このスレッドはSS速報VIPの過去ログ倉庫に格納されています。もう書き込みできません。。
もし、このスレッドをネット上以外の媒体で転載や引用をされる場合は管理人までご一報ください。
またネット上での引用掲載、またはまとめサイトなどでの紹介をされる際はこのページへのリンクを必ず掲載してください。

男「今日もラブコメを手伝う仕事が始まる……」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/11/02(金) 14:53:40.83 ID:9yePu7UJ0
――放課後、男は女に呼び出され誰も居ない教室に来た。
男の姿を見た女が頬を赤らめて恥ずかしそう下を向く。
誰も居ない夕暮れ時の教室に二人っきり、そんなラヴコメ時な教室に二人はいた。
男の名前は河野純一≪こうの じゅんいち≫、このラヴコメの主人公だ。
純一が女に聞く。

「――で、なんだよ、和子? あの手紙は? 『放課後、教室に来て下さい』って書いてたから来たけどさ……」

「あ、あのさ、そ、その」

和子と呼ばれた女がもじもじと言いにくそうにしている。
女の名前は佐藤和子≪さとう わこ≫――このラヴコメでツンデレヒロインポジションである。
そんな大役の和子が恥ずかしそうに言った。

「……えっとね、昨日は、その……ありがとう、お礼、言い忘れてたから……」

「えっと、昨日って?」

純一が和子の言葉に疑問に思いながら言った。
和子が予想通りの反応と言わんばかりに溜息を一つ――

「とぼけちゃって……もう、知ってるのよ?」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1351835620
【 このスレッドはHTML化(過去ログ化)されています 】

ごめんなさい、このSS速報VIP板のスレッドは1000に到達したか、若しくは著しい過疎のため、お役を果たし過去ログ倉庫へご隠居されました。
このスレッドを閲覧することはできますが書き込むことはできませんです。
もし、探しているスレッドがパートスレッドの場合は次スレが建ってるかもしれないですよ。

=^・ω・^= ぬこ神社 Part125《ぬこみくじ・猫育成ゲーム》 @ 2024/03/29(金) 17:12:24.43 ID:jZB3xFnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1711699942/

VIPでTW ★5 @ 2024/03/29(金) 09:54:48.69 ID:aP+hFwQR0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1711673687/

小テスト @ 2024/03/28(木) 19:48:27.38 ID:ptMrOEVy0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/zikken/1711622906/

満身創痍 @ 2024/03/28(木) 18:15:37.00 ID:YDfjckg/o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1711617334/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part8 @ 2024/03/28(木) 10:54:28.17 ID:l/9ZW4Ws0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1711590867/

旅にでんちう @ 2024/03/27(水) 09:07:07.22 ID:y4bABGEzO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1711498027/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:18.81 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459578/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:02.91 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459562/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/11/02(金) 14:54:47.06 ID:9yePu7UJ0
和子がポケットからマスコット付きのキーホルダーを取り出し、純一に見せる。
キーホルダーを見た純一が反応を示す。

「あ、それ、俺のキーホルダー! 昨日無くしたと思ったら、和子が拾っててくれたのか」

純一が和子にお礼を言いながらキーホルダーを受け取り仕舞う。

「ありがとな! お気に入りだったから戻ってきて良かったよ、ホント……あ、それで昨日って?」

純一が和子に対して昨日の内容について深く聞こうとしている。
脚本の展開によっては何かしらの修正が必要かもしれない……。

「深くは聞かないわ……あんな格好までしてあたしを助けてくれたんだもの、よっぽどな理由があったのでしょ?」

「理由?」

「認めたくないならいいわ、素知らぬ顔で困ってる人を助ける……アンタがそんな性格≪お人好し≫だってことは理解してるつもりだから」

上手く修正してくれたおかげで『昨日の内容』について深く詮索されずに済んだ。
和子が続けて言う。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/11/02(金) 14:55:52.33 ID:9yePu7UJ0
「……それにね、あたしはそんなアンタのことが――」

――今だ!
物陰から出てきた俺は長年の修行で会得した――高速で移動する技、瞬歩で二人に近づく。
制服のブレザーにある内ポケットから耳栓を取り出すと男の右耳目掛けて、耳栓を弾き飛ばす。
そのまま男の後ろを横切り、今度は男の左側から耳栓を飛ばす――この間、約3秒の出来事だ。
そして、二つの耳栓は男の方へ飛んでいき、男の両の穴に入ったことを確認すると再び物陰に隠れじっと息を[ピーーー]。
僅か5秒の出来事だった……そして、時は動き出す――和子が続きを話し出す。

「――好きなんだけどね」

そう、和子が言った。
俺は急いで先ほどと同じ要領で純一の耳栓を外し回収する。
そして、何事も無かったように純一は言った。

「えっ、なんだって?」

「……」
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/11/02(金) 14:57:50.85 ID:9yePu7UJ0
教室内が静寂に生まれる――それは理想的で王道的な展開
フリーズから戻った和子が言った。

「あ、アンタってヤツは……人がせっかく勇気を振り絞ったのに……ほ、本当にアンタは……」

和子が怒りに肩を震わせてる。
純一は状況がわかっておらず、空気を読まず、いや、現状を確認するために再び言った。

「えっと、今、何か言ったか?」

純一の言葉がきっかけで和子の感情を抑えるストッパーが外れた。

「こ、この……」

「この?」

「ばかぁああああああ!!」

和子が強いヤツに会いに行くのが趣味な格闘ばりの渾身のジャンピングトルネードアッパー?を放つ。

「ふげらばっ!!」

純一が宙を舞う。
そして、純一はそのまま床へと落下した。
落下した純一に対して和子が言った。

「アンタは少しそこで反省しなさい!」
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/11/02(金) 14:58:49.86 ID:9yePu7UJ0
そう言うと純一を無視して教室から出て行った……。
和子が出て行った教室で床に転がった純一が呟く。

「り、理不尽だ……」

台詞回しまで予想通りの展開――そう、それはまさに『計画通り』
俺は床に転がった純一を見て呟くのだった。

「――完璧≪パーフェクト≫だ、ウォルター」

ウォルター関係ないけどね……。
自分の完璧な仕事っぷりに惚れ惚れしながら、教室へと入って行く。
そして、何食わぬ顔で気絶した純一を起こすのであった。

  ***
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/11/02(金) 15:04:37.48 ID:9yePu7UJ0
ライトが一つだけの薄暗い部屋で俺は黒いマントと黒い仮面という正装で腰を屈めて言葉を待っていた。
隣には同い年の女が同じような姿勢で同じように座っている。
光が当っているのはライトの真下にある皮製のソファーだけ、故に当りには暗がりが出来ていた……。
ソファーの後ろには複数のビデオモニターが映っている。
皮製のソファーには男性が座っており、膝の上の猫を撫でながらこちらを見ている。
男性はぴしっとしたスーツと指には大きな宝石がついた指輪をしている。
そんな格好と優雅な立ち振る舞いがこの方がいかに素晴らしいお方であるかがよくわかる。
男性が口を開く。

「――ゼロよ、この度の仕事、大変見事であった」

我々の理想を現実としてくれるお方、総帥がそう言った。
ゼロ――フラグ数ゼロから付けられた俺のコードネーム
最初はフラグ数ゼロという現実≪リアル≫に一時期、凹んだりもした。
それこそ、リアルにorz≪オーアールゼット≫な状態になった。
しかし、今ではこの名前を誇りに思っている。
ゼロ――ニッポンポンで素敵な名前ではないか……。
俺は総帥に頭を下げた状態で返事をする。

「ありがとうございます」

続けて俺は答える。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/11/02(金) 15:06:24.22 ID:9yePu7UJ0
「計画がスタートしから現在、この物語のヒロイン数は3人、主人公である河野純一への高感度は50、30……先ほどツンデレヒロイン佐藤和子がイベント回収により50になりました」

「うむ、なかなかの手腕だよ……この調子で頼むぞ、ゼロよ」

「はっ!」

総帥が猫を撫でるのをやめると、膝の上から猫が飛び降りる。
椅子から立ち上がり、総帥が言う。

「ゼロ」

「なんでしょうか、総帥!」

「我々の目的はなんだ?」
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/11/02(金) 15:08:21.31 ID:9yePu7UJ0
総帥がそう質問した。
自らの目的を見失わないように確認で聞いてくれたのだろう。
だから、俺は立ち上がり部下たちの方を向いて自信満々に答えた。
我々、組織の理念を――

「事実は小説より奇なり! つまり、ラヴコメは現実である! 故にラヴコメは現実でないとならない! 我々は『人類ラヴコメ化計画』を必ずや成し遂げる事をここに宣言する!」

歓声が沸き、ラヴコメコールが繰り返されるのであった。

  ***
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/11/02(金) 15:09:02.99 ID:9yePu7UJ0
とりあえず、ここまで
続きは夜にでも
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/11/02(金) 15:58:02.99 ID:9yePu7UJ0
まとめサイト
ttp://ncode.syosetu.com/n4090bk/
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/02(金) 16:44:40.07 ID:nbk/NioIO
名前ついてるとか読む気失せるわ
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/02(金) 17:38:49.91 ID:FqIbogwIO
読みにくーい
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/11/02(金) 18:20:09.08 ID:9yePu7UJ0
>>11>>12
了解しました、アドバイスありがとうございます。
練習のつもりだったので読みにくいと言われると仕方が無いです。
夜までに名前を男とかに修正して投稿しなおしますので、お待ちください。
今の形式は修正が効くまとめの方だけにしときます。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/11/02(金) 18:37:28.95 ID:+el2i1/3o
面白いよ
頑張れ
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/11/02(金) 18:42:22.26 ID:dm7pMp1lo
名前ついてた方が読みたくなる人もここにいるから
わざわざ修正するくらいならそのままやってくれ
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/11/03(土) 00:11:14.45 ID:/yEr/PEu0
では、ゆっくり更新します。

>>15>>14
了解しました。
ここでも、そのまま更新したいと思います。
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/11/03(土) 00:12:12.95 ID:/yEr/PEu0
新学期が始まってしばらくが過ぎた4月某日のこと、部下と共に一緒に帰る途中の出来事だった――

「――総帥への成果報告が済み、部下に理想の世界について一方的に語りながら帰っていると、3人の不良とそれに絡まれているっぽい人を発見したのだった」

「……夕方でも飛ばしてますね、少し落ち着きませんか?」

俺の隣を歩いていた律が長い髪を揺らしながらそう言った。
優秀なのだが、イマイチ乗りが悪く、上司に対しても遠慮しないのが問題点である。
ちなみに彼女を選んだ理由はりっちゃんと同じ律≪りつ≫という名前だったので……1.5秒ほどで即決した。理由としては十分なほどである。
ただ、惜しむべきは苗字が西崎≪にしざき≫であることと声と見た目と性格とスペックが違うことだろう。
せめて、資料の提出し忘れとか定期的にしてくれるとありがたいのだが……。
俺は律の問いに、だが断るとだけ言って話を進める。

「……とりあえず、先頭から不良A、不良B、不良Cと被害者Aと命名しようと思うのだが、どうだろうか?」

遠めなので人数だけしか確認できないが、彼らに俺はそう命名した。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/11/03(土) 00:19:11.35 ID:/yEr/PEu0
「お任せします。あと、訂正するならば被害候補者Aです」

そんな感じで『話したから気付かなかった(フリ)作戦』を決行しながら通り過ぎる事にした。
怖いので、すごく、怖いので……触っただけで人の頭を風船のように破裂させるような人種とは関わりたくないので……。
誰だって汚物として消毒されたくは無いだろうから、当然の判断である。
「被害者候補Aの方が語呂が良くない?」「いやいや、こっちの方が――」などと言って不良A、不良B、不良C、被害者Aもとい被害候補者Aの横を通り過ぎようとする。
あとで警察にでも通報しておけばいいだろう……モブキャラな俺に出来ることは北斗でも南斗でもなく、その程度でのことである。
警察は……一般人の俺とは鍛え方が違うだろうから、北斗や南斗を会得していてもおかしくわない。

「へぇ、キミ、あずさって名前なんだ〜可愛いじゃ〜ん!」

不良の一人がそう言っていた。
自然と足が止まる。あずにゃん……だと……?
急に止まった俺に対して律が言った。

「……どうかしましたか?」

「いや、別に……」
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/11/03(土) 00:26:04.80 ID:/yEr/PEu0
そう答えたものの気になってしまう。
好奇心とは時に恐怖を凌駕する時があるが、それが今みたいな状態だろう。
りっちゃん派の俺としてはあずにゃんは守備範囲外、むしろあざと過ぎね?だったりするのだが、あずにゃん経由でりっちゃんと関わるチャンスがある。
だが、よくある名前のモブキャラの可能性もある。悩む、危険を冒してまで見るべきなのかと……。
結局、下心……好奇心で気になった為に俺は視線を被害候補者Aに向けた。
あずにゃんと同じ小柄だったが、腰まである綺麗な黒髪ストレートの女の子と目が合った。
ツインテールでは無かった。つまり、人違いもといキャラ違いである。
不良に絡まれるリスクを犯したのにも関わらずkonozamaで――その後に下した俺の判断はスルーであった。
俺は再び歩み出す――

「あ! あの! あの! そこの人! た、助けてください!」

――阻止された。
こちらに気がついた被害候補者Aによって呼び止められてしまう。
不良A、B、Cも気がついたらしく、こちらを向く。
そして、不良Aがテンプレ的な台詞を言った。

「あァ? なんだぁ、てめぇ?」

「PSPは無いので、アナタ達の相手はしたくないです……」

「はぁ?」
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/11/03(土) 00:28:40.27 ID:/yEr/PEu0
思わず本音を言ってしまった。
それが気に障ったらしく、不良A、B、Cがこちらにやって来る。
そして、俺を囲むように立って言った。

「今、何か言ったかァ?」

不良A、B、Cは苛立っているようだ……。
無理も無い、折角のナンパを被害候補者Aもとい、ニセあずにゃんの空気の読めない一言によって妨害されたのだ。苛立って当然である。
斯く言う私も、俺を世紀末な世界に巻き込んだニセあずにゃんが憎くて憎くて仕方が無いのである。
酷い造形ならば邪神の称号を与えたぐらいだ。これだから、名前一文字は中国製の可能性があって困る。
まぁ、国産の偽者の可能性も無きにしも非ず?
いやいや、実は平仮名表記やDQNネームだったりして二文字以上で『あずさ』なのかも知れない。
……とにかく、俺はこれ以上、怒らせないように不用意な発言は控える事にした。
正直に答えて許してもらおう。正直、丸焼きか人体が破裂する結末は勘弁したい……。

「『PSPは無いので』と言いました……」

「あぁ? その後だよ! その後!」
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/11/03(土) 00:29:46.38 ID:/yEr/PEu0
その後?「PSPは無いので」の台詞の後……。
思考すること数分――そして、思い出す。
俺が不良A、B、Cに言った台詞は「PSPは無いので、アナタ達の相手はしたくないです……」である。
頭の中でその台詞をわかりやすく文章にしていく。
「PSPは無いので」の後……つまり――

「句読点!」

「舐めてんのか、てめぇはよぉぉぉ!!」

不良Aが俺の胸倉を掴んでくる。
世紀末のモブキャラ未来にまた一歩近づく。
危険である。
どんどん墓穴を掘っている。
仕方が無いので、助けを求めるように律を見る。
律は自分は関係ないとばかりに数メートルほど離れた場所におり、口をパクパクと開けてこちらにメッセージを伝えてくる。
内容は――「死・ぬ・気・で・頑・張・れ」――部下から死刑宣告であった。

「おい、何とか言えや、こら!! おい、聞いてんのか! あぁ?」
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/11/03(土) 00:30:39.01 ID:/yEr/PEu0
「なぁ、たっちゃん! こいつ、ビビッてやがるぜぇ!」

不良Aと不良Cがそう言っている。
ビビッてます。すごく、怖がってるので見逃して欲しいです。
丸焼きや風船のように破裂する末路を想像して恐怖で足が震える。開いた口からあわあわと音が漏れる。
話してる相手の顔なんて見れたものではない。
レベルの低い俺なんかではメンチビームで睨みあいにすらならず消し飛んでしまうだろう。
いやいや、指先からビームが飛び出して、胸を貫かれるべジータみたいな末路かもしれない。
この世界には集めると願いが叶う不思議な球体は存在しないのだから……それは勘弁して欲しい。
この場合は目から出たメンチビームで胸を貫かれるベジータさんか……それはそれで関係者でないのなら見てみたいかも?

「おい! 何とか言えよ、このヘタレ野郎がよぉぉ!」

思考する俺に対して不良Aが無理やり顔をあげさせ拳を振り上げる。
そして、そのまま殴りかかってくるのを視界に捕らえた――あ、普通に遅い……。
俺は右手で迫り来る拳を受け止め、そのまま、不良の拳を握り締める。

「あがぁあああああああ!!」

「たっ、たっちゃん!!」

拳を握られた不良が悲鳴を上げる。
どうやら、この不良は新しくゲームを始めたばかりのレベル1不良のようだ……。
まさしく、ラッキーである。これも普段から日頃の行いがいい俺に対しての神様からのご褒美に違いない。
俺は握り締めた不良の拳から手を離す。不良が拳を手で覆っている。

「て、てめぇ! たっちゃんに何しやがる!!」

不良Cが不良Aを庇いながらそう言った。
タダでは帰さない……そんなオーラが不良Cと、さっきから一言も話していない不良Bが出している。
仕方が無い。彼らには序盤のレベル上げがいかに大事な事なのか身をもって教えてあげよう――
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/11/03(土) 00:31:59.40 ID:/yEr/PEu0
 ***

「――お疲れ様です」

気絶した不良をロープで簀巻きにし終えた俺に対して、律が労いの言葉をかける。
労う気があるのなら、せめて手伝って欲しかった。

「あ、あの!」

ニセあずにゃんに声を掛けられた。
仕方が無いので視線を向ける。

「助けていただき、ありがとうございます! あの、助けていただいたお礼がしたいのですが……」

「……別に巻き込まれただけだからね、お礼はいいよ」

とりえず、早く解放してもらえるように無難な回答をする。
お礼とか、ニセあずにゃんじゃあ、りっちゃん紹介してもらえる訳でもないから……。
ニセあずにゃんが紹介できるのは、頑張ってもニセりっちゃんぐらいだろう……。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/11/03(土) 00:33:20.82 ID:/yEr/PEu0
「そうですか、残念です……あと、西崎先輩の知り合いだったんですね?」

ニセあずにゃんから知人の名前が出てきた。
西崎って……思考していると律が言った。

「……今、思い出しました。彼女、部活の後輩です」

ニセりっちゃんは以外にも身近な人物だった。
ニセあずにゃんが律に対して言った。

「西崎先輩、この人と知り合いだったんですね!」

「……知り合いというか、クラスメイトで同じ仕事をしているのよ」

「あ、クラスメイトで同じバイトの……」

バイトではない。命を懸けて成し遂げ無ければならない使命である。
ニセあずにゃんが話しかけてくる。

「あの! わ、私! 相沢梓って言います! その、お名前を教えていただけると――」
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/11/03(土) 00:34:35.71 ID:/yEr/PEu0
話が長くなりそうなので無理やりイベントを終了させる事にした。
組織……いや、幹部クラスには伝統的な会話術がある。
言葉を遮るように口を開く。

「――もう、暗い、夜危ない、早く家帰る、少女よ」

「……へっ?」

それは話が通じない相手を演じることである。
これで主導権を奪い、自分の言いたい事だけを伝える事ができる。
幹部クラスのみが教えてもらえる会話術の一つ。

「危険、危ない、急ぎ家帰れ、家近い?」

「あ、その、少し遠いです……」

ニセあずにゃんは少し戸惑ったような感じで言った。
むしろ、若干、引かれてるような気がするが考えても仕方が無い。

「律、彼女、送れ、家まで、いいな?」

「……わかりました。梓は私が家まで責任持って送ります」

命令された律がニセあずにゃんの手を引っ張って歩き始める。
ニセあずにゃんが何か言いたそうにしているが、遮断する。

「大丈夫、律、強い、でも、モヒカン、気をつけろ」

「了解≪ヤー≫」
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/11/03(土) 00:35:19.64 ID:/yEr/PEu0
そう言って、律と梓は暗闇の中に消えていった。
律達が完全に見えなくなったことを確認すると俺は目線を簀巻きの物体に向けた。
さて、彼らをどうしたものか……ふと……俺、閃くっ!
それは……圧倒的、閃きっ……故に俺っ、それを口に出すッ!

「地下施設でペリカ生活でもしてもらおう……サイコロ振ってたら綺麗なジャイアン並に綺麗になるかもしれない!」

そして、俺はポケットから携帯電話を取り出し電話をかける。

「あ、もしもし! 俺、俺! そう、俺! 実はさ――」

電話で用件だけ伝えると電話をきる。
そして、用件を伝えてから思う。

「――あれ? でも、地下生活してたのに裏切ったヤツが居たような……まぁ、いっか。しかし、地下かぁ〜懐かしいなぁ〜」

思い出せないことは大抵のことは自分にとってはどうでもいい話である。
だから、俺は思考するのをやめて、電話の相手がここに来るのを待っているのであった。

 ***
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/11/03(土) 00:37:03.72 ID:/yEr/PEu0
次の日、4間目の授業が体育なので男子更衣室へ向かう。
歩きながら、『人類ラヴコメ化計画』において主人公というポジションに選ばれたごく普通の男子高校生である河野純一≪こうの じゅんいち≫が溜息混じりに口を開く。

「――はぁ、不幸だ……」

「はぁあ? 純一! お前、あんな思いをして何が不幸だって!?」

「ちょっ!? や、やめ、く、ぐるしい……」

そう言うと純一の隣を歩いていた男が落ち込む純一の首に腕を回し締め始める。
純一の首を絞めるこの男の名は麦野陽介≪むぎの ようすけ≫、『人類ラヴコメ化計画』において『腐れ縁の親友』というポジションに選ばれた男である。
ちなみに俺は『人類ラヴコメ化計画』において『同じクラスの親友』、純一、陽介を含む三馬鹿の一人というポジションである。
彼が言っている『あんな思い』とは教室で突然、純一が転倒、クラス委員の胸に思いっきりダイブしたラッキースケベイベントのことである。
ラッキースケベイベント……それは主人公という大役を与えられた者にのみ行使できる特権である。
突然、何処からとも無くえっちな触手が召喚されたりするのもこの主人公特権によるものである。
ちなみに今回は俺が手を出したわけではなく任務の実行者は西崎律――コードネーム:黒≪くろ≫だったりする。
コードネームの由来は腹黒の黒からであり、読み方もそのまま黒≪くろ≫である。
黒と書いて≪ヘイ≫とは絶対に呼ばれることは無い。
彼女はロープやワイヤーなどの扱いに長けている為にこの手のイベントでは重宝されたりする。
故に次の任務も彼女によって行なわれる。
腕時計に目をやる。開始まで残り2分……。

「――ゼロより黒へ、目標が2分後に目的地に到着する」

襟元についた小型マイクに小声で話しかける。
すぐに片耳イヤホンから返答が帰ってくる。

『黒よりゼロへ、了解≪ヤー≫、これより任務を開始します』
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/11/03(土) 00:38:27.95 ID:/yEr/PEu0
黒からの返事を聞いた俺は純一達を確認する。
近くでは陽介が『純一がどれだけ報われた存在』なのかを語っている。
俺は腕時計へ視線を向け心の中でカウントを開始する。
30秒前……。
20秒前……。
10秒前……10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、任務開始――

「大体、お前は自分が不幸だ、不幸だって言ってるけど――」

「――どわぁ!? か、身体が勝手に!?」

言葉の続きを純一は聞く事ができなかった。
陽介や周りの人間は確認することは出来なかったが俺にはわかっていた。
一瞬にして身体に白いロープが巻きつくと純一は何処かへと引っ張られていた。
そして、純一の行き先は女子更衣室へ――これは『身体が勝手に女子更衣室へイベント』の任務
純一がそのままロープに引っ張られるように女子更衣室へと突撃したことを確認した俺は黒に話しかける。

「ゼロより黒へ、対象、目標地点への突入を確認した。黒は引き続き女子更衣室で対象を監視、万が一の時はフォローを頼む」

程なくして返答が返ってくる。

『黒よりゼロへ、了解、引き続き任務を続行します』
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/11/03(土) 00:39:32.57 ID:/yEr/PEu0
連絡を終えた俺は隣で少し驚いた顔をしている陽介にフォローする事にした。
微笑みながら陽介に話しかける。

「……はぁ、あいつはまたみたいだな?」

「えっと、あれ? あれって……」

まだ、陽介は思考が追いついていないようだ。
だから、これをチャンスにそのまま続ける。

「純一+女子更衣室=?」

そういうと陽介は理解できたのか、「あっ! あぁー!」と声をあげる。
そして、口を開く。

「あぁー、もしかして、あれか?」

「いや、このタイミングでこれだと、アレしか無いでしょ?」

「だよなぁ〜、あいつだから仕方が無いか……」

「そうそう、あいつだからな! 仕方ないさ!」

そして、陽介の台詞に合わせるように俺も同じ台詞を言う。
「また、あいつはラッキースケベイベントか……」っと……。

 ***
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/11/03(土) 00:40:24.83 ID:/yEr/PEu0
少し休憩します
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/11/03(土) 01:05:27.26 ID:/yEr/PEu0
駄目だ、やっぱり今日はここまでにします。
ホントはプロローグ部分を終わらしたかったのですが……。
明日までにはプロローグを終わらせれるように頑張ります。
32 : ◆rMzHEl9LA2 [sage]:2012/11/03(土) 01:06:12.74 ID:/yEr/PEu0
テスト
33 : ◆rMzHEl9LA2 [sage]:2012/11/03(土) 01:07:39.72 ID:/yEr/PEu0
これから、更新する際はこれで行きたいと思います。
では、お疲れさまです。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/11/03(土) 11:18:03.46 ID:rcB+3TZ5o


焦らんで良いから頑張れ
35 : ◆rMzHEl9LA2 [sage]:2012/11/03(土) 14:44:48.18 ID:44CSgJoB0
ミスがあったので修正します。

【字の文変更】
律⇒西崎に変更
純一⇒河野純一に変更
和子⇒佐藤和子に変更
陽介⇒麦野陽介に変更
黒⇒西崎に変更

【男の台詞変更】
律⇒西崎に変更
36 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/04(日) 01:42:12.38 ID:Z92QfXYt0
少しですが更新します。
37 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/04(日) 01:50:09.04 ID:Z92QfXYt0
「――見事なラッキースケベ≪おやくそく≫再現だったぞ、西崎」

「貴方よりも優秀な私なら当然の成果ですが……まぁ、ありがとうございます」

いつもの様に遠慮の無い物言いで応える西崎である。
昼休み、俺は西崎と共に屋上へと赴き、先ほどの西崎の仕事ぶりを労いながら、共に昼食を取っている。
屋上のアスファルトの地面に家から持ってきたレジャーシートを敷き、俺の作ってきた二人分の弁当を西崎と一緒に食べている。
最初はそれぞれで持ってきていたのだが、毎日、コンビニおにぎりを食べていた西崎が気になったので、俺は西崎の弁当も用意する事にした。
大事な任務中に足を引っ張られては困るからだ。故に部下の健康を気遣うのも上司としては当然である。

「――ところで西崎、今日の卵焼きの味はどうだ? お前の好みに合わせて甘めに作ってみたのだが……」

「卵焼きですか?」

そう言うと西崎は弁当箱の卵焼きへと初めて箸を伸ばし、口に運ぶ。
咀嚼した後飲み込み、しばらくして口を開いた。

「相変わらず料理の腕だけはなかなかですね。問題点をあげるなら、もう少し甘さを抑えた方が私好みの味に近づきます」

「なるほど、もう少し甘さを抑えるか……」
38 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/04(日) 01:51:09.62 ID:Z92QfXYt0
西崎はそういうと再び卵焼きへと箸を伸ばし食べ始める。
俺は西崎の話からどれだけ砂糖を減らすか考えながら、西崎に続いて卵焼き以外の料理を食べ始める。
ふむ、美味しいとは思うがまだまだ上を目指したいものだ。
最終目標は食べただけで虫歯が吹っ飛び新しい歯が生えてくるような料理だったり、あまりの美味さに巨大化して城を破壊できるレベルである。

「まだまだ、先は長いな……」

「何がですか?」

西崎の問いに「いや、何でもない」とだけ答える。
少なくともまだ、歯が吹っ飛ぶレベルに達してない辺り、巨大化なんて夢のまた夢だろう……。
もう、G-ウィルスを再現、開発してご飯に混ぜて食べてしまおうかと思ったが考えるだけでやめることにした。
さすがに巨大化出来ても人の形が保てないのは勘弁して欲しい所である。意識もなくなるし、かゆうまな日記を書く趣味は俺には無い。

「……明日は休日ですね」

「ん? あぁ、そうだが……」

「今日、組織から新島七海≪にいじま ななみ≫の好感度を上げろと連絡がありました」
39 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/04(日) 01:53:31.65 ID:Z92QfXYt0
新島七海≪にいじま ななみ≫――『人類ラヴコメ化計画』での後輩系ヒロイン役に選ばれた女である。
河野純一への好感度は他二人のヒロインが五十と高い数字であるにも関わらず、彼女の好感度は初期値から変らずの三十である。
好感度の目安として好感度五十以上は『主人公に恋人が居ないのなら、どんなに鈍感でも嫌いにならない』という安全地帯である。
しかし、好感度五十以下はそうではない。好感度五十以上が主人公に恋している状態なら、好感度五十以下というのはまだ恋に恋している状態。
つまり、恋愛に憧れを抱いている状態で、自らが考えている恋愛像と現実の恋愛とでギャップ差があればあるほど好感度が下がってしまう危険がある。
新島七海の場合、一週間前に正装の俺≪ゼロ≫が謎の男として彼女の危機を救い、立ち去る際に河野純一の持ち物を落としたことで『危機的状態を救ってくれた謎の男は河野純一である』と新島七海に思い込ませることでフラグを建て、好感度の初期値を三十という高い数字に出来た。
故に謎の男が河野純一ではないと知れば、河野純一への好感度は0になってもおかしくは無い。
組織から新島七海の好感度を上げるように任務を与えられたのは、そんな危険な状態から脱出し安全地帯へ移行することで完全にヒロインとしてのポジションを安定させるためだろう。

「――なるほど……つまり、何かしらのイベントを起こす訳か……」

「はい、その通りです」

明日は休日――デートイベントを仕込んで好感度を一気に上げようという作戦、西崎の言いたいかったことはこんな所だろう。
西崎が続きを話し始める。

「新島七海は私と同じ部活に所属していますので、新島七海に対して部の買出しをお願いします」

「休日の買出しか……買出しをデートイベントにするのか?」

西崎は俺の問いに「はい」と答える。

「買う品物が多いので男手が必要になるといい、河野純一を男手として利用します」
40 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/04(日) 01:55:18.41 ID:Z92QfXYt0
「なるほど、休日に二人で買出し……即席の買出しイベント≪インスタントデートイベント≫か」

新島七海も河野純一≪おもいびと≫と一緒に買出しが出来ると知れば、簡単に了承するだろう……。
俺の仕事は河野純一を部室に連れて行き、必要なら河野純一を説得することか……だが、あのお人好しなら深く考えずに了承するか。

「わかった、放課後、俺は河野純一を部室に連れて行く。それ以外の下準備は西崎に全て任せるが問題ないな?」

「はい、問題ありません。デートらしいルートを通る買い物リストを作成します」

「あぁ、その代わりデート当日のイベントは俺が全て担当しよう。お前は休日を満喫するといい」

西崎は「ありがとうございます」とだけ答えると後片付けを始める。
もうすぐ、昼休みが終わる。俺も西崎と一緒に片づけを手伝い、一緒に屋上を後にするのであった。
41 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/04(日) 01:58:48.62 ID:Z92QfXYt0
 ***

放課後――俺は授業が終わるとすぐに行動を開始した。河野純一を連れ出す為である。
すぐに俺は帰り支度を始める河野純一もとへ行く。

「河野、少しいいか?」

「ん? どうした?」

河野純一は教科書をカバンに入れるの止め、こちらを向く。
俺はさっそく本題に入ることにした。

「河野、明日は暇だったりするか?」

「いや、残念ながら家でゴロゴロする予定しかない」

河野純一のこの答えは予定通りである。
すでに組織の情報収集能力により調べはついており、河野純一の明日の予定が無いことは確認済みである。
そして、河野純一の性格上、困ってる相手は放っておくことは出来ない事も……。
42 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/04(日) 01:59:47.35 ID:Z92QfXYt0
「実は、西崎に買出しの手伝いを頼まれたのだが、買う物が多くてさ、男手が俺だけじゃ足りないんだよ」

俺が困ったようにそう言うと河野純一は察しがついたらしく、二つ返事でOKしてくれた。
あとは当日、何かしらの理由をつけて途中から俺が居なくなれば問題ない。
あとは若い二人が買い物リストの物品を買いながらデートコースを回るという算段だ。
デートコースを回りながら、様々なイベントを満遍なく加えてやれば、好感度アップ間違いなしだろう。
河野純一に部室で明日の買出しについての説明をするからと告げ、部室へと向かう為に教室を出たところで――

「あ、あのっ! あ、明日の買出し、わ、私も一緒に行っていいですかっ!」

――呼び止められた。
声の主、俺達が部室へ行くのを阻むように目の前に女が現れ突然、呼び止められた。
この女……『明日の買出し』と言わなかったか?
何故、この女が明日の買出しを知っている?
教室で話していたから、この女も教室に居て話を聞いていたのか?
しかし、この女は俺のクラスの人間ではない。
では、この女は教室の外で俺達の話を聞いていたのか?
何者だ、この女は……。
俺は女が何者なのかを確認する為にじっと女の顔を観察する。
女はそんな俺の態度で自らの発言がオカシイと思ったらしく慌てている。
手をばたばたと振ったり、「あの、そのですね」と言っては慌てる姿をじっくり観察して思い出す――綺麗な長い黒髪の小柄な女
俺はこの女の正体を確認のために女に問う事にした。
43 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/04(日) 02:01:25.86 ID:Z92QfXYt0
「もしかして、昨日、不良に絡まれてた子?」

その言葉を聞いた女――ニセあずにゃんはパッと笑顔になり元気に「はい!」と答える。
俺の言葉に河野純一が反応して聞いてくる。

「昨日?」

「はい! 昨日、危ない所を先輩に助けてもらって……あ、あの! 明日、部活の買出しに行くんですよね? 私も一緒に行ってもいいですか?」

何を言っているんだ、このニセあずにゃんは……一緒に買出しに行く?
そんな事になれば、途中で俺が抜けても新島七海と二人っきりにならない。
どうする……ニセあずにゃんが河野純一に惚れるようなイベントを仕込むか?
いや、駄目だ……そうなれば、新島七海の不安定なフラグが完全に消滅してしまう……。
なら、どうする? 俺が二人から離れる時にニセあずにゃんも一緒に連れて行くか?
駄目だ、そんな事になれば、明日、イベントを仕込むことは100%不可能だ。
クソッ……昨日、巻き込んでおいて、またしてもニセあずにゃんと関わる事になるのか?
おのれ、ニセあずにゃんめ……またしても、貴様のせいで台無しだ!
そんな風に思考している河野純一からとんでもない言葉が飛び出した。
44 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/04(日) 02:04:29.41 ID:Z92QfXYt0
「いいよ。なぁ、この子も一緒に行ってもいいだろ?」

「へっ?」

今、河野純一はなんて言った?
一緒に行く? ニセあずにゃんと?
そして、河野純一≪おひとよし≫の一言によって逃げ道が塞がった≪チェックメイト≫。

「丁度、人手が足りないって俺に声かけたんだから、人手は多い方がいいだろ?」

ニセあずにゃんを断る事が出来なくなった。
連れて行かなければ、人手が足りている事が河野純一にバレてしまう。
つまり、俺に選べる選択肢はもはや一つしか無いのだ。
俺、河野純一、新島七海、ニセあずにゃんは明日の休日に買出しに行く事になった……。

 ***
45 : ◆rMzHEl9LA2 [sage]:2012/11/04(日) 02:05:08.54 ID:Z92QfXYt0
短いですが、今日はここまでです。
お疲れ様でした。
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/11/04(日) 07:42:03.88 ID:8Rp8aR20o
にせあずにゃんェ…

とりあえずおつ
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/11/04(日) 08:29:03.41 ID:8Gz9dJTto
あずにゃんにゃん
48 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/05(月) 00:43:12.99 ID:azWc76zg0
少ししたら、少しだけ更新します。
49 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/05(月) 01:08:24.16 ID:azWc76zg0
ニセあずにゃん襲撃から遡る事、数十分……。
茜色に染まる放課後の部室で、西崎律は「明日、クラスメイトの男子達と共に買出しに行って欲しい」と言った。
それを聞いた、西崎律の後輩――相沢梓は座っていたパイプ椅子から立ち上がると少し期待するように言う。

「クラスメイトの男子って……もしかして、あの先輩だったりしませんか!?」

あの先輩? どの先輩? などと一瞬考えた律だったが、梓が知っている同じクラスの先輩は新嶋七海の想い人である河野純一ともう一人、梓を助けてくれた先輩しか知らない。
七海との交渉の際に河野純一の名前は既に出しているので、消去法で梓を助けてくれた先輩の方を言っているのだろう。
なので、律は「えぇ、そうです」とだけ梓に答えた。何故、梓がそのことを確認したのか意図はわからなかったが……。

「そうなんですか……先輩と休日に二人っきりで買出しに……」
50 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/05(月) 01:09:39.01 ID:azWc76zg0
なにやら勘違いしながらぶつぶつと呟いている梓を無視して、律はペットボトルのお茶と上司が弁当の時にくれたお菓子をカバンから取り出し、一人でティータイムと洒落込む。
お茶を一口飲んでから、一息ついたところで七海に再度確認の為に聞いた。

「で、行ってくれますか?」

「あ、はい。わたしも河野先輩と休日デートが出来るのなら喜んで!」

律の予想通り、河野純一の名前を出す事で買出しの件は二つ返事で了承してくれた。
七海の買出しの件、上司からの休暇の件、全てが律の思い通りとなった。まさに計画通りである。
あとは、明日の為の準備を全て行なえば完璧である。

「明日の一人旅、楽しみですね……お土産は八つ橋で決まりですね……」

「ん? 先輩、何か言いました?」
51 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/05(月) 01:15:45.41 ID:azWc76zg0
律は七海の問いに「いえ、ただの独り言です」と言うと、再び、お茶とお菓子を味わい始める。
と、さっきから立ったまま思考していた梓が口を開く。

「あ、あの! 明日、私も行っていいですか?」

「……買出しにですか?」

梓は元気よく「はい!」とだけ答える。
意図はわからないが自分が断ることは話がややっこしいことになりそうなので、律は「彼が了承してくれたら……」という条件で許可した。
許可が下りるや否や、ものすごいスピードで部室を出て行く梓の後姿を見ながら、適当な理由をつけて、彼が梓が来ることを断ってくれるだろうと考えていた。
さまざまな要因が相沢梓≪恋する乙女≫と合わさったことで事態がオカシナ方向に向かうとは知らずに……。


 ***
52 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/05(月) 01:23:42.85 ID:azWc76zg0
想定外だった……まさか、ニセあずにゃんが一度関われば追跡者以上にしつこい相手だったとはな……。
ニセあずにゃんが教室の前に居たことも、ニセあずにゃんが買出しに参加することも想定外だった。
あれから、何故か何度も俺の名前を聞いてきたので「俺の名はペイジ・ジョーンズ・プラント・ボーンナム」と一人で四人分の血管針攻撃が出来そうなミドルネーム持ち外国人の名前を名乗っておいた。
名前を聞いた相手が明らかな偽名を名乗れば、それは『お前と友好的になるつもりは無い』という遠まわしな意思表示になるだろう……なるのか?
まぁ、河野純一が近くに居たあの場では『何か問題が発生してもギャグで済ませられる程度』が限界である。
あの場で完全な拒絶をすれば、あの河野純一≪お節介なお人好し≫がこの問題に深く関わりかねない……。
そうなれば、下手すれば河野純一との仲が悪くなり、組織の任務に影響を与えかねない。
などと考えている間に自宅に到着したので部屋に入る。
そして、部屋に入った俺は置いてある机を両手で叩いて言った。

「おのれ、ニセあずにゃんめ!!」

「おい、隣ィ!! 今、何時だと思ってるッ!!」

「はい! すいません!」

ボロアパートの薄い壁の向こうから苦情が来る。
時刻は午後11時……ニセあずにゃん対策の相談をする為に西崎を探してあちこち彷徨った結果、夜遅くに帰る羽目になった。
結局、西崎は見つからない、隣の住人に怒られるで踏んだり蹴ったりである。おのれ、ニセあずにゃん!!
53 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/05(月) 01:33:44.88 ID:azWc76zg0
「と、とにかくだ……西崎にメールして、休日を取り消すしかないな!」

俺は自宅に置き忘れていた携帯を手に取って、メールが二件入っていることに気がつく。
そういえば、今日の昼休み、西崎が組織から連絡が来たと言っていたな……。
メールを確認すると、一つは組織からのメール、もう一つは西崎からのメールであった。
組織からのメールは昼休みに西崎から言われた内容と同じであった。
そして、もう一件のメール……俺が家に帰ってくる少し前に届いたメールのようだ。
西崎からのメールを開いて読んでみる。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
From:西崎律

Sb:明日のイベントについて

お疲れ様です、西崎です。
買い物リスト及び、デートに関する資料はPCの方に送信してあります。
明日は頑張ってください。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
54 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/05(月) 01:44:39.20 ID:azWc76zg0
西崎らしい用件だけが記述された内容である。
俺は西崎への返信に『休暇は取り消し』とメールしようとして、まだ、続きがあることに気がつく。
携帯のキーを操作して表示内容を下に進めていく。
結構な余白を入れているらしく、下げても下げても、真っ白な画面しか表示されない。
俺は焦る気持ちを押さえながらひたすらに下げていく。
そして、ついに余白に隠された内容が表示されるのであった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
P.S.
せっかくの休日なので、前々から計画していた旅行に行ってきます。
今は京都に向かう夜行バスに乗っているところです。
お土産は八つ橋で問題ありませんか?
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

全てを悟った俺の手から携帯が落ちる。
そして、膝と手をついて落ちている携帯をのぞく様な形になる。
俺の格好を形で表せばorz≪オーアールゼット≫、人生二度目のorz≪オーアールゼット≫である。
簡単に言えば俺は絶望した……。


 ***
55 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/05(月) 02:10:22.90 ID:GLovzpsH0
次の日、相沢梓は待ち合わせ場所である駅前へとやってきた。
時計を見るとまだ、待ち合わせまで30分ほどある。30分も早く着すぎたことを理解して、恥ずかしくなった梓は言い訳を始める。

「それだけ楽しみだったので仕方がないんです! 今日の為に新しい髪型に挑戦したんだから! 余裕を持って早起きしてしっかり準備して時間が余るのは仕方がないのです!」

例え、相沢梓の見た目が人形のように整っていて可愛くても、朝の駅前で独り言を喋る少女は軽くホラーである。
現にそんな梓の様子を見た、近くを通る通行人達が梓から数十メートルぐらいである。
そんなことは気がつかず、梓はハンドバックから手鏡を取り出すと髪型の最終チェックを始める。
早起きしてしっかりとセットしたこともあり、初めてする髪型でも何処もおかしなところが見当たらないほど完璧であった。
長い髪をヘアゴムで束ねた、何処か子供っぽい新しい髪型は子供っぽい外見の梓にはよく似合っていた。
梓はそわそわしながら、憧れの先輩が来るのを今か今かと待つ。
新しい髪形を見て、先輩はなんと褒めてくれるだろうか……「かわいいよ」、「似合ってるよ」なんて言われたらどうしようかと考えながら落ち着き無くそわそわする。

「あっ!」
56 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/05(月) 02:13:53.35 ID:GLovzpsH0
そして、待ち合わせの時刻15分前になったとき、こちらに向かって歩いてくる黒髪の青年の姿が見えた。
青年が近づくに連れて、それが例の先輩≪梓の想い人≫であることを理解する。
黒髪の青年は梓の元まで来ると、梓の姿を見て驚いた顔をする――そう、まるで信じられないモノを見たみたいに……。
梓は梓で例の先輩が、自分を見てなんて言ってくれるだろうかとドキドキしながら言葉を待つ。
そして、黒髪の青年は言った。

「サイドテール……だと……!?」

「えっ?」

加速するコレジャナイ感――コレジャナイあずにゃん。
この日、この時間、この世界にコレジャナイあずにゃんが誕生したのだった。
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/11/05(月) 02:16:15.72 ID:f8vR/Dcho
支援
小ネタ面白い
58 : ◆rMzHEl9LA2 [sage]:2012/11/05(月) 02:16:30.32 ID:GLovzpsH0
今日はここまでです。
筆が遅くて、ホントに申し訳ない。
59 : ◆rMzHEl9LA2 [sage]:2012/11/05(月) 02:29:51.57 ID:GLovzpsH0
>>55
>近くを通る通行人達が梓から数十メートルぐらいである。
すみません。
正しくは『近くを通る通行人達が梓から数十メートルぐらい距離を開けている。』です。
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/11/05(月) 14:41:50.29 ID:mmWY70CLo
遅筆特筆すべきところもなし
代筆してやろうか?>>1より面白くする自信あるわww
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/11/05(月) 15:33:33.32 ID:Skn+SfAOo
気にしなくていいぜー

コレジャナイあずにゃんワロスwwww
色んな所から苦情きそうだな
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/11/05(月) 21:13:41.27 ID:Bp06hx2bo
>>60
是非とも別スレ立てて自分のオリジナルで書いてくれ
このスレでも俺にはかなり面白いのに
もっと面白いの読ましてくれるなら絶対読みに行くわ

毎回投下後には乙コメいれてやるから是非頼むわ
63 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/06(火) 01:58:51.88 ID:9Zndz/yC0
2時から更新開始します。
64 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/06(火) 02:01:59.99 ID:9Zndz/yC0
 ***

西崎のメールを見てから俺は問題解決の方法をずっと考えていたが思いつかず、気がつけば朝の8時半になっていた。
待ち合わせ時間は9時であり、俺の家から駅までは歩いて15分ほどかかる距離にあるので今から身支度をし、家を出ないと間に合わない計算になる。
仕方が無いので解決策は移動しながら考えることにして、俺は早々に身支度を済ませると食パンを一枚咥えて、外へと出ると駅を目指して歩き出す。
歩きながら対策を考えるが、徹夜明けの頭では上手く思考が回らず、結局、何も思いつかないまま目的地に到着する。
時計を見ると時間は待ち合わせの15分前――考え事をしていれば、あっという間だろう。そして、集合場所に向かっているとすでに誰かが待っていることに気がつく。
一体、誰だろうか? そう、考えながら近づくとその人物が俺には黒髪ツインテール?をした小柄な人物に見えた。
はっきりとはわからないが……まさか、あれはあずにゃんではないだろうか? 俺がそう想ってしまうほど、遠くから見るとそっくりだった。
もしかしたら、寝不足と疲労が生み出した目の錯覚かもしれない。それでも、俺はもしもあずにゃんだったら……という可能信じて走り出す。
あずにゃんだったら、仲良くなってりっちゃんを紹介してもらおう。そんな想いに胸と頭をトキメキさせながら近づいていく。
そして、その人物を近くでしっかりと確認した俺の感想は――

「サイドテール……だと……!?」

――まさに『会いたかったのはこれじゃなーい!!』だった。

 ***
65 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/06(火) 02:06:32.10 ID:9Zndz/yC0
俺にとってサイドテールに進化したコレジャナイあずにゃんの絶妙な偽者感は『サイドテールによるドでかいインパクト』、略してサードインパクトな衝撃だった。
生命が吹き飛んで液体が吹き出す代わりに眠気と頭のダルさが吹き飛んで、あまりの似てるけど何か違う感に汗が噴出した。
そんな感じで思考停止していた俺に「あのー」とコレジャナイあずにゃんが声をかけてくる。
コレジャナイあずにゃんに視線を向けて「何か?」とだけ聞くとコレジャナイあずにゃんが落ち着きのない感じで言った。

「……えっと、その、ど、どうですか? この髪型、やっぱり似合いませんか?」

サイドテールはコレジャナイあずにゃんに似合ってるかどうかで言えば似合っているだろう。
子供っぽい見た目にサイドテールがよくマッチしていて、はっきり言ってよく似合ってるし。
そして、よく似てるんだが……なんか、そう、何か違う、コレジャナイ感があった。
俺が黙っているとコレジャナイあずにゃんは不安そうにおどおどしている。
そんなコレジャナイあずにゃん、略してコレにゃんを誰かが見たらあらぬ誤解を生みそうなので、俺はとりあえず「キミによく似合って、可愛いよ」とだけ言っておいた。
テンプレ的お世辞だったのだが、コレにゃんはお世辞を真に受けるタイプらしく、「やりました!」とすごく嬉しそうな顔をして言った。
ただ、一度二度顔を合わせた程度の知り合いのお世辞でそんなに喜ぶのだから、好きな人間に褒められたら有頂天になりそうだな……。
俺はコレにゃんが原因で怒りが有頂天になりそうなのだが……。

「あの、ところでペイジ先輩」

「ペイジ? 何故にペイジ?」
66 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/06(火) 02:16:29.41 ID:9Zndz/yC0
「えっ? あだ名ですよね?」

不思議そうに首をかしげて、コレにゃんはそう言った。
そんなあだ名はありえません! 一体、何処の誰だ……そんな、適当なことを言ったやつは……。
何故、俺のあだ名がペイジになるんだ……まったく……。
俺は名付けた人間の意味不明な思考を読み取ろうと考える。
俺の名がペイジ・ジョーンズ・プラン……俺がそう名乗ったんだった。
どうやら、この子は物事をポジティブ? に捉えがちな子みたいだ。ペイジがあだ名って、どこの外国人だ……俺は生まれも育ちも日本である。
今後もペイジ先輩、ペイジ先輩と呼ばれ続けたら、怪しげなあだ名が学校中に広まりかねない。
とりあえず、コレにゃんの勘違いを正す必要があるみたいだ。

「……それ、冗談だから」
67 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/06(火) 02:24:18.12 ID:O6SHWRNi0
「知ってますよ? 先輩、冗談が好きな人みたいなので私も合わせてみただけです」

コレにゃんは舌をチロリと出して可愛らしくおどけてそう言った。
わかりにくい冗談はやめて欲しいものである。
とりあえず、コレにゃんは冗談が苦手だということが理解した。

「ところで、先輩の名前って?」

コレにゃんが俺の顔を下から見上げるようにして名前を聞いてくる。
名前ねぇ……そういえば、何度か聞かれたが、忙しくてまともに答えるタイミングが無かったな。
基本的にコレにゃんと会うタイミングは忙しい時ばかりだからな……。
隠してる訳でもないので答えることにする。

「そうだな、俺の名前だが――」
68 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/06(火) 02:32:20.42 ID:O6SHWRNi0
「おーい!」

名前を名乗ろうとした所で後ろから声が聞こえた。
振り向いてみると、こちらに向かって走ってくる河野純一の姿が見えた。
河野純一は息を切らしながら、こちらに来ると言った。

「悪いな、遅刻した!」

「遅刻?」

そう言われて、時計を見てみて気がつく。時計の針は9時5分を示していた。
どうやら、いつの間にか待ち合わせの時間を過ぎていたようである。
キョロキョロと周りを確認していたコレにゃんが口を開く。

「七海は遅刻みたいです」

「遅刻?」
69 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/06(火) 02:41:42.64 ID:jpVzvYV10
「はい、あの子、朝起きるのが苦手で……私もここに来る前に起こしてから来たのですが、遅刻したことから考えると二度寝したみたいです」

コレにゃんは申し訳なさそうにそう言うと「七海に電話します」と言って電話を掛け始める。
それから10分ぐらいしてから、新島七海が死にそうなぐらい疲れきった感じで、栗色のセミロングヘアを揺らしながら走って来た。
待ち合わせの場所まで来た、新島七海は座り込むとはぁはぁと疲れきっている。
そんな、新島七海を見たコレにゃんは言った。

「大遅刻だよ、七海?」

「み、皆様方、ま、誠に申し訳ないでありまする……あぁ、うぅ、キツイよぉ〜」

「もう、大丈夫? はい、これ飲んで」

「あ、あぁちゃん、あ、ありがとう〜」

新島七海はそう言うと、コレにゃんから渡された水筒のお茶を飲み始める。
ふと、疑問に思ったことを聞く。

「あーちゃん?」
70 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/06(火) 02:49:03.48 ID:2j1cbjus0
「私のあだ名です。|相沢梓《あいざわ あずさ》で苗字の最初も名前の最初も『あ』で始まるから略して『あぁちゃん』なんです」

「字で書くと大きな『あ』に小さな『ぁ』で『あぁちゃん』! ちなみに先輩方、わたしが名付け親です!」

お茶パワーで復活した新島七海はやや自慢げにそう答えた。
まぁ、偽者のあだ名はそんものだろうな……。
新島七海はまだ自慢げにコレにゃんのあだ名について語っている。
そろそろ、止めないと延々と語りそうだな、この女は……。

「最初はのばして『あーちゃん』にしようかな?って思ったのですが、やっぱり『あ』を二回続けたくて……で、『ああちゃん』だとRPGの手抜きな名前みたいだったので――」

「それじゃあ、先輩方、七海も復活しましたので、そろそろ行きましょう!」

俺が止めるまでもなく、新島七海によるあだ名の話はコレにゃんによって強引に止められる。
新島七海は不満があるらしく、ぶーぶーとコレにゃんに抗議していた。
コレにゃんは無視して、新島七海に言った。

「七海、買い物リスト持ってるよね? 私、西崎先輩が居なかったから買い物リスト貰って無くて……」

「うん、あるよ!」

新島七海が肩からかけたポシェットからメモを取り出して、「はい、買い物メモ」と言ってコレにゃんに渡す。
コレにゃんは新島七海から買い物メモを受け取るとメモを見る。

「結構な量があるなぁ……」
71 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/06(火) 03:11:06.28 ID:2j1cbjus0
そう言っていたコレにゃんが何かを閃いたらしく「あっ」っと呟いた後、新島七海に耳打ちで何かを話し始める。
話を聞いている新島七海はうんうんと頷いて話を聞いた後、「いいよー」と返事をした。
そして、コレにゃんは衝撃的な提案を言った。

「分担しましょう!」

「はっ? 分担? 何を?」

思わず俺はそう言った。

「先輩! 買い物ですよ! 買い物リストみたら結構な量があったので分担しないと丸一日かかっちゃいますよ?」

量が多いのは長い間、一緒に居ることでフラグを建てる作戦なのだから当然である。
だから、本来の計画では三人で少し買った後、俺が途中で離脱し、二人が長い間あっちこっちを回りタイミングよくクレープ屋や映画館に入るように誘導する。
朝から行って昼に帰ってこれるような量だったら擬似デートになる前に終わってしまうし、入れられるイベント量も限られてくる。
阻止するしかない……適当な理由を考えて……。
どうする、俺が今から離脱するか? 駄目だ、普通に不自然だ……。
どうする? どうすればいい?
俺がそんな風に考えていると再び、河野純一の一言によって|逃げ道が塞がった《チェックメイト》。

「そうだな、分担した方が早く終わるから、分担しよう」
72 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/06(火) 03:21:26.11 ID:2j1cbjus0
またかァァァッ!! 河野ォオオオオオオオオオオオ!!
賽は投げられた。この時、少しでも方向性を良くする為に行動すべきであった。
しかし、寝不足な俺はそれでも分担を阻止しようと鈍った思考しか出来ない頭で考え続ける。
更なる|発言《バクダン》がコレにゃんから発せられるとも知らずに……。

「チーム分けは、私と先輩! 河野先輩と七海ね!」

「喜んで!」

「うん、それでいいよ」

コレにゃん、新島七海、河野純一と順々に発言していく。
三対一であり、すでに俺が発言しても意味が無い状態となっていた。
コレにゃんが俺に覆せないことを確認してくる。

「先輩もそれでいいですか?」

「うん、いいよ」

自棄になり、さわやかにコレにゃんの質問に「はい」と答えた。
もうやだ、このメンバー……。
俺は全てを投げ出したい気分の中、コレにゃんに引きずられるように買い物へと|連れて行かれる《ドナドナされる》のであった。
73 : ◆rMzHEl9LA2 [sage]:2012/11/06(火) 03:24:30.32 ID:2j1cbjus0
今日はここまでになります。
今回はラブコメのゆるラブパートとなってます。
なので、今日はコメはないです。
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/11/06(火) 03:24:36.56 ID:pPxhLHxi0
明日学校なのについつい読んじゃう
75 : ◆rMzHEl9LA2 [sage]:2012/11/06(火) 03:31:57.67 ID:2j1cbjus0
おまけ『正しいコレにゃんの使い方』

A「コレにゃん?(疑問)」

B「コレにゃん!(肯定)」
76 : ◆rMzHEl9LA2 [sage]:2012/11/06(火) 03:39:58.59 ID:2j1cbjus0
保存の為に『小説家になろう』で投稿分をまとめています。
こちらで投稿した分との変更点は誤字脱字と違和感あるシーンの修正だけです。
ちなみに『小説家になろう』の更新は現在は2日遅れとなっています。

WEB版
http://ncode.syosetu.com/n4090bk/

携帯サイト版
http://nk.syosetu.com/n4090bk/
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/11/06(火) 21:54:46.92 ID:rbWtHOjRo


最初は微妙かと思ったが読んでいると好きになって来たわ
78 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/07(水) 00:56:39.67 ID:zgEXMhzo0
一時過ぎぐらいに更新します。
79 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/07(水) 01:20:05.24 ID:zgEXMhzo0
話し合いの後、買い物を分担することになった俺達は連絡先をお互い教えあい、河野純一と新島七海が持つ2枚の買い物リストを半分にして、チームごとに持ち合う事にした。
だが、そんなことはどうでもいい……いちいち気にしていたら、確実に胃に穴が空くので考えるつもりは無い。というより、現在進行形で胃が痛いから考えたくない……。
とにかく、そんなことよりも問題なのは俺達に渡されたこの重要な方の買い物リストである。
今回の計画では前半と後半で二つのイベントが体験できるようになっている。
前半は買い物リスト通りに買い物をするだけの買出しイベントである。しかし、俺が抜けた後の後半は違う。
後半は二人が買い物リスト通りに買い物をしていると自然とデートコースを巡るように買い物をしてしまうという、擬似デート体験ツアーというイベントがリストに隠されているのだ。
前半と後半で体験するイベントが変るというこの計画において、一番重要なのは買い物リストである。
|前半の買い物《買出し体験》リストを持つか、|後半の買い物《擬似デート体験》リストを持つかでチームが体験するイベントが大きく異なってしまう。
その為、絶対に|後半の買い物《擬似デート体験》リストは河野純一のチームが持っていないといけないのだが……何故か、俺達の手の中にあった。

「あ、先輩! 次はあっちに行ってみたいです!」
80 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/07(水) 01:20:47.40 ID:zgEXMhzo0

買い物袋を片手に持ったコレにゃんが、あいている手でゲームコーナーを指差して言った。
俺は「うん、いいと思うよ」と笑顔で答え、コレにゃんに後をついて行くようにデパート内を一緒に歩く。
俺は現在、|後半の買い物《擬似デート体験》リストの指示に従いながらコレにゃんと|後半の買い物《擬似デート体験》をしていた。何故か、ホントに何故か……。
最初は買い物をそうそうに済ませて解散し、河野純一チームにせめてイベントだけでも起こそうと眠い頭で考えていた。
しかし、コレにゃんは見事に|後半の買い物《擬似デート体験》リストに操られて、デパート内にあるクレープ屋やアクセサリーショップなどに興味を示して道草をする。
本来なら新島七海や河野純一がコレにゃんのよう操られて、擬似デートを行なう手筈だったのに……何故、俺がコレにゃんと擬似デート体験をしているのだ?
コレにゃんに誘導されてゲームコーナーまでやってくる。中に入りキョロキョロと辺りを見回した後にプリクラの機械を指差しながらコレにゃんは言った。

「い、一緒に……撮りませんか?」
81 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/07(水) 01:21:48.21 ID:zgEXMhzo0

「ん? あぁ、構わないが……」

俺の返事を聞いたコレにゃんは何故か緊張しながらプリクラの機械に入っていく。
俺もコレにゃんの後を追う様に中に入った。
入るとすぐに『お金を入れて、画面をタッチしてね』と電子音声の案内が流れる。
コレにゃんは財布を取り出すと百円玉を取り出し、機械に投入して画面を操作していく。

「う〜ん、どのフレームにしようかなぁ……先輩はどれがいいですか?」

はっきり言って、どうでもいいです。早く俺を解放してください、お願いします。
今、俺にとって重要なのは、どうやってコレにゃんから離れて河野純一達の元へ行くかである。
俺はコレにゃんの質問に「これとかどうかな?」と適当に花柄のフレームを指差して言う。

「先輩って花柄が好きなんですか?」
82 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/07(水) 01:22:44.06 ID:zgEXMhzo0
「君に似合うと思ったからだ」

俺は適当に選んだ事がバレないようにそう言うとコレにゃんは下を向いてもじもじしている。
発言のせいで変なヤツだと思われたのかも知れない。コレにゃんの顔が見えない為に真偽は確かめることが出来ないが……。

「と、とりあえず! さっさと撮っちゃいましょう!」

そう言うとコレにゃんは花柄のフレームを選択して決定ボタンを押す。すると、しばらくしてから撮影が始まった。

「先輩、もう少し真ん中に寄った方がいいですよ?」

「あぁ」

言われた通りに真ん中へ寄るとコレにゃんとくっ付くような形になる。
コレにゃんがもじもじしながら下を向くと同時に『ハイ、チーズ』の電子音声と共に撮影される。

「あぁー!」

すぐに液晶画面に撮影された写真が表示された。
画面にはカメラの方に目線を向けている俺と下を向いたコレにゃんが写っていた。
それを見たコレにゃんは慌てて取り消そうとして、決定ボタンを間違えて押してしまうのであった。


 ***
83 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/07(水) 01:24:09.73 ID:zgEXMhzo0


「……私、下向いてる」

椅子に座りながら、プリクラを見てコレにゃんはそう言った。
あの後、取り直そうとするコレにゃんを「買出しが終わってないから」と説得して連れ出した。
今はデパート内にあるフードコートで休憩しながら、河野純一に状況を確認するメールを送るとすぐに返信が来た。
河野純一達のチームは三分の二ほど終わっているらしい。つまり、このままでは俺が行動する前に全てが終わってしまうと……。
ゆっくり考えている時間は無いな……まぁ、寝不足でまともな思考が出来ないのもあるが……。
もう、深くは考えずに念のためにカバンに詰めてきた|仕事着《ゼロの服》に着替えてこっそり抜け出すでいいだろう。それがいい。
かなり強引な手になるが、それしかない。はっきり言って何もしないで終わるよりは遥かにマシだ。
そして、俺は行動を起こすことにする。

「これから、二階の洋服店に行っていいかな?」

「洋服店ですか?」
84 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/07(水) 01:25:00.20 ID:zgEXMhzo0

「うん、実はこの前、ズボンの裾が破れちゃってさ……ついでだから、買いに行こうと思ってね」

「はい、大丈夫です」

よし、後はタイミングを見計らって着替えて出て行くだけだ……。
立ち上がると、洋服店を目指して移動する。
二階の洋服店に到着した俺はすぐに適当なズボンを二つ選び、コレにゃんの前でどちらを選ぶか悩んだ演技をしする。
一着を手元にもう一着を元の場所に戻すとそのまま試着室に入った。
そして、しばらく時間を空けた後にコレにゃんに言った。

「――ごめん、さっきの青色のズボン、やっぱり履いてみようと思うから持ってきて貰っていいかな?」

「あ、わかりました」
85 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/07(水) 01:26:13.99 ID:zgEXMhzo0

コレにゃんが試着室から離れたのを認すると持っていたカバンから衣装を取り出しすぐに着替え、着ていた衣服をカバンに詰めた。
途中で鳴っても困るので電源を切り、携帯電話もカバンに放り込んでおく。
カーテンを少し開け、外を確認すると運が良いことに誰も居ない。
そして、俺は試着室から出ると河野純一達のところへ急いで向かうのであった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
From:相沢梓

Sb:緊急事態


突然、先輩が行方不明になった。
連絡も通じません。
どうすればいいですか?
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

数十分後、河野純一達にそんなメールが届いているとは知らずに……。
86 : ◆rMzHEl9LA2 [sage]:2012/11/07(水) 01:28:44.00 ID:zgEXMhzo0
短いですが今日はここまでです。
次回辺りで買出しの話は終わりになる予定です。
87 : ◆rMzHEl9LA2 [sage]:2012/11/07(水) 22:12:33.76 ID:JXjakthN0
今日は休み
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/11/08(木) 01:45:22.48 ID:jOLf3CMoo
座して待つ
89 : ◆rMzHEl9LA2 [sage]:2012/11/09(金) 01:51:35.92 ID:uKwwBXy40
3時までに更新出来なさそうなので、今日も休みです。申し訳ない。
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/11/09(金) 20:09:30.07 ID:Sh1kVMcL0
2時〜3時ぐらいに更新します。
91 : ◆rMzHEl9LA2 [sage]:2012/11/09(金) 20:10:45.31 ID:Sh1kVMcL0
>>90

付け忘れてました。
92 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/10(土) 02:29:11.21 ID:9XWtlatk0
ゆったりとゆっくりと更新開始します。
93 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/10(土) 02:30:52.46 ID:9XWtlatk0
 ***


『ミイラ取りがミイラになる』ということわざがある。
ミイラ――人工的な加工、自然現象によって乾燥することで長期間原型を留めている死体の事である。
16世紀から17世紀のヨーロッパでは、ミイラは一般的な薬として流行していた。
一般に流行していたことは当然のようにミイラを集める仕事も流行、ミイラ取りを生業とする者が増えることになる。
世はまさに大ミイラ取り時代――彼らは『ミイラ取り王に俺はなる!』と言わんばかりにロマンを追い求め、海の代わりに砂漠を越え、グランドラインを目指す代わりに墳墓を目指した。
砂漠を越えたり、墳墓の中に入ったりする必要があったので、当然のようにミイラ取りという仕事には常に危険が付き纏い、志半ばで行き倒れるミイラ取りも多く居た。
『ミイラ取りがミイラになる』ということわざはこのことを指して生まれたという説である。
そんな背景から『ミイラ取りがミイラになる』という言葉は、説得の為に行った者が逆に丸め込まれたり、連れ戻そうとした者が逆にそのまま一緒に留まってしまったり、行方不明になった者を探しに行ったら自らも行方不明になったりと、そんな用途で使用されたりする。
特に『行方不明になった者を探しに行ったら自らも行方不明になった』という話は、常に二次遭難のリスクを考えなければならないほど、よくある話だったりするのだ。
それほどまでに二次遭難とはよくある話で、『連絡手段を用意する』、『一人で探しに行かない』、『帰り道を確保する』と常に準備は怠らず、ミイラ取りがミイラにならないようにしっかりとした準備と心構えが必要なのだ。

「う〜ん、何処に行ったんだろ?」

周囲を見渡しながら、新島七海はそう呟いた。
相沢梓からのメールが来た後、七海達は買い物を中断、捜索の為に一時的に別れて探す事となった。
現在、行方不明者を捜索する為に一人街を彷徨い歩いている所である。
時計を見ると捜索開始から早15分程経っている。
見つかっても、見つからなくても15分後とに連絡を入れる事になっているので、そろそろ純一や梓に連絡しなければならない。
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/11/10(土) 02:31:59.99 ID:9XWtlatk0

「……あ、みんなに連絡しなくちゃ!」

時計を見た七海はそう独り言を呟くと携帯電話を取り出して気がつく。
携帯電話がバッテリー切れになっていることに……。

「電池切れになってた……仕方ない、このまま探すとしますかぁねぇ〜」

そう言って使えなくなった携帯電話を仕舞うと再び行方不明者捜索を開始する。
そして、しばらく探してから七海はあることに気がつく……。

「う〜ん、何処なんだろ?」

新島七海は迷子になっていた。つまり、二次遭難である。
これが所謂、ミイラ取りがミイラになってしまった状態であった……。


 ***
95 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/10(土) 02:43:07.21 ID:9XWtlatk0

河野純一達を探すべく、俺は上下黒い衣服、黒いマント、顔を覆う黒い仮面と全身に黒を纏って街中を走り回る。

「ママ! へんな仮面つけた人がはしってる!」

「静かに! アレは見ては駄目な部類の奴よ!」

などの外野の声が聞こえたりするが無視する。
今は崇高な使命を全うする事が最優先であり、外野からの評価などは今は俺にはどうでもいいことだ。
後から、思い出して切ない気持ちになったりするのは確実だけどね……。
どうでもいいことだけど、「見ては駄目な部類の奴」って……世間一般では俺は妖怪か何か扱いなのだろうか?

メールで状況確認をした際、三分の二ほど終わっていると書いてあった。
その情報と買い物リストの内容から考えるにこの辺に居るはずなのだが……。
腕時計を見ると、デパートを出てから三十分ほど経過していた。
急がなければ、買い物が終了してしまう……。
96 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/10(土) 02:50:55.92 ID:9XWtlatk0

俺は周囲に気を配りながら、中央に道路が通った街中を疾走する。周囲を確認するが見当たらない。
おかしい。普通に買い物をしていれば、この辺りで買い物をしているはずなのだが……。
まさか、もう既に終わってしまったのか?
立ち止まり、自分が何処に立っているかを確認する。
リストの最後に書いてある物を買い終えたのなら、この辺に居るはずなのだが……見当たらない。

俺は道路を挟んで向こう側の歩道へと視線を向ける。
休日で昼過ぎの街中の歩道は対象を見つけるのが非常に困難なほど人通りが多かった。
とりあえず、向こう側の歩道も調べてみるか……。
近くに横断歩道が無いか、周囲を確認する。そして、数メートル先の横断歩道を確認した。

数メートル先の横断歩道に向かって走り出す。
横断歩道までやってくると、車通りも無く、丁度、すぐにでも渡れそうであった。
そして、俺が横断歩道を渡ろうとしたその時であった。

「あっ! 河野先輩〜!」
97 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/10(土) 02:52:27.65 ID:9XWtlatk0

河野先輩? 急ぎ周囲を確認するが河野純一の姿は確認できない。
すると再び「こっちですよ〜!」と声が聞こえる。
声の方へ視線を向けると、こちらに向かって手を振っている新島七海の姿がそこにあった。
こちらに向かって手を振っている? 急ぎ自分の周囲を確認するが河野純一の姿は無い。
新島七海が勘違いしているのか? しかし、新島七海は未だに「こっちです! こっち!」っと言っている。
新島七海は誰に向かって手を振っているのだ? そんなことを考えていると、ふと思い出す……。
今の格好は正装……つまりは俺が仕事服であることから考えると、新島七海が俺を河野純一と勘違いして呼んでいるのか。
確かにこの格好の俺が新島七海を助ける事でこの格好の俺が河野純一だと勘違いさせることでフラグを建てたのだから、新島七海が勘違いしてもおかしくないのだ。

すると、いつまでも気がつかない俺に対して痺れを切らせたのか、横断歩道を渡って新島七海がこちらに来ようとしているのに気がついた。
そして、新島七海に向かってスピードを出したトラックが迫ってきているのも……。
俺は急ぎ新島七海を救う為に走り出すと、トラックに接触する寸前で新島七海を抱きかかえて、向こう側の報道へと飛ぶことでトラックを回避する。
そして、新島七海を抱きかかえるような形で地面へと着地した。
新島七海へと視線を向けると驚いた顔をしていた。見たところ外傷も無いのでどうやら無事のようだ。

「ママ〜! へんな仮面つけた人すごいよ! あれ、ぜったいひーろーだよ! H、E、R、O(エイチイーアールオー)って書いてひーろーだよ!」

「静かに! アレは見ては駄目なH(エッチ)でERO(エロ)な変態野郎って奴よ!」

などの外野の声が聞こえたりするが無視する。
今は崇高な使命の最中であり、外野からの評価などは今は俺にはどうでもいいことだ。
というより、女の子を抱きかかえてるだけでエッチでエロな変態野郎扱いすな!! あと、4,5歳の無垢な少年に何を教えとるのかね!?
などと思考していると、正気に戻った新島七海がもじもじと恥ずかしそうに言った。
98 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/10(土) 03:03:39.55 ID:9XWtlatk0

「二度目です……また、河野先輩に助けられちゃった」

とりあえず、新島七海を下ろす。
新島七海は頬を染めて俺を見上げる。
俺はカバンからメモ帳とペンを取り出すと文字を書き始める。
そして、書きあがった内容を新島七海に見せた。新島七海が読み上げる。

「えっと、『怪我は無いか?』……大丈夫、怪我は無いです」

同じようにメモ帳に書いて、新島七海に見せる。

「『では、これで失礼する』ですか……」

新島七海が読み上げたことを確認すると俺はすぐに退散すべく、背を向けるが「待って!」という新島七海の台詞と共に手をつかまれた。
後ろを向くと下を向いていた新島七海が言いにくそうに言った。

「あ、あの! い、一緒に先輩を探しませんか?」

先輩? 俺を探す?
新島七海の先輩は河野純一、西崎、俺の三人であり、河野純一の場合は河野先輩、西崎の場合は西崎先輩、俺の場合は先輩と呼んでいる。
つまり、この場合の先輩とは俺の事で新島七海は「一緒に俺を探さないか?」と言っているのか……あっ、これはいけるぞ!
そして、閃いた。現状から逆転し、尚且つ俺が河野純一たちにイベントを仕込むよりも簡単に好感度を大幅に上昇させる方法を……。
99 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/10(土) 03:05:05.75 ID:9XWtlatk0

そう、ここからは私のターンだ!
地球汚染源を決して許さない人の台詞を思い浮かべながら行動を開始することにした。
作戦は簡単……いや、作戦と呼べないほど単純な話である。
そして、それを実行しない理由は無い。
現在、新島七海は変装した俺を河野純一と思い込んでいる。
さらに俺へ手を振って呼んだときのあの感じ……推測するに新島七海と河野純一は別行動を取っている。
少なくとも数十分ほどの……つまり、今、この瞬間は俺が、俺が河野純一だ!
ということは俺が新島七海の好感度を上げることが自然に新島七海から河野純一への好感度を上げることになるのだ。
神は俺を見放していなかった……こんな、取って置きのボーナスステージを用意してくれていたのだからな!

俺はメモ帳に『わかった、一緒に探そう』と書いて新島七海に見せる。
それを見た新島七海は嬉しそうな顔をして「ありがとうございます!」とお礼を言ってきた。
こちらこそ、ありがとうと言いたいぐらいだ……駄目だ、まだ笑うな、こらえるんだ……。
俺は新島七海の手を掴み強引に手を繋ぐ。「あっ」っと驚いた声を上げる新島七海にメモを見せる。

「『見失わないように……』ですか……はい、ありがとうございます」
100 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/10(土) 03:12:29.42 ID:9XWtlatk0

少し強引だったが、恥ずかしそうに笑っている新島七海の顔を見るに選択肢は間違っていない。
そのまま新島七海の手を引っ張り、『先輩』を探すことにする……先輩はここに居るけどね!
捜索する相手はここに居て、本物の河野純一と鉢合わせにならないように注意すれば、ボーナスステージの時間制限は無いに等しいのだ。
周囲を確認しているフリをしながら手を繋ぎ一緒に歩いていると、新島七海が「あの!」と話しかけてくる。
俺はメモ帳に『何?』と書いて聞く。

「えっと、なんでメモ帳?」

『赤いドラゴンと契約した代償に声を失ったんだ……』

「そうなんだぁ」

フリアエッフリアエッな理由を書いて新島七海に見せる。
コレにゃんと違ってこの子は本気で冗談を信じているような気がするな……。
しかし、いい感じだな……あとで河野純一にフォローを入れる必要があるが、少しステップアップしてみるか……。
メモ帳に台詞を書いて新島七海に見せる。

『敬語禁止ね』

「えっ? でも、先輩なので……」
101 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/10(土) 03:22:12.39 ID:9XWtlatk0

俺はさらにメモ帳に台詞を書いて新島七海に見せた。

『敬語とか壁があるみたいで好きじゃないから、普通に話してくれると助かる』

「……えっと、はい、じゃなかった。うん、わかったよ!」

いい感じだ……あとで、河野純一にフォローを入れることで完璧だな。
問題点を上げれば、人探し中だからデートが出来ないところか……。
まぁ、その辺は河野純一に期待することにする。
とりあえず、会話のついでに現状の情報収集も行なっておくか……。
メモ帳に台詞を書いて見せた。

『そういえば、あんな所で何してたの? 迷子になってたとか?』

「はい、お恥ずかしいことに実は少し迷子になっておりましてねぇ〜」

恥ずかしいのか、少しおどけた感じに新島七海は答えた。
なるほど、俺の捜索中に迷子になったと……。
つまり、河野純一とは別行動を取ったのちに迷子なり、あそこにいた訳か……。
しかし、何故、俺を捜索することになったのだろうか? まぁ、いいか……今は好感度を上げるついでに情報を集めればいい。
102 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/10(土) 03:27:22.03 ID:9XWtlatk0

「でも、河野先輩が来てくれて助かったよ! しかも、また、わたしを助けてくれたし……」

『気にしなくていい、困ってる人を助けるのが趣味みたいなものだからな』

そう書いたメモ帳を新島七海に見せる。
メモを見た新島七海は何か納得したような顔をしている。
そのまま、手を繋いで二人で先輩(オレ)を探して街を歩く。
ふと、新島七海を呼ぶ「おーい、七海ー!」という声が聞こえた。

「あっ、あぁちゃんだ。おーい!」

あぁちゃん? そういえば、つい最近、そんな感じのあだ名を聞いた覚えが……。
などと考えている間にあぁちゃんと呼ばれる者がこちらにやってくる。
あぁちゃん……そう、それはコレにゃんのあだ名であった。
103 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/10(土) 03:28:38.14 ID:9XWtlatk0

「もう、七海! ちゃんと河野先輩に連絡しないと! 河野先輩、心配してたよ?」

「ごめんね、携帯の充電し忘れてて……電源落ちちゃってたよ」

「で、七海? 隣の人は?」

コレにゃんは俺を見て、新島七海に尋ねる。
汗が頬を伝う……心臓の鼓動が速くなる。
まだ、大丈夫だ。河野純一と鉢合わせになった訳ではない。
落ち着いて冷静に対処すればいい……俺は冷静になる為に軽く深呼吸をする。
そんな風に気持ちを落ち着かせていると、新島七海がコレにゃんの質問に得意げに答えた。

「何と! こんな格好してるけど、実は河野先輩なんだ〜!」

「えっ? 河野先輩?」

「うん、実はそうなのです! 前もね、この格好をして河野先輩がわたしを助けてくれたんだ〜」

全身が冷えてくる。心臓の鼓動がうるさく感じるぐらい速くなる。
大丈夫だ、落ち着いて河野純一のフリをすればいい……。
俺がそう考えているとコレにゃんは一言――
104 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/10(土) 03:29:13.83 ID:9XWtlatk0

「えっと、河野先輩……つい2,3分前まで一緒に居たけど……」

「またまたぁ〜」

そんなコレにゃんの一言を聞いた新島七海が手をひらひらさせながら言った。
「いや、本当なんだって!」とコレにゃんが言うと新島七海もだんだん事態を理解し始める。
落ち着け、落ち着け、落ち着け……まさか、コレにゃんがさっきまで河野純一と一緒に居た?
どうする、言い訳するか? 駄目だ、そんなことをして本物と鉢合ったら、変質者として通報されかねない……。
なら、ここで終わりか? いや、まだだ……まだ、俺に出来ることは一つだけある。
俺……いや、幹部には伝統的な戦いの発想法があってな……。
俺はその方法を実践する事にした。
俺はコレにゃん達に背を向けてその場から走り出す。

「あっ! 偽者が!」

コレにゃんの声が背後から聞こえるが気にしない。
さっきまで、新島七海と一緒に居たのは河野純一のフリをしたニセ河野純一であったと……そう、コレにゃん達に思わせるために……。
105 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/10(土) 03:31:15.30 ID:9XWtlatk0
 ***


想定外だった……まさか、コレにゃんと出会ったことで計画が破綻するとは……。
あれから、全力で逃亡した俺は自宅に戻った。
そして、部屋にある机を両手で叩いて俺は言った。

「おのれ、コレにゃんめ!!」

「おい、隣ィ!! うるさいぞッ!!」
 
「はい! すいません!」

ボロアパートの薄い壁の向こうから苦情が来る。
時刻は15時……結局、好感度アップは失敗に終わり、隣の住人に怒られたりで踏んだり蹴ったりである。おのれ、コレにゃん!!

「と、とにかくだ……西崎に作戦が失敗したことを報告しないとな!」
106 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/10(土) 03:32:07.43 ID:9XWtlatk0

俺はすぐに携帯電話を取り出すとメールが二件入っている事に気がつく。
一件は西崎からのメール、もう一件は新島七海? 何故、新島七海からメールが?
まぁいい、大した内容でもないだろう……。
とりあえず、西崎からのメールを確認する。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
From:西崎律
 
Sb:明日、帰ります
 
お疲れ様です、西崎です。
今日の任務は無事に終わりそうですか?
明後日の報告、楽しみに待っています。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
107 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/10(土) 03:33:22.46 ID:9XWtlatk0


西崎らしい用件だけが記述された内容である。
俺は西崎への返信に『計画失敗』という内容で送った。
そして、新島七海からのメールを開く。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
From:新島七海
 
Sb:話したいことが……。
 
話したいことがあるので、明後日、放課後の屋上に来て!
あと、必ず、一人で来てね!
約束だよ?
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
108 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/11/10(土) 03:34:20.38 ID:9XWtlatk0

何故かタメ口だった。何故か敬語からタメ口になってた。
あ、なるほど……途中で行方不明になってドタキャンするような奴はタメ口で十分ということか!
なるほどな、納得したよ……全てを悟った俺の手から携帯が落ちる。
これはつまり、新島七海は俺に対してブチギレしているということか……。
明後日、放課後の屋上に一人で行くと何十人か待ち伏せしてて袋叩きにあったりする訳だな……。
全てを悟った俺は膝と手をついて落ちている携帯をのぞく様な形になる。
俺の格好を形で表せばorz(オーアールゼット)、人生三度目のorz(オーアールゼット)である。
簡単に言えば俺は絶望したのだ。明後日、俺は無事に家に帰れるのだろうか……。
109 : ◆rMzHEl9LA2 [sage]:2012/11/10(土) 03:36:58.62 ID:9XWtlatk0
今日はここまでです。
更新が遅れて申し訳ない。
パロなしのギャグに挑戦しようとしてたら、筆は止まるし、
何よりギャグが思いつかないという……。
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/10(土) 09:09:03.10 ID:q+bHM1wco
おう、がんばれ
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/11/10(土) 09:48:23.36 ID:dH/p3YtXo
良きかな良きかな
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/11(日) 11:57:06.19 ID:cV5IC2KSo
うむ
113 : ◆rMzHEl9LA2 [sage]:2012/11/11(日) 20:59:41.21 ID:EYJAwlAk0
>>1です。
これからの更新ですが週に何回か更新ぐらいになりそうです。
更新する時は前日辺りに予告しておきますので……というより、毎日更新はシンドイww

>>110>>111>>112
予想外……ラノベとかパロ作品だらけだったから、
みんなパロ大好きだと思ってたら、実はそうじゃなかったのか……。
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/11/24(土) 23:49:14.39 ID:TuYygPfDO
まだか
115 : ◆rMzHEl9LA2 [sage]:2012/11/27(火) 00:17:07.40 ID:SYJzI4G20
現在、執筆中なのでもう少し時間がかかるかも……。
今週の土曜日までには更新するのでお待ちください。
116 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/12/01(土) 00:06:44.21 ID:Vgi+qoR50
1時から更新します。
117 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/12/01(土) 01:00:54.50 ID:Vgi+qoR50
 ***

 悪夢のような土曜日が終わり、アッーという間に日曜日を通り過ぎて月曜日になっていた。
 あれから考えたが、新島七海から俺への下がってしまった評価については仕方が無いと受け入れる事にした。
 問題と言っても任務を遂行するにあたって、俺の行動に制限がかかってしまうことだけだ。
 それについて、幹部である俺なら西崎を動かして任務を遂行すればいいだけの話である。
 あとは俺の気持ちの問題で下がってしまった評価を俺が受け入れればいいだけの話である。
 まぁ、その前に放課後、新島七海絡みのイベントがあるのだが……。
 そんなこんなで俺は一番の問題である任務失敗の言い訳をどうするべきかと考えながら朝食を作っている。
 味噌を溶かす作業を止め、お玉で味噌汁を小皿に取って味見をする。
 
「こんな所か……」
 
 俺は食器棚まで行き、食器を取ると完成した朝食を移していく。
 今日のメニューは味噌汁、出し巻き卵、ほうれん草のお浸し、上手く焼けたアジの開きとなかなかに豪勢なものだった。
 すると、丁度いいタイミングで部屋の呼び鈴がなった。
 俺は作業する手を止めると、玄関に向かい扉を開け訪問者を出迎えた。
 
「おはようございます」
 
「おはよう、西崎」
 
 長いクリーム色の髪を揺らしながら頭を下げ西崎が俺に挨拶した。
 朝昼晩と三食を西崎と一緒に取る。いつの頃からか週刊になっていることだ。
 挨拶を済ませた西崎はそのまま俺の横を通り過ぎると玄関で靴を脱いで部屋へと入って行く。
 
 
 ***
118 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/12/01(土) 01:11:34.23 ID:Vgi+qoR50
「――なるほど、そのようなことが……」
 
 土曜日の任務について説明をすると西崎は箸を止めそう言った。
 それから、思考するかのように目線を下げ「……あの子もそうなんですね」と呟いた。
 
「何か気になる事でもあるのか?」
 
「いえ、これは私の口から言う内容ではありませんので……」
 
 俺は西崎の言葉に「わかった」とだけ告げる。
 
「しかし、今回は本当にすまなかった」
 
「いえ、私も梓の行動を予想できていなかったところもありますので、気にしないでください」
 
 西崎はそう言うと止めていた手を動かし再び食事を開始する。
 俺もそれに続くように食事をする。
 ふと「そういえば……」と西崎が言った。
119 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/12/01(土) 01:20:38.09 ID:Vgi+qoR50
「ん?」
 
「……今までの作戦内容が総帥に評価されたようで幹部に昇進するみたいで」
 
 昇進? まぁ、西崎なら当然だろうな。
 これからの任務遂行が難しくなるが仕方が無い……。
 その辺は新しい部下が優秀なことを期待しておこう。
 それよりも、今は元上司として西崎の昇進を喜ばねば……。
 
「それはいいな! そうだ、今日の晩御飯は西崎の昇進を祝って豪勢にしようじゃないか!」
 
「……ありがとうございます」
 
「気にするな、部下の昇進を祝うのも上司の務めだからな!」
 
 西崎は再びお礼を言うと言葉を続ける。
 
「……その、これからは、私と貴方は対等な関係ですよね?」
 
「ん? あぁ、そうなるな」
 
「でしたら……」
 
「でしたら?」
120 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/12/01(土) 01:30:45.67 ID:Vgi+qoR50
 俺が聞き返すと西崎は何かを決意したように視線を向けて言った。
 
「これからは私のことは西崎律(にしざき りつ)という一人の女性として扱ってください!」
 
「へ?」
 
「いいですよね!」
 
 力強くそう言われ、俺は「あぁ……」とやや戸惑いつつ返答する。
 俺の返答に満足したのか、西崎は再び朝食を食べ始めるのであった。
 西崎は俺と対等に扱って欲しかったということか……。
 組織に入ってもう一年ほど、西崎は半年ほど俺の部下をやっていたことになる。
 半年、対等に扱って欲しい……つまり、上司と部下ではなく、友人関係になりたいということだな!
 
「これからは対等だ、西崎! 俺とお前はこれから友人だ!」
 
「はっ?」
 
 西崎は俺の発言を聞いて固まる。
 何か選択肢を間違えたのかもしれない。
 俺は確認の為に「ん? 違ったか?」と聞き返すと、何処か呆れたように西崎は言った。
 
「……いえ、違ってませんよ」
 
「そ、そうか……」
 
 そう言うと西崎は無言で朝食を口に運ぶ。
 にしては、妙に機嫌が悪そうなのだが……。
 疑問に思うもそれ以外に思いつかなかったので、とりあえず朝食を食べる事にした。
121 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/12/01(土) 01:41:09.73 ID:Vgi+qoR50
 ***

「はぁ、自分の蒔いた種なのだが、すごく気が重い……」
 
 放課後、屋上へと続く階段を昇りながら溜息混じりに呟いた。
 そう、月曜日の放課後になってしまったのだ……。
 俺は新島七海が待っているであろう屋上を目指し、金属で出来た屋上の扉を開けた。
 
「待ってたよ、先輩!」
 
 扉を開ける音に気がついたらしい新島七海が俺に声をかけた。
 俺は新島七海の元へ近づき、「すまない、少し遅くなった」とだけ言うと、すぐに本題に入る。
 
「ところで今日は何の用事かな?」
 
「うん、今日はその、確認の為かな……」
 
 確認? 途中でボイコットしたことじゃなくて?
 確認……されることってあったか?
 考えても思いつかないので、俺は新島七海に直接聞く事にした。
122 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/12/01(土) 01:51:16.53 ID:Vgi+qoR50
「確認って?」
 
「確認と言うか……確信というか……」
 
 確認? 確信? 何が言いたいのだろう、この新島七海は……。
 しかし、はっきりと言って欲しいものである。
 そんなことを考えていると新島七海は自信満々に言った。
 
「先輩だよね? あの黒い仮面の人……」
 
「へっ?」
 
 思わず情けない声が出た。
 えっ? 何? 黒い仮面の人って誰?
 頭が混乱する。冷たい汗が出てくる。
 落ち着け、俺……。
 新島七海は黒い仮面の人としか言っていない。
 つまり、他人の空似、仮面の人違いの可能性だってある。
 黒い仮面の人とは誰なのかを確認するために俺は新島七海に聞いた。
 
「え、えっと……黒い仮面の人って?」
123 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/12/01(土) 01:59:51.67 ID:Vgi+qoR50
「わたしのこと、二度も助けてくれた人だよ!」
 
 新島七海を二度助けた黒い仮面の人……つまり、えっ?
 俺の中のいろいろな機能が停止(フリーズ)する。
 そんな俺に構わず、新島七海は続ける。
 
「最初、河野先輩の持ち物を落として行ったから勘違いしちゃったけど……その、あの助けてもらった感じが一緒で……」
 
 停止(フリーズ)している俺を無視してクネクネと恥ずかしそうにしながらそう言っている。
 
「だから、先輩のことが――」
 
 助けてもらった感じが一緒? 確信してるの?
 つまり……好感度リバースとか?
 いや、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ……。
 もっと恐ろしいものの片鱗を味わいそうな気がする……。
 そう、これって……。
 
「――好きなの!」
124 : ◆rMzHEl9LA2 :2012/12/01(土) 02:01:17.21 ID:Vgi+qoR50
 そう顔を真っ赤にして言った新島七海は恥ずかしそうに屋上を後にした。
 そして、携帯電話が鳴った。
 俺は恐る恐る携帯を開き、メールを確認する。
 どうやら、メールは総帥から届いたようだ……。
 
 
 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 From:総帥
 
 Sb:今すぐ来い
 
 詳しく話せ
 いいな、逃げるなよ?
 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 携帯が手から零れ落ちる。
 そして、足から力が抜けて膝をついてしまう。
 どうしよう……。
 オワッタ……ホントに終わった……。
 俺はその場で真っ白に燃え尽きた……。
125 : ◆rMzHEl9LA2 [sage]:2012/12/01(土) 02:02:18.38 ID:Vgi+qoR50
とりあえず、ここまでにして寝ます。
続きは夜に……。
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/12/01(土) 02:07:44.12 ID:TuaqGgmLo

127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/12/01(土) 10:40:25.26 ID:xQ/yjwIdo
良いねぇ

128 : ◆rMzHEl9LA2 [sage]:2012/12/01(土) 23:36:15.91 ID:Vgi+qoR50
すみません、新章準備の為に今日の更新は休みます。
129 : ◆rMzHEl9LA2 [sage]:2012/12/03(月) 22:36:22.98 ID:09AegXcW0
現在執筆中……。
オチが弱いと筆が止まってしまう。
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/04(火) 07:02:54.13 ID:V4DcG13eo
構わん構わん
二ヶ月以内ならいくらでも待てるから焦らずじっくり良いものを作ってくれ

待ってる
131 : ◆rMzHEl9LA2 [sage]:2012/12/08(土) 18:14:39.30 ID:rFTiSfyp0
今日、更新します。
132 : ◆rMzHEl9LA2 [age]:2012/12/08(土) 20:39:54.55 ID:rFTiSfyp0
更新開始します。
133 : ◆rMzHEl9LA2 [age]:2012/12/08(土) 20:44:49.25 ID:rFTiSfyp0

 ***

「どういうこと?」
 
 アジトにやってきた俺は目の前の総帥にそう言われた。
 隣には西崎が王に謁見する騎士のように膝をついて座っている。
 背筋に冷たい汗が流れる。
 何か上手い言い訳を考えようとするが思いつかない。
 
「だから、どういうこと?」
 
 総帥は繰り返し言った。
 駄目だ、これ以上の沈黙は危険だ……何か言わなければ……。
 
「え、えっとですね……これには訳が――」
 
「――うん、だから理由を話してもらおうか?」
 
 再び、沈黙してしまう。
 理由を話せ? コレジャナイ感じのあずにゃんが原因で事態がおかしくなって失敗しましたとか?
 よし、それだな……それがいい。
 
「実は予期せぬ事態が――」
134 : ◆rMzHEl9LA2 [age]:2012/12/08(土) 20:51:34.86 ID:rFTiSfyp0
 
「――それ、予期して対処しなかったお前のミスだよね?」
 
 ……ですよね。
 どう考えても対処できなかった俺のミスである。
 
「まぁ、ここのNTR(えぬてぃーあーる)男は無視するとして――」
 
 NTR(えぬてぃーあーる)男……総帥の言葉が俺の胸に深く突き刺さる。
 主人公からヒロインを奪う行為は、全ラヴコメファンにとってはトラウマでしかなかった。
 それを無意識のうちに自らが行なったという事実が俺の心を深く傷つける。
 
「――ところで黒(くろ)よ」
 
「ハッ!」
 
 黒(くろ)――西崎が立ち上がり右手を左胸に当てる。
 総帥が指を鳴らす。
 すると何処からともなく全身白タイツに真っ白な覆面を被った者達が現れる。
 全身白タイツ戦闘員――総帥直属の戦闘員である。
 懐かしい衣装だ……。
 組織に入って半年間はあの衣装で「ウイッー!」とか言ってたんだよな……俺……。
 総帥に認められて幹部となったのが半年前……そんなに昔でもないのに何もかもが懐かしいよ……。
135 : ◆rMzHEl9LA2 [age]:2012/12/08(土) 20:55:41.96 ID:rFTiSfyp0
 
「黒、これまでのお前の計画案は見事なものだった……」
 
「ありがとうございます」
 
 西崎がそう言った。

「よって! その功績から、お前を幹部に昇格する!」

 やはり、西崎の昇格の為に総帥直属の戦闘員達は現れたのだな……。
 ふと、今までの西崎との思い出が蘇る。
 半年間と短い間だったが、楽しかったぞ西崎よ……。
 俺が西崎との思い出に浸っていると、近くで懐かしい台詞が聞こえた。
 
「ウイッー!」
 
「ん?」
 
 気がつくと白タイツの戦闘員達が俺を囲んでいる。
 そして、俺の纏っている衣装を掴み脱がそうとしてくる。
 
「ちょっ!? な、何をする!? やめろ、俺にそっちの趣味アッー!!」
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/08(土) 20:58:13.99 ID:Z+ChGGnwo
キタキタキターーーー
137 : ◆rMzHEl9LA2 [age]:2012/12/08(土) 21:00:27.36 ID:rFTiSfyp0
 
 そして、アッという間に脱がされた。
 俺の衣服を脱がした後、それを綺麗に畳むと西崎の前に跪き、衣装を差し出す。
 全身白タイツ戦闘員達が去った後には、身に付けているのはトランクス一つな俺が居た。
 西崎が俺と衣装を交互に見た後、何かを察したのか、差し出された衣服――黒いマントを西崎が受け取りその場で羽織る。
 そして、黒い仮面を被る……何故?
 考える……なるほど、西崎の急な昇進に衣装が間に合わなかったのか……。
 しかし、その衣装はゼロの幹部としての衣装……それでは西崎とデザインが被ってしまうではないか!
 
「そ、総帥……にし、ゴホン……その、デザインだと俺と被りますよ?」
 
 色も同じだし……。
 あと、俺の服返して……。
 すると、総帥は言った。
 
「それに関しては大丈夫だ、ゼロよ」
 
「ウイッー!」
 
 再び全身白タイツ戦闘員達が俺を囲む。
 戦闘員の手にはなにやら白い布のようなモノが見えた。
 そして、今度はさっきとは逆に何か衣装を着せられた。
138 : ◆rMzHEl9LA2 [age]:2012/12/08(土) 21:05:29.19 ID:rFTiSfyp0
 
「ウイッー!」
 
 サッと全身白タイツ戦闘員達が離れていった。
 気がつくと俺は全身真っ白な衣装を身に纏っていた。
 全身白タイツ戦闘員とは違う、顔に仮面のような物がある別の衣装に……。
 総帥は言った。
 
「ゼロ……お前の言っていた部下の衣装だが、ようやく完成したよ……着心地はどうかね?」
 
 着心地? 何を言っているのだ?
 すると俺の前に鏡を持った一人の全身白タイツ戦闘員がやってくる。
 そして、鏡を俺の前に向ける。
 鏡に映る俺の姿は今、西崎の着ている衣装の色違い――つまり、白い仮面と白マントという衣装だった。
 
「総帥、これは……黒騎士から白騎士への転職(ジョブチェンチ)でしょうか?」
 
「いや、凄まじき戦士の黒から半端な戦士の白への弱体化(レベルダウン)、半端な覚悟のお前は白くなってしまったのだよゼロ――」
 
 ――簡単に言えばお前は戦闘員に降格
 そう、総帥は言った。
 降格? 誰が? 俺が? 降格!?
 戦闘員から半年、苦労してなった幹部の地位は僅か半年で消滅した。
 
「あ、あはは……はぁ――」
 
 ――俺の目の前が真っ暗になった。
139 : ◆rMzHEl9LA2 [age]:2012/12/08(土) 21:13:26.67 ID:rFTiSfyp0

 ***

 ――知ってる天井だ……。
 目覚めるとアジトではない、別の場所――俺の部屋で横になっていた。
 
「俺は確か……ハッ!?」
 
 そして、アジトであったことを全て思い出す。
 西崎が幹部になったことを……。
 俺の幹部という地位が半年で終わりを告げたことを……。
 
「大丈夫ですか?」
 
 ベットの横に座っていた西崎がそう言った。
 倒れた後、何があったのかを聞くことにした。
 
「あの後……何があった……のですか?」
 
 ふと、西崎が自分より目上の存在であることを思い出し話し方を途中で変える。
 そんな俺の反応に西崎は溜息を一つすると言った。
 
「……今朝、言ったとおり対等に扱ってくれて結構です」

140 : ◆rMzHEl9LA2 [age]:2012/12/08(土) 21:18:01.12 ID:rFTiSfyp0
 
「しかし、貴女と私は上司と部下という関係……」
 
 そう、もう俺は幹部ではなく西崎直属の戦闘員……。
 あの真っ白いゼロの衣装を俺に渡され、真っ黒いゼロの衣装が西崎に渡されたというのはそういう意味なのだ。
 
「だから――」
 
「――今朝、言ったとおり私と貴方は友人ですよね? なら、今は友人として扱ってください……なんなら――」

 ――私からの命令でも構いませんよ?
 俺の言葉を予想していたかのように西崎は微笑みながらそう言った。
 そうだったな……。
 俺は今朝、西崎とそう約束したのだったな……。
 
「……あぁ、俺とお前は友人だったな」
 
「えぇ、そうです」
 
「それなら、西崎も敬語はどうかと思うが……」
 
「これは……その、クセみたいなモノなので仕方がありません!」
 
「そうか」
 
「えぇ、そうです!」
141 : ◆rMzHEl9LA2 [age]:2012/12/08(土) 21:18:56.61 ID:rFTiSfyp0
 
 しばらく、二人の間に沈黙が生まれる。
 幹部から戦闘員へ降格した俺をどう励まそうか考えているのである。
 西崎が何か話題を探しているのか、そわそわしている。
 だから、俺は西崎に聞くことにした。
 
「……西崎」
 
「はい?」
 
「……教えて欲しいことがある」
 
「なんでしょうか?」
 
「あの女……梓という後輩の事を……」
 
「え?」
 
142 : ◆rMzHEl9LA2 [age]:2012/12/08(土) 21:22:46.97 ID:rFTiSfyp0
 
 ***
 
「はぁ、七海も先輩のことを好きになるなんて……」
 
 相沢梓は自室のベットに仰向けで転がりながらそういった。
 放課後、屋上から戻ってきた七海から告げられた内容……。
 あのニセ者の河野純一の正体が例の先輩であること。
 七海を二度も助けてくれたのが変装した例の先輩であること。
 命恩人である例の先輩を七海が好きだということ。
 そして……
 
『あぁちゃんが先輩を好きなのは知ってる……だけど、わたしも好きだから……どちらが先輩に選ばれてもわたし達はずっとずっと親友だよ』
 
 そう梓は七海に言われた。
 梓も例え七海が先輩に選ばれようと七海とはずっと親友でいたいと思っていた。
 だから、七海が同じ考えだったのは嬉しかった。
 だけど、いざ例の先輩を取り合っても関係は悪くならないのかと不安になってしまう。
 
「……やめやめ! 考えてても仕方がないよね!」
 
 暗い考えを吹き飛ばす為に頭を軽く振る。
 そして、梓は枕元に置いていたプリクラを手に取って見る。
 一緒に買出しをした時に撮った例の先輩とのプリクラ……。
 親友だけど、自分の恋を諦めたくなかった……。
 だから、七海と全力で勝負をしようと決意する。
 
「先輩、七海に負けないように頑張るから……それで――」
 
143 : ◆rMzHEl9LA2 [age]:2012/12/08(土) 21:27:08.43 ID:rFTiSfyp0
 
 ***
 
「なるほど、相沢梓(あいざわ あずさ)という名前か……覚えた、覚えたぞ! 相沢梓(あいざわ あずさ)! その名前を深く!」
 
 西崎律から相沢梓のことを聞いた男はそう言った。
 男から『梓のことを教えて欲しい』と言われた時は、てっきり男が梓のことを好きなのかと勘違いした。
 しかし、実際はそうでは無かった。
 自らを幹部から戦闘員へと蹴落とし降格させた原因――
 度重なる任務の妨害をしたあの後輩の少女――相沢梓(あいざわ あずさ)を宿敵認識したのであった。
 だから、梓の気持ちを知っている律が呆れていたりする。
 それに気付かず男は宣言する。
 
「西崎、見ていて欲しい……俺は必ずあの宿敵、相沢梓(あいざわ あずさ)を撃退し、必ずや――」
 
 ***
 
「――私の恋を成就させます!」
 
 少女は決意しそう言った。
 
「――俺の夢を成就させる!」
 
 男は決意しそう言った。
 
 少女の恋を邪魔する者はゼロ(夢追い人)
 男の夢を邪魔する者は相沢梓(恋する乙女)
 夢と恋が交差する時、物語が始まる……。
 ――この物語はそんな感じでここから始まった。
144 : ◆rMzHEl9LA2 [sage]:2012/12/08(土) 21:32:07.66 ID:rFTiSfyp0
今日の更新はここまでです。
そして、これで第1部は終了です。
実際、ここまでがプロローグなのですが、あまりにも長くなってしまったので、
第1部として分割しました。
第2部は今月中にプロット作って開始したいと思います。
楽するためにプロット作らずに、見切り発車で第1部を書いてたらすごく苦労したので、
第2部はプロット作って頑張ろうと思いますww
プロット作るの苦手なんですけどね……。
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/08(土) 21:39:07.03 ID:Z+ChGGnwo


頑張れ
楽しみにしてる
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/09(日) 18:15:52.14 ID:vHWF1Qrxo
147 : ◆rMzHEl9LA2 [sage]:2012/12/23(日) 17:11:09.52 ID:dwHVyL+10
まとめの方にて、大幅修正するかもしれません。
大筋は変らないのですが、もう少し長めに丁寧に作りたいと……。
第二部の方ですが、あらすじと新キャラは決定したので、プロット作って今週中に開始します。
ちなみに第一話、大幅修正した場合、こっちでも更新した方がいいでしょうか?
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/25(火) 05:54:06.35 ID:mZcsjKgIO
一話ならここだな
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/13(日) 17:36:41.72 ID:Ylyyf8ato
まだか
150 :生存報告 ◆rMzHEl9LA2 [sage]:2013/01/14(月) 16:59:33.18 ID:YswN6xZp0
お待たせしました。
今日は更新しませんが今週中(多分、土曜日ぐらい)に全編修正+加筆を加えた作品を更新します。
第二部は修正後の第一部の続きとなりますので第一部完全版の後に更新となります。
水、木があったことも無い天涯孤独な遠縁の親戚?のごみ屋敷化している親戚宅の遺品整理をしないといけないとかで
更新日は完全版の完成度次第では更新日が前後するかもしれませんのでご了承ください。
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/14(月) 18:55:09.81 ID:fgnBzv3So
更新予定をしっかり告知してくれる作者はだいたいSSも面白い

週末が楽しみになった
152 : ◆rMzHEl9LA2 [sage]:2013/01/20(日) 22:47:47.67 ID:YJPpyVCc0
第一部なんですが全編修正+加筆を加える形でしたが、
大筋を同じに全編書き直すことにします。
時間もなかなか取れないので、完成まで時間がかかるので、
冒頭だけでも火曜日に更新します。
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/22(火) 23:38:57.06 ID:sTCZpYx3o
火曜日もあと20分ですぜ
154 : ◆rMzHEl9LA2 [age]:2013/01/23(水) 00:08:57.60 ID:Iqia15jC0
男「今日もラヴコメを手伝う仕事が始まる」(完全版)
プロローグですが、25時30分から更新します。
155 :男「今日もラヴコメを手伝う仕事が始まる」(完全版) ◆rMzHEl9LA2 [age]:2013/01/23(水) 01:32:14.08 ID:Iqia15jC0
 ――放課後、男は女に呼び出され誰も居ない教室に来ていた。
 すでに居た女は男の姿を確認すると頬を赤らめて下を向いた。女の顔が赤いのは夕日の色ではなく、恋する男が現れたのが原因だ。
 茜色に染まった夕暮れ時の教室に二人っきり――そんな王道ラヴコメ的な場所に二人はいたのだ。
 男の名前は河野純一(こうの じゅんいち)、このラヴコメの主人公である。
 
「――で、なんだよ、和子(わこ)? 突然、『来い!』なんて言われたから来たけどさ」
 
「え、えっと、そうだったわね! そ、そのね……」
 
 和子(わこ)と呼ばれた女がもじもじと言いにくそうにしている。
 女の名前は佐藤和子(さとう わこ)――この物語(ラヴコメ)のヒロインである。
 
「き、昨日は! その、あ、ありがとう……」
 
「昨日?」
 
 和子の言葉に純一が首をかしげて聞いた。
 
「……とぼけちゃって」
 
 和子は少し嬉しそうに言うとスカートのポケットからキーホルダーを取り出した。
 そのキーホルダーを見た純一が反応を示す。
 
「あ、俺のキーホルダー! 何処かで落としたと思ったら、和子が拾ってたのか」
156 :男「今日もラヴコメを手伝う仕事が始まる」(完全版) ◆rMzHEl9LA2 [age]:2013/01/23(水) 01:36:10.68 ID:Iqia15jC0
 
「やっぱり、これはアンタの物だったのね」
 
 そう言うと和子はキーホルダーを純一に渡した。
 
「ありがとな! お気に入りだったから戻ってきて良かったよ、ホント」
 
 純一は和子にお礼を言いながらキーホルダーを仕舞う。
 
「まさか、アンタがム○クのコスプレをして助けに来るなんてね……ビックリしたけど、嬉しかった」
 
「ムッ○? なんだよ、その○ックって……」
 
 赤い毛むくじゃらな雪男をイメージしながら純一が尋ねた。
 まあ、イメージしていると思う。確証は無いが……。
 和子はその反応が予想通りと言わんばかりに溜息をひとつする。
 
「認めたくないならいいわ。アンタがそんな性格だってことは理解してるから」
 
「認めたくないも何も――」
 
「いいから、詳しくは聞かないから!」
 
 そして、和子は顔を伏せるとやや緊張した風に言った。
 
「それにね……あたしはそんなところも含めて、アンタのことが――」
157 :男「今日もラヴコメを手伝う仕事が始まる」(完全版) ◆rMzHEl9LA2 [age]:2013/01/23(水) 01:39:29.73 ID:Iqia15jC0
 
 ――このタイミングだ!
 学ランのポケットから小さな消しゴムを取り出すと、教卓からばれない様に放り投げる。
 普通の教卓なら見つかっていたかもしれないが、この改造教卓なら絶対に見つかることは無い。
 例え教卓を四方八方から確認しようとただの木箱のような教卓にしか見えないのだ。
 しかし、実は後ろから中に入れ、外の様子を窺うことが出来るようになっている。
 そして、この教卓は生徒会の仕事で『新入生の為に備品を新しくする』という理由で替えたものだ。
 生徒会が関与している備品にそんな改造が施されているなんて誰が考えるものか。
 俺は覗き穴から外の様子を窺っていると消しゴムが直撃した純一が周囲を見ているのを確認する。
 和子はそんな純一に気付かずに「えっと、その、あの」と想いを伝えるのを躊躇している。
 だが、そろそろ純一に想いを伝えてもおかしくないな……よし、第二フェーズへ移行するか。
 俺は近くに置いたあったラジコンのプロポを手に取り操作する。
 すると、教室の出入り口からバイク型のラジコンが姿を現し、和子からは死角になり、純一からは見つかりやすい位置で停止する。
 周囲を確認していた純一はそのラジコンを発見し、そのデザインを見て驚いていた。
 黒い皮製のジャケットと黒いサングラスという姿でバイクに跨った――ター○ネーター風ム○ク
 ム○クの片手には看板が握られており、そこには『アイルビームック!』と書かれていた。
 ム○ク、和子との会話で出てきた謎の存在――そのム○クが意味不明な格好で純一の現れたのだ。
 俺はプロポを操作しム○クを教室の外へと走らせ、純一の視界からム○クを消した。
 ム○クが現れ走り去っていった……そんな不思議を目撃した純一は当然、思考停止(フリーズ)――和子が話した内容など頭に入ってくるハズがなかった。
 
「――だ、大好きなの!」
 
 そう、顔を真っ赤にして和子が言った事も当然のように聞き逃していた。
158 :男「今日もラヴコメを手伝う仕事が始まる」(完全版) ◆rMzHEl9LA2 [age]:2013/01/23(水) 01:43:25.09 ID:Iqia15jC0
 
「……」
 
 教室が静かになった。
 不思議な出来事を目撃し、思考停止(フリーズ)する河野純一(こうの じゅんいち)。
 勇気を振り絞って告白し、返事を待つ佐藤和子(さとう わこ)。
 まあ、二人が無言となった理由には大きな違いがあるが……。
 しばらくして、思考停止(フリーズ)していた純一が動き始めた。
 そして、目の前で顔を真っ赤にして俯いている和子に気がついた。
 まさか、何かあった?――純一の考えていることはそんなところだろうな。
 だが、先ほどまで思考停止(フリーズ)していた純一には和子が何をしたのか理解できないだろう。
 
「あー、そのだな……」
 
 その場の空気に耐え切れなくなった純一が何とかしようと思考している。
 そろそろ、和子が動き始めるハズだ……。
 案の定、しびれを切らした和子が顔を上げて言った。
 
「……いつまで返事を待てばいいわけ?」
 
 よし、予定通りだ。
 純一の様子を窺うと……あの顔は『和子が何かを言ったことは理解した』というところだろう。
 すると純一の次の行動は決まっている――
 
「――えっと、何か言ったのか?」
159 :男「今日もラヴコメを手伝う仕事が始まる」(完全版) ◆rMzHEl9LA2 [age]:2013/01/23(水) 01:47:36.19 ID:Iqia15jC0
 
 そう、この台詞だ。
 俺の予想通り、お約束の言葉(テンプレセリフ)を純一が言ってくれた。
 当然、和子は純一の言葉を理解できずに停止した。
 和子の発言を尋ね、返事を待つ河野純一(こうの じゅんいち)。
 純一の発言を聞き、思考停止(フリーズ)する佐藤和子(さとう わこ)。
 そんな異なる理由で二人が無言になった為に再び教室は静かになった。 
 
「……和子?」
 
 突然、無言になった和子を心配して純一が様子を窺っている。
 和子の様子は……俯き肩を振るわせている。
 そろそろ、お約束の展開(テンプレイベント)だな……。
 そんなことを考えていると和子が予定通りに動き始めた。
 
「あ、アンタってヤツは……ひ、人がせっかく勇気を振り絞ったのに……ほ、本当にアンタは……」
 
 そして、何の事か全くわからない純一が再度、確認する為に尋ねた。
 
「もしかして、何か怒らせるようなことしたとか?」
 
 ピシッ――そんな風に教室内を満たす空気がヒビ割れた気がした。
 
「……こ、こ、こ」
 
「こ?」
 
 肩を震わせていた和子が視線を上げた。
 その顔を見た純一が和子を怒らしたことを理解したのか、慌てて言い訳を始める。
 
「ま、待て! た、ただ、俺は聞いてなかったから確認しただけで!」
160 :男「今日もラヴコメを手伝う仕事が始まる」(完全版) ◆rMzHEl9LA2 [age]:2013/01/23(水) 01:51:41.36 ID:Iqia15jC0
 
 まさか自ら爆弾を爆発させるような発言をするかね……。
 これは一種の才能……ラヴコメ主人公が生まれながらに持っている才能だな。
 この才能を持った者だけが主人公となり、リア充生活を満喫できるのか……。
 純一の言葉を聞いた和子が拳を握り姿勢を一瞬にして低くすると、そのまま勢い良く拳を振り上げた。
 
「この、ばかぁああああああ!」
 
 和子の拳は純一の顎へ綺麗にヒットし純一を真上へと吹き飛ばす。
 その一連の流れは強いヤツに会いに行くのが趣味な格闘家が放つ、昇り竜を想像(イメージ)させるような技と似ていた。
 
「ふげらばっ!」
 
 宙を舞う純一がそのまま床へと落下する。
 怒りが収まらない和子はそのまま教室から出て行くのであった。
 
「……り、理不尽だ」
 
 和子が教室を去った後、床に転がった純一はそう呟き気絶する。
 純一が気絶するのを確認した俺は改造教卓の出入り口を開けて外へと出る。
 四月六日――いくら、少し肌寒いといえど、密閉された場所に一時間近く居るのは暑くて疲れるものである。
 俺は背伸びをひとつし、凝り固まった身体をときほぐすと、教卓内に入れていた学生鞄に持っていたプロポを仕舞った。
 
「……任務完了(ミッションコンプリート)」

 今日もラヴコメを手伝う仕事を終えた俺はひとり呟いた。

 
161 :男「今日もラヴコメを手伝う仕事が始まる」(完全版) ◆rMzHEl9LA2 [age]:2013/01/23(水) 01:54:46.52 ID:Iqia15jC0
 
 ***
 
 
 ライトが消えた薄暗い部屋で俺は、この部屋の唯一の明かりである巨大ディスプレイの前で腰を屈めて次の言葉を待っていた。
 あの後、教室で純一と別れた俺は学校の地下にある秘密基地(アジト)にやってきた。
 巨大ディスプレイには組織のスポンサー……の代理人である執事服を着た男が映っていた。
 長めに切り揃えられた黒髪のイケメンである……絶対にあの執事は釘ボイスのお嬢様とモテモテリア充生活(ライフ)を送っているに違いない。
 
「――何か、失礼なことを考えてましたか?」
 
「いえ、全然、考えてませんよ?」
 
 このイケメンはこちらの考えていることがわかるのか?
 
「まあ、いいでしょう……ところでその格好は?」

 いつもと違う格好ですが――そう執事は俺に尋ねた。
 
「今日、出来上がったばかりの正装です」
 
 その問いに俺は自信満々に答えた。
 現在、俺の服装は学ランの上から黒いマントを羽織り、顔には黒い仮面という正装姿だ。
 組織を支えてくれている人の前で普段の格好では失礼と言うもの……そう考えた俺が一年前から依頼し制作していた衣装である。
 ちなみに本来はマントと仮面以外にも専用の服とズボンも作る予定だったが予算が足りなかった為に作れなかった……らしい。
 らしいというのは、この組織の予算を管理しているのが俺ではなく、現在、俺のすぐ後ろで同じように座っている西崎(にしざき)が管理しているからである。
 俺の発言に執事は「なるほど、わかりました」とだけ言うと本題を話し始めた。
162 :男「今日もラヴコメを手伝う仕事が始まる」(完全版) ◆rMzHEl9LA2 [age]:2013/01/23(水) 01:58:21.90 ID:Iqia15jC0
 
「まずはお疲れ様でした。主からは『いつも通り見事な手腕であった。今後の活動も期待している』との伝言を預かっております」
 
「ありがとうございます。今後もご期待に添えるよう努力します」
 
 俺は執事にそのままの姿勢でそう答えた。
 執事はその言葉に満足したのか「ええ、お願いします」とだけ言って続きを話し始める。
 
「主は貴方を高く評価しております。くれぐれも裏切ることの無いように……」
 
 執事がそう告げてすぐに巨大ディスプレイの映像が消える。

「総帥、皆が待っています」

 後ろを振り返るとすぐ近くに美少女――――西崎律子(にしざき りつこ)が立っていた。
 長く綺麗な金髪、宝石のように綺麗な瞳、モデルのようにバランスよく整った顔と身体。ハーフである日本人の父親とスウェーデン人の母親から生まれたとかで、両親のいい所だけを全て受け継いだと思うほど完成された超美少女である。
 まあ、そんな超美少女が近くに居ようと俺には関係ない話である。なぜなら、フラグが立つのはただしイケメンに限るなのだから……。

「どうかされましたか?」

「……いいや、何でもない」

 西崎にそう答え、俺は舞台の少し前へと出る。
 すると、消えていたライトが点灯し、俺が立っている場所を明るく照らす。
 舞台の下には覆面姿の部下たちが俺の言葉を待っていた。
 俺はその大勢の部下たちの期待に答えるために高々に宣言した――この組織の理念を!
 
「事実は小説より奇なり! 故にラヴコメは現実である! つまり、ラヴコメは現実でないとならないのだ! 私はここに『人類ラヴコメ化計画』を必ずや成し遂げる事を宣言する!」
163 :男「今日もラヴコメを手伝う仕事が始まる」(完全版) ◆rMzHEl9LA2 [age]:2013/01/23(水) 02:02:57.50 ID:Iqia15jC0
 
 目の前に居る部下たちから歓声があがり、いつしかそれはラヴコメコールとなる。
 俺は片手を上げ、その歓声に答える。
 
「そ・う・す・い! そ・う・す・い!」
 
「総帥! 総帥! 総帥!」
 
「さすが総帥! 俺達に出来ない事を平然とやってのけるッ!」
 
「そこにシビれる!」
 
「あこがれるゥ!」
 
 ラヴコメコールはいつしか、総帥コールへと代わる。
 目元が潤んでくる。
 被った黒い仮面の下で俺は今、猛烈に感動していた。
 まさか、部下たちがこんなにも俺を支持してくれているとは思ってもいなかった。
 普段、総帥の俺が何故か前線で活動していたから、てっきり部下達に嫌われていると思っていたがそうではなかった。
 勘違いだった。この同じ志を持つ同士達と共に一緒に夢(ロマン)の実現を目指そうじゃないか!
 部下達の期待に答える為に何かパフォーマンスでもしようかな、など考えているとマイクを持った西崎が俺の前に立った。
 そして、マイクを口元に持っていき――
 
「――では、これで集会を終了いたします。バイトの皆様、お疲れ様でした」
 
「へ?」
 
 バイトの皆様? 何の事ですか?
 などと混乱している間に部下達が俺に背を向けゾロゾロと外へと出て行く。
 混乱する俺を無視して西崎の言葉は続く。
 
「タイムカードの切り忘れが無いよう、気をつけてお帰りください」
 
「あぁ〜、終わった、終わった〜」
 
「あの総帥だっけ? 話が短くて助かったよ、わたし」
 
「ウイッー!」
 
 あっという間に出入り口に向う人の波が消える。
 そして、部屋には俺と西崎だけとなった。
 
「どういうこと?」
164 :男「今日もラヴコメを手伝う仕事が始まる」(完全版) ◆rMzHEl9LA2 [age]:2013/01/23(水) 02:08:02.80 ID:Iqia15jC0

「と、いいますと?」

 西崎は質問の意味がわからないという風に首をかしげて聞いてくる。
 俺は先ほど人の波が消えた出入り口を指差しながら言った。

「あいつらだ! あ・い・つ・ら! ……俺の部下だよな?」

 西崎は顎に人差し指を当てて思考した後、一言。

「部下ですよ? 掛け持ちありですが……」

「掛け持ち? なんだ、そのアルバイトみたいな話は……」

「アルバイトですから」

「アルバイトぉおおおお!?」

「はい、彼らは自給八五〇円で雇われた学生アルバイトの方々です。今日は総帥が来るまで休み時間、昼休み、放課後をコールの練習で計八時間の労働をすでに終えましたので強制終了させていただきました。八時間以上の労働は労働基準法に違反しますので……」

 自給八五〇円って……高っ!?
 しかも、ここの生徒だと!?
 通りで覆面以外は見たことある学生服だと思ったわ!

「……ち、ちなみに正規メンバーは?」

「総帥、私の計二名となります」

「あとは雇われたバイトかよぉおおお!!」

 西崎の言葉を聞いて床に両の膝と手の平をつけうな垂れる。
 その姿はまさにorz(オーアールゼット)といったところだろう。
 そんな姿の俺を無視して西崎は言った。

「では、私もすでに八時間の労働が過ぎてますので帰らせて頂きます。お疲れ様でした、総帥」

 ペコリと頭を下げた西崎が俺に背を向けて出入り口へと向って歩き出す。

「総帥も一緒に……」

「ん?」

 姿勢をそのままに俺は頭だけ起こし出入り口の方へ視線を向ける。
 そこには扉に手を掛けたところで、こちらに背を向け止まる西崎の姿が見えた。

「……たまには一緒に帰りませんか?」

 人を誘うことに慣れていないのだろうか? 振り返り、少し恥ずかしそうに西崎はそう言った。
 彼女と知り合って一年……そういえば、一度も一緒に帰ったことはなかったな。
 当然と言えば当然である。アニメで例えれば彼女はヒロイン入りするレベルの美少女、そして、俺はモブキャラレベルが妥当だ。
 モブキャラがメインキャラを誘おうなど無謀なことをする訳もなく、当然、今まで彼女とは仕事以外では全く関わる事はなかった。
 そんな、美少女からの誘いだ。生まれてからその手のことに一度も縁のなかった俺は――

「よし、一緒に帰ろう!」

 ――当然、即答したのであった。

165 :男「今日もラヴコメを手伝う仕事が始まる」(完全版) ◆rMzHEl9LA2 [age]:2013/01/23(水) 02:17:39.30 ID:Iqia15jC0

 ***


 ラヴコメ――それは漢の夢(ロマン)である。
 可愛い幼馴染、可愛い妹、美人の姉、可愛い従妹、学園のアイドル、ツンデレお嬢様、以下略、以下略、以下略。
 そんな美少女達に囲まれて、キャッキャウフフな生活を満喫する。誰もがそんな主人公に憧れ、そして妄想した。俺もよく妄想した。毎日、妄想した。
 しかし、そんなみんなの憧れ、ラヴコメの主人公になれるかどうかは生まれた時点で決定している。絶望的なことである。
 魅力的なヒロイン達が周りに居るかどうかなんて、生まれ育った環境次第。生まれた時期、場所、立場が少しでも違えば無縁である。
 仮に天文学的な確立に勝利し、魅力的な美少女達が居たとしても、天文学的な確立で自分がイケメンに生まれなければ、一生、彼女達と関わることはない。
 そして、天文学的な確立に敗北した者の末路は――モブキャラである。
 ギャルゲやハーレムアニメ、ライトノベルなどでヒロインにも主人公にも関わることなく画面の隅っこで同類と当たり障りの無い会話をするだけの……モブキャラ。
 空から美少女が降ってくることも、ベランダに真っ白なシスターが干してあることも、美少女な魔法使いに召喚され異世界に行く事も無い。
 イベントは自分で起こすしかないし、起きるイベントも当たり障りの無いものばかり、同類とカラオケ行ったり、アニ○イト行ったりするだけの……そんなモブキャラ。
 天文学的な確立に敗北した多くの人間はこのモブキャラとなってしまう。俺もそんなモブキャラの一人である。
 中学生の頃、同じクラスの美少女に勇気を出して告白したら、「えっと。キミ、名前なんだっけ?」と言われ即撃沈。
 イジメ問題を解決して、美少女な後輩にフラグを立ててやるぜ! っと奮闘するもモブキャラの力なんかが及ぶ筈もなく解決できず、自力解決され結果的に撃沈。
 モブキャラ一人では、大勢の美少女にフラグを建てるどころか、たった一人にすらフラグを建てることが出来ない。舞台に観客は上がれない。それが現実。
 しかし、俺は考えた。モブキャラの力では舞台に上がれないなら、俺(モブキャラ)が同じモブキャラを舞台に押し上げ役者にする。
 俺(モブキャラ)は舞台に上がったモブキャラへ主人公になる為の演出協力(サポート)して主人公にしてやればいいのだと……。
 すぐに俺はネットで同士を探した。そして、2年後、スポンサーとなってくれる者と知り合った。
 そのスポンサーの協力で西崎と知り合い、二人でこの組織を作った。そして、高校入学後、俺達は計画を実行した。
 持ち前の空気っぷりを利用して悟られる事なく舞台の外から演出し、モブキャラの一人であった河野純一(こうの じゅんいち)を一年でラヴコメの主人公にする。
 何処にでもいる平凡な高校生だった河野純一は今では立派なラヴコメの主人公へと成長を遂げたのだ。

166 :男「今日もラヴコメを手伝う仕事が始まる」(完全版) ◆rMzHEl9LA2 [age]:2013/01/23(水) 02:20:43.32 ID:Iqia15jC0

「――新入生代表、相澤梓乃(あいざわ しの)」

「はい!」

 などと思考している間に入学式は進んでいた。
 入学式の進行役をしていた生徒会の副会長――西崎に名前を呼ばれた新入生が舞台の上に上がって行く。
 長い黒髪を左右で結び、ツインテールにした小柄な女の子……何となくだが『け○おん!』のあ○にゃんに似ているような気がした。
 まあ、似ているだけで当然、本物ではない。二次元の住人に三次元の世界に存在していないことぐらい理解している。
 だから、人は三次元の世界(リアル)から二次元の世界(アルカディア)へ行く方法を探し続けているのだから……。
 しかし、ニセモノのあ○にゃんか……ニセにゃんといったところだな。どうせなら、ニセり○ちゃんが入学してきてくれれば……いや、本物がいいな。うん。

「――本日はまことにありがとうございました」

 新入生宣誓を終えたニセにゃんがお辞儀をする。
 本来ならこの後、担任紹介が行なわれるのだが……新入生(ニセにゃん)はその場から動こうとしなかった為に先に進むことはなかった。
 ふと、気になった俺は新入生(ニセにゃん)の方へ視線を向け――彼女と目があった気がした。

「その! わたしの話になりますが! その、えっと……名前はわかりませんが去年のクラスと出席番号ならわかります!」

 新入生代表が何かをシナリオにない何かを話し始める。そんな妙な空気を察した周りの生徒達が騒ぎ始める。
 一度、彼女は視線を伏せると再び、こちらに視線を向けて言った。

「その人は去年、一年三組で出席番号は九番です!」

 去年の一年三組? つまり、現二年生になるのか……。
 そういえば、一年三組って俺が去年居たクラスだな……。いや、待て? 出席番号九番? それって確か……。
 去年、一緒のクラスだった現クラスメイトが俺の方へ視線を向けた。
 それに釣られるようにクラスメイト達が俺に視線を向け、いつしか教師含む全校生徒が俺を見ていた。
 新入生(ニセにゃん)は顔を真っ赤にして言った。

「好きです! わたしはその先輩が大好きです!」 

 教師、全校生徒を含む全ての人々が俺に注目し続ける。口を開け唖然としているそんな感じの顔を新入生(ニセにゃん)を除く全ての人達がしていた。俺もそんな顔をしていると思う。
 しばらくして、復活したクラスメイト達が「面白そうだし、協力してあげよ?」などと話している声が聞こえた。
 モブキャラの俺が周囲から興味を持たれる。それはそれはまさにイージーモードからベリーハードになったゲームのようなものであった。
 こうして俺は舞台の上へと上げられた。モブキャラのまま、何の演出協力(サポート)もない状態で、新入生(ニセにゃん)によって舞台の上に……。
167 : ◆rMzHEl9LA2 [sage]:2013/01/23(水) 02:26:25.53 ID:Iqia15jC0
これでプロローグは終了します。
本来は修正+追加で総集編のような予定でしたが、
全編書き直し+追加で新約○○みたいな形となってしまいました。
で、折角なので設定を少し変えようかなっと思い
キャラの名前や見た目等の変更、危険なネタを伏字にして回避したりしてます。
続きはまた、予告⇒投稿という形で章ごとに更新したいと思います。
では、皆様、おやすみ!
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/23(水) 06:51:59.57 ID:hEOLrV2go


楽しみに待ってる
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/23(水) 10:29:09.85 ID:tSUh65VBo
乙!ニセあずにゃんの電撃告白!設定も変わってるし、次回が楽しみだぜ
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/23(水) 19:09:22.31 ID:Iqia15jC0
ここで読みにくい場合はこちらで読んでみると読みやすいかも……。

『小説家になろう』http://ncode.syosetu.com/s1089b/
ラヴコメシリーズのPC版まとめサイト

『小説家になろう(携帯版)』http://nk.syosetu.com/n4722bm/
男「今日もラヴコメを手伝う仕事が始まる」(完全版)の携帯版まとめサイト

『小説家になろう(携帯版)』http://nk.syosetu.com/n4090bk/
男「今日もラヴコメを手伝う仕事が始まる」の携帯版まとめサイト

『タテ書き小説ネット』http://pdfnovels.net/n4722bm/
縦書きPDF表示で読めるサイト
171 : ◆rMzHEl9LA2 [sage]:2013/01/23(水) 19:10:20.18 ID:Iqia15jC0
ごめん、sageってなかったorz
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/27(日) 01:34:32.56 ID:JDsw+LPj0
今月中にもう一回ぐらい更新できるかもしれないです。
いつ更新するかは未定です……。
173 : ◆rMzHEl9LA2 [sage]:2013/01/27(日) 01:35:27.35 ID:JDsw+LPj0
>>172
ついてなかった……。
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/05(火) 17:43:33.53 ID:zePBgytDo
hayoSAY
175 : ◆rMzHEl9LA2 [sage]:2013/02/24(日) 22:49:02.49 ID:lv58WzA70
すみません、忙しくて今月は無理そうですorz
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/23(土) 19:04:40.48 ID:x7Ej+hneo
マダー?
119.10 KB   
VIP Service SS速報VIP 専用ブラウザ 検索 Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)