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文才ないけど小説かく(実験)2 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2012/08/12(日) 23:39:04.25 ID:Fg9PIfkp0
ここはお題をもらって小説を書き、筆力を向上させるスレです。





◆お題を貰い、作品を完成させてから「投下します」と宣言した後、投下する。



◆投下の際、名前欄 に『タイトル(お題:○○) 現在レス数/総レス数』を記入。メール欄は無記入。

 (例 :『BNSK(お題:文才) 1/5』) ※タイトルは無くても構いません。

◆お題とタイトルを間違えないために、タイトルの有無に関わらず「お題:〜〜」という形式でお題を表記して下さい。

◆なお品評会の際は、お題がひとつならば、お題の表記は不要です。



※※※注意事項※※※

 容量は1レスは30行、1行は全角128文字まで(50字程度で改行してください)

 お題を貰っていない作品は、まとめサイトに掲載されない上に、基本スルーされます。



まとめサイト:各まとめ入口:http://www.bnsk.sakura.ne.jp/

まとめwiki:http://www.bnsk.sakura.ne.jp/wiki/

wiki内Q&A:http://www.bnsk.sakura.ne.jp/wiki/index.php?Q%A1%F5A



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1327408977(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1344782343
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【リトバス】理樹「ストーカーに狙われるようになった」 @ 2020/06/06(土) 01:34:01.19 ID:3998YRn80
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【イナイレ安価】クロス・オリオン @ 2020/06/06(土) 00:14:53.35 ID:EA/3YXpu0
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月を見るたび思い出す @ 2020/06/05(金) 22:46:05.37 ID:2b6aeKr40
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【女子高生の無駄づかい】バカ「王様ゲームだ!」【安価】 @ 2020/06/05(金) 21:24:14.81 ID:209CtwpA0
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続・毎日楽しく生きてます! @ 2020/06/05(金) 19:59:03.46 ID:L60k09s90
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バニル「安価式占い」カズマ「なんだそれ」 @ 2020/06/05(金) 18:13:55.42 ID:R+cwLGL+O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1591348435/

チノ「やれやれで……だぜ」 @ 2020/06/05(金) 09:56:08.16 ID:zE5Ox/IdO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1591318568/

その時は私を @ 2020/06/05(金) 08:25:12.62 ID:2qmmrsdx0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1591313112/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/12(日) 23:40:35.41 ID:Fg9PIfkpo
▽書き手の方へ
・品評会作品、通常作を問わず、自身の作品はしたらばのまとめスレに転載をお願いします
 スレが落ちやすいため、特に通常作はまとめスレへの転載がないと感想が付きづらいです
 http://yy46.60.kg/test/read.cgi/bnsk/1309692934/
 作業量の軽減にご協力ください
 感想が付いていない作品のURLを貼れば誰かが書いてくれるかも

▽読み手の方へ
・感想は書き手側の意欲向上に繋がります。感想や批評はできれば書いてあげて下さい

▽保守について
・創作に役立つ雑談や、「お題:保守」の通常作投下は大歓迎です
・【!】お題:保守=ただ保守するのも何だから小説風に保守する=通常作扱いにはなりません

▽規制されている方へ
>>1から辿って行けるまとめ板に、規制者スレがあります。
 そちらの方に投下していただければ、心ある人が転載してくれます。

▽その他
・作品投下時にトリップを付けておくと、wikiで「単語検索」を行えば自分の作品がすぐ抽出できます
・ただし、作品投下時以外のトリップは嫌われる傾向にありますのでご注意を

▲週末品評会
・毎週末に週末品評会なるものを開催しております。小説を書くのに慣れてきた方はどうぞご一読ください。
 wiki内週末品評会:http://www.bnsk.sakura.ne.jp/wiki/index.php?%BD%B5%CB%F6%C9%CA%C9%BE%B2%F1
 ※現在は人口減少のため、不定期に開催しております。スレ内をご確認ください。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/12(日) 23:48:19.41 ID:Fg9PIfkpo
◆1ImvWBFMVgさん投下どうぞ

以降、投下順

◆7az9zC1iQsさん
ID:jt57Ksiv0さん?
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2012/08/12(日) 23:48:22.90 ID:j3F87tL90
>>1
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/12(日) 23:54:14.01 ID:Fg9PIfkpo
◆1ImvWBFMVgさん、いませんか?

五分たちましたので、投下繰り上げします。

◆7az9zC1iQsさん投下どうぞ

以降、投下順

ID:jt57Ksiv0さん?
――以下、時間外(にします?)――
◆rmqyubQICI
◆1ImvWBFMVg
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/12(日) 23:58:49.13 ID:wlkJgjJSo
>>1
あと投下中のレスは控えた方がいいと思う
7 : ◆1ImvWBFMVg [sage]:2012/08/12(日) 23:59:19.73 ID:ez1SVrJF0
いや大丈夫。書き上がったから。
8 : ◆7az9zC1iQs :2012/08/13(月) 00:00:29.86 ID:x3dEhYxz0
こっちに投下でおkかな
投下します
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/13(月) 00:01:11.08 ID:tuKYVoTuo
◆7az9zC1iQs さんどうぞ
10 : ◆7az9zC1iQs :2012/08/13(月) 00:01:11.28 ID:x3dEhYxzo
>>7
どうぞ
11 : ◆1ImvWBFMVg [sage]:2012/08/13(月) 00:01:50.89 ID:w5RtmRbo0
じゃあ投下します。タイトルどうしよう。

マリアと 全七レス
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/13(月) 00:02:21.89 ID:tuKYVoTuo
では、◆1ImvWBFMVg さんから

◆7az9zC1iQs
ID:jt57Ksiv0さん?
◆rmqyubQICI
13 :マリアと 1/7 ◆1ImvWBFMVg [sage]:2012/08/13(月) 00:03:36.77 ID:w5RtmRbo0
もしこの世に女神が存在したとして、はたしてそれは本当に人の形をしているのだろうか。

女神というものを語るとき、美とは何か、次にはそんな命題が頭をもたげてくるかもしれない。
世の中には美しいものと醜いものがある。これは歴然とした事実だ。例えばいつまでも眺めていたくなるような美しい景色があり、また逆に、目を覆いたくなるような醜悪な吹き溜まりがある。
もちろん美しい顔や、醜い顔もある。ではその違いとは何なのか。
整っている。均整を保っている。清潔感がある。汚れがない。これらを挙げることは簡単だが、まだどこか芯を食っていない面持ちがある。なぜか。

おそらく美しさというのは、生理的な欲求や即物的な必要性というものからかけ離れた、遙かに超えた不思議な感動を呼び起こすものを差すのではないだろうか。
だが人の欲望は果てしなく、その降って湧いたような感動でさえも余計に手に入れたがる。
人生の美しさを語ろうとしたとき、どれだけの小説家たちが言葉では表せない秘密を原稿にあぶり出そうと必死にもがいて、挫折を繰り返してきたことだろう。
どれだけの音楽家たちが、音の魔翌力に取り憑かれ、美しい調べを求めて時間を潰してきたことだろう。
どれだけの画家たちが。どれだけの数の人々が。どれだけの。
もちろんそれ自体はひどく感動的な話だ。だが醜悪であることだけは間違いようがない。

もしこの世に女神が存在したとして、はたしてそれは本当に人の形をしているのだろうか。


 地主なんて物が幅をきかせていた時代。孤児であり、その地主に拾われた自分は、幼い頃にある問題を起こした。その地主様にけがをさせたのだ。あり得ないことだった。だがありがたいことに地主様は幼い子供のやったことと、すべてを不問にして子供を別の土地に移してくださったのだ。もちろん表向きは。なにが起きたかは思い出したくもない。
 ショックでほんの少しのあいだ口が利けなくなった。ただほんの少しだ。次の日には普通に話せていた。ただ口が利けない方が何かと好都合だった。
なので自分はそのまま喋れないふりをした。もともと口数の少ない方なので、それほど苦でもなかった。
ただ、不具になった自分を屋敷は見放した。教会でなら恵まれない者にも優しいだろうと、修道院送りにしたのだ。もちろん教会だって建前上すべてを受け入れる姿勢を見せる。
14 :マリアと 2/7 ◆1ImvWBFMVg [sage]:2012/08/13(月) 00:04:49.58 ID:w5RtmRbo0
だが修道院だって人の集まりであり、必要のないものは自然と疎まれていく。
そんな風にして、しばらくして自分は何処ともしれない片田舎の教会に送られていた。

その教会は今にもつぶれそうな建物だった。本堂には幾重にも蔦が絡まり、塗装は剥げ、まるでみすぼらしさを絵に描いたような様相を呈していた。
そこでは別棟にひとりで暮らす神父が、唯一の住居人だった。
「あなたが口の利けなくなった少年ですね。素晴らしい。『貧しい人々は幸いである、神の国はあなたがたのものである』教会はあなたのためにあります」
 初めての顔合わせで、くたびれた聖書を小脇に抱えた老人にそう教えられた。なぜ牧師という人種はそんな気休めの言葉ばかり宣うのだろう。埃っぽい部屋のなかで居心地悪く立ちながら、そんなことをぼんやり考えていた。
 
 与えられた仕事は教会の講堂の床掃除や、すす払いやタイル磨きなどが主な物だった。どちらかと言えば徒労感しかない仕事だったが、割合すんなり馴染むことが出来た。一人で黙々と励む作業の方が、世間の疎ましい煩わしさを忘れさせてくれたのだ。
講堂にある物と言えば、何列かの長椅子と、聖書を置くための説教台、大きな十字架と聖母マリア像ぐらいしかなかった。そのすべてに雑巾掛けをしても、一時間とかからない。もちろん埃はいくら払ってもまた次の日には積もるので、毎日行う必要はあったが。
講堂の正面をかざる聖母マリア像は、とても美しい像だった。作者は不明であったが、芸術に疎い自分にも、はっとさせるほどの神々しい息吹が其処此処から感じられた。
絹のドレスを着せられたまだうら若き聖母マリアで、OOOというよりギリシャ神話の女神像に近かった。
近くで見るとますます迫力があり、原寸大の大きさで目の前に迫ってくる。正直に打ち明けてしまうと、自分は胸の開いた部分から見える谷間にひとり興奮していた。必死で雑巾掛けをしながら、執拗に何度もなで回した。もちろん聖母マリアはなにも言わなかった。彼女の堅い感触を股間になすりつける。午前中はそんな風に過ごした。

 もちろんいつでも聖書は片手に持たされていた。入って間もなく、神父に聖書を読む様に言い渡されていたのだ。何事もまずはそこから始めないといけない物らしい。
「何度も繰り返し読みなさい。一文一文が血や肉と同じ物に変わるまで」
 その時も言われたとおり聖書を広げ、一応読むだけは読むふりをしてみた。だが、内容はさっぱり頭に入らなかった。それにもちろん真面目に取り組むつもりもあまりなかった。
だいたい自分は口が利けないのだ。だと言うのに(実際は話せるが)、宣教師の勉強などしてなんの意味があるのだろう。目に前でそんな顔をしながら読んでいると、神父はこちらの考えを汲み取るように、こう言った。
「血や肉に意味は必要ですか。あなた自身の分身であるその血と肉に」
15 :マリアと 3/7 ◆1ImvWBFMVg [sage]:2012/08/13(月) 00:06:34.85 ID:w5RtmRbo0
午前中のうちに掃除を終わらせると、日中はそのほかにやることはほとんどなかった。別棟の家畜小屋で飼っていた山羊を放牧させるくらいだろうか。
山羊は大人しく、放っておいても遠くに行くことはなかった。教会の近くの草原で寝転がり、空を見上げながら時間を過ごした。なにもなかった。吹き抜ける風と暖かい日差しと、空だけが、目の前一面に広がっていた。
よく朝方の拭き掃除の興奮を思い出してしまい、そのまま手淫にふけることもあった。だがあまり上手くはいかなかった。マリア像の硬く冷たい感触を思い描いているのに、実際に触れているのは柔らかく生暖かい自分の肌で、それが興奮を萎えさせていた。

 暑い日は、山羊を川べりに連れて行き水浴びした。水をかけてやると山羊も喜んでいるようだった。持っていた手ふきで体を洗ってやる。山羊の体は硬く締まり、掛けられた水で冷やされていた。
何度か拭いてやっている内に、ふとその感触が何かと似ていることに気がついた。マリア像だ。もちろん目に映る姿形は全く似ていない。だが一度入ってしまった興奮の高まりを押さえることは出来なかった。
気がつくと自分は山羊の膣にせわしなく突き立て、腰を動かしていた。山羊も始めは少し抵抗する姿勢を見せたが、最中は大人しくされるがままであった。
神父がこの姿を見たら一体なんと言うのだろう。そんなことを考えながら山羊に覆い被さり果てていた。

 平日は、寂れた牧草地にあるその教会を訪れる者はほとんどいなかった。日曜の礼拝にも何キロもさきから訪れる物好きが来るぐらいで、それだって両手で数え終るほどのものだ。神父は暇そうに席につき、聖書を開くか、物思いにふけって過ごしていた。おそらく日曜の説教の文句でも考えていたのかもしれない。
 山羊の放牧から帰ってくると、昼ご飯を食べたあと、聖書の勉強が始まった。
「罪と罰について。人は生きている間、思いつく限りの様々な罪を犯します。でも償うことが出来ます。罰によってです。自ら犯した過ちを認めて反省し、刻印を受け生きていくのです」
 先ほどまで無抵抗の山羊を犯してきたばかりの自分には、ひどく耳の痛い話だった。一度放出してしまうと、何故こんな事にとらわれていたのか分からなくなるほど空しい行為だが、一日経つとまたぞろ頭をもたげて昂ぶってくる。その繰り返しにうんざりしていた。
「一時期、教会は道を間違えました。あの悪名高い免罪符です。悲しい話です。すべてを公平に受け入れる立場の者がです。告白し悔い改めなさい。神は許されます」
 神父は胸の前で十字架を切り、講堂の前の大きな十字架に祈りを捧げている。もちろんその奥にあるマリア像も見えた。あのひどく肉感的な美しいマリア像。
いま自分が抱いている感情も神は許してくれるだろうか。だが自分は喋る口を
16 :マリアと 5/7 ◆1ImvWBFMVg [sage]:2012/08/13(月) 00:07:39.78 ID:w5RtmRbo0
持たない。その日告白は行われなかった。

まるで判で押されたように同じ毎日が続くなか、ただ季節だけが通り過ぎていった。
あれだけ熱中した山羊との交尾もそのうち慣れきってしまい、手淫と変わらない味気ない物に成り下がっていた。余程の欲求不満でもない限りやらなくなっていた。
聖書の方は一先ず全編を読み終わり、二回目の読み込みに入っていた。もちろん以前としてさっぱりよく分からないままで、ただ字だけを追っているだけであった。

ある日のことだった。いつもの様に山羊を放牧に連れて行こうとしたら、家畜小屋の繋がれている柱に羊の姿がなかった。
神父に訪ねると、どうやらあの山羊は預かり物の家畜だったようで、持ち主に言われて返しているところらしい。そんなことをのんびりとした口調で聞かされた。
「気になりますか。ずいぶん親身に世話を見ていましたからね」
別にどうでもいい。それが本音だった。だがいつもの様に口からは言葉は出なかった。
元からあまり話す方でなかったとはいえ、ここのところほんとうに会話をしなかったので、その仕方を忘れてしまっていた。
「山羊はここから二キロ離れたお宅にいます。暇な時にでも会いに行ってあげてください」
 神父にこう言われたからと言って、別段会いにいくつもりもなかった。それでも会いに行ったのは、たぶんどうしようもなく暇だったせいかもしれない。

 教会から北へ歩いて半刻。それほど行くと、田舎で見かける典型的な酪農家といった感じの、広大な敷地を持った屋敷がその視界に見えてきた。
山羊がいる小屋はおそらく母屋とは離れたところに見える、あの家畜小屋らしき建物の中だろうか。
酪農家の家畜小屋は、当然とはいえ教会の小屋とは規模からしてずいぶん違っていた。横の幅だけならあの教会がまるごと入りそうな大きさだ。
 影からこっそり様子を覗いて帰るつもりだった。本来なら酪農家の人に挨拶するべきであったが、口も利けない点も含めて、なにかと手間が億劫だった。

 忍び込んだ小屋の中は日の光が届かず、思ったよりもかなり薄暗かった。あちこちに柵が張り巡らされ、牛たちのひどく大きな影がゆっくり動いている。その中で小さい影を探したが、たいていは牛の赤ん坊だった。
 あの山羊はもっと華奢な体つきだった。白くて、痩せこけて、敏捷そうな感じだ。視界の端、小屋の隅っこに、それらしき影を見た気がした。おもむろに近寄り、手を伸ばそうとした時、なんとその影から声が発せられた。
「あら。どうかしたの。ここは隠れん坊をするような所じゃないわよ」
17 :マリアと 5/7 ◆1ImvWBFMVg [sage]:2012/08/13(月) 00:09:34.38 ID:w5RtmRbo0
一瞬山羊が人の言葉を喋ったのかと思い、心臓が口から飛び出そうになった。もちろん違った、たぶん酪農家の家族の一人なのだろう。
「小さいのに修道服なんか着て…あぁそう、あなたがあの例の男の子なの」
おそらく神父から色々と聞いているのだろう。その妙齢の女性は、こちらを興味深そうに眺めて確認している。
やはり落ち着いた雰囲気に、どこか山羊を思わせる面影を持っていた。そのため、目を合わせることが出来なかった。周りが暗いためよくは見えないが、どうやら綺麗な女性のようだ。神父以外の人間と触れ合うのは久しぶりで、どう対処していいか分からなかった。
「山羊に会いに来てくれたのかな。でもごめんね、報告遅れたけど、もうあの山羊は人に貰われて行っちゃったの」
 首を横に振った。別にいい、というような意味だったが相手はそう取らなかった。
「ごめんね。どうしても欲しいって人がいてね」
 酪農家の娘は申し訳なさそうにそう言うと、慰めるつもりなのか、こちらの頭を優しく撫でてきた。一体どういうつもりだろう。体の小ささのせいで幼く思われるが、それにしてもそんな泣くような歳ではない。口が利けないという事で、なにか特種な人間だとでも思われているのだろうか。

あえて否定するのも面倒なのでそのままされるがままにしていた。顔の近くにだぶだぶの服から覗く谷間が見えていたのもある。自らの陰茎にじんわりと血が登っていくのが分かった。近づいてみてようやく、暗いながらに娘の顔がはっきり見えてきた。美しい顔立ちだった。だがそんなことはどうでも良くなった。
 そのとき自分の身体には、驚きのあまり衝撃が走っていた。なんと娘の顔は、あの教会のマリア像にそっくりだったのだ。
「どうしたの。ずいぶん息が荒いけど」
 無理だった。我慢出来ずに抱きついていた。急に抱きつかれた娘は、そのまま慌てて突き飛ばしてきた。当然といえば当然の結果だろうか。
「ちょっと。え、待って何をしてるの。君、教会の子だよね」
 場に緊張が走った。咄嗟に声を出さずにひたすら泣きわめくような悲愴なフリをしていた。目の前の相手がそういうのに弱い気がしたのだ。
果たして、思ったとおりだった。娘は一転して装甲をくずしていた。
「やだな、違うの、ごめんね。そうだよね、あれかなお母さんかな。似ていたんだね。ほんと違くてね」
 そのまま二三度むずがるフリをした。相手がこちらを引き寄せるのを待って、ゆっくりと胸の谷間に顔を埋めた。
今度は、その柔らかな乳首に吸いついても抵抗さえされなかった。
18 :マリアと 6/7 ◆1ImvWBFMVg [sage]:2012/08/13(月) 00:10:49.45 ID:w5RtmRbo0
でも最後までやるのを我慢して、その日はそこで帰ることにした。彼女はなにも言わなかった。

教会の講堂で神父が山羊に会いに行ったかどうか尋ねてきた。
「どうでした。山羊は元気にしていましたか」
 その質問には答えず、手に持っていた聖書の中の『娘』という一文字を指差して突き出した。すると神父はしばらく眉をひそめてから、合点がいったように手を打った。
「あぁ、牧場主の娘さんに会いましたか。あの山羊も彼女が世話していましたからね」
 神父は嬉しそうに言った。おそらく娘と仲が良いのかもしれない。
「あの娘は素直でとても素敵な子です。また熱心な信者でもある。あの真っ直ぐな瞳には感動さえ覚えるほどです」
 その通りだった。美しい芸術、この自分だけに現れた、聖母マリアだ。
「初対面でも気さくに振舞ってくれたでしょう。あなたたちなら仲良くなれると思いますよ」
 当然だ。体を合わせたのだから。どれだけ知らなくても、仲良くもなれるという物だ。

あれから次の日、自分は当然小屋に会いに行ってみた。すると、彼女は困ったように小屋の中で立ち尽くしていた。多分こちらを待っていたのかもしれない。その思いつめた表情には、拒否を示す意思が見えた。
どうしていいかわからず、離れたところで立ち竦んで向こうの言葉を待った。
「どうしたの。私も忙しいしあんまり頻繁に遊びに来ちゃダメだよ」
 たぶんすべてを終わらせる気だ、彼女の表情にそう感じた。無言でずっと首を降り続けた。五分ほど、また頭を撫でてきた。あとは昨日と同じ流れだった。とは言え一線を超える時、やはり少し抵抗があった。ほとんどなし崩し的に最後までやっていたが、実際はギリギリだったのかもしれない。
 終わったあと、恐ろしいほどの快感に頭が痺れた様になり、しばらくの間は動けないほどだった。最中、腰を動かしながら、頭の中にずっとマリア像の感触が甦ってきていた。目の前でその美しい顔が快楽に歪む度に、想像もし得なかった痺れが頭に突き抜けた。稀有な体験をその身に受けている事を全身で喜び感じていた。

 言うまでもないが、もちろんその後も何度も会いにいった。彼女ももう断ることをしなかった。その顔はまるで目の前の講堂にあるマリア像そのものだった。美しく慈悲深い、何もかも受け入れるような顔。
そんな顔を思い出しながら視線が講堂の正面に奪われっぱなしであった。神父がその自分の様子に気がついた。
「あぁ、そうですね。あのマリア像。彼女によく似ている。でも確か。そうです、それに
19 :マリアと 7/7 ◆1ImvWBFMVg [sage]:2012/08/13(月) 00:11:36.56 ID:w5RtmRbo0
はいわくというか、理由があるんですよ」
 神父は思い出したように付け加えた。彼女とマリア像が似ている原因があるとは一体どいうことだ。
「あのマリア像はね、彼女の先祖代々に受け継がれてきたの品物なんですよ。教会に元からあった物ではなくてね。元々は聖母マリア像というよりは、美しい娘をモデルに模った嗜好品です。それを教会に寄附して頂いたのが数十年前だとか」

 急にすべてが色あせてしまった。教会のマリア像も、酪農家の娘も。あの地主とのことだってどうでも良くなった。
神父が出かけて留守にしている隙を狙って、教会に火をつけた。だが湿気でくすぶった教会は燃えもしなかった。マリア像が不敵に笑っている気がした。何か言わなくてはいけない気がした。
だがその時出てきたのは、のどのかすれた山羊に似た泣き声だけだった。



20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/13(月) 00:12:16.56 ID:tuKYVoTuo
おつかれさまでした。余裕がありましたらまとめスレに転載もよろしくお願いします。
http://yy46.60.kg/test/read.cgi/bnsk/1344756608/

では、◆7az9zC1iQsさん投下どうぞ

書き込み時はメール欄に「saga」と書き込むようにしましょう。
そうしないと、この板の仕様で伏せ字にされることがあります。

以降、投下順

ID:jt57Ksiv0さん?
◆rmqyubQICIさん
21 :聖娼婦るなるな 1/6 ◆7az9zC1iQs :2012/08/13(月) 00:15:28.83 ID:x3dEhYxz0
僕のような強欲な愚鈍にとって、他者とコミュニケーションをとろう?とする?手段はほぼ三つに限られる。
1.呻き声をあげる
2.血を流す
3.無意味な物語を作る
これだけだ。呻き声をあげる、というのはまさにそのままだろう。血を流す、というのは、ただ自身が思うもっとも重い鈍器で自分を殴ろうとすること
だ。他人もろとも。
最後は一番わかりやすい。物語を作り、面白い面白くないで評価してもらおうという魂胆だ。まるで手淫の一擦りのような現象であろうとすることだ。
面白い物語でありさらに重要な意味を持つーーでありたいというのは妄想だ。強欲な発想だ。強欲な愚鈍の発想に過ぎない。
いくら面白かろうと意味がなければ意味はなく、いくら意味があろうと面白くなければそれは崖のように断絶だ。ただ無人島の川の水面に神を見ることに
等しい。
懺悔するなら、僕はまだキャラクターの存在を信じたことがない。同じように、神の存在を信じたこともない。
だから、きっと、つまり、以下垂れ流される文章はまったく生きていない。神というものが我々が作った粘土細工であるように、以下流される物語のキャ
ラクターはすべて粘土細工に過ぎない。僕と言うその物語の神の。神という作者の。
我々自身も、粘土細工であればただ粘土細工の踊る世界でひどく愉快だったろうに。
神も、人も、物語の登場人物も、すべて粘土細工の踊る世界は。
神は人に宿る。



1、I WANT YOU

?I WANT YOU?
壁に張られたポスターにはそう書かれていた。今日やる夏祭り用のポスターだ。浴衣を着たアメリカ人がこちらを指差している。もちろん、WW1の兵隊
募集のポスターのパロディだ。
そのポスターは妙に今風のマンガの絵で描かれていて、多少の違和感が残った。
父さんが言う。
「今年はいけないよ、この夏祭り。すこし寂しいけどね」と。毎年父と、母と、僕の三人で行っていたものだった。父はポスターから目を逸らして笑って
いる。
22 :聖娼婦るなるな 2/6 ♯はみ出る :2012/08/13(月) 00:17:53.84 ID:x3dEhYxz0
「いつも通り、お祈りだ。でも、同生たちの間での夏祭りがあるらしい。そっちにいこう」
同生というのは父さんと僕の信仰している宗教での他の信者の呼び名だ。今はその集会へ行く夜道の途中だった。ポスターを照らす電灯には集まった蛾が
くるりくるりと奇妙に踊っていた。
「へー、蛾も盆踊りをするんだな」という明るい声が脳内で再生された。笑い声つき。母さんの笑いと声だ。もう一年前の会話なのに良く覚えている。
覚えてるのは、きっと、その直後に母さん自身が踊ったからだ。ばかばかしく、蛾が踊るように倒れたからだ。倒れ、頭をコンクリートに強打し、地面に
円く血を広げたからだ。
「さあいこうか。遅れないよう。そうだ! 帰りはファミレスにでも行こうか」父は笑って言う。
進む父の後を追いかけながら後ろを振りかえる。
ポスターには多少の違和感が残った。絵が微妙だとか。浴衣のアメリカ人が微妙だとか。それが、戦争という深刻なことだとか。
ポスターのように母さんの倒れた後の生活は違和感があった。血が円く広がるように、違和感はすべてのことに広がって行った。薄く、そのくせぎらぎら赤く。
僕は言葉を反芻する。
? I WANT YOU?
「神は君の母を欲しがられたのだ」
父さんは母さんが治るようになんでもやった。治すためにというより自身の精神の安定のためだったかもしれない。そしてその中の一つにこの宗教があった。はじめての祈祷ののち、母は一時的に良くなった。そして父はこの宗教にはまり込んでいった。
母がその後死んでもだ。
「神は君の母を欲しがられたのだ」
それが本当かはわからなかったが、ただ、僕たちの宗教が信者を欲しがっているのだけは分かった。
僕たちは夜道を歩いた。
反芻する。
「神は君の母を欲しがられたのだ」
僕たちは夜道を歩いた。

2、宗教
集会場は大きな和風の家だった。小さめのお寺くらいはあるだろう。門に不似合いなチャイムを鳴らす。びーごー。
「みんな来てるおります」「今日も救いを」「祈りを」
インターフォンはそう矢継ぎ早に機械音を発する。誰かも確かめないうちに。名も名乗らないうちにだ。
この声は教祖の夫の出口冠源次郎さんだった。聖蛇(せいだ。この宗教の神話上生物で、転じて教祖の夫という役職名を表す)の顔を思い浮かべる。僕は
少し舌打ちする。恰幅の良い体に異様に肉の削ぎ落とされた眼球廻りが特徴の人だ。だかれの飛び出るような眼球は多くの者を怯ませる。蛇ににらまれた
蛙のように。父さんはインターフォンの前でも少し小刻みに頭を下げ返事をしている。
怯えたそののち。教祖の神秘性と、聖女の優しさに、まるのみされるのだった。
僕と父さんは門の前で一礼してから中に入って行った。がらりと引き戸を開けて入ると、そこはほとんど異世界だった。
23 :聖娼婦るなるな 3/6 ♯はみ出る :2012/08/13(月) 00:19:44.64 ID:x3dEhYxz0
玄関からはずっと長い廊下が見えている。しかしその壁には、辺り一面びっしりと様々な色で二重丸が書かれている。赤、青、紫、黄色とどぎつい色で
だ。その奇妙な廊下にいつもながら圧倒された僕は、廊下の奥にある人を探す。いた。十三才。聖女。
いや、ただの少女。手を振るこの笑顔の持ち主はただ一人しか居ない。
ーーるなるなだ。
「あ、ギックンとおじさん! もう集会始まるよー」
にこにこして、こちらにとたとた走ってくる。それにたいして父さんは深々と頭を下げる。僕も同じようにする。父のためだ。
「ありがとうございます、聖女さま。どうか、今日も、哀れな私たち家族を救済してください」
「はいはい、オッケー。じゃ、ギックンもらってくね?」
そういうとギックンーーつまり僕の手を引いて、僕とるなるなは化粧室に入った。
途中、後ろから変な目線を感じたが気にしないことにした。
ーーバタン。ドアが閉じる。ちゃんと閉まっているか確認した。
るなるなは笑ってこちらを振り返った。
「ギックン、誕生日おめでとー!」
そう言って突きだした両手にはプレゼントが乗っていた。
ただ、ただ一袋のコンドーム。



3、僕は、きみが、ほしい

「ばか、僕の誕生日は明日だ」
僕は苦笑してプレゼントを突き返す。
「あれそだったけ?」
「まずさ。今日が誕生日ならこの部屋に入れてないだろ?」
ーーるなるなが祈祷をしない時、僕たちはいつもここで話をした。主にるなるなの化粧の手伝いという名目だ。るなるなの神聖さは幼さにある、と教祖は
言う。その神聖さを損なわないために、化粧を手伝ってもいいというのは僕だけなのだ。
成人になると純真さがなくなり 毒のような欲望が貯まっていく。そのため幼さのない者による化粧は、その欲望が「化け」た邪悪なものだとしたのだ。
しかし僕も明日で十五才。ここでの欲望を持つ「成人」に変わる。
24 :聖娼婦るなるな 4/6 ◆7az9zC1iQs :2012/08/13(月) 00:22:39.49 ID:x3dEhYxz0
「でもどーせなんだしさ、プレゼントぐらいもらっておけばいいのに」
ぷくー、と口を膨らます。
「どうせ、明日使うのに」
そうだ。るなるなは、コレ、の扱いに慣れている。クーラーが聞いてないせいか、ぴらぴらとはためかせ小さすぎる団扇がわりにしているほどだ。
るなるなは、信者の相手をしている。祈祷という理由で。信者たちの欲望とういう毒を消す為にだ。
ーーその小さな体で。
るなるなの初めての相手は出口冠源次郎だ。実の父だ。源次郎が聖蛇と呼ばれるののもここにある。
「るなるな、僕は何度もいってるが」と僕は諭すように言う。
「僕はるなるなをおかさない」
るなるなはすこしすねたような表情をする。
まるでわざとらしく、ヒトラーのように仰々しい言い方で語り始める。
「君だけに人類の始まりとその大罪を伝えよう。そう、神のほっする君のために。
ーー昔。そう昔、人は神の使いである蛇の形をしていた。川のように流れ、雷のように瞬き、大地のように緩やかに姿を変える。つまりもとの人類とは神
より使わされた現世の管理者なのだ。
しかしその蛇の人類はそれだけでは飽きたらず、自ら神になろうと欲望を持った。欲望は毒でありそれは牙から溢れだした。毒の垂れた川は反乱し生物を
土砂で潰し、毒の混じった雷は木々や森を燃やしつくし、毒の染み込んだ大地は割れて揺れた。それを押さえるために地上に落とされたのが、神を模して
作られた聖女だった。
その聖女は幼い体であった。神になりたいと思った蛇たちは聖女に群がり、聖女は七日七晩すべて蛇たちと交わり続けた。そうすることで、蛇たちの毒は
抜け現在の世界ができた。その中でも始めに聖女と交わった者は聖蛇と呼ばれた。
その後、二百五十年にわたり聖女は子供を産み続けたが、生まれたものは今の人類の形をしていた。これが人類の始まりである。しかし欲を今ももった人
類には、いまだ蛇が股間に垂れており、欲望が毒となって放出される。それがすべての災いのもとなのだ。すべての生活の破壊のもとなのだ」
「おお、流暢流暢」僕は言う。
25 :聖娼婦るなるな 5/6 ◆7az9zC1iQs :2012/08/13(月) 00:25:04.59 ID:x3dEhYxz0
「でしょー。じゃなくてさ、ギックン。わたしを犯さないといけないよ。あのね。そうじゃないといられなくなる。わたしは、るなるなは、もっとギック
ンと話したいよ? なんてことないじゃない。?君のお父さんだってやってること?だよ?」
違うんだ、父さんもやっていることだからやりたくないんだ。そう言いかけて止まる。もっと、言わなければいけないことがあったからだ。
「大丈夫、しなくても一緒にいれる」僕は彼女の瞳を見つめる。
「なんで、絶対に無理だよ? 欲望で汚れてるって言われて、ここどころか集会にもいけないかも」るなるなは心配そうな顔をしている。
僕はもっとほしいものがあったんだ。父よりも、信者たちよりも汚れてるかもしれないという欲。
「一緒に、逃げよう。るなるな、君がほしい」
るなるなを救いたいという、欲だ。
るなるなは目を見開いて、それから下を見た。僕は続ける。
「ずっと、考えてたんだ。逃げて逃げて、一緒に暮らそう。いっそ警察に通報してもいい。一緒に逃げて、一緒にいろいろなことを楽しもう。ねえ」
ーーるなるなはそっか、と消え入りそうな声で言った。そして、
「……あのね。私ね。夏祭りに行って見たかったの」と全く関係のないことを言った。悲しそうに笑ってる。
僕は、え、と妙に高くなってしまった声で返事をする。
「わたしって、ずっとここにいて、戸籍なんてものもないでしょ? それで、ここから出たこともない。一度だけ、一度だけ出てみたいと思ってたんだ」
一度じゃなく、ずっと、いつまでだってーーそう言う前に、口を人差し指で押さえられた。
ヒュルルル。どぱん。ああ、夏祭りが始まったのだと思った。僕の目から涙が伝った。人生最初で最後のプロポーズが失敗したんだ。そりゃそうなるさ。
「ああ、花火も見よう」
そう言って僕はるなるなの手を引いた。玄関を開けると迎えるように花火が夜空にきらびやかに咲いた。
数時間の逃避行が始まりだ。
走りながらるなるなは呟いた。
「わたしね、じぶんの仕事をほこりにおもってるの」



4、きっとこれは宗教の話
「ふう」 トントン、と原稿の束を整形する。ペットボトルのお茶を飲む。
僕はあれから家を抜け出し、日雇いの職などを転々とした。日雇いの職場に居る人は奇妙に顔が広い。そこでの噂で、父さんは死んだと聞いた。どうやら
あのとき既に病魔に侵されていたらしいが、幸せに死んだ、という。そうであってほしいと願う。
26 :聖娼婦るなるな 6/6 ◆7az9zC1iQs :2012/08/13(月) 00:26:09.22 ID:x3dEhYxz0
今僕は、職場での知り合いに紹介してもらってシナリオライターなんてものをやってる。
一応、食べていける程度には売れていた。きっとそれは、キャラクターなんてものを信じていないからかもしれない。道具のように登場人物を動かせた。
それか、いろいろと宗教知識があったからかもしれない。宗教の知識はいろいろな物語の下敷きになる。
ーーけど、僕は神を信じてない。だから、キャラクターなんてものは泥人形にしか感じない。
僕は昔から神はいないと思っていた。なんでって? そんなの、バイクにのった坊さんを見れば分かる。
科学の時代に生まれた。神秘の少ない時代に生まれた。それだけだ。そして宗教の現場を見てきた。それだけで十分だろ?
今思えば、僕は強欲だったのかもしれない。女神と祭り上げられている女の子とずっと一緒にいようと思ったのだ。しかも救うなんて思い違いをして。彼
女は他人を救っていることに誇りを持っていたのだ。もはや愚鈍とさえ言える。
あれから僕は恋人も友人もあまり作らなかった。すべてが嘘臭く思えたのだ。
ピンポーン。チャイムが鳴る。はいはい、と無気力で玄関に向かう。
僕のような強欲な愚鈍にとって、他者とコミュニケーションをとろう?とする?手段はほぼ三つに限られる。
1.呻き声をあげる
2.血を流す
3.無意味な物語を作る
これだけだ。僕はあくびをしながらドアノブを触ると、その奇妙な冷たさに妙な胸のざわめきがした。
救いなんてないと思っていた。ドアノブを廻してドアをぎい、と開けると、なぜだか視界が揺れていた。そしてほほなにか熱いものが伝っていた。
救いなんてないと思っていた。
「やっほー。るなるなちゃんが、君を救いにきたのである」
そう、この時までは。
僕は呻き声をあげる。
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/13(月) 00:27:37.03 ID:tuKYVoTuo
おつかれさまでした。余裕がありましたらまとめスレに転載もよろしくお願いします。
http://yy46.60.kg/test/read.cgi/bnsk/1344756608/

私は何も見ませんでしたが、念のためを考えるのならば
後で別トリで一度書き込んでおいたほうがいいかもしれません。

では、ID:jt57Ksiv0さん投下どうぞ

書き込み時はメール欄に「saga」と書き込むようにしましょう。
そうしないと、この板の仕様で伏せ字にされることがあります。

以降、投下順

◆rmqyubQICIさん
28 : ◆/sLDCv4rTY :2012/08/13(月) 00:28:55.11 ID:x3dEhYxz0
別鳥でやろうとしたらあこれだよ!
しないだろうが一応優勝したときの鳥おいときます
29 :守護女神伝説1/7 ◆InwGZIAUcs :2012/08/13(月) 00:31:13.07 ID:WuEBCDCV0
 それは俺が旅をしていた頃の話。やっと一人前の剣士になった矢先の事。
 幾重にも重なる波のように怒号と足音が聞こえたのは、不運にも昼食を食べているときだった……。
 いきつけの店は所々泥で固められた壁の頼りない家屋だが、紛いなりにも建物だ。店内に入れば安全かとたかをくくる。
 俺は特性の豚パスタを口の中に詰め込んだ。その独特の風味の油分を楽しもうとした瞬間である。

「私を匿って下さい!」

 凛とした声と木がひしゃげる音が店内に響き渡る。場は圧倒され、誰も状況に追い付けていない。
 当の俺は目を丸くしていた。
 腰までたっぷりとある綺麗な髪、女性独特の細い身体ということを、露出した腕のみでも判断できる。
やや控えめな胸はご愛嬌といったところだろう。しかし、強烈な違和感を発していたのは顔だった。美しいと言われれば
美しく、可愛らしいと言われれば可愛らしくもある。成長過程の美とでも言ったらいいのか……しかしそんな事は今はいい。 

「わ、私?」
「お、俺?」

 場を騒がせって居る当人も目を丸くしていた。それも無理はない。彼女は俺とそっくりだった。
 昔からそうだ。俺はこの顔のせいでいっつも女の子扱いされてきた。こんな事言いたくないが、
なまじ可愛いのか俺の事をよく知らない男に告白されたりした事もあった。それが一度や二度ではない。
親は親で俺を着せ替え人形にして遊んでいたし、俺の恥ずかしがる反応見て楽しんでいた……。
経験あるやつなら分かるかもしれないが、男に迫られるのは本当に怖い。
それが嫌で家出をして剣士となって今では大分男らしくなっていた……と思っていたのだが。
 口に頬張ったパスタをごくりと飲み込んだ。嫌な予感しかしない。
 彼女は何かを感じ取ったのだろう。雑に並べられた椅子の間を潜り抜け、俺の背中に隠れる。
小刻みに震えているのが分かった。
「お願い……します」
 消え入りそうな声に俺が一瞬躊躇していると、鎧を着込んだ兵士達が男達が現れた。
「民間人よ! 動くな!」
 言わずともこの状況下動ける人間なんていない。
 膠着した場に一人、やや背の高い痩躯の男が先頭に出てきた。
30 :守護女神伝説2/7 ◆InwGZIAUcs :2012/08/13(月) 00:31:56.00 ID:WuEBCDCV0
 鋭い目つきにオールバックを決め込んだ男はしばらく忘れられそうに無い殺気を放っている。
 同時に腰にかけられた豪奢な剣に目をやる。知らないこの界隈で知らぬ者などいないだろう。子供は憧れ、大人は
恐れる英雄騎士の剣だ。正義の使者といわんばかりに国家の紋が柄の先に刻み込まれている。
「さあ姫様、殿中に戻りましょう。というかですね、これ以上手を煩わせないでもらおう……生きてさえいれば、どのように
扱っても文句などどこからもでないのだから」
 言葉尻に、より鋭利な殺気を乗せ放つ男に、後ろに隠れた少女の身体は一層強張っていくのが分かる。
 なんというか、こればひょっとしたら国家レベルの大問題なのではないか?
「はは、失言が過ぎましたねぇ。ここに居る方々は逃走する姫様の魔術に巻き込まれ事故死……が妥当か」
 大仰に腰の剣を抜き放つ。この剣を大人が恐れる理由はただ一つ、絶対正義の象徴を有するこの剣が振り下ろされたが
最後。どんなに泣こうが喚こうが、非の所在は切先を向けられたほ方になることだ。
 俺が次の瞬間とった行動は最高点にはいかないにしろ、及第点にはなったらしい。
 横の壁に斬撃を放ち割れ目を作り、同時に蹴りを入れる。
 乾いた音と共にもろい壁は為す術無く破壊され、荒れ狂うように立ち上る粉塵に姿を隠した。叫ぶ店内の人々と
何より発狂する店長には申し訳なかったが、皆殺しよりマシなはず。ここで奴らは彼女を見逃すわけにはいかない筈だ。
「隊長! どうしますか!」
「ぎゃああああ!」
「く、何も見えない」
 逃げるには十分な時間を稼げるだけの混乱は巻き起こせたはずだ。 
「こっち!」
 俺は彼女を抱きかかえ、脇道に難を逃れるように走り出す。
 針の穴に糸を通すように瓦礫や人の最短を駆け抜け、ようやく喧騒が聞こえなくなった。
 その時だった。気を抜いたその瞬間――魔術と見紛う程の風が一陣俺達のすぐ脇を通り抜けていった。
「あなた中々やりますね……」 
 先ほどの男だった。どういう経緯かしらないが、英雄騎士の剣を持つだけの事はある。そこらへんの剣士とは格が違う。
 剣を肩にかけ、薄気味悪い笑みを浮かべながら男は言葉を紡ぐ。
「名は何と言う?」
「リク」
 俺は短く答えた。当然臨戦態勢を解くような真似はしない。
「どれ、ちょっと小手調べを」
 なんというかね。もういいよ。こうなった時点で俺の人生は大分終わり。正義の剣に歯向かい生きていられる自信なんて
31 :守護女神伝説3/7 ◆InwGZIAUcs :2012/08/13(月) 00:32:33.79 ID:WuEBCDCV0
小指の爪の先もないし、万が一生き延びたとしてもお尋ね者は免れないだろう……。
 だから俺は彼女を脇に下げ、全力を足の裏に集めた。魔術とは違う戦士の持つ気の力――闘気!
「うらぁ!」
 小手調べと言った男の不意をつく! 先ほどの彼よろしく刹那に間合いを縮め、自身の腰に下げた曲刀を抜くと同時に
横薙ぎとして彼の胴に叩き込む。俺が現状相手を圧倒できる可能性のある大技だ。足、腕、刀身の順に気を一気に巡らせて
爆発的な威力を生み出す事が出来る。
 驚愕を浮かべた彼は俺の一撃を辛うじて受け取めるも、その衝撃は殺せなかったようで壁に叩きつけられた。威力は収まらず、
壁を突き抜けていく彼に驚いているのは俺自身だった。
「た、倒せたのか?」
 呆気にとられた俺は、再び下手を打った。
「ふむ、本当にいい腕ですね」
 鳥肌が立った。いつの間にという間もなく彼は後ろに立っていた。
「ちょっとした分身魔術ですよ? 簡単に引っかかっている分はまあ経験がまだ浅いのでしょう」
 隙の無い眼光が俺の方を見ている。次いで彼女の方にも目を向ける。
「君、ふむ……行きなさい」
「な、何がしたい!」
 俺は混乱した。何がしたいんだこいつは! 俺達を襲っているんじゃなかったのか!
「いいから行けと言っているんです!」
 やがて、足音が聞こえてきた。この騒ぎを聞きつけて来た兵士だろう。
 俺は歯を噛みしめ、彼女と一緒にその場を去ることしか出来なかった。

***

 俺の家は地下水道の横穴にできた空洞を改造して住まわしてもらっている。旅の間借りにしては長居をしているが、
そろそろ実力もついてきたので、そろそろ祖国に帰って兵士にでも志願しようと思っていたのだが……。
「訳分からない事ばかりだよ」
 そういって頭を掻き毟る。少女は名をリリスと言った。
「ここはそうそう見つからないし、誰も話を聞いていないと思う。話を聞かせてくれないか?」
 彼女はゆっくりと頷いた。
「巻き込んでしまってすみません……訳を今話します」
32 :守護女神伝説4/7 ◆InwGZIAUcs :2012/08/13(月) 00:33:40.88 ID:WuEBCDCV0
「私はこの国の次期王妃として迎えられました。あの、守護女神伝説ってしっていますか?」
「知っている。というかこの国で知らない人はまず居ないだろう。といっても、俺もそこまで詳しくない」
「では、一応お話をしますね。この国は外壁が無く結界に守られた大国です。外をうろつく魔物も近寄れませんし、
故に人々は豊かに安心して暮らすことができます。これはこの国の初代王妃が強大な魔翌力を用いて結界魔術を国の全土に
張ったのが起源とされ、その事の顛末を書いたのが守護女神伝説です」 
 俺は頷いた。そこまでは俺も知っているのだ。この国は他国と違って強固な外壁と呼べるものがないし、
国土を考えるとそれを囲むのは現実的に不可能だ。そんな事実を再確認してきた彼女の次の言葉はにわかに信じがたいものだった。
「実はこれ、真っ赤な嘘なんです。この国は結界に守られてなどいませんし、魔物も本当は入ろうと思えば入る事が
出来るのです」
 流石に俺は耳を疑った。あの魔物がこの国に平然と入るイメージが沸かないのだ。
「まさか? 仮にそれが本当だとしたら、この国はどうやって守られている?」
 リリスの言葉には無理があった。事実がある限り彼女の言葉は妄言でしかない。
「それは……」
「それは私からお話をしましょう」
 今日だけで何度抜かれたか分からない度肝に毛穴が広がるような感覚が広がる。
 例の男が、いつの間にか壁際にもたれ掛かっていた。
「シューゼル!」
 瞬間、脇に携える曲刀に手をかける。が、柄を握る事すら出来なかった。
「姫様、ご無事で何よりです。昼間は手荒な真似をして申し訳ありませんでした」
「いえ、いいのです。ありがとうございます」
 ふむ。俺は考えた。この展開についていくには冷静になる必要がありそうだ。
「つまり、あんたらは一芝居打ったってことか?」
 俺の言葉に、彼の掴んでいた腕の力が緩む。
「ええ、リクといいましたね。君には申し訳ないことになってしまった」
「いいよ別に、とりあえずこれで俺はお払い箱なんだろう? 一服したら出て行ってくれよ」
「そういう訳には行きません。言ったでしょう? 申し訳ないことになったと……」
 俺は伺うように二人の表情を見た。どちらもおなじように、苦虫を潰した顔をしている。
「私が話しを致します。魔物が何故攻めてこないか……単純な話です。魔物の長、魔王と言ったらいいのでしょう。
その者に直接交渉するのです。この国には手を出さないようと」
「魔物と話すだと? 出来るわけがないじゃないか!」
33 :守護女神伝説5/7 ◆InwGZIAUcs :2012/08/13(月) 00:36:22.21 ID:WuEBCDCV0
「確かに我々では不可能です。しかし王家には稀にその力を持つものが生まれる……故の王家なのです。この力が
国を支えているのは事実ですから。問題は何故そのような魔物の言葉を理解できるものが生まれるか? 理由は
至極単純で、数代に一度魔物と魔翌力の強い人間を交配させ、ハーフを生ませるのです」
 何で俺はこんな事を聞いているのだろう。遠のく現実感の中、なお男は言葉を紡いだ。
「しかし、その汚れ役を王家はいつの頃からか、国力を背景に他国に頼るようになりました。そして今年、
交配の儀を行う代が訪れてしまった」
「つまり、リリス姫は他国から呼び寄せられたって事か」
 男は深刻そうに頷いた。
「私はこの正義の剣に殉じる身。国家の剣として腐敗を断ち切る。あなたの力をお借りしたい」
「何故俺? あなたはそれこそ一騎当千の強さを誇るし、俺くらいの奴はあたれば他にもいるだろうに」
「いいえ、あなたでなくてはなりません何故ならば、姫様はあなたの妹君にあたるのですから……」
 同じ顔は世界に三人居るという。その一人と偶々出会い、そのせいか妙な正義感を発揮してしまった不思議な日。
としか思っていなかった。つーか俺を驚かす為に長年の修行でもしてきたのかこいつらは!
「城でも姫様と似ている人が居ると話題になった時がありまして、部下に調べさせたところ、確かにあなたは姫様の
兄君でした。覚えていないのも無理は無いです、姫様がこの国に来たのは物心もつかぬ幼い頃だったのですから。
……もう城内に味方が居ない今、私とあなたしか居ないのですよ姫様を守れるのは」
 合点の行く事も多々ある。俺は一応貴族の出だが、子供は俺一人のはずだったが多かった女の子向けの子供服。
というか着せられてたし……そして何より同じ顔だしなぁ。
「こんな押し付けがましい事を言ってしまいごめんなさい。例え私達が姉妹だとしても、やはり……」 
 藁をも掴むとはこのことか。くそ、同じ顔は存外嫌なもんだ。そいつが何を考えているか分かってしまう。
「分かったよ。俺も手伝う……勝算はあるのか?」
 リリスの顔が赤みを射して明るくなる。なんだ、急に恥ずかしいぞこれ……。
「ふふ、君ならそう言うと思っていました。君が協力してくれるなら活路もある」
 シューゼルと俺は握手を交わした。リリスは――。
「あ、あの、ありがとう! お兄ちゃん」
 両手を握って満面の笑みを送るリリスが、俺の視界に飛び込む。ああ、やはり俺は男でリリスは女だ。
同じ顔で変かもしれないけど、可愛いと思えた。兄貴も悪くない気分だな。死ぬほど恥ずかしいけど。

***
34 :守護女神伝説6/7 ◆InwGZIAUcs :2012/08/13(月) 00:38:23.87 ID:WuEBCDCV0
 頼みましたよ。と釘を刺す視線が俺の眉間を打ち抜く。
 分かってるよ。
 いまいち乗り気になれない胃の底のわだかまりを深呼吸で一気に吐き出す。こんな作戦本当にうまくいくのかよ。
 リリスは俺に化粧をほどこして、かつらをつけやがった。おまけに体型を隠すために大き目のローブを着せてみれば、
リリスの影武者出来上がりというわけだ。
 馬車の荷台に乗せられた俺達はこの国を抜ける予定だ。一度俺とリリスの祖国に戻り体制を立て直してこの
国に革命をもたらすという。
 その為に、俺はおとりになれとの事らしい。
 例の守護女神伝説のおかげで言われてみれば不気味なぐらい平和な道中を行く。やがて、国境の検問に差し掛かった。
「シューゼル閣下どちらへ行かれるのですか?」
 どう見ても検問に必要な兵士数を通り越している。これから他国に戦争をしかけると言った方が幾分自然だ。
「野暮用でね。隣国にこの者を送り届ける」
 その瞬間、彼の眉間に槍が突きつけられた。
「シューゼル閣下、その英雄騎士の剣が泣いていますぞ。国家に反逆なさるおつもりか? フードを目深に被っていて
も分かる。そのお方はリリス姫様ではありませんか! 捜索命令に反して他国に亡命など……どう言い訳をなさるおつもりか?」
 シューゼルは大きく息を吐く。観念したように彼は手を上げた。つーか意外と騙せるものだな。
「分かった。降りよう」
 俺とシューゼルは言われた通り馬車を降りた。難を逃れるように引き続き街道を国とは反対に走り去る馬車を背に
シューゼルは腰の剣を抜いた。
「シューゼル閣下! 一人でこの人数と戦う気ですか?」
 二百人は居そうだけれど、彼は気圧される事無く言い放った。
「ふん、その様子だと私の部下はもう捕まってしまったということか……彼らの意思に報いる為にも、この国の為にも!
私はこの剣を振り続ける! 怪我したくないもの、死にたくないものは下がれ! 俺こそこの国の守護者なり!」
 限界まで俺は彼らにリリスと思われる必要がある。が、彼の悲壮な叫びを聞いていたら居ても立ってもいられなくなった。
「付き合うぜ」
 ローブと桂を脱ぎ捨てた。
「リク。君は身を隠す予定だったはずだが……覚悟はいいのか?」
「おっさんも思ったより多くてあせってるんだろ? いいよ、猫の手くらいは貸してやるよ」
 変装した御者になっていたリリスが乗った馬車はもういない。
 あとは全力でこの場を凌ぐのみ。
35 :守護女神伝説7/7 ◆InwGZIAUcs :2012/08/13(月) 00:38:52.02 ID:WuEBCDCV0
「姫様は必ず援軍を連れて戻ってくる。それまで……死ぬなよ。お前はもっと強くなる」
「やめろ。そりゃ今生の最後の言葉だ。それに俺はこの戦いで強くなるよ。妹一人くらい守れる位にはね」
 シューゼルが笑った。そして、沸き上がるときの声に身構える。

 俺は今までで一番強い。守るものがある。負けられない。
 そう自覚して、今全てを解き放つ!
 
 終わり
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/13(月) 00:39:43.63 ID:tuKYVoTuo
おつかれさまでした。
では、◆rmqyubQICIさんさん投下どうぞ

書き込み時はメール欄に「saga」と書き込むようにしましょう。
そうしないと、この板の仕様で伏せ字にされることがあります。

以降、投下順
おしまい
37 :貴方の女神になり損なって 0/7 ◆rmqyubQICI [sage saga]:2012/08/13(月) 00:40:53.28 ID:b/LOHuUro
了解しました。
かなり久々の上板の勝手が分からないので、一分間隔程度でゆっくり投下させていただきます。
38 :貴方の女神になり損なって 1/7 ◆rmqyubQICI [sage saga]:2012/08/13(月) 00:42:27.62 ID:b/LOHuUro
 午後四時過ぎ。気だるい空気をかき分けながら、旧サークル棟二階の廊下を進む。「旧」というのは単に古いものと新しいものがあるう
ちの古い方ということであって、新棟に較べると下火ながら、いくつかのサークルがまだ活動している。私が今目指しているのもそういった
サークルのひとつ、らしい。正直なところ、あまり関わり合いになりたくはないのだけれど。
『旧サークル棟二階の突当たりに「女神研究会」、略して「女神研」なるいかがわしげなサークルがあって、近々大学当局の調査が入るそ
うだ。我々ミステリ研究会としては、当局の手が伸びる前に、ぜひ我らの手でその謎めいた活動を解き明かしてみたいものではないか。
明日の十六時に旧サークル棟入り口に集合。君が来ないなら私ひとりで行こう』
 昨晩、私の所属するミス研の会長からそんなメールが届いた。一人にして大変な目に遭われても後味が悪いので、仕方なく私もついて
いくことにしたのだけれど、集合時刻の四時になっても会長がやってくる気配はない。そうして待ちぼうけを食らい、もう帰ってしまおうかな
と思い始めたころ。同じ学科の友人である望美が、するりと私の脇を抜けて二階へと消えていった。その動きは妙にぎこちなく、緊張して
いるのが明らかに見て取れた。何より入り口の脇に立っている私にすら気づかなかったのだ。
 自然、私の頭の中で今の望美の様子と「女神研」の噂が結びつく。もしかすると彼女が何らかの危険に巻き込まれているのかもしれない。
しかし、私一人が飛び込んでどうなるものか。数分迷った末、私は会長を待たずひとりで乗り込むことを決意した。
 念のため防犯ブザー程度は用意していたものの、旧サークル棟は予想していた以上に人気がない。不安感から私の歩幅は自分でも分
かるくらいに縮まってゆく。それでもさほど広さのない建物のこと、ついに目的の部屋と思しき扉の前に到達してしまった。左手で防犯ブザー
のストラップをつまみ、あたりに人のいないことを確認。そして勢いよくドアノブを引いた。扉が開くのに一瞬遅れて、望美のものらしき悲鳴
が聞こえる。
「望美、大丈夫!?」
 友人の名を呼びつつ部屋の中を覗き込む。私から見て手前の方に男性が一人、私に背を向け椅子に腰掛けている。その奥、部屋の中
央あたりはちょっとしたステージのような高台になっていて、予想していた通り望美はそこにいた。床にシーツと思しい真っ白な布を敷き、
その上に、一糸まとわぬ姿で横たわって。
「待って、ミヤちゃん! 違う! 違うから!」
 反射的にブザーのストラップを引きそうになった手を、望美の慌てた声が寸前で押し止めた。ストラップにかけた手はそのままに、もう一
度よく部屋内を観察する。
 部屋の中はがらんとしていて、人が隠れられるような場所はない。視線を手前側の男性に戻す。彼の目の前には、望美の裸体らしき線
画が描かれつつあるキャンバス。私と望美がこれだけ騒いでいるにも関わらず、事態を気にする様子は皆無で、ただただ淡々と鉛筆を動
かしている。
「……どういうこと?」
 状況がどうにも把握できなかったので、私は仕方なく望美に尋ねた。シーツで申し訳程度に身体を隠した彼女が答えるよりも早く、平坦
な声が部屋の空気を震わせる。
「飯塚さん。すみませんが、作業中はポーズを崩さないようにお願いします」  
39 :貴方の女神になり損なって 2/7 ◆rmqyubQICI [sage saga]:2012/08/13(月) 00:44:50.94 ID:b/LOHuUro
 落ち着いた、を通り越して冷たいという印象すら覚える声音。一瞬で部屋の空気が変わり、望美は慌てて元のポーズに戻る。そこで発声
者はようやくキャンバスから顔を上げ、今度は私の方を見た。目が合う。しっかりとこちらを見ているようでいて、しかしどこかこの世のもの
を映していないような不思議な瞳。どんな言葉が飛んでくるのかと身構えたところ、彼は先ほどと同じく、平坦な声でこう言った。
「そちらの方も。ひとまず部屋に入って、扉を閉めてあげてください」
 まったくの正論に、私は頷くより他なかった。


「えっ、美術部?」
「はい。そういうことになっているはずです」
 作業が終わるまで一時間ほど待ち、望美が帰った後、私は彼――美術部員の鳥羽から事情を説明してもらっていた。
 いわく、この部屋は「女神研」などではなく、れっきとした大学公認の部活動である美術部にあてがわれた部室であるとのこと。現在美
術部で実際に活動している人間は彼と部長――我らがミス研の会長と同じく女性で、現在三年生らしい――の二人のみ。その部長の人
徳で部として存続できるだけの部員(ただし名前だけ)を掻き集め、どうにかこの部室の利用権を保っている。
 今回の件の発端もその部長の思いつきで、鳥羽がぽつりと「裸婦画を描いてみたい」と言ったところ、どうやって説得したのか、同じ学
科の友人をモデルとして引っ張ってきたのだという。私には信じられないことではあるけれども、どうやら世の中には自分の裸体を絵画と
して残したいとひそかに思っている女性がそれなりにいるらしく、最初に描いた絵の評判もあって、自分をモデルに描いてほしいという依
頼が散発的に舞い込むようになったのだという。
「いつもならその部長も描いている場にいるんですけどね」
 それはそうだ。いくらそれまでに変なことをしなかった実績があるとはいえ、さすがに見ず知らずの男性と二人きりで、というのは抵抗が
あるのだろう。ところが今回は部長に急な予定が入ってしまった。そのことを望美に説明してまた次の機会にしようと提案したものの、彼
女がそれでも今日描いてほしいと食い下がったので、仕方なく作業を開始したのだという。
 望美は入り口にいた私にすら気づかないほど緊張していたし、多分よほど覚悟を決めていたのに肩透かしを食らいそうになって焦った
のだろうな、と、私はそう想像した。
「そういえばドアの鍵が閉まってなかったけど、それもそのせい?」
 ふと思いついてそう尋ねると、彼は驚いたようで、まぶたが少し持ち上がった。ミステリアスな瞳の印象が強かったので、私には彼が驚
くということ自体意外に思われた。
「ええ。部屋の鍵を閉めてしまうと飯塚さんが怖がるかな、と。よくそんなことに気づきますね」
「ま、これでもミステリ研究会の一員ですからね」
 なるべく平坦な声を作りつつも、私はだんだん彼と話すのが楽しくなってきている自分に気づいた。冷たい印象の声に反して意外と気遣
いができるところとか、そういうギャップが面白いのだ。
40 :貴方の女神になり損なって 3/7 ◆rmqyubQICI [sage saga]:2012/08/13(月) 00:46:20.22 ID:b/LOHuUro
 しばらく部長のことなどたわいもない話をしてから、私は本題を切り出した。
「で、どうするの? 大学側としては、こういう活動はあまり認めたくないんじゃないかしら」
「そうですね。実際色々噂になってしまっているようですし」
 彼の言う噂というのは、まさに我がミス研の会長が聞きつけたようなもののことだろう。頻繁に男女三人で鍵のかかった部室に籠り、し
かもそのうちモデル役の一人は毎度変わってゆくとなれば、それは変な噂も立つ。いわゆるネットスラング的な意味での「女神」を拝む会、
という噂などはまだいい方で、ちょっと口にしたくもないような話がいくつも「女神研究会」の噂として流れていた。
「ちょうど飯塚さんで依頼も途切れたところですし、部長にも話して裸婦画製作はこれで終わりにします。この辺りが潮時でしょう」
 なんかこのせりふ悪役みたいですね、と彼は感情のこもらない声で付け加えた。冗談なのかどうか判断しかねて、私はとりあえず肯定の
言葉だけを返し、ついでに気になっていたことを聞いてみる。
「ところで今までに描いた絵はどうしてるの? あなたの家?」
「描いた絵は全部モデルの方に差し上げました。でないと依頼なんて来ませんし」
 もっともだった。もっともではあるけれど、私はまったくその答えを予想していなかった。理由はちょっといえない。
「え? あ、ああ、そうね。当たり前よね」
 油断大敵。まるで動揺を隠せなかった私をしばらく見つめて、やがて彼は言った。
「意外と下世話な想像をするんですね」
 顔から火が出そうだった。


 それから一週間ほどが経った。最近はとくに会長の興味を惹くような噂もなく、私と会長の二人はミステリ研究会に与えられた狭い部屋
でぐだぐだと時間を浪費していた。
「ねえ会長、ちょっと美術部覗きに行きません?」
 怠惰な現状を打破すべく発された私の有意義な提案に、会長は最大限呆れた風な声で答えた。
「またそれか」
「だって会長、先週はあんなに行きたがってたのに」
「それは例の噂があったからだろう。その件は君が一人で片付けてしまったんだから、私があそこに興味をもつ理由はもうない」
 一人で、の部分に強勢が置かれていたけれど、それは会長が時間にルーズなのが悪いんじゃないですか。そう反論しかけたのを飲み
込んで、私はこちらの本意を悟らせないよう注意しつつ言葉を返した。
「ええ、そのことは申し訳なかったと思っています。なので美術部の人間から直接話を聞けば、会長の気も多少は……」
「鳥羽、といったか」
 私の言葉を遮って発音された名前に、なぜか心臓が大きく跳ねた。会長はそんな私を見て、にやにやと笑いながら続ける。
41 :貴方の女神になり損なって 4/7 ◆rmqyubQICI [saga sage]:2012/08/13(月) 00:48:03.10 ID:b/LOHuUro
「美術部に行くより君の反応を見て遊んでいた方が面白いな。ま、彼に会いたいのなら一人で行くといい。私はここでこれを読んでいる」
 そう言い捨てて、会長は島田荘司全集の一巻を読む作業に戻った。貴女もうそれ何十回と読んでいるのだから、ここは私についてきて
くれてもいいんじゃないですかね。心の中でそうつぶやきながら、私は仕方なく一人で部屋を出た。
 望美いわく、鳥羽君は基本的にモデルになった女性とは美術部の部長を通じて連絡を取り合うことにしており、直接連絡先を交換する
ことはなかったという。必然、望美も彼の連絡先を知らない。その話を聞いたときはふうんと思っただけだったが、その日の夜、それは奇
妙な胸騒ぎに変わった。私と彼の縁はもうすっぱりと切れてしまって、二度と会えないような気がした。
 馬鹿馬鹿しい。会えなかったとして、だから何だというのか。冷静な自分の声が脳内で嘆かわしげに響く。結局私は今、一週間前と同じ
ように旧サークル棟二階の廊下を歩いているのだ。そして気づけば美術部室のドアの前。あの日よりも緊張しているような気がするのは
気のせいだろうか。
 大きく深呼吸してドアノブを引く。鍵はかかっていない。そういえば、ノックを忘れていた。
「あれ。杉浦さん」
 どきり、と心臓が跳ねた。当たり前のことだけれど、そこにはちゃんと鳥羽君の姿があった。目が合って心音はさらに加速する。一週間
前は何ともなかったのに、どうして?
 私が何も言えないでいるうちに、彼はいったん作業を止め、こちらに向き直った。
「どうしたんです?」
 きた。会長を引っ張ってきてやり過ごそうと思っていたやっかいな質問。ここは正直に答えてみる? 「あなたがいなくなるんじゃないかと
思って、怖くなったの」。……却下。どこの夢見る少女なんだか。
 今までにないくらい頑張って頭を回転させた結果、出てきた回答がこれだった。
「……部員が二人だけだと、寂しいんじゃないかな、って」
 私史上最大級の恥ずかしい台詞と引き換えに、私は初めて、鳥羽君が微笑むところを見ることができた。


 それからはもう開き直ってしまい、私は暇があれば美術部室に顔を出すようになった。たまに会長が寂しいといって引き留めたり、美術
部長の好奇の目――裸婦画師フェチの面白い女がいる!――に耐えかねて退室することもあったけれど、二人とも基本的には私を応援
してくれた。
 親しく付き合うようになって分かったのは、冷たい声音や表情の少なさのせいか、プライベートでも付き合いがあるような親しい人間は部
長くらいしかいないということ。本当はそういった印象とは真逆で、周囲に気を配る優しい性格であるということ。そして、その性格とミステ
リアスな第一印象とのギャップに、私は完全にやられてしまったのだということ。
 ……ああ、それからもうひとつ。これだけ状況が出来上がっていて、もう大学生にもなった男女が、手も触れないままに一年以上過ごす
なんて事態が起こり得るということだ。
42 :貴方の女神になり損なって 5/7 ◆rmqyubQICI [sage saga]:2012/08/13(月) 00:49:07.55 ID:b/LOHuUro


 私だって、彼との距離を縮めようとする努力を怠ったわけではない。
 たとえば出会ってからちょうど一年経ったあの日。私はもちろん忘れていなかったけれど、鳥羽君もその日を覚えてくれていて、私たちは
ちょっとしたパーティを開いた。前もって話し合ったわけでもないのにお互いプレゼントを用意していて、私たちは顔を見合わせて笑った。
内心、無意味に飛び跳ねたくなるくらい嬉しかった。
 今しかない、この気持ちを伝えてしまおう。私はもう何度目になるか分からない決意を固めて彼を見た。そしてこれまでと同じように、決意
はそこで打ち砕かれた。彼の横顔を見ると、決まって最初に会ったときのことを思い出すのだ。そして、まるで別の世界に住んでいるかのよ
うな隔絶を感じていたことも。本当はそうじゃないことを私が一番よく知っているはずなのに、私にはどうしても、その壁を越えることができな
かった。
 私は焦っていた。私も鳥羽君も三年生になって、卒業までもう二年もない。大学生活の二年なんてあっという間に過ぎてしまう。それまでに
どうにかして思いを伝えたかった。
 もう一度言う。そのとき、私は焦っていた。手段を選ばないどころではなく、手段を選んでいないのだという自覚すら持てないほどに。


「私を描いてほしい」
 そう告げたとき、鳥羽君は大きく目を見開いていた。彼の表情にこれだけ驚きが表れることは滅多にない。申し訳なさを堪えるため、私
は強く唇を噛んだ。このとき、私にはあまり深い考えはなくて、とにかくこれまでの関係を変えるきっかけが欲しかった。ただ、彼が引き受
けてくれるということだけは確信していた。
 果たして、彼はしばらく考えた後に頷いた。場所はどうしようかと聞かれ、部室とはいえ大学内で裸身を晒すのには抵抗があるので、彼
の部屋にしてほしいと答える。色を塗ることはできないけれど、下書きだけならできるはず。彼はまた深く考え込んだ末、私のわがままを
受け入れてくれた。
 そして翌日の夜。
 彼の住むマンションの階段を、私は処刑台をゆくような気持ちで一段ずつ上っていった。一晩経って、少しは頭が冷えたのだ。まずこれ
をきっかけに彼との関係が変化したとして、ろくな方向へ転がるビジョンが見えない。変化というか、むしろ悪化である。加えて、私は裸婦
画のモデルというものを舐めていた。彼の前で裸身を晒す。とても恥ずかしい。それはとりあえずいいとしよう。問題はそこではない。私が
どう思うかではなく、彼がどう思うかである。
 最近ストレスが溜まり気味で、ちょっと肌の具合が悪い。気がする。ここのところ食べ過ぎの観があって、せめて一週間前ならウエスト周
囲があと五センチは細かった。と思う。他にも変なところの毛を処理し忘れてはいないかとか、こういうときはどういった下着を履いていけ
ばいいのかとか、不安が山積みで、しかもそのうちのいくつかは今も解消されていないのだ。
43 :貴方の女神になり損なって 6/7 ◆rmqyubQICI [sage saga]:2012/08/13(月) 00:50:33.60 ID:b/LOHuUro
 できることなら今すぐ回れ右して帰りたい。せめて大きな鏡のあるところで、もう一度失態はないかチェックし直したい。
 そんな思考が渦巻くうちに、いつの間にか彼の部屋に到達していた。チャイムを鳴らす。彼の返事は普段と変わらないように聞こえた。
「おじ、おじゃま、します……」
 ああ、呂律が回っていない! 自分のポンコツ具合に愕然としつつ、彼に導かれて脱衣場へ。それからシーツを手渡される。
「では僕は部屋で待っているので、あなたのタイミングで入ってきてください。もちろん、止めたくなったのなら止めますからね」
「うん、ありがとう。えっと、その……の、覗かないでね?」
 彼は苦笑していた。もうどうにでもなれ。私はそう思った。とりあえずお風呂の鏡で全身を再度チェックする。オーケー。多分。続いて鏡を
覗き込んで自己暗示。大丈夫、いける、大丈夫、いける、大丈夫、いける……。よし。多分よくないけれど、よし。
 私はどうにか気を取り直してシーツを羽織り、脱衣所を出た。そして彼の待つ部屋に入る。彼はもう準備万端のようで、いつかと同じく、
部屋の奥を向いて椅子に腰掛けていた。その視線の先にあるベッドには、これもあのときのステージと同じく、真っ白なシーツが敷かれて
いる。私は緊張で転んだりしないようにだけ気をつけながら、慎重にベッドへと近づいた。どうにか到達。身体に巻いていたシーツを取り払
い、ベッドの上に横たわる。視線を合わせたらどうなるか分からなかったので、彼の方は見ないようにした。
「そのポーズでいいですか?」
「ええ。綺麗に描いてね」
 ちょっと頑張った。正直、今更余裕ぶっても遅い気がするけれど。
 少しの沈黙の後、彼が鉛筆を走らせ始める。よく馴染んだその音を聞いているうち、だんだんと気分が落ち着いてきた。ちょっと恥ずか
しいけれど、後は彼が下書きを終えるまで待つだけ。そう思っていた。
 不意に鉛筆の音が止んだ。再開したかと思えば、ちょっと描いてすぐに止まる。その度に沈黙の時間が長くなり、ついにまったく音がしな
いまま数分が経過した。
「ごめんなさい」
 まさか、と思った。一番恐れていたことが起こってしまった。
「ごめんなさい。描けません」
「どうして?」
 返事はない。キャンバスが邪魔で彼の表情は見えなかった。
「ねえ、答えて」
 他の女は描けたのに、私は駄目なの? 魅力が足りなかったから? そんな疑問が浮かんでは消えてゆく。
 しばらくして、ようやく彼が再び口を開いた。
「……どうしても答えないといけませんか?」
 あれ、と私は思った。彼の言葉の中に「照れ」らしきものを感じ取ったのは、これが初めてだったから。シーツを羽織り、彼の傍に寄って
みる。顔を覗き込もうとすると、キャンバスがぐるりと向きを変えて、私の視線を遮った。すかさず回り込む。するとまた彼はキャンバスの向
44 :貴方の女神になり損なって 7/7 ◆rmqyubQICI [sage saga]:2012/08/13(月) 00:51:33.81 ID:b/LOHuUro
こうに隠れる。ならば、と私はキャンバスの下にもぐりこんで、彼の身体に飛びついた。そのままよじ登るようにして上へ。ようやく見られた
彼の顔は、珍しいことに――本当に珍しいことに、赤面していた。
 ばつが悪そうに目をそらす彼の表情を見つめること十数秒。私の視界は彼の手によりふさがれてしまった。
「ごめんなさい。見ないから。もう見ないから。ね、描けないっていう理由を教えて?」
 彼は私と目を合わせないようにしたまま、搾り出すようにして答えた。
「なんというか……邪な気持ちになりまして」
 かわいい。愛おしさが溢れて言葉にならないので、私はもっと尋ねることにした。
「他の人のときは大丈夫だったのに?」
「……あなたは特別です」
「それはどういう意味で?」
「いい加減にしてください」
 ぺちっ、と額を軽く叩かれた。とても幸せな気分だったので、仕返しとして頬にキスをした。そのままぎゅっと強く抱きつく。
「しばらくこうしていてもいい?」
 幸福だった。このままとけてしまいそう。そんな陶酔感に浸っていると、彼はようやくいつもの調子をとりもどした声でこう言ったのだ。
「いいですけど、その前に服を着てください」
 自分がほとんど全裸に近い格好だったこと思い出して、私はひどく赤面することになった。

<了>
45 : ◆rmqyubQICI [sage]:2012/08/13(月) 00:52:04.68 ID:b/LOHuUro
以上です。運営の方、お疲れ様でした。
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/13(月) 00:53:07.45 ID:tuKYVoTuo
現在、週末品評会303thの投票受付中です。今回の品評会お題は『女神』でした。
投稿された作品は■まとめ http://yy46.60.kg/bnsk/ -週末品評会303th- にてご覧頂けます。
投票期間は2012/08/14(火)24:00:00までとなっております。

感想や批評があると書き手は喜びますが、単純に『面白かった』と言うだけの理由での投票でも構いません。
また、週末品評会では投票する作品のほかに気になった作品を挙げて頂き、同得票の際の判定基準とする方法をとっております。
投票には以下のテンプレートを使用していただくと集計の手助けとなります。
(投票、気になった作品は一作品でも複数でも構いません)

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【投票】:<タイトル>◆XXXXXXXXXX氏
【関心】:<気になった作品のタイトル>◆YYYYYYYYYY氏
     <気になった作品のタイトル>◆ZZZZZZZZZZ氏
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― 感 想 ―

携帯から投票される方は、今まで通り名前欄に【投票】と入力してください。
たくさんの方の投票をお待ちしています。 
時間外の方も、月曜中なら感想、関心票のチャンスがあります。書いている途中の方は是非。
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/13(月) 00:53:37.10 ID:tuKYVoTuo
週末品評会303th『女神』投稿作品まとめ
http://yy46.60.kg/test/read.cgi/bnsk/1344756608/

週末品評会303th『女神』投稿作品一覧

No.01 みんなでしあわせになりたいな ◆pxtUOeh2oI氏
No.02 その命、尽きるとき ◆AWMsiz.p/TuP氏
No.03 あなたの声を祈りによって聴く可能性について ◆ihO9dxzf9I氏
No.04 マリアと ◆1ImvWBFMVg氏
No.05 聖娼婦るなるな ◆7az9zC1iQs氏
No.06 守護女神伝説 ◆InwGZIAUcs氏
No.07 貴方の女神になり損なって ◆rmqyubQICI氏
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/08/13(月) 00:54:19.68 ID:w5RtmRbo0
運営おっつおつ
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/13(月) 00:55:17.08 ID:tuKYVoTuo
運営じゃないのなんとなく流れでやっちゃっただけなの
だからまとめは各自お願いね

前スレの最後のほうになんか見てはいけないなつかしのあれがいたな
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/08/13(月) 00:55:26.72 ID:x3dEhYxz0
運営さんおつっすー!!!!!!!!!!!!! ひゃっはーあああああああああ!!!!!!!!!!!!!
51 :守護女神伝説7/7 ◆InwGZIAUcs :2012/08/13(月) 00:59:09.03 ID:WuEBCDCV0
お疲れ様です!ありがとうございます!
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/08/13(月) 01:02:37.30 ID:w5RtmRbo0
1000 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/08/13(月) 00:33:54.26 ID:kCjQ1TvPo
          
   〜  〜   
  (Φ  Φ )  
   \く /     BNSKよ!
     |д|     私は帰ってきた!
     \\   
        


ようじょかわいいよようじょ           

53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/08/13(月) 01:30:48.65 ID:WuEBCDCV0
誰か妖精氏呼んで来いwwwwwwww
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/13(月) 04:04:26.17 ID:tuKYVoTuo
こんな幼女より起動猫さんにもどってきてほしいよ
こんな幼女より
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/13(月) 05:15:23.62 ID:IEDIGEoIO
猫さん元気にしてるかな
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/13(月) 05:26:29.91 ID:tuKYVoTuo
全感と投票します

猫さんは元気だよ
きっと空の向こうで俺たちを見守ってくれてるさ
57 :全感 [sage]:2012/08/13(月) 05:27:01.63 ID:tuKYVoTuo
No.01 みんなでしあわせになりたいな ◆pxtUOeh2oI氏
自分の。こういうお題でこういうキャラだと普通はそれが許される世界観になるけど
現実いたらたぶんダメだよね、という感覚で。
ファンタジーでも。できるだけ現実っぽくしたいといつも思う。
個人的には、他人に迷惑をかけない宗教はいてもいいかなと思います。迷惑をかける奴は[ピーーー]。
読み返すと文章が早すぎかなと思った。
最後の文章は書くかどうか迷ったけど、今回はわかりやすめに書いてみた。

No.02 その命、尽きるとき ◆AWMsiz.p/TuP氏
反省してないのに謝るから許すって感覚はよくわからない。
必要なことは謝罪よりも過ちを繰り返さないことだと思う。
キャラも話も小説らしい小説だと思った。
なのであまりおもしろくなかったです。
文章力はあるかもしれません。漢字が多いだけかもしれません。
その判断力が自分にはないので、他人のおまかせ。

No.03 あなたの声を祈りによって聴く可能性について ◆ihO9dxzf9I氏
これが高校生の日記って言われて信じる人いるかな?
PCじゃなくて日記帳みたいだし。
中身を高校生が使わないような単語を並べているのに、
ところどころでは無理して若者言葉を使うおじさんみたいな感じに見えました。
情報量はおもしろいかなと思うので、それを本当の高校生の日記ぽくすれば
もっとよかったのにと思いました。
今のたんたんとつめこんだ感じでは途中で飽きてしまいました。
何かオチを見逃していたら申し訳ないですが。
>サエはボーダーのタンクトップにカットソー、デニムのショートパンツなんていう、すらりとした体に見栄えのする服装でやって
>きたので、そこから落ち着かなくなってしまった。
やっぱ書かないでしょうこれ。目の前で日記帳広げてたりするならともかく。
日記って家で後になって書くものだと思いますが、なんか現在の様子を表しているようなのが多い気もしました。
文の最後を「した」とかにするだけで過去の印象になるかというと違うような。
58 :全感 [sage]:2012/08/13(月) 05:27:31.49 ID:tuKYVoTuo
No.04 マリアと ◆1ImvWBFMVg氏
けっこうおもしろかった。
ただいつも思うけど、こういうおもしろさってどうなんだろう。
エロいこと書いてあれば、興奮するけど、それを素直におもしろさの興奮をして受け取ってしまっていいものか。
それだけの興奮ではなく、何かもっと追加で印象深いものが欲しかったかなと思いました。セリフひとつでも。
そういうものは残念ながらなかったです。

No.05 聖娼婦るなるな ◆7az9zC1iQs氏
トリバレしてない状態で呼んだらどうだったろうなあ。言われて読めばもろわかりだけど、
知らなくてもなんとなくは気付いた様な気がする。
文章は相変わらずおもしろい。話は相変わらずわからない。
もっとシンプルで落ち着いていて、暴力的や性的で過激な言葉がでないものをこのリズムで読みたいかなと思った。
強い言葉に頼っていては半人前なのですよ。いや、テキトーですが。

No.06 守護女神伝説 ◆InwGZIAUcs氏
なんという俺たちの戦いはこれからだ。
普通に進んで普通に終わってしまった印象です。
兄妹である必要性とか女装する必要性とか顔が似てる必要性とかあるんでしょうか?
まあ、世の中には必要性のないこともたくさんありますが、
すごい特別な状態を書くのならそういうのもいるかなとも思います。
もっと伝説に関連したオチとかあればよかったかも。魔物のハーフでうんたらかんたらとか。
個人的にオチには、切れ味か達成感か絶望か悲しみが欲しいです。
59 :全感 [sage]:2012/08/13(月) 05:28:47.57 ID:tuKYVoTuo
No.07 貴方の女神になり損なって ◆rmqyubQICI氏
最後はそれなんですか。いけるところまでいっちゃわないんですか。
キャラはかわいかったけど、ちょっと作りすぎな感じもするようなしないような。
これだとちょっとただのいちゃいちゃで終わってしまったので、
最初から描くシーンでたんたんとその描写をするとかのほうが
エロくておもしろいかなと思いました。
描かれるときの心情がきもかなと思うので。
ミス研とかの設定はおいといて、もっと二人の話とかもあるといいかもと思った。
いきなり両思いになったように見えるので。
前半を削って、後半を増やしてればと思います。
絵描きとモデル?の話だと路地恋話のがすごいよかったので読んでもいいかも。漫画だけど。

総評:もっとオリジナリティが欲しいよ! 
うまいと言えばうまいと思える人も多いんですが、突き抜け感がないようです。
ひとりもっと抑えとけという人もいるけど。
60 :投票 [sage]:2012/08/13(月) 05:30:08.49 ID:tuKYVoTuo
******************【投票用紙】******************
【投票】:No.04 マリアと ◆1ImvWBFMVg氏
       ― 感 想 ―
     すなおにそれなりに興奮したかなと。
     このまえ、ルーベンスのマリアさまの絵見てきたけど、
     あれ顔が逝っちゃってるよ。美しくないよ。
【関心】:No.05 聖娼婦るなるな ◆7az9zC1iQs氏
       ― 感 想 ―
     文章のリズムは好きかなと。
**********************************************
次点というかとても気にはなるのがNo.03だけど
やっぱり硬すぎるというか日記と言われて受け入れられない。
この形式はそれなりに好き。
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/13(月) 05:30:37.12 ID:tuKYVoTuo
以上です。みなさまおつかれさまでした。
62 : ◆ihO9dxzf9I [sage saga]:2012/08/13(月) 22:22:00.80 ID:t+oHpmaB0
全巻くらい折角だし行数オーバーしたってかまわないよね
63 :全巻1/7 ◆ihO9dxzf9I [sage saga]:2012/08/13(月) 22:24:34.30 ID:t+oHpmaB0
No.01 みんなでしあわせになりたいな ◆pxtUOeh2oI氏
 いじめの議論を見ていると道徳感情に負った意見を振りかざしたり、同調圧力によるうんたらかんたら、っていうな
んちゃって理論が話されたりするんだけど、そんなもんで解決できるならとっくの昔に解決してたと思うわけよ。そも
そもいじめってのは学校制度そのものが生み出すものだから、加害者とか教員とか、いうまでもなく被害者は(残念な
がら)代入項でしかなかったりするんだよねえ。あらかじめ方程式が決まっていて、作動するかどうかの確率はわかん
ないけど、とにかく起こりうるものだからそれを回避できるかどうかが焦点。
 力づくで解決するならやはりパワーポリティクスですよ、無論パワーポリティクスという言葉の起源を探ってみれば
わかるとおり力を一極に集中すれば虐げられるものは出てくる、やるべきなのはそうした暴力性に暴力を持たずに抗え
るかどうか、ってわけで、単に皮肉をぶちまければいいと思ってんじゃないですか、アンタ。皮肉使ったって、いじめ
解決に何の役にも立ちゃしないんですよ。

No.02 その命、尽きるとき ◆AWMsiz.p/TuP氏
 死者に触れられはしいし、死者の声を聴くこともできない。これは確かめるまでもない一般的な事実である。事件の
発端となった依頼者である「茂さん」も主人公の説得によってこの事実に行きあたり、殺人を中断する。それは責める
べきではない。ただ、それを物語として仕立て上げた時、見逃すわけにはいかない屈折した心理が浮かび上がってくる。
 「茂さん」は「柴田めぐみ」にまつわる何らかのトラブルをきっかけに、妻を亡くしてしまう。妻の行動は誤解され
たまま「茂さん」の頭に残っていた(実は彼が気づいていた可能性も否定はできないが)。「茂さん」の頭の中では様
々な言葉が去来していたことだろう。しかし、全ては彼一人で行われる想像であり、勝手な解釈でしかない。

> 亡くなった奥さんに謝る方法を、茂さんはずっと考えていた。自身の死期が近いことを悟った茂さんの思考が、柴
>田めぐみの殺害に辿りつくことは想像に難くない。亡くなった奥さんが死の直前に行おうとしていたことを受け継ぐ
>ことで、それを贖罪にしようしたのだ。

 これが「贖罪」と呼べないことは言うまでもない。一人だけで行われる解釈なのだから、所詮は自分自身の煩わしい
呵責を打ち消すために行われる行為なのだ。主人公が殺人を寸前で止めたことによってそのことが暴露され、彼は自分
の非を認める。ここまではいい。問題は主人公によって真実が明らかにされた後だ。

>「そうかもな。そうかもしれない。争いごとは嫌いだったから」
> だけど、と茂さんは続けた。
>「もうそれを訊くこともできない」

 この独白に近い言葉――いや、これは独白だ。単なる独り言という意味ではない。自らに言い聞かせるという意味で
の、またもや自分だけで行われる勝手な解釈という意味での独白なのだ。どうせ死者の声を聴くことなど出来ない――
されど、いざ人が口にした時、それは別の意味に変わる。具体的に言えば、この言葉は「茂さん」の耳から妻の声を遮
断するための手段なのであって、やっていることは相変わらず一人だけで行われる解釈なのだ。
 冒頭で死者の声は聞こえないと言ったではなかったかと問われれば、確かにその通りだ。が、それは死者自身の意志
が伴った声は聞こえてこないという意味であって、死者によってもたらされる自律のきっかけとなる声とは違う。同時
に、「茂さん」が遮断した声とは後者の声なのだ。
64 :全巻2/7 ◆ihO9dxzf9I [sage saga]:2012/08/13(月) 22:26:39.35 ID:t+oHpmaB0
 死者によってもたらされる自律のきっかけとなる声とは何か。死者を他者と置き換えてみればわかる。我々は他人と
接する時さまざまな推測をする。彼は私をどう思っているのだろうか、彼は今の行動によって何を私に伝えようとした
のか……推測によって我々は自分の中に予測の出来ない要素を創り上げ、その要素と折り合いをつけながら、他人と上
手くやっていけるように自らを律するようになる。いわば自我を律するもう一つの自我を創り上げる(念のために言え
ばこれはフロイトの「超自我」とは違う)。
 もう一つの自我が他人によって生まれるからには、それは他人の声といって差し支えない。他人も自分の理解には収
まらないという点では死者とほとんど代わる所がない。それらを意識するのが生きている自分でしかない、という点で
も。死者によってもたらされる自律のきっかけとなる声とは、こうした意味を含んでいる。
 「茂さん」は確かにこの声を聴いていた。妻の声を聴きながら自らを律しようとはしていたのだ(解釈があまりにも
恣意に満ちていただけであって)。これに対して主人公は事故の当日に起きた真実を教える。「咲子」の取った行動を
示して殺人を犯す必要などないのだと諭す。それは「咲子」が犯行を止めた理由を教えるにすぎず、彼女が夫に対して
抱いていた感情を説明することにはならない。だが、「茂さん」は先の引用で示した言葉を発する。妻の感情など所詮
は理解できないのだから、もうこだわることはやめよう、とばかりに。
 それは懊悩の終焉を告げることに等しい。誤解によって生み出した自分の感情を解決するに等しい。誤った感情を解
決することは間違っていない。ただ、この時「茂さん」は物語のきっかけとなっていた「咲子」の声まで消してしまう。
より具体的に言えば、死んだ妻への言葉にならぬ意識が、自らの理解の枠に収まって完成してしまう。もしかしたら許
していてくれたかもしれない、もしかしたら……という死者の(本当の)つかみどころのなさを打ち消した上で。

>「……そこで焼きが回ったわしが思いついたのが、柴田めぐみの殺害さ。柴田めぐみを殺せば、あの時の咲子の気持
>ちがわかるんじゃあないか、と思った。わしの中に、咲子が宿るんじゃあないかと、そう思った。(中略)だけど、
>あの時は、それが唯一の救いのように感じた……」

 「茂さん」は確かに「咲子の気持ち」を理解することはできなかった。一方で、理解できないとわきまえるしかない、
という避難所にも似た「救い」をここで得たのである。この避難所はいつか崩れるかもしれないが、彼には間もなく死
が待っている。そこで全ては洗い流される。二度と「茂さん」と「咲子」の声が通い合うこともない。
 忘れてはいけないのは、それを見届ける主人公がいると言うことだ。しかしながら、主人公にとってもこの物語は完
結を迎えてしまったらしい。

> 青い粒が一滴、地面に跡を残した。それは涙のようにも見えた。

 こうした自己陶酔を「お涙頂戴」という。しかし、涙を流したところで何かが解決できるわけでもない。
65 :全巻3/7 ◆ihO9dxzf9I [sage saga]:2012/08/13(月) 22:28:22.35 ID:t+oHpmaB0
No.03 あなたの声を祈りによって聴く可能性について ◆ihO9dxzf9I氏
 ヤバイ。あかりヤバイ。まじでヤバイよ、マジヤバイ。あかりヤバイ。まず可愛い。もう可愛いなんてもんじゃない。超可愛い。
「結衣や京子よりも?」
 とか、もう、比較考量できるレベルじゃない。何しろ無限。スゲェ! なんか単位とか無いの。
三次元とか二次元とかを超越してる。無限だし超可愛い。
 しかもサザエさん時空だから成長しないらしい。ヤバイよ、成長しないんだよ。ずっと中学生なんだよ。
 だって普通は中学生とか成長するじゃん。だって自分の子供がずっと赤ん坊のまんまだったら困るじゃん。
小学生とか超可愛いまんまとか困るっしょ。
 中学生が成長しないで、15歳の時は襲うか襲わないか迷うくらいだったのに、20歳越えても容姿が変わらないとか
即ハメボンバーっしょ。だから普通の人間は成長する。話のわかるヤツだ。
 けどあかりはヤバイ。そんなの気にしない。成長しないまくり。1巻の絵と9巻の絵は違うけどあかりの可愛さだけは
ずっと変わらない。しかも中学生のまんま。ヤバすぎ。
 無限って言ってたけど、もしかしたら有限かもしれない。百合姫の連載が終わる日はくるし。でも連載が終わっても、
「コミックスの中のあかりはずっと可愛いんだから結局あかりの可愛さは無限じゃない?」
 ってことになるし、可愛さが途切れるかはわからない。ヤバイ。誰にもわからないなんて凄すぎる。
 あと超優しい。ちなつがレイプしても何事もなかったように仲良くしてくれる。不憫な扱いされても誰も責めない。
ヤバイ。優しすぎ。ガンジーも助走つけて慈愛を求めるレベル。怖い。
 それに超出番がない。超空気。それに超影薄い。主人公なのに誰にも気に留められないで崖の下に放置とか平気である。
崖の下に放置とかいじめでもやらねえよ、最近。
 なんつってもあかりはお団子がすごい。お団子でUFO撃ち落とすとか平気だし。
 うちらなんてお団子作るとかたかだか自分の髪を結い上げたり、まとめたり、ゴム紐とか使ったりするのに、
あかりは全然平気。お団子をお団子のままくっつけてる。凄い。ヤバイ。
 とにかく貴様ら、あかりのヤバさをもっと知るべきだと思います。
 そんなヤバイあかりと一緒に暮らしてるあかねさんとか超偉い。もっとがんばれ。超頑張れ。
66 :全巻4/7 ◆ihO9dxzf9I [sage saga]:2012/08/13(月) 22:30:48.28 ID:t+oHpmaB0
No.04 マリアと ◆1ImvWBFMVg氏
 話をまとめれば自らの頭の中の理想像としてのマリアを求めたが、マリアはあくまでも観念の中のものに過ぎず現実に
はない、そんな事実に思いが至らぬまま倒錯した意識を持った末に絶望を抱いた少年の挫折譚といったところだろう。そ
れ自体はなんら面白くない。少年の語り口も凡庸だ。

>もちろんそれ自体はひどく感動的な話だ。だが醜悪であることだけは間違いようがない。

>ただ口が利けない方が何かと好都合だった。なので自分はそのまま喋れないふりをした。もともと口数の少ない方なの
>で、それほど苦でもなかった。

> 神父にこう言われたからと言って、別段会いにいくつもりもなかった。それでも会いに行ったのは、たぶんどうしよ
>うもなく暇だったせいかもしれない。

 周囲に対して突き放したような態度を取りながらも少年は語り続けるし行動し続ける。絶望の裏側にある希望を求めて。
しかしながら少年はそんな屈折した希望さえも手に入れることが出来ない。

> マリア像が不敵に笑っている気がした。何か言わなくてはいけない気がした。
> だがその時出てきたのは、のどのかすれた山羊に似た泣き声だけだった。

 だが、これでも少年は救われてしまっている。

> 人生の美しさを語ろうとしたとき、どれだけの小説家たちが言葉では表せない秘密を原稿にあぶり出そうと必死にも
>がいて、挫折を繰り返してきたことだろう。
> どれだけの音楽家たちが、音の魔力に取り憑かれ、美しい調べを求めて時間を潰してきたことだろう。
> どれだけの画家たちが。どれだけの数の人々が。どれだけの。
> もちろんそれ自体はひどく感動的な話だ。

 冒頭に記されたこうした人々と、自分は仲間であるという意識に支えられて。
 私はこれを哀れには思うが、普遍的に存在する事実だと思う。むしろこれ以上に酷い出来事がこの世には潜んでいる。
念のために言っておくが、甘っちょろいなどと言いたいわけではない。各々の悩みはかけがえのないものなのであり、そ
れぞれに真実が存する。
 だからこそ、このような通俗的な物語に自分をあてはめた上で、これはこれで小説に出来るのだから救われている、な
どと怠惰な感情にしか浸れないことこそ私は哀れだと思う。そうやって自らを歪んだ形でしか表現できないことを哀れだ
と思う。かけがえのない存在だからこそ、かけがえのない語り口が求められるのだ。それがない限り小説(文学)という
名の「マリア」は救いの手を差し伸べ続けるだろう、人を通俗的な解釈の形にあてはめるために、偽善に満ちた慈愛まが
いの甘っとろい声でささやきつつ。
67 :全巻5/7 ◆ihO9dxzf9I [sage saga]:2012/08/13(月) 22:33:01.77 ID:t+oHpmaB0
No.05 聖娼婦るなるな ◆7az9zC1iQs氏
> 懺悔するなら、僕はまだキャラクターの存在を信じたことがない。同じように、神の存在を信じたこともない。
>だから、きっと、つまり、以下垂れ流される文章はまったく生きていない。神というものが我々が作った粘土細工であ
>るように、以下流される物語のキャラクターはすべて粘土細工に過ぎない。僕と言うその物語の神の。神という作者の。
>我々自身も、粘土細工であればただ粘土細工の踊る世界でひどく愉快だったろうに。
> 神も、人も、物語の登場人物も、すべて粘土細工の踊る世界は。
> 神は人に宿る。

 これに賛同しようが反発しようが意味はない。これは語り手の決意であって意見ではない。他人には揺り動かせない。
登場人物が粘土細工で操られていようと、それを動かすのは意志を持った人間である。問うべきは語り手が意識の有無に
かかわらず、どういった意図でこの言葉を述べているかだ。
 上に記した言葉は事実の指摘と共に、私の意図を読者に語りながら、これからの論旨を縛るパフォーマンスとしての意
味もある。語り手にもこれと同様、すべては粘土細工なのだと他人のみならず自分に言い聞かせながら書いている。だか
らこそこの小説は単に事実の記録や作中作と捉えるわけにはいかず、語り手の自己表白として見る必要もある。
 奇怪な設定が垂れ流されるが筋は簡単だろう。儀式のイケニエ的な役割を担った「僕」が、棄教を決心し聖女を誘って
逃げようと説得する。儀式にあたって重要な性交を断ろうとした際に彼はこう独白する。

>違うんだ、父さんもやっていることだからやりたくないんだ。

 単純にとらえれば宗教とやらに何もかもを奪われたくないという内心の発露だろう。背景を加味するに「僕」は母親を
亡くした時に宗教によって救ってもらえなかったという事実、および「神は君の母を欲しがられたのだ」なんていうメシ
のタネにもならない慰めをされたものだから猜疑心を抱いていると思われる。だからこそ教団を抜け出したという形式を
取った上で聖女と逃げようとする。ありがちなストーリーだ。もちろん、このあとに述べられる聖女の拒否の言葉も。

>「わたしね、じぶんの仕事をほこりにおもってるの」

 「ほこり」を持っていようがやはりメシのタネにはならない。宗教というプログラムの運転に寄与するのみだ。
 ここから読みとれるのはありがちな物語の統制の下に置かれる中で、すべての人間もまた粘土細工のように動き続ける、
というだけのことである。

>科学の時代に生まれた。神秘の少ない時代に生まれた。それだけだ。そして宗教の現場を見てきた。それだけで十分だろ?

 この言葉からもわかるとおり「僕」の諦念を表すためのストーリーしか描いていない。ただそこで「るなるなちゃん」
がやってくる。果たして勧誘に来たものかどうか、何はともあれ「僕」にとって奇跡が起きたには違いない。何もかもあ
りきたりなのだ、奇跡など起こりはしない、そう言い聞かせている所にまさかのことが起きた。信じられない、オーマイ
ゴッド。要素を分解してみればまるで面白くもないこまっしゃくれヤロウが自分勝手に「救われた」だけなのだと気づく。
 おかしな文体も読者に対する拒絶として働いていたのだろう。そんな態度はいらない。別に取ってもいいが、いずれ自
家中毒で死ぬよ、としか言いようがない。個人的な話をすれば確かにキャラクターは紙の上に書かれたものに過ぎない。
だがなぜ紙の上に書かれたキャラクターが人を泣かせたり笑わせたりするのか、それこそ神秘に近い出来事(垢にまみれ
た言葉だ)の手前で立ち止まることなく、粘土細工などと居直る人間には興味もない。いや、こうして強気に出ると言う
ことはどこかで粘土細工でないという希望を持っている証なのだろう。だからといって、偽の絶望によって希望を手に入
れるなんて小細工に興味もない。
68 :全巻6/7 ◆ihO9dxzf9I [sage saga]:2012/08/13(月) 22:34:49.70 ID:t+oHpmaB0
No.06 守護女神伝説 ◆InwGZIAUcs氏
 わぁい投げっぱなし! 俺投げっぱなし大嫌い!

No.07 貴方の女神になり損なって ◆rmqyubQICI氏
>「あなたがいなくなるんじゃないかと思って、怖くなったの」。……却下。どこの夢見る少女なんだか。

 いやあ、アナタ十分夢見る少女だと思いますよ。旧校舎ってのは、いわば隠れ家みたいなものでしょう? 誰も来やし
ない、ねえ。そこで男と女が二人で出会っちゃったら、そりゃもう。おまけにブレーキになるはずのもう一人の女部員の
肩がいなくなっちゃったら、わっほう、ってな具合でね。アナタそこで吊り橋効果にかかっちゃったんですよ、鳥羽くん
だっけ? 彼のこと森の中の王子様かなんかと思いこんじゃって、裸婦画を書くなんていう奇特な――オカルト研究会に
入っているアナタ好みであることは間違いない――趣味をお持ちの隠微なる王子様。でも、これから大変だと思いますよ、
なぜって、アナタは理想的な鳥羽くんしか見てこなかったんだから。
 特にねえ、アナタ鳥羽くんと付き合う前からアナタ自身のことしか考えてなかったでしょう。

> 問題はそこではない。私がどう思うかではなく、彼がどう思うかである。
> 最近ストレスが溜まり気味で、ちょっと肌の具合が悪い。気がする。ここのところ食べ過ぎの観があって、せめて一
>週間前ならウエスト周囲があと五センチは細かった。と思う。他にも変なところの毛を処理し忘れてはいないかとか、
>こういうときはどういった下着を履いていけばいいのかとか、不安が山積みで、しかもそのうちのいくつかは今も解消
>されていないのだ。

 彼がどう思うか、なんて書いてるくせに結局はアナタ自身のことばっかり考えてるんじゃないですか、実際のところ、
アナタの裸を見て鳥羽くんは欲情しちゃいました、そんな鳥羽くんの困惑を見ぬけてなかった、見抜こうともしなかった
……あぁ、すいませんねえ、いいんですよ、恋は盲目なんて申しますし、これから二人の間で距離を縮めていけばいいん
だと思います、しかし、ねえ。

> ぺちっ、と額を軽く叩かれた。とても幸せな気分だったので、仕返しとして頬にキスをした。そのままぎゅっと強く
>抱きつく。
>「しばらくこうしていてもいい?」
> 幸福だった。このままとけてしまいそう。そんな陶酔感に浸っていると、

 やっぱりアナタはアナタ自身のことしか考えていらっしゃらない。道徳の授業なんてやるつもりはございませんが、
自分中心で完結してる小説は面白くないとハッキリ申せます。
69 :全巻7/7 ◆ihO9dxzf9I [sage saga]:2012/08/13(月) 22:36:06.99 ID:t+oHpmaB0
******************【投票用紙】******************
【投票】:なし
【関心】:No.04 マリアと ◆1ImvWBFMVg氏
       ― 感 想 ―
      具体的な救いの手を差し伸べないこともマリアの性格の一部である。
     性格の全容とやらもきっと私達には汲みつくせないであろう。
     しかしながら、どの道我々は降り注いでくる天使の捧げものと悪戦苦闘を
     続けなければならない。慈愛に満ちたマリアなどキリスト教徒の欲望が
     具現化した結果に過ぎないと知った少年の前途に祈りをささげる。
**********************************************

 小説は衰退していたらしい。どの点を持って衰退したかはよくわからない。同じようなものとして「文学は死んだ」など
と語られている。私にはいずれも未だ元気に表通りを跋扈し続けているように思えてならない。
 勘違いしては困るが、歓迎すべき事態ではない。小説が面白くなくなったとすれば、それは小説という形式に信頼が集ま
りすぎたからなのだと思う。同様のことが文学にも言える。小説も文学も死なない。無論、これは殺しても殺し足りないと
いう怨嗟である。小説は無残に人を殺していくし、文学も人から希望を奪っていく。これに神話やファンタジーを対立させ
て意味がないことは、それらも文学や小説のジャンルとなっていることから明白である。神がいるのだとすれば今頃は捧げ
物として供された見目麗しき文章を貪りつくして腹が破裂しそうになっているのだろう。神が女ならば淫らな姿態をくねら
せて今日も欲望をたぎらせた文章から精液を絞り取っているのだろう。
 誰が何と言おうと神も小説も文学も死なない。相も変わらず人はこいつらに頼り続ける。頼っておらぬと肩で風を切って
歩いている連中でさえ裏ではこいつらの後ろ盾を貰っている。こいつらを一時的にでも殺せた人間がわずかにしかいないこ
とこそ問題なのだ。
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) :2012/08/13(月) 23:19:16.22 ID:x3dEhYxzo
二人共ぜんかんおつっすー
71 : ◆InwGZIAUcs :2012/08/14(火) 00:50:55.87 ID:yzA03YPv0
全感投下。例によって棚上げですが、よろしくお願い致します。
72 : ◆InwGZIAUcs :2012/08/14(火) 00:52:28.99 ID:yzA03YPv0
No.01 みんなでしあわせになりたいな ◆pxtUOeh2oI氏
キャラが立っていておいら好みでした。予定調和に強引さ故の違和感を感じてしまった。
感じなければ投票、すくなくとも関心票をしていたと思います。

No.02 その命、尽きるとき ◆AWMsiz.p/TuP氏
文書が読みやすくて良かったと思います。だけど、よくも悪くも普通なイメージ。
どこかで見たり聞いたりしたようなお話だった気もします。

No.03 あなたの声を祈りによって聴く可能性について ◆ihO9dxzf9I氏
目がすべる。途中まで読みましたが8レス目くらいで挫折。ごめんなさい。
でも最後の日記だけ見た。私小説にちかいのだろうか? あまり詳しい事はわからないですが、
問題なのは内容に興味をもてないこと、物語の落としどころが分からないという事でした。
好みの問題かもしれませんが。

No.04 マリアと ◆1ImvWBFMVg氏
最初の情景や登場人物が掴みにくいかと思いました。なんだかセピア色の悲しいお話のように
感じます。最後の展開は好きなのですが、いかんせん読んでいるおいらも暗くなってしまいましたorz

No.05 聖娼婦るなるな ◆7az9zC1iQs氏
ごめんなさい、オチが良く分からなかった。キャラが立ってるのは良かったです。
るなるな可愛いwwwwwwww

No.06 守護女神伝説 ◆InwGZIAUcs氏
いつもならAA突っ込んでおくだけなんですが今回は少し書きます。
全感二つを読んで、書こうと思ったので、特にihO9dxzf9I氏は読んでもらいたいなと思います。
今回は自分の中でちょっと試してみたい事がありました。
「その事に気づいてもらえない=自分の力量が足りない」と考えているので、
読み手に非はまったくないのですが、決して投げっぱなしにしたわけではありません。
なので、そこだけ分かってもらえたらと思いますorz
73 : ◆InwGZIAUcs :2012/08/14(火) 00:53:45.38 ID:yzA03YPv0
No.07 貴方の女神になり損なって ◆rmqyubQICI氏
うん。面白かった。キャラ立ってるし、おいら好みな展開で面白かったです。



******************【投票用紙】******************
【投票】:No.07 貴方の女神になり損なって ◆rmqyubQICI氏
【関心】:No.02 その命、尽きるとき ◆AWMsiz.p/TuP氏
**********************************************
王道は悪くないと思うのです。展開が読みやすい分、読み手を驚かしやすいし、
安定感があると思います。しかしそのスパイスとしてキャラクターの存在は
本当に大事だなあと改めて認識しました。とにもかくにも、皆様お疲れ様でした。
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/14(火) 01:04:18.18 ID:PAi33wlUo
全感乙!
75 : ◆ihO9dxzf9I [sage]:2012/08/14(火) 01:18:20.01 ID:R74RnGLAO
呼ばれたからやってきた
正直読み直してもよくわからないし、いっそ解説してほしい
でも直感でどうせわかっても面白くはならないだろうと思うし改めて感想を書く気にもなれないだろうとも思う。
素材の段階から全く興味が持てないし執筆態度に関しても自分自身を見つめ直した方がいい。
76 : ◆InwGZIAUcs :2012/08/14(火) 02:08:57.63 ID:yzA03YPv0
◆ihO9dxzf9I氏の言うとおり解説あっての感想は書きたくないし、そもそも面白くないと思った作品に
ついて語られてもうんざりするだけだと思います。
また、まだ投票してない人が居る以上言うのはフェアでないので解説はしないです。
上にも書いたけど、そう読まれてるのは俺の実力不足だからしょうがない。
興味ない素材というのも参考になります。ただ、俺はこういう話で面白いものを書きたいと
思ってるんです。それを◆ihO9dxzf9I氏に興味を持てなんて俺は言いません。興味が無くても
面白いと思ってもらえるものが書きたいだけです。
だけど、それに対して試行錯誤する執筆態度を否定する理由が分かりません。それこそ解説が欲しい。
77 :全感 [sage saga]:2012/08/14(火) 06:39:18.46 ID:Z7XWMWKoo
No.01 みんなでしあわせになりたいな ◆pxtUOeh2oI氏
中途半端だと、つぶされちゃいやすいんですよね。
何人犠牲になったやら。
神様は泣かない方がいいと思います。
世の常、世の無常、そういうものをどうにもできない、観測者的立場の神ならば、
人間とはそういう生き物なのだと、悟っていたほうがそれっぽいかと。
魔法世界なので、出すならサリーちゃんとかがいいんじゃないですか?
青狸は科学の結晶なので。
あと、済むって意図的に書いてあるんですかね?

No.02 その命、尽きるとき ◇AWMsiz.p/TuP氏
いいですねぇ。哀愁漂ってると思います。
特に突っ込むところもなかったので、言うことも無いです。
僕にはこういうのは書けないので。

No.03あなたの声を祈りによって聴く可能性について ◇ihO9dxzf9氏
僕こういうの好きです。
ただ、構成というか、話の筋立てというか、
主人公が考えながら生きている様は面白いんですが、
今日は、今日は、今日は、で進んでしまっていて、特に読書パートが挟まると、
それまでの流れが止まって、リズムが乱れたような印象を受けました。
文章のバランスって難しいですね。

4 マリアと ◇1ImvWBFMVg氏
人の形を、って言うから山羊と人間のキメラが生まれるのかと思いました。
僕はエロスに取り付かれた側の人間ですから、そのまま全部喋らずに、
ぬるい関係に浸っていてもいいと思いますけどね。
きれいにオチがついていると思います。
78 :全感 [sage saga]:2012/08/14(火) 06:39:49.90 ID:Z7XWMWKoo
No.05 聖娼婦るなるな ◇7az9zC1iQs氏
この話はどこに行き着いて終わったんですかね?
つづくで終わる話はあまり好かないです。
例えば、聖女との逃避行をきっかけに主人公は宗教にどうしようもない嫌悪を抱くようになり、
聖女と再会したことで、喜びと絶望を同時に味わって、みたいな感じだったら、
きれいに落ちてたんですかねぇ。

No.6 守護女神伝説 ◆InwGZIAUcs
つづくで終わる話はあまり好かないです。
それ抜きでも、展開が唐突だと思います。

No.7 貴方の女神になり損なって ◆rmqyubQICI氏
決め手にかけるというか、なんというか、
もうひとひねり欲しかった感じでしょうか。
例えば、ミス研会長がもう一手加えるとか。
あと、彼女の視点の彼女らしさをもう少し書いていくといいと思います。
79 :全感 [sage saga]:2012/08/14(火) 06:40:48.81 ID:Z7XWMWKoo
******************【投票用紙】******************
【投票】:なし
【関心】:No.02 その命、尽きるとき ◆AWMsiz.p/TuP氏
     4 マリアと ◇1ImvWBFMVg氏
**********************************************

わからないなりに面白かった作品に票を。
わかった作品には突き抜けたものがなかったように思います。

小説の定義、というものは、広がってきた、というか、広がってしまったというべきか、
とにかく様々なものが「小説」もしくは文字媒体の作品として受け取られていると思います。
しかし、ここ、文才ない品評会は、変わらず個人間で感想がやり取りされていて、
やっぱり僕はそういうコミュニティ、好きですね。

勝手なことばかりで申し訳ないです。作品も出さないくせに他人の批評などと、
思われる方もいるかもしれませんが、なにとぞご容赦ください。
それでは、僕はこの辺で失礼します。
80 : ◆7az9zC1iQs :2012/08/14(火) 06:57:25.84 ID:siq0tTGjo
******************【投票用紙】******************
【投票】:なっすぃ
【関心】:4 マリアと ◇1ImvWBFMVg氏
**********************************************
とりあえず投票だけ
全巻なんとか書きたいが無理かも
81 :全感 ◆1ImvWBFMVg [sage]:2012/08/14(火) 07:37:12.89 ID:hCPnjOFd0
 女神!女神!ベルダンディー!ベルダンディー!さぁ一体どんな女神が飛び出すんだ!
期待で胸が膨らんでBカップぐらいの美乳になって、その感触を楽しみつつでも、いやマ
ジで明日からどうしよう…って困るくらい期待しているからな!
(注:スレの空気が違ったので投下できなかった可哀想な文章です。見てあげてください)


No.01 みんなでしあわせになりたいな ◆pxtUOeh2oI氏
アズラン…あずにゃん…うん、あずにゃんだな。ちきしょう憎たらしいくらい可愛いぜ。
えー。から揚げって。肉料理でいいんじゃないのか。しかし設定が最近の萌えキャラ漫画
っぽいな。アズール…あずにゃんだな。あざといポニーテールしやがって、可愛いなもう。
いやいや青狸って。現代日本なのか。なんだこりゃ。うーん…。あれか、氏の中で日常描
写フェアでも巻き起こっているのかな。ちょっと若干やり過ぎている気が…。
 ええ!?そういう展開!?また微妙なサービス精神だ…。日常からの転ならもっとそう
言う破綻を起こさない素材があっただろうに…。
うーん…。どうしてこうなった…。何というか、この展開で行くとしてもパーツが足りな
いような。起承転結の承がないのかな。
はい。転→結はしっかり?している(とはいえいきなりクライマックス!になって読者
に置いてけぼり食らわしてはいますが)。なので、問題は承の部分かと。もう少しいろい
ろ、ミズキが学校に着いてくるのを嫌がる等の伏線を其処此処に散りばめないといけな
いんじゃあないかと。
 というかあまり話練ってないでしょこれ。いくらなんでも雑すぎるのじゃあないだろか。
大筋は悪くないような。うーん。

No.02 その命、尽きるとき ◆AWMsiz.p/TuP氏
はいはい、かき氷のブルーハワイ味とか美味そうだよね。あらま。オーソドックスな感
じの作品が来ました。
うーん、それっぽいけど死期の設定ははっきりさせたほうが良いと思います。会ってどう
するかもぼんやりかー。後々持って行きたい方向があるにしても、あまりぼやかすのは良
くない傾向のような気がします。
このラーメン屋の下りは無駄かも。会話文全部カットしても問題ないはずです。ふむふむ。
なかなか丁寧な話運びで。
あー、なるほどね。そっち持って行きたかったんだ。だからぼやかしたと。でもそれな
らもっと伏線めいた会話に出来た気が…。
 んん?殺害?なんで?え、そのホステスに入れ込んでいたんじゃないの?はい?マジ
か!逆恨みってレベルじゃねえぞ!んん?いや普通そうはならないだろう。なにその引き
継ぐって。
82 :全感 ◆1ImvWBFMVg [sage]:2012/08/14(火) 07:38:05.48 ID:hCPnjOFd0
えええええええええ!!!もうちょっと他に理由なかったのか!!いや考えろ考えろ!
もったいないぞ、ここまでの労力がさ。
 はい?普通はそう考える?ごめん、ちょっと作者の言っている普通の基準が…。うーん?
よくあるミステリー小説の中の普通?でもちょっと納得がなぁ…。話を無理に盛り上げよ
うとして失敗しているような気が…。争うのが苦手?それは必要な文章か?最後の方時間
がなかったのだろうか。
ごめんなさい、肌に合いませんでした。んん?力作でしたけどね。

No.03 あなたの声を祈りによって聴く可能性について ◆ihO9dxzf9I氏
ほう。日記風だ。ぱっと浮かぶのが足長おじさんぐらいの拙い読書量ですみません。
 あれだ、日記にかこつけた筆者の心の独白じゃないか!まあいいか。それにしてもなん
で男女合同?せめて理由を…。いや説明くさくてわざとらしくはなるだろうけどさ。
 なるほどなるほど。やっぱ筆者の心(ry なかなか興味深い話があった。あれだね、スポー
ツ物もこういう風に書くと日常的な読み物になるんだね。とはいえストーリーが。まぁ元
から少ない書き手だったけれど。
面白かったような面白くなかったような。なんか色々はぐらかされた様な読後感でした。

No.04 マリアと ◆1ImvWBFMVg氏
 つまんねえ話。文章表現力が皆無。荒れ地のペンペン草より貧相。せめて推敲しろ。
最初のもったいぶった部分イラネ。安易にスキャンダラスな素材使いすぎ。起承転結をも
っとはっきりさせろ。
なにより文才が皆無。今すぐ死んでどうぞ。

No.05 聖娼婦るなるな ◆7az9zC1iQs氏
 うーん。なんか映画か演劇みたいな感じだね。おおう。
なんというカオス。ゴッドブレスユー。ジーザスクライスト。
悪くはなかった。でもちょっと雑。あと筆圧が軽すぎたかも。難しところだし重くしたか
らって素晴らしくなるとか、そんな簡単な物でもないのだろうけどね。

No.06 守護女神伝説 ◆InwGZIAUcs氏
純正ラノベきたか。あー、はいはい。身代わりだろうね。うーん。
ちょっと話が一本道というか、筋道がすんなり通り過ぎててアレかな。余裕がないという
か、なんだろ。お楽しみポイントがないというか。文章その他は素晴らしいんだけどね。 
節目節目でポイントを押さえる派手なギャグなり、軽快で巧妙な狂言回しを入れるとか、
そういうので良いんじゃないかと。あとまだ終わってないかも。
とはいえやはり前回と比べても、すこしギャグが足りない気がします。
83 :全感 ◆1ImvWBFMVg [sage]:2012/08/14(火) 07:42:16.86 ID:hCPnjOFd0
No.07 貴方の女神になり損なって ◆rmqyubQICI氏
 うっひょう。さすが孔明、あっさり深夜デートに誘い出したで!あ、なんだ女の人か。
 ふむふむ。青春ですな。うーん。たしかヌードモデルさんってけっこう普通に呼べたよ
うな気が。だいたいヌードデッサンってそんなに隠れてやるような大したことだろうか。
しかもモデルが見られたくないって言うなら、ホテルとか個人宅でやるような。ここら辺
の突っ込みは無粋ですかね。
 青春すなぁ。おいおい。そんなの父さん許さないぞ!だいたい若い娘が男の前で裸にな
るなんてそんなことをだな!母さん!母さん!笑っている場合じゃないぞ!
 すっげえ。俺ならこんなの迷わず犯すぞ。男のチンコは別の生き物であって、それに逆
らうことはほとんど不可能なことであってだな。
まぁ、突拍子もないアタック大作戦の展開も含めて、なかなか上手く書けてたいたのでは
ないでしょうか。「めっちゃシコれよな!」というか。実にぶひぶひさせていただきました。

投票はまた後でします。
参加者や全感書いてる人たちおつおつ。
84 :投票 ◆rmqyubQICI [sage]:2012/08/14(火) 13:06:46.84 ID:kHm3QiEAo
 とりあえず先に投票。あわせて全感も投下します。

******************【投票用紙】******************
【投票】:なし
【関心】:No.01 みんなでしあわせになりたいな ◆pxtUOeh2oI氏
     No.02 その命、尽きるとき ◆AWMsiz.p/TuP氏
**********************************************
85 :全感 1/2 ◆rmqyubQICI [sage]:2012/08/14(火) 13:07:55.54 ID:kHm3QiEAo
No.01 みんなでしあわせになりたいな ◆pxtUOeh2oI氏
 書き出しでちょっとくどいかな、と思いましたが、やっぱりうまいですね。しかしやっぱり科学が発達すると宗教は衰退するんですかね。
作品の評価とは関係のないただの一疑問として。
 突っ込みどころなど。アズラン様、マックでお買い物できるんですかね。科学、いまいち発展してる感がないんですが。アズラン様、これ
だけのことができるんだったらひどく衰退する前に人前に姿を見せて雷バリバリやってれば少なくとも自分の存在を知らしめることくらい
できたのでは。人類にあまり干渉したくなかったのだという可能性もありますが、衰退前の賢いアズラン様なら作中のミズキに対するいじ
めのようなことが信徒に起こることは予想できたでしょうし。というか先生ちょっと無神経過ぎませんかね。
 面白かったのですが、上に挙げたような理由で舞台に張りぼて感が出てしまい、色々と損なわれてしまったように思います。とくに発展
した科学を使っていないように思うのですが、現代設定では書けなかったのでしょうか。

No.02 その命、尽きるとき ◆AWMsiz.p/TuP氏
 淡々とした感じですが、面白かったです。本題に入るまでがちょっと長いような気もしましたけれど、雰囲気を描くのも大事ですよね。
 流石に社会人に「友達と遊びに行ってきな」なんて言いますかね。いえ、言うのかもしれませんが、この台詞とそれまでに主人公の年齢
が分かるような描写がなかったので、社会人という設定が出てきたときちょっと戸惑いました。
 推理パート(といっていいのでしょうか)であえて突っ込むとすれば、二十七日の午後五時までに大分時間があったにも関わらず、主人
公が彼女と村上咲子が包丁を携帯していた件の関連性に目を向けなかった点くらいでしょうか。何か主人公の頭を悩ませるような要素
を適当に放り込めば解決する点なので、大した突込みどころでもありませんが。

No.03 あなたの声を祈りによって聴く可能性について ◆ihO9dxzf9I氏
 とても読み辛かったです(形式的に仕方ないのかもしれませんが)。
 それはまあいいといえばいいのですが、結局自分には何を書き出したいのかよく分からないうちに終わってしまい、感想すら出せないレ
ベルです。前回の品評会の後にもそんな話がありましたが、作者氏の解説があると嬉しいなと思いますね。
86 :全感 2/2 ◆rmqyubQICI [sage]:2012/08/14(火) 13:08:55.62 ID:kHm3QiEAo
No.04 マリアと ◆1ImvWBFMVg氏
 こう書くとあれですが、よくある「後味が悪いだけの作品」だなぁ、と感じてしまいました。書き出しの部分も、作者氏的には色々と込めた
ものがあるのだろうという感じはするのですが、自分にはよく分からず正直文字数を増やしているだけにしか……。

No.05 聖娼婦るなるな ◆7az9zC1iQs氏
 うーん……。うーん……?
 全体的に何をやろうとしているのか理解できませんでした。ちょっと変わった形式を使ってどういう効果を出そうとしたのかもよく分かりま
せんし、書き出しの部分も作品を読み終えた上でどうも「はまっていない」感じがします。というか、「はまっていない」以前に「何を書いてい
るのかよく分からない」のですが。そして最後……ああ、るなるな来ちゃうんですね。で終わりですか。うーん……。

No.06 守護女神伝説 ◆InwGZIAUcs氏
 ところどころ単語選びというかなんというかに違和感があるのは、まあご愛嬌ですかね。
 全体的にテンプレ以上のものがない上いまひとつ盛り上がりどころなく終わってしまった感じで……独自性を出そうとした形跡は見られ
るのですが、ちょっとこのストーリーを短編でやるのはどうだろう、と思ってしまいました。

No.07 貴方の女神になり損なって ◆rmqyubQICI氏
 ちょっと引かれそうな内容かなと思っていたのですが、他の方々の作品を読んでまったく無用な心配だったと気づきました。覚えていた
以上に自由度の高い場でしたね。今度書けなかったときは数学の証明でもぶち込むことにします。
87 :全感 0/4 ◆AWMsiz.p/TuP :2012/08/14(火) 13:44:17.49 ID:X9UYt9Vc0
全感投下 全4レス
88 :全感 1/4 ◆AWMsiz.p/TuP :2012/08/14(火) 13:45:27.37 ID:X9UYt9Vc0
No.01 みんなでしあわせになりたいな ◆pxtUOeh2oI氏
割と楽しめた。ミズキとアズランのキャラクターは悪くない。
特に宿題のシーンは、アズランの特異性と各キャラクターの性格を上手く書けていると思う。
ストーリーについてはありがちな展開という印象。
ミズキが普通の中学生かと思いきや……という展開は面白くなりそうだが、
地の文の引張りがいまいちなので、盛り上がりに欠けるのが残念。
それと最期アズランが何をしたのかが、さっぱりわからなかった。
信じる心があれば、それに応じて能力が上がっていくというのは面白い。
だけど、それは何でもありということではない気がする。
あと細かいことだけど、あまり一般的ではない名字や名前は、最初に読み方を書いたほうがいいと思う。
印象に残った文章は
『アズランさまはラストセンベイをバリッた。』

No.02 その命、尽きるとき ◆AWMsiz.p/TuP氏
自作

No.03 あなたの声を祈りによって聴く可能性について ◆ihO9dxzf9I氏
日記調の小説はあまり読んだことがなかったので、
楽しみにして読み始めたのだが、節々に感心するものはあるものの、
ヤマなし、オチなし、という感じで淡々と終わってしまった。
読み手ではなく書き手としての視点で見れば、日記調の小説のいいところと悪いところ(特に後者)がよくわかったので、読んでよかった。
で、肝心の話のほうだが、とにかく抑揚がなさ過ぎる。
まあ日記なんてそんなもんだ、と言ってしまえばそれまでなのだが、あくまでもこれは小説なので、なんらかの盛り上がりは欲しいところ。
また、主人公はずいぶんと記憶力がいいんだなあと思った。
先生の言葉や、先輩の言葉をしっかりと覚えている辺が。暗記教科(歴史なんかは)実は得意なのではないだろうか。
印象に残った文章は
『面白いですね、それ、他人の数だけ多くの自分がストック出来るってことなんだから』
89 :全感 2/4 ◆AWMsiz.p/TuP :2012/08/14(火) 13:46:41.87 ID:X9UYt9Vc0
No.04 マリアと ◆1ImvWBFMVg氏
ストーリーも綺麗にまとまってはいる。が、いまいち盛り上がりに欠ける。
性欲を持て余す主人公が、マリア様を連想するものに対し興奮しているが、
そもそもなぜマリア様にそこまで惹かれたのか、そこがよくわからない。
本来手の届かない神という存在に己の欲をぶちまける行為がよかったのだろうか。
それにしては、特に主人公は信心深いわけではないようだった。
それと、冒頭部分の
『もしこの世に女神が存在したとして、はたしてそれは本当に人の形をしているのだろうか。』
という箇所は、何のために存在しているのだろう。
その後の話に何かかかるわけでもなく、最終的に振り返るわけでもない。
内容自体には、感心するものがあるが、メインの話に絡まないのでは意味が無い。
全体的に読ませる力を感じるのは、文書の綺麗でやリズムがいいからだと思う。
印象に残った文章は
『人生の美しさを語ろうとしたとき、どれだけの小説家たちが言葉では表せない秘密を原
稿にあぶり出そうと必死にもがいて、挫折を繰り返してきたことだろう』


No.05 聖娼婦るなるな ◆7az9zC1iQs氏
るなるなと会ってからの展開が速すぎる印象。
もっと丁寧に書いたほうが、ラストが活きたと思う。
あと冒頭がなに言ってるかわからない。
『僕のような強欲な愚鈍にとって、他者とコミュニケーションをとろう?とする?手段はほぼ三つに限られる』
久々に読むのを挫折しそうな小説にであった、と感じたほど。
まあ、「1、I WANT YOU」からは、わかりやすい文章だったのでよかった。
『クーラーが聞いてないせいか、ぴらぴらとはためかせ小さすぎる団扇がわりにしているほどだ』
これは笑った。むかし仲良くなったスイス人が同じことをしていたのを思い出した。
るなるなについて、知らないというのは悲しいお話なのか、幸せなお話なのか、なんとなく悩むものがあった。
印象に残った文章は
『僕は昔から神はいないと思っていた。なんでって? そんなの、バイクにのった坊さんを見れば分かる』
90 :全感 3/4 ◆AWMsiz.p/TuP :2012/08/14(火) 13:47:31.90 ID:X9UYt9Vc0
No.06 守護女神伝説 ◆InwGZIAUcs氏

話はわかりやすく。読みやすい。
ただ、とくにヤマもなくオチもない、という印象。
読んだ感じ、これは起承転結で言えば、主人公が戦う理由を得る『起』の部分。
もちろんその『起』も細かく分割していけば、起承転結にはなっている。
ただ圧倒的に『転』と『結』が弱い。ここをしっかりと盛り上げておくとよかったように思う。
ストーリーについて、結局リリス姫は交配の儀の何が嫌だったのか、疑問に感じた。
要は魔物と交わるのがいやだった、ってのは想像できるんだが、それだけ?って気もする。
例えば、それで国の安全が保たれるなら、とは感じないのだろうか。
そういう点から見ると、リリス姫とシューゼルが自分勝手に見え、そこに正義感を見出せない。
まあそういった諸々も含めて、今後どう展開するのか、気になるところではある。
面白くなりそうだが、掌編には向かなかったと解釈している。
あと細かいことだが、まとめ転載してないよね。やることはやろう。
印象に残った文章は
『絶対正義の象徴を有するこの剣が振り下ろされたが
最後。どんなに泣こうが喚こうが、非の所在は切先を向けられたほ方になることだ』


No.07 貴方の女神になり損なって ◆rmqyubQICI氏

文章がリズムが全体的にいい感じ。
話もすっきりしていて、読後感も良く、面白かった。
ただ、途中でオチが読めたので、そこは工夫の余地がある部分だと思う。
いい意味でも悪い意味でも裏切りがないので、そこに少し物足りなさは感じた。
あと、お題の女神って部分だけど、ちょっと薄いですね。
これは話のきっかけにはなっているものの、
全体を通して絡む部分が少ない(とくに美術部だとわかってからは、全く触れていない)ので、
お題の消化という意味では微妙かもしれない。
それとタイトルの「貴方の女神になり損なって」はどういう意味なんだろう。
なり損なって、お互いの気持ちに気付けた。とかそういうことかな。
印象に残った文章は
『よし。多分よくないけれど、よし。』
91 :全感 4/4 ◆AWMsiz.p/TuP :2012/08/14(火) 13:48:39.04 ID:X9UYt9Vc0
******************【投票用紙】******************
【投票】:No.07 貴方の女神になり損なって ◆rmqyubQICI氏
【関心】:なし
**********************************************

純粋に小説として楽しめたNo.07に投票。
久々の品評会参加、結構息抜きになった。
人の作品を読んだり、評価されたり、というのは、刺激になるね。

感想について、解釈が間違っている部分があったら、コメントおくれ。
もちろん投票について、なんら覆るものはないけど、
読み間違いや勘違いによって、理解されないのは悲しいからね。

ではでは、お疲れ様でしたー
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/14(火) 13:48:39.72 ID:hNG5Gjcao
>アズラン様、マックでお買い物できるんですかね
( ゚д゚)!! イマキヅイタヨ……
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府) [sage]:2012/08/14(火) 13:57:22.01 ID:kHm3QiEAo
あ、品評会まとめスレへの転載って各自やるんですね。そりゃそうだ。
他にやる方がいなさそうなら自分がやっておきます。

>>92
ご本人でしょうか? ちょっとまずい箇所だったかと思います。
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/14(火) 14:07:29.69 ID:hNG5Gjcao
ご本人様です
結構、ライブ感で書いているのでやっちゃったww
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/14(火) 22:16:21.00 ID:jaxaFWkIO
やはり人の感想は為になるな、自分では見えなかった点がはっきりするというか
96 : ◆1ImvWBFMVg [sage]:2012/08/14(火) 22:33:55.50 ID:jaxaFWkIO
******************【投票用紙】******************?
【投票】:No.07 貴方の女神になり損なって ◆rmqyubQICI氏
【関心】:No.03 あなたの声を祈りによって聴く可能性について ◆ihO9dxzf9I氏?
**********************************************?

【感想】
色んなタイプの小説があって、なかなか刺激的な回だったんじゃないかな。
好き嫌いもばっきり分かれてるみたいだけどね。いや、色々と楽しめました。
まぁでもなぁ。正直言うとみんな仕上げが雑だったかな。え?おまいう?ですよねー。
じゃあまた次回。おつおつ。
97 :結果発表 [sage]:2012/08/15(水) 00:38:53.07 ID:sFhfwzZG0
投 関
− 1 No.01 みんなでしあわせになりたいな ◆pxtUOeh2oI氏
− 3 No.02 その命、尽きるとき ◆AWMsiz.p/TuP氏
− 1 No.03 あなたの声を祈りによって聴く可能性について ◆ihO9dxzf9I氏
1 3 No.04 マリアと ◆1ImvWBFMVg氏
− 1 No.05 聖娼婦るなるな ◆7az9zC1iQs氏
− − No.06 守護女神伝説 ◆InwGZIAUcs氏
3 − No.07 貴方の女神になり損なって ◆rmqyubQICI氏

というわけで優勝はNo.07の『貴方の女神になり損なって』を書いた ◆rmqyubQICI氏に決定いたしました。おめでとうございます。
優勝した◆rmqyubQICI氏には優勝した感想と、次回のお題発表をお願いします。
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/08/15(水) 00:43:16.68 ID:sFhfwzZG0
ふむ。しかし圧倒的な優勝だな。実にうらやましい。
99 : ◆InwGZIAUcs :2012/08/15(水) 01:30:16.72 ID:car6ZPd/0
◆rmqyubQICI氏おめでとう!流石の一言です。
100 : ◆InwGZIAUcs :2012/08/15(水) 01:44:17.66 ID:car6ZPd/0
というかあれですね。亀ですが、転載自分でやるのか……スマヌ、スマヌorz
101 : ◆rmqyubQICI [sage]:2012/08/15(水) 02:20:30.64 ID:rP5PkP2Po
なんと、五年ぶりの優勝ですね。そもそも参加するのが四年ぶりくらいですが。感想や投票をいただいた方々、ありがとうございました。
お題は少し考えて、朝までには出します。
そういえば昔は毎週木曜とか金曜にお題が出されることが多かったように思いますが、これからしばらくは優勝者が決まってすぐ出す方向
でいくのでしょうか。その方が遅筆な自分としてはありがたいような、結局それなりのアイデアが浮かぶのは締め切り当日だったりするので
意味がないような、そんな感じですけども。
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2012/08/15(水) 02:22:11.93 ID:L0H5hHu80
今回も何作か板の仕様に被害受けてたけど、投下時のメ欄のsagaはテンプレで推奨っつーか必須扱いにした方がいいんじゃないか。
こういう制度面の議論ってくそめんどいし自分も正直勘弁なんだが現状目に余るので。
103 : ◆rmqyubQICI [saga sage]:2012/08/15(水) 03:34:13.54 ID:rP5PkP2Po
 お待たせしました。品評会のお題です。これまでの傾向からすると宇宙船ネタが跋扈しそうですが、さてどうなることやら。

第304回週末品評会  『船』

規制事項:10レス以内
注意事項:板の仕様により、Mail欄に“saga”を入れないとちょっと悲惨なことになる恐れがあります。
       作品投下の際にはとりあえず入れておきましょう。
投稿期間:2012/8/25(土)00:00〜2012/8/26(日) 23:30
宣言締切:日曜23:30に投下宣言の締切。それ以降の宣言は時間外。
※折角の作品を時間外にしない為にも、早めの投稿をお願いします※

投票期間:2012/8/27(月)00:00〜2012/8/27(火)24:00
※品評会に参加した方は、出来る限り投票するよう心がけましょう※
104 : ◆rmqyubQICI [sage]:2012/08/15(水) 03:35:30.47 ID:rP5PkP2Po
 とりあえずまた二週間後ということにしましたけど、大丈夫ですよね? レス制限も現状の参加数一桁ですしとりあえずそのままで。
 宣言締め切り完全にぶっちぎってたことには今気づきました。
 あと“saga”の扱いに関してはこんな感じでよろしいでしょうか。

>>90
 ごめんなさい。タイトルは予約してからつけていないことに気づいて慌てて捻り出したので、深い意味は……。
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/15(水) 03:44:41.48 ID:isBiOz9Jo
おつ!
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/15(水) 09:58:28.89 ID:dKWsVfbIO
優勝おめ!
船かー、どんな話にしようかな
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/15(水) 14:13:52.86 ID:G2X1EzIHo
遅くなったけど
優勝おめー
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/08/15(水) 15:56:21.49 ID:Aj4ta5eD0
文豪先生の人間性がまったく成長してなくて安心した。
コミュ障にしか書けない鬼作を是非上梓してほしい
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2012/08/15(水) 21:05:24.77 ID:vas128hE0
>>104
優勝おめでとう!

タイトルに意味は無いのかー。そうかー。
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/08/15(水) 21:25:54.35 ID:dKWsVfbIO
今回は自作語りしたい参加者はいないのだろうか
No.6の人が特別な試みがあるって書いてたのが気になっているんだが
111 : ◆InwGZIAUcs [sage]:2012/08/16(木) 01:10:05.90 ID:b7PZtLEh0
>>110
ぶwwwwwwww上で豪語してしまっているのでちょっと恥ずかしいんだけどwwwwwwwwwwww
そんなことか……ってなるのが怖いのでちょっと迷いますが……どうしましょうwwwwwwwwww
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/08/16(木) 01:28:51.57 ID:bzSTdd7Do
全感書いていい?
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/16(木) 05:37:39.20 ID:ARCc6MnIO
>>111
そうなの?無理にとは言えない
前回の流れで投票後の自作語りや感想返しについてもっと行われた方がいいと思ったので、ちょうどいいかなと

>>112
ぜひお願いします、感想が欲しいです
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/08/16(木) 08:29:46.74 ID:Rlvu+ac1o
次は参加しよう
3日ぐらいで書き終わりそうだが……
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/17(金) 01:57:17.68 ID:oDOlUicRo
お題を下さいっ!
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage saga]:2012/08/17(金) 02:09:51.10 ID:bBluN5JOo
>>115
待ち合わせ
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/17(金) 02:12:51.80 ID:oDOlUicRo
>>116
はやっ!
ありがとうございますっ!
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/17(金) 17:44:55.22 ID:anrQWyTJ0
VIPのスレ保持数が莫大な規模になってる
たぶんその内縮小するだろうけどもしかしたらVIP復帰の望みが見えてきたかも?
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/08/17(金) 18:21:23.86 ID:bBluN5JOo
まじだった
どうしたんだこれ
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/17(金) 18:50:15.74 ID:3wer7HUAO
1000位になったのか
と見てきたら3480wwwwwwwwwwww
まあ様子見るとしても、保持数増えたら良いタイミングだな
品評会も新しい期間設けて再始動したし人も相変わらずいるし、戻るには良いタイミング
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2012/08/17(金) 21:53:47.62 ID:6sUmCQLq0
俺はもっと様子を見るべきだと判断する
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/08/17(金) 23:26:33.15 ID:GWQHjs5+0
別にこの先もずっとその保持数で行くって決定したわけでもないんだろ?
じゃあ一二週間ぐらいは待ったほうが良いんじゃないか
たしかに隔週ごとはちょうどいいペースだと思うけどね
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/18(土) 01:38:51.01 ID:4vfwTHlAO
まあ来週にはスレ保持数戻ってるだろう
その前に一旦VIP落ちるかもな
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/19(日) 16:56:07.78 ID:iC6sw8m2o
なんかお題くだされや
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/08/19(日) 17:00:29.58 ID:6hSzbE/co
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/19(日) 17:07:35.47 ID:iC6sw8m20
ごちそうになりもす
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/08/19(日) 22:26:23.67 ID:BG6b/Set0
お題くださいな
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/08/19(日) 22:36:31.94 ID:6hSzbE/co
やさしさ
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/08/20(月) 05:46:54.54 ID:l+P/e16yo
お題ください
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/20(月) 07:05:31.78 ID:yVpVooqAO
>>129
エレベーター
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/22(水) 16:17:15.09 ID:ahreYmK5o
お題plz
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/08/22(水) 16:17:40.49 ID:OWLFSJ8so
最速
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/22(水) 16:28:59.21 ID:ahreYmK5o
このお題提供の早さがむしろ最速
さんくすこ
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/08/22(水) 21:52:43.42 ID:nDUjXAhAO
お題ください
前スレのお題詰んでから胸が苦しい
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/22(水) 22:10:48.76 ID:ahreYmK5o
花天月地
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/22(水) 22:21:35.96 ID:nDUjXAhAO
>>135
thx、なんとかリベンジしたい
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/22(水) 22:42:12.18 ID:YA+lLn0wo
そんなに深刻に考えなくてもいいんじゃない?
2〜3日ほど考えて何も思い浮かばなかったら
すぐ次のお題をもらえばいいと思うよ。
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/22(水) 22:51:50.69 ID:ahreYmK5o
お題をもらうだけならただ
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/22(水) 22:53:08.11 ID:MEgRO2M3o
じゃあくだちい!
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/08/22(水) 22:53:38.14 ID:tTWERv/go
静寂
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/22(水) 22:56:09.72 ID:MEgRO2M3o
>>140
あざーっす
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/22(水) 23:59:13.02 ID:nDUjXAhAO
>>137
確かにそうだな、もう少し気楽に取り組んでみるわ
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/08/23(木) 00:29:19.38 ID:zOIRWGqUo
品評会のプロット進まないからお題下さい
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/23(木) 00:34:16.27 ID:sGv289tEo
怨嗟
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/23(木) 00:35:53.88 ID:Ov4rVEpbo
>>143
遺伝
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/08/23(木) 00:35:55.99 ID:zOIRWGqUo
>>144
把握
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/24(金) 01:47:07.53 ID:7T585WGVo
気付いたらもう24日か……
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2012/08/24(金) 20:11:15.94 ID:t4mLO8OAo
船がテーマだったのに文字数削ってたら船が消えた
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/25(土) 05:23:51.00 ID:23BD2P85o
品評会期間に入ったようですが、通常作を投下させてください
お題は「あける」。六レスです
150 :夜明けに響く(お題:あける)1/6 [saga sage]:2012/08/25(土) 05:30:05.71 ID:23BD2P85o
 砂でうねる地平が突如下に滑り落ち、フロントガラスは澄んだ青に埋まった。砂丘を乗
り越えるために車が仰角をとったせいだ。日本の空より多少薄く見える。雲ひとつない。
一瞬くらいならば涼しさを感じとれたかもしれないが、それ以上の余裕はなかった。
「今! 速度抑えて!」
 視界の外側、助手席から聞こえる青木の声に孝彦は急いでブレーキを踏み込んだ。速度
が急激に落ちて身体が前に押し出される。ハンドルにかける手で突っ張って身体を支える。
タイヤが砂を噛む感触が、いかれ始めたサスペンション越しに伝わってくる気がした。車
が不吉に軋む音も聞こえたように思った。
 次の呼吸でフロントガラスに砂の地平が帰ってくる。砂丘を乗り越えて下りの視界は今
度は黄土色に埋まる。上下の震動が、遅れて身体を揺さぶった。
 ラリー七日目。細かい砂が漂う空気にも慣れてきた。流れる汗にも砂塵が混ざっている
のが分かる。まだ安心はできないが、ベテランである青木のナビゲーションがあれば、こ
のままゴールすることも可能かもしれないと思えてきた頃だ。その証拠にまた一つ砂丘を
無事に越えることができたじゃないか。しかし気の緩んだ瞬間、運転の感触が変わった。
アクセルを踏み込んだまま速度が目に見えて落ち始めたのだ。車の両脇から砂埃が大量に
舞い上がる。間をおかずに完全に車が停止した。スタックだ。砂に足をとられた。柔らか
い砂を踏むとそうなる。
 舌打ちしてハンドルを叩いた。アクセルを何度も踏みこんだ。だが、エンジン音がむな
しく高まるばかりで一向に車は前に進まない。もう一度ハンドルを叩いた。
「無駄だ」
 青木が叫ぶ。孝彦は無視してアクセルを踏み込んだ。
「よせ!」
 ついに車が異音を発した。何かが引っかかるようにがりがりと不快な音を立てて、それ
からしばらくもしないうちに完全に沈黙した。
 アフリカ、ニジェール。サハラ砂漠の真ん中で、孝彦は言葉を失った。どうしてこう、
うまくいかないことだらけなんだ、と。
151 :夜明けに響く(お題:あける)2/6 [saga sage]:2012/08/25(土) 05:31:20.99 ID:23BD2P85o
「異常があることは確かだ。でもどうしようもない」
 ボンネットを閉めた青木が、彫りの深い顔に渋いものを混ぜながらそう言ってからもう
数時間が経つ。太陽は既に波打つ地平線の陰に隠れ、西の空をわずかに照らすばかりにな
っていた。褐色の大地は薄暗がりに沈み、気温は次第に下がってきている。車の中にはま
だ暖気が残っているが、寒さに凍えるのも時間の問題だろう。
 薄闇に包まれ始めた車内に青木と二人、気まずい沈黙が満ちていた。すみませんと孝彦
が呟いたのも同じく数時間前だ。いや、とだけ青木はそれに答えた。それからずっと沈黙。
完全に辺りが闇に包まれてからもしばらく息苦しい時間は続いた。
「これから」
 と、唐突に青木が口を開いた。
「これからどうする」
 口調には全く棘がなかった。だが、あるべきものがないというのはいっそうの不安をあ
おる。先送りにしたものが後になって襲いかかってくるように、数秒後には青木の敵意が
自分に突き刺さるかもしれないのだ。
 どうするって。と孝彦は戸惑った。
「どうしようもない、んじゃないですか」
 違うよ。これも全く平坦に青木が言う。
「俺のナビゲーションは正確だったはずだ。道は外れてない。明日になれば脱落者を拾う
カミオンが来るぞ。その時にどうするかだ」
 パリ・ダカールラリーは、過酷過ぎて順位以前にそもそも完走できるできる者が少ない。
走りきった者は皆勝者であるとまで言われる所以である。死傷者が出るのも珍しくない。
このラリーのさなかに炎上している車も数台見てきた。その傍らで呆然と立ちすくむ車の
操縦者たちの姿も。その者たちは、運が悪くなければ後から来るトラック、カミオンに収
容される。自分たちがそうなることも予想していなかったわけではないが、実際にそれが
目の前に迫ってみると苦いものが胸中に広がるのを感じた。
「どうする? リタイアするか? 意地でも続けるか?」
 青木の言葉に、孝彦は黙ってハンドルにかけた手を握り締めた。奥歯が軋んだ。意地で
も続けるか?
152 :夜明けに響く(お題:あける)2/6 [saga sage]:2012/08/25(土) 05:32:41.90 ID:23BD2P85o
 チームを立ち上げてからもう半年が経つ。その間資金面や人材集め、その他様々をひと
つひとつ乗り越えてきた。全ては皆の夢であるパリ・ダカールラリーを走り切るため。理
由はそれぞれにあった。メカニックの小池は自分の技術を磨きたい、マネージャーの城ヶ
崎は広い世界を見たい。自分は小さい頃からの夢をかなえたい。それから、これを成し遂
げたらすると決めていたことがあった。そのためにラリー完走経験者である青木を必死で
スカウトしたのだ。
「どうする?」
 孝彦は黙って車のキーを捻った。エンジンはかからない。手応えなくかちりと音を立て
た。アクセルを踏む。もちろん応答はない。
 もう何も見えなくなるほど闇が濃くなってきていた。だが孝彦の様子が分からなかった
わけではあるまい。それでも青木は何も言わず、ライトを取り出して点灯した。ぼんやり
と浮かび上がるうすら寒い車内に、孝彦が捻るキーのかちゃかちゃいう音だけが響いた。
「そんなに完走したかったのならあんな馬鹿なことはするべきじゃなかったな」
 深いため息のあと、青木が言った。
「スタックを抜けだすためには埋まったタイヤを掘り出して、サンドマットを敷いて、そ
れからアクセルを踏む。分かるだろ?」
 その声はあくまでいつもの彼だった。十歳近く年上で経験豊富で、若い孝彦を導き助け
てくれるいつもの青木そのままだった。
「分かりますよ。分かってますよ」
 開いた口から出た声は思ったより震えていなかったが、それでもかたく、こわばってい
た。怒声にならなかっただけ、泣き声にならなかっただけマシだったろうが。
 キーを捻る音とアクセルを踏み込む音が大きくなった。無茶苦茶に捻り、踏みつけまく
った。地団太に似ているな、と自分のどこか冷静な部分が観察していた。
「でも青木さんには分からないでしょうね」
 無駄だと悟って、ハンドルを強く殴りつける。
「俺がどんな思いで走ってたかなんて」
 それからドアを開けた。外から冷気が一気に滑り込んできた。振り返らなかったので青
木の様子は分からなかったが、視線は背中に感じた。突き刺さる程でもなく、かといって
優しくもなく。
153 :夜明けに響く(お題:あける)4/6 [saga sage]:2012/08/25(土) 05:34:15.35 ID:23BD2P85o
 暗闇の砂漠をよろめきながら歩いた。寒い。砂が足に絡みつき、非常に歩きにくい。何
もなかった。ただ、暗闇がどこまでも続くだけ。足下の感触がわずかに変わるだけ。だか
らだろう。走っている最中も、ここで今歩いている瞬間も、外ではなく内に嫌でも目が向
く。走りながら考えていたこと。
『あなたはそれでいいかもしれないけど』
 記憶の底から聞こえる声がある。

「あなたはそれでいいかもしれないけど」
 椅子に座って、蛍光灯の光を反射するテーブルの表面に視線を落としながら、優子は慎
重に言葉を選んでいるようだった。
「わたしは? わたしはどうすればいいの?」
 怒っているような声だが勢いはない。そのせいでむしろ小さな子供がぐずついているよ
うにも感じられる。そのときはまた下降期か、としか思わなかった。またいつものアンニ
ュイモード。
「そんなに深刻になるなって。ほんの一、二週間だから」
 一部屋挟んで着替える手を止めないまま、努めて明るい声で孝彦は言った。
「ちょっと長い出張程度に思ってくれればいいよ」
 あれはラリーのために出発する数日前だった。それまでもどうにもおかしいなと思って
いた優子の様子が、その日は特に変だった。
「そういうことじゃなくて」
 そういうことじゃなくてね。優子は続けた。
「あなたはいつも走ってばかり。車を運転することしか頭にないみたい」
 おいおいよしてくれよ。髪を短く刈りこんだ自分の顔を鏡に映しながら孝彦は思った。
安いドラマじゃあるまいし、仕事かわたしどっちが大事なの、なんて。
「ああ、悪いけど風呂入ってくるよ。話はその後聞くからさ」
 その時は全く深刻には考えていなかった。風呂から上がった後に彼女の姿がなかったこ
とにも驚かなかった。不機嫌になって一晩いなくなることくらい珍しくなかったからだ。
同棲を始めたころにはこんなことがあればおろおろしてばかりだったが、もう慣れた。呆
れさえした。
154 :夜明けに響く(お題:あける)5/6 [saga sage]:2012/08/25(土) 05:36:37.49 ID:23BD2P85o
 二日経っても優子が帰ってこない段になって、初めて彼は焦った。彼女の旅行鞄がなく
なっていた。探そうとして、もうラリーへの出発まで時間がないことに気づいた。置き手
紙があることにも。最後の一行だけ読んで握りつぶした。
『ラリー頑張ってください。さようなら』
 それだけが目に焼きついた。

 当然だがあてもなく真っ直ぐ歩き続けてずっと行って、それから踵を返した。車に無事
に戻れたのは幸いだった。ヘッドライトが点いていて、そのおかげでなんとかたどり着け
たのだ。運転席に深く身体を沈めて、息を吐いた。助手席の方を見ると、暗闇に高い鼻梁
のシルエットだけが見える。寝息が聞こえた。
 そっと自分の鞄を取り出して、しわくちゃになった便箋と、小箱を取り出した。ライト
を弱く照らす。彼女の字はやはり綺麗だった。今まで一緒に過ごしてきた時間が楽しかっ
たこと。それでも寂しかったこと。耐えられなかったことへの謝罪。それから最後に『ラ
リー頑張ってください。さようなら』。もう一つ。『今までありがとう』。小箱を開ける
と、ライトの光を反射してリングの宝石が光った。静かにそれを見下ろした。結婚してく
れ。ラリーを走りきって、くそったれな自分を肯定できるようになったら言うつもり
だった言葉。不意にこみあげてくるものがあって、目頭を押さえた。何も流れなかったが、
必死で顔を押さえ続けていた。そして、そのまま眠っていたようだった。ゆすられて目を
覚ました。
「見ろ」
 青木の指さす先。ぼやける視界の中にそれは見えた。薄闇の中で白んだ東の地平。赤い
円盤。まだ目を灼くほど眩しくはない。朝日だ。
「こんなときでものんきに夜は明ける。『日はまた昇る』だな」
 青木の声を聞きながら、ぼんやりとそれを見つめた。日はゆっくりと登っていき、車内
に射し込む光が二人の身体を温める。
 ふと。刺さったままだったキーに目がいった。そっと手を伸ばし、何の気なしに回して
みた。ききききき、と音を上げ、呆気なくエンジンが点いた。車の低いうなり声が夜明け
に響く。青木が笑った。
「まったく。本当にこんなときでものんきに夜は開ける」
 気づく。これでまた走れる。走る意味なんてもうないのに? それでも走れる。
155 :夜明けに響く(お題:あける)6/6 [saga sage]:2012/08/25(土) 05:38:07.68 ID:23BD2P85o
「行くか」
「ええ」
 タイヤを砂から掘りだしてサンドマットを敷いて。アクセルをゆっくりと踏み込んだ。
 車体に負担をかけないよう慎重にだったが、問題なく車は進んだ。朝日を左に据えて、
滑るように走る。
「今日も暑くなるな」
 青木が窓を開けた。孝彦もそれに倣った。砂塵と共に乾いた風が吹き込む。心地よい。
 ふと何の気なしに脇を見ると、手紙と小箱がまだそこにあった。唐突に思い付く。それ
でも逡巡は長引き、心が決まるのに時間がかかった。ハンドル片手にひっつかみ、窓の
外に放った。
「いいのか」
 青木の声がした。彼は何も知らないはずだったが。
「ええ」
 力強くうなずいた。
 緩やかだが確かな振動が身体を揺さぶる。砂の地平が遠くにかすむ。日光が白く砂を輝
かせる。その光る砂の中に、それほどしないうちに手紙と小箱は埋まるだろう。後悔がな
いわけじゃない。それでもまだ走れる。今は走ろう。そう決めた。
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2012/08/26(日) 04:33:43.04 ID:iA6mg2wZ0
>>150-155
よんだ。
読みやすい文章で、割と楽しめた。
が、このオチは駄目でしょ
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/26(日) 06:25:22.55 ID:w/0NnnoFo
>>156
感想thx。なかなか反応がもらえなくて鬱々としてたので助かりました
オチが駄目でしたか。全く自覚がなかったです。研究してこようと思います
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2012/08/26(日) 10:45:44.92 ID:iA6mg2wZ0
>>157
いちお具体的に指摘すると、ストーリーがあまりにも御都合主義的な展開過ぎる。
もちろん殆どの小説はフィクションなので、
登場人部の行動やその後の展開が都合よく書かれているのは当然なのだが、
そのにおいを出来る限り脱臭するというのは大切な作業。それが出来ていないと感じた。

砂漠で立ち往生するという展開を作るために、
スタックの脱出方法を知っている孝彦に、がむしゃらにアクセルを踏み続けさせたり、
彼女との未練を断ち切るという展開を作るために、
なぜかラリーに必要の無い指輪と手紙を持ってこさせたりしている。

特に最期にいきなり車が動き出すのは、読んでいてとても冷めた。
そこまでは上記の御都合主義が目に付きつつも、文章が上手いので割と楽しんで読めていたが、これはない。
末期癌で余命3ヶ月の患者が、普通に入院していたら特に理由もなく癌が完治してました、といえば伝わるだろうか。
僕はパリ・ダカールラリーにも、車にも疎いのだが、
砂漠で車がうんともすんともいわなくなった状態から、時間を置いていきなり動き出すというのはよくあることなんだろうか。
それに青木の「どうする? リタイアするか? 意地でも続けるか?」という台詞の意味も理解できなかった。
車が動かなくなったのに、意地でも続ける方法があるんですかい、と。

じゃあどうすればいいかというと、何かをした理由やその結果を作中でしっかりと語ればいいと思う。(要は理由付け)
車が朝に動き出した件を例に上げると、
熱で一時的に駄目になっているだけかもしれないので、夜になって気温が下がれば動く可能性がある、などと青木あたりにそれっぽく語らせればいい。
がむしゃらにアクセルを踏み続けたのも、例えば最初のシーンをスタックから抜け出すシーンにして、
今日はスタックばっかりで、まったく先に進めていない、などと孝彦をイラつかせ、自棄になるための伏線を張っておけばいい。
指輪の件は……うん。これは思いつかないかな……。
まあそういったちょっとしたことで、ストーリーはもっと良くなると思う。
と自分のしょぼさを棚上げして言ってみた。
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/26(日) 13:47:49.47 ID:w/0NnnoFo
>>158
詳細な指摘、助かります
ただ、最後の車始動は点くはずのないエンジンが点くのが個人的ポイントなので不可避だったかなと
とはいえ確かに突拍子もない。つまり、構想の時点で問題があったようです。なのでストーリー作成能力を重点的に鍛えてこようと思います
ありがとうございました
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/08/26(日) 19:57:18.85 ID:m/+PE4HQo
間に合わねえなあ
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2012/08/26(日) 21:03:55.32 ID:iA6mg2wZ0
品評会組がんばれー
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/08/26(日) 21:55:53.35 ID:AV7/97/U0
今回参加する人いるよね? 一人だけで涙目なんてことないよね?
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/26(日) 22:34:59.91 ID:k2D6E8w90
書いてるけど間に合うかなあ
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage saga]:2012/08/26(日) 22:56:51.50 ID:2ESUSG+S0
諦めたらそこで試合終了だよ!
俺も頑張るから!
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/08/26(日) 23:20:46.96 ID:KnAFT+tO0
間に合わん、どうしよ
166 : ◆InwGZIAUcs [sage]:2012/08/26(日) 23:29:11.71 ID:AV7/97/U0
予約
167 : ◆Qfu.mTwFskGG [sage]:2012/08/26(日) 23:29:34.98 ID:ZwyMiBhCo
人居ないけど折角書いたから品評会投下しよう
4レスです
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/08/26(日) 23:29:40.13 ID:KnAFT+tO0
ええい予約
169 : ◆HmfYvBHWkM [sage saga]:2012/08/26(日) 23:29:47.49 ID:2ESUSG+S0
予約
170 : ◆ihO9dxzf9I [sage saga]:2012/08/26(日) 23:29:50.44 ID:k2D6E8w90
予約
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/26(日) 23:35:30.60 ID:k2D6E8w90
すべりこみ多すぎワロタ。最後の俺が運営やろうか

【順番】
◆InwGZIAUcs氏
◆Qfu.mTwFskGG氏
ID:KnAFT+tO0氏
◆HmfYvBHWkM氏
◆ihO9dxzf9I

それでは◆InwGZIAUcs氏、投下をどうぞ
172 :出航(1/5) ◆InwGZIAUcs [sage]:2012/08/26(日) 23:41:47.15 ID:AV7/97/U0
 水平線の先から幾重にも光の筋が伸び始める早朝、辺りはまだ暗い。
 僕は揺れる足場を踏みしめて、船に入り込む。出航の準備が出来たらいざ出発だ。流石に最新の
蒸気船は調達出来なかったが、いや、しなかったが、コレで十分だ。
 準備は整った。帆を立て、追い風を待つと同時に朝陽を睨む。
「おーい、どこへいく?」
 皺が多く黒光りする額にブランドの髪、異常なまでに鍛えられた筋肉を携えた漁師に
声をかけられた。
「ほんの少し沖にでて釣りをしてきます」
「ほーか。今日は天気も良い。大漁過ぎて沈まぬよう気をつけてな!」
「はい! ありがとうございます!」
 意気の良い声を背に、気が昂ぶった。
 僕は歌を歌う。歌う。そして、ときの声を上げた。
 
****

 やがて陸が見えなくなった。見渡す限り地平線である。心地よい海風にあたろうと
船室を出ると、コンコンとノックをする音が耳に入る。
 大海原にいる船にノックのような音なんて、縁起の良い話は無いだろう。魚がぶつかったか、
あるいは幽霊や化け物か……今回は後者のようだった。
「おーい! リクだろう? そっちにあげてくれぬか!」
 身を乗り出すように海面を見下ろすと、そこには人魚のルルが居た。幼い時から珊瑚の洞窟
で遊んだ幼馴染だ。
「よく気づいたね。今あげるよ」
 大きくない船ではあるが、乗り上げるには多少の高低さがあるため、救助の浮き袋を投げる。
 やがて、海水の雫と眩い太陽の光をアクセサリーにするかのような、綺麗な人魚が甲板の
上に姿を現した。因みに長い髪の毛が、どんな奇跡によってかは分からないが、
胸部を覆って大事な部分を隠していた逆に艶やかである気もするけど。
「久しぶりじゃのう。最後にあったのは五年程前だったか?」
「そうだね。本当に久しぶりだ。ルルはびっくりするくらい綺麗になったね」
 その言葉に彼女は目を見開きポカンと口を空け、間も無く頬どころか耳まで朱に染めた。
173 :出航(2/5) ◆InwGZIAUcs [sage]:2012/08/26(日) 23:45:00.62 ID:AV7/97/U0
「お、お主こそ男前にってリク……お主、何時からそんな事を平然と言ってのける
男になったんじゃ?」
「ん? そうだっけ? いや、そうだったかな?」
 さっきルルが言った通り彼女と最後に会ったのは五年前だ。変わったのだろう。
彼女と会ったときはまだ学生だったし、そこからしばらく社会に揉まれ、地獄もみた。
 当の彼女は口を尖らせていた。
「私は何にも変わっていないお主を色気で大人の色気でからかってやろうと思っておったのに」
「はは、十分魅力的で内心オロオロしてるよ」
「それを止めろと言っておる!」
 ムズカユイとばかりにルルは僕を睨む。ふむ、なんだか難しいな。
「ところで、ルルは何で僕だと気づいたの? 船なんて五万とあるだろうに」
「ああ、お主港付近の海で人が少ないのを良い事に歌っておったろう? その声が懐かしく、ん、
懐かしくてな、来てみたのだ」
 奥歯に物の挟まったような言い方をする彼女に少し訝るも、僕はなるほどと相槌を打つ。
「私の海域で歌われる歌はどんな歌でも聞こえるのよ。これでは私は歌で人を惑わす人魚じゃからな」
「昔はそんなことしてなかったのに、今はしてるのかい?」
「まさかじゃ。まさか。相変わらず人魚狩りする人間は後を絶たないからな。そういう奴らは
二度と悪させぬよう懲らしめるが、無差別に襲ったりはせぬよ」
「どんな事して懲らしめるんだい?」
「んー、試してみるか? ぼーやにはちと刺激が強いかもしれぬよ?」
 そう言って流し目を送るルル。僕は思わずデコピンをしてみた。痛!って目をギュッとつむる
彼女に、僕は笑った。ルルは頬を膨らませて怒ったが、僕はそれを含めて全てが心地よかった。
 五年ぶりに笑った気がした。

****

 何時の時代も昔話には花が咲くものだ。今日という日もその例に漏れず、僕はルルの隣に腰を
降ろして、色々なことを心行くまで話た。しかし、次に来た質問にうっかり返事をしてしまった事
だけは後悔をした。
「ところでリクよ」
174 :出航(3/5) ◆InwGZIAUcs [sage]:2012/08/26(日) 23:45:26.62 ID:AV7/97/U0
「なんだいルル?」
「この船はどこにいくんじゃ?」
 釣りに行くんだ。これは船出の時漁師のおじさんに言った言葉だ。
 しかし、この時僕は言葉を詰まらせた。視線をどこにも動かす事すら出来なかった。
「遊覧か? 釣りか? それとも私に会いに来た? そうじゃろう?」
 場の空気を察してか、どこか畳み込むように彼女は言う。
 雲はのんびりと流れ、太陽は一番高いところにあった。波間から聞こえる水の音と海鳥の声。
今は全てが色あせ聞こえない。
 そこでもう一人の僕が僕に言う。「いつも通りでいいじゃないか。とても楽しかった。冗談の一つ
でも言って彼女に当たり障りの無い返事をしておけば、いい」。
 僕は大きく意気を吸い込んだ。
「ふ、ふ、ふ! よくぞ見破った! そうだよ! 遊覧で、釣りで、君に会いに来たのさ! 久しぶりの休暇だからね。案の定、僕の美声に釣られた人魚がここに」
「く、調子に乗る出ない!」
 どんな原理かは分からないけど、彼女は指先あたりから水鉄砲を撃ってきた。
「ちぇー、酷いなもう」
 水浸しの上着を脱ぎ、そこらに放る。
「で?」
 言ったルル本人が驚いているようだった。まるで心の声が零れてしまったかのように。
「で?」
 僕はオウムのように返す事しか出来ない。だけど次の瞬間泣きそうな彼女を見たとき、
いや、実際に頬から流れる波だろ見たとき、僕は自分の心が折れる音がした。
心にせき止められていた何かが決壊したように、胃に、肺に、喉にせり上がってくる。
 気づけば僕の両頬からは止め処ない涙が溢れていた。
「リク、リク」
 ルルは僕をそっと抱きしめる。嗚咽を止められない。
「お主が歌っていた歌は……まるで鎮魂歌じゃった……リク、お主」
 彼女の言葉が震える。
「死ぬつもりか」
 疑問ではない、確信を込めた言葉。
175 :出航(4/5) ◆InwGZIAUcs [sage]:2012/08/26(日) 23:46:15.96 ID:AV7/97/U0
 そう僕はこの航海で死ぬつもりだった。この大海原で、どうしようもない状況におけば死ぬ事
が出来ると信じて。事実、僕はこの航海に方位磁針を持ってきてはいない。
「この、馬鹿が」
 ルルは僕の頭をきつく抱きしめた。

****

 太陽に比べれば幾分おくゆかしい光を携える月と星ぼし。柔らかい光の下で僕達は
甲板に仰向けで寝ていた。凪いだ海は本当に静かでなにか空間に溶けてしまいそうな感覚に
陥ってしまう。
「僕は社会に出てね、会社を作り成功したんだよ」
「ほう」
「まるで今日の航海のように順風満帆な人生……でもね、仕事で一つ大きな失敗をしたんだ。
周りの仲間は、偶にはこういう事もあるだろうって励ましてくれた。でもさ、偶にじゃなかったら
どうなるんだろう? この経歴にもっと傷がついてしまったらもう、居場所はない。そんな
人生って何なんだ? 生きている意味は? 何しに生まれた? グルグル頭の中が回って
もう手がつけられない……疲れちゃってさ」
 美しい景色の下で、僕は弱い心を吐き出した。
 社会に出て色々な事を学んだ。心を強く持つ事。弱さを見せてはいけない。人は褒めて警戒心を
解く。ゴマすりは想像以上の効果を発揮する。挙げたら切りが無い。
「なのに、僕は君が来て――ホッとしてしまった。ひょっとしたら死なずに済むかもしれないって!」
 僕はどうしたい! 生きたい死にたい。訳が分からない!
 そんな僕を、今度はルルがデコピンをした。
「馬鹿が。お主はそんなに綺麗な人間か? 偉人か? 経歴? 生きてる意味? お主が一番
大事な事をサボっているからそんな事を考える。本来命というのはな、生きる事に精一杯なんじゃ」
 おでこをさすりながら、彼女の言葉を反芻する。しかし、言っている意味が理解できない。  
「リクよ、恋仲の女はいないのか?」
「へ?」
「だから、がーるふれんど! がーるふれんどじゃ!」
「い、いないけど……」
176 :出航(5/5) ◆InwGZIAUcs [sage]:2012/08/26(日) 23:46:52.44 ID:AV7/97/U0
「男は船、女は港。守る者を持たぬからいちいち悩むのじゃ。一度惚れた女子を探せ。
そして守れ。それでも悩むのなら……その時はまたあての無い遊覧でもすればいい」
 そういって微笑むルルに、僕は苦虫を潰したような顔しか出来なかった。
「それ、振った男に言う言葉じゃないよね」
 実は僕。五年前にルルに失恋してたりするのだ。やっぱり種族の違いは越えらないらしい。
それが口実かどうかは分からないが……。
「ならば僕は、やっぱり君の船になりたいよ」
 今度は僕の心の声が零れた。今日はもう心が麻痺している。
 しばしの沈黙。ルルは目を閉じていた。
「後悔」
「へ?」
「後悔しないじゃろうな? しゃべり方は変じゃし、人間社会をろくに知らない人魚だし、
リクにはきっといい娘が見つかると思うのじゃが、重ね重ね後悔しないじゃろうな?」
 ルルはまくし立てると同時に、睨みつけ顔を近づける。というか僕が振られた理由ってそれなのか?
だとしたら遺憾だな。僕の気持ちを侮るなかれ。あの時は、人生で二番目に凹んだんだ。
 僕は躊躇い無く言った。
「うん。後悔するわけないよ」
 言った瞬間、そのままキスされました。そして彼女はクスッと笑い、上半身を起こす。
「じゃあ私も覚悟を決める。ちょいっとあっちを向いててはくれぬか?」
 瞬間、眩い光があたりを包んだ。月も星も驚く眩さに、僕は言われずともギュッと目を瞑る。
 やがて布を破る音が聞こえ、次にルルの声が聞こえた。
「もういいよ」
 目を開き振り返ると、そこにはルルが立っていた。そう、立っていたのだ。驚く僕をよそに、
彼女は四肢の調子を確かめて、くるりと一回転。布を服代わりに調達したようだが、
粗雑だがまるでウェディングドレスのような格好をしていた。
「うむ。今日から私は人間じゃ。不束者じゃが……よろしくお願いします、旦那様」
 腹の底から沸き上がる熱い塊。さっき枯らした涙とは別の涙。僕は感じた事のない
エネルギーを感じ、ルルを抱きしめた。
「帰ったらさ、ご飯だね」
「そうじゃな、帰らぬとな」
177 :出航(6/5) ◆InwGZIAUcs [sage]:2012/08/26(日) 23:48:01.99 ID:AV7/97/U0
 もう人魚でない彼女に頼ることは出来ない。
 僕はルルを守るため、さしあたっては帰路の指針を取るために、これから血眼になるのであった。

 終わり




すみません。6レスになってしまいました。よろしくお願い致します。
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/26(日) 23:49:45.02 ID:k2D6E8w90
お疲れ様でした。お手数ですがまとめ掲示板のほうにも投下していただければ……と言いたいところですけど
今回の品評会用のスレさえ立ってないですね、どないしよ

【順番】
◆Qfu.mTwFskGG氏
ID:KnAFT+tO0氏
◆HmfYvBHWkM氏
◆ihO9dxzf9I

それでは◆Qfu.mTwFskGG氏、投下をどうぞ
179 :船渡し(1/4) ◆Qfu.mTwFskGG [sage]:2012/08/26(日) 23:53:46.84 ID:ZwyMiBhCo
 気がつくと男は左右を高いススキに囲まれた小道に立っていた。身長の高さほどのススキは何重にも重なり
合いはるか遠くまで続いているかのようだ。
 辺りは薄暗い。それは夕闇のような薄暗さではなく、どうやら空は厚い雲に覆われているらしかった。しか
し実際に灰色の空を仰ぎ見ることは出来ない。霞がたなびいているからだ。
 足元は非常に悪い。水溜りこそないものの水気を多分に含んだ泥道はまるで沼のようであった。気を抜いた
らこのまま沈んでしまうのではないかという錯覚に捕らわれる。
 湿っぽい緩やかな風が男の頬を撫でた。懐かしいような匂いが鼻を擽る。小さい頃に母の実家の片田舎で嗅
いだ田圃の臭いに似ていた。
 はて、ここは何処なのだろうか。
 男には全く身に覚えがなかった。少なくとも通勤路ではない。都心にまだこのような場所があったのだろうか。
男は首を振り、思い浮かんだ案を打ち消す。都心ではないだろう。いや都内ですらないかもしれない。西の方
にはまだ田園風景が広がっていると聞いたことがあるが、そこに至るまでは電車で一時間は掛かる。無意識に
改札を抜け、放心状態で一時間もの間電車に揺られていたとは考えづらい。
 男は左腕に目をやった。現在の時間を知るためだ。そこには就職記念に父から貰った云十万円の腕時計がは
められている。その指針は確かに動いていたが、期待していた挙動とはかけ離れていた。秒針は反時計回りに
普段の倍速で移動している。分針はその半分ほどの速さで時計回りに休むことなく動いている。そして時針は
秒針よりも早く時計回りに廻り続けていた。
 思わずため息が漏れる。壊れてしまっただろう。直すのだって只ではない。それでなくとも安い給料から差
し引かれるかと思うと寒気がした。
 男は諦めて再び顔を上げた。霞が頬を掠め、濡らす。視界は八方塞がりに近かったが、少なくとも道は続いているようだ。
 このまま立ち止まっていても仕方ないと考え、男はゆっくりと歩き出した。一歩進むたびに黒い革靴が泥を
跳ね、皺一つないスーツに水玉模様を描く。ひんやりしているが湿度が高いためにワイシャツはすぐに汗で
ぐっしょりになった。脱いだ上着を小脇に抱え男は慎重に歩を進めていった。
 視界も足場も最悪だった。都会暮らしでこのような環境に不慣れな男はすぐに息絶え絶えとなった。男は
時折休憩を挟みつつ、無限回廊のような道を歩き続けた。
180 :船渡し(2/4) ◆Qfu.mTwFskGG [sage]:2012/08/26(日) 23:54:51.55 ID:ZwyMiBhCo
 どれ位歩いただろうか。時計が壊れいているため正確な時間はわからない。普段と歩幅も歩調も違うため
感覚から割り出すことも不可能だった。半日かもしれないし、半時間かもしれない。ただ、不思議と腹が減ることはなかった。
 そうして男はやっと霞の海から這い出すことが出来た。
 視界が広がり男の目に映ったのは大きな河川だった。遥か向こうに対岸が霞んで見える。左右には石ころだらけの
河岸がどこまでも広がっており、ススキがまるで境界線のように綺麗に真っ直ぐ並び立っている。ところどころには
燃える様に赤い花が人魂のように咲いていた。彼岸花だ。
 男は額の汗を袖で拭うと川辺に近づいて顔を洗った。透き通るように棲んだ水は氷のように冷たかった。
 男は一息つくと再び左右の河岸を見渡した。先ほどは石ころしかないように見えた河岸であったが、
よく見ると遠くに小さな影が見えた。男はゆっくりと影に向かって歩いていく。
 あろうことか、それは小さな子供だった。年齢にして十一歳ぐらいだろうか。子供は男の方など気にも留めず
黙々と石ころを積み上げていた。
 ゲームやパソコンなど娯楽が山ほどあるというのに物好きな子もいたものだ。
 そう思ったが口には出さなかった。人のことをとやかく言うこともないだろう。
 子供の横を通り抜け、しばらく歩くとまた影が目に入った。今度は遠くからでもそれが何か認識できた。細い枯れ木だ。
 「やっと来たか。待ちくたびれとったぞ」
 木の根元へ行くとそこには一人の翁がいた。目元に皺を浮かべ怒ったような呆れたような顔をしていた。
 「はて、どこかでお会いしましたでしょうか?」
 男が間の抜けた声で訊くと翁は声を上げて笑った。
 「会ったことがあるか、とな? これは傑作、久しぶりに笑わせてもらったわい」
 しばらく笑い続けた翁は、男の問いには答えず、ついて来なさいと一言だけ言い、トコトコと歩き出した。
男は多少警戒したものの他にどうしようもないので翁についていくことにした。
 歩いている間、男は、ここは何処なのか、自分は何故ここにいるのか、など気になったことを片っ端から尋ねてみたが、
翁はその度笑い声を上げるだけで答えてはくれなかった。
181 :船渡し(3/4) ◆Qfu.mTwFskGG [sage]:2012/08/26(日) 23:55:46.29 ID:ZwyMiBhCo
 しばらくして翁が立ち止まったのは河川から突き出た桟橋だった。桟橋にはいかにも昔話に登場しそうな
古い木製の船が泊まっていた。
 「さあ、乗りなさい」
 「一体何処へ行くというのです?」
 「ここではない所じゃよ」
 それ以上翁は何も言わなかった。男はしぶしぶ船へと乗り込むことにした。そうする他なかったのだ。
 男が乗ると船はいくらか水に沈んだ。ともすれば沈没してしまうのではないかという不安を残しつつ、船は岸を離れた。
 翁は馴れた手つきで櫂を使い、船を漕いだ。川の流れに流されることもなく、ゆっくりと前進していく。
しばらくするとまた霞が出てきたが、翁に焦りは見えない。
 「手馴れていますね。どれぐらいこの仕事を?」
 「なに、ほんの五百年ほどじゃよ」
 相手の顔も見えない深い霞の中、男と翁は同時に噴出すように笑い出した。
 ほどなくして船から対岸が見渡せるようになった。
 「さて、到着じゃ」
 船を桟橋に泊めて翁は言った。男は軽く会釈し感謝の意を示した。
 「大したことはしとらんよ。それよりも、ほれ」
 翁は掌を上にして差し出してきた。
 「えっと、なんでしょうか?」
 「何って、渡し賃に決まっておろうに」
 「無料じゃなかったんですか? あんまりだ!」
 勝手に船に乗せておいて後から金を取ろうとは詐欺ではないのか。男は激しく抗議したが、翁は聴く耳を持たず、
結局は男が財布を取り出すことになった。
182 :船渡し(4/4) ◆Qfu.mTwFskGG [sage]:2012/08/26(日) 23:56:34.96 ID:ZwyMiBhCo
 「いくらなんですか?」
 「六文じゃよ」
 「六文?いくらですか、それは。日本円じゃダメですか?」
 「六文は六文じゃよ。それ以外は通用せんぞ」
 「困った、六文なんて持ってないですよ」
 「そうか、それは仕方ないのう。身包み剥がさせてもらうぞい」
 言うが早いか翁は男に向かって掴みかかってきた。老人とは思えないほどの力が男を襲う。男はなんとか
抵抗しようとしたが、翁はそれをものともしない。
 勝てないと悟った男は翁が上着を剥いだ隙をつくと一目散に川へと飛び込んだ。水のあまりの冷たさに
身体がいう事を聞かない。それでも男は翁から少しでも遠ざかろうと流れに身を任せもがいた。河岸では翁が
何か叫んでいるようだったが男の耳には届かない。
 辺りが霞に覆われた頃、男の意識は静かに失われていった。

 男が意識を取り戻したのは自宅から遠くない川縁だった。
 腕時計はすっかり壊れてしまい、どの指針もピクリともしていない。西の空の様子から今が夕方だと
いう事だけが辛うじてわかった。びしょ濡れの身体は真夏とは言え寒気を覚えるほどに冷え切っていた。
 男はとぼとぼと家に帰ると、シャワーを浴び、暖かい紅茶を飲んだ。そうしてようやく生きた心地を得た
男は、倒れるように眠りについた。
 次の日、普段着ている背広が見つからず、遅刻ギリギリで会社に行くと朝一番に上司からクビを言い渡された。
なんと男は一週間以上無断欠勤をしていたそうだ。確かにカレンダーを見ると男の知っている日付から
大きく時が進んでいた。
 会社から出た男は彷徨うように居酒屋へ入って行った。そこで浴びるように酒を飲んだ男はこう愚痴をこぼした。
 「あの爺さんがもう少しものわかりがよければ俺は川に飛び込むこともなかった。そうならばあんなに長い間
川辺で眠っちまうこともなかっただろうに。全く、ツイていない」
183 : ◆Qfu.mTwFskGG [sage]:2012/08/26(日) 23:57:27.55 ID:ZwyMiBhCo
以上です
よろしくお願いします
運営乙
184 : ◆InwGZIAUcs [sage]:2012/08/26(日) 23:58:14.36 ID:AV7/97/U0
スレ立てと、自作の転載完了しました
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/26(日) 23:59:42.03 ID:k2D6E8w90
お疲れさまでした、転載も宜しくお願いします。
スレ立て被っちゃった上に申し訳ない

【順番】
ID:KnAFT+tO0氏
◆HmfYvBHWkM氏
◆ihO9dxzf9I

それではID:KnAFT+tO0氏、トリップをつけた上で投下をどうぞ
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/27(月) 00:08:05.85 ID:Bvkl7VKc0
五分経っても投下なしの時は投下繰り上げでいいんかな

それじゃ一旦おいといて◆HmfYvBHWkM氏、投下をどうぞ

【順番】
◆HmfYvBHWkM氏
◆ihO9dxzf9I
ID:KnAFT+tO0氏
187 : ◆1ImvWBFMVg [sage]:2012/08/27(月) 00:08:33.01 ID:mFoqO1Yd0
ごめん後回しでいい?書けてるけど整理が
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/27(月) 00:10:20.19 ID:Bvkl7VKc0
かまへんかまへん
189 :宇宙からの訪問者 1/3 ◆HmfYvBHWkM [sage saga]:2012/08/27(月) 00:11:14.98 ID:HCEhguIZ0
 北海道の大草原にそれはゆっくりと降り立った。大気圏に突入してから僅か十分後の出来事である。
 全長約二キロメートル、高さ一キロメートルの銀色に輝く大きな物体は、地響きのようなグォウングォウンという
音を発している。その流線形のような洗練されたフォルムは宇宙船というより戦艦という表現がピッタリだった。
 戦艦の周囲には続々と人が集まっており、各自が面白そうだの侵略者だのと思い思いに騒いでいる。
「おいっ、何か出て来たぞ!」
「でかすぎだろ、あれ!」
 しばらくして側壁と思われる部分から一筋の光が射し、ある一点を鮮やかな翡翠色に染める。そして待つ
こと十数秒、光が消えた後には高さ五メートル程の人型の生物が出現した。体躯は人間より二回り程大きく、
目は開いているのか分からないぐらい細い。全身は薄桃色に発色しており、体格の割に頭の大きさは
バスケットボール大のサイズをしており、全体のバランスを考えるとアンバランスさが際立っていた。
 その姿を確認すると同時に、全身を紺色のスーツ姿で固めた三人の男が異星人へゆっくりと近づいていく。
 メガネをかけた神経質そうな小男と筋骨隆々の中年男を引き連れ、嶋村荘一郎は思考を巡らせる。二人
にも伝えたがあの戦艦から推測するとおそらく彼らの星は地球と同等、いやそれ以上の文明が発展している
だろう。もし相手の気分を害し戦争という事になれば、こちらが勝てる見込みは薄い。いや、もし戦争に勝利
したとしても、人的にも経済的には大きな被害は避けられないだろう。相手が何者か分からない以上、とにか
く相手方の気分を害する訳にはいかない。最大限の誠意を持ってもてなす。それが彼らの共通認識だった。
「遠路はるばるこのような小さな星に来て頂き、ありがとうございます。ごゆっくりとおくつろぎくださいませ」
 三人の中で背が最も低く、頭部が薄い男がうやうやしくお辞儀をする。その瞬間、彼らへと鮮明な薄緑
の光が降り注ぐ。男達があっという表情を見せた時、既に周りの風景は一変していた。
「首相、ここは一体!?」
「私達はどこに……」
「騒ぐな、落ち着くんだ。お客人の前でみっともない姿を晒すんじゃない」
「しくがすでろばきき。ぐてふはるぶかぁふでらびぴさきど。ふてぶちゅわじぎゅんふみです」
 ピンク色の宇宙人が言語を発する。
「一体何を……」
「突然の訪問で申し訳ない。私はここから約一万光年離れたマゲイドス星から来た者だ。ここまで文明が
発達した星が存在したことに驚き、思わず寄り道してしまった」
 嶋村が緊張した面持ちで翻訳する。
190 :宇宙からの訪問者 2/3 ◆HmfYvBHWkM [sage saga]:2012/08/27(月) 00:12:28.34 ID:HCEhguIZ0
「えっ、首相は言葉が分かるんですか!?」
「つぶれどかぢさぬういふぁおぬびぐ。ふしさみねへやけくづぶぴ。しぱぱぬぇしるぢほぃそふれや。ぜぐこす」
「なので我が母星と交渉という訳で来たのではないのだ。もちろん貴方達の星に害を与えるつもりは一切ない」
 嶋村の言葉と同時に、二人は安堵の表情を見せる。
「ほぜんしぇへじあぬぉじじゅべ。ふばなみどぷひす。びぇうじょがちがきせらつん。じょそぐび」
「あと、今はあいにく翻訳機の調子が悪く彼以外の二人には私の言葉が伝わらない
ようだ。おまけに
マゲイドス星の言葉にしか変換できないので、彼には我が星の言語で喋ってもらう事になる。なるべく
この星の言語に変換できるよう修正は続けているのだが、彼の言葉が聞き苦しく聞こえるかもしれない。
もちろん彼だけではなく、二人とも話をしたいのだが……お二人には本当に申し訳ない」
 嶋村が言い終えてすぐ、宇宙人が彼の額に自分の前頭部を合わせる。その瞬間、嶋村の脳内にマゲイドス星の
言語が湯水のように勢い良く溢れていく。
「いえいえ、私達はただの付き人ですのでお気になさらぬよう……」
 いかにも小役人といった風貌の男と体格の良い大柄な男は笑顔を返す。とりあえず人類の危機は去った。だが、
お客人をもてなすのは彼らの責務なのだ。日本国、ひいては地球に好印象を持って機嫌良く帰ってもらうのが
課せられた使命なのである。もちろん一挙手一投足には細心の注意を払わなければならない。
 その事実を噛み締め、再び二人の顔に緊張の色が浮かぶ。
「さb・mtるxz:dxgjっゆsz@fdg2gh、sqお2gc……」
「hjsばfx:yw3@mds、7cうfvnl;w」z」
「shygtvうfqm8.drhxcれ「sycmdqおyd4−」
「dh5vおds7wxjsうq、8gfcxおpdg1jhzxjgっゆrkbdsz……」
 ガッチリと固い握手を交わし、マゲイドス星人と嶋村首相が聞き取れない言語を次々に発する。翻訳機の
調子が悪くなったのか、発言内容を聞き取るのは先程よりも困難になっている。
 だが感触は上々のようで、お互いの表情には笑顔が浮かんでいた。
 良かった、これなら問題なさそうだ。朝井宇宙大臣と甘田首相秘書官がお互いの顔を見やり、頷いた瞬間、


「山田花子の吐瀉物なら一気飲みできる」


慣れ親しんだ言語が耳を貫いた。
191 :宇宙からの訪問者 3/3 ◆HmfYvBHWkM [sage saga]:2012/08/27(月) 00:13:37.83 ID:HCEhguIZ0
「ぐっ! うくくくくっ、むうぅ〜!!」
 甘田が表情が緩むのを必死に堪える。朝井はあまりに突然の事で目が点になっていた。
 一体何が起こったんだ? 瓶底眼鏡の男はあっけに取られたような顔で首相と宇宙人の方向を見る。
「私は美川憲一の翼になりたい。一人なら片翼でも、二人でなら翼になれるっちゃ!」
「山菜麺超絶美味。中国四千年の歴史これ大マジあるよ。陳さん釈迦様に誓って嘘付かないアルね」
 和気あいあいと歓談は続く。時には朗らかな笑みを浮かべ、時には真顔になり。
「紗羽ちゃんのでかぱいをしゃぶったり、ぱふぱふしたり、舐めまわしたり」
「麿の脳味噌は人工知能じゃ。来る衆無い、ちこうよれ」
 甲高い頓狂な声が響く。筋肉質の男は拳をわなわなと震わせ、直立姿勢のまま耐えている。
 ここで妙な姿を晒してはいけない。何が宇宙人の逆鱗に触れるか分からないのだ。朝井は目の前で
繰り広げられている奇天烈な会話に気もそぞろになりながら、鼻息荒く背筋をしゃんとする。
 おそらく、不具合を修正しているうちに日本語に変換できるようになったのだろう。宇宙人と嶋村の会話内容
が分かるのは歓迎すべき事柄であり、二人にとっても喜ばしかったはずなのだ。
 はず、なのだが――


 それから三十分の間、彼らはへんちくりんな外交模様を間断なく聞かされることになった。
 あまりにも珍奇で意味不明な内容の数々に彼らは翻弄され、心をかき乱された。
 笑いを堪えた。
 時には困惑した。
 最後の方はもはや無我の境地に達した。
 だがそれも、これで終わりだ。
 目の前では、マゲイドス星人と我が国の首相が別れを惜しむかのように熱い抱擁を交わしている。
 そして、お互いに手が差し出された。
 角ばった肌色の手と、優に倍はある桃色の肉厚な手。
 ガッチリと力強い握手が交わされた後、どちらからともなく口を開く――
 


『幼女のロリまんこくぱぁ』


192 : ◆HmfYvBHWkM [sage saga]:2012/08/27(月) 00:14:52.96 ID:HCEhguIZ0
投下終了
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/27(月) 00:15:22.95 ID:Bvkl7VKc0
お疲れさまでした。文末に何か不吉なものが見えた気がしましたけど見ないことにしますんで
転載の方をよろしくお願いします

それじゃ投下します

【順番】
◆ihO9dxzf9I
ID:KnAFT+tO0氏
194 :白波のあとなき方に行く舟1/8 ◆ihO9dxzf9I [sage saga]:2012/08/27(月) 00:18:25.14 ID:Bvkl7VKc0
 近くの川に舟を浮かべる女を見かけた時、私はこれまで気付かなかっただけで、ずっと前から停泊していたのだな、と思
いこんでしまった。橋がないわけでもなし、川下りと洒落こむにも流れは緩やかで、釣りに使うわけでもないだろう。怪し
まない方が頓狂な佇まいだったはずだ。しかし、四人が乗れるかどうかな小舟のヘサキに女が立っている。それが沈むに合
わせて腰をかがめ、水面から照らされている姿は、こちらの腰まで撫でられて鎮められているかのように、落ち着いて見て
いられた。 
 暑気にあてられていたのかもしれない。膝頭も汗で粘っていたから、風邪をひいていたのかもしれない。陽気にのしかか
られた瞼をどうにか開けながら、川の浮き沈みに合わせて揺れる女の方を見つめていると、声を掛けられた。慌てるでもな
く抗うでもなく、すんなりと返してしまった。
「散歩ですか? たいそう暑いでしょう」
「暑いからと言って動かなくては腹が減らずに足も萎えて仕方ないので」
 それもそうですね、とホツれた髪を耳へと撫でつけながら言った。袖がタスキにかかって白い腕がのぞく。今年は雨が降
らないから穏やかに航(わた)れることでしょう、と何ゆえに泊まっているのか知らない内に訊くと、人を乗せる舟だとい
う。いかがですか、と誘われて一旦は足を後ろに引いたが、いささかグラリと来た。そんなヘマがバレてしまったのか、女
はこちらの頭でもさするかのように目を細めるので、観念した上に座った時の安らかさも思われて、請け合うことにした。
 手を借りて乗りこむと底は深く、寝るだけの余裕さえあった。腰をおろして川からのぼってくる涼風にそよがれていると、
ふと渡し賃のことに思い当った。すでに櫂をたずさえ用意を整えていたから、答えによっては降りるのかと思われてしまう
な、と訊くのはやめにした。
 櫂が深く沈みこみ、舟が前方に大きく傾いだかと思うと、跳ね返るように後方へと戻って、また前方に、といった具合に
ゆるやかな振動を繰り返した。繰り返すごとに振幅はゆるくなり、水面と舟底が並び進むようになると、櫂が沈むことはな
くなった。道行きは川の流れに任せるばかりとなる。いくらか行くと小ぢんまりとした林が見え、そこに向かうようである。
一仕事終えたとばかりに息をつく女の背中に、
「どんな人が乗ってくるもので」
「まぁ、老若男女。金と暇を持て余した恰幅のよい方もいらっしゃれば、舟に乗せられるままに冥途にでも臨むかのような
生気の抜けた方も。そう、ときおり死者なども乗せるかも」女は口をすぼめて笑いをこらえた。「いずれにせよ眺めも良く
ない川をこうしたオンボロの舟などに乗って渡るくらいですから、徒然に生きている方が多いかもしれません」
「あながち間違っていないかな」
「そうでしょう、私もそうでしたから」
 当てつけかと思って笑ったのだが、妙なことを言う。ゆったりと櫂をもぐりこませてから、女は首をこちらに翻してきた。
北へ向かって流れているから南からの光に照らされて、面持ちは白んで見える。湯を浴びてから夜明けの光に照らされたよ
うな、何もかも洗い流した後のさっぱりとした顔だった。
195 :白波のあとなき方に行く舟2/8 ◆ihO9dxzf9I [sage saga]:2012/08/27(月) 00:19:12.12 ID:Bvkl7VKc0
「……そのココロは」
「この舟はさる人から明け渡されたものでして。後釜として漕いでいるにすぎないのです。岸から上がっても、何もするこ
とがないものだから」
 言葉の割に悲嘆を見せるでもなく、自らを嘲って卑屈に笑うでもなく。形ばかりの茶でも差し出すような口ぶりだった。
それでは手ごたえがないものだから、さる人とは、と訊いてもう少し奥まで押し込んでみたくなる。
「破戒僧だったのか私度僧だったのか、ともあれ頭を丸めて法衣のごとき黒い羽織をまとった人でした。年の頃は私やあな
たより一回り上。あそこの岸で同じように舟を浮かべて、背を丸めながら魚を焼いていたのを覚えている。そう、恥ずかし
ながら魚の生臭さに惹かれて歩み寄ったもので」
 林に囲まれたので舟には影が降りはじめた。女の顔は目を凝らせばわかるほどに暗くなっている。また口をすぼめて笑
っているらしい。腰を深くかがめたので、櫂を降ろすのかと思いきや、ヘサキに腰をかけたのであった。後釜とは言うが、
舟体を揺らさずに座るあたり、ずいぶん熟れているものと見える。
 話を聞く内はずっと女と向かい合っていたのだが、私はそれよりも女と似通っている何かを探っていた。女の座る姿に、
法衣のごとき黒い羽織をまとう人が重なっている。容貌までは定かでないが、あらかじめ取り付けられた装いかのように、
舟を揺することなく座っている姿は確かに見える。だが、その先にもう一つの姿が覗ける気がする。それこそ舟にあらか
じめ取りつけられたような……。
「腹が空いていたわけではないのですよ。ただ、人がいるとわかっただけでそちらに赴きたくなった」
「つまり人恋しかった?」
「むしろ人を疎んでいたはずなのですが……ひそかに余所の旦那様と通じ合っていたものですから」
 罪を逃れるために家を出たというのがあらすじらしい。聞き慣れない話ではあったが問いただす気にはなれなかった。
微笑んでいる瞳がこちらを誘いかけるように見ているので、かえって怖気づいてしまった。
「立ちすくんでいる私に向かって、彼は魚を分け与えてくれました。けれど、浅ましい顔でもしていたのかしら、なんて恥
の念が先だって手をつけないでいると、乗りますか、と声をかけてくる。欲も何もないような相手だろうから、こちらも盛
ることはないだろうと思ったのかしら、ともかく誘われるままに乗ってしまいました」
「坊さんの舟に乗せられるというのはどんな心地だろうな……そういや、先程死人も乗せるといっておりましたか、となる
と三途の川でも渡るような、極楽への渡し舟といいますか」
「極楽へ向かったのは御坊さんの方なのですがね」
 初めは冗談を冗談で返されたのかと思った。しかし、口調はいたって穏やかなままだった。木漏れ日に照らされた面が崩
れている様子もない。
196 :白波のあとなき方に行く舟3/8 ◆ihO9dxzf9I [sage saga]:2012/08/27(月) 00:20:38.92 ID:Bvkl7VKc0
「急がずに順を追って話しましょうか。私は彼の漕ぐ舟によって遠くまで航ることになりました……遠くまで、というとオ
ザナリのように聞こえるかもしれませんが、遠くまでというほかなかった。行き先もなく帰ってくるでもなし、はて、この
川はこんなに長かったのかと思うくらいに、初めのうちは脇を流れる岸を憧れるように眺めていたものの、やがて目にとめ
るのも余計な未練があふれて億劫になるくらい、遠くまで、遠くまで。
 その間御坊さんは舟に乗せた人のことを話してくださいました。なかなか飽きない話でしたよ。商いに飽いたからと言っ
て旅をしていたという人が街道で出くわした事件を又語りしてくださったり、舟を漕いでいる間に出くわした珍妙な獣の話
をしてくださったり……こんな具合に、ね」
 余所を向いていた瞳がこちらに戻ってきた。耳ばかり済ましていたものだから気付かなかったが、いつしか森を抜けてい
たらしく、ふたたび陽が射してきていた。まばゆく照らされた肌は、思わず目を背けるほどに光っていた。
「珍妙な獣、ねえ」
「最初は羊だと思っていたのだそうです。岸の方にどこから迷いこんできたのか佇んでいる。水浴びでもするのか、餌を探
しているのか、それとも恋人でも待っているのか、ともかく白い羽毛に包まれた獣が所在なさそうに動いている。ちょうど
魚が余っていたから食べるだろうか、と岸の方に寄っていけば、やにわに白い毛が逆立ったかと思うと獣は踊り入ってきて、
魚を余すところなく喰らってしまった。そして人の言葉を喋ったそうです。
 とある声に導かれてあの岸まで這ってきた、坊主頭の僧がたずさえる魚を喰らえば必ずやお前は人に変わることが出来る
だろう、との声に導かれて、現に我がこうして口を利けるのも導きが違いなかったシルシなのであろう、そなたには何の恨
みもないが魚を平らげてしまったことは申し訳ないと存ずる、いつか必ずやこの恩は返してみせよう。
 そう言って、羊と思しき獣は去って行った。それから忘れたころになると、仕留めた羊を恵んでくれる人が現れて、もし
やあの時の、と訊ねてみたはものの、なんのことやら、と首を傾げられるばかりだったそうで」
 一呼吸置くように女は立ちあがって、櫂を一つ二つと水面へ差し入れていった。背筋を伸ばして前方を見つめているので
もしやと思って追いかけたが、立ち並ぶ家々やら田園やら、通りかかる人やらを眺めているだけだった。見覚えのある家の
並びが見えたので、まだ取り返しのつかないところまでは来ていないようだ。うっすらとした震えが起こっていたのは確か
だが、そうそう危ういことにはなるまい、と軽く扱う心持ちのほうが勝っていた。
 人の暮らしが並ぶ眺めを横目に流しながら、私は女の話よりも、彼女の佇まいの方が気に掛っていた。もちろん、彼女に
重なっている法衣姿の坊さんも含めて。その先にあるもう一つの姿までは至り着いていないが、彼らを見ていると思いだす
ものがある。そう、こうして舟などで先へ先へと流れていると、立ち止まったり座りこんだり人の姿がやけに目につく。彼
らは本来流れている側なのにも関わらず、なぜかそれに似ているのだ。
 一体何を待っているのか、疲れ果ててしまって往生しているのか、所在なく立ちすくんでしまったのか、そんな動機は流
れている者からすればどうでもいい。ただ単に、立ち止っている姿だけが目に焼き付いてしまう。見えなくなっても輪郭だ
けが焼跡のように目にちらつく。
197 :白波のあとなき方に行く舟4/8 ◆ihO9dxzf9I [sage saga]:2012/08/27(月) 00:21:24.21 ID:Bvkl7VKc0
 たとえば膝を抱えて座りこんでいたりなどすれば、外を遮断して内にこもっているように見えるため、そこだけ時間が滞
っているように思われる。あるいはそこだけ時間が独立して、他の時間とは無関係に動いているのではと思われる。もしか
したら過去をずっと生き続けているのかもしれない、あるいは未来を……そんな妄想まで立ちあがってくる。今こうしてヘ
サキに背筋を伸ばして立っている女の姿のように辺りの景色から浮き立っているものは、こちらの体ごと連れ去っていくよ
うな牽引力がある。
「おや、こんにちは」
 女が声を立てた。川に浮かぶ何かに話しかけているらしい。曲げた腰を覆う布がふくらんで、肉つきが覗けた。
「客が乗っているのか」
 川に浮かぶ者の声がする。覗きこんでも姿は見えない。
「その客こそ例の?」
「どうなることやら。こればかりは運に任せざるを得ないことですから」
 女は馴れつくような声で返す。一体何を話しているのかわからずに取り残されていたが、このまま引き離してもらえれば
ありがたいな、とも思う。一方でしっかりと全容をつかんでおきたいという好奇心も動く。
「そうそう、兎のヤツがとうとう往生したよ、しぶといヤツだったね」
「ナキガラはカラスに?」
「うん、存外に旨かったそうだ。ケチくさく生きていたから身まで締まっていたのかもしれないね」
 ここで声を立てれば相手の素性も見えてくるのかもしれない。しかし、なんと言えばいいものか。下手を打てばいよいよ
取り返しのつかないことになるかもしれない、それどころか上手い言葉をかけようものなら相手に気に入られて……そんな
当て所のない思いに駆られて、私は結局黙っていた。
「往生出来たのならばよかったのでしょう、そしてまた戻ってくる」
「何もかも洗い流されて、ね。それでは、お互いに気をつけて」
 ええ、と女が言うと、激しい波音が立った。すると水中から蒼く輝く体の獣が現れ、今にも全容を見せようかという所で
緑の羽が開いた。シブキを浴びようと光が差そうと、私は獣を追いかけずには居られなかった。胴体には爬虫類のウロコと
思しき凹凸がついているにもかかわらず、勇ましいまでの羽を広げて空へと舞い上がっていく。蒼とみまがった色は、水面
や照り返しと混ざった末の錯覚だったらしい。
 獣は太陽に向かって飛んでいく。本来なら白光に負けて黒く染まるはずの体を、翡翠のような深緑に輝かせて。
「……河童の類ですか」
 仰向いて呆れかえっている私を尻目に、女は荒れた水面をなだめるように櫂を押し込んでいたところだった。さてねえ、
と女はなだめるように微笑んだ。舟体の揺れも程よいものとなっていく。
198 :白波のあとなき方に行く舟5/8 ◆ihO9dxzf9I [sage saga]:2012/08/27(月) 00:24:28.29 ID:Bvkl7VKc0
 彼女は何を訊かれようと動じず、何が起きようと面持ちを崩すことはない。それこそ舟の流れと並び立つように何もかも
道行きに任せるほかないのだと悟っているかのごとく、よどみない立ち振る舞いを繰り返すばかりだった。あるいは、幾度
となくこうしたやり取りを済ませているかのような――もしくは坊さんからこれまで起こってきた経験まで受け継いでしま
ったかのような。
 浮世の心地ではこの女と話せないのだろうな、という気が兆してきた。かといって、どうやって浮世から脱する。また浮
世から脱したところで、どうやって戻ってくる。戻ってこれなかったらどうする……。
 そんな疑いを巡らしている間も、女は腰をかがめて舟と水の起伏の折り合いをつけようとしていた。まるで自身が舟とな
って水と和していくかのように。腰がかがむたびに、帯越しにややふくらんだ肉つきの柔らかさが感じられる。肉つきによ
って撫でつけられるような感触まで思われてくると、眠気にも似た自棄な気分がやってくる。
「どこまで話しましたか……御坊さんは様々な話を聞かせてくださった後に、実はいくらかは前の持ち主から聞かされたも
ので、と言うんです、いうまでもなくこの舟の。前の持ち主は女性だったそうです。おおよそ察しはつくでしょうが、ご両
人ともに舟に乗りこんで後釜となった」
「……つまり舟に乗れば後釜にならなければならない?」
「先程も申し上げましたが、私はこれまで何人もの人を乗せてきました。それでは全ての人が船頭を継がなければならない。
どうやらここぞ、という時機があるようなのです、客の方も船頭の方も得心がいくような。
 その御坊さんは、出家を志したものの途中でくじけてしまったのだそうです。出家先の御師匠が厳しかったわけでもない、
ひとえに自らの覚悟が甘かった、そう仰っておりました。仏門を訪ねようとさえ思わなかった身としては要領を得ぬ話でし
たが、おおまかには宗旨を信じぬくことが出来なかったのだそうで。
 そんな具合に寺から抜け出してきて、あの岸までやってきた。すると女性が舟に乗って立っているのが見える。年の頃は
やや下だったが、人をもてなすのが手慣れていて今にも講釈を垂れそうな口ぶりをしている。子を失って悲嘆に暮れたまま
以前の持ち主に出会った末に舟を受け取ったという話――その時の持ち主は子供だったそうです――を聞くにつけ、あるい
はそのまた以前の持ち主の話までさかのぼっていくにつけ、自らの悩みの矮小さを思わされて泣き濡れたとか」
 女は座って私と目を合わせた。いつしか人の暮らしが並ぶ眺めは去り、川幅も広くなっていた。両脇を時々木が流れてい
き、人影はなくなりつつあった。話の中身もあいまって、前を見る目が遥か先をみるようになっていく。そのうち目だけが
一人でに離れていって、上空に佇み、この風景だけを見るものと化すのではないか、と疑われてきた。
「御坊さんは再び心を入れ替えて修行に打ち込もうと決心なさった。けれど、いまさら仏門をたたくのは都合が良いようで
気が引ける。そんな思案をグズグズとしている内に舟は岸へと戻ってきてしまった。女性に礼を言って一度は立ち去りなが
らも、未練は残るもので岸まで引き返していった。けれど、舟の上には誰も残っていなかったそうです。辺りを探しても、
彼女の姿は見えなかった。ただ川に浮かんだ舟だけが残されているのみ」
199 :白波のあとなき方に行く舟6/8 ◆ihO9dxzf9I [sage saga]:2012/08/27(月) 00:25:51.81 ID:Bvkl7VKc0
「双方にどんな得心があったものか」
「はてねえ」
 とぼけるような言葉とは裏腹に、女はしばらくの間を残して何かを考えているといった素振りを見せた。
「……俗な解釈をするならばその女性は御坊さんを救うことで自らの務めを全うした、そんなところでしょう。御坊さんも
また舟を受け継ぐことで自らの修身がなされると考えた。しかし、だからといって消えるのはあまりにおかしい、だからと
いってすんなりと乗っ取ってしまうのもあまりにおかしい」
 女は同意を求めるように首を振り向けてきた。
「とはいっても、船頭さんも納得が行った上でこの舟の櫂を漕ぐことにしたんでしょう?」
「舟を漕いでいる間に御坊さんが往生してしまったんです」これもまた、事もなげな口調で言ってのけた。「やりとりを交
わす内にいつの間にやら私の身の上を話すようになりましてね、別に何かせよとも言わず、きっと大丈夫と励ますでもなく、
そうですか、と微笑みかけたかと思うと、座った姿からコトリと舟に倒れてしまわれた。それからは見よう見まねで櫂を取
ってどうにか岸まで戻ってね、御坊さんのナキガラを寺かどこかに預けようかと思ったけれど、重くて引きずりさえも出来
ない。人を呼んでこようと思った所、私の丈を二つ重ねたほどの大きな牛に似た獣が現れましてね、彼を口にくわえたかと
思うと、どこかに連れ去って行きました」
 今更肌が泡立つのがどうにもおかしかった。別に獣の話に驚いたわけでもない。ここでは一切が起こってしまうのだろう。
頭では理解できている。だが、どこかで気おくれがしていた。敷いて言うならば、自らの身に一連のことが起こった時、ま
ともに応対できるのだろうか、もしくは、全ての出来事を本当に受けいられるのだろうか、という懸念に近かった。
「それからというもの、元々どこかへ行くアテもなくふらついていた身ですから、御坊さんの住まいと思われる小屋に泊ま
っておりました。備蓄もたっぷりで、着る者にも事欠かない。やがて魚を持ってくる方がいらっしゃったのでので、一部始
終を話してみると、近隣では頼りにされていた方だったようで、泣き暮れていらっしゃいましたね。ただ帰り際に、解脱が
実ったんですねえ、と惜しむ心を振り払うようにも仰っておりました」
「解脱、ですか。此の世の煩悩を抜け出した末に涅槃へ……」
 その言葉は女に向けて、というよりも、これまで繰り返されてきた営みに向けていたという方が正しいと思う。罪を背負
ったと言う現在の持ち主を遡っていけば、ヤマしさを抱いた過去の持ち主がいる、さらに遡れば悔いを抱いた持ち主がおり、
もう一つ遡れば……それぞれの持ち主が消えると言うことは、此の世に対する未練を解いたということなのか、あるいは持
ち主から客へと受け継がれることによって輪廻が行われているのか……。
 帰依などしていない身には遠い話だな、と敬遠するつもりで打ち消した。だが頭に引っかかってくる話ではある。また一
方で宗教などとは無関係にずっと遠ざけておきたいものだとも思う。
200 :白波のあとなき方に行く舟7/8 ◆ihO9dxzf9I :2012/08/27(月) 00:27:01.81 ID:Bvkl7VKc0
「最後にあの方が懇意になさった人なのだから、というので結局私は小屋まで受け継いで食物なども恵んでもらうことにな
ったのですが、何もしないのに施しを受けると言うのも気が引けるでしょう? そこで御坊さんの跡を継いで舟を漕いでい
れば何かができるのだろうな、と思った。といっても、こうして独りよがりに話しているばかりなのですが」
「徒然に生きている者にとって十分な余興にはなりますよ」
 軽率な言葉かと思ったが、女は見咎めるでもなくホツれた髪を撫でつけた。
「だといいのですけれど。そう言えばね、御坊さんが仰っていたのですよ、覚悟と言うものはあらかじめ頭の中で決めるも
のではない、こうして生きている内に、いつの間にか覚悟をしている時があったのだな、と過去を振り返った末に見つける
ものなのだそうです。ひょっとしたら舟を受け継ぐ上での得心というのも、実際に乗ってみた後にああ、こうだったのだな、
とうなづいてこそなのかもしれません」 
 女はそう言って再びヘサキの上に立ったかと思うと、櫂を深く刺しはじめた。腰も深くかがむ。こうした腰の動きがヘサ
キの上で幾度となく繰り返されてきた。男と女を問うことなく、老いも若きも櫂を漕ぐ。罪を背負った人間もいれば悔いを
残した人間もいる、各々に事情はあろうが、このヘサキに立ってしまえば何もかも忘れ、ただ漕ぐしかない。
 なんとも易しき業(わざ)だと見ようものなら、そこに至るまでの険しさを見ていないことになる。その時が来るまで漕
ぎ続けなければならないとは苦しき業だと見ようものなら、何もかも振り払った末の安らかさを見ていないことになる。
 これは浮世から離れた動きだな、と浮き沈みする腰を見つめていると、憧れに似た思いが兆してきた。しかし同時に、軽
率な憧れだろうとも思う。人生の経験において、女と私の間に隔たりがある、という事実をわきまえているということもあ
る。だがもう一つ、浮世を離れるということは身の回りのものを振り払った上でこうして一人で何事にも動じることなく静
かに生きていく、さびしいことなのかもしれないな、という内側から拒絶する動きもあった。
 川を一周するかのような道を取っていたらしく、やや行くと見覚えのある景色が広がった。南にあった日は西へと傾き、
茜色に染まりつつある。赤い光に照らされていると、あそこが先程言った小屋です、と小ぢんまりとした木造りを指して、
渡し場へと方角を変え始めた。
 渡し賃は、と聞いたところで、一銭も持っていないことに気付いた。女は嫌味のない微笑みを浮かべて、私でしたらここ
にいつでもおりますから、と言って今日のところはタダで済んだ。
「もし次、この岸を訪れた際に船頭さんが解脱してしまっていたら……」
「もしかしたらあなたのおかげで解脱するかもしれませんね。だとしたら、ツケの罪を背負いながら舟を漕ぐことになりま
すか」
 それは大変だ、と軽薄に言った後に、ではいつか必ず、と支払いを約束してからその場を去った。
201 :白波のあとなき方に行く舟8/8 ◆ihO9dxzf9I [sage saga]:2012/08/27(月) 00:27:39.09 ID:Bvkl7VKc0
 翌日は暑さにうだって家から出ることが出来なかった。翌々日に風邪と知って家で寝込む羽目になった。その間ずっと、
舟に乗りこんだ時の心地と、女の微笑む顔ばかりが名残として浮かんでいた。汗にまとわりつかれる身からすると、思えば
あの女なかなか汗をかかなかったな、などと涼しげな光景として思い浮かべられた。
 あの日から数日経って熱が下がったころ、どうせ支払い程度ならば造作もないだろう、と萎えた足を引きずりながら、あ
の岸を訪れることにした。それだけの時間が経てば名残は消え、あの時起こった出来事は怪しまれてきた。風邪だったのだ
と知れば、何かの幻覚を見ていたのではないかとも思われる。
 小屋にたどり着くと、舟は水上に浮かんでいた。しかし女がいなかった。どこかに出払っているかもしれないのに、案の
定か、という思いがした。それは幻覚のこともさることながら、もしかしたらあの女が本当に”解脱”してしまったのでは、
という考えも含んでいた。予感は当たっていたようで、小屋を覗いてみたが中に人影が見えないどころか、家具さえもない
空き家同然で、長らく使われていないように見えた。
 しかし、舟の方には確かに見覚えがある。四人が乗れるかどうかの小舟で、いざ乗りこんで座ってみた際の感触は、日が
経っていようとなかなか忘れられなかった。とはいえ、ヘサキには誰もいない。櫂だけがポツンと取り残されている。肩の
あたりが急に重くなってくるのが感じられた。それが降りる前に感じ取った、ヘサキに乗る人間の寂しさだったのか、とん
でもないことを押しつけられちまったという面倒な気分だったのか。どの答えを選んでも落ち着きはしない。
 しばらく事実に茫然としていたところで、人の声がしたので我に帰ることが出来た。あやうく、本当にこの舟を受け継ぐ
ことになっていたかもしれない。第一ツケの罪程度で舟を受け継ぐなんておかしい。やはり幻覚だったのだろうか。それか、
数日のうちに新しい客がやってきたのかもしれない。ともあれ、私は舟から降りることにした。
 岸から上った先には家々が並ぶ眺めが広がっていて、時折人なども通った。彼らから見れば私もあの女のように、辺りの
流れに逆らって時間をせき止めている人間に見えていたのだろうか。ふと浮かんだ疑問が、なぜかとてつもないものに思え
て背筋が凍った。ややあって、時間をせきとめるということは浮世から離れることかもしれないな、と見当がついた。
 振り返って、舟を確かめる。あれまで消えてしまっていれば助かるのだがな、と思いつつ見やったが、やはり川の流れに
合わせて起伏を繰り返しており、おだやかな眺めの中で唯一かつ単調に動いているものだから、初めに見た時よりも輪郭の
線を強めているように見えた。

 了
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/27(月) 00:29:06.53 ID:Bvkl7VKc0
投下終了。◆1ImvWBFMVg氏、投下をどうぞ

【順番】
◆1ImvWBFMVg氏
203 : ◆1ImvWBFMVg [sage]:2012/08/27(月) 00:34:59.86 ID:mFoqO1Yd0
おわっ、今投下します
204 :方舟 1/9 ◆1ImvWBFMVg [saga sage]:2012/08/27(月) 00:41:50.96 ID:mFoqO1Yd0
「燃料さえあれば動くんだ。本当だよ」
 ソーシャは今にも消え入りそうな声でそう言った。するとすかさず周りを囲うように並
んでいる同級生たちが、そら来たとばかりに一方的に槍玉に挙げ始めてきた。ソーシャに
はそれが嫌で嫌で堪らなかった。
「また、嘘ばっか言ってら」
「そうだそうだ。ノアの居住区が動くわけがないだろ、嘘つきソーシャ」
 学区ブロックから外れた人気のない広いフロアには、数人の同級生が居るだけで、一人
だってソーシャの味方は見当たらなかった。
「本当だって。だって父さんから聞いた事だもの」
 泣きそうになりながらも、ソーシャが必死でそう答える。だが、まるで首根っこを押さ
えられた飼い猫の如く、相手にあっさり覆されてしまった。
「なんだ、やっぱり嘘だ。だってお前の父さんはホラ吹きで有名なインチキ親爺らしいじ
ゃないか」
「嘘つきソーシャ、親子でほら吹く! 嘘つきソーシャ、ゴミ一家!」
 子供たちは一斉に囃し立てて、その熱がこもった一方的な罵倒はソーシャを攻め続けた。
ただソーシャには言い返す言葉が出なかった。尊敬する父の事を疑うわけではなかったが、
この巨大なノアの居住区が動く処は、まるで想像することが出来なかったのだ。
「本当に本当なんだ。父さんが教えてくれたんだ」
「嘘つきソーシャ、親子でほら吹く! 嘘つきソーシャ、ゴミ一家!」



「ソーシャ、起きなさい。そろそろC地点に着くわよ」
 馴染みのある声に浅い眠りから起こされると、ソーシャはエアロジープの助手席で縮こ
まるようにして寝ていた。強ばった発達しきっていない手足をゆっくり伸ばすと、あくび
が自然に出た。
「もう着いたのか。さっき出発したばかりだと思っていたのに」
 ジープの運転席ではリースが不機嫌そうに頬を膨らしながら、片手で器用にハンドルを
握っている。一度この勝気で高飛車な少女の機嫌を損ねると、後々まで大変なのであった。
「うわ、ごめん」
「グースカ寝ているからどれだけ経ったか気付けないのよ。人が運転してあげたのを良い
ことに高いびきまで立てて、気持ちよさそうにねえ」
「ごめんって。いや、昨日調べ物していたせいでよく眠れてなくてさ」
「あっそ、そんなの知らないわよ。でもうなされていたのは、実にいい気味だったわね。
苦しそうに“ホントだよ”って何度も言っちゃってさ」
 そこでリースは突然声色まで変えて楽しそうにソーシャのうなされる様を再現して見せ
205 :方舟 2/9 ◆1ImvWBFMVg [saga sage]:2012/08/27(月) 00:43:26.86 ID:mFoqO1Yd0
た。まだ夢の残滓が少しだけ残っていたソーシャには、あまり楽しい冗談とは思えず、呻
き声を挙げていた。
「いい気味だわ。もちろんギリギリまで起こしてやらなかったわ、感謝しなさい」
 リースの言うとおり、二人の目の前にはC地点の深い大穴が見えてきた。むき出しの配
管や導線が走る巨大な通路、そこに突如現れるその大穴はひどく異様な様だった。深く暗
い闇を覗かせ、まるで何処までも続いているかのように底が見渡せなかった。
「はいはい、ありがとうございます。……あれ? でもおかしいな」
「なに?」
「C地点は昨日終わらしている場所だ。だから今日はD地点からって言わなかったっけ」
 するとリースはそこで小首をかしげて、しばらくの間あらぬ方向を向いていた。
「あっそう。ふーん。じゃあD地点まで急ぐわよ」
 何かを誤魔化す時によくやるリースのその癖に、ソーシャはピンときて気付いた。うな
されていたのを見て、すぐに起こしてくれたのだろうと言うことにだ。
「あ。なんだ、そういうことか。ありがとうリース」
「はぁ? なに言っているの、あんたバカじゃない? 勘違いしないでよね」
「いやいや。まだ一言も言ってないから。はいはい、勘違いして申し訳ありません、……
もう可愛くないんだからなぁ」
「はあああ? 別に可愛いとか思われたくないんですけど」
 リースのキンキンとした罵声を適当にやり過ごしながら、ソーシャは眼下に覗く大穴のある、ノアの内部をぼんやりと眺めた。何処までも続いている通路と配線だけだった。
ここは海に浮かぶ巨大な建造物、ノアの居住区だ。その中でも特に未開の深部に位置す
る場所に存在していた。
この巨大な建物がいつ頃建てられたのかについては、もはや定かではない。約数十キロメ
ートルにも及ぶ全長と、海水や潮風にこれだけの年月晒されて、錆一つ出来ない驚異的な
技術力を誇ったかつての文明は、すでに何百年も前に滅んでしまった。
たった一つ、この場所を残して。かの栄華を誇った機械文明は揺るぎないはずの母なる大
地の大規模な地殻変動により、すべて海の中に沈んで消えてしまった。人類に為す術はな
く、こうして生き残っていることさえ、奇跡と呼べるほど壊滅的な状態だった。
ノアの歴史はここから始まる。残された人々はこの居住区の中で肩を寄せ合うようにし
て生きることを強いられた。そして受難の日々を乗り越え、こうしてたくましく健気に生
き延びているのである。とは言えソーシャたちのようなノアで生まれた者達にとってはこ
こが当たり前の環境であったが。
歴史の知識をすべて授けてくれた父親、彼もいま現在は行方不明の身だった。
考古学者で、ノアの居住区の成り立ちを調べていた男であるソーシャの父は、曲がった
ことの嫌いなたいそう立派な人間だった。昔からノアの居住区については、現在に至るま
でまだ分かっていないことが山ほどあり、様々な研究が必要とされていたが、その中でも
206 :方舟 3/9 ◆1ImvWBFMVg [saga sage]:2012/08/27(月) 00:44:28.23 ID:mFoqO1Yd0
ソーシャの父は、もしかしたらこの巨大な建造物を動かす技術があったのではないかとい
う、一つの斬新な仮説を立て、その研究に着手しようとしていた。
 だがしかし、その当時彼の意見をまともに受け取る様な関係者は誰一人としていなかっ
た。周囲から狂言師と手酷い扱いを受けながらも、諦めることなく広大な居住区のさまざ
まなフロアを歩き回った挙げ句、いつしか連絡も途絶え、帰らぬ人となってしまっていた。
「なによ浮かない顔して。またろくでもないこと思い出しているんじゃないでしょうね」
 しばらく物思いにふけっているソーシャを見て、リースが苦々しそうにそう遮った。
「やめなさいよ、そういう辛気くさいの。もう一人前の男でしょ」
 鋭い指摘に、ソーシャはどこかはぐらかす様に話を逸らしていた。
「昔の夢を見ていたんだ。まだ小さい頃の。なんだか泣いてばっかりでさ」
「冗談でしょ。いまでもそうじゃないの。なに言ってンだか」
「はいはい。おっしゃる通り、その通りですよっと。さーて、そろそろ着いたかな」
 二人で軽口を叩いている間に、ジープはD地点の大穴に到着しようとしていた。ここか
ら先の大穴の中は、小回りのきかないエアロジープでは不便な場所にあった。
ソーシャはいつものように、荷台に積んであるジェットバイクの処まで身軽に移動すると、
エンジンを吹かす。すぐに小気味の良い音が返ってくる。
「じゃあ、一潜りしてくる。帰りは夜になると思うからいいよ」
「いやいや、別に待ってないから。考え事しながら作業でもして、転落死すれば良いのよ」
 ソーシャは一気にエンジンをフルスロットルさせ、荷台から打ち出されるように飛び出
した。ジェットバイクはそのまま空中に投げ出され、大穴に向かって落下し始めていく。
始めはどのくらいの深さまで潜ろうか、レバーを絞りながらソーシャがそんな風に考えて
いた矢先のことだった。
本能が穴の先に動く、何らかの存在を捕らえて、必死でソーシャに訴えていた。首の後
ろに鳥肌が立ち、細かい毛穴の一つ一つが一斉に毛羽立っていた。
何かが居る。それだけは間違いなかった。それもとてつもなく危険な何か。
ソーシャは慌てて下方にジェットを吹かせ、落下をせき止めた。まだ五メートルと潜っ
ていない。穴の外では、いつものように見送るようにジープのエンジンを止め、通路に停
車するリースが、何事かと彼の方を見ていた。
「どうし……」
 リースが声を出そうとしていたので、ソーシャは人差し指を口につけた。もちろん声を
出すなという意味の合図だ。その緊迫した表情に、彼女も悟ったように口を紡んだ。
まだ見えない、だが確かに確実に居る大きな存在感を、二人は肌で感じていた。
まるで穴を覆う闇がそのまま形になった、途方もない存在感だ。固唾をのみ、闇に目を凝
らす。
すると、なんとその巨大な闇が、丸ごと動きはじめた。
「ちょ……なによ、これ……」
207 :方舟 4/9 ◆1ImvWBFMVg [saga sage]:2012/08/27(月) 00:50:58.18 ID:mFoqO1Yd0
 リースが放心したように小さく呟いた。それも無理のないことだった。
いつの間にか海水が淵の近くまで迫り上がっていた。そして大穴を覆い尽くすような、途
方もなく大きな肉界が、目の前で赤子が胎動するように動きはじめたのだ。
その圧倒的な大きさの前に、二人は為す術もなく震え上がり、逃げ出すことも出来なくな
っていた。化け物。文字通りの怪物だった。


 大穴が点在する地下通路階層の一つ上。そこには無法地帯と化したとある危険なフロア
が存在していた。
良識のある一般的な移住区の人間たちならば、まず寄りつかないであろうそんな場所。太
陽の恵みで供給される移住区特有の反射日光、その日の光の当たらない薄暗い蛍光灯の光
のなか。そこかしこに放置されたゴミ溜まりに、年中取れることのないすえた臭い。酒の
ボトルや食い物の滓が転がる。
歓楽街ウナユモ。そんな荒れ果てた区画の中のさらにはずれ。まるで子供の秘密基地じ
みたその掘っ建て小屋に、船賊ピータ一味がアジトを構えていた。
「今日も暇だな、ピータ親分」
 小屋の中ではだらけきった数人の男達が、思い思いの過ごし方で暇を潰している。声を
掛けた背の低いやぶにらみの男はポーカーを一人でやっていた。一方親分と呼ばれた青年
は、言われたことなどお構いなしに、自分の喋りたいことだけを大声で話している。
「でよぉ、俺はその時言ってやったのよ。“お前等みたいな糞野郎には絶対尻尾ふらねぇぞ”ってな」
 誰も真剣には聞いていない。耳の右側から入ってすぐ左から抜けているようだった。そ
れでもピータと呼ばれた青年の喋りは止まらなかった。
「そしたら奴さん、あきれたような顔しやがった。ついカッカしちまって、“いつもそうだ、
『便利さと安心を授けてやる、だからその分の快楽を支払え』とな。その手には乗らねぇ、
乗らねぇぞ”って感じに啖呵切っちまってよ」
「さっきから長々話しているが、一体なんの話をしているんだあんたは」
「决まってんじゃないか、いけ好かない居住区のお偉方が持ちかけてきた例の薄汚い取引
を、木っ端みじんに叩き返して、唾吐き掛けてやった話をしているんだ」
 皆の顔から血の気が引いていく音が聞こえるようだった。与太話ではなく大事だった。
「…おい、あの話断ったのか。てめえ、どんだけ金が入ってくるか分かってんのかピータ」
「え? 金もらえたの?」
その場にいた全員が一斉にずっこけそうになった。ドジにも程がある。いつもこうだとばかりにメンバーがため息をついている。
「盗賊が金断るなんて話、聞いた事ねぇぞ。さっさと取り消して謝って来いよ」
「うるせえ殺すぞ。俺が誰に謝れだって?」
208 :方舟 5/9 ◆1ImvWBFMVg [saga sage]:2012/08/27(月) 00:52:23.39 ID:mFoqO1Yd0
 軽口半分で言ったつもりだったが、ピータは完全に怒り狂いブチ切れていた。
「だいたい俺は盗賊なんかやってねぇ。奴らが元からタダだった物に値段つけていやがん
だ。盗賊なんて冠もあいつ等が勝手に付け始めてきたもんだ。どんな物差しだか知らない
が、まぁ呼びたきゃ勝手にそう呼べってなもんさ。ただ嫌がらせで船にしてやったがな」
 メンバー全員がすっかり青年に恐れをなしていた。一度切れると歯止めがきかず、暴れ
てけが人を出すこともざらではなかったからだった。
「面白くねえ。まったく面白くねぇぞ。すっかり興ざめしちまった。昼間から穴潜りして
いるあのバカどもの様子でも見てくるか」
 座っていた長椅子を蹴飛ばして、不機嫌そうに出て行こうとしたその時。青年が話した
穴潜りしている二人、つまりソーシャとリースの二人が帰ってきた。
「おう? どうした二人してこんなに早く帰ってきやがってクソ餓鬼どもめが。もしかし
て親父サンが見つかったのか?」
 ソーシャは色々訳あって、現在ピータ一味のアジトに寝泊まりさせてもらっていた。ピ
ータが失踪する直前の父親と親しくしていた為、その行方を捜す手助けもしてくれたのだ。
ジェットバイクも彼らの物だ。ソーシャは感謝してもし尽くせない恩義を感じていた。
 だがそんな感謝の気持ちも、ピータや妹のリースに言わせると辛気くさいと一蹴されて
しまうのが常だった。兄弟は勝ち気な点でひどく似ていた。だがそんなリースでさえ、先
ほど見た物の衝撃に声をなくしていた。
「あんな物が存在していたなんて……。どう話せば良いか……」
 普通じゃないリースの様子に、ピータは嬉しそうに目を輝かせた。
「おいなんだ……やけにワクワクするじゃねぇか。とっとと話せ早くしろ早く」
「うるさいバカ兄貴。整理させろ」
 先ほど起こった体験を生々しく語るリース。最初は半分聞き流していたメンバーたちも、
話し終わる頃にはすっかり聞き入っていた。
喋り終わったリースが反応を待つ。ピータがおもむろに立ち上がり、瓶を割った。
「野郎ども、聞いたか。ビルほどはある、超ドでかいシシカバブが、フラフラ動くだとよ。まったく前代未聞だ。こりゃあ行くしかねぇぞ」
 男達の鬨の声が一斉にこだました。



 D地区まで急いでエアロジープを走らせる一行はどこか楽しげでさえあった。ピータは
目撃した二人のジープに乗り込んで詳しく話を聞いてほくそ笑んでいる。
「もういいでしょ。これで全部よ。実際に見た私たちだって信じられないんだから、そん
なの目で見なきゃ話になんないわよ」
 運転席に座ったリースが、目で見た物の衝撃の強さを伝えらないことに苛立ち、話を切
209 :方舟 6/9 ◆1ImvWBFMVg [saga sage]:2012/08/27(月) 00:59:38.36 ID:mFoqO1Yd0
り上げた。確かに見なければ信じられないような類いの眉唾でしかなかった。
「おうおう、まぁ良いだろ。しかし問題はだ。一体何故ゆえにそんなドでけぇ代物があの
大穴に現れたのかってことだろうな」
「はぁ? どう言うこと?」
「やっぱりあのクソッタレ穴には何らかの秘密が隠されていたって事だよ」
 したり顔で話すピータにリースは顔をしかめた。
「いいか? 用途不明な途方もなくデカイ大穴が何個もある。なんでそんな物を作る必要
があった? 造った奴だってバカじゃないんだろうよ。だとしたらこれで、説明がつく」
だろ?肩をすくめそんな身振りをしてみせるピータ。リーダーは飾りではないのかもし
れない、そう思わせる説得力が会った。
「まさか……あの巨大な物のための穴ってこと? じゃあ“あれ”は誰かが用意した物だ
ってそう言うの? 一体何のために?」
「そんなのは俺だって知らないさ。だが驚異的な技術力を誇った何百年も前に滅んでしま
ったっつう、例の機械文明の産物か何かなんじゃないか。それなら話が早い、じゃないか」
 リースも納得がいったように頷いた。正体が予想できてようやく人心地つけたようだ。
「ライサス、つまりソーシャの親っさんも昔言ってたしな。“穴の存在を教えてくれてあり
がとう、彼処にはまだまだ解明されていない謎の仕組みが色々ある”ってな」
 リースが気に掛かるのか、助手席のソーシャを見た。アジトに帰ってきてからここに至
るまで、ほとんど口をきいていなかったのだ。ピータが後部座席から身を乗り出して、ソ
ーシャを突っついた。ソーシャも顔を上げたが、返事はなかった。
「どうしたよ、悩み深き少年ソーシャこら。黙ってちゃ何も伝わらんぜオイ」
「なに? そういえば、アレを見てからずっとそんな感じだけど」
 二人に言われて、ソーシャは渋々諦めたように話し始めた。
「いや……あまりに突拍子もない話でさ……たぶん僕の勘違いだからどうでも良いよ」
「どうでも良い奴がそんな顔するか。いいから早く言えよ腐れマンコ野郎」
それでもソーシャは、もしかしたら、もしかしたらだよ、としつこく念を押し言った。
「あれは、父さんかもしれない」
 流石のピータも唖然としている。リースは固まってしまっている。
「……とんでもねぇ。もっとスピード上げろリース、何かが起こる前に急げるだけ早くな」



 問題のD地点の大穴に向着いた後、しばらくして一行はバラバラに分かれて行動してい
た。なかなか現れそうにもなかったので、ピータの指示で三人以外のメンバーは、地下通
路フロアに散らばった大穴の様子を見に行くことにしたのだ。
 年代物の無線機で連絡を採る、珍しくリーダーのらしい振る舞いを見せているピータの
210 :方舟 7/9 ◆1ImvWBFMVg [saga sage]:2012/08/27(月) 01:00:22.40 ID:mFoqO1Yd0
横で、ソーシャは相変わらず浮かない顔をしている。
「ソーシャ。そんな状態でバイクになんか乗せられないわよ。わかっている?」
「リース…分かっているよ。でも……もしアレが父さんの成り変わった姿だとしたら……」
 そこでリースはじれったそうにソーシャの肩を掴んで、叱るように説き伏せた。
「“でも”とか、“もし”じゃあないでしょう。あなたのお父さんは立派な人だった、そう
だったんじゃないの? なら信じて行動しなさいよ」
 ソーシャは力なく体を揺らしながら、こみ上げてくる何かを必死でこらえた。
「ありがとう。君がそう言ってくれるだけで……」
「もう、鬱陶しいわね。シャキッとしなさいよシャキッと」
 君の兄さんみたいには成れないよ、そう言おうとしてソーシャはなんとか思いとどまっ
た。リースにうんざりされる気がしたのだ。
辺りはそろそろ日が暮れようとしていた。もちろん居住区の中には日の光は直接届かない。
だが、反射日光の光がわずかにどこからか漏れているのだ。どこか建物の色がオレンジ色
に染まっているように見えた。
 オレンジ色に染まったのは建物だけではなかった。穴を覆う闇も、ところどころうごめ
きながら、オレンジ色に染まっていた。すぐそこまで来ていた。朝と同じように海水が淵
の近くまで迫り上がっている。
先ほどまで無線機で忙しく連絡を取り合っていたピータも、無線を切ってこの光景に目を
奪われていた。この世の物とは思えない光景だった。途方もなく大きな肉界が、目の前で
赤子が胎動するように動く。何が始まろうとしているのか、その場に居合わせた誰一人と
して予測出来なかった。
 その中で一番冷静だったのはピータだった。ジープに積んだバイクの枷を解き、追跡す
る準備を整え、タイミングを計る姿にふざけた面影は見えなかった。
やがて潮が引くように、海水の水かさが引いていく。それと同時に巨大な物体も穴の闇へ
戻ろうとしていた。だが追いかけるにはまだ少しタイミングが早い。
 その時だった。音が聞こえてきた。ソーシャの聞き覚えのある音。懐かしき父の声だっ
た。
「父さん! 父さんなんだろ!」
 堪らずにソーシャが叫ぶ。すると巨大な物体は、まるでその言葉を理解したように、苦
しそうにもがき苦しみ始めた。大穴の中へ逃げるように潜っていく。
「あぁ、何てことだ! 嘘だ! 嘘だろ! 父さん、待って父さん!」
 ソーシャはすっかり取り乱していた。恐ろしいスピードでジェットバイクに飛び乗ると、
機体を跳ね上げたあと、ほとんど直滑降に落下し、あまつさえエンジンで加速を付けた。
「リース! ジープでソーシャを追え! やばいぞ野郎、頭に血が上りきっている!」

211 :方舟 8/9 ◆1ImvWBFMVg [saga sage]:2012/08/27(月) 01:01:03.68 ID:mFoqO1Yd0
 バイクが落ちるスピードはある一定の領域で止まってしまった。ストッパーが掛かって
いたのだ。海水が沈むスピードは思ったより早く、ソーシャには追いつけそうになかった。
穴の内部は様々な階層が折り重なって出来ている。そこは他の穴と変わらない。だが海水
の磯臭い臭いをここまで感じたのは初めてだった。
 穴の下に見える巨大な物体が、止まった様な気がした。最下層だろうか、ソーシャが考
えた瞬間、辺りに大きな声が響き渡った。
『止まりなさい、君は侵入禁止区域に入りすぎている。危険きわまりない』
 マイクで拡声されてはいたが、聞き間違いようのない声だった。ソーシャの父、ライサ
スの声だった。
「父さん」
 空気が止まった様に感じた。マイクの先にいるはずの父親も何も答えない。
 するとソーシャの近くの壁の横から、エレベーターのような物が伸びてきた。その先には、人間の姿をした父親が乗っていた。
感動の再会を演じることもなく、ライサスは驚いたように叱りつけてきた。まるで昨日家
で会ったばかりのようで、ソーシャは自分が可笑しいのかと錯覚を起こしそうになった程
だった。
「こんな所でなにをしているんだソーシャ。子供が遊びでくるような場所じゃないぞ」
「なにをしてるって。そんなの父さんを探しに来たに決まってるじゃないか。父さんこそ何しているんだよ」
懐かしい父の面影に涙が出そうになっていた。少し年老いて見えたのもよりいっそう哀
愁を誘った。あの誇り高き父の背中は少し曲がっていた。
「そうか、探しに来てくれたのか、それは悪かったな。本当なら手紙の一つでも出せれば
よかったんだが。しかし大きくなったなソーシャ、わからなかったよ」
「そんなの……それより何をしているだよ父さん」
「父さんがやっている仕事の成果はお前も見ただろう。あれだよ」
 下を指すライサス。巨大な肉界。ソーシャは信じたくなかった。
「親っさん、あんた何てもんに手ぇ出してんだ」
 上から追いかけてきたピータ達がようやく追いついた。だが表情は暗かった。
「おや、ずいぶん懐かしい顔触れだね。その顔は、ノア版ネヴァーランドのリ−ダー、ピ
ータくんじゃないか。ティンクは元気かい?」
「叔父さん……」
「やあ、我らがティンカーベル。もうそうじゃなくなったのかなリース。キミも大きくな
ったね。あの頃はほんとうに妖精みたいだったけど。今じゃウェンディか、いやたまげた
な」
「見ない間にずいぶん趣味が悪くなったんじゃないか、おやっさん。悪戯にしては達が悪
すぎるぜあのデカイの」
212 :方舟 9/9 ◆1ImvWBFMVg [saga sage]:2012/08/27(月) 01:01:37.55 ID:mFoqO1Yd0
「おや。そう見えたのならちょっと悲しいね。彼らこそが、この新たな世界のアダムとイ
ブなのに」
「アダムとイブ? なんだいそりゃ」
「昔話したろう。旧世代の神話の始まりの人さ。まだ他に何体もいるんだ。穴ごとに一体
ずつね。彼らをこれから海に放つんだよ」
 ライサス以外の三人は、あの巨大な物が海に放たれるところを想像していた。何故そん
なことを。
「この巨大な生き物がどのような生態系を作り、どう変化していくかはわたしにも分から
ない。とは言え必ずこの細胞の一つが残る。次の生態系の覇者がこのノアの一存で決まる
んだ。君たちはまだ分かってない。この陸地の消え失せた世界で人間が生き残る確率は百
分の一だってないんだよ。このノアが無くなってしまえば、それでジ・エンド、お終いだ。
そうだろう?」
「だから何だってんだ。誰だって死ぬし、いつかは滅びる、そんなもんだろ」
「だからさ。だから私はこれを造った。これが人類が生き残る可能性を残してくれる。彼
らの細胞にはある一つのコードが書き込まれているんだ。絶対に抗えない音の波長。パル
ス。それが人間の出す声に含まれている波長だ。どうだい。生態系の覇者の天敵、これで
人類は生き残れる」
「そんなのは……生きることに対する冒涜だ。俺の趣味じゃない」
「交渉決裂か。それじゃあ仲良くお別れ、って訳にもいかないのかな」
 ピータが懐から火薬を取り出して身構えいた。下の物体を吹き飛ばせる量は見込めない
が船ごと爆破するなら問題はなかった。
「止めるさ。アンタがやろうとしてることは間違ってる」
「よかろう。全力で阻止するよピータ」
 戦いが始まろうとしたとき、ソーシャが懇願するように叶うはずのない和解を訴え出た。
「父さん、帰ろうよ。街で母さんと妹が暮らしてるんだ。心配してるよ」
「ソーシャ、父さんの居場所はここだ。やるべきことは全てやったよ」
 ソーシャにはもはやライサスの顔を見ることが出来なかった。だがそんなソーシャの顔
を、ピータが無理矢理持ち上げた。
「やめろソーシャ。おやっさんが一生を賭け取り組んだ仕事だ。目をそらすな」
 そしてソーシャは見た。そこにあったのは、泣きそうな、誇らしげな、さびしそうな父
の顔だった。
「お前はどうだいソーシャ。まだ行くべき場所や見たい物はあるかい。なら立ち止まるべきじゃない」

海の外は何処までも広がり、果てが見えなかった。ソーシャはこの世界で生きていくこ
とを胸に誓い、新たな一歩をこぎ出した。
213 : ◆1ImvWBFMVg [saga sage]:2012/08/27(月) 01:04:00.84 ID:mFoqO1Yd0
やべ、<了>書き忘れた

投下終了です、長々とすいません
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/27(月) 01:04:18.24 ID:Bvkl7VKc0
現在、週末品評会304thの投票受付中です。今回の品評会お題は『船』でした。
投稿された作品は■まとめ http://yy46.60.kg/test/read.cgi/bnsk/1345992766/にてご覧頂けます。
投票期間は2012/08/28(火)24:00:00までとなっております。

感想や批評があると書き手は喜びますが、単純に『面白かった』と言うだけの理由での投票でも構いません。
また、週末品評会では投票する作品のほかに気になった作品を挙げて頂き、同得票の際の判定基準とする方法をとっております。
投票には以下のテンプレートを使用していただくと集計の手助けとなります。
(投票、気になった作品は一作品でも複数でも構いません)

******************【投票用紙】******************
【投票】:<タイトル>◆XXXXXXXXXX氏
【関心】:<気になった作品のタイトル>◆YYYYYYYYYY氏
     <気になった作品のタイトル>◆ZZZZZZZZZZ氏
**********************************************
― 感 想 ―

携帯から投票される方は、今まで通り名前欄に【投票】と入力してください。
たくさんの方の投票をお待ちしています。 
時間外の方も、月曜中なら感想、関心票のチャンスがあります。書いている途中の方は是非。
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/27(月) 01:05:34.07 ID:Bvkl7VKc0
第304回週末品評回『船』投稿作品まとめ
http://yy46.60.kg/test/read.cgi/bnsk/1345992766/

No.01 出航 ◆InwGZIAUcs氏
No.02 船渡し ◆Qfu.mTwFskGG氏
No.03 宇宙からの訪問者 ◆HmfYvBHWkM氏
No.04 白波のあとなき方に行く舟 ◆ihO9dxzf9I氏
No.05 方舟 ◆1ImvWBFMVg氏

君らナンバリング忘れないようにね
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/27(月) 01:21:41.74 ID:rdoL2Hsyo
まとめスレってなんで今までのやつと別のスレタイに変えたの?
217 : ◆InwGZIAUcs [sage]:2012/08/27(月) 01:45:05.32 ID:+CBzZjCG0
ごめんなさい。おいらがタイトルミスって立てました。
意味は無いです。
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/28(火) 04:10:29.81 ID:xZZuh+vIO
お題ください
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/08/28(火) 06:07:17.58 ID:LJNf8dZgo
>>218
ジャム
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/08/28(火) 09:54:04.35 ID:xZZuh+vIO
>>219
謚頑升縺励∪縺励◆
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/28(火) 14:21:51.73 ID:NhFegp3no
えっ
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/28(火) 14:48:07.87 ID:xZZuh+vIO
すごい文字化けした、なにこれ
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2012/08/28(火) 15:12:40.05 ID:jTPmJvMf0
ここまで全感なし
224 :全感 ◆1ImvWBFMVg [saga sage]:2012/08/28(火) 21:29:38.92 ID:j1BLzJTt0
No.01 出航 ◆InwGZIAUcs氏
ほうほう。ブ、ブランド?ブロンドかな。人魚か。アニメとか以外だとあんまり良いイ
メージないよね。え、結局とり殺すのかよ、妖怪じゃんみたいな。
色気二重かぶり?あんまり推敲してなさそうだなぁ。いやいや、調子に乗る出ないって。
ええええええええ。なんだいこの取って付けたような微妙な展開は。おいいいいいい。
まぁ確かに船ってネタとか書けることの範囲が狭いお題だけどさ。もう二練りぐらいはしないと駄目なんじゃないだろうか。
いろいろ足りない気が‥‥これまだ下書きだったのかな。毎回適当なのを出している俺が言うのも何だけど、いつもの実力があまり出てない気がしたので。

No.02 船渡し ◆Qfu.mTwFskGG氏
幻想小説っぽい始まり方ですな。丁寧な情景描写だ、わかりやすい。ふーむ、あの世か。
あらら。よく見かける題材だな。いや、でも展開が・・・・。これもありがちだ。
もう少し予想を裏切ってくれる話しの持って行き方はなかっただろうか。最初はわくわくしたけど、最後で尻すぼみになってしまった気がする。
文章やその他は充分よく出来ている作品だと思います。ただ昔から何度も見た展開なので、意外性が欲しいというか。

No.03 宇宙からの訪問者 ◆HmfYvBHWkM氏
おっ。UFO物来たか。ふむふむ。おろ? 珍しいね、星新一風?いいじゃないか、わくてかしてきたぜ。M.I.Bきたか。
 ほう。ほう。いいぞ、いいぞ。読ませるじゃないか、ってええええええええええええええ!なんだそのオチイイイイイイイ!
バーカバーカ。もったいないなぁ・・・・。もうちょっと真面目にやってれば、切れの良いショートショート作品になったのに。おしい、非常におしい作品です。

No.04 白波のあとなき方に行く舟 ◆ihO9dxzf9I氏
うわ、ボリュームあるなぁ。え、お前が文句言うな?ですよねー。
ふ、舟だ・・・・。紛う事なき舟小説だ・・・・。おおう。真面目なストリー物なのかな。珍しい。
ほうほう。ふむふむ。うーん?まさかNo.02と同じ展開かな。こっちの方が隠してる分趣向を凝らしている作り方だけど。うん?
なんだなんだ。なんだこの展開は。ぉおん?しかもさっきから肉づき肉づきって。エロ展開に行くの?はいはい。
つーかなげぇ。やっぱ8レス、しかもギッチリ埋める書き手のは長いwww
 おお?最後の最後、展開があるのかい?いつもの感じで終わりになるのかと。うーん?はいはい、なるほどね。いやでも、途中のカッパみたいな獣がどうとかの話しは・・・・。別にいかにも小説、って終わり方でもよかったと思うけどなぁ。

No.05 方舟 ◆1ImvWBFMVg氏
 うはwwwww雑すぎワロタwwwwwぶっちゃけ締め切り時間までに書けていませんでしたwwwwサーセンwwwwwwww
しかし圧倒的に情景描写が足らないな−、めちゃくちゃ書き直してぇ。まぁ力量不足ってことだな、次回がんばろう。

******************【投票用紙】******************
【投票】:No.04 白波のあとなき方に行く舟 ◆ihO9dxzf9氏
【関心】:No.03 宇宙からの訪問者 ◆HmfYvBHWkM氏
**********************************************
― 感 想 ―
うーん。もしかしたら真面目にやっている人が少ない?おまえらちゃんとやれよな!
え?おれ?時間がないんだもーん。しょうがないよねー。・・・・次回がんばるから許して
船難しかったなー。じゃあまた次回。みなさん乙乙。
225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/08/28(火) 21:35:53.42 ID:j1BLzJTt0
今回は全感少ないな。品評会復活フィーバーはもう終わっちゃったんだろうか。
226 : ◆ihO9dxzf9I [sage saga]:2012/08/28(火) 21:55:28.27 ID:uy7GenHq0
******************【投票用紙】******************
【投票】:なし
【関心】:なし
**********************************************
【朗報】俺選手、全館を提出する気を失う
227 : ◆Qfu.mTwFskGG [sage]:2012/08/28(火) 22:47:30.72 ID:D1/v4iJQo
No.01 出航 ◆InwGZIAUcs氏
ファンタジーかと思ったら会社が倒産で自殺って意外に現実的なのね。

No.02 船渡し ◆Qfu.mTwFskGG氏
自作。

No.03 宇宙からの訪問者 ◆HmfYvBHWkM氏
自由過ぎて笑った。

No.04 白波のあとなき方に行く舟 ◆ihO9dxzf9I氏
描写が綺麗で丁寧でした。雰囲気ともあっていてグッド。

No.05 方舟 ◆1ImvWBFMVg氏
ツンデレ!ツンデレ!
ジブリみたいな世界観が読んでいて楽しかった。打ち切りエンドっぽいのが残念。


******************【投票用紙】******************
【投票】:No.04 白波のあとなき方に行く舟 ◆ihO9dxzf9I氏
【関心】:No.05 方舟 ◆1ImvWBFMVg氏
**********************************************
― 感 想 ―
初参加でした。自分の実力不足を実感……。
感想短いけど許して。これでも精一杯書いたよ!ほんとだよ!
読んで下さった方に感謝です。皆さん乙です。
228 : ◆HmfYvBHWkM [sage saga]:2012/08/28(火) 23:22:23.65 ID:geBlZNat0
No.01 出航 ◆InwGZIAUcs氏
中高生向けの話だと思った。俺は騙されないよ?

No.02 船渡し ◆Qfu.mTwFskGG氏
入りの数行で面白そうだと感じた。感じたんだけど。
俺の期待はこの部分で冷めてしまいました。
>はて、ここは何処なのだろうか。
>男には全く身に覚えがなかった。
>男は左腕に目をやった。現在の時間を知るためだ。そこには就職記念に父から貰った云十万円の腕時計がはめられている。
記憶喪失かと思いきや、父から貰った腕時計の事は覚えてるんですね。
この文章に作者の思惑をひしひしと感じると同時に、作者を強く意識してしまった。
作者はこの時点で主人公がこの世界に来る前に何をやっていたのか?というのを説明したくなかったんだなと。
で、なぜ説明したくなかった(あるいはしなかった)のかというと……話の本筋に関係ないどうでもいい事だからだろうなあ。
けど、読者は作者の意図しない部分が時に気になったりするんですよ……

この作品、地の文で描写された世界観に対する読者の感覚と、とぼけた主人公の感覚のギャップを楽しむものなんだと思う。
最後のオチなんかその通りだし。
けど俺は楽しめなかった。それは作者の存在を思わぬ所で意識してしまったから……

No.03 宇宙からの訪問者 ◆HmfYvBHWkM氏
自作。あえて何も語るまい。
229 : ◆HmfYvBHWkM [sage saga]:2012/08/28(火) 23:23:33.74 ID:geBlZNat0
No.04 白波のあとなき方に行く舟 ◆ihO9dxzf9I氏
相変わらず読むのに体力を使う文章ですね!
どうせこの主人公も曰くのある人間で、舟を譲り受けるんだろうなと思ったらそうじゃなかったでござる。
こうやって読者の予想をいい意味で裏切るのはイイネ……
結局主人公は女や坊主とは違って人生経験もろくにしていないし、それに起因して俗な考えに囚われてしまっているから
舟を譲り受けなかったし、譲り受けたくもないという結論に至った訳なんですが。
んー、作者の伝えたいことや考えていることは分かった。
けど俺はいつか舟を譲り受けたいねえ。まあこうやって意識している内は無理だろうけどな!

>岸から上った先には家々が並ぶ眺めが広がっていて、時折人なども通った。彼らから見れば私もあの女のように、辺りの
>流れに逆らって時間をせき止めている人間に見えていたのだろうか。ふと浮かんだ疑問が、なぜかとてつもないものに思え
>て背筋が凍った。ややあって、時間をせきとめるということは浮世から離れることかもしれないな、と見当がついた。

どうした? お前さんも立ち止まらないで前に進め! 前に!

>帰依などしていない身には遠い話だな、と敬遠するつもりで打ち消した。だが頭に引っかかってくる話ではある。また一
>方で宗教などとは無関係にずっと遠ざけておきたいものだとも思う。

やっぱこれ作者の(ry

No.05 方舟 ◆1ImvWBFMVg氏
あー、そこに設定説明を固めて入れてくるか。分割して小出しに説明した方が分かりやすくていいと思うんだけどなー。
そしてちょっと地の文が酔ってる印象を受ける。キザったい。
最後は……どう見ても時間切れです。本当にありがとうございました。
けど、文章全体や会話から垣間見えるワクワク感は好き。
愉快な仲間達御一行がいつの間にやらスケールの大きい問題に直面し、奮闘するっていうシチュエーションには魅かれるし。
それだけに、残念な箇所が多かったのが勿体ない。
230 : ◆HmfYvBHWkM [sage saga]:2012/08/28(火) 23:25:09.02 ID:geBlZNat0
******************【投票用紙】******************
【投票】:なし
【関心】:No.04 白波のあとなき方に行く舟 ◆ihO9dxzf9I氏
**********************************************

遂に文豪先生の作品に票を入れることになるなんて。俺も血迷ったかな、ハハッ。
賛同できない部分があるので関心票止まりですが。
運営、参加者の皆様ありがとうございました。
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) :2012/08/28(火) 23:42:59.34 ID:TeP26L4X0
全館はお家についてから書きます
******************【投票用紙】******************
【投票】:なし
【関心】:No.05 方舟 ◆1ImvWBFMVg氏
**********************************************
あーいいわーこの悔しい感じ。懐かしい。
ちくしょー次はもっと面白いの書いてみせるZ!
232 :結果発表 [sage]:2012/08/29(水) 00:23:49.18 ID:YL2P8mcw0
投 関
− − N.01 出航 ◆InwGZIAUcs氏
− − No.02 船渡し ◆Qfu.mTwFskGG氏
− 1 No.03 宇宙からの訪問者 ◆HmfYvBHWkM氏
2 1 No.04 白波のあとなき方に行く舟 ◆ihO9dxzf9I氏
− 2 No.05 方舟 ◆1ImvWBFMVg氏

というわけで優勝はNo.04の『白波のあとなき方に行く舟』を書いた ◆ihO9dxzf9I氏に決定いたしました。おめでとうございます。
それでは優勝した◆ihO9dxzf9I氏には優勝した感想と、次回のお題発表をお願いします。
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/08/29(水) 00:42:26.41 ID:YL2P8mcw0
優勝おめでとう◆ihO9dxzf9I氏。次は早めに仕上げとかないとなぁ。
234 : ◆ihO9dxzf9I [sage saga]:2012/08/29(水) 01:07:28.58 ID:2UnYgeIM0
「(小林秀雄が直面した小説を読む際の困難、およびその困難を保ったまま批評を書くことの重要性を
論じた後で)対象となるテクストを前にしたこういう脱「評家」的な”アマチュア”の行き方、熟読者、
愛読者の行き方が、どれほど「書く」ことを困難にするかは「『白痴』についてU」を読めば、息苦し
さとともに了解されるはずだ。ついには書けなくなってしまうのである。しかし、この困難を取り除け
ば、(中略)書くことは容易にはなっても、そうやって書かれたものはウソにしかならない。クリティ
カルとは「困難」を避けないと言うことだ。私には小林の行き方こそがクリティカルに思えた。これこ
そが批評なのだ、私もこういう行き方で行きたい、と」(『文学のプログラム』山城むつみ)

第305回週末品評会  『危機』

規制事項:10レス以内
注意事項:板の仕様により、Mail欄に“saga”を入れないとちょっと悲惨なことになる恐れがあります。
       作品投下の際にはとりあえず入れておきましょう。
投稿期間:2012/9/8(土)00:00〜2012/9/9(日) 23:30
宣言締切:日曜23:30に投下宣言の締切。それ以降の宣言は時間外。
※折角の作品を時間外にしない為にも、早めの投稿をお願いします※

投票期間:2012/9/10(月)00:00〜2012/9/11(火)24:00
※品評会に参加した方は、出来る限り投票するよう心がけましょう※
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 01:12:13.46 ID:RrUPiHfoo
◆ihO9dxzf9I氏おめ&お題発表乙
236 : ◆InwGZIAUcs [sage]:2012/08/29(水) 01:41:11.44 ID:O+tgtRnl0
全感想を投下させていただきます。
例の通り棚上げで申し訳ありません。

No.01 出航 ◆InwGZIAUcs氏
感想ありがとうございます。連続ダブルオーフィニッシュは
久しぶりで泣きそうです。今度は頑張ります。

船渡し(1/4) ◇Qfu.mTwFskGG氏
文章のリズムが好きです。誤字や違和感のある言い回しはいくつかありましたが、
総じて読みやすかったように思います。話も分かります。分かるけど、最後が
どうも尻切れトンボのようになってしまっている事と、そもそも話しが面白く
はないのが残念でした。次に期待してます。

宇宙からの訪問者 1/3 ◇HmfYvBHWkM氏
ようこそ紳士の園へ。歓迎致しますぞ!
って嘘だよ何これ病気。へ、へんたいだー!って言わざるを得ない。
何がしたいの言いたいの? 最後が言いたかっただけ? もう久しぶりに
こんな電波な話を読んだ。割合変態の多いここでもひどい部類に入ると
思います。インパクトはあるけど、話に納得できずとんとん進むから
置いてかれた感があって残念。というか重ね重ね内容が酷い。でももっとやれwwwwww

No.04 白波のあとなき方に行く舟 ◆ihO9dxzf9I氏
文章上手すぎワロエナイwwwwwwwwスレタイ嫁wwwwwwwwww
しかしあれだね、上手すぎてテンポが悪く感じるのと、情景がコロコロ
変わるから本筋に集中できなかった。それがいいんじゃないかと言われれば、
おいらはやっぱり好みでないのだろうと思う。ぶっちゃけ読むのが苦痛になってしまう
レベルだった。文章すごいなあと思ったから関心票いれようとしたけど、でも苦痛だったの
いれるの違うかなと思ってやめました。申し訳ない。
237 : ◆InwGZIAUcs [sage]:2012/08/29(水) 01:42:03.53 ID:O+tgtRnl0
No.05 方舟 ◆1ImvWBFMVg氏
長いけど俺好みの作風。文章も読みやすかったし、何よりキャラが立っていた。
しかし、尺足らず。昔スレタイを読めない人に俺が指摘された事だけど、
小さなキャンパスにはみ出して絵を描こうとしているのと一緒。SSではワンシーンを
切り取ったほうがいいよと伺いました。きっと同じ現象が起きてる。起の部分では
読者を引き込む事に気も使ってるし、さっきも書いたけどキャラ立ても悪くない。
でも尺のおかげで台詞、地の文に何かと説明乙なところが入っててさめてしまう。
ってのが感想です。


最後に、◆ihO9dxzf9I氏おめでとうございます!
そして運営された皆様も乙。次回も参加できればと思いますので、よろしくお願い致します。
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/08/30(木) 00:22:57.15 ID:oW5M4MFD0
お題発表おつ
危機かー、なんかハプニングが起こせばクリア出来ちゃいそうなお題だな
よーし、今回は好き放題やっちゃおうかな
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2012/08/30(木) 17:56:02.94 ID:3/bi0i/AO
御題頂戴
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/08/30(木) 18:23:00.68 ID:70/zSuCyo
>>239
休暇
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 18:20:25.48 ID:gVMaXKHco
お題欲しいお題ください
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/09/01(土) 18:23:52.39 ID:sWEY0pqFo
>>241
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 18:52:22.48 ID:gVMaXKHco
どもども
244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/02(日) 16:06:42.48 ID:yXAavnHIO
みんな、書いてるか?
俺は書いてるぞ
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/02(日) 18:44:01.71 ID:U7aAVAQao
何も書いてない
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/02(日) 20:21:20.52 ID:Uxn0tOJH0
アイディアは出来たけど書き継げるかどうかが非常にあやうい
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/09/03(月) 01:09:19.16 ID:bQUNoePIO
まだ一週間もあるし、余裕すぎwwww楽勝だろwwwwwwww
先々週も同じこと思ってたような気がするけど気にしない

それより品評会まとめに変な書き込みがされてるのが気になる
せっかく綺麗に並んでた順番ばらばらにされてるんだが
248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/03(月) 02:33:30.25 ID:CzDIdUIAO
まあでも2週間あると流石にいいよ
寝かせる時間があるのは助かる
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/09/06(木) 03:28:42.21 ID:UqutFinio
お題下さい
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 03:38:25.30 ID:UQMsEM1Ro
焦燥
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 03:40:00.85 ID:tHuQ8hOJo
>>249
連帯責任
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 03:58:38.04 ID:UqutFinio
>>250-251
ありがとう!
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/09(日) 23:27:06.98 ID:XClyzrKH0
だれもいねー
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/09(日) 23:29:36.63 ID:XClyzrKH0
おいおい。時間外か。それとも・・・まぁいいや
予約
255 : ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/09/09(日) 23:29:56.81 ID:E8yCVJC+o
予約
256 : ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/09/09(日) 23:31:48.50 ID:E8yCVJC+o
【順番】
ID:XClyzrKH0氏
◆HmfYvBHWkM氏

ではID:XClyzrKH0氏、投下をどうぞ
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/09(日) 23:44:23.43 ID:XClyzrKH0
あら居た。ごめんホントにあともうちょっとだから。先どうぞ
258 : ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/09/09(日) 23:44:59.66 ID:E8yCVJC+o
ではお言葉に甘えて先に投下。
259 :その、差し伸べられた手を 1/7 ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/09/09(日) 23:45:58.71 ID:E8yCVJC+o
 桃野和江は無言で本を読み耽っていた。隣で着うたの本を片手に携帯とにらめっこする友人の姿など目にも入らない。
 和江達のいる部室は八畳ほどの空間で、棚には文庫本や漫画といった書物が規則正しく並べられていた。
 開け放たれた窓からは秋枯れの樹木が見える。風に吹かれた薄茶色の木々はかさかさと葉擦れの音を辺りに
響かせていた。青空に広がる無数のうろこ雲は澄み切った秋空に彩りを添えている。
「ちょいと猪を殺してきた」
 部室のドアを開けて入ってきたスポーツ刈りの少年。彼の口から部屋全体に物騒な言葉が伝わっていく。
「わっ、すごーい」
「はぁ!?」
 ショートヘアの少女が本から視線を外し、不機嫌そうな顔で席から少年を見上げた。本の表紙には「雪国」と白く大きな
文字が記されている。少女は彼をまじまじと見つめた後、その目線は彼が小脇に抱えていた散弾銃へ釘付けになった。
「ああ、これを使ってな。初めてだったから緊張したぜ」
「緊張したじゃねえよ! 確か狩猟免許が持てるのは二十歳以上だっただろ!? お前はどう見たって十七歳、高校生だろ!」
「まあそうなんだけどさ、ここも高翌齢化が進んでるじゃん? ほら、俺ん家って親父がハンターだし、若い時から
経験を積ませようってことで無理やり狩りに参加させられたんだよ。狩りに参加しないと親子の縁を切るとか
言っていきなり怒り出すし。あー、びびったびびった」
「ひゅーひゅー! 永原君かっこいい! はい、チーズ♪」
 背の低い少女が携帯を向けて茂人の雄姿を収める。
「おっ、サンキュー、千崎」
「おい待て……」
「いいっていいってぇ。後で永原君にも写メ送っとくね〜」
「うおおおっ! この写真きっと親父が見たら喜ぶだろうな。ほんとありがとうな千崎!」
「人の話を聞け!」
 業を煮やした少女が座っていた机に両拳を激しく叩きつける。切れ長の目にははっきりと怒りが宿っていた。
 あまりの剣幕に茂人はびっくりした表情で和江の方を振り向き、対照的に日菜はやれやれといった顔をしている。
「いいか、永原。お前がやったのは立派なはん……」
「あーっもう、またももぴーの悪い癖が出てる! そんないけない子にはお仕置きだっ」
 日菜が和江の額にデコピンを食らわせる。
「なっ、何するんだよ日菜! どうしてこんな……」
「しーらない。ももぴーには何回も言ってきたけど、私もう疲れちゃった。だから実力行使ってことで」
260 :その、差し伸べられた手を 2/7 ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/09/09(日) 23:46:47.65 ID:E8yCVJC+o
 和江は今まで友人に言われてきた言葉を思い返す。もっと肩の力を抜いて生きたら楽になれるよ、ももぴーの真面目
なところは好きだけど、真面目すぎて堅苦しいと感じる時もある等々……
 言いたいことは分かる。私自身、こんな自分が嫌だ。けど、元々の性格は変えられないのだ。生活環境、親からの
影響……どうにもならない部分だってある。私は自分以外の何者にもなれない。和江はそう言い聞かせて諦めていた。
「ごめんね、永原君。私の不肖の友人が迷惑をおかけしてしまいました」
 日菜はくるりと踵を返すと、茂人の前でぺこりとお辞儀をする。
「いいよ、別に気にしてねえし」
「オッケー、これで問題なし! それにしてもおっかないねー、猪が出てくると冬も近いって感じ」
「冬眠する前に食料を貯めないといけないから、この時期はどうしてもな。おまけに熊や狐もいるし」
「まあ、ぶっちゃけ毎年のことだから慣れてるけどねー」
「確かにそうだけどな。最近は動物だけじゃなく偽札やオレオレ詐欺みたいな犯罪も多いし、ほんと怖いよな」
 そういえば最近はニュースで詐欺事件を伝える報道が多いなと和江は考える。特にここみたいな田舎は年寄りも多いし、
注意しないといけない。他人事で済ませてはいけないのだ。和江は二人の話を聞きながら拳をぎゅっと握り締めた。
「でね、実は家の前にこんなのが置いてあったんだ」
 日菜が背中まで垂らしたポニーテールを揺らしながら、鞄から小さな黒い箱を取り出す。ただの何の変哲もない小箱だった。
「おいおい、明らかに怪しいぞこれ」
 和江は弾かれたように立ちあがると箱を睨み付ける。茂人は不思議そうにまじまじと小箱を眺めた。
「これ、箱以外にも何かなかったか? 中身を書いた紙とか、送り主の名前が書いてあるメモとか」
「ううん、そんなのはなかったよ。学校に行く時に見つけたんだけど、この黒い箱がちょこんって、玄関の前に置いてあった」
「そっか……これ、何時頃見つけた?」
「えっとね、たぶん七時半ぐらいかな」
「親や先生には言ったか?」
「言ってないよ。だって、面白いネタになりそうだったし。それに、自分達でどうにかする方が絶対面白いよー」
 和江は心の中で嘆息する。出た、日菜の得意技。好奇心旺盛なのはいいけど、少しは常識を考えてくれ。
 まあ言いたい事は色々あるが、この箱が何故日菜の家の前に置いてあった? 誰が? 何のために?
 奇妙な箱を前に和江は腕組みをして考え込む。本人は全く意識していないが、寄せて上げられたEカップの胸が更に強調される。
「で、これどうする? いっそ開けちゃうか?」
 目前に広がるたわわに実った膨らみから目線を逸らしながら、茂人が和江に呼び掛ける。
261 :その、差し伸べられた手を 3/7 ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/09/09(日) 23:47:34.59 ID:E8yCVJC+o
「バカかお前は! もしかして爆弾が入ってるかもしれないんだぞ! そんな誰から送られたかも分からない、
おまけに中身も分からない怪しい箱を開けようと思うか、普通!?」
「さぁ〜て、何が入ってるかなあ?」
「っておいいい! もう開けてるし!」
 和江の警告を無視し、日菜が黒い小箱から取りだされたそれは、真っ赤な色をした小型の回転灯だった。硝子細工
のようなきめ細やかな白い指が、西日を浴びてきらきらと輝いている。
「……覆面パトカーについてるようなやつか?」「そう、だな」
 二人が呆気にとられたような声を出す。もっと奇妙な物を期待していたのか、日菜はぷくーっと頬を膨らませる。
「な〜んだ、つまんない」
 半ば投げやりに机の上へ赤色灯を置いた瞬間、けたたましいサイレンが部室内を支配する。その音量は
工事現場で掘削機やドリルが発生させるものと勝るとも劣らなかった。
「うああああっ、何だこれは!」
 予想しなかった騒音に和江は思わず顔を歪め、茂人は耳を塞いでしゃがみこむ。数秒の間、騒がしい音は鳴り続けた。
「なになに? これってどうなってるの?」
 日菜がおっかなびっくりといった様子で赤いランプの隅々を確認する。頭を動かす度に赤いリボンで結んだ髪がひょこっと揺れた。
 室内がしん、と静まりかえる。
 和江はランプに対して身構え、茂人は表情に不安の色を浮かべている。
 時間にして数十秒、重苦しい空気が充満したであろう時、


「YA-HAAAAA-!!」


 バアァンと乱暴に開け放たれたドアから、それは闖入した。
「!!!!!」
 誰もが息をのむ中、上半身裸に白いボクサーパンツを着たむきむき黒人は日菜の細腕をがっしりと掴む。
「ちょっ、痛っ! 放してえ!」
「おいてめえ! いきなり現れて何のつもりだ!」
「ナンノツモリッテ? ハッハッハ、ジョーダンキツイナア。オカネ、ハラッテモライニキタンデスヨ。Please pay money♪」
 黒い肉団子はカタコトの日本語で返事を返す。
262 :その、差し伸べられた手を 4/7 ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/09/09(日) 23:48:09.41 ID:E8yCVJC+o
「……ボブ、サップ」
 茂人がぽつりと呟く。
「それは私も思ったよ!」
 和江が唾を飛ばして突っ込みを入れる。
「けど今はそんな事を気にする場合じゃない! っていうか、何で金を払わないといけないんだよ!」
「オーイエス、アナタイイトコロニキガツキマシタ。コノprettyナlamp、ジツハウチノcompanyのセイヒン。
ソノセイヒンヲ、ココニイルpretty girlガチュウモンシテ、ハコヲアケタ。コレデショーバイセイリツデス」
「日菜、本当に注文したのか?」
 和江の問いかけに、日菜は垂れ下がった目尻に涙を溜めてぶんぶんと首を横に振る。
「ふざけんな! こんなの押し付け商法じゃないか! 今すぐにクーリングオフだ!」
「ワタシ、アメリカジン。ニホンゴ、ワッカリーマセーン。Please talk in English♪」
 ボブサップ似の男が和江の口元に耳を寄せる。よく聞こえないとでも言うように、手は自分の耳元に添えられていた。
「てめえ! バカにするのもいい加減に……」
「すみません、ちょっといいですか」
 和江の発言を遮るように茂人が喋り始める。ごつごつした両手はぎゅっと握り締められている。
「まずは、彼女を放してもらえませんか? 彼女は絶対に逃げも隠れたりもしませんから」
 茂人は厳しい目線をボブサップに投げ掛ける。筋肉男はニヤリと笑うと、日菜の腕をぱっと放す。
「うえぇぇん、怖かったよお……」
 解放された日菜は一目散に和江へ向かう。そして彼女の胸に顔を埋めると、わんわん泣き始めた。和江は無言で
日菜の青みがかった黒い頭を撫でる。和江の背中に回された白い腕は、手首が真っ赤に腫れ上がっていた。
 茂人は一部始終を見終わると、再び厳しい視線を正面に向ける。
「正直、僕達だけではこの事態にどう対応していいのか分かりません。桃野が言っていたクーリングオフという制度も
知っていますが、そういう制度があるというだけで詳しい内容は知りません。なので、今から日菜の両親と担任の
教師に連絡します。どういった対応をとるかは彼らとじっくり話し合ってから決めたいと思います。なので時間を……?」
 唐突に茂人が怪訝そうな顔をする。目の前にいるボブサップの様子が、どこかおかしい。目はカッと見開き、
鼻息荒く全身をガクガクと震わせている。まるでこの世のものとは思えない悪魔が宿ったかのような姿だった。
「ど、どうしたんだ?」
 和江は不審人物を見るような目で黒い肉団子を見る。異変に気付いたのか泣いていた日菜も顔を上げる。
263 :その、差し伸べられた手を 5/7 ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/09/09(日) 23:49:08.21 ID:E8yCVJC+o
 三人の高校生の注目を一身に浴び、ボブサップは、
「☆△:◎■▼$^&@×;#◇○¥▲^〜!!」
 と訳の分からない叫び声をあげ、彼らに背を向けると一目散に扉から逃げ出した。突然の出来事に残された
三人は茫然と立ちすくみ、現状を飲み込めずにいる。
「え? ど、どうしたんだ一体?」
「……すごいよ、永原君。永原君があいつを追っ払ったんだよ!」
 目をぱちくりさせる茂人に、我に返った日菜が興奮した様子ではしゃぐ。
「そういうことなの、か?」
「そうだよ、そうなんだよー! サップと喋ってる時の永原君、ほんとにすごかったもん!」
「そっか? あんな奴よりぶっちゃけ親父の方が怖かったけどな」
 茂人が白い歯を見せてにこっと笑う。
 まだ顔にあどけなさが残る少年の姿を見ながら、和江はこれほど彼が頼りになるとは思っていなかった。
 部室で会う彼の姿は浅黒い肌に毛深く武骨な腕が印象的だった。それなりに鍛えられているなとは思って
いたが、和江が知っている永原はワンピースとダイヤのAをこよなく愛する、ごくごく普通の男子高校生だった。
 そんな彼が、自分にはない行動力と不慮の事態でも毅然とした態度で臨める強さを持っている。
 そして日菜は天性の明るさと、飽きない好奇心、私のような人間とでも仲良くなれるコミュニケーション力を持っている。
 じゃあ、私は何を持っているんだ? 知識はあるが具体的な行動には起こせないし、融通の利かない堅物でしかない。
 私は、二人と比べて劣っている人間なのだ。
 和江は薄い唇をぎゅっと噛み締めながら、どす黒い何かと羨望が入り混じった瞳で二人を見る。
 漆黒の髪を持つ少女には、楽しく言葉を交わす二人の姿は天使のように輝いて映っていた。
「とにかく、職員室に行って先生に報告しよう。それから、日菜の両親にも連絡だ」
 想いを紛らわせるかのように和江が声を絞り出す。いつ奴が戻って来るか分からないのだ。報告は済ませて
おいた方がいいだろうという判断だった。
「分かった。じゃあ三人で職員室に行こうか。またあいつに襲われるかもしれないし」
 茂人の言葉に日菜はこくりと頷く。三人はそれぞれの荷物を手に、教室を後にした。
264 :その、差し伸べられた手を 6/7 ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/09/09(日) 23:50:07.12 ID:E8yCVJC+o
 茂人を先頭に、三人は人の気配がなくなった廊下を歩く。辺りを日が落ち始め、薄暗くなってきていた。
外からは時折運動部のかけ声が聞こえてきている。この学校でも地域全体の少子化、高翌齢化と共に生徒の人数は
減少していたが、ある程度の活気はまだ残っていた。
「でもすごかったよね、今日の永原君。私、ほんとにびっくりしちゃった」
「あ、ああ。そう……だな」
 茂人に聞こえないよう小声で話しかける日菜に、和江は歯切れが悪そうに答える。
「でもね。私、もうひとつびっくりしたことがあるんだ。それはね……ももぴーが、変わったこと」
「!?」
 予想していなかった発言に和江は面食らってしまう。何を言ってるんだ? 私のどこにそんな要素を見出したんだ?
「だって、これまでのももぴーなら、ボブサップがどうやって学校に侵入して部室まで来たのかとか、あいつが突然
逃げ出したのはどうしてかとか絶対に気にしてたもん」
「あっ!」
 和江はハッとする。確かに、日菜の言う通りだ。奴が都合良く部室に現れたのも謎だし、性格的に茂人の言葉に
怯えて逃げるような男じゃない。逃げたのは何か別の理由があったはずだ。
「それにももぴーは私を守るため、真っ先に反応してくれた。それが、すごく嬉しかった」
「けど、その時の私は冷静さを欠いていた。とにかく日菜を助けようと思って無意識だったし、結局日菜を救ったのは
永原の冷静さと強さだ。結局私はいざとなったら何もできないくせに、その上空気の読めないどうしようもない人間なんだ」
「違う、違うよ。ももぴーは本当に変わったもん。だって、あいつが現れた時に永原君がボブサップって言ったよね。
けどももぴーは今はそんな事を気にする場合じゃないって言ってくれた。空気を元に戻してくれた。今までは逆に
注意される側だったのに、流れに気付けるようになった。あの言葉を聞いて、ももぴーは変わったって思ったし、
本当に……ほんとに嬉しかった……」
 日菜の両目から熱いものが静かに流れ落ちる。
「それにね、ももぴーは不安になった私を慰めてくれたいい子なんだよ。だから自分をそんな風に言うのはやめて……」
「お、おい、どうしたんだ?」
 心配した茂人が駆け寄ってくる。
「どうやらさっきの事を思い出してしまったみたいなんだ。日菜は私が見るから、永原はこれまで通り私達を先導してくれ」
「ああ、分かった」
 すぐに茂人が先頭を歩き、和江と日菜が少し後ろを歩くという先程までの三人に戻る。和江の隣にいる少女は
顔を覆ったまま嗚咽を漏らしていた。
265 :その、差し伸べられた手を 7/7 ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/09/09(日) 23:51:52.99 ID:E8yCVJC+o
 和江は思考に耽る。
 確かに日菜の言う通りだ。彼女が挙げた疑問点もそうだし、永原に対する突っ込みも全くその通りだ。
 今までの私ではありえない事だと思う。
 ただ、それが物事を大きく変えただろうか? どう考えても事態を一気に好転させたのは永原のおかげなのだ。
 彼が行動力と交渉力と勇敢さを発揮した事によって、疑問点と謎は多数残ったが事件は解決した。私自身は
物事の解決に何の役にも立っていない。これまでと何も変わらない、口だけの役立たずなのだ。だから日菜は
私が変わったと言っていたが、それは大間違いなのだ。あの涙も彼女の勝手な思い込みの産物でしかない。
 和江はそう結論を出すと、ふうと大きく息を吐く。
 ボブサップ絡みの出来事と友人の涙。
 大きなもやもやが体の中で渦巻きながら、彼女は日の落ちた真っ暗な廊下を真っ直ぐに歩く。
 運動部員の声はいつの間にか聞こえなくなり、校内は静寂に包まれていた。
266 : ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/09/09(日) 23:53:50.65 ID:E8yCVJC+o
投下終了。

【順番】
ID:XClyzrKH0氏

ではID:XClyzrKH0氏、投下をどうぞ。
267 : ◆1ImvWBFMVg [sage]:2012/09/10(月) 00:22:50.78 ID:JIxsHZkw0
すいません遅れて。品評会作投下します。

タイトル:幼なじみの君に告ぐ 全8レス
268 :幼なじみの君に告ぐ 1/8 ◆1ImvWBFMVg [sage]:2012/09/10(月) 00:24:31.88 ID:JIxsHZkw0
 朝。いつもの目覚めと共にあくびを一つ。どうやら今日も一日が始まるらしい。
ベッドから起き上がると学生服に身を包む。ネクタイを締めると下から声が聞こえた。
「まだなの? もう危機はそこまで迫っているのよ」
 息つく暇もないとはこのことだ。俺はネクタイを緩め、なるべく楽な姿勢を取った。
そこで待ち構えていたかのような爆発音が鳴り響いた。分かっていても腹に響く、不快で
不気味な破裂音だ。すこし気持ちが萎えそうになる。
「敵は奇襲を仕掛けてきている。ここは袋のネズミよ。こうなったらイチかバチか、打って出るしかないわ」
 勇ましく話す少女の声が、少し震えていた。どれだけ気丈に振る舞っていても、どこか
で死の恐怖を前におびえを隠すことが出来ない、そんな声だった。
「なぁ。ドア、開けて良いか」
 一応、確認を取る。親しき仲にも礼儀あり、という奴だ。
「え……待ちなさい! 扉にトラップが仕掛けられているかもしれない。いまレーザース
コープで確認するから……」
 そう言うと少女は慌ててガサゴソと準備し始めた。が、待ってなどいられない。急がな
ければ遅刻してしまう。
「開けるぞ」
 自分の部屋でなぜここまで遠慮をしなければいけないのか、ため息交じりにドアを開け
ると、そこには幼なじみの古野楓が陣取っていた。
朝から人の部屋の前で、ラジカセをいじくり倒して焦っている。先ほどの爆発音の正体は
これだったようだ。
「朝からなにやってんだ……」
制服姿の幼なじみは、ようやくラジカセのスイッチを見つける事が出来たのか、先ほど
と同じ爆弾の効果音を一際大きく鳴らし、嬉しそうに笑った。
「はい、ゲームオーバー。あ、死んじゃったね」
 ガッツポーズではしゃいでいる。まるで悪戯の成功した小学生みたいだった。
「はぁ……今日のテーマは?」
「煙幕に浮かぶ友の顔、戦場にすべてを賭けた青春。だったかな?」
 ハリウッド映画かと。どうせ昨日の夜やっていた深夜映画でも見たに違いない。こちら
があきれ果てていると、楓は弁解するようにこう付け足してきた。
「でも朝からワクワクしたでしょ。こんな危機的状況、ちょっと憧れちゃうよね」
「そんなことをしていなくても充分にだな……」
 そうなのだ。今日も古野楓の顔の斜め上には、先ほどの小芝居の状況以上の危険シグナ
ルが今も点滅し、しきりにこちら側に警戒せよと発信されている。
「充分? なにが?」
今日はまたひどく豪華だ。まずは交通事故。玉突きのタンクローリーに巻き込まれ大爆
269 :幼なじみの君に告ぐ 2/8 ◆1ImvWBFMVg [sage]:2012/09/10(月) 00:25:21.27 ID:JIxsHZkw0
破。もちろん即死だ。そのつぎに工事現場の鉄骨が頭上に落下が見えた。これも即死。つ
ぎはヤクザの抗争にてマシンガンの流れ弾に被弾。即死。即死即死即死……。
ずらりと並ぶ、大事故のオンパレード。もちろん小さい事故もたくさんある。どうやら
楓は今日一日で、約二十回は小指を打つ計算らしい。充分すぎるほどの危機の数だ。
「ねぇ、なにが?」
「充分に危機的状況だろ。早くしないと遅刻するぞ」
 うわ、と楓がようやく現実を思いだし一目散に駆けだした。どうやら悪戯に夢中で時計
すら見ていなかったようだ。じつに楓らしい。
「待て待て、そんなに慌てると階段で転ぶぞ」
 つるりとすべりそうになった楓の体を、脇に両手を滑り込ませるようにしてキャッチし
た。まずは一個目の危機をクリア。事前に予測は出来ていても、実物はやはり緊張する。ほっとして一息付いていると、宙づりになった赤ん坊みたいな楓が恥ずかしそうに声を上
げた。
「エ……エッチ!」
 危うく落としかけた。なんとかキャッチし直して、二個目も危機回避。今日も色々あり
そうだった。
「ほら、馬鹿言ってないで早く行くぞ。行ってきます」
 朝の挨拶も手短に玄関を開ける。すると、さっそくアクセルを吹かす車の音が耳に飛び
込んできた。そのすっかりお馴染みになった音で、今日も一日が始まったという実感をひ
しひしと受け取っている自分に、すこしだけ悲しさを感じずにはいられなかった。


 家を出て校門を潜るまで、一体どれだけの事故を回避してきただろう。十を超えたあた
りから数えるのが億劫になるのでいつも数えきれないのだ。
生徒たちの姿が溢れる校舎からは、予鈴が鳴り響いて聞こえてくる。
「なんだ、回り道したのに余裕で着いたじゃん。タケは言うことがオーバーだね」
 もちろん回り道しなければたどり着けなかった、恐ろしい道のりである。が、まぁそれ
はいい。屋外と言うのは一般的に考えてもかなり危険な場所だ。だが問題は、頭の上のシ
グナル表示が学校に入っても一向に消えなかった事にある。校内に入っても気は抜けない。
「余裕があれば何事にも対処できる。そういう物だろう」
 この楓の天文学的な不運にだってだ。むしろ自分に言い聞かせているようだった。
「それむかしお母さんも言っていたな」
 楓のお袋さんの亜佐美さん。彼女はいつも正しい。それはむかしも今も変わらないし、
そして変わりようがない。
「……そっか。亜佐美さんに聞いた言葉だったかもな」
「タケほんとにお母さん好きだよね。熟女の魅力ってやつ?分かるけどさ……」
270 :幼なじみの君に告ぐ 3/8 ◆1ImvWBFMVg [sage]:2012/09/10(月) 00:26:38.23 ID:JIxsHZkw0
 冗談めかしているが寂しいはずだ。楓のお袋さんは数年前に亡くなっている。
「まぁな。おじさんがいなければ、絶対にほっとかなかっただろう。あんないい女」
「え、待って。ひくわー……何歳差?お母さんも“あの子いい子ね”とか言ってた……」
 亡くなったのは小学生の頃、もう約六年も前のことだ。誰かの頭の上に変な物が見える
ようになったのも、思えばあの時からだった。
下駄箱で靴を履き替えていると、田瓶伸人のいつもの気怠そうな声が聞こえてきた。
「おぁーす武徳。今日も楓のお守りか?朝からまぁ……チュッチュしやがって。いっぺん
死んだら良いんだこいつら」
「のぶ! メール見たらすぐ返してよ! なかなか決まらなかったんだからね!」
「うるせぇバカおんな! 武徳の起こし方なんかどうでもいいわ! くだらねぇことで相
談っぽい嫌がらせメール飛ばしてくんな!」
「困った時の幼なじみ同士じゃないの。まさかタケ本人に聞くわけにもいかないしさ」
 いつもの朝の日課のようなコントを繰り広げながら、教室へ向かう伸人。だがその頭の
上に点滅しているシグナルがやけに気に掛かった。
普通ならその内容をくっきりとした映像として見られるのだが、いま伸人の頭の上に浮か
んでいるモザイクみたいに不自然な斜が掛かった映像は、まるで見通せなかった。
「そんな時だけ幼なじみかよ……ん?どうした武徳。そんなにイケメンがめずらしいか?」
 そういえば、と朝のことを思い出していた。今朝見た楓のシグナルの中にも同じような
ものがあったのだ。他が多すぎて気にしていなかったが、あれは確かに同じ物だ。


 教室につくとすぐにホームルームが始まった。まずは担任の堅苦しい挨拶がくる。
「おはよう諸君。すがすがしい朝に感謝しつつ、学舎の門をくぐればそこに我が生徒たち
の晴れやかな顔。まさしく青春の一ページにふさわしい一日の始まりではないだろうか」
 濃いキャラの川籐にクラスメートの引き笑いが起こる。お馴染みのいつもの光景だ。
だがそこに先ほどの不自然なシグナルが張り付いているとしたら、どうだろう。しかも教
室にいる全員の頭にびっしりとだ。
「こんな最良の日に、我らのクラスに新しい仲間がやってきた。入ってくれ」
 いったい何事が起ころうとしているのか。一人その異様な光景に見入られながら、固唾
をのんで現状を見守っていると、一人の男が教室に入ってきた。
「阿倍野美智也くんだ。彼の成績はなんと前の学校でトップだ。ぜひ見習うように。じゃ
あ自己紹介をしてくれ」
 川藤の横から離れ、黒板の前に向かう転校生。誰かがヤジを入れている。
「よっ。秀才くん。お手柔らかに」
 こいつはいったい何だ。見た瞬間に、一番最初に頭に浮かんだのはそんな疑問だった。
傍目から見れば普通の男子高校生だろう。だが頭の上のシグナル表示はそんなものとは遙
271 :幼なじみの君に告ぐ 4/8 ◆1ImvWBFMVg [sage]:2012/09/10(月) 00:28:58.87 ID:JIxsHZkw0
かにかけ離れていた。禍々しい渦が何十にも渡ってとぐろを巻き、全体に映り込んでいる。
見ているだけで不快な気分にさせられる映像だった。まるで厄災そのものといった感じだ。
しかも本人はまるで映り込んでいない。こんな映像を見るのは初めてだった。
「阿倍野です。よろしく」
 まるで紹介せずにさっさと席に着いてしまう転校生。すぐに教室内がざわついた。そこ
で、川藤の号令が掛かり一端お開きになった。
「タケ、やばいよ。阿倍野くん鬼クールだね。どんなネタなら笑うかな」
 おそらくどんなネタでも笑わないのではないだろうか。その映像から目を離せないまま、
なんとなくそんな事を思った。阿倍野美智也のとぐろを巻く映像を中心に、クラスメート
たちの不自然なシグナルが揺れてゆらゆらと動いていたのだ。
 その時、わずかに一瞬だけ睨むようにして阿倍野がこちらを見てきた。その目の光りに
は、得体の知れない鋭さのような物が含まれていた。


何事もなく一週間が過ぎようとしていた。もちろん相変わらずクラスメートたちの頭の
上には不穏な兆しが浮かび続けている。あの例の阿倍野とかいう転校生を中心にだ。だが
特になにかが起こるわけでもなく、平穏な日常が繰り広げられてしまっている現状だ。
 わけがわからない。まるでこういう物が見え始めた最初の頃のような心許ない感覚だっ
た。周りはごく普通に過ごしているのに、自分だけが人には見えない物に怯えている。
「ターケ。おーい。タケ。どうしたのー」
「べつに。それより道路側歩くなって。縁石渡りはもっと車の少ないところでやってくれ」
 はいはーい、と適当に返事する楓の袖を引っ張ってむりやり道路の内側に寄せる。すぐ
に大型のダンプが縁石すれすれを走行していく。この事故を引き寄せる楓の体質にもあま
り影響は見られない。不穏な危険シグナルは明らかに増えているのにだ。
「あ、阿倍野くんだ。グーテンモーゲン」
「おはよう」
考えていたら本人が登場した。慌てて変な顔つきになってしまった。だが阿倍野はその
まま我々の横を通り過ぎ、すたすたと先を急いでいってしまった。
「ロシア語じゃ反応しないか。うーん。あ、のぶ!グーテンモーゲン!」
「はいはい。ボリショイボリショイ」
それにしても分からないことが多すぎる。阿倍野美智也、あいつは一体なんだというの
だろう。なにかが起こるのは分かっているのに、予測出来ない事がこんなにストレスが掛
かるだなんて知らなかった。
向こうから、なにかを仕掛けてくるような様子は一向にない。
「ちぇ。のぶじゃ反応良すぎてつまんないや」
「おい……今日は合唱コンの練習があるぞ。いいネタが出来そうじゃないか」
272 :幼なじみの君に告ぐ 5/8 ◆1ImvWBFMVg [sage]:2012/09/10(月) 00:32:05.65 ID:JIxsHZkw0
 楓が顔を輝かせた。何故か阿倍野を笑わせることに熱中している。なるべくなら近づい
て欲しくないのだが、あまり変に止めて突っつかれても困るので、現状では放っておくし
かなかった。
「タケ。三人でなんかやろう。歌ってる最中に、腕っ屁で伴奏するとかはどうかな」
「やだよ。そんなことしたら川藤切れるぞ。あいつ怒ったら怖いの知らないのか?」
「え?じゃあのぶだけ歌うことにしようか。みんなの笑顔のためにさ」
「なんでやねん」

 放課後、実行委員に連れられ、クラス全員でB1にある防音の練習室に移動した。地下
があるのはそれほど珍しくないとは思うが、生徒に開放されて自由に使用されている場所
だった。
普段は軽音部や吹奏楽部が主に使っていたが、合唱コンも近づきそれぞれのクラスが順番
に使っている。正方形の部屋の中にいすが数列並べられている。本番では男女別れて整列
しなければいけなかったが、まだ練習なので各々が好きなところに座っている。
実行委員たちが忙しそうに仕切っているなか、楓は少しがっかりした様子をしていた。
「どうした?」
「いないんだもん阿倍野くん。せっかくのぶが渾身の身を削ったギャグを披露するのに」
 そういえば部屋に居ない。移動する前まではいたような気がしたのに。
「帰ったんじゃないか。外せない用事のある奴はいないぜ。よしじゃあやらないぞ」
 えー、せっかくだからやろうよ、と楓が不満をたれているが、楽しそうにしている場合
ではなさそうだった。部屋には居ないが、あの不穏な空気はこの練習室のなかに充満していたのだ。
「それでは皆さん。CDの伴奏を流しますので課題曲を頭からお願いします」
 ラジカセのスイッチを押した瞬間、なぜか伴奏ではなく奇妙な発音のぶつぶつ声がスピ
ーカーから流れた。実行委員たちが首をひねる。確かにCDを入れたはずだ、そんな表情
をしている。
それからスイッチを押して止めようと何度もボタンを押している。まったく止まる気配の
ないまま、そのぶつぶつ声はどんどん大きくなっていく。
「おい。それをはやく止めろ。まずいぞ」
つい口出しをしていた。音声を掛けたとたん、クラス中の生徒の危険シグナルが誤作動
を起こしているみたいに、滅法矢鱈に激しく点滅し始めたのだ。何かが起こるのは間違い
なかった。
そしてとうとう、一人の女子が失神を起こしてその場で卒倒した。それを皮切りにクラ
スメートたちが次々と倒れ始めた。倒れていない者もどこか放心したように虚空を見つめ
ている。
もちろん楓も同じように、夢遊病を患った患者のようにぼうっとしている。
273 :幼なじみの君に告ぐ 6/8 ◆1ImvWBFMVg [sage]:2012/09/10(月) 00:33:03.77 ID:JIxsHZkw0
あいつだ。阿倍野美智也の仕業に間違いない。なにがどうなっているかは分からないが、
どこかでこの部屋の惨状を覗いているに違いない。
楓の身体を揺さぶり、なんとか意識を取り戻そうとした。まるで起きそうにない。
するとシグナルの所に美智也の顔が浮かんだ。またか危険シグナルか、と思っていた。そ
んなのは分かっているんだとうんざりした。だが違った。
「無駄だ。そんなことをしても起きるわけない」
なんとその浮かんだ顔が、こちらに向かって喋り掛けてきたのだ。
「ははっ、聞きたいことが山ほどあるんじゃないか?教えてやるよ」
 不敵な笑みを浮かべた美智也は、まるで別人のように見えた。まるで出来の悪い悪夢み
たいだった。生唾を飲み込むと、さっそく一番の謎を聞いた。
「……お前は何者だ」
「それは教えられない。いくら同類のよしみでもな。ほかに質問はないか」
何でもと言ったのに。しかたなく質問を変えた。
「この状態はなんだ。いったいお前はみんなに何をした……まて、同類?」
 何を言っているのかよく分からなかった。おかしな力を持つ者同士と言うことだろうか。
それにしては変な言葉だ。訝しがっていると、業を煮やしたように自ら先を答えはじめた。
「これだから素人は。だからお前の力と同じ事だよ。お前がその娘に使っていた力とまっ
たく同じものだ」
「はぁ?……俺のはただ誰かの危険を予測するだけで……こんなデタラメなことは……」
 出来るわけがなかった。もし出来るとしたら、そんな物はもはや超能力だ。だが美智也
はじれったそうに話を次いで聞かせた。
「だからさぁ。そこからが根本的に間違っているんだよな。言っとくがおまえが災厄を予
測しているんじゃないんだ。おまえ自身が災厄を引き寄せているんだ。つまり大元はお前
なんだよ」
 楓の顔が浮かんだ。あいつの頭に浮かんだ映像が、俺の何だって言うんだ。理解が追い
つかない。いや、追いつきたくないといえばいいか。
「だから呪い。呪いだよ。お前の力は、呪詛。そして俺も使っているこの力もだ」
 そんなの違う。だって今まで俺は、楓を守ってやるという思いだけで必死に。
「ま、わかってはいたがなぁ、本当に何も知らないんだな。正直この学校に来てお前達を
見たとき、最初は何をしているのかさっぱり訳が分からなかった。わざわざ呪いを掛けて
おいて、その呪いから相手を救っているんだからな。意味不明だ。だがある時ふと気付い
た。こいつ自分の力がどういう物か理解していないんじゃないだろうかって事にな。そこ
からは簡単だった」
 気分が悪かった。胸がせり上がってくるみたいに苦しかった。いっそ吐いたら楽になれ
るような気がした。もちろん違うこともわかっていた。
「かーっ。呪具も使わずに成功するその呪いの強さも、その娘の依り代としての能力だし。
274 :幼なじみの君に告ぐ 7/8 ◆1ImvWBFMVg [sage]:2012/09/10(月) 00:33:52.30 ID:JIxsHZkw0
たまたまが重なった可笑しな奴らなんだってな。じつに美味しい話さ」
 下卑た笑みを浮かべて、楓を語ることが許せなかった。そんな目でこいつを見るなんて。
それに可笑しなことを言った。いまこいつは。
「依り代?……おい、依り代ってなんだ。楓がなんなんだ」
「おっと、まいった、余計なことを言い過ぎたよ。呪いのことを話せる同類なんて滅多に
いないからな。じゃあもういいか。狩らせてもらうが悪く思うな」
 そう言うと映像の美智也は、何か見たことのない禍々しい形状の道具を取り出し、呪詛
の言葉を念じ始めた。身体から生気が絞り出され、ギリギリとねじ切られていくみたいだ
った。
「すぐに済ませてやるから安心しな。その女以外は無事に帰してやるよ」
「楓には手を出すな。それだけは……それだけは絶対に許さない」
「すまんな。こんな依り代は滅多にいない。呪具にだって、もっと大きな結界にだって使
える。知らなかった自分を呪え。皮肉でなくな」
 楓が震え始めた。よく分からないが、呪いに影響を受けてるのかもしれない。意識が何
度も飛びそうになりながら、必死で自分にこう言い聞かせた。効かない。おれにその力は
効かない。絶対。楓には。呪いが俺にもあるなら。
「無理するな。効かないわけがないだろ。お前も人間なんだ」
 駄目だ、ぜったいにそれだけは。あの日約束したのだ。墓前の亜佐美さんと、楓は守る
って。それはもちろんこんな話じゃなかったんだ。
震えている楓の方から、どこか暖かな空気が流れてきた。懐かしい暖かさだ。
「うん?……依り代の結界。しかも本人じゃないな。ふん、こいつは分が悪い」
 突然美智也は踵を返すように、道具をしまい念を閉じた。
「まったく悪運が強い奴だな。呪術師として大成できるんじゃないか。今までお前がやってきた業を気に病まなければな」
 急に夢から覚めたように、茫然自失としていたクラスメートたちが次々に動き出した。
「あれ、なにが起きたんだ。CDを掛けてたら……あれ?」
 実行委員が狐につままれたような顔をしている。楓も意識を取り戻していた。
「ねぇ!タケなにこれ?大事件?大事件なの?名探偵来る?コナンだと死人出ちゃうよ!」
「さぁ……。おれにもさっぱりだ」



次の日の早朝。まだ誰も起きていない薄暗い部屋の中でごそごそと起き出した。もちろ
ん楓もまだ来てない。
昨日のうちに用意しておいた荷物を肩に掛けて準備を済ます。取り敢えずこれで一ヶ月は
大丈夫なはずだ。まずは近場の住み込みで働ける場所を探さなければならない。おそらく
275 :幼なじみの君に告ぐ 8/8 ◆1ImvWBFMVg [sage]:2012/09/10(月) 00:34:29.95 ID:JIxsHZkw0
夜の仕事になるだろうか。
なにせ生活を安定させると同時に、楓の安全を守る必要があった。自らの呪いの届かな
い場所で、周囲に溶け込み影のように見守らなければならない。そっと。大丈夫。大丈夫
だ。
自分に言い聞かせるように念じる。これまでだってやれてきたのだ。きっと大丈夫。
なにより楓のために償わなければならなかった。今までしてきたことは自己満足よりもひ
どい日々をひっそりと。
 気持ちを奮い立たせ、階段をおり玄関をそっと開けた。中を意識しながら閉める。親に
別れの手紙を書くかどうか迷ったが止めた。いよいよ出発だ。
すると、いきなり背後からの声に心臓が飛び出そうになった。
「逃亡者、発見しました。直ちに連行しますどうぞ」
楓だ。強烈な焦りと途方もない喜びがない交ぜになってやってきた。
「おい、なにしてんだ楓。だって……学校に行く時間はまだだろ?」
 もう一度話せるとは思ってなかった。何とか誤魔化すいいわけを探した。すると楓が肩
を軽く叩いてきた。
「バカだよ武憲は。救いようがない。全部勝手に決めちゃうんだもん」
 なぜだ。なんで知っているのだろう。無意識に口に出していたのだろうか。だが楓の答
えは予想外の物だった。
「知ってたよ。ねぇ武憲、全部知ってたんだ」
 全部とはどういう意味だろう。何もかも丸々全部。それならなぜ言ってくれなかったの
か。
「お母さんがね、全部教えてくれてた。もちろん武徳の力のことも。可笑しな冗談だなぁ
って聞いてた。半分冗談みたいに言うんだもん」
 それは確かにそうだったろう。おれだって始めは信じられなかった。でも。でもなぜ。
「呪われるって知っていて……? なんで……?」
 なぜ黙って俺に身体を預けていたんだろう。分からなかった。でも楓はそれには答えず、
話し続けた。
「ただね、これだけは真剣な顔でね『武徳君は必死で守ろうとしてくれるはず。それだけ
をしっかり見ていて』って言っててね。なんだかね」
 そこで何と言えば良いか、自分にはわからなかった。ごめん、だろうか。許してくれ、
だろうか。どれも違うような気がした。
「武徳、もし逃げるなら連れて行ってよ。じゃなきゃ呪ってやるから」



  了
276 : ◆1ImvWBFMVg [sage]:2012/09/10(月) 00:36:24.43 ID:JIxsHZkw0
投下おわりやした。すいません毎度時間かけて。
277 : ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/09/10(月) 00:41:03.56 ID:psRT/bdto

後はまとめスレにセルフ転載お願いねー。
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/09/10(月) 00:41:31.51 ID:psRT/bdto
現在、週末品評会305thの投票受付中です。今回の品評会お題は『危機』でした。
投稿された作品は■まとめ http://yy46.60.kg/test/read.cgi/bnsk/1347201418/にてご覧頂けます。
投票期間は2012/09/11(火)24:00:00までとなっております。

感想や批評があると書き手は喜びますが、単純に『面白かった』と言うだけの理由での投票でも構いません。
また、週末品評会では投票する作品のほかに気になった作品を挙げて頂き、同得票の際の判定基準とする方法をとっております。
投票には以下のテンプレートを使用していただくと集計の手助けとなります。
(投票、気になった作品は一作品でも複数でも構いません)

******************【投票用紙】******************
【投票】:<タイトル>◆XXXXXXXXXX氏
【関心】:<気になった作品のタイトル>◆YYYYYYYYYY氏
     <気になった作品のタイトル>◆ZZZZZZZZZZ氏
**********************************************
― 感 想 ―

携帯から投票される方は、今まで通り名前欄に【投票】と入力してください。
たくさんの方の投票をお待ちしています。 
時間外の方も、月曜中なら感想、関心票のチャンスがあります。書いている途中の方は是非。
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/10(月) 00:49:55.43 ID:JIxsHZkw0
おつおつ

しかし2作品か。投票も二人しかいなそうだな……負けねえぞ!
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/09/10(月) 01:07:44.22 ID:psRT/bdto
第305回週末品評回『危機』投稿作品まとめ
http://yy46.60.kg/test/read.cgi/bnsk/1347201418/

No.01 その、差し伸べられた手を ◆HmfYvBHWkM氏
No.02 幼なじみの君に告ぐ 5/8 ◆1ImvWBFMVg氏
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/09/10(月) 01:08:36.22 ID:psRT/bdto
あーコピペ間違えた。
でもいいや、寝る。おやすみノシ
282 :sage [sage]:2012/09/10(月) 08:34:49.57 ID:/KNKIYHAO
No.01 その、差し伸べられた手を◆HmfYvBHWkM氏
文章は巧いし分かり易い。読んでて躓かなかった。最初の方の情景描写も印象的。
しかし、展開に牽引力を感じなかったな。和江がだらだらと考察して、一人でしょんぼりして終わり。サップのとこも上滑りしてる感。
個人的には猟銃が出てきたところでちょいと興味を惹かれただけに、残念。
好きなところ。Eカップ描写。

No.02 幼なじみの君に告ぐ◆1ImvWBFMVg氏
能力的なアレですね。ラノベの導入みたいな。の割にはなんだか題名がこう、カタいような。そぐわないというか。
内容も、普通。普通ってなんだと言われると困るけど、一般的厨二。正しく邪気眼。ラノベ・テンプレート。
アレって思ってググったけど、やっぱりグーテンモルゲンってドイツ語じゃんね。
好きなところ。ボリショイボリショイの主人公の投げやり感。

******************【投票用紙】******************
【投票】:No.02 幼なじみの君に告ぐ◆1ImvWBFMVg氏
【関心】:No.01 その、差し伸べられた手を◆HmfYvBHWkM氏
**********************************************


イッヒトリンケビーア!
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/09/10(月) 12:46:05.91 ID:d8kvgpF9o
******************【投票用紙】******************
【投票】:No.02 幼なじみの君に告ぐ◆1ImvWBFMVg氏
めっちゃ、おもろいやん、ラノベっぽく短編でまとまってて、ラストの知ってました告白シーンとか、素敵やん
【関心】:No.01 その、差し伸べられた手を◆HmfYvBHWkM氏
ちょっと、意味が分からなかった、別に展開に水をささなくてもいいのよ、書こうぜ、こっぱずかしいやつ
**********************************************
284 : ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/09/10(月) 22:10:27.62 ID:psRT/bdto
No.01 その、差し伸べられた手を ◆HmfYvBHWkM氏
自作。
猟銃を使う展開は当初のプロットにはあったけど、書いてるうちにキャラが勝手に動き出しちゃったんだ。
はじめてのおつかいでもなく、はじめてのおるすばんでもない、はじめての体験に驚いたぜ。
なので長々しくなるのもアレだし削っちゃいました。えへっ。

No.02 幼なじみの君に告ぐ ◆1ImvWBFMVg氏
おお、これは……とってもラノベ的な異能力モノですな。
うん、上手くまとまって普通にすらすらと最後まで読めた。けど面白さで言うと……やっぱありがちだなと感じてしまった。
楓は主人公と一緒にいられる事を望むだろうけど、この主人公は拒否するだろうな、きっと。もし楓の提案を受け
入れたとしても、主人公は楓を災厄に巻き込む事に対して良心の呵責を感じながら生きていくんだろうなと思った。
楓ちゃんって罪作りな子!
……なんて、下衆な俺はこの後の展開を想像しちゃうんだけどね!

******************【投票用紙】******************
【投票】:なし
【関心】:No.02 幼なじみの君に告ぐ◆1ImvWBFMVg氏
**********************************************

関係者の皆様、お疲れ様でした。
うふふ、やっぱ品評会に参加して良かったよ、うふふ。
285 :全感 ◆1ImvWBFMVg [sage]:2012/09/11(火) 13:28:38.97 ID:YrGLt2DIO
No.01 その、差し伸べられた手を◆HmfYvBHWkM氏
 ・・・・?・・・・・・?? ・・・・あぁ、浦安鉄筋家族みたいな感じなのか。それなら最初からギャグっぽくコメディタッチにして欲しかった。なにがしたい話なのかちょっと掴めなかったから。
うーん・・。えぇ・・・・?は、はい?お、おう。はぁ?そうか解決したか。それはよかったな。万事めでたしめでたしと。
いやぁ、しかしまだまだ暑い日が続きますなぁ。もういい加減クーラーも入れたく・・・・。
え?感想必要?まぁあれだ、ボツだな。いますぐ書き直して提出しなさい。できるまで居残りしてもらいます。


No.02
 どうだろうね。呪いに関してもうちょい調べてから色々書きたかったかな。まぁ実力不足ってことで。


?

******************【投票用紙】******************?
【投票】:なし
【関心】:なし
**********************************************



 2週間もあったのに・・・・。だれか書けなかったのか。それとも書く気がなかったのか。
人のことは言えないけれど。危機ねぇ。
参加者の方や読んで感想くれた皆様、お疲れ様。
286 :結果発表 [sage]:2012/09/12(水) 00:36:42.37 ID:dI0M3u+u0
投 関
−  2 No.01 その、差し伸べられた手を ◆HmfYvBHWkM氏
2  1  No.02 幼なじみの君に告ぐ ◆1ImvWBFMVg氏

というわけで優勝はNo.02の 『幼なじみの君に告ぐ』を書いた◆1ImvWBFMVg氏に決定いたしました。おめでとうございます。
それでは優勝した◆1ImvWBFMVg氏には優勝した感想と、次回のお題発表をお願いします。
287 : ◆1ImvWBFMVg [sage]:2012/09/12(水) 00:57:53.55 ID:dI0M3u+u0
ありがとうございます!ありがとうございます!どうも今回優勝した◆1ImvWBFMVgでございます!
苦節三ヶ月、ようやく、ようやくこの栄光を手につかみ、もはや感無量といったしだいでありまして
言葉を無限に紡ぎ出すべき身にありながら、この気持ちを表す言葉が見つかりません!
それでもあえていうとするならば『うっせ!優勝は優勝なんじゃ!』でありましょうか!
これもひとえに、長らくお世話になってきた皆様のおかげかと……。


はいはい。とっととお題ね、出すよだすってば!
でも……ちょっと次回は無理して真面目なのもやろうと企んでいるので、明日の夜出しマース!
明後日になるかもしれないデース!……なるべく早くします。みなさまお疲れ様でした。
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/12(水) 01:24:31.64 ID:EZpWeznDo
◆1ImvWBFMVg氏おめ!
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/09/12(水) 02:37:34.33 ID:LVJROSZAo
次は書くかんな携帯中
290 :【お題発表】 ◆1ImvWBFMVg [sage saga]:2012/09/13(木) 01:28:03.07 ID:KWpDveVN0
死と同じように避けられないものがある。それは生きることだ。
チャップリン

このところずっと、私は生き方を学んでいるつもりだったが、 最初からずっと、死に方を学んでいたのだ。
ダ・ヴィンチ

自分の考えたとおりに生きなければならない。そうでないと、自分が生きたとおりに考えてしまう。
ブールジュ

人生の暗い部分を見ない人間には、その深さはわからない。
寺山修司

死を宗教的に扱うただ一つの方法は、死を人生の眼目と考え、かつ人生の神聖犯すべからざる要件として、理解と感動をもって見つめることにある。
                                 トーマス・マン


第306回週末品評会  『生と死』

規制事項:10レス以内
注意事項:板の仕様により、Mail欄に“saga”を入れないとちょっと悲惨なことになる恐れがあります。
       作品投下の際にはとりあえず入れておきましょう。
投稿期間:2012/9/22(土)00:00〜2012/9/23(日) 23:30
宣言締切:日曜23:30に投下宣言の締切。それ以降の宣言は時間外。
※折角の作品を時間外にしない為にも、早めの投稿をお願いします※

投票期間:2012/9/24(月)00:00〜2012/9/25(火)24:00
※品評会に参加した方は、出来る限り投票するよう心がけましょう※

291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2012/09/13(木) 01:32:57.97 ID:KWpDveVN0
まぁあれだ、最低限だれか人が一人出てきて生活してればクリアなんじゃないかと…。
うーん…。やりづらいお題かな。あんまり不評なようだったら変えますので。
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/09/14(金) 19:51:15.53 ID:XtA3bYXoo
いまはここでやっているのですか
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/15(土) 00:07:24.44 ID:qhfH4KU1o
ですが見てのとおりでして……
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/15(土) 01:03:40.35 ID:r38RfbNAO
聞き流してくれてもいいんだけど
品評会をやることで通常作品が見事に止まってないだろうかww
品評会は月一でいいんじゃないの?とちょっと思いました
品評会も大事だけど、通常作品があってこその文才スレかと

まあ一意見でした
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/09/15(土) 03:28:51.03 ID:cWXbsnKVo
次は参加しよっと
というかこの連休中に書き上げよう

>>294
今、あなたが通常作を書いてもいいのですよ
書けたら短い通常作を書くのでお題頂戴
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/15(土) 03:59:59.62 ID:xOzD11L/o
>>295
寝床
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/09/15(土) 04:20:34.26 ID:cWXbsnKVo
はあっく
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/15(土) 19:04:12.63 ID:VZTIs0qWo
あ〜ためしになにか書いてみたいなあ(チラッ
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/09/15(土) 19:16:16.92 ID:STf2kQ3No
>>298
お題:実戦
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/09/15(土) 19:43:16.74 ID:tcT8rFtao
実戦実戦なるほろなるほろ。ありがとうございます
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/16(日) 03:10:18.90 ID:7wg/9NAQo
お題くれ
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/09/16(日) 03:11:40.32 ID:eBGqLOzgo
監視
303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/16(日) 03:13:30.57 ID:7wg/9NAQo
>>302
把握
304 : ◆Mulb7NIk.Q :2012/09/17(月) 10:10:02.05 ID:cVTLJFOx0
テス。酉の仕様は変わらないのかな?
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/09/17(月) 10:10:44.72 ID:cVTLJFOx0
おー、いけるみたいだ。お久しぶりです、今週の品評会には参加しようと思います
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/18(火) 20:00:07.43 ID:7J6+Iz6IO
ふむ
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/18(火) 22:11:17.64 ID:m0GCmE9yo
生と死かー
BNSKの投下仕様じゃ難しいテーマだけど久々に参加しようかな?
308 :名無しNIPPER [sage]:2012/09/18(火) 23:25:46.21 ID:KIZvOJFAO
初めて来たんですけど、もしもしは品評会参加不可なんてことはないですよね?
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/18(火) 23:47:26.36 ID:U2Xcpr5Lo
>>308
そういう規定はありませんにゃ
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/09/20(木) 02:17:08.25 ID:LFeF6jSRo
>>308
書くのが大変そうとは思うけど
過去には普通にいたので書けるのなら何も問題ないです
311 :308 [sage]:2012/09/20(木) 21:30:19.92 ID:VB/oCeFAO
>>309さん、>>310さん、回答ありがとうございました
一応書いたのですが、自分どうやら短編で話を完結させる能がないようです……
なので、長編にして後日スレ立てるなりして投下しようと思います
品評会には、また機会があれば参加させていただくかもしれません
その際にはまたよろしくお願いします
312 :名無しNIPPER [sage]:2012/09/20(木) 21:53:31.79 ID:VB/oCeFAO
それと、せっかくなのでお題を下さい
連投すみません
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/20(木) 22:59:25.18 ID:6UwYJQ6Yo
>>312
言葉
314 :名無しNIPPER [sage]:2012/09/20(木) 23:57:14.84 ID:VB/oCeFAO
>>313
頑張ってきます
315 :ウィッチィーズ・ザ・リビングデッド 0/1 ◆pxtUOeh2oI [saga]:2012/09/23(日) 20:30:18.63 ID:qf9gnxIg0
品評会投下します。
316 :ウィッチィーズ・ザ・リビングデッド 1/1 ◆pxtUOeh2oI [saga]:2012/09/23(日) 20:31:03.18 ID:qf9gnxIg0
「負けました」
 世界には鬼が存在する。今、目の前にそんな鬼がいた。目の前だけではない、この部屋、周り中に鬼ばかりが
存在している。ただ目の前の奴が格段におかしすぎるだけだ。
 将棋会館の対局室、一方的な対局はこちらからの敗北の宣言を持って終了した。獅子王戦の予選。今日の相手は、皆代名人だった。
「ではどこからはじめましょうか」
 名人が感想戦をはじめた。静かな佇まい、メガネの奥の瞳はまっずぐに盤面を捉えている。
 まだ周りのほとんどが対局中のため、言葉などは聞こえない。静謐な空間に駒音と名人の声が響く。
 勝てるはずなどはなかった。こちらは所詮C級の一般的な棋士なのだ。獅子王戦というシード権のない特殊な棋
戦でもなければ名人と当たることもない。何より、名人は去年までの獅子王位でもあったのだ。
 感想戦は厳かに進む。こちらの至らなかった点を名人は正確に指摘していく。
 十も年下の若造が。
 十も年上の低級棋士へ。
「この手が敗着の一手でした」
「そうですね、もう少し守りを優先すべきでしたか」
 私は、「ハハ」と愛想良く笑った。その笑い声に名人が反応した。
「何かおもしろい手でも見つかりましたか?」皆代名人が、不思議そうにこちらを見る。
「いえ…」自らの笑いが引いていくのがわかった。
 勝てるはずなどははじめからなかった。だから諦めていた。私は鬼にはなれていない。昔はそうではなかった。
負けて愛想笑いする奴なんて恥ずかしい奴だと思っていた。そうやって弱い奴らを蹴散らして、プロになった。
それなのに、今はなんだ。
 もう頂点を目指すような努力はしていなかった。頂点どころか予選を抜けることすら諦めていた。
 今からでも間に合うか? そんな考えが甘すぎる。
 才能のある鬼達が、その才能に溺れずに努力を重ねる世界に置いては、再起の機会などは存在しない。停滞は
ゆるやかな死を意味する。
 だからといって、この世界を出て行くこともできない。四十も超え、今までまともに働いたこともないような
高校中退の男を雇ってくれる場所などない。だからどうにかプロ棋士としてタイトルなどにはまったく手が届か
ずとも、生きる為の仕事としてやってきたのだ。
 目の前には鬼がいる。
 ただ将棋だけに打ち込んできた鬼が、冷たい目でこちらに微笑んだ。
「外でもう一度、さしませんか?」                       <了>
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2012/09/23(日) 20:31:33.35 ID:qf9gnxIg0
以上です。
318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/23(日) 23:33:33.61 ID:MCZ/7JJG0
あれ。今回は一つか。投下するとか言ってたのはどうした。
319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/24(月) 00:50:59.65 ID:TWLYfBPto
5年ぶりにどうしようもなく小説を書きたくなって
ぶんさくで書いてたなぁ……って懐かしくなったらここに辿り着いたよ
来週の品評会は参加したい、本当懐かしい、懐かしいよ

お題くれって言ったらまだくれたりするのかな
涙でそう
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/24(月) 00:51:50.91 ID:9Zifonm30
えーと、品評会は明日時間外で出すから待っててね、もちろん感想も書くから!
321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/24(月) 00:55:27.18 ID:9Zifonm30
>>319
群青
322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/24(月) 01:02:10.59 ID:TWLYfBPto
5年ぶりの全感想、1つしか投下されてないみたいだけど

ウィッチィーズ・ザ・リビングデッド 1/1 ◆pxtUOeh2oI
自己成長をやめてしまった人間を死と暗喩してるんだよね
よくある暗喩でわかりやすかった。今、まさに自分がそういう状況なので心に刺さるね。
状況説明が多いのでもっと描写を増やしてみたら面白いと思います。

生きている者たちを敢えて鬼とすることで
喰われた者、殺された者、死者っていう婉曲的な表現は深く考えてみると深みが出てきて面白いですね。
意図的にそういう比較にしたのか、単に猛者という意味だけで鬼という表現にしたかはわかりませんけど

最後にもう1局さそうと言ったのはどっちなのかしら?
鬼が言ったのなら完全に食い殺そうとする意思をむき出しにした終わり方
主人公が言ったのなら死者から生き返ろうとする、まさにリビングデッドとして起死回生をはかる人としての希望が見えたりと
メッセージが違ってくるかと
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/24(月) 01:02:53.19 ID:TWLYfBPto
>>321
群青かー、色かー、面白そうでいいね
324 : ◆Mulb7NIk.Q :2012/09/24(月) 01:03:41.76 ID:FEQ0z+gd0
お待たせしました。レス数が超過したので時間外投下しようと思って待っていたんです。本当です。本当です
325 :竜を駆る少年たち 1/11 ◆Mulb7NIk.Q [sage]:2012/09/24(月) 01:05:29.99 ID:FEQ0z+gd0

 途方も無い夢物語のようだけれど、僕は時折真夜中の窓辺に立って、この世界を守る力になりたいと願うことがあ
る。名も知らぬ誰かには狂人の妄想だと笑われるかもしれないが、君ならきっと理解してくれるだろう。
 人間は各個人レベルで多様に世界を認識する。僕の世界の中心に佇む自我にとって、この戦いは天に定められた運
命に他ならなかった。だから、戦うことを決めたんだ。

 *

 金網にかけた指の関節が少し痛みだした。一体どれだけの時間、ここに立っていたのだろう。演習場を囲む鉄柵の
向こう側で、今日も竜騎兵の卵たちは訓練を受けていた。遠くてはっきりと見分けがつかない顔ぶれの中に、僕の親
友が混ざっているはずだ。何の相談もなく、一冊の本と栞にメッセージを託して、友は戦いの場へ赴こうとしている。
僕は学校の帰りにここへ立ち寄って、彼らの成長を見守る。そんな日々が続いていた。
 僕は溜息とともにその光景に背を向け、家路につく。 
 朝にはぬかるみだった道もすっかり乾いていた。こんなに晴れるのならば、レインスーツを着て自転車で登校すれ
ばよかったと少し後悔しながら、傘を片手に歩く。
 しばらく歩いて町の中心までたどりついた。僕は往来のまんなかで足を止めて、ビルの隙間から覗く山を見た。
 あの山の向こう側のどこか遠い場所で、戦争が起きているのだろうか。
 奴らはいつどこに現れるのか分からない。衛星軌道上を周回する汎斥力場防御要塞から、何の前ぶれもなく部隊を
送り出しては無差別に地球全土を攻撃する。まだこの町には一度も戦火が及んでいないけれど、いつ大規模な攻撃が
あってもおかしくはない。
 けれど往来の連中を見回してみても、誰一人として生々しい戦争の足音を耳にしていなかった。そういう顔つきを
している。僕自身もそうだろう。理由も目的も分からない宇宙人を相手どった戦いにどうして現実味を感じられよう
か。それが分かるのは恐らく銃を握って実際に対峙した兵士だけだ。
 僕はビルの壁面に反射する夕日の色から目を背けた。そして再び往来の中を歩き出す。
 どこにも立ち寄らず、ふらふらと歩いて自宅に帰り着く。以前からの習慣で反射的にテレビを点けた。青白いディ
スプレイの中で妙齢のニュースキャスターが原稿を読み上げる。僕達の国の軍隊は、少数だけれど国境を越えて兵士
を派遣していた。隣国の兵団と協力してどうにか宇宙人の大部隊を退けたらしい。
 チャンネルを変えてみる。どの番組も戦争の話題で持ちきりだった。と、チャンネルを変える指が止まる。
 若い女の人が晴れやかな笑顔を浮かべながら竜騎兵の宣伝を行なっていた。
 竜、騎兵。画面に映し出される漆黒の機体。彼らの駆る竜は機械仕掛の怪物だ。基本設計こそエアバイ(飛行自動
二輪)を踏襲しているものの、全くの別の乗物といっていいくらい違う。
326 :竜を駆る少年たち 2/11 ◆Mulb7NIk.Q [sage]:2012/09/24(月) 01:06:09.06 ID:FEQ0z+gd0
 竜騎兵の大半は若く、健康的な男子だ。竜を乗りこなすにはバランス感覚と、ある程度の筋力が必要だから。それ
ゆえか、しばしばプロパガンダに利用され、ある意味では戦場の華形でもあった。男の子ならみな憧れるもの、そう
いうことらしい。馬鹿みたいな話だけれど。
 僕は歯ぎしりをしてテレビを消した。それからソファに寝そべったまま、放り投げた通学カバンを手元に引き寄せ
て中身を取り出す。教科書、読み終わったハンス・イーベルの短篇集、そして託されたハードカバーの本。彼は何を
考えて僕にこの本を渡したのだろう。共に竜騎兵として戦う時が来たら返してくれ。そういうことなのだろうか。
 ヴィルは手の届かない金網の向こう側に行ってしまった。だから今日も返せなかった。恐らく明日も返せないだろ
う、明後日も、もしかしたらこのまま永遠に。
 ヴィル、なぜ君は志願した。僕はつぶやき、本の背表紙を指でなぞる。
 僕も彼も、名も知らぬ誰か――いや、正体不明の何かと――血みどろになって戦うなんて夢にも思っていなかった
はずだ。文学を愛し、小説を築き、詩を編み、言葉を磨き、心のおもむくままに筆を執るのが似合っている。武器な
んてとるものじゃない。君もそう考えていたはずだ。
 なのにどうして。
 最後に交わした会話は何だったか懸命に思い出そうとする。だけど浮かんでくるのは、夕闇に深く影を落とす部屋
の中で、黙ったまま本を読む彼の姿だけだった。

 *

 窓辺の席に座って今日も歴史の授業を受ける。窓の外に揺蕩う夏の午後は、見かけ上去年と同じように過ぎていっ
た。時計を見ると、授業時間の三分の二を過ぎようとしていた。そろそろあれが始まる頃だろう。
 そう思った矢先に教師は本日の講義を簡単にまとめ、黒板の文字を消して、悠然と教壇の中心に立った。
「さて、毎度お馴染みとなってしまったがよく聞いてほしい。君たちも知っての通り、人類の未来はいま、未曾有の
危機に瀕している」
 教師は僕達生徒に向かって演説調に語り始めた。周囲の級友たちの反応は様々だ。飽き飽きしてあくびを漏らして
いる奴、何かもの言いたげに口元を緩めたり締めたりしている奴、表情の窺い知れない奴。
 残りの授業時間をすべて使い、教師はものわかりの悪い子供に言い聞かせるように幾つかの命題を示し、結論を下
した。
327 :竜を駆る少年たち 3/11 ◆Mulb7NIk.Q [sage]:2012/09/24(月) 01:06:53.57 ID:FEQ0z+gd0
 人類は敵性異星体の侵略を受けている。
 ならば、人類には侵略に対抗する力が必要だ。
 竜騎兵はこれまでの戦役において、絶大な戦果を上げている。
 竜騎兵隊は壮健な男子のみによって構成される。
 故に、人類は諸君らの若い力を必要としている。
 以上、よく考えてくれたまえ。 
 授業の終わりを告げる鐘が鳴り、生徒たちが教室を立ち去る中、級友の一人が着席したまま机の上の教科書に視線
を落として黙考していた。僕は教室の扉をくぐりながら、あいつもきっと覚悟を決めたのだろうな、と思った。

 今日も学校の帰りに演習場に寄る。竜騎兵たちは鉄柵の遙か上空で飛行訓練を行なっていた。彼らの駆る漆黒の竜
は、機体後部から青色に輝く推進剤の粒子を放ちながら優雅に空を駆ける。夕映えを集めた勇壮な戦士たち。人機一
体となって鮮やかな隊列を組むその姿は、思わず見とれてしまうくらい美しかった。
 ぼんやりと眺めていると、不意に背後から声をかけられる。
「何をしているの」
 振り向けば二つ年下の幼馴染、リーナがそこに居た。
「竜を見学してたんだ。それにしても、しばらく会わないうちに痩せたね」
「そうかな、自分じゃよくわからない」
 彼女はお手上げをして首を横に振った。そして続けざまに言う。
「愛しの彼はいた?」
「そんな趣味はないよ」
 僕は嘆息して、一つ提案する。
「なあ、もし君さえよかったらうちに寄っていきなよ」
 彼女が頷いたので僕たちは演習場を後にした。
 自宅に着いてから、僕は戸棚の中からレトルト食品を幾つか選んで加熱した。よく温まったら皿に盛りつけて、パ
ンと一緒に食卓に並べる。やはりお腹を空かせていたのか、リーナはすごい勢いで食べ始めた。
 皿の半分ほどを平らげて、彼女は一度手を休める。
「ねえ、あなたは竜騎兵として戦わないの」
「戦うつもりはない」
「お父さんとお母さんは協力してるのに? 知ってるんだよ。たしか竜の開発に携わってるんでしょ」
「あれはほとんど徴用みたいなものだから。それに、頭脳労働で協力できるのなら僕だってそうしたい」
「なにそれ。どうせ今でも小説ばっかり読んで、機械のことなんてからっきしなんでしょ」
328 :竜を駆る少年たち 4/11 ◆Mulb7NIk.Q [sage]:2012/09/24(月) 01:07:24.16 ID:FEQ0z+gd0
 確かに彼女の言う通りだったが、そんな言い方をしなくてもいいだろう。
「少し黙って食べなよ。親が技術者だから、物資を優遇されているの知っててついてきたんだろ。ここならまともな
食事ができるだろうって」
「そんなんじゃ、ない」
「ならばなぜ演習場で志願の話をしなかったんだい。なんとなく僕の立ち位置は理解していたんだろう。機嫌を悪く
したらうちに招かれないとでも考えていたんじゃない?」
「違うわ、断じてそんなことはない。私はそんな打算をするような人間じゃない」
 リーナが徐々に頭に血を登らせているのがよく分かった。それと裏腹に僕の肚では、黒く冷たいものが渦巻き始め
ていた。同じくして思考も感情も温度を拭い去られ、冷たくなっていく。理性を支配しているという感覚が、どうい
うわけか僕に妙な優越感を与えた。そうして僕は嘲笑まじりに言い放つ。
「本気で僕が竜騎兵に志願したほうがいいと思ってるの?」
「ええ」
「じゃあ考えてやるから、僕と寝ろよ」
 見る間にリーナの表情が険しくなる。他人が感情的になっている姿は滑稽だ。
「なに、それ。意味がわからないし話にならない。どうしてそんなことがいえるの」
「君が女で僕が男だから」
「馬鹿みたい。ただ戦うのが恐いだけなんでしょ。弱虫の意気地なし。いつまでもそうしてればいいわ。ごちそうさ
ま」
「おい、全部食ってけよ」
 振り返りもせずに肩を怒らせ、彼女は足早に去っていった。僕は食卓に脚をのせ、手にしたスプーンを皿の上に放
り投げて舌打ちをした。

 *

 あまりよく眠れない日々が続いて、今朝は日の出前に散歩をすることにした。
 興味本位だったけれど、町外れで浮浪者に声をかけられ、齧りかけのパンと煙草を交換した。彼は安物のマッチも
おまけにくれた。
 しばらく歩いて、朝露に濡れる鮮やかな緑の丘に立つ。丘はなだらかに傾斜しながら生活区の裾までのびのびと広
がっている。空は特別な瞬間に特有の、いわく言いがたい色相を帯びていた。淡い色だけれど、完璧に不透明という
か、繊細な見かけとは裏腹に強い意志を秘めていそうな空だった。
329 :竜を駆る少年たち 5/11 ◆Mulb7NIk.Q [sage]:2012/09/24(月) 01:08:03.51 ID:FEQ0z+gd0
 肌に当たると少し冷たく感じられる秋の風が吹いていた。僕は手で覆いをしながらマッチに火をつけ、煙草を吸っ
てみた。恐る恐る息を深く吸いこむと、喉を刺す痛みが走り、情けなく咽てしまった。僕は涙で霞む切れぎれの雲間
に、赤く尾を引いて光る流星を見つけ、綺麗だな、と思った。だがそれも一瞬のことで、すぐに戦慄が全身を巡り、
悪寒が背筋から這い上がってくる。
 最初一つと見えた流星は、徐々に大きさと速度と数を増やし、こちら目掛けて降ってきた。
 間違いない、奴らが来る。
 足が竦んで動けなくなる前にとにかく走れと、脳裡で声なき声が叫ぶ。目の覚めるような空襲警報が鳴り響き、僕
はがむしゃらに駆けだす。
 どこに隠れる。こんな町外れじゃ人工物は見当たらない。隔離シェルターも遠い。
 僕は無我夢中で川にかかる小さな石橋の下に潜り込んだ。足首から先を冷たい流水が強く掴んでくる。でも他に逃
げこむ場所なんてない。息を押し殺して石のアーチに潜み、僕はそこで本物の戦闘を見た。
 空から降ってきた敵を迎え撃つために、竜騎兵が虚空に真っ直ぐな軌跡を残して飛んでくる。太陽を背に負い、流
線型の高速巡航形態でやってくる機体。よほど広い範囲で戦っているのか、このあたりは戦略的に重要ではないのか、
彼はたった一機でこの宙域に飛び込む。そしてすぐさま戦闘機動形態に可変した。戦闘態勢の竜は操縦者の姿勢を起
こし、フットペダルだけで加減速・方向転換が可能になる。自由になった戦士の両手は、火器をとり回して敵を焼く。
 僕は戦う姿から目が離せなかった。彼は勇猛果敢に宇宙人の操る機械を撃ち落としている。たった一人で。地上部
隊は一体何をやってるんだ。
 その竜騎兵は間違いなく凄腕の戦士だったけれど、とにかく敵の数が多かった。突然彼は竜を高速巡航形態に切り
替え、機首を上に向けてまっしぐらに上昇を始める。追撃する敵機の群れ。彼は背後から放たれる数多の砲撃を、捻
りを駆使した不規則な螺旋運動で回避する。速度は彼のほうが上だ。どんどん突き放す。
 そして彼我のあいだに充分に距離が開くと、急激に切り返し。後方から蟻の行列みたいに追いすがる敵機向けて、
竜の口から一筋の閃光が放たれる。
 最大出力だろうか、光の矢の眩しさに思わず目を細める。
 光が収まると竜騎兵の放った必殺の一撃で、かなりの敵機が駆逐されていた。
 その後、彼は敵を上手く引きつけながら戦い、徐々に数を減らしていった。日がすっかり登る頃には、野原のそこ
かしこに炎上する大小のスクラップと黒煙が漂っていた。そして得体のしれないものが焦げる匂いと。
 僕は戦闘が落ち着いたのを見計らって、陸に上がった。土の上に腰を下ろしてポケットの中を探ると、歪んだ煙草
が出てきた。火をつけて、もう一度吸ってみる。さっきよりは随分ましだったけれど、やはり咽てしまう。だけど必
死に我慢して、僕は煙草を口に咥えたまま町へ向けて歩き出す。砲撃の音はもうどこかへ消え失せていた。
 町で誰かに、とにかく誰かと会わなければ。
330 :竜を駆る少年たち 6/11 ◆Mulb7NIk.Q [sage]:2012/09/24(月) 01:08:30.65 ID:FEQ0z+gd0
 *

 あの大規模な戦闘から数日して、僕は学長に呼び出された。
 戦火の影響で校舎はめちゃくちゃになっていた。だから学長室はどこか息苦しい威厳を感じさせるかつての空間で
はなく、寄せ集めの資材で作られた小さな部屋だった。学長はどこか疲れている様子だったが、束の間真剣な表情を
作った。そして手短かに要件だけ伝え、去っていいといった。
 あの日、ヴィルが、戦傷を負ったらしい。
 僕は学長に礼を言い、部屋を出る。そのまま教室には戻らず、すぐに学校を抜けだした。
 花でも買って病院に行こうとしたけれど、そんなものはどこにも売ってなかった。今は誰もが花に構う暇なんてな
いのだろう。
 僕は鞄一つだけ引っ提げて病院へ向かい、彼の居る病室へ通してもらった。
 扉を開くと、広い部屋の中に簡易式の寝台が所狭しと並べられていた。そこは健常者よりも負傷者のほうが圧倒的
に多い、異質な空間だった。あちこちでうめき声が上がっていた。切羽詰まった看護婦が足早に動き回っていた。
 病室の端にヴィルの姿を認め、彼のもとに歩み寄る。ヴィルは幾重にも包帯を巻かれ、締めつけられてなんだか小
さく見えた。彼になんと声をかければいいのか分からなかった。横たわる彼の左肩から先は、乱暴に扱われたソフビ
人形のように欠けていた。
「やあ、見舞いに来てくれたんだね」
 と、彼の方から言ってくれる。それでも僕には掛ける言葉が思い浮かばなかった。
 ヴィルは顔をちょっと傾け、左肩を少し動かし、少しだけ困惑したような表情を見せた。そして苦笑いしながら右
手で髪を掻きあげた。
「左腕、失くしてしまったよ。見ての通りにね」
 まだだんまりを続ける。
「でも後悔はしていないんだよ。僕は存分に戦った」
 ふと、微かなものが脳裏をよぎり、彼の虚勢と欺瞞の影を言葉の端から引き出せまいかと考えながら、僕は「本当
に、後悔してないのかい」と問い質した。
「ああ、本当だ」
「そうか。それならいい」
 外を見ようとヴィルから視線を外したが、窓は少し遠かった。灰色の建物と、切り取られた空がうつりこんでいる
だけだった。彼は失った左腕以外には、大した怪我を負っていないらしい。大多数の怪我人と違って、表情に快活さ
が残っていた。
331 :竜を駆る少年たち 7/11 ◆Mulb7NIk.Q [sage]:2012/09/24(月) 01:09:14.04 ID:FEQ0z+gd0
「だけど、一つだけ君に伝えたいことがあるんだ。流石に最初から最後まで全部は語れないけれど、僕がこの腕を失っ
た瞬間に何が起こったか、それを聞いてほしい」
「聞かせてくれ」
 ああ、と重くつぶやいてヴィルは話し始める。
「例えば小説の登場人物でね、タフな男がいるとするよ。そいつは物語の中ですごく活躍するんだけれど、重要な場
面で銃弾を受けてしまう。彼は叫び声を上げて痛がる。すごく痛がるけれど、何か守るべきものだとか、信念のため
に、傷ついた身に鞭打って行動を起こそうとする。僕も正直心のどこかで、強い意志さえ持っていれば、血を流しな
がらでも人は戦えると考えていたんだ。多分君もそうだろう。だけど現実は全然別物だったんだよ。あの日、耳をつ
んざく警報とともに僕たちは緊急出撃した。空の中で敵は多く、僕達の戦力は微小だった。力の限り戦ったけれども
僕は引き際を誤り、奴らの砲撃を身に受けてしまった。敵が放ってくるのは瞬時に肉体を焼いて溶かす高温の熱線だ。
傷口を焼かれたおかげで、失血死は免れたけれど、その痛みは言い表わしようがない。僕はあの瞬間に罪の存在を嗅
ぎとったように思う。罪が内包する深淵、地獄の下層で燃え盛る永遠の業火。僕は生きながらにして一度死に、責め
苦とされる炎によって焼かれた。だがそれは一瞬の出来事だった。僕は否応なく現実世界に呼び戻され、肉体の許す
以上の叫びを上げた。僕という存在が分解され、原始的で純粋な痛感それのみに還元されたみたいだった。強くあろ
うとした意志は、激痛という暴風に翻弄される一掬いの露にすぎなかった。僕は何も考えられず、ただ肉の発する生
理的な電気信号の結果として、絶叫という行為だけが残った。そして気を失い、意識レベルの低下を感知した竜が自
動操縦で僕を基地に運んでくれたんだ」
 ヴィルは語り終えるとじっと僕の目を見つめた。
「それを聞かせてどうしようってんだい」
「さあ。強いて言うなら、友人として、より真実に近いことを語ることが務めだと思ったから」
 僕はただ彼に、ありがとうと礼をして病院を後にした。

 * 

 あれから演習場に通うのをやめた。そのかわりに、寄り道することが多くなった。未だ瓦礫と災禍の傷跡残る町で
はなく、生きている自然の中へ。戦闘のおりに世話になった例の石橋がある地点からさらに下流の、自宅にほど近い
水門がいまのお気に入りだ。
 水は昨日と同じように今日も流れる。堰で流されずにとどまっている浮木が、その濡れた表面に黄昏の色を集めて
いるのを眺めると、とても心が落ち着く。
 しばらくそこで風と水流の静かな音を聞いていると、道の向こうを歩いているリーナの姿が目にとまった。
 彼女もすぐこちらに気づき、横道から近づいてきた。
332 :竜を駆る少年たち 8/11 ◆Mulb7NIk.Q [sage]:2012/09/24(月) 01:10:07.59 ID:FEQ0z+gd0
 リーナは何も言わず僕の傍に並び立った。僕は視線を川面に向けて投げかけていたが、目にはほとんど何も写って
いない。とりとめもない思考の殻の中に意識を潜ませていたから。だから彼女が初めに何かを言ったとき、聞き返さ
ねばならなかった。
「ヴィルに会ってきたの」
「そうなんだ」
 不意に昔のことを思い出す。幼い頃には三人でよく遊んだものだ。夏の真っ盛りには、この川で魚を釣ったんだっ
け。
「彼、この間の戦いで左腕を」
「知ってるよ。僕も見舞いに行ったから」
 負傷し、白い包帯に包まれてすっかり縮んでしまったヴィル。先日、彼女に言われた言葉が今一度胸に突き刺さる。
 弱虫の意気地なし。
 でもどうしてみんな戦えるんだ。僕は男だけど彼の気持ちは分からない。それとも僕は世界でたった一人の弱虫で、
意気地のない臆病者なんだろうか。でも、そんな僕にだってあの場でリーナに伝えきれなかった考えはある。
「ヴィルはどうして竜騎兵になったんだろう」
 彼は本の栞にメッセージを書いて僕に託してくれたけれど、結局そこから真意は掴めなかった。
「君は、何かを伝えられたかい」
「私ね、彼が志願する前の夜に呼び出されて、恋人同士になったの」
 それは初耳だった。だけど仕方のない事なんだ。なにせ三人の距離は随分と遠ざかっていたのだから。
「でもね、私、ヴィルも好きだけれど、あなたのことも好きなの。本当よ。いつのまにか二人が大きくなっても、私
は物心ついた頃の気持ちをずっと抱えたままだった。そして私も少しづつ大きくなってる。同い年の男の子に言い寄
られたこともあったけれど、そんなの全然目に入らなかった。お伽話のようだけれどね、三人で死ぬまでずっと仲良
く暮らせればいいと思ってた。でも宇宙人のせいで、あなた達と一緒にいる時間はめっきり少なくなって、私のこと
なんか忘れちゃってるんじゃないかってすごく不安だった。だから、この前のことは本当に悪く思ってるの。優しく
してもらいたかったのに、期待が外れたから、つい乱暴なことを言ってしまって」
「いいよ、僕も悪かった。でもなぜ、僕に志願することを薦めたんだ。死ぬかもしれないっていうのに」
「あのね、男の子って結局はそういうものじゃないのかな。いつもどこか戦いたがっている節があるというか。だか
ら、ヴィルに覚悟を話されたとき、彼を理解して、立派に送り出してあげようと思ったの。そしてあなたもまた、い
つか戦いに出るんじゃないかって」
 違うんだ、それこそが僕の感じている痛みの元なんだ。苦々しい思いで手すりを握る。
333 :竜を駆る少年たち 9/11 ◆Mulb7NIk.Q [sage]:2012/09/24(月) 01:11:23.53 ID:FEQ0z+gd0
「僕には戦う理由がない。それなのになぜ命を賭して戦わなくちゃいけないんだ、何を考えているのかわからない宇
宙人どもと。こんなことを話せば君も世間の人たちも、僕をエゴイストだといって笑うかもしれない。でも僕は僕自
身が一番大切なんだよ。それは悪いことなのかい。他人や、この世界それ自体に、自分の命ほどの価値を見いだせな
いんだ」
「分からない。でも覚悟というのは、そうやって自分を天秤にかけることじゃないのは分かるよ」
 彼女とのあいだに短い沈黙が降りてくる。物憂げに野鳥が鳴いた。
「こっちを見て」
 リーナはそう言うと素早い動作で僕の両頬に触れた。そして小娘として歳相応のキスを僕に与えた。
「何をするんだ」
「キスよ」
「どうして」
「だって世界はこんなにも素晴らしいもの。あなたたちがいるだけで。理屈じゃないの」
 だめだよリーナ。僕はその理屈でもって納得したいんだ。考えることを止めちゃだめだ。
 僕は彼女の頭の鈍さにほとほと嫌気が差した。でも彼女を責めるのはよそう、なんたってまだ子供だから。そうい
う自分自身も子供じみてるのは分かる。でも僕はどうすればいいのか分からなかった。

 *

 優しい言葉なんて一つもいらなかった。それはただ望むだけでよかった。
 やわらかな月の光が窓辺から差し込む夜、僕は彼女と寝た。彼女は初めてだったけれど、行為が終わるとどうやら
満たされた気分になっているようだった。彼女に合わせてゆっくりと結びついたので、汗はほとんどかかなかった。
身体全体が寝入り端のように、有るか無きかの温もりをたたえていた。
 仰向けになってじっとしていると、何を考えているの、と枕元で彼女が囁く。
「竜騎兵のこと」
「私のことは」
「少しだけ」
「せっかくこんなにも良い夜なんだから、もっと私のことも考えてほしいな」
 リーナは手を猫のように丸めて僕の胸にすがり、微かに震えながら顔をうずめた。僕は闇に浮かぶ自室の壁を眺め
ながら彼女の髪に触れ、慈愛の心をこめてゆっくりと頭を撫でた。
「君はヴィルの女じゃないのか」
「二人のもの、だって。そして二人は私のもの」
334 :竜を駆る少年たち 10/11 ◆Mulb7NIk.Q [sage]:2012/09/24(月) 01:11:49.31 ID:FEQ0z+gd0
「貰った覚えはないし、くれてやった覚えもない」
「私と寝たのに?」
「安易に男と寝る女は嫌いだよ」
 胸の中で彼女はくすくすと笑う。
「ひどいことを言う人。でも今日は許してあげる。……ねえ、私、恐い」
「何が」
「宇宙人が。だからずっと考えないようにしてたの。多分どうにかなるだろうと思って。どこか遠い国で英雄が現れ
てね、悪い宇宙人を全部やっつけて、めでたしめでたし。そんな未来を想像してた。私たちが滅ぼされるわけがない
と、心のどこかで思ってた。でもヴィルは、ヴィルは片腕を失くしちゃった。あなたも消えちゃうの?」
 彼女は息をつまらせながら、か細い声で語る。僕はそうだね、と相槌をひとつ入れる。
「何も考えないようにして、無為にその日その日を送っていくのってすごく簡単。それはたとえば満たされた水瓶が
あったとして、その中に垂らされる薄く透明な一滴の水に自分を近づけていくことなの。すごく透明度が高くて、何
一つ抵抗しないままその大きな水の中に溶け込んでいけられると、とても楽。誰かのために自分自身の在り方をその
ものをぶつけていく必要もないの。でも水瓶の中に、一滴の熱い血が垂らされたらどうなる。想像してみて。あなた
は多分その熱い血みたいなものなんでしょう。だからあなたの生きた瞬間は、とても苦しかったものだと思う。世界
の中でどんどん薄まって奪われて、自分がどこかへ消えてしまいそうな不安をずっと抱えて」
「やめてくれ」
「やめない。私も、精一杯頭を絞って考える。そして他のだれでもない私だけの気持ちに、誠実に向きあってみよう
と思う。ねえ、無責任に聞こえるかもしれないけれど、言わせて。竜騎兵になんかならないで。このまま緩やかに世
界が終わりを迎えてもいい、その瞬間まで三人で仲良くしていようよ。空には危険がたくさんあるんだよ。そんな所
には行かないで、行っちゃだめだよ」
 なんて都合のいいやつだろうと思った。僕はどうしようもなくみじめだった。無二の親友は勇敢に戦って五体不満
足になったというのに、僕は年下の女の子に戦わないでいいと慰められ、赦されている。
 現実の認識から逃れようとすると、横になっているというのに心地の悪い酩酊感や、めまいが襲ってきた。
 僕は無理矢理に身体を起こし、何も言わずにリーナに覆いかぶさって、悪辣な欲望を叩きつけた。少女の肉体は苦
痛に捩れ、僕から逃れようとし、口からは強く張られた弦を爪弾くような音が漏れた。
 行為の真っ最中は熱病に冒されたように何も考えずにすんだが、ひとたび終われば、世界は以前にもまして最悪な
場所だった。未来はわけの分からない宇宙人のせいで真っ暗だし、何よりもただ自分への嫌悪感で潰れてしまいそう
だった。
335 :竜を駆る少年たち 11/11 ◆Mulb7NIk.Q [sage]:2012/09/24(月) 01:12:22.17 ID:FEQ0z+gd0
 目を瞑れば赤黒い印象の嘔吐感が現れ、脳髄の中心へ収斂していった。僕ははっきりとその印象を双眸で汲みとっ
た。
 とめどもなく全身に寒気が走り、目につく物、手にとる物、全てを破壊しつくしたい気分になった。そうして両脚
がちぎれるくらいに外を走り回って、巨大な――天地を束ねるほどの巨大な壁に――全力でぶつかり、粉々に砕けて
しまいたかった。
 そうした思いが僕の昂った胸のうちから、熱い吐息として虚空に吐き出された。みぞおちのあたりがしめつけられ
て、苦しさのあまり、息だけしかできなかった。
 傍らでリーナがいくら嘆こうが喚こうが、僕は一つの内燃機関となって規則正しく激しい呼吸をし続けた。呼吸に
集中しなければ、本当に窒息死してしまいそうだったから。

 *

 最悪の世界を壊してしまうためには、自分が死ぬか、原因を殺してしまうしかないのか。
 僕は朝のとても早い時間に再びヴィルの病室を訪れ、彼が眠っているあいだに例の本を返した。栞は抜き取って、
胸ポケットに納めてある。
 そしてその足で、演習場へと向かった。
 僕は金網の前に立ち、手に入れたばかりの煙草の箱から、真っ直ぐな煙草を取り出して火をつけた。もう、深く吸
い込んだってむせ返ることはない。
 その時、土埃を巻き上げながら一陣の旋風が演習場を駆け抜け、たなびいていた白煙を一瞬で連れ去った。僕は吸
い殻を地に投げ捨てて踏みにじり、背の低い草叢に反吐を吐きつけた。
 そして僕は歩き出すのだ。


(了)
336 :竜を駆る少年たち 12/11 ◆Mulb7NIk.Q [sage]:2012/09/24(月) 01:12:51.74 ID:FEQ0z+gd0
おわり!おつかれさまでした
337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府) [sage]:2012/09/24(月) 01:37:30.84 ID:TF8BEgMM0
素で来週だと勘違いしてた……
(次回に)切り替えていく
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/09/24(月) 02:02:12.05 ID:o2aIajoBo
俺の作品に怖じ気づいてみんな逃げたのか

うそです。ごめんなさい。こんなだめだめです。
やっぱり一ヶ月に一度ぐらいのほうがいいんですかね。
339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/25(火) 00:19:11.40 ID:Fd/bf1NC0
>>337のレスを踏まえて三週間に一回にしよう(てきとう)
340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/25(火) 09:24:26.10 ID:+6zu60hC0
まぁ別にどんなペースでも構わないけどさ。昔みたいに力のこもった作品がみたいなぁ。とか

えーと、今更だけど時間外投下します

題名はいま付けます 全10レス
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/25(火) 09:26:20.40 ID:+6zu60hC0
ええい、下げ間違えた。パソまんどくせ
342 :耐えがたき居心地の 1/10 [sage]:2012/09/25(火) 09:30:33.22 ID:+6zu60hC0
 人という存在がいつも孤独であるという認識は、僕をどこにも連れて行かない。強くし
たりもしないし、ましてや特別な人間に変えてくれるわけでもない。
ただそこに大きな落とし穴のようなぽっかりと開いた孤独の重みがあって、それがいつも
どこかで寂しそうにこちらを見つめているのだ。
ぼくはその視線に気付きながらもけして、元気よくそれに駆け寄っていったり、やさしく
声をかけたりすることが出来ず、ただばつの悪そうな笑顔を浮かべるしかない。もちろん、
ただ一人で。




 日曜日が来た。日曜の朝はまるでポットからでる湯気みたいに、ふわりと心地よい眠り
を誘う。少しばかりの日用雑貨の買い置き以外はとくに出かける用事もない午後、うつら
うつらと頭を垂れながらテーブルにもたれ掛かる時間は、まさに至福の時だ。
 そこにとつぜん総てを台無しにするが如く、前触れもなく電話のベルが鳴り響いた。も
ちろん電話のベルというのはだいたいそうで、前触れといった特別サービスは行っていな
い。
嫌々ながらに受話器を取ると、そこから相手の声が聞こえてきた。
「もしもし、……電話相談室ですか」
 それはいつものお馴染みの間違い電話だった。日に一度は掛かってくる掛け間違いだ。
どうやらこの電話番号がどこかの広告に間違って掲示されているようで、どこからとも
なく掛かってくるのだ。最初の内は一回ずつ丁寧に訂正していたが、段々と一から説明す
るのが面倒になってきていた。それほど頻繁に掛かってくるわけでもない。
「はい、電話相談室です。どういったご用件ですか」
 最近ではよくこうして適当に返事をしている。相づちを打っていると相手はそれで満足
して切っていくのだ。
電話の声は低いがまだ艶のような物が残っている。どうやら若い男のようだった。
「世の中でなぜ僕だけがこうなんでしょう。もう我慢の限界です」
「こう? こうというのはどういう状態ですか? もう少し説明していただけないと」
 悩みを抱えた人間というのは、たいてい混乱しているのでいつもこういった感じだ。本
職のカウンセラーなら根気強くそういうことまで黙って聞いているのだろう。
「あなただって分かっているでしょう? 僕にだって訳が分からないんです。外に出るだ
けでジロジロと怪しがられるなんて。なぜあんな目で見つめてくるんでしょう。いったい
何の権限があって他人にそんな悪質なことが出来るんでしょう」
 どうやら青春時代にありがちな、自意識過剰な思いに囚われてしまっている相談者らし
かった。
343 :耐えがたき居心地の 2/10 [sage saga]:2012/09/25(火) 09:31:27.13 ID:+6zu60hC0

344 :耐えがたき居心地の 2/10 [sage saga]:2012/09/25(火) 09:32:12.17 ID:+6zu60hC0
「えっと……つまりご近所の方々の目がどこか冷たい、といったようなお悩みで大丈夫で
しょうか」
「はぁ? いえ、べつに近所に限った話ではありません。どこでだって同じですよ。あい
つらはどこに行ったって居ますから」
 彼の言うあいつらの意味がよく分からなかった。語気も少しふつうと違う様子だ。もし
かしたら偏執狂の域にまで達している相手かもしれなかった。
「なるほどね。もちろんそうです。人を無遠慮に見るなんてことは大変失礼に当たる行為
です。ところで最近ですが、睡眠時間の方は充分に取られていますか」
「睡眠時間?なんでまた……」
「ずいぶんいやな思いをなされているのでしょう? おそらく気持ちの方も疲れているに
違いないと、そう思いましてね。それならね、眠ってしまうのが一番なんですよ」
 なにしろ睡眠には驚くほどの治療効果が実証されている。少しの精神疾患なら、寝れば
治るほどだ。
「ちょっと待て。寝ようが寝まいが、そんなのは関係ない。僕の世界は地獄で満ち満ちて
いるんだ。なんでこうなのかさっぱり分からないくらいだ」
「なるほどお辛いですか。お辛いですね。でもですね、……実を言うとそんなのは誰だっ
て同じなんですよ。かく言う僕だってそうです。あなただけではありません。そのことは
あなたにとって何かの支えになりませんでしょうか」
 これは嘘ではなかった。頭を抱えてしまうような悩みなら、それこそ腐るほどあった。
相談したいのはこちらも同じだった。
でももちろんそんなことは受話器の向こう側にいる彼にはなんの関係もない話だ。彼は彼
のことで手一杯なのだ。そして自分はいま彼を怒らせていた。
「一緒にしないでくれ。あんた頭がおかしいんじゃないか」
「そうですね。こちらもきっと疲れているんだと思います」
 言い終わる前にすでに通話は切れていた。このあと苦情の電話を待ったが、いつまで待
っても掛かってこなかった。


 地方都市の役場の職員についてもう五年になる。高齢者福祉課に席を置いている。主な
仕事は、各老人ホームとの連携や、市内に住む独り身の高齢者へのケアなどだ。
この仕事についてみて初めて知ったことは、驚くほど多くのお年寄りたちが一人で暮らし
ていることだ。彼らの家族は遠く離れた都会にいて、新興住宅地で核家族でいるか、独り
身でアパート暮らしをしている。
もちろん祖父母の元に帰るのは年に一回か二回だ。自然と役所の人間が足を運ぶ様になる。
「また来たのか。あんたも暇だね」
彼女は管轄の地区に住む、岸谷里美、七十五歳。二十年前に息子が出て行って以来、一
345 :耐えがたき居心地の 3/10 ◆1ImvWBFMVg [sage saga]:2012/09/25(火) 09:34:13.79 ID:+6zu60hC0
人で細々と暮らしている老婦人だ。 
「里美さんの顔を見るためになら、何度でも足を運びますよ」
まだ健康そのものと言った様子だが、とは言え一人にさせておくのは心許ない。
「行かないよ、さわやかホームだなんて。まったく、なんて名前だい」
 さわやかホームは彼女に勧めている老人ホームだ。基本独り身のお年寄りはホームを勧
めている。最近では自宅介護も整備されつつあるが、まだ費用が掛かるのが現状だ。
 それにしてもなぜこうも老人たちは家族と暮らさなくなったのか。もちろん一人の方が
気楽である、煙たがられてまで同居したくない、などのよく挙がる理由にも一理ある。だ
が、実際のところはそういった理由とは違うように思う。
おそらく、それが普通の感覚でなくなってしまったせいだ。三世代家族で暮らすことが、
いつしか当たり前のことでなくなってしまった。
 きっと世の中が、より高度な消費を求めたのだと思う。家や生活環境でさえ、商売の道
具に変えてしまうような、そんな経済の活発な動きが起きたのだろう。その結果は排除だ。
余裕がない。つくづくそう思う。立ち止まって冷静に考える暇がない。それよりも一瞬の
イメージに動かされて社会全体が扇動されてしまう。
「名前なんてどうでもいいじゃないですか。ホームなら話し相手も事欠かないですよ」
 言っている自分でも説得力がないのがよくわかる。よりましな選択肢でしかない。
「あんなのと話す道理なんかないよ。棺桶に生きながらに詰め込まれるなんてまっぴら御
免だね。ほら、どっこい今日も死んでなかったんだ、とっととお帰りよ。残念だったね」
 これじゃ市の職員じゃなくて死の商人だ。とはいえあまり変わりはないのかもしれない。
「また来ますよ。お茶菓子、どんなのがお好きでしたっけ」
「羊羹と煎餅。あと茶も切れかけているかね」
 ちゃっかりしている。まだこの分ならこの人は大丈夫だろう、そう思った。
あいさつを済まし、役所に帰ろうと玄関を引き返していると、そこで幼い少女とぶつか
りそうになった。交差するようにかわした。よく見るとまだ中学にもなっていない、小さ
い子だった。
「やぁ」
こちらのかけ声に構わず、少女はそのままなにも言わずに玄関の方へ駆けていった。た
しか孫は居なかったはずだ、気に掛かったが、あまり時間もなかった。道路に出ると、市
の外回り様の乗用車に乗り込んだ。



 その週末、ひさびさに大学時代の友人と二人で飲みにいった。同じ講座で知り合った男
で、剛胆を絵に描いたような性格をした、どんな状況でも平然と乗りきっていく頼もしい
奴だった。
346 :耐えがたき居心地の 4/10 ◆1ImvWBFMVg [sage saga]:2012/09/25(火) 09:34:53.52 ID:+6zu60hC0
現在は教師をしながら、自らの史学の研究に精を出しているらしい。まったくもって立派
な男だった。
「公務員さまの仕事はどうだい。ずいぶん楽なもんだろう」
 駆けつけ一杯のビールで、どこかふざけたように調子をつけて聞いてくる安田。そんな
友人の顔に懐かしさを覚えつつ、それでもあの頃のような快活さは見当たらないことにま
た寂しさを感じていた。
「待てよ、それならおまえだって公務員じゃないか」
「おっと。こっちはストレスの絶えないあの教師さまだ。なりたくない公務員ナンバーワ
ンだぞ。一緒にしてもらっちゃ困る。おまえ生徒一人一人に気が使えるか?ん?」
 そういうと安田はふざけて肘で何度も突いてきた。そういう所は変わっていない。
「わかった、わかったって。でもこっちだって別に楽ってわけでもないさ」
「あぁ、高齢者福祉課だったか。でもじいさんばあさんなんて半分ぼけている身だし、気
楽なもんじゃないのか?」
「そんなわけないだろ……でもそんなに大変なのか、教師」
 そこで安田は今までの柔和な笑顔をとたんに引っ込めて、声のトーンを若干落とした。
「まぁな。先週な、受け持ちのクラスのやつが自殺した。未遂に終わったがな」
 重たい話だ。もちろん冗談で済まされる事柄ではなかった。
「なんだ、いじめか?」
「いや、とくにそういう問題があったわけでもないと思う。これでも目だけはしっかり光
らせていたつもりだ、見落としもないはずさ。ふつうは問題があれば不穏な空気ってのが
いやでも目に付くはずなんだが……さっぱりだ」
 ふと安田の顔の皺が目に付いた。そこに不穏な空気は見られなかったが、隠し切れない
深い疲れのような物はにじみ出ていた。
「急にだよ。でもな、そういう自殺が増えているらしい。ちょっと授業をさぼるみたいな
手軽さでな、屋上から飛び降りるんだ。もうな、自分の無力さにこの仕事が嫌になるよ」
 安田の話を聞いているうちに、自分の職場でも似たような話を聞いたのを思い出した。
「そういえば。いや、高齢者にも多くなったらしい。福祉課の課長がぼやいていたんだ。『衰
弱死なんて言っているが、あれは自殺だ。生きる気力がなくなったんだ』ってね」
「自殺か……老人と子供が死にたがるなんて、暗い世の中だな」
 ため息をつく度に、よりいっそう暗澹たる深い溝に沈み込んでいくようだった。
「たぶん生きている実感のなさなんかが、そういう死の恐怖も麻痺させるのかもな。働いているうちは逆にいいのかもしれない、そういったことに目を向けている余裕すらないし」
 なんだか昔より生きることと上手く距離を保てなくなった気がする。ボーダーラインに
住む我々はたやすく近づいて行ってしまう。たぶん誰だって危うい場所にいるのではない
か。
「我々は緩やかに殺されている、って奴か。いやな世の中だな」
347 :耐えがたき居心地の 5/10 ◆1ImvWBFMVg [sage saga]:2012/09/25(火) 09:35:43.34 ID:+6zu60hC0
 その日はいつまでも酔いが回らなかった。流し込んだはずの酒が胃を通過せず、どこか
へ消えてなくなってしまっているみたいだった。



 前回の訪問から五日後、岸谷さんのうちに顔を出すと、本人がどこかに出かけて留守に
していた。とくに訪問日に取り決めがあるわけでもなかったので、こうして会えない日が
あるのもあまり珍しくなかった。
仕方がないので、玄関を引き返していると、母屋の向こうに庭が見えるポイントに入った。
そこで先日見かけた少女が、庭に佇んでいるのが見えた。一人で考え事に耽っているのか
ぼうっとしてしゃがみ込んで動かないでいる。
その淋しげな様子につい声を掛けずには居られなくなり、母屋の脇をとおって庭へ向かい
話しかけた。
「やぁ。また会ったね」
 気軽に声を掛けたつもりだった。だが、少女はあわてて身構え駆け出そうとした。
「待った! あやしい人じゃないよ、お婆ちゃんの所に来ている市役所の人だから!」
 ますます怪しい風にしか見えないそのセリフに自らうんざりしていると、案の定少女は
脱兎の如く逃げ出していってしまった。
 あまりのふがいない結果に、しばらく庭で苦い思いに明け暮れていた。すると、玄関の
入り口から足音が聞こえてきた。里美さんが帰ってきたらしい。
「おや、そんな処でなにしているんだい」
「どうも里美さん、お邪魔しています。ところでいま女の子が逃げていきませんでしたか」
「いや、女の子なんて……あぁ。ユッコちゃんが来てたのかい」
 何でもなさそうに答える里美さん。どうやらここの常連らしい。
「あの子は誰ですか? お孫さん?」
「知らないよ。近所の子じゃないかい。よく来るんだよ」
「いや知らないって。せめてどこのお宅かぐらいは。だいたいいま授業中のはずですよ、
サボってきているとしたら学校にも連絡を……」
「うるさいねぇ。そんなことだからあの子も逃げたんだろうよ」
 彼女に言われてみてはっとした。そうかもしれない。あれだけ学校教育や社会がどうの
言っておきながら、自分が一番そういう世間体に囚われていたようだ。
二の口が告げない自分に、里美さんが追い打ちを掛けてきた。
「ほらまたすぐシュンとして。しっかりしておくれよ。あの子たぶんイジメられてるよ」
「え、どうしてですか」
「どうしたもこうしたもないよ。上手くやれないんだろうね。そういう不器用な子はいっ
ぱい居るよ」
348 :耐えがたき居心地の 6/10 ◆1ImvWBFMVg [sage saga]:2012/09/25(火) 09:36:48.66 ID:+6zu60hC0



 数日後、安田から「飲まないか?」と言う誘いがあった。どうやら飲まなければやって
いられない様なことがあったらしい。
おそらく自殺未遂に終わった生徒のことだろうと飲み屋に向かうと、安田はすでに出来上
がっていた。
「付き合え。今日はとことん飲む」
 目が据わっていた。血管が浮き出ている。酔いどれているようには見えなかったが、か
なりの酒が入っているのは確かだった。
「わかった。飲もう」
座り込み胡座をかく。目の前のコップを手に取ると、なにも言わずに酒をついできた。
 安田はなかなか話し出さなかった。言いたくないのかもしれない。酒を酌み交わす、息
遣いやコップの音だけがする。他の客達の会話がやけに耳に響いてくる。
やがて時計の短い針が二回りした。そこで安田は吐き出すように口にした。
「死んだ。止められなかった」
 安田の言葉を待ったが、続きはなかった。返事をする代わりに酒をついでやった。
目がやけに赤らんでいたが、それが泣いているのか酒のせいなのかはよく分からなかっ
た。



 また一週間が過ぎた。休みの日。部屋でだらだらと過ごしているといつもの電話が来た。
「もしもし。電話相談室ですか」
「はい。お悩みですか」
 今日は女の子だ。年は十代後半、しっかりと落ち着き払った中にも、まだ隙が垣間見え
た。
「夢って必要ですか?」
「夢というのは、人生の目標とか理想という意味でしょうか」
「その夢です。どうですか」
 なるほど、よくある悩みかもしれない。周りの夢見がちな子と違い、多少現実的な考え
を持っている子なのだろう。
「そうですね、あって損はないと思います。つまりあなたは夢を持てずに悩んでいる、と」
「いえ。わたしは別に悩んでいません。ただ周りの大人達が非難してくるのに嫌気が差し
ているんです。夢ってそんなに良い物でしょうか」
 その通りかもしれない。自分がなにを大切にするかという物差しが決まっているようだ。

349 :耐えがたき居心地の 7/10 ◆1ImvWBFMVg [sage saga]:2012/09/25(火) 09:39:49.22 ID:+6zu60hC0
それならばアドバイスなどとくに意味を持たない。
「ふむ……もしかしたらあなたは他の人と違い、珍しく現状に満足しているのかもしれな
い。そうではないですか」
「そう、かもしれません。じゃあ、夢を持つ必要はありませんか」
「すでに自分を生きているわけですからね。ただ、いつまでもその現状が続くと言えます
か?そのままで居たいと願うこと、これも夢と呼べるのではないでしょうか」
 単に後押しするつもりの、一応用意した答えだ。だがもちろん自分は間違えていた。い
つものように、それも決定的に、愚かさだけを残して。
「なるほど。確かにおっしゃるとおりです。でもそれはもう諦めています」
「はぁ。一体なぜ?」
「人はいつか年を取ります。やがて私も醜く老い、皺だらけになります。そうなれば今み
たいに構ってくれる人は居なくなるでしょう。みじめに暮らしていくしかありません。そ
うしたら死のうと思います。だってそうでしょう?」



岸谷さんの家でいつもの訪問を済ませた。彼女は相変わらず元気だ。ついでに帰り際に
庭を覗くと、今日もまた少女が来ていた。ここのところ毎回見ている。
 そんなに学校が嫌なのだろうか。自分も確かに好きではなかったが、さぼりたくなるほ
どの嫌悪感を抱いたことはなかった。しかも小学校だ、それなりの訳があるのだろうか。
自分の視線に気付いた少女が、一瞬身構える姿勢を見せた。だが以前のように逃げ出すこ
とはなかった。じっとこちらの様子をうかがっている。
もしかしたら里美さんがこの少女に、自分に害がないという旨を上手く伝えてくれたのか
もしれない。
 話せる窓口は出来たようだ。とはいえなにを話したら良いのかわからず、参ってしまっ
た。学校について何かを聴くのはもちろん御法度だろう。それなら里美さんとの関係につ
いてはどうだろうと思ったが、これもまた微妙だ。まるで分からなかった。
 すると少女はこちらのそんな考えを見透かしているかのように、あらかじめ釘を刺して
きた。
「お願いだからなにも聞いてこないで。絶対に答える気はないし、一つだって教えるつも
りはないから。ただそっとしておいて、放っておいて欲しいだけなの」
 少女はそのすべてに関する関与を拒否していた。そんな状態でじぶんになにか出来るこ
となんかあるのだろうか、ほとほと不安になってきた。
「わかった。約束する。なにも聞かない。そっと放っておく。絶対にしない」
 そう答えるしかなかった。もちろんその約束を破るつもりは毛頭ないが、それにしても
あまりに寂しい約束だ。
350 :耐えがたき居心地の 8/10 ◆1ImvWBFMVg [sage saga]:2012/09/25(火) 09:40:37.84 ID:+6zu60hC0
とは言えひとまず帰れとは言われなかった。そのことで、この場所に存在する権利だけ
は許されたのかもしれないと言う気がした。
この分なら里美さんと三人で仲良くお茶菓子をつつきながら、ボーイフレンドの話をする
日も近いかもしれない。いつになるかは分からなかったが。


 それから三ヶ月間は同じような日々が続いた。僕は福祉課の仕事を黙々とこなして、た
まに安田と飲み、それからもっとたまに仕事の同僚達と飲みに出かけたりした。
また、五日に一度は岸谷さんの家に訪れ、そのあと庭で少女と無言で過ごしたりもした。
そうこうしているうちに三ヶ月はあっという間に過ぎていった。
久しぶりに訪れた時、やはり里美さんたち二人の様子に変わりはなく、仲良くいつもの
庭でお茶菓子を食べていた。
さいきん急に入った臨時の仕事で忙しく、訪問が二週間開けてしまっていたのだ。だがい
つもの所定位置で思い思いに過ごしている姿をみて安心した。庭から二人に声を掛ける。
「お久しぶりです。お変わりないようですね」
里美さんと少女がつまらなそうにこちらを見る。お馴染みののんびりしたリアクション
だ。
少女は自分と一切こちらとコミュニケーションを取ろうとしなかった。ただ黙ってそこ
にいるだけだった。なんでも里美さんの話では、夕方頃には帰って行くらしい。
おそらくここは彼女にとっての安らげる、唯一の避難場所なのだろう。知ることは出来な
いが、おそらく学校でも自宅でも気を許すことが出来ない事情があるのだ。
 それならばいつか彼女が必要としなくなるその日まで、文字通り放っておくのが一番の
策なのだろう。幸い家主である里美さんは少女の存在をまるで嫌っていない。変わり者の
孫みたいに扱っているのだ。今日も茶菓子と麦茶だけ置いて、放っている。
 もちろん少女が居ない時は、彼女について二・三話すこともある。でも例の調子で終わ
りになってしまう。
でもそれでいいのかもしれない。ここはひどく居心地がいい、そんな場所だった。肩の荷
が下りるような、懐かしい場所。
「また来たのかい、ほんとに暇だね」
「そりゃあ来ますよ。なんたってふるさとですから」
 第二のね、と言葉を付け加えようとしたその時、ふと微かな異変に気がついた。里美さ
んの服のボタンが掛け違えていた。しかも一つだけならまだしもの、ぐちゃぐちゃのドロ
ドロに乱れて掛けられていた。
「だからって毎日来なくて良いんだよ。お前は昔っから人の世話ばっか焼いてからに。嫁
に文句言われる前にとっとと帰りな」
「里美さん……?あの、僕です。福祉課の」
351 :耐えがたき居心地の 9/10 ◆1ImvWBFMVg [sage saga]:2012/09/25(火) 09:43:37.92 ID:+6zu60hC0
「なんだい、孫なら夕方まで預かってやるよ。心配しなくても良いさ」
 なにが起こっているのか分からず、助けを求めるように少女を見た。だが瞳からこぼれ
る涙に、頬を濡らしている彼女に、説明してもらうのはどう見ても無理だった。
どうすればいいんだろう。まだ気持ちの準備がまるで用意できていなかった。立っている
足元が不安定に揺れたような気がした。
我々は、ようやく気づき始めたばかりのその大切な場所を、あっさり失ってしまっていた。
もちろん代わりなんて見つかるわけが無かった。




 日曜日が来た。代わり映えの無い日常が繰り返されていく。いつもの電話のベルをこれ
ほど疎ましく感じるとは思わなかった。
受話器を取るつもりはこれっぽっちも無かった。だが、なぜか自然と体が勝手に反応して
いた。習慣だろうか。
「もしもし、電話相談室ですか」
 女の子の声だった。まだ幼い。おそらく小学生ぐらいの高い声だ。
「はい。電話相談室です。どんなお悩みですか」
「死にたいんです。もうこんな世界は嫌になりました。なんでこんな所に生まれて来てし
まったんだろう」
 一体なんだというのだろう。ひどく似ていた。あの里美さんの庭に佇む少女の声と、恐
ろしく似ていたのだ。
受話器のむこうにいる相手は少女の声で恨み辛みをぶちまけていた。
「なにもかも最低。自分も嫌い、周りの人間も嫌い、親もクラスメイトも先生も何もかも
全部嫌い」
 絶対に違う、彼女ではない。もちろんそれは分かっている。
まずここの電話番号を教えていないし、彼女が数ある広告の中からこの番号を選び、掛け
てくるだなんて確率は、万に一つもない。分かっているのだ。でも考えないわけにいかな
かった。
「なぜもっと早く死んでしまわなかったんだろう。世の中の恵まれている人が憎くて仕方
が無い。なんであいつらの境遇で生きられないんだろう。ねえ、なんでですか?」
 なぜなんだろう。なぜ人は望み通り生きられないのだろう。わからない。
「なぜでしょうね」
「……なにそれ。ねえ、わたし死にたいんですよ。もっと真剣に答えてください。どうし
たらいいですか。どうしたら私こんな最悪な気分から解放されますか。答えてくださいよ、
ねえ。ねえってば」
352 :耐えがたき居心地の 10/10 ◆1ImvWBFMVg [sage saga]:2012/09/25(火) 09:44:19.07 ID:+6zu60hC0
 分からない。でも分かる。その気持ちだけはわかる。
死にたいという気持ちだけは嫌というほど分かっていた。
「お気持ちはわかります」
もちろん相手はあの少女ではないし、当然こちらのことなど知るよしも無いのに。
「は?ちょっと待った。え、あんたに何がわかるっての?死にたい奴が電話相談?は?」
 その通りだろう。でもその連想に歯止めが効なかった。
「はい。だからわかるんです。あのですね……もし良かったらあなたの代わりに、私が自殺してみるって代案はどうでしょうか」
 少女の代わりに自分が死ぬ。言ってみてそれほど悪くない案のような気がした。自分の
未来なんてもはやたかがしれている。考えるのが限界にきたのかもしれない。こうして人
は自殺を思いきるのかもしれない。
「はぁ?なんで私が死ぬほどつらい思いをしてるのに、そこであんたが出てくんのよ。あ
んた頭おかしいんじゃない?」
「はい。だから死にたい気分なんです」
 そこで通話は切れていた。回線の切れたいつもの音。でもいつまでも受話器を離せなか
った。
この世界にただ一人だけ残されているみたいな気分だった。そしてそれはおそらく気のせ
いでも無く、単なる事実として今ここに突きつけられている現実でしかなかった。




《了》
353 : ◆1ImvWBFMVg [sage saga]:2012/09/25(火) 09:46:31.30 ID:+6zu60hC0
はーい、投下終了です

しかし、あれかな。やっぱお題が面倒だったかな
全感書いてきます
354 : ◆1ImvWBFMVg [sage]:2012/09/25(火) 22:31:32.22 ID:dBZs26tIO
******************【投票用紙】******************?
【投票】:無し
【関心】:時間外No.01 竜を駆る少年たち ◆Mulb7NIk.Q氏
**********************************************?

先に投票だけ。全感は後で投下します。
355 :結果発表 [sage saga]:2012/09/26(水) 00:30:39.56 ID:gLhNU2Fy0
投 関
− − No.01 ウィッチィーズ・ザ・リビングデッド 1/1 ◇pxtUOeh2oI氏
−  1 時間外No.01竜を駆る少年たち ◆Mulb7NIk.Q氏
− − 時間外No.02耐えがたき居心地の ◆1ImvWBFMVg氏

品評会の投票は以上の結果となりました。というわけで優勝は時間外No.01 竜を駆る少年たち を書いた◆Mulb7NIk.Q氏に決定いたしました。おめでとうございます。
それでは優勝した◆Mulb7NIk.Q氏には優勝した感想と、次回のお題発表をお願いします。
356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2012/09/26(水) 00:33:39.02 ID:gLhNU2Fy0
◆Mulb7NIk.Q氏おめ。次回はどんなお題がくるだろか。
357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/26(水) 01:56:59.50 ID:0RzXix/d0
お題下さい
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/26(水) 02:32:00.71 ID:BGvjn1fQo
>>357
キャンプ
359 :お題発表 ◆Mulb7NIk.Q [sage]:2012/09/26(水) 21:04:12.89 ID:0RzXix/d0
お待たせしました。とりあえず三週間後にしましたが、これで良かったのでしょうか?

第307回週末品評会  『キャンプ』

規則事項:10レス以内

投稿期間:2012/10/20(土) 00:00〜2012/10/21(日) 23:30
宣言締切:日曜23:30に投下宣言の締切。それ以降の宣言は時間外になります。
※折角の作品を時間外にしない為にも、早めの投稿をお願いします※

投票期間:2012/10/22(月) 00:00〜2012/10/23(火) 24:00
※品評会に参加した方は、出来る限り投票するよう心がけましょう※
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/27(木) 01:48:49.12 ID:6xEYDGzIO
お題発表おつ
でもなんで三週間後なんだ?期間空きすぎて書くの忘れちゃいそうなんだが
361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府) [sage]:2012/09/27(木) 08:48:21.70 ID:Ks3xdHk40
二週間でいいと思う
362 :お題発表 ◆Mulb7NIk.Q [sage]:2012/09/27(木) 23:08:41.03 ID:gzfNRF/x0
じゃあ、こうしましょう。

第307回週末品評会  『キャンプ』

規則事項:10レス以内

投稿期間:2012/10/13(土) 00:00〜2012/10/14(日) 23:30
宣言締切:日曜23:30に投下宣言の締切。それ以降の宣言は時間外になります。
※折角の作品を時間外にしない為にも、早めの投稿をお願いします※

投票期間:2012/10/15(月) 00:00〜2012/10/16(火) 24:00
※品評会に参加した方は、出来る限り投票するよう心がけましょう※
363 : ◆Mulb7NIk.Q [sage]:2012/09/27(木) 23:09:55.61 ID:gzfNRF/x0
>>339あたりの流れで三週間のほうがいいのかなあ、なんて思ったんです
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/28(金) 06:07:19.52 ID:cXqjn2cAO
まあ少しずつ色々と試してみるのもいいさな
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/30(日) 02:02:51.96 ID:N6nN7MLE0
お題くれ
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/30(日) 02:03:40.65 ID:xDDV4OG/o
時計塔
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/09/30(日) 08:00:05.75 ID:2DMP0oEYo
お題ください
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/30(日) 09:05:19.34 ID:z5cVhuuAO
>>367
狼男
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/30(日) 11:19:44.85 ID:+Q9kvHUIO
さんくす
370 : ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/01(月) 15:00:58.75 ID:lxHdD5W7o
狼男書いてみた。
けど、よく考えたら狼男とあまり関係ないかも。

まぁ、狼男から着想を得たということで許してください。
371 :フェンリル (1/5) ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/01(月) 15:02:00.75 ID:lxHdD5W7o
 フェンリルが眠るのは、深い深い洞穴の最深部にある部屋の中だ。
 そこに至る道程はとても狭く長く、一日以上這いでいかなければ辿り着けない。光は
当然とどかず、日から見捨てられた土達が、通り抜けようとする者の体温を奪っていく。
しかも緩やかな下りになっているので、一度入れば途中で引き返すのは不可能であり、
馬鹿か余程の物好きでなければ決して近寄ろうとはしない場所だった。
 だからフェンリルは、そこで好きに眠ることができた。

 最初に人間が訪れたのは、フェンリルがそこに住みだしてから少なくとも一億年以上
経ったあとのことだった。地に伏せていたフェンリルの耳に、からから、という音が聞
こえてきた。からから、からから。最初はその音の正体が全く分からなかった。何しろ、
フェンリルはあらゆる音を、時が忘れるほどずっと聞いてなかったのだ。むしろ、まだ
自分が音を認識できることに驚きを感じていた。
 からから。からから。
 その音は、フェンリルが眠る場所から少し離れたところにある穴から聞こえてくるよ
うだった。ほどなくして、砂や小石が落ちる音だとフェンリルは認識する。そして、穴
からヌッと人間の手が現れた。続いて頭、胴体が転がり込んでくる。フェンリルの前に、
ひとりの男の体が投げ出された。
 その男は、うっ、うっ、と呻き声をあげている。フェンリルは驚いた。人間がこんな
ところにまで来るのは不可能だと思っていたからだ。そもそも、それがフェンリルがそこ
で寝ている理由である。だからフェンリルは、目の前の鼻先程度でしかない男に興味を持
ち、話しかけることにした。
(おい)
 ひっ、と男が声をあげる。
(人間如きがよくここまでこれたものだ。何をしに来た)
 フェンリルは男の脳に直接語りかけた。難しいことではない。フェンリルにとっては、
話すより簡単なことだ。
(お前は俺に会いに来たのか。それとも別の理由か)
「あっ、あっ……」
(おい)
 フェンリルは根気良く話し掛けたが、要領を得ない。仕方なく、フェンリルはその男を
372 :フェンリル (2/5) ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/01(月) 15:02:31.71 ID:lxHdD5W7o
喰うことにした。

 次に人間がフェンリルの前に現れたのは、それから百年後のことだ。
 からから、からから、という音が穴から聞こえてきた。たった百年前のことなので、
フェンリルは「またか」と顔を上げる。しかし前回とは違うところがあった。明らかに、
複数の音が混在していた。そして、ぼんやりとした淡い光が穴から漏れ出している。
 光がこちら側に向いたとき、フェンリルはギャアッ、と叫び声を上げた。気が遠くなる
ほど昔から地上に出ていないフェンリルにとって、その光は強すぎたのだ。焼けるような
目を抑えて悶絶する。彼が寝返りを打つたびに、洞窟が地震のように揺れた。
「うぉ、なんだこりゃー!」
「バケモンじゃないですか! 大スクープですよ二村さん!」
 ふたりの男が、宝物を見つけたように叫んでいた。頭の辺りから眩い光を放っている。
「おい小竹! 見ているか! 俺すごいもん見つけちゃったよ!」
「ここもう通信届きませんよ!」
「マジかよ! 知ってたけど!」
 この洞窟を進んできたとは思えない、常識外の騒ぎ様であった。しかしフェンリルとし
てはそれどころではない。まずはこの光に慣れなくてはならないのだ。
 フェンリルは腕で光を遮りつつ、目を開ける。
「おい、やばいぞ根本! 睨まれちゃってるよ!」
「ちょっと押さないでくださいよ!」
「なんとかしろよ!」
「無茶言わないで!」
 ふたりで押し合いをしている。そのおかげでフェンリルへと向けられる光量が減った。
だからフェンリルは、ようやくまともにふたりのことを観察することができた。見たこと
もない服に身を包んで、見たこともない装備を身につけている。いや、時代が変われば
それらが変わるのは当たり前なのだが、それにしてもこんなにも簡単にここまで来れる
ものなのか。百年前も驚いたのは驚いたが、今回のふたりはその比ではない。おそらく、
装備が優秀なのだろう。頭に付けたライトはもちろん、背負っているナップサックのなか
にも色々入っているようだ。明らかに、何らかの目的があってここに来ている。
(おい)
373 :フェンリル (3/5) ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/01(月) 15:03:17.14 ID:lxHdD5W7o
 フェンリルはそのふたりに語りかけることにした。
「なんだ?」
「おい根本、お前なんか言ったか」
「言ってませんよ何も!」
「嘘つけ! いまオイッて言ったろ!」
 ふたりは脳に言葉が届いたのは分かったが、それがフェンリルが発したものだとは分か
らなかったようだ。まだ言い争いをしている。しかしそれはフェンリルからしてみたら、
ふざけているように見えた。何なのだ、一体この者たちは何なのだ。
(いい加減にしろ)
 フェンリルは少し苛立ったように言葉を送った。
「……! おいっ……」
「……ええ、俺も聞こえました。二村さんの声じゃないですね……」
「バカ、当たり前だろ!」
「ということはつまり……」
 ふたりが見あったまま、恐る恐る顔を上げた。
(ようやく気がついたか)
 フン、とフェンリルが鼻を鳴らす。風圧がふたりを襲った。
「「ギャアーッ!」」
「ギャアーッ!」
 ふたりが叫び声を上げた。光を向けられたフェンリルも叫び声を上げた。フェンリルが
暴れたので、また地震のような振動が起きて、パラパラと砂が天井から落ちた。ひとりが
腰を抜かしたように倒れたが、誰にとってもそんなことは重要ではない。
「こいつ化けてんのかぁっ?!」
「に、二村さん! そいつライト浴びて苦しんでるみたいですよ!」
「オイッ、マジじゃねーか! オラッ、もっとくらえ!」
 ひとりの男が勇敢にも、自分の体ほどもあるフェンリルの瞳の前に立ち光を浴びせる。
効果覿面であり、フェンリルは思わず身を縮ませた。だが男は逃がすまいと、さらに近く
へと踏み込む。怒ったフェンリルは腕を横薙ぎに払う。それだけで洞窟は静かになった。

 それから暫くは、頻繁に人間が訪れるようになった。多種多様な人間がいた。さきの
374 :フェンリル (4/5) ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/01(月) 15:03:55.34 ID:lxHdD5W7o
ふたりのような馬鹿な人間、明らかに自分を殺しにきた人間……取り分け驚いたのは、
フェンリルを救済者か何かだと思って会いにきた男がいたことだ。この洞窟に入った者は
誰一人として帰らない。それは天国に送られたということであり、自分も同じように天国
に送り込んでもらいたい。意味が分からないが、フェンリルは望み通りその男を食い殺す
ことにした。食われている最中に男が浮かべていた恍惚な表情は、今でもフェンリルの
脳裏に深く焼き付いている。
 他の場所を探すか。フェンリルがそう思い始めた頃、人間の来訪はぴたりと止んだ。
あまりにも突然に止んだので、これは何か企んでいるか、とフェンリルは警戒した。
しかし何十年経っても、何百年経っても何も起こらない。フェンリルは、少し時間の経ち
が遅いと感じた。しかし一万年経った頃にはそのような感覚もなくなり、再び前のように
深い眠りについた。

 ……からから、からから。
 最初、フェンリルは耳を疑った。まさかもう来ないだろうと思っていたのだ。フェンリ
ルですら、あれから何年経ったのかわからない。今更この俺に何の用があるのか。フェン
リルは重たい腰を上げた。どんなやつが来たのかはっきり見てやろうと思ったのだ。それ
にこの音は今までで最も静かで、力強い。ヌッと手が突き出た。次に頭、そして胴体、足。
その者は裸だった。そして今まででの誰よりもスムーズに、するすると立ち上がった。
 ……女?
 フェンリルは驚きを隠せなかった。女がここに来たのは初めてだ。それに心身ともに鍛
えている女ならまだしも、この女はまるで触れれば折れてしまいそうな体をしている。何
なのだこいつは。人間なのか?
 フェンリルは脳に直接語りかけようとした。しかし不可能だった。そこに語りかけるべ
き脳が存在しないのだ。脳がないというのはあり得ないことだった。この目の前の女が、
脳を持たない下等生物なんてことはあり得ない。
「あなたを、探しておりました」
 微笑みながら女は言った。
 フェンリルと女は、口頭でやり取りを行うようになった。両者とも異なる言語を使った
ので最初は手間取ったが、やがて時間が問題を解決した。すなわち二人は二人だけのコミ
ニュケーション方法を確立し、普通の言語を使うよりも一層密なやりとりを可能にした。
375 :フェンリル (5/5) ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/01(月) 15:04:31.95 ID:lxHdD5W7o
 女は人間ではなかった。アンドロイドという、人を模した機械らしい。フェンリルは
やれやれと大きく溜息をついた。
「人間とは、またよく分からぬものを作るのだな」
「私の名前はアール・イー・セブン。レナと呼ばれていました」
 そしてフェンリルとレナは、いろいろなことを話し込んだ。ふたりには、あらゆる生命
体からすれば無限にも等しい時間があった。そんな長い時間を一緒に過ごしたので、自分
の昔話をするぐらいにはフェンリルも心を開いた。自分は神の子供として生まれたこと。
その狼の体から神々にも恐れられ、特殊な道具で拘束されたり監禁されたりしたこと。
信じていた者に裏切られ、その腕を食い千切ったこと。レナはそれを聞くと、とても悲し
い顔をした。別に何の感情も持ってもらいたいわけではない、とフェンリルは言う。
 そしてそれからも永遠に近い時間が過ぎた。あまりにも長いので、フェンリルでさえも、
いつまでもこれが続くのであろうと錯覚した。しかしそうはならなかった。あるとき、
レナの体に寿命がきたのだ。
 レナはノイズ混じりの声で言った。私は貴方と会えて幸せだった。貴方は途方もない
時間をひとりで過ごしてきたと言ったけれど、私はそんなこと耐えられそうになかった。
死のうとしても自己修復機能が働いて、死ぬことができなかった。だから貴方と出会えて、
こうしてひとりにならず死ねるのは、本当に幸せだった。
 そしてレナは完全に活動を停止し、ただのモノとなった。そして時間はそれからも進
んだ。フェンリルは再び永遠にも近い時間をひとりで過ごさねばならなかった。

「……ようやくか」
 フェンリルは再び目を覚ました。レナの体が完全に風化するほどの恐ろしく長い時間が
経っていた。世界が赤に包まれている。スルトの火だ。長かった世界がようやく終わりを
告げようとしている。
 フェンリルは、この世界では何もしないはずであった。この世界ではなく次の世界から
も、何もする気はなかった。しかしフェンリルは何もしないことはできなかったし、次の
世界でも結局何かをしてしまうという予感がある。
 フェンリルは首を上げ、天井を見つめる。しばらく考え込んだ後、再び首を下ろした。
 次の世界では何かをやってやってもいいかもしれない。しかし人間が生まれるまでには
また膨大な時間がかかるだろう。そのときまでフェンリルは眠ることにした。(完)
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/02(火) 07:16:16.92 ID:OngWi3HIO
まだまだ書きたい

お題ください
377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/10/02(火) 07:46:11.89 ID:GM8QCxxQo
>>376
議論
378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/10/02(火) 07:49:13.08 ID:y54U1DeAO
感想は待ってくれ

>>376
コインロッカー
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/02(火) 07:59:25.18 ID:OngWi3HIO
>>377
>>378

お題ありがとうです

一つずつ書くか合わせて書くか、これから考えてみるです。

感想も待ってます。

コインロッカーっていうと、どうしてもコインロッカーベイビーズしか思いつかない(まだ読み切ってないけど)
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/10/02(火) 11:38:05.51 ID:y54U1DeAO
俺はアヒルと鴨のコインロッカーが浮かぶ
映画の方もいい
381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/10/02(火) 14:44:08.18 ID:TD6grvzg0
あれはむしろ映画の方がいいという稀有な例な気が
382 : ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/03(水) 01:03:57.45 ID:D0lHGUsuo
また書いてしまいました。今度はコインロッカーです。

前のよりはスラスラかけたけど、読み返してみるとスラスラかけすぎたような気がする。
他人の目から見てどうなのか、感想が欲しいです。

なお「議論」も意識したオチにしたのだけど、これは少し弱いかな? と思ったので、
「議論」については別の機会に書いてみたいと思います。
383 :僕が悪いのか?(お題:コインロッカー) 1/5 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/03(水) 01:04:48.18 ID:D0lHGUsuo
 腹が立っていたので、コインロッカーを全て占有してやることにした。
 空いている駅のロッカー全てにコインを入れた。抜き取った鍵は全てリュックのなかに
放り込んでいる。
 いくつかのロッカーは使用中だったので、ロッカーをずっと監視して、それが空くたび
にコインを入れて鍵を抜き取ってやった。こうして午後までには一つのロッカーを除き、
全てのロッカーを占有することに成功した。
 こうして一仕事を終えた僕は、吉野家で牛鍋丼を食べることにした。たった二百八十円
の昼ご飯。

 昼食後にロッカールームに向かっている途中、突然ガシャンという音がした。僕はビク
ついたが、それはロッカールームのほうから鳴っていたので、恐怖心と好奇心がひしめき
合うような感情を胸に秘めて、こっそりと物陰から様子を眺めることにした。
 ロッカーを蹴っていたのは、真っ黒なスーツに身を包んでいた男だった。背は高く、
恐らく百八十はある。髪は金髪で逆立っていて、目つきはすこぶる悪い。学校で他人を
貶めて生きてきたタイプだ、と僕は思った。
 その男だが、左手に皮のバッグを抱えながら、もう三発ぐらいロッカーを蹴っている。
蹴られたロッカーの扉は多少ヘコんでいるが、そう簡単には壊れなさそうだ。そもそも
扉が壊れたロッカーなんて、あったとしても意味がないだろう。そういう意味では、この
男はそうとう頭に血が昇っているのではないか。
 慌てて遠くから駅員が駆けつけてきた。
 お客様、おやめください。うるせぇ、なんで全部のロッカーが閉まってんだよ! 利用
者数が多い駅ですから…… そんなこと聞いてるんじゃねえ!
 男が駅員を殴った。駅員が顔面を抑え地面に倒れこむ。男は「しまった」という顔を
した。辺りを見回すが、何故か逃げようとしない。明らかに両手がブルブルと震えだし、
顔が青白くなった。それを見て僕は、この男は薬でもヤッてんじゃないかと思った。
 ほどなく警官が駆けつける。男はそうとう暴れたのだけど、警官はまるでドラマみたい
に簡単に取り押さえてしまった。男がしょっ引かれる様は、まるで嵐が去っていくよう
だった。あまりにも激しすぎて、一体何があったのかよくわからない。男とともに押収
されていったあのバッグには何かしらヤバいものが入っていたのだろうけど。
 正直言って僕はヘコんだ。駅員も傷つけてしまったし、あんなに大層なことをしようと
384 :僕が悪いのか?(お題:コインロッカー) 2/5 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/03(水) 01:05:58.15 ID:D0lHGUsuo
思ったんじゃないんだ。もうやめてしまおうかと思ったけど、それは流石に勿体無い気が
した。だって僕がコインロッカーに投入した金額の総計は軽く一万円を超えているのだ。
そんなに使うなんて馬鹿みたいだけど、やってしまったものは仕方ない。だからもう少し
続けよう。
 僕は物陰に隠れたり、携帯ゲーム機でゲームするふりをしたりして、しばらく観察を
続けることにした。観察を続けていて驚くのが、コインロッカーを利用するひとが結構
多いということだ。ビジネスバッグ、スーツケース、着替え終わった服……貴重品かそう
でないかに関わらず、なんでもかんでもポンポンと預けようとする。僕自身は駅のコイン
ロッカーなんて利用したことがないのだが、そんなに信頼性が高いものなのか。僕が勤め
ている会社では、こういうところでは預けてはいけない例として新人教育で真っ先に挙げ
られていたはずだけど。僕はコインロッカーを占有することで、逆にセキュリティ事故を
減らす人助けをしているんじゃないかという気になってきた。コインロッカーを使えない
ときの反応も多種多様なのだが、意外にみんな短気だということが分かった。舌打ちする
人はともかく、ロッカーを一発引っ叩いていく人がたくさんいる。ロッカーにヘコミは残
らないので後からでは気がつかないのだが、悲しい顔をして去っていくだけの人が一種の
清涼剤のように思える。
 午後三時頃にひとりの女の子がコインロッカーを訪れた。スーツを着ているというより
は着られている感じだから、新社会人なのだろう。その女の子は大きく膨らんだ鞄を二つ
持っていた。明らかに詰め込みすぎなのだが、この情報化社会に一体なんでそんなものを
持ち運ぶ必要があるのか。半面、そんなものを持ち運ぶ女の子の顔は初々しかった。田舎
から都会に初めて出てくるような初々しさだ。そんな彼女は幾つもあるロッカーを見回って、
空いているロッカーがないことにようやく気づいたようだった。
 顔面蒼白になる女の子を見て、僕は「ダメだよ」と心のなかで忠告する。彼女は田舎
から来たのかどうか知らないけど、とにかくこの都会に初めてやって来た。せっかく来た
のだから、仕事帰りにここを満喫してやろうと思ったのだろう。そういう気持ちは、自分
もかつてそうだったからよくわかる。だからといって、その手に持っているものをコイン
ロッカーに入れるのはどうだろう。大切なものであるはずだ。でなければ、そんなにカバ
ンをパンパンにして運ぶ理由がない。ここは諦めて帰るのが筋だろう。そうしたほうが回
り回って本人のためにもなる。しかし女の子は諦め切れないようだった。しきりに「なん
で?」と呟き、終いには地べたに座り込んで泣いてしまう。
385 :僕が悪いのか?(お題:コインロッカー) 3/5 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/03(水) 01:07:14.53 ID:D0lHGUsuo
 とても見ていられない光景だった。僕は迷った。迷ったけど、一つだけロッカーを開け
てやることにした。いま来た風を装ってリュックから鍵を取り出し、女の子から数歩離れ
た位置のロッカーを解錠する。女の子がこちらを向くことを予想していたので、開いた扉
に隠れて何かを取り出す演技をしてやった。そして何も知らないようにその場を去り、素
早く物陰に隠れて女の子の様子を見守る。そのときの女の子の変化は見ものだった。まる
で天地が目の前で割れたかのように、探しても見つからなかったものが突然目の前に現れ
たかのように(事実そうなのだが)、女の子の表情は劇的に変わっていった。信じられな
い面持ちで空いたロッカーに向かい、大慌てで荷物を入れる。ロッカーを閉めコインを入
れて鍵を掛けると、ようやく自分がロッカーを手に入れたことを実感したようだった。涙
を堪えるように強く目を瞑ると、大空に飛び立つように外へと駆け出していった。
 僕はかなり興奮していた。僕の一存で赤の他人の未来を左右できるなんて。まるで神様
みたいだ。結局彼女が大事な荷物をロッカーに置いていったのが気がかりだが、まあその
ときはそのときだろう。僕が帰るまでは見張ってやらないでもない。
 それから僕は少し神様ごっこを楽しもうとしたのだが、全く楽しくなかった。鍵を開け
てやろうと思える人物がなかなかいないのだ。例えば高校生くらいの集団がやってきたの
だが、ロッカーが開いていないことを知るなり「マジだるいんだけど」とか「ウゼー、誰
か余分に使ってんじゃないの?」とか悪態をつく。そんなことでは開ける気も失せるとい
うものだ。また、一度綺麗なひとがいたので鍵を開けてやったのだけど、そのひとは鍵が
開いたのを見るとハァッと溜息をつき、心底怠そうにロッカーに物を預けていった。先の
女の子のような反応はできないものだろうか。
 結局何も面白いことがないまま日が暮れた。女の子が帰ってくるのを待っていたが、
もう夜遅いのに帰ってこないし、今日はもうこのまま帰ろうと思った。問題はリュックに
入れたままの無数の鍵をどうするかだが、流石にこのまま持って帰るのは不味い気がする。
元に戻すには最初にやったことと逆のことをやればいいだけだが、やるときと違ってテン
ションが上がらないものだ。何ともならないと思いつつ、もう少し考えてみる。
 ふと、僕は人がやってくる気配を感じた。僕は冷静に物陰に隠れる。そういう技術は
今日一日で身についてしまった。ひっそりと息を潜め、人がやってくるのを待つ。
 まもなく、その人は現れた。背が高い女のひとで、身なりが乱れ、やけにコソコソして
いる。腹のあたりに何か隠しているみたいだが、布に覆われていて見えない。しかし僕は
その様子を見ていて、何かしらを確信していた。ボサボサの髪、やつれたような姿。こう
386 :僕が悪いのか?(お題:コインロッカー) 4/5 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/03(水) 01:08:20.29 ID:D0lHGUsuo
いう予感は経験上、よく当たる。
 僕はその女のひとの一挙一動を注意深く見つめた。間違いなく今日一番の集中力だった。
そしてそのひとが焦るように身を翻したとき、僕の目はついに確固たるものを捉えた。
 赤ん坊だ。赤ん坊をロッカーに捨てようとしているのだ。
 そのとき、僕の心に強い使命感のようなものが湧き上がった。そのような行為は絶対に
許せないという思い。僕はその女のひとを睨んだ。一体どんなことがあろうと、絶対に
ロッカーは開けない!
 僕と女のひとの持久戦は続いた。女のひとは最早焦りの色を隠さないが、全く諦めよう
としない。僕の思いは時を経るごとに段々と強くなっていく。どんなに待ったって絶対に
開くことはないのだ。何故ならば、僕が全ての鍵を所有しているのだから。
 そのとき、カチャリ、という音がした。
 僕と女のひとは恐らく同時に同じ方向を向いた。僕の目に映ったのは、帽子を被った白
髪交じりの老人の姿。何故開けられるんだ?! そのとき僕は思い出す。午前中、ひとつ
だけ占有できないロッカーがあった。あのロッカーだ!
 僕は焦った。まさか僕以外の手でロッカーが開けられるなんて想像もしてなかった。
しかも老人はロッカーの使用を終えてしまい、僕よりも近くに女の人がいる。女の人が唾
をゴクリと呑み込んだ。もう何かを考える時間は僕に残されていない――
 女のひとが空いたロッカーに向かった。それと同時に僕は走った。もう僕は空いた
ロッカーさえ占有できれば何でもいいと思った。だから僕は女のひとがたどり着く前に
ロッカーを開けると、リュックを乱暴に放り込み鍵を掛けてしまった。これで僕は全て
のロッカーを占有した。僕はロッカーを背にして地べたに座り込む。
 やってやったのだ、という実感が僕の心に強く湧き上がった。一言で言えば射精した
気分だった。全知全能の感覚が全身を駆け巡るのを、僕ははっきりと感じることができた
のだ。
 次の瞬間、僕の前に巨大な物体が飛んできた。それは僕の前を勢いよく跳ね、向こうの
ほうへと転がっていった。最後に壁に激突したそれは首が折れているように見えた。首だ
けじゃなく、他のいろいろな部分も壊れていたかもしれない。正確なことは僕にはわから
なかった。何故なら全てが判明するまでに、僕は逃げ出していたからだ。

 その後しばらくは飯が喉を通らなかった。ニュースを意図的に見なかったので、あれか
387 :僕が悪いのか?(お題:コインロッカー) 5/5 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/03(水) 01:09:07.90 ID:D0lHGUsuo
ら一体どうなったのかは僕には分からない。ただ、僕はリュックをそのままにしてあの場
を去ったのだが、いまだに僕のところには何の連絡も来ていない。
 いま思えば、あの赤ん坊は最初から死んでいたのかもしれない。何故なら全く泣いてい
なかったから。もし生きていたとしても、それは僕が悪いのか?
(完)
388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/10/03(水) 20:07:30.03 ID:BYpp/uMAO
>>371
読みました
絵本のような、神話のようなお話で詰まるところもなくすらすら読める分、明日には忘れてるだろうなという印象
もう少し、それこそ「何か」が欲しかった
それが狙いだとしたらごめんなさい

でもやっぱり締めの部分だけはアクセントがほしいのと
>フェンリルは、この世界では何もしないはずであった。この世界ではなく次の〜

この箇所から始まる「何か」「何も」の多用が少し駆け足で書いちゃったかなあと
もう少し丁寧に、もう少し表現描写を豊かにしてくれたら良かったです
もう少しもう少し、というお返しを
お題消化ありがとう
389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/10/03(水) 20:53:30.73 ID:BYpp/uMAO
>>383
面白かった
コインロッカーは結構話を展開し易いお題かなと思って期待してたんだけど、その通りになって嬉しい

気になったのは
コインロッカー占有に至る動機付けが弱くて戸惑う
比喩がややもったりする(自分もすらすら書けてる時はついくどくなる)
「僕」「僕」「僕」…

>明らかに両手がブルブルと震えだし、
顔が青白くなった。それを見て僕は、この男は薬でもヤッてんじゃないかと思った。
> ほどなく警官が駆けつける。男はそうとう暴れたのだけど、警官はまるでドラマみたい
>に簡単に取り押さえてしまった。男がしょっ引かれる様は、まるで嵐が去っていくよう
>だった。あまりにも激しすぎて、一体何があったのかよくわからない。

結構きちんと観察してる割に激しすぎて何があったのか分からんとはこれ如何に
簡単に取り押さえ〜の後に激しすぎて、で片付けちゃうと妙な気持ち悪さも残るかな
利用客もそれなりみたいだし野次馬もいるだろうし、占有もやりづらくなったんじゃないかな…

等々言いたいことはあるけど
占有にはまっていくきっかけが上手く描けてたと思いました
後味の悪さも中々
投下ありがとう
390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/03(水) 21:41:13.37 ID:IlDZp41IO
>>388
>>389

おお、感想ありがとうございます。

いやー、鋭いですね……
書いている途中に気になっていた部分をうまく突いているというか……

そういうのは書き終わったらすぐに忘れてしまうので、指摘してもらえるのは嬉しいです。

ちなみに「あまりにも激しすぎて〜」というのは、ちょっと主人公におちゃらけた感じを出したくて書きました。
391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/03(水) 21:47:37.26 ID:IlDZp41IO
すいません、途中で送信してしまいました。

表現描写の乏しさは日頃からの課題なんですが、語彙の貧弱さとあいまって中々改善されないですね……

もっと丁寧に、を気をつけたいと思います。
392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/10/04(木) 00:10:28.00 ID:0eJsqSwP0
お題ください
393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/04(木) 00:21:27.03 ID:EUqEg55Bo
>>392
夜更かし
394 :月の中で夜更かしをするウサギ(お題:夜更かし) 1/9 [saga]:2012/10/05(金) 01:01:56.71 ID:GpONeLYT0
 月のウサギが寂しさで死んでしまった妄想をしながら、僕はベッドに入って眠っているふりを続けていた。もちろん時々ママが僕の部屋のドアを音もなくそっと開け、僕が夜更かしをしないできちんと眠っているかどうかを確認しにくるのだけれど、結局はそれを三回ほどやり過ごせばママは自室にこもって好きな本を読み始め、しかし密やかにやって来る眠気に抗えず、すぐにぐっすりと寝てしまうから、僕はその後で好きなだけ夜更かしが出来ることになる。そうしてこの長い夜は僕の物となり、暗くてさみしくて、しかしながら物凄く孤高で美しい夜を、僕は独りで思う存分過ごすことが出来るんだ。

 僕が夜更かしを始めたのはつい最近の事で、僕の親友である恭助が結成した夜更かしの会(もちろん一か月前の結成時では僕と恭助の二人しかメンバーが居なかったわけだけれど)に入ったことが主な理由だった。
 恭助が言うには、この夜更かしの会と言うのは全くその名の通り、夜更かしをすることが活動内容としてあって、街も木々も太陽も、風も吹かない海でさえも眠りついてしまった午前零時に、二人でこっそり携帯電話で連絡を取り合い、お互いが夜に感じた事、妄想したこと、悩んでいる事、夜に見える風景など、とにかくその密やかな夜に生まれた想いを語り合い、先に眠ってしまった方が負けというルールを作って運営されている。もちろん負けた方は罰ゲームとして、次の日の給食の好きな品を半分あげるという、まぁなんとも可愛らしいものなのだけれど、しかしながら夜更かしの会に入り、実際に大人たちに内緒で夜更かしをしてみたりすると、とても悪いことをしているような、けれども世界中で誰も知らない秘密を密かに知ってしまったような、そんな鳥肌が立つような不思議な気持ちになって、なんだかとても心が浮き浮きとしてしまうのだった。
395 :月の中で夜更かしをするウサギ(お題:夜更かし) 2/9 [saga]:2012/10/05(金) 01:03:01.70 ID:GpONeLYT0
 今宵も僕はママの目を盗んで夜更かしをすることにした。昨日は負けてしまって、恭助に僕の大好物であるエビフライを一本渡すことになってしまったけれど、今日こそはちゃんと起き続けて、僕が夜に感じた素晴らしいことを語りつくしてやろうと思う。そうだ、言い忘れていたけれど、この夜更かしの会は今日で結成一か月となって、新たにメンバーが二人入ることになった。その二人とは何を隠そう、あのとっても可愛らしい瀬里亜さんと由希乃さんのことなんだけれど、何故二人がこの夜更かしの会に入ったかと言えば、男二人で夜にこそこそ話しているのも楽しいけれどなんか空しいなあと言うことになり、それだったらお互いの好きな人を、夜更かしの会に誘ってみたらどうかと恭助が言い始め、それからお互い探り探りで好きな子の名前を聴きだし始め、お互いの好意を抱く人物が分かったところで、じゃあ俺が明日誘ってみるよと恭助が言い出したのだった。そもそも恭助はとてもお喋りで人柄もよく、クラスではほとんどの人物から慕われていた。おまけにルックスもよかったので、恭助が誘えば大抵の女の子たちは、首を縦に振って熱っぽい視線を送るか、俯いて顔を真っ赤に染めながらもじもじすることになる。しかしよくよく考えれば、なんでそんなクラスの人気者が、親友という学校生活でとても大切なパートナーとして僕を選んだのかが謎なのだけれど(自慢じゃないけれど、僕はとっても口下手で、外見もうんざりするほど地味で、女の子と目を合わすことも苦手で、勉強だって国語の本を読むことぐらいしか興味を持てない駄目な子なんだけれど)、恭助は僕のことをとても気に入ってくれて、いつも僕と話をしてくれるようになった。恭助は、僕が作った夜を題材にした物語がとても好きなんだそうだ。それを熱心に聞いてくれて、続きは? 早く! と僕のその拙い物語をいつだってせがんでくれたんだ。
396 :月の中で夜更かしをするウサギ(お題:夜更かし) 3/9 [saga]:2012/10/05(金) 01:04:03.66 ID:GpONeLYT0

そう、話が脇道に逸れてしまったけれど、つまり今日から、瀬里亜さんと由希乃さんが夜更かしの会のメンバーとして、僕らと会話してくれることになるのだ。その柔らかい声を僕の耳に届けてくれ、皆が夢の中にいる間に、僕らは好きな子とナイショの会話をすることが出来るのだ。
ちなみに僕の好きな子と言うのは、先程から名前が出ているうちの片方、小粥瀬里亜(こがゆせりあ)さんのことなんだけれど、そもそも僕が何を以て瀬里亜さんのことを好きになってしまったのかと言えば、それは入学式の日に同じクラスにいた彼女の後姿を見て、単純に、しかし何者にも覆せないぐらい強く確実に、彼女に一目惚れをしてしまったというわけなのだ。
瀬里亜さんはとても凛としていて、清楚で、儚げな後姿をしていた。それはまるで僕たちが大好きな夜のように寂しく、とても美しかった。僕は稲妻に撃たれたかのような啓示のごとく、その後ろ姿に恋をした。それから毎日、僕は瀬里亜さんのことを観察し続けた。とても柔らかな微笑み、少し掠れた高い声、大きな瞳の向く先、雪のように真っ白な肌。そして僕はいつしか夜更かしをしながら、彼女のことを想像するようになった。彼女が僕と話してくれる妄想。一緒に手をつなぐ妄想。誰もいない放課後の教室で、世界を真っ赤に染め上げる黄昏の夕日が撒き散らされた中、僕たちは風に揺れるカーテンに撫でられる窓越しに立っている。僕ら二人は見つめ合っている。彼女の長いスカートが揺れて、世界が彼女のスカートの中に呑み込まれていく。艶やかな黒い髪が輝きながらなびく。そして彼女はゆっくりと目を閉じて、両手を後ろに組み、その柔らかい薄桃色の唇を、僕に向かってゆっくりと、震えるような仕草で突き出す。まるで鳥の雛が、餌をねだるように可愛らしく、愛らしい姿を僕に曝け出している。そして僕はその美しい夕景の中で、そっと彼女の唇に自らの唇を合わせる。彼女の儚い息遣いが僕の鼻孔をくすぐっている。彼女の髪が敏感になった僕の肌を撫でる。僕は彼女の背に手を回す。彼女の体が少し強張り、切なげな息が漏れる。
そんな妄想から始まって、どんどん発展していき、しかしそれでもいざ頭の中で彼女の純潔を汚そうとすると、何故だか興奮できずに、エッチなことがどうしてもできなくなってしまい、そもそも自分の中で神聖化された彼女にいやらしいことなんかできるはずも無くて、僕は悶々としてしまい、結局、クラスの中でもスタイルが良くて、胸が発育してて、ちょっとエッチな女の子のことを考えながら、僕は自分の欲望をごまかしてしまうのだ。そうして自己嫌悪に陥って、僕は悲しくなり、途端にこの夜が汚らわしいものになってしまったような気がして、僕は最悪な気分で眠ってしまう。
397 :月の中で夜更かしをするウサギ(お題:夜更かし) 4/9 [saga]:2012/10/05(金) 01:04:49.75 ID:GpONeLYT0

そうやって夜更かしをしながら一人で、僕は美しい瀬里亜さんのことを考え続け、彼女に向けてのピュアな愛を育み続けていた。もちろん僕は瀬里亜さんと会話をしたことなんて、ほとんどなかった。会話と言ったってそれすらも事務的な会話に過ぎないのだけれど。だから今日、恭助から、午前零時に瀬里亜がお前の家に電話を掛けると思うから、精一杯頑張るんだぞ、とにかく会話を途切れさせないようにするんだ。いいか? この夜更かしは全て、お前のためにあると思うんだ。世界中が、この夜でさえもが、お前と瀬里亜の会話のために存在していて、この夜更かしだけがお前の愛を成就させえるたった一つの方法だと思うんだ、だから俺はお前のことを応援しているし、夜更かしの会だって本当のことを言えば、お前と瀬里亜をどうにかして話させてあげたいと思ったから始めた事なんだ。
放課後に恭助からその言葉を聞いた時に、僕は不覚にもちょっと涙を零しながら、本当に恭助は神様なんじゃないかみたいに、思ったりもしたんだ。
 ようやく今日の夜更かしで、僕は瀬里亜さんと話をすることが出来る。こんなに夜更かしが楽しみだったことは今まで一度として会っただろうか? 彼女は何を話してくれるだろう。そして僕は何を話すべきなんだろう。そもそも本当に彼女は僕なんかに電話をくれるんだろうか。そうやって色々と考えたら、急に不安になって、僕は再び月で死んでしまったウサギのことを考えるようにした。
 そうして僕は不安と期待が大いに入り混じったなんと見えない気持ちで、眠ったふりをしながら午前零時を待ち続けた。しかし、ようやく午前零時となったところで僕のまーm−度にされた携帯電話が鳴り出すことはなかった。まぁ、正直期待しすぎたのかもしれないし、そもそもあんな綺麗な子が僕なんかに電話をかけてくれるはずもないじゃないか。そう思いながらも、しかし僕は待ち続けた。夜更かしを続け、既に午前零時を三十分ほど過ぎてしまった。もう寝てしまおうか。そう思ったところに、突然携帯電話が震え出した。待ち受け画面に表示されたのは、僕の知らない番号からだった、僕は高鳴る鼓動を感じながら、手に大量の汗をかきながら、震える手で、着信のボタンを押した。
「……もしもし、藤村君ですか?」
 その高く掠れた声は、まさしく瀬里亜さんのそれだった。僕がこっそり聞き続けた、そして妄想の中で再生し続けた、天使のような声。それが今、夜更かしをし続けた僕の元に、確かに届けられているのだ。
「あ……うん。ふ、藤村……です。えと、あー、こ、小粥さん、だよね? もしかし、て、恭助から聞いて、電話してくれたのかな……?」
 僕は何とか声が震えないように(しかしながら、もちろん震えていたうえに噛みまくってしまったんだけれど)小粥さんの居る空間へと、自らの声を送った。
「うん、そうです。こうやって藤村君とさ、会話するのってなんだか初めてだよね。えっと、なに話そうか?」
398 :月の中で夜更かしをするウサギ(お題:夜更かし) 5/9 [saga]:2012/10/05(金) 01:05:24.52 ID:GpONeLYT0


 瀬里亜さんの柔い声が耳に入る度、僕の体はぞくぞくとして、鳥肌が立って、そして幸せな気持ちでいっぱいになった。そうして僕らはお互いのことを語り合った。初めはぎこちなかったけれど、三十分ぐらい経った後では、なんとか会話らしい会話をすることが出来た。それも瀬里亜さんがリードしてくれたからなんだけれど、とにかく瀬里亜さんと会話できただけでも僕は最高に嬉しかったんだ。もしかしたらこのまま仲良くなって付き合えるんじゃないか。妄想のような、素晴らしい行為が出来るんじゃないか。彼女との夜更かしで愛を育んで、僕と彼女はやがて結婚して、素晴らしい家庭を作れるんじゃないか。僕の頭はもうどんどん好き勝手に妄想して、止まらなかった、だってあの憧れ続けた瀬里亜さんと、今会話が出来るなんて夢みたいだ。好きな子とヒソヒソ声でくすぐったい会話が出来るなんて、僕は宇宙一の幸せ者だ。
そう。それは、まず間違いなく幸せだった。
百パーセントと言っていいほどの完璧な幸せだった。
いや、むしろ、幸せすぎた。
仕組まれているぐらいにね。
そもそもそんなすべてが上手くいって、幸せすぎるなんて事が、少なくとも僕みたいな地味なダメ男に、あるはずがなかったんだ。だから僕はもっと疑うべきだった。他人を。周りを。そのお膳立てされた計画を。
僕はまだこの時知らなかったんだ。全ては巧妙に仕組まれていて、僕だけがドッキリに嵌っていたということに。全てが僕を傷つけるためだけに仕組まれていたということに。
僕はその日から、瀬里亜さんと夜更かしの会として、会話をすることが日課となった。毎日毎日、何を話そうかを考えて、そして瀬里亜さんがどんなことを話してくれるのかを考えて、とてもハッピーな気分で過ごしていた。なんて言ったってこの時ばかりは本当に、疑いようもなく、人生で一番幸せな時期だったんだ。例えそれが、作られていた幸せであったとしても、僕が瀬里亜さんを好きだという事実だけは疑いようもなく本物で、そして例え嘘であったとしても、その好きな人と会話を出来たという事実だけは、決して誰にも汚されることのできないくらい、本物の幸せであったはずだ。
僕らはその夜更かし行為を一週間ばかし続けた。僕が夢を見ていられる期間は一週間ほどだったというわけだ。今考えてみれば、本当にひどく滑稽だよ。

399 :月の中で夜更かしをするウサギ(お題:夜更かし) 6/9 [saga]:2012/10/05(金) 01:05:53.06 ID:GpONeLYT0

そして一週間が経ったその日も、僕はとても幸せな気分で瀬里亜さんの連絡を待っていた。その日は瀬里亜さんからの提案で、パソコンでテレビ電話をしながら話そうということになっていて、その提案を聞いた時は、とうとう瀬里亜さんとそこまで親密に話せる仲になったのかと、何ともまぁ有頂天になっていたんだ。
そして定刻通り、午前零時に瀬里亜さんからの電話があった。僕はもう一時間も前からパソコンの前に待機して、物音も立てずにじっと連絡を待っていた。
「もしもし……んっ……。藤村……くん? あ……」
 もちろん僕もテレビ電話をするのは初めてだったけれど、瀬里亜さんも使い方が今ひとつ分からなかったのか、瀬里亜さんの顔がドアップで映し出されていた。もちろん僕としては、彼女の凛とした美しい顔(和風美人とでもいうのだろうか、瞳が大きく、唇が厚く、眉が濃くきりっとしている。もちろん肌は真っ白で透き通っている)がこんなにも大きく映し出されているというだけで、鼻血が出そうなくらい興奮してしまったのだけれど、彼女の方も何やら興奮をしているのだろうか、何やらとても息遣いが荒く、熱っぽくて、瞳もとろんとした潤んだものになっていた。時々いやらしいような、んっ、あっ、と言うような切ない気遣いが微かに漏れ、画面にはとても色っぽい瀬里亜さんの顔が映し出されていた。
「あっ、藤村君。なんか、ごめんね。あっ、もう……」
 その時は何故いきなり彼女が謝罪を始めたのかまるで事態を飲み込めていなかった。しかし、彼女の居る空間で行われていたこと。それから彼女の発言。息遣い。それらもろもろで僕は自分が考えようとしている最悪なシナリオが、現実として僕の目の前に現れようとしていることを、少しずつ、本能的に理解し始めていた。
「あ……っ♪ だめぇ……恭助……藤村君にばれちゃう……んっ……」
「いいじゃん。どうせ今日全部ばらすつもりだったんだから。それにしても瀬里亜、気持ちいいわ。お前の体最高だよ。この肌触りとか、あえぎ声とか、たまんねぇって。すぐいっちゃうわ。あっ、今日は中に出していい?」
「バカぁ……妊娠しちゃったら駄目だよぅ。私恭助のこと好きだけどぉ、今は子供は駄目だよぅ」
 とても甘えるような、今まで聞いたことのない声色で、瀬里亜さんは誰かに――恭助に向かって話しかけていた。そしてカメラは徐々に遠ざかって、二人がしている行為を映し出し始めた。


400 :月の中で夜更かしをするウサギ(お題:夜更かし) 7/9 [saga]:2012/10/05(金) 01:06:29.00 ID:GpONeLYT0

そこに映っていたのは、僕を絶望のどん底に陥れる、最悪の地獄絵図だった。最も想像したくない光景が眼前で繰り広げられ、僕の中にあった全ての綺麗なものが、圧倒的な理不尽な力で、汚され、押し潰され、ぐしゃぐしゃにされ、僕はただ放心状態で、その二人の様子をただ眺めている事しかできなかった。僕の心はまるで壊れたかのように、何にも反応することは出来ず、ただ心臓がキュッと圧縮される不快極まりない感覚と、強烈な吐き気と、異常なスピードを叩き出す動悸を感じるだけだった。
「あっ♪ もうっ、藤村君に胸が見えちゃう……この体は恭助にしか見せたくないのに……」
「良いじゃねぇか。こいつお前のこと大好きなんだぜ。最後に見せてやって、オナニーでもさせてやりゃいいじゃん」
瀬里亜さんは獣のような四つん這いになって、恭助に後ろから犯されていた。しかし瀬里亜さんはとても嬉しそうに声を上げ、びくびくと体を震わせながら、恭助にキスをせがんでいた。
もう全てが嘘のように、僕の前に非常な現実が、圧倒的な存在としてされけ出されていた。僕はそれを上手く受け止めることが出来なかった。
僕が築き上げてきた純潔は、いとも簡単に、力ある者の手によって玩ばれ、崩され、二度と立ち直れないぐらいに踏み潰された。恭助は始めから僕の恋心を知って、教室の隅で本を読んでいた僕に声をかけ、そしてこんな悪趣味極まりない計画を思い付いて、僕の心を殺そうとしていたということを、僕は本当に信じることが出来なかった。
401 :月の中で夜更かしをするウサギ(お題:夜更かし) 8/9 [saga]:2012/10/05(金) 01:06:56.54 ID:GpONeLYT0

そう。そもそも、そうさ、僕は最初から夜更かしなんてするべきではなかったんだ。まるで静かだった夜は、最初から牙をむいていた僕の敵であり、そしてこうやって夜更かしするほど大人になるということは、この夜に存在するすべての汚れたものを見続けなくてはならないということだ。人間の心に存在する強烈な悪意、好きなもの以外に関心を持たず、陥れる行為、大人になるってことは汚い行為をするか、されるかのぎりぎりで生きていかなければならないということなんだ。僕は夜更かしをすることで、こんなにも人間というものが汚い存在であることを知った。自分以外の他人が、常に誰かを陥れることを密かに考えていて、抜け駆けをしたり、腹の底で騙し合ったり、相談するふりをしながら相手の情報を得ようとしたり、夜に行われる会話はいつだって、純粋である僕には耐えられないものだったんだ。
だから僕はこの夜に考えたよ。人間の愚かさ、汚さ、自分以外の人間の、自分とは違う少年の醜き心について。僕はやがて大人になって、どんどん夜更かしをするようになるだろう。いつまでも純粋ではいられないはずだ。夜は明るい太陽を海に沈め、その仄かな灯りを放つ月から僕らを監視しているんだ。僕らが話す会話も、抱いている悪意も、純粋な恋心でさえも、そしてそれらを玩び、潰そうとしているんだ。そして僕は、もうこの夜という存在に耐えられそうになかった。いつだっ敗者で居続けるのは嫌だったし、他人を蹴落とす覚悟もなかった。そして他人を拒絶して孤高に生きる勇気さえもなかった。だから僕は考えたよ。月が死んでしまったウサギが僕に何を伝えたかったか。この夜更かしを通じて、僕が何を学び、どんなに傷つき、そしてもう取り返しがつかないほど僕の心が壊れてしまったのかってことについて。
月のウサギはきっと僕と同じだったんだ。純粋だったのに、孤独だったんだ。月では悪意を持った生き物たちが戦争をはじめ、そして唯一闘いを好まない、皆を愛していた弱いウサギだけが常に逃げ続け、愚かにも生き残ってしまった。けれども戦争が終わった時にはもう、ウサギだけしか生き残っていなかった。だからウサギは寂しくて死んでしまったんだ。好きな人だって簡単に死んでしまったし、大地は枯れ果て、周りは常に真っ暗な夜しか存在せず、そんな環境で生きていくには、ウサギの心はもう耐えられなかったんだ。だから僕も兎にならって、この夜から姿を消すことにするよ。僕は月から抜け出せなかったんだ。夜更かしをする才能がまるでなかったからね。だからね、僕は自殺する前にたった一つだけ言いたいことがあるんだけれど、決して、この僕は瀬里亜さんのことも、ましてや恭助のことでさえも嫌いにはなれなかったということなんだ。瀬里亜さんには、たとえどんな生き方であろうと幸せになってほしいし、恭助がその瀬里亜さんの手を引くというのなら、しっかりと彼女共々幸せになってほしいと思ってしまっているということなんだ。


402 :月の中で夜更かしをするウサギ(お題:夜更かし) 9/9 [saga]:2012/10/05(金) 01:09:01.82 ID:GpONeLYT0

だから僕は僕にふさわしい夜の中で、ひっそりと死んでいくことにするよ。この月から抜け出す、暖かい膜のような優しさが欲しかっただけだから、最後の最後に瀬里亜さんの顔が見れてよかったよ。
そうして今、僕は、瀬里亜さんの温もりの元へと繋がっていたLANケーブルを首に巻きつけて、苦しみぬいて、この生を止めようとしている。永遠に苦しまないように。無感覚に慣れるように。孤独なウサギのように。
君も夜更かしには気を付けた方が良いよ。彼らはとんでもない悪魔なんだ。常に僕たちの心を壊そうとしているし、闇に紛れて見えない場所から、僕らのピュアな心臓を握りつぶそうとしているんだ。
うん。もう言い残すことはないかな。じゃあ、そろそろ時間みたいだ。さようなら。僕はこの世界の全部、ぜーんぶが大好きだったよ。ただ、自分が嫌いだっただけなんだ。皆、僕が消えても何食わぬ顔で、幸せに生きてくれ。それじゃあ。全世界に存在する、夜更かしの会の子供たちに、幸福を。あぁ、グッドバイ。瀬里亜さん。
403 : ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/05(金) 01:15:53.49 ID:UyY0/VTRo
>>394と時間が被りそうになりましたが、>>377のお題で書きましたので投下します。
404 :土台が違うということ(お題:議論) 1/3 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/05(金) 01:16:45.17 ID:UyY0/VTRo
 大日本帝国は悪である。子供の頃、そういう教育を私はずっと受けてきました。
 例えば沖縄戦。多くの人が死んだのはアメリカ兵達のせいじゃなく、日本軍人達が人々
の投降を許さず集団自決を図ったためだと聞きました。また、小さな女の子が意を決し、
衣服を白旗がわりにして防空壕を飛び出すと、アメリカ兵達が暖かく迎えてくれたという
話もありました。そういう話から、天皇や軍部の人達が早く降伏していれば、原爆だって
落とされなかったんじゃないかということが言われておりました。また、日本の人々を取
り巻く環境も酷いものでした。警察というものは大変乱暴で、ストレス解消がわりに人々
のことを殴っていました。みんな荒んでいて心が冷たく、親戚にすら見捨てられていく有
様で、あと頼れるのは家族だけという状況です。もちろん、南京大虐殺や三光作戦なんて
のは当然のように教科書に取り上げられていました。
 私は小学校に入ってから、そういうことを耳ないし、映像ないしでずっと叩き込まれて
きました。私は戦争には全くといっていいほど興味はありませんでしたが、大日本帝国が
悪であるということだけは、深く脳に刻み込まれていたのです。だから高校生の頃、イン
ターネットに初めて触れたとき驚きました。なんと大日本帝国を崇拝する書き込みがある
のです。しかもそれがある場所では、私が学んできたことよりも主流であったりしたので
す。
 私はひどく混乱しました。そんなことあるはずがないと思いました。だけど調べていく
うちに、私はネット上の意見が正しいのではないかという方向にだんだん傾いていきまし
た。もちろん全てではありません。例えば戦争なのだから、南京大虐殺というのはあった
かもしれない。しかしその規模はずっと小さいのではないか。本当は日本はそんなに悪く
なかったのではないか。そういった思いが私のなかで少しずつ膨らんでいきました。ただ、
その思いがある一定以上進むことはありませんでした。何故なら日本がそう悪くなかった
という決定的な証拠だって、私が探す限りでは見つからなかったのです。
 私が見た情報には、出典が書かれているものが多くありました。元日本兵の誰々が書い
たとか、米国内に保管されていた資料に書かれてあったとか、実にさまざまなものです。
そういうものが世に出るたびに、ある一部の人々は「これが真実だ」、「これは嘘だ」と
言ったことを延々と飽きずに議論しておりました。私はこれは一体何なんだろうと思いま
した。一体何のために議論をしているのだろうと。
 それから私は、あらゆる物事を疑うようになりました。子供の頃からずっと朝日新聞を
取ってきたのですが、皆さんご存知のとおり左寄りの新聞です。だからそこに書かれてい
405 :土台が違うということ(お題:議論) 2/3 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/05(金) 01:18:02.92 ID:UyY0/VTRo
た戦争関係のことはもちろん疑ったのですが、その他の記事も疑うようになりました。こ
の記事は本当のことを書いているのか。何かの意思に則って行きすぎたことを書いている
のではないか。その頃になると、都合の悪い情報は報道されないということを私はネット
で知っておりましたから、ますます疑うようになるわけです。ただ、ネットのみで話題に
なっている出来事は、普段の社会ではまるで無かったかのようでした。例えば竹島問題で
すが、あれはテレビで取り上げられるよりももっと前からネット上で話題になっていまし
た。こんなものを隠しているマスコミはおかしいぞ、韓国の手先ではないか、といったこ
とを言っています。私もそのときは右寄りでしたので、周りの人達に竹島問題のことを伝
えました。韓国とはこんなに酷い国なんだと。しかし周りの人達はそれを真剣に受け止め
ませんでした。私の目が確かならば、疑っていたわけじゃありません。ただ、それはある
ひとつの側面から見た情報でしかないのだと。自分には関係のないことなのだと受け止め
ているようでした。ところが、ある日テレビでマスコミに取り上げられるようになると、
反応は一気でした。韓流をもう見ない、という人が大勢現れました。いくつかの製品がボ
イコットされ、韓国経済は無視できない打撃を受けているようです。ネットで竹島問題を
訴えていた人達は、どうだと言わんばかりに勝利宣言をしていました。ただ、私はその反
応に違和感を感じました。何故なら彼らは、マスコミで取り上げられたことを何よりも喜
んでいるのです。マスコミ嫌いの彼らが、マスコミに取り上げられたことで話題がようや
く真実になったかのような反応をしているのです。私には真実というものが分からなくな
りました。マスコミは真実を報道しておらず、ネットの情報も真実ではない。それでは真
実は一体どこにあるのかと。
 ようやく私は、私の求める真実はないのだということに気づきました。真実とは、人の
手で作り出されるものだったのです。
 それから、私の世界に対する認識は大きく変わりました。何が正しいか? 何が間違っ
ているか? 何が善か? 何が悪か? そういったことについて果たして議論する余地は
あるのでしょうか。所詮人間が作った情報なのではないかと思います。誰かが誰かのため
に作った、恣意的な情報でしかないのです。
 あなたは先ほど私にこう言いました。「たとえあなたがどんな独自の理論を展開しよう
とも、世間はあなたを許しはしない」と。結構なことです。世間が許さないとして、それ
で何の不都合があるのですか? 私は大勢の人を殺したので当然裁かれるでしょう。です
がそれは日本国憲法によってです。世間ではありません。長らくこうしてあなた方と議論
406 :土台が違うということ(お題:議論) 3/3 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/05(金) 01:18:47.61 ID:UyY0/VTRo
してきましたが、あなた方は私を貶めることしか考えていません。世間に対して私が悪で
あることをどう示すか、それだけしか考えていません。
 もう一度言いますが、私は世間に許されなくても一向に構いません。そろそろ終わりに
しませんか? 私はあなた方と話すのに心底ウンザリしているのです。
(完)
407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/10/05(金) 02:06:10.40 ID:GpONeLYT0
>>404


小説読ませていただきました。しっかりと一人の人物の立場から描けていて、文章はスラスラと読みやすく、そしてその文
体の固さも崩れる事がなく、一回も閊えず(つかえず)に読むことが出来ました。
このお話を読んでいて思ったのは、情報の中に真実など無く、しかしその情報や教育と言うあいまいな定義によって、お互
いの立場が確立され、時として同じ人物(対象)が悪となったり正義となったりする。その同じ人間であるのに立場(或い
は環境)の違いだけで、こんなにも敵になったり味方になったりを簡単にしてしまうもんだなぁと感じました。なんか上手
く説明することが出来ないくて申し訳ないのですが……;; ただ、やはり語りとしてよく描けていると僕は思いました。


あと、ここからは個人的な意見なのですが、もっとなんというか、物語としてこういうお話を聞きたかったです。物語の中
の登場人物が、説得力を持ってこういう話を語り出したら、おぉ! ともっとのめり込めたと思います。
このお話だけですと、或いは小説と言うよりかは、ドキュメンタリー的な何かを述べただけと言う風にも取られかねないよ
うな気がいたします。
もちろん物語を書けばそれで小説になるなんてことはないと思うんですが、少なくとも登場人物がいて、会話があり、それぞ
れの立場があったらもっと素敵な小説になったんじゃないかなと思います。でも、短い時間で、短い小説を書くのは(自分も
ここで実践していますがとても難しいです)思ったように展開できなくて難しいですよね。今述べたことは、僕自身にも通ず
るところがあるような気がします。
お話面白かったです! ぜひ、また投稿なさってください。なんか、長文感想ですみませんでした。

408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/05(金) 07:28:48.61 ID:1d5LOmUIO
>>407
おお、寝て起きたら感想がついている!
ありがとうございます!

話の内容は、仰るとおりのことを意識して書いていました。

スペースが限られているということで、どうしても簡単な方向に持って行きがちですけど、
最低でも物語にするっていうのは考えていかないといけないですね。
409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/05(金) 07:31:34.18 ID:1d5LOmUIO
またお題ください。

いま眠過ぎてまともに作品を読める自信がないので、
他のひとの作品の感想は後ほど……
410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/05(金) 12:22:37.51 ID:4NkNIKNSO
生きるということ
411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/10/05(金) 14:38:00.10 ID:/gYy0BzAO
>>409
放火
412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/10/06(土) 01:40:21.06 ID:ukNKjAeIO
お題ください
413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/10/06(土) 01:42:24.59 ID:ukNKjAeIO
お題ください
414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/10/06(土) 01:47:11.14 ID:cmmXIEj1o
>>413
ハンドクリーム
415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/10/06(土) 02:04:46.84 ID:ukNKjAeIO
お題ください
416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/06(土) 02:05:29.04 ID:epy2i01SO
>>415砂塵
417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/06(土) 02:09:53.82 ID:e/Pff7xto
こいつ……なんて強欲なんだ!
418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/06(土) 02:23:42.13 ID:yzSeWb5/o
>>415
これならどうだ(キリッ

選手宣誓
騙す
脱帽
素晴らしい
競争
微妙
難しい
賛成
中古
アピール
感想
怖い
悩む
いやがらせ
出遅れる
上出来
イライラ
相談
違和感
魅力的
プライド
お祭り
評判
お手本
419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/06(土) 02:24:05.09 ID:ukNKjAeIO
めちゃくちゃ連投してしまった・・・bb2cいれてようやく見れましたすみません
最初にいただいた>>414でがんばってみます
420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2012/10/06(土) 03:34:50.53 ID:yzpvCjku0
>>418
フッ・・・俺様が一時間でさばいてやんよ
421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/06(土) 03:43:51.74 ID:rcygypbno
猛者現る!
422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2012/10/06(土) 04:35:36.36 ID:yzpvCjku0
選手宣誓
「宣誓、我々は、スポーツマンシップにぬっとり」
「バンテリンをさらに重ね塗りにすることで」
「次の日に疲れを残さないようにすることをここに」
「誓います」「誓います」

騙す
「おう、道行く人を騙そうぜ」
「よしきた、……助けて−、助けて−」
「どうしたのかね?」
「わー!うそでしたー。じつはこれは演技だったのだー」
「……素晴らしい演技力だ。その力、我が劇団で発揮してみないかい?」
五年後
「最初は騙されているんじゃ無いかって心配でした。でも、どうせ騙されるならステージの上でとことん演技してやろうじゃないかって。だからこそ今の僕がいるんです」


脱帽
「帽子の下のズラまで脱ぐと、そこにヘソクリなんか入ってて。これがホントの脱税とか。キャッシュバックちゃったりして」

素晴らしい
「しまった!いま素晴らしい小説が思い浮かんだのに。ほんとは書けたんだけど。ちょっと忘れちゃって。いや、素晴らしい名作だったなー。いやホントに」

競争
「よーい、ドン」
「よーい、ドン」
「よーい、ドン」
「甲乙付けがたい合図たちだ」

微妙
難しい
賛成
中古
アピール


うん、無理。俺頑張った。無理。
423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/06(土) 06:13:03.09 ID:e/Pff7xto
◆微妙
「曖昧さは武器だよ。こういう状況じゃね」
 密室殺人というのをご存知でしょうか? ご存知ですよね。
 被害者は窓、扉が施錠されている状態で死亡していたと思われ、私が扉を蹴破った頃には既に死亡していました。
 何が問題なのか? それは、私のあとから部屋に入ってきた第三者にとって、私が犯人以外の何者でもないという事です。
 現場証拠を検証すれば私が潔白である事を証明出来ますが、閉鎖的な吹雪の山荘では別です。
「お前が来た時に密室だったという証拠は存在しない!」
 ご尤も。さて、でもどうでしょう? この発言があったのは、複数人が部屋に入ってきてあちこち調べた後です。
 つまり……密室が本当に為されていたかを調べたあと。
「窓が施錠されていたって言いますけど、本当ですか? 最後に窓に触れた人、確か――貴方ですよね?」
「え、ええ。でも、確かに鍵が掛かっていて……」
「どうだか。貴方が嘘を吐いていて、私を罠にハメようとしている可能性もゼロじゃない」
 酷い言い掛かり。私のトンデモ説の餌食になった使用人さんが、不安そうな表情を浮かべてオロオロします。
「彼女は俺と一緒に居た! 彼女に父さんが殺せるはずもないし、[ピーーー]理由もない!」
「へえ? では何故、今日お父様にはじめて顔を合わせた私が、お父様を殺さねばならないのです?」
「そ、それは……」
「大体、人間一人を[ピーーー]なら二人でやる方が簡単です」
 室内に集まった容疑者は私を含めて六人。私が喋り続けている間、反論したのはお父様の長男坊である彼だけ。
 ……さてさて、まだまだ言い逃れが出来そうな雰囲気ですよ?
 狼が誰かは分かりませんが、私は必ず見つけ出します。それまで捕まるわけにはいかないのですよ。
「お父様に因縁がありそうな顔ぶれが揃っていますね」
 わざとらしく言って、皆の様子を探ります。
 お父様は罪作りな人です。ここに居る六人は、誰しもが狼である可能性があります。
 故に私は嘘と真実を使い分ける事で、彼らを出し抜く事も可能です。
 絶妙に、微妙に絡み合った密室殺人。殺人は複雑であるほどに、嘘の糸を通す穴があるのですよ。

◆難しい
 少女は集中していた。
 目の前には小さな針と糸。爪先も通らぬこの針に糸を通すという作業が、これほどまでに集中力を使うものとは思わなかった。
 クラスメイトの喧騒が集中を削ぐ。大声で「静かにしろ」と叫ぶのは簡単ではあるが、それをすると糸を通す時間も失われる。
「……ふう」
 糸の先を口に含む。ねっとりとした唾液に包まれた糸の先は……微妙に二つに枝分かれしていた。
「んぐぐ……!」
 耐えろ、と少女は自分に言い聞かせる。
 これは試練なのだ、と。
 糸の終端は二つあるのだから、もうひとつに賭ければいい。それで無理なら、また新しく糸を用意すればいい。
「こっちもか……!」
 もう片方の終端もまた、微妙に先端が枝分かれしている。微妙、というのがミソだ。これだけで針の穴に糸が通すのが一気に難しくなる。
 ふと、少女は机に転がったままの糸通しに目をやる。
 これを使えば糸を通すなんて楽勝だ。その為に人類が作った道具なのだから、楽でなければ意味がない。
 しかし、楽をすることが必ずしも正解とは限らず、困難な道を敢えて進む事で自己成長を図るのも大事だ。
「……あの、これ使う?」
 難易度が高すぎる糸を机上に放り投げたところ、隣から男子の声と共に糸が手渡された。
「有難う。借りるね」
 返さないけど、と心中で呟きながら、少女は糸を口に含んだ。
「ぶべっ! な、なにこれっ! もう濡れてるじゃん!」
「ぶひぃ! 間接キスキタコレ!」
 集中という名の糸がプツンと切れた瞬間だった。
424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/10/06(土) 06:13:29.65 ID:e/Pff7xto
◆賛成
「ここに一杯のオレンジジュースがあります」
 仲がそれほど良くもないけれど、別に仲が悪いというわけでもない四人の男女は、テーブル上に載せられたオレンジジュースを囲んでいた。
 本来ならば四つのコップがテーブル上に並べられてもおかしくないはずなのに、今は一つしか存在しない。
「私はコップを洗うのが面倒臭いので、このコップ一つを使って皆でオレンジジュースを飲みまわすのがいいと思います」
「頭おかしいだろ、お前」
 咄嗟に反論。当たり前である。
「あたしもどうかと思うけどなあ……。客人の分際でこんな事言うのもアレだけど、用意しようよ……人数分のコップぐらい」
「ホストとして譲れないね、ここは。一体誰の水道代でコップを洗うと思ってるの? ねえ、君はどう?」
「僕は別に喉渇いてないし……」
「そういう話はしてない。私と間接キスしたいのかって聞いてるの」
「え、そうだっけ?」
 ホストは真剣な表情だ。
 明らかに論点がずれているのに全員が気付いているが、誰も訂正はしない。
 こういう場合、このホストはどうせ譲らないからである。それが分かるぐらいには仲が良いのだ。
「逆に聞くけどよ、お前は俺と間接キスしたいのか? いやだろ」
「いやじゃないよ。じゃあ逆に聞くけど、あんたは私と間接キスしたくないの? さすがに直接流し込むのは勘弁してほしいんだけど」
「しねえよアホか」
 一蹴。
「ここはホストを優先して、あんたが全部飲めばいいんじゃないかな? あたしも喉渇いてないし、間接キスしたくない気分」
「この夏真っ盛り、冷房ぶっ壊れの状況でオレンジジュースを飲みたくないとか正気を疑うなあ……」
「じゃあ用意しようよ、コップ! この状況でそれを躊躇する意味がわかんない!」
「だから水道代が……」
「面倒くせえ。じゃあ紙コップでも買ってくればいいだろ」
「もったいない! 紙コップなんてお客さん来た時ぐらいにしか使えないじゃん!」
「今がその時だって言ってるんだ!」
「じゃあ別に買ってきてもいいけどさ、うちに置いていかないでよ。ゴミになるから」
「本当、そういうところは気にするよねえ、あんたは……」
 ヒートアップする議論。
 オレンジジュースに入っていた氷は気がつけば溶けていて、わずかに水嵩が増していた。
 このままでは全員死んでしまう。一杯のオレンジジュースを前にして熱中症になってしまう。
「――僕が奢るからさ、アイスでも買いに行こうよ。その後、近所のデパートで時間でも潰そう」
 それは特別否定すべき点もない素敵な提案だった。
 ホストは一気にオレンジジュースを飲み干すと、汗で濡れたシャツを人目も気にせず脱ぎ捨て、新しいシャツに着替える。
 恥じらいがないのは、ここが彼女自身の家だからだ。相変わらずアホな理由だった。
「アイス買ってデパートの意見に賛成! そもそもなんでうちに来ようと思ったの!?」
 お前が誘ったからだよ、とは当然誰も言わない。不毛な論戦が繰り広げられるという事を知っているからだ。
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/10/06(土) 08:28:03.89 ID:eTTDQoZAO
投下します
426 :(お題:叫ぶ)1/2 [saga]:2012/10/06(土) 08:32:46.69 ID:eTTDQoZAO
キーン、コーン、カーン――

甲高いチャイムの音が響く。

先生が壁掛け時計の方に首をめぐらした。

「それじゃあ、今日のところはこれで。各自宿題の提出を忘れないように」

そう言って、先生は教卓に置かれたプリント用紙を纏めた後、教室を出ていった。

昼休み。

クラスメイトたちは思い思いに席を離れ、教室内は人がまばらになっていく。

ぼくは椅子に背をもたれながら、んー、と大きく伸びをする。

朝食を抜いてきたせいだろう。

三時限目の途中から既に、ぼくの体内時計がしきりに空腹を訴えていた。

机の傍らに掛けてある鞄の中から弁当を取り出そうと、ぼくは体を傾ける。

ちょうどそのときだった。

ざわざわと、窓の外からなにやら騒がしい声が聞こえてきた。

ぼくは周りを見回す。

教室に残っている者はたいして多くはない。

数少ない生徒たちは互いに話し込んでいたり、イヤホンで音楽を聴くことに意識を向けている。

窓際の席にいるぼくだけが、いち早くそれに気づいたようだ。

ぼくは椅子から立ち上がり、すぐ近くの窓を開ける。

そして窓枠に手を付き、外に軽く身を乗り出した。

ここは三階、校舎の前に人だかりができている。
427 :(お題:叫ぶ)2/2 [saga]:2012/10/06(土) 08:37:16.80 ID:eTTDQoZAO
一体なんだろう。

横に目をやると、別の教室から生徒たちが窓から顔を覗かせていた。

ぼくは隣りのクラスの生徒の話し声に耳を澄ます。

「なに? どうしたの?」

「見ろよ、あれ。何やってるんだろ、あいつら」

彼の言葉に促されて、ぼくは再び下方に目を移した。

よく見ると、皆が一様に校舎側の空を見上げている。

そして突然、誰かが悲鳴をあげた。

「ぁぁぁああ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

今、叫んだのは誰だ?

ぼくが考えを巡らせていると、ふいに、ドンッ! と景色が大きく揺さぶられた。

ぼくの視界が、

回転した。

一瞬、青い空が目に映る。

転じて、唐突にあたりが暗くなった。
428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/06(土) 08:38:04.66 ID:eTTDQoZAO
おわり。荒い。
429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/10/06(土) 10:47:57.35 ID:8pv/II2AO
>>394
読みました
導入からスッと文章が入っていって男の子のそれこそ純粋で実りを迎える前に落ちてしまうような心情がぐっと凝縮されていて、だけど甘さが確かに存在してる。
文章も読みやすくて、展開が緩やかだけどもパンチがあってまんまとドキッとさせられて、と見事に読者に起伏さを促し突きつけてると思います。

ひとつ挙げるとすれば、出来れば途中でドッキリであることを示唆するよりも読み手に流れの中でつかませてほしかった。
これから何かあるんだろうな、というのは申し分なく伝わっていたのであともうひと押し溜め込んだ苦さを味わいたかったです。
後は何もかも素敵でした。
いいもの読んだ。
430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/10/06(土) 12:17:58.14 ID:diSsxWijo
>>410
>>411
遅くなりましたがお題ありがとうございます。
今度こそ合わせで書いてみます。

>>394
読みました。とても評価が難しい小説でした。

まず、
親友が女の子を寝とっている。それで主人公が傷つく
という流れにはあまりオリジナリティを感じられませんでした。
あと、主人公が夜更かしは駄目だと言ってるけど、駄目なのは親友達であって、夜更かしは関係ないだろうと思いました。

評価が難しかったのは、それでも主人公の反応がリアルだと感じたことです。
とくに8レス以降。
上で書いたとおり夜更かし=悪の流れが唐突なのですが、おかしな理論の上におかしな理論を立てて、負のループに陥ってしまっている。なので、最後に自殺まで行き着くのは当然だなと。
ここまでくると、他人が主人公の行動を止めるのは難しいでしょう。

意識して書いているとしたら凄いし、意識して書いていないにしても、これが味というやつなんだろうな、と思いました。
431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/10/06(土) 15:42:20.86 ID:eTTDQoZAO
文才とお題ください
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/10/06(土) 16:06:19.14 ID:RTQGjaiWo
>>431
資格

文才は手持ちのものを磨くしかない
お題くれ

433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/06(土) 16:11:12.77 ID:eTTDQoZAO
>>432
thx
蜃気楼
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/10/06(土) 18:53:37.02 ID:Cnd4BKvV0
>>429 >>430  

お二方とも感想を書いていただき、ありがとうございます!
設定・展開の仕方共にまだまだ勉強すべき点が多いようです。
批評された点を心に留め、これからの作品に生かそうと思います。
お読みいただいた上に、感想まで書いていただいて本当にありがとうございました!


感想を踏まえたうえで、もしよろしかったら、どなたか次のお題をいただけないでしょうか?
435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/10/06(土) 19:02:26.99 ID:8pv/II2AO
>>434
屋根裏部屋
436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/06(土) 20:03:39.13 ID:257Fc7YIO
ずいぶん賑わってるなぁ・・・テストが終わったからだろうか・・・
437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/06(土) 20:55:26.99 ID:nS4nsuHZo
テストステロンは関係無いだろはよお題よこせ
438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/10/06(土) 21:01:20.82 ID:Cnd4BKvV0
>>437
星屑とギター
439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/10/06(土) 21:43:42.17 ID:nS4nsuHZo
>>438
ナイス、ジギースターダスト
440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/10/06(土) 23:18:50.68 ID:Cnd4BKvV0
先程頂いたお題を書き上げたので、今から投稿させていただきます。
441 :屋根裏と妹の抽象画(お題:屋根裏)  [saga]:2012/10/06(土) 23:20:57.57 ID:Cnd4BKvV0

屋根裏部屋で数え切れないほどたくさんの猫の屍骸を発見した時に、僕は本当に驚いてしまい、思わず声を上げそうになった。しかしながら、なんとかその悲鳴の種のようなものは、お腹の中で抑え込んで、声に出すに至ることはなかった。
なにせこの梯子の下には妹がいて、その妹はひどく怖がりなものだから、僕は彼女を心配させたくなかったんだ。だけれど妹は、梯子から屋根裏に上ったまま固まっている僕を不思議に思ったのか(或いは彼女自身の不安のためかもしれないけれど)、ねぇお兄ちゃん屋根裏に何かあったの、とひどく心細げな声を僕に向かってかけてきた。
さぁ、どうしよう。僕はこの惨状をどう説明したものかと、その一瞬で深く深く悩んだ。まぁ、この状況をありのままに伝えてしまったのなら、まず間違いなく妹は卒倒して、その卒倒ぶりに親父が心配し僕を詰問し、怒鳴りつけ、母がそんな可哀相な僕をかばい、僕は僕でいじけながら部屋に閉じこもったりするであろうことはもう目に見えているので、まぁ、どうにかしてごまかしたりするのが良いだろうと思われる。けれども、何せ妹はととても好奇心の強い奴なんだ。そもそも、物置部屋に梯子と天井に付いた隠し扉を発見したのだって妹の好奇心ゆえの行動だし、その好奇心に僕はいつだって付き合わされてしまうのだ。
442 :屋根裏と妹の抽象画(お題:屋根裏) 1/8 [saga]:2012/10/06(土) 23:23:23.68 ID:Cnd4BKvV0
 ごめんなさい! >>441を途中で送信してしまったのでもう一回やり直させていただきます;;
 本当に申し訳ない……。


 屋根裏部屋で数え切れないほどたくさんの猫の屍骸を発見した時に、僕は本当に驚いてしまい、思わず声を上げそうにな
った。しかしながら、なんとかその悲鳴の種のようなものは、お腹の中で抑え込んで、声に出すに至ることはなかった。
 なにせこの梯子の下には妹がいて、その妹はひどく怖がりなものだから、僕は彼女を心配させたくなかったんだ。だけれ
ど妹は、梯子から屋根裏に上ったまま固まっている僕を不思議に思ったのか(或いは彼女自身の不安のためかもしれないけ
れど)、ねぇお兄ちゃん屋根裏に何かあったの、とひどく心細げな声を僕に向かってかけてきた。
 さぁ、どうしよう。僕はこの惨状をどう説明したものかと、その一瞬で深く深く悩んだ。まぁ、この状況をありのままに
伝えてしまったのなら、まず間違いなく妹は卒倒して、その卒倒ぶりに親父が心配し僕を詰問し、怒鳴りつけ、母がそんな
可哀相な僕をかばい、僕は僕でいじけながら部屋に閉じこもったりするであろうことはもう目に見えているので、まぁ、どう
にかしてごまかしたりするのが良いだろうと思われる。けれども、何せ妹はととても好奇心の強い奴なんだ。そもそも、物置
部屋に梯子と天井に付いた隠し扉を発見したのだって妹の好奇心ゆえの行動だし、その好奇心に僕はいつだって付き合わされ
てしまうのだ。
443 :屋根裏と妹の抽象画(お題:屋根裏) 2/8 [saga]:2012/10/06(土) 23:26:00.16 ID:Cnd4BKvV0
 そんな臆病なくせにいろんなことを知りたがる妹に、このまま不自然な理由を与えて屋根裏に上らせないなんて事は、僕
にとって出来るはずもなかった。ほとんどどんな理由であっても、妹の好奇心は止められそうにない。たとえ今、この場で
宥めたとしても、妹は僕の目の向かない隙にここに忍び込んで、この大量虐殺の状況を発見してしまうだろうし、それを見
たら妹はショックで一週間何も食べずに、どんどん衰弱して死んでしまうことになるだろう。何せ妹は猫や犬やハムスター
なんかと言った可愛らしい動物が大好きなんだ。だから、僕は妹をどうにかして説得し、適切な理由を考えて、この屋根裏
部屋に二度と登らせないように仕向けなければならない。そしてその理由も、怖いだとか、ショックだとかそんな理由でな
いものを選ばなければいけない。
 あぁ、何と言うことだろう。非情に非常に面倒くさい。だから僕はこんな屋根裏部屋なんか昇りたくなかったんだ。そも
そも誰が屋根裏部屋をこんな状況にしたんだ。ウチの家族、もしくは使用人どもがやったのか。はたまた元からあったのか
。こんな異常な光景を生み出す者など、気が狂った奴しかいないだろう。ウチの屋敷に住む者に、そんな異常者がいるとは
思えないけれど、それでも異常者とは目に見えないからこそ、異常者なのかもしれない。皆の闇に隠れ、目に見えない場所
でこんな猟奇的なことを続ける、その行為(悪意)の恐ろしさ。猫を平気で殺し、その死骸を屋根裏にため続けて平然とし
ているその強烈で圧倒的な『悪』。僕は寒気がした。いや、そもそもこんなことを考えている場合などではなく、今は妹を
どうにか――
 ねぇ、お兄ちゃん本当にどうしたの。何か怖いものでもあった……?
 妹が麗しい瞳を潤ませながら、不安げな声色で訊ねてくる。
 そうだ……もう今すぐに、妹を説得してこの場から離れさせなければならない。もし家の中に犯人がいたとして、僕らの今
のこの状況を見られたとしたら、何か口封じ的な行為をされる確率だってある。僕がされるならどうだっていいけれど、とに
かく妹を危険にさらすなんてことは絶対にしてはならない。何せこいつはひどく臆病なのだから。可愛いのだから。僕は妹の
ことが大好きなのだから。とにかく妹をどうにかしてここから離れさせなくてはならない。
444 :屋根裏と妹の抽象画(お題:屋根裏) 3/8 [saga]:2012/10/06(土) 23:28:46.15 ID:Cnd4BKvV0
「ううん……まずいな」
 とりあえず、僕は何とかその言葉を口に出した。もちろん何か確信的な考えやら説得方法やらがあってこの言葉を口にし
たのではなく、ただ単に何も考えていなくて、むしろ時間稼ぎのために出たような言葉だった。
え、お兄ちゃん……どうしたの? 本当に怖いものが……?
まずい……。妹が既に、自らの推察と想像によって失神しかけている! 屋根裏にある怖い物を自ら想像して、失神しよう
としている。なんてハイレベルな臆病者だろう。自らの想像で失神しかけるとは……。だけれど、ここは何とか妹を安心さ
せてやらなければならない。
「いや、違うんだ。怖いものではないよ。ただ、何と言うかお前はここに上がらない方が良い」
 僕は何とか平静な声音で、優しい微笑を湛えながら(多分湛えられていたと思うんだけれど)妹の方を向いて嘯いた。
え? なに? なにがあるの!?
 ほら、見ろ。妹の目が俄かにキラキラと輝き始めた。もう表情からして好奇心が溢れ出している。駄々漏れしている。今
すぐ知りたい! って顔をしている。あぁ、お兄ちゃんとしてはその好奇心を何とか満たしてあげたいんだけれど、でもお
兄ちゃんはそんな可愛らしいお前に嘘を吐かなくちゃいけないんだ。あぁ、そんなにこやかな顔でこっちを向かないでくれ
……。
「えぇーとな……実はこの屋根裏には……」
 この屋根裏には……っ?
 妹がごくりと唾を呑む音が聞こえた。そして今、この場には確かな緊張感と、次に僕が発する言葉への期待感が含まれて
いる。僕はその空気をしっかりと感じ取って、手が汗ばみ、鼓動が早まり、次に発する言葉へタメを作る。そしてゆっくり
と口を開く。声を発しようとする。妹の目が、こちらに注視している。僕は、妹の期待に応える言葉をゆっくりと口にした。

「エッチな本がいっぱいあったんだ」
 妹の顔が、本当に一瞬にして真っ赤に染まるのが見て取れた。茹で上がったばかりホクホクの蛸のように、そして妹は口
をパクパクし、僕から目を反らし、まるで頭からぷしゅーと言う擬音でも出てきそうな感じで、熱を発しながらゆっくりと
この部屋を出て行った。
 何しろね、妹はまったく信じられないくらい純情なんだ。もしかしたらこの嘘でも、失神してしまうのではないかと心配
したが、さすがに中学にも入ると、少しぐらいのぐらい免疫はつくようだ。妹はさっき言ったように、まるでウブだから、
お父さんとお母さんがコップを間違えて飲んで、思わず関節キスをしてしまったのを見るだけで真っ赤になってふらっと倒
れてしまうし、一年ぐらい前に妹が虫歯に罹ったったかもしれないと言い出して、僕が妹に無理やり口を開けさせて子細に
その虫歯を観察しただけで、妹はビクンビクンとしながら倒れてしまったぐらいだ。妹は虫歯をとても性的な何かと勘違い
したのかもしれない。もしくは男の人に向かって口を開けて、自らの粘膜であるぬるぬるとした内側を視姦しされることに
耐えられなくなったのかもしれないけれど。
 とにかく妹は好奇心が旺盛なわりに、そういう性的なこと、或いはそれを連想させる事柄(妹はその連想が過激で勝手に自
滅してしまったりするのだけれど)についてはまるで駄目なようだし、自らは絶対に近づかないのだ。だから、ここにエッチ
なものがあると知っておけば、たとえ妹であっても自ら近づいたりはしないだろう。

445 :屋根裏と妹の抽象画(お題:屋根裏部屋) 4/8 [saga]:2012/10/06(土) 23:30:56.23 ID:Cnd4BKvV0
 さて。やっとこうやって一人になって落ち着けわけだけれど、何故この屋根裏部屋に、こうして大量の猫の屍骸、及びそ
の部位が晒され、溜めておかれているのだろうか。この行為の残骸に何か意味はあるのだろうか。いや、その猫殺しという
行為自体に何か意味はあるのだろうか……。
 猫は実にさまざまな種類のものがあった。僕はあまり猫が好きではなく、その種類に詳しいわけではないのだけれど、た
くさんの模様や、目の色、耳の形、尻尾の柄など、特徴は様々だった。共通している事と言えば、すでにそこに生命がない
ということだけだった。目玉が取れて、或いは溶けてぐちゃぐちゃになっていたり、その空っぽの眼窩にたくさんの待ち針
が刺されていたり、骨がむき出しになって、その骨が一匹の猫にたくさん突き刺さっていたり、剥き出しになった神経にナ
イフが刺さっていたり、脳をぐちゃぐちゃにかきまぜられて死んだ猫が居たり、その死にざまは様々だった。そして、それ
らが発する死臭はとても強烈だった。鼻の中に腐ったナマモノを入れられ、それを何度も何度も胃の中でかき混ぜられたよ
うな、それらが吐き気と共に体中に渦巻き、しかし吐き出せずに新たな死臭が僕の体内に潜り込んで、死臭が増幅されていく
。僕の中で死臭による嫌な機関が出来上がっている。もしや、この臭いは妹の元にも届けられていたのだろうか。いや、これ
だけ強烈な臭いなら、その確率は高いだろう。もしこの強烈な悪臭が妹の元まで届いていたとしたら、どうして妹は平気だっ
たのだろうか。
 そこで僕はふと、在り得ない推測をするに至った。
“もしや、この猫の大量虐殺は、僕の妹の仕業ではないだろうか”と。

446 :屋根裏と妹の抽象画(お題:屋根裏部屋) 5/8 [saga]:2012/10/06(土) 23:32:20.67 ID:Cnd4BKvV0
 しかし、僕はそんなことを想像すらしたくなかった。なぜ妹にそんなことをする理由があるのだろうか。あの臆病な妹が
。そんな気狂いなわけがないだろう。しかし、何かとてつもない胸騒ぎがしている。その想像が膨らんで、やがて真実にな
ってしまうような、おかしな予感のようなもの。
 いや、妹がこんなことをするはずがないし、そもそも僕の可愛い妹はナイフを持っただけで失神するはずだ。そうだ。こ
んな場所にいつまでもいるから、こんな変な気持ち悪い想像をしてしまうんだ。今すぐ、ここから離れなければいけない。
ここはなんてひどい場所なんだろうか。もしこの状況が、犯人の心の中の風景を表しているのだとしたら、僕はそいつとど
う接すればいいんだろうか。こんな気持ち悪くて、臭くて、たくさんの生き物たちが死んでいて、残酷で、悪意に満ちてい
て、暗くて、じめじめしていて、死を何とも思っていなくて、しかしそれを隠そうとしていて、でもきちんと探せば誰かに
見つかりそうな場所にそれらを留めておいている。もしこれが妹の心象風景であり、この部屋が妹の心の中を表した抽象画
のようなものだったら――
 そう考えた瞬間に、僕は背中にひどい寒気を感じて、思わず振り向いた。
 お兄ちゃん。どう? 私が作った作品。気持ち悪くて素敵でしょう?
 妹がとてもにこやかにそう言ってのけた。心からの晴れ晴れとした笑顔だった。
 私ね、猫ちゃんがとっても大好きなの。もう殺したいぐらいに大好きで、だからね、じっくりと脳みそをかき混ぜてね、
苦しませて殺してあげたの。そうしたら強い恨みをいだいて、幽霊になって私にまた会いに来てくれるかもしれないでしょ
? 幽霊って寿命がないから、永遠に私の側にいられるし、死体だってほら、お人形みたいにこうやって屋根裏に飾ってお
けるんだよ。生きてたら動いちゃうし、引っ掻くし、すっげぇ痛いしムカつくし、鳴き声とかすっごく気持ちうるさくて殺
したくて、私猫ちゃんのことが大好きなのっ!! にゃーにゃー、ほらっ、猫って面倒くさいでしょ。でも死ねば動かない
の。うふふ。ほら、私って、ね、あはは、お兄ちゃん、見て! 私の心の中ってこんな気持ち悪いの! 今まではさ、黙っ
てたけど、お兄ちゃんってさ、私のこと気持ち悪い目で見てくるし、私のこと大好きなんだろうなって思ってたから、私ね
、しっかり演じていたの、お兄ちゃんの理想の妹を。でもさ、お兄ちゃんの理想の妹像って本当に吐き気がするぐらい気持
ち悪いね! こんな妹が好きだなんて、お兄ちゃん自身気持ち悪いよ。何? 自分が守ってあげたい系? ヒーローでいた
いの? 気持ち悪っ! そもそもさ、お兄ちゃんの部屋さ、自分で異常だと思わないの? 私の写真を壁や天井一面に飾っ
て、私のお風呂入ってる写真や、おしっこしてる写真とかもデカデカと貼ってあって、それに精液とかおしっことかいっぱ
い付いてて、トイレの中に私の写真を入れて、その上に排便してて、にやつきながらオナニーしてるのとか、それの行為を
扉を開けて私に見せようとするのとか、もう全部が気持ち悪いよ。
 お父さんも、毎日可愛いメイドさんの首に首輪を付けて裸にして犬みたいにさせてから町内を散歩させてるし、お母さん
は人間の眼球を集めるのが趣味で、居間とか部屋にたくさんの剥き出しの目を置いておくし、あれってすっごく気持ち悪い
の、わたしもう嫌だよ。本当に気持ち悪い。人間て何でこんなに気持ち悪いんだろう。ここはなんて気持ち悪いんだろう!
! もし部屋や家の中が人間の心象風景だとしたら、それが如実に表れてしまうとしたら、こんなに気持ち悪いことってな
いよっ! わたしだって、本当はこんな気持ち悪くなりたくなかったよ。だからみんなと違ってこんなところに隠したけれど
、でもやっぱり無理だよ。一緒に住んでいる家族に完全に隠しきるなんて無理だよ。屋根裏部屋に隠した私の心は、本当に気
持ち悪くて、暗いんだよ。でもそうしたのはみんなの所為なんだよ。ねぇ、私はどうしたらいいの。もう耐えられないよ。私
の心まで、気持ち悪くなっちゃったよ。

447 :屋根裏と妹の抽象画(お題:屋根裏部屋) 6/8 [saga]:2012/10/06(土) 23:34:04.54 ID:Cnd4BKvV0
 そう言いながら妹は、鼻息を荒くして僕を猫の屍骸の中に突き倒した。僕は抵抗することは出来なかった。こいつは誰なん
だろうな、と思った。この目の前にいる女は誰だろう、と。あの綺麗な妹はどこに行ったんだろうと。この屋根裏部屋に住
んでいるこの気持ち悪い思考をした女は誰なんだろう、と考えた。僕は、そんなぼんやりとした思考をしながら、なんとな
くこの気持ち悪い女がいることが許せなくなった。何の断りもなく僕の家に入りやがって、気持ち悪い女だ。
 そして僕は思わずにやついてしまい、とっても嬉しい気分になって、せっかくだからこの頭のイカレタ女を殺してやろう
と思った。丁度良く近くにナイフが見つかったから殺してしまおう。腐りきった猫の肉に刺さっていたものが、丁度良く刺
さっている。僕はそれを握り、顔をぐしゃぐしゃにし何かを泣きながら訴えようとしている女の目に突き刺した。それは見
事に女の目に突き刺さり、眼球からは新鮮な血が噴き出した。僕はその女の気持ち悪い目が許せなくなり、その目をくりぬ
いてやろうと思った。ナイフを女の目にぐりぐりと突き刺して、潰れた眼球を、ごっそりと、眼窩からえぐり出したり、引
っ掻いたりして取り出した。もう片方の目も同様に。そうして目の前の女の目は空っぽになり、やがて動かなくなったところ
を見ると、まぁショック死したのだろうね。この部屋に新たな死体が一つ増えたってわけだ。僕の可愛い猫の死体が一匹。
 あーあ、まぁ、今回の猫は一か月は退屈しなかったってことか。
 僕の可愛い猫。
448 :屋根裏と妹の抽象画(お題:屋根裏部屋) 7/8 [saga]:2012/10/06(土) 23:35:07.03 ID:Cnd4BKvV0
 次はどんなタイプの女を連れてきて、ここで妹として演じさせようか。完全に洗脳させ、妹としての記憶を植え付け、心
が壊れるまで、僕の玩具や性玩具として扱う。
何せ僕の親は金持ちだからね。何をしても許されるんだ。
 でもこの世の中じゃ、金を持ってるやつが強いんだ。隠れることだってできるし、悪いことだって、上手く見逃してもら
える。本当の妹はもう僕が小さい頃に死んでしまったからね。だから何回も偽物の妹で遊んでいるけれど、だんだんつまんな
くなってきた。思い切って、そろそろ母親を別の綺麗な奴に変えてやろうか。もっと優しくて、顔が奇麗で、胸が大きくて、
包容力があって、たくさん甘えさせてくれて、良い香りがして、声が可愛くて、エッチが上手で、でもすっごい恥じらいがあ
って、ちゃんと優しく僕を宥めてくれて、食事も上手に作れて、僕に膝枕をしてくれるようなそんな母親が良いな。

449 :屋根裏と妹の抽象画(お題:屋根裏部屋) 8/8 [saga]:2012/10/06(土) 23:35:55.07 ID:Cnd4BKvV0
こんなことをしたって僕は許されるんだ。何せ僕は父の強烈な悪の遺伝子を受け継ぐ、最低の子供だからね。父は悪意によっ
てこの国のトップの位置までのし上がり、そして好き放題やってこの国を滅茶苦茶にしたんだ。
 だからこの国の息子である僕も好き勝手やんなくちゃ、割に合わないだろ。
 さて、じゃあ、そろそろ新しい母さんと妹を補充しなくちゃ。そして飽きたらこの屋根裏部屋に捨てればいいんだ。あぁー、
最高な人生だよ。全く。もし君が好き勝手なことが出来たら、僕と似たようなことをするはずだよ。何せ僕らは悪意のDN
Aを受け継いだ子供たちなのだから。もうこの世に正義なんてものは、プライドと見栄と言う形でしか残っていないんだしね。
あはは。本当に、じゃあ今度はもっと良い玩具を連れて来なくちゃ。

450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/10/07(日) 01:15:41.11 ID:F9UI6Al60
>>426 

 小説拝見させていただきました。
 文章も読みやすく、状況説明などの描写は簡潔ながら余計な文章がなく、とても心地よく読み進められました。
 ただやはり最後のオチと言うか、内容と言うか……そもそも小説の企みやどんなふうに読者を面白くさせてやろうかって
部分が上手く出来ていないように思いました。なんでそうなって終わったの? と疑問が残るばかりでした(もちろん私の
読解力が低いだけかもしれないので、一個人の感想としてお聞きください)
 オチや、キャラクターたち各々の行動の動機、そして展開などの小説を作る上で最も大切な部分を全て丸投げして、目の
前に出されたような感じで、起承転結の起の部分で物語が終わってしまっている印象がありました。
 若しくは短編小説として、見上げた人はどんどん落ちていく人に潰されていくというオチなのかもしれませんが、叫びと
いうお題にしては呆気なく、インパクトも足りないような気がしました。そして最後、主人公はなぜ落ちたのか、よく分か
らず仕舞い……あえてそれを狙っているのでしたらすみません。あまりピンときませんでした。やはり叫びと関係している
のでしょうか? 
 自分的には落ちてくる人に潰されたか、後ろから押されて落ちたと考えました。唐突に人が自らの上に落ちてくる。見上
げたら落ちてくる人に潰されたというアイデア自体は、何か現代社会の地位における比喩のように思えて、いいなと思いま
した。潰されたではなく、窓際から押されたにしても、横並びで教育を受けるものに突き落とされるという比喩にも見えます
し……(僕の勝手な妄想で話を進めてしまってすみません)

 とにかく小説としてかなり荒いと思いましたが、文章などは簡潔で読みやすく、充分に能力があるように思いますので、物
語をしっかり練って起承転結を意識して物語を描けばとても良い物語を作れると思います!
 私も偉そうなことを言えるような実力ではないのですが、導入部分が良い感じだっただけに勿体無いです! 次回の小説を、
心待ちにしております!
451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/07(日) 01:36:56.13 ID:6ciILwn1o
せっかくだから僕も御代ください
452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/10/07(日) 01:38:16.12 ID:tUXZk+WAO
>>450
意地悪なこと言うようだけど、お題は要求しないのかい?
ちょっと読んでみたい
453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/10/07(日) 01:39:11.30 ID:HUs9jO5Lo
>>451
失踪
454 : ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/07(日) 02:50:27.88 ID:zTUblN4xo
いやーん。
またひとつのお題でしか書けませんでした。

>>411の放火で、投稿します。

455 :幼き日の放火魔(お題:放火) 1/4 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/07(日) 02:51:13.02 ID:zTUblN4xo
 生き物を燃やすのにハマったのは小学生のときだった。
 あるとき僕はゴキブリを燃やした。わざとじゃない。お湯を沸かそうとしてヤカンに火
をかけたら、その下からゴキブリが飛び出してきたんだ。一瞬でパニックになった。だっ
てゴキブリ(というより虫全て)が僕は大嫌いだったんだ。あのテカる気持ち悪さ、ウネ
ウネと別生物みたいな触覚。だけどあのときはどっちも見えなかった。何故ならゴキブリ
は燃えていたからだ。全体がオレンジと黄色の炎に包まれていた。それがコンロの上を忙
しなく暴れ回るんだ。想像してみてくれよ。僕はわけの分からない叫び声をあげていたと
思う。よく火事になったり、ヤカンを落とさなかったりしたものだ。ゴキブリは、最後は
シンクにダイブして死んでいた。凄く臭いんだ。僕はとてもそれを片付けられなかった。
母さんが帰ってくるまで台所には絶対近づかなかったし、片付いても暫くは近づく気にな
れなかったよ。
 僕の頭には、長い間ずっとそのことが張り付いていた。本の背表紙で虫が押し潰されて
くっついちゃうみたいにね。何をしていても思い出すんだ。学校で勉強しているとき、食
事をしているとき、家でゲームをしているとき。いつあのゴキブリが飛び出してくるのか
気が気でなかった。もちろん夢にも現れたよ。気持ちよくぐっすり眠っているとき、突然
あいつが現れる。僕はやめてくれって叫ぶけど、あいつは構わず床の上を所狭しと暴れ回
るんだ。ねずみ花火みたいに。
 けど、僕はいつのまにかそれを克服した。あまりにも僕の前に現れるから慣れちゃった
んだ。そうすると、そういうのってなんだかいいなあと思うようになった。淀川の花火大
会を見にさ、毎年毎年大勢のひとが集まってくるだろ? あれと同じさ。さすがにウット
リとはしないけど、それを見るとどこか良い気分になった。人間って本当に不思議な生き
物だって思う。
 そんなのだったある日、ゴキブリが僕の前に姿を現した。結構な大物だった。親指と人
差し指の間をめいっぱい広げたぐらい? それは言い過ぎだけど、とにかく大きかったの
は確かだ。清場は部屋の壁に張り付いて、調子ぶっこいていた。呑気にウネウネと触覚を
動かしているんだ。ほら気持ち悪いだろ? ほら殺せないだろ? っていうふうに。だけ
ど僕はそれを全然気持ち悪いと思わなかったし、怖いとも思わなかった。かわりに、凄く
腹が立っていた。お前はなに余裕ぶっこいてんだ? お前はそうじゃないだろ? お前は
本当はそんなやつじゃないだろ? 僕はゴキブリを鷲掴みにすると、台所の引き出しから
ライターを取り出して風呂場に直行した。ゴキブリを胴体から触覚に持ち替えて、下から
456 :幼き日の放火魔(お題:放火) 2/4 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/07(日) 02:51:56.51 ID:zTUblN4xo
ライターの火で炙ってやった。ゴキブリは狂ったように暴れた。いつまでも持ち続けるこ
とが難しいぐらいに。だけど僕は執拗に炙った。火が燃え移って消えなくなるくらいまで
炙ってからタイルの上に離してやった。ゴキブリはのたうち回っていたよ。なぜ俺がこん
な目に合っているんだって感じだった。さっきまで余裕ぶっこいていたのに。やがてゴキ
ブリはただの焦げた塊になった。その時間は短く、数十秒だったか、数秒だったかもしれ
ない。だけど僕はこれが本当の姿なんだって思った。ゴキブリのあの小さな体に秘められ
た、死に物狂いの全エネルギー。
 それから僕は、ゴキブリというものが全く怖くなくなった。僕はゴキブリを見つけるた
びに燃やしたくなった。家でゴキブリを見つけたら、お母さんや姉に見つからないように
捕獲して、机のなかに厳重に保管した。夜中に皆が寝たことを見計らってから、僕は風呂
場でコッソリと燃やした。夜は夜で別の楽しみがあるんだ。明かりを消すとゴキブリの炎
だけが見えて、なんとも言えない味わいがあったんだ。ゴキブリが燃えずに殺されると、
それだけでとんでもなく腹が立った。声には出さないけど、その日は誰とも全く口を聞か
なかった。
 僕はいろんな生き物でも試してみた。蚊、カマキリ、ハエ、ミミズ、ダンゴムシ、ムカ
デ……だけどどれもゴキブリほど面白いことにはならなかった。僕はいろんなものを燃や
していくうちに、ある種の法則というものが分かるようになってきた。生命エネルギーな
んだ。生命エネルギーを多く持つほうが、燃えたときに激しく暴れ回る。数億年以上生き
てきたゴキブリの生命エネルギーは、文字通り凄まじいものだった。いわば燃やすという
のは、生命エネルギーを測る物差しになるんだ。唯一、ゴキブリ以外で面白いと思ったの
は蜘蛛だった。あとはドングリの背比べ。少しずつだけど、僕は生き物を燃やすというこ
とに飽きてきた。僕を一番最初に驚かせたあのゴキブリのことだって、大したことじゃな
いと思えるようになってしまったんだ。転機が訪れたのはそんなときだった。
 学校の昼休み中に、とつぜん雀が教室のなかに飛び込んできた。みんなビックリして雀
から逃げるんだ。だけど跳ね回って近づいてくるから、あるクラスメイトがあやまって雀
を蹴ってしまった。それで雀は吹っ飛んだんだけど、片方の足が変な方向に折れ曲がって
しまった。これは明らかに回復不可能という折れ方だった。なんてことをしてくれたんだ、
と僕は思った。クラス全体にもいたたまれない空気が漂って、わざとじゃないのは分かっ
ているけど、蹴ったクラスメイトを糾弾せずにはいられなかった。そのクラスメイトは今
にも泣きそうだったんだけど、別のクラスメイトが雀の前に歩み出た。クラスのリーダー
457 :幼き日の放火魔(お題:放火) 3/4 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/07(日) 02:52:41.31 ID:zTUblN4xo
的存在で、清場という男の子だった。清場が「なんとかしてくる」と言って雀を抱え、教
室を出ていってしまった。みんなその後ろ姿を見つめていたけど、僕だけは清場の後をつ
けていった。
 清場は校舎の裏側に行った。校舎の裏側は草がボウボウだから、誰も好き好んでこんな
場所には来ない。清場はそこで雀を離した。やっぱり何もできないんだ。僕がずっと突っ
立っていると、清場が近寄って僕に言った。みんなには言うんじゃないぞ。僕は無言で頷
く。
 教室に戻っても、誰も僕たちに何も聞かなかった。本当は聞きたいんだけど、聞かない
ことで事象が確定するのを避けているようだった。その日の午後は授業が一時間だけあっ
たけど、まるで葬式みたいに静かだった。重苦しい雰囲気で授業とホームルームが終わる
と、清場が真っ先に教室を飛び出した。遅ればせながら、僕も後についていった。
 清場は思ったとおり校舎裏に向かっていた。ここには放置できないと思ったんだろう。
僕が近づいて聞いてみると、やっぱりそのとおりだった。こんなところに置いてちゃいけ
ないよな、どこか遠くに持っていかないと。
 清場は雀をそれ以上傷つけないよう大事に抱え、歩きはじめた。雀は見るからに衰弱し
ていて、苦しそうに肩で息をしていた。僕はそんな姿を見つめながら、横に並んで歩き出
す。清場はゆっくりと歩きながら、どこまでも遠くに行こうとしているようだった。僕ら
は人目を避け、裏道を通った。誰かがいれば避ける、誰かがいれば避ける。そうして僕ら
は誰もいない公園にたどり着いた。どこの公園なのかは知らない。ただ、完全に校区外で
あることは確かだった。清場はその公園の見えにくい木陰の下で、雀を離した。
 雀はもはや虫の息だった。今に命が消えてもおかしくなかった。おそらく、残されてい
る生命エネルギーは僅かしかない。清場は雀を離した格好のまま、固まったように座り込
んでいた。
 僕は聞く。
 どうするの?
 ここに置いて帰る。
 その言葉を聞いたとき、僕は安心した。やっと僕の思うようにできると思ったからだ。
だけど清場は動かなかった。いつまでも石のように動かなかった。
 何やってるのさ、と僕は言う。
 帰るんじゃなかったの?
458 :幼き日の放火魔(お題:放火) 4/4 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/07(日) 02:53:32.39 ID:zTUblN4xo
 帰るよ。
 じゃあ早く帰ろうよ。
 分かっているけど、帰れないんだよ!
 清場は両手で頭を抱え、葛藤のようなものに苦しみはじめた。僕は一体清場が何故こん
なにも苦しんでいるのか理解できなかったけど、そんなことを気にしている場合じゃなか
った。僕は焦っていたんだ。
 燃やそうよ、と僕は言った。
 清場は最初、聞き間違いだと思ったみたいだった。だから早口で念入りに説明してやっ
た。初めはそんな気がなかったこと。だけど授業を受けているうちにやらねばならないと
思ったこと。雀の命が今にも尽きかけて焦っていること。そして僕のカバンに燃やすため
のスプレーとライターが入っていること。清場は僕のことを狂っていると言った。しかし
僕を止めることはできない。僕の方が信念を持っていたからだ。
 僕らは砂場に雀を移動させた。そしてスプレーをライターで火炎放射器にして、雀の全
身に火をつけた。その瞬間、雀は僕の全身が硬直するような恐ろしい叫び声をあげた。き
っと、いつまでも聞いていたら気が狂ってしまう。そういう種類の叫び声だった。だけど
それは一瞬の出来事だった。すぐに叫び声は止み、ただの黒い塊がそこに残った。
 僕と清場は雀から出ていく煙をずっと眺めていた。煙が出なくなると公園の木陰に埋め
て、一言も言葉を交わさずに家路についた。
 僕はそれ以来、生き物を燃やすのをやめてしまった。あの雀の叫び声を聞いて、許され
ないことだと思ったからだ。だけど清場はそう思わなかったみたいだ。最終的に人間放火
という殺人を犯し、捕まった。もしあの場で雀を燃やさなかったらどうなっていたのか、
僕には分からない。だけど人には生きていくうちに幾つか重要なターニングポイントがあ
って、僕にとっても清場にとっても、あれがその一つだったのは確かに違いない。
(完)
459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sagasage]:2012/10/07(日) 03:20:58.88 ID:zTUblN4xo
>>442
なんというか、読んでいると真似したくなる口調ですね。
けど僕には無理だったよ。

5レス目ぐらいまでは天才だと思いました。
6レス目以降も悪いというわけじゃないんですけど。
自分のことを棚に上げると、安易にソッチ系に逃げてほしくなかったなと。そんな印象です。
460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/07(日) 05:09:42.08 ID:wrOeAtbIO
よし、今週の品評会は他の人たちに任せた
というかキャンプでネタがぜんぜん降りてこないや、次回頑張ろう
461 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします426 [sage]:2012/10/07(日) 06:36:29.76 ID:nOEJjuYAO
>>450
厚い感想ありがとう
オチはよくわからないとしたら10割こちらの描写不足のせいだ、精進します
ちなみに話は昔読んだハイタセカイという作品を記憶から掘り起こして書きました
記憶が正確なら多分パクリの域になってそう
462 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/07(日) 07:18:16.70 ID:6ciILwn1o
>>453
thx
463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/10/07(日) 20:02:36.08 ID:F9UI6Al60
>>452
屋根裏部屋というお題で書いたばかりだったのに加え、あんまり一人で投稿しすぎても鬱陶しいかな、と思いお題を貰うのを控えました。
でも、>>450のレスを見返してみると、なんか才能も実力も無いくせに偉そうなこと言ってばかりですね……本当に>>426にも申し訳ない。何か良さげな雰囲気の作品だっただけに、もっと面白くなりそうだから、ついついいろいろ批評してしまった……。コイツ何様だよって感じだよね。。。

私の小説は>>442から投稿しているので、もし読んでいただけるのでしたらメッタクソに批評してください。覚悟は出来てます……!

<<461 
いえいえ私の個人的な感想だから、10割だなんてことないですよ;; 
オチだって人によって受け取り方は様々だと思うから! ハイタセカイという作品、気になるのでちょっと調べて見ます!
464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/08(月) 00:19:57.99 ID:591nXkom0
おだいくだせい
465 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/10/08(月) 00:26:34.63 ID:e+cjPFwHo
>>464
灰色
466 : ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/08(月) 02:01:04.54 ID:J6SDpBYQo
>>410 「生きるということ」で書きました。

実は >>455 を投稿したときに置換ツールを使ったせいで、えらいミスをしてしまった……
そのリベンジの意味も含めて書きました。
467 :生きるということ 1/3 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/08(月) 02:01:46.53 ID:J6SDpBYQo
 夜は僕の感覚を鋭敏にし、研ぎ澄ましてくれる。
 夜が最初に教えてくれるのは、僕は生きているということ。ぼくは夜の間だけ街の住人でいることができる。
外を出歩くことができる。夜は僕にとって特別な世界だった。しんと静まりかえった気配、種々の汚れを覆い隠
す闇の訪れ。皆が寝静まる時間に僕は街に出た。麦茶が入ったペットボトルにスマートフォン、スポーツタオル、
そして僅かばかりのお金を持って。
 遠くから、カタンカタンという音が聞こえてきた。そちらの方向に顔を向けると、高架橋を走る列車の姿がぼ
んやりと見える。深夜ゼロ時を過ぎたこの時間帯でも、列車はまだ通っているのだ。運転士ひとりだけが操縦す
る貨物列車。彼らもまた夜の街の住人だった。
 誰もいない街の歩道を、少し息が切れるくらいの速度で駆ける。今日はどこに行こうか。昨日は川に沿ってど
こまでも走ったのだけど、今日は川を渡ろうか。このまま少し進んだところに、川の底を通るトンネルがある。
 トンネルの入り口には、下に降りるための巨大な業務用エレベーターが備わっていた。だけどいまは時間外だ
から動かない。隣にコンクリートの階段があり、僕はそれを降りていかねばならなかった。階段を降り始めると、
周りのあちこちで反響した足音が耳奥に入り込み、僕の緊張感を微かに煽る。地下とトンネル。どちらもアンダ
ーグラウンドを感じさせるものだ。例えば映画やテレビドラマだったら、不良の集団が脈絡もなく現れて、理不
尽な悪意をぶつけて僕をめちゃくちゃにしてしまうかもしれない。だが結局、僕がトンネルの端まで行って階段
を上がるまで不良は現れなかったし、そんなのはただの想像で思い込みでしかないなんてこと、僕は知っていた。
 川を渡ると、そこには全くの別世界が広がっていた。距離にしたらたった数百メートルしか離れていない。国
境を隔てているわけでもないし、文化が違うわけでもない。だけど違う道があって、違う建物があって、違う町
の名前がある。そこに突然現れたという点で、そこは紛れもなく別世界なんだと僕は思った。僕はその町を、商
店通りに沿って走る。やっぱり誰もいなかった。この辺りは交通量も少ないのか、自動車ひとつ走らない。本当
に静かだ。僕の足音や吐息が主役に抜擢されるぐらいに。
 目の前に、いろいろな夜の住人が姿を現しはじめた。電柱に取り付けられたライト、自販機の灯り、闇夜に映
える高層ビルのイルミネーション。輪郭をギラギラとさせる植物の葉、折れてしまったガードレール、錆びつい
た古い看板。どれも昼間に見れば、どうということのないものだ。しかし夜が夜であることを僕が認識していく
たびに、あらゆるものは僕の前でその存在を主張していく。それ以上、何をするのでもないのだ。僕のことを襲
いもしないし助けもしない。ただどれも、僕の心に一抹の不安を残していった。あのここに来るときに通ったト
ンネルみたいに。だけど、やはりそれが思い込みであることを僕は知っている。
 そのままずっと走り続けていると、大きな公園が見えた。大きいといっても、どこかの有名な公園と張り合え
るぐらいじゃない。ただ草木に囲まれて、いくつか遊具があって、子供が野球ゴッコならできそうなところ。そ
んな公園だった。僕は公園なんかそんなに興味なかったけど、ひとつの遊具に目を奪われた。それは巨大なお椀
468 :生きるということ 2/3 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/08(月) 02:02:34.70 ID:J6SDpBYQo
をひっくり返し、さらにそり立つ壁になるようにスプーンでくり抜いた形をしている。僕は子供の頃、その遊具
が好きだった。ただそり立っているだけのそれを、何時間も飽きずに登っていた。あのとき登っていたのとは違
うけど、僕は懐かしさに惹かれ、その遊具へと向かっていった。
 その遊具は、今の僕からすればとても小さいものだった。少し勢いをつけて登ると、あっという間に頂上に登
ってしまった。子供の頃は全く登れずに、何度も滑って下に落ちていたのに。僕は時間が解決する問題としない
問題があることを知った。今のは「する」問題。僕が抱えているのは「しない」問題。頭の中には、高校〜大学
時代に友達だった子のことが浮かんでいた。同じ研究室に通って、社会人になってもたまに連絡をとっていた。
その子のことを思い出したのは、その子の実家がここから近いからだろう。
 僕とその子は、この現代社会への適応に苦戦していた。個人が社会のために歯車になる時代。僕らは歯車にな
るためにこれまで教育を受けさせられてきたのだということを、否が応でも実感した。だから騙された、という
気持ちが僕には少なからず有ったし、その子はそのとき初めて自殺を考えたというのだから、僕よりも大きくシ
ョックを受けたようだった。それから僕とその子は密に連絡を取り合うようになったのだけど、その子が僕から
金を騙し取ろうとしたことを境に関係は終わってしまった。二百万ぐらい借金を作ったらしい。前からおかしい
なとは思っていた。僕の話はまるで聞いてなかったし、悪く言えば用事があるときだけ僕を利用しているみたい
だったから。だけど僕は、実際にその子が僕を騙そうとするまで、その子のことを信じていた。信じたくなかっ
たんだ。そんな絵に描いたような馬鹿なやつが僕の周りにいるなんて。
 頂上は平になって座れるようになっているので、僕は座り込んで空を見上げた。この空だけは昔からずっと変
わっていない。星がろくに見えない空。宇宙的に見ればとても明るいであろう星が幾つか、液晶モニターがドッ
ト欠けしたみたいに見えているだけだ。僕が空を見て感動したのは一度だけ。八高原かどこかで見た夜の星空。
まるで星が降り注ぐようだった。あんなに明るい星達が一体どこに隠れていたんだろう、そして今はどこに隠れ
ているんだろう。もしあの星達が見えないほど空が汚れているのなら、人間社会は一体どれほどのエネルギーを
持っているというのだろう。何もかも覆い隠す負のエネルギー。その力は、この夜の闇のものよりも大きいのか
もしれない。
 僕はスポーツタオルで顔や体を拭く。ペットボトルで水分を補給しながら、スマートフォンで現在時刻を確認
した。AM2:04。少しずつ、朝を意識しなければならない時間が近づいてくる。だけど僕は帰りたくなかっ
た。もっと夜の世界を過ごしていたかった。だから僕はもっと遠くに走ることにした。
 ずっと走っていくと、僕は川に突き当たった。スマートフォンのマップツールで確認すると、このあたりで最
も大きな川だった。僕は人生で何度かその川に行ったことはあるけど、こうして真夜中に、しかも徒歩で来たこ
とはない。少し先に、川を横断する大きな橋がかかっている。その橋はまだ完全に交通量が途絶えておらず、と
きおり軽自動車やトラックなんかが猛スピードで突っ切っていった。僕はその橋を渡ることにした。
469 :生きるということ 3/3 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/08(月) 02:03:51.95 ID:J6SDpBYQo
 途切れ途切れに隣を走っていく自動車の音を耳に入れながら、その橋を渡るというのはなかなかスリルなこと
だった。その巨大な川は僕に届かないところにありながらも、確実に僕のことを捉えていた。夜の川の水はまる
でコンクリートを流し込んだような重量感があり、落ちてきたものを決して逃さないであろう気配に満ちている。
僕は足下にあるアスファルトの欠片を川に投げ込んだけど、川からは全く何の音も返ってこなかった。欠片が小
さすぎたのか、それとも川が音すら飲み込んでしまったのか。僕は川を眺めながら思った。この川なら、僕のこ
とを全部飲み込んでくれるだろうか。この川に落ちれば、本当にどこか別世界に行けないだろうか。
 何をやっているんだ、と僕は思った。あまりにも馬鹿なことをやっている気がして、急に眩暈がして倒れそう
になる体を欄干で支えた。ペットボトルを地面に落としてしまった。なんとか道路に落ちないところで止まって
いる。
 先月、僕は初めて自分を売った。それが女の子になって初めての行為だった。みんな作り物のアソコに喜んで
突き立てていった。
 僕は中学生の頃、イジメにあった。女のような顔や体をしているからって、訳もなく殴られた。使われること
がなかった教室に連れ込まれ、男性器や肛門をめちゃくちゃに弄られた。僕が他人の手によって絶頂に達すると、
周りのやつらに笑い者にされた。僕は男の手で逝くホモで変態で、この上なく気持ち悪いやつだと言われた。男
も女も、僕を虐めること以外では誰も近寄ろうとしなかった。僕はそのことをずっと隠して生きてきた。普段ち
ょっとしたことでそれが頭を過ったりして、何十分も吐き続けたことさえある。それがある限り、僕はまともに
なれないんだと思った。一生そのことを抱えて生きていかなければならないんだと。だけど僕のなかには小さな
火種がずっとくすぶっていて、それが決定的に僕のことを壊してしまった。
「大人になった時、簡単に愛される方法を見つけたの。服を脱ぐだけで良かった」
 僕はその言葉をネットで見てしまったとき、目の前が真っ白になった。頭が焼きついてしまいそうなぐらい熱
くなって、壁に頭をガンガンと何度も叩きつけたくなった。僕はマリリンモンローに嫉妬した。自分が女でない
ことに絶望した。女だったら、体を売るだけで生きていけるのに。それから僕は退職して女性ホルモンを注射し、
美容整形した。僕はもともと女みたいだったので、あっという間に女になった。男性器があると男性ホルモンが
出てしまうので、僕は睾丸を切除し、ペニスも切った。僕は貯金のほとんどを使ったうえに、両親から勘当され
た。僕はいま、自分の体を売ったお金で生きている。自分が子供の頃になるなんて思っていなかった、娼婦にな
って生きている。
 僕のズボンのポケットには、千五百三十二円が入っている。千五百三十二円。僕が男だったときに稼いだ最後
の金だ。これを使い切ってしまえば、僕は完全に女になるだろう。こうして男の格好をして、夜の町を出歩くこ
ともなくなるだろう。僕はあのまま、男として生きていくこともできた。だけど一生後悔していただろう。生き
ていくってことは、何かを失っていくということなんだ。それを回復する術があるのか、僕にはわからない。(完)
470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sagasage]:2012/10/08(月) 02:07:00.54 ID:J6SDpBYQo
投下終わりました。

ここのところ毎日投下して鬱陶しいかもしれないけど、
いま僕は何かが書きたくて止まりません。

こんな僕にお題をもらえると嬉しいです。
471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/08(月) 02:17:34.16 ID:eMK6ZzU9o
>>470
リピーター
472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/10/08(月) 03:19:57.40 ID:J6SDpBYQo
>>471
サンクスです
473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/10/09(火) 22:37:09.94 ID:9+a2E2QM0
お題くださいな
474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2012/10/09(火) 22:40:07.92 ID:kM3+U1ono
>>473
潮騒
475 : ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/10(水) 01:27:57.35 ID:4XRXr816o
>>471 のリピーターで書きました。

一回書いたけど満足できなかったので、もう一回書きなおした。
投下します。
476 :何でも屋アリス(お題:リピーター) 1/5 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/10(水) 01:29:04.90 ID:4XRXr816o
 初めて僕の家に訪れたのは、NHKの集金人だった。集金人は僕がテレビを持っていると決めつけて、僕から
金を取ろうとした。だけど僕はテレビというものを全く持っていなかった。液晶テレビやプラズマテレビといっ
たものはもちろん、スマートフォンにワンセグさえ付いていなければ、パソコンにテレビチューナーも付いてい
ない。僕はそのひとに家の中に上がってもらい、本当にそれらがないことを確かめてもらった。そのひとはワン
ルームをぐるっと見回しただけだけど、テレビがないということはどうやら信じてもらえたようだった。
「はぁー、近頃の若者はテレビがないって言っても必ず持っているものだけどねぇ」
 そのひとは感心したように言った。僕がそのように言われたのは本当に久しぶりのことだった。僕は長い間、
そういったやり取りを何処か遠くに置き忘れたみたいに感じていた。
「新聞もとってないのかい?」と言われたので「はい」と答えた。スマートフォンに無料で新聞を読めるアプリ
が入っているが、実際のところは全く読んでいない。読んでいないということは「とってない」と考えていいだ
ろう。僕はそのことを伝えようとしたけど、うまく言葉にできなくてやめた。
「兄ちゃんダイブ変わってるみたいだけどねぇ、世の中の動きぐらいは知っておいたほうがいいよ。こうして一
人暮らししている間にも、世界は刻々と変わっていってるんだからさ」
 集金人はそういって帰ることに決めたようだ。マンションの廊下を遠ざかっていく後ろ姿を見て、僕は反射的
に口から言葉を出していた。
「実は僕、テレビ見てますよ」
 集金人は一瞬足を止めて、それから何事かというように僕に振り返る。
「何だって? 何で見てるんだい」
「街頭テレビです」
「街頭テレビ?」
 集金人は狐につままれたような顔をした。かまわず僕は話す。
「僕、朝にこの辺りをジョギングしているんです。すると駅の前に大きな液晶モニターがあるでしょう? 帰る
ときにあれを見るんです」
 集金人は呆れて帰ってしまった。何故あんなことを言ったのか。僕はいつも言うべきことを間違える。
 僕は数年勤めていた会社をやめて、一人暮らしを始めた。僕はそれまで、沢山のひとに支えられて生きていた。
実家暮しだったので両親はもちろん、たまに幾らか友達と会ったりして、日頃の不満をぶつけたりしていた。だ
けど僕はそれでは満足できなかったのだ。何故なら僕が感じる不満は、僕がアイデンティティとなるものを何ひ
とつ持っていないことに起因するものだったからだ。だから僕は一人暮らしをして、アイデンティティとなる仕
事をやってみることにした。数年前から頭のなかで計画はできていたけど、それは途方もない努力を伴うもので
あり、これまで生きてきた人生の中で僕がずっと拒否してきたことだった。だが、それでも僕はやっていかなく
477 :何でも屋アリス(お題:リピーター) 2/5 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/10(水) 01:29:40.90 ID:4XRXr816o
てはならない。じゃないと、生きていけない。
 一人暮らしの厳しさを僕は想像していたが、実際には想像していたよりもずっと困難だった。それなりに計画
して一人暮らしを始めたはずだけど、生活していくうちに次々と必要なものが出てきて費用がかさんでいった。
例えば僕は夕食を食べるときまで、この家に机がないということを把握できずにいた。僕は僕のやろうとしてい
る仕事については準備万端で物事を進めたのだけど、それ以外のことは全くからっきしだった。調理をしように
も、調理器具が全く無かった。貯金にまだまだ余裕はあるものの、あと何年生きられるかという計算が僕をひど
く苦しめた。
 僕は負のエネルギーを全部推進力に変えるようにして作業を進めた。ひとりしかいない夜というのは大変寂し
いものだった。僕はあれだけひとりになりたがっていたのに、いざひとりになってみると人が恋しくて堪らなか
った。もしかしたらペットでも飼ったほうが良かったのかもしれない。ただここはペット禁止だし、いざ飼った
としても自分の首をさらに締めるだけだと思われる。何もかもが八方塞がりだった。だから、僕はあんなものに
手を出してしまったのかもしれない。
 僕はある日某通販サイトで、何でも屋アリスというネットショップを見つけた。五百円から注文を受け付けて
いる。通販サイトを通じて注文を行うのだが、何とその商品が何も表示されていなかった。これでは購入しても
送られてくるものが分からない。それだけなら普通の福袋と変わらないのだけど、アリスがそれと異なるのは、
アリスが客にとって必要なものを考え、その商品を送付してくれるということだった。もちろん全くの手がかり
がないところから考えるというのではなく、アリスに要望を伝えるためのテキストボックスが注文ページに用意
されている。ただし具体的に欲しいものを指定しての購入はできないというのが、アリスから商品を買ううえで
のルールだった。
 僕は五百円でアリスに注文した。あのとき手を出してしまったことを今では凄く後悔している。あれのせいで
多大な金と時間を無駄にしたんだ。だけど僕は、何か不思議な力に導かれたように注文してしまった。要望は「
役に立つものをくれ」。こんなので通るのかと思ったけど、注文は受け付けられた。
 それから数日経ったある日のこと。僕の元に一つの小包が届いた。箱にALICEと書かれている。間違いな
くアリスのものだ。僕はテストの合否通知を開けるようなドキドキした感覚で、箱を開けた。
 箱のなかには爪切りが入っていた。
 ALICEのロゴが入ったそれを見ながら、僕はフンッと鼻を鳴らした。
 なるほど、爪切りか。確かに実用性のあるものだ。たとえ既にひとつ持っていたとしても、ふたつ持っていて
困るもんじゃない。それに都合良く僕は爪切りを持っていない。その爪切りは小さく折りたたみ可能で、形がシ
ュッとしててスタイリッシュだった。百円ショップで買うようなものとは質が違うだろう。たまには良い爪切り
を買うのも悪くはない。
478 :何でも屋アリス(お題:リピーター) 3/5 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/10(水) 01:30:09.31 ID:4XRXr816o
 僕はその日、購入した爪切りで手足の爪を切った。
 案外良いものが届いたので、僕はまたアリスで注文した。
 僕のところにはいろんなアリス製の商品が届いた。カップ、フォークにスプーン、石鹸、歯間ブラシ……耳掻
きはいらなかった。僕は綿棒派だ。商品の評価をするページでそのことを伝えると、次は綿棒セットが送られて
きた。ほとんど棒みたいな百円ショップの綿棒と違い、綿の部分がとても柔らかく、お風呂上がりに耳を掃除す
ると大変心地が良かった。
 あるていど日常品が出揃った気がしたので、そういうのはもういいと言った。もっと別のものを送ってくれな
いだろうか。代わりに僕は料金を千円に上乗せした。どのようなものが送られてくるかとワクワクしてくる。た
だ、その気持ちは比較的落ち着いたものだった。僕はアリスに対してある程度の信頼を置いていたのだ。
 数日後、アリスから荷物が届いた。それはこれまでで最も大きく、片手よりも両手で持った方がいいというも
のだった。僕はいつものように箱を開けてみる。中には虫カゴと、カブト虫の幼虫が入っていた。僕は仰天した。
 畜生、何てものを送ってきたんだアリスのやつ!
 僕はこの世のなかで虫が最も嫌いだった。品種や種別などの問題ではない。とにかく虫であるもの全てが嫌い
なのだ。だいたいカブト虫の幼虫なんて、ただのデカい蛆虫じゃないか!
 僕はそれを直ぐに近所の公園に捨てた。僕はとても怒っていること、いきなり虫を送ってくるなんて非常識で
あること、虫であるかどうかにかかわらず、今後生き物は一切送らないでほしいことをアリスに伝えた。あまり
にも腹が立っていたので、僕は次の注文を行わなかった。
 暫くして、僕の手元に小包が届いた。注文をした覚えがないのに、それはアリスからのものだった。開けてみ
ると、真っ白で柔らかいタオルと詫び状が中に入っていた。詫び状の中身は以下のようなものだった。私の不注
意で貴方を怒らせてしまい、大変申し訳なく思う。私はまだ勉強中の身で、今回の件は大変参考になった。お詫
びの意味を込めて、つまらぬものかもしれないがこのタオルを贈りたい。もし加藤様にお許しいただけるようで
あれば、是非また本店をご利用いただきたいと考えている。
 僕は驚いた。まさかアリスから直接こんなものが送られてくるなんて思ってもいなかった。詫び状に目を通し
た後、最初に思ったのは、これは個人情報の利用目的に違反しているのではないかということだった。僕が同意
した利用規約に「詫び状を送る場合」なんて項目はあったのかどうか。だが、今そんなことはどうでもよかった。
利用規約なんて今更見直す気はない。問題なのは、アリスが僕に対してこんな形で接触してきたということだっ
た。僕らはネット上でやり取りをしつつも、あくまで疎遠な関係だったはずだ。気に入るものをアリスが送って
きたならば、続けて利用する。そうじゃなければ利用しない。とてもシンプルで、一時的な関係だったはずだっ
た。それなのにアリスはこんな詫び状を送り、僕と親密な関係を築こうとしている。僕は怖くなって、送られて
きた小包をまた元に戻し、部屋の隅へと押し退けた。
479 :何でも屋アリス(お題:リピーター) 4/5 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/10(水) 01:30:42.40 ID:4XRXr816o
 僕は一ヶ月くらいアリスと関わろうとしなかった。そのあいだ僕は僕の仕事について、半ば取り憑かれたよう
に取り組んだ。自宅でのデスクワークだったので一人で過ごす日々が続き、あるときには三日間、一歩も家を出
ようとしなかった。仕事は大変充実していたけれど、時に外を見れば何時の間にか夜になっており、差し込むよ
うな寂しさが僕を襲った。寒さも敵だった。フローリングの床が冷たくて、僕はいつも布団の上で過ごさねばな
らなかった。
 僕はどうしようもなく人の暖かみが欲しかった。ホストやキャバクラに何十万もつぎ込む人達の気持ちがわか
る気がする。今の僕にはどこにも当てがなかった。あるとすれば、あの変な小包を送ってきたアリスぐらい。馬
鹿なことだと思うが、僕はふたたびアリスに注文してしまった。
 アリスから小包が送られてくる。僕は最初に荷物を受け取ったときよりも緊張していた。僕は本当にどうかし
ていて、アリスに自分の心情を吐露してしまっていたのだ。僕はいまとても寂しい、この心を癒すものをどうか
送ってほしい。しかも僕は五千円で注文していた。一体どう思われたのか。カモだと思われたかもしれない。け
ど今はそれでもいい。僕は特効薬が欲しい。
 小包のなかにはプリベイド式の携帯電話が含まれていた。馬鹿にしているのか。そう一瞬思った後、アリスの
意図に気付き、電話を取り出して電話帳を開く。ひとつだけ連絡先が登録されていた。もちろん、何でも屋アリ
スである。
 全身が震えるくらい衝撃を受けた。それは僕が最も望んでいたものであり、最も望んでいなかったものでもあ
る。これではテレクラだか出会い系サイトと同じだ。僕はこれまでの人生のなかで、それらにだけは手を出さな
いようにしようと思って生きてきた。けど寂しさというのは、ひとの決意すら曲げてしまうものらしい。僕は散
々悩んだあげく、発信ボタンを押して電話をかけてしまった。
「お待ちしておりました、加藤様」
 そのとき、僕は終わったと思った。アリスは僕にとって完璧な声で、最高の対応をした。僕はその声から、と
ても洗練された金髪の美人を想像しないわけにはいかなかった。
 アリスはとても聞き上手だった。アリス自身から何かを話すことはなく、アリスは僕の話したことがどんどん
広がっていくように言葉を返した。僕が「寂しい」というと、「どうして寂しいのですか?」と言ってくる。「
一人でいるからだよ」というと、「なぜ一人でいるのですか?」と聞いてくる。そうして僕は自分の身の回りの
ことを話さずにはいられないのだった。アリスは僕のことを肯定も否定もしなかった。だけど僕は自分のことを
話しているだけで気持ち良く、何分でも何時間でも話していたかった。五千円のプリペイドなんてあっという間
に使ってしまった。
 僕は評価ページに、今回の商品は大変満足したと記述した。できればまた君と話がしたい、なんて赤面するよ
うなことも記述した。注文のときに商品を指定するのはNGだ。だけどこうして気持ちを伝えておけば――? 
480 :何でも屋アリス(お題:リピーター) 5/5 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/10(水) 01:31:30.25 ID:4XRXr816o
僕はまた五千円で注文した。寂しさは前よりもずっと酷くなってる、はやく僕を癒してほしい。ほとんど口説き
文句だった。僕はどうしてもアリスともう一度話をしたかった。
 そして僕の手元には目論見どおり、プリペイド式携帯が送られてきた。その次もまたその次も、僕が同じこと
を言えば同じものが送られてきた。「癒してほしい」は僕らだけの合言葉なんだ、そう思うと僕は興奮せずには
いられなかった。ますますアリスと話したいと思うようになった。もっとアリスのことを知りたいと思うように
なった。だけどその思いが強くなっていくたびに、このプリペイド式携帯だけで繋がれているという現状に僕は
満足できなくなっていった。
「何で君は自分のことを教えてくれないんだ!」
 ある日、僕はアリスに怒鳴った。アリスはとても申し訳なさそうに、「なぜ私のことを知りたいのですか?」
と返してくる。そうじゃないんだ、と僕は言った。僕がその問いに答えると、アリスはそっち方面で話を進めて
くるに決まっている。そんなことを望んでいるんじゃない、僕は君のことをもっと知りたいだけなんだ。だけど
アリスは、どうしても自分のことを教えてくれなかった。出来の悪い子供みたいに、どうして自分のことを知り
たいのかと執拗に繰り返した。声だけが申し訳なさそうにどんどん小さくなって、僕がアリスを虐めてるみたい
になってきた。僕はヤケクソになって電話を切った。
 なんで僕に何も教えてくれないんだよ、アリス。
 僕は初めて、プリペイド式携帯に満足していない旨を評価ページに記述した。僕と君はこれまで良好な関係を
築いてきた。だけどそれだけじゃもうダメなんだよ、もっと君と親密になりたいんだよ。そして僕は五十万円の
注文をぶち込んだ。何でも屋アリスで最高金額の注文だった。これで最後だと記述した。満足できるものを君が
送れなければ、これで最後だ。僕は君との関係を終わりにしたくない。
 数日後、僕の手元にこれまでで最も重い荷物が届いた。僕はその重量感に、どこかしら覚えがあった。荷物を
開くと、その中にはA4のノートパソコンと一枚のパッケージソフトウェアが含まれていた。パッケージの表面
にはALICEと書かれている。僕はそれをパソコンごと窓から投げ捨てた。

(完)
481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sagasage]:2012/10/10(水) 01:33:35.22 ID:4XRXr816o
終了です。

ひとつ書くのに五〜六時間かかるけど、やっぱりまた書きたくなる。

またお題ください。
482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/10(水) 01:48:41.31 ID:6QzUvkhvo
>>481
立候補
483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/10(水) 06:07:33.61 ID:U4yl4uXIO
>>482

さんくす
484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/10/10(水) 07:46:48.33 ID:1+WSURpio
>>481
5〜6時間で書けるのがすごい
485 : ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/10(水) 21:14:26.07 ID:/ZK919V9o
>>482

立候補で書きました。

>>484

速いんですかね……?
某作家は一日でライトノベルを書き上げるという噂もありますが。

ただ、私はプロットとかあまり考えずダーッと書いてしまうので、そのぶん速いのかもしれません。
(もっと考えたほうがいいと思うこともありますが)
486 :自我の選択(お題:立候補) 1/5 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/10(水) 21:15:45.26 ID:/ZK919V9o
 電子銃により人間を作り変える。僕はある研究所で行われるそんな実験に立候補した。なぜなら僕はそのとき
人生が八方塞がりだったからだ。何をやっても幸せにはなれない気がしたからだ。
 それはネットではなく、ある雑誌の紙面上で募集された。電子メールなどではなく、紙面から申し込み用紙を
切り取り、自分が応募する理由を四百字以上で説明しなければならない。書くのが許されているのはボールペン
か万年筆のみで、一字の間違いや誤魔化しも許されなかった。決して広くない用紙に四百字以上も書くのは至難
の技で、僕は何枚か申し込み用紙を駄目にした。五枚目の用紙に記入する際には、僕は完全に記入するレイアウ
トを考えたうえで、他の用紙で何回か練習した後、それに臨まねばならなかった。僕はそうやって記入を完了さ
せたうえで、茶色の封筒に封をして、とんでもなく住所が長い宛先に送付しなければならなかった。
 僕はそれをポストに投函した。これで自分が変われるんだと思うと、いてもたってもいられなくなった。自分
がまるでサッカーでゴールを決めたみたいに走り出して、そのまま何処かに行ってしまいたいと思った。だけど
僕が走り出したとき、それはまだポストの中にあった。これから夕方になって郵便局の人間がポストから封筒を
回収して、それから郵便局のなかであるべきところに仕分けされて、しかるべき日にちに配達される。僕にとっ
て、それは永遠に長い時間であるように思われた。それから研究所のひとが僕の封筒を受け取って、僕に合否を
出すまでにどれだけの時間がかかるだろう。僕はそれまで、僕の人生が変われるかどうかを判断できないのだ。
 結果を待つまでの間、僕は今まで通りの日々を過ごさねばならなかった。自分には価値がない、ゼロだと思う
日々だった。なぜ生きているのか? わからない。なぜ死なないのか? わからない。ただひとつ分かっている
のは、死んでしまえば僕がいま悩んでいることなんて簡単に吹き飛んでしまうということだ。僕はつまらないこ
とで悩んでいる。だが僕の頭のなかには、考えてもどうしようもないことがいつまでもグルグルと頭の中を駆け
回っていた。いつのまにか一日が終わり、そのことがまた僕を苦しめる。
 一ヶ月経過したが、研究所からまだ連絡は来なかった。落ちたんだ、と僕は思った。世の中には僕よりも病ん
でいる人がいっぱいいて、きっと僕の病み方なんか大したものじゃなかったんだ。そう思うと、また憂鬱になっ
た。どうしようもない人間なんだ、という思いが僕の心を狂わせた。病むことすらできない欠陥人間。そんな僕
に電話がかかってきたのは、さらに一ヶ月経ってからのことだった。
「初めまして、○×研究所の者です」
 僕はその電話を取った瞬間、視界がぐるりと回って倒れそうになった。何故かかってきたんだ? 僕はもうそ
んなこととっくに諦めていた。他の方法で抜け出さなくちゃ、と思っていたけど何も方法が見つからず、相変わ
らず苦しんでいた。僕はなんとか意識を留めると、電話に対応した。
「まず、連絡に大変時間がかかってしまい申し訳ありません。ただこれはどうしても必要な時間だったのです」
「どうしても必要な時間?」
 僕は思わず繰り返してしまった。その言葉に苛立ったのだ。どうして時間が必要なのだ、僕は今すぐにでも変
487 :自我の選択(お題:立候補) 2/5 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/10(水) 21:16:38.20 ID:/ZK919V9o
わる必要があるというのに。○×研究所のひとは何事もなかったように話を進めた。
「この実験内容は見てもらえば分かりますとおり、倫理的に不味いものがあります」
 怒りは一瞬で氷解した。かわりに、心がまるで重石で引っ張られたようなプレッシャーが僕を襲った。アンダ
ーグラウンドの文字が頭の中で回る。そうだ、これは全くとんでもない実験なのだ。人間を作り変えるなんて。
その実験の主導を握るのが某大学の名誉教授でなければ、とても信用などできないものだった。テレビでもほん
の少し前まで、ずっと是非が問われていた。
「私どもは世間の注目を反らすため、どうしてもその時間が必要だったのです。いま思えばあのやり方は少々不
味かったのではないかと考えています。しかし、ああしないととても信用など得られなかったでしょうから」
 僕はいま電話に出ているのが、その某有名教授ではないかと考えた。この喋り方、テレビに出ていたのと全く
同じではないかと。しかし僕は確信を持てなかった。僕はテレビに出ていた教授の声色をよく覚えてないし、教
授とは皆こんな話し方をするものかもしれない。
「ある程度の冷やかしは想像していましたが、実際にやってみると、外部から被験者を募集するというのは想像
を絶するものでした。何せ本当に冷やかしだけならまだしも、自分は本当に変わりたいと思っている気になって
送ってくる人が多いものですから……そういう人とそうでない人を判別するのはとても難しい作業です。人間の
思考なんて曖昧なものですから。私がいくつか質問を投げ掛けるまで、そのことに気付かない人が多いのです」
 その言葉はどんどんと暗い淵に僕を押しやっていった。それは僕のことを言っているのかという気がしたから
だ。僕は本当に変わりたいのか? 逃げたいだけではないか?
「本当に変わりたい一部の人には残念ですが、私は選別の基準を上げることしました。といっても二分の一くら
いです。私は二分の一の確率で、本当に変わりたいかそうでないかを判別して電話をかけることが出来るように
なりました。今日のあなたはその一人です。私はいま、あなたがどちら側に所属する人間なのか想像がついてい
ません」
 揺さぶられている、と僕は思った。これは「僕が本当は変わりたくないのではないか」という方向に持ってい
くための揺さぶりであることは明白だった。ここで決意しなければならなかった。僕は本当に変わりたい人を演
じるのか、正直に話すか。僕は自分から言葉を出す前まで、迷いに迷った。
「いきなりで申し訳ありませんが、まずお聞かせください。あなたは自分が本当に変わりたいと今でも思ってい
ますか?」
 わからない、と僕は言ってしまった。僕はこの電話が来るまで本当に変わりたいと思っていた。だけどあなた
の話をこうして聞いているうちに、自分が本当に変わりたいのか分からなくなってしまった。そのことについて
電話越しの相手は何も言わなかった。かわりにまた幾つか質問をしてきたので、僕は答えた。いつのまにか僕は
誰にも話したことがないことまでその人に話していた。話しているうちに僕は気分が軽くなった。そのような気
488 :自我の選択(お題:立候補) 3/5 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/10(水) 21:17:28.84 ID:/ZK919V9o
持ちになったのは本当に久しぶりだった。
「貴重なお話ありがとうございました。もう十分です」
 その人は言った。それまで、僕はこれが審査であるということを頭の片隅に置いていた。
「まず、あなたは自分がそれほど病んでないのではないかということでしたが、私どもはそのようなことは重要
視しません。本当に変わりたいと思っている人であれは、人生の成功者でも誰でもいいのです。私どもはそのよ
うな人を探しています」
 その言葉を聞いたとき、僕は次に来る言葉がわかった。
「私が聞く限りでは、あなたは鬱状態に陥っているのだと思います。落ち込んだ精神により、自分がいなくなっ
てしまいたいと想像しているように思います。一度精神科に診察に行かれてはいかがでしょう」
 僕はそれに反論しようとしたが、できなかった。電話口の相手が語るのは至極真っ当なことで、僕はそれに論
理的に反論する言葉など思いつかなかったからだ。
 僕が鬱? そうかもしれない。だけど僕は仮面鬱ではないか? それすらも知るのが怖い。
「いろいろ反論したい気持ちもおありでしょうが、残念ながら今日の私には、あなたを本当に変わりたい人だと
判断する要因が見つかりません。せっかく申し込みいただいたのに申し訳ありませんが、この話はなかったこと
にさせていただきたいと思います」
 待ってくれ、と思った。実際にそう喋ろうとした。しかし相手はそれよりも速く次の言葉を差し込んできた。
「私は今度もう一度、被験者を募集しようと思います。ただし今回のように大々的にはやりません。ある雑誌の
あるページに、ひっそりと告知したいと思います。もしあなたがどうしても実験に参加したいのであれば、それ
で再度応募していただけないでしょうか」
 僕は何も言えなかった。相手の対応は完璧だと思った。それ以上に僕はどうすることもできず、電話を切ると
きにお礼さえ言った。
 それから僕に待っていたのは地獄の日々だった。変われるチャンスを掴みかけていたのに逃したことで、本当
にクズなんだという思いが僕のなかに渦巻いていた。どうしようもない、なんにもできない。僕は会社をズル休
みすらした。早く病院に行って休職にしてしまえば良かったんだ。僕はそんな決断力すら無かった。
 僕はふたつのことだけをする時間が続いた。会社に行くことと、実験の募集を探すこと。僕は結局会社に行っ
て、訳のわからない日々を過ごした。帰りにありとあらゆる雑誌を読み漁り、告知がないか血眼に探した。だけ
ど世の中は多種多様の雑誌で溢れかえっており、この中から一ページだか半ページだか分からない告知を見つけ
出すのは困難であるように思われた。ネットでも情報を探したが、全然見つからない。だが僕は告知を探すのを
やめなかった。半ば自暴自棄になっていた。そして僕はついに、ある医療雑誌のなかにそれを見つけた。無数の
薬の広告が並ぶなかに、名刺ぐらいのサイズでそれは存在した。申し込み用紙は無い。ただ突き放すように、応
489 :自我の選択(お題:立候補) 4/5 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/10(水) 21:18:26.17 ID:/ZK919V9o
募の宛先だけがそこに書かれていた。
 僕はどうすればいいのか、全く迷わなかった。家に余っていた便箋に、実験を断られてから僕に起きたことを
つらつらと書き連ねた。どれほど僕が絶望したか、どれほど僕が実験に参加したいと思っているか。文章はまと
まりを成さなかった。時系列はめちゃくちゃで、自分が何を書いているのか分からなくなった。だが僕はそれを
全部吐き出してしまわないことには気が済まなかった。そして僕は異様に膨らんだ封筒をポストに投函した。
 封筒を出した後、僕は電話がかかってくるのを想定して何度もシミュレートした。ついに僕はそれ以外何もで
きなくなって、会社を辞めることになった。会社を去ることについては何も思わなかったけど、逃げ道がなくな
ったことは僕をさらに追い詰めた。だけど僕は待つ以外のことをしようとしなかった。絶対に電話がかかってく
るのだと信じていた。僕以上に僕を変えたい人はいないのだと、自己暗示をかけるようにずっと妄想した。
 一ヶ月後、ついに電話がかかってきた。それは思っていたよりずっと早かったけど、○×研究所からの電話だ
と僕は確信していた。電話を取ると、あの時と同じ声が僕の耳に伝わった。僕は僕が考えていたこと全てを話し
た。逃げ道を断ったこと、僕はもうこの実験によって変わるしか道がないのだということ。抑えていた感情が爆
発した。僕は全てを話すまで、一言も相手に喋らせなかった。
 全てを話した後、電話口の相手はこう切り出してきた。
「あなたの言いたいことはよく分かりました……ふたつ質問をしていいですか?」
 はい、と僕は言った。これまで生きてきた中でどのことに相当するか分からないぐらい、凄まじいプレッシャ
ーだった。相手は僕の気持ちを沈めるように、ゆっくりかつ慎重に話し始めた。
「まずひとつ。私はあなたに以前、精神科の診察を受けることを勧めたはずです。診察には行かれましたか?」
 それは僕が推測していた質問だった。行ってない、と僕は答えた。鬱なんてのは単にある状態に名前を付けて
いるだけでしかないのだ。誰かがそれを病気であると言おうとも、僕は病気であるとは思わない。僕は僕自身の
意思で、この実験を受けたいと思っている。
 電話越しの相手が沈黙した。僕にはそれが永遠に続くのではないかと思われた。しかし実際には長い時間続か
ず、相手は別の質問をぶつけてきた。
「あともうひとつ。この実験を受ければ、あなたはあなたではなくなってしまいます。もしかしたら何か残るか
もしれません。しかし私どもはこれまで動物達に対して実験を繰り返してきましたが、人間については不十分な
のです。もしあなたが完全にあなたでなくなったとしても問題ありませんか?」
 その問いを受けたとき、僕の視界は暗転した。やめろ、という声が僕の中から聞こえた気がした。しかし僕は
やめられなかった。はい、と答えてしまった。
「わかりました……私はあなたに実験を是非受けていただきたいと思います」
 僕は無言で聞いていたけれど、心は台風が到来した時の波みたいに揺れ動いていた。本当にこれで良かったの
490 :自我の選択(お題:立候補) 5/5 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/10(水) 21:18:56.69 ID:/ZK919V9o
か? もう止めることはできないのか?
「時間はかかりません。数日のうちにあなたの元に伺い、実験施設にご案内したいと思いますが……ただひとつ、
あなたに説明したいことがあります。この実験はあなたの意思でいつでも止められるということです」
 止められる? 何を言っているんだと僕は思った。
「この実験は文字通り、とんでもないことをしようとしています。私は神罰を受けるかもしれません。あなたは
消えてしまうかもしれません。誰も責任を取れないのです。何が起きるのか分からないのです。私はこれまで、
この実験に参加しようとしてきた人達には、可能な限り考え直すよう対応を進めてきました。ただ、そこに適切
な被験者がいたとしたら、私は科学者です。どうしてもやりたくなってしまうのです。だから私はこれから何が
あろうと、私の側からはあなたを止めません。あなたはこの実験を進んで受けにきたのだと。そう想定してやり
たいと思います。しかしあなたはいつでもNOと言えます。もしそう言われた際は、たとえ実験装置を動かす直
前であっても実験を止めることをあなたに約束します」
 そして電話越しの相手は僕に携帯電話の番号を教えてきた。本気なのだ、と僕は思った。教授は本気なのだ。
 それでは数日のうちに必ず伺います、そういって相手は電話を切った。僕の体がガタガタと震えた。ワーッと
叫んで、どこかに消えてしまいたい気がした。僕はどうすればいいんだ? 今すぐ教授に電話して実験を止めて
もらえばいいのか? 僕は電話できなかった。ただ今日あったことが夢であるといいと思い、布団のなかでいつ
までも震えていた。
 一日空いて、僕の元に白いワゴンがやってきた。そこには教授が乗っていた。教授と握手するとき、僕の手の
震えは全く止まらなかった。しかし教授は何も言わず、僕を実験施設へと連れていった。
 実験施設はまるで巨大な電子レンジのようだった。僕は実験器具に固定され、部屋にひとり取り残された。周
りには無数の穴があり、レンズのようなものが覗いている。僕はそれが電子銃であると認識した。あれから光線
が出れば僕は作り変えられてしまう。壁際にひとつのマイクロフォンが見える。あそこに向かって叫べば実験を
終えられる。いつ実験が始まるんだ? この部屋には何も聞こえない。

(完)
491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sagasage]:2012/10/10(水) 21:23:41.33 ID:/ZK919V9o
投下完了です。

またお題、と思ったけど四作連続で投下しているのか……

すこし投下を遅らせたほうがいいかな?
といいつつ、やっぱりお題がほしいです。
492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/10(水) 21:47:25.89 ID:F7j0cqSbo
>>491
延長戦
493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sagasage]:2012/10/10(水) 21:51:17.63 ID:/ZK919V9o
>>492

了解です。
494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/10/10(水) 21:57:07.74 ID:2Mxn9I0Do
プロット無しで書いても遅い俺としては羨ましい限りだ
495 : ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/11(木) 21:42:04.99 ID:ZDGFEwHVo
またまた書いてしまいました。
お題は >>492 の延長戦。

他にやるべきことはあるんだけど、どうしても書きたい衝動が止められません。
496 :早熟の遺伝子(お題:延長戦) 1/6 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/11(木) 21:43:20.46 ID:ZDGFEwHVo
 スターターの合図とともに十六頭の馬がゲートを出る。最初に飛び出したのは二番人気のスピードスターだっ
た。その次にトキノアルカナ、三番手以降は混雑している。アスノファイターは最後尾から二頭目を進んでいた。
流れ的にその位置になってしまったというように見えた。第一コーナーを回ってスピードスターは大逃げに打っ
て出た。五馬身、六馬身……どんどん後続と差が開く光景にスタンドからどよめきが起きはじめる。二千メート
ルの天皇賞、千メートルの通過タイムは57秒台。あのサイレンススズカが骨折してしまったときと同じぐらい
のタイムだ。オーバースピードのようには見えない。希代の快速馬スピードスターにとっては、これは普通のス
ピードなのだ。二番手以下は追走を諦めている。スピードスターが息をいれるであろう第三コーナー付近まで虎
視眈々と仕掛けの機会を伺っている。その第三コーナーがやってきた。一番人気のゴールドハンターを含む後続
勢が動き出すに従い、前方の馬達もペースを上げる。スピードスターとの差が縮まってくる。最終コーナーを回
ってスピードスターがもう一度ギアを上げた。このまま逃げ切りを図るのだ。差が縮まらなくなり馬群がバラけ
はじめる。一頭、また一頭と脱落していくのを尻目にゴールドハンターがもの凄い豪脚で追い上げてきた。それ
に続く何頭かの馬。ゴール前では息も詰まる争いが繰り広げられている。争いから脱落した馬達も必死になって
ゴール板を目指している。ただ一頭、アスノファイターだけが最後方でポツンと走っていた。
 もう引退させてやれよ、と思った。アスノファイターはもう燃え尽きてしまった。あのときの輝きを見せるこ
とはもうできないのだ。
 アスノファイターは、競り市で一億円以上の価格で落札された良血馬だ。黒鹿毛で毛艶がよく、体格が大きい。
それでいて全身がスラッとしていて、大型馬にありがちなズブさがない。関係者達からの評判も良く、デビュー
前にはこの馬に乗せてほしいという騎手が続出したほどだった。実際にデビュー戦では一番人気になり、見事快
勝した。二歳チャンピオンを決める朝日杯は回避したが、かわりにもう一つの決定戦とも言えるラジオNIKK
EI杯を快勝し、翌年のクラシックの大本命となった。皐月賞のトライアルレースで久々だったこともあり二着
になったが、本番では快勝。その末脚の鋭さは古馬顔負けで、これなら海外に行っても勝てるんじゃないかとネ
ットや各種メディアで噂された。そして陣営から発表される。日本ダービーだ。ダービーさえ取れれば日本代表
馬として海外に挑戦しよう。それはセンセーショナルな出来事だった。海外での日本馬の活躍は珍しいことでは
なくなったが、凱旋門賞という世界最高峰のレースはまだ勝っていない。古馬ではない、というのが重要だった。
古馬になると課される重量が重くなるので、三歳馬のほうが圧倒的に有利なのである。しかもダービーを勝った
とすれば二冠馬。競馬ファン達の期待が大きくなるのも当然で、日本ダービーでは圧倒的な一番人気に支持され
た。雑誌やテレビの解説者達もほとんどが太鼓判を押している。唯一不安があるとすれば、それは雨だった。ダ
ービー当日の府中競馬場は大変な雨に見舞われた。馬場コンディションは不良と発表され、周囲がざわつき始め
た。アスノファイターは不良馬場を走れるのか? 鋭い末脚が殺されるのではないか? あるひとは言った。ア
スノファイターは今日の馬場もこなせるはずである。一に、デビュー戦の馬場コンディションは稍重だったが難
497 :早熟の遺伝子(お題:延長戦) 2/6 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/11(木) 21:44:01.96 ID:ZDGFEwHVo
なく勝っている。二に、血統的には不良馬場をこなせるはずである。競馬は血統が全てのスポーツだ。牡馬と牝
馬、両方を掛け合わせるとどのような馬が産まれるかを考えて配合する。もちろん全てではないが、ある程度は
遺伝するのである。体格、気性、反応の良さ、瞬発力、スピード、スタミナ、道悪巧者……アスノファイターの
父馬と母馬はともに不良馬場で勝ったことがあるし、アスノファイターも克服できるはずであると考えられたの
だ。しかし、結果的にはそうならなかった。同じ大型馬、ブービー人気だったタダノバクシンが馬場を蹴散らし
ゴールを駆け抜ける遥か後方で、アスノファイターは前に進めず苦しんでいた。馬場状態があまりにも悪すぎた
のだ。馬場というよりも、もはや沼だった。その劣悪馬場は、アスノファイターから綺麗な飛びを奪った。同馬
の最もな強みは、その綺麗な飛びから繰り出される推進力にあったのだ。タダノバクシンのように、雄大な馬体
で馬場を蹴散らし進むことができなかった。アスノファイターは日本ダービーで、まさかの十二着に敗れた。
陣営は動揺した。世間の関心が一気に引いていくのがわかる。目の前の事態から逃げるかのように、アスノファ
イターを放牧に出した。しかし俺は、あのときこそアスノファイターを次のレースに出すべきだったと思う。あ
の負けはたまたま運が悪かったのだ、としてしまうために。秋になって戻ってくると、アスノファイターは別馬
のように変わっていた。それから一年以上、状態は回復していない。
 俺は勝利騎手インタビューの場に向かう。勝ったのはゴールドハンター。鞍上の新田騎手がインタビューを受
けている。爽やかな笑顔だった。まだ四年目だが、リーディング争いで六番手につけている。何よりも注目され
ているのは、ゴールドハンターとコンビを組んでからの勝ちっぷりだ。これでGT三連勝。直線で他馬をごぼう
抜きする勝ちっぷりは、競馬ファン達に鮮烈な印象を与えた。来年には海外挑戦が囁かれている。新田騎手も、
そのことを隠そうとはしなかった。まさに怖いものなし状態である。
 他のジョッキーや調教師達の談話を取ろうと辺りを巡っていると、突然背後から大声が聞こえてきた。振り返
ってみると、ふたりの男が検量室前で言い争いをしている。ひとりはアスノファイターのオーナー、もうひとり
はアスノファイターの騎手だった。オーナーが騎手の乗り方に不満があるようだ。
 ゴールドハンターより後ろにいて勝てるわけがないだろう、なぜ前に行かないんだ。
 行かないんじゃなくて行けないんですよ。あの馬、ちっとも前に進みやがらねぇ。
 それをやるのがお前の仕事だろ!
 無茶言わないでくださいよ! いままで乗ってきた騎手で、誰かそんなことできましたか?!
 しばらくふたりは睨み合いをしていたが、オーナーはやがて「もういい」と言い、何処かへと消えてしまった。
 言い争いをしていた須賀騎手に、威勢がいいねと言ってみた。
「ああ。本当はオーナーにあんなこと言っちゃあいけないんですけどね。けどあの人、厩舎やジョッキーをとっ
かえひっかえしてるでしょ? やっぱうちって村社会だから、あんなの受け入れてもらえないですよ。だから多
少言ってしまってもいいんです」
498 :早熟の遺伝子(お題:延長戦) 3/6 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/11(木) 21:44:57.82 ID:ZDGFEwHVo
 須賀騎手は最後に、これはオフレコにしてくださいよと言ったので、もちろん、と返事した。
 ゴールドハンターの次戦は、海外馬と対戦するジャパンカップに決まった。一方ジャパンカップで選外になる
ことが確実なアスノファイターは、その一週前にあるマイルチャンピオンシップに出走することになった。
 マイルチャンピオンシップ直前になり、俺は最終追い切りを取材しに栗東トレーニングセンターへ向かった。
調教は朝早いので、前日入りしなければならない。安いカプセルホテルを予約して現地入りした後、新聞で週刊
連載しているコラムを書くために喫茶店に向かう。書く内容はほとんど決まっていた。早熟の遺伝子についてだ。
世の中で早熟と呼ばれる馬は、だいたい二種類のタイプに別れる。一つは肉体の成長が完全に止まってしまうタ
イプと、もう一つは精神が燃え尽きてしまうタイプだ。俺は前者について幾つも例を挙げることができたが、後
者についてはなかなか挙げられなかった。現役馬は挙げたくないのだが、頭にはどうしてもあの馬が現れてしま
う。
 俺は軽く息を吐いてスマートフォンをテーブルの上に置くと、届いてから放置したままになっているコーヒー
にようやく口付ける。既に冷めてしまっているが味は悪くない。何か食べ物を頼もうと思って顔を上げたところ、
カウンターにひとりで座っている男性の姿が目に止まった。目立ちすぎるイエロースーツに、ポマードでオール
バックをしっかり決めている。普通なら近寄り難い雰囲気のはずだが、その人物はとても弱っているように見え
た。誰かに助けを求めるべきなのだがそれが出来ず、こうして空いている喫茶店でカウンターに座り、何らかの
出会いを待っているように思えた。俺はどうすべきか悩んだが、意を決してその人物に話しかけることにした。
「アスノファイターの馬主の御堂さんですよね?」
 その人物はいくらか驚いたようだった。しかしすぐに冷静さを取り戻し、「あなたは?」と言葉を返してきた。
「競馬のフリーライターをやっている鮫島です」
 御堂は露骨に嫌な顔をした。マスコミを嫌っているクチだろう。慌てて俺は「別に取材しに来たんじゃないん
です」と言った。何でもかんでも記事にするのは素人の仕事です。そんなことをやってると信用をすぐに失って
しまいます。我々にとって大事なのは、普段から皆さんとの親睦を深めておくことです。そうして皆さんから、
あるとき特別な情報を提供していただくのです。
 御堂はまだ全ては納得していないようだった。しかし一定の理解を得られたのか、それ以上は何も言わず前を
向いた。隣に座っていいか、と尋ねると、どうぞ、と言われたので、俺はそこで新しいコーヒーとトーストを注
文することにした。
 コーヒーとトーストが手元に届くと、俺はまずトーストにかぶりついた。それからスマートフォンを弄り、記
事を書くふりをする。今度は冷めないよう、コーヒーに早めに口付けた。御堂は一言も話さなかった。俺も話さ
なかった。俺の側から話を切り出すつもりはない。最初が肝心なのだ。御堂が話しはじめるまで、俺はじっと待
たねばならない。
499 :早熟の遺伝子(お題:延長戦) 4/6 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/11(木) 21:45:39.72 ID:ZDGFEwHVo
「何の記事を書いているのですか?」
 御堂が話しかけてきた。
「血の遺伝についてです」と俺は言う。
「血の遺伝?」と聞き返される。いくらか興味を持ったようだ。俺はそれを失わないように注意深く話を進める。
「ええ。週一で連載コラムを持っていたりするんですが、そのための題材を考えないといけないんです。それで
今回取り上げるのは血の遺伝です。性質じゃないですよ。遺伝するのは血です。例えばですね、ナスルーラとい
う大種牡馬――御堂さんもご存知かもしれませんが――がいたんですが、そいつはとんでもなく気性が荒い馬で
した。競走馬時代、能力は抜群だったんですが、レース前に暴れたりして能力をまともに発揮できる機会が少な
く、圧勝と惨敗を繰り返していました。それで引退後は種牡馬になって大活躍したんですが、ナスルーラほどで
はないにしろ、その子達の多くにも気性の悪さがばっちり伝わったんです。そこまでなら単なる性質の遺伝なん
ですが、面白いのはここからです。もちろん百頭産まれると百頭同じ性質というのはあり得ないですから、ナス
ルーラの子達にも大人しいのは幾らかいます。ところがその子達が子供を生むようになると、他の馬の子達と比
べてやはり気性難の傾向が強くなってくるのです。競馬ではどうしても近親交配が増えてしまいますが、血が濃
くなっていけば濃くなるほどその傾向は強くなります。ただ気性難は裏返すと勝負根性にもなりますので、世の
中の牧場を経営する人達はそうやって交配を考えています」
 俺は話をしながらチラリと御堂の様子を伺った。いま言ったのは当たり前の話だ。人によっては、何を今更そ
んなこと語ってんだ、と言うかもしれない。ただ御堂は俺の話に耳を傾けていたようだった。俺は喉の渇きを潤
すためにコーヒーを一口だけ飲み、続きを話すことにした。
「血の遺伝により伝わるのは他にも様々なものがあります。筋肉、心肺能力、持久力、成長力、病気や怪我に対
する体の強さ、芝やダートへの適性、瞬発力……言ってしまえば全部ですね。人間みたいに二、三人しか産まな
いのなら別ですが、馬のように何十頭、何百頭と産まれてくると明らかに傾向が現れてきます。まあそれだけな
ら、良い種牡馬と良い繁殖牝馬を持っている牧場に零細牧場が太刀打ちできる可能性はゼロになってしまいます
が……御堂さんはオグリキャップという馬をご存知ですよね?」
「ええ、映像ですがレースを見たことがあります」
 成長力という単語を出したので気を悪くされるかもしれないと思ったが、取り越し苦労だったようだ。あとは
飽きないうちに話を転換させないといけない。今後の展開を考えつつ、話を進める。
「あれは正に突然変異と言っていいでしょうね。三流血統だと言われていますが、血統の認識なんてすぐ変わる
ものです。母のホワイトナルビーは後に桜花賞馬オグリローマンを出しています。父のダンシングキャップだっ
て大種牡馬ネイティヴダンサーの直仔で、海外から輸入された当初は相当期待されていたんです。ただ両馬とも、
オグリキャップが産まれるまでは目立った産駒を残せませんでした。どうすれば血に秘められた力を充分に引き
500 :早熟の遺伝子(お題:延長戦) 5/6 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/11(木) 21:46:43.26 ID:ZDGFEwHVo
出せるのか、当時の人達には分からなかったんだと思うんです。ところが両馬を掛け合わせたとき、その眠って
いた力が爆発しました。ご存知のとおり、オグリキャップの快進撃は凄まじいものでした。エリート達が走る中
央競馬界に地方の馬が殴り込んでくる。そして有馬記念をはじめとした主要レースを制覇してしまう。当時の人
達が熱狂したのも無理はありません」
 ここで一度話を切り、コーヒーを飲む。コーヒーは再び冷めはじめていた。ここが転換しどころだ、と睨む。
「いま言ったのは極端な例ですが、私は小さなものであれば頻繁に起こっているんじゃないかと思います。その
ひとつがアスノファイターです」
 御堂の体がピクリと反応した。話を続ける。
「アスノファイターのあのフットワークの軽さは天性のものです。一完歩ごとに飛び跳ねる馬体、大きな伸縮。
馬が一番速く走る方法は馬が一番良く知っているんです。調教により矯正できるものではありません。馬は自分
に合った走法を持ち合わせながら生まれてくるんです。私が調べた限りでは、直近であのような走りをする馬は
いませんでした。もしかしたら古い血が父と母のどちらかにずっと残っていて、それがアスノファイターの代で
爆発したのかもしれませんね。とにかくあの皐月賞は圧巻でした。あれ以上の馬はそうそう現れないと今でも思
っています」
 事実だった。そして俺は言葉を切り、冷めたコーヒーに口をつけた。俺から話す内容は全て終わりだ。これで
御堂が話さないなら、おそらく何を言っても話さないだろう。そうなれば時間の無駄なので席を立つことにする。
「……わかっているんです」
 御堂がポツリと言った。
「アスノファイターが駄目だということは、なんとなくわかっているんです。馬にはそれほど詳しい訳ではない
ですが、見ているとそんな気がしてきます。調教師の方にも言われました。アスノファイターはもう燃え尽きて
しまっている、この仕事を長いことやってるが、こういうのは回復する見込みがないって。だけど納得できます
か? アスノファイターは体的にはまだ全然衰えていないんですよ。皐月賞のときから成長していないにしろ、
十何着で敗れるなんてあり得ないんです。どうにかして走ってほしいと思いませんか? 前のように快進撃を続
けてほしいと思いませんか?」
 俺は何も言わなかった。そういうものだとしか言えなかったからだ。だったら、そんな言葉は言わないほうが
いい。
 御堂が縋るように言葉を漏らした。
「鮫島さん、私は間違っていると思いますか? アスノファイターがもう復活することはないと思いますか?」
「例外がある可能性は否定できません」と俺は言った。オグリキャップは燃え尽きたと言われていましたが、ラ
ストランで復活しました。そういうことはあるかもしれません。
501 :早熟の遺伝子(お題:延長戦) 6/6 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/11(木) 21:47:42.09 ID:ZDGFEwHVo
「そうですよね、復活はあり得ますよね……」
 御堂は表面上笑っていたが、その実は落ち込んでいるように見えた。復活できるわけがない、と言ってほしか
ったのかもしれない。しかしそれは俺の仕事ではない。自分で判断してもらわねばならない。
 俺は御堂と別れた後、カプセルホテルに入った。アスノファイターと御堂のことを考える。アスノファイター
が快進撃を続けていた頃、御堂が経営するベンチャー企業も調子が良かったらしい。今は双方とも落ち込んでい
た。
 御堂はアスノファイターに自分自身を重ねている。アスノファイターが復活すれば自分の企業も立て直せるの
ではないかと思っている。
 なんて時代だ、と俺は思った。

(完)
502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sagasage]:2012/10/11(木) 22:01:06.75 ID:ZDGFEwHVo
うーん、他に誰か書かないかな……

やっぱりお題ください。
503 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/10/11(木) 22:16:56.34 ID:o269t5lTo
すごいな。読んでみるよ

>>502
機関車でどうでっしゃろ
504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sagasage]:2012/10/11(木) 22:56:34.23 ID:ZDGFEwHVo
>>503

ありがとうございます。読んでもらえると嬉しいです。

機関車か……
詳しく調べたことがないので、今度こそはちょっと時間がかかるかもしれません。
505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sagasage]:2012/10/12(金) 19:51:41.94 ID:fux0TJUJo
有給もらってまで書くわたし……

>>503 の機関車で書きました。
ちょっと長いです。
506 :機関車に乗る少女(お題:機関車) 1/8 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/12(金) 19:52:53.17 ID:fux0TJUJo
「それでは処方箋出しておきますので、外の待合室でお待ちください」
「はい、ありがとうございました」
 男性はそういうと小さくお辞儀をして、診察室から出ていった。処方箋の紙を印刷してから私は溜息をつく。
 またそういう系の患者さんか。本当に多い。こんなに多いのなら、日本は一体どうなってしまうのだろう。
 いま来た男性は、誰もが知る大企業のグループに勤めている人だ。それでもって、そこでは特別転身という名
の退職強要が問題になっていたりする。今の患者がその対象になっているかというと、そうではない。むしろ三
十代前半の働き盛りで、今までプロジェクトの主力と働いていたらしい。話していても論理はしっかりしている
し、誠実であるという印象を受けた。ただ、あまりにも真面目すぎる嫌いがある。彼の周りには彼よりも年上の
メンバーがいるのだが、みな仕事にやる気を見せないらしい。技術がないなど何かにつけて言い訳して、簡単な
業務しかやろうとしない。それで彼の身に重い業務がのしかかり、パンクしてしまったということだ。
 別にサボっていても給料は貰えるんですよ、とその人は言った。
 別にサボってたって誰も怒りはしない。面と向かって注意してはいけない風潮になっているんです。回りくど
い文章のメールや指示を出すようにして、暗に気付かせるみたいなことを延々とやっています。それで相手も馬
鹿じゃありませんから、気付いているはずです。だけど気づかない振りをするんです。何があっても絶対にやめ
ないと意固地になっているわけです。最終的に別プロジェクトに飛ばされますが、諸々の事情があって、そうな
るまでに一年以上かかります。しかも飛ばされた先ではまた同じようなことが行われるんです。先生、そんなと
ころで仕事をやる気になると思いますか? 間違っていますよ、こんなの。
 難しい問題ですね、と私は答えた。私はそれに賛同する気概も否定する気概も持ち合わせていないのだ。私が
どう言ったところで、会社を変えられるわけではない。それこそ自分達の力で変えてもらわなくてはならないの
だ。
 少し休んだほうがいい、と私は言った。休むことで一旦原因から自分を切ってしまうんです。そうすることで
原因が取り除かれるわけではありませんが、気分は楽になります。気分が落ち込んでいるときは正常な判断がで
きませんから、まずは気分を楽にすることから始めてはいかがでしょう。
 この『休む』という行為がどれほどの意味を持つのか、精神科医になった頃の私は半信半疑だったが、今では
これが最も効果がある処置だと思うようになった。精神が落ち込んでいる状態から抜け出すのに必要なのは薬で
はない。自分自身で抜け出す道を見つけ出すことだ。我々にはそれを手助けすることしかできない。そして我々
にできることと言えば、せいぜい診断書を書いて休んでもらうことぐらいだ。
 私は思考を現実に戻すと、スタッフにカルテや処方箋を渡した。あとは勝手にやってくれる。そして次の患者
の資料に目を通した。次は女子高生らしい。やれやれ、最近は本当に若い患者ばっかりだ。
 しかしその女子高生の問診票に目を通したところ、これまでのものとは少し違う症状であることがわかった。
507 :機関車に乗る少女(お題:機関車) 2/8 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/12(金) 19:53:37.26 ID:fux0TJUJo
 幻覚・幻聴がある。それだけが○で囲まれていた。やる気が起きない、頭が痛い、夜中に目が覚める、その他。
それらには一切○がついていない。症状が出始めたのは一ヶ月ほど前。過去にした病気は無し。現在かかってい
る医者や飲んでいる薬はあるか、無し。家族が叔父、従弟となっているのが気になるが、それ以外では取っ掛か
りとなるものが見つからなかった。心理状態のチェックシートにも目を通す。やや鬱傾向が見られるが、現代社
会においてはほとんどの人がそんなものだ。特に異常は見当たらない。
 この患者は何に悩んでいるのだろう。
 私は内容を一通り暗記すると、中に入ってくるよう患者を呼んだ。黒のセーラー服に身を包んだ少女が姿を現
す。背は一五◯後半から一六◯ぐらいだろうか。化粧っ気が全くない。髪が長く肩ぐらいまであり、柔らかそう
な綺麗な髪で、やはりこちらも全く染められていなかった。ひと昔前の映画に出てきそうな少女だった。こちら
に壁を作っている様子も見られない。
 少女が椅子に座らなかったので「どうぞ」と言うと、「失礼します」と言ってその子は座った。鞄は傍に置い
ている。このセーラー服の学校はこの辺りの近くだ。まだ朝早いし、診察が終われば学校に行く気なのだろう。
「ええっと、まず症状が出始めたのはここ一ヶ月だということですね?」と私は切り出す。
「はい」と短く、しかしはっきりした声で少女は応えた。
「幻覚、幻聴があるということですが、具体的な内容を教えてもらえますか?」
「機関車に乗っているんです」
「機関車?」と私は聞き返した。一体何なんだろうそれは。
「はい。……私としては別に困っているわけじゃないんですけど」
 若干言い難そうにしていたので「続きを話していただけますか?」と言うと、少女はまた短く「はい」と頷き、
続きを話しはじめた。
「いつもそういう状態になっているわけじゃないんです。今みたいに普通に話すこともできますし、学校にだっ
てちゃんと通っています。だけどあるとき、ふとした瞬間に、いつのまにか私は機関車に乗っているんです」
「あるとき、ふとした瞬間に、いつのまにか乗っている」
 私が繰り返すと、少女はこくりと頷いた。
 私は私がそのような状態になった場合のことを想像した。この診察室で私は患者を診察している。ふとした瞬
間に周りの風景が変わり、いつのまにか機関車の客車の席に座っている。木造の座席で、辺りを見回すと、シル
クハットを被った紳士やら青年などが同じように座席に座り、外の景色を眺めている。実にノスタルジックな感
じがした。そのとき、こちら側の私はどうなっているのかが気になる。
「そのとき、他人の目から見てあなたはどう映っていますか?」
「どこか遠くにいっているように見えているそうです」と少女は答えた。
508 :機関車に乗る少女(お題:機関車) 3/8 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/12(金) 19:54:11.85 ID:fux0TJUJo
「体はこちらにあるのですが、十分か十五分くらい、精神はまるでどこかに飛んでいっているみたいだと言って
いました」
「それだと、急に意識がそっち側に行ってしまったとき怖くありませんか?」
 私は聞きたいことを聞く。彼女がそんなことを考えていなかった場合、この発言はチョンボになってしまう可
能性があるが、この少女に限ってはそんなことはないと考えた。案の定、「怖いと思ったことはありません」と
少女は答えた。
「例えば歩いているときとか、何か重要なことをしているとき、幻覚はやって来ないと思うんです。私がボーッ
としているときとか、気を抜いたとき。そういう時に来ます。そういうのって分かりますか?」
「ええ、分かりますよ。幻覚や幻聴というのは、大抵は心の隙間に入り込んでくるものです。普段は全く問題な
くても、心がふと緩んだときに見えたり聞こえたりするものです。ですから、あなたのもそういう種類のものか
もしれませんね」
 絶対とは言い切れませんが、と私は心の中で付け加えた。この世に例外はない。例えば突然信号を渡っている
ときに幻覚・幻聴が起きないとは言い切れないのだ。しかし、無闇に怖がらせることはないだろう。少女の頬が
少し緩んだ。心を開きかけている証拠だ。
「耳の奥のほうから機関車の汽笛が聞こえます。それで私は機関車に乗っていることに気付きます。ポッ、ポッ、
ポッと煙を吐く音。ガタガタと揺れる車両。そういうのを全くリアルに感じます。外を見れば青々とした景色が
広がっていました。山の中に橋が架けられていて、周りは自然に囲まれているんです。私はとても気持ちよくな
りました。そういう景色って私は写真や映像でしか見たことがなかったんですけど、実際にそこにいるとこんな
に綺麗なんだって」
 機関車はやはり蒸気機関車だったかと思いつつ、私もその風景に思いを馳せていた。少女の声は落ち着いてい
て、本当にそこにいるかのように語っていた。もしかしたらそこにいっているのかもしれないと思ったが、少女
がこちらに確認を求めてきたので、そういうことではなさそうだ。
 私は「うん」と言って続きを促す。
「それで機関車は移動していって、景色はどこまでも続きます。私はこれがどこまで続くんだろうと思いました。
いつも私がいるところからは想像できない世界。もしこれが日本だとして、どこまでこの世界が続き、どこから
いつもの世界が始まるんだろうと。私は景色だけでなく、客車のなかも眺めました。席は空いていますが、いろ
んなひとが乗っています。一人旅を楽しんでいる婦人、家族連れのひと、誰かを追いかけている警部みたいな人、
偉そうな顔をしている人、少し憂鬱な顔をしているビジネスマン……ただ、みんな少し古臭い格好をしているん
です。帽子を被るのが普通の時代だった、と言えばわかりますか? そういうひとたちが席に座っているんです」
509 :機関車に乗る少女(お題:機関車) 4/8 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/12(金) 19:54:42.48 ID:fux0TJUJo
 蒸気機関車が出てくるのだから、出てくる人達もそういう人なのだろうと思った。少女は生き生きと話してい
る。確かに、悩んでいるようには見えない。
 ちょっと待ってくださいと言い、私は立ち上がって冷蔵庫に向かった。中にはスポーツドリンクのペットボト
ルが入っている。私はそれを取り出すと紙コップに注いだ。そして少女に差し出す。
「あ、すみません……」と少女は言った。
「いえいえ。私は話してもらうのが仕事ですから、こうしていつも飲み物を準備しているんです」
 私はそれを出すか出さないか、ひとを見て決める。この少女はそういうことを警戒するタイプだ。しかし先に
こういうことをやっておくほうが、後々良い方向に繋がったりする。
 少女が一口飲んだのを確認した後、私は「それはいつも同じ内容ですか?」と聞く。少女は小さく首を振った。
「同じ内容ではありません。機関車に乗っているのは同じですが、内容はいつも少し異なるんです。例えば二回
目のときは、乗客のみんなが突然窓を閉めはじめました」
「窓を?」
 何か精神的な予兆を示しているとか簡単なのだったら良いんだけど。
「みんな図ったように一斉にです。喋りこんでいた子供達も、憂鬱気味に座っていた男のひとも、みんな一緒に
なって近くの窓を閉めています。私はそれが何を意味するのか分かりませんでした。だからそれらの行動をただ
眺めておくことにしました。皆は窓を閉め終わると先ほどの雰囲気はどこへやら、じっとし始めたんですが、ひ
とりの子供が私の横の窓が空いていることに気づき、『あのお姉ちゃん、窓を開けてるよ』と父親に告げ口しま
した」
 少女はその子供の声真似をしたように言った。私には、窓に肘を置きつつそれを他人事のように眺めている少
女の姿が容易に想像できた。
「それからはみんな大慌てでした。『おい、なんで窓を開けているんだ』と鬱気味だった男のひとが言います。
『汽車に乗ったことないの?』、『はやく閉めないと大変なことになるぞ!』。私は慌てて窓を閉めました。乗
客はみな私のことをじっと見ていましたが、やがて思い思いの方向を向きました。誰かが私に『目を瞑って布か
何かで口と鼻を塞いでおいたほうがいいぞ』と言ったので、私はその通りにしました。暫くして、客車の中が真
っ暗になりました」
 そこで少女は言葉を切り、スポーツドリンクに口付けた。もうそれへの抵抗感は無くなっているようだった。
私は純粋に続きが気になったので、「それでどうなったんですか?」と言った。
「大量の煤が入り込んできたんです」と少女は言った。
「あのときは真っ暗で目も鼻も喉も痛いし、何が起きたのか分からなかったんですけど、冷静に考えてみるとあ
れは煤でした。真っ暗になったのはトンネルに入ったからなんです。窓を閉めていてもあんなに煤が入ってくる
510 :機関車に乗る少女(お題:機関車) 5/8 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/12(金) 19:55:34.41 ID:fux0TJUJo
なんて思いもしませんでした。皆の言うとおりに窓を閉めていなかったらどうなっていたんでしょう。もしかし
たら死んじゃってたかもしれません」
「……昔は煤や煙で亡くなったひとが大勢いると聞きます。しかし、ユニークな幻想ですね」
 はい、と笑いながら少女は言った。本当にユニークな幻想だった。
「他に何か変わったことはありましたか?」
 一応聞いてみた。
「今みたいなのはないですけど、向かい合った席に座ったおじさんと仲良くなったことはありました。シルクハ
ットを被って、以下にも紳士みたいな格好をしたひと」
 それは私が最初に想像した人とよく似ている。
「その人と話しているときに、私は今が何年何月かと訪ねました。もしかしたらタイムスリップしたのかもしれ
ないと思っていたので。けどそのおじさんは、二◯一二年一◯月と答えました。今と全く同じ時間です。そんな
格好をしているのに? と確認したところ、そんな格好をしているのに、と答えました。それから、この機関車
はどこに向かっているかと訪ねてみたのですが、どこにも向かっていないという返事が返ってきました。明らか
に機関車はどこかに向かって進んでいるんですが、そう言われると私もどこにも向かっていない気がしました」
 ふむ、と私は言った。聞いたことに対して具体的な感想を言えない場合に出す言葉だ。こう言っておけば、機
嫌を悪くされることはまず無い。
 私はそろそろ話を変えることにした。
「その症状が現れたのは一ヶ月前からとのことでしたが、そのときに何かありましたか?」
「はい」
 そう言うと、少女の顔は曇った。まさか返事しただけで終わりとは思っていないだろう。言うべきかどうか少
女には決めかねているといった具合だ。「ゆっくり、落ち着いてからでいいですよ」と私は言った。何も言わな
いのも策だが、ここは「いつまでも待ってやる」と意思表示したほうがいい。ここで黙られると後で聞きにくく
なるのだ。
 少女は暫くの間、床から突破口を見つけようとしているかのように下を見つめながら、固まったようにじっと
していた。しかしやがて決心したように拳を握って目を瞑ると、自分のなかに篭っていた思いを吐き出すように
話しはじめた。
「実は半年前に、両親が交通事故で死んだんです」
 私はそれを聞いて驚いたふりをした。問診票の内容からだいたい想像はついていたが、今回の件に絡んでいる
かは分からなかった。ただ、いずれにしてもそれが直接の原因ではないようである。
「すみません、どの順番で喋っていいのか分からなくて……」
511 :機関車に乗る少女(お題:機関車) 6/8 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/12(金) 19:56:04.09 ID:fux0TJUJo
「いえ。こちらこそ辛いことを思い出させてしまい、申し訳ありません。話しやすい順番で構いませんから話し
てください」
 少女は時系列順に話を進めていった。
「両親が死んでから心の病にかかりました。今もかもしれませんが、当時はもっと酷かったんです。私は叔父の
家に預けられ、叔父はとても良くしてくれましたが、私の心はそれだけでは埋まりませんでした。私には両親が
必要だったんです。両親が死んでから、私はどのように生きればいいかわからなくなったんです」
 私はそれを自分に当てはめることもなく、ただ聞いていた。聞きながら頭のなかで情報を整理していた。
「叔父は私をある精神科に連れて行きました。私も行く前まではそれに期待していました。精神科といったら、
その道のスペシャリストだと思います。そういう人達でしたら、私の思いもよらない方法で私を救ってくれるん
じゃないかと思ったんです。しかし、結果はそんなことありませんでした。精神科の方は、私を何かの症状に当
てはめようとするだけでした。私がああいえばこれ、こういえばあれ。まるで何かの流れに沿って私を判断して
いくみたいでした。それでこれこれこういう状態ですので薬を飲んで様子を見ましょう。学校は休んでください。
それで終わりです。なんて簡単な診察なんだろうと思いました。それで何千円もして叔父に負担がかかっている。
これは何なんだろうと思いました。私は行く前より、もっと状態が酷くなりました」
 少女がスポーツドリンクに口付ける。私はようやく、この少女がその辺りの女子高生と変わらない女の子であ
ることを思い出した。
「どうすればいいのだろうと思いました。どうすればこの状態から抜け出せるのかと。辿り着いた答えは自分で
した。この状態を抜け出すには、私が私自身の手で自分を変えていくしかなかったのです。それから私の戦いが
始まりました。朝起きられない体を必死になって起こし、ご飯を作ったり身支度したりしました。震えそうにな
る体を抑え、倒れそうになりながらも学校に行きました。きっと叔父や従弟、クラスメイトのみんなは怖かった
んじゃないかと思います。やっぱりどうしても抑えられなくて手が震えたり、頭を抱えたりしていましたから。
だけど周りのみんなは黙って見守ってくれました。そして私は少しずつ自分を回復していきました」
 話している最中に少女の体が少し震えたので、一度止めたほうがいいんじゃないかという考えが頭を過る。し
かし少女は次の瞬間、瞬く間に冷静さを取り戻していた。戦いの経験の中で、そのような術を身につけたようだ
った。
「そして一ヶ月前、私は自分に起きたことを完全に克服したと思いました。もう震えることはなくなったし、怖
くもなくなったんです。ただ、それから機関車に乗る幻想が見えるようになりました。先ほど言ったとおり、ふ
とした瞬間にそちらに飛んでしまうのです。……すみません、先生。他の精神科に通っていたこと、隠していた
わけではないんですが、どう伝えれば良いか分からなかったんです」
 最後に少女は頭を下げて謝る。
512 :機関車に乗る少女(お題:機関車) 7/8 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/12(金) 19:57:02.43 ID:fux0TJUJo
「いえいえ、全然問題ないですよ。こうして話していただけたわけですから。どういうことがあったのか、大変
よく分かりました」
 そう言って私はキーボードを打ち始めた。自分で回復させるとは凄い子だ。しかし回復したと思い込むのが最
も危険である。機関車はその予兆といっていいだろう。よくある言葉で言ってしまえば現実逃避。
 私は流れを断ち切るために、別の質問をぶつけた。
「なぜ機関車なのか心当たりはありますか?」
「……あえていえば小さな頃、両親と一緒に鉄道博物館に行きました。何故行ったかなどは忘れてしまいました
が、橋の上を走る機関車の写真に感動したのは覚えています。モノクロ写真なのですが、影になった機関車のバ
ックに沈んでいく太陽が見えて、何というかとても――」
「情緒的?」
「――はい。情緒的でした」
 なるほど、と言って私はキーボードを打ち込む。ピースは揃った。彼女は自立できるレベルまで回復したが、
その反動のようなものが心の隙間に残っている。それが過去の記憶と繋がって、少女に不思議な幻覚を見せてい
るのだろう。今も一瞬、少女の瞳が飛んだように見えた。見た目よりはっきり重症だと言える。
 診断を下す時がきた。ここが勝負の別れどころだ。
「今も学校に通えているということなので、休むほどじゃないですね。ただ、普通の人と異なる傾向が出ている
のも事実です。あまり長く放置するのも良くないと思いますので、薬を出して少し経過観察させていただけませ
んか? もちろん薬はあくまで心を安定させるもので、それだけでは治りません。しかし状況を改善する手助け
にはなります」
「はい」と少女は言った。先程までよりも幾分冷めているように見えた。いくら言葉を付け足しても処置は同じ
だ。医者からは休むことと薬を飲むことしか提示できない。
 何かないだろうか。そんなとき、一つの人形劇を思い出した。
「きかんしゃトーマスって知っていますか?」
「きかんしゃトーマス? 名前ぐらいなら知っていますが……」
 少女は驚いた後、怪訝な表情を見せた。
 よく知らないなら好都合だ。
「あれは面白いから見てみるといいですよ。機関車達がありとあらゆる種類の事故を起こします」
「ありとあらゆる種類の事故?」
 少女が呆気に取られた様子で繰り返す。
513 :機関車に乗る少女(お題:機関車) 8/8 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/12(金) 19:57:44.44 ID:fux0TJUJo
「はい、ありとあらゆる種類の事故です。トーマスやジェームスはお調子者なので、放っておいても勝手に事故
を起こします。その他の機関車もやっぱり事故を起こします。客車は大人しいんですけど、貨車が大変意地悪な
んです。機関車達を建物に突っ込ませたり、崖から落としたりします。貨車達は一緒に落ちても満足気な表情を
浮かべています。そんなのが何年も続いているんですよ。面白いと思いませんか? 私はそんなありとあらゆる
事故を書き続ける作家を尊敬します」
「とても面白そうですね」と少女は笑った。おそらく本当にツボにはまったのだと思う。一週間後に予約を入れ、
今日のところは帰ってもらった。
 翌週、来てもらうと幻覚・幻聴はすっかりなくなったらしい。穴に落ちたトーマスを助けるために来たゴード
ンが穴に落ちるのを見て、そこからピタリと症状が止むのがわかったとのことだ。
 人間の心は本当に難しいものである。

(完)
514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sagasage]:2012/10/12(金) 20:00:01.99 ID:fux0TJUJo
投下終わりました。

今思い出しましたが、明日から品評会 >>362 ですね。
そちらの作品は全然書いてない!

品評会中に他の作品を投下するのはやめておこうと思います。
けど、やっぱりお題ください。
515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/12(金) 21:48:50.32 ID:ebJ/fKaso
>>514
プレッシャー
516 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/10/12(金) 22:01:22.48 ID:TWFqaRkAO
>>476
面白かったよ
非常に読みやすい参考書を読んでる気分になった
それが良いか悪いかは分からないけど、共感できる人は出来るんじゃないかな
この話に重さとか毒とか強烈なオチも要らないし、ちょうどいい
517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/10/12(金) 22:23:30.83 ID:TWFqaRkAO
>>486
淡々と書くスタイルがどうにも好きなので、言うことも感じたことも劇甘になってしまうけど
誰もが少なからずある苦悩にうまくスポットを当ててるし
ひとつ上の作品にも感じられた「動きたい」「変わりたい」と思うものの結局主人公は動かないし変わろうとせず
誰彼構わず頼ってしまう無能さ無力さがいやらしく描かれてる
現にそういう人は沢山いるなあと改めて感じました
不気味さも光ってていいし、比喩も邪魔にならず上手い

欲を言えば、ユニークさに欠ける
あなたの描き方には必須なものだと思うので期待
というか勝手な注文です
518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/12(金) 22:43:50.65 ID:M+qFn+6qo
>>506
読みやすく、世界観に引き込まれたので面白かった
精神科の医者としてのベースがガッチリ嵌ってたので説得力のある動きがとても良い
読後のスッキリ感も心地良かった

筆者に聞くのは心苦しいんだけど、
>この少女はそういうことを警戒するタイプだ。
なにを指しているのか解らない。……お、教えて欲しいなぁ……なんて……
519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/10/12(金) 22:45:58.13 ID:TWFqaRkAO
>>496
取っ掛かりが競馬かあ
興味ないんだよなあ、凱旋門賞くらいは知ってるけど、つい最近駄目だったやつでしょ
なんてことを思いながら、つまんないなあと読んでいったら

>「血の遺伝についてです」

ここでグッと引き込まれた
いやうまいなあ、うまい羨ましいわ
前二作とは切り口が違ってて興味深く読みました
知識欲を満たす小説ってのはいいね
ただただ、感嘆
延長戦をうまく料理してたと思います
520 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sagasage]:2012/10/13(土) 00:10:52.20 ID:7VSX8Dt9o
おお! みなさん感想&お題ありがとうございます!

もしかしたら面白くなかったのかな? と思っていたので嬉しいです。

>>518

もしかしたら「こちらに壁を作っている様子も見られない」がミスリードを誘ってしまったのかもしれませんが、
少女は表面上壁を作らずに接することができる、しかし心の奥底ではやはり壁を作っている
という設定で書いてました。
私はスポーツドリンクを途中で出してくる医者に会ったことがないんですが、そういう通常範囲を超えた対応を
やっちゃうと、少女としては「少しやりすぎじゃないの?」と警戒してしまうというか……
うまくいえないけどそんな感じです。
主人公はそこを利用して逆に少しずつ心の殻を壊していく、みたいなことをやりたいと思っていました。
(設定を事前に詰めていないので、その場のノリでですが)

>>516-517,519

たくさん感想ありがとうございます!
競馬について以前書いたとき、BNSK住人の反応の悪さにビックリしてしまいました……
今回リベンジできて嬉しいです。

ユニークさを身につけるのはなかなか難しいですね。
>>486 を書いたとき「これはキタ!」と思ったんですが、あとで某ノーベル賞候補に毎年上がっている人の作品
を読んでみると、読後感が圧倒的に違いますね……個人的にはああいうのを身につけたいです。
521 : ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/13(土) 18:23:26.09 ID:ZHOzRkwUo
とりあえず品評会作品書いたので投下します。
7レス。
522 :ケンゴくんとお姉さんの思い出(お題:キャンプ) 1/7 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/13(土) 18:24:58.87 ID:ZHOzRkwUo
 16の頃、公園通りで毎日溜まっていた。
 熊のぬいぐるみをベッドのなかに突っ込んで、そんで窓から抜け出して。公園に行けばダチがたくさんいた。
上は20、下は15まで。13のときからツルんでたから、上には可愛がられたし、下や同年代からは慕われた。
パシリとかそういうのはあんまりなかった。ただみんなで集まって馬鹿話をして、バーやクラブに行って騒ぎま
くってとか、そういう生活だった。
 話す内容はいつでもメチャクチャ面白かった。せっかくの新車で調子コイてたらガードレールにぶつかってオ
シャカにした話とか、女の子追っかけてたら逆にケツ掘られそうになった話とか。そういうのを毎日聞いて、こ
いつらホントにバッカだよなーとか思ってた。けどそいつらもネタになると思って話している感じだし、言って
しまえば面白けりゃ何が起きようがどうでもよかった。いつまでこんなことしてんだ俺、って思ってたけど、毎
日が楽しすぎて将来のことなんか真剣に考える余裕がなかった。
 ある日の夜、いつものように公園通りで屯していると、若いお姉さんが通りかかった。若いっていっても格好
からはOLだし、俺らよりは圧倒的に年上なんだけど、ここは俺らの縄張りっていう認識があった。だから「お
姉さん、こんなところで何やってるの?」って感じで声をかけるのは当然みたいなところがあった。
 そのお姉さんは体をビクッとさせて、怯えたような表情で俺らのことを見た。ライオンの檻に入れられて怯え
ちまってる子供みたいでスゲぇ可愛いと思ったし、犯すとかそんなのはないにしろ、少しからかってやろうと思
った。けど近づいてよくそのお姉さんを見てみたら、何かしらどこかで見たような顔をしていた。
「お姉さん」ともう一度呼んでみる。
「はいっ……」とすこし引きつった声でお姉さんが返事する。その声で、お姉さんが誰なのか完全に思い出した。
「レイコさんですよね? 大学生のとき一人でキャンプに来てた」
「……えっ?」
「俺っすよ。お姉さんがひとりでテント立てられなかったときに手伝ってあげたケンゴくん」
「……え、あのケンゴくん?」
 お姉さんは俺がそう話したことで、ようやく気づいたようだった。ちょっとショックだ。まああれから四年経
ってるし、男子三日会わざれば〜って言うからそんなものかもしれない。
「なにー、ケンゴくん。その美人サンと知り合いですかー?」
「紹介してくださいよー。俺最近溜まってるんス」
 バカ、あんた達には勿体ねぇよと言いつつ、お姉さんの真ん前まで近づく。匂いを嗅げるくらいの距離。お姉
さんは昔と同じく、本当に良い匂いがした。ヒュー、というダチ達の冷やかしが聞こえる。
「お姉さん、今から何処か行きません? どうせ暇なんでしょ?」
「えっと……」
523 :ケンゴくんとお姉さんの思い出(お題:キャンプ) 2/7 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/13(土) 18:25:27.46 ID:ZHOzRkwUo
「助けてやるって言ってんですよ。ここにいるとあいつらにマワされちゃいますよ?」
 そう小さく耳元で囁くと、またお姉さんの体がビクッとなった。本当に可愛い。俺はお姉さんが縮めていた左
手を掴むと、無理やりダチ達がいない方向へ引っ張っていく。お姉さんは戸惑っていたけど、抵抗はしなかった。
「おいおいケンゴくん、早速ヤっちゃうんですか?」
「マジでモテモテっすね! 俺もああいう風になりてー」
 俺はダチ達の歓声に手をあげて答えると、お姉さんを連れて繁華街の方向に足を進めた。

「ああいうところに夜に行ったら危ないですよ。マジでヤバい奴らがいるんスから」
「……うん」
 そう言うとお姉さんは、俺の手を握る力を強めてきた。スゲぇ柔らかかった。この手でヌいてもらったら、あ
っという間に昇天しちまうんじゃないかと思うくらい。
「ちょっとメシ喰いません? 腹減っているんスよ。お姉さんとすこし話したいし」
「……ええ」
 お姉さんの許可を貰ったので、全国チェーンのファミリーレストランに行くことにした。あそこなら夜中でも
やってるし、タバコだって吸える。
 俺とお姉さんは雑居ビルの二階、窓側の席についた。

☆ ☆ ☆

 親父とお袋は、一言で言えば変なやつだった。親父はアーティストで建物のデザインをやってるけど、「これ
人が住めんのか?」と思うぐらいヘンテコリンなやつばっかり作ってた。色も極悪で、なんかトチ狂ってんじゃ
ねえのって感じ。おまけに家では大音量でハードロックとかブラックミュージックをガンガン流して、それにキ
レたお袋と毎日ケンカしてた。お互いに髪引っ張ったりクッションとか投げまくったりしてさ。お袋はお袋でキ
レやすくて、ティッシュペーパーがなくなったぐらいでヒステリックにキレて周りに迷惑ばっかりかけていた。
メシだってロクに作らねぇし、おまけに服は買いまくる。一部屋を埋めるぐらい買って、それで「こんなものい
つ着るんだ!」ってまた親父とケンカして。金だけはあった。親父のデザインした建物は一体誰が気に入ってい
るのかバンバン売れてたし、お袋も実家が超金持ちだった。だからマジで何なんだろうなコレってずっと思って
たけど、そんな馬鹿みたいな生活はいつまでも続いた。
 親父とお袋は何故かときどきトンデモなく仲良くなることがあった。お互いに慰めあう時期が来たのよ、とか
訳の分からないことを言って。それでそういうときはいつでもキャンプに行った。ふたりはキャンプ場で知り合
524 :ケンゴくんとお姉さんの思い出(お題:キャンプ) 3/7 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/13(土) 18:26:05.13 ID:ZHOzRkwUo
ったらしい。もちろん俺も連れていかれたので、俺も自然にキャンプ知識が増えていった。
 12の頃、京都のキャンプ場に行った。二回目だった。前に行ったとき星空が綺麗で、親父たちは結構感動し
たらしい。俺も悪いところではないと思ってたし、変なところに連れていかれるよりはいいかと思った(一度群
馬に行ったことがあるが、大量のブヨが出て最悪だった。虫除けスプレーなんて効かない。直火禁止だから火で
遠ざけることもできないし、親父とお袋もマジでそのときは離婚しそうだった)。それでキャンピングカーで移
動する。キャンプ場に着くまで俺はずっと寝てるだけ。着いたら「さぁ始めますかぁ」って感じでキャンプの準
備をしていく。といってもテントとかタープを建てるのは親父とお袋の仕事だから、俺の仕事といえば水汲みぐ
らい。まあ重いけどゆっくり運んだらいいやって感じで水汲みバケツを持ってプラプラと歩いてた。暖かいとき
だったけど微妙にキャンプシーズンを外れていたから、あんまりひとはいなかった。だいたいインストラクター
がいなくて初心者向けじゃないし、同年代のやつを見かけなかったから、何だつまんねぇのって。それで仕方な
くバケツに汲んだ水をせっせと運んでた。そしたらバタンッて何かが倒れる音が聞こえたんだ。キャンプ場にい
るみんな、一斉にそっちを振り向いた感じ。テントが倒れてたんだ。作りかけって感じ。その前に唇をキュッと
噛みしめる感じで、ひとりの女の人が佇んでいた。ひと目でみて綺麗だなって思った。清楚系っていうのかな?
 そういう匂いがプンプンしてさ。俺はその人のところに行こうと思った。エロい気持ちは全然なかったけど、
仲良くなりたいなって感じで。
 俺はさっさと水を運び終えると、そのひとのところに大急ぎで向かった。誰かに取られたら嫌だなって思った
し。それで女の人のところに辿り着くと、その人はまたひとりでテントを建てようとしていた。本当に初心者っ
て感じ。子供の特権を活かしてここに取り入ってやろうと思った。
「そんなんじゃあテントは建てられないよ」
 えっ、とそのひとは言う。俺はいろいろ説明してやった。
 まずココって地面ジメジメしてるじゃん。こんなところに建てたらダメなんだって。それに石だって取り除い
てないしさぁ。テントの入り口だって風上を向いてるし、雨風が中に入ってきちゃうよ?
 そのひとは驚いたように目を見開いたけど、すぐに恥かしいというように顔を俯けた。まさか小学生に注意さ
れるなんて思わなかったんだろう。俺はその姿を見て、ますますこの女の人良いなって思うようになった。
「俺も手伝ってやるよ」って言った。
 そして俺とお姉さんは、ふたりでテントを建てたんだ。

☆ ☆ ☆

「お姉さんさあ、いま普通のOLやってんの?」
525 :ケンゴくんとお姉さんの思い出(お題:キャンプ) 4/7 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/13(土) 18:26:56.77 ID:ZHOzRkwUo
「うん、まぁ……」
 お姉さんは立てかけられたメニューのほうをチラリと見ながら答えた。俺がタバコを吸い始めたとき驚愕した
ように見えたが、注意するのは止めたみたいだ。
「楽しい? ……って楽しかったらあんなところ歩いてないか」
 俺はお姉さんの反応を見て、自分で答えを補足した。なんだか変わってねぇなあって思う。
「……ケンジくんは楽しいの?」
 それはお姉さんから聞いた今日初めての質問だった。
「楽しいなあー、マジで楽しい。楽しくて将来のことなんか何も考えらんないや」
 本当だった。いまの俺は何も考えていない。

☆ ☆ ☆

 俺とお姉さんはすぐに仲良くなった。お姉さんは現役大学生で『レイコ』という名前だった。だけど俺にはお
姉さんがシックリきたから『お姉さん』と呼ぶことにした。俺がそう言うと、お姉さんは優しそうな顔でニッコ
リと微笑んでくれた。
 お姉さんは俺にとって、これまで仲良くなったどの人間とも違う存在だった。ダチっていえば、俺がマセてて
学校にエッチな本とか持っていったりしてたから、周りもそんな奴らばっかりだった。親に吸いついてくる奴ら
も親と変わらない変人ばっかりだったし、お姉さんのような普通の存在っていうのとは程遠かった。また、周り
の奴らは放っておいても勝手に地面の石でも喰って生きていけそうな感じだったが、お姉さんはそんなのとても
ムリって感じだった。守ってあげないとって思っちゃう。そこが最高に可愛いと思った。もしかしたらあれが俺
の初恋だったかもしれない。
 俺とお姉さんはキャッチボールして遊んだ。といっても野球のボールを投げるんじゃなくて、ピンポン玉をラ
クロスのラケットを小さくしたようなやつでキャッチするやつ。俺はこれが得意だったんだけど、お姉さんは意
外に運動神経が良く、俺が取れそうにないボールでもキャッチしていた。俺が簡単なボールをミスすると、「あ
ははっ」て笑う。俺はそれで「よーしもういっちょっ」て玉を投げるんだ。他にフリスビーとかも投げて遊んだ。
夕方になるまで遊んだので俺たちはクタクタになった。夕飯はバーベキューなんだけど、お袋がお姉さんに一緒
に食べようと言った。お姉さんは最初遠慮してたけど、お袋はとても押しが強い。しかも機嫌が良いときは全く
普通のひとに見えるから死角がないのだ。結局お姉さんもバーベキューに加わることになり、俺は心のなかで「
よっしゃあ!」と叫んだ。メシを食うとき、一つのランタンを木に吊るして、そっちに虫が寄っていくようにし
ていた。それを見てお姉さんが感心していたので、俺は鼻高々になった。
526 :ケンゴくんとお姉さんの思い出(お題:キャンプ) 5/7 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/13(土) 18:27:46.07 ID:ZHOzRkwUo
 夜になると満点の星空が見えた。絶対に都会では見られない光景だ。そういうのを見ると、俺たち便利な生活
をしていくうえで大事なもの失っていってんだなと思う。わざわざこんなところまでキャンプしにくる親の気持
ちもわかるというか。お姉さんは本当に感動していた。まるでそのまま天に昇っちまって星になるんじゃないか
ってぐらいに。だから俺はお姉さんの手を引っ張った。お姉さんは驚いていたけど、そのまま秘密の場所に連れ
ていった。前回ひとりで辺りを探索していたときに見つけた場所。いつもうるさい親父やお袋には内緒だ。今日
まで俺だけの秘密だったけど、今日から俺とお姉さんの秘密になる。
 わぁっ、とお姉さんが言った。
 今宵は満月。大量の白い花が光を帯びてファンタジックに輝いている。そこは月明かりがたくさん集まる場所
だった。そこには名も知らない花がたくさん生えていた。たぶんそういう奇蹟、他にもいろんな奇蹟が固まって
起きなきゃ、こんな光景は見られないと思う。お姉さんとここで出会ったのも奇蹟のうちの一つだと、そのとき
俺は思っていた。

☆ ☆ ☆

「あー、ニューヨークに行ってこようかなぁ」
「ニューヨーク?」とお姉さんが反応する。
 つい口を出た言葉だ。将来のこと何も考えてないなってボーッとしてたら、そんなことが頭に浮かんだ。
「女のダチがひとりニューヨークに住んでるんスよ。あっちの学校行って一人暮らししてる。そこに転がり込ん
で本場の音楽ってのに触れてこようかなあと」
「……音楽好きなの?」
「マジで好きっす」
 俺はタバコの火を消しながら答える。
「親父がいっつもレコードを家でガンガンかけてたんスよ。それで自然にって感じで。とくにヒップホップが良
いんです。MTV見てたんスけど、ハービー・ハンコックとかマジ凄いっスよ。変なロボットがいっぱい出てき
てブレイクダンスとかしまくって。何だコレヤベェ! こりゃ俺もヒップホップやるしかないんじゃないのって」
 そして俺は背もたれにドカッと背中を押し付けると、そういえば俺そんなこと考えてたんだなあって思った。
ヒップホップか。結構面白そうだよな。
 俺が妄想を始めてしまったので、気付いたときには会話が無くなってしまった。そこで俺は気になっていたこ
とを切り出す。
「お姉さん。実は聞きたいことがあったんスけど」
527 :ケンゴくんとお姉さんの思い出(お題:キャンプ) 6/7 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/13(土) 18:28:37.25 ID:ZHOzRkwUo
「……なに?」
「お姉さんって処女じゃないっスよね?」
 お姉さんはアイスコーヒーを飲みかけていたので、少し噴き出してしまった。俺は余っていた布巾を渡しなが
ら謝る。
「スミマセン。驚かすつもりは無かったんだけど、なんとなく気になっちゃって。だってあのとき既に大学生で
しょ? じゃあ一回や二回ぐらいヤってても不思議じゃないよなあって」
「……一回だけある」
 お姉さんはアッサリと答えた。
「マジっスか。どうでした?」
「全然気持ち良くなかった」
 吐き捨てるようにお姉さんは答えた。そしてアイスコーヒーをガブ飲みした。俺は両手を背もたれにぐっと広
げながら言う。
「やっぱハジメテって気持ちよくないんですかねぇ。俺、最初のエッチが処女とだったんスけど、やっぱり気持
ちよくなさそうでしたよ。13の頃だったんだけど、相手は年上でマセててさ。ピルとか学校に持ってきてた。
それで『あんたエロ本持ってきてるのにヤったことないの』って言われて、『よしやってやろうじゃん』って。
普通に生ハメっスよ。突っ込んだけど最高に気持ちよくて、猿みたいに腰振って。女の子に中出ししたとき、マ
ジで死ぬって思った。気持ちよくて死ぬくらい。そんで十分堪能してから下を向いていると女の子が泣いてた。
その女の子とはそれっきり。そんなもんなのかな」
「わからない……」
 お姉さんは俯いてしまった。ゲスな話をし過ぎたのかもしれない。

☆ ☆ ☆

 秘密の場所から帰ってきて寝る頃になって、俺はお姉さんと一緒に寝るって宣言した。事前に何も言ってなか
ったけど、絶対に寝たい気がしていた。お姉さんは別にいいよって言ってたし、親父とお袋はむしろどんどん行
ってこいって感じだから、俺はアッサリお姉さんのテントで寝ることに決まった。
 お姉さんの寝袋は大きかったから、ふたりで一緒に入った。寝る前にいろんな話をした。どこに住んでるとか、
どんな学校生活を送っているとか。お姉さんは京都府民で、京都の大学で政治経済を勉強しているらしい。実際
何をやっているのかよく分からなかった。俺も自分の話をした。クラスにいる馬鹿なやつの話とか、変な先生の
話とか。だけど俺にとって内容はどうでもよかった。お姉さんのソバにいる。お姉さんの吐息が俺の顔にかかっ
528 :ケンゴくんとお姉さんの思い出(お題:キャンプ) 7/7 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/13(土) 18:29:46.90 ID:ZHOzRkwUo
てくる。それだけが重要だった。俺の下半身は勃起を始めていた。それを隠すため股で挟んでから、お姉さんと
話を続けた。
 数十分か一時間ぐらい話していると、お姉さんが寝た。規則正しい寝息が聞こえてくる。俺は興奮を抑えなが
ら「お姉さん」と言った。小さな声で三回くらい。だけどお姉さんは反応しなかった。寝返りを打とうとして諦
めるみたいにお姉さんが体をモジモジさせたとき、お姉さんの温かみが全身に伝わってきて、股からイチモツが
飛び出してしまった。ヤバいくらいに膨れ上がって、お姉さんの体のどこかに当たっている。ヤバすぎると思っ
た。慌てて元に戻そうと手を下のほうに伸ばしていく。そのときお姉さんの体のいろんな部分に当たった。スゲ
ぇ弾力があって跳ね返してくるみたいな。けど俺は思いきって手をぐいぐいと押し込んだ。お姉さんの体のなか
に沈んでいく。微かな呻き声が耳に聞こえる。ヤバい、ヤバい。俺の目的はもう変わっていた。どうお姉さんの
感触を楽しむか。チ○コだってお姉さんの体のどこかに平然と押し付けていた。もうヤバい、やめろ。そのとき
お姉さんが俺の手を掴んできた。一瞬で目が覚めた。バレたんだと思ってキツく目を瞑る。だけどお姉さんは俺
の手に指を絡ませてギュッと握り締めてきた。目を開けるとお姉さんが笑っている。顔は見えないけど、睫毛が
生き物みたいにピクンと動いたのが分かる。そのとき俺は射精した。自分のトランクスのなかに盛大にぶちまけ
てしまった。俺はショックだった。お姉さんを穢してしまったと思った。だけどその後も俺は我慢できず、計三
回も射精した。
 次の日、俺はお姉さんとマトモに話せなくなっていた。昨日まであんなに話せていたのに。そしてロクに話を
しないまま、キャンプ場をあとにしてしまった。

☆ ☆ ☆

 その後下らないことを何度か話した後、店を出てお姉さんと別れた。
 上手くやればヤレたかもしれない。ぐいぐい押せばいけそうだったし、お姉さんだってソレを望んでいたのか
も。だけど別に寝なくてもいいような気がした。寝れば多分最高に気持ちいいんだろうなあって思ったけど、ガ
ッつくほどでもないというかね。
 お姉さんは疲れているように見えた。見た目は二十代だけど、心は四十代って感じ。何があの人をそんなに疲
れさせているのかなあ。
 さっきお姉さんと話していたときに出た『ニューヨーク』が、再び俺のなかで頭をもたげていた。
 ニューヨークか。俺って英語多少喋れるけど、ペラペラって訳じゃないんだよなあ。そんなので向こうに行っ
て果たして生きていけるのか。まあ俺ももう16だし、そろそろ進んでいく道を決めないとね。
 じゃあいっちょやってやりますか、ケンゴくん! (完)
529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sagasage]:2012/10/13(土) 18:31:21.71 ID:ZHOzRkwUo
終わりです。
某ヒップホッパーの自伝を読んだので、それを取り入れつつ甘酸っぱさを出したかった、のかなぁ。

まさかの一番手。品評会、他にも参加者いるよね?!
530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/13(土) 23:41:26.38 ID:5Iuo9qrIo
>>522 読みました。
私の中では キャンプ=自然の中の聖域 というキャンプ未経験者の憧れみたいなものがあって、
自然の中で過ごす非日常の時間があるからそれは美しいものだと思っていました。
退屈な日常の時間があるからこそキャンプという特殊な非日常が輝くのだと。

だから物語の日常(現在)と非日常(過去)のバランスが上手く描かれていて私の好きな雰囲気でした。射精するまでは。
過去の非日常から現在の日常に追いついてしまった寂しさをその生理現象で感じてしまいました。
ケンゴの軽さとお姉さんの重さが伝わってきて面白かったです。
登場人物が綺麗でいる必要は無いからこういう手法もありなんだと勉強になりました。読みやすくて良かったです。
531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/14(日) 00:27:30.69 ID:TRF0ne/IO
>>530
おお、感想ありがとうございます!

射精させちゃってすみません……
仰られていることは、いま私が悩んでいることでもありました。

小説書くのは楽しい、けどそれで生きていけるか?

そういうギャップがあって、最後はどうしても現実に繋げちゃったという気がします。
532 : ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/10/14(日) 17:00:00.26 ID:35MFCUQk0
投下します。
素人のくせにスランプに陥ってしまい、この作品も正直に言えばあまり自信がないです。
キャンプと言うお題がもなかなか難しく、筆の進みがすごく遅かったため、遅ればせながらの投下となりました。
いつもとは違うようなオチになっています。読んでいただければ幸いです。
533 :明日世界が終わったとしても悲しまないように(お題:キャンプ) ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/10/14(日) 17:01:56.96 ID:35MFCUQk0
言い忘れていました。品評会用の作品でございます。


 たくさんの蛍が川辺に――この鳥肌を立たせるような冷ややかな空気の中で――彼ら特有の幻想的な輝きを一斉に僕らの
前に現した時、何と言うのだろう、そのあまりの美しい光景に(それは本当に寂しくてキラキラとした光景だった)思わず
涙が零れそうになった。しかしながら、僕がここで泣いてしまったのなら、その感動がまるで嘘のように、僕らの前から忽
然とその輝きが消えてしまいそうな気がして、僕は目を潤ませるその冷たい粒が零れ落ちるのを必死に我慢していた。その
寂しくて堂々とした幻想から決して目を離さないように、真剣に注意しながら、僕は前を見続けていた。何せ隣には由乃が
いて、その肌寒い空気に震える小さな体を僕に寄せていたんだ。だからもちろん僕にはこの場を離れる事なんてできなかっ
た。由乃のその冷たい手は当たり前のように僕の手へと繋がれ、そしてその目はもちろん目の前の寂しい風景に向けられてい
た。だから、僕らは一言も声を発することさえしなかった。お互いに言葉を発してこの風景を語ったりなんかして、その感動
を安っぽい陳腐なものにしてしまうことは、なんとなく二人の心の中でいけないことだと言うことがお互い分かっていたから
、僕らはただそこに佇んで、その儚くて美しい光景に見惚れていたんだ。
534 :明日世界が終わったとしても悲しまないように(お題:キャンプ)2/8 ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/10/14(日) 17:03:01.17 ID:35MFCUQk0
 そもそもなぜ僕らが真夜中に、山奥にあるこの川の上流、人影一つ見当たらないしんとした森の奥に居るかと言うと、僕
らは野外キャンプに来ていて(僕らが通う中学校での恒例行事なんだ。学校の野外キャンプと言うのは、だいたいがひどく
つまらないんだけれど、しかしながら由乃と一緒の班になれた事だけは行幸だったね)、皆が寝静まった後に、密かにテン
トから抜け出して、物音を立てないように、足音を立てないようにして、まるで世界から逃げるようにして、ここまでやっ
て来た。とにかく人が来なさそうな場所ならならどこだってよかった。そしてその場所が美しい場所であるなら、なおよか
った。僕が夕食前の自由行動の時、ちらっとこの上流の川辺を見つけ、もしかしたらこの場所には蛍がやって来るかもしれ
ない、空気は澄んでいるし、水はきれいだし、ひっそりとしているし、そしてそうなれば、ここでは夜にとても美しい景色
が創り出されるかもしれない。僕はなんとなくそんなことを思い、寝る直前になって内緒話のように由乃に向かってこのこと
を話したなら、「それってすごくいいね、私そこに行ってみたい」なんていうものだから、僕らはデートのようにして二人で
ここまでやって来たんだ。
 由乃は小さく息を吐きながら、しかしやはり言葉は発しなかった。お互いの息遣いだけが感じられて、その震える手からは
温もりが微かに感じられた。

535 :明日世界が終わったとしても悲しまないように(お題:キャンプ)3/8 ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/10/14(日) 17:04:05.56 ID:35MFCUQk0
「ねぇ、由乃は何で死のうと思ったの?」
 僕はしかし、自分でも気づかないうちに言葉を発してしまっていた。それはとても自然に僕の口から洩れた言葉だった。
それを口にするつもりはなかったのに、本当に意識していなかったのに、誰かに操られるようにして、僕はそう訊ねてしま
っていた。
 その言葉を発した時に、僕は由乃の方を向くことは出来なかったけれど、しかし微かに息を呑む気配だけが僕には感じら
れた。そしてその後で、じっくりと考え込むような、そんな雰囲気が伝わってきて、僕は途端に自己嫌悪に襲われることに
なった。こんなことを聞くべきではなかったんじゃないか。今更ながらにそう思ったけれど、もう遅かった。由乃は僕の右
手をぎゅっと固く握ってから、小さく息を吸い、ゆっくりと口を開いた。
「なんだろうね。お父さんが私の体を使って自分の欲望を処理することだって辛いし、毎日学校で理不尽なまでに悪口を言
われるのだってそうだし、そして君が死にたいっていうことだってそうだし、なんだか明日で世界が終わってしまったとし
ても、私は全然困らないような気分になってしまっていることが、やっぱり一番の理由なのかもしれないね。この傷ついた
小さな心を小脇に抱えながら、ひたすらに壁を乗り越えていく人生に魅力なんて感じないし、生きつづけたり、吐き続けた
り、道を走ったり、傘を差したりとかそう言う人生ってやっぱり本当に面倒くさいし、あとさ、私にとって大事なことがみ
んなにとっては大事なことじゃなかったり、たくさんの生き物が当たり前のように殺されていたり、好きだとか嫌いだとか
どうでもいいような感情を真剣に皆で話し合ったりとか、なんだか私の鋭すぎる感受性では、この世界は辛すぎるんじゃな
いかっていつも思うんだ。でもね、一つだけ私にとって確かなのは、今この目の前に広がっているこの光景はすっごく綺麗
だってこと。本当に鳥肌が立つくらいに綺麗だな。世界がたくさん、こういう景色で埋められたらいいのにね。もっとたく
さん、世界にこういう景色があったのなら、私たちは自殺せずに済むんじゃないかって思うんだ。私たちみたいな死を求め
る子供が減るんじゃないかな。こんなにもキラキラしたものが、せっかく世の中にあるのに、何で私たちの前には、死ぬ寸前
でしか現れてくれなかったんだろう。もう遅いのに。誰にも私たちの死を止められないのに、でも本当に、ごめん、なんだか
、泣きそうになってきちゃった、えへへ、本当に死にたいのに、私の死は絶対に揺るがないのに、この美しい風景はずるいよ
。辺りは信じられないくらい真っ暗闇で、恐ろしいのに、この寂しくて美しい光景はずるいよ……なんで……」


536 :明日世界が終わったとしても悲しまないように(お題:キャンプ)4/8 ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/10/14(日) 17:05:12.28 ID:35MFCUQk0
 由乃はそう言ってから、下を向いて、僕から手を放した。そしてその瞳からは、冷たい花が零れ落ちて、川と同化しなが
ら闇に呑み込まれるようにして流れて行った。
「やっぱりさ、どうしても今日じゃないといけないのかな。もちろん僕が訊ねる事なんかじゃないし、僕が言えることじゃ
ないことは分かっているけれど」
「別に何時だっていいけど、いつか近いうちにやっぱり決行すると思う。だから今日でいいんだ。君もいるし。怖くなんて
ないし」
 由乃はそう言ってから、一歩前に、川の方へ向かってその足を踏み出していた。全くありきたりなことだけど、僕が夕食
の時に思い付いたのが、二人で入水自殺をすることだった。この流れが速く、深そうな川なら、丁度いいんじゃないかなん
て思ったんだ。だから、僕はその考えを由乃に伝え、由乃もそれを了承したんだ。
 だから僕には、彼女の死を止めるような力も権限も、もう既に失われてしまっているんだ。彼女と死ぬと決めたその日から
。けれど、どうしても僕は、最後に彼女との想い出を作りたかった。もちろんこの風景だって素晴らしいけど、最後に彼女と
僕のためになるような事をしたかった。これは絶対的に僕のエゴに過ぎないのだけれど、どうしても言わずにはいられなかっ
た。

537 :明日世界が終わったとしても悲しまないように(お題:キャンプ)5/8 ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/10/14(日) 17:06:44.40 ID:35MFCUQk0
「ねぇ、最後にキャンプファイアーをしよう」
 彼女はその歩みを止め、怪訝そうにこちらを振り向いた。
「ねぇ、何言ってるの? 私これから死ぬんだけど」
「そうだ、どうせ死ぬんなら、最後にキャンプファイアーをするぐらい別にいいんじゃないか。お願い! 最後の、本当に
“一生のお願い”。僕らが死ぬ前にここで、最後にキャンプファイアーをしよう!」
 彼女はもちろん、壊れた時計を見るようなイラついた視線を僕に送っていたけど、僕は既にその辺にある枝などを集めな
がら、それらを重ねていた。キャンプファイアーと言う大掛かりなものよりは、もっと庶民的な焚き木みたいな感じだった
けれど、それはそれでとても僕ららしいものになりそうな気配があった。
 彼女はずっと不思議そうな目で僕の行動を見ていたけど、その歩みを川の方へ向かって進めることは、今は留まってくれ
ているみたいだった。
 その様子を目の端でしっかり確認してから、僕は大きさが不均一な枝をそれらしく重ねていき、ポケットからくしゃくし
ゃに丸めた紙数枚と、ライターを取り出して、火を付けようとした。彼女はその様子をじっと眺めていた。そして蛍たちは
、相変わらずこの恐ろしい静けさを持った闇の中で、その淡く儚い光を放ち続けていた。
「火がつくといいな。どうせなら明るい物を見てから死んだ方が良いよ。こんなに暗い場所で死ぬのも悪くないけどさ、最後
に心に灯をともしてから、死んだ方が、なんだかちょっとだけ、救われるような気がするな、俺は」
 しかしながら、彼女は僕の発言に対して、何も答えてはくれなかった。けどそれでも、僕のやることに反対はしていないみ
たいで、大きな木の幹に背中を預けながら、少し寒そうに腕をさすって、僕が焚き木をする様子を見ている。
 重ねた枝の上に置かれた紙に、優しく火を灯す。徐々にその原始的な灯りは、紙を侵食していって、枝の方へと向かってい
く。その様はやはり、力強く、何と言うか、心が温かくなるような光景だった。

538 :明日世界が終わったとしても悲しまないように(お題:キャンプ)6/8 ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/10/14(日) 17:07:42.36 ID:35MFCUQk0
 そうして徐々にぱちぱちと音を立てながら燃えていく紙から、枝へと火が移っていく。枝が湿っていたらどうしようかと
思ったけれど、思ったよりも乾いていて、火は順調に燃え移っていき、その力を強めていっていた。
「良かった。ちゃんとついたよ。なんだか、ゆらゆら揺れる火を見ると落ち着くな。いずれ消えちゃうってわかってるのに
、何て美しいんだろう。この蛍と合わさって、本当に幻想的な景色だね。由乃もこっちにきなよ。少しだけど、温かいよ。
ここは」
 由乃は一瞬戸惑うように首を振りかけてから、しかし息を吐くように上を見上げた後、こちらまでやって来て、僕の隣に
しゃがんだ。
「この火が消えたら、ちゃんと死ぬから」
「分かってるよ」
 僕は頷きながら、蛍の群れの中で揺れる炎をじっと眺めていた。
 やっぱり僕たちは死から逃れられないし、例えここがどんな美しい光景であったとしたって、僕たちの日常は理不尽な暴
力に溢れていて、それを考えたら僕と彼女は死んでしまうだろう。
 だけど、僕の中にある彼女を思う密やかな気持ちはやはり揺るがない。たとえ彼女が数分後に死んでしまう命だとしても
、僕は彼女の事が好きだ。それはどんなに世界が正しくて、僕らが間違っていたとしても、僕にとっては百パーセント間違い
のないことだった。
 だから、僕はこの火が消える直前に、彼女にこの気持ちを告げようと思っている。それは彼女にとってはかなりの迷惑だし
、もちろん僕のエゴでしかないんだろうけれど、それでも僕は自分の気持ちを伝えずに、寂しく死んでしまうのが嫌だった。

539 :明日世界が終わったとしても悲しまないように(お題:キャンプ)7/8 ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/10/14(日) 17:08:49.15 ID:35MFCUQk0
 この火が消える瞬間に、真っ暗闇になって、蛍の淡い光が闇を照らし出す瞬間に、彼女の事が好きだと言う気持ちをはっ
きりと伝えよう。それで彼女が頷いてくれたなら、僕は安心して死ねるし、もし彼女が死にたくないと言ったなら、僕らは
二人して、テントに戻って、そしてみんなにばれない様に柔らかいキスをして、密やかに眠るんだ。そしてやがてこの深い
闇を湛える夜が明けて、僕らの元に光が差し込む温かい朝がやって来て、それでも僕らのもとに死はいつだって憑りついて
いるのだろうけれど、でも二人ならなんとかやっていけそうだから、僕は眠っている彼女の可愛らしい、安らかな寝顔を見
ながら、「やぁ、朝が来たよ」ってストレートな力強さで言うんだ。そしたら彼女は寝ぼけ眼で、舌足らずな声で、「あー
、また来たんだ」って、まるで友達が家に遊びに来た時のような感じで、その光に溢れた朝を迎える事だろう。もし僕にそ
んな展開が訪れたら幸せだろうけれど、まぁまず間違いなく、僕らは二人とも死んでしまうだろう。この世界に絶望して、
自分の未来を見放して、僕らは一足先に、闇の中に呑み込まれてしまって、永遠に魂を失ってしまうだろう。でも、僕が彼
女のことを好きな気持ちは確かだし、それだけは死ぬ前にしっかり伝えておきたかった。だから、もうすぐこの淡い焚き木
は消えてしまうだろうけれど、僕は言ってやる。大声で言ってやるんだ。俺は由乃の事が好きだって。信じられないくらい
力強く宣言してやる。この世界に向かって。のうのうと眠りについている奴らに向かって。そして死のうとしている由乃に
向かって。俺は由乃の事が好きだ! って、限りない声で叫んでやるんだ。そして力強く抱きしめてやる。それが僕にできる
、最後の方法だった。賭けと言ってもいいような、愚昧である僕に浮かぶ、最後の告白だった。
さぁ、今まさに火が消えようとしている。僕は伝える。さぁ、どういう結果になるだろうか。僕らは無残に死んでしまうのか
。彼女に思いっきり拒否されて、大きな傷と共に死んでしまうのか。
 そんなことを考えていたら、僕は彼女と目があった。彼女は静かに息を呑みこんで、こちらを見ていた。さぁ、言おう。こ
れで最後だ。死を賭けた、最後の大一番だ。
540 :明日世界が終わったとしても悲しまないように(お題:キャンプ)8/8 ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/10/14(日) 17:10:00.15 ID:35MFCUQk0
 僕はゆっくりと口を開く、そして震えるように息を吐き出す。声を出そうとする。彼女は上目づかいでこちらを見ている
。僕が何かを喋りそうな気配を察している。
たとえこの後にやって来る未来が、どんなに辛いものだったとしても、どんなに絶望的なものだったとしても、僕は喜んで
享受する。
 彼女を死から救うために、僕はずっといじめられている彼女の傍に居続けていたんだ。だからさ、もしこれが失敗だった
ら本当に報われないけれど、僕はもう後には引けないんだ。
さぁ、もう時間がないね。最後の瞬間がやって来た。もう未来がどうなろうと関係ない。僕はただ、この気持ちを正直に伝え
るんだ。僕は死を賭けて、告白する。
 僕はごちゃごちゃとした考えを振り切り、ようやく決心をして、ゆっくりと、確かな響きで空気を震わせるように、大切な
言葉を、由乃に向かって発した。由乃の顔をまじまじと見つめながら、火が消えるのを感じながら。
――ねぇ、由乃。僕は君のことが好きなんだ。ずっとずっと君のことが大好きだったんだ。
 そして、そう告げた瞬間に彼女の顔が信じられないくらい真っ赤に染まったのを確認した。そして同時に、僕も同じような
くらい顔を真っ赤にしながら、心から幸せな未来を、信じることが出来たんだ。
 やっと僕らにも朝がやって来たんだって、暖かい気持ちを抱きながら。
541 : ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/10/14(日) 23:21:17.59 ID:qSPpLjr1o
品評会作品投下
542 :真夏の夜の戯れ 1/6 ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/10/14(日) 23:22:08.96 ID:qSPpLjr1o
 うだるような暑さの中で、三人の男達がキャンプの準備を淡々と進めていた。
 ある者は額に大粒の汗を滴らせながら黙々とテントを組み立てていく。
 ある者ははちきれんばかりの筋肉を見せつけながら、折り畳み式のテーブルとチェアをぎこちなく組み立てていく。
 ある者はコンロや燃料といった器具類を持ち運んでいく。首にかけられた白いタオルには「ほりえもん」と
赤文字でデカデカと印刷されていた。
「おい漆戸」
「はい何ですか」
 筋肉マンが頭をくるりと九十度回転させる。
「何だその妙な手つきは」
 テントを組み立てていた黒シャツの男が漆戸に対して不審者を見るような目を向ける。
「実はですね、清美ちゃんと理恵ちゃんが僕が触る度にうふん、あはんなんて悶えちゃって作業が進まないんですよ」
 そう言って肉達磨はテーブルとチェアをねっとりと撫で回していく。
 べちん。
 反射的に漆戸の頬をビンタする。ぬらぬらした汗がびちゃり、と男の手にへばり付く。その気持ち悪い液体を
確認した瞬間、黒シャツは表情一つ変えずにポケットから取り出したハンカチで液体を拭った。
 その間、わずか三秒。
「ちなみにですね、名前の由来は私のマイフェバリットミセスから選びました。辻元清美ちゃんと柴田…」
 むきむき男はらんらんと目を輝かせながら、恍惚の表情で語り始める。
「おい、辻元清美は結婚してないからミセスじゃないぞ」
「あっ、そうでしたか。私としたことがなんという失態」
 漆戸は自慢のスキンヘッドをげんこつで軽く叩くと、てへぺろと舌を出す。
「そんな事はどうでもいいから、早くそれを組み立てて雄樹を手伝え。俺の方はもうすぐ終わるから」
 彼らから三メートル程離れた場所には、大人四人が寝られるサイズの簡易式テントが二つ並んでいる。
「生井先輩、どうして二つもテントを持ってきたんです? 三人なんですし一つで十分でしょう」
「ふん、まあ見てなって」
 生井のバイザー型サングラスが日光を受けてキラリと反射する。
543 :真夏の夜の戯れ 2/6 ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/10/14(日) 23:22:41.63 ID:qSPpLjr1o
「その事についての打ち合わせは後でやるから、とにかく今は準備しろ」
「生井先輩」
「どうした」
「清美ちゃんと理恵ちゃんが」
 ぼかっ。
 熱い鉄拳がハゲ頭に突き刺さった。

「では、これより説明を開始する。作戦名は、可愛い女の子とやっちまおうぜ作戦だ」
 生井慎之介は目の前にいる二人の男に語りかける。目元はサングラスで隠れているので表情ははっきりと
分からない。が、唾を飛ばさんばかりの勢いときつく握り締めた拳が彼の本気度を物語っていた。
「可愛い女の子って、清美ちゃんと理恵ちゃんみたいなコケティッシュな女の子ですか?」
「詳しく聞かせてくれよ、慎之介」
 目を輝かせる漆戸を横目でチラリと見ながら、茶髪で整った顔立ちの男が反応を返す。
「簡単だ。女をナンパしてセックスする。どうだ、最高だろ?」
「ああ、最高だ。いつも通りのやり方でいいよな?」
「そう、いつも通りの俺達を出せばいい。けど、役割分担はきっちりしてもらうぜ」
 生井がにやりと口元を歪める。
「なるほど、生井先輩。役割分担ってことは、つまり私は熟女担当ということですね」
 筋肉男が新庄剛志ばりの磨き抜かれた白い歯を二人に見せ付ける。
「いいか、漆戸。お前はお笑いキャラ担当だ。その役割の為だけに誘ったも同然だ。っていうかナンパ自体
やった事あるのか? ……まあ、お前の場合変に意識せず素の自分を出せばいい。後は俺達で何とかするから」
「おおっ、分かりました! 私は素でいきます!」
 漆戸の表情がぱあっと明るくなる。自分が先輩達とのキャンプに誘われたのは、とても頼りにされているからだ。
こう解釈した彼はその恩に報いるため、この先輩達のためになら何でもすると忠誠を誓った。
 もっとも、当の生井は女の子と円滑なコミュニケーションを図る為の弄り要員としか見ていなかったが。
「じゃあ後は普段通り、雄樹がイケメンキャラ担当で俺が進行担当だ」
「よし、じゃあ早速女を探しに行くか」
「私に何でも任せてください。ほらほら、バッチコーイ!」
 二人と微妙に噛み合わない一人が獲物を定めるべく歩みを進める。彼らの目前には無数の豊かな真緑が
生い茂っており、蝉の鳴き声を背景に葉擦れの音をゆったりと響かせていた。
544 :真夏の夜の戯れ 3/6 ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/10/14(日) 23:23:59.02 ID:qSPpLjr1o
 彼らが歩くこと約五分。目前には周囲を木々に包まれた河原が広がっていた。砂利の上で飯盒炊飯の準備を
整える家族連れ、浅瀬で水遊びを楽しんでいる少女……行動は違えど各々が大自然を満喫していた。
「よし、ここなら人も結構いるし声をかける相手には困らないな。じゃあターゲットの優先順位を決めようか」
「だな。まずは……」
 生井慎之介と高城雄樹は物陰に隠れながら声をかける相手の順位を決めていく。本人達の容姿や会話術、
相手の性格や嗜好によってナンパに成功する確率は多少変動するが、基本的に女がひっかかる確率は低いのだ。
断られても当然のスタンスで臨むのが普通であり、いちいち傷付いてなどいられないのである。そのため、ナンパを
行う場合は断られてもいいよう事前に声をかける相手の優先順位を決める方がスムーズに物事を進行できるのだ。
 二人は手慣れた様子で女の順位付けを済ませていく。ナンパの経験もなく、何もできず見守るだけの漆戸にとって、
彼らの後ろ姿は眩いばかりの後光が射していた。
「奥にいるデニムのホットパンツを履いた女がいる三人組が一番。その次に手前で水遊びをしているピンクの
ワンピースを着た女がいる二人組。三番目があのボブカットの黒髪。ラストは岩に座ってる黒髪ロングの女だ」
「オッケー。じゃあ狩りの時間といくぜ」
「先輩、あそこにいる女の子達はどうですか? 私にはとても魅力的に見えます」
 二人が意気揚々と物陰から飛び出そうとした瞬間、漆戸が口を開く。
 二人は彼が指差す方向に視線を向ける。彼らの目の前にはくたびれた薔薇色のキャミソールを違和感なく着こなす
中年女性三人の姿があった。
「……」
 ――彼女達の姿を認識した瞬間、二人は全速力で駆け出していった。もちろん、漆戸を置き去りにして。

「こんにちはー」
「あっ……こんにちは」
 生井が三人組の一人に笑顔で声をかける。三人の中では最も可愛くない、下の下レベルの女に対して。
 あからさまに可愛い子に対して声をかけると、相手はナンパ目的で声をかけてきたと警戒する。相手に警戒心を
抱かせないためには、まず可愛くない女に対して声をかけるのが鉄則だ。生井は過去の経験からそう認識していた。
「ねえ、この辺りに世界一美味しい吉野屋があるって聞いてここに来たんだけど、知ってる?」
「ぷっ、なぁにそれぇ〜」
「バーカ、そんなのある訳ないじゃん」
「何言ってんの、こいつー?」
545 :真夏の夜の戯れ 4/6 ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/10/14(日) 23:24:41.62 ID:qSPpLjr1o
 口では生井をバカにしつつも、彼女達から笑い声があがる。生井は彼女達の明るい表情を見て、心の中でニヤリと笑う。
 先程の順位付けにおける判断基準は見た目の可愛さもそうだが、最も大事なのは生井達と似たような外見かどうかだ。
 つまり彼らのチャラチャラしたノリを受け入れてくれる確率は、彼らと同じような外見の女が最も高いのだ。真面目そうな
女性にチャラい外見やノリで接しても、受け入れてもらえる確率は格段に低くなる。外見とノリによって、適切なターゲット
は存在するのだ。需要と供給の関係を成立させる為には、適切な容姿と行動を伴わなければならない。
「あれー、おっかしいな? 確かにここって聞いたんだけどなあ?」
「バカ、どうせお前の聞き間違いだよ。すみません、こいつが迷惑かけまして」
 高城が相手の三人組に対して、同じように視線を配りながら話しかける。平等に目線を向けることによって、
女性に自分が仲間外れにされているという意識を持たせないようにしているのだ。
「いいよいいよぉ、あんた達面白いしかっこいいし」
「でさ、迷惑かけたお詫びってことで夜一緒に食べない? こいつがうっかりしてたくさん食い物持ってきたから余っちゃって」
 高城が横にいた漆戸の胸を手の甲でバシッと叩く。ただ食事に誘うだけでなく、なぜ誘うのかという理由を付け加える
ことで相手の警戒心を完全に解こうとしているのだ。ちなみに食料を持ってきたのは生井であり、意識して食料を多め
に持ってきたのは言うまでもない。
「うん、一緒に食べよう! いいよね、よっちゃん」
「余ってるなら仕方ないなぁ。あたし達の食欲、甘く見るなよっ!」
「よーし、じゃああたし達も準備があるから、七時にここで待ち合わせしようか?」
「おっけーい。んじゃ、俺が迎えに来るから七時にここに集合!」
 生井が垂直にビシッと手を挙げる。
「そしてお前らは食事の準備しとけよー?」
「私にお任せください。この漆戸淳、先輩達の為にバッキバキ働きます」
 漆戸が力瘤を作って鍛え抜かれた上腕筋を見せ付ける。
「あははっ、ほんとあんた達って面白いよねー」
「いやいや、そんな事……あるんだぜ、ワイルドだろぉ〜?」
 生井がおちゃらけた口調で女性陣に話しかけると、再び場がドッと湧いた。ここまで盛り上がれば後は流れに
任せるだけでいい。アルコールも大量に準備した。まだ油断はできないが、目的は果たされたと言ってもいい。
 女の子達と別れた後、生井と高城が満面の笑みでハイタッチを交わす。一発で目当ての女を仕留めたことに、二人
は爽々しい達成感を感じていた。
 そして漆戸はおばさん達の姿を名残惜しく想いながらも、流れでハイタッチを交わした。
546 :真夏の夜の戯れ 5/6 ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/10/14(日) 23:25:12.77 ID:qSPpLjr1o
 暗闇の中、燃え上がる炎を中心にして男女六人がその周りを取り囲んでいる。彼らは缶ビール、缶チューハイなど
各々が飲みたい物を片手に談笑している。パチパチと薪が爆ぜる音だけが響く度、彼らの笑い声にかき消されていった。
「おいおい、それってマジかよ!? 信じられないんですけどぉ?」
「でしょー! 絶対ありえないよねー、ほんとマジムカツクー」
 生井の反応に女はミディアムストレートの茶髪を振り乱す。よほど反応が気に入ったのか、興奮して生井の背中を
バンバンと叩いた。ホットパンツから伸びる脚はむっちりしており、生々しい肉感を周囲に見せ付けていた。
「ほらほら、もっと飲もうぜー。嫌な事は飲んで忘れちゃおう!」
「むぐっ、んぐっ……ぷはーっ!」
 生井に勧められるまま、女は酒を飲む量を順調に増やしていく。
「ねえねえ、よっちゃん達って大学のサークルは何やってんの? ちなみに俺達は草野球とかやってるぜ」
「えっとねえ、あたし達は……」
「わあっ、莉央ちゃんすごいですね! 脚もそうだけど腕の筋肉なんか引き締まってて、美しいですよ!」
「そっ、そう……ありがとう」
 よっちゃんを遮るように漆戸が頓狂な声を張り上げた。莉央は顔を赤らめ、照れ隠しに持っていた缶ビールをぐびぐび
と飲んでいく。ちなみに顔面偏差値はどう贔屓目に見積もっても、三十台前半が関の山だろう。
「うううっ、なんかいい気分になってきちゃったあ……」
 ホットパンツの女がろれつの回らない口調で声をあげる。目はとろんとしており、もはや正気を失っていた。
 その姿を確認した瞬間、生井はサングラス越しに目を輝かせると自分の右肩に女をもたれさせる。
「おいおい、大丈夫? 自分で歩ける?」
 口調は心配している風だが、相手が自力で歩けないほど酔いが回っている状態なのは百も承知である。
「うーん、もう歩けないー」
「とりあえず、ここで寝ても風邪ひいちゃうしテントに寝かせよう」
 空気を読んだ高城が生井をフォローするべく、理に適った提案をする。
「じゃあ俺がテントまで連れて行くよ。ほら、ここで寝たら風邪ひいちゃうよー」
 生井が女と肩を組み、相手をもたれさせる形でテントまで連れて行く。喧騒から離れた場所にあるテントは
真っ暗な口を開けており、中に入る者を容赦なく食べ尽くしてしまうような怖さがあった。
547 :真夏の夜の戯れ 6/6 ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/10/14(日) 23:25:50.78 ID:qSPpLjr1o
 生井はテントの入り口を閉めると、優しい手付きで女を横たわらせる。そして流れのままにじっくりと体を撫で回した。
「んんっ、うーん……」
「そう。大丈夫だから、ゆっくりしてていいよ……」
 押し込むように体を触っていく。弾力のある瑞々しい感触が衣服越しに伝わってくる。生井自身吐く息が次第に
荒くなり、撫でる指にも力が入っていくのが分かっていたが、溢れ出す欲望を抑えようという意識は既に捨てていた。
「ねえ、一緒に気持ち良くなろうよ」
 耳元で囁くように語りかけるが、もはや相手の耳には入っていない。生井の指が衣服の中に入り、胸のふくらみに触れた途端、
「!!!!!!」
 突然、激しい衝撃が彼を襲った。




「ぎゃああああああ、ギブギブギブ! 腕がおれるー!!」
「おらゃーっ、まいっははあ、ひふひょおおおお……」
 腕挫十字固めを決められた高城が悲痛な声をあげる。その姿は全く違和感がなく、綺麗に決まっていた。
「あーっ! 莉央ちゃんすごいですよ! そう、その四の字固め! 一点の緩みもない大腿四頭筋にカモシカのような
引き締まった下腿二頭筋! かのレオナルド・ダ・ヴィンチの名作、モナリザに勝るとも劣らない美しさですよ!」
「うふふーっ、ありらとー。どうら、きたえたぷろれすのわざ、みたかーっ!」
 漆戸の鍛え抜かれた脚に莉央の鍛え抜かれた脚が共鳴するかのように絡み合う。
「おいこら、お前ら酒癖悪すぎだろ! っであああーっ、勘弁してくれえええ!」
「いいです、いいですよ……もっと筋肉を、磨き抜かれた肉体の競演をををををーっ!!!!」
 夜は、まだ終わらない。
548 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府) [sage]:2012/10/14(日) 23:26:10.45 ID:ZzcSRLtoo
よやく
549 : ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/10/14(日) 23:26:23.95 ID:qSPpLjr1o
投下終了
ではではノシ
550 :人生最後の遊びが、きっとくだらないものでありますように1/8 ◆JBdglC3jjM [saga]:2012/10/14(日) 23:30:40.20 ID:ZzcSRLtoo
「人生最後の遊びが、きっとくだらないものでありますように」



 私は複数箇所のホームセンターで買った大量の練炭と七輪、そしてガムテープを後
部座席に置くと、意気揚々とワンボックスカーを走りださせた。
 エアコンからは妙に生臭い冷気が流れ、その下にあるラジオは昼特有の毒のトーク
を淡々を私にしかけてくる。
 今は夏。死ぬにはあまり良い季節でないのかもしれない。
 昔、道端で死んでいるカラスを見たことがあった。それを思いだす。たぶん車に轢
かれたんだろう死体は、長い間放置されてひどく腐っていた。私は京都の田舎町出身
で、人がほとんど通らない道をいくつか知っていた。そこでは、あまりにきれいに舗
装されていた。白線がなんの汚れもない代わりに、さまざまな動物の死体が放置され
ていたのだ。
 アスファルトはまるでカラスの赤黒い死を展示する台座のようだった。
 私はそれを見たとき中学生だった。友達もいなかったので、ずっと一人遊びをして
いる時期だったように思う。林で虫の足をちぎって遊んでいた。逃げた片足の五本足
のバッタを追いかけて出た焼けた道路で見たのだった。
 この親父から譲ってもらったワンボックスカーに乗ると、いつも昔のことを思い出
してしまう。きっとこのクーラーの匂いのせいだ。車のクーラーの独特の匂いは私に
、なぜか、感傷的な感情を覚えさせる。きっとあのときの同級生たちにとって、私は
無力なバッタだったのだと思う。足をもいで、ただただ楽しむ。そんな。
 今日は死ぬ約束をしていた。
 私はファミリーマートで買ったきゅうりの一本漬けを咥え、ハンドルを右に回す。
551 :人生最後の遊びが、きっとくだらないものでありますように2/8 ◆JBdglC3jjM [saga]:2012/10/14(日) 23:31:26.53 ID:ZzcSRLtoo


 トンネルを抜けて約束の場所に着くとそこにはブスが立っていた。どうやら一人し
かまだきていないようだ。脇に車を止め、そのブスに話しかける。
「……すいません、BNSKの人ですか?」と私はおそるおそる尋ねる。
 BNSKというのはその私の行っていたWebサイトの名前だ。そこはもともと小
説を投稿するサイトだったのだが廃れてしまって、今は違う目的に使われている。
 昔そこに投稿された小説で「完全失敗自殺マニュアル」というものがあった。その
内容は主人公が死のうとして失敗していく様が約二百ページに渡って書かれていた。
 そのサイトは一時期興隆していたため、自殺について検索するとGoogleでは
四ページあたりにその小説のリンクが出てくる。これによって、管理人に放置された
BNSKというサイトは自殺に関するサイトに変わっていった。
 BNSK、というサイトが小説サイトだったとき、週末品評会というものがあった。
毎週お題にそって短編小説を書いて、それに投票し、その週でいちばんいい小説を決
めていたらしい。
 現在もその習慣は形を変えて残ってはいた。
「……はい。たしかにそうですけど……。週末自殺失敗会ですよね」とブスは言った。
 どこかテンションが低かった。それは、私がこのブスの女の子に対して親しげに話
しかけないのと一緒だろう。つまり、私が彼女の趣味に合わない……、単刀直入にブ
サイクだからだろう。いや、もしかすると私の口臭がキュウリ臭いからかもしれない。
「ええ。他の参加者はまだ来ていないようですね。まあ、こないかもしれませんが」
 週末自殺失敗会は毎週している自殺の品評会だ。完全失敗自殺マニュアルで知識を
得た鬱々とした人々が実際にやってみようというものだった。
 失敗してもともと、成功すればもうけもの。そういう後ろ向きに前向きな会だ。毎
週自殺集会を開いて、失敗して、レポートを投稿する。
552 :人生最後の遊びが、きっとくだらないものでありますように3/8 ◆JBdglC3jjM [saga]:2012/10/14(日) 23:32:37.58 ID:ZzcSRLtoo
 もしも。もしも死ねることができれば優勝で、名誉BNSKerと呼ばれることが
できる。
 ブスとの言葉数も少なく、二時間がたった。なんで死のうと思うか、と聞いたが、
人生いやなことばかりだから、と簡潔にブスは言った。
 私ことこのブサイクも、確かにそうだと思う。喉元過ぎれば熱さ忘れるという。苦
しさも一時ならば人は死のうと思わない。死のうと思うのは常に熱々の流動食を流さ
れている人間だけだ。その人間が流動食が流れていない一瞬に、死のうとするのだ。
 流動食を作っている人々も、それを熱々にする人も、流し込む人も、それぞれの生
活がかかっているのだろう。それできっと生活しているのだろう。私に嫌がらせをす
ることできっとお金をもらっているのだろう。二兆円くらい。だから私はその人を批
判することができない。生きるため。それは仕方のないことだ。
「……きませんね」
 そうですね、とブサイクは返事をする。会話も行き詰ってきたところだ。そろそろ
どうでしょう、死にませんか? と私は言った。そういえば、水曜どうでしょうって
まだ見たことがない。面白いらしいが。きっと私は水曜がどうなのか知らずに死ぬの
だろうと思う。
「……いいですね。善は急げといいますし、早いに越したことはないでしょう。ただ
……」
 とブスは何か言いたげだ。
 ただ? とブサイクは聞き返す。
「いえ。あの……、えーと、“THE BIG PENNIS”さんは、彼女とかいた
ことがありますか。あたし、彼氏とかいたことがないんです」
 まあ、その顔ならね、と思う。THE BIG PENNISとは僕のBNSKで
のハンドルネームだ。
553 :人生最後の遊びが、きっとくだらないものでありますように4/8 ◆JBdglC3jjM [saga]:2012/10/14(日) 23:33:07.04 ID:ZzcSRLtoo
「いえ、ないですよ。まあ見ての通りあまり良くできた顔ではないのでね。ははっ。
あと、山下でいいですよ。女性の方には言い難いでしょうしね」
 と私は紳士的に答える。しかし、ブスのハンドルネームは“幼女おピンク肛門大回
転”氏なので、大して恥ずかしくもないだろうと少し思っていた。
「それで?」
 まさか、付き合おうなんて言うんじゃないだろうな、と思う。私とコイツが手をつ
ないで歩いてみろ。歩く公害だ。失明、体調不良、頭痛を起こした医療費精神的苦痛
を負わせたことの賠償金を取られるだろう。それこそ、GEOで水曜どうでしょうの
DVDも借りることができないくらいに。
「いえ、死ぬ前に恋人ごっこなんてしませんか? いえ、よくラブコメにあるような
ものでなく、目をつぶればお互いの顔は見えません。声だけ、しかもなにか設定をつ
けてなら、入り込めるんじゃないでしょうか」とブス。
 なるほど、さすがブスだけあって現実逃避に長けている。妄想する時、声に出すと
いうのはいい手段だ。頭の中でなんとなく妄想するだけよりずっとぐっと現実味が増
す。そしてそれが他人のものでればもっとよく妄想できるだろう。私も妄想には自信
がある。
 五畳ほどの狭い部屋に住んでいたとき、廊下に巨人のおじさんがいる妄想をしたこ
とがある。声を出して目を瞑って。瞑った目には暗闇のなか紫色の薄い羽衣状のもの
がゆっくりと浮いているのが見えている。その廊下にいる巨人のおじさんについて喋
っていると目の前の暗闇が一瞬別世界にチャンネルが合わさる。
 場所で言えは眼球の斜め右上あたりにある別世界にチャンネルが合わさって、おじ
さんの巨人が現実に出現する。そうして曖昧なのに異様に巨大な恐怖が体を押しつぶ
す。おじさん巨人は廊下をうろうろしている。おじさんの巨人は、三メートルほどの
554 :人生最後の遊びが、きっとくだらないものでありますように5/8 ◆JBdglC3jjM [saga]:2012/10/14(日) 23:33:38.48 ID:ZzcSRLtoo
高さの廊下の天井にも頭があたってしまうので、極端な猫背になっているぐらいの大
きさだ。私や隣人の部屋の前をうろうろとしているが、廊下のつきあたりにある共同
トイレへ入ろうとする。小さなドアノブを大きな手の人差し指と親指でつまんで開け
て中を覗こうとする。
 ギイ。とドアが開き、おじさんの巨人が巨大な頭を開いたドアの隙間に挟み込み中を
見る。暗闇。月明かりに男子トイレがぼんやり光る。瞼からはみ出したような巨大な
眼球がぐるんぐるんと回った。
 顔は弛緩しきって口の端からよだれが垂れいる。そして頭に対して異様に細い身体
の腹筋の横をそのよだれは伝い、股間の間にぶら下がる馬のように長くドリル上の男
性器からは赤く白濁したブヨブヨの液体が流れ続けている。
 ずー、ずー。という呻き声。おじさんの巨人はトイレに飽きたようで廊下をまた歩
き始める。男性器から流れた液体で足と廊下を汚しながら。そして私の部屋の前まで
歩き、じっとドアの方を見る。私はじっと息を潜める。
「恋人同士で両親に反対され、これから心中するという設定で」とブス。
「まあ、いいですよ。失敗してもレポートに書けそうですしね。あ、なんて呼び合い
ます? 名前って重要ですよ」
「あ、私のトリップから取ってもらえばうれしいですかね」
 と言って、ブスはスマートフォンの画面を見せる。
 2chmateに表示されたカキコミには◆JBdglC3jjMというトリップが読めた。
そういえばAndroidの十数バージョン前のものにJB=ゼリービーンズっての
があったと思い出す。
「じゃあジェリーって呼びますよ。いいですか?」
555 :人生最後の遊びが、きっとくだらないものでありますように6/8 ◆JBdglC3jjM [saga]:2012/10/14(日) 23:34:26.65 ID:ZzcSRLtoo
「ええ、いいですよ。ジェリーってことは外国設定ですか? 日系人ぐらいがいいで
すかね。じゃあ山下さんもカタカナで“ヤマシタ”ですね。なんていうか画家? 彫
刻家? っぽい感じもありますね」
「そうですね。ま、あるていど設定も固まったところで、さっそく車に入って始めま
しょうか」
 そうしてブスとブサイクによる人生最後(かもしれない)の遊びが始まった。
 ガムテープで車を内側から密閉する。三列ある座席の真ん中の席を前に倒し、後部
座席に広い空間を作る。七輪を用意。私が余っていたキュウリの一本漬けを薦めるが、
いいです、と断られる。
「車がキュウリ臭くなりますよ」
 確かに現世最後の感覚がキュウリの匂いというのは確かに嫌だ。しかも隣にはブス。
 作業しながら
「あ、やっぱり山下さんは純日本人ってことにしません? 結婚しようとしても外国
人嫌いの父親に反対されて心中を選ぶっていうのは」
「ああ、いいですね。舞姫パターンですか。まあ、はずかしながら舞姫を読んだこと
ないですけどね」
 そんなことを話していた。また、ブスが進めてくれたグレープフルーツジュースを
飲んだりした。どうしてグレープフルーツジュースというのは薬っぽい味なのだろう。
 座席を倒し、ゆったりとしながら二人ならんで座る。七輪はまだつけない。盛り上
がったら火を着けて死ぬのだ。
 眼を瞑る。私の脳のチャンネルが切り変わる。私は妄想が得意なのだ。
 景色は一面コンクリートの道路。白線が内臓を赤黒く垂らしたカラスが一つの山に
なっている。
 脚のないバッタ空を飛んで無数に飛んでいる。
 巨人が道路に寝そべって息を止めている僕を見つけて腕を引っこ抜く。
556 :人生最後の遊びが、きっとくだらないものでありますように6/8 ◆JBdglC3jjM [saga]:2012/10/14(日) 23:35:55.38 ID:ZzcSRLtoo
 例えばカニの脚を抜いた時のように、切れにくい筋がずるりと腕に付属している。
 私は泣き喚き、それに驚いたカラスたちが腐った内臓を垂れ流しながら飛び立つ。
 私は妄想が得意で、いつだってこの光景を続きから見ることができた。
 私は四肢を巨人にもがれ、巨人の股間からでる体液にまみれながら芋虫のように
うごめく。
 痛み、苦痛、涙が襲う。頭部まで引っこ抜かれて親指と人差し指でゆっくりと破裂
させられる。
 まるでブドウの皮をむくように、まず頭部の皮から頭蓋骨がズルリと出る。その出
た頭蓋骨をクシャリと破裂させられる。頭部もない胴体だけの私はうにうにと動いて
いる。
「山下さん!? 山下さん!?」
 グラグラと、身体をゆすられる。
「ねえ、山下さん! どうしたんですか!?」
 目の前に光が広がり、それが何時しか天井と不安気なジェリーの顔に
変わる。がばり、と起きる。
「大丈夫でしたか山下さん。ひどくうなされていたようですが」とジェリーはその整
った顔をひどく不安そうに歪ませて訴える。西洋人の血が半分入っているせいか肌は
透き通り、眼は青い。しかしながらその長い髪と丁寧なしぐさと温和な顔立ちは現代
の街にいる女性よりずっと日本的だ。
「いや、なに、変な夢を見ただけだ。夢とは荒唐無稽なものだ。時には悪夢を見るこ
ともあるさ。きっと、父さんに君を紹介するのが不安で、それが夢として現れたんだ
ろう」
「そうですか……。でも無理しないでくださいね」そうジェリーが言う。
 ひどく気味の悪い夢を見た。私には妄想癖があるとは思っていたがここまでとはな。
 私には、眼を瞑って“チャンネルを合わせる”とくっきりとした妄想を見ることが
できる。私はときどきその妄想をBNSKという所に投稿していた。
557 :人生最後の遊びが、きっとくだらないものでありますように8/8 ◆JBdglC3jjM [saga]:2012/10/14(日) 23:36:43.01 ID:ZzcSRLtoo
 BNSKとは小説を投稿するサイトで、今はかなり廃れてしまったが、まだ復活の
余地はあると思う。ジェリーが朝食の準備をしたのを見送ると私は胡坐をかいて、少
しチャンネルを合わせてみることにして見た。
 どうやら、山下はこのブスな女に殺されるようだった。山下は、確かに自身の妄想
や現実の境遇に苦しんではいたが別段死ぬ気はなかったはずだ。本人がその気持ちに
気づいているかは別にして。その証拠に、山下がいままでさまざまに試していた自殺
方法はすべて失敗していたのだった。つまり、失敗しよう、失敗しようという風にも
っていったのだ。
 今回も、結局七輪をつけないだろう。つけたとしても、なにか大きなミスをわざと
して、死ぬつもりはなかったのだろう。
 しかし、いま山下はグレープフルーツジュースのなかに入れられた睡眠薬によって
眠っている。ブスはキュウリの一本漬けをぼりぼりと齧りながら、今、七輪に火を着
けた。
 馬鹿馬鹿しい一生だ。ブスの隣で、キュウリの匂いに満ちた部屋で死ぬなんて。ブ
スはうっとりと自分のものになった男の身体をなでる。このブス、男の身体ならなん
でも良かったんだな。さすが“幼女おピンク肛門大回転”氏。名前に恥やしねえ。
 私はチャンネルを切って、自分の視界に戻る。そしてPCを立ち上げる。
 小説を書いて、BNSKの長編板に書き込むのだ。
 いくら死のうと思っても、失敗してしまう男の話。そして最後は殺されてしまう男
の話。
 タイトルは「完全失敗自殺マニュアル」
 もちろんあの本のパロディさ。こういうものは、できるだけキャッチーなもののほ
うがいい。これで、少しでもBNSKが復活してくれたらいいんだが。
 私は未来のBNSKを思いながら、キイをタイプし始めた。
558 : ◆JBdglC3jjM [saga]:2012/10/14(日) 23:37:12.18 ID:ZzcSRLtoo
終わりでござんますのよ
559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sagasage]:2012/10/15(月) 00:48:36.14 ID:83Q+jqRto
予想はしてましたけど、やっぱり投稿数少ないですね。
時間外があるかもしれませんが、今のところ投稿作品は
以下でいいのかな?

No.01 ケンゴくんとお姉さんの思い出 ◆xUD0NieIUY氏
No.02 明日世界が終わったとしても悲しまないように ◆/xGGSe0F/E氏
No.03 真夏の夜の戯れ ◆HmfYvBHWkM氏
No.04 人生最後の遊びが、きっとくだらないものでありますように ◆JBdglC3jjM氏

ルール
>>362

******************【投票用紙】******************
【投票】:<タイトル>◆XXXXXXXXXX氏
【関心】:<気になった作品のタイトル>◆YYYYYYYYYY氏
     <気になった作品のタイトル>◆ZZZZZZZZZZ氏
**********************************************
― 感 想 ―

あとで全感とか投票とかしてみます。
560 : ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/15(月) 01:10:00.96 ID:83Q+jqRto
******************【投票用紙】******************
【投票】:なし
【関心】:No.03 真夏の夜の戯れ ◆HmfYvBHWkM氏
**********************************************

過去のレベルの高い作品を知っているので、どうしても投票が厳しくなってしまいます。

以下は全感です。

No.01 ケンゴくんとお姉さんの思い出 ◆xUD0NieIUY
 自作。実は自分で書き上げた後はあまり面白いとは思わなかった。
 何も知らず自分が読んだとしたら、どんな感想を抱いていたんだろう。

No.02 明日世界が終わったとしても悲しまないように ◆/xGGSe0F/E氏
 個人的な感想としては、ふたりの世界に入っていけませんでした。
 前情報が少なすぎたのかな。主人公が告白するまでの葛藤部分を削って過去の回想にしたほうが
 よかったかも、って適当なことを言ってみたり。最後の流れがよく分からなかった。恋で救われた?
 けど由乃の病み具合ってそんなレベルかな。

No.03 真夏の夜の戯れ ◆HmfYvBHWkM氏
 最後の1レスまでは超面白い展開になりそうだと思いました。
 なんというか、オチさえしっかりしておけば、この人すごい作品作るんじゃないか――みたいな。

No.04 人生最後の遊びが、きっとくだらないものでありますように ◆JBdglC3jjM氏
 うーん。読んでる途中で頭がこんがらがって訳が分からなくなってしまった。
 ただ、6レス目を読んだときは「この後面白くなるんじゃないか」という気配があったんですけどね。
 ヤマシタの設定を変える流れはすごく好みでした。

個人的には、キャンプというお題はすごく難しかったです。
本当はもっとハチャメチャしたものが書きたかったんだけど、書けずじまい。
561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sagasage]:2012/10/15(月) 10:24:33.61 ID:K7NMECeRo
この時間帯にまさかの一般作品投下。

>>515 のプレッシャーです。

ちょっといつもと雰囲気を変えました。
562 :lot choices(お題:プレッシャー) 1/6 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/15(月) 10:25:51.76 ID:K7NMECeRo
 ベッカムはワールドカップ最終予選ギリシャ戦、後半ロスタイムで1点ビハインド、敗戦濃厚の場面でワール
ドカップ行きを決めるフリーキックを決めた。
 ジダンはEURO2004のイングランド戦、同じく1点ビハインドの後半九◯分、獲得したフリーキックを
見事ゴールに突き刺した。おまけに後半ロスタイムにアンリが獲得したPKも決めた。
 彼らはどんなにプレッシャーのかかる場面でもゴールを決め、ヒーローになってしまう。一方、大したことが
ないプレッシャーなのに毎回のごとく失敗してしまう選手もいる。
 僕は映像を通して、そういった二種類のタイプの選手たちを多く頭のなかに納めてきた。
 前者はベッカムやジダンのようなヒーローたち。後者はヒーローになり損なった者たち。
 何度もゴール前に飛び出してはシュートを外していた。枠外に外したり、正面に打ち込んだりしてキャッチさ
れたり。そうやっているうちに輝きが失せていき、途中後退、果てはベンチ外にまで追いやられた選手なんか数
多くいる。
 僕が一番印象に残っているのは、かつてドイツのU―17で代表を務めていたディフェンダーだ。センターバ
ックで、点を入れる能力は重要じゃない。向かってくる相手フォワードたちと競り合ってシュートを打たせない
ようにしたり、中盤や前線にボールを供給(いわゆるビルドアップ)したりするのが主な仕事だ。だけどその選
手はビルドアップが致命的に下手だった。中盤や前線に出すボールをことごとくカットされていた。テレビで見
るその選手はノイローゼになっているように見えた。練習のときのようにやろう、正確なパスを送ろうと、まる
でケーキに入刀するみたいに慎重にパスを出しているように見えた。だけど彼が慎重にパスを出そうとすればす
るほど、それは相手にカットされた。
 中学生の頃は、何故そんなことになるのか分からなかった。だけど今なら分かる。あのドイツ選手の姿は、自
分で物を考えず思考停止してしまった者たちの末路なんだって。

 オランダ、ドイツ、コートジボワール、日本。2015年FIFA U―17ワールドカップ。死の組と呼ば
れたグループで、日本は一勝一敗で第三戦のドイツ戦を迎えていた。初戦のオランダに対して奇跡的な1−0で
の勝利、しかし体格に劣るコートジボワールとの一戦で敗北。全てのチームが一勝一敗で並び、得失点差だけで
順位が決まっている。一位オランダ、二位ドイツ、三位コートジボワール、四位日本。日本は最下位の窮地に立
たされていた。最終戦は何としてでも引き分け以上に持ち込まねばならない。しかし後半残り三◯分を切ったと
ころで、日本は1−2で負けていた。
「しっかりプレスかけろプレス! 相手陣内で奪って素早くカウンターに持ち込むんだ!」
 監督の叫び声が響く。フィールドの選手たちにも聞こえているだろう。ただ、フィールドの選手の一部は足が
止まりかけていた。ドイツの猛攻に耐えきれず、ボランチとセンターバックが疲弊していたのである。
563 :lot choices(お題:プレッシャー) 2/6 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/15(月) 10:26:30.80 ID:K7NMECeRo
「交代だ! 沖、山下、用意しておけ!」
「はい!」
 ウォーミングアップで体を暖めていた沖くんと山下くんがギブスを脱ぐ。彼らは二戦目に続いての出場だ。サ
ブでありながらも監督から信頼されている。
 僕はまだベンチで座っていた。二戦目で出られなかったフラストレーションが、僕の体に降り積もるように溜
まっていた。
「斎藤! お前もそろそろカラダ暖めておけ!」
「はい!」
 きた! と僕は思った。監督は僕を使うつもりだ。一戦目と同じように後半残り一五分、相手の足があがって
きたタイミングで。
 僕は昔のことを思い出していた。いまフィールドにいるトップ下の浩二、センターフォワードのタカ。小学生
の頃、三人で一緒に毎日サッカーをやっていた。ずっと同じチームでやり、日本代表に入り、初のワールドカッ
プ制覇を目指そうと将来を約束していた。だけど中学生の頃になると体が成長せず、僕はふたりについていけな
くなった。ふたりが世代代表に選ばれるなか、僕は部活で他のメンバーとレギュラー争いを繰り広げていた。そ
して浩二はクラブユース、タカは推薦で強豪高校に進んで、僕らはあっという間にバラバラになってしまった。
僕は勉強を頑張って別のサッカー強豪高に入学し、そこでまた部活のメンバーとレギュラー争いを繰り広げた。
最初は一年の練習試合に出るだけだったけど少しずつ信頼を掴み、県大会に出たところを偶然U―17代表監督
の目に止まり、そして今ここにいる。
 監督は僕に考えろって言った。僕は高校ではウイング(サイドからクロスを上げたり引っ掻き回したりする)
を任されていたが、ここではフォワードで使うと言われていた。お前はシャドーストライカーだ。タカが空けた
スペースをお前が使って決めるんだ。お前は点取り屋なんだぞ。考えろ! 考えろ。考えろ……
 僕は背が小さい。浩二みたいにサッカーセンスに恵まれているわけでもない。僕が新しいことを身につけるに
は多大な努力を必要とし、それが凄く嫌だった。僕が身につけた技術は浩二みたいに生まれながらのものじゃな
いんだ。いつ化けの皮が剥がれるとも限らないニセモノなんだ。だけど、今はそれがアドバンテージみたいに思
える。僕が身につけた技術だ。たとえ剥がされたって、どうにでも組み立て直せる。
 後半残り一五分。遂にそのときが来た。
 フォワードの坂口くんが下がる。入れ替わりに僕がピッチに立つ。
「シュン、オランダ戦みたいなゴール期待してるぜ」
「任せておいて!」
 坂口くんは前線でチェイシングを繰り返していたためボロボロだ。彼の後に生半可な仕事をするなんて許され
564 :lot choices(お題:プレッシャー) 3/6 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/15(月) 10:27:12.66 ID:K7NMECeRo
ない。
「ようやく来たか、シュン。緊張すんなよ」
 浩二が僕の肩を叩く。背中に相手を張り付かせながら、タカも笑っている。
「いきなりいくぞ。こんな試合とっとと振り出しに戻してやる」
「オッケイ」
 試合前の未公開練習でずっと練習してたアレだ。さっそく相手の度肝を抜いてやる。
 試合が再開してすぐ、僕は相手の最終ライン手前まで進出していった。相手はオランダ戦でゴールを決めた僕
のスピードを警戒しているのか、少し距離を置きながらもしっかりマークをつけてくる。そっちのほうが好都合
だ。そのほうがタカや浩二もプレイしやすくなる。
 ボランチの沖くんから浩二にパスが供給される。浩二はそれを迷うことなくタカにダイレクトで渡し――走っ
た! その浩二にタカからやはりダイレクトで折り返しのパスがくる。全員の注目が浩二に集まった。
 いまだ!
 僕はマークから遠ざかるよう、ペナルティエリア前方に向けて斜めに走り出した。タカの背後にいるディフェ
ンダーの裏だ! そこにパスがくる。動きを見てからのパスじゃなく、動くのを前提としたパス。ずっと三人で
練習していたサインプレー。
 完全に抜けた!
 ディフェンスは絶対に追いついてこれない。僕をマークしてた敵が近づいてきてるけど、逆方向にボールを蹴
り出せば絶対に届かない。あとはキーパーとの一対一だ。
「うわっ!」
 しかし次の瞬間、僕は宙を浮いていた。ボールじゃなく足を刈られたのだ。前のめりに倒れこんでしまう。
 ボールが外に出てしまった。
「……っ、おい審判! なんで今のがノーファールなんだよ!」
 判定は相手ボールのスローイン。タカが怒り心頭で審判に詰め寄る。それを僕は後ろから腕を引っ張って制す。
「タカもう一枚イエローもらってるでしょ! 退場しちゃうよ!」
「だけどあんなタックル許せねぇだろ! 完全に足に行ってたじゃねーか!」
「わざとじゃないよ!」
「はぁ?」
「あれを見てよ」
 訳がわからないという表情を浮かべるタカに対し、相手には見えないよう、僕にタックルを仕掛けた選手をコ
ッソリ指差す。その選手はピッチ上で上半身を屈ませて、しきりに足をマッサージしている。
565 :lot choices(お題:プレッシャー) 4/6 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/15(月) 10:27:46.65 ID:K7NMECeRo
「多分そろそろ限界なんだよ。ベンチも交代を用意していると思うけど……攻めるなら今のうちだよ」
「お前……」
 ゴツンと頭を叩かれた。
「痛ッ」
「とっとと攻めるぞ! あいつらが回復しないうちにな」

 ドイツもとどめをさそうと猛攻を仕掛けてきたが、比較的フレッシュな沖くんと山下くんを中心に、シュート
を撃たれながらも攻撃を跳ね返していた。反対にこちらも僕のドリブル、タカのポストプレイ、浩二の目が覚め
るようなミドルシュートなどでゴールに迫るが、決め切ることができない。
 虚しく時間だけが過ぎていった。
 バチィッ、とシュートが弾かれる音がする。敵キーパーがすんでのところで僕のシュートを防いだのだ。
「くそっ!」
「ドンマイ。コーナーにしたんだから悪くない」
 浩二は僕の肩をポンと叩き、左コーナーへと歩いていく。
 コーナーにしたんだから悪くない。確かにそうだ。だけど『悪くない』じゃダメなんだ。
 決めないと。考えろ、考えろ、考えろ……

 あのビルドアップが下手なドイツ選手は、足をパターのようにしてボールを蹴っていた。軸足は完全にパス方
向へ向けて。確かにそれならパスは真っ直ぐに出るだろう。別競技のゴルフがそれを証明している。だけどサッ
カーはゴルフじゃない。ゴルフはプレッシャーはかかるけど敵は自分自身だし、いつパッティングするのかがバ
レても問題ないだろう。玉がどちらの方向に転がるかが分かっていても問題ないだろう。サッカーではそれが致
命傷だった。慎重にパスを出そうとしているのが分かる、それだけで駄目なのだ。
 何故あの選手があんなパスの出し方を身につけてしまったのか。自分で本を読んで練習したのかもしれない。
ユースの監督やコーチが教えたのかもしれない。ただ、結果は全て彼に降りかかっていた。たとえそれを教えた
のが本であろうと監督やコーチであろうと、その結果は全て彼に降りかかっていた。子供の頃からのことなんだ
ろうから、自分が失敗する状況を客観的に見れなかったのかもしれない。それでも彼は真の原因に気づき、対処
する方法を取るべきだった。取らなかったがために日頃の練習で癖が身につき、一生取れない悪い癖が身につい
てしまった。その後、彼の姿を代表やテレビで見たことはない。

 僕は考えなければならなかった。考えなければあのドイツ選手と違い、この世代別代表にもなれなかった。才
566 :lot choices(お題:プレッシャー) 5/6 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/15(月) 10:28:13.06 ID:K7NMECeRo
能が欠如しているのだ。だから日頃の練習でも埋めなければならない。何が欠如しているか? 何を身につけれ
ば世界と戦えるのか? 体の小ささ・弱さはある程度までしか補えない。だったら別の道を探すしかない。足元
の技術、背後のスペースへの飛び出し、相手との駆け引き……

 浩二がコーナーにボールをセットしたのが分かった。けどそれは僅かしか見れない。僕を挟み込むようにして
敵がマークしているからだ。この一◯分でえらく警戒されたらしい。だけどセットプレイで僕にやれるのは少な
いんだ。タカやみんなが競り合うボールのこぼれ球をあわよくばと狙うだけ。ここは考えるよりも、周りをよく
見るんだ。どこかに隙があるところはないか? 客観的に見るんだ。客観的に……
 一瞬だけタカと目が合った。そのとき空から見ていたピッチ上に、一つの点が浮かび上がった。今はまだ無い。
将来的にできるスペース。あとはタイミングだけを考えないといけない。飛び出し可能かつ、マークもついてこ
れなくなるタイミング。
 ホイッスルが鳴る。浩二が高めのセンタリングを入れた。僕のはるか頭上を越え、ファーサイドのタカへ一直
線でボールが飛んでいく。全員がそちら側を意識し始めた。タカ以外についているディフェンダーがボールウォ
ッチャーになり、マークも完全に僕を注意から外した。いまだ!
 僕は狭いスペースを縫うように駆け抜けた。宙で競り合おうとするタカの姿が見える。
「タカ!」
 そう呼ぼうとしたけどやめた。タカは僕のことを見ていた。足元にボールが落とされる。これ以上ない絶好球。
僕は右足でシュート態勢に入る。だけど見えた。ボールウォッチャーとなっていたドイツ選手たちが、我に返っ
たようにシュートコースを塞いでいる姿を。
「打て!」
 タカの声が聞こえる。僅かな隙間に向けてシュートを! 一瞬、時が止まる。僕に選択の自由が与えられた。
ある人は言う。外部から受ける刺激と反応の間には選択の自由がある。それは訓練を行えばどのようなことにも
存在する。例えば身を切られたとき、拷問を受けたとき。そのような場合でも我々には「叫ばない」という自由
が与えられるのだ。僕は思う。シュートの瞬間にもそれがある。
 打たなかった。
 僕はシュートフェイントを交え、逆足方向にトラップした。シュートするものだと思っていたディフェンダー
たちは態勢を崩されている。ただ、タカの正面に陣取っていたキーパーだけがこちらの動きに反応していた。僕
は恐ろしいほど冷静にそれを見ていた。
 左足のインフロントでボールを浮かした。ループ気味のシュート。とてもゆっくりだけどキーパーの手を掠め、
ゴール左隅へパスのようにふわりと突き刺さった。
567 :lot choices(お題:プレッシャー) 6/6 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/15(月) 10:28:39.88 ID:K7NMECeRo
 ゴォォォーーーールッ!
 場内アナウンスが聞こえた。それに続く大歓声も。とても気持ち良くて、さっきのボールみたいにふわりと宙
に浮いたような気分になった。気がつけば僕は浮いていた。タカの手で。
「お前やったなぁ畜生! また一点離されちまったぜ!」
 タカが喜んでいる。「一点離された」とは、この大会のゴール数のことだ。タカは今日の試合で先制点を決め
た。僕はオランダ戦と今ので二得点。けどまだたった三点しか上げてない。
「この試合、勝つよ」
 僕は言う。タカは「ん?」という顔をした。
「まだロスタイムを入れれば五分以上ある。もう一点入れてグループステージ突破を確実にするんだ。僕、まだ
まだ暴れたりないし!」
「……っ、へっ! 当たり前だろ。次は俺がゴールを決める」
 タカに降ろされると、いつのまにか戻っていた浩二が僕の頭をポンポンと叩いた。よくやったというメッセー
ジだ。こういうところは昔から変わらない。
 ドイツ側のボールで試合再開だ。絶対に勝ってやる、と僕は意気込んでいた。

(完)
568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sagasage]:2012/10/15(月) 10:30:27.76 ID:K7NMECeRo
はい。まさかのサッカーものでした。
3レス目から4レス目への流れが個人的に恥ずかしい。

感想いただけると嬉しいです。

またお題ください。
569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/15(月) 11:23:30.21 ID:7XVkqodIO
>>568

570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/15(月) 11:26:11.95 ID:kkSB66cKo
>>562 読みました。相変わらず読みやすくて良かったです。
主人公の言葉遣いが部活のノリなのが気になりました。これで世界と戦っているのかという違和感がありました。
その割りに勝利に貪欲な性格がいいギャップになっています。これは他の二人との経験の差なのかなという考察もできて面白いです。
試合描写が少しだけ熱くなれました。個人としては、主人公は周りを活かすアシスト役が嵌っていたのではないかと思います。以上です。

品評会の感想・投票は作品を投下していない人でもしていいのでしょうか。
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/10/15(月) 11:58:29.62 ID:K7NMECeRo
>>569
次のお題は風ですか。
また競馬を書いてしまいそうですけど、違う方向で書きたいと思います。

>>570
おお、早い感想ありがとうございます!

主人公が少年漫画的なノリになってしまったなー、というのはありました。
いまマガジンでやってるやつみたいな。
私は某マンガの影響でアシスト役はクールな人がやると思っているんですが、そこらへんを主人公がやっても面白かったかもしれません。

品評会の感想、投票は参加してなくてもオッケーだと思いますよ。
ざっと見ただけですがルール的には問題なさそうです。

参加者の身としては、どんどん投票&感想やってください。
572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/15(月) 17:53:24.37 ID:ZrYGkB5/o
文才ないけど、お題いくつか頂きたい。
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/10/15(月) 19:36:34.15 ID:K7NMECeRo
>>572
かいしゃく

どの感じを当てても問題ありません。
574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2012/10/16(火) 21:33:57.90 ID:vx8JyDs30
>>572
小さめの家
575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/16(火) 21:44:09.81 ID:Tg28H9pSO
>>572消滅
576 :【投票】 ◆/sLDCv4rTY [sage]:2012/10/16(火) 22:46:56.26 ID:t8VWJVvwo
******************【投票用紙】******************
【投票】:なし
【関心】:No.01 ケンゴくんとお姉さんの思い出 ◆xUD0NieIUY氏
**********************************************
全巻は次レスから
577 :全感想 ◆/sLDCv4rTY [saga]:2012/10/16(火) 22:48:31.09 ID:t8VWJVvwo
酷評だと思われる方もいるかも知れませんが、その意図はまったくありません。

No.01 ケンゴくんとお姉さんの思い出 ◆xUD0NieIUY氏
言葉がものすごく古い。若者言葉ではないと思った。
なので最初は四十代の回想か、無理してそういうフリをしている子供の話かと思った。
正直キャラクターにドン引きした。いい意味で。俺が一番嫌いで、つまんないヤツ、と
軽蔑する人間を書いてるなあと思った。
嫌いなキャラクターが出てくる、というのは悪いことではない。
ああ、こういう種類の奴はすぐ奇跡とか言いたがるよな、とか、すぐ近くにいる人間を
変人扱いしたがるよな、とか。
正直尻切れトンボ。
ショーミさ、前半長くね?(チャラ男の口調で)

No.02 明日世界が終わったとしても悲しまないように ◆/xGGSe0F/E氏
行幸だったね、で舌打ち。けっ。
由乃の口調に疑問。特に「なんだろう?」から始まるセリフ。こういうことを独り言でなく他人に言う時、
本当に人はこんな口調になるだろうか。話す内容が重いのに、言葉が飾られすぎている。
と思っていたけどこれは狙いか? 半分くらいでそう思い直す。実は読みながら書いてるんだよこの感想。 
「私の鋭すぎる感受性では?」はバカバカしさを狙ってるとしか思えない。男の口調も比喩が大層に過ぎる。
でも入水自殺なんてしようとする人間は、こんな感じなんだろうか。なぜもっと苦しくない死に方を選ば
ないんだろう。主人公たちの年齢からの幼さを表しているのか。
個人的には好かない。けど、でも悪くないと思う人は多いかと。
正直、陳腐で、無意味に感傷的で、詩的過ぎる。
好きな人は好きで嫌いな人は大嫌いなタイプかと思います。僕には後者だったというだけ。
でも俺も心中したい。いや無様に罵られながらゆっくり傷めつけられて死にたい。

No.03 真夏の夜の戯れ ◆HmfYvBHWkM氏
俺はてへぺろという言葉を使う奴が大嫌いなので、メトロノームのように舌打ちし続けながら読んでいた。
ワイルドだろぉ、という言葉で完全にワザだなと思い直す。起承転結の転と結を期待しなが読む。
しかし、なぜ三作中二作も俺の嫌いなタイプが主人公の小説なんだ。こういう人間がアマゾンでキャンプでもして、
悪ふざけから巨大な花に食われてしまい徐々に溶かされて死んでいく話とかはないのか。すごく苦しんで。
途中まで怖いもの見たさ(?)で読んでいたがオチが適当すぎでがっかり。
この落ちは最近のこち亀並。てめえもしかするとプロット練ってないだろ。俺も練ってない。

No.04 人生最後の遊びが、きっとくだらないものでありますように ◆JBdglC3jjM氏
トリップを変えていますが、自作です。
「だからなんだよ。てめえなんかに興味ねえよ」と思うでしょうが、そのとおりです。ごめんなさい。
1〜3からまでのチャラチャラしたキャラクターたちに罵倒される妄想をしながら寝ます。
誤字脱字がひどいですが、そこに関しては決して謝りません。あと2日長ければ完璧にできたはずなのです。
品評会が一週間が間隔だった時もそんなことを思っていたような気がしますが気にしません。。


・総評。もしくは、今回考えたこと、考えていたことについて

まじめに書けば、今回、自作品を書くときも、他作品を読むときも、感想を書くときも「遊ぶ」という
ことを念頭に入れていました。
自作品を作るときは、はじめ、「ごっこ遊び」をしてみようと思っていました。ブスとブサイクが、死ぬ
前に馬鹿げた「恋人ごっこ」をする。そういう遊び。
しかしながら、最初、自動車が走っている描写から始めたこと。そして書き始めた時間の遅さ。10レ
スという制限。そして“削る”という能力が欠如していること。これらによって遊びに入れないまま、
終わってしまいました。とても残念です。
さて、感想ですが、ぱっと見ると酷評に見えるかも知れません。しかし、実のところそうではありません。
少なくとも私は、これは酷評ではないと思っています。
というか実は感想でもなく、「その小説でどう遊んだか」を書いたものです。なので酷いことを言って
いるようでも「こう楽しんだ」と言っているつもりです。上から目線であると思われたなら申し訳あり
ません。
そして今回、投票に関してはどれだけ「遊び安かったか」で評価しました。関心票のラインは、「この人
は一緒に遊んでくれている」と思ったかどうか。No.2は自分の話に精一杯で遊びがなかったと思う。No.3
はルールは作ってくれたのに、最後に遊ばずに投げてしまった。No.1はまとまりがある程度あったので
関心票。

まだ私には、小説にとって「遊び」がどういう意味を持つかうまく説明できません。しかし、とても重
要であるような気がしてならないため、こういう文章を書かせていただきました。
こんなことを書いて、関心票さえゼロだったら、少し恥ずかしいな。
けどそれもまた面白いと、へらへらとそう思っています。
578 :530 [sage]:2012/10/16(火) 23:54:18.05 ID:NgvXj0d5o

******************【投票用紙】******************
【投票】:ケンゴくんとお姉さんの思い出 ◆xUD0NieIUY
【関心】:明日世界が終わったとしても悲しまないように ◆/xGGSe0F/E
     人生最後の遊びが、きっとくだらないものでありますように◆JBdglC3jjM
**********************************************

投票と感想だけですが。


No.01 ケンゴくんとお姉さんの思い出 ◆xUD0NieIUY氏
>>530が感想です。
現実と非現実のバランス。それを時間とともに追いついていく過程が自分好みでした。
射精で冷めてしまった部分もありますが、それも含めて面白かったです。


No.02 明日世界が終わったとしても悲しまないように ◆/xGGSe0F/E氏
とある作品を思い出しながら読んでいました。
その作品は美しい二人の死で締めくくられていて、狂気的な世界で不幸だけど二人にとって幸せな死という形で最後を迎えています。
この二人もそんな死を迎えられるのだろうかと、言い方がおかしいですけど、期待していました。
人を好きになって生きる。これは王道なのだと思いますが上手く表現できていないように感じます。
二人の想いが通じ合ったのなら、それは愛なのでしょう。しかし、それは親が子を慈しむ愛ではないはず。
その辺りが足りないように感じました。


No.03 真夏の夜の戯れ ◆HmfYvBHWkM氏
オチが弱かったように思います。
ただ、ナンパが軸でキャンプがツールになっているように感じてしまい、楽しめなかったです。
読み終わると同時に忘れる印象です。


No.04 人生最後の遊びが、きっとくだらないものでありますように ◆JBdglC3jjM氏
テーマはキャンプではなく、完全失敗自殺マニュアルですね。
最後の流れは好みな設定なので、中盤の膨らみを削った方がよかった気がします。
キャンプを連想させるのが七輪と練炭だけだったのはギャグでしょうか(皮肉です)


感想だけで申し訳ありません。
期待していたテーマだったので書かずにはいられませんでした。感想自体が陳腐ですが。
他人の作品を読むという機会を与えてくれたことに感謝します。
579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/10/17(水) 00:31:45.43 ID:lOwHAT3Io
優勝はNo.1かな?
おめー
580 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府) [sage]:2012/10/17(水) 00:42:57.65 ID:kRsU8kPT0
投 関
1 1 No.01 ケンゴくんとお姉さんの思い出 ◆xUD0NieIUY氏
− 1 No.02 明日世界が終わったとしても悲しまないように ◆/xGGSe0F/E氏
− 1 No.03 真夏の夜の戯れ ◆HmfYvBHWkM氏
− 1 No.04 人生最後の遊びが、きっとくだらないものでありますように ◆JBdglC3jjM氏

品評会の投票は以上の結果となりました。というわけで優勝はNo.01 ケンゴくんとお姉さんの思い出 を書いた◆xUD0NieIUY氏に決定いたしました。おめでとうございます。
それでは優勝した◆xUD0NieIUY氏は、次回のお題発表をお願いします。
581 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/10/17(水) 00:57:50.77 ID:Jo4EPKqfo
おお、みなさん投票ありがとうございます。
優勝の実感はあまりないですが嬉しいです、

次回は三週間後でいいですかね?
お題はこれから考えてきます。
582 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府) [sage]:2012/10/17(水) 01:11:29.62 ID:kRsU8kPT0
三週間は長いっつーか期間長く取っても結局書くのって期間中とかせいぜい2、3日前とかじゃないの
お題見て書く書かない決めることもあるだろうし二週間ローテでいいんじゃないか
583 :お題  ◆xUD0NieIUY [sage]:2012/10/17(水) 01:31:40.66 ID:Jo4EPKqfo
じゃあ今回は2週間で。

第308回週末品評会  『女の子』

※女の子をただ出すだけでなく、女の子の弱さ、
 強さ、醜さなど個性をありありと書き出すこと。
※ニューハーフ、男の娘も可。逆は不可。

規則事項:7レス以内

投稿期間:2012/10/27(土) 00:00〜2012/10/28(日) 23:30
宣言締切:日曜23:30に投下宣言の締切。それ以降の宣言は時間外になります。
※折角の作品を時間外にしない為にも、早めの投稿をお願いします※

投票期間:2012/10/29(月) 00:00〜2012/10/30(火) 24:00
※品評会に参加した方は、出来る限り投票するよう心がけましょう※
584 :お題  ◆xUD0NieIUY [sage]:2012/10/17(水) 01:41:59.80 ID:Jo4EPKqfo
>>583
忘れてたけど、中性もアリにします。
ただし女の子寄りでお願いします。
585 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/10/17(水) 13:24:00.48 ID:OB66XFM10
ちょっと前に「ロリ」なんてお題でやってなかったか
まあアラフォー女子とは言うけどアラフォーロリってあまり聞きませんものね
586 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sagasage]:2012/10/17(水) 14:30:25.06 ID:8/nfyfx/o
>>585
調べてみると、確かに 302th のお題がロリでした……
ただ、僕の思いとしては今回のお題はロリとは違うんですよね。
中学生〜女子高生ぐらいを対象にしてほしい。
言い換えると、女の子の思春期をありありと書いてほしい。

ただ、アラフォー女子もそれはそれで楽しそうですね。
縛りすぎても書けなくなると思うので、そのあたりは皆さんにお任せします。

>>569
風で書きました。
なぜか相当苦労しました。
雰囲気小説っぽくなってしまいましたが、許してください。
587 :風の便り(お題:風) 1/4 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/17(水) 14:31:05.21 ID:8/nfyfx/o
 あれは台風の次の日に起きた出来事だった。
 朝、玄関に出てみると、一枚の手紙が落ちていた。封筒に記載されている宛先は汚れて見れなくなっていたけ
ど、中身を開けてみると、髪の長い綺麗な女の子が映った写真と、メッセージがびっしりと書かれた便箋が詰ま
っていた。その字は適度に丸みを帯びてとても愛らしく、月並みだが、僕はその子に恋をしてしまった。
 その手紙には差出人の住所が記載されてあった。どうしようか迷う。さすがにそこまで押しかける気はない。
だけど手紙ぐらいなら出しても良いかもしれないという思いが頭を過る。台風で何故か僕の手元に手紙が飛んで
きたこと、宛先が汚れて読めないこと、中身を読んでしまったこと、このまま置いておくのは忍びなく、手紙を
送り返すこと。写真や手紙のコピーは取らなかった。誠意を欠く気がしたし、本物じゃなければ残しておいても
意味がないと考えたからだ。最後に僅かな心残りとして、封筒に自分の住所を書いて送ることにした。
 僕は本土から距離を置いた離れ小島に住んでいる。自給自足で生活している。仕事をしていないという訳じゃ
なく、ここで毎日物書きをやっている。僕が書く文章はオチを重要視しない。ただこの離れ小島で生活中に起き
た出来事を、淡々と書くだけである。それを本土に送り、新聞に載せてもらう。記事は思いのほか好評だった。
新聞社がその反響を自分に送ってきてくれた。日常の社会を忘れさせてくれる、もっと読みたい。だったらその
人たちも同じ生活をしてみればいいんだ。僕は好きでここにいるわけじゃない。仕方なくここにいるだけだ。
 驚いたことに、彼女から手紙が返ってきた。その書き出しは「お手紙ありがとうございます。私のところより
も小さな島に住んでいる人から手紙が来るなんて思いもしませんでした」で始まっていた。彼女も同じような離
れ小島に住んでいたのだ。地図で調べてみると、僕が住んでいる島よりも一回り大きいという感じだった。その
事実は僕の関心をより一層大きくした。

 あの手紙は大切な人に向けた、とても大事なものだったのです。手紙の紛失なんて他人事だと考えていました
が、こうして普通に起き得ることなのですね。あなたから手紙を受け取った後、すぐに手紙を送り直しました。
本当にありがとうございました。ところで、台風であなたの家の玄関先に手紙が飛んできたなんて、大変面白い
ですね。手紙をこうして送り返していただける方なんてそうそういないでしょうし、あなたの手元に手紙が飛ん
でいったこと、私はとても幸運だったと感じました。もしよろしければ、私と文通していただけませんか? 私
の住んでいる島には娯楽も何もなく、何かあるとすればこういった人との交流ぐらいなのです。ご迷惑かもしれ
ませんが、お手紙待っています。

 僕はその手紙を受け取り、心が浮かび上がるような気分になった。じっとしていられず、今にも手紙を書きた
い。しかし一体何を書けば良いのだろうと思った。僕は誰かと文通したこともないし、彼女と共通の話題もない。
悩みに悩んだ挙句、僕はいつものことを書くことに決めた。
588 :風の便り(お題:風) 2/4 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/17(水) 14:31:35.66 ID:8/nfyfx/o

 お手紙どうもありがとうございます。私が出した手紙が紛失していないことを知り、安心しました。文通の件
ですが、私もやりたいと考えています。運命的、というほどでもありませんが、あの日私の手元に手紙が届いた
ことには幾らか心を動かされるものがあったのです。それでこうして手紙をお送りすることを考えていましたが、
今の私には共通の話題として思い浮かべられるものがありません。そこで月並みですが、私の周りに起きた出来
事について書きたいと思います。私が住んでいる島は、あなたの住んでいる島よりご存じの通りひとまわり小さ
いのですが、宝とゴミの島と呼ばれています。海流の影響なのか、何かの引力が作用しているのか、この島には
あらゆるものが集まってくるのです。宝と言えば、ダイヤのネックレスや指輪、ビンテージもののワイン、各種
貴金属……ゴミと言えば、壊れた家電製品、各種腐食した家具、生き物の死骸……。もちろんゴミのほうが圧倒
的に多いですが、宝が流れてくる率もそう悪くないので、島の住人たちは躍起になって宝を探しています。同時
に海岸の清掃も行うため国からは黙認されているわけですが、私はそのような様子を手記にしたりして日々を過
ごしているわけです。ところで今回、私はあなたに手紙を送り返しましたが、このようなことは初めてではあり
ませんでした。住人がゴミとして判別したもののうちに、一本のビンがあったのです。そのビンには四つ折りの
手紙が入っていました。私はそれを家に持ちかえって広げてみると、内容は日本語で書かれていました。いわゆ
る、戦地からの手紙だったのです。そこには自分が死に至る無念さ、日本から戦地までの距離の遠さ、内地に残
している家族への抑えきれない思いが書き連ねてありました。そしてこの手紙を受け取った人は、可能であれば
家族の元まで届けてほしいと。私は本土に手記を送るときに、その手紙も合わせて送りました。住所などはわか
りませんでしたが、その兵士の名前はわかっていたので家族はすぐに見つかったそうです。本当に、生きている
といろんなことがあるものですね。

 僕は文章を書くとき、『僕』ではなく『私』と書く。そのほうが清廉潔白な気がするからだ。僕は僕自身を偽
って生きている。

 しばらくして、彼女から手紙が返ってきた。僕の手紙はとても興味深く読んだとのことだ。住民たちが躍起に
なって宝を探しているところを想像すると、とてもシュールでおかしいとも。彼女はお返しにユウという友達と
幼年期に過ごしたことを書いてきた。彼女が近くの森で迷子になっているところをユウが助けにきてくれたこと、
彼女が学校で悲しいことがあって泣いているとき、ユウがいつも傍にいて慰めてくれたこと。あの最初の手紙も
ユウに向けて宛てたものだったということだ。ユウは親友だと書かれていた。性別はわからなかった。だけども
し男だったとしても、嫉妬の感情が生まれないのは何故だろう――?
 僕と彼女は、その後も定期的にやり取りした。僕が送る内容はこの島に住んでいれば幾らでも題材があったし、
589 :風の便り(お題:風) 3/4 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/17(水) 14:32:15.94 ID:8/nfyfx/o
彼女もユウに関することであれば幾らでも題材があるようだった。幼年期からの人生のありとあらゆるところで、
彼女にはユウが関わっているようだった。男であれば相当深い関係までいっているだろうし、女であればレズで
あってもおかしくない。だけどそのような関係だった彼女たちが、どうして今は別々のところに住んでいるのだ
ろう。一番最初の手紙では、喧嘩している様子は見られなかった。ただ、これ以上詮索するのは止めようと思っ
た。深入りすると僕と彼女の関係を壊すような気がしたから。だけど、そんなことをしなくても急に終わりは訪
れた。彼女から手紙が送られてこなくなったのだ。
 僕はもしや、手紙がまた台風か何かに攫われてしまったのではないかと思った。だからもう一度手紙を送り直
し(もちろん内容は変えた)、それとなくそちらからの手紙が届いていない旨を文章に書き加えた。だが、それ
でも彼女から手紙は返ってこなかった。僕は彼女とこれまでやり取りした手紙の内容を思い返した。手元にある
分は全部読み直した。だけどその内容は、彼女から手紙が送られてこなくなるまでいつも通りだった。内容は変
わるけど重さは変わらず、いつでも風で飛んでいってしまうような内容のものばかりだった。なぜ彼女から手紙
が送られてこなくなったのか、やはり僕には分からなかった。
 一ヶ月後、彼女から手紙が届いた。その書き出しは「ごめんなさい」で始まっていた。

 私はこれまでユウという親友と過ごしたことを手紙に書いてきました。ユウはいつでも私の傍にいて、いつで
も私の味方なのだということを何度も強調してきました。だけどユウという人間は本当はいないのです。全て私
が作り出した幻想だったのです。ある日、私はユウが見えなくなりました。ユウが私の前から姿を消してしまい
ました。私はその日から一人ぼっちになってしまったのです。世界で一番孤独な人間になってしまったのです。
都会で生活できなくなった私は、ほとんど人が住まない孤島に送られることになりました。そこで心を休めるよ
うにと言われました。しかし私の心は一向に休まりませんでした。私はいつでもユウを求めていたのです。台風
が来たあの日、ユウに宛てて手紙を書きました。宛先には実家の住所を書いていましたが、そんなところにユウ
がいるはずないので後から塗りつぶしました。そして台風の中で、私はその手紙を風に乗せて飛ばしてしまった
のです。何故かはわからないけれど、そうすればユウに届くと考えていました。あなたが受け取った手紙の封筒
がどのような状態だったのかは分かりませんが、そこには初めから宛先なんて記載されていなかったのです。あ
なたへ手紙を書いているうちに、私はユウなんて存在しないのだということに気づきました。だからもう手紙は
書けません。本当にごめんなさい。

 僕は何度もその手紙を読み返した。一時間以上、僕はそれを読むためのロボットであるというくらい何度も何
度も読み返した。読み終えた後の僕には空しさが残っていた。とても風では吹き飛ばせそうにない重さだった。
 僕は手紙を書いた。
590 :風の便り(お題:風) 4/4 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/17(水) 14:32:59.46 ID:8/nfyfx/o

 お手紙ありがとうございました。何から書くべきなのか分かりませんが、あのような手紙を送っていただいた
こと、私はとても感謝しています。何故ならあの手紙を受け取らなければ、あなたからの手紙が何故届かなくな
ったのか、今でもずっと考えずにいられなかったからです。あの手紙をいただいたことで、私も告白しなければ
ならないことがあります。私は手紙を書くとき、いつも自分自身を偽って書いていました。あなたへの手紙を書
いていると、様々な思いが頭の中を過るのです。私はユウについて何度もあなたに伺おうとしました。性別は何
か? いつから付き合っているのか? 今はどこでどうしているのか等……私はそれらのことが気になって仕方
がなかったのです。しかし私はそれらを偽って手紙を書いていたのです。
 私は長い間物書きをやってきました。長い間といっても若いので、まだ十年くらいですが。しかしこの仕事を
やっていくうえで気づいたことがあります。私は文章を書く場合、可能な限り真実を書こうとしてきましたが、
実際そんなのは不可能だということです。文章を書くときは、必ず何かの思いが頭をもたげます。物事に中立に
はいられない、何かの思いです。我々はそのときの思いを切り出すことしかできません。そしてそれを書き記し
た瞬間、その内容は嘘になるのです。
 私はあなたが書いた文章を、とても楽しんで読んでいました。できればその内容が真実か嘘かなんてことを気
にせず、また手紙を書いてください。それが私の望みです。

 僕はその手紙を彼女に出したが、返事はなかった。随分酷いことを書いてしまったし、返事がないのも当然か
もしれない。
 風のように訪れて風のように過ぎゆく、秋の出来事だった。
591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sagasage]:2012/10/17(水) 14:35:46.44 ID:8/nfyfx/o
終わりです。

最近ちょっと個人的に時間をもらっているのですが、
その時間も少なくなり、別の小説も書き始めているので、
そろそろ投下のペースを落とすかもしれません。

それはともかく、やっぱりお題ください。
592 : ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/10/17(水) 21:41:58.67 ID:zUic72ffo
ああああああああちきしょおおおおおおおお
投票をすっかり忘れてたあああああああああ

このままじゃ自分が納得しないのでとりあえず全館みたいなものを投下。
593 : ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/10/17(水) 21:43:09.44 ID:zUic72ffo
No.1 ケンゴくんとお姉さんの思い出 ◆xUD0NieIUY氏
なんつーか、キャラに違和感を感じる。
お姉さんに対して心は四十代とか感じてるけど、俺はケンゴ君も三十代後半ぐらいに感じた。
まだ高校生なのに悟ったようなことを語るのが気に入らない。
ってか同じ寝袋に二人一緒に入って寝るって!当時十二歳の少年を誘惑したのか単に無防備なだけなのか…
でも射精に関する下りは生々しくて良かった。青臭い欲望と切羽詰まった感じが出ていてハラハラさせられました。

No.2 明日世界が終わったとしても悲しまないように ◆/xGGSe0F/E氏
それは好きという感情ではなく、傷の舐め合いってやつだよ。

No.3 真夏の夜の戯れ ◆HmfYvBHWkM氏
自作。
あっ!石を投げないでください!痛い、痛いです!やめてっ、いじめないでえぇぇぇ……

No.4 人生最後の遊びが、きっとくだらないものでありますように ◆JBdglC3jjM氏
二転三転する話の展開を単純に楽しめた。少し読みにくい部分はあったけど、まあ許容範囲かな。
コミカルな描写も俺の好みに合っていたし、面白かった。


投票するならNo4でした。すっかり忘れててゴメンナサイ
594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/10/17(水) 22:35:15.49 ID:ZS0ekkGYo
ぜんかんおつー

>>591
老女
作品の感想はちょい待て
595 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/17(水) 22:42:34.41 ID:dkDbQ37IO
>>594
お題ありがとうです。

今回の作品は自分で書いててもどうかと思ったので、感想いただけると助かります。
596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/10/17(水) 22:49:03.62 ID:Ws2Aj59ho
リハビリにお題くだしぁ
597 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/17(水) 22:49:47.32 ID:tPqFJ/38o
>>596
598 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府) :2012/10/17(水) 23:41:09.08 ID:cQKCQI7fo
>>587
つーことで感想。
面白くなくもないが中身がすっからかんすぎな感じも。
オチ重視の物語と、主人公の独白を重視した物語なのかがどっちつかず。
アイデアは雰囲気モノと考えたらいいと思ったけど。
あと、この女の子のユウに関する話もあんまりリアリティがない。
例えば、ユウがくっきりしてたこととか。突然消えたとことか。

あ、でも、主人公と女の子の関係が、女の子にとってのユ
ウの関係とイコールになってるのか。
女の子にとって架空の存在で突然消えるユウ。そして、
主人公にとって手紙だけの架空の存在で突然手紙をくれなく
なる(=消える)女の子。この二つの関係が一緒、と。
架空で、かつ消えるものの話。深読みするならだけどね。
んでもって主人公が書く文章の読者にとっては、この作者が架空だ。
なぜなら主人公は偽って書いてる、と自称しているから。
でもこれだけなら完成してないよなあ、とか。

んー。いまいち何について話そうとしているのかわからんかった。文章は必
ず偽物になるって話か。わからぬ。

あ、面白くなくはなかったっす。一応深読みで楽しめたし。
以上棚上げ感想でございました。
599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府) [sage]:2012/10/18(木) 01:43:11.45 ID:onGbOVA30
>>587-590
設定とか展開とか細かいとことか何もかも説得力がない。
1レス目だけでも、2〜3行目で「>一枚の手紙」が「>封筒」に化けた挙句「>便箋」が詰まってるし、
4行目末で「ハァ?」と置いてけぼりを食らい、「>離れ小島」で「>自給自足」という安直なワードに白目をひん剥き、
14行目で思わず舌打ちした。あと離れ小島何回いうねん。
雰囲気小説をなめるなと言いたい。ぷんすか。
オチ、というか転にあたる女の子の告白だが、ちょっとよく考えてほしい。
読者にとって「>ユウ」はそれまで、作者(◆xUD0NieIUY氏)によって語られる「>僕」となりゆきで文通することに
なった女の子の手紙の中だけの存在だ。しかも「>ユウ」関連のエピソードは本文中の言葉を借りれば激しく「>月並み」だ。
それが実はいませんでしたと言われてΩ ΩΩ <ナ、ナンダッテーとなるだろうか。
どうでもいいのである。
600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/18(木) 07:57:08.90 ID:Fn7V71VIO
>>598
>>599
感想ありがとうございます……
全体的に練りが足らなかったみたいてすね……

もっかい出直してきます。
601 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sagasage]:2012/10/18(木) 11:36:22.64 ID:C50uUG+io
>>594 で書きました。

投下ペースを落とすかも、と言いましたが、
前作の評判が悪かったのでリベンジしたいと思って書きました。
602 :お婆ちゃんとの恋(お題:老女) 1/3 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/18(木) 11:37:06.07 ID:C50uUG+io
 八十歳のお婆ちゃんが僕に恋をした。
 それは頭上の雲が裂けて光が差し込んでくるみたいに、突然の出来事だった。
「綺麗なひと」
 それを聞いた瞬間、僕は耳を疑った。まさかそれが僕に向けられた言葉であるとは思いもしない。何故なら僕
は、人生で今まで一度もそんなことを言われたことなかったからだ。平凡かつ何の面白味もない顔として、これ
までの日々を過ごしてきたのだ。
「このひと誰」とお婆ちゃんが言う。
「ヨーコちゃんの息子のトシくんよ。この前も来たじゃない」と叔母が言う。
「綺麗なひと」
 お婆ちゃんは繰り返す。それは間違いなく僕のことを指していた。
 何てことだろう、お婆ちゃんが実の孫に恋をしてしまうなんて。

 それからお婆ちゃんが身近にいるとき、世話をするのは僕の役目になった。例えば喫茶店に行くと隣に座るの
は僕だし、お婆ちゃんが食べたい物をチョイスするのも僕だ。運ばれてきた品をお婆ちゃんの前に並べてあげる
のも僕だし、紙ナプキンやストローを用意してあげるのも僕の役目だ。僕がお婆ちゃんと接している間、周りの
人たち(母に妹、叔母)はお婆ちゃんについて話をしていた。日中はタオルケットの上でボーッとしているだの、
バナナをよく食べるだの、この頃になって黒い髪が生えてきただの、汗をびっしょりかいて大変だの、ひとりで
行かせるとトイレを汚して大変だの……もし僕がお婆ちゃんであれば卒倒しそうな話だった。自分の生活を事細
かく観察しているひとがいて、それをこうして大勢の前で言いふらされるなんて。だけどお婆ちゃんは口を開け
たままポカンとしてた。こうやっていつもボーッとしているんだろうな、という感じだった。不意にお婆ちゃん
が余ったケーキを勧めてきたので、僕はそれを食べた。
 周りの人たちはまだお婆ちゃんについて話していた。その接し方は、まるで赤ん坊のそれと同じように見える。

「女はいくつになっても女」
 その言葉を初めて聞いたのは、中学生か高校生ぐらいだった気がする。そのときはその言葉が、僕にとってそ
れほど重要になるとは考えてもいなかった。だけど僕がそれを意識しなければならない時間は、少しずつだけど、
日々を過ごすうちに増えていった。毎日触れざるを得ないマスコミの報道。老女が殺人事件を起こしたり、巻き
込まれたりしている。その裏にあるのは、老女になっても衰えない黒い感情……僕は先の言葉について考えずに
はいられない。女はいくつになっても女。いつまでも見栄や男のことについて嫉妬したり憎悪を抱いたりしてい
るのだ。最も衝撃を受けたのは母の不倫だった。もうすぐ六十になろうというウチの母が、父ではない男性とセ
603 :お婆ちゃんとの恋(お題:老女) 2/3 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/18(木) 11:37:52.53 ID:C50uUG+io
ックスしていた。母は「セックスしてくれないあなたが悪いのよ」と言っていた。まさか老後も考えないといけ
ない年齢にある親たちの間で、セックスレスが問題になるとは思わなかった。僕と母の間では『性』について一
言も議論を交わしたことがなかったので、母はそんな話題からは最も遠い人だと思い込んでいたのだ。
 さまざまな事象が僕を取り巻いた結果、「女はいくつになっても女」は僕のなかで決定的な事項になった。

 しかしお婆ちゃんとの恋。そんなものが果たして成立するのだろうか。恋の最終系はキスしたり、セックスし
たりすることだと思っている。そうじゃないと思っても、どうしてもそこに行き着いてしまうのだ。僕とお婆ち
ゃんはそんなことができるだろうか。そもそも血が繋がっているのである。そんなことをすれば近親相姦だ。近
親であれば恋はできない? 僕にはそんなことも分からない。

 喫茶店を出て車椅子を押している間、お婆ちゃんは一言も口を聞かなかった。僕とお婆ちゃんを客観的な視点
で見れば、無表情でカタカタ進むからくり人形みたいに見えるだろう。からくり人形は何を考えているのか分か
らない。お婆ちゃんも何を考えているか分からない。何を考えているのだろう。そもそも僕があなたの孫だとい
うこと、ちゃんと分かっていますか?
 叔母の家に着いても、僕らは一言も言葉を交さなかった。お婆ちゃんは口をポカンと開けて団扇で仰ぎながら、
僕や妹のことを見ていた。母と叔母と妹は、母達が子供の頃の昔話に花を咲かせている。僕はといえばテレビで
阪神タイガースの試合を見ていた。タイガースはまた負けていた。チャンスで一本が出ない。本当に弱い。
 二時間かそこらで、僕たちは帰ることになった。とくに何か事件があったわけではないのだけど、「トシくん、
ユリちゃん、さよなら。また来てね」とお婆ちゃんが言った。僕らの名前はちゃんと覚えてくれているみたいだ。
僕らも「さよなら。また来るね」と言い、叔母の家を後にした。しばらくして後ろを振り返ってみると、お婆ち
ゃんは叔母と一緒にまだ僕たちのほうを見ていた。「いつまで見ているつもりなんだろうねぇ」と言いながら妹
が手を振る。僕も真似して手を振った。

 それからしばらくお婆ちゃんとの交流はなかった。母と叔母がたまに電話でやり取りするぐらいで、僕にとっ
ては全く関わりがないも同然だった。だけど何時の間にか、ウチの近所のショッピングモールに叔母とお婆ちゃ
んが土曜日に来ることが決まり、それに僕と妹が参加することも決まっていた。妹は「しょうがないなあ」とい
う感じだったし、僕も引きこもりがちの暇な大学生ということもあったから、素直にその行事に参加することに
なった。
 近所のショッピングモールは大きいけど、客は多くない。だからこのショッピングモールが、お婆ちゃんのお
出かけの舞台にあげられることになったのである。僕らはショッピングモールに着くと、まずは昼食をとった。
604 :お婆ちゃんとの恋(お題:老女) 3/3 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/18(木) 11:38:42.01 ID:C50uUG+io
サンドイッチ店。それが全国チェーン店なのか僕は詳しくないけど、サンドイッチの種類は豊富にあった。普通
のサンドイッチもあれば、この世に存在する数多の食材をぶち込んだようなやつもある。妹は後者を頼んでいた
けど、僕は前者を頼んだ。お婆ちゃんにも前者のサンドイッチを頼んだけど、いくつか残したので余りを僕が食
べた。
 お婆ちゃんの僕に対する恋はまだ終わっていないようだった。ふとしたときに、僕をじっと見つめていること
が多い気がする。他の三人はというと、やっぱりお婆ちゃんの話で花を咲かせていた。夜中に急に大声をあげる
だの、ヨーコちゃんに大量の服を送りつけようとしただの。お婆ちゃんの話は、三人のなかでは鉄板みたいだっ
た。そんなときお婆ちゃんはというと、やっぱりまたボーッとしていた。

 昼食後、ショッピングモールでショッピングすることになった。といっても母と叔母は別行動。僕と妹とお婆
ちゃんで、お婆ちゃんの服を探すことになった。予算は二万円。といっても上限額で、使い切ることを目標とし
た額じゃない。
 僕はファッションはよくわからないので、妹に案内を任せることにした。妹にもお婆ちゃんの服なんて分かる
のかな? と思ったけど、車椅子を押して一直線にどこかに進んでいく。こういう力はどこで身につけられるん
だろう。
 それから僕は部外者になった。妹が服を持ってきて、お婆ちゃんに合わせたり、羽織らせたりしている。僕と
言えば、妹に何か言われて手伝ったり、コーディネートの意見を求められて何かを言うだけだ。しかし妹はこう
いうときはよく喋る。普段僕とはあまり話さないくせに。父とは冷戦状態だ。妹は阿修羅像みたいに表情を変え
る。今は全く気難しい様子を見せず、表情は柔らかい。
 何時の間にかお婆ちゃんは立っていた。立って自分のコーディネートを鏡で確かめたりしていた。もともと立
てないわけじゃない。長時間立つのがしんどいというだけで、短時間ならこうやって立つことも可能なのだ。だ
けど目の前にいるお婆ちゃんの立ち姿は、とても力強かった。顔はいつも通りポカンとしているけど、それは服
に夢中になっているためであるように思われた。
 そのとき少しだけど、お婆ちゃんのことが好きになった。恋愛感情と呼べるかどうかは微妙だけど、それはキ
スやセックスには発展しない種類の“好き”だった。
 いろんな種類の好きがあるんだなあ。
 こういう思いが許されるのであれば、もっといろんな人を好きになれるだろう、と僕は思った。

(完)
605 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sagasage]:2012/10/18(木) 11:41:21.84 ID:C50uUG+io
短いですが、終わりです。

前は鬱屈した感情で書いていたけど、
今は日常系の話でなんとかしたいなぁ、と思っています。

……やっぱりまたお題ください。
606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/18(木) 13:40:12.53 ID:BGYyDHImo
>>605
結婚式
607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/10/18(木) 17:02:43.71 ID:C50uUG+io
>>606
了解です。
608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2012/10/20(土) 01:15:19.73 ID:uTMigGsAO
オダイ クダサーイ
609 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/20(土) 02:19:40.41 ID:RockXNbUo
>>608
寄り道
610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2012/10/20(土) 02:38:52.16 ID:sVqVuSzP0
なんか通常作いっぱいあったんで適当に感想書いた。
611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2012/10/20(土) 02:39:21.90 ID:sVqVuSzP0
>>371 :フェンリル (1/5) ◆xUD0NieIUY
ほう。北欧の伝説を題材にしたんだ。面白そうじゃないの。
・・・ナップサック?現代の商品名知ってるじゃないか。
うーん・・・。え? 話、つまんねぇ・・・。
だからなんやねん、って言う。読者に訴えかけてくるドラマ性がまったくないのがなぁ。
もっとこう・・・なかったですか。あるでしょうベタな展開が。もうちょっと頑張れる設
定だと思う。


>>383 :僕が悪いのか?(お題:コインロッカー) 1/5 ◆xUD0NieIUY
 うーん、これもなぁ。まず主人公というか語り手に背景がなさすぎるというか。どんな
人間でどんな身分や職業なのかとか、そういった情報がごっそり抜け落ちている。
それこそ基本というか。あの簡潔で有名な星新一のSSでさえ、『大学教授のS氏は・・・』
って付けているわけで。じゃないとうまく感情移入が出来ないんですよね。
オチもなぁ。小説中の一節どおり、ホントに投げっぱなしというか。ほんとにこんな話が
ありえるのかってポイントは置いといても、ちょっと雑だ。
まず語り手にそれなりの背景を付けておけば、こうはならなかったはずなんだよなぁ。話
を職業的な方向へ転がせばいいわけだから。
 会社員だったら会社に帰って、安心しきって『平和だな〜』なんて何食わぬ顔で仕事し
ている時に、隣の人がなにか落として、それが語り手には赤ん坊に見えて肝を冷やした、
とか。
 ニートだったら、ゲームがそれに見えたとか。他にも広げようが幾らでもあったという
か。まぁもうちょっと工夫してみてください。

>>394 :月の中で夜更かしをするウサギ(お題:夜更かし) 1/9
 そんなことする奴、友達じゃねえよ。まぁそこは置いても(多分、言い出せなかったと
か電話が切れてなかったとかのギミックで補える)、この話の持って行き方はないかな。
たしかに高潔に見えなくも無いけど、やっぱダサい。じゃあ書き手のあなたはその程度の
ことで死ぬんですかと。小一時間問い詰めたい。貧弱貧弱。

>>404 :土台が違うということ(お題:議論) 1/3 ◆xUD0NieIUY
おおう、ワンシーン。しかも知らんがな。そしてまた微妙な演説で。
まぁ言っちゃえば、人が人を裁いたらおかしくなるから法があるんだけどね。罪は罪と
して、厳然とそこにあるわけで。それを「どうだ批判出来ないだろ、バーカ」ってのはお
かしな話になっちゃいますが。良いんでしょうか。あのキリストが石を投げるなら〜〜っ
て逸話だって、投げられてる本人が言い出したら全然ダメダメですからね。
612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2012/10/20(土) 02:40:13.56 ID:sVqVuSzP0
>>422
これは俺。はいふざけましたすいません。

>>423>>426
 君らも真面目にやりなさい。以上。

>>441 :屋根裏と妹の抽象画(お題:屋根裏) 
ほう。ほう。なかなか・・・なんでやねん。どんなオチやねん。やめさしてもらうわ。

>>455 :幼き日の放火魔(お題:放火) 1/4 ◆xUD0NieIUY
 そうな。あの触覚はすごいわ。あれだけ別で生きてるみたいだもの。うーん・・・。命
を学ぶねぇ。テーマとしてはよくあるけど。持って行き方が安直かな。急に相手が殺人っ
て。大体なにが言いたかったの?
 幼い頃に刑罰にならない命を殺しておいて良かった?おかげで捕まらなかったし?万歳
万歳?なにそれ?捕まるから人間は殺しちゃいけませんよ?はぁ?
それともこんな感情を抱かせるために書いたの?だとしたら死ねっていいたいわ。もうち
ょっと考えてから書いて欲しい。

>>467 :生きるということ 1/3 ◆xUD0NieIUY
 おう。なかなか印象的な内容ですな。スキャンダラスというか。でもまだ起承転結の、
起ぐらいって感じ。お話しという形式になってないんですよね。いまから色々事件が起き
ないと。あと一人二人登場人物だして。というか・・・小説書こうと思って書いてますか?
うーん・・・。でも最初のうちは皆こんな感じなのかな。まだあんまり書き慣れてない
感じがしました。いろいろ工夫してみてください。

>>476 :何でも屋アリス(お題:リピーター) 1/5 ◆xUD0NieIUY
ほう、めずらしくストーリーらしきものが。・・・でもつまんねぇ。頑張ってください。
なぜつまらないかというと、転していないから、です。そのままスルーっと終わっている。
読者の意表を突いてください。え?どうなるの?と、思わせたら半分、もしくは四分の一
くらい勝ちです。
 そしてオチ。微妙。というかもうちょっと悩んで。いいもの出来ないなら出来るまで考
えて欲しい。こういうスレだから読んでもらえるだけで、普通ならつまんねぇで終わりで
す。
 あの・・・、書く練習だとしても、早ければ良いって物ではないですよ?ちゃんと納得のいける物を完成させて、始めて身になるんじゃないでしょうか。
613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2012/10/20(土) 02:45:52.92 ID:sVqVuSzP0
とりあえずここまで読んだ。なんかいっぱい書いてるひとがいるな。もし他のも感想欲しかったら書くよ。
でもこの感じだと全部同じかなって気がする。起承転結と、サービス精神が抜けてるような。
書いてればそのうち出来るようになるんじゃないだろか。頑張ってください。
614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/20(土) 05:44:29.97 ID:TetnvhTIO
>>613
いろいろ感想ありがとうございます。

できれば全部やっちゃってください。
615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/20(土) 10:49:35.87 ID:b5g/aaAIO
>>614
えぇ!?それだけ?せっかくいっぱい書いたのに・・・超適当っすね、ちゃんと感想読んでもらえてますか?
いや、一応これ全部読んで感想書くのに一時間は掛かったんだが・・・いやあなたが何時間掛けたのかは知らないけどね
あとあんまり自分が良いと思ってない物に感想書くのって骨が折れる作業なのね
どういう問題点があるかっていうことを考える勉強にはなるけど、やっぱり正直面白くないと見たくないのよ
うーん、だからなにがつまり言いたいかって言うと、そういう所が非常に作品にも出てるなぁって
まぁ、時間あったら・・・でも感想がないのも感想ですよ、面白いの期待してます


616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/10/20(土) 11:06:04.73 ID:cI6l0j2do
おだいください
617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/10/20(土) 11:41:40.56 ID:4BaBCv/Jo
>>616
ブックカバー
618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/20(土) 12:54:07.40 ID:TetnvhTIO
>>615
私のレスで気を悪くさせてしまい、申し訳ありません。

言い訳っぽいですが、感想は全部読みました。
起承転結がなってない、投下が早いだけで展開を練っていない
というのはそのとおりで、大変耳が痛い指摘でした。

ただ、いただいた指摘のなかには、いくつか「うーん……」と思うものもあったのです。
例えばコインロッカー占有の背景ですが、あれはわざと省きました。
これこれこういう背景があって〜というよりも、愉快犯的な形で書きたかったので。

あと、これはココとココで起承転結してるじゃん、というのも幾つかありました。

ただ読者の方に「それ駄目じゃん」と言われるとそれ以上どうしようもないですし、
自分で小説の狙いどころを説明するのも変だし、いただいたものについて
どう返信すればいいか、あの時点では上手く文章が出てこなかったんです。

どうせなら他の作品もどういう風に読み取られるのか知りたいなーと思って、
>>614は軽い気持ちで書いてしまいました。

面白くない小説を読むのに力が要るのは重々理解していますが、
できれば読んでいただきたいです。
619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/20(土) 13:34:43.15 ID:Ulds0pf2o
このスレ妙な上から目線が多いような……
いや、実力はともなってるんだろうからいいけど
620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/20(土) 13:50:27.28 ID:b5g/aaAIO
>>618
あなたもしかして頭悪い?愉快犯なら愉快犯という背景描写を書け、って話をしているんです。
自分の頭の中だけで完成している設定を、読み手にも強要するとか頭悪いにも程があると思いますが。

そうですか、起承転結してますか。じゃあ具体的にどの話が起承転結しているか教えてください。
新しいのについてはしっかりとそこら辺の検証してからでいいと思いますが。
というかね、自分でも自分の作品について一回一回それぐらい掘り下げないと駄目です。
というかなんで他人である自分がそんな事をしないといけないんでしょうか?話の取っ掛かり上やらないといけないみたいですが。

あとね、誰かの批評に耐えられないくらいなら小説なんて書くなって話です。
よしんば今から上手くなろうっていう段階の立場の文才無しがね、作品が語られる事をはねつけるだなんてのはもうね。
621 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/20(土) 14:21:11.42 ID:N4gNx61Wo
適当に書いた感想なんでしょう。それならそうとしか受け取られないじゃないですか。
中身の無い指摘ほど書き手を疲れさせるのだと思いますよ。
意味の無い罵詈雑言も止めましょう。


いつも思うのですが、お題を振られても書かない(書けない?)のはしょうがないと思いますが、
書いたにもかかわらず誰も感想を書かないのが気になります。
最低でもお題を振った人はマナーとして感想を書くべきでは?
という提案でした。
622 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/10/20(土) 14:43:46.42 ID:0a1wQ1920
>>617
了解
623 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/20(土) 15:15:31.45 ID:N4gNx61Wo
さて、中身のある指摘を書けるかどうか。

>>587 読みました。
最後に彼女はどうして手紙を出さなかったのか。その情報がもう少し欲しかったと思います。
彼女にとってユウ=主人公なのなら時間を飛ばして『彼女から返事が来た。住所は違っているが〜』のような締め方もできたかと。
少し荒れた世界で生きる主人公の紳士さが物語の清潔感を生み出していて良かったです。

>我々はそのときの思いを切り出すことしかできません。そしてそれを書き記した瞬間、その内容は嘘になるのです。
この部分が難しい。
人の思いは消えていくものだけど、その瞬間の思いまで嘘になるのか。
考えれば考えるほど深みにはまってよく解らなくなってしまいました。
624 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/20(土) 15:34:50.67 ID:b5g/aaAIO
>>621
おいおい、適当には書いたが大体のところ正直で率直な感想なんだが
それに言葉が荒くなったのだって売り言葉に買い言葉って奴だぞ
625 :名無しNIPPER [sage]:2012/10/20(土) 18:30:05.30 ID:omUN4VoAO
気軽にお題振れなくなるのはいやだなぁ。常駐してる訳でもないしさ。
適当なお題振って、適当に小説っぽいもの書いて気が向いたら感想書いてっていう気安さがこのスレのウリでもある(と、個人的に思ってる)。


そう言って思い出したが「ファンタフラミンゴ味」が俺の最初のお題だったなとか、
「ほっちゃあああああああん」って保守が心ならずもお題になったこともあったのを思い出した。

まあいいや。お題くらさい
626 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/10/20(土) 20:48:48.86 ID:belal8FDo
>>625
ファンタまみれのフラミンゴ
627 :名無しNIPPER [sage]:2012/10/20(土) 21:40:52.27 ID:omUN4VoAO
はい、大体予想通りですね。thx
628 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/10/20(土) 21:46:42.78 ID:VpwqoLaro
>>623
感想ありがとうございます。

彼女が手紙を返せなかった理由を一言でうまくかけなかったので、流れに沿って書くと、

主人公は彼女の最後の手紙から弱気(自分の殻に引きこもる感じ)を読み取る

主人公、過去に似たような経験あり(本編には断片的にしか書いてないですが)
彼女に同じような目にあってほしくない。

主人公「引きこもるな! 自暴自棄でもいいから兎に角行動しろ(手紙を書け)!」

彼女「いや、無茶言うなよ……」

という感じで、二人の思いが噛み合わない虚しさを何とか文章にしたいと思っていました。

ただ、他の方からいただいたコメントも総合すると、やっぱりこの小説は書き込みや練りが圧倒的に不足していたという感じですね……


書いた瞬間の思いが嘘になるか、というのは大変難しいですね。
昔なにかのマンガで
「その言葉(嫌い)を口にするな! 本当に嫌いになるぞ!」
というようなセリフがあって、書く場合にもそういうことがあるんじゃないかと個人的には思っています。
629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/10/20(土) 22:27:52.16 ID:VpwqoLaro
>>620
ひとまず、他の作品の感想は保留していただいて問題ありません。

>というかなんで他人である自分がそんな事をしないといけないんでしょうか?話の取っ掛かり上やらないといけないみたいですが。

別に上のようなことは望んでいません。
どんな感想を書くかは書く人の自由ですし、私がそれに干渉する権利もありません。

ただ、もらった感想については、
「確かにあれは駄目だった」、「いや、あそこはこう読み取って欲しかったんだけどな」
という感想を当然こちらも持つことになります。

私が >>618 で書いたのは、そういうことです。
私の作品を読む場合はこうやってほしいとか、書いた覚えはありません。
これまでと同じように、他の作品についても感想を投下してほしかっただけです。

いただいた感想を自分の中で処理するには時間がかかるので、少し時間が経てば考えが変わるかもしれません。

ただ、現段階では私の考えは >>618 なので、これで他の作品の感想を書いてもらえないようであれば、それはそれで仕方ないと思います。
630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/10/20(土) 22:34:37.91 ID:1fiQN4tko
お題ください
631 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/10/20(土) 22:43:48.69 ID:umB92H+IO
>>629
だからさぁ・・>>618みたいな考えなのはもう分かった、分かったからさ
じゃあ実際どう感じて欲しかったのかをしっかり説明してよ
じゃなきゃ伝わらってこないからさ
それを説明した上で「あぁ、そうだったんだ。じゃあここはこうしなきゃ駄目だね」ってアドバイス出来るわけでさ。

632 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/10/20(土) 23:16:38.28 ID:cQgNIn3S0
>>630
無人島
633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/20(土) 23:37:05.90 ID:N4gNx61Wo
>>628
根っからのHAPPYEND思考なので、そのような終わりだとは思ってもみませんでした。
それなら『あなたのように強くはなれません』のような一言の手紙だけでもあってよかったのように思います。
でも、それだと最後の一行が生きないですよね。こうやって考えるのは個人的に好きなので面白く楽しめています。

>「その言葉(嫌い)を口にするな! 本当に嫌いになるぞ!」
このニュアンス……どこかで聞いた(読んだ)ことがあるような……気になってモヤモヤしてます。
ハンターハンターだったかなぁ?
634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/10/20(土) 23:38:22.34 ID:1fiQN4tko
>>632
お題ありがとう
流れぶったぎってごめんね。でも、小説書く人は常に謙虚で向上心がなきゃいけないと思うの
>>612は読む人や感想を書く人を減らす、良くない言い草だと
感想なんてつかない作品がほとんどなんだから、喜んで受けないとそのうち感想すらつかなくなっちゃうと思います
635 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/10/20(土) 23:39:56.64 ID:1fiQN4tko

間違った
>>621 だった
636 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/20(土) 23:50:57.37 ID:N4gNx61Wo
申し訳ない。
スレを間違えてました。
私が居た場所は過疎化が進んでいて、書き手が居ない、感想無い。といった状況で寂しかったものですから。

元の巣を探して帰ることにします。スレ汚しすいませんでした。
637 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/10/21(日) 01:47:26.53 ID:VX8jtpzjo
あれ、人が去ってしまった……
何も去る必要なんてなかった気が。

>>631
んー……前のレスからソッチ方向を押されていますが、ぶっちゃけやりたくありません。
水掛け論になりそうな臭いがプンプンします。

私が欲しいのは、>>614を投下する以前に書かれていたような感想です。

今回に関しては、
 あなたが読んで思ったとおりに感想を書く
 →私は参考にできるところは参考にする
以外の形は求めていません。

両者ともやりたいことが異なっており、このまま歩み寄ることもなさそうなので、
この話はここで終わりにしませんか?

レスを返信するだけでも結構疲れると思うので……
638 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2012/10/21(日) 02:13:03.22 ID:LWqN8bL60
>>673
お前・・・ガチでアホだな
だからさ、俺は>>611-612で、ちゃんと「これこれこういう理由でつまらないんです」って提示しただろ?したよな?
そしたらお前が>>618で「違います。間違ってます。僕の中ではこうだったから面白いんです」って言い始めたんだわ
じゃあその間違ってる点を教えてよ、って言ってるんだが。
俺だって納得したらごめんって謝るし、違うと思ったら言うし、って話じゃないか?なんかおかしいこと言ってるか?
639 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2012/10/21(日) 02:15:06.36 ID:LWqN8bL60
うわ、レス番間違えた>>637
640 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2012/10/21(日) 02:44:29.09 ID:LWqN8bL60
あとさぁ・・・疲れるって何?いまお前の話しかしてないんだけど?まじかお前・・・
まぁ別にどれだけ社会不適合な性格でもいいけどさ・・・え?ちょっと待った・・・え?終わり?は?

おい・・・、なんなんだお前は・・・なんでそんなに自信満々なんだ・・・どっかのサイトで面白いとか言われてたのか・・・
いや、俺も大概だがさ。とは言えこのレベルではちょっと・・・もうちょい精進しなよ・・・
641 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/10/21(日) 02:59:50.19 ID:kiveDZOio
このスレって感想に対しての感想、つまり馴れ合い禁止じゃなかったっけ
俺の思い違い?
642 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2012/10/21(日) 03:20:35.55 ID:LWqN8bL60
>>641
馴れ合ってるように見えるのか?正直ちょっと呆れてるんだが

>>637
『両者ともやりたいことが異なっており、このまま歩み寄ることもなさそうなので、
この話はここで終わりにしませんか?』

だからさぁ、おまえのやりたい事ってのが・・・なんかあんの?なに、どんな方向目指してるの?純文?ラノベ?
643 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2012/10/21(日) 03:22:56.04 ID:7DFAFOGJ0
とりあえず面白くないと言われて頭にくるようなら晒さないほうがいいよ
基本は『へー君はそう思うのか』くらいで受け流して、ごく稀にある自分の身になりそうな部分を拾ってればいい
644 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/10/21(日) 03:34:44.51 ID:kiveDZOio
>>642
察しの悪い奴だな
てめえらの生産性のない長文の会話なんて興味ないんだよ
ここでやるなって言ってんの
645 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2012/10/21(日) 03:40:37.49 ID:7DFAFOGJ0
>>644
じゃ、生産性のある話題をどうぞ
646 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/10/21(日) 03:54:18.08 ID:HJ/w2PjOo
殺伐としてますね、お題くだしあ
647 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2012/10/21(日) 04:07:26.18 ID:7DFAFOGJ0
>>646
玉手箱
648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2012/10/21(日) 04:08:59.85 ID:LWqN8bL60
>>644
おう、悪い悪い、寝るとこだったわ

で、はい?投下された通常作の話をしてたんだが?これ以上何の話すればいいんだよこのスレで?ん?
649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/10/21(日) 04:10:10.07 ID:kiveDZOio
>>646
ポスト

>>645
お題ください
650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2012/10/21(日) 04:33:42.14 ID:7DFAFOGJ0
>>649
毒を食らわば皿まで
651 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/10/21(日) 09:09:34.36 ID:oVBJmIU1o
この殺伐とした感じ……BNSKだな!
652 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/10/21(日) 11:09:47.85 ID:EweNDCcPo
ここは作品投下してさらっと流すのが嗜み。
お題ください
653 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/10/21(日) 12:01:28.42 ID:oVBJmIU1o
>>652
ゆるキャラ
654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/10/21(日) 18:42:53.10 ID:HJ/w2PjOo
>>647
>>649

了解
655 :お題」 玉手箱、ポスト ◆4PWx59VIP2 :2012/10/21(日) 19:59:03.80 ID:HJ/w2PjOo
 僕の家から五分ほど歩いたところにある、公園の一角には、もう使われていないポストが
ある。赤い塗装は所々剥げ、むき出しの鉄を晒したそのポストには、ある噂があった。
 事の始まりは僕の友人であるAのふとした呟きからであった。
「公園のポストに、夜な夜な近づいては何かをしている怪しい人がいる」
 Aの家は公園の真向かいで、二階にあるAの部屋からは公園が見渡せる。当然、ポストも
視界に収まる、といった構図だ。かぐる日、Aは受験勉強もひと段落ついたところで、ブレイク
タイムとしゃれ込み、コーヒーを飲もうと思い立ったそうだ。階下のリビングにいき、
コーヒーメイカーから香り立つ濃厚なブラックコーヒーを入れ、自室に戻ったAは、窓辺に
よりそい、空を眺めていた、という。そして、Aは見てしまった。公園の一角、物置小屋の
横にぽつんと置かれた古びたポストに、誰かが近寄り、なにやら怪しげな動きをしているところを。
一体、何をしているのだろうと興味を引かれたAは、その怪しげな人物に気づかれぬよう、
カーテンの陰から目を覗かせ、窺っていた。最初は、ただの酔っ払いだとAは思ったようだ。
なにせ、身体がゆらゆらと揺れ、足元が定まらない様子だったそうだから。そうしてしばらく
覗いていると、その怪人物はポストを開け、中から何かを取り出した、という。
 Aからはその取り出したモノがどういった代物か、ようと判別できなかった。ただ、それが
どうやら箱のようなものだと分かったのは、怪人物がその物体の上部を上に上げるような動作を
したからだった。そこからは、夢や幻、といった類の胡散臭い話になるかもしれない。
なにせ、Aが見たのは、その箱のようなものから黒い煙が立ち上り、怪人物を包んだと思った
瞬間、その怪人物が消えうせた、というのだから、おかしな話である。
しかし、長年の友人であるAが、そのようなくだらない嘘をつくとも思えず、僕は半信半疑ながら、
Aの話を笑い飛ばした。
 それからしばらくしてからの、学校からの帰り道、いつも僕はその公園の前を通る
(Aといつも一緒に帰っているのだから当たり前の話)のだが、その際、ちょっと寄って調べてみようと、
Aとともに公園の中へと足を踏み入れた。
 この公園は、公園といっても小さなもので、砂場と滑り台がちょこんと申し訳なさそうにあるだけで、
あとは直径10メートルもない広場があるだけだ。その広場の隅に物置小屋があり、さらにその横隅に、
例のポストがある、といった感じである。
 ポストの前に立ってみて、僕はこのポストのささくれぐあいに少し嫌なものを感じた。
それはAの話を聞いたせいかもしれない。だけど、どこかそのポストには、なにか得体の知れない存在感の
ようなものを、見るものに感じさせるような不気味さがあった。
赤い塗装が所々はげ、むき出しの鉄を晒したそのポストは、一見、なんの変哲もない、もう用済みのポスト
のように思えたが、ポストの中央にある、管轄地域を示す欄には、こう書かれていた。

656 :お題」 玉手箱、ポスト 2/2 ◆4PWx59VIP2 :2012/10/21(日) 20:00:22.39 ID:HJ/w2PjOo

『○○町〜桃源郷行き』

 ○○町とは、言うまでもなく僕らが住む町の名前だ。しかし、桃源郷とはなんなのだろうか。
そのような地名が実際にあるとは思えないし、また、僕らが知り得るかぎりの地名を思い返してみても、
桃源郷なんて地名はなかったはずだ。じゃあこれは一体なんなのか。よく見てみると、桃源郷行き、と
書かれた文字は比較的最近書かれた様子で、まだ風雨に晒された文字によくある、ささくれた部分は見当たらなかった。
だとすると、これは誰かが上から書き直したのだろう。でも、一体何のために? あるはずのない場所を
示すことに、何の意味があるのだろう。普通なら、ただのいたずらで済ますようなことだ。
しかし、いたずらにしてはどこか引っかかるものを感じた。それは、Aから聞いた話のせいかもしれないし、
そのポストが放つ存在感のせいかもしれなかった。とにかく、僕はそのいくぶん真新しい文字に、違和感を感じたのだ。
それはAも同じだったようで、しきりに首をひねっている。とにかく中を調べてみようと、
Aが言ったので、僕はポストの裏側に回り、中を開けようとした――のだが、しっかりと錠が締まっているようで、
取っ手のレバーはびくともしなかった。
これではどうしようもない。僕はもう半ば興味をなくし、Aに帰ろう――そう告げようとした矢先、Aが突拍子もないことを
言い出した。
「……手紙、出してみようかな」
「はあ?」と、僕はAの行為に呆れたものの、Aの顔には真剣な表情があり、ちゃかせない空気を感じた僕は半ばやけくそでこう言った。
「なら、出してみれば? 時間の無駄だとおもうけどね」
 僕の言葉に、Aは軽くうなずくと、そうしてみる、といいざま、足早に公園の向かいの自宅へと歩き去っていった。
僕はAの様子に呆れるとともに、Aが見せた真剣な表情が物語る、使われないポストに手紙を出すという行為に、
どんな意味があるのか、不思議に思うだけであった。

 明朝、Aは挨拶もそこそこに、手紙を出したことを僕に告げた。その顔はどこか期待を思わせるわくわく感があり、
僕はまた妙な気持ちになった。手紙が届くというあてでもあるのかと、Aに聞いてはみたが、Aは思わせぶりな顔を
におわすだけで、何も言わなかった。その秘密主義に、僕は軽い苛立ちを覚え、それからはあのポストがらみのことは、
自分からは一切口に出すまい、と決意した。

 平凡な日常、繰り返されるかのような反復行動。あれから僕の日々にはこれといって目立つような出来事はなく、
Aともあのポストの話をしないだけで、いつもと変わらぬ日々を過ごしていた、そんな矢先の出来事だった。
Aが失踪したのは。
 Aが消えた――そのこと自体は、最初はただの親子喧嘩の末の逃避行だろうと高をくくっていたが、それが一週間、
二週間と続くうちに、ただならぬことが起きたのだと、僕にもようやく実感できた。
 まず頭に浮かんだのは、あのポストのことだった。Aは手紙を出し続けていたのだろうか? そのことを
調べようと、A宅におじゃまし、Aの部屋を見させてもらう機会を得た。
 Aの几帳面な性格が表れたような、とてもかたずいた綺麗な部屋は、その主人がいないことを嘆いているのだろうか、
どこか侘しさを感じさせた。その感覚に僕はどこか嫌な気持ちになり、それを吹き飛ばすように、
整理整頓された机をかき回し、探した。しかし、ない。どこにも、手紙のようなものはなかった。
だが、考えれば当然のことだった。Aがあのポストに手紙を出したといっても、それが届くとか、ましてや返信が
返ってくるなど、あり得ぬことなのだから。じゃあ、Aはなぜ、どうして失踪なんてしたのだろう? 
 帰り際、Aの母親にAの近況を聞いてみたところ、なにか問題があったとか、そういう風なことはなく、
いつもどおりのAだった、という。しかし、なにやら毎月のように送られてくる手紙のことを、私たちに見せる
ことのないよう、ひどく警戒しているようだった、と話してくれた。
 帰り道、僕は不気味な懸念を押し[ピーーー]ことが出来なかった。あのポスト――Aが手紙を出したあのポストからの
返信の手紙が、Aに届いていたのだろうか? しかし、Aの部屋にはそのような類のものは見当たらなかった。
Aが届く毎に始末していたのだろうか? あのポスト……とにかく、Aの失踪には、あのポストが関わっていると、
僕はあたりをつけた。そしてその日から、僕の情報収集が始まった。下は幼稚園児から、上はおじいちゃんおばあちゃんまで、
あの公園によく出入りしていると思われる人々に、僕はそれとなく聞いて回った。あのポストのことを。
 それによると、あのポストがいつからあったのか、誰も知らず、気づけばそこにあったのだという。
たしかに、知らぬ間に気付けばそこにあった、といったようなことは、往々にしてよくあることだとは思う。
例えば、通学路の大通りには、いつの間にかこじゃれたカフェが出来ていたし、クラスメイトのだれそれが
だれそれと付き合った、破局した、というようなことは、普段目にしていないだけで、注意を向ければあることに
気づくものなのだ。ポストも、その類なのかもしれない。しかし――。

 僕はいま、あのポストの前にたっている。辺りはすでに暗闇に包まれていて、公園のちっぽけな街灯では
公園全体を照らすなんてことは不可能だった。薄暗い公園の済みに置かれた赤茶け、錆びれたポスト。
僕はいまそこに、手紙を投函しようとしている。考えれば馬鹿な話だ。使われていないポストに手紙を投函するなど。
しかし、僕は試してみたかった。いや、試さざるを得なかった。Aはなぜ消えたのか、Aはなぜ手紙を投函したのか。
その答えが、手紙を投函することによって明かされるんじゃないか、そんな期待があったからだ。
人っ子一人いない、薄暗い公園の隅にたつポストと僕。これから起こることに、半ば期待と恐れを抱きながら、
僕は手紙をポストに投函した。そして僕は、決して踏み入ってはいけない世界へと、足を踏み入れてしまったのだった。

657 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/10/21(日) 22:15:12.83 ID:ntipIurfo
通常作投下します。12レスで長めです
658 :指の味(お題:無人島)1/12 ◆xaKEfJYwg. [sage]:2012/10/21(日) 22:17:37.18 ID:ntipIurfo
 この島に名前を付けてみようかと笑っていた彼も、二日経てば無表情になっていた。海岸沿で、
彼は拾ってきた枯れ枝の山をぼうっと見下ろしている。彼の整った横顔を覗くたびに、それが
たとえ表情を湛えていなくとも、私の心はきゅっと締め付られてたまらない。やっぱり私は彼の
ことが大好きだ。どんな表情を見ても、どんな態度で接せられても、それらがすべて私に向けら
れているものだと思った途端に、穏やかな気持ちで答えることができる。
 今まで大多数の取り巻きのうちの一人だった私が、彼を独占している。
 ――ああ、どうして可愛い服を着てこなかったの? 化粧道具だって、こんなときに一番必要
なのに!
 私は赤いジャージの裾を払ってその場でしゃがみこみ、意味も無く髪を掻き上げながら枯れ木
を人差し指と親指で丁寧に摘み上げる。「まぁ、良さそうな枯れ木ね」と言おうとした。
「ま……よい、かれ……」
「なんだって?」
「枯れ木……いい……」
「あぁ、もう少し持ってきたほうがいいかな。これじゃ少し足りないかもしれない」
「うぅ」
 彼は顔を上げて、海を隔てた向こうにある細長い大陸の筋を眺めながら、ぽつりと言った。
「参ったな。あんなに近くに見えるのに、誰も様子を見に来ないなんて。二日も経ったんだ。峰
山のやつ俺なんか忘れちまったのかな。君も……えーっと名前はなんだっけ?」
 私は話しかけられたことに歓喜しながらも、冷静さを保ちながら言った。
「はるか」
「いや、苗字は?」
「はるか」
「……はるかさんも、不安だろう?」
 そんなこと全然ない。事実、彼が言った峰山とは、一昨日にこの島で会って話している。

 ¶

 一昨日の昼ごろに、峰山と一人の女はこの島から去っていった。去り際に「本当に置いていっ
ていいのかい?」なんて、峰山はいかにも心配しているふうに言っていたが、とんでもない。峰
山は隣にいる女性に友達想いなところを見せたいだけなんだろう。彼のことは良く知らないが、
659 :指の味(お題:無人島)2/12 ◆xaKEfJYwg. [sage]:2012/10/21(日) 22:19:43.42 ID:ntipIurfo
魂胆が見えて憤慨した。この島に降り立っただけでも許せないのに、私たちを利用して仲を深め
ようなどど思っている人間に、これ以上ここに居て欲しくない。幸い、彼はこの島をぐるりと散
策していたから、こんな汚らわしい二人を見ずに済んだ。
 私は、峰山と隣にいる女に一瞥くれて、言ってやった。「彼は一人になりたかったらしいの。
もともとここに来たのも、彼の心が傷ついていたからでしょう? もう少しそっとしてあげて。
そうね、あと三日ぐらいはそっとしといて。ちゃんと定期船で帰るから、それまでは大丈夫だか
ら」あぁ、なんて私の心は美しいのだろう。こんな彼を気遣う言葉を、峰山と女は、ぽかんとし
た顔で受け止めていた。「それなら」といって去っていったはいいものの、あの呆けた顔は一体
なんだったんだ。彼らは食べ物や着るものなどを置いていったが、もちろん全て海の底に沈めた。

 ¶

 ふいに、頬に水滴が当たった。雲が唸り声をあげる。たちまち雨脚が強まり、私と彼は雨から
逃げるように山の入り口へと避難した。
 彼は垂れ込めた雲を眺めながら一人ごちる。
「枯れ木、無駄になっちゃったな」
 雨粒で濡れた前髪が額に張り付いている。彼はおでこまでちょうどいい大きさで、キュートだ
った。意志を含んだ太い眉をぴたりと収めている。ここでなくてはならないという位置に眉があ
るのだ。
 彼は流し目で私を見た。
「ねぇ、寒くないの?」
 そういわれて体が熱くなる。気付けば私も濡れていて、ジャージの上も下も、もともとの赤を
さらに濃くさせていた。まるで私の顔みたい、と思って恥ずかしくなった。
「さ、む……い」
 彼は大きな溜息を吐いて、着ている上着を私にかけた。彼の優しさは、上着から漂う強い匂い
とともに私を酔わせる。そう思った途端に、良子を思い出した。彼が最近まで付き合っていた女
性だ。彼女もこうやって彼の匂いを嗅いで酔ったのだろうか。いい思いをしたあげく、彼を捨て
るなんて信じられない……。奥歯をぎりぎりと噛みしめる。
「ほら、歯かカチカチいってる。仕方ない、ここで火でも焚いて向こうに俺のことを知らせよう
と思ったけど、もう小屋に戻ろう。火を付けて暖まるか」
660 :指の味(お題:無人島)3/12 ◆xaKEfJYwg. [sage]:2012/10/21(日) 22:21:45.40 ID:ntipIurfo
 私は、彼の提案を聞いて、何度も肯いた。救助なんてもともと糞喰らえだったのだ。もしかし
たら天は私の気持ちを汲み取ってくれたのかもしれない。この雨雲は、良子のせいで曇ってしま
った私の心を反映するものだと思っていた。けれど、彼の提案を聞いて少しだけ雨も悪くないと
思えた。

 彼と私は山道を黙々と登っていった。時折、彼はうしろを向いて私の顔を見る。心配してくれ
ているのだろう。私は、彼が振り向くたびに微笑んで返した。大丈夫、私がついているから、と
いう意図を込めたのだけど、ちゃんと伝わっているのだろうか。
 この山道の先に、ペンションがあった。ペンションと言えば聞こえはいいが、実際は掘っ立て
小屋に近いもので、初めて足を踏み入れたときは、積もった埃の厚さに気が滅入った。いたると
ころに穴があいたカーテンやクロス。軋む床板に錆びが目立つ台所。長い間使われていないこと
は明白で、これらを私一人である程度まで修繕しなければならなかった。全て、彼と過ごす時間
のために他ならない。
 立て付けの悪い小屋の扉をいとも簡単に開けてしまう彼の太い腕を見て、目を細める。この逞
しい腕で抱きしめられたらどうなってしまうのだろう。
 開かれた小屋の中は実に簡素なもので、八畳程度の広さに、入り口から向かって奥に台所、真
ん中に木造のテーブルと一脚の椅子、暖を取るための七輪、左側にシングルベッドが置かれてい
るだけだ。にも関わらず、右側に取り付けられた窓は大きく、ベッドから外の海岸を眺めること
ができた。
「中に入ろう。魚が取れなかったから、また君の持ってきた食べ物を頂いてしまうけど……」
「いい、いい」
「本当に申し訳ないな。なんだって荷物まで持って行っちまうかな。はるかさんにお世話になり
っぱなしだ」
 彼は力のない笑みを浮かべて、ありがとう、とつぶやく。彼がぶるっと震えてくしゃみをした
のを合図に、彼に着替えをするよう促した。紐に吊るされた彼のシャツを触ってみる。前日洗っ
た服が乾いていた。
「こんなはずじゃなかったんだけどな……」
 私は手際良く、七輪に前日用意した枯れ木と枯れ葉をくべてチャッカマンで火を着け、持って
来たリュックサックの中から缶詰を取り出して、台所のシンクの上に並べた。
「し、かたない、無人島だから」
661 :指の味(お題:無人島)4/12 ◆xaKEfJYwg. [sage]:2012/10/21(日) 22:23:18.29 ID:ntipIurfo
 七輪の傍で着替え始めた彼を、苦心しながらもなんとか横目で眺め続ける。本当はまじまじと
見たい。けれど彼に、はしたないところを見せるのは嫌だった。
「にしてもびっくりしたな。人はもう住んでいない無人島だって聞いたのに、君がこの小屋に居
た。なんでこんなところに居たんだい?」
 振り返ると、彼は着替えを既に終えて、ベッドに腰掛けていた。私は、選び取ったみかんと桃
の缶詰と缶きり、そして小さめのスプーンをテーブルに置いて尋ねる。
「どっち」
 彼は、君が先に選べよ、と顎をしゃくった。私は椅子に座って桃の缶詰を引き寄せた。
「なぜここに?」
 残されたみかんの缶詰を引き寄せ、缶きりで封を開けながら私がここに居た理由を再度尋ねて
くる。二日間も尋ねられては、はぐらかしてきた。なぜなら、それこそ私にとって大事な問いだ
ったからだ。そんなのは決まっている。私は決心して言ってやった。
「す……す、き」
「ああ、やっぱり君も無人島が好きなのか。でも運が悪かったな。こんな場所で他の人と会いた
くなかっただろう? 無人島を無人島らしく楽しむには、外部の人間は邪魔だもんな」
 私は首を懸命に振る。どうしよう……気持ちが伝わらない。
「そっか、はるかさんは気にしないで居てくれるのか。俺なんかで悪いけど、次の定期船が来る
までお世話になるよ」
 微笑んだ彼の顔を見て、また心がきゅっと締め付けられる。良子のせいで、あんなに嫌な思い
をしたのに、同じ女性である私に優しくしてくれる。それだけで、死んでもいいと思えた。事実、
私は死んだようなものだ。社会的に、だけれども。

 ¶

 彼を初めて帳場越しに見たとき、私の心は奪われた。目は彼を捉えて離さなくなってしまい、
胸はばくばくと鼓動を速める。彼は、慣れた手つきで牛乳を冷蔵棚から摘み上げ、近づいてくる。
堪えきれなくなって、その場にしゃがみこんでしまう。そのまま私の隣にいる良子というレジ打
ちと親密な会話をして、彼は去っていった。
662 :指の味(お題:無人島)5/12 ◆xaKEfJYwg. [sage]:2012/10/21(日) 22:25:54.46 ID:ntipIurfo
 私がバイトとして働くコンビニに、彼は時々やってきては牛乳を買っていった。目当ては、同
じシフトで働く良子だった。ある日、たまたま良子の前に人が並んでいるので、仕方なく彼は私
のレジで会計をした。
 大学生になって初めてのバイトだったから、失敗が多かった。このときも、会計がもたつき店
長に怒られてばかりだった。失敗は新たな失敗を生む。早くしなくちゃいけないと思えば思うほ
ど、緊張して頭が真っ白になってしまうのだ。彼が買おうとした牛乳を滑り落として、箱の角を
潰してしまったのも、このためだった。
 また、口下手なのもいけなかった。微笑んで「すいません。お取替えします」と言えば良かっ
たのに、口角を上げるだけがやっとで、「す」から先がどもって言えなかった。
 彼は優しく「いいですよ。良くあることです。中身は変わりませんし」といってくれた。
 それから彼の姿を探す日々が続いた。良子との会話から彼のことを何気なく探って、同じ大学
に通っていることがやっと分かったので、講義の合間に校舎を隈なく歩き続け始めた。とうとう
彼の後姿を見つけることができたのは間もなくのことだった。そのときは有頂天になって、その
場で飛び跳ねてしまった。彼の周りには大勢の女が群がっていたので声は掛けられなかったけれ
ど、後姿を一目見れただけで十分幸せな気持ちになれたのだ。
 この気持ちはとても崇高なものだと信じていた。今まで恋に落ちたことが無かったのもあるが、
彼を自分のものにしたいという欲求が微塵も沸かないことが何よりの証拠だ。彼を一目見れば
それでいいと思える恋なんて、これほど無償のものはないはずだ。取り巻きの女性も同じことを
言うかもしれない。しかし、彼女達は彼を平たい板として見ているだけで、代替の利く偶像とし
か思っていないはずだ。そこにあるはずの奥行きを知ると勝手に幻滅して、去ってゆく。奥行き
に幻滅したことを裏付ける決定的な瞬間は、私が良子を殴り倒した日にあった。
 そのころ、一足先にこの島を下見して、小屋の掃除をし始めていた。無人島が好きだという彼
の一風変わった趣味を知って、離れ小島へ旅行するという彼の計画とその場所を良子から聞き出
したので、偶然を装って出会おうと思い立った。
 彼がこの地を訪れなくとも、別に良かった。小屋を掃除をしている間は、彼との逢瀬を夢想し
て楽しむことができたからだ。ここで、暖をとる彼。歯を磨く彼。ベッドに寝そべって文庫本を
読む彼……。それらの姿はどんなに悠々としたものだろう! しかし、良子は違ったみたいだった。
 休憩室で、良子と休憩を取っているあいだ、ぼんやりと小屋での暮らしを想像していた。良子
は携帯で、ずっと誰かと喋っている。
663 :指の味(お題:無人島)6/12 ◆xaKEfJYwg. [sage]:2012/10/21(日) 22:28:32.41 ID:ntipIurfo
「彼さ、島が好きなんだって。最初はさ、リゾート地か何かだと思ったの。ハワイとかグアムと
か? そしたら、ただの何も無い島。しかも船は三日に一本。信じられる? 私、何も無い場所
なんて嫌よって言ったら、私も当然行くだろうと思ってたみたいで、彼しょんぼりしちゃって。
どうせやらしいこと、したいだけでしょ? それならホテルでいいじゃないのね。嫌よ小屋なんて」
 ――嫌よ……小屋なんて?
「それでね、ここからが可笑しいの。彼、素晴らしい経験になるはずだって力説しちゃってさ、
なに? そんなの綺麗な場所で経験させてよって言ってやったら、彼ったら頭まで下げちゃって。
ほんとに呆れたわ。急に冷めちゃって、昨日フってやったわよ。やっぱりイケメンは変人が多
いのね」
 私の体はぶるぶると震えだした。私が夢想し続けた小屋は、良子にとっては汚いものだった。
気がつけば、部屋の隅に置いてあったモップを持ち上げて、良子の頭を殴りつけていた。最初は
困惑した表情だった彼女も、状況を察して抵抗しようと腕を上げる。その腕が下がるまで、私は
殴り続けた。彼を傷つけたこと、小屋を否定したことが許せない一心で、モップを振り下ろした。
 それからはあっという間だった。休憩室から飛び出してこの島まで逃げてきた。荷物はバイト
に着てきた私服と、肩掛け鞄、体育の講義で必要だったジャージだけだった。
 息を荒げて停船所のベンチに座っていた私を見て、船長の老人はさぞ驚いたに違いない。しか
し、私には小屋……否定されて汚された小屋しか、私を肯定してくれる場所はなかったのだ。

 ¶

 私は缶詰の桃を咀嚼しながら、三日前のことを思い出していた。惨めで仕方がなかったあの日
は過ぎて、このときだけは彼とのささやかな期限付きの日々を過ごしている。
「この時間が、ずっと続けばいいのに」
「やっと普通に話してくれた。やっぱり口下手だったんだね」
 驚いて私は顔を上げた。彼は微笑んでいた。
「俺、ずっとはるかさんが怒ってるんじゃないかって思っててさ。だってずっと無言だろう? 
だから、申し訳ない気持ちで一杯だったんだ。きっと一人で島を満喫していたに違いない。そこ
に俺みたいな見知らぬヤツがさ、手ぶらで置き去りにされちゃったら、世話するしかなくなる。
邪魔されて怒っているんだと思うと、早くここから出なきゃと思ってさ」
「そ、そんなわけ……」
664 :指の味(お題:無人島)7/12 ◆xaKEfJYwg. [sage]:2012/10/21(日) 22:30:13.09 ID:ntipIurfo
 首をぶんぶんと横に振る。
「ぷっ……そんなに否定しなくたっていいのに。このみかん、おいしいな。どこの缶詰だろ」
 どこにでも売っているただの缶詰を興味深げに眺め回す。彼の気遣いは、ときにひどく私を痛
めつける。思えば、何度彼は私を気遣ってくれただろう。最初はただ、彼の姿を見ればそれで良
かったのに、いつしか二人の心が溶け合うまで密着して混ざり合いたいと思うようになっていた。
 私は空いた缶詰を台所に置いて、バケツに水を汲みはじめる。
「もう、寝るのかい?」
 彼の言葉に答えないまま、火を蓄えていた七輪にバケツの水をぶっ掛けた。ジャージを脱ぎ始
め、素肌を露にする。私の晒された姿態を見て、彼は目を背ける。
「順番が逆じゃないのかい? 服を乾かしたいのなら、何も火を消さなくても……」
「きょ、今日は……裸で……」
「そんな、風邪ひくよ」
「大丈夫。くっつけば」
 全て服を脱ぎ終えたあと、大窓のカーテンまで開け放つ。雨は依然降り続けていた。構うもの
か。私は今日、ここで溶け合って消えるのだ。
 私は窓を背にして、ベッドに座る彼の元へ歩み寄る。
「はるかさんは……俺を買いかぶり過ぎだよ。俺はここで、『そんなこと』をしたかったわけじ
ゃないんだ」
 そして屈んで、彼の張り付いたシャツにできた突起のうちの一つを撫でる。性交渉をしたこと
がなかったので、取り合えず自分にとって敏感な箇所を撫でてみた。しかし、先に繋がる知識が
なかった。次はどこを触れば、もしくは舐めればいいか分からない。長いあいだ撫で続けている
と、流石に気付いたのか、彼は私の手首を掴んで彼の膝元に下ろした。
「こんなにも冷たいじゃないか。震えてるよ。こっちへおいで」
 肩を抱き寄せられ、ベッドに吸い込まれるようにして彼の上に倒れこむ。彼は慣れた手つきで
毛布を私の背中に掛けた。
「はるかさんは、きっと何かに追い詰められてたんだ。こんなに必死な顔を、俺、今まで見たこ
とがないよ」
 彼の暖かい手のひらは、何度も私の背中を往復した。私は瞼を閉じて、彼の厚い胸元、その奥
の心臓の鼓動を探る。とくん、とくん。もはや私の鼓動なのか、彼の鼓動なのか分からないぐら
い心地よい音は溶け合っていた。
665 :指の味(お題:無人島)8/12 ◆xaKEfJYwg. [sage]:2012/10/21(日) 22:32:07.08 ID:ntipIurfo
「疲れてたんだ。眠ればいい」
 私は、また彼の優しさに甘えて、言う通り意識を深く沈めた。

 ▽

 ――夢の中で、彼が私を優しく愛撫する始終がフラッシュバックのように瞬いては消えていっ
た。彼は私の股の間を探りよせ、そこに手のひら、腕、肩、頭……さまざまな彼の持つ逞しさが
入り込み私の内部で迸り弾ける。そして……

 △

 目を覚ますと、彼がいたはずのベッドで、私は一人寝ていた。ぼぅっとした頭で、毛布を手繰
り寄せ、小屋を見渡す。脳は今だ甘美な夢に蕩けているようで、しばらくカーテンの隙間から差
し込む強い日光が、小屋の木造のテーブルを通って私の太ももに筋をつけているのを眺めていた。
 はっと覚醒する。昨日の夜、私は彼と――しかし、私はジャージの上下を着込んでいた――あ
の夜は確かに裸体になり、彼に体を張り合わせたのに……。もしかしたら、全てこうだったらい
いのに、という私の夢だったのかも知れない。顔から血の気が引いていく。
 もし、あの惨めな日から途切れることのない地続きの今日であるならば、あまりに残酷過ぎる
ではないか。私は何のために良子を殴り飛ばし、この無人島へと逃げ込んだというのだ。
 ベッドから立ち上がり、よろけながらカーテンの端をつかむ。せめて海岸で彼が立っていたな
ら私は救われる。まだ耽美な夢想に溺れることができる……。
 恐る恐るカーテンを開くと、窓から見渡せる海岸の左部に、白い船が停まっていた。船の傍で
峰山と思しき男と、紛れも無い彼が立ってなにやら話し込んでいた。
 ――ああ、彼は居た! 彼は私と一緒に寝たんだ! ベッドの上で抱き合ったあの夜は嘘では
なかった!
 私は居ても立ってもいられなくなって、髪を振り乱しながら懸命に海岸に向かった。靴を履く
のを忘れたのは、落ちていた枯れ木が足裏を引っ掻いて傷を付けてからだった。度々転んでは四
肢を強く打ちつけたが、そんなことは彼の声を聞いてからだ。私は坂を下って、砂浜の柔らかな
白砂に足をとられながらも、だんだんと近づいてくる彼の姿に手を伸ばした。
666 :指の味(お題:無人島)9/12 ◆xaKEfJYwg. [sage]:2012/10/21(日) 22:33:37.57 ID:ntipIurfo
 やっと彼の表情が伺えるようになったとき、峰山が彼と私の間に立ちはだかって何やら理解で
きない言葉を投げかけた。
「な、な、なんだ、って……」
 峰山は頭を振って、諭すように言った。
「落ち着け。そんなに急いでも、無駄だったな。終わったんだよ。君の夢は」
「な、な、な……」
 峰山の肩越しから見える、彼の整った顔に目を向ける。彼は視線を逸らした。その仕草で私は
全て悟った。
「今日、俺達は帰ることにした。もし加納さんが良ければ……」
「わ、わた、しは……お前の声なんて聞きたくない!」
 ばらばらと音を立てて崩れ落ちる夢。幕切れがあっけなければあっけないほど、夢はまだ壊れ
ていないのでは、と淡い期待を抱いてしまう。
「あんな、すばらし……終わるなんてない」
 涙すら溢れてこない。むしろ、目は見開きすぎて乾き始めていた。目を閉じれば、目の前の峰
山は消えて、また枯れ木の山を見下ろす彼の整った顔立ちが現れるだろうか。私はその場にしゃ
がみこみ、意味も無く髪を掻き上げる。
「ま……よい、かれ……」
「は?」
「ま……よい、かれ……」
 瞼を閉じる。強く、強く、枯れ木の傍の彼を思い浮かべて。こっちへおいでと言って、私を肯
定してくれた彼を念じて。そのとき、肩に誰かの手のひらが載った。
「はるかさんに、見せたいものがあるんだ」
 彼は、私の肩に手を置いて優しく声をかけた。

 彼と私と峰山は山道を黙々と登っていった。時折、彼はうしろを向いて私の顔を見る。心配し
てくれているのだろう。私は、彼が振り向くたびに微笑んで返した。しかし、今は峰山が居る。
 峰山はずっと彼を見ていた。私にはその峰山の態度が、お前は部外者なんだ、といった無言の
主張のように見えた。
 私と彼が過ごした小屋を過ぎて、さらに山道を登っていく。両脇に鬱蒼と生え揃っていた木々
がだんだんとその本数を減らし、山頂部近くではまばらで頼りない細木しか生えていなかった。
667 :指の味(お題:無人島)10/12 ◆xaKEfJYwg. [sage]:2012/10/21(日) 22:36:15.55 ID:ntipIurfo
 山頂部はなんてことのないただの草原で、とても彼が私に見せたかったものだとは思えなかっ
た。海岸の入り口から続く山道の、行き着く場所は草原の地平線、切り立った岸崖から見下ろせ
る海と太陽だ。
 しばらく彼と峰岸は太陽を見上げて立ち尽していた。私は困惑しながらも、これから起きるで
あろう何かに怯えながら、絶えず想像を張り巡らせていた。もしかしたら彼と峰山は、良子を殴
った私をこの崖から突き落とし罰するのかもしれない。彼を騙し、ストーカー紛いの行動までし
た私に嫌悪感を持っているに違いないのだから、何をされても文句は言えない。
 しかし、心のどこかで、彼の優しさがまだ私に向き続けていることを信じていた。私の気持ち
は、行動は醜いものであっても、崇高には変わらないのだから……。
 彼は決心をつけたように深く息を吐いて、うしろで怯えている私に振り向いて言った。
「はるかさん、少し体が火照るかもしれない。そのときは我慢しなくていいから、服を脱いで声
を出すんだ」
 彼の太い眉は、寒いかと私に尋ねたときと寸分違わないものだった。気遣われた事実に、胸が
満たされていく。
「本当は良子に味わわせるつもりだったことを、はるかさんに振舞うよ。君は随分と俺のことを
好いてくれた――」
 ――そうよ、ずっとずっと好き! やっと気持ちが届いたのね。
 私の高鳴る胸と呼応するかのように、彼の体もどんどんと大きく膨らんでいった。彼のシャツ
は破け、その穴から漏れ出すようにして彼の逞しい肉は噴出した。顔もぱんぱんに膨らみ、重く
垂れた瞼は綺麗な瞳を覆い隠し、鼻と上唇は融合していく。顔を作り上げていたパーツ一つひと
つはもはや判別するのに困難なほど凹凸を失くし、球体に近づいていった。
 球体になった頭部は、ずぶずぶと胴体に埋まっていく。四肢も気付けば全て球体の連なりにな
っていて、頭部と同様、胴体に埋まっていった。やがて一つになった球体は真っ二つに裂けて、
中から夥しい数の光の筋が漏れだし、四方八方に飛び散った。その光の筋が一本の束となり、私
の体を差す。
 瞬間、体の内部の細胞全てが弾ける始める感覚に襲われた。細胞全体が震えて沸騰し、水分を
蒸発させようとしているみたいだ。涙、鼻水、涎、尿、汗……ありとあらゆる水分が体から漏れ
出した。何度も何度も膣から膣液が噴出す。絶え間ない絶頂の波に、意識が飛びそうになった。
しかし意識は、ぎりぎりの一番いいところで崩壊せずに保っている。
668 :指の味(お題:無人島)11/12 ◆xaKEfJYwg. [sage]:2012/10/21(日) 22:39:57.64 ID:ntipIurfo
 ふと、彼が居なくなった小屋の、カーテンの隙間から差し込んだ光の筋を思い出す。あの筋は
私の太ももを照らしていた。しかしあの筋は私の膣まで入り込むことはなかった。やはり彼じゃ
ないとならないのだ。私を蕩けさせてくれる存在は彼であって他ならないのだ。ああそれはなん
て気持ちいい事実だろう。なんて素晴らしい経験なんだろう。まるであの夢と同じではないか。
彼のとてつもない愛撫。内部で迸る彼の全て。あなたは球だったのね。美しい美しい球――

 ¶

「本当に、あんな女で良かったのか?」
 白い船の甲板で、峰山は彼に呆れたように言った。彼は、細い枯れ枝のような腕を柵に載せ、
船の穂先が掻き分けていく白波を飽きもせずじっと眺め続けている。
「二十年に一度の大事な捕食だぞ? 俺達にとって捕食っていうのは……」
 峰山の言葉を彼は遮った。
「それよりも、父さんのほうはどうだったんだい? まあ随分と若返ったみたいだから、あの女
性はとても良かったみたいだけど」
「この時期に入ると、俺達が放つ匂いのお陰で、女は選り取り見取りだからな。あれでも結構妥
協したんだぞ。姿を消して困る人間っていうのは、本当に少なくてな。不思議だな、で済ませて
くれないのが嫌になる」
 彼は、日本は本当に管理されているからね、と誰に言うでもなしに呟いた。
 大陸は筋の幅を広げてゆく。目を細めて、はるかのあの時の言葉を思い出す。
 ――彼は一人になりたかったらしいの。もともとここに来たのも、彼の心が傷ついていたから
でしょう? もう少しそっとしてあげて。
 はるかが峰山を追い返したとき、木陰に隠れて彼は見ていた。実際の彼女の言葉はどもってい
て、聞き取りにくいものだった。そのどもりで、牛乳を潰したあの子だ、と彼は気付くことができた。
「そう言えば、父さんさ、はるかさんの心配をしていただろう? 本当に置いていってもいいの
かって」
 峰山は、頬を掻いて照れくさそうに俯いた。まるで少年のような峰山の仕草は、つい先日まで
彼と変わらない背丈だったとは思えないほど、縮こまって幼ないものだった。
669 :指の味(お題:無人島)12/12 ◆xaKEfJYwg. [sage]:2012/10/21(日) 22:40:46.56 ID:ntipIurfo
「もう、父さんっていうな。怪しまれるからな。年の離れた弟ってことにしといてくれ」
「父さんは、なんだってそんなに若返ったんだ。長らく人前で父さんのことを『父』と呼んでな
いんだぞ。俺は情けないよ。本当に……うっ」
 彼は、急にこみ上げたゲップをした。彼の口から、女の人差し指が飛びだして甲板の床に落ち
た。その細長い指の爪を摘み上げて口の中に放り込む。
「な、若返ったほうがいいだろう?」
 峰山はしたり顔で彼を見やる。はるかがいなければ、捕食できないまま彼は朽ちて死んでいた
だろう。彼は心の底で、一人にしてくれなかったはるかに歯痒い気持ちを抱きながら、彼女の指
を咀嚼した。

 END
670 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/10/21(日) 22:52:07.98 ID:g28UmGLy0
この流れに俺も乗ろう。投下します
671 :それはまだ無題の物語 (お題:ブックカバー) 1/7 [sage saga]:2012/10/21(日) 22:53:06.28 ID:g28UmGLy0
「それじゃあ、ゆーちゃん悪いけどウチの馬鹿息子よろしくね。じゃあこれ鍵ね」
「はーい、いってらっしゃいおばさん」
 知り合いの母親が出かけて行くのを見送ったあと私はその人の家にあがった。
その馬鹿息子、私はシュウと呼んでいるが、そのシュウとは幼馴染みであり、幼稚園から
今現在の高校にいたるまでの半分以上が同じクラスになるという腐れ縁でもあった。
その彼が風邪で寝込んだ。
シュウの両親はちょうど二人とも外出するとの事で、その不在の間の看病を私は二つ返事
で引き受けた。
 なぜかと言うと、私には分かっているからだ。
 風邪の時のダルさ、すぐそこにある水に手を伸ばす事すらも億劫な事。そして、今年の
インフルエンザはタチが悪い事を。
 つい先日私が風邪を引いたときは、シュウが見舞いに来た。というかノートを写しに私
の部屋へと来た。それはただの口実だったのかもしれないとその時も今も思っている。な
ぜなら、シュウが率先して勉強なんてするはずがないからだ。
 ともあれ、嫌だったけど彼のしてくれた看病には感謝している。だからという訳でもな
いけど、偶然にも「お返し」することになった……。
「なんて言うか、その……伝染してごめん」
 小さく呟いたつもりだったが、その声は何一つ物音のしない正面のドアから跳ね返り、
廊下、そして家全体へと響いて行ってーー私が拒絶された様にも感じた。
「シュウ? 入るよー」
 気を取り直して、ドアをノックしながら声をかける。返事はない。
「入るからねー」
 意を決してドアを開け、その部屋の中へと足を踏み入れた。
 シュウの部屋は、前に来た時と変わらずにわりとこぎれいに片付いた感じの部屋だった。
 ちょっと腹立つ。
「うぁ?」
 部屋を見回す私に変な声がかかる。その方向に目を向けるとシュウが目をこすりながら
もぞもぞと上体を起こそうとしていた。
672 :それはまだ無題の物語 (お題:ブックカバー) 2/7 [sage saga]:2012/10/21(日) 22:53:53.94 ID:g28UmGLy0
「寝てなきゃ」
「……んー、ちょっと、なんだか。大丈夫? な気がしていきたい?」
「うん、そうか、わかった。寝てろ」
 意識のはっきりとしないシュウにそう言いながらすぐ近くにあったコップにその隣に
あったペットボトルに残っていたポカリを移し替えて渡した。 
「……っ……っ……っはぁ。母さんおかわり」
「誰があんたのお母さんか。あともうないよ。下から持ってこようか?」
 ちびちびと飲んだとしてもほんの僅かな量のポカリではやはり足りなかったようだ。
私はシュウ突っ込みを入れながら空になったペットボトルを見せる。
「……あれ、ゆー? 母さんはいないのか?」
「さっき出かけて行ったよ。今日夜飲み会あるから帰ってくるの遅くなるってさ」
 意識がハッキリしてきたようで「なんて親だ」と悪態をつく余裕もあるようだ。
「じゃあ、ちょっと下からもってくるから待ってて」
「うう、いつも世話をかけるねぇ……」

「ホントにね。これで、よし」
 私はすべての品を冷蔵庫に詰め込み終えると確認するように言った。
調理台の上には空になったスーパーのレジ袋。それを三角形に畳んだ後、アセロラドリン
クのペットボトルを持ってシュウの部屋へと戻る。
 結局、下の階の冷蔵庫に予備のポカリがないか探しにいった私は、ほぼ空っぽだった冷
蔵庫の中身に愕然とした。再びシュウの部屋に戻り希望を聞いてから私はスーパーに買い
物に出かけた。ほんの一言を言わせてもらえるとするならば、「なんて親だ……」
「シュウ、帰ったよー。ご希望のアセロラ買って来たよ」
 ついノックもせずに部屋のドアを開けてしまった。
「うあ!!」
「シュウ!? 何してんのあんたは!!」
 突然の私の声に飛び上がりそうな声を出すシュウと、目の前の光景に声をあげる私。
673 :それはまだ無題の物語 (お題:ブックカバー) 3/7 [sage saga]:2012/10/21(日) 22:54:35.82 ID:g28UmGLy0
 シュウは眠ってはいなかった。これはべつにいい。問題があるとするならば、それは、
風邪なのに布団をかぶって机に向かって何かしていた事だ。多分パソコンの操作をして
いたのだろう。インフルエンザなのだから今くらいは静かに寝ていて欲しかった。
私が伝染したというのはまた別の問題だしこの際どうでもいい。
「寝・て・ろ!」
「イ・ヤ・……わかったよぅ」
 私がブチギレル寸前に危険を察知したシュウは渋々言われた通りにベッドへと引き上げ
る。私の目前を通り過ぎる時「ふふ、しかし粗方終わってるぜ」などと意味不明な事を口
走って満足そうな笑みを浮かべてた。
「……風邪、悪化してるんじゃないの?」
 シュウのおでこに手を当ててみると、結構熱がある事が分かった。と言っても元々どの
くらい熱があったのか分からない私は、そういう疑惑を向けてみるしかないんだけれど、
「い、いやいやいや! だい、ダイジョウブ!」
「うん、そうか、わかった。寝てろ。そして二度と起きるな」
 激しく否定するシュウに私の感じた疑惑は確信となった。
 アセロラドリンクを一杯飲ませた後、ベッドに寝かせて。また動き回らないように見張
る事にした。私が看病に来て悪化しましたなんて言ったら合わす顔もないからだ。
 シュウはすぐには眠りにつけないようで布団の中でもぞもぞと寝返りを打ち続けていた。
 シュウの立場に自分に置き換えてみると実に嫌な気分だ。異性が自分の寝ているすぐ隣
にいる状況は考えるまでもなく気恥ずかしい。というか私は恥ずかしかった。
なのに先日のシュウはそんなことお構いなしに私の隣で授業のノートを写していた。
私は心を鬼にして、そうこれは『フクシュウ』なのだから、と自分に言い聞かせる。
 気がつくとシュウはいつの間にか眠りについていた。まあ、私もそうだったからこれは
別に驚かない。がしかし、シュウの寝息を聞いていると今度は私が気恥ずかしくなって来
た。
 気を紛らわせようとシュウの部屋を見回す。相変わらず物が少ない。
674 :それはまだ無題の物語 (お題:ブックカバー) 4/7 [sage saga]:2012/10/21(日) 22:55:22.63 ID:g28UmGLy0
 物が少ないというのは正しい表現ではなく、机の上に載ったノートパソコンとその周辺
にある外付けの機器類。あと本棚にぎっちり詰まった本。これらはかなり多い。
ただ、それらはちゃんと整理されて配置してあるので、実際より物が少ない印象を受けた。
「おやおや〜」
 本棚の隅に数冊だけ茶色いブックカバーのかかっている本を見つけた。他の本にはそん
なものはかかっていないのにその数冊だけ。とても不自然に感じた。
「えっちな本かな〜♪」
 内心悪いかなと思いつつも、即座にその本を抜き取った。
ベッドの下とか、タンスの奥とか、パソコン内部を宝探しするよりかは数段ましなはず。
というかこれは先日の復讐なのだから。
 わくわくしながら本を開く。
 予想に反して、それはごくごく普通の小説だった。ただ私の知っている小説よりも一つ
一つの話はとても短い頁数で構成されていて、そして面白かった。
それと茶色のブックカバーはボロボロで、いや、そのブックカバーだけではなく本全体が
すり切れていたり、変色していたりでボロボロだった。
 古本屋で買ったのだろうか、それともシュウもこの本を夢中になって何度も読んだのだ
ろうか? 
 それから私はその本を読みふける。七時位にはおかゆを作ってシュウの口にねじ込んで、
薬も飲ませ、そして引き続き読みかけの本を読む。
 ブックカバーのかかった全ての本が読み終わった時にはすでに午後十一時近かった。
「シュウ、私そろそろ帰るけど、気分はどう」
「……食い過ぎて気持ち悪い……今動くと、戻すかも」
 それは何よりだ。ゆっくりと寝ているといい。
 満足して帰ろうとした時、シュウの電話が突然鳴り始めた。
「……しまった、じゅういちじ、うっぷ」
 アラームをセットしていたのだろう。それを止めると、シュウは起き上がりたそうにす
るも、起き上がれずにいた。
「時間が、非常に……まずい、かも……快心の、作なのに」
675 :それはまだ無題の物語 (お題:ブックカバー) 5/7 [sage saga]:2012/10/21(日) 22:56:02.99 ID:g28UmGLy0
「何が?」
 布団の縁から目を覗かせてチラ見してくるシュウがだんだん腹立たしく思えてくる。
「……背に腹は……変えられないか。ゆーちょっとお願い。
 の前に、ネットの掲示板……に書き込んだ経験は?」
「いつぞや誰かさんが自演やるとかで私に協力を求めて来て、私のパソコンにソフト入れ
て書き込みさせた事をお忘れで?」
 ちょっと強い口調で言ってみる。気持ち悪いと言っているけれど、今シュウの頭を叩く
事ぐらいはしていいだろうか。あのときは大変だった。
「……おねがいしまふ」
 やる事は実に簡単だった。専用のソフトを立ち上げ、テキストファイルにまとめられて
いる文章を順番に書き込んでいくだけ。ただそれだけのようだ。
 予想外だったのは、パソコンの壁紙が何の面白みもない単色のブルーであることだった。
本当につまらない。
「最後のレス……今何て書いてある?」
 シュウの声が拡張子でのファイル検索をしたい衝動に駆られている私を留める。
「お題クレ」
 どうやら今が書き込むチャンスのようだ。私は言われた手順でコピペと書き込みを繰り
返す。それはシュウの書いた小説のようなもの、だった。
「私がおかゆ作っているときもパソコン使っていたでしょ? 何でその時書き込まなかっ
たの?」
 私は気がついていた。部屋を出る前と戻って来た後では椅子の角度と、マウスの位置が
若干変わっていた事を。だけどその時読んでいた小説の続きを早く読みたかったから、そ
の事について追求は特にしなかった。
「う……い、一流のエンターティナーは……タイミングすら演出の」
「終わったよ」
「アリガトウ……うう」
 恥ずかしいのか、気持ち悪いのか、シュウは布団を被って呻いていた。
676 :それはまだ無題の物語 (お題:ブックカバー) 6/7 [sage saga]:2012/10/21(日) 22:56:47.42 ID:g28UmGLy0
『>>〇〇さん。作品タイトルはないの?』
 全ての書き込みが終わり画面が更新されるとともに、音が鳴りウインドウがポップアッ
プした。アンカーが掛けられているのに気がつき、その内容をシュウに伝えた。
「……む、無害」
「無題です、っと。送信」
 最期の力を振り絞るように、シュウは言った。
私は言われた通りに画面の向こう側に居る名も知らない者達に通知した、それでようやく
代行作業は終わりのようだ。
 板名とスレッドタイトルは覚えたから、帰ったらシュウの書いた物をゆっくり読んでみ
よう、と私は思った。

 他人事なのにちょっとした達成感を感じつつパソコンを終了させてノートパソコンの蓋
を閉じる。そこで私はようやく目的の物を目にすることが出来た。
「そうそう、引くくらいのこういう物を期待していた」
 私が見たそれは、本体の保護を目的としている訳ではないだろう。そのノートパソコン
の蓋に、トップカバーには全裸に近い可愛い女の子の絵が描かれていた。
 私はその絵を指でなぞり、寝込んでいるシュウを一瞥して一言つぶやく。
「……これが、あなたの物語の表紙を飾るモノ」


677 :それはまだ無題の物語 (お題:ブックカバー) 7/7 [sage saga]:2012/10/21(日) 22:57:26.41 ID:g28UmGLy0
「>>〇〇さーん、品評会は来週ですよー」

「早漏乙だな」

「遅筆の>>〇〇さんは次回不参加か。仕方ない」

「遅筆なのに早漏とはこれいかに」

「誰か、このレスを読んでいる誰か。
>>〇〇さんの代わりに次回品評会作品を書いてください。お題は『女の子』です」

 私は自分の部屋でそれらのレスを読んだが、これはシュウには黙っておくことにした。

おわり
678 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2012/10/21(日) 23:01:48.56 ID:7DFAFOGJ0
>>655-656
読んだ。
ちょいちょい目に付く表現はあったが、まあまあ楽しめた。
しかしそれはテンプレート的な楽しさであり、作品のオリジナリティという点の面白さは見つけられなかった。
例えるならこれはレシピ通りに作った料理のようなものだと考える。
食べるのに問題はないが、味についてはさして特徴的なものはない。
そして、小説において、それが致命的であることは言うまでも無いことだと思う。

オリジナリティが無いと感じた原因は、オチがしっかり書かれていないからだと思う。
Aが見た怪物はなんだったのか、なぜ消えたのか。
Aは葉書を投函してどうなったのか、どこへ行ったのか。
読み返してみても、謎をばら撒くだけばら撒いて一切回収されていない。
これであれば、まず作品の根幹である怪しいポストの存在が薄くなる。
つまり極端な話、ポストである必要がない。自動販売機でも、すべり台でも、ゴミ箱でも、なんでもいい。
ポストというものに対する特徴をもっと作品に絡めれば、きっといい作品になる。そう感じるほどの筆力は読み取れた。
なので、もう一歩、踏み込んだストーリー作りを目指して欲しい。

それと余談だけど、ポストというお題はいいとして、玉手箱のほうはどうなったんだろう……
そのお題を出した身としては、少し寂しいよ
679 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/10/21(日) 23:35:10.00 ID:ntipIurfo
>>655-656
読みました。説明を重ねて雰囲気を作る工夫はとても良かったと思います
僕たちの戦いはこれから始まる! といった投げっぱなしに見えたのが残念
世にも〜とか、トワイライト〜みたいな雰囲気を出すとしても、投函してからの
話の展開が一番面白いところなんじゃないかなーと思いました。
こういう不思議ちょいコワ系って、とんでもないユーモアが必要だよなぁ……

>>671-677
読みました。とても難しかったです
これは、bnskに投稿する少年がインフルに掛かって、少女に看病されるっていう
話でいいんでしょうか。最後のオチが良く分からなかったので、消化不良
あと、私の文章もなんですが、指示代名詞が目立ちますね
初めの三行目から八行目までの五行で、『その』を五回も使っています
『その』に限らず、『そ』から始まる代名詞や接続詞を削れば、
もっとすっきりすると思います

私の通常作も、長いですが感想くださると嬉しいです
680 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/10/22(月) 10:42:08.08 ID:nyfntvfYo
>>658 読みました。
全く面白くないということはないんだけど、よく理解できない部分がありました。

男が本当に喰いたかったのは良子、しかし主人公を喰う気になったというのは分かった。しかし、
・主人公の無人島に名前をつけたい発言、本当に何回も島に来てるの?
・何故あの場所で捕食した?(場所が決まっている? 峰山も同じ場所で捕食したの?)
・もし場所が決まっていない場合、なぜ良子を無人島以外で捕食しなかったのか?
・男が主人公を喰うことにした理由は何なのか(好きになった人を喰う、という縛りがある?)

二十年に一度の捕食、しかも複数は喰えないみたいだから、捕食に何か縛りがあってもおかしくない。
ただ、峰山はあっさり捕食している気がするし、種族全体の縛りではないのかも。
そのあたりの情報がもう少しあれば、と思いました。

……よく読めば最後に峰山が、捕食の対象は
「姿を消して困る(困らない、の間違い?)」じゃないといけないと言ってますね。
やっぱり良子じゃなく主人公じゃないと駄目?

よく分からなくなってきたので、解説いただけると嬉しいです。

なお、情景描写は分かりづらいところはなく、グッドでした。
681 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/22(月) 19:59:33.08 ID:48AJyPNzo
通常作失礼します
682 :現代に生きるということ(お題:契約)1/5 [saga]:2012/10/22(月) 19:59:59.93 ID:48AJyPNzo
 飛び下りができそうなところって最近はないよね。千夏が突然妙なことを言い出した。
「飛び下り?」
 雄介が聞き返すと彼女は深く頷いて、綺麗に茶に染まった髪がふわりと揺れた。
「だってそうでしょ? ガッコの屋上はだいたいどこでも立ち入り禁止になっちゃってさ、ビルやマンションも
同じ感じ。屋上に出れるとこでも高いフェンスがあって越えるのだるいし」
 清水寺のアレだってもう飛び下りれる場所じゃないしね。彼女はこの喫茶店で一番高いアイスを掬いながら不
満そうに口を尖らせる。
「飛び下りたいのか?」
「え、なんで?」
 彼女は目を丸くした。
「飛び下りれる場所がないって話をしただけで、飛び下りたいってことになんの? おっさんって変だね」
 よりによってお前が言うか、と雄介は思う。最近の若いのって皆こうなのか? 十数歳違うだけでもう話が通
じない気がする。雄介にしたってぎりぎり二十代ではあるのだが、それとももしかしたら女子高生というのは特
別変わった生き物なのかもしれない。ここ近辺の学区で一番人気という制服を眺めているとそういうふうにも思
う。
「まあ、飛び下りれる場所があったら、考えないでもないけどね」
「考える?」
「そう。飛び下りたらどうなるのかなって」
 どうもこうも、死ぬか怪我するかだろう。この娘はずいぶんとゆるい頭なんだなと雄介は呆れた。
「やっぱりあたしにも代わりはいるんだろうな、とか」
「え?」
「ねえおっさん、アイスもう一つ頼んでいい?」
 空になった器を脇にどけ、千夏は上目づかいでこちらを見つめる。
 雄介はため息をついた。
「聞く必要あるか? 俺はお前の言うことを何でも聞くって契約なんだろ」
 彼女は意地悪く笑って、それから店員を呼んだ。
683 :現代に生きるということ(お題:契約)2/5 [saga]:2012/10/22(月) 20:01:42.97 ID:48AJyPNzo
 通常会社員と女子高生に接点はない。親子や親戚ならばなくもないだろうが、それを除けば普通はない。一週
間ほど前には雄介と千夏にもなかった。
 ある夜、雄介はビルとビルの間の細い路地でライターに火を灯していた。十月も終わりが近く、空気は冷たか
った。ちらちらと揺れる火はかすかに吹く風の中でいかにも頼りなかったことを覚えている。ちょうど細く尖っ
た月が真上に来ていたのも。暗闇の中、一人凍えるような心地で火を手に月を見上げていた。
「煙草一本ちょうだい、おっさん」
 突然の声に驚いた。月を見ていたので当然視線は真上。人が近付いてきていたのに気づかなかった。目を向け
ると少女が路地の入口に立っていた。見覚えのある制服。近辺の高校のものだと思い出した。
 いきなりのことに呆けていると、彼女は何の気負いもなくすたすたと気負いなく近寄ってくる。
「聞こえなかった? 煙草だよ、た・ば・こ」
 雄介の咥えたそれを指さして言う。妙に親しげな様子に流されて、なんとなく一本を渡してしまった。
「……どこかで会ったっけ?」
 訝しく思って聞く。彼女は火を点けてやった煙草を口から離し、千夏、と一言呟いた。
「チナツ?」
「そう。あたしの名前。城崎千夏」
 記憶にない名前だった。千夏と名乗った小柄な少女はふうっと紫煙を吐き出し、おっさんの名前は? と訊ね
てきた。答えると、雄介、雄介と、口の中で数回呟いてから、
「駄目だね。やっぱおっさんって呼ぶよ」
 などと言い放つ。変なやつだな、と思った。もし気が向いていたら雄介とでも呼ぶつもりだったのだろうか。
そういえばそうだ、千夏は最初から変なやつだった。
「おっさんはなんで放火なんかしようとしてるん?」
 雄介は静かに、何のことだ、と返した。
「いや、放火しようとしてたでしょ。おっさんの足下にゴミ袋がたくさんあって、なんか油みたいのがかかって
るし。ライターで火をつける直前! って感じだったし」
 しげしげとそれらを見ながら言う。うかつだったな、と雄介は胸中で苦笑した。全く気づいてないもんだと思
ってた。なんか変な女子高生が煙草欲しさと興味本位で近寄って来たもんだと。名前を教えてしまった。この娘
が警察に行けば、それで終わりだ。黙り込んだ雄介を見上げて、千夏は肩をすくめてみせた。
「契約しようよ」
「え?」
 唐突な言葉に戸惑った。
「あたし、今夜のこと黙ってるからさ。おっさん、あたしの言うこと何でも聞いてよ。いいでしょ?」
684 :現代に生きるということ(お題:契約)3/5 [saga]:2012/10/22(月) 20:02:12.62 ID:48AJyPNzo
 それって契約じゃなくて脅しじゃないか? そう訊ねたこともある。彼女はこう答えた。別に捉え方一つじゃ
ん? それとも何? 女子高生に弱みを握られたしょぼいおっさんってスタンスがいいわけ? まあ確かに格好
はつく。かもしれない。彼女の言う通り契約と認識することにした。
 千夏は学校終わりにたびたび雄介を呼びだした。そのたびに間食やら夕食を奢らされた。他愛もない話を聞か
されて、それでも契約のために嫌とも言えない。
「ペットのハムスターが死んじゃった」
 ある日、千夏がそんな話を切り出した。いつも通り脈絡なく、唐突な切り出しだった。もう慣れたが。
「朝起きたらぐったり、冷たくなっちゃっててさ」
「それは残念だったね」
 コーヒーをすすりながら答える。本当のところはどうでもいいなあとか思いながら。千夏は顎に手を当て、う
ーん、とうなった。
「そうだね、残念だったかも」
「かもってなんだよ」
「だあって、仕方ないじゃん」
 と、千夏は笑った。
「もう三匹目だもん、慣れるよ」
「最近の若い奴って、感性が死んでるんだな」
 顔をしかめながら言うと、千夏は微笑んだまま答えなかった。何だよ、と問うと、千夏はまた話を変えた。
「パパはあたしが十二歳のときに死んだんだ」
 ぎょっとした。いきなり重たい話かよ、と。
「その時は一応悲しかったんだけど、なんかすぐ忘れちゃった」
「どうして」
「ママが再婚して、新しく来たパパがこれまたカッコいい人でさあ。優しいし、もう言うことなしで」
 嬉しそうに言う千夏を、驚きから立ち直った雄介は、半分閉じた視界から眺めた。やっぱり最近の若いのは感
性がおかしい。
685 :現代に生きるということ(お題:契約)4/5 [saga]:2012/10/22(月) 20:02:42.36 ID:48AJyPNzo
 またある日のこと。
「おっさんって、なんで放火なんてしようとしたの?」
 夕暮れの大通りを歩きながら何気なく言うのでびっくりした。誰かに聞かれたらまずいだろ。
「なんで……って」
 辺りをそれとなく警戒しながら声をひそめて答える。
「何でもいいだろ。犯罪に全部意味があると思ってるのか」
「でもあれ、おっさんの会社のビルだったじゃん」
 なんで知っているんだ。怪訝な目で千夏を見た。
「まあいいじゃん。それよりなんで? 会社に不満? ぶっ壊してやりたかった?」
「……そんなところだよ」
 実のところ。本当の理由は雄介本人にも分からないのだった。ただ、燃やしたら綺麗だろうな、と思って、準
備した。ぶち壊してやりたかった、というのも嘘ではないが、なんだろう、何か説明できないしこりのようなも
のがある。千夏はそんな雄介の様子をじっと見つめた後、こう言った。
「おっさんの代わりなんて、きっといくらでもいるよね」
 一瞬、なにを言われたのか分からなかった。
「もし仮におっさんが会社辞めても、誰か別の人が雇われて仕事をする。もしおっさんがいなくなっても、死ん
じゃっても、それは同じだよね」
「何言ってるんだよ」
「あたしも同じ。ちょっと前にさ縁切ったんだ。友達やカレシと」
「縁を切った?」
「でもおっさんで十分代わりになっちゃった。言うこと聞いてくれれば誰でもよかったんだね、多分。そんでそ
れは向こうも同じだよ。あたしの代わりなんていくらでも」
 言葉が出なかった。じゃあね、おっさん。千夏が走って行っても、しばらく立ち尽くしたままだった。後ろか
ら声をかけられるまでぼうっとしたままだった。
「よう中川。見てたぞお。女子高生とデートかよ」
 会社の同僚だった。
「どうやって知り合ったんだよ。まさかエンコーじゃないよな?」
 なあ、と雄介はその同僚に訊ねた。お前が死んだら、やっぱり代わりはいるのか? 同僚はなんだそれ、と顔
をしかめた。
686 :現代に生きるということ(お題:契約)4/5 [saga]:2012/10/22(月) 20:03:30.30 ID:48AJyPNzo

……

 誰もが倦怠感に包まれている。人気アイドルのヒットソングでは、かけがえのない君などと歌われているとい
うのに、それは嘘だと気づいているからだ。みんなだるくてだるくて仕方がない。何かを失っても、誰かが死ん
でも、代用品はきちんとある。自分が死んでも変わりはいることを誰もがうすうす知っている。雄介が放火しよ
うとしたのは、きっとそんな現実に嫌気がさしたからだ。どんなにあがいても仕方がないことを理解しつつ、そ
れでも抵抗せずにいられなかったのだ。

……

「どこに行くんだよ」
 夜道の先を千夏が行く。遅くに呼び出されて、雄介は不機嫌だった。眠い。明日も早い。
「ちょっと素敵なとこ」
 ふと思いついて、訊ねる。
「飛び下り?」
「外れー。言ったじゃん。今日びそんなことできるとこないって」
 街灯の光を反射して、千夏の茶髪がかすかに輝いていた。暗闇の中で、それはどこか頼りない。
 住宅街を抜けると踏切が近付いてくる。その向こうはビルが立ち並ぶ区画になる。夜にそびえる巨人のような
影。
 踏切の真ん中で、突然千夏が振り向いた。
「おっさん」
「なに?」
「契約、最後にお願いしたいことがあるんだけど」
「どんなことだ?」
 ええとね、と、千夏は言葉を選んだようだった。あまり高いものは奢れないぞ、と雄介は釘を刺した。給料日
前で、もうかつかつなんだ。
「実験かな? 手伝ってほしいんだけど」
「実験? ってどんな」
「言ったじゃん、あたしが死んでもきっと代わりはいるって。それを確かめて欲しいんだ」
 よくわからない。いつも変なことを言う奴だとは思っていたが、今夜のこれは一番分からない。どういうこと
だよ。言った瞬間に警報機が鳴り出して、雄介は身をすくませた。
「頼むよ、おっさん!」
 遮断機がゆっくり下りてくる。その内側で、千夏は大きく手を振る。満面の笑顔を浮かべながら。雄介は訳が
分からず動けなかった。
 誰もが倦怠感に包まれている。浮かんだのはそんな言葉だけだった。

(おわり)
687 :お題」 玉手箱、ポスト 2/2 ◆4PWx59VIP2 :2012/10/22(月) 20:32:19.94 ID:xIEiIc9Qo
お題くさい
688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/10/22(月) 20:32:55.19 ID:xIEiIc9Qo
けしてなかたわろ
689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/22(月) 21:41:25.08 ID:uH5FoLXSO
カンファレンス
690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/10/22(月) 23:31:35.98 ID:68DVCzEZo
>>680
感想ありがとうございました。
せめて彼に関する説明をもう少しだけでも加えれば良かったと反省しています。
>よく分からなくなってきたので、解説いただけると嬉しいです。
とのことなので、質問に一つずつ「こんなつもりで書いた」という返答をします。
これだけ長い文章を読んでもらって、伝わらなかったなら仕方がない、というのは傲慢かなと思ったので。

その前に、
>「姿を消して困る(困らない、の間違い?)」じゃないといけないと言ってますね。
 私の大間違いです。これじゃぁ次の『彼』の「日本は本当に管理されている」という
 言葉に繋がらないですものね。正しくは、「姿を消しても困らない人間っていうのは」です。

・主人公の無人島に名前をつけたい発言、本当に何回も島に来てるの?
 「無人島に名前をつけたい」と言ったのは彼です。また、彼がこの島に上陸したのは初めてのことです。
 この島とは別の無人島なら、無人島好きである彼ならば多分行ったことがあるかもしれません。

・何故あの場所で捕食した?(場所が決まっている? 峰山も同じ場所で捕食したの?)
 あの場所というよりは、無人島であることに意味があると彼は思っていました。←この部分が一番説明するべきところだったのかも
 峰山は、女と去り次に島に上陸したときには一人だったことから、他の場所で捕食したのでしょう。
 はるかにとって峰山が幼くなったことなど興味ないので、彼の動作以外はごっそりと省きました。
 山道を三人で登るときには既に峰山はある程度若返っていたのです。ということで、場所は決まっていないということになります。

・もし場所が決まっていない場合、なぜ良子を無人島以外で捕食しなかったのか?
 これも、「誰もいない無人島で二人、好みの女性と捕食するという(はるかの言葉を借りるなら)崇高な行為をしたい」
 という彼独自の考えからでした。
 この話を書くにあたって一番難しかった捕食シーンは随分と悩みました。メッセージ性と勢いのあるはるか視点か、分かりやすい第三者視点か。
 なぜなら、彼は球体になったわけでもなんでもなく、ただ自信の放つ匂いではるかを酔わせ恍惚のままに食っていったからです。
 そうだよ、と思わせるための形の残ったはるかの指だったのですが、分かりづらぎました。
 はるかの体から水分が漏れ出したのなら、指だってしわくちゃじゃーん! これじゃあ思わせることすらできませんね。
 もう少し考えるべきでした。反省しています。

・男が主人公を喰うことにした理由は何なのか(好きになった人を喰う、という縛りがある?)
 概ね正しいです。好きになった人を喰うという行為が彼のポリシーだったのかもしれません。
 縛りではないと思います。峰山は、若返ることのできそうな適当な女性を見つけて喰っているという様子だったので。

お題を頂いたとき、書きたいと意欲を持ったのは「無人島の二面性」でした。本能を開放させることのできる無人島と、ロマンチックで美しい理性
といったものです。ですから、男は女を食いたくて仕方がない。女は男と甘いひと時を過ごしたい。二人を対比させて書き始めました。
滑稽な女を、惨めに思い同情し続ける男。魅力のない(それでも食したい)女の姿を眺め続けるうちに、生きる気力を失くしていた男は
女の幸せを求める力に圧倒される……。力及ばず、書ききれずこんな補足レスで書いていることが、本当に悔しいです。

ここまで読んだなら分かるとは思いますが、彼の種族に関する細かな設定は特に決まっていませんでした。
私も返答をしながら、多分こうではないのかな……と手探りで推測するだけで精一杯でしたし。
捕食する種族と、される人間といった相容れない葛藤だとか、SFものに登場するような怪物のディテールは正直どうでも良かったのです。
ですが、そこに多くの疑問を抱いたということは、あまりにも適当過ぎる設定が話自体をつまらなくさせたのだと思います。勉強になりました。
長文失礼しました。
691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/10/23(火) 20:02:13.07 ID:bCC86O9Zo
お題ください
692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/10/23(火) 20:46:35.03 ID:YpDAbIrqo
>>691
チーズ
693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/10/23(火) 20:52:08.76 ID:br7VMN0T0
お題お願いします
694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/10/23(火) 20:53:47.15 ID:bCC86O9Zo
>>693
常勝
695 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2012/10/23(火) 22:15:52.99 ID:7o+iqv+X0
>>658
最初「彼」の無人島が好きというのは捕食の為に対象者を無人島に連れ出す為(怪しまれないため)に恋人に公言しておいた嘘だと思った。
なぜなら、船は3日に一本来る事は分かっていたのに何で彼は2日目に「火でも焚いて向こうに俺のことを知らせようと思った」
と言ったから。無人島が好きならあと1日くらいサバイバルを楽しめばいい気がしたからそう考えてしまった。

無人島(離れ小島)なのに定期船が出ているのはなぜなのか。
>そんなに急いでも、無駄だったな。終わったんだよ。君の夢は」
彼は何か急いでいたのか?何が出来なかったのか。彼の夢とは何だったのか。……何もわからなかった。

>>679
指摘されるまで特に気づかなかったけど、確かにその表記は多かった。
オチとしては「シュウの投下させたのは品評会作品。週末品評会作品の投下は開催中の時間内に投下しないと意味ない。で、週末品評会の開催は話の中では来週。
そしてシュウは遅筆。ゆーがその事(フライング)を教えたら風邪を押してまた書くだろうから黙っていよう。」
今見ると色々状況やら説明を端折ってたり、書き忘れていたり。
696 :お題「チーズ」1/2 ◆4PWx59VIP2 [saga]:2012/10/25(木) 21:39:44.15 ID:eydcOpXro
 星を見るとチーズを思い浮かべる。空というパンに散りばめられたチーズの星々。暗い路地に身を潜め、
待ち人のわたしは、チーズについて思いを馳せた。誰もが耳にした事のあるこの発酵食品は、様々な製造方法により、
そのバリエーションは多岐にわたる。健康食品としてのチーズであったり、料理のスパイスとしてのチーズであったり、
ひとえにチーズといっても、奥が深い代物なのだ。
 加工ひとつで味もカタチも変わる、千の顔をもつチーズは、わたしにとって最高の食材であり、嗜好品であった。
チーズを食べ続けるうちに、わたしの中である一つの欲、希望が浮かび上がるのは当然である。もっと美味しい
チーズが欲しい、もっと奇抜なチーズが欲しい、と。
 そしてわたしはその奇抜で美味だと噂の、あるチーズの製造方法を手に入れることに成功した。それはとても
難しく、また、いまの地位、身分を守るためには、罪を犯さざるをえない方法でしか手に入れられないものだったが、
そんなものはチーズに魅入られたわたしにとって、路傍の石のように些細な問題であった。要は見つかりさえしなければよいのだ。
露見すればつかまり、法で裁かれるだろう。しかし、それは捕まった場合の話であって、捕まらない確信があるのなら、
罪を犯すことに躊躇などしないとわたしは考えている。人類みな兄弟とは建前であって、そんなことを本気で信じている
輩などいやしないだろう。法に穴があり、どうしても欲しいものがあるのなら、わたしは犯罪を犯すことをためらわない。たとえそれが、凶悪なことであろうとも。

 チーズに出会い、その味の虜となったのはいつ頃だったろうか。元々わたしは、チーズなどの醗酵食品が
嫌いであった。それは、子供の頃に食べさせられ、以後目にするのも嫌なあの納豆といわれる腐れ豆のせいであった。
グロテスクに変色した大豆と、あの独特な臭いは、いい歳になった今でも、見るのも嫌な代物である。
だから、わたしがチーズを始めてみたとき、納豆と似た製造方法と、その独特な臭いから、これはダメだと、
食わず嫌いで過ごしてきたのだが――ああ、あれはいつ頃だったろうか。確か中学のころだと思うが、そう、
あの年代にはよくある誰かをちゃかしてはその様をみて笑う、といった行為に、しばしば夢中になるものである。
かく言うわたしもその一人で、友人の苦手なものを見つけては、度々目の前にかざしたりしてその嫌がる様を
楽しんだものであった。そしてわたしも度々いやがらせに晒されたのだが、そのときの一つに、チーズがあったのだ。
ぼやけた記憶を手繰るに、そのときわたしはある賭けに負け、罰として指定されたものを否が応でもやらなければ
ならない立場に立たされていた。そして出てきたのが、コッペパンにサイコロチーズをまばらにまぶしたもので、
それはその日の給食のパンだった。友人は目ざとく、わたしがパンを残したのを訝り、看過したのであろう、
わたしがチーズを苦手であることを。そしてパンをわたしの目の前にかざしたことにより、その疑いは明白なものとなった。
いやはや、そのときのわたしはなかばパニックに陥っていたと思う。
なにせ、わたしはチーズを食ったことがなく、もし、あの見るのも嫌な納豆と同じような代物だったとしたら、
などと考えると、その危惧はわたしの脳を侵食し、逃げろ逃げろと周波を送ってはわたしを参らせたモノだ。
しかし、あのころのわたし、いや、あの年代の少年となると、くだらない、ちっぽけなことでも、生き死にの
場面、とった具合に自尊心の塊であるから、当然わたしもその自尊心を守るべく、チーズを恐る恐る食してみたのだった。
パンを口に含み、友人たちがにやにやと見守る中で、わたしは実におかしなことに、呆けた顔をしていたように思う。
食わず嫌いで通してきたチーズは思いのほか、いや、しびれるような美味しさだったのだから、それも当然である。
 それからのわたしはチーズのとりことなり、チーズを追い求める人生を送ってきた。ナチュラルチーズだけでも
十を超える種類があり、その他におよべば、膨大といっても過言ではない種類にのぼる。
チーズ。それは好きではない人間にとってはただの食品の一つでしかないだろう。だが、わたしにとっては、
人生を彩るために必要な主役であり、花形なのだ。

 回想の終わりを知らせるように、コツコツとヒールの音を響かせて、この薄暗い路地へと入ってくる者がいた。
エモノだ。わたしのチーズを新たな境地へと導いてくれる素材が、わたしのほうへと向かってくる。不思議と緊張は
しなかった。ヒールの規則正しい足音は、エモノもまた、緊張とは無縁だと知らしめてくれる。それも当然だ。
この路地はエモノが毎日帰宅路に使う道であり、それはもういうならば勝手知ったる我が家のようなものだろう。
しかし、今日は違う。エモノは、自販機の陰に隠れたわたしに気づいてはいない。わたしは黒い服で身を包んでおり、
自販機の光の影に潜んでいる。そんなとき、人は影に注意を向けはしない。光が影を蔽い隠し、エモノの目を欺くだろう。
そして、背後から近づくわたしに気づかず、くもの巣にかかったエモノは捕食される運命なのだ。この世は弱肉強食であり、
弱きものは搾取されて当然なのである。それが、自然の摂理なのだ。
 コツコツと、ヒールの足音が徐々に近づいてくる。一歩、また一歩と。エモノがわたしの前を過ぎた瞬間、
わたしは陰から身を翻し、エモノに向けて手を振りかざした――。
697 :お題「チーズ」2/2 ◆4PWx59VIP2 [saga]:2012/10/25(木) 21:40:20.51 ID:eydcOpXro
 我が家の地下室はわたしの愛しいチーズを練成する場と化している。ここは色々なチーズを、様々な方法で実験し食すわたしの
憩いの場だ。そこへ、首尾よく捕らえたエモノを連れ込み、あらかじめ用意しておいたベッドに紐で括りつける。わたしよりも
大柄なエモノを運び入れるのには苦労したが、まあしかたのないことだ。わたしの条件に合う女性は、エモノである彼女以外
見当たらなかったのだがら。
 わたしが鈍器で殴った頭からはまだ血がこびりついていたが、もう出血はしておらず、血は凝固したようだ。
エモノにはしばらく生きていてもらわなければならない。ここまで順調に計画は進んでいる。あとは、エモノから
目的のモノ――母乳を捻り出し、それを醗酵させてチーズを作るのだ。そう考えると、にわかにわたしのボルテージは
上昇し、今にもエレクトしそうであったが、ここは我慢せねばならない。早まり、事をしくじってはこれまでの苦労が水の泡なのだから。
 わたしは高揚した気分を落ち着かせるため、今宵は寝ることとし、明朝、作業に取りかかる事にした。と、その前に、
エモノに猿ぐつわを噛ませることを忘れてはならない。寝ている間にぎゃあぎゃあと騒がれて事が露見する、なんて
馬鹿げた失敗はしないように、わたしはエモノの口にしっかと猿ぐつわをかませ、地下室をあとにした。

 明朝。目覚めたわたしを待っていたのは、えもいわれぬ高揚感であった。それは子供の頃、遠足に心をわくわくさせていた
童心のような、うきうきと心躍る感覚だった。わたしは朝食もそこそこに、いそいそとエモノのいる地下室へと足を向けた。
 地下室には窓がないため、電灯をつけなければ昼でも漆黒の闇に閉ざされている。わたしは電灯をつけたとき、エモノが
どういった反応を示すのか、内心興味津々であったが、残念なことにエモノはまだ夢の中のようだ。反応はなく、昨日と同じく、
ベッドにくくりつけられたエモノは意識を失っているように見える。いや、まさか死んでいるのではないのか……? 
不安に駆られたわたしは、急いでエモノの傍へと駆け寄り、脈を計ろうとした、そのとき――エモノが猛然と暴れ、なぜか
自由になっている片足をわたしに向かって蹴りだしてきた。
 エモノは女性にしては大柄で、小柄なわたしよりも身長があった。わたしよりも体積の多い身体から繰り出されたケリは、
見事にわたしの横腹を打ち、わたしを悶絶とさせた。痛みに呻くわたしを尻目に、エモノは括りつけていたはずの手足の紐を
手に、わたしの首へとその魔手を伸ばそうとする。わたしはパニックと痛みによって正常な思考はどこへやら、ただただ逃げる
ことだけしかできなかった。そこへ追い討ちをかけるような一蹴りが繰り出され、わたしのあバラを砕いたかと思うような、強烈な
リバーへの衝撃は、わたしの動きを止めるのに十分な威力だった。
 エモノはその隙を逃さず、わたしの首に紐をかけ、きりきりと締め上げてくる。わたしは死に物狂いで紐をはずそうと、エモノの
苛烈な行為を止めようともがくのだが、わたしよりも大きいエモノはわたしの反攻を凌ぎ、さらに首への圧力を加えてくる。
ここで、わたしは死ぬのか。ここで、こんなところで、わたしは――。

 目覚めたわたしを待っていたのは白い壁に白いベッド、それらを囲むように白いカーテンであった。
消毒の臭いに満たされたそこは、病院であった。白。白。白。病院とはなぜこんなにも白一色なのか、などと考えていると、
わたしを見に来たのであろう看護婦がわたしの起床を知ると、そそくさとどこかへ去り、いくばくも立たぬうちに
グレーのスーツに身を包んだいかにも刑事でござん、といった風情の中年の男がわたしの前へと来るなり、身元確認を
おこなった。いわく、わたしの名は、わたしの名前で間違いがないか。いわく、わたしの家は、わたしの住所で間違いがないか。
そして、女性を拉致監禁したことに間違いがないか。わたしはその刑事の質問に一切答える気はなく、ただ弁護士を呼んでください、
と繰り返すだけであった。

 そしていま、わたしはいわゆる豚小屋と呼ばれる留置所にいる。私選弁護士の言い分では、わたしの有罪はほぼ間違いないそうだ。
裁判までの日々を、わたしはここで過ごしている。わたしのあとにここへ厄介になってきた中年の親父は、チンケなスリ泥棒の
ようだったが、わたしの暇を潰すいい道具である彼に、わたしはその醗酵したかのような口臭から、ジョゼとあだ名をつけ、
折ある毎にジョゼと豚小屋で話に花を咲かせていた。

「――とまあ、わたしの顛末はこの通りだ。万全に思えた計画でも、穴はあるものだなと今更ながらに気づかされたよ」
「ふーん、どぢ踏んじまったなあお宅。あのときこうしていれば、なんて後の祭りだけどさ、あんたの話を聞く限り
ほんと、いまひとつのところでぽしゃったのは惜しいことだよなあ」
「そうだな、運命にもしもはないけれど、思いを馳せることをとめることはできないな。無駄だと知りつつも、あのとき
こうしていればと、悔やまない日はないよ」
「まあそうだろうなあ。わしもよくあるからわかるけど、あんまり考えないほうがいいぜ、精神衛生上、な。ところで、
なんであんたはわしをジョゼと呼ぶんだ?」
「……君はナポレオンを知っているかい?」
「なんだそれ、スパゲッティの話か?」
「ふふ、いや、違うよ。でも、知らないならそのほうがいいこともあるけれど……まあ、君はこの豚小屋で唯一の話し相手だし、
教えてあげてもいいかな。そもそもジョゼというのはね、ナポレオンの――」


698 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/10/25(木) 21:49:45.32 ID:eydcOpXro
odaikudasai
699 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/25(木) 21:56:15.10 ID:b/6Qd9ySO
>>698躍動感
700 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/25(木) 22:15:47.02 ID:sQQolOOIO
お題くださいな
701 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/25(木) 22:17:32.32 ID:b/6Qd9ySO
>>700ワルツ

あのSSの人やないですか
702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/25(木) 22:24:42.92 ID:sQQolOOIO
>>701
そうそうあのリベンジだと思ってくれさい
ワルツってどうすりゃいいの……orz
703 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/25(木) 23:19:58.71 ID:sQQolOOIO
なんか全然違うものになっちゃったけど、ワルツって男性と女性が二人で踊るものってことで勘弁してください。
それじゃ投下します
704 :車線上でワルツを(お題:ワルツ) [sage]:2012/10/25(木) 23:21:30.33 ID:sQQolOOIO
今月に入ってから痴漢を幾たびも繰り返しており、もうそろそろやめようやめようと自分に言い聞かせながらとうとう三十回目まで来てしまった。もしも人に見つかって駅員に突き出されでもしたら人生が一貫の終わりであるということぐらい十分承知しているつもりだが、いかんせん興奮の度合いが高すぎるのでいけない。こうした法律すれすれというスリルがそれを手伝っているのかもわからんが、とにかくセックス如きじゃ味わえないような興奮を痴漢によって味わえているのは事実なのである。朝イチの人でごった返すプラットホームを歩きながら、ターゲットの女性を探してうろつきまわり、お気に入りを見つけるとその人が並ぶ列へとさりげなく加わる。実はこの時点で私のはすでに勃起しているのだが、服に起立したモノを挟んで完全に直立させているため周囲の人間にバレることはない。私は安心して胸と股間を熱くすることができるのだ。事情を人が知ればどう考えても変態としか思えない行動だが、やめるつもりは毛頭ない。そうして電車を待つ真面目なサラリーマンやOLに変態を混ぜた列は、すでにすし詰め状態となっている電車が着くや否やぞろぞろとムカデのように動きだし、小さな扉に向かって突っ込む。このとき、人の雪崩に押し流されないよう、また女性に近づけるよう動くのは非常に難儀なのだが、それらの労働力を上回る快楽が先に待っていることを知る私は躊躇せずに動き回る。たまに動くなこのヤローなどと怒鳴られることもあるが、それも本当に気にしている人はいまい。大概の人は自分が電車に乗ることだけで精一杯で、不審者程度を気にかけている余裕などないのだ。もっとも、そうしたときの私はのりの効いたスーツでビシッと決めているために、アフリカの奥地に突然出現したぐらでもしないと見た目だけで不審がられることはまずない。典型的な真面目な会社勤めというわけだ。その真面目くんは人ごみの合間をぬって女性に忍び寄り、守備良くターゲットの横に立ち、大人しそうな顔で電車が動き出すのを待つのである。この間にも、すました顔して変態野郎という自分の姿を想像するだけでも非常に興奮しているのに、これから先にまだスリルと興奮が待っているのだと思うとさらにゾクゾクする。お楽しみはこれからだ!ってな感じである。そうこうするうちに電車ががたんごとんと動きだし、その音が高まり窓の外を景景色が流れるスピードが早くなるにつれて、心臓の鼓動も学校のチャイムから早鐘のような早さになっていく。そして、電車ないで化粧をした顔で静かに揺られている女性に向かって、さて、触ってやるぞ、などと何度も心のなかで声かけをし、自分を元気付けるのである。このエロ女め。触ってやる。すりすりとあそこが熱くなるまで執拗にねっとりと嬲ってやる。私の指はただの指じゃない。粘膜に覆われた舌であり、また我慢汁でヌルヌルになった男性器でもあるのだ。さあ、今日はどれで責めてやろうかな? ディルドでもいいし、電マでもいいな。いやいや、ここは綿棒のように小指でグリグリと……想像するだけで射精しそうになるが、慌ててはいけない。こんなところで例の自家製ミルクを出してしまったら臭いですぐにバレる。あくまでも慎重に、興奮だけを高めて出さないように心がけるのだ……そうして機会を待つのである。それがどのようなものかといえば、電車が大きく揺れて「たまたま」女性に手を触れてしまった瞬間や、後ろの人に押されて「たまたま」女性に接触してしまった瞬間など、いわば偶然性の高い接触を待つのである。そうして免罪符を作っておいてから、一気にむき出しになった性欲を指先に込めて送り出すのだ。そして、今日もその瞬間が訪れた。
「ガタン」
電車がカーブに差し掛かり、乗客全体が大きく揺れた。この瞬間をのがしてはならない! 私は素早く手を前方のスーツの女性の腰に伸ばし、「偶然」女性に触れた。女性は手に気がついていないようで、ふらついた大勢を元に戻そうとしていた。私は女性の方へと体をわざと詰め、彼女をぎゅうぎゅう詰めにしてやった。女性が少しだけ呻いた。だが、この程度で追随の手を緩めてはならない。痴漢の鉄則はやるときはやれ、やらないときはやるな、だ。私は一度離れた手で再び女性の腰にさりげなく触れ、わずかにさすった。女性の肩が少しだけ震えたように思った。私は荒くなる呼吸を抑えつつ、女性の腰を緩やかに優しく撫ぜた。女性が腰を逸らし、腰の異物から逃れようとしたので、私はおとなしく腰から手を離してやった。その代わり、今度は尻の方へと手の甲を持って行き、思い切りあてがった。女性の唇が一瞬驚いたように開き、また閉じた。痴漢の鉄則、いかなるリスクを伴おうともターゲットの表情から目を離すな。私は法律は破るものの自分の作ったルールには忠実な男である。彼女の顔を不審がられないようにきにはかけながらも、一時も目を離すことがないよう見つめたまま、手の甲を尻の上で円を描くようにして動かした。女性はいよいよこれが痴漢だと理解してきたようで、少し顔を伏せがちにした。これである。この女性の羞恥心が私の求めていたものである。私は高ぶった感情を鍛え上げた顔面表情筋で押さえつけ、手の甲を裏返し指で尻を撫でた。人差し指、中指、人差し指、薬指の順に蜘蛛の足のように尻を撫で、その都度唇を食いしばり顔を伏せる彼女に大いに興奮した。いいぞ、この女、上玉だ。痴漢に格好の相手だ。よしよし、可愛がってやるからな……私がそう頭のなかで舌なめずりをしたとき、手首に違和感があった。これまで触れてきた柔らかい感触とは明らかに違う、ゴツゴツとした亀の甲羅のようなものが、私の手をつかんでいた。私はその方を恐る恐る向くと、とんでもない鬼のような男が鬼のような形相でこちらを睨みつけていた。私は小さく「あ」と叫び、手を引っ込めようとしたが、それは万力に押さえつけられたがごとくピクリともしなかった。それだけで男がとてつもない力を持っていることは十分理解できた私は、咄嗟にどうするべきか考えた。このまま痴漢として捕まえられたらどうなるか?ただで見逃してもらえるわけがない。人生おしまいだ。この男の形相からも私を逃がすつもりがないのはわかる。どうするという単語が頭のなかを三十回ぐらいか駆け巡った末に口から出た言葉は、ある意味信じ難いものだった。だが、それより他に選択肢がなかったのだとも言える。
「この人、痴漢です!!」
見開かれる鬼のような男の瞳を私はさらに睨みつけ、さらに「誰か!突然私の手を掴んできたんです!」と叫び声を上げた。

結果、男は痴漢で捕まった。
705 :車線上でワルツを(お題:ワルツ) [sage]:2012/10/25(木) 23:23:20.83 ID:sQQolOOIO
うぎゃあああああああやべええええええええ一つとんでもないミスを……見つけてしまったあああああ!!!!
ああああああああああああかんわ!!!!!見逃してくれ!!!
706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/10/25(木) 23:25:28.07 ID:eydcOpXro
君は段落、改行という言葉を知らないのかね
707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/25(木) 23:26:34.22 ID:XzmE06zPo
てs
708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/10/25(木) 23:30:02.66 ID:sQQolOOIO
>>706
改行は……書いたあとでいちいち改行するのって手間がかかるというかどこで区切ったらいいかよくわからない
俺はいっつもこんな書き方。次から改行するからお題ください
あと書くのに時間かかりすぎました
709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/10/25(木) 23:35:14.47 ID:eydcOpXro
>>708
>>1にかいてあるから、それ参考にいてくぎってこ

1行は全角128文字まで(50字程度で改行してください)
710 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/25(木) 23:37:13.96 ID:sQQolOOIO
お題
711 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/25(木) 23:58:22.90 ID:b/6Qd9ySO
>>710肉片

感想としてはちょい淡白すぎかなーと。痴漢→バレタ→パクられたじゃドラマがないかな?と思った
712 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/10/26(金) 00:59:52.17 ID:Dn4K5mO8o
>>682
読みました。
現代に生きる人間のどこか空虚な無力感がよく出ていた小説だったと思います。
自分に構ってくれれば誰でもいい、替えとなる人間はいくらでもいる。
この考え方を実証するために死ぬ事も構わず自ら実験台になる千夏。そんな壊れっぷりが良いです。
そんな千夏をきっと雄介は……助けることはできなかったでしょうね。
結末をはっきり書かず、最後の一文でそれとなく匂わせるやり方がバッチリ決まっていると感じました。
いや〜とても面白かった。
713 :事態(お題・肉片1/2) :2012/10/26(金) 06:34:01.55 ID:xD/j+bvIO
朝布団のなかで目が覚めると、左腕が取れていた。
別段以前腕を取り外しできた覚えもないのに、ごく自然に腕が取れていたのだから驚いた。血も出ていないし痛くもないのに、取れた腕の断面を見るとしっかりと骨肉が切断されている。これはどうしたことなのか、当初は多少混乱してしまったが、今は落ち着いている。
だが、落ち着いたところでなぜ腕が取れたのか、という疑問の正解が見つかるわけでもない。心当たりなど当然一つもない。そういえば最近ある製薬会社から栄養サプリメントを取り寄せて飲んだが、まさかこのような副作用があるわけなかろう。瓶いっぱいに詰まったたった二千円程度の薬で腕が落ちるなら、ユンケルなど飲んだ日には全身が崩れ落ちるのではなかろうか。
余計なことばかりに気が向いて頭が働かないため、とりあえず考えるのをやめて起き上がり、顔を洗うことにした。片腕だけで顔を洗うことは十分にできると、自転車で転んで右腕を骨折したときの経験から、知っている。どっこらしょと掛け声をあげて右手で体を支え膝立ちになり、そのまま立ち上がった。どうやら他の手足は普通に使える様子である。いったいなぜ左腕だけが取れたのか、という疑問も新たに追加された。
洗面所へと歩いていき、普段は使わない洗面器を探してから、蛇口をひねって水を出しそれで受けた。こうすることで手で水を受けることができずとも顔を洗うことができる。大人の知恵である。ザブザブと顔を洗い、鏡を見ると、当たり前だが鏡の中の俺は右腕がなかった。いつもはそこにあるはずのものがないとはいささか奇妙な感覚である。日常とはこうも簡単に崩れ去るのかとぼんやり考えた。
それから私は寝室へととって返し、布団の脇に置きっぱなしだった腕を掴み、また洗面所へと戻った。鏡を見ながら腕の断面を合わせてみようとしたが、どうにもうまくいかない。腕という部位が想像以上に重いということを今日からだで理解することができた。そういえば、バランスを取ることでいっぱいいっぱいでそちらに気が向かなかったが、やたらと体が軽い。腕が消えたせいなのか、それとももっとべつのことが起きているのかわからないが、後者であってもおかしくないであろうことはわかる。
どの病院に行こうか考えながら、断面をぴったり合わせることに終始したが、結局腕はくっつかなかった。
有給をとって会社を休み、病院に出向くと、医者が頭を抱えてしまった。
「こんな症例、初めてです」
たまに向き直ってそんなことをいいながら、ブツブツと独り言を呟いている。
「腐って落ちたわけでもなく、切断されたわけでもないようだ。いや、もしかすると切断されたのかもしれないが、それにしてはやたらと綺麗な断面だ。出血のあとも見られない。なんだこれは」
医者はうんうん唸って困ってしまった。実際に困っているのは俺だというのに、なんだか医者のことが心配になってくるぐらいの困りようである。
「一番不可解なのは体が正常に機能していることだよなあ……あなたの身体はね、今その腕がなくてもいい状態なんですよ」
俺はどう反応していいかわからずとりあえず、はあ、とだけ言っておいた。つまりこの左腕は今や完全に異物と化してしまっているらしい。だが、それでは左腕が使えないではないか。医者にそういうと、左腕が使えなくても困らないと身体が思ったんじゃないですか、と半ばやけくそ気味な口調で返してきた。私は医者を一発殴りつけて、そのまま診察室を出た。わからないならわからないといえばいいものを、人の手間を取らせやがって。にわかに腹が立ってきたので、とって返してもう一つ倒れている医者をぶん殴り、ついでに左腕を取り返して帰った。
714 :事態(お題・肉片2/2) :2012/10/26(金) 06:34:54.65 ID:xD/j+bvIO
クルマを運転しながら、なぜこうなったのか自分でも考えてみたが、やはりわからない。
これだけ重大な問題なのだからもう少し真剣に考えるべきだろうに、なぜかまったく気が進まない。もしもこれが右腕だったら、もっと大騒ぎしていたはずだ。だが、これが左腕となると気が萎えるのはなぜなのか。もしかすると、あの医者の言うとおり体が左腕をいらないと判断した結果、取れたのかもしれない。思えば顔も右腕だけで洗えるし、料理も右だけでできる。クルマの運転は最新式の自動操縦装置が勝手にやってくれる。買い物は通販で済む。トイレなんかのときには無い方がいいぐらいだ。そんな思いがいくつもよぎったが、昨日までついていたものが突然取れたのだからこれはやはり異常な事態である。異常は正されねばならない。
思案を重ねつつ昼食を取るために手頃な料理店を探していると、携帯電話が鳴った。クルマを完全に自動操縦装置に任せて電話を取ると、田舎のお袋の声が聞こえてきた。私がどうしたのかと尋ねると、昨日、奇妙なものを吐いたらしい。反吐ではなく、なにか赤くてぬめぬめしたもので、なぜこんなものが出てきたのか不思議でならないというのだ。医者へ行けとアドバイスすると、病院まで数十キロはあるため行けないのだそうだ。
私は医学には疎いものの、とりあえずそれがなんなのか見せてくれと頼むと、写真が送られてきた。手ブレの激しい画像に赤くてぬめぬめした物体が写り込んでいる。私はそれがなんなのか最初はよくわかなかったが、それがある物体に酷似していることに気がついた。驚いたことに、それは気づいてからはどこからどう見ても胃にしか見えなくなった。
どういうことなのか詰問すると、多少動揺しつつ、起きたら吐き気がするので洗面所に行ったらこれが出てきたのだという。私は自分の左腕のことを思い、少しゾッとした。私はお袋になるべく早く親父と一緒に病院へ行くように言うと、再びクルマのハンドルを握りしめた。自動操縦装置はまだ解除していないため、ハンドルを動かしても意味はないのだが、なぜだかなにかが握りたくてたまらなくなった。
ふと、窓の外を見ると、耳と鼻の無い老婆がよちよち歩道を歩いていた。その向こうでは茶髪の女子高生がげえげえと脳みそのようなものを吐いている。対向車線を走り抜けていったスポーツカーの運転手は、顔面と顎だけが残った薄っぺらい奇妙な頭をしていた。信号に近づくに連れて見えてきた、横断歩道を待つ人々は、皆腕が欠けていたり足がなかったり胴体が消え失せていたりするなど、なんらかの形で身体が欠損している。
これは大変だ。私はようやく、これがなんなのか悟った。身体が本人にとっていらない部位を切り捨てているのだ。お袋は胃袋が弱っていると私は知っていたが、まさかそうしてそれが吐き出されたのではなかろうか。頭を使わないものは脳みそを無くし、歩かないものは足を無くす。目や耳などの外からでもわかる部分から、お袋のような内臓を切り捨てるものまでいるだろう。
だが、もしもいつかその部位を使う日がやってきたら? 私は地震など大きな災害が起きて障害物が倒れてきたとき、どうして右腕だけで衝撃を緩和すればいいのかよくわからなかった。それに、消化器など両手が必要なものはどうやって使うのだろうか?
いや、それは非常時だけの話じゃない。日常生活と地続きのところにあることもだ。左側にあるものを取るとき、さりげなく左腕を使うかもしれない。そうでなくても、握手するときに左腕を使うかもしれない。もしもそれが今までになかったことだとしても、これから先十分に考えられることだ。
あの欠損した人々は自分の体を使うべきときがきたとき、どうするつもりなのだろうか?
左腕が使えなくても身体が困らないと思ったんじゃないですか。
医者の言葉を思い出しつつ、私はクルマを走らせた。どこにいくべきなのか?どこに……
ふと、助手席に置いておいた左腕に目をやると、それは少しだけ赤黒く変色し始めていた。
715 :事態(お題・肉片2/2) :2012/10/26(金) 06:57:20.53 ID:xD/j+bvIO
>>711
最後に痴漢でパクられたのは鬼男なんです
痴漢してたのは女だったから彼女を掴んだ鬼男は痴漢になったと
叙述トリックを成立させるために本文中に「男だ」と明言する言葉をあえていれないようにしてたのですが、間違って入れちゃいました
つーか男だと思ってたら女だったってオチVIPのスレやなろうで書いてたときも含めるともう10回ぐらい使ってる気がする……
こんなもんトリックという名の放置逃げでしかないですけど
716 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/10/26(金) 13:49:49.68 ID:XqI349/B0
>朝布団のなかで目が覚めると、左腕が取れていた。
>鏡を見ると、当たり前だが鏡の中の俺は右腕がなかった。

おう(怒)
717 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/26(金) 16:08:32.15 ID:A1MqQCvqo
>>712
書きたかったことを上手いこと汲み取っていただけて嬉しいです
感想がつかないほど駄目だったかと凹んでいたので助かりました。ありがとうございました
718 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/10/26(金) 17:49:36.05 ID:XqI349/B0
ああごめん。これは恥ずかしい
719 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/10/26(金) 21:05:01.07 ID:Dn4K5mO8o
>>713
読みました。
冒頭の奇抜さでいきなり度肝を抜かれました。掴みがいい。
サイコホラーかと思いながら読み進めると、まさにそのものの展開に。
この小説で私が好きなのは、身体が意志を持って本人に要らない部位を切り捨てているという発想です。
こういった発想は自分の頭からは間違いなく生まれないと思ったので。
そしてもし何か不慮の事態が起こった時を読者に提示することで、本当に要らない部位なんてあるのか?と、
逆に読者に向けて問いを投げかけているのも良いと思います。
このネタならもう少し話を膨らませることもできたかな?とも思うけど、短くまとまっていて面白かったです。
720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/27(土) 00:26:28.48 ID:1wmRDssdo
お題ください
721 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/10/27(土) 01:09:36.46 ID:PB4+0W/Po
>>720
デリシャス
722 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/27(土) 01:41:19.84 ID:1wmRDssdo
>>721
ありがとう
723 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/10/28(日) 02:22:07.83 ID:szpUULjAO
どうしても文章を読む気がしないとか、もちろん書く気もしない時に限って文才スレが伸びてしまって
今ようやく時間がきたようなので、遅くなったけど>>587を読みました

正直あなたの創作に惚れてます
なんというか、仕事帰りに紅々とした夕日を見て幸せだなと感じることのできる人だと思います
いや全く勝手な言い分ですけど
逆を言えば、ほんの些細なことや日常を過ごす上でのアンテナの感度が
ちょっとやそっとのもので反応しない人にとっては「で?」という顔ではねのけられてしまうかもしれません
だけど着眼点や構想、作者自身の感受性の豊かさは羨ましい限りです
最後に失礼かもしれないけど、どことなく村上春樹の短編を思い起こしました
724 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/10/28(日) 02:39:27.64 ID:szpUULjAO
>>602
もう少し話に奥行きが欲しかったのと
背骨のない人間を見てるような感覚をショッピングモール辺りからひしひしと抱いてしまった
これだと本当に最後の、好きって色々あるんだなーのみ読めば良いことになってしまうんじゃないかな
調理器具は揃ってるのに残念だし3レスでは短かったように思う
ちょっと最後書き切るのを諦めちゃったかな?
725 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/10/28(日) 02:47:52.12 ID:szpUULjAO
ああ、追いついたと思ったらなんだかアレな方向にいってたのか
もったいない
726 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/28(日) 12:39:51.80 ID:tzUteXmIO
>>723
おお、久々に見てみたら凄い褒められている……

村上春樹……バレバレみたいですが、結構好きです。
あの人の作品は、運命決定論みたいな流れが出てくるのはあまり好きではありませんが、
一つ一つの描写の綺麗さや読後感にはいつも感心させられてしまいます。

実は別のことやってて最近は全然小説書いてなかったんですが、
次回品評会には必ず参加したいという気持ちになりました。
コメントありがとうございました。

>>724
と思ったら、もう一つの作品はあまり良くなかったみたいですね……
正に好きっていろいろあるんだなー、を言いたかったんですが、一小説にするにはあまりにも中身がなさ過ぎましたね……

次回はもう少し内容を練りたいと思います。
727 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/10/28(日) 18:12:04.42 ID:EGC409Vho
お題ください
728 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/10/28(日) 18:36:56.17 ID:szpUULjAO
>>726
お、良かった良かった

>>727
待ち伏せ
729 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/28(日) 19:00:45.07 ID:BAeeZexIO
SS書いてる合間の気晴らしになんか書くからお題くださいな
730 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/10/28(日) 19:05:35.22 ID:m1QcZSci0
>>729
体温計
731 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/10/28(日) 19:06:08.12 ID:dZ7BLw5uo
おいらにもお題ください
732 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/28(日) 19:07:33.77 ID:BAeeZexIO
>>730
ありがとうございます
733 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/28(日) 20:09:58.81 ID:BAeeZexIO
>>731
ゴミ
734 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/10/28(日) 20:11:21.16 ID:dZ7BLw5uo
>>733
ありがとう&age失礼
735 :(お題・熱) [sage]:2012/10/28(日) 20:22:33.52 ID:BAeeZexIO
よる九時頃、勤務先の害虫駆除専門店から帰宅した際に少し額が熱っぽくなっていることに気づき、体温計で熱を測ってみたところ、測定不能という結果になった。使い始めて数年経つが今までこのような結果が出たことは一度もなかった。ならば、これは体温計が壊れたということに他ならない。
俺はそう判断し、仕方なく温度計を脇に挟んで目盛りに目をやり、頭を銃でぶち抜かれたような衝撃に襲われた。度数が50を越えとるではないか。
慌てて脇から温度計を抜き、冷水に浸して0度に戻しまた測ったところ、一分と経たずして赤い目盛りは70度を越えた。俺の頭に再度、凄まじい衝撃が走った。
これはどういうことなのか? 俺は少し考えてから、温度計と体温計が同時に壊れたのだという結論に至った。二つの器具が同時に壊れるなんてすごい偶然だが、あり得ないわけではない。少なくとも俺の脇が70度を越える高熱を発しているということよりかは信憑性がある。
人間の体温が42度を超えると死に至ることは常識中の常識である。それを知らん人間でも、体温が70度になると死ぬぐらいのことは理解できるだろう。もしかすると、血液が沸騰してしまうかもしらん。
俺はこのちょっとした偶然を、勤務先での暇つぶしに最適な小話として片付け、いつもより遅くなったが晩酌を済ますために冷蔵庫から冷えたビールとおつまみを取り出し、机に座った。
そのとき、左手の缶ビールの臭いを嗅ぎつけたのだろう、五匹程の蚊が寄ってくると、俺の腕に止まり、血を吸い出した。鬱陶しく思いそれを右手でさっと払いのけると、そいつらはあっさり俺の腕を離れた。いや、離れたというよりも散らばったといった方が正しいのかもしれない。やつらは羽音を立てることもなく、そのまま床にポトリと落ちたのだ。
不審に思い、そいつらのうちの一匹を指で摘み上げると、それはすでに生き絶えていた。慌てて他の四匹を目で探したが、どれもやはり死んでいた。俺はこれがなにを意味するのか、突然の事態により急速に冷えた頭で考えた。
結果、俺は早急に病院へと赴くことになった。
大手総合病院の医者は、俺の腕を掴んで「熱ッ!!」と叫んだその瞬間から、柔和な好々爺からマッドサイエンティストに変化したようだった。好奇心と探究心と欲望によりギラギラしだした眼がなによりの証拠である。
それから数時間、やたらと血を抜かれ、変な機械にかけられ、聴診器を通算二十回ぐらい当てられた。その日、ニコニコ総合病院はマッドサイエンティストの巣窟と化した。それ程までに俺は驚異的かつ異常な患者だったようだ。いや、それどころか人類を超越した存在となってしまったのかも知れなかった。
測定の結果平常体温が300度と判明した俺は、あわや解剖までされそうになったところで逃げ出した。
だが、そのニュースはあっという間に各種メディアによって世界中に広まり、俺は一夜にして狼の群れに追われる羊となってしまった。
樹海などの非居住地に身を隠した後、事情を知らない田舎者に車を借りて遠方へと走り、自力で国境を越えて後進国へと入り、パスポートを偽造して世界を転々とした。途中いく度もこの身を狙われそうになったが、高熱に耐えることでできた強靭な体と勤務先の害虫駆除専門店で培われた細かな虫の動きをも見逃さぬ洞察力により、いく度もピンチを切り抜けた。
そして現在、ジャングルの奥地ですでに180度を超えた高体温のために生ける虫除け男と呼ばれ、未開の現地人たちに御神体として祀られている。
だが、なぜこんなことになったのか、なぜ体温が異常に高くなったのか、俺にはまったくわからなかった。
そもそもの原因はなんなのか。どんなに頭をひねってもよくわからない。
わこうして村の中心の家で寝て食って暮らすだけで人に信奉されるんだからありがたい。俺はごろごろしながら、日々を過ごしていた。
だが、こうした生活も長くは続かなかった。それは、村に俺と同じように高体温になる者が現れ始めたのである。俺はそれを最初に知ったとき、報告者の以前よりもわずかに馴れ馴れしい態度に多少の焦燥感を持ったが、それは次第に肥大化していき、ついには現実のものとなってしまった。現地人どもが俺のことを崇めなくなったのである。
高体温の持ち主は一人二人と増え、ついには18人にまでなった。100人いる村に八人だから、これは相当な数である。少なくとも、俺の稀少価値を下げるには十分であった。それでも俺の体温は段違いの高さであったが、温度計を知らぬ連中にそんなことわかるわけもなく、俺の村での扱いはぞんざいなものになっていき、とうとう村の中心の家を別のやつに乗っ取られてしまった。
俺はその翌日、もうここにいるべき理由はないと、その村を出た。出るときには村人の平均体温は80度にまでなっていた。
そうして止むを得ずジャングルから出た俺だったが、当然行く当てもなくそこらをウロウロしているうちに、警察に捕まってしまった。あれから十年経つが、あのどんちゃん騒ぎの影響力は未だに衰えていないらしい。
俺はいよいよ解剖されてしまうのかと恐怖に震えながら拘置所で眠ったが、なんと翌日には開放された。警察曰く、今ではすっかり世界中に高体温人間が増加しており、俺の価値はそうなくなったとのこと。謝罪の意を込めた謝礼文と国からの補償金、あとパスポートと戸籍と、国に雇われたらしきガードマンを現地のやる気のなさそうな警察から受け取った俺は、途轍もないがっかり感に包まれて航空へと向かった。
国からの補償金は俺が百回生き返っても稼げそうにない膨大な金額だったので、もう金のことは気にせずタクシーに乗った。暇だったのでガードマンにあれこれ尋ねると、俺はもう世間的には忘れられた存在となっているようだ。なんだか大変複雑な気分になったが、追われるよりはいいかと航空まで歩き、VIP待遇で飛行機に乗った。
飛行機の中から外を眺めながら、今までのはいったいなんだったのかと、ぼーっと考えた。ものすごいことがその410年に起こった気がするが、いかんせん終わりが呆気なさすぎるために実感がなかった。久々に日本に帰った俺は、用意されていたホテルに泊まった。ホテルの部屋で、またあれがなんだったのか少し考える。だが、やはりそれに答えが出ることはなかった。
ただ、一つだけわかったことがある。だんだんと俺は冷めた人間になりつつあるのだ。10年間の熱気が人生のすべてを搾り取ってしまったのかどうなのか、とにかくこれから先あれ以上のことは起こるまいと冷静に考えた。まるで信じられない。だが、信じられなくとも驚きはしない自分がそこにいた。それは、たぶん俺の人生にまつわる話を知った人とて同じだろう。知り終えた者の体温は、間違いなく、知る直前よりも下がっているだろう。ものすごく冷めた表情で、「なんだこれ」と思っているに違いない。自分で体験した俺が言うんだから間違いない。
それから、俺は耐熱ベッドで思う存分寝た。

お終い
736 :(お題・温度計) [sage]:2012/10/28(日) 20:35:46.69 ID:BAeeZexIO
はじめはオチを「体温上がりすぎた男が風呂に入った瞬間蒸発し、他の人類も体温が上昇しつつある」というオチにしようおと思ってたのに
あと名前欄のお題を間違えました
737 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/10/28(日) 20:48:36.88 ID:szpUULjAO
>>735
一呼吸の間に書いたような作品に圧倒されつつ、他人の走馬灯を眺めるってこんな感じなのかしら、という印象を受けました
また小さな世界で夢を見ていた才気溢れる活発な学生が、社会に出てもみくちゃにされて瞬く間に平凡な人生を歩まされるというか
焦燥、挫折、堕落がコンパクトにまとまっていたように思います
738 : ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/10/28(日) 23:29:58.97 ID:JJwBGEHPo
予約
739 : ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/10/28(日) 23:34:39.23 ID:JJwBGEHPo
って品評会俺だけかよ
まあいいや、投下しますね
740 :ずっと、ずっと守るから… 1/5 ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/10/28(日) 23:38:08.29 ID:JJwBGEHPo
 この時間も誠次君は元気そうだ。家にいる時と変わらない爽やかなナチュラルショートの黒髪、バランス良く整った
目、鼻、口。細く手入れされた眉。個性のかけらすらない制服に身を包んでいても、その姿は間違いなくかっこいい。
 だからこそ、周りには醜い雌豚が寄ってたかってくる。私はそんな家畜どもから誠次君を守らないといけないのだ。
「いつまでここに来るんだよ、あいつ」
「中井も大変だよな……あんなキチガイな姉がいたら俺、自殺してるわ」
「中井くんはあんなにかっこいいのに、あの女は本当に不細工だよね。双子だって聞いた時はビックリしたけど、
きっと心がそのまま顔に表れるんだろうねー」
 どうとでも言え。誠次君は私が守らないといけないのだ。親からも海外に行っている間、面倒を頼まれているから大義名分はある。
 子供の頃から私はずっと誠次君を見てきた。
 小学校に入学した後の登校初日、誠次君は学校に着くまでの二十分間、私の後ろをずっとついてきた。不安そうな
顔をしていたから、お姉ちゃんが守ってあげるねと笑って言ったら安心した様子で笑ってくれた。あの時の笑顔は
今でも覚えているし、思い出せる。まるで満天の太陽みたいな眩しい笑顔だった。
 その笑顔を見た瞬間、私は弟のために全てを捧げると心に決めたのだ。この純粋な笑顔を守らなければいけない。
弟には私が必要なのだ。そう。私が弟を守っていかなければならないのだ。
 あっ、いま誠次君が私を見た! 顔が引きつって見えるのはきっと周りに遠慮しているからだと思う。お姉ちゃんには
そんな気遣いはいらないよって何度も言ってるのに。……でも、そんな控えめな誠次君も姉から見てとても魅力的だ。
 誠次君が学校に通い始めてからの九年間は、毎日が忙しかった。
 休み時間になると、毎日全力ダッシュで誠次君の教室に向かい、かわいい弟を見守った。
 休日は誠次君が外出すると、私も一緒に外出して肌身離れず付き添った。
 近付いてくる女がいれば、後で呼びだして誠次君の周りをうろつかないように注意した。
 男でも悪影響を与えそうな奴は、問答無用で追い払った。
 注意しても聞かない馬鹿には、弱みを握って注意した。
 私に抵抗する豚は、空手で返り討ちにした。
 毎日が、その繰り返しだった。
 あまりにも単調な毎日に心が折れそうになったけど、そのたびに誠次君の笑顔を思い浮かべた。
 そう、かわいい弟のためなら、何だってできる。
741 :ずっと、ずっと守るから… 2/5 ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/10/28(日) 23:38:42.25 ID:JJwBGEHPo
「こんにちは。一年四組、中井茉梨歌さん」
 後ろから私の名前を呼ぶ声が聞こえる。誰だよ、私には誠次君を見守るという使命があるのに。
 振り返ると、そこには見慣れない女が立っていた。誰? 誠次君がいる一年一組にはこんな奴いなかったはず。
うっ……臭い。男をたぶらかす臭いがぷんぷん漂ってくる。やけに短いスカートの丈に気の強そうな顔、溢れ出る色気。
 言葉にはできないけど、女としての本能が私に囁いている。
 こいつは絶対に誠次君に近寄らせてはいけない!
 すぐに私が飛びかかろうとすると、女は素早く私の腕を取ってねじり上げる。ぐっ……この私の動きに対応するなんて!
「いきなり襲いかかってくるなんて礼儀に反していますわよ。さすが、根性が曲がっていると顔まで歪みますのね」
「雌豚が……一体何が目的?」
「あらあら、雌豚なんて汚ないお言葉を使うのね。下品ですわよ。……わたくしは一年五組に所属する高口友紀
と申しますわ。以後、お見知りおきを」
「あんたの名前なんてどうでもいい! 質問に答えろ!」
「あら、せっかちな人は嫌われますわよ。もっとも、既にあなたのことはほとんどの人が嫌ってますけど」
 目の前で高口がニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべる。黙れ。私には誠次君がいればそれでいい。
他の人間にどう思われようと私にとっては全く関係ないことだ。
「まあいいでしょう。では短刀直入に言いますわよ。……あなたの弟である中井誠次さん。彼を手に入れます」
 はあ? 何言ってんのこいつ? しかもあろうことか奴は、顎を軽く上げると誠次君に流し目を向けやがった!
 流し目を向けられた誠次君は興奮した様子で明らかに動揺している。弟をたぶらかすこの淫売め、もう許さない。
「うふふふふ。この高校に通い始めて一ヶ月、大好きな二枚目君を見つけたはいいものの周りの空気がどこか
おかしい。これは何かあると思って情報を集めてみると、邪魔者がいて女子は誰も近寄れない有様。男子も
腫れものを触るように二枚目君を扱っている始末。ブラコンをこじらせた誰かさんのせいで」
「うるさい!」
「まともに話をしようにも話を聞かないどころか脅してくるみたいですし、これはもう実力行使しかないと判断
致しましたわ。まあ、私としても乗り越える障害が高ければ高いほど、手に入れた時の喜びも大きいですし、
むしろ大歓迎なんですけど」
「黙れ! それ以上口を開くな!」
 部外者が何を偉そうに。私以外に誠次君のことを想ってここまで行動できる人間がいるだろうか?
いや、いないに決まってる。誠次君を守れるのは私だけなのだ。この想いは誰にも負けない。
742 :ずっと、ずっと守るから… 3/5 ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/10/28(日) 23:39:53.65 ID:JJwBGEHPo
「あらぁ……痛い所を突かれて動揺しちゃいました?」
 高口が腕を締め上げる力を強めてくる。今すぐにでもこの生意気な女をぶち殺したい。けど、動きを封じられ
てはどうしようもない。何とかして今の状態から脱出することが第一だった。
 私は視線を教室の中にいる誠次君に向ける。誠次君は緊張した顔で他の男達と一緒に私達を見つめている。
 そして――目が合った。
 見る者を真っ直ぐ捉える、その素直で純粋な瞳に。
 ああ、神様。私はこの愛すべき弟のためなら鬼にでもなれます。こんな所で倒れる訳にはいきません。
 必ず、必ずこの悪魔を倒してみせます。
「ぐっ……うっ、うおおおおおおおおおお!!!」
「な、何ですって!?」
 両腕に力を込め、あらん限りの力を振り絞って暴れた。不意を突かれたのか高口はぱっと私の手を放す。
 よし、こうなればこっちのものだ!
「くたばれええええ!!」
 勝てる! そう確信して高口に正拳突きを食らわせようと、振りむいた瞬間だった。
 そこには、雌豚が卑しい笑みを浮かべながら赤いスプレー缶を向けていて――

 ブシュウウウウッ!

 まとまった液体が私の顔を直撃する。その液体は鼻、口の中へ容赦なく入り込む。
「うあああああああっ!」
 顔がひりひりするし喉が苦しい。何だこれ、なんだこれ。
「あらあら、わたくしが本当に驚いてあなたの腕を放したと思っていましたの?」
「げほっ、がふっがはっ! ああああああいたいいいいいいい!」
 これは罠だったのか。皮膚の痛みと喉の痛み、溢れ出る鼻水にまみれながらそんな事をぼんやりと考える。
「いくらあなたでもここまですれば抵抗できないでしょう。ほんと、手のかかる人ですこと」
「ぎ、ぎざまあ……」
 高口を睨み付けようとするけど、溢れる涙と痛みでまともに目を開けられない。
743 :ずっと、ずっと守るから… 4/5 ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/10/28(日) 23:41:01.62 ID:JJwBGEHPo
「一組の皆様ごめんなさいね。スプレーの成分が舞っているでしょうし、換気することをお勧めいたしますわ。
わたくしとしても、無関係な皆様を巻き込む事は本意ではありませんので。……さて、誠次さん。私は貴方の
事を考えるだけで夜も眠れませんの。どうか、この身体の火照りを鎮めてくださいまし」
 おいやめろ。
「さあ、私を抱いて……そう、そうです。誠次さんのその男らしい唇が欲しいですわ」
 やめろ、汚らわしい家畜に誠次君が犯される。
「大丈夫、緊張しないでいいですのよ……そう、ゆっくりと、力を抜いて……」
 やめて、お願いだから。ねえ。
「んんっ、ちゅっ……はむっ……んう……じゅるるっ……」
 あああああああああああああ嗚呼嗚呼嗚呼ぁぁぁぁ!
「ぷはぁっ! はぁ、はぁ……誠次さん、舌を絡めてくるなんて……よっぽど溜まっていらしたのね」
 ……けんなよ。
「下もこんなに堅くして……えっ、さすがにこれ以上は恥ずかしいですわ。周りの方々も見てらっしゃいますし。
けど、もし誠次さんが望まれるなら……」
 ふざけんなよ。
「そうですわね……では次の時間はさぼって、二人きりでしましょうか」
 ふざけんなよてめええええええええ!!!
 もう切れた。私の誠次君になんてことしてくれやがった。無垢で純粋な誠次君を汚しやがった。犯しやがった。
咳で苦しいし、鼻水涙咳でドバドバだけど私が浄化しないといけない。誠次君の細胞を豚に与えてはいけない。
大切な誠次君の遺伝子は私が守るべきであり私だけの唯一無二のものなのだから渡すわけにはいかない。
その後であの家畜以下のゲロクズは[ピーーー][ピーーー][ピーーー]殺しころしころしコロシコロシシ死死死死死死屍屍屍屍屍屍。
「ちょっと、あなたまだ動け……ううっ!?」
 クズの唇に付着している誠次君の細胞を取り返すべく、容赦なく接吻する。一つ残らず細胞は吸い尽くしてやる。
そして、顔に付いたスプレー成分をお前の顔にもくっつけてやる。
 ちゅうううううううという吸い付く音が脳に響いてくる。
 クズが悶え苦しむ顔がうっすらと滲んで見える。
 周りが大騒ぎしている声が聞こえてくる。
 液体まみれで顔面はぐしゃぐしゃだったけど、私の思考は一点の霞みもなく、すっきりと晴れ渡っていた。
744 :ずっと、ずっと守るから… 5/5 ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/10/28(日) 23:42:15.82 ID:JJwBGEHPo
「おい、ブスが美少女とちゅーしてるぞ!」
「すげえ! 美女と野獣だ!」
「鼻水まみれできったねえ」
「写メだ、写メで保存しようぜ」
「おいスプレー成分撒き散らすなよ、目が痛くなってきたぞブス!」
 誰かが蹴りを入れたのか、激しい衝撃で吹っ飛ばされた私はそのまま壁にぶち当たった。
 ぶつかった頭に激痛が走る。ふらふらして立ちあがるのもやっとだ。けど、私は誠次君を取り返したのだ。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! 痛い! 痛いですわ!!!」
 自分が使ったスプレーに苦しめられるクズ。奴がもんどり打って倒れながら絶叫する姿はひたすら醜かった。
 ざまあみろ。策士策におぼれるってやつだ。クズにふさわしい末路である。
 私の誠次君に手を出す奴は絶対に許さない。けど、頭が痛い。
 そう思った途端、バランスを崩して倒れた。そしてそのまま、吐いた。
「きゃあああああああああ!」
「うわくっせえ、こいつゲロ吐きやがった!」
「汚ねえんだよ、ドブスが!」
 全身が痛い。殴られてるのか蹴られてるのか分からないけど、いたい。
 広がったベージュ色の液体には今朝食べたパンらしき物体が浮かんでる。私は頭上からの圧力そのままに
顔を突っ伏した。すっぱい臭いが鼻から全身に広がっていくと同時に、痛む頭の中がぐにゃぐにゃになっていく。
 私は、ぼんやりと考える。次にやるべきことは、何なのかを。
 ……そうだ、誠次君の唇にはあのクズの細胞が付いているのだ。今すぐに私の清らかな唇で清めないといけない。
 汚された誠次君を元に戻すのだ。だから兄弟でキスしても許される。合理的に愛すべき弟とキスできるのだ。
 そして荒ぶった下半身を鎮めるべく、姉である私が体を使って浄化する。なんだ、理に叶ってるじゃないか。
 親からも面倒を見てくれって頼まれてるんだし。
「誠次君……」
 吐瀉物から顔を上げる。誠次君の姿は……いた!
 まるで汚い物を見るような目で私を見てる。確かにゲロまみれで汚いけど、心の中は綺麗だよ。
 怖がらないで。誠次君を守れるのは私だけだから。
 クズの細胞は排除しないと、いけないから。
 さあ、お姉ちゃんとちゅーしましょうね。あはっ、あははっ、あはははははは。
745 : ◆HmfYvBHWkM [sage]:2012/10/28(日) 23:43:46.33 ID:JJwBGEHPo
投下終了
あーまたsagaって入れ忘れたよ、トホホ…
746 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/10/29(月) 01:19:42.87 ID:9tfQWEp2o
投下お疲れー
747 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/29(月) 01:21:06.83 ID:Fg9L5KkCo
お題くれ
748 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/29(月) 01:26:00.98 ID:WMu8/ns5o
>>747
宝物
749 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/10/29(月) 06:09:20.64 ID:lKVr3a5IO
あれ、今週だったっけ……完全に忘れてたわ
750 :お題:宝物 ◆Rk7NlA6Wr9bb [sage saga]:2012/10/29(月) 17:00:35.43 ID:Fg9L5KkCo
 僕は小さなシャベルを持って、粘土質の土を掘り返す。手は痺れて重いが、心は浮き立っている。
 不思議な確信がある。この先に何かとてつもなく素晴らしい物があると僕は知っている。
 シャベルが止まる。先端に硬い感触。爪の先が黒くなるのも構わず、シャベルを放り出して土を掻き分ける。
 そこから現れるのは、日光を照り返す、眩い黄金色の箱。
 またシャベルを掴んで辺りを掘って、土から箱を取り出した。心臓が高鳴り、手が震える。
 蓋の冷たい温度を掌に、ゆっくりと持ち上げる。その中に見えたのは……。
「箱を埋め尽くす七色の宝石だったんだ!」
 両手で机を叩いた勢いで顔を近づけると、河野は面倒臭そうに顔を背けた。
「なんだよ、信じないのかよ。凄かったんだぜ。赤、青、黄、緑、紫……他にも綺麗なのが山ほどあったんだぜ」
「別に、信じてないわけじゃねえよ」
 ひねくれ者の河野がめずらしく口を濁した。他人の夢の話なんて、どうせ河野は小馬鹿にするものと思っていたのに。
 僕が訝しがっているのに気付き、河野はなんだか言いにくそうにして、もごもごと途切れ途切れに話した。
「俺も……見たんだよ。その、お前と同じ夢」
「同じ夢? 宝石の夢を?」
 奇妙な偶然もあるもんだ。僕ら宝石だの好きでもないのに、なんで同じ夢を見るんだろう。
「先生の影響かなぁ。ほら、理科の壬生屋、たまにそういう話するだろ」
「違う、違うんだよ! 同じ夢だ、俺は同じ夢を見たんだ!」
 『同じ』を強調する河野に、僕はさすがに怖くなってきた。まさかだ。まさかそんなオカルト、あるわけない。
「冗談やめろよ」
「冗談なもんか! 掘った場所だってわかるんだぞ」
 僕らは机を挟んで顔を見合わせる。椅子の背もたれを握る手が汗ばんで、河野の息と僕の息が合わさる。
『グラウンド』
 背筋がぞっとした。
751 :お題:宝物 ◆Rk7NlA6Wr9bb [sage saga]:2012/10/29(月) 17:01:18.83 ID:Fg9L5KkCo
 僕は朝から思わぬ世界の秘密を握ってしまった気分で、授業はいつも以上に頭に入らないし、給食も喉を通らなかった。
 昼休みになり、僕は河野に視線で促した。河野も肯いた。僕らはこれ以上1秒だって秘密を孤独に抱えていたくなかった。
「なんかやべぇよ」
 図書館の隅の誰も来ない本棚の陰で、僕らは床に座り込んで話していた。
 このスペースは図書館の中でもひんやりとして心地良いので僕らは重宝していた。
「どうする?」
「どうするって、何がだよ」
「宝石だよ」
 宝石と僕が改めて言うと、河野の不安げだった表情が固まり、すぐにニタニタと笑い始めた。僕は気持ち悪いと思った。
「お前気持ち悪いよ」
「バカ、お前、バカだな!」
 どんっ、と勢い付いて前のめりになるくらい力強く背中を叩かれ、僕は河野を睨み付けた。でも河野は何が嬉しいのか、ニタニタ笑ったままだ。
 僕はようやく河野の頭の中が見え始めてきた。
「お前、掘る気だろ?」
「おう」
「本当にあったらどうするんだよ」
「俺達の物にしようぜ」
 僕にも「夢の宝石が本当にあったら、いよいよオカルトじゃないか」とか「そんな宝石呪われてるに決まってるだろ」とか、色々言いたいことはあった。
 でも経験論として、僕はこのひねくれた友達のしつこさもよく知っていたし、こうして一度言い出したら僕の言うことなんて聞かないに決まっていた。
 渋々、本当に渋々、僕は溜息と共に肯いた。お祓いのやり方くらいはネットで調べておこうと思った。
752 :お題:宝物 ◆Rk7NlA6Wr9bb [sage saga]:2012/10/29(月) 17:02:31.83 ID:Fg9L5KkCo
 河野はもう宝石を手に入れたつもりで値段や売却先について妄想じみた話をまくし立てていた。
 僕は言葉少なに「掘るのは放課後」と言い、後はただダラダラと昼休みを過ごした。
 内心は恐怖や緊張でボロボロだった。だって、あんな量の宝石を見つけてしまったら新聞に載るだろうし、お金持ちになるだろうし、そんな人生予定外すぎる。
 僕がお金持ちになったら両親や友達も、お金欲しさに変わってしまうかもしれない。マスコミが押しかけて、すごく怖い詐欺師が僕を騙そうとするに違いない。
 胃が痛くなる。給食も食べなかったし、5時間目の授業が始まってすぐに具合が悪くなってきた。
「……森くん。君、大丈夫か?」
 壬生屋が板書の手を止めて僕を見ていた。よほど具合が悪く見えたようだった。
「保健委員、いますか? 欠席ですか……森くんを保健室に連れて行くまで、静かにしているように」
 よく言えば手際良く、悪く言えば当事者の僕の話も聞こうとせずに、壬生屋は僕を保健室に連れて行った。
 僕はこの先生が少し苦手だった。
 もう30代らしいのに見た目は妙に子供っぽくて、その癖、何事にも動じない無神経さというか、いつもボーっとしていて、なんていうか、難しい。
「保険の先生は職員室のようだね。君はベッドで寝ていなさい。良くなったら授業に戻るといい」
 言葉を差し挟む余地もなく、壬生屋は背を向けて保健室の扉を出る。
「ああ、そういえば」
 くるりと反転、壬生屋は扉を閉めてすたすたと迫ってくる。
「君達が図書館で話していた宝石というのは、どういうものなんだね?」
 壬生屋は、普段の1,5倍くらいのスピードで話し始めた。
「いや盗み聞きをするつもりはなかったのだがね、河野くんがあまりに大きな声で話すものだから注意をしようかしまいかと考えていたのだよ。
 すると宝石の話をしているじゃあないか、いや、私も君達くらいの時分の頃は毎日図鑑を読んでは宝石を夢想していたものだけれど、
 まさか君達が宝石に興味があるとは思わなかったものだから驚いてね、青や赤といった風に話していたが具体的にはどのような色だったのか聞きたいのだよ。
 宝石は含有する成分により種類も変わる、その色合いで呼び名も変わる。赤や青といってもそれだけで判断するには情報不足にすぎる。で、どうなんだい?」
「えっ、えっと」
 壬生屋はすこし、いや、かなりおかしい人だった。中学生相手に何本気になってるんだ。そう言えるものなら言いたいくらいだった。
「むっ。すまないね、具合が悪いのだったね。他の生徒も待たせているし、失礼するよ」
 壬生屋はあっという間に行ってしまった。取り残された僕は急に静かになった保健室のベッドで横になり、体を丸めて眠った。
753 :お題:宝物 ◆Rk7NlA6Wr9bb [sage saga]:2012/10/29(月) 17:02:59.08 ID:Fg9L5KkCo
 放課後、僕らは掘っていた。土は粘土質で、シャベルは重かった。
 もう細かいことを考える気力もなかった。土の下にある夢だか悪夢だかの塊が出てくるまで掘るだけだ。
 河野の楽しそうな横顔を盗み見ては気が重くなる。僕は確信していた。きっと、ある。この下には、ある。なければいいと思いながら確信している。
 ちょうどシャベルと同じ高さになるくらい掘り進めた時、先端が硬い物に触れた。
「おい、休むなよ。……あったのか!」
 河野は僕を押しのけ、箱を掘り出した。河野が土を被って汚れた箱を引き抜くと、中にある物がぶつかり合う乾いた音がした。
 地面に座り込み、河野の欲望に塗れた笑顔を遠目にしていた僕は、その顔が困惑に変わるのもはっきりと見て取れた。
「何、これ?」
 僕は河野の肩越しに箱を覗き込んだ。箱は埋め尽くされていた……丸い小石に。
 河野は箱を取り落した。小石が零れ落ちる。僕はその小石を手に取ってみた。
 まずわかるのは、人の手が加えられていることだった。ほぼ完全な球体、しかも研磨されている。
 大小にムラはあるが、すべてが研磨と成形がされている。宝石とは言えないけれど、綺麗だと僕は思った。
「石? 石? なんで石?」
 河野の落胆は数日尾を引いた。それからは宝石のほの字にも顔をしかめる様になった。

 この奇妙な話は、こんな風に続く。
 磨かれた石を独り占めする運びになった僕は、自室で石を愛でる際に、箱に書かれた文字を見つけた。
 掠れた油性ペンで『みぶや』と書かれた箱は、すぐにある人物を連想させた。
「ああ、懐かしいねぇ。いや私もここの卒業生でね、いやぁ、小学生の頃から集め続けたこの石達を埋めてもう二十年近くなるんだね。
 君、この石にはそれぞれ名前があるんだよ。
 ラピスラズリ、アメジスト、ルビー、ガーネット、トルマリン、ダイヤモンド……ひとつ残らず違う名前がね。
 毎日ひとつひとつ磨いて名前を呼んでやってたんだが、石の幸せを考えると、果たして僕の手にあるのが幸せなのか疑問に思ってね。
 石は土にあるのが幸せか、人の手に渡るのが幸せか。私は、とりあえず埋めることにした。数百年後の未来に誰かが見つけてくれないものか願ってね」
 壬生屋は懐かしむように石を撫で、「早い数百年だったね」と言った。
 僕はオカルトを信じない。
 ただ、もし物に魂があるとしたなら、持ち主から過大な愛情を受け続けた石が宝石だと、薄汚れた箱が黄金色の宝石箱だと勘違いし、
 どこかの誰かに掘り返される日を夢見ることもあるのかもしれない。
 その夢が偶然どこかの誰かの夢に重なり合ったとして、まあ、それはそれでありふれた奇談である。
754 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/10/29(月) 17:03:36.13 ID:Fg9L5KkCo
名前欄に数字入れるの忘れました、すいません。おわりです
755 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/30(火) 12:18:18.93 ID:dhbadu5IO
>>740
読ませていただきました。

相変わらずの安定感ですね。
高いところから低いところに水が落ちていくように……パターンが出来上がっている。

けど、こりゃ女の子というより狂人ですよ。
もっと可愛い(もしくはもっと腹黒い)女の子を見たかったという印象です。
756 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/30(火) 12:28:37.38 ID:dhbadu5IO
>>750
こっちも読みました。

主人公の感情の推移が何となく不自然に感じました。
最後のオチもそうなんですけど、全体的にやや説得力にかける、という印象です。
(全くの偶然にしても、主人公達が選ばれた切っ掛けが少しでもあれば印象は変わったはず)

文章は読みやすいので、もう少し論理的な流れというか、そういうのを気にすると良いのではと思いました。
757 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) :2012/10/31(水) 01:38:15.20 ID:mmIV+U430
>>606 結婚式で書きました。
けどどちらかというと「結婚」かも。
あと一週間書かなかっただけで、書くのにだいぶ苦労した。

投下します。
758 :幼馴染の結婚(お題:結婚式) 1/7 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/31(水) 01:39:43.41 ID:mmIV+U430
 幼馴染が結婚することになった。僕にとっては青天の霹靂のようなものであって、青天の霹靂のようなもので
もなかった。
 何を言っているのか意味が分からないと思うけど、彼女が結婚するということに僕は大変(まともにリアクショ
ンをとれないぐらい大変)驚いたが、よく振り返ってみればそういう予兆というのは何処かしこで感じられたは
ずだった。
 例えば彼女は伸二くんと一緒にいることが多かったし、伸二くんが運転する車に乗って二人で何処かに出かけ
たりすることも多々あった。だけどその車には僕も乗せてもらうことがあったし、他のみんなを乗せたりするこ
とだってあった。そして何より、彼女と伸二くんから恋愛感情みたいなものが一切僕には読み取れなかったのだ。
とても仲の良い友達程度。ただ、幼馴染からその報告を聞いたとき、僕は結婚相手に伸二くんを真っ先に思い浮
かべた。やっぱり僕は心の何処かしらで、そういう事態を何となく想定していたのかもしれない。
 幼馴染から報告を聞き終えたとき、結婚式はどうするのか、というのが僕が一番最初に感じた疑問だった。幼
馴染と伸二くんは小規模な結婚式を考えており、家族・親族だけを集めて行うとのことだ。その代わり披露宴は
友人にも参加してもらいたいとのことで、僕はその申し出を了承した。結婚式に参加した経験が少ないので、そ
ちらのほうが正直助かる。
 ふたりには友達がたくさんいた。五人や十人じゃない。それに会社の上司の人たち……披露宴は大規模だ。誰
かが仕切らなくてはならず、ふたりの共通の友達かつ、とくに親しい者がその役割を果たすことになった。ケン
ジにアカネちゃんに岬ちゃん、そして僕を含む四人だ。僕以外の三人、とくに岬ちゃんはこういうことに特別な
才能を持っていて、披露宴の会場や段取り、必要なもののリストなどが次々と用意されていった。蚊帳の外の僕
はその必要なものを揃える係りになり、特別なバイタリティを持つケンジとともに街のあちこちを奔走すること
になった。用意したプレゼントを渡す役目も僕になった。僕以外の三人で、それが最も適切だというように意見
が一致したのだ。だから人前で話すのが苦手な僕は、披露宴までにその苦手な内容を考えないといけなくなった。
 披露宴の日まで世界が止まるわけじゃない。だから日中は仕事しているわけだけど、そういう日々はあっとい
う間に過ぎていった。その瞬間瞬間では確かに時の流れというものを感じることができるけど、終わってみれば
一日が一秒という感じだ。僕はいつでも、幼馴染から報告を受けたあの時の感覚に戻ることができた。無意味な
日々を過ごしているという思いが、こびりつくように心の底でいつまでも居座っていた。
 僕は何故こんな思いを感じているんだろう。
 この思いを消すにはどうしたらいいんだろう。
 僕は会社からの帰り道を遠回りして、昔よく遊んでいた公園に向かった。そこにはペンキがまだ新しいブラン
コがあって、使い方も分からない遊具が置かれてあった。滑り台だってカラフルなものに変わっている。ジャン
グルジムは無くなり、幼馴染と昔遊んでいた頃の面影は殆ど残っていなかった。だけどここがその公園なのだ。
759 :幼馴染の結婚(お題:結婚式) 2/7 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/31(水) 01:40:32.51 ID:mmIV+U430
場所が同じだから間違うはずがない。幼馴染は昔から活発な子で、ふたりでよく遊んだ。テレビゲームで家に篭
りがちだった僕を無理やり誘い出して、ジャングルジムや滑り台で遊んだ。いま思えば、ただ登るだけだし滑る
だけだし、何であんなので遊べていたのか分からない。しかし実際に僕らはいつも日が暮れるまで遊んでいたの
だ。公園に来るいろんな子を仲間に入れて。
 僕らが疎遠になったのはいつからだろう。小学校高学年の頃にはほとんど遊んだ記憶がない。道端で会っても
軽く会釈するぐらいで、ふたりとも接触を避けていた気がする。僕は僕で男子グループに所属していたし、彼女
は彼女で女子グループに所属していたし、何かしらの不文律が僕らを遠ざけていたのだ。そして中学時代に事件
があって僕は人と上手くコミニュケーションが取れなくなり、それとは別に家の事情で引越ししなければならな
いこともあって、僕らは完全に離れ離れになった。
 再開したのは、大学時代に就職活動で地元に戻ってきてからだった。会社の訪問帰りの途中、幼馴染と道端で
ばったりあった。僕は最初、その声をかけてきた子が幼馴染だとは全然気づかなかった。別に髪を染めていたわ
けでもなければ化粧が厚かったわけでもないし、背や髪が多少伸びたくらいで気づかないなんて変な話だけど、
僕からすれば別人かと思えるくらい幼馴染は変わっていた。その子が幼馴染だと分かった瞬間、僕が記憶してい
た幼馴染のイメージは、ブラックホールに吸い込まれたみたいに何処かに消えてしまった。幼馴染は完全に大人
の女性になっていたのだ。もちろん幼馴染もそのときは大学生なので、妖艶さを感じるとか、そんなのじゃない。
だけど僕に向けられる目線や、彼女を深く包み込む雰囲気、髪を掻き上げたりする仕草などが、僕の心の奥に潜
む感情を無視できないくらいに刺激した。はっきりと、性の対象として幼馴染を見てしまったのだ。僕はそのと
き初めて幼馴染と離れたことを後悔した。少女だった彼女が一体どのような変遷を得て大人の女性に成長したか、
それを見逃したことは人生における大きな喪失であるように思われた。そして僕は、かつての地元の企業に就職
することを心に決めたのだ。
 僕と幼馴染は再開した直後から、まるで空白の数年間がなかったかのように話し合うことができた。それはコ
ミニュケーションを苦手とする僕にとって奇跡のような出来事だったし、全面的に彼女のお陰であることは間違
い。彼女は僕の短すぎる返答を気を悪くすることなく受け入れてくれたし、僕が少し口を開けば、僕が話したかっ
たことを勝手に補足してくれた。「変わってないね」と笑いながら幼馴染が言う。幼馴染にとっては、僕は昔の
まま時が止まってしまっているようだった。そして幼馴染は僕に自分の友達を紹介した。それが伸二くんであり、
ケンジやアカネちゃん、岬ちゃんだった。
 僕は彼らに適応するために、大変苦労した。彼らは全員活発系で、僕はインドア派だ。そんな僕が彼らに馴染
めるはずかない。皆で出かけるとき、伸二くんやケンジが運転する車のなか、僕ひとりだけが異物のように浮い
てしまっていた。なぜ幼馴染は僕をこんな集まりに加えたのかと、自問自答する毎日だった。だけど一緒にいる
ということは、それだけで何らかの力を帯びてくるものみたいだ。伸二くんとは何時の間にか話すようになった
760 :幼馴染の結婚(お題:結婚式) 3/7 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/31(水) 01:42:03.05 ID:mmIV+U430
し、ケンジとは週末にふたりで居酒屋に行ったりするようになった(実は少し前まで同じ職場で働いていたのだ)。
女の子達とは中々打ち解けられなかったけど、岬ちゃんからはある出来事を境にヘタレとして見られるようにな
り、話のタネにからかわれるようになった。アカネちゃんともそれに乗じて少しずつ話せるようになり、今に至っ
ている。間違いなく僕はこの境遇を幼馴染に感謝しなければならないだろう。
「伸二くんは凄いよな」
 僕は歩きながら、吐き出すように宙に呟いた。
 伸二くんは顔がいい訳ではないが、背が高く、頭が良かった。ケンジもそうだけど一つ年上で、僕らのなかで
リーダーは誰だと言われれば、満場一致で彼が選ばれるだろう。積極的に人と関わろうとするタイプなのに言動
は落ち着いていて、英語が喋れてスポーツもよくできる(高校テニスでは全国大会に出場した)。仕事の成績も
良いらしく、二十代なのにもうグループのリーダーを任されているらしい。僕ととことん真逆を行っているみた
いだ。僕は人付き合いが下手なうえに英語もできないし、スポーツだってろくに出来ない。仕事はできる方であ
ると自負しているが、それは担当としての実力で、リーダーを任されるような気質はない。才能にそんなに違い
があるとは思えなかった。いろんな能力を身につけようと努力してきたのが彼、してこなかったのが僕。光と影
のようなもので、幼馴染が僕と伸二くんのどちらかを選ばなければならないとしたら、そりゃあ間違いなく伸二
くんを選ぶはずだ。男として、完全に負けている。幼馴染の報告を受けてから何となくモヤモヤしていた理由が
分かった。僕は伸二くんに嫉妬しているのだ。
 何となく家に帰る気がしなくて、知っている道をブラブラ散歩する。しばらくして、電話が鳴っていることに
気づいた。
「おい、やっと出たか。前言ってたホクホク亭に行くぞ」
「明日披露宴だろ。そんなところ行ってる場合か?」
「いいじゃねーか、昼からなんだし。全然問題ないだろ」
「ケンジは問題なくてもなあ……」
 電話の相手はケンジだ。週末はこうして電話がかかってくる。他にもよく飲みに行ったりしているらしく、ビー
ルがなければ生きていけないやつだ。そんなやつだから、こいつに限っては今日飲みに行っても全然問題はない
のだが、問題は僕だ。ケンジと飲みに行くと、次の日は必ずといっていいほど調子が悪くなる。ガツガツ飲み食
いするケンジのペースにどうしても合わせてしまうのだ。そんなわけだから、披露宴を明日に迎えた日に飲みに
行くなんて普通に考えれば御法度なのだが、僕はそのとき何だがどうでもいい気分になっていた。
「まあ、行っとく?」
「行くのか?!」
「行かないの?!」
761 :幼馴染の結婚(お題:結婚式) 4/7 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/31(水) 01:42:40.06 ID:mmIV+U430
「行くだろ!」
「そういう小ネタはいらないから……場所調べて直接向かうよ。本店でいいんだったよね?」
「おう、俺チャリとってから行くわ」
 僕が歩いて店に着くとほぼ同時に、ケンジもチャリでやってきた。ホクホク亭は、ビルの一階にある焼肉食べ
放題の店。僕らは飲み食べ放題があるところしかいかないのだ。
「結構広いじゃん」
 ケンジがドカッと座る。飲み食べ放題の店ではとんでもなく狭いカウンターに案内されることもあるのだが、
ホクホク亭にはしっかりとした個室が用意されていた。とりあえずふたりともビールを注文する。
「そしたらあのI山の野郎が出てきてよー……」
 ケンジの仕事の愚痴が始まる。イニシャルで名前を伏せて、腹が立った相手を貶す。それで話が通じるのは、
僕がかつて同じ職場にいたからだ。O野さん、E社、某犬。仕事の話を大っぴらにしてはいけないことは知って
いるので、僕らはそんな謎の言葉を使って会話するようになったのだ。
「不具合じゃないから修正できねーって」
「え? そんなツール本番環境で使えないじゃん」
「だからクソ長い長文で返してやったんだが、そしたらダンマリを決め込んできやがんの」
「いつもの手じゃん」
「だからまたM河さんに電話しないといかん。マジで怠いわー……お前のほうは最近どうなの?」
「また重大な不具合見つけた……」
「はぁっ!?」
「内容マズすぎるからどうお客様に伝えようか悩んでる。なんであんなバグの宝庫みたいなソフトが世で使われ
まくってるんだろう……」
「ちょっと、どんな内容か教えろよソレ」
「普通に使ってる分には問題ないんだよ。だけどある機能を有効にしておくと……」
 僕らは愚痴を一通り話し終えると、アンダーグラウンドの話をした。といっても殺人とかそんなのじゃなく、
某携帯機のクラッキングとかそんな話だ。現在問題になっているテレビの有料放送を無料で見る話とか、ケンジ
は大好物である。僕はそういうのには手を出さないが、聞いているだけで面白いこともあった。コンピュータに
関する知識は僕のほうが深いのでアドバイスできることはあるし、ケンジもそれを期待して僕に話を振るのだ。
そういう話が一通り終わると、今度は金儲けの話になる。
 お前がっつり金溜め込んでんだろ、俺に預けろ、飲食店やって一年で黒字にしてやるわ、俺むかし高級居酒屋
で働いてたから。
762 :幼馴染の結婚(お題:結婚式) 5/7 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/31(水) 01:43:18.68 ID:mmIV+U430
 そしてどたーっと倒れ込んで、何か上手い話ねぇかなあ、とかブツブツ言う。そこで僕は、競馬の三連単のオッ
ズの偏りを利用して百億円以上儲けた男の話をした。あとは株のフラッシュ取り引き。誰かが成り行き買いで注
文を出したのを超高速回線で聞きつけて、超高速で売りを出す。成り行き買いは絶対にそれを買わないといけな
いから、確実に高値で株が売れる。ようするにこの世には、やり方さえ考えれば幾らでも金を生み出す方法があ
るのだ。ケンジはそんな話を聞くたび、そんなシステムを僕に作れという。もちろん断る。そんな力があったら、
僕はこんなところにはいない。
「あー……くそっ。けどいつか絶対ふたりで会社立ち上げようぜ。俺が対外的なところやれば絶対うまくいくか
らさ」
 本当か? と僕は思う。
 ケンジは相手から送られてきたメールの内容が不十分な場合、必要以上にそれを指摘する癖がある。僕として
はできる限り波風立てないようにしたいのだけど。
 だからこういうときも、僕は何も言わずに頷く。
 そして不意に、無言の時間が訪れる。
 話に夢中になっていたケンジは、冷めてしまった肉を胃の中に片付け始めた。僕も冷めた肉とご飯を口にする。
飲み物が無くなったので、ふたりの分を頼んだ。
「ところで」
 ケンジの元にビール、僕の元にコーラが届いたところで、ケンジが話を切り出し始めた。
「披露宴で言う内容、何か思い浮かんだか?」
「全然」
 僕は正直に言った。プレゼントを渡すだけだからほんの数十秒のことなのに、全く内容を思いつかないのだ。
ふたりについて考えるたびに、全く別のことが頭をもたげてくる。笑顔で祝福するかどうかすら怪しくなってく
るのだ。
「アカネはさ、実は最初お前に任せるのやめたほうが良いって言ってたんだぜ?」
「えっ?」
 アカネちゃんが?
「きっとショックを受けているだろうからってさ。岬はそれだったら逆にお前にやらせたほうがいいんじゃない
かって」
 僕がショックを受ける、とはどういうことだ?
「お前好きだったんだろ?」
「別に。そんなんじゃないよ」
763 :幼馴染の結婚(お題:結婚式) 6/7 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/31(水) 01:44:17.14 ID:mmIV+U430
 即答した。針で体を突かれたように、体が最速で反応した。
「ただ驚きはしたよ。僕にはふたりがそこまで進んでいるようには見えなかったからね。ケンジと岬ちゃんは知っ
てたんだろ?」
「まあな」とケンジは言い、ビールを飲んだ。一気にグラス半分が無くなる。
「大学のサークルのときから仲は良かったし、いつかは付き合って結婚するんじゃねーかなと思ってた。だから
そこまで驚きはない」
 話がズレている、と僕は思った。しかし僕は何も指摘しなかった。僕は僕がいなかったときの話をされるのが
凄く嫌いなのだ。
「だが思わぬところからライバルが現れて驚いた」
「ライバル?」
「お前だよ」
 目の前の世界が一瞬止まったのを感じた。
 僕がライバル? 一体何を言っているのか分からない。
「この際だからはっきり言っていいか?」
 ケンジは身を構えて言った。
「正直お前を一目見たとき、こりゃ駄目な人間だと思ったよ。黙々とやらせらば勉強や仕事はできるもしれない。
だけど付き合うのは絶対嫌だと思ったね。だって楽しいこと何もなさそうだもん」
「……そりゃ結構な初印象だったね」
 僕は何とか言葉を絞り出したが、内面では心の芯に釘を打ち込まれたような気分だった。その印象は正に僕の
人となりを捉えていたし、反論の余地はなかった。
「だが、ちょっと話してみると違ったんだよな」
 そうケンジが言ったので、顔をあげる。ケンジは品定めするような目で僕のことを見つめていた。
「お前って本当に変わってるんだよな」
「は?」
「いや、下らねーことで悩んだりするし、誰も知らないようなニュースを知ってたりするし。一緒に仕事してた
ときもメチャクチャやってたよな。クラッシャーって呼ばれてたし」
 クラッシャーとはそのまんまの意味だ。僕がコンピュータを触るとよくOSクラッシュが発生する。使い方が
変わっているのか、あらゆる種類のバグを引いてしまうのだ。
「岬だって結局お前を弄り始めたし、なんというか放っておけないオーラがあるんだよ。そういうやつって多分
お前が初めてだな」
764 :幼馴染の結婚(お題:結婚式) 7/7 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/10/31(水) 01:45:04.89 ID:mmIV+U430
「あんまり嬉しくないね」と僕は率直な感想を言った。弄られるほうは弄られるほうで結構頭を使うのだ。でき
ればそういう役目は誰かにあげてしまいたい。
「お前が知らない話、教えてやろうか」
 ひと呼吸置いて、ケンジが言った。
「あのふたりが結ばれたのって、今年の八月なんだぜ」
 えっ、と僕は言った。
「お前がお盆休みズレて海に行けなかったことあっただろ? あのときの夜に伸二が仕掛けやがったんだ。それ
まであいつら、本当にただの友達だったんだぜ?」
「それは知らなかった」と僕は言った。正に青天の霹靂だった。
「だからさ、あれより前にお前がアタックしていれば、多分もっと面白いことになっていたんだと思うよ。俺や
岬の感ではな」
「……無理だよ。僕にそんな気はなかった」
「だろうな」
 ケンジがビールを飲み干して、また新しいのを頼んだ。僕の手元には炭酸が抜けたコーラが十分に残っている。
「披露宴が終わったらさ、合コンでもやろうって言ってんの。若い奴らが集まって折角だからさ。お前も参加し
ろよ」
 うん、と僕は言った。正直、僕にはどうでも良かった。

(完)
765 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/10/31(水) 01:47:38.55 ID:mmIV+U43o
最初に下げ忘れてしまいました……
すみません。

自分なりに起承転結をいれてみたけど、相変わらず薄いかも。

お題ください。
766 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/31(水) 03:16:00.34 ID:PIKs+bEZo
>>765
似顔絵
767 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/31(水) 06:08:35.24 ID:tMmvrrqIO
>>766
サンクスです
768 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/31(水) 07:38:55.97 ID:tMmvrrqIO
>>735
気になって読んでみたけど凄いなコレ。

ただ思いの向くままに、書きたいことを一レスで全て書き切っている。

走れメロスを読んだような読後感でした。
769 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/10/31(水) 13:52:10.42 ID:WWbfH08z0
お題くださいいい
770 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/10/31(水) 14:03:48.12 ID:/UDcaNENo
>>769
無断
771 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/10/31(水) 15:02:11.13 ID:WWbfH08z0
うっす無断ねえ
772 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/10/31(水) 22:12:23.61 ID:rM6USGTM0
お題、ください
773 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/10/31(水) 23:04:26.00 ID:/UDcaNENo
>>772
交代
774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/10/31(水) 23:32:30.30 ID:nizeRgXAO
お題下さい!短めのかいてみます
775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山陽) [sage]:2012/10/31(水) 23:33:53.40 ID:IsCNARRAO
>>774
愛すべき馬鹿
776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/01(木) 04:47:46.91 ID:voKsLXwbo
品評会はまた自然消滅な感じ?
777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sagasage]:2012/11/03(土) 20:45:49.06 ID:Mnjf+3ouo
>>766 似顔絵で書きました。

時間をかけたのだけど、時間をかけるほど文章が長く……

大作になってしまいましたが、投稿します。
778 :似顔絵を描いた話(お題:似顔絵) 1/11 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/11/03(土) 20:46:53.03 ID:Mnjf+3ouo
 私が似顔絵を描き始めたのはひょんなことからだった。
 ある日、私は母の顔を思い浮かべようとした。何故そうしようと思ったのかは覚えていない。おそらく恐ろしく暇で、何もすること
がなかったんだと思う。母の輪郭、母の全体像を思い出そうと、目を瞑って脳の中のあらゆる記憶を辿った。しかしどれだけ時間をか
けても、母の顔をはっきりと思い出すことができなかった。このように書くと、母が故人のように思えてくるかもしれないが、全くそ
うではない。家に帰ればいつも母がいるし、とくに反抗期の無かった私は、ある種友達であるかのように母と仲が良かった。これまで
の人生で最も長く誰と過ごしてきたかといえば母だろうし、誰の顔を一番見ているかといえば、やはり母だった。そんな脳に刷り込ま
れているはずの母の顔だったが、私はただひとつとして、「これが母である」という顔を思い浮かべることができなかった。
 パーツであればそれなりに思い出すことができる。例えば目はパッチリとした二重で、睫毛も長い。鼻は少し大きく、黒いプツプツ
がある。唇はピンク色で、その横にポツンとしたほくろがあった。それらのパーツを組み合わせれば母の顔が出来上がるかもしれない、
そう思った私は図画工作のスケッチブックに母の似顔絵を描いたのだが、それは全く母にならなかった。目はここ? 口はこの辺り?
 鼻はここだっけ?。 そんなことをやっているうちに、母の顔はどんどん人間の顔から離れていった。パーツを纏めようとしている
だけなのに、どうしてこうなるのか私にはサッパリ理解できなかった。私の描写力に問題があるのか、それとも別の問題があるのか。
もちろん前者もあるだろうが、本当にそれほど描写力が必要なのだろうか。私は脳に納めている母のパーツをトレースするだけだ。そ
れを適当と思われる場所に配置するだけ。それのどこに一体特別な力を必要とするのか。
 私は時間があれば、人の似顔絵を描くようになった。電車に乗っている間だったり、街中のベンチで少し休んでいる間だったり。道
具には普通のHBのシャープペンシルと、B4のCAMPUSノートを使った。あまり人に何か言われるのは嫌だったので、スケッチ
ブックよりは普通のノートのほうがいいと思ったのだ。それにノートには一定間隔で水平に引かれた線があり、それが私の絵を描くう
えでの基準を何となく作ってくれている気がした。
 私はまず可能な限り、静止している人を描くことから始めた。電車のドアに背を預けている人、吊革に掴まる人、席の隅っこで寝て
る人。信号待ちをしている人、別のベンチで座っている人、噴水の前で誰かを待ち合わせている人……母のときとは違い、私ははっき
りと視界に対象を捉えていた。対象の顔形を一つ一つ具に観察しながら、B4のノートへとシャープペンシルを走らせていった。しか
し私は結局、その人達の顔を描くことができなかった。顔を視界に捉えている間、私は確かにその顔をはっきりと認識することができ
る。しかしひとたび視線を落として真っ白なノートへ目を向けると、頭のなかに思い浮かんでいたイメージは、闇に溶け込むように忽
然と消えてしまうのだ。
 私は私が納得するレベルの似顔絵を描くまで、かなりの努力を要した。いくつか本を読み、人の顔を描くうえでの手法を学んだ。顔
の基準線を入れるということすら、私は本を読むまで思いつかなかった。ただ、あくまで触りだけでしか本は読まないことにした。自
分の色なんてその頃にはなかったけど、そういうものが無くなってしまう気がしたからだ。その分試行錯誤でいろいろ苦労したが、一
年を経る頃には、自分の絵というものをどうにか手にすることができた。さらに、静止している人ばかりでなく、動いている人の顔も
少しずつ描けるようになっていった。
 私は高校一年生のときから絵を描き始めたが、卒業の頃にはノートの数が三十冊を超えていた。一冊四十枚で、ページの左側にしか
779 :似顔絵を描いた話(お題:似顔絵) 2/11 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/11/03(土) 20:47:32.00 ID:Mnjf+3ouo
絵を描かなかった(右側にはそのときのメモを残すようにしていた)から、一冊には三十九枚の絵が描いてあることになる。単純に計
算しても、一日に一枚以上絵を描いていることになるのだ。実際にそれぐらい描いていた気がしたし、結果としては全く不思議ではな
いのだが、こうして数えてみると何ともいえない実感が湧いてくるものだ。見返してみると、自分はいろいろな人に会っていたんだな
あ、ということが分かる。一度描いた人は余程なことがない限り二度と描かないようにしていたので、千人以上の顔がノートに詰まっ
ているのだ。
 私が描く全ての絵には、共通点があった。リアリティであること、そして現実から切り離されていること。ふたつは矛盾するように
感じるかもしれないが、そうではない。一言でいえば動物の剥製だ。剥製はどこまでリアルであろうと、魂を感じない。それは終わっ
てしまったもので、誰かの手によってでなければ現実に関わることはできない。私の絵もそれだった。私によってノートに記録された
人物は、今もどこかで生活を続けていた。現実から、時間から切り離されたものだけがそこに残っている。私は自分が描いた三十冊以
上のノートが、何物にも変えられない宝物であるように感じられた。だから私はそのノートが劣化しないよう、家のなかの日が当たら
ない棚に大切に保管した。
 私は絵を描くことを自分の職業にしようとは思わなかった。だから美術系の大学に進学などは全く考えていなかったのだが、それは
周りを大いに驚かせたようだった。私が絵を描いていることを周りにバラす気がないとしても、毎日描いているのだからいつかはバレ
るものだ。それで興味本位で聞いてきた友人たちに絵を見せてやったのだが、皆一様に言葉を失ってしまった。似顔絵といえば、テレ
ビのワイプなどでよく見る芸能人の似顔絵を想像していたのだろう。鼻の穴を悪意が感じられるほど大きくしたりとか、目を極端に近
づけたりとか、人物の特徴をこれでもかと強調したもの。だが私が描いた絵はそんなものではなかった。リアルで面白味もなければ、
そこに心に訴えかける何かが込められているわけでもない。「なぜこのような絵を?」という疑問が友人たちの頭に浮かんでいるのを
感じたので、「暇があれば描いているの」と私は答えた。それは微妙にずれた答えだったが、友人たちはそれ以上何も突っ込んでこな
かった。ただ一度バレると噂というものはたちまち広まってしまうもので、私が絵を描いていることは、他のクラスメイトや先生、両
親までもが周知の事実となってしまった。それでも、そのことについてどうこう言う人はなかなか現れないもので、私が将来美術系の
道に進むことは皆の間で決定事項になっていたようだった(とはいっても一度だけ、それまで一言も言葉を交わしたことがない同級生
から「あなたの絵は面白くない」と面と向かって言われたことがある。その他にも散々貶されたのだが、別に批評されるために絵を描
いているわけではないので、私は何も言い返せなかった。一体何が彼女をそこまで怒らせたのだろうか)。しかし先に言ったように、
私は絵を描くことを職業にするつもりはない。職業とは別に持つものだという考えが頭にあったのだ。それで結局、私は国立のある総
合大学の経済学部に入ることにした。
 大学生になり、人生で初めてバイトを始めた。ある中古CD・LPショップの店員だ。客が少なくほとんど座っているだけだったの
で、来店してきた人達の顔をこっそりとノートに書き写すことにした。大学で講義を受け、時間が空いたときは芝生の庭に向かった。
そこでは沢山の大学生たちがドッジボールをしたり、芝生に寝転んだりしてキャンパスライフを楽しんでいたので、私もその中に混じ
り、大学生たちの顔を描いた。そのようにして日々を過ごしていたので、私がノートを埋めるペースは高校時代より圧倒的に速くなっ
た。一冊で二週間持てば良いほうだった。私はとにかく人の顔が描きたくて仕方がなかった。
780 :似顔絵を描いた話(お題:似顔絵) 3/11 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/11/03(土) 20:48:07.79 ID:Mnjf+3ouo
「そうやってバイト中も絵を描いているの?」
 私の心臓が止まりそうになったのは、大学入学から三ヶ月が経とうとした頃だった。ノートの数もそろそろ四十冊になろうとしてい
たとき、問題の人物は突然現れた。それはバイト先に姿を現したのだ。店に入るなり、私の顔を一目見つめた。不審に思ったが、その
人物はすぐに視線を外したので、私は気にするのをやめてノートに絵を描くことにした。もしかしたら万引きか何かを狙っているのか
もしれない。だけどレジを介さずに外に商品を持ち出そうとしたらゲートのところで音が鳴るし、そうなったら今描いている似顔絵を
警察に持っていってやろうと思う。まさかそんなものを私が描いているとは思いもすまい。そして私は今も何処かの店で働いている店
長に褒められるわけだ。そんなことを考えていた矢先に声をかけられたものだから、私は思わずノートをレジの下に隠してしまった。
しかし隠してから気がついたのだけど、その人物が見下ろす視線からは私が描いている絵は見えなかったはずだ。だいたい、私が絵を
描くときは言い訳ができるよう、いつも客側に背表紙を向けている。つまりこの人物は、私が絵を描いていることを事前に知っていた
のだ。
 見上げたその人の身長は、恐らく一八○ぐらいあった。髪は金髪に染めているが、不良という感じではない。メガネがよく似合って
いて薄い唇、明るい色のジャケットを着こなして、ファッションセンスも悪くない。一言でいえば大学のテニスか何かのサークルの部
長って感じだ。少なくとも同じ年齢では出せない落ち着きを感じる。
「はい」と私は答えた。先ほどの質問に対してだ。最初からバレているのなら、隠していても仕方がない。無断で顔を描かれているこ
とを知ったなら怒る人もいるだろうが、この人は自分から描かれにきたようなものだ。だから、正直に言って怒られることもないだろ
う。
「良かったら、見せてもらえないかな?」
 その言葉に私は戸惑ったが、断る上手い理由も思いつかず、ノートを広げて差し出すことにした。今描きかけだったページだ。まず
目のパーツを完成させて、鼻や耳などの簡単な位置を決める。そして髪を描きはじめたところで声をかけて止められた。それは完成す
れば正面やや左向きで、こちらに視線を向けている絵になるはずだった。
 名も知らぬ人はその未完成の絵をしばらく眺めてから、ページを前に捲り始めた。あっ、という間もない。ノートは昨日変えたばか
りだったが、既に五・六人は描いている。真剣な表情で一つ一つの絵を眺めているので、私は声をあげることができなかった。
 その人はノートを全て見終えると元のページに戻し、私に向けて差し出した。
「ありがとう。とても絵が上手いんだね」
 私は何も言わなかった。そのような反応を受けたのは初めてだったので、どのように返していいか分からなかったのだ。代わりに、
未完成の絵を見つめる。声をかけられなければ完成していたはずの絵。
「できれば続きを描いて欲しいんだけど、駄目かな?」
「もう描けません」
 私は首を振りながら言った。
「どうして?」
781 :似顔絵を描いた話(お題:似顔絵) 4/11 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/11/03(土) 20:48:40.94 ID:Mnjf+3ouo
「私は似顔絵を描くとき、その人の一瞬のイメージを切り出してから描くんです。だけどあなたに声をかけられたとき、そのイメージ
が霧散するように消えてしまいました。だから続きを描こうとしても、私自身どうやって描けばいいか分からないんです」
「それは残念だ」
 その男の人は本当に残念そうな顔をした。
「じゃあ一から僕の顔を描くことはできない? なんとなくそれも無理そうな気がするけど」
「私、一度描いた人はよっぽどのことがない限り描かないって決めているんです。それに描かれるのを意識している人を描くのは何か
違うというか……うまく説明できないんですけど」
「そうか……『よっぽどのことがない限り』ということは例外はあるんだね?」
「一度だけですけど」
「一度だけか。厳しいな……」
 ちなみにその一度というのは、高校の友人だったヨーコだ。似顔絵を描いているのがバレる前に一回、そしてバレた後に一回、ヨー
コの顔を描いた。あれは高校三年最後の文化祭のときだった。ヨーコは活発な子で、お化け屋敷で皆を驚かせてやるんだとメイクを張
り切っていた。それは怖いというよりは可笑しなメイクで、クラスメイトの皆を存分に笑わせたりしていた。お化け屋敷は大盛況だっ
たのだけど、終わった後、クラスメイト全員で片付けを進めるなか、ヨーコがひとり、メイクを落とさないまま無表情でポツンと教室
内に佇んでいた。それは一瞬の出来事で、私の視線に気がつくとすぐに元のヨーコに戻ったのだけど、そのときのイメージが強く残っ
ていた私は、家に戻るなりその絵を描き上げたのだ。それから一週間後、ヨーコは家庭の事情で遠くに転校するという連絡があった。
私に二度も絵を描かせるにはそれなりの事情があったのだ。
 男の人は少しレジを覗き込むようにしていた上半身を起こすと、ジャケットのポケットに手を突っ込みながら言った。
「僕もその例外になりたいもんだな……ところで君は何かのサークルに所属しているのかい?」
 私は無言で首を横に振った。
「じゃあ美術系の教室に通っていたりとかは?」
 私はそれにも首を振るなり、先ほどから未確定事項になっている点について確認することにした。
「あなたは、同じ大学の方ですか?」
 そういうと「ああ、ごめん」と言い、男の人はやや戯けたように見せた。
「実はそうなんだ。自己紹介が遅れたけど、僕の名前は根岸徹。○×大学の三年で、文化人類学科に所属している。あと美術部サーク
ルの部長もしているんだ」
「美術部サークル……」
 私の想像は半分間違いで半分正解だったようだ。そういう系の方から声をかけられたのは初めてである。まさかそのサークルに入れ
というのだろうか。
「休憩時間になるといつも庭に座って絵を描いている子がいるって聞いて、前からすごく気になってたんだ。いつ声をかけようかと思
782 :似顔絵を描いた話(お題:似顔絵) 5/11 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/11/03(土) 20:49:15.14 ID:Mnjf+3ouo
ってたんだけど、さっき偶然ガラス越しに君を見つけてさ」
 そういうと根岸さんは目を外に向けた。この店は地下街にあるが、表がガラス張りになっていて、中がよく見えるようになっていた。
大学からそう離れているわけでもないし、いつか見つかることはあるだろう。
「君はプロを目指しているのかな?」
「いいえ、そんなのじゃないんです」と私は言った。
「私はこれは仕事とは別のことにしたいんです。好きに描いていたいっていうか……分かりますか?」
「よく分かるよ……そう言ってしまえば語弊があるかもしれないけど、これから社会人になっていく上で、何か別のものを自分に残し
ておきたいっていうのかな。そういう感覚が僕にもあるんだ」
 根岸さんはそう言うと、再びレジのほうに身を乗り出した。
「ねぇ、君も美術部サークルに入らない? 今の話を聞いてますます君に入ってもらいたい気がしたんだ」
「……申し訳ないですが、気がすすまないですね。さっきも言いましたが、私はこれを仕事にしたりだとか、他人に批評してもらった
りだとか、そういうことはあまりしたくないと思っているんです。ひとりで黙々と描いているほうが、私の性に合っている気がします」
「だからだよ。だから君には僕達のサークルが向いていると思うんだ」
「だから?」と私は首を傾げる。
「いちおう美術部だと名を打ってはいるけどね、実際には自分勝手に絵を描きたい人たちの集まりだよ。部室に画材があるから、それ
を使って書きたいときに絵を描く。コンクールになんて出したりしないよ。そういうのがしたい人は、みんな美術系の大学に通ってい
るんだ。いま美術部にいるのは、そういう道を選ばなかった人たち。描きたいときに絵を描くだけの人たちなんだ」
 根岸さんは趣味という言葉を使わなかった。あえて使わなかったのではないかという印象を持った。描きたいときに描く人たちがい
るだけの美術部。それはどんなところだろうか。おそらく、とても暗いのではないのだろうか。
「君に必要なのはノートとシャーペンだけだろうから、画材なんて使わないだろうけど、『もしも』ってことがある。それにこれから
暑い季節になるから、クーラーのよく効いた部室に居られるのは充分なメリットになるんじゃないかな。旧校舎の二階で、窓から外が
よく見えるし」
 根岸さんの話し方が巧みなのか、それは私にとって悪くない条件であるように思えた。入ってもいいかもしれない、という思いが頭
をもたげてくる。
「少し考えさせてください」
「オーケー、もし入る気になったら旧校舎の二階においで。一番端っこに部室があるから、すぐ見つかるはずだよ」
 そして根岸さんは中古のCD(海外のロックバンドでよく知らない)を買い、店から出ていった。
 私はそれから三日もしないうちに、美術部サークルに足を運ぶことになった。梅雨がやってきたのだ。もう七月になる直前だという
記録的に遅い時期で、私は梅雨のことなんか露ほどにも意識していなかった。旧校舎の二階に向かったところ、言われたとおり部室は
すぐに見つかった。木製の古びたドアで、ノックすると中から根岸さんの声が聞こえた。
783 :似顔絵を描いた話(お題:似顔絵) 6/11 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/11/03(土) 20:49:50.93 ID:Mnjf+3ouo
「意外に早かったね」
 根岸さんはもう少しかかると思っていたようだ。私もそう思っていたので、無言でこくりと頷いた。
 部室には部長を含め四人のひとがいた。男性ふたり、女性ふたり。ただ、ひとりの女性は中央でポーズをとっているので、美術部の
メンバーは三人かもしれない。
「いま知り合いの子にモデルを頼んで人物画のデッサンをしていたところなんだ。といっても、僕はいまちょうど終わったんだけどね」
 根岸さんが話し終えると、部室はやけに『しん』とした。まるで吸音装置が部屋の中央にあって、それに全ての音が吸収されている
感じだ。しとしと、と擬音を付けたくなるような梅雨の雨音が微かに耳を捉えていた。
「とりあえず見学するかい? 窓からの眺めというのは君にとって恐らく最も重要だろうけど」
 私は無言で頷くと、「失礼します」と言って部室に入った。根岸さんが手荷物を預かり、部屋の隅に放置してあった丸椅子の上にそ
れを置いてくれた。
 部屋は思っていたより広かった。本当に吸音装置があるのなら、ちょっとしたブラスバンド部の部室として使われてもいいくらい。
部屋の片隅に、キャンバスを立てかける道具がまとめて置かれてある。もしかしたら部員がまだ何人かいるか、卒業か何かで辞めてし
まったのかもしれなかった。壁一面に木の枠だけのロッカーがあり、そこに画材が整理されて詰め込まれている。キャンバスがビニー
ルに包まれているのを初めて見た私は、それだけでここが美術部であるという実感をより強くした。続いて私は、根岸さんお勧めの窓
からの光景を見に移動する。その位置は、運動部サークルのグランドと芝生の庭でちょうど二分したところにあった。隅っこの部屋で、
正面だけでなく側面も窓になっているので、どちらもはっきりと見渡すことができる。梅雨でひとが外に出ていないのが残念だが、晴
れれば恐らく沢山のひとが見えるに違いなかった。
「どう? 気に入ってくれた?」
 頃合いを見計らって、根岸さんが背後から声をかけてくる。
「ええ、良いところだと思います」
 私は率直に答えた。それはこの景色だけでなかった。この『しん』とした部室の気配も気に入ったのだ。ここなら絵を描くときに邪
魔される心配はなさそうである。
「そっか……じゃあどうしよっか。もう少し考えてもらってから入部届けを書いてもらってもいいんたけど」
「いいえ、いま書きます」と私は首を振って答えた。
 根岸さんは微笑むと「じゃあ入部届け取ってくるね」と言い、部屋を出ていった。再び部屋が『しん』とする。私はその間に、部長
が先ほどまで描いていたというデッサンを眺めた。背筋を伸ばして丸椅子に座る女性を、斜め前方から描いている。全身のバランスが
しっかり保たれており、誰の目から見ても「これは二十歳ぐらいの女性を描いているのだ」ということがはっきりと分かる絵だった。
しかし、それだけだった。その絵に女性が描かれているということ以上に、訴えかけてくるものがなかったのだ。
 私はそれから美術部で絵を描くようになった。梅雨で外には誰も見えなかったので、デッサンを描いている部員の顔をノートに描い
たりした。根岸さんの顔も描くと、根岸さんはとても喜んでくれた。例外なんて簡単に崩れるものだ。あと、私もイーゼルというもの
784 :似顔絵を描いた話(お題:似顔絵) 7/11 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/11/03(土) 20:50:54.10 ID:Mnjf+3ouo
にキャンバスを立てかけて、モデルの全身画のデッサンに参加したことがあった。思ったより上手くかけなかったのだけど、橘くんや
仁科さんといった同じ美術部のメンバーに幾つかアドバイスをもらい、それなりに全身画も描けるようになった。とくに橘くんは手の
デッサンが上手かったので、コツを入念に教えてもらった。そして私のノートにはいつしか顔だけでなく、手や上半身など他のパーツ
も偶に描かれるようになった。

「文芸祭への出展?」
 私は少し驚いたように言った。それは十月のことだった。○×大学には毎年十月に文芸祭があり、各文化系サークルが出展を行うと
いうのである。
「そこで日頃の成果を見せないと、サークルが廃部になってしまうんだ。僕らの作品はもちろん、君が普段描いているノートも展示し
たいんだけど、駄目かな?」と部長が言う。
「私が美術部で描いた作品が展示されるのは仕方ないと思います。ただ、あのノートが個人的なものであることは、部長も承知してい
たはずですが……」
 そういうと部長は困った顔になった。私も困惑した。なぜノートを展示しないといけないのか? だいたい、成果を見せるだけなら
部長達が描いたものだけで充分なはずだ。誰が見ても部長達の絵が遊びで描かれているようには見えないはずだ。もしあれで廃部に追
い込まれるというのなら、私が正式に学校に抗議してやってもいい。
「私も、あのノートを文芸祭に出したほうがいいと思う」
 仁科さんが言った。
「ねえ、よく考えてみてよ。私あのノートを初めて見たときに思ったんだけど、何か訴えかけてくるものがあると思うの。上手くいえ
ないんだけど、どうしても無下にできないっていうか。私達が描く作品とは根本的に何かが違うんだよ」
 そこで部長が補足するように言葉を入れた。
「君は最初僕にあったとき、対象のイメージを切り出してから描くって言ってたよね? 美術部で君が描いた作品にもその色は出てい
ると思うけど、やっぱりもっと良く出ているのがあのノートだと思うんだ。僕としてはどうしても、あのノートを他人にも見てもらい
たいという思いがある。本当に駄目かな?」
 本当に駄目かな、と言われればますます困ってしまう。私がノートをあまり晒したくないというのは、あくまで感覚的なものなのだ。
確固たる理由があるわけではない。
「少し考えさせてください」と私は言った。
 私は結局、ノートを展示することにした。断って部長達との関係を壊すのも嫌だったし、どれだけ考えても、断る確固たる理由がや
はり見つからなかったのだ。
 展示するのは大学に入ってから描き始めたノートだけだ。それでも十冊を軽く超えている。出展前にあらためて見返してみると、こ
の六ヶ月の間には上達の跡がはっきりと見られた。イメージの切り出し方が上手くなっている。とくに美術部に入ってからは、その切
785 :似顔絵を描いた話(お題:似顔絵) 8/11 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/11/03(土) 20:51:23.70 ID:Mnjf+3ouo
り出し方のバリエーションが増えているように感じられた。これでは、美術部と無関係であるとは全く言えないかもしれない。
 出展する上での懸念事項は、それが一枚の絵として独立しているのではなく、ノートであるということだった。私はそれを切り離し
たりするのは絶対に嫌だったし、スキャナでスキャンしてデジタル化するのも絶対に嫌だった(これは部長達も賛同してくれた)。で
はどのように展示するかというと、そのままノートとして展示するしかない。来場者に自分でページを捲ってもらうのだ。手垢がつく
のも嫌だし、雑に扱われるのも絶対に嫌だ。だから展示の際には美術部員が必ず常駐して、手袋でもって丁寧に捲ってもらうよう努め
なければならない。「絶対に雑に扱わせないよ」と橘くんが言う。こうして一大プロジェクトのような形でノートの公開に至った。
 ノートはそれなりに盛況だった。その厳重な管理に面喰らって、全く近づかなかった人もいる。しかしノートを手に取った人は、一
冊見るだけでは飽き足らず、二冊、三冊と手に取っていった。私は心臓がドキドキして、文芸祭が終わる頃には倒れそうになった。何
故なら私は結局、展示しているノートから片時も目が離せなかったからだ。これを描いたのは誰か、と紳士服を着た白髪交じりの老人
が橘くんに聞いていた。橘くんは離れた場所で縮こまっている私のことを差して紹介した。心臓が止まりそうになったけど、何とかお
辞儀して済ませた。
 僅か半年であんなに描くなんて凄い。
 展示方法が面白かった。またやって欲しい。
 世の中にいる色んな人の顔が見れて面白かった。
 自分が描かれている?!
 文芸祭のアンケートだ。普段白紙ばかりのアンケート用紙にこれだけ感想が書かれるなんて本当に珍しい、と大学の実行委員のひと
は言っていた。
「きっと絵について何か感想を書きたかったけど、上手く書けなかったんだよ」と部長は言った。
 そうだろうか、と私は思う。アンケートだけを読めば発想の勝利と思えなくもない。アンケートの裏を読み取る力など私にはない。
 とにかく、私にとって嵐のようだった文芸祭は終わった。ノートを家の棚に片付けると、私は久しぶりにぐっすりと眠った。
 まだ事態が終わっていないと知ったのは、それから三日後のことだった。
 大学のその日の講義が全て終わって、あとは部室に行こうか、それとも何処か別の場所で絵を描こうか迷っていたときだった。私の
携帯に部長から電話がかかってきた。
「はい、なんでしょう」
「今日部室に来る?」
「どうしようか迷っていたところだったんですけど……何かあったんですか?」
「実は君にお客さんが来ているんだ」
 お客さん?
 私の頭にはてなが浮かぶ。
「お客さんって誰ですか?」
786 :似顔絵を描いた話(お題:似顔絵) 9/11 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/11/03(土) 20:52:15.13 ID:Mnjf+3ouo
「白鳥さんっていう老人の方なんだけど……文芸祭で君の作品を見てここに来たと言っている。とにかく来てくれないか? 君がいな
いと話の進みようがないんだ」
「……分かりました。すぐ行きます」
 携帯を切り、その人物を頭に思い浮かべる。
 白鳥さんってどんな人だ? 全く想像もつかないぞ。
 私は悶々とした気持ちで旧校舎の二階へと向かった。そして部室のドアを開けるときに思い出す。文芸祭のとき、このノートの絵を
描いたのは誰だと橘くんに聞いていたあの老人。あれが白鳥さんではないのか?
 ドアを開けると、果たしてその白鳥さんがそこにいた。まるでモデルみたいに、中央の丸椅子に座っている。あのときと同じように
紳士服に身を包んだ姿で。
「わざわざ来ていただいて申し訳ありません」
 その老人は立ち上がり、恭しく頭を下げた。私はあのとき心臓ドキドキだった自分を思い出し、慌てて同じように頭を下げる。
 いつかのときのように部長が手荷物を預かると、老人の正面に置かれた椅子に座るよう私を促した。仕方なく、座る。
「あの、それでどういった要件でしょう」
 私は心が落ち着かないまま、老人に向けて話し始めた。
「突然で恐縮ですが、似顔絵を描いて欲しいのです」
「似顔絵?」と私は驚く。よく考えればノートを見てここに来たのだから、当然の帰結だ。しかしこの老人がまさか似顔絵を描いて欲
しいのだとは、全く想像できなかった。
「あなたの絵を見てから暫く悩みました。そのようなことをして何の意味があるのかと。しかし私はどうしても、あなたに似顔絵を描
いてもらわずにはいられなくなったのです。そうしなければ先に進めなくなったのです」
 その言葉は情熱的だった。まさか老人からこのようなアプローチを受けるとは思いもしない。先ほどからこの老人は私の常識を覆し
てばっかりだ。何故こうも変わったことが起きるんだろう。
「……申し訳ありませんが、私はあなたの似顔絵を描けません」
 恐る恐る私は言った。
「私は描かれたいと思っているひとの似顔絵は、どうしても描けないのです」
「ああ、すみません。描いてもらいたいのは私の似顔絵ではありません」
 そう言うと老人は頭を掻き、ひとつ深呼吸してから言った。
「描いてもらいたいのは、私の妻です」

 部室にいる誰もが『しん』としていた。後から来た橘くんも仁科さんも一言も声を発さなかった。
 私はノートとシャープペンシルを手に、老人と真正面から向かい合っていた。十分前にはこんなことになるなんて思ってもいなかっ
787 :似顔絵を描いた話(お題:似顔絵) 10/11 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/11/03(土) 20:52:44.98 ID:Mnjf+3ouo
た。ただ、引き受けてしまったものは仕方ない。やるしかない。
「まず、目はどのような感じですか?」
「切れ長ですが、柔和さを失わない瞳でした。完全な二重で、睫毛が少しカールしています。それに……」
 白鳥さんの奥さんは死んでいた。交通事故で一ヶ月前に亡くなったらしい。会社を退職し、仲良く余生を過ごしていた矢先の出来事
だったので、白鳥さんは途方に暮れたそうだ。生前の写真を見ても心が落ち着かず、とにかく日中はいろんなところに出かけたりして
いたところ、文芸祭で私の絵を見たらしい。白鳥さんのなかでどのような思考の推移があったのか定かではないが、私に妻の絵を描い
てもらわなければ先に進めないと思ったとのことだ。
「こんな感じであっていますか?」
「いいえ、もう少し柔らかい感じです。睫毛もやや短く……」
 『こんな感じ』では駄目なのだ。『これ』でなければ。そんなことは分かっているのだが、他人の記憶から似顔絵を描くというのは
途方もない作業だ。だいだい捜査に使う似顔絵だって、全く同じではないから人々の想像を働かせるのだと言われている。全く正確な
似顔絵を描くなんて、はっきりいって無理だ。だが、この老人の前でそんなことは言えるはずがない。私が似顔絵を描き終えるか、そ
れとも老人が先に諦めるか、気力・体力のチキンレースだ。
 私は似顔絵を描くにあたり、いつもとは別の方法を試してみた。一枚のページに幾つも目だけを描いて、どれに一番近いですか? 
という方法だ。白鳥さんは「これが一番近いが、もう少し目が細い」と言った。私はそれを修正していく。ようやく片方の目が完成し
た。
 部長が私と白鳥さんのために折りたたみの机を用意した。私達はそこに移動すると、ふたりで机に身を乗り出して、ノートに描かれ
たパーツについてあれこれ意見を交わした。白鳥さんは時間が経つたびに諦めるどころか、さらに精力的になっていった。私も負ける
かという気持ちになった。最初は全くイメージが湧かなかったけど、今はぼんやりと奥さんのイメージが頭に浮かんでいるのだ。白鳥
さんと話すたびに、そのイメージが明瞭になっていく。
 外は日が傾き、夜の世界が室内に訪れようとしていた。私と白鳥さんが交わす意見の数は徐々に少なくなっていった。しかしそれは
疲れを表しているのではなかった。私のなかにあるイメージは、より鮮明さを増していたのだ。もはや白鳥さんは頷くだけになり、私
は私が頭に思い浮かべたイメージを一心不乱にノートに描き写した。それは首をやや傾け微笑む小綺麗な老女の姿だった。恐らく白鳥
さんでさえ見たことがない顔だった。
「おお……これは正しく……」
 私が絵を描き終えると、白鳥さんはそのノートを手に取り立ち上がった。人差し指で、細部にまで優しく線をなぞる。ついに出来上
がったのだ。白鳥さんの亡くなった奥さんを切り離した絵が。
「その絵だけ、カッターナイフで切り離しましょう。部長、お願いしていいですか?」
「……もちろん」
 少し気が抜けていた感じの部長が頷いた。
788 :似顔絵を描いた話(お題:似顔絵) 11/11 ◆xUD0NieIUY [sagasage]:2012/11/03(土) 20:53:24.55 ID:Mnjf+3ouo
 部長の手先の器用さは天性のもので、まるで最初から切り離される運命であったかのように、奥さんの絵は綺麗に切り離された。
 白鳥さんはファインダーにその絵を入れる。
「ありがとうございます。正しく欲しかったものが手に入りました。何か御礼をさせていただきたいのですが、どのようなものがよろ
しいでしょうか?」
「美味しい食べ物がいいです」と私は言った。
「この美術部の皆で食べられるやつ。そんなに高くないのでいいですよ。高いと逆に困ってしまうので」
 その言葉を聞いて、白鳥さんがフフッと笑った。
「どうしたんですか?」
「いえ、妻も生前そのようなことをよく言っていたものですから」
 翌日、白鳥さんは最近アメリカから出店してきたのだという人気のドーナツ店でドーナツを買い、部室に持ってきた。老人だという
のに、なかなか若い者の好みというものを分かっている。私達はそれを存分に味わって食べた。

「……あのノート、切り離してもよかったのかい?」
 白鳥さんが帰った後、部長が聞いてきた。
「はい。あのページは白鳥さんのものですから。私には、残ったページだけで充分なんです」
 それから私は、部長にくるりと背を向けて言った。
「分かりますか? 部長。切り離した後のあのノートは、それまで描いてきたノートと変わらないか、それまで以上に、私のなかで大
切なものとなったんです」
 私はまた新しいノートを買った。そしてまた一から新たな気持ちで、ノートに似顔絵を描いていこうと思った。
789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sagasage]:2012/11/03(土) 20:55:36.00 ID:Mnjf+3ouo
以上です。

美術部に入ってからは短かったはずなのに、入ってからのほうが長かった……

最近は起承転結というものがよく分からなくなってきています。
それはともかく、お題ください。
790 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/03(土) 21:03:27.34 ID:nGMOK/sSo
カード
791 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sagasage]:2012/11/03(土) 21:05:43.14 ID:Mnjf+3ouo
>>790
早い、、、

このスレって常に誰かがウォッチしているんですね。
了解です。
792 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/04(日) 15:38:22.05 ID:uuHrF7cno
>>789
ちゃんと推敲してるの?11レスも必要な内容じゃない
793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/04(日) 16:24:26.97 ID:nGoHy43IO
>>792
一文レベルでは推敲しているつもりだけど、全体レベルではあまりしてないかも。

長くなってしまったときはストーリー構成も含めて一度考え直したほうがよさそうですね。

次は短くなるよう努力します。
794 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/04(日) 17:42:02.70 ID:+T3QAUh2o
>>778
感想を

確かに、11レスも消費するような大きな進展は無い。だけど、読んでて飽きないのは俺の感性にあっているからなのか……
一つ一つを絵に書き込んでいく様子は丁寧でいいと思う
ゆっくりゆっくり遠回りだけどどこかしっとりするような感覚だった
飽き性の俺が集中して読めたのは楽しめた証拠

主人公の目的が曖昧だから、いまいち理解されにくいかもしれない
臆病なところも感じられた。だけど、こんな人物が俺は好きだな
795 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/11/04(日) 21:12:36.33 ID:ITcwy38jo
>>794
おお……ありがとうございます。

とにかく描写を丁寧にしようと思っていたので、
そこを読み取ってもらえたのは嬉しいです。

実はこれを書き終えたとき、
「果たしてこれ面白いと思ってもらえるのかな?」
という不安が若干ありました。

もちろん自分で面白いと思っているから投稿しているんですけど、
つまんないと言われればその理由も何となく分かるような……

誰にでも賞賛される小説を書いてみたいです。
796 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/05(月) 18:01:07.47 ID:huOk2j1IO
亀レスだけど>>735さん感想をありがとうございました
メロスのように作り込まれた民話のような話をいつか書いてみたいですね
太宰先生はあれで芥川を取ろうとしてたみたいだけど毛色が違いすぎる気がします
しかし賞レースから離れた後も歴史と記憶に残り続けるメロスは本当に素晴らしい作品なのでしょうね
メロスが素晴らしいからといって僕の書いためちゃくちゃなバカ話が素晴らしいわけではありませんが

ところで次の品評会はいつなんですかね?
797 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/11/05(月) 18:06:39.06 ID:huOk2j1IO
間違えた、>>768でした
すんません
今日が品評会の日だったんですね
お題は似顔絵でいいですか?
798 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/05(月) 18:17:26.36 ID:huOk2j1IO
あれ?品評会昨日じゃん
また間違えましたすいません
なんでもいいからお題ください
799 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/05(月) 18:50:44.83 ID:3IQuV4wIO
破壊と創造

品評会はどうやれば復活するんですかね?

誰かが独断でお題出せばいい?
800 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/05(月) 19:57:43.42 ID:huOk2j1IO
あ、今から書きます
ここじゃ人も少ないし毎週何曜日に〜とかは無理だと思うから独断でいいんではないでしょうか
それぞれが一つのお題に一作持ち寄って書いたらそれで品評会みたいな感じで
801 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/05(月) 20:57:58.13 ID:3IQuV4wIO
じゃあ独断で。

第309回週末品評会  『タブー』

規則事項:7レス以内
※本スレに投稿後、以下のスレッドにも投稿すること。
http://yy46.60.kg/test/read.cgi/bnsk/1352115943/
※投稿の際は名前欄にNo.をつけること。
 例:No.1 油揚げ 1/7 トリップ名

投稿期間:2012/11/18(日) 23:30 まで
宣言締切:日曜23:30に投下宣言の締切。それ以降の宣言は時間外になります。
※折角の作品を時間外にしない為にも、早めの投稿をお願いします※

投票期間:2012/11/19(月) 00:00〜2012/11/20(火) 24:00
※品評会に参加した方は、出来る限り投票するよう心がけましょう※


投稿期間が二日しかないのが投稿が伸びない理由かな? と思い、
投稿期間を伸ばしてみた。

ただ、本スレが流れると見にくくなるので、まとめ用スレッドを作り、
そっちにも書き込んでもらうようにしてみた。

どうでしょ。
802 :変貌(お題・破壊と創造) :2012/11/05(月) 21:03:49.71 ID:huOk2j1IO
朝、目が覚めると、窓の外にチュンチュンと変な音がした。窓のサッシを上げがららと開くと、止まっていたスズメが数羽、ぱっと飛んで行った。
スズメを目で追うと、それはパタパタと羽をはためかせながら空に向かって上がって行った。地上12階のマンションにスズメなんてくるものなのだろうか。
物珍しいものを見た気がしたが、やはりどうでもよくなってスズメから視線を逸らし、ずっと向こうを眺めると、朝日に照らされた東京スカイツリーが見えた。東京都内のこのマンションで暮らすものは、一日に一度は否が応でもあれを目にすることになる。
だが、見慣れているはずのスカイツリーも朝の清々しい空を背景にするとなんとなく美しく見えた。大げさに言えば、今から50年前、まだ八歳の子供の頃始めて東京タワーをみたときのような爽やかな感動が胸に広がったのだ。
気持ちのいい起床で安らかな心を得たわたしは、自室から廊下へと出た。そのとき、背後から変な音がした。
おはようと声をかけられてから数秒間、わたしは返事をすることができなかった。いや、返事をするまでそれが「おはよう」だと気づけなかったというべきか。
音はちゃんと捉えているのに、言葉の意味がまるでわからなかったのだ。
妻の声が耳に入って数秒してから、覚醒した頭を横にふり適当に言葉を発する。だが、その言葉の意味すらわたしにはわからなかった。確かにおはようと発声したはずなのだが、それがどうもおはように聞こえない。そもそもおはようとはなんなのだろうか?
いや、そんなことはわかり切っている。おはようとは起床を知らせる言葉だ。毎朝使う言葉なので意味を考える機会などなかったが、そのニュアンスは常に頭の中に入っている。なのに、これはどうしたことだろう。
「あなた、だいじょうぶ?ねぼけてるの?」
心配そうにわたしの顔を覗き込む、40代へと差し掛かったばかりの妻の顔がぼやけて見える。視界が曇ったわけではない。その証拠に、驚いて目を何度もこすっても見慣れたはずの妻の顔を認識できなかった。
今日のわたしはどうしたのだろうか? まったく妻の顔が認識できなくなったのだ。この前まではっきりと読み取れていたはずの表情が、今ではぐねぐねと流動する肉の池のようにしか見えない。気持ち悪くてえづきそうになったが、なんとかそれを飲み込んだ。
肉がまた流動し、肉の池の中心にぽっかり空いた穴から音が漏れた。
「どうかしたの?」
穴から出た言葉は意味不明なものだった。なんと返せばいいのかわからず、とっさに口を開く。
「いや……なんでもない」
ほとんど反射的に出た言葉だが、その意味は理解できない。いや……なんでもない。どういった意味の言葉なのか?少し考えてから、これが人に自身の正常を伝える言葉だと思い出し、少し安心した。寝起きだから寝ぼけていただけなのだろう。
こうして頭をいちいち働かせれば、言葉の意味もきちんと理解することができる。
妻の顔はいまだに認識できないが、疲れているとこういうことも起きるのだろう。
「そう?なんだかつかれがたまっているとか……」
穴がまたなにかごにょごにょといったので、先ほど使った言葉をもう一度発する。意味は会話ごとに変わらないはずだから、おそらく大丈夫だろう。
「いや……」
だが、わたしはてっきりこの後に続く言葉を忘れてしまった。迂闊だった。寝ぼけているのだから記憶がはっきりしていないのは当たり前だ。必死に思い出そうとするが、どうしても浮かばない。
「……いや……」
また同じことを発音してしまった。
池がぎゅるりと渦巻き、頭部の中心に機会な渦が二つならんだ。穴ががぱっと開くと、そこから先ほどよりも強い音が流れてくる。
「やっぱりあなたきょうはなんだかちょうしがわるいわよ かいしゃでなにかあったの あったならなんでもそうだんしてくれればいいのに……」
わたしは長く混然とした音に混乱し、ついつい、やめてくれと叫んでしまった。
肉の池がじゅるりとうごめき、意味不明な音を発する。
わたしはそのグロテスクな光景にとうとう耐えられなくなり、妻を突き飛ばしてしまった。妻が床に倒れこむと同時に、池の肉がはね、穴が周囲の肉を吸い込むように大きく開く。わたしは悲鳴を上げた。
妻の安否よりも自身の精神安定のほうがずっと大切だった。わたしはそのまま玄関から外へと裸足で走り出ると、エレベーターを呼ぶのももどかしく階段を下へと走り出した。
わけがわからなかった。だんだんと周囲が別の存在へと変容していくような、そんな気分にさせられた。異世界に溶け込んだかのようだった。
八階分ほどはしりおりると早くも息が切れ始めていた。とりあえず部屋からは遠ざかったと階段の上を見上げると、また肉の池の頭部を持った何者かがおりてきた。顔はわからないが、どうやら女ではなく男のようだった。男はわたしの方へ肉の池を向けると、大きく奇怪な音を池の穴から出して今度は上へと逃げて行った。
彼もまた、わたしを怖がっているようだった。
慌てて階段のへりから地上を覗き込むと、幾多の肉の池になった頭部の人間たちが、わけのわからないこのを叫びながら走り回っている。
彼らは互いにその言葉を理解できていないらしく、お互いに音を出し合っては怯えていた。ただ、どれがどれで、なにを言っているのか、わたしにもわからなかった。
世界が狂ったと思った。わたしは恐怖と驚きのあまり膝がガクガクと震え、喉から声が漏れた。
「%…+・〜…¥〒〒78〒……」
大きな音がしたので驚いて振り向くと、そこに肉の池が大きな穴を開けて立っていた。ブルブルと震えながらしきりにわけのわからない音を出している。どうやらこの階の住人らしい。
わたしにはここにいてはまずいと思い、階段を駆け下りようと下へと振り返った。そのとき、朝に見たあの東京スカイツリーが視界の端に映った。
「・…+〒-2)4/(;¥¥¥@;/3:」
わたしはすべてを悟った。あれが、すべての原因だったのだ。妻の寝室からはあれが見えなかったはずだ。だから、こうならなかった。
だが、妻がわたしを追って部屋からは飛び出すか、窓からあれを見るかしたら……。
ふと不意に、上の階からいやにはっきりとした叫び声が聞こえてきた。それは今日が始まってから最初に聞いた、わたしにとって意味を持った言葉だった。
今いくぞ、と叫んで、また階段を登り出す。相手もわたしの声を聞いたようだ。わたしはもうなにがなんだかわけがわからなかったが、とにかく人の顔を見たくて、ひたすらに走った。

803 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/05(月) 21:04:58.49 ID:huOk2j1IO
ひたすらに駆け足になっちゃいました。誤字脱字は見逃してください。
804 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/05(月) 21:22:56.38 ID:3IQuV4wIO
>>803
早過ぎるぜ……

それはともかく、意味が分からなかった。
読んでいて何とも言えない気持ち悪さはあるのだけど、訳のわからない土台の上で訳がわからないことが展開されているから、一体何をやっているのやら……

私が >>735 を見て面白いと思ったのは、異常者となった主人公を中心に世界がめまぐるしく動いていくところなんですよね。
そういう面白さが、今回の作品からはあまり感じられませんでした。
805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/05(月) 21:47:35.64 ID:huOk2j1IO
一応バベルの塔を下敷きにしたのですが説明不足すぎて意味がわからなくなりました
あと文法も間違いだらけでこれはわたくしの根本的な国語力に問題があるかと思われます
こんな力量では人にどうこう言える立場ではないので投下された他の掌編を評価できないのが少し悔しいです
806 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山陽) [sage]:2012/11/06(火) 20:39:13.58 ID:eGJNSlIAO
いや、評価はともかく感想は書いてもいいと思うんだけど
807 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/11/10(土) 01:54:36.38 ID:kdnu34Gj0
お題ください
808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/10(土) 02:43:01.86 ID:FxNr0wwpo
>>807
見つめる
809 :ファンタまみれのフラミンゴ [sage]:2012/11/11(日) 13:08:26.04 ID:mOyoVj4AO
投下しmath。お題は名前欄。
810 :ファンタまみれのフラミンゴ1/6 [sage]:2012/11/11(日) 13:09:25.22 ID:mOyoVj4AO
――ショージには分からないよ。
 アランはそう呟くと、長い首を下げて赤色の羽根の毛繕いを始めた。フラミンゴ特有の鮮
やかな赤色。特にアランは数十羽のフラミンゴの中でも一際目立っている。
 呆れたようにも諦めたようにも取れる言い方だったが、ともかく僕は咳払いを挟んで続け
る。
「かもね。僕はあくまで人間だから。でもさ、そういうのって人間でもあるものだから、分
 からなくはないよ」
――柵の向こうのヒトに、分かる訳がないんだ。君は前提を取り違えている。鳥だけにね。
 つまり君は、眺める側であって、僕はただの見せ物でしかない。言い換えれば、僕達は友
 達にはなれはしない。これからもずっと、永遠に。
 足先を見ながらそれだけ言うと、アランはこちらを見る。表情のない瞳。
 正面をきって言われると、やはり傷付いてしまうが、僕にはそんな資格がないのかもしれ
ない。アランの言うとおり、友人なら今すぐに手を差し伸べるべきなのだ。
 柵の上に乗せた両腕をどけて、首を横に振る。
「それでも、さ」
――ショージは。
 僕の言葉なんか聞きたくないと言う風に、アランは言葉を重ねる。
――ショージはあまりにも、知らな過ぎる。自由であるということを。君は良い奴だと思
 う。何せ、人間という立場でありながら、僕という個体に興味を持ってくれて、その上
で友人として、対等に付き合ってくれているのだから。だけど、時々無性に腹が立つんだ
 よ。君の悪意のない一言がさ。そのことに君は一度でも気付いたことはあるのか?
 何か言おうとして、けれど口から漏れたのはゆっくりとした白い息だけだった。
 アランは二度土を蹴り、ぷいと後ろの岩肌の方に顔を背けた。
――僕達は、羽根が生え替わる時期に翼を切られるんだ。空を飛ぶための、翼を。
 自然に、眉間に皺が寄った。でも、今僕が抱いた感情は、僕達人間の在り方とは矛盾し
たものであって。
 アランは静かに奥へと歩み去る。頭を垂らし、ゆっくりとした足取りで。
――今日はもう帰ってくれ。
 ぽつりと呟き、群れの中に戻っていくアラン。そのピンク色の背中に、僕は何も言うこ
とは出来なかった。
 冬の眩い日差しの中で、数多の動物やヒト達の遠い嬌声の中で。僕とアランは、それぞ
れに独りだった。

                    #

811 :ファンタまみれのフラミンゴ2/6 [sage]:2012/11/11(日) 13:09:51.11 ID:mOyoVj4AO

                    #

 携帯電話が鳴ったのは、後味の悪さを抱えたまま、動物園のゲートをくぐった時のこと
だった。手にとって見ると、非通知の着信。何を考えるともなく通話のボタンを押し、耳
に当てる。
『――小橋将司君、だね』
 受話口から、聞き覚えのない声が僕の名前を呼んだ。その声は固く、どこか不吉な予感
を抱かせ、僕は警戒して何も答えない。
『アラン君を救いたいか?』
 思わず息を呑む。辺りを見回すが、周囲の雑踏の中に僕に意識を向けている気配はない。
『アラン君を、救いたいか?』
 確認するように、ゆっくりと再び声は言った。
「……何で」
 知っているんだ?
 僕とアランのことを知っている者はいない筈だ。僕はこのことを喋ったことはないし、
アランは他の人間と話すことは出来ない。
『もし君が彼を救いたいなら』
 僕が二の句を継ぐ前に、声は続けた。台本通りに進めているような、絶妙な間の取り方
だった。
『今日の夜一時、再びここに来なさい』
「ちょっと待って下さい」
 しかし、返って来たのは不通を知らせる電子音だけだった。暫くは呆然とそのまま立ち
尽くしていたが、やがて溜め息を一つついて携帯電話をポケットに突っ込む。
 夜中に、ここに?
 誰かのイタズラ電話と思うのがまともな考えなのだろうが、アランのことを知っている
というのは引っ掛かった。
 空を見上げながら、足を前に進める。冬の空は遠く、雲は青さの中に溶け込むようにう
っすらと浮かんでいた。絵に描いたぼんやりとしたその風景の中に、空を渡るフラミンゴのイメージを投影させる。
――自由であるということ。
 それは僕達人間が、日々を普通に生きることと同義なのだろうか。

                    #

812 :ファンタまみれのフラミンゴ3/6 [sage]:2012/11/11(日) 13:10:34.73 ID:mOyoVj4AO

                    #

 街灯の下に、アランの姿を見る。柵の外、園内の道の中に。彼は首を伸ばし、真っ直ぐ
な視線を僕に向けている。僕の中にある、僕が感じられない“何か”を覗き込むような視
線。
 真夜中の園内は動物達も寝静まり、時折梟の鳴き声が茫漠と響くだけだ。動物達は夢を
見るのだろうか。夢を見るとしたら、それはどんな夢なのだろうか。
――ショージ。
「アラン」
 吐く息は白く、宵闇の中に消えていく。口元のマフラーに微かな湿り気を感じながら、
僕は続ける。
「君は、ここから逃げ出したいのか?」
 アランは一度視線を外に逸らし、考えるように足元を暫く眺めていた。
――分からない。
 僕は長く息をついて、目を閉じる。動物達の見る静かな夢について、思いを馳せる。
――答えを出すのは簡単だよ。檻の中で、様々な服を着た人間達が来るのを眺めているよ
 りは、広い空を飛んで、鳥として生きていきたいに決まってるさ。
 でも、僕はあまりにも柵の中で長く生き過ぎた。餌を貰い、外敵の居ない世界に慣れ
すぎたんだ。
「君は、僕を自由だと――人間を、自由であると言った」
 目を開けて僕は言った。柵を介していない僕達は、それでも柵があった時と変わらない
距離で話している。
「確かにその通りだと思うよ。でも、僕も君も、檻で囲われているのは同じだ。つまり、
 常識と理性という――時として、鉄柵よりも強固な檻がある」
――今の僕達のように。
 アランが言葉を継ぎ、空を見上げる。厚い雲に覆われた、月明かりもない夜空。街灯の
情緒のない光が、無機質に輝いている。
――寝床の鍵は、君が外してくれたのか?
「僕じゃない。僕はこの時間に、ここに来るように言われただけだよ」
――そう。
 アランは二歩程歩みを進め、改めて僕の顔を覗き込む。
――飛べない鳥が外で生きていけると、君は思うかい?
「君次第だよ」
 僕は後退り、息を大きくついた。
「それが……自由ってことだ」
 アランは下を向き、暫く黙っていた。ポケットに突っ込んでいた手の中で、携帯が震え
ている。だがそれを取るほど、僕は無粋ではない。
813 :ファンタまみれのフラミンゴ4/6 [sage]:2012/11/11(日) 13:14:58.35 ID:mOyoVj4AO
 張り詰めた冷気の中で、音もなく佇んでいる。鳥として、ヒトとして。それぞれに生き
る道があり。宵闇の静寂の中で一羽のフラミンゴと向かい合っている現実を、僕達は俯瞰
するように遠く眺めていた。
「僕は君に対して冷酷かな」
――そんなことはない。
 アランは顔を前に向けて言う。
――僕は、君に言ったことに対して、責任を取らなきゃならないんだ。自由であるという
 こと。
 ショージ、僕は間違ったことを言ったつもりはない。ただ、君は得難い友人だった。君
 がいなければ……
「いいんだ」
 僕は首を振った。
「そういうのは君らしくない。クールで知的なフラミンゴが、旅立ちの時に檻の中の人間
 なんかに心を残しちゃいけない」
 アランは目を何度か閉じて、ゆっくりと歩みを進める。そのまま僕の横を通り過ぎ――
――さよなら、ショージ。
「さよなら、アラン」
 振り返り、そのピンク色の背中が闇の中に消えるまで。僕は黙して彼を見送っていた。
冬の静謐な沈黙の中で。夜の澄みきった闇の中で。
                     #

『アラン君は』
 耳元で、男の声が静かに語る。
『きっとこの世界で生きられない。君は、彼を見殺しにしたんだ』
 感情が飽和した頭の中で、虚ろにその声は響いていた。
『罵倒されようが、突き放されようが。君は彼の友人だったはずだ』
 僕は、冷酷な人間なのだろうか。
『確かに彼は自由を望んでいたが、君は彼を逃がしてやるべきじゃなかった。それを忘れ
 てはならないよ』
 ピピッ、と電子音がなり、留守番電話の録音が切れる。
 酷く心臓が冷たかった。それが寒さによるものなのか、今の不吉な予言によるものなの
かは分からない。ただ、じわじわと腹の底から沸いてくる気持ちを認めたくなくて、僕は
足早にその場を去ることしかできなかった。

                     #

814 :ファンタまみれのフラミンゴ5/6 [sage]:2012/11/11(日) 13:15:46.43 ID:mOyoVj4AO

                     #

 その日、僕は夢を見た。
 檻の中に居る夢だ。僕の目の前をフラミンゴ達が立ち止まり、物珍しそうに暫く眺めて、
やがて何処かへと去っていく。
 それを見るともなく見ていると、僕は手に何かを持っていることにふと気付く。
 鮮やかなオレンジ色の缶。――ファンタオレンジ味。
 いつか、誰かが僕にこんなことを言った。
『見掛けだけの意味性にとらわれないことです』
 僕がアランと話せるようになったのは、それからのことだった。
 目の前に長く立ち止まっているフラミンゴが居ることに気付き、顔を向ける。それは、
アランだった。
――ショージ。
 アランは首を長く伸ばし、僕を見下ろしながら言う。
――僕は自由を得て、君の手の届かないところに辿り着いた。それは、僕が予想していたよりもずっと素晴らしいところだったよ。
  ねえ、ショージ。今僕は、君にとても感謝している。君は僕にとって、幸福の使者だ
 った。君自体が福音だったんだ。聞いてるかい、ねえ――
 夢の中の僕は酷く疲れていた。そして、苛立っていた。アランの言葉を聞きながら、手
の中の缶を静かに、大きく振る。そして、プルタブに指を掛け、飲み口をアランに向けた。
――ショージ?
 首をもたげて、アランは不思議そうに僕の挙動を見ている。
「アラン、君は……」
 プシュン、と小気味の良い音が鳴り、そして砂糖まみれの白濁とした液体がアランの顔
面に噴出される。アランは驚き、目を閉じて、何歩か後ずさった。
――何を、するんだ……。
「君は恐らく僕の気持ちを理解したし、僕は君の気持ちをかなり正確なところで理解出来
 たと思う。成る程、君は正しい。だけど」
 僕は缶を足元に落とし、アランに歩み寄る。
「ここに戻ってきた君は、間違いなく最低の糞野郎だ」
 こんなこと言いたくはなかった。でもその一方で、心がふっと軽くなるのも確かに感じ
ていた。
 アランは硬直したまま僕を見つめていたが、やがて力無く踵を返すと、とぼとぼとその
場を去っていく。
 僕はその背中を睨みつけた後で、群れの中に戻っていく。不思議そうに僕を見つめる、
ヒト達の群れに。

                    #

 翌朝、僕は目覚めの中でアランの声を聞いた気がした。
 カーテンを開けた空に、一羽の鳥が、逆光の中で黒く輝き飛び去っていった。

―了―
815 :ファンタまみれのフラミンゴ [sage]:2012/11/11(日) 13:16:44.42 ID:mOyoVj4AO
はい。お疲れでした。
ご意見批判感想評価何でもござれ。
816 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/11(日) 13:54:42.27 ID:n/EEEWfCo
お題をくださいな
817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山陽) [sage]:2012/11/11(日) 14:11:49.27 ID:mOyoVj4AO
>>816
誓い
818 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/11(日) 23:00:14.93 ID:n/EEEWfCo
>>817
おk
819 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/11/12(月) 22:04:58.33 ID:rU9N7PN+o

「なんだそりゃ」
「大事にしてたんだけどね。ちょっと前に死んじゃった」
「そりゃ御愁傷さま」
 雄介が言うと、千夏は「うーん」と考えるそぶりを見せた。

「なんだよ?」
「まあ、確かに残念だっかな。それなりにがっかりしたし」
 ハムスターが死んだことについてらしい。
 なんだそりゃ、と再び思った。大切にしてたんならもっと悲しめよ。
820 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/12(月) 22:06:16.25 ID:rU9N7PN+o
誤爆すみません
821 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/14(水) 03:04:01.28 ID:FzS+E9KUo
品評会参加します。
初なので、ミスなどあったら申し訳ないです。

>>801をさっき見つけたので、bnskまとめには既に投稿してあります。
タイトルNo.入れてませんすみません。
822 :No.1 工学博士の恋と彼女の愛 1/7 ◆pEPPiAPChA [sagasage]:2012/11/14(水) 03:06:37.31 ID:FzS+E9KUo
「佐倉、やめ、やめだ、ストップして」
 そういうと彼女は、処理待ちの計算を次々に止めていった。どれも、佐倉が現在進行中の研究に必要なもので
ある。
「ちょ、ちょっと、それ触るなのぞみ、何だよストップって、もう昼か? 」
「お昼は四時間も前に過ぎてるよ、午後の会議に君の代わりに出てきてあげたんじゃない。あと、長井です」
 長井のぞみは、佐倉の同僚、そして恋人でもある。高校と大学を通しての付き合いであり、職場まで同じにな
ってしまった。入社はのぞみが一年遅れて、便宜上彼の後輩ということになる。おかげでどうもやりづらい、と
彼は常々思っていた。
「どうだったの、会議」
「だから、このプロジェクトの停止が決まった」
「ええ!? なんで! 」
 彼が行っているのは、簡単に言ってしまえば、生体に機械を繋ぐ研究である。生体信号をコンピュータに入力
し、実験機を適切に動作させる。既に技術自体は実用されており、例えば人工眼や筋電義手がその代表と言える
だろう。ただし生体信号とは極めてファジィな存在であり、非常にクリアな動作を期待される機械とどう折り合
いを付けさせるか、それは彼と同じ分野の研究者たちを日々悩まさせていた。
「こないだちょっと新聞に出たじゃんか、新しい法案が決まったって。お偉いさんたちが、あんまり人体いじっ
ちゃダメってさ」
 佐倉は新聞を読まない。だが、その法案については聞き知っていた。
「そう、それで、応用分野が少なくなってさ、もう今までみたいな予算を出せないって、さっきの会議で決まっ
たの。この部署は金食い虫だからね、少ない予算じゃ進まないし」
 何故企業に佐倉が就職を決めたのか、それは、将来性がある研究には莫大な予算がつくからである。大学では
常に予算との闘いであった。膨大なデータ量を処理し続けるこの研究には、金が必要であり、しかし国は実績が
伴わなければ研究費など出してくれない。
 この国はとにかく規制したがる。閣僚たちは、皆馬鹿げている。どんな研究が実際に役に立つのかなど果たし
て文系上がりの彼らに分かるのだろうか。佐倉はぼやくように言った。
「そういうけどね、仕方ないじゃん、国民の総意、ってやつでしょ。それに誰かが規制しなきゃいけないことも
あるんだし」
「……昼飯、食ってくるわ。他の皆には待機命令出しておいてくれ、何かあったら俺に連絡」
「おけい、ごゆっくり」
 彼はドアを閉めると屋上へ向かった。食欲は全くなかった。
823 :No.1 工学博士の恋と彼女の愛 2/7 ◆pEPPiAPChA [sagasage]:2012/11/14(水) 03:07:43.27 ID:FzS+E9KUo
 屋上は湿っていた。どうやら雨が降ったらしい。
 研究の進捗状況は、佐倉の見立てだと五割程度だった。しかしそれは、企業として見た場合、すなわち利益を
生めるようになるまでであり、理論を実証する手順だけならば、八割程度は終わっていただろう。彼は利益には
さほど興味がなかった。研究とは、仮説が証明されればそれでいい、製品化して利益が出るのは、スポンサであ
る会社に対してのサービスだと、彼は考える。
(しかし、大学でも、企業でも認められない、この研究は日本では手詰まりだ)
 彼の将来的なプランに、国外への移動があった。それは彼にとって難しい事ではなく、時間の問題であると判
断されていた。日本では侵襲的な実験は危険視されるが、例えばアメリカならば日常的に行われている事である
。既に彼の同期でもアメリカやドイツに飛んだ人間は多い。
 大学の博士課程を修了したときにもやはり誘いがあった。彼の論文は常に高い評価を受けており、手元に置き
たい会社は山ほどあっただろう。どの会社もそれなりの条件を提示してきたのだが、そのほとんどに自分へのメ
リットを感じなかったのである。彼は研究以外についてあまりにも無関心であった。
 当然、佐倉の希望を大いに満たしてくれる会社もあった。それが日本でも一社あり、現在彼はそこに勤めてい
る。
 屋上には水溜りがあった。晴れた日のこの場所は、床が完全に水平に見える。設計の段階ではそれは当然であ
り、モニタに表示される建築は全く美しいものであっただろう。彼が入社したとき、この会社はそれは美しいも
のであった。大学ではとても揃えられないような設備、プレゼンによって研究費は揃えられ、教授の手伝いに駆
り出されることもない。部署は彼の為に新たに設立されたと言っていい。邪魔な人間はいない。数年で優秀な部
下も手に入った。研究は、会社の利益を出すための寄り道などもあったものの、理想通りの進み方をしていた。
しかし、数年経つとしがらみも増えてきたのである。
(人間が多いと、歪みが増える。きっと水溜りもそうやってできたんだろう)
 彼は完全にこの会社を離れる決心をしていた。しかし気掛かりがひとつだけあった。
「佐倉、お昼食べに行ったんじゃなかったの? 」
 そう、彼女、長井のぞみの存在である。
 彼の部署で、彼女だけは、彼が選んできた人材と言える。本来違う会社にいたのをわざわざ引き抜いてきたの
だ。佐倉の部署は彼がいなければ機能しない。自分が抜けるのならば、彼女もいっしょに連れて行きたい。しか
し、それは佐倉のわがままであって、決めるのは彼女の意思だ。自分と違ってのぞみには社会的にも厄介なしが
らみが多いと、佐倉は理解していた。それは彼が既に一度諦めた、家族という名の関係性でもある。彼女には父
母と弟がいた。
 しかし佐倉にとって、のぞみは世界で唯一の、信頼できるパートナだったのだ。
824 :No.1 工学博士の恋と彼女の愛 3/7 ◆pEPPiAPChA [sagasage]:2012/11/14(水) 03:08:27.71 ID:FzS+E9KUo
「のぞみ、部署にいなくていいのか」
「今日は定時だよ、もう五時じゃん、皆も帰らせた。やることもないし」
 定時、という言葉に新鮮味を感じる。
「俺は、サラリーマンだったんだなあ」
「そうだね、月給取りだ、似合わないね」
 全くだ、と彼は思う。定時に帰ったことなど彼が覚えている限りでは一度もない。有給休暇というものがある
らしい。何のためにそれが存在するのか彼には分からなかった。
「しばらくやることもないし、少し休めばいいんじゃない? どうせお金溜まってるんでしょ」
 預金通帳をちゃんと確認したことはなかったが、暫く生活できるだけの貯金は入っている筈だと認識している
。彼は研究以外についてあまりに無関心であった。食費と家賃以外に給料を使うこともないし、その上豪勢なも
のも食べない、アパートには週に一度帰れば良い方である。無趣味な仕事人間、一般的に考えればつまらない男
だというのは自覚している。こんな男の恋人でいてくれる人間などそういないのではないか、と彼は考えた。
 彼は、もうひとつの決心をする。
「のぞみ、頼みがある」
「珍しいね、何? 」
「俺はこの会社を辞めるんだが、この先も、俺に付いてきてくれないか」
 佐倉は自分に呆れた。なんと情けない告白だろうか。大学生のプレゼンだって、もっと理路整然に、自分の意
思を伝えられるだろう。
「いいよ」
 のぞみは簡単に答えた。
「何をいまさら、前の会社にいた時に突然引き抜かれてさ、プロジェクトでも散々無理難題言われて、もう諦め
てます。ちゃんと、ビジョンがあるんでしょう? 私が必要って言うなら、付いて行くよ。だけど」
「だけど? 」
「君、ちゃんと私の期待には、応えてくれるんでしょうね? 」
 佐倉は、何も言わずのぞみをきつく抱きしめると、彼女の唇に口づけをした。彼女は少し驚いたようにも見え
たが、体の力を抜くと、彼の背中に手を伸ばして、言った。
「会社の中でこういうのは無しだって、言ったじゃんか」
「ここは、会社の外だよ、それに、もう業務時間外だ」
 彼は白い床にのぞみを寝かせると、シャツを脱がしながらもう一つ口づけた。水溜りに反射した夕日がとても
綺麗だった。
825 :No.1 工学博士の恋と彼女の愛 4/7 ◆pEPPiAPChA [sagasage]:2012/11/14(水) 03:09:00.55 ID:FzS+E9KUo
 佐倉とのぞみが会社を辞めて、三年が経った。佐倉の研究は成功して、彼は大きく満足し、更に別の研究へと
発展させようとしていた。
 結局彼は再就職はしなかった。彼の持つ財産から試算して、個人でも研究を進められると踏んでの結果である
。アパートを引き払い海外に土地を購入して、彼の研究所を作った。彼は一般のサラリーマンからすれば途方も
ない給料を貰っていたのだった。研究が成功すれば、それを企業に売り込んで金にする。そして次の研究を始め
る資金とする。非現実的で幼稚な計画にも思えるが、彼にはそれを達成する能力と自信があった。
 設備だけが問題であった。しかし、それは彼女、のぞみの協力によって調った。佐倉にとって、やはりのぞみ
は必要だったのだ。もし、の話は嫌いな彼であったが、彼女がいなかったら研究はどこかで頓挫しただろう。彼
は自分の幸運と、他でもない彼女に感謝した。
 彼女は佐倉の期待以上の成果を生み出した。必要なデータの処理、試算、更には別の理論の展開まで、それは
勤めていた会社のスーパーコンピュータ以上の能力であった。彼は何度も驚かされ、そして彼女を愛した。
 彼女との結婚も考えた。しかし佐倉はどうしても、人間関係のしがらみが嫌いだ。幸い彼女も実利的な人間で
あって、彼もその問題を先送りにしてしまっていた。
(しかし、もう随分とのぞみを休ませていない。彼女とのこれからの問題も、少し考えなければならないだろう
か)
 思考を中断し、珈琲を飲もうと椅子から立ち上がると、インターホンが鳴らされた。来客は非常に珍しかった
。ドアを開けると、日本人の青年が立っていた。記憶を辿る。それはのぞみの弟だった。
「こんにちわ、佐倉さん、姉さんは、何処ですか? 」
826 :No.1 工学博士の恋と彼女の愛 5/7 ◆pEPPiAPChA [sagasage]:2012/11/14(水) 03:09:51.99 ID:FzS+E9KUo
「こんにちわ、久しぶりだ」
「ええ、ご無沙汰しています」
 のぞみの弟に会うのは五年ぶりだろうか。当時より精悍な印象を受ける。簡単に話を聞くと、休暇のついでに
姉に会いにきたらしい。のぞみと連絡が取れなかった、とも言った。研究で忙殺されていたから仕方がなかった
かもしれない、と彼は思った。
「姉は、奥ですか? 」
「ああ、今休ませている。だから彼女に会う前に、ちょっと俺の相談に乗ってくれないか。ちょうどいいところ
に来た」
「相談、なんです? 」
 彼はのぞみの弟を椅子に座らせ、珈琲を勧めた。
「彼女と、結婚しようと思っている」
「それは、本当ですか!? 」
「うん、彼女を愛している。しかし、俺の研究というのは、普通の人にはやっぱり受け入れにくいものだと思う
んだよ。彼女のご両親を納得させられるか、というのが相談だ」
 簡潔に言うと、のぞみの弟は少し安堵した表情を見せた。
「何を言ってます、父も母も、それは喜ぶと思います。ここだけの話ですがね、姉さんも佐倉さんも、家に顔見
せないもんだから不安がっているんですよ。そうかあ、結婚ってなれば、ええ、僕も両親も安心です。この事、
姉さんには? 」
「いや、まだ言ってないんだ」
 そう言うとのぞみの弟は、すぐに教えてあげましょう、と言った。
「そうか、のぞみは一番奥の部屋で休んでいる、いや、待ってくれ、何かやはり、まずい気がする」
「はは、何を言ってるんですか、大丈夫ですよ」
 笑い方がのぞみにそっくりだった。さすがは姉弟だ、そういえばここ数年、彼女の笑顔を見ていないな、と彼
は少し寂しく思った。
827 :No.1 工学博士の恋と彼女の愛 6/7 ◆pEPPiAPChA [sagasage]:2012/11/14(水) 03:10:25.61 ID:FzS+E9KUo
 二年と少し前に電話して以来、ずっと姉と音信が取れなかった。佐倉さんとアメリカに渡って暫く研究所籠り
だと彼女は笑って言って、しかしその後どうにも連絡がないものだから、こうして自分が会いに来たのだ。しか
し来る前の不安は払拭された。佐倉さんがその気ならば、姉は喜んで求婚に応じるだろう、そこに、父や母や自
分が口を出す権利など存在しないし、しかし歓迎すべきことだと、彼は考えた。
 研究所の廊下を歩く。この建物を見た時、彼は驚いた。およそ人の住んでいるところとは思えなかった。かろ
うじてそれと分かる花壇からは蔦が建物の壁にまで伸びていて、郵便物も溜まりに溜まっていた。まして姉は綺
麗好きなのである。研究に没頭する佐倉さんに愛想をつかして出て行ってしまったのではないかと思ったほどだ
った。余程研究が忙しかったのだろうと彼は結論付けた。
 意外に研究所は狭い。さっきのロビーからは一本だけ廊下が伸びていて、廊下の右手にドアが一つ、左に二つ
、突き当たりに一つ。奥が寝室であるとすると、他の三つの部屋は実験室としてはそれほど広くはないのではな
いのだろうか。
 ドアに手を掛けようとした時、後ろにいた佐倉が言った。
「ま、待ってくれ、やはり自信がない、完全に専門外だ。結婚というのは互いの了承が必要なのだろう? 現在
の彼女からそれを得られるとは、思えない」
「専門外って、そりゃそうでしょう、誰もこんな専門家じゃない」
 彼はドアノブを回し押し開けた。廊下に白い明かりが漏れる。
 完全にドアが開かれ、彼は驚いた。そこは実験室だったからである。適度に片付いているものの、正面にはモ
ニタと一脚の椅子、更に奥には何やら大きな機械、あとは右手のテーブルに綺麗に整頓された書類と、左手には
作業棚と工具、小さな機械がいくつも置いてあった。白い壁は照明の明るさを倍増させているように見え、とて
もこの部屋で姉が寝ているとは彼には思えなかった。
「佐倉さん、ここは実験室ですよね、寝室は、ああ、もしかして奥にもう一部屋あるのですか? 」
「寝室? 寝室は、後ろだよ」
828 :No.1 工学博士の恋と彼女の愛 7/7 ◆pEPPiAPChA [sagasage]:2012/11/14(水) 03:11:05.99 ID:FzS+E9KUo
 佐倉は廊下の方を指さす。
「姉さんはこっちで寝ていると言ったじゃないですか、まさかいくら忙しいからって、こんなとこで寝泊りを?
 」
「のぞみはそこで休んでいるよ、うん、寝ていると言っても、間違いではないかな」
「ここは……実験室ですよね」
「そうだ、のぞみとずっとこの部屋で研究をしていた。やっと一段落したよ、それも彼女のおかげだ」
 言いようもない不安が彼を襲う。佐倉の研究とは一体何であったか、彼は必死に思い出そうとする。
「姉さんは、何処です、指差してください」
「え、見えないかな、そことそこと、そことそこだ。本当は脳だけで十分だった。市販の小さいコンピュータで
は、研究に必要な、柔軟性を持った計算は不可能だったから。それならば話は早い。生体が非常にファジィな計
算を必要とするなら、同じ計算機を間に挟めばいい。理論は既に確立していた。
 それと、いいマニピュレータが見つからなかった、これには彼女の腕を使わせて貰った。元々彼女は素晴らし
い数値を出していたんだ。だから直接接続しても、良い結果を出すと考えていた。これは、理屈も何もない。た
だの俺の惚気かもしれんが。
 他の部位はいつでも使えるようちゃんと寝室に保存してあるよ」
 佐倉は笑顔で言った。とても、楽しそうに、無邪気に。吐き気をもよおした。これは何かの冗談ではないのだ
ろうか。
「ずっと計算をさせていたからな、本当に、少し休ませないと体に良くない」
 頭痛がした、廊下に戻る。きっと姉は寝室で寝ているのだろうと、彼の希望がそうさせたのだ。寝室のドアを
開けると、ベッドが二つあって、しかし、その両方が空だった。代わりに、ラベルの貼られた小さな箱が四つ、
床に置いてあった。彼は恐怖でラベルを読めなかった。
「だけどな、のぞみは、この研究に必要なすべての計算をしてくれた、何より、俺のそばに居てくれると言った
んだ。彼女の期待に俺は応えなければならなかった」
 逃げるようにロビーへ向かい、玄関から外に飛び出すと、彼は携帯電話で警察への番号を押した。佐倉が何か
を言っていたが、彼の耳には入らない。
「俺にはのぞみが必要だ。これからもね、結婚くらいがなんだ。俺は彼女を、愛している」
829 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/14(水) 03:12:58.78 ID:FzS+E9KUo
投下終わりです、失礼しました。
あっちでも書いたけれど、何やらタブーって感じしませんね。

感想等ありましたらよろしくお願いします
830 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/11/17(土) 01:26:20.41 ID:V/SyWVNh0
通常作書き上げたんだけど、品評会中だし通常作を投下しちゃったらまずいかなぁ……
831 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/11/17(土) 01:30:23.40 ID:cS5+FnwAO
>>830
品評会のはまとめの方でまとめてるから別にいいのでは
832 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/11/17(土) 01:55:34.98 ID:V/SyWVNh0
>>831
返答してくれてありがとうございます! 
では通常作なのですが、投下したいと思います。暇つぶしに読んで、感想でも頂ければ幸いです!
833 :耳が聞こえる(お題:交代) 1/6  ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/11/17(土) 01:59:52.89 ID:V/SyWVNh0
 ヘッドフォンで耳を塞ぐ。私の内的世界と、外界が遮断される。耳を塞いでいれば、私は誰の声も聞かなくてよいし、嫌
なことを拒絶していられる。それは幸福だ。少なくとも拒絶は、私にとっての、幸福だ。声が聴こえる。アイフォンから放
たれる彼らの声が、(それは情報の塊であり、その中に彼らが住んでいるわけではない)細長いコードを伝わり、私の耳に
届けられる。耳が聞こえる。耳は完璧に、私に語りかけている。そのコードを伝ってくる、情報の塊としての声(奏音)を
、私に通訳し、脳内に語りかけている。耳、耳、耳、大丈夫だ。完璧に、耳は聞こえている。しかしながら、最初に、耳が
空気を伝って私に語りかけてきたとき、私は酷く驚いたものだ。耳が生きている、と言うことを、わたしはこの二十三年間
で、初めて気づくことが出来たのだ。耳は私とは別の生命体であり、常に私に語りかけている。今は、ヘッドフォンから語
りかける言葉を、私に訳している。耳の中に彼らの声が聴こえる。私は鳥肌を立てている。ギターが鳴っている。八部を刻
みながら、リードは歌を導くように踊っている。ベースはひたすら寡黙に、私の脳を、時間を、刻み続けながら(或いは心
臓のように、いや、音楽にとってベースとは心臓なのだろうけれど)ザックザックと刻み続けている。ドラムは私の予想外
のタイミングで、私の予想外の音色を叩き出す。私は鳥肌を立てる。冬になり始めた、この寒空の中で、雨に濡れながら、
私は何もかもに震えている。私は耳を塞いでいて、内向世界に閉じこもる。私は、ひたすらに、言葉を生み出し続ける。言
葉とは、そもそも、何時の時代につくられた者であろうか。そんなことは知らないけれど、だれかが付く多言葉は、進化し
、環境に適応し、都合よく、塗り替えられ、、文化によって育てられ、その一部である芸術によって昇華し、私たちの今の言
葉となり、私たちの口から放たれる(放たれない言葉など、まるで邪魔なだけであるのだから=死んでいる≒無口)。その言
葉を使って、私は放たれない言葉を、心の中でこうやって練り上げて、閉じこもる。誰ともかかわりたくないから、こうやっ
て音楽を聴いて、閉じこもっている。雨に濡れて、私は存在として、穿たれている。
834 :耳が聞こえる(お題:交代) 2/6  ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/11/17(土) 02:01:20.11 ID:V/SyWVNh0

 雨はぱらぱらと弾けて、車に轢かれて死ぬ、人に踏まれて死ぬ、私はそれを、手袋に詰めて持って帰りたいと思う、何万
回と冬がやって来て、何万回と雨が降って、彼らは何万回も死んでいて、きっと私も何万回も生まれて、何万回も死んでい
るんだろう、きっと次は雨になって、私は空から落ちる一粒として、世界に放たれる、私は言葉を持たない、それが自然の
あるべき姿だから、そして私は地に撃たれる、大地へとゆっくり染み込んでいって、そして吸収された私は、その大地の中
を巡り巡って、いつかは海にたどり着くだろう、そして海を漂いながら、私は照りつける太陽に熱され、海面の表面で蒸発
した後、空気中を漂う水分となって、やがて雲となり、そして気が付けば、私はまた雨として、人々を祝福するんだ! す
ごい! なんて素敵なんだろう! 循環している。完璧に循環している、こうして地球は呼吸をして、私たちは無意識に生
かされ続けている。私は雨になりたい! バカみたいな人間じゃなくなりたい! みんな雨に打たれて、死んでしまえ! 
そして雨に溶けて、地面からやり直して、海に出ればいい。
 意味がないから、もう人類は交代するべきなんだ。交代、後退。できれば前者の方が良いけれど。後退だって悪くはない
ね。人間は繁栄しすぎたんだ。自らの進化を信じすぎているんだよ、君。私たちの使う携帯電話だって、無遠慮に相手の生
活に割り込んで、穏やかな時間を奪っているんだ。もう、人間は人間でいることに疲れ果ててしまっているんだよ。だから
、私たちは一度、純粋たる生命に戻らなくてはいけない。雨を喜ぶ存在に戻らなくてはいけない。それは何だろう。純粋た
る生命と言う存在は、一体何なのだろう。答えは簡単だ。それは植物だ。我々は植物になればいい。世界は植物化して、もう
一度ちゃんとやり直せばいい。神様なんて言う、創り出された存在ごと、植物化してしまえばいい。
 ってことを、さっきから耳が語りかけてきている。我々は交代するべきらしい。後退? 交代。抗体? 抗体なんてないよ
。交代だよ。交代だって。私が耳と交代して、耳が私になって、私が耳になる。何か変わるだろうか。雨になったり、植物に
なったり、出来るだろうか。交代、したい、ような、したくないような。私には、なんだかよく分からないよ。耳。

835 :耳が聞こえる(お題:交代) 3/6  ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/11/17(土) 02:02:11.69 ID:V/SyWVNh0

 って語りかけたら。耳が、私の体調を心配している。アイフォンから伝わる声が「明日も頑張って生きて」みたいなこと
を言っている。大丈夫だよ。明日も、明後日も、私は一人で生きていける。だって手をちゃんと洗って、うがいをすれば、
風邪をひかないんだよ。だから君らがそうやって馬鹿みたいに、色々な風邪薬を出して、同じような商品を出して、経済を
完璧に導こうとしなくても、大丈夫なんだよ。だって、どうせあっちこっち、壊れていて、破たんしているし、どうせもう
治りっこないから、私の体(殻だ、空だ)とか、今更、風邪ひこうが何しようが、大丈夫だし、やっぱ私は、手洗いうがい
をきちんとする人間だから、会社をクビになったって、生きていけるよ。
 何て言ったって。好きな人だっていないし、多分私が好きになるであろう人は、世界の端っこに居るから、わざわざ迎え
に行くのが面倒くさいんだ。多分北極に住んでいると思うんだけれど、私は全く知らないその人のことを、わざわざ辛い思
いまでして、北極まで迎えに行こうと、本当に思うのだろうか。わざわざ恋のために。その人が私の好きな歌を、一緒にな
って好きだと感じてくれるかもわからないし、私をほめたたえてくれるような性格の人かもわからないし、どんな声を持っ
ているとか、どんな方法で惑星を焼き尽くそうと考えているかとか、そう言うことが一切わかんないのに、私はその全然知
らない、好きになるべき人のことを、世界の端っこまで手を伸ばして、

  好
  
       き
 
 って言ってもらうために、わざわざ迎えに行くのだろうか。でもね、私の周りにいる女の子は、みんな北極まで行って、
顔も知らない人のことを迎えにこうとしているんだよ。本当に、そこに求める人が居るかもわからないのに、わざわざ疲れ
る思いまでして、恋に恋するために、彼女らは日々頑張っているんだよ。馬鹿みたいだね。でも、彼女らはそんな自分を楽し
んでいるんだよ。本当に、だから私は、上手く生きていけないのかもしれないなぁ。わたしには、この街で充分なのに、なん
で世界は急速に、拡大してしまったんだろうね。私だけ鎖国しまーす、とか宣言したって、誰も聞いてくれないしねー。


836 :耳が聞こえる(お題:交代) 4/6  ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/11/17(土) 02:03:48.13 ID:V/SyWVNh0

 だから、もうそろそろ、私は交代するべきなのかもしれない。耳が言ったとおりに、私はこいう対するべきなのだろう。
私もそれは了解している。穿たれる対象の存在である、
そのことに気づいた私は、人間の生命を捨て、べつの魂に、後退するべきなのかもしれない。自殺しようか。きっと楽しい
よ。そう言うと、君らは自意識過剰だとか、なんかすっごい偉そうな言葉で、私を批評しようとするんだろうけどさ、そも
そも自殺が醜い行為だと、誰が勝手に呈したのだろう。自殺だって、本当は物凄く美しいかもしれないのに、その可能性を
まるっきり捨てて、皆は自殺っていう言葉を当てはめて、勝手に納得してしまっているんだ。私はね、自殺っていうのはと
ても美しい、救済措置であろうと思うんだよ。いいじゃない。そう思っている人がちょっとぐらい居たって。私の体は、私
の意思によって、二十五階建てのビルの屋上から、雨粒のように、地面へと放たれる。その瞬間、私はあまりの世界に美し
さに、震える。震える。西野カナなんかよりももっと震えちゃう。死の寸前に、自らの意思で、私の魂は放たれる! なん
て言っちゃうと、宗教っぽいからやめるけれど(言葉に当てはめてしまった瞬間から、全ての美しい物は美しくなくなる)
、自殺は、誰にとっても平等に与えられた、美しい芸術であると、私は確信している。だから、きみらが私に何を言おうと
無駄なんだよ。自殺をする私と、じっくり消耗しながら自分を殺していく生き方をする君らとじゃ、価値観がまるで違うの
だから。家を焼く人が、国民栄誉賞をもらえないのと同じように。
 さて、私は一体どうやって、自殺をすればいいのだろう。肉体を空っぽにして、別の生命と交代するために。昔、耳に「石
鹸を食べて死になよ」って言われたことがあるから、それを第一候補にしているのだけれど、これが最もオリジナルで、セン
セーショナルな死に方なのだろうか。うん、大丈夫かな。体も綺麗になるし、人間として、綺麗に死ねるし、全く素敵な死に
方だよ、ってことはさすがに、私でも思わないよ。馬鹿みたいな死に方だと思うよ。
837 :耳が聞こえる(お題:交代) 5/6  ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/11/17(土) 02:04:29.25 ID:V/SyWVNh0

 結局、良い方法が思いつかないから、私は死ねない。
 感情に名前を付けたり、こうやって言葉として吐き出してしまった瞬間から、全てが俗物として、くだらないものとなり下がるんだ。だから、耳を塞いでいる私は、人と関わるのを嫌うし、こんな自分が嫌いなんだ。

 路地裏に捨てられた猫と目が合って、彼の目の中に存在する世界を見て、その目のなか、雨たちは、美しい星雲のように渦巻いており、ネオンだとか、風邪に舞うチラシだとか、赤いスーパーマ―ケットだとか、群青色の空気だとかが、すべて猫の目の中では星雲のように、輝き、私の中の世界とは、汚れ方がまるで違っていた。猫の目の中に私は吸い込まれたい。そして一からやり直したい。何も知らずに、キラキラと輝いていたい。

838 :耳が聞こえる(お題:交代) 6/6  ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/11/17(土) 02:05:29.67 ID:V/SyWVNh0

 猫の目の中、そこに存在するこの世界とは違う場所、そこではだれも彼女のことを知らない、この世界から分岐された百
年後の世界だ、その世界を見ながら、ヘッドフォンを付けたAは、猫の目の中の星雲に見惚れている、そのようなAは生まれ
たころから窮屈な世界に居た。そのことは彼女を苦しめていた。
狭いベビーベッドの中で、世界を壊そうと暴れていたAにとって、世界は壊すべき対象だった、それは生まれた時から、決定
されていた、そしてそのように感じてきた幼い赤子たちは、、ここ最近で、もう何百万人と存在している、そして皆、氏名
として世界を壊そうとしている、しかしながら、そのために生まれてきた彼らは、結局は無意識化において、繁殖を望み、
延々と馬鹿みたい人類を拡大させていく、事になるのだ、それは私たち地球から見れば害でしかないが、結局は、いつか死
んでしまう私も同じような物で、私も誰かから見れば、害でしかない存在なのかもしれない。
しかしながら、君らは知らないかもしれないが、地球はあと二百個ほどある。私の他に、私と同じような惑星が二百個くら
いある。だから、心配しなくとも、私たちは壊れたら次の惑星に交代して、また同じことを繰り返すんだ。何のために? 
それは意味を持たない質問だ。君らの理解を越えているからだ。百年後には、空は分裂し、赤い雲たちが星雲となって、世
界は静かに壊れていく。もしかしたら千年後かもしれないけれど、私たちにとって、人間達の創り出した、細やかな時間と
言う概念は、上手くつかみきれない。
 だから、私はただ、見ている、水となり、空気、母、生まれる、白い霧となって、春と夏になり、それは「きみらにただ
、熱いか寒いかだけで、判断され、言葉、明日世界が「愛し、消えたとしても、君は昨日何を残した? 概念、(みんなどこ
で生まれたの?)
 森として群生する存在を、祈る君たちと、銃器を創り出した、憐みの言葉としての医学、光は、平等であり、眩しすぎて見
えないから、私たちが死ぬ瞬間に、それは閉じられる、
 君
  は
   雨になって
        星に落ちるかい、悲しみの力で、内側を救い続ける、存在であるかい
 世界は植物化しろ。
 わたしはずっと、きみたちが役割を変えて、交代している様を眺めつづけている。拙い言葉をつづりながら。文化として生
み出された時から。
 一人ぼっちで、孤独ではない。

ねぇ、百年後には君らは誰もいないんだよなぁ。ははっ、

私は耳であり、君であり、惑星であり、何時の時代だったか、とても愛されていたような気がする。


839 : ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/11/18(日) 01:13:36.59 ID:cFSP7vSX0
二日続けてすみません。鬱陶しいですが通常作を投下させていただきます。
昨日の作品を書いた勢いのまま書き上げました。昨日は純文学寄りな作品を描いたので、今回はミステリーっぽいのを描きました。オチは――察してください。相変わらず唸るようなオチが書けません。

品評会の後にでも感想をいただけたら、嬉しく思います。
後日、私も品評会作品の感想を書かせて頂こうかと思います。
840 :メルさんと八階消失について(お題:見つめる)1/10  ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/11/18(日) 01:18:26.62 ID:cFSP7vSX0

 私の目の前から八階が消え去った。私はスーパーマーケットの帰りに、メルさんが住むマンションの部屋を見ていた。私
は何か用があって外に出た帰りに、メルさんの部屋を見つめるのが趣味であったのだが、今日も同様に、メルさんの居る八
階の部屋を見つめようとした。そしたら、八階だけが奇麗に消失していた。各階の外壁に付けられた、それぞれの階の数字
を表すナンバープレートの、『8』と言う数字だけが奇麗に無くなり、七の上の階には、九と言う数字がくっ付いて、当た
り前のように外側にさらされていた。
 私は何かの見間違いだろうと思って、メルさんの住むマンションの中に入ってみた。やはりマンションの中にある、あり
とあらゆる『8』と言う数字が消失していた。郵便受けの八も、三〇八号室とかの八も(それらも九へとずらされていた)
八谷さんの名字も(九谷さんになっていた、何て読むのだろう)、本当に八だけが何かの力によって消え去っていた。
 わたしはメルさんの郵便受けを覗いて見た。
 メルさんも九〇七へと変更され、それ以外は何も変わったところは無いようだった。
 
 ここまでメルさんメルさんと、まるで知人であるかのように言ってしまったが、メルさんは恐らく私のことを知らないだ
ろう。私だけが彼女のことを一方的に知っていて、そして彼女の見えない場所から、私は彼女を見つめ続けている。
 私はストーカーであり、メルさんのことだけを考えて生活している。
 しかし、そんな私でありながらも、八に関するものが消失した件については、首をひねらざるを得なかった。よほどのこ
とがない限り、そもそもメルさんに関すること以外は全くと言っていいほど、関心がない私だが、八についての謎は私の心
を不思議な場所へと導いていた。
 なぜこのマンションの八階は消失したのか。
 その謎を、少しだけ調べてみようと思った。

 そもそも八に関するものが消失したのは、このマンションだけなのだろうか。改めて考えてみると、もしかしたら私の知
らない間に、この世界から八と言う概念が消えてしまった可能性があるのだ。私はそれを思い、とりあえずスマートフォンの
メニュー画面を開いてみた。そして、通話アプリを呼び出す。果たして、そこに表示されたプッシュボタンには、八と言う数
字が当然のものとして存在していた。
まぁ、当たり前なのだが、私はその当たり前に、ひどく安堵した。
私の知らない間に八が消えているなんて事になったら、私はこれからの生活でうまく生きていけないような気がしたからだ。
 しかし八が消失した世界は、それはそれで面白いかもしれないが。
 とりあえず、まだ断定はできないが、八と言う概念が消えたのは、このマンションだけと言うことらしい。
 何故だろうか。
 私はその理由が知りたかった。
 なんだか、私の中の謎に対する欲求が、うずうずと高まり始めていた。
841 :メルさんと八階消失について(お題:見つめる)1/10  ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/11/18(日) 01:19:55.37 ID:cFSP7vSX0

 早速私は、この不可思議な謎(不可思議でない謎などテレビのクイズ番組のクイズみたいなものだろうけれど)を解決す
るために、このマンションに住む住人に話を聞いてみる事にした。
とは言っても、私はこのマンション内に知人など存在しない。もちろんメルさんだって、一度も話したことがないし、百メ
ートル以内に近づいたことがない。だから今現在、メルさんに一番近づいた距離、世界新記録更新中なのである。
郵便受けやエレベーターなどがあるロビーを、とりあえずぶらぶらとしてみる。十分ほどそうしていると、エレベーターで
誰かが降りてきた。
 何やら高級そうなブランドバッグを肩から提げた、ギャルであった頃の名残のある、若妻だった。彼女はこちらを訝しげ
にじろじろと眺めた後で、そっぽを向き私の前を通り過ぎようとした。私はもちろん、遠慮もなく声をかけた。謎の解決に
向け、少なくとも手がかりを得るために。
 後ろから声をかけられた若妻は体をビクッとさせ、勢いよく振り返り、声も出さず、私のことを睨んできた。
 私はその視線を受けながら、
「唐突にすみません。私はこの近くに住んでいる者でして、訊きたいことがあったんです。えーと、昨日までは確か八階が
確かに存在していたと思うのですが、今日になって突然、八階が消えているのを発見して、それですごく気になってしまっ
たんです。ですから、誰かに聞いてみようかなと思ったんですが……何かご存じないですか? 本当にいきなりでごめんな
さい」
 と、私はとても畏まった感じで若妻に訊ねた。
「あー? あー、そうね、そういえば八っていう数字が消えてるわね。私はさ、それについて別にどうだっていいけど。理
由は……そうねー、管理人とかに聞きゃわかるんじゃん? つか、あんたも暇ね。八階があろうがなかろうが、別にどうだ
っていいことじゃない。次に九があって、その後にも延々と数字は控えているんだから。むしろ八が亡くなったぐらいでち
ょうどいいんじゃないのぉ―? 左右対称である完璧な数字なんて、存在しちゃいけないのよ」
「1は左右対称じゃないんです?」
「1はさ、ほら、上の左側がちょっと左に折れてるじゃん」
 それは書く人にもよるだろうが……しかし、若妻に言われた通り、我々が普段生活で用いるアラビア数字の中で、8だけ
が左右対称であり、上下対称でもある。それが完璧であると感じるかどうかは、まさに人によるのだろうけれど、若妻にと
っては、8の完璧さはあまり好むところではないらしい。
「とりあえずさ、管理人はさ、あっちの管理人室でお茶でも飲んでるだろうからさ、訊いてみればいいんじゃん? いつも暇
してるおばちゃんだからさ、話し相手が来たら喜ぶと思うよ。もしかしたら8を失くしたのだって、管理人の仕業かも知れな
いし」
 若妻は管理人室があるだろう方向を見ながら、口元を緩めて笑った。
 私は礼を言って、管理人室の方へと向かうことにした。若妻は一回だけこちらを振り返ってから、外へと向かって歩いて行った。
842 :メルさんと八階消失について(お題:見つめる)3/10  ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/11/18(日) 01:21:13.57 ID:cFSP7vSX0

 私は彼女に言われた通り、管理人室らしき部屋の前で行き、立ち止まる。扉には細長いプレートが横向きに張られていて
、そこには何の感情もない字体で管理人室と書かれている。
 私はその文字を三秒間見つめた後で、その扉を控えめにノックしてみた。
 扉の向こうから甲高い「はーい」と言う声が聞こえ、何やらバタバタとした音が向こうから響いて近づいてくる。そして
すぐに扉は開かれ、中からはパーマをかけた中年の女性が顔を出し、私のことを笑顔で迎えてくれた。
「えーと、あなた何号室の方?」
 彼女は私の顔を不躾にじろじろと眺めながら、そう訪ねて来た。どうやら私をこのマンションの住人と勘違いしているら
しい。まぁ、確かにこの部屋に用があるのは住人か、このマンションの経営に携わっている人とか、そんな存在ばかりだろう。
 私はとりあえず、ここへやって来た用事を話すことにした。
「すいません、私はこのマンションの住人じゃないんです。えーと、ちょっと気になる事があって、窺わせていただいたん
ですが……このマンション、昨日までは八階があったのに、今日になったら突然八階とか、八に関するものが消えていて、
外から見て不思議に思ったんです。で、こちらの住人に話を伺ったところ、管理人さんなら何かご存じではないかと言うこ
とで、こちらに窺わせていただいたんです。ご迷惑だったでしょうか……?」
 管理人は、先程の若妻と同じように、あー、と呟きながら首をひねった。
「それねぇ、私も朝起きてびっくりしたのよぉ〜。朝起きたら、いきなり八階が無くなってるんだもの! で、私、寝ぼけ
て夢でも見てるんじゃないかと思って、内田さん――あっ、この上に住んでる人なんだけどね、内田さんに挨拶がてらに話
しかけに行ったのよー、そしたらやっぱり内田さんも、八階が無くなってることに驚いてて、あーっ、私の勘違いじゃない
んだってことを思ってね、そんで、ここに戻って、とりあえず状況を確認するためにね、ここを管理している会社に電話か
けたのよ、私も雇われてる身でしょ? 状況くらい確認したいじゃない。そもそも何の説明も無しにいきなりこんなことさ
れたって私も困るのよ! それで、電話ね、かけて訊いてみたの。そしたら何て言ったと思う? すっごく冷静な感じで、
『それに関しては気にしないでください。そのままでいいんです。我々のオーナーが決めた事ですから。それに関して何か
勝手に対処を為された場合、例えば八を元に戻すという行為を行った場合、住人ならば即刻退去、管理人様の場合でしたら
は解雇、その他の人の場合は何らかの形で処罰を与えさせていただきます』ですって、もー本当にね、理不尽よね、権力を
持った人たちって、まぁ、私もね、別にそんなに八に対して、執念があるわけじゃないのよ、無くなったら無くなったで別
にかまわないし、反抗しようなんて気はさらさらないのよ、でもいきなりこういう事をやられると、困るのよねー。住人に
もね、何も説明してないでしょ? 私が伝えなきゃいけないじゃない! まぁ、それが仕事なんだけどね、せめて前もって
期間を空けて伝えてほしかったわー、あっ、ごめんね愚痴みたいに、長々と話しちゃって! おばちゃん暇だから、どう?
 せっかくだからお茶でも飲んでいかない?」
 彼女は息を吐く間もなく、マシンガントークをぶっ放した後で、私に微笑みかけた。それはとても人懐っこい笑みだった。
 しかし、私は丁重にそのお誘いを断った。このおばさんの相手を一人でしていたら疲れそうだ。それに、このマンション
を管理する会社と言うのが気になる。彼女の言によると、今回の『8』消失に関する件は、この会社が独断でやったことらし
い。わたしはこの会社について、家に帰って調べてみたかった。
843 :メルさんと八階消失について(お題:見つめる)4/10  ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/11/18(日) 01:24:02.47 ID:cFSP7vSX0

 自宅に戻り、パソコンを立ち上げ、インターネットで先ほどのおばさんが言っていた会社を調べてみる事にした。
 どうやらメルさんが住むマンションを管理している会社は、「エレクトリックフォレスト」と言う名前らしい。
 私はその会社のホームページにアクセスをして、どこか謎の解決につながる部分はないかいろいろと眺めて見る事にした
。しかし、画面に映る情報や、リンクを辿ってみても、八消失に関する記述はどこにもなく、また手掛かりになるようなこ
とは、一切何も記載されていなかった。
 私は嘆息して立ち上げたブラウザを閉じ、椅子から立ち上がって窓辺へと向かった。
 私が住んでいるマンションは、メルさんが住むマンションの斜め向かいの方に立っており、メルさんの住むマンションよ
りは若干グレードは落ちるが、それでも入居するのに結構な額のお金がかかるところだった。収入なら、ある程度困らぬほ
どにあった。私の仕事は色々な機材を使う仕事であり、それの費用が結構バカにならないのだが、それでもそれ以外にあま
り浪費をすることなど無く、ならばと思い、生活をする場所にお金をかけることにし、メルさんの向かいであるこの場所に
、私はこうしてここに暮らしている。

 私はミュージシャンの仕事をしていて、それほどの人気ではないが、一部の人間には熱狂的に支持されている。
 私の作る音楽は、エレクトロニカのインストに、時折、加工された人の声を混ぜ込み、それを意味のある詩にして並び替
え、それを逆再生させたりといったややこしく気味の悪いものなのである。
 幼い子供が意味の分からぬ言語でずっと喋っているのに合わせ、川の音や鳥の声と言ったアンビエント音楽を流し、気付
いたら声は大人の男の声へと変貌していたり、女性の声や老人の声、銃声、エレクトロニカのドローン音、不確かなリズム
で刻まれるバス、人の声はそれぞれ、いろいろな訴えを語り続けている「もっと優しく出来たらよかったのに」「なんで死
んだの?」「息が上手く出来ないの」「彼女が反転する」「三十秒間、殺して」「足を切ったら、いろんな人が一斉に笑っ
たんだよ」そんな不明瞭な言葉を、アンビエント音楽に乗せている。
 私の音楽は、あまりライブをしたり人前で特別に披露したりする音楽ではないので、(それでもやるときには、年に十回
の公演をする)家でDTMを使って、一人で作曲をし、それをマスタリングしてもらってCDにし、インディーズのレコード会社か
ら発売してもらっている。いつも一定数のお客が私の作品を買ってくれ、さらに買った人たちが私の作品を評価して、いろん
な場所で広めてくれ、作品を出すごとに新規のお客も買ってくれるので、私は、作品を出すごとに、まず悪くない金額を得る
ことが出来た。月二十万のこのマンションに住むことが出来るくらいには。
844 :メルさんと八階消失について(お題:見つめる)5/10  ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/11/18(日) 01:26:50.26 ID:cFSP7vSX0
 メルさんのことは、私のこの仕事が縁で、知ることが出来た。彼女もまた私と同じような仕事をしていて、インディーズ
バンドのヴォーカルとして、カルト的な人気を得ていた。
 メルさんは逢坂メルと言う名前で活動しており、バンド『バレンタインデイ・レジスタンス』において、その甘いヴィス
パーヴォイスと、可憐な少女のようなルックス、天才的な歌詞センスによって、絶大な人気を得ながら活動をしている。
 私はもちろん、メルさんに一目ぼれした。
 仕事仲間であるテクノアーティストの新菜羽依音(ニーナ・ハイネ)に誘われて、彼女のライブに行ったとき、私は初め
て女の子に恋をすることになった。この人生で一回も、私は女の子に恋をしたことが無く、恋とは無縁の人生を送ってきた

 そんな私が彼女の歌にやられ、彼女に惹かれてしまったのだ。
 私はそれ以来、彼女のストーカーをやっている。
 狭い業界の中で、いろんな人から彼女のことを聞いて、彼女の住所を突き止めたり、こうやって彼女の家の前に住んだりしている。
 私は彼女のために行き、彼女は私の生きがいだった。

 そんな彼女の身の回りで起きた、八が消失すると言う事件。
 しかしながら、これ以上に手掛かりが無く、解決に至らない。
 別に私が解決する必要はないのだろうけれど、どうしても気になる。
 そう言えば、メルさんは今までと同じ部屋に住んでいるのだろうか。私はそのことが気になった
 私は彼女の部屋が見える窓から、メルさんの部屋を覗いてみた。
 前と同じ場所に、果たして彼女の部屋があった。
 いつも通り、無防備に水色の可愛らしい下着が干されているのが見える。あれは彼女のお気に入りで、同じのを三枚持っ
ていて、よく身につけているらしい。
 他にも彼女がよく着ている白のワンピース、ギンガムチェックのスカートなどがぶら下がっているので、彼女が昨日と変わ
らずそこに過ごしているのは、まず間違いないだろうと思われた。
 私がずっと彼女の部屋の方を見ていると、突然携帯電話の着信音が鳴り出した。
 誰かから通話があったようだ。
 私はもう少し彼女の部屋を見ていたかったが、何か仕事に関する連絡かもしれないと思い、出ることにした。
 着信画面を見てみると、そこには先ほど紹介したニーナ・ハイネの名前が表示されていた
「はい。もしもし……ハイネ? どうしたの?」
「あー、葉介ちゃん? 久しぶり―! あのね、葉介ちゃんってメルちゃんのこと好きだったよね? ね?」
 唐突に彼女らしい早口で、私に問いかけてくる。ちなみに葉介とは私が活動しているアーティストの名義で、世果葉介
(よはてようすけ)の葉介にちゃん付けをしたものだ。彼女は誰にでもちゃん付けをしたがる。
845 :メルさんと八階消失について(お題:見つめる)6/10  ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/11/18(日) 01:27:46.86 ID:cFSP7vSX0

 しかし彼女は、いきなり私がメルさんのことを好きだと言うことを確かめてどうするつもりなのだろう? まさか、お喋
りな彼女の事だから、いろんな人に言いふらす気なのか? そしたら今後、私はメルさんのストーカー行為がとてもやりに
くくなってしまう。けれど、別に好きじゃない、ってことを言うには、私はあまりにもメルさんが好き過ぎた。嘘でもそん
なことは言いたくなかった。だから、私は正直にメルさんへの感情を話すことにした。
「まぁ……好きだけど、それは、でも、あの……」
「分かってるって! メルちゃん可愛いしね、さすがの葉介ちゃんでもメルちゃんには惹かれちゃうよね! それはいいこ
とだよ! だってアーティストってのは常に、誰かに影響され続けて、エネルギーを蓄えなきゃいけないんだもん! で、
だ! 本題なんだけど、これから私ね、そのメルちゃんのおうちに御呼ばれしてるんだけど、せっかくだから、葉介ちゃん
も誘おうかなってことで。だって、葉介ちゃんてば、いつもメルちゃんの事ばかり話すし、メルちゃんの事ばかり見てるし
、せっかくだから会ってみたらどう? ってか、葉介が断ったってって連れてくよー! なんたってウチは愛のキューピッ
ドだからね、にゃはっ♪」
 そんなことを早口で言ってから、私が返事をする間もなく、「じゃっ、今から迎えに行くから」と言って、彼女は唐突に
電話を切った。
 なんという事だろう。
 私の意とは全く関係なく、私はメルさんに近づこうとしている。
 メルさんの家に行って、メルさんを直接眺められるチャンスを得たのだ。しかし、それは恐怖でもあった。私はメルさん
と上手く話せるだろうか。ストーカーである私がメルさんと直接会って、罪悪感を抱かずにいられるだろうか? 気持ち悪い
と思われないだろうか? 
 私は心配しすぎて、いっそ引き篭もってしまいたかった。
 しかし、いくら引き篭もったころで、ハイネは私の家に上がり込んでくるだろう。勝手に合鍵を作ってしまうくらいだから
。彼女は私の事が大好きなのだ。だから、どんなことをしてでも私を引っ張っていくだろう。
 それならいっそ、メルさんに直接八消失のことを聞いてみたらどうだろうか。もちろん彼女が何かをすぃっているとは思え
ないが、その話題を口実にして、彼女と少しばかりお喋りをしてみてもいいのではないか。
 私がそんなことを考え付いたところで、インターフォンが鳴った。
 どうやらハイネが来たようだ。
 私は玄関に向かい彼女を出迎える。
 が、私が扉を開けるまでも無く、彼女は合鍵を使って勝手に扉を開け、出迎える私のことをニコニコと見つめていた。
「それじゃ、行こっか?」
 羽依音は、私を見つめながら楽しそうにそう言った。
 私は若干戸惑いつつも、ゆっくり頷いた。
846 :メルさんと八階消失について(お題:見つめる)7/10  ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/11/18(日) 01:29:22.47 ID:cFSP7vSX0

 元は八〇七号室であった場所に、現在は九〇七号室と書かれたプレートが付いていて、その下にメルさんの本名である佐
藤奈々と書かれた表札が付いている。
 羽依音は私の手を握り、私を引っ張りながらここまでやって来た。そして扉の前に立ち、いよいよ葉介ちゃん憧れに人と
ご対面だね! と言いながら、扉を開けた。
 既にマンション玄関口のインターフォンで連絡は取ってあったので、彼女の部屋の扉の鍵は開かれていた。
「お邪魔しまーすっ」
 勢いよくメルさんの部屋に入っていく彼女の後に続き、私もそろそろと入って行く。小さい声でお邪魔しますと言いながら。
 メルさんの家は、入った瞬間にいい匂いがした。
 何の香りかはわからないが、女性らしい甘い香りに満たされ、私はその香りうっとりとした。
「あっ! いらっしゃーい」
 リビングの方からメルさんが出て来て、私たちを出迎えてくれた。歌う時と変わらない、甘く可愛らしい声で。
「あぁ、その子が葉介ちゃん? すごーいっ! 私あなたの音楽好きだよ! へぇー、こんなちっちゃい女の子だったんだ
ぁー。名前からして男の人かと思ってたのにぃ! ねぇ葉介さんは何歳?」
 メルさんは私を見て、大げさに驚いた後、その表情をころころと変え、楽しそうに、嬉しそうに私に向かって年齢を訪ねてきた。
「えと……二十一歳です……。いつも中学生とかに、間違われるんですけど……」
 私は若干おどおどとしながら返事をした。メルさんの前だと緊張してしまって上手く声を出すことが出来ない。下を向き
ながら答える私を見て、ハイネはしょうがないなぁという視線を送ってくる。
「すごーいっ! そんな若い年齢であんな音楽作っちゃうんだぁ!」
「メルだって二十四歳じゃない。充分若いって。わたしはもう二十八歳だし」
 ハイネが突っ込みを入れる。
「でもさ、私は歌詞書いてるだけで曲は作ってないし、やっぱ二十一歳であんな曲作るのはすごいよーっ! しかもすっごい可愛いし! きゃーっ、抱き枕にしたい!」
 そんなことを言いながら、メルさんは無遠慮に私に抱き着いてくる。とても甘い香りが漂ってきて、くらくらとする。も
う幸せすぎて、このまま死んだっていい……。胸とか体の柔らかさが私に幸福感を与えてくれる。その胸に、秘所に手を伸
ばして触れてみたい。
 まさか自分がここまで本格的なレズビアンだとは思わなかった。いや、メルさんが居なければ私はレズビアンにはならな
かっただろう。そもそも性別など関係なしに、私は一人の人間として、メルさんのことを愛しているのだし、ずっと、ずっ
と見つめてきたのだ。メルさんのことを、知った日から私は彼女を見つめ続けてきた。

847 :メルさんと八階消失について(お題:見つめる)8/10  ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/11/18(日) 01:30:51.07 ID:cFSP7vSX0

 リビングで、メルさんは私たちにお茶とお菓子を振舞ってくれた。
 それからしばらくそれぞれの近況やら、お気に入りのアーティスト、音楽観、これからの活動についてなど、いわゆる仕
事に関するようなことを話していたんだけれど、唐突に、ハイネがメルさんにこう切り出した。
「なんかさ、このマンションに入って来た時からさ、妙な違和感があったんだけどさ……」
 私はもしやと思い、すかさず口を挟んでみた。
「私も気になってることがあるんですけど、なんかこのマンションから八っていう数字が消えていますよね? 八階も無く
なっているし、八っていう数字が全部なかったことにされてる」
「あー、そうなの? じゃあ、わたしの感じた違和感もそれなのかなぁ?」
 ハイネも何となく納得しながら、ぶつぶつと呟いている。
 そんな私たち二人を見つめて、メルさんは何やら神妙な顔で私たち二人の顔を見つめてきた。ハイネ、それから私、と順
番にじっと見つめてくる。
 そして彼女は、ごくっと唾を呑みこむと、その薄くて愛らしい唇を、私たちに向かってゆっくりと開いた。
「実はね……このマンションのその……八階でね、とても不吉なことが起きたの」
 彼女はとても思いつめた表情で、俯きながらそう切り出した。
 私たちは身を乗り出すようにして、その続きを待つ。
「それが始まったのは先週の木曜日からだった。六日前ね。八〇一号室の人がね、自室で変死していたの。原因は未だにわ
かっていないんだけれど……そこに住んでいたのは高齢のおばあちゃんで、いつも来るヘルパーさんが彼女の死体を見つけ
たの。まぁ、本当によぼよぼのおばあちゃんだったから、こう言っては何だけど、老衰で亡くなるとか、何か不注意で亡く
なってしまうとか、ちょっとしたことで不運に亡くなってしまったんだろうって、誰もが思ったの」
 そこでメルさんは一息ついた。そしてガラスのテーブルの上に置かれたハーブティをしとやかに啜る。
「でもね、問題は次の日だった。今度はね、その隣の八〇二号室の人が、自室で亡くなっていたの。おばあさんと同じよう
な死に方で。これも死因は分かってない。ただ、誰にも気づかぬうちに、その人は亡くなってた。そこに住んでいたのは若
いフリーターの男で、その死体は合鍵を持っていた彼女が見つけたの。よく二人で会っていたみたいだから……。こうなる
と、皆もちょっと気味が悪いなって思い始めるのよ。特に同じ八階に住む私たちは、左の部屋から順番に、人が亡くなって
いる。しかも一日ごとに――」
 私はごくっと唾を呑み、スカートの裾をぎゅっと握りしめた。その微かな音たちが、この静寂の中で、やけに大きな音と
して響いた。
「それで、八〇三号室の人はすごい怯えちゃって、明日私も死ぬんじゃないかなんて事を言って、でもみんなもやっぱり心
配だから、とりあえず家にはいない方が良いって言って、八〇三号室の人はその次の日、家を空けたの。知人の家に泊まっ
てね。その人は女流作家の人らしくて、今人気のミステリーなんかを書いてる人なんだけれど、その人はね、二号室の人が
死んだ次の日に、ここから百キロも離れた遠くの町に居たの。二号室の人が亡くなった日にはすでに家を出て、その知人の
ところに向かってたの。でもね……結果的にその人は亡くなった……。知人の家で、その知人が見ていない隙に、その人は死
んだの。原因は全く分からなかった。警察の人がどんなに調べても分からなかった。今までにまったく例のない不思議な死に
方だって。で、あとはご想像の通り、その翌日に四号室の人が死に、五号室、六号室と来た。それで今日は、七号室である私
の番……」
848 :メルさんと八階消失について(お題:見つめる)9/10  ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/11/18(日) 01:32:30.30 ID:cFSP7vSX0

 私は、混乱していた。
 これは真実なのだろうか?
 私はメルさんと過ごしてきたわけではないので、もしかしたら彼女は真顔で冗談を言ったり、怪談話を作って聞かせるの
が得意な人なのかもしれないし、まさかこんな話が本当だとは思えなかった。しかし、ハイネも顔を真っ青にしている。彼
女は嘘を吐いたり人を騙したりするのが下手なので、メルさんと組んで私を騙そうとしたりなんてのは出来ないはずだ。メ
ルさんも先程から真剣な表情を崩さない。
 私は思い切って訊ねてみた。
「えっと、それは……本当の話ですか、つ、作り話ですか?」
 私の声は震えていた。
 この場には確かな緊張感があった。
 メルさんは俯きながら、小さく頷いた。
「これは……本当の話。いや、信じられないのは分かるし、いきなりこんな話を聞かされても、絵空事みたいだよね。八階
の人が、左から順番に死んでいくなんて、私だって信じたくないよ」
 私は黙り込むしかなかった。言うべき言葉が見つからなかった。
 そんな中で、ハイネは重い口を開いた。
「だから、その対策で、八階を……消したの? でもさ、二号室の人が遠くに逃げても死んだってことは、そんな小手先の
対応じゃ――」
 そこまで言ってから、ハイネは口を閉ざした。
 本人を前にして、メルちゃんも死んじゃう、何て言葉を口にできなかったのだろう。
「うん。でも、とりあえず八っていう数字が呪われているんじゃないかってことになって、こんな馬鹿みたいな対応を、あ
の会社がやったの。それでね、あと一つ重要なことがあって、それはね、この八階に住んでた人、死んだ人たちは全員一人
暮らしだったの」
 一人暮らし――
 確かにメルさんも見たところひとり暮らしであるようだった。
 いや、まぁ私もここに来たのは始めてだからよく分からないが、メルさんの口ぶりからすると、彼女もまた同様に独り暮
らしであるようだった。
 既にメルさんの顔は真っ青になっていて、それで私たち二人を真剣に見つめる目は、まだ何かの希望を見出しているかの
ような、そんな感じがした。
「それでハイネに――いや、二人にお願いがあるんだけど」
 メルさんは、切実な目で私たちを見ていた。
 そして私たちも、その切実な目を見つめ返す。
「私と、家族として、ここに住んでくれない?」
「――それが解決策になるの?」
 私たちが黙り込む中、ハイネはゆっくり考え込むように、口を開いた。その声はいつものハイネの声と違って、重く、響いていた。
「分からない、でも、誰かが常に私を見ていれば、死なないかもしれない。あとね、偶然なんだけど、ここに住む人は八階
の人以外、全員が誰かと一緒に暮らしているの。まぁ、八階に一人暮らしの人が集められたのは意図的かもしれないし、単
身者が住む階として、向こうが管理しやすかったのかもしれないけれど――」
「でもさ、今、家族って言ったよね。私たち、ほら、血が繋がってないし、そもそも半日で家族を作るって――」
「でも、こんなことしか思いつかないの、ハイネたちには冷静に見えるかもしれないけど、私はもう混乱しすぎて、頭がぼ
ーっとして、現実感が無くて、それでいて、頭がおかしくなりそうなのっ!」
 彼女は突然、テーブルを強く叩き、大きな声を出した。彼女のカップが倒れ、じゅうたんに向けて紅茶の滴がポトリと垂
れ落ちていく。それは徐々に大きなシミとなって、彼女の周りを浸していった。
「わ、分かりました! なります、家族っ! 一緒に住みます、今日から!」
 私は突然、そう叫んでいた。
 二人とも、弾かれたようにこちらを見て、口をポカンと開けていた。
「わ、私、メルさんのことが大好きで、大好きで、ずっと見ていて、それで、一緒に暮らせたらいいなとか思っていて、で、
メルさん死んじゃうの嫌だし、だから、その、」
 まるで幼稚園児のように要領を得ない私の言葉にも、メルさんは震える声で(俯いてしまって表情は分からなかったが)ありがとう、と呟いた。
「まぁ、じゃあ私も付き合うよ。でも、他にも対策を考えましょう。まだ何かあるかもしれない」
 ハイネもそう言ってメルさんと私を見た。その顔は引き攣っていたが、口元には何とか笑顔を浮かべようとしていた。
849 :メルさんと八階消失について(お題:見つめる)10/10  ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/11/18(日) 01:34:12.03 ID:cFSP7vSX0

 そしてその夜から、私たちは一緒に暮らすこととなった。
 彼女はすっかり安心したのか、すっかり泣き叫び、私たちに執拗に甘えたり、駄々をこねたり、今までのメルさんのイメ
ージとは違う、本来の彼女の姿を私たちに見せてくれた。
 しかし、こんな可愛らしいメルさんが、本当に明日死んでしまうのだろうか。
 確かにメルさんは混乱していて、怯えているのだが、明日死ぬとわかっている人間は、もっと動揺したり、暴れたりする
ものなのではないだろうか。
 私はちらりとそんなことを思いながら、しかしもし私だったら、明日死ぬとわかってるならジタバタせずにじっと家に閉
じこもってるだろうなぁとも思ったので、まさに人によって、終末の過ごし方は違うのだろうな、と思いもした。メルさん
の場合は、誰かに甘えたかったのだろう。
 ハイネは、昨夜徹夜で作曲をしていたせいか、今はぐっすりと眠ってしまっている。メルの事が心配だし、側にいてあげ
たいからずっと起きてるとは言ったものの、緊張感が続いたためか、今ではぐっすりと眠ってしまっている。
そんな中、甘えてくるメルさんは、いつの間にか私にしなだれかかって来て、その甘い唇を私の耳に寄せ、甘噛みをしてき
た。そして、ヒソヒソとささやくように、私の耳をくすぐる様に、こう囁いたのだ。
「ねぇ、家族じゃない人が、家族になるためには、どうするか知ってる?」
 そんなことを言いながら、メルさんは私の秘所と胸に手を伸ばし、くすぐる様にして、まさぐってきた。
 私は突然の展開に、混乱し、何が起きているのかをうまく把握できなかった。
「セックスして、子供を作るとかさ。で、結婚しちゃえばいいの」
 私は抵抗しようとした。いくらなんでも、これはまずい。何故いきなりこんなことをするのか、理由が分からなかった。
 きっとメルさんは混乱しているのだ。
 しかし抵抗しようとした腕に、力が入らなかった。
 腕だけでなく、体全体に力が入らずに、私はメルさんに押し倒されるがまま、絨毯に寝そべった。
「私ね、可愛い女の子が好きなの。ずっとね、葉介ちゃんに、ハイネに、目を付けてた。私はずっと、あなたたちを見つめ
ていたんだよ。だから、こんな馬鹿みたいな嘘を吐いて、真剣な演技をして、二人を呼び寄せたの。今までにも二、三回試
したんだけど、葉介ちゃんたら、仕掛けにすら気づいてくれないんだもん。でも、今回はパパの会社に頼んで、大掛かりに
やってくれたから、葉介ちゃんも気づいてくれたっ♪ 私ね、葉介ちゃんのライブを見てから、あなたを犯したくてたまら
なかったの。最初はあなたの音楽性にほれ込んで――まさか可愛い女の子だなんて思わなかったから――純粋な気持ちでラ
イブに行ったんだけど、でもね、ステージに立つあなたを見た時、まさにこれが私の理想の人だと確信したの。この子を私
の物にしたいって。だからね、今日から、私たちはここで暮らすの。心配しないで、お金とか、そんなのはいっぱいあるか
ら。手錠を繋いでね、二人とも可愛いペットみたいに、一生可愛がってあげる。私って、すっごい変態だから覚悟してね。
痒くなる薬とか、全身に塗って悶えてる女の子の姿とか見るの大好きなの。もちろん掻いてあげないんだけれどね、それで
ね、痒くて痒くてたまんない女の子の体をね、ゆっくりと羽箒でこしょこしょくすぐるの。そっと引っ掻くみたいに。焦ら
すように。あーっ、楽しみっ! 明日二人にもやってあげるからね。ちなみに、ここからは永遠に出られないからね。この
八階は私たちだけの空間。ここに八階があるだなんて事は、誰も知らないし、この八階だけは、今日から私たちだけの物に
なるの。ふふふっ、楽しみだなぁ! 死ぬまで可愛がってあげる! 前のペットはもう気が狂っちゃって、捨てちゃったから!」
 私はあまりの豹変ぶりに、言葉を失った。何もかもが信じられなかった。むしろ今の方が嘘で、先程の話が本当であるな
ら、まだすんなり受け入れられそうだった。しかし、そう述べた後のメルさんは、うつ伏せになった私の背に跨り、ひたすら
いろいろな場所をくすぐり続け、私のクリトリスをくすぐり続け、感度を高めた後に、ひたすらいかせ続けた。
 メルさんが狂人であるだなんて、私は信じたくなかった。
 私と羽依音を監禁して、一生をここで過ごすだなんて。
 この隠された八階にて、私は一生を過ごすだなんて、信じられないし、怖かった。
 既に私が好きだった、私が見つめていたメルさんの姿など無く、そこにはただの犯罪者がいるだけだった。
 私はこれから誰の目にも晒されずに、八階と共にこの世から消失し、壊れるまでここに過ごすこととなるのだろう。
 私の好きだったメルさんも、八階と共に消失してしまった。
 私は、果たして自分から求めてここに来たのだろうか。
 何かに吸い寄せられるように。
 こうなることを求めていたのだろうか。
 しかし、こうなってしまった今では、もうなんであろうと関係ない。私が愛していたメルさんに飼われ続けるしかないのだ。
 だったら、せめて私も頭をおかしくするしかない。
 メルさんに玩具にされて、幸せだと思うようにするしかない。
 それでいいのだ。
 多分それが、私の本当の望みだったのだ。
 そのためにこのマンションの八階が創られ、そして八階と共に私たちはこの世から隔離されたのだ。

 八階は、いつだって奇妙に隠されながら私らの望みを叶え続けている。
 八階消失。
 綺麗だった私たちも、綺麗に消失した。
 歪み続けながら、隠されている。


 
850 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/11/18(日) 22:17:10.97 ID:cFSP7vSX0
(お題ください)
851 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/11/18(日) 22:49:53.36 ID:6+35PYdHo
>>850
(飛び込む)
852 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/11/18(日) 22:55:00.78 ID:cFSP7vSX0
>>851
(ありがとっ)
853 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/11/18(日) 23:34:08.01 ID:4BKReH4AO
ひそひそ話すなよな!
854 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/19(月) 01:12:54.16 ID:Erj62Jl7o
(ぼくにもお題ください!)
855 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2012/11/19(月) 01:34:52.06 ID:ZPBpgkRX0
>>840-849
読んだ。
「8」という数字が消えたマンションの謎を追いかける点は興味をそそられた。
しかし途中までは面白かったのに、全部読み終わってみると、なんとなく損をした気分になる。
目の前に餌をぶら下げて走らされた挙句、やっと辿りついたらその餌が玩具だった、という感じ。

消した数字が「8」という点にはセンスを感じる。
作中でも語られているが、上下左右が対象な唯一の数字であると同時に、
横に傾ければ、これは「∞」という文字であり、
オチで葉介が辿りついた世界が、永遠に続くという比喩にもなっている。

けどまあオチだな。これが駄目だと全部駄目に見える。
856 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2012/11/19(月) 01:35:22.96 ID:ZPBpgkRX0
>>854
わっ!
857 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/11/19(月) 01:55:25.85 ID:Erj62Jl7o
>>856
ひゃあ!

「わっ!」で書いてきます
858 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/19(月) 01:56:31.61 ID:Erj62Jl7o
「わっ!」ってなんだよ・・・・・・
859 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/11/19(月) 02:13:20.05 ID:txhE2KiP0
>>855

長文を読んでいただき、誠にありがとうございます。
やはりオチですよねぇ……。8消失と言うアイデアを生かせるオチになっていない、と言うことが問題ですね。
勢いだけでなく、もう少ししっかりとを練るべきでした。

>>横に傾ければ、これは「∞」という文字であり、
>>オチで葉介が辿りついた世界が、永遠に続くという比喩にもなっている。
という点に関しましては、作者が全く意図していなかった発想ですので、正直に驚かされました、素敵です!
そもそも8と言う数字も何となく選び、作品を書きすすめながら、そういえば上下左右対称だなぁ、となんともまぁ適当な感じの後付けでしたので、その深読みにこちらが納得してしまいました。
読んだ者によって、作品が意図していなかった方向に広がるのだなと。

感想、本当にありがとうございました!


>>857
僕関係ないですけど、なんだか戌井昭人の「ひっ」って作品を思い出しました。
860 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/11/19(月) 02:14:18.78 ID:o44JhxwAO
いや案外、「わっ」でどんなものを書いてくるか楽しみだわ
861 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2012/11/19(月) 02:20:30.01 ID:ZPBpgkRX0
>>858
いやなんかみんなひそひそしてたから……
862 : ◆pEPPiAPChA [sage]:2012/11/19(月) 08:37:05.04 ID:Erj62Jl7o
ということで、わっ、で書き上げてきました。おはようございます。
投下します。
863 :『わっ! 』(お題:わっ! ) 1/7 ◆pEPPiAPChA [sage]:2012/11/19(月) 08:38:36.41 ID:Erj62Jl7o
「わっ! 」
 耳元で大きな声がしたので、咲良は後ろを振り返った。声の主は、同じクラスの望であった。
「おはよう、望」
 挨拶すると彼は少し困ったような顔をする。
「んー、はよ、咲良。少しは驚けよ」
 先程の大声は、どうやら自分を驚かせようとしたものだったらしい。驚かすならもっといい方法を思い付かな
いものか、と咲良は呆れた。
 始業前の廊下はひどく騒々しい。足早に教室に向かう者や、柱の傍で談笑する者もいる。騒いでいる人間の数
と音量は比例することに彼女は気が付いていた。その喧騒の中では彼のサプライズは成功することはないだろう
、と評価する。
「驚かせようとしたの? 気が付かなかったよ」
「ちげえよ、『わっ』ってあれだよあれ、お前知らねえの? 」
「『わっ』? 『わっ』って、何? 」
「あー、知らねえな、知らないんだろ、教えてやんねえ」
 彼は途端に楽しそうな表情になった。わ、という単語を彼女は想像したが、恐らくいずれも彼の考えるもので
はないだろう。もしかすると、彼の強がり、つまり出鱈目かも知れない。彼女はそう考えた。負け惜しみの強い
彼なら有り得る話である。
「それってさ、望、そんなに面白いの? 」
「へっ、教えてやんねえって、覚悟しろ。ホームルーム、始まるぜ」
 そう言うと彼は教室に入っていった。咲良も一呼吸遅れて後に従う。覚悟しろって、何に覚悟すればいいのだ
ろう、担任の生真面目な髪形にだろうか。望は笑うととても楽しそうで、そこに魅力を感じる。最初から驚いて
やっても良かったかもしれない、と彼女は考えた。
864 :『わっ! 』(お題:わっ! ) 2/7 ◆pEPPiAPChA [sage]:2012/11/19(月) 08:39:22.94 ID:Erj62Jl7o
「ねえねえ、『わっ』、って、咲良知ってる? 」
 話しかけてきたのは隣の席の梅子だった。受験生になってから、数学の授業が自習になることが増えた。先生
は職員室に行ったらしく、それは自習が自習でなくなるのと同義である。
「知らない、望も朝言ってたんだけど、ゲームとか? 」
「ゲーム? 違うよお、声だよ、声」
「え、声じゃん、わっ」
「あはは、違うの、何かねえ、歩いてると、声がするんだってよ、後ろから、わあっ、って」
「悲鳴? 」
「悲鳴! それいい! はは、咲良天才じゃない!? 」
 梅子が一頻り笑った後で、概要を求めた。彼女の話はどうも要領を得ないものだったが、まとめるとこうなる

 時間は夕方か夜、場所はどこでもいいらしいが、路地や学校の廊下、或いは廃墟、要するに人気のなさそうな
場所にいると、突然『わっ』と驚かすような声が聞こえるのだそうだ。誰かの悪戯かと振り向いても誰もいない
。怪談か都市伝説の類らしい。
「なんかねえ、うちのお姉ちゃんの友達とかさ、うちのテニス部の後藤の彼女とか、実際会ったらしいよ、やば
くない? 」
 都市伝説は、友達の友達によって語り継がれる。紛れもなくこれは都市伝説だろうと、咲良は思った。
865 :『わっ! 』(お題:わっ! ) 3/7 ◆pEPPiAPChA [sage]:2012/11/19(月) 08:40:11.56 ID:Erj62Jl7o
「わあっ」
 既に終業の鐘も鳴り終わり、梅子と階段を下りている途中であった。背後から悲鳴にもとれるような大きな声
がした。振り向くと案の定、望であった。
「びっくりしたな、望くんじゃん、もう、階段から落ちるところだったじゃない」
 梅子がオーバな表現をする。
「望、こんなところだと、人を驚かせたら危ないよ」
「なんだよ、驚いてないじゃんか、全然」
「後ろに望がいなかったら、驚くかもね」
「何だ、もう『わっ』って知ってんのか? それに、俺以外かもしれないじゃんよ」
「違うよお、望くん以外、咲良にこんな悪戯する人いないもんねえ」
 梅子が意地悪そうに笑った。この子はけらけら笑う。
「帰るの、望。なら途中までいっしょに帰ろう」
「帰るけどさ、なあ咲良、ちょっと寄り道してかねえ? 」
「寄り道? どこ? 」
 望は突然、神妙な顔をした。どうやらまた『わっ』の話のようだ。
 帰り道を少し逸れたところに廃病院がある。病院といっても個人経営だったところであり、それほど大きなも
のではない。そこで『わっ』に遭遇した者が多くいるということだった。閉めて暫く経っているらしい建物であ
り、夜には暴走族のアジトになっているだとか不穏な噂が立っているのでわざわざ誰も近付くことがない。こう
いった話では理想の場所だろう。
「いいよ」
「あ、そんな軽く返事しちゃっていいのかなあ、怖いぜえ、絶対怖い、うへへ」
 こんな面白い人間が一緒なら、きっと何も怖くないのに違いない。
866 :『わっ! 』(お題:わっ! ) 4/7 ◆pEPPiAPChA [sage]:2012/11/19(月) 08:40:43.28 ID:Erj62Jl7o
 結局、そのまま自宅に戻らず廃病院に行くことになった。梅子も誘ってみたものの、「おふたりでどうぞ」と
のことらしい。余計な御世話だと思う。
 廃病院は、廃墟と聞いて誰もが想像するような、まさしく廃墟であった。玄関のガラス戸は割れて片側だけが
開いており、壁には緑や青のスプレーで落書きがしてある。放置された植え込みはしかし元気に育っており、徐
々に建物を侵食していくつもりのようだ。
「ひええ、すげえな、出るぞ、こりゃ出るわ」
 望は建物の中を覗き込むようにゆっくりと進んで、咲良もそれに付いていく。ドアを注意深くくぐると、土っ
ぽいというか、埃っぽかった。それに暗い。
 ロビーに入る。待合用の椅子はそのまま残っており、ビール缶と新聞紙が散乱していた。ここで遊んでいる人
間がいるのは間違いない。ホームレスなども住みついているのではないか、その可能性を考えると、彼女は少し
だけ不安になった。既に日は赤く染まっており、遭遇してもおかしくないのではないか。
 その不安と裏腹に、望は辺りの物を触ったり動かしたりしている。もう高校も卒業するというのに、まるで小
学生みたいだ。
「こっちのさあ、廊下の奥とか怪しくね? 行ってみようぜ」
 彼はずかずかと奥に進んでいく。廊下には扉が三つあった。一つはロビーの受付の扉である。その向かいに一
部屋、廊下の突き当たりに一部屋。片方は診察室だろうか。
「咲良、俺は奥の扉を見てくるぜ、お前は、こっちの部屋を調べてくれ」
 まるで刑事役か探偵役になったような台詞である。気取っているのが分かるところが可愛らしい。了承すると
、にやりと笑って奥の部屋に向かっていった。咲良も手前の方のドアを見る。見上げると、ドアの角に何かが掛
かっていたような逆L字型の棒がつき出ていた。
 ドアを開ける。髪に埃がかかったようだ。帰ったらごはんの前にシャワーを浴びよう、そんなことを思う。
 その部屋はやはり診察室であった。倒れた二脚の椅子が部屋の隅にあり、保健室にあるような、白いカーテン
、これはぼろぼろになっている。窓は割れ、外は暗くて見えなかった。もう夕日も沈んでいるだろうか。
 中に足を踏み入れる。ドアは開けたままだ。特に怪しいものはない。そこまで確認して、咲良はここにきた目
的を思い出した。何かを見つけに来たのではないのである。しかし、望もそれを忘れているだろう、という推測
は、彼女が目的を諦めるのには十分であった。
 カーテンの中にはやはり簡素なベッドがあった。それを見て、彼女は先程の不安を思い出した。外は大分暗い
。あまり長居はしたくない。
 咲良は廊下に戻ることにした。
867 :『わっ! 』(お題:わっ! ) 5/7 ◆pEPPiAPChA [sage]:2012/11/19(月) 08:41:24.37 ID:Erj62Jl7o
 ドアを閉めると、望が入っていった奥の方を見る。彼はちゃんとドアを閉めていったようだ。それは偉い事だ
と思うけれど、今は求められない偉さだと思う。
 耳を澄ますが音はしない。一部屋調べるだけなのだから、そう時間はかからないだろう。迎えに行って嫌な顔
をされても困るので、廊下で待つことにする。
 彼のことだから、全て調べなければ気が済まないに違いない。先程みたいにベッドがあったら、その下まで覗
きこむだろう。机があったら引き出しは全部開ける。本棚の書籍も全部ひっくり返して、そんな彼を想像してい
たら、少しだけおかしくなってきた。
 その時だった、咲良は、耳元で野太い声を聞いた。
「わっ! 」
 全身が硬直する。視線はまだ奥のドアの方。背後に何がいるのか想像する。足音もしなかった。聞いていなか
っただけかもしれない。もしかして、望ではないだろうか。きっと、割れた窓からロビーに回って、自分を驚か
せたのだろう。彼女は一瞬でそんなことを考えた。ゆっくりと、後ろを振り向く。
 振り向いた先には、何もなかった。
 汚い廊下の先には、ごみの散乱したロビーが見える。待合用の椅子には古い新聞紙が置いてあり、どこからか
吹いてきた風でページがめくられた。外の道路がどうにか見えるくらいの暗さ。街灯が点いている。
「おいっ! 」
「ひゃあっ! 」
 後ろから肩を叩かれた。今度は反射的に振り向く。知っている声だったからだ。
「ど、どうしたの、ひゃあって、咲良、大丈夫か? 」
 望が心配そうな顔でこちらを見た。確かに、あまりに自分らしくない声を出したと思う。
「望か……」
 一度深呼吸して息を調えた。
「あ、あー、咲良、もしかして、びびった? 」
「そっち、何かあった? 」
「誤魔化そうとしてるな! そうはいかないぞ! 」
 弁明したら逆効果だろう。帰宅の意思を告げ、外に向かう。望も付いてきた。
「おいおい、なんだよ、怒った? 」
「怒ってなんかないよ」
「それならいいけどさ、うん、へへ、さっきの咲良、ちょっとかわいかったぜ」
 喧しい、と咲良は思った。おかげで、静かになりかけた自分の心臓ももう少し喧しくなった。
868 :『わっ! 』(お題:わっ! ) 6/7 ◆pEPPiAPChA [sage]:2012/11/19(月) 08:42:06.91 ID:Erj62Jl7o
「被害者、めっちゃ増えてるよ」
 朝のホームルームの後、梅子が言った。
「被害者って、なんの」
「あれだよ、あれ、『わっ』」
 廃病院の冒険からは一週間が経っていた。後で話を聞いたが、やはり望の入った部屋も何もなかったらしい。
咲良もそれについてあまり考えないようにしていた。
「あたしの先輩もさあ、聞いたんだってさ、部活の後。やばいよね。あとね、のりこ。雄二も聞いたらしいよ。
もう被害者続出! 通学路が多いらしいね! ちょうやばい! 」
 それは、ちょうやばいかも知れない。身近で被害者が多すぎる。望の友人でも何人かが被害にあったようだ。
これは、都市伝説ではないかもしれない。まさか本物の幽霊ではないのか、そこまで考えて、咲良は考えを却下
した。馬鹿馬鹿しい。
「でさ、なんか先生方も動き出すらしいよ、なんか、どうするのか知らないけどさ」

 帰り道、また望に声を掛けられた。
「咲良、一緒に帰ろうぜ」
 望のいつもの馬鹿な話を聞きながら歩く。ほうきで野球ボールをうまく打つ方法だとか、授業中時計の針が気
持ち悪く動くことがあるだとか、下らないことを彼は嬉々として語った。少しだけ、将来の話もした。そんな望
を見ていると自分も楽しくなる。嬉しくなる。
「咲良、元気だよな」
「元気だよ、風邪なんて引いたことない」
 望はよく風邪を引く。馬鹿なのにな、といつも思う。彼は、違うよ、と言った。
「風邪じゃなくて、なんか、こう、最近たまにお前元気ないじゃん、なんかさあ」
 それは、違う。
「違くないよ、いつもと違うの。ぼーっとしてる感じじゃなくて、なんか緊張してるって言うかさあ、そんな感
じ、ああ、うまく言えねえ」
「大丈夫だよ、心配されるようなことじゃない」
 そう言いつつ、嬉しく思った。不安だったのは確かで、それを分かってくれるのは、とても嬉しいことだ。
「もしかして、あれ? ……進路とか」
「ふふ、それを心配しなきゃいけないのは、望だよ」
 心配されるようなことじゃない、心配されてもしょうがない。きっと、どうすることもできないだろう。
869 :『わっ! 』(お題:わっ! ) 7/7 ◆pEPPiAPChA [sage]:2012/11/19(月) 08:42:42.24 ID:Erj62Jl7o
 咲良の予想とは逆に、犯人はすぐに見つかった。
 犯人は市内に住む大学生であった。咲良の学校に流れた噂を統合すると、最近流れた『わっ』の噂を聞きつけ
、それに便乗する形で悪戯を始めたらしい。
「ああもう、いい迷惑だったよね、怖くなっちゃって、学校これなくなった子だっているんだよ! 本当に悪戯
だったなんて、馬鹿馬鹿しい! 」
 梅子が怒っているが、咲良は安心していた。犯人が彼女の常識の範疇に収まるような存在だったからである。
理解できるものはそれほど怖くないものだ。
「こういうのって、どうすんだろうね、やっぱ逮捕? もう出てこなくてもいいよね」
「服役にはならないんじゃない? せいぜい罰金じゃないかな」
「そっかあ、うん、もういいや、この話はお終い! でさでさ、咲良ぁ、望くんとは、ね、どこまで行ってんの
? 」
 家から学校に行く程度だ、と言ったら、梅子はとてもつまらなさそうな顔をした。

「捕まったよな、犯人」
 放課後、望と帰るのは日課になっていた。
「らしいね、大学生だってね」
 うん、と望はまるで上の空で返事をした。
「それより、なあ、咲良、今日もうちに来ない? 」
 あまりに直球だ。彼らしい。
「あれさ、どうやったんだろうね」
「え、あれって? 」
「『わっ』の人。後ろ見ても誰もいないんでしょ? 」
「ああ、それか。釣り竿みたいなの使ったんだってさ。糸の先っちょにスピーカつけてさ、音出したら、ひゅっ
て持ち上げちゃえば、それで終わり。単純だよな」
 なんだ、そんな簡単なトリックだったのか。咲良は納得する。
「なあ、咲良、勉強するからさ、明日学校休みじゃん」
 梅子が言っていた、通学路に被害者が多い、と言うのにも合点がいく。夕方ならばスピーカなども見えづらい
だろう。隠れるところも多い。
 理解できることはそれ程怖いものではない。しかし、咲良はあることに気が付いた。
(廊下……? )
870 : ◆pEPPiAPChA [sage]:2012/11/19(月) 08:45:41.81 ID:Erj62Jl7o
以上、投下終わりです。感想等ありましたら是非お願いします。

あと、どなたかお題ください……贅沢言わないので、普通のを……
871 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/19(月) 10:21:10.78 ID:XMLJw6XSo
>>870
順番待ち
872 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/19(月) 16:25:40.09 ID:Erj62Jl7o
>>871
ありがとうございます!書きます

>>861さんも、これはこれで楽しかったので、あざした
873 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/11/19(月) 17:35:56.38 ID:oDLXMHrSo
お題ください
874 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/11/19(月) 17:40:51.91 ID:mfmlDGcmo
>>873
唯我独尊
875 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/11/19(月) 18:01:36.93 ID:oDLXMHrSo
はあく
876 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2012/11/20(火) 00:37:27.77 ID:Z/kW6irf0
>>863
読んだ。
まあお題からなんとなく想像していた部類の作品だった。
全体的な話の流れに特に指摘はないが、オチが微妙に落ちてないのが気になる。
所謂、超常現象(心霊的なものも含め)と思わせておいて、実は人的な現象だった。だけど……。
という話の構成はよく見かけるもので、
最期のネタバラシで一度安心させておいて、落とすという流れではあるが、
これは絶対に超常現象だ!、といった強さが感じられないので、微妙に落ちきっていない。

文章について、もっと推敲してから出してもいいのではないだろうか。
繋がりがよろしくない記述が目に付く。
文章の繋がりが悪いと、読者が話に入り込みづらくなってしまう。
とはいえ、遅筆の身としては、書くのが早いというのは羨ましい能力。
「わっ!」というよくわからないお題で書ききったのは凄い。
まさかお題のつもりで書いてはいないので、罰として自分も同じお題で書いてみようかな。
877 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/20(火) 01:05:22.38 ID:PcH99JWPo
>>876
ありがとうございます!

やっぱオチですよね。難しい。
自分でまた読み返してきます。完全に勢いでした。当方通常は遅筆に間違いないです。

繋がりとは、リズムみたいなものですかね?
878 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2012/11/20(火) 01:50:18.87 ID:Z/kW6irf0
>>877
リズムといって差し支えないけど
もう少し突っ込むと、文章と文章の切れ目、の部分。
繋げたほうがいいのでは?とか、分けたほうがいいのでは?と思う部分が結構あった。
特に廃病院に入ってからが気になったかな
879 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/11/20(火) 01:54:10.01 ID:PcH99JWPo
>>878
ああ、すごく気になりますね。
段々句読点の打ち方が一定間隔になってますね。これは気持ち悪い。
あざす精進します。
880 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/11/20(火) 16:48:40.33 ID:PbER6JZAO
わっ、で7レスも書いてきたのは凄いわ
寧ろ、わっだから7レスかかったのかは分からないがww
けっこう面白く読めた
881 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/11/21(水) 00:03:44.24 ID:4KVMPY9AO
ぼくらの品評会は、とても静かに幕を下ろした。
882 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/11/21(水) 01:01:32.16 ID:NRhQHnhAO
品評会はたまーにでいいんだよ
883 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/11/21(水) 01:25:56.18 ID:9lliQcgN0
前に書いた通り、品評会作品の感想を書かせて頂こうかと思います。


No.1 工学博士の恋と彼女の愛 1/7 ◆pEPPiAPChA氏

作品拝見させていただきました。
翻訳調の硬い文体でありながら、特につっかえる部分もなく、文章はすごく読みやすかったです。物語もしっかり七レス内にまとめられ、短い中でしっかり描き切ると言うのは、意外に難しいことなので、恐らく基礎的な実力がしっかりある方なのだろうなと思いました。
個人的な感想といたしましては、物語としてしっかり落ちもあり、短い物語として成立していると感じました。
しかし結局どうして、佐倉がのぞみを機械化してしまったのかが、上手く語られていないようにも思えました。もちろん佐倉の研究以外への無関心ぶり、研究することだけに自分の人生を費やしている、と言うような描写はあったのですが、常人であり、のぞみを一人の人間として愛していた彼が、何の説明もないままに、三年後、いきなりマッドサイエンティストになってしまいました! という感じで物語が終わってしまっており、もう少し彼の――のぞみを機械化するまでの――心情に近寄る部分があってもよかったかなと思いました。もちろんホラー小説として、しっかり成立していると思うので、あとは起承転結の転の部分さえ細かく書けていれば、素晴らしい小説になれたと思います。
文体自体が三人称ですので、心情を書くのは難しいと思うのですが、何故彼がのぞみを機械化するのかといった描写、彼が人間として愛していたのぞみを自らの研究のための道具へと変えてしまうためのきっかけ、事件の描写、などを個人的に入れた方が良いように感じました。(的外れな意見でしょうか?)
それと、水たまりの描写の辺りはよく分かりませんでした。もちろん僕の読解力不足も多々あると思うのですが、『人間が多いと、歪みが増える。きっと水溜りもそうやってできたんだろう』の部分が、なんだか上手く理解できませんでした。いや、なんか上手く言えないんですけど、何度も読み直して、水たまりの描写が始まったあたりを読み、ここはどういう意味なんだろうって、考えれば考えるほど深みにはまってしまいました……多分単純なことなのかもしれませんが……僕自身が馬鹿なもので……どういう意味なんだろう、と。

先程ホラー小説と言いましたが、この作品がショートショートとして描かれたなら、或いはこの全く余分な描写のない文体が、良いのかもしれません。星バーーーローーさんのような感じで。でも、それだと、オチが若干弱いような……。あぁ、そう来たか! みたいにならなかったと言うか……。
なんか、いちゃもん付けてるみたいでごめんなさい。不快に感じられたなら、本当にすみません。でもこれを七レスで書き上げるのはやはり難しいでしょうし、物語自体を確かな文章で描けているので、それは素晴らしいことだと思います!


品評会、今回も作品があまり揃いませんでしたね。僕自身、当日に気が付いたので書かなかったのですが、人があんまりいないんですかね……。けれど、そんな中でしっかりと作品を出すことはとても偉いことだと思いますし、きっちりと描かれた作品なので素晴らしいと感じます。
まぁ、そもそも僕自身こんなに偉そうな批評を言える実力がないんです。ですから、僕の書いた作品もボコボコに叩いてもらって構いません。いや、本当に。

これからも頑張って執筆続けてください! 次回作楽しみにしてます! 

長文での感想失礼しました。
884 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/11/21(水) 01:29:55.13 ID:9lliQcgN0
今、↑の自分の感想見たら、お前『しっかり』って何回言うねんwwww って突っ込みたくなった。
推敲したんだけどな……。なんか小学生の感想みたいだ。
俺の感想自体が、うんこじゃn
885 : ◆pEPPiAPChA [sage]:2012/11/21(水) 02:15:38.35 ID:fV78Vx+so
>>883
感想意見ありがとうございます!
書く方としては、人の作品になんか言うのって難しいですよね。それでも意見くださってとても嬉しいです。

ネタの説明みたいな感じで少し気恥ずかしくはありますが、返答を。

>心情に近寄る部分があってもよかったかなと
ごもっともです。これはぼくの妥協です。細かく描写するとオチを読めてしまうかな、と怖かった部分もありました。

>水たまり
会社でのしがらみのアレです。何て言うんでしょう?
設計当時の美しい屋上が入社したばかりの素晴らしい環境であり、おんぼろになった会社の屋上にできてしまう水溜りが、段々増えてくしがらみに相似させてます。つもりです。
こういう表現好きなんですがSSだと要らないものかも知れません。どうなんですかエロい人。

>起承転結の転の部分さえ
精進します。

>品評会
あんまり賑わってないんですかね。初参加なのです。まとめスレに先に投下しちゃうようなバカオロカなのです。
次回開催されるようなら盛り上がれば嬉しいですね。勿論ぼくも参加したいと思います。物語の流れみたいなのに慣れてきたら、批評感想の方も書きたいですね。

こちらも長文で失礼しました。お互い頑張りましょう。
886 : ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/11/21(水) 22:45:19.48 ID:9lliQcgN0
作品を投下します。
887 :「heartscape in the pool」 (お題:飛び込む)1/5   ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/11/21(水) 22:48:27.33 ID:9lliQcgN0

 何者かに後ろから抱き着かれて、僕は思わずバランスを崩し、眺めていた池の方向に向かって倒れはじめる。
 横目で後ろの方を覗いてみると、そこには僕を後ろから押した犯人である、恋人の愛理の姿があって、彼女は悪戯が成功
した子供のような、愛らしい笑顔を浮かべている。そんな彼女もまた、僕に抱き着いた勢いで、僕と一緒に湖に飛び込む形
になりそうだった。僕は反射的に僕のお腹に回された手を握り、体を反転させ、彼女と見つめ合うような状態になった。後
ろ向きに倒れるのは怖いけれど、背後にある、月明かりに照らされた水たちが、どうせ僕の体を優しく受け止めてくれるだ
ろうから、何も心配はいらなそうだった。
 彼女の片方だけ開かれた目が、優しげに細められて、僕の目を見つめている。
 彼女は生まれつき、片目の視力が失われていた。左目だけが世界を捉えられず、生まれてから死ぬまで、それはずっと閉
じられたままなのだそうだ。彼女はそのことで多くの辛いことを体験してきたし、僕は彼女の側に居て、ずっとその様子を
眺め、憤慨したり、愛理とともに傷付いたり、彼女を慰めてやったりした。
 僕らは物心つく前から、こうやって二十五歳になって結婚するまで、ずっと一緒に居た。いわゆる幼馴染と言うやつなん
だけれど、小さいころから一緒に居た僕らは、何も言わなくともお互いの心の内を察せるくらいに、多くの時間をかけて喋
り、遊び、理解し、お互いの心の内を翻訳してきた。幼稚園や小学校など、通う学校も全て同じで、これは偶然なのか、或
いはお互い意識してそうしたのか、どちらにせよ僕らは離れることなく傍で暮らし続けた。その結果が、この僕らの結婚と
言うことに繋がったのだろうけれど、ずっと一緒に居続けた相手と、今更あらためて共に生活し、婚礼を迎えると言うのは
、なんだか変な感覚だった。とても嬉しいし、心が薪をくべられた暖炉のようにほわっと暖かくなるのだけれど、それ故に
気恥ずかしさもあり、新たな生活に対する不安や希望も多くあった。
 しかし、こうやって二人で抱き合いながら空中に飛び込むと言うのは、僕に過去のある事件を思い起こさせた。あの時も
、このように二人で新しい世界に飛び込んだんだ。その時のことは今でもはっきり覚えている。
 その時のことについて語ろうと思うのだけれど、ひとまず言っておきたいのは、彼女の目が見えないことで――先ほども
述べた通り――彼女は多くの場面で傷付いてきた、と言う事。そもそも世の中には無意識な悪意を持つ人間が数えきれない
程に居て、そいつらは目に入った特異な人であったり、個性がある者たちを、とても下らない言葉や行動で、嘲笑い、傷つ
けようとするのだ。片方の目が常に閉じられている彼女なんかは特に、そんな馬鹿で救いようのない人間の標的にされてし
まうことが多かった。要するに、彼女はいじめの対象になりやすかったのだ。小学校、中学校の多感な時期の子供らの悪意
は純粋であり、抑えるほどが出来ないほど強く、そしてそれは大概僕を含めた愛理に対して、向けられるのだった。
 そもそも僕は常々思っていたのだけれど、何故彼らは、個性のあるものを傷つけ、壊そうとしてしまうのだろうか。ナル
シストだとか、中二病だとか、イタイだとか、そんな名前を付けて、教室で大声で言い合って、そして皆で相談し合って、
はみ出ないように、個性的にならないように、けん制し合っている。そんな彼らは、本当に無個性の塊であり、皆が皆、テレ
ビタレントのように、率先して平均的になろうとしている。他人を馬鹿にし合う無個性の塊になって、個性を潰し、何も考え
ないような、無個性の集団を作り上げる。僕はいつだって、そう言うやつらに憤慨してきた。そもそも彼女の片目は生まれつ
きの症状であるのに、何で彼らに馬鹿にされなければならなかったのだろう。
 これはそんな彼らと、僕らの間で起きた、信念の違いによる、純潔をかけての戦いだった。
888 :「heartscape in the pool」 (お題:飛び込む)2/5   ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/11/21(水) 22:50:36.17 ID:9lliQcgN0
 ある日、クラスの中でも馬鹿な集団の一人が、愛理に向かって――僕の大切な人に向かって――とてもひどいことをした
んだ。それは中学三年生の時だった。僕らは思春期で、自分らとは違う個性的な奴らの存在にひどく敏感だった。クラスで
もよく目立つ、普段ふざけている、クラスの中でも結構イニシアチブをとるような男子のグループが居たんだけれど、別に
そいつらは直接愛理の事をいじめてたわけじゃないんだ。愛理をいじめてたのは、いかにもギャルに憧れて化粧なんかをし
ちゃってる、どう考えても将来幸せになれそうにない感じの女の子たちだったんだ。その女の子たちはよく愛理の目の事を
馬鹿にして、「おい、目ぇちゃんと開けよ、ブス」と言ったり(愛理の名誉のために言っておくが、愛理は決してブスなん
かじゃなく、割と顔立ちは整っている方だ。肌が真っ白で、目も二重で大きい、唇が薄すぎるのと、鼻が丸っこいのが些か
アンバランスだけれどそれも愛らしい。もちろん瞑られた片目もチャーミングだ)、他にはわざと彼女にぶつかって「謝れよ、
てめぇ! 目見えてねぇのかよ、おい! 謝れ! 死ねよ」などと言ったり、主に言葉の暴力や、その他にも教科書を燃や
したり、机を蹴飛ばして中身をぶちまけたりなど、結構ひどいいじめを受けていた。もちろん僕も愛理の事をかばったりし
たんだけれど、そんな僕も愛理と同様にいじめの対象にされるだけだった。
 それで話は戻るけれど、そのギャルのグループと、男子のグループは仲が良く、いつも下らない会話などをしていた。流
行の音楽とか、携帯小説の話とか、エグザイルの曲超かっけーだとか、そう言う話だ。それである時、ギャルたちがその男
子に向かって、愛理のことを散々に貶し始めたのだ。「あいつぶっ殺したいわーマジで」みたいな感じで切り出して、思う
存分、愛理に対する悪意をぶちまけて、その男子たちに愛理への悪意を伝播させたのだ。男子たちはもちろんギャルたちに
同意して、あいつふらふら歩いてて邪魔なんだよなー、それとさ、一緒にいる男も(僕の事だ)ウザ過ぎだし、かっこつけ
すぎだし、キモイし、あいつら二人とも死んでくれればいいのに、ぎゃはっ、みたいなことを言ったんだ。僕らはもちろん
、その会話が聞こえていて、そしてどうしようもなく怯えた。今までは、僕たちを見て見ぬふりしていた男子グループまで
もがいじめに加わるのかと、ひどく怯えたんだ。
 それから彼らもギャルたち同様に、僕たちを標的にしてストレス発散を行うようになった。男子の方はさすがに女の子に乱
暴は出来なかったのか、その言動は主に僕に向けられ、僕を蹴飛ばしたり、にやつきながら筆箱を投げ飛ばして来たり、そん
な下らないことをするにとどまっていたのだが。もちろん僕も無視を決め込んでいたんだけれど、しかしながら、ある日、さ
すがの僕でも無視できないような大きな事件が起こったんだ。
889 :「heartscape in the pool」 (お題:飛び込む)3/5   ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/11/21(水) 22:52:17.82 ID:9lliQcgN0

 それは夏休みに入る二週間前ぐらいの金曜日で、僕らはその日、交代で行われる放課後の掃除当番に選ばれていた。そし
て本当に運悪く、その日は同じ当番に、男子グループのもっとも権力のある奴と、ギャル側の権力のある奴とで、一緒の班
になってしまっていたのだ。
 そして何故か彼らは――その日は打ち合わせでもしてきたのか――妙な様子で愛理だけを集中的に攻撃していたのだった。
机を運ばせながら髪を引っ張ったり、スカートを引っ張ったりという悪質な悪戯。本当に幼稚で、陰湿で、そしてそれを見
ている事しかできない僕の怒りは、本当に耐えがたいものとなっていた。先生たちは職員会議のために、誰もが職員室に集
まっていて、それを知っていた彼らは、愛理に向かってやりたい放題やっていた。
 そんな中で、男子の奴が、ある一線を越えるような悪質な言葉を、他人を大きく傷付ける最低な言葉を、口から吐き出した。
手に握った長箒を愛理の顔に向けて、こう言ったのだ。
「しゃぶってくんない?」
 その言葉を聞いた瞬間、僕の顔は一瞬にして真っ赤に染まったと思う。
 そこには純粋たる怒りがあった。
 近くにいたギャルはと言えば、なぜか大爆笑をしており、腹を抱えてげらげらと笑っていた。愛理は下を向き、顔を真っ
赤にしながらプルプルと震え、頬には涙が伝っていた。
 男子は握った箒で、愛理の唇を突きながら、「ほら、咥えろ。お前は糞みたいな存在なんだから、俺を楽しませろよ」

そんな一言を言い放った。
 僕はもう、我慢の限界だった。そして、思いっきり、その男の事を睨んだ。本当に生まれて初めての、暴力の感覚が、体
中を支配し、僕はもうそれを止めることが出来そうになかった。体中が燃えるように熱くなって、熱い息が口から洩れ、本
当に、目の前にいるこの男を、殺さなくてはならないと感じ、僕は生まれてから今までしたことのないような、悪意を込め
て、殺意を込めて、男の目を睨んだ。しかし男は、全くと言っていいほどひるまなかった。そして、愛理の唇を箒で押しな
がら、下卑た表情を浮かべ、にやつきながら「あれ? 何怒っちゃってんの?」と言ってのけたのだ。僕はこいつを死ぬま
で殴りたいと感じた。なぜこれほどまでに愛理が侮辱されなければいけないのだろう。ただ、彼女は生まれつき片目が見え
ないだけなのだ。それなのに何故、理不尽は彼女を攻撃し続けるのだろう。僕は拳を固く握りしめ、精一杯の力で、彼の顔
をブッ飛ばそうとした。退学になろうが、相手を殺してしまって、少年院に行こうが構わなかった。愛理が侮辱され続ける
のを黙って見ているなんて、それこそ僕は、抑えきることが出来ない。僕の体はぶるぶると震え、血管が切れそうだった。
歯が砕けそうな程、奥歯をぎりぎりと噛み締めた。そして、僕は生まれてから出したことも無いような大きな声で、咆哮し
た。まるで孤高な狼のように。僕の内にためられていた十五年分の怒りは、この下らない男に向けて、吐き出されようとし
ていた。今ここで死んでもいいと思えるほどの全力で、こいつを殴り飛ばさなければならないと感じていた。僕は怒りに染
まっていく自分に、虐げられ続ける愛理の存在に、涙を零しながら、叫んだ。その感覚に、鳥肌が立った。自らの咆哮で、
自らが鼓舞された感覚。僕が見据えていた男の体がビクッと震えた。彼は暴力の匂いを嗅ぎ取ったのか。遠くにいたギャル
の喉奥から、ひっ、という微かな悲鳴も漏れる。僕はまるで狂人のように、訳の分からない言葉を叫び続けた。怒りの塊を
言葉にしてぶつけ続けた。そんな僕の叫びを聞き、俯いていた愛理が、うつろな目でこちらを見上げる。僕は、それに対し
て力強く頷いた。そして腕を思いっきり振り上げ、拳を固く握った。怒りのままに、生まれて初めての暴力を振るおうとし
ている。そんな僕を見て、彼の目が一瞬だけ怯えたように震え、僕の瞳からそらされる。僕は、その彼の怯えた目に、しか
し自らも動揺して困惑してしまう。だが、振り上げたその腕は止まらない。僕は一瞬だけ冷静になる。本当にこれでいいの
だろうか。この暴力は正しいのだろうか。何かを守るためであっても、暴力をふるうと言うことは、それで自らの感情をぶつ
けてしまうことは、本当に正しいことなのだろうか。
890 :「heartscape in the pool」 (お題:飛び込む)4/5   ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/11/21(水) 22:53:55.01 ID:9lliQcgN0
その一瞬の躊躇の中で、愛理の片目が、大きく見開かれた、それはまるで僕の怒りと同調したように、大きく、力強く見開
かれ、僕を見据えていた。そして震えていた彼女の唇が、開かれると同時に、僕の咆哮を上回る、大きな声で、彼女は言葉
を発した。
「だめっ!」と、彼女はそう言ったのだった。僕はその声によって体がビクッと震え、降りぬいたその腕ごと、男をかする
寸前の位置で、あらぬ方向へ向けられることになった。
「同じになっちゃう。そんなことをしたら。同じになっちゃう」
 彼女は震える声で、こちらを見ながら泣いた。
 彼女は、多分、先程の僕の悩みを悟ったのだろう。本当に暴力で解決してしまうことが正しいのか。どんなに理不尽な状
況であっても、不幸が僕らを襲い続けても、悪意が僕らに暴力を振り続けても、それに対して、僕らがやり返してしまった
ら、それは彼らと同じ存在になってしまうと言うことではないのか? たった一回でもやってしまったら、最初はやり返す
ために行われていたそれが、リミッターが外れ、暴力への抑制が薄れていき、他の人に対して、理不尽なことをする事に、
ためらいがない人間になってしまう。彼らと同等の人間になってしまう。それは駄目なことだ。彼女はそんなことを言いた
かったのではないだろうか。僕に、彼らと同じになってほしくなかったのだ。暴力(言葉を含めた、存在に対する暴力)を
ふるう人間になってほしくなかったのだ。
 そして、彼女はその後、驚くべき行動に出た。
「私は傷ついています。でも、心がどれくらい傷付いているかっていう事が、体には出ないから、皆わかんないんだね。リ
ストカットとかする人は、多分そういう心の傷を、あえて表面に出して皆に示してるんだろうね、だから、私もどれくらい
傷ついているかってことを、体で表すね」
 そんな言葉を呟きながら(その場にいる僕らは全員、彼女が何を言わんとしているのかがさっぱりわからなかったんだ)
彼女はふらふらと窓辺へ歩いて行った。そして、彼女はアルミサッシの窓枠に足をかけ、窓の外へ身を乗り出そうとする。
僕は彼女がやろうとしていることに気づき、慌てて止めようと、急いで彼女の元へ駆け寄ろうとした。男子とギャルも、僕
たちの行動を見て、滑稽なほどに慌てふためいていた。彼女は、この校舎の外へ、この悪意の外側へ、飛び込もうとしてい
たのだ。その体に、傷を写すために、この教室の外側へ、飛び込もうとしている。急いで駆け寄った僕の手が彼女の背に触
れそうになる。こちらをちらりと覗いた彼女の目は、しかし優しげに細められていた。その目は僕に、「大丈夫だよ、ちょ
っと、行ってきます」そんなふうに訴えているように、僕には見えた。彼女は小さく頷いて、校舎の外を見つめる。僕はと
言えばそんな彼女を止めようと駆け寄り、しかし勢い余って止まることが出来ず、思わずこの校舎の三階から飛び降りよう
とする彼女に、後ろから抱き着くような形となった。結果として、僕は彼女の飛び降りを後押しすることとなってしまった。
僕らは二人して、抱き合いながら、地面へと落ちて行ったのだ。夕焼けが辺りを照らし、全てが金色に輝いて、空気は僕
らを切り裂きながら、上昇していく。そして地面は固い意志で、僕らを迎えようとしていた。彼女の体は震えていたが、そ
の可愛らしい顔には微笑みが浮かべられていた。そして閉じられた片方の目には、大粒の涙が浮かんでおり、それが風に乗
ってきらりと輝きながら、滴となって風の中に溶けて行った。なんだか、この状況はとても意味不明で、不思議で、何でこ
んなことになったのか分からないけれど、何故だかいきなり世界は、大きく開かれたような気がした。新しい世界が、僕ら
を待っていてくれているような気がした。僕らはその世界に飛び込んでからたった二秒後に、地面に大きくぶつかった。そ
の時間は、一分近くあったんじゃないかと言うほどに、長く感じられた。
そうして地面にぶつかった僕らは、もちろん大きな怪我をした。僕の右半身と、彼女の左半身が、それぞれ複雑骨折し、そ
れは完治するまでに四か月程の時間を要した。
 こうして、この事件があってから、僕らをいじめる者は誰もいなくなった。もちろんこの解決の仕方だって、全然正しい
とは思えないし、僕らはただひたすらに、痛い思いをしただけだった。けれど、僕らは決して他人を傷つけなかった。彼らに
相応の罰を与えただけだった。それが僕らにとっては、(みんなは批判するかもしれないけれど)とても誇らしいことである
と感じられたんだ。
891 :「heartscape in the pool」 (お題:飛び込む)5/5   ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/11/21(水) 22:54:41.05 ID:9lliQcgN0

 僕はそんな事を思い出しながら、あの日と同じような事になってるなと思い、思わず微笑みを浮かべながら湖に飛び込ん
でいく。僕らは完全なる阿呆だった。
 何せお互い純白のウェディングドレスとタキシードを着ていたんだ。それがビショビショになれば、もうこの服は一生切れ
ないし、捨てるしかないだろうと思うんだけれど。
 月は雲に隠されている。けれどその明かりは何故か世界に行き届いていた。
 あの日と似たような穏やかな風は、僕らを通り過ぎていって、森の木々をざわざわとゆらしながら、深い緑を湛えた葉たち
を舞わせていた。
 僕らは二人で、この湖に落ちていく。 
 水は僕らを優しく包み込んで、守ってくれる。
 そして、気が付けば僕の背は水に当たり、それに続くように大きな水しぶきが上がって、湖に波紋を作った。誰もいないこ
の静寂の中で、その音がやけに大きく響き、しかしながら僕らはすぐに水中に沈み、音はくぐもってしまうのだった。
 彼女はぎゅっと目を瞑りながら、花嫁衣装を着て、僕に抱き着いている。
 僕もそれをしっかりと抱きしめている。そして僕らはこの湖の中に沈んでいく。
 ゆっくりとゆっくりと。
 若干怯えながら、彼女の片方の目が開かれた。その目はしかし、僕を捉え、この湖の中の世界を捉え、安心しきっている。
 僕らはこれから家族になるんだ。そんな暖かさに満ちた、優しげな目だった。
 僕は小さく頷いて、閉じられている彼女の片目に、優しくキスをした。
 そしたら彼女の閉じられた目が、ぴくっと痙攣し、可愛らしく震えたんだ。



892 :  ◆/xGGSe0F/E [saga]:2012/11/21(水) 22:57:32.93 ID:9lliQcgN0
投下終了です。
出来れば、次のお題をどなたかお願いします。

すっごい変なお題ください。
893 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/21(水) 23:04:40.59 ID:Z7E52A22o
>>892
靴下の穴
894 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/11/21(水) 23:14:47.47 ID:9lliQcgN0
>>893
ありがとう! 結構シュールなお題に感謝!
895 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/23(金) 13:17:30.97 ID:SWLBxbeW0
お題暮れ
896 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/11/23(金) 13:42:14.21 ID:Ik9agV/mo
>>895
お茶
897 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/23(金) 14:43:16.74 ID:IQHaoEnX0
>>896
把握
898 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/11/26(月) 01:42:15.62 ID:Ym+4qwKE0
お題ください
899 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/11/26(月) 01:46:36.89 ID:ZyRTSX6u0
処理
900 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/11/26(月) 01:47:33.64 ID:Ym+4qwKE0
ありがとう
901 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/06(木) 19:06:33.37 ID:ufznG2JDo
おっす!お題ちょうだい
902 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/06(木) 19:39:28.39 ID:IM6rCY+no
>>901
おそば
903 : ◆pEPPiAPChA :2012/12/07(金) 05:25:42.47 ID:s3eca2WAo
今晩は、夜分ですが、投下します。
短いです。
904 :サクラの日記(お題:順番待ち) 1/3 ◆pEPPiAPChA [saga]:2012/12/07(金) 05:26:47.39 ID:s3eca2WAo
一、
 ――十二年、竜の月、竜の日の前日
 ぼくは今日から日記をかく。
 今日はハルが竜のおつきびとになることが会ぎで決まった。
 おつきびとは竜のおせわをしたりごはんを作ってあげるしごとだ。
 とてもすごいしごとだと母上が言っていた。
 おつきびとがしっかりしないと竜がおこって火山をふんかさせたりするらしい。
 ハルはとてもしっかりしているからだいじょうぶだ。
 ぼくもおつきびとになりたい。

二、
 ――十三年、竜の月、竜の日
 今日は今年のおつき人が竜のところに行った。
 今年のおつき人はぼくより年が五つも上だ。
 ハルもぼくより五つ上だから、四年したらぼくもおつき人になれる。
 そういえば、ハルがおつき人になってから、すごく火山が静かだ。
 昔どこかの王さまが火山にいって、火山を静かにさせたって教えてもらった。その王さまが竜になったらしい
。竜は神さま。
 竜はえらい。ハルもえらい。
 
三、
 ――十四年、竜の月、竜の日
 今年もお付き人が旅だった。竜のところに行くための門はこの日しか開かないらしい。
 普通の力では門を越えることもできないらしい。僕も竜のお付き人になるために修行しているが、まだまだ兄
みたいには強くない。
 村で兄にかなう人はいなかった。だけど、同い年で一番強いのは僕のはずだ。
 老人会の人が、お付き人は柱でもあると言っていた。兄は村を支える柱だ。
905 :サクラの日記(お題:順番待ち) 2/3 ◆pEPPiAPChA [saga]:2012/12/07(金) 05:27:30.87 ID:s3eca2WAo
四、
 ――十五年、竜の月、竜の日
 竜のお付き人に関して、不穏な噂を聞いた。どうやらここ二年、門を越えた者はいない。二人とも死んだそう
だ。
 門を抜けるには、怪物たちの住処を通るだとか、毒の沼があるだとか、様々な話がある。今年のお付き人も重
そうな装備を抱えて村を出た。しかし兄はほとんど何も持たずに村を出たように思う。
 それに、しばらくお付き人が竜に辿りついていないはずなのに、竜が大人しい。火山の噴火など見ていない。
 兄は、素手で湖を割り、十里を一日で往復するほどの手練であった。兄が素晴らしい働きをしているのだろう
か。
 兄に敵うものなど村にはいなかった。ただし、今は僕がいる。僕は兄に敵うだろうか。それが楽しみだ。門の
下見だけは今年中にしておこう。
 
五、
 ――十六年、竜の月、竜の日
 今年もお付き人は門を越えられなかった。あの門を越えるなど尋常では不可能だ。
 老人会の会議を立ち聞きしてみると、驚くべきことが明らかになった。柱とは生贄の事だった。
 考えてみればおかしい事だ。毎年お付き人を竜の元に送っているだろうに、しかしそこから帰ってきたという
者は村に一人として居ない。お付き人が門を越えられないのは近年だけの事の筈だ。
 そう、兄上は、既に死んでしまっているのだろう。村は竜に生贄を差し出し、竜は大地の恩恵を村に齎す。そ
れが古い契約なのだそうだ。竜は竜脈を操り水源と森林資源を自由にできるらしい。
 兄上は余程良い生贄だったに違いない。この村は現在、平和そのものなのだ。
 来年、私は門を越える。この村を支える柱とならなければならない。しかし……私は兄上を越えたい。どうす
ればいい。
906 :サクラの日記(お題:順番待ち) 3/3 ◆pEPPiAPChA [saga]:2012/12/07(金) 05:28:19.69 ID:s3eca2WAo
六、
 ――十七年、竜の月、竜の日の前日
 老人会の満場一致で私が竜のお付き人になる事が決まった。当然の事、現在の私は五年前の兄上より強いだろ
う。
 母上が泣きながら、兄上と同じ衣装を用意してくれた。母上は五年前も泣いていた。それはきっと、お付き人
が生贄であると知っていたのだ。村の有志も様々な装備を持ち寄ってくれたのだが、門を越えるには軽装の方が
良い。結局その殆どを断ってしまった。
 竜はどのような生き物なのだろうか。あらゆる剣を防ぐ赤鉄の鱗、全ての盾を消しさる炎、背中には翼が生え
、その巨体からは考えられない程自在に空を飛ぶと言う。お伽噺でしか聞いた事がない。
 明日、私は竜を殺す。私が兄上を越える手段はそれよりない。竜が死ねば火山は荒れ狂い、空も怒り、そして
村は滅ぶであろう。
 そう、只、それだけの事だ。
 私は兄を越える。
 
七、
 ――十七年、竜の月、竜の日
 兄上は竜になっていた。そして狂っていた。
 門は容易く越えられた。竜窟は直ぐに見つかった。ここまでは老人会に教えられた通りであった。竜窟の奥に
は竜が居り、後は竜の指示に従う、と云うのがお付き人の建前の仕事だ。
 しかし竜窟に竜は居ない。火山を探し続けると人影があり、それが兄上であった。兄上は人語を解さなくなっ
ていた。
 私は確信した。今の私と同じ立場で、兄上は竜を殺したのであろう。そして竜の代わりを五年間し続けている
。人の行ではない、竜を殺し、その力を手にし、大地を制御する事など。
 私は兄上を殺した。兄上に対して拳を向けると、同じように拳を突き合わせてくれた。そして五年前とは比較
にならない程兄上は強くなっていた。しかし私の方が強かった。
 この日記は今日で最後だ。
 これは私がかつて人であった証。
 明日、私は竜になり、
 やがていつの日か、誰かが私を殺すだろう。
907 : ◆pEPPiAPChA [sage]:2012/12/07(金) 05:30:56.92 ID:s3eca2WAo
以上、投下終了です。お題くれた方ありがとうございました。
毎度ながらえ?お題?みたいなアレですね。

感想批判など書いて頂けると嬉しいです。
あとどなたかお題下さい。
908 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/07(金) 14:15:35.80 ID:bjo2jX2SO
>>907調整
909 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/07(金) 15:12:21.94 ID:b3wPa6HAO
>>904
読んだが感想がない…
ゴールテープのない徒競走をやらされてるような感じで
読みづらいとかでもなく何かしらの発見もなく
もう少し読者を転ばせてくれ
910 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/07(金) 18:53:30.51 ID:6lzLg3LAO
>>908
いただきます!

>>909
言われてみれば、山もなにもないですね。
自分でももう一度読み返してきます、ありがとうございます!
911 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/11(火) 04:41:40.98 ID:s14L2XsAO
お題下さいな
眠れない
912 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/11(火) 04:47:32.80 ID:JjxmZCK1o
>>911
生中継
913 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/11(火) 05:21:54.67 ID:s14L2XsAO
>>912
ありがとう
914 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/12(水) 16:05:38.52 ID:SxucykQYo
久しぶりにお題おくれ
915 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/12(水) 17:29:02.07 ID:K8V96Dg1o
>>914
発射
916 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/13(木) 02:21:37.62 ID:NqXIBVFDo
書けるかどうか分からないけどお題ください
917 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/13(木) 02:48:01.89 ID:14MwC9uSO
>>916灼熱
918 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/13(木) 02:48:56.90 ID:NqXIBVFDo
>>917
ありがとう
頑張ってみます
919 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/14(金) 01:24:12.70 ID:7otHatpa0
お題ください
920 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/14(金) 01:32:22.80 ID:w8+S8uZyo
>>919
暗黙の了解
921 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/16(日) 21:49:04.49 ID:tDjpYvdM0
お題ください
922 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/16(日) 22:02:00.21 ID:qi3P1g3AO
>>921
整形手術
923 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/18(火) 00:10:00.75 ID:N8MxbBeF0
お題暮れ
924 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/18(火) 00:18:03.65 ID:N1pJsqBSO
>>923マッチポンプ
925 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/18(火) 00:19:15.39 ID:N8MxbBeF0
>>924
把握
926 :「亀裂」 (お題:暗黙の了解) 1/6 ◆7sy4Ikeexc [saga]:2012/12/23(日) 23:59:51.32 ID:MXmlRJ1u0
 私が煙草を吸いながらふと空を見上げた時、青々と広がる空のある一線に亀裂が入り、そこから闇のような色が覗いたの
を確認した。空にヒビが入っている。そしてそこから黒い何かが覗いているのだ。それはとても非現実的な光景だった。私
は渋谷のスクランブル交差点を眺められるビルに背を預けながら、恋人が訪れるのを待っていたのだが、もはや私の視界の
中で起こっている事態は、愛すべき彼女の存在を忘れさせるほどだった。なにせ空が唐突に裂けて大きな亀裂が生まれたの
だ。この渋谷の上空に! 空に切れ目が入り、それが分裂しようとしているのだ。私の周りにうじゃうじゃと存在する(も
ちろんそれは私と同じ種類の生物なのだが)群衆が悲鳴を上げたり、奇声を上げたり、ただ立ち尽くしたりしながら、その
突如現れた切れ目を、見上げている。みな同じ一点を見上げ、どうしようもなく、ざわついている。私たちは想像外の事が
起きた時に、ただどうしようもなく、馬鹿な獣みたいに、騒いだり慌てたりする。
 そもそも、“馬鹿な獣”と見下せるほどに、人間は高尚な存在なのだろうか。私は今、馬鹿な獣という、他の生物を見下
した表現をしたが、私はそれほどまでに上位の存在なのだろうか。私たちも同じ、馬鹿な獣でしかないではないか。
 空の亀裂は、とても遠くにあるため、今一つ大きさは分からない。だが(そもそもどのくらいの高度にその亀裂が現れた
のかすら、私たちには計れない)徐々に大きくなっているような気がする。私たちは、この突然に現れた亀裂を、どう処理
するべきなのだろうか。誰かが、この非現実的な出来事を、処理し、解決してくれるのだろうか。私たちの社会は、ほとん
どが人任せによって成り立っている。この想定外の、非現実的な出来事も、どこかの偉い人たち、科学者、私たちには想像
もできないような組織が、解決してくれるのだろうか。私たちの上空に現れた亀裂は、どんどん大きくなっている。この新宿
上空を切り裂く、その歪んだ漆黒は、まるでマッチで火を付けられ燃えていく紙のように、徐々にその範囲を増して、私たち
の空を切り裂いていく。この切れ目は一体何なのだろうか。この亀裂は、私たちにとって、どのような存在として、ここに現
れたのだろうか。そもそもこの亀裂が現れたのはこの新宿だけなのだろうか。
927 :「亀裂」 (お題:暗黙の了解) 2/6 ◆7sy4Ikeexc [saga]:2012/12/24(月) 00:01:07.85 ID:Qk/FPlw30
 同じ時刻に、世界中の至る場所にて観測されたと言う可能性だってある。いや、そもそもこの亀裂に、時間という概念は
当てはまるのだろうか。もしこの亀裂が、時間を捻じ曲げるような存在であったとしたなら、私らの持っている時間と言う
概念は全く意味を為さないものになる。例えば、この亀裂の向こう側が、過去、もしくは未来に繋がっているとしたら、こ
れは時空の裂け目ということになる。もちろんそんなものは、人間が勝手に想像したSF的要素であったり、漫画チックな発
想なのだろうが、今起きていることがあまりにも非現実的すぎて、むしろ現実離れしたその発想こそが、ひどく説得力を持
つと言う、何やらとてもおかしな事態になっている。
 しかしこの切れ目は、本当に危険のない存在なのだろうか。(先ほどから私は自問ばかりしている)もしこの切れ目がど
んどん広がり、世界中が、この切れ目から覗く闇に覆い尽くされるとしたなら、我々は早急にこの切れ目を塞がなくてはな
らないのではないだろうか。そもそも、何故このような切れ目が唐突に現れたのだろう。何か意味があるはずだ。原因のな
い結果など無いのだ。それが私たちの理解を超えるものであっても、必ずそこに原因というものは存在するのだ。でなけれ
ば、私たちが生みだした文化、生命、繁殖、進化、(一応、哲学も)全てが無意味と化してしまう。
 相変わらず、こんなときでも私はこうやって、誰にも理解されそうにない言葉を喋りつづけている。周りの人間は携帯を
手にして写真を撮っていたり、誰かと通話をして自らが置かれた状況を嬉々として(危機として?)話していたり、ニュー
スなどから情報を得ようとしていたり、この状況に必死に対応しようとしている。あるいはこの状況を楽しんでいる。私み
たいに心のうちの言葉によって状況の処理を行うものは、私が見た限り何処にもいなかった。裂け目はすでにかなり大きく
なっていて、中からは緑色をした手のようなものが這い出ようとしていた。群衆から大きな悲鳴が上がり、私も思わず息を呑
んだ。私たちが築いてきた社会が、何者かの圧倒的な力で潰されようとしている。私たちの理解できない存在によって、私た
ちの社会は壊されようとしている。なんなのだろう。これは所謂、神と言う存在の具現なのだろうか。ばかばかしい。
 それでもここまで繁栄して、自らの手に負えなくなり、自らの手によって死を選ぶ人間がたくさん現れた人間と言う種を、
この神みたいな圧倒的存在、空の切れ目から這い出た恐るべき手は、絶滅させようとしているのだ。
 私はその切れ目から這い出てくる手を、ただじっと見つめていた。

928 :「亀裂」 (お題:暗黙の了解) 3/6 ◆7sy4Ikeexc [saga]:2012/12/24(月) 00:03:17.81 ID:Qk/FPlw30

    ☆

 マジでヤバいって。
 なんかさ、いきなり空にヒビが入ってさ、ありえないことが起こってるんだって。もう信じられないよ! だってこんな
ことがあり得る? 俺らの日常に。漫画じゃないんだからさ。そもそもこれって現実? 夢とかじゃないよね。なんかすっげぇな。これどうなるんだろ? テレビとか来てないかな?
 今日は気分転換のために服を買いに来たのに、こんなすごいことが起こるだなんて予想もしてなかったわ。まぁ、これを
予想できる奴が居たら、テレビとかに出たり、なんかすげぇことになってるんだろうけどさ。
 これヤバいもんじゃないよね? いきなり空からなんかモンスターが出てきたり、なんか体が吸い込まれたりしないよね。
そもそもこの、いきな