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ブギーポップ・クロス 〜ネオンライトのガラス玉〜 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/04(月) 01:55:06.42 ID:ZOyFKUWno

〜〜〜

死に至る病。
それを発病させるのは簡単だ。
絶対的な評価を常に下される環境に放り込んでやれば良い。
その環境下で高い評価を受けられるものが、そうでないもの達の間に無意識に、あるいは無感情に、その病を蔓延させるだろう。
もう一つ、絶対的な管理を一方的に下される箱庭に投げ込むのもいいかもしれない。
その中では被管理者は感情を徐々に失い、生きる希望、活力を亡くして行くだろう。
それは、死に至る病、つまり絶望を増長させる。
高い能力を持ったものは、意識の外側で自分のそばにいる存在を緩やかに絶望させ、死に追い込む病そのものだと言ってもいいかもしれない。
そしてそれは、淘汰と呼ばれ正当化される。
自分に適合した環境から少し外れただけで、人間は死に至る病に侵されて行くのだ。
能力こそが全て、その認識は文明を発達させるだろうが、同時に文明自体を穏やかに殺している。
では、もしもそのような環境下に置かれたら、人はどうすれば良いのだろうか。
―― 答えは簡単だ。誇り、自尊心、尊厳、全てを捨てて僅かに見える希望だけを這いつくばってでも追えば良いのである。
死に至る病が蔓延している中には、同時にその病の特効薬も大なり小なり転がっているのである。
それに気づけば、その環境下から抜け出す事が出来るであろう。
そして、抜け出したものは、今度は自分が死に至る病をばらまく病原菌となるだ。

霧間誠一『人を壊す物』

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にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:25:33.60 ID:AZ8P+2+I0
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にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:23:40.62 ID:AZ8P+2+I0
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2 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/04(月) 01:56:18.76 ID:ZOyFKUWno

〜〜〜

ブギーポップとの出会いとそいつと過ごした数日間を俺は実を言うと覚えちゃいない。
そして、この話はどうやらもう半年も前のことらしい。

「上条君、君は君の不幸をなんだと心得ている?」

そのノートにはそいつの言葉と、下手くそな絵が何個か描かれていた。
イラストは真っ黒な筒のようなコスチュームに身を包んだ男のものであった。
それが、ブギーポップという男らしい。

日記は七月一日、夏休みももう間近という頃からつけられていた。
書き出しはこうだ。

「なんと宮下藤花さんが俺の高校へ転入して来た。一個上の学年だけど、偶然廊下で会って一瞬誰かわからなかったけど相変わらず元気な人だった」

その、宮下藤花なる人物を、俺は知らない。
でも、その人がブギーポップと関係があって、俺が日記を付け始めたきっかけでもある事はなんとなくわかった。

何故ならば次の日から日記の内容はその、ブギーポップとかいうやつと宮下藤花というひとつ上の先輩の事がメインになっていたからだ。
俺には何が敵であったのかすらもわからないけれど、このブギーポップって男は科学も魔術も超越した存在だってことだけは理解できた。
3 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/04(月) 01:57:12.44 ID:ZOyFKUWno

〜〜〜

本当はもっとずっとずっと前から気がついていたのかもしれない。
何に? って聞かれたら、困っちゃうんだけどさ。

でも、まぁ、いいか。

人生語るつもりはないけど、こういうもんでしょ? 生きるって。

何かよくわからないけど答えを出して、答えがあるならば出さなければいけなくて、そうやって常に何かを求められるのが生きるってことでしょ?

「佐天さん、どうしたんですか?」

「……んー、なんでもないよ。
さ、帰ろう」

ホームルームを終え、ガヤガヤとうるさい教室の中、私だけが暗い顔をしてぼんやりと窓を眺めてた。

親友……いや、友達の初春飾利は携帯電話で同僚―― 多分、白井さんって人だと思う―― と今日の活動の確認をし終えるとなんの屈託もない笑顔を私に向けた。

私にはそれがまぶしすぎて、そして憎らしかった。

初春の事は大好きだけど、それと同じくらい憎かった。

彼女はレベル1。
私はレベル0。

彼女は超能力以外の素晴らしい能力がある。
私には、なにもない。

私は、何も持っていない。

希望も、幸せも、やりがいも、なにもない。

そんな、路上に転がる空き缶みたいなつまらない空っぽな人生。
4 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/04(月) 01:57:38.80 ID:ZOyFKUWno

もともとそんな人生だったのかもしれないけれど、この街に来てレベルという誰が見ても一目でわかる“烙印”をつけられた事で、こんなに早く「空っぽな人生」に気づかされたのかもしれない。

私は空っぽ。

激しい希望も無ければ、深い絶望もない。

なにも、ない。

「佐天さん?」

帰ろうと、言ったくせに立ち上がる気配のない私に初春は不思議そうな顔を向けてきた。

「ごめん、少しぼんやりしてた。
……このあとは風紀委員?
今日は活動ないならさ〜……たまには、ぱぁっとあっそびいこうぜー!」

明るく笑う自分を、無表情の自分がテレビの中の出来事のように眺めている。
そんな感覚が常に私にはあった。

「わわ、急に抱きつかないでくださいよ!
遊び行くのはいいですけど、白井さんとあともう一人も一緒でいいですか?」

「……うん、もっちろん!」

「ありがとうございます!」

「いえいえ、私も嫁の同僚は一度見ておきたかったしねぇ」

「よ、嫁って……もう、佐天さんてば冗談ばっか……」

ごめんごめん、と軽く謝り「白井さんともう一人」のもう一人は誰かと尋ねた。

すると、初春はその質問を待っていましたと言わんばかりの満面の笑みでこう、答えた。

「御坂美琴さんですっ!
あの、レベル5の第三位、常盤台のエース超電磁砲の御坂美琴さんですっ!」

空っぽだった私の中に深淵よりも深い闇が、少しだけ生まれたような気がした。

そして、その闇は、空っぽだと思っていた私の中に闇を認識出来る程度の光が存在していたという事も気づかせてくれた。

この出会いが、私を変えた。

そう、この、ドス黒い固まった血の色のような絶望感が私を変えてくれた。
5 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/04(月) 01:58:19.01 ID:ZOyFKUWno

〜〜〜

「……夏休みってなんであるんだろうな」

本来学生にとって夏休みってのはウキウキして楽しいものなんだろうな、と思いながらもそう言わずにはいられなかった。
何故かといえば、夏休みまであとひと月を切った六月の終わりのある日、その時点ですでに補講の予定表をもらってしまったからだ。
そんな状況だったら誰だって「夏休みがあるより学校のが楽しい」って思うはずさ。
クラスメイトがこんがりと小麦色になって行く中でただひとり教室で先生とにらめっこ。
考えただけで嫌になるだろ?
それだったら夏休みなんて物自体なくしてみんな道連れにしたいと思うのは、正常な感性だと思うんだが、どうだろう?

「そりゃあ」

一人悶々とくだらない自問を続けていると、先ほどの独り言に前に座る級友が答えた。

「かっわいい彼女を作るためにあるんやろ?」

「お前が少しでも真面目なことをいうかもと思った俺がバカだったよ」

ある意味期待通りの答えに脱力した。
6 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/04(月) 01:58:57.92 ID:ZOyFKUWno

「あ、そういやカミやんしってるか?」

机に額をつけうなだれる俺に、その級友―― 青髪ピアス―― は相変わらずのニコニコした表情でそう聞いて来た。

「しらね、勿体ぶらずにいえよ」

「実は今日一個上の学年に転校生がくるんやで!
しかも女の子や!」

「あー?転校生?
夏休み間近なこの時期に?
なんでまた?」

「知らん、問題はそのセンパイが可愛いかどうかっちゅーこんや!」

「……アホくさ。
もうお前黙って前向いてろよ」

「カミやんはええよな……女の子が集まってくるんやから」

ボソッと何かを言ったような気がしたが、聞かなかったことにした。

女の子が集まってくる。
でも、その女の子達は必ず何かしらのトラブルを抱えているのだ。
馬鹿みたいにキツイ目にあったのにお礼言われて終わり。
それのどこが羨ましいのか全くわからないね。
最近はレベル5にも絡まれるようになったしよ……。
あぁ、うぜぇ。
でも、俺は誰かを助けられるって事は、そこまで不幸でもないのかもしれないな。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/04(月) 01:59:17.70 ID:FrvE6fdRP
禁書×ぶぎぽか
8 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/04(月) 01:59:46.86 ID:ZOyFKUWno

〜〜〜

「こちらは?」

「あ、佐天さんです!
佐天涙子、私の親友です!」

「佐天涙子です」

それだけいうと、白井という人から目を逸らす。
今からここに集まるのはレベル5にレベル4、そして凄腕のハッカー……私以外はみんな素晴らしい能力を持った勝ち組だ。

それに比べて私は……。

「あなたが佐天さんでしたの……初春からよく話を聞いてますの。
いっつも佐天さん佐天さんってあなたの事ばかり話すんですのよ」

白井さんは私のふてくされたような態度も全く気にせずにニコリと笑った。

初春は白井さんの言葉に、顔を赤くしながら「余計な事を言わないでくださいよ!」と照れている事を誤魔化すように怒っている。

「はぁ、そうですか……。
私も白井さんって変な人がいるとは聞いてましたが……なんかアレですね。
全然まともそうで安心しました」
9 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/04(月) 02:01:15.87 ID:ZOyFKUWno

「変な、人?」

「さ、佐天さんっ!」

「初春?
明日からの風紀委員の仕事、楽しみですわね?」

白井さんは、冷ややかな視線を初春に向ける。
対する初春はあうあうと狼狽していた。

ココジャナイ。
やっぱり、私の居場所はここにもない。
ここは、持ってる人の居場所だ。

二人から視線を外し、俯き地面を見つめる。

「……なんだろ、これ」

口の中でそうつぶやき、目にとまった地面に落ちているビー玉のようなものを拾い上げた。
そのビー玉らしきものはキラキラと黄金色に輝き、この世のものではないと言われた方が納得の行く美しさであった。

それを太陽に透かして見てみたりとしていると、突然そのビー玉が―― 消えた。

「え?」

思わず驚きの声をあげると二人がこちらに意識を向けた。

「佐天さん?」

「どうしたんですの?」

「いや、えっと……なんでも……ない」

何故かあのビー玉の事は言わない方がいいと思った。

二人は不思議そうな顔をしたが、それ以上は追求してこなかった。
10 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/04(月) 02:02:45.38 ID:ZOyFKUWno

〜〜〜

授業を終え、職員室に呼ばれると小学生のような容姿の担任の先生かは夏休みの補講課題を夏休みが始まる前に渡された。
憂鬱な気分で職員室を出ると入れ替わりに職員室に入ろうとした女生徒に呼び止められた。

「君! ちょっとまって」

「な、なんでせうか?」

その女生徒はじっと俺の顔を見つめてきた。
そして、うんとひとつ頷くと、期待と不安のこもった声でこう聞いてきた。

「あなた、当麻くん……よね?」

「へ?
あ、まぁ……はい、上条当麻です……けど」

「やっぱり!
うっわー、懐かしいなぁ……私よ私、宮下藤花よ!」

肯定すると、その女生徒は花開いたように明るく笑顔を振りまいた。

「宮下……藤花?」

俺はなかなかその名前を思い出す事が出来なかったけど、次の一言でやっと思い出せた。

「当麻君は私を助けてくれた、人を助けられるのはすごい事、ラッキーなんだよ?」

「あ」

そうだ、この人のこの言葉で俺は自分は少しは幸せを持っていると思える事が出来るようになったんだった。

「思い出した?
退院したと思ったら引っ越しちゃって、あとからおじさんに
『当麻は学園都市へやった』って手紙が来てさ……今回学園都市にくる事になって、もしかしたら会えるかなと思ってたらまさか同じ学校とはね」

世間ってのが狭いって本当なのね。彼女はそう笑いながら俺の肩をバンバンと叩いた。
11 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/04(月) 02:04:58.16 ID:ZOyFKUWno

「すみません、久しぶりですね、藤……宮下先輩」

確かひとつ上だったと思い、そして、青髪の言っていた転校生も二年生で恐らくこの人だと記憶に確信を持ったので、昔の呼び方はやめておいた。

「もう『藤花ちゃん』でいいのに……」

宮下先輩はつまらなそうにそう言った。

「いや、なんというかこの歳でちゃん付って呼ぶ方が恥ずかしいというか」

適当にごまかそうとモゴモゴと口走ってから思い出した。
この人にはこういう誤魔化しは通用しないのだ、と。

「嘘、きっと私といると嫌な事思い出すから昔みたいに仲良くしたくないんでしょ?
大丈夫よ、そんなに話しかけたりしないから」

じゃあね、そういいながら宮下先輩は職員室の中へ消えた。

「退院、引っ越し……十分思い出しちまいましたよ」

ため息をつきながら、俺も靴箱へと向かった。

「上条君」

とぼとぼ歩き始めると後ろから呼び止める声が聞こえた。

振り返るとそこには先程話しかけないから!と言っていた宮下先輩がたっている。
だが、その雰囲気は彼女らしくなく無感情で冷たい印象を受けた。
そうだな、なんというかゲームとかで条件次第で意思とかは関係なく自動的に出てくるロボットの門番……みたいな雰囲気だ。

「君は、絶望を知っているか?」

「え?」

「……それは、世界を壊すものだ」

「何を言って……」

近寄ろうとすると、左右非対称な奇妙な笑顔を浮かべ、さっさと職員室へと戻ってしまった。

「藤花……ちゃん?」

そのあまりの変容ぶりに、今のが宮下先輩だったのかと自身を失った。
そして、もう何年ぶりになるだろうかというこの街にくる前の唯一の友達の名前をつぶやいていた。
12 : ◆qXEKQweJllf. [sage]:2012/06/04(月) 02:07:38.46 ID:ZOyFKUWno
ここまで

ブギーポップ×禁書です
更新は週一くらいでのんびりやるつもりです
ではまた読んでください
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/04(月) 02:27:16.60 ID:r2GOmNzO0
ブギーポップは俺得だな
期待してるぜ
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/04(月) 09:38:49.84 ID:FyamCo2N0
統和機構と学園都市は繋がっていてもおかしくないし、敵対組織でも牽制して監視していてもおかしくない。
土御門はそのどっちのスパイでもありうるし。
重要なのは一方と舞阪さんの戦いがあるかどうかだ。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/06/04(月) 12:13:52.92 ID:DD0Xx8njo
ブキポssとかww
期待
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/06(水) 03:44:05.21 ID:N53e3gcsP
わりと設定被ってるんだよなこの二つの作品
能力の使い方はブギーポップのほうが面白いけど
17 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/06(水) 17:55:20.13 ID:JGYXCSeIO

〜〜〜

「学園都市?」

「あぁ、聞いた事ないか?
チョーノーリョクシャってのを科学的に“開発”してる機関らしい。
科学技術の進歩がどうとかそういうのが建前らしいけど、実態はそういう場所なんだとよ」

紫色のピッタリとした服を着て、首には十字のネックレスをつけている男はクレープをパクつきながら意外そうに説明した。

「超能力?
MPLSだとか合成人間ってのとは違うんですか?」

俺はそんなビックリ都市の話なんか聞いたことがなかった。
もしかしたらこの自他ともに最強と認めるこの男なりの冗談なんじゃないかとすら思った。

「知らね、ただ中枢がほっとくという事は違うんだろうよ。
でも、そういうのが紛れるには都合がいい場所であるって事は確かだ」

「……で?そんな万国ビックリショーみたいな人間ばっかのところに何故探索用合成人間の俺を行かせるんです?
それこそアンタの求める強い超能力者がいるんじゃないのか?」

「もちろん俺も行くぞ?
それに安心しろ、そういう俺の相手になり得そうな能力者はわずか七人しかいねぇらしい。
だいたいは無能力者なんだとよ」

クレープの包み紙を丸めながら、目の前の男はそう言った。
18 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/06(水) 17:55:46.40 ID:JGYXCSeIO

「いつからなんです?」

「明日だ」

「は?」

よろしくな世良稔君、とリィ・舞阪ことフォルテッシモは言い残し消えた。

「クッソ……自分勝手の気分屋が」

残された俺は珍しく食われなかった俺の分のクレープを三口で飲み込み、その場を後にした。
19 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/06(水) 17:56:24.22 ID:JGYXCSeIO

〜〜〜

「おまたせ!」

ビー玉の事を誤魔化してから数分後、額に汗を浮かべた活発そうな少女が太陽のような笑顔で現れた。

「お姉さま!お待ちしておりましたの」

「はいはい、あんたはいいから……えっと……初春さん、だっけ?
はじめまして御坂美琴です!」

「は、はい!初春飾利です!
うわー、すごいなぁ本物の御坂さんだー」

「あっはは、別に普通の中学生よ?
……そちらは初春さんの友達?」

レベル5という力を持ちながら普通とか言った事に腹が立ったのかもしれない。
だから、つい、本当につい言ってしまったのだ。

「……佐天涙子でーす。無能力者でーす、正真正銘普通の中学生でーす」

いい終わった後、やばいかも、と思った。
相手はレベル5なのだ。
機嫌を損ねたら最悪殺されてもおかしくはない。

今更冗談ですと言っても遅いだろう。
仕方がないのでそっぽを向き「私はあなたが嫌いです」という形を保った。

「……佐天さんね、私は御坂美琴よ!
よろしくね!」

だが、御坂さんはそんな事全く気にしていないかのように私に笑いかけた。

「え……あの、はい……よろしくお願い……します」

心にまた、黒い物が溜まった気がした。
20 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/06(水) 17:58:02.93 ID:JGYXCSeIO

〜〜〜

「カミやーん、また転校生やって。
しかも今度は一年生」

宮下先輩と再会した翌日、学校に着くなり青髪ピアスががっかりしたようにそう話しかけて来た。

「……良かったじゃねぇか。
それお前の運命の人なんじゃねーか?」

「男なんよ」

「……よかったじゃねーか」

「なにがやねん!
しっかし、土御門君はまたお休みかいな?」

とりあえず仕入れた情報を伝えるとそれにはもう興味がなくなったようだ。
そして、ここ何日か顔を見せないクラスメイトを心配するなのようなセリフを吐く。

「まぁ、あいつは大丈夫だろ。
病気なんかしそうにないし」

金髪にグラサンのクラスメイトの顔を思い浮かべてみる。

「まぁなー……あ、二人やって」

「なにが?」

「転校生、両方男」

「良かったな」

「いやだからなにがやねん!」

この時期に転校生が三人、それに昨日の宮下先輩の異変。
何かがおかしくないか?
俺は奇妙な違和感に身体の奥がざわざわとするのを感じながらも、その正体はわかるわけもない。
始業のチャイムを他人事のように聞きながら俺はぼんやりと窓の外へと視線を移し、驚きの声をあげることになった。
21 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/06(水) 17:59:01.63 ID:JGYXCSeIO

人が、目の前を落ちて行ったのだ。

ついで、ぐしゃだかべちゃだかよくわからないけれどそんな、何かが潰れる音がした。

下の階から悲鳴が聞こえた。
なんだなんだと、窓に寄ったクラスメイトも同じように悲鳴をあげた。

俺も恐る恐る窓の下を覗き込む。

人が倒れており、その周りにつーっと赤い液体が広がっている。

窓の下からゆっくりと視線を前方へ戻すと、少し離れたポールの上に黒い筒のような人間が立っていた。

『それは世界を壊す物だ』

声など聞こえるはずもないのに、なぜかその黒い筒はそう言った気がした。
しかも、宮下先輩の声で……。

「な、なんだよ……何が、起きてんだ?」

ひゅーひゅーと渇いた口笛のような音が、風に乗って聞こえた。

「ニュルンベルクのマイスタージンガー……」

青髪ピアスが青ざめた顔でそう、つぶやいた。

「ブギーポップの噂はマジやったんか……?」

ブギーポップ?と聞こうとしたが、大急ぎで教室に入ってきた担任の先生により、それは叶わなかった。
22 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/06(水) 17:59:30.35 ID:JGYXCSeIO

〜〜〜

御坂さんが合流してきたあと、私たちは街をフラフラとしていた。
なんだかわからないけど、私は気分が良くなっていた。
まるで心に希望が咲いたように。

適当にお喋りをしながら歩きながら、たまに大学生くらいの人が配るビラを受け取る。

だいたいは新しい雑貨屋さんのものだったり、カフェのものだ。

そして、その中のひとつを見ると御坂さんの足が止まった。
見ているのはクレープ屋さんのチラシだった。

「お姉さま?」

白井さんが声をかける。
御坂さんは聞こえてないのか、何か一言つぶやくと、遠慮がちに「ク、クレープ食べたくない?」と私と初春に言ってきた。

「あー、いいですね。
じゃあ適当に……あの喫茶店にでも入りますか?」

初春はそれに賛成し、目に留まった喫茶店を指差す。

「い、いやぁ〜……ほ、ほら、公園によくクレープ屋さんきてるじゃない?
あそこにしない?」

……なるほどね。
私は御坂さんの持ってるチラシを覗き見てどうして公園のクレープ屋さんにこだわるのか理解した。

「そうですねー、あそこのクレープ屋さん美味しいし……。
んじゃ、そうと決まったらさっさと行きますか」

初春や白井さんが異議を唱える前に、その腕を掴み強引に歩き出す。
初春が疑問の声をあげたのが聞こえたような気がしたが、無視した。

「あ、ありがとう」

御坂さんは、意外そうに私に小さな声でお礼を言った。
先ほどの無礼な態度はこれでチャラにしてもらえそうだ。
23 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/06(水) 18:00:29.22 ID:JGYXCSeIO

〜〜〜

翌日、俺は本当に学園都市へと送られた。
とある高校の一年生に世良稔の名前で転入させられ、能力測定というものをやらされた。

「無能力者、ね。
なんか釈然としないというか……」

この街ではレベルが絶対だと聞かされていたので、無能力者だと動きにくくなるんじゃないか?と思ったが、よくよく考えてみたらそれはMPLSもしくは高位能力者の“憂さ晴らし”の対象になる可能性が高いという事だ。

「治安が悪いと聞いてるし、くだらないチンピラにも絡まれるかもしれねぇが……まぁどんなのが来てもあいつレベルのが来ない限りは逃げるくらいは出来るだろう……前向きに捉えるとするか」

あいつ、とは目の前でカップルや女学生に混じって一人ベンチに座りクレープを食べているあいつだ。

「リィさん」

「おぉ、やっと来たか。
一方通行ってのがこの街の第一位らしい」
24 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/06(水) 18:01:04.60 ID:JGYXCSeIO
今回の任務は、本来俺だけが送られるものだったらしいが「強いやつがいそう」それだけの理由でフォルテシモは「今追ってるものが学園都市へ逃げ込んだかもしれない」と適当な事を言ってついて来たらしい。
それを知ったのは、今朝ここへ来て学校の説明を幼稚園児のような教師から聞いている時だった。

「……俺は適当に情報集めてMPLSがらみのものが引っかかったら報告すればいいんですよね?」

その一方通行とやらと戦うために、そいつの居場所を調べろなどと言わないでくれよ、と遠回しに言ってみた。

「いや、一方通行を見つけたら俺に報告しろ」

しかし、無駄であった。

「それは、探せって事ですか?」

「いや違う。
あくまで俺たちは任務で来てるからな、まぁそれを放棄して統和機構と全面戦争になるのも面白そうだがそうなると一方通行とやらとは戦えなくなるだろ?
だから、とりあえずお前は任務をしっかりやっとけ」

三つ目のクレープを飲み込むと、リィ舞阪はこれをやる、と金色のカエルのストラップを俺に手渡し何処かへ消えた。
25 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/06(水) 18:01:48.17 ID:JGYXCSeIO

「……いらねぇよこんなの。
まぁいい、まずはこの街の構成員に話を聞きにいくか」

貰った、というより押し付けられたストラップを人差し指でくるくる回していると、殺意に似た視線を背中に感じた。

こちらがその視線に気づいていない振りをしながら、その視線の主を探す。

―― 公園内に人は十八人。
目に見えてるのが十二人で、こいつらではない。
少し離れたところにいる二人はクレープ屋の店員だろう……。
つまり、今俺の真後ろにいる四人組、こいつらのうち誰か、もしくは全員……しかし一体何故だ?

目的がわからない。
先ほどフォルテッシモの発した統和機構の言葉に反応したのだろうか?
それにしては、お粗末すぎる。
統和機構という言葉に反応し、それの関係者に殺意を向けるのであればそれ程の力の持ち主という事だ。
だが今俺はいとも簡単に視線の出どころを特定できた。

―― 一体何だってんだよ。

考えられるのは、統和機構など問題にならないくらいの力を持った存在か、何か他に理由があるかだ。

―― 戦うにしてもここじゃダメだな。

ベンチから立ち上がり、ゆっくり歩き公園を出ようとすると、突き刺さってくる視線の色は殺意からがっかりしたような、落胆に変わった。

―― 何だってんだ一体……。

その四人組がおってくる気配もなく、俺の学園都市生活第一日目はスッキリしない始まりを切った。
26 : ◆qXEKQweJllf. [sage]:2012/06/06(水) 18:02:42.94 ID:JGYXCSeIO
ここまで
フォルテッシモとビートの口調がなんかぽくないよね
似せるように頑張らねば
アドバイスあったらくれ

んじゃまた
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/06(水) 20:24:04.59 ID:p0eK5t7r0
舞阪さんは能力もチート級だが本人が根本的に油断”出来ない”と言う性質があるから、
描写する場合は難しくなりそうだな。その分基本的に重要な場面には必ずいないと言う、
ある意味最強(笑)な所が受けてるんだろうが
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/06(水) 20:49:22.90 ID:Rj/eCJOvo
フォルテッシモは能力の可能性はたしかに一方通行さんクラスの最強になれそうな設定なのにイマイチ突き抜けないよな
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/06/06(水) 20:50:42.03 ID:USlO/3AV0
ひゃっはー、ブギークロスとは超俺得なスレ
ff VS 一方通行の最強対決とかよく妄想してたわ

青ピが女子しか知らないとかいうブギーポップの噂を知ってるのはさすがといったところなのか
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/06/06(水) 22:05:18.86 ID:7ehPY/u8o
>>26
何でもかんでも会話で伝えずに、表情や身振り手振り挟むとそれっぽくなるかもしれん
31 : ◆qXEKQweJllf. [sage]:2012/06/06(水) 22:51:04.90 ID:v4cpM22Zo
>>30
次書き方変えてみるからまた言って

他の人たちも読みにくい読みやすい、分かりやすい分かりにくいをどんどん言ってくれ
あとは、禁書、ブギーポップだとどうしてもバトルとかになると能力議論とかになると思うけど他の人を不快にしない程度ならどんどんやってくれて構わないです
まぁ、そこまでレスつくようなSSになるとは思えませんけどwwww
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県) [sage]:2012/06/07(木) 16:53:05.99 ID:JJAtJhdKo
どちらかというと禁書の世界が主軸な感じか
とすると、この時点でこのキャラが生きてるってことはあのキャラはまだ〜みたいな時系列はあまり気にしないでもいいのかな?
33 : ◆qXEKQweJllf. [sage]:2012/06/09(土) 14:39:08.16 ID:kNqAdDeDo
学園都市を舞台にしているけど、禁書メインってわけでもない
学園都市に世界の敵が現れたからブギーポップ登場!
みたいな感じ
34 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/10(日) 16:40:42.22 ID:AiOexdBIO

〜〜〜

「あいつ……」

まるで親の仇でも見るような目で色黒の高校生くらいの男の人を睨んでいた。

よくわからない緊張感が私たちの中に走る。
初春は怯えた表情でわたしの袖を掴み、白井さんは鞄を持つ手を右手から左手へ変えた。

「御坂さん?
あの人と何かあったんですか?」

恐る恐る、というように初春が尋ねると、御坂さんは首を振った。

「いいえ、何もないわ……でも……許せないわね」

「なにがですの?」

白井さんはやや想像がついたのかもしや……といった風な口調で言った。

「……あいつ、超レアなゴールデンゲコ太を……振り回したのよ?」

そして、そのもしや、は正解だったようだ。
一気に脱力し、ため息をつきながらさっさとクレープ屋さんのほうへ歩いて行ってしまった。
初春は想像の御坂美琴と現実の御坂美琴の差異に、喜んでいるのかがっかりしているのかはわからないが複雑そうな顔で笑っていた。

しばらくその男の人が消えた方向を御坂さんは睨みつけていたが、先ほど自身が何を言ったか思い出し、勢いよく初春のほうへ顔を向けた。

「ち、違うのよ!
その、えっと……別にあんなカエルが好きなわけじゃなくって……えっと……」

どうやら自分でもこのあまりにも子供っぽすぎる趣味を好きでは無いようだ。
35 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/10(日) 16:41:40.11 ID:AiOexdBIO

―― あれ?いま、何か落とした?

何かが御坂さんの胸から落ちたように見えたが、視線をしたに移しても何も無い。

勘違いかな?と必死に初春を説得しようとする御坂さんの声をひどく遠くの事のように聞きながら、考える。

―― さっき拾ったビー玉といい、なんなんだろ?

「ね!佐天さん!」

「え?」

全く話を聞いていない私に話を振られても困るだけであった。
御坂さんも困るし、私も困る。
まぁ、私が悪いんだろうけどさ。

「えー……はい、そうですね!」

思い切り笑い、とりあえず同意しておけば問題はないだろう。
そう思い私はすっかりうまくなった作り笑いを浮かべる。

―― そうだ、なんで私、さっきは作り笑いできなかったんだろ?

自分の気持ちの揺れ幅がわからない。
白井さんを紹介された時は、なんとなく憂鬱でビー玉拾ってからは少し楽しくなった。
そして御坂さんと会った時はまた憂鬱で……今はまた落ち着いてる。

ごちゃごちゃと考え事をしていると御坂さんの口からとんでもない言葉が飛び出した。

「ほ、ほら!佐天さんもゲコ太大好きって!」

「は?」

「え?」

「あ、いやー……うん!」

驚いたが、まぁ別にそう思われて困る事もないと思い直す。

そして、また適当な笑顔を貼り付け「元気いっぱい涙子ちゃん」を演じた。

―― うん、これでいい。白井さんとかと会った時は少し気分が悪かっただけ。
これが、私。
空っぽに、適当に、周りに溶け込んだように見せればいい。

本当の心なんて誰にもわからないんだから。

36 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/10(日) 16:42:34.94 ID:AiOexdBIO

〜〜〜

その日は結局転入生の紹介を簡単にすると、あとは休校になった。
転入生の印象はあまり良く無い。
一人は周りすべてを見下している印象だ。
もう一人は見下すというより見えていない感じだ。

二人ともに言えるのは「お前達は俺たちにとって重要ではない」という雰囲気だろう。

「……なんか変な感じだ。
結局ブギーポップってのがなんなのか青ピに聞けなかったしなぁ……」

幸運にも買えたジュースを飲みながら、俺はベンチに座り空を仰ぐ。

夏になりかけの空は青く清々しい。
あの落ちた子は何を思って落ちたのだろうとぼんやりと考えていた。
何を考えていたとしてもあの子が最後にみたのもこの綺麗な青空と透き通った爽やかな風なのかな、とどこかで聞いたようなフレーズが思い浮かんだ。

「あれ?」

見覚えのあるような顔が視線の端を通ったような気がして上を向いていた顔を正面に戻す。
37 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/10(日) 16:43:15.37 ID:AiOexdBIO

「やっぱりそうだ……おーい」

つい、声をかけてしまった。
まだ会話すらした事のない、あちらからしたら他人なのに。

そいつ―― 世良稔―― は左右と後ろに誰もいない事を確認すると、怪訝そうな顔で自分か?というように自信を指差した。

「あー、悪い。
上条当麻だ。うちのクラスに転校してきた奴だろ?
噂だとこの街に来たのも最近だっていうからさ、困ったことというかあったら言えよ。
出来るだけ力になるぜ」

ベンチから立ち上がり、世良に近寄りながら右手を差し出した。
世良は怪しむように俺を若干にらみつつ、警戒心を持ったまま「どうも」とだけ言って俺の手に触れた。

触れた瞬間、手を弾かれ三歩分、距離を取られた。
38 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/10(日) 16:45:01.69 ID:AiOexdBIO

「……」

黙ったまま今度は本気で睨みつけ、こちらの様子を伺っている。
相当戦うという事に慣れている印象を受け、さらにこの転校生の印象は悪くなった。

―― 一体なんなんだこいつは。

「あ、あー……俺の右手は、さ」

敵意がない事を示すように両手のひらを世良に向けながら説明をする。

「異能の力ならなんでも消しちまうんだ。
超能力だろうと、なんだろうとな……神様の奇跡だって異能の力なら消せるはずだ」

「……それも、この街の開発とかで手に入れた能力なのか?」

まるでそうであってくれと言うような声色だった。

「残念ながら違う」

「そうか……上条当麻と言ったな、何故お前はそう簡単に自分の能力をひけらかす?」

変な事を聞く奴だなと顔に出たと思う。
世良はまるで俺が何かを隠しているのではないかと疑っているようだ。
そしてそれくらい、つまり顔に出てしまうくらいその質問は俺の日常とはかけ離れていた。
39 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/10(日) 16:45:27.91 ID:AiOexdBIO

「そんなの、別に知られて困る事もないからだよ。
むしろ、なんでそんな事を聞くんだ?」

「……いや、すまん。
俺が勘違いしてただけみたいだ。
超能力の街だなんて思ってたから派閥とか勢力とかがあって、いつも戦ってるようなイメージを持ってた」

若干腑に落ちないがまぁ、よしとする。

「そか、まぁそういうことやってる奴もいるかもしんねーけど俺らの学校では特にそういうのはないと思うぜ?」

そういい、もう一度手を差し伸べた。
世良は警戒心を少しだけ和らげその手をとった。

「世良稔だ。……よろしくな」

そして、朝とは違い慎重な何かを探るような顔つきでそういった。
40 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/10(日) 16:50:11.93 ID:AiOexdBIO

〜〜〜

「今日の自殺、あれは自殺なんかじゃ無いだろう……とりあえず、その生徒を調べてみるか」

転入早々休校となり、当てもなくふらついていた。
本来ならば退屈な授業中に、今後の動きを考えようとしていた。
だが、授業は行われず、代わりに人間が屋上から飛び出した。

昨日フォルテッシモと別れ、謎の視線を感じたあとこの街の構成員とコンタクトを取ったが……。

「あいつみたいなのもいるんだな……」

この街の構成員はにゃーにゃーうるさい金髪アロハであった。
統和機構の末端の末端である構成員はだいたいが合成人間やMPLSを前にすると、自分は何ミスをしたんじゃないか?殺されるんじゃないか?とビクビクするものだ。
しかし、土御門と名乗ったその男は俺と年齢がさほど変わらんくせに随分余裕を持った立ち振る舞いをしていた。
別にそれが気に食わないというわけではないが、意外ではあった。

「ニヤニヤと気持ち悪りぃ野郎だったな」

そしてその気持ち悪さは二つある。
ひとつは純粋に喋り方とニヤケ面。
もう一つは全くスキがなかった事だ。
油断する事ができないフォルテッシモともは違う。
あいつは無意識レベルで油断しない事を訓練して来たように思えた。
41 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/10(日) 16:50:41.14 ID:AiOexdBIO

―― フォルテッシモがこいつの存在を知ったら、なんてコメントするかすこしきになるな。

案外一方通行との戦いを見るよりも面白そうだと、俺は思った。

そんな、くだらない事を考えながらも周りに気を配るのを忘れたりはしなかった。
だから、急に声をかけられた時そいつは俺に声をかけているとわかってはいたが建前は普通の人間だ。
左右と後ろに人がいないのを確認し、自信なさげな様子を作り自らを指差す。

黒髪をツンツンさせたそいつが近づいてくる間そいつの鼓動を探知し、そいつが教室にいたクラスメイトになる人物だと把握する。
教室にいた時と同じ鼓動。
つまりこいつは今平常心だ。
だがこいつの“平常”がなんなのかは知らないので油断はしない。

簡単に挨拶をすると、上条と名乗ったそいつは右手を差し伸べて来た。
その手を取った瞬間、全ての鼓動が消えた。

―― なんだこいつ!

慌ててその手を弾くと、距離をおき睨みつける。

―― 戻った……あいつに触れるとダメなのか?
……あいつも焦ってる?なんだ、この反応は。

42 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/10(日) 16:51:46.03 ID:AiOexdBIO

しばらくすると上条当麻は両手をあげ、自身の右手の話を始めた。

―― 開発された能力ではない?
こいつ……MPLSか?

統和機構が調査を命じる、つまりそこに統和機構にとって手元においておきたい存在か消してしまいたい存在がいるという事だ。
だが、と疑問が残る。

もし、こいつが探索目的だったとしたら……近すぎないか?

恐らく中枢は上条当麻の存在を掴み、そして俺をここに向かわせた、普通なら同じ高校でも隣のクラスとか探りやすいように少し距離を置くはずだ。

わからない。
こいつじゃないとしたら、こいつはなんなんだ?
他に探索目標がいるという事は、中枢はこの街の事を徹底的に調べている事になる。
もしかしたらここの統括理事長も統和機構の人間かもしれない。
それなのに……何故引っかからなかった?

上条当麻と会話している間も、上条を観察し、おかしなところ不審な鼓動は無いかと観察する。
しかし、上条当麻の鼓動は最初から何も変わらなかった。
43 :コピペミスった ◆qXEKQweJllf. [sage]:2012/06/10(日) 16:52:24.00 ID:AiOexdBIO

「世良稔だ。よろしくな」

最後にそういい、鼓動を感じられなくなる右手を嫌々だが、そっと握った。
44 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/10(日) 16:54:25.87 ID:AiOexdBIO

〜〜〜

「魔術に、科学に統和機構……いやんなるぜい」

ピート・ビートに気持ち悪りぃと評価された統和機構の構成員は、涼しい風の吹く屋上に立ち、ため息をついた。

「というか、ここまでくると俺自身もともとどこの立ち位置かわからなくなってくるな」

サングラスを外し、襟にかけると夜空に浮かぶ丸い月を見上げる。
そして、ニヤニヤと笑った。

「青ピ、カミやん……ディシプリンのはじまりだぜい?」

ピート・ビートが背負う事となるそれとは違うディシプリン……いやクライシスと言ったほうが正しいかもしれない。

「ここは俺たちの街だ、統和機構なんざの好きにはさせたく無いだろう?」

この男の本当の立ち位置が統和機構ではない事ははっきりした。
そして、そんな事を口にしても消されない強さを持っているという事も……。

だが、しかしこの男は知らないのだ。

死神がすでにこの街にいる事を……。

ひゅーひゅーと、乾いた音がしたのを土御門元春は聞き逃していた。
45 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/10(日) 16:56:58.29 ID:AiOexdBIO
ここまで

ビートの能力は「空気振動を察知し、それの応用で人の鼓動を感知する」もので、直接上条さんに能力ぶつけているわけではないので上条さんの鼓動も読めると判断しました。

次もまた読んでください
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/10(日) 17:30:39.03 ID:TQt8V5yAO
そういえばお勧めスレで書く予定があるって言ってた人がいたけどその人?
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/06/10(日) 17:35:08.63 ID:BFMzDWVio
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/10(日) 18:04:36.86 ID:wO5csyLIO
乙。だんだん舞台が整ってきてるみたいでオラワクワクしてきたぞ
合成人間の能力もそげぶされんのか・・・
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/06/11(月) 00:47:17.04 ID:OK5XQZQL0

そういやなんでブギポ世界の住人は、あの口笛聞いてすぐさまニュルンベルクのマイスタージンガーなんて単語が正確に出てくるんだろうね
50 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/14(木) 02:04:57.65 ID:4WHN44vDo
>>46
結構前で禁書オススメスレの話なら俺です


51 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/14(木) 02:05:33.00 ID:4WHN44vDo

〜〜〜

「……」

筒のような帽子をかぶった黒外套が校舎から少し離れたポールの上に立っていた。

不安定な、場所にその存在はしっかりと立ち、飛び降りた少女を見送るかのように、口笛を吹いている。

そして、視線をゆっくり地面からとある教室に向けた。

「……絶望がどんなものかわかったかい?」

まっすぐと一人の少年を見つめながらそう言った。

「それは、世界を壊すもの……世界の敵だ」

雲が太陽を隠し、少しだけ暗くなると、そのわずかな闇に溶けるように黒外套は消えた。

不気味にも美しくも聞こえる口笛の音も静かに消えていった。
52 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/14(木) 02:07:14.12 ID:4WHN44vDo

〜〜〜

世良稔ことピート・ビートが上条当麻だかと会っている時、リィ舞阪こと俺は一方通行とやらの家に来ていた。
一方通行は普通に学生寮に住んでいるらしく、割り当てるのは簡単であった。
ワクワクしながらいって見たものは、ボロボロに壊され落書きされたドアだった。

「あ?第一位はいじめられっ子なのか?」

後で知ったんだがこの街のヤンキーってのか?
そういうチンピラ共はスキルアウトって呼ぶらしいが……まぁ、そいつらの仕業だったらしい。

でも、そんな事は知らなかったし、勘違いするのも仕方がなかったと思うんだ。

「おいおい、こんな馬鹿丸出しの野郎がこの街の最強なのか?」

遠慮も戸惑いもなく、ドアの機能をギリギリ果たしているそれを蹴破り、ズカズカと土足で踏み込むと汚いソファに腰掛ける筋肉質の男達を睨みつける。

「あ?なんだてめぇ?」

「死にてぇのかぁ?」

「おいおい……冗談だろ」

あまりの小物っぽさに、腹の中が熱くなって来た。

「おい、なんか言ったらどうだコラ」

「……」

冷たく、スキルアウト達を見下すように見つめると、最強の能力を振るう。

「雑魚が」

指を数回、軽く降るとスキルアウト達は突如として切り刻まれた。
スキルアウトの身体からは鮮血が吹き出し、壁を汚す。
しかし、切り刻んだ張本人であり、弾けた男達の一番近くにいた俺には返り血がつくこともなかった。
53 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/14(木) 02:07:44.58 ID:4WHN44vDo

「……ゴミ掃除ご苦労さァン、でェ?誰だオマエ」

どくどくと血を流す肉塊を眺めながら、これからどうしようかと考えていたら背後から突如として声をかけられた。

「……リィ舞阪だ」

―― 気づけなかっただと?
……面白いじゃねぇか。

勘違いし、ぶち殺してしまった奴らには申し訳ないと少し思うが、まぁいい。

「お前が一方通行か?」

「……消えろ、殺すぞ」

一方通行という男は真っ白のもやしみたいな野郎だった。
缶コーヒーが大量に入った袋を持ち、真っ赤な瞳で俺を睨みつけてくる。

―― でも、イマイチだな。

強い奴と戦うのが俺の目的だ。
俺に気づかれずここまで近づいた奴が弱いはずが無いのだが……。
強い奴を前にした時のワクワク感はなかった。

「……はぁ」

一方通行の目を見た瞬間、気づいちまった。
コイツは精神的に弱い。現時点で戦ったらビートですら、勝てないにしても善戦するだろうと。

が、それは現時点での話だ。
ビート同様こいつには俺の相手になりうる。

「……はぁ、ちと様子を見るか」

つい、と指を振り壁をぶっ壊した。
54 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/14(木) 02:08:13.41 ID:4WHN44vDo

〜〜〜

「……なンだ」

―― 血の匂い?……チッ。

「誰だお前」

その侵入者はリィ舞阪と名乗った。
舐めた目つきで俺を見定めるかのように見つめると、指をつい、と振った。
その瞬間、壁がぶっ壊れ、気づいたら消えていた。

「チッ……問答無用でぶち殺しゃよかったなァ……」

鏡のような断面で切断された壁がイラつきを増幅させた。
55 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/14(木) 02:08:57.92 ID:4WHN44vDo

〜〜〜

飛び降り自殺から二日後、学校は再開した。
生徒達は、たった二日前のことを既に忘れたかのように笑っている。

―― なんで、笑えるんだろう。

俺にはそれが不思議だった。
人が死んだのだぞ?
何故、その人が知らない人だからと言って簡単に忘れ笑えるのだろう。
何故、助けられなかった事を後悔しないのだろう。

「カミやん」

机に座り、空を眺める雲を眺めていると久しぶりに見る顔がいた。

「土御門……お前今まで何やってたんだ?」

「んー、ただのサボりぜよ。
それより、うちのクラスに転校生が来たんだってな」

「……あぁ、なんか妙な雰囲気を持った二人組だよ」

「二人組?」

「ん、あぁ別に同じところから来たとかって意味じゃなくて二人ともそれぞれ独特な雰囲気ってことだ」

リィ舞阪よりは、直接話した分世良稔のほうが親近感がある。
俺は適当に世良の事などを土御門に話した。

「ほー、戦い慣れてる感じ、ね。
まぁ、きっと喧嘩慣れしてるだけなんだにゃー」

感じた違和感についても話したがそれについては、その程度のコメントしかもらえなかった。
56 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/14(木) 02:09:40.14 ID:4WHN44vDo

「そっか……ならいいや。
……あ、そういやお前『ブギーポップ』って知ってるか?」

青髪が口走り、聞こうと思ったが聞けなかった事を、青髪と同じく情報通の土御門に聞いてみた。
土御門が一瞬だけ目をギラつかせたのが、サングラスの上からでもわかった。

「さぁ、知らんぜよ。
そういやカミやん、お前すでに夏休みはないんだろ?」

そしてわざとらしく、話題を変えようとする。

「……そうだけど、どうせお前もだろ」

「あったりだにゃー!
ま、せいぜい頑張ろうぜい」

ニヤニヤと笑いながら、土御門は窓を勢いよく開けた。
生ぬるいような心地よいような空気が、頬を撫で、眠気が一気に襲ってくる。
時計を見ると始業まではあと十五分あった。

よし、寝よう。

そう思い腕をまくらに机に伏せると、あの不吉な口笛が聞こえたような気がした。
57 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/14(木) 02:10:39.67 ID:4WHN44vDo

〜〜〜

「ブギーポップ?」

聞きなれない名前に、思わず大きな声で反応してしまった。

「わわ!佐天さん、声が大きいですよ!
これは女の子だけの噂なんですから!」

級友の初春はこそこそと周りの男子を見ながら言った。

「はぁ……で?なんなのそれ?
ブギーだから……不気味な?
で、ポップは……ポップ?ポップミュージックとかのポップ?
不気味な大衆向け?なにそれ?」

「名前の由来はよく知りませんけど、それではなく人です!
その人が最も美しい時にそれ以上醜くならないように殺しに来るんですって!
この前授業でワーグナーのニュルンベルクのマイスタージンガー聞いたじゃないですか。
あれを口笛で吹きながら現れるとかなんとか……死神らしいので気をつけてくださいね!」

初春は一気にその、ブギーポップとやらの説明をしたあと、そいつは黒い帽子に黒いマントをつけているらしい、と付け加えた。

「珍しいね、初春がそんなの信じるなんて」

いつも私がそういう都市伝説を話しても
「そんなのいるわけないじゃないですか」
と、冷たくあしらうくせに、とは言わなかった。

「……それが、私少し気になったから調べたんですよ。
今までブギーポップの噂が出たところを……そしたら、噂の出現時期にその街では変な出来事が起きてるんですよね……」

気味悪そうに、視線をしたにずらした。

「そんなの、たまたまでしょ」

私の言った事は信じないくせに、と言った風なイライラした口調でつい言ってしまった。
58 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/14(木) 02:11:12.19 ID:4WHN44vDo

「そうだと、良いんですけど……」

少しだけさみしそうな顔をすると、初春は俯いてしまった。
そして、椅子を正面に戻し、そのままぼんやりと落ち込んだ様子でチャイムが鳴るのを待った。

―― あれ、これって……?

見覚えのある黄金色に輝くビー玉が、初春の椅子の足あたりに落ちていた。
ペンを落とし、それを拾った隣の生徒は気づいていない。

―― なんだろう、これ……。

とりあえず拾ってみて、再度着席しそれを眺めているとまたもそれは私の体内に吸い込まれてしまった。

「うわっ!」

ガタン、と音を立て立ち上がると、周りにいたクラスメイト達が奇異の目で「どうしたの?」と聞いて来た。
適当に誤魔化すが、一番反応しそうな初春は無反応だったことがなにかひっかかった。

ふぅ、と息を吐き、席に座り直す。
始業まであと十五分、寝ようかなとぼんやり外を眺めると、信じたくない光景が飛び込んで来た。
筒のような帽子をかぶり、もう夏になりかけているのに真っ黒なコートのような物を身にまとった男が校庭のフェンスの上に立っているのが見えたのだ。

「ブギー……ポップ?」

たった今初春に聞いた都市伝説だと直感で理解出来た。

―― 私、殺されるの?

「初…春……」

「……なんですか?佐天さん」

「ニュルンベルクのマイスタージンガーってどんな曲だっけ?」

微かに聞こえる口笛のような音がもしもそれだったら、と考えると恐ろしかった。
どうかこの口笛が私の幻聴であって欲しいと願ったが、初春は私のその希望を打ち砕いた。

「どんなって……今ちょうど誰かが口笛で吹いてますよ?」

「―― ッ!」

私と、ブギーポップの戦いが始まろうとしていた。
59 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/14(木) 02:12:09.47 ID:4WHN44vDo

〜〜〜

今朝はカミやん並についてなかった。
いや、ついてるはずだったんや。
僕は下宿先のパン屋を手伝っとるんやけど、今朝の配達先は中学校やった。
僕は学校にわりと早めに来るような真面目な女の子が大好きやからな、配達ついでにそういう子を見て英気を養おう思ってたんや。
そんで、すっごい美少女見つけてな、ラッキーだったはずなんや。
せやけど、なんか引っかかるんや。

何がって、そりゃあうまく言えへんけど……。

女の子達の間だけに伝わるブギーポップっちゅーやつの噂をなんとかクラスメイトから聞きだしてから、何かがずっと引っかかってるんや。

「ニュルンベルクのマイスタージンガー……か」

聞き慣れない言葉を、繰り返す。
ブギーポップの噂を流したやつは教養があるやつなんやと思う。
普通の女学生はニュルンベルクのマイスタージンガーなんて聞いただけでわからんやろ?

そして、噂を聞いたものは、それがどんな曲なのか聞いて見るんやろうな……。

もしかしたらブギーポップはクラッシック音楽に興味を持って欲しいやつの涙ぐましい努力なのかもしれない、と最初は思った。

だが……と、二日前の事故を思い出す。
60 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/14(木) 02:12:39.72 ID:4WHN44vDo

飛び降りたのは僕を面白がりよくからかってきた先輩だった。

飛び降りた日の朝も僕はその先輩と話をしてたんや。
なんとなく憂鬱な気分をその人は吹き飛ばしてくれるようなそんな人やった。

そんな人が自殺して、あの曲が聞こえてきたんやで?

怖くて怖くてしゃーない。

「あの先輩は、あの時が一番美しかったんかなぁ……」

そんな事を考えていると、さっき見た美少女と、ぶつかりそうになった。

「おわっと……すんません!」

「いえ、こちらこそ……下駄箱に携帯いれっぱにしちゃって」

その子は携帯いじりながら登校して、靴を履き替える時にそれを下駄箱においたら忘れたので取りに戻ってきた。
そんなことを聞いてもないのにはずかしそうに説明した。

それがなんか可愛く見えてな……やっぱ女の子はええなって思ったんや。

ここで終わればいい日なんやけどな、まぁ、そのあともなんやかんや作業してたら時間は何時の間にか始業十五分前になってたんや。

急いで帰って着替えて学校いかなって思った瞬間やな。

あの曲が、聞こえてきたんや。

「ニュルンベルクのマイスタージンガー……」

先輩の身体から血が広がる光景がフラッシュバックした。

―― 最低な、朝やな。

ピーチクパーチクなく小鳥の声は、その音楽を歓迎しているようにも聞こえた。
61 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/14(木) 02:14:24.80 ID:4WHN44vDo
ここまで

それぞれ一人称で書いて見ようだなんて思わなきゃよかった

また読んでください
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/14(木) 02:15:31.43 ID:7l+Tck2io
大量投下乙
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/06/14(木) 02:28:43.86 ID:OjSacEsso

佐天さんVSブキポが始まるのか…?
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/14(木) 02:56:49.64 ID:44k9N/DAO
>>50
その時クロスないか聞いた者です。
期待してます
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/14(木) 06:13:04.10 ID:P6VkDR26o
いいね
この能力が安易に読めない感じ
たしかにブギーポップっぽい
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/06/15(金) 01:01:42.40 ID:ZMzJLZMZo
舞阪さんは殺意には殺意で返すけどチンピラ程度に本気で能力なんか使わんぜ
[ピーーー]価値もないで硬直させるとか適当にあしらってすませると思うぞ
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/06/15(金) 06:42:27.20 ID:siwiyO+AO
つまり死んでない形になるな
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/15(金) 09:20:29.51 ID:rdmQN6Umo
逆に言えば本気で殺意を感じたならば、それ程に脅威になる何かを感じたとも言える
69 : ◆qXEKQweJllf. [sage]:2012/06/15(金) 14:49:57.15 ID:HCuv5NOIO
そう、つまり伏線というわけだな
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/06/15(金) 23:50:18.80 ID:siwiyO+AO
まさか流石にどうみてもモブな不良が伏線なわけ…
71 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/16(土) 00:05:03.88 ID:ob1Kcidyo

〜〜〜

「あ、世良ちゃん遅刻ですよ!」

一限目の授業の途中、後ろの扉を開け教室内に入ると担任である先生がそう言った。

「……スミマセンね、どうも慣れなくて」

あんたが教師という現実にな、と心の中でぼやく。

「減点一です。
三溜まったら、補講ですよー?
世良ちゃんは能力開発の方は何故か上からストップがかかっているので朝のお掃除やってもらいまーす!
欠席も、ちゃんとした理由がないとだめですからねー?」

冗談だろ?とつぶやきそうになったが、なんとかその言葉を飲み込んだ。

調査をこなしながら学校にも通えなんて、そんなのは無理だ。
上条当麻の事以外にも気になることはある。
例えば、先日の自殺だってそうだ。

学校なんかに真面目に通ってる余裕などないのだ。

それは、中枢側もよくわかっているはずなのだが……一体何故、俺は普通に普通の生徒として扱われている?

軽く舌打ちしながら、とりあえずの調査目標の上条当麻の方へ視線をずらし俺は絶句した。
72 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/16(土) 00:06:03.68 ID:ob1Kcidyo

「なんで、お前がいるんだよ」

「なんでと言われても、俺はお前より早くにここのクラスメイトの一員なんだにゃー?」

やはり、ニヤニヤと気持ちが悪い。
そして周りの生徒は俺とこの気持ち悪いやつが知り合いなのか?とヒソヒソ話をはじめた。

「というか、お前誰なんだにゃー?
俺はお前が来た日学校休んだから名前をまだ知らんぜよ」

白々しい野郎だ。

「スマン、その日学校終わったあと街をふらついてたらお前を見かけてな。
ひどいセンスをしたやつがいたもんだと思ったらクラスにいたからつい……な?
あぁ、俺は世良稔だ」

「……失礼なやつだ。
おっと、俺は土御門―― 」

「あぁ、覚える気ないからお前の名前は言わなくていいぞ」

「……本当に失礼なやつなんだにゃー」

そういいつつも、土御門の目は楽しそうに光っていた。

本当に、気持ちの悪いやつだ。
73 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/16(土) 00:06:47.33 ID:ob1Kcidyo

〜〜〜

綺麗に切断されたあとは、壁だけではなかった。
床に転がる二つの死体、それもまた芸術のように美しい断面をしている。

「……こンな能力はじめて見るな」

地の匂いがする部屋で一人つぶやく。

「まァ、次見かけたら殺すかァ……ったく汚しやがって」

言ってから、汚れてるのはもともとか、一人怪しく笑った。

「リィ舞阪か」

今やってる実験が終わったら、本当にひとつ強くなっているのか試すのはあいつにしよう。

「ぎゃはっ……」

あいつが残していった肉塊を、思い切り踏み潰した。
74 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/16(土) 00:07:37.92 ID:ob1Kcidyo

〜〜〜

ニュルンベルクのマイスタージンガー。
私にとってその曲は、戦いを知らせる合図のようなものに変わった。

始業までの十五分、とても寝ようという気分にはなれず私は必死に自分を落ち着かせようとしていた。

―― 落ち着け、落ち着け……これはチャンスだと考えろ。

先ほど見たのが本当に噂通りのブギーポップだったとしたら、私は今が最も美しい、つまり人生の絶頂にいるということだ。

ならば、何か今までと変わったことがあり、その変わった事は私の武器になるはずだ。

―― それを使いこなしてブギーポップを返り討ちにしてやるんだ。

そう、決心したはいいが最近何か変わったことなど変なビー玉をよく見るという事くらいしかない。

―― あのビー玉が何か関係あるのかな?

チャイムがなり、先生が入ってきた。
クラス委員が号令をかけ、授業が始まる。

とりあえずノートと教科書を開き、授業を受けているふりをするが頭の中はブギーポップのことでいっぱいだった。
75 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/16(土) 00:09:43.53 ID:ob1Kcidyo

〜〜〜

無性にイライラする。
一方通行の家に行き、チンピラどもをぶっ殺してから無性にイライラする。

そしてその理由がわからず、なんだこのイライラは、と悪循環に陥っていた。

「クッソ……遅えな」

イライラしながら、ピート・ビートの到着を待つ。
学校にMPLSでも見つけたのだろうか?と思ったが、それでも優秀なあいつならば優先順位というものを理解しているはずだ。

「すみません、遅れました」

そんな事を考えていると、クレープを二つ持ったピート・ビートが現れた。

―― なん、だと……?

「リィさん?どうしました?」

「……お前、今何をした?」

恐らくビートはわけのわからないという顔をするだろう。
そして、こう言うはずだ。

『何もしていない』

「いや、別に何もしてませんよ?
遅れた侘びにクレープ買ったくらいです」

「……」

黙り込む俺に、若干の緊張をビートは感じているようだ。
顔が少しだけ強張っている。

「リィさんこそ、どうしたんですか?」

「……いや、なんでもない。
この公園内に今何人いる?」

「……俺とあんたを除いたら十六人。
いつもの店員が二人と、カップルが三組、そのうち一組は多分男の方が浮気をしている。
あとは子供が六人と大人が二人、ですけど」

なぜそんなことを?と言う風にビートは答えた。
76 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/16(土) 00:10:14.41 ID:ob1Kcidyo

「俺は今、どんな状態だ?」

「どんなって……いつも通りです。
本当に、なんかあったんですか?」

本気で心配するような目で俺を見る。

「わからん……」

「……あ、そうだ。
リィさんちゃんと学校行った方がいいですよ」

ビートは俺を探るように、全くする必要のない会話をはじめた。

「俺もよくわからないんですけど、あの学校はおかしい。
まず俺たちが送り込まれるのに学校に入れられるの自体がおかしいと気づくべきでした」

ビートは俺たちの通う学校には統和機構の力が及んでいない可能性があると言った。

「そして、構成員が気持ち悪りぃやつです」

最後のは完全なただの愚痴であったが。

「構成員はどうでもいいとして、構成員がその学校にいて統和機構が絡んでないわけ無いだろう?
その構成員が仕事をしていないと言う事だ。
そして、そいつが生きてるって事はそいつは強いか、もしくは工作がうまいんだろうさ。
……ほかに報告は?」

俺のイライラとした様子に、ビートは不思議そうな顔をする。
こういう時に怯えた顔をしないから俺はこいつを見込んでいるんだ。

「……いや、特には無いですね。
それよりフォルテッシモ、なんかおかしいですよ?
感じる鼓動はいつもと同じなのに明らかにあんたはイラついてる」
77 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/16(土) 00:11:39.51 ID:ob1Kcidyo

「……チッ。
おい、お前から見た俺ってのはどんな奴だ?
怒らないから正直に言え」

「……気分屋」

ビートは言おうか言うまいか少し悩んだあとポツリとそう言った。

「ほかには?」

「強い奴と戦うのが好き。
弱い奴には目もくれない。
無駄な殺しはしない。
あぁ、あとクレープが大好き」

そういいながら、思い出したように手に持っているクレープを差し出して来た。

「……だよな、やっぱりおかしかったんだ。
なんで俺はあのチンピラどもを―― 殺した?」

自分に問いかけるようにつぶやくと、クレープを受け取りぱくつく。

「殺した?」

あんたが?とビートも意外そうにそう聞き返して来た。

「あぁ、そうだ、そしてそれからだ。
なんだかイライラするようになったのは」

「あんた、攻撃を、既に……受けてるんじゃないですか?」

「だろうな」

「心当たりは?」

「……」

聞かれ、順に思い返して見た。

まず、一方通行の家に行く。
そして、チンピラどもを三人ぶっ殺した。
そしたら一方通行が帰って来たんだったな。
あいつは強くなりそうだった、だから強くなるのを待とうと思って……壁壊して出てきたんだ。
78 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/16(土) 00:12:46.95 ID:ob1Kcidyo

……まてよ、今、なにか引っかかった。

思い出せ、何だ?

「あ、一匹足りない」

俺が考え込むと、ビートは前に俺がくれてやったカエルのマスコットを手のひらに広げていた。

「お前なにやってんだ?」

「あんたに貰ったのと今買ったのについてきた奴で全部揃ったかと思ってたんですけど……一個たりませんね」

そういうのを集めるのが好きというわけでは無いだろう。
俺が押し付けるもんだから自然と集まってしまったんだろうな。
にしても一個足りないとはね……足りない?

「そうだ、足りないんだ」

「……だから、一匹足りないって言ったじゃないですか」

ビートは本当は俺の頭がおかしくなったではないかと少し疑うような怪しむような目を向けてきた。

「違う、死体だ。
俺が殺したのは三人、でも部屋を出る時に見たのは二人だけだった」

「……動く死体って事ですか?」

「わからねぇ、ただそいつの能力は検討がつく」

「なぜ?」

「恐らく人と感情をどうにかする能力だろう」

「リィさんはイラつきを増幅させられているって事ですか?」

頷いた。
だが、とビートは否定する。

「それだったら俺が察知できる鼓動にも変化があるはずです」

「まぁ、今考えてもわからないものはわからない。
それに、殺し損ねたチンピラを殺せばそれで解決するだろう?
だったら俺はそいつを探すとする」

「……そいつ、MPLSですかね?」

「かもな」

「はぁ……協力しますよ」

「俺がイライラしてたらいつ殺されるかわからねぇもんな」

冗談っぽく言ったつもりだが、あまり受けなかったようだ。
79 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/16(土) 00:13:45.34 ID:ob1Kcidyo

〜〜〜

「あ、上条くん!」

退屈な授業を終え、帰ろうと玄関で靴を履き替えていたら背後から俺を呼ぶ声がした。
振り返ると、そこにはスポルディング製のバッグを持った宮下藤花が立っていた。

「宮下先輩……」

「あ、ごめんついつい話かけちゃったわ」

話しかけないという約束は一応覚えていたようだ。

「当麻君の学生寮はどこなの?
ご飯作りに行ってあげよっか?」

ニコニコ笑いながら、宮下先輩は大きな鞄を揺らす。

「名前で呼ばないでくださいよ。
クラスメイトに聞かれたら鬱陶しい事になるんで……飯は大丈夫です。
自分で作れますから」

視線を合わせないようにと、先輩のその大きな鞄をじっと見つめていた。

「……送りますよ。
それ、持ちます」

先輩が、黙り込んでしまったので少しだけ顔をあげ手を差し出しながらそう言った。

「……」

「先輩?」

「上条クン、少しトイレにいってくる」
80 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/16(土) 00:14:47.02 ID:ob1Kcidyo

この雰囲気は……まさか。
そう思い、学校に戻ろうとする先輩の手を掴んだ。

「先輩、ふざけてるならやめてくれ。
本気なら、説明してくれ」

先輩の皮をかぶった何者かは、ゆっくりこちらに振り向くと、顔をしかめた。

「消えた……?」

そして、そう呟くと「あれ?」とか言いながらいつもの先輩に戻った。

「と、当麻くん?どうしたのよ、腕なんか掴んで……」

「あんたは、何者なんだ?
今、何をした?」

「何って……当麻くんが忘れ物したから取りに行こうって」

嘘をついているような、ごまかしているような感じは一切しなかった。
宮下藤花の中では、それが真実なのだというように当たり前に言ってのけた。

「……先輩、帰りましょう。
送りますよ」

「お、気の利くいい男になったねぇ……。
よし、ご飯作ってあげるから食べて行きなさいよ!」

先輩は、本当に何事もなかったかのように笑っていた。
81 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/16(土) 00:19:18.75 ID:ob1Kcidyo

〜〜〜

佐天さん、さようなら。今までありがとうございました。
初春のその声が頭から離れない。

朝、少しきつい事を言ってしまいそれから初春の様子はおかしかった。
そして、五時間目の美術の時間、今日の授業は彫刻刀を使い版画を作るというものだった。
板と彫刻刀が配られ、初春に何を彫ろうかと相談しようとすると、初春は突然「あぁ、そうか」とずっと解けなかったパズルの解き方を思いついたかのような清々しい声を上げたのだ。

「初、春?」

そして、初春は私の方を向くと彫刻刀を自分の手首につきたてた。

「佐天さん、さようなら。今までありがとうございました」

「は?」

教室はパニックになり、先生は大慌てで救急車を呼んだ。
私は呆然と初春の血液が自分の制服に赤い斑点をつけるのを眺めている事しか出来なかった。

しかし、それは悲しみなど初春を心配したような気持ちからではなかった気がする。
むしろ初春に対しては「ざまぁみろ」と言ったような清々した気分すら感じていた。

レベル1で、PCの高いスキルを持ち、いつも私の事を見下しているからだ。

そう、思っていたような気がする。

では、何故動けなかったのか。

それは、初春の言葉と明らかにその行動がおかしいからだ。

何故、私にありがとうなどと言ったのだろう。
何故、あの弱虫の初春がこんな恐ろしい行動に出れたのだろう。

考えても答えは出る訳もなかった。
82 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/16(土) 00:19:48.31 ID:ob1Kcidyo

その後、私が「親友」の自殺未遂にショックを受け過ぎ茫然自失になっていると勘違いした先生から、お前も病院に行って初春についててやれと言われた。
他の先生もそれに賛成し、私は救急車に初春と共に乗り込んだ。

「あれ……これって…………」

初春が寝ている簡易ベッド、その下に真っ黒なビー玉が落ちていた。

―― やっぱり、このビー玉が何か関係あるんだ……。

予感は確信に変わり、そのビー玉をポケットにしまった。

〜〜〜

「このビー玉、なんで黒いんだろう……」

珍しくずっと手に持っていても身体に吸い込まれる事はなかった。
思い切り床に叩きつけても傷すらつかないそれは、見ているとひどく気分が悪くなってくる。

―― 黄金色のは見てるだけでワクワクしたのに……。

初春の顔をじっと見つめるが何も感情が湧いてこない。

時間の無駄だと、私は病室を出た。

「あっ……すみません」

「いえいえ」

出たところで、看護師さんとぶつかりそうになった。

「今日はよく人とぶつかるなぁ」

ポツリとそんな事をつぶやいた瞬間、ゾクリという恐怖が一瞬だけ私を襲った。
そう、それはまるで何かが目の前に突然浮かび上がって来たよう、気持ち悪さだった。

83 : ◆qXEKQweJllf. [sage]:2012/06/16(土) 00:35:52.76 ID:ob1Kcidyo

上条当麻
6/26
宮下藤花と再会。ブギーポップと出会う。
6/27
自殺を目撃。世良稔、リィ舞阪と出会う。世良稔と公園で話す。
6/29
藤花=ブギーポップの確信を得る。

ピート・ビート
6/25
学園都市行きを知らされる。
6/26
能力測定。土御門と会う。謎の視線。
6/27
転入。上条と公園で会話。
6/29
遅刻。フォルテッシモと公園で談合。

フォルテッシモ
6/25
ビートに学園都市行きを知らせる。
6/26
能力測定。
6/27
転入。一方通行の事を調査。乗り込みチンピラを殺害。
6/29
イライラ。ビートから報告をうける。イライラの正体が攻撃だと判明。

青髪ピアス
6/29
配達で中学校へ。そこでニュルンベルクのマイスタージンガーを聞く。

土御門元春
6/26
ビートと会う。
6/29
ビートと学校で再会。

佐天涙子
6/26
御坂、白井と出会う。謎のビー玉。
6/29
ブギーポップを目撃。
ブギーポップの存在を直感で感じる事ができるようになっちゃう(これは佐天さんの勘が良いだけ、超能力やMPLSではないよ!)

初春飾利
6/26
御坂、白井と出会う。
6/29
ブギーポップの話を佐天にする。入院。

宮下藤花(ブギーポップ)
6/26
転入。上条と再会。
6/27
上条・青ピにブギーポップとして目撃。
6/29
始業15分前に浮かび上がってくる。青ピ、佐天に目撃される。放課後一瞬だけ浮かび上がってくる、佐天はそれを感じ取る。

リィさんが一方通行の家に行く日にちを間違えたからなんか辻褄が合わないような時系列になってるかもしれない
さっき書いてる時に作ってみたけど割と適当
でも一応貼っとく
ちなみに日付は上条が日記をつけ始める7/1を中心に後付です

フォルテッシモのは伏線というほどでもないなww
あとffはビートの探索も知らないんだったら知ってるという設定でお願いします

では、また読んでください
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/20(水) 00:40:45.52 ID:DtQ+2RKAO
乙!
85 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/22(金) 01:47:33.36 ID:TMLC1M90o
〜〜〜

【6/30】

初春が自殺未遂を起こした翌日、私は学校を休んだ。
親友、私達は先生にそう思われている。
それが突然の行動に出たのだ。
ショックを受けたのだろうと特に何も咎められる事もなく休めた。

「初春は何故、あんな事をしたの?」

昨日帰りに立ち寄ったコンビニで買ったビー玉を手の中でカチャカチャ言わせながら誰ともなしに問う。

「あのビー玉、気づいたらまたなくなってた。
なんで?あれはなんなの?
私は――なんなの?」

一人イライラしながら、声を出す。
帰ってくるのは自分の手の中からのカチャカチャという音だけだ。

「考えろ」

考えなくては、ブギーポップには勝てない。

「折角何か力を手に入れたんだ。
それが何かも知らずにわけのわからない奴に殺されたくない」

ガリっと音がして、手の中のビー玉が少しかけた。

「空っぽな私に、ひとしずくの希望が零れてきたんだ……絶対に、諦めない」
86 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/22(金) 01:50:46.00 ID:TMLC1M90o

〜〜〜

「……」

真っ黒な筒は、佐天涙子の通う中学校の屋上にいた。
そこに落ちていた、小さなガラス玉を見つめる。

「ガラス玉……か」

そして黒外套は呟いた。

「今回の世界の敵……絶望を呼ぶもの……デスパイア・コーリングとでも呼ぼう。
絶望を育てることが出来たのならばそれの対となる希望を育てる事も出来ただろうに」

その、死神――ブギーポップ――は無感情にそう言った。

「僕の存在に……世界の敵の存在を察知して僕が浮かび上がって来たように、世界の敵の敵の存在を察知して、デスパイア・コーリングは世界の敵にならざるを得なかったのかもしれない……」

鶏が先か、卵が先か……というような話だろう。
だがブギーポップはたとえそれが少女であろうが少年であろうが世界の敵になるものは――殺す。
87 : ◆qXEKQweJllf. [sagA]:2012/06/22(金) 01:51:44.39 ID:TMLC1M90o

〜〜〜

先輩を送り届け自分の寮へ帰ってくると俺は飯も食わずに寝てしまっていたようだ。
蛍光灯がチカチカと眩しく、テレビは放送休止の知らせを映しているだけだ。

「……いま、なんじだ……?」

ぼんやりした頭で電池の切れかけた携帯電話を開く。

「三時半か……」

正確には三時二十四分であった。
携帯電話を充電器に差し込み、テレビを消す。

どうしようかな、と考えとりあえずシャワーを浴びる事にした。

「そういえば藤花ちゃんはなんで学園都市に来たんだろ……」

充電器に差し込んだ携帯電話を開き、アドレス帳から父親を探す。
が、時間を思い出し、ため息をつきながら携帯を閉じた。

「はぁ……まだ父さんたちは宮下さんと付き合いあんのかな……?」

あったらなにかいいそうなものだが、と思い無いのだろうなと考えた。

「明日から、なるべく藤花ちゃんのクラス行ってみよう」

帰りに見せた藤花ちゃんの豹変。
青ピが口にしたブギーポップという名前が、頭の中にくるくると回っていた。

「……風呂はいって寝なおそう」

考えてもわからないので、とりあえず明日の心配をしてすこしでも睡眠を取ろうとタオルと下着を手に取り風呂場に向かった。
88 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/22(金) 01:53:41.87 ID:TMLC1M90o

そして、次の日。

結局微妙な睡眠しか出来ず、霧がかかったような頭で学校へと歩いていると、前方に藤花ちゃん……いや、宮下先輩をみつけた。

「宮下先輩」

声をかけると宮下先輩は、表情のない顔で俺をみた。

「上条君か」

「……また、お前か」

上条君、それで俺はこいつが宮下藤花ではないと確信した。
おそらく、宮下藤花なら周りに誰もいないこの状況なら当麻君と呼ぶはずだと思ったからだ。

「すまないね、宮下藤花にもすまないことをしていると思っているよ」

「嘘つけよ。
……お前は一体なんなんだ?」

「……僕は自動的な存在だ」

「自動的?」

「あぁ、世界に危機が迫った時、自動的に浮かび上がってくる……だから、名をブギーポップという」

そいつは宮下藤花の可愛らしい顔で、そう言った。

「世界の……危機……」

ブギーポップ、やはり、藤花ちゃんがブギーポップだった。
世界の危機、ブギーポップという単語のみが妙な存在感を持って俺の中にのしかかってきた。

「お前……まさか、その危機とやらと戦うのか?」

俺は危機、というのがなんらかの人災であるはずだと無意識に決めつけていた。
89 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/22(金) 01:55:05.66 ID:TMLC1M90o

「……それが僕という存在だ」

「だって……だってその身体は藤花ちゃんのものだろ!
怪我したら?最悪死んだとしたら?
藤花ちゃんはわけもわからず死ぬんだぞ?」

ブギーポップの時の記憶は藤花ちゃんにはないはずだ。

「放って置いたら世界が死ぬかもしれない」

「そんなのは関係ねぇよ!
例え結果が同じだったとしても、もう一個の人格の時に知らないうちに死ぬのと、自分の人格で死ぬのは違うだろ」

ブギーポップを宮下藤花の別人格だと決めつける。

「つまり君は僕だったら知らないうちに死んでてもいいと……そういうわけかい?」

「ちが……わねぇな……ごめん」

無意識にひどい事を言ってしまった事に後悔する。
ブギーポップは黙ったままじっと俺の方を見ていた。

「……がそれと戦う」

そして、俺は一つの答えに行き着き小さくつぶやいた。

「なに?」

「だから、俺がそいつと戦う。俺が、藤花ちゃんを――守る」

「と、当麻君?」

「へ?」

「いきなり愛の告白?」

藤花ちゃんは、おかしそうに笑った。
少しだけ嬉しそうに見えたのは、俺の勘違いだろう。

「え、あ……いや……藤花ちゃん」

「んふふー、なに?」

藤花ちゃん、と呼ばれるのが嬉しいらしい。

「これから、毎日一緒に帰ろう」

「もちろんいいわよ。
……でも、急にどうしたのよ、はじめは関わるなって空気プンプンさせてたのに」

藤花ちゃんは不思議そうに、首をかしげた。

「ん、別に……ただ、やっぱり藤花ちゃんともっと話がしたくてさ」

「……そっか」

「うん」

俺と藤花ちゃんは、並んで学校までの道を歩いた。
90 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/22(金) 01:55:47.88 ID:TMLC1M90o

〜〜〜

薬の匂い?
なんだろう、これ……腕がなんか痛い。

霞がかった意識は次第にその輪郭をはっきりさせていき、私は目覚めた。

「あ、れ……ここ……どこ?」

いつもと違う天井に、戸惑う。

「たしか、授業……あれ?」

なにも、思い出せない。
佐天さんにブギーポップの話をしたような記憶はおぼろげながらある。

「わたし、どうしたんだろ……」

腕をつき起き上がろうとするが、

「痛ッ……」

ついた腕に力が入らず起き上がる事は叶わなかった。

「……病院?なんで?」

痛みで頭が少しだけ覚醒し、いま自分がいるのが病室であると気づけた。

「……佐天、さん」

親友の名前を呼ぶ。
何故かはわからない、心細くこういう時にこそあの親友の笑顔が見たかったのかもしれない。

「う、ううううう」

その笑顔を思い出すと、急に涙が溢れてきた。

「な、んで……?
わたし……佐天さんに会いたいのに、佐天さんが――憎、い?」

誰もいない病室で、なんで、ともう一度呟いた。
91 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/22(金) 01:56:26.06 ID:TMLC1M90o

〜〜〜

「やっほー当麻くん」

昼休みになると、教室の入り口に大きな声で俺の名前を呼ぶ上級生がやってきた。

――やっほー!じゃねぇよ!

恐る恐る青髪ピアスの方をみるが、青髪はそんなことは全く気にせずに窓の外をぼんやりと眺めていた。

「……なんか知らんが、ラッキー……なのか?」

他のクラスメイトの目は気にせず(青髪よりもしつこいやつはいないからだ)俺は弁当箱を持ってそそくさと、その声の主のところまで行った。

「どこでお昼食べる?」

「藤花ちゃんは……いや、そういや転入してきたばかりだったな……」

いつもどこで食べてるのか聞こうとしたが、転校してきたばかりだと思い出しどこか静かで落ち着けそうなところを考える。
そして、

「屋上でも行きますか」

特に思いつかず、なんともベタな場所を指定した。
92 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/22(金) 01:57:15.81 ID:TMLC1M90o

〜〜〜

カミやん、運が良かったな。
僕ぁいまカミやんに彼女が出来るとかそんなのはどうでもいいんよ。
ただ、ブギーポップが、怖くてしゃーない。

とてもやないけど、カミやんからかって遊ぶ気分にはなれへんわ……。
良かったな。カミやん。

―― ほら、僕の様子を伺う暇あったらさっさと行った方がええで。

心の中で友人にそうエールを送ると、僕は穏やかに流れる雲を見つめる。
僕が騒がなきゃ、他の男子も「青ピが騒がんってことはそういう系ではないのだろう」と納得してくれるやろうしな。

カミやんが教室から消えると、僕は鞄からパンを取り出しぼんやりと雲を見つめる。

――先輩は、あんな気持ち良さそうな雲を見つめて死んでったんかなぁ。

なんだか、憂鬱な気分になる。

――あの日の朝、僕は先輩をもしかしたら助ける事が出来たのかもしれない。
だって、先輩は僕に話しかけてきてくれたんやから、なにか話したい事があったんかもしれない。
学年が違ってお互いの人間関係もよく知らん僕だから、相談に乗れる事があったんかもしれない。

様々な後悔が心の中に渦巻くが、それは全て僕の憶測でむしろ願望に近いような気がした。
93 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/22(金) 01:59:16.50 ID:TMLC1M90o

「お前のその髪色って地毛なのか?」

もそもそとパンをかじっていると、そう声をかけられた。
その声の方に顔を向けると、真顔の転校生がこちらをじっと見つめていた。

「……世良稔君、やったよな?
違うで、染めてるんや」

「ふーん」

自分から聞いといたくせに、興味なさげだ。

「その関西弁は?」

「似非関西弁や」

「……わけのわからん奴だな」

「褒め言葉と受け取っとくで」

世良は空いていた隣の席に座り、じっと僕の方を見ていた。
まるで僕が宇宙人で、それを珍しがって観察しているかのように、彼の姿は僕には見えた。

「世良くんはどこから来たんや?」

「……秋萩高等学校って所から来た」

「へぇ、公立高校なん?」

「いや、私立だ……ったと思う」

まるでその高校に“配属”でもされたようだなと思った。
普通、自分の学校が私立か公立かなんて忘れるわけないからだ。

「そっか……私立なら制服が可愛かったりするんやろうなぁ」

だが、その事には触れない方がいいのだろう。
この時期の転校というだけでも十分面倒事に巻き込まれる可能性がある、そういうのはカミやんの仕事や。
だから、僕は僕らしい対応を心がけた。

「制服、か……まぁ普通だったんじゃないかな」

世良君は思い出すように視線を上にあげながら、そういった。

「そういえば、世良君はスポーツとかやってるん?」

「え?」

「ほら、少し色黒やん?
日焼けかなぁ思って、気に障ったか?」

「あぁ、別に全然」

そういうと、また少し考えるように視線を今度は横にずらす。

「そうだな、元々色黒ってのもあるけど……あとは、マラソンっぽいことをたまにやってるよ」

「ほー、健康思考やね!
おじいちゃんみたいや!」

「おじいちゃんって……」

なんとなく、世良君とは仲良くなれるような気がした。
世良くんの面倒に巻き込まれるのは勘弁やけど、こうして学校で話す級友としては、仲良くなれるような気がした。
そして、同時にこいつはすぐにいなくなる、という事もなんとなくわかった。

だけど、僕がこの後面倒事に巻き込まれるっちゅーのは、わからんかった。

僕の勘は頼りにならへんね。
94 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/22(金) 02:00:38.81 ID:TMLC1M90o
ここまで
今回はブギーポップが世界の敵の名前を決めました

次も読んで下さい
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/06/22(金) 18:56:01.77 ID:b5Z43tVho
96 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/27(水) 01:38:04.10 ID:AlojBX2Po

〜〜〜
【7/1】
初春が目を覚ました。
ずっと泣きながら私の名前を読んでいるらしい。
そう、白井さんからメールと留守電が入っていた。
初春の異常行動、これは私のなんらかの能力が原因なのだろう。
従って、初春に会いに行き色々と話せば私の能力がなんなのか輪郭だけでもつかめるかもしれない。
だが、私は病院へ向かわなかった。

――今は、それどころじゃない。ごめんね初春……。

なぜならば、ひとつだけわかったことがあるから。

だったら――。
97 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/27(水) 01:39:21.62 ID:AlojBX2Po

〜〜〜

空を見上げ雲を数えていると、そいつは急に現れた。

「……やぁ、上条くん」

「……こんにちは」

そいつは大げさに肩を竦めて見せると、かつかつとフェンスに近づいて行った。

「この街は……異様な空気だね」

「外から来たから、そう感じるんだろ?」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

こいつは、よくわからないことしか言わない。

「何が言いたいんだ?」

「僕が現れるのは、世界に危機が迫っているからだ。
そして、僕は今こうして出て来ている」

「つまり……今どこかで世界の危機とやらが、何かしてるってのか?」

「……それにしてはいつも通りすぎるとは思わないかい?
……僕に、この街のいつも通りなんてわからないけれどね」

「よく、わからねぇな。
単にそいつがお前の事を察してコソコソしてるだけなんじゃないか?」

俺は藤花ちゃんが作ってくれたお弁当を、かっこむとそれに蓋をしてしまった。

「それは違う。
きっと、世界の敵は、デスパイア・コーリングは僕と戦う覚悟を決めたんだろう」

「デス……なんだって?」

「……」

ブギーポップは、俺が聞き返したのを無視して、フェンスに沿って歩く。
98 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/27(水) 01:40:11.40 ID:AlojBX2Po

「……もういいよ、とにかくお前さ、制服でブギーポップになるのはやめないか?
せっかく衣装あるんだから」

「言っただろ?僕は自動的なんだよ。
それに、今はスポルディングのバッグが手元にないじゃないか」

しょうがないだろ、というように言うと、ブギーポップは口笛を吹きはじめた。
ニュルンベルクのマイスタージンガーではない、聞いたことのない曲だった。

「なぁ」

俺はあることが気になってブギーポップに声をかける。

「なんだい?」

口笛をやめ、ゆっくりと俺の方へ向き直る。

「俺は、お前のことなんて呼んだらいいんだ?
藤花ちゃん、って呼ぶのは違うだろ?」

「ブギーポップ、と呼べばいいじゃないか」

「それも……なんかな」

「じゃあ、好きにすればいいよ」

「……お前は、世界の危機……つまり世界の敵が恐れる存在なんだよな……カカシみたいだな」

「カカシ……スケアクロウか」

ブギーポップは少しだけ懐かしそうにつぶやいた。

「スケアクロウ?なんだそれ?」

「いや、なんでもない。
僕のことはブギーポップと呼んでくれ」

そして、決めかねている俺にそういい、また口笛を吹きはじめた。

「……なんだよ、まったく……俺は出来たらお前とも友達になりたいなって思ってんのに」

俺の独り言がブギーポップに聞こえたかどうかはわからない。
99 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/27(水) 01:40:37.24 ID:AlojBX2Po

〜〜〜

路地裏で空き缶を思い切り蹴っ飛ばす。
意味もなくイライラとゴミ箱を蹴り飛ばす。
そのゴミから出た液体に靴を汚されさらに腹が立った。

「……はは、いいね」

だが、それをただのイラつきで終わらせるほど俺は弱くない。
俺の生きている目的、それは強いやつと戦う事だ。

「一方通行が俺の相手になり得るまで相手をしてやる」

イライラして、スキだらけの今が俺を倒す唯一のチャンスだぞ、と俺は見えない敵に語りかけた。
100 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/27(水) 01:42:30.05 ID:AlojBX2Po

〜〜〜

あんたにスキなんかないだろ。
あったとしても、それは本当に些細な問題にもならないようなものだバケモノめ。

思わずそうツッコミそうになったが、今のフォルテッシモの状態では、殺されかねない。
間一髪で飲み込んで助かった、と俺は胸をなでおろした。

「で?
敵の情報は?
あんたが一方通行と戦えようがどうでもいいけどそいつを倒さなきゃあんたがイライラし続けるだなんて……世界の危機すぎる」

「ハッ、やっぱお前はいいな。
統和機構にすら隠し手を持って、こんな状態の俺にすらチクチク言いやがる。
やっぱ一方通行の次はお前だ、ピート・ビート」

ただこちらに視線を向けただけだ。
だが、その視線はそれだけで人を殺せそうなギラついたものだった。
首筋にナイフを……いや、そんなものじゃない。
銃を咥えその引き金が引かれようとしているような、不可避の死を感じた。

――クッソ……やりにくいったらありゃしねぇな。

「冗談はやめてくださいよ。
俺なんかがあんたの相手になるとは思えない」

思わずフォルテッシモから体ごと視線をそらす。

「金髪のチンピラ、こんだけしか覚えちゃいねぇ……というか、本来なら記憶にすら残らないようなそんな存在だ。
探せるか?」

「探し出しますよ。
でもあんたも一方通行があんたの相手になるレベルまで成長するまでは暇なんでしょう?
自分でも探してくださいね」

フォルテッシモは返事をする代わりに、にやぁと笑い何処かへ立ち去った。
101 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/27(水) 01:43:14.35 ID:AlojBX2Po

〜〜〜

「当麻くん!帰ろう!」

授業が終わると、藤花ちゃんはニコニコしながら俺の教室まできた。
クラスメイトから殺意の視線を感じるが、気にしない。

俺は鞄を手に取ると、急いで教室の出入り口まで行こうとするが、その俺の腕を掴む奴が一人いた。

「……どうした、青ピ?」

「あ、いやなんとなく……気をつけてな」

「……なんだお前、変だぞ?
でも……まぁ、ありがとう? でいいのか?」

「あぁ、それでええよ。
じゃあなカミやん、また明日」

変な奴だな、と思いながらも青ピをあとに俺は教室をでた。
102 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/27(水) 01:43:44.68 ID:AlojBX2Po

〜〜〜

なんやろな……この感じ。
この、そこはかとない不安は……。

――カミやん、よくわからんけど、ごめんな。

何に対してかなんかわからない。
でも、それでも僕の心は少しだけ軽くなった気がした。

「ん? ……なんやこれ?」

穏やかな表情をしていたと思う。
そしてカミやんが去ったドアから視線を前に戻すと、何か違和感を覚えた。

――なんや?
なんか、あるものがないっちゅーか、ないものがあるっちゅーか……。

そのあと十五分ほどその違和感に思考を巡らしたが、結局わからなかった。

――そういや、明日また配達や……あの子にまた会えるかなぁ……?

数日前ぶつかった少女を思い出す。
髪の長い可愛らしい女の子だった。

――あんなコと付き合いたいもんやなぁ……。

決して叶うことない希望を持つ。
なんだかそれがすごく惨めで僕は一人自嘲するように笑った。
103 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/27(水) 01:44:12.29 ID:AlojBX2Po

〜〜〜

学校に着くとクラスメイトから初春の容体を聞かれた。
初春はみんなに愛されている。
そこも、私とは違う。

――落ち着け、初春は今はどうでもいい。
今大切なのは……。

しつこく初春の事を聞いてくる生徒を睨みつける。

これでもかというくらい冷たい目を向けると、その子は私から一歩遠ざかり自分の席に戻って行った。

――精神系の能力……それはわかった。
だけど、もっと完璧にしないと。

ため息を周りにばれないようにつくと、机に伏せた。

――もう、なんか嫌だな。

初春のいない学校は、つまらなかった。
104 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/27(水) 01:44:44.78 ID:AlojBX2Po

〜〜〜

「……チッ、なァンかイラつくなァ……って事でェ?
今日はさっさと死ね」

真っ赤な目を無表情の少女へ向けると、真っ白な少年は、少女の頭を力任せにもぎ取った。

「ヒャハ……あーあ、つっまンねェ」

その首を見つめ、生気を刈り取られた目と自身の目を合わせてみる。

「きったねェ顔だなァ」

もう光を灯さぬ目に映った自分に言ったのか、自分が殺した少女に言ったのか……。
それは、一方通行自身にしかわからない。

とぼとぼと学園都市最強の男は路地裏に消えた。
105 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/27(水) 01:45:46.27 ID:AlojBX2Po

〜〜〜

「当麻くんはさ」

帰り道、本屋に立ち寄りたいと言った藤花ちゃんに付き合い興味のない参考書を眺めていると藤花ちゃんが唐突に口を開いた。

「この街でも、困ってる子がいたらどんな子でも助けるの?」

「……当たり前だろ。俺に出来るなら、誰だって助ける。
誰も傷つかないハッピーエンドが俺は好きだからさ」

たとえそれが、世界の危機だとしても……。

「でもそれさ、矛盾がおきない?」

「……」

「だって、もしもその人が百人殺したような悪人だったら、殺された百人とその百人と関わりのあった人はその人が生きていて笑えるのかな?」

「そんなの……」

「わからない?
でも、君がやりたい事はそういう事だろう?上条くん」

「おま、何時の間に」

「さぁ?なんだかおかしいね。
君と宮下藤花が話をしていると、僕が浮き上がってくる……本当の世界の敵は君なのかな」

冗談っぽく笑った。
でもその笑顔は左右非対称な奇妙な物だった。

それなのに、俺はそれがなんだか美しく見えてしまったんだ。

「外で待ってる」

俺はそう言い残すと、ブギーポップの顔を見ないようにしながら出口へと向かった。

それから数分すると、少し怒ったような顔で藤花ちゃんが出てきた。

「先に出るならそう言って行きなさいよ!」

探しちゃったじゃない、と怒る彼女になんだか安心した。

そのまま藤花ちゃんを送って、寮の前で別れを告げると、思い出したように鞄から何かを出して俺に差し出した。
106 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/27(水) 01:46:16.65 ID:AlojBX2Po

「……なんでせうか、これは?
参考書ならいらないけど」

「家についたら開けてね」

藤花ちゃんはそれだけいうと、部屋の中に消えた。

すぐさま開けて中身が参考書ならばポストに突っ込んでいこうかと思ったが、俺はそれをカバンにしまった。

「はぁ……帰るか」

「あ!」

「え?」

「やっと見つけたぁああ!」

名門校の制服に身に纏ったそいつは、心底嬉しそうな顔をしながら俺に致死レベルの電気を飛ばしてきた。

「っぶねぇえええ!ばっかやろう!
俺が何したってんだよ!このビリビリ!」

反射的に右腕を出して助かった。
もう、何かあったら右腕を出すのはくせになっていた。

「ビリビリ言うな!……勝負、しなさいよ」

「断る」

「なんでよ!」

「俺が勝ったらなんかイイことあるのか?」

「……で、デートしてあげるわよ?」

「いらん、心底いらん。
じゃ、あまり遅くまでふらつくなよー」

じゃあな、と強引に立ち去ろうとするが、ビリビリ中学生がそれを許してくれるわけもなく俺はまた、命のかかった追いかけっこを余儀なくされた。

「はぁはぁ……あいつこそ世界の敵なんじゃねぇか?」

物陰に隠れ、毒づく。

「……諦めたか?」

携帯を開くと時計はすでに夜の十時を回っていた。

「補導されるっつの……ったく」

裏道をこそこそと辿りながら寮へと向かった。
107 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/27(水) 01:46:42.32 ID:AlojBX2Po

〜〜〜

「佐天さん、どうしちゃったのかしら?」

御坂さんは、お見舞いに持って来たりんごをむきながらつぶやく。

「……私のこと、嫌いになったんですかね」

違う。きっともともと友情なんてなかったんだ。
私だけがそれを感じていたんだ。

「それはないんじゃないかな?」

「どうして一回しかあったことのない御坂さんにそんなことがわかるんですか?」

少し、きつい問い詰めるような口調になってしまった。

「だって、この前あった時、佐天さんは初春さんを大切にしてるように見えたもの。
きっと、表面上はどうであろうとあの子は初春さんのこと好きよ」

「……」

何も言えなかった。
違うと思う気持ちと、否定したくない気持ちが混ざり合って私はまた泣きそうなった。

――佐天さん……。
108 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/27(水) 01:47:12.84 ID:AlojBX2Po

〜〜〜

ビリビリから逃れて寮に辿り着くと俺はカバンを放り投げ制服を脱いだ。

「はぁ……あっつい」

冷蔵庫を開けるが、中に飲み物は何も入っていない。

「あ、なんか買ってくりゃ良かったな」

軽くしたうちすると、シャワーを浴びてさっさと寝てしまおうとこれ以上色々と考えることを放棄した。

シャワーを浴び、走り回った汗を洗い流すと、別れ際に藤花ちゃんに本屋の袋を渡されたことを思い出した。

参考書だったら明日突き返してやろう、とか思いながらそれを開けると中身は一冊の日記帳だった。
表紙には上条当麻、と俺の名前が書いてある。

「なんだこりゃ?」

日記帳であるのはわかる、だが、なぜ俺の名前が書いてありそれを藤花ちゃんがくれたのかは
わからない。

一ページ目を開くと、表紙の名前と同じ字体で短いメッセージが書かれていた。

『折角また会えたんだし、私のことをもう忘れて欲しくないから日記でもつけなさい!』

「日記、ねぇ……」

きっと本屋で買ってすぐに書いたのだろう。
名前を書いてしまえばそれは俺が使うしかなくなる。
そして、俺は貧乏性だ。

「……まぁ、飽きるまでやってみるか」

俺はシャープペンを手に取ると、7/1と日付をいれ、その横に下手くそなブギーポップの姿を書いてみた。
109 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/27(水) 01:47:51.88 ID:AlojBX2Po
ここまで
またよんでください
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/27(水) 02:01:03.85 ID:zA42c4/vo
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県) [sage]:2012/06/27(水) 08:57:04.44 ID:EPHKs3XAo

派手な能力バトルというわけではなくて
世界の敵がじわじわと周りに影響を与えていってる感じがブギーポップっぽくて面白い
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/27(水) 21:28:14.67 ID:rrozGwrIO
超乙!面白かった!
佐天さんが敵かぁ。どういう風に戦うのか、そしてどんな結末になるのか楽しみだ
113 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/29(金) 03:35:01.17 ID:q37E1Z1Uo

〜〜〜
【7/2】

初春よりも自分の能力の分析のために行動し始めて、つまり初春のいない二日目の学校だ。

――つまらない。

自分の中に鬱屈とした気持ちが溜まるのがわかる。
些細なことにイライラし、いかに初春飾利という存在が私の精神安定に役立っていたか実感した。
だが、もう初春はいないものとして扱った方がいいくらいだ。

ブギーポップを倒すまでは……。

――余計な邪魔されたらたまったものじゃないからね。

私の能力のせいだと知ったら初春はなんて思うだろう、そんな答えのでない自問をしてみた。

――怒るに決まってるよね……。私を恐れるようになるかもしれない。

ずっと、どこかで人を見下したいと思っていたはずなのに、底辺にいる事に絶望していたはずなのに何故だか心は晴れなかった。

「私が求めた物って……」

少しだけ、迷いが生じた。

――でも……。

「ブギーポップはそんなの関係なしに来るんだよね」

多分、私は間違っているんだろう。
力を手に入れて、そこが絶頂ということは使い方を間違えて醜くなるだけなんだろう。

「それでも、それはブギーポップなんてわけのわからん奴に決められる事じゃない」

――出来る事を、確認しなきゃ。

誰もいない教室で一人考え事をしていたからかなんとなく外の空気を吸いたくなった。

玄関で靴を履き替えて外に出るとジリジリと太陽が段々とギアをあげるように輝きをましていた。
114 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/29(金) 03:35:59.85 ID:q37E1Z1Uo

「あれ?」

「え?」

その痛いくらいの太陽を眺めていると後ろから急に驚いたような喜ぶような声が聞こえ、思わず振り返ってしまった。

「あー!やっぱそうや!
こないだぶつかった子やろ?
いやー、運がええなぁ……また会えたらなぁって思ってたんよ」

青い髪にピアスをした変な大男がたっていた。

「え……あの、どちら……様ですか?」

「……まぁ、せやろな」

思い出せず聞き返すと、その人は急に調子を落としくらい声になった。

「何日か前に朝、ぶつかったやろ?
携帯電話を取りに来たとかなんとか言ってた」

「あ!パン屋さん!」

「……おう」

「覚えてますよー!
あの時帽子かぶってたじゃないですか、だからわからなかったんですよ」

思い出した。
そうだ、私がブギーポップを知った日、まだ三日くらい前なだけだけどずいぶん前に感じた。
その日に、朝ぶつかった人だ。

――その日に初春は変になった。

「はは、覚えててくれて嬉しいわ。
僕は……まぁ、青髪ピアスって呼んでくれや」

「……それ、偽名ですよね?」

「青ピって略すとかわいいやろ?」

「ふふ、青髪さんって、変な人ですね。
私は佐天です。佐天涙子です」

「涙子ちゃんかー……っとやべ、時間ないんやった……!
前回遅刻しそになったから今回はこんな早くきたんやったのに……。
また配達くるから会えるの楽しみにしてるわ!」

それじゃ、とニコニコしながら青髪さんは走り去って行った。
115 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/29(金) 03:36:28.17 ID:q37E1Z1Uo

「青髪ピアス……か。
なんだろ、なんで私こんなに普通に話せたんだろ?……あれ?」

――これは……黒いビー玉?

――おかしい、私の仮説だと、私自身の感情が高ぶった時にこれはでて来て他人または自分に影響を与える物……だったのに……。

――もしかして、これは私の感情とかは関係ないの?

上履きに履き替え直し、考え事をしながら階段をのぼった。

――まず、整理しよう。

そして、教室にたどり着くと椅子を引き座り考える。

――最初、初春と白井さんといる時。
次は見間違いかもしれないけど御坂さんといる時。
次は……初春がおかしくなった時。
そして、初春を救急車に乗せた時。
そういえば、あの時の黒いビー玉はどこに行ってしまったのだろう。

わかりそうでわからない自身の事に、無償に焦燥感を感じた。

そして考えている間に何時の間にか寝ていたらしい。
次に目を開けた時には既に授業が始まる時間で先生がこちらを睨んでいた。

「……すみません、始めてどうぞ」

無愛想にそういうと、私は視線をぐちゃぐちゃと自分の考えをまとめたノートに落とした。

「……ま、お前も親友があんなことになったんだ、しょうがないか」

先生はため息をつくと、授業を始めた。

「……親友なんかじゃ、ない」

そう、呟いたのは誰にも聞こえなかったらしい。
みんな教科書に目を落としページをゆっくりとめくっていた。
116 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/29(金) 03:36:56.63 ID:q37E1Z1Uo

〜〜〜

朝、まだ登校には早すぎる時間に俺はチャイムを鳴らされ起こされた。

「……んだよ、誰だよクソッタレ……」

イライラとしながらドアスコープを覗くと、そこにはウキウキした顔の藤花ちゃんがたっていた。

この人は、バカなんじゃないだろうかと本気で疑いかけたがこんな非常識な事をするような人ではないと思い直す。

――ブギーポップの仕業か?

そして、存在そのものが非常識なもう一人の友人を思い浮かべた。

色々と考えながら鍵を開けドアを開くと藤花ちゃんは元気いっぱいにおはようと言ってきた。

「はよーございます」

眠いぞという事をアピールしながら俺も挨拶をする。

「当麻くんが明日朝ご飯作ってって言ったんでしょ!
折角来てやったんだからもっと歓迎しなさいよ」

少しだけ怒った風にしてもいない約束を言われ、ブギーポップの仕業だと確信した。

「いや、まさか本当に来るとは思わなくて……ごめん、ありがとう藤花ちゃん」

――藤花ちゃんはブギーポップの時の記憶はない、だからブギーポップの時に起きた事に無理矢理理由をこじつけるって事でいいのかな?

俺にしては理解が早いと自分でも思った。
そして、その思考に至る事に少しだけ悲しみも覚えたのだった。
117 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/29(金) 03:37:48.11 ID:q37E1Z1Uo

〜〜〜

「上条当麻ってやつはなんなんだ?
セイギノミカタかなんかを目指してんのか?」

上条について調べた資料は上条の異常性をそのまま物語っていた。

「学園都市に来る前は疫病神と言われ、包丁で刺されたこともあった……。
オカルトを否定するこの街では不運の避雷針として活躍……ってところか」

チンピラ……スキルアウトだっけ?
まぁそういう輩に絡まれているやつらをみるとそれが見ず知らずの他人でも首を突っ込む、自分が入院するレベルの怪我を負っても笑いながら助けることが出来たと笑う……か。

「異常だ。
でも、この街で超能力が原因で怪我をしたことはない……と。
これもさらに異常だな。
……能力を無効化するMPLSとして報告した方がいいのか?」

でも、別にこいつはほっといても大丈夫何じゃないか、と俺は思っていた。
怪しいことに変わりはないが頭が悪すぎる。
統和機構の脅威にも、世界の脅威にもなり得ない存在だ。
上条当麻の頭の悪さ、無害性は演技しているというレベルでなく本当に実直にそうなのだ。

「上条はとりあえずおいて置こう――次は、自殺のほうの調査だ」

だが、またもや何かに引っかかりを感じていた。

――なんだ、この何かを見落としているような胸がざわつく感じ……。

何か、すごく大切な事を見落としている気がした。
118 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/29(金) 03:39:04.40 ID:q37E1Z1Uo

〜〜〜

「おはよう、上条くん」

「……おはようさん」

藤花ちゃんの作ってくれたご飯を食べ終えると、狙ったかのようにブギーポップが現れた。

「すまないね、世界の敵は僕を察知して僕から逃げているようだ。
しかも物凄く綿密にはっきりと、落ち着いて逃げているようだ」

「つまりそれで、お前が出たってことは……」

「そう、世界の敵の気配が色濃くなった」

「こんな朝っぱらか?」

「時間など関係ないさ。
人の意志と覚悟、野望には特にね」

「……またわけわからんことを、で?どこに向かってたんだ?」

「中学校だ」

「中学?」

「間違いなく、そこに世界の敵はいた」

「何でそこまでわかってるのにお前は消えたんだ?」

藤花ちゃんに戻ったということはそういうことだろう。

「……さぁね、どうもこの街と僕は相性が悪いらしい。
普段なら、世界の敵を殺すまではある程度こちらの意志でどうにかなるんだけどね」

ブギーポップの顔は相変わらず藤花ちゃんで、でも藤花ちゃんがしそうもない顔ばかりして、そして藤花ちゃんが言いそうにないことばかり言った。

――殺す……か。

なんとか、助けたいなと思った。
119 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/29(金) 03:39:42.42 ID:q37E1Z1Uo


朝のニュースでまた学園都市で自殺未遂事件があったとキャスターが重苦しい顔をした。

――また?

注意して聞いていると、俺の学校で飛び降り自殺があった日から、急激に学園都市内の自殺未遂が増えたそうだ。

――もしかして……。

俺はゆっくりとブギーポップに顔を向けた。

「あぁ、これが今回の敵、絶望を呼ぶ者――デスパライア・コーリング――だ。
死に至る病を育み世界を死に導く……世界の敵だ」

スケールが違った。
世界の敵とか世界の危機とか聞いても、実際やってることはスキルアウトに絡まれてる子を助けるとか、そんな程度のことだと思ってたんだと思う。
だって、ブギーポップってのは藤花ちゃんだぜ?
そんな、俺より小さくて細くて華奢でしかも女の子で……そんな子がそんな世界の敵なんてそのままの相手と戦えるなんて思えないだろ?
でも、藤花ちゃんは……ブギーポップは本当に“世界”の敵と戦っていたんだな……。

出来るならば、殺すのはやめさせたい。
でも、それを言えるほど俺は世界に責任なんて持てなかった。

多分ブギーポップは、立派に役割を果たしているんだろう。

「なぁ、ブギーポップ……」

「なんだい?上条くん」

「俺に何か出来るなら……言ってくれよ?」

「……頼りにしている、と言っておこうかな」

また、左右非対称な顔でブギーポップは笑った。
120 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/29(金) 03:40:57.36 ID:q37E1Z1Uo

〜〜〜

【7/4】

親友が倒れても、そんなのは関係なく事件は起こる。
つまり、そういうことなのだろう。

「また、例の事件?」

「えぇ、街の住人の自殺未遂事件が増えたのと同時に、能力者の犯罪、それもその人のレベルに見合わない強度の犯罪もうなぎ上りですの」

名門常盤台の制服を着た二人の少女が公園でジュースを飲みながら話していた。

「なんか関係あるのかしらね?」

「さぁ、わかりませんの。こんな時こそ初春の力が必要ですのに……」

白井は悔しそうな悲しそうな顔をした。

「……しょうがないじゃない。
代わりに、私が手伝うわよ?」

御坂は励ますようにそう言った。

「ダメですの」

だが、それは即答で却下されてしまう。

「なんでよ……」

「お姉さまは一般人、それをお忘れなきようお願いしますの」

御坂は不満そうにへいへいと返事をした。
そして、缶をゴミ箱に投げ入れると伸びをする。

「うー……さ、行きましょうか」

「えぇ……それにしても佐天さんはどうしたのでしょうね」

二人は今日も初春のところへ行くようだ。

「あの子もいろいろあるんだよ。
大丈夫、悪い子じゃないしそのうち心から笑いあえる友達になれるよ」

御坂は笑う。

「……そんなことを気にしているんじゃありませんの」
121 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/29(金) 03:42:10.00 ID:q37E1Z1Uo

〜〜〜

――死んだやつは一個上の学年、性格は明るく後輩や先輩にも人気があった。

「自殺する理由がない人間なんていないのかもしれねぇけど……俺にはわからんな。
死ぬくらいの気持ちがありゃその試練を乗り越える事だって出来るだろうに……」

その日もその少女は後輩の男と朝楽しそうに話しているのが目撃されている。
特に変わった様子はなかったようだ。

――そして、その男が青髪ピアス、上条当麻の親友なんだよな。

つい、疑ってしまう。
もしかしたら上条を中心に今ある違和感は動いているのか、そう疑いたくなった。

「くそ……わからん。
というか俺はなんで学園都市に送り込まれたんだよ」

今更ながら曖昧に調査して来いとだけ命令を出した中枢に腹が立ってきた。
だが、フォルテッシモと俺は違う。
俺は刃向かっても無駄なのでその怒りは静かに腹に溜めておくことにした。

「……そうだ、青髪ピアスだ」

思い出したようにその名前をつぶやく。

「あいつの鼓動だ、引っかかってたのは……あいつだ。
情緒不安定というか……違う、逆だな……あまりにも理想的に整っているんだ。
俺が話しかけた時も話している途中も……表情は変わるが鼓動に変化はその表情と一致してなかったんだ……。
だから、なにか違和感を感じてたんだ」

――なんか、全員怪しく見えてきた。

「こんな超能力が当たり前の変な街にいるやつがまともなわけもねぇけどさ……いっそのことこんな街なくしちまえよ」

わけがわからなくなってきて、俺はベッドに倒れこんだ。

――もう、今日は寝よう。

珍しく普通の学生みたいな事を考えながら俺は意識を少しだけ溶かした。
122 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/06/29(金) 03:49:08.78 ID:q37E1Z1Uo
ここまで

次回から幻想御手編に突入
かませ犬臭がひどいビートさんもだんだんと活躍する……はずです
ffはの活躍はまだまだだとおもいます

ではまた読んでください
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/29(金) 15:43:02.53 ID:B7u7T2ZeP
レベルアッパーの時期だったのか
124 : ◆qXEKQweJllf. [sage]:2012/06/29(金) 16:55:32.14 ID:wwQv02GIO
>>123
少しズレてるけどクロスものは原作に異分子が混ざりこむものだからと理解してくれ
一応理由付けもしてあるし、続きを気長に待ってくれたら嬉しいな

125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/29(金) 18:50:45.37 ID:rQ8nSIFIO
そういや上条さんは順調に旗立ててるけど、竹田先輩はどうなってるのかな
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/29(金) 23:20:47.40 ID:B7u7T2ZeP
>>124
別にチャチャ入れてるつもりじゃないから安心して好きに書いとくれ
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/06/29(金) 23:41:15.45 ID:c3dAZEeEo

青ピどうなるんや…
128 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/01(日) 09:36:34.74 ID:8AJGhkTao

〜〜〜

「そっか……」

街中を歩いていると、路地裏の入り口に沢山の人が集まっているのを私は見つけた。
中高生、大学生、警備員。
様々な人がいて様々な表情がそこにはあった。

ざわつく集団に耳を澄ますとどうやら爆発があったらしいことがわかった。
規模はそれほど大きくないが、風紀委員が二人ほど重傷を負ったそうだ。

そして、その混沌とした場面に出くわして私は唐突に理解した。

「簡単なことだった。
私は美しくなんかない……この能力は……世界をも壊せるんだ」

――そうか、ブギーポップはきっと死神なんかじゃない。世界を守るヒーローなんだ。

自身の力の凶悪さに若干不安になるが、ここで引いては殺されるだけだ。

――でも、私は世界をどうこうしたいだなんて思ってな……いや、思ってたかも、こんな世界壊したいと思っていたかもしれない。

腹の底をくすぐられるような、そんな奇妙な感覚が身体を駆け巡り、私は一人静かに笑い出した。
それに気がついた周りの連中は白い目を私に向ける。
けど、そんなの気にしない。

そのうちの一人に私は手をかざした。

「ほら……簡単だ」

キラキラと輝くビー玉が、手の中に現れた。

「次は……これは何が出来るのか理解しなきゃ」

集団に背中を向けると、私はそのビー玉を持って近づかないと決めたばかりの初春の元へと向かった。
129 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/01(日) 09:37:40.38 ID:8AJGhkTao

〜〜〜

「ばく……はつ……?」

僕はその日学校を終えるとなんとなく涙子ちゃんに会えるような気がして街をふらついていた。
そこで、爆発事故だか事件に遭遇してもうたんや。

――なんや……この嫌な感じは……。

まさか、と最悪の展開を頭に浮かべてしまう。

「いや……ないわ。
それはない、大丈夫や」

巻き込まれて怪我をした人がいると、ざわめきの中から聞こえてきて不安はさらに大きくなった。

「大丈夫、大丈夫……」

――落ち着けや……先輩の事があってからなんでも悪い方に考えすぎや……。

来た道を戻ろうと、僕は集団に背中を向け歩き出した。

僕が背中を向けた時、僕が最も恐れる存在が僕の事をじっと見つめてた事を僕は気づかなかった。
そして、野次馬集団の反対側に僕が会いたいとおもった涙子ちゃんがいた事も僕は気づかんかった。

僕は大切な事を何もわかっていなかったんやな。
130 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/01(日) 09:39:06.80 ID:8AJGhkTao

〜〜〜

「やっほ」

扉を開けると、そこには御坂さんと白井さんがいた。

「佐天さん……」

初春は寝ているようだ。
腕にはまだ包帯が巻かれている。

「こんにちは、御坂さん、白井さん」

「……ごきげんよう」

「初春さん、喜ぶわよ」

白井さんは少しだけ不機嫌そうに、御坂さんはニコリと笑いかけてきた。

「初春は……まだ泣いてたんですか?」

頬に涙の跡があることに気がついた。

「えぇ、ずっとあなたを待っていましたのよ?」

責めるようなキツイ口調で白井さんは私を睨んだ。

――……鬱陶しいな、この人。

だが、今は白井さんにかまってる暇はない。

「……風紀委員の仕事いいんですか?
さっき爆発事件があって二人巻き込まれたそうですよ?」

白井さんの表情が、驚きに変わったのと同時に、携帯電話に着信が入った。

「……失礼しますの」

番号を確認すると、私の方を若干にらみながら部屋を出て行った。

「……」

御坂さんはそれを黙って見送り、私は初春へと近づいた。

「ごめんね、初春」

――でも、あんたのおかげで私は自分の力を知る事ができた。だから、これはそのお礼。
別に初春が大切だとか親友だとか思ってるわけじゃないから……。

そっと、初春のおでこを撫でる。

――これで、いい。怪我を治してあげたいけど、それは出来ないから……せめて心だけでも。

「……じゃあね」

「え?もう帰っちゃうの?
初春さんが起きるまでいてあげなさいよ」

「すみません、御坂さん……。
私はやらなきゃいけない事があるんです」

御坂さんが何かを言っていたが、私はそれを無視して病室を出た。
131 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/01(日) 09:41:13.86 ID:8AJGhkTao

〜〜〜

「……もう、いややわ」

公園でベンチに座りながら空を眺めていた。
僕の心とは裏腹に真っ青に晴れた空は清々しくどこまでも美しかった。

「……あれ?
君確か当麻くんのお友達だったよね?」

「んあ?……あっ……宮下藤花先輩、やったっけ?
一個上の転校生の人ですよね?」

ぼんやりと雲を数えていると、スポルディング製のバッグを持った転校生が話しかけてきた。

「そうそう!
当麻くんからいつも聞いてるよ、青髪ピアスくんでしょ?」

「はぁ……そうですけど……僕になんか用ですか?」

「んー、そうだな……特にないけどつい、ね」

可愛らしく微笑む。

「まぁ、強いて言うなら当麻くんと仲良くしてくれてありがとうって事くらいかな」

「カミやんにはウザがられてますけどね……」

自嘲気味にそう言い返す。

「そんな事ないよ」

宮下先輩は、真剣な口調で即答した。

「君は、上条くんにとって良い親友だよ」

雰囲気がガラッと変わった。
僕は全身から汗が噴き出すのを感じる。

――こいつ……まさかっ……。
132 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/01(日) 09:41:47.52 ID:8AJGhkTao

「だが、注意した方がいい」

「な、ににや……?」

「――世界の敵にだよ」

「世界の……敵?おまえは……いったい」

「僕は世界の敵の敵さ。
世界に危機が迫った時自動的に浮かび上がってくる。
だから、名を――ブギーポップという」

――やっぱり……ブギーポップ……こいつが……先輩、を?

恐怖と同時に怒りが湧いてきた。

そして、どうなのか確かめようと思った瞬間。

「当麻くんとの関係?」

ブギーポップは急に先ほどまでの宮下先輩と同じ口調でわけのわからんことをいいだした。

「は?」

「別に付き合ってるとかじゃないよ、幼馴染。
弟みたいなものよ」

「え?あ、はぁ……」

あまりの変わりようとその唐突さにマヌケな反応をしてしまう。

――なんなんや、こいつ?
頭おかしいィんか?

「ま、いいわ。
それじゃあね、また会うと思うしよろしくね!」

「……あんまりよろしくしたくないですね」

僕に背を向け走り出した宮下藤花に僕は小さく毒づいた。
133 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/01(日) 09:43:03.02 ID:8AJGhkTao

〜〜〜

【7/5】

一番乗りで学校へついたが、特にやる事もないので机に足をのせ目を瞑っていた。

――職員室には十六人。
上の教室には三人、隣はまだ誰もきていない。

やる事がないと言っても出来る事はある。
これ以上この学校に変なやつがいないか俺は静かな教室で集中して探っていた。
登校ラッシュ時にもしMPLSだとかが来たらきっとそれが誰なのかはすぐに分からないだろうが、まばらにしか登校して来るものがいないこの時間帯ならばもしも青髪ピアスのような異様な奴がいたら容易に知る事が出来る。

――今のところどいつもこいつもふつうだな。
いや……まて、一人変なのが来たぞ。

軽くしたうちをして、眉を顰める。
その鼓動はどんどんこの教室に近づいて来て、やがてガラリとドアを開いた。

「おー、世良っちおはようなんだぜい」

「……」

「無視とはつれないにゃー。仲良くしようぜい?」

相変わらずニヤニヤと気持ちの悪い顔で土御門元春は馴れ馴れしく構ってくる。

「チッ……鬱陶しい野郎だ。
だが、丁度いい……お前青髪ピアスと仲良かったよな?」

本当は一言も言葉など交わしたくはないが、しょうがない。

「あぁ、青ピとカミやんは親友ぜよ」

「青髪ピアスってのはなんなんだ?」

「MPLSか、どうか。
統和機構がどう思うか、という事か?」

急に真剣な声色に変わった。
134 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/01(日) 09:43:30.80 ID:8AJGhkTao

――こういうのが気持ち悪りぃんだよ。というか、こいつが一番怪しい気がしてきたぞ。
なんなんだ、このスキの無さと余裕は……余裕がある奴は大抵スキもある。
だが……こいつはなんなんだ。

「……お前だって消されたくはないだろ。
なんかあるなら報告しろ」

「……なにもない。
あったとしても……タダでは友達は売らないぜい?」

「お前……統和機構が怖くないのか?」

「怖いに決まってるだろ。
お前みたいな探索型合成人間ならば勝てない事もないが、フォルテッシモのようなバケモノじみた野郎に狙われたら終わりだ」

「だったら……」

「勘違いするなよ、ピート・ビート。
俺は俺の目的で統和機構にいるんだ。
お前の今回の任務が何かは知らんが、それは俺とは関係ない」

「……じゃあ、お前も俺の任務に余計なチャチャはいれるなよ」

「安心しろ、最低限の仕事はしてやる」

怪しく笑えるその自信はどこからでて来るものなのか、本気で頭をかち割って脳みそを調べてやりたいと思うくらい不思議だった。
しかし、こいつに対する評価は改めた方がいいのかもしれないとも思った。

――フォルテッシモが不登校で助かった。
こいつは精神的にとても強い……。
もしもそれにやつが気づいたら……学校がなくなっちまう。

フォルッテシモに気に入られそうな気持ち悪いやつ。

土御門元春はそういう存在だ。

でもまぁ、自信たっぷりのこいつも本当はなにも知らなかったんだ。
だから、俺なんかがこの件の渦中にいたにもかかわらず何があったのかよくわかってないのもしょうがないと思うだろ?
135 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/01(日) 09:44:29.68 ID:8AJGhkTao

〜〜〜

「う……ん……?」

何時の間にか寝ていたらしい。
ぼんやりする頭がはっきりし出すと、今まで心にかかってた霧が晴れたかのような清々しい気持ちに自分でもびっくりした。

「あ、おはよう。
さっき佐天さん来たわよ」

御坂さんが、読んでた漫画雑誌から目をあげ私を心配そうに見ながらそういった。

「佐天……さんが?」

なんだろう、この気持ちは。

あれだけ会いたくてそれなのに苦しいほど憎くて、でもやっぱり会いたくて……。
そんなごちゃついた意味のわからない気持ちがすっと溶けて綺麗さっぱりなくなっていた。

――やっぱり、佐天さんなんだ。

自分の心が侵された原因は佐天さんだったんだと確信を得た。

私のことが大嫌いで、その気持ちが爆発して何か能力を得たのかもしれないと思っていた。
でも、それは違ったんだ。

――佐天さん自身もわかってないんだ。

「そう、ですか……すみません御坂さん、お医者さん読んできてもらっていいですか?」

だったら、教えてあげなくちゃ。

「いいけど……どうしたの?」

「いえ、もう退院しようと思って」

「え?でも……」

御坂さんは更に心配な目をした。

「大丈夫です。
もともと、不安定だったから入院させられてただけですし、怪我の方は通院で問題ありません」

「……わかった、でもお医者さんがダメだって言ったらちゃんと従うのよ?」

「はい、約束します」

――きっと、このままじゃ佐天さんは取り返しのつかないことになっちゃう。

多分、人智を超えた力というのはそれを使う本人よりもそれの影響を受けた人の方がその力の重さや、本質がわかるんだと思った。
だから、私なんかが佐天さんの何かしらの能力の本質を一番に理解出来たんだ。

きっと、そうなんだと思った。
136 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/01(日) 09:45:04.05 ID:8AJGhkTao

〜〜〜

「クッソ……何なんだ今日は」

学校を終え、土御門とは別の構成員から多発している自殺未遂についての資料を受け取ろうとそいつの務める病院へ向かう途中何人ものスキルアウト共に絡まれた。

――しかし、スキルアウトってのは曖昧だな。
無能力者のチンピラはスキルアウトでいいんだろうけど、能力もったチンピラはなんて呼べばいいんだ?

構成員に取り付いでもらう待ち時間で、そんなどうでもいいことを考えていた。

――しっかし……自分の能力くらい使いこなせよな。
なんで、能力出すたびに興奮しやがんだ……。

「世良さん……お待たせしました」

「どうも……」

受付のお姉さんから突き当たりの診察室へとはいるように言われ、頭を軽く下げながら俺は言われた場所へ向かう。

そして、そこに入ると気の弱そうな三十代くらいの白衣をきた男が待っていた。

「あんたがそうか?」

「は、はい……一応自殺未遂した学生のリストと、自殺方法についてまとめたリスト……簡単な交友関係などを調べ上げました」

そして茶色い封筒を俺に渡してきた。

「……ご苦労さま、なんか他にわかったことや気になることがあったら報告してくれ」

そう言いさっさと部屋を出ようとすると、そいつは遠慮がちに俺を止めた。

「ま、まってください。あります、ひとつだけ」

「……」

無言で話せと、促す。

「初春飾利という少女は、佐天涙子という少女が見舞いに来た途端、別人のようになりました。
あと、初春飾利が運ばれて来た次の日、ここのナースが飛び降り自殺しました。
未遂ですけど……とにかく、初春飾利が怪しく見えます」

「……わかった。んじゃあな」

――初春飾利か、また厄介な懸案事項が増えたねどうも。
それに加え……異常に絡んでくるやつが増えたのも気になるな……。
ただ俺の運が悪かっただけなら良いんだが……。

構成員に向かって手をあげると、俺はそのまま部屋をでた。
137 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/01(日) 09:46:25.04 ID:8AJGhkTao
ここまで

また読んでください
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2012/07/01(日) 19:11:59.89 ID:59AGiqpoo
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/01(日) 19:27:44.63 ID:AEQGlQgIO
乙。精神操作系のMPLSは対人戦闘は強いんだがブギーには無力だよなぁ
佐天さんどうすんのかな
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県) [sage]:2012/07/01(日) 22:18:20.62 ID:iJ2DBeX1o
青ピがどう絡んでくるのか気になる所
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県) [sage]:2012/07/01(日) 22:28:23.12 ID:vMkOUg4Go
ガチ戦闘でブギーポップに勝つのは至難の業っつーか、原作読む限りほぼムリゲーだかんなww
サテンさんの生き残れる道は、十助みたいに世界の敵じゃないと思い直されるぐらいしか思いつかないけど、一体どうなることやら
142 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/02(月) 01:29:28.57 ID:1PmtneO/o

〜〜〜

「……うん、別に退院は問題ないね?」

御坂さんが先生をつれ戻ってくると、まず精神科に行かされた。
そこで診察を受け、病室に戻され少し経つとまた先生がやってきてそう言った。

「はい、ありがとうございました。
今すぐ、出来ますか?」

「あぁ、いいよ。
週に一回、そうだね、来週のこの日また診察にこれるかい?」

「はい、わかりました」

それだけ言うと先生は病室を出た。

「とりあえず、退院おめでとう」

御坂さんは不服そうにだが、そう言ってくれた。

「ありがとうございます」

私はそれだけ言うと荷物をまとめ始める。

「……なんか、怖いな」

「……何がですか?」

「佐天さんと初春さんが」

まるで戦争に行く我が子を見るような目で私を見つめる。

「なんで、ですか?」

「なんとなく、佐天さんは何考えてるかわからないし、初春さんも何考えてるかわからない。
……違うな、二人が何を背負ってるのかがわからないんだ。
あなたたちは何と戦っているの?」

「私にも、わかりません。
ただ、ひとつ言えるのは……私は佐天さんとまた笑いたい。
まだ出会ってたったの数ヶ月ですけど、私は佐天さんとたくさん笑いました。
でも、最近佐天さんはおかしい」

本当は、最初から私が気づいていないだけだったのかもしれないけれど……。

「親友が苦しんでいるなら、助けたい。
きっと、佐天さんを助ける事が出来るのは……私だけですから」

それも、間違いなのかもしれないけれど。
本当はもう、手遅れなのかもしれないけれど。
143 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/02(月) 01:32:05.49 ID:1PmtneO/o

〜〜〜

「初春飾利、柵川中学校の二年生。風紀委員第一七七支部に所属……。
特技はパソコン……ねぇ……」

この超科学都市でパソコンを特技って言えるって事は相当な技術を持ってるんだろうな、と想像出来た。

「……技術は武器だからな……それを磨けば自分に出来る事と出来ない事がはっきりわかる。
それがわかることが戦いにおいては重要だ」

――何が『この街に俺の相手になりそうなのはほとんどいない』だ。
お前はただ単に力が強いだけのやつよりこういう強さを持ったやつのが好きじゃねぇか。

自殺未遂者リストを眺めながら、この街の環境では本当にどうしようもない雑魚と、しっかりと信念を持った雑魚の差が極端だな、と考えていた。

――リストに載ってるやつ全員と関わってるやつがいたらそいつで決まりなんだが……流石にいなかったな。
高校生は最初の死んじまった奴を含めて六人、中学生は三人、大学生が八人で、大人は二人、か……。

資料を机の上に放り投げると、背もたれに思い切りよりかかり天井を見つめる。

――共通点は第七学区の住人ってだけか……。
144 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/02(月) 01:32:36.02 ID:1PmtneO/o

「そういえば、フォルテッシモはどこに行ったんだ?
全く音沙汰ねぇけど……金髪のスキルアウトとやらは見つかったのかな?」

――しかし、フォルテッシモは意外と精神攻撃に弱いんだな……いや、攻撃されてもそれを楽しもうとしてるあたりやっぱ強いのか?

「……やめだやめだ。
とりあえず明日からはこの初春飾利、佐天涙子を監視対象にするかな。
こっちの御坂美琴と白井黒子ってのも一応調べておくか」

買ってきたコンビニ弁当を適当に開け、冷たいまま腹に詰め込む。
テレビをつけ、なんとなくニュースを流していると、自殺未遂多発事件が起きはじめてから、能力者による犯罪も増えているとキャスターが険しい顔で伝えた。

「……偶然じゃなかったのかよクソッ」

思わず力をいれすぎ、持ってた箸がへし折れた。
また一つ調べる必要のある事が増えた事でもう何から手を付けていいのかわからなくなってきそうだった。

「MPLSが隠れやすいとか……そんなレベルの街じゃねぇぞクソッタレ」

折れて短くなった箸で残りの弁当を流し込むと、空になったプラスチック容器をゴミ箱に放り込んだ。
夏らしいぬるい風が、開けっ放しの窓からカーテンを揺らしているのが何故か凄く印象的だった。
145 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/02(月) 01:33:20.30 ID:1PmtneO/o

〜〜〜

【7/6】

能力者の暴走、昨日の爆発事件はそういう風に理解されているようだった。
でも、違うと私は確信している。

――きっと、暴走なんかじゃない。“拾った”んだ。

その日私は学校にいかず、路地裏を徘徊していた。

――この街には絶望が溢れてる。それを拾っちゃったんだ。

「きっと、私がこの街に来たのは、この街に蔓延る絶望が……私の能力に都合がいいからだ」

――自分が生きやすい環境に、人は無意識に向かうものなのかもしれないな。

「半日歩いただけでこんなに集まった」

ブギーポップを倒す方法なんてわからない。
けど、いくらあいつが強くても、人間は人間だ。
絶望には勝てない。

「これって……他に使い道はないのかな?」

集めたビー玉を眺めながら一人考える。
朝から歩き回り、もう日が落ちようとしている時間だ。
公園で遊んでいた小学生やそれよりもっと小さい子達ももう帰途につき、公園内には学校から自宅へのショートカットに突っ切る高校生や大学生がたまに通るだけだ。

「でも、私よく今まで平気だったな」

絶望というものが形作り目に見えるようになって初めてこの街の異常性に気がついた。

「こんなに絶望がそこらに転がってるのに……なんで、私は笑えたんだろう」

この街に来たばかりの時、能力がないとわかってもこれからだと笑っていられた。
その隣にはいつも……。

「……はぁー、やめよ。
今はブギーポップと戦うために自分に何が出来るのか知り尽くす必要がある」
146 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/02(月) 01:33:53.03 ID:1PmtneO/o

〜〜〜

「え?佐天さん、今日学校きてないんですか?」

始業前にちゃんと登校したが、一時間目は教室ではなく生徒指導室へとつれていかれた。
そこで先生に色々と話を聞かれ、心配されたが、大丈夫だとしっかり主張すると二時間目から授業にいれてもらえる事になった。
教室に入るとクラスメイトは私の退院を喜び普段そんなに話さない子からも声をかけてきてくれたりした。
それが一通り落ちつくと、いるはずなのにいない佐天さんはどうしたのかと佐天さんと仲のいい子に尋ねた。
そしてその子は残念そうに、今日涙子休みなのよ、と言ったのだ。

「なんで……」

自分の席に座りながら、一人つぶやく。
佐天さんが遠くに行ってしまいそうで怖かった。

「佐天さん、あなたは……」
147 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/02(月) 01:35:36.40 ID:1PmtneO/o

〜〜〜

「……なぁ」

「……なんだい、上条くん」

また、藤花ちゃんと屋上で昼飯を食べていたら藤花ちゃんは急にブギーポップになった。
ブギーポップは相変わらずフェンスに近づき何かを探すように学園都市を見回している。

「自殺未遂事件、あれが今回の世界の敵の仕業だとしたら……なんでそいつは未遂で思いとどまらせてるんだ?」

「……無意識だったんだろうさ」

「無意識?」

「あぁ、自分の力をしらなかったのしれない」

「でも、前にお前は敵がお前と戦う覚悟を決めたって言ったろ?
知らないならお前に狙われるなんてのもまたしらないんじゃないか?」

自分で言っててもよくわからないが、何が言いたいかは通じたようだ。

「そうか……君は男の子だから僕の噂話を知らないんだね」

そういうとブギーポップはその人が最も美しい時にそれ以上醜くならないように殺しにくる死神だという噂話を教えてくれた。

「なるほどね……そいつは今が最も自分が美しい時だって自覚しちまったわけか」

「さぁ?そこはよくわからないが……どこかで僕をみたのかもしれない」

「先手を取られたって事?」

「それか、僕が最初に感じた世界の危機とは違うものが新たに出てきたか」
148 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/02(月) 01:36:13.49 ID:1PmtneO/o

――こいつ、さらりと恐ろしい事を言いやがったな。

きっと、今いる世界の敵ってのはブギーポップがいなければ学園都市なんてあっという間に壊せるんだ。
そして、そのまま世界をも壊せる。

それが、世界の敵ってことだろ?
それが、二人?冗談じゃないぜ。

「はは、冗談だろ?
もしかしたら、世界の敵ってのがお前の勘違い……誤作動?的なものかもしれないじゃんか、だって実際……みんな未遂、なんだろ?」

「一人死んでいるじゃないか」

「あれも……!
そっかそうだよな、普通に考えて……でもそれおかしくないか?」

ひとつ引っかかった。

「なんで、お前がこの街に来た途端、そいつは世界の敵として動き出したんだ?」

「今回の世界の敵は非常に穏やかなんだ。
穏やかに、ゆっくりとこの世界を殺そうとしている。
それに、言っただろ?僕は自動的なんだよ。
世界の危機のスイッチが入って僕が出てくるんだ、僕はいつでも後手に回るしかないんだよ」

「あ、そうか……」

「ほら、さっさと食べちゃえよ」

ブギーポップが綺麗に笑ったように見えた、でもそれは日の光で顔の半分が隠れていたからなんだろう。
149 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/02(月) 01:36:53.29 ID:1PmtneO/o

〜〜〜

「例えばこれ、割ったらどうなるのかな?」

しっかりと理解した今なら簡単に割る事が出来るような気がした。
ひとつ選び、それを親指と人差し指でつまむと割れろ、と思いながら力を込める。
すると、簡単にパキンと割れてビー玉は黒い霧のようになった。

「うわ、なんか気持ち悪いな……」

ふよふよと浮かぶ黒い雲のようなそれを、なんとなくつかんでみようとする。

「あれ、消えた……痛い!」

消えた瞬間、頭に軽い衝撃が来た。
どうやら、小さな木の枝が折れて落ちて来たらしい。

「いててて……なんでこんな……」

不幸だな、なんて考えながら私は頭をさすった。

「あー不幸だなぁ……まったくもう……あれ?」

ぶつくさと文句を言っていると、公園を知った顔が横切ろうとしていた。

「おーい!青髪さーん!」

そして、思わず声をかけてしまった。

「あ、涙子ちゃんか」

青髪さんはキョロキョロと当たりを見回したあと、私を見つけると小走りでこちらにやって来た。

「まいど、なにしてんねん、こんなところで」

「休憩、ですかね?」

「そうか……最近、学校とかどうや?」

「普通ですかね。そういえば昨日あっちの通りで爆発事件あったじゃないですか」

「あー、僕そこにおったで」

「そうなんですか?私もいましたよ!
でも、怖いですよね能力者が暴走だなんて」

「せやなぁ……無能力者からしたら能力者なんて常に凶器持ってるのと変わらんもんなぁ」

世間話を数分続け、当たりが暗くなってくると青髪さんは急に話を切り上げた。

「もう暗くなるから帰りや……送ってこか?」

「いえ、大丈夫です。
まだ少し明るいですしね」

「そか、んじゃあまたな」

「はい!」

なんだか気分が少しだけ晴れやかになった気がする。
青髪さんと話していると落ち着くのはなんでなんだろう。
150 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/02(月) 01:37:19.24 ID:1PmtneO/o

〜〜〜

――おいおい、冗談だろ?

佐天涙子が学校をサボったので、俺も必然的にサボる羽目になった。
減点二、あとひとつでわけわからん事をやらされると思うとげんなりしたが、そうも言ってられない。

佐天涙子は朝から一生懸命街を、それも路地裏ばかりを歩き回っているだけだった。
鼓動を調べてみても、特に落ち着いた様子だった。
だが、その鼓動にどこか懐かしさのようなものを感じたのは何故だろう?
しかし、まぁ佐天涙子がした事といえばそれだけで特に何もおかしな様子は――学校をサボって街を徘徊するのがすでにおかしな事なんだが――無かったので明日からは初春飾利のみをターゲットにしようと決めた矢先に……。

「あいつは、青髪ピアスと関わりがあるのか……」

佐天涙子の警戒度、重要度は青髪ピアスとの関係で一気に増した。

――青髪ピアスは第一の自殺者が最後に話をした存在。
佐天涙子は初春飾利がやらかした時に一番近くにいた存在。
それに加え青髪のあの不審な鼓動。

全てが繋がりそうで、全てがちぐはぐのようにも思えた。

――色々起こりすぎてわけがわからん。
そして相変わらず青髪は綺麗すぎるリズムだな……あ。

そこで、思い出した。
懐かしさの原因を。

――あいつ、佐天涙子はこの街に俺が来た時殺気を込めて睨んで来た四人組の一人だ!
……おいおい、本格的にわけがわからねぇぞ。
151 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/02(月) 01:38:36.73 ID:1PmtneO/o
ここまで
今日はやらなきゃいけない事あったけどやる気でなくてSS書いちゃった
ではまた一週間乗り切りましょう!
次も読んでください
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/02(月) 19:50:24.13 ID:ju/qfcEIO
まさかの連続更新だと・・・
青ピ佐天コンビとブギ条コンビいいな
微妙な距離感がなんかはらはらする。ブギーが殺しにかかれば上条さん止めようとするだろし
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/02(月) 20:12:54.82 ID:5BKb2iueP
六位にならない青ピがメインキャラなのも珍しいなwwwwww
154 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/04(水) 21:50:00.15 ID:0J22ojjVo

〜〜〜

【7/7】

七夕だ。
まだそんなことを考える余裕がある事が少しおかしかった。

「今日も学校はいいや」

制服を一度手にとったが、学校に行くのが億劫でそれをまたハンガーにかけた。

――不登校って、こうやって出来るんだろうな。

そんなくだらない事を考えながら、動きやすい服を選んで身につける。
鍵を取り、携帯の電源は初春の様子を見にいってから一度も入れてない。
きっと、電源をつけて五分したら白井さんか御坂さんか初春から電話がかかってくるのはわかってる。

「なんだか……逃げてるみたい……」

何も悪いことなどしていないはずなのに……。

――いや、初春を傷つけちゃったね……。

自嘲するような笑いが自然とこぼれた。
そうだ、私はもう人を傷つけてしまったんだ。
初春以外にも無意識で何人も傷つけたかもしれない。
そんな人間なんだ。

――逃げてるみたい、じゃなくて逃げてるんだ……。

はっきりと自分が傷つけてしまった友人から……。

鍵を手の中で鳴らすと、その音はまるで私を責めるように耳障りな音がした。
155 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/04(水) 21:51:52.83 ID:0J22ojjVo

〜〜〜

「ご迷惑をおかけしてすみませんでした」

退院して次の日、私は風紀委員にも復帰した。
白井さんは珍しく優しく微笑み、固法先輩心配そうに色々と気遣ってくれた。

「一昨日の能力者の暴走事件……あれって本当に暴走なんですか?」

祝いの言葉を一通り聞き、お礼と謝罪を済ませると私はそう切り出した。

「……一応、そうなっていますの」

「やっぱり……」

「やっぱり?」

「だって、おかしいじゃないですか……何人かはその場で保護されているけれど、一番被害を出している爆発魔は捕まっていない」

能力者の暴走めいた事件は、実は一月前ほどから起きている。
その頻度がここ数日上がっているのだ。

「爆発魔は暴走事件に便乗してるだけ、というのが警備員側の見解よ」

固法先輩が少し困ったような顔をしていった。

「固法先輩と白井さんはそう思ってないってことですか?」

「えぇ、じゃなきゃこんな困った顔しないわよ」

小さく笑った。

「書庫に該当する能力者がいないんですね?」

「そうですの、警備員は発火能力者の応用、もしくは犯人は複数とみているようですの」

「でも風紀委員……いや、白井さんと固法先輩は違うと確信しているんですよね?」

「はい、その通りですのよ。
爆発事件に関しては、少し不可解な事がおおすぎたので色々と調べましたの」

白井さんは、山積みになってる書類に目を向けた。
156 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/04(水) 21:52:25.57 ID:0J22ojjVo

「初春さんがいたら、一日でパパッとやっちゃうんだろうなって白井さんと初春さんを失う事の大きさを話してたのよ」

固法先輩は恐らく私が少なからず落ち込んでいるようだと気づいているのだろう。
もちろん、白井さんも気づいてるだろう。
それで白井さんが私を励まそうとか慰めようとかそういう雰囲気がないから、私を元気付けようとしてくれているのだろうと伝わって来た。

――固法先輩、大丈夫ですよ。
私、今希望でいっぱいですから……佐天さんを助けたいのに、落ち込んでなんかられないんですよ。

「ありがとうございます。
それで?なにかわかったんですか?」

「……えぇ、爆発の直前、重力子の加速が観測されるという事がわかりましたの」

白井さんは少し私を疑うような目つきをした。

「重力子……の加速……?」

「えぇ、虚空爆破ってわかる?」

「いえ、わかりません。
でも、重力子の加速ってのと関係あるんですよね?」

「まぁ、そうね……つまりアルミを起点に重力子を爆発的に加速、そしてそれを一気に周囲に撒き散らすってかんじね」

「はぁ……良くわかりませんがとにかくアルミを爆弾に変えるって事ですよね?
そこまでわかっててなんで捕まえにいかないんですか?」

虚空爆破とか、名前はどうでも良かった。
だけど、この事件は早く止めないと佐天さんが後々苦しむ、そうなんとなく思ったのだ。

「いないんですのよ、それが出来る学生が」

「いない?」

「はい、あの爆発はレベル4クラスですの。
でも、虚空爆破を起こせる能力者でレベル4は一人、しかしその生徒は入院中でアリバイがある……わけがわかりませんの」

疲れきったように白井さんはため息をついた。

「……それ、レベル4以外……レベル1やレベル2の生徒ならいるってことですか?」

「えぇ、それも一人だけ」

固法先輩が答えた。

「だったらそいつですよ、レベル上がったんで使いたくてしょうがなかったんでしょう」

私の中ではそいつが犯人だと確定した。
157 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/04(水) 21:53:14.15 ID:0J22ojjVo

〜〜〜

「幻想御手ぁ?」

聞くだけでレベルの上がる音楽ファイル。
いかにもな宣伝文に俺は思わず笑いそうになった。

「んで?それがどうした?
それは学園都市産の能力にしか関係ないんだろ?」

「そうなんだにゃー、でもこの街で起こった不思議な事を報告するのが俺の義務だからにゃー?」

「……チッ」

俺は土御門を睨みつけると、渡された資料に目を戻す。

「……あぁ、そういう事か」

「なにがなんだぜい?」

「ん、あぁ……やけに最近能力者に絡まれるからな。
そんでそいつら自分の能力を出すたびに軽く興奮状態……嬉しくて仕方ないって感じの鼓動をするからよ。
なるほどね、インチキで楽して強い力手に入ったから嬉しかったのか」

未熟だと思ったが、そうではなかったらしい。

「でも、これはMPLS関係ないだろ?
俺はこれについては調べねーぞ?」

「あぁ、それはお前の勝手だからな。
好きにすればいいんだにゃー」

今日は一段と土御門のにやけ面がうざかった。
158 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/04(水) 21:54:04.72 ID:0J22ojjVo

〜〜〜

単純に疲れたからかもしれないし、導かれたのかもしれない。

街は七夕ムードでいたるところに短冊がつる下がっていた。
そして、その短冊の下には多くの感情が転がっている。

「少し、休もう」

学校をサボりご飯も食べずに歩き続けて気がついたらもういつも下校をするような時間になっていた。

「セブンスミストでいっかな」

別にそこまでいかなくともファストフード店などで良かったのだが、何故だかそこに行こうと思った。
やっばり、導かれたんだと思う。

セブンスミストに着き、フードコートで適当にお腹を満たすと、目的もなく店内をさまよった。
別に服が欲しかったわけでもましてや浴衣が欲しかったわけでもない。
ただ、なんとなく。

「浴衣……か」

小学生の頃、中学生になったら友達同士で浴衣をきて、花火大会や七夕まつりに行くのが楽しみだった。
小学生の頃は親とかおじいちゃんとかが一緒じゃないとお祭りとかはいかせてくれない家だったから。

外の家族を思い出し、さみしさと申し訳なさを感じた。

「あ、これ綺麗だな」

淡いブルーに、可愛らしい金魚が泳いでいる浴衣に目を奪われた。

――まぁ、買っても着る機会なんてないんだけどね……。

ブギーポップに負けたら当たり前に死ぬ。
もし勝ったとしても、私は初春達の所へは戻れない気がした。

――だって……ブギーポップに勝つと言う事は、ブギーポップを殺すと言う事だから……。

「はは……なんか、私はさみしい死に方しそうだな」

もういっそ、おとなしくブギーポップに殺された方がマシなんじゃないかとすら思えてくる。
だって私が生きたい理由は――。
159 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/04(水) 21:54:33.37 ID:0J22ojjVo

何故だか諦めきれず、その浴衣を手にとってしまった。

だが、どうすればいいのかわからない。

「お、涙子ちゃんやん。なにしてんねん?」

「え?」

じっと手にとった浴衣を見つめていると、後ろから急に呼ばれた。
驚き気の抜けた間抜けな声を出してしまう。

「おぉ、浴衣かいな!
ええな、涙子ちゃんは髪も綺麗な黒やし似合いそやな」

正体は青髪さんだった。
変な声を出してしまった事には触れず、私がもつ浴衣に興味を示した。

「買いませんけどね」

でも、これで浴衣を棚に戻すきっかけが出来たと思った。

「えー、なんでやねん。それきっと似合うとおもうで?」

別に一緒に祭りとかに行く約束をしているわけでもないのに、青髪さんは何故か残念そうに言う。

「いや、お金もそんなに無いですしね。
それに、祭りに行く予定もありませんから。
……というか、青髪さんここで何してるんですか?」

ふと、ここが女性物の浴衣売り場だと気づき、青髪さんが何故ここにいるのかという当然の疑問が浮かんだ。

「クラスメイトに浴衣選び手伝うん頼まれてな。
その子は今試着してるからフラフラしてたんよ」

「……そう、ですか。
青髪さんモテそうですもんね、じゃあ私もう行くんで」

そこにいたくなかった。
理由なんて知らない。
私は浴衣を戻すと、逃げるようにその場を立ち去った。

「え?ちょ、涙子ちゃ――」

青髪さんはきっと困ったような驚いたような顔をしながら呼び止めたんだろう、でも聞こえない。
160 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/04(水) 21:56:12.92 ID:0J22ojjVo

〜〜〜

――危ない、今私は少しでも心が揺れるとダメなんだった。
自分の能力に飲み込まれちゃいけない。

売り場から離れると自販機でジュースを買い、それを人が少ない階段の踊り場の壁に寄りかかりながらのむ。

心を落ち着けるために。
ゆっくりと、息をしながら喉を潤す。

「さて、帰った方がいいかな」

賑やかな売り場の方を見ながら、人の多くいる場所は今の自分には危険でもある事を認識した。
だが、その足はまたその中へ向かう。

――なんで、初春と御坂さんがここにいるのよ……。

初春が風紀委員の腕章をつけていることから、何かの捜査もしくは警邏で来ている事はわかった。
だが、何故白井さんではなく御坂さんがいるのだろう。

――とりあえず、少し様子をみよう。

そうして、二人に気づかれない距離を保ち観察する事にきめた。
161 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/04(水) 21:56:46.88 ID:0J22ojjVo

〜〜〜

「そうもいかないのよ、わかるでしょ?」

固法先輩は困ったように言った。

「でも、そいつが関わってるのは明らかですよ!」

「初春、少し落ち着きなさいな」

「白井さんは黙っててください」

「なっ……怒りますわよ?」

「……もういいです!
見回り行ってきます」

そんなわけで、私は見回りと言いつついつか四人できたクレープ屋さんでもそもそとクレープを頬張っていた。

「ま、初春さんの言いたい事も分かるけどさ……組織なんだしなかなか思い通りにいかない事も初春さんならわかってるんでしょ?」

隣には偶然居合わせた御坂さんが座っている。
御坂さんはこういう時公平な人だと思った。
普通なら、私を非難するか、とりあえず私に同調しておくかするのが女子中学生というものだろう。
だが、御坂さんは公平に私も正しいし、白井さん達も正しいと認めてくれたのだ。

たったそれだけの事で私の心は落ち着いた。
もう少し早く御坂さんがきてくれていたら、紫色の変な服を着た男の人とクレープ大食いバトル――私が勝手に対抗意識を燃やしただけだが――なんてしなくてすんだだろう。

「……ありがとうございます、御坂さん。
私、少しだけ警邏したら支部に戻って二人に謝ります」

「うん、それがいいよ。
爆発魔事件で怪我してる風紀委員も多いし、何より暇だし付き合うわよ」

御坂さんは太陽みたいににっこり笑った。

「はい!よろしくお願いします」
162 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/04(水) 21:58:09.65 ID:0J22ojjVo

〜〜〜

「で?なんでセブンスミストに私は来ているんですか?」

街を巡回していると、私は何時の間にかセブンスミストへとたどり着いていた。

「まぁいいじゃん、初春さんは本来まだ休んでてもいいんだしね。
少し息抜きよ」

御坂さんは楽しそうに、私の手を引いて浴衣のあるコーナーまで来た。

「あー、そういえば今日七夕まつりね……黒子と佐天さん誘って四人で行く?」

浴衣コーナーへ真っ直ぐ来たくせに、白々しいなぁと思いながら佐天さんが今日は学校を休んだ事を伝えた。

「そっか……じゃあ来年は四人で行こうね」

また、ぴかぴかと笑った。

「はい、そうですね」

そんな未来が、来たら私はそれだけでいいと、他にはなにもいらないと思った。

「あっれ、ビリビリじゃん」

なんとなく二人で浴衣を眺めていると、御坂さんの友人らしき人が現れた。

「あんた……って、その人、誰?」

「友達?いや、幼馴染かな?
七夕まつり行こうって誘われてその浴衣を買いに来たんだ」

あんた、と呼ばれた男の人の横に立つ女の人は軽く頭を下げた。

「ふーん……そう」

御坂さんは泣き出しそうなくらい悲しそうな顔をしていた。

「お、今日は勝負勝負言わないのな!
上条さん嬉しいぞ、お前も普段からそんくらいおとなしくしてたら可愛いんだしモテるぞ!」

「うるさいわよ、バカ」

バカとは、と上条さんが言い返そうとした時、今度は私に話しかけてくる人がいた。

「おねーちゃーん」

子供だった。
変なぬいぐるみを持った子供。

「どうしたの?」

「おねーちゃんは、風紀委員のひとだよね?」

「そうだよ」

「これ、メガネの人がおねーちゃんに渡せって」

ほぼ、直感だった。
もう一人の犯人候補がメガネをかけているという特徴を瞬時に重ねたのかもしれない。

「伏せてください!」

幸いにも浴衣売り場は階段に近い。
そして、階段の踊り場には人が少ない。

私はそのぬいぐるみをひったくると思い切りそっちの方へ向かって投げた。

それは浴衣売り場と階段の踊り場のまんなからへんで、急に縮んだ。

とっさに、子供を抱きしめぬいぐるみを投げた方に背を向ける。

数秒して、後ろから微かな熱と爆音が響いた。
163 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/04(水) 21:58:40.70 ID:0J22ojjVo

〜〜〜

初春と御坂さんを観察していると、二人に一人の男が近寄って行った。
そして御坂さんはなにやらその男と話をすると顔はよく見えないがどんどん雰囲気がどんどん暗くなっていく。
どうやら、男の隣に立つ女の人が原因らしい。

――可愛いじゃん、御坂さん。

凛としたイメージの御坂さんの年相応の少女らしいところはとても可愛らしかった。

しばらくすると、今度は小さな女の子が初春に近寄る、その子は変なぬいぐるみを初春に渡そうとするが、それは初春にひったくられそしてぶん投げられた。

「伏せてください!」

初春の声が響く。

初春の投げたぬいぐるみは急に縮み、私はなんだかわからないが理解する前に体が動いた。

――初春を助けなきゃ!

必死にかき集めた黄金色のビー玉を割った。
そこから、黄金色のモヤみたいなものが溢れ出す。

――黒いのが絶望ならこれは希望のはずだ!だから、きっと大丈夫!

そのモヤは、触れなければ右手に連動して動く事は、昼に実験をして知っている。

つい、と右手を動かすとさっと、そのモヤは初春達とぬいぐるみの間に割り込んだ。

その瞬間、爆発が起きた。
164 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/04(水) 22:03:41.88 ID:0J22ojjVo

〜〜〜

爆発は失敗したのかそれほど大きくはなかった。
運良く怪我人も出なかった。

私は初春が無事だったことに安心して、その場にへたり込んでしまった。

――良かった……それに、あのモヤの使い方もわかった。

ため息をつくと、急に背筋に冷たい何かが走った。

――なに?……なにかを、見落としてる?

ゆっくりと爆発後の店内を思い出してみる。

子供を抱きしめる初春。
超電磁砲を放とうとする御坂さん。
その御坂さんの前に立つツンツン頭の男。

――なにも、おかしくない。

「本当に、君はおかしくないと思ってるのかい?」

違う、おかしい。
ツンツン頭の連れの女。
そいつがいないんだ。

――やばい、今はやばい……クッソ。

そいつがブギーポップだという確信が何故か私の中にはあった。
黒いビー玉を割り、ばれないようにそいつにぶつけてみるが変わった様子はない。

――効かない……?違う、足りないんだ……こいつはすごい精神力をしてるんだ……。

今のままでは勝てないと判断し、私は階段に向かって走り出した。

――大丈夫、黄金色のビー玉を追って行けば、きっと希望の道を通れる……。

逃げ切ることには自信があった。
だから、逃げた。
勝てない相手に準備不十分の時に立ち向かうのは勇気ではなく愚かだと、自分に言い聞かせた。

走り出した私に、御坂さんと初春が気づいたようだ。
初春が何か叫んだが、聞こえないふりをした。

階段に向かう途中ぐちゃぐちゃになった浴衣売り場が視界に入り、やっぱ買っておけば良かったと後悔した。
165 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/04(水) 22:05:04.66 ID:0J22ojjVo
一応ここまでだけど、あと1〜2レスあとで投下するかも

また読んでください
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県) [sage]:2012/07/04(水) 23:35:20.98 ID:EIi1mbmgo

ブギポにはやっぱり効かないのね
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/07/05(木) 00:22:31.93 ID:suw7Iq62o
168 : ◆qXEKQweJllf. [sage]:2012/07/05(木) 01:47:22.16 ID:G+yACJGno
ながくなっちゃったからあとで投下するかもって言ったのは次回投下分に回しますね

次回は明日のよるか明後日のよるに来ます!

ではまた読んでください!
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/07/05(木) 18:03:30.66 ID:suw7Iq62o
了解
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/05(木) 18:34:23.11 ID:RvecKDqIO
乙。黄金で歪曲王思い出した
171 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/06(金) 23:48:09.47 ID:VYSjSvjoo
なんつーか、ちゃんと登場人物の役割とかプロット的なのそれぞれ書いたにもかかわらず気づいたらなんか少しだけズレてきた
この話どこに向かうんだろうと心配だけど、始めます
172 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/06(金) 23:51:56.04 ID:VYSjSvjoo

〜〜〜

――なんでやろ……僕なんか悪いことしたかなぁ?
……ヤキモチ……なんてのは僕の自惚れやろうし、なんやろうなぁ。

涙子ちゃんが戻した浴衣を手にとった。
淡い、綺麗な色使いで涙子ちゃんに似合いそうだと思った。

「青髪くん、どう?」

ぼんやりそれを見つめながらなにが涙子ちゃんの気に障ったのか考えていると、カミやんを八月に開かれる花火大会に誘うことに成功したクラスメイトが浴衣を試着して戻ってきた。

「んー、もうちょっと淡い感じのほうが似合うんちゃう?
それもええけどなぁ」

「淡いのかぁ……あ、青髪くんが今持ってるの着てみていい?」

「これは、だめや」

「え?」

「あ……あー、ごめんなぁ……これは、あかんねん」

その後、彼女の浴衣を決め自分は涙子ちゃんが見ていた浴衣を買ってしまった。
下に降り、喫茶店でお礼にアイスをご馳走になっていると上の階で何かが破裂するような不吉な音な嫌な音がした。

「……なんや?」

「もしかして……連続爆破事件、かな?」

クラスメイトも不安そうな顔をしたが、そんなことより気になることが僕にはあった。

「……涙子ちゃん……。
すまん、今日はここでバイバイやまた明日な!
気ィつけて帰るんよ!ほな!」

カバンと浴衣の入った紙袋を抱え込むと、階段を使い上へと上がる。

「ぬあっ」

「きゃうっ」

階段を登り切ったところで、思い切り誰かとぶつかってしまった。
173 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/06(金) 23:53:10.54 ID:VYSjSvjoo

「……いたた……すんませ……って涙子ちゃん!」

それは、探していた張本人。
佐天涙子であった。
ラッキーなんかアンラッキーかんかはわからん。
けど、僕はこの時はっきりと気づいた。

僕ァ、この子の事が好きになってしまったんやなぁ、と。

涙子ちゃんは悔しそうな泣きそうなそんな顔をしている。
そんな顔をみたら思わず抱きしめたなった。

「青髪……さん……にげてください!」

「え?」

「あいつが……来ます!はやく!」

涙子ちゃんは軽くパニック状態になっていた。

「お、落ち着けや、な?
大丈夫、大丈夫、なにが来ても僕が守ったるから……な?」

抱きしめる、はとても出来やんかったけど頭をぽんぽんと撫でてやると、少し落ち着いたようだった。

「青髪さん……すみません……」

「ええよ、ほなとりあえず逃げよか?」

「え?」

「だって、なんかから逃げてたんやろ?
だったら逃げようや」

涙子ちゃんは目をまん丸にして、僕のいう事が信じられないというように数回瞬きした。

「ほら」

「で、でも……彼女さんは?」

「彼女ぉ?何言うてんねん、んなもんおらんわ!」

「で、でも!さっき……」

「ちゃんとクラスメイトって言うたやろ?ほら逃げるで」

小さくはい、と返事をすると、それきり黙ってしまった。
しょうがないから僕は涙子ちゃんを立ち上がらせて、そのまま手を引いてセブンスミストを出た。

――この子を、僕は守らなあかん。

そう思ったのは、僕のためか彼女のためか。
それはきっと誰にもわからん事やろう。
174 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/06(金) 23:53:41.15 ID:VYSjSvjoo

〜〜〜

「藤花ちゃん?」

爆発後、すぐ横にいたはずの藤花ちゃんが消えていた事に気づきあたりを見回す。
すると数メートル離れたところに立ち、階段のほうを睨んでいた。

「……」

藤花ちゃんとは違った冷たい雰囲気、ブギーポップだと、気がついた。

「ブギーポップかよ……おい、どうした?
まさか今の爆発は世界の敵とやらの仕業なのか?」

「……どちからというと世界の敵の敵……かな?」

「はぁ?お前みたいなやつって事?」

「それは違う。
見方の問題って意味さ。
世界の敵からみたら、この爆発魔は敵だった。
でもこの爆発魔は世界の敵の存在にすら気づいていない。
つまり、そういうことさ」

こいつの言う事がわからないのはいつもの事なので、俺は半分以上聞き流していた。

「わかった、つまりそういうことなんだな」

本当は真逆でこいつのいうことはいつだって意味があったのかもしれない。
175 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/06(金) 23:54:23.45 ID:VYSjSvjoo

〜〜〜

「おいおい、今度は爆発かよ」

忙しいやつらだな、と嫌味を心の中に吐き捨てると、俺は青髪ピアスの鼓動を追った。

――デート中もこいつはそんなに大きな変化はなく平坦なままだったな。
表面上はニコニコしてやがったが……さて、爆発事件となるとどうなんのかね?

佐天涙子と青髪ピアスが近づくのを感じた。
そして、ぶつかる。

――佐天涙子はひどく興奮してるな……青髪は、少しだけ乱れてる?
いや、戻ったか……。
お?佐天も段々落ち着いてきたな……。
青髪は……なんだ、こいつ……。

青髪に大きな変化があり、そちらに集中しようとするが余りにも不安になるような気味の悪い鼓動に耳をふさぎたくなった。

――禍々しいっつーかどうしたらこんな気味の悪いビートを刻めるんだよ……。
とりあえず、こいつは報告したほうがいいんだろうな。

上に報告し、本格的に青髪ピアスをどうにかしようとしたら土御門元春はどうするのだろうか。
それがなんとなく気になった。
176 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/06(金) 23:55:25.75 ID:VYSjSvjoo

〜〜〜

「とりあえず、こんだけ人おる公園にいたら大丈夫やろ……。
どや?落ち着いたか?
なにがあったか僕に教えてくれへん?」

青髪さんは小さな子をあやすようなそんな、優しい微笑みを浮かべていた。

――でも、言えない。
言ったら、青髪さんを、巻き込むかもしれない。
多分、ブギーポップは私を殺すことを邪魔するやつに容赦はしない……そんな気がする。

「……いえ、すみません。
爆発に驚いて……変なことを言いました」

「……そか、送る。
帰ろうや」

私が何かを隠している、それにきっと青髪さんは気づいている。
だけど聞き出そうとはせずに、優しく笑ってそう言ってくれた。

「……はい、お願いします」

怖かったのかもしれない。
もしかしたら寂しかったのかもしれない。
私はそっと青髪さんの手を握った。
青髪さんは、何も言わずに握り返してくれた。

「あ、そや!
もし良かったらなんやけど、このあとの七夕祭り、少しだけ覗いて見ぃへん?」

「え?……いや、やめときます」

パッと、繋いだ手を離した。

――黄金色のは全部使っちゃったし今、かなりぎりぎりの状態だもんね。
人が多いところは、行きたくないかな。

「そ……か。
……なぁ、涙子ちゃん――」

「すみません。
用事を思い出しました……これで」

青髪さんの言葉を遮ってありもしない用事を作り出したのはきっと、怖かったから。
よくわからないけれど、青髪さんの次の言葉が怖かったんだと思う。

本当に、よくわからないけれど……。
177 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/06(金) 23:56:18.46 ID:VYSjSvjoo

〜〜〜

「佐天さん……」

確かにみた。
私が佐天さんを見間違えるわけがない。
それに、佐天さんも私に気づいていたはずだ。

なのに、目も合わせず走り去ってしまった。
とっさに追いかけようと思ったが、私にぬいぐるみを渡した少女は当たり前のように泣いていた。
風紀委員の腕章をつけているし、何より泣いている子をほっておくなんて出来ない。

「御坂さ……あれ?御坂さんは?」

確かに、さっきまでそこにいたはずだ。
御坂さんが佐天さんを呼ぶ声も耳に届いた。

「……とりあえず、白井さんだ」

携帯電話を取り出し、白井さんに電話をかける。

白井さんはすぐに出た。

「初春です。
さっきはすみませんでした。
……えぇ、はい。今ちょうどセブンスミストを警邏中でした……怪我人はいません、店は被害がかなり大きいですが……怪我人は奇跡的に零です」

そう、かなり大規模な爆発であったにもかかわらず、一番近くにいた私も怪我ひとつ、それどころか服に汚れひとつもついていないのだ。

――きっと、佐天さんが守ってくれたんだ。

「警備員に連絡、お願いします。
あと、犯人はきっと……御坂さんが追ったと思いますのでおそらく捕まります」
178 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/06(金) 23:56:47.71 ID:VYSjSvjoo

御坂さんが、私や泣いている小さな子よりも優先させるとしたら、それはきっとこれ以上人が傷つかないように犯人を捕まえるためだとなんとなく思った。
学園都市の第三位、御坂美琴はそういう人だと思った。

「あと、犯人は介旅、でしたっけ?
そいつで間違いないです。
詳しい経緯は後ほどお話ししますので白井さんは御坂さんを見つけ介旅の確保お願いします」

白井さんがあれこれ言っていたが、無視して切った。
あとで謝ればいい。
そのくらいの信頼関係はあるはずだ。

「ほら、泣かないで。
大丈夫だからね?」

私にしがみついて泣く女の子の頭を撫でる。

「ごめ、なさ……わたしのせいで……おね、ちゃん……ばくだん」

「ッ……大丈夫だよ、あなたのせいじゃない。
あなたは優しいね、自分が怖い思いしたことよりも、自分のせいで誰かが傷ついたかもしれないことを恐ろしいと思ってるんだね」

衝撃だった。
そして、同時に犯人を許せないという感情が燃え上がった。
こんな小さい子に「犯罪の協力をしてしまった」と、思わせる犯人に怒りを覚えた。
179 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/06(金) 23:57:55.85 ID:VYSjSvjoo

〜〜〜

「は、はは……ひゃはははは!」

セブンスミストの裏の暗い路地で、介旅は笑っていた。

「すごい、すごいぞぉ……どんどん強くなる……ひ、ひひ」

「なにが、強くなるのかしら?」

そこに、ご機嫌な介旅とは百八十度逆の怒りの表情でパチパチと電気を走らせる少女が現れる。

「い、や……はは、ゲームの話さ」

言いながら、鞄の中に手をそっと入れアルミで出来たスプーンを握る。

「へぇ?
それって、爆弾つかうゲーム?」

「……よくわかったね……すごい、すごいぃ!」

一歩近づいた少女に、介旅はそのスプーンを投げつけた。
それは、空中でぎゅっと圧縮され、弾けた。

「……な、なんだと……」

そう、少女の放つ雷によって、綺麗さっぱり消え去ったのだ。
それは介旅の思い描いた結果とは異なったようで、介旅の額には汗が浮かぶ。

「……残念ながら、あんたの負けよ。
さっきの爆発も怪我人はいない」

「なん……だと?あの規模だぞ!
全員が無傷だなんて……あり得ないだろ!」

「私にもわからないわよ……でも、あんたのゲームにバグキャラが現れた。
それだけのことでしょう?」

「う、ぐぐ……」

介旅はジリ、と後ずさる。
そして、

「うぐあぁあぁあああ!」

叫ぶと、鞄をそのまま少女に向かって投げつけた。
180 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/06(金) 23:58:28.58 ID:VYSjSvjoo

「無駄よ」

少女はコインを指で弾き出すと、その鞄をまるごと消失させる。

「れ、超電磁砲……?
……なんで、レベル5が出てくんだよ……いつも、そうだ」

悔しそうに顔をゆがませ、地面に膝をついた。

「いつもいつもいつも、力のあるやつは、それで力のないやつを跪かせる……やっと、やっと力を手に入れたら……あいつらを見返す力を手に入れたら……今度はレベル5だと?
ふざけるなぁ!」

「ふざけてんのはあんただろうがッ!」

少女――御坂美琴――は能力を使わず、思い切り介旅の顔面を殴った。
レベル5と言っても、身体能力は女子中学生だ。
それも殴ったりなどの喧嘩には慣れていない普通の女子中学生だ。
普段から虐げられ、暴力を振るわれることに慣れている介旅には、それほどダメージなどないはずなのだ。
だが、介旅は驚いたように、御坂の顔を見つめ止まる。

「どうして、そんなすごい力を手に入れてあんたが恨んだやつらと同じことしか出来ないの?
どうして、あんたは自ら同じところへ堕ちちゃうのよ」

御坂は悲しそうな表情でまっすぐ介旅の目を見つめそう言った。

「……そこまでですの。
介旅初矢、連行します」

そこで、白井が現れ介旅は連れていかれた。

介旅にとって、御坂に殴られた事は今まで受けたどんな暴行より痛かったはずだ。
それと同時に、彼の心を救うようなそんな、意味もあったかもしれない。
181 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/06(金) 23:59:18.66 ID:VYSjSvjoo

〜〜〜

【7/8】

頭が痛い。
イライラする。
早く、集めなきゃ。

もそもそとお昼過ぎに起きた私は、顔を洗い歯を磨き、最低限の身支度を整えると外に出た。
携帯電話をつけてみると、初春から着信が何十件も入っている。
メールも、たくさんきていた。
留守電もあった気がする。
どれも開くのが怖いからまた電源を切った。

――集めなきゃ……希望を。

電源を切り、意味をなさない携帯電話だが、手放すのは何故かできなかった……。

夏は暑さは日に日にまして行き、外に一歩出ると、太陽が私の肌をジリジリと焼いた。
風は無く、蝉の泣く声と何処かで誰かが水をまくぱしゃっという音が聞こえた。

――絶望の中には、希望もある……。
だから、私は今まで生きてこれた。

フラフラと歩き始める。

「涙子ちゃん?」

寮をでて、道に出ると急に声をかけられた。

「なっ……なんで?」

振り返るとそこには青髪さんが立っていた。

「あ、偶然やで?
学校さぼってパンの手伝いしてるとこなんや……。
ここに住んでんのかぁ……」
182 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/06(金) 23:59:45.47 ID:VYSjSvjoo

「なんか、その言い方やらしいですね」

昨日と同じくぎりぎりの状態に変わりはないのに、何故か自然と笑みをこぼすほどには余裕が出来ていた。

「……堪忍してや」

青髪さんも、困ったように笑ってる。

「じゃあ、私用事があるんで……」

「あ、待ってや……涙子ちゃんに渡したいもんがあるんや」

「渡したいもの?」

「何かは秘密や!
今日配達終わったら……いや明日でもええ、会えへんかな?」

「……無理です」

「……じゃあいつでもええ」

「すみません、しばらくは目処がたたないので……すみません」

どうしてこんなに胸が締め付けられるのだろう。
知り合ったばかりのほとんど名前しか知らない人の誘いを断っているだけなのに。

「そ、か……まぁええわ。
ヒマんなったら僕の下宿先のパン屋さんに来てや」

残念そうに、青髪さんは笑った。
第一印象とは全く違い、希望に満ちた表情をしている。
それが、なんだか羨ましかった。
183 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/07(土) 00:04:21.66 ID:DT9odxzSo
ここまで

1レスに450〜600文字くらいを基本的に目安にしてるんだけど、見にくかったらどうして欲しいかとか言ってください
iPhoneで書いて投稿してるから、PCで見たときどんな感じになってるかわからんのよね

はい、ではまた次も読んでください
184 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/08(日) 23:28:33.88 ID:PIdwkRnNo

〜〜〜

「登録されてるレベルと実際のレベルがあまりにも違いすぎる?」

「はい、介旅初矢はレベル2ですが、実際は大能力者、それも超能力者に近いレベルの事が出来ていました」

「どういう……ことかしら……他にも登録されてるレベルと実際のレベルが食い違ってる人はいたわ。
でも、大抵は身体検査を受けたのが一年前、とかそういうスキルアウトが多かったから一年でレベルも上がったのか……と思っていたけど……異常ね」

放課後、いつものように一七七支部へ行き、固法先輩と白井さんに報告をする。
佐天さんは今日も学校にこなかった。

「では、最近捕まった能力犯罪の犯人たちは短期間でレベルが上がったと?
どのようにして?」

「そんなの、私にわかるわけないじゃない。
とにかく、今はこうしてここで考えてもわからない。
警邏の頻度、増やすわよ。
何か少しでも引っかかることあったら報告よろしく」

固法先輩は、私たちの士気が落ちないように明るくそういった。
たかが4〜5個しか年齢は違わないのにその精神力、考え方、そういう内面は全く私たちとは違うんだな、と改めて頼りになる時々おっかない先輩に私は「こういう人になりたい」とちょっぴり思った。

「はい!
では早速、初春いきますわよ」

白井さんも気合を再注入されたように、目に力が戻った。

「はい。
あ、固法先輩……もし、佐天さんがここに来たら引き止めて置いてください」

「佐天さん……って、何度かここに来た事ある髪の長い元気な子?」

不思議そうに、少し首をかしげた。

「はい、よろしくお願いしますね」

固法先輩はわかった、とだけ返事をすると行ってらっしゃいと手を振った。
185 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/08(日) 23:29:29.41 ID:PIdwkRnNo

〜〜〜

「あつい……そうか、こんな些細な事でも人間は絶望、できるのか……」

自分だけじゃない。
世界に生きる全ての人はすぐ隣に絶望があるんだ。

「じゃあ……なんでみんなは平気な顔で生きていられるの?」

楽しそうに笑いながら歩く街中の人がテレビ越しの登場人物のように見えた。

「……この人たちと、私は違うんだ。
……当然か、だから私はブギーポップに殺されそうになってるんだしね。
でも、じゃあ、なんで?」

だんだんわからなくなって来た。
ブギーポップはその人が最も美しい時に殺す死神、でも本当は正義の味方、だったら私は世界の敵って事だ。

「なんでだろ……どうして、こんな事になっちゃったんだろ」

このままここに座っていたら、私は多分自分の能力で自爆するだろう。

だが、立ち上がる力が湧かない。

「もう、駄目だ……」

さようなら、と私に向かってそういった初春の顔が浮かんだ。

「さようなら、か……」

私は目をつむり、そのまま意識を街の喧騒に溶かすように思考を止めた。
186 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/08(日) 23:30:29.93 ID:PIdwkRnNo

〜〜〜

「なぁ」

「なんだい、上条くん?」

「お前さんいつまで藤花ちゃんの体奪ってるつもりなんだ?」

夕べ七夕祭りを藤花ちゃんと回っていると急にブギーポップが浮き上がってきた。
浴衣姿で世界の敵がどうとかいうこいつになんだか不謹慎だが面白いと思ってしまった。

「世界の敵がいる」

「知ってる」

「上条君、僕はどちらを先に殺せばいい?」

「は?」

どちらを、と確かにそういった。

つまり、殺すべき対象が二人いるという事だ。

『それか、僕が最初に感じた世界の危機とは違うものが新たに出てきたか』

何日か前に、こいつが言った事を思い出した。

「本当に、異常な街だねここは……」

久しぶりに、ブギーポップはニュルンベルクのマイスタージンガーを吹いた。

それは、これから殺す二人の世界の危機に送るレクイエムのように聞こえた。

――俺は……やっぱり助けられないのか?
世界の敵と、世界を両方助ける道はないのか?

ブギーポップを止めた時に俺にのしかかってくる責任、それはまさに世界全ての人の命と言ってもいいんだろう。
正直、そんなもの背負う勇気なんてない。

――でも、俺は……どんな悪人だろうと、世界の敵だろうと……死ぬことは無いんじゃないかと思うんだ。

「上条君、君が止められるなら、僕は出てこないよ」

世界の敵の敵。
それを止めたいと思う俺も、きっと世界の敵になり得る存在なんだと、ふと思った。
187 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/08(日) 23:31:55.30 ID:PIdwkRnNo

〜〜〜

【7/10】

「介旅初矢が意識不明?」

何も手がかりを掴めぬまま二日すぎた。

「えぇ、これ、介旅初矢が入院してる病院だからお医者様に話聞きにいってくれる?」

固法先輩は、小さなメモ用紙を白井さんに渡す。

「それは、構いませんが……介旅初矢は自身のレベルのことは言わなかったんですの?」

私たち風紀委員には、介旅初矢との接触は禁じられていた。
ここからは警備員の仕事だ、と話のわからない大人に門前払いを食らったのだ。

「初春、行きますわよ」

「はい……あ、御坂さんも呼んでください」

「はぁ?なんでですの?」

「御坂さん、介旅初矢を思い切りぶん殴ったんでしょう?
自分に原因がないかとか思い込んじゃうと思いません?」

「……確かに、お姉さまは気にしますわね……ナイスですのよ、初春」

「いえ、御坂さんにはお世話になってますし」

そんなこんなで、私と白井さん、そして御坂さんは介旅初矢が入院してる病院へとやってきた。

御坂さんは、心配そうな顔でお医者さんが来るのをそわそわと待っている。
白井さんは落ち着いた様子で、まっすぐ前を見て座っていた。
私は、その間もノートパソコンで、情報を集めていた。

「またしてしまってすまないね」

私達が部屋に通されてから十数分経つと、先生がやってきた。
188 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/08(日) 23:32:23.71 ID:PIdwkRnNo

「先生、私その、介旅初矢を思い切りぶん殴っちゃったんですが……それが原因ですか?」

そして、先生が入ってくるなり御坂さんは立ち上がり恐る恐るそう聞いた。

「いや、それは、まったく関係ないね。
原因は不明だ。
体のどこをとっても異常はないんだ」

「そう、ですの……」

御坂さんは少し安心したようだが、白井さんはガクッと肩を落とした。

「一応、能力がいきなり上がったのが原因かと思い、AIM拡散力場の専門家を外部から呼んだんだが……そちらからも話を聞くかい?」

「お願いします」

答えない白井さんの代わりに、私が答えた。

「じゃあ、少し待っててくれ呼んでくる」

そういうと、先生はまた部屋を出て行った。

「はぁ……一体何が原因なんですの?」

「幻想……御手……」

「レベルアッパー?」

「はい、いや今たまたま見つけたんですけど、なんでもそういうものが出回ってるそうですよ?
よく知りませんが」

言いながら、先ほど見ていたサイトを白井さんと御坂さんに見せた。

「……って、都市伝説ですの?
こんなの嘘ですわよ」

「でも、実際今手がかりらしいものはこれしかありません」

「いつから私達はトレジャーハンターになったんですの……?」

白井さんのイメージでは、都市伝説は宝のありかを示す暗号のようだ。
それがなんかおかしくって、吹き出しそうになった。

「失礼するよ」

しばらくすると、目の下に大きな隈のある女の人が部屋に入ってきた。

「木山春生だ」

感情のない声で、その女の人はそう、自己紹介した。
189 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/08(日) 23:34:12.13 ID:PIdwkRnNo

〜〜〜

「……今までどこいってたんですか?」

久しぶりに、フォルテッシモに呼び出され、俺はクレープ屋のある公園へときていた。

「しらみつぶしにスキルアウトって連中に話聞いてただけだよ。
それより、お前幻想御手ってしってるか?」

「えぇ、なんかレベルが上がるやつですよね?」

「あぁ、それを手に入れた」

フォルテッシモは上機嫌に、音楽プレイヤーを俺に渡した。

「これが……?」

「あぁ、ちと調べたらこれには副作用があってよ、使うと意識をなくすそうだ」

そう言えば、朝ニュースで意識不明の学生が増えているとか言っていたのを思い出す。

「で?それはなんなんですか?
音楽って事ですか?」

頷いた。

「んで、どうやら俺に攻撃してきた野郎もこれを使ってたみたいでな、そいつが意識を失って、攻撃も終わった」

「……良かったじゃないですか」

「あぁ、まぁそうなんだが……」

困ったふりをしながらフォルテッシモはニヤリと笑う。

「一方通行もまだかかりそうだし、やる事がなくてな」

「……そう、いわれましてもね」

「まぁ、最後まで聞けよ。
第二位は見つかんなかったから、第三位と会ってこようと思ってんだが……第三位は佐天涙子、初春飾利のお友達なんだろ?」

「……つまり、俺の調査の邪魔をするぜ!って宣言ですか?」

「あぁ」

こんなことをいちいち報告して来るあたり、本当にいい気分なんだろうと思った。
そして、こいつは機嫌が良くても悪くても厄介な存在なんだと、再認識した。

「お……ちょうどいい」

俺がため息をついていると、フォルテッシモは通りに何かを発見し、目をギラつかせた。
もしも、暑いから、とかこれからめんどくさそうだな、とか余計な事を考えていなかったら、さっさと立ち去っただろうと後悔するが……もう、遅かった。
190 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/08(日) 23:35:15.37 ID:PIdwkRnNo

〜〜〜

木山先生から話を聞いて、私達は病院を出た。
一応幻想御手の事を話、もしそんなものが本当に存在するならばどんな方法が考えられるか、色々と調べてくれるらしい。

最初はそんなものはあり得ない、と一笑されるものかと思ったが、木山先生は面白い発想だと言ってくれた。
その事が、白井さんと御坂さんをやる気にさせたようだ。

二人は最初とは違い、幻想御手というものがある、という前提で話を進めていた。

「じゃあ、とりあえず幻想御手を
探してみようよ!
ネットで取引とかしてるなら……囮捜査的な?」

「やるとしてもお姉さまは、駄目ですのよ?」

「なんでよ!」

常盤台の二人はこんな時にもかかわらず楽しそうだ。
そう、どんな時でも楽しくなくては駄目なのだ。
下を向いてしまったら……希望も絶望に変わってしまうのだから……。
沢山の希望を持っていても、気づかないのだ。
191 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/08(日) 23:35:43.01 ID:PIdwkRnNo

「あ、クレープ食べかない?」

「……カエル欲しいんだけど、って素直に言ったらどうですの?」

「違っ…………あれ?」

「どうしました?」

御坂さんは、ベンチの方へ目を向け、声をあげた。

「あいつ……」

「あ、この間の」

カエルをくるくる回して御坂さんに睨まれた色黒の少年が紫色のピッタリした服を着た同年代の少年とベンチに座っていた。

「あれ?隣の紫の人こっちみてません?」

「というか……こっちこようとしてますの」

「え?もしかして前にらんだから?」

紫色の男は刃物のように鋭い目に、不敵な笑みを貼り付け、こちらにずんずんと歩み寄って来る。

「よぉ、オマエ……御坂美琴、だろ?」

「え、えぇ……そうだけど?」

色黒の少年は頭を抱えていた。

「俺と、勝負しようぜ?」

「……あんた」

御坂さんは、ピリっとした雰囲気をまとい、戦闘体制に入ったように見えた。
この人は強い。
戦いなんて、まったく出来ない私にもそれはわかったんだから、御坂さんならもっとしっかり理解してたんだろう。
192 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/08(日) 23:36:28.92 ID:PIdwkRnNo

〜〜〜

「まじかよ……しかも……佐天以外の三人は奴らだったのか……」

――クッソ……ここは止めさせてもらうぞ。

いきなり勝負しろと言われ、困るものかと思ったが意外にも御坂美琴はすぐに戦闘体制に入った。
感じる鼓動は恐怖と焦燥。

――こいつ、フォルテッシモが強いって感じ取ってんのか……。
勝てないって解ってるのに後輩を守るために……?

見上げた精神力だが、この状況ではまずい。

――だって、そんなの……。

チラリとフォルテッシモをみると、心の底から喜ぶように、笑っていた。

――チッ……。

「リィさん、いきなり失礼ですよ」

――下手したら殺されるかもしれないけど……こんなところで戦われたら俺まで巻き込まれる。

「おい……」

「一方通行と、戦えなくなりますよ」

フォルテッシモに睨まれぼそりとそうつぶやくと、一応納得したのか、この場でいきなり戦い始めることはやめたようだ。

「チッ……まぁいいや。
そのうち勝負、してもらうぜ?」

言いながら、フォルテッシモはさっさと何処かへ行ってしまった。

「ったく……。
あぁ、すまん……」

――御坂美琴、白井黒子はいいとしても……。

「俺は世良稔だ。
あっちの高校に先月末に転校してきたばかりだ」

――初春飾利、こいつとはコンタクトをとってしまった方がいいだろう。

「あっちの高校って……もしかして、上条当麻ってしってる?」

「え?あ、おう……クラスメイトだ」

まさか、上条の名が中学生から出てくるとは思わなかった。

「白井黒子ですの」

「初春飾利、です」

後輩二人は俺にまだ不信感を持ちながら、そう自己紹介した。
193 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/08(日) 23:37:03.26 ID:PIdwkRnNo
ここまで

また次も読んでください
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/07/08(日) 23:57:11.98 ID:bxw3nMeoo
ブギーポップは後半一気にわかるのが好きだ
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/09(月) 00:37:21.75 ID:YlQ9YV3J0
なんという俺得クロス
見事にブギポの空気と禁書キャラがマッチしている

佐天さん救済だと、カウントダウンみたいな能力の消失、十助みたいな世界の的になりきれなかったタイプ、
あとは初春や上条の頑張りでブギポ作中ではなかった形の解決となるか
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/09(月) 06:15:07.85 ID:0RtTFHIIO
まあまあ先読みはほどほどに

しかし、ほんと雰囲気出てて良いね
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/09(月) 17:17:01.43 ID:YlQ9YV3J0
そうだな
作者さんの思うようにやってほしい
切ないエンドになってもそれはそれでブギポらしくていいしね
198 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/11(水) 01:44:20.60 ID:xMsy2rwso
曜日の概念を忘れていたw
こいつらは週7で学校通ってるよね
やっちまったなぁ

まぁ、始めます
199 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/11(水) 01:45:41.81 ID:xMsy2rwso

〜〜〜

「お、全部揃った」

自己紹介のあと、俺はまたクレープを食っていた。
それも、女子中学生に囲まれて。

――店員の目が痛かったな……。

心の中でクソッと吐き捨てる。

「え?」

「は?」

面白がるフォルテッシモから渡され続け、俺の手には欲しくもないカエルストラップが全種類集まっていた。
その事を小さくこぼすと、それに御坂が反応する。

「……欲しいのか?」

こんな、趣味の悪いものを欲しがるやつがいた事に少しだけ驚きつつ、大量のストラップを御坂に差し出してみる。

「い、いらないわよ!そんなもの!」

口ではそう言っているが、視線が外れない。
鼓動にも迷いと微かな後悔が感じ取れた。

「じゃあ、私が貰ってもいいですか?」

初春飾利が、いたずらっぽく笑いながら手を伸ばしてきた。

御坂は後悔のようなさみしさのような色を表情に貼り付け「うん」といった。

「……いいのか?本当に?」

「いいわよ……別に……」

まだまだ餓鬼だな、と思うのと同時に、フォルテッシモの前に立ちふさがった先ほどの御坂とこの御坂が同一人物というのが信じられなかった。
200 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/11(水) 01:46:17.88 ID:xMsy2rwso

「……御坂さんも、佐天さんと同じですね。
私は御坂さんの好きなものや、嫌いなもの……そういう、御坂さんをもっと知りたいって思ってるのに……それを恥ずかしがって中々見せてくれない。
佐天さんも、本音で話してる事なんかほとんどなかったと思います。
たまに本音っぽいこと零すと、大慌てで話をそらしたり変えたりするんですよ」

「それ、は……そうね……。
もうバレてるわけだし……世良さんやっぱ私にそれ、くれない?」

「あ、あぁ……ほらよ」

――こいつが、本当に自殺未遂したやつなのか?

初春飾利の言葉は、なんとも前向きなものだった。

もともとこういうやつだったとしても、何かしら外力を受けて自殺未遂事件を起こした。
そうしたら、そのきっかけは心の中で暴れ根付くものなんじゃないか、と思っていた。
なので、この初春飾利の明るさというか、前向きさはなんとも気持ちの悪いものに俺には見えた。

「……さて、そろそろ行きませんと」

白井がクレープを食べ終わり、紙をくしゃと丸めそう言った。

――まてまてまて、まだ肝心の初春飾利からなんも話を聞けちゃいねぇんだ。

「あ……あーその、お前らは……風紀委員だろ?
最近なんか事件でもあるのか?」

自分でもマヌケな質問だと思う。
201 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/11(水) 01:47:01.84 ID:xMsy2rwso

「なによ、それ」

御坂が、けらけらと笑った。

――クッソ……なんか俺すげぇマヌケだな……。

「笑すぎだろ……折角情報提供してやろうと思ってんのによ……」

「情報提供?」

初春の目の色が変わった。

――やっぱ、これも繋がってんのか?

「あぁ、最近……と言ってもこの街来てまだ一週間しか経ってないからもともとこういう街なのかもしれないがやけにヤンキーみたいのに絡まれてな。
まぁ、それは問題じゃないんだが、そいつらから幻想御手ってのを……貰ったんだ」

――もっと、うまい言い方あるよなぁ……。

恐らく焦っていたのだろう。
この訳のわからぬ状況と、なかなかつかめないMPLSの正体に。

「……まぁ、この際細かい事はいいですの。
それで、その幻想御手を私たちに渡す、と?
何故ですの?」

「何故って言われてもな……俺も調子乗ったバカどもに絡まれるのはうんざりだし、取り締まってくれよって事なんだが」

白井黒子は怪しむように俺をじっと見つめてくる。

「使ってみようとは思わないんですか?」

しばらく沈黙が支配したが、それを初春が破った。
202 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/11(水) 01:48:08.73 ID:xMsy2rwso

「思わないね。
別に超能力なんかに興味はないし」

「じゃあ、何故この街に来たんですの?」

――だよな、超能力に興味無いくせにこんな街こないよな普通。

「言い方が悪かったな……そんなわけわからんもんに頼って得た力に興味は無いんだよ」

統和機構により、造られた存在である俺がそれをいう事は、自身の存在自体を否定しているように思えたが、まぁ……いい。
白井黒子の疑惑は、少しは晴れたようだ。
そう、今俺に必要なのはこいつらから敵対視されない事だ。
初春飾利には特に……。
何か、ヒントを……自殺未遂事件を解決しちまえば、こんな街とはおさらばできる。
まさかフォルテッシモも一方通行との戦いが終わるまで俺に残れとは言わないだろう。

俺は、この時任務がどうこうなんかよりも、早く外の世界に帰りたいと思っていた。

――その為には、折角直接交渉出来るんだ、初春飾利から情報を聞き出さなきゃな……。

「まだなにもわかってないのよ」

話しても大丈夫かまだ迷っているらしい白井に代わり、御坂が話し始めた。
上条当麻のクラスメイトという事で、こいつは俺に対してマイナスなイメージは持っていないようだった。
心の中で気味の悪い右手を持つツンツン頭に感謝する。
203 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/11(水) 01:49:09.88 ID:xMsy2rwso

「わかってないって、言われても……何が?って話になるだけだぜ?」

あくまで偶然手に入れたよくわからない物を風紀委員に渡す、というスタンスを崩さない。

「そうね、多分あんたが最近よく絡まれたのは、スキルアウトが能力を得てそれを使いたかったから……そして……連続爆破事件はしってる?」

「あぁ、百貨店で起きた時は偶然そこにいたからな」

「あぁ、あんたも居たの……。
私たちも居たのよ……って、まぁそれは置いといてさ、あの事件の犯人――」

「お姉さま、無関係の一般人に――」

「その犯人のレベルが不自然に上がってるんですよ」

御坂を止めようと白井が口を挟み、それにまた初春飾利が割り込んだ。

「え?あ、うん」

漫才のような三人のやりとりに、俺もつい、変な調子で答えてしまった。

「……あ、えっと……だな」

コホン、と咳払いし、調子を戻す。

――こいつらといるとどうも調子が狂うな。

「つまり、その犯人は幻想御手を使ったんじゃねぇのか?
元は普通の学生なんだろ?
捕まったら吐きそうなもんだけど、わかってないって事は吐いてねぇって事だろ?
なんでだ?」
204 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/11(水) 01:49:53.59 ID:xMsy2rwso

――こいつらは幻想御手の存在も最近知って、その副作用もまだこいつらは知らねぇんだよな?
とりあえずこいつはこいつらにやろう。
そんで少しでも初春飾利から何か聞き出さなきゃ俺はただのアホだ。

「それが、出来ないのよ」

「出来ない?何が?」

「……取り調べが、ですの」

沈黙を守っていた白井が、諦めたように口を開いた。

「介旅初矢……あ、爆発事件の犯人ですの。
介旅は意識不明、原因も不明。
それで、不自然なレベルの上昇について私たちは調べ始め、幻想御手に辿りついた所ですの」

――なるほどね、じゃあ本音は幻想御手が何か知りたくてしょうがない訳か。

「意識不明、ねぇ……」

「はい、恐らく今意識不明の学生は全員幻想御手の使用者だと思います。
だから、きっと幻想御手には何か副作用があるんですよ」

初春飾利はそうであると確信を持ったように言った。
やはり、この自信満々な態度が気に食わないというか、どこか気持ち悪く異様な物に俺には見えた。

「そう考えるのが普通だな、ほらよ、音楽ファイルらしいぜ」

言いながら、フォルテッシモから渡された音楽プレイヤーを初春に手渡した。
205 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/11(水) 01:50:53.78 ID:xMsy2rwso

――この事件の捜査はこいつら使うとして……青髪ピアスと上条当麻がどう動くかもみておく必要があるな。
あいつらが関係者ならなにかしら行動に出るだろう……。

「ほんじゃ、進展あったら教えろよ」

立ち上がると、スタスタと歩き始める。

――初春飾利の警戒心は割と取れた。
次あった時に自殺未遂事件に触れてみるかな……。

この街に来て、初めて自分の予定通りの事が起きているような気がした。
206 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/11(水) 01:51:35.92 ID:xMsy2rwso

〜〜〜

【7/12】

夏休み前の期末テストが始まった。
それにも関わらず、佐天さんは学校にこない。
それどころか家にいる形跡すら無いのだ。

一体どこに消えてしまったのだろう……。

私は、佐天さんに伝えなくちゃいけないことがあるのに、電話にも出てくれない。

――……まるで、恋人と連絡が取れなくなった女みたい……。

そんなくだらない事を考える余裕がある事に自分で呆れる。

「はぁ……数学なんて、解いてる場合じゃないのになぁ」

次のテストに備え、教科書をパラパラと眺める。

――ブギーポップの話をしてからだ。
佐天さんが変になったのは……。

ブギーポップ、その存在感は何故か私にも重くのしかかって来た。

――死神、か……。
私たちの仲も殺されちゃったのかな?
207 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/11(水) 01:52:08.20 ID:xMsy2rwso

……違う。

本当は存在すらしていなかったのだ。
私は佐天さんが大好きで、一番の親友だったけど、佐天さんにとって私は……ただのクラスメイト、いやもしかしたらそれ以下だったのかもしれない。

――……でも、幻想御手の件を追ってれば、佐天さんに近づける気がする。

幻想御手が音楽ファイルという、情報を得て捜査は一気に進むかと思ったが、そううまくはいかず、未だに何故使用者と思われる人たちが意識を失っているのかわかっていない。

そして、その仕組みもわからぬままだ。

そんなぼんやりした頭のままテストは始まった。
先生は空席の私の後ろの席をみてため息をついた。

普段ならばさっさと解けてしまう数式が、思うように解けなく少しだけイラついた。

終始その様子で、結局最後まで解き切る事ができずにテスト終了の鐘がなった。

「……まぁ、いっか。
今はテストよりも、こっちのが大事ですし……」

私も、空席の佐天さんの席を見ながら一人つぶやく。
208 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/11(水) 01:52:53.82 ID:xMsy2rwso

〜〜〜

「あー、テストとかだるいわ」

「お姉さま、みっともないですわよ」

「だってさ……いや、いいや。
それにしても風鈴ってのはいいわよね」

ベンチに座りながら、カキ氷屋につる下がっている風鈴を見て御坂は言った。

「そうですわね、なんだか少し涼しくなる気がしますの」

「そうそう、あと青い色とかも涼しく感じるわよね」

「そういうの、なんていうんでしたっけ?」

「えっと……共感覚性?」

「あぁ、そうですの、それですの」

二人はベンチから立ち上がる気力が無いのか、珍しくだらりとしながら蝉の声をバックにぼんやりとしていた。

「……はぁ、捜査も行き詰まってるし、暑いし、佐天さんはどっかいっちゃうし……どうすんのよ、これ」

「どうするの、と言われましても困りますの」

「あー、幻想御手の仕組みって、なんだろ……音楽聞いただけでレベル上がるなんて、意味わからないわ」

御坂は背もたれにだらりと寄りかかり空を見上げる。
209 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/11(水) 01:53:31.72 ID:xMsy2rwso

「……共感覚性?」

「は?」

「そうだ!それだ!」

ガバッと勢い良く起き上がり、白井に詰め寄る。

「共感覚性よ、共感覚性!」

「いや、意味がわかりませんの」

「だから、風鈴の音を聞くと涼しいって感じるでしょ?
聴覚以外にも影響を及ぼしているからなのよ、これ」

そこで、白井も御坂がなにを言おうとしているか気づいたようだ。

「なるほど!
つまり、音楽を聞いて、それで脳を活性化……それで演算能力をあげている、ということですのね!」

御坂は黙って頷いた。

「すぐに支部へむかいますの」

白井もつい先ほどまでの気の抜けようが嘘のようにパリッとした表情で立ち上がった。

そして、二人は顔を合わせ頷き合うと、走り出した。
210 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/11(水) 01:54:01.80 ID:xMsy2rwso

〜〜〜

「涙子ちゃん、どないしたんやろ」

その日も柵川中学へパンの配達へ行ったが、涙子ちゃんとは会えなかった。

何故だかわからないが、涙子ちゃんが学校へ来ていれば絶対に会えると思っていたのだ。
だから、僕は涙子ちゃんが学校に来ていないと決めつけていた。
まぁ、それは正しかったんやけどな。

憂鬱な気分でパン屋へ戻り、すぐに今度は自分の学校へ向かう。
期末試験の一日目だが、勉強なんてなにもしていない。

いっその事サボろうかとすら思った。

「……おっす、カミやん」

カバンを机の上におき、友人にそう声をかけるが、カミやんは何か考え込んでいるようで気づかなかったらしい。
もしかしたらわざと無視されてるのかもしれへんけどな。
まぁ、どっちにしろ邪魔をするのも悪いと思い、僕は頬杖をつき、窓の外を眺めた。

「空は青いなぁ」

何故だか知らないが、少しだけ憂鬱な気分が晴れた。
211 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/11(水) 01:54:46.35 ID:xMsy2rwso
ここまで

また次も読んでください
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/07/12(木) 00:55:06.19 ID:gkqeSHHLo
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/07/12(木) 23:17:47.84 ID:jZpV3h8K0
ブギーポップとかマジで俺得
一昔前のSS、AA界隈にはかどちんやブラックロッドの古橋の影響受けた作者がよくいたもんだが
いまやパンダ並の絶滅危惧種なんだよなあ…
214 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/13(金) 12:03:21.00 ID:fcvTECIIO
かどちんってなんだ?と一瞬思ったけど上遠野さんのことだよね?
上遠野浩平が、というかブギーポップが大好きだから雰囲気出てるとか褒められた時は悶絶するほど嬉しかった
お昼食べながら投下します

215 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/13(金) 12:04:17.16 ID:fcvTECIIO

〜〜〜

世界の敵と、ブギーポップ……。
両方とも満足するような、笑えるような結末って無いのかな。

だってさ……もし、もしも土御門や青ピが世界の敵だったら?
俺は、そいつらが殺されるのを黙って見てるなんて出来っこない。

たとえ他人でも、そいつにも親がいて、友達がいて……って考えたらやっぱり人が殺されるのを黙って見てるなんて無理だ。

世界の敵だって同じ人間なんだ、ただ少し、理由があってそうせざるを得ないだけなんだよ……。
世界の敵ってのはある意味かわいそうなやつなんだと思った。

ブギーポップは、俺のことを無責任だというかもしれない。
俺が、世界の敵として殺されてしまうかもしれない。

でも……助けられる命なら、俺は助けたいんだ……。
そうしなくっちゃ、ダメなんだ俺は……。

鐘が鳴り、幼稚園児みたいな担任が教室に入ってきた。
ぼーっとしている俺に「上条ちゃーん?大丈夫ですかー?」なんて、呑気に声をかけてくる。

きっと、ブギーポップには俺がこんな風に見えてるんだろうな、と思った。

呑気で世界の危機という物の、本当の怖さを知らない、そんなちっぽけなやつに見えているんだろうな。
それでも俺は、自分が間違ってると思うことを黙って見ているなんて出来やしないんだ。
216 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/13(金) 12:05:17.69 ID:fcvTECIIO

〜〜〜

テストは散々だった。
英語を読んでいても、古典を読んでいても、数式を見ていても、涙子ちゃんの顔が浮かんでしょうがない。

初めて、守りたいと思った女の子なんや。
きっと僕は初めて、本気で恋をしたんや。

一方通行な想いでも構わん、片想いでも構わん。
ただ、あの子にはいつも笑っていて欲しいんや。
そんで、笑顔で自分のしたいことをやって欲しいんや。

悲しそうに、浴衣を棚に戻す姿を思い出した。
着ようと思えば着れるのに、悲しそうに、それを見つめて諦めてしまっている彼女に、諦める必要なんて無いだ、と言ってやりたかった。

――涙子ちゃん、何してるんやろな……。

軽いカバンを脇に抱え、上履きからスニーカーへと履き替える。

――もし、次会えたら花火大会にでも誘ってみよう。

ただそんな事を考えながら僕は夏の日差しがキツイ外へと歩き出す。

幻想御手だか、なんだかよくわからんもんが、この街を蝕んでいるなんて知りもしなかった。
そして、それを解決したのに僕が探し求めている女の子が関わっている事も……。

僕は全て遅すぎたんやな。
217 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/13(金) 12:06:26.04 ID:fcvTECIIO

〜〜〜

「き、共、感覚性……ですの!」

白井さんは支部へ駆け込んでくるなり息を切らしながらそう叫んだ。
そして、ほぼ同時に御坂さんも駆け込んで来た。

「はい?」

「だから、共感覚性ですの!
幻想御手、あれは共感覚性を利用したものですの!
すぐに木山先生に連絡をとってください。
それで、可能かどうか専門家の先生の意見を!」

「お、落ち着いてください!
何がなんだかわかりませんよ、ちゃんと説明してください」

私はコップに水を注ぎ、それを白井さんと御坂さんに差し出す。
白井さんはそれを一気に飲み干すと、呼吸を整え話し始めた。

「幻想御手は音楽を利用して……つまり耳からの情報を利用し、脳を活性化、それにより演算能力をあげているものかもしれませんの」

「なるほど、仕組みはよくわかりませんが、なんとなくわかりました。
常にトップスピードで脳を回転させているから、身体が命を守ろうと昏睡状態に陥るわけですね」

「えぇ、きっと……それが可能か、木山先生に聞きたいの!
お願い初春さん、早く木山先生に連絡とって!」

私は頷くと、前回あった時に渡された名刺を取り出す。
そして、その名刺に書かれている番号に電話をかけた。
218 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/13(金) 12:07:04.39 ID:fcvTECIIO

「あ、木山先生ですか?
私、こないだお話を伺いに行った風紀委員一七七支部の初春飾利です。
覚えてますか?」

『……あぁ、覚えているよ。
その後の報告なら残念だがまだ何もわかっていない、その幻想御手とやらも手元にないから調べようが無いんだ。
すまないね』

「大丈夫です、私たち幻想御手を手に入れたんです。
それで、それが音楽ファイルだという事を知りました。
そこで、木山先生にお聞きしたいんですが、共感覚性を利用し、音楽で脳を活性化させる事は可能ですか?」

『……なるほど、まだわからないがすぐに理論を組み立ててみる。
恐らく樹形図の設計者の使用許可も降りるとお申し、すぐにまた折り返し掛け直すよ』

木山先生は少し考えたあとに、少し嬉しそうな声色になった。

「ツ、樹形図の設計者を使うんですか?
あの、私、ご一緒してもいいですか?」

『……いいだろう、では私の研究室まで来てくれるか?
待っている』

そういうと、こちらの返事も聞かずに木山先生は電話を切った。

「……と、いう事ですので、私行って来ますね」

携帯はスピーカーモードにしていた為、二人にも今の会話は聞こえていた。
頷く二人の目は期待に溢れたものだった。
219 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/13(金) 12:07:56.64 ID:fcvTECIIO

〜〜〜

「やぁ、待っていたよ……」

研究所へ行き、名前を告げると木山先生の研究室へと通された。
扉をノックし開けると、笑いたいのを我慢して平常心を保っているような顔つきの木山先生がコーヒーを片手に反対の手に茶色い封筒を持って立っている。

「こんにちは、早速行きましょう!」

私は、木山先生のその不審な雰囲気を私と同じように樹形図の設計者を使えるのが嬉しいのだろうと気に留めなかった。
そして、それは正しかったが、間違っていた。

「うん、行こうか……でもあと少し待っててくれ。
これを、出してくる」

言いながら、コーヒーを机の上におき封筒を軽くあげる。

「はい、わかりました!」

私が頷くと、木山先生は少しだけ笑い、部屋を出た。
一人部屋に残された私は手持ち無沙汰に、悪いかな? と思いながらも本棚に詰まっている本を眺めたり、机の上に出しっぱなしになっている書類をひとつにまとめたりしていた。

「……え?」

そして、そこで驚くべき書類を見つけてしまった。

「こ、れ……幻想御手の……?
な、んで……?」

「人の物を勝手に見てはいけません、って習わなかったかい?」

「……ッ!」

音もなく、いつのまにか部屋に戻ってきた木山先生に、肩を掴まれた。

「あ、あなたが……?」

「……隠しても無駄なようだね……そうだよ、私が幻想御手を作った。
さて、知られてしまったからには君には予定より少し長く付き合ってもらおう」

そういうと、がしゃんと手に枷をつけられた。

――い、一体どこから……?

その手錠は、急に現れたようにしか見えなかった。
そう、まるで白井さんの空間移動を使ったのように……。
220 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/13(金) 12:08:53.43 ID:fcvTECIIO

〜〜〜

「新しい事がわかったわ!」

扉を勢い良く開け、固法が駆け込んでくる。

「私達も、幻想御手の仕組みを解明出来そうですわ」

「……まず、そっちから報告お願い」

固法は、乱れた息を整えながら言った。
白井は頷きながら話し始めた。

「なるほどね……」

「なるほど、ってどういう事ですか?」

一人全てに納得したような様子の固法に御坂が、聞き返す。

「こっちの報告の番ね。
……幻想御手を使ったと思われる意識不明者の脳波パターンが同じだったのよ。
脳波を特定のパターンにする事によってネットワークを作り出しているってことじゃないかしら?」

「あぁ、なるほど」

固法の情報を聞き、御坂、白井も納得する。

「その脳波パターンをもらってきたから、書庫に登録されている人で検索をかけるわよ」

そこで、初春がいないことに気づいたようだ。

「あれ?初春さんは?」

「今は出ておりますの」

「そっか……まぁ、検索くらいなら私でも出来るしいっか」

パソコンへ向かい、書庫の情報に手に入れた脳波パターンを入れる。
数秒すると、99.9%一致、と表示が出て三人はよし!と声を揃えた。

しかし、その人物がディスプレイに表示された瞬間、御坂と白井の顔は驚きと焦りの混じったものへと変わった。

「木、山春生……?あの人が?」

「たい、へん……ですの」

「え?」

「初春が!たった今木山春生の元へ向かったところなんですの!」

「ッ……白井さんすぐに警備員に連絡して!」

固法がそう叫ぶのと同時に、御坂はドアを蹴破る勢いで開け、飛び出した。

「お姉さま!」

「ちっ……警備員には私が連絡する、白井さんは御坂さんを追って」

「わ、わかりましたの!」

白井はしゅん、と消えた。
221 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/13(金) 12:10:17.55 ID:fcvTECIIO

〜〜〜

「……」

「君は不思議な子だな……もっと騒いだり、強がったりするものかと思っていたが」

木山先生は高そうな車を慣れた手つきで走らせる。

「……あぁ、これを渡しておこう」

言いながら、私の膝へメモリーチップを投げ渡した。

「幻想御手のアンインストールプログラムだ。
これを流せばみんな意識を回復させるよ」

「どうして、こんなものを作ったんですか?」

ずっと黙り込んでいた私が不意に口を開いたので、一瞬驚いたような顔をした。

「学生達を昏睡させるのが目的じゃないからね……こちらの用事が済んだらもともと起こすつもりだったのさ。
だが……君たちのような優秀な子に気づかれてしまったのが唯一の失敗だな」

順調に走らせていた車の速度を徐々に落とす。

「ほら、もう警備員まで話がいっている……本当に、優秀な子達だね」

車を完全に停車させると、木山先生は私の手錠を外した。

「こうなったらもう人質はいらない。
こんなものかけてしまってすまなかった」

木山先生はさみしそうに笑いながら、落ち着いた様子でシートベルトを外すとゆっくり外へ出た。

「最後に、面白いものを見せてあげよう。
君は車の中にいた方がいい」

警備ロボットと、警備員がずらっと並び道を塞いでる。
そちらの方へ、自信満々にゆっくり歩み寄り、右手を彼らの方へ向けた。

すると……。
222 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/13(金) 12:11:31.84 ID:fcvTECIIO

「う、そ……」

警備ロボットはふわふわと浮き上がり、木山先生の手の動きにあわせて、警備員に襲いかかった。

能力開発をうけていないはずの木山春生が、いとも簡単に能力を使い、警備員達を圧倒している。
とても、非日常的な光景だった。

「待ちなさいよ!」

その声と共に車のまえに、急に白井さんと御坂さんが現れた。
白井さんは連続して空間移動を行ったせいか、ボンネットに手をつき、辛そうだ。

「初春さん、大丈夫?」

御坂さんは、木山先生から目を離さずにそう言った。

「えぇ、木山先生は別に悪い人ではありませんし」

自然とそう、口に出た。

「……どういう意味?」

「ちゃんと、アンインストールプログラムも用意してますし……。
まぁもう警備員をこんだけ再起不能にしちゃったから見逃すわけにもいかないんですけどね」

「……あんた、やっぱなんか怖いよ」

――それは、きっと御坂さんがまっすぐだからですよ……木山先生の目的が何かは知りませんが、きっと自分のためなんかじゃない。
それはわかるんです。
そして、私も今、佐天さんの為になら……きっと見知らぬ誰かを犠牲にできる。
それくらい、私にとって佐天さんは大切な親友なんです。

やり方を間違える。
それはきっと悪い事。
でも、それしか方法がなかったら?
もし、本当に大切な人を守るのに世界を敵にまわさなきゃいけなくなったら?
私は、からりと晴れた青空を見つめた。

木山先生は髪をかきあげると、まっすぐ御坂さんに目を向ける。
その目は“私の邪魔をするな”と言うように真っ赤に染まっていた。
223 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/13(金) 12:12:06.76 ID:fcvTECIIO

〜〜〜

「……なんともまぁ」

俺は少し離れた位置で木山春生と初春飾利達を眺めていた。
青髪も上条も、今日は変だったから本当にこいつらは幻想御手事件に関わっているのではないかと疑いを強くし、それならば、幻想御手について調べている初春飾利を見張っとけばいずれ現れるだろう……と思っていたんだが……。

「木山春生が犯人で、自殺未遂事件には関係なし……と」

自殺未遂事件の方に関係がないとなると、本来の目的である自殺未遂事件を起こすMPSLの正体もまた霧へと消える事になる。

ため息をひとつ着くと小さな風が吹いた。

224 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/13(金) 12:14:37.47 ID:fcvTECIIO
ここまで!

また読んでください!
225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/13(金) 17:32:07.71 ID:l883ZJIIO
乙!初春と木山先生にも世界の敵フラグか?
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/13(金) 21:32:31.93 ID:Qjb3Xo+IO
乙、一気読みしました
ブギーとのクロスというだけで十分俺得だったけど、出来も素晴らしいっす
続きも楽しみにしてます
227 :tampotake :2012/07/13(金) 22:14:09.39 ID:TSgLKC930
俺得。楽しみにしてます。
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/07/14(土) 00:20:10.80 ID:BC0/y4i70
>>214
かどの→かどちん
(多分)2ちゃんのラノベスレが発祥の愛称
かどちんの文体は内面描写が多くて独特なのに、かといってしつこ過ぎもしないから難しいんだよね
このSSははよく雰囲気出てると思う
俺も好きなんだけどパンチ力に欠けるせいか後発の、それこそ直系子孫的位置付けの禁書とかより一般受けはしないのが残念
229 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/14(土) 14:03:10.95 ID:x86ZG67IO
戦闘シーン難しい
特にフォルテッシモなんてあいつの能力自体どんなものかいまいち理解し切れてないから難しい
どうやったら迫力ある戦闘シーン書けるんだろうなぁ……その辺なにかアドバイスあったらください

では始めます
230 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/14(土) 14:03:45.34 ID:x86ZG67IO

〜〜〜

「面白いことやってんじゃんか」

「……えぇ、あの白衣の女が幻想御手を作った人ですよ」

「なるほどな……。
よし、御坂美琴と戦ってくる」

フォルテッシモは、いい暇つぶしを見つけたというように、笑った。

「は?」

「あ、お前は俺の邪魔しなければなにしてもいいぞ」

初春飾利、御坂美琴、白井黒子に恩を売る為に木山を止めてもいい、と言っているように俺には聞こえた。
それだけ言うと、フォルテッシモはさっさと消えてしまった。

「……まぁ、いいか」

俺はフォルテッシモの邪魔をしないように気をつけながら、木山を止めて初春飾利に恩を売ろう、と考えていた。

――幻想御手はもうどうでもいいが、初春飾利が自殺未遂事件の関係者、しかも相当核に近い存在という事に変わりはないしな。

「……よし、いくか」

木山春生が向かう先はわかっている。
フォルテッシモ、御坂美琴から十分距離があり、人目につきそうにない場所へ向かい、木山春生を迎え討つ準備をした。
231 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/14(土) 14:04:54.08 ID:x86ZG67IO

〜〜〜

「ま、その話は今はいいや。
黒子、初春さんつれて逃げなさい」

御坂さんは小さくため息をつくと、纏う空気を激しさのあるものへと変えてそう言った。

「ですが……」

「あんたには相当無理してもらったし、それに初春さんは戦闘要因じゃあないでしょ?
それに、アンインストールプログラムをさっさと起動させてみんなを起こしてあげなきゃ」

――御坂さんは、凄い。
安易に能力を手に入れて、自業自得で倒れた人達も救おうとしている。
そんな連中なんかより、佐天さんが大切だって思ってる私とは大違いだな。

「わかりましたの……。
初春、行きますわよ」

白井さんは悔しそうに、そういい助手席の扉を開けた。
そして、早く外に出ろと急かす。

「御坂さん、私は別に、世界の敵になろうだなんて思ってはいませんよ。
ただ、世界よりも大切な人達がいるだけです。
気をつけてくださいね、私は御坂さんも大好きですから」

「……ありがと」

「話は終わったかい?
出来れば車を返してくれると嬉しいんだが」

御坂さんは車と木山先生の間に立っている。

「あなたを止める、初春さんの言うとおり何か止むを得ない理由があったとしても……こんなやり方、間違ってる。
だから、止めてみせるわよ」

木山先生は何故か嬉しそうに笑っていた。

「そうか……まったく、たくましいね、超能力者というものは」
232 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/14(土) 14:05:23.51 ID:x86ZG67IO

〜〜〜

木山春生を待ち伏せていると、ある鼓動が近づいてくるのを感じた。

――佐天涙子?

そして、そいつはこちらの事など気にも止めずに、今頃フォルテッシモと御坂美琴が戦っているであろう方向へ走り去って行った。

――チッ……まぁ、いい。
233 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/14(土) 14:06:04.02 ID:x86ZG67IO

〜〜〜

御坂が先手を打ち、雷を木山へ飛ばそうとした瞬間、二人の間に割ってはいるように急に男が現れた。

「……よぉ、また会ったな」

男は御坂の放った雷など気にもせず、御坂にそう言った。

「あ、んた……」

「約束通り、戦ってもらうぜ?
ちょうど、こいつに借りがある事だしな」

御坂の額に嫌な汗が浮かぶ。

――こいつ……なんなのよ……。
すっごい弱そうなくせに、どう攻めていいかわからない……。
それどころか……怖い。

「……なんだかよくわからないが……どうやらまだ私にも運があるらしい」

木山春生は、その男が何者かもわからないままさっさと御坂に背を向け避難用の階段をのんびりとおりていった。
まるで、その男が御坂に負けたとしても、別に問題はないという絶対的な自信があるように見えた。

「俺をがっかりさせるなよ?」

その男――フォルテッシモ――は、新しいおもちゃを見つけた子供のようにたのしそうにそう言った。

「くっ……そ」
234 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/14(土) 14:07:35.98 ID:x86ZG67IO

〜〜〜

――幻想御手、か……。

私は走りながら、もしも自分に“世界の敵”としての力がなかったらどうなっていたかと考えていた。

――まぁ、どっかで手に入れて使ったよね。
間違いなく……そんで、初春が泣いて、御坂さんには怒られて、白井さんには呆れられるんじゃないかな?

何かが崩壊する音が聞こえた。
走っている高速道路の路面が少し揺れる。

「なにが……起きた?」

だが、足は止めない。

私にとっての希望を追っているのだ。
その先には、きっと――。

走る。走る。走る。
もう、ブギーポップとの戦いは近いんだ。
あの日、目を閉じてそのまま絶望にのまれてしまえばいいと思った。
そうしたら、ブギーポップが殺しに現れると思った。
もう、生きるとか死ぬとか考えるのも嫌で……。
でも……でも、私が次に目を開いた時、私はまだ生きていた。
そして目が覚めた時、絶望感は消えていた。

何故かはわからない。

ブギーポップが来なかった理由も、絶望感がストンと消えた理由も。

でも、今ならブギーポップにも勝てるような気がする。

「はぁっ……はぁっ…………御坂、さん?」

――私の希望は、御坂さん?
……いや、違う。
まだ、希望は終わってない……けど、ここには絶望が充満してる。
235 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/14(土) 14:08:32.53 ID:x86ZG67IO

「……あん?
お前は……確か佐天涙子、だっけ?」

御坂さんと睨み合ってた男が、私の存在に気づき顔だけこちらに向けいった。

「……ま、いいか。
学園都市第三位の力、見せてくれよ」

男は一瞬で私から興味を失い、楽しそうにそう言いながら腕を上げ、指をつい、と振った。

「御坂さん!よけてッ!」

男が腕を上げた時、空間を占める絶望の密度が上がった。
何かはわからないが、途轍もないものが御坂さんに襲いかかろうとしているのはわかった。

「ッ!!」

御坂さんは、私の声に反応して、咄嗟に横へ飛ぶ。
一瞬、もしも一瞬でも御坂さんの行動が遅れていたら、きっと死んでいただろう。
御坂さんの真後ろにあった高そうなスポーツカーは粉みじんに吹き飛び、そして、爆発した。

「……おい、お前」

男はこちらに今度は体ごと向き直り、私を睨む。

――大丈夫、道は見えてる。

逃げる事だけを考えたら、私はこのわけのわからない相手からでも逃げ切れる自信があった。

「……」

男はまた、指を振るが、私は見えている道を全速力で、駆け抜ける。
先ほどまで私がいた地面が綺麗に切り取られ、橋のような作りになっている高速道路が一部下へと落ちた。
その断面は、遠目にみてもとても滑らかで鏡のようだとわかった。
236 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/14(土) 14:09:23.76 ID:x86ZG67IO

「……は、ははは……ははっははははは!」

「私もいるって事を……忘れんな!」

いきなり笑い出した男に、御坂さんは、自分を象徴する超電磁砲を、放つ。
だが、放ったコインは男に当たる前に不自然に空間で止まり、男が指を鳴らすと、そのまま御坂さんへとまっすぐ返って行く。

「んな……」

御坂さんは、転がるように地面に伏せ、なんとか避けるがもう、戦意は失われてしまったようだ。

「うそ……でしょ」

超電磁砲が飛んで行った方を眺め、そうつぶやくが、立ち上がらない。
いや、立ち上がれない。

「はぁーあ……御坂美琴、お前はもういいや。
というか、早すぎたみたいだな……。
お前はまだ弱い、がこの先いつか俺の相手になりうる」

冷たい目で見下しながらそう言うと、その男は私の方に歩み寄ってきた。

「なぁ、どうやって避けたんだ?」

「……教えるわけ、ないじゃん」

「はっ……こりゃあ、一方通行よりも….…面白いものを見つけた」

男がそう言うなり、また、空間無いの絶望が増した。

「やば……」

また、見えている道を、何も考えずに駆ける。
路面が次々に粉々になり、砂塵が舞った。

――御坂さんつれて、さっさと逃げよう。
237 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/14(土) 14:10:14.05 ID:x86ZG67IO

砕けた路面の破片――手のひらにちょうど収まるくらいのコンクリートのカケラ――を手に取り、相手の出方を待つ。

――こいつが攻撃してきた時、一瞬だけ絶望が収まるのを感じた。
つまり、御坂さんの超電磁砲止めた防御と、ここをこんなにめちゃめちゃにした攻撃は……同時展開できないってことだ……。

「おい、逃げてばっかじゃ俺は倒せねぇぞ?」

「あんたみたいな規格外、倒そうだなんて考えてない!
私は生き残れば勝ち、あんたは、私に逃げられたら負けよ」

「あ?」

「だって、そうでしょ?
あんたと同じように、私には私の目的があるんだから。
あんたなんかにかまってる暇はないのよ」

言い終わると同時に、また私は走り出す。

男に近づけば近づくほど、道は消えて行き、真っ暗になるが気にしない。
こいつが攻撃に転じた時、希望は生まれるのだから……。

「俺から逃げれると思ってんのかァア!」

――出来たッ!

手に持ってる破片を、素早く男の顔に向かって投げる。
一瞬でいい、御坂さんにたどり着けたらあとはもう道が広がっている。

「んな……」

期待通り、一瞬、男は破片に気を取られた。

――よし!

ぼんやりと座り込む御坂さんの手を引っ張り、引きずるようにそのまま走り抜ける。

「……チッ」

男が舌打ちしたのが、微かに聞こえた。
238 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/14(土) 14:15:34.71 ID:x86ZG67IO

〜〜〜

「よぉ、あんた……木山春生だろ?」

「……」

答えずに、こちらを睨みつけてきた。

「あぁ、そんな真っ赤な目で睨むなよ、俺は世良稔……あんたがさっき戦ってた御坂達の知り合いさ」

木山春生の鼓動を察知して、爪先でリズムを刻む。

「君も、邪魔をするのかい?」

「あぁ、というか、もう……してる」

たん、と爪先を鳴らすと、木山の顔が強張った。

「な……なんだ、これは?」

「目的を話せ、幻想御手なんかを使ってこの街の学生を昏睡させたのはなぜだ?」

「話すと思うか?」

近くにある物を、手当り次第俺に向かって飛ばして来るが、恐らくこう言うのも感覚が大切なのだろう。
首から上しか動かない状態では、思い通りにいかず、ただゴミが散らばるだけとなった。

「だったら、このまま風紀委員……いや、警備員だったかな?
まぁ、いいやこの街の警察みたいなやつに突き出すぜ?」

――……おかしい。

俺が圧倒的な有利な状況にもかかわらず、木山はニヤァと、まるでフォルテッシモのように笑った。

「能力が一人ひとつ……そんな常識にとらわれているから土壇場で負けるのさ」

やばい、と思った時には既に遅かった。
散らばったゴミ、その中にあった大量の空き缶が次々にシュン、シュン、と縮んでいた。
大急ぎで、木山に近づこうと走り出したが、完全に爆発から逃れることはできなかった。
239 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/14(土) 14:17:35.46 ID:x86ZG67IO

無様にずっこけ、爆発の余波でそのまま数メートル転がる。

だが、ダメージはそれほどない、すぐに起き上がり木山の姿を探すが、見えない。

――姿を消す能力?だが……。

俺にはそれは効かない。
まっすぐ木山の元へ走りより、首のあたりを狙い蹴りをいれる。

しかし、入った感触はなく何も見えないところで足を掴まれた。
そして、そのまま地面に投げられる。

「う、っ……」

今の力があれば、俺を殺すことなど容易いはずなのだが、木山は俺を地面にただ投げただけであった。

――というか……こいつ、なんでこんなに能力使えるんだ?

確認しただけで、念動力、缶を爆発させた能力、姿を消す能力、そして、身体強化。

――くそ、厄介だな……何故か念動力の使える変わった研究者だと思ったから、簡単に捕まえられると思ったんだぞ、俺は……。

これではもし初春飾利から情報を得られなかったら、骨折り損のくたびれ儲けなんて話ではない。
簡単に捕まえられたらまぁ、いいかと諦めることも出来るが、ここまでやって手がかりなしだったら流石に俺も嫌になる。
240 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/14(土) 14:18:15.19 ID:x86ZG67IO

「……」

両手を広げ、木山の鼓動を察知する。

「……」

慌てるわけでも、怯えるわけでもなく木山は落ち着いた様子でさっきと同じところに立っている。

「なぁ、純粋に気になる。
あんたがこんなに必死になる理由……あんたの目的はなんなんだ?」

「……良いだろう、話してあげるよ。
あのアンインストールプログラムはあと数時間は起動できないようになっているしね」

アンインストールプログラムがなんなのかは知らないが、木山は余裕を持っている。

「助けたい人がいる。
ただ、それだけさ」

「助けたい……?
恋人かなんかか?」

「……子供たち、私の大切な生徒さ」

「あんた、学校の先生だったのか……」

「あぁ、その子達は私のせいで、今も眠ってる。
早く、起こしてあげたくてね……」

木山の刻むビートが変わった。
そこには、優しさと暖かさ、穏やかさが目立つ。

「わからんな……何故、助けたあと一緒にいれなくなるような助け方を選ぶんだ?」

「この街自体が敵だからさ、この街の決まりごとは、私や、子供たちを守ってくれやしなかった……だったら、自分で守るしかないだろう?」

木山の言っていることは、正しいのかもしれない。
241 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/14(土) 14:18:47.11 ID:x86ZG67IO

「そうか、でも俺はお前を捕まえるぞ」

準備は整った。
本当は使いたくはなかったのだが……。

「もう終わりだ」

自身を劇的に“加速”させる。
それにより、俺の戦闘能力は格段に上がるのだ。

「く……そ……」

素早く木山に近づき、鳩尾に一発叩き込んでやった。
木山は悔しそうに苦言を漏らしながら、パタリと倒れそれと同時に姿を現した。
242 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/14(土) 14:20:05.77 ID:x86ZG67IO
ここまで
やはり、戦闘シーン難しいなぁ
次もまた読んでください
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/14(土) 20:10:38.34 ID:c7FxIipSP
モルト・ヴィヴァーチェキタ――(゚∀゚)――!!

しかし打ちにくいなこの技の名前wwwwww
244 : ◆qXEKQweJllf. [sage]:2012/07/14(土) 20:44:39.30 ID:lGwvJ4DZo
>>243
実は三回打ち間違えたから技名出すの辞めたんだwwww
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/14(土) 22:54:11.52 ID:FF+CGaMIO
次も読むよ!

ffさんがらしくって好きだわ
よく一方さんのモチーフと言われるけど確かに似てる感じだね
一方通行の方は制限ついてる分カタルシスがあって好きだけど、ffの自由さはやっぱり良いな
246 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/15(日) 17:22:44.37 ID:AyjC2Q6To

〜〜〜

「はぁ……はぁ…………逃げ切れた……」

「佐天、さん?」

「今更なに言ってんですか……私は行かなきゃいけないところあるんで、あと頼みますよ?」

謎の男から逃げ切るのに、街中まで相当な距離を走った。

――まずいな……どこがゴールかもわからないのに飛ばし過ぎた……。

「ちょ、ちょっとまってよ……あんた今なにしてるの?
初春さん心配してるわよ?」

御坂さんは、さっきの男に歯が立たなかった事をあまり考えたくないように見えた。

「……今は初春よりも大切な事があるんですよ」

「……それは、何?」

「そんなの、自分の笑える未来に決まってるじゃないですか。
死の淵まで近づいた事がない御坂には私が異常に見えるのかもしれませんけど」

「……なんで、そんな事言えるのよ……?
初春さん、本当に心配してるのよ?
退院してからも、佐天さんのことばっかり考えてる。
自分を大切に思ってくれる人を悲しませて手に入れた未来で……佐天さんは笑えるの?」

「――ッ」

やっぱり間違ってるのか、と自問する。
だが、すぐに迷いは振り払った。

――この人は、もう私よりも弱い。
自分より弱い人の言葉なんか聞くな。

今初春に事情を説明したら、初春は私の手伝いをしようとするだろう。
そういう、優しい子だ。
247 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/15(日) 17:24:18.43 ID:AyjC2Q6To

――それはダメだ。
初春とブギーポップは会わせたくない。
初春に、怖い思いなんてして欲しくないし、私がブギーポップを殺すところを見せたくない。
汚い自分を、見せたくない。

「……最近思い出しました。私は初春が大嫌いだったけど……それと同じくらい大好きだったんです。
だから、例え初春が泣く結果になったいるとしても、私は初春を……守らなくちゃいけないんです」

矛盾していることなんてわかってる。
初春を悲しませてる時点で守れていないのだ。

「矛盾――」

「わかってますよ。
でも、私は弱いですから……完璧には守れない。
今、私が戻ったら……初春や御坂さん、そして白井さんも巻き込んじゃう。
それだけはダメなんです」

「そんなの……友達なんだから」

「だからですよ!」

声が大きくなった。
御坂さんや白井さんとは友達とも言えないくらいの付き合いしかないけれど、何故か、大切な存在になっていた。
それは、きっと……私を馬鹿にしないで向き合ってくれるからだろう。

「佐天、さん……」

「御坂さん、かならず私は帰りますから。
初春が待ってる暖かい場所に……必ず……」

そう言い残し、私はまた、希望を目印に足を進める。
御坂さんが何か叫んだが、振り向かなかった。
248 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/15(日) 17:26:00.07 ID:AyjC2Q6To

〜〜〜

「白井か初春はまだいるかな?」

木山を気絶させたあと、俺はフォルテッシモと御坂が戦っていた場所へ戻ってきた。
そこらで寝ている警備員を叩き起こし、木山を引き渡そうと思ったのだ。
勿論、白井、初春の名を出して、そいつらが木山と話したいと言ったら従えと条件をつけるつもりだった。

「……」

だが、その場所へ木山を背負ってたどり着くと俺は言葉を失った。

「なんでこんなに、綺麗なんだ?」

てっきり、立体高速はなくなっていると思ったからだ。

「あ、リィさん……何があったんですか?
御坂美琴は?あと佐天涙子も来たでしょう?」

ぼんやりと立ち尽くすフォルテッシモを発見し、駆け寄りそう、尋ねた。

「ん、あぁ」

フォルテッシモはイラついた様子も無ければ、楽しそうな雰囲気もせずにただ、ぼんやりしていた。

「フォルテッシモ?」

「逃げられた」

「あんたが?」

「あぁ、佐天涙子……こいつは一体何者だ?」

「……無能力者、それでいて初春飾利、青髪ピアスの友人。
両方とも自殺未遂事件……一個は未遂じゃないけど、まぁ、その被害者の一番近くにいた存在です」
249 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/15(日) 17:26:29.77 ID:AyjC2Q6To

「……それは、全員のか?」

「いや、青髪ピアスは先輩の女。
佐天涙子は初春飾利、です」

「何故、お前は佐天に拘ってる?」

「初春飾利が、異様だからです。
あいつは佐天涙子が見舞いに来た瞬間、元気に退院した。
青髪の方は、あいつの鼓動が少し妙なんで……」

「佐天涙子、そいつが多分今回お前が調べるべきMPLSだ」

フォルテッシモは断言した。

「は?」

「そして、多分すげぇ厄介だ。
俺から逃げ切ることが出来るってのは……そういうことだ」

この街にいなくてはいけない時間が、伸びたような気がした。
フォルテッシモがここまでいうのだ。
当然、これを中枢に報告したら、抹殺しろと言われるに決まっている。
だが、佐天涙子は統和機構最強のフォルテッシモから逃げ延びたのだ。

――これは、また面倒な事に……。

だが、その予感は大外れだった。
実際、俺はあと十日もしないうちに、任務を解かれる事になったわけだしな。

この街には、統和機構なんか問題にしない、本当の“規格外”の存在がいた事を、この時俺は知らなかったんだ。
勿論、フォルテッシモも……。
250 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/15(日) 17:27:44.79 ID:AyjC2Q6To

〜〜〜

「……ダメです。
やっぱりロックがかかっていてあと二時間は動かせませんね……」

「幻想御手のネットワークを崩せば木山の能力も無くなる……これはたしかなんですの?」

「はい、おそらくは……だからこそ、目的を達成し、逃げ切る時間を作るために時間制限をつけたんだと思います」

私と白井さんは支部へ戻り、木山先生に渡されたメモリーチップを解析していた。

「お姉さまは……」

「大丈夫ですよ。
御坂さんですよ?
あの人は……強いですから」

「そんなの、わかってますの……でも……」

「心配なのはわかりますが、信じましょう」

白井さんが頷くのとほぼ同時に、とびらを叩く音がした。

「誰でしょう?」

私は、椅子から立ち上がり、ドアに近づき開いた。

「……世良さん?
と……木山先生?」

扉を開くとそこには木山先生を担いだ世良さんが立っていた。

「……とっ捕まえた」

世良さんはそう言うと、ズカズカと支部の中に入ってきて、ソファに木山先生を寝かせた。

「……初春飾利、佐天涙子について話を聞かせてくれ。
この条件をのむなら、こいつはこのまま引き渡す」

そして、私の目をまっすぐ見つめてそう言った。

――佐天、さん?

「……いいですよ。
私も佐天さんを探しているんです」

後ろで白井さんが心配そうに渡しの名前を呼んだが、気にしない。
これは、私の問題なんだと思うから。
251 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/15(日) 17:28:11.03 ID:AyjC2Q6To

〜〜〜

「涙子、ちゃん……」

希望の終点、そこは可愛らしいパン屋さんだった。
そして、そこには店の外の看板に「パン焼きあがりました!」と書きに出ていたエプロン姿の青髪さんがいた。

――私の希望は……青髪、さん?
嘘、だ……違う。違う……。
大切なはずの友人を泣かせてまで……私は……私は、友情よりも、自分の気持ちを選んだの?

何故か、すんなりと「青髪さんが好きなんだ」と理解できた。

「な、んで……?」

「なんでって……そりゃあ……僕はここで世話になってるわけやし」

青髪さんは、嬉しそうに困った変な表情をしていた。

「あ、ちょっとまっててな」

そして、思い出したように店の中に入ると、一旦また顔を出し「これでも食べて待っててや」と言いながら焼きたてのパンをひとつ私に渡す。

「あ」

お礼をいう暇もなく、すぐにまた引っ込んで店長らしき男の人に何かいうと、奥へと引っ込んで行った。

「……」

渡されたまだ暖かいパンをかじる。

――美味しいな……。

何故か、涙が出そうになった。
252 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/15(日) 17:28:52.23 ID:AyjC2Q6To

〜〜〜

「あぁ、こいつがこの騒ぎ起こしたのは、子供達の為だって言ってたぞ。
もともと学校の先生だったそうだぜ。
まぁ、警備員だっけ?
警察みたいな連中、あいつらボコボコにしちまったからなかった事に……ってのは無理だろうけど……」

木山先生の隣にどかっと座った世良さんは、私にも座れと睨みつけてくる。
向かいのソファに私も座ると、世良さんは木山先生を指差しそう言った。

「まぁ、お前ら風紀委員がどうするかは俺には関係ない……。
俺はもう幻想御手には関わるつもりもねぇよ」

まるで、木山先生の話を聞いてやってくれと言っているように聞こえた。
私達なら、木山先生の力になれると言っているように、聞こえた……。

「んじゃ、佐天涙子について聞かせてもらうぜ?
嘘はすぐわかるから無駄だ。
俺が何物かなんて事を探るのも無駄だ。
お前はただ答えろ」

頷くと、世良さんは満足そうに頷き返した。

「じゃあまず、お前が自殺未遂した時の事を教えろ」

「……佐天さんに、ブギーポップの噂話を話したあとから記憶がないので、恐らく、その時何かあったんだと思いますよ」

「ブギーポップ?」

「都市伝説みたいなものです。
その人が最も美しい時に、それ以上醜くなる前に殺しにくる……っていう死神です」

本当に、女の子にしか伝わってない噂なんだと実感する。
253 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/15(日) 17:29:25.03 ID:AyjC2Q6To

「……本当に、何も覚えちゃいないのか?
自分の腕に彫刻刀を突き立てた瞬間の事は?」

「そうですね……なんか、何もかもめんどくさくなったというか……。
心が、真っ黒に染まったというか……そんな感じがあった気がします」

世良さんは、なんの躊躇いもなく、事件の時の事を聞いてくる。
それを見ている白井さんは私の事を心配そうに見つめていた。
なんだかんだいっても、白井さんは優しい。

「そうか……あ、もう一つこれは関係ないけど、この街の能力に他人をイラつかせる能力とか他人の特定の気持ちを増幅させる能力ってあるのか?」

「……いえ、聞いたことありませんが」

「そっか……まぁ、それはいいや。
じゃあ、次……佐天涙子がお前の見舞いに来た時、あとお前が病院で目覚めた時の話を聞かせてくれ」

「私が目覚めた時……そうですね、なんだかわからないけど、苦しくて、佐天さんがすごく憎かった。
でも、佐天さんに会いたくて、佐天さんと話がしたくって……」

あの時の、ごちゃごちゃした気持ちを思い出す。

「……見舞いにきた時は?」

「覚えてません、寝てる間にきて寝てる間に帰っちゃったんで……。
でも、佐天さんが来た日、起きたらスッキリとその、ごちゃごちゃした気持ちは消えてました」

「……なるほどな」

世良さんは何かを考え込むようにしばらく黙り込むと、急に立ち上がった。

「どうも、んじゃあな……」

そして、そう言うとさっさと部屋から出て行った。
254 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/15(日) 17:30:07.97 ID:AyjC2Q6To

〜〜〜

――駄目だ……やっぱ帰ろう……希望なんて、すぐ消えるんだから……。
なんの信念もない馬鹿なやつに、簡単にけされちゃうのが希望なんだから……。

帰ろうと、パン屋さんに背中を向けた瞬間、青髪さんが出てきた。

「待ってや!
帰らんといて……頼むから……」

青髪さんは可愛らしいエプロンをつけたまま、ひとつの紙袋を持っていた。

「……すみません……でも、私……ダメなんです。
青髪さんが……私といると……死んじゃうかもしれない。
大嫌いで、でも大好きな初春ですら私は……切り捨てる事が出来たんです。
でも……なんでかな……」

「涙子ちゃん、花火大会……いこうや」

青髪さんは、私の言葉が途切れたところで、そう言った。

そして、手に持ってる紙袋を渡しの方に突き出して来た。

「これ着てさ、花火見にいこうや……」

中身を見ると、それは私が買うのをやめたあの、浴衣だった……。

――あ……消えて、なかった?

「捨ててしまったんなら、また拾えばええやん。
それに、初春ちゃん?
その子はきっと、捨てられたなんて思っとらんと思うで?
だって……友達なんやろ?
こんな、辛そうな涙子ちゃんを……友達なら、放ってなんかいられんはずや」

優しく、にっこりと笑った。
その笑顔は、私の心を暖かくしてくれたが、何処か冷たくもさせた。

「青…髪……さん」

――でも……駄目だ……。

「ご、めんなさい……」

私は、走り出した。

もう、光の見えない真っ暗な道を……。
255 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/15(日) 17:30:37.92 ID:AyjC2Q6To

〜〜〜

支部を出て、俺はまた真夏の焼き付ける日差しを浴びながら歩いていた。

「わからん」

佐天涙子の目的と、その能力を考えてみるが、全く理解できず立ち止まりそうつぶやく。

「なんだ……?
佐天涙子は何がしたいんだ?
まさか、ブギーポップとかいう都市伝説が自分を殺しに来ると本気で思ってんのか?」

一見平和に見えるこの街の光景に、なんだか無性に腹が立った。
256 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/15(日) 17:31:06.54 ID:AyjC2Q6To

〜〜〜

「……なんでやろ」

僕は走り去ってしまった涙子ちゃんの背中を見つめていた。

「なんで、こんな事になってまうんやろな……」

ジリジリと音が聞こえそうなくらい存在を主張する太陽と、耳障りな蝉の声がやけに大きく聞こえた。
257 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/15(日) 17:31:34.87 ID:AyjC2Q6To
ここまで

次もまた読んでください
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県) [sage]:2012/07/15(日) 22:20:39.33 ID:aadLhkPio

語彙が貧弱で悪いがめっちゃ面白い
この更新頻度でこのクオリティはすげーよ
259 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/17(火) 17:30:37.91 ID:wOzQ+wpIO
>>258
ずっと書きたかったクロスだから気合が入っているのかも
面白いと言ってもらえるとやはり嬉しいですね
あとは、雰囲気出てるとというレスも何回か貰ってそれが更に気合を加速させているのですよ

前回書いた作品は長くなりすぎたから今回はあと少しで終わるようにテンポ良くやっていこうと思ってるけど2〜3日に一回約5000字投下は読者置いてけぼりになってるんじゃないかと不安

では、始めます
電池が切れそうだから、変なところできれるかもしれません
260 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/17(火) 17:31:11.42 ID:wOzQ+wpIO

〜〜〜

青髪さんから逃げ出して、私は久しぶりに自分の住む寮に帰ってきた。

「はぁっ……はぁっ……はぁ……」

息を落ち着けると、浴衣をそのまま持って来てしまったことに気がつく。

「う……ううう……」

どうしようもない嬉しさと、それを上回る後悔が胸にこみ上げてくる。

「なんで……私は……戦わなきゃいけないのに……」

青髪さんの側にいたい。
初春の側にいたい。
誰かに、笑いかけて貰いたい。
誰かと、笑いあいたい。

――でも……それは、それをしちゃったら……私はもう、ブギーポップに立ち向かえなくなる気がする。

私が能力を求めたのは、初春と同じ位置に立ちたかったから。
はじめからわかってたんだ。

私は、初春が大好きで、大切で、かけがえのない友人なんだって。

でも、悔しいから『あいつは友達なんかじゃない』って自分に言い聞かせて……。
初春も、御坂さんも、白井さんも……能力なんかなくったって、私と同じ位置に立ってくれるなんて、わかってるのに……。

――でも、こういう生き方しか出来ないから……私は今こんな状態になっちゃってるんだ……。

紙袋を握る手に力が入る。

「さっさと終わらせよう。
この、ろくでもない戦いを……」

そして、私は決意した。

「やっぱ……初春に最後に会いたいな」

何日かぶりに携帯電話の電源をいれ、初春にメールをいれる。

『今日、夜初春の家に行くね。
家についたら、メールちょうだい』

四月、まだ初春と出会ったばかりの頃、すぐに仲良くなり、毎日のようにどちらかの家にお泊りしていたことを思い出した。
261 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/17(火) 17:31:40.15 ID:wOzQ+wpIO

〜〜〜

「え?」

世良さんが出て行き、木山先生が意識を取り戻すのを白井さんと待っていると携帯電話がメールの受信を知らせる為にぶるぶると震えた。
そして、それを開き、私は自分の目を疑った。

「佐天……さん、から?」

なんとなく、白井さんにばれないようにと、なんでもないような体裁を整えてからそのメールを開く。

「今夜……佐天さんに、会える……」

私は必死に、木山先生を白井さんに任せ部屋を飛び出したい気持ちを抑えた。

「初春?どうしました?」

「い、いえ……なんでもないですよ」

笑って、誤魔化す。
どうして友達と会うのを誤魔化そうと思ったのかはわからない。
ただ、そうした方がいいような気がしたんだ。
262 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/17(火) 17:32:25.93 ID:wOzQ+wpIO

〜〜〜

「ん……こ、こは……?」

世良さんが去り、佐天さんからメールがきて暫くすると、木山先生が目を覚ました。

「風紀委員第一七七支部ですの」

白井さんが、お茶を淹れながら答える。

「風紀委員……君達の所属する部署か……私を警備員に突き出さないのかい?」

木山先生は、全てを諦めたように言った。

「まず、貴方の話を聞こうと思ったんです。
それがもし、正しいと思ったら……私はアンインストールプログラムを木山先生の目的を達成するまでつかいません」

「……いや、もう……いい。
そんなまっすぐな目で見つめられたら……あの子達を思い出してしまった。
あの子達が……目が覚めたとき、私が大きな犯罪を犯したと知ったらきっと怒られてしまう……」

木山先生は、がっくりとうなだれながら、一粒、たった一粒だけ涙を床にこぼした。

「……大丈夫ですよ。
木山先生、顔をあげてください、子供達は私達が必ず助け出します。
先生は、もう一人じゃありませんよ?
この街で最も優秀な私達が味方です!」

「……そうですわね……確かに、この街の子供達を守るのは、私たち風紀委員の役目ですの。
木山先生、正しいやり方でやるのならば、私たちは協力を惜しみませんよ」

白井さんも、笑いながら私に同意してくれた。

「……あり、がとう……」

木山先生は、今度はボロボロと大粒の涙を流す。
それはきっと、何よりも美しく、何よりも醜くいものだろう。
263 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/17(火) 17:33:30.19 ID:wOzQ+wpIO

〜〜〜

そして、警備員への報告とそのまま人手が薄くなった警備員の手伝いをしていた固法先輩と、高速で別れた御坂さんがほぼ同時に戻ってくると、私と白井さんで木山先生の話を聞かせた。
木山先生は、その間ただ黙り、じっとしているだけだった。

「そっか……そうね、私も協力するわよ。
正直私もこの街の科学者の最低な一面は何度か見てるからね……心配なのはわかるし、もし、私が木山先生の立場だったら同じ事をしたかもしれない」

「でも、そうなると警備員を蹴散らしたのが問題ね。
幻想御手についてはまだ警備員側は知らないからこのままアンインストールプログラムを起動させれば誤魔化せるけど……」

固法先輩は、少しだけ苦々しい顔をした。

「いや……それもちゃんと話す。
悪い事をしたら、罰を受けなきゃいけないんだ……私は、あの子達にそう教えてた」
264 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/17(火) 17:33:55.29 ID:wOzQ+wpIO

「そっか……そうよね」

「あぁ……すまないが、警備員のところまで付き添ってくれ……。
自首よりも、君達の手柄にしたほうがいいだろう。
君たちへの償いと感謝の気持ちだ……」

「……わかりましたの。
では、行きましょう」

木山先生は立ち上がり、パソコンに近づくと、アンインストールプログラムを起動させそれを街中のあらゆるスピーカーをハッキングし、流した。
アンインストールプログラムは人の耳には聞こえにくい周波数をしているので、幻想御手事件はここでひっそりと幕を閉じた事になる。

「よし、よろしく頼むよ……」

そして、いとも簡単にそんな事をやってのける木山先生は凄い技術者なのだろうと実感した。

そして、私は白井さんが木山先生を警備員の詰所から帰って来ると大急ぎで荷物をまとめ、明日の予定を確認し合い、全速力で自宅へ向かった。

――佐天さんに……会えるっ!

こんなにも、ウキウキしたのはいつぶりだろう。
佐天さんのいない日常は退屈だったのですごく久し振りなような気がした……。
265 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/17(火) 17:34:30.00 ID:wOzQ+wpIO

〜〜〜

「はぁ……はぁ……」

急ぎ、走り帰り、玄関を開けるとカバンを放り込む。
そして、すぐに佐天さんへ今帰りました、とメールをした。

「早く、こないかな……」

メールを送ると、ドアに寄りかかり腰を落とす。
暫くすると『わかった行くから少し待ってて』と返信が来た。

たったそれだけの事が、やけに嬉しくて、私は自然と笑顔になった。
266 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/17(火) 17:35:32.70 ID:wOzQ+wpIO

〜〜〜

「や、初春。久しぶり」

「佐天さん……お久しぶりです」

私が初春の寮へ辿り着き、声をかけると初春はゆっくり立ち上がり返事をした。

「いつぶりだろ?まぁ、そんなのはいいか……。
とりあえず、ごめんね、初春」

「いえ、そんなの……」

「ううん、謝らなきゃいけない。
初春が……その」

言いながら、まだ包帯の巻いてある腕を指差す。

「それはさ、私のせいだから。
私さ、能力者になっちゃったんだ」

なっちゃった。
なんだか能力者になんかなりたくなかったような言い方だな、と思った。

「私の能力はさ、多分普通の能力じゃない。
この街の能力者はさ……強い能力を持ってても、どこかでこの街を恐れてる。
でもさ、私の能力はこの街の仕組みとかレベル5でも無意識で恐れてる何かにすら、立ち向かえるものなんだ……。
この街じゃなくて、私は世界すら壊せるんだよ。
……あ、でも能力自体は単純なんだよ?
希望と絶望を見て操作できる。
ただそれだけ」

私は一気に話し終えた。
267 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/17(火) 17:36:00.65 ID:wOzQ+wpIO

「……そうですか。
でも多分、佐天さんの力はそれだけじゃありませんよ?」

「え?」

「今、わかりました。
私、目を覚ましたとき佐天さんが憎くて仕方がなかった。
それはきっと、私が怖がらないように……無理矢理やらされたって事を私に植え付けたんですよ。
多分、それがなかったら自分の意思で腕に彫刻刀を突き立てたって思っちゃってたと思います」

初春は何故か嬉しそうだ。

「多分、そうなってたら私は自分で自分の事が恐ろしくなってたと思います。
佐天さんの能力は……希望や絶望を見て操作するんじゃなくて――希望を人に与える能力なんじゃありませんか?」

――希望を、人に与える……?

「そ、んなわけ……ないじゃん……私は、初春をあんたを傷つけたんだよ?
大好きな、初春を……私は――」

「そんな些細な事は良いんですよ。
覚えてないから痛くもないし、ちょっと喧嘩しちゃった……と考えればいいじゃないですか。
それよりも……私は……佐天さんが、私を大好きでいてくれた事が、嬉しいです」
268 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/17(火) 17:37:26.19 ID:wOzQ+wpIO

本当に嬉しそうな顔をしながら、初春は笑っていた。
そして、その頬に涙が一筋伝っている。

「初……春……ごめ、んね……。
ありがとう……。
もう、夏休みだね……二人で……いや、御坂さんと白井さんも誘って……みんなでどっかいこ?」

私は、必死に涙を堪えた。
それは、くるはずのない本当に楽しそうな未来を思い浮かべた事による涙だったから……。

私のした決意……それはブギーポップに殺される決意だ……。
勝つ事を諦めたわけではない。
しかし、どんなに頑張っても私の能力では逃げる事が精一杯なのだ。
出来る事と出来ない事を知る。
そして、その出来る事の中でさらに出来る事と出来ない事を知る。
その繰り返しで得た結論は……ブギーポップには勝てもしないが負けもない。
つまり、私が生きるには、死ぬまでブギーポップから逃げ続けなきゃいけないのだ。

私はもう、きっとこの場所には帰ってこれない。

日が落ち始め、街にはネオンライトが点き始める。
その光が、私の能力を象徴するガラス玉に少し被った。

――さぁ、ブギーポップ……私を殺しに来い。
269 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/17(火) 17:39:01.82 ID:wOzQ+wpIO

〜〜〜
【7/15】

「……教えてくれ」

「何を、だい?」

「世界の敵が誰なのか、だよ」

テストも何も関係なく、ブギーポップはこのところ常にブギーポップだ。

「……」

「なぁ、黙ってな――」

「佐天涙子」

ブギーポップは、最初は答えようとしなかったが、やがて一人の名前を口にだした。

「佐天涙子?」

「だが……まだわからない。
正直僕も困惑しているんだ。
確かに世界の敵の気配はする、僕が出て来てるとはそういうことだからね」

黒い筒のような帽子を、かぶり直しながら続ける。

「だが、妙なんだ」

「妙って?」

お前みたいな妙な存在の極みが何を言っている、と少しだけ思ったが口には出さない。

「佐天涙子、確かに彼女は世界の敵だ……だが、同時に僕と同じようなものかもしれない」

「お前と同じ……?
自動的な存在で、世界の敵の敵って事か?」

「それも違う、世界の敵の敵というわけでもないし……自動的でもない、どちらかというと限定的という印象だ」
270 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/17(火) 17:39:27.40 ID:wOzQ+wpIO

「……わけがわからん」

「僕もさ……僕が現れた原因と佐天涙子が世界の敵になってしまった原因は同じかもしれないという事さ」

そういうと、ブギーポップは空を見上げて言った。

「この街は世界の敵が隠れるのに良い街なんだろう……何より君がいる。
君の側にいれば……特殊な力は消えてしまうからね……」

まるで俺のすぐ近くに世界の敵がいるかのような口ぶりだった。

「おい、冗談やめろよ……」

「……すまないね」

「……もう一人は、誰かわからねぇのか?」

俺は、気を取り直しブギーポップに聞き返す。

「……あぁ、すまない」

「そっか……」

俺はきっと、このとき既に気づいてしまったんだ。
でも、それを認めたくなくて気づかないふりをしていたのかもしれない。

――ブギーポップは、既に世界の敵を殺す準備が整っている。

そりゃ、殺すために出て来たんだから始めから準備はできてたんだろうけど……もっとリアルに、どう殺すとかどこで殺すとかそういう殺す予定を立て終えてしまったとはっきり気づいてたんだろう。
271 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/17(火) 17:40:11.86 ID:wOzQ+wpIO

〜〜〜

「じゃあね」

その日、久しぶりに私は初春と笑った。
初春が作ってくれたご飯を食べて、二人でバカみたいな事で笑って……そんな、普通のひと時を楽しんだ。
そして、日付がそろそろ変わろうという頃、私は机に寄りかかり眠ってしまった初春に小さくそうつぶやきながら頬を撫でた。

「あーあ、楽しかった……もう、これで楽しいのは……最後」

部屋においてきた青髪さんからもらった紙袋が頭にチラついたが、それを必死に振り払った。
272 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/17(火) 17:40:50.90 ID:wOzQ+wpIO
ここまで

次は少し遅くなるかもしれませんが、また読んでください!
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/17(火) 18:33:00.25 ID:fjz1Sh3MP
乙乙

俺をチョコミントのアイス好きにしたあのキャラみたいに見逃されるのだろうか…
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県) [sage]:2012/07/17(火) 22:15:56.47 ID:UMAeXs9Go

先の展開が読めないな
275 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/18(水) 16:05:52.13 ID:D0qRDZiIO
一個ミスというか、紛らわしい書き方しちゃったから補足的な
>>271は【7/15】じゃなくて【7/12】の佐天さんがういはるーに会いに行った時の続きです
混乱する人がいるとあれなので一応ね
自分で読んでて「あん?」ってなったし

>>273-4
俺が書いてるから先の展開を俺は当然知ってるわけで、そうなると書いてて
「あれ?これ普通に最後の展開みんなわかってんじゃね?だとしたらつまんなくね?」
って気分になるから展開読めないわって感じのレスは安心するww
同時にこの終わり方で納得してくれるか心配だが

次はもしかしたら今日来れるかもしれない

では、また次も読んでください
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/19(木) 01:21:18.73 ID:4pBxfz4DO
世良君相変わらず苦労人すなぁ
なんとなくオルフェで止まってたけどこれ読んで続刊買ってしまったわ
ありがとう>>1
277 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/19(木) 21:16:21.52 ID:MTJU0jW0o
>>276
おぉ、嬉しいな!
こちらこそなんかありがとう
こうして拙いSSでも書けばブギーポップ追いかけるのとめてしまった人を
動かす事が出来るなら書いて良かったと思える

でははじめます
278 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/19(木) 21:17:45.52 ID:MTJU0jW0o

〜〜〜

「……これで……折り返し地点、かァ」

真っ赤な液体が広がる路地裏の片隅で、真っ白な少年が一人立ち尽くしている。

夜空に浮かぶ月を見上げ、どこか悲しそうに目を細めた。

「あと一万匹か……遠いなァ」

その声は、消え入りそうで弱々しかった。
もしこの光景をフォルテッシモが見ていたら、一瞬で一方通行に興味を失うだろう。
その位、弱々しく情けなかった。

「だが……これはしょうがねェンだ……俺は、もう始めちまったンだから」

弱々しさが一瞬で消え去り強さと意志を再燃させたように、地面に広がる血液と同じ真紅の瞳を輝かせた。

「俺は、無敵になるンだ……」

――最強なンかじゃ足りねェ……それが、俺の役目なンだ……。

ざくざくと、音を立てながらその場を去る。
279 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/19(木) 21:18:55.39 ID:MTJU0jW0o

〜〜〜

真夏の明るすぎる太陽が、ジリジリと肌を焼く感覚に心底うんざりしながら、僕は一人ぼんやりとベンチに座り、流れる雲を数えていた。
数えた雲が三十を超えたあたりで、後ろからいきなり冷たい缶ジュースを首に当てられた。

「うわぁっ……なんやねん!誰やねん!」

純粋に驚き、そのあとすぐに怒りが湧いてきて後ろを振り返る。
そして、僕は目を疑った。

立っていたのは、佐天涙子だったのだ。

「えへへ、ごめんなさい」

可愛らしく笑いながら涙子ちゃんはジュースを差し出してきた。
反射的に受け取ってしまうが、言葉は出ない。

「な……え?なんでや?」

「……謝罪とお別れを言いに来ました」

言いながら、僕の横に腰掛けた。

「は?」

「この前は失礼な態度とってすみませんでした。
浴衣はちゃんとお返しするので彼女さんにでもあげてください」

涙子ちゃんは悲しそうに、でもどこかスッキリしたように笑っている。
その、奇妙な笑い顔は何故かとても美しく見えた。

「い、いや……あれは、涙子ちゃんに着て欲しいんやから、返さなくてええで?
というか、お別れってなんや?
この街出てくんか?なんでや?」

静かに首を振りながら、涙子ちゃんはまた、微笑む。
280 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/19(木) 21:20:38.69 ID:MTJU0jW0o

「いえ、そう言う話ではありませんよ。
でも、お別れなんです。
……青髪さん、私は……あなたの事が――好きです。
本当は、あの浴衣着て、青髪さんと花火見に行ったりとか……したいです。
でも、ダメなんです。それを望んだら」

「そんな……こと」

ない、と言いかけて何を言っても無駄だと悟った。
涙子ちゃんは諦めたのではない。
選択をしたのだ。
セブンスミストでぶつかった時のような、不安そうな表情ではない。
確固たる意志と覚悟を決め、受け入れた顔をしていた。

――あかん……駄目や……僕に、この子は止められへん……。

「青髪さん……先に謝っときますね。
すみません」

僕が、必死に言葉を探していると、涙子ちゃんは立ち上がり僕の正面に来た。

「さようなら」

僕の唇に彼女のそれが重なった。
そして、重なる寸前、そう言ったような気がした。
それは本当に一瞬の事だった。

一瞬だけ、僕の世界は止まったような気がする。
そして、その一瞬で僕は全てを理解した。

――あぁ、そうや……僕が、悪いんや。

走り去る涙子ちゃんの背中を見つめた。

「だから、言っただろう?
“世界の敵に気をつけろ”と……」

止まった世界が動き出した瞬間、背後からそう、声が聞こえた。

「あぁ、お前は……そうか、なるほどな。
多分、わかった。
お前が本当はめっちゃ良いやつなんやって事も、わかった」

僕は、もう小さくなってしまった涙子ちゃんの背中を追いかけるため、立ち上がり、そして走りだした。

――君は僕が守るって……言ったのになぁ……。

涙が出そうになった。
281 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/19(木) 21:22:19.66 ID:MTJU0jW0o

〜〜〜

「折り返し地点……ねぇ……。
おい、これが本当にこの街の第一位なのか?」

「知りませんよ……まぁ、御坂美琴よりは勝つのは難しいと思います。
ここの学生は能力が強大と言っても、戦い慣れていませんからね……」

――まるで御坂美琴になら問題なく勝てるみたいな言い方だな……。

だが、ビートがそういうならば問題なく勝ててしまうのかもしれない、と思った。
俺はピート・ビートの事は、かなり評価している。
他の合成人間が行わない「自分を磨く」という行為を、こいつは熱心に続け、そして統和機構にすら報告していない能力を持っているのだ。
現在、この街で俺と戦うに値するまで自己のレベルをあげ得る人間の中で一番を争う実力者なのは間違いないだろう。

――この街で今一番強いのは佐天涙子かな?
……いや、あいつはただ負けないだけで勝ちもしない……そういうやつは嫌いなんだが……何故だろうな、あいつの目の色には、敬意を払わねばならん、と思った。

「リィさん?」

「ん、あぁ……考え事だよ考え事……」
282 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/19(木) 21:23:09.23 ID:MTJU0jW0o

ビートはぼーっとした俺を見てまた何か攻撃を受けたのだろうと思ったのか、心配そうなめんどくさそうな目で俺をみていた。
それがなんだか面白く、俺は一方通行についての資料を机に投げながら笑った。
そして、それをみたビートは不気味なものをみたように顔をこわばらせたのだった。

「さ、て……お前はこれからどうすんだ?」

「とりあえず佐天涙子についての情報をまとめて一度報告をしようかと思ってます。
その後は次の命令次第ですね」

「それ、俺の戦いが終わるまで報告しなくていいぞ」

「は?」

「だって、それ報告したら当然俺たちは外に連れ戻されるわけだろ?
そうしたら俺は一方通行と戦えねぇじゃねぇか」

「あんたねぇ……はぁ、もういいよ。
了解です、了解」

お前は任務をしっかりこなせと言ったくせに、とでも思っているようだ。

「……事情ってのはコロコロ変わるんだよ」

俺はそんなビートが面白く、ニヤニヤとしながらそう、応えた。

「コロコロ変わるのはあんただろ!」

ビートはムッとした顔で、そう吐き捨てて行った。
283 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/19(木) 21:24:27.39 ID:MTJU0jW0o

〜〜〜

【7/16】

「なん、だこれ……」

とある路地裏を私は歩いていた。
日は既に沈み、ネオンライトの明かりが怪しく光っている。
明かりを受けて光っているものは……血液だった。
そして、そこに既にこと切れて倒れているのは、私の友人――御坂美琴――だった。

「え?……なんで?
なんでよ!」

――ブギーポップの仕業?
でも、なんで御坂さんが?

友人の死ということもあるかもしれないが、殺される覚悟、殺す覚悟が鈍るのを感じる。

――私も……こうやって、死ぬのかな?
いや、私はいい……初春やみんなに迷惑かけたし……でも、御坂さんは……。

「おや?何故ここに、一般人がいるのでしょうか?とミサカは不思議に思います」

「え?」

わけがわからなく、立ち尽くしていると後ろからそう、声がした。

「実験の関係者かでは……ありませんよね?とミサカは黒髪の少女に尋ねます」

「実、験……?」

「やはり、違いますね……イレギュラー発生です。とミサカは他の個体に呼びかけます」
284 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/19(木) 21:25:05.16 ID:MTJU0jW0o

「ちょ、まって……え?
だってこれ……え?御坂、さん?」

「お姉様の知り合いですか。
……ならば、少しくらい良いでしょう。
ミサカは御坂美琴のクローンです。
こうやって、殺されるのがミサカ達の目的ですので、どうかご理解を、とミサカは混乱し切った黒髪の少女に懇切丁寧に説明します」

その、御坂さんは頭にごいつゴーグルをかけており、表情はない。
そして、声もどこか生気を感じさせなかった。

「――ッ!」

背後にも何者かの存在を感じ、振り返ると……そこには、数人の御坂さんがいた。

「な、によこれ……白井さんいたら、発狂するんじゃ、ない?」

余りにも理解を超えた光景に、思わずふざけたセリフが飛び出た。

「……なによ、これ」

もう一度つぶやくと、恐怖が私の心を支配した。

――逃げ、よう……。

もう追わないと決めた希望に縋る。
街の優しいネオンライトのように、暖かな光を放つガラス玉を必死に追いかけた。
285 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/19(木) 21:25:31.96 ID:MTJU0jW0o

〜〜〜

「おっす、青ピ」

「ん?あぁ、カミやんかいな……おはよーさん」

その日の青ピはどこかおとなしく、しかし元気がないという印象は受けない不思議な空気をまとっていた。

――なんだ?恋でもしたのか?

いつになく真っ直ぐな眼差しで雲を見つめる青ピに、俺はなんとなくそう思った。
286 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/19(木) 21:26:05.48 ID:MTJU0jW0o

〜〜〜

――あかん、涙子ちゃんは逃げるのうま過ぎやわ……。

追いかけたが、全く追いつけそうになく何時の間にか振り切られていた事を思い出す。

――世界の敵……ね。

そして、ブギーポップの言葉も思い出す。

本当ならばこうして授業を受けるために学校にきている場合ではないのだろう。
しかし、僕にはなにをどうして良いかわからなかった。

――あかん、希望を持たな……あかん。

暗くなりそうだった思考を止めた。

「おっす、青ピ」

カミやんから話しかけられたが、適当に受け流す。

――色々ヒントはあったんや……けど、今の今まで気づかんかった。

やっぱり、僕はダメな奴だと、心底思った。
287 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/19(木) 21:26:50.79 ID:MTJU0jW0o

〜〜〜

常盤台中学校寮の一室。
御坂美琴は、テーブルライトのみを付け、資料を読んでいた。
その資料を持つ手は怒りで震えている。

「なによ……これ」

そこには信じられない実験内容が記載されていた。

「レベル5第三位のクローンを二万体使い、第一位一方通行をレベル6へと進化、させる?」

知らない間に自分のクローンが作られていた。
それだけでも、気味が悪いのに、それが――自分と同じ顔をした、クローンとはつまりそういう事だろう――二万人もいて、さらに今も殺され続けている。

とてもじゃないが、信じられなかったし、信じたくなかったはずだ。

「一方、通行……」

次の実験の日は、三日後だ。

御坂は、怒りに燃えた目で、カレンダーを睨みつけた。

その怒りは、誰に対するどんなものなのかは、御坂にしか、わからない。
288 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/19(木) 21:27:31.41 ID:MTJU0jW0o

〜〜〜

「御坂美琴……おまえには一方通行を強くする為に死んで貰うぞ……もし……もしも、お前の方が生き残ったら、俺と戦ってもらうぜ?」

楽しくて仕方がなかった。
最初はこの実験のことを御坂に教えてやる気なんかなくって、むしろ邪魔をしにくる御坂が絶対に気づかないように隠蔽に手を貸してやってもいいと思っていたくらいだ。

しかし、俺のその考えは変わった。
コロコロ変わるのはあんただろ!という先ほど別れたばかりのビートの顔が思い浮かぶ。

――だがな、ビートよ……実は俺はなにひとつ変わってないぜ?
俺の目的はお前も知ってるだろ?
“強い奴と戦う”ただ、それだけだ。

笑いを堪えなく、ニヤニヤとしていたと思う。

「御坂が死んだら、一方通行は強くなるかもしんねぇ。
一方通行が死んだら、御坂美琴は隠し技があるってことだ。
そして――」

――何よりも御坂がピンチになったら、佐天涙子とやらも動くだろう。

一方通行と戦えればそれでいいと思ってこの街にきたが、今や一方通行などは極端な話をしてしまえばどうでもよく、それ以上に佐天涙子の強さに興味を持ってしまった。

「……なにが起きるかわからねぇな」

最強を自負し、強い奴と戦いたいと思っている自分が、一番戦いたいと思っているのがこの街では最底辺の存在だという事が、俺の悪魔のような微笑みを加速させた。
289 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/19(木) 21:28:20.08 ID:MTJU0jW0o

〜〜〜

【8/8】

「とうまー?」

インデックスが、日記を読みふける俺を、珍しそうに覗き込む。

「なに読んでるの?」

何故か、インデックスには見られてはいけないような気がして、俺は日記を隠した。

「覗くな!
これは上条さんのプライベートな日記帳です!」

「日記?
とうまが?本当ぉ?」

そこは、自分でも疑いたくなるところだったので言葉に詰まる。

「わ、悪いかよ!
俺だって日記くらいつけるよ……」

「そんな可愛い日記帳で?」

これも、インデックスに同意だ。
宮下藤花って人が選んだからなのだろう。

――ごめんな、藤花ちゃん……俺はあんたの事また忘れちまったよ。

でも、俺が宮下藤花とブギーポップに会う事は二度とないと思った。

俺が、世界の敵にでもならない限りは……。

「……ブギーポップは、誰と戦って誰を――殺したのかな?」

インデックスに聞こえぬように、そうつぶやいた。
290 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/19(木) 21:32:43.54 ID:MTJU0jW0o
ここまで

そろそろ終わりが見えてきましたね
途中で一方通行vsフォルテッシモは本編終わって外伝的な扱いにしようかなと思ったけどやっぱ本編に突っ込みました
291 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/22(日) 14:14:58.33 ID:Y3Mjd6XFo

〜〜〜

【7/18】

「……」

「お姉さま?どうされました?」

「……いや、なんでもないわよ!」

明るくいつも通り振舞おうとすればするほど、わざとらしく不自然になるということはわかっている。
そして、そういう態度をとると黒子が心配そうにうつむくのも知っている。

普段、何かあったら頼りなさい、などと偉そうなことを言っているくせに、自分に何かあった時この後輩だけは守らなくてはならない、この街の暗い部分に関わらせてはいけないと思ってしまうのは間違いなのだろうか。

「ですが……顔色が悪いですの」

心配そうに、私の顔を覗き込む。

「だーから、大丈夫だって……暑いからそのせいかな?
それか、あのリィとかいうやつに負けたのが悔しいのかも……」

嘘をつく時、本当のことを混ぜればばれにくいと何かで読んだ気がする。
これでごまかされてくれたらいいなと思った。

「そう、ですか……」

一応の納得はしてくれたようだ。

――今なら、初春さんの言ってたことがわかるかもしれない。
世界なんかより、大切なこの子だけは、巻き込んじゃいけない……。

一方通行を倒せればそれでいいが、恐らくそれは不可能だ。
だったらどうすればいいか……。

答えはもう出ている。
292 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/22(日) 14:15:47.42 ID:Y3Mjd6XFo

〜〜〜

「……御坂さんに合わなくちゃ」

人間は脆い。
希望と絶望のバランスを調整してやれば、私のいうことを聞くロボットを作ることなんて簡単だった。
悪いと思いつつも、私は研究者を片っ端から、操作して「クローンを使った実験」について調査した。
調査し終えたあとは、利用してしまったそれぞれの人たちが一番ベストな状態に調整し直したから、これでおあいこということでいいだろう。

そして、その調べてもらった実験内容はひどいものだった。

まず、御坂さんを騙したのか、たまたまなのかはわからぬが御坂さんのDNAマップを入手。
それは御坂さんがまだレベル5になる前の頃だった。
もしも騙したとしたら、この街にはレベル5になり得そうな人を見分ける技術があることになる。
そんな話は聞いたことがないので、たまたまだとは思うが……。

そして、実験の被験者、それはこの街で御坂さんの上に立つただ二人の存在のうち一人、第一位であった。
293 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/22(日) 14:16:38.26 ID:Y3Mjd6XFo

「きっと、御坂さんはこの事をそのうち知ってしまう。
そうなったら……例え知らずの内に作られたクローンでも、御坂さんは受け入れると思う。
そして、そのクローン達を助けるために実験を止めようとすると思う。
その時、私がまだ生きてる保証はない……。
だから、ブギーポップが見逃してくれている今の内に……御坂さんを、助けなきゃ」

第一位なら無力化できる。
私にはその絶対の自信があった。

勝てはしないが負けもない。
私のはそんな能力だが、もしもこれを戦いで使うとしたらその本質は相手に戦いを放棄させる事だと思う。

「ごめんね、初春」

それを、知らずの内に使ってしまった親友に謝る。

――人間は、絶望過多になると……死を選ぶ。
人によってキャパシティは違うかもしれないけれど……私が今まで必死に集めたこれを全部使えば、死なない人なんて……いない。

それは、途轍もないキャパシティを持つと思われるブギーポップを倒せるかもしれない唯一の希望だ。
だが、御坂さんを、友人を救えたならば、無抵抗でブギーポップに殺されるのも悪くない気がする。

――なんで今ブギーポップが私を見逃してるのかはわからないけれど……頼むから、あと一日待って。

制服を着用し、髪をまとめる。
そして、携帯電話は机の上においたまま私は家を出た。

――今の私の希望は“御坂さんのいるところ”

そう、念じると、道にパァっと灯りがともった。

――よし、行こう……。



だが、その日私が御坂さんに会う事はなかった。
その代わり……。
294 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/22(日) 14:17:57.66 ID:Y3Mjd6XFo

〜〜〜

「どうも……やはりこの街は嫌いだね」

少しだけ顔をしかめたように、俺には見えた。

「なんでだよ」

「佐天涙子」

「また、そいつかよ……で?」

「なんだい?」

「殺す、んだろ?」

「あぁ……それが僕という存在だからね。
……今回の世界の敵……この二人はお互いがお互いに影響を受けて世界の敵になってしまったようだが、二人が近くにいた事によって、僕の存在が不安定になるくらいの異常事態を起こしている。
そうだね……クラクションズと名付けよう」

「クラクション?」

「世界の敵になってしまった二人は、お互いに警笛を鳴らし続け、自分の存在をアピールしていたのさ……無意識にね。
そして、それがこの街に絶望を呼んだ」

ブギーポップは、それだけいうと、またさっさと何処かへ消えた。

――それってつまり……二人は似た能力って事だよな?
全く同じなら、ブギーポップは混乱する事はないと思うし……。

無い知恵を絞り、考える。

――もしかしたら、この二人の能力……多分、表面的には同じなんだろう、でもそれらの本質は相反するものなんじゃないか?
相反する、つまり、二人の能力の本質がほぼ同時に出てしまった時、その能力を打ち消しあって世界の敵ではなくなる……だから、あいつは不安定にならざるを得ない。

「だとしたら……救えるぞ」

――二人に能力をしっかり自覚してもらい、その本質を無意識に理解してもらえれば……二人とも世界の敵じゃなくなるんだ。

「……よし、佐天涙子って子を探すか」

まずは名前のわかっている子から……その子と話をしてみようと思った。
295 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/22(日) 14:18:59.94 ID:Y3Mjd6XFo

〜〜〜

「佐天涙子、御坂美琴対一方通行、そしてその勝者対フォルテッシモ……か」

御坂に届いた封筒を用意したのは俺だった。
それが一方通行の行っている御坂美琴のクローン虐殺実験だと聞いた瞬間、俺はこいつのやろうとしている事に気がついた。

「本当、自分勝手な野郎だな……。
まぁ、俺は巻き込まれちゃいないしいっか……」

本当にいいのか? と誰かに問いかけられたような気がする。

――御坂美琴、あいつは死ぬだろうな。

カエルのマスコットを嬉しそうに眺める御坂の横顔を思い出す。

――フォルテッシモが強い奴と戦うために殺されるのか……。

御坂美琴が一方通行に勝てる訳はなかった。
もしも佐天涙子の助力を受けて勝ったとしても、フォルテッシモは御坂を殺すだろう。

――それも、かなり身勝手な理由でな。

『なんでお前は佐天涙子と俺が戦ってるスキをついてこない?
お前今、俺を倒せるチャンスを何回無駄にしたと思ってんだ?』

そんな事を言いながら、御坂美琴を殺すフォルテッシモが想像できた。

――チッ……上条の病気がうつったか?

ほぼ上条とは接してないが、彼の性格がうつったとしか思えない思考回路だった。

――御坂美琴を、殺させない。
無駄に人が死ぬのは……なんか好きじゃないんだよ。

それはつまり、フォルテッシモに逆らうという事である。

だけど、佐天涙子はフォルテッシモから逃げ切った。
フォルテッシモのスキを全て見抜き、そこをついて逃げたという事だ。

つまり、奴と佐天涙子の戦いで佐天涙子が逃げに転じた時、奴にはスキが出来るという事だ。

――それは、俺にも奴を倒せるチャンスがあるって事だ。

いいかげんフォルテッシモのわがままに付き合うのもうんざりだし、そのチャンスを狙うのもありかもしれない。

そう、思った。
296 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/22(日) 14:19:41.38 ID:Y3Mjd6XFo

〜〜〜

――ふん、ビートの奴も参戦してくるかな?

絶対能力者進化実験の資料を集め、それを御坂美琴に届けて来いと指示を出した時のビートの顔を思い出す。

納得いかないような、どこか不機嫌そうなそんな表情を奴はしていた。

「まぁ、御坂美琴が一方通行に勝つ事はない。
安心しろよ、ピート・ビート。
お前が俺と戦うのはまだ先の話だ」

周りの空間を断絶し、ビートに自分の気配を感じさせなくして、俺は何かを決めたように立ち上がったビートにそう、呟いた。

「……もう一個、明日になりゃこんなわけわからん街ともおさらば出来る。
そっちも安心しな」

俺の中でピート・ビートの株はまた少し上がった。
なんせ、たかが合成人間、それも戦闘用ではなく探査能力に長けた合成人間が、この俺を本気で「倒せそうなら倒してやる」と思っているのだ。
その、思考こそが、強くなる者の思考だ。

――やる前から格上だと諦める奴はゴミだからな。
まぁ、どんなやつが来ようが……俺に勝てるやつなんざいるわけねぇけどよ。

しかし、俺はそのピート・ビートの努力を無駄なものだと笑ったりはしない。
その、折れない精神力は敬意を払うべきものだと理解しているからだ。
297 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/22(日) 14:20:10.66 ID:Y3Mjd6XFo

〜〜〜

「学校に来てるわけ……ないか」

その日、学校を抜け出し、僕は涙子ちゃんの通う柵川中学校の校門前に立っていた。

学校から解放され、次々と門から出て行く中学生の中に涙子ちゃんの姿を探すが、いつまで立っても現れなかった。

そして、一時間と少し経ち、校門へ向かってくる生徒もまばらになった頃、頭に派手な花飾りをつけた少女に声をかけられた。

「風紀委員です。
失礼ですが、柵川中学校に何かようですか?」

――ちっ……めんどいなぁ……いや、まてよ……。

「あー、別に怪しい者と違いますよ?
僕ぁ、友達をまっとるんや。佐天涙子ていう子なんやけど……しらん?」

小柄で一学期を終え、やっと中学校にも慣れて来た、というような雰囲気からこの子は一年生なのだろうと推測し、一年生ならば涙子ちゃんの事も知っているかと聞いてみる。

「……佐天さんの、友達?」

「お、知ってるんか」

心の中で小さくガッツポーズをする。

「えぇ、まぁ……親友ですから。
でも彼女なら、学校にはしばらく……いえ、夏休み明けまで来ませんよ」

「やっぱ……そうか」

「えぇ、でも、必ず帰って来ます」

その子は自信満々にそう言ったが、僕には、そうは思えんかった。
298 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/22(日) 14:21:17.37 ID:Y3Mjd6XFo

〜〜〜

【7/19】

黒子が眠りについたのを確認すると、音をたてないように慎重に部屋を出た。
寮監に見つかるとめんどくさいので、そこも気をつける。
そしてなんとか、無事に寮を出る事に成功した。
振り返り、寮を見上げる。

――バイバイ、黒子。

心の中でパートナーに別れを告げ、迷いが出る前に逃げるように走り出した。

目指すは今日の実験場。
第一七学区の操車場だ。

――この鉄橋を渡ったらもうすぐだ。

夜とはいえ、夏だ。
ここまで全速力で走ってきたので汗がべたつく。

そして、鉄橋のちょうど中央に差し掛かった時、誰かが立っているのに気づいた。

「よ!」

「あんた……なにしてんのよ」

「それはこっちのセリフだぜ?
女子中学生がこんな時間にふらついてちゃだめだろ?」

そいつは、世良稔は前にあった時とは違い、ギラついた目をしていた。

「で?どこ行くんだ?」

世良さんは足でリズムをとるように、鉄橋をコツコツと叩いている。

「関係、ないでしょ」

「……そうかよ」

タン、と一際大きく足をおろした。
その瞬間、私の体から自由は奪われ、声すら出せなくなった。

――な、何よこれ……クッソ、こんな事してる暇は無い、のに……。

頭だけは動くので、能力を使ってみるが、思うように制御出来ない。

「無駄だ……おとなしくしてろ」

世良さんは、もうすでに私に背を向けて歩き始めている。

「そうですよ」

そして、私の後ろから、そう声がした。

――さ、佐天、さん?

「大丈夫ですよ、御坂さん……一方通行でも、リィとかいうやつでも……私は負けませんし、世良さんがいたらもっと楽に戦えますし」

スッキリとしたような綺麗な笑顔でそういうと、佐天涙子はさっさと歩いて行き、世良さんの横に並んだ。
299 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/22(日) 14:21:55.30 ID:Y3Mjd6XFo
ここまで

次もまた読んでください
少し忙しくなりそうなので次回は未定ですがなるべく早く来ます
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/22(日) 16:21:55.37 ID:dx3EYawDO
乙、共闘かー楽しみ
無理せず書いてください
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/22(日) 18:38:32.11 ID:Ww/BKsIA0
クライマックスみたいだし時間かかってもいいのでしっかり書いてください
共闘組ならこの時点の一方通行には勝てそうではあるが、ffや上条、青ピの動きもあるし続きが気になります
302 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/23(月) 23:41:55.80 ID:ZXx+0VIBo
遅くなる遅くなる詐欺

なんか、忙しくなるから投下送れる気がします!とかいった手前投下するの恥ずかしいけど投下します
303 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/23(月) 23:43:30.31 ID:ZXx+0VIBo

〜〜〜

「佐天涙子、だな?」

御坂さんを鉄橋で止める前の日、御坂さんへと会いに行こうと走っていると色黒の男に声をかけられた。

「あんた……誰?」

「世良……いやピート・ビートと名乗っておこう。
お前、この街の能力ではない能力を、持ってるな?」

ぎくり、とした。
私の能力を知っていて、なおかつこの街の能力ではない能力と言った。
つまり、こいつも私と似た能力を持っているということだ。

「……あの、紫のチャイナドレスみたいにピッタリした服着た趣味悪いやつの仲間?」

「……まぁ、仲間といえば仲間だが……今は違う。
俺はあの人に少し反抗しようと思ってな」

趣味の悪いやつ、それがツボに入ったのか、ピート・ビートは必死に笑を堪えていた。

「とりあえず、今一方通行と戦ってもお前は殺されるぜ?」

「一方通行?
そんなやつに私が負けるわけないでしょ」

――勝つこともないけどね。

「一方通行に、じゃない……フォルテッシモに、だ。
あいつは一方通行とお前ら、戦って勝ったほうと戦うつもりだ」

「……フォルテッシモとかいうやつにも、私は負けない」

「負けないだけ、だろ?
勝てるわけじゃない」

「……どうしてそう、言える?」

自信満々にそうにピート・ビートはそう、言い切った。
そして、それは当たっている。
私は、勝つ事は出来ないのだ。
304 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/23(月) 23:44:51.41 ID:ZXx+0VIBo

「お前はやつから逃げ切った。
つまり、やつの攻撃をよける術を持っている。
それはやつのスキを突けるということだ、にも関わらずお前は攻撃せずに逃げた。
お前の能力は、攻撃用ではないということだ、だろ?」

「……」

全て言い当てられ、言葉に詰まった。

「まぁ、落ち着けよ」

焦る私に、ピート・ビートはため息をつきながら、両手をあげる。
まるで戦う意思はない、とでもいうように。

「言ったろ?
俺はあの人に少し反抗しようと思ってる、と。
あんたがあいつのスキを俺に教えてくれりゃ、あいつは俺が倒す」

「……手を組め、ってこと?」

ピート・ビートは頷いた。

「いい加減俺もあいつのわがままにはうんざりでな。
ま、この件が終わったら俺はお前の敵になる可能性もあるが……やつから逃げ切ったお前なら、俺くらい問題じゃないだろ?」

嘘をついている様子はなかった。
彼から溢れる希望と絶望も、調和が取れている。

「……わかった。
フォルテッシモは、攻撃して来た時、スキが生まれる。
でも、それは一瞬、あいつが攻撃を発動させる動作に入った時に、こっちが動いてなきゃ間に合わない」

ピート・ビートが嘘をつかずに、私の敵に回る可能性まで話したように、私も私が持つ情報を全てビートに伝えた。

「……よし、一方通行はお前が一人で倒せ」

ピート・ビートはニヤリとしながら、そういった。
305 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/23(月) 23:45:25.64 ID:ZXx+0VIBo

〜〜〜

わかっていたんだ。
ブギーポップの「すまない」の意味も、あの時、既に……。

「やぁ、どないしたん?」

「やっぱさ……名前しか知らない佐天涙子を探すより……名前も顔も、連絡先も知ってるお前から当たった方がいいと思ってさ」

御坂と佐天涙子と世良稔が鉄橋でなんやかんややっている時、俺は青髪ピアスを呼び出していた。

「佐天……涙子?
カミやん、お前も、涙子ちゃんと知り合いなんか?」

「言ったろ?名前しか知らないって」

「ブギーポップ、か……」

やっぱり、というような顔で青髪はつぶやいた。

「あぁ、あいつはさ、死神なんかじゃない。
世界に危機が訪れた時、自動的に現れる世界の敵の敵だ。
これ、どういう意味か、わかるよな?」

「はは……やっぱり……涙子ちゃんが、ブギーポップの狙いなんか」

「……お前……まさか、気づいてないのか?」

「は?
何に、や?」

「……世界の敵なのは――お前もだ」


「は?」

青髪は本気で驚いたように、目を見開いた。
306 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/23(月) 23:46:20.17 ID:ZXx+0VIBo

〜〜〜

世界の敵なのはお前もだ。

親友の口からとんでもない言葉が飛び出た。

――僕が、世界の敵?

「うっそ、やん……ただ、僕と涙子ちゃんには似たような力があって……涙子ちゃんのが、強すぎた。
似たような力の持ち主の僕と関わったことで、おたがい共鳴して……強くなりすぎた、と違うんか?」

ならばなぜ、ブギーポップはあの時僕を見逃したのだろうか。

わからん。

考えても、わからん。

「くっ……」

「あ、待て!」

僕は、カミやんから逃げ出した。

僕が殺されたりなんかそんなんはどうでもいい。

ただ、涙子ちゃんだけは……今度こそ守らなあかん。

僕のせいで、あの子はブギーポップに狙われる羽目になった、それは間違いない。
でも、僕も涙子ちゃんと同じ世界の敵ならば……僕にも、ブギーポップと戦える力があるということや……。

――はっ……涙子ちゃんを世界の敵にしてもうて、自分にはブギーポップと戦う力がないと諦めてたけど……そんな必要なかったんやな。

自分が世界の敵というショックよりも、涙子ちゃんを守れるかもしれないという喜びの方が何倍も大きかった。
307 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/23(月) 23:47:39.28 ID:ZXx+0VIBo

〜〜〜

「では、世良さん……頼みましたよ」

「……任せろ」

打ち合わせ通り、実験を行うために突っ立っている御坂さんのクローンへ、私は近寄った。

「やぁ」

「……何故、ここにいるのですか?
もう実験の始まる時間です、一方通行に見つかる前に速やかに立ち去ってください、とミサカは突如現れた佐天涙子に忠告します」

「御坂さ……違うな……妹さん?でいいや。
まぁ、とりあえずさ、それって私のこと心配してくれてるわけでしょ?
実験の資料読んだよ、ミサカ妹達は感情を持たない、って書いてあった。
けど、それ嘘だよね?
だって……今ここにいる私をあなたは心配してくれた。
本当は、怖いんでしょ?」

「……答える必要はありません。とミサカはゴーグルを装着し、戦闘準備に入ります」

「あァン?
なァンで関係ねェやつがここにいやがンだァ?」

妹さんが向いた先には、頭の先からつま先まで真っ白で唯一色を持つ真っ赤な瞳をギラつかせた男が立っていた。

「あんたが、一方通行?」

なんて、白いんだろう。
そして、なんて絶望を抱えているのだろう、と思った。

「だったらァ?」

「あんたを、止める。
流石に、無能力者の私があんたを止めることができたら……この実験、中止になるよね?」

挑発するように、そう言った瞬間、目の前に絶望が迫っていた。

「――ッ!」

妹さんごと、地面に転がりそれを回避する。
回避した、というよりも転んだ、の方が近い様だった。

そして、起き上がろうとした時、また絶望が眼前へと立ちふさがる。
308 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/23(月) 23:48:29.14 ID:ZXx+0VIBo

――やっば……。

降ってくるのはただの石ころだが、それは一方通行の能力を受け、弾丸よりも殺傷力を持っている。

――だけど……あった。

一箇所だけ、希望の光が灯る地点を見つけ、そこに妹さんを押し込む。

「あ……」

「大丈夫、あなたは生きられるよ!
御坂さんも、あなた達を受け入れてくれるし、初春って風紀委員と白井さんって風紀委員も絶対友達になってくれるから」

押し込みながらそういうと、私は絶望の降り注ぐなかを、微かな希望を頼りに走り抜けた。

かすったりなど、軽傷は負ったが致命傷はない。
妹さんのいたところは、唯一綺麗に石がよけていた。

そのまま一方通行へ向かって行き、ストックしていた絶望を少しだけぶつける。
だが、一方通行に目立った変化はなかった。

――この人……。

「ヒャハ……ぎゃはっ……」

一方通行は不気味な笑い声をあげると、思い切り地面を踏みしめた。

――くっ……そ。

一方通行が足をあげた瞬間、周りから暖かな光が一瞬で消え失せ、真っ黒な闇に変わる。

――あと、二メートルッ……!

今まであった光が消え、そのあと一番輝きを増した地点を目指した。

思い切り、ジャンプし、なんとか回避に成功するが、私が転がっている間に、一方通行は既に私に向かって――跳んだ。

「クッソ……」

溜め込んだ黄金色のガラス玉を、三分の一ほど割った。

――よし、これでなんとか……。

跳んで来たそのままの勢いで拳を突き出した一方通行に対して、頭を抱えるようにガードする。

そのままぶん殴られ、折れたかと思うくらいの衝撃が腕に走るが、痛いだけである。
309 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/23(月) 23:52:32.93 ID:ZXx+0VIBo

――はは、絶対に負けない能力……クィーンとでも名付けようかな……伝説のチャンピオンって感じ?

そんな、馬鹿げた事を考える余裕すらあった。

――ただ……この人……。

ハッキリと接近されて、疑問は確信へと変わった。

――やっぱり……絶望しか、持ってない……。
とっくにキャパシティなんか超えてる……なのに、なんで?

一方通行から溢れ出てくるものは、真っ黒な暗闇だけだった。

――この先も何も変わらない、何も得るものがないってわかってて、それでも……生きてるっての?

この人に、ストックした残りの全ての希望を植え付けたらどうなるんだろう、そんな疑問が湧いた……。

だが、それ試す間もなく……世良さんが一方通行を襲う。

「なンだァ……?
お前……なにしやがった」

「教えるわけねーだろ。
教えたら……お前なら破れちまうと思うし」

少しだけ離れたコンテナの上から、世良さんは一方通行を見下ろすような形でそう言った。

――一人で戦えって言われた時はびっくりしたけど……。
まぁ、いい……さぁ、こい、フォルテッシモ!

妹さんが、まん丸な目で私たち三人を見つめていたのが、なんだかおかしかった。
310 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/23(月) 23:53:10.87 ID:ZXx+0VIBo

〜〜〜

――よし、まだ気づかれちゃいないな……。
あいつは反射の設定を〈自分に害なもの〉にしてるからな……俺のぶつける鼓動は、音じゃあない、律動だ。

佐天涙子が時間を稼いでいる間、呼吸から、一方通行の鼓動を探る。

そして、それをずらすリズムを刻んだ。

――よし……これで、一方通行は封じた。

「教えるわけねーだろ。
教えちまったら……破られちまうしな」

コンテナの上から、一方通行を見下ろしながら、いう。

――さぁ、舞台は整った……。
来いよ……フォルテッシモ……最高にあんたを楽しませてやる……。

最も恐ろしい男に、無謀にも思える喧嘩をふっかけているのに、何故か不安はなく、心踊った。
311 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/23(月) 23:53:52.70 ID:ZXx+0VIBo

〜〜〜

「はぁっ……はぁ……クッソ……僕と涙子ちゃんは同じやないんか?
クッソ……なんで、僕には涙子ちゃんがどこにいるかわからへんねん!」

カミやんから逃げ出し、走り回っていたが、涙子ちゃんを見つけることは叶わず、イラつきをぶつけるために月に向かって吠える。

――まてまてまて……落ち着けや。
同じ時に覚醒しても、それを自覚したんは涙子ちゃんのが全然先や……。

「考えろや……考えろ……」

僕には、絶望が真っ黒なガラス玉の形で目に見える。
前兆はあったはずなんに、全く気づかんかった。

急に何かが足りないと感じたこと。

――あるはずのものがなくなってて、ないはずのものがある感覚……。

あるはずの絶望が消えて、ないはずの希望が転がっていた。

――まぁ、それも……絶望だけが消えたからどっかから流入して来ただけやけどな……。

「……そ、うか……あの、先輩の……自殺も、僕のせい……な、んか……」

考えることで、信じたくない事実に目が向いた。

「そうか……あの子と共鳴して覚醒したんやない……僕が絶望を巻き散らかしたから、あの子は目覚めてしまったんか……」

もう、わけがわからなかった。

「は、はははは……ダメやん……僕ぁ、誰も、守れやん……もう、だめや」

涙子ちゃんがくれた希望が、溶けるように小さくなるのを感じた……。

「……この、絶望を……追っていけば」

禍々しく光を放つ黒いガラス玉を見つめ、そちらの方へ一歩足を進めた。

「最も絶望的な最期を迎えられる……僕ぁそれでええ……僕が死んだら……それで、涙子ちゃんを守れるかもしれやん」

まとまらず、ごちゃごちゃした訳のわからぬ考えのまま、僕は足を動かした。
312 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/23(月) 23:59:09.22 ID:ZXx+0VIBo

〜〜〜

「学園都市第一位もたいしたことねーな」

そいつが現れた。

「まぁ、お前の作戦通りって感じか?ピート・ビートよ」

「まぁ、そうですね。
あんたにも、楽しんでもらえると思いますよ」

世良さんは、挑発するように不敵に笑った。

「……俺はお前のそういうところが気に入ってんだ。
今の時点のお前の力で、俺を倒せるチャンスはここ……佐天涙子と共闘した場合だけだ」

いいながら、私を睨みつけるように見たが、口元は笑っていた。

「そのチャンスを、ビビらずに生かそうとするお前は……やっぱり、俺の相手になりうる存在だったってわけさ」

「……ただ、あんたのわがままに嫌気がさしたから一発ぶん殴りたいだけですよ。
一応いま俺とあんたは組んでる形だからな、本気であんたと戦ったら統和機構は必ず俺を消しにくる。
まだ俺は消されたくはないんでね」

「御託はいい……トーワキコウだか公共広告機構だかなんだか知らないけど……さっさと始めよう……。
あんたを倒しちゃえば、もう、私の役目は終わりだ」

本当ならば、一方通行を止めた時点で、御坂さんへの危機は一応回避された。
このフォルテッシモとの戦いは、裏ボスのようなものだ。
勝っても意味はないけれど、負けたらそこで全てが潰える。

――ま、勝ってもそのあとブギーポップがくるんだけどね。

一方通行を封じた瞬間から感じる背中がぞわぞわとするこの感覚は、間違いなくブギーポップが近くにいる証だ。

――今日が私最期の日、か……。

ピアノを街の真ん中で優しく叩いたような、そんなかき消されてしまいそうな、そんな優しいネオンの光が、私の心を慰めた。
313 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/23(月) 23:59:38.23 ID:ZXx+0VIBo
ここまで

また次も読んでください
314 :tampotake :2012/07/24(火) 00:09:01.59 ID:D0s3J6q20
乙です!!
ここでいちばんたのしみ!
いよいよクライマックスですが楽しみに待ってます!
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/24(火) 01:02:40.44 ID:Bif1l5fDO
乙!
予想より早く読めるとかご褒美です

佐天さん三連戦がHardモードというかチートな相手ばっかじゃないですかー
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/07/24(火) 13:58:19.79 ID:tuGazSq8o
一方通行→ff→ブギーポップ
ハード過ぎるw
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/24(火) 17:27:48.68 ID:gF0goagGP
→エイワス→虚空牙へと続く
318 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/25(水) 00:16:08.69 ID:i2WmSREfo
>>314
楽しんでくれてるなら嬉しいが、過度な期待はご用心だ!

>>315-6
仕事押し付けられる→なんか殺されそうになる→またなんか殺されそうになる→裏切り者認定される→殺されそうになる→仲間に裏切られる→殺されそうになる
ずっとこんな感じだったディシプリンのビートさんよりはましじゃね?

>>317
vs虚空牙の時の佐天さんは羽とか生えてそうだな

では、始めます
319 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/25(水) 00:17:49.20 ID:i2WmSREfo

〜〜〜

「――右に飛べぇえッ!」

くく、と嬉しそうに喉を鳴らすと、フォルテッシモは指をつい、と振る。

それとほぼ同時、いや同時だったら俺は今頃真っ二つになっているだろうから、佐天涙子はそれより早く指示を出したのだろう。
俺がその指示に従い思い切り右へと飛んだ瞬間、俺のいた空間が、弾けた。
その余波で起きた衝撃波に押され転がりながらもすぐに体勢を整えた。

「おいビートォ!さっさと切り札出さないと死んじまうぞぉおお」

珍しく、フォルテッシモが大声を上げた。

「この街をお前はずいぶん嫌ってるようだが……俺は感謝してるぜ?
なんせ、こんな楽しい事は久しぶりだからなぁ!」

フォルテッシモがまた、攻撃を繰り出そうとするが、それよりも早く、佐天涙子は動いていた。

「……チッ、おいおい、こんな石ころで俺が倒せると思ってんのか?」

佐天涙子の投げたその石ころは、フォルテッシモに届かず、何かに引っかかるように空中に止まっている。
そして、フォルテッシモがぴん、と指を弾くように動かすと、それは恐るべきスピードで佐天涙子の元へと返っていった。

「……あんたこそ、そんなチャチな力で私を負けさせる事が出来ると思ってんの?」

だが、佐天涙子はまたもフォルテッシモが動くよりも少しだけ早く動き、その石を余裕で回避する。
320 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/25(水) 00:18:35.14 ID:i2WmSREfo

「はっ、いいねぇ……」

フォルテッシモは嬉しそうに笑いながら、一瞬だけ、険しい顔つきをした。

――来るッ!

あいつの攻撃に対して防御は意味をなさない。
避けるか、死ぬか、だ。

フォルテッシモは地面を削りながら、超スピードで俺に突っ込んできた。
佐天涙子の指示を聞く余裕など無く、自身の勘と生存本能のみで俺はそれをなんとか避ける。

「クッソ……」

――まだ、だ……。

先ほどまで俺のいた場所は、えぐれ、大砲でも撃ち込んだかのような有様になっている。

身体を起こし、フォルテッシモの方へ向き直すと、佐天涙子が俺の方へと走ってくるのが横目に見えた。

「フォルテッシモ……あんたの、負けだ」

指を何回か振っていたが、そこから繰り出される防御不能の攻撃は、全てずれたように俺の後ろへと流れた。
その余波の衝撃波も、理屈など理解は出来ないが、相殺されたかのように、小さなものだった。

ひと呼吸おき、逃げながらもずっと準備していた“切り札”を発動させる。

「世良さん、もう希望のストックはほぼないです。
一発で、決めましょう」

「あぁ……」

息を切らしながら、俺のそばへ寄ってきた佐天涙子は、この状況を楽しむかのように笑っていた。
321 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/25(水) 00:19:20.00 ID:i2WmSREfo

「……」

フォルテッシモは不愉快そうに目を細めながら、ゆっくりとこちら側へ歩いてくる。

「それが、お前の……いや、お前達の切り札――」

いい終える前に、フォルテッシモへ突っ込む。
そして、右側に回り込みながら、転がる石ころをまとめてフォルテッシモへ蹴りつけた。
だが、その石ころ達は、先ほど佐天涙子が投げたものと同じように、何かに引っかかるように空中に止まると、次の瞬間には、俺めがけて飛んでくる。

しかし、俺は既にそこにはいない。
さらに回り込み、佐天涙子と俺でフォルテッシモを挟み撃ちに出来る位置へ来ていた。

――チッ……けど、あの野郎俺が石飛ばした時……既にこっち見てたぞ?

フォルテッシモの“絶対に油断出来ない”という特徴が成せる技だろう。
恐らく、自分の考えをもってこちらを向いたわけではない。
反射なのだ、身体が動いてから、ピート・ビートはこっちだ、と思考が追いつくようなものだと思う。

――そんなバケモノに……本当に勝てるのか?

フォルテッシモを最強たらしめる、その特性を目の当たりにし、今更不安を覚える。
322 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/25(水) 00:22:54.60 ID:i2WmSREfo

〜〜〜

『フォルテッシモは、攻撃と防御を同時には出来ないんだと思う。
たから、攻撃をした瞬間、一瞬だけあいつを倒すチャンスが生まれる。
けど……本当に一瞬だけですよ?』

操車場へ向かっている途中の世良さんとの会話を思い出す。

「もう、黄金色のビー玉はほとんどないや……。
これが世良さんにも見えてくれたら、もっと楽なんだけどな……」

フォルテッシモの素早い攻撃を、身体能力だけで避け切る世良さんを見ながら、私はつぶやく。

「もう……時間が無いね、でもそろそろ……」

『フォルテッシモの性格?
そんなの、気分屋で……あとはまぁ、単純なやつなのかもしれない』

じっと、フォルテッシモを観察しながら、そんな世良さんの言葉を思い出す。

――フォルテッシモには、何回かに分けて希望を植え付けた。
だから……ほら、来た。

「今です!」

――あんたの攻撃がわかる私がそばにいて、なおかつその声のスピードに合わせ攻撃できる身体能力を得た世良さんがいるにもかかわらず……スキの生まれる攻撃をしちゃうんだよ。

世良さんには、あの時初春を守ったように、キラキラ光る霧のようなものを、つけている。
これで攻撃を食らったとしても、死ぬ事はない。
323 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/25(水) 00:23:22.37 ID:i2WmSREfo

世良さんが、この私の話を疑わず信じてくれていた事をその態度で示す。
私が叫んだ瞬間、なんのためらいも無く世良さんはフォルテッモへと突撃した。
そして、指が振られ“フォルテッシモをぶん殴る”希望の道が出来た。

「うぉおおおおおおっ!」

世良さんは咆哮しながら、フォルテッシモの右頬に、拳を叩き込んだ。

フォルテッシモが、数メートル吹っ飛び、世良さんも体勢を崩し前のめりに転ぶ。

「はぁ……はぁっ……はぁ……約束、通り……一発で、勘……弁……してやりますよ……」

起き上がりながら、世良さんは息を切らしながら、そう言った。

そして……。

『フォルテッシモをぶん殴ったら、一方通行を解放してさっさと逃げるぞ』

『なんでですか?あいつを逃がしたら……』

『大丈夫だ、フォルテッシモもこの街ではレベル0、そして、あいつは一方通行には負けない。
どっちみち実験は止まる』

「よし、佐天涙子……逃げるぞ!」

フォルテッシモが起き上がる前に、世良さんは、私に向かってそう、叫びながら、全身の痛みを堪えるように走り出す。

私もそれに従い、ぼんやり突っ立っている妹さんに向かい、そのまま妹さんの手を引き逃げ出した。

世良さんは、走りながら一方通行の肩をぽんと叩いた。

「後は頼むぜ、第一位さん」
324 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/25(水) 00:24:19.77 ID:i2WmSREfo

〜〜〜

「……」

苛立ちと、高揚感が半分半分で、俺の中に渦巻く。

見事俺に一発ぶちかました二人と戦える喜びと、逃げるぞ、と大声で叫び、本当にさっさと逃げだした二人に対するイラつきだ。

「痛ぇな、ちくしょう……」

ゆっくりと起き上がると、既に二人の姿はなかった。
本当に、なんの迷いも無く逃げ出したようだ。

「チッ……」

二人を、いや……ビートをおっかけて一応の言い訳だけは聞いてやったあと、ぶち殺そうかと思ったが、この街の“最強”が、俺の前に立ちふさがった。

「お前はよ……さっきの俺とやつらの戦いを見てなんもわからなかったのか?」

コンテナを殴りつけ、それを俺に飛ばして来たが、それを爆散させる。

「ちょっとした準備運動だァ……あの二人は後でぶち殺すとして、まずはお前だ」

「おいおい、あの二人をぶち殺したいのは俺も同じだ。
だったら、先にぶっ殺してから戦おうぜ?」

「なァンで俺がオマエ如きと、仲良く共闘しなきゃなンねェンだ?
まずは目の前にいるオマエからだ」

――相当キレてやがるな……。
いや、これも佐天涙子の仕業か?

「まぁ、いいぜ?
ちったぁ強くなったのかよ、第一位さん?」

いいながら、空間の罅割れを広げる。
一方通行とは距離があるため、その余波による攻撃だ。

「俺は元々強ェンだよ……クソチャイナ」

何事もなかったかのように、一方通行はそこに立っていた。

真っ赤な目を見開き、クカクカと気味悪く笑う。
325 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/25(水) 00:26:01.32 ID:i2WmSREfo

〜〜〜

「さて、と……これからどうするべきだ?」

フォルテッシモから逃げ出し、俺はやつが良くクレープを食っていた公園で休んでいた。

「考えても無駄、か……。一方通行次第だしなぁ……」

ベンチに深く腰かけ、夜空に浮かぶ月を眺めた。

「……んで?
俺になんか用かよ、上条当麻」

木の影から、こちらを見つめている上条にいい加減うんざりし、声をかけた。
上条は大人しくそこから出てくると、いつものボケっとした顔つきでは無く、真剣そのものな顔で俺にこう、尋ねた。

青髪ピアスを見なかったか?と。

「青髪?
いや、知らんが……」

「そうか……。
なぁ、世良」

「……なんだ?」

「お前が……お前らが普通じゃないことくらいわかる。
だから、教えてくれ……お前とリィ舞阪は青髪ピアスと佐天涙子が目的でこの街に来たのか?」

――こいつ……何をどこまで知ってんだ?

上条は確信をもって俺に尋ねていた。

「青髪ピアス?」

だが、その上条の言葉に青髪ピアスの名前があることが引っかかった。

「……しょうがない、か。
その通りだ、上条当麻。
まぁ、なんか変なのがいるから調べに来ただけではじめから佐天涙子と青髪ピアスを調査しに来た訳では無いがな。
逆に、お前は何故やつらの特異性に気づいた?」
326 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/25(水) 00:26:30.49 ID:i2WmSREfo

誤魔化すよりも、こいつのもってる情報をぶん獲ったほうがメリットがあると判断し、自分がこの街に来た理由を嘘偽り無く話す。

「俺は……教えてもらっただけだ――ブギーポップに」

「ブギー、ポップ?」

――なんだ?新手のMPLSか?

「お前ですら知らないのか?
……なんというか、世界の敵の敵、だよ」

「あん?意味がわからねぇぞ、どういうことだ?」

上条の、全く優しくない説明にイラつく。

上条が、困ったような顔つきで考えをまとめ、いざ口を開こうとすると後ろから女のような、男のような声がわりこんできた。

「僕は自動的なんだよ……。
世界に危機が迫った時、自動的に浮かび上がってくるのさ。
だから名をブギーポップ〈不気味な泡〉という」

「なっ……」

急に、それは現れた。

「お前……なんだ?
何故……鼓動が、感じられない、んだ?」

「この世界にはあるはずなのに無いものも、無いはずなのにあるものもあるということさ……」

「……とりあえず、わかった、と言っておこう。
で?お前はなんなんだ?」

「だから、言っただろう?
自動的な存在さ。
君たちと違って、世界に危機が訪れた時、現れるただの世界の敵の敵だ」

言い回しが多少違うだけで、情報は何ひとつ増えてはいない。
そんな飄々とした黒外套に無性に腹が立った。
327 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/25(水) 00:26:59.46 ID:i2WmSREfo

「……チッ。
んで?世界の敵だっけ?それって佐天涙子じゃなくてフォルテッシモの事なんじゃねーか?」

茶化すように、俺はバカにした笑みを浮かべたが、なんの反応もなく、その黒外套は淡々と話す。

「あれは、違う……一方通行や御坂美琴、そっちの方がまだなり得る可能性を秘めているよ。
そして、君は……世界の敵にはなり得ない存在だね」

「……何故?」

「……」

そいつは黙った。

――別に世界の敵になりてぇなんざ思わんが……こいつ、適当言ってんじゃねぇのか?

黙った黒外套に、不信感が増した。

「……君は、何故……佐天涙子と共闘し、フォルテッシモに殺されるかもしれない道を選んだ?」

「あ?そんなの、ただ……死ぬやつが一番少なくなる道を選んでみただけだ」

そう答えると、黒外套は笑ったような安心したような、左右非対称な、奇妙な顔をした。

“変わらないな”

そう、言ったような気もしたが、それは恐らく聞き間違いだろう。
328 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/25(水) 00:28:15.53 ID:i2WmSREfo

〜〜〜

「やっほう!御坂さん」

世良さんは、御坂さんが万が一能力を破り追いかけて来たら厄介だという事で、鉄橋を歩いている途中、御坂さんを気絶させていた。

夏だから、風邪をひくという事はないだろうが、夜の外に女の子を一人放置するなんて、ひどい男だとからかったら少しだけ辛そうな顔をしたので、きっとこの人はいい人なんだろうと思った。

「ん……んぅ……さ、てん……さん?」

「はい、佐天涙子ですよ。
もう、大丈夫です。
実験は、多分止まりましたよ」

実験、という言葉でぼんやりした意識は一気に覚醒したのだろう。
御坂さんは跳ね起き、私の肩を揺らしながらどうなったの?とまくし立てた。

「世良さんと協力して一方通行を止めました。
ほら、そこでぼんやりしてるけど妹さんも生きてる。
そして、リィとかいうやつと一方通行が今戦ってます。
リィさんが負ける事は無いらしいので、もう、大丈夫ですよ」
329 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/25(水) 00:28:42.85 ID:i2WmSREfo

話しながら、御坂さんの中に溜まった真っ黒なガラス玉を、掠め取る。
そして、僅かに残った黄金色のガラス玉を植え付けると、丁度いいバランスになり、御坂さんの心は輝きを取り戻した。

そして、精神状態が落ち着いた為か、私の話もすんなりと、受け入れてくれたようだ。

――これで、あとはブギーポップだけ……か。
しっかし、本当にフォルテッシモと一方通行は大丈夫なのかなぁ?

逃げる作戦を言い渡された時、私はそんなにうまくいくのか心配だった。
私の中に希望がなくとも、私は希望の道を見る事ができるのでどんな時でも逃げ切る自信はあった。
だが、ここで逃げてしまえば実験は止まらず、フォルテッシモは御坂さんに時間を置いてまた勝負を仕掛けに行くかもしれない。
それを避けたいのだ。

だから、逃げてはいけないと思い反抗したが、世良さん曰く『お前がいるからこそこの作戦は成り立つ』ということであった。

つまり、私に一方通行の意識をフォルテッシモに向けるよう調整しろという事だ。

それは難しそうに思えたが、意外にも簡単であった。
一方通行は全身から絶望を溢れ出させ、そしてまたその溢れた絶望を取り込んでいたのだ。
しかし、一方通行に希望を少し植え付け理解した。
330 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/25(水) 00:31:42.50 ID:i2WmSREfo

――この人は、希望を絶望で守ってるんだ。

という事を。
はじめから、溢れ出る絶望と同じくらいの希望も持っていたのだ。
そして、その絶望を少し掠め取り「私の希望」を植え付けた。
それは、やがて元々一方通行が持っていた「一方通行の希望」と混ざり合い、私の希望に近い行動を無意識でとってくれるようになる。

もっとも、私を殺す気満々の時に、私を殺すな、という希望は通じないが、今回のように「どっちを先に相手にするか」という、迷う余地のある場合は、効果が大きい。

あの時、フォルテッシモがあの距離感で攻撃を繰り出してしまったのも「私の希望」すなわち「私の声に世良さんが間に合う距離での攻撃」というものが無意識のうちに「その距離感での攻撃をしたい」というフォルテッシモの希望にすり替わったからだ。

『まぁ、逃げたあと二人が戦いはじめたらお前はもう大丈夫だ。
フォルテッシモが勝つだろうし、そうしたらあいつは真っ先に俺を殺しにくる。
そこで、なんとかフォルテッシモを言いくるめる。
お前らはもう大丈夫だ。
それに、この街でのレベルは俺もやつもゼロだ、だから実験の方も安心しろ』

そういうと、ドキドキしているような、ワクワクしているような、それでいて怯えているようなそんな色んなものがまぜこぜになった表情で笑った。

331 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/25(水) 00:33:12.29 ID:i2WmSREfo
ここまで

戦闘シーンがやはりうまくかけない
もっと一回の投下分全て戦闘シーンくらいしっかり書きたいけど、どうもうまくいかんね

また次も読んでください

332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/25(水) 01:01:17.75 ID:PR2/zNRDO
乙ー!

佐天さん視点の戦闘シーン好きだよ
今回のもだが、一方さん戦の能力による視覚?表現とか良かった
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/25(水) 07:18:53.16 ID:aJbe0B18P
いいね
最後まで戦わない辺りがそれらしいwwww
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/25(水) 09:50:30.10 ID:L73jKGEE0
ディシプリンでは超加速+グローリーだったのによくなんとかなったな、グローリーの指示と佐天さんの指示の仕方も違うし
モータル・ジムがいない分かな?
335 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/25(水) 12:01:09.85 ID:Dxz5YtTIO
補足的説明

佐天さんは三段階踏んで、ffの動きを読み、行動しています

1.ffが攻撃を考える(攻撃キャンセル可能)
2.ffが攻撃準備(動作)にはいる(攻撃キャンセル不可能、しかし対象の変更は可能)
3.動作に移る(攻撃キャンセル不可能、対象の変更も不可能)

そして、この時佐天さんには

1→希望(ffの絶対防御が崩れる希望)が灯る(不安定、蛍光灯が最後の足掻きをしてるイメージ)
2→希望が光を増す(蛍光灯が激しくチカチカするイメージ)
3→光が完全に灯る(新品の蛍光灯のイメージ)

こう、見えています

だけど、佐天さんの希望(ffが自分とビートの思惑通りの範囲内で攻撃をしてきて欲しいという希望)をffに植え付けていたので

1.攻撃を考える(キャンセル可能)
2.攻撃準備にはいる(キャンセル不可能、対象の変更も不可能)
3.動作に移る(キャンセル不可能、対象の変更も不可能)

となり、佐天さんに見える光は

1→不安定
2→安定
3→安定

となります

それによって、ビートに指示を出す余裕が出来て一発入れる事が出来ました

もっと感覚的にいうと、見えてる光が
ふわ…ふわ…→ぴか…ぴか…→ぴかー!
と変化していくのが
ふわ…ふわ…→ぴかー!→ぴかー!
になる感じですね

佐天・ビートvsフォルテッシモで佐天さんが石を投げたのは1の時だったので、ffは攻撃をやめ、防御に成功
高速道路での戦いでは2の時だったので、ffは石に気を取られ、とっさにそちらを攻撃対象にした感じです


>>332
佐天さんは基本相手の行動観察するだけで佐天さん自身はそんなに動かないからまだ書きやすいんだよね
ただビートvsff、ffvs一方通行は両方とも動き回るからなんか変になっちゃう
ここが変!とかここは良かった!とかこのあともどんどん指摘してくれい

>>333
違和感なかったなら良かったです

>>334
説明でも分かる通り、佐天さんも攻撃手段があればffと充分渡り合えるチートキャラだから一発入れる事が出来ました
モータルジムいたらもっと苦戦したと思うけど結果はそんなに変わらなかったと思う
ビートが無理して身体中の痛みがより酷くなるくらい
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/25(水) 13:05:30.56 ID:L73jKGEE0
グローリーみたいな先読みで避けたというよりは精神操作で避けられるようにしたって感じか
337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/25(水) 21:38:09.54 ID:GoeJ0OZI0
空間操作に希望絶望の操作、鼓動操作って観察してる連中には何やってるかわからないだろうな
原作通りの理由に加え、統和機構を知る人には有名なffが出張ってきたら実験は中止せざるをえないだろうな

それにしても佐天さんかっけえ
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/26(木) 05:32:02.22 ID:MElKL8YIO
希望とか観測できないものは切断出来ないんだっけ
レベルを上げて物理で殴るが通じないのは面白いよなぁ
339 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/27(金) 18:18:06.03 ID:gf2J6CRvo
>>336
そう、それだ
それが言いたかった!
読んでくれてる人の方がしっかり説明できるってなんか嬉しいやら悲しいやら……

>>337
確かに
上条さんとかが見たら「え?なになに?」ってなるなww

>>338
普通に佐天さんの出す希望の霧的なものも当たれば切断は出来ると思う
ただ佐天さんは「指定した座標から少しずれたところに攻撃来て欲しい!」って希望で防ぐのに使ってるから、その希望通り少しずれて結果当たらないよねって感じ

では、中途半端な時間だがはじめようかな
340 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/27(金) 18:21:44.88 ID:gf2J6CRvo

〜〜〜

「さて、と……」

妹さんを引っ張り、御坂さんに押し付けると、私は一旦大きく伸びをする。

「じゃあ……私は行きますね」

「い、行くって……どこへ?」

「そりゃ……私が行くべきところ――希望の終着点へ、ですよ」

「……帰って、くるのよね?」

不安そうに、ゆっくりとした声で言う。

「……御坂さん、妹さんに沢山いろいろな事を教えてあげてくださいね。
それと、初春とこれからも仲良くしてやってください。
あの子は強いけど、危なっかしいから……。
それじゃあ……さようなら」

何か声をかけられる前に、私は走り出した。
希望へ向かう為に、ブギーポップに会う為に、そして……私の大好きな全ての人に、これ以上迷惑がかからないようにする為に。

たったひとつだけ目の前に伸びる道を、見据え、私はただ、走った。
その道に宿る光は、いつもと違う雰囲気で、私の心を軽くしてくれる、そんな効果があるように思えた。
341 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/27(金) 18:30:42.25 ID:gf2J6CRvo

〜〜〜

――僕は、どこにたどり着くんやろな……。
真っ黒な真っ黒な、逆に言えばこの道さえ通らんかったら、普通かそれ以上の幸運に恵まれる。
けど……僕はそんな恩恵をうける資格なんか無いんや……。
僕が、あの先輩を殺し、今また涙子ちゃんを死に追いやっている。

足取りは重く、一歩進むごとに自分の中に絶望が溜まっていくのを感じた。

――なるほどなぁ……僕はこうやって集めたり自分の中で大きなった絶望を、無意識に他人にばら撒いてたから今までやってこれてたんやなぁ。

それは、自分が絶望を集めやすく育て易い体質だと言う事だ。

――つまり、僕は本当に“世界の敵”なんやな。
僕が生きてたら、周りの人らは皆俯いてしまうって事やもんな。

そこで、初めて僕は自分の能力の本質を一から十まで理解した。

――多分、カミやんと一緒におる事が多かったから、今まで平気やったんやな。

恐らく今までは、カミやんが僕の集めて来た絶望を全て消してくれていたのだと推測する。

――でも、これも推測やけど、僕の中にはコップみたいなもんがあって、それが一杯になるのに今までは時間がかかった。
だから、カミやんとほぼ毎日学校で会ってればあふれる前にリセットしてもらえてたんや。
それが、急に早くなったんはなんでやろな……。
342 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/27(金) 18:33:28.40 ID:gf2J6CRvo

無意識に“自分は世界の敵なんだ”と理解していたのかもしれない。
だから、ブギーポップの噂を聞いた時、精神的が不安定になって今まで潜在能力でしかなかったもんが完全な能力として覚醒したのかもしれない。

だが、そうでは無いような気がした。

「君たちにとって最大の不運は、出会ってしまった事だ」

その声が聞こえた瞬間、僕の絶望への道が急にプツリと途切れた。
そして、その終着点には、やはり真っ黒な筒のようなコスチュームを纏ったブギーポップが立っている。

「はは、出てくるのはやいわ……もう少し、歩きたかったんやけどな」

ブギーポップに、笑いかける。

「でも、僕のところへ先に来てくれて助かったわ。
これで……涙子ちゃんを守れる」

「君のいう守るとは一体どういう事なんだ?
僕を殺せたら、それで佐天涙子を守った事になるのかい?」

「当たり前やんけ……お前は、僕を殺したあと、涙子ちゃんを殺すつもりなんやろ?
だったら、僕がお前を倒したら、涙子ちゃんは救われる」

嘘である。
ブギーポップを倒すだなんて出来やしない。
本当は僕自身が死ねば涙子ちゃんは救われるはずだと確信している。

「それで本当に佐天涙子は救われるのかい?
彼女の希望という物は全く無視したままなのに?」

ブギーポップは右へ左へと、するする現れたり消えたりしながら僕に問いかける。
しかし、僕の絶望そのものであるブギーポップの位置を追うのは簡単だった。
やつが消えるたびに、僕も方向を転換させブギーポップの方を向く。
343 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/27(金) 18:34:23.78 ID:gf2J6CRvo

「そんなん、分かるわ……普通に友達と話して、普通に遊んで……そんで、普通に恋をして……」

“僕では無い誰か”が涙子ちゃんの手を取り笑っている姿を想像し、少しだけ、心が重くなった。

「……そんな、普通の女の子として日常を送る事が涙子ちゃんの希望や」

――だけど、それが、彼女の希望ならば、僕はそれで構わない。
どうせ、僕は死ぬんやし。

ブギーポップを倒しても、僕の能力は変わらない。
だったら、僕は死ぬしか無いのだ。

僕が死んだら――。

「そんな勝手、許しませんよ。
どうして青髪さんが、私の希望を勝手に決めるんですか?」

「……」

ブギーポップは黙ったままその声のした方向を向いた。

「な、んで……ここに、お前が……おるんや?」

「そんなの……希望を追って来たからに……決まってるじゃないですか」

彼女の目はキラキラと輝き、その表情は笑顔だった。

僕と涙子ちゃん。
二人が揃うと、ブギーポップは口笛を吹き始めた。
まるで、僕らが揃うのを待っていたかのように、まるで、これから殺す僕たちにささやかな鎮魂歌を送るように……。
344 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/27(金) 18:36:35.20 ID:gf2J6CRvo

〜〜〜

「おらァ!」

一方通行が、地面に張り付いているレールを力任せに引っぺがし投げつけてくる。
だが、核爆弾の中でさえ生きる事のできる俺にとってそれは普通の人間にとってのハエと変わらない。

――チッ、鬱陶しいな。

そう、鬱陶しくぶんぶんうるさい物でしか無いのだ。

それを一方通行にそのまま反射しても、やつにとってもこれは鬱陶しいハエであり、意味が無い。

飛んでくるレールに右手を突き出し、それ一本で消滅させる。

俺の手に吸い込まれるように消滅していくレールをながめながら“こいつは期待外れ”だな、と一方通行への興味を失いかけた。

だが、その俺の考えは間違っていた。

「なん……だと……?」

自分の頬から流れる赤い液体に、驚きの声をあげた。

「チッ……外したかァ」

一方通行は今の一撃で俺を殺すつもりだったらしい。
その台詞には相手に傷をつけた事を喜ぶ小物臭さはなく、殺せなかった事を悔やむ、本気の殺意が伺えた。

「はっ、やるじゃねぇか!学園都市第一位ィ!」

一方通行は期待外れなどではなかった。

「何が起きてるか理解もできねぇ勝負を少しだけ見ただけでこの俺に傷をつけるとはな……はっはははは!最高だよ、一方通行ァアア!」

さっさと逃げ出したビートへの怒りは既に消え、さらに一方通行にまず俺と戦う事を選ばせた佐天涙子には感謝すらしていた。

『あんたにも、楽しんでもらえると思いますよ』

ビートの言葉が頭に浮かぶ。

――あぁ、最高だぜ、ピート・ビートよ……。
345 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/27(金) 18:38:03.96 ID:gf2J6CRvo

俺が一番好きな事は強い奴と戦う事。

あの統和機構の中ではしがないただの末端の合成人間は、統和機構で最強と呼ばれる本来戦う事すら考える必要のない俺の事を正しく理解していたのだ。

――やれやれ、ますますお前と戦うのが楽しみになったぜ。

この時既に俺の中から、ピート・ビートを殺すという目的は消失していた。

むしろ、着実に奴が俺の相手になるレベルまで成長している事を実感し、褒めてやりたくなったくらいだ。

いつもの戦闘スタイルにはいる。
すなわち、跳んで、削り取り、空間断絶を駄目押しする、という“作業”だ。

足元の罅割れを連続的に裂く事により、ビートの超加速など比でもないスピードで一方通行に突っ込む。
そして、そのまま一方通行に触れ、触れた部分を消滅させようとした。

だが、

「ばァーか……」

一方通行は余裕そうにそう笑い、俺を反射した。

俺にも自動防御機能はあるので、吹っ飛ばされようが怪我などしない。

「チッ……お前の反射膜は……あぁ、そうか……俺が触れようとする攻撃は、反射するわけね」

触れた部分の空間断絶を行うという技は、使えないようだと理解する。

「まぁ、それでも別に問題はねーけどな」

――こいつは佐天涙子じゃあない、俺の攻撃をよける事はできねぇんだ。

座標を指定し、そこに空間断絶攻撃を叩き込む。

が、一方通行は俺のその行動を読んでいたかのように、するすると、よけている。

――……何故だ?

奇妙な違和感が、拭えず、イライラした状態で、どんどん叩き込む。
その断絶で生まれた余波で真空を作り出し、地面やコンテナをも次々とぶち壊していく。

――チッ……なるほどな、佐天涙子の仕業か……。
346 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/27(金) 18:39:07.28 ID:gf2J6CRvo

〜〜〜

爆発音と、崩壊音が私が逃げて来た方向――操車場――から響いてくる。

「あ!」

そこで、ひとつの事を思い出した。

「私、一方通行に『少しでも長くフォルテッシモと戦って欲しい』って希望を植え付けたんだ……しかもストックの黄金色のガラス玉ほとんど使っちゃったんだよね」

つまり、フォルテッシモの攻撃を、勘の範囲内であるが、避ける事が出来るようになっているかもしれないということだ。

しかし、今はそんなことを考えている場合ではない、と止まった足を動かし出した。

「なんか、恥ずかしいな……だって、この先には、必ず……青髪さんがいるはずだから……」

死ぬのが怖くなったわけでも、死ぬ覚悟が揺らいだわけでもない。
ただ、自分の希望は青髪ピアスなのだと、はっきり自覚できた。

それは、きっと一方通行と戦った事や、フォルテッシモとの戦った戦いの中で、何か知らない間に気づいてしまったんだと思う。
347 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/27(金) 18:39:45.45 ID:gf2J6CRvo

〜〜〜

「それで?
佐天涙子と青髪ピアスを殺すのか?」

「……だとしたら?」

「いや、別にどうもしねぇけどよ……。
御坂やもしかしたらフォルテッシモもお前を恨むと思うぜ?」

「僕は別に誰かに感謝される為に出てくるわけじゃあないんだ。
言っただろう?」

「あーはいはい、自動的なんだよな。
つまりお前は世界を守るスーパーヒーローってわけだ、だったら世界の敵も更生させてみろよ」

何を言ってもするするとかわされると思い、こいつに真面目に突っかかるのは無駄だと感じた。
だから、小馬鹿にしたように、適当に突っかかる。

「僕はヒーローなんかじゃない。
世界の敵の敵、だ。
この世界を壊そうとする絶望は、消さなくてはならない」

それだけいうと、ブギーポップは煙のように消えた。

「待てッ!」

佐天涙子と青髪ピアスを殺しに行った、と上条は思ったのだろう。

ブギーポップが闇に溶けたところへ向かって、虚しくそう叫んだ。
348 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/27(金) 18:40:51.82 ID:gf2J6CRvo

〜〜〜

――あいつのあの謎の切り裂き攻撃は反射出来ンのか?

それが、普通に“切る”という行為ならば、反射は可能だ。
だが、それがもしベクトルの存在しない攻撃、例えば“切ったという結果”のみ残るというような攻撃であった場合、反射は不可能だ。

――チッ……やりにくいなァ……それに、なンかさっきから避けるのがぎりぎりになってやがる……。

「どうかしたか?」

フォルテッシモはニヤニヤとしながら、攻撃を続けてくる。

「そろそろ時間切れ、だろ?」

一方通行には、なんの事を言っているのかわからなかった。
ただ、やばい、と本能で感じた。

――ダメだ……あの攻撃は……受けちゃいけねェ……。

「おい、お前……俺に勝つ気あんのか?」

攻撃を辞め、イラっとした声色で、フォルテッシモは言った。

「……」

一方通行は黙ったままフォルテッシモを睨みつける。

――……クッソ、逃げる事を考えるな。
勝てる方法を考えろ……勝てねェ訳がねェンだ。

純粋な実力は恐らくフォルテッシモのが上だろう。
その事が一方通行に逃げるという選択肢を与えていた。
だが、勝てる道はあるはずなのだ。

――絶対能力者への実験は中止、それでこいつにまで負けちまったら……一体俺は今までなンのためにクローンどもをぶち殺してたかわからねェ……。

「……一応、まだ勝つ気はあるみたいだな」

ニィ、と悪そうに笑い、フォルテッシモは攻撃を再開した。

「ま、無駄だけどな。
今のお前じゃ俺には勝てねェよ……」

まだ、時間が足りない。
フォルテッシモは佐天涙子の影響が消えた一方通行に、新たなる可能性を見つけ、心踊らせた。
349 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/27(金) 18:41:24.02 ID:gf2J6CRvo

〜〜〜

「あ、あかん!
君は死んだらあかんねん!
君まで死んでしまったら……僕は、僕は本当に……壊れてまう」

涙子ちゃんがもし、今僕の目の前でブギーポップに殺されたら……。
恐らく、僕は世界を一瞬で絶望で満たす事が出来るだろう。

そうなってしまったら、世良くんやカミやん、土御門くんまで殺してしまう事になる。
それだけやない、小萌センセや下宿先の店長達……みんな、みんな殺してしまう事になる。

――それだけは……いやや。
僕が死んだらそれでええやん、涙子ちゃんは、希望が見える、それは……。

「じゃあ、青髪さん……私と一緒に、死にますか?」

「だ、から……クソッ……」

逃げ切れるとは思わない。
僕には希望なんて見えない。
道を指し示してくれるものはない。

だけど、逃げずにはいられなかった。

――僕ぁ、この子だけは、助けたいんや……。
350 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/27(金) 18:44:53.44 ID:gf2J6CRvo
ここまで

やはりフォルテッシモvs一方通行は難しいな


また読んでください
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/27(金) 19:52:03.17 ID:SIwtHTlE0

今更だけど、青天かつこの二人が重要要素なSSってかなり珍しい部類だよね
その上でクロス先の雰囲気も出せてるんだから凄いと思う
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/27(金) 20:17:22.53 ID:vVQBUaLDO
乙、次回が待ち遠しい
原作でも世界の敵の末路って結構色々だし二人はどうなるんだろう
ところでffに当たったのは……レール飛ばした衝撃波?
353 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/27(金) 21:58:37.77 ID:gf2J6CRvo
>>352
読み返して気づいた
確かにこれじゃあわからんな
というかなんで俺書かなかったんだろ……
はい、補足はいります

〜〜〜

――やっぱり……こいつは攻撃と防御を同時展開は出来ねェンだな……。

一方通行はそこに、勝機を見出す。


――だが……今の手はもう使えねェだろ……。

今の手、とはフォルテッシモの頬に傷を作り、統和機構最強の男に流血させたその手段である。

一方通行は、レールを投げた時に『俺にレールを反射しても、俺も反射出来るから意味がない。
この男がそンなつまらねェ事はしねェはずだ。
防ぐ為に、派手にレールに何かしらの攻撃を加え破壊し、身を守るだろう』と考えた。

だったら、そのレールを破壊している間に、気づかれないレベルのごくごく小さな何かを顔面めがけてぶち込めばいいだけだ。

一見簡単そうに見えるが、フォルテッシモは“最強”の男だ。
一方通行の投げたレールなど一瞬で破壊されるだろうし、破壊が終わってからでは傷つけるチャンスも終わっている。

つまり、囮を投げ、それがどの時点で破壊されるか。
まずはそれを考えなくてはならないのだ。

――あの爆発や切りつけは座標指定っぽいし、恐らく自分に飛んでくるものも座標指定で破壊してるはずだ……。
だったら……囮があいつのすぐ側でしか破壊出来ないようなスピードで投げつけてやればいい。

投げてから届くまでの時間を計算する。

――一瞬……だな。
でも同時に投げたら一緒に消されっかもしンねェし……。

フォルテッシモに気づかれぬように小さな石の粒を蹴り上げそれをキャッチする。

――よし……。

そして、一方通行は手のひらにその粒をのせ、先ほど計算した“レールが破壊されるであろう時間”に、その粒がフォルテッシモの脳天をぶち抜けるような少しの差をつけて、レールを投げつけた。

〜〜〜

こんな感じのイメージだった
一方通行さんの能力って触れてるもののベクトル操作だから、石にかかる重力を自分の手のひらに向けてればずっとくっついたままになるし、一回の動作でなおかつ相手に飛んでくるものはひとつだと思わせ、ちょっとの差を付けて当たるように投げるとかも可能だよなぁと思った。
ずれたのはレールが消滅させはれる時の振動でずれたって感じ

うん、これは書かなきゃわかるわけないな
指摘ありがとう


354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/27(金) 23:53:44.58 ID:E9L1zwhz0
一方通行もちゃんと考えてるなあ
佐天さんの効果の間に頭が冷えたか
だがffの特性上、致命傷レベルは無意識で回避しそうなのが怖い、大ダメージレベルならやりようで通りそうだけど

そして青ピの末期感がやばい
続きを期待しています

355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/28(土) 00:10:42.93 ID:4vTjLHSDO
小石か、解説ありがとう
能力を正面からぶつけ合ったらffが有利そうだけど、並列処理とか応用性は一方が長けてる感じなのかな
そこら辺の拮抗させ具合が読んでて面白いわ
356 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/29(日) 13:38:39.65 ID:e9OYQUdEo
>>351
青天はクロスやるときは凄い便利なキャラクターだと思うけど、少ないのか


>>354
ffvs一方通行は今回の投下で終わりだから楽しんでくれたら嬉しいな

>>355
こいつらの戦いは「こんな感じの事できるよね?」ってのをビクビクしながら書いてるからそれがいい具合に噛み合ってくれてるだけなんだな、実はww
だから落としどころというか、決着が難しかった


今回クロス物は初めて書いて分かった事がひとつ、最強キャラってクロス物では邪m(ry

……はい、はじめます
357 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/29(日) 13:39:45.03 ID:e9OYQUdEo

〜〜〜

逃げてどうする?

――そんなん、わからへん。

お前が死んだら、この世界はどうなる?

――知るか。

お前は……何から逃げている?

――そ、んなの……ブギーポップからに……決まってるやろが……。

本当に?

――あたり、まえやんけ……。

「……みさん……あ…が…ん!」

――もう、わからん。なんも……わからん。

「青髪さん!」

涙子ちゃんの声に、ハッと我にかえる。

「青髪さん、痛いですって!
手、痛い、離してください!逃げませんから……」

涙子ちゃんが、少し怒ったような顔で、僕を睨みつける。

「あ、ああ……ごめん……」

「ま、ちょうどいいですね」

謝り、パッと手を離すと、赤くなった手首をさすりながら、涙子ちゃんはニコッと笑った。

「これから、どうするか決めましょう?」

そして、わがままをいう子供に言い聞かせるように、僕の顔を覗き込んで来た。

「青髪さんが死ぬのを選ぶなら、私も死にます。
だって……初春や御坂さんや、白井さんには悪いけど……。
私はあなたに恋をしてしまったから……」
358 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/29(日) 13:40:41.80 ID:e9OYQUdEo

「あかん!君は死んだらあかん!
僕の事好きでいてくれるなら……生きてくれ……!」

「どうして君は、そこまで佐天涙子にこだわるんだい?」

今、自分で自分がどこに居るんかもわからんのにブギーポップは、当たり前のようにそこに現れた。

「そんなん……好きやからに決まってるやろが!」

再度、涙子ちゃんの、今度は手をしっかり握り、路地裏を奥へ奥へと走った。

「青髪さん、無駄ですよ」

ブギーポップからは逃げられない。
涙子ちゃんは僕の手をしっかりと握り返しながら、そう言った。

――理屈なんかない……一目惚れってやつやったんや……。
そう……そのはずなのに、この心に引っかかるもんはなんなんやろう……。

「それこそが、君が世界の敵の証だ」

どこからともなく、ブギーポップの声が響く。

――どういう事や?
この引っ掛かりが……世界を危機に陥れてるっちゅーんか?なんや……なんなんや?

真夏だというのに、僕が感じる熱は、握った涙子ちゃんの手のぬくもりだけだった。
359 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/29(日) 13:42:41.56 ID:e9OYQUdEo

〜〜〜

「諦めろよ、お前じゃあ俺には勝てない……今の時点ではな」

空間を裂く、という時に“裂く”という行動により、少しの外力が……つまり、ベクトルが生まれたらしい。
断絶攻撃は部分的に弾かれ、俺の空間断絶攻撃も本来の力は失っていた。

だが、この勝負の決着は見えている。

本来、俺の攻撃はその命すらも刈り取ってしまう。
だから傷を付けたら、それは治る事はないし、止血も出来ない、本来ならばな。

「うる……せェ」

身体中から血を流し、激しく呼吸しながら一方通行は俺を睨みつける。

「まだ……だ……」

呼吸を落ち着けるように、何度か大きく息を吸ったり吐いたりすると、血が止まった。

――なるほどね、完全に攻撃が通じてる訳じゃねぇんだな。
しかし……あいつの頭ん中はどうなってやがる?

この街の能力者は、能力を使う時演算というものをして、つまり自分の頭で計算をして能力を使っている。

――常に反射の演算しながら、攻撃する時、跳ぶ時、そして今なら止血する時……それぞれ違う計算して全て同時にやってるわけだろ?

一体脳みそが何個詰まってるのだろうか、と思った。
360 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/29(日) 13:43:21.01 ID:e9OYQUdEo

「無駄無駄……」

「お前は防御も攻撃も完璧じゃねェ……。
こんだけ俺に攻撃ぶち当てといて……殺せてねェンだからな……。
つまり、俺はお前の攻撃を食らっても、まだまだ生きていられるって訳だァ……」

ニヤァと笑うと、一方通行はこちらに向かい跳んだ。
ビートと同じように、まっすぐ跳んできたと思ったら、人間には不可能な動きで、右に回り込んでくる。

「チッ……無駄な事を……」

そして、地面を思い切り踏みつける。
一体どんな事が起きてそうなるのかはわからないが、俺のたっていた場所は大きくめくり上がった。
その動きに合わせ、跳んで回避する。
それは当然一方通行の狙い通りの行動であり、俺が跳んだ先には一方通行が両手に一本ずつ、どっから取って来たのかわからないが鉄柱を構えていた。

「はっ……だぁから……同じ事しても俺には効かねぇぞぉおお!」

二本それぞれがこちらに向かってくるが、何もしない。
どうせ、何もしなくても俺に届くことはないのだから。

空間の罅割れに引っかかったそれらを、芸もなくただ弾き返す。
そして、それと同時に一方通行へと空間断絶攻撃を放った。

一方通行は俺に弾き返された鉄柱を、盾にするかのように、何度もぶつけながらどんどん近づいてくる。

「チッ……まだお前は成長しそうだから……殺すのは惜しいと思ってたんだが……死ね」

その、なんの意味もないやけっぱちのような攻撃に失望し、カウンターの余地もない程の全力で攻撃をしかける。

自分の周り全方向へ、一瞬にして2742回、攻撃を繰り出した。

――じゃあな、一方通行……残念だよ。
361 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/29(日) 13:44:57.68 ID:e9OYQUdEo

〜〜〜

「青髪さん……もう、いいんですよ」

黙ってついて来てくれた涙子ちゃんが、僕の手を引っ張りまだまだ走ろうとするのを止めた。

「嫌だ……君だけでも逃げてくれや」

「言ったでしょう?
私は、青髪さんが大事。
それで、青髪さんも私を大事にしてくれる。
だったら、二人一緒に……消えましょう。
この、ろくでもない戦いを……終わらせましょう?」

「……んで……なんで、そんな諦めた事言うん?
僕は……君と出会えて、凄い嬉しかったんや……凄い、幸せなんや……だから、諦めたくない」

「だけど、私も青髪さんも、知らずの内に人を傷つけた。
世界を壊してしまえる力を持ってしまった」

「でも……」

繋いだ手に、力が入る。

「じゃあ……二人で死ぬまで逃げ続けますか?」

「そ、れは……」

違う、と思った。
それこそ、本当に世界を絶望に叩き込むための行動だと思った。

「でしょ?」

涙子ちゃんは優しく微笑みながら語りかけてくる。

「世界に絶望を呼ぶ……それが無意識だろうが狙ってやった事だろうが……もう、遅い。
……君達は――世界の敵になってしまった」

ブギーポップがまた、影からはえてくるように、現れた。
362 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/29(日) 13:47:53.20 ID:e9OYQUdEo

〜〜〜

青髪さんは、やっと諦めたのか、ブギーポップが現れても逃げようとしなかった。

「私たちが出会ったことを……ブギーポップは不運だって言いましたけど、私はそうは思いません」

青髪さんの手をぎゅっと握りしめながら、言った。

「何故?」

「それは……」

「出会わなければ君も彼もここまで苦しむ事はなかっただろう?」

「出会わなければ、私は初春の事を素直に大好きだって思えなかった。
御坂さんや、妹さんを助ける事も出来なかった。
まぁ……人を傷つけすぎちゃったけどさ」

私が答えると、ブギーポップは私たちを通り過ぎ、私たちの後ろへ焦点を合わせ、少しだけ、鬱陶しそうな顔をしたように見えた。

「……君達が逃げ回るから厄介なのに追いつかれてしまったじゃないか」

後ろを振り返ると、そこにはツンツンした髪型の男が一人、息を切らせ立っていた。

「……え、と……誰?」

「カ、ミやん……」

「やっと……追いついた。
青髪も、佐天涙子も、ブギーポップも……お前らはどうせ誰が死ぬとか誰が生きるだとか……そんなくだらねぇ事を言い合ってんだろ?」

「くだらないって……」

「くだらねぇよ!
どうして、お前らもブギーポップもお前らだけが満足できる結果しか見えないんだよ!
友達や仲間やそういう自分の世界を全部満足させる終わり方を諦めちまってんだよ!」

「勝手な事言わないでください。
誰だか知らないけど……何も、知らないくせに」

「何も知らないのはお前の方だ!
お前は、自分の能力を知ってるようで何もわかってない!」

ブギーポップは沈黙し、青髪さんがカミやんと呼んだその人を見つめていた。
363 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/29(日) 13:49:45.85 ID:e9OYQUdEo

「じゃあ、あんたは何を知ってるって言うんだッ!」

急に現れ勝手なことばかり言うツンツン頭に、心底腹が立った。

結局、私は何も守ることなんか出来ない。
私だけじゃなくて、青髪さんも、何も守れない。
私たちの持っている力では人を傷つけることしか出来やしないのだ。

「お前らは、死ぬ必要なんかない、その事を、知っている」

「で、でも……私たちが生きていたら……それだけで、人を絶望させちゃう」

「だから、お前は何もわかってないって言ってんだよ……。
お前はお前が思ってるのとは全く別の能力なんだよ」

あまりにも自信満々に、まっすぐそう言われ、面食らう。

「……カミやんらしいわ」

青髪さんは、小さく笑い私の手を離すとそのまま今度は私の頭に手を載せた。

「カミやん……僕は……人を殺してしまったんや。
僕はもう戻れやしない」

「……」

ブギーポップは相変わらず黙ったまま私たちを見つめていた。
その雰囲気は、優しくどこか人間らしさが増しているように見えた。

「でもな、涙子ちゃん、君は違うんや。
僕とは違う。
僕には見えんものが、君には見えるやろ?
それこそが、君の本当の力や」

私の顔をじっと見つめた。

「何を、言って……」

「ごめんな、でも……きっと君なら大丈夫や」

青髪さんから、私へ、絶望が流れ込んで来た。
そのあまりの大きさに、私の体は、私自身を守ろうと意識をシャットダウンさせようとする。

「あ、お……」

私が最後にみたものは、スッキリとした青髪さんの笑顔と、青髪さんから溢れ出るぴかぴか光るガラス玉の幻想的な風景だった……。
364 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/29(日) 13:51:54.42 ID:C0swF9sIO

〜〜〜

「なん、だとぉ……」

決して防ぐことなど、そしてカウンターなど出来る余裕は与えなかったはずだ。

だがしかし全方向へ攻撃を放った直後、俺は胸部へ思い切り打撃をくらい、ぶっ飛ばされていた。

――クッソ……肋骨、やべぇ……。

折れた骨が、肺に刺さっている。
吐血し、息がうまく出来ない。

「う……ぐ……あの、野郎……」

上がった土煙を、能力をつかい、一瞬で晴らすと先ほどまで自分が立っていた俺の攻撃で近代アートのような、鋭すぎる切り口でめちゃめちゃにされた範囲の中心点に一方通行が倒れていた。
一方通行も、胸から血を流しピクリとも動かない。

「は、はっは……相打ち狙いとは……やってくれるじゃねぇか……」

――一番の幸運は、一方通行が俺にパンチだか蹴りを入れる前に力尽きた事だな……。

あのレールや鉄柱をぶんぶん振り回す一方通行の能力に、思い切りぶん殴られたら骨が折れる程度ではすまないだろう。
おそらく、攻撃が当たった瞬間くらいに、気が抜けて気絶してしまったのだ。

――チッ……けどこれは……やべぇな。

肺に骨が刺さっているので、動けば死ぬかもしれない。

「うっわ……何があったんすか?
というか、大丈夫ですか?」

どうしようか考えていると、ピート・ビートが現れた。

「よぉ、ビート……お前のおかげでずいぶん楽しかったぞ」

「はぁ、そりゃなによりだ。
俺もあんたを一発ぶん殴れてスッキリしましたよ。
……救急車でも、呼びましょうか?」

「ん、いや……どっちでもいいや。
一方通行が佐天涙子の力を借りていたとはいえ、期待以上の戦いしてくれたからな……割と今満足してるんだ」

そこで、俺の意識は途絶えた。

最後にピート・ビートが携帯電話を出しながら、何かぶつくさ言っていたような、気がした。
365 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/29(日) 13:54:31.54 ID:e9OYQUdEo

〜〜〜

「さて、カミやん……涙子ちゃん、頼むわ」

僕に抱きつくように気を失った涙子ちゃんを、カミやんに渡した。
そして、カミやんが何かをいう前にブギーポップへと話しかける。

「ありがとうな、僕に付き合ってくれて」

「……」

「いや、そりゃわかるで?
お前は……はじめから僕を助けてくれようとしてたんやろ?」

「……」

ブギーポップは何も言わない。

「……最後に、こっちからも質問や、なんでお前はすぐに殺せる僕を、殺さんかった?
お前が世界の敵がはじめから僕だと分かって僕の高校に来たんやろ?
それで、僕をずっと監視してた」

初めて涙子ちゃんと出会った日、あの日涙子ちゃんはブギーポップをみたという。

「でも、多分……僕にも救われるチャンスがあったんやろうな……だから、ここまで様子見、で通してたんやろ?」

「青髪……?」

「なぁ、カミやん……朝早く、せやなぁ……六時とか六時半とかそんくらいにブギーポップ……いや、宮下先輩がカミやんの家来たことないか?」

「え、あ……ある、けど……」

やっぱりな、と思う。

「いつや?」

「えっと……7/2だったかな?
日記をつけ始めてすぐだったから覚えてるぜ」

「その日、僕は涙子ちゃんとまぁ、再会したんや……。
宮下先輩は、多分、僕が能力を無意識だろうがなんだろうが使ったらブギーポップに変身するんやろ?」

「世界の敵が現れた時、だ」

「なるほどな、やっぱり涙子ちゃんは世界の敵なんかやない。
少なくとも、その時と今は……せやろ?
多分、幻想御手とかそんな噂話が流行ったんも、僕のせいやろな……。
無意識にすれ違ったひとみんなに絶望プレゼントしてたわけやからなぁ……。
それでも、僕をすぐ殺さんかった。
それは、何故や?」

「……」

ブギーポップは、答えようとしない。

「それは、僕が涙子ちゃんと出会ったからやろ?」

僕がたどり着いた胸に引っかかるものの正体を、解き明かしたら、僕の勝ち。
僕が勝ったら、その時僕はきっと人生で一番美しく輝いている。
その時、ブギーポップに殺されよう。

ニュルンベルクのマイスタージンガーを、聞きながら……。
366 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/29(日) 13:56:42.79 ID:e9OYQUdEo

〜〜〜

「あ、起きちった」

意識を取り戻すと、椅子に腰掛けぼんやりしていたビートが声をあげた。

「……なんだよ」

「いや、手術は受け入れるんだな、と思いまして……」

「あ?」

「手術を受け入れるってことは、もしかしたら気絶してる時は俺でも簡単に殺せるかなぁ、と思って試そうとしてたところでしてね」

ビートはいたずらっ子のように笑う。

「……そうかい、しかし、お前は何故俺を助けた?
俺から開放される唯一のチャンスだったかもしれないぞ?」

「あんたを見殺しにしたなんて、統和機構にばれたらあんたを相手にするよりめんどいじゃないですか。
……絶望感は、あんた相手にした時の方が上な気もしますけどね」

しれっとそんな事を言ってのける。

「でも、まぁ……これで任務は完了ですし、さっさと外に帰ろうぜ」

「そう、か……一方通行は?」

「生きてますよ……ちなみに隣の病室ですけど……会って来ますか?」

「いや、いい」

学園都市最強と、統和機構最強の勝負は、引き分け、という事にしておいてやろうと思った。

「また、二、三年したら戦いに来ようかね」

俺がそういうと、ビートは勘弁してくれ、というように「俺は付き合いませんよ」と言った。

――まぁ、そん時はメローあたりを使うか……。

むわむわとよくわからん口癖を持ち、俺の事を先生と呼ぶ合成人間を思い浮かべた。

――あいつもこの街に来て、佐天涙子みたいのと出会ったら……楽しませてくれそうだしな。

そんな楽しそうな未来を思い浮かべ、にやけると、ビートはあからさまに嫌そうな顔をした。


367 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/29(日) 14:02:47.90 ID:e9OYQUdEo
ここまで
多分あと一回か二回の投下で終わると思う

最後メローの名前出したのは完全な俺の趣味
あの「むわ、むわわ」ってやつに心奪われたね
最後のみんなで焼きそば食ってるシーンとかなんかしらんが泣いたしね

ffvs一方通行は引き分けにしました
ff優勢な引き分けかな?

ではまた次も読んでください
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/29(日) 17:26:40.96 ID:UzCUmoBIO
ブギーポップが何を考えてるのかが気になる感じだな
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/29(日) 22:23:45.21 ID:t6PpJy5j0
ブギーポップの考えと、上条は何かできるのか、続きが気になる
ffvs一方通行は堪能させてもらいました
一方通行見事なり
370 : ◆qXEKQweJllf. [sage]:2012/07/30(月) 00:56:49.47 ID:JYV9QKWlo
レポート終わらないから息抜きに……

>>368
このSSのブギーポップは喋りすぎな気がするけど、正直わけわからんことしか言わせてないから考えが読めないならば成功です
納得いくラストになるかはわかりませんが、書き切るので最後までお付き合いください

>>369
ffvs一方通行はもっと迫力ある戦闘シーン書けるようになったらまたチャレンジしたい
でも、楽しんでもらえたならば良かったです

今週は少し忙しいかもしれないから土日になるかもしれないけれど、お付き合いください
まぁ、また忙しい忙しい詐欺かもしれんけどww

では、また一週間頑張りましょう

371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/30(月) 14:44:10.22 ID:1Ua3MISDO
メロー可愛いよメローむわわ
自分と向き合うのが物語の収束に繋ってるのがそれっぽい。恋心だけじゃないのか
最強対最強ごちそうさまでした、能力インフレ後の二人とかも見てみたいわ
372 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/31(火) 01:35:32.50 ID:TXrMTuAso
>>371
メロー可愛いよなぁむわ、むわわ

はい、それではいつも通り忙しい忙しい詐欺を始めたいと思います


373 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/31(火) 01:37:06.82 ID:TXrMTuAso

〜〜〜

「言っただろう?
君たちの最大の不運は……出会ってしまったことだ、と」

「それを僕は、今まで出会って覚醒してしまった事やと思ってた……けど、違うんやろ?」

「……」

ブギーポップは黙った。

「僕が、きっと涙子ちゃんを大切に思う理由は……それが、僕の生きる道やから、なんやろ?
恋愛感情なんかじゃなく、本能的な、自分に必要だからって……理由なんやろ?
それに、気づいたら僕は壊れてしまうと思ったんやろ?」

たしかに、一人でふらついている時にそこに考えが至ったら、僕は壊れて世界を絶望で満たそうと考えたかもしれない。
だが、今はそんな矮小な自分の事なんかよりも、涙子ちゃんを生かす方が大事に思えたのだ。

「……それで君の話は終わり、かい?」

確かめるように、少しがっかりしたようにブギーポップは言った。

そして、それがブギーポップの答えとピタリと当たってはいないが、大方正解という意味だと感じ取り、僕は満足気に頷いた。

「さぁ……僕を……絶望を殺してくれや……。
僕が死んだら、この街は前向きになるかもなぁ……」

「君の想いが残滓として残らなければ……そうなるかもね。
残念だよ、君は上条君の良き友人だったからね……」

チラリと、上やんの方を見ながら、言った。

「死ぬ時は、どんな曲に送られたい?」

「はは、そんなん……ニュルンベルクのマイスタージンガーに決まっとるやんけ」

ブギーポップはいいながら、僕に笑いかけてくれた。
その笑顔は左右非対称な奇妙なものだったが、とても優しい表情に僕には見えた。

――さよなら、涙子ちゃん……。

僕が目を閉じると、ブギーポップはリクエスト通りニュルンベルクのマイスタージンガーを吹き始めた。

――あの浴衣……着たところ見て見たかったな。

それだけが、唯一の心残りかもしれない。
374 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/31(火) 01:39:31.74 ID:TXrMTuAso

〜〜〜

「ン……どこ、だ……ここ?」

「あ、目が覚めましたか……とミサカはビクつきながら一方通行に声をかけます」

「クロー、ン?
ンだお前……なンでこンな……どこだ、ここ?」

「病院ですよ。
あの、フォルテッシモとかいう人にあなたは負けた……いえ、相打ちに終わったんです。とミサカは佐天涙子とセラさんとやらの一人勝ちを知らせます」

「チッ、実験はァ……中止か?」

「はい、一応そのようになっています」

「負けた、のか……俺ァ……」

「いえ、相打ちらしいですよ」

「……お前らぶち殺しまくってちったァ強くなったと思ったのに、この程度か……おい、俺が憎いか?」

「いえ、別に。
ミサカ達は殺されましたが、貴方がいなければ生まれることもありませんでしたからね。
ただ、死んでいったミサカ達にはなんだか申し訳ない気持ちでいっぱいです」

「チッ……俺は、まだまだ強くなれる……その為に必要なものは……なンだ?」

「さぁ?
実験は中止されましたが、勝手に続けてみますか?とミサカは尋ねます」

「いい、それじゃ辿りつけねェ……もっと、精神的な力だ」

「では、セラ、とかいう人を見習ってはいかがでしょうか?」
375 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/31(火) 01:41:11.91 ID:TXrMTuAso

「セラって……あの色黒か?」

「はい、その色黒です。
あの人は“死ぬ人間はなるべく少ない方がいい”という行動理由で貴方が相打ちに終わったフォルテッシモにほぼ無傷で一発いれてますよ。
貴方もまんまと行動不能にさせられていましたしね」

「……誰かを……守る、ため……って事、かァ……」

一方通行は、自嘲するように笑った。

「ンなの、今更何を言ってやがる……俺ァ一万人ぶっ殺してンだぞ?」

「では、今度は十万人守ればいいのでは?
とりあえず、ミサカ達を養えよ、と実は研究所を追い出されそうで困っている事を白状します」

「そンなンで、許されるわけねェだろ」

「では一生十字架を背負えばいいんじゃないでしょうか?
ベクトル操作で重さなんて感じないでしょう?
四の五のいわずにミサカ達一万人をまずは救えよ、と本音を漏らします」

「……とりあえず、研究所に話をつけてやる……」

「はい、よろしくお願いしますね。
あと、死んだ妹達も生き残った妹達も貴方がフォルテッシモに殺されなくて喜んでいますよ。
だって……まだ貴方は“無敵”になっていませんからね」

「あ?」

「本当に、貴方が無敵になったら、死んだ妹達も報われます。
ですから、そうですね……ミサカ達が恨むとしたら貴方が無敵を諦めた時くらいですかね。とミサカは決して辿り着けないゴールを一方通行の人生に課します……では」

そういうと、妹さんと佐天がよんだミサカは一方通行の病室を出た。

「いいぜ……ぜってェ諦めねェよ……」

そして、誰もいない部屋で一方通行は一人で少し泣いた。
376 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/31(火) 01:42:31.02 ID:TXrMTuAso

〜〜〜

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!
何勝手にお前らだけ納得してんだよ!
佐天の気持ちは?俺の気持ちは?
なんで、お前は好きな奴の気持ちも、親友の俺の気持ちも無視するんだよ……」

親友と思っていたのは、俺だけだったのかな、と少しさみしくなった。

「カミやん、僕の事親友って思ってくれてたんか……嬉しいで、ありがとな」

青髪はこちらを振り向きもせず、そういった。
もう、あいつの中では何も変わらないのかと、思った。

けど……そんな、誰幸せにならねぇ、悲しい未来なんて……。
そんな……そんなの幻想だ。
俺は認めない。

そんなふざけた幻想なんて俺が――ぶち殺してやる。

「わかったよ……いいよ、もう。
お前が勝手に決めて勝手に話進めるってんなら、俺だって、勝手にやらせてもらう」

「は?」

「まったく……厄介な奴だな……」

青髪は、驚いたような顔をして、こちらを向き、ブギーポップは嬉しそうに一瞬だけ、左右非対称ではなく、しっかりと微笑んだような気がした。
それは、もしかしたらもう見慣れた藤花ちゃんの笑顔を俺が勝手に想像しただけかもしれないけれど。
377 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/31(火) 01:42:56.48 ID:TXrMTuAso

「まず、ほら……」

言いながら、佐天を青髪に押し付けた。
そして、佐天の手を青髪に握らせる。

「んで、ほら」

青髪の手と佐天の手を包み込むように右手で二人の手をつかむ。

「ブギーポップ!」

「そんな大きな声を出すなよ」

「うるせぇ、今、世界の敵の気配はするか?」

「……」

「しないんだな、そうだよな。
俺の右手は異能の力ならどんなものでも打ち消す。
それはつまり……この二人を世界の敵にしている力も俺が右手で触れてれば消えるってわけだ」

本当はそんな単純なものではないのだろう。
二人を世界の敵足らしめる要素は能力なんかじゃなくて、二人の思想だとかそういう内面なものだと思った。
でも、ブギーポップは何も言わずに俺のやろうとしている事を、見届けようとしてくれていた。

「はっ、お前は世界の敵を殺す存在だ。
今ここには世界の敵はいない」

「それで?
君は死ぬまで二人の手をつかんで生きるつもりかい?」

「俺は馬鹿だけど、頭が……いや、頭も悪いけど……マヌケじゃないんだよ。
青髪」

「な、なんや……?」

「お前は、本当にお前だけが死んだら終わると思ってんのか?」

「あ、たりまえやんけ……」

「本当に?」

「……なんなんよ、カミやんのくせに……なんで、そんな僕より……ちゃんとわかってるん?」

青髪は、ずっと、清々しいスッキリとした表情を保っていたが、やがて泣きそうな情けないツラを見せた。

――これでいい……だろ?

誰に聞くわけでもなく、俺はそう問いかけた。
378 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/31(火) 01:44:41.05 ID:TXrMTuAso

〜〜〜

「でもな……カミやん、僕はな……涙子ちゃんを純粋な気持ちで好きになったんやないんやで?」

「それで?」

「僕が、涙子ちゃんち惹かれた理由はな……きっと、僕の役に立つから……いや、僕が、生きて行くのに必要な存在だからなんや……」

涙子ちゃんを気絶させておいて良かったと、思った。
こんな事は聞かれたくない。
僕は、ずるい男やから、怖いんや。

――嫌われるのが。

「この子はまだ中学生や。
高校生なんて、たかが二つ三つしか違わんだけで、大人に見えて、自分より少し世界の広い人とか、自分と違う生活をしてる人に憧れやすいそんな年頃や。
中身なんてほとんど変わらんのにな……。
だから、この子は――」

「お前を好きだと錯覚してるだけだと?」

「あぁ、そうや。
僕の能力と涙子ちゃんの能力、これは本来敵対するものなんやと思う。
僕の力は絶望を生み出す、涙子ちゃんの力は希望を生み出す。
本来、ブギーポップなんて出てこなくても自然と僕が涙子ちゃんに、倒される運命だったはずなんや」

「そうだね、僕は最初勘違いして、佐天涙子を絶望を呼ぶ者だと思ってしまったが……。
佐天涙子は僕と近い存在だった。
違いは僕は自動的、佐天涙子は限定的、ということだ。
だが、今更それを知ったからと言って君が世界の敵でなくなるわけではないよ」
379 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/31(火) 01:48:25.11 ID:TXrMTuAso

ブギーポップは、帽子をかぶり直すような仕草を見せる。

「あぁ、わかってるで。
だから、僕はお前に殺されようとしたんやろ?
でもな、それだとこの困った親友が納得してくれないらしいから」

親友、と呼ぶのが少し恥ずかしく、笑ってしまう。

「わかってくれたか?カミやん」

「わかるわけ……ねぇだろ」

「やっぱカミやんはおバカさんやなぁ……。
僕も涙子ちゃんも、今は嬉しい事にお互いがお互いを大切な存在やと思ってるけど、いつか壊れる。
その時、僕を殺すのはブギーポップじゃなくって涙子ちゃんになるんや。
そんな事、させたくないやろ?」

カミやんの手の力がだんだんと弱まる。

「涙子ちゃんなら大丈夫や。
この子は、希望を生み出す子なんやから。
僕の事も、そのうち「なんであんな人好きになったんだろ?」とか、そんな程度の存在になる。
絶望に埋まり続けはしない。
でも、カミやん……僕の、親友の最後の頼みや……」

空いている方の手で、カミやんの肩を掴んだ。

「涙子ちゃんが、もし僕が死んだ直後、絶望に飲まれそうになったら助けてやってや、その右手で」

「そんなのって……嫌だ。
自分の好きな奴くらい、自分で守れよ!」

カミやんは、悔しそうな顔で、でも納得しようとしていた。

「何故……」

そして、綺麗にまとまりかけたその時ブギーポップは最後の問いを僕に投げかけた。

「君は、佐天涙子を気絶させた?」

その質問に、カミやんまでもが反応を示した。

「そうだ……それだ、なんかスッキリしなかったのは……俺の場合は、何故?じゃなくてどうやって?が先にくるけど……。
なぁ青髪……お前、どうやって佐天を気絶させたんだ?」

「そんなん――」

答えかけて、僕はまた新しい事に気がついた。
そして、さっきのブギーポップの表情は、ギリギリ合格、ではなくギリギリ不合格、の表情だったのだとその時理解した。
380 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/07/31(火) 01:51:18.56 ID:TXrMTuAso
いつもより少しすくないけれどここまで

あと一回かな
次の投下で多分終わります

では、次もまた読んでください

あとレスもいつもありがとう
やる気の源です

381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/08/02(木) 00:08:51.34 ID:ulnRKi6o0
おー来てたのか乙
青ピ切ねぇ…非随意型の世界の敵って辛すぎるわ
382 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/02(木) 00:17:08.11 ID:FoIGNz2xo
なんかレスつくの待ってたみたいなタイミングになっちまったけど、投下します。

383 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/02(木) 00:17:36.62 ID:FoIGNz2xo

〜〜〜

「そんなの……見てたやろ?
僕の中にたまった真っ黒な絶望を、涙子ちゃんに全部渡した」

そして、その絶望から自らを守るために、涙子ちゃんはなにも考えなくても良いよう意識を閉じたのだ。

「それは、何故」

ブギーポップは、静かに問いかけてくる。
この世の音がすべて止み、シンとした静寂の中にブギーポップの声だけが透き通るような感覚に何故か恐怖した。

「だから、涙子ちゃんにさっきの話を聞かれたくなかった。
中学生なんて、夢見がちなころやからな、ちょっとした憧れやそういうのを恋愛感情と間違えてしまうって言ったやろ?
それを否定しても、わかってくれないんよ……。
話をこじらせないためっていうか……早く終わらせるために、や」

僕は、大きくため息をついた。
それは、何かに気づいてしまった自分に対するものかもしれない。
みっともない自分に対するものかもしれない。

「それに、涙子ちゃんなら、僕の絶望を打ち消せる。
だって、希望を生み出す子やからな」

「なぁ、もっと正直になれよ……」

カミやんが、再燃したまっすぐな目つきで僕を見つめた。

「なにがや?
僕は涙子ちゃんを助けたい。
これが僕の正直な気持ちやで?」
384 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/02(木) 00:18:16.62 ID:FoIGNz2xo

「助ける、というのはどういうことだい?
僕は世界を、そしてある意味世界の敵を助けるために……君たちを殺そうとしている。
本当に助けたいのなら、僕に任せて二人ともおとなしく僕に殺されればいい」

「助かって欲しいんやない。
“僕”が“助けたい”んや」

「それは、何故?」

同じことを何度も聞いてくるブギーポップにだんだんとイライラが積もる。

「だから、そんなん僕が涙子ちゃんを好きやからに決まってるやん!
大切な人には、生きていて欲しい、笑って欲しい、そう思うのは普通なことやろ?」

「君は佐天涙子を自分の命を守るために、そばに置いておきたかったんじゃないのかい?
それなのに、君は今佐天涙子を守るために死のうとしている。
おかしな話だ」

「……人間、日々変わるんよ……」

「そうだね、今この数分を取り出してみただけでも、確かに君も僕も上条くんもコロコロ変わってる。
だけど、そんな世界の中で生きていて、唯一佐天涙子だけは変わらないんだ、と君は言いたいのかい?」

「な、にが……言いたいんや?」

ブギーポップという存在は、どこまでも世界の敵の敵なのだと僕は改めて思い知らされていた。

世界の敵の歩もうとする道を、ことごとく潰しにかかる。
僕はこいつを「良い奴」だと、一度でも思ったことに、なんだか腹が立ってきた。

――こいつは、全然良い奴やない……僕の邪魔ばっかしやがって……。

でも、それはただの強がりで、本当は全部、こいつの粋な計らいなんだと理解していた。
385 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/02(木) 00:20:32.68 ID:FoIGNz2xo

そう、僕の戦いは、この時既に負けていたのだ。
いや、世界の敵は結局はブギーポップには負ける運命だったんや。


〜〜〜




七月二十日。





《エピローグ》

386 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/02(木) 00:22:25.49 ID:FoIGNz2xo

「……」

俺は黙ってペンをノートに走らせていた。

内容は、世界の敵と世界の敵の敵との戦いの結果だ。

勝敗は書かない。
きっとブギーポップは「勝ちも負けもない、あるのは僕が出てきた事実と、僕が消える現実だけだ」とかなんとかいうと思うから。

あまり細かく書くのもなんだか無粋な気がして、俺は一生懸命、下手くそなブギーポップの絵を描いていた。
何度も、何度も描き直す。
あの時錯覚かもしれないけど、見ることのできたブギーポップの笑顔を忘れないために。

黙々と作業を続けていると、玄関のチャイムが鳴った。

「……誰だ?」

ドアスコープを覗くと、そこにはなにやら大きな荷物を持った藤花ちゃんが立っていた。

「……なるほど、ね」

俺はそこですべてを理解して、ゆっくりとドアを開いた。

「こんにちは」

「はい、こんにちは!
急だけどさ……私外に帰ることになったわ。
黙って行こうかと思ったけど……当麻くん、泣くかもと思ってさ」

自分が泣きそうな顔をしながら、藤花ちゃんはそう言う。
387 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/02(木) 00:23:43.80 ID:FoIGNz2xo

「はは、別に今生の別れってわけでもないですし、そして何より俺たちは姉弟みたいなもんですし、泣きませんよ」

「……それもそうね、当麻くん、貴方と再会できて良かったわ。
再会がもう少し早かったら私の彼氏にしてあげたかも」

今は外に彼氏がいるからねー、と藤花ちゃんは笑う。

「……その、彼氏さんに同情しますよ」

主に、ブギーポップの事とかを。

「ひどい事いうわね……。
まぁ、それも上条くんなりの照れ隠し、なのかな?」

「ったく……急に出てくるなよ」

消えたはずのブギーポップは、左右非対称な笑顔で、俺に笑いかけた。

「上条くん、また会える日を楽しみにしているよ」

「お前と会うって事は、また世界の敵の敵との戦いが起きるって事だろ?
俺は遠慮したいな」

「つれないなぁ……僕らは友達、なんだろ?」

「……次に、会う時はまた、屋上がいいな。
なんとなくさ、お前には屋上が似合うから」

「よくわからないけれど、わかったよ。
君が友達になりたいと言ってくれた事、嬉しかった」

そう言い残すと、ブギーポップは消えた。
今度こそ、本当に新たなる世界の敵が出て来るまで、浮かび上がってくる事はないのだろう。

それが不気味な泡〈ブギーポップ〉なのだ。
388 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/02(木) 00:26:21.69 ID:FoIGNz2xo

〜〜〜

目を、覚ますとまず最初に真っ白な天井が目に入った。

「ど、こだ……ここ?」

つぶやき、頭が徐々に明確になっていくのを待つ。

そして、頭がはっきりしてくると、あの夜の出来事が蘇った。

「そうだ、青髪さん!」

――たしか、青髪さんがとんでもない量の絶望を流し込んできて、私は……気を失ったんだ。
あれ、でもその絶望は……?

自分の身体が思考が、いつにもなく調子が良い事に気づく。

「な、んで……?」

青髪さんから私へと植え付けられた絶望は、希望へと……真っ黒なガラス玉はそれを照らす光に変わっていた。

「え?嘘、なんで?」

私から、途轍もない希望が、溢れている。

「と、いうか……ブギーポップは?
というかというか、青髪さんは?」

私のその質問に答えるように、黒い筒が現れた。

「そうだね、君にも知る権利はある。
教えてあげよう。
……そうだな……絶望を浄化する者……デスパイア・ロンダリング、なんてどうだい?」

「あ、んた……どうやって、ここに来たの?」

「……もっと聞く事があるだろう?」

ブギーポップはため息をつき、続ける。

「つまり、君は本当の意味で覚醒したのさ。
絶望を生み出す者がいたら、希望を生み出すものがいる。
希望を汚す者がいれば、絶望を浄化する者もいる。
この世に変わらないものなんて、ほとんどないんだよ」
389 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/02(木) 00:26:51.30 ID:FoIGNz2xo

「変わらない、もの?」

「君の気持ちは変わる。
彼の気持ちも変わる。
だが、そんな中でも、変わらない物は少しはある。
例えば、僕は変わらない。自動的な存在だからね」

正直、なにが言いたいのか、なにを言っているのかあまり理解できなかった。
だけど私は頷く、言いたい事のその本質は、私の中に流れて来たような気がしたから。

「つまり、私がまた変わってしまったら……あんたはまた私を……私たちを殺しにくるって事ね」

ブギーポップは、なにも言わずに、消えた。
先ほどまでブギーポップが立っていた窓際で、カーテンが風にゆられフワリと動いた。

「……いや、まだ行くなよ……。
青髪さんはどうなったのさ?」

大きな希望を持っているからだろうか余裕がなぜかあった。

「……入院とかした事ないからこういう時どうすればいいかわかんないなぁ。
とりあえずナースさん呼べば良いのかな?」

揺れるカーテンを眺めながら、そんな独り言をつぶやいていると、ガチャリと音をたてて、扉が開いた。

「あれ?
佐天さん元気そうじゃないですか」

「おぉ、初春か……」

扉を開いたのは私の“親友”である初春飾利であった。

「世良さんが、ここに佐天が入院してるぞ、って連絡くれたんで来てみたんですよ。
何やってたんですか?
危ない事しちゃダメですよ?」

「お、おおう……世良さん?
初春、世良さんと友達なの?」
390 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/02(木) 00:27:20.32 ID:FoIGNz2xo

「え?はい、あぁ……でも世良さんはリィって人ともう外に帰りましたよ。
何しにきたんでしょうね、あの人たち」

初春の口からとんでもない名前が次々と出てくる。

「リィ……って、まさかフォルテッシモ?」

「フォルテッシモ?」

「あの、なんか変なピッタリした感じの服きたえらそうな人でしょ?」

「はい、クレープが大好きらしいですよ」

そして、そういえば、と初春は私にメモ用紙を渡してきた。

「世良さんからです」

そのメモを開くと、そこにはこう書いてあった。

『作戦失敗。やっぱ余計な事はするもんじゃねぇな』

「え?」

『つまり、お前の能力がまた必要になっかもしんねーから……報告はやめとくよ。
ピート・ビート』

「……なんだよ、びっくりしたなぁもう」

「どんな関係なんですか?」

「んー、仲間?
なんだろ、友達ではないし、手を組んだ仲というか?」

初春は不思議そうにふーん、というと思い出したかのように「先生呼んできます」と部屋を出て行った。

「……今っていつなんだろ?
まさか三日も四日も寝てたって事はないよね?」

携帯電話で日付を確認しようとしたが、見当たらないので諦めて窓へと歩み寄った。

「良い天気だな」

こんなにものんきでいられるのは何故なんだろう。
でも、なんだか、落ち着いた、清々しい気持ちだった。
391 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/02(木) 00:28:29.03 ID:FoIGNz2xo

〜〜〜

『何が言いたいか、君が一番知ってるだろう?
自分のみっともない姿を見られるのと、自分の好きな女の子を泣かす事と……。
君はどっちを選ぶ?』

佐天涙子に縋れば僕は生きていける。
だって、彼女は絶望を希望に変えてくれる存在なのだから。

でも、そんなのかっこ悪いと思った。
だから、僕は絶望そのものである僕自身を殺そうとした。

『言っただろ?
君達の最大の……いや、君の最大の不運は出会ってしまったことだと』

本当にその通りだ。

『そして、変わらない物なんてほとんどないんだよ。
つまり、そういうことさ』

あぁ、つまりそれは、僕の「利用できるから側に置いておきたい」って気持ちが「好きだから側にいて欲しい」って変わったのと同じってことやろ?
392 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/02(木) 00:28:55.29 ID:FoIGNz2xo

『世界の敵になったり、そうでなくなったり、そんな大きなことだって変わるのさ。
人間の意志という物は、それ程までに強大なんだよ』

わかったわ……もう、負けやわ。

「それにしても……どないしよ」

昨晩のブギーポップとの話を思い出しながら、僕は公園でぼんやりしていた。

「やっぱり、失敗やったかもな……。
はぁ……なんだかなぁ」

雲を見つめながら、夏らしさに心地よさを少しだけ堪能し、昨晩の事をまた思い出す。

『……絶望が、絶望を浄化する者と一緒になったのならば、僕はもう必要ないね』

わざとらしくそんな事をいうと、ブギーポップは消えた。

「僕が、涙子ちゃんを守りたかったんやけどなぁ……」

僕は、そうつぶやくと、目をとじた。
セミの声と、公園ではしゃぐ子供の声、車の音と、飛行船が知らせる天気予報。
騒がしかったが、その声を聞き間違えるはずもなく、どの音よりも鮮明に耳に届いた。

「青髪さん、こんにちは」

「やぁ、こんにちは」
393 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/02(木) 00:34:46.67 ID:FoIGNz2xo

〜〜〜

病院を出ると、一本の道が伸びていた。

「よし、初春ごめんだけど私少し寄るところあるから先に帰ってて」

「え?でも……」

「大丈夫、もう、無茶はしない。
夏休みだからね、初春と沢山遊びたいし」

初春は、少しだけ心配そうな顔をしたが、やがてにっこり微笑むと快く私を送り出してくれた。

初春に力をもらい、私は走る。
走る。走る。走る。
その道の先には、必ずあの人がいるから。

「いた……」

息を整えようとしたのか、気持ちを落ち着かせようとしたのか、どちかはわからない。
私は走るのをやめ、ゆっくり歩く。

そして、その距離がどんどん近くなる。

「青髪さん、こんにちは」

「やぁ、こんにちは」

「私たち、二人一緒だと世界の敵ではなくなるらしいですよ?」

「え?そうなん?知らなかったわぁ」

「青髪さん」

「なんや?」

「花火大会、行きませんか?
綺麗な淡い色の浴衣を、大好きな人から貰ったんですよ」

「そっか……うん」

「あの浴衣のおかげで、私は走る事が出来ました。
希望も簡単には消えないって知りました」

「……ありがとな」

そのありがとうが何に対する物なのかはよくわからなかったが、私ははい、と返事をした。

もう、大丈夫。
この街の絶望にいくら襲われようとも、私はその闇を照らす光を持っている。

薄暗い路地裏を照らす、怪しい店のネオンライトのような、不思議な温かさをもつガラス玉を……。



了。
394 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/02(木) 00:40:03.55 ID:FoIGNz2xo
はい、終わり

最初は青髪を本物のクズにして散々暴れさした後、佐天さんに救われる
みたいな話を考えていたけど、やっぱりハッピーエンドが好きなんでハッピーエンドになっちった

明日、朝早いからもう寝ます
明後日に、あとがき的なのと、小ネタというか、ギャグに走りすぎて流石に使えないってなったネタを少しやろうかな

まぁ、とりあえずここまでありがとうございました!
395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/02(木) 00:55:53.78 ID:M4pJZ+Awo
乙!
ホーリー&ゴーストみたいなボーイミーツガールはほんと好き

ラストも未来見える感じでよかったです
396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/02(木) 05:46:18.46 ID:hgEzbc5IO
乙でした〜。
いいクロスに出会えたと掛け値無しに思うよ。
397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/02(木) 06:36:11.72 ID:8hlophDIO
乙でした!ブギポっぽくてすごい良かったです
398 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/02(木) 10:02:40.16 ID:SIVxxXzIO
少し時間が出来たのでレス返し

>>395
どうもありがとう!
前作もだけど、終わりが一番やっぱ難しいというか投下するの怖いから良かったと言ってもらえると嬉しいです

>>396
ありがとう!
そう言ってもらえると嬉しい
記憶の片隅にでも残ってくれたら嬉しいです

>>397
ブギーポップっぽくってのが出せるか不安だったから、雰囲気出てると序盤から言ってもらえてすごい嬉しかった
最後は少しブギーポップっぽくないかなと思ったけど最後までブギーポップっぽさが少しでも出てたなら良かったです
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/08/02(木) 21:47:01.95 ID:VKFTX0Lh0
いいものを読ませてもらいました
ブギポの雰囲気が出てて、禁書キャラの青臭さがうまく作用したなあ
ff in 学園都市は最初強さの差がやばい、と思いましたがハラハラするバトルで見事な落としどころでした
400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/03(金) 01:21:26.49 ID:EJJApD2X0

クロスSSとして実にそれらしさのある良作だった
401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/03(金) 01:47:27.36 ID:6HPFgPcDO
面白かった
男のプライドか、青ピ可愛いな
男前な佐天さんとお幸せに
402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/03(金) 12:36:53.43 ID:3rF3zVdQP
恥のために死ぬなんて馬鹿らしいと笑いとばすお話か
イイネ!
403 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/04(土) 01:04:38.77 ID:XoMqYCv3o
>>399
バトルはどっちのファンが読んでも「まぁ、一応の納得はしてやるよ」ってなってくれたらいいな

>>400
ありがとう!
ブギーポップと禁書のクロスならこれ!って作品になれたらいいな

>>401
青髪はこれから大変だと思うけど頑張って佐天さんと二人三脚で生きて行って欲しい

>>402
それプラス「大切な人の為に死んでその大切な人泣かせたらダメじゃん?」って感じかなぁ
生きれる道があるなら必死に生きろ、どうしてもだめなら死を選ぶのもいいけど、最後までみっともなく生き抜け!少し視点を変えれば自分がより情けなるけど生きれる道はあるだろうが!って話かもしれない

NGにしたシーンもっとあるのに発掘出来ないから一個だけ
その後は上泡対談でも少しやろうかなと思ってるけど完全に蛇足だしなぁとも思う

とりあえず、ノリノリで書いて読み直して真顔で「ないわ」ってなったシーン投下します
404 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/04(土) 01:15:57.55 ID:XoMqYCv3o
>>377


「まず、ほら……」

言いながら、佐天を青髪に押し付けた。
そして、佐天の手を青髪に握らせる。

「んで、ほら」

青髪の手と佐天の手を包み込むように右手で二人の手をつかむ。

「ブギーポップ!」

「ブギーポップ?」

「……あれ?」

「当麻くん、何言ってるの急に?」

「え?これで解決なの?そんな簡単なものなの?は?」

藤花ちゃんは、不思議そうに俺たち三人を見つめる。

「え……いやいやいや……ちょっと待って」

言いながら、青髪から手を離す。

「それで?
君は死ぬまで二人の手をつかんで生きるつもりかい?」

「おぉ!」

また、青髪の手をつかむ。

「当麻くん?」

「お、おおぉっ!」

「上条くん、ふざけないでくれるかな?」

「カミやん、今割とシリアスやってるんやで?」

「……だって、こうしないと俺の主張とおらないし?
まぁ、こうやると俺が自分の考え主張したい奴消えるけどさ」

言いながらまた、青髪の手をつかむ。

「……当麻くん?なんなの、これ?
君一体な――」

めんどうになりまた離した。

「……わかった、触れている体で話そう。
話が進まないよ」

「なんか、ごめん。
俺の幻想殺し、反則技すぎてごめん」

「まず君を殺そうか?上条当麻、くん?」

………………………

…………………

……………

………





こんな感じの『強すぎる幻想殺し』話が進まない上に雰囲気ぶち壊すため却下。

あと佐天さんが「誰?」って上条さんにいうシーンも、佐天さんが上条さんが誰かをしつこく聞きまくる展開にもなりそうになったり

上条とブギーポップの会話にもNGあったのにそれが発掘できない
405 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/04(土) 01:21:54.03 ID:XoMqYCv3o
はい、たいしたものでなくてすみません

この後上泡対談、木山先生のその後、佐天青髪のその後を書こうかなと思ってるけど完全に蛇足だから、このまま終わったほうがいいのかもしれない
意見あったらお願いします

では、また
406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/04(土) 10:11:37.53 ID:MA0elNgDO
どれも超読みたい
中盤で出頭しちゃった先生どうしてるんだろ
407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/08/04(土) 11:24:12.60 ID:l2KfgxbG0
読みたい!!
408 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/05(日) 19:27:38.07 ID:b/O2lQFko
じゃあまず木山先生やろうかな
上泡対談はなんか二人が話すテーマくれ
その中からかけそうなテーマでやる

ただ少し疲れたのでのんびりやります


409 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/06(月) 00:29:19.78 ID:cyJVvCh0o

〜〜〜

「幻想御手事件、解決したの君たちの支部なんだってね?」

腕の傷の治療をし終えたカエル先生は、思い出したかのようにそう発した。

「あ、いや……というか、なんで知ってるんですか?」

「まぁ、僕にも色々情報網があってね?
ただ一つわからない、木山春生は何をしようとしていたんだい?」

「……先生は、木山先生を助けてくれますか?」

「傷ついた者を治す、それが医者である僕の役目だね?
こう見えても顔が利く、力になれると思うよ?」

この人はきっと、この学園都市で唯一といっても良いくらい“大人”なのかもしれないと思った。

「木山先生は――」

私は、私の知る限りの事を話した。

それは、佐天さんが気まずそうな嬉しそうな恥ずかしそうな、なんとも言えない顔で私の家に「夏休み、補習ばっかであんまり遊べないかも」と言いに来た翌日のことであった。

七月の二十五日。

この物語には、世界の敵も、世界の敵の敵も……そして、幻想殺しのヒーローも出てこない。

登場人物は間違ってしまった学校の先生とちっぽけな風紀委員、そしてこのお医者さんと……セイギノミカタだけだ。
410 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/06(月) 00:30:24.54 ID:cyJVvCh0o

〜〜〜

「あの実験か……わかった。
子供達は僕に任せるといいね?
木山先生のことも……僕に任せてくれ」

私が話を終えると、カエル先生はそう言い腕の傷ももう完治したと言った。

「ありがとうございます。
先生、私木山先生は間違っていなかったと思うんです。
歪んだ世界でまっすぐ生きてしまったから……こうなっちゃっただけなんだと思うんです」

木山先生のやった事は、許される事ではない。
だけど……木山先生は真っ直ぐだった。
子供達を救いたいと、目の下にクマをつくって、悲しみや、絶望や、笑っていてもそういう負の感情が見え隠れして……。

きっと、木山先生の今回の事件は真っ直ぐな世界では起こり得なかった。
だけど、木山先生のその真っ直ぐな世界は何時の間にか壊され、歪んだ物へとなってしまっていたのだ。
そこに木山先生は順応できなかった。
だから、弾かれこんなことをしなくてはならないまでに追い詰められた。

「この、学園都市のそういう汚い部分……私はいつか、無くしたいです。
もう、泣く子供が出ないように。
もう、子供のために涙を流す優しい先生が絶望しないように」

「……そうだね。
僕も……今のこの街は間違っていると思うよ」

少しだけ悲しそうな顔を、カエル先生はした。

お礼を言って診察室を出ると、佐天さんが立っていた。
411 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/06(月) 00:30:52.16 ID:cyJVvCh0o

「お、初春!
ちょうど終わったところ?良かった」

「何やってんですか?」

「補習終わったから初春に会いに来た!
私気づいたんだよ、初春が大好きだって!」

「はぁ……そうですか……。
まぁ、いいです。
これからヒマですよね?
どこかでお茶でもしながら少し聞いてもらいたい話があります」

佐天さんは最近、前よりさらに元気になった。
そして、どこか大人っぽく、女性らしく雰囲気が変わった。

それがなんだか置いていかれた気分で悲しかったり焦ったりするけれど、佐天さんはこれ以上先にはまだまだいかないよ、と私より数歩先で待っていてくれているので、私は私のペースで成長していけばいいのだろう。

「話って?」

会計を済ませ、病院を出ると息苦しさを感じる熱が全身を包み込んだ。
佐天さんは太陽に手をかざしながら、胸をパタパタと仰ぎ、そう聞いて来た。

「幻想御手はしってますよね?」

「あー、うん。
初春たちが捕まえたんでしょ?」

「えぇ、まぁその犯人、というか開発者の方を私は助けたいんです」

犯人、とはあまり言いたくなかった。

佐天さんは興味なさげにふーん、と相槌をうつと、私の頭を撫でる。

「そんなに暗い顔しないでよ、初春には私がついてる。
私がいる限り初春に絶望なんてさせない」

にっこりと、佐天さんは笑った。
412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/06(月) 00:34:02.92 ID:90z13BlDO
ヒーローについてとか都市伝説とか学校とか
元ネタのお題から拾うとか

身体が一番だしゆっくり休んでね
413 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/06(月) 00:34:35.20 ID:cyJVvCh0o

〜〜〜

「ヒマ、だな……刑務所ってところは」

木山春生は本から目を離し、鉄格子から空を眺める。

「こんなところでのんびりしている場合ではないのだが……」

ぱたりと本を閉じる。
そのまましばらく考え事をしていると、看守がやって来て面会者が来たことを知らせた。

「木山春生、面会者だ」

「面会者?……私に?」

誰だろうと不思議に思いながら、看守に連れられ面会室へと行った。

「君は……」

「こんにちは、例の子供達どこにいるのかしら?」

気持ち悪い愛想笑いを浮かべ、そう木山に尋ねる。

「誰だ?君は、いきなりなんなんだ?」

少しだけイラついたような声色で木山は答えた。

「失礼、MARの隊長。テレスティーナです。」

「MAR?災害時における救助活動が仕事の君が……私にいったいなんのようだ?」

テレスティーナの所属を聞き、木山の警戒心はより強くなった。

「調べたわ、子供達を救うために幻想御手を作り、失敗に終わったって……。
だから、私が代わりに助けてあげるって言ってるの。
さぁ、子供達はどこにいるのか教えてくれないかしら?」

「……教えてやりたいが、無理だ。
私はまだ子供達の居場所すら把握できていないのだからな……」

「あらぁ?じゃあどうやって助けようとしていたの?」

ニヤァと薄気味悪く笑う。

「そんなの、決まっているだろう。
どんな事をしても、だ」

「答えになってないわ……まぁ、いいや。
こちらで探すわ」

「そうか、じゃあ子供達を探すのは任せよう。
ただ、見つけたらそのまま引っ込んでもらう。
あの子達は……私達で助ける」

「……達?
あなたに仲間がいるのかしら?」

バカにしたように呟いたが、木山はわらってそれを受け流し、こう言った。

「あぁ、いるさ……とっても優秀でとっても困った子達がね」


414 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/06(月) 00:35:44.11 ID:cyJVvCh0o

〜〜〜

「とりあえず子供達を見つけないとどうにもならないんじゃない?」

私と佐天さんは、迷った挙句結局いつものファミレスに来ていた。
ドリンクバーと軽くつまめる物を頼むと私は佐天さんに今私の抱えている問題を話し始める。

そして、一通り話し終わった直後の佐天さんの一言がこれだった。

「あとさ、その木山先生?
その人も脱獄させるか、なんとか釈放されるの待つかしないとだめじゃない?
木山先生を脱獄させるか、子供達を見つけてカエル先生に保護してもらうか、くらいじゃない?
私たちに今できることって」

そして、さらにそう続けた。

「どう、しましょう……」

「出来る事やるしかないでしょ?
まずは木山先生を脱獄させる。
本当にやるんだったらこれは私に任せて」

佐天さんは私を試すように見つめてきた。

「それは……ダメです。
木山先生は、途中で気づいたんです。
『間違った方法で助けてもダメだ』って……そんな事は教えていないって……だから、ダメです」

「良かった……やっぱり初春は凄いね。
私は、目的のためなら手段を選ばなかった。
たくさんの人を傷つけた……最後の最後に、やっと気づけたんだ」

佐天さんは、ひとつ上の段階から、私を見守るように嬉しそうに笑った。

「じゃあさ……子供達を見つけよう。
そして、木山先生が出てくるのを待とうよ」

「そう、ですね……」

不思議な感覚がした。
佐天さんがいっている事は凄く難しい事のはずなのに、簡単にそれができてしまうような錯覚を覚えた。
415 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/06(月) 00:36:26.72 ID:cyJVvCh0o

〜〜〜

「この街は……本当に嫌な街だな」

黒っぽいライダースーツを身につけた長髪の美少女がバイクにまたがりそうつぶやいた。

「しかし……はいる学校を間違えたな。
なんだってんだ、あのオジョーサマ達はよ」

顔に似合わない男口調で文句をたれながらバイクを降り、路地裏にズカズカと足を進めて行った。

「おい、俺が相手してやるからその子は離してやれよ」

そして、ニタニタと笑いながら一人の女の子を囲っていた男どもにそう、声をかける。

「あんだ?てめぇは?」

「俺か?俺は……そうだな……炎の魔女、とでも名乗っておこうか」

どこからどうみても、誰が見ても、美少女だと認める容姿からは想像できない力強さと、言葉遣いをしたその少女――霧間凪――は学園都市に取り残され、そして、終わったはずの物語でやっと、出番が回って来た。
416 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/06(月) 00:38:43.49 ID:cyJVvCh0o

〜〜〜

学園都市の外。
街中の何処かのポールの上に、ブギーポップは立っていた。
その目線の先には、学園都市の外壁が見える。

「そう、この物語に登場するのは僕みたいな自動的な存在でも、世界の敵の敵でもない。
彼女や、初春飾利といった、セイギノミカタの物語だ。
そうだね、言うならば『ブギーポップ・ロスト〜セイギノミカタの作り方〜』って所かな」

そして、そうつぶやくと、闇に溶けるように消えた。

もはやこの物語から自分は消えた、というように……。
417 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/06(月) 00:39:25.08 ID:cyJVvCh0o
ここまで

次回は未定
多分出来とかもそんなに良くないと思うがまた次も読んでください
418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/06(月) 00:43:21.61 ID:90z13BlDO
おお外伝っぽい
割り込んで申し訳なかった
419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/06(月) 03:14:13.72 ID:duWZ4dbsP
凪様キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/06(月) 06:35:46.54 ID:iS+zxpwIO
この引きは紛れもなくかどちんw
次も楽しみにしてるよ。
421 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/06(月) 10:16:08.20 ID:cyJVvCh0o
>>418
気づかなかった
お題ありがとう!
細かいことは気にしなくていいよん
番外編も楽しんでくれたら嬉しいな

>>419
やっぱね、ブギーポップキャラ出さなきゃね
ブギーポップとff、ビートくんが消えたらクロスSSじゃなくなるし『佐天「絶望と希望が見える能力?」』ってスレタイになっちまうからね
そこで選ばれたのが強くてかっこ良い凪様なわけですよね!

>>420
ふと思ったが漫画だとアシスタントとかで大御所とかから習うというか弟子入り的な雰囲気あるけど、小説家ってそういうのないのかな?
かどちんに弟子入りしたいw
番外編も頑張りますので楽しんでくれい


422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/06(月) 10:54:06.90 ID:fLxgVpUY0
古本屋でブギー全巻見つからないからスルーしてたけど原作ブギーっておもしろいの?
おもしろかったら本気で集めようかな・・・・
423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage saga]:2012/08/06(月) 11:19:53.78 ID:LPd+s/y1o
>>422
ブギーポップは笑わないを読んで決めたらいいと思うな
面白いって言っても人には合う合わないがあるから
最近のラノベと比べて燃えや萌えは抑え気味ではあると思うけど
個人的にはペパーミントの魔術師がおすすめだよ
424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2012/08/06(月) 14:58:50.66 ID:kbgrmmsmo
>>423
ああ、俺もペパーミントの魔術師が一番好きだな。
なんかこう、アレが一番響くんだよね。
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/06(月) 19:38:27.96 ID:duWZ4dbsP
金に余裕があるならペパーミントくらいまでは読んでほしいな
キツイならパンドラまででも良い

最初の笑わないは投稿用の作品だからかちょっと勝手が違うんだよね、面白いけどさ
426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/06(月) 20:53:02.77 ID:rMsCP3kIO
ペパーミントいいよな。個人的にはパンドラも好きだが
海影くんまたでてこねーかな
427 : ◆qXEKQweJllf. [sage]:2012/08/07(火) 20:43:05.58 ID:Nsxvl64IO
そうね、人によるからとりあえず笑わないを読んでみてください!

俺はホーリィ&ゴーストと夜明けのブギーポップもなんか好きだ
あとビートのディシプリンも好きだ!

428 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/08(水) 01:36:04.54 ID:OINX0kkqo
凪がなんかぽくない

はじめます
429 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/08(水) 01:37:17.29 ID:OINX0kkqo

〜〜〜

「まったく……おまえも少しは考えたらどうだ?」

鉄板の入った安全靴による蹴りと、改造スタンガン警棒で五人の男たちを軽くひねり潰すと、炎の魔女は絡まれていた女の子に凄む。

「こんな時間にあんな道を通ったらどうなるかなんてわかるだろ?
自分だけは大丈夫、とでも思ったってのか?」

少女は怯え切り、カタカタと震えている。

「チッ……ほら、送ってやるからもう二度とこんな時間にこんなところうろつくな」

言いながら、バイクに近づき、ヘルメットを投げ渡した。

「あ、ありがとうございます」

「はぁ……ったく」

霧間凪。
別名、炎の魔女。
霧ヶ丘女学院の二年生である。

彼女がこの街に来たのはブギーポップがこの街から消える数日前のことだ。
この街の異常性を感じ、それを調べにやって来た。
だが、完全に出遅れ、この街に着き、情報を集め終わった頃には全てが終わっていたということだ。

「……その制服、常盤台だろ?」

「は、はい……」

「寮はどっちだ?
学舎の園の中と外にあるだろう?」

「そ、外です!」

「そうかい、じゃあさっさと乗りなよ」

ヘルメットをかぶりバイクにまたがった。

「しっかり捕まってろよ」

そして、そう言うと、常盤台中学校の寮へとバイクを飛ばす。

――そろそろオレも外へ帰るか……。

霧間凪はもうこの街の異変はカタがついたと知っていた。
だが、この街はご覧の通りの治安の悪さだ。

知ってしまったからには、離れ難くなった。

――こういうのなんていうんだっけな……メサイアコンプレックスだっけ、か?

何に対するイラつきかは分からぬが、イライラとしながらバイクのスピードをさらにあげた。
後ろの女の子が凪の体にしがみつく力が少し強くなった。
430 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/08(水) 01:39:08.00 ID:OINX0kkqo

〜〜〜

七月二十六日。
この日はこの夏で一番の高気温を記録した。

外に立っているだけで汗が吹き出してくるが、そんなことを気にする余裕もない事態が目の前で起きている。

「な、なんで……あなたが」

「やれやれ、今日は暑いな……服を一枚、脱いでもいいかい?」

言いながら、白衣を脱ぎ、その下に着ているブラウスまで脱ごうとする。

「うわわっ!
待って待って待って!ここ外ですから!」

「じゃあ、あの店に入ろう、それならいいだろう?」

「店にはいるのは構いませんが、脱ぐのはダメですよ?」

「……はぁ、じゃあそうしよう」

私は警邏中だということをすっかり忘れ、その人物――木山春生――と少し高そうな喫茶店へと入った。

――ここ、奢ってもらえますよね?
木山先生の車調べたらランボルギーニとかいう高いやつでしたし、お金持ってますよね?

暑くておかしくなったのか、それとも驚きすぎておかしくなったのかは分からないが、そんな的外れなことを考えていた。

「君達には本当に感謝しているよ」

店のドアを開けながら、木山先生は恥ずかしそうにそうつぶやいた。

――ここで?人前で脱ぎ出す人がここで照れるんですか?

木山先生のよくわからない精神構造にやや脱力しながら、私もあとに続いた。
431 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/08(水) 01:40:33.21 ID:OINX0kkqo

〜〜〜

「……なんだ、あいつら?」

補習をばっくれて公園で学園都市らしいどこに需要があるか理解に苦しむ商品が並ぶ自販機の中から、一番まともそうな物を買って飲んでいた。

そこで、目に飛び込んできたのが、ぞろぞろとトラックの影に隠れるようにしながら研究施設らしき建物に入って行く駆動鎧達だ。

「こんな良い天気の日に、穏やかじゃないね、まったく……」

首を突っ込もうと、駆動鎧どもが入っていった建物へと近づくと、そこで更なる異変に気づく。

「MAR?……って、警備員の特殊部隊みたいなやつだったっけ?
確か災害救助が目的な組織だったはずだが……」

――それが、何故?
何故あんなにまで殺気立ち……一体この中には何があるってんだ?

胸元をすこしだけ開けていたライダースーツをピッタリとしめると、武器を確認する。

――よし、大丈夫だ。

慎重に奴らの入って行った建物へと侵入する。
建物の一回はがらんとした廃墟のようになっていた。

――奴らどこへ消えた?

「ここで何をしているのかしら?」

突然背後から声をかけられ、振り向きながら攻撃をする準備と防御をする準備を整える。

「ここは、関係者以外立ち入り禁止よ?」

「……外は日差しが暑くってね、ご覧の通りのフリョーなもんで……見逃してくれるかい?」

「……いいわ、さっさと帰りなさい」

「どーも」

おとなしく、入ってきた扉から外へでた。
432 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/08(水) 01:42:19.67 ID:OINX0kkqo

〜〜〜

「まさか」

私達は窓際の四人がけのテーブルに通された。
そして、注文を終えると、すこしだけ罪悪感に駆られるように木山先生は話だす。

「君達があの冥土返しにコネがあったとはね」

「冥土返し?」

「おや……知らなかったのかい?
あの……カエルに似たお医者さんだよ。
彼のおかげで私は仮釈放された。
無罪にも出来ると言われたが、断ったよ。
私のやった事は……間違いだったからな」

「……そう、ですか」

「あぁ」

二人の間に沈黙が流れる。
店のBGMと他のお客さんの楽しそうな笑い声がやけに大きく聞こえた。

「そして……子供達も見つけてくれた。
本当に、あの人は凄い人だ」

お冷の氷をカラカラと揺らしながら、木山先生は嬉しそうにそう言った。

「こ、子供たち見つかったんですか?」

「あぁ……あとは、起こしてあげるだけだ」

「そっか……なんか、私なんの役にも立ててませんね」

結局、全てはあのカエル先生のおかげだ。

「そんな事はない。
私をしっかりと叱ってくれて、正しい道を照らしてくれたのは君達だ」

「……起こす方法は、わかっているんですか?」

「……あの実験は、能力の暴走の条件をAIM拡散力場を人為的に刺激し、解明するというものだった」

「暴……走……?」

そんな非人道的な実験を、この街は秘密裏に許しているのだ。
そして、そういう表に出せない実験には、置き去りという親に学園都市に文字通り「置き去り」にされた子供たちが使われる。
433 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/08(水) 01:42:49.64 ID:OINX0kkqo

「もっと早く気づければ……私はあの子達を助ける事が出来たのかもしれない。
いつまでも目覚めない眠りにつかせる事もなかったのかもしれない」

「木山先生……」

「あの子達は、私を信じていた『先生の実験なんでしょ?だったら、安心だよ』って、そう……言ったんだ」

店員さんが、頼んだアイスティーとアイスコーヒーを持ってきた。
空気を読んで、何も尋ねずにガムシロップとミルクをひとつずつ置いて行く。

「だから、私は……」

「大丈夫ですよ!」

そんな憂鬱な空気を吹き飛ばすように、私の親友はいきなり現れた。

「大丈夫、木山先生は希望を忘れてないもん!
また、子供達と笑う……それが先生の希望でしょ?」

そして、私の隣へ座ると、私のアイスティーを一気に半分ほど飲み干した。

「あーっ!佐天さん、なにやってんですか!」

「え?偶然とおりかかったら初春がなんか良い感じのお姉さんとお茶してたから……まぁ、端的に言えばデートの邪魔?」

「デ……デートなんかじゃありませんよ、ねぇ?木山先生」

「ん?あぁ、私は別に君みたいな優秀で可愛い子なら……」

「冗談、ですよね?」

子供達関連以外は表情が乏しいので、それが本気なのか冗談なのか、分からなく、少しだけドキッとしたようなゾワッと、したような気分になる。

「当たり前だろう、話を戻す。
あぁ、飲み物ならまた頼みなさい。
君も…….何か頼みたかったら頼むと良い」

言いながら、木山先生はメニューを私達の前に開き、すこし手を上げ店員さんを呼んだ。
その姿がなんだか大人で、とてもかっこよく私には見えた。
434 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/08(水) 01:44:24.45 ID:OINX0kkqo

〜〜〜

「なるほどね、つまりその実験の最初の被験者のデータとその時の能力体結晶が手に入れば起こせるのか。
まぁ、そのファーストサンプルを使う段階までの理論建てというかプログラムというかはまだ出来上がってはないから、木山先生にはそっちに集中して頑張ってもらおう。
ファーストサンプルは私達で見つけるよ!」

木山先生と別れたあと、私と佐天さんは帰路についていた。
その道中で先ほど話した話を繰り返し、考える。

「あと、気になるのはMRAだっけ?」

「MARです。
先進状況救助隊、でしたっけね。
警備員の特殊部隊ですよ」

「そうそれ、それが……何故かその、実験の事を知っていて、子供達を保護したいと今更言っているってのが気になるよね」

私の少し前を歩く佐天さんは、いきなり立ち止まり、私にも止まれと手を出した。

「うん、普通に考えてこんな話は外でするもんじゃないよね。
反省反省……まぁ、とりあえず出てきなさいよ」

佐天さんがそういうと、二メートルほど先の路地裏へと通じる狭い道から、一人の女の人が現れた。

「まぁ、なんというか……この街のびっくり人間どもには驚かされるね。
どうやってオレがいる事に感づいた?」

その人はとても美人で、凛々しくだがどこか、冷たい感じがした。
435 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/08(水) 01:44:53.90 ID:OINX0kkqo

「そんなの、教えるわけないでしょ?
でもひとつだけヒントをあげる、私の能力は……この街のものじゃあない」

「ほう……まぁそんなに殺気立つなよ……たぶんオレ達の目的は同じだ」

その女は、両手をひらひらさせながらそういった。

「同じ?」

「あぁ、MARが怪しい、そう思ってんだろ?
オレもだ。
奴らに疑問を持ったのはついさっきだからまだ調べてる途中だが……」

「……あんたがそのMARの人とも限らない」

皮のつなぎを着たその女の人はぴゅうと口笛を吹いた。

「こんな誰が聞いてるかわからん街中でそんな話をしてるからてっきりバカなのかと思ったら……なかなかしっかりしてるじゃないか」

そして、余裕そうに微笑み、そう言った。

「……」

佐天さんは、黙ったまま女の人を睨みつける。

「ま、いいさ……オレの邪魔はするなよ。
この街に思い入れなんざねぇけど、オレは――悪りぃ奴が嫌いなんだ」

「私は、佐天涙子……柵川中学校の一年生」

「……オレは霧間凪だ。
霧ヶ丘女学院の二年」

二人は、この先なにか衝突し、その際なにか言いたい事があったら来い、とでもいうように自己紹介をした。

「じゃあな、気をつけて帰れよ」

言いながら、霧間凪さんはごついブーツをかつかつ鳴らしながら路地裏へ消えて行った。

「霧ヶ丘って……常盤台みたいな名門よね?
名門にもあんな不良みたいなの……あぁ、常盤台には御坂さんがいたか」

佐天さんはピリピリした空気を和ませながら、冗談っぽくそういった。
436 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/08(水) 01:53:39.52 ID:OINX0kkqo
ここまで

なーんか凪がぽくないんだよなぁ
なにが悪いんだろう

さっと終わると思ったけど意外と長くなりそう
書き出したら意外とスラスラかけるからいいけど
次ロストを投下する前か後に上泡対談も少し投下してみようかな
上泡対談は1〜2レスの短い感じでやろうと思ってるし

しかし、さっき本家をさらっと読み直してみたけどやっぱ本家のバトルシーンはいいな
ワクワクするな
上遠野浩平さんレベルのもの書けるようになったらおれも作家目指そうとおもう、来世に期待しててくれ

はい、では長々と失礼しました
次もまた読んでください
437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/08(水) 08:55:49.56 ID:zTNnRgA1P
あいつと違って名乗る趣味が無いが数少ない口癖の凪様があっさり名乗ってるwwww
438 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/08(水) 09:18:08.20 ID:8M16olDIO
なるほどな
どうも俺がブギーポップキャラを書くとおしゃべりになるようだ

しかし、そのレスで今後の展開が今生まれたよ
ありがとう!

上泡対談を投下しま

対談ってより上泡雑談って感じだけど


439 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/08(水) 09:23:07.30 ID:8M16olDIO
上泡雑談その一『性別』



〜〜〜

「やぁ、上条くん」

「ブギーポップか……。
こんな夜遅くに出歩くなよ」

ブギーポップの事は日記でしか知らない。
そして、その日記は、日記というよりも俺がブギーポップに翻弄され続けた記録だ。

………………

………


440 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/08(水) 09:23:34.98 ID:8M16olDIO

いつものように、恐らく世界の敵の存在が色濃くなってブギーポップは出て来たんだろう。

俺の部屋に真っ黒な筒が生えたようなそんな無機物のようにブギーポップは俺の部屋で過ごした。

「……そういえばさ」

ふと、ある事が気になりブギーポップに声をかける。

ブギーポップは壁に寄りかかるように立ちながら「なんだい?」と答えた。

「おまえってさ、男なの?女なの?」

「……おいおい、こんな可愛い顔した男がいると思っているのかい?
藤花が聞いたら悲しむぜ?」

「いやそういうことじゃなくて……というか、おまえ意外と自分の容姿に自信があるんだな」

「じゃあ、どういうことだい?」

「つまり、お前は藤花ちゃんとは別の存在だろう?
体は確かに女の子かもしれないけど、お前としては、というか……ブギーポップって人格は男か女かわからないじゃないか」

「僕が女だって言ったら、どうするつもりだい?」

「世界の敵と戦うなんて危ないことはやめさせる」

「……何故?」

「そんなの、危ないからに決まってんだろ?
藤花ちゃんの体で危ないことしてるのだって俺はまだ納得しきってはいないんだぜ?
でも自然とお前は男だとおもったからさ……男なら危ない事するのもしょうがないっていうか……」

「なるほどね、そうやって君は数々の女の子を落として来た訳か……。
で?本心は?」

「……お前が男ならいざとなった時に世界の敵とか関係なく出て来て藤花ちゃんを守ってやって欲しい。
あと、女の子ならこれからこうして遅くに俺の所にくるのはやめろ。
なんかダメだろ、そういうの」

「……聖人のようなセリフを吐いた後よくもまぁそんな本能丸出しの事が言えたもんだね」

「しょうがねぇだろ!
上条さんは男なんです!
藤花ちゃんなんてやっぱ……その、可愛いんだし、それにお前のその性格……なんかこう、普段とのギャップがいいというか……」

「……やれやれ、君は僕も落とす気なのかい?守備範囲はどこからどこまでなんだい?」

「ばっかヤロウ、そうじゃねぇよ!
というか、自分でも言ってたじゃねぇか!
こんな可愛い顔した男がいるのか?ってつまりそういうことだ」

「まぁ、いい。
話を戻そうか……僕はそうだね……」

ブギーポップは相変わらず表情が乏しいが、俺にはなんだか楽しそうに見えた。

世界の敵と戦うためだけに存在するこいつが、たとえ男であろあろうと女であろうと、こうして普通の奴みたいに友達と話をして楽しんでくれたらいいとおもった。

「内緒って、事にしておこう。
その方が……面白そうだしな、あぁ、僕みたいに可愛くて性格や言葉遣いが男っぽい知り合いを紹介してやろうか?」

「いや、お前の関係者ってだけで相当トラブルに巻き込まれる匂いがするからやめておくよ。
でも名前だけ教えといて、もしその人と会った時のために」

「炎の魔女」

「え?それ……人間?」

「君と彼女は似ているかもな……正義の味方を目指すメサイアコンプレックスなカップルなんてそれで一本書けそうじゃないか」

「ブギーポップさん、俺はあんたが何を言ってるかわからないぜ。
というか、キャラとかそういうのがさ!
せっかくいままで気づきあげたものがね?」
441 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/08(水) 09:24:03.78 ID:8M16olDIO
…………

………

……



こんな、楽しい非日常を、俺は送っていたみたいだな……。

日記を閉じ、俺はブギーポップが立っていたであろう唯一周りが整理された壁際に立ってみた。

インデックスが不思議そうに俺を眺める。

俺のいまの日常は……まぁ、楽しいかな。

そんな事を思いながら、寄って来たインデックスの頭を撫でた。
442 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/08(水) 09:25:07.60 ID:8M16olDIO

上泡雑談その二『都市伝説』

〜〜〜

「なぁ、ブギーポップ」

「なんだい?」

ブギーポップがこの街から消える数日前、このところブギーポップは俺の部屋へくることが多くなった。
それほど、世界の敵が近くなっているって事だから喜んじゃいけないんだろうけど、俺はなんだかこいつと話が出来るのは嬉しかった。

「お前って、沢山の人が知ってるよな?
それは、なんでなんだ?」

「噂を広めているからだろう」

「でも、藤花ちゃんはそこまで行動範囲が広いわけじゃないだろ?
なのに、お前がこの街にくる前からブギーポップの噂話はこの街にもあった」

「何故男の君が知っているんだい?」

「そりゃ、聞いたからだよ。
気になって、友達に聞いてみたら俺らが高校に入ったくらいの時にはすでにあったって」

「そうか……上条くんは、人の力というものをなんだと思う?」

「人の力?
そんなもの、その人によるだろ。
例えば俺ならこの右手」

言いながら、あまり良い思い出も少なくない右手を見つめる。

「そういう意味じゃない。
『人の力』だよ。
誰もが持っていて、誰もが影響を受けるもの……」

「そんなもの、あるわけないだろ?
人は無力だ」
443 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/08(水) 09:25:35.64 ID:8M16olDIO

「……まず、言葉があった」

「え?」

「そんなフレーズを聞いた事はないかい?」

「……あぁ、聖書かなんかだっけ?
言葉が人の力だっていうのか?」

「多くの人が等しく持っていて、等しく使えるのは言葉だ。
その言葉というものを甘くみてはいけないよ」

「それは、わかってるつもりだ」

俺自身、言葉で訴えかける事はおおい。

「言葉というものはそういうものなんだ。
ただの噂話も言葉の羅列だが言葉の羅列だからこそ、人は恐怖し考え、身近に感じてしまう」

ブギーポップは俺の部屋で決して座らない。
今も壁際で壁に寄りかかりながらそのに黒い筒がはえるように在る。

「例えば、口裂け女って知ってるかい?」

唐突に、都市伝説のひとつを例に出す。

「あれも、とこかひとつのところででた噂話だ。
それが日本中に広まり、警察が出てくる騒ぎにまで発展したところもある。
それは、何故か?」

「言葉だけの、存在だから?」

「そうだね、言葉だけの存在ってのは言い換えれば誰もがよりリアルに改変できてしまうって事さ。
初めてその話を聞いた人はその話を勝手に解釈し、より自分の納得できる形に昇華させる」
444 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/08(水) 09:26:05.80 ID:8M16olDIO

「でも、お前はここにいるじゃねぇか。
言葉だけの存在じゃあない」

「そうだね、もう一つ、要因がある。
それは、全く言葉だけの存在にかかわらず、それを彷彿させるものが存在するって事さ。
口裂け女はそいつの特徴を真似た女がでたね、それで一気に言葉だけの存在にも関わらずそういう存在は生まれた。
彷彿とさせるものが出てきてしまった。
僕も、対峙した世界の敵や君からみたら実在するけれど、世界の敵なんて全く知らないやつからみたら言葉でしか存在しないんだよ」

「つまり、どういうことだよ」

「でも、世界の敵を追いかけているとどうしたってそういうなにも知らない奴らの目にも一瞬止まってしまう。
黒い筒のような帽子に黒いマントの死神がね。
そうなると、僕を彷彿とさせるものが僕を見かけた人たちの中にうまれる」

「なるほど、そうしていろんなものを見間違えたりして言葉だけの存在だったお前がもしかしたらいるかも……って思われて廃れることなく都市伝説となったってわけか」

「ま、そんな感じかな」

ブギーポップのいう事はよくわからなかったが、それで良いような気がした。

でもこいつの事を理解できるやつなんかきっといないのかもしれないと思い、少しだけ胸が痛んだ。
445 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/08(水) 09:28:51.27 ID:8M16olDIO
はい、まぁこれは正直適当というかなにも考えず喋らせてるし、時系列とかそういうのも無視一個一個の話も繋がりもなにもない
ブギーポップが喋ることは勢いだけで喋らせてるから意味不明だと思う

こんな感じで短いのをちょこちょこ投下しようと思うけど、本編、番外編の雰囲気壊してると思ったら言ってくれ、やめるから

ではまた

今日も良い日を!
446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/08/08(水) 20:58:20.48 ID:MMACHQVy0
こういった雑談もなかなかいいね
思いつけたら気晴らし感覚で続けてくださいな
447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/08(水) 23:58:35.42 ID:INytgMGDO
実は竹泡の実物読んだことないんだけど上条さんとブギーならこうかなって納得する
448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/09(木) 18:25:40.39 ID:UVundNttP
実はこうだったっていうのを箇条書きで書かれるよりは楽しいから素敵
449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/08/10(金) 02:13:08.09 ID:i584QjwDO
他のブギーポップSS知ってる人いたら教えてくだせぇ
450 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/10(金) 16:24:38.48 ID:JzROnXPIO
>>446
お題くれてもいいんだぜ?
>>447
上条さんはバカって設定あるから扱いやすい
土泡雑談とかやったら大変そうだよね
>>448
楽しんでもらえてるなら良かったです
>>449
俺も知りたいわ
エヴァとのクロスとか見てみたいw
シンジ君とブギーポップは割と噛み合う気がする
あとハルヒとブギーポップのクロスとかもあっていい気がするんだけどなぁ
誰か知ってたら教えてくれい

今夜、20:00位から投下します!

451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/08/10(金) 17:00:41.39 ID:+sB6R1KEo
けいおんとのクロスSSはあったな。短く纏まってていい感じだと思った
452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/10(金) 17:17:35.64 ID:jCNkkkUA0
エヴァクロスあるよ
ttp://www.geocities.jp/nagachan_dx/shelter/mutsuki/gift_038.html
エヴァの原作崩壊
シンジにブギポが入ってる


あとどっかの@wikiのクロススレで未完ではハルヒクロスあったと思うが詳細求

というか書きたい
453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/08/10(金) 17:18:29.86 ID:jCNkkkUA0
けいおんは二つあったはず
454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/10(金) 17:19:07.22 ID:jCNkkkUA0
sage蠢倥l縺溘せ繝槭た
455 : ◆qXEKQweJllf. [sage]:2012/08/10(金) 17:24:43.65 ID:JzROnXPIO
>>452
なっげいな
ありがと、読んでみる!!
>>451>>453
けいおんのみつけた!
サクッと読んでみる!

ハルヒのも見つけて読んでみるわ、というか次ハルヒとブギーポップのクロスかこうかな

あとage sageは気にしなくていいよ
常にあがってれば読んでくれる人が増える可能性もあるしwwww
456 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/10(金) 20:01:16.18 ID:Xs9Xb6aoo

〜〜〜

七月二十七日。
私は、風紀委員の支部へと行くと、白井さんに木山先生の事を全て話した。
私にとって白井さんは頼りになる相棒だ。
木山先生と子供達を救うには、絶対にこの人の力が必要だと思った。

「はぁ……私の知らないところで、なにやら色々と進展があったようですのね。
まぁ、その事はいいですわ。
ファーストサンプル、それを見つければ良いのですわよね?」

「そうです。
木山先生とカエル先生が協力して、子供達を起こすプログラムは開発してくれています。
あとは、その完成に必要な第一被験者の能力体結晶、それを手に入れれば……」

「……ものを探すとかそういうのは初春一人でもできますの……。
でも、私に話したという事は……そういう事が起こりうる、という事ですわね?」

「はい……すみません」

白井さんはソファに座りながら、よく冷えた麦茶を飲んでいる。

「なにを謝る事がありますの?
私達は風紀委員ですの、この街の、治安維持部隊ですの……その為に、私の力を必要とされるのは……嬉しい事ですわよ?」

そして、にっこり笑うとそう言ってくれた。
457 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/10(金) 20:02:38.03 ID:Xs9Xb6aoo

〜〜〜

「霧間凪……か。
あの人は、なんだかいいな」

昨日出会った凛とした女性を私は思い出していた。

「多分、MARとは衝突する。
子供達は木山先生が救わなきゃ意味がないんだから……。
それに、あの霧間って人がMARを怪しいと言ってるって事は、多分そういう事なんだろう」

補習後、誰もいない屋上に寝転びながら真夏の太陽をその全身に浴びる。
そして、悪りぃ奴が大嫌いと言った、彼女の表情を思い出す。

「あの人は信じられる……だって――」

ゆっくりと立ち上がると、校舎へと続く扉へ歩み寄り、その扉を開いた。
そして、一段一段確かめるように降りて行く。

「――あんなにもまっすぐな希望の意志はみた事がないから」

クラスメイトや、そういう日常の中で出会っていたら、霧間凪とは親友になれたかもしれないと、私は思った。

「……」

軽く微笑みながら、私は最後の一段を降りた。
458 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/10(金) 20:06:21.46 ID:Xs9Xb6aoo

〜〜〜

「おや、あんたはこないだの……あの時はどーも、これ以上問題起こしたら退学になってもおかしくなくてね」

偶然を装い、MARの隊長、テレスティーナに話しかける。

「あら、お久しぶりね。
やんちゃもいいけど、ほどほどにしなさい」

怪しく笑いながら、そう言った。

「あぁ、そうするよ。
だが、あんたには言われたくねぇな。
MARなんて胡散臭い部隊まで作り上げ、あんたはどんなやんちゃしようとしてんだい?」

「……胡散臭いだなんて、ずいぶん言ってくれるわね。
私たちはちゃんとした組織よ?」

「ちゃんとした組織、ね」

軽く笑う。

「災害救助があんたらのお仕事だろ?
救助に銃使うなんて、この街はおっかねぇんだな」

先日見た駆動鎧達が、銃器を装備していた事を思い出しながらいった。

「……あんた」

「まぁ、いいさ。
それじゃあな、またどこかで」

たったこれだけだが、収穫はあった。
オレはさっさとバイクのエンジンをいれ、そいつの前から立ち去る。

――やはり、あいつは戦い慣れはしてねぇな。

バイクを飛ばしながら、そんな事を考える。
459 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/10(金) 20:08:43.10 ID:Xs9Xb6aoo

――となると、なんかの研究員ってところだろう。

戦い慣れしていないのは、あの研究所でオレを見逃したことから少しは察していた。
戦うことを考えてきた人間ならば、あの場でオレを見逃したりはしない。
殺しにかかってくるだろう。

――まぁ、おとなしく殺されてやるつもりもないけどさ。
でも、わかった。
佐天涙子達が言っていたファーストサンプルとやらはやつが持っている。
それがなんなのかは知らねぇが……恐らくあの隊長さんは佐天達が保護している子供たちを使った実験を続けようとしてるんだな。

部隊まで作り上げ、という言葉をそのまま受け入れていたことから、あの女がMARの隊長なのだろうと推測した。

――佐天涙子達を少し調べてみるかな。

チラリと目に入った巨大スクリーンがお昼を告げていた。
今日もまた補講をサボってしまったわけだが、そんな事は気にしない。

――どうせ、もうすぐこの街からは消えるつもりだしな。
しかし、感謝もするが……恨むぜ。

この街に入るにあたり、色々と協力してくれた少年を、ぼんやりと思い出していた。
460 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/10(金) 20:09:17.21 ID:Xs9Xb6aoo

〜〜〜

「あれ?」

木山先生の話を終えたあと、私たちはとりあえず風紀委員の仕事を終わらせるため、各々仕事についた。
最近は特に問題も起こしていないので、簡単な報告書の作成くらいだ。
それは、簡単に終わった。
問題を起こさなければ、風紀委員もそれほど大変ではない事を思いしらされたような気がしたが、それは、楽と言うよりも慣れてしまったからだろう。

私は報告書の作成を終えると、セキュリティのチェックと木山先生がらみの情報が何か転がっていないかと自分の権限を超えた領域に潜っていた。

「どうしましたの?」

白井さんも終えたのか、冷蔵庫から麦茶を取り出しながら疑問の声をあげた私に聞き返してくる。

「いえ……ここのセキュリティに侵入してこようとして来た人がいます」

「でも、ここはあなたが管理しているし……問題ありませんでしょ?」

「はい、でも……最後の一枚まで、破られてます。
きっと、この人私と同レベルの……いや、もしかしたらそれ以上のハッカーですよ」

学園都市で私はハッキング能力にかけてはトップレベルである自信がある。
罠を作るよりは破るほうが難しい。
そして、ここのセキュリティはよほど強引な手を使わない、正攻法で攻められる限りは破られない自信があった。

――それが……ここまで?
しかも、とても丁寧に、決して気づかれないような破り方……。

MARという組織が、頭にちらついた。
461 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/10(金) 20:10:18.19 ID:Xs9Xb6aoo

〜〜〜

「MAR、か……隊長が木原一族の一人とはね……」

パソコンの腕を買われ、学園都市のとある大学に短期留学という形で俺はこの街に来ていた。

俺か来たのは、今年の四月からだ。
最初は学園都市なんてところに行ったら凪の手伝いが出来なくなるからくる気はなかったが、凪の「学園都市にいく必要がありそうだ」という一言で俺の学園都市行きは決定した。

「結局、凪が来た時には全て終わってたわけだが……。
まぁ、凪のことだ、置き土産ってわけじゃねぇけど……凪はこいつらを潰すだろうな」

カタカタとコンピュータを操作しながら、木原一族のやって来た数々の非道な実験データを眺める。

「しっかし、期待外れだったな」

簡単に盗み出せたディスプレイに表示される情報を眺めながらため息をついた。

「……ちっ」

しかし、一回だけ負けた事を思い出し、したうちをした。
462 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/10(金) 20:11:11.16 ID:Xs9Xb6aoo

〜〜〜

「青髪さん!」

学校を出ると、そのまま私は青髪さんの元へと向かった。
ちょうど補習が終わった直後らしく、校門の前へついた時、タイミング良く会うことができた。

「おぉ、涙子ちゃん……どうしたん?」

「どうしたって……会いに来たに決まってるじゃないですか!」

いいながら、青髪さんの手を取る。
そして、それをぎゅっと胸に抱くようにし、青髪さんが生み出してしまった絶望を希望に変えた。

「……ありがとう」

「お礼を言うなら、もっと笑顔で言ってください」

「……努力するわ」

青髪さんは前みたいにはっきり笑うことが少なくなった。
どこか私に罪悪感を感じているようだ。
その罪悪感を償うように私を大切にしてくれる。

「青髪さん、私はあなたが大好きです」

「あぁ、僕も好きや。
だからこそ、なんか……笑えん」

「まぁ、ゆっくり考えましょう。
私達まだ若いですからね!
百歳で死ぬとしても、あと八十年近くあります。
八十年も一緒にいたら、答えが見つかりますよ」

「……ずっと、一緒にいてくれるんか?」

「当たり前、ですよ。
私、もう青髪さんを一人にしませんし、あなたを離すつもりも……ありませんよ?」

青髪さんは、安心たような、嬉しそうな、とても穏やかに笑ってくれた。

――それに、私気づいたんですよ。
絶望の中にも希望はある。
パンドラの箱だって……散々絶望を撒き散らしたあと、残ったのは希望だった。
そのうち、青髪さんも、希望を生み出せるようになりますよ。

ブギーポップも気づいていなかった事だ。
多分、私しか気づいていない。

でも、私はこれを誰にも教えるつもりはないのだ。
463 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/10(金) 20:11:39.92 ID:Xs9Xb6aoo

〜〜〜

「やっほー」

「……どうして、ここに?」

「ゲコ太先生に木山先生が子供達を助ける道を見つけた事を聞いたのよ」

妹の様子を見に病院へいくと、カエルに似たお医者さんから、この場所を教えてもらった。
いけばわかる、とだけいい最初は何かと思ったが、その研究所に入り、指定された地下室のドアを覗くとそこには木山先生が居たのだ。
だから、私の今のセリフは厳密にいえば嘘なのだが、そんな細かいことはどうでもいい。

「子供たち……見つかったのね」

「あぁ、君達のおかげだ」

「私はなにもしてないわよ。
あなたを説得したのも、初春さんと黒子でしょ?」

「……」

「だから、これからは……私も力を貸すわよ。
MARとかいうのが子供たち狙ってんでしょ?
荒事なら……私のほうがあの子達より役に立つしね」

それは、恐ろしいことでもある。
私の力は人を守るよりも人を傷つけることのほうに長けていると言う事なのだから。

「君のような……まっすぐな子が第三位で嬉しいよ。
この子達が起きた時、迷わず君を目指せと言える」

木山先生は優しく微笑みながらそう言ってくれた。

「へへ、まぁ……頑張るわよ。
先生も……何かあったらすぐに言ってね!」

木山は、笑顔のまま頷いた。
464 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/10(金) 20:12:48.84 ID:Xs9Xb6aoo
番外編は今日はここまで!

そして上泡雑談一個投下


465 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/10(金) 20:14:31.43 ID:Xs9Xb6aoo
上泡雑談その三『科学』

〜〜〜

「ところでさ、ブギーポップはこの街の科学技術をどう思う?」

やはり、外から来た人間には外より何十年も進んだこの街の技術を聞かなくてはならないような気がした。

「科学、ね……。
君は、どう思う?」

「んー、もう慣れたけど……やっぱすげぇとおもう。
生活にも便利だしな」

「僕は……あまり好きじゃないかな」

「ほう、何故?」

「例えば……人間は電気を使うことを覚えた。
そして、その電気がなくては生きていけない生物に退化した、そうは思えないかい?」

「まてよ、別に電気がなくたって不便だけど暮らせるぜ?」

「しかし、人々は電気がないことを嘆くだろう?
不平不満をぶちまけるだろう?
その負の感情は、どこにぶつけられる?
きっと、社会にぶつけられるだろうな。
人間なんて、初めの一人が現れたらみんなそれに引き寄せられ崩壊していくものさ、するとどうなる?」

「暴動が起きる、とでもいいたいのか?」

「そうだね、あるいは、御坂美琴のような電気を発する能力者が「ただ電気を生みだす物」と言う風な認識に変わるかもしれない」

「まぁ、極論な気もするけどなんとなくわかった。
つまり、失った時に諦められない物は持つなってことだろ?」

「生みだすのとそれをコントロールするのは同じ技能じゃ出来ないって話しさ。
電気を生みだすのと、電気を操る。
これは同じ科学技術ってやつのレベルじゃ無理なんだ。
操ることの出来ない技術を果たして技術と呼んでいいのかな?」

「それは、ものによるんじゃないか?」

「じゃあ、今まで話題にあげていた電気で考えてみるぞ。
一番身近でもあるしな。
電気を生みだすのに、使われている方法はなんだい?」

「原子力とか?」

パッと思いついたものを、口に出してみる。

「あぁ、そうだね。
この時点で、電気を生みだすという技術にプラス、原子力つまり核エネルギーを操る技能が必要だ。
例えば、その原子力をまだ人間が完璧にコントロール出来ていないのに使うとする。
すると、どうなる?」

「どうなるって……」

「そこで事故でも起きてみろ、人間は何もする事が出来ずにあっという間に放射能まみれの……人間の住めない世界になっちまうぜ?
こんな風に、不足の事態が起きた時に人の手を離れて人を殺す力を果たして技術、と呼んでいいものかね?」

ブギーポップは、一人歩きしている文明社会に問うように、そういった。
466 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/10(金) 20:16:42.70 ID:Xs9Xb6aoo
はい、本日の投下終わり

あと>>452
さっき書き忘れた、書くならば是非書いてくれ!
ブギーポップssもっと増やそうぜ

では、また次回も読んでください
467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/11(土) 08:15:29.46 ID:FpUQFnqaP

パンドラの箱の話で末真さんが苦笑いしそうだ
「またか」、と
468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/11(土) 22:49:20.16 ID:X2fYQv670
>>466
ありがとうございます。
私はいわゆる夏厨の類なので、ここでは建ててもすぐに落とすのがオチです…

今のところ書くにせよ、誰が世界の敵で、どんな能力で…ということが決まってないので書くのは当分あとになるかと…
候補にしてる原作はあるんだけどなぁ…


新作楽しみにして待ってます。
469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/11(土) 23:31:47.39 ID:X2fYQv670
>>449
追加
ttp://park11.wakwak.com/~toysoldiersbox/enter_index/main/library/serial/kaleidoscope/kale.index.html
ブギーポップ×kanonの中で私の知る限り唯一の完結作品

…誰かブギポ雑談スレとか建ててくんないかなぁ
470 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/14(火) 04:14:20.39 ID:ZDb+JYybo

〜〜〜

その日、事態は急速に動き、そして終息した。

物語を終わらせる存在が消えた物語の終わりは、一体どのようなものになるのか、そして、ロストしてしまったその役割は誰が担う事になったのか。

綺麗に笑いながら、その人はバイクで駆動鎧の前へと躍り出てきた。
駆動鎧が、銃を構える右のアームの関節には警棒のような武器が差し込まれ、パチパチとスパークしている。

「……まぁた、テメェかよぉ。
なんなんだ、テメェは一体?」

顔を歪めながら、テレスティーナ・木原・ライフラインはその人に声をかける。

その人――霧間凪――は一瞬、私達の方をみると、ニヤリとしながらこういった。

「オレはあいつと違って敵さんにまで名乗る趣味はねぇんだよ」

あとで知った。
この、革のつなぎをきたモデルのように美しい人が、炎の魔女と呼ばれる存在だったことを。

そして、その炎の魔女ははじめから私や佐天さんをセイギノミカタと認めてくれていたことを。

七月二十八日。

私たちは、この日この交差した物語から抜け出したのかもしれない。

終わりのない終わったはずの物語。

それが、私のこの夏の……一番の思い出。
471 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/14(火) 04:14:52.80 ID:ZDb+JYybo

〜〜〜

「あっついですねぇ」

朝、私は風紀委員の仕事で街中を白井さんとパトロールしていた。
容赦なくふり注ぐ太陽の熱に、そう感想をこぼすと、白井さんもうんざりしたように「全くですわ」と短く返事をした。

「ところで」

白井さんは、いつものようなシャンとした雰囲気を思い出したように話し始めた。

「ファーストサンプルの方は何かつかめたんですの?」

「……いえ、まだなんにも……プログラムの方は、カエル先生の協力もあってもう完成間近らしいですから……急がなきゃいけないんですが……」

「ま、焦ってもミスをするだけですわ。
プログラムの完成が近いなら、今度はファーストサンプルの捜索のみに集中できますの、前向きに考えましょう」

うつむきそうになった私を励ますように白井さんは言った。

「そう、ですよね……あの先生と木山先生も協力してくれたらすぐ……見つかりますよね?」

優しく微笑みながら白井さんはただ頷いてくれた。
やっぱり、白井さんはすごいと思った。
私がダメになりそうな時、しっかりと私を支えてくれる。
私は、白井さんや、佐天さん、御坂さんがダメになりそうな時同じように出来るのか少し自信がなかった。
472 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/14(火) 04:15:26.11 ID:ZDb+JYybo

〜〜〜

「出、来た……あとは……」

冷房が程よく効いた部屋には、何人かの子供達が眠っている。
そして、その部屋の隣の部屋では白衣を着て、目の下にくまを作った女性が一人。
すれちがった男性は十人に九人は振り返るであろう整った顔立ちも、そのくまのせいで、少し怖い雰囲気になってしまっている。

「あとは……ファーストサンプルさえ、手に入れば……」

立ち上がり、隣の子供達が眠る部屋へとその女性は歩いて行った。

「もう少しだ……もう少し」

そして、その子達を柔らかな瞳で見つめながら、そう声をかけていく。

「もう、出来たのかい?
やはり、君は……優秀だね?」

何時の間に現れたのか、扉の前にカエルのような顔をした男の人が立っていた。

「先生……はい、出来ました。
先生のおかげですよ。
ありがとうございます」

女性の方は、深く頭を下げた。

「礼はいらないね?
患者に必要なものは全て揃える、それが僕の信条だからね?」

カエル顏の男は、少しだけ表情を崩し、言った。

「……でも私は、あなたの患者ではありませんよ」

女性がそういうと、カエル顏の男は一瞬面食らったような顔をし、じゃあ、と続けた。

「あの、花飾りの子に必要だっただけだね?」

そして、そう言うとさっさと部屋を出て行った。

「そう、だったな。
あの子たちと出会ってなければ……私は」

残された女性は、大切なものを扱うかのように、自分の手を胸の前で握った。

「一人じゃあ、ない。
それが、こんなにも……心強いとはね」

そう、つぶやいた。
473 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/14(火) 04:15:56.70 ID:ZDb+JYybo

〜〜〜

「あ、おーい!」

「おぉ、今日も来たんか……飾利ちゃん達はええんか?」

補習を終え、学校を出ると涙子ちゃんがまた待っていた。

「……」

最近、涙子ちゃんは自分以外の女の子を僕が名前で呼ぶと、少しだけ頬を膨らませ、僕の目をじっと見つめてくる。

「……初春ちゃん達はええんか?」

「はい!
今日は青髪さんにお願いがあって……」

「なんや?
僕に出来る事ならなんでもするで?」

なにか危ない事に首を突っ込んでいるのは分かり切っているが、僕に話さないって事は、僕には何も出来ひんって事やろう。
何か出来る事があったら、こうやって頼ってくれる。

それが、なんだか嬉しかった。
474 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/14(火) 04:17:28.05 ID:ZDb+JYybo

〜〜〜

「あ、佐天さん!ここよ!」

「御坂さん、すみません……えっと……補講が長引いちゃって……」

その日、私は珍しく御坂さんと二人で待ち合わせをしていた。

「しっかし、あんた……結構大胆よね」

待ち合わせ場所の喫茶店へ遅れていくと、御坂さんは優雅に紅茶なんかを啜っていた。
店員さんに、私も適当に冷たい飲み物を注文すると、御坂さんは少しだけ嬉しそうにそう言ったのだった。

「へ?大胆?
なにがですか?」

「だってさ……なんの確証もないのに、MARが少し怪しいってだけで殴り込み行こうとしてるわけでしょ?」

「はぁ、いや……まぁ、そうすっね」

本当は、確証はあるのだが、それは説明しない。

「あ、でも佐天さんにはなんか変な能力あるんだっけ?
そっちから話してくれるまでは私も『精神感応系の能力』って思い込むことにしてるけどさ」

私が言葉をにごすと、御坂さんは察したようにそう言ってくれた。
本当は話してしまってもいいのだが、まだ、その時では無いような気がしてしまうのだ。

「助かります、そのうち、必ず話しますから」

そんなやり取りをしていると、店員さんが暑さを吹き飛ばしてくれそうな爽やかな笑顔で飲み物を持ってきてくれた。

「よく私に声をかけてくれたわね」

「え?」

「だって、なんか……一人で行っちゃいそうじゃん?
佐天さんって」

御坂さんはからかうように笑った。

「そのセリフは……そのままそっくりお返しします」

それに少しだけムッときて、私も同じような表情をつくり、そう返す。

「……なんともぁ、生意気な後輩だこと」

少し意表をつかれたかのように御坂さんは最初目を丸くしたが、最後は笑った。

私達がMAR襲撃を考えている頃、炎の魔女こと霧間凪はすでに行動に出ていて、MARの側もすでに行動を起こしていたことを私は知らなかった。

私にとってのこの時の希望は、MARの本部ではなく、霧間凪その人だということにも、後で気がついた。
475 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/14(火) 04:17:57.31 ID:ZDb+JYybo

〜〜〜

「ふふ、こんなところに隠していたのね」

プログラムを完成させた女性――ひどいくまの女性――木山春生は突然の声に驚き、振り向いた。

彼女はカエル顏の先生が去ってから、数時間後、ファーストサンプルの行方を追うため過去の実験記録を見ていた。

「お、前は……」

「子供達は私達が保護します」

「なんだと!」

「騒がないで頂戴……ほら、ちゃんと書類も揃ってるわ……逆らうなら……覚悟、してね?」

女はにっこり笑いながらそう言った。

「う、そ……だろ……あと、少しで……」

木山はその書類に目を通し、正式に出されたものだと確信してしまうと、膝から床に崩れた。

「な、んで……」

悔しそうに、呟きながら、書類を握りつぶす。
くしゃ、という音が耳に残った。

「わかっていただけた?
じゃあ、連れてくわね」

女――名をテレスティーナと言う――は勝ち誇ったように、最後まで笑顔を貼り付けていた。

駆動鎧が子供達をベッドごと運んでいくのを、木山春生はただ見ていることしかできなかった。

――私は……また、ダメ……なのか?

「あ、そうそう……この子達がこんなになった実験の責任者……覚えているかしら?」

テレスティーナは脚を止めると、ニヤニヤとしながら言った。

「忘れるわけが……ないだろう」

「そう、なら……いいわ」

そして、醜くニタニタしたまま、再び脚を動かしはじめた。
476 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/14(火) 04:18:45.54 ID:ZDb+JYybo

〜〜〜

「ちょっと……これってどういうことよ?」

お茶をのみながらMAR襲撃の作戦を確認してから、私達はMAR本部へと向かった。
そして、作戦通り“正面から一気にぶち破ろう”としたのだが……。

「あ……れ……?
なんか、すでにめちゃめちゃ?」

明らかにおかしかった。
扉はひしゃげ、建物の内部の電気は落とされている。

「もしかして……」

私の予想通り、そいつは涼しい顔でその異様な雰囲気の建物から出てきた。

「あ?
……佐天涙子、だっけ?
おっと、もう一人は常盤台の超電磁砲か?」

「あんた……なにやってんのよ」

「なにって言われてもな……」

そいつ……霧間凪は、ため息を一つついた。

「お前が前にいっていた子供たち、そいつらはいまどこにいる?」

そして、少し考えた後、そう切り出した。

「そんなの……まさか」

「あぁ、オレはお前らがそっちに集中してると思ったからこっちに来たんだが……どうやら失敗だったらしいな」

厳しい眼つきで私を睨んだ。

「木山先生……」

話についてこれていない御坂さんを無視し、私は走り出した。
初春から木山先生と子供達の居場所は聞いている。
テレスティーナとかいうMARの隊長がここを捨てたと言う事は、MARが本気で動き出したという事だ。

「ちょ、佐天さん!」

「御坂さんはすぐに初春と白井さんと合流してください!」

背中越しに、そう叫んだ。
477 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/14(火) 04:19:15.59 ID:ZDb+JYybo

〜〜〜

「き、木山先生、どうしたんですか?」

パトロールを終え、支部へ帰還すると扉の前に木山先生が座り込んでいた。

「あの子たちが……奪われた……。
私は……また……奪われ、た……」

木山先生は、力無い言葉でそう言うと、涙を隠すかのように右腕で目を覆った。

私はなにを言ったらいいかわからず、そのまま固まってしまった。
白井さんはすぐに携帯電話を取り出し、何処かに電話をかけていた。

そんな、私達に、一人の男が近寄って来た。

「取り込み中に悪りぃけどさ……ここのセキュリティ管理してるやつってどいつ?」

「わ、たしですけど……」

あまりにも場違いなその質問に、つい答えてしまう。

「こんな子供にしてやられるとはね……。
……あれ、あんたは確か……木山春生か?
って事は……子供達をMARに奪われたのか?」

急に現れたその男は全てを知っているような口ぶりで、そう言うと、携帯端末を取り出し、なにかうちこむ。
そして、私の肩に手を置くと、こういった。

「助けるんだろ?
だったら、根性見せろ」

そして、電子ロックされている扉を、いともかんたんに開けると、無遠慮にズカズカと入り込んで行った。
478 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/14(火) 04:19:44.90 ID:ZDb+JYybo

〜〜〜

「おい、御坂っていったか?」

佐天さんにおいていかれ、唖然としていると革のつなぎを着た女の人に呼ばれた。

「え?あ、そうだけど?」

「お友達はどうやら風紀委員の詰所にいるようだぜ?
オレはオレでやる事がある。
さっさといきな」

そういうと、その人はヘルメットをかぶり、ドアの横に停めてあったバイクでさっさと何処かへいってしまった。
479 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/14(火) 04:20:52.92 ID:ZDb+JYybo

〜〜〜

「MARの隊長ってのは木原の一族だ」

羽原と名乗った男は私にパソコンをつけさせると、そのまま学園都市の監視カメラを当然のようにジャックした。
そして何かを探すように、次々とカメラを切り替えながら、そうつぶやいた。

「木、原……?
木原、だと……?」

「木山先生?」

「多分、あんたらが探してるファーストサンプル、最初の被験者はあの隊長だ……。
やつはあの実験を今また始めようとしている」

ディスプレイから目を離さず、羽原さんはそう言った。

「くっそ……なんで……やっと……」

木山先生は、木原という名前を聞いてひどく取り乱していた。

「木山先生、落ち着いてください!」

「落ち着いてなどいられるか!
あの子達は木原の手に渡った……もう――」

涙を隠そうともせず、木山先生は、興奮した様子で、言ってはならない事を言おうとした。

「助けられない?諦めてしまう?
学園都市中を巻き込んでまで貫き通そうとした意志は……その程度なんですの?」

しかし、それを白井さんは遮った。

「木山先生、あなたはお一人ではありません。
私も、初春も、そして……」

狙ったかのように、支部の扉を壊す勢いで、その人が飛び込んで来た。
480 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/14(火) 04:21:21.16 ID:ZDb+JYybo

「私も、佐天さんもいる!
だから……絶望なんてさせないわよ!
……もう、言ったのに『なんかあったらすぐに言ってね』って……諦める前に、私に言いなさいよ」

「君たちは……知らないんだ!
この街の裏の世界でであいつらが……いかに、力を持ってるか……あいつらは……理事会と繋がっているんだ……。
もう、正しい道で奪い返すなんて……出来ない」

その、悲痛な叫びは色々なものをぶち壊して、重い現実感を持ちながら、私達にのしかかって来た。
今更、無理矢理でも奪おう、なんて事は言えるはずもなく、御坂さんや白井さんまで、木山先生のその絶望に飲まれそうになっていた。

「……もし、もしも表の普通の警備員達が、あの人達をなんらかの事件の容疑者として追いはじめたら……私達も『警備員の協力』って事で真っ向からぶつかれるって事ですよね?」

「だが……そんなのは無理だ」

「木山先生らしくないですね。
まぁ、それほど木原って一族が先生にとってはトラウマって事なんですかね?
まぁ、大丈夫……この佐天さんに任せない」

カタカタとパソコンをいじる羽原さん以外、諦めムードに突入しかけた時、御坂さんが開けっ放しにしたドアから、私の親友が……セイギノミカタがそう、満面の笑みで言い放った。
481 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/14(火) 04:24:23.95 ID:ZDb+JYybo
ここまで

このままだとダラダラ長くなりそうだったから終わらせに入りました

あと1〜2回の投下で終わらせます

これ終わったら青天の話少し書きます
482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/14(火) 09:56:36.66 ID:w/3frbEaP
青ピ×天井亜雄か…
483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/14(火) 21:52:44.51 ID:PmTuqe0DO
青ピにお仕事フラグktkr
居残り組とはいえ駆動鎧に怯まない凪さんパネェっす
484 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/16(木) 01:09:59.84 ID:teTMXkcKo
ずいぶん長くなってしまった

でもまだ終わらない

今回とあともう一回、おつきあいください
485 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/16(木) 01:10:36.54 ID:teTMXkcKo

〜〜〜

「お願いします!」

霧間凪とMARの本部で別れたあと、私は青髪さんの学校へ向かった。

――えっと……黄泉川先生だっけ?

青髪さんに教えてもらった、信用できる警備員。
生徒の、子供のことを第一に考えてくれる“大人”。

いつもはそこで立ち止まる校門へ迷いなく走りこむ。
部活か補習かは知らないが、何人かの高校生に不審な目で見られたが気にしない。

そして、職員室へ飛び込むと、思い切りそう叫んだ。

「な、なんですか?
というか、あなた……中学生ですよね?」

職員室には、三人ほどしかいなかった。
私の声に全員が動きを止めて、その中の一人が私にそう、答えてくれた。

――まさか、この人?

その人はとても警備員など務まりそうもないほど、小さかった。
落ち着いた雰囲気をしているが、どうみても小学生にしか見えない。

「えっと……私、青髪ピアスさんの友達で……。
ここには、すごく親身になってくれる警備員の人がいるって聞いて……そのひとに、助けて貰いたいんです!」

「青髪の……あぁ、お前あいつの彼女じゃん」

小さい先生の隣に立っていた、巨乳の先生が、思い出したように手を叩きながらそういった。

「か、彼女だなんて……」

「……照れてる場合じゃないじゃん。
私になにか用事があるんだろう?
話すじゃん」
486 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/16(木) 01:11:06.49 ID:teTMXkcKo

「あ、そうでした……実は……」

すべての事を、話した。

青髪さんが信頼できると言った先生ならば、大丈夫だと思った。
青髪さんの信頼は、そのまま私の信頼になる。

「MARか……私も個人的にあそこはなにかありそうとは思ってたが……。
証拠はあるじゃん?」

「な、ない……です」

「……なら、無理じゃん。
何か起きてからじゃないと私たちは動けないじゃん」

「そんな……そんなのって――」

「わかってるじゃん!
そんなの、間違ってる。
けど、それが、現実じゃん」

黄泉川先生は、悔しそうにそう言う。

「……佐天ちゃんは、どうして全く知らない私たちに木山先生って人の……まぁ本来話さない方がいいだろう話をしたのですか?」

黄泉川先生の横にちょこんと座っている小萌という先生がそう尋ねてきた。

「青髪さんが……あなた達は信頼できると言っていました。
私は、青髪さんを信頼していますから……あの人が信頼できると言ったなら、それだけで信頼できる」

「おぉ、青髪ちゃんは幸せ者ですね」

「とにかく、無理じゃん。
さっさと……帰るじゃん」

最後に黄泉川先生はにっこり笑うと、私にそういい、私の手を引っ張り無理矢理職員室から追い出した。

「本当に……大人ってのは素直じゃないというか」

――でも、感謝しますよ。黄泉川先生。

黄泉川先生は助けてくれると確信していた。
それは、最後に見せたあの子供のような笑顔が物語っていた。
487 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/16(木) 01:12:14.84 ID:teTMXkcKo

〜〜〜

「ちょっとええか?」

信号で停車しているMARの窓をノックする。

「なぁ、ちょお聞いてや」

無視されても、何度も叩く。

信号は中々変わらない。

――涙子ちゃんにできる事なら僕もできるんや。

涙子ちゃんは、人に希望を植え付け、その人にとっての希望を多少なりと叶える力がある。

だったら僕には、人に絶望を植え付け、困難から抜け出す事を阻むことが出来る。

「ちっ、なんだ!」

「お、やっと開けてくれたな……子供達はどこや?
って聞いても教えてくれへんやろうから……僕から君らへ絶望をプレゼントや。
因果応報、自業自得、なぁに、殺したりはせぇへんよ……ただ、冷たい飯を食うて貰おう思ってな」

男の顔を掴み、絶望を渡す。
涙子ちゃんのように精密ではないが、ある程度の操作は出来る。

――捕まるっちゅーのは君らにとって絶望的やろ?

手を離すと信号が変わり、男は車をゆっくり発進させた。

「……僕の力も人助けに役立つんやな……」

――これで、黄泉川先生は守れた。
涙子ちゃんは……まぁ、あの子は大丈夫やろ。
最悪、僕が死んでも守るしな……。

佐天涙子の危険や危機というのは、今の僕にとって一番の絶望だ。
彼女にそれが訪れたら、自然と僕の目には、彼女までの道が出来る。

――だから、まぁ安心……ってのもおかしいけど安心やわ。
488 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/16(木) 01:12:43.09 ID:teTMXkcKo

〜〜〜

――警備員?
どうやら、佐天涙子はうまくやってるみたいだな。

霧間凪はバイクを走らせながらにやりと笑った。

――だがしかし……これはオレにとってはまずいかもな……。

正式な組織が動いたら、合法とは言えないやり方で悪を潰そうとする自分はうまく動けなくなる、と凪は考えていた。

――まぁ、いいか。
オレなんか動かなくても潰れるんならそれはそれでいい。

バイクを走らせながら、羽原から随時送られてくる情報を元に、MARを追跡する。
489 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/16(木) 01:14:07.14 ID:teTMXkcKo

〜〜〜

「というわけで……多分警備員はそろそろ動いてくれます!
それも、しっかりと正しい根拠の元に」

「いや……どういう訳か全くわからないんだが……」

佐天さんは、任せない!というと、そのあとなんの説明もなくそう言った。

「まぁ、気にしないで……初春!MARの体調さんは今どこにいるかわかる?」

「え?あ、えっと……」

「第七学区のハズレの方へ向かってる。
多分ここだ」

私の代わりに、私のデスクに座る羽原さんが、絶対座標の書かれたメモを私たちに投げてよこした。

「……誰?」

「霧間凪の恋人って事にしといてくれ」

「え?」

「……冗談だ」

「……まぁ、いいや……よし、ここに向かおう。
……御坂さんと白井さん、駆動鎧は任せますよ?」

佐天さんは、当然のようにそう言うと、木山先生の腕を引っ張りあげる。

「……私を……いえ、私達を信じてください。
この街の希望も絶望も、私達なら乗り越えられる」

「……わかった。
ありがとう」

木山先生は、じっと佐天さんの目をみると、そういいながら頷いた。
490 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/16(木) 01:14:36.44 ID:teTMXkcKo

〜〜〜

「さて……おれはもうひと仕事だ」

本来の住人である初春達が消えた支部で羽原は一人もくもくとパソコンを叩いていた。

「ま、これでなんとかなるかな……それにしても一体こりゃどういう事だ?
MARの違法行為が“偶然”このタイミングで流出とは……」

作業をこなしながら、警備員のデータベースをハックし、佐天の言うとおり警備員が合法的に動ける根拠を得た事という情報を得る。

「あいつ……まぁいいや……さ、おれもいくかな」

自分と霧間凪のすべての痕跡を消し、パソコンを閉じると、羽原は何か思いついたようにもう一度パソコンの電源をいれカタカタいじる。

そして、いたずらっ子のように笑うと再度パソコンをシャットダウンし、支部を出た。
491 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/16(木) 01:15:14.07 ID:teTMXkcKo

〜〜〜

「おいおいおいどぉいうことだよこれはァア!」

「す、すみません……何処からか――」

「うっるせぇええ!死ね、使えねぇゴミだなぁ……ったく」

着込んだ駆動鎧で、情報流出を伝えにきた隊員を思い切り殴った。
殴られた男は曲がるはずのない方向へ身体が曲がり、ピクピクと数回動いたあと、ピクリとも動かなくなった。

「チッ……もういい……全部ぶっ壊してやる」

テレスティーナはイライラとしながら、隊員達に指示を出した。

「木山春生とそれにまとわりつくガキども……全員殺せ……。
この研究を成功させたら……私はそれでいい」

気味悪く、にやぁと笑った。
492 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/16(木) 01:16:38.14 ID:teTMXkcKo

〜〜〜

「驚いた……君は一体何を……?」

「まぁ、少しだけルール違反くさいけど……これで、風紀委員とそれの協力者って事で堂々と動ける……」

木山先生の運転する車で、私たちは羽原さんの突き止めたテレスティーナの目的地へと急いでいた。

「あ、あれって……」

そして、高速に入ってすぐ、御坂さんが声を上げる。

「さて……御坂さん、白井さん……常盤台の問題児の出番ですよ?」

佐天さんはこんな時でも楽しそうに笑いながら、そんな風に冗談を飛ばしている。

「問題児って……あんたには言われたかないわね」

「お姉さまはともかく私まで問題児扱いとは……」

問題児呼ばわりされた二人は苦笑いを浮かべた。

「いやぁ……でも実際優等生であるのと同じくらいは問題児でしょ?」

「ま、あ……否定できないのが、辛いわよね」

「でしょう?
木山先生、ここをまっすぐ思い切りアクセル踏んで突っ切ってください」

「……駆動鎧の真ん中をか?」

「えぇ、大丈夫です。道は開きます」

木山先生は不安そうに佐天さんの顔を見返すが、佐天さんの自信満々の顔をみると不安さを一気に消し、微笑んだ。

「……わかった」

「んじゃ、白井さん……あの駆動鎧の所に私と白井さんを、あっちの駆動鎧に御坂さんを転移させてください」

佐天さんも木山先生に笑い返すと、戦う表情に変わり、白井さんの手を握りながらそう言う。

佐天さんがそう言った瞬間、車の横をものすごいスピードの何かが通り過ぎた。
493 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/16(木) 01:17:40.99 ID:teTMXkcKo

〜〜〜

「あん?あの車は……木山とかいうやつのか……」

凪はその車と、その車の先の駆動鎧を確認すると、アクセルを思い切り踏み込みどんどん加速して行く。
そして、木山の車を追い抜くと、そのまま駆動鎧から放たれる銃弾を全く無視し、前輪を浮かせ駆動鎧の集団へ突っ込んだ。

凪が駆動鎧をぶっ飛ばした瞬間、その両脇へ御坂と白井、佐天が現れた。

「御坂さん!白井さん!」

「わかってる!」

「わかってますの!」

御坂は威力をかなり弱めた超電磁砲を放ち、白井は駆動鎧を三メートルほど先の空中へ転移させると、その間を木山の車は颯爽と駆けていった。
494 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/16(木) 01:18:35.26 ID:teTMXkcKo

〜〜〜

「おまえらもなかなかやるね」

革のつなぎの女、霧間凪は制御不能になりそうなバイクをなんとか立て直し、地面に大きくブレーキ痕を残しながら止まった。

「他の連中は警備員の皆様が相手してくれてる。
木原はさっさと行っちまったからもうあいつの隠れ家にいるはずだ……さっさと片付けねぇとあんたらのお友達はやばいんじゃないか?」

「わかってる……。
こんな連中さっさと片付けて子供達起こして、愉快なハッピーエンドを迎えようじゃないの!」

佐天は落ち着きを取り戻し殴りかかってきた駆動鎧の一人を難なくかわしながら、自らを鼓舞するように叫んだ。

「その通りですの!」

白井はカバンから鉄矢を取り出すと、カバンを放り投げた。

「上等……」

御坂も、パチパチと電気をまとい、戦闘体制を整える。

「間違ったルールは人を傷つけるだけだって事を……お前らに教えてやる」

佐天は駆動鎧を睨みつけながら言った。
495 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/16(木) 01:19:05.18 ID:teTMXkcKo

〜〜〜

「佐天さん達……大丈夫でしょうか?」

木山先生と二人残された車の中で私は不安を隠そうともせず言った。

「……大丈夫さ。
彼女達は強い……私なんかよりも何倍もな」

木山先生は、運転に集中しながらそう答えた。

「大丈夫だ……。
君はなんとしてでも守る。
君たちに救ってもらった私がこんな事いうのもおこがましいかもしれないが……君だってもう私の生徒のようなものだ」

「木山先生……」

車は走る。
スピードメーターをどんどんあげながら走る。

「大丈夫に決まってるんだ」

余裕に見えた木山先生のそれは、そうしないと自分がまず不安に押しつぶされてしまうから強がっているように見えた。
496 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/16(木) 01:20:55.08 ID:teTMXkcKo

〜〜〜

「凪!右!」

私が叫ぶと、霧間凪はわかってる、とでもいうように一瞬こちらを睨んだあと右に滑り込み、駆動鎧の銃撃をやり過ごした。
そして、そのままの勢いで足の関節部分へ警棒のようなものを差し込む。

「足元がお留守だよ」

いいながら、何かのスイッチを入れると、警棒からばちばちと閃光があがり、駆動鎧は支えを失い前方へ傾いた。
それに合わせ、なんと霧間凪は思い切り駆動鎧相手に蹴りをくれたのだった。

「いっ……」

普通の人間が鉄の塊に思い切り蹴りなど食らわしても意味はない。
人間の方が怪我をするだけだ、と思ったが、霧間凪と駆動鎧からは、金属を打ち合わせたような鈍く思い音がした。

「へ?」

傾いた駆動鎧が今度は仰け反り、先ほど破壊した足が霧間凪の目の前へ現れる。
霧間凪はそこから電気警棒を引き抜くと、ガラ空きになった腰の部分へそれをぶち込みスパークさせた。

「おぉ!」

まるで事前に息を合わせたかのような一連の動きに私は思わず感嘆の声をあげてしまった。
497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/08/16(木) 01:21:28.36 ID:uYTFC9hF0
笑わない読んだ時の感想……この凪とかいうやつ重要キャラっぽく登場したくせにショボすぎ
夜明けその他読んだ時の感想……えっ、凪ってこんな強かったのか?
ヴァルプルギス読んだ時の感想……なんだこのチート!?
498 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/16(木) 01:21:32.30 ID:teTMXkcKo

〜〜〜

「ここ、ですか?」

「あぁ、間違いない……。
ここに子供達は、いる……」

木山先生は大きなトラックをみながら、確信を持ってそう言った。

「ロック、されているな」

「任せてください」

建物の扉はかたく閉ざされていたが、ロックは電子ロックだ。
これならば私でも解ける。

「扉にロックしているという事は……見張りとかそういうのはいないんでしょうかね?」

「……いや、確実に殺すつもりなんじゃないか。
ここは入られるのが前提なのだろう。
きっと……入ったら待ち構えている」

じゃあ、どうすれば……と言いかけると、建物の影から一人の男が現れた。

「ほんなら、僕が少し手をかそか?」

いつか、佐天さんを訪ねてきた青髪の高校生。
最近、二人は付き合いはじめたと佐天さんから聞いたわけではないがなんとなく察していたその男。
しかも、単なる恋人同士、という雰囲気でもなく、二人でいるのが自然な状態、というような佐天さんの恋人だ。

「あ、なたは……」

「君、初春ちゃんやろ?
この前はどーもな。
そのロック外したら、僕が入る。
僕がええよって言うまで君らは待っててや」

ニコニコとしながら、その人はそう言った。

「は、はい……」

なんとなく、頷いてしまった。

「君は、誰なんだ?」

木山先生は青髪さんを警戒したようにそう聞く。

「涙子ちゃんの……なんやろな……涙子ちゃんに助けてもらってる情けない男、てとこかな?」

青髪さんは、警戒されるくらいが丁度いいという雰囲気で笑顔を崩さなかった。
499 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/16(木) 01:22:08.39 ID:teTMXkcKo

〜〜〜

「ごめんなぁ……ここ何日か涙子ちゃんと毎日会ってる訳やないから……手加減できへんと思うで」

初春ちゃんがロックをこじ開けると、僕はそこに一人で入った。

待ち構えるのは、銃を構えた数十の駆動鎧。

扉が開いた瞬間、そいつらは迷いなく僕に銃弾を放った。
その鉛の雨の中、僕は真っ黒な絶望の濃い所へゆっくり歩く。

「……な?
今の僕の絶望は……生きてる事や、涙子ちゃんやカミやんに迷惑ばっかかけて……。
生きている事が恥ずかしいんや。
だから、今僕は相当な幸運でもない限り死なん」

手や足や体に何発も銃弾を食らったが、どれも致命傷にはならない。
僕が死にたいと思っている限り、僕は僕の絶望する未来へ勝手に歩いてしまうため、死ねない。

「ほんなら、君たちの絶望は何か見せてくれへん?」

一歩ずつ、駆動鎧へと近寄り、それぞれにタッチして行く。

――こいつらの絶望は、僕らが生きてここにたどり着くこと。

死ぬはずなのに死なん僕にビビって、照準をずらし仲間を撃ってしまう者。
僕という存在に恐怖し、そこで気絶する者。

あっという間に、駆動鎧の集団は自滅し、無力化した。

「……ごめんな。
けど……君らにも、ここで生き残ったら死ぬより辛い絶望が待っててくれて良かった。
みんな、まだ生きてる」

完全に無力化したその集団の真ん中へ地を流しながら立ち、僕は外にいる初春ちゃん達に声をかけた。
500 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/16(木) 01:22:40.89 ID:teTMXkcKo

〜〜〜

「ガキだからって……舐めんなぁああああ!」

駆動鎧達は多少手荒に扱っても問題ない。
私は自分の能力をフルに使い、駆動鎧達をなぎ倒す。
黒子も同じように、空間移動を駆使し駆動鎧を次々と止める。

霧間凪という人も霧ヶ丘に通っているならば、相当な能力者であるはずだ。
しかし、彼女は能力らしいものを一回も使わず、自身の技術と運動能力のみで駆動鎧を手際良く無力化していた。

――あいつ……なんなの?

佐天さんもけろっとしながら銃撃の中をするするとよけながら、流れ弾で駆動鎧同士の武器を破壊したり、時には駆動鎧自体を無力化していた。
しかし、未だによくわからないが、一方通行と私が手も足も出なかったリィ・舞阪という人と渡り合っていた。
それでも、それは何かしらの“力”を使っていたのは間違いない。

――なのに……あの霧間って人は……本当に自分の力だけで、戦ってる……。

それがなんだか負けたようで悔しかった。

――だけど……今はそんな事を言ってる時じゃない。

私たちの目的は、救う事だ。
勝つ事ではない。

一方通行や顔も名前も知らない第二位。
私の上に立っているとはじめからわかっている二人以外に、負けた事を感謝した。

――リィ・舞阪……あんたのおかげで、私は自分がちっぽけな存在だとはっきり気づく事ができた。
でも……あんた達に負けっぱなしでいるつもりもない。

私は、自分の弱さを認められる強さを、この夏休みに得る事が出来たのだろう。

それは、とっても大きな財産で、とっても大きな壁を自らの前に自分で立ててしまったという事でもある。

そう、リィ・舞阪ことフォルテッシモは、私のこういう成長を望んで私を見逃したのだから……。

――次戦う時は、勝つわよ。

結局、私はリィ・舞阪の思惑通りに動いてしまってる。
“前回”の戦いは私の完璧な負けだと認めたという事だ。
501 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/16(木) 01:23:10.22 ID:teTMXkcKo

〜〜〜

「ふう、片付いた。
さ、初春と木山先生を追いましょう」

激突から数十分で、戦いは終わった。
白井さんと御坂さんが、全体の5分の3を片付け、残りは私と霧間凪が片付けたような結果であることが、動けなくなった駆動鎧達から見て取れる。

「……丁度終わったか」

初春と木山先生を追いかけると言ったはいいが、駆動鎧達の乗っていた車は大破しており、霧間凪のバイクも今すぐ走り出せるような状態ではなかった。
ならば、どうしようか、と考えはじめた時、タイミングよく支部でパソコンをいじっていた男が車で到着した。

「乗れよ……送ってやる」

そいつは、霧間凪と一瞬だけ目を合わせると私たちの方へ向き、そう言った。
502 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/16(木) 01:23:46.34 ID:teTMXkcKo

〜〜〜

青髪さんが中に入ったあと、激しい音が一瞬すると、建物の内部は水を打ったように静かになり、その静寂に不安を覚えはじめた頃、青髪さんの声がした。

「あ……よか、った……」

体から力が抜け、ため息が自然とこぼれた。
それは、木山先生も同じだったようである。

深呼吸を一度すると、恐る恐る扉を開き、中へ入った。

「青髪さん!だ、大丈……病、お医者さん……きゅ、救急車呼ばなきゃ!」

そこでまず目に飛び込んできたのは、全身から血を流す、青髪さんであった。
私はパニックになり、その次にカタカタと歯がなるほど怖くなった。

「あー、平気や平気。
僕ぁ死なんよ……」

青髪さんは、フラフラと歩み寄ってきて、私の頭を軽く撫でた。

「初春ちゃん……落ち着いて……涙子ちゃんの事を思い出すんや。
大丈夫、あの子がいる限り、僕は大丈夫」

その言葉には、私が思っていた意味とは違う意味がある事を私は知らない。

「落ち着いたな。
よし、じゃああとは君たちに任せるで……。
涙子ちゃん、よろしくな……僕ぁ病院行ってくるから」

「ま、まて……待ってくれ」

変わらず、フラフラと歩き出す青髪さんを木山先生は呼び止めた。

「送る、なんて言わんでええよ。
多分チャンスは今だけや……あんたは、このチャンスを……希望を逃したらあかんのやで?
僕は、大丈夫や」

そう言うと、木山先生の言葉を待たず、青髪さんは歩いて行った。
503 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/16(木) 01:24:21.12 ID:teTMXkcKo

〜〜〜

目的地へ着くと、そこには見覚えのあるスポーツカーと、トラックが停まっていた。

そして、建物から血痕が街の方へ伸びているのも見つけた。

「これ……」

私はそれがすぐに青髪さんの物だとわかり、心配になったが、自分にはまだ希望が見えているので、最悪の状態ではないと悟る。

霧間凪は血痕には目もくれず、トラックへ進み、中を調べていた。

そして、御坂さんと白井さんは、血痕を見るたびすぐに建物の内部へと駆け込む。

「初春!木山先生!
……ぶ、無事、ですの?」

扉を開け中にはいると、そこには初春と木山先生が立っていて、彼女たちの足元には駆動鎧が転がっている。

「はい……青髪さんが、助けてくれました」

初春は申し訳なさそうに、私を見ながら言った。

「はは、いいんだよ。
大丈夫、あの人は……私が死なせないからさ」

そこに、霧間凪も入ってきて、彼女は私たちが見えていない風にさっさと上へと進んで行く。

そして、私たちもそれに倣った。

「あ、ここ……」

上に登ると、そこにはモニターとボタンがなにやらたくさんある部屋にたどり着いた。
そこを見て、初春はそこが一目でこの建物の管理室だとわかったようだ。
電源をいれ、監視カメラを起動させる。
そして、画面を次々と切り替え、ピンク色の駆動鎧を着込んだ人物と子供達を発見した。

「ここは……一番地下ですね……行きましょう」

木山先生は、子供達がモニターにうつった瞬間、拳を硬く握りしめていた。
初春は、そんな木山先生を見つめながら、立ち上がりそう言った。

「終わらせましょう、このろくでもない物語を」

強気に笑っているが、不安のが優っているのはバレバレであった。
504 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/16(木) 01:27:50.19 ID:teTMXkcKo
青髪無双回

今日はここまでです

次回多分番外編最終回です

では次もまた読んでやってください
505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/08/16(木) 01:32:44.34 ID:uYTFC9hF0
あ…ありのまま今起こったことを話すぜ!

『読み返しながらレスつけたら
いつのまにか投下が来ていた』

割り込み申し訳ない!!!
506 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/16(木) 01:35:55.06 ID:teTMXkcKo


>>497
凪様は俺の中ではブギーポップと同じくらい勝って当たり前な存在
ヴァルプは実は愛してやまないffが雑魚扱いとか聞いて一巻途中までしかよんでないんだよなぁ
夏休みだし読もうかな

>>482
それもありっちゃあ、あり
×じゃなくてvsになると思うけど

>>483
お仕事どころか無双してしまった
凪様はチートだからな、ヴァルプ一巻で難なく銃弾よけるとかやってたよね?
507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/08/16(木) 02:41:30.81 ID:uYTFC9hF0
1乙

銃弾避けるどころか凪さんの安全靴キックは戦闘用合成人間を一撃で倒すレベル

あとffさんの不遇は昨日今日はじまったことではないのでは…
スキャットではあっさりやられ、オキシジェンにはスルーされ、
挙句の果てに「人類史上最強」は工藤兵吾に確定しているという残酷すぎる事実
圧倒的に強かった頃との扱いの差がもうすごいことに…
508 : ◆qXEKQweJllf. [sage]:2012/08/16(木) 02:50:49.09 ID:teTMXkcKo
そうだけどさぁ
なんか多分にちゃんとかできいて雑魚扱いって表現されたのが引っかかるんだと思う



あと俺の部屋にゴキがでた
ブギーポップは世界の敵であるゴキを早く全滅させるべき
509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/16(木) 17:05:00.50 ID:PXSnrDr/P
取り消しさんに依頼して家ごと消滅させよう
510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/16(木) 20:31:53.34 ID:YUugVSVIO
なんだかんだいってFFさんは精神系のMPLSとは相性悪い気がするなー
シェイムとか初見で倒せる奴いんのか
511 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/08/16(木) 22:09:32.35 ID:vC0U0x2Uo
正直自分の事弱いとか言ってて当たり前のように合成人間ぶっつぶせる凪の言い方が、最早行き過ぎた嫌みにしか聞こえない。
マンティコアにやられそうになった凪は何処行ったんだ。というか女子高生にあっさり負ける合成人間がそもそも強いのかどうか…
>>506
ヴァルプfire4でやっぱり舞阪さんは最強だけど話の渦には入れねーってことを再確認した
512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/17(金) 00:21:23.18 ID:PMqhtmeT0
能力があるといっても青ピ&佐天の信頼関係いいね
そしてこの夫婦つええ、絶望と希望を見てイナズマまがいのことができるとは

ffさんはどうも作中見る限り、勝てない相手には無意識というか運命的なレベルで近づけない感がある
別の土地にいたり、ビートにやったみたいに人に押し付けてどっかいったり
スキャッターブレインだって対処できるレベルではあったからなあ
513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/17(金) 01:20:34.99 ID:S0ucUt3RP
お話的に強すぎて邪魔になるから御退場願ってるだけだろう
タイトロープじゃあるまいし
514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/17(金) 22:58:02.03 ID:PMqhtmeT0
その結果ffさんは護身完成とかってネタにされてるんですけどね

学園都市風に言うとタイトロープは運命操作のレベル2、オキシジェンは運命操作のレベル5ってかんじかねえ
515 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/19(日) 07:46:36.33 ID:10atJv1/o

〜〜〜

「チッ……やっぱクズは何やらせてもクズだな」

テレスティーナは私たちが部屋にはいるなり、ディスプレイに目を向けたままそう言った。

「ま、始めから期待なんざしちゃいねぇけどなぁ」

そして、下品に笑う。

「超電磁砲に空間移動、木山春生と花飾りと無能力者は……まぁ、カスだろ」

テレスティーナはニヤニヤしながら私たちをみる。

「あー、おい、超電磁砲……お前の必殺技……しっかり調べさせて貰ったよ、そんでそれより強ぇのを開発した」

テレスティーナの着込んでいる駆動鎧の右アームには、ほかの物とは違い、レーザー銃のような形の装置を装備していた。

「けどなぁ……そんなもんわざわざ開発しなくてもあんたら能力者なんて……科学者には敵わねぇって事を教えてやるよ」

ひときわ大きく顔をゆがませると、テレスティーナは何かのスイッチを押した。

そのスイッチが押された瞬間、私と木山先生以外の全員が頭を抱え、苦しそうな表情に変わる。

「なっ……によ、この音……」

「演算が……うまく出来ませんの……」

「あ、頭が……割れそうです」

「え?なに?なんで?
どうしちゃったのみんな」

苦痛に顔をゆがませながらも御坂さんは必死に電気を発し、テレスティーナと戦おうとする。
しかし、その電気は、弱々しく、テレスティーナに届く前に雲散した。

「この音が……能力者の演算を阻害しているのだろう……。
木原の一族は……研究者としては優秀なんだ……」

木山先生は、言いながら、落ちている鉄パイプを拾った。

「あ?てめぇみたいなのが勝てるとでも思ってんのかぁ?」

「……」

木山先生は黙ったまま鉄パイプを構える。

「う、わぁあああああああああ」

「……死ね」

振り上げ、そして思い切り振り下ろされた鉄パイプを左のアームで掴むと、鉄パイプごと、木山先生を放り投げた。
なんだかよくわからない電源の入っていない機械の山に木山先生は突っ込み、気を失った。
516 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/19(日) 07:48:57.18 ID:10atJv1/o

〜〜〜

「絶対、絶命……だろぉ?」

余裕綽々に笑いながら、右アームを私に向ける。

――避けれるから私を狙ってくれるならありがたいね。

ゆっくりと、今ある希望を見極める。

――御坂さんと初春の倒れてる位置が悪い……。
あれ?

さりげなく部屋の中を見渡すと、先ほどまで一緒に居た一人がいない事に気がついた。

――霧間凪……どこに行った?

だが、それを表情に出してはいけない。
怖気付いて逃げた、という事はないだろう。
何処かに潜んでいて、それこそが逆転の一手になるはずだ。

――あの人が私たちを見捨てる、なんて事もないと思うし……とりあえず時間稼げばいいかな?

「まぁ、絶対絶命ですね……でも、あんたには負ける気がしない」

――勝てる気もしないけどね。

私の力は、それだけで勝つというのが難しい。
私が勝つには、御坂さんや白井さんなどの戦闘能力に長けた力を持った人がいないとダメなのだ。

「あ?無能力者が何言ってやがる」

「あんただって、無能力者でしょ?
そんな愉快な色の駆動鎧着込んじゃって……そんなに私たちが怖い?」

「よし、わかった。おまえは最後に殺す。
お友達が死んでいく様をたっぷり見てから絶望して死ね」
517 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/19(日) 07:49:26.37 ID:10atJv1/o

「悪いけど私が絶望する事は……ないよ」

「……」

テレスティーナは黙った。
私を睨みつける。

負けじと私も、テレスティーナを思い切り睨んだ。

「あんたさ、御坂さんの超電磁砲の真似事出来るみたいだけどそれ、ここじゃ使えないんでしょ」

ピクリとテレスティーナの眉が動いた。

「だってさ、ここでもしそんなのつかって何か大事な機械壊しちゃったら子供たち奪った意味なくなるもんね」

「……言っただろ?んなもん無くてもてめぇらモルモットくらいは殺せるんだよ」

「だったら、今すぐ殺してみろよ。
超能力者の御坂さんから?
それとも大能力者の白井さん?
ほぼ無能力者の初春?
完全な無能力者の私?
ほら、殺してみろォオオ!」

多少手荒だが、ほかに道はない。
私は私に見えた物を信じようと思っていた。
それは、つまり……今見えている希望と、霧間凪のまっすぐな心……。

「……」

機械音だけを鳴らしながら、テレスティーナは御坂さんに近づき、胸ぐらを掴んだ。

「恨むならあの無能力者を恨めよ?」

そして、不愉快な笑顔を貼り付けると、右アームで銃を持ち、御坂さんのこめかみに当てる。
518 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/19(日) 07:49:54.02 ID:10atJv1/o

「残念でした」

その瞬間――室内に明かりが灯ったように――希望が灯った。

轟音と共に、一台のバイクがテレスティーナ目掛けて突っ込んだ。

「なん、だとぉおおお」

そのバイクの運転手はテレスティーナから御坂さんをひったくると、自らもバイクから飛び降り御坂さんを守るように抱きかかえながら、転がるがすぐさま起き上がり次の行動に備えた。

「……おい、佐天この音なんだ?」

チラリとこちらに鋭い目を向け、そう尋ねてくる。

「……あれ?そういやあんた、なんで大丈夫なの?」

確か霧ヶ丘と言っていたはずである。
無能力者が入れるような学校ではない。

「質問に質問で……まぁいいか。
これは、この街の能力者だけに効果ありって事なんだな……」

勝手に納得し、スタンガン付き警棒を取り出し軽く降った。

「うん……あとあの右手についてるやつ、超電磁砲撃てるらしいから気をつけてね……私この音止めてくる。
ここは……任せるよ」

バイクを弾き飛ばす事もできずに自分の体を盾にテレスティーナはこの施設を守らなくてはならなかった。
それが起き上がる前に、私はそういい部屋をでた。

――よし……見える。

今の私の希望。

たった一つのシンプルな希望。

それは――。
519 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/19(日) 07:51:21.75 ID:10atJv1/o

〜〜〜

「チッ……」

テレスティーナはゆっくり起き上がった。

「まぁた、おまえか……なんなんだよ」

いつのまにか右アームに突き刺された警棒を投げ捨てる。

「おいおい、あんまり乱暴に扱ってくれるな。
修理するの大変なんだぜ?」

「なぜお前は邪魔をする……」

「さぁな」

「お前は一体……なんなんだ」

霧間凪は、私たちの方に目を向けた。
そして、挑発するような笑顔を貼り付けると、テレスティーナの方を向き返り言った。

「……あいにくだがオレは敵さんにまでご丁寧に名乗るあいつとは違って悪党に名乗る趣味はねぇんだよ」

「ふっざけんなぁあああ」

霧間凪は子供達とは正反対の方に立っている。
つまり、それは……霧間凪の背後に壊してはいけないものがないということだ。

テレスティーナの右アームが光を放ち、霧間凪に向かって何かを射出する。

「……なるほど、こんなものをぶっ放せるとは……御坂美琴とは戦いたくないもんだ」
520 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/19(日) 07:51:57.88 ID:10atJv1/o

全く回避行動を取らず、自身の顔の横を通ったテレスティーナの超電磁砲があけた壁の穴を見ながら落ち着いたまま言った。

「機械ってのは基本的には正確なんだよ。
こんな発展した科学力を持ったところで作られたものほどな……。
正確ゆえに、発射点をみりゃそれが自分に当たるか当たらないかもすぐ分かる」

「ク、ソガキがぁ……」

「あ、でも今の衝撃で佐天のやつはすっ転んでるんじゃないか?」

なおもおちょくるように、霧間は言った。
音が効かないということは、おそらく彼女も無能力者であるはずだ。
にも関わらず、駆動鎧に対するこの余裕は異常であるとしか私には思えない。

「まぁ、安心しなよ……オレはただの引き立て役だ。
この街での本当の正義の味方は……オレじゃないからな」

ブーツをゴトゴト鳴らしながら、私の方へ歩み寄り、私を担ぐと乱暴に御坂さんが倒れているところに放り投げた。

「だが、佐天がこの音を止めるまでの間はオレが相手してやるよ」
521 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/19(日) 07:52:33.83 ID:10atJv1/o

〜〜〜

「うわっ……なんだ、この揺れ……?
まさか、あいつ……超電磁砲撃ったの?」

少しだけ心配になるが、テレスティーナは恐らく自分に直接的に被害を与えた凪の事で頭がいっぱいだろう。
御坂さんたち動けない組が狙われた可能性は低い。

「だったら……大丈夫だ。
あのひとはニセモノの超電磁砲なんかには負けはしない」

駆動鎧を楽々やり過ごすような奴だ。
そんなくだらない負け方などする訳がない。

「よし、もう少し……」

揺れに少しだけ、体制を崩したが、すぐに立て直し、また走り出した。
そして、目の上に先ほど訪ねた管理室が見えてきた。

「ここで全部管理してるはずだったら……」

――でも、もし地下の機械とかも全部止まったら……子供達はどうなるの?

ここの機械を止めるのは簡単だ。
目の前にあるものをぶっ壊せばいい。

だけど、もしそれで木山先生が……たった一人で学園都市を相手に戦おうとした木山先生の希望を……潰してしまったら?

私に見える希望。

それは――私たちが生きて帰ること。

もし、その私たちに子供達が含まれていなかったら?
含まれていても、ただ生きてるってだけの状態だとしたら?

――いや違う。
考えろ、考えろ……。

時間はあまりない。
凪だって、狭い室内、動けない初春たちがいたらあいつをいつまでも抑えてはおけないだろう。

その時、焦る思考を打ち切るように、携帯電話が鳴った。
522 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/19(日) 07:53:32.24 ID:10atJv1/o

〜〜〜

「な、んで……佐天さんを……黙って行かせたんですか?」

もうとっくに管制室にたどり着いていてもおかしくない。
なのに、この音が止まらないということは……迷っているんだろう。
佐天さんは、あそこの機械を止めた時何が起きるかって、考えちゃったんだろう。

だったら、私が助けてあげなくちゃ……佐天さんの親友だから。

「だって……この音を止めに佐天さんは行ったん、ですよ?
この音が止まったら、御坂さんも白井さんも復活して……あなたはどう足掻いても勝ち目が、なくなる」

「あぁ、この音だけを止めることは……あのガキには無理だからな」

「そんなの、機械を壊しちゃえば……ここの電気供給を断てば、止まります。
佐天さんが補習だらけのお馬鹿さんでも……それくらいは、わかりますよ?」

「あのガキはバカそうに見えて実はそうじゃない。
この部屋に入ってきた時も、しばらく監視してた時も、いつもあらゆる可能性を考えてから行動してた……そんな、優秀なガキがここの電気供給絶ったらどうなるか、って事を考えないわけないだろう」

バカにするように、テレスティーナは言う。
523 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/19(日) 07:54:48.47 ID:10atJv1/o

「でも、その……パソコン……ここのほかのシステムとは電気供給のラインが違いますよね?
だって……そこに表示されてる子供達のデータ……私たちがここにくる前の時間から……とってあります」

「……で?
それがわかったからなんなんだ?
今からお前が追いかけてあのガキに伝えるか?
それともそっちの生意気なガキがいくか?」

誰が行っても、誰かが死ぬ。
木山テレスティーナはそう言っていた。

――でも……。

「……あんたの負けだよ」

霧間さんは、警棒をしまいながら、テレスティーナに背を向けた。

「霧間さんのいうとおり……この街の発展した科学に感謝、ですね」

こんな地下でもしっかりと通話状態になっている携帯電話を、私はテレスティーナに見せつけた。

「なっ……」

テレスティーナが、驚きの声をあげたのと同時に、私たちを苦しめていた音は止まった。

「……なんか、頭まだフラフラする……手加減、出来ないかも」

「……じゃあ、もし超電磁砲をお撃ちになるならば、出口に向かってお願いしますの」

御坂さんと、白井さんが頭を抱えながら起き上がった。


もう、これで……私たちの勝ちだ。

徐々にスッキリしてくる頭で、私は始末書をどう書こうかなんて事を、ぼんやり考えていた。
524 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/19(日) 07:58:09.10 ID:10atJv1/o

〜〜〜

「やぁ、君か」

「具合、どうですか?木山先生」

あの事件が終わり、霧間凪こと、炎の魔女はこの街を去った。

これで、やっと私たちの物語が始まった。
不思議と、そんな感覚があったのはなんでだろう。

ブギーポップに、炎の魔女。
世界の敵とかセイギノミカタ。

なんにも詳しいことはわからないけど、それがこの街にもたらした影響は大きい。

世界の敵となった無能力者。
第一位と互角に戦った無能力者。
そして、その無能力者すらをも目の前を飛び回る小虫のように払いのける――世界の敵の敵。

世の中には、まだまだ知らないことがたくさんあって、まだまだ強い人がいる。

私なんかはそんな人たちが目もくれない小さな悲劇を救うが精一杯。

でも、それでもいいんだ。

だって、それでも誰かを守ったことには変わりはない。

セイギノミカタに少しでも近づけたことに変わりはないんだから。

「大丈夫だ。世界一の名医が主治医だからね。
君達には迷惑をかけっぱなしだな。
始末書だけじゃ済まなかったろう?」
525 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/19(日) 07:58:44.99 ID:10atJv1/o

木山先生は、表情が少し柔らかくなった。
疲れたような笑顔は見せず、心から笑うようになった。

「えぇ、私と白井さんは始末書と鍛え直し……風紀員の強化訓練を通常の三倍やらされてます。
御坂さんや佐天さんは風紀員でもないのにって、散々説教されたあと、課外授業を毎日受けてますよ」

「本当に……迷惑かけてばかりだな……」

「みんな、楽しそうだからそれでいいんですよ。
佐天さんは常盤台の校舎で授業受けれる事喜んでましたし、御坂さんも私たちの中学校で授業受けれるの喜んでましたし……。
おっと、今日はこんなのんびりしてる時間はないんでした!」

「仕事かい?」

「……えぇ、学生からの依頼です」

私は言いながら、カーテンを開き、窓も開け放った。

心地よいとは言えない生ぬるい風が私の頬を撫で、髪を揺らす。

『もういい?……じゃあ、せーっの……』

――この笑顔を取り戻すことが出来たなら……補習や訓練なんてなんともないですよ。

「まったく……やってくれるな」

嬉しそうに、両目を覆った木山先生のそんな言葉が、私たちに送られる唯一の勲章だ。
526 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/19(日) 08:00:00.14 ID:10atJv1/o
これにて番外編も一応終わり!
近いうちにエピローグ的なもの投下します

527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/19(日) 11:49:40.67 ID:U/NnKynDO
超乙です!やっぱ能力の扱いが面白い
遅レスだけどちょいワル青ピ格好良かったです
528 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/19(日) 14:09:21.89 ID:10atJv1/o
なんか、書けたんでエピローグ投下します
529 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/19(日) 14:11:52.03 ID:10atJv1/o

〜〜〜

「ちぃ……こうなったら全部全部全部ぶっ壊してやるよぉおおおお!」

変な音が止まり、霧間凪は勝利を確信しもうテレスティーナから興味を失ったように背を向ける。
そして、御坂さんはパチパチと髪を鳴らしながら、テレスティーナを睨みつけた。

「……ねぇ、あんた私の超電磁砲、真似できるんでしょう?
私よりも強い自信、あるんでしょ?」

「あぁ?黙れモルモットがぁあ!
てめぇら能力者は私ら科学者のおもちゃ、実験道具、使い捨てのモルモットなんだよ、同等な口聞いてんじゃねぇぞぉおお!」

御坂さんに向かって、超電磁砲を放つ。

が、御坂さんも素早く手にしていたコインを弾き飛ばしそれを相殺した。

「勝負、しましょうよ……。
私の超電磁砲〈オリジナル〉とあんたの超電磁砲〈マガイモノ〉どっちが強いか……。
まさか、撃たれるのが嫌とは言わないわよね……。
撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだって名言を知らないわけじゃあないでしょう?
テレスティーナ・木原・ライフライン!」

「はっ!おもしれぇ……こいつはてめぇの能力測定を元に、十倍の強さを持ってんだ……負けるわけねぇ」

得意げに、右手についた装置をかかげる。

「十倍……へぇ、そう……じゃあ、私も本気でいくわ。
本物の……学園都市第三位、常盤台エースの……本物の超電磁砲、見せてあげる」

御坂さんは白井さんの名前を呼ぶと、白井さんはそれだけで全てを理解したようで、ささっと御坂さんに近づいて行った。
そして、御坂さんに少し触れると、御坂さんは消え、テレスティーナと子供達の間に現れた。
530 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/19(日) 14:12:24.75 ID:10atJv1/o

「あ?なんのつもりだ?」

「あんたを殺さない、って程度にしか手加減出来ないから……さ」

二人の距離は三十メートル弱。
御坂さんはお馴染みのゲームセンターのコインを構えた。

「本当は、なんか鉄の塊とかがいいんだけどね……まぁ、それだとあんたを殺しちゃうかもしれないし」

絶対に負けない、という自信を持って笑う。

「クソガキがぁ、ああ……」

テレスティーナの装備も、光を放ち始めた。

その光はどんどん強くなる。

そして、二人は、撃った……。

閃光の筋が、部屋を明るく照らす。
パチパチと音を鳴らしながら、テレスティーナの撃ったニセモノと御坂さんの撃ったホンモノが、ぶつかり合う。

そして……決着はすぐについた。

激しい衝突音と共に、吹っ飛んだのはテレスティーナの方であった。

御坂さんは、汗を流し、息を切らせながら、テレスティーナを指差す。

「私たちは、モルモットなんかじゃあない!
心を持った、人間だ!
お前みたいな奴がいるから……あの子達は……ッ。
反省しろとは言わない、ただ……モルモット扱いしたクソガキに負けた屈辱を死ぬまで抱えてろ!」

そう、叫び終えると、ふにゃと膝から地面に崩れた。

「はぁ……はぁ……電池、切れ……黒子、帰り……世話になるわ」

くしゃっと笑いながら、そのまま仰向けになった。
531 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/19(日) 14:13:13.38 ID:10atJv1/o

〜〜〜

「やれ、やれ……結局私は何もできなかったね……」

フラフラと、木山先生は、私たちに歩み寄ってきた。

「……むしろ鉄パイプ一本で駆動鎧に突っ込む勇猛さにびっくりしたわよ。
本当に……子供達思いのいい先生ね」

寝転がりながら、御坂さんは答える。

「あの瞬間は、子供達よりむしろ君たちを助けなくては……とおもっていたよ。
勝とうが負けようが勝負している間は子供達は安全だからね」

「それ聞いて、ますますびっくりよ。
よくもまぁそんなに冷静な判断が出来る事で」

おかしそうに、御坂さんはクスクス笑った。

「……まぁ、いい。
ありがとう……あとは子供達を起こすだけだ」

そういうと、おぼつかない足取りでテレスティーナがいじっていたパソコンに近寄っていく。

そして、開発したプログラムを起動する。

「ファーストサンプルは……」

「ファースト、サンプルは……ここ、だぁ……」

ガラガラと瓦礫を押しよけながら、テレスティーナは現れた。
駆動鎧を脱ぎ捨て、生身だ。

左手に、真っ赤な結晶のようなものを持ち、一人笑っている。

ひたいには血が垂れ、手足からも出血している。

「ひゃは……ぶっ壊して――」

「折角ハッピーエンドにまとまりそうなのに、水指すんじゃ、ねぇえよ!」

それを、地面に叩きつけ割ろうとするが、テレスティーナより一手素早く動いていた霧間凪の圧勝であった。
華麗な回し蹴りはテレスティーナの腹に決まり、そのままテレスティーナは吹っ飛んだ。

くるっと一回転しながら、空中に放り出されたファーストサンプルを霧間凪は手に取る。

「ツメが甘いねぇ……ほらよ」

そして、それを木山先生に投げ渡した。

「じゃあ、オレはこれで」

そして、そのまま去って行った。
532 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/19(日) 14:13:47.03 ID:10atJv1/o

〜〜〜

「よし……これで……!」

先生がボタンを押すと、プシュッと炭酸の抜けるような音がして、子供達の入ったガラスの装置は開いた。

それを確認すると、木山先生は子供達の元へ走る。

「……先、生……すごい、くま……だよ?」

一番手前に寝ていた子は、目を覚まし木山先生の顔をみるなり、笑いながらそう言った。

「あ、あぁ……少しばかり……仕事が、溜まって、いて、ね……」

ボロボロと涙を流しながら、その子の手を取り、溜まった涙を全て出すかのように、私たちの目も気にせずに泣いた。

「先、生……どうし、たの?
泣かない、でよ……」

その児童は、自由な左手で、木山先生の頭を撫でた。

「どっちが、先生か……わかんないね」

「生意気な……バカ、もの……」

二人は、笑っていた。
533 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/19(日) 14:14:13.09 ID:10atJv1/o

〜〜〜

「……じゃあな、佐天涙子」

「次あったら……一緒にファミレスでも行こうよ」

「……断る。
それに、もうオレとお前が会う事もないだろうさ……三日後にはオレはもうこの街をでるからな」

霧間凪とは、これしか言葉を交わさなかった。

ただ、こいつも、ブギーポップの関係者なんだろうという事は、なんとなくわかった。

「バイバイ、正義の味方さん」

霧間凪に聞こえぬよう、そう囁いた。
534 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/19(日) 14:14:56.47 ID:10atJv1/o

〜〜〜

子供達の全員の覚醒を確認すると、警備員とカエル先生に連絡をした。

外傷があるのは木山先生くらいだったが、その木山先生は一応検査入院という事だ。

私は木山先生の病室から抜け出すと、いるであろう青髪さんの病室へノックもなしにズカズカと入り込んだ。

「青髪さん?」

「な、なんや?おっかない顔して」

「おっかない?自分の恋人に向かってよくそんな事言えますね?ひどい男ですね」

「う……今日も相変わらず、可愛らしい…ご尊顔で……なに、よりです」

「まぁ、いいでしょう。
では、本題に入りますね?」

「……あー、なんや傷が痛む、なぁ……」

「どうして、あんな無茶したんですか」

怒ってるふりを止め私は真剣に問いただす。

「君の、助けになりたかった。
それに、僕の絶望は生きてる事やから……死なんってわかってるんや」

「そんなに、生きるのは辛いですか?」

「あぁ」

「私といても?」

「……せやな」

「じゃあ……私の事――」

「めっちゃ好きやで」

「……なら、いいです」
535 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/19(日) 14:15:25.66 ID:10atJv1/o

〜〜〜

「……ふぅ」

長かった一日を思い出しながら、私はお風呂に浸かっていた。
いつもなら、この季節はシャワーで済ませるが、なんとなく、ゆっくりお湯に浸かりたかった。

――それにしても、みんなすごいよなぁ。
佐天さんまで駆動鎧を倒せるなんて……すごいなぁ……。

それに比べ自分はなんてちっぽけなんだろうと思った。

鼻の先まで水に潜ると、ブクブクと息を吐き出す。

――出来る事と出来ない事があるってのはわかりますけど……。
なんか、ちょっと置いていかれたみたいで悔しいですね。

息を全部吐き切り、苦しくなったタイミングで脱衣所においてある携帯電話が着信を告げた。

「だれだろ……?」

湯船からあがり、浴室のドアを開けタオルで手を拭いてから携帯を取る。

表示される着信者は佐天さんだった。

「佐天さん……?
あ、出るの遅れてすみません、どうしました?
くだらない用事なら今お風呂なんで出たあとで掛け直しますけど?」

『あー、お風呂中だったか……ごめんごめん。
あれ?てことは今初春全裸か!
くそう……テレビ電話でかけたら良かった……』

「佐天さん!」

『あっはは….…冗談冗談。
いや、お礼言おうと思ってね!
あの時、電話で教えてくれてありがとう。
あれがなかったら私多分壊せなかった。
いつでも、私が困ると初春は助けてくれるよね……私の何歩も前を歩いてるみたい……。
初春は、私にとって最高の……セイギノミカタだよ!』

そういうと、佐天さんは照れたように笑った。

『うん、そんだけ!
じゃ、湯冷めするなよん、せめて下着はつけて眠れよん!』

そして、その照れを隠すかのようにおどけて、一方的に切った。

「もう、佐天さんは……」

セリフとは裏腹に、私には笑顔が戻り、悔しさよりも誇らしさが胸に吹き込んできた。

「佐天さんの方が、よっぽど……セイギノミカタ、ですよ」
536 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/19(日) 14:16:45.55 ID:10atJv1/o

〜〜〜

「物語を終わらせる僕が現れたことではじまり、その幕の引くはずの僕を失ったちっぽけなセイギノミカの物語。
彼女の物語を終わらせるのは、彼女自身の意志と希望だ。
生きることを諦めない限り、彼女の物語は続く。
それが、人生というやつだ。
人が生きる道、その人の道を外れたものには……自分の意志や希望に関係なく……僕が幕を引いてしまうがね……。
僕は、そういう極めて自動的な存在なのさ」

そのへんで一番背の高い鉄塔に登り、黒い筒のような奴は、光り輝く学園都市を見つめながらそうつぶやいた。

「もう、この街は僕を……ロストした」

いつか屋上で拾ったガラス玉を、指を弾くように粉々に割った。
537 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/19(日) 14:18:24.28 ID:10atJv1/o

〜〜〜

「あ、れ……?
なんですか、これ……」

あの日の次の日、私は始末書を書くために支部へときていた。
そして、パソコンを起動すると、いきなりウイルスが発動し驚く。

「これ……電源いれたらこの中のもの全部壊すプログラム?
……やっばい」

次々組み上がって行くそれを、積み上がった先から解き消す。

「やばいやばいやばい……早く中核となるプログラム消さなきゃ……どこだ……?」

カタカタと猛スピードで打ちながら、ディスプレイを見つめる。

「あった!」

そして、核となる部位を探すと、そこをピンポイントに破壊するコードを打ち込む。

――これで……終わり!

最後のキーを叩くと、画面に大きな爆弾の絵が飛びててきて、それは爆発するとメッセージが現れた。

【ちとやりかたがせこいけど、リベンジさせてもらった。
こっちじゃなくてもう一個の方が本物のコアでーす。
んじゃあ、もう会うこともねーとおもうけど、達者でな学園都市一のハッカーさん】

「は、羽原さんの……いたずら?」

始末書を書く気が一気に失せた。

『ブギーポップ・クロス〜セイギノミカタの作り方〜』





538 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/19(日) 14:25:03.55 ID:10atJv1/o
はい、終わりです!

今まで読んでくれてありがとう!

539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/08/19(日) 16:15:35.18 ID:/y/RS46io
終わったのか…
どっちの原作でも見れないであろうライトでいて漂う無力感のようなけだるさがいい味出してたっす。
どうでもいいけどブギポアニメももう少しだけ見直されても良いと思いました。
じゃ、作者に倣ってプラモ作ろっと
540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/19(日) 16:54:05.19 ID:1DqHTDFrP
乙ではなくあえてお疲れ様と言おう
二つの作品の領域それぞれを侵す事も無く良いバランスのクロスものだった
541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/08/19(日) 23:31:45.40 ID:/y/RS46io
で、恒例のあとがきは?
542 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/20(月) 00:19:07.90 ID:9RnG8oN0o
あとがき――やりたい事とやれる事

出来る事をやればいいとよく言うが、その出来る事ってのを見つけるのが一番難しい気がする。
しかし、やりたい事なら漠然とでもすぐに思いつく、例えば寝たいとか何か食べたいとか人間の持ってる基本的な欲求は全部やりたい事になるからね。
そして、そのやりたい事とやれる事のズレが生じた時に人は疲れてうつむきがちになるんじゃないかと思うわけで、つまり自分になにが出来て自分がなにをしたいのかをはっきりさせておけば、あまり疲れない人生を歩めるような気がする。

何か物語を書きたい、これはやりたい事でやれる事でもある。
日本語ならば多少は使えるし、紙とペンさえあればそこに物語を作るのは自由だからだ。
しかし、自分の書いたものをたくさんの人に読んでもらいたい、これはやりたい事であってもやれる事ではない、そこに自分の意志が反映されないからだ。
やりたい事っていう希望を叶えてるのに、同時にやれる事とのズレを生み出して、凹んだりもする。

でもそのズレや、凹んだ経験や、理想と現実のギャップを積み重ねる事でしか人は成長出来ないような気もするからやっぱり、疲れない凹まない人生なんてないのかもしれない。
ズレが生じた時に、悔しいと思うか、もういいや、と思うかが問題なのかもしれない。
悔しいと思える人は頑張るし、もういいやと現状に満足してしまう人はそこで成長を止めてしまうことになる。
生きてる中で必然的に出てくるどうしようもない事に希望を見つけるか絶望を見つけるかは人次第であるという事なのかもしれない。
当たり前の事を上遠野浩平っぽいあとがきにするために書いてみたけど、これは失敗だと思う。
ほら、今まさにやりたい事とやれる事のズレが生まれたわけだ。
これを希望的に見たら、自分は成長して次はもう少しマシなものが書けるようになると思うし、絶望的にみたら、これ以上のものは書けなくなるわけだ。


(要するに全部自分次第って本当に当たり前なことを言ってる文だな)
(単純なことほど忘れがち、ってことで……。まぁいいじゃん)
543 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/20(月) 00:22:24.98 ID:9RnG8oN0o
>>539
読んでくれてありがとう!
ビートのディシプリンをアニメ化して欲しいわ

>>540
バランスよかったなら良かったです!
ブギーポップファンだからブギーポップ贔屓になってるかもなぁと思い投下してた

>>541
丁度調子乗って上遠野浩平風にあとがき書いたらこんなレス貰ったでござる

まぁ、まだ続くんだけどね
続くのは本当に番外編だから本編+外伝のあとがきってことで

こいつバカだなぁと笑ってやってください
544 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/20(月) 14:36:39.22 ID:9RnG8oN0o
書くかもしれない番外編その一

『スクラップ・アレイの災難』

〜〜〜

――くそ、くそ……なんなんだよ……クッソ。

学園都市の落ちこぼれ。
すなわち無能力者。
その中でも最下層。
俺は、そんな街の吹き溜まりにその日まではのんびりと留まっていた。

しかし、ある日突然目覚めた能力。
これが、なんなのかはわからない。
間違いなく言えることは、この能力は学園都市のものではないと言う事。

――だけど……まさか……なんなんだよこの力は!

突然怒り、暴れ出した所属するスキルアウト集団の仲間たち。
俺は、ついさっきまで笑いながら馬鹿話をしていた連中から必死に逃げていた。

――調べる必要があるな……この力は……生きて帰れたら、だけどな……。

「あー!チクショー!なんなんだよぉおおおおお!」

この物語は、俺の災難と逃走の物語だ。

世界の敵だとか、正義の味方は登場しない。

負け犬の俺が、路地裏の喧嘩から逃げ回るだけの物語だ。

「クッ……でも男、浜面仕上、逃げ切ってやらぁああああ!」
545 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/20(月) 14:38:19.62 ID:9RnG8oN0o
書くかもしれない番外編その二

ブギーポップ・ロスト〜絶望の使い方〜

〜〜〜

「なぁんや……また厄介なことになってきたなぁ」

涙子ちゃんと待ち合わせの時間は午後六時。
午前中はのんびりファミレスで宿題でもしようかと思い、まだ人の少ないファミレスでひとり教科書とにらめっこしていた。

そして、そこに現れた。

真っ白な髪と肌。
真っ赤な瞳。
そして、涙子ちゃんの友人によく似た幼女。

一目でトラブルの元だと理解出来た。
彼ら二人からは絶望しか見えない。

すなわち、彼らとかかわったら僕は絶望に落とされるということだ。

「あ」

突然、楽しそうにお子様ランチを食べていた幼女が机に突っ伏した。
白い男はそれを見ても慌てる様子はなく、悠々とコーヒーをすすっている。
そして、飲み終わると伝票を取り、さっさと席をたった。

涙子ちゃんの友人似た子を……幼女を置き去りにしたまま……。

「あいつ」

ひとつだけわかったこと。

――あいつは間違いなく敵や……!
546 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/20(月) 14:41:38.28 ID:9RnG8oN0o
これはこれから書く予定のもの。

ブギーポップ・ロスト〜正しい恋愛のススメ方〜

〜〜〜

「よっし!」

鏡の前でくるりと回転し、最終確認を終えると丁度携帯電話が鳴った。
どきりとし、その音だけで頬が少し熱くなるのを感じる。

恐る恐る携帯電話に手を伸ばし、着信者を確認する。

「はぁ……なんだ、初春か」

胸の高鳴りが一瞬でしぼみ、少しだけ調子の下がった声で電話に出た。

「あー、もしもし?
どうしたの?
あ、佐天さんは今日デートだから、ごめんね?」

――初春相手なら、なんか簡単にこう言う恥ずかしい事言えるのになぁ……。

自分の恋人、青い髪とピアス、そして似非関西弁がトレードマークの正直少し怪しい高校生、青髪ピアスの顔を思い浮かべる。

――いや、青髪さんにはもっと恥ずかしいこと言ってるか……なんだろ、普通の恋愛っぽい感じが恥ずかしいのかな?

悪いと思いながらも初春の話を適当に聞き流しながら、そんなことを考えていた。

「……あー、じゃあ一緒にいく?」

考えて行くとどんどん“普通のデート”が気恥ずかしくなって来て、つい、そんなことを言ってしまった。

『今、もし見かけても気づかないふりしますね!って気を使ったのに……』

初春は、どうやら私が実はアガっていることをお見通しのようだ。
ぼんやり聞き流しつつも、頭に残った単語を思い出しながらつなぎ合わせると、終始はしゃいで怪我しないように落ち着いてください、だのあんまり気を張ると花火始まる前に疲れちゃいますよ、だの遠回りなんだか直球なのかよくわからない励ましをしてくれていたようだ。

「いや……その、あの人……女の子好きだからさ、御坂さんや白井さんも浴衣はOKなんでしょ?
多分、喜ぶと思う……」

『いや、佐天さんはそれでいいんですか?』

「うん、それに胸が小さい人の方が浴衣とか似合うって――」

……電話を切られた。

「はぁ……好きです、とかなら簡単に言えるし二人でいることも珍しくないのに……なんでこんな緊張するんだろ」

久しぶりに、普通の中学生の女の子らしい悩みを抱えたような気がした……。
547 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/20(月) 14:43:20.61 ID:9RnG8oN0o
はい、スレも半分近く残ってるし佐天さんと青髪さんのデート書いたあとは浜面主人公の物語か青髪主人公の物語か書きます

ではまたそのうち投下しにくるのでよんでくーださい
548 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/21(火) 13:39:47.11 ID:b8maIo6DO
デート全裸待機
浜面も青ピも面白そう。厭世っぽかった青ピはどうなってくんだろ
549 ::VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/21(火) 23:33:58.62 ID:aqTge6aR0
デートに期待
浜面の能力ってもしかして、ffがイライラしてた元凶かな
550 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/24(金) 14:44:28.08 ID:i7rbZxwDo
なんか、普通のデート書こうと思ったのに重い話になっちった。

投下します
551 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/24(金) 14:45:05.65 ID:i7rbZxwDo

〜〜〜

「……変じゃ、ないよね?」

電話を閉じテーブルに置くと、鏡とにらめっこする。

あの日、壊れたと思った希望。
その希望を守ってくれた人。
その人が私にとくれた物。
綺麗な、淡い色の浴衣。

――青。

その人の、トレードマーク……いや、トレードカラーだ。

――そういえば、私青髪さんの本名すら知らないや。

大好きである。
それは変わらない。
名前なんて正直どうでもいい、青髪さんが青髪さんであればそれ以上は何もいらない。
自分でも驚くほどの愛情を私は彼に感じていた。

それは、多分、出逢う事が決まっていた二人だから。
本能的に、私は青髪さんを求め、青髪さんは私を求めるんだ。

――二人が決別する時は、死ぬ時だけ……。

それはとても美しい事なのかもしれない。
青髪さんを離す気なんてもちろんない。

――でも……青髪さんは?

私のわがままに付き合ってくれているだけだとしたら?
青髪さんは、死ぬ事が希望だ。
だから、そんな希望――絶望を呼ぶ自分の希望――が叶うわけないと無茶をする。
552 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/24(金) 14:46:04.61 ID:i7rbZxwDo

――私の事を好きだと言ってくれる。
だけど、私の事を好きって気持ちより、生きてる事の絶望が大きいんだとしたら?

だんだんわけがわからなくなってきた。

この浴衣を私にくれて、花火大会に行こうと誘ってくれた時、彼はまだ何も知らなかった。
きっとあの時は、私を求めるっていう本能的な希望が強かった。
でも、全てを解き明かし、私の助けがないと周りの人を不幸にする存在だと知った時、それは崩れた。

――でも、好きなんだもん……一緒にいたいんだもん。

それは悪いことなんだろう。
相手の気持ちを考えずに押し付ける愛など愛ではない。

愛しているからこそ、青髪さんから離れるべきなのかもしれないと思った。

「……まだ、時間はある」

携帯電話を再度手に取り、アドレス帳からとある番号を呼び出す。

「あ、佐天です。この前はどうも、今って大丈夫ですか?
少し相談したい事があるんですが……」
553 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/24(金) 14:49:24.29 ID:i7rbZxwDo

〜〜〜

「僕は、一体どうしたいんやろな」

その日も、僕は補習だった。
涙子ちゃんが鏡の前でくるくる回っている頃、僕は教室で退院して補習に復活したカミやんと二人で仲良く帰る気力を充電していた。

「どうしたいって……なにを?」

「んー、涙子ちゃんの事や」

「涙子ちゃん?」

「またまた、鈍い振りせんでええよ」

カミやんは人の事だと意外と鋭い。
だから、とぼけているのかと思ったのだ。

「え、あぁ……んで、涙子ちゃんとどうなりたいかってことか?」

一瞬、まずい、というような顔つきに変わるがすぐにそれを繕う。

――なんや……カミやん。ほんの少し、絶望が強なった?

つきたくない嘘をつく時、人は罪悪感を感じる。
それは小さな絶望となり、やがて大きな絶望となる。

一度嘘をつくと、その嘘を本当にするためにまた嘘をつき……という具合に絶望は雪だるま式に増えるのだ。

――大抵はどっかでフォローして勝手にチャラにしようとするもんなんやけど……。

この親友の性格を考える。

――あかんな。カミやんは損得関係なく困った人がいたら助ける。
つまり……カミやんはそういうところでうまい調整が出来やん奴や。

嘘をつくということと、自分のことを話したがらない、というのは同じ意味なのだろうか。
ふと、そんなことを考えてしまった。

「ちゃうねん……死にたいけど、死ねん。消えてしまいたけど、それは許されない。
そんな感じなんや」

死にたいけど、今死んだら涙子ちゃんが悲しむ。
けれど、生きていても涙子ちゃんに負担をかけるばかりだ。
そんな、板ばさみ。
554 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/24(金) 14:49:54.36 ID:i7rbZxwDo

「お前……死にたいのか?」

「ブギーポップと対決した時からずっとそう言ってるやろ?」

やはり、おかしい。
まるで、何も知らないかのように目を丸くするのだ。

「ブギー、ポップ……」

カミやんは小さくそうつぶやいた。

「あ、悪い。
いや、俺が言いたいのはまだそんなこと言ってんのか、ってことでさ」

「……あの子を泣かさない、悲しませない、苦しませない……そのためだけに僕は人生を使うつもりや……。
そのためには僕はあの子の前から消えるんが一番やと思ってる。
ずっと一緒に居ったら、わからなくなると思うんや」

「なにが?」

「大切なもの、がや。
いまは愛情で僕のそばにいて助けてくれてる、けどそれは永遠やない。
そんで、その愛が尽きた時助けるためだけに涙子ちゃんは僕のそばにいるようになると思うんや。
あの子は……優しいからな。
でも、そうなったらあかんねん、あの子の幸せを僕が邪魔したらあかんねん」

「だから、離れた方が良いって思ってんのか?」

カミやんは呆れたような口調で頭をがしがしかきながらいった。

「あぁ、だって……」

「だってじゃねぇよ。
お前は涙子ちゃんが好きなんだろ?
難しい理屈こねないで好きか嫌いかで言ったら大好きなんだろ?
好きだから、そいつのために生きたいと思ってる。
んで、そいつもお前を好き。
だったら、二人で仲良くいちゃいちゃしてろよ。
難しく考えすぎなんだよ、確かに大変なのかもしれないけど世界はそれほど複雑じゃないと思うぜ?」

そういうカミやんの笑顔は、何故か嘘くさく、でもとても潔く、爽やかだった。
555 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/24(金) 14:50:35.67 ID:i7rbZxwDo

〜〜〜

「お、ずいぶんめかしこんでんじゃん」

青髪さんの通う高校、その職員室へ行くと黄泉川先生は笑いながらそういい、生徒指導室へ私を案内してくれた。

時刻は三時少しすぎ青髪さんとの約束は、四時半だったので、一時間くらいしか時間は取れないと言われたがちょうど良かった。

それに、よく考えてみたら、祭りはすでに始まっている。
警備員である黄泉川先生がたった一時間でも簡単に時間が取れるような状況ではないのだ。
多分、無理をしてくれたのだろうと思い、ありがたさと申し訳なさを感じた。

「ありがとうございます……」

氷と麦茶の入ったグラスを机におくと、座るように促す。

「それで?
相談って?
青髪がらみのことなら小萌先生……あのちっこい先生も呼んだ方がいいじやん?」

「あ、いえ……まぁ、青髪さんがらみなんですが青髪さんに限らず、ってところですかね」

黄泉川先生は、ふむ、と頷いた。

「じゃあ、まぁとりあえず小萌先生も呼ぶじゃん」

そして、にっこり笑うと立ち上がり、部屋を出た。

「……そういえば、青髪さん今日学校にいるのか」

天井を見つめ、この何階上のフロアにいるかは知らないが、確かにいるはずの人を思い浮かべてみる。
556 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/24(金) 14:51:56.93 ID:i7rbZxwDo

〜〜〜

帰る前に挨拶をしておこうと思ったのはなんでだろうか。

「あ、黄泉川センセと小萌センセ、丁度ええところに……僕ら帰りますんでどーも今日もご迷惑おかけしました」

職員室へたどり着くと丁度よく知った二人の先生が楽しそうな顔つきで出てきた。

「お、青髪じゃん……なんかお前最近落ち着いてるけど……どうしたじゃん?」

「落ち着いてます?」

「うん」

な、と黄泉川先生は小萌先生に同意を求めると、小萌先生も素直に頷いた。

「まさか、お前噂の中学生彼女に……」

キッと、黄泉川先生の目つきが鋭くなった。
セクハラギリギリ……いや、余裕でアウトな発言だったが、特に気にしない。

「いややなぁ、僕は紳士ですよ?
そんな、嫁入り前の娘に手を出したりなんて……しません。
それに、僕だってまだ子供です。その僕より相手はさらに子供なんですよ?
きっと、高校生って未知の存在に憧れて好きだと錯覚してるだけなんや。
だから、後悔させないためにも……僕は彼女に何もしませんよ」

「……」

「……」

黄泉川先生も、小萌先生も黙った。
黙ったまま、僕のことをじっと心配そうに見つめる。
正しいことを言っているが、急に落ち着きすぎだ、と言っているように聞こえた。

「……そのうち、きっと彼女の方から僕から離れて行きます。
それを、僕は待ってるんです」

佐天涙子は完全に自分の能力を自分のものにした。
僕だけがいまだに世界の敵なのだ。

僕らの別れ、それは前にもいったように、佐天涙子が青髪ピアスを殺す。

そういうことだ。

そんなことはさせたくない。

だから、僕は世界の敵の敵を待っている。

もう、この街は完全にそいつをロスト、つまり見失ったという事を信じたくなかった。
557 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/24(金) 14:53:04.84 ID:i7rbZxwDo

〜〜〜

「……お待たせ」

「よくぞ先生達を頼ってきてくれたのですよー」

二人は、十分くらいで戻ってきた。
息をはきながら、椅子に腰掛ける。

「さ、話すじゃん」

そして、ニコニコしながら、そう言った。

忙しいから手短に、とも本当は他校の生徒に構ってる暇なんてないんだぞ、とも言わず真剣に私と向き合ってくれた。

「先生達は……自分の好きな人が、この世界が大嫌いでこの世から消えてしまいたいと思っていたらどうしますか?」

だから、私もいきなり核心を話した。

「その人は……まぁ、青髪さんなんですけど、私のことを好きだと言ってくれます。
でも、辛そうなんですよ……いつも。
笑っていてもどこか負い目を感じたように笑う。
優しくしてくれる時、ホッとしたような顔をする。
私は……青髪さんを苦しめているだけな気がするんです」

笑うだろうか。
たかが十年と少し生きた子供が、そんな大げさなことを言って、と……。

でも、止まらなかった。
答えが欲しかった。
どうしたらいいのか、教えて欲しかった。

はじめは、どうして普通のデートは緊張するのか、という悩みだった気がするのに、何時の間にかもっと大きな問題になっていることに今更ながら、私は気がついた。
558 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/24(金) 14:53:32.12 ID:i7rbZxwDo

「青髪さんは、とある事情があって私が……その、まぁいないと駄目なんです。
あ、惚気てる訳じゃありませんよ?
何が起きても……例え憎しみ合う仲でも、あの人は私に頼るしか生きる道というものがなかったんです。
幸いにも、私は青髪さんが大好きで青髪さんも……そこがわからないんです。
死にたいと言いつつ、苦しみながら私と一緒にいる。
それは、何ででしょうか?」

ちゃんとに伝わっただろうか。
自分でも何を言ってるかわからないのに、ほぼ知らない人と言ってもいいこの二人に伝わっただろうか。

「本当に、佐天ちゃんは青髪ちゃんが好きなのですねー……正直、最初はよくありがちな相談だと思っていました」

小萌先生は、驚いたように、そう言った。

「青髪も……さっきの様子だと佐天が青髪を想うのと同じくらい想ってるじゃん……。
正直私には……わけがわからん、一体なにを背負ってるじゃん?」

真剣に生徒と向き合う、という顔つきから、真剣に一人の人間と向き合う、という顔つきに変わった。

――やっぱ、よかった。この人たちに相談して……。

「私達は……気を抜くと、すぐに他人を傷つけてしまうんです。
だから……背負ってると言ったら……世界の明日、かな?」

「え?」

「あん?」

「そのくらい、私たちは危ういんだと思います。
だからこそ、こんな子供の話もしっかり聞いてくれる先生達を頼ってしまったんだと、思います」
559 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/24(金) 14:54:44.34 ID:i7rbZxwDo

〜〜〜

「絶望を呼ぶもの。希望を呼ぶもの。
希望を穢すもの。絶望を穢すもの。
対立するはずの両者が互いに惹かれあい、色々な手順を吹っ飛ばし結ばれた。
そんなゆるい結びつきはつまりは変わりやすいということだ。
しかし、僕はもう彼らの前に現れることはないだろう。
ひとつずつ、吹き飛ばしてしまったなら取り戻せばいい。
自分の納得の行く、正しい恋愛のススメ方ってやつをもう一度始めればいい」

黒外套は、見守るような目つきで、学園都市の方向を屋上に立ち見据える。

そして、言葉にしたかしていないかわからないくらいの声でつぶやいた。

――さぁ、ブギーポップ・クロス 第二幕の始まりだ。

――この物語も……その名の通り、僕をロストした。
つまり、終わりのない物語の始まり。


ひゅうひゅう吹く風は、穏やかに黒いマントを揺らしていた。




『ブギーポップ・クロス〜正しい恋愛のススメ方〜』






560 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/08/24(金) 14:55:12.75 ID:i7rbZxwDo
ここまで
また次も読んでください
561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/26(日) 15:02:09.43 ID:hE+8OiK5P
お、続き来てた
もうブギーポップのキャラは出ないんだっけ?
562 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/26(日) 19:58:16.51 ID:ke4Y2hKB0
二人がゆっくりとでいいから楽な気持ちで幸せを享受できればなと思ってます
そして記憶喪失が逆にいいアドバイスになってる上条さん
しかし、絶望感知できる奴に悟られないなんてどんだけ変化がないというか能天気というか、原作通りですけどね。
563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/09/02(日) 02:50:58.82 ID:Nchc80Pz0
本編読了。
上遠野作品は文章が気持ちよくて読み続けているわけで。
このSSも気持ちよく読めたわけで。
つまり最高でした。

番外編もゆっくり読ませてもらいます!
564 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/05(水) 07:57:28.17 ID:WVDECDgIO
>>561
出さないとか言ったかもしれないけど出す事にした
ブギーの登場人物in学園都市は学園都市に呼ぶ理由が無理矢理になっちゃうけどそこはスルーしてくれ

>>562
酒のんで数時間でも記憶飛んだらそれだけで自分がその間何したか恐ろしくて絶望するというのに、上条さんは能天気だよなぁ
それが良いところだけど

>>563
ゆっくり暇な時にでも読み進めてくれい


あと木山先生編読み直して思ったけど木山せんせーと初春はフラグ立ってるっぽい感じがなんとなくあるよね
木山せんせー×初春ってのもいいかもしれない
565 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/05(水) 07:58:07.49 ID:WVDECDgIO

〜〜〜

「ここか」

職員室とプレートの飛び出ているドアを見つけると、そうつぶやき開いた。

「こんにちは……えっと、夏休みの学園都市体験プログラムに来た者ですけど、月詠先生はいらっしゃいますか?」

扉を開き、すぐ近くにいた先生にそう伝えると、その先生はくるりと職員室を見回した。
そして、とある机に近寄るとその机の上にあるメモ用紙をみると、月詠先生は現在生徒指導室に居ると教えてくれた。

スーツをしっかりと着たその男は扉を閉め生徒指導室に向かった。

「あ、何か学生さんと話をしてるってことか。
職員室で待たせてもらえば良かったかな」

生徒指導室とプレートのかかった扉をノックしようとしたが、そう思い直しとどまる。

どうしようかとキョロキョロしてみるが、夏休みの高校ということもあり、人影はない。
しょうがないので、カバンから文庫本を取り出し壁に寄りかかりながら読み始めた。

――学園都市、か……。
全くなんでこんなところにくる羽目になったんだか……。

ぼんやりと考え事をしながら、ページをめくる。

――人を愛するということもまた人を壊す、か……。
人間は知らずのうちに誰かを壊しながら生きてる。
そんな当たり前の事を実感しながら生きてるやつは少ないがな。
566 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/05(水) 07:59:12.51 ID:WVDECDgIO

男が読んでいるのは、故霧間誠一の『人を壊す物』という本だ。

――他人に優しさを向けたらその分誰かを傷つけている。そして、その傷つけてしまった誰かに償うように人はまた優しさを見せる。

ぱたんと音をたてながら本を閉じた。

――そうやって、人は人を傷つけ続けながら生きている。

天井を見上げ、ため息をひとつついた。

――一人で生きていないって証に人は悲しんだり傷ついたりするんだろう。

男がそんな結論に至った時、中から「あ!」という声が聞こえ、ドタバタと音がしたかと思うと扉が勢いよく開いた。

「あ!」

幼稚園児のような風貌のその人は、もう一度そう声をあげると、わたわたと頭を下げた。

「えぇと……外から体験プログラムに来た人ですよね?
すみません、先生すっかり忘れていました……。
あ、先生は月詠小萌です。小萌先生と呼んでくださいね」

男はニコリと笑うと、大丈夫だと言い、自己紹介をした。

「飛鳥井です。
短い間ですがお世話になります」
567 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/05(水) 08:00:40.84 ID:WVDECDgIO

〜〜〜

「ったく、小萌先生はたまにヌケてるじゃんね」

氷をガリガリと砕きながら、黄泉川先生は呆れたように笑っていた。

「夏休み中の体験プログラムなんてあったんですね」

「あぁ、今年から出来たじゃん。
名誉な事に無能力者が多いにも関わらず、みんな真面目で普通に高校生活送ってる馬鹿の多い学校、て事でここが選ばれたらしいじゃん」

「小萌先生や黄泉川先生がいたら、学校も楽しそうですもん。
みんな、毒気抜かれるというか、牙を抜かれるというか……安心できるんだと思います。
……無能力者の意見です」

「……お前は無能力者って感じでもなさそうじゃん?
何か大きな物を背負ってるって事は大きな責任を持ってるって事だろ?
責任ってのは力についてくるものじゃん」

一瞬、鋭い目つきをしてそう言った。

「……ま、それは佐天の相談とは関係ないから置いとくとして……そうだなぁ……」

だが、すぐにもとの優しい目に戻り、椅子に深く腰掛け直しながら続ける。

「青髪とさっきあったじゃん、それとなく佐天とは最近どうなのかって聞いてみた。
やつは……やつも、お前を大切にしている、と私は感じたじゃん。
大切にしすぎている、とすら言える雰囲気だったじゃん」
568 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/05(水) 08:01:29.49 ID:WVDECDgIO

「その大切って言うのが、ピラミッドから出てきたミイラや美術館にある値段のつかない品を大切にする感覚と同じような気がするんです……」

「あぁ、そういう感じだったじゃん。
佐天を傷つけるものは許さない、って感じの目をしてた。
佐天は背負ってるものを世界の明日と言ったが、あいつは……お前の明日だけを考えていたように私には思えたじゃん」

「私……どうしたら良いんですかね……」

やっぱり、青髪さんは私を対等に見ていない。
青髪さんは、私より低く自分の事を位置付けている。

――そんなの、悲しいよ。
私は青髪さんと笑いあいたいのに……。

「簡単じゃん」

黄泉川先生は、うつむいた私を見ながらコップの中の氷をカラカラ回す。

「一発引っ叩いてみればいいじゃん」

「は?」

「お前らは難しく考えすぎじゃん。
背負ってるものが大きかろうが小さかろうが、こういう時は一番シンプルな方法をとればいいじゃん。
引っ叩いて癇癪起こしてだだこねて、お互いまるっきり子供になっちまえばいいじゃん」

友達を相手に話をしているかのような気軽さで、黄泉川先生はそう言った。

「子供に……?」

「佐天も青髪も妙に落ち着きすぎじゃん。
同級生の前でもそんななのか?」

「いえ……」

初春との電話を思い出す。

「だろ?
年相応、もしくはそれ以下のガキになって感情をぶつけてみればいいじゃんよ」

どうすればいいか、黄泉川先生の出した答えは非常にシンプルで、でも一番難しいもののように思えた。
569 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/05(水) 08:19:40.24 ID:WVDECDgIO

〜〜〜

「あれ?誰や?新任教師かいな?」

黄泉川先生と小萌先生に別れを告げたあと、一度は学校を出たが、携帯電話を机の中に忘れた事に気づき僕は再び学校に戻ってきていた。

補習を受けていた生徒ももうほとんど学校内には残っておらず、僕の教室のあるフロアはしんとしていた。

急ぐ必要もないので、のんびりと自分の教室へ向かい、その扉を開くとそこには教室には不似合いなスーツの男が立っていた。

「こんにちは……夏休みの体験プログラムでこの学校の先生にお世話になる事となった飛鳥井です。
学園都市の学校と言っても教室は外と変わらないんだね」

飛鳥井と名乗ったその男は慌てる様子も驚いた様子もなく、微笑みながらそう言った。

「へぇ、そんなんあるんや。
あ、僕は青髪ピアスや。青ピって呼んでくれや。
しかし、なんで夏休み中やねん?
学校始まった二学期からのがええやんな?」

「別に能力開発を受けにきてる訳じゃないからね。
この街はレベルというはっきりとした区別があるから、精神状態が不安定になってしまう子が多いらしい。
それで、どこから噂を聞きつけたか知らないがしばらく予備校で進路相談をしていた僕が呼ばれたんだ。
不登校やスキルアウトと言ったっけ?そういう子にアドバイスするにはどういった方法がいいか知りたいらしいよ」

だから、学生が時間を多く取れる夏休みが良かったらしい、とその男は説明した。

「どうだろう、ここであったのも何かの縁だ、時間があるなら少し話さないか?」

まるで僕が何かを抱えているのを知っているような口ぶりで飛鳥井さんは僕の胸あたりをじっと見つめた。

「あぁ……せやな。
ほんなら、少しだけ話そうや」

机を向かい合わせ、僕は席につく。
飛鳥井さんも、その正面に座った。
570 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/05(水) 08:20:50.77 ID:WVDECDgIO

〜〜〜

「……」

黄泉川先生が、そろそろ仕事じゃん、と言って話を切りあげると、私はお礼を言って学校を出た。

とぼとぼと待ち合わせ場所まで歩いて行き、これからどうしたら良いのかを考える。

黄泉川先生の言ったとおり、想いを全て感情のままぶつけてしまったら、どうなるだろうか。
青髪さんは、どんな顔をするだろうか。

そして、ふと、悩むのは良い事なんだと思った。
普通は、こうして悩んで悩んで悩み抜いて、誰かを好きなんだと実感して、勇気を出して恋人同士になるのかもしれないと思った。

私の場合は、頭の奥底で歯車がカチリと噛み合うように「この人が私には必要」と理解してしまった。
その人を手に入れるべきかどうかでは悩んだが、その人とどういう関係を作ろうか、などは悩まなかった気もする。

待ち合わせ場所は、初めてその人の唇に触れた場所。

「はぁ……どうしようかな」

そのベンチに腰掛け、ぼんやりしていると祭りの喧騒が耳に届いてきた。

――もしも、私が泣いて青髪さんをひっぱたいたらどんな顔するかな?

幼稚園児のようにわめき散らしたら、どんな風な表情を見せてくれるのだろうか。

「涙子ちゃん……」

「補習受けたあと家帰らなかったんですか?」

「ん、あぁ……うん、せや」

ふい、と私から目を逸らした。

「ん?」

なんだろう、と思った。

「どうしたんですか?」

「いや……その……可愛いなぁ、なんて思って……」

それにしては、顔が真っ赤だ。
それに、そういう事ならいつも言っている。
今更照れる事もないだろうと不思議に思った。

「そうですか?
ありがとうございます……」

釈然としないまま、とりあえずお礼を言った。
571 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/05(水) 08:21:59.50 ID:WVDECDgIO

〜〜〜

「そうだな、学校は楽しいかい?」

飛鳥井さんは朗らかな顔つきでそう問うた。

「楽しむ資格なんて僕には無い」

「え?」

「あ、いや……楽しいで。
カミやん……あぁ、僕の友人なんやけどそいつもええやつやしつっちーってやつも面白いやつや。
毎日、楽しませてもろてるよ」

つい、出てしまった本音を隠すように大げさに笑う。

「……そうか、君は自信が無いんだね。
優しさや潤いは十分すぎる、だけど自信が無いんだ。
何を恐れているんだい?」

まるで僕の心を全て見透かしたように、飛鳥井さんは言った。
僕の中で絶望が色濃くなるのを感じる。
黒という色を持ったものが、どんどんとただの闇に蝕まれていく感覚。

この人と話をしていたら僕は僕で無くなり、僕というただの物になってしまうような、そんな恐怖がそこにはあった。

「な、にを……って……それは……」

恐ろしいにも関わらず、僕の口は勝手に開く。
まるで、ずっと誰かに相談したかったかのように、ペラペラと喋り出す。
572 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/05(水) 08:22:32.70 ID:WVDECDgIO

「きっと、自分が怖いんや。
その気になったら全てを壊せる自分が怖い」

「全てを壊せる?
君は意外と傲慢なやつなんだな」

「そんなんと違うわ。
僕は、その気になったら今この場であんたを殺せる」

絶望の終着点は死である。
死ぬより辛い生を超えた絶望を与えてやれば、人は誰でも死を恐怖する。

「そうだな、じゃあ全部壊してみたらどうだ?
何もかも壊して、その時に残ったものが君に自信を与えてくれるよ。
全て壊せるって傲慢を覆し、自分はちっぽけな矮小な幸せを祈る事しかできない“人間”なんだって自信をくれるよ」

「……いやな自信やな」

「あぁ、だがそれが無くては人は生きられない。
人は誰も祈る事しか出来ない生き物なんだ。
しかしその祈りが行動に繋がり強さに変わる。
他の誰かを傷つけながらね」

飛鳥井さんはゆっくりと立ち上がった。
そして、時計をみると笑いながら「さ、そろそろ帰ろうか」と言った。

学校を出る時、黄泉川先生に「紳士なんだから大丈夫じゃん?」と意味のわからない事を言われたが、その意味を知るのはもう少し先だった。
573 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/05(水) 08:23:45.93 ID:WVDECDgIO

〜〜〜

「……」

「……」

微妙な距離をあけ、会話も無く私達は歩いていた。
ちらほらと周りに見えるカップルはみんな楽しそうに笑いあい手を繋ぎあっている。

――私たち、絶対にカップルに見えてないよね。
なんだろ、これ?

昨日まではこんなじゃなかった。
私は当たり前に青髪さんの手を取り、抱きついたりもしていた。
青髪さんは困ったようにだけど、笑っていた。
私が求めたものではなかったが笑いあってはいた。

「青髪さん……」

「な、なんや?」

「私に隠し事してません?」

「いや、別にしてへんけど……なんで?」

「いや、私の方全く見ないし」

「それは……浴衣が」

「浴衣が?」

「いや、なんかいつもの涙子ちゃんじゃないみたいでな?……浴衣姿が、可愛すぎるんよ」

「……ちょっとまって……青髪さんそんなキャラじゃないでしょう?
おかしいですよ?
いつもなら『浴衣可愛いやん。よく似合ってるで、いやぁ可愛い可愛い』くらいいうでしょうが!」

なにかおかしなものでも拾い食いしたのかと本気で心配になった。

「なんやろ、いま余裕ないからちゃう?」

「……つまり、いつもは一個壁を作ってから私と接していたって事ですか」

青髪さんは頷いた。

「やっぱり、青髪さんは私に助けられるのが嫌なんですか?
死にたいと願っているんですか?
私の事、本当は好きじゃないんですか?」

まずい、と思った。
感情を全て吐き出してしまいそうだと思った。
同時に、今まで私も青髪さんから一歩引いていたのだと実感した。

――そっか……やっぱり間違っていたんだ。

「君が嫌なんやない。情けなくて、君に迷惑かけるだけの自分が嫌なんや。
死にたいんやない。死ぬべきなんや。
あと、おまえのことは、誰よりも好きや。大好きや。涙子ちゃんが大切で大切で仕方が無い。
だからこそ、君のためにならん僕が嫌いなんや」
574 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/05(水) 08:24:57.55 ID:WVDECDgIO

〜〜〜

飛鳥井さんのいった通りに、ぶっ壊そうと思ったわけじゃない。
気づいたら、ぶっ壊していた。

「なぁ、涙子ちゃん……もう、やめようや。
僕の事が好きなら、僕を安心させてくれや。
他に君を守ってくれるパートナー見つけて、僕の事を捨ててくれや」

言いながら、何を言っているんだろうと思った。
これでは、涙子ちゃんを悲しませるだけじゃないか、と。

「僕は……君の事がほんまに大好きやけど……君を幸せにする事は出来ない。
僕は君に――絶望しか渡せない」

誤発だろうか、花火がひとつまだ日が落ち切っていない空に上がった。

「さよならや。
大好きやで――佐天」

最愛の女の子の目から一粒の涙がこぼれるかもしれない、僕はそれを見ないように顔を背ける。




僕はこの日、世界で最も最低な男になった。



575 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/05(水) 08:27:18.17 ID:WVDECDgIO

〜〜〜

「……あれ?どうして、こんな事になったんだ?」

黄泉川先生の言ったとおり、感情をありのままぶつけようと思ったわけじゃない。
気づいたら、そうなっていた。

絶望感も失望感も感じない。
ただ、感じるのは驚きだ。

一人取り残され、ぼーっと青髪さんの消えた方向を見つめる。

「まいった、涙すら出てこないぞ?
なんだろこれ、というか今日の花火大会誘ってきたの青髪さんじゃんか。
それなのに置いてけぼりで帰るとかなんなの?」

そして、段々と腹立たしさが溜まっていく。

「……帰ろう」

重い足を家路に向かわせる。

もう、どうしたらいいのかわからない。
でも少しだけ今の状況を楽しんでいる自分もいた。

――まだお互い好き合ってるわけだし喧嘩もしないカップルなんてあり得ないしね。

むしろいい傾向なのかもしれない。
柄にもなくうだうだと悩んでいたが、結果的に最も難しいと思った最もシンプルな方法を試す道が見えたような気がした。

「そっちがその気ならこっちも子どもになってやりますよ、と」

何があっても絶望しない、いや、絶望出来ない。
それが私だ。

絶望も自分次第で希望に変わるという事を、私は知っている。

「でも……どうしようかな。……上条さんに協力してもらおうかな」

青髪さんの親友という、なにやら熱いツンツン頭を思い出す。
連絡先は知らないが、御坂さんにでも聞けばなんとかなるだろう。

「あ、でもなんか上条さん入院してたとか聞いたけど大丈夫かなぁ……」

――でも、今日は帰ろう……。
576 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/05(水) 08:28:52.26 ID:WVDECDgIO

〜〜〜

翌日、私を元気付けるかのように太陽はいつも以上に光り輝いていた。

早速御坂さんに連絡を取り、ファミレスに呼び出す。
初春と白井さんは風紀委員の仕事があるため、呼んでいない。

ファミレスで御坂さんを待っている間、様々な事を考えた。
それはこれからの事であり、これまでの事だ。
それらの事をスライドショーを見るように、頭の中に思い出す。

――初めてあった日。

――再会した日。

――私を助けてくれた日。

――そして、初めてキスをした日。

これまでの事は全てが良い事だったような気がした。
とてつもない非日常のなかで、友達を切り捨ててでも青髪さんと歩きたいと思っていた。

――今は?

今は、違う。
私がそれをすると青髪さんは悲しむ。
だから、私は欲張りになった。
友達も、青髪さんも二つの大切なものを抱えて歩いて行きたいと思っている。

そして、それをすると青髪さんは自分の存在を私にとって邪魔にしかならないものと感じるようになる。

その結果起きたのが今回の事だ。

「なんか……頭痛くなってきた」

ジュースを一気に飲み干し、テーブルに額をつける。

「ちょっと、大丈夫?」

ため息をひとつついたら、丁度御坂さんがやってきた。

「あ、どうも呼び出してすみません」

「いいわよ、別に私も暇だったし」

いつもと変わらぬ制服を着て、御坂さんは笑っていた。

「で?どうしたのよ?
最初は暇だから遊び相手に呼ばれたのかと思ったけど……違うみたいだし?
佐天さんが初春さんより先に私に相談なんて何があったの?」

「はぁ、まぁ……なんというか相談というよりお願いというか、今から青髪さん嵌めるんで共犯者になってください」

「……はい?」

写真に撮りたいくらい、御坂さんは可愛らしい顔でわけがわからん、という顔をしていた。

577 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/05(水) 08:30:48.11 ID:WVDECDgIO
ここまで

なんかもうこの二人めんどくせぇww
青ピもだけど佐天さんの思考回路しっちゃかめっちゃかだし、普通にいちゃいちゃさせるだけにした方が良かったかもわからん

では、また読んでください
578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 07:28:42.18 ID:32QMAtVIP

この場合茎が細いのか根の問題なのか
579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 16:53:18.46 ID:XJS/gCTIO

飛鳥井先生の性格診断懐かしい
580 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/10(月) 13:25:57.35 ID:6MbbbH0wo

〜〜〜

「あー……最っ低やわー」

涙子ちゃんから逃げるように下宿先に帰ると、僕はそのままベッドに倒れこんだ。

――どうしてこんな事してしもうたんやろ……。

もう、何もかもがわからずただまくらに顔をうずめた。
泣きたいような気もしたが、ここで僕が泣くんは間違っていると思った。

「カミやんに相談してみよかな……」

あの熱血バカなら僕の話を聞いて、その上で僕をしっかりと非難してくれると思った。

「あ、でも今日はデートか……」

競争率の高いカミやんとのデートを勝ち取った子に悪いと思い、出した携帯電話をしまう。

そのままぼんやりしていると、パン屋の主人が僕の部屋のドアを叩いた。

「おい、おまえ今日デートだったろ?どうした?喧嘩でもしたか?」

「……そんな感じですわー。
僕ぁ、最低人間です、そっとしといてやー」

「はっはっは、いいさいいさ。
男なんてみんな最低だ。女もみんな最低だ。人間なんてみんなみんな最低だ。
それがわからんと男はいい男に、女はいい女にはなれんからな」

豪快に、笑う。
581 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/10(月) 13:26:29.84 ID:6MbbbH0wo

「それに、お前彼女出来た途端に落ち着いてしまったからな。
もしかしたらすでにヤッちまったかもと思ってたが……ヤってたらもっと修羅場ってるからな、なんとなく安心した」

「……あんたも最低やわー」

「あぁ、知ってる。
だから、俺はいい男だろ?」

ふざけたようにそういうと、今度は急に声のトーンを変えた。

「喧嘩して仲直りして、そんで初めて絆は強くなる。
お前らはいきなり熟年カップルみたいな落ち着きを持ってたからな、そこからして間違いだったんだよ。
初めてお前は正しいスタートラインに立ったのさ……喧嘩別れだけは……すんなよ」

僕がなにも答えないとしばらくして階段を降りる音が聞こえた。

「正しい、スタートライン……か」

僕は起き上がり、制服を脱ぎ捨てると私服に着替えた。
そして、何日かの着替えをバッグに詰め、家を出た。

「おやっさーん、しばらく友達んとこ泊まりいくわー。
手伝いできんくなるけど堪忍なー」

看板にパンの焼きあがり時間を書いていた主人に、そういうと、主人は「おう、たまには休みくれてやらなにゃ労働基準法に引っかかっちまうからな」と大笑いしながら言った。
582 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/10(月) 13:27:20.02 ID:6MbbbH0wo

〜〜〜

「あー、つっかれた」

その理由は、二つある。

一つは、記憶を失っている状態でクラスメイトとデートしたこと。
もう一つは歩き回って純粋に疲れたという事。

精神的披露と肉体的披露を抱え、俺は自分の家に帰ってきた。
そこには文字通り命をかけて助けた少女インデックスが待っている。
食費とか食費とか食費とか、問題はあるが、俺はあの子の笑顔が好きだった。

「はぁーあ、ただいまーインデックス。
留守番させて悪かったな、土産買ってきた、ぞー?」

「や、カミやん!
こんな可愛い銀髪少女と同棲始めたなんて僕知らんかったわ」

「あ、青髪……?」

「なんや、親友の顔忘れたんか?」

家にはいると、迎えてくれるはずの笑顔は困ったような顔をして、そこにいるはずのない青髪ピアスがニコニコとしていた。

「な、なにしてんの?」

「とうま、ごめんなんだよ……つい、あけちゃったんだよ。
私、ここ追い出されるかな?」

インデックスも俺の部屋に隠れて住んでいるという自覚はあったようだ。
泣きそうな目でそう言ってきた。

「いや、それは大丈夫だと、思う」

チラリと青髪をみる。

「ん、あぁ、別にあれやろ?
夏休みに従妹が外国から遊びにきて泊まってるだけやろ?そんくらい誰でもやってるで。
しかしカミやんのお母様の妹さんが国際結婚してたとは驚いたでー」

青髪は無理矢理に騙されたふりをしてくれた。
記憶がなくてもわかる。
こいつはこういう優しいやつだ。

「あぁ、そうなんだ。
可愛いだろ?手だすなよ?」

「従妹なら結婚できるしな、カミやんのお嫁さん第一候補に手は出さんよ」

にやりとしながら発したその言葉で俺とインデックスは同時に真っ赤になった。

――そう、こういうやつなんだよな。
583 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/10(月) 13:30:26.55 ID:6MbbbH0wo

〜〜〜

「で?どうしたんだよ。
佐天と喧嘩でもしたか?」

花火は終わったが、終わったばかりだ。
普通のカップルはこのあとイチャイチャしたりと忙しいはずだ。

「あー、祭りいく前に喧嘩というか……僕が一方的にひどいこと言って逃げ帰ってきたんや」

「……詳しく話せ」

「あぁ、前にもいったとおり、涙子ちゃ……いや佐天にとって僕は枷でしかない」

「なんでだよ」

「……カミやん意外とサディストやなぁ」

青髪は泣きそうな目で笑った。

どうやら俺はこいつの事情を詳しく知っているようだった。
記憶喪失になったことは後悔していない、記憶を代償にインデックスを救えたのだから安いものだ。
しかし、記憶を失ったことでこの友人の、いや親友の顔を曇らせるのは心が痛んだ。

――悪い、青髪……。

声にしてはならない叫びで、そう詫びる。
しかし、それも結局は自己満足でしかない。
スッキリするのは自分だけだ。

「……なんで、お前はそうやって自分と佐天の関係を対等なものにしようとしないんだ」

この言葉も、爆弾かもしれない。
だけど、俺は決めたんだ。

決して誰にも記憶を失ったことを悟られないようにする、と。

その決心だけは、きっと誰にも覆せはしない。

「僕と佐天が対等?バカな事言わんといてな。
僕は彼女の力がなきゃ生きていくことすら出来ないんやで?
それで対等?
アホか……僕は、彼女を縛り付ける鎖でしかないわ」
584 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/10(月) 13:30:52.63 ID:6MbbbH0wo

「でも、あいつはお前を……大切に思ってるんだろ?
未来のことなんかどうでもいい!
というか、今をみようとしないやつに未来なんか語る資格はない!
なぁ、今を普通に楽しめよ……お前がどんなやつだろうと、楽しんじゃいけない人間なんかいないんだよ……。
相談ならいくらでも乗る。
愚痴だって聞いてやる。
何かあったら一緒に怒って泣いて、そんで喜んでもやる。
だから、お前もっと自分を大切にしろよ」

これは、記憶をなくしていてもわかることだ。

――青髪は自分を大切にしていない。

「……自分を大切に?
アホか、僕は世界の――」

「んな事もいいんだよ、前にいったろ?
世界なんてもっとシンプルに出来てんだよ。
少なくとも、俺らが生きてるこの世界は、お前が思ってるよりシンプルだ」

青髪は納得出来ないようで、床を見つめ黙った。

「あおぴは……」

俺もこれ以上何をいったら良いのかと考えていたら、インデックスが口を開いた。

「本当に、るいこって子が好きなんだね。
それで、その子に何もしてあげられないと思ってる。
逆に、るいこはあおぴに沢山の事をしてあげているのかな?
それで、悩んでいる……ってことかな?」

その声は優しく、透き通った綺麗なものだった。

「その気持ち、すごく良くわかるんだよ」

そして、インデックスは微笑む。
青髪はその言葉が意外だったのか、顔をあげた。
585 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/10(月) 13:31:20.11 ID:6MbbbH0wo

「わたしも、とうまに貰ってばかりで何も返せてないもん。
とうまのことが……好きだからたまに辛い。
とうまだけじゃなくて、かおりやすているって友達にも何も返せてない」

インデックスは、一人話す。

「わたしだって、みんなの枷でしかないって思うこともあるよ。
それでも、わたしは枷でしかないとは思わない。
枷になってしまっている事もたくさんあるだろうけど」

インデックスはすう、と息を大きく吸った。

「それでも、わたしは消えてしまいたい、なんて思わないんだよ。
だって、消えてしまったら本当にとうまの枷でしかない存在になってしまうから。
ねぇ、あおぴ、何もしてあげられないなんて事はないんだよ?
きっと、あおぴが笑ってあげればるいこも笑うよ?
そして、その笑顔はるいこの友達や家族では見る事の出来ない、あおぴだけが作れる笑顔なんだよ」

それは、ただの綺麗事でそんなのを真っ向から信じられるほど俺たちは幼くはない。
そして、俺もそんな綺麗事しか言っていない事に気がついた。

メサイアコンプレックス。
ブギーポップは俺をそんな風に言ったことがあった。
つまりそれは自分は不幸なんかじゃない、だって俺は他人を助けることが出来るんだから、という歪んだ行動理念が記憶喪失以前の俺にはあったということだろう。
586 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/10(月) 13:31:46.40 ID:6MbbbH0wo

それは、そのまま俺も俺自身のことを“この世にいない方がいい存在”だと思っていた証拠なんじゃないだろうか。

だとすれば、青髪は俺に――。

「はは、ちゃんとシスターさんらしい事もいうんやね。
でも、僕はそんな風に思えるほど綺麗じゃないんよ」

だって、人を殺している。

そうは言葉にしなかったが、その瞳はそう語っていた。

思い出したように、黒く暗く染まっていたのだ。

――日記で見た覚えがある。

そこで、気がついた。
ブギーポップが戦った世界の敵は青髪だったのだ。
つまり、最初の飛び降り自殺を引き起こしたのも、青髪だ。

俺はもう、どう言葉をかけたらいいかわからなかった。

『世の中そんな複雑じゃない、もっとシンプルなんだ』

その言葉が、自分自身にのしかかってくる。

俺が見ていた世界はシンプルなものじゃなく、ただの理想だったんじゃないかと……。
587 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/10(月) 13:32:25.66 ID:6MbbbH0wo

〜〜〜

「……嵌めるって言っても、なにするのよ?」

自分もドリンクバーを注文し、二人でグラスに飲みものをいれてまた席に戻った。

「上条さんと私がくっついたふりして青髪さんがいかに私を好きなのかってことを思い知らせる」

そして、なんの共犯者にされるのかと思い聞いたら、そんな答えが返ってきた。
思わず口に含んだジュースを吹き出した。

「……却下。そんなの、道徳的ってか倫理的ってかなんかダメよ。
喧嘩したならちゃんと話し合いなさい、というか何があったのよ?まずそれを話しなさい」

「……青髪さんに、ふられました。
というか、私もよくわかりません」

わざとらしくニコニコしていた顔が不機嫌そうに変わった。
おそらく、佐天さん自身も気づかずに、もしくはそんなことが起こるはずがないという思い込みがあるのだろう。
とりあえず佐天さんはいま自分の状態がどんなものかわかっていない。

佐天さんは怒っていた。
そして、傷ついていた。
588 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/10(月) 13:32:57.02 ID:6MbbbH0wo

「もう、わけがわかりませんよ。
いきなり、パートナー見つけてくれって……私の隣に立つのは青髪さんだけだって、私は思ってたのに……」

吐き捨てるように言う。

「……そんで、あのバカと付き合ってる振りして……ってわけか。
気持ちはわかるけどダメよ、それでうまくいくとは思えない」

多分、青髪さんというのはそうなったら本気でかなしみながらも満足して何処かに行ってしまうだろう。
何故ならば、青髪さんが一番信頼しているのは間違いなく上条当麻で、青髪さんは佐天さんを上条当麻になら任せてもいいと思ってる。
なんとなく、そう思った。

二人が一緒にいるところは数回しか見かけたことはない。
それも、遠くで二人が遊んでるのを見かけた程度である。

だが、それだけでわかった。
青髪さんは本当に上条当麻を信頼している。
そして、上条当麻も、青髪さんを信頼している。
589 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/10(月) 13:33:25.18 ID:6MbbbH0wo


「……じゃあ、どうすればいいんですか?
このまま終われってことですか?
何もしないで?わけもわからず?
そんなのっ……」

「それでいいんじゃない?」

聞き分けのない子どものように私に当たる佐天さんの言葉を遮りいった。

「佐天さんさ、泣いた?
泣いていいんだよ?佐天さんがどう思ってるかわからないけれど、なんか自分だけは泣いちゃだめって思ってるように見える。
でも、そんなの無理だよ。私もあんたも人並外れた力を持ってる。
だけど、まだまだ子供な女の子だよ?
この先ずっと泣かないなんて無理だよ」

ここに呼ばれたのが私で良かったと思った。
もし、呼ばれたのが黒子だったら、噛みつかれたら黒子も頭に血が上って喧嘩になるだろう。
初春さんであったら、噛み付いたあと佐天さんが自分を責めるだろう。
だとしたら、黒子よりも少しは大人で初春さんより打たれ強い私が最適だ。

――それに、きっとこれはいい傾向なんだ。
こうやって、自分の思いをぶつけていろいろ壊しそんで……また作ればいい。間違ったと思ったならやり直せばいい。

「御坂さん……わたし……もう、本当に、どう、して……いいか」

佐天さんは、怒ったような顔から困ったような顔になり、そして、泣いた。
590 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/10(月) 13:37:14.11 ID:6MbbbH0wo
めんどくさい青髪さんに上条さんとインデックスさんぶつけたらめんどくさいやつが増えてしまった。
あと前作もそうだけどインデックスさん書くと凄いいい子にしたくなって誰これ?ってなるなぁ

はい、また読んでください
591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/10(月) 16:01:43.95 ID:kNVvTYmDO
乙かも
わた…インデックスは大事なシーンでは天使だから良いんだよ!
592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/10(月) 21:06:21.08 ID:Vd0s0noYP

インさんがたまにシスター化するのは元からですし
593 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/11(火) 21:31:11.98 ID:C6BU5ehSo
>>591
お、おう

>>592
常にシスターやっちゃうんだよなぁ
真面目な場面でしか出さないからなのかもしれんが

投下はまた今度で
594 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/21(金) 22:34:03.64 ID:IQbN7v3Co


〜〜〜

泣く、というのはそのまま絶望を表現しているものだと私は思い込んでいた。

絶望してはいけない、つまり私は無意識にそんな風に思い込んでいたのだろう。
涙すら出てこなかったのではない。
涙すらこぼせずにいたのだ。

本当に好きな人から一方的に別れを告げられ、置いていかれた。
そんな悲しい事にも、私は涙すら流せずじっと耐えていたのだ。

『泣いていいんだよ?』

御坂さんのその一言は、私が押し殺していた感情の扉を華麗に開け放った。

「う、うう……」

そんな嗚咽は、あーあー、とタガが外れたような泣き声に変わった。
店の他の客は何事かとこちらを注目していたが、御坂さんはそれらを無視し、微笑みながら私の頭を軽く撫でた。

「頑張ったんだね。
たった一晩でも、泣かずに耐えたあんたは強いよ。
でも、そんな強さなら捨てた方がいい」

静かな落ち着いた声で、御坂さんは淡々とそんな事を言っていた。

「どうしたらいいんですか、わたし……も、う……青髪さんと、笑えないの?」

涙と共に、感情も流れ出す。
言葉にしてしまったら実現してしまいそうで怖かった。
しかし、御坂さんはそれをきっぱりと否定しなかった。

「うん、そうなるかもね。
それは、誰にもわからない。多分この世界で一番頭のいい人に聞いたってわからない。
でも……うまく言えないけど人間関係なんてなるようにしかならないのよ。
つまり、なるようになるんだけどね」

初恋は叶わない、そんな言葉を思い出した。
それを言われたのはいつだったかもう忘れてしまったが、いつだかそんな事を言われた事があった。

「でも……わたしは、青髪さんと笑いたい。
ずっと一緒にいたい、青髪さんに触れたいし、触れられたい……どうしたら……」

鼻をグズグズ言わせながら、吐露する。

「そうやって、ぶつかってみたら?
青髪さんはあの馬鹿と仲良いみたいだし」

御坂さんは子どもに言い聞かせるようにゆっくりと話す。

「いきなり二人きりで話してもうまくいかないとおもうなら、私が同席してもいい。
本当に好きなら……ぶつからなきゃ」

それはどこか自分に言い聞かせるような、そんな声色だった。

「……わかりました。
そうします。一回、電話で話をしてみます」
595 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/21(金) 22:34:44.73 ID:IQbN7v3Co

〜〜〜

「……おはよう」

「おはようございます」

「お、おはようなんだよ」

夕べは、カミやんとインデックスちゃんがベッドで、僕が布団で寝た。
寝た、というより起きたらそうなっていた。

一番最初に寝てしまったのがカミやんで、そのあと僕とインデックスちゃんはテレビをみたり、適当な世間話をしたりしていたが、気づいたら二人とも寝ていた。

「あのー、あれ?これは、どういう状況?」

「カミやんが寝て、僕が寝て、インデックスちゃんが寝たんかな?
まぁ、いいやろ。従兄妹同士なんやし」

からかうように笑いながらそう言った。
カミやんは困ったように、インデックスちゃんは照れたような顔をして黙り込んでしまう。

「……そういや、土御門くんは隣に住んでるんやったよね?」

「あ、あぁ……だけど、あいつ最近ずっといないぜ?」

「あ、そうなんか……今日は土御門くんのところに泊めて貰おうと思ったんになぁ……」

布団をたたみながら、ぼやく。

「家にいろ……もう俺からはなんも言わん。
あ、見捨てるって意味じゃないぞ?
お前が正しいと思う道を進め、それを……助けてやる」

カミやんは、先ほどまでとは人が変わったような鋭い目つきをしていた。
596 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/21(金) 22:35:13.44 ID:IQbN7v3Co

「……ありがとな」

インデックスちゃんも、頷いていた。
僕はこの友人を改めて誇りにおもうと同時に、妙な共通項も見つけた。
それが、今の僕にとっては大きかった。

――カミやんも……僕と同じや。
何かはわからんが、自分は世界にいない方がいいと思ってる。

そこで気がついた。

――あぁ、だから僕はカミやんを頼ったんやな。
分かってくれるはずだから……。

それは、酷く歪んだ感情だ。
カミやんまでも僕は何かに縛り付けてしまっている。
無理に僕がすがる事を認めさせた、そんな一方的な友情を利用した僕のわがまま。

だけど、そうしないと僕は壊れてしまう。
壊れるならば、佐天のそばか、カミやんのそばがいい。

二人には手間をかけるが、他人を巻き込まなくていいから……。

「メシ、外に食い行こか。
僕が奢るで……奨学金も貯めてるし、いらんっちゅーのにおっちゃんがくれてるバイト代も貯めてある。
インデックスちゃんがいくら食っても一回くらいならなんとかなるわ」

僕は笑いながらそう言って、まだ寝間着のままの二人を急かした。



数時間後、僕は頭だけでなく顔も真っ青になったのは言うまでもない。
597 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/21(金) 22:35:41.88 ID:IQbN7v3Co

〜〜〜

「な、なんか悪いな……」

カミやんが本当に申し訳なさそうな顔で僕の顔を覗き込む。
インデックスちゃんはニコニコとしながら一体その小さな身体のどこに収まるのかという量の料理を食べている。

「え、ええよええよ……僕が言い出した事やしな……あれ?」

カミやんにひらひらと手をふりながらそう答えると、テーブルの上から顔をそらした。
斜め向かいのテーブルが自然と目に入り、そこについている客にさらに見入った。

「真っ白と真っ黒……やなぁ」

最初に浮かんだ感想はそんなものだった。
そのテーブルには頭の先から全身真っ白な後ろ姿では男か女かわからない華奢なやつがいた。

――あれ?

そして、その真っ白の向かいには、佐天と仲の良いカミやんに惚れている――本人は隠しているつもりらしいが、一回カミやんと一緒にいる時に遭遇したのをみただけですぐにわかった――常盤台の御坂ちゃんそっくりな幼い子が座っていたのだ。

――涙子ちゃ……佐天から話は聞いてる。
てか、そうや……あれ、第一位やん!
……なんやぁ?
ややこしい事になって来たなぁ……。

真っ白な男と、ミニ御坂ちゃん、その二人の周りは絶望で満たされている。
598 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/21(金) 22:36:07.60 ID:IQbN7v3Co

――どこをどう進んでも絶望にぶち当たる……。
難儀なやつやなぁ、第一位も……。

だが、ミニ御坂ちゃんに第一位がついている限り、二人は大丈夫である。
何故ならば、二人の真ん中は黒く染まっていないのだ。

「……ふぅ、食べた食べた!
あおぴ!ごちそうさまなんだよ!!」

ぼんやりと二人を観察していると、そう声をかけられ慌てて視線を二人に戻した。

「おう、しかしよう食ったなぁ……。
たくさん食べる女の子は好きやで!」

インデックスちゃんは相変わらずニコニコと、カミやんは本気で土下座でもしそうな勢いの表情をしていた。

――あ、れ?

支払いを終え、出口に向かったところで異変に気がつく。

――店内が……暗い。なんやなんやなんや……なんなんやこの感じは……?

それは、もちろん電気が落ちた、など誰もが察知できる暗さではない。
この異変を知る事が出来るのは、全てにおいて規格外のブギーポップこの街ではもう僕とあと一人だけ。

そう、それは……店内中が絶望で満たされた暗さだった。

――なんでや……?いや、まて……さっき出てったのって……第一位か……?
599 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/21(金) 22:36:33.73 ID:IQbN7v3Co

慌てて、窓の外に目的の人物の姿を探す。

――いた……なに電話なんかしてんねん!殺すぞボケェ……。

「カミや……いや、やっぱなんでもない。
僕ちょっと寒くなった財布あっために行くから先に二人は帰っててくれやん?」

「……あぁ、いいぜ?
俺は財布をあたためるのを……手伝わなくて良いんだな?」

時々、こいつは二重人格なんじゃないかと思う。
普段はイラつくほど鈍感でバカだが、こうした非常事態には、僕が期待した通りの解釈をしてくれる。

「あぁ、カミやんはアイスでも買って帰っててや。僕パピコな」

「オーケィ、んじゃ夜までには帰って来いよ?
うちの夕飯は七時半と決まっている。
一分でも遅れたら探しにいくからな?」

「了解や……あ、右手出して」

「ん?おう、こうか?」

差し出されたその右手に、僕はハイタッチをした。
ぱぁんといい音が鳴って、僕が溜め込んでしまった絶望もあらかた消えた。

――さて、まずはこの店の絶望を……。
600 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/21(金) 22:37:02.81 ID:IQbN7v3Co

集めよう、などと思わなくても勝手に僕の元に集まってくる。
それを僕はひとつにまとめ、自身にストックした。

――よし、あとはミニ御坂ちゃんを第一位に押し付けたらしまいや。

カミやんが出て行ったのを確認すると、足早にミニ御坂ちゃんの元へと進んだ。

「起きてや」

肩を揺する。
反応はない。

「って、これめっちゃ熱!
なんや?なんなんや?お前身体悪いんか?大丈夫か?普通の病院いってもええんか?」

「う……うう……あ」

答えは言葉にならず、ただ呻くだけであった。

「チッ……いや、落ち着け、落ち着け……」

自覚する事により、自分のキャパシティを越えなければ、真っ黒なガラス玉を体にとどめておけるようになっている。
しかし、僕はもともとが絶望を生み出す者だ。
少しの感情の変化であり得ない物が生まれてしまうこともある。

だから、僕は常に落ち着いて冷静でいなければならないのだ。

「よし、大丈夫、大丈夫……」

そして、きっとこれは佐天にも出来ない。
601 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/21(金) 22:37:29.14 ID:IQbN7v3Co

僕は水の入ったグラスを掴みとり、また置く。

数秒後、ヒビのはいる音が小さく響き、グラスは割れてしまった。

――佐天に別れを告げて、僕の力は進化したみたいや。
物にも絶望を分け与える事が出来るようになった……。

物の絶望、即ちそれはその物としての用途を成さなくなる事である。
グラスならば何かを飲む時に使えない。
机ならば、その上で作業ができなくなる。
テレビならば映らなくなる。

つまり、ものを壊せるという事だ。

――よし、店員さんには悪いが……いまはこの子が優先や。

支払いは既に第一位が済ませたようだ。
僕はミニ御坂ちゃんを抱きかかえ、店を出た。
602 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/21(金) 22:38:04.41 ID:IQbN7v3Co

〜〜〜

青髪さんたちがファミレスで朝食を摂り終わったあと御坂さんのクローン――妹達――の一人が危機的状況にあるとは全く知りもせず、私たちはそこにいたらしい。

「さて、落ち着いた?」

御坂さんはそういうと、パッと伝票を取り立ち上がった。

「あ、私奢りますよ。
ずいぶんお世話になってしまったし」

大泣きしてしまい、周りの目も私たちをみていた事に気づいていた私は若干気まずく、御坂さんの顔を見上げる。

「いいわよ、お礼なら佐天さんがしっかり笑えるようになってくれたらそれでいい。
最近、佐天さん凄いいい顔してたもん、それをまたみたいな」

そして、私が何かをいう前にさっさとレジへ行ってしまった。

ありがとうございます、と失礼だが目を逸らしながらいいながら店を出ると、最悪の人物に絡まれた。

「あ?第三位とサテンルイコじゃねェか……チッ」

「なっ……あん、たは……ッ!」

その人、一方通行は携帯電話をポケットにしまいながら、一瞬焦ったような、苛立ったような顔をした。

「……ここでやり合おうってならブチ殺してやるが、どォする?」

御坂さんは、バチバチと帯電しながら、一方通行を思い切り睨みつけた。
603 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/21(金) 22:38:33.90 ID:IQbN7v3Co

「待ってください……一方通行、あんた何か変わった?」

今にも超電磁砲をぶっ放しそうな御坂さんを制し、一方通行にそう、質問する。

「あ?俺みたいな極悪人が更生するわけねェだろ」

「私『更生した?』とは聞いてないんだけど?
つまり、あんたは今更生しようとしてるわけね」

「……まて、お前ら今こっから出て来たよな?」

私の言葉には答えず、何かを思い出したかのように店の中を外から見回した。

「クソ……。
今日は見逃してやる、じゃあな」

そして、そう吐き捨てると、さっさと何処かへ歩いて行ってしまった。

その背中が見えなくなるまでぼんやり眺めたところで、ふと御坂さんの様子が気になった。

「……御坂さん、よく爆発しませんでしたね」

「……あいつがやった事は許せないし許すつもりもない。
ただ、あいつが悔いて更生しようとしてるなら……それだけは認めるべきだと思ったのよ。
更生したからって許せるわけじゃないし、許す必要も無いけど……私は一生あいつの十字架として、終わらない罪を償わせるチャンスは認めなきゃ前に進めない」

そういう御坂さんの唇はふるふると震え、少し赤いものが混じっていたように見えた。

「……青髪さんに電話したら?」

そして、下唇を隠すように私から顔を背け、ぶっきらぼうにそういった。
604 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/21(金) 22:39:53.91 ID:IQbN7v3Co
ここまで

絶望の使い方ルートに入っちゃった

正直この話は書かなきゃ良かったと思います
でも書き始めちゃったから終わらせはする

ではまたよろしく
605 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/22(土) 02:58:02.63 ID:AIHPi8hDO
おつ
前書いてた構想とくっついたのかー
ゆっくり頑張ってください
606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/09/30(日) 20:20:48.66 ID:KjId2hsbo
はい
607 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/30(日) 20:22:35.59 ID:oeuSNC0No
〜〜〜

「第一位はどこいったんよ」

イライラとしながら、僕は走っていた。
少しでも気を緩めると、僕の目に映る道は変わってしまう。

――僕が目指すんはこの子の希望や……この子の絶望を避けて行けばいい。

この小さな御坂美琴ちゃんから溢れ続ける絶望が、向かわない場所を選び走る。

――ひとつ、わかったことがある。

走りながら何度も目にとまった黄色いレクサス、あれに乗った男がこの子の絶望の根元だ。

「この街はロリコン研究員が幅きかせてんねんな……ったく、悲しなるで」

息を切らせながら、そんな冗談でも言っていないとこの子よりも先に自分が爆発してしまいそうだった。

必死に理性を働かせ、自分の感情を抑え込む。

「……ハァハァ……みつ、けた……」

何処かに電話をかけながら、のんきに歩いている真っ白で華奢な男。
こいつこそが学園都市に君臨する第一位一方通行である。

「おい!」

「……チッ、なァンなンですかァ……お前は?」

振り向き、僕が腕に抱えている少女をみると一方通行は険しい顔つきになり、僕を睨みそういった。

「そんな話は後でええねん!
この子、君のやろ……ちゃんと面倒みなあかん」

そして、僕がそう言うと、一方通行は険しく鋭く冷たい表情を壊され思わず写真に収めたくなるほどの間抜けヅラに変わった。

「あン?」

「いや、だから……この子には君が必要なんや、黄色いレクサスに気ィつけてなんとか助けたってや」
608 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/30(日) 20:23:12.32 ID:oeuSNC0No


「お、おお……いや、まて……まてまてまて……お前はマジでなンなンだ?
実験の関係者か?」

「まぁ、そうと言われればそうや。
御坂美琴ちゃんの友人の、元恋人や」

美琴ちゃんの名前が出た途端、一方通行は苦しそうな顔をし、舌打ちを打つと、

「御坂美琴にはなンも言うなよ」

そう顔を背けながら言った。


「あぁ、ええで……んで、その子はなんなん?」

「……妹達の総司令って所だ。
今こいつの頭には妹達への命令がぶち込まれてる。
そいつをどうにかしねェと……」

「どうにかせんと?」

「一万人の妹達が世界中で暴れまわる」

そう言った一方通行の瞳は、どこかカミやんを思い出させるような、そんな色をしていた。

「世界、中?」

「妹達は既に世界中の研究施設にばらまかれてンだよ……俺ァ、あいつらに『最強を超えた無敵』になった俺を見せなきゃなンねェからな……なンとしても……止めてみせる」

言い終わったあと、我に返ったのか、舌打ちをすると忌々しそうに僕を睨んだ。

「……礼はいわねェぞ。じゃあな」

そして、ミニ美琴ちゃんを抱え、一歩踏み出した。
その瞬間、一方通行から途轍もない大きさの絶望が溢れた。

――あ、かん……もう、変わってしもうたんや……。

変わらないものなど存在しない。
人も、物も、心も、この世界に存在し在る限り変わらないものはない。

――第一位……お前は……死ぬかもしれやん。

この街で、いやこの世で最も死から遠い存在である第一位一方通行。

そいつがいま、最も死から近い位置に立っている。

「はは、羨ましいなぁ……」

乾いた風に僕の声は妙に通り、不思議な音となって消えた。
609 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/30(日) 20:24:20.03 ID:oeuSNC0No

〜〜〜

「……出ない、か」

携帯電話を閉じながら、ため息をひとつつく。

「出なかったの?」

御坂さんの言葉に無言で頷く。

「そっか……きっと寝てるかなんか忙しいのよ」

「そう、でしょうか?
私からだから出ないって考えた方が自然じゃありませんか?」

「それはないと思うわよ。
青髪さんは佐天さんを嫌いになったわけじゃない。
ただの友人に戻ろうとしているだけだもの」

「……」

御坂さんの励ましに、素直に頷くことはできなかった。

「というかさ、一方通行のやつは何だったんだろ?
ファミレスで誰か探してたみたいに見えたけど……」

わざわざしたくもない一方通行の話を持ち出したのはきっと私を気遣ってのことだ。
少しでも気が紛れるように、と考えてくれたんだろう。

「……わかりませんね。
妹さんに何か聞いてみたらどうですか?
実験後妹さん達は一方通行が自分達を殺してきた事に意味を見出すためにプレッシャーかけ続けてるんでしょう?」

妹さんは、一方通行が私達に敗れ実験が中止になった時、無敵を諦めるような事があったら許さない、と終わる事のない贖罪を課したと聞いている。

「んー、そうね……聞いてみるわ」

御坂さんはそれが、妹さんと一方通行が仲良くしているように見えるらしく、あまり良く思っていないようだ。
普段は仲の良い姉妹だが、一方通行の事を妹さんに聞くのは嫌らしく、渋々と携帯電話を取り出した。

「あ、私よ私、あんたのお姉さまよ」

『お姉さま詐欺は間に合っています。とミサカは今それどころじゃねェンだよ、と一方通行の真似をしながら電話を切ります』
610 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/30(日) 20:24:49.88 ID:oeuSNC0No


「……」

笑顔のまま眉をピクピクとさせ、携帯電話を持つ手に力が入っているのが分かった。
笑顔のままなので、よりこわい。

「……こ、個性ってやつじゃないですか?」

私がそうフォローするのと同時に御坂さんの携帯電話が着信を告げた。

『あ、お姉さまですか?
今お姉さまを語るお姉さま詐欺に引っかかりそうになりました。同居人の白井黒子に気をつけるよう言っておいてください。
あと、次ミサカから電話かけるまで電話はかけてこないでください。とミサカは忙しい事をお姉さまに伝えます。では!』

「え、ちょっと……!」

「どうしたんですか?」

「わかんない、けど……あの子達何かに巻き込まれてるのは確かだわ。
佐天さん……ごめん、今日はもう――」

「帰れ、だなんていわないでくださいよ?
勿論手伝いますよ?
だって、御坂さんは友達だし、妹さんも友達です。
それに、一人より二人の方がいいでしょう?」

「……ありがとう」

厄介な事に巻き込まれた、とは思わなかった。

“僕は自動的なんだよ”

ふいに、そんな言葉を思い出した。
そして、そいつの象徴である口笛。

――ブギーポップ、あんたが現れないって事は私も青髪さんもまだ決定的に変わってないって事よね?
だったら、私は私が思った事をやる。
今は、考えてもしょうがないことを考えず、妹さんに何があったかを知ることに気持ちを向けるよ。
611 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/30(日) 20:25:26.88 ID:oeuSNC0No

〜〜〜

「オイ、打ち止めを手に入れたぞ。
このあとはどォすりゃいい?」

『……ありがとう。
心配する方が失礼かもしれないけれど天井亜雄には絶対に奪われないでね。
もう少しで打ち止めにインストールされたプログラムを壊すソフトが出来るわ。
ただ、私を信じろとは言わない、どうするかはあなたの自由よ』

「……もしお前が俺の意にそぐわねェ事したら……死体が一個増えるだけだ」

『ありがとう……』
612 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/30(日) 20:26:50.63 ID:1WT2oW9IO

〜〜〜

「見えた」

例えば私がお腹減ったなぁとか考えたら、一番私が今食べたいと思ったものを食べれる場所へ、黄金のガラス玉は導いてくれる。

だから、誰かを探す時、私はその人の事だけを考えなくてはならない。

そして、徐々に目に映る希望が集まり道が出来る。

「妹さんに辿り着く道は……三本あります」

御坂さんは、携帯電話で出来る範囲のレベルだが、絶対能力者進化実験のその後について調べていた手を止めた。

「辿り着く先は?」

「妹さんのところ、としか言えません。
ただ……」

「ただ?」

「おそらく、三つとも違うところに辿り着きます。
私いま多分『妹さんの所へ行きたい』って思いながら無意識で『妹さんを助けたい』ってのも考えちゃってたんだと思います。
だから、三つのうち一つは文字通り妹さんの所へ行く道。
もう一つは、妹さんを救える道」

「……あと一つは?」

「勿論、御坂さんを救える道、ですよ」

つまり、どの道へ行っても最終的に辿り着く結果はひとつだ。

御坂美琴とその妹さん達全員を救える。

「過程はどうあれ、私は……ハッピーエンドしか認めない」

幸せになれない、希望のない世界なんて、私がいる限り……絶対に認めない。

それが、私が世界の敵じゃない証だから……。
613 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/30(日) 20:27:20.70 ID:1WT2oW9IO

〜〜〜

「ンでェ?カスの天井くンはァ……第三位とクソ女仲間に率いれてェ?
のこのこ俺の前に立ったはいいけど、なァにが出来るんだァ?あ?」

それは、きっと最も最悪な道を選んでしまったということだろう。

私達の選んだ道は、一番輝いていたものだ。
それが、こんな困難を生み出した。

「……本当に、この男を信じてもいいのよね?」

御坂さんは、奥歯が割れんばかりの勢いで思い切り歯を食いしばっている。

一人は、自身のクローンを一万人虐殺した男。
もう一人は、その実験を担当していた男。

御坂さんにとっては、両方殺したいほど憎んでいるはずだ。

「わかりませんよ、そんなの……正直、私の能力完成しすぎちゃって精密さが半端ないんですよ。
妹さんを助けたいって、強く思ってても一方通行の目的は?天井とかいう人の目的は?って無意識に考えちゃうから……定まらない」

そして、何よりも私の心を揺さぶったのは……。

「はぁ……なぁんで佐天ちゃんがここにおるん?」

私に、恋を教えてくれたその人。

「まぁ、とにかく……帰りぃや、ここは僕と一方通行に任せろや……なに、悪いようにはせんって。
むしろ、中途半端な第三位と能力だけに頼って自分の判断力鈍らせた佐天ちゃんじゃ、邪魔にしかならへん……打ち止めちゃんは僕らが守る」

今、その人の絶望が明確な敵意を持って私に放たれた。

「一方通行が御坂ちゃんに負けるわけはない……けど、君には勝てやん。
だから、僕が君の相手や」

「な、にを……言ってんですか?
どういう、事ですか?
なんで、青髪さんが……一方通行といるんですか?」

「目的が同じやったから、に決まってるやろ」
614 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/30(日) 20:29:29.80 ID:1WT2oW9IO

〜〜〜

話は少し遡る。

私達は、一番輝きを持った道を一心不乱に走っていた。
角を三つ曲がり、路地裏へと入る。
そこ中でまた角を二つほど曲がると、大きな道がその先に見えた。

そして、そこを出ようとした瞬間、いきなりその前へ黄色いレクサスが突っ込んできて道を塞いだ。

「うわ……!」

急ストップし、背中に御坂さんがぶつかる感触を味わう。

「な、なに!」

「いや、車……てか、一方通行ぁ?」

「はぁ?」

車から降りてきたのは白衣をきた男。
そして、その車の上には小さな女の子を抱えたまっしろな男が立っていた。
そして、その男は思い切り車の屋根をひしゃげると、ボンネットを踏みつけ地面へ降りた。

「み、さか……美琴?」

白衣の男は、御坂さんをみると、そうつぶやき、続けた。

「み、御坂さん!
私はあの実験の関係者だ、あの時の私はどうかしていた……それを少しでも償おうと、やり直そうと思って、一方通行から妹達へ命令を下せる特別な個体……打ち止めをやつから取り返したいんだ!」

「実験の……関係者?」

御坂さんは男をそれだけで殺せそうなほどさっきを込めて睨む。

「よォくもまァ嘘をペラペラと……」

一方通行は研究員の話を聞いて呆れたように笑っていた。

「まぁ、しかし……僕らとしては大ピンチなんちゃう?
君、御坂ちゃんからは当たり前やけど信用されてはないやろ?
あ、勿論、僕も君のやってきた事は許すつもりはないで?」

当たり前のように、その青髪の大男は一方通行の横に立っていた。

「頼む!あいつから打ち止めを奪い返さないと、また実験がはじまるんだ!」

研究員は、声を張り上げた。

「……わかったわでも、あの子はあんたにも渡さない……私が信頼できる人の所へ連れて行って、助けてもらう」

こうして、一方通行と青髪さんVS御坂さんと私という構図が成り立ったのである。
615 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/09/30(日) 20:30:13.40 ID:1WT2oW9IO
ここまで

迷走ってレベルじゃねーな

すみません

また読んでください
616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/01(月) 21:34:21.19 ID:dJ/J7WWi0
青春なんて迷走あってさね、ブギー作品のキャラだってふらふらしてるの多いし
主人公達が迷走真っ最中なら能力的にもこうなるのは当然でしょうし、むしろそれで正しいと思います

迷走の果ての希望に期待しています
617 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/02(火) 00:15:09.07 ID:wLtfACIno
>>616
本当に励みになる。
ありがとう。

グダグダだが、最後まで楽しんでください!
618 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/02(火) 01:10:27.14 ID:wLtfACIno
即興息抜き上泡雑談

上泡雑談『ヒーロー』

〜〜〜

「君はヒーローって呼ばれてるらしいじゃないか、ちなみに僕は死神だぜ?
僕の方が先輩なのに君たちの方が売れているしどういう事だい?
アニメ順調で良かったね?
え?御坂美琴が主人公の外伝?劇場版?
はっ、どうせこけるさ!」

「あ、あのー……ブギーポップさん?
色々と敵を作る発言はやめませんか?」

「おやおや、流石はヒーロー様だ。
いい子ぶっちゃって……僕はそういう綺麗な意見大嫌いだぜ?
という事で、今回はヒーローについてだ」

「どういうわけだよ!
意味わからねぇぞ……。
まぁ、いいや……ヒーローとか言われてもおれはそんな自覚もないぜ?」

「ヒーローになりたいと思った事はないのかい?」

「そりゃあ、あるさ。
本当俺がヒーローなんてものになれたら、俺はもっとたくさんの人を助けられる。
もっと、人の不幸をうち砕ける。
そうして、沢山の人を笑顔にできたら、俺の不幸を意味を見出せる」

「意味を見出す。
それは本当に必要な事なのかな?
僕はただ、世界の敵が現れたら自動的に出て来て殺すだけの存在だ。
意味などない、あるとしたら殺すだけの存在、それだけだ。そんなものに意味があるかって言われたら、ないと答えるしかない。
意味なんてものは物事が起きたあとに人間が勝手に納得する為の後付でしかないとは思わないかい?」

「……確かに、そういう面もあるかもしれねーけど、お前は世界を危機から救うって意味があるし、俺は自分のできる事をして、その人が笑顔になってくれたらそれはとても素敵な意味のある事だと思うぞ」

「だが、それもただの後付だ。
そういう運命だったというだけで、意味はないかもしれない。
ただの規定事項、決定事項、神様の設計図の中で踊っているだけだ」

「それでも、俺は神様なんてみた事ねーし、そんないるかいないかもわからん存在に踊らされてるって考えるよりは、自分のこの手で未来を切り開いたって思ったほうが意味があると思う」

「なるほどね、でもそれは結局はただの自己満足ってやつだろ?」

「自己満足でもいいだろ。
少なくとも、見た事も存在を感じた事もない神様に操られてるって思うよりは前向きだ」

「前向き、ね。
それはただ認めたくないだけじゃあないのかい?
自分よりも圧倒的な力を持った、自分が苦労して救った命をいとも簡単に、それこそ息をするように助けられる存在をみとめたくない、自分だから助ける事ができた。
そう思いたいだけにも聞こえるよ」

「息をするように救えるやつが救わないからこの世に悲しみがあるんだ。
つまり、この世に悲しみがある限り神なんてものはいないと同じだろ?
人を救ってくれない神様なんて失格だ」

「それもまた、自分の存在を誰かに見てもらいたいだけの醜い欲求だ。
……でも、君はそれでいいんだと思うぜ。
この考え方の差異が英雄―ヒーロー―と死神の違いという訳だね……」
619 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/02(火) 23:34:58.99 ID:wLtfACIno

〜〜〜

「……打ち止めちゃんを助けたいんならその天井亜雄とかいう奴を信用したらあかんで」

青髪さんはいつものように、まるであの高校の制服は可愛くないからやめた方がいい、というようなそんな口調で話す。

「まぁ、君らが直接戦った一方通行側につくなんて思ってないから無駄な説得なんやろうけど……忠告はしたで?
佐天涙子……君は、天狗になりすぎや、僕も君も何も変わっちゃいない……世界にとってはいない方がいい存在なんや。
君は、僕らは二人揃ってる事でかろうじてマシなレベルを保ってるって事を忘れとる」

その言葉に何かを返そうとするが、何も考える余裕はなく、反射的に体が動いた。

穴の空いた地面が目に入り、銃撃されたと知る。
銃撃者は誰だ、と振り返り私は驚愕する。

「……妹さん?」

「……逃げ、てください……と、ミサカは……涙子に……」

言葉を言い切る前に、また構えた銃からは弾丸が撃たれる。

人間の最も基本的な希望『生きていたい』それが、私を生かす。

「ミサカは、涙子を……撃ちたく、ありません……どうか……逃げて」

必死に銃を、私から背けようとするが、見えない力で押されるように銃口は私の方を向く。

「さ、佐天さん!逃げるわよ!
あの子達を攻撃なんか出来ないし、あの子達に人を殺して欲しくない」

御坂さんは、突然の事に驚き、ただ死なないための行動しかとれなくなっていた私の腕を掴み来た道を戻るルートを走り出した。

そのあとに、天井亜雄がちゃっかりついてくるのと、青髪さんと一方通行を守るように二人の前に立ち尽くし銃を向ける妹さんの姿が目に焼き付いた。
620 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/02(火) 23:38:00.18 ID:wLtfACIno

〜〜〜

三人が去り、その背中が見えなくなると妹ちゃんが糸のきれた人形のように倒れた。
それを、一方通行は支え、近くの公園まで担いで行く。

「……チッ芳川の所へ連れて行きてェが……」

「あの二人なら必ず辿りついて来て邪魔するやろなぁ。
難しい事はよぉわからへんけど、要するに記憶の書き換えというか復元するようなもんやろ?
それの最中に御坂ちゃんがビリビリドッカーンってやったらどうなるん?」

「復元失敗、スマートフォンを復元するのとはワケが違うからな……打ち止めだけが廃人になるか、最悪妹達全員巻き込んで一万人の植物畑の出来上がり……だな」

なんともゾッとしない話だと思った。
しかし、これは僕にとっては千載一遇のチャンスでもある。
涙子ちゃんが僕に見切りをつけ、自然と離れるようになるきっかけとなるかもしれない。

「おい」

黙りこんで、考え込んでいると一方通行がぶっきらぼうに声をかけて来た。

「ん?なんや?」

「……いいのか?お前の元恋人ってのは、佐天のことなンだろ?」

そして、少し不安そうな、迷ったような声色でそう尋ねてくる。

「なんや、それ?僕が元恋人とは戦えん、とでも思っとるんか?
それで、打ち止めちゃんとお前を見捨てるとでも?」

「正直、お前は関係ない。
無理に……面白半分に付き合うつもりなら邪魔なだけだから消えろって事だ」

「……君は、本当は弱い奴なんやなぁ。
なんで、妹ちゃんたち殺すような実験に参加したんや?」

「……もう、黙れ」

一方通行は質問には答えてくれず、ふいと横を向き、打ち止めちゃんと妹ちゃんの頭を撫でた。
621 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/02(火) 23:39:09.77 ID:wLtfACIno

「お前らには……生き残って貰わなきゃなンねェンだ……だから、絶対ェ助ける」

それは、僕が知るはずもない妹達と一方通行の約束。

『無敵を諦めない。無敵となって、死んでいった妹達の死を無駄なものから少しでも遠ざけ意味付けをする』

そんな、一方的な、自己満足とも言える約束。

しかしそれは、同時に、決して達成できぬ十字架でもある。

「ま、能力が強いんは佐天の方やけど、使い方が上手いんは今のところ僕の方やな。
だから、例え正面衝突しても勝機はあるで?
あ、その前にひとつだけお願いあるわ、構へんか?」

「……なンだ?」

「僕らが勝っても、今回の騒動は僕らが悪者だったって事にしといてくれへんかな?
重い十字架背負ったついでに、要らんもんもひとつだけ背負ってや」

「……俺ァいいが、お前はそれでいいのか?」

「……ええんや、それが僕の望みやから」

そう、例え円満に解決したとしても、天井が悪だったと涙子ちゃんに知られたら意味がないのだ。

――飛鳥井さん、全てを……壊してみますよ。本当に、全てを……。
622 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/02(火) 23:40:07.66 ID:wLtfACIno

〜〜〜

「な、んで……妹さんが……」

走り、走り、走り、私たちは人通りの多い賑やかな通りに出た。
そして、私の疑問には、天井という男が答えた。

それが真実なのか、偽りなのかは私にはわからない。
ただ、この男にとって、私たちといる事は希望なのだ、という事は理解できた。

「それは……きっと、一方通行が最終信号を使い、無理矢理無敵を目指そうとしているのだと思う」

「無理矢理って……まさか、またあの非道な実験を再開させようというの?」

御坂さんは、信じられないというようにわなわなと震えながら言った。

「そんなの……許さない、絶対許せない。
もう、私の血をわけた家族を……妹を、殺させやしないっ……!」

御坂さんが、判断力を失うのは仕方のない事だ。
しかし、私まで友達でその中でも一生ものの最高の友人で、最愛の親友が、気持ちだけいきすぎて、正常な判断力を失ってる時、親友で御坂さんを大好きな私が、一緒に考える事を放棄し、決めつけてしまってはいけなかったのだ。
それは、青髪さんのいうとおり、能力に頼り切った最低の判断だった。
623 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/02(火) 23:40:39.50 ID:wLtfACIno

これが、本当に心の底から御坂さんを慕っている白井さんならば、御坂さんの為を思い、御坂さんにその判断は早計だと言えたのだと想う。

しかし、私は能力にある意味溺れ、傲慢になっていた。

誰かの絶望が、誰かの希望であるという事を完全に忘れていたのだ。

「……当たり前です。
もう、一方通行にも十字架を背負って欲しくないし、妹さんにも辛い思いをして欲しくない……この実験は、私がピート・ビート、そしてフォルテッシモと止めたはずの実験です。
それが不完全だったと言うならば……私は責任を持って、このくだらない殺戮を止めます」

のちに、とある人の言葉によって私は気づけた。
その人と巡り合わせてくれた炎の魔女こと、霧間凪には感謝してもしたりないくらいだ。

「……よし、私の勝ちが見えて来たぞ」

その、天井の言葉に、私は気づけなかった。

大切なものを、何ひとつみようとしていなかったのだ。

希望が見える、たかがそんな事で、私は世界を知ったつもりになっていたんだろう。

信じるべき人、戦いの中で感じた確固たる意志と希望を持った人。
その人たちを、私は信じなければならなかったのだ。
624 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/02(火) 23:41:30.95 ID:wLtfACIno

〜〜〜

「芳川さんのとこにいかんで救う方法はないんか?」

「……あァ、ねェな。…………いや、最悪元の人格データがありゃ俺の能力でなンとかなる。
脳内なンて所詮は電気信号の動作だ。
動いていて、ベクトルのあるものならば俺は操作できる。
決してほんの小さな計算ミスすら許されない過酷な状況だろうがな……」

一方通行は、無敵を見届ける妹達という存在が失われるならば、そのまま死のうとしているのだと気づいた。

「……大丈夫や、僕が君の盾になって、君を守ったる。
君は、失ってはいけない希望なんや……。
それに、これは僕の本当に……愛した唯一の女の子の為にもなる。
だから、気にせんでええよ」

「……俺は、一万人の命を無駄にしないよう、生きなきゃなンねェ……。
それが……俺が、俺こそが……俺が無敵になる事が、奴らの生きた意味で、存在の証だ。
だから……頼むぜ、青髪」

レベルファイブの頂点が、学園都市の最下層に“頼む”と頭を下げる。
それは、プライドもそうだし、何より威厳を失墜させる行為だ。

それを、一方通行はゴミのように殺した一万人の為に、本当にそのプライドとかそういうもんをゴミのように扱った。

その、なりふり構わずさが、一方通行の頂点という立場を、確固たるものにしているのだ、と僕は気づいた。
625 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/02(火) 23:42:43.78 ID:wLtfACIno

〜〜〜

「へぇ……藤花がすごいすごいって言ってたから楽しみではあったけれど……まさかここまでとはね」

普通に夏休みを楽しむ普通の学生達であふれる第七学区に、その人はいた。

眼鏡をかけた利発そうな高校生だ。

「……えぇっと……ここを少しいって曲がったところの高校ね」

学園都市に入った時に渡された携帯端末で目的地までの道を確認すると、その少女――友人からは博士と呼ばれ、あの霧間凪をして“最も頭の良い人”と評価された――は再び足を動かしはじめた。

「でも……なんか変な感覚ね。
息苦しいってわけじゃないけど……快適とは程遠いわ」

街中を走り回るお掃除ロボットを横目に、小さくつぶやいた。
626 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/02(火) 23:43:55.65 ID:wLtfACIno

〜〜〜

「んで?どうすればいいのよ」

再び、ひと気のない場所までやってくると御坂さんは、天井を睨みつけた。
天井はそれに少々怯んだが、一度大きく息を吐き出すと、説明をはじめた。

「あの、小さな個体は全妹達の総司令のようなものだ」

「総司令?」

聞き返す御坂さんに、天井は頷き、話を続ける。
天井が妹さんたちの事を“個体”と呼ぶ事に酷く不快感が私にはあった。
当然、それは御坂さんも私以上に感じていたであろう。
その証拠に、聞き返した御坂さんの声は「力ずくでもお前から情報を搾り取る事は出来るんだぞ」という敵意と不快感、そして天井への警告が表れている。

「あぁ、あの個体はミサカネットワークを通じ、全妹達に命令を送る事が出来る。
その命令は絶対に拒否できないもので、先ほどの個体のように友人である君らにも嫌々銃を向けてしまうという事になるんだ」

天井は、そんな事に気づかずにベラベラと話す。

「……で?一方通行はそれで何をするつもりなの?」

またひとつ、御坂さんの声は低くなった。

「妹達による無差別攻撃……実験凍結を解除しないと、この街をぶち壊すぞってことだろう」
627 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/02(火) 23:44:25.15 ID:wLtfACIno

何か、違和感があった。
例えば、同じような脅しを御坂さんがやるならばまだわかる。
御坂さんが一人で暴れたところで、序列が御坂さんよりも上の一方通行と第二位が出てきてしまったらどうにもならなくなる。
しかし、一方通行はこの街の第一位だ。
ブギーポップが去ったこの街での最強は彼で間違いないのだ。

――フォルテッシモももういないしね……。

「それを、一方通行がやる意味は?
そんなまどろっこしい事しなくても、あいつなら自分の力だけでこの街くらい壊せるでしょう?」

私が気づいた事に御坂さんが気づかない訳がない。

「……それ、は」

「それは?」

無感情に、冷たく御坂さんは問い詰める。

「……人間のクローニングは倫理的にタブーとされているだろ?
理由は、クローンには何かしらのエラーが必ず有り、寿命も短い。
その、世界のタブーを学園都市は破ったんだ。
今回、妹達が暴れたら人間のクローニングを行ったという事が世界に知れてしまう。
そうなったら、学園都市は立て直せないレベルまで破壊されてしまう、それが目的なんだろう」

天井は、何故か悔しそうにそう言った。
その態度が、私には理解できなかった。
628 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/02(火) 23:44:50.91 ID:wLtfACIno

――この人は……何を言ってんだ?

御坂さんを騙し、クローンを作ったのは誰だ?
そのクローンを、ゴミみたいに殺し続けたのは誰だ?
挙げ句の果てに、ここまできてこいつは……。

「なるほどね、わかったわ。ありがとう……。
でも、お前は――」

思わず唖然としてしまうほどの天井の心のなさが、彼を死に追い詰めたのと同時に死から救った。

その唖然とした時間で、私は御坂さんの事を考え、御坂さんと妹さんたちの幸せを願わずにはいられなかったからだ。

だから、御坂さんにとっての絶望が、一気に濃くなったのを感じとり天井を自分のほうへ引っ張る余裕があった。

「――死ねぇええええ!」

その叫びと共に文字通り、発射点と対象の距離がゼロの位置で、超電磁砲が射出された。

天井の寄りかかっていた壁は吹き飛び、破片が私にも御坂さんにもコツコツと降り注ぐ。

幸いにも天井の寄りかかっていた建物は廃ビルで、中に人はいなかった。
629 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/02(火) 23:45:18.06 ID:wLtfACIno

「はぁっ……はぁ……はぁっ……なんで、そんなやつを助けるの?」

御坂さんは、私を睨む。

「こいつを殺して何になるんですか?
スッキリしますか?
ならば、もう止めません。
でも、私は御坂さんに人を殺して欲しくない。
こいつを殺すくらいなら、この狂った人間を許している学園都市自体を正論で潰してくださいよ。
ただ、殺してスッキリするっていうなら私は二度目は止めません。
私は今、御坂さんに復讐をやめた時の道をひとつ提案しました。
これが納得出来ないならば、これ以上のことはただ御坂さんの道を奪うだけなので何も言えません」

パチリパチリと電気が怒りを表すように飛ぶ。
だが、しばらくするとそれは落ち着き、御坂さんは私に引っ張られたまま立ち上がるのも忘れた天井の胸ぐらを掴み思い切り殴った。

「まず、あの子達は物じゃない」

また、殴る。

「そして……あの子達を酷い目にあわせたのはお前ら自身だ!
自分は関係ないなんて風な、口を聞くなぁあ!」

最後にもう一度思い切り殴ると、御坂さんは天井を放り投げ、私の手を取って歩きはじめた。

その手を握る強さは何を意味していたのだろう……。
だが、それを聞くことは、きっと一生出来ないだろうと思った。
630 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/02(火) 23:47:03.70 ID:wLtfACIno
ここまで

また読んでください
631 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/03(水) 14:54:27.29 ID:vNdEfIOFP
おつ
末真さん登場だと…
632 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/03(水) 23:12:26.20 ID:Yme4VzrDO
ブギーさん開幕から飛ばし過ぎワロタ
妹達が打ち止め守りに動いてるのが何か良いな
原作より怪我が軽かったのかしら
633 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/11(木) 08:57:30.23 ID:zhCqum6IO

〜〜〜

「あ、すみません」

「ん?あれ、お前どこの高校の生徒じゃん?」

おそらく、学園都市では見たことの無い制服を着ていたからだろう。
その、教師と思われる女性は首を傾げた。

「あ、私、末真和子と言います。
夏休みの学園都市体験プログラムの参加者なのですが……」

「……飛鳥井だけじゃ無かったのか。
私は黄泉川だ、そういう系は……小萌先生の担当だから、案内するじゃん」

「あ、お願いします」

佐天涙子と青髪ピアス。
この二人の揺れ動き、絡まる糸を解こうとする意思はどこから来るものなのだろうか。
きっとそれは――。
634 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/11(木) 08:58:24.23 ID:zhCqum6IO

〜〜〜

「落ち着きました?」

私の手を取りただただ前にと進む御坂さんを止め、ベンチに無理矢理座らせヤシの実サイダーを押し付けた。

「……うん、ごめん……ありがとう」

「いえいえ、とりあえず落ち着いたら一方通行と青髪さんを――倒す、方法考えましょう」

天井はクズだったが、言う事には一応の理はあった。
一方通行が一人暴れて学園都市を壊したとしても、それは単なる“能力者の暴走”として処理されるだろう。
そして、学園都市は超能力者に億単位の奨学金を払えるだけの財力がある。
つまり、金の力で外の世界を黙らすことができるのだ。

金は力だ。

金さえあればある程度の事は出来てしまう。
しかし、それでは一方通行の目的は達成できない。
そして、金で解決出来ないのは人の心だ。
一方通行が利用としたのは、外の世界の人の心だ。

一方通行はこの狂った街でイカレた大人を、外のまだまともな……少なくともここよりは命の価値が重い外の世界の大人を頼ったのだ。

「でも……どうやって?」

「打ち止めちゃんの命令をシャットアウトするようなプログラムって作れないんですかね?
妹さん達はみんなネットワークで繋がってるんだから、一人捕まえて……ここは多少荒っぽくなっちゃうかもしれませんけど……まぁ、捕まえてそれを使ったら、どうでしょう?」

「まず無理ね。
そんなもの、短時間で作れるわけがないし、打ち止めはどうなるのよ?」
635 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/11(木) 09:02:52.10 ID:zhCqum6IO

「一方通行にとって命令を出せない打ち止めちゃんは価値がないと思うんです。
だから、なんとか命令をシャットアウトする事が出来たら、あとは一方通行と青髪さんをぶちのめすだけでいい」

「……でも、やっぱりダメだわ」

ジュースを飲み干すと、その缶をゴミ箱に放り入れる。

「時間が、無さすぎる……」

「です、よね……」

木山先生と初春がいたらなんとかなるかもしれない、と思ったが流石に無理だろうと、頭を冷やし落ち着く。

「羽原さんや霧間凪がいたらなぁ……」

最悪の状況でも不敵に笑い、その災厄を燃やし尽くすような目の色をした炎の魔女を思い出した。

「あなた、今霧間凪って言った?」

「え?」

霧間凪の名前に反応し、ベンチの後ろを通りかかった高校生くらいの眼鏡をかけた女の人が立ち止まり話しかけてきた。

「あぁ……えっと、はい。
霧間凪って言いました、けど?」

「あ、じゃああなたがルイコさん?」

「はぁ……はい、私は佐天涙子ですけど」

その眼鏡の女の人はパッと明るく笑い、私たちの前に回り込んだ。

「私、末真和子。
凪ってあの凪よね?
皮のつなぎを着た、あの凪よね?
彼女、私の友達なのよ!」

短い間だけどよろしくね、と末真和子さんは私に手を差し伸べてきた。
私は迷いながらも、その手を取り握手を交わす。

「凪ったら、急に消えたと思ったら帰ってくるなり「学園都市を見学してきた、ロクな奴がいなかったけど……まぁ、楽しかったぜ」って言ったのよ。
そして、涙子さんの事を少し話してたわ」

優しそうなその表情には、絶望も希望も感じられないほど完璧なバランスを保っており、とても美しく見えた。
636 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/11(木) 09:03:45.29 ID:zhCqum6IO

〜〜〜

「てか、妹ちゃんはなんで佐天達を撃ったん?」

未だ目を覚まさぬ御坂ちゃんの妹ちゃんの取った本来あり得ない行動に今更驚きが湧いてきた。

「恐らく、昨日打ち止めが逃げて来る前に個別に命令を天井が出してたンだ。
内容は……打ち止め及び天井亜雄を守れってとこだろォな」

「なるほど、ね。
どこまでもこの街は絶望に支配されてるんやなぁ……」

だからこそ、希望である佐天と、希望を忘れないカミやん……そして誰よりも絶望を抱えとるのに希望を捨てなかった一方通行がこの街には必要なんや。

希望を持てない僕は、この街そのもの。

絶望をいくら打ち消してもらえても、僕自身が希望になる事は決してない。

僕は、誰かを傷つけ、悲しませ、絶望させる事しか出来ないんだと思う。

僕が人に渡せるものは“誰かの犠牲の上に成り立つ幸福”だ。

そして、それは見せかけの幸福。

いつか、気づいてしまったら、幸福を渡した相手を壊してしまう。

――飛鳥井さん、やっぱり僕に壊せないものは無いようやで?
もしも、全部壊せてしまったら……僕はどうしたらいい?
637 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/11(木) 09:04:15.99 ID:zhCqum6IO

『その時は僕が君を壊してあげるよ』

聞こえるはずの無い、ロストしてしまった世界の敵の敵が、僕にそう言ったような気がした。

「う、ん……ぁ」

「オイ、大丈夫か?」

僕が考え事をしていると、妹ちゃんが目を覚ました。

「ぁ、一方……通行?」

「寝起きにオレなンかの顔見せる羽目になってわりィな。
お前、バックアップ取ってあるか?
あるならそのデータよこせ、まずはお前だけでも開放してやる」

妹ちゃんはまだ覚醒し切っていないのか、ぼんやりと虚空を見つめるように一方通行の真赤な瞳を見つめる。

「……大丈夫だ」

「あ、ああ……ミサカ、は……涙子と……お姉さまに、あ……」

「大丈夫だ」

震える妹ちゃんの手を一方通行はつかむ。

「銃を……突きつけ、撃った?
必死にミサカを守ってくれたあの二人に向かって?」

「俺と違って仕方ねェことだったンだよ。
お前は必死に止まろうとした。
だから、奴らは今も生きている。
俺を相手に一万回闘った奴が、空きだらけの第三位とバカ女を本気で襲って仕留められねェワケねェだろ?
お前は必死に本来勝ち目の無い命令に逆らって戦った」

「でも……もう、お姉さま達と……ミサカは……」

一方通行の手を振りほどき、顔を覆う。
638 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/11(木) 09:04:47.52 ID:zhCqum6IO

――誰かの犠牲の上に成り立つ幸福、ね……。そんな見せかけでええなら僕が君に幸福を渡してやる。

ざり、ざり、と妹ちゃんの頭に手が届く範囲まで足を動かす。

そして、泣いているのか怯えているのか、震えるその頭に手をぽん、とおいた。

「君の絶望、僕が引き受けたるで」

そして、全ての絶望を己が手に握る。

――よし。

それをガラス玉のように纏めると、ふわりと僕の心に闇を作った。

――よし……。これで、涙子ちゃんを足止め出来る。

「ごめん」

急な心の変化に身体が危機反応をおこし、妹ちゃんはくったりと気絶した。
だが、その表情は穏やかだ。

一方通行も、僕が何か害になる事をしたとは思っていないようで、静かに僕を見ていた。

なぜ、謝罪の言葉が出たのだろう。

――そんなん、この子の絶望を先送りにしただけやってわかってるからや。
何倍もの大きさになってきっとこの子に返って来る。
その時、きっとこの子は壊れてまう。
それがわかってるからや……。

僕が一緒にいられるのは、希望を生み出す存在と、異能を打ち消せる存在のみなのだと改めて実感する。

「さて、一方通行さんよ……決して英雄なんてものにはなれへん正義の戦いをはじめよか!」

両手をパンと打ち合わせ、僕は無理やり笑った。
639 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/11(木) 09:05:19.99 ID:zhCqum6IO

〜〜〜

「しかし、霧間凪に末真さんみたいな親友がいるとは思いませんでした」

末真さんと私と御坂さんはフォルテッシモが好きだったクレープ屋さんにきていた。
本当はこんなことしている場合では無いのだが、この人の言葉は何故か頷いてしまう魔力があった。

『あ、公園のクレープ屋さんが美味しいんだってね、ご馳走するから案内してくれない?』

霧間凪の事を少し話すと、パッと笑いそう言った。
あの御坂さんですらほぼ反射で頷いてしまうほどの強力な力が末真さんの言葉にはあったのだ。

「凪は……凪にどんなイメージを持ってる?」

「えっと……冷たいような熱いようなそんな人ってイメージですかね」

「そんな超人めいたイメージを持っているから全く普通の私みたいのが友達ってのが意外なんだわ。
凪はとても優しい子よ。そして、弱いところもある人間らしい女の子だわ」

人間らしい、普通の女の子。

それは霧間凪とは全くかけ離れた言葉であるように私には思えた。

「普通、か……まぁ私みたいな“世界の危機”になりうる存在からしたらよほどあのヘンテコリンのほうが普通かな?」

聞こえないように呟いたつもりだった。
むしろ、声に出していたとは思わなかった。

「世界の危機?」

末真さんは不思議そうに私の顔を見つめる。
御坂さんも、同じように私の顔を覗き込んで心配そうな表情を浮かべていた。
640 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/11(木) 09:05:46.83 ID:zhCqum6IO

「え?あ、いや……なんでもないっす」

二人の方を交互に向きながら、必死に今のセリフをなかった事にしようとしたが、その“希望”は叶わなかった。

恐らく、この絡まった心を解きほぐして欲しいというのが、私の本当の希望だったんだろう……。

「涙子ちゃんが、世界の危機?
意外と傲慢な子ね、あなたは」

「傲慢……ですか」

少しだけカチンときた。
何も知らないくせに、と。

「だって、人間一人が本当に世界を危機に陥れる力があると思ってるってことでしょ?」

「私は、最早人間なんて枠には収まらないんですよ」

「神様にでもなったというの?
この世を全て壊せる人間なんていないわよ。
その壊したあとの世界を想像して、共感してしまうから……そんなこと出来やしないわ。
それに、神様にもなれない。
そこまで孤独に耐えられる人間なんてそれはもう前提が人間じゃないもの」

「でも……私は!」

「悩んでいるんでしょう?
世界を壊せるなら悩む事なんてあるわけないじゃない、その悩みすら壊せるはずだもの。
あなたは人間よ、私と全く同じちっぽけな人間。
何を悩んでいるかは知らないけれど……そうね、傲慢にも卑屈にもならないで自分自身が信じたいものを最後まで信じたらいいんじゃないかしら?
信じたいって気持ちは想像と共感から生まれるのよ、そしてその想像と共感する能力が人間である証にもなるのよ」

半分以上理解できなかったが、私の心に何か種が一つ落ちたような気がした。
641 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/11(木) 09:06:43.11 ID:zhCqum6IO
ここまで

最近更新頻度が落ちてるね
週一更新すら守れてないけどまた次も読んでください
642 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/18(木) 23:12:28.06 ID:NWwWi4nPo

〜〜〜

飛鳥井は空を見上げていた。
空は曇り、重苦しく頭にのしかかってくるような、そんな感じがする。

「この街は異様だね。
街そのものにもし心というものがありそれが見えたら多分、そうだな……花びらばかり立派で葉や根は枯れそうな……そんなものだろう」

この街は科学力という華やかさを持っている。
しかし、外と比べたら絶大な力を誇るその科学力を持ってしても、自信はないのだ。

当然、優しさなどあるはずもなく、潤いもない。

この街がなんとか人間の住む社会として成り立っているのは、他人からみたら優しさの塊である上条当麻や、絶対的な自信をもった超能力者の存在のおかけであろう。

――そしてその自信を与えた基準が、人を壊す物としてこの街を蝕んでいる。

「全く、異様としか言えないな」

ため息をつくように呟くと空を見上げていた目をゆっくり閉じた。

「だけど、何故だろう。
超能力者に自信があるのはわかる。
優しさや潤いがないのもまぁ、わかる。
でも、華やかさがないのはおかしくはないか?
その華やかさを無能力者が持っているなんてもっとおかしい」

顔にあたる風を払うように首を軽くふる。

「“人を壊すものの特効薬は希望だ。しかし、その希望は絶望を知っているからこそ見えるものだ”」

――そしてまた、その希望は人を壊す。
643 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/18(木) 23:13:40.58 ID:NWwWi4nPo

〜〜〜

「……信じたいもの」

呟く。
呟いたところで何が変わるわけではないけれど、呟く。

末真さん、御坂さんと別れ、私は今一人でとある場所に向かっていた。

「私は……何を信じたいんだろう……」

大切なもの。
親友。

「初春や御坂さん、白井さんや上条さん……その他にも、たくさん」

大切なもの。
家族。

「お母さん、お父さん、弟……おじいちゃんやおばあちゃん……みんな、大切」

大切なもの。
自分。

「自分……自分を大切に出来ない人に他人を大切に出来るわけないもんね……」

じゃあ、と考える。

「自分ってなんだろ」

そうつぶやいた瞬間、足が止まった。

「私って何?」

自分の存在が揺らぐ。

「無能力者だった頃の私。
世界の敵になった時の私。
ただの能力者になった私。
どれが本当の私なの?」

「そんなの、簡単や。
どれもハズレでどれも正解や。
無能力者なお前も佐天涙子やし、世界の敵なお前も佐天涙子、今のお前も佐天涙子や。
時間と共に変わっていったけど、そんなかでお前が唯一変えなかったのが希望を見出すって力や。
だから君は幸せにならなあかんねん」
644 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/18(木) 23:14:06.95 ID:NWwWi4nPo

「青髪さん、か。
私が一方通行の方に行きたかったのにな……。
本当、ツイてないや」

御坂さんには私の希望を植え付けた。
それで、直感にたよれば青髪さんの方にたどり着くはずだった。

「佐天、君忘れとるで……僕ぁ、絶望そのものや、君の希望も食い尽くす絶望や」

「……なんで青髪さんが一方通行に手を貸しているかなんてわからないし、私が何を信じたらいいかなんてのも……いや、今決めた。
私は、私自身を――信じる」

私には御坂さんみたいな能力があるわけじゃない。
霧間凪みたいな身体能力があるわけじゃない。

だから、これは戦いというよりも喧嘩だろう。

「安心したわ、ここで僕を信じてるなんて言われたら……笑ってしまうからな」

そういう青髪さんの表情は笑顔とは程遠いものだった。
645 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/18(木) 23:14:47.90 ID:NWwWi4nPo

〜〜〜

――ひとつだけ、わかったことがある。

走りながら私は“一方通行”と対峙する覚悟を決めていた。

――きっと、そういうことなんだ。

一方通行と戦っても勝てるはずはない。
自分の死に向かって走っているのと変わらないのに、私は自然と笑っていた。

――私はやっぱり佐天さんが好きなんだな。初春さんや黒子や、私を私として見てくれる友人に本当に救われてたんだな。

両親の顔を思い出した。
そして、私をお姉様と慕ってくれる黒子の顔を思い出す。
綺麗な笑顔の佐天さんとそれにつられるように朗らかに笑う初春さんを思い出す。
まだまだほぼ無表情だけど、笑おうとする妹たちの顔を思い出す。

――犠牲の心じゃない、未来へ繋ぐ心だ。大丈夫、生きることを諦めない。
それを、佐天さんと青髪さんに教わった。

「……超電磁砲か、悪りィがちと手荒に扱うぞ」

それは私にかけられた言葉ではなかった。

「……いえ、ここはミサカがやります。
一方通行は、打ち止めをよろしくお願いします。とミサカは……銃を構えます」

「……大丈夫、助けるわ。
あんたも、打ち止めも、決して死なせはしない」

「……ひっこンでろ。
お前と超電磁砲が戦う理由なンざねェだろ」

一方通行は私とは言葉を交わすつもりはないようだった。
それは、何かを隠すようで酷く不自然だった。

「一方通行……あんたを、倒す。
もう、私の妹の命はひとつだって失わせない」

「……チッ」

決して勝てることのない戦いがはじまる。
646 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/18(木) 23:15:43.36 ID:NWwWi4nPo

〜〜〜

ふ、と息をつこうとした瞬間、あたりが絶望に染まった。

そして、青髪さんの拳がなんの迷いもなく私の顔面に迫る。

「うおっ……」

体の力を抜き後方に倒れる事でその攻撃をかわし、そのまま倒れる力を利用し、蹴りをいれる。

霧間凪の戦い方をみて、学んだ戦術だ。

その蹴りは意外と簡単にヒットしたが、やはり女子中学生の蹴りなど体格のいい男子高校生にはまったくといっていいほど効果がない。

「流石やね!」

ひるまずに、倒れた私を思い切り踏みつけようとするが、一方通行レベルのスピードでもない限りどんな距離でも大抵はかわせる。

「女の子の顔面を狙うな!」

「甘いこというな!」

踏み込んだ足の勢いでそのまま土をえぐり、それを私の方へ蹴り上げる
当たってもダメージはないと判断し、目にゴミが入らぬように腕でガードしながらこちらも青髪さんの顔面を狙って反撃する。

だが、その攻撃は希望のラインを沿ったものにも関わらずよけられた。

「僕の力忘れてるやろ?
絶望を生み出すっちゅーんは希望を絶望に変えるって事でもあるんやで?」

「……そっか……青髪さんは私と対になる存在なんだよね。
そして、青髪さんは私と共に生きる道じゃなくて、私の天敵になる道を選ぼうとしてるんだね……」

涙が自然とこぼれた。

――多分、もう戻れない。

――私たちには希望なんて……。












――無かったんだ。








「私、もう戦えない。
もう、無理。
嫌だ……大好きな人と戦うなんて嫌だ」

私は、逃げ出した。

妹ちゃん達の命がかかっているのに、逃げ出した。
647 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/18(木) 23:16:18.31 ID:NWwWi4nPo

〜〜〜

「あと、時間はどの位だ?」

「正確にはわかりません……が、ミサカへの命令はあと約一時間で切れます。
なので恐らく打ち止めからミサカ達に命令が下るのは一時間から一時間半、というところでしょうね。とミサカは冷静に分析します」

「チッ……時間がねェな。
お前は天井と打ち止めに危機がない限りはほぼ自由なンだろ?
だったら、芳川ンとこ行ってこいつのデータ取って来い。
俺がこいつを足止めして、その間にお前がデータ持ってきてくれりゃ打ち止めは救える。
佐天の方は青髪を……信じる」

救いたい、ただそンな気持ちだった。
今まで散々ぶっ殺してきた奴を今更救いたいだなンて、おかしいのかもしれない。
だけど、俺の中には救いたいという気持ちが確かにあった。

――こいつらは、俺が嫌ってほど奪ってきたものを俺に与えてくれた。
だから俺は、こいつらに……こいつらの死を無駄にしないために“無敵”になってその姿をこいつらに見せなきゃなンねェンだ……。
648 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/18(木) 23:16:57.80 ID:NWwWi4nPo

〜〜〜

「はぁっはぁ……ああ……うあわ……はぁあ……ぐ……」

嗚咽を漏らしながら私は当てもなく走った。

――嫌だ嫌だ嫌だ。

青髪さんと敵対するというその事実がたまらなく嫌だった。
本心では、青髪さんも私を愛してくれていて、私と生きる道を選んでくれると過信していたのかもしれない。

カタカタと歯がなり、私はとうとう座り込んでしまった。

“私は絶対に絶望なんかしない!”

“私が青髪さんを救いますよ!”

「嘘ばっかり」

私の目の前から、希望が消えた。

「最低だ、私。
多分どっかでこの力を持ってない人たちすべてを見下してた」

絶望も消えた。

「もう、何も見えないや。
そう、これが私、なんの力のないくだらない存在が、私」

ポツリ、ポツリと水滴が頭にあたった。
雨が振り出したようだ。

「青髪さん……助けてよぉ……ううう……」

その雨が私の何かを壊した。
私の目からは涙が溢れ私は一人大声で泣いた。
649 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/18(木) 23:17:28.04 ID:NWwWi4nPo

〜〜〜

「さて、正直俺ァもう無敵なンざどォでもいい。
ただこのくだらねェ街をぶっ壊してェだけだ。
そしたら……あーららァ?
ちょうどいい戦闘用のコマが一万もいるじゃねェかァ?
だったら、使わなきゃなァ……本気で来い、俺の想像を超え、俺をぶっ殺してみろォ……じゃなきゃオマエが死ぬぞ」

わざと心にもない事を一方通行は言った。
それは御坂を怒らせるためであり、青髪の願いを叶えるためだ。

どうあっても、自分達は悪党でいなければならないのだ。

「……あ、んた……殺して、やる」

人の域を超えた表情で御坂は一方通行を睨んだ。

「あァ、だからやってみろよ。
お前なンかじゃ俺は殺せねェからよ」
650 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/18(木) 23:17:55.55 ID:NWwWi4nPo

〜〜〜

「……」

どのくらい時間がたったのだろう。
思い切り泣いて、少しは落ち着いた。

「でも……もう、立てない」

もう、何も見えないから。

「もうどうしたらいいのかわからない」

“自分の信じたいものを信じたらいい”

そんな末真さんの言葉がくるくると渡しの頭の中で渦巻く。

「信じたい……もの……そんなもの、もう無いや」

このまま眠ってしまいたいと思った。
何も考えずこのままずっと……。

「はは、綺麗だな……」

こんなに最低の気分なのに、世界は今まで以上に輝き、眩しかった。

「……こん、なに……綺麗なのに……」

――もう、いいや。
御坂さん、妹ちゃんごめん……ごめんね……もう、私……立ち上がれないよ。

「そんなところに座り込んで何をしているんだ?」

再び目を閉じ、塞ぎこむと頭の上から声をかけられた。

ゆっくりと顔をあげると、一人の男が立っていた。

「風をひくよ」

「……ほっといてよ」

「一応この街の特別教員、という事になっているらしいからほっとくわけにもいかないんだよ」

何時の間にか雨はその男が差し出した傘によって遮られていた。
傘に雨粒の当たる音がなんだか心地よかった。
651 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/18(木) 23:18:21.16 ID:NWwWi4nPo

〜〜〜







人を壊すものを壊すには、人を壊すものを知らなくてはならない。

霧間誠一『人を壊す物』
652 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/18(木) 23:18:50.00 ID:NWwWi4nPo

〜〜〜

二度と忘れないと思う。

御坂美琴のあの俺を恨んだ目と悔しそうな表情を。

「あばよ、御坂美琴……もう会う事はねェだろォな」

「ぐく……な、んで……なんで……あんたには、人の心が……ないの?」

「……あァ、ねェよ。
俺は人間じゃねェ最強のバケモノだ。
バケモノの心しか持ち合わせちゃいねェよ」

生体電流をいじり、強制的に眠らせる。

厳しい顔つきはすぅっと柔らかくなり年相応の幼さの残る顔つきになった。

「……悪いな」

御坂美琴を担ぎ上げ、壁際にもたれさせる。

「雨、か……チッ」

再び御坂美琴を担ぎ、屋根のある濡れない場所へと移動させた。
653 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/18(木) 23:19:16.17 ID:NWwWi4nPo

〜〜〜

「とりあえず、この傘あげるからさっさと帰りなさい」

「いらない、ほっといてよ」

「……自信をなくしてしまったのかい?」

私と同じ目線にしゃがみ込むと男は言った。

「まぁ、そういう日もあるよね。
でも大丈夫だよ、君は本当は自信を失ってはいない」

「うるっさい」

「何があったかは知らないから本当は声をかけるべきじゃないんだけど……君とそっくりな子と会ってね、その子もなにやら悩んでたから気になったんだ。
ごめんよ、早く帰るんだぞ」

男は傘を置いていくと、ぱしゃぱしゃと水しぶきをあげ走り去った。

「うるっさい。……うるさいうるさいうるさい」

――もう、無理なんだよ。足に力が入らない、何を見て何を目印に進めばいいのかもわからない。
654 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/18(木) 23:19:44.74 ID:NWwWi4nPo

〜〜〜

雨音が僕の心を優しく労わってくれているように聞こえた。

佐天涙子が去ったあと、僕はその場に立ち尽くし、ぼんやりと雨に打たれていた。

「これでええんや。
あの子の希望から、僕は消えた。
また新しい希望をあの子なら探してこれからも歩いていけるだろう……」

泣いても誰にもばれない。

僕は静かに涙を流し、それをごまかすために顔を空に向け雨を受けた。
655 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/18(木) 23:20:12.45 ID:NWwWi4nPo
ここまで
ではまた
656 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/19(金) 15:43:20.79 ID:+qQs8HsDO

胸に来るな
救いはあるのだろうか
657 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/21(日) 00:27:25.84 ID:Si/Yuzlxo
はい、はじめます
658 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/21(日) 00:28:07.60 ID:Si/Yuzlxo

〜〜〜

――傘に雨が当たる音をどれくらい数えただろうか。

――頬にあたる雨をどれほど感じたやろうか。

――私はこれからどうなるんだろうか。

――僕はなんで泣いてるんやろうか。

――もう、希望を見る事は出来ないのかな。

――結局僕は、絶望にしかたどり着けんかったな。

もう、何もわからない。
659 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/21(日) 00:29:43.43 ID:Si/Yuzlxo

〜〜〜

「お待たせしました。とミサカは一方通行にデータを渡します」

その後、しばらく待っているとミサカが息を切らしやって来た。

「……安心しろ。寝かせただけで危害は加えてねェよ。
それより、お前びしょびしょじゃねェか……風邪ひくなよ」

「ミサカの慎ましい胸もこうして濡れた服がピッタリとしているとなかなかいいものでしょう?とミサカは自虐を込めた軽口を叩きます」

「……バカ言ってンじゃねェよ。あとは俺に任せろ」

そンな馬鹿な事を言えるならば大丈夫だろう、とミサカに背を向け打ち止めの方へ一歩踏み出した瞬間。

どしゃ、と何かが倒れこむ音がした。

「あァ?」

ゆっくりと振り向くと、呼吸を荒くしたミサカが倒れていた。

「……は?」

――何故だ?

「おい、お前……」

駆け寄り抱き起こす。

目もひらかないし、当然なにも喋らない。
ただ荒々しく呼吸するだけだった。

「チッ……何が起きやがった?」

頭に触れ、生体電流を読み取る。

――異常はねェ……。

「答えを知りたいか?一方通行?」

異常がないとわかってしまうと、ただミサカを抱き寄せる事しか俺にはできなかった。
そンな俺に、ニタニタとした笑い顔が目に浮かぶ声色で、語りかけて来るやつが現れた。

「天井……お前の仕業か?」

「あぁ、私と打ち止めを守れ、その命令は特殊なものでな?
もし任務成功したら自ら脳をショートさせて植物人間になるようにしてあるんだよ」

ひゃはは、と下品に笑う。
660 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/21(日) 00:30:19.46 ID:Si/Yuzlxo

「……よほどお前は死にてェンだな」

――原因はわかった。わかったのならばその原因を潰しゃいいだけだ。

ミサカを御坂美琴の隣に座らせ天井に一歩ずつ近づいて行く。

天井は何故か余裕そうに笑い顔を崩さない。

「俺を殺すのは構わんが……私を殺したら最終信号も妹達も全員死ぬぞ?」

「……どォいう事だ」

「は、最高だな……学園都市最強が私に教えを乞うている……本来そうあるべきなんだよクソガキ」

「御託はいい、さっさと答えろ」

「さもないと殺す、か?
殺せるのか?あ?」

「……教えてください、とでも言えば満足か?
やっすいプライドだなァ……」

「……クソガキが」

「言わなきゃ殺す、お前程度の低脳が何をしてもオレサマの行く道は阻めるワケがねェからな」

天井は下衆い目つきで俺を睨ンだ。

「は、予想通り、たいした事じゃねェわけだな」

その様子で、天井の策略に崩せる穴がある事を確信する。

「ぐ……」

「……打ち止めを復活させる準備が整った瞬間お前は現れたな。
俺が超電磁砲と戦ってる間に打ち止めを奪還も出来ただろ?何故だ?」

「……」

天井は答えない。

「予想するに、打ち止めの命令を解除されるのはマズイって事だろォ?
そしてミサカのこの変化……生体電流に異常がねェって事はこれもまたお前の命令が原因って事だ」

天井はまだ答えない。
661 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/21(日) 00:30:54.78 ID:Si/Yuzlxo

「予想するに、お前の命令は初めっからミサカを殺すものだったって事だろ?
だが、目的がわからねェ……打ち止めを救って、お前の命令をリセットさせりゃそれで終いじゃねェか。
俺が気づかねェとでも思ったのか?」

天井はうつむき、そして笑い出した。

「残念ながら、お前の予想は間違っている。
私が妹達に出した命令は……お前が打ち止めを救ったらその時点で打ち止めが出すはずだった命令が発動される、ってもんだ」

「……じゃあ、お前は殺しても問題ねェな」

「私が死んだらその瞬間打ち止めから不完全だろうがなんだろうが命令が送られるぞ?」

「だったら、打ち止めを救ったあとお前を殺して、ミサカ達も全員救う。
簡単な話だ……やる事は変わらねェ」

「打ち止めに能力を使ってる間、お前の脳に反射出来るほどの容量があんのか?」

「……それも簡単な話だ。
おい、ちゃンと今の話、聞いてたか?御坂美琴……」

パチ、と電気を放電させながら、御坂美琴が起き上がってきた。
ミサカが適当に電気を流し、それで再び生体電流が狂って起きたらしい。

「……つまり、私は……あんたの邪魔を……打ち止めと妹たちを殺そうとしてたの?」

「ンな話はどォでもいい。
天井を俺に近づけンなよ……」

あの馬鹿は俺の盾になって死のうとしている。
そのくらいの事は俺にもわかるンだ。

だから青髪にはわりィが俺の盾は、御坂美琴に任せた。

これが、どンな結果になるかはわからねェし興味ねェ。
ただ、俺が簡単に約束を守る奴だと信じた馬鹿がわりィンだ、と俺は俺に言い聞かせた。
662 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/21(日) 00:31:28.93 ID:Si/Yuzlxo

〜〜〜

「……一方通行と合流せなな」

いつまでもこうしているわけにはいかない。
僕は顔を濡らした“雨”を拭うと、足を前に踏み出した。

――あいつは、多分……カミやんと同じやろうな。

“僕の希望は絶対に叶わない”

故に、僕は“誰も信用していない”

――まぁ、最悪一方通行が僕を殺してくれるやろ。
そんで、涙子には初春ちゃんも白井ちゃんも御坂ちゃんもミサカちゃんもおる。何も、問題は……ない。

とぼとぼと、僕は歩く。

これで本当にいいのか、とカミやんが悲しそうな目つきできいてきたようなきがした。

――ええんよ、これで。
これで、あの子は絶望から解き放たれた希望になれる。最高やないか。

たった一つだけ変わらぬ思い。
涙子を、大切に思うこの気持ち。

それだけは――。
663 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/21(日) 00:32:45.02 ID:Si/Yuzlxo

〜〜〜

絶望も希望も何もいらない。
ただ、青髪さんと笑って普通の女の子として生きたかった。
でも、青髪さんと出会えたのは、その希望と絶望のおかげだ。

二人は相反するからこそ引き合い、そして相反するからこそ退け合う。

どっちの道を選ぶかは私達次第だったんだ。

私は引き合い共に生きる道を選んだ。
彼は退け合い共に滅びる道を選んだ。

ただ、それだけ……。

それだけの事がとても悲しく、私は悔しかった。

――絶望か……雨が降って普段よりも人も少ないし笑い声も聞こえない……それなのに、こんなに日常が輝いて見える。
これが……絶望か……。

「涙子ちゃん?」

またしても、私を見つけ話しかけて来る人がいた。

「どうしたの、そんなところに座り込んで」

「末真さん、か……。
はは、なんでもないですよ。ただ、もう嫌になっただけです。
私は……つまり、絶望してるんですよ」

「絶望、か……。
まぁ、絶望なんてそのへんに転がってるものだからたまにはそんな感じになってもいいんじゃない?
ただ、身体壊さないようにね?」
664 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/21(日) 00:33:16.00 ID:Si/Yuzlxo

「……大丈夫ですよ、私身体強いんで」

「普段身体が強い子はあまり風邪とか病気の苦しさを知らないから……やっぱ風邪くらいならひいてもいいかも。そうしたら、健康な時のありがたさがわかるわよ」

ひどく冷たい事をいう人だ、と思った。
だが、その言葉が、私に希望を再び見せた。

「……今、なんて言いました?」

「風邪とかひいたら健康のありがたさがわかるわよ、って言ったわ」

この人は冷たい人なんかじゃない。
多分、全部わかっているんだ。
無意識でも、人を正しい方向に向かせてくれるそんな才能を持っているのかもしれない……。

「風邪ひいたら、健康のありがたさがわかる?
そうですよね、そうだった……末真さん、ありがとう!
私……私、また走れそうです!」

傘を掴み急いでたたむ。
傘の持ち手には青髪さんの学校の名前が書いてあるシールが貼ってあった。

「あ、すみません……これ次学校行く時ついでに返して置いてください。
今度お礼にクレープおごりますから!
じゃあ、私……走らなきゃならないんでまた!」

無理矢理傘を末真さんに押し付けると、私は光り輝く希望へ至る道を走り出した。
665 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/21(日) 00:34:24.00 ID:Si/Yuzlxo

〜〜〜

――クッソ……思った以上にキツイな……。

普段無意識で出来る反射。
その演算領域まで……つまり、無意識の領域まで意識して脳を全て使っているという事だ。

――消去……消去再構築消去……消去……修復消去……。

脳が悲鳴をあげているのがわかる。
これ以上は脳の回路が焼き切れると警告をしている。

危険。
ヤメロ。
ヒキカエセ。

演算を邪魔するかのように俺自身の声が頭の中に響く。

危険危険。
ヤメロヤメロ。
ヒキカエセヒキカエセ。

その声はどんどん大きくなる。

危険危険危険。
ヤメロヤメロヤメロ。
ヒキカエセヒキカエセヒキカエセ。

――邪、魔……だ。

必死にその声を封じようとするが、それを考える領域が演算を阻害する。
そして、さらに声は強大になる。
666 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/21(日) 00:34:53.84 ID:Si/Yuzlxo

危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険。

――う、るせ。

ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ。

――や、めるわけ、ねェ……だろ……。

ヒキカエセヒキカエセヒキカエセヒキカエセヒキカエセヒキカエセヒキカエセヒキカエセヒキカエセヒキカエセヒキカエセヒキカエセヒキカエセヒキカエセヒキカエセヒキカエセ。

――引き返せる、わけ……ねェだろ……。

危険ヤメロヒキカエセ。

危険。

ヤメロ。

ヒキカエセ。

サモナイト、死――。

死。

その一文字が、頭を埋め尽くした。

――死、ぬ……のか?
俺は……死ぬ?

アァ、シヌ。マチガイナク。

――ソォカ、ワカッタ……。

ヨシ、ヤメロ。

――ヤメネェヨ、オレハ……タスケナキャナンネェンダヨ。

余計な思考をギリギリまでカットし、己と戦う。

――だから……黙ってろ……俺を誰だと思ってやがる……学園都市最強の一方通行だ……出来る出来ないじゃねェ……やるンだよ、それが……。

己に勝つ。
自分にだろうと、俺はもう負けられない。
“無敵”を掴むには……勝ち続けなきゃならねェンだッ……!
667 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/21(日) 00:35:36.43 ID:Si/Yuzlxo

〜〜〜

「……やっぱりな……」

一方通行の元へとたどり着くと、そこには御坂美琴ちゃんに銃を向ける天井と、そんな天井をただ哀れむように睨む御坂美琴ちゃんがいた。

「御坂ちゃん、全部わかってしもうてるやんけ……やっぱ、一方通行は信用ならへんなぁ……」

その一方通行とはいうと、真剣な表情をしてピクリとも動かない。

一方通行の傍には、打ち止めちゃんとミサカちゃんが寝ている。

一方通行は、二人の額に触れていた。

――は?まさか……あいつ、打ち止めちゃんの頭をいじるだけでも過酷とか言ってたのに……二人同時にやってんのか?アホか?んなことしたら……脳が使い物にならんくなるぞ?

雨でずぶ濡れになっている所をみると、絶対的な防御力を誇る反射も、機能していない。

無意識の領域すらも全て使い、自分の命すらも危険にさらし、この男は人を救おうとしている。

一万人殺した悪人が、何を思ってここまで変化したのだろうか、僕は気になった。
668 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/21(日) 00:36:05.58 ID:Si/Yuzlxo

「まぁ、これから死ぬ僕には関係ないか。
死に行く者として……出来る事は……せやなぁ……とりあえず、涙子ちゃんと御坂ちゃんを苦しめたこいつに……僕からのプレゼントやっとかなきゃな……」

銃を向け震える天井に、近づき、その頭を後ろから掴む。

「ひっ」

天井が情けなく悲鳴をあげると、御坂ちゃんも僕の存在に気づいたようだ。

気まずそうな顔をし、僕ならさっと目を逸らした。

――あぁ、知ってるって顔やな。

そんな御坂ちゃんに微笑みかけると、僕は全ての絶望を、天井に“プレゼント”した。

「天井くん、少しはしゃぎすぎよ。
可愛い子には銃やなくて花でも向けたれや……」

だらんと力の抜けた天井を、そのまま地面へ叩きつけた。

「一方通行、大丈夫……お前ならやれる。
こいつの絶望は……お前の希望やからな」



669 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/21(日) 00:37:14.41 ID:Si/Yuzlxo
はい、ここまで

無一文になるとSS書くのが捗るな

ではまた次も読んでください
670 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/21(日) 03:49:48.92 ID:ikVhB+e5o

あっちもこっちも見てて辛いぜ…
次も待ってる!
671 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/22(月) 19:48:36.05 ID:gGeFeunwP
無一文になると読むのも捗るぜ!
672 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/23(火) 01:09:03.65 ID:mOFiafiZo
いやぁ、捗る捗る
673 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/23(火) 01:09:33.09 ID:mOFiafiZo

〜〜〜

――そうだ、そうだ、そうだ……!

どんどん強くなる雨をも気にせず、私はひたすら走る。

私の目の前には希望が広がり、同時に絶望も広がっている。

「やっと本当にしっかりとわかった、私が青髪さんが好きな理由!」

わけもなく、笑顔がこぼれる。

「青髪さんは……私に希望をくれる!
だから、私はあの人が大好きなんだ!」

セブンスミストでの爆破事件の時からずっと、そうだった。

あの時、私はあの浴衣が消えてなくなった事に絶望した。
でも、その絶望をすくい上げ希望に変えてくれたのは、青髪さんだった。

崩れて行くだけの世界が、色を取り戻し、表情を取り戻し、私の前に広がった。

いつだって、青髪さんと話をすると私の心は軽く、優しくなれた。

――青髪さん、あなたは世界の敵なんかじゃない!
だって……だって!

前髪についた雫を首を思い切り振り、払いのける。

――絶望がなきゃ、希望なんてわからない!
絶望してる時こそ、世界は美しく綺麗に輝いた希望に満ちたものに見えるんだよ!
絶望するから、人は前に進めるんだよ!
674 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/23(火) 01:11:35.45 ID:mOFiafiZo

〜〜〜

「っはァ……はァ……ああ……はァ……ど、どォだ……打ち止め、ミサカ……?」

二人はぐったりとしたまま動かない。
動かないことから少なくとも打ち止めちゃんの命令は打ち消せたことが分かった。

――ま、大丈夫や。

「ひ、ひゃ……ひゃははははは!
どうした、一方通行?救うんじゃなかったのかぁ?あ?起きねぇじゃねぇか……二人とも!」

天井は狂ったように笑い転げた。

一方通行の表情はどんどん不安そうな絶望に満ちたものになって行く。

――大丈夫やよ、一方通行……。

天井は笑い、一方通行は地面に視線を落とし動かなくなった。

その様子を、御坂ちゃんは呆然と眺め、やがてどしゃっと膝から崩れた。

雨の音と天井の笑い声。

それだけがこの場を支配していた。

――だから、大丈夫やって……二人とも……僕ぁ、絶望やで?

二人にそう心の中で声をかけながら、僕は天井に近づき、心の底から愉快そうに笑う天井の頭に軽く踏みつけた。

「あー……はっはっは……いやぁ、愉快だねぇ……自信満々の超能力者が崩れる姿ってのはぁ……お前も無能力者ならわかんだろ?あ?」
675 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/23(火) 01:12:27.15 ID:mOFiafiZo

「わからんなぁ……」

「良い子ぶってんじゃねぇよ」

「ん?あぁ、ちゃうよ……なんで二人が絶望してるのかがわからんのや。
ついでに、なんでお前が喜んでんのかもわからん」

微笑みを浮かべたまま天井を見下しながら僕はそう言った。

「……あく……せら、れーた?」

そして、今までの二人の絶望をエネルギー変換したかのように打ち止めちゃんとミサカちゃんは希望を二人に与えた。

「……あ……ああ……お前、生きて……」

「当たり、前じゃないですか……あなたが、ミサカ達を守る、と……言ったんです。とミサカは一方通行の、事を信頼していると、遠回しに言います」

天井はその様子をぽかんとアホ面で眺める。

「残念やったなぁ、天井くん。
僕ぁ“君”に絶望をプレゼントしたんやで?
もしも君が目を覚まさん打ち止めちゃんとミサカちゃんを見て悲しんだら……そのまま二人は目を覚まさんかったかもかぁ……。
君の絶望は一方通行と御坂ちゃんの希望だったんよ。
お前は、最も絶望に叩き落としたかった一方通行に、希望を与えた張本人なんよ」
676 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/23(火) 01:13:08.51 ID:mOFiafiZo

僕の言葉を聞くと、天井はカタカタと震えはじめ、人の声とは思えぬ奇声を発すると、僕の足を払いのけ一方通行に向け銃を構え撃った。

「バカやなぁ天井くん、君は今ここで自分の為を思った行動したらあかんのよ」

不運にも、銃は暴発し、天井の手が血で染まる。

「うぐああああああ!」

「因果応報や、お前の行動は、全部お前に返ってくる。
反省しておとなしく生きろや」

最後にそう言い残すと、僕は御坂ちゃんに近寄り腕を掴みたちあがらせた。

「とまぁ、こんな感じなんやけど、これ君が一人で掴んだ幸せやって涙子には説明してやってや」

人に何かをねだる時のわざとらしい笑みを浮かべ、僕は御坂ちゃんに頭を下げた。

「そ、そんなの……無理よ。
佐天さんは、あなたを本当に好きなんだから……」

やっぱりな、と思いながら僕は頭を上げ一方通行の方を向いた。
一方通行は気まずいのかふい、と顔をそらした。

「あーくせられーやーん!
お前が約束破るから僕の計画丸崩れやないかぁ……どないしてくれんねん!」

「……俺なンか簡単に信じるからそォなンだよ、このバカ」

「まぁ、二人が……いや、一万人救えたからええか。
ほんじゃ、僕ぁ消えます」
677 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/23(火) 01:13:35.64 ID:mOFiafiZo

そう、言いながら一方通行とミサカ妹達に微笑み僕はくるりと方向転換した。
そして、僕の向いた方向には絶望が広がっていた。

「はぁ……はぁっ……どこに……消えるって?」

「……最悪やな。
僕はもう君の顔なんか見たないねん。
消えてくれや」

思ってることと全く逆の言葉を投げかける。

「せめてその泣きそうな顔をどうにかできるようになってからそういうセリフはいいましょうよ」

佐天涙子は、まるで全てがうまくいく事を確信しているかのように笑った。

「御坂さん、ごめん……私今回諦めそうになった。
でも……良かった、打ち止めちゃんもミサカちゃんも助かって」

そして、未だぼんやりした状態の御坂ちゃんにそう声をかけると、僕をまっすぐと見つめた。

「本当に、足が止まりそうになった。
本当に、絶望した。
本当にこの世界が止まったように感じた」

「そうか、でも僕には関係あらへん。僕らはもう他人や」

「だから、そんな泣きそうな顔して言っても説得力ないですよ?」

佐天涙子は幼稚園児をあやすように優しく笑った。
678 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/23(火) 01:14:01.97 ID:mOFiafiZo

〜〜〜

――最低や……なんなんやねん、これも全部一方通行のせいや……。ほんま、この真っ白モヤシ殴りたいわ。

打ち止めちゃんと妹達の救出。
僕と佐天涙子の対峙。

舞台も役者もそこには揃っていた。

――でも……ここからが絶望使いの腕の見せ所やね。
絶望の使い方……それを教えたる。

僕の中では佐天涙子と共に歩む道は未だ絶望だ。

だから、それを希望に変えなくてはいけない。
それは、佐天涙子の希望を絶望に変えることと同意だ。

――僕といない方が君は幸せになれる。君の幸せこそが僕の唯一の願いや。
願いの決して叶わん僕やけど……この願いだけは必ず叶えてみせる。
679 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/23(火) 01:14:30.77 ID:mOFiafiZo

〜〜〜

「……これ、どういう状況なの?ってミサカはミサカはやっとはっきりしてきた意識の中であなたに聞いてみる」

「……知るか、ただのバカップルの痴話喧嘩、だろ」

正直こういうときどォすりゃいいかなンて俺にはわからねェ。
だが、青髪との約束を反故にした時点で俺にはこいつらの行く末を見守る義務があると思った。

「まァ、俺がしてやれる事なンざねェがな……」

まともな人付き合いなどしてこなかったので、こういう時どンなセリフを吐けば良いのかわからない。

そこまで考えると俺は一つの事に気がついた。

――あ?ちょっと待て……俺ァ、青髪を友達だ、とそォ思ってるって事か?

ハッ、と思わず鼻で笑ってしまう。

――こンな大罪人にダチだァ?どこまで俺は甘ちゃンなンだよクソッタレ……。

友達なンかいらない。
無敵とは孤独という事だ。
孤独には慣れた。
今更、寂しいとも思わねェ。

「大丈夫ですよ。とミサカはミサカ達だけはあなたが無敵になるまで、もしくは死ぬまで側にい続けますから、とミサカたちからは逃げられない事を宣言しておきます」

「……バーカ」

俺の無敵への道は、まだはじまったばかりだ。
680 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/23(火) 01:15:42.51 ID:mOFiafiZo

〜〜〜

「は、説得力がない?
何を言うてんねん、僕が悲しそうに見えるってんならそれは都合よくしか僕を信じない君が哀れやからや」

「確かに、私は青髪さんではなく天井の言葉を信じてしまいました。
あなたを疑い、あなたと戦おうとした」

「やろ?
僕は僕を信じてくれへん子とは一緒に歩けん」

「……そうですよ。
青髪さんはどんな時でも私を信じて私を想って行動してくれてた。
じゃあ、それってなんでですか?」

「そ、れは……」

言葉に詰まる。

「私の事、大切な特別な存在だって想ってくれてたって私は自惚れているんです。
だから、今回の事も多分……青髪さんの思い通りになったら私は私の前に広がる未来の中で二番目に幸せな道を歩けたんでしょうね」

僕の言葉は全て嘘。
それをわかっているように佐天涙子は僕の言う事に耳をかさずただ自分の心を打ち明けているんだと分かった。

「でも、私はこれが青髪さんの仕組んだ事だと気づいてしまった。
だって、私には希望が見えるから……私は二番目に幸せな道じゃなくて、一番幸せな最良の道を選べた。
でも、それって青髪さんのおかげなんです」

「なにがや……」
681 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/23(火) 01:16:08.88 ID:mOFiafiZo

僕はもう、ただ佐天涙子の話を聞くしか出来ない。
何時の間にか弱くなり、そして止んでしまった雨が、その声をよりはっきりと僕の心へと運んでくる。

「私、今まで絶望は真っ暗な冷たい悲しいものだと思ってたんです。
でも、それが間違いだって気づけた……あなたのおかげで」

涙子への道を壊し、その壊した道のかけらで作った壁がどんどん消えていくような気がした。

「本当に絶望して、ふさぎこんだ時なんでもない日常が光り輝いて見えたんです。
絶望が、私の世界を照らしたんです。
青髪さんは、私とセットじゃなきゃ生きられないって想ってるのかもしれませんが、青髪さんがいないと前を向けないのは私の方なんです」

「そんな……綺麗事……」

「でも、それが私の気持ちです」

「そんな……そんな……僕がいたら、君は不幸にしかならんのやで?
僕は君を繋ぐ鎖でしかないんやで?
君の枷でしかないんやで?」

一生懸命保っていた涙子を嫌いだという態度が保てなくなった。

「絶望は希望なんかやない、絶望や。
絶望で世界が綺麗に見えるなんて、そんなん……あるわけないやろ……やったら、なんで僕の世界は暗いんや?」
682 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/23(火) 01:16:35.07 ID:mOFiafiZo

うつむき絞り出すように呻くと、意外な事に一方通行が答えた。

「それは、お前が下ばかり見てるからじゃねェか?
俺も、そォだった。
下ばかり見て、馬鹿な実験に参加して……間違いばかり積み重ねて……俺は佐天涙子のおかげで前を向く事ができた。
そンで、お前のおかげで上を向くことができた」

その一方通行の言葉には、御坂ちゃんも涙子も驚いたようやった。
二人とも変なものを見る目つきで一方通行を見やる。

「俺はこれからもこいつらに無敵になった俺をみせる為に、生きていく。
無敵に……今より進化するには、上向くしかねェンだよ。
お前は……変な“青髪理論”取っ払ったら、佐天と居たいンだろ?
そこに行くのがお前にとっての進化だろ……だから、上を向いてみろ……」

いい終わると、御坂ちゃんと涙子の視線に気づき、舌打ちをしてそっぽを向いた。

「だって……僕が求めたもんは……絶対に手に入らん。
僕は絶望なんやから……意味ないやん、失うだけのものを……失う事をわかってるものを追うなんて……意味、ないやん」

わけがわからなくなり、だんだんとイライラしてくる。
僕の中の絶望もどんどん大きく膨らむ。
683 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/23(火) 01:17:06.15 ID:mOFiafiZo

「わけわからん、わからんわからんわからん。
お前ら、みんなわけわからん」

絶望は、さらに膨らみ、そして……弾けた。

「うああああああああああああああ!」

キャパシティを遥かにこえ、雄叫びをあげると、僕を中心に全方向に突風が吹いた。

「はぁ……はぁ……もう、しらん。
なにもわからん。
もう、どうでもええ。
どうせ僕の希望が叶わん世界なら……全部本当に壊したる」

無限に溢れ出る絶望を、涙子に向かってぶつける。

「ぬわ……ちょ、落ち着いてください!」

「うるっさいわ、ボケ!
年上の言う事は素直に聞けや!
僕ぁ君が何より大事なんや!」

次々と、涙子に休む間を与えずぶつけまくる。

「言ってる事とやってることが違いすぎますってば!」

「違わん!
これはもう最低の最終手段や!
お前を倒してお前の前から消える!
一度ボコられたらさすがの涙子ももう僕を追っかけようとは思わんやろ!」

「何を子どもみたいなことを言ってんですか!」

涙子は若干イライラしたように、声を荒げ、ついに切れた。
684 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/23(火) 01:17:35.14 ID:mOFiafiZo

「あぁ、もうっ!この大馬鹿ぁあああ!
あったまきた、逆にボコって私の下僕にしてやる!」

「あぁ?希望が、絶望に勝てると思うてんのかぁああああ!」

常人なら触れたその一瞬で気が触れるレベルの大きさの絶望をぶちまける。

「青髪さんってばキッズアニメ見たことないんですか?
希望は……ま、けなぁあああい!」

だが、彼女の希望はその絶望すらも打ち消し、希望へ変えた。

「チッ……」

このまま絶望と希望をぶつけ合うだけではラチがあかないと思い、僕は佐天へと殴りかかる。

「だっから……女の子の顔を狙うなっ!」

しかし、それも簡単によけられ、逆に顔面に拳を貰った。

「うるせぇ!どうせ当たらんってわかってるから全力で狙えるんや!」

「そんな無駄な事するなら『どうせ手に入らないもの』を手に入れる努力しろぉおお!」

また、顔面を殴られた。

「う、るせぇえええええ!」

溢れ続けていた絶望が何時の間にか止まっていた。

僕は僕の中に在る全ての絶望を解き放つ。

――もう、意味わからん。
でも……飛鳥井さん、全部壊すなんて無理なちっぽけな人間だって事は……わかった気がする。

絶望と同時に体の力も全て抜け、僕は仰向けに倒れた。

「はぁ……はぁ……しんど……」

濡れた地面がじっとりと背中に張り付く感覚が気持ち悪かった。

「……青髪さんの世界って佐天さんしかいないんだ……」

絶望も希望も見えない僕ら以外にはただ僕ら二人が殴りっこしていたようにしか見えなかっただろう。
御坂ちゃんがどこかぽかんとした表情でそんな事をつぶやいたのは、よほど僕ら二人が異様に見えたからだと思いたい。

「……」

息を整えながら、目を開けた。

雲の切れ間から顔をのぞかせた太陽は美しく、どこまでも輝いていた。
685 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/23(火) 01:18:04.71 ID:mOFiafiZo

〜〜〜

「あーおがみさん!」

「おわ……びっくりするやん!
急に飛びついてくんなや!」

学校帰りにカミやんと街をふらついていると急に後ろから抱きつかれた。

「えへへ、つい……。
あ、こんにちは上条さん!」

「はいはい、こんにちは……まったく、残暑が厳しいのは誰のせいでしょうかねぇ」

「少しくらい大目に見てくださいよ、やっと私たち“ちゃんと”両想いになれなんですよ?」

幸せいっぱいの笑顔を浮かべ、涙子はカミやんに言う。

その笑顔を見ながら、僕はあの日の事を思い出した。
686 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/23(火) 01:18:39.97 ID:mOFiafiZo

〜〜〜

『どうですか、青髪さん……言いたいこと言って、おもいっきり暴れたら……頭スッキリするでしょ?』

倒れる僕に涙子はどこか清々しそうにそう聞いてきた。

『……せやな』

『私たち、スタートラインが間違ってたんですよ。
こうやってぶつかり合って行くのが正しい恋愛のススメ方なんだと思います』

『あぁ……かもな。
僕にも、見えたわ……希望』

『そうですか……』

嬉しそうに、彼女は笑ってくれた。

『これが、正しい絶望の使い方、なんやろなぁ……』

だけど、僕は忘れていない。

『もっと早く、気づけていれば……先輩死なさずにすんだんかなぁ……』

『……かもしれませんね』

『涙子ぉ……ごめんな、好きやで』

『……知ってました』

涙子が顔をそらしたので、その時どんな表情をしていたのか僕は知らない。
687 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/23(火) 01:30:21.57 ID:mOFiafiZo

〜〜〜

「はは、まぁ……そういう事よカミやん!大目に見てや!」

思考を現在に引き戻し、僕もカミやんに笑いかける。
わざとらしくうんざりというようにため息をつくと、カミやんは笑いながら一度だけ頷いた。

「さんきゅ……え?」

その返事に礼を述べ、視線を横にいるカミやんから前方へ移した時、信じられぬものが目に飛び込んできた気がした。

――せ、先……輩……?

五メートルほど先の喫茶店に僕が殺してしまった先輩が入っていったような気がした。

「青髪さん?どうしたんですか?」

僕の表情の変化に目ざとく気づき、涙子が顔を覗き込んでくる。

歩きながら先輩の入ったように見えた喫茶店を覗いて見る。
だが、そこに彼女の姿はなかった。

――見間違い、か……まぁせやろな。

「青髪さん?」

「青ピ?」

二人が僕を呼ぶ。

「ん、いやなんでもあらへんよ。ほな、いこか!」

何故だか僕は、その先輩のまぼろしを見て、安心した。
理由はわからない。

『それはね、青髪くん……君が人なんかを殺せるわけがないって事に気づいたからだよ』

するはずのないブギーポップの声が耳元で囁かれたような気がする。

何かが噛み合わない、ブギーポップの左右非対称の笑顔のような奇妙さが残った………。

688 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/23(火) 01:38:24.45 ID:mOFiafiZo
はい、終わり!

終わり方は、一応ここで終わっても違和感ない感じにしたつもりだけど……違和感あるかw

いやー、デート書くはずだったのにどうしてこうなったんだろう……

689 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/24(水) 02:15:27.23 ID:huhuXfaAo
上泡雑談その五『嫉妬』

〜〜〜

「そういえば上条くんは結局藤花を好きだったのかい?」

「……いきなりなんなんでせうか?
最近少しおかしいぜ?お前」

「おかしくなんかないぜ、僕は僕だ。
例えいきなり僕が猫耳メイド服になったとしても、それは間違いなく僕だ。
人の変化におかしいことなんかないんだよ」

「いや、おかしいだろ!
お前がいきなり猫耳メイドなってたら俺は多分泣くぞ!」

「……泣くほど嬉しいって事かい?」

「ちげぇ!
お前がついにプッツンしちまったんじゃないかって思って涙が……ほら、お前想像しただけで……」

「でも、それが本当の僕の姿かもしれないじゃないか。
上条くんは今の君が本当のありのままの君だと確信しているかい?」

「……なるほどね、なんか話の持って行き方がおかしいが真面目な話なんだな……。
本当の自分か……そうだな、俺はこれが本当の自分だと確信してるよ。
だって、俺が今こうして話してることも、困ってる人がいたら首突っ込んじゃうのも……俺だから出来るんだ。
上条当麻ならここでこう言うだろ、動くだろ、なんて考えてるわけじゃないけど……俺は俺の思った俺でいるために生きてるんだからな」

「それはつまり理想があって君はそこにまだ到達していないって事だろう?」

「あぁ、それはいいんだ。
理想は理想、そこに少しでも近づくために俺は日々生きている……それが俺だ」

「永遠に変わり続ける、それがありのままの君って事か……少し嫉妬するよ」

「嫉妬してるのは俺の方だよ、お前は俺の理想である『世界を守る』をたった一人でこなしてんだから……俺が届かない俺にお前は届いてるんだから……」

「そうやって、本来人は理想と戦いながら日々自分を変えて生きていくから楽しいという感情があるんだろう。
君は的確に人間らしく生きていると言える……僕は変わらないからな。
今までも、これからも、ずっと……世界の敵の敵、自動的な存在。
それが僕。
僕の人生とかそういうものはもう答えを見つけてしまっているから、機械的で単調なんだ。
世界の敵が現れたら、消しに行く。
たったこれだけ」

「……お前は変わりたいのか?」

「いや、そんな事はないさ。それが僕だからね」
690 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/24(水) 02:45:59.22 ID:huhuXfaAo
上泡雑談その六『宗教』

〜〜〜

「そういえば、藤花が去った瞬間新しい女の子をストックしたらしいじゃないか」

「ストックってなんだよ……ただ困ってたから協力しただけだよ。
それに、上条さんにはロマンスのストックなんてゼロですよー」

「……本気で言ってんのかい?」

「ん?あぁ、彼女なんて出来た事ないしな」

「やれやれ……藤花に竹田くんがいてくれて助かった……。
と、まぁそんな話は置いといて……新しい女の子はシスターさんらしいじゃないか。
という事で、今回のお題は宗教だぜ」

「なるほどね、宗教ってのは俺とは無縁なんだよなぁ……ガキの頃からここにいるし」

「だが、君は藤花の『君が人を救えるのは不幸じゃない、ラッキーだ』って言葉を信じてここまでやってきたんだろ?」

「あぁ、その言葉が俺の支えだ」

「それはある意味とても宗教的じゃあないかい?」

「……どういうことだ?」

「まず、無宗教ってのも宗教的だ。
『俺は絶対に宗教なんか信じないぜ!』って頑なに主張するやつは『俺は絶対に宗教なんか信じないぜ!』っていう宗教にはまっていると思わないか?って事さ」

「……確かに、そう言われるとそんな気もするなぁ」

「僕は宗教を熱心にやってる人達にその宗教は本当に君を救うものなのか?って聞いて回りたくなる」

「もしも俺の『藤花ちゃんの言葉』が宗教的なものだとしたら、俺は救われてるぜ?」

「そう、それならいいんだ。
だが、そうだな……狭き門のアリサみたいなああいうのはどうも間違っていると僕は思うんだ」

「狭き門?」

「神の国へ憧れて地上での幸福を放棄した敬虔なクリスチャンのお話さ。
その人には愛する人がいて、その愛する人もまた彼女を愛していたし、周りもそんな二人を祝福していた。
だが、彼女はその人を選ばずに一人死んでいったのさ……。
僕はこれは絶対に間違っていると思うんだ。
目の前に手に入る幸福を捨てさせる宗教って……なんなんだい?」

「……さぁな、俺はバカだからわかんねぇや」

「……だろうね」
691 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/24(水) 02:59:48.74 ID:huhuXfaAo
雑談二つ

正直本編と木山先生だけで終わってたらいいSSだったと自分で思うことのできる満足出来るものが書けた
ありがとう

ただ青天番外編は書くべきじゃなかったな
ひどすぎる

ここまで付き合ってくれてありがとうございました

ブギーポップ×ハルヒの一発目が書けたらここで少し宣伝して落とします

まだ書き始めてもないからそれまでは雑談適当に投下するつもりだけどね

タイトルは一応決めた
『ブギーポップ・クロス〜救難信号の足跡〜』
見かけたら読んでやってください
まぁ、何度もいうけどまだ書き始めてもないから年内に始められるかも謎だけどね


(というか、雑談書いてないで書きゃいい話だよね)
(まぁ、いいじゃん?)
(……趣味で楽しむのがSSだしね)


692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/24(水) 20:23:10.07 ID:e0JCyhNgo
青天も楽しませてもらったよ
息飲む展開から
一転していい着地で終わったなあ
良かった。

1乙でした!
693 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/24(水) 21:01:16.64 ID:dmUpP9UIO
上泡雑談その七『ハロウィン』

〜〜〜

「ハロウィンの季節だね。
毎年思うけど、銃社会でハロウィンは禁止にするべきだと思わないかい?」

「……銃社会に住むことになったら絶対に仮装はしないと心に決めてます」

「あぁ、君なら確実に撃たれるね。ご愁傷様」

「おい!まだ撃たれてもねーし、学園都市なら……まぁ、御坂の超電磁砲より怖いものが飛んでくる事もないだろ……ないよね?」

「そんなの知るかよ、話を戻すぜ?
上条くんはハロウィンって何か知ってるかい?」

「……キリスト教的なお祭り?」

「残念でした。
ハロウィンはもともとケルト人の収穫祭なんだよ。キリスト教は関係ない」

「へぇ……知らなかったぜ。
あ、でもキリスト教の収穫祭といえばイースターだしな」

「……そりゃあ、復活祭だよ」

「……話を続けてどうぞ?」

「いや、まぁ今回はハロウィンだねってだけで特に何もないんだけど……」

「そっか、じゃあ適当に話すか」

「雑談、だしな」

「ハロウィンっていえばカボチャのお化けのイメージだけど、あれなんでカボチャなんだ?」

「さぁ?でも本当はカボチャじゃなくてカブかなんかを使うのが正しいんじゃなかったか?」

「そうなの?まぁ、いいや……トリックオアトリートってのもよくわからん」

「お菓子くれなきゃいたずらするぞ!だろ?
もしも藤花が君のところに行ったら君はいたずらされるのを選ぶのかい?」

「ブギーポップさん最近飛ばしすぎですよ?そもそもいたずらって何されるの?」

「……放火とか?」

「あー、まぁあのカボチャなんかランプ持ってるしな……」

「優しいお姉さんにされるいたずらとはわけが違うね」

「本当、わけわからないから一回顔でも洗ってきたら?」

「おいおい、冷たいな。
番外編が続いて全く出番がないんだから少しくらいふざけてもいいだろ?」

「次回作決まってんだからいいじゃん」

「……ということはそろそろ僕らも本当にお別れって事だね」

「……だな。
あのカボチャ……なんて名前なんだ?」

「ジャック・オー・ランタン、だよ」

「お前も、ハロウィンの季節に世界の敵が現れたら筒みたいなその帽子じゃなくてそっちかぶったらどうだ?」

「……遠慮するよ」

「そう?結構かっこいいじゃん、あれ」

「ジャック・オー・ランタンがかっこいい、ね……」

「ん?どうかした?」

「いや、なんかいやな予感がしただけさ……」

「そっか」

「あぁ」
694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/24(水) 22:38:48.08 ID:LCGwX+ca0
完結おめでとうございます
本編も青天も上泡も楽しませてもらいました
青天は確かに二人の心がぐちゃぐちゃしてたとはいえ、最後にはいいところに落ち着いたのでよかった。

次回作も期待してます。
あと、可能ならタイトルにクロス相手の名前もあればいいと思います。
今回も中身見るまで禁書SSとはわからんかったし
クロスならブギーファン以外も引き込んでしまわないと
それだけのおもしろさはある!
695 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/24(水) 23:38:24.50 ID:huhuXfaAo
>>692
いままでありがとうございました!
雑談はもうちと続くから暇があったらまた覗いてみてよ

>>694
雑談はもうちと続くからよかったら読んでよ

それも考えてみる、ありがとう!
スレタイ禁書っぽさ皆無だしね、これ

ブギーポップ・クロス VSイマジンブレイカー
佐天「ブギーポップ?」
青髪「ニュルンベルクのマイスタージンガー」
上条「藤花ちゃんと黒い筒」
とかにしたらよかったかも

というかブギーポップ・クロスって名前がダメなのかもな、俺はかなり気に入ってるけどクロス相手をタイトルに入れにくくなる

普通に次は

ハルヒ「ブギーポップをさがすわよ!」キョン「やれやれ」

キョン「ブギーポップ?」古泉「死神らしいですよ?」

こんな感じにしようかな

なにはともあれ助言ありがとう!
696 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/25(木) 00:05:01.56 ID:F+6jhGnFP
上条さんには熱い紅茶があるから銃は効きません

ともあれ一先ずお疲れ様
次回作も裸待機でwktkしときます
697 : ◆qXEKQweJllf. [sage]:2012/10/25(木) 00:40:56.87 ID:SpBVxoeio
>>696
それネタに使えば良かった……
完全に忘れてたわ

ありがとう!
次回もよろしくたのむぜい!
698 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/25(木) 05:45:42.40 ID:fnuDRD+DO

番外編、誰もかれも悩んでる感じが自分は好きでした
次回作もゆっくり待ってます
699 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/25(木) 22:46:19.70 ID:SpBVxoeio
浜泡雑談その一『主人公』

〜〜〜

「……なんだ、この状況」

「夢みたいなものだ。あまり深く考えるなよ」

「誰だ、お前?」

「いつも上条くんとばかりやってたらつまらないからね。今日はいろんな都合で書くのを断念した主人公についてその代表の君と話そうと思って」

「え?俺が主人公やる構想なんてあったの?!書けよ!」

「人の話を聞けよ、断念したと言ってるだろ?」

「……本当に……災難続きだなぁ」

「君の能力、それを僕はスクラップ・アレイ〈脇道の喧嘩〉と名付けた。そして君の番外編は『スクラップ・アレイの災難』だ。なんだ、ちゃんと主人公やってるじゃないか感心したよ」

「それを俺は誰かに見てもらいた……」

「わがままだな、じゃあ、少しだけ見るかい?」

「いいのか!」

「ここは君の夢だからね、お安い御用さ」

〜〜〜

「スクラップ・アレイ……俺の能力は人に喧嘩させる、ただそれだけだ。当然、一対一じゃ使っても意味がない。だけどな、こうやって一対多ならお前から逃げることだって簡単なんだよ」

「チッ……この腑抜けが!」

「バーカ!君子危に近寄らず、だよ!ほんじゃ、俺はさっさとトンズラするぜぇええい!」

「クッソ、あのガキ……絶対に殺してやる」

〜〜〜

「先輩?」

「あぁ、青髪じゃん、久しぶり!」

「な、なんで?先輩は死んだはずじゃ……」

「ん?校舎から飛び降りたくらいで合成人間の私が死ぬわけないじゃん!」

「ご、合成人間?」

「青髪の大将、そいつはお前の知ってる先輩じゃあないぜ?合成人間、パールだ」

「な、なんやそれ……?意味わからんって」

「じゃあ教えてあげる。この顔の持ち主は、とっくに死んだ。この街のダイアモンズの構成員と統和機構の抗争に巻き込まれてね」

「統和機構?」

「大将、俺は統和機構から狙われてる。
だけど俺は絶対に逃げ切ってみせる!だから、あんたを利用させてもらうぜ?」

〜〜〜

「こんな感じになったかもな」

「お、おぉ……逃げ回るだけとは……もっと主人公ってこうさ?」

「人生そんなもんだよ」

「ち、ちくしょう……」

〜〜〜

浜面主人公のは残りレス数的に無理だと思うから割愛。でもかわいそうだから雑談で少しだけ出番をね
青髪救うって決めたときから、先輩は合成人間にしようと思ってた
じゃなきゃ青髪さん救われないしね
700 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/25(木) 22:48:18.21 ID:SpBVxoeio
>>698
ありがとう!
そういってもらえると嬉しい

割りとみんなから良かったと言ってもらえてるしそこまでひどくもなかったんじゃないか、と思えた

次回も読んでください!
701 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/26(金) 03:38:37.70 ID:m8YadOJIO
忙しい忙しい詐欺は健在です。

一発目かけたからブギーポップ×ハルヒのスレをそろそろ立てようと思う。

今回のこれでSS二作目なんだけどこれ書きはじめは一作目のラストと同時進行で、これ終わった途端新スレ立ててまた新しく始めるとか俺なんなんだろうね。
702 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/26(金) 03:54:03.99 ID:FYi7HevEo
ハルヒ「ブギーポップを探すわよ!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1351190478/

立てちゃった

今回もよろしくお願いします!
703 : ◆qXEKQweJllf. [saga]:2012/10/31(水) 03:30:57.87 ID:4e/ZGBAOo
上泡雑談その八『おわり』

〜〜〜

「何かが始まったらあとは終わるだけだ。
人間も生まれた瞬間から死に向かい歩いているわけだし、それはわかるだろう?」

「ん?あぁ、終わらない事なんかないしな。
この世に平等に唯一絶対あるのは「終わり」だけだしな。
久しぶりに真面目だけどどうした?」

「終わりよければ全て良し、ってことさ」

「……なるほどな、次の世界の敵が現れたって事か」

「そういう事さ、この街にももうくる事はないだろうな。
君の顔もきっとこれが見納めだ」

「……わかんねーぞ?なんせ俺は不幸だからな、不幸にもまたお前にあっちまうかもしれねー」

「ひどい事をいうね。
まぁ、いい……じゃあな上条くん。
君は僕の二人めの友人だ、また会える事を……いや、もう会えない事を祈っててくれ」

「おう!
じゃあな、ブギーポップ……藤花ちゃんをよろしく!」

ぴゅう、と返事のように口笛が聞こえた気がする。


上泡雑談 おわり

〜〜〜

新スレもよろしく!
今週中に依頼するつもりです!
感想とか批評あったら貰えると嬉しい
ほんじゃあ読んでくれてありがとう!
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