネをかけている。

『よし、今ならまだ間に合う、急いで逃げるだ』

なぜか、アヒルからテレパシーが聞こえてくる。

「あ……ああ……もしかして……」
668 :36話5 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/08/12(日) 16:37:24.39 ID:nSWAWvDY0
ほむらの瞳に絶望の色が浮かんだ。

もし考えが当たっているならば、おそらく最悪のシナリオと言っていいだろう。

『むむ、そういえば言っておらんかったな。オラは――』

「変身体質だっていうワケ!?」

アヒルが言うよりも早く、ほむらの絶叫がこだました。

「ゴフッ」

体力に見合わない大声を出したせいで、ほむらは咳き込んでかがんだ。

「今の私とこのぶっさいくなアヒルでどうしろって言うのよ」

あまりにも事態は絶望的である。

こんなに無力な組み合わせで果たしてどうすれば逃げることなどできるのか。

『まあ、なんじゃ、とにかく逃げるだ』

アヒル状態のムースはほむらの手を引っ張るが、アヒルの翼ではか弱い少女一人動かすことができなかった。

そうこうしているうちに、赤髪の少女がもはや目の前までやってきた。

「やあ、暁美ほむら。いつからそんなアヒルを飼ってたんだい?」

その声にほむらは相手を見上げる。

声と顔こそは早乙女乱馬そのものだが、澄ましきって人間味の見えない表情と、
その独特の口調がいやがおうにもある生き物を思わせた。

「……インキュベーターね」

ほむらはらんまの体に入ったキュゥべえをにらみつけるが、そうしたところで抵抗の術があるわけではない。

警戒しながらじりじりと寄ってくるキュゥべえに対して、雨に濡れながらただ待つしかできなかった。

「すぐには殺しはしないよ。キミには見滝原と風林館の魔法少女たちを一掃するためのエサになってもらうからね」

キュゥべえは足元にほむらを見下ろしながら言った。

「人質にする気……私なんかが使えるかしらね?」

ほむらは自嘲気味に微笑みながら答える。

「使えなければ、キミから先に消えてもらうだけさ。キミも必要以上に知りすぎた魔法少女の一人だからね」

(なるほど分かりやすいわね)

ほむらは思った。

自分が人質として使えなければすぐ殺し、使えれば仕事が終わってから殺す。

キュゥべえにとってはそれだけなのだ。どちらにしても殺されることには変わりは無い。

(いっそのこと早めに死んだ方がまどかを巻き込まずに済むかしら)

このままキュゥべえに利用されるのであれば、その方がマシだ。

ほむらにはそのようにすら思えた。

そうして諦めかけたその時、突然大きな爆音が鳴り響いた。

ほむらもキュゥべえも慌てて耳をふさぐ。

『ふはは、オラの癇癪玉はどうじゃあ!?』

ムースはそう叫ぶと、再びほむらの手を引っ張った。

ほむらは呆気にとられたまま、引かれる方に足を動かす。

そして、十分に距離の開いたところでムースはさらに、翼の中から小さい玉を投げつけた。

それはキュゥべえの足元で破裂すると、もくもくと煙を上げた。

「羽に……隠してたの!?」

『言ったじゃろ、オラは暗器使いじゃ。さあ、逃げるだ!』
669 :36話6 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/08/12(日) 16:39:26.38 ID:nSWAWvDY0
ムースは固いくちばしをゆがめて無理に笑顔を作ってみせる。

(暗器……アヒルのように非力でも使える武器!?)

ほむらの目の色が変わった。

そうして逃げ出したが、所詮は病弱児の足だ。

煙幕が晴れる頃になってもまだキュゥべえの視界から逃げ切れていなかった。

キュゥべえはほむらの姿を見つけると、壁から屋根の上に上り、前へ回り込んだ。

ほむらは慌てて方向転換しようとするが、体がその急激な負担に耐えられず、足をもつれさせて倒れる。

そこに遠慮なく迫ってくるキュゥべえに、ムースは棒状の刃物を飛ばした。

らんまの体にとってその程度の攻撃は意味を成さず、キュゥべえは人とすれ違うような自然な動作でそれをかわした。

「中国暗器か……。キミも、あの老婆の仲間かい?」

「ガー!」

キュゥべえの問いに、ムースはわざとらしくアヒルの鳴き声で鳴いて答えなかった。

「まさか、暁美ほむらのためにも仲間を派遣するとは思わなかったなぁ」

キュゥべえはまるでらんまのように、頭をぽりぽりかいて見せた。

「でも、大した相手じゃなくてよかったよ」

そう言って、一気にキュゥべえは間合いを詰める。

ムースはまたも発煙玉で視界をふさいだ。

しかし、今度は自分やほむらももろともだ。

「ゴホッ、ゴホッ」

煙にほむらがむせる。

するとすぐさま、ほむらはキュゥべえにつかまれた。

「しまっ――」

「ぐっ!」

ほむらが「しまった」と言い切るよりも早く、なぜかキュゥべえが苦痛の声を上げた。

『ふっ、そっちへ行くと思っただ』

ムースが言った。

ムースはほむらが咳き込むのを見越して、それにおびき寄せられるキュゥべえを狙い、
視覚の効かない煙の中で投擲器を当てたのだ。

「そっちが、先かい!?」

キュゥべえは素早く振り返り、投擲器の飛んできた方に向かった。

しかし、煙の中では容易に小動物を捕まえられない。

そうやってキュゥべえとムースがあらそっている間に、ほむらは遮二無二逃げた。

そこに、すぐさまムースが合流する。

「え……インキュベーターは?」

『アヒルの鳴き声の笑い袋を置いといただ』

「――それじゃ、すぐばれる!」

ほむらが言うまでも無く、煙が晴れるとすぐさま猛烈な勢いでキュゥべえは追ってきた。

「け、煙玉は!?」

『……もう無いだ』

らんまの体から、二人が逃げ切れるはずもなく、あっという間に追いつかれる。

キュゥべえは追いついても足を止めず、そのままの勢いで攻撃しようと拳を繰り出してきた。
670 :36話7 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/08/12(日) 16:40:34.19 ID:nSWAWvDY0
(もうだめっ!)

振り返ったほむらの眼前に、拳が迫る。

そして、目を閉じようとしたその瞬間、青い閃光がらんまの体を吹き飛ばした。

「……あ」

呆気にとられるほむらの目の前にマントをつけた、青い衣装の魔法少女がひらりと舞い降りる。

「感謝しろよー、ほむら」

そんな憎まれ口を叩きながら、青い魔法少女は剣を構えた。

『おう、さやか、助かっただ。おヌシも無事じゃっただか?』

ほむらが何か言う前にムースが答えた。

「うん、あたしは平気……って言いたいトコだけど、まどかが居なきゃ危なかったかなぁ」

「まどかが?」

ほむらはさやかの言う事が良くわからなかった。

魔法も腕力もないまどかが一体どうやって魔法少女さやかのピンチを助けられるというのか。

「あ、そうそう。ほむら、あんたはまどかには特に感謝しなきゃダメだよ。
あたしはあんたなんか見捨てるべきだって言ったんだけど、まどかがどうしてもってね」

さやかがそう言うのと同時に、キュゥべえの後ろ、遠くから一人の少女が走ってきた。

「さやかちゃーん、置いてかないでよー!」

女の子らしい非効率な走り方で、精一杯かけてくるその少女は、まぎれもなく鹿目まどかだった。

「まどか、こんなところに来ては……」

「いや、あれは大丈夫だよ」

さやかは落ち着いてそう言った。

その言葉どおり、キュゥべえは自らまどかから遠ざかる。

「……猫を連れてきたワケだね」

まどかの腕には黒猫が抱かれていた。

(仕方がない……まどかが邪魔するヒマも無いほど素早くしなければ)

キュゥべえはそう判断すると、わき目も振らずにさやかに向かった。

現状この中で、まともな戦力になりうるのはさやかだけだ。

だからまずはそこを潰そうと考えたのだ。

さやかは、剣を振りかぶって迎撃する。

しかし、らんまの格闘能力を手に入れたキュゥべえにはあっさりとかわされた。

「さやか、いくらキミの攻撃が素早くても見て考えて行動に移すまでにロスがある。
ただ単純に速いだけなんていうのはレベルの低い相手にしか通じないよ」

そう言って、キュゥべえはさやかに攻撃を加えるべく、拳を撃ち落す。

が、その拳はソウルジェムを砕く前に、棒状の刃物に貫かれた。

「アヒル?」

キュゥべえはそれが投げられた方をとっさに振り向いた。

そこではアヒルが投擲のフォームのままメガネを光らせていた。

「一人だったらたしかにそうかもね!」

キュゥべえがアヒルのムースに気をとられている隙に、さやかは思い切り剣を振り落とす。

対応が間に合わず、らんまの体は右肩から胸元までざっくりと切り裂かれた。

魔法少女でも、これならただではすまない大ダメージである。
671 :36話8 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/08/12(日) 16:41:54.59 ID:nSWAWvDY0
「……やった!?」

まどかがつぶやく。

だがキュゥべえは倒れることもふらつくことすらなく、左手で思い切りさやかを殴り飛ばした。

「まったく、油断ならないなぁ」

肩を貫通していたはずなのに、キュゥべえの肩の傷口はみるみる間にふさいでいった。

『な……なんじゃありゃ?』

「うそ……」

ムースとさやかは目を疑う。

「早乙女乱馬の願いは治療系だ。らんま自身の魔力が低いから分かりにくかったけど
回復力に関しては魔法少女らんまはさやかに見劣りしないよ」

キュゥべえはわざわざ律儀に説明を加える。

「そして、ソウルジェムが無いから急所が無い、らんまの魔力で足りない分はボクが今まで溜めてきた
感情エネルギーで補填するからほぼ無尽蔵だ。……これがどういうことか、分かるかい?」

その言葉に、さやかは冷や汗をかいた。

「クワッ?」

「えーと?」

一方、分かっていないらしいムースとまどかは素で首をかしげる。

「急所も魔力切れもない超回復って? そりゃたしかにシャレなんないけどさ……
逃げる分には関係ないでしょ!」

そう言って、さやかは素早くアヒルのムースを抱えて走り出した。

途中でまどかの手を引っ張る。

戦闘と会話の隙にすでにほむらは逃げている。

ならばこれ以上、勝てない敵を相手にする必要は無いのだ。

「さやかちゃん……」

走りながら、まどかが不安げにさやかを見つめる。

「大丈夫、逃げるだけなら最速のあたしに任せて!」

そう言ってさやかはアヒルを肩に移し、猫を抱きかかえるまどかをお姫様だっこした。

「なるほど……三十六計逃げるに如かずか」

キュゥべえは手に刺さった小型の刃物を引き抜き、思い切りさやかの方に投げつける。

普通なら、投げてもさやかのスピードには追いつかないだろう。

しかし、一人と二匹をかついで走るさやかはかなりスピードが落ちてきた。

ザックリと背中に刃物が突き刺さり、さやかは勢い倒れこむ。

それと同時に抱きかかえられていたまどかも倒れ、とっさに飛び退いたムースとエイミーだけが無事だった。

「こういう小刀類は使い勝手が良い分、敵にも利用されやすい。気をつけたほうがいいよ」

キュゥべえは逃がさないように走って素早く近づいてきた。

だが猫がいるので至近距離まで来ていったん動きを止めた。

その隙を突いて、さやかは振り向き様に剣を一閃させる。

それは予想の範疇だったらしく、あっさりと避けられて、さやかは首根っこをつかまれた。

さやかを助けようと、ムースがまたも刃物を飛ばす。

が、それもかわされて、ムースはキュゥべえに踏んづけられた。

「どうやら一番初めに死にたいのはキミらしいね」

そう言ってキュゥべえが眺めるさやかの魔法少女衣装からはソウルジェムらしきものの姿が消えていた。
672 :36話9 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/08/12(日) 16:43:03.35 ID:nSWAWvDY0
服の裏側に隠しているのだ。

キュゥべえはさやかの腹部に一発パンチを浴びせて動きをとめると、その体をベタベタまさぐってソウルジェムを探した。

「エイミー……」

「待った!」

まどかはエイミーをけしかけようとするが、キュゥべえはそれを制止した。

「キミが猫を投げてくるならボクはこのアヒルの首を踏み潰すよ」

「えっ!」

まどかは思わず動きを止めた。

「さやかはちょっとやそっとの攻撃じゃ死なないけど、ただの変身体質のアヒルならそれで死ぬよね?」

そう言われてはまどかに抵抗の術は無かった。

しかし、このまま見ていてもさやかとムースが殺されるだけだ。

(この状態でみんなが助かる方法は……)

まどかは考えた。

そうしているうちにもキュゥべえはさやかのソウルジェムを探す。

「キュゥべえ!」

まどかは、叫んだ。

その声は緊張感はあるが、決しておびえてはおらず、むしろ強い意志を感じさせた。

「キュゥべえは魔法少女や魔女のことについて秘密がばれちゃまずいからこんなことしてるんだよね?」

「そうだけど、それがどうかしたのかい?」

突然の質問に、キュゥべえは首をかしげながら聞き返した。

「それなら、みんなが地方とか外国とか、うんと遠くまで逃げちゃわないように人質が必要だよね?」

「……正解だよ」

まどかが正確に自分の狙いを読んできたことに、キュゥべえは不思議そうに言った。

「だったら、私が人質になる!」

「え?」

意外な発案に、思わずキュゥべえは驚きの声を漏らす。

「ダメ……」

絶え絶えな息でさやかが振り返る。

そこにキュゥべえはもう一発パンチを浴びせて黙らせた。

「私が人質になるから、この場は引いて!」

「なるほど、この場でこの二人の命を奪わないことが条件ということだね」

キュゥべえはらんまの体であごを撫でた。

「そうだよ……もし私の言うこと聞かずにさやかちゃんでもムースさんでも死なせちゃったら、
みんなで遠くへ逃げて全国の魔法少女にキュゥべえのことバラしちゃうから!」

不利な条件と分かっていながら、まどかは強気に押した。

「……確かにそれは困るね」

少し間をおいて、キュゥべえは考える。そしてやがてこくりとうなずいた。

「いいだろう、その条件を飲むよ。ただし、まどかは今すぐボクについてきてもらう」

「ガーッ、ガーッ!」

「ま、まどか……」

ムースとさやかは、話がまとまりかけていることに抵抗の意思を示すが、
騒いでみてもどうすることもできなかった。
673 :36話10 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/08/12(日) 16:44:23.07 ID:nSWAWvDY0
「分かった。その代わり、エイミーも一緒に連れてくよ。小説や映画でよくあるもの。
犯人を倒したと思ったら人質はとっくに殺されてたって。そうならないための保険」

そう言ってまどかはギュッとエイミーを抱きしめる。

「いいよ。それじゃ決まりだ」

キュゥべえはうなずき、さやかを放り投げ、ムースを蹴り飛ばして解放した。

そして、エイミーの視線を恐れながらまどかの体にベタベタ触れる。

「ちょっ……あっ、キュゥべえ?」

まどかは思わず恥じらいだ。

しかし、キュゥべえはいたって事務的に答えた。

「ボディーチェック」

思いのほかまどかを警戒するキュゥべえを、さやかとムースは不思議そうに見つめた。
674 : ◆awWwWwwWGE :2012/08/12(日) 16:45:07.29 ID:nSWAWvDY0
以上、36話でした
675 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/08/13(月) 00:38:47.78 ID:tJV+Zhgvo
おつ
乱馬の猫恐怖症って精神だけじゃなく抜け殻の肉体にまで刻まれたものなのか、凄まじいなww
676 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/08/13(月) 00:52:27.20 ID:8FVIS5IDO


良牙の方向音痴もそのレベルだったなw
677 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/15(水) 03:24:16.45 ID:HfM4PFDMo
ボディーチェックわろた
678 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/29(水) 22:49:16.85 ID:bwD+P3+A0
UP主どうした?投下遅くね?
679 : ◆awWwWwwWGE :2012/09/02(日) 12:18:59.61 ID:iAbWtylJ0
申し訳ありません、私的な事情により投下が遅れてしまいました

37話投下します
680 :37話1 ◆awWwWwwWGE [sage;saga;副題「湯煙淫獣殺人事件」]:2012/09/02(日) 12:21:12.16 ID:iAbWtylJ0
「は? 温泉?」

美樹さやかは耳を疑った。

いや、さやかだけではない。

この場に居る全員が、なぜその単語が今ここで出てきたのかいぶかしがっている。

『そうだよ、温泉だよー』

受話器越しに聞こえる鹿目まどかの声は、確かに温泉という言葉を発していた。

「一体、どういう状況だ?」

良牙は大きく声を出して電話での会話に割って入った。

『えーと、平日だし、天気も悪いから他にお客さんはほとんどいません。
ひろいお風呂がほとんど貸しきり状態!』

(いや、そういうこと聞いてるわけじゃねーし)

それは、テレパシーなどなくても、その場に居る全員が分かり合えた瞬間だった。

「ふむ、さきにこちらの状況を説明しよう」

そう言って、コロンはさやかから携帯電話を受け取った。

「おヌシが捕まったということで、いまみんなが猫飯店に集まっておる。
おヌシの身が無事なことは分かったからみなホッとしておるが、一体キュゥべえとやらは
そんなところに行ってどうする気なのじゃ?」

『ええと、それなんですけど……あ、ちょっと待って、お姉ちゃん――』

受話器の向こうから保留音が流れてきた。

まどかがボタンを押したらしい。

「『お姉ちゃん』って、まどかちゃんにおねえさんが?」

「いません」

良牙の疑問にさやかが即答する。

「じゃあ、一体なんなんだよ?」

杏子の疑問に答えられる人間はいなかった。

「でも、温泉については心当たりがあるわ――」

そう言ってマミは切り出した。

「昔のことなんだけど、キュゥべえが私の部屋に来ていた時に、たまたまそこの温泉が新聞の折込チラシに載ってたの」

「ふむふむ、それで?」

乱馬が相槌をうつ。

「私が『今度休みにでも行ってみる?』って聞いたら『たまにはそういうのもいいんじゃないかな』って言ってたの。
だからきっと、行ってみたかったんじゃないのかしら?」

一同、目をきょとんとさせる。

マミの語ったあまりにも平和な過去と、ピントのずれた答えにみんな戦意をそがれるような気持ちだった。

「た、たぶんそれは無いんじゃないですか? キュゥべえは感情が無いって自分で言ってるぐらいですし」

さやかがやっとそう答えた。

『すいません、待たせちゃって!』

やがて、またまどかが受話器に出てきた。

「さっきの『お姉ちゃん』というのは?」

『ええと、旅館の人に怪しまれないためにそう呼ぶようにってキュゥべえが……』

コロンの問いにまどかが答える。

「なるほどな、女の俺の体だったら、髪の色も近いし姉妹に見えなくもないわけだ」

乱馬はあきれた様子でつぶやいた。
681 :37話2 ◆awWwWwwWGE [sage;saga]:2012/09/02(日) 12:22:43.67 ID:iAbWtylJ0
姉妹で温泉旅館だとか、事情を知らない人から見ればさぞかし仲むつまじく映るだろう。

「そうじゃったか。して、今キュゥべえはどうしておる?」

『フツーにお風呂入ってます』

その言葉に一同がまた首をひねったことは言うまでもない。

「と、とにかくじゃ、もう少し詳しく状況を聞こうかの」

コロンのその言葉でまどかは説明を始めた。

それによると、キュゥべえはまどかを連れて、普通にバスに乗って山中の温泉地に行ったということらしい。

また、まどかの両親に対しては、まどか本人とキュゥべえの共謀により身代金目的の誘拐ということにして、
絶対警察に連絡するなとしつこく忠告したらしい。

「親御さんがその言葉に従ってたら楽なんだけどな」

杏子の言葉に、

「そうね、おまわりさんが来て守らなきゃいけない人が増えるとやりにくいわ」

「ワシもやっかいごとはごめんじゃのう」

マミとコロンがそれぞれの意見をもらす。

「だが、温泉とは好都合だ。豚になってもすぐに元に戻れるぜ」

良牙が拳をもみながら言った。

水を被って変身する可能性が低いというのは良牙にとってありがたい状況だ。

「良牙さんは、乱馬さんやムースさんに比べると変身がきついよね」

さやかもうなずいた。変身して女になるだけの乱馬は普通に戦える。

ムースはアヒルになって戦力低下はするが、隠し武器が使える分、相手をかく乱するだけなら十分な戦力になる。

それに比べて良牙の変身は弱点として致命的過ぎる。

「して、バスがあるうちに決戦に来いと言うことじゃな」

コロンがつぶやくように言った。

キュゥべえは、今日中に全員来るようにと待ち合わせを指示したのだ。

「ああ、今のうちに対策を練っとかねーとな」

乱馬もうなずいた。

「ちょっと、疑問なんだけどさ――」

そこに杏子が口を挟む。

「キュゥべえはまとめて相手して勝てると思ってんのか?」

杏子の疑問は当然だった。

一人一人を見ていけば、まともな勝負になりそうなのはコロンぐらいだが、全員行くなら話は別だ。

マミと良牙の二人で一時的に戦闘不能に追い込んだし、さやかとムースでも一太刀浴びせたのだ。

4、5人いれば普通に勝ててしまうのではないかと思える。

「今のあいつはあたしと同等の回復をソウルジェムの制限無しに使えるんだ。
勝てるっていうか、負けない自信はあるんじゃないの?」

さやかがその疑問に答える。

「温泉という場所も問題じゃな。単に山中じゃから死体の後始末がしやすいというだけではない
ムコ殿には分かるかの?」

コロンの質問に乱馬は少し考えて答えた。

「温泉地には熱気がたまっている……つまり、魔竜昇天破を使いたい放題だ」

乱馬の言葉に、身をもってその威力を知っている良牙とさやかと杏子は息を飲んだ。

「それに、待ち受ける側なら何らかの罠を張っておくということもありうるわ」
682 :37話3 ◆awWwWwwWGE [sage;saga]:2012/09/02(日) 12:23:35.54 ID:iAbWtylJ0
マミがそう言うと乱馬も考え込んだ。

こちらが対策できる時間には当然相手もなんらかの対策を練ってくるはずなのだ。

「そうじゃの、こちらも相手の予想外を仕込んでおかねばならぬの」

すでに何か考えがあるらしく、コロンは不適な笑みを浮かべた。

「奇策もいいけどさ、あいつにどういう攻撃がいいとか、そういう情報くれねーかな」

まだ実際にらんまの体に入ったキュゥべえとは戦っていない杏子が言った。

「それもそうだな……素早いから小さい攻撃は当たらんが獅子咆哮弾やティロフィナーレみたいに
範囲の広い攻撃はわりと当たるぜ」

良牙が答える。

「不意打ちもけっこう食らってたね。反応は凄く早いけど、別のものに気を取られてるときとかは攻撃しやすいよ」

さやかも、キュゥべえがムースの攻撃を食らっていたことを思い出して言った。

「ふんふん、なるほど。……で、乱馬、あんたは?」

「え、えーとだな……」

杏子の質問に、乱馬は答えにくそうに目をそらした。

「乱馬、そーいやお前はまったくダメージ与えてなかったよな?」

良牙が意地悪く図星を突く。

「マジで? うわ、だせー」

「うぐっ!」

杏子の攻撃に、乱馬は心にダメージを負った。

キュゥべえとの戦績においては、乱馬は良牙はおろかアヒル状態のムースにすら大きく劣っているのだ。

その事実をほじくりかえされて、自尊心の高い乱馬が傷つかないはずがなかった。

「それは、たまたま――」

「ムコ殿のことじゃ。どうせ、ニセモノに負けるわけがないなどと根拠のない油断をしてたのじゃろう」

コロンに性格上の欠点まで指摘され、乱馬は言い返す言葉すら失った。

「ちょっと不思議ですね。天道あかねさんだってそんなに弱くはないようですし、
同じ体を使って戦ったのならもうちょっと善戦できたような気が……」

マミも疑問を口にする。それを聞いて乱馬はさらに落ち込んだようだった。

「いえ、責めるつもりじゃなくて、何か他の要素があったんじゃないのかって考えてるんです」

あわててマミは自分の言葉をフォローする。

「他の要素っつーと?」

杏子が聞いた。

「それが分からないから考えてるのよ。……早乙女さん、戦った時の状況とか詳しく聞かせてもらえませんか?」

そう言われて、乱馬はシリアスなノリに戻って答え始めた。

「登校中九能と戦った後、あいつが現れて――」

そうして一通り流れを説明した後、なぜかマミは大きなため息をついた。

「ふざけてるんですか? それで勝てるわけないじゃないですか」

「へ?」

しごく当然のように『それで勝てるわけない』と言い切るマミに乱馬は驚いた。

(フォローを入れたフリして更に落とすとは、さすが元魔女!)

(あたしたちにできないことを平然とやってのける、そこにしびれる、あこがれる!)

「お前ら何やってんだ?」

ひそひそ声で妙なノリで盛り上がる杏子とさやかに、良牙はとりあえずつっこんでおいた。
683 :37話4 ◆awWwWwwWGE [sage;saga]:2012/09/02(日) 12:25:04.64 ID:iAbWtylJ0
***************

風が強くなってきたので、露天風呂に入っている客は他にいなかった。

鹿目まどかは黒い子猫を抱いたまま湯船につかる。

「エイミー、熱い?」

ここの温泉は家のお風呂よりも温度が高い。

また、独特の匂いもあって、猫のエイミーは戸惑っている様子だった。

別に、風呂の中にまでエイミーを連れてくるほど徹底する必要は無かっただろう。

ペットOKの旅館だからといって、お風呂にまで連れてきてよかったのかどうかもよくわからない。

それでもまどかは湯船の中でエイミーをぎゅっと抱きしめた。

(絶対、大丈夫だよね……)

単純に、心細いのだ。

「ニャー?」

いつもと違うご主人様の様子に、エイミーはその顔を覗き込む。

「ごめんね、こんなところまで連れてきちゃって」

そう言ったまどかの頬を、エイミーは舐めた。

このやりとりが、なんとなく言いたいことが伝わったように思えて、まどかは少しうれしかった。

そこへ、湯煙の中から人影が近づいてくる。

「まどか、そろそろ上がったほうがいいよ。過度の入浴は人間の体にとってかえって有害だ。
特に、強い成分の含まれる温泉などは深刻なダメージになりかねない」

姿がぼやけていてもその声とシルエットで、相手が何者かまどかにはすぐ分かった。

「……ここまで監視しに来なくても逃げないよ」

無粋な邪魔が入ったことに、まどかは少しムッとして答えた。

「違うよ。監視なんかしなくてもキミがこんな山奥から一人で逃げられないことは分かっている。
鹿目まどか、ボクは純粋にキミを心配しているのさ」

そう言いながら、赤い髪、豊かな胸の早乙女らんまの姿をしたキュゥべえが湯煙から姿を現した。

キュゥべえの意外な言葉にまどかは首をかしげる。

「……キミが、魔女になる前に死んでしまっては困るからね」

悪びれもせずそう言ってしまうキュゥべえに、まどかはため息を漏らした。

「私は逃げられないんじゃない、逃げる必要が無いんだよ。
だって、みんなが絶対に助け出してくれるもの」

その言葉は、むしろまどかは自分に言い聞かせたのかもしれない。

「確かに彼らの性格なら必ず助けに来るのだろうね。そのおかげでまとめて始末しやすくて助かるよ」

そう返してきたキュゥべえに、まどかは言葉の通じない猫よりももっと通じ合わないものを感じた。

「キュゥべえは……信じられる人が居ないんだね」

「信じるという言葉が、過大な期待や希望的観測を意味するのならば、そんなものはボクには不要だ」

「ううん、そんなのじゃない」

まどかは首を振ったがそれ以上会話を続けはしなかった。

なんとなく、キュゥべえの本質が分かった気がしたからだ。

そして、妙な確信が生まれた。

(みんなは絶対、キュゥべえには負けない!)

***************

温泉地行きのバスには乱馬たちの一行以外、ほとんど乗客が居なかった。
684 :37話5 ◆awWwWwwWGE [sage;saga]:2012/09/02(日) 12:26:52.65 ID:iAbWtylJ0
運転手1名と地元の人っぽい乗客2名、そしてらんま・良牙・コロン・マミ・杏子・さやかなど戦闘員6名に
なびきまでついてきてバスの中は10名といったところである。

普段から客の少ない最終バス、それも嵐が迫っている中での突然の団体客に運転手は少し驚いた様子だった。

ムースとシャンプーを置いてきたのは店番のためがひとつの理由。

そしてもうひとつ、雨の中傘もささずを走ると言う無茶をした暁美ほむらが高熱を出したため、
やむなくムースをほむら宅に残しシャンプーとかわるがわるで世話をさせるようにしたからだ。

「このバス、おせーな。まだつかないのか?」

杏子がつぶやいた。

「次の橋を超えたらもうすぐよ」

なびきが文庫本を読みながら答えた。

「しかし、シャンプーを連れて来れないのは大きな戦力ダウンだな」

らんまがつぶやいた。

「ああ。キュゥべえ相手にはシャンプーが最強かもしれないな」

良牙がうなずく。

キュゥべえにも猫がきくということは、さやか経由で全員知っている。

そして猫に変身するシャンプーはキュゥべえ相手には非常に強力な戦力だと言えた。

「いや、相手もそれには何か対策を考えておるじゃろう。
そうなれば無力な猫になるのはかえって危険じゃ」

コロンはらんまの言葉に反論する。

内心にはひ孫可愛さ故という心理もあるのだろうが、あえてそれを咎める者もいなかった。

「ところで、おばあさん、その風呂敷は?」

さやかがコロンのもってきた風呂敷を指差して聞いた。

それは、そこそこ大きい何かが入っているように見えた。

「……ホホ、これは秘密兵器じゃ」

コロンは怪しげに微笑んだ。

「しっかし、へんぴなところねー、キュゥちゃんもこんなとこまで呼び出さなくたっていいのに」

いったん会話が止まったところで、なびきがつぶやいた。

「嫌なら帰りな。戦力にならねー奴が来たって邪魔だから」

杏子はポッキーをつまみながら吐き棄てるように言った。

「杏子の言い方はあれですけど、私も同意見です。今回は戦えない人を100%守りきるような自信はありませんよ」

マミも杏子に同意した。非戦闘員を連れて戦うには相手が悪い。

「うーん、でもせっかく温泉に行くなららんまくんの写真を撮って売りさばかなきゃね」

なびきが付いてきたあんまりな理由に、一同はがっくりと肩を落とす。

「冗談よ。それもするのはするけど。
それだけじゃなくて、キュゥちゃんはどうせ殺しても死なないんだから捕まえなきゃいけないでしょ?」

「やんのかよ」

らんまの抗議になびきは耳を貸さない。

「捕まえるってどうやってですか?」

さやかの問いに、なびきはいつかどこかで見たようなボトル缶を取り出した。

「まだコレ、余ってるのよね。これを使えば簡単に捕獲できるでしょ」

「モンスターボール?」

捕獲という言葉に反応して杏子が素っ頓狂な答えをかえす。
685 :37話6 ◆awWwWwwWGE [sage;saga]:2012/09/02(日) 12:28:09.52 ID:iAbWtylJ0
「じゃなくて、呪泉郷の水ですね」

マミの答えになびきはうなずいた。

「そ。蛙溺泉よ。蛙にしちゃえば飼育も楽よね」

なるほどと魔法少女たちはうなずく。

「ちょっと待て、よく考えてみたら、蛙溺泉が配送できるなら、男溺泉も買えたんじゃないのか?」

良牙がふと気付いた。

「残念じゃが、まだ男溺泉は安定しておらぬらしい。呪泉郷通販カタログにもそう載っておったぞい」

なびきに代わりコロンが良牙の疑問に答えた。

「いや、呪泉郷通販カタログて!」

「んな、アホな」

さやかと、最近関西弁に影響されつつある杏子がつっこんだ。

そんなやりとりをしている中、バスは断崖の上にかけられた橋にさしかかった。

その時、マミが突然叫んだ。

「来るわ!」

「え、何が?」

けげんな顔をする良牙を気にも留めず、マミは続けた。

「美樹さん、一般の人を抱えて逃げて!」

「え、あ、はい!」

さやかは戸惑いながらも有無を言わさず、乗客の手を握って強引に走った。

「ふむ、わしらも逃げるぞい」

コロンは杖で窓ガラスを叩き割った。

「杏子は防御魔法を展開して!」

マミがそう指示を出しているうちに、すさまじい轟音が鳴り響き、バスの車体が大きく揺れた。

そして息をつくひまも無く、バスは谷底へと落下した。

***************

「そ……んな……」

かろうじてバスから脱出したさやかは肩を落として座りこんだ。

あのメンバーの中では単純な移動速度は最速であろうさやかだけがかろうじて脱け出せたのだ。

「まいったわね、こりゃ」

その横でなびきが崖の下をのぞきこんでいた。

さやかは一般の乗客と運転手となびき、戦闘能力の無い人間はなんとか助け出した。

しかし、後の全員はどこにも見当たらない。

どこかにいるとすれば、それは暗くて底まで見通せない崖の下だろう。

道のいたるところに落石や土砂がまき散らされ、後ろを振り返るとさっきバスで渡った橋が完全に崩れ去っていた。

「お嬢ちゃん、おかげで助かったよ」

「しかし、すごいね。火事力ってやつかい?」

運転手や一般乗客はくちぐちにさやかへの感謝の言葉を口にするが、さやかの耳には届いていなかった。

らちがあかないので、一般人たちはそれぞれ携帯電話でどこかと連絡を取り始めた。

それでもまだ一人で落ち込んでいるさやかの肩に、なびきがポンと手を置いた。

『テレパシーは通じるわね?』

『……はい』
686 :37話7 ◆awWwWwwWGE [sage;saga]:2012/09/02(日) 12:30:19.42 ID:iAbWtylJ0
さやかはあまり元気のない返事をする。

『それじゃ、仕方ないけど歩いていくわよ』

『行くって、どこにですか?』

『決まってるじゃない、温泉旅館までいかないとまどかちゃんに会えないでしょ』

『……そっか。勝ち目なんて無くてもまどかを裏切るわけにはいかないよね』

さやかは独り言のようにそうテレパシーを返すとゆっくりと立ち上がった。

『もしかしてさやかちゃん、あいつらがくたばったとでも思ってんの?』

『え、だって、ガケから落ちたらフツーは……』

『あいつらがあんな程度で死ぬわけないでしょうが。だからウジウジしてないでさっさと行くわよ。
警察とか救助隊とかきたらいろいろ面倒でしょ』

それだけテレパシーを送ると、なびきはさやかの肩から手を放し、スタコラと歩き始めた。

さやかもあわててそれについていく。

「ちょっと待って、全員無事だとは限らないんじゃ――」

「多少怪我したって魔法少女がいれば治せるでしょ?」

なびきは平然と答える。

「だったら、何のためにキュゥべえはこんなの仕込んだのさ」

今回の崩落はキュゥべえの仕業だ。さやかはそう考えていた。

しかし一人も倒せないのならばこんな大掛かりな罠を仕込む意味が無いのではないか。

なびきはこくりとうなずいてキュゥべえの仕業だということは肯定してから、自分の推測を述べた。

「橋を潰して逃げ道をふさぐのが一番の目的じゃないかしらね。
あとは――こっちの戦力を分散させることかしら」

このあたりの温泉郷はさっき渡った橋が唯一車の通れる道である。

その橋を潰された以上、温泉郷から脱け出すには山道や林道を越えていくしかないが、
地元の地理に詳しくない者では迷子になるのがオチであろう。

天候の悪い今日この頃ではなおさらである。

「……つまり、キュゥべえはあたしたちがいざとなったらまどかを見捨てて逃げると思ってるんだ」

さやかは拳を握りしめた。

自分達が一番大切にしている部分をバカにされたように思えて、今までのどんな仕打ちよりも悔しかった。

「そうね、実際、さっきさやかちゃん戦意喪失してたし」

「う……」

なびきにあっさりと痛いところをつかれて、さやかは言葉につまる。

「ちなみにあたしもやばくなったら逃げるわよ。非戦闘員だし」

「ええ!?」

なびきが厳しい人なんだと思っていたら、予想外に卑怯な台詞を言われ、さやかは困惑する。

「でも、キュゥちゃんは逃げられたくないんだから、当然追ってくるわよね?
そこに隙ができるんじゃないかしら」

「はい?」

「乱馬くんがよく使う方法よ。逃げたフリして不意打ちとか、逃げながら対策を練るとか……
あたしは戦力にならないんだし、さやかちゃんも実力じゃ勝てないんだからそれしかないでしょ」

「え……はい!」

なびきもなびきなりに勝つための方法を考えているのだ。

さやかは一瞬あきらめかけた自分を恥じ、すぐに顔色をうれしそうに変えてうなずいた。
687 : ◆awWwWwwWGE :2012/09/02(日) 12:31:14.83 ID:iAbWtylJ0
以上、37話でした
688 :37話オマケ ◆awWwWwwWGE [saga;sage]:2012/09/02(日) 12:33:54.63 ID:iAbWtylJ0
キュゥべえの脅迫電話

QB「もしもし、お宅の娘さんの身柄は預かったよ。返して欲しければ身代金を払って欲しいんだ。
   あ、警察には絶対通報しないでね」

詢子「なんだって……! いつ、どこでいくら払えば良いんだ」

QB「あ……ちょっと待ってて……」(具体的に考えてなかった)

受話器越し
『QB「って言われたんだけど、どうしよう?」
 まどか「え? 考えてなかったの!?」
 QB「本当にお金持ってこられても困るし……」
 まどか「えと、それじゃあねぇ――」』

詢子「???」

QB「あ、もしもし、一週間後に100万円を見滝原公園のトイレにバッグに入れておいといて」

詢子「一週間後って長すぎるだろ! その間にウチの娘に何をする気だ!」
  (100万円て身代金誘拐にしちゃ安いな)

QB「何って……いや、特に何も」

詢子(なんなんだ? 話が通じない感じがする)
  「お前らの慰み者にでもしようってつもりか!」

QB「ああ、そういうことならご心配なく。声を聞いたら分かると思うけどボクは女だよ。
   もちろん同性愛者でもないし、単独犯だから男の仲間がいるってこともない」←※らんまボディ

詢子(自分から単独犯ってバラした!?)
  「絶対に、娘に手を出すなよ!」

受話器越し
『まどか「お姉ちゃん、そろそろ外湯閉まっちゃうよ」』

QB「ああ、分かった。それじゃ今回はここまでだよ」

詢子「ちょっと待て、今聞こえたのまどかの声じゃ……」

QB「悪いけどけどここまでだ」

受話器越し
『QB「こんな感じでよかったかな?」
 まどか「うーん、あんまり上手くないと思う」』

 プチッ ツー ツー ツー

詢子(なんだこりゃ……狂言誘拐か? いや、でもなんでまどかが……)
689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/02(日) 13:11:59.32 ID:79gyz7/AO
なんかQBがらんまの肉体に長時間入ってる影響か随分と人間くさくなってる気がするな。
まどかは魔女化したマミだけじゃなくQBとも対話をするつもりか?
690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/09/02(日) 15:23:47.06 ID:v0L0UqTgo
なんか詰めが甘すぎる電話だなww
それとも狂言誘拐であることをそれとなく知らせて通報の危険を減らしてるんだろうか
691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/03(月) 14:01:23.85 ID:26V8jBiAO
まどかがかわいい
良いことだ
692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 13:17:20.68 ID:3QvSH1qb0
後先考えず平気で人を傷つける発言してマズイと思ったら平謝り。そしてまた同じ発言の繰り返し。

なびきだって何か考えがあるからついて来たのだろうにそこら辺を全く視野に入れずに「帰れ」発言。
オマケに「お前なんか守る気ないよ」ともとれる様な言い方。

ほんとマミは正義の味方気取りのクズだな。
693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/10(月) 21:23:43.40 ID:ncQgtw0TP
じゃあ最初に「帰れ」って言った杏子もクズだね(ニッコリ
694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/09/11(火) 00:25:48.24 ID:ojqEPz2Ko
やっと追いついた面白い
695 : ◆awWwWwwWGE :2012/09/17(月) 22:07:56.47 ID:VtwwSxV/0
ペース低下申し訳ありません
なんとかペースを上げたいのですが……

38話アップします
696 :38話1 ◆awWwWwwWGE [sage;saga;副題『意外と簡単に負ける人』]:2012/09/17(月) 22:10:51.32 ID:VtwwSxV/0
黒い影が木々の間をぬって飛んでいった。

ただでさえ暗くてよく見えないと言うのに、雨天で、なおかつ黒い衣装を着ていれば目で識別することは困難だ。

しかしそれでも、とがった木の枝が、確実に眉間に向かって飛んできた。

しかも、避けにくい空中にいるタイミングでだ。

漆黒のレオタードに身を包んだ少女は首を曲げて強引にそれをよけるが、かわしきれず頬骨のあたりに赤い血の筋ができる。

少女はかろうじて無事に着地すると、すぐにまた後ろに飛んだ。

するとその一瞬だけ着地した場所に木の杖が現れて、あたりの地面をえぐった。

「ほう……避けおったか」

木の杖をふるった人物――小柄な老婆がそうつぶやいた。

「まさか先回りされているとはね……」

「あれだけ大がかりな仕掛けをしたからには、成果を確認しにくると思うてな。予想通りじゃわい」

少女は老婆と対峙しながら自分の頬を撫でた。

すると、そこにあった傷跡があっという間に消えていく。

「分からないなぁ。どうしてキミはボクの邪魔をするんだい?
ボクは直接的にキミに被害を及ぼすようなことはしないよ」

少女は首を傾げる。

それは、とぼけているのではなく真剣に分からないように老婆には感じられた。

「ムコ殿に死なれては困るからのぅ……。それに貴様のようなやからにのさばらせておってはやがては
うちのひ孫や村の娘達にも被害が及ぶじゃろう。やはり貴様を捨ててはおけぬな」

「そうか、子孫や一族の繁栄はキミたち地球生物にとっては重要なことだからね」

納得がいったというように、少女はうなずく。

しかし老婆は少女の言い回しに釈然としない様子だった。

「まあ、いいか。どちらにしても貴様はここまでなのじゃから――」

老婆のその台詞に合わせるかのように、少女の背後からガサゴソと物音がした。

「ふぁあ、よく寝た……む? ここはどこじゃ?」

のん気な老人の声とともに、強烈な邪気が立ち上がる。

「おお、はっぴー、ようやく起きたか」

老婆はうれしそうにその老人によびかける。

「むむ、コロンか。それにらんま。
どうしたことかシャンプーちゃんに餃子をふるまってもらってから記憶が無いのじゃがお主ら何か知らんか?」

そんなことを言いながら、老人は見覚えの無い辺りの風景を見回した。

そうして一通り見回したところで老人は何かに気がついた。

「いや、おヌシ、らんまではないな? 一体何者じゃ?」

老人はキッとらんまにそっくりの少女をにらみつける。

らんまの体に入ったキュゥべえには、その老人の鋭敏な闘気がはっきりと感じられた。

「はっぴー、そこのムコ殿そっくりのやからはじゃな、ムコ殿に化けて天道家の下着を盗みおったのじゃ。
さらには今着ておるのは同じように盗んだ九能小太刀のレオタード……つまり、連続下着泥棒じゃ」

コロンと呼ばれた老婆は始めから準備してあったようにスラスラとそう言った。

「なにぃ、下着泥棒じゃと!? ワシのスイーツを盗むとは不届き者め! 成敗してくれるわ!」

はっぴーこと八宝斎は激昂して啖呵をきった。

(お主のものではなかろう)

コロンは心の中でつぶやく。

「なるほど。風林館で最大の戦力を集めてきたわけだね」
697 :38話2 ◆awWwWwwWGE [sage;saga;]:2012/09/17(月) 22:14:07.83 ID:VtwwSxV/0
しかし、キュゥべえは、圧倒的な闘気と邪気をまとって向かってくるこの老人を目の前にして涼しい態度を崩さなかった。

「でも、もう少し仲間を選ぶべきじゃないのかな?」

そう言うとキュゥべえは、おもむろにらんまの体の胸をはだけた。

「なんじゃと!?」

予想外の行動に、コロンは驚いた。

「おう、スイート!」

まるで瞬間移動の能力でも持っているかのように、次の瞬間には八宝斎はらんまの胸に顔をうずめていた。

距離も闘気も関係なく一瞬で密着するまでに近づいたのだ。

もしこの素早さを戦闘に活用していれば、それは恐るべき脅威であろう。

しかし八宝斎の猛烈な煩悩は、驚異的な身体能力と引き換えにその理性を奪っていた。

やわらかい女子の胸に顔をうずめた彼は、もはや戦闘などという野暮な行為のことは忘れている。

そんな八宝斎を叩きのめすことは、らんまの体を手に入れたキュゥべえにとってはあまりに容易なことだった。

「ぐえっ! ごふっ! ふげぇ!」

肘打ちが脳天に炸裂し、そこから膝、拳、踏みつけ、さらに滅多打ち。

ノーガードの老体に絶え間なく、そして容赦なく強力な打撃が襲いかかった。

「は、はっぴー……この役立たずがぁー!!」

コロンの絶叫がこだまする中、八宝斎はボコボコになって気絶した。

「動揺したね」

「――ハッ」

八宝斎を始末し終えたキュゥべえは一瞬で、コロンとの間合いを詰めた。

「人間は動揺という感情を持ったとき隙だらけになる。……たとえ、キミのような熟練者でもね」

コロンが体勢を整えるよりも早く、らんまの拳がコロンの腹部を襲った。

「うぐっ」

まともにくらったコロンはいったん後ろに飛んで間合いを開けた。

だがその動きにも機敏さが足りない。

腹部へのダメージは呼吸を奪い、動きを鈍らせるのだ。

キュゥべえはあっという間に追いつき、そのままとび蹴りを浴びせる。

あえなくコロンはその蹴りに直撃し、大きく吹っ飛んだ。

「……しまった」

飛ばされていくコロンを見てキュゥべえがつぶやいた。

体の軽いコロンはぐんぐん飛んで、ついには崖の方にまで飛んで行き、そして落下していった。

「やけに簡単に攻撃を食らうと思ったら、蹴りにタイミングを合わせてわざと後ろに飛んだね。
……逃がしてしまったじゃないか」

自分が蹴り飛ばしたのに追いつけるはずがなく、キュゥべえは完全にコロンを見失ってしまった。

そして、見回してみれば八宝斎の姿もいつの間にか消えている。

「しかたがない、先へ進もう」

キュゥべえはそう言って、暗闇の山林を下っていく。

やがて、河原に到達すると横倒しになったバスが見えてきた。

炎は見えないことから爆発はしなかったらしい。代わりに軽油の漏れた匂いがする。

キュゥべえは河原の砂利を確認する。

濡れ方が新しい。おそらくついさっきまで人がいたのだろう。
698 :38話3 ◆awWwWwwWGE [sage;saga;]:2012/09/17(月) 22:16:00.18 ID:VtwwSxV/0
「一足違いか。コロンとあの老人は十分に足止めの役割を果たしたと言うことだね」

落下した直後、体勢を整える前に魔法少女たちに襲いかかるつもりだったキュゥべえのあては外れた。

(しかし、彼らの行くところは分かっている)

鹿目まどかのいる旅館の方へ向かうに決まっている。そのために彼らはここに来ているのだ。

そして、意図せず落とされた谷底から道も分からず旅館へ向かうらんまたち一行は、着くまでに時間がかかるだろう。

「……ならば、先回りさせてもらうとするよ」

キュゥべえがそう言って、漆黒の衣装をまとったらんまの姿は再び闇に消えた。

***************

闇夜に目立つ黄色い髪と赤い髪が、木々の間を動く。

ほとんど崖といっていい急斜面を素早く、しかし静かに登っていった。

『美樹さんとなびきさんがちゃんと上にいたらいいのだけど……』

先を行く黄色い髪の少女が後ろを振り返り、微弱なテレパシーを飛ばした。

『テレパシーの出力あげて呼び出すってわけにもいかねーしな』

赤い髪の少女がそう返す。

二人は登り続けて、道路のそばに出た。

ガードレールの影に隠れて様子をうかがってみると、土砂の散らばる道の上でバスの運転手や一般の乗客が
携帯電話でなにやら連絡をとっていた。

『会社や警察にでも連絡とってんのかね』

『巻き込まないためにも、ここはそっと離れましょう』

二人はもの音も立てずにその場を離れた、

その時、二人とは別のテレパシーが突然飛んできた。

『マミさん! 杏子も! 魔力感じないし、連絡も無いから死んじゃったかと思ったよ』

テレパシーの主は二人にはすぐ誰か分かった。

『美樹さん、無事だったのね!』

『おいおい、こっちはキュゥべえに見つからないようにテレパシーで呼び出したりしなかったのにさ――』

杏子がぶつくさ言うと、さやかは慌てて返事をする。

『えっ、そうだったの!? ……なんていうかさ、悪いけど多分もうキュゥべえにバレちゃったと思う』

『あら、どうしてそんなことが分かるの?』

マミが聞きかえす。

『そりゃあ今、キュゥべえに追われてるから!』

さやかは悲鳴に近いテレパシーを送った。

***************

「いやー、逃げるフリして隙をうかがうなんて……そんなヒマ全く無かったわね」

なびきがポツリとつぶやくように言った。

「うん、全く!」

そのなびきを腕に抱え、猛スピードで走りながらさやかは答えた。

すぐ後ろには赤い髪、黒い衣装を着た影が迫ってきている。

人一人抱えた状態では、少しずつ距離を縮められる。

もう追いつかれる、その寸前で、さやかは手早くなびきを降ろし、振り向きざまに剣を一閃させた。

「単純だね」

追いかけてきた人物――らんまの体に入ったキュゥべえは飛んでその太刀筋を避けるとそのまま空中で回転して
さやかの後ろに着地した。
699 :38話4 [sage;saga]:2012/09/17(月) 22:18:05.45 ID:VtwwSxV/0
「ちっ!」

さやかはもう一度振り返って向き直ろうとするが、間に合わず強力なパンチを頭にくらった。

軽く数メートル飛ばされてさやかは倒れた。

そこにすぐさまキュゥべえは追撃を加えようと飛びかかる。

そのとび蹴りが当たる寸前、さやかは素早く飛び退いてギリギリで回避した。

(一人だけなら逃げ切れる、でも……)

さやかはキュゥべえの後ろのその向こう側に視線を向けた。

なびきは何も言わなくてもさっさと逃げているが、所詮は常人の足だ。

キュゥべえがターゲットをさやかからなびきに変えれば簡単に追いつかれてしまうだろう。

(やっぱ、やるっきゃないよね)

「うおおおぉ!」

覚悟をきめると、さやかは剣を構えながら全速力で前に飛んだ。

そしてすれ違いざまに剣を振る。

動きが直線的なだけにあっさりとかわされるが、そのままのスピードで一定の距離をとるので反撃も受けなかった。

そしてまた同じようにまた一直線に相手に向かう。

今度はわずかに、らんまの体の腕をかすった。

黒いレオタードに赤い筋がにじむ。

「……なるほど、こうやって反撃させずに一方的に攻撃を続ける気だね」

キュゥべえそう言っている間にも、さやかは三度目の突撃を行う。

「少し、甘いんじゃないかな?」

キュゥべえはそこそこ大きな石を軽く蹴り上げた。

(ぶつかる!?)

それでも、さやかは動きを止めなかった。

左肩にもろに大きな石がぶつかり血が吹き出るが、そのまま突進し、右腕で思い切り剣を振り切った。

動きを止めたさやかに反撃するつもりだったキュゥべえは避けるタイミングが遅れ、左腕でそれを受けた。

腕の半ばまで刃がめり込む。

「……魔法を使ったね。いくら乱馬さんの体でも止められるような斬り方してないよ」

さやかは言いながらも腕に力を込める。

「ああ。ちょん切られると回復に使う魔力のほうがかかるからね、骨の硬度を高めたよ」

キュゥべえはさやかの腹を蹴り飛ばした。

飛ばされて距離が開いたところで、さやかは左肩の怪我を回復させる。

「そろそろ時間が無い。マミや杏子が来る前に始末させてもらうよ」

だが、十分に回復するヒマも無く、キュゥべえは襲い掛かってきた。

さやかは迎え撃つがあっさりと避けられて、カウンターで腹に深々と拳をめり込まれた。

さらに、キュゥべえは拳を連打する。

それに対してさやかは食らったまま防御もせずに反撃に剣を振り回した。

キュゥべえはとっさに避けようとするが避けきれず胴に赤い傷を負った。

(ごり押しで来るのかい?)

そう思っている隙にもさやかはたたみかける様に剣を振るう。

しかし、単純な移動スピードならともかく、攻撃する素早さは武術の型が染み付くほどに鍛えられた
らんまの体のほうが上だった。
700 :38話5 ◆awWwWwwWGE [sage;saga;]:2012/09/17(月) 22:20:51.40 ID:VtwwSxV/0
振り上げたさやかの腕を払いのけ、ダメージを重ねるようにまたも腹部にパンチを加える。

その衝撃で一瞬動きが止まるが、それでもさやかは強引に剣を振り下ろす。

それもまたきわどく外れ、わずかに衣服を傷つけただけだった。

「そろそろしつこいよ」

キュゥべえはまたも殴り返すが、さやかも反撃をやめない。

「魔女になってもいいのかい?」

至近距離で打ち合いながら、キュゥべえが質問した。

「……魔女に?」

さやかは意外な言葉を聞いたように、首をひねって見せた。

「絶望の感情エネルギーをとるために魔女になるんでしょ?
だったら、絶望しなくていい状態なら、魔力を使いすぎたって魔女にはならない!」

さやかはきっぱりと言い切ったが、キュゥべえは呆気にとられた。

(無茶苦茶な精神論だ!)

確かに精神状態はソウルジェムの濁り方に影響するし、魔女になるには魔力消費だけではなく心理的なきっかけも必要だ。

だが、ソウルジェムを濁らせれば濁らせるほど簡単なきっかけで魔女になってしまうのだ。

限界まで濁ったソウルジェムなら、雨が降って憂鬱だとか、おなかを壊して気分が悪いとか
そんな程度のきっかけで魔女になることもありうる。

(魔女になってくれるのはかまわないけど、結界に巻き込まれるのは困る)

キュゥべえはやむなく、さやかの攻撃をかわしながらソウルジェムを探した。

「……はっ!?」

手刀でさやかの魔法少女衣装をやぶり見つけた、裏地に縫いこまれたソウルジェムを見てキュゥべえは驚いた。

これだけ魔力をつかっているにも関わらず、ほとんどソウルジェムが濁っていないのだ。

よく見ると、中から輝きが溢れ、濁りは脇に押しやられているように見えた。

(これじゃ、いつまでたっても魔力に限界が来ない。あれ――)

魔力制限がほぼない超回復能力持ち。

それが何を意味するか、キュゥべえに分からないはずはなかった。

(――それって、倒せないよね?)

その条件はキュゥべえも同じなのだから、負けは無いのかもしれない。

しかし、こうして殴り合っているのは完全に時間の無駄にしかならないのだ。

キュゥべえは即座に、そのソウルジェムを破壊しようとする。

だが、さやかはその攻撃だけは素早く避け、カウンター気味にらんまの体に斬撃を加えた。

攻撃しながらも、魔力で衣服を繕い、またソウルジェムを隠す。

「くっ、いったんここは――」

「逃がさないよ」

逃げようとしたキュゥべえを、さやかはそのスピードで容赦なく追撃した。

「魔竜昇天破!」

とっさにキュゥべえは闘気技を使った。

さやかは10メートルほど吹き飛ばされ、間合いが大きく開いた。

(これで逃げられる)

キュゥべえがそう思った瞬間、乾いた銃声が鳴り響き、その体を銃弾が貫いた。

「なっ……」

「ふぅ、ギリギリ間に合ったみたいね」
701 :38話6 ◆awWwWwwWGE [sage;saga;]:2012/09/17(月) 22:24:06.28 ID:VtwwSxV/0
いつの間にか、キュゥべえの背後には巴マミが立っていた。

「おいおい、ボロボロじゃねーか。魔法での回復だけじゃやっぱきついんじゃねーの?」

そう言ってさやかの後ろから、佐倉杏子が現れる。

「マミさん、杏子!」

さやかはうれしそうに顔を上げて立ち上がった。

「美樹さん、よく耐え抜いたわね」

「二人が来ると分かってたから耐えられたんですよ」

調子のいい言葉に、マミはにっこり微笑んだ。

(それが理由なのかい!?)

銃弾に貫かれた体を持ち上げながらキュゥべえは思った。

ソウルジェムの濁りが少なかったのは、仲間が来ると信じていたからだというのか。

「おい、キュゥべえの奴が立ち上がってくるぜ」

杏子が言った。

「ここは三人がかりでいっきに――」

「ダメだ」

さやかの提案を杏子は即座に否定した。

「あら、杏子、どうして?」

マミが疑問を口にする。

「ここであいつをぶっ殺しても、また小動物の体に逃げるだけだ。それより先にまどかを探す方が先決だろう」

「それでも、最低でも誰かが足止めしないといけないわ」

「あたしにいかせてくれ」

杏子はそう言って自分を推した。

「さやかはダメージを食らいすぎだ。マミは……本当はあんまり戦いたくないんじゃねーのか?」

杏子の言葉に、マミは少し意外そうな顔をした。

「ま、まあバリバリ戦いたいって思ってはいないけど――」

たしかに、実のところ、心のどこかでキュゥべえとの平和だった日々を懐かしむ自分がいる。

だが、そんなことを言っていられない事態であることもマミはよく理解しているつもりだ。

「理由はそれだけじゃないでしょ?」

さやかに聞かれて、杏子はニヤリとくちを歪ませた。

「へへ、それにさぁ、乱馬の奴を簡単にやっつけちまうってスゲー敵じゃん。
あたしはあいつに色々仕返しもしたいし……なんて言うか、久々に燃えてきた」

そう言って杏子は無差別格闘流の構えをとった。

「杏子、あんた少年漫画読みすぎ」

さやかは冷静にツッコミながらもマミの手を引いた。

「いきましょう」

しぶしぶながら、マミはさやかとともにその場を後にする。

「へぇ……一人で勝てると思ってるのかい?」

銃弾に貫かれた傷を完治させ、すくっと立ち上がったらんまの体がそう問うた。

「なめんなよ。無差別格闘佐倉流の真髄、見せてやるよ」

杏子はまるっきり少年漫画的な台詞を返した。

***************
702 :38話7 ◆awWwWwwWGE [sage;saga;]:2012/09/17(月) 22:25:40.72 ID:VtwwSxV/0
「ほれ、とっとと行くぞ!」

らんまは黒い小豚を蹴っ飛ばした。

「ピーッ! ピー!」

小豚は甲高い声を響かせて抗議する。

「ぴーぴーわめくな。マミちゃんや杏子に魔法無駄遣いさせるわけにゃいかねーだろ。
どうせ温泉地なんだから、お湯ぐらいすぐ見つかる。だから、行くぞ」

「ピィィ……」

らんまの言葉に小豚状態の良牙はしぶしぶ従った。

落下中のバスから飛び降りるまではよかったが、落ちた先が川の上だったのが運の尽きだ。

今の天候だと豚になった良牙をお湯で戻しても、またすぐに雨が降って豚になりかねない。

また、大の男でいるよりも、小豚でいた方がキュゥべえにも見つかりにくいだろう。

そういう事情に加えて、バスから落下したときのダメージを回復させるためにマミと杏子に
それなりに魔力を使わせてしまったのだ。

これ以上魔力を無駄遣いさせないためにも、らんまと良牙は変身状態のまま、
まどかが捕らわれている旅館を目指して行くことになった。

とは言え、初めてきた温泉地の谷底にまで落ちたのだ。

正確な道など分かるはずも無く、とりあえず明かりの見えるほうに向かってがむしゃらに進んでいる。

やがて、険しい崖を上りきると、小さな温泉旅館の前に出てきた。

あらぬところから出てきた少女と小豚を、湯治客らしい老人が怪訝な顔で眺めていた。

なぜか、旅館の中からドタバタと何かが暴れまわっている音が聞こえる。

「ピッ?」

「もしかして、誰かがキュゥべえと戦ってんのか!?」

らんまは小豚を肩に乗せて旅館の中に入った。

「ああ、お客様! 今は危険ですので入浴は……」

音が聞こえる露天風呂の方に向かうらんまを従業員が呼び止める。

「危険って何が? 誰かが暴れてんじゃねーのか!?」

「あ、はい、何者かが露天風呂に進入してきて――」

それだけ聞くと、らんまは従業員に構わず、露天風呂に進んだ。

すると――

「おう、すぃーと!」

らんまが身構えるヒマも無く、何者かがその胸に抱きついてきた。

「ひやぁっ!」

らんまは思わず悲鳴を上げる。

「いやぁ、やっぱりニセモノよりも本物の方がもみ心地がいいのう」

「こんの、ジジイッ!」

らんまはそれを思いっきりぶん殴って引き離す。

「てめー、なんでこんなトコに嫌がる、ババアはどうした!?」

間違えるはずも無い、その何者かは八宝斎その人だった。

「ん、ああ、それがじゃな――」

かくかくしかじかと、八宝斎は事情を語り始めた。

「つまり、キュゥべえの奴に負けてここまで逃げた挙句、女風呂に侵入したはいいが
人っけがないから、女を探してあちこち暴れまわったと……」

「うむ、そういうことじゃ」
703 :38話8 ◆awWwWwwWGE [sage;saga;]:2012/09/17(月) 22:26:26.36 ID:VtwwSxV/0
八宝斎はなぜか自信満々に語った。

その直後、再び八宝斎がボコボコにやられて従業員のもとに引き出された言うまでもない。
704 : ◆awWwWwwWGE [sage;saga;]:2012/09/17(月) 22:27:03.42 ID:VtwwSxV/0
以上、38話でした
705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/09/18(火) 00:19:58.11 ID:DCuW5VSCo
乙!
八宝菜はバランスブレイカーだから味方としてガチバトルに参戦させたらこうなりますよねー

さやかちゃん単純さゆえのスーパーモード
絆で無限回復とかどっちが少年漫画キャラだよww
706 : ◆awWwWwwWGE :2012/10/07(日) 18:05:21.86 ID:6IT7ONUf0
39話アップします
707 :39話1 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:副題『イタリア語ってむずいね』]:2012/10/07(日) 18:07:51.49 ID:6IT7ONUf0
またたくヒマも無いような、めまぐるしい速度で二つの赤い影が飛び交った。

(確かに乱馬の奴より速い、だが……)

間断なく繰り出される攻撃を杏子は的確にひとつひとつさばいていく。

(!? 来るっ!!)

魔力の放出を感知し、杏子はとっさに槍を召喚した。

それと同時に今までよりも強力でスピードも乗ったパンチが顔面に向けて飛んでくる。

ギリギリのところで、拳は槍の柄に当たって止まった。

魔法で作った丈夫な槍の柄がぐにゃりと折れ曲がる。

「うわっ、さすがにこれは素手じゃさばけねーな」

杏子は冷や汗を流し、折れた槍を修復した。

「乱馬と同じ流派を習った割には手堅い戦い方をするね」

らんまと同じ顔をした、だが全く異なる存在がそう語りかけてくる。

「あたしが習ったのは天道流の方だ。奇策と勢い任せの早乙女流と一緒にされちゃ困るね」

「ボクにはその違いはよく分からないけど、魔法と格闘の両方を高いレベルで身に付けたキミの存在は厄介だ」

そう言ってらんまの体に入ったキュゥべえは再び襲い掛かってきた。

「違いが分からないか……」

待ち構える杏子はリーチの長い槍で先制攻撃をする。

案の定、キュゥべえはあっさりとそれを避けた。

「だろうな、あんたは全然その体を使いこなせてない」

普通なら攻撃を避けられてそのまま向かってこられたら防御が間に合わないだろう。

拳を振り下ろすキュゥべえに対し、杏子は槍を消して即座に防御に移った。

そうすることで、槍を戻す手間をはぶき、素早さの勝る相手にも対処できる。

杏子は余裕を持ってキュゥべえの攻撃を防いだ。

「単調なんだよ!」

そして、その腕をとって強引にひねる。

すると、らんまの体はバランスを崩し、地面に倒れ伏せた。

即座に、杏子は槍を召喚してその背中に突き刺そうとする。

さすがにそれは唐突に現れた畳によって防がれた。

「がっかりだ。スピードとパワーに任せてるだけで予想外の動きのひとつもありゃしねぇ。
本物の乱馬はどんだけ研究しても予想通りになんていかねぇぜ」

「……ふぅん、それじゃこれはどうかな?」

見下ろす杏子の視線から畳で隠し、キュゥべえは思い切り地面をぶん殴った。

かなり魔法で威力を水増ししたパンチだったらしく、杏子の足元の地面が大きく崩れた。

「おっ?」

杏子は谷間に落下していく。

しかし途中で槍を召喚して崖に突き刺し、その上に乗って底まで落ちるのを防いだ。

そこに、間髪いれずにらんまの体が飛びかかってくる。

その右腕は先ほどのパンチで潰れたらしく血まみれであらぬ方向に曲がっていた。

杏子は大きく上に飛びあがってキュゥべえの攻撃を避け、同時に足場になっていた槍を消した。

キュゥべえは素早く崖の小さなデコボコに飛び移り、そのまま切り立った崖を駆け上がってくる。

まずは着地しようとすると思ったのだろう、キュゥべえは杏子が足場にできそうな場所に陣取って待ち構えた。
708 :39話2 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2012/10/07(日) 18:09:56.95 ID:6IT7ONUf0
が、杏子は崖から距離を保ったまま落下し、すれ違い様に槍を一閃させた。

防御に前に出したらんまの左腕が、瞬時に切り落とされた。

「へっ、ダルマにされちゃお手上げだろ……って手なんてあげれねーか!」

杏子はキュゥべえよりかなり下に落ちたところで斜面に着地した。

そして、一気に駆け上がる。

「ついでに脚も切り落として、何もできねーようにしてやるよ!」

杏子は登りきると、右腕が潰れ左腕が切り落とされたらんまの体に襲い掛かる。

それも念を入れて腕を切り落とした左側からだ。

 ドスッ

だが、突き刺さったのは杏子の槍ではなくらんまの拳だった。

「――ぐ?」

おかしなことに、無いはずのらんまの左腕が杏子の腹部に突き刺さっていた。

口から血を流しながら杏子は仰向けに倒れる。

(腕を……生やしたのか? くそっ、反則だろそれ!)

杏子は追撃を恐れて横に転がった。

そのすぐ横に振りおろされた拳が地面をえぐる。

(仕方ねえ、このまま落ちる!)

やられてしまうよりは下に落ちたほうがましだ。そう判断した杏子はわざと自分が登ってきた崖のほうに転がった。

が、落ちる直前で服をつかまれ、強引に山側へ投げ飛ばされた。

そして激しく木に叩きつけられた。

「ッが……あぁ」

先ほどの腹部への打撃に続いて、今度は背中だ。

杏子は内臓が圧迫されて、満足に声も出ない。

『てめー、一瞬で腕一本生やすなんざ、乱馬の魔法のレベルじゃねーだろ』

杏子はぼろぼろの体で目だけはらんまの体をにらみつける。

「ああ、乱馬ではあり得ないぐらいの魔力を使ったよ。物足りなかったんだろう? 丁度いいじゃないか」

らんまの顔は澄ましたままの微動だにしない表情で杏子に視線を返した。

『そーいう、物量任せでしか勝てないあんたみたいな奴がつまんねーって言ってんだよ』

「武闘家じゃないボクには勝ち方にこだわる理由がないからね。
まあ多少魔力がもったいないけど、キミたちを始末して鹿目まどかを契約させれば十分元は取れる」

『へ、言い訳かよ、情けない奴だぜ全く』

テレパシーで減らず口を叩きながらも、杏子は必死で頭を回転させていた。

もう時間稼ぎは十分だから、本来ならば逃げたいところだ。

しかしこれほどダメージを受けては逃げることもままならない。

かと言って攻撃に回っても、あんなデタラメな回復能力をもつ相手を倒せるほどの技は持ち合わせていない。

(やべぇ、対抗策がねーじゃん、こんなトコで終わりかよ!?)

そんなことを考えているうちにもらんまの体に入ったキュゥべえは歩み寄ってくる。

(ま、仕方ねーよな。あたしの勝手な願いで家族を巻き込んで、その後も生きるためとはいえ悪いことやってきたし、
ここらで死んじまうのが当然の報いだよな。最後のほうは結構楽しかったしそんなに悪くも――)

すぐ目の前まで、その最後が迫ってきた。

両腕をきっちりと回復させて、今なら全力のパンチが撃てるであろう。

そしてその表情は何事もなかったかのように涼しい。
709 :39話3 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2012/10/07(日) 18:10:37.93 ID:6IT7ONUf0
(でもやっぱ、こいつにこのままやられるのはシャクだな)

杏子はキッとその人物を見上げる。

結局、最後までこのキュゥべえとかいう訳のわからない化け物に人生狂わされっぱなしで終わるのか。

この体の持ち主――早乙女乱馬にも結局まだ勝ててない、何の借りも返せていないじゃないか。

ならば、マミには借りを返したか? いや、できていない。マミを魔女から元に戻したのはまどかの功績だ。

(ふざけんな、こんな何もできてねーままくたばれるかよ)

ほとんど見えないほど速いパンチが、杏子の目の前に迫る。

その拳は、勢いよく杏子の頭を跳ね飛ばした。

……はずだった。

「これは?」

キュゥべえは意外そうな声を上げた。

そのパンチは何の手ごたえもなく杏子の頭をすり抜けた。

そして、まるでビデオゲームの敵キャラのように、攻撃を受けた杏子は跡形もなく姿を消したのだ。

「後ろ?」

魔力を感じキュゥべえが振り返るのと、槍が突き出されたのはほぼ同時だった。

身をひねったおかげでその槍は避けたが、杏子は先ほどまでのダメージが嘘であるかのように俊敏に攻撃を繰り出してくる。

後手に回ったキュゥべえはかろうじて避け続けた。

「へっ、どうだ? てめーも久々に見ただろ」

杏子が横なぎに大きく槍を振ると、キュゥべえは後ろに飛んでいったん距離をあけた。

「『ロッソ・ファンタズマ』かい……まさかまだ使えるとはね」

「幻術っていえよ、そのロッソなんとかって恥ずかしいから」

そう答えて杏子は左手でくいっと「カモン」のジェスチャーをした。

それと同時にキュゥべえの左右からもう二人の杏子が現れる。

「やれやれ……キミもだいぶん物量任せじゃないかい?」

三人の杏子に囲まれて、らんまの体はゆっくりと構えをとった。

***************

波間を漂うように、何もかもがあやふやで朦朧としていた。

高熱のせいで五感がマヒしているのだろう。暑さも寒さもくるまっている布団の肌触りも、すべてが鈍く感じられる。

たかが雨に濡れただけでこんなになってしまうわが身が疎ましい。

ほむらは生まれてきてから今まで何度も味わった苦痛と自己嫌悪を今もまた味わっていた。

「うーん、全然減ってないアルな。中華粥は口に合わないアルか?」

あのムースとかいう男の代わりに来たという、中国人女性がつぶやいた。

口に合うとか合わないとかそんな問題ではなく、この状態では水ぐらいしか体が受け付けないのだ。

漢方の国の住人ならそのぐらい分かってほしいものだとほむらは思う。

「でも、日本の粥って何で味付けするアルか? 醤油? 米酢? うーん、分からないネ」

「や……めて……」

変な料理を食べさせられそうなので、ほむらは可能な限りの声を張り上げた。

「!? どうしたアルか?」

それがうなされているようにでも見えたのか、この青い髪の中国人は心配そうに顔をのぞきこんできた。

のどが痛くて話して説明するのはつらい。

『水だけでいい』
710 :39話4 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2012/10/07(日) 18:12:20.79 ID:6IT7ONUf0
ほむらはテレパシーでそれだけを伝えた。

「水分が欲しいアルか。ミネラルウォーターとウーロン茶があるネ」

青髪の中国人ことシャンプーは二つのペットボトルを並べて差し出した。

ほむらはどちらでもいいと、適当に手を伸ばしウーロン茶のペットボトルに触れた。

シャンプーはほむらがしんどそうだと見て、いったんウーロン茶を取り上げてふたを開け、そのままほむらの口にあてがう。

そして、ゆっくりとウーロン茶がほむらの口の中にそそがれる。

(……え? あまい!?)

思わずほむらはむせて、ウーロン茶を吐き出した。

(ウーロン茶が甘いなんて)

むせるという動作すら、ほむらにとっては激しい運動である。

「どうしたアルか!?」

あせるシャンプーをよそに、ほむらはぐったりと倒れた。

(まずい、このまま死ぬかも……)

このひ弱な体質ゆえに死ぬというのは予想できることだし、覚悟もしていたが
甘いウーロン茶の奇襲にやられたなんて冗談みたいな死にかたはゴメンだ。

死、以外にこの苦しみから逃れる方法がたった一つだけある。

ほむらはもがきながら、黒い宝石に手を伸ばした。

それはもとは紫色に光っていたほむらのソウルジェムだ。

今までに『ワルプルギスの夜』との戦いで負った傷が時間をさかのぼったら治っていることがあった。

キュゥべえ……インキュベーターが言うには、ほむらの能力はタイムスリップというより異世界への移動だという。

傷が治っているということは、異世界へ移動しているのは体ではなく魂だけで、
移動した先の世界で新たに『暁美ほむら』の体を手に入れるということになる。

その証拠に、成長期にあるはずのほむらが何度この一カ月を繰り返しても身長が伸びていないのだ。

だから、その能力を使えば高熱にうなされている今のこの状態からは逃げられる。

(結局、貧弱な『暁美ほむら』の体からは逃げられないけどね)

どうせ一度魂と体が分かれるならば、もっとまともな体に乗り移れたらいいのに。

そんなことを思いながらほむらは内心苦笑した。

魂だけの存在で体を乗りかえていくなんて、あのインキュベーターにそっくりだ。

インキュベーターを死ぬほど嫌っている自分がそれにそっくりなことにほむらは皮肉を感じたのだ。

(え? 魂だけ?)

どこかで、ほむらはそんな言葉を聞いたような気がした。

そしてしばし、頭を働かせる。

「……勝てるっ!」

突如、ほむらはがばっと上半身を起こした。

「わっ!? どうしたアルか?」

いきなりの元気っぽくなったほむらに、シャンプーは目を疑った。

「今すぐ私をまどかがさらわれた場所まで連れてって頂戴、早く!」

魔力で無理やり体調を回復させて、ほむらはシャンプーをせかす。

「安静にするアルね」

「そんなこと言ってる場合じゃないのよ! 確実にまどかを守るためにはあいつを倒すしかないの!」

ほむらは猛烈な勢いでシャンプーに迫った。
711 :39話5 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2012/10/07(日) 18:13:43.02 ID:6IT7ONUf0
***************

「おぬしら、ここにおったか」

「おばあさん!」

人気のない温泉街の十字路で、コロンとマミは出くわした。

マミの後ろにはなびきとさやかもいる。

「すまぬ、ワシは逃げるので精いっぱいじゃった」

「それは私もです」

コロンがあやまると、さやかはとんでもないといった感じで首をふって見せた。

「杏子が今足止めをしてるから、あと良牙さんと乱馬さんで全員ですね」

マミが面子を確認する。

「それと、ハッピーもじゃ」

「ああ、おじいちゃんはどうでもいいでしょ」

コロンは自分が連れてきた手前八宝斎の心配をしたが、その同居人であるなびきはあっさりと切り捨てた。

「で、どうするの? まどかちゃん探す? それとも先に乱馬くんたちと合流する?」

「先に鹿目さんを探しましょう。良牙さんや乱馬さんならすぐに合流しなくても大丈夫だと思います」

マミの言葉に一同がうなずく。

「そうと決まれば、テレパシーで探しますか? 意外とこの温泉街広いですし」

「そうじゃの、杏子がヤツの足止めをしておるのなら隠密にする必要もなかろう」

そうしてさやかが早速、各温泉宿にテレパシーを飛ばした。

『さやかちゃん!』

やがてまどかの反応が返ってくる。

『えへへ、助けにきたよ。まどか、今どの旅館にいるかわかる?』

『えっとねぇ――』

『そうか、分かった。すぐいくからそこで待っててね』

さやかは会話を手短に切り上げた。

「で、どこか分かったの?」

「ええと、地図ある?」

マミの質問に対して、さやかは地図上を指さすことで答えた。

「ふむ、一番奥じゃのう」

「今いるのが多分ここだから……あら、結構時間かかりそうね。
あんたたちだけでも先に行ったら?」

コロンがつぶやき、なびきが提案する。

「いや、それはやめた方がいい!」

そこに、腹部を抑えながら杏子が現れた。

「杏子、無事だった?」

「ああ。いちおうまだ時間稼ぎはしてるけど、そろそろ限界だ。
キュゥべえの奴に襲われる可能性があるから今は戦力を分散させない方がいい」

そう言って、杏子は地面にへたりこんだ。

それをマミが急いで回復魔法をほどこす。

「『まだ時間稼ぎしてる』ってどういう意味?」

さやかは首をかしげて杏子に聞いた。

「それはだな……ごほっ」
712 :39話6 ◆awWwWwwWGE [saga:sage]:2012/10/07(日) 18:15:14.67 ID:6IT7ONUf0
杏子は説明しようとするがタイミング悪くせき込んだ。

そこですかさず、マミが説明を代弁する。

「みんな知らないでしょうけど、杏子には幻覚の魔法があるわ。
その名を……『ロッソ・ファンタズマ』!」

「ごほっ、げほっ」

マミの説明を聞いて杏子はなおさら激しくせき込む。

「ちょっと事情があって使えなくなってたんだけど、ついに『ロッソ・ファンタズマ』が復活したのね」

感慨深い様子でマミは語る。

怪訝な顔でマミと杏子をながめる一同に、呼吸を整えてから杏子は答えた。

「それはこいつが勝手に付けた名前だ」

そう言ってマミを指さす。

「えへ、まあね」

指さされた当のマミは恥ずかしがるというよりはどこか誇らしげだった。

「う、うん、まあいいんじゃないのかな」

「そ、そうね。いい名前だと思うわ」

「西洋の語感がよくわからんが、いい響きじゃないかの」

残り三人は、それぞれ心のこもっていない賛辞を送った。

***************

(これで、最後だ)

らんまの体に入ったキュゥべえは魔力で強化した拳で杏子の腹を貫いた。

すると、その杏子はまたもゲームの敵キャラのように跡形もなく消え去った。

「……やられたね、三体全部、『ロッソ・ファンタズマ』だったとは」

これだけの幻覚を操り続けるだけの魔力があれば、本物の自分の体を回復させることだって容易だったはずだ。

そうでありながら杏子は仲間のために時間稼ぎすることを優先したのだろう。

(あの土壇場で、大した判断力だ)

魔法少女としてはベテランだけに基礎力が高く、幻影を操る特殊能力を持ち、
格闘技により接近戦では並みの魔法少女は相手にならないだろう、そして判断力も十分。

(この一カ月で杏子は対人、対魔法少女なら最強に近い魔法少女に育ってしまったのかもしれない)

キュゥべえが手駒として動かせる状態の時は、杏子はそれほど強くもなかったはずだ。

「人間はこういうのを『皮肉』っていうのかな?」

そんなことをつぶやくと、キュゥべえは素早くその場を飛び去った。
713 : ◆awWwWwwWGE :2012/10/07(日) 18:16:34.32 ID:6IT7ONUf0
以上、39話でした。

今は敵のやれれかたがえぐいゲームもたまにあるらしいですね
714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/10/07(日) 20:54:29.59 ID:jiQf56EFo
あんこちゃんが輝いてる!


途中で自爆するかとおもったのは内緒
715 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/10/08(月) 15:06:10.69 ID:tnmSDtcBo
乙、杏子曰く”使いこなせてない”QBにボロ負けした乱馬ェ………
所で日本でも中国式、というか海外式の甘いお茶って売ってるんだろうか……自分は見た事ないけど
台湾で甘い麦茶に吐きそうになった思い出。あれは無理だ
ジャスミンティとかは割と甘くてもいけた
716 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage sage]:2012/11/14(水) 21:57:24.77 ID:ThHlKk3P0
更新まってるぜ!
717 : ◆awWwWwwWGE :2012/11/18(日) 12:17:33.16 ID:ki0GIFXC0
あわわ、一か月以上も開けてしまいました申し訳ありません
私生活にいろいろ変化があってこのようなことになってしまいましたが更新ペースを
また元に戻していきたいと思っています……思ってはいます

ってなわけで40話アップします
718 :40話1 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:副題『ステータス』]:2012/11/18(日) 12:21:31.19 ID:ki0GIFXC0
「おい、乱馬聞こえたか?」

湯につかりながら、良牙が言った。

「ああ。ジジイがまだうめいてやがる」

らんまは吐き捨てるように答える。

その視線の先にはボコボコにされ、さらに縄で縛られた八宝斎の姿があった。

「バカか、おまえは。今はジジイなんぞどうでもいい。マミちゃんのテレパシーが聞こえなかったのか?」

「いや、全然」

らんまはオーバーに肩をすくめて答えた。

「お前、魔法少女じゃなくなったらおれより素質ないんだな」

良牙は思わずあきれた。

らんまは風呂には入らず、女の状態で服を着たまま浴場に居た。

キュゥべえ曰くでは男より少女の方が魔法の素質があるというのに、
女の状態のらんまは良牙が聞き取れたテレパシーすら聞こえないらしい。

「まあいい。マミちゃんの話では、キュゥべえがこの近くを通るだろうということだ。
マミちゃんたちがまどかちゃんを助け出すまで足止めするぞ」

「そういうことか。へ、おれに二度の負けはねぇ。キュゥべえだろうが何だろうがかかってきな」

らんまは拳をつかんで腕を鳴らす。

「だったら、はやく湯につかって男に戻れ。魔法が使えないんじゃ女のままでいる意味がないだろ」

しかしこの良牙のもっともな言葉に、らんまは首を横にふった。

「いいや、おれはこのままでいい。じゃねぇとリベンジにならねーからな」

「こんな時にくだらないこだわり持ちやがっていいから入れ!」

そんならんまを良牙は強引に引っぱって浴槽に連れ込もうとする。

「わぁ、やめろ!」

らんまは抵抗をこころみるが、パワーでは良牙にかなわず引きずられる。

「分かるか、らんま? 女の状態のお前じゃおれに抵抗することすらできないんだ。
それでアイツに勝てると本気で思うのか?」

「ちょ、待て、引っぱるな! 服がやぶけ――」

その時、ガラリと浴場の扉が開いた。

「お客様、どうかなさいまし――きゃぁああああ!」

扉を開けた従業員は悲鳴を上げた。

男湯に女がいることも問題だが、それが主な原因ではないだろう。

うら若き少女を強引に引っぱる荒々しい男。

引っぱられたせいで少女の着衣は乱れ、今にも胸元がのぞけそうだ。

そして、横には全身に打撲を負って縛られている老人。

誰がどう見ても、危険な状況にしか思えないだろう。

「……い、いえ、何でもありません」

加害者にしか見えない良牙は、固まった。

「うんうん、なんでもない、なんでもなーい」

被害者にしか見えないらんまはとっさに平気な顔をして首をふって見せた。

****************

「絶対、誤解とけてねーな、アレ」

「おれとしたことが……」
719 :40話2 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2012/11/18(日) 12:22:13.87 ID:ki0GIFXC0
逃げるように温泉宿から出てきた良牙はひどく落ち込んでいた。

「ありゃ、マジで警察呼ばれるかもなぁ? おれが被害者だって言えばおめーはもう一発でアウトなわけだ」

らんまは良牙を気遣うどころかむしろ追い込んだ。

「キサマ、おれを脅す気か!?」

良牙はいきおい、らんまの胸倉につかみかかる。

しかしらんまは落ち着いていた。

「ふ……良牙。おれは事実を言ってるだけだぜ」

「ぐぐ……」

「それに、おめーは警察に捕まってもブタに化けりゃすぐ逃げられるだろ?
まー、前科ついちまうのは仕方ねーけどな」

らんまはあくまで平静を装うが、その目は喜色を隠し切れていなかった。

「ぐぐ……」

「あ、でもおめーはブタだしブタ箱に入ってた方がいいかもな。
ブタがブタ箱行き、ちょうどいいじゃねーか!」

「やっぱり、許せねぇ!」

たび重なる悪口に、良牙はついにキレてらんまに殴りかかった。

らんまはそれをひょいと避けると、アッカンベーをして幼稚な挑発をはじめる。

「相変わらずのれーな、トンマのおめーにゃやっぱブタがお似合いだぜ」

「ぶっ殺す!」

良牙はさらに怒りを増して、らんまに攻撃を続ける。

らんまは軽快にかわし続けた。

「待ちやがれ!」

爆砕点穴で良牙はそのあたりの岩を破壊した。

その破片が飛び散って広がる。

爆砕点穴は人体に直接的にダメージを与えることはできないが、こうして岩を壊せば、
ちょこまかと逃げ回る相手には有効な範囲攻撃となりうる。

「ちょ、ここでそんな技を……いてっ!」

小さな岩の破片が足に当たり、らんまはバランスを崩して尻もちをついた。

そこに容赦なく、良牙の鉄拳が迫る。

「うひゃあっ!?」

らんまは腕を軸に体を回転させてきわどくかわし、立ち上がるとバックステップを踏んで逃げる。

「おー、あぶね。バカは加減を知らねーから困るぜ」

「キサマ、まだ言うか」

そう言いながら、良牙は追撃しようとらんまとの間合いを詰めた。

 ヒュン

その時だった。

ふいに尖った石が飛んできて、らんまと良牙の間をすりぬけた。

「ん?」

「今のは……」

とっさに二人はふりかえる。

そこには黒い衣装を来た、らんまそっくりの少女が立っていた。

「へぇ、小競り合いに夢中になってるかと思ったら、意外と避けられるんだね」
720 :40話3 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2012/11/18(日) 12:23:09.12 ID:ki0GIFXC0
その口調に二人は聞き覚えがあった。

「キュゥべえ、てめぇ!」

「へ、まんまとおびき寄せられやがったな。こうやってバカ騒ぎしてりゃ来ると思ってたぜ」

らんまの言葉に、良牙は顔をきょとんとさせた。

「乱馬、おまえそういうつもりだったのか?」

「ああ。だが、それだけじゃねぇぜ。おめーは風呂上がりな上に闘気を発散してくれて熱気がたまっている。
それに対して、おれは風呂にもつからず雨に濡れたり川に落ちたりしたまんまで結構冷えてる」

「……まさか!?」

「なんだって?」

キュゥべえと良牙の驚きの声が重なった。

「良牙、ぶっ飛びやがれ!」

らんまの声と同時にすさまじい竜巻が起こり、キュゥべえと良牙は高く巻き上げられた。

もっとも、前置きをおいたせいか、キュゥべえも良牙も身構えていて気を失うほどのダメージは受けていない。

「この程度のダメージでどうにかなるとでも思ったのかい?」

キュゥべえは空中で体勢を整えて、下に向かう。

「乱馬、きさまぁっ!!!」

一方の良牙は、怒りが絶頂に達していた。

迷わずその怒りを闘気のエネルギーに変えていく。

そして乱馬は、地上でキュゥべえを待ち受けていた。

「へ、来ると思ってたぜ! 喰らえ、猛虎高飛車!」

予想通りに進んでいることに、気を良くしたのか、その猛虎高飛車はかなり大きい。

そして上からは特大の獅子咆哮弾が迫ってくる。

「しまっ――」

キュゥべえが気付いた時にはすでに遅かった。

二つの巨大な闘気に、キュゥべえはなすすべもなく挟まれた。

「へ、これならひとたまりもねーだろ」

やがて、ぶつかり合った闘気のかたまりは混ざり合って激しく爆散した。

そして、その後に現れたのは、黒こげになったタタミのかたまりだった。

「乱馬、このやろう!」

無事に着地したらしい良牙がらんまにかけよってくる。

「おい、それよりアレ……」

らんまはドサッと落ちた焦げたタタミのかたまりを指さした。

「ち、あとでブチのめしてやる」

そう言って二人はそろりそろりと黒こげの物体を取り囲みながら近づいた。

神経をとぎすませても、闘気らしきものは感じられない。

それがかえって、不気味に感じられた。

爆発に紛れてどこかに姿を消しているのか、それともタタミの下で気絶や死亡しているのか。

じりじりと近づいても、全く反応はない。

「ええい、時間をかけてもしかたない!」

業を煮やした良牙は一気に近づいてタタミをひっくりかえした。

そこにはボロボロになった女らんまの姿があった。
721 :40話4 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2012/11/18(日) 12:24:09.19 ID:ki0GIFXC0
「……動かねぇな」

衣装も肌もいたるところに傷や焼けたあとが残るそれを見て、良牙は安心しかけた。

その次の瞬間、それは、焼け焦げた体のまま立ち上がり、凄まじい力で良牙の首を絞めた。

「なっ!?」

そうしながら、女らんまの体は少しずつ焼け焦げた細胞をよみがえらせ、傷口をふさいでいく。

どう見てもゾンビだった体が徐々にらんまらしくなっていった。

「やれやれ、中々来てくれないから困ったよ。
とは言え、キミたちにとってもボクがまた小動物の体に戻ったら面倒なはずだから
倒れてる所に追い打ちをしないという確信はあったけどね」

キュゥべえがその台詞をしゃべり終える時にはすでに体は完全に回復していた。

「ぐ……ぐぐ」

良牙は絶え絶えの息をもらしながら手足を振って抵抗する。

そのうちの一発のパンチがたまたま頭にあたり、キュゥべえは思わず良牙の首から手を離した。

その瞬間を待っていたかのように、らんまはキュゥべえに襲いかかる。

キュゥべえはすばやく最初の一撃をガードすると、すぐさま反撃に出た。

連続で拳を繰り出す、いわゆる火中天津甘栗拳だ。

「らんま、距離を取れお前にそれはかわしきれな――へ?」

良牙はアドバイスを出しかけて言い切る前に止めた。

なんと、らんまは火中天津甘栗拳を一撃一撃正確にさばいているのだ。

そして、偽らんまことキュゥべえの腕を左腕で跳ねのけると、間髪いれずに右の正拳突きを繰り出した。

直撃こそはしなかったものの、かすった拳が頬に大きな切り傷を作った。

キュゥべえはとっさにらんまを蹴り飛ばして距離をとる。

らんまは蹴り飛ばされこそはしたものの、しっかりガードをしていたのでダメージは負っていない。

「良牙、おれがニセモノの火中天津甘栗拳に負けるとでも思ってたのかよ?」

らんまは自信満々にそう言い放った。

「え? いや、だって、前は負けてたじゃん」

良牙はきょとんとして言った。

*********************

「みんな!」

出会いがしらに、まどかはその集団に飛びついた。

「わっ、ちょっとまどか」

「うわっ」

「か、鹿目さん」

旅館のロビーのど真ん中である。

客はいなくても従業員には見られている。

「だって、とってもさびしかったし不安だったんだもん」

まどかが、ひとりひとりにおもいきり抱きつき、抱きつかれた少女たちは恥ずかしがった。

「はいはい、よく頑張りましたっと」

ただし、なびきを除いて。

「よしよし、エイミーも頑張ったね」

さやかはまどかのそばにいた黒猫を拾い上げる。

「これで、あとはムコ殿たち三人と合流すれば全員じゃな」
722 :40話5 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2012/11/18(日) 12:24:53.75 ID:ki0GIFXC0
再会の喜びを表すのがひと段落したところで、後ろにいたコロンが前に出た。

「あとは、全員でキュゥべえの奴をとっ捕まえてやりゃいいんだな」

杏子の言葉に、マミがうなずく。

「ええ。今は良牙さんと乱馬さんが戦っているはずだから、急ぎましょう」

そこで、さやかが首を横にかしげた。

「でも、良牙さんと乱馬さんに足止めを頼んでよかったんですか?
今ごろまだ持ちこたえているかどうか――」

以前に乱馬がキュゥべえに惨敗したということを聞いているさやかは不安になっていた。

「大丈夫だよ、良牙さんも乱馬さんも負けないよ!」

まどかは根拠のない自信を持って答える。

「まどかちゃんに言われてもねぇ」

なびきが遠い目をしてつぶやく。コロンも不安げに思案している様子だった。

「大丈夫です。二人ならそう簡単にとどめを刺されることはありませんし、
今の乱馬さんは基礎能力ではキュゥべえが化けたニセモノより強いはずです」

そこに、マミがきっぱりとそう言った。

「わからねーな。あたしもキュゥべえが魔法抜きでも乱馬より上だとは思わねーが、
スピードやパワーはキュゥべえの偽乱馬の方が上だった。少なくとも、女の乱馬よりはな」

杏子も自信満々のマミに疑問をいだく。

「杏子、あなたがいままで戦ってきた乱馬さんは女の状態でも男性の下着を着けてたんじゃないの?」

「ん? ああ、そうだけど?」

マミの逆質問の意図が分からず、杏子はけげんな顔をした。

「それに対して、キュゥべえは私と良牙さんが戦ったときは普通の女性下着を、
それから後は新体操用のレオタードを身につけているわ」

「それが一体……?」

さやかも頭をひねる。

「あ、そっか」

そこで、なびきが何かに気づいたらしく手をポンと叩いた。

「ブラもつけずに激しい運動なんかできるわけないじゃない」

「え?」

「は?」

杏子とさやかの声が重なる。

「その通りです。ノーブラじゃどんなに運動神経がよくても胸が邪魔で動きが鈍ります。
それに対してキュゥべえは運動に適した格闘新体操用のレオタードを着ている……
これで同じ体なら、かなりの差が出て当然です」

マミの回答に、杏子とさやかはポカンとした。

「おお、それもそうじゃ。年をとってそんな当たり前のことすら忘れておったわい」

コロンはいかにも謎が解けてスッキリしたという顔をしていた。

「そうそう、あたしだってテニスとか運動するときと普段着では下着を変えてるわよ。
男だからって、女の体でも下着を着けないっていうのは大きな間違いね」

見事答えを当てたなびきは少し得意になってうなずいた。

『なあ、おまえはこの回答を理解できるか?』

杏子はひそかにさやかにテレパシーを送った。

『ううん、全く。っていうか初めてマミさんに殺意がわいた』

『ああ。昔からむかついたことはあったが、これほど腹が立つのは初めてだ』
723 :40話6 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2012/11/18(日) 12:26:17.54 ID:ki0GIFXC0
そんな二人をよそに、コロンが話を進める。

「じゃが今のムコ殿なら、ニセモノより強いというのはどういうことじゃな?」

「乱馬さんは今、完璧な下着をつけてるんです。100%本人の体に合わせて作った『魔法のブラ』を」

マミの答えに、一同はピンときた。

ここに来る前に、乱馬とマミは何やら二人で話していた。

そして、バスに乗ってから乱馬は一度も男になっていないのだ。

キュゥべえの偽らんまが身につけているのは運動に適したレオタードとは言え、しょせんは他人のものだ。

一方、らんまが今身につけているのは、マミのリボンの魔法で作った100%ジャストフィットの特注品。

同じ体を使うなら、どちらが強いかは明らかだ。

『……でもやっぱ』

『ムカつくよなぁ』

さやかと杏子がそんな密談をしていると、まどかがおずおずとしゃべり始めた。

「えと……」

『これは、まさか抗議を!?』

『さすが、あたしはやる時はやる奴だと思ってたぜ』

さやかと杏子は、まどかが恥を負うことを覚悟で自分たちの気持ちを代弁してくれるのかと期待を膨らませた。

「下着でそんなに運動が違うんですか? わたし、胸が痛くなるから運動嫌いになってたんだけど……」

まどかのその言葉に、杏子とさやかは顔面を硬直させた。

(なん……だと?)

(まどか、あんたもそっち側なの!?)

小学生時代からまどかと一緒にいて、まどかの運動嫌いの理由をさやかは今まで知らなかった。

その理由がまさか「それ」だったとは、さやかは何かに裏切られた気分だった。

一方、杏子は本当の敗北というものを思い知った気がした。

「ええ。体育の授業なんかもずいぶん変わるはずよ。良かったら、今度一緒にブラ選ぼうか?」

「はい!」

少し顔を赤らめながら、まどかはマミの誘いに対して首を縦にふった。

 バンッ

「話はそこまでだ!」

そこで唐突に、杏子は槍の柄で地面をたたいた。その形相は険しい。

「そんな話をしてる場合じゃないでしょ、早くキュゥべえの奴を倒しに行くよ」

まるで般若のような怒りに満ちた面持ちで、さやかが言った。

「ニャー!」

二人の気合が伝わったのかエイミーも叫ぶ。

「え、ちょ、杏子、ここで槍は――」

「さ、さやかちゃん、なんか怖いよ」

マミとまどかは、なぜ杏子とさやかが急にこんな表情になったのか分からずオロオロする。

「まー、気持は分からなくもないけど、その怒りはキュゥべえちゃんにでもぶつけなさいよ」

なびきはため息をもらしながら杏子とさやかをさとす。

「わかってるっての! ギッタギタのケッチョンケチョンにしてやらぁ!」

「ああ。半殺しじゃすまさないよ」

二人の士気はすでに限界まで高まっているようだった。
724 :40話7 ◆awWwWwwWGE [saga:sage:]:2012/11/18(日) 12:27:17.41 ID:ki0GIFXC0
「ほほう、頼もしい限りじゃのう」

「いえ、美樹さん、殺しちゃったらまた小動物になって逃げられるから半殺しですまさないと――」

いかにも微笑ましいといった感じでにやけるコロン、それに対して事情が呑み込めていないマミは
あたふたと二人のテンションを抑えようとする。

「つべこべ言ってないで行きますよ!」

「グダグダ言ってると先にあんたをぶっとばすぞ!」

しかし、二人はマミが思わず「ひっ」と悲鳴をあげるほど異常なテンションで、マミを引っぱって旅館から出て行った。

「え、あの? さやかちゃんと杏子ちゃん、どうしちゃったの?」

まどかはおびえていた。

「んー、まあ、無理して分かることもないわ。それより、あたしたちも行くわよ」

なびきは頭に疑問符をいっぱいかかえたまどかの手を引いた。

「……定めじゃ」

静かになった旅館のロビーに老婆の言葉だけが静かに響いた。
725 : ◆awWwWwwWGE :2012/11/18(日) 12:27:55.35 ID:ki0GIFXC0
以上、40話終了です
726 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/11/18(日) 13:11:21.38 ID:TI8Ygmas0

この場にほむほむがいなくて良かったね
それから、まどかってもしかして着やせs
727 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/11/18(日) 15:53:02.96 ID:te0cFC70o
さやかもマミさんの次くらいには胸あるくせにww
728 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/11/21(水) 01:12:07.22 ID:HTCyUqmAO
乙です!
まどマギの設定画を見るとサイズはほむら<まどか≦杏子<さやか<マミの順のような感じもするけどねw
729 : ◆awWwWwwWGE :2012/11/23(金) 01:05:12.27 ID:8yV2yNpC0
あ、言い忘れていましたがこのスレの時間軸においては
「ボーイッシュ娘は微乳(≠無乳)に限る法則」と「ロリ系の服着る娘はけっこう大きめの法則」が働いています
どちらも、エントロピー増大の法則に匹敵する根本的かつ重大な法則です(断言)

週末は忙しくなりそうなので今回は早めにアップします
730 :41話1 ◆awWwWwwWGE [saga;sage;副題『杏子パパってカトリックだっけ?』]:2012/11/23(金) 01:08:53.90 ID:8yV2yNpC0
「猛虎高飛車!」

間合いをあけられたらんまは、飛び道具で攻撃を仕掛けた。

「魔龍昇天破」

キュゥべえも水平打ちの魔龍昇天破を繰り出して応戦する。

互いの出した技はぶつかり合い、はじけ飛んだ。

「それっ、もういっちょう!」

らんまは立て続けに猛虎高飛車を放った。

キュゥべえもまた、魔龍昇天破で対抗しようとする。

「……!?」

しかし、出てきた竜巻は扇風機の風ように弱い力で、涼しいだけだった。

やむなく、キュゥべえは回避に行動をきりかえるが、反応が遅れたために左手が猛虎高飛車の光の玉に当たった。

「へ、バカやろーが。飛龍昇天破は溜まった闘気を使う技だ。連発できるモンじゃねー」

すでに次の猛虎高飛車をためているらんまは、その勝ち気をますます膨らませた。

「そして、感情がないおめーには猛虎高飛車や獅子咆哮弾は使えない。
遠距離戦なら一方的におれが有利なだけだぜ!」

さっきまでよりもさらに大きくなった猛虎高飛車がキュゥべえをおそった。

「それなら、距離を詰めるとするよ」

簡潔にそれだけ言うと、キュゥべえの――黒いレオタードを着た偽らんまの姿が消えた。

そして、次の瞬間には、それは本物のらんまのすぐ目の前にまで迫っていた。

さすがに猛虎高飛車を放ったばかりで防御も反撃も間に合わない。

しかし――

 ドスッ

かなりの速度で飛んできた唐傘が、キュゥべえの入った偽らんまの頭にヒットした。

「ヤバくなったら魔法に頼ってありえない動きやパワーを引き出す。そのパターンはもう読めてるぜ」

唐傘を投げたのは、もちろん良牙だ。

「おっしゃ、ナイス良牙! このままたたみこむぜ!」

らんまはためらいなく倒れたキュゥべえにとびかかった。

キュゥべえが寝返りをうって、らんまの攻撃をかわすと、その先にはすでに良牙がまわりこんでいた。

回避は間に合わないが、分かりやすい動きだったためキュゥべえは良牙が狙ってきた頬のあたりを魔法で硬化させる。

「ぐっ」

よほど堅くしたのだろう、なぐった良牙の拳から血がにじんだ。

それでも、良牙は気に留めず攻撃をつづけてくる。キュゥべえはギリギリでそれをかわした。

その最中、同時に逆方向かららんまの蹴りが飛んできた。

今度は、反射神経を強化して、キュゥべえは二人がかりのラッシュを避け続けた。

「喧嘩ばかり……してるかと思ったら……なかなか意気があった仲間じゃないか」

かわしながらキュゥべえは器用にしゃべる。

その言うとおり、至近距離で打ち合っているにも関わらず互いの攻撃がぶつかったり同士討ちにならない。

それどころか、何の合図もしていないはずなのに避けにくいように隙をなくすようなコンビネーションになっていた。

ここまでらんまと良牙のチームワークが良いとはキュゥべえにとっては予想外だった。

これでは簡単には反撃に移れない。

「意気があってるだと?」
731 :41話2 ◆awWwWwwWGE [saga;sage;]:2012/11/23(金) 01:09:44.92 ID:8yV2yNpC0
「気持ち悪りぃこと言うな」

良牙とらんまが口々にしゃべる。

「「腐れ縁だ!」」

そして、ぴったりと同じセリフを同じタイミングで言った。

それと同時に、二人の拳はキュゥべえを捕え、顔とボディにめり込んだ。

「……」

これは意気があっているというんじゃないのかい、キュゥべえはそう言いたかったが殴られたままの状態で
人間の体はしゃべることができなかった。

キュゥべえは二人の拳が自分に当たったことにより止まったその隙に、タタミを召喚していったん視界を奪い離脱する。

「だが、てめーに仲間と呼べる奴がいねーのはよくわかったぜ」

再び距離をあけたキュゥべえにらんまが話かける。

キュゥべえは攻めあぐねたこともあり構えをとったまま動かない。

「良牙とは腐れ縁だが、それだけに互いの弱点や知られたくねーこともよく知ってる。
全部知ってるからこそ、ムカついてもいつでも手を組めるんだ。
だが、おめぇは違う。おめぇのゲスな腹割って全部話したら誰も協力してくれねーからな」

「たとえそれでも協力する奴がいたとしても、数は知れている。
お前に腹を立てて敵に回る奴に比べりゃ、いないも同然だろう」

らんまに続けて、良牙も言葉をつないだ。

もちろん二人ともただ話しているわけではない。

二人ともいくらなんでもまた同じパターンで勝てるとは思っていない、
そして相手には簡単に戦局をひっくり返すだけの戦力があることも分かっている。

だから、簡単に攻められないのはらんまと良牙も同じなのだ。

「管理する側としては余計な情報を与えるわけにはいかないからね。
キミたちだって、家畜に『大きくなったら食べるつもりです』と教えようとは思わないだろう?」

キュゥべえは涼しい顔を崩さないがその目線は明らかに二人の隙を探していた。

「その偉そうな態度のおかげで、慣れねぇ実戦に自分で出なきゃならなくなってんじゃねーか」

らんまはそう言って、挑発に『カモン』のジェスチャーをした。

確かにたいていの魔法少女は事情を知れば、敵に回るだろう。

特に、今の見滝原や風林館のように大人数で魔法少女以外も絡んでいるのでは、他の魔法少女やその集団をぶつけても
どこかで会話や交渉が生まれキュゥべえの本当の目的ややり方がバレてしまう可能性が高い。

寝返りの可能性がない信頼できる魔法少女がおらず、自分で戦う方が効率的だった。

それは言い方を変えればらんまの言う通り、仲間がいないということになるだろう。

だましやすくて、大人数相手にも会話や交渉の余地もないぐらい圧倒的に勝てるような魔法少女が近くにいれば
キュゥべえにとって好都合だったが、それこそ高望みしすぎだった。

他はまだしも、八宝斎やコロンを相手にも優位を保てるほどの魔法少女はほとんどいないのだから。

(それこそ、もし鹿目まどかが契約できたらそれ以上に都合のいい魔法少女はいないのに)

そんなことを思うキュゥべえに対して、らんまは中指を立てるなど執拗に挑発のジェスチャーを続ける。

「ほら、言いかえさねーのかよ、バーカ!」

(無駄なことを)

感情がないと知っているはずなのに、どうしてそんな無駄なことをするのか、キュゥべえには理解できない。

その一方で良牙はいつも自分がこんなレベルの低い挑発に乗っているのかと少し自己嫌悪に陥っていた。

「問題ないさ、ここでキミたちを始末すればね」

やがて、キュゥべえから動いた。

挑発に乗ったわけではない。

挑発するらんまの動きが、大きな隙になったと判断したからだ。
732 :41話3 ◆awWwWwwWGE [saga;sage;]:2012/11/23(金) 01:10:41.44 ID:8yV2yNpC0
「わかってねーな、そんなんだから何千年だか何万年も仕事が片付かねーんだよ」

余裕のある口調でらんまはそう言うが、キュゥべえの見立て通り防御は間に合っていない。

が、キュゥべえも攻撃ではなく防御をせざるを得なくなった。

突如、横からやってきた巨大な獅子咆哮弾が飛んできたのだ。

(また、仲間もろともかい)

確かに想定外ではあったが、それはきちんと防御すれば脅威ではない。

キュゥべえは深刻なダメージさえ受けなければすぐにでも無尽蔵の魔力で回復できる。

むしろ、同士討ちでダメージを受けるらんまの方が被害はおおきいはずなのだ。

「――なんだって!?」

しかし、想定外はもうひとつあった。

「やっぱ、間抜けだったな、おめーは」

なんと、らんまが自身の防御もせずに、キュゥべえに防御をさせまいと羽交い絞めをしてきたのだ。

あえなく、キュゥべえはらんまともども獅子咆哮弾の直撃を受けた。

「やったか?」

良牙は爆風の去った後の状況を確認する。

二人の女らんまがボロボロになっている。

赤い服を着ている方が前に出て仰向けに倒れ、黒いレオタードを着ている方が後ろにうつぶせに倒れていた。

(なに? 本物のらんまが後ろだったはずなのに、どうして前に来てるんだ!?)

良牙がそう疑問に思っている間にも、黒いレオタードを着た方のらんまはひょいと立ちあがった。

ノーガードで獅子咆哮弾を食らったわりにはダメージが軽く見える。

「ふぅ、危ない危ない。この体の性能が高くて助かったよ」

そう言いながらキュゥべえは体や衣服の軽微なダメージを回復させていく。

「そうか、おじぎをするように前に倒れこんだな!? そうすればらんまを盾にできる」

良牙の言葉にキュゥべえはうなずくと、間髪いれずに良牙との間合いを詰めた。

迎撃しようと、良牙は拳を繰り出すが圧倒的なスピードで避けられて、カウンターで腹部に強烈なパンチを食らった、

女らんまの体ではありえない、異常な威力だ。

一発で良牙は盛大な血反吐を吐く。

そして、次は顔に一発。

その一発で、良牙は地面に擦りつけられるように突き飛ばされた。

岩にぶつかって、良牙はようやく止まる。

(さっきまで押していたのに、一手ミスしただけでこれかよ……)

腹部が痛みを超えて、重く感じる。

仲間ごと攻撃することの危険性は確かに分かっていたはずだった。

それでも、安全策ばかりとって勝てる相手ではないという判断から危険な手をうってしまったのだ。

「残念だよ、良牙。キミのエネルギーには可能性を感じていたのに、キミから殺さなければならないとはね」

迫りくる死に、良牙は起き上がって抵抗しようとするが上半身を持ち上げるのが精いっぱいだった。

そんな状態の良牙でも異常なタフネスと獅子咆哮弾がある以上、手加減はできない。

キュゥべえは魔力強化を十分にした拳を振りおろそうとした。

その時、

「む? このおっぱいは、キサマ偽物じゃな?」

わけのわからないセリフと共に、キュゥべえは胸部に違和感を覚え、拳を止める。
733 :41話4 ◆awWwWwwWGE [saga;sage;]:2012/11/23(金) 01:11:36.40 ID:8yV2yNpC0
そして、即座に、その胸に張り付いた異物に殴りかかった。

しかし、そのパンチはあっさりと空振りをし、邪悪な異物はその姿を消した。

「ふむ、本物はこっちじゃな……おおっ、なんと乱馬の奴がこのようなスイーツを身につけておるとは!!」

キュゥべえが振り向くと、背の低い老人がのびた本物のらんまの胸元をはだけさせ、その下着を物色していた。

迷うことなく、その老人――八宝斎はらんまの付けていた黄色いブラジャーを奪い取り、まるでネコ耳のように頭に巻いた。

「……じ……じじぃ、てめぇ」

らんまは気絶まではしていなかったようで口で抗議するが立ち上がることすらできない。

(あの下着からは……魔力を感じる)

キュゥべえは思った。らんまの動きが急に良くなったのはそのせいかと。

だが、今警戒すべきはらんまではない。

その下着を身に付けた八宝斎の、魔力とも闘気とも知れない得体のしれない邪気が一気に増大したのだ。

「おお、このスイーツは素晴らしい! 今までにないフィット感じゃ!!」

恍惚の笑みを浮かべ、八宝斎は叫ぶ。

(戦闘態勢に入る前に倒す!)

有無を言わさず、キュゥべえは八宝斎におそいかかった。

が、殴りかかったと思った時にはすでに八宝斎の姿は消え、後ろに回り込まれていた。

トンッと静かな音がして八宝斎のキセルが背中にふれる。

たったそれだけの攻撃で、漆黒のレオタードに包まれた体は空高く舞いあげられた。

そして、八宝斎は高く飛んで上空を先回りすると、まだ上昇中の偽らんまの体にキセルをぶつけた。

すると、すさまじい勢いで地面に叩きつけられる。

たったそれだけの攻防で、キュゥべえが入ったらんまの体は複雑骨折におちいった。

「この下着泥棒め! わしがじきじきに成敗してくれるわ!」

着地した八宝斎はキセルをキュゥべえに向けて堂々とそう宣言した。

「……いや……いま、じじいがおれから盗んだ……」

絶え絶えの息でつっこむらんまのセリフがむなしく宙を舞う。

(冗談じゃない。こんな化物、とてもまともには相手にできないよ)

体を回復させながら、キュゥべえはゆっくり立ち上がる。

そして、やおらに漆黒のレオタードの胸をはだけて見せた。

しかし、八宝斎は飛びついてこない。

「馬鹿めがっ! ここに本物のらんまの胸があるというのに偽物などに惑わされると思ったか!」

厳しい口調でそう言いながら、八宝斎は満足に身動きの取れないらんまの胸を思う存分もみしだく。

「……うひゃ……じじぃ……やめっ……」

本物のらんまは必死に抵抗しようとするが、獅子咆哮弾の直撃を受けた後ではそれも難しかった。

「……そうかい、ならば!」

キュゥべえは踵を返して、一目散に逃げ出した。

表面上のダメージこそ回復させているが、かなり無理づかいをした肉体はあちこちきしんできている。

完全に回復させるには、やはり物理的な栄養補給やメンテナンスが必要である。

そんな状態のまま、この目の前にいる怪物を相手に戦うのは明らかに不利だった。

「逃げるか、この下着泥棒!」

八宝斎は追いかける。

すると、黒い衣装の偽らんまは、逃げながら何かを落とした。
734 :41話5 ◆awWwWwwWGE [saga;sage;]:2012/11/23(金) 01:12:29.53 ID:8yV2yNpC0
暗い闇夜だったが、八宝斎の目にはピンクと白の模様がはっきりと見えた。

女性物下着だと思って、八宝斎はまっしぐらに飛びつく。

「おう、スイー……いい!?」

が、八宝斎は絶句した。

うら若き乙女の下着としては明らかに大きすぎるキングサイズのパンツには中高年愛用の湿布薬の香りがただよう。

それだけでも八宝斎の精神を攻撃するには十分だったが、さらにその大きなパンツにくるまれて。男性用ブリーフも
隠れていたのだ。

勢い余ってそのブリーフのかすかな汚れに手が触れる。

「なんじゃとぉぉおおおお!?」

絶叫とともに、八宝斎はヘナヘナと全身の力が抜け、その場に倒れこんだ。

*******************

「……なんなの? この感覚は」

タクシーを運転手を脅して飛ばさせて、崩れた橋を飛び越えて。

ようやく温泉街に入ったほむらは異様な気配を感じていた。

魔力のようでいて何かが違う。もっと邪悪な何か。

今まで通り過ぎてきた幾多の世界において一度も味わったことのない感覚だった。

「これは八宝斎のお爺さんネ。戦いがはじまってるみたいアルな」

シャンプーは慣れた様子で答える。

「それなら急ぐわよ」

ほむらは可能なかぎりの速度で、その異様な気配の感じる方へ飛ぶように走って行った。

「待つネ! ソウルジェム真っ黒アルよ、そんなに飛ばしていいアルか?」

かまわない、ほむらはそう思う。

(一回だけ、一回だけ使えればいい。それで、まどかに降りかかる災厄の元を断つことができる)

*******************

キュゥべえは温泉街の裏側の、大きなタンクやパイプのある場所に出た。

「見つけたぜ!」

そこに、遠巻きにして杏子の姿が現れた。

「回復魔法を使いながら動いてたからすぐわかったよ」

その杏子から少し距離をあけて、さやかが立っている。

「もう逃がしはしないわ」

さらにキュゥべえの後方にはマミが現れる。

「キュゥべえとやら、年貢の納め時じゃの」

そして、コロンはいつのまにかたたずんでいる。

その四人はきれいにキュゥべえの四方を囲んでいた。

「ふぅん、キミたち四人だけかい。まどかやなびきはまだ追いついていないのかな?
まあ、その方が助かる」

キュゥべえはそうつぶやいた。

「なにグダグダ言ってやがる! ぶったぎってやるぜ、コラァ!」

「この四対一で勝てると思わないことだね」

士気の上がっていた杏子とさやかが突撃する。

突撃しながら杏子は分身を増やし、キュゥべえが逃れる隙をなくす。

それに対してキュゥべえは避けようともせずに、いきなり自分の足元にあったパイプを破壊した。
735 :41話6 ◆awWwWwwWGE [saga;sage;]:2012/11/23(金) 01:14:05.12 ID:8yV2yNpC0
もうもうとした蒸気があがり、黒いレオタードを着たらんまの姿がかすむ。

「――目くらまし?」

マミが言う。

「違う! こ、これはまずい!」

コロンは叫んだ。

「なんだって!?」

そう言われても杏子はいまさら止まれない。

「それなら!」

さやかは杏子とタイミングを合わせて襲いかかるつもりだったが、コロンの言葉を受けて加速、
一気にキュゥべえに接近し、剣を突いた。

しかしそれはきわどくかわされる。

次の瞬間には、どれが本物かもわからない十体近い杏子がキュゥべえに襲いかかる。

だが、それは間に合わなかった。

「魔龍昇天破」

キュゥべえのその言葉とともに、巨大な竜巻が起こった。

竜巻は熱湯の通ったパイプを破壊してさらに勢いを増し、破壊されたパイプの破片が容赦なくまき散らされる。

やがて暴風がおさまった後には、大きな熱湯の池に多数のがれきが横たわっていた。

(……ここにさやか、あれは杏子……向こうに倒れているのは中国の老婆か)

キュゥべえはあちこちに倒れている人間を目視で確認する。

(あの老婆をこれで倒せたのは良かった)

そうして目線を移していくと、キュゥべえの目に黄色いマユのような大きな塊が映った。

(あれは?)

キュゥべえがそう思っているうちにも、黄色いマユはするするとほどける様に緩んでいった。

そして、中から成虫の蝶が出てくるように、背後に銃を並べたマミの姿が現れた。

「やってくれたわね、キュゥべえ」

「マミ? その魔法は?」

黒いレオタードのらんまの表情は変わらない、が、マミにはキュゥべえが驚いているように見えた。

「魔女の状態で出来ることを、魔女を乗り越えた人間にできないと思って?」

マミに防御魔法があることはキュゥべえも知っている。

だが、今回の魔龍昇天破は今までのマミの防御魔法を超えた威力のはずだった。

それがこんな新魔法を編み出しているとは完全に想定外である。

「大したものだね。この短期間にまた魔法のレパートリーを増やしたとは、恐れ入るよ」

そんな言葉とは裏腹に、らんまの体に入ったキュゥべえは構えすらとらない。

「でも、ボクを倒してどうするんだい? どちらにしてもキミには絶望しか残っていないのに。
再び魔女になるか、魔女に食べられて死ぬか……キミは、運命から逃れられない」

「それがどうかしたのかしら? 誰であれ人はいずれ死ぬわ」

キュゥべえの問いに対して、マミにはまるで動揺が見られない。

「だから私は今を生きる人を守るために戦う、今までもこれからも」

「ああ、契約内容を勘違いさせていたことは謝るよ。
別に人間なんかを守る必要はないから、魔女になって死んで欲しいんだ。
それが魔法少女の契約の対価だよ」

表情一つ変えず、キュゥべえは平然とそう言う。

「悪いけど、あなたの魔法少女はもうやめたわ。契約期間切れよ」
736 :41話7 ◆awWwWwwWGE [saga;sage;]:2012/11/23(金) 01:14:55.19 ID:8yV2yNpC0
マミがそう返事をすると、キュゥべえは首をかしげた。何を言っているのかわけがわからない。

「契約期間があったなんてはじめて聞いたね」

「あたりまえよ。言ってなかったもの」

思ってもみなかったマミの回答に、さしものキュゥべえも一瞬呆気にとられた。

「……じゃあ、今のキミは何者なんだい?」

「私は、愛と勇気の魔法少女よ」

そう言って、マミはウインクをして見せた。

キュゥべえは質問の意味が通じているか不安になり聞き直そうかと思ったが、言っても無駄だと考えてやめた。

とにかく言葉攻めで絶望することはもう無さそうだ。

「残念だけど、そういう契約破棄は認めていないんだ。
魔力枯渇で魔女になるか、契約不履行で死ぬか、強制執行させてもらうよ!」

言うと同時に、キュゥべえはマミに向かって走りだす。

「私は、魔女になっても私を信じてくれたみんなを裏切らない……
だから、みんなが信じてくれた愛と勇気の魔法少女であり続けるわ!」

マミはマスケット銃を手に召喚し、黒い衣装のらんまを狙撃した。

キュゥべえはいとも簡単に前から来た弾を避け、十分に間合いを詰めると跳びあがってマミに襲いかかる。

が、

 パーンッ

偽のらんまの体は真横からの銃撃を受け、跳ね飛ばされた。

(なんだって?)

キュゥべえは即座に立ち上がり、弾の飛んできた方を振り向く。

そこには、延びたマミのリボンと、それにつながったマスケット銃があった。

「これは?」

 パーンッ

そう言ったと思ったら、今度は後ろから狙撃された。

(これは……オールレンジ攻撃?)

その弾は背中に直撃し、キュゥべえは前に倒れこむ。

「言ったはずよ。魔女の時にできたことはできるって。
いちいち使い魔まで再現しないけど、今の私はどの方向からでも攻撃ができるわ」

前のように狭い部屋の中でもないので、跳弾が自分や味方にあたる心配もない。

マミは四方八方から、キュゥべえを銃撃した。

らんまの体はまるで踊るように、着弾の衝撃で跳ねまわる。

キュゥべえの知る限り、これはレーダー妨害が発展した文明の宙域戦で多用された戦術だ。

使いこなせば一機体や一個人で中隊レベルの戦力を発揮する。

(――だけど、この戦術には致命的な弱点がある)

キュゥべえはタタミを召喚して差しあたっての直撃を避けると、スピードを強化して一気にマミとの間合いを詰めた。

(自分自身を攻撃するわけにはいかない以上、近づいてしまえばオールレンジ攻撃はできない)

マミのふところまで潜りこむと、キュゥべえはアッパー気味のパンチを繰り出した。

それに対してマミは、リボンやマスケット銃で防御をしようともせず、ただ立ち尽くす。

そして、低くつぶやいた。

「ルジェンド・レオネッサ」

「え?」
737 :41話8 ◆awWwWwwWGE [saga;sage;]:2012/11/23(金) 01:16:52.41 ID:8yV2yNpC0
意味の分からない言葉に呆気にとられる暇もなく、巨大な光の玉となって負の感情エネルギーの塊が降り注ぐ。

そして、その光はマミの周りにクレーターを作り、そのすぐ足もとで漆黒のレオタードを着たらんまの体は
ぺしゃんこに押しつぶされていた。

(……わめく……雌ライオン? なんだソレ?)

動けないながらも意識のあった杏子は頭の中でマミのセリフを即席翻訳した。

父親が仕事がらみでイタリア語に詳しかった影響で、多少は分かるのだ。

「今のは、獅子咆哮弾だね。闘気が足りない分は魔力で補強している」

立ち上がりながら、キュゥべえは言う。

(獅子咆哮弾は愛と勇気の魔法少女っぽくないよね)

密かに意識を取り戻したさやかが内心つぶやいた。

「一度は魔女になったキミならできないはずはないわけだ」

キュゥべえは反撃を試みて殴りかかる。

「よくも、騙してくれたわね!」

が、拳があたる直前でマミはまたも獅子咆哮弾……もといルジェンド・レオネッサを落とした。

「え? 会話がかみ合って――」

ルジェンド・レオネッサにキュゥべえの言葉は遮られる。

近距離に入ってしまったのが運のつきで、広範囲攻撃のルジェンド・レオネッサは小手先ではかわせない。

「おまけに家もつぶされた!」

「賠償金、パパの遺産じゃ足りないかも知れない!」

「魔女になってる間に勉強も遅れた!」

マミが一言いうたびに、キュゥべえに光の柱が襲いかかる。

それも、逃げる間もなく立て続けだ。

「ウエスト細いのにデブって言われた!」

「それはボクのせいじゃな――」

反撃しようとしても、セリフごと力づくでたたきつぶす。

「胸のせいでチカンに狙われやすい!」

「肩がこりやすい!」

「スクール水着のサイズ合わなくて余計なお金かかった!」

マミのルジェンド・レオネッサは続く。

(マミさん、それもう八つ当たり)

巻き込まれないように這いつくばって逃げながら、さやかはそう思った。

(あたしが今、お前に獅子咆哮弾食らわしてやりたい)

杏子は少し自分のソウルジェムが濁った気がした。

「――信じてたのに!」

特大のルジェンド・レオネッサが降り注いだ。

そして、怒号の嵐が止み、黒い衣装のらんまが地面に深くめり込んでいた。

ただひとり、クレーターの中に立つマミは大粒の涙を落とし終えると、らんまの体がもう動かないことを確認した。

そして、急に笑顔に変わって一言もらす。

「ふぅ、すっきりした」
738 : ◆awWwWwwWGE [saga;sage;]:2012/11/23(金) 01:17:49.98 ID:8yV2yNpC0

以上、41話でした
739 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/11/23(金) 02:43:38.36 ID:RarbwO7so
マミさんが更なるチート性能にww
魔女化からの復活でパワーアップはまどマギ二次創作での王道ですね

そしてさやかの胸部は乱馬時空の影響で縮んでしまったのか……哀れ
740 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/11/23(金) 09:18:13.59 ID:3rIgG8sAO
マミさん怒りの猛攻撃wやっぱり普段優しい人ほどキレたときは恐いねw
そして狼牙さん…「やったか!?」は完全に敗北フラグだよ…
741 : ◆awWwWwwWGE :2012/12/03(月) 01:17:25.55 ID:croPxM6o0
ファンネル戦は好みが分かれますよね

42話アップします
742 :42話1 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:副題「獅子咆哮弾以来果たしあい無しという事実」]:2012/12/03(月) 01:18:50.72 ID:croPxM6o0
(ありえない……)

その肉体はすでに活動限界を超えている。

この状態では一時的に表層意識を遮断して回復に集中せざるをえない。

完全に気絶しているように見えるそれを、三人の少女たちと一人の老婆が囲い込む。

「……動かねぇな」

「死んではいないの?」

「今、試してみるわ」

黄色い髪の少女が、その倒れた肉体に向けて銃弾を発砲した。

その弾は、当たる直前で、突如現れたタタミによってはばまれる。

「ふむ、これでは埒があかんの。なびきが来るまで待つしかないようじゃ」

そう言った老婆はまだよろよろとしている。

(ここまで想定と違うなんて、通常ありえない確率だ)

意識の途絶えた女らんまの肉体を守りながら、キュゥべえは思った。

一人ひとりが想定を超えた戦力を発揮している。

武闘家たちだけなら、もともとキュゥべえの専門外なのだから想定以上の働きをしても驚くほどのことではないかもしれない。

しかし、自分の契約した魔法少女たちが、一人は一度魔女にまでなり他もその直前まで陥れたはずの弱者たちが
どうしてここまでしぶとく戦い続けることができるのか。

そして、考えようによっては、何の戦力もなく特別に頭が良いとも言えない鹿目まどかに追い込まれているのだ。

いくら素質のずば抜けているまどかとは言え、そんなことがありえるのか。

(ありえない)

どれだけ計算を繰り返しても導き出される答えはそれだった。

考えてばかりいても仕方がない。

壊れたパイプからあふれる熱湯が大小の湯だまりをあちこちに作り、熱気は十分にある。

少し待てばまた強力な魔龍昇天破を撃てるだろう。

(今は回復に集中して、タイミングを見計らって魔龍昇天破を撃って反撃を開始する)

そう、キュゥべえが行動を決めた瞬間だった。

「飛龍、昇天破!」

コロンが突如、飛龍昇天破を放った。

それはちょっと強い風……少なくとも魔法少女たちにとっては何のダメージにもならない程度の威力だった。

しかし、ヒラヒラした衣服をめくるには十分な威力で、魔法少女たちはとっさにスカートを抑える。

「おばあさん?」

マミがコロンをいぶかしげに見た。

これが八宝斎ならセクハラの現行犯確定だっただろう。

「うむ、熱気が溜まりすぎればまたさっきのような魔龍昇天破を撃ってくるじゃろうからな。
こうして溜まる前に熱気を消費してやるのじゃ」

(!?)

コロンの説明にキュゥべえは内心絶句した。有効な反撃手段がひとつ封じられたのだ。

そもそもキュゥべえはコロンが飛龍昇天破の使い手だと知らず、乱馬がコロンから教わった技だなどとは知る由もない。

だから、そんな対策をされるとは思ってもいなかった。

「あ、なるほど。雪崩対策みたいな感じね」

そう言ってうなずくさやかのマントがゆっくりと垂れさがった。ようやく風が止んだのだ。

「それじゃ、あとは直接的な反撃を防げば良いわけだな」
743 :42話2 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/12/03(月) 01:20:16.78 ID:croPxM6o0
今度は杏子が槍を網状にして倒れた女らんまの肉体を取り囲んだ。

「これで超スピードで奇襲だとか、そういう手も使えねーはずだぜ」

(なんてことだ。これじゃあ回復が間に合っても逆転の手段が……)

そう思ったキュゥべえの感覚に、ふと違和感のある魔力が入ってきた。

(これは……暁美ほむらの魔力だ!)

並行世界、あるいは近未来から来たというあの魔法少女は能力が独特なこともあって、魔力も特徴的で分かりやすい。

ただし、魔力量があまり大きくないので注意をしていないと気がつかないだろう。

それが今、近づいてきている。

(マミも杏子も、みんなボクに集中していて気が付いていない)

それは、チャンスだった。

「違う、まどか。そっちの旅館を右、え? 行き過ぎてない?」

魔力消費を抑えるためだろう、さやかは携帯電話でまどかと連絡を取っている。

この調子では、まどかとなびきがここにたどり着くまでにはまだ時間があるだろう。

おそらくそれより早く、暁美ほむらが到着する。

「おや、もう着いたかの?」

「え? 鹿目さんたちはまだ迷って――」

コロンが目ざとく、離れた場所に人影を見つけて振り向いた。

その瞬間、キュゥべえは女らんまの体を極限まで強化して、地面に全力のパンチを打った。

「な!?」

「うわっ!」

大地が割れ、杏子の作った格子のドームがゆがむ。

キュゥべえはその隙間からすばやく抜け出した。

「逃がさない!」

マミがすかさず散弾を放った。

「魔龍昇天破!」

らんまの体が叫ぶ。

もちろん、ここで全力の魔龍昇天破を使っても、先ほどコロンが熱気を消費したために大した威力にはならない。

キュゥべえの目的は攻撃ではなかった。

かならず自分が竜巻の中心に来る飛龍昇天破とは違い、魔力で闘気を操る魔龍昇天破においては、
自分自身が竜巻に巻き込まれてしまう可能性がある。

それは逆にいえば、自分自身に魔龍昇天破を当てることが可能ということだ。

キュゥべえは自らが操るらんまの体に、小型の、しかし集約された竜巻をぶつけた。

すると、その体は竜巻に押されてすさまじい勢いで舞い上がった。

当然、マミの攻撃はかわされる。

「そんな使い方が!」

コロンは飛龍昇天破のエキスパートであっても魔龍昇天破の使い道は知らない。

完全に予想外といった面持ちだった。

「逃がすか!」

杏子は槍を投げるがキュゥべえのすさまじいスピードに追いつかない。

さやかも空の上までは追いかけられない。

そして、キュゥべえの落下する先には、今ここについたばかりのほむらが居た。
744 :42話3 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/12/03(月) 01:21:03.56 ID:croPxM6o0
「な? なんであんたがここに!?」

「やばい、逃げろ!」

さやかと杏子が口々に叫ぶ。

「――え?」

魔力で無理やり体を動かしているだけのほむらが、その奇襲に対応できるはずもなかった。

猛スピードで飛んでくる赤黒い影を前に呆然と立ちすくむ。

だが、ほむらの横にいる人間にとっては対処のできるスピードだった。

「ペットボトル持ってきてよかたネ」

片言の日本語をしゃべるグラマーな少女は頭からペットボトルの水をかぶる。

「ね、ねこぉぉぉおおおっ!?」

ほむらに攻撃を加える直前で、キュゥべえは大きく飛び退いた。

片言の少女こと、シャンプーがらんまの肉体の最大の弱点であるネコに変身したからだ。

そして、偽らんまにネコ状態の自分が有効であると判断したシャンプーは、素早くその偽らんまの体に飛びつく。

「うぎゃあああああああああっ!!」

その体は絶叫をあげて無秩序かつ縦横無尽にかけまわる。

「シャ、シャンプー来るなと言ったはずじゃぞい! はやくそこから降りるんじゃ」

コロンが言うが、シャンプーは激しく動き回る偽らんまの上に乗っかって飛び降りるのも難しい。

杏子やさやかは手の出しようもなく呆然とキュゥべえの方を見つめ、
ほむらはここまで来るのに疲れたようでへたり込んで肩で息をしている。

「ま、まあいいんじゃないかしら、あの状態なら攻撃されることはないはず――」

「ダメじゃ!」

マミの意見にコロンは激しく首を横に振った。

「ヤツがアレに気づいたら……」

コロンがそう言っている間にも、キュゥべえはらんまの体を使ってネコのシャンプーを強引につかんだ。

体全体は、全力で拒絶しているにもかかわず、その右手だけはネコを強く握りしめて離さない。

「あれは、引きはがそうとしてるんじゃないわ!」

異変に気づいてマミが言う。

「わざとネコを捕まえてるって言うんですか? なんでそんなことを?」

さやかの質問にマミは答えられない。代わりにコロンが答えはじめる。

「ムコ殿には普段は使わない隠し技がある……」

「あいつ、まだ技があったのかよ」

杏子が半ばあきれながら言った。

そんなやり取りをしている間にも、キュゥべえの入ったらんまの体はピタリと足をとめた。

足を止めながらも決してネコをつかむ手は離さない。

シャンプーは苦しそうに鳴き声をあげた。

「く、もはや手遅れか。はじまったぞい」

コロンが言うまでもなく、偽らんまの雰囲気は変わっていた。

その瞳は暗闇の中でらんらんと輝き、その口は獲物を求める猛獣のように半開きで犬歯をむき出しにしている。

「……あれは、キュゥべえじゃないわ」

銃を構えながら、マミが言った。

「だが、乱馬でもねぇ」
745 :42話4 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/12/03(月) 01:22:38.04 ID:croPxM6o0
杏子の額から汗が流れ出た。

乱馬でも、キュゥべえでもない、だが確かに激しく荒れ狂うような闘気を感じるのだ。

「じゃあ、誰なのさ?」

さやかが恐る恐るたずねる。

「ネコじゃ」

「へ?」

コロンのあまりに簡潔で、迫力のない答えに魔法少女たちは目が点になる。

「猫拳と言ってのう、ムコ殿はネコへの恐怖が限界に達した時自身がネコになりきってしまう。
ただし、それはムコ殿の主観を通した、恐怖の権化としてのネコじゃ」

「乱馬にとっての……ネコだと!?」

乱馬ほどの強者が心底恐れ、近づいただけで戦意を喪失するバケモノ。

そう考えれば、とんでもない怪物のように思えてくる。

が、それがネコだという現実が、魔法少女たちの感覚をマヒさせた。

「所詮はネコでしょ! そんなのどうとでも――」

さやかは真っ先にネコの化身となったらんまに飛びかかった。

「ニャアアアッ!」

ネコのシャンプーを放り投げると、その猛獣はさやかに応戦しようと飛びあがる。

交錯の瞬間、猫拳らんまは体を回転させて体の位置をずらす。

さやかは反応が間に合わず、剣を大きく空振りさせた。

そして、猫拳らんまの後ろ脚で蹴り飛ばされる。

「ぐっ、このっ!」

さやかは着地するとすぐにまた猫拳らんまに襲いかかった。

その反撃の早さにさしもの猛獣も驚いたようで、後ろを向いたまま逃げ出した。

「逃がさないよ!」

いかに猫拳らんまでもスピードではさやかにかなわない。

あっという間に追いつかれる。

が、さやかが追いついた瞬間に、猫拳らんまはひらりと身を翻して反転した。

「あっ、こいつ?」

さやかは急に止まることもできず、そのままオーバーランして大きく間をあけられた。

「だー、もう何やってんだよ」

その隙に、今度は杏子が猫拳らんまに槍を向けた。

しかし、攻撃する暇もなく杏子の肩に切り傷をつけて猫拳らんまは通り過ぎた。

(スピードがあって反射神経が極端に高い……あの黒い魔法少女と同じタイプだ)

そう思った杏子は、槍を長大な多節棍に変え、猫拳らんまの行く先に先回りさせた。

「これでどうだ!」

そして、さらに多節棍を伸ばし、ぐるりと猫拳らんまを包囲する。

「ニャア?」

猫拳らんまは少しの間不思議そうな顔をしたが、すぐに杏子に向かって走り出した。

「へ、ネコになっちゃ頭が働かねーみたいだな。全身ボキボキになりやがれ!」

杏子は猫拳らんまを縛り上げるべく、一気に多節棍の包囲を縮まらせる。

「ニャー!」
746 :42話5 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/12/03(月) 01:23:42.27 ID:croPxM6o0
が、猫拳らんまは苦も無くわずかな棍の隙間をするりと抜け出した。

「は? 体の柔らかさもネコ並みかよ!?」

杏子はすぐさま新たな槍を出して攻撃するがあっさりと避けられて、足に深い切り傷をつけられる。

「ぐああ、畜生!」

杏子は分身を出して、後ろから猫拳らんまを突く。

動物の勘か、猫拳らんまはそれも避け、そして嗅覚で本物をかぎ分けて攻撃を続ける。

「杏子から離れなさい!」

次はマミが、杏子の分身の後ろから狙撃をした。

その魔力弾は杏子の分身を貫いて猫拳らんまの後頭部に命中する。

そうして猫拳らんまが倒れた隙に、杏子は槍を幅跳びの棒のように使って逃げた。

「ふぅ、さすがに分身の後ろからの攻撃は分からなかったみたいね」

マミは安堵のため息をつく。

が、そうしている間にも、猫拳らんまの後頭部の傷はみるみるうちにふさがれた。

「むむっ!? キュゥべえの奴は体をコントロールせずに回復に専念しておるということか」

コロンが言った。

猫拳自体はらんまの体の拒絶反応の一種なのだから、キュゥべえが操作することはできないはずだ。

操作できるとしても先ほどシャンプーを捕まえていたように体の一部だけだろう。

どうやらキュゥべえはその一部を、回復魔法を使うことに割り振ったようだ。

そして、操縦のきかない猫拳らんまは狙撃してきたマミを標的に定めて向かっていく。

「私に触れられるかしら!?」

マミは、リボンを伸ばし四方八方から猫拳らんまを撃つ。

またもや動物の勘か、あるいは音や匂いで弾の軌道が分かるのか、猫拳らんまはスイスイかわしながらマミに近づく。

全部かわされるとまでは思っていなかったものの、近づかれるまではマミの想定の範囲内だ。

「来たわね、ルジェンド・レオネッサ!」

想定通り、マミは巨大な負の感情エネルギーを撃ちあげる。

だが、それを落下させるよりも早く、猫拳らんまはマミの頭にかみついた。

「え? あ、痛い! 痛い!」

想定外のスピードと攻撃にあわて、マミは必死に猫拳らんまを引きはがそうとする。

しかし、それより先に、マミが自分で撃ちあげたルジェンド・レオネッサが落下してきた。

「あ、しまっ――」

セリフを言いきるより早く、マミは猫拳らんまごと、光の柱に押しつぶされた。

獅子咆哮弾ことルジェンド・レオネッサは直下型で使う場合、使い手自身がダメージを受ける可能性がある。

そうならないためには、直撃の瞬間に気が抜けた状態にならねばならない。

マミも良牙同様、その瞬間に悲しみに身を任せて気を抜いているのだが、今回はかみつかれてそれどころではなかった。

マミはもろに自分のルジェンド・レオネッサの直撃を受けて倒れた。

一方、同じくルジェンド・レオネッサが直撃した猫拳らんまはキュゥべえの素早い回復によりすぐに立ち上がった。

「マミさんっ!」

猫拳らんまのマミへの追撃をさせないため、さやかが再度、攻撃に向かう。

だが、やはりさやかの攻撃はあたらない。

スピードでは勝っていても、ネコ並みの簡単な情報処理を人間の脳を使って行う猫拳らんまと、
脳はただの人間でしかない魔法少女では情報処理のスピード、つまり反射神経が違いすぎるのだ。
747 :42話6 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/12/03(月) 01:26:37.36 ID:croPxM6o0
至近距離でしばらく斬り合ったが、やがてさやかは体中ズタズタに切り裂かれた。

「やはり、ワシが行くしかないようじゃの」

さやかがやられる前にと、今度はコロンが割り込んで、猫拳らんまを杖で突き飛ばした。

猫拳らんまは飛ばされながらも宙返りをして無事に着地する。

「ニャ? ニャアアアァア、フーッ! フーッ!」

そして、コロンの闘気を感じてか、敵意をむき出しにした。

「猫拳は苦手なんじゃが……」

そう言いながらも、コロンは飛びかかってきた猫拳らんまの爪をきわどくかわして杖で反撃した。

猫拳らんまは地面に叩きつけられて、ダメージを受けるが、それでなおさら気を荒立たせる。

そしてまたもや向かってきた猫拳らんまに、コロンは服の一部を切られた。

(無限回復の猫拳、ワシでは勝てぬ。援軍が来るまで耐えるしかないが……はたして耐えられるか)

コロンは冷や汗をかいた。

***************

『大丈夫アルか?』

地面に膝を落として呼吸を整えているほむらにネコ状態のシャンプーがよたよたと近づいてきた。

ただ放り投げられただけのことだが、うまく着地できなければネコの身には結構なダメージなのだ。

『ダメだわ、あの状態じゃ使えない』

ほむらは会話の通じていない返事をする。

『ワケがわからないネ』

『ここで、魔女になっちゃ意味ないのよ』

またもほむらはシャンプーには理解できないことを言う。

熱と疲労で頭が回らなくなっているのではないかと、シャンプーは不安になってほむらの顔をのぞきこんだ。

すると、今にも死にそうなほど細い体が肩で息をしているというにも関わらず、ほむらの目は完全にすわっていて、
まっすぐにキュゥべえが入っている猫拳らんまの方を凝視していた。

「ニャッ!?」

ほむらの鬼気迫る表情に、思わずシャンプーは猫語で驚きの声をあげた。

「ねこぉ!?」

そのシャンプーの声に反応して、遠くから男の声が聞こえた。

ネコにそんなにびっくりする男は一人しかいない。

そこに現れたのは、男の乱馬と良牙、そして八宝斎だった。

『乱馬〜、よく来てくれタ。ワタシ、熱烈歓迎うれしいね!』

シャンプーはテレパシーを意識して念じてみる。

が、ほむらはテレパシー中継まではしてくれないらしく、誰も反応を示さなかった。

「シャンプーにほむらか、お前らは待機じゃなかったのか?」

ネコのシャンプーを恐れて近づけない乱馬に代わり、良牙が聞いた。

「……私に、インキュベーターを倒す手段があるわ」

ほむらは振り向きもせずそれだけを答えた。

シャンプーがニャーニャー騒いで「私にも喋らせろ」とねだるがほむらは完全に無視している。

「そ、そうなのか?」

ほむらに近寄りがたい雰囲気を感じて良牙は若干引いた。

が、聞かなければならないことを思い出し、血相を変える。
748 :42話7 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/12/03(月) 01:28:58.31 ID:croPxM6o0
「それより、マミちゃんは無事か!?」

「ワシのブラジャーが、幸せの黄色いブラが消えてしまったのじゃぁ〜」

良牙の言葉に続けて八宝斎が言った。

その声は弱々しく、姿もほむらに匹敵するほど弱りきっていた。

ここに来るまでに、らんまが身に着けていたマミ特製の魔法のブラが溶けて消えてしまったということだが、
当然、ほむらには何を言っているのか分からない。

そして元々ノリのよくないほむらがこんな表情の時に突っ込んでくれるはずなどなかった。

「……さあ」

ほむらの答えはそれだけだった。

「ニャー、ニャーッ!」

会話に割り込むようにして、シャンプーが前足である方向を指し示す。

その方向では、コロンが黒いレオタードを着た偽らんまと戦っていた。

それも、乱馬や良牙からはかなり押され気味に見えた。

さらに、三人の魔法少女は全員倒れこんでいる。

「マミちゃんたちを救出するぞ乱馬!」

良牙は居ても立ってもいられずに飛び出す。

「あの動きは、もしかして――?」

乱馬がそう思っていると、テレパシーが届いた。

『乱馬、良牙、あたしは何とか生きてる。今からばーさんにつなぐ』

簡潔にそれだけを伝えたテレパシーは杏子のものだ。

『聞こえるか!? 良牙はキュゥべえに、ムコ殿はおなごたちを巻き込まれないように避難させてやってくれんか』

次に、コロンのテレパシーが届く。無論、杏子が中継したものだ。

『ババア、あれはやっぱり――』

『うむ、猫拳じゃ』

『なんだか知らねぇが、俺が行けばいいんだな?』

『早く代わってくれ。ワシではやられんように戦うのが精一杯じゃ』

話はまとまり、良牙はバンダナを飛ばして猫拳らんまの気をそらした。

その隙に、コロンは猫拳らんまから逃げる。

そして、乱馬はまず杏子の元に行く。

「……わかんねーな、良牙の奴でアレに勝てんのか?」

乱馬に起こしあげられながら、杏子がつぶやいた。

良牙はらんまの体を使ったキュゥべえには完全に負けている。

そのキュゥべえ入りらんまと渡り合った自分や、ノックアウトしたマミが猫拳らんまには完敗だったのだ。

単純に考えれば、猫拳らんまと良牙との戦力差はそうとう大きいように思える。

それなのに、良牙に任せてしまうコロンと乱馬が杏子には不思議に思えた。

「なに言ってんだか。やっぱオメーにゃまだ無差別格闘流は名乗らせられねーな」

乱馬は杏子に肩をかしながらそんな軽口を叩く。

「もしかして、時間稼ぎのためにギセーにする気か?」

無差別格闘早乙女流は臨機応変をモットーとし、敵前逃亡や罵詈雑言なども利用するなんでもアリの流派だ。

負けると分かっていて仲間をけしかけるぐらいのことはやりかねないと杏子は思った。

「ああ、それもアリだが今回はちげーよ。技にはな、相手によって有利不利がある。
……猫拳で良牙に勝てるなら、オレがとっくにやってるさ」
749 :42話8 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:]:2012/12/03(月) 01:29:50.98 ID:croPxM6o0
そう言って乱馬は自信に満ちた笑顔を見せた。

そんな会話をしている間にも、ターゲットを変えた猫拳らんまはすさまじいスピードで良牙に襲いかかる。

またたくうちにも、良牙の体に赤い傷が刻まれていく。

一方、良牙の攻撃はまるであたっていない。

「ムコ殿、何をボサッと観戦しておる! 若いのじゃからムコ殿が二人もたんか!」

猫拳らんまと良牙の戦いを振り返りもせず、コロンが乱馬に息も絶え絶えなマミを押しつけた。

そのコロンはさやかを抱えている。

「わわ、乱暴に扱うなよ」

乱馬はあわててマミをキャッチした。

「しかし、回復役がつぶれてるのは辛いな。今日はここで一泊してくしかねーか」

そして、早くも事後の話をはじめる。

「……おいおい、本当に大丈夫なのかよ、良牙の奴やっと一発当てただけだぞ」

杏子が不安を口にした。

すると、コロンが満面の笑みを浮かべる。

「ほう、一発当たったか。これで勝ちじゃな」

「え?」

杏子は目を点にして、猫拳らんまと良牙の方を見た。

一発食らっただけの猫拳らんまは明らかに動きが悪くなってきている。

一方の良牙は無数の攻撃を受けたにもかかわらず、相も変らぬ力強い攻撃を繰り出していた。

そして、二発、三発とどんどん良牙の攻撃が当たり、猫拳らんまは手数が少なくなっていく。

やがて、猫拳らんまは反撃もできなくなり一方的に良牙に殴られるようになった。

これでは回復させても追いつかないだろう。

「猫拳だかなんだか知らねぇがな、卑怯じゃねぇ乱馬なんて怖かねーんだよ!」

最後に、良牙は獅子咆哮弾を決めて、猫拳らんまを完全に気絶させた。

「おーい、アンタ言われてるよ」

杏子はジト目で乱馬を見て言った。

「あんにゃろ……」

乱馬は苦い顔をして良牙を見つめる。

横でコロンが含み笑いをしていた。

「まあ、言い方はともかくだな、パワーとタフネスに差がありすぎる。
身体強化も無しに良牙と真っ向から殴り合って勝てるわけなんてねーんだよ。
頭がネコ並みになる猫拳じゃああなるのがオチだ」

「なるほどな、アンタは実力じゃ良牙に勝てないわけだ」

杏子はわざとらしく、感心したような声色を作った。

「その言い方やめっ」

乱馬はますます苦虫をかみつぶした様な顔をするのだった。
750 :42話8 ◆awWwWwwWGE :2012/12/03(月) 01:30:33.37 ID:croPxM6o0
以上、42話でした
751 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/03(月) 01:36:49.21 ID:hujsRTOT0
752 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/03(月) 02:23:59.26 ID:wJCQnezio
乙、猫拳って敏捷と回避が上昇するバーサクみたいなもんなのか
手が付けられなくなった挙句あかねの膝に収まってる姿しか思い出せないや

……今回ので思ったけど、ひょっとしてQB入ってなくても猫近づければ乱馬の抜け殻動き出すのか?
何それ怖い
753 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/03(月) 22:58:27.88 ID:ko82c1D00
乙。猫拳は侮れないな。

しかし、マミはまた「勝ち誇り&油断」で敗北してしまったのか・・・
754 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/03(月) 23:03:30.39 ID:mmr6lgSCo
おっつおつ
755 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/03(月) 23:18:07.96 ID:8Sv9vphGo
悪癖の類はどう修行しても克服できない、ってのもらんま世界の法則
756 : ◆awWwWwwWGE :2012/12/08(土) 21:13:05.83 ID:YQGMVheA0
>>752
それは盲点!ww
えーと、中身無しだと目も開かないので、猫を認識できないかと

43話アップします
757 :43話1 ◆awWwWwwWGE [sage:saga:『ガーリックjrの刑』]:2012/12/08(土) 21:15:34.76 ID:YQGMVheA0
「みんな!」

「はー、やっと着いたわね」

満身創痍の男女が集まるところへ、ようやくまどかとなびきが到着した。

「――だから来るなと言ったのにじゃな!」

「ニャー……」

何やらコロンがネコに説教をしているが、気にせずまどかはまっしぐらに駆けていく。

「またコケるわよ」

まるでそのなびきの言葉に合わせるようにつまづきかけて、それでもまどかはなんとか体勢を立て直した。

一方で、良牙も八宝斎も、杏子も意識を取り戻したマミとさやかも、ほむらもみんな傷や疲れを癒すように座り込んでいた。

ここに着いてから戦闘をしていない乱馬はキュゥべえがまた動き出さないか監視している。。

「おお、やっとついたか。早く、蛙溺泉の水を」

その乱馬がまどかに声をかける。

「え……あ、そっか、乱馬さん……だよね?」

はじめて男の乱馬を見たまどかは戸惑った。

「そーそ、これがホントの乱馬くんよ。こんな男がちょっと前まで魔法少女なんてやってたワケ」

いちいち余計なことを口にして、なびきが寄ってくる。

「ああ、そっか。この姿ははじめて――でっ!? ってね、ねこ!?」

今まで暗かったので気付かなかったが、乱馬はまどかがネコのエイミーを抱えていることに気がついてへたりこんだ。

「ニャー?」

過剰なリアクションをとる人間を、不思議そうにエイミーは見つめる。

「ニャッ」

そんなエイミーにシャンプーが声をかけた。

「あっ」

するとエイミーはまどかの腕からするすると抜け出して、シャンプーと一緒に乱馬から遠ざかった。

「あのネコ……」

「シャンプーちゃんよ。まどかちゃんも変身するのは知ってたでしょ?」

まどかが質問を言葉にする前に、なびきは回答する。

「そっか、乱馬さんが怖がるからって連れてってくれたんだ」

まどかはネコ同士のなごむシーンに表情をほころばせる。

「シャンプーの奴、ついに猫語まで……」

一方、同じ動物への変身もちの良牙は沈痛な面持ちでつぶやいた。

「えーと、それでキュゥちゃんはどこ行ったのかしら?」

なびきは呪泉郷の水が入ったボトル缶を片手に探しまわる。

「あ、おい、危ないぞ」

座り込んだまま、杏子がなびきに警告する。

「えっ?」

なびきがそう言って振り返ったその時、ボロボロになった黒いレオタードの女らんまがなびきのすぐ前に立ち上がった。

魔法少女たちにはもうキュゥべえを防御魔法で囲ったりするほどの余力は無かったのだ。

「あ、やば――」

「ち……」

瞬時に、さやかが飛び、なびきを抱えて逃げる。
758 :43話2 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/12/08(土) 21:16:35.75 ID:YQGMVheA0
「勘弁してよ、あたしも魔力残りないんだから」

そう言ってさやかはなびきをそっとおろした。

「ごめん、ごめん……でも、あれってもう大丈夫じゃない?」

なびきはそのキュゥべえの入ったらんまの体を指さす。

さやかが振り返って見ると、それはやけにくすんだ色の肌をして、遠目でも分かるパサパサの髪がポトポトと落ちていた。

やがて、全体的に体がしわしわになり、髪の毛が白く染まっていく。

その様子はどう見てもお年寄りで、とても強そうには見えなかった。

「どうなってんだ!? オレの体が?」

乱馬が驚いて叫ぶ。

「あれは……老化現象です」

マミがそれに答えた。

「バカ野郎、オレはまだそんな歳じゃ――」

「黙って聞け」

目の前で異常な速度で老けていく自分の体にあせる乱馬を、良牙が黙らせる。

「私たちの魔法は本物の物質を作ることはできません。あくまで一時的に、魔力に物質のフリをさせるだけ……
だから、回復魔法も血や肉を増やしているわけではありません」

「それで、マミちゃんが作った下着が消えたのか……」

マミの説明に良牙が口をはさむ。

八宝斎がらんまからはぎとったマミの魔法のブラは、マミがノックアウトされた時に消えたのだ。

「お主ら何を話しておるんじゃ? 消えたワシのスイーツが何か関係あるのか?」

当の八宝斎は、何も分かっていない様子だった。

さもありなん、いまだになぜここに連れてこられたのかも分かっていないのだ。

「回復魔法の基本はもともと人体に備わっている回復機能を促進させることで、効率的に回復させるには先に魔力で
偽の血や肉や皮を作って傷口をふさいでから、後から徐々に本物の細胞と入れ替えます」

マミは説明を続ける。

「なるほど、そうやってたんだ」

さやかが感心したように言った。

「え? アンタ理屈知らずにやってあの回復力なのか?」

そのさやかの発言に杏子が目を丸くした。

「え? あんたは知っててあの回復力なの?」

そんな杏子は逆にさやかに驚き返される。

「いや、あたしはこの話は理解できねー、むかし何度か説明は受けたけど」

杏子はバツが悪そうに顔をそむけた。

「――だから、大けがを回復させる場合は急激に細胞分裂を増やさなければならないわけです。
そんな回復魔法を使い続ければ、あっという間に老化してしまうでしょう」

マミのざっとした説明が終わる。

「ええと、つまりは……」

まどかは必死に生物の授業を思い出そうとする。

(それでいいのか保健委員!)

さやかはつっこみを内心に留めておいた。

(老化……老化は成長と同じ……まさか、マミの一部分の成長がやたら早いのはそれが原因か!?)

杏子もまた、声に出せない想像を膨らませていた。
759 :43話3 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/12/08(土) 21:17:25.82 ID:YQGMVheA0
「つまり、あの体はもう限界ということじゃな」

コロンがそう話をまとめた。

その言葉通り、キュゥべえは息をすることすら辛そうな様子で朽ちかけた体にしがみつき、立ち尽くしていた。

「それでも、あたしは近づかない方が良さそうね」

そう言ってなびきは蛙溺泉の水が入ったボトル缶をかかげて見せた。

キュゥべえにそれをかける気のある人は取りに来いということだ。

「私がいきます」

そこに、予想外にもなびきと同じ非戦闘員のまどかが取りに来る。

「え?」

「おいおい!」

周りがあわてるが、まどかはかまわずボトル缶を受け取った。

「大丈夫?」

なびきはボトル缶を渡してからまどかに聞いた。

「大丈夫です。エイミー、おいで」

まどかはなびきにきっぱりとそう言って、エイミーを呼び寄せた。

ネコがいれば大丈夫ということだろう。

しかし、安心しきれない魔法少女たちに乱馬、良牙、コロンは立ち上がり、傷だらけの体に鞭打って臨戦態勢をとった。

キュゥべえが不審な動きをすればすぐにでもまどかをかばい、キュゥべえを攻撃するためだ。

そのキュゥべえはゆっくりと近づいてくるまどかと、周囲を見回した。

(身体の機能低下が著しい、かなりの物理的な栄養補給がなければ元の性能に戻ることはできない)

キュゥべえはその大分低下した視覚で周囲を見渡した。

魔法少女3名、武闘家4名、魔法少女兼武闘家1名、一般人2名、ネコ2匹。

ほぼ全員が重度の疲労や負傷の状態だが、今のこの体では全滅させることは不可能だ。

向かってくるまどかを急襲するのもネコを抱えている以上難しい。

その一方で、相手にもキュゥべえを蛙にすることの他に、それ以上どうにかする方法は無いはずだ。

「どうするつもりだい? そんなものを使ってボクを閉じ込めたってキミたちには何もできないのに」

その言葉通りこの肉体を破壊されても、キュゥべえ自身には被害はない。

知りすぎた上に例外だらけのこの一団を始末する手だてが無くなってしまうことは痛手だが、せいぜいそのぐらいだ。

カエルにされたって、どうせすぐに肉体が死んで元の体に戻れる。

「カエル一匹生きながらえさせることができないと思う?
ずっと捕まえといて、どうすればあんたを倒せるのか研究させてもらうよ」

キュゥべえの問いにさやかが答える。

「無理だね。ボクが与えたその力を使っているに過ぎない魔法少女たちにも、その願いによって
文明を発展させてきたすべての人間も、ボクたちインキュベーター無しでは何もできない――」

「小賢しいわ」

コロンがそこで割って入る。

「数人の魔法少女すら満足に管理できない分際で、全人類を支配しておるつもりとは片腹痛いわ。
中華5000年の歴史はそこに住む無数の人々の意思によって築き上げられたものじゃ。
数名の英雄の働きだけで出来たものでも無ければ、ましてやキサマの怪しげな術で作られたわけでは断じてない」

断固としてコロンは言い切った。コロンは自国の歴史に自負心を持っている。

当然、それをバカにされて黙っているはずがなかった。

(でも5000年はちょっと言い過ぎだよね)

さやかは密かにそう思う。
760 :43話4 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/12/08(土) 21:19:01.91 ID:YQGMVheA0
「そんな言葉遊びの問題じゃないのさ。ボクたちは文明の黎明期から人類に干渉し、
魔法少女の願いによって人類が発展してきた、それは変えようのない事実だ」

そう言ったキュゥべえの、老いた体を通して出る声は、わずかにしわがれて聞こえた。

「それじゃ聞くけどさ、今の私たちの社会って全部キュゥちゃんにとって都合の良いようにできてるの?
警察ができたり、電話やインターネットで連絡がとりやすくなったり、どっちかと言えば
発展すればするほどキュゥちゃんが動きにくい世の中になってると思うんだけど?」

今度はなびきがキュゥべえに質問した。

「直接ボクたちの活動に害にならないものは放っておいてあげているだけさ」

「言いワケだな」

キュゥべえの言葉を、杏子が否定する。

「風林館から見滝原、風見野までの広い範囲に一匹しかいなくて、そこの中国組の地元ににゃ一匹もいないんだろ?
仲間が足りなくてあちこち手が回らないだけの話じゃねーか。『放っておいてあげている』とは情けねぇ言いワケだぜ」

「それに、杏子も美樹さんもあなたの思っていた以上の力を発揮したはずよ。
ここにいる私たちも、人類も、あなたの手の中に収まっているだけの存在ではないのよ」

マミが杏子に続けて発言する。

「あなたは確かに特別な力を得たり、人が文明を発展させるためのきっかけを与えてくれたかもしれない。
でも、きっかけだけで全ては決まらない。そこから先は私たち自身の意思でしかないわ」

「いいや、違うね。マミ、キミが魔女から元に戻ったような奇跡は二度と起こせるようなものではない。
魔法少女となった者も、ボクたちの家畜として繁栄してきた人類も、絶望して資源になる運命は覆せない」

キュゥべえはそう言いながら、密かに脚を強化した。

「愚かじゃな、お主はワシらを家畜や資源として使っているように思っておるのじゃろうが、実際は逆じゃ。
人の歴史から見れば、お主らの方こそ文明の発展のために利用される消耗される資源に過ぎぬ」

コロンが再び言い返す。

そうしているうちにもまどかがキュゥべえに近づいてくる。

全員の目が自分と近づいてくるまどかに注がれた。

(これは、チャンスだ)

キュゥべえは密かにそう思う。

「……どうして絶望は信じられるのに、他の感情が絶望に勝つこともあるのが信じられないの?」

キュゥべえの目の前まで近づいてきたまどかが言った。

「それは、全ての生物は死という絶望から逃げられないからさ。希望はかならず絶望に転化する」

「じゃあ、キュゥべえが人間の心の中には入れて、魔女の心の中には入らないのはどうして?」

「魔女の精神に呑まれたらボクも危ないからさ」

まどかは質問をしながらもきちんとエイミーを前にしている。

加えて今の老体では捕まえて人質にするということも難しいだろう。

何をしでかすか分からないまどかのような人間はリスクが高すぎる。

「……キュゥべえ、本当は怖いんでしょ?」

「え? ボクにはそんな感情は――」

思わず、キュゥべえは気を取られた。

「一緒にいて分かったよ。キュゥべえは感情がないんじゃなくて、感情を怖がってる」

「何を根拠にそんなことを言うんだい?」

「私が誰よりも怖がりだから分かるの。人に感情を見られるのが怖いから悲しかったり
怒ってたりする時も笑顔を作ってみたり、人の本当の気持ちを知るのが怖いから踏み込めなかったり……」

「それは君だけの話だ」

キュゥべえの反論にひるまず、まどかは続ける。

「それと、終わりが来るのも怖いんだね。だから、体を変えてまで死ぬのから逃げたり、
宇宙の寿命を延ばそうとしたり……」
761 :43話5 ◆awWwWwwWGE [sage:saga]:2012/12/08(土) 21:19:53.16 ID:YQGMVheA0
「それがボクの使命だからそうしているだけさ」

「強がらなくていいんだよ。私もそういうのは怖いから。
でもね、いくら逃げても怖いものは無くならないよ。
ううん、それどころか逃げれば逃げるほど、もっと怖くなるんだよ」

まどかはキッと強い視線をキュゥべえに向けた。

もうまどかはボトル缶を振ればキュゥべえにその水をかけられるほどの位置に来ている。

(まどかと話している場合じゃない、チャンスは今しかない!)

キュゥべ