らき☆すたSSスレ 〜そろそろ二期の噂はでないのかね〜

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ]:2013/02/11(月) 19:07:56.21 ID:W145K4B60
ここは「らき☆すた」のSSスレです。

・どんなジャンルでもどんどん投下したまへ〜 by こなた
・でも、他所からの作品の無断転載は絶対ダメよ! by かがみ
・あとね、あんまりえっちなのはちょっと恥ずかしいから遠慮してほしいな by つかさ
・メール欄に「saga」と入力するとこの板特有のフィルターを回避できます。「sage」ではありませんよ。
 代表的な例が「高良」です……よろしくお願いしますね by みゆき
・長編作品はタイトルをつけてもらえるとまとめるときとかに助かります! by ゆたか
・それと、できればジャンルを明記するようにしてほしいの。
 特定のジャンルが苦手な人もいると思うから…… by あやの
・パロディとかクロスオーバーとかもおっけーだけど、
 あんまり度が過ぎると他の人に引かれっから気をつけろよなー by みさお
・シラない人へのハイリョがアればgoodネー byパティ
・初めてでもよっしゃーいっちょ書いたろかって人大歓迎するでー by ななこ
・まとめてくれる人募集中です……そして、現在のまとめ人には感謝してます…… by みなみ
・お題を出せば書いてくれる職人さんもいるっス。ネタのため……
 いや、いろんなお話を読んでみたいんで、いいお題があったら書いてみてください! by ひより
・そしてそして、SSだけじゃなくて自作の絵もOK!
 投下された絵は美術室に展示されるからジャンジャン描くべしっ! by こう
・注意! 荒らしへの反応は絶対ダメ。反応する悪い子は逮捕だ! by ゆい


(避難所)
 
 避難所は休止中(再開の見込みは今の所ありません) 

(まとめサイト)
 http://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/

(SSスレ用画像掲示板)
 http://www.sweetnote.com/site/luckystar/

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1360577276
2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/11(月) 19:30:55.31 ID:PL0Oeqr7o
こんなスレが存在してたこと自体今知ったよあたしゃ
3 :ひよりの旅 39/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:16:47.10 ID:W145K4B60
前スレ続きです。

ゆたか「コンちゃんの教育係?」
私は頷いた。ゆーちゃんの話が終わると今度は私が今までの経緯を話した。ゆーちゃんは食い入るように私の話しを聞いていた。
ひより「昨日行ってきたけど……まぁ、子供と言うのか、笑っちゃうくらい」
ゆたか「そ、そうなんだ……」
ゆーちゃんは少し寂しそうな顔になった。
ひより「ん、どうしたの?」
ゆたか「え、あっ……佐々木さんは私にコンちゃんの話しはしなかったから……私ってまだ子供なのかな……」
ゆーちゃんがこんな事言うなんて……ゆーちゃんも教育係をしたかったのだろうか。
ひより「そうかな、佐々木さんは私にゆーちゃん程詳しく自分達の話しをしてくれなかったから……同じじゃないかな?」
ゆーちゃんはあまり納得していなかった様子だった。私は話しを続けた。
ひより「それで今度、柊家に彼を連れて行く」
やたか「えぇ、それって、正体を話しちゃうって事、だ、ダメだよ」
身を乗り出して迫ってきた。
ひより「い、いや、そうじゃなくて、まばぶさんがまつりさんにお礼を言いたいって言うから……勿論、正体なんかばらすつもりは無いよ、いきなりコンはお稲荷さんで、
    人間に化けて来ましたよ、なんて言ったって信じてくれるわけ無いから」
ゆーちゃんは私から離れてホッと胸を撫で下ろした。
ゆたか「そうした方が良いよ……まつりさんにお礼……もしかして、コンちゃんは……まつりさんの事……」
ひより「そうだね、愛している……とは言えないけど、少なくとも好意は持っていると思う、殆どまつりさんが世話をしたって言うから、当然と言えば当然だね」
ゆたか「……そ、そうなんだ……ねぇ、ひよりちゃん……」
今度は改まって私に迫ってきた。だけど目は私を見ていない。言い難い話しなのかな。
ゆたか「うんん、何でもない……なんでもない……まなぶさんとまつりさん……か……うまく行くと良いね」
何を言おうとしたのだろう。少し気になるけど……今は考えるのは止めよう。
ひより「ふふ、ダメダメ、きっとまつりさんの好みじゃないと思うよ」
ゆたか「そんな事ないよ、きっとうまくいくよ!!」
珍しく私のおふざけに食いついてきた。もちろんまつりさんの男性の好みなんて知らない。適当にふざけただけだった。それなのにこの食いつき様は……
これはゆーちゃんも私と同じような状況にあると思って良い。
『よし!』
頭の中で気合を入れた。
ひより「もしかして、ゆーちゃんも誰かと誰かをくっ付けたい、なんて思っていない?」
ゆたか「えっ!?」
ゆーちゃんの表情が固まった。図星だ。この状況から察するに答えは自ずと導き出される。
ひより「ズバリそれは、佐々木さんといのりさん……」
ゆたか「え、え〜ど、ど、どうしてそれを……」
動揺してどもってしまうゆーちゃん、やっぱりゆーちゃんは嘘を付けない。ちょっとだけホッとした。
ひより「佐々木さんがコンを引き取りに来た時、佐々木さんといのりさんが良い雰囲気だったのを思い出したから、もしかしたらと思ったのだけどね」
暫くするとゆーちゃんは納得したように落ち着きを取り戻した。
ゆたか「ひよりちゃん凄い……あの時そこまで気が付かなかった、鋭い洞察力だね」
ゆーちゃんにまで同じ様に褒められるとは。流石に照れてしまう。
ひより「それで、お二人はどこまで進んでいるのかな〜?」
調子に乗った私はまたちょっとふざけ気味になった。ゆーちゃんの顔が曇った。
ゆたか「私がいのりさんに整体院を教えてから何度か通うようになって……」
いのりさんが整体院に通う……見た所身体が悪そうに見えないけど……好きになると通いたくなるものなのかな〜
整体師と巫女の恋物語……う〜ん、ちょっといやらしいかな、いや、そう思う私がいやらしいのかもしれない……でも、もっと良い題名付けられないかな……
ゆたか「ひよりちゃん……聞いている?」
ゆーちゃんの声に我に返った。
ひより「は、はい、 なんでしょうか、佐々木さんが通うようになった……はい、次お願いします」
ゆーちゃんは頬を膨らませて怒った。
ゆたか「やっぱり聞いてない……」
やばい、やばい、妄想が止まらなくなってしまう。いつもの癖が出てしまった。私はゆーちゃんを見て集中した。
ゆたか「……いのりさんが佐々木さんに好意を持っているのは私もそこで分ったのだけど……佐々木さんの方がいのりさんを避けているような感じがする……
    何とかしたいのだけど、私の力ではどうする事も出来ない……何か良い考えがないかな……」
4 :ひよりの旅 40/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:18:31.09 ID:W145K4B60
ひより「う〜ん」
両手を組んで考え込んだ。これは難題だ。そもそも恋愛は私の得意分野ではない。いや、そもそもこうすればこうなるみたいな方程式なんか無い。
それが恋愛……
まなぶとまつりさんも同じ。それはつかさ先輩と相手のお稲荷さんも然り。
ひより「ごめん、私もそれに関しては全くのノーアイデア」
ゆーちゃんは沈んだ顔になった。もしかして、ゆーちゃんはこの恋愛の為に私の記憶を消したのかもしれない。
そうだ、そうに違いない。それしか考え付かない。自分だけで解決したい……そうか。無理しちゃって……
ひより「まなぶとまつりさんを会わせてそのまままつりさんがまなぶを好きになってくれれば私は何もする事がない、でもそう簡単にはいかないと私も思っている、
    こうして片足を突っ込んだからには何とかしないと、お互いにね、ゆーちゃんもそう思っているでしょ?」
ゆたか「それじゃ……ひよりちゃんも?」
ひより「恋って他人がどうこうするものじゃないって言うのは認識しているけど、相手がお稲荷さんだとやっぱり放っておけない」
ゆーちゃんは当然と言わんばかりに相槌を打った。
ゆたか「このまま私はいのりさんと佐々木さんを担当するから、ひよりちゃんはまつりさんとコンちゃんをお願い」
ひより「うん」
さて、ゆーちゃんと話してほぼ目的を果たした。でも、もう一つ決めておかないといけない事がある。
ひより「……みなみちゃんにはどうやって説明するか、それが問題だね」
突然ゆーちゃんの顔が豹変した。
ゆたか「みなみちゃ……みなみには話す必要なんかないよ」
ひより「へ?」
私は呆気にとられた。どう言うことなんだ?
ゆたか「ひよりちゃん、この話しはみなみに話したらダメだから、約束して」
いつになく強い口調だった。
ひより「……約束するのは構わないけど、みなみちゃんと何かあったの」
ゆたか「ひよりちゃんには関係ない事だから……」
言葉のトーンが少し下がった様な気がした。関係ないと言われても関係ないはずはない。
ひより「もしかして、喧嘩でもしたのかな」
ゆたか「もうその話しは止めて!」
ひより「う、うん、もう話さないよ」
また強い口調になった。どうやら喧嘩をしたのは確かなようだ……そういえば泉先輩を見送った後、かがみ先輩がそんな話しをしたっけ。
私には気が付かなかったけど、かがみ先輩の方が私より鋭い目を持っているのかもしれない。
喧嘩とはまた厄介な問題だ。
ゆーちゃんはああ見えて一途な面をもっている。みなみちゃんはちょっと言葉足らずな所があるから今まで喧嘩をしなかったのが不思議だったのかもしれない。
やれやれ、これも私がなんとかしないとならいみたいだ。
ゆたか「あっ、もうこんな時間、もう遅いし、夕ご飯を食べていかない?」
いつものゆーちゃんに戻った。
ひより「え、私は……」
ゆたか「遠慮しないで、いつも二人で寂しいから、おじさんもきっと喜ぶし、ね」
ひより「……それではお言葉に甘えまして……」
なんだろう、ゆーちゃんにこんな二面性があったなんて、これもツンデレの一種なのだろうか。いや、みなみちゃんと何があったからかもしれない。
でも喧嘩なんてどっちもどっちって落ちが殆どだし……
取り敢えずまなぶと会う前にみなみちゃんに会う必要がありそう。

 夕食はゆーちゃんとおじさんを含めた三人で食べた。おじさんは泉先輩の話しかしなかった。ゆーちゃんは何故かつかさ先輩の話しが中心になっていた。
その合間を縫うように私は雑談をした。やっぱりなんだかんだ言って泉先輩が抜けたのはこの家にとって大きな出来事だったのだろう。
そんな気がしてならなかった。
話しは長くなりすっかり夜も遅くなってしまった。おじさんの車でゆーちゃんが家まで送ってくれると言うので送ってもらう事になった。

5 :ひよりの旅 41/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:19:25.02 ID:W145K4B60
ひより「家に連絡をとって兄に迎えに来てもらうよ」
ゆたか「うんん、引き止めたのは私だし、気にしないで」
ゆーちゃんは車のロックを解いた。
ゆたか「どうぞ」
私は助手席に乗った。そういえばゆーちゃんの車の運転は初めてだった。ゆーちゃんは運転席に乗りシートベルトを締めた。ゆーちゃんは私の方をじっと見つめた。
ひより「はい?」
ゆたか「シートベルト」
ひより「あ、そうだった」
私はシートベルトを締めた。その瞬間、ゆーちゃんの目つきが鋭くなった。道路の向こうの一点を凝視する目、獲物を狙う猛禽類そのものだった。
ひより「え、な、何?」
戸惑う私を尻目にゆーちゃんはサイドブレーキに手をかけた。
ゆたか「いくよ!!」
『ヴォン!!』
エンジンが爆音を上げた。
嗚呼……ゆーちゃんは成実さんと同じ血が流れているのを忘れていた。隣に座っているのは紛れもなく成実さんの妹であった。
その後の私はゆーちゃんのドライブテクニックを嫌と言うほど味わう事となった。

 数日後私はみなみちゃんに連絡を取った。するとみなみちゃんの方から私の家に出向くと言ってきた。私はすぐに了承をした。

6 :ひよりの旅 42/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:20:22.01 ID:W145K4B60
 さて、みなみちゃんを呼んだのは良いけどどうやって話せば……
ゆーちゃんは昨日の話しはするなと言う。曲がりなりにも約束をしたからにはうかつには話せない。
みなみ「急用は何?」
ひより「え、えっと……」
ここに来て口篭る。みなみちゃんはゆーちゃんと一緒に居たから気兼ねなく話せたけど、こうして二人きりだと話しのペースが掴めない。
どうやって切り出すか。みなみちゃんはまごまごしている私を不思議そうに見ていた。ここ単刀直入にいくしかなさそうだ。
ひより「最近、ゆーちゃんと喧嘩していない?」
みなみ「ゆたかと……喧嘩」
復唱するとそのまま黙ってしまった。ゆーちゃんと違って表情からは何も分らない。
ひより「泉先輩の引越しの見送りに来なかったでしょ、泉先輩が出発した後ね、ゆーちゃんが……」
みなみ「あの時は用事があったから……」
私の話しに割り込んで来た。
ひより「みなみちゃんの話しはしたくないって……数日前だよ、本当はゆーちゃんもここに連れてきて一緒に話しをさせたいくらい」
みなみ「……その必要はない、あんな分らず屋といくら話しても結果は同じ」
ひより「ちょ……みなみちゃん……」
みなみちゃんとは思えないセリフだった。事態は思ったより深刻そうだ。
みなみ「ひよりは聞いたの、佐々木さんといのりさんの話しは……」
ひより「えっ!?」
まさかその言い方からするとみなみちゃんも話しを聞いているって事なの?
みなみ「お稲荷さん、あえてそう言わせてもらう、彼らはつかさ先輩、かがみ先輩の命を奪おうとした、そんな人達といのりさんを一緒にさせるなんて正気の沙汰とは思わない」
ひより「人間もいろいろ居るのと同じ、お稲荷さんだっていろいろ居る、佐々木さんは私が見た所普通の人と同じ思考だと思う、いや、普通の人より理性的、
    一緒に考えちゃダメだよ」
みなみちゃんはお稲荷さんの事を良く思っていない。つかさ先輩の話しを聞いていた時は感動している様にみえたのに……
みなみ「みゆきさんは言った、人は人意外愛せないって……まして彼らは他の星から来た者、愛し合うなんて出来るはずない、ゆたかのしようとしている事は悲劇しか生まない」
う、確信を付いてきた。確かに普通に考えるとそうかもしれない。でも、何故、みなみちゃんは心変わりしてしまったのかな。高良先輩の名前が出てきたけど……
そうか、高良先輩の影響をもろに受けてしまったみたい。高良先輩もお稲荷さんを良く思っていないって泉先輩が言っていたのを思い出した。
みなみ「ひよりからも止めるように言って欲しい……」
急に悲しい顔になった。喧嘩をしていてもゆーちゃんを心配している。そこは変わっていないみたい。なんかホっとした。
でも、みなみちゃんの言っている内容はそのまま私がしようとしている事に対しても止めろと言っている様に聞こえる。
ゆーちゃんはこうなるのを分っていて話しをするなって言ったのかな。
ひより「私は……止められない、正しいのか、間違っているのか、私には分らないけど、これだけは言える、好き合っているなら良いんじゃないの」
みなみちゃんは私を鋭い目で睨みつけた。
みなみ「……ゆたかはそんな不確かな感情で動いている、遊びで二人を弄んでいる、それこそ佐々木さんの怒りを招くだけ……」
ひより「あ、遊び……」
みなみちゃんは立ち上がって身支度をし始めた。
遊びだって……私はそんな浮ついた気持ちでまつりさんとまなぶを会わせようなんて思っていない。胸が熱くなった。込み上げる感情を抑えられなくなった。
ひより「違う、違うよみなみちゃん」
みなみちゃんは身支度を止めた。
みなみ「違う?」
ひより「そうだよ、私は命を懸けて佐々木さんの所に行った、それを遊びだなんて言わないで、私は……私は、少なくと私は間違っていないと思うから、二人を会わせて、
    その後は二人で決める、それだけだよ、無理強いなんかしないし、させない、切欠を与えるだけ、それでもダメなの?」
みなみ「な、なにを言っているのか分らない、私はゆたかに言っているのに、なぜひよりがムキになる……」
私は我に返った。しまった。思わず自分に言われているような気がしてしまった。そんな私を見てみなみちゃんは微笑んだ。
みなみ「ひよりが趣味以外で熱く語るのを初めて見た……ゆたかが羨ましい」
みなみちゃんは身支度を終えると部屋を出ようとした。
みなみ「私は手伝えない、だけどひよりが正しいと思うならゆたかを助けてあげて……お邪魔しました、帰ります」
みなみちゃんは部屋の扉に手を掛けた。
ひより「もし、真奈美さんが生きていたら、きっとつかさ先輩の友達……親友になっていたよね、うんん、もうとっくに親友だった、二人はお稲荷さんと人間だよ……
    だから私も同じ様に……」
一瞬動作が止まったけど、そのまま玄関の方に向かい、家を出て行ってしまった。
ゆーちゃんとみなみちゃんの仲直りすら誘導できないなんて……みなみなちゃんの言うように私達は間違っているのかな……
いや、成功させれば誰も文句は言わない。ゆーちゃんの為にも成功させてみせる。

7 :ひよりの旅 43/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:21:21.40 ID:W145K4B60
 私達は柊家に向かっていた。
ひより「打ち合わせの通りお願いね、シミュレーションを忘れないように」
まがぶ「分った……」
それから一週間後、二回目のまつりさんの取材の日になった。今度はまなぶと一緒だ。まつりさんがどんな行動をするか事前にシミュレーションをしておいた。
万全には万全を、少しでもまなぶの好感度を上げておきたい。あれ、まなぶの表情が硬い。
ひより「まなぶさん、まだ会ってもいないのに緊張しちゃダメ」
まなぶ「分っている、分っているけど、人間として会うのは初めてだ、私を見てどう思うだろう?」
ひより「……私はまつりさんじゃないから分らない、あまり気取らないで自分らしくいくしかないと思う」
この程度のアドバイスしか出来ないとは我ながら情けなくなる。
まなぶ「……家が見えてきた」
ひより「まつりさんには私のアシスタントも同行するって言ってあるから」
まなぶは手の平に人と三回書いて飲んでいる……そんなおまじないで緊張が解けるわけ……まさかお稲荷さんがその起源?
確認をする間もなく柊家の玄関の前に着いた。
ひより「それでは行きます……」
私は呼び鈴を押した。暫くすると扉が開いた。
かがみ「いらっしゃい、待っていたわよ……」
私の隣にいるまなぶをかがみ先輩がじっと見た。かがみ先輩にはまなぶの正体はまだ言っていない。取材が終わったら話すつもりでいた。
かがみ「……貴方が田村さんのアシスタントね……」
ひより「はい、大学の同級生でまなぶと言います」
まなぶ「よろしくお願いします!」
まなぶは深々と頭を下げた。
かがみ「取り敢えず中に入って、まつり姉さんが買い物から帰ってこないのよ……」
ひより「はい」
私達は家の中に入った。
かがみ「居間で待っていて、直ぐに呼ぶから」
かがみ先輩は携帯電話を取り出した。
まなぶは何の迷いもなく居間に向かって歩き出した。しまった。まなぶはこの家は初めての筈、だ、だめだよ。私は小走りでまなぶの前になって居間に進んだ。
ひより「家に入ったら勝手に歩いたらダメって言ったでしょ?」
私は彼の耳元で囁いた。
まなぶ「あっ、そうだった、ごめん、狐の頃を思い出してしまった、今度から気を付けるよ」
まなぶも小声で囁いた。これじゃ先が思いやられる……
かがみ先輩は携帯電話でまつりさんと会話をしている。おそらくさっきは見られていない。
かがみ「そうなのよ、もう彼女達来ているわよ」
……
かがみ「忘れていたって……ちょ、姉さんしっかりしてよ、今どこに居るの?」
……
かがみ「それじゃ直ぐ戻ってきて……急いで!!」

8 :ひよりの旅 44/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:22:34.09 ID:W145K4B60
 かがみ先輩は携帯電話を仕舞うと居間に来て私達の前に座った。
かがみ「ごめんね、姉さんすっかり忘れたみたい、急いで戻ってくるから少し待っていて」
ひより・まなぶ「はい」
かがみ先輩は私の隣に座っているまなぶをじっと見つめた。
かがみ「ふ〜ん、成る程ね……」
かがみ先輩は腕を組み納得する様に二度頷いた。
ひより「なんでしょうか?」
かがみ先輩はまなぶを指差し言った。
かがみ「あんた、コンじゃない?」
ひより・まなぶ「ふえ?」
あまりに唐突で、的を射た発言に私達二人は奇声を上げるしかなかった。そんな私達を見てかがみ先輩は笑った。
かがみ「図星みなたいね」
ひより・まなぶ「ど、どうして分ったの?」
かがみ「コンは人の顔を見る時、二回瞬きをする、そのタイミングと間隔が全く同じだった」
まなぶは慌てて両手で目を隠した。それを見たかがみ先輩はまた笑った。
ひより「そ、それだけで、たったそれだけで分ったのですか?」
かがみ「勿論それだけじゃ分らない、田村さんのいままでの行動や、私の体験、つかさの話しとかを総合的に考えてね……今は私しか家に居ないから
    思い切って聞いてみたのよ、仮に違っていても彼にさんにとっては意味不明な会話になるから問題ない」
ひより「まいったなぁ〜そこまで考えた上の質問だったっスか……私からはもう何も言う事はないっス」
まなぶ「ま、まずい、これじゃまつりさんにもバレしまう……は、早く帰ろう……」
慌て始めたまなぶを見てまたかがみ先輩は笑った。
かがみ「ふふ、まつり姉さんは分らないわよ、お稲荷さんの話しを知らない、仮に知っていたとしてもまなぶさんとお稲荷さんを結びつけるような思考はないと思う、
    田村さんみたいに想像力がある人じゃないと理解できないわよ」
ひより「そ、そうですか」
これって、褒められているのだろうか……
急にかがみ先輩は真面目な顔になった。
かがみ「それはいいとして……なぜ連れてきたの、コンの話しをするのに本人を連れてくるなんて……もっと相談くらいはして欲しかった」
私とまなぶは顔を見合わせた。
ひより「……これには人には話せない深い事情がありまして……」
かがみ「深いって……今更私に何を秘密にすると言うのよ、つかさ、こなた、みゆき、私はもう殆ど知っているのよ、貴女達だってつかさから聞いているでしょうに」
ひより「はい、ですから事情であります」
かがみ「事情……事情って何よ」
かがみ先輩はまなぶの方を見た。まなぶは俯いて少し顔が赤くなっている。
かがみ「……何よ、人に言えない様な恥かしい事なの……」
私達は黙った。
かがみ「……ちょっと待って、まさか、まつり姉さんを……た、田村さんちょっとこっちに来なさい」
かがみ先輩は立ち上がり居間を出た。
かがみ「まなぶさんはそこで少し待っていて下さい」
私は居間を出ると二階に上がりかがみ先輩の部屋に連れられた。部屋に入るとかがみ先輩は扉を閉めた。
かがみ「どう言う事なの、あんたまなぶさんを好きじゃなかったの」
ひより「いいえ、私は別に好きでもなんでもないです、あの時は否定するほどかがみ先輩が勘違いされるものですから……」
かがみ先輩は自分の間違えに気付いたせいか少し照れてしまっていた。
かがみ「そ、そうだったの……そ、それなら別に問題はないけど……それにしても、選りに選って……まつり姉さんなのか……」
私は頷いた。
かがみ「確かにまつり姉さんはコンの世話をしたかもしれないけど……それはあくまで犬として、狐として見ていただけでしょうに」
ひより「それは私も彼に言いました、それでもお礼を言いたいって……」
かがみ「……あんた、何故そんなに首を突っ込む、下手をするとつかさの二の舞になるわよ……」
みなみちゃんと同じような言い方だ。
ひより「もう突っ込んでしまっていますから、私が何もしなくてもまなぶさんはきっとまつりさんに会おうとする、それならお膳立てくらいはしても良いかなって……」
かがみ先輩は腕を組んで考え込んでしまった。ここまで話したのならもう一つの話しもするかな……
ひより「あの、もう一つついでに……いのりさんと佐々木さんも同じような事をゆーちゃんがしようとしています」
かがみ「はぁ……な、なんだと、つかさといい、姉さん達といい、あんな狐に化けるお稲荷さんのどこが良いのよ」
呆れ顔でお手上げのポーズのかがみ先輩。
ひより「つかさ先輩は置いておいて、お二人はまだお稲荷さんの正体を知らないから何とも言えないっス」
『ブルブルブル』
かがみ先輩のポケットから携帯のバイブ音が鳴った。かがみ先輩はポケットを手で押さえた。
かがみ「まつり姉さんが帰ってくる……あぁぁん、もう、こんな時に限って早いんだから……もうこうなったら自棄(やけ)よ、田村さんは居間に戻って、
    私もそれとなく手伝うから、どうなっても知らないわよ」
ひより「はい!!ありがとうございまス」
私は急いで居間に戻った。かがみ先輩が協力してくれるとは思わなかった。希望が湧いてきた。

9 :ひよりの旅 45/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:23:56.18 ID:W145K4B60
 居間に戻るとまなぶが心配そうな顔をしていた。
まなぶ「な、何か悪い事でもしたかな?」
ひより「あ、ああ、何でもない、それよりまつりさんがそろそろ来るって、シミュレーション通りで行くから……」
まなぶ「分った」
言えるはずも無い、かがみ先輩が勘違いしていたなんて……わざわざかがみ先輩が部屋を移した意味がやっと分った。
まつり「ただいま〜ごめん、ごめん、すっかり忘れてた〜」
玄関の方からまつりさんの声がした。
かがみ「ごめんじゃないわよ、最低よ……文句は後ね、それより急いで、居間で待機しているわよ」
階段から降りてきたかがみ先輩。呆れた様子が声だけで分る。
まつり「サンキュー!」
まつりさんが居間に入ってきた。
ひより・まなぶ「こんにちは〜」
まつり「こんにちは……」
部屋に入ったまつりさんは最初にまなぶに目線を向けた。
ひより「あ、紹介します、私の大学で、アシスタントをしている……」
まつり「宮本さんでしょ、話しはかがみから聞いてる」
聞いているって何を……まつりさんの顔が少しにやけているように見えた。
まつり「お似合いのカップルじゃない」
ひより・まなぶ「へ?」
居間の入り口から半身隠れてかがみ先輩が私の方を向いている。腕を顔まで上げてゴメンのポーズをしていた。ま、まさか、
『なんて事をしてくれたの!!!』
私は心の中で叫んだ。早とちり過ぎる。すんなり協力するなんて言ったのはこの為だったのか。
ひより「ち、違います、私達はそんなんじゃありません」
まつり「その必死に否定するのが余計に怪しい……」
まつりさんは笑いながら私達の前に座った。この誤解を解くのは並大抵のことじゃ出来ない……
まなぶが呆気にとられて放心状態になっている。まずい、まつりさんのペースに流されてはいけない。
ひより「あ、あのですね……」
まつり「ふふ、冗談はこれまでにして、取り敢えず自己紹介、私は柊まつり、この家の四人姉妹の次女、大学を卒業して現在は近所の工場の経理をしています」
まつりさんはまなぶの方を見ていた。さっきまでのふざけた姿とはもう違っていた。私は肘で軽く突いて合図をした。まつりさんの切り替えの早さには私も付いていけない。
まなぶ「私は宮本まなぶです、田村さんと同じ大学で学んでいます、家が遠いので佐々木整体院の佐々木さんの所に住み込させてもらっています」
まつり「佐々木整体院……佐々木さんの親戚なの?」
まなぶ「はい」
まつり「それじゃ、そこで飼っている犬のコンは知っているでしょ?」
『しめた!!』

私は心の中でガッツポーズをした。シミュレーション通りの反応だった。
嘘を付けばその嘘を誤魔化すためにまた嘘を付かなければならなくなる。嘘が嘘を呼び収拾がつかなくなり、重なっていくうちに辻褄が合わなくなりやがて嘘はバレてしまう。
私は考えた。嘘を付く必要なない。要はまなぶの正体だけを隠せば良い。
まなぶは実際に佐々木さんの家に住んでいる。居候であるのも事実。そこに何の間違えも無い。
そこで私は佐々木さんに頼んで苗字を付けてもらった。そして私の大学の学生になってもらった。佐々木さんの友人に戸籍や名簿の操作を出来る友人が居て、その人がしてくれた。
佐々木さんの友人なのだからやっぱりその人もお稲荷さんに違いない。

まなぶ「はい、コンは散歩が好きでよく佐々木さんと出かけていましたね」
まつり「ふふ、田村さん、取材なら私より宮本さんの方が詳しいかもよ」
本人なのだから彼ほどコンに精通している人はいない。
まなぶ「この度はコンの世話をしていただいてありがとうございました、遅ればせながらお礼を言わせて下さい」
まつり「どう致しまして……」
やった。お礼を言う事が出来た。これでまなぶの目的はほぼ達成された。私の目的もほぼ達成した。
まつりさんはまなぶをじっと見た。
まなぶ「何か?」
まつり「う〜ん、何だろうね、初めて会うのに以前何処かで会ったような感覚……デジャビュって言うのかな」
まなぶ「私の様な人は沢山しますからね、他の人からも時より言われます」
まなぶとまつりさんの会話は私のシミュレーションでしていない領域に入った。あれほど緊張していたまなぶも自然体になっている。

10 :ひよりの旅 46/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:25:01.22 ID:W145K4B60
 まなぶとまつりさんの会話は弾み、私は会話の中に入る事すら出来ない状態だった。そんな時、まなぶは時計をちらちらと見だした。
私も時計を見てみた。そうだった。忘れていた。そろそろまなぶの変身時間が切れてしまう。
まつり「どうしたの?」
まつりさんもそんなまなぶの表情に気が付いた。
まなぶ「す、すみません、そろそろ私は帰らないといけません……」
そこにお茶とお菓子を持ってかがみ先輩が入ってきた。
かがみ「折角お菓子なので食べてからでもいいでしょ?」
まなぶ「そうしたのですが、時間がないので」
まなぶは立ち上がった。私も立ち上がった。
かがみ「田村さんも帰るの、少し話がしたいけど良いかしら?」
時間はいくらでもある。だけどまなぶが少し心配だ。
ひより「お話ですか……」
まつり「おやおや、宮本さんと一緒じゃないと淋しいのかな〜」
ひより「い、いえ、そのような事はありません、でス」
またぶり返してしまった。そんな気なんか全く無いに……
まつり「それなら、私ももう少し宮本さんと話したいから、宮本さんを駅まで送っていく」
ひより「それは……」
それはまずい、もし変身が解けてしまったら……
まつり「大丈夫、横恋慕なんかしないから」
うゎ、こんな台詞が出てくるとは。これ以上こだわると誤解が膨らむばかりだ。
ひより「それでは取材は終わりで解散します……」
まつり「それじゃ行きますかな」
まなぶ「はい」
二人は楽しそうに部屋を出て行った。
まなぶ「お邪魔しました」
玄関を二人は出て行った。

11 :ひよりの旅 47/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:26:11.07 ID:W145K4B60
 かがみ先輩が居間に入ってきた。
かがみ「どうした、二人がこうなるのを望んでいたんじゃないの、それとも彼が好きだった?」
私の表情はそんな風にみえるのだろうか。
ひより「い、いいえ、彼はまだ人間に化けられる時間が短いので……それが心配なだけっス」
かがみ「……そうだったの、確かに途中で狐に戻られたら姉さん……気絶するかもしれないわね……私ってこうゆう所が分らないからダメなのよね……」
珍しく卑下するかがみ先輩。私の前にお茶とお菓子を置いた。
かがみ「悪いとは思ったけど宮本さんと姉さんの会話を聞かせてもらった……巧いわね……真実を話して核心を隠すなんて、私も宮本さんとコンが別人のような錯覚を
    してしまった、もしかして田村さんが考えたの?」
かがみ先輩からこんな風に言われるなんて。
ひより「隠したいのは宮本さんの正体がコンであるこの一点のみなので……そこだけを隠すだけを考えたらこうなったっス」
かがみ「……凄いわ、私の手伝いなんて要らなかった、いや、むしろ足を引っ張った……ごめんなさい……」
ひより「先輩から謝れると私も困りまス」
かがみ先輩が謝るなんて初めてみた。泉先輩と言い合いの喧嘩をよく見たけどかがみ先輩が謝る姿は一度もなかった。
ひより「ところで話しってなんでしょうか?」
かがみ「小早川さんといのり姉さんについてもっと詳しく聞きたい」
ひより「私も詳しく聞いたわけではありません、ゆーちゃんも私と同じようにいのりさんと佐々木さんをくっつけようとしているみたいで……」
かがみ「いのり姉さんが佐々木さんの整体に通っているのは知っていた、でも、それはゆたかちゃんの勧めだと思っていた」
ひより「それもあるかも知れませんが……いのりさんは佐々木さんが整体院を建築する時の地鎮祭でもう既に会っていたみだいっス」
かがみ先輩は私の話しを驚きながら聞いていた。
かがみ「運命……この言葉はあまり好きじゃない、だけど何かに導かれているようなそんな気になる、それはそれとして、田村さんとゆたかちゃんは何故人の恋愛の
    お節介なんかするの、普通は放っておくものよ、それにね、たとえ姉さん達が恋人になったとしてもあんた達に何のメリットもないわよ」
メリット……確かに何もないかもしれない。どうしてだろう。私は自分に問いかけた。
何も答えは出てこない
ゆーちゃんの場合は何か理由はあるのだろうか……私自身が分らないのに他人の理由が分る訳がない。
ひより「何ででしょうね?」
手を頭の後ろに回して苦笑いをした。
かがみ「……呆れた、分らないでそんな事しているの……でも……そうゆうの嫌いじゃない」
ひより「強いて言えば、つかさ先輩の影響かもしれません」
かがみ「つかさの……確かにつかさが此処に居たら田村さん達と同じ様な事をしていたかもね……」
この雰囲気なら……
ひより「ところでかがみ先輩はどこまで進んだっスか?」
かがみ「わ、私にそんなお節介は無用よ!!」
相変わらず分り易い反応だった。これは恋人が居るのを認めているようなもの。それに、今はまつりさんで精一杯、かがみ先輩までは手が回らない。
ひより「どんな人なんです?」
かがみ「……私の大学のOB……法律事務所の仕事をしているわ」
ひより「社会人なんですか、どうやって知り合ったっス?」
かがみ「え、どうだったからしら……確か……彼が何か書類を大学に取りに来た時……道を尋ねてきたから……」
え、大学OBなら道なんか聞かなくて分るはず、なぜわざわざ聞くような事をしたのだろう。
かがみ「田村さん、どうかしたの?」
ひより「え、ええ、いや、大学の卒業生なら道を聞くのは不自然だと思いまして……」
かがみ先輩は今、それに気付いたような素振りで驚いていた。コンの正体を見破った人物と同じとは思えないほどの鈍感ぶり。
かがみ「そういえばそうね、どうして道なんか聞いたのかしら……」
ひより「別に考えなくても分りますよ」
かがみ「え、分るの、それだけの情報で?」
身を乗り出して迫ってきた。
ひより「最初からかがみ先輩を目当てで話して来たのですよ……簡単に言えば軟派っスね」
かがみ「え?」
突然おどおどし始めるかがみ先輩。いままで軟派された経験がないみたいだ。かがみ先輩くらいの女性なら一度や二度くらいはあっても不思議ではないのに。
う〜ん、男性を避けているようにも見えない。それは高良先輩にも言えるのだが、男性の方が敬遠してしまっていたのかな……
ひより「切欠は何にしても親しくされているのなら隠す必要はないのでは?」
この話しになってから既に赤く成っていた顔が更に赤くなった。
かがみ「だ、だめよ、恥かしいじゃない……」
泉先輩が言っていたけど。かがみ先輩は恥かしがり屋だって。話し以上だなこれは。これじゃ泉先輩にいじられるのも納得してしまう。
私もかがみ先輩が同じ歳なら同じ事をしていたかもしれない。
かがみ「それよりあんたはどうなのよ、彼氏くらい居るでしょ?」
私の場合は……
ひより「ご期待にそぐえませんで……」
かがみ「はぁ、これじゃ一方的じゃない……言っておくけど、こなたにだけは言ったらダメだから」
その泉先輩から受けたミッション。泉先輩はかがみ先輩に恋人がいるのを見抜いた。私が黙っていてももう遅いかも。でも、知らぬが仏とも言うし、ここは黙っておこう。
ひより「私が黙っていてもいずれ分っちゃいますよ?」
かがみ「それでも黙っていて」
ひより「はい……」
それから私達は雑談をして過ごした。

12 :ひよりの旅 48/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:27:11.15 ID:W145K4B60
 私は一息入れてかがみ先輩が出してくれたお茶とお茶菓子を口に入れた。
ひより「ふぅ〜」
やっぱり他人が淹れてくれたお茶は美味しい。
『ブ〜ン、ブ〜ン』
私のポケットの携帯電話が振動した。液晶画面を見ると……佐々木整体院からだ。
ひより「失礼します」
かがみ先輩に断りを入れて電話に出た。
ひより「もしもし」
すすむ『田村さんか……すまない、まなぶが失敗を……まつりさんの目の前で変身が解けてしまった、彼女はその場で倒れて私の診療所で眠っている……』
私が心配していたのが現実になってしまった。
ひより「私、そちらに行きます……何もしないで下さい、お願いします」
何もしてほしくない……私と同じように記憶を消されたら大変。万が一を考えて念を押した。
すすむ『何もしない、待っている……』
携帯を切り、ポケットに仕舞った。
かがみ「どうしたの、何かあったの?」
心配そうに私を見るかがみ先輩。事態は重大、黙っていられない。
ひより「まなぶさんがコンに戻ってしまったみたい……まつりさんの目の前で……」
かがみ「な、なんだと……そ、それで、姉さんはどうしたの」
かがみ先輩は立ち上がった。
ひより「佐々木さんの家で眠っているそうです」
かがみ先輩は両手を力いっぱいに握り締めていた。
かがみ「……私が田村さんを引き止めてしまったからだ……なんて事をしてしまったの……バカみたい……私は……つかさを助けられなかった……
    まつり姉さんまでも……」
つかさ先輩を助けられなかった。何かあったのだろうか。そういえばかがみ先輩は呪われたって言っていたけど、それと何か関係しているのであろうか。
ひより「かがみ先輩は何も知らなかったから、不可抗力っス」
かがみ「私は……私は……」
私の話しを聞いていない。私も急いで佐々木さんの所に行かないとならない。
ひより「あの、私、急ぎますので、お邪魔しました」
部屋を出て玄関に差し掛かった時だった。
かがみ「待って……私も行くわ……車の方が早く着くでしょ」
かがみ先輩の手には車のキーがあった。
ひより「は、はい……」
かがみ先輩は携帯電話を取り出しボタンを押した。
かがみ「あ、お父さん、かがみだけど、急用が出来て車を借りたくて……」
……
かがみ「うんん、近くよ、こなたの家の近くだから隣町」
……
かがみ「はい、はい、分った……」
かがみ先輩は携帯電話を仕舞った。
かがみ「急ぎましょ……」
ひより「はい」
私達は玄関を出た。

ひより「つささ先輩を助けられなかったって言っていましたけど、何ですか?」
かがみ先輩の用意した車に乗ると同時に私は聞いた。かがみ先輩はエンジン掛けてゆっくり車を出した。
かがみ「ごめんなさい、今は話したくない……」
話したくないのか、それではこれ以上私は何も聞けない。
その後佐々木さんの整体院まで私達は何も話さなかった。

13 :ひよりの旅 49/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:28:28.85 ID:W145K4B60
 佐々木整体院の駐車場に車を止めると私達は玄関に向かった。整体院の入り口には休診の看板が立て掛けられていた。
呼び鈴を押すと佐々木さんが出てきた。佐々木さんは私の後ろに居るかがみ先輩に気付いた。
すすむ「君は……確か……」
かがみ「まつりの妹のかがみです」
ひより「彼女はお稲荷さんの事は知っていますので大丈夫です、入っても良いですか?」
佐々木さんはドアを開けて私達を入れてくれた。
かがみ「姉さんは大丈夫なの?」
玄関に入ると詰め寄るように佐々木さんの側に寄った。
すすむ「あまりのショックで気を失った様だ、今は静かに眠っている……診療所に行こう」
診療所に向かう途中の居間を通ると居間からゆーちゃんが出てきた。
ひより「ゆーちゃん」
かがみ「ゆたかちゃん、どうして此処に?」
ゆたか「丁度診療中だったから、突然受付の方から悲鳴が聞こえて……私と佐々木さんが受付に行ったら、まつりさんが倒れていて……そのすぐ横にコンちゃんが……」
私達は歩きながら話した。
すすむ「受付に人が居なくて幸いだった、すぐに休診にしてまつりさんを診療室に連れて行った」
佐々木さんは診療室のドアを開けた。
すすむ「どうぞ」
診療室のベッドでまつりさんは静かに眠っていた。そのベッドの直ぐ横に狐の姿になったまなぶがまつりさんを見守るように座っていた。
かがみ「まつり姉さん……」
かがみ先輩は駆け寄ってまつりさんに手を伸ばした。
すすむ「待ちなさい、起こしてはいけない……」
佐々木さんは小声だった。かがみ先輩はその言葉に反応して立ち止まった。そして、恨めしそうに佐々木さんを見た。
すすむ「今は落ち着いている、しかし起きた時、彼女が発狂するようなら……」
ゆたか「記憶を消すのですね……」
まなぶ「ク〜ン」
まなぶは悲しそうな声を出した。
すすむ「残念ならそうじないと彼女の命が危ない」
かがみ「……それで記憶を消した場合、姉さんはどうなるの、まなぶさんや佐々木さん、コンの記憶まで消えるのか?」
すすむ「……それは分らない」
かがみ「分らないって、何よ、そんな不安定な術なんか……」
ゆたか「シー、かがみ先輩、声、大きい」
かがみ先輩は両手で自分の口を押さえて少し間を空けてから再び小声で話した。
かがみ「そんな不安定な術を姉さんに掛けさせないわよ」
すすむ「自分の見た現象が理解できず脳内が混乱し気を失った、今度目覚めた時、同じ事が起これば、彼女の脳内は飽和し、脳細胞が死んでしまう、それでも良いのか」
かがみ「姉さん……」
かがみ先輩はまつりさんの方を見てそれ以上何も言わず黙ってしまった。
まつり「う〜ん」
まつりさんが唸り声を上げた。
すすむ「まなぶ、小早川さん、田村さんは此処にいるとまずい、更衣室へ……かがみさんはこのまま居て下さい、そして私に合わせて欲しい」
かがみ「は、はい……」
私達は更衣室に向かおうとしたけどまなぶさんは動こうとしなかった。
すすむ「気持ちは分るが今は隠れてくれ……」
まなぶ「ク〜ン」
まなぶは動こうとしない。私が連れれにまなぶの所に向かおうとした時だった。ゆーちゃんが小走りにまなぶに駆け寄った。
ゆたか「コンちゃん、来て」
それでも動こうとしない。ゆーちゃんはまなぶを抱きかかえると小走りで更衣室に入った。私もその後を追うように更衣室に入った。
まなぶはゆーちゃんの腕の中でもがいて離れようとしていた。ゆーちゃんはそれを必死に放さまいと前足を握って押さえ付けていた。
ゆたか「ダメだよ、今、まつりさんがコンちゃんを見たら……お願い分って……」
まなぶ「フン、フン!!」
息が荒くなるまなぶ。しかしゆーちゃんの手はしっかりまなぶの前足を掴んでいた。
狐の姿になったまなぶはゆーちゃんの力でも容易に抑えられるみたいだった。もっとも変身が解けたばかりで力が出ないのかもしれないけどね。
ドアの隙間からベッドが見えた。まつりさんが動いたのが見えた。寝たまま大きく背伸びをしている。
14 :ひよりの旅 50/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:30:04.54 ID:W145K4B60
まつり「ふぁ〜〜」
ひより「まつりさんが起きたよ……静かに……」
その声にまなぶは抵抗しなくなった。ゆーちゃんは静かに手を放した。ゆーちゃんとまなぶは私と同じようにドアの隙間からまつりさんの様子を見る。
まつり「う〜ん、良く寝た……」
辺りを見回すまつりさん。かがみ先輩を見つける。
まつり「かがみじゃない、おはよ〜」
かがみ「何が「おはよ〜」よ」
まつりさんは暫くボーとしてから気が付いた。
まつり「あ、あれ、ここは……何処?」
すすむ「どうでしたか、私の整体は、途中で眠ってしまったので、ご家族の方をお呼びしました」
かがみ「まったく、迷惑掛けるのもいい加減にしろよな」
成る程、かがみ先輩はすすむさんに合わせている。
まつり「私って……あれ、確か宮本さんと一緒に……」
かがみ「どうせ此処まで来たから整体でもやっておこうと思ったのでしょ……」
まつりさんはベッドから起きて立った。
まつり「……そうだったかな……」
かがみ「帰るわよ……佐々木さん、どうもすみませんでした、姉さんも謝って」
まつりさんは戸惑いながらも佐々木さんにお辞儀をした。
すすむ「いいえ、また来て下さい、待っていますよ」
まつり「あれ……宮本さんは?」
一瞬、かがみ先輩と佐々木さんは怯んだ。まなぶも一瞬ピクリと動いた。
すすむ「あまりに気持ち良さそうに眠っているので……コンと一緒に散歩に行きました」
まつり「……そうですか、帰ってきたら今日はすみませんでしたと伝えて下さい……」
すすむ「伝えておきます、出口は玄関からどうぞ、履物はそちらにあります」
まつり「はい……」
かがみ先輩とまつりさんは居間の方に歩き出した。するとまつりさんは突然止まった。
まつり「フフフ〜」
かがみ「なのよ、突然笑い始めて……」
まつり「夢を見ていた、それが面白くってね……コンが宮本さんに化けちゃう夢だった、笑っちゃうね、彼、何処となくコンに似ているから……そんな夢をみたのかな」
『バン!!』
私は心の中で『しまった』と叫んだ。
突然まなぶが隙間をこじ開けて飛び出してしまった。私も、ゆーちゃんも止める暇がなかった。
そしてまつりさんの目の前走り寄るとお座りをした。
まつり「コン、コンじゃない、久しぶり……」
まつりさんはまなぶの頭を軽く撫でた。
まつり「ダメじゃない、飼い主より先に帰って来ちゃ……そういえば家でもそうだったな……今日はこの家に迷惑をかけたから帰らなきゃ…」
まなぶ「ク〜ン……」
まつり「そんなに悲しむな、また来るよ」
かがみ「駐車場に車があるからそこで待っていて……トイレ行ってから向かう」
かがみ先輩は車のキーをまつりさんに渡した。まつりさんはそのまま居間を出て玄関から外に出て行った。

15 :ひよりの旅 51/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:30:53.77 ID:W145K4B60
 私とゆーちゃんは更衣室から出た。
かがみ「佐々木さん、これはどう言う事なの……」
ゆたか「佐々木さん、何故、記憶を消しちゃったの、何故……」
私が聞きたい質問を先に二人がしてしまった。佐々木さんは椅子にゆっくり座り目を閉じた。
すすむ「私は記憶を消していない……まつりさん自身がパニックを回避する為に無意識に記憶を歪めたのだ……脳を守るための自己防衛だ……」
ゆたか「そ、そんな事って、これじゃ……」
すすむ「そうだ、これが私達の正体を知った人間の反応だ……これがあるが故に私達は人間に正体を教えられない、私達を認めてくれない……認めると精神崩壊がおきる……
    君達の様に在りのままの私達を受け入れてくれるのは希だ……」
かがみ「現実主義で、オカルト、迷信、ジンクスなんか信じない……そんな私でもパニックなんか起こさなかった、何故、まつり姉さんと何が違うと言うの」
すすむ「感性の違いとしか言いようが無い、後は知識や経験もあるのかもしれない」
まなぶ「ウォー!!」
まなぶは遠吠えの様に吠えると更衣室に走りこんでしまった。
ゆたか「コンちゃん……」
すすむ「小早川さん、田村さん、これで分っただろう……もう私達に関わるのは止めてくれ……」
まさか……これを言いたい為にわざわざ私をまんぶの教育係にさせた訳じゃないでしょう。いくらなんでもあんまりだ。
ひより「私……」
かがみ「ちょっと、何よその言い草は……」
私の言い出したのを打ち消すようにかがみ先輩が猛烈な勢いで佐々木さんに詰め寄った。
かがみ「いきなり変身を見せれば誰だってああなるわよ、私や田村さん、ゆたかちゃんはね、事前に狐や、変身の話しを体験者から聞いているのよ、
    違いはそれ以上無いわ、まつり姉さんだって知っていればあんなに成らなかった」
佐々木さんは静かに立ち上がった。そしてかがみ先輩とは対照的に静かに、ゆっくりと話した。
すすむ「話しを聞いただけで正常でいられるなら貴女達はやはり特別だ、話からリアルに想像できる感性を持っている、私は……私達はこうして何度も
    人間と別れてきた……無二の親友になった者もいる、それでも、正体を見ると……もう分るだろう、
    何故殆どの仲間が人を避けるようになったのを……人間と争い、憎むだけが理由ではないのだよ」
かがみ「……う」
喉が詰まったように黙ってしまった。
いつも勢いで押し切るかがみ先輩が静かに話す佐々木さんに押されて言い返せないなんて。
『ピピピピ〜』
沈黙を破るようにかがみ先輩のポケットから携帯電話の着信音が鳴り出した。かがみ先輩は相手も確認もせず透かさず耳に当てた。
かがみ「誰よ……」
鋭く尖った口調だった。
かがみ「遅くて悪かったな、詰まって出なかったのよ……」
うゎ、ちょっと下品すぎる。よっぽど佐々木さんとの言い合いで頭に来ているみたい……多分相手はまつりさんだろう。来るのが遅いから連絡したに違いない。
かがみ「今から出るから待ってろ!!」
話しの途中かもしれなかったけど強引に切りボタンを押して携帯を仕舞った。そして……佐々木さんを睨みつけた。
かがみ「ややこしいのよ、あんた達は、そんなに人間が嫌ならさっさと故郷の星に帰りなさい!!」
捨て台詞を吐くとそのまま玄関の方にドタドタと大きく足音をさせながら向かって外に出てしまった。

16 :ひよりの旅 52/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:32:06.91 ID:W145K4B60
『ブォン』
かがみ先輩の乗ってきた車のエンジン音がした。そしてその音は小さくなっていく。かがみ先輩とまつりさんは整体院を離れていった。
佐々木さんは診療所の窓からその車を見えなくなるまで見ていた。
すすむ「ふふ……ややこしい……故郷の星に帰れ……か……ズケズケとはっきり言う娘だ」
微笑みかがみ先輩の言った言葉を噛み締めながら言った。
すすむ「柊かがみ……彼女は数年前に我々の使う拷問術に掛けられた形跡がある……」
拷問術……やけに穏やかじゃない名前……もしかして……
ひより「それってもしかして呪いですか?」
佐々木さんは頷いた。
すすむ「そうとも言うか、私達の間では禁じられているものだ……命令を強制させるもので、反抗すれば激しい苦痛を伴う……」
そういえばかがみ先輩自ら呪われたって言っていたっけ。
ひより「つかさ先輩を殺そうとしたお稲荷さん達ですか?」
すすむ「それしかあるまい……術が解けるまで耐えたのか……強い精神力だ……いったい何を彼女に命令したと言うのだ」
ひより「それならかがみ先輩の心の中を見れば良かったじゃないですか?」
佐々木さんは苦笑いをした。
すすむ「ふふ、全ての仲間が出来る訳じゃない、それぞれ得手不得手があるのだよ」
佐々木さんは人の心を読めないのか……
ひより「え、つかさ先輩と真奈美さんの話はどうやって知ったの?」
佐々木さんはゆーちゃんの方を見た。そうか……ゆーちゃんが話したのか……
そのゆーちゃんは肩を落とし項垂れていた。まつりさんの行動がショックだったに違いない。
私がゆーちゃんに声を掛けようとした時だった。
すすむ「田村さん、小早川さん、短い間だったがありがとう、もう私達は放っておいてくれ、それが私達、君達の為だ……」
かがみ先輩に言ったのは本気だったのか。まさか私達にも同じ事を言ってくるなんて。
ゆーちゃんの肩が震えはじめた。項垂れていて表情が分らないけど、きっと目にはいっぱいの涙が溜まっているに違いない。
すすむ「小早川さん、呼吸法は全て君に教えた、私は必要ない……」
ゆたか「う、う……ほ、本当……に」
声が上擦って聞き取れない。だけど何が言いたいのか私には分る。
ひより「あまりに一方的じゃないですか、それに、まつりさんだって……」
まつりさんだって、二度見れば理解出来る筈。
すすむ「これ以上悲劇を繰り返すと言うのか、もう一度変身を見ればどうなるか、さっき見たばかりだろう……今度は失神では済まないぞ」
真剣な目で語る佐々木さん。どうやら嘘を言ってはいない。
ゆーちゃんはゆっくりと立ち上がった。そして玄関の方にフラフラと歩き出した。ちょ……いくらなんでも簡単に諦めすぎる。
ひより「待ってゆーちゃん、帰るのはまだ早いよ」
私はゆーちゃんを呼び止めた。ゆーちゃんは立ち止まった。
ひより「佐々木さん、まなぶさんの教育、まだ終わっていないっス」
まなぶ「まなぶも、もう人間には興味ないだろう、かがみさんも私達を恨んでいる……それもそうだ、呪いを掛けたのだからな、私達は分かり合えないのだよ……」
だめだ。佐々木さんはもう私達を避けようとしている。どうしよう。
かがみ先輩がお稲荷さんを恨んでいる……確かに別れ際にあんな捨て台詞をしたら……
でも、かがみ先輩は私がまなぶを好きだと勘違いをした時、励ましてくれていた。恨んでいたとしたら応援なんかしないで反対していたと思う。
そうか……かがみ先輩はお稲荷さんとか人間とかそんなカテゴリーで物事を考えていないのかもしれない。問題は本人と相手の気持ち、この一点のみ。
そう考えれば今の佐々木さんにかがみ先輩が怒ったのも頷ける。
よし、かがみ先輩のその考えを取り入れよう。

17 :ひよりの旅 53/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:33:15.59 ID:W145K4B60
ひより「いのりさんをどう思っているのですか?」
すすむ「どう思うとはどう言う意味だ」
ひより「そのままの意味です、好きか、嫌いか……私が見た所……少なくといのりさんは佐々木さんに好意をもっていると思います……」
ゆたか「ひ、ひよりちゃん……もう、もういいよ……これ以上は……」
力の無い弱弱しい声だった。私は構わず続けた。
ひより「どうですか?」
すすむ「それを聞いてどうする、もし、彼女が好きならまなぶの時の様にお節介をすると言うのか」
ひより「いいえ」
佐々木さんは気を悪くしたのか、少し眉毛が逆立った。
すすむ「なっ、バカにしているのか、遊んでいるのか」
ひより「好き合っているならお互いで決められる、かがみ先輩はそう言いたかった、過去に誰とどんな別れ方をしようが関係ないって……それに、さっきの怒り方、
    いのりさんを少なくとも嫌いじゃない、嫌いなら怒らない……でしょ?」
すすむ「……お節介だな……今日はもう帰ってくれ……」
佐々木さんはまつさんの寝ていたベッドのシートを畳み始めた。
私も帰り支度をてから更衣室の方を向いた。
ひより「来週の日曜日、確かまつりさんは何の用事もない筈、午前十時、駅で待っているいから……取材に行くよ、多分最後の取材になると思う」
『ゴト、ゴト』
更衣室の奥で何かが動いている音がした。多分まなぶは聞いている。
ひより「行こう、ゆーちゃん」
ゆたか「う、うん……お邪魔しました……」

 整体院を出てからゆーちゃんは一言も話してこない。私もいつ話そうかタイミングをうかがっていた。どうもそのタイミングは無さそうだ。
分かれ道が見えてきた。私は駅の方に、ゆーちゃんは泉家に向かう。そして、分かれ道に差し掛かった。
ひより「それじゃ、また……」
別れの挨拶が話すタイミングになってしまった。ゆーちゃんは俯いたままだった。私が駅の方に向かう道に身体を向けた。
ゆたか「待って……」
私は振り向いた。ゆーちゃんは悲しそうな顔をして私を見ていた。
ひより「何?」
ゆたか「……かがみ先輩が怒っていた理由って……ひよりちゃんが言っていた通りなの、かがみ先輩はお稲荷さんを恨んでいないの?」
ひより「うんん、分らない……私の推理と勘でそう思った」
ゆたか「分らない……そんな不確かな話しを平気で……」
ゆーちゃんの顔が険しくなった。
ひより「でも、それで佐々木さんの気持ちが少し分った、これは収穫だと思わない?」
ゆーちゃんはまた俯いてしまった。
ゆたか「……私が何度も試しても聞けなかったのに……コンちゃんとまつりさんを合わせて……佐々木さんの気持ちまで聞きだせちゃうなんて……」
ひより「まなぶさんとまつりさんは失敗だよ……佐々木さんだってはっきり「好き」と言った訳じゃないし……」
ゆたか「何故なの、ひよりちゃんは平気でいろいろな事が出来るの……私は佐々木さんやいのりさんがどうなるか……恐くて……先に進めない……
    整体院を出るとき、コンちゃんに会う約束までした……あんな悲しい事が起きたばかりなのに……」
そう言われるとそうなのかな……私は暫く考え込んだ。
ひより「別にたいした事じゃないよ……ぶっちゃけて言えば他人事だし……」
ゆちゃんは俯いた顔を持ち上げ、私を鋭く睨んだ。
ゆたか「た、他人事って、そんな言い方は無いよ」
表現が不謹慎だったかな。でも訂正する気はなかった。
ひより「私の人助けは生まれて初めてかもしれない、でもね、人助けなんて他人事じゃないと出来ないよ、いや、他人事だからこそ出来ると思うよ」
ゆーちゃんは納得出来ない様子だった。
ひより「溺れている人を助けようとして溺れている人の気持ちになったらどうなる?」
ゆたか「……それは……」
ひより「水か恐い、苦しい、もがいてももがいても浮かばない、下手をすれば自分が溺れちゃう……助けに行けないよね、他人事なら関係なく水に入れる、泳げなくても浮き輪を
投げられるし、周りを見れば助けを呼べるかもしれない」
そう、かがみ先輩は自分の恋愛に対しては放ってくれと言っているのに、私やまつりさんの事になると首を突っ込んでくる。それは他人事だから出来る事。
ゆーちゃんは目を大きく見開いていた。
ゆたか「私と全く逆なんだね……そんな考え方があるなんて」
ひより「うんん、私はまだ誰も助けていないから多分間違っているよ……こんな考え方、ゆーちゃんの方がきっと正しいね、忘れて」
18 :ひよりの旅 54/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:34:35.22 ID:W145K4B60
 ゆーちゃんには私の捻くれた考えは教えない方が良かったかな。
ゆたか「そんな事ないよ、何か今までモヤモヤしているのが取れた感じがする」
確かにそんな目覚めの時の様な顔をしている。あんな考えでも少しは役に立つのかな?
ゆたか「そんな事より、コンちゃんとまつりさん、また会って大丈夫なの?」
ひより「変身を見なければね、人間に居られる時間がもっと欲しい」
ゆたか「佐々木さんは一週間位が限度だって言っていたよ」
一週間か。まばぶは一日持つかどうかって感じだな。でも、この前みたいに変身が解けてその場に倒れていないみたいだから成長している。
ゆたか「やっぱり、私達のしようとしている事って、無理があるのかな……もう関わらないで、なんて……」
ひより「どうかな、佐々木さんは心底そうは思っていないかも」
ゆたか「どうして?」
ゆーちゃんは疑いの眼で私を見ている。
ひより「佐々木さんは向こう側のお稲荷さんの所じゃなくて人間の町に住んでいる、だから心底人間が嫌いじゃないと思うよ、嫌いなら整体院なんか開業しないでしょ」
ゆーちゃんは黙って私を見ていた。これからどうするのか考えあぐねているのかもしれない。でもそれは私も同じ。
まなぶに帰り際、あんな事言ったけど実際どうして良いか分らない。
ひより「う〜ん、困ったね、これは二人ではどうしようもないね、誰か応援を頼まないと」
一人、二人では出来ないけど、三人なら何とかなるかもしれない。
ゆたか「応援って、ひよりちゃん以外に誰を……つかさ先輩、お姉ちゃんは遠い所だし、かがみ先輩は怒っちゃったし……高良先輩は……ちょっと頼み難いよ……」
ひより「かがみ先輩は最初から協力してくれているよ……先輩達じゃなくて、居るよね、もっと身近な人が」
ゆーちゃんは首を傾げて考え込んだ。
ひより「やだな〜みなみちゃんが居るでしょ」
ゆたか「みなみ……ちゃん」
ゆーちゃんの顔が曇った。そうなると思った。喧嘩の本当の理由を聞きたい。だけど普通に聞いても教えてくれないだろう。
ひより「みなみちゃんが関わらないのは、お稲荷さんがつかさ先輩やかがみ先輩を苦しめたら、でも佐々木さんやまんぶさんと会えばそんなイメージは無くなると思う」
ゆたか「違う、そんなんじゃない、私が遊び半分でしていると思っているから……だから手伝ってくれない」
やっぱり。そうだったのか。
ひより「ゆーちゃんとみなみちゃんが初めて会った時、ゆーちゃんは気持ち悪くて苦しんでいた、その時、手を貸してくれたのはみなみちゃんだったよね」
ゆたか「う、うん、そうだけど」
小さな声で頷いた。
ひより「それならもう一度苦しんで居る所を見せてやればいいよ、遊び半分じゃない、真面目で真剣な所を見せればきっと分ってくれる、それがみなみちゃんだよ」
ゆたか「でも、それをどうやって見せるの?」
私は腕を組んで考えた……
頭の中の電球が光らない……まなぶの時に出てきたようなアイデアが出ない。でも、あれは半分成功して半分失敗してしまった。
まつりさんと一緒に帰すのはすべきではなかった。ちがう、違う、今はそんなの事を考えて居る時じゃない。とは言っても今度失敗したらゆーちゃんとみなみちゃん、
絶交してしまうかもしれない。失敗は許されない。
ひより「う〜ん」
頭を捻っても何も出てこない。
ゆたか「ひよりちゃん、もう良いよ、やっぱり人間とお稲荷さんは仲良くなれないよ、まして愛し合うなんて……地球の人じゃないから……しょうがないよね」
弱弱しく話すゆーちゃんだったけど、その言葉は私の胸にも深く突き刺さった。無理……つかさ先輩も愛し合っているのに別れた。無理なのか……
このままで良いのか、いや、良くない。何かが引っかかる。私のしている事が間違っているなんて思いたくない。
ひより「このままだと、みなみちゃんに「やっぱりこうなった」って笑われちゃうよ……みなみちゃんは結末が見えていた、だから手伝わなかった」
ゆたか「そうかもしれない……みなみちゃんに謝らないといけないね……」
謝る……何で、悪い事なんかしていない。
ひより「謝るのはまだ早いよ、まだ希望はある」
ゆたか「何、何で、この期に及んで何が出来るの」
ひより「まず一つ、まつりさんはコンとまなぶさんを夢の中で変身させていて精神を保った、まつりさんはコンがまなぶさんだったら良いなって思っている証拠、
    今はダメでも時間を掛ければきっと理解出来ると思う、それともう一つ、さっきも言ったけど佐々木さんも人間との係わり合いが嫌なら人間の社会に居ないでしょ、
    きっと心の何処かで人間が好きなんだよ、まだ諦められないと思わない?」
ゆたか「う、うん……」
力のない返事だった。

19 :ひよりの旅 55/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:35:46.78 ID:W145K4B60
「小早川さんじゃない」
突然後ろから声がした。私達は振り返るといのりさんが居た。なんでこんな所にいのりさんがいるのか。
ゆたか「まつりさん、こんにちは、もしかして整体院に行くのですか?」
いのりさんは頷いた。そうか、それなら理解出来る。私はいのりさんに会釈をした。
いのり「最近まつりが手伝ってくれないから、巫女の仕事は全部私がやっている、そのせいで疲れが酷くて、佐々木さんのマッサージは効くからね」
ゆたか「あっ、今日は臨時休暇でしたよ」
いのり「え、そうなの……残念ね……でも教えてくれてありがとう」
いのりさんは駅の方に引き返そうとした。
ゆたか「あ、あの、いのりさん?」
いのりさんは立ち止まり、ゆーちゃんの方を向いた。
ゆたか「佐々木さんをどう思いますか?」
いのり「どう思うって……」
いのりさんは空を見上げて少し考えた。
いのり「とても上手い整体師だと思う、小早川さんも元気になったみたいだし」
ゆたか「い、いえ、そうではなくて、男性として……」
その言葉を聞いた途端いのりさんの顔が少し赤くなった。私の方をチラリと見た様な気がした。私が居ると気になるのだろうか。
いのり「か、彼は優しいし、話しも面白いから……やだ、なに言わせるの、年上をからかうものじゃない」
さらに顔が赤くなった。
ゆたか「すみませんでした、それは好きって事でいいですか?」
いのり「突然何を言っているの、もう帰る!!」
いのりさんは駅の方に足早に向かって行ってしまった。ゆーちゃんはその姿を見えなくなるまで見送った。
ゆたか「ふふ、かがみ先輩と同じような反応だった、やっぱり姉妹だよ、ひよりちゃんが居たから意識してたんだね」
久しぶりにゆーちゃんの笑顔を見た。
ひより「いのりさんを試したの?」
ゆたか「うん……今まで聞けなかった、だけど、ひよりちゃんが他人事じゃないとダメだって言うから、そう考えたら、自然に聞くことが出来た……いのりさんは
    佐々木さんが好き……それで良いよね、ひよりちゃん?」
ひより「う、うん、私もそう思う」
突然積極的になった。私のアドバイスが効いたのか、それとも自棄になったのか。いや、自棄ならあんな笑顔はしない。ゆーちゃんは思っていたよりも
柔軟な思考の持ち主なのかもしれない。
ゆたか「二人は愛し合っている、大袈裟かもしれないけど……何とかしたい、だけどどうして良いのか分らない、やっぱりみなみちゃんの考えを聞いてみたい」
別に小細工なんか必要ない。今のゆーちゃんをそのまま見せればいいのでは。私でも分るのだからみなみちゃんなら……よし!
ひより「それなら明日は空いているかな?」
私も来週の日曜までに方針を決めたい。みなみちゃんに会うのは早いほうがいい。
ゆたか「うん、明日は午後からなら空いているけど」
ひより「それなら、明日、みなみちゃんの家に行こう、私が連絡しておくから、もちろんゆーちゃんが行くのは伏せておく」
ゆたか「伏せるの?」
ひより「喧嘩している相手がいきなり訪問じゃ構えちゃうでしょ?」
ゆたか「……喧嘩……そうだった」
ゆーちゃんの顔がまた沈んだ。
ひより「それじゃ帰るよ、明日、駅で待ち合わせしよう、時間はメールで送るから」
ゆたか「うん、分った、それじゃ」
私達は別れた。

20 :ひよりの旅 56/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:36:40.50 ID:W145K4B60
 私達は岩崎家の玄関の前に着いた。私は呼び鈴のボタンを押そうとした。
ゆたか「ちょっと、待って……私だけ追い出されたらどうしよう」
声が少し震えている。
ひより「普段通りでいけば大丈夫だよ……多分……」
自信がなかった。多分って、これでは不安を余計に助長してしまうではないか……ボタンを押すのを躊躇した。
ゆたか「うんん、大丈夫、いつかはこうやって会わないといけないから」
その力強い声に後押しされる様に私は呼び鈴を押した。いつもならおばさんがドアを開けて対応する。しかし今回はみなみちゃん自ら私達を出迎えた。
みなみちゃんは私を見ると少し隠れ気味にいたゆーちゃんを見た。何も言わずドアを全開にした。
そしてそのままみなみちゃんの部屋に案内された。おばさんは見えない、出かけたみたいだった。チェリーも外に出されている。何時になく静かに感じた。
ひより「ピアノの練習をしていたの?」
みなみちゃんは頷いた。家から微かに漏れてきたピアノの音、この家にはみなみちゃんしか居ない。聞くまでもなかった。でも、今はこんな事しか聞くことが出来ない。
やっぱりゆーちゃんとみなみちゃんは何時もとは違う雰囲気だ。
みなみ「もう少しで弾けるようになる曲を練習していた」
これが普通なら「聴いてみたい」とか「どんな曲なの」とか、ゆーちゃんは言うだろう。でもゆーちゃんは何も言わなかった。もちろん私も言えそうにない。
何か話す切欠でもと思ったのに……この沈黙。時間だけが過ぎていく。
みなみ「これ以上何も出来なくなった、だから二人は此処に来た」
見透かしたような眼差しで私達を見ていた。当たっているだけに反論できない。
みなみ「これで分ったと思う、恋愛に他人が口を出すなんて出来ない、ましてお稲荷さん、異星人と人間の恋だなんて……」
みなちゃんの言っている事は多分正しい。それじゃ私の、私達がしようとしているのは間違っているっているのか。
ゆたか「みなみちゃん、佐々木さんが人間なら、コンちゃんが犬だったら、私もみなみちゃんの言うように何もしないし、お節介なんかしない、だけど……
    佐々木さんもコンちゃんもお稲荷さんだから……放っておけないよ」
みなみ「放っておけない……」
放っておけない。確か私もそう思った。
ゆーちゃんはつかさ先輩の話しを聞く前からお稲荷さんを知っていた。みなみちゃんも同じ。
ゆーちゃんが言うには彼らは好き好んで狐の姿になっている訳じゃないらしい。彼等の母星の大気成分が地球と違っていて
素のままでは長い時間生きていけない。遭難して殆どの機械が壊れて、少ない機材を使い苦肉の策で近くに居た狐の遺伝子を使って地球の環境に合わせた。
そして、一時的なら他の動物にも化けられるようにしたらしい。
それから暫くしてから人類を発見したと言っていた。狐の姿だと何かと不便なので人間の遺伝子を取り込もうとした時に装置が壊れてしまって中途半端な
状態になってしまったらしい。
狐と人間の姿を繰り返しながら生きてきた。それがお稲荷さんの正体だ。
もし、狐よりも先に人間を見つけていたら動物に化ける必要はなかった。そのまま装置を直して母星に帰れたかもしてないし、人間の代わりに地球を支配していたかもしれない。
狐と人間を見つけた順番……これがお稲荷さんの運命を変えた。ほんの少し、少し違っただけで今とは違った世界に成っていたかもしれない。
そして、私も……
ひより「つかさ先輩の話しを聞かなければコンはすごく賢い犬で終わっていた、佐々木さんの整体院に調べに行ったりしなかった、記憶を消される事もなかった、
    佐々木さんの正体を知る事もなかった、勿論今日、こうして皆と会って話しをするなんて事もない、そして、なによりその出来事は私の想像をはるかに
    超えている……これは一生掛かっても体験できないと思う、そうでしょ?」
私はみなみちゃんとゆーちゃんを見ながら話した。
みなみちゃんは私が話すとは思っていなかったみたいだった。私を見ている。私は更に続けた。
ひより「惚れた腫れたは興味なんてないけど、いのりさんとまつりさんはそれとは違う何かを感じる……だからこうしてみなみちゃんに助けを求めているの」
みなみちゃんは溜め息をついて今度はゆーちゃんの方を向いた。
ゆたか「わ、私は、只、元気にしてもらったお礼がしたから、いのりさんも佐々木さんの事が好きだって分ったら……」
元気になったお礼か。確かに高校時代のゆーちゃんとは比べ物にならないくらい元気になった。顔色も良いし、体付きも大人びて見える。
その嬉しさは本人にしか分らないのかもしれない。
みなみちゃんはもう一度溜め息を付いた。
みなみ「二人の言い分は理解できる……それでも私は協力できない、出来たとしても……解決するだけの力も知識もない」
ゆーちゃんはガックリ肩を落とした。みなみちゃんを巻き込もうと言い出したのは私、言い出しっ屁としてはそう簡単に引き下がれない。
ひより「何故、それはお稲荷さんがつかさ先輩を殺そうとしたり、かがみ先輩を呪ったりしたから?」
みなみ「それは……」
言い訳をするつもり、言い訳はさせない。間、髪を容れずに話した。
ひより「みなみちゃんはお稲荷さんがした事を全てお稲荷さんのせいにしちゃうの、まずは佐々木さん、宮本さんに会ってからでも遅くはないでしょ」
みなみ「ち、違う」
否定をした。それなら私達の相談を断る理由はない。それなのに拒んでいるのは何故だ。その答えは一つしかない。
ひより「高良先輩がお稲荷さんを嫌いだからでしょ?」
みなみちゃんは黙ってしまった。図星みたいだ。
ゆたか「殺そうとしたお稲荷さんはつかさ先輩を救った、私を元気にしてくれた人もお稲荷さんだよ、高良先輩は忘れて、みなみちゃんの意思で決めてお願い」
悲痛の叫びのように聞こえた。
二人は喧嘩をしていると思っていたけど、これは喧嘩じゃない。ただ二人の意見が違うだけだったのか。喧嘩だったらゆーちゃんがこんなに親身にならない。
ひより「遊びかもしれない、余計なお世話かもしれないし、お節介かもしれない、だけど、こんな事が出来るのは学生の時くらいかもしれない、
    今なら失敗しても成功しても許されるよ、社会に出てしまったら成功しか許されなくなる……そうは思わない?」
みなみちゃんは黙ったままだった。私とゆーちゃんは顔を見合わせた。どうやら説得は無駄だったみたい。

21 :ひよりの旅 57/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:37:41.84 ID:W145K4B60
 私は立ち上がった。
みなみ「どうしたの?」
ひより「ごめん、やっぱり無理強いはよくない、私達二人で何とかする」
ゆーちゃんも私に合わせる様に立ち上がった。
ゆたか「うん、こんな話しを持ち込んじゃってごめんね、頑張ってみるから……」
諦めて一度帰る素振りを見せる……これは泉先輩がかがみ先輩によくやると言っていた。何度も成功しているらしい。
私達は泉先輩ではないし、相手はかがみ先輩でもない。成功するかまったく未知数。勿論失敗したら後戻りが出来ない諸刃の剣。
それを知ってか知らずかゆーちゃんは私に合わせてくれた。実際、ゆーちゃんは本当に諦めたのかもしれない。内心、祈るような気持ちで部屋を出ようとした。
みなみ「そこまでして……分った、直接参加は出来ないけど、一緒に考えよう……」
ゆたか「本当に、高良先輩はいいの?」
みなみ「みゆきさんにはむしろ協力して欲しい、私から頼んでみる」
ゆたか「やったー!」
飛び跳ねて喜ぶゆーちゃん。私もホッと一息ついた。ゆーちゃんは早速みなみちゃんの近くに座ったが直ぐに立ち上がった。
ゆたか「嬉しくなったら緊張が取れたのか……ちょっとお手洗い借りるね……」
ゆーちゃんは小走りに部屋を出て行った。部屋を出て行くのを確認するとみなみちゃんは溜め息をついた。
ひより「ありがとう、高良先輩までも巻き込んでくれて」
みなみ「……ゆたか一人では何も出来ない、それにひよりも巻き込むなんて思わなかった、まさか記憶を奪うなんて、ひよりは怒っていないの?」
ひより「うんん」
みなみ「それは良かった」
みなみちゃんは笑顔を見せたのも束の間、急に悲しい顔になった。
みなみ「ゆたかを止めたのは失敗するとか成功するとかの問題ではなかった、それはひよりにも言える」
ひより「え、何それ、何が心配なの?」
みなみ「もう既にゆたかには話した……ゆたかから聞いて」
ひより「やだなぁ〜そんな勿体ぶってさ、教えてくれてもいいじゃん、もう隠し事したって意味無いよ」
みなみ「もう、ゆたかには話したから……」
いったい何を話したというのだろうか。少し気になる。でもみなみちゃんは口を閉じてしまった。
ゆたか「おまたせ……」
扉を開けたゆーちゃんは私とみなみちゃんの表情を見て一瞬立ち止まった。
ゆたか「私がいない間に話しを進めちゃって、ずるいな〜」
ゆーちゃんはさっき座った所に腰を下ろした。さっきみなみちゃんが言わなかった内容を聞きたいけど流石にみなみちゃんの目の前では聞けない。
みなみ「佐々木さんと宮本さん、二人をそれぞれゆたかとひよりで担当していたと聞いたけど、それで合っている?」
突然みなみちゃんは本題に入り始めた。私がゆーちゃんに質問をさせないためだろうか。
ゆたか「うん、そうだよね、ひよりちゃん」
ひより「う、うん、そうだったね、ちょっと競争っぽくなったのだけどね」
みなみ「一人では力が分散してしまうと思う、例えば誰か一人を重点的にしてみたらどうだろう、佐々木さんと宮本さん、どちらが危機的かにもよるけど」
どちらが危機的か、それはどう考えてもまつりさんとまなぶだろう。
ゆたか「やっぱりまつりさんとコンちゃんかもしれない……」
これはゆーちゃんと同意見だ。私は頷いた。
みなみ「一致したなら話しは早い、まつりさんと宮本さんを二人で担当してみれば?」
私とゆーちゃんは顔を見合わせた。
ゆたか「やってみようか」
ひより「そうだね」
ゆたか「今度の日曜日、取材するって言っていたよね、私もそれに同席しても良いかな?」
ひより「別に構わないと思う」
話しはスムーズに進行していく。みなみちゃんはそれをただ見守っていた。

22 :ひよりの旅 58/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:38:43.92 ID:W145K4B60
 話しが終わり、帰りの時間が近づいてきた。私が玄関を出るとゆーちゃんはチェリーちゃんに挨拶すると言って庭の方に向かって行った。
そして玄関にはみなみちゃんと私が残った。
ひより「さて、どうなるかな、楽しくなってきた」
みなみ「……楽しくなってきたなんて、とても当事者の発言とは思えない」
ひより「うんん、当事者はいのりさん、まつりさんとお稲荷さんの二人、私とゆーちゃんはそれを傍観しているにすぎないよ」
みなみ「傍観者、まるで他人事の様に物事をとらえる、そんな考え方あるなんて、ひよりなら大丈夫かもしれない」
ひより「大丈夫って?」
ゆたか「おまたせ〜」
みなみちゃんから何か聞けるような気がしたけど、丁度ゆーちゃんが戻ってきて聞けなくなってしまった。
ゆたか「チェリーちゃん、お散歩がしたいみたいだった」
みなみちゃんは腕時計を見た。
みなみ「もうこんな時間、支度しないと」
ゆたか「そうだね、私達も帰ろう」
ひより「うん、みなみちゃん、今日はありがとう」
私達は岩崎家を後にした。

ゆたか「ひよりちゃん、みなみちゃんを説得する時、つかさ先輩の話しを持ち出したけど……」
駅に向かう道を歩いている時だった。歩きながら話しかけてきた。
ひより「私からしてみればつかさ先輩の話しがこの一件の始まりであり、切欠だからね」
ゆーちゃんは立ち止まった。私は二、三歩歩いてから止まりゆーちゃんの方を振り向いた。
ゆたか「ごめんなさい……」
突然の謝罪、意味が分らなかった。
ひより「いきなり謝られても意味が分らないよ」
私は一歩ゆーちゃんに近づいた。
ゆたか「ひよりちゃんの記憶を奪ったのはひよりちゃんにお佐々木さんの正体を隠す為じゃなかったの」
ひより「え、それ以外に何があるの言うの?」
私は更に一歩近づいた。今更理由が違ったとしても何が変わるものでもない。だけど興味はあった。聞いてみたい。
ゆたか「私……一人で解決したかった、だから……」
ひより「一人で、解決?」
余計分らなくなった。私の復唱にゆーちゃんは頷いた。
ひより「詳しく話して……」
ゆーちゃんは近くの公園に歩いて行った。私はゆーちゃんの後に付いて行った。

23 :ひよりの旅 59/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:39:59.35 ID:W145K4B60
 ゆーちゃんは公園のベンチに腰を下ろした。私はゆーちゃんの目の前に立ったまま話しを聞いた。
ゆたか「佐々木さんといのりさんを恋人にしてあげたい、そう思った、だけどそれは私一人で、私だけの力でしたかった、でも、ひよりちゃんはどんどん佐々木さんの正体に
    近づいてくるから、きっと正体を知れば私を手伝いたいって言うに違いない、そう思ったから、なるべくひよりちゃんを佐々木さんに近づけたくなかった……」
ゆーちゃんの推測は間違っていない。知れば私は手伝いに行く。現にまつりさんとまなぶに関してはゆーちゃんと同じ事をしている。
ひより「なんで、そんなに一人にこだわるの、こうゆうのは一人より二人、二人より三人で解決した方がいいに決まってる」
ゆたか「それは……つかさ先輩が一人で……一人で解決したから」
一人で、ゆーちゃんはつかさ先輩の話の事を言っているのか。
ひより「それはつかさ先輩と真奈美さんの話しを言っているの?」
ゆーちゃんは首を横に振った。
ゆたか「つかさ先輩は叩かれるのを覚悟してこなたお姉ちゃんを守った……凄いよ、」
ひより「確かに凄いと思った、いくらかがみ先輩とは言え、本気で殴りかかったからね、泉先輩も言っていたけど、一人旅をしたつかさ先輩は以前とは比べ物にならないね」
ゆたか「うんん、つかさ先輩は一人旅をする前からそうだった、私は知っていた、つかさ先輩の凄さ」
ひより「それはまた凄い評価だね……」
ゆたか「初めて会った時だった、つかさ先輩は私を見ると腰を下ろして同じ目線で話してきた、子供扱いされたと普通は思うけど、全然そうは感じなかった
   それどころかとても話し易くて、お姉ちゃんと話しているみたいだった、これはみなみちゃんでも感じなかった……」
ひより「つかさ先輩は誰とでもすぐに仲良くなれそうな感じはしていたけどね……でもそれはかがみ先輩、うんん、いのりさんやまつりさんの影響があったからだと思う」
最近、つかさ先輩の話しをすると思っていたけど、まさか憧れの対象だったとは……
そうか、ゆーちゃんは成実さんの運転の真似をしたのは成実さんへの憧れではなかった。つかさ先輩の真似をしたかったのか……
ゆたか「かがみ先輩が言っていたのを覚えてる、つかさ先輩の一歩先に居たかったって言っていたのを」
ひより「……そんなの言っていたね、一歩先どころか学年でもトップクラスだもんね、釣り合いが取れないよね」
ゆたか「うんん、かがみ先輩は知っていた、普通じゃつかさ先輩に勝てないって、学年でトップの成績くらい取らないとつかさ先輩と釣り合わない、つかさ先輩は
    数値や目に見えるものでは測れない物を持っていたから」
もしかしてそのつかさ先輩と同じようになりたいと思って今まで無理をしてきたって事なのだろうか。
ゆたか「でももうそれは敵わないのが分った、みなみちゃんの言うように私は一人じゃ何もできない」
そうか、みなみちゃんのアドバイスが裏目に出たのか、二人で解決するって今のゆーちゃんを否定しているのと同じだ。
ひより「みなみちゃんはゆーちゃんのその目的を知った上であんな事言ったのかな、それでもいいじゃない、ゆーちゃんはゆーちゃんだよ、別につかさ先輩になる必要はないし、
    かがみ先輩の様にする必要もないよ、ゆーちゃんだって数値や目に見えるものでは測れない物を持っているよ」
ゆたか「あるの、そんな物?」
潤んだ瞳で見上げて私を見ている。
ひより「つかさ先輩の隠れた才能を見抜くなんて誰もが出来ることじゃない、身内でもない、ましては高校になって初めて会ってそれが分るなら凄いと思うよ、それに、
    佐々木さんからお稲荷さんの秘密をいろいろ聞き出しているじゃない、まなぶさんも教えてくれなかったのも沢山あった」
ゆたか「そ、そうかな?」
ひより「そうだよ」
これは慰めでもなんでもない。私が思った事をそのまま話しただけ。笑顔が少し戻った。
24 :ひよりの旅 60/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:40:57.42 ID:W145K4B60
「バゥ!!」
突然私の後ろから白い陰が横切りゆーちゃんの目の前に覆いかぶさる様に現れた。
ゆたか「ちぇ、チェリーちゃん!!」
ゆーちゃんのその声に反応するようにゆーちゃんの目の前でお座りをするチェリーちゃん。良く見るとリードが付いたままになっている。
ゆたか「どうしたの、だめじゃない、みなみちゃんを置いてきちゃ」
ゆーちゃんはチェリーちゃんの頭を軽く叩いた。耳を折り畳み、申し訳無さそうな態度をとるチェリーちゃん。まるでまつりさんとコンのやり取りを思い出させる光景だった。
みなみ「チェリー!!」
公園の入り口からみなみちゃんが駆け寄ってきた。息を切らしている。
みなみ「ひより……ゆたか……まだ帰っていなかったの?」
私は頷いた。ゆーちゃんはチェリーちゃんを構っていてみなみちゃんに気付いていない。
みなみ「この公園は散歩のコースに入っていない……チェリーが突然を振り切って走って行ったから……」
ゆーちゃんの匂いでも追ってきたのだろうか。でも、こうしてまた三人が集まった。これは偶然か。偶然だろう……だけど。
ひより「チェリーちゃん、お稲荷さんじゃないよね?」
みなみ「まさか、普通のハスキー犬、私が小さいとき……」
ひより「ふふふ、分っている、冗談だよ、冗談」
私が笑うと暫くしてみなみちゃんも笑った。そして、ゆーちゃんとチェリーちゃんを見た。
ひより「まるで飼っているみたいに仲が良いね、ゆーちゃんとチェリーちゃん」
みなみ「うん」
ひより「チェリーちゃんは私には何故か唸るだよね〜」
みなみ「うん……」
ひより「ゆーちゃんはつかさ先輩に憧れていた、そしてつかさ先輩と同じようになろうとした、一人で人間とお稲荷さんの因縁を断ち切ろうとしていた」
みなみ「え……一人で……」
ひより「みなみちゃんには言わなかったみたいだね、考えてみれば言わない筈だよ、一人でしようとしたのだから」
みなみ「憧れは自分がそう成れないから憧れるもの、一人でなんて……はっ!!」
みなみちゃんは自分の言った事に気付いたみたいだった。
ひより「つかさ先輩はとんでもない事に巻き込んでくれた」
自分の世界に入っている。私の話しを聞いていない。やれやれ、それなら最初から喧嘩なんかしなければ良いのに。
みなみ「私は……ゆたかの真意を知らなかった……」
ひより「知らなかったじゃなくて、知られたくなかった、誰にも知られずに完結したかったんだね」
ゆーちゃんはみなみちゃんに気付いた。
ゆたか「みなみちゃん、いつの間に……」
みなみ「チェリーが迷惑をかけたみたい……」
ゆーちゃんはベンチから立ち上がった。そしてチェリーちゃんのリードをみなみちゃんに渡した。
ゆたか「ダメだよ、大型犬を放したら大変な事になっちゃうでしょ、小さい子にじゃれついたら大怪我だよ」
みなみ「確かに……」
みなみちゃんはリードを強く握り締めた。そんなみなみちゃんを見ながらゆーちゃんは話した。
ゆたか「人間になったり、狐になったり、遺伝子操作をしているのは分るけどそれ以上は分らない、遠い星から来るのくらいの文明をもっているのだから理解できなくて
    当然だよね、私達の知識や経験じゃ及びもしないよね、そんな彼らでも事故が起きてしまうなんて」
みなみ「今の私達より進んだ文明の技術、私達では理解出来ないくらい素晴らしいもの、でも、所詮人が使っている以上そんなものなのかもしれない」
ゆーちゃんは空を見上げた。
ゆたか「お稲荷さんの故郷……何故助けに来ないのかな……連絡はとれないの」
みなみ「みゆきさんが言っていた、お稲荷さんの故郷はおそらくとても遠い星、人間の技術で彼等の故郷と連絡はできないって」
ゆたか「そうなんだ……だから帰れないんだね」
ゆーちゃんは空を見上げるのを止め、みなみちゃんの方を見た。
ゆたか「帰れないのなら、やっぱり私達と一緒に暮らすのが一番」
みなみ「それが最善ならそうかもしれないけど……現実はそうではなかった、その原因は私達人間の方にあるのかもしれない……」
ゆたか「そうだね……難しいね」
ゆーちゃんとみなみちゃん、今まで話せなかった分を取り戻すように語り合っている。やっぱり二人はこうでなくてはならない。高校時代を彷彿とさせる。
私は二人の会話に入らず暫く見ていた。チェリーちゃんも静かに二人をみていた。

25 :ひよりの旅 61/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:41:53.51 ID:W145K4B60
ゆたか「ねぇ、私達が来る前に弾いていた曲って何、今度聞いてみたいな……」
みなみ「いつでも来て、弾いてあげる」
ゆたか「ありがとう、今度聴きにいくから」
今頃に成ってそんなのを聞くなんて。
でも、もう完全に仲直りしたみたいだ。もっとも喧嘩と言うよりは意見の相違からくる意地の張り合いだったのかもしれない。それでお互い気まずくなってしまっていたに違いない。
ひより「さて、すっかり日も落ちたし、この辺りでお開きにしましょうか」
『ファ〜〜』
チェリーちゃんが大きな欠伸をし、前足を前に出して背伸びをした。公園を出るのを察知したみたい。
私達は辺りを見回し話しに夢中になっていたのに気が付いた。公園の街灯が点灯している。
みなみ「ゆたか、ひより、頑張って」
私とゆーちゃんは頷いた。みなみちゃんはチェリーちゃんを連れて公園を出た。私とゆーちゃんも公園を出て駅に向かう。
ゆーちゃんの決意が分った。みなみちゃんの想いも分った……いや、分っていない。みなみちゃんは私に何を忠告したかったのだろう。聞きそびれてしまった。
それにしてもつかさ先輩に憧れるなんて……私にはそれを完全に理解は出来なかった。
一人で旅をして、家を出て、全く新しい環境で、全く新しい人々の中でレストランを切り盛りしている。そこで出会った人達と共に……強さ、たくましさを感じる。
その辺りに憧れのだろうか。それとも……いや、今はまなぶとまつりさんの事を考えないと……
う〜ん。頭がいっぱいになった。
帰って、お風呂に入りながら頭を整理しよう。

 その日曜日が来た。頭を整理どころか何の対策も思い浮かばないまま時間がすぎてしまった。
ゆたか「おはよ〜」
待ち合わせの駅前に既にゆーちゃんは居た。私を見つけるとにっこり挨拶をした。
ひより「おはよ〜」
挨拶を返した。
ゆたか「コンちゃん来るかな」
心配そうに駅の改札口を見るゆーちゃんだった。
ひより「どうかな、あの時の感じからするとどっちとも言えない」
ゆたか「私、いろいろ考えたのだけど、何も思い浮かばなくて」
ひより「それはこっちも同じだよ、ただ言えるのは小手先の作戦じゃダメだね、かと言ってあまり深く掘りすぎてもダメかも」
ゆたか「それじゃ何も出来ないよ」
ひより「そうだね、何もできない……でも、それが一番良いのかもしれない、自然の流れに合わすしかないよ」
無策の策と言うのだろうか。我ながら情けない。

26 :ひよりの旅 62/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:43:06.29 ID:W145K4B60
 約束の時間を過ぎてもまなぶが現れる気配はなかった。
このまま待っていても仕方がない。
ひより「さて、行こうか」
ゆたか「え、待っていなくて良いの?」
私は頷いた。しかしゆーちゃんは納得出来ない様子だった。
ひより「まつりさんと会って、またまなぶさんが狐に戻った所を見られたらそれこそお仕舞いだよ、」
ゆたか「そうだよね、それだけは避けないとね」
ひより「だから来ないのも正解なのかもしれない」
ゆたか「それじゃ、私達だけで行こう……あ、あれ?」
ゆーちゃんは不意に建物の陰の方を向いた。
ひより「何?」
ゆたか「あれ、犬……うんん、狐だよ……さっき影が横切ったのが見えた」
私もゆーちゃんと同じ方向を見た。
ひより「何は見えないけど……」
ゆーちゃんはまた別の所に顔を向けた。
ゆたか「あ、まただ、きっとコンちゃんだよ」
ひより「どこ、どこ?」
私はキョロキョロと周りを見渡したが何も見つける事はできなった。
ゆーちゃんはゆっくりと歩き始めた。
ゆたか「今度はこっちだよ、私達を誘導しているのかも」
ひより「ゴメン、私にはさっぱり……」
私はゆーちゃんの後に付いていった。ゆーちゃんは影を追いながら歩いて行った。

27 :ひよりの旅 63/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:43:59.57 ID:W145K4B60
ひより・ゆたか「ここは……」
影に導かれて来た所は、神社の奥にある倉庫。それは私達が最初にコンを連れてきた場所だった。
まなぶ「ごめん、街中で、人前で話したくなかったから此処に連れてきた、人気の無いここなら話が出来る」
私達の後ろからまなぶの声がする。私達は振り返った。
ひより「まなぶ……さん」
ゆたか「え、この人が?」
そうか、ゆーちゃんは人間になったコンを見ていないのか。まなぶは私達に歩いてきた。
まなぶ「結論から先に言う、今日は柊家に行かない」
ゆたか「ど、どうしてですか、正体さえ知られなければ大丈夫ですよ」
まなぶ「その正体が問題なんだ、私はまだ1日も人間で居られない、そんな不安定な状態でまつりさんと会うなんて出来ない」
ゆたか「で、でも」
まなぶ「せめてすすむと同じくらい、一週間は人間で居られるようにする、そらからだよ……一ヵ月後か、一年後か」
ゆたか「それならコンちゃんの姿で……」
まなぶは首を横に振った。
まなぶ「やっぱり犬じゃだめなんだ、人間として彼女と会いたい、そう思うようになった、それがどう言う意味かもね、私は彼女、柊まつりが好きだってこと」
ひより「す……き」
その言葉を聞いた瞬間なんとも言えない感情が込み上げてきた。
ゆたか「そうなんだ、それじゃしかがないね、ちゃんと変身できるようになってからでも遅くないかも、その時になったら手伝いを……」
まなぶ「いや、もういいよ、田村さんはもう充分に協力してくれた、あとは私だけでしたい」
そうだった。これ以上私の出る幕はない。
ひより「その通り、もう私の出来る事はここまで、後は二人の問題だよ」
ゆたか「ひよりちゃん、そんな中途半端でいいの?」
私は頷いた。
ひより「中途半端どころか、目的はそれだよ、これ以上の介入はそれこそ余計なお節介になるからね」
ゆたか「う〜ん……」
ゆーちゃんは納得のいかないような表情をした。
まなぶ「それより、すすむが変な事を言い出して困っている」
ゆたか「変な事?」
まなぶ「ああ、整体院を閉めて遠くに引っ越すなんて言いだした」
私とゆーちゃんは顔を見合わせた。
ゆたか「どうして、いのりさんは諦めちゃうの」
まなぶは両手を広げてお手上げのポーズをした。
まなぶ「それは私も言った、だけどダンマリだったね、その代わりに、仕事をしすぎた様だって言っていた、そろそろ攻撃されるって……意味が分らん
    人間の君達なら何か分るのではないか?」
私とゆーちゃんはまた顔を見合わせた。分るはずもない。
まなぶ「すすむは大勢の人間を治してあげているのになぜ攻撃されなければならない、小早川さんなんか初診の時とは見違えるほど元気になったじゃないか」
その言葉にピンと来た。
ひより「それは、同業者とか、他の団体から圧力がかかるのかな、整体で出来る範囲を超えて治しちゃうと怪しまれるのかも、正当な治療をしなかった…違法な
    事をしたんじゃないかとか……」
まなぶ「それは、妬み、嫉妬って言いたいのか」
ひより「まぁ、そうとも言うね……」
まなぶ「人間って嫉妬深い生き物なんだな」
人間以外の人から言われると身につまされるような思いに駆りたたられる。何も言い返せなかった。
まなぶはメモ帳を取り出し書こうとしたけど止めた。
まなぶ「書き留める必要はないか、我々もまた嫉妬深いのかもしれないからな」
まなぶはメモ量を仕舞った。
まなぶ「さて、私は帰る、すすむには思い留まるよう説得してみるつもりだ、時間があったら君達も頼むよ、予定では二ヵ月後に引越しみたい」
ひより・ゆたか「はい」
28 :ひよりの旅 64/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:45:28.05 ID:W145K4B60
まなぶは後ろを向くと狐の姿になった。そしてそのまま草むらに消えていった。狐に戻っても気を失わなくなっている。思ったよりも早くまつりさんの再会ができそうだ。
ひより「さて、私達も行きましょうか」
ゆたか「行くって、何処に?」
ひより「柊家だよ、約束しているしね」
私が歩き出してもゆーちゃんはその場に留まったままだった。
ゆたか「でも、コンちゃん、宮本さんは居ないし……」
肩を落とし落胆している様子が私にも分る。
ひより「かがみ先輩の様子もみないといけないから、泉先輩のミッション……あ」
しまった。これは内緒の話しだった。
ゆたか「……ひよりちゃん、この状況で別の依頼まで出来るの……私はそんなに頭が回らない、いのりさんと佐々木さん……私じゃ力不足だった」
ゆーちゃんは佐々木さんが引っ越すのを気にしているのか。そのおかげでミッションはスルーだ。良かった。
ひより「いや、優先順位を見誤っただけだよ、まつりさんはコンの時に基本的なコミュニケーションが取れていたからまなぶさんになっても手を掛ける必要は無かった、
    私なんか必要ない位だよ、問題なのはいのりさんと佐々木さん、人間同士だけの付き合いだから手を焼く必要があった、それだけだよ、ゆーちゃんのせいじゃない」
それでもゆーちゃんは動こうとしなかった。
ゆたか「ひよりちゃんは凄いね、そんな分析まで直ぐにできるなんて、なんでそんなに切り替えが早いの……まるで図書館でいくつもの小説を代わる代わる読んでいるような、
    週刊誌の漫画を好きな順番で観ているような……楽しんでいる、そんな感じにさえ見える……これも他人事だからできるの?」
ひより「え、えっと、それは〜」
私ってそんなに気移りするように見えるのかな。私はまつりさんもいのりさんもかがみさんも別の物語だとは思っていない。
ひより「別の漫画とか小説とか、そんなんじゃないよ、この物語は一つ、全てはつかさ先輩の一人旅から始まった一つの物語、こう考えられない?」
ゆーちゃんは目を閉じて暫く考えた。そして目を開けて首を何度も横に振った。
ゆたか「だめ、ダメだよ、まつりさんはまつりさん、いのりさんはいのりさんだよ、それぞれ別だよ……ごめんなさい、少し考えたいの……ごめんなさい」
ゆーちゃんは走って倉庫を出て行ってしまった。そして私一人が残った。
私ってあまりに客観的に考えすぎるのだろうか。ネタを探すときとかは主観的に考えると詰まる場合が多い、だから一歩も二歩も引いて考える。
時には自分でさえも他人として考える……ゲームのプレーヤーとキャラクターと同じ関係、キャラクターを画面から操作しているからキャラクターがいくら危険な目に遭っても
悲しい出来事があっても進んでいける……泉先輩もそれに似ているように思っていたけど……従姉妹のゆーちゃんがあの反応じゃ違うのかな、やっぱり私は普通じゃないのかな……。
腕時計を見た。もう行かないと約束の時間に間に合わない。一回深呼吸をした。
それでも私は行くしかない。柊家に。

 柊家の玄関の前、ゆーちゃんは見当たらない。きっと帰ってしまったのだろう。気を取り直して私は呼び鈴を押した。出てきたのはかがみ先輩だった。
かがみ「いらっしゃい」
かがみ先輩は私を見てから周りを見渡した。
かがみ「ゆたかちゃんと宮本さんは、一緒だって聞いていたけど?」
ひより「はぁ、実は諸事情がありまして……」
かがみ先輩は溜め息をついた。
かがみ「そっちも大変ね、まつり姉さんも居なくてね、急に仕事が入ったとか言って出て行ったわ……連絡する時間もなくて、ごめんなさい」
これで私の目的は泉先輩のミッションだけになってしまった。これは今までの出来事に比べればお遊びみたいなもの。かがみ先輩は彼氏とうまく行っているいみたいだし、
私の出る幕はなさそうだ。ゆーちゃんも心配だし……
ひより「そうですか、それでは今日は無しと言う事で、お手数を掛けました」
私は会釈をして帰ろうとした。
かがみ「待って、興味があるわ諸事情に、良かったら聞かせて」
かがみ先輩はドアを開けた。かがみ先輩は笑顔で私を迎えた。
ひより「……お邪魔します……」
吸い込まれるように私は泉家に入った。そしてかがみ先輩の部屋に案内された。

29 :ひよりの旅 65/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:46:56.97 ID:W145K4B60
かがみ「宮本さんがまつり姉さんを好きだって?」
〇ッキーを食べながら驚くかがみ先輩だった。私は今までの出来事をかがみ先輩に話した。
ひより「はい」
かがみ「まぁ、分らないではないわね、宮本さんの正体がコンならばね……人間としてか……彼は本気みたいね、私はその気持ちを大事にしたい、問題はまつり姉さんが
    どう思っているか、それだけだわ、私から見た感じではまんざらでも無さそうよ、他に彼氏もいなさそうだし」
ひより「本当ですか!?」
私は少し声を高くして聞き返した。かがみ先輩は食べかけた〇ッキーをお皿に置いた。
かがみ「あくまで私が見た感じよ、本人に直接聞いたわけじゃない、確証はないわ」
ひより「そ、そうでした、軽率でした」
かがみ「それより、いのり姉さんと佐々木さんが心配ね」
ひより「あの、佐々木さんが整体院を辞めて、引越しするのは……」
かがみ「そうね、これも本人聞かないと真意は分らないけど、大筋、田村さんの推理で合っていると思う、確かにあの整体院は評判が良すぎたかもしれない、
    そこに利害が出てきて、いろいろな事を考える族(やから)が出てくるのも確かよ……考えてみれば私達人間の方もややこしいわね……」
かがみ先輩はまたお皿に盛った〇ッキーを食べだした。
かがみ「田村さんも遠慮なく食べなさいよ、お茶も入れたし」
かがみ先輩はお菓子の盛られたお皿を私に差し出した。私はお皿を掴んだ……あれ、かがみ先輩はお皿を放そうとしない。私は少し力を入れた。しかしかがみ先輩は放そうとしない。
ひより「いゃ〜、かがみ先輩、全部食べたいならそう言って下さいよ……」
かがみ先輩は何も言わなかった。しまった。禁句(タブー)を言ってしまったか。私は慌ててお皿を放した……
ひより「か、かがみ先輩?」
私の問い掛けにまったく反応しない。まるで人形の様に固まっている。
ひより「かがみ先輩、冗談はよしてください……」
全く反応がない。もっともかがみ先輩はこういった冗談はしないタイプだ。私はかがみ先輩の目の前で手を振った。反応なし。この時、事の重大さに気付いた。
ひより「かがみ先輩!!!」
ありったけの大声、そしてかがみ先輩の両肩を掴んで前後左右に激しく揺さぶった。かがみ先輩の全身が激しく揺れる。
ひより「しっかり、しっかりするっス、だめ、死んだらダメ、つかさ先輩が、ご両親が……私だって……私だって……」
なんだろう。目の前のかがみ先輩が歪んで見える。目頭が熱くなってきた。
こんな時は救急車を呼ぶのが先だっけ……
頭はそう思っていても手ははかがみ先輩から放れなかった。
泉先輩との漫才。時には怒って、時には笑って……そんな光景が頭の中を過ぎっていく。
冷静に。
早くかがみ先輩から離れて電話を……
別の私が私に語りかけてくる。私は我に返ってかがみ先輩を放した。そして携帯電話を取り出し119番に掛けようとした。
かがみ「ちょっと、お菓子が全部床に落ちちゃったじゃない……」
電話をする動作を止めてかがみ先輩の方を見た。かがみ先輩は何事も無かった様に床に落ちたお菓子を拾ってお皿に戻していた。
ひより「かがみ……先輩?」
かがみ先輩は私の方を見た。私の顔を見て驚いた。私の目から涙が出ていたのに気付いたのだろう。
かがみ「な、なによ、お菓子が落ちたくらいでそんな、泣くなんて……」
ひより「え、たった今、何が起きたのか分らなかったっスか?」
かがみ「何って、お皿からお菓子が落ちて……」
ひより「その前っス、よく思い出して下さい、かがみ先輩は人形みたいに動かなかった」
かがみ「あ、あぁ、そ、そうだったかしら、最近論文を書いていて徹夜続きだったから、疲れが出たのかも……」
思いついたような言い訳だった。私には嘘だと直ぐに分った。
ひより「そんな在り来りなもんじゃなかったっス、あれはどう見ても意識が飛んでいました」
かがみ先輩は残りのお菓子を全て拾うとお皿を机の上に置いた。
かがみ「田村さんには隠せないわ……最近、意識が飛ぶことがあってね……この前もゼミ途中で抗議の意味が分らなくなった……」
ひより「それは尋常じゃないっス、早くお医者さんに診てもらわないと……」
かがみ「大丈夫よ、高校受験の時もそんな事があったから、田村さん、もしかして心配して泣いてくれたの、嬉しいじゃない」
笑顔ではいるけど、いつもの笑顔とは違った。作っている。
ひより「以前、呪いにかかったって言っていましたけど、その後遺症とかじゃないっスか?」
かがみ「……そんなの、分るわけないじゃない、呪いの知識なんて全くないのよ」
やっと本音が出た。見栄っ張りもここまでくると頑固者って感じだ。皆に心配を掛けまいとしているのだろうか。
ひより「それは私も同じです」
かがみ「この事は、皆には内緒にして……」
力ない声だった。
やっぱりそう言う事だったのか。このまますんなり内緒にして良いのだろうか。呪いならお医者さんに診せても分らないだろう。仮に何かの病気だったら皆に分かってしまう。
皆に知られないように確認する方法……ある。あるじゃないか。
ひより「佐々木さんならそれが分かるかも、治療法も知っているいるかも」
かがみ「だから大丈夫だって、この話は止めましょう」
ここは折れてはだめだ。
ひより「他人の私ですら涙がでてしまった、これがつかさ先輩、ご家族、泉先輩、高良先輩だったらどうだっか想像できます?」
かがみ「つかさ……お母さん……こなた……」
さぁ、かがみ先輩、ここで想像力を使って下さい。かがみ先輩が亡くなったらどれだけの人が悲しむのか……
ひより「かがみ先輩の恋人はどうですか」
ここでダメ押しだ。
かがみ「わ、分かったわよ、白黒付けようじゃない、でも佐々木さんの所は休診中じゃないの」
やった。診てもらう気になってくれた。
ひより「それは問題ないっス」
私は携帯電話を取り出した。
かがみ「ま、まさか、今から?」
ひより「善は急げ、っス」
佐々木さんは快く引き受けてくれた。
私達はかがみ先輩の用意した車に乗って佐々木整体院に向かった。

30 :ひよりの旅 66/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:48:06.23 ID:W145K4B60
すすむ「診て欲しいのは田村さんではないのか?」
ひより「はい、かがみ先輩です」
私は頷いた。かがみ先輩は私の後ろでやや緊張気味な様子だった。
すすむ「とりあえず診療室へ」
私達は診療室に案内された。佐々木さんは椅子を二つ用意し、私とかがみ先輩はその椅子に座った。そして佐々木さんも向かい合う形で椅子に座った。
すすむ「それで、彼女の何を診て欲しいと言うのだ?」
ひより「呪いの後遺症が無いかどうかです」
すすむ「な、なんだと?」
佐々木さんはかがみ先輩の方を見た。
ひより「時々意識が飛ぶ事があるそうです、ついさっき、一時間くらい前にも……」
佐々木さんは腕を組んで険しい顔になった。
すすむ「私は呪術に関しては専門ではない、詳しくは判らん、見た所呪いは完全に解かれているみたいだが……良いだろう、私の分かる範囲で調べてみよう」
ひより「ありがとう」
かがみ「お願いします……」
佐々木さんは立ちありかがみ先輩の目の前に立った。
すすむ「いや、そのまま、座ったままで良い、リラックスして」
かがみ先輩は目を軽く閉じた。佐々木さんはかがみ先輩の額に触れるか触れないかくらいまで手を近づけてかざした。そして佐々木さんも目を静かに閉じた。

 3、4分くらい経っただろうか。自分にはちょっと長く感じた時間だった。佐々木さんは静かに目を開けた。
すすむ「……呪いは完全に消えている、問題ない」
かがみ先輩は立ち上がり得意満面の態度で私を見た。
かがみ「ふふ、だから言ったじゃない、ひより!!」
ひより「そ、そうですね、でも、良かったじゃないですか」
ひより、かがみ先輩は私をそう呼んだ。泉先輩や高良先輩を呼ぶように名前で呼んだ……
かがみ「当たり前じゃない、こんな時に病気なんかしてられない」
すすむ「ただし疲労が溜まっているのは確かだ、どうだ、私の整体を受けるが良い、休診中だから御代はいらない」
ひより「良いんじゃないですか、これを期に受けてみたら?」
かがみ「ちょっと、痛いのは……」
すすむ「私の整体はそんなものじゃない」
かがみ「それじゃ、お言葉に甘えまして……」
私は立ち上がり診療室を出て受付室でかがみ先輩を待つことにした。

 かがみ先輩……泉先輩、高良先輩の親友、つかさ先輩の双子の姉、いのりさん、まつりさん、二人の姉がいる。努力家で高校時代には高良先輩に匹敵する成績までになっている。
抜け目ない性格と思いきや、泉先輩によくいじられたりするし、つかさ先輩みないなボケもたまにしたりする。裏表がはっきりした性格だ。
それゆえ、ツンデレといわれているのかも知らない。
初めて会ったのは泉先輩の紹介だった。『先輩』だったからか私とかがみ先輩は泉先輩を通してしか交流がなかった。今回だって泉先輩のミッションがなければ頻繁に会うなんてなかった。
私は何でかがみ先輩の分析をしているの。それは高校時代に既にしている。昔のネタノートを見れば書いてあるじゃない。
私は一呼吸を置いて考えた。
『ひより』なんてそんなに親しくなったのだろうか。どうして。頻繁に会っているから。それだけなら日下部先輩はかがみ先輩と私以上に会っているのに名前で呼んでいない。
何故……私を……?
それとも私の考えすぎだろうか……

31 :ひよりの旅 67/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:48:59.19 ID:W145K4B60
かがみ「ありがとうございました」
診療室からかがみ先輩の声がした。整体が終わったみたいだった。あれこれ考えているうちに時間がすぎてしまったようだ。診療室からかがみ先輩が入ってきた。
かがみ先輩を見て驚いた。肌が艶々しているように見える。顔色も良いし、表情も温泉でも入っていたみたいにスッキリしていた。
かがみ「何だろう、体が軽くなったよう……ひよりもしてみたら、体の中か洗われた様よ」
笑顔で私に整体を勧めるかがみ先輩。
ひより「休診中なのに二人もしてもらったら佐々木さんに悪いような気が……」
診療室から佐々木さんも入ってきた。
すすむ「私は一向に構わない、田村さんも疲れが溜まっているぞ」
かがみ「ほらはら、遠慮しない、受けてきなさい」
私の手を取って引くかがみ先輩。あまり乗る気はしなかった。
まてよ、佐々木さんと話せるチャンスかもしれない。
ひより「それじゃ……お願いします……」
かがみ「終わるまで待っているから」
ひより「い、いえそんな、誘ったのは私なので待っていなくても良いです……」
かがみ「車だし、家まで送るわよ」
ひより「そこまでしてくれなくとも……」
すすむ「それなら私が送ろう、この後も特に用事はない、それに見たところかがみさんより疲れが酷い、時間が掛かる」
かがみ先輩は暫く考えている。
かがみ「分かりました、佐々木さん、済みませんが後をよろしくお願いします、今日はありがとうございました」
かがみ先輩は深々と頭を下げた。
かがみ「それじゃひより、またね」
私に手を振るとかがみ先輩は外へ出て行った。この前と違ってあっさりした感じがした。引越しの件で一言二言あるのかと思ったがそれはなかった。
でもそれはそれで良いのかもしれない。質問をする人が代わっただけ。それだけの話しだ。
すすむ「それでは田村さん、診療室へ……」
佐々木さんは診療室に体を向けた。
ひより「その前に一つ聞きたい事があります」
すすむ「何かね?」
佐々木さんは立ち止まり振り返った。
ひより「コン……いや、まなぶさんから聞きました、引越しされるようですね」
すすむ「あいつ……余計な事を……」
佐々木さんは私から目を逸らした。
ひより「この整体院は街にもやっと定着しようとしているのに、どうしてですか、評判を妬む人が居るからですか?」
佐々木さんは目を逸らしたまま黙っている。
ひより「いのりさんは……好きではなかったのですか、別れてもいいのですか?」
佐々木さんは何も言わない。そんな中途半端な態度に少し苛立ちを覚えた。
ひより「何故です、それだったら何故私をまなぶの講師役なんかさせたの、直ぐに引っ越しするなら最初から真奈美さん達の仲間と一緒に行動すればよかったじゃないですか」
私は少し声を荒げた。
すすむ「何も知らない小娘が、知った風に……好き嫌いで全てが決まるわけじゃない、もう良い、帰ってくれ」
ひより「だったら教えてください、それまで帰りません」
小娘だなんて、確かに彼等の十分の一も生きていないかもしらないけど。私はもう小娘じゃない。そんな言われ方をすれば怒りもする。
すすむ「全くどいつも、こいつも柊かがみのように強情なやつばかりだ」
かがみ先輩が強情ってどうゆう事?
ひより「何故かがみ先輩の名前をこんな場面でだすの、それに強情ってなんですか、佐々木さんはそんなにかがみ先輩と面識はないでしょ?」
すすむ「この前会った時、いろいろ言われたものでな……」
あの時は佐々木さんに意見を言っただけで強情とは違う。嘘を言っている。佐々木さんは何かを隠している。まさか。
ひより「まさか、かがみ先輩に何かあったの?」
そのとき佐々木さんの身体が少し揺れたように見えた。
ひより「診療室でかがみ先輩と何を話したの、私には会話が聞こえなかった、何を話話したの、呪いが完全に解けていなかったとか……」

32 :ひよりの旅 68/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:50:21.26 ID:W145K4B60
 佐々木さんは暫くしてからゆっくり私の方に向いた。
すすむ「さすが私達の正体を見破っただけのことはある、感情に任せて言った失言からそこまで分かるとは」
ひより「呪いは解けていなかった……」
すすむ「呪いならまだましだ、彼女の脳に悪性新生物がある……」
ひより「あくせいしんせいぶつ……まさかそれって」
すすむ「そう、脳腫瘍だ、それもかなりの悪性だろう、場所もおそらく外科的には取り除けまい」
目の前が急に真っ白になった。
ひより「そ、それで、さっきの整体で綺麗スッキリ治しちゃったのでしょ?」
佐々木さんは首を横に振った。
すすむ「私の整体は今まで人間から得た知識や技術を私なりに統合、改良をしたものだ、残念ながら悪性新生物には対応していない」
ひより「で、でも、かがみ先輩、あんなに肌艶も綺麗になって、健康その物だった」
佐々木さんはまた首を横に振った。
すすむ「免疫を強めるようにしたが気休めだ、進行を遅らすくらいしかできない……あともって半年くら……」
ひより「やめてー!!!」
私は両耳を手で押さえて叫んだ。この先は聞きたくなかった。
ひより「何故です、何故、かがみ先輩がそんな病気にならないといけない、呪い……呪いのセイでしょ、」
すすむ「あの呪いは脳に直接働きかけるもの、全く影響がなかったとは言えない、しかし呪われなくとも何れは発病しただろう」
身体が熱い、怒りが込み上げてきた。
ひより「だったら責任を取って、かがみ先輩がお稲荷さんに何をした、何もしていないでしょ、勝手に呪って、かがみ先輩を病気にして」
佐々木さんには何も責任は無い。それは分かっていた。だけどこう言うしかなかった。
佐々木さんは私の顔をじっと見た。
すすむ「目から水が出ているな……泣いているのか、残念ながら私達は泣くと言う心理状況を理解していない、人間になっても頭の中までは変わらないのでね、
    大事な物を失った時、得た時に泣くと聞いたが……柊かがみは田村さんにとってそう言う存在なのか、親でも姉妹でもない赤の他人ではないか」
ひより「……そんな事はどうでもいいから、早く治して……」
すすむ「……治す方法はある、だが人類の技術では合成できない物質がいくつかあって……無理だ……」
ひより「もういい、何処にでも引っ越して、二度と私達の前に現れないで」
私は立ち上がった。
すすむ「彼女は自分でも分かっていたのだろう、病気の事を言ってもあまり驚かなかった、只、内緒にしてくれと言っていた……私は約束を破ってしまったな、すまない」
私はそのまま診療室を出た。
別れの言葉も何も言わない。
所詮人間とお稲荷さんはそんな関係。分かり合えるはずも無い。

 何もする気がしない。気が重くなるばかりだった。大学に行っても上の空。家に帰ってもボーとしているだけ。
ときよりかがみ先輩の事を思い出しては涙を流すだけだった。
佐々木さんと別れてから一週間、そんな事の繰り返し。
自分の部屋で机に向かってペンを取っても何も描けなかった。
『ピピピーピー』
私の携帯電話に着信が入った。泉先輩からだ。いつもはメールのやりとりだけだったのに。珍しい。携帯電話を手に取った。
ひより「もしもし……」
こなた『やふ〜ひよりん』
まだ半年も経っていないのにとても懐かしい声に思えた。
ひより「先輩、久しぶりっス、どうしました」
こなた『いや〜最近めっきり報告が途絶えちゃっているからどうしたのかなと思ってね、かがみんのミッションは行き詰まったかな?』
そういえば最近になって何も報告していなかった。そうだ。こんなミッションなんか関係ない。もっと大事な事を言わなければ。
ひより「そんな事よりもっと大事な話があります」
こなた『なんだい改まって……』
ひより「かがみ先輩は……」
『内緒にして』
かがみ先輩の声が私の頭の中に響いた。
ひより「かがみ先輩は……」
こなた『かがみがどうしたの?』
ひより「かがみ先輩には彼氏がいるっス」
病気なんて言えない……何故、いつもの私なら話しているのに……
こなた『お、おお、その断定的な言葉、それ、それだよ、それを待っていたんだ、まぁ、だいたい想像はしていたけど、これは面白く成ってきたぞ』
声が弾んでいる。楽しんでいるようだ。
こなた『しかし、どこでその情報を仕入れたの、かがみ自らそんなのは言わないはず』
ひより「実はかがみ先輩から「ひより」って呼ばれているっス」
こなた『なるほどねぇ〜かがみの信頼を得たってことか、ひよりんもやるじゃん』
ひより「い、いえ、それほどでも……」
こなた『そうそう、かがみは親しくなると呼び捨てになるんだよね、高校時代初めて会った時なんかね……』
かがみ先輩の出会いの話しを長々話す泉先輩……ゲームの話しをしている時よりも活き活きとしていた。かがみ先輩が病気と分かったらどうなるのだろうか。
私と同じようになるのかな。いや、もっと悲しむかもしれない。つかさ先輩はどうなのだろう……ますます言えなくなってしまう。
やばい。また涙が出てきてしまった。これが電話でよかった……
こなた『ちょっと、ひよりん、聞いているの?』
やばい、上の空だった。
ひより「は、はい、聞いてるっス……それよりそっちの状況はどうなんですか、つかさ先輩達と上手くいっています、例の店長さんとは?」
こなた『ふ、ふ、ふ、聞いておどろけ、私はホール長になったのだよ』
ひより「え、それは凄いっすね、おめでとうございます」
こなた『声が棒読みだよ……まぁいいや、つかさとはシフト制になってからあまり会えなくてね、同じ部屋を借りているのにおかしいよね』
なぜか素直に喜びを表現できなかった。
こなた『最近松本店長とつかさが私達スタッフに内緒で何かしているみたいだけど、まぁ、つかさの腕も上がっているからもしかしたら副店長になる打ち合わせかもね』
ひより「二人揃って凄いですね、応援しています」
こなた『ありがとう……』
『ただいま〜』
携帯からつかさ先輩の声が聞こえたとても小さい声、遠くからのようだ。
こなた『お、つかさが帰ってきた、やばい、今日は私が夕食当番だった、それじゃまた連絡よろしくね』
ひより『は、はい……』
二人は私が思っていた以上に成功している。すごいな。
携帯電話を切って机に置いた。結局話せなかった……
33 :ひよりの旅 69/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:51:51.14 ID:W145K4B60
私は気が付いた。今までゆーちゃんに言っていたのは間違えだった。親しくなった人に対して
他人事なんて言えるはず無い。かがみ先輩の病気でそれが分かった。私はゆーちゃんの喜怒哀楽を観て弄んでいただけだった。
そう言われても反論できない。今までゆーちゃんに言ってどれほど傷ついたのだろう。バカ……私のバカ……コミケ事件からまったく私は変わっていない。

それから間もなく私は風邪をこじらせて寝込んでしまった。

もう私は何も出来ない……

『ピンポーン』
熱はは引いた。でもまだ体はダルイ。ここ数日大学にも行けなかった。たとえ私の風邪が治ってもかがみ先輩の病気は治らない。これからどうして良いかも分からない。
普段の私なら皆に事情を話してこれからどうするか決める。だけど……それすらも出来なくなってしまったなんて。
『コンコン』
ノックの音がした。お母さんかな……
ひより「は〜い」
ドアが開くとそこにはゆーちゃんが居た。私と目が合うとにっこり微笑んだ。さっきの呼び鈴はゆーちゃんだったのか。
ゆたか「おはよ〜風邪をこじらせたんだって?」
ひより「まぁね……それよりいいの、大学に行かなくて」
ゆたか「ふふ、今日は日曜日だよ」
そうか日曜日なのか。曜日の感覚がなくなってしまった。あの日以来時間がとってもゆっくりに進んでいるように感じる。
ゆたか「座ってもいい?」
ひより「良いけど、風邪……うつるかもよ?」
私の警告をよそにして私の寝ているベッドの横に腰を下ろした。そして私を優しく見下ろしてじっと見つめた。
ひより「な、何……私の顔に何か付いてる?」
ゆたか「うんん、昔からお見舞いをされてばっかりだったから、こうして誰かをお見舞いをしてみたいと思っていた、ひよりちゃんが初めてになったね」
もう少しすればもう一人お見舞いに行かなければならない人が居る……そして一度入院をすれば退院することはない。
ひより「それで、その初めてのお見舞いはどう?」
私をじっと見るゆーちゃん
ゆたか「ん〜どうかな、分からない、もっと時間が経てば分かるかも」
ひより「そう……」
私はそれ以上聞かなかった。それ以降私は何も話さなかった。ゆーちゃんも自分から話そうとはしなかった。
朝日が窓から入ってきて部屋の温度が上がった。心地よい温度だ。このまま眠ってもいいくらいだった。そんな私の心境を知ってか知らずか、ゆーちゃんはゆっくりと立ち上がった。
ゆたか「長居すると悪いから帰るね」
ひより「うん……お構いもしませんで、ごめんね」
ゆたか「うんん、お大事にね……」
ゆーちゃんは私に後ろを向いてドアの所まで移動して止まった。
ゆたか「ひよりちゃん、話してくれないの?」
話してくれない……何のことかな……
ひより「話すって……あぁ、お見舞いされた気分だね……なんだか上から覗かれて、恥かしいような……」
ゆたか「違うよ、もっと大事な事、何故黙っているの……かがみ先輩の事」
ま、まさか、どうしてゆーちゃんが知っている。そんな筈はない、かがみ先輩は内緒にするって言っていた。
ひより「な、なんの話しか分からない……」
ゆーちゃんはゆっくり振り返った。
ゆたか「取材の途中でひよりちゃんと別れて思った、ひよりちゃんは一人で柊家に行ったのに私は逃げてしまったって、だから、もう一度佐々木さんの所にに行ってみようと、
    そう思って、行ったの……佐々木さんの整体院に、そこに佐々木さんは居なかった、でも、コンちゃん……宮本さんがいてね……全て話してくれた」
まなぶが話したのか。余計な事を……もう一人悲しむ人が増えるだけなのに。
ひより「全て聞いたのなら私から話す必要はないよ……もう私に出来る事は何もない」
ゆたか「ひよりちゃんらしくない、こんな時は、私に、みなみちゃんに、場合によっては高良先輩や泉先輩にだって話して相談するでしょ?」
ひより「だって……だって、かがみ先輩は内緒にしろって言うし、先輩の気持ちにを考えるともう何も出来ない」
また涙が出てきた。ゆーちゃんに見られないように布団で顔を隠した。足音が私に近づいてきた。
ゆたか「ひよりちゃん、溺れちゃったね……そう思ったから此処に来たの、ひよりちゃんが私を救ってくれたように」
ひより「溺れる、私が?」
ゆたか「他人事じゃないと人は救えない、そう言ったのは誰だっけ?」
私は布団を取り上半身を起こした。
ひより「救う、どうやって、お稲荷さんにだって治せない病だよ、何も出来ないよ……」
ゆたか「そうかな、私はそうは思わない、だって他人事だもん、なんでも出来る」
ゆーちゃんはにっこり微笑んだ。
ひより「え……」
ゆたか「やれるだけやって、それでダメなら……悲しいけど諦めるよ、でも、それまでは……諦めない、他人事ってこうゆう事ででしょ、ひ・よ・り」
ゆーちゃんは人差し指で私の額を突いた。
ゆたか「一人だけ、ありふれた物で化学物質を合成できるお稲荷さんが居るらしいの、今ね、コンちゃんとみなみちゃんでそのお稲荷さんを探してもらっている」
ひより「ゆ、ゆーちゃん……」
ゆたか「溺れるのはまだ早いよ、ひよりちゃん、かがみ先輩が亡くなるまではね、うんん、絶対に死なせない、そうだよね?」
ひより「そんな事言ったって……」
ゆたか「コンちゃんもみなみちゃんもひよりちゃんのおかげで手伝ってくれていると思ってる、私たちに任せて風邪を治すのに専念して……それから、
    かがみ先輩の病気も治るように祈っていて……奇跡は滅多に起きないけどね、祈りや願いがないと起きないって誰かが言っていた、私もそう思う」
ゆーちゃんは腕時計をみた。
ゆたか「あっ、いけない、もう約束の時間、それじゃ、ひよりちゃんお大事に」
ひより「待ってゆーちゃん、わたし、私……佐々木さんと喧嘩してしまった……引越しを止められなかった」
ゆたか「しょうがないよ、あの状態じゃ私も同じ事をしてたかも、でもね、別れても生きてさえいれば何とかなるよ、今はかがみ先輩が優先だね」
ゆーちゃんはにっこり微笑むと部屋を出て行った。

 教えたゆーちゃんに教えられるなんて……それに私がするはずだった事を先にするなんて。
ひより「ふふふ……ははは」
なぜか笑った。そしてさっきよりも大粒の涙が出てきた。この涙は大事な物を得たのか失ったのか……
私は涙を拭かずそのまま床に就いた。何故か涙を拭きたくなった。
熱っぽいせいか頭が回らない。考えるのを止めた。
今はただかがみ先輩の回復を祈った。

34 :ひよりの旅 70/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:53:15.19 ID:W145K4B60
 私はゆーちゃんと待ち合わせをしていた。東京都内のとある駅前。
こんな所で待ち合わせは初めてだ。私もこの駅を降りるのは初めてだった。
風邪が治り私もかがみ先輩を救うために皆の手伝いに参加している。あれから何週間か経つけど目的のお稲荷さんは見つかっていない。まなぶは
以前住処だったつかさ先輩と泉先輩が住む町の神社に行ったがもぬけの殻だったと言う。お稲荷さん達は全員何処かに引っ越してしまったみたいだ。
そういえばつかさ先輩の彼氏もお稲荷さん。二人は別れたと聞いたがそれと関係あるのだろうか。
「おまたせ」
後ろから男性の声。まなぶの声。私は振り向いた。
ひより「まなぶさん……」
まなぶ「なんだい、私ではいけないような顔をして」
ひより「い、いや、ゆーちゃんと会う約束をしたものだから、意外だった」
まなぶ「小早川さんは岩崎さんと一緒に別行動してもっている、彼女達は彼の自宅に向かっている、私達は彼の仕事場に向かう、どちらかに居るはずだ」
ひより「彼って誰?」
まなぶ「もちろん私の仲間の……」
ひより「ほ、本当に、早く行こう……何処!?」
私はまなぶの手を掴み歩き出した。早くかがみ先輩の病気を治してもらいたった。逸る気持ちを抑えられなかった。

ひより「……法律事務所……」
まなぶ「そうだ、そこに私の仲間が居る、そこに居なければ小早川さんが向かっている自宅に居る」
私が思っていたのとはかけ離れた所に案内された。病院かどこかの研究所かと思っていた。
待てよ……法律事務所……って。確かかがみ先輩の彼氏も法律事務所で働いていたって言っていた。
ひより「ちょっと、かがみ先輩の彼氏も法律事務所で働いているって聞いたけど、これって偶然なのかな」
まなぶは法律事務所の玄関を見ながら答えた。
まなぶ「偶然もなにもない、かがみさんの彼氏だよ」
ひより「え……も、もしかして、かがみ先輩の彼氏もお稲荷さん……」
まなぶ「その様だな、すすむが彼女を呪いの診断をした時に微かに仲間を感じたそうだ」
かがみ先輩の彼氏もお稲荷さん……かがみ先輩はそれを知っているのだろうか。ややこしいとか言っている所から察するに知らないと考えた方がいいかもしれない。
まなぶ「かがみさんには悪いが尾行させてもらった、それでこの法律事務所と自宅を突き止めた」
まてよ、何故だ。何故そんなまどろっこしい事をする。
ひより「こんなコソコソしていないで直接頼めば済むでしょ、かがみ先輩の恋人なら直ぐにでも病気を治すはず」
まなぶ「いや、彼では病気は治せない、恐らく彼なら仲間の居場所を知っていると思ってね、かがみさんと一緒に居ない所を見計らって彼と会う作戦だ、
    事務所から出てきたら聞くつもりだから、しばらく張り込みをしよう」
ひより「え、あ、はい……分った」
そんなにうまい話はなかったか。

それにしても、つかさ先輩、かがみ先輩、いのりさんにまつりさん。ものの見事に四姉妹がお稲荷さんと関係している。良い意味でも、悪い意味でも。
偶然かもしれない。だけどそれだけでは片付けられない運命的な何かを感じてならい。
その運命の一端に参加している私、これもまた運命なのだろうか。
そもそも私は漫画のネタ探しから始まったのが切欠だ。それだったら……つかさ先輩にしても一人旅が切欠。どちらも世間一般に珍しいものじゃない。
不思議だな……私はまなぶを見ながら考えていた。
まなぶ「……私の顔に何か付いているのか?」
まなぶは事務所の出入り口を見ながら話した。私の目線に気付いたようだ。この状況なら聞けるかもしれない。前から聞きたい質問があった。
ひより「ちょっと二つ質問いいかな?」
まなぶ「なんだい?」
彼は事務所から目を離さなかった。
ひより「何故まなぶさんは真奈美さん達ではなく佐々木さんと住むのを選んだの」
まなぶ「……人間に興味があったから……と言っておこうかな、詳しく知るには人間と暮らすしかない……人間と共に暮らしている仲間は三人いるけど、すすむが一番
    一般の人間と接している人数が多いと聞いて、それで決めた、答えになったかな?」
私は頷いた。
ひより「うん……それで人間に接した感想はどうだった?」
その答えを聞くのが少し恐かった。
まなぶ「まだ調べ足りないけど……よく似ているよ私達に」
ひより「そ、そうなんだ……」
似ている……これはまた微妙な答えだな。そう言えば前にも同じような事を言っていた。
まなぶ「……それで、もう一つの質問って?」
ひより「え、ああ、まなぶさんは何故私達の手伝いをしてくれているの、嬉しいけど、そんなにかがみ先輩と親しかった訳じゃないのでは?」
まなぶ「好きな人の妹が死に瀕している……助けたいと思うのは当然じゃないのか?」
ひより「それは、そうだけど、それだけじゃないと思って」
好きな人……またこの言葉を聞くとは思わなかった。なぜかその言葉はあまり聞きたくなかった。
まなぶ「記憶を失って、コンとして飼われていた頃だった、まつりさんが仕事で散歩に行けない時などはかがみさんが代わりに散歩に連れて行ってくれた、
    私を擬人化してよく愚痴を言って面白かった、それにまつりさんとは違う道を行ってくれてね、飽きさせなかった、とても他人事じゃいられないよ」
かがみ先輩の愚痴の内容も聞きたかったけど、今はそんな雰囲気ではなかった。
まなぶ「それじゃ私から質問、何故君はかがみさんを助けようとする」
ひより「へ?」
まなぶ「見るからに私よりも動機は薄いような気がするが、出身高校が同じと言うだけで血縁関係もない」
ひより「う〜ん」
そう言われると……なんて表現していいのだろうか。
まなぶ「なんだ、答えられないのか、好きだからじゃないのか」
わ、え、どう言う事……
ひより「す、好きって……わ、私もかがみ先輩も同姓だし……そ、そんな百合的な展開はな……」
まなぶ「ふ、ふふ……はははは」
まなぶは事務所の方を見たまま笑った。
まなぶ「君は自分の事になると何も答えられないみたいだな、分かったよ、多分田村さんも私と同じ理由だな」
彼はは百合って意味を知っているのかな。そんなのを確認なんかできっこない。
『ピピピ』
まなぶはポケットからスマホを取り出し操作しだ。
まなぶ「君の友人からメールだ、自宅は留守なのでこっちに向かうそうだ、合流しよう……すまない、事務所の入り口を見張っていて欲しい」
ひより「はい……」
まなぶがスマホを操作している間、私が事務所の入り口を見た。
時がゆっくりと流れているように思えた。
35 :ひよりの旅 71/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:54:23.58 ID:W145K4B60
まなぶ「彼の名は小林ひとし、彼との交渉は全て私に任せて欲しい、かがみさんの意思を尊重して病状は伏せることになった」
ひより「ゆーちゃんとみなみちゃんもそれで良いのなら……」
まなぶ「もう既に打ち合わせ済」
私が風邪をひいている間に話しは進んでいたようだ。
確かにお稲荷さんとの交渉はお稲荷さんに任せた方が良いのかもしれない。
それに最初はあんなに反対していたみなみちゃんも手伝ってくれている。なによりあのゆーちゃんがあれほど積極的になるとは思わなかった。
その時、事務所の近くをゆーちゃんとみなみちゃんが通りかかった。私は携帯電話で二人を呼んだ。
みなみ「ここで張っていたの?」
私とまなぶは頷いた。
ゆたか「自宅は留守だったから多分この事務所だよ」
まなぶ「そろそろお昼だ、出てくると思う」
ゆたか「小林さん、コンちゃんは会ったことあるの?」
まなぶ「いや、会った事はない、向こうの仲間は真奈美さん以外殆ど知らない」
ゆーちゃんはまなぶをまだコンと呼んでいるのか。最初に狐の彼を見つけたのはゆーちゃんだった。あの時のイメージが強かったのか。
それにまなぶも否定していない。人間のときくらいは
みなみ「何人か事務所を出入りしているけど見逃したりしない?」
まなぶ「人間になっていようが、狐になっていようが、他のに化けて居ようが、仲間ならすぐに分かる……ん?」
まなぶの目が鋭く光った。
まなぶ「彼だ!!」
私達は学ぶの目線を追った。事務所の玄関を出てきた男性。その人だろうか??
まなぶ「私と彼が会っている時は出てこないように」
そう言い残すと小走りに彼の元に走っていった。私達はその場に留まりまなぶと男性の動向を見守った。
まなぶが話しかけると彼は立ち止まりしばらく何かを話してから二人は歩き出した。私達は彼等の後を気が付かれないように追いかけた。

36 :ひよりの旅 72/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:55:20.58 ID:W145K4B60
ひより「こっち、こっち」
小声で二人を呼んだ。
ゆたか「で、でもこれ以上近づいたら……」
ゆーちゃんは更に小さな声で答える。
ひより「大丈夫だって、それに近づかないと会話が聞こえない」
まなぶと小林さんは近くの公園の隅で立ち止まった。私達はぎりぎりまで近づいて物陰から様子を覗う。
ひとし「まさかこんな所で仲間に会えるとは思わなかった……しかし君には一度も会った覚えが無い……」
まなぶ「私は宮本なまぶ」
ひとし「あぁ、思い出した、最近生まれた子じゃないか……大きくなったものだ」
二人の会話がよく聞こえる。小林さんはまなぶを知っているのか……
まなぶ「私より若い仲間は居ないと聞いた」
ひとし「そんな事より用事とはなんだ」
まなぶ「人を探している、化学物質を合成できる人」
ひとし「回りくどい言い方だな……たかしの事を言っているのか、呪術と錬金術で彼の右に出る者は……真奈美くらいだ」
たかし、たかしと言うお稲荷さんが薬を作れるみたいだ。
まなぶ「今何処に居る?」
ひとし「……会ってどうする?」
まなぶ「合成して欲しい物がある」
ひとし「……合成して欲しい物、我々にそんな物は必要ない筈だ、何に使う、人間に復讐でもするのか、武器や毒と言うのなら止めておけ……」
まなぶ「いや……薬を作ってもらおうと……」
ひとし「薬だと……」
まなぶ「治したい病気が……」
ひとし「病気……我々は病気にはならない筈だ」
まなぶ「助けたい……人間が居る」
不味いな、このままだと薬を誰に使うのか分かっていまうかもしれない。
ひとし「そうか……助けたい人間が居るのか、それは君にとって大事な人なのか」
まなぶ「そうだ」
小林さんは暫くまなぶを見て首を振った。
ひとし「彼にそれを頼むのは難しいだろう、彼の人間嫌いは仲間の中でも一、二を争う」
まなぶ「それでもしなければ、何処にいます?」
ひとし「住み慣れた地を離れしまったらしくてね、私でも彼等の住処は分からない……残念だが力にはなれない、それでは失礼させてもらうよ」
小林さんはまなぶに会釈をすると公園を出ようとした。
ゆたか「待ってください!!」
ゆーちゃんが飛び出した。その声に反応して小林さんが振り向いた。
まなぶ「ば、バカ……来たらダメって……」
ひより「まずい、みなみちゃん、ゆーちゃんを止めないと……」
あれ……みなみちゃんの反応がなかった。私は後ろを振り向いた……でも彼女の姿は見えなかった。
再びゆーちゃんに目線を戻すと……あろうことかゆーちゃんの隣にみなみちゃんも立っていた。
ひとし「な、なんだ君達は……何処かで見た顔だな……」
ゆたか「お願いです、どうしても助けたい人が居るの、居場所だけでも教えて頂けませんか」
ゆーちゃんが頭を下げるとみなみちゃんも頭を下げた。こうなったら自棄だ。私も物陰から出て二人の横に並び頭を下げた。
小林さんは私達を見ていた。
ひとし「この人間達はおまえの仲間なのか」
まなぶ「……そうです」
小林さんは私達に向かって話しだした。
ひとし「その様子から見ると私達の正体を知っているみたいだな……さっきも言ったように仲間は住処を離れてしまった、随時移動しているみたいで私でも
    把握しきれないのだよ……それに、本来人間を救うのは人間で行うべきだ、私達が介入する問題ではない」
その言葉は冷たく私達を貫いた。
まなぶ「それを承知で頼んでいるのが分からないのか……」
ひとし「悪いが時間がない」
小林さんは公園の出口に向かって歩き出した。ゆーちゃんは小走りで小林さんを追い抜き公園の出口に立ち塞がった。
ひとし「すまないがそこを退いてくれ……」
ゆーちゃんは首を横に振った。
ゆたか「……本当に……本当に助ける気はないの……貴方の愛ってそんなものなの?」
ひとし「藪から棒に何を言っている……」
ゆたか「私達が誰を助けたいのか知りたくないですか、知っても同じ事が言えますか……」
まさかゆーちゃんはかがみ先輩の名前を言うつもりなのか。
みなみ「ゆたか……」
みなみちゃんはゆーちゃんを見て首を横に振った。ゆーちゃんはみなみちゃんを見て躊躇したようだ。その後の言葉が出てこなかった。
ひとし「……助けたい人とは私の知っている人なのか……」
小林さんはゆーちゃんを見た後、振り返り私とみなみちゃんを見た。
ひとし「……君達は……私の知人と一緒に居た時があるな……まさか……」
ゆーちゃんの言葉で分かってしまったようだ。もう秘密にしている意味はない。
ひより「私達は、かがみ先輩、柊かがみの友人です」
ひとし「かがみ……かがみの何を助けようとしている、彼女に何があった、なぜ我々の力を必要とする……」
小林さんが急に動揺しだした。私はある意味これで少しホッとした気分になった。同じ態度であったならかがみ先輩の恋は終わっていたのかもしれない。
小林さんは辺りを見回した。
ひとし「話しを詳しく聞きたい、ここでは落ち着かないだろう、事務所に戻ろう……来てくれ」
まなぶ、小林さんとみなみちゃん達は公園を出た。
ひより「ゆーちゃん、小林さんにかがみ先輩の話しは内緒にするんじゃなかったの?」
私はゆーちゃんを呼び止めた。ゆーちゃんは立ち止まった。
ゆたか「うん……そう決めたし、かがみ先輩もそれを望んでいた」
ひより「でもそれを破った、どうして?」
ゆたか「かがみ先輩を助けたかったから……それだけしか頭になかった……それで助かるならかがみ先輩に怒られても良い、皆から責められても構わない……」
ひより「かがみ先輩は怒るかもしれないけど、私は責めたりはしないよ、みなみちゃんもね」
ゆたか「えっ?」
ひより「さて、行きますか、皆、先に行っちゃったよ、たかしってお稲荷さんに頼まないといけないからね、まだまだ困難はこれからだよ」
ゆたか「う、うん」
私とゆーちゃんは皆に追いつくために走った。

37 :ひよりの旅 73/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:56:19.59 ID:W145K4B60
 小林さんの勤める法律事務所の会議室に通された。そこで私達は今まで経緯を小林さんに話した。
まなぶとの出会い、佐々木さんとの出会い、柊家との関係……そしてかがみ先輩の病気の事……
ひとし「脳腫瘍だと……」
私は頷いた。
ひとし「ば、ばかな、そんな気配は微塵も感じなかった」
ひより「秘密にしていたようです、多分家族や親友には知られたくなかったと思います、もちろん恋人の貴方にも……」
ひとし「彼女の心を読めなかったと言うのか、それは在り得ない」
まなぶ「かがみさんは以前呪われている、その時に呪術者と何度も接触しているはずだ、そうこうしているうちに心を読まれない術を身につけたのかもしれないな」
小林さんは何も言わず考え込んでしまった。
ゆたか「そんな事より公園で話していたたかしってお稲荷さんを探さないと、かがみ先輩の病気を治す薬を作れるのでしょ?」
小林さんは目を閉じて腕を組んた。
ゆたか「どこに居るのですか、協力して下さい……」
ひとし「……まなぶはたかしを知らないのか……」
まなぶ「初めて聞く名前……すすむも何も言わなかった……極度の人間嫌いだって言っていたね……」
小林さんは目を開け腕組みを解いた。
ひとし「幼かったまなぶでは覚えていなかったか……人間嫌いだけならまだ希望もあるがな……」
まなぶ「何が言いたい、こっちは急いでいる、こうしている間にも……」
小林さんはもったいぶった様に少し間を空けてから話した。
ひとし「かがみに禁呪をしたのが……そのたかしだ……」
まなぶは何も言い返せなかった。私たち三人は顔を見合わせて驚いた。
私達はかがみ先輩に呪いを掛けたおいなりさんにかがみ先輩の病気を治してもらわなければならない……気が遠くなるような事だった。
でも諦められない。諦めたらかがみ先輩はあと半年後には亡くなってしまう。
ひより「そのたかしってお稲荷さんは何故かがみ先輩に呪いをかけたのです?」
それならばたかしってお稲荷さんの情報をなるべく詳しく知る必要がある。
ひとし「私も直接彼から聞いたわけじゃないから真意はわからん……真奈美が亡くなったのをかがみの妹が原因と思っているらしい、
    その妹に彼と同じ境遇を味合わせてやりと思ったのだろう」
違う……確かにつかさ先輩が関係しているかもしれないけど、真奈美さんが亡くなったのはつかさ先輩のせいじゃない。誤解だ。
ひより「たかしって真奈美さんを好きだったのですか?」
ひとし「好きもなにも婚約者だった……」
ひより「こ、婚約者……」
好きな人……愛する人が亡くなれば何かのせいにしたくもなる。それはなんとなく理解できる。
ゆたか「でも、真奈美さんが亡くなったのはつかさ先輩のせいではありません」
珍しく断定的に言うゆーちゃんだった。それも私が思っていたのと同じ内容だった。
ひとし「……そうだな、そうの通り、真奈美が死んだのはむしろ我々側の問題だ……族に言う逆恨みと言うやつだろう」
ゆたか「お願いです、なんとかたかしさんを探し出せませんか……」
祈るように手を合わせて懇願するゆーちゃんだった。
ひとし「君達に頼まれるまでもない、私が直接彼に頼む……いや助けさせる、それが彼の責任だ」
小林さんは席を立ち上がった。そして会議室を出ようとした。
みなみ「何処に行くの?」
小林さんは立ち止まった。会議室に入って初めてみなみちゃんが口を開いた。
ひとし「たかしの所に会いに行く……」
みなみ「会う……何処に居るのか知っている?」
ひとし「草の根分けてでも探し出すまでだ……」
みなみ「会ってたかしさんが拒んだらどうする?」
ひとし「拒むだと、そんな事をすれば彼の命はない、悪いが急いでいる話はこれまでだ」
また小林さんは部屋を出ようとした。
みなみ「……かがみ先輩を第二の真奈美さんにしたいの?」
ドアのノブに手を掛けた所で小林さんは止まった。
ひとし「第二の真奈美……どう言う意味だ」
みなみ「怒りで話しかければ怒りで返ってくるだけ、誰も助からない、誰も救えない……」
小林さんは暫くノブを持ったまま動かなかった。そしてノブから手を放してから大きく深呼吸をした。
ひとし「……そうだな、その通りだ、岩崎さんと言ったな、私は危うく同じ過ちを仕出かすところだった」
小林さんはさっき座っていた椅子に戻り座った。
ひとし「私がたかしに会うとお互いに感情的になってしまう……どうしたものか……」
みなみ「たかしさんとの交渉は私達がします、だから彼を探し出して欲しい……」
そんな話は聞いていない。私には荷が重過ぎる。
ひより「ちょっと……」
ゆーちゃんと目が合った。そしてゆーちゃんは頷いた。その決意に私はその先の言葉を言えなかった。
ひとし「そうか……やってみるが良い、そのくらいの時間はまだある、しかし君達が失敗したら私が直接出向く、それで良いな?」
ゆたか・みなみ「はい!!」
ひより「は、はい……」
急に振って湧いたミッション。自信なんかない。でもやるしかないのか……

38 :ひよりの旅 74/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:57:19.49 ID:W145K4B60
 さっきからゆーちゃんはモジモジして何かを言いたそうにしていた。少し間があったので決心がついたの小林さんに向かって話しだした。
ゆたか「あ、あの〜、質問いいですか?」
ひとし「何か?」
ゆたか「かがみ先輩とはどうして知り合ったのですか、かがみ先輩は小林さんの正体を知っているの?」
ひとし「彼女に私からは話していない、多分私の正体は知らないだろう……彼女とどうして出会ったか……それは、
    たかしが再び彼女を呪うのを監視してくれ……そう友人に頼まれてね、それが切欠だ」
頼まれた……同じだ。私が泉先輩からかがみ先輩の様子を見てくれって言われたのと同じじゃないか。
ゆたか「その友人もお稲荷さんなんですね……」
小林さんは頷いた。
ひとし「……結局たかしは一度もかがみの前に現れていない、しばらくして友人がたかしを保護したと連絡があった、それで私の仕事は終わるはずだった」
ゆたか「筈だった?」
ひとし「たかしは何時現れるか分からない、彼女の監視は四六時中続いた……そういえば君達三人も何度かかがみと会っていたな……
監視していて、そのうちに、一度くらい直接会ってみたくなってね……声を掛けた……」
ひより「それでかがみ先輩を好きになった……ですか?」
小林さんは何も言わず、何も反応しなかった。でもそれが答えだった。
ひとし「さて、身の上話しはここまでだ、約束通り彼を、たかしを探しに行かないとな」
小林さんは立ち上がった。
ひとし「この事務所は好きなように使うと良い、所長には私から言っておく」
そう言うと小林さんは会議室を出て行った。

私は溜め息を一回つくとみなみちゃんに向かって話した。
ひより「たかしと交渉ね……そんな無茶振りをアドリブでしちゃうなんて……失敗は許されないよ……私、自信なんかない……」
みなみ「ご、ごめん……」
みなみちゃんは俯いてしまった。
ゆたか「で、でも、あの時みなみちゃんが小林さんを止めなかったら大変な事になっていたよ、私なんかあの時どうして良いか分からなかった……」
それは私も同じか。小林さんが出て行こうとした時、ただの傍観者になっていたのは事実だった。
ひより「こうなるのは必然だったのかな……それはそうとみなみちゃんは何故急に私達を手伝うようになったの」
みなみ「それは、みゆきさんがお稲荷さんを許したから……お稲荷さんの知識を知りたいって……」
ひより「みなみちゃんが説得したんだね、それは良かった」
みなみちゃんは首を横に振った。
ひより「え、それじゃどうして高良先輩はお稲荷さんを許したの?」
私はゆーちゃんの方を向いた。ゆーちゃんは慌てて首を横に振った。
みなみ「つかさ先輩は人間とお稲荷さんが一緒に暮らせるように何かしている、それに賛同するようになったと聞いた……」
ここでもつかさ先輩が出てきた。私の知らない所で、しらないうちに……何故……私の一歩も二歩も先に行っているような気がする。
ゆたか「流石だね……」
当然の事の様に言うゆーちゃん。つかさ先輩はそんな人だったのか。高校時代のつかさ先輩はもっと……もっとボーとしていて、いつも皆の後に付いている様な……
まなぶ「ところで、たかしとの交渉はどうするつもりなんだ?」
まなぶの声に一気に現実に戻された。私達は顔を見合わせるだけだった。
まなぶ「一度はかがみさんを呪った人だ、そんな人にかがみさんの病気を治す薬を作ってもらうように頼むなんて……出来るのか?」
ゆたか「出来る出来ないじゃない、しないとダメだよ……」
まなぶ「どうやって、行き当たりバッタリが通用する相手とも思えないが」
ゆーちゃんは言葉に詰まった。私もみなみちゃんも何も言えない。
ゆたか「頼むしかないよ、頼んで頼んで命乞いするの」
みなみ「私も頼む……」
ひより「それしかない……」
まなぶ「無策の策か、それも良いだろう」
まなぶは席を立った。
まなぶ「ひとし一人より二人で探したほうが早い、手伝ってくる」
まなぶは会議室を出て行った。
ゆーちゃんはまなぶの出たドアを見ていた。
ゆたか「コンちゃん……少し変わったかな」
ひより「変わった?」
ゆたか「うん、なんか少し頼もしくなった、それに人間になっているのに苦しそうじゃなくなってる」
ひより「人間としてまつりさんに会いたいって言ってからね……」
ゆかた「そ、そうだった、もうコンちゃんなんて言えないね……」
みなみちゃんは立ち上がった。
みなみ「こうして居ても仕方がない帰ろう、それで、それぞれがたかしに何を言うのか考えよう、宮本さんが言うように今の私達は無策、
    このままだとたかしはかがみ先輩を救ってくれない……」
ゆたか「そうだね……今はそれしか出来ないよね、帰ろう」
ゆーちゃんも立ち上がった。そして私も立ち上がった。
事務所を出るとき、所長さんに私達の携帯電話の番号と家の電話番号を小林さんに伝えて貰うように頼んでから帰宅した。

39 :ひよりの旅 75/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:58:19.54 ID:W145K4B60
 帰宅して椅子に座る。
普段ならネタをまとめる作業をしている所。でもネタ帳もボイスレコーダーも最近は使っていない。かがみ先輩の病気の事で頭がいっぱいだ。私が悩んだ所で
先輩の病気が良くなる訳じゃない。そんなのは分かっている。分かっているけど悩まずには居られなかった。
たかしと会って何を言う。
『かがみ先輩を助けて下さい』
これじゃ何の捻りもない。
『貴方の呪ったかがみ先輩が死にそう、だから病気を治して……』
これじゃ当て付けがましい。
『お願いです……』
違う、違う……どんな言葉を繋げたって彼が人間を憎んでいる限りかがみ先輩を助けるなんて在り得ない。まずは彼の人間に対する憎しみを解くのが先……どうやって。
何千年も溜まりに溜まった恨みや憎しみをどうやって。それこそかがみ先輩の病気を治してもらうより難しいかもしれない。
そういえばつかさ先輩は真奈美さんと友達になった……とうやって。
一緒に泊まって一緒に話しただけ……たったそれだけ……それだけで……分からない。今更ながら分からない。つかさ先輩は何をしたのかな……
それならいっそのことつかさ先輩に頼んでしまおうか。かがみ先輩の一大事だから真っ先に駆けつけてくれる……つかさ先輩ならたかしの恨みも解いてくれるかも……
『内緒にして……』
また頭の中にかがみ先輩の声が響いた。
家族には教えたくないだろうな……特につかさ先輩には……
結局何も解決策は出てこなかった。

ふと携帯電話を見る。もしかしたら小林さん達がたかしを探したのかもしれない。
なんだ……何もないか……あれ、着信履歴がある。
履歴にかがみ先輩の携帯電話番号が載っていた。ここ数時間前の時間だ。なんの用だろう?
時計を見ると午後十時、電話をするにもそんなに迷惑のかかる時間ではなかった。私はそのままボタンを押して電話をかけた。
かがみ『もしもしひより?』
ひより「こ、こんばんは〜」
そうだ。かがみ先輩に許可をとればなんの問題もない。
ひより「かがみ先輩、実ははつかさ先輩に……」
しまった。私はまだかがみ先輩の病気を知らない事になっている。佐々木さんとの口喧嘩で思わず佐々木さんが言ってしまったので分かった。
今ここで言ってしまったら佐々木さんが秘密を破ったのを教えるようなもの。言えない……
かがみ『つかさ、つかさがどうかしたのよ?』
ひより「い、いや、何でもないっス……」
かがみ『それより、佐々木さんといのり姉さんはどうなったのよ?』
ひより「それは……」
今は何も出来ない。その余裕がない。
かがみ『実ね、いのり姉さん、最近元気が無くて……整体院が休みになっているのと関係があると思って電話した、何か心当たりはないかしら?』
ひより「あるような、ないような……」
かがみ『何だ、その中途半端な回答は!!』
本当にかがみ先輩は病気なの。そう疑ってしまう程元気な声だった。
かがみ『電話じゃ埒が明かないわね、明日、時間空いていない、よければ相談に乗って欲しい』
後回しにするはずだった問題をかがみ先輩から依頼されるとは思わなかった。でも、断る理由は無いか……
ひより「空いていますけど……ゆーちゃんやみなみちゃんも呼びましょうか、人数が多い方がいろいろな意見が聞けますよ」
かがみ『いや、ひよりだけで来て』
ひより「は、はい……」
かがみ『時間は午後からなら何時でも良いわ』
ひより「わかりました……おやすみなさい」
かがみ『おやすみ』
電話を切った。
私一人で……何だろう?……。
ひより「ふわ〜」
欠伸が出た。元気なかがみ先輩の声を聞いたせいなのか。急に眠くなった。今は眠るしかない。気が紛れる。少なくとも眠っている間は……

40 :ひよりの旅 76/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 20:59:22.92 ID:W145K4B60
 次の日、私は午後一番でかがみ先輩の家に行った。
かがみ「いらっしゃい、待ってたわ、入って」
家に入り私は辺りを見回した。
かがみ「今日は私以外誰も居ないわよ、まつり姉さんは仕事、いのり姉さんはお父さんと地鎮祭、お母さんは遠くにお買い物……」
ひより「そ、そうですか……」
かがみ「何心配そうな顔してるのよ、別に襲ったりねじ伏せたりなんかしなから安心しなさい」
ひより「え、あ、心配な訳では……」
かがみ「ふふ、ささ、居間にぞうぞ」
かがみ先輩があんな冗談を言うのを初めて見た。普段と違うと対応に苦慮するもの。
居間に行くと既に飲み物とお菓子が用意されていた。
ひより「こんなにしてくれなくても」
かがみ「いいから、いいから」
私の背中を押して居間の中央まで進みかがみ先輩は腰を落とした。私も席に座った。
ひより「相変わらずお菓子が好きっスね」
かがみ「まぁね、否定はしない……さて、早速いのり姉さんについて話しましょ……」
ひより「……その前に一つ聞きたい事があります」
そう、双子の姉なら分かるかもしれない。それがヒントになるかもしれない。そして、この質問なら私がかがみ先輩の病気を知っているの悟らせない。
かがみ「聞きたい事……何よ改まって……」
お菓子をつまみながら私の質問を待つかがみ先輩だった。
ひより「つかさ先輩はどうやって真奈美さんと仲良くなったのかなって、お稲荷さんと人間の因縁を断ち切るなんてそう簡単に出来るとは思えない、
    つかさ先輩の話を聞いただけでは分からなくて……是非かがみ先輩の意見を聞きたいっス、佐々木さんといのりさんの今後の対応にも参考になるかな……」
かがみ先輩はお菓子を食べるのを止めてしばらく私の後ろ上の方をじっと見つめながら考えていた。
かがみ「真奈美さんね……彼女とは一度会ってみたかった……」
またしばらくかがみ先輩は私の後ろ上を見ながら考えた。
かがみ「真奈美さんが亡くなった今、当事者から話を聞けない、ただ言えるのはつかさの何かに真奈美さんは魅かれた」
ひより「そ、そうですか……」
かがみさん、貴女もそのお稲荷さんを魅了させる何かをもっている。心の中でそう突っ込みを入れた。
かがみ「その何かに一緒に暮らしていて気付かないなんて、私も相当鈍いわ……」
ひより「そうですね」
かがみ「そうそう、私は鈍い……ってこんな時だけ納得するな!」
私は笑った。少し遅れてかがみ先輩も笑った。へぇ、かがみさんってこんなノリツッコミもするのか……
その何かが分かれば全てが解決できるような気がする。
かがみ「ただ一ついえる事は、佐々木さんにしろコン、宮本さんにしろ真奈美さん達みたいに深い憎しみは人間に対して持っていない」
それは私も思っていた。彼らは人間と一体になって暮らしている。それは小林さんも同じなのかもしれない。
かがみ「最近、整体院が休診しているみたいだけど、何か心当たりはないの?」
ひより「引越しをするって言っていました……」
かがみ「なっ!! そう言うのは早く言いなさい」
どうも調子が狂う。普段通りに対応できない。かがみさんを怒らせてばかりいる。
ひより「す、すみません……お稲荷さんは百年に一回、自分の正体を隠すために引越しするって言っていましたけど……」
かがみ「あの整体院は百年も経っていないわよ、それが理由ではない……わね……」
かがみさんは腕組みをして考え込んだ。本来なら私もここでいろいろ考えるところ、でもそこまで深く考えられない。
かがみ「一度、いのり姉さんと佐々木さんを会わす必要があるわね……」
ひより「……はい……」
かがみさんは私をじっと見た。
かがみ「どうしたの、さっきから、いつもなら色々な意見を言うのに……らしくないわよ」
そんな、かがみさんを目の前にして普段通りにしろって言うのは無理があり過ぎる。
ひより「……はぁ、まぁ、頑張ります……」
かがみさんは立ち上がった。
かがみ「人と話すときは目を見るもの、あんた何か隠しているわね」
やばい、こんな時に限ってかがみさんの勘が冴えるなんて。やっぱり来るべきじゃ無かったか。私は慌ててかがみさんの目を見た。
ひより「何も隠してなんかいませんよ……」
かがみ「そうかしら」

41 :ひよりの旅 77/112 [saga sage]:2013/02/11(月) 21:00:43.29 ID:W145K4B60
 かがみさんが私に一歩近づいた時、急にかがみさんの体がふらついて私に向かって倒れかかってきた。私は中腰になり慌ててかがみさんを支えた。
ひより「だ、大丈夫っスか?」
かがみ「……大丈夫よ……ありがとう……」
またかがみさんが固まってしまったあの時の状況が頭に浮かんだ。かがみさんは姿勢を戻した。私は手を放すと自分の席に戻った。
ひより「また調子が悪くなったのですか?」
こんな質問しか出来ないなんて……
かがみ「大丈夫、なんて言えないわね」
ひより「言えない?」
これはもしかしたら病気を告白するかもしれない。私はグッとお腹に力を入れて聞く準備をした。
かがみ「そう、私……妊娠しているから……これはお母さんしか知らない……」
ひより「それはおめでたいですね……えぇっ?!!!」
私は慌ててかがみさんのお腹を見た。全然膨らんでいない。って事はまだ三ヶ月を越えていないと考えるのが……
まてまて、かがみさんの命は後半年……確か妊娠期間は……間に合わない……かがみさんは赤ちゃんが生まれる前に……すると赤ちゃんも……
かがみ「頭の中で計算しているわね、ひより……」
その言葉に私の思考は止まった。そのままかがみさんの目を見た。
かがみ「あんたの計算は正しいわよ、私は出産する前に亡くなる……」
かがみさんの顔は思いのほか冷静だった。むしろ微笑んで見えるくらいだった。
ひより「……な、何故です、どうして……」
かがみさんは俯いた。
かがみ「そうよね、ひよりもそう思うわね、余命幾許もない私が赤ちゃんなんて……一時の快楽の為に命を弄ぶと思って……」
私は立ち上がった。そして両手で強く机を叩いた。
ひより「違う、そんなんじゃない、何故そんな話を私にするの、他にもっと言わなきゃならない人が居るでしょ、泉先輩、高良先輩、日下部先輩、峰岸先輩……私よりも
    親しい人が居るでしょ……何故私なの、そんな……そんな話をいきなり聞かされて……私にどうしろと……」
かがみ「……峰岸は名前、変っているわよ……」
こんな時に突っ込みを入れるなんて……興奮している私とは対照に冷静すぎるかがみさんだった。私は返事をせずそのままかがみさんを見た。
かがみ「ごめん……ごめんなさい……話を聞いてもらいたかった……それだけ、理由はそれだけ」
「ごめんなさい」初めてかがみさんから聞いた言葉だった。泉先輩と喧嘩をした時でも自分からは謝らない人なのに。気持ちが冷静になっていくのを感じた。
私はゆっくり座った。
ひより「私がかがみさんの病気を知っているの、分かっていたのですね……」
かがみ「……ひよりには話しておきたかった、だから呼んだ……一方的なのは百も承知、それでも聞いて欲しかった……気に障るならこのまま帰っても良いわよ」
別に追い出す感じではなかった。口調は穏やか、私が感情任せに怒鳴ったのに反応していない。さっき怒鳴った私が恥かしくなった。
ひより「……さっきは怒鳴ってすみません……あまりにショッキングだったもので……先輩に対して失礼でした」
かがみ「先輩、後輩なんて関係ない……ありがとう、取り敢えず座って」
かがみさんはにっこり微笑んだ
ひより「はい」
私は座った。
ひより「でも……どうして……私なんか……」
かがみ「もう知っていると思った……あんた泣いてくれたじゃない、それともあの涙は嘘だったの?」
泣いた……かがみさんが固まってしまった時の事を言っているのか。
ひより「い、いいえ、嘘泣き出来る程器用でないです……」
かがみさんはまた微笑んだ。
かがみ「安心したわ……嬉しかった、嘘泣きだったとしても嬉しかった」
ひより「泉先輩達だって泣きますよ、私でなくても……」
かがみ「こなた、みさおがねぇ……あいつらが泣くかしら、みゆきくらいしか想像できない」
ひより「そうかなぁ〜私なんか大泣きする泉先輩の姿が頭に浮かびますよ」
かがみさんは私の後ろを見ながら答えた。
かがみ「だから内緒にしてって言った」
ひより「どう言う事です?」
かがみ「私があと半年で死ぬなんて分かったらあいつら絶対に普段通りじゃなくなる」
それはそうだ普通で居られるはずは無い。
ひより「そうですよ、親しければあたりまえじゃないっスか」
かがみ「……私は普段通りのあいつらが良いのよ……急に優しくされたり、泣かれたりしてもそれは本当のあいつらじゃない……それは家族にしても同じ、
    普段通り、話して、笑って、喧嘩して……」
普段通り……か。私にはよく分らない。
ひより「病気が悪くなれば何れバレますよ?」
かがみ「その時までで良いわよ……」
それなら……
ひより「実は、ゆーちゃん、みなみちゃんも知っていますよ」
かがみさんは私の目を見た。
ひより「い、いや、私でなくて……まなぶさんが教えてしまったらしいっス」
かがみ「……別に怒ってなんかいないわよ、知られてしまったのはしょうがないわよ……ひよりも佐々木さんが口を滑らせてしまったって聞いたわよ……」
そうか、かがみさんは佐々木さんの所に行って整体治療をしてもらっているのか。だから私の事も知っているのか。
かがみ「記憶を消す事だって出来るのに、佐々木さんはしなかった、技術に頼らないのは評価に値する」
ひより「みなみちゃん……高良先輩に教えるんじゃないかって少し心配なんです」
かがみ「いまの所それは無いわね、みゆきはつかさの手伝いに夢中だし、かえって良かったわよ」
なんか少し肩の荷が下りた感じだ。でも小林さんが病気を知ってしまったのはかがみさんに教える気にはなれなかった。なぜなら小林さんの正体も知ってしまうから。

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