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千早「キサラギクエストU」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆tFAXy4FpvI :2013/03/28(木) 15:35:31.66 ID:WRQTCoCwo
前スレ

千早「キサラギクエスト」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1353737897/


Episode[までは前スレになります。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1364452531
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貴方「僕がヒロインを攻略するまどか☆マギカ…オカルト?」マミ「それは終わったわ」 @ 2020/07/11(土) 00:30:36.42 ID:gYCbcSsI0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1594395036/

山城「貴方には……地獄がお似合いだわ」 @ 2020/07/11(土) 00:06:47.35 ID:sxzhAsQM0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1594393607/

【安価】ツースリークロスオーバー @ 2020/07/10(金) 23:19:43.54 ID:DRKrxCJQO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1594390783/

プロデューサーが果穂と悪い事する話。 @ 2020/07/10(金) 22:30:33.82 ID:g8gQ+cZg0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1594387833/

旅にでんちう??? @ 2020/07/10(金) 20:49:54.59 ID:6f6slnKNO
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【cardwirth風】冒険者の旅路【安価・コンマ】 @ 2020/07/10(金) 15:56:16.33 ID:13zEudab0
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宝鐘マリン「最近るしあに絡みづらい……」 @ 2020/07/10(金) 06:06:46.53 ID:3lY2r/m+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1594328806/

主人公「え?俺がヤバいって弱すぎるってことか?」 @ 2020/07/10(金) 01:25:04.84 ID:J/0yn4qt0
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2 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 15:55:59.05 ID:WRQTCoCwo

私の話はいたって単純なもので人がどんな風に暮らしていたのか。
私自身がその村でどんな風にすごしていたのかを淡々と語ったものだった。


真と萩原さんは茶化しもしないでずっと聞いていてくれた。
本当にありがとう。
ずっと言えなかった私の過去は今こうして話すことで
何が吹っ切れて、少し肩の荷が降りたような気がした。


いつの間にか思い出して、胸の痛みにも耐えられるようになっていた。
それはずっと私の手を萩原さんが握っていたから。
3 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:00:25.57 ID:WRQTCoCwo

前は思い出すと一人胸の痛みに苦しみ耐えることなどできなかったのに。
私にはこんなにも大切な仲間ができた。
本当の意味で、やっと仲間になれたのかもしれない。


私達は四条さんの存在の秘密、
そして、その原動力となる私の血の秘密を知ったあの日。
クロイ帝国の警備も夜はもうないということで
ナムコ王国の首都バンナムにあるバンナム城の一室を借りて寝ていた。


これから私の生まれについて
母親に直接聞きに行くということで
私は寝付けなかった。
4 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:02:18.74 ID:WRQTCoCwo
そこへ萩原さんと真は傍に寄ってくれていた。
その優しさに私はとうとう自分のこれまでの経緯を
打ち明けていたのだった。



「……本当はこんな重い空気にするつもりはなかったのだけど」

「うん、いいんだよ別に。それでも」

「二人共ありがとう」

「全く。……今日は特別に一緒に寝てあげるよ」


真はそそくさと私のベッドに入ってきた。
少し恥ずかしいのか照れていた。
5 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:02:46.77 ID:WRQTCoCwo
「あ、じゃあ私も」


と萩原さんも。
二人が入ったせいで私のスペースはあんまり残っていなかった。


端っこのあいたスペースに


「仕方ないわね……」


と言って入ろうとすると。
萩原さんに真ん中に引っ張られる。
6 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:03:55.08 ID:WRQTCoCwo

「何言ってるの? 千早ちゃんは真ん中だよ」

「えっ? あ、もう!」



真ん中に引きずり込まれて私にしがみつくように、抱きついて、二人は寝始める。
すごく寝づらい。だけど、嫌じゃない。今は、すごくありがたかった。
こうして夜は更けていった。





7 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:08:51.63 ID:WRQTCoCwo
翌日から私達はまた旅を始めた。
城の中に帝国の連中が来て巡回を始める前に出発した。
見つかってしまって私が生きているのを確認されては困る。


朝が早かったために
城下町で少し買い物をしたかったがそれもできず。
結局律子の用意してくれた少ない荷物を受け取ることになった。


森へ入り、木々を掻き分けながら進む。
時々出てくるモンスターも朝方からお昼になるにつれて
出現頻度が上がるが、大したことはない。


早足で移動をする。
帝国が今にでも賢者の石の解読が終わり
実用されてしまっては元も子もない。
8 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:11:12.26 ID:WRQTCoCwo
私は何度かトラウマのために立ち止まることもあったが
一歩一歩確実に歩み続けていた。



それから私達は一ヶ月が過ぎて、ようやく到着していた。



「国境は大きくうねって、ここは昔からそうだったけれど
 もうナムコの領地じゃないんだよね」

「そうね……」

「ああ。だからこの辺りからもっと気をつけて移動しよう」
9 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:13:04.02 ID:WRQTCoCwo
私達はいつかのあの高台に来ていた。
何も代わりはしなかった。


この高台から見る景色は。
あの時と同じ。



山に囲まれた村で
鉱山を資源としている村を一望できるこの高台。


それから村へと向かう。
村長の家だった場所に向かう前に、私は行かなくては行けない所があった。
村の外れの、とある場所へ到着した私達。
10 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:13:57.42 ID:WRQTCoCwo
「……」

「大丈夫? 千早ちゃん……」

「ムリしないで」

「大丈夫よ……これぐらい」



私の家だったものは今もそこにはなかった。
焼き払われたように燃えて、家の形をしていた跡だけは見て取れた。

11 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:16:28.84 ID:WRQTCoCwo
確か、ここが玄関だったっけ。
立ってみる。


あの時、母親が私と優を見ず知らずのオジサンに
売り飛ばしたということをここで聞かされて、
初めて大人に殴られた。


痛かったなぁ。


きっと今喰らってもすぐに起き上がれるんだろうけれど、
あの時、ショックを受けた私とっては
きっと精神的なダメージもすごかった。
12 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:17:50.38 ID:WRQTCoCwo
「……もう、ここにはいないのかしら?」

「そうかもしれないね」



私達は仕方なしに、村長の家に向かう。
村の様子は荒れ果ててところどころの家が焼き払われて跡形もなくなっていた。


村長の家は無事だった。
というよりも村はほとんど無事で、
少し荒れた様子もあったのだけど、
村に住んでいる人達はみんな健康で元気だった。




誰も私のことに気が付きはしなかったけれど。

13 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:18:32.35 ID:WRQTCoCwo
……コンコン。


村長が住んでいた家をノックする。
中から返事が聞こえ、
しばらくすると中から人が出てくる。
私は身元がバレると厄介なのではないかと思って少し衣服で顔を隠していた。



「はい、どなたですか?」

「この村の村長さんですか?」

「えぇ、私がそうです」
14 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:19:20.93 ID:WRQTCoCwo
見ると随分と若い村長だった。
村の人達もこの人で依存はないのだろうか。


「この村が軍に襲われた時の話を伺いたいのですが……」


と萩原さんが聞く。
その時、村長は少し嫌そうな顔をして、
私達の顔をジロジロと見たがすぐにこう答えた。


「……中に入ってください」
15 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:20:12.02 ID:WRQTCoCwo
周りの目を気にするように村長は中に入れてくれた。
あれ、もしかしてこの人。
中に通してもらい、大きな机に3人で座る。



「それで、何故知りたいのですか」

「真実を知るためにここに帰ってきました」


お茶を淹れてくれている村長に向けて、
私はそう言って覚悟を決めて、顔を隠していたものを全て取った。
16 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:22:21.05 ID:WRQTCoCwo
「私のことは分かりますか? 覚えてますか?」

「……お前は……村の外れの……」

「ええ、あなたがバケモンと呼んだ者よ」

「……生きていたのか」


村長はそう言うと少し俯いてしまった。


「そうか。それがこんな二人まで連れて何の用だ」

「言ったはずよ。真実を知りたいのよ。
 あの日、私はあまりにも幼すぎた。だからもう一度聞きたいのよ」



本当の話を。
私の真実を知りたいのよ。
17 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:23:48.29 ID:WRQTCoCwo
「そうだな。仮にも村の住民だったからな。知る権利がある」

「だけど、これは私が話すことではない。
 あんたの母親自身から聞けばいい」


「!?」


思わず立ち上がる。


「生きているの……!? この村で? だってもう私の家は」

「あぁ、家に行ったのか? 確かにあそこは焼かれているが、
 別の所に住んでいる。今は一人で住んでいるよ」
18 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:24:22.98 ID:WRQTCoCwo
「住所を教えて」

「わかった。今紙に書く」



と言って取り出した紙にスラスラと書いた。


「だけど、気をつけろよ。この村はもうナムコの村じゃない。
 領主が存在する。奴に見つかった場合は消されると思う」

「だから……」


「だから……気をつけてくれよ。俺にはこれくらいしかできない」
19 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:25:53.55 ID:WRQTCoCwo
そう言って目を伏せた。
もしかしたらこの人も私達に協力することで、
命の危険にさらされるのかもしれない、と考えると、
すごくありがたいことをしてくれたのかもしれない。


「あの……村長は……」

「死んだよ」

「最後に戦って死んだよ」

「そう……」


そのあとは村長にお礼を言って、家を出た。
出されたお茶は全く飲まずに。


紙に書かれている住所を頼りに私の母親が住んでいる家に向かう。
20 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:26:31.53 ID:WRQTCoCwo
私を捨てたあの人。
優を捨てたあの人に。


「千早。ボク達がいるから大丈夫だよ」

「千早ちゃんは何も心配しないでいいからね」


そう慰めてもくれる二人を背に私はその住所の書かれた扉の前にいた。
私の震える手はゆっくりと扉をノックする。


しかし、返事はなかった。
21 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:27:53.83 ID:WRQTCoCwo
「留守かなぁ?」


真が言う。


「そうかもしれないわ」


内心でほっと安心している私はすぐに扉の前から離れてしまった。
背を向けてそのまま歩き出そうとした所に、
私の行く手を遮るような形で目の前に呆然と立っていた女性がいた。


青みがかった髪の毛はぼさぼさで所々跳ねていて、
後ろで緩く束ねていた。
22 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:28:38.30 ID:WRQTCoCwo
「……私の家に何か用が?」


と言いかけた所で私も、その女性もお互いに気がつく。
ハッとしたような気持ちになる。


何かで胸に穴を開けられたような、そんな気持ちに。
変わってしまった。
何もかもが。


そう思えるほどに、私の母親は変わってしまっていた。
あんなに綺麗だった髪も艶を失っている。
23 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:29:45.04 ID:WRQTCoCwo
顔も小じわが増えている。
あんなに素敵な笑顔を出していたのに、
目の下にはクマがあり、口角は下がり、疲れきった顔をしていた。


「……千早なの?」

「……はい」


私の母は私から目を背け、そして、
私の横を通り、自分の家の鍵を開けて小さく言った。


「入って」

「……はい」
24 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:30:28.14 ID:WRQTCoCwo
私と母親はぎこちないどころではない。
どう接していいのかわからない。


彼女は私や優を捨てたことで後悔し、
後悔して後悔して後悔して生きてきたと、そう信じていたい。


私達は部屋にあがらせてもらった。


部屋は余計なものは置いてないと言った感じだった。
殺風景。可愛げもなんともない部屋。
25 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:31:22.89 ID:WRQTCoCwo
そのうちのテーブルに3人はつく。
村長の家のとは違って今度は小さな。


3人は何も話さなかった。
しばらくすると台所の方から母親がお茶を運んできた。


「どうぞ」


とゆっくりとした口調で3人に配り終える。
シンとした空気に合わせてるのか真も萩原さんも会釈しかしなかった。
26 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:32:08.12 ID:WRQTCoCwo
そして、私の母親は、私の正面に座った。


張り詰める空気。切り出さないといけない。



「あ、あの……。き、今日は聞きたいことがあって、その……」


上手く言えない。普段は別に人前でこんなことにはならないのだけど。
でも、黙って聞いてる。


「私の……故郷のことなんだけど」

「故郷……?」


まるであなたの故郷はここじゃない、
とでも言いたげな表情をするのに苛立ちを覚える。
27 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:33:03.14 ID:WRQTCoCwo
「そうじゃないの」

「私の生まれた場所の話よ」

「それは……どこなの?」



母親は一度目を伏せて何かを考えた様子だったが再びこちらを見た。
疲れきったその目で、私を。



「あの時のことは聞かないのね」

「えぇ、聞かないわ。そこは最も聞きたい所だけど、
 それよりももっと重要なものがあるの」

「私の血族の話よ。一体……アルカディアとは何ですか?」
28 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:34:00.10 ID:WRQTCoCwo
再び黙ってしまう。母親。


「そう……知ってしまったのね」

「はい……。もうあとには引けません」

「教えるわ」


そして、私の母親が語ったのは何とも言えないものだった。
29 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:35:31.98 ID:WRQTCoCwo
アルカディアとは通称、戦術舞踊民族のことを指すとある集落の部族のこと。
彼らは一族で血液が繋がっていて、戦う時には歌を唄いながら戦うとのこと。
正確には戦う時だけでなく、常に歌がある民族だった。


歌を唄いながら戦うのとそうでないとではだいたい10倍以上も力量が違う。
そのために怪我で限界がきた時もこの能力を使って、歌を唄って治すことも多々ある。


それらの特別な血を持って創りだされたのが賢者の石だった。


故に賢者の石はまたその血を持つものが使うことができる。




「賢者の石を使えるのこの世界には今は、私の血、そしてあなたの血と……」



「優の血よ」


「 !? 」
30 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:36:07.40 ID:WRQTCoCwo
優の血?
生きているの?
私は大きく動揺する。
真と萩原さんも真剣に聞いている。


「優は……。どこへいるの」

「生きているわ、でも死んでいるとも言えるかもしれない……」

「詳しいことは……。ごめんなさい。わからないの」


優が生きている……。
私の家族。


一度バラバラになったけれど、またこうしてここにいる。
31 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:36:43.96 ID:WRQTCoCwo
しかし、結局優がどこにいるのかはわからないままだった。
私の目的は今は賢者の石について、そしてアルカディアについて知ることだった。


賢者の石の秘密を知る鍵がアルカディアを知ることにあるなら、
と思ってこちらへ来てみたが、なるほど。
見事にそういう訳だった。


「私達の血族は……賢者の石を使って何をしようとしていたの」

「賢者の石を使って私達は歌を広めようとしていたのよ」

「歌……?」
32 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:37:14.48 ID:WRQTCoCwo
「ええ」

「……どうして歌を?」

「それはあなたもよくわかっているはずよ」

「……」


言われて見て、またいつの日かのことを思い出す。
優と歌った。この村のはずれにある高台を。



「私達の歌を、多くの人に広め、そして、その楽しさや美しさを
 広めていきたいと、世界の人々と私達の歌で繋がりを持ちたいと思っていたの」
33 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:37:40.87 ID:WRQTCoCwo
母は続ける。


「だけど、それを悪用しようとしたものが現れたわ。
 それがクロイ帝国とナムコ王国。
 当時の王達は賢者の石の魔力を使って永遠の命を手に入れようとしたの」

「一族が住む小さな集落には何度も何度もどちらもが侵攻にきた」

「だけど、それを幾度となく返り討ちにしたのも事実」

「そんなに大量の軍が毎日毎日押し寄せることで体力がもうなかった」

「……一族はほぼ全滅。最後に残ったのは私の夫」

「あなたの父親よ」
34 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:38:22.88 ID:WRQTCoCwo
「彼は最後に私達を集落から逃し、追手も来ないようにと
 盛大に歌い上げ、襲い来る軍をほぼ一人で壊滅に追い込んだ」

「だけど、そのせいで、私達を逃したせいで逃げ遅れて死んだ」



初めて聞いた父親の話。
小さい頃、父親の話を聞くと、母が悲しそうな顔をしていたのも思い出す。


「その後、私は幼い千早と生まれたばかりの優を抱え、
 なんとかこの村に逃げてきたのよ」

「そして、匿ってもらっていたの」
35 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:39:10.95 ID:WRQTCoCwo
そして、私達はミンゴスという、この村で育った。
記憶があるのはこちらに来てからだったということね。


だから今、この世界に賢者の石を操れる力を持っているのは
私と優と母だけ、ということね。


私の知らなかった所で起きた大まかな出来事が頭に入ってくる。
だけど……私は知らないことばかりだった。




ドガァン……!



外で大きな爆発音がする。
まだ話の途中なのに。
36 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:39:40.56 ID:WRQTCoCwo
「今のは!?」


私と真は外に飛び出す。
すると、村長の家があった場所は燃えていた。


「千早。あれはここの領主である、御手洗さんよ……」

「み、御手洗……?」


クロイの人間なのは、この村がクロイに占領されてることを知っていれば
なんとなくではあるがわかること。
37 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:40:20.44 ID:WRQTCoCwo
「真、萩原さん」

「ああ、行こう千早」

「うん!」



私達3人は母親の家を飛び出し、村長の家へと走った。
そこには、見たことのない少年の姿。あれが領主?


村長さんは無事で、少し怪我をしている様子だった。


少年の隣にいるのは……ローブを着てそのフードが顔まですっぽり覆っている。
あれでは顔がわからない。
38 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:42:12.86 ID:WRQTCoCwo
私達は何が起きているのか
様子を伺うために近い所まで来て物陰に隠れている。


「ねえねえ、村長さん。この村によそ者が来てることくらい知ってるんだよ」

「せっかくこの人にも着いて来てもらって自慢しようと思ったのにさ〜」


聞いたことのある声……どこかで……。


「す、すいません。わ、私も知らなくて……」


あの若い村長はヘコヘコと自分よりも
年下なんじゃないかと思うほどの少年に頭を下げていた。
39 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:43:02.14 ID:WRQTCoCwo
「いいよ、そんな嘘つかなくても。わかるんだから」

「今、魔法で記憶を辿ってあげるから」


村長の顔を片手で掴み魔法を使い脳内から直接記憶を読み取っている。


「あ……うっぅ、あがっぁ」

「やっぱり嘘なんじゃないか」

「どうします?」


この声……バンナムの城の中で天ヶ瀬冬馬を助けた翔太という声!
ま、まさかあの幹部の一人が直属に支配する地域だったなんて。
40 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:44:13.08 ID:WRQTCoCwo
御手洗翔太はフードを被った人に聞いているが、
かすかに口が動いたように見えたが
何を言ったのかは私達にはわからない。


「えぇ? いいんですか?」

「えへへ、じゃあ殺しちゃおうっと」


御手洗翔太はスッと杖を取り出し村長の首にそえる。
それ以上はさせない!


「待ちなさい!」

「やぁ!」


萩原さんが魔法で御手洗翔太の杖を吹き飛ばす。
41 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:45:50.79 ID:WRQTCoCwo
「痛いなぁ。誰?」

「ん? あっれ〜? お姉さん達、もしかしてバンナムの城で見た……」

「やっぱりそうだったのね」


こっちも声に聞き覚えがあると感じていたけれど、
向こうもこっちに見覚えがあるみたいだった。


ジリジリと睨み合う私達3人と
御手洗翔太とその横にいる謎の人間。
42 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:46:23.71 ID:WRQTCoCwo
「ふぅん……僕の杖を吹き飛ばすとか、やってくれるよねぇ」

「うぅ〜。魔法で人を殺すのは魔術法に違反しています!」

「そんなこと言って……いいよ3人かかってきなよ」


面倒くさそうにそう言いながら
そう言いながら前に出る御手洗翔太を手で止めるのはフードの人。


「え? おお! 一緒に戦ってくれるんですか? へへ〜、ラッキー!」
43 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:47:07.70 ID:WRQTCoCwo
「お姉さん達、そういうわけで、この人も戦ってくれるみたいだから
 もうお姉さん達には勝ち目はないと思うよ?」

「だって、この人すっごい強いからね」

「……」

「やってみないと分からないわ!」

「そうだ!」


真と私はフードの人と向き合う。フードの人はローブの中から剣を抜く。
私も剣を抜いて構える。
44 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:47:45.34 ID:WRQTCoCwo
一方、萩原さんは御手洗翔太とすでに激しい魔術戦を繰り広げている。


「お姉さん、中々やるじゃん」

「……その程度の魔法では私には勝てません」


あっちは萩原さんがかなり押しているようだった。



そして、こちらもまもなく激しい衝突が始まる。
見ず知らずの人だったけれど、ここで倒してしまう方がいいわね。
45 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:48:20.83 ID:WRQTCoCwo
この人は……たぶん只者ではない。


「あなたは……何者なの!」


剣を交える。冷たい感触。何も伝わってこない。
そこに真が蹴りを入れるが、びくともしない。


一瞬の隙をつかれた真は脇腹を剣で叩かれ、吹き飛ぶ。
が、すぐに起き上がる。


「ぐっ、いてて……!」
46 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:48:52.54 ID:WRQTCoCwo
一方、私の剣術は全く通用しない。全てお見通しのような。
首筋を一気に狙った突きを繰り出すがそれもかわされてしまう。


かわされた隙に顎を下から殴りあげられる。


「がぁッ!?」


宙に浮いた体に蹴りが入る。
少しの距離を滑るように転げ、すぐに立ち上がる。
47 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:49:50.39 ID:WRQTCoCwo
だけどこの感触。この人……まさか。
この戦いを楽しんでいる?


私と真は殺す勢いなのに。
全く本気を出していない!?



「変わらないね」


ボソッ、とフードの人が喋った声はうまく聞き取れなかった。

48 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:50:19.09 ID:WRQTCoCwo
何度か剣を交える度に不思議な感覚に陥る。
この感覚は前にもあった。


そう、これは美希と戦った時に感じた感覚と同じ。
あの時に美希は私の剣の捌き方をマスターしていた。


じゃあこの人も私のをマスターしているというの?
私の剣の動きを……。


「そうじゃないよ」


クスクスと笑いながらも私の剣。
そして真の拳や蹴りをひらひらと避ける。
49 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:51:00.75 ID:WRQTCoCwo
「今まで戦ってきた人たちの非じゃない……」

「そうかなぁ? そうだと思う?」


真のその言葉にも余裕で返してくる。
どこか嬉しそうな雰囲気で私に向かって剣を振るうその人。


「千早……こいつ……強い」

「えぇ、わかってるわ!」
50 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:51:44.78 ID:WRQTCoCwo
どうする……?
だけど、私が歌を歌った所でこの人にも勝てそうにない。
だけど、やらない訳にはいかない……。


アルカディアの秘密を知った以上。
私は……戦わなくてはいけない!


思い出すのよ。
あの時の、かつて無意識のうちに発動させていたその能力を。



「泣くことなら……容易いけれど」
51 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:52:34.20 ID:WRQTCoCwo
歌を唄い始める。
自然に相手の剣の動きが入ってくる。
頭に直接流れ込むように見える。


「……もう気がついたんだ。それとも知ったのかな?
 自分の運命に……」


まるで何もかも知っているかのように言うその人の突きを交わし、
柄で一撃、顎に入れる。
すぐに後ろに回り込み羽交い締めにしたのちにフードに手をかける。


「何を知った風な口を聞いているのか分からないけれど、
 とにかくまずはその顔を拝ませてもらおうわ!」

52 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:53:06.72 ID:WRQTCoCwo
バッ!


真がそこに顔面に右ストレートを入れようとするが、寸で止まる。


「お、女の子……!?」


その言葉とほぼ同時に視界に入っていたのは頭の横についた赤いリボンだった。



私は……この人を知っている。
かつて……私と旅をして、私に剣の全てを教えた師匠だった。




「は、春香……」


53 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:53:38.73 ID:WRQTCoCwo
思わず手を離して後ずさる。


「久しぶり。千早ちゃん」


この笑顔。この声。春香……。
春香……なの?



嘘……よ。


どうして生きているの。
春香は死んだはずじゃ……。
54 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:55:12.51 ID:WRQTCoCwo
「ど、どうして春香がここに……」

「どうしてだと思う?」


「わ、わからない……なんで」

「千早ちゃん。現実から目を背けちゃだめだよ。
 私を見て千早ちゃん。生きている私を見て」


私は咄嗟に変身の能力、擬態の魔法を使って
おばあさんの振りをした美希を思い出す。



「み、美希!? 美希なら……こんなことやめなさい!」


55 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:56:09.18 ID:WRQTCoCwo
「美希? 美希じゃないよ。私だよ」

「分からない?」


近づいてくる春香に何も抵抗できなくてただ後ずさるだけしかできなかった。


「ち、千早!」


すぐに真が咄嗟に判断んして跳びかかるが
真の方へは見向きもしないで剣で薙ぎ払った。


真はまたしても吹き飛ばされ、少し離れた家屋に頭から突っ込んでいった。
56 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:57:21.37 ID:WRQTCoCwo
「真!」

「だめだよ千早ちゃん。目の前の敵から目を背けてはいけないって
 そう教えたはずだよねぇ?」

「は、はい……」


思わずそんな返事をしてしまう。
違う。そうじゃない。今はこの人は……。
昔はどうであれ、今は敵なのだから……攻撃をして倒さないといけない。


でも、待って。本当に敵なの?
もしかしたら敵じゃないかもしれない。
だけど、そっちにいるということは敵。
57 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:58:00.36 ID:WRQTCoCwo
私は動揺の中で剣を振るうがそれはとても弱々しく、
春香はいとも簡単に弾いてしまった。つまらなさそうに。


「千早ちゃん。私のために死んでね」


春香は頭上に大きく剣を振りかぶる。
どうしよう。どうして春香がここにいるの。


「は、春香さん! た、助けてくださいよ!」


声の方向では圧倒的力量の差で、
御手洗翔太は萩原さんによって追い詰められていた。
声をかけられたことにより、ぴたっと春香の動きは止まる。
58 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:58:44.30 ID:WRQTCoCwo
やれやれと言った表情で萩原さんの方を振り向き、


「はぁ……しょうがないなぁ〜」

「これ、まだ使ったことないけど、試してみようかな」

「”そこに跪いて”!」


そう発言した春香は何か特別な力で萩原さんをその場にねじ伏せた。
だけど、私もあの瞬間だけ春香を取り囲んでいたどす黒いオーラを見逃しはしなかった。
59 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:59:11.22 ID:WRQTCoCwo
「な、何こ……れ」


見ず知らずの魔法に全く身動きの取れない萩原さん。
しかし、私も解除の方法もわからなかった。
見たことがない技だったから。


「千早ちゃんも。”そこに跪いて”」

「あっ……が、……」


ガクン。
両足が地面に吸い付けられるように倒れこむ。
すごい……重力を感じる。動けない!
60 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 16:59:54.25 ID:WRQTCoCwo
「ふぅ〜、助かりましたよ〜」


そう言いながら御手洗翔太はこちらにやってくる。
そして春香の横に立って言った。


「さて、さっさとこいつらやっちゃってください」


「わかってるよ」


軽々しくそう言う御手洗翔太を一瞥してから
私にもう一度近づいてくる。
61 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:01:38.78 ID:WRQTCoCwo
「ごめんね、千早ちゃん」


一つ、大きく深呼吸をしてから。


剣を目の前で振りかぶる春香。
私はまだ動揺していた。答えなんて考えたってでなかった。
もう為す術はない。



私はこの時、すごく嫌な予感がしていた。
もし、このまま春香に殺されるのなら
私はそれでもいいんじゃないかと思っていた所があった。


自分の使命くらい分かっているつもりだった。
だけど、私の前には大事だった春香がいる。
62 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:03:44.12 ID:WRQTCoCwo
私のあの時の悲しみは一体何だったのか。
でも、
もう別にいいのかもしれない。
こうして春香は生きているのだから。


そんな甘っちょろいことを考えてしまう瞬間もあった。


だけど、現実はそんな風にしてくれなかった。


この場面。

身動きの取れない私。


私に剣を向ける春香。


遠くで倒れている真。


私と同様に身動きの取れない萩原さん。
63 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:06:13.96 ID:WRQTCoCwo

そして、死が迫る私を守るもう一人。


嫌な予感はしていた。


ザクッ。


私は春香の目の前で跪いたまま生きていた。
目の前に私を覆うようにして立つ母の姿を見ながら。



64 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:07:42.05 ID:WRQTCoCwo
斬られた箇所からは大量の血が噴き出て、
ゆっくりと、静かに崩れ落ちる。



血が流れ、うつろな目をして倒れている。


「あーあ」


御手洗翔太はそう僕達は何も悪いことはしていないとでも言いたげだった。
なんで……なんで私なんかを。
どうして。



「お、お母さん……?」

「ち、千早……。許して……」
65 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:08:09.70 ID:WRQTCoCwo
嫌……やめて。しゃべらないで……。
もう、いいから。
本当は気づいてた。
私、自信がお母さんのことを恨みきれてないことを。



手を握り、抱える。
血が、温かく……。
そして、また私は……この腕に抱いてるのに。



「な、何で私を助けたりなんて……」
66 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:08:49.28 ID:WRQTCoCwo
「あなたが大事だったからよ。
 あなた達二人が、私は一番大事だったからなの」



だって……あんなに優しかったお母さんを、恨むことなんて。
私にはできない……。
恨んでいる振りをしていただけなのかもしれない。
現実から目を背けて。それが真っ当だと思ったから恨んでいる振りをした。



だけど、そんなの違った。
本当は……どうでもよかった。
いつだって許したかった。
67 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:09:42.30 ID:WRQTCoCwo
「あなたは……歌うべきよ。いつだって、どこだって」

「歌い続けるべきなの……だから」

「千早。優を……お願いね」



握られた手からはあっという間に力が抜けた。
私は……この腕に抱いているのにまた助けられなかった。


今度は自分の親を。
私の不力で、助けられなかった。






「お、お母さん……!?」


そうして、私のお母さんは優しい微笑みを残してその息を引き取った。
68 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:10:42.87 ID:WRQTCoCwo
私を売り払い。
その身のために、自身の安全のために取った行動。


本当は許したい。いつだって謝ってくれれば許してあげたい。
だけどここに優はいない。
お母さんもこうして死んでしまった。目の前で。



私はお母さんにはこうして守られる義理もないし、
何を言っていいのかもわからなかった。
69 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:11:10.86 ID:WRQTCoCwo
だけど……。


だけど、涙が出て止まらなかった。
嫌な思い出なんかは一切出て来なかった。


人間ってこういう時、現実逃避が上手にできるようになってるのかしら。
楽しい思い出ばかりが頭に流れてくる。
どうして。


どうして私の中のお母さんはいつも笑っているの。
なんで……私は助けられなかったの。

70 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:11:40.07 ID:WRQTCoCwo
「いい機会だから教えてあげるよ。
 君のお母さんは最後まで君を守り続けようとしていたことをね」

「まぁ、結果的には失敗した部分もあるけれどね」

「……どういうことよ」


御手洗翔太とかいう男がべらべらと喋りだす。
殺す勢いで睨みつける。
あなたに何がわかるのよ。
71 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:12:17.60 ID:WRQTCoCwo
「君のお母さんは君を売ったんではなく、
 君たち二人の身を遠くにやることで守ったんだよ」

「石の発動は君等自身の血。その君等が捕まってはお終いだからね」

「だからこそ、君たちは逃がされたんだ」

「だけど、結局はクロイの追手にすぐに見つかって
 弟くんとは別れる羽目になったんだけどね。
 これが君の母親の一番の失敗」


うるさい……。
72 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:12:57.37 ID:WRQTCoCwo
「まさかこんなに早く追手に見つかるだなんて夢にも思わなかっただろうに」

「世界の滅亡に手を貸す子供を育てるくらいならば、
 どこか遠くへ売ってしまえばいいと、そう思ったのさ」

「君たちを売った資金ですでに武器を買ってある君の母親は
 迫り来るクロイの軍と盛大に村を引き連れて戦った」



うるさい……! 黙って……。
73 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:13:34.60 ID:WRQTCoCwo
「だけど敗北に終わった。そこからこの村は僕達クロイ帝国のものなのさ」

「結局、君は引き取った領主が交渉したのかなんなのかはわからないが、
 無事に農奴になり見苦しくも生きていたってわけだよ」


うるさい……。


「うるさい……!」


うるさい……。あの日、逃がされた……?
売られたわけではなく。
74 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:14:14.23 ID:WRQTCoCwo
「もう、喋りすぎだよ」


ニコッと御手洗翔太に言う春香の目は笑ってなどいなくて
むしろ怒っていた。


「ひぃッ!? ご、ごめんなさい!」

「あ、は、春香さん。ここは僕に任せて! 
 まだ調整中なんですから、先に城へ戻っていていいですからね!」

「ふぅん……。大丈夫? あまりベラベラ喋らないようにね?」
75 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:14:52.63 ID:WRQTCoCwo

「はい! そりゃあもちろん大丈夫ですよ」

「そう……ならいいけど」


春香は振り返り、私になんて目もくれずに歩いて行き、
そして、今までそれが幻だったかのように
その姿は揺らぎ、唐突に消えていった。


「まあ、このミンゴスも僕の任されている領地だからね」

「自分の土地くらいは自分でやらないと」

「さて、どう料理してあげようか……」
76 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:15:26.41 ID:WRQTCoCwo
そう自分で自分に気合を入れなおす御手洗翔太。


御手洗翔太……許さない。
クロイ帝国……絶対に許さない。


春香に何をしたのか知らないけれど、
まず第一に彼女が本物かも怪しいのに。


絶対に許さない。
私の優を奪って、お母さんにこんな苦しい思いもさせて。
77 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:16:30.78 ID:WRQTCoCwo

剣を握る。固く、より強く握るその手はブルブルと震えていた。


春香がいなくなったことで
春香の魔法が解除された萩原さんが駆け寄ってくる。


同時に真も崩れた家屋の中からようやく脱出できたみたいでこちらに走ってくる。


私はただ立ち尽くし、
目の前にいる敵を睨みつけていた。
78 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:17:01.88 ID:WRQTCoCwo

「千早! ……まだ間に合うかもしれない。回復薬を」

「もう間に合わないわ。国王の時も私はこの腕に抱いていた」

「人の死ぬ瞬間を……肌で感じていた」

「もう魔法でも薬でも元には戻らないわ」

「ち、千早……?」


真が心配そうな顔で見ているのが今はもう鬱陶しかった。
今はもう……目の前の敵しか……親の敵を討つことしか考えられない。
79 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:17:56.29 ID:WRQTCoCwo
萩原さんがそっと真の方に手を当てて引く。
目で何かを訴えていたのを真も受け取ったのか萩原さんと二人で
お母さんの遺体を抱え近くを離れた。


それを見た御手洗翔太はにやにやしながら言う。


「何々? そんな死体運んでどうするの?」

「……うるさい。黙って」

「あれー? もしかして千早さん怒ってる?」
80 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:19:55.41 ID:WRQTCoCwo
「だって、ずっと恨んでたんでしょう?」

「子供の頃に何も知らずに売り飛ばされちゃって……さぞかし大変だっただろうに」

「黙れ!!」

「……っ」


自分でもこんなに汚い言葉が出るなんて思ってもいなかった。
私は今……私の感情のためだけにこの男を殺す!



切っ先を向ける。


「……覚悟しなさい」

「私は絶対に許さないから」
81 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:21:15.88 ID:WRQTCoCwo
「僕が殺したんじゃあないんだけどなぁ〜?」


思い出して、集中するのよ。
この怒りも何もかもを私の力に変える。
剣を握り、全身に込めるのは何よりも歌声を響かせる私の魂。


大きく息を吸う。



「風は天を翔けてく
 光は地を照らしてく
 人は夢を抱く
 そう名付けた物語……
 arcadia……」



体は震え上がるほど力が湧く。
剣を握る手が熱い。
82 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:22:16.40 ID:WRQTCoCwo
「アルカディアだかなんだか知らないけど……
 剣で魔法に挑もうなんて……ちょっとヤバいよ、お姉さん!」

「”炎”よ!」



御手洗翔太の杖からは業火が噴き出る。私を覆うには十分すぎる炎が。


「うああああああああッッ!」


地面を盛大に剣で殴りつける。畳返し。
地面なので畳ではないにしろ、その爆発的な衝撃で
大量に土が盛り上がり炎からこの身を防ぐ。
83 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:23:27.75 ID:WRQTCoCwo

盛り上がって壁になった土は斬り裂いて、
道を作りいっきに御手洗翔太の元へ。


「は、早い……!?」


掬い上げるように剣を振るう。
杖でガードされる。
このままへし折ってやろうとしたが後ろの飛び跳ね距離を取られる。


84 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:24:45.23 ID:WRQTCoCwo
「遙かな空を舞うそよ風
 どこまでも自由に羽ばたいてけ……」


逃がすものですか。持っていた剣を御手洗翔太の顔面目掛けて全力で投げる。


「はぁっ!? いっでぇッ!!」

「け、剣使うのに……剣投げるとかありえないでしょ!?」


剣は御手洗翔太の肩を傷つけ軌道が変わり、大きく宙を舞う。
私は飛び、空中で剣をキャッチする。
85 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:25:53.84 ID:WRQTCoCwo
空中からいっきに剣を振り下ろす。


「うわぁぁああッッ!」


剣は外れたがその衝撃により御手洗翔太はふっ飛ばされ
誰のかもわからない民家に激突し、その家の中へ入ってしまった。


集中して如月千早。


あの家だけを……。
86 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:26:43.67 ID:WRQTCoCwo

「始まりはどんなに小さくたって
 いつか  嵐に変われるだろう……」



剣を握り直す。
構えを取る。
未だに民家の中に隠れているのか潜んでいるのか出てこない御手洗翔太。
出てこないなら……。



「さあ願いを願う者達
 手を広げて 大地蹴って
 信じるなら……」



私は歌うことをやめない。
私は歌い続ける……。
87 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:28:35.64 ID:WRQTCoCwo

「うおおおッ! やってくれるねぇえ!!」

「いいよ、最高だよ!」


ドガァッ!
盛大に魔法を使って屋根をぶち破って飛び上がり、
御手洗翔太は屋根に降り立つ。


「”雷槌”をォ!」

「翔べッ!」


一閃。
民家ごと屋根にいる御手洗翔太を斬り裂く斬撃を飛ばす。
88 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:29:37.88 ID:WRQTCoCwo
屋根に飛び上がろうが関係ない。
私が私を信じて、斬撃を飛ばす。


斬撃は御手洗翔太の出した雷槌をも斬り裂き、
民家を、そして杖を持っていた右腕を吹き飛ばした。



「が、あッ、ぎゃああああああああああッッ!!」



杖を落とし、屋根から落下していく所を目掛けて走る。
右腕があった場所からは血が噴き出ている。
89 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:30:26.42 ID:WRQTCoCwo
「海よりも激しく
 山よりも高々く
 今
 私は風になる
 夢の果てまで」


今まで走ったこともない速度で走り抜け、
あっという間に御手洗翔太の元へ。


しかし、御手洗翔太も魔法で落下中の体勢を立て直し、
杖をも引き寄せまだあまる左手で受け止める。


「”煙”よ……!」


ボフンッ、と杖からはいっきに煙幕が出る。
90 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:31:06.98 ID:WRQTCoCwo
「ヒュルラリラ
 もっと強くなれ」


足音だけでわかる。愚かなこと。
目だけで頼るものには私は負けない。


足を斬りつける。


「うがぁああッ」


ドサァッ!
と倒れる音がする。
しかし、それでもズルズルとこの場を逃げようとしている。
91 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:31:54.75 ID:WRQTCoCwo
力を込めて、剣をフルスイングして爆風を起こし煙を風に飛ばす。


だんだんと煙が晴れていくとそこには杖を持ちながらもずるずると
地を這い逃げようとする御手洗翔太がいた。


私は近寄って杖を持っている左手を手の甲から貫通するように突き刺した。
これでもう杖は持てない。



「あああああ゙ああッーーー!!」
92 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:33:03.68 ID:WRQTCoCwo
ジタバタとその場で芋虫のように痛みに暴れまわる。
さっき斬った右腕の方はもう治癒魔法で血は止めているようだった。


「ハァ……! ハァッ! や、やめて、参った、降参するよ!」

「頼むから命だけは……」


睨みつける。


「そうやって、あなた達は王も私のお母さんも殺したわ!!」

「今更都合のいいこと言わないで!!」


柄にもなく大きな声で怒鳴り散らす。
93 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:33:32.46 ID:WRQTCoCwo
私はもう退けない。
この手を汚して、平和をつかめるのならば、
優を救うことができるのならば……。


「嫌だ……死にたくない……。死にたくないよ!」

「……うるさい……!」


剣を首筋に立てる。


「ハァ、ここで殺せばもう人殺しの領域からは出られない……」
94 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:34:42.63 ID:WRQTCoCwo
「ハァ……ッ。千早さんはもう、勇者でもなんでもなくなる。ただの人殺し!」

「……人殺し? あなた達がそれを言う?」


「ハァ、そう、そうだ! 人殺し! 僕達と同じに」


「私はもう……迷わないわ。
 歌うことを決めた。歌って……私は戦い続けることを」


御手洗翔太の言葉を遮って私は言う。


その言葉を聞いて、
御手洗翔太は覚悟を決めたのか、見苦しい命乞いをするのをやめた。
しばらく黙って……そして仰向けになり、目を閉じる。
95 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:35:51.34 ID:WRQTCoCwo
死の淵に立たされておかしくなったのか笑い出す御手洗翔太。



「ふっ、あははは! あははは!!」


「そっか……。千早さんのその自信がまた揺らぐのを。楽しみに待っているよ」


「ヒュルラリラ
 目指す arcadia……」


私は全力を込め剣を突き立てた。
96 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:36:20.16 ID:WRQTCoCwo
血は私の手に、頬にかかる。
ビクビクと反応し、そして、最後には力尽き、血の溢れ出る左手は地に堕ちた。



私は本当にあとには退けない所に来てしまったようだった。
空を見ても
さっきまでと同じ世界にいると私は思えなかった。


世界は血に染まり、また動き出すだろう。


一つの死体を目の前に空を見上げ棒立ちしていた。
97 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:36:50.55 ID:WRQTCoCwo
誰かがどこかで責める気がした。
私はこれで正しかったのだろうか。


たくさんの疑問を抱き、それでもこれで良かったと無理矢理にでも思うことにした。
だけど、私は色んな後悔をした。


長い眠りから目を覚まして、真と萩原さんに助けてもらった時に
もう迷うことはないと思っていた。
立ち止まることはないと思っていた。
覚悟はできていたはずだった。
98 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:37:34.81 ID:WRQTCoCwo
だけど、また旅を初めてほんの一ヶ月しか経ってないのに。


それなのに私を迷わせる。
自分で自分を後悔していた。


たった一人のお母さんを救えない私は後悔していた。
あの時もっと気がついていれば、
あの時お母さんがこっちに走ってきているのを知っていれば。


あるいは何かが変わるかもしれなかった。

99 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:39:22.96 ID:WRQTCoCwo
それから、私はたった3人でお母さんの葬式をあげることにした。
私は血に染まった自分の母親を背負い、
いつか優と二人で唄った秘密の高台へ向かった。


たくさんの木材を真が運んできてくれて、
萩原さんは綺麗に組み立ててくれた。


3人で囲んで、私は萩原さんが火をつけた木を一つ受け取り、
それでお母さんに火をつけた。
100 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:40:03.05 ID:WRQTCoCwo


――あなたは……歌うべきよ


――いつだって、どこだって。


――歌い続けるべきなの……。




「ねえ今 見つめているよ
 離れていても……
 Love for you  心はずっと
 傍にいるよ」



私は大きな声で……どこまででも響くように唄う。
声が震えようが、音を外そうが関係ない。

101 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:40:51.43 ID:WRQTCoCwo

「もう涙を拭って微笑って
 一人じゃない  どんな時だって
 夢見ることは生きること」




メラメラと燃え上がる火の中で私はお母さんを見つめていた。




――二人共ありがとう……。


――あなたが大事だったからよ。
  

――あなた達二人が、私は一番大事だったからなの。


――千早。


――優を……お願いね。





102 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:41:33.40 ID:WRQTCoCwo



「歩こう  果てない道
 歌おう  天を超えて」




炎の中で目を閉じるお母さんの口角が上がっていた。
最後の最後に自分の思いを明かすことができたのだろうか、
満足そうに、安らかに眠っていた。
私はそれが私に向かって微笑んでいてくれてるのだと思ってしまった。



「想いが届くように
 約束しよう……前を……向く……こと」



本当はそんなことないし、笑ってなんかいない。
だけど、私はまた……。
103 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:42:09.10 ID:WRQTCoCwo
目の前が歪んで見えなくなって、
立っていることも辛くなって……。
歌うことも……声を張ることもできなくて。




「……お母さん、ごめんなさい……」

「ごめんなさい……ごめんなさい……」


大好きだったとも言えずに私は別れてしまった。
笑顔が忘れられなくて。


「ごめんなさい……ごめんなさい」


私はただただ地面に向かって言い続けていた。
ごめんなさい……何もできなくて。
救うことができなくて……。
104 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:43:00.87 ID:WRQTCoCwo


大好きだったと言えなくて。


お母さん……。


でも。


だからこそ。


お母さん……私に……。


私に任せてください。


必ず優は助けて見せます。




夕焼けの空へと登る煙は黒く、
どこまでも黒く、陽の光をも遮断した。





キサラギクエスト  EPXI  約束編


105 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/03/28(木) 17:50:16.09 ID:WRQTCoCwo
読んでくださった方はお疲れ様です。
2スレ目に突入しました。


誤字脱字、設定の矛盾等、あるかもしれませんが
今後ともよろしくお願いします。

106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/28(木) 21:26:57.26 ID:Kn6jmLXPo
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/29(金) 09:39:28.13 ID:DgY7xs5u0
乙!
これからも楽しみにしてます
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/29(金) 23:28:30.08 ID:6Wy+LkVKo
おつです
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/30(土) 22:27:05.43 ID:XsbByhpDO

あまりの面白さに今日一日かけて前スレから読んできました
まさか閣下の遺体のがフラグになるなんてな
真美から買った剣は雪歩の魔法で属性攻撃できるらしいがそれは最後の戦いででるのだろうか
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/01(月) 23:36:55.46 ID:JSir3AS80
乙!
111 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/02(火) 21:49:15.89 ID:0d8SfsXao
冬馬「うわぁぁああ!」

冬馬「ハァ、ハァ……」

冬馬(痛い……痛い)

冬馬(何笑ってるんだよ。助けてくれよ)

冬馬(何だ……?)

冬馬(誰か来る)

冬馬(それもすごい速さだ)

冬馬(……ッッ! み、みんなが斬られちまった!)

冬馬(や、ヤバい。報告しないと……)
112 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/02(火) 21:50:21.86 ID:0d8SfsXao
………………
…………
……




冬馬「…………」

冬馬「夢か」

冬馬「……くそっ」

冬馬「なんで今頃」
113 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/02(火) 21:51:32.90 ID:0d8SfsXao
兵士「どうしました!?」

冬馬「……聞いてのか?」

兵士「い、いえ……大きなうなされている声だけでしたが」

冬馬「ならいいか……」

冬馬「くそ……気分悪い」

兵士「あっ、どちらへ」

冬馬「少し城のなかぶらぶらするだけだ」

冬馬「……」

冬馬「……頭痛ぇ」
114 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/02(火) 21:52:45.80 ID:0d8SfsXao
………………
…………
……



黒井「そこでだ、貴様らにもあの忌々しい勇者共が
   残っていないか各自の管轄地域を回ってきて欲しい」

冬馬「と、すると北斗はシモネタウンか」

冬馬「俺は暇だし北斗のほうに着いて行く」

北斗「俺の方はそろそろあの町の構造に手を打とうと思うんだよ」

響「それってどういうこと……?」

北斗「おっと、それは着いて行った人が知れる特権だよ」
115 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/02(火) 21:53:23.19 ID:0d8SfsXao
響「じゃあ自分も行くよ」

冬馬「お前がか? 足は引っ張るなよ」

響「ふん、そっちこそ」

冬馬「あ? なんだとってイテテテ……!」

北斗「ん? どうした冬馬」

冬馬「な、なんだ……? また頭痛が!」
116 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/02(火) 21:54:38.45 ID:0d8SfsXao
響「頭痛? そんなやわな体で着いて来てもらっても足手まといになるだけさー」

冬馬「痛ぇ……。てめえ言うじゃねえか」

北斗「おい、ふたりとも。まだ会議中だぞ。静かにしろ」

北斗「冬馬、また昔の夢を観たのか?」

冬馬「チッ。うるせえっての」

黒井「ふん、まだそんな昔のことを。くだらんことでイライラするな」
117 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/02(火) 21:55:31.80 ID:0d8SfsXao
冬馬「あぁ? イライラもするだろ! 翔太がやられてんだぞ」

黒井「そうやたら噛み付いてくるんじゃあない」

黒井「奴が弱かった。それだけのことだ」

冬馬「アンタそれでも」

北斗「待て冬馬。熱くなるな」

響「自分も今のはどうかと思うぞ」

黒井「ふん、小物が。黙って私の言うことを聞いていればいいんだよ」
118 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/02(火) 21:57:07.74 ID:0d8SfsXao
響「それと社長……」

黒井「なんだ」

響「そろそろあの計画について教えてくれてもいいんじゃないか?」

黒井「……」

黒井「だめだ。響ちゃんはまだ早い」

響「なんでだよ!」

黒井「だめだったらだめだ。ええい、会議はこれで終わりだ。さっさと準備して行かないか」

北斗「はいはい。分かりましたよ。ほら、二人共行くぞ」

冬馬「おう。なんだこの頭痛。普通じゃねえ……」

響「……何さ、自分だけみんなで除け者にして……」
119 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/02(火) 21:58:04.45 ID:0d8SfsXao
………………
…………
……



響「……ってなことがあってね。酷いと思わない?」

貴音「それは許しがたいですね」

響「でもさー、一応上司ってことになってるから
  あんまり逆らえないんだよねー」

貴音「そのような関係なのですか。難しいものですね」

響「はぁ……自分、貴音みたいな優しいのが上司だったら良かったぞ」

貴音「そうですか? わたくしは響のような方がいいと」
120 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/02(火) 21:59:26.68 ID:0d8SfsXao
響「え? 貴音は自分がいいの?」

貴音「はい」

響「えへへ、そうかなぁ〜?」

貴音「ええ、素晴らしいじゃありませんか」

響「うーん、そっか! 頑張ってみるよ」

貴音「それよりも響、今日はどんなお話を聞かせてくれるのですか?」

響「貴音は本当に外の話が好きだよなぁ〜。
  でも今日はもうあんまり時間がないんだよ。ごめんね」
121 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/02(火) 22:02:47.72 ID:0d8SfsXao
貴音「そう……ですか。いえ、気にすることではありません」

響「あんまり外に出たことないんだもんね。今度たくさん話してあげるさー」

貴音「はい。先代の高木殿の代からはよく外に出ることも許されたのですが」

響「あー、なんか前にも言ってたよね」

響「なんかでも貴音が先代何て言うと先々代まで知ってるみたいだよね」

貴音「ええ、先々代はわたくしは幼い頃から知っています」

響「へ? 何言ってんだ?」
122 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/02(火) 22:04:57.25 ID:0d8SfsXao
響「先々代って言ったら50年以上前になるぞ」

貴音「えぇ。ですから直に見ています」

響「本で読んだんだろ?」

貴音「いいえ」

響「だって、そんなに長く生きられる訳ないし」

貴音「響もそれくらい生きますよ」

響「いやいや、そんな訳ないし」

123 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/02(火) 22:08:17.03 ID:0d8SfsXao
響「人間って精々80年くらい生きると寿命ってので死ぬんだぞ?」

響「もしかして知らなかったのか?」

貴音「なんと。それで先々代もその周りの方も……」

貴音「わたくしは人間ではないので知りませんでした」

響「はい?」

貴音「ですから、わたくしは人間ではありません」

響「……な、何言って」

貴音「わたくしは俗に言う賢者の石という物です」

響「ど、どういうこと?」

貴音「そうですね。何から話しましょうか」

貴音「わたくしの生まれは……いつでしたか」
124 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/02(火) 22:09:54.95 ID:0d8SfsXao
………………
…………
……




響「美希っ!」

美希「あれ? どうしたの響? 怖い顔しちゃって」

響「ねえ、貴音から聞いたよ! あれ、どういうこと!?」

美希「貴音? ……賢者の石はどこにいるの?」

響「えっ!?」

響(……美希は貴音の居場所を知らない?)

響(……どういうこと!?)
125 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/02(火) 22:10:54.33 ID:0d8SfsXao
美希「響……今すぐ答えて、どこにいるの!!」

美希「この城のどこかにいるの!?」

響「違うぞ、美希!! 今は自分の番だぞ!」

響「答えてよ美希! 妖精計画ってどういうこと!」

響「あれは一体何をする計画なの!?」

美希「……教えられない」

126 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/02(火) 22:14:01.36 ID:0d8SfsXao
響(きっと今美希に居場所は教えちゃいけないんだ)

響(どうしよう……!)

響「……っっ!」ダッ

美希「あっ、響! ちょっと!? どこいくの!」



………………
…………
……



127 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/02(火) 22:16:55.82 ID:0d8SfsXao
響「どうしよう……。もう遠征に伊集院北斗達と行かなきゃいけない時間だ……」

響「どうしよう……。やっぱりこの国は……どこかおかしい」

響「何が正しいんだろう」

響「ううん、きっとそれは自分で見極めなきゃ」

響「次の遠征が終わるまではいつも通りにしなくちゃ」



冬馬「遅えぞ」

響「ごめんなさい」

北斗「ほら、行くよ。たぶんあのエンジェルちゃん達も
    俺のシモネタウンに寄るかもしれないし」




キサラギクエスト  EP9.5  番外編〜古い傷跡と疑いの目〜    END
128 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/03(水) 00:07:08.03 ID:3M/Bnl6po
お疲れ様です。
本編を作っている合間があまりにも空くので作ったつもりの0.5シリーズが
いつの間にか敵側を描くものになってしまいました。


前スレを埋めて頂いた方々はありがとうございました。
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/03(水) 01:11:24.10 ID:q5ORIIrH0
乙でした。

本編も楽しみに待っております
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/03(水) 08:31:25.32 ID:sPlkSMZi0
乙でしたー
響戻ってこないかなあ
131 :名無しNIPPER [sage]:2013/04/03(水) 10:00:55.16 ID:XfBia1iAO
乙でした
この響はちょろくない
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/03(水) 12:12:08.32 ID:PypOmA3So
おつ
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/04(木) 06:00:36.26 ID:Ogcer+RDO
美希は色々死亡フラグぽいの立ててる気する

響はちーちゃん達の味方になるとしてPはでるのかな
クギューウ?で最近若い〜と話に出た時にPかと思ったがよくよく考えると長介だろうしP出るのかどうか期待
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/04(木) 12:14:01.03 ID:V3Ay5A84o
乙!
135 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/06(土) 03:56:11.63 ID:8h6l3tLyo
今更ながら気がついたんですが、
前スレの一番最後のエピソード、千早過去後編のナンバーが間違っていました。
やってはいけないミスをしてしまいました。申し訳ございません。



キサラギクエスト  EP[  終わりと始まり編

↓修正

キサラギクエスト  EP]  終わりと始まり編





で、そこからズレたのかわかりませんが
2スレ目移行の一番新しいもの9.5ですが
11.5の間違いです。

>>127
キサラギクエスト  EP9.5  番外編〜古い傷跡と疑いの目〜

↓修正

キサラギクエスト EP11.5  番外編〜古い傷跡と疑いの目〜



サブタイつけてる癖に通称があったりしますが
夢編とかぷちます編は途中で追加というか分割したために
EP数が増えたのでこんな事件が発生したのです。
気がついていた方で何か意図があると思ってしまった方がいたらすみません。
何も意味はありません。
大変申し訳ございませんでした。
136 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 09:46:07.81 ID:L6dNy5Nfo

次のが完成したから気がついた訳なんで更新したいと思います。

EP?です
137 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 09:47:01.66 ID:L6dNy5Nfo

私達の旅が始まって3年は経過していた。
そのうち2年は私は眠りこけていたのだけど。


そして2ヶ月前、私はまた大事なものを失った。
それが弱みにもなっていた私は強みにもなった。


一歩一歩、今みたいにこうして歩き続けている。

138 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 09:47:34.44 ID:L6dNy5Nfo

森の中を菊地真と萩原雪歩と歩いている。
3人で歩いている私は何か心地よく、初めて会った時よりも
気が軽く、もっともっと足が軽かった。


「次の町は……確かシモネタウンだよね?」

「ええ、そうね」

「それにしても敵も森の中をウロウロしている所もあって
 一つの森を抜けるのも大変だよ……」



私達はクロイ帝国の城へ向かうためにとりあえずは
元国境を超えて帝国の南の方を進んでいく。
139 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 09:48:55.63 ID:L6dNy5Nfo
次の宿を取るために一番近いシモネタウンに向かっている。


私達の進路が見透かされているのか、
この辺りの森はかなり警戒されていて、
よく帝国の軍人達と出くわすことも多くなっている。


その度に私達も容赦なくなぎ倒し前進むのである。
でも頻度があまりにも多すぎて最近は無駄な戦闘は回避するようになってきている。
140 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 09:50:02.72 ID:L6dNy5Nfo

そんな中、私達は森の中でまたしても奇妙な光景に出会うのだった。
それは懐かしくもある山のように荷物を詰んだ貨車だった。


そして、その上には一見見覚えなのない少女がちょこんと座っているが、
すぐにそれが双子の旅商人である亜美と真美のどちらかであることがわかった。


何やら休憩中で貨車を引く役目のゴーレムは
何の肉はかはわからないけれどとにかく肉を骨ごとバリボリと食べていた。
141 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 09:52:09.74 ID:L6dNy5Nfo

後ろ姿のせいで亜美か真美のどちらかわからないけれど、
山のように詰んだ荷物の上に座りながらサンドイッチのようなものを頬張っている。


「亜美? それとも真美?」

「んひゃぁッ!?」


後ろから声をかけてしまったせいかびっくりして飛び上がっている。
142 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 09:53:55.67 ID:L6dNy5Nfo

「ケホッ、ケホッ。あ、亜美だよー。あー、びっくりした〜」

「ごめんなさい、大丈夫?」

「うんうん、大丈夫大丈夫! ってあれ?
 千早お姉ちゃん? なんだか随分久しぶりじゃない?」

「いつぶり?」


うーん、と首をかしげている亜美。
確かに2年もの間私は眠っていたから随分と久しぶりになるのかもしれない。
143 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 09:55:13.59 ID:L6dNy5Nfo

それはそうと、私が寝ている間に2年も経っていたせいで
随分と立派に成長していた亜美だった。


「あなたも随分と身長が伸びたんじゃないかしら?」

「えぇ〜? そうかな? うーん、そうだといいね」

「さてさて、それじゃあ早速であったんだから商売のお話でもしようじゃないの!」

「何かいる?」


持っていたサンドイッチを口の中に押しこみ、
ぴょんっと上から飛び降りて目の前に着地する亜美。
144 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 09:56:16.00 ID:L6dNy5Nfo

「だめよ亜美。ちゃんともぐもぐしなさい?」

「うぇ〜!? したよー!」

「だめよ? 次からは気をつけなさい」

「はぁーい」


どうにも放っておけなくてそんなことを注意してしまった。
少しおばさん臭いのかもしれない。
いいえ、違うわ。世話好きなだけよ。
145 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 09:59:01.96 ID:L6dNy5Nfo

「なんだか千早お姉ちゃんは本物のお姉ちゃんみたいなこと言うね」

「それって真美のこと?」

「うんうん、なんだか最近真美が結構過保護でさー」

「お手紙がすごい多くて、亜美的にはちょーっと参っちゃうんだよねぇ」


やれやれと肩をすくめる亜美。
お姉ちゃんはきっとこういうお調子者な所も心配だと思うんだけど。
146 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:00:50.08 ID:L6dNy5Nfo

「で、どうする? 何買う?」

「そうね、あ、確かあれが切れてたかも……」

「あいあいー」

「あ、私も薬草と調合酒と……」

「あいあいあいー」


それから私達は足りなかったもの、壊れかけていたもの、
その他もろもろを亜美に頼んで買った。
147 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:01:29.08 ID:L6dNy5Nfo

亜美は相変わらず頭から荷物の中に潜り込んでいってパンツを丸出しにしていた。
……もしかして少しパンツも大人っぽくなった?


なんて余計なことを考えながらしばらく待って、
それから亜美はいつもは胴体だけ出して来るのだけど
ちゃんと荷物の中から出てきて私達に売り物を渡してきた。


亜美も私達が次々に購入しているからご満悦の様子だった。
148 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:02:17.56 ID:L6dNy5Nfo

「ふむふむ、千早お姉ちゃん達は次はどこにいくの?」

「私達は次はシモネタウンよ」

「おお〜〜! んじゃ、亜美とおんなじだね!」


と亜美は嬉しそうに抱きついてきた。
もうっ……。


人懐っこい亜美の頭を撫でていたのは特に理由もなく、
甘えてくる亜美の頭がそこにちょうどあったからであるのに……。
149 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:03:09.91 ID:L6dNy5Nfo

その様子を真と萩原さんはニヤニヤしながらこっちを見てくる。


「何よその目は。もう行くわよ。買い物は済んだのだし」

「うん、そうだね」

「やっぱり千早ってお姉ちゃんなんだね」

「う、うるさいわね!」


そのあと私は真にからかわれながらも森を歩き、
亜美とも色んな商売のお話から他愛もない雑談まで
たくさんの話をして歩いた。
150 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:03:40.66 ID:L6dNy5Nfo
1時間程度したあとに森を抜けると少し離れた所に
町があるのが見えた。


町は川の中にあった。
と言うと少しおかしな表現になるのだけど。


私達が抜けた森は町全体を軽く見渡せるくらいの丘にあり、
そこから一望できる場所だった。


川はその地形のせいで大きくうねり極端なくらいのカーブを描いていた。
その内側が丸々一つの町になっていた。
151 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:04:31.17 ID:L6dNy5Nfo

「あった。あれだね!」

「町の警備はどういう状況なのかしら?」

「警備?」


亜美が不思議そうに聞いてきた。
亜美は私達がこの国でお尋ね者状態になっているということは知らないのかしら?


「私達、実はクロイ帝国からすると犯罪者扱いされてて追われてるのよ」
152 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:06:08.89 ID:L6dNy5Nfo

なんてついうっかり言ってしまった私はその発言した直後に
もしかしたら亜美も帝国と内通しているかもしれない、
なんてことを疑ってしまった。


「うあうあ〜! お姉ちゃん達……悪い人だったの!?」


サッと飛び跳ねて私達から距離を取る亜美。
その私達との間にこれまたサッと亜美を守るようにしてゴーレムが割り込む。
亜美はゴーレムの足元からそ〜っとこちらを見ている。


この様子だと内通してる訳ではない?
153 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:07:41.70 ID:L6dNy5Nfo
「違うわ。ちゃんと言うならば仕立て上げられたって感じかしら?」

「うん、そうだね。ボク達はただ、帝国の敵ってだけさ」

「真ちゃん、それじゃあ追われると思うんだけど」

「えっ、そっか……。うーん、なんて説明すればいいのかなぁ」


なんて真は考えていた。


「ふぅ〜ん……。そっか」


ゴーレムの足元から出てくる亜美。
手でゴーレムに対してもう大丈夫だよ、と合図する。
いつもいるけれど、この二人の関係は一体どういう関係なのかしら?
154 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:08:08.52 ID:L6dNy5Nfo

「じゃあ亜美達の……味方かもしれないんだね」

「え?」

「ううん、なんでもないよ! 警備の人たちはちょっと厳しいかもしれないけれど……」

「まぁ、亜美がなんとかするよ! ちょうどお祭りの時期だからねん!」


亜美はぴょんっと大きな山のように積んである荷物の上に華麗に登るとそう言った。
155 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:08:40.93 ID:L6dNy5Nfo

私達もそれに着いて行くことにしたが、お祭り?
少し引っかかることも多い気がするけれど。
しかし、この戦争の終わった直後のご時世でお祭りなんてよくもやっていられるわね。


と思っていたが、
今年のお祭りは終戦後2年目でやっとできるように復活したお祭りとのことだった。


「ねえ、亜美、そのお祭りって一体……」
156 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:09:11.43 ID:L6dNy5Nfo

亜美は自分の座っている足元に手を突っ込んで何かを探している。
あの荷物の中には一度だけ入ったことがあるけれど、
所有者ならばどこからでも引き出すことは可能なのかしら?


ゴソゴソ手探りしている亜美は何か見つけたらしく、
不敵な笑みを見せる。


ゆっくりとその手に掴んだものを顔に持ってくる。
それは……不気味な、というか悪趣味にも程があるお面だった。


「仮面舞踏会……?」
157 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:09:39.95 ID:L6dNy5Nfo

萩原さんがそう答えるが、
こんな悪趣味な仮面つけてる人には中々寄ってこないんじゃないかしら。
しかし、そうだとしたら私達みたいな者はか売れるのにはうってつけなのかもしれない。


「ううん、ミュージックフェスタだよ」

「仮面関係ないの!?」


真が盛大にツッコミを入れるが、
亜美の反応からするとどうやらそうでもないらしい。
158 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:10:09.18 ID:L6dNy5Nfo

「違うよ〜。まぁ、仮面をつけるのが流行りだしたのは実は亜美達のためなんだー」

「亜美達の?」


そう聞き返すと亜美は少し恥ずかしそうに
頭の後ろをぽりぽりと書きながら私達に話を始めた。


「実は……シモネタウンってあの町は亜美達の故郷なんだ」
159 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:10:53.21 ID:L6dNy5Nfo

「亜美達のってことは……」

「うん、真美もそう」

「へぇ〜、そうだったのか」


真は亜美から受け取った仮面をまじまじと見ながら言う。


「今日は年に一度の仮面の音楽祭だから帰ってきたんだ」
160 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:11:40.04 ID:L6dNy5Nfo

年に一度の……。
亜美の容姿は私達よりもいくつか若く、いつか会った高槻さんと同じくらいだった。
そんな子がどうしてこんな森なんかも旅してたりするんだろう。


「じゃあ久しぶりに真美にも会うの?」


真の質問に対して私は


「そんなことないでしょう? 二人で商人をやっているんであれば
 自分達の家計簿のためとか売上高で話し合うのに何回も会うでしょう」


と言った。
しかし、亜美はそれに対して怒りとも悲しみとも取れる表情をした。
161 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:12:35.27 ID:L6dNy5Nfo

「会わないよ……」

「会いたくないの……真美には」


「え?」


「け、喧嘩でもしたの?」


と萩原さんが少し戸惑った様子で聞くが亜美はそれもまた違うようで首を横に降った。


「正確には会えないんだ……亜美達」

「って、うあうあ〜! こんなシリアスモードは亜美はお得意じゃないんだよ!」

「亜美のお家案内するからついておいで!」
162 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:13:33.99 ID:L6dNy5Nfo
「ほい、仮面だよ。今日は特別に貸してあげるからね〜」

「でもでも、レンタル料とかも取ってもいいんだよ?」


と商売人の顔をしたが、私達が苦い顔をするとすぐに


「うそうそ、冗談だよ!」


と笑ってくれた。
それから私達は亜美にもらった仮面をつけて丘を降りて町に入る。


町では色んな人が仮面をつけていた。
みんな仮面をつけていることが普通であるかのように振舞っていた。
163 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:14:02.57 ID:L6dNy5Nfo

「お? その仮面は亜美ちゃんかな? 真美ちゃんかな?」

「亜美だよ〜! んっふっふ〜! 本屋のおっちゃんはまだ見分けがつかないのかい?」


と町を歩く度に声をかけられる亜美。
私達はそんなに目立って歩きたくないんだけど……。


「そちらの子はお友達かい?」

「そうなんだよー!」


元気に笑う亜美は歳相応の少女の顔をしていた。
いや、顔は仮面でわからないけれど、
きっと声の調子で嬉しそうな顔をしているのが何となく分かる。
164 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:15:47.45 ID:L6dNy5Nfo

「さ、着いたよー」


町を歩いてから数分。とある家の前に着いた。
しかし私達はその家をみた瞬間に違和感を感じた。
と、言うよりも確実にどこかがおかしい。


何故って……。


「ねえ……。どうして玄関の入り口が2つあるの……?」


家を正面から見た時、これは完全なシンメトリーだった。
ドアが2つある。入口が2つ。
二世帯住宅とかいうのは聞いたことがあるし不思議な話ではないけど、
何か違和感を感じる。
165 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:16:19.52 ID:L6dNy5Nfo

「ん? あぁ、気にしないで〜。そういう変なお家なんだよ」

「ささ、上がって上がって〜」


と亜美は正面から向かって左側のドアから入った。
私達もそっちのドアから亜美の家に入ることにした。


不思議な家だった。
玄関の靴箱も、キッチンも、
階段も、階段を上がった上の部屋も、全て……


全て左側にあった。
166 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:16:46.99 ID:L6dNy5Nfo

そして、外から見た家の大きさとは裏腹に中に入ると半分の広さしかなかった。


しかし、ご飯を食べるだろう食卓だけは真ん中にあった。
左側にはなかった。


そして、壁の向こうまで広がっていた。


「さ、座っていいよ〜」


と言われたので、私は違和感あふれる食卓に腰をかけた。
腰をかけた瞬間に分かったことがあった。
それは背筋も凍る異常な空間で気持ち悪くもあった。
167 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:17:20.40 ID:L6dNy5Nfo

家の中まで全くのシンメトリーだった。
仮にこの家の屋根を切り取って上から見るとする。
すると真ん中から右と左が完全に鏡の世界のようになっているのだった。


最初に玄関から入った時、廊下を抜けた時、
壁の向こう側はどうなっているのだろうなんて考えもしなかった。


その答えは、壁の空間の向こうには真逆の世界が広がっていた。
私は思わず正面から家を見た時に右側に来るだろう玄関まで行った。
私達の入ってきてない逆側の玄関の所まで行った。
168 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:17:48.89 ID:L6dNy5Nfo

最初に入った時とは別の世界。


玄関の靴箱も、キッチンも、
階段も、階段を上がった部屋も全て右側にあった。
壁の向こうはこれとは逆に左側に同じものが揃っている。


全く同じ。
まるで鏡の世界を行き来しているみたいだった。


その中で食卓だけが唯一その空間をぶち抜いて家の真ん中にあった。


「何……この家……」
169 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:18:19.41 ID:L6dNy5Nfo

私はこの異常とも言える空間に素直な気持ち悪さを覚えていた。
気持ち悪い。こんな家……。


真も萩原さんも不思議がっていた。


ちなみに、ゴーレムは家の外にいるらしい。
あの、山のような大きな荷物を乗せた貨車を見張っているとか。


「亜美、お母さんは?」

「……」


真が挨拶をしたがっていて、聞いたが亜美はまた暗い顔をした。
170 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:18:54.91 ID:L6dNy5Nfo

「ご、ごめん……もしかして聞いちゃいけなかった?」

「ううん、平気だよ。大丈夫。お母さんもお父さんもちゃんと生きてる……」

「でも、今は鎖で繋がれてるの……」


鎖で繋がれてる……。それって……牢屋?
この子たちは……犯罪者の娘達だったの?
171 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:20:15.13 ID:L6dNy5Nfo

「あはは……こんなこと言ったら普通気味悪いよね。
 嫌だよね……こんな子が入れたお茶とか飲めないかな。ごめん」


と言って折角入れたお茶を左側の世界のキッチンで流しに捨てようとしていた。


萩原さんはすぐに止めようとガタッっと大きく椅子から立ったが、
時すでに遅く亜美が入れたお茶は流しの奥に消えていってしまった。
172 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:21:11.97 ID:L6dNy5Nfo
亜美はため息混じりに食器を置いてから
我に返ったように言った。

「うあうあ〜〜! またセンチメートルな気分になっちゃったよ!」


きっとセンチメンタルとかって言いたいのかしら?


「こんなの亜美には似合わないよ! あ、そうだ! 
 亜美用事思い出したからちょっと3人ともここでお留守番しててもらっても大丈夫?」

「ボクはいいけど……」

「私も……」
173 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:21:43.91 ID:L6dNy5Nfo

と真と萩原さんは答える。
私は……。
なんだか少し今の亜美は方ってはおけない。


「私は……亜美に着いて行ってもいいかしら?」

「えっ!? あ、えっと……うん、いいよ」

「ふふっ、ありがとう。さ、行きましょう」


私は亜美の手を取り少し急かすように言う。
174 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:22:10.20 ID:L6dNy5Nfo
亜美はまたお面を持ってきて私に渡して


「お外出る時はこれ必ずしてね!」

「ありがとう亜美」


こうして私と亜美は亜美の用事に付き合うことにした。
真と萩原さんは亜美の家で何をするのか知らないけれど、
のんびり二人でお話でもしてるのだろう。


外に出てからまた仮面の人々が悠々と歩く町に
私達も溶けこんでいく。
175 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:22:48.96 ID:L6dNy5Nfo

「ところで、どこに行くの?」

「うーん、お役所かな?」


ギクリとした。お役所って言うことは……。
つまりはこの町を納めている人がいる所。
敷いてはつまり、クロイ帝国と繋がりのある人のいる所……。


ちょっと引き返したくなってしまったけれど。
ここで弱音を吐いちゃいけない。
176 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:24:33.91 ID:L6dNy5Nfo

むしろ敵の内側を探るいい機会だと思えばいいのよ。
幸いにも祭りに乗じて仮面をつけているのだし
知っている顔がいたとしてもまずバレることはない。


そう考えることにした私はとりあえず亜美の後ろに着いて行くことにした。


「すごい熱気ね」

「まぁね。町をあげての大きなお祭りは年に一回だけだし。
 それに終戦から初めてのお祭りだから久しぶりにみんなはしゃぎたいんだよ」


楽しそうに亜美は言う。
亜美もそんなこと言いながら内心では心躍るのでしょう。
177 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:25:56.48 ID:L6dNy5Nfo
「亜美はいつもこのお祭りで何をしているの?」

「いつも? うーん。年に寄って変わるかな?」

「そう、楽しそうね」

「あっ! ねえねえ千早お姉ちゃん!」

「どうしたの?」

「唄ってよ! ステージで!」

「えぇ!? ステージ!? 私が!?」


私は条件反射のようにドキッとしていた。
そんなこと今まで求めてきたのは後にも先にも
弟の優だけだと思っていたから。
178 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:26:28.49 ID:L6dNy5Nfo
「んっふっふ〜、亜美達の情報網を甘く見てもらったら困るんだよ」

「ま、まさか……」


まさか亜美達も帝国側と内通していて私の情報が漏れているとかだとしたら。
もしかしたら私はここで彼女を始末する羽目にも最悪なりかねない。


「実は……とある極秘ルートから仕入れた情報だと
 千早お姉ちゃんはめちゃくちゃ歌が上手だって」

「え? そ、そう」
179 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:27:06.83 ID:L6dNy5Nfo

私の勘違い?
それにしても誰がそんなことを教えたのかしら?
真? いえ、でもそんなこと話している様子はなかったけれど。


「ねえいいでしょ? 亜美も一緒に唄うからさー!」


私の勘違いならばいいのだけど。


「そうね、分かったわ。お祭りが上手くいけば唄うわ」
180 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:27:49.27 ID:L6dNy5Nfo

もういつかの時みたいに聞かせた人達に無意識に
アルカディアの力を発動させて気分を悪くさせることはないと思うし。
唄ってもいいかしら。


きっと……お母さんも喜んでくれると思うし。



亜美と取り留めのない話をしながらも、
私達はすぐに役所についてしまった。


「そんじゃ中に入るよー」

「ういーっす」
181 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:28:17.73 ID:L6dNy5Nfo

と陽気に挨拶をする亜美だったが、後ろ姿、仮面をしていてもわかる。
明らかに体が一瞬緊張したように感じた。


中に私も続いて入るとそこには4人いた。
4人とも仮面をつけていたからどの人が
どんな顔をしているのかなんてのはわからない。


「おや、その仮面は亜美ちゃんかな?」

「そだよー」

「へぇ〜、君が……。で、そちらは?」
182 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:29:00.63 ID:L6dNy5Nfo

一人の長身の男がそう言う。
私のことを亜美はなんて説明するのだろうか。


「あぁ、この人? 気にしないで。亜美の身内みたいなもんだからさ」

「剣を持った用心棒みたいなもんか?」

「うーん、まぁね。おっきな荷物持ってるとそれなりに狙われるからね」


別の男に聞かれても平然と答える亜美。
役所の中で亜美を待っていたのは3人が男。
残りの一人は髪が長いから女の人だろう。
183 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:29:45.92 ID:L6dNy5Nfo

「で、今回の納はどんぐらいなんだ?」

「んっとねぇー、こんぐらいだよ」



と一人の男に亜美の懐から出した手帳を見せる。
しかし、何か気に食わなかったようにため息を一つついてから


「お前……やる気あんのかよ」


とそう言った。
184 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:31:31.10 ID:L6dNy5Nfo
さすがに亜美もいきなりそんな風に
攻撃的な言葉を投げられるなんて思っていなかったみたいで
言葉にも焦りが見えてきていた。


「え? で、でも今年はこの額でいいって……」

「そんな言葉真に受けてたのか? ……ったく、しょうがねえ野郎だぜ」


一人の男が亜美をキツい言葉で責めていく。
もう一人の男は申し訳なさそうに俯いていて、
あとの男と女は別に当たり前のように座っている。
185 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:32:50.10 ID:L6dNy5Nfo

「お前の姉はこれの倍はしっかり稼いでいたぞ」

「だ、だって、終戦後みんなの生活だって苦しくて
 それで亜美の所から買ってくれる人もいなくて……」

「……これじゃあこの町は買い戻すことなんてできないな」


町を買い戻す?
亜美が? いや、この場合はたぶん亜美と真美が。


「そんなの仕方ないじゃん。亜美はこの額でいいって確かに言われたんだし」
186 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:34:56.04 ID:L6dNy5Nfo

亜美の言葉は段々と弱くなる。


そのやり取りの中、気になっていたのは女の人が私のことをジッと見ていること。
仮面で本当にこっちを見ているのかなんて怪しいけれど、
明らかな視線をこの女の人から感じる。
何故この人は仮面をつけている私のことをそんなに見ているの。


「でも、確か約束の金額は全部払ったと思うんだけど……」

「あぁ? まぁ今年で終わりだろうとは思ったんだがな……。
 延長したんだ……。帝国も金がない」

「え?」
187 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:35:49.70 ID:L6dNy5Nfo

亜美の声に動揺も混じる。
何かの取引を無断で先延ばしにされた?
そんなことくらいしか何も知らない私には分からなかった。


「そ、そんなの無しっしょ! 嘘つきだよそれは!」


亜美が声を張る。


「まあ、帝国のために働いていると思え」

「いいじゃねえかその方が……」


「よくないよ!」
188 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:36:57.87 ID:L6dNy5Nfo

「せっかく亜美と真美が頑張ったのに……!」

「私達姉妹が頑張って約束のために頑張ったのに……!」

「そんなのズルっ子だよ!」


亜美はワガママを言う子供みたいに叫ぶ。
必死に訴えている。


「私達姉妹……? 顔も見たこと無いのにか?」

「……そ、それは関係ないっしょ……!
 それにそんなことそっちがやったことじゃん!」
189 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:37:27.26 ID:L6dNy5Nfo

「俺達が? 俺は知らないな……そんな昔のこと」


顔を見たことがない?
どういうこと?
私はこの時、まだ亜美と真美の隠された秘密には気づいていなかった。


「それに顔くらい見たことあるもん!」

「だけど思い出せない。そうなんだろう?」

「うっ……」
190 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:37:54.25 ID:L6dNy5Nfo

「ふん、そんなの見たことにはならないな」

「……違う」

「本当は姉妹なんかじゃなくてただの赤の他人かもしれないぞ?」

「そんなことない! うるさい!」


亜美はカッとなって怒りに任せてその男を突き飛ばした。
しかし、所詮は亜美の体力。
体勢が崩れた時に仮面が飛んで素顔を見るだけになったのだが……。


私にとってはそれは大きなダメージだった。
191 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:39:16.10 ID:L6dNy5Nfo

「暴力か……いいだろう……」


机の下に隠すかのように置いてあった剣を取り出し、
亜美の前で抜いたその男は……。


かつて、首都バンナムの城で私と戦い王を殺害した張本人、
天ヶ瀬冬馬だった。


何故、奴がまたここに。
天ヶ瀬冬馬は床に落ちた仮面を拾う素振りも見せずにドアの前に立って言う。


「表に出な」
192 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:39:54.41 ID:L6dNy5Nfo
私は亜美の前に出て、


「私に任せて」


と仮面の下からでもわかるように合図した。
実際に勝つ寸法なんかは特に考えてはいなかった。


しかし、この仮面の男が天ヶ瀬冬馬だとすると
もう一人一緒にいる長身は恐らくは伊集院北斗。


と、するともう一人いる女の人は……。
193 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:40:41.39 ID:L6dNy5Nfo

「やれやれ……。やめろって言っても聞かないんだろう?」

「あぁ? 当たり前だ。邪魔すんなよな」

「俺はまだこの町に用があるから残っているけど、どうする?」


長身の男は女の人に尋ねる。
二人共小さな声で話しているから何を言っているのかはよく聞こえない。


「自分はまだこの町に残るよ。最後まで見ておきたい。
 これが……帝国のやり方だって言うんならね」


と、何か言い終わったみたいだった。
亜美は不安そうに私の方を見ている。
194 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:41:30.49 ID:L6dNy5Nfo

「大丈夫……」


とそっと亜美の肩に手をおいてあげる。
それから私達は表にでる。


役所が面してあったメインストリートに二人で立って向かい合う。
まるで荒野でやる西部劇の決闘のように。


周りには仮面をしたたくさんの町の人々が私達の決闘を、
何かのデモンストレーションだと勘違いしているのか
次々とギャラリーになって増えていく。


195 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:42:42.60 ID:L6dNy5Nfo

「ぐっ……こんな時に! またか!!」


何やら天ヶ瀬冬馬は頭を抱えていた。頭痛がするようだった。
これは願っても見ない好機!


向こうは私のことには気がついてはいないみたいだし、
ここで不意をついて唄いながら戦うことができたならば。


と、思考した時に私はあることを思い出した。
天ヶ瀬冬馬は……確か。



確か、王を殺した時、正確にはその前にそれを阻止する私達と戦う時に


唄っていた……。


196 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:43:08.71 ID:L6dNy5Nfo

そして、その歌いながらの戦闘は明らかに人智を超えたものであった。
それはつまり、あの力はアルカディアの力……?


まさか……そんな馬鹿な。


そして、またしても嫌な予感は的中するように
私の中に流れてくる記憶。

197 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:44:07.42 ID:L6dNy5Nfo


――優は……。どこへいるの。

――生きているわ、でも死んでいるとも言えるかもしれない。



嘘。


じゃあ、この男が。


天ヶ瀬冬馬は……優なの……?


「ハァ……。ハァっ」


呼吸が荒くなる。
だって、そんなの嘘よ。
198 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:44:36.65 ID:L6dNy5Nfo

「お姉ちゃん……大丈夫?」


湧き上がるギャラリーの歓声の中で亜美が心配そうに見ている。
同じようにさっき役所にいたその他の3人も見ている。


天ヶ瀬冬馬は頭痛でしきりに頭をグリグリと押して痛みを紛らわしている。


私は目の前が歪み出す。激しい吐き気に襲われる。
そんな馬鹿なことがあるはずない……。
199 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:45:08.28 ID:L6dNy5Nfo

でも……じゃあ、なんで?


答えのでない疑問が頭のなかでぐるぐると回る……。
剣を握り直す……。


そんな訳がない。


きっと違う。いいえ、絶対に……こんなひねくれた奴が優なわけがない!

200 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:46:16.81 ID:L6dNy5Nfo

「はぁぁあ!」


私は剣を天ヶ瀬冬馬に振るっていた。
しかし、頭を抑えながらも天ヶ瀬冬馬は寸での所で避けてばかりいた。


「ぐ、くそ……! こんな時に……!」


「ーーッ!?」


私の剣と天ヶ瀬冬馬の剣が交差しようとした瞬間。
互いの剣を持つ手が何者かによって捕まった。
201 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:47:11.25 ID:L6dNy5Nfo
そして、それを跳ね除けようとしたが、
動揺が隠し切れない私の攻撃などいとも簡単に交わされて
私は地面に押さえつけられた。


隣では天ヶ瀬冬馬も同じように押さえつけられていた。


顔をあげると目の前には見たことのないおじさんたちがいた。
202 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:47:54.06 ID:L6dNy5Nfo

「ったく……喧嘩は困るんだよ。お祭りだからってはしゃぎ過ぎなんだよ」


まさか町の保安官……!? 馬鹿な!
一体誰が呼んだの。


保安官の後ろには役所にいた3人目の男の人がいた。
たぶん、恐らくはこの人が町の役所に勤めている人。
この人が呼んだんだわ。
203 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:48:36.76 ID:L6dNy5Nfo

だけど私はこの人を恨むつもりにはなれなかった。
この町を思う人であるならばこの行動は当然の結果だろう。
町で喧嘩を堂々としようとする輩がいれば止めに入るのは当然。


私と天ヶ瀬冬馬はそのまま連行されて
町のどの辺りに位置するのかもわからない牢屋へと一緒に行くことに。


亜美はこのことをいち早く察したのかすでにこのギャラリーの中からは逃げていた。
同じく役所にいた他の連中もそれぞれいなくなっていた。


留置所の中を歩かされ、
たくさんある空っぽの牢屋の前を淡々と歩く私と天ヶ瀬冬馬だったが、
その一つが埋まっていた。
204 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:49:22.15 ID:L6dNy5Nfo

その中にいたのは。



「真美!? どうしてここに!?」

「……誰? なんで真美のこと知ってるの?」


「私よ、千早!」


仮面をしたままだったがそう叫ぶ。
隣にいた天ヶ瀬冬馬が驚いていた。
205 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:50:43.32 ID:L6dNy5Nfo

しかし、頭痛がするのかいつもの勢いは半減されていた。
そんな彼を尻目に私は真美に問いかける。


「どうしてこんな所にいるの!?」

「えへへ。……騙されちゃった」


とぺろっと舌を出すのは可愛いが、状況がさっぱり理解できない。


そのまま私は保安官に蹴られながらも
天ヶ瀬冬馬と共にそれぞれ別の牢屋に入れられた。
私の隣には真美が、向かいには天ヶ瀬冬馬が入れられていた。
206 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:52:09.34 ID:L6dNy5Nfo

「ぐっ……いってぇ……」


未だに頭が痛そうにするのをよそに私は
隣の牢屋に入れられている真美に話しかけようとするのだが、
見張りが何度も通るので中々会話が進まない。



「どういうこと? 教えて」

「真美達、帝国にいいように使われていただけなんだ」

「真美、もうこのまま亜美の顔も見れずに死んじゃうなんて嫌だよぉ……」


真美のすすり泣く声が聞こえる。
207 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:52:43.08 ID:L6dNy5Nfo

「顔も見れないって……」

「真美達ね……顔みたらいけないの」

「え?」

「真美と亜美はお互いの顔を少しでも見たら死んじゃう呪いにかかってるの」


お互いの顔を見たら……死ぬ?
私は亜美の家、真美の家でもあるあの不思議な家の構造を思い出した。
208 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:56:23.04 ID:L6dNy5Nfo

「じゃ、じゃああの家は……?」

「え? 家? もしかして真美の家に行ったの?」

「ええ、上がらせてもらったわ」

「気持ち悪いでしょ? あれね、お母さんとお父さんが
 亜美と真美のためにああいう風に作ってくれたの」

「元々の家を鏡みたいに2つに内装してくれたの」

「一つの家に顔を見ちゃいけない二人がいて、
 どっちも優劣つかないように、そうしたんだってさ」



それから私は真美から一部始終をようやく
教えてもらえることになった。
209 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:58:46.73 ID:L6dNy5Nfo

双海亜美・真美は双子だった。
生まれる前に帝国に領土が分割された時に
帝国に支配されることが決定したシモネタウン。



そんな町に生まれたのが亜美と真美だった。


帝国はその町に生まれてくる子供達に対してある計画をたてた。


それは生まれた時から商人の魂が宿り、いついかなる場合でも、
一生涯、金を稼ぎ続けなければ死んでしまうんじゃないか
と言う精神を作るための計画だった。
だから子供のうちから稼ぎに出すことにしたのだとか。
210 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 10:59:44.83 ID:L6dNy5Nfo

帝国は幼い亜美と真美を始めとした、シモネタウンに生まれる
子どもたちに、町にとっても重大な任務を与えた。


その子供達の代表として選ばれていたのが亜美と真美だった。



「お前たちが毎年決められた額のお金を収めることができれば
 帝国も君たちの町には一切手出しはしない」


「みんな幸せになる。
 だけど、その間は二人が真面目にお仕事できるように
 ちょっとだけ魔法をかけさせてもらうよ」


「それに毎年じゃないさ。10年もすればちゃんとこの町を自由にしてあげるよ」
211 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:00:23.64 ID:L6dNy5Nfo
「そのために必要なのは……このぐらいだね」


そう金額を提示されて言われた。


その魔法は呪い系の魔法でお互いの顔を見ると石になってしまう
という誰が生み出したのか悪趣味な呪いだった。


亜美達は子供達の代表として魔法をかけられることになってしまった。
両親もこのことには上手い手口で乗せられて知ってはいたが、
町のためだと信じてやまなかった。
212 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:00:58.87 ID:L6dNy5Nfo

石にされてしまうということを幼い亜美と真美は真に受けて恐れて一生懸命働いた。
今の亜美と真美が商人をするきっかけがこれだった。



町の人達はだから亜美にあんな風に優しく声をかけていた。
彼女達は町を救っているヒーローだったからだ。



初めは自分達の町で売ることしかできなかったために
結局、町の住人は生活が厳しくなる一方であまりいい思いをしなかった。
だけど、成長するに連れて隣の町へ、一つ森を超えた先の村へ。
と段々と商売できる幅が広くなってきていた。
213 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:01:41.74 ID:L6dNy5Nfo

しかし、少し知恵がついてきた亜美と真美は
自分達のやっていることに初めて疑問を持った。


「どうして亜美達ばかりがこんな目に合わなきゃいけないのだろう」


亜美は真美とはお互いの声だけを頼りに逃げ出すことを決意した。



しかし、亜美と真美が逃げ出すとなっては町がどうなるかはわかったもんじゃないと、
町の人間たちは一気に亜美と真美の敵に回ったのだった。
214 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:02:59.71 ID:L6dNy5Nfo

「あの餓鬼……! 見つけたらただじゃおかねえぞ!」

「探せー! まだ遠くへは行ってないぞ!」

「こっちの森はだめだ! 向こうを探せ!」



町の人間達は他の町が帝国のせいで酷い目に合っているという噂を信じこんで
自分達の町がそうならないようにも躍起になって亜美と真美を探した。


しかし、厄介なのはこの事が
帝国側にも騒ぎすぎたせいで知れ渡ってしまったことだった。
215 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:04:22.58 ID:L6dNy5Nfo


そして、亜美と真美は止む無くして捕まった。
あろうことか亜美と真美と同じく商売に駆り出されていた仲間だったはずの
別の子供達が大人に買収されていて、
それに騙された亜美達は子供達に近づいた所を取り押さえられたのだった。


帝国の人間は亜美と真美にムチを打つように町の人間達に言った。
自分達でやらずに今まで応援してくれていた町の人達が鬼のような顔をしてムチを打ち、
それに恐怖と絶望、痛みを味わう亜美と真美の顔を楽しもうとしていたらしい。
下衆な連中。
216 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:05:13.47 ID:L6dNy5Nfo

しかし、亜美と真美を最後まで庇っていたのは両親だった。
亜美と真美がムチを打たれる中、そこに割り込んでずっと身を呈して
代わりにムチを打たれ続けたのが二人の両親だった。


亜美と真美はムチに打たれ痛みに耐える両親の体の下で
泣きながら謝った。



「ごめんなさい。もう逃げたりしませんから」

「ごめんなさい。ちゃんと働きますから」

217 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:06:32.77 ID:L6dNy5Nfo

こうして、亜美と真美は罰として今まで収めてきた金額は白紙にされ、
最初に設定された町を自由にしてもいいという
設定金額を倍に増やされてしまった。


町の自由はまたしても遠のいてしまった。


そして、亜美と真美に更なる悲劇が起きた。


「また逃げられても困るからな」

「今後は見張りをつけて働いてもらおう……」

218 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:07:57.95 ID:L6dNy5Nfo

そういう帝国の人間に対して双子の両親は猛反発した。


「娘達がもうしないと約束しているんだ!」

「これ以上、あの子達に何をやらせるというの!」


「ええい、鬱陶しい家族だ。うい……。そうだな」

「貴様らに見張ってもらえばいいじゃあないか」

「それこそが家族思いの私からのプレゼントだ。クククッ、素晴らしいだろう?」





「…………それでね、一生懸命逆らってくれた真美達のお母さんとお父さんは」




「…………ゴーレムにされちゃったの」


219 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:09:13.20 ID:L6dNy5Nfo

「……な、なんですって……?」


じゃあ、いつも一緒に連れていたあのゴーレムは……まさか。


「うん、亜美が一緒にいたのがお母さんで、真美が一緒にいたのがお父さんなんだ」


なんて……酷いことを!


「酷いことするよね、って思ってくれた? ありがとう。
 でもね、きっと真美達のほうがもっと酷いことしてたんだと思う」
220 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:11:32.42 ID:L6dNy5Nfo

「もうここ数年はさ、親の自覚なんて薄れちゃったんだろうね。
 すっかりただの言うこと聞いてくれるモンスターだよ」


「そんなお母さんとお父さん達のことを真美達は嫌気が刺して、
 ゴーレムちんなーんて、ふざけて呼ぶようになってさ」

「いつしかそれが当たり前になっちゃったけど。
 でもきっとお母さんとお父さんに、
 意識があるのだとしたらすごい悲しかったと思う」

「でも、真美達もそんな呼び方でもしないと
 ゴーレムにされた二人を見て、いつも悲しい気持ちになっちゃうんだもん」

「ほんと、真美は最低だよね……」


あはは、と乾いた笑い声が聞こえる。
221 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:12:29.92 ID:L6dNy5Nfo

私も帝国には酷い目に合わされた……。
なんて声をかけていいかわからなかった。
それからまた真美は話を聞かせてくれた。



「それから真美達はゴーレムの引ける貨車をもらったの。
 それで遠くの町にも出稼ぎに行けるだろうって」


こうして、今の亜美と真美の旅商人のスタイルが完成されていたのだった。
そこからは稼ぎまくることだけを考えては
年に一度、この時期にシモネタウンに帰ってきて一定金額を収めているとのことだった。
222 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:12:57.85 ID:L6dNy5Nfo

しかし、真美がなぜここにいるのか、答えは簡単だった。
真美は騙されていたのだった。


帝国はこの町を開放するつもりはなかった。
元々そういうつもりだったらしい。


そして、帝国の人間、私の横で頭痛にうなされている奴らは
真美がまた裏切って逃げ出すという嘘を吹聴しにきていたのだった。


そうして真美は町に帰ってきた所をまんまと捕まって
牢屋に閉じ込められているということだった。
223 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:13:32.26 ID:L6dNy5Nfo


そして、町の方針としては最近一人でも二人分稼げるようになってきている
亜美と真美を今度は一人で稼がせるようにすることにしたのだった。
だから亜美は捕まらなかった。


しかも、真美を人質に取ることで亜美はもっと真剣に働くだろうからということだった。


町も町で大馬鹿だけれど、もっと許せないのは汚いやり方をする帝国だった。
224 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:14:40.35 ID:L6dNy5Nfo

私は向かいの牢屋の天ヶ瀬冬馬の方をキッと睨みつけるが……
ようやく頭痛が治まってきたのか、痛みになれたのか、
牢屋の隅に大人しく座っていた。


「何見てんだよ」

「いいえ、汚いやり方をする国の人間は
 どんな面をしているのか見てみたくてね」

「チッ、やろうってのか?」

「……」
225 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:15:16.27 ID:L6dNy5Nfo

無言で睨みつけ返すが、


「やめだ。俺の体調がすぐれない状態だしアンタも何かあるみたいだしな」


私の声は動揺して震えていたのかもしれない。
だって……この男はもしかしたら……。



「……優」


ぼそっと声が漏れてしまっていた。
226 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:15:55.28 ID:L6dNy5Nfo

「あ? 誰だそいつ……俺の名前は天ヶ瀬冬馬だって言ってんだろ」



違う? 優じゃない?
私はこの時晴れ晴れとした気分でいたかった。
なんならこの狭い牢屋をスキップしてまわってもいいくらいに。


だけどまだ聞かなくてはいけないことがたくさんある。
227 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:16:26.34 ID:L6dNy5Nfo
「あなたは……なぜアルカディアを知っているの?」

「……は? 前にもそんなことを聞いてきたな」

「ええ」

「それは簡単に教えられるもんじゃねえんだよ」

「いいえ、それは違うわ。あなたは私に話さないといけないの」
228 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:17:11.03 ID:L6dNy5Nfo
「はぁ? なんでお前がそんなこと決めるんだよ」

「私もアルカディアの出身だからよ」

「……」


天ヶ瀬冬馬が黙る。
沈黙が走るが天ヶ瀬冬馬は俯いてしまった。
私も、なんてのはあえてそういう言い方をしてみただけ。


「……そうか」
229 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:17:40.66 ID:L6dNy5Nfo

そうして何かを言い掛けようとしたが、


「……」

「なんでもねえよ」


少し間を開けてそう言った。
230 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:18:40.12 ID:L6dNy5Nfo
「一時休戦ね。ここを出なくちゃ話にならないわ」


とは言ったものの剣もなく、
どうやってこの牢屋を抜け出すべきか……。


またきっと真達が異変を察知して助けに来てくれるはず。
たぶん亜美が知らせてくれれば伝わるはずなのだけど。


今の真美の話を聞いたら、
亜美もどんな目に合わされるかわかったものではない。
余計に心配だわ。


でもきっと私のとなりにいる真美のほうがもっと心配なのよね。
今一番真美自信が心の支えとしているのが亜美なのだから。
231 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:23:02.12 ID:L6dNy5Nfo




〜〜菊地真Side〜〜





「それにしても遅いねぇ」

「うん」


ボクと雪歩は取り留めの無い話を適当にしながら
雪歩の入れてくれたお茶を飲んで亜美の家でのんびりしていた。
しかし、遅い帰りに二人共段々落ち着かなくなってきていた。

232 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:23:36.93 ID:L6dNy5Nfo

「少し様子見てくる?」

「でも、入れ違いになるとまたあれだし……」

「……でも、探しに行こう、雪歩。やっぱりなんか変だよ」



ボクの言葉に後押しされるように雪歩も立ち上がる。
こんなに遅くなるような用事であればいいんだけど。


それならばボク達も役所に向かえばそれでまた会えるんだから。
233 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:24:42.34 ID:L6dNy5Nfo

ボクと雪歩は仮面をつけて亜美の家をあとにした。
家を出て、町の中心街の方へ行って、仮面をつけた町の人に役所はどこか聞いた。


親切に教えてもらったボク達はそのまま役所に向かうことにした。


町はお祭りムードでどこか浮かれていたようだったが、
ボクは気になる言葉を耳にしていた。


「さっきの暴力沙汰の。あれって結構な犯罪者らしいんだって」

「聞いた聞いた。すぐに死刑になるらしいよ」

「えー、やだ怖い〜」


暴力沙汰の事件?
234 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:25:13.11 ID:L6dNy5Nfo
どこで起きたものなんだろう……。
千早たちが巻き込まれていなければいいけれど。


お祭りの中で酔っ払って暴れまくった奴でもいたのだろうか。
そんなことを考えながらも役所に向かっていると、
役所の前で一層の人だかりが見えた。


なんだろう、なんかのイベントが始まったのかなぁ?


「真ちゃん、あれ……なんだと思う?」
235 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:25:40.82 ID:L6dNy5Nfo
「わからない。誰かパフォーマンスでもしてるんじゃないかな?」

「……うん。でも変なの。あの中心にすごい殺気を感じるの」

「……」


ボクと雪歩は目を合わすと無言で頷いて、
足早に中心の方に人をかき分けて入っていく。
236 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:26:51.56 ID:L6dNy5Nfo

「こいつ……! また逃げようとしたんだってな!!」

「ち、違うっ! 逃げようとなんてしてない!」

「やっちまえ! そんな疫病神!」

「もっと懲らしめないとまた何か企み出すぞ!!」

「このッ! こいつ!」


たくさんの大人たちが寄ってたかって暴力を振るっている相手は亜美だった。
237 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:28:10.86 ID:L6dNy5Nfo

「亜美!?」

「亜美ちゃん!!」


ボクは咄嗟に飛び出して大人たちの間に割って入る。


「待てッ! そんな大人数で何のつもりだ!」

「……誰だあんた!」

「クズに名乗る必要なんてない……!」

「はぁぁぁッッ!」


ボクは迷わず亜美達を囲んでいた大人たちを一人残らずぶっ飛ばしていく。
238 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:29:07.80 ID:L6dNy5Nfo

ギャラリーはボクの登場も催し物の一貫だと思ってるらしく歓声が沸き上がる。


「どっからでも来い……!」

「真ちゃん頑張って!」

「や、やめて……まこちん……」

「なんでだよ亜美!」

「悪くないの。みんなは悪くないの……」

「だからってこんなこと許せる訳無いだろう!!」
239 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:31:51.78 ID:L6dNy5Nfo

ボロボロになった亜美はそれでも大人たちを庇っていた。
なんでだよ! そんなになってまで……。



ボクはたまらずにはいられなくなって亜美を抱えて走りだそうとしたが、
ギャラリーが邪魔でここを抜け出せない……!


一旦ここを抜け出さないと。
騒ぎが大きくなりすぎる前に退こう。


「真ちゃん……! ”JUMP”!」
240 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:32:45.77 ID:L6dNy5Nfo
雪歩の魔法と意図する行動が手に取るようにわかる。
ボクの足元にかかった雪歩の魔法。


ボクは役所の屋根の上にひとっ飛びした。
すごい……! こんな高く飛べる魔法があるなんて!
その高さは町が一望できるほどの高さだった。


「す、すごい……」


亜美は怪我の痛みも忘れるくらいに驚いて声を漏らしていた。

241 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:33:30.84 ID:L6dNy5Nfo

飛ぶ瞬間に雪歩とはアイコンタクトで落ち合う場所を亜美の家に指定した。
たぶん、くるはず……。


それからボクは屋根伝いに飛び回り、追手を振り払うためにあえて
町を半周以上も周り、それから亜美の家に帰ってきた。



しかし、それが仇となったのか、家に着いた時には
町の人間たちが寄ってたかって亜美達の家に火炎瓶を投げ込んでいた。
242 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:34:13.39 ID:L6dNy5Nfo

「しまった……。不味いな……」

「亜美の家……」


家を遠くから見ているが、家では必死に亜美の帰りを待つ一匹のゴーレムがいた。
ゴーレムは必死に家に向かって投げられる火炎瓶を素手ではたき落としたり
自分で盾になって食らっていた。


「くっ……。亜美、一旦ここを離れるよ」

「雪歩なら索敵魔法か何かを出しておいて何とかするだろうし……」

「ま、待って! ママが……」
243 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:34:39.78 ID:L6dNy5Nfo

ママ? お母さんがどこに!?
まさか、あの火炎瓶を投げている連中の中にいるのか?


ボクは亜美の言うことを聞かずに一先ずここを離れることにした。
それから町からかなり離れてきて外れのほうまできた。


ここならもう誰も追ってはこない……。


雪歩はすぐに息を切らしながら走って追いついてきた。
どうやら索敵魔法を街中に張ったらしい。
244 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:35:09.89 ID:L6dNy5Nfo

「ハァ……ご、ごめんね真ちゃん」

「ううん、こっちこそ助かったよ」


それからボクと雪歩は亜美に全て聞いた。


「じゃあ……あのゴーレムは……。不味い……今頃、戦っているんだ」

「でも、もう一匹は!?」

「……わからない。さっきお家を守ってたのがお母さんだけど
 お父さんの方は真美が面倒を見てたから亜美にはわからない」
245 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:36:10.37 ID:L6dNy5Nfo

そうがっくりとうなだれている。
町の人達が亜美のことをこれっぽっちも信用なんてしていなかった、
そのことに対して亜美は非常に強くショックを受けていた。


あんなに頑張ったのに、簡単な噂に踊らされるくらい
亜美達のことを信用していなかったんだと。


だけど、亜美はそのことを責めようとはあまりしなかった。
一度逃げ出そうとした前科がある以上町の人が疑うのはしょうがないと思っていた。
246 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:37:27.46 ID:L6dNy5Nfo

ボクはここでもう一つ大事なことを思い出した。
……千早は!?


「亜美! 千早はどうしたんだ!」

「千早お姉ちゃんは亜美を庇って町の保安官に捕まっちゃった……」

「役所にいた帝国の人と喧嘩になって……」

「捕まっただって……!?」


不味いぞ……。さっき町で聞いた言葉を思い出す。
暴力事件で捕まった奴らは死刑になる!
247 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:38:57.27 ID:L6dNy5Nfo

「ヤバい……! 早く千早を助けないと!」

「えっ!? ど、どうしたの真ちゃん」

「さっき、チラッと聞いたんだけど、
 捕まった千早達は死刑になるかもしれないってことを」

「そ、それどこで聞いたの……?」

「町を歩いてる時にその辺の人達が話していたんだ」

「わかった……。確信はないけれど、助けにいかないと……」


雪歩も同調してくれる。
248 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:39:23.11 ID:L6dNy5Nfo

「ボクは千早を助けに行くよ! 雪歩は亜美を手伝ってあげて!」

「わかった。行こう、亜美ちゃん」


雪歩が亜美の手を取る。
亜美はまだ戸惑っているのか、どこに行くのか理解していないといった様子だった。


「ど、どこに行くの……ゆきぴょん」

「亜美ちゃんのお家だよ! お母さん、お家守ってるんでしょ?
 私が行ってあの燃えてるお家はなんとかするから」

「そ、そんなことできるの……?」
249 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:40:30.95 ID:L6dNy5Nfo
半泣きの亜美を必死に諭す雪歩。


「任せて。だから、お家の方まで案内して!」

「うん、ついてきて!」


亜美は泣きそうな目をごしごしと拭い、
それから雪歩と一緒に走りだした。


「さて、ボクも急がないと……!」
250 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:41:25.59 ID:L6dNy5Nfo

ボクはまだ残ってる雪歩の”JUMP”の魔法の効力を活かし
町中を飛んで移動をする。


さっきまで来ていた役所にやっと着いたボクは役所にいた人に
留置所はどこにあるのかということを尋ねた。


「ど、どうしてそんなことを聞くんだい」

「どうしてもだよ。ボクの友達が、無実の罪で逮捕されてるみたいなんだ」

「それならもう……無駄だよ。今は11時50分、12時ちょうどには
 死刑が執行されている時間だ」
251 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:41:52.07 ID:L6dNy5Nfo
「なっ……! ここからどこに行けばあるんですか!」

「今から行っても10分以上はかかる……」


大丈夫……まだ魔法の効力が残っている。


「早く教えて下さい!!」


ボクはつい熱くなって受付のテーブルを叩き割る。
252 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:42:18.75 ID:L6dNy5Nfo

「ひぃっ、こ、ここから町の反対方向だよ」

「そこに大きな有刺鉄線の貼られた大きな塀がずっと続いてる所がある」

「そこがそうだよ」


それだけ聞くとボクは役所を飛び出し、大きく飛んだ。
……しかし、二回目の跳躍をしようとした瞬間、
魔法の効力は切れてしまった。


反動と急に元に戻った衝撃でボクは
5メートルくらい飛んだ所で急激に落下して地面に叩きつけられる。
253 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:43:52.83 ID:L6dNy5Nfo

「痛っっ……」


不味い、これじゃあ間に合わない……!
痛みに悶えてる暇なんてない。急がないと!


ボクはすぐに起き上がり走りだした。


確かあっちの方角になっているはず。
待ってて、千早……! 今助けるから……!


254 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:55:04.81 ID:L6dNy5Nfo

〜〜如月千早Side〜〜




はぁ……。
いつまでこの冷たい牢屋の中にいなくちゃいけないのかしら。


真達は何をしているのだろう。


暇を持て余した私は何をする気力もなく、
歌でも歌っていようかと思ったけれど、
捕まっている以上、そんな風に呑気に過ごすわけにもいかない。


何より、向かいの牢屋で逮捕されている天ヶ瀬冬馬に私の歌を
戦闘以外で聴かせることになるのが気に食わなかった。
255 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:55:31.74 ID:L6dNy5Nfo

しかし、その天ヶ瀬冬馬には……。


「チャオ☆ 遅くなったね、冬馬」

「ったく、おせえよ……」


突然現れた伊集院北斗に対して悪態を突きながらも
安心したようのを隠すかのようにかったるそうに起き上がる。



「まぁ誤認逮捕ってことで勘弁してあげてよ」

「ふん、まぁいい」
256 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:55:59.88 ID:L6dNy5Nfo
「でも、こっちのお嬢さん達は死刑らしいけどね」

「国を危機に陥れる者かもしれないってことで」

「ふん、妥当だ」


死刑……!? 私が!?
まさか!? 喧嘩を売ってきたのはそっちなのに!


「喧嘩を売ってきたのはそっちでしょう?」

「はっ、なんとでも言え。好きなだけ呪うんだな」

「どっちみちお姉さんは国をあげての指名手配犯だからね」

「くっ」
257 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:56:27.76 ID:L6dNy5Nfo

牢屋の中にいる私に届かないからといって、
天ヶ瀬冬馬は私の入っている牢屋の鉄格子を思いっきり蹴飛ばして
大きな音をたててそのまま私の見えない所まで行ってしまった。
一体どこの不良よ。


「ど、どうしよう千早お姉ちゃん。真美、殺されちゃうの……?」

「くっ、わからないわ。でも、きっと助けに来てくれるはず」


私自信も真と萩原さんのことは信用しているのだけど、
それでも絶対にここまでたどり着けるなんて自信はなかった。
額に汗がにじみ出る。


少し焦ってきていた。
258 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:56:58.58 ID:L6dNy5Nfo
アルカディアの力で歌いながらだったら
この鉄格子は破壊……できそうにない。


私の戦闘スタイルが剣術なだけに
蹴りだけではどうにもならない気がした。


「千早……」


私の檻の前に現れたのは役所に天ヶ瀬冬馬達と一緒にいた女の人だった。
もうその正体はとっくに予想がついている。


ゆっくりと仮面を外す。
259 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:57:25.59 ID:L6dNy5Nfo

「我那覇さん……一体何の用なの……」

「ひびきん!? 助けに来てくれたの!?」

「真美、違うわ。我那覇さんは私達の敵だったのよ……」

「えぇ!? そ、そうなの……」


隣の牢屋で見えないけどきっと真美は悲しそうにしている。


「ねえ千早。自分、今帝国の城の中でさ、こんな風に
 檻に入れられた女の子とよく話すんだ」

「……?」


なんのこと? 一体なんの話をしているの。

260 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:57:56.48 ID:L6dNy5Nfo

「とってもいい奴でさ。ちょっと変わった所もあるんだけど」

「自分はそいつの秘密を知っちゃったんだ。知っちゃいけないような秘密を」

「どうしたらいいか分からなくて。必死で考えたんだけどな」

「千早! 千早も今からクロイ帝国に来ようよ!」

「帝国はいいぞ!? 自由だし、何より最高の目標があるんだって!」

「……目標?」

「まぁ、その内容は……自分もよくわからない所が多いんだけど。えへへ」


我那覇さんは楽しそうに私に話す。
かつて、私達と旅をしていた時と何も変わらないように。
261 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:58:25.55 ID:L6dNy5Nfo

「でもさ、自分、気がついたんだ……段々自分の居場所がなくなってる気がしてて」

「目標みたいなのも教えてくれないし」

「最高の目標ってのも、自分の想像していたのとはずっと違ってる気がしてね」

「……自分、今、どうしたらいいかわからないんだよね」

「ほんと……。どうしよう」


我那覇さんは一人、話を続けていた。
私には到底理解できない、状況の話を。


きっと彼女は本当に何か悩み事があって本気悩んで苦しんでいる。
だからこそ話の筋もめちゃくちゃだし、
私は言ってることが全然理解できなかった。
262 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:58:56.22 ID:L6dNy5Nfo

「だからさ、今日の自分はおかしいんだよね」

「帝国のやり方がなんだかそれで正しいのかわからない」

「今日、自分のやっていることは別になかったことにしてもらっても構わない」

「2年前に……千早がこんな自分に居場所を与えてくれたこと」

「自分は本当はすごい嬉しかったんだ」



ひゅんっと私の前に何かを投げる。
チャリンと音がしたそれは、鍵だった。

263 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 11:59:54.31 ID:L6dNy5Nfo

「こ、これは……どういうつもり?」

「……血迷っただけださー」

「千早にここで死んでほしくなんかないんだ」

「だって、千早は自分が殺すんだから」


そう言い終わると、我那覇さんは私の牢屋の前から消えてしまった。
私はすぐに牢屋の扉を空けて外に出たが、
そこにはもう我那覇さんの姿は見えなくなっていた。


あなた一体。
何を考えているの?
どうしちゃったのよ。
264 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:00:52.31 ID:L6dNy5Nfo

「……どういうつもりなのよ……」

「千早お姉ちゃん早くあけて!」

「貴様ッ!! どうやって脱出したんだ!!」


振り返ると私達を死刑に連れだそうと
現れた留置所の連中だった。


「や、やばっ、えっと、これを……」


私は急いで真美の牢屋を空けて、
手を引っ張り逃げ出した。
265 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:02:01.70 ID:L6dNy5Nfo

私の剣はどこに……!?


牢屋がたくさん並んでいる横を走り抜ける。
私の剣の在り処も出口もどこか分からずに
とりあえず目の前の扉を開けると外に出た。


外といってもグラウンドのようになっていた。
恐らくは囚人たちの運動場なんだろう。


これじゃあ逃げ場も隠れる場所もない……!
266 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:02:27.99 ID:L6dNy5Nfo

高い塀の上には有刺鉄線が張られていて
簡単には外に脱出することはできない。


「ど、どうしよう千早お姉ちゃん! このままじゃ真美達!」


けたたましい警報音が留置所全体に鳴り響く。


『脱走者発見! 並びに侵入者発見! ただちに始末せよ!』


次々と警備員や、保安官が飛び出てくる。
ジリジリと私と真美を囲む。
267 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:02:57.26 ID:L6dNy5Nfo

「や、やばいよ……千早お姉ちゃん!」


真美はギュッと私の袖を握り締める。
その手はガタガタと震えていた。


私だって震えて怯えているだけで助かるならそうしたい。
だけど、今は私がこの子を守らなくちゃ。


「捕まえろ! 抵抗するなら殺せ!!」


何十人もが一斉に二人に襲い掛かってくる。
真美を背中に、私は剣なしで、一人一人殴りつけるなり、
蹴り飛ばすなりして戦う。
268 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:03:36.73 ID:L6dNy5Nfo

だけど、その抵抗はこの人数差あまり意味をなさなかった。
すぐに私は押さえつけられて、真美も捕まる。


「ぐっ……!! 真美ッ!」

「い、痛いよ! 千早お姉ちゃん……助けてぇ!」




「ーーーッッ! うああああああああああッッ!!」



私の中で何か電撃のようなものが走る。
あの時のフラッシュバック。


二度と、あの時と同じ思いをするもんですか!
私に助けを求めているならば……私はその身がどうなろうとも助けだしてみせる。
269 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:04:37.92 ID:L6dNy5Nfo

私は必死に暴れまくるが何十人もの人が
上に乗っかってきていて身動き一つ取れやしない。
真美との距離はどんどんと遠くなる。


早く助けないと! 真美が!
くっ! どうしたら……!




「な、なんだ貴様うわぁああ゙あ゙ーーーっ!」

「ば、化け物だぁぁあ!」


悲鳴が聞こえたかと思うと、
真美を囲う警備員達は急に吹き飛んだ。
何十人もの人間が一斉に宙を舞っていた。
270 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:05:17.11 ID:L6dNy5Nfo

そして、その真ん中にいて、亜美を救い出していたのは
真と一匹のゴーレムだった。


「行くよ、お父さんッッ!」



真とゴーレムは目を合わせアイコンタクトを取ると暴れ始めた。
そして、真の背中に背負っているものは……私の剣だった。


ゴーレムが次々と亜美を取り囲む警備兵達をなぎ倒す中、
真が一目散にこっちに向かってくる。
私を取り押さえていた人たちは次々と真に向かっていくが、
あらぬ方向に吹き飛ばされていく。
271 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:05:58.81 ID:L6dNy5Nfo

「千早、お待たせ!」

「……ありがとう。真。待ってたわ」


真から剣を受け取り、ゆっくりと抜く。
その殺気に先程までのしかかってきていた連中は恐れをなしていた。


「私にあんな思いをさせたことを後悔させてあげる……」


大きく息を吸う。
力が湧いてくる。
戦える。私は真美を、亜美を、あの子達の家族を守ってみせる……!
272 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:07:10.23 ID:L6dNy5Nfo
次々と向かってくる敵をなぎ倒していく。
横では真も暴れまくっていた。
2年前よりも……本当に強くなっている真を隣で実感する。


少し離れた所では真美を肩車したゴーレム(お父さん)が
雄叫びを上げて力の限り大暴れしていた。
真美を傷つけたことが本当に許せないのだろう。


私も同じ気持ち。


一人の警備兵を真が勢いよく蹴り上げる。
そこを私がジャンプして斬りつける。


真は着地した私にぐっと親指を突き立て見せる。
273 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:07:40.50 ID:L6dNy5Nfo

はぁ……これで全員かしら……。
亜美の方の最後の一人をゴーレムがアイアンクローしたまま高々と持ち上げている。
そして人一人はおもちゃのように扱っている姿に、
ゴーレムの圧倒的パワーに、一人のお父さんの愛の力に絶句した。


「いっけぇぇーーー!」


真美の掛け声とともにゴーレムは塀の外まで
持っていた人間を投げ飛ばした。


そのあと、グッと二人してガッツポーズしていた。
その姿は……やはり本当の親子で、少し羨ましくもあった。
274 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:08:22.04 ID:L6dNy5Nfo

「千早、奴らもういなくなったのかもしれないけれど、
 まだ間に合うよ、追う?」

「えぇ、もちろんよ」

「このままじゃ真美や亜美の家族は一生このままだもの」

「追う必要はないよ」


建物の方から声がする。
中からは伊集院北斗、そして我那覇さんがいた。
奥には天ヶ瀬冬馬がいるようだったが、



「冬馬、お前は先に帰っておけ」

「ここは俺に任せてもらおうか」

275 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:09:11.48 ID:L6dNy5Nfo

伊集院北斗は指の関節をぽきぽきと鳴らしている。
奥の天ヶ瀬冬馬に関してはもういなくなってしまったのかもしれない。


「千早……やっと殺せるんだね」


さっきの牢屋の前で見た我那覇さんとはまた顔が違っていた。
帝国の人間としての、幹部としての顔をしていた。


「真美、下がってて」

「う、うん。……千早お姉ちゃん大丈夫なの?」
276 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:10:14.89 ID:L6dNy5Nfo
「このぐらい心配ないわ」

「あんなへなちょこ恐竜使いなんて雑魚に等しいわ」


剣を再び構える。


「ふぅん……自分のいぬ美やハム蔵にも同じことがいるのかな?」

「来いッ! いぬ美、ハム蔵!!」


我那覇さんは地面に両手をペタリとつける。
そしてそこからはいぬ美とハム蔵が出てきた。


二体同時!?
彼女も2年の間ただ過ごしていた訳じゃないようね。
277 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:10:44.04 ID:L6dNy5Nfo

「一匹の操作が限界だと思ったら大間違いだぞ」

「一匹も二匹も変わらないわ!」


真の方を見ると、真はもうすでに伊集院北斗と取っ組み合いをしていた。


「へへん、2年前のお城での借り……! 返してもらいますよ!」

「おっと、そいつは光栄だね……」


278 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:11:12.18 ID:L6dNy5Nfo


いぬ美がいっきに突進してくる。


「グオオオオオオッ!」


私は咄嗟に避ける。
しかし、そこに今度はハム蔵の連続攻撃が来る。


ハム蔵の炎系の攻撃は食らうとかなりダメージが大きい。


そのハム蔵の顔面を横から飛んで殴りつけたのは真美のパパゴーレムだった。
279 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:11:53.00 ID:L6dNy5Nfo

「パパがどうしても助けたいって言うから」

「真美……」


ハム蔵はゴーレム掴んで地面に叩きつける。
しかし、体の硬いゴーレムにはその程度の攻撃は効かなかった。


私はいぬ美の攻撃を避けつつも、少しずつ斬りつけていく。
よし……一気にかたを付けよう。


大きく息を吸う。
剣を握りしめる。
280 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:12:27.94 ID:L6dNy5Nfo

「冷めたアスファルト
 人波掻いて
 モノクロのビル
 空を隠した」


いぬ美は私に次々とその牙を向けながら
爪をたてて攻撃してくる。


私はそれをギリギリの所でかわしながら唄う。
まだ、もっと隙ができる!


「勝手な信号
 標識の群れ
 せめてこの手で
 貴方を描く」

281 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:12:57.20 ID:L6dNy5Nfo

いぬ美の突進攻撃を飛んで避ける。
背中に飛び乗って剣を突き立てる。


「グオオオオオッッ!」


剣をここで手放す訳にはいかないし、
振り落とされるわけにはいかない。


暴れまわるいぬ美はすぐに
横に転がろうと体勢を整えだした。
さすがに横に転がれば私を地面に叩きつけられるし
振り落とすことができる。
282 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:15:20.34 ID:L6dNy5Nfo

私はなんとかタイミングを見計らうが失敗して地面に投げ出される。
いぬ美は転がりながらも私が降りたことを確認すると
すぐにまた向かってきた。


私はそれをモロに喰らい地面を数十メートル滑るように吹き飛ぶ。
だけど……唄うことだけはやめない。
たぶん今やめたらアルカディアの力の効力はなくなって
身体のダメージがやばいことになる。



「『ミライハオワリノミチ』
 嘆くセイジャが説けば
 すぐ抱きしめてくれた
 だけどどうして 泣くの?」
283 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:16:16.26 ID:L6dNy5Nfo

いぬ美の爪が私に向かってくる。
これだけ的が大きいと斬るのは楽だけど、
体力が全然削れない……!


いぬ美の引っ掻き攻撃を交わしその腕を斬りつける。


「グギャッァアアアッッ!」


痛みに暴れ回り、回転した拍子に尻尾が私を直撃する。
私は歌うことをそれでもやめない。
284 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:16:57.68 ID:L6dNy5Nfo


「全て
 燃える愛になれ
 赤裸に今焦がして
 私が守ってあげる」



尻尾にしがみついてそこからまた背中に飛び乗り、
思いっきり剣を突き立てる。


痛みにいぬ美が暴れまくり私もそれに振り落とさないように
突き刺した剣をしっかりと握り締める。
285 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:18:02.49 ID:L6dNy5Nfo


「全て
 燃えて灰になれ
 それがこの世の自由か」


今度こそタイミングを見計らい
いぬ美の背中から剣を引っこ抜きその反動で飛び降りる。
そして、地面に着地した瞬間にいぬ美を最大の力で斬りつける。


「貴方が微笑むなら
 愛じゃなくても
 愛してる」


いぬ美は盛大に血しぶきを上げてそのまま地面に
現れた魔法陣の中に引き込まれていった。
286 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:18:48.24 ID:L6dNy5Nfo

「い、いぬ美……! よくもいぬ美を……!」


我那覇さんはハム蔵の肩まで
ぴょんぴょんと身軽に登っていく。


「遊びは終わりだぞ!」


ゴーレムを軽々しく掴み上げる。


「パパ!」


真美の泣きそうな声が聞こえる。
まさかそれを投げつけるつもり!?
287 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:19:17.64 ID:L6dNy5Nfo

斬る訳にもいかないし、ましてや受け止めるなんて無理!
避けるしかない……。
でもあの巨体をタイミングよく避けないと押しつぶされる。


「くらえっ! 千早ーーッ!」


我那覇さんの掛け声とともに振りかぶる。
その瞬間にまたしてもハム蔵の顔面を横から殴りつけるゴーレムがいた。


「あ、あれは二匹目……ってことは」

「ママ!?」

「真美ー! お面つけて!」
288 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:19:46.64 ID:L6dNy5Nfo

真美の大きな叫び声。
亜美は真美を呼びながらも真美のいるだろう方向に一瞥もくれないで仮面を投げる。
両肩には仮面をした亜美と
それから反対の肩には萩原さんも乗っている。


殴りつけたあと、
見事に私達の目の前に着地するママゴーレム。
パパゴーレムの方もハム蔵の手の中から逃れることができたのか着地する。



「お待たせ、千早ちゃん……」


萩原さんが、フラフラした足取りでこちらに走ってくる。
そして、ついに私の目の前でずっこけた。
289 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:20:22.56 ID:L6dNy5Nfo

よくみると内面がお母さんだとは言え、
モンスターに担がれて飛んできたらしい。
そのため萩原さんの顔はよほど怖かったのか真っ青だった。


萩原さんに駆け寄って声をかけるが


「だ、大丈夫!?」

「な、なんとか大丈夫です……」


亜美達は仮面をつけてお互い声もかけずにいた。
290 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:20:58.41 ID:L6dNy5Nfo

だけど、お互いに言うことはばっちりとシンクロしていた。


「「行くよ、パパ、ママ!」」


それに答えて
グッと親指をたてるパパゴーレム。


それからいっきにハム蔵に向かって二匹が走りだす。


「「行けーーッ! パパ・ママダブルアッパー!」」


ハム蔵の巨体が浮き上がるほどのダメージ。
そして、ゆっくりとハム蔵は地面に落ちる。
291 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:21:57.14 ID:L6dNy5Nfo

「……やっつけちゃったの……?」


本当に倒せるなんて思っていなかったのか真美がそんな声を漏らす。
剣を構えながらも驚愕する。
恐るべき子を守る親の力。


私の……お父さんも私達を逃がすために
町に残り戦っていた。


お母さんも作戦は失敗していたけれど、
私達を守っていた。


私もいつかそういう気持ちが分かる時が来るのかしら。
292 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:22:55.08 ID:L6dNy5Nfo

「まだよ! 萩原さん!」

「行くよ千早ちゃん!」


ハム蔵はそれでもなお立ち上がろうとしている。
だけど、もうかなり限界のはず。
そうまでしても私達を始末したいの!?


「”炎”を千早ちゃんの剣に!!」



私の剣は萩原さんの杖から出た炎を纏う。
燃え盛る炎の剣へ。
293 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:23:44.58 ID:L6dNy5Nfo
炎は強く燃える。
こんなに燃え上がる剣を持っているのに
私はちっとも熱くなんてなかった。


そして、立ち上がろうとするハム蔵を前に私は立つ。
大きく息を吸う。


「枯れた花は
 種に変わって
 いつかまた彩るだろう」

「星は堕ちても
 流れ星になる」


萩原さん!? 
私の隣にスッと並んで立つ萩原さんに私は驚いていた。
いえ、そんな暇もないのかもしれない。
294 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:24:38.96 ID:L6dNy5Nfo
「オオオオオオオオ゙オ゙オ゙オ゙ッッ」


ハム蔵のドスの利いた雄叫びを目の前に受けても
萩原さんはびくりともしなかった。
私も同じ気持ち。もう何も怖くない。


隣に仲間が立っていてくれる。
こんなに心強いことはない。
私の燃える剣はその炎の勢いを増す。


「あの日の様に抱きしめてよ」

「だけどどうして泣くの」

295 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:26:10.57 ID:L6dNy5Nfo

萩原さんは杖から炎を噴射しているが
その形はまるで炎でできた剣のようだった。
魔法で作り上げてるものだった。




「「”インフェルノ”ォォオオーーーーーッ!」」




立ち上がるハム蔵を容赦なく二人で斬りつける。
萩原さんも一緒に唄ってくれている。


「全て
 燃える愛になれ
 赤裸に今焦がして
 私が守ってあげる」


私はハム蔵の身体を斬りつけながらも
ハム蔵の攻撃を避け続ける。
296 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:26:56.32 ID:L6dNy5Nfo

「”インフェルノ”」


萩原さんも今度は剣ではなく、大規模魔法を直に
ハム蔵に何度もぶつけ始める。


「全て燃えて灰になれ
 それがこの世の自由か
 貴方が微笑むなら
 愛じゃなくても」



「愛してる……」


ハム蔵の身体を斬りつけながら駆け上がり
最後に背中を一突きしてから飛び降りた。


私が着地して剣を鞘に収めた時、
ハム蔵は己の体液を吹き出しながらも地面に倒れこむ。
そして今度こそびくともしなくなった。
297 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:27:22.13 ID:L6dNy5Nfo

それからハム蔵はゆっくりとその場に現れた魔法陣の中に消えていった。
しかし、我那覇さんの姿はもうそこにはなかった。


おそらくはもう逃げ出したのだろう。


だけど、彼女とは……またいずれ決着をつけなければならない気がしていた。


「ハァ……やれやれ……」


伊集院北斗の蹴りで私達の元まで飛ばされてくる真。
298 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:27:56.26 ID:L6dNy5Nfo

「ぐっ、まだまだ!!」

「雪歩、ボクに身体強化の魔法を……!」

「えっ!? うん、わかった!」


「そんな魔法で体を一時的にドーピングしたってボクには勝てないよ」


と肩をすくめる伊集院北斗。


「うおおおおっ!」


真が伊集院北斗に突っ込んでいく。
激しい殴り合いが続く。
299 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:28:25.75 ID:L6dNy5Nfo

真もガードしたり避けたりすることをしなければ
伊集院北斗もガードも避ける動作も一切しなかった。


お互いが全力で殴り、殴るための体力を
ガードや回避に使うことを惜しんでいた。


「「いけーっ! まこちん!」」


亜美と真美は仮面の下から応援する。
さすがにゴーレムの体力にはついていけないらしく
ヘトヘトになっていてその場に座り込んでいた。
300 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:29:18.73 ID:L6dNy5Nfo

私も参加してあげたかったけれど体力に限界が来ていたし、
今無駄にいっても邪魔なだけになる。


それで倒したとしても真はあとで嫌がるだろうし、
何より私だったらそれで怒るかもしれない。


「よっと」


伊集院北斗はバク転を決めて真から距離を取る。
そして、懐から何かを取り出した。
一枚の紙。


それはもうボロボロで黄ばんでいた。
301 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:29:51.56 ID:L6dNy5Nfo

「これは一枚の契約書さ。
 ここは俺の管轄地域でね。
 ここの人間達と契約したものは全て俺が持っている」

「この古ぼけて黄ばんだ紙が何の契約書かわかるかい?」

「この契約書はそこにいる二匹のゴーレムが
 ゴーレムになった時の魔術契約書さ」

「ゴーレムにしてしまう魔法を使ったものは契約書を作ることによって
 魔力を一定ずつ提供しなくても済むようになるんだよ」

「雪歩ちゃんは知ってるよね?」


目からウインクを萩原さんに向かって飛ばす。
302 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:30:17.32 ID:L6dNy5Nfo

「はい、つまりは……魔術契約書である、あれを破壊すれば
 亜美ちゃんと真美ちゃんのご両親は元に戻るの」


真がそれを聞いた瞬間に理解したのかいっきに走りだす。
だがそれを


「おっと、待った。ここで一つ提案があるんだ」
303 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:30:49.85 ID:L6dNy5Nfo
「俺と真ちゃんが勝ったほうがこの契約書の持ち主ってことにしよう」

「しかもこの契約書はこの町の所有権も兼ねている、優れものだ」

「つまり、こいつを破壊することはこの町の自由をも意味している!」

「どうだい? 燃えるだろう?」


自分の所有している管轄の地域だからといって
ここまで遊ばれては私達のプライドにも関わってくる。


「いいだろう……ボクが負けることもあれば
 そっちが負けることもあるんだ」

「受けて立つ!」
304 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:31:17.64 ID:L6dNy5Nfo
「受けて立とう!」


伊集院北斗と真がゆっくりと近づく。


「はぁっぁあ!」

「おおおおっっ!」


お互いの殴り合いが再び始まる。



「はぁぁあッッ!」

「うおおおおっ!」
305 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:31:43.38 ID:L6dNy5Nfo

とても人が人を殴って出す音なんかしていなかった。
岩でも砕きそうな音がしている。
真は今、自分の中の限界値をとっくに超えて戦っている。


自分の中で無意識のうちに定めてしまった限界値を。
自分が自分でなくなるくらい、リミッターを解除して、
二度と元の自分には戻れなくなり、自我が迷走したような状態にまで。


真がタイミングを見て顎に拳を入れようとしたが
今まで全く避けずに避ける暇もなく殴り返していた伊集院北斗が避けた。


身をそらすにようにして避けた。
その反動を利用して肘で殴り飛ばす。
306 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:32:12.14 ID:L6dNy5Nfo

「……ッッ!」


地面に転がる真はゆっくりと立ち上がった。


「少し……ハァ、ずるになるけれど……ハァ」

「雪歩。身体強化の魔法をかけて、ハァ」


しかし、萩原さんはそれに対して


「無茶だよ。今の真ちゃんは体力が限界で、
 身体強化をしても身体がついていかないよ……」


と首を横に降った。
307 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:32:38.88 ID:L6dNy5Nfo

「いいから!! それでもいいんだ。雪歩」

「ボクは……ボクはここでやらなきゃいけないんだ」

「例え、その身が果てようとも……!」


真の覚悟は本気だった。
だけど、そんなものを認められる訳がない。


「だめよ真……!」


「ハァ……ハァッ。いくらエンジェルちゃんでもその隙は与えないよ!」


伊集院北斗はフラフラの真に飛びかかる。
そのまま真のマウントポジションを取って、顔を殴り始めた。
308 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:33:12.53 ID:L6dNy5Nfo

「本当はッッ! こんなのッッ! 趣味じゃッ!
 ないんだけど……ねッッ!」


真はそれでも萩原さんの方に手を伸ばしていた。


「真ちゃん……!! ……ッ! ごめんッッ!」


そう言ってとうとう萩原さんは真は向かって身体強化の魔法をかけた。



マウントポジションからの猛攻を魔法のかかった瞬間に素手で受け止める真。
そのまま力だけで押し返し、頭突きをかます。
309 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:33:59.85 ID:L6dNy5Nfo

「ぐっ……」


よろめいた隙をついて横っ面を一気に殴り飛ばして窮地を脱した。
伊集院北斗はそのハンサム(風)な顔を土で汚していた。


「や、やるねぇ……」


「雪歩。もう一回だ」


「え?」

「何を言っているの真!」


もう一回って、まさか身体強化の魔法を!?
そんなのまださっきかけてもらったものが解けていないのに。
310 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:34:25.61 ID:L6dNy5Nfo

そんなことをしたらあなたの身体は……。


「で、でも」

「早く!!」



声に驚いたのか怯えたのか、萩原さんは勢いに乗せられてしまって
真にもう一度身体強化をかけた。


真のリミッターは完全に外れてしまっているどころか壊れている。


「はぁぁぁあああああ」

「そんな生半可なドーピング魔法じゃ俺には勝てないよ」
311 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:35:57.07 ID:L6dNy5Nfo

「うおおおおおおおっっ」


伊集院北斗の電撃のようなラッシュが真の身体を次々と撃ちぬいていく。
だけど、真はガードもしなければびくともしていなかった。


「おらっぁあ!」


伊集院北斗の飛び蹴りが真に炸裂するも真は間一髪の所で足を掴んだ。
そしてその掴んだ足を真は一発の拳を入れる。


痛みに再び地面を転がる伊集院北斗だったが、すぐにその異変に気がつく。
右足の膝から下はあらぬ方向に曲がっていた。
312 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:38:45.98 ID:L6dNy5Nfo

「ぐっ、おおおあああああ゙ああーーーっ」

「だ、誰も……悲しまないように……」

「ボクが……終わらせるんだ!」


真の身体には遠くにいても分かるくらい血管が浮き出ていて
誰かに揺すられているんじゃないかというくらいにガクガク震えていた。


「く、来るなっ! お、俺が、そんな魔法の力ごときに」


そう言い終わる前に
片膝をついて痛みに悶える伊集院北斗の横っ面を全力で真は蹴りぬいた。
衝撃で伊集院北斗は留置所の壁を貫通し、外に放り出されてしまった。


しかし、真も無事ではないようで、その場に倒れこんでしまった。
313 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:41:51.31 ID:L6dNy5Nfo

「ハァ……ハァ。み、みんな、やったよ。ボク」

「真っ!」

「真ちゃん!」



二人で真のもとへ駆け寄るが真は満身創痍で気絶していた。
すぐに萩原さんは魔法で治癒を始める。


「真ちゃん……どうしてこんな無茶を」

「ホント。無茶苦茶よ」


後にこの時の真の新境地にいたった戦闘スタイルを
マインドコントロールの崩壊から
”迷走Mind”と呼ぶようになった。



外にまで放り出された伊集院北斗はその後起き上がる気配はなく、
亜美と真美の両親であるゴーレムは伊集院北斗を留置所の檻の中へ入れた。
私もそれを手伝った。
314 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:42:20.38 ID:L6dNy5Nfo
私達もボロボロでもう陽が沈みかけていた。
町の方からは文字通りお祭り騒ぎが聞こえる。


「さあ、亜美、真美。これを」


私は伊集院北斗のポケットから例の契約書を取り出していた。
契約書には幼い頃だったのだろう、
亜美と真美と思われる小さな手のひらの印が血で押されていた。


契約書はもう黄ばんでボロボロになっていたが、
それを未だ仮面をつけた二人に渡す。
315 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:42:49.89 ID:L6dNy5Nfo
「ねえ、亜美」

「なに?」

「亜美ってどんな顔してるの?」

「んっふっふ〜、知ってる癖に〜」

「……そっか。そうだよね」

「何度も色んな人に聞いたことあるんだ。
 真美がどんな顔してるのかって。町の人にも」
316 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:43:26.67 ID:L6dNy5Nfo

「うん、その答え、真美もわかるよ」

「みんな口を揃えて『大丈夫だよ。お前とそっくりの同じ顔してるから』って」

「真美も同じこと言われた!」

「やっと会えるんだね、お姉ちゃん」

「うん」


そんな二人を二匹の、いえ、ゴーレムとなってしまった二人は優しく見守る。
真美はゆっくりと契約書を破いた。
何度も何度も破いて細切れになるまで破いて、
全てを風にのせてバラバラにまいた。
317 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:44:10.10 ID:L6dNy5Nfo

亜美と真美の身体は特別な光を帯びて「これで解けましたよ」
なんて合図も特になく、二人はつけていた。仮面をゆっくりと外した。


二人はしばらく見つめ合うと少し涙を目に浮かべていた。
だけど、二人はそのまま涙を流すことはなかった。



「「 ぷっ、あはははは! お、おんなじ顔してる! あははは! 」」



笑い転げていた。笑い疲れてもう一度目を合わせてはまた笑って、
そうして止めたはずの涙が出るほど二人で笑っていた。
318 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:44:41.03 ID:L6dNy5Nfo

その後、しばらくの遅れはあったもののゴーレム二匹は
だんだんと人型に戻り、そして、夫婦になった。


二人は優しく微笑んだまま亜美と真美を見ている。
ずっと二人で笑っていた亜美と真美だったが、
今度はわっと大泣きしだして、親に抱きついた。


お父さんは優しい微笑みで、目に涙を浮かべながらも
私達にお礼をいった。
319 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:45:07.85 ID:L6dNy5Nfo

この時、
私達はこれが正しい選択だったんだと初めて実感することができたのかもしれない。
人の涙が悲しい時ばかりに流れるものではなく、
嬉しい時や楽しい時にも出てきてしまうものだと私達は感じていた。


しばらくして亜美と真美は泣きやんで落ち着いたのか
すっかり元通りに戻っていた。


私達は一晩、亜美と真美の家に泊まろうかと思ったが、
お父さんもそう提案してくれていたのだが、
家に戻った時に燃やされたことを思い出してしまった。
320 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:45:44.51 ID:L6dNy5Nfo

もっとも私は真美は燃やされた経緯は知らなかったので
驚きすぎてどうしていいかわからなかった。


家はほぼ全壊していた。


「あ……」

「あちゃ〜! 燃やされたか! でもいいよ。みんな一緒だもん」

「だねっ! ママがね、すっごい頑張って守ってたんだけどね」


もうさっきのことの出来事を笑い話にして
二人で笑い飛ばしていた。
さすがのその勢いに驚いたのか
最初は圧倒されていた両親二人も一緒になって笑っていた。
321 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:46:12.49 ID:L6dNy5Nfo

双海家は4人、仲良く笑っていた。
亜美と真美はギュッと手を繋いで片時も離そうとなんてしなかった。


真が起きるまで私は亜美と真美の付き添いで町のお祭りに参加することになった。
私はそこで約束していたステージへ立つことになった。


催しというか、お祭りの前祝いとして、
そして、町がクロイ帝国にいながらその権利を独自に獲得したことへの
勝利を告げる歌を唄うことになってしまった。


過去の過ちは繰り返さないように能力を使い過ぎないようにしよう。
初めて聞く人にも影響のでないように力をセーブして歌わないと。
322 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:46:45.96 ID:L6dNy5Nfo

結局私は亜美と真美と3人で唄って
ステージで二人が喋って
大盛り上がりのステージになった。


町の人達は町自体が解放されたことを知ったのは
亜美達と共に商人にされていた別の子ども達から聞いていたのだった。
そのために次々と亜美と真美に謝りにくる人ばかりで
私達は真の寝ている病院に行こうにも中々進めないでいた。


亜美と真美はお詫びと仲直りの印に


「いいよ。許してあげる。でも、その代わり……」

「そ、その代わり?」
323 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:47:28.00 ID:L6dNy5Nfo

「おっちゃんとこの屋台の食べ物タダでちょーだい!
 あ、もちろん亜美のだけじゃなくて真美のも千早お姉ちゃんのも
 ゆきぴょんのもまこちんのもパパのもママのもだかんね!」


なんてお願いしているくらいだった。



それから私達は真が起きて、なんとか歩けるようになるまで
萩原さんが何重もの魔法をかけて完治するまで待った。

324 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:48:07.42 ID:L6dNy5Nfo

祭りの行事が一通り終わる頃、私は亜美と真美と話していた。



「楽しかったーー!」

「うんうん、ぱもみまっまー!」


口いっぱいに祭りで買った食べ物を頬張りながら喋る亜美。
おそらくは楽しかったと言っているのだろうけれど。


「「ちゃんと食べてから話しなよ」なさい」


真美と被った。
325 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:48:49.85 ID:L6dNy5Nfo

「ごくん。ぷっ、お姉ちゃん達大好き!」


そう言って亜美は笑いながら両腕を目一杯広げて私と真美に抱きついた。
真美はちょっと涙目になりながらも亜美の頭をぎゅっと抱きしめた。
私はその二人の頭を優しく撫でてあげた。


「えへへ。ねえ千早お姉ちゃん! また来てくれるよね!」

「楽しかったから来年も一緒に唄おうよ! ね!?」

「ええ、すごく楽しかったわ。また来るわね」


楽しかったのは本当。
力をセーブしながら唄うことができたおかげで私は
聞きに来てくれた人達に苦しい思いも気分を害することもなく
無事にそのステージを終えることが出来た。
326 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:49:18.26 ID:L6dNy5Nfo

またこうやって唄うことができるのならば私はいつだって駆けつけたい。
なんて、自分の旅の目的も忘れてしまいかねないほど楽しい一時だった。


「でも、これからどうする亜美?」

「何が?」

「これから亜美達の町が自由になったのはいいけど、
 この土地自体は帝国内にあるんだよ?」

「大丈夫っしょ。帝国軍が来たら亜美達の売り物の武器を
 みんなに使ってもらって戦えばいいよ」

「そっか! 大丈夫か」

「でもしばらくは町の生活も安定しないし、
 また出稼ぎに行かないといけないかもね」
327 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:50:25.67 ID:L6dNy5Nfo
「また行くの? 二人共」

「うーん、だってしょうがないっしょ」


帝国から解放されたからこそ帝国からの供給も断たれてしまう。
これから自分達のことは自分達でやらないといけないのだった。


「あ、そういえばさ」

「ん? どうしたの?」

「お得意さんのいおりんが結構今ヤバいらしいじゃん?」

「あー、それね……。大丈夫かなぁ?」


亜美達はいつの間にか町の心配や商売の話を始めていた。
彼女らは生まれきっての商売人だったのね。
それが例え強いられたものだったとしても。
328 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:51:27.86 ID:L6dNy5Nfo

でも、どこかで聞いたことのある……名前。
確か……。



「だって、水瀬財閥は潰れちゃったじゃん?」

「水瀬財閥……? そこって財閥なのに武器が必要なの?」

「千早お姉ちゃん知ってるの?」

「いえ、似たような名前の子と知り合いなのよ。確か、水瀬伊織……」


自分で名前を口に出してからようやく気がついた。
彼女達の言っていたいおりんというのは水瀬さんのことだった。
329 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:52:19.31 ID:L6dNy5Nfo

「えぇ!? 千早お姉ちゃん、いおりんと知り合いだったの!?」

「そう……みたい。で、その水瀬さんがどうやばいの?」


私自身すっかり忘れていた。


「どうやばいって、いおりんは元々お父さんのお金で
 とある町に別荘を建ててずっと暮らしていたんだけど
 何のきっかけかわからないけれど、軍を持つようになったんだよね」

「そのことが帝国に反乱分子とされて、帝国領に本社を構えている
 いおりんのお父さんの財閥が帝国軍によって潰されちゃったんだよ」

「しかもお父さんを潰したら今度はいよいよいおりんの番になったみたいなんだ」

「水瀬さんが危ないということは……高槻さんは」
330 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:54:49.11 ID:L6dNy5Nfo

私の永遠の天使、高槻さんがピンチ……! かもしれない。
助けに行かなくちゃ!! 高槻さんがピンチならば。


いえ、もちろん水瀬さんも知っている身として放っては置けない。


「タカツキサン?」

「もしかしてやよいっちのこと? あのニゴに住んでるいおりんの友達の」

「え、えぇ、ニゴは今無事なの? あそこは今帝国領になってしまったのでしょう?」

「う、うん。でもやよいっちなら多分大丈夫だと思うけどなぁ?」

「だって、やよいっちはいおりんとずっと一緒にいたよ?」


水瀬さんと一緒に?
でも水瀬さんは危ないのでしょう?
私は個人の情報だと思ったが、一応ダメ元で聞いてみる。
331 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:55:16.11 ID:L6dNy5Nfo
「水瀬さんはどこにいるのかわかる?」

「うーん、知り合いっぽいし、教えても平気かなぁ?」

「ねえ、千早お姉ちゃんはいおりんに会ってどうするつもりなの?」

「もちろん助けるのよ」


高槻さんを。いえ、水瀬さんももちろん助けるのよ。
332 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:56:02.38 ID:L6dNy5Nfo

「じゃあいっか。千早お姉ちゃんを信じてるよ。
 亜美と真美はしばらくは町から離れることはできそうにないからさ」

「うん、町が自由になったのはいいけど支配から解かれて不安定になってるし」

「いおりんがいるのはここからずっと南の方角にある帝国唯一の
 リゾート地である、ヌーの島だよ」

「島には一番近い海岸から船の便がでて、
 一日に何回か往復しているからそれを使うといいよ!」


交互に、口々に、詳しく教えてくれる亜美と真美。
333 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 12:58:09.64 ID:L6dNy5Nfo

そうと決まれば真の治療もそろそろ終わる頃かもしれないし、
さっそく出発しなくちゃいけないわ。


次に目指す場所は最南の島、ヌーの島。
リゾート地ということではあるが、一体何が起きるかわからない。


恐らく水瀬さんはリゾート地という表の面に潜んで軍を動かしているはず。
私達は急ぎ次の地へと向かう。










キサラギクエスト EP?   呪われた双子の旅商人編   END

334 :>>333 訂正 [sage saga]:2013/04/06(土) 13:02:58.87 ID:L6dNy5Nfo
そうと決まれば真の治療もそろそろ終わる頃かもしれないし、
さっそく出発しなくちゃいけないわ。


次に目指す場所は最南の島、ヌーの島。
リゾート地ということではあるが、一体何が起きるかわからない。


恐らく水瀬さんはリゾート地という表の面に潜んで軍を動かしているはず。
私達は急ぎ次の地へと向かう。










キサラギクエスト EP]U   呪われた双子の旅商人編   END
335 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/06(土) 13:11:15.01 ID:L6dNy5Nfo
お疲れ様です。
あれだけ騒いだのに全く気づかずにいました。
12より上ってもう表示されないんですね。

魔法属性付加の戦闘は本当はリトルバードでの美希戦で
使う予定でしたが、こっちにまわしてみました。

亜美真美の話は最初から含まれていて設定を本当は二人で一人だったとか
生き別れとか色々考えて取り入れていった結果少し長めになりました。



読んでくださった方。
感想を言ってくれる方。本当にありがとうございます。





336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/06(土) 13:27:27.51 ID:hgJuZajVo
召喚獣弱すぎワロタ
雑魚やんww
337 :名無しNIPPER [sage]:2013/04/06(土) 13:29:30.06 ID:xv1BvddAO
乙です
けっこうひどい話だったけど亜美真美が救われて安心した
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/06(土) 17:40:22.50 ID:bvZI6CLC0
乙でした
相変わらず面白かった
亜美真美よかったなあ
339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/06(土) 18:07:13.77 ID:53hcZA8r0
亜美真美の話で泣きそうになった

乙でした
340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/06(土) 22:28:48.95 ID:Zavqa4Cdo
おつ
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/06(土) 23:24:15.84 ID:ghR5MPQWo
おつ!
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/07(日) 11:44:57.00 ID:SdeiXEKDO
面白かった!けど気になった部分がありやす
チャオ☆さんの持ってた契約書はゴーレムを両親に戻す内容だったけど亜美真美は仮面外して大丈夫だったん?
亜美真美はお互いの顔見たら石になる呪いがかけられてたんじゃ…
契約書には呪いに触れてない感じしたし…
牢屋では亜美真美がまた入れ替わってたし
343 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/07(日) 12:48:07.90 ID:VrJOO5ZOo
>>342
チャオの持ってた契約書は一応あの町に関するその他もろもろを含んだもの、
のはずでしたが触れそこねていました。すみません。

チャオの契約書の効果は
・町の支配権
・亜美真美の呪い
・両親のゴーレム化
これらが含まれています。



亜美真美の混合についても度々申し訳ございません。


牢屋に元々いたのは真美ですが、
”亜美思いの真美”を書きたかったので作中の台詞では大体を

亜美を先頭に持ってきて自分は後に、
自分よりも妹を前に持ってくる、

という風にしたので多分間違ってはいないはずですが、
それでも間違っていたらすみません。

ご指摘ありがとうございます
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/08(月) 14:38:28.27 ID:zk+2jqHDO
千早と一緒に牢屋から脱出するが取り押さえたの真美だよね?
だけど真がゴーレム(父)と一緒に来てゴーレム(父)が取り押さえられてる真美を助けるはずが助けたのは亜美になってる
あとゴーレム(母)と雪歩一緒に亜美が助けに着て仮面を真美に向かって投げて仮面着けてと大きい声で叫んだの亜美のはずが真美になってるよ
345 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/08(月) 21:07:31.79 ID:7zK/XDRio
>>270
一行目、亜美×→真美○


ゴーレムが次々と【亜美】を取り囲む警備兵達をなぎ倒す中、
真が一目散にこっちに向かってくる。
私を取り押さえていた人たちは次々と真に向かっていくが、
あらぬ方向に吹き飛ばされていく。

【】内の亜美×→真美○



>>288
一行目、一番最初の真美×→亜美○


細かい部分のご指摘大変ありがたいです。
本当にありがとうございます!
亜美真美ファンの方々大変失礼いたしました。
精進します。

今後とも設定の矛盾があると思いますが
どうかお付き合いください。

346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/10(水) 22:18:19.39 ID:0Usf2kYfo

いぬ美もハム蔵もほぼ雑魚と化したから響はもう無力化したようなものだな
天才美希様はどうせチート能力に磨きがかかるんだろうけど
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/11(木) 02:34:15.90 ID:XDLHVBFio
乙!
面白かったです!
毎回楽しみにしてます!
348 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/11(木) 21:53:43.99 ID:ciW9Ykomo
キサラギクエスト  EP12.5  番外編



貴音「響?」

響「え? あ、うん。何?」

貴音「どうしました? 先ほどからぼうっとしていますよ?」

響「ごめん」

貴音「何故謝るのですか?」

響「……また喧嘩したんだ」
349 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/11(木) 21:54:24.20 ID:ciW9Ykomo

貴音「前に教えてくれた一緒に旅をしたという?」

響「うん、千早に」

響「でも……負けたんだ」

響「そのせいでいぬ美もハム蔵も大怪我して今は療養中」

貴音「勝ち負けだけが世の中ではないですよ」

貴音「と、昔高木殿が教えてくれました」
350 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/11(木) 21:55:05.70 ID:ciW9Ykomo

響「貴音はずっと牢屋にいたからわかんないんだよ」

貴音「……」

響「あ、……ごめん」

響「でもね、貴音。勝たないと、負けたら死んじゃうって、
  そんな戦いもあるんだよ」

響「負けられなかった。あの時は」

響「自分はまだまだ心の迷いが大きいからさー」
351 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/11(木) 21:55:41.50 ID:ciW9Ykomo

響「あんな風に強い信念もった千早みたいなのを正直相手にすると
  自分が迷っていることとか余計に浮いて見えてきちゃうっていうか」

響「自分の心の迷いがいぬ美達にも伝わって
  二匹とも実力が全然出せなかったし……」

響「でも……実力がもし出せていたとしても」

響「千早には勝てなかったかもしれない」

貴音「響、こちらへ」

響「え?」
352 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/11(木) 21:57:03.78 ID:ciW9Ykomo

貴音「ん〜〜〜」

響「何してるの?」

貴音「響、もっとこっちへ来てください。届きません」

響「届かないって……。よいしょ、これでいいか」

貴音「ふふ、いい子いい子」

響「な、なんだよ急に! 頭なんか撫でても自分、嬉しくなんか……」

貴音「響はよく頑張りましたよ」
353 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/11(木) 21:57:34.06 ID:ciW9Ykomo

貴音「それでいいではないですか」

貴音「わたくしは響がそのように悲しんでいる顔など見たくはありません」

響「……ありがとう」

貴音「いえ、構いません。わたくし達はもうとっくの昔から友達なのですから」

響「そっか。うん、そうだよね」


354 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/11(木) 21:58:02.92 ID:ciW9Ykomo

………………
…………
……



響「って結局あのあと1時間くらいずっと撫でられっぱなしだったぞ」

響「貴音……やっぱり自分。貴音を助けたい」

響「……あれは?」




黒井「美希ちゃん。ようやく全てを教える時が来たようだ」
355 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/11(木) 21:58:57.31 ID:ciW9Ykomo

春香「私の存在の理由もね」

美希「ふーん。で、賢者の石はどこ?」

冬馬「落ち着け。まずは全てのおさらいからだ」

春香「そうだね。私はまだよく知らないからちゃんと教えて欲しかったんだ」

黒井「よかろう。我々の最終目的、妖精計画-プロジェクト・フェアリー-。
   その全てをお前たちに教えよう」

356 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/11(木) 21:59:41.50 ID:ciW9Ykomo

………………
…………
……



黒井「……そして、我々は世界を支配する」

美希「ぷっ、あはははは! 最っっ高なの!」

春香「……ふうん。なるほどね」






響(た、大変だ……。どうしよう!)

響(やっぱり貴音はここにいちゃいけないんだ!)
357 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/11(木) 22:01:37.17 ID:ciW9Ykomo


響(どうしてもっと早くに気が付かなったんだ自分!)

響(馬鹿馬鹿馬鹿!)

響(って、もう責めてもしょうがない!)

響(早く貴音の所に行かないと!)



響「……ッ!」ダッ




黒井「……ん?」
358 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/11(木) 22:04:19.82 ID:ciW9Ykomo

美希「…………聞かれてたの」

黒井「美希ちゃん」

美希「……」

黒井「始末しろ」

美希「……了解なの。でもどうして響には教えなかったの?」

黒井「響ちゃんはだめだ。奴はまだまだ利用価値があるからな」

黒井「……と思っていたんだがな。面倒なことになる前に消す」
359 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/11(木) 22:06:54.46 ID:ciW9Ykomo
冬馬「利用価値ってあいつの兄貴がどうとかって話か?」

黒井「あぁ」

美希「ふーん、まぁいいや」

美希「あ、でももし逃しちゃった場合は?」

黒井「地の果てでも追い回せ。出来なかったじゃ済まされんぞ」

美希「あはっ、怖〜い」

黒井「それじゃあ検討を祈るよ」

美希「……重ねて了解なの」
360 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/11(木) 22:08:45.11 ID:ciW9Ykomo



響「ハァッ、ハァッ!」タッタッタッ




響「貴音っ!」

貴音「おや? 響?」

貴音「本日は響が何度も顔を見せに来てくれるので、ふふっ、私も」

響「ハァ、いぬ美達は召喚できない……」

響「仕方ない。部分召喚! いぬ美!」

貴音「め、面妖な。その腕は……」
361 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/11(木) 22:09:49.36 ID:ciW9Ykomo

響「貴音! ちょっと下がってて!」


バキィンッ!


貴音「な、何を!? い、今のは一体……」

響「いぬ美の腕と自分の腕を交換していぬ美の腕だけを召喚したんだ」

響「簡単に言うと自分の腕をいぬ美の腕にした……って感じかな」

貴音「やはりモノノケの類でしたのですか?」

響「やはりってなんだよ! ほら、急いで!」

貴音「で、ですが」
362 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/11(木) 22:11:30.55 ID:ciW9Ykomo

響「話はあと! 一緒に着いて来て!」

響「自分わかったんだ……! 何が正しいのかなんて
  本当は最初からずっと知ってたんだ!」

響「だから、お願い。貴音。自分と一緒に来て」

響「貴音に……外の世界、たくさん見せてあげる」

貴音「それは真ですか!?」

響「見つからないように行くよ!」
363 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/11(木) 22:11:56.65 ID:ciW9Ykomo

貴音「はい、なんだかこうドキドキしますね!」

響「シーッ! 静かに!」


響(どうしてもっと早く、こんな風に逃げてあげられなかったんだ!)

響(逃げなくちゃ……!)

響(あの計画を発動させちゃいけない!)

響(できるだけ遠くの安全な場所に行かないと!)

響(えっと……どこが安全だろう)
364 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/11(木) 22:17:15.78 ID:ciW9Ykomo

響(極東は……だめだ。遠すぎる。その前に何度も何度も隠れないといけない)

響(本当は極東の島国にいければ……)

響(島? そうか……!)



貴音「ところでまずはどちらに行くのですか?」

響「うん、まずは自分の故郷に行こう!」



響(貴音だけは命にかえても守ってみせる!!)

響(故郷のヌーの島に行けば島の人達が助けてくれるかもしれない!)






キサラギクエスト  EP12.5   番外編〜勇気ある脱走〜   END
365 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/11(木) 22:27:48.85 ID:ciW9Ykomo
お疲れ様です。感想など指摘いつもありがとうございます。

本編はもう少し時間がかかります。
今後とも宜しくお願いします
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/11(木) 22:29:22.10 ID:RUEGoEaE0
乙ー
どんどん盛り上がってきて続きが楽しみだ
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/12(金) 11:14:30.62 ID:MYR16s6Z0
乙でした。
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/12(金) 12:49:57.83 ID:qRSmCDHdo
ひびきん離反キター
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/12(金) 23:34:59.00 ID:6PNIUr2DO
盛り上がってまいりました
370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/13(土) 10:42:34.06 ID:e9loZn2wo
乙!
371 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:00:35.45 ID:+Qo3lcGpo

〜〜我那覇響Side〜〜




「ハァ……ハァッ! 貴音、こっち!」

「はいっ。ところで、大丈夫でしょうか?」

「ハァ、え? 何が?」

「かなり疲れているように思えますが」

「あ、当たり前だろ! ずっと走ってるんだから」
372 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:01:17.06 ID:+Qo3lcGpo

「わたくしもずっと走っています」

「うぎゃー! 貴音は賢者の石だから体力に底がないんだろう!?」

「ええ、その通りです」

「もう! 早く、こっち!」



はいさい、自分、我那覇響。
今は訳あって追われている身なんだ。
373 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:05:39.37 ID:+Qo3lcGpo

え? なんでかって?
そんなの決まってるよ。
だって、せっかく帝国がナムコ王国の重要な人質として奪ってきた
お姫様である四条貴音を自分は逃がしてるんだから。


だけど、自分はこれが間違っているなんて思ってない。
むしろ間違っているのは帝国の方なんだ。


あんなおぞましい実験する意味がない。
しちゃいけないんだ。だめなんだよ、そんなことしたら。
374 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:06:08.15 ID:+Qo3lcGpo

「はぁ……、はぁ……、行ったかな?」

「いえ、分かりません。わたくしが行って確かめてきましょう」


そう言って貴音は颯爽と立ち上がるが、すぐ引き止める。


「だ、だめだってば! 見つかったらどうするんだよ!」

「ふふっ、わたくしがそのようなヘマを踏む訳が」



「いたぞーーーっっ!」



「なんとっ!」

「ほら、だから言ったじゃん!」
375 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:07:01.85 ID:+Qo3lcGpo

貴音の手をとってまた走りだす。
こんなののためになんでこんなに自分、必死になってるんだろう。
でもしょうがない。


後ろめたい気持ちはたくさんあるけれど。
だけど、今は何も考えないで、とにかくこの子を逃がすことだけを優先させよう。


海岸沿いの林の中を走り抜ける。
もうすぐで島へいける船が出ている港に着く。
そこまで行って島に入ることができたら
故郷の知り合い達がきっと助けてくれるはず。
376 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:07:41.39 ID:+Qo3lcGpo

木の影に隠れながら、船を見つけることができた。
良かった。
こんなに色んな騒ぎが起きている中でも
船の便は出てるぞ。


「貴音、あの船に乗り込むからね」

「はい、承知しました」


貴音の手を引きながら船に乗り込む。
幸い国中に自分が指名手配になっていなかったからなのか、
なんとか誰にも見つかることはなく騒ぎが起きることもなく乗り込むことができた。
そしたら今度は船の中でも安全に過ごせる場所を探さないと。
377 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:08:41.21 ID:+Qo3lcGpo

船の底のほうに荷物起きみたいな部屋があるはず。
きっとそこなら島に着くまで誰も見張りなんかは来ないだろうし。


自分と貴音はこそこそと乗客に紛れながら、
船の中を進み、船底を目指す。


船のデッキに乗り込んだ自分と貴音はまずは船の中に入るために入口を探す。
すでに船は出発していて、かなり沖まで出てきている。
早く中に入らないといけないのに、こんな所で道に迷うなんて……!
入り組んでて訳がわからないぞ。
378 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:09:23.21 ID:+Qo3lcGpo

「お客さん」

「ひっ!?」

「す、すみません。どうされました? 何かお探しですか?」


な、なんだ……。船の人か。
びっくりしたぞ。もう、脅かさないでよね。
379 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:10:27.93 ID:+Qo3lcGpo

「えっと、船の中に入りたいんだけど」

「そうですか。ではこちらへどうぞ」


ほっ、と一安心して乗員に着いて行くことになった。
しかし、その乗員は自分の肩に手をかけるといっきに船の外まで放り出した。


「うぎゃー! な、何するんだよ!!」


ドボン、と大きな音を建てて海に落とされる。
慌てて水面に顔を出して、見上げるとさっきの乗員は笑っていた。
380 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:11:31.26 ID:+Qo3lcGpo

「あはっ、やーっぱりここに来たの。さすがミキって感じかな」

「響っっ!」


貴音が船から身を乗り出して叫ぶ。
乗員は静かに顔を剥がすと中からは美希が現れた。
その顔は戦いの中で雪歩がつけた火傷痕が痛々しく残っている。


「貴音はもらっていくの。残念だったね、響」

「美希……ッ!」


そんな、こんなに早く追いつかれるなんて!
島はもうすぐなのに!
381 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:12:11.22 ID:+Qo3lcGpo

不味い、自分が召喚獣を出す時には地面が必要。
両の手のひらを地面にペタリとつけることで自分の手のひらに刻まれている
魔法陣をそのまま使うことで召喚の魔法を発動するのに。


今、こんな風に海の真ん中でプカプカ浮いてたら手のひらをつくにしても
こんな水の上じゃダメなのに……。



「これは反乱と受け取っておくけど、まぁ、美希的にはどうでもいいって感じ?」

「だから、響はそのまま海にプカプカ浮いたままお魚さん達の餌にでもなればいいの」
382 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:15:16.07 ID:+Qo3lcGpo

「まぁ、ちょーっと手応えがなかったけれど、今まで楽しかったよ」

「最後にミキから浮き輪代わりにちょっとした木片でもあげちゃうの」

「あはっ、ミキってば優しいと思わない?」


美希は一人でにペラペラと喋って自分を船の上から見下ろすと
一つの少し大きな木片を投げてきた。
よくわからないけれどよく浮く素材だったので助かったかもしれない。

383 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:15:45.22 ID:+Qo3lcGpo

「響、今助けに」

「おっと、そうはさせないの!」


海に飛び込もうとする貴音を押さえつける美希。


「本当に、美希は優しいぞ」

「来い、ワニ子……ッッ!」


美希が投げてきた木片に両の手の平をつける。
なんとかこれで……出てくるはず。


お願い。助けて。
384 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:16:42.73 ID:+Qo3lcGpo

木片を中心に巨大な魔法陣が展開する。
やった! 成功!


「こ、これは……ドラゴン……!?」

「ふっふっふ、美希。覚悟してよね」


「なーんて、焦ると思った? 響は何もわかってないよねぇ……」


美希が余裕そうに笑う。
自分のドラゴンは自分の召喚獣のなかでは一番大きいし
この船の2倍はある大きさなのに。
385 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:17:15.78 ID:+Qo3lcGpo

水辺でないと召喚できないのが弱点の一つではあるけれど。


「そこでどうして、いつもの二匹を出さなかったのかなぁ」

「えっ?」

「出てきて、ベヒーモス、バハムート」


美希が両の手の平を床につけると美希と貴音の両脇に
いぬ美とハム蔵が出てくる。
二匹ともその大きさに船が少し傾く。
386 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:19:01.60 ID:+Qo3lcGpo

しかもその姿はすでに鎖でぐるぐる巻にされていて身動きがとれない様子だった。
ただでさえ千早との戦いの傷が全く癒えてないのに!


ま、まさか……。


「さあ、どうぞ? 攻撃してもいいんだよ?」

「き、汚いぞッッ! 自分の家族を人質にするなんて!」

「そう? ミキからしたら普通のことなんだけど」


許さない……。でも、攻撃できない。
これ以上家族を失う訳には……。
ワニ子もそうだけど、あの二匹はにぃにが大事にしていた二匹。
387 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:19:41.28 ID:+Qo3lcGpo

でも、貴音は渡しちゃいけない! 
いぬ美たちには攻撃できない。


どうしたら……!


「何? 攻撃してこないの? あふぅ、退屈だからミキから行くの!」


美希が船を飛び出し、ワニ子に正面から突っ込んでくる。
このままじゃワニ子がやられちゃう!
何か指示をちゃんと出さなきゃ……。
千早と戦った時の二の舞になっちゃう!


「や、やめて……美希っ!」



………………
…………
……
388 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:21:39.04 ID:+Qo3lcGpo




〜〜如月千早Side〜〜



私達の旅は始まってもう3年と三ヶ月以上が経過している。
水瀬さんの軍(高槻さん)がピンチだということを
亜美と真美から聞きつけた私達は
その水瀬さん(高槻さん)が恐らく滞在しているだろうとされるヌーの島を目指していた。


私はその使命、いえ天命を受けて、
彼女が危険な目にあっていないかを確かめに行く途中である。
389 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:22:08.37 ID:+Qo3lcGpo

その中で私達は亜美真美からもらったよくわからない変装グッズに身を包んでいた。
真はスーツにサングラスをかけていて、
いつか訪れたどこかのヤクザ教会の連中のような格好になっていた。
そして、そのヤクザ教会出身の萩原さんは
白い修道服を着ていて頭にはフードを深く被っていた。


白い修道服は本来ならばいつも着ていなきゃいけないものらしい。
彼女の出身のヤクザ協会にもそんな掟があったらしいけれど、
萩原さん自体は恥ずかしいから着たくなかったと言っていた。


それでも律儀に一応持ち歩いていたのは萩原さんらしい。
390 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:22:44.40 ID:+Qo3lcGpo

私は真にタオルを一枚渡されただけだった。
最初は頭に巻いてとあるカレーで有名な国のような感じにした所、
真に速攻で取られてしまい、


「何してるんだよ。これじゃあこんな風に取られた時にすぐバレちゃうだろ?」

「胸につめr」

「なんで私はそれだけなのかしら」


真の顔面を正面から掴みこめかみにガッツリと私の指が食い込む。


「痛い痛い痛い! じょ、冗談だってば」



という訳で私はなぜか水瀬さんの家にいたような給仕の格好をさせられた。
391 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:23:10.74 ID:+Qo3lcGpo
何年も前に春香に着せられたことがあったのを覚えていた私は
渡されて渋々ながらも卒なく着てみせたのを萩原さんは驚いていた。


確かに普通はこんなの着方なんてわからないのだろうけれど、
私はこの服が農奴時代を終えて久しぶりに着た服だったからよく覚えているだけよ。


しかし、私に関しては服装までは変えられても
武装まで変えることはさすがにできないので、
剣を引っさげた戦うメイドさんになってしまった。


どう見ても怪しい。
いつか亜美真美にあったらとっちめてやらないと。
392 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:23:39.09 ID:+Qo3lcGpo

「真ちゃんもカッコよくて素敵だけど、ち、千早ちゃんもとっても可愛い……!!」


萩原さんは魔法で念写して紙に印刷して大事そうに懐にしまった。
私は慣れない短いスカートに苦戦しながらも船に乗り込むことに。
スースーして落ち着かない。


「なんだか船が何者かに襲われる事件がさっきあったばかりみたいなんだ」

「それで、急に警備が激しくなってるんだ」
393 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:24:04.81 ID:+Qo3lcGpo

「よし、行くわよ。敵に何か聞かれても平常心よ」

「それは千早ちゃんが一番心配だよ……」


私達は3人一列に並んで船へと乗り込む。
船に乗る直前で帝国軍と思われる人物が
乗客をジロジロと見てチェックをしていた。


徐々に順番が近づきに連れ、ばれないだろうかドキドキしてくる。


最初に真が質問される。
394 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:24:30.82 ID:+Qo3lcGpo

「何の用件で島へ行く?」

「観光だ、文句あんのか? ああん?」


真はサングラスの隙間から睨みつけていた。
それは逆効果というかやりすぎなんじゃ……。


しかし、それにビビったのか、あっさり通行許可が降りる。
続いて白い修道服でフードを頭に深々と被った萩原さん。
395 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:25:02.00 ID:+Qo3lcGpo

「む、顔をよく見せろ」

「あ、……えっと……え、えへへ」

「おうふ、と、通っていいよ。気をつけてね」


何やら萩原さんの笑顔にやられたらしく
顔を真っ赤にして目をそらしそのまま萩原さんを通してしまった。
なるほど。可愛い女の子に弱いわけね。
396 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:25:30.49 ID:+Qo3lcGpo
「なんだ、貴様、その格好は」


おかしい。修道服は突っ込まれずに私のメイド服は突っ込まれるのはおかしい。


「さ、先ほど通った萩、えっと……」

「は? なんだって?」


しまった。名前を言ってバレてしまうところだった。
遠くの方で萩原さんと真が口をパクパクさせてアドバイスをくれている。


なんですって? ご主人様? なるほど。
ここは一度低姿勢な態度を見せることで敵対する意志がないことを見せないといけない。
397 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:25:58.29 ID:+Qo3lcGpo

「ご主人様、ここを通してください……にゃん?」


………………くっ。


「は? お前馬鹿じゃねえの?」


こ、こいつ……斬りたい。
一世一代の私の恥を。羞恥覚悟でやった私を。


「ご、ごめんなさい。この子、新人のうちのメイドで」


と咄嗟に真が出てくる。
398 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:26:24.57 ID:+Qo3lcGpo

「こ、コラー、ダメじゃないかー。す、すいませんね。あ、あはは」

「ほら、千早、ご主人様が迎えに来てやったぞ〜?」

「えっ、ちょっと」

「何してるの合わせてよ」

「あ、ありがとうございます〜! ……くっ」



とわざとらしい三文芝居をする真に引っ張られながら
私はなんとか船に乗り込むことに成功した。
乗ったばかりなのだけど恥ずかしさのあまり今すぐ海に飛び込みたい。
399 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:26:52.15 ID:+Qo3lcGpo

私達は船に乗れたのは亜美と真美から乗船券を購入していたからである。
この時にこれも買わせるの、だのなんだのって
真が亜美真美ともめていたけれど、いくら町を救ったからと言って
さすがにそんな恩着せがましい真似はできないと萩原さんと止めに入った。


私は部屋に入ることもなくただただ恥を忘れるべく
地平線の彼方を見つめていた。メイド服で。


「はぁ……」

400 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:27:44.62 ID:+Qo3lcGpo

あの時の私は初めて乗る船に少し興奮していたのかもしれない。
らしからぬ真似をして大きく後悔している。


「なんであんなことしたんだろう」


ドン、と誰がふらふらと歩いてきてこちらにぶつかった。


「うい〜〜。ご、ごめんなさい〜〜」

「あ、すみません。こちらこそ。大丈夫ですか?」

401 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:28:14.22 ID:+Qo3lcGpo

ふらふらとした足取りで片手には空のワイングラス。
もう片方の手には空のワインボトルを持った女の人だった。


その人は、いつか少しの間だけ一緒に旅をしたことのある、
アトリエ・リトルバードのオーナーである音無小鳥だった。


「お、音無さん!? 何してるんですか? こんなところで」

「お〜? お? おや? あぁ! 千早ちゃんじゃない!」

「久しぶり〜〜」


急に肩を組んできた音無さんは陽気に笑う。
お酒臭い……。
402 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:28:50.90 ID:+Qo3lcGpo

「あ、あのここで何をしてるんですか?」

「ふぇ〜? 私も印税でガッポガポだからね!
 ちょっと旅に出ようと思ってさ〜」


フラフラの音無さんを音無さんの部屋まで運ぼうと肩を貸す。


しかし、よくもまぁ、その印税で
新しいアトリエを建てようとは思わなかったのだろうか。


いえ、人のお金の使い方や価値なんて人それぞれなのよ。
あまり口出しはできないわ。
403 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:29:24.83 ID:+Qo3lcGpo




「ん?」


酒臭い音無さんに耐えられず
顔を背けた時に目に入った海に人が浮いていた。
人一人が抱えて至られるような木片になんとか捕まっているが気を失っている。


しかし、その姿は見たことのある姿だった。


かつて、1年近くを一緒に旅してきたかつての仲間の姿だった。
404 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:29:50.79 ID:+Qo3lcGpo


「我那覇さんっ!?」


私は音無さんを放り出してすぐに真と萩原さんを呼びに行く。
我那覇さんは何とか木片にしがみついてはいたけど
気絶して海を流されている。


「あぁ、置いて行かないで〜〜」


と走って去っていく私に何か泣きそうな声で言っていた人がいたけれど
今はそれどころじゃない。
405 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:30:27.83 ID:+Qo3lcGpo

いくら同じ航路を使っているとしても、
その近くを私達の船が通ったのは運が良すぎると言ってもいいくらい。


「大変! ふたりとも! こっちに来て」


自分達の客室から二人を呼んでくる。
二人は目を合わせると私の焦りに何か察したのかすぐに着いて来てくれた。
さっきまでいた場所に戻るとやはりそこには海に浮いている我那覇さんがいた。
406 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:30:59.89 ID:+Qo3lcGpo

「響!?」

「響ちゃん!?」

「どうやらボロボロみたいなの……」

「何なに? なんだってのよ〜〜」

「って小鳥さん!?」

「……うぅ、お酒臭い……」

「一先ずこの小鳥さんは置いておいて。ど、どうする……?」


真が私の目を見てくるが、私の答えはもう決まっていた。
407 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:31:26.17 ID:+Qo3lcGpo

「真はロープを持ってきて!」


ざぶんと私は海に飛び込んだ。
なんとか我那覇さんの元に寄ると萩原さんに合図を送る。


すぐに真がロープを持ってきてこちらに投げてくる。


私は我那覇さんに肩を貸してロープに捕まる。
背中におぶってから船をロープで登り切る。
408 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:32:01.84 ID:+Qo3lcGpo

「はぁ……、な、なんとか助けたわ」

「まだだよ千早」


真は私達を助けたロープで我那覇さんを縛り上げた。
そのまま彼女が気がつくまで部屋に吊るすことにした。


吊るすことにしたというのは召喚獣を出されては困るということで
床にギリギリ足が届く状態で吊るしたため
さほど辛い吊るし方にはなっていないはず。
409 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:32:39.21 ID:+Qo3lcGpo

音無さんはなんとか彼女の部屋を聞いてそこへ閉じ込めた。
何故あんなになるまで酔っ払っていたのかは特に聞かなかった。
別に酔っ払いと話すのが面倒だったってことじゃないわよ。


我那覇さんの身体は傷だらけでかなり衰弱していた。
おまけに海面にずっといたために身体も冷えきっている。
いくら南の方角の島だからといっても体温を奪われてしまっては敵わない。


それでも助けたのは何かの同情とかではなくって、
帝国の有益な情報を得るために。


でも、本当は。
410 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:33:35.03 ID:+Qo3lcGpo

「う、……ん、た、貴音……」

「はっ!? ち、千早……な、なんで」



ようやく気がついたみたいで私達を見るなりに顔つきが一気に変わる。
それが私は少し切なくて悲しくもあった。
411 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:34:04.80 ID:+Qo3lcGpo

「えっと、響ちゃん……そんな顔しないで」


萩原さんも同じように思ったのか少しビクつきながらも我那覇さんを促す。


「それで、敵対している君たちにこんな風に縛られてどう友好的に話すっていうの?」


確かにそうなんだけど、
暴れられては敵わない。
412 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:34:35.59 ID:+Qo3lcGpo

「それはあなたが召喚できないようにするためよ」

「ところで我那覇さん……」

「何だよ」

「助けてあげたのにお礼も言えないのかしら?」

「ぐっ、……うぅ、ありがとう」


俯いて、それでも聞こえるようにハッキリとそう言った我那覇さんだった。
私はそれだけ聞くと我那覇さんを吊るしていたロープを斬る。
413 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:35:01.83 ID:+Qo3lcGpo

真はそれに驚いて少し構えていたけれど、
我那覇さんは私の意図を組んだように
暴れようとはしなかった。


「卑怯だぞ、千早……」

「あの時、姿を現さずして戦った我那覇さんに言われたくないわ」


あの時、元国王を殺害した時、
最後まで私達の邪魔をした我那覇さんのいぬ美。
その時、どこかから私達を見物して、指示を出していた。
414 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:35:29.88 ID:+Qo3lcGpo

私は海で濡れた我那覇さんにタオルを渡してあげた。
我那覇さんはタオルを受け取るとしばらく黙りこんで
何かを考えている様子だった。
重い空気が流れる。


こんな風に近くで声を聞くということが久しぶりだったのが
本当は嬉しいはずなのに、どうしても私達の立場上、
仲良くすることなんてできなかった。


415 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:36:02.70 ID:+Qo3lcGpo

我那覇さんは重い空気にどこか気まずそうに落ち着かない様子だった。
しかし、何か気がかりがあるようでやっと口を開いた。



「千早。こんなこと頼めた義理じゃないんだけど……」

「た、貴音を助けて欲しいんだ」


我那覇さんは私達に向けて頭を下げた。
床に頭をべったりつけて、私達に跪いていた。
突然の我那覇さんの行動に戸惑いつつも最後まで話を聞くことにした。

416 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:36:35.20 ID:+Qo3lcGpo

「四条さんが賢者の石だってこと?」

「うん。だけど、それだけじゃないんだ……」

「帝国がやろうとしていることは絶対に阻止しなくちゃいけない」

「それって……昔聞いたことのある妖精計画のこと?」

「な、なんでそのことを……」

「このことはまだ詳しい話はできないんだ……」


私が妖精計画のことを知っているのに驚いていた我那覇さん。
だけど、私達の目的はどうやら同じになったみたい。
417 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:37:36.73 ID:+Qo3lcGpo

「自分、貴音が賢者の石って知ってから
 それを何かに利用されるんじゃないかって思ってたんだけど」

「その詳細をとうとう知っちゃったんだ」

「だから城から連れ出してきたんだ」

「それに帝国のやり方にはもううんざり来てたんだ……」

「自分のにぃにも多分殺されちゃってるし……まだ詳しいことはわからないけれど」

「それで、この船が向かっているヌーの島に行ったら
 自分の生まれ故郷だからしばらくそこで隠れようと思って」

「だけど、見つかっちゃって……島には美希が」
418 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:38:04.15 ID:+Qo3lcGpo

「美希が……!?」



最強にして最悪の盗賊、
オーバーマスターという人智を超えた習得速度の能力を生まれついて持っている。
かつての戦いにおいて萩原さんが重症を負わせた相手。


そのことで顔に傷がついて私達のことをかなり恨んでいる様子だったから
接触すること自体が刺激を与えることにもなるし避けたかったのだけど。


だからと言って今から船を飛び降りて
陸地に戻るわけにもいかない。
419 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:38:31.71 ID:+Qo3lcGpo

何より私達には目的がある。
あの島へ行く。


「私達はあの島にいるはずの水瀬さんの軍隊を探しに行くの」

「伊織の?」

「ええ、彼女達は恐らくあの島に潜伏しているはずなのよ」

「そのついでと言ってもいいかもしれないわね。
 四条さんを取り返して、水瀬さん達の安否も確認して、
 そしたら私たちの城へ戻ってハッピーエンドってところね」


本当にそれが上手く行けばいいのだけど。
だけど、やるしかない。
420 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:39:10.07 ID:+Qo3lcGpo

「だから、私は……もう一度あなたと共に行くことにするわ」

「私にも協力して」

「うん。自分、もう帝国の人間でもなくなっちゃったし」

「一時的にでもいいから手を組みましょう」

「そうだね、うん、ありがとう」


私と我那覇さんはこうして固く握手をして
また、共に旅をすることになったのだった。


421 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:39:41.75 ID:+Qo3lcGpo

真と萩原さんは私と我那覇さんのやり取りを後ろで見守っていてくれた。
彼女達にも辛い思いをさせてしまった我那覇さんとの以前のいざこざも、
これを気に少しずつわだかまりが解けていけばいいと私は思っていた。



私と真と我那覇さんと萩原さん。
またこのメンバーで一緒にいることができるなんて思わなかった。


我那覇さんは後ろめたさもあってまだ少しぎこちないけれど、
それでもなんとか打ち解けようと必死にしていた。
422 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:40:08.09 ID:+Qo3lcGpo


「それにしても……千早……」

「え?」

「なんで、そんな格好してるんだ?」

「こ、これは……その……一応変装で」

「千早も案外可愛いくなるもんなんだな……」


ふんふん、と感心している我那覇さんに対して萩原さんも同じように頷いていた。
423 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:40:34.38 ID:+Qo3lcGpo

「ボク達も一応帝国内じゃお尋ね者だからね」

「そっか……。そのうちに自分も仲間入りになるんだろうなぁ」


と感慨深く言う我那覇さん。
結構複雑な心境らしい。



私達はそんな話をしているうちに半日くらいかけて
島へと到着したのだった。
424 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:41:21.17 ID:+Qo3lcGpo

島へ向かう船の便は毎日何本も出ていて、
美希が乗って行ったのが私達のちょうど一本前の便。


私達はその便と3時間程度の差で島へ到着した。
まずは私達は一応変装中の身であるのでこそこそと
それでいてなるべく目立たないように船を降りた。


船を降りる際に船乗り場で
酔っ払いすぎて粗相をしでかしてる音無さんを見かけたが、
彼女は彼女なりの人生をエンジョイしているので放って置くことにした。
425 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:41:54.04 ID:+Qo3lcGpo

その後、まだ港に停泊している一本前の便。
美希が乗ってこの島へ入った便がまだ停泊しているので向かった。
そこで美希の手がかりがあるかもしれないと思っていた。


しかし、船の人達に話を聞いても金髪で顔に火傷痕のある女の人と
それと一緒にいた銀髪の女の子なんてのは誰一人見てはいなかった。


当然といえば当然のことで盗賊の性分の美希からしたら
足跡を残さないように移動することなんてのはお手の物なんだろうと。
426 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:43:32.04 ID:+Qo3lcGpo

それから私達はもう一つ予想していた、
帰りの船の便が出ている船乗り場まで向かった。


美希がこの島には全く滞在しないでとんぼ返りで島を出たのであれば
こっちの島から出る船に乗る可能性が高い。


だからそこを使ってないかの聞き込みを私と我那覇さんでして、
港での見張りを真と萩原さんの別行動に出た。


しかし、結果は依然として変わらなかった。
成果なし。
427 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:44:04.02 ID:+Qo3lcGpo


4人は再び夕方になって港近くの適当な店に入って夕飯を食べていた。


「結局成果はなかったわね」

「もしかしたらもう島を出たのかもしれないね」


と萩原さんは自前の魔法で出したお茶を飲みながら言う。
428 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:44:40.50 ID:+Qo3lcGpo

「それは多分ないと思うぞ。この島から出入りできる船の便は
 一日に何本もあるけれど、自分達が島を出る時専用に使う港に到着した時に
 停泊していた船が今日の便の最後だったんだ」

「あれに乗っていなければ今夜はこの島にいることになるぞ」


我那覇さんはよくわからない炒めしを食べながら言う。
私と真はそれぞれ買ってきたものを食べていた。
429 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:45:34.65 ID:+Qo3lcGpo

「でも、島は結構広いよ」

「そうね、どこを探せばいいかわからないわ」

「そうだよね、リゾート地だから宿泊施設もたくさんあるみたいだし」

「それよりも私達も泊まる場所を探さないといけないわ」

「あ、それなら自分の家が……あ、えっと……」


我那覇さんはこの2年の間のことが何もなかったかのように、
またあの日々が昨日のことに戻ったかのように話をしたが、
自分の置かれている状況にハッとしてすぐに声は聞き取れないほど小さくなった。
430 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:46:02.51 ID:+Qo3lcGpo

小さくなった声はすでに手遅れとも言っていいくらいで
私達3人はすぐに


「我那覇さんの家があるならそこに泊めてもらえたりしないかしら」


などと口々に頼んだ。
我那覇さんは嬉し涙なのだろうけれど、涙目にもなりながら大きく頷いてくれた。
431 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:47:38.50 ID:+Qo3lcGpo

適当に入った港付近の店も、出る頃にはすでに夜で辺りは真っ暗になっていた。


しかし、依然として気になるのは
何故、我那覇さんはあのように執拗までに賢者の石である
四条さんにこだわって捜索をしているのだろうか。


一体あなたは何を知ってしまったの?
聞いても答えてくれない所が余計に気になってしまう。
432 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:49:48.66 ID:+Qo3lcGpo

我那覇さんの家は広く客間でみんなして寝ることにした。
自分の部屋があるはずなのにどうしてこっちで一緒に寝るのだろうとも思ったけれど、
それを口にだすのはあまりにも意地が悪いと思ったのでやめた。


「ねえ、我那覇さん……どうしてそこまで四条さんに拘るのかしら」

「……千早。教えてあげたいんだ。
 でも、きっと千早のことだから首を突っ込んでくるでしょ」


まるで私がお節介のように言うけれど、
私はそんなに酷いかしら。


「だから言えない。……言えないよ」
433 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:50:19.83 ID:+Qo3lcGpo

「あんなに酷いことしてさ。
自分、もう千早達とはもう一生
 こうやって寝ることなんてないんだろうなってずっと後悔してたんだぞ」

「2年前に一緒に旅をして、
 そりゃあ任務だから足手まといになるような真似は
 たくさんしてきたつもりだよ」

「でも、楽しかったんだ」

「本当に楽しかった」
434 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:51:07.65 ID:+Qo3lcGpo

「あんな風に笑って、罵り合って、切磋琢磨して一緒に成長していくのが……楽しかった」

「ずっと後悔してた。あの時、自分は一歩前に踏み出して、
 勇気を出して、千早の味方ができていたらって」

「もういいわ。我那覇さん。もう……わかったから。寝ましょう」


私は耐えられなくて止めた。
それは怒りからくるものもあった。
だけど、それはもう起きたこと。今更責めてもどうしようもないこと。
私は我那覇さんを許そうとしている自分が怖かった。
435 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:56:52.86 ID:+Qo3lcGpo

彼女の加担した事件は事実であり、歴史にも刻まれることとなるだろう。
実際に彼女自身が王を殺したわけではないけれど、事実ではある。


我那覇さんは泣いていた。
声を必死に押し殺して泣いていた。


私達とこうやって一緒にいられることを許されたことが
彼女にとって何よりも嬉しいことだったのでしょう。
例え、その罪を許されなくても。
436 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:57:21.19 ID:+Qo3lcGpo

だけど、だからこそ、
泣いていた我那覇さんのその震える声を聞くのに耐えなかった。
私も。


私も同じようにずっと後悔していたから。
王を救えなかったこと。
騙されたショックに耐え切れず、
どこかで我那覇さんをずっと恨んでいること。


私は隣で眠る我那覇さんの布団の中に手を伸ばす。
そっと手を握ると震える我那覇さんの肩はそっと安らかに、
だんだんと静かになって眠りについていった。
437 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:58:58.42 ID:+Qo3lcGpo


「千早は本当に……優しいよね」


真がぼそっと言う。
その言葉は何故か私の胸にチクリと刺さった。
真は許してはいないのかしら。
でもきっと真も同じように思っているはず。




この夜、私達と我那覇さんはこうして長い年月を超えて
やっとお互いの手を取ることを始めたのだった。

438 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 17:59:44.88 ID:+Qo3lcGpo


翌朝。
起きると我那覇さんと萩原さんが朝食を作っていた。
簡単なものではあったがとても上手にできていて美味しかった。


それから私達は当初の目的である、
水瀬さんの軍も探すことを探索の目的に追加した。
私と萩原さん、真と我那覇さんで探索を始めることにした。



今日の天気は昨日よりも最悪だった。
雷が落ちてきそうなくらい分厚い雲が島を覆っていた。
気分が晴れないままに私達は出ることにした。
439 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:00:17.64 ID:+Qo3lcGpo

私と萩原さんはまずは港へ行き、
朝一の便を出る方も入ってくる方も両方とも調べた。


しかし、成果はいずれもなかった。
それと同時に港付近に軍隊が出入りできるような
搬入口が無いかも捜索したが、いずれもなかった。
440 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:00:49.19 ID:+Qo3lcGpo

真と我那覇さんは島の中でも一番高いビルの周辺を調べていた。
我那覇さんの知り合いを訪ねたりしていたらしい。
しかし何も見つからず結局中心街に
移動して探索していたらしいがいずれも手がかりはなかった。


「だめね、そろそろお昼時になるし、一旦中心街に戻りましょう」

「うん、そこで一回合流すればいいよね」
441 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:01:48.41 ID:+Qo3lcGpo

朝一から動き回っていてお昼ごはんも食べたい時間帯になってきていた。
私達は中心街へ歩いて行った。


中心街へ近づくとメインストリートに出た。
中心へと続く道の脇には様々なお店が並んでいた。


その中でも一際目立った行列ができていた。
これは……何の列かしら。


「何かしら?」

「なんだろう……」
442 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:02:23.22 ID:+Qo3lcGpo

列の先を目で辿ってみるとそこは一つの飲食店のようなものだった。
そこにそんなに美味しいものがあるとは思えないのだけど。


入り口には少し小汚い垂れ幕のようなものが下がっていて、
人が一人出る度にまた一人入っていく。


中は入場制限でもかかっているかのように、
人が入れる人数が決まっているのだろうか。

443 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:03:04.55 ID:+Qo3lcGpo

店の看板にはでかでかと見たことのない角張った文字で
「拉麺」と書いてあった。
どこかの地方の言葉かしら。


しかし、店からただよう匂いはどこか誘われるような
より一層お腹が空いてしまうかのようなそんな香りだった。


「うぅ……もう苦しいの。どうしてそんなに食べられるの。
 っていうかあの店昨日も行ったじゃん……」

「ふふ、美味しいものは何度食べても飽きないものです」
444 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:03:31.25 ID:+Qo3lcGpo

「あぁ、実に美味でした。洗練されたスープ。
 歯ごたえのある麺という食材。面妖なぐるぐるの食べ物」

「わたくし、あのような食べ物は初めて食べました。実に美味しかったです」



店内からとある二人組が出てきた。
それこそが私達の求めていた探し人、四条貴音と星井美希の姿だった。


私は咄嗟に萩原さんをひっぱって物陰に隠れた。
445 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:03:57.41 ID:+Qo3lcGpo

「ど、どうしたの?」

「しっ! あそこにいるの、美希よ!」

「えっ!?」


萩原さんもそおっと物陰から除くようにしてみる。
その美希の姿を確認すると私にアイコンタクトを送ってきた。
446 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:04:31.98 ID:+Qo3lcGpo

私達はその物陰からこっそりと監視することにした。
合流地点もこの付近に設定してあるから
下手をすれば真達が美希と四条さんに接触してしまう可能性を考えると
今、飛び出して不意をついて倒してしまった方が得策だと。


だけど、あの美希がそんな上手く行くわけがない。


「美希。この島にはいつまでいるのでしょうか?」

「わたくしは響のことが心配ですし、
 もちろんご飯を食べさせて頂けるのは嬉しいのですが」

「えー? まだ言ってるの?
 貴音は気にしすぎだって思うな」
447 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:05:13.32 ID:+Qo3lcGpo

「たぶん、響はあれぐらいじゃ死なないし、
 きっとすぐに向かってくると思うな」


その通り、ものすごく傷を追っていたけれど、
あれも萩原さんが魔法で回復させてしまったし、
今はとても元気に過ごしているわ。


「あ、それと、いつまでいるのかってのだけど、
 迎えが大量にこの島に来ることになってるからゆっくり待ってれば大丈夫なの」

「この島は貴音を匿うことを受け入れた極悪非道な島だから
 帝国軍がこの島を丸ごと消し飛ばすことにしたの」


448 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:06:05.05 ID:+Qo3lcGpo

消し飛ばす!?
なんてことを……。
匿うと言っても我那覇さんが勝手に四条さんをこっちに連れ込んだだけなのに。


「きっとこの島の人達は知らなかったって言うと思うし、
 今でも貴音がこの島にいる事自体どんな風に罪があるのかなんてわからない」

「だけど、貴音……。これだけは知らなかったじゃ、済まされないの」

449 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:07:01.05 ID:+Qo3lcGpo

美希の威圧のかかった言葉に四条さんは黙ってしまった。
確かにあの四条さんはどこか雰囲気が変。


私はこの時初めて賢者の石、四条貴音を見たのだけれど、
変わった人、だと思えばそう思えるし、
どこか人と変わっていると思えばそうも思えてくる。


「それじゃ、さっそく避難警報を出しに島の管理部に直接行くの」

「さすがに帝国軍が国民を無差別に殺しちゃうと不味いからね。
 島の人達には逃げてもらわないといけないの」

「はい」
450 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:07:43.83 ID:+Qo3lcGpo

そう言って美希は貴音を連れて歩き出した。
恐らくはこの島全体を管理している役所に向かっていると思われる。


「どうしよう千早ちゃん」

「大丈夫、私があとを追うわ」


「 萩原さんはここで真達と合流して
それから一緒に来てくれれば大丈夫だから」

「たぶん、今美希が話していた役所に行く道くらいなら我那覇さんも知ってると思うから」

「わかった。気をつけてね」

「ええ、任せて」
451 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:08:37.68 ID:+Qo3lcGpo

そうして、私は美希と四条さんの後ろを見つからないように着いて行くことにした。


気取られないようにするのは以外と大変で、
時々美希は振り返ったり、路地に曲がってすぐに出てきたりと
尾行を懸念して、色々と行動を取っていたが、
私もなんとか気づかれないようにしていた。



どちらにしろ私達と美希がこの島で戦えば
大規模な戦いになることは間違いない。


だから島民や遊びに着ている客を逃がすための
放送をしてくれるのならばありがたいことではあった。
452 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:09:24.97 ID:+Qo3lcGpo

美希が島の中心よりも少し外れた所にある役所の建物の中に入っていく。
窓の多い建物だったから中の景色は隣の建物からでも見えてしまう。
という訳で私は隣の建物の屋上に登った。


そこから観察しているが、何を話しているかはわからなかった。
しかし、美希が余裕を持った手振りで役所の偉そうな太ったおじさんを脅していた。
いつも持っているダガーを首に突きつけて。


たぶんあの太ったおじさんが一番えらい人なのかもしれない。
453 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:10:42.26 ID:+Qo3lcGpo

四条さんはそれを後ろから黙って見ているだけだった。
彼女はそれでいいのかしら。いえ、彼女は多分わかっていないだけなのかもしれない。


自分がこういう時どうすればいいのか、
何が正しいのかすら分からないのかもしれない。


しばらくすると美希はその役所のお偉いさんの部屋から移動して
別の奥の部屋へ行ってしまった。
しまった。ここからじゃ奥の部屋の様子は見えない。
454 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:11:22.14 ID:+Qo3lcGpo

だけど、どんな部屋に行ったのかはすぐに分かった。


『ピンポンパンポーン。こんにちはー。クロイ帝国、帝国軍からのお知らせなの』


美希の調子のいい声が島全体に広がるほどの大音量で響きはじめた。
こ、これは……!?

455 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:11:53.49 ID:+Qo3lcGpo

『島のみんなや遊びに来ているみんなにはとっても残念なお知らせなんだけど、
 この島は大変重大な罪を犯してしまいました』

『その罪はとある帝国軍を裏切った召喚士、我那覇響ちゃんのせいなの』

『響はこの島出身の女の子なんだけど、島に戻ってくる時にとっても、
 とーーってもいけない物を持ち込んでしまいました』


美希の淡々と物語を朗読するかのような島全体に届く放送が流れる。
なんて酷いことを言い始めるの……。
突然の放送に島中のあちこちでどよめきが聞こえる。
456 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:13:20.84 ID:+Qo3lcGpo

『だからその代償として帝国は最大の軍備を持って、この島をなくしちゃうことにしたの』

『もう、帝国の巨大な艦隊はこっちにも向かってるし
 今日の夕方、日が沈む頃には軍の介入が始まると思うの』

『さあ、みんな? 島から出る船は今日はあと3本だけ、急がないと乗り遅れちゃうのー!』

『あれあれ? みんな急がなくていいの? あ、もしかしてもしかしてイタズラだとか思ってる?』

『じゃあ、その見せしめに今から島のシンボルでもある、一番大きな建物を壊しまーす!』


美希のその言葉と共に街中はざわめきだす。

457 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:18:57.10 ID:+Qo3lcGpo

島の大きな建物!?
まさか、あの島の中央のほうにあるあのホテルのことを。
なんて勘ぐる暇もなく、一番目立つくらいに高いホテルは
真ん中の辺りから爆発した。


その瞬間に島民の動揺は悲鳴に変わって大騒ぎになり、
人々は一斉に港へ向けて走りだしていた。


私の登っている屋上から海の彼方の水平線ギリギリに
大量の戦艦が見える。


本当に帝国軍の艦隊が迫っている……!
この島がなくなるのもなんとか阻止しないといけない。
458 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:19:32.95 ID:+Qo3lcGpo

このままだと我那覇さんが。
島全体から裏切り者扱いをされるだろう我那覇さんを思った時に
私は胸が苦しくなった。


なんとか彼女を救ってあげないといけない。
我那覇さんの言っていた危険なことが起きるとかってのは
もしかしてこのことを言っていたの?


逃げ惑う島民達の流れをただただ建物の屋上から眺めることしかできない私達。


「我那覇さん……」


後ろには我那覇さんがいた。どうしてこっちに。
459 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:20:06.36 ID:+Qo3lcGpo

「真が千早を迎えに行けって。
 真達は港に向かってパニックを少しでも和らげに行ったよ」


優先するべきはまずはこの指揮官であるはずの美希を討つこと。


「わかってる。騒ぎの元凶である美希をまずやっつけなくちゃいけないことくらい」

「だけど、生まれた島が今、なくなろうとしてるのに……
 島の誰も、誰一人として救えないなんて、自分……嫌だ!」
460 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:22:01.91 ID:+Qo3lcGpo

「お願い……千早! 助けて!」


私は我那覇さんの目に涙を見た。
彼女は何もかもを背負いすぎている……。
私がなんとかしないと。


「もちろんよ」

「急いで、島の人達を誘導しなくちゃ! 美希にバレたって仕方がないわ」

「その時は……一緒に戦いましょう!」
461 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:23:28.35 ID:+Qo3lcGpo

我那覇さんは大きく頷いてそれから私達は
人の流れにそって同じように走り、港へ向かった。
港は予想通り、人で溢れかえっていてとても誰もが順番なんて守る気なんておきなかった。


押し合いへし合い我先に安全だとする場所へ向かう船へ乗り込む。


着いた時には真と萩原さんはすでに船へ乗る人達への整理を手伝っていた。
船の乗員は非常に助かっている様子で私と我那覇さんも同じくそこに参加した。
462 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:24:27.46 ID:+Qo3lcGpo

整理をしてもしてもリゾート地へのバカンスに来ている金持ちたちは
我先にと金を握らせてきて船に颯爽と乗り込もうとする。
それをいちいち断っていては時間の無駄。


だけど、みんな助かりたいのは同じ。
そんな人達を放ってなんておけない。


さすがにイライラして剣に手をかけそうになることもしばしばあるが、
なんとか一つ目の船を無事に入れることができて出港する。
463 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:25:04.35 ID:+Qo3lcGpo

「そこをどけ!」

「はやく船に乗せろ!」

「待ってください! お、押さないで!」

「危ないから押さないでくださいーー!」

「み、みんな落ち着いてくださいぃ!」

「ふざけんな! 落ち着いていられるか!」



残された島の人達は不安と焦りで船の管理をしている人達や
私達に向けて盛大な罵声を浴びせてくる。
これが思いつく限りの最善の策なのだから仕方がない。
464 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:26:47.26 ID:+Qo3lcGpo

それとも私達4人であの戦艦達を相手に戦う?
無理……。命がいくつあっても足りない。



次の船はすでに乗客を乗せる準備を初めていて
私達も早く乗せてあげたい気持ちで一杯。



でも、この港にいる人数……。
どう見積もってもあと2つの船じゃとても乗り切らない!


しかし、私達にはそんなことも考える暇もなかった。
ついに来てしまった。


彼女が。
465 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:27:25.05 ID:+Qo3lcGpo


「ねえねえ、どうしていてほしくない時に千早さん達はいるのかなぁ?」



最悪の状況に、最悪の宿敵。
美希は毛が逆立つほどの殺気を纏いながら私達の前に現れる。
その後ろには四条さんもいる。



「貴音!」

「……」


我那覇さんの必死の呼びかけに、四条さんはピクリともしなかった。
466 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:29:06.85 ID:+Qo3lcGpo

船に乗れない島民達は誰もが美希を一目見てヤバいと感じたのでしょう。
すぐにどよめき、そのどす黒いオーラには飲まれそうになっている。
巻き込むわけにはいくまいと私は美希の目の前へ踊りでる。


「あなたの計画もここでお終いよ」

「そうはさせないの」

「実はあんな放送をしたけれど、
 あの放送をした時にはもうとっくに帝国軍は攻撃準備は万端なの」

「なんですって!?」

「千早! 2つ目の船に乗れるようになったよ!」
467 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:30:30.85 ID:+Qo3lcGpo

真が大きな声で叫ぶ。
港にいた人々はその声を聞く前にはすでに船に乗り込み始めていて
再び港は大混乱になっていた。
しかし、それと同時に珍しく萩原さんの大きな声が響く。


「千早ちゃん、あれは魔術艦隊だよ!
 あの距離からでも大規模な火球が撃てる!」


萩原さんは水平線の彼方を指差している。
その方向にはまだ小さいが何十隻なんて数えることのできないほどの
大艦隊がこちらに向かってきている。



「まさか……」

「あはっ、その通り。ゲームセットなの」
468 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:31:11.56 ID:+Qo3lcGpo

美希はポケットの中から杖を一本取り出した。
あの城での戦闘以来、魔法を使うものとして杖を持つようになったのかもしれない。


杖から空に向かって光の玉を発射した。


「信号弾……!?」

「まずはもっともーっと、
 みんなの悲鳴を聞くために一発脅しを入れておくことにするの」
469 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:33:53.79 ID:+Qo3lcGpo

遠くの方に見える魔術艦隊は大規模な火球をこちらに放ってきた。
美希の光の玉が飛んでいった方向に。
火球は島には届かなかったが、島の目の前の海に着弾し
大きな爆発と共に大量の水しぶきをあげた。


それに恐れをなした島民達がいる港はまたしてもパニックに陥った。


「うわっ! お、押さないで!」

「は、走らないでくださいぃ!」


真や萩原さん、我那覇さんの静止も声も、
目の前の攻撃を前にして誰も聞かなくなってしまった。
470 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:35:38.14 ID:+Qo3lcGpo

美希は再び杖を空に向ける。
恐らくはあれが信号弾の代わりになっていてそれを目掛けて
あの艦隊は撃ちこんできている。


そうはさせるものですか!


「真、3つ目の船も早く準備なんていらないわ!
 島民達を乗せて出港して!」
471 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:36:04.24 ID:+Qo3lcGpo

「わかった! でも千早は!」

「私は大丈夫。美希を止めないと!」

「あはっ、言ってくれるの。 
 千早さんに遅れを取るほどミキは弱くないよ」


そんなことわかってるわよ。
だから焦っているんじゃない。
472 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:39:35.60 ID:+Qo3lcGpo

「千早! 自分も戦うぞ……!
 今度こそ、負けてなんかいられない」

「美希を倒して、帝国も潰して、自分は……にいにを救うんだ」

「にいに……?」

「響はそのことまだ信じてたの?」

「え?」
473 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:40:14.83 ID:+Qo3lcGpo

「あれは社長の嘘に決まってるの」

「……え」

「響のお兄さんがまだ生きてる訳ないじゃん」

「とっくの昔に黒井社長に殺されてるの」

「嘘……」

「嘘じゃないよ」

「じゃあ……なんで」

「利用できるから」

「我那覇さん! 耳を貸してはだめ」
474 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:40:44.22 ID:+Qo3lcGpo

我那覇さんの肩を掴んだ時にはもう時すでに遅く、
目はどこかうつろになっていた。
不味い……。


「お兄ちゃんは響のために自分の両手を斬り落として
 その手のひらにある魔法陣を響に継承したの」

「それは社長的にはすっごく厄介だったんだって」

「継承の仕方も聞かないまま怒った社長は殺しちゃったの」

「失敗したって後悔したらしいけど、すぐにその腹いせに
 幼い響を利用してやろうと企んだんだってさ」
475 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:42:01.18 ID:+Qo3lcGpo

「響は社長からなんて聞いていたの?」

「じ、自分は……闇の力で……封印されて……助けるためには
 自分のこの力が必要だからって……」


我那覇さんはそう呟いた。


「じゃ、じゃあ、自分はなんのために……帝国に」

「あはっ、傑作なの」


私は美希がそれを言い終わる前に斬りかかっていた。
美希は高く後ろに飛び跳ねてそれを避ける。
後ろに飛び退けながらも美希は私に向かってナイフを何本か投げる。


私はそれを剣で叩き落とす。
476 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:42:59.96 ID:+Qo3lcGpo

「”炎”なの!」


美希は着地と同時に萩原さんから奪ったであろう火力の炎を
杖から噴射する。


私は我那覇さんに飛びつき、なんとか一緒に避けることができた。


「しっかりして! あれも嘘かもしれないじゃない!」

「だ、だけど、じ、自分……」
477 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:43:33.51 ID:+Qo3lcGpo

「響っ!」


ショックを隠しきれずに動揺しまくる我那覇さんを
見るのがとうとう耐えられなくなってこちらに走ってくる一人の影、
それは誰でもなく私が探しだして旅を始めた最大の目的。


そして、現時点で、最も注意を払わなくちゃいけない絶対の代物。
賢者の石、四条貴音が我那覇さん目掛けて駆け寄ってきた。


「た、貴音……」


四条さんの声を聞いてハッと我に帰るが我那覇さんだったが、


「貴音、来ちゃだめだーー!」


すぐにそう叫んだ。
478 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:45:49.54 ID:+Qo3lcGpo


瞬間、四条さんの上半身は粉々に吹き飛ばされた。
美希の魔法によって。
あの魔法はアトリエ・リトルバードで萩原さんが見せた魔法……!?


だから正確に言えば吹き飛ばされたというよりも
どこかに消し飛ばされた、呑み込まれた。



残された下半身は膝から崩れ落ち倒れる。


「くっ……」



我那覇さんは見ることもままならない悲惨な状況に顔を背けるが
すぐに再生を始める四条さんの上半身はみるみるうちに元に戻る。
戻ったのはいいが、気絶した様子で起き上がる気配もなかった。
479 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:46:52.44 ID:+Qo3lcGpo

なんとかして運んでもらわないと。
だけど、美希からは目が離すことができない。
そんなことをした瞬間に今度は私も同じ目にあう。



「貴音もだめだよ……。こっちに来ちゃいけないってミキも注意したよね?」

「なんて酷いことを」

「酷い? 千早さん何言ってるの?」

「これ、死なないんだよ?」


まるで悪びれる素振りも見せずに美希は淡々と言いながら、
もう一度四条さんを魔法で消し飛ばしてみせた。
480 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:48:32.34 ID:+Qo3lcGpo

「やめてよぉ!」


我那覇さんは叫ぶ。
気絶しながら再生を続ける四条さんを運んでもらおうと、
私は真の方をちらっと見るがまだまだ全員を乗せるには時間がかかりそう。
しかし、2つ目の船はなんとか無事に乗り終わり、船が動き出す。
481 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:49:22.03 ID:+Qo3lcGpo


魔術艦隊もすぐそこまで迫ってきていた。
今にも雨が降り出しそうな分厚い雲は人々の不安を刈りたて
3つ目の船も次々に人が乗り込んでいくがどう足掻いても
港にいる島民が全員乗れる量じゃない。


そしてついに艦隊は島への攻撃を開始する。
次々と大規模な火球が飛んできたり、雷が降ってきたり。
突如として建物が凍結したり、と魔法が全て飛んでくるのだった。
482 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:50:21.53 ID:+Qo3lcGpo
それを見た人々もまた狂ったように叫び声を上げて船へと走る。
2つ目の船はその攻撃を掻い潜るようにして進む。
しかし、そこに目をつけた美希は私達に嫌味のように攻撃を始める。


「船底に穴でもあけてあげるの。”雷槌”なの!」


「しまった……!」


美希の杖から電撃が出港する船へ向けて走る。
雷の速度でなんて走れる訳もない私はただ事の成り行きを見つめてしまった。


電撃は船に当たる直前ではじけ飛んだのだった。
483 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:51:54.55 ID:+Qo3lcGpo


「なっ……! 誰なの!」




『全艦、下降開始! 目標はあの魔術艦隊よ! 撃てぇーーー!』




魔法により拡声された号令に合わせて分厚い雲の中から
宙に浮く船達が次々と現れ、魔術艦隊に向けて砲撃を開始する。


船の前に立ちはだかるのは私と同じように
剣を持った一人の少年だった。


見たことのない少年。
身長は私と同じくらい。


でも頬の絆創膏は見覚えが……。
まさか。
484 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:53:36.57 ID:+Qo3lcGpo


「長介……」

「久しぶり! 借りは返しに来たぞ!」


しかし、長介……成長しすぎじゃないかしら……。
というかこの状況はどういうことなの!?


どうして空から船が!?
なんで雲からあんなにもたくさんの船が出てきてるの!?


空を見上げる。
その船の一つから距離が遠くてよく見えなかったけれど
あのおでこの光は間違いなく水瀬さんの姿があった。
485 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:54:15.66 ID:+Qo3lcGpo

『あんたの貸しを私も返しに来たってわけよ!』


魔法で拡声された声で言われる。
水瀬さんは腕組しながら恥ずかしそうにそっぽを向いている。
その横には、私の愛しのツインテールの高槻さんが大きく手を降っていた。


『千早さーん! 頑張ってくださーい!』

「任せて!」

「あんた相変わらずなんだな……」


高槻さんの声に即答する私を見て
いきなり長介がジト目を向けてくるが今はどうでもいい。
486 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:54:43.94 ID:+Qo3lcGpo

「で、どうすりゃいいの?」

「美希を倒すわよ」


私はこの時、とても嬉しかった。
いつも一人で戦っている訳じゃないけれど、
同じ剣を使うものと共闘するのなんて、それこそ春香以来だった。


「我那覇さん、あなたは四条さんをお願い!」


振り向きもせずに我那覇さんに言う。
我那覇さんは倒れて気絶した四条さんの元にいた。
しかし、その瞬間、我那覇さんは何者かによって吹き飛ばされた。
487 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:55:53.72 ID:+Qo3lcGpo

「ぐ、うぎゃあああ……ッッ!」

「……まったく、みんな世話が焼けるんだから」


頭には2つの赤いリボン。


春香……っ!
なぜここに!
488 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:56:40.13 ID:+Qo3lcGpo

「最強の力を手に入れた私には……もう誰も敵わないからね」

「見て。あの魔術艦隊を」

「島にあれだけ近づけば、
 力を得た私なら瞬時に移動ができるんだよ」

「や、やめ……、貴音を返して!」

「貴音さんは元々帝国の物。返してもらうはこっちの台詞だよ」


春香は四条さんを担ぎ上げる。
そして、自分の目の前に真っ黒のゲートを作り出す。
489 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:57:16.41 ID:+Qo3lcGpo

「ま、待ちなさい……!」

「余所見とかあり得ないの!」

「くっ、邪魔をしないで美希!」


春香の元へと走るがすぐに美希が目の前に回りこむ。
折角、賢者の石を取り返せるチャンスだったのに!


「ま、待てぇ!」


我那覇さんがさっきの一撃でボロボロになりながらも
春香の足にしがみつく。
しかし、それを虫けら同然のようなものを見る目で見下し、一蹴する。
490 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:58:09.82 ID:+Qo3lcGpo

「姉ちゃん、早くあいつの所に! この金髪は俺に任せて!」



長介がそう叫び、美希と激しい攻防を繰り広げる。
私はそれに甘える形ですぐに春香の方に走りだす。



「何この子……、ミキの魔法を弾くなんて生意気なの」

「これは双子の姉ちゃんから買い取った対魔術用の剣だ」

「そんなものすぐにへし折ってくれるの!」


美希はダガー片手に突っ込んでくる。
長介も同じように立ち向かう。
491 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 18:59:02.14 ID:+Qo3lcGpo

一進一退の攻防を繰り広げる私達の後ろでは
1隻の空飛ぶ船が舞い降りてきて、3つ目の船にも乗れなくて
あぶれてしまった人達を拾っていた。


真と萩原さんはそっちの整備をしてくれていた。


よかった。これで島民はなんとか無事ね。
それにしても空から出てきた艦隊は一体どういう指揮のもとでこうなったのかしら……。


闇のゲートに足を踏み入れようとする春香に向かって
私は全力で剣を投げつける。
しかし、それも間に合わず春香は四条さんを抱えたまま
闇に消えていき、私の投げた剣は虚しく音を立てて地に落ちる。

くっ、間に合わなかった……!


「……貴音ぇ」
492 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:00:10.91 ID:+Qo3lcGpo





「”雷槌”なの!」

「おらっ!」


美希の出す魔法もあっという間に弾いて無効化してしまう。
そして、剣の捌きは私よりは劣るが十分にやっていける力量になっていた。
まだ危なっかしい所は多々あるが。
これは一重に新堂さんの賜物なのかしら。


私は四条さんを奪われたことの悔しさよりも気持ちを切り替えて
すぐに剣を拾い、美希の元へ向かう。
493 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:00:51.79 ID:+Qo3lcGpo

「雑魚が二人いるだけなのに、結構厄介なの」


美希が息を切らしはじめてきたが、
同じように私達も息が切れかけている。


「”炎”なの!」


片手で魔法を出して私を牽制しつつ、
長介との斬り合いをする美希。
494 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:01:20.13 ID:+Qo3lcGpo

ダガーと通常の大きさの剣の威力では
剣の方がスピードは劣るがパワーは増す。


だけど、長介は美希のダガーのスピードを物ともしない速度で剣を振る。


「おらっ!」


長介の蹴りが美希の顎を捉え、
美希は宙に少し浮いたあと地面にダウンする。
495 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:01:54.60 ID:+Qo3lcGpo

こんな美希の姿は私も見たことはない。


「あんたのダガーの速度も早いが、爺さんの二刀流の捌きと
 比べちまったら悪いが劣っているよ」


美希はゆらりと立ち上がり、
目に見えるように身体強化の魔法を自分にかける。


同時期に3つ目の船も乗り終わり出港をはじめ、
それでもあぶれた人達を乗せた空飛ぶ船もまた空を飛び始めた。


これで島に残るのは私と真、萩原さん、我那覇さん、それから駆けつけた長介。
そして、美希のみになった。
496 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:02:46.69 ID:+Qo3lcGpo

島への攻撃は未だに止むことはなく、
でも帝国の艦隊は空から現れた船達の攻撃も受け、それも攻撃しかえしている。


「何なの。本っ当にムカつくの」

「終わりだ、美希!」

「私の魔法、返してもらうから」


真と萩原さんも駆けつける。
497 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:03:12.33 ID:+Qo3lcGpo

「我那覇さん、今は美希を倒すのが先よ!」

「……。わかってる。千早……みんな、一緒に戦って!」

「ええ、任せて」

「行くよ、響!」

「響ちゃんに”癒し”を」


萩原さんの魔法が我那覇さんをいっきに回復させる。
498 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:03:41.90 ID:+Qo3lcGpo

「部分召喚。いぬ美!」


我那覇さんの腕は変化してそれはどこかで見たことのある腕に変わった。


「響、それは……」

「いぬ美は今は怪我で動けないし、
 そのあとにもっと美希に痛めつけられてる……」

「だから腕だけ出すのも時間が限られてるから
 ちょっといぬ美には無理させちゃうけれど、それでも自分は戦う!」
499 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:04:20.11 ID:+Qo3lcGpo

「戦っても勝てる相手じゃないと思うけどね」


そう言いながら美希は5人に突っ込んでくる。
5対1だというのにも関わらず一切の引けも取らずに。


私と長介は美希を斬ろうと剣を振るが、一本のダガーで次々と捌いていく。
その隙を真が後ろから蹴り飛ばそうとするが、それもかわす。


美希はその隙に真は空中で3回ほど蹴りを入れて吹き飛ばす。
吹き飛んだ先の我那覇さんに直撃する。


この間、私と長介の連続の剣撃は一切やめていなかった。
500 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:04:47.34 ID:+Qo3lcGpo

「”凍れ”!」


という萩原さんの呪文にも美希は震え上がる程の速度で反応し、
長介の剣を今まで弾いてその場を凌いでいたが、
ダガーで受け止めて、腕を掴み自分の目の前に引っ張って持ってくる。


そして、いとも簡単に萩原さんの魔法を長介にかけたのだった。
長介は脚を膝の辺りまで一瞬にして氷漬けにされてしまう。


「あはっ、お間抜けさんっ」
501 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:05:30.78 ID:+Qo3lcGpo

その長介をほっぽり出して私と対峙する美希。
美希の激しい攻撃が続く中で
腕をいぬ美の腕にした我那覇さんが突っ込んでくる。


「今度はあなたが盾になる番よ」


私は美希のダガーの一撃の隙を完全に見切って羽交い絞めにする。
そして、我那覇さんの腕になったいぬ美の鋭い爪が美希を捉える。
502 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:06:14.12 ID:+Qo3lcGpo

「痛っったぁぁぁ゙ーーーッ!?」

「”炎”なの゙ォォーー!」


羽交い絞めにされた状態で美希はこれまで杖やダガーの先端から
噴射していた炎を口から放射した。
もちろん爪での攻撃をしていた我那覇さんは目の前でその炎を喰らう。


「”水”よ!」


萩原さんは我那覇さんの燃える身体に一瞬で大量の水をかけて沈下させる。
その一方で私はすぐに美希の肘を脇腹に喰らい激痛で離れると肘には小さな仕込みナイフが。


盗賊の性分、こうやって捕まることも前提で
そんな所に仕込みナイフを用意しているのかもしれない。
503 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:06:40.93 ID:+Qo3lcGpo

「その魔法、鬱陶しいったらないの!」


美希は萩原さんに向かって走る。
その速度は人体ではとてもじゃないけれど有り得ないものだった。


「雪歩っ!」


真の叫びも虚しく、萩原さんは美希の三段蹴りを見事に喰らい
地面を滑るように転がっていく。


その萩原さんにさらに追い打ちをかけに動き出す美希に
ギリギリで私は間に入り込む。
504 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:08:00.98 ID:+Qo3lcGpo

「邪魔なの……」

「させないわ」


萩原さんは全身に傷をおって血が滴る腕を抑えながらも起き上がる。


「……ち、千早ちゃん!」


私は美希との鍔迫り合いから離脱する。
それは萩原さんの声を聞いて
未だに反撃の手をやめようとしない彼女の意志を感じたから。
505 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:08:30.49 ID:+Qo3lcGpo

私が美希の目の前から飛んで避けた瞬間に
萩原さんの杖からは美希に向けて業火が放射される。


「”インフェルノ”ッ!!」

「その技はもう効かないの……」



萩原さんの放つ業火は美希の目の前に行くとすぐに消えてしまっていた。
なぜ美希にまで届かないの!?


萩原さんはそれがどういうことなのかすぐに理解して
炎を引っ込めてはすぐに距離を取る。
506 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:09:52.11 ID:+Qo3lcGpo

「今のは……」

「ハァ、魔法を分解されてたの……」

「今、美希ちゃんは私の”インフェルノ”を目の前で分解していた」

「私の魔法の形式を全て理解した上でバラバラに……」



どうやら彼女達が使う魔法は色々な呪文が組み合わさって出来上がる構造になっているが
その一つ一つの繋ぎ目を壊すようにしていたとか。
そして、それができるのはその魔法を熟練しているものだけが
上手く解いてなかったことにできる。


その技は魔法の構造をよく理解した上で習得している美希ならではの反撃方法だった。
507 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:11:19.64 ID:+Qo3lcGpo

「雪歩にもおんなじことができるのかな?」

「”インフェルノ”なの!」


美希のダガーの先端から萩原さんの業火と同じ火力の炎が噴き出す。


「姉ちゃんっ!」


脚にできた氷をやっとの思いで剣で砕いてから、
対魔術用の剣を装備している長介が飛んで入ってくる。
しかし、そこは萩原一族の魔法だった。


魔術用の剣であっても
その巨大な業火のもとで意味はなさず長介は身体ごと炎に飲み込まれる。
508 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:11:45.94 ID:+Qo3lcGpo

「”水”よ!」


消火が間に合わない!


「長介、早く離れて!」


すぐに長介は自分の対魔術用に作られた剣すらも覆い尽くす炎に
耐えられなかったのか海に飛び込んで身体に引火した炎を消した。
509 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:12:12.42 ID:+Qo3lcGpo

その間に真と我那覇さんが美希に怒涛のラッシュ攻撃をしかけるが
美希はするすると避けて交わしては反撃を入れる。
ふたりとも吹き飛ばされては立ち上がり、
何度も何度も美希に突っ込んでいく。


なんとかして美希を倒さないと……!
どうしたら……。


考えてる暇もなく私は美希に突っ込んでいく。
510 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:12:39.92 ID:+Qo3lcGpo

「5人がかりでも一緒だったのに3人だと尚更弱っちいの!」


我那覇さんの爪での攻撃を交わしそのいぬ美の腕を掴み
私の目の前に持ってきて盾にする。
無論振りかぶっていた剣は止まる。


「くっ」

「えいなの!」


我那覇さんを私に突き飛ばした美希は
後ろからの真の蹴りもあっさりと交わしてその脚を捕まえる。
511 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:13:05.68 ID:+Qo3lcGpo

真はバランスを何とか片足だけで保つ。
そこに美希は嫌らしい表情を見せながらダガーを太ももに突き刺した。


「あぁァ゙ぁああーーーーッ!」

「……くそっ、おらぁ!」


真はバランスを取っていた脚で飛んでその足で美希の側頭部に蹴りをお見舞いするが
それも虚しくダガーの刃でガードされ脛を斬りつけられる。


「うぅ゙……ッ!」


「真ちゃん!」
512 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:13:33.57 ID:+Qo3lcGpo

萩原さんが何か魔法を唱えようと杖を構えた時にはもう美希は
真を目の前に持ってきて盾にしていた。


「雪歩! ボクに構わずやって!」

「ーーッ!」


萩原さんはすぐに杖を降ろしてしまう。
美希はすぐに真を萩原さんの方に大きく投げ飛ばす。


真と萩原さんは激しく衝突してそのまま海に叩き落される。
513 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:14:10.90 ID:+Qo3lcGpo

我那覇さんが投げた隙を見てすぐに美希に突っ込むが
それも虚しく真から盗んだであろう体術を駆使し、
空中に浮いている間に10発以上の蹴りを連続で喰らいまたしても海に落とされる。




「さあ、残ったのは千早さんだけなの」

「……くっ」


黙って剣を構える。
集中して。まだ……私は戦える。
514 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:15:15.21 ID:+Qo3lcGpo

美希は再び目に見える形で身体強化の魔法を使っていた。



美希の激しい攻撃が私に襲いかかる。
萩原さんの身体強化は馬鹿にできないけれど、
私だって自前の歌でいくらでも強化できる。


いつか真と話したことがある。
真はみんなで自分の夢を語り合う時なんかは
嬉しそうに必ずこの話をする。
515 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:15:56.55 ID:+Qo3lcGpo



――東の極東の島国があるんだけどね。


――そこでは勇者のことを”アイドル”って言うんだよ。



真はいつか勇者の中の勇者である、誰もが認める”アイドルマスター”になると。
そんな話を思い出していた。



美希の攻撃を捌きながらも私は大きく息を吸う。


「基本的には一本気だけど
 時と場合で移り気なの」
516 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:17:11.60 ID:+Qo3lcGpo

何度も繰り出される高速の剣撃に私は瞬時に対応する。
押し返す。ここから反撃。


「なっ、話には聞いていたけど、これがアルカディアの力なの!?」


美希の顔はその火傷痕を見せながら、大きく歪む。


「だけど、そんなもの、ミキの”オーバーマスター”には勝てないの」


剣の太刀筋が変わる。
517 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:20:14.39 ID:+Qo3lcGpo
この攻撃の方法は……美希自身のもの、私のもの、春香のもの、
さらに今奪ったばかりの長介のものを組み合わせ合成した剣撃。


「そんな柔軟適応力
 うまく生かして綱渡り」


だけど、組み合わせがバラバラで、隙だらけになっている。
お互いのいいとこ取りをしすぎたせいでバランスが大きく崩れている。
剣捌きにいい所もあればもちろん悪い部分もある。


その穴を埋めるためのいい部分もある。
だけど、美希のそれは全部いい部分だけを引き出して使っているから
グチャグチャになって逆に劣化している状態になっている。
518 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:20:43.37 ID:+Qo3lcGpo

本来ならば美希の能力である”オーバーマスター”は
習得した上でさらに強化されたものを発揮することでその本領が見えるもの。
しかし、今回のに限っては大きな隙をまた広めているだけにすぎない。


「好きな人にはニコニコして
 そうでない人もそれなりに
 外面だけは内弁慶 世渡りだけは上手」


「あの爺さんから聞いていたし、歌を聞くのは初めてじゃないけど……
 やっぱりすげえ……」


海からみんなに肩を貸しながら上がってくる
長介の声を後ろに聞きながらも私は唄うことをやめない。
519 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:21:15.70 ID:+Qo3lcGpo

「生意気なの生意気なの生意気なの!」

「一番強いのはミキじゃないと気が済まない!」

「だからミキは人間をも超越するあの計画に協力することにしているのに!」

「どうして千早さんはそこで邪魔をするの!」



美希のダガーの先端から炎が放射される。
ついに萩原さんから習得している炎の魔法も
萩原さんでも難しい詠唱なしでの発動に成功する。


私もいくら唄っているからと言ってこれをまともに喰らうのは
ダメージが半端ではないので、飛んで避ける。
520 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:21:41.28 ID:+Qo3lcGpo

「ぐぁぁぁあああっ!?」


しかし、私が回避行動を取る瞬間に
美希はすでに標準を私ではなく長介に向けていた。


「甘いの! いつも自分一人で戦ってきているから忘れちゃったの!?」


長介は敢え無く燃える身体を消すために再び海に飛び込むことになる。
それにしても彼はよくやったわ。
たった2年でよくあれだけ成長したものね。
だけど、今は長介の心配をしている暇なんてない。

521 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:22:32.64 ID:+Qo3lcGpo

「まだまだ!」


再び炎を出してくるのを走りながら避ける。
炎は私を追いかける。


「器量と才能だけで軽く
 こなせる仕事じゃないの だから」


炎の隙間を縫うように走り抜け、美希のダガーを持つ右手を斬りつける。
魔法が上手く成功したからって、いつまでもそれに頼りすぎよ。


何度も何度もその攻撃が通じると思ったら大間違いよ。
それはさっきあなた自信が証明していたはずなのに。
522 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:23:10.79 ID:+Qo3lcGpo

「痛っったぁぁぁあーーーッッ!?」


大きく後ろに飛び退けて距離を取る美希は
手を抑えながら鋭く私を睨みつける。


しかし、あっという間に回復の魔法をかけて回復していく。
やはり最初の戦いで萩原さんの魔法を何個か覚えられてるのは厄介。


美希はすぐに身体強化の魔法をかけ直して走ってくる。
私も同じように突っ込んでいく。
523 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:24:59.35 ID:+Qo3lcGpo

「人に見えない努力なんて白鳥並以上」


「努力なんて……必要ないの! 
 ミキはこの才能だけでも十分に生きていける!!」


それがあなたの敗因となるとも知らずに。
いつまでも他人の力に頼るがいいわ。

524 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:26:38.07 ID:+Qo3lcGpo

「きっと私が一番! でもあなたもソコソコかも
 そりゃ私と比べるから ちょっと分悪いのよ」


私の剣と美希のダガーは何度も何度も音をたてて交わり合う。
さすがの私も唄ってるけれど身体能力を上げた状態の美希のスピードに
だんだんとついていけなくなってあちこちを斬りつけられる。


だけど、剣が交わるそのたびに
美希の顔色はどんどん悪くなり、怒りに歪む一方。


「な、なんなの! この力……! 奪えないなんて!」

「ハァ、ぜ、絶対奪って見せるの……!」


いくらあなたの”オーバーマスター”がすごいとは言え
これは血族の技。
あなたには習得できるはずがない。
525 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:27:43.95 ID:+Qo3lcGpo

「だってスタートラインが
 遥か遠くにあって」


美希の怒りに任せた渾身の一撃を怯まずにギリギリの所で回避する。
隙だらけになった美希の右腕を私は斬り落とした。


しかし、美希はもう怯むことも痛みに叫ぶこともせずに
大量の血しぶきが出る右腕を私の顔に目掛けて振り、
血で目眩ましをしてきた。
526 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:28:12.37 ID:+Qo3lcGpo

だけど、私は美希の飛ばした血が口に入ろうが目に入って
前が見えなくなっても唄うことだけはやめなかった。


「そう簡単には抜けない 
 ある意味出来レースなの」


「なんで……なんで止めないのォ!」


美希は視力の低下した私の顎を蹴り上げ、
よろけた所にすかさずダガーを構えて突っ込んでくる。
527 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:29:34.62 ID:+Qo3lcGpo

美希のダガーは私の出した腕に突き刺さる。
最後の最後で少しだけ見えた美希の動きに咄嗟に反射して腕が出てしまった。
だけど、結果としてこれは見えなくなった相手を捉えることができる好機となった。



「八百長ではなく正々堂々……もちろん」


ダガーは私の腕に深く突き刺さったために美希は身動きが一瞬取れなくなった。
その瞬間を逃しはしなかった私の剣は美希の胸の辺りを大きく貫く。



「ミ、ミキが? ……嘘……なの。げほっ、おェ゙ッ」

528 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:30:06.95 ID:+Qo3lcGpo

肺を貫通しているために美希が大量に血を吐き出す。
私の手にも脚にも顔にも血はかかる。


「ミキが、ま、……けた……」

「ハァ、ハァ。あなたの……負けよ」


私は一気に美希から剣を引き抜く。
刺さった部分からは滝のように血が流れ、
美希は私の腕に突き刺したダガーからも手を離して
その場に崩れ落ちる。

529 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:30:55.40 ID:+Qo3lcGpo

「千早! 急いで! あの船団からの攻撃がやまない!」



同じように倒れこんで腕に突き刺さったダガーを
どうにか引きぬいた私にずぶ濡れの真が足を引きずりながら叫ぶ。
たぶんもうこの島は保たない。


「ハァ……真。い、今行くわ」


剣を地面に突き刺して杖の代わりして歩き始める。
530 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:31:25.51 ID:+Qo3lcGpo

「ハァ、何してるの我那覇さん、早く……」


私が振り向くと我那覇さんは四条さんが再び奪われたことには
もうくよくよして落ち込んだりはしてはいなかった。



だけど、我那覇さんはジッと倒れ込んだ美希を見つめている。


「美希……」



小さくそう呟いた我那覇さんはこの時一体何を考えていたのか、
私はもうそれを一生知ることはなかった。


531 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:31:51.80 ID:+Qo3lcGpo


「ハァ、ハァ。で、でも真、船も何もないのに……どうするつもりだったの!?」

「え? それは千早が何か考えてるんじゃ」

「え? 真ちゃん、何かあるんじゃ……」

「え、ぼ、ボクもてっきり1つは残してくれてるのかと……」


海から上がった長介は魔術式の連絡回線で水瀬さんの所へ連絡を
急いで取り始めるが


「だめだ、攻撃が激しすぎてこっちには降りてこれない!」
532 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:32:17.87 ID:+Qo3lcGpo

「じゃあどうするんだよ!」

「みんな、自分に任せて……! お願い、ハム蔵!!」


地面にペタリと手をつける我那覇さん。
巨大な魔法陣が即座に現れ、中からハム蔵こと、バハムートが現れる。
ハム蔵は傷だらけだった。


ハム蔵は私のことを覚えているのか分からないけれど
ジッとこちらを睨みつけている。
533 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:32:53.76 ID:+Qo3lcGpo

「お願いハム蔵……。みんなを連れて行ってあげて!」

「ハム蔵は人を乗せて飛ぶのを嫌うんじゃ……」

「大丈夫。ハム蔵、これが最後のお願いだから」


ハム蔵は我那覇さんの意図を理解したのか
私達に鋭い視線を向けて乗れるようにしゃがむ。


私と真、萩原さん、それから長介はバハムートの背中に飛び乗る。
どうやらこれで空を飛ぶ船の元へと飛んでいくというわけね。
534 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:33:25.21 ID:+Qo3lcGpo


「我那覇さん、あなたも早く!」


私は手を伸ばす。



「えへへ、さすがに重量オーバーだぞ」



「何を言って……」

「ハム蔵、頼んだぞ」


ハム蔵の首にしてあった金の紋章の入った首輪がはじけ飛んだ。
それがどういう意味か私はわかっていた。
我那覇さんはハム蔵との契約を解除していたのだった。
535 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:34:09.23 ID:+Qo3lcGpo


ハム蔵が飛び立とうとした瞬間、
我那覇さんはゆっくり美希の元へと歩き出す。



美希の元へ。


立ち上がる美希の元へ。


美希の傷は塞がりつつあった。
どれだけ強力な治癒魔法をかければあの傷が治っていくというの……!



身の毛がよだつ程の殺気を纏う美希に
我那覇さんは振り返りもせずに歩く。
536 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 19:34:48.66 ID:+Qo3lcGpo



直感的に感じていた。
いけない。我那覇さんは……。



「千早。みんな。……ありがとう」



バハムートは翼を大きく動かし空へ舞い上がる。



537 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:01:26.60 ID:+Qo3lcGpo

私は飛び降りようとしたが、真に押さえつけられる。



「だめ、我那覇さん!」

「千早! だめだ!」

「放して真! 我那覇さんは! 我那覇さんは……っ」

「分かってる! 分かってるよ!」



真はその綺麗な瞳から大粒の涙をボロボロとこぼしている
その姿を見て私はハッとした。

538 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:02:13.26 ID:+Qo3lcGpo

空を舞うバハムートの背の上で、
燃え盛る島の港で激突する二人を見る。


やがてそれは小さくなり、
火の影となって見えなくなった。



どうして……そんな無茶な真似を。
我那覇さん。あなたという人は……なんで。


誰よりも先に真は声を出して涙を流した。
萩原さんは静かに唇を血がでるほど噛み締め声を殺していた。


剣を握る手は力が入りすぎて剣が折れるくらいだった。
私は……涙が出るのを止めることができなかった。
539 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:02:46.28 ID:+Qo3lcGpo

島を一つ焼きつくす事件は後に帝国内での
反乱分子を産む大きな要因となった。
そして、歴史にまた名を刻まれる事件となった。



バハムートの背の上で最愛の友の犠牲を嘆く私達のことなど
何も知らないかのように太陽は輝く。
540 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:03:19.98 ID:+Qo3lcGpo


私達は空に舞う船へと連れて行ってもらい、
甲板に降ろしてもらった。
その後、バハムートはすぐにどこかへと飛んでいった。


自由に空を飛ぶその姿は雄々しく、陽の光を浴びて美しかった。


私達が船の甲板に降り立ったのを見て中から出てきたのは
高槻さん、水瀬さん、そしてあずささんがだった。



「あ、あずささん……?」

「久しぶり千早ちゃん」
541 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:03:59.88 ID:+Qo3lcGpo

「ど、どういうこと? なんであずささんがここに?」


目を真っ赤にした真は思わぬ人物の登場に大きく動揺していた。


「話すと長くなりそうだから、今はみんなの休息が先よ」


そう言って私達は船の中へと運ばれた。


こうして私達を乗せた空飛ぶ船は
何日かかけて移動を繰り返していた。





………………
…………
……
542 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:04:38.63 ID:+Qo3lcGpo

何日かが過ぎて。
私達を乗せた空を飛ぶ艦隊はとある見知らぬ港へと停泊していた。
島で救助した人達はその前に港から出た3隻と同じ港まで送ってあげたらしい。



私は甲板に出てその空を飛んでいた大船団をぼーっと眺めていた。


あの時、島に襲撃にきた艦隊と同じくらいの数がある。
543 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:05:38.67 ID:+Qo3lcGpo

炎の中、美希に向かう我那覇さんの後ろ姿が忘れられない。
あのあと、あの島はまるごと燃えて、島には何も残らなくなったとか。
あるのは廃墟ばかりになってしまった。


生存者の確認はされていない。



――ありがとう。



折角、やっと友達になれたと思ったのに。
彼女の罪は許されるものではない。


だけど、私は……。
ため息が出る。やるせない思いが胸を締め付ける。
544 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:06:21.03 ID:+Qo3lcGpo
後ろの方にある扉が開いて船の中からは萩原さんが出てきた。



「千早ちゃん? ここにいたんだ」

「萩原さん……」

「うん、あずささんが呼んでるよ」


そう言われて私は萩原さんと共に船の中へと戻った。
船の中のとある船室に集まったのは
私、萩原さん、真、水瀬さん、高槻さん、長介、新堂さん、
そしてあずささんだった。
545 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:06:49.92 ID:+Qo3lcGpo

「そうね、まずは何から話しましょうか」

「ちょっと、あずさ……大丈夫なの?」

「ええ、任せて」


あずささんはゆっくりと話を始める。


「実は私、2年前に千早ちゃん達に助けてもらったでしょう?」

「ええ」
546 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:07:20.09 ID:+Qo3lcGpo

「天空街へ帰るあの瞬間、本当は全部思い出してたの」

「記憶を?」

「ええ、そうよ。思い出したのは直前なんだけどね。私は天界の大天使をしているって」

「え?」



だ、大天使……?




547 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:08:54.63 ID:+Qo3lcGpo

「私があの森にいたのは天界を追放されたからなのよ」


「元々、クロイ帝国が私達神々をも超越した力を
 持とうとしていることを危惧した私達は
 なんとかしてそれを阻止したいと思っていたの」


「だけど、天界の神々のルールとして、人間界に直接の裁きを与えてはならない、
 というちょっと厄介なルールがあって」

「それを破ってまでも神々の地位を保守したい過激派に対して
 私は立ち向かっていたの」
548 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:10:01.42 ID:+Qo3lcGpo
「それで疎ましく思われて天界から追放されて人間界に堕ちた所を救われたの」

「危うく人類は天界に住む神々と全面戦争をするところだったのよ」


なんてこと……。
私達は、あんな適当なお使い感覚で
とんでもない人を助けていたということになるわ。



「そこで天界に戻った私は、私を追いやった人達を
 今度は逆に追い詰めることに成功して、それで私の意見が通るようになったの」


「私は直接は手を出さないけれど、手を貸す、というやり方をすることにしたわ」
549 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:10:27.32 ID:+Qo3lcGpo

あまり変わらないような気がするのだけど、
でも確かに直接は手を下している訳ではないからいいのかもしれない。
あずささんがそこまで話すと今度は水瀬さんが話を始めた。



「そこでどこにも属さない多大な力を持った私の軍隊に目をつけたって訳」

「私もあずさの経緯を知った時は本当に驚いたわ」

「まさかあんたと繋がっているなんて思いもしなかったもの」
550 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:11:00.64 ID:+Qo3lcGpo

「私とのやり取りがあったのはナムコ王国が戦争に負けてすぐのことだったわ」

「だから私達の軍隊はあずさが用意したこの空飛ぶ船で
 文字通り雲隠れすることにしたの」

「少しずつ少しずつ争いの起きている地域を納めて仲間を集めながらね」


私はやっと話が見えてきた。
私達の旅は決して無駄なものではなかった。
551 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:11:53.53 ID:+Qo3lcGpo

「あ、あの……神をも超越っていうのはどういうことなんですか?」


萩原さんが恐る恐る手を上げてあずささんに質問する。
あずささんは私達に教えてくれたのだった、あの計画のことを。



「私達は基本的に神の存在であるから
 地上のことはたいていのことはお見通しなの」

「もちろん普段は干渉なんかしないのだけど……」
552 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:15:07.56 ID:+Qo3lcGpo

「彼らのやろうとしていることはさっきも言ったように
 私達にとっても色々と厄介なのよ」





「帝国の計画していた妖精計画-プロジェクト・フェアリー-とは
 賢者の石を使用して人類、全てを妖精に進化することを意味しているわ」



「妖精とは無限大に魔法を使え、時を超えることも
 人を生き返らせることも、何もかもが可能な存在」

「私達神々ももちろん魔法を使うこともできるのだけど、
 その魔法のルールは人間とほとんど一緒。魔力の強さが違うくらいなの」

「そして、妖精は死ぬことは決してないとされているわ」
553 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:15:34.92 ID:+Qo3lcGpo

「……そんな計画……なんのために」

「帝国の繁栄を常に自分のものにしたいのよ」

「賢者の石を使うには賢者の石という概念そのものを創りだした
 戦術舞踊民族アルカディア達の血が必要なの」

「あなたが小さい頃に村が襲われたのはそういう理由があったから」

「千早ちゃん、もしくはあなたの弟の如月優くんを追ってきたの」


次々と私のことを喋っていくあずささんに、
私は驚いている暇もなくまたしても情報が流れてくる。
554 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:16:10.49 ID:+Qo3lcGpo

真も萩原さんも真剣に聞いている。
長介や新堂さんや他のみんなはもうすでに知っている風だった。



「あなたが記憶もない頃にミンゴスという町に移り住んだのは
 前に住んでいた村が帝国軍に滅ぼされたからよ」

「あなたが生まれた時に住んでいた町、
 いえ、その土地こそが正真正銘のアルカディアそのものだったの」

「……っ」
555 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:16:42.48 ID:+Qo3lcGpo

「千早ちゃんのお父さんやアルカディアの男の人達は最後まで戦い続け
 そして、みんな散っていったわ」

「だけど、千早ちゃんのお父さんは最後にあなたのお母さんをアルカディアから
 逃がすことに成功したの」

「だからあなたのお母さんはミンゴスへと逃げて匿われた」

「そしてあなたはもう知っているはず」

「お母さんがどういう気持ちであなたを助けたことか」

「……はい」
556 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:17:09.03 ID:+Qo3lcGpo

だけど、逃げた先ですぐに軍の追手が来た。
私と優がいつかの高台の上で見つけたあの軍隊。
母を埋めたあの場所で。


帝国のおぞましい計画が明らかになった今、
その猶予はなかった。


水瀬さんが少し落ち着かなさそうに
同じ場所を行ったり来たりしながら話を継ぐ。
557 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:18:30.61 ID:+Qo3lcGpo

「帝国が所持する如月優、つまりあんたの弟の血を使って
 もう少しで発動するところだったのよ」

「そこを響が間一髪で城から賢者の石を連れて逃げ出したの」


「帝国は人類全てを進化さえる先駆けとして
 軍隊そのものを妖精に進化させて、
 神々をも滅ぼして全世界を乗っ取るつもりだったみたいよ」
558 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:19:28.49 ID:+Qo3lcGpo

「まるで占領したナムコ王国なんて興味が無かったって訳。そのもっと先を見ていたのよ」

「そうして全ての支配を終えたあと帝国は人類を全て妖精へと進化させるつもりらしいわ」

「……で、なんだけど。
 先日のヌーの島での戦いで帝国軍にもかなりのダメージがあったと見えるわ」

「手薄になった帝都を守るためにも本体はそっちに行っているはずよ」

「だからこそ、数少ないけれど、王国軍が今こそ立ち上がり、
 帝都へと進軍を開始した頃合いだわ」
559 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:19:58.76 ID:+Qo3lcGpo

「あんたの目的だった弟なら……保証はないけど、たぶん帝都の城にいるわ」

「ええ、分かってる」


優は生きているかもしれない。
そのことを考える度にあいつの顔が頭にでてくる。
天ヶ瀬冬馬。


彼は一体何者なの?
アルカディアの生き残り?
でもお母さんは生きているのはもう私と優だけだと言っていた。


じゃあ本当に……あの男が。
その真相を確かめるためにも私は行かなくちゃいけない。
560 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:20:38.65 ID:+Qo3lcGpo
そして、帝都の城へ行ったら春香も確実にいる。
もう避けては通れない……。
彼女と剣を交える覚悟を決めないといけない。


あの幸せだった日々を、私の大切な思い出を、
自らの手で引き裂かなかればいけない。



「で、あんたはこれからどうしたいの?」


と突然私に振られてびっくりしていると


「何驚いてるのよ。あんたが決めなさい」
561 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:21:07.06 ID:+Qo3lcGpo

「な、なんで私が……」

「馬鹿ねぇ、当たり前じゃない! あんたの元に集まった軍なのよ?」

「この船だってあんたに恩義があるあずさが用意したもの」

「私だって、あんたに諭されてから気が変わったのよ。そこんところは感謝してるのよ……」

「伊織ちゃん……素直になりなよ」

「う、うるさいわね!」


途中からゴニョゴニョと顔を真っ赤にしながら話す水瀬さんに対していう高槻さん。
562 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:21:38.69 ID:+Qo3lcGpo

「それに……私の軍が保持する武器。
 どこから仕入れてるのかちゃんと分かってるんでしょうね?」


確か……私達はそのために水瀬さんの所へ来た。
いえ、水瀬さんの情報をくれたのは。
だから私達は水瀬さんの元へ来た。


「亜美と真美……」

「はい、正解。あいつらも懲りずに商人やってるらしいからね」


そう……あれからまだあまり経っていないけれど、
元気でやっているのならばそれに越したことはないわ。
563 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:22:26.17 ID:+Qo3lcGpo
「まぁ、どうするの、なんて聞いたけれど、
 選択肢はひとつしかないのよ」


そうね、このまま待っていても
帝国の支配が始まってしまうだけ。


「分かったわ……。行きましょう」


助けに行かなくちゃ。優を。
そして、世界を。


私はもう迷いはない。一人じゃない。
きっと我那覇さんだって私を見てくれているはず。
あなたの犠牲は無駄にはしない。

564 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:23:10.21 ID:+Qo3lcGpo

覚悟を決めた私に、水瀬さん、新堂さん、あずささん、
高槻さん、長介、そして萩原さんと真はその視線を私に向ける。



「そう。なら、さっさと指示を出しなさいよ」

「如月、貴様の断ち切った迷い……そして、成長を見せてみよ」

「千早ちゃん、答えはきっと全て繋がっているわ」

「千早さん、私、何もできないかもですけど、すっごい応援してますからね!」

「ま、姉ちゃんには俺も着いてる楽勝だろ、さっさと倒しちまおうぜ」

「千早ちゃん、私も一緒だからね」

「行こう、千早。全部終わらせるんだ」



――千早。自分もついてるからな。



そう、聞こえる。私には聞こえる。もう一人の仲間の声が。
565 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:24:53.29 ID:+Qo3lcGpo


もう私は一人じゃない。
この手で全てを終わらせるために。



「みんな、ありがとう」


「行きましょう。
 全軍、これより、ナムコ王国の本軍と合流しつつ、
 クロイ帝国の帝都へ進軍を開始するわ!」




私達の長い旅と戦いはついに最終局面を迎える。





キサラギクエスト  EP]V  島唄編    END

566 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/18(木) 20:34:09.45 ID:+Qo3lcGpo
お疲れ様です。

小鳥さんはうまい具合に真っ先に逃げてます。
ひどい目にあってるかもしれませんが美希と響は大好きです。


感想や指摘など
読んでくださった方はありがとうございます。
567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/18(木) 20:37:13.23 ID:6pt37iHPo

いよいよ終わりか
568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/18(木) 20:40:18.45 ID:z8I4iu5k0
響いいいいいいいい
いよいよクライマックスやなあ
乙でした
569 :名無しNIPPER [sage]:2013/04/18(木) 21:42:37.52 ID:ZDda0kVAO
乙です
ついにクライマックスですよ!クライマックス!!
570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/19(金) 05:17:32.15 ID:YRmY2VvDO
やべ…響のところで涙が止まらねえ(´;ω;`)グスッ

響は生きてて最後の戦いに参加してくれると信じてるじゃないと響が可哀相だよ特にこれといった活躍もなく兄は殺され親友は奪われいぬ美やハム蔵は美希に痛め付けられ可哀相すぎる
次はいつ頃来てくれるかな楽しみで仕方ないよ
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/19(金) 15:47:57.65 ID:hql0lEgzo
おつ
572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/19(金) 16:42:44.63 ID:wwV8/xixO
乙!
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/19(金) 23:57:05.44 ID:JRr4a+uLo
>>570
そんな事実ばっかり書かれると余計に悲しくなるでぇ・・・
574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/20(土) 09:55:48.96 ID:93VS2uFQo

おつ!
575 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:22:13.95 ID:abMfBsPXo

私、如月千早は旅を初めてもう3年以上経過していた。
母にその身を守られるために遠い村の名も無き人物に売り飛ばされ
しばらくの間、農奴として生活を送る。……はずだった。



しかし、その道中に賢者の石の発動条件である
アルカディア出身の血を狙うクロイ帝国の軍隊によって
弟の優とは生き別れになる。
私は必ず優を取り戻してみせることを誓った。
576 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:23:07.92 ID:abMfBsPXo

苦痛に耐える日々だったが、そこに現れた謎の人物、
春香によって救出され、共に旅をすることになる。


その中で私は生き抜くための強さとして春香に剣を教わった。


春香と旅をしている中で私はナムコ王国を目指していたが、
その王国の敵国であるクロイ帝国の軍隊に遭遇する。
577 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:23:38.24 ID:abMfBsPXo

帝国軍は王国へと奇襲をしかけるつもりだったが、
王国に悟られその土地は一気に戦場へと変わる。


私達はその戦争が
賢者の石を奪い合った先の大戦を
引きずって起きたものだとも知らずに止めに入るが失敗。


そこで春香は私を守り、命を落とすことになった。

578 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:24:23.59 ID:abMfBsPXo

悲しみにくれる中で戦場で出会った王国の大臣である秋月律子に
教えられ王国の勇者の収集に応じることになる。


そこで王直々に下された命令は
私達の止め損ねた戦いの隙をつかれて奪われた王国の姫、
と表の名義ではされている賢者の石、四条貴音の奪還が目的だった。


私はその報酬として弟の優の捜索を依頼しようと考えていたのだった。
579 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:24:50.80 ID:abMfBsPXo

旅の中で出会った菊地真、我那覇響、萩原雪歩を仲間にして
教会に騙されている町を救ったり、
国境付近の紛争地帯では最愛なる高槻やよいの弟である高槻長介と出会い
共に水面下で行われようとした水瀬伊織の計画を阻止したりした。


国境を超えてから森の中で出会った天界から追放されていた三浦あずさと遭遇し
先の大戦を終戦にまで持ち込んだ実力の持ち主である音無小鳥にも出会った。


記憶のないあずささんを天界へ還すために帝国領の未発展地域にある村に行き
ちひゃー、まこちー、はるかさん、たかにゃ、みうらさんなどの小さな種族と出会った。

580 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:25:20.32 ID:abMfBsPXo

転送魔法の得意とするみうらさんの力を借りてあずささんを天界へ帰すと
私達は首都のピンチということでナムコ王国の首都、バンナムに飛んで帰る。


そこでかつての大臣であった秋月律子が
クロイ帝国の手先によって操られて反乱を起こしていたのだった。
反乱を収めるべく帝国の大幹部である天ヶ瀬冬馬、星井美希と激突するが
ここで我那覇さんが敵対するクロイ帝国の幹部の一人だったことを同時に知る。


そして王である高木順二朗は命を落とすこととなった。

581 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:25:53.79 ID:abMfBsPXo

人の死を間近に触れたショックと身体に受けたダメージが原因となって
私は2年もの間深い眠りにつき逃げていた。


その間に戦争に敗北したナムコ王国は大半の領地を奪われることとなってしまった。


魔法を私のために開発して真と協力して萩原さんは私を目覚めさせてくれた。
582 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:26:21.23 ID:abMfBsPXo

王無き今、王の座を受け継いだ律子に会い、
城の図書館の下の隠し部屋にある
四条さんを捕らえていた場所を見つけることがきっかけで
私達は四条さんが何者なのかを知ることになった。


そして、同時にその賢者の石の動力源が私の持っている
アルカディアの血であるということを知る。
583 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:26:54.66 ID:abMfBsPXo


私達はアルカディアとは何なのかを知るべく、
生きている母親がいる私の育った町を訪れるべく旅をまた始める。


町は私を逃した時のお金で買った武器で帝国軍と戦ったが
敗北して、それからはずっと帝国領になっていたという。
その支配権を持っている御手洗翔太を討伐するが、
死んだはずの春香とも再会する。
そして、またしても私は母親を失うのだった。
584 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:27:28.52 ID:abMfBsPXo

悲しみを乗り越え帝都を目指すことにした私達は
道の途中でいつも武器や道具を売ってくれる旅商人である亜美と真美の
亜美の方に出会う。


そこで亜美と真美の過去を知り、住んでいる町を助けるために
その町を統治する帝国幹部の一人、
伊集院北斗を撃退し、牢獄に閉じ込めることに成功する。
585 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:28:14.92 ID:abMfBsPXo

亜美と真美からは紛争地帯の戦闘の集結を目的として作られた有志の軍隊が
危険な状態にさらされているという情報を得て
その軍隊の潜む帝国内唯一の島へと移動をする。


そこで私は賢者の石を使って帝国軍そのものを神と同等か
それ以上の存在にして全世界をも乗っ取ろうとする計画、
妖精計画-プロジェクト・フェアリー-の全貌を知って
賢者の石、四条さんを連れて逃げ出した我那覇さんと遭遇する。

586 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:29:23.15 ID:abMfBsPXo


賢者の石は島へ行く途中、美希に奪われてしまったために
島では美希と四条さん、そして水瀬さんの軍隊を捜索することになる。


帝国の決定で島ごと吹き飛ばすことになってしまい、
私達は島をも焼きつくす業火の中で美希との戦いに終止符を打つ。


島を攻撃する帝国の魔術艦隊に対して為す術のない私達の前に
天空から空飛ぶ船団を指揮する水瀬さんが登場する。
587 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:29:58.17 ID:abMfBsPXo

しぶとく生き残る美希の前に我那覇さんは一人島に残り
その最期を美希と共にした。


空飛ぶ艦隊は天界で力を取り戻したあずささんの支援のもとに
得ることのできたものだった。


水瀬さんの軍による攻撃で帝国軍は多大なダメージを追ったことを
抜け目なく感じ取った律子は直接軍隊を帝都へと向ける。


そして、私達は王国の本軍と合流をし、ついに帝都へと直接向かうのだった。
588 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:30:37.62 ID:abMfBsPXo



空を行く船は、甲板に出ると
風も強く、移動するのにも大変だった。


幸い船の構造はそんな所もちゃんと考えてられて、
中だけで、全て移動ができてしまう。
589 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:32:59.32 ID:abMfBsPXo

水瀬さんは追加されて入った私達に対しても待遇よく、
部屋を一人ずつ用意してくれのだが、
どうにも落ち着かない私達は
少し大きめの部屋にしてもらって3人でいるのだった。


船なのに各部屋には窓がたくさんついていて外の景色が見られるのだった。
窓にべったり張り付きながら真は


「雲の上ってこうなってるんだね」


とお茶を飲みながらほっと一息ついている萩原さんに言う。
590 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:33:37.98 ID:abMfBsPXo

私は真や萩原さんが無理しているのを分かっていた。
一緒に旅してきた仲間が……。


いえ、暗い顔をするのはやめましょう。
だって、我那覇さんはまだ死んだ訳ではない。
生存者はゼロだったいうニュースが流れてきていても私は信じて待たないといけない。


そんな中で突然私達の部屋の扉が開いた。
591 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:34:13.61 ID:abMfBsPXo

「あのー、失礼しまーす」

「高槻さんっ!?」


思わぬ来客に私は椅子から音をたてて立ち上がってしまった。
そんな私に隣に座っていた萩原さんはびっくりしていたけれど。

592 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:35:10.86 ID:abMfBsPXo

「どうしたの?」

「えっと」

「まぁいいわ。さ、入って」


私はすかさず高槻さんを部屋の中に入れてドアを閉める前に
部屋の前、付近に人がいないことを確認しながら戸を閉めた。


私はすぐに部屋の真ん中にあるテーブルの椅子を引いてあげて
高槻さんを座らせてあげる。
593 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:36:13.92 ID:abMfBsPXo

萩原さんにはアイコンタクトでお茶を出してもらう。
湯のみは余りのものを用意して、高槻さんにだす。


「あ、ありがとうございます」


えへへ、と笑う高槻さんは今まで見た人類の笑顔の中でもより一層輝いていた。
594 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:36:41.01 ID:abMfBsPXo

「それで、どうしたの? やよいちゃん」


私を見かねた萩原さんがとうとう話を振る。


「まだ帝都へは着きそうにもないので
 久しぶりに会えたんですし、ちょっとお話したいなーって」
595 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:37:32.85 ID:abMfBsPXo

「本当!? 嬉しいわ。私も高槻さんがやっと私達と一緒に来てくれることを」

「千早。違うって」


真が私の肩を掴みながら首を横に振る。何よ、邪魔をしないで。


「あと、2年前のこと、もっとちゃんとお礼を言いたくて」

「あの……。あの時は本当にありがとうございました」


高槻さんは椅子から立ち上がって頭を深々と下げた。
だけど、私はその姿が嬉しいとは思わなかった。
596 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:38:05.78 ID:abMfBsPXo

「いいのよ……。結局は私達は戦争を止めることにも失敗して
 あなたの町も帝国領土になってしまったのだし」

「ううん、そんなことないですよ! それとこれとはまた別です!」

「別……」

「はい! だって千早さん達はすごく頑張ってくれました!」


頑張った……私が。
高槻さんに感謝されているのに私は……。
今までどれだけの人が犠牲になって、
助けられたはずの人も助けられなくて。
597 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:38:39.61 ID:abMfBsPXo

素直に喜ぶことはできなかった。


「……ありがとう」


私はそう言って部屋を出た。
後ろでは高槻さんが何か不味いことを言ったのかと心配そうに
真の方を見て、真は私の代わりに代弁してくれていた。


真だって同じような気持のはずなのに、
いつもこういう時ばかりは逃げて真に押し付けたりしている。
それも分かっていて、私はまたやるせない気持ちになった。
598 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:39:56.88 ID:abMfBsPXo

船は進み、再び私達は収集をかけられていた。
もうすぐ到着するから出撃する準備を始めて欲しいとのこと。


作戦は私と真、萩原さんを全力で支援する形を
水瀬さんの軍で取ることに。


「見えてきたわ……」

「さあ、みんな、この地図をもう一度見て」


テーブルの真ん中に置かれた地図を囲みながら水瀬さんが説明を始める。
599 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:40:24.05 ID:abMfBsPXo

「この城はお堀に囲まれていて城内へ侵入するのはそうそう簡単なことじゃないわ」

「お堀の外にも内にも大量の軍を構えているはず」

「私達が雲の上から奇襲することはとっくにバレているだろうから
 ここはあえて、雲の上から行くのをこの私達が乗っている一隻に絞るわ」

「他の船は王国軍と合流して攻撃をかけることになったわ」

「私やあずさ、やよい、それから長介以外の兄弟なんかは
 一番奥の出撃しない船にこれから移動することになっているわ」


水瀬さんは地図の上にたくさんの船の模型を起き始める。
600 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:41:29.64 ID:abMfBsPXo

「いい? 今私達の乗っている船はこれよ」


とそれぞれがいる、または移動する船のだいたいの位置を指で差す。


「一応雲の上にいるから安全だけど、襲撃されてもすぐに連絡取れるように
 長介が設定してあるから大丈夫よ」

「それじゃあ長介も一緒に行くということ?」

「いや、違うよ。俺も下に降りて爺さん達と一緒に戦うよ」
601 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:41:58.18 ID:abMfBsPXo

「すぐに連絡の着くように家族間の念話くらいの魔法は姉ちゃんと一緒に勉強したんだ」

「そう……ならいいのだけど」


念話というのは家族間のもの限定らしい。
何より魔法は血が関係しているものが多く、
同じ血の通う兄弟ならば尚更繋がりやすいとのこと。


「それじゃあ、千早。幸運を祈っているわ」
602 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:42:25.37 ID:abMfBsPXo

「ええ、ありがとう」

「千早さん……」


高槻さんが心配そうな目でこちらを見ている。
私は高槻さんの頭を撫でてあげた。
603 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:42:58.42 ID:abMfBsPXo


「この前はごめんなさい……。
 ありがとう、高槻さん。私、あなたのおかげでもう少し頑張れそう」

「……っ! はい! こっちこそありがとうございます!」


ガバっと高槻さんは私に抱きついてきて
胸に顔を埋める。


「絶対帰ってきてくださいね」

「ええ、任せて」
604 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:45:17.36 ID:abMfBsPXo

その様子を見てあずささんがこちらに近づいてくる。



「千早ちゃん。私はもうこれ以上は直接、手を下すことは
 ルール違反になってしまうから何も教えることはできないけれど」

「あなたの信じる道を……まっすぐ進みなさい」

「はい、ありがとうございます。あずささん」


そう言うとあずささんと高槻さんは部屋から出て行った。
605 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:45:53.96 ID:abMfBsPXo

そうして少し騒がしかった船内はあっという間に静かになった。
彼女達はもう別の船に移った頃なのかしら。


「如月。私と小僧でお前たちの道をあける」

「小僧っていうのやめろってのに……。ああ、俺達にまかせてくれ」


長介の実力は美希と戦った時に明らかになっているし、
船に乗ってからも彼はずっと自分の身体を鍛え続けていた。
606 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:46:25.77 ID:abMfBsPXo

そして、言うまでもなく新堂さんの戦闘力は折り紙つき。
本当にこの二人は頼もしい限り。


私達の乗っている船は雲の切れ目ぎりぎりまで高度を下げて、
城の付近の戦場の状況を見守っていた。


城を囲むように大量の兵が配備されていて、
お堀の外にも内にも大量の人がいた。
607 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:48:38.19 ID:abMfBsPXo

この人数を神をも超える存在である妖精に変えられるなんて
たまったものじゃないわ。


そして、時は一刻と過ぎていき、ついに下では戦争が始まった。
私達の最後の戦いが始まったのだった。



私達は作戦上、まだ上で見ているだけだったので
この戦争が始まってしまったことに実感を持てなかった。
608 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:51:16.07 ID:abMfBsPXo

「本当に始まったんだね」

「ええ、私達の手で、終わらせるのよ」


そう言いながら私達は下の戦争の様子を
逐一の報告を受けながら待機を続ける。


「まだだ。時を見定める……」
609 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:51:46.77 ID:abMfBsPXo

ある程度、王国軍が押して、城へ近づかないと私達が
城へ降りていった所で挟み撃ちにされるだけだからこうして待機している。。


真と長介は落ち着かない様子で下を見下ろしていた。


私はあの城に行けば、優と会えることを考えていた。
だけど、同時に春香にも会うことになる……。
610 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:53:35.98 ID:abMfBsPXo

春香は……私はどうやって倒せばいいの。
彼女を倒す術は私にはあるの。
歌を歌いながら戦ったとしても勝てる自信がない。


彼女のあの不思議な魔翌力。
あの重力を操る力に勝つためには
一体どうしたらいいのだろうか。
611 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:54:10.35 ID:abMfBsPXo

そして、一度は死んだはずの春香が生きていたということが
私は嬉しいと共に、同時に裏切られてしまったという感情があり、
またしても複雑な気分になっていた。
それはとても言い表すことのできない。


だけど、私は優を助けるのであれば、
それを邪魔するものを排除しなくてはいけない。
例えそれが春香だったとしても。
612 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:54:52.16 ID:abMfBsPXo

真と長介はいつの間にかスポーツの観戦のように
拳を振ったり、貧乏揺すりしたりと興奮している様子だった。


空飛ぶ船に苦戦を強いられる帝国軍に対して
王国はどんどんと押していくのだった。


「さあ、行くぞ……! 我々もここで呑気には見て入られまい」

「はい!」

「突撃をしかけるぞ!!」
613 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:56:37.77 ID:abMfBsPXo

新堂さんの指揮のもと、私達の乗っている船は急下降を開始し、
一気に城の前へと降り立つ。


私達の乗ってきた船からは次々と人が飛び出し、
本軍と合流するチーム、そして、城を目指すチームの2つに別れて
進軍を開始したのだった。


「行くわよ、真、萩原さん!」

「ああ、行こう!」

「うん!」
614 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:57:52.77 ID:abMfBsPXo

「姉ちゃん達の道は俺と爺さんがあける!」


長介は剣を盛大に振ると私達に向かってきた帝国軍を数十人単位でなぎ倒した。
同じように新堂さんはとても一般の兵士じゃ太刀打ちできないような
動きをして次々と人を斬り裂いていく。



二人の開けてくれた道を私達は走り抜ける。城へと向かって。
帝国軍は数に限りなく現れ、私達の前に立ちはだかる。
615 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 09:59:19.89 ID:abMfBsPXo

その度に長介と新堂さんは剣を振るい、鬼のように暴れまわる。


私達は何時間もかけて進軍を続け、そして、ついにお堀の前へと到着した。
後方の王国軍がどうなってるのかも気になるけれど、
私達は振り返ることを許されなかった。


「のこのこと現れおって……! 撃てェェーーーッ!」


城の塀から次々に顔をだす帝国軍が一斉に矢を私達に放つ。

616 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:00:19.11 ID:abMfBsPXo

この矢の雨……一本ずつ落とすには無理があるんじゃ……。


「私に任せて……。”インフェルノ”ォーーーッッ!」


矢の雨に対して果敢に踊り出る萩原さんは
業火の魔法を即座に唱え、矢の雨を全て消しずみに変えてしまった。

617 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:01:07.27 ID:abMfBsPXo

「ハァ……、このお堀を渡ればいいんだよね!?」

「ええ、でも、萩原さん、無理はしないで!」

「うん、まだまだ大丈夫だから」


萩原さんは珍しく、目の前に魔法文字を書き始める。
これは私達が援護しないと……!
618 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:01:58.63 ID:abMfBsPXo

「今、地盤を作りなおして、このお堀を全部埋めてあげます……!」


「奴ら、何かするつもりだぞ……! 例の奴の起爆を始めろぉ!」


城の中にいる帝国軍は一斉にもう一度私達に矢を向ける。
しかも今度は普通の矢ではなく火のついた矢を。
619 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:02:32.08 ID:abMfBsPXo

「撃てェェーーーーーッ!」


「不味い……!」


しかし、その矢は私達の遥かしたを行き、全く的外れの方向へと飛んでいった。


「な、なんだ全部外れ……」
620 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:03:40.58 ID:abMfBsPXo

その瞬間、地面を大きく揺らす爆発音が聞こえる。
帝国軍は土系統の魔法を使ってくることを予想していたらしく、
お堀の内側に、ちょうど私達の立っている真下に
爆弾を何十個もしかけておいたらしい。



お堀のすぐ近くに立っていた私と真と萩原さんは
その視界には堀の下の水と向かいの岸しか見えていなかった。
だが逆に言えば、城にいる帝国軍からは
向かいの岸にいる私達も見えていれば、
その真下の地面にむき出しで産めらた爆弾も丸見えだった。
621 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:05:37.10 ID:abMfBsPXo

地面を崩された私達は次々と堀の水の中に落ちていく。
私も同様に水の中に落ちてしまう。



「うわぁぁあ!」


「崩れる……!」
622 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:07:13.46 ID:abMfBsPXo

不味い、このまま水面に顔をだしていたら的になってしまう!


「どうする……! 千早! なんとか脱出しないと!」


真は一緒に落ちてきた帝国軍の何人かを
水面に浮きながらも殴り飛ばしている。
623 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:09:40.42 ID:abMfBsPXo

だけど、考えている暇なんてなかった。
水面に浮く私達に向けてすぐに矢が大量に飛んでくる。
味方だっているはずなのに躊躇いも何もなく打ち込んできてる。


その瞬間、私達の上空を一つの影が通る。
あれは……!
624 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:10:47.10 ID:abMfBsPXo

「ハム蔵……!?」

「なんだあのバハムートは! 撃ち落せ!」


帝国軍はすぐに飛び回るハム蔵に矢を放つが
すいすいと避けて旋回して私達に突っ込んでくる。


「あれに捕まって!」
625 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:11:27.48 ID:abMfBsPXo

「ひぃぃい、ま、真ちゃん〜〜!」

「雪歩!」


飛んでくるバハムートの足に捕まる私と真。
しかし、高速で飛んでくるバハムートが怖かった萩原さんは
真の足にしがみついていた。


「……ゆ、雪歩……! さすがにそれは、キツい!」

「頑張って真、もうすぐだから」
626 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:11:55.11 ID:abMfBsPXo

私達のことなんてお構いなしにぐるんぐるんと旋回を続けながら
飛ぶバハムートはようやく私達を城の中へと放り込んだ。


少し大きめの窓だったが、木で封じられている所へと私達は投げ込まれた。


「痛っい……! もう少し優しくできないのかしら……!」

「いてて、さすがは響のバハムートだよ……」

「それもそうだね……」


3人は立ち上がり、その部屋がどういうものか知る。
ここは……。誰の部屋か……。
627 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:12:22.60 ID:abMfBsPXo

「我那覇さんの部屋……?」

「あんな風に窓を木材で打ち付けて陽の光も浴びないで
 ここで過ごしてたのかなぁ」


部屋の中は私達が突っ込んでくる前から多少荒らされていて、
だいたいのものは捨てられていて、残されたのは空の本棚。
机、ベッドだけだった。
628 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:12:49.02 ID:abMfBsPXo

だけど、私達はここが我那覇さんの部屋だってのはすぐにわかった。
何もないけれど、確かにここに彼女はいた。



机の中の引き出しをなんとなく開けるとそこには一冊の日誌のようなものが。
私は黙って手に取り開く。


その日誌は過去に色々としてきたものの報告書が全部書いてあった。
こんなものいつの間に書いていたんだろう。
知らなかった。
629 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:13:26.53 ID:abMfBsPXo

『初めての任務。後ろから見てるだけだった。はやくにぃにをたすけないと』

『にぃにのハム蔵といぬ美が言うことを聞いてくれない。どうしてだろう』

『ハム蔵といぬ美と仲直りした。最初は怖かったけど二匹とも大好き』

『新しくワニ子を捕まえた。優しくて強くていい奴!』


パラパラとページをめくる。
630 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:13:57.69 ID:abMfBsPXo

『美希が上司になった。何を考えてるかよくわからない人。ちょっと怖いかも』

『町を占領した。たくさん人を傷つけた。早くにぃにに会いたい』


ページに血がこびりついていた。


『任務に失敗して怒られた。にぃにが助かるならこんな罰は平気』

『美希から指示を受けた。今度の任務は潜伏』

631 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:15:33.68 ID:abMfBsPXo

私の名前が初めて出てきた。


『千早の仲間になれた……っぽい。けどまだ疑われてるのかも』

『真と喧嘩した。初めて喧嘩した。真は強かったぞ』

『雪歩のお茶はいつも美味しい。また頼めばさんぴん茶淹れてくれるかなぁ』
632 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:16:40.16 ID:abMfBsPXo

『千早がいらないって言った剣をもらった! 
 でも捨てなきゃいけなかった。嬉しかったのに』

『真は”真の勇者-アイドルマスター-”ってのになりたいって言ってた。
 かっこいいから自分もなりたい』

『雪歩が怪我した傷をすぐに治してくれた。いつも優しくて素っ気なかったり
 意地悪言わないでくれるから好き。残りの二人も好き』

『楽しい』



日誌はここで途切れていた。
ここから彼女ももしかしたら忙しくなったのかもしれない。
633 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:18:22.33 ID:abMfBsPXo

我那覇さん……。


いつか萩原さんにも会う前の、初めて彼女に会った時のことを思い出す。
モンスターに襲われている私達を助けてくれた。


そしてまた彼女の最期の後ろ姿を思い出す。
……どうしてあんな無茶な真似をしたのよ。


あなたという人は本当に馬鹿よ。
634 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:18:53.28 ID:abMfBsPXo

馬鹿でどじでまぬけで臆病で何にも考えてなくてうるさくて
すぐに疲れたとか言うし、いらないお節介もするし、
一人で全部抱え込んで……私達を守って……。


私こそ……本当の大馬鹿者だわ。
またありがとうもごめんねも言いそびれてしまった。



「千早……」

「ええ、分かってるわ。行きましょう」
635 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:20:04.35 ID:abMfBsPXo

私達は何も言わずにその部屋を出た。
まずは私達は階段を登る。
上の方に行けばきっと帝王もいれば春香も……そして、優もいるはず。



そして、戦争を止めるには……トップの首を取らないといけない。


「いたぞ!! こっちだ!」

「しまった、見つかった!」
636 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:22:49.28 ID:abMfBsPXo

私は剣を抜き、真は構え、萩原さんは魔法の準備をした。
こんな雑魚の一般兵を相手にしている暇なんてないのに。


私達は次々と出てくる城の中の警備兵達をなぎ倒して進む。


そうして、城の出口にたどり着いた。
まずは、城門への跳ね橋を降ろさないといけないわ。
637 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:24:42.31 ID:abMfBsPXo

私は一人の敵を捕まえ、脚に剣を突き立て、


「城の跳ね橋を降ろすにはどこへ行けばいいの!」

「ぐ……あ、あの階段だ……。上へ行けばレバーがある……」


そして、それだけ聞くと剣を引きぬき、斬りつけた。


「千早……今のは生かす所じゃ……」

「いいのよ別に。急ぐわよ」
638 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:26:53.72 ID:abMfBsPXo

さすがに跳ね橋を降ろすわけにはいかない帝国軍は
かなり厚めに守りを固めている様子だった。


「”凍てつけ”!」


萩原さんの氷の魔法で跳ね橋のレバーまでの道のりを
封鎖する敵達をいっきに凍らせる。


私達は凍って動けなくなった敵の間を縫うように進み
階段を上がっていく。
639 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:27:23.54 ID:abMfBsPXo

階段の上まで来て、レバーを前に真が腕まくりをしながら


「よーし、ボクに任せて!」


とレバーを引いている隙に、凍って動けなくなった敵を一人、上から蹴り落とす。
敵は一つ下の段にいた敵にぶつかり倒れる。
そいつはまた下にいる敵にぶつかって……とドミノ倒しのようにして敵を一掃する。
640 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:30:46.98 ID:abMfBsPXo

「よし、これで跳ね橋は降りるはずだ!」


そう言って真は跳ね橋を動かすレバーを蹴って折った。
これで、作戦通り、跳ね橋を上げにきた人がいても
簡単には上げることができないわ。


跳ね橋が降りたことにより城の正門を破るのも時間の問題。
互いの兵力、数は互角。
だけど、水瀬さんの軍はとにかく一人一人が強い。
641 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:31:31.63 ID:abMfBsPXo

城が落とされるのもやはり、時間の問題かもしれない。


「みんな、これに乗って!」

「ち、千早……それ……」

「いいから、時間がないわ!」


私達は全身氷漬けの身体の大きな敵を見つけ、
その上に乗って、ソリの容量でいっきに階段を降りた。
642 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:32:21.48 ID:abMfBsPXo

城の正門に滑って降りてきた私達の前にいた。
これで私達の役目はほとんど終わっているはず。
あとは城内の掃除は国王軍に任せましょう。


「王を始末するわ!」

「うん!」

「ああ、行こう!」


城の階段を登る。城の中はまるで迷路みたいになっていて
あちこち行ったり来たりした。
643 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:33:04.72 ID:abMfBsPXo

その度に敵に見つかっては、斬って捨てて。
倒して乗り越えて。


ようやく、それっぽい扉に到着した時にはもう3人とも息が上がってきている頃だった。
だけど、こんな所でへこたれてちゃいけない。
まだ、この先にもっとキツい戦いが待ってるのに。



扉を勢いよく開ける。
部屋は綺麗な赤い絨毯の敷かれた部屋で天井も高く、
いかにも帝王が座っていそうな部屋だったが、
そこには誰もいなかった。
644 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:33:41.48 ID:abMfBsPXo

「くっ、逃げられた……!」

「まだだよ千早……! この城を探すしかないんだ」

「見つけたぞ、ここまで来ていたか!」

「ひぃっ、ま、また来たよ、真ちゃん! 千早ちゃん!」


帝国軍が部屋に雪崩れ込んでくる。
私達は最後の力を振り絞り、戦う。
645 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:35:14.01 ID:abMfBsPXo

「ハァ……。こ、これで最後よ!」


一人の敵を剣の鞘で殴り抜く。
吹っ飛んでいった敵は壁を壊してその奥に消えていった。


「い、”癒し”を……!」

「ハァ、ありがとう萩原さん」

「見て、千早。今ので壊れた壁……!」
646 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:36:28.35 ID:abMfBsPXo

壊れた壁の向こうにはまだ先があった。
隠し扉? 隠し部屋!?
何にせよ私はその部屋へと繋がる新しい階段を見つけていた。


「こっちだ。登ろう! きっとこの上にいるはず!」



「さすが、千早。よく気がついたね。
 自分の案内がなくても平気だったか……」


えっ?
647 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:40:42.63 ID:abMfBsPXo

私達が振り返ると、そこには我那覇さんが
王室の入り口に立っていた。


「が、我那覇さん?」

「響、どうして、いや、どうやって生きて」

「えへへ……。恥ずかしいんだけど、美希を倒したあと
 ベヒーモスが必死に助けてくれて」
648 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:44:11.26 ID:abMfBsPXo

あの業火の中をよく生きていられたわね。
本当に良かった。ん……?
ベヒーモス? 


「響……?」

「待って真っっ!」


真が我那覇さん向かって走りだす。
しかし、私が叫んだ瞬間には、
萩原さんは杖を思いっきり振って真の動きを止めた。
649 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:45:58.23 ID:abMfBsPXo


急に足が地面から離れなくなった真は思いっきり転んで顔面を強打していたけれど。
いつもの萩原さんなら焦って謝りまくるのに
そんな気配一つも見せなかった。


我那覇さんはいぬ美のことをベヒーモスと呼んだりなんかしない。
あの業火の中……。ここまで執念で生き残るとは……。
私達の宿敵ながら最強を誇るだけはある。
650 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:46:39.81 ID:abMfBsPXo



「ふっ……。あはははは!! あはははははは!」





我那覇さんの甲高い笑い声が聞こえる。


「ねえ、ねえ、雪歩」

「ねえ、なんで分かったの〜〜〜? あはははははは!」

「完璧じゃない? ねえ?」
651 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:47:22.24 ID:abMfBsPXo


突然笑い出す我那覇さんからは全くの別人のオーラが溢れ出す。
我那覇さんのよりも、もっとドス黒くて、
恨みへ負の念が強く籠ったオーラが。



「ま、まさか……」

「違うよ。千早ちゃん。真ちゃん」



「よくも……よくも響ちゃんの身体で……!!」



萩原さんの言葉に耳を疑いかける。
だけど、あの人物ならばそれも可能にしてしまうということを私は知っていた。
小悪魔のようで悪魔の。
最悪にして最強の盗賊。
星井美希ならば。
652 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:49:50.46 ID:abMfBsPXo


「よくも? よくも〜〜? 雪歩は人のこと言えないの」

「ミキの顔にあんな傷つけてくれて……絶対に許さないの」

「でも、やっっっっと、殺せるの」

「ねえ、雪歩……。ミキがちゃーーんと殺してあげるから覚悟してね」


「殺して殺して殺して殺して殺して殺して
 殺して殺して殺して殺して殺しまくるの」



けたけたと我那覇さんの身体で笑う美希。
私は剣に手をかける。
しかし、その瞬間、萩原さんは私の手を取り、首を横に降った。
653 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:51:16.02 ID:abMfBsPXo

「千早ちゃんは先に行って。間に合わないかもしれないんだよ!」

「ここは私と真ちゃんに任せて……」


真も起き上がり、美希を牽制しつつ、こちらにアイコンタクトを送ってくる。
654 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:53:08.00 ID:abMfBsPXo

「幸い、美希ちゃんの狙いは私だし、きっと大丈夫」

「で、でもあなた震えて」


いるじゃない、と言おうとした時、
萩原さんはそっと私の口元に人差し指を持ってきて「それ以上は言わないで」
と目で訴えていた。
真の方を見ると、グッと親指をたてていた。
655 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:53:47.74 ID:abMfBsPXo

「……絶対に、無事でいてね」


私はそれだけ言うと振り返らずに穴の空いた壁に走りだす。


「あれ〜〜? 誰が行っていいって言ったの!?」

「”炎”なの!!」

「”イクシアダーツサムロディーアー”」
656 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:55:30.41 ID:abMfBsPXo


美希が私の背に向けて出した炎は
萩原さんの魔法によって一瞬にして消え去った。


ありがとう。


私は二人を残して階段を駆け上がる。
また必ず会えると信じている。





657 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 10:59:32.38 ID:abMfBsPXo




〜〜菊地真Side〜〜



千早が穴の向こうの隠し階段に消えていき、
王の部屋に残ったのはボクと雪歩の二人だった。


なんとか傷つけないで、倒す方法はないのだろうか。
響の身体……。きっと、響は戻ってくるはず!
658 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 11:02:41.69 ID:abMfBsPXo

「雪歩。もしかしたら美希を倒せば」

「うん、私もそれを考えてたの」


美希が身体能力を上げる魔法を自分にかけると同時に
雪歩はボクにもかけてくれていた。
659 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 11:05:19.53 ID:abMfBsPXo

「”雷槌”なの!」

「壁に!」


雪歩の元へと美希が電撃をいっきに飛ばすが、
雪歩は地面を盛り上げて壁を自分の前に作り出してガードする。
660 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 11:07:00.47 ID:abMfBsPXo

「たぁぁあーーーッ!」


ボクは美希の顔に向かって思いっきり蹴りを入れようとした、
だけど……この身体は響ので。


「……うっ」


思わず勢いが弱まる。
そこを美希はすかさずボクのボディに蹴りを入れる。
たぶんこの蹴りのフォームは……ボクのもの。
自分で自分の蹴りを食らうがやっぱりキツいなぁ。
661 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 11:07:46.68 ID:abMfBsPXo

「”泡”よ!」


雪歩は吹き飛ばされて壁に激突する瞬間に、
ボクと壁の間に泡を作り、クッションを作ってくれた。


「サンキュー雪歩」

「”雷槌”なの!」
662 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 11:09:09.28 ID:abMfBsPXo
間髪入れずに美希の電撃が走ってくる。
ボクは横っ飛びでなんとか避ける。


「”氷”よ」


雪歩の魔法で美希の足元が凍りつく。
そこにボクは突っ走り、飛び蹴りを食らわせる。
663 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 11:11:01.20 ID:abMfBsPXo

そうだ。この身体は響のものでも、
今は美希が操っている……!
早く割り切らないと今度はボクがやられる!


そしたら雪歩だってやられちゃうかもしれない。
そんなのは嫌だ! ボクはもう伊集院北斗と戦った時に決めたんだ。
足手まといになるのなんて御免だ。


そのためにボクが壊れようが構いやしない。
664 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 11:12:15.96 ID:abMfBsPXo

「たぁぁぁ!」

「ぐっ!? なのぉぉ!」


美希はボクの蹴りを食らいながらもその足を掴んで
身体の捻りだけでボクの身体を投げ飛ばす。


空中でなんとか体勢を建てなおす。
665 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 11:13:07.40 ID:abMfBsPXo

美希はその間に炎の魔法で足の氷を溶かし始めていた。


「さ、さすがに無意識のうちに習得していた技だから
 魔法の効力を保つので精一杯なの……」


「その魔法は一体……」

「この魔法……。まさか」


雪歩が突然目の前に魔法文字を走らせて何かの解読を始める。
美希は自分の足を溶かすのにいっぱいでそれに気がついていない様子だった。
666 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 11:13:33.64 ID:abMfBsPXo

このまま美希の足を黙って溶かすわけにはいかない。
ボクは美希に怒涛の連続攻撃をしかける。


「うおおおおっ!」

「じゃ、邪魔しないで欲しいの!」
667 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 11:17:45.01 ID:abMfBsPXo

美希の出してくる電撃や炎をかいくぐりながらも攻撃を続ける。


「もう! ”氷”なの!」


美希の氷の魔法を食らえばボクも美希と同様動けなくなる!
足元を狙った魔法を空中に飛んで避ける。
668 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 11:19:08.51 ID:abMfBsPXo

「かかったの! ”雷槌”なのおおお!」


宙に浮いたボクを美希は電撃の魔法で撃ち抜く。
しまった。足元の魔法は囮だった。
美希は氷の魔法をなんて使おうともしていなかった。



「うあああああッ!」


「真ちゃん!」
669 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 11:19:57.96 ID:abMfBsPXo

雪歩がすぐに駆け寄ってきてくれて魔法で回復をしてくれる。


「美希ちゃんのこの魔法……。魂だけをこの身体の中に憑依している魔法!」

「どういう原理で、誰のものをコピーしているのかはわからないけれど」

「真ちゃん……! 少し時間稼ぎできる!?」
670 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 11:22:35.33 ID:abMfBsPXo

「何かあるんだね? 任せて!」

「うん、これで決めてみせる」


雪歩の言葉を信じて、痛みの残る身体をなんとか奮い起こす。


同時に美希の身体も身動きが完全に取れるくらいにまで
治ってしまっていた。
671 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 11:26:27.50 ID:abMfBsPXo

「真くんも美希と同じ目にあえばいいの!」


美希の出す炎が顔面目掛けて飛んでくる。
またしてもギリギリの所でかわす。


雪歩は少し離れた所で長そうな魔法文字をずっと書いている。
たぶん、かなり大きな魔法で雪歩自信も文字を書いてみないと分からないのかもしれない。
672 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 11:29:45.51 ID:abMfBsPXo

「何してるの!」

「させないよ!」


さすがに雪歩に気がついた美希は
何かをしようとしているということを察したみたいだった。
だけど、そこをさせないのがボクの役目なんだ。

673 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 11:30:48.21 ID:abMfBsPXo

「邪魔しないでって言ってるの!」


ボクの攻撃も美希はなんなくガードしてしまう。
多分、こうして戦っているうちにボクの攻撃方法なんかも
マスターしてしまって、その上で見切ってるのかもしれない。


さっきからどんどん攻撃が通用しなくなってきてる。
674 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 11:33:09.17 ID:abMfBsPXo


「なのっ!」


美希のボディーブローがボクに炸裂する。
怯んだ所に回し蹴りが飛んでくる。


「ぐあっ!?」


吹き飛んでいきそうな所を響の服を掴んでこらえる。
そして、引っ張った勢いで頭突きをかます。

675 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 11:33:34.86 ID:abMfBsPXo

「いっだぁぁあ!?」


美希は少し後退りするもののすぐに体勢を立てなおして


「いい加減にするの! ”氷”なの!」


ボクは足元を凍らされて身動きが取れなくなる。
676 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 11:34:39.79 ID:abMfBsPXo

「しまった……!」

「ハァ、やったの。さっきのお返しなのーー!」


美希に何度も何度も顔面を殴られる。
だけど、手を動かせない訳じゃないから
ボクだって殴り返す。


足がうまく踏ん張れない分、威力は弱いけれど。
美希にタコ殴りにされる。
677 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 11:37:08.52 ID:abMfBsPXo

「ハァ、ハァ、すっきりしたの……」



「ハァ……ミキはね。ミキの”オーバーマスター”の可能性を
 信じていて良かったの」


美希はそう話しだした。
一体なんのことを言っているんだ。
678 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/04/30(火) 11:41:09.99 ID:abMfBsPXo

「真くんはミキ的には本当にかっこよかったけれど、
 でも、そこの雪歩を[ピーーー]にはまずは真くんをボコボコにしないといけないの」

「だから、もうお終いだよ」


ボクだってそう簡単にやられるものか。
思い出すんだ……。
679 :>>678 訂正 [sage saga]:2013/04/30(火) 11:44:19.56 ID:abMfBsPXo


「真くんはミキ的には本当にかっこよかったけれど、
 でも、そこの雪歩を殺すにはまずは真くんをボコボコにしないといけないの」

「だから、もうお終いだよ」


ボクだってそう簡単にやられるものか。
思い出すんだ……。
680 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 11:46:52.44 ID:abMfBsPXo

雪歩の魔法によって自我が崩壊したあの”迷走mind”を。
圧倒的なパワーを誇ったあの戦闘状態を。


今、自ら引き出さないといけない……!


「ボコボコにされるのは……そっちだ!」

「はぁぁっぁああ……ッ!!」

681 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 11:47:30.33 ID:abMfBsPXo

ボクはもう雪歩のことなんて見えなかった。
いや、たぶん美希以外に見えているものは何もないくらいに
ただ直感だけで動いていたのかもしれない。


美希は近づいてきた所を狙う!



美希はただ無表情で”迷走mind”状態のボクの攻撃を次々と受け止めていく。
ボクは自分のコントロールが効かなくなってしまっている状態だったからこそ
わからなかったが、美希の口が何やら動いていた。
682 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 11:50:36.41 ID:abMfBsPXo

そう。やはり彼女は天才だった。
”オーバーマスター”の真髄は何も見て覚えるだけではなかった。
攻撃を喰らうことで、口にふくむことで、味を知ることで、
そして、歌を聞いて覚えていた。


見て、聞いて、感じて、全ての五感を駆使して習得していた。
人智を超えた習得能力。




彼女の口は動いていた。
歌を唄っていたから。




683 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 11:52:20.39 ID:abMfBsPXo



「かっこ悪いわよ
 アタシを堕とすのバレてるの」


ボクの攻撃は全く通じなかった。
何もかもが読み取られているかのように
全てお見通しのようだった。



美希はもう受け止めることもせずにただひらひらとかわしていく。
しかも最小限の動きでかわして全く体力も消耗していない。
684 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 11:53:26.29 ID:abMfBsPXo

「カッコつけたところで
 次に出るセリフ計画Bね」


ついにボクの攻撃を避けながらも反撃を加えてきた。
ボクはあっという間に劣勢に追い込まれ次々と殴られる。


美希のそのパンチのスピードはとても目で終えるようなものではなく
ボクはガードするだけのものになってしまった。
685 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 11:54:11.82 ID:abMfBsPXo

「優しさ欲しいと思ってる?
 やっぱアンタには高嶺の花ね」


もっと、もっと攻撃だけを!
今雪歩が頑張ってなんとかしてくれているんだ……!


「心に響き渡らなくちゃ意味がないのよ!」
686 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 11:54:44.43 ID:abMfBsPXo

美希は唄うことによってそのテンションはさらにヒートアップしていく。
パンチの速度もキックの威力も段違いに跳ね上がっていく。


こ、これが……アルカディアの力……。
だけど、どうやって力を手に入れたんだ。
あれは血族の技……。


「Thrillのない愛なんて
 興味あるわけないじゃない
 分かんないかな……」
687 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 11:56:14.09 ID:abMfBsPXo

だ、だめだ。もう意識が持たない。
これ以上、無意識で戦うにはキツすぎる。


まだ雪歩が……。


「Tabooを冒せるヤツは
 危険な香り纏うのよ
 覚えておけば?」
688 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 11:57:02.48 ID:abMfBsPXo

高速の美希の打撃の中で
一瞬、美希の目に涙が見えた。


……響?


「Come Again!」



しかし、考える間もなくボクは吹き飛ばされ動けなくなった。
美希の完璧なフィニッシュがボクに炸裂する。
689 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 12:02:44.25 ID:abMfBsPXo


そして美希は未だに文字を書き連ねる雪歩に
ゆっくりと歩み寄る。


もうかなり限界なのかもしれない。


美希は雪歩の首を締め
壁に叩きつける。
690 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 12:04:59.57 ID:abMfBsPXo

「うぅっ……」

「ハァ、早く……早く死ぬの」


それでも雪歩は書くのをやめない。
またしても雪歩の首を締め上げる。



「ハァ、ハァ……ッ! 早く落ちるの!」
691 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 12:06:06.94 ID:abMfBsPXo

「うっ……。ふっ」

「? 今笑った? ミキを笑った!?」

「お、お待たせて真ちゃん……」


王の部屋が急に揺れ始める。
いや、城全体が揺れている!?
692 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 12:07:15.02 ID:abMfBsPXo

「な、何をしたの……ゔッ!?」


突然美希は雪歩からも手を話して
苦しそうにもがきだす。


美希の、いや、あれは響の身体。
響の身体は光を帯びていく。
693 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 12:07:57.21 ID:abMfBsPXo

「や、やめるの……! ハァ、ここから追い出されたらミキは!」

「ミキは……!!」

「そうだね。もう終わろう……美希ちゃん」

「なんなの!」


美希は苦し紛れで最後にダガーを
雪歩に投げつけた。
694 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 12:08:46.71 ID:abMfBsPXo

雪歩はそれを避けもしなかった。
ダガーは雪歩の顔面の横を通り抜けて壁に突き刺さった。
まるで当たらないことを分かっていたように微動だにしなかった。


「ハァ、ああああ……!」

「あぁ……ああああああああ゙あッああああ!」


響の身体からは光が一粒現れ、
そして、空中で散布していった。
695 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 12:11:35.20 ID:abMfBsPXo

「お、終わったの……?」


ボクのやっと絞り出した一言に雪歩も頷くだけだった。
雪歩はすぐにボクの足を解凍してくれた。


ボク達は……ついにあの美希を倒したのだった。
最後まで見苦しくも生き残り、
ボク達に牙をむき続けた星井美希はここに消滅した。
696 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 12:12:24.08 ID:abMfBsPXo


彼女が何故アルカディアの血が流れていなくても
アルカディアの能力が使えたのか。
予想ではあるけれど血の成分を一からバラバラにして
全部調べあげたのかもしれない。



美希はヌーの島での千早との戦闘でかなり千早の血も浴びている。
それを口に含んだか何かして血を覚えたのだろう。
そして、アルカディアと同じ血を体内で創りだしたのか
それとも似たような能力を自分の血でもできるように書き換えたのか。
697 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 12:15:54.62 ID:abMfBsPXo

初めて会った時はおばあさんの格好をしてボク達を騙してきた美希。
本当に恐ろしい敵で、ボク達の史上最強のライバルだった。


ボクは無意識に敵である美希に、
その執念と圧倒的な力を尊敬した。
698 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 12:16:24.73 ID:abMfBsPXo

ボクと雪歩は響の看病を始める。
美希が魂に乗り移っていたおかげで身体の方は
未だに機能を続けているが、
響の魂自体はまだ眠ったままだった。



雪歩に話を聞くとどうやら美希は完全に響の魂をも押さえつけて
身体を乗っ取っていたらしい。
このままではほぼ死体と同じで身体が腐っていってしまう。
どうにかしないといけないけれど、どうしよう。


氷漬けにして保存するのは生命の維持が難しそうだし。
何か……身体が腐らないように保存できればいいのだけど。


699 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 13:36:27.41 ID:abMfBsPXo




〜〜如月千早Side〜〜






私は壊れた壁の向こうに現れた階段を登る。
登った先の扉をゆっくりと開く。


「うい、貴様か。我々の邪魔をしているという輩は」
700 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 13:38:05.26 ID:abMfBsPXo

この男……。
その隣にいるのは天ヶ瀬冬馬!


「ついにここまで来ちまったのかアンタ」

「当たり前よ。私にはやるべきことがある」

「やるべきこと? この私の首を取ることか?」


余裕そうに椅子に座っている。
この男こそが、クロイ帝国、現帝王、黒井。
701 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 13:40:13.78 ID:abMfBsPXo

「はぁぁあ!」


私は剣を抜き、黒井に飛びかかる。
しかし、あっという間に私との間に天ヶ瀬冬馬は割り込む。


「いかせる訳がねえだろうが」
702 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 13:40:46.48 ID:abMfBsPXo

「やっぱりまずはあなたから……倒さないといけないようね」

「あなたが何故、私の……私達の能力を使えるのかも分からないけれど」

「それはこっちの台詞だ……何故あんたは俺と同じ能力を持っている」


鍔迫り合いの中、私と天ヶ瀬冬馬は言葉を交わしている。
703 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 13:41:41.32 ID:abMfBsPXo

「ククク……。愚かだな。冬馬。お前も気づかないのか?」

「あ? 何がだ!」


互いの剣を弾いて私は一度距離を取る。


「お前達の悲しい運命に……」


ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら話す黒井に苛立つ。
704 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 13:42:11.74 ID:abMfBsPXo

それと同時に私はまたしても嫌なことを思い出していた。
それだけはないと信じていたいが、
この天ヶ瀬冬馬という男。


今亡き母からの教えで
この能力が使える人間はもうこの世には私と優しかいないということ。


だとするとやはりこの男は……。
705 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 13:43:48.88 ID:abMfBsPXo

「冬馬。お前、確か兄弟がいたな」

「 !? 」


やっぱり……。
受け入れたくない。でも、この男は……。


「ま、まさか……本当に。あなたが私の弟だというの?」

「は、はぁ!? おい、どういうことだおっさん。俺には兄弟なんて」


黒井という男はニヤニヤとしながらも
ゆっくりと語りだす。
706 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 13:44:37.93 ID:abMfBsPXo
「なぁに、簡単なことだ。冬馬。お前の使える能力は
 とある血を持って生まれた人間のみが使える能力なのだ」

「つまり、貴様らには何らかの血縁関係がある……」

「ば、馬鹿な……!」

「やっぱり……優だったのね」

「違う! 俺は優なんて名前じゃない!」

「俺は……! 俺は天ヶ瀬冬馬だ!」
707 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 13:45:43.10 ID:abMfBsPXo

「ククク……。冬馬、やはりまだ修行が足りないな」

「何!?」

「あぁ、お前は立派な天ヶ瀬冬馬だ。その通りだよ」

「お前には立派に幼少の頃の記憶もちゃんとあるはずだ。うい、そうだろ?」

「あ、あぁ」

「ククク……。ちょっとおもしろいと思って揺さぶりをかけただけだ」

「単なるジョークだよジョーク」


剣を交える私達を余裕そうに見ている。
一体何が目的なのよ。
そしてその天ヶ瀬冬馬を揺さぶるような言動に特に意味などなかったのだった。
708 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 13:46:21.61 ID:abMfBsPXo

「じゃあどうして私と同じ能力が使えるのよ」

「何故……だと思う?」

「……」

「……」




「天ヶ瀬冬馬は自分の血液で生きている人間ではないからだ」



「 !? 」
709 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 13:47:48.35 ID:abMfBsPXo

「何……だと?」


自分の血液で生きている人間じゃ……ない?
しかも、この天ヶ瀬冬馬の反応。
知らなかったというの!?


しかし、そんなことどうでもよくなるくらいの衝撃が私を襲う。
私が求めていた、答えが。



「我々のミスでな。格好の悪い話だが、お前の弟。
 如月優は死んだ。自分で死んだんだよ」

「我々の素晴らしい計画の全てを話した時に」

「自ら命を断った」
710 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 13:48:23.93 ID:abMfBsPXo

嘘……。
優が。


「計画に使われてしまうくらいならばと言ってな」


もう死んでいた?
たぶん、この言い方はもうずっと前から死んでいた。


じゃあ私の……生きている意味はなんだったの?
旅をしてきた意味はなんだったの?


私は何をしてきたの?



あの子が生きていないんだったら……私は……。
711 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 13:48:58.45 ID:abMfBsPXo



――千早。


――千早ちゃん。


――千早!


……。


みんなの呼ぶ声が聞こえる。
712 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 13:49:25.80 ID:abMfBsPXo


そうよ。もう迷わないと決めた。
こうなることも薄々分かっていた。


もしかしたら本当はもう死んでしまっているんじゃないかって。
あんな風に連れ去られてしまって、
生きている可能性が1%かもしれないって。


でも私はその1%に賭けて旅に出たんじゃない。
優を探しに来たんじゃない。
713 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 13:49:56.59 ID:abMfBsPXo

その1%の賭けに負けたら、私の旅は全て意味なんてなかった?
そんなの嘘。


私には……この旅でたくさんのものを失った。
失って失って……。



それでも大切なものを得ている。



私は襲いかかる頭痛にふらつく足でなんとか堪える。
714 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 13:51:01.33 ID:abMfBsPXo

黒井はまだ話を続けている。
まだ続きが存在していた。



「そう、お前の弟は死んだ」

「間違いなく死んだ」

「だが、肉体はまだ微量ながらに生きていた」

「私達はそこに確実に漬け込んだのだ」

「特殊な液体を生成し、肉体が腐らずに
 長らく保存できるようにしていたのだ」
715 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 13:51:30.47 ID:abMfBsPXo

「だが、そんな身体にアルカディアの血液を残していては
 腐って使い物にならなくなってしまう」

「だからこそ、全て移したのだ」

「死にぞこないだったそこの器にな」



そう言って、天ヶ瀬冬馬を指差した。
716 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 13:52:04.22 ID:abMfBsPXo

「器……? 俺が。器だと!?」

「そうだ。貴様には最初から何の期待もしていなかった」

「アルカディアの血に馴染み、その能力が使えるようになったのだって
 つい2年くらい前なだけではないか」

「おっさん……。俺に何か隠してやがると思っていたが……」

「そんなこと隠してやがったのか!」

「口には気をつけろよ! 貴様を生かしてやったのは誰だか忘れた訳じゃあるまい」

「ぐっ……」
717 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 13:52:53.19 ID:abMfBsPXo

「冬馬。素晴らしいことを教えてやろう」

「お前を負かしたのはそこの女なんだよ。冬馬」

「何を言ってやがるおっさん!」

「そこの奴こそが、先の大戦が始まるきっかけとなった
 あの森の戦闘の時……。お前を瀕死に追いやったのは……」

「そこの女だ」
718 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 13:53:26.16 ID:abMfBsPXo

あの時。
私は春香を追い森へ入り、
春香の追っていた国王軍だと思って話しかけたら
帝国の軍隊で、その小隊が私を殺す時に
真っ先に私と戦わされたあの少年。


天ヶ瀬冬馬は剣を持っていた。
固く握りしめ私を睨みつけていた。


そしてその目を見た時、私は思い出した。
私が初めて倒したあの少年のことを。
719 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 13:55:48.56 ID:abMfBsPXo

「どうやらお前たちは……奇妙な運命にあるようだな」

「では、私はこれから賢者の石を使いに行く。
 やっとこの時がきたんだ」
 
「石の力を使い、まずは忌々しいナムコ王国の連中を皆殺しにする」

「すでに冬馬からは少量の血液を採取してある」


小さなガラス瓶の中に入れてある血液を私に見せる。
あれが優の血液。もしかしたらあれを元に戻せば……!
720 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 13:56:15.04 ID:abMfBsPXo


「うおおおーーッ!」


その動作に気を取られた私に天ヶ瀬冬馬が飛びかかってくる。
私は彼を傷つけることはできない。


彼の血こそが、優の血であるならば……。
その血を元に戻せば。
優は生き返るかもしれない。
721 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 13:57:30.95 ID:abMfBsPXo

黒井はゆっくり立ち上がってまた奥の部屋へ消えてしまった。


「待ちなさい!」

「余所見してられるとは余裕だな……!」

「俺はな、あんたのせいで。女に負けただの散々馬鹿にされまくって」

「ここまで登り詰めているんだ!」


再び私と天ヶ瀬冬馬の剣は鋭い音をあげて交わる。
722 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 13:58:14.04 ID:abMfBsPXo

「それは私の優の血が入ったから強くなっただけよ」

「うぅッ! ま、またこんな時に……」

「は? うゔッ!? な、なにこの頭痛……!」


天ヶ瀬冬馬が急に頭痛で剣を落としたかと思いきや
私にまでそれが感染してきた!?
どういうこと!?


何この頭痛は!
723 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 13:58:42.06 ID:abMfBsPXo

「や、やめろ……。そうか、やっと分かったぞ!
 やっぱりこの頭痛はお前の弟のだったのか!」

「出てくるな! 消えろ! あ、う、ぐおおおおおッッ!」


天ヶ瀬冬馬が藻掻いて苦しそうにすればするほど
私も同じように苦しみが飛んでくる。
だけど、今、なんて?
何を言っているの!?

724 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:00:27.59 ID:abMfBsPXo

頭の中からガンガンと鉄の固まりで殴られてるような
鋭い痛みに悲鳴をあげる私と天ヶ瀬冬馬だった。


しかし、その痛みが引いていく頃には
天ヶ瀬冬馬はただ私の目の前で棒立ちをしているだけだった。


まだ痛みがあるというのにどうして平気なの!?




「……お姉ちゃん」



725 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:00:56.96 ID:abMfBsPXo

私はその言葉に耳を疑った。
しかし、その言葉の意味する所を直感的に察知していた。


「優!? 優なの!?」


身体や見た目は天ヶ瀬冬馬なのに、この口調、この感じ。
分かる。
これは優。
間違いない。
726 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:02:37.33 ID:abMfBsPXo

でも、もしかして……身体だけなの?
私はすぐに天ヶ瀬冬馬の身体に乗り移っている優に近寄る。


「だめだ、すぐに離れて。ごめんね、冬馬さん」

「すぐに返すから……」

「お姉ちゃん久しぶり。会いたかったよ」


その言葉を私はずっと待っていた。
ずっと探していた言葉だった。


私は……この瞬間のためだけに今を生きてきていた。

やっと!


やっとたどり着いた。

727 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:03:41.98 ID:abMfBsPXo

「優、私……!」

「待って。聞いてお姉ちゃん」

「僕はもう身体は死んでいるんだ。
 魔法でできた特別な液体に入れられているけれどもう死んでいる」


え? い、今なんて言ったの?
死んでいる?


「今は血液が全部この身体にあるおかげで
 簡単に魂も移住できているんだ」

「あの身体はもう持たない」
728 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:04:42.80 ID:abMfBsPXo

私は全然追いつけていなかった。
頭の中の整理が追いつかない。


天ヶ瀬冬馬の口は優の優しかった口調で喋りかけてくる。


「だけど、お姉ちゃんを冬馬さんが殺すのを
 少しだけ阻止してみたり色々と自分なりにサポートはできたと思うんだ」

「僕は……賢者の石がこの世なくなればこの身体からは出て行くつもり」

「そしたらもう、完全に僕という存在は消える」

「あの賢者の石をすぐに壊して、お姉ちゃん」
729 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:05:17.04 ID:abMfBsPXo

あの天ヶ瀬冬馬の口とは思えないほど弱々しい言葉だった。


「待って、優! で、でも……賢者の石を使えばあなただって元に」

「違うよお姉ちゃん。分かってるでしょう? もうとっくに」

「それはあの帝王がしようとしたことだよ。同じになってしまう」


優に手を伸ばそうにも
一歩退いて私から避ける。
730 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:05:52.89 ID:abMfBsPXo

「僕はお姉ちゃんと引き離されたあの日。
 この城にすぐに連れて来られたんだ」

「ずっと牢屋に入れられて過ごしてきた」

「賢者の石を手に入れるためにナムコ王国に
 攻め込もうとした時に、この計画を全て教えられた」


そして攻めこんでいたあの森で春香は殺された。
731 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:06:56.58 ID:abMfBsPXo

「僕が何であるのかも。どうして生かされているのかも」

「だから僕は舌を噛んで死んだんだ」

「だけど、その死に方が不味かった」

「血の流れる死に方をした僕は血を1滴残らず摘出されて移植された」

「この身体にね」


「僕は朦朧とする意識の中でそこに気がついて
 魂をなんとか踏みとどまらせて、この身体の中に隠れて住むようになったんだ」

「ずっと賢者の石を狙う隙を伺いながらね」

「それは結局は失敗してしまったけれど」


732 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:07:42.23 ID:abMfBsPXo

優は死んでいた。
もうとっくの昔に。
こんなのってあんまりじゃない。


酷すぎる。


この世界は私になんの恨みがあるというの……。
どうして私にこんな使命を与えたの。


どうしたらいい。
優がいる天ヶ瀬冬馬をここで殺さないといけない。
だけど、彼は帝国の人間。
どうしたら止められる。
733 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:08:09.45 ID:abMfBsPXo

もしかしたら彼を……。



「優。私に任せて。私が……なんとかしてみせる」

「お姉ちゃん、無理だよ! この人は何よりも忠義に厚い」

「あの帝王を裏切ることはできない!」

「いいから……退いて」
734 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:09:11.40 ID:abMfBsPXo

私の真剣な眼差しをあびて
優は一度目を閉じて深く息を吸った。


「変わってないね。自分で決めたことは絶対に曲げない。
 昔からそう芯が強かった」


優はもう覚悟を決めたようだった。
私に全てを託すための覚悟を。
735 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:09:38.59 ID:abMfBsPXo

「お姉ちゃん。それじゃあこれでさようならだ。
 僕とはもう、一生会えない」

「分かってるわ」

「ねえ、お姉ちゃん。僕の夢……覚えてる?」

「勇者になること。でしょう?」

「うん、結局僕はなれなかったけれど。
 でも、お姉ちゃんがもう代わりになってくれてるからそれでいいか」
736 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:10:40.83 ID:abMfBsPXo

「私はそんな勇者なんて強いものじゃ、もう到底ないわ」

「ううん、お姉ちゃんは立派な勇者だよ」

「優」

「何? お姉ちゃん」

「助けられなくてごめんね」

「……」




優は困ったように少し笑ってみせた。
顔は天ヶ瀬冬馬そのものだったけれど、
私には優の姿がはっきりと見えていた。


これが最後のチャンス。
優と言葉を交わす最後の。
737 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:14:07.46 ID:abMfBsPXo
欲を言えばもっと話したかった。
色んな話をして真や萩原さんや我那覇さんを紹介したかった。


思い残すことはたくさんある。
だけど、最後に彼に会えたことで少しは私は
報われたのかしら。


母との約束は守ることができなかった。
ごめんなさい。
また怒られるかしら。


そして、優が再び目を閉じた時、
私達には同じように激しい頭痛が走る。
738 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:15:16.29 ID:abMfBsPXo


「ハァ、ハァ……あいつ! あれがお前の弟か」

「ええ、そうよ」

「名を如月優」

「私のたった一人の大切な弟」


「そうか……。だが、俺にはもう関係ない」

「俺はあんたを殺さないといけない」
739 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:16:12.53 ID:abMfBsPXo
「待って。落ち着いて話を聞いて」

「おかしいと思わないの!?」


「あなたという器はもうあの帝王にとってはもう必要のなくなった存在よ」

「あぁ!?」


すぐに落ちている自分の剣を拾い上げる天ヶ瀬冬馬。
しかし私はそれを目の前にしても剣は構えなかった。
740 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:17:10.08 ID:abMfBsPXo

「彼はもうあなたを捨てるということよ」

「何よりも忠誠を誓っていたはずのあなたをも」

「自分の目的のために」

「ハッ! 関係ねえ。おっさんの計画はゆくゆくは人類全員が
 妖精になる計画だ。今ここで必要とされなくても俺も妖精にまで進化すれば」

「私はあなたが必要」


言葉を遮るように話す。
そう、私は彼が必要。例え何度も剣を交える結果になろうとも。
741 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:17:44.34 ID:abMfBsPXo

私には必要だった。いえ正確に言うのであればこの帝国にこの人は必要。


天ヶ瀬冬馬はより一層警戒しだす。


「な、何を言い出すんだお前」

「あなたには生きていて欲しい」
742 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:18:11.64 ID:abMfBsPXo

「……っ! ふざけんな! 
 結局お前は自分の探していた弟が俺の中にいたから、
 だから、俺を生かしておきたいんだろう!?」

「俺が死んだらお前の弟も消えちまうからなんだろう!」

「そんな安い嘘で俺が必要だと!? 舐めるのも大概にしろ!」


天ヶ瀬冬馬はそう私を怒鳴り散らす。
743 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:18:51.46 ID:abMfBsPXo

「確かにそうよ。でも優は違うわ」

「あなたのことをあなたの中でこの数年間見てきて、
 全てを知っているのよ」

「優はあなたならばアルカディアの力を悪用することもないと」

「アンタに何が分かるんだ!」


天ヶ瀬冬馬は剣を握り、私に向かう。
だけど、その剣は単純でいつものこの人の剣とはまるで別だった。
荒っぽくて、ただの刃物を持った子供みたいだった。
744 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:19:25.13 ID:abMfBsPXo

「私は分からない。だけど、優は分かると言ってくれていた」

「あなたに……やって欲しいことがある」

「あなたにこの国を任せたいのよ」

「……っ!?」


再び後ろに飛び、私と距離を取る天ヶ瀬冬馬。


「ふざけんな。何が目的なんだ」
745 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:19:58.00 ID:abMfBsPXo

「俺達はずっと敵同士で戦い続けていたはずだ」

「今起きているこの戦いで負けたらアンタ達は帝国をまるごと飲み込むつもりだろう!」

「じゃあ……どうして私達が負けた時には全て飲み込むことはしなかったの」

「それは俺には関係ない。おっさんが決めたことだ!」


「私が現王女である、秋月律子に直接話すわ。
 彼女は話の分かる人よ。私にまかせて」

「俺達の計画を邪魔するのならば……排除するのみだ!」


再び剣を握り直す天ヶ瀬冬馬だった。
746 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:20:30.94 ID:abMfBsPXo

「その計画に何の意味があるというの!!」

「あなたは不死の身体を手に入れて何をするの」

「何もかもが可能な身体を手に入れて
 何をしたいと言うの! それに何の意味があるの!」

「……」


天ヶ瀬冬馬は言葉に詰まった。
私は自分の思っていることをただぶつけるだけだった。
あの計画は間違っている。
747 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:21:38.20 ID:abMfBsPXo

「そんなもん知るか! 手に入らない力を手に入れて何が悪いんだ!」


「望んだ力が赤の他人の血が身体に流れているおかげで手に入れたものだと
 そう今更知らされた俺の気持ちがあんたに分かるのか!」


「その気持ちだって私達人類が妖精にでもなればあっという間に
 その無限の魔法の力で知ることができてしまうわ!」


「それともあなたこそ、ずっと戦ってきた相手の中にずっとずっと探していた
 弟の魂だけが取り憑いていた姉の気持ちを知りたいの!?」


「やっと友達になれたと思ったのに自分だけ犠牲になって助けてくれた時の
 気持ちを知りたいの!?」


「黙れ、そんなもの俺も一緒だ!」
748 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:22:45.82 ID:abMfBsPXo


天ヶ瀬冬馬は剣を私の首に突きつける。


「知りたくないんじゃない」

「何もかもが可能になってしまう人生が楽しいというの!?」

「私は確かに辛い思いもした」

「だけど……それが全部不幸には繋がらなかった」

749 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:23:21.74 ID:abMfBsPXo

「私がずっと旅をしてきて得たものは
 あなた達の言う妖精の魔力ではそう簡単に手に入るものじゃないわ!」

「あなたの仲間だってそうのはずよ」

「あなたが思い描く自分の国も簡単にはその通りに行くわけがないし、
 今あるこの帝国の姿が簡単に成り上がるものじゃないわ」

「それでもあなたは……魔法を一回だけしか使わずに
 大事な仲間も、理想郷もつくり上げたいの?」


天ヶ瀬冬馬は言葉に詰まっている。
750 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:23:50.02 ID:abMfBsPXo

「だって……この国は元々一つの国だったのでしょう?」

「お互いにいがみ合うのはもうやめましょう」

「敵はもっと別の所にある」

「あなたが理想とする国をお構いなしに
 潰そうとしているのは誰!?」

「戦乱を世に招いた賢者の石を己の私欲のために使い、
 今、さらなる血を流そうとしているのは誰!?」

「あなただって帝王のやり方には疑問を持っていたんじゃないの!?」
751 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:24:17.48 ID:abMfBsPXo

「だったらそこから目を背けてはだめよ!」

「私の親友は目を背けずに戦ったからこそ
 命を落としてしまった……!!」

「私達のために命を……!」 

「そんな悲しい思いをまだ生み出そうというの!?」


「私はそれを……全てを止めにきた」
752 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:24:50.30 ID:abMfBsPXo

「確かに優を取り戻したい。生きていて欲しかった」

「だけど、もう間に合わない! 優はこの戦いが終わったら
 あなたの身体から出て行くつもりでいるわ」

「この国を本当に見ていて」

「この国を知っている人でなければ帝国側の管理はできない」



「そのために俺を利用するってのかよ」

「そうよ」
753 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:25:52.21 ID:abMfBsPXo

「きっぱり言いやがって……」

「ふざけんな! 俺はな、仲間の翔太も北斗もやられてんだぞ!!」

「だからそれはお互い様よ」

「私だって大切な人をあなた達に殺されたわ」

「……ッ!」

「悲しみの連鎖を、
 苦しみの痛みを、
 いがみ合い涙を流すのは……」



「もう終わりにしましょう」



754 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:26:23.64 ID:abMfBsPXo




「クソがぁぁぁあああああッッ!!」



天ヶ瀬冬馬は振り返り、壁に向かって力の限り剣を振るった。
壁は吹き飛び、その威力は城が揺れるくらいのものだった。


「ハァ……。キレイ事ばっかり言いやがって、ハァ」

「クソッ! クソ!クソ!」

「お前が全て正しいみたいな言い方しやがって……」

「俺はな、ずっと……ずっと国のために戦い続けてきたんだぞ」

「それが正しいと信じて……」
755 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:26:52.82 ID:abMfBsPXo

「お前の言う通り疑うこともあった。だけど、見ないふりをしてきた」

「俺は……そんな自分が許せなくもあったんだ」

「だけどなぁ! こんな簡単にはいそうですか、で
 お前ごときに任せられる訳がねえんだよ!!」

「あなたの気持ちが根は私と同じなのよ」

「全て守りたかった。そうでしょう?」

「…………」

「あとのことは私に任せて」
756 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:27:46.87 ID:abMfBsPXo

「このあとのことはあなたには辛すぎる」


それは彼自信がずっと支えてきた帝王の抹殺を意味していた。
彼さえ殺せばこの一連の事件は丸く収まるはず。


あとはもう私が、なんとかしなければいけない。


「……アンタ。……どうしてそんなに強いんだ」


いつか、私も春香に聞いたことがある言葉だった。
私はそんなんじゃない。


「私は強くなんてないわ」

「自分のことだけで精一杯よ」
757 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:28:55.94 ID:abMfBsPXo

天ヶ瀬冬馬はそれだけ聞くとため息をついて、その場に座り込んだ
そして、黒井が消えていった扉の向こうを指さしていた。


「行け」

「……」

「お前の正しいと思う世界を俺に見せてみろ」

「ありがとう」
758 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:29:23.91 ID:abMfBsPXo


「俺だってたくさん失っちまったんだ」

「もう失わないために……今度は守らせてくれよ」


「ええ、共に……」


私は天ヶ瀬冬馬の横を走り、通りすぎていこうとした時。


「なぁ、もうひとつだけ聞いていいか」

「何?」
759 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:30:07.12 ID:abMfBsPXo



「俺の小さい頃の夢ってさ、立派な勇者になることだったんだ……
 って言ったら笑うか? 俺は今、どう見えてるんだ」



……。
そっか。
だからこの人は優の器になっていたのかもしれない。


「立派よ。立派な”勇者-アイドル-”よ」



それだけ言い残して、私は壁の奥の階段を登りはじめた。
彼には私はこの戦いが終えることができるのであれば、
中立の協定を結ぶための協力を頼もうとしていた。
760 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:31:00.71 ID:abMfBsPXo

それは決して優が天ヶ瀬冬馬の中にいたからという訳ではない。
優はどの道、もうあの身体の中にいるのは申し訳なく思ってるだろうし、
長居しすぎてしまっているためにもう居座るのはやめようと思っているはず。


それから他にも彼にお願いしたのはまだ理由はあった。
彼は私が何度も生死を懸けてぶつかり合った敵ながらにして
その剣筋からしてよく知る人物でもあったからだった。


長い廊下を走り、階段にさしかかった。



誰もいない静かな階段を登り終えて最後の部屋にたどり着き
その扉をゆっくりと開ける。
761 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:31:26.89 ID:abMfBsPXo


「こ、これは……」

「何……この部屋は」

「研究室……?」




分からない。
だけど、部屋は大きな機械がたくさん置いてあった。
最新鋭の魔法で常に動いている仕組みだろう。
その大きな部屋の中央には巨大な水槽がのような、
謎の液体の中でたくさんの管に繋がれた一人の男の子がいた。
762 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:32:07.21 ID:abMfBsPXo

「……優……?」


身体は細く、だけど、身長はずっと伸びていた。
私の想像をするよりもずっと身長が伸びていた。
このよくわからない液体の中でずっと過ごしていたのかもしれない。
だからこんなにやせ細ってしまった……。



一歩、私は優に近づく。
目を開ける気配が全くない優に向かってもう一歩。
763 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:32:33.75 ID:abMfBsPXo

だけど、これはもうあの子はいない。
この身体はもう消滅しなければならない。
魂と一緒に。


私はただ、眠る優を眺めるだけだった。
ゆらゆらと液体の中で眠る優を。


その部屋の奥には四条さんが磔にされていた。
早く救い出さないと……!

764 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:33:18.10 ID:abMfBsPXo

「おめでとう……やっと、ゴールしたんだね」


「っ!?」


私達が来た扉のほうを向くと、
そこには……頭に真っ赤なリボンをしている人の姿が。


私のかつての親友でも、恋人でも、親でもある、
天海春香だった。

765 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:33:56.59 ID:abMfBsPXo


「千早ちゃん……ここまで来たんだね」

「春香……。どうして春香はそっちにいるのよ……」

「昔っから千早ちゃんはわからないことがあればすぐに質問をするよね」

「素直でいいと思うけど」


春香は少し笑ってみせた。
その笑いはとても乾いたもので私を馬鹿にしてるかのようにも聞こえた。
766 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:34:30.26 ID:abMfBsPXo

「どういうこと……教えて春香」

「あなたはどうして……生きているの」



春香は少し拗ねた振りをしてみせた。


「私が生きてるのがそんなに悪い?」

「いいよ、教えてあげる」



春香はやっとあの事件の日のあとの話を始めてくれた。
767 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:34:59.18 ID:abMfBsPXo

「私ね、助けてもらったんだよ」

「帝国軍に」

「あの時、遺体が回収されたって……」

「そうだよ。あの時ね、私は確かに死んでいた」


「でも、帝国軍に間違って拾われて死体の置き場にいた
 私をある人が見つけてくれたの……」

「黒井社長だよ」
768 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:35:37.49 ID:abMfBsPXo

「あの人は純粋な黒魔術が得意でね」

「しばらく死んだ者達はみんなアンデッドとして蘇ったてたの」

「あの人は不死に対する執着心が異常でね。そういう研究もしていたんだって」

「私達、創られたアンデッドはその後、帝国の城の秘密裏に創られた施設で
 何度も何度も実験を繰り返された」


「耐久性、耐熱性、色んな実験をした」

「でもね、次々にアンデッド達はもろく崩れ去っていった」

「最後まで残ったのはたったの3人」

「その3人はどうなったと思う?」


春香は意地悪そうに笑って問いかけてくる。
769 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:36:50.86 ID:abMfBsPXo

「妖精計画の先駆け、実験台になったんだ」

「帝国はすでに実験を始めていたの」


まさか……それじゃあ……春香は。
春香は今……その身体は!


「私はそうして実験に成功した。
 死んだ人間から、人を超えて、神も超えて」


「もうワンランク上のSランクの存在。妖精になったんだよ」



「ねえ、すごいでしょ千早ちゃん!」

「その気になれば空も飛べるんだよ!?」
770 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:38:04.83 ID:abMfBsPXo

やめて……春香の顔をして、
そんな狂気に満ちた笑顔を向けないで。


「妖精の最大の力、魔力」

「人間は未だに、術を唱えないと魔法が発動できない下等種族」

「でも私はもう違うの」

「欲しい物は何でも手に入る。私が望めば思い通りになる!」

「I want……。そこに跪いて!」

771 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:39:00.42 ID:abMfBsPXo


「ゔぅ……ッッ!?」


お、重い……! また重力で縛り付けられたような感覚。
解除できない! ま、不味い……。


「……ッ!」


近寄ってきたが城は外からの攻撃によって揺れる。
春香はその衝撃でバランスを崩す。
772 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:40:18.09 ID:abMfBsPXo

春香がそのまま体勢を崩して、転んだために
私達の術は解除されたのだった。


「ハァ……ハァ。春香。どうしてこんなことを」

「だってもう必要ないもの。私の……天下を取る時が来たんだよ千早ちゃん」

「私は戦争を亡くす……!」


春香は私の少しばかりの体力回復にも当てられない時間稼ぎの問に応える。

773 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:40:48.40 ID:abMfBsPXo

「帝王は戦争によって戦争をなくそうとした」

「でもそれって矛盾してるよね?」

「それから妖精計画の最終段階。人類を全て妖精に進化させる」

「この段階で千早ちゃん達のことを聞いたんだ」

「そしたら……千早ちゃん達は妖精にはしないで殺すって言ったの」

「だから私のような力を求める帝王も……こうしてやったわ」


そう言って春香が取り出したのは
人の頭だった……。
774 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:41:21.01 ID:abMfBsPXo

たぶんあれは帝王のもの……。


「ほら見て。こうやって首を切断しただけで
 血を一定量流しただけで、簡単に死んでしまうの」


ぽいっと捨てると私達にまた一歩近づいてくる。


「時は来たよ。黒井社長が全て準備を終わらせてくれた」

「この部屋で全ての調整を終えた所を私が殺した」
775 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:42:59.93 ID:abMfBsPXo

「私は黒井社長と違ったやり方で戦争をなくそうとしている」

「黒井社長は自分や自分の軍のみが妖精に進化して
 世界を支配しようという計画だったよね」

「でもその実、どこかで自分達だけで進化しようとしていた所があったの」


「だけど私は違う。そんなセコいことしないよ」

「みんな、みーんな、妖精になるの」

「少し時間がかかるかもしれないけれど、
 私はもう不死だし、貴音さんも死ぬことはないでしょう?」

「こうしてる間にも誰かが死んでいるかもしれない」

「だから邪魔をしないで千早ちゃん」

「一刻も早くみんなを進化させないと」
776 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:44:28.84 ID:abMfBsPXo

「千早ちゃんを殺そうとする人間は誰もいらない」

「そんな人が出るならば私が殺す」


世界中の人々を全員いっきに妖精に進化させようという春香。
だけど、そんなこと私は。


「私は……」

「私は……そんなこと許せないわ」

「どうして? 千早ちゃん」
777 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:45:02.50 ID:abMfBsPXo

春香は本当に分からないと言った風だった。
そのとぼけた言い草も私は腹がたった。



「千早ちゃんも願ってくれたでしょう? 戦争を止めること」

「だって、千早ちゃんは現にそのために
 こうやって旅をしてきたんでしょう?」

「私とじゃなくて、素敵な仲間たちと……!!!」


わざとらしく後半部分を強調していう春香。
私もその勢いに飲まれそうになる。
778 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:45:30.38 ID:abMfBsPXo

「ち、違う、春香! 私はあなたが生きていたなんて知らなくて」

「言い訳なんて聞きたくないよ」


私の訴えも虚しく、届かないで
春香は続ける。


「でもいいの」

「私は一人になっても最初からあった私の目的を果たすために戦争を止めるの」

「私は……千早ちゃんのような目に会う子がなくなるようにしたかったんだよ。私」

「初めて千早ちゃんを見た時そう思ったの」
779 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:46:23.83 ID:abMfBsPXo



初めて見た時!?
だってあなたは……私を助けてくれた時にはすでに強くて。




「私は千早ちゃんを助けた時にはすでに……って?」

「違うよ千早ちゃん。違うんだよ」

「私が最初から強い子だったら千早ちゃんはあんなに長い間苦しまなくて済んだんだよ」

「どういうこと……! 何を言ってるの春香!」

「私は一人だったって言ったよね? 千早ちゃんに会う前は」
780 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:47:26.76 ID:abMfBsPXo


春香が強かったら?
長い間苦しまないで済んだ?
あの奴隷のような生活を救ってくれたのは確かに春香だけど。


そして、今まで知らなかった事実を春香は口にするのだった。


「私はずっとあなたを見ていたの」




「だって、私は……千早ちゃんが奴隷になってきたお家の一人娘なんだもん」



「っ!?」
781 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:48:56.40 ID:abMfBsPXo

「私は千早ちゃんを助けたいと思った……」

「同時に千早ちゃんに意地悪をする親が許せなかった」


「千早ちゃんには絶対に近づくなってお父さんにも
 お母さんにも言われてたからそうしたの」


「お父さんもお母さんも本当にうまく隠してたよね」

「話しかけた時本当に知らなくてびっくりしたもん」


春香の言葉に理解が遅れる私だった。
だけど、それがどういうことなのかも段々と理解してきてはいた。
782 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:49:42.77 ID:abMfBsPXo

「それから私は昼間は剣の稽古に町へ出かけて
 通い続けて2年が経った」

「実力も着いて来て……」

「だからもういいかな、と思って殺したの」

「両親を殺した時のベッドが真っ二つになってたの覚えてる?」

「あれ、最初に二人を殺してから真っ二つにのこぎりで斬ったんだよ」

「服もお家のお金を使ったの」

「強いなんて嘘。私はずっと嘘をついて千早ちゃんと旅をしてきた」

「私は千早ちゃんと旅を続けることでそれなりに強くはなったけれど」

「ただ私は千早ちゃんといたかっただけなの」
783 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:50:34.00 ID:abMfBsPXo

「私は逆らう暇もなく不死にされてしまったけれど」

「でもほら、千早ちゃんも一緒に妖精に進化すればずっと一緒」

「千早ちゃんだって願ってたはずだよね?」

「千早ちゃん……今度こそ、ずっといられるね」


春香は不気味なほど優しく笑う。


冷たくて人間味のないそれは、人として、
春香を愛していた者として言える純粋な気持ち悪さだった。
784 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:51:00.78 ID:abMfBsPXo

だけど、これはきっと春香なりの愛だった。
それを分かった上で私は首を横に振った。



「春香……。私、あなたとは行けないわ」

「……どうして?」

「あなたは……もう死んだのよ」

「そんな嘘を嘘で塗り固めて、誤魔化していちゃいけない」


春香の表情から明るみが消え暗くなる。
785 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:51:29.56 ID:abMfBsPXo

「どうして? ねえ、私、千早ちゃんと一緒にいたいだけだよ?」

「千早ちゃんだってそう願ってたんじゃなかったの!?」

「願っていたわ……。あの時、あなたと過ごした時間は間違いなく、
 かけがえの無い時間だった……」

「だけど、それはもう終わったのよ」

「あなたは死んだ」

「違うよ、生まれ変わってる」

「だったらあなたはもう春香なんかじゃないわ!」
786 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:52:25.27 ID:abMfBsPXo

「あなたを認めてはいけないのよ!」

「そこにいる死にぞこないは認めようとしているのに!?」


死にぞこない……。
それは紛れもなく私の後ろにある水槽。
その中にいる優だった。



「ううん、もう。そんなことない。
 あの子に思い残すことはたくさんあるけれど」

「でも、もう私は分かっているの」

「あの子は死んだ」
787 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:52:59.85 ID:abMfBsPXo

「そこの水槽に入ってるあの子の身体はもうとっくのとうに朽ち果てているわ」

「魔法でできた特殊な水につけてあるのだろうけれど、
 きっとそこから出したら身体はすぐに元のあるべき姿へ還る」

「さあ、春香……。そこをどいて。四条さんを渡して」

「だめだよ」

「……そんな子供みたいなことを言って」

「私はね、千早ちゃん。千早ちゃんと一緒にいるために」

「あなたの言いたいことは分かったわ。その気持ちも十分に受け止めてるつもり」
788 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:53:28.79 ID:abMfBsPXo

「だけどね」

「私には戦争を止めなくちゃいけないの」

「この戦いを」

「だったら私と一緒じゃない」

「違う!」


声を張り上げる。
私は剣を握りしめていた。強く、固く。
789 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:54:09.47 ID:abMfBsPXo

「悲しんだわ。私は。とても悲しかった。
 立ち直れないと思ってたし、ずっと引きずっていた」

「私が死んだことを?」

「そう。でも……その思いを。
 あの時感じた気持ちを……なかったことになんてできない」

「そんな苦しい思いをもうしなくてもいいんだよ千早ちゃん」

「だめよ。私はあの時春香が死んでしまったから。
 私のせいで死んでしまったからここまで頑張ってこれたのよ」

「苦しい思いもしてきた。だけど、それでも」



「何もかもが願っただけで手に入る世界なんて間違っている!!」


790 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:54:38.49 ID:abMfBsPXo

「きっとみんなが、世界中の人が死ぬことなんてなくて
 なんでも手に入ってなんでもできて毎日をダラダラと過ごして……」

「飢えて苦しむこともなくて、働きもせず」

「そんな人に見合わない能力なんて得たって……」

「退屈すぎて死んでしまうわ」




死ぬことはないのに、ね。
と自分の中でツッコミを入れてしまったが、
よく考えると妖精の魔法のレベルはどれぐらいなのかは
計り知れない部分があるけれど、
もしかしたら自分の意志でその存在を抹消することくらいはできるのかもしれない。


死ぬことはできないながらに自分の存在を消すことはどうなのか……。
私にはわからなかった。私はそんな妖精なんかじゃないから。
791 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:56:28.36 ID:abMfBsPXo

そうして優しく微笑んでいた春香の顔から笑顔は消え、
暗いどこまでも暗く、人を喰らうような暗黒の一面を見せる。


その表情は今まで出会った人達の中で誰よりも
冷酷で残酷な表情だった。


「もういいよ。千早ちゃん」



「分かってくれないんだね」


792 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:58:37.27 ID:abMfBsPXo

震えるほどの寒気がする春香の気迫に飲み込まれそうになる私は
すぐに剣を構える。


私のとっておきの策が……。
私にしかできない策を。


春香を殺した私しか許されない策を。



「人間風情がSランクの妖精に勝とうなんて無理に決まってるのに!!」


793 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:59:15.00 ID:abMfBsPXo

春香は自分の目の前に手を伸ばす。
手のひらには空中からどこからともなく集まった光が集結し、
それは一本の剣を作り出していた。


あれは間違いなく私や普通の人が使っている金属の剣。
空中から何もないのに創りだしたというの?


春香は構える。
いつか一緒に旅した時のことを思い出す。
その時の構え方とまるで変わっていなかった。
794 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 14:59:56.14 ID:abMfBsPXo

「私はね、春香。あなたを死なせてしまったことに罪を感じているの」

「ずっと引きずっていたし、今でもそう」

「しかも、死ねない身体にまでされて、そんな風に不死の色香に惑わされて」

「それも全部私のせいよね……」

「でも……あなたは救ってみせるわ。私が」



私は剣を握りしめ走りだす。
そして、春香に一振りした所で春香がすでに目の前からいないことに気がつく。
どこへ行ったの!?
瞬間移動!?
795 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:00:33.09 ID:abMfBsPXo

「賢者の石の力を使って私を元の人間に戻そうなんてそうはいかないからね」


誰もいない部屋で、春香の声だけが鳴り響く。
私は周りをキョロキョロと見回すが、それらしき気配もない。


「はぁぁあ!」

「うッ、あぁ゙ぁぁあ!」


空気の変わる流れを感じた私は後ろに振り向いた瞬間に
春香が何もない空間から飛び出してきたのだった。
剣を受けきるのが精一杯で私は少し吹き飛ばされる。
796 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:01:05.87 ID:abMfBsPXo

「……あの頃にはもう……戻れないのね」

「千早ちゃん……今ならまだ許してあげるんだからね」

「結構よ! 人間でなくなったあなたに何の魅力もないわ!」


私は吐き捨てるように言う。
あなたは私を許さなくていいわ。


そんなもの……いらないもの。


私は大きく息を吸う。
これが……きっと最後の戦い。
797 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:02:38.46 ID:abMfBsPXo


「目と目が逢う
 瞬間好きだと気づいた」


春香が高速で部屋の中を縦横無尽に移動する。
私はそれを目だけで追い切ってみせた。


そして春香の攻撃が2、3度来る。


「 「あなたは今、どんな気持ちでいるの」 」


「”炎”」


春香は剣の先から炎を噴射してくるが、私はそれを走って避ける。
しかし、逆に炎を剣で吸収して炎剣にしてみせる。
798 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:09:35.31 ID:abMfBsPXo

「戻れない二人だと わかっているけど
 少しだけ そのまま瞳  そらさないで」


私は春香が空間から消えては現れて攻撃するのを舞うように避ける。
身体が軽くて、ひらひらと避けれる。


こんなに至近距離で現れる春香に私は臆しもしないで
むしろ現れたらそこを叩いてやろうかぐらいの気持ちでいた。
799 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:12:49.51 ID:abMfBsPXo


春香は次々に魔法を繰り出す。
現れては消えては面倒だわ。


部屋はある箇所は燃えさかり、ある箇所は凍てつき。
またある箇所は猛毒で溶けて、ある箇所は空間ごと抉り取られていた。


次の瞬間また春香は私の背後に現る気がした。
全ては賭け。
しかし、予想通り春香は現れた。


やっぱり私は春香と伊達に2年も旅はしていない。
この春香の攻撃パターンもなんとなくだけど読める。


「たくさんの人の波 あの人だけは分かる」
800 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:13:42.11 ID:abMfBsPXo

「がッ!?」


私は春香を掴んだ。ちょこまかと空中に逃げられても敵わない。
真直伝の背負投げをお見舞いするが、
投げたという感触はなく、逆に私が投げられていた。


「いッ゙!?」


床に倒れていて、気がついた時には私は春香と場所が入れ替わっていて
私が投げられていた。
こ、こんなの無理すぎる……。
801 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:16:50.38 ID:abMfBsPXo

だ、だけど唄うことをやめてはいけない。
今歌を止めてしまったら、私はすぐに殺される。


「つ、ないだ……指の強さ
 あの頃の愛が今動き出すの」


私は立ち上がり、投げられた時に手から離れた剣を拾い上げて
春香に向かおうとしたが……。


剣を拾い上げるどころか全く持ち上がらない。
何この重さ!? まさかこの剣の重さも変えてしまったというの!?
802 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:18:53.53 ID:abMfBsPXo

「Ah〜揺れる気持ち
 Ah〜奪って欲しい」


歯を食いしばり何とか持ち上げて
そのあとは遠心力で重たくなった剣を振り回し、
ハンマー投げのようにして春香に投げる。


アルカディアの力があってもこの実力差。
私の体力が削られる一方で春香は底なしの体力を使い死ぬこともない。
803 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:25:59.56 ID:abMfBsPXo

だけど、あと一撃くらいは与えて
今発動している魔法の効力だけは揺らがせておきたい。



「目と目が 瞬間好きだと気付いた
   「あなたは今どんな気持ちでいるの?」 」


春香は私の投げた剣を瞬間移動であっさりと避ける。
そして、背後に殺気を感じ私が振り返るとそこには
五人に増えた春香が……。


に、人数までも増やせる!?
恐らくこれは幻覚なんかではない。
本体を攻撃しない限り揺るがない……!
804 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:26:30.75 ID:abMfBsPXo

ヤバい。剣は重たくて持てない。
だとすれば……。


四条さんの所へ急いで行けば!


私は走りだすが何者かに足を掴まれ盛大に床に叩きつけられる。
足を見ると床からぬるぬると這い出てくる春香の腕が。


私はそれをすぐに蹴飛ばすが、
同時に目の前から現れた春香に顔面を蹴飛ばされる。
805 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:27:36.44 ID:abMfBsPXo

転がる私はすぐに立ち上がり、直感的に拳を振るう。


それは私の背後。


「なッ!?」


唄いながらだったから勘が冴え渡ったのか
それとも本当にまぐれだったのか。


私の拳は春香の横っ面にモロに直撃し、春香は床に転がる。
私はその隙に壁に突き刺さる剣を引きぬく。


春香の分身はほぼ実体を持っていたが消えていった。
806 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:30:30.44 ID:abMfBsPXo

春香に攻撃が加わったことにより継続されていた魔法は絶たれて
剣もいつも通りの重さに戻っていた。


春香はゆっくりと立ち上がる。


「あれ? おかしいな。痛くないのに……」


「痛くもないのに……。どうして涙が出るんだろう」


春香は泣いていた。
私だって本当は泣きたい気持ちだった。
807 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:33:03.09 ID:abMfBsPXo

あんなに愛していた春香とこんな風に殺し合いをしなくちゃいけないなんて。
でも、元はと言えば春香を殺してしまったのは私のせいでもある。


だから……私はやらなくちゃいけない。


私は泣いている春香には見向きもしないで倒れている四条さんの元へと走る。


「行かせないよ」

「その歌も止めてあげる」


春香に首を締め上げられる。今さっきまであっちにいたというのに。
速すぎる……。  く、苦しい!
808 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:35:19.95 ID:abMfBsPXo

四条さんはもうそこなのに手が届かない……。


「戻れない……二人だと 分かっているけど
 少しだけ  このまま瞳……  そらさないで」



春香は私の目から一瞬足りとも逸らしはしなかった。
涙がこぼれ落ちるその目で私をずっと見ていた。


く、苦しい……!

こ、このままじゃ首の骨ごと折られる。
809 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:36:26.02 ID:abMfBsPXo

私は何度か持っていた剣で春香の首を狙って斬りつけるが
その箇所はまたしても光の粒になり消えて手応えがまるで感じられない。


だったらこの私に触れてる手なら!


喉を傷つければ唄うことができなくなる。
私はそれでも剣を自分の首に向けた。


「な、何をするつもりなの!?」

「ぐ……。こうするのよ!」


己の首に向けた剣を動かした時、
春香は私を壁まで投げ飛ばした。
810 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:37:17.91 ID:abMfBsPXo

「……ハァ、ハァ。おかしいんじゃない千早ちゃん」

「ゲホッ、ゲホッ! 人間じゃなくなったあなたに言われたくない」


「もういいよ。手足くらいなくてもいいかな」

「どうせ妖精に一緒になればまた生やすこともできるし」


春香は再び剣を握りしめて私の元へと向かってくる。
私は座り込みながらもその春香の剣を受け止める。
811 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:38:16.71 ID:abMfBsPXo

私が私であるために、私は唄わないといけない。
母がそう言ってくれた。
きっと優もどこかで聞いていてくれる。


私のアルカディアの力。最後の力を。



「風は天を翔けてく
 光は地を照らしてく
 人は夢を抱く
 そう名付けた物語……
 arcadia……」




剣だけなら私は負けることはもうないはず。
押し返す。
812 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:38:51.56 ID:abMfBsPXo



「遙かな空を舞うそよ風
 どこまでも自由に羽ばたいてけ……」




私はその隙に立ち上がり、春香と何度も何度も
剣を交える。


その時ばかりは何故だか分からないけれど、
春香は魔法を一切使わなかった。
813 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:39:18.16 ID:abMfBsPXo

魔法を全く使わずに強化された身体能力だけで
私と剣を激しく交えている。



「始まりはどんなに小さくたって
 いつか  嵐に変われるだろう……」



脚を斬られ、腕を斬りつけてやり、
肩を斬られ、胴を斬りつけて。


「さあ願いを願う者達
 手を広げて 大地蹴って
 信じるなら……」

814 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:39:45.90 ID:abMfBsPXo

一瞬の隙をついて春香は私の剣を弾き飛ばした。
その瞬間私は春香の剣を持っている右手を蹴り飛ばし、同じく剣を落とさせた。


「翔べっ!」



春香はもう剣を拾おうともせずに私のみぞおちにキツい一発をお見舞いした。
私は負けずと春香の眉間に裏拳をぶち込んだ。



「海よりも激しく
 山よりも高々く
 今
 私は風になる
 夢の果てまで」
815 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:40:16.73 ID:abMfBsPXo

次に春香は私の髪の毛を掴み、顔面を膝に打ち付けた。
私は鼻血を噴射しながらも、春香のちょうど頭の2つのリボンの辺りを
両手で掴んで思いっきり頭突きをした。


「ヒュルラリラ
 もっと強くなれ」




春香は後ろに仰け反るが、踏みとどまってすぐに拳が炸裂する。
拳は私の横っ面を完璧に捉えていた。
意識が飛びそうなのを堪えて、私も春香の頬を殴り飛ばす。


「ヒュルラリラ
 目指す arcadia……」
816 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:40:51.01 ID:abMfBsPXo

お互いの息は切れいていた。
春香もそんな傷も疲れも回復できるはずなのに
回復しようとなんてせずに真正面から私に向かってきていた。



互いが構え、互いの闘志たぎる目から一瞬足りとも逸らさず睨み合いが続く。
部屋には城の外の戦場の騒音、部屋にある機械音、
そして、互いの乱れた呼吸だけが響いていた。



私と春香は同時に己の落ちた剣を取りに走る。
剣を拾い、振り向いた時にはすでに剣を振り下ろそうとする春香が
目の前に迫ってきている。



私は転がりながら避けようとするが、脚を斬られる。

817 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:41:33.07 ID:abMfBsPXo

春香と一定の距離を保つ。
睨み合い、互いの次の手を読み合う。
彼女は今、何を考えているのだろう。


「これで……終わりにしてあげる」


春香が構える。
私も構える。


「それはこちらの台詞よ」


静寂にも程遠い環境の中で、
二人はもうお互いの呼吸の音しか耳に入らなかった。


春香。
私はこれで、この一手で終わらせるわ。



「はぁっぁぁぁああああ!!」

「うあああああああっっ!」
818 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:42:43.50 ID:abMfBsPXo



春香の振り下ろす剣は私の剣とは交わることはなかった。



私は春香の横をすり抜け、四条さんのもとへ駆け寄った。


「裏切り者ぉぉおおおっ!」


春香が瞬間移動で私の背後に立ち、
四条さんに向かう私を背中から剣で突き刺した。


激痛が全身に走り抜ける。
だけど通り越して何が起きてるのかなんて
全く分かりもしなかった。
819 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:43:12.81 ID:abMfBsPXo

私は、身体の中から沸騰しているんじゃないかと思う程の熱い血を吐いた。



その血は……四条さんに大量にかかっていく。


「な……まさかこれが狙いで……」


「げほっ、お゙えぇッ……! ハァ、ハァッ!
 そ、……そうよ。ハァ……ハァー」


流れる血は止まらず口の中は鉄の味でいっぱいだった。

820 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:44:23.20 ID:abMfBsPXo

「ハァ、し、四条さん……いえ、賢者の石。
 お願い、私の願いを聞いて……」


身体が熱い……意識がぶっ飛びそう。
目の前がくらくらして世界が歪みだす。





「は、春香を……! 封印してッッ!」





史上最強の生物となった春香は
ちょっとやそっとのことじゃ死ぬことはない。
死ねないならばいっそのこと封じ込むしかない。


彼女が望んでいたこと。
私が望んでいたこと。
821 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:44:58.19 ID:abMfBsPXo

ずっと一緒に旅をしていたかった。
そんなの私も同じ。


私だってずっと一緒に旅をしていたかった。


だけどあなたは死んでしまって、もう別の何かに変わってしまった。
それでもあなたは私と一緒にいることを最後まで望んでくれていた。


私はずっと後悔していた。
私の弱さで春香を殺したこと。


そのことのせいで春香は死ねない身体になり
永遠に生き続けなければならなくなったこと。
822 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:45:24.66 ID:abMfBsPXo

そして、私は
永遠に生き続けなければならなくなったことを
受け入れてしまった春香の罪を問う。


その罪を裁く。


私は私の罪で春香の罪を裁く。
これは私の罪滅ぼしでもあり、春香への制裁でもある。



「ま、まさか……嘘。私の魔法が聞かない……!!」

「な、なんでっ! わ、私より……賢者の石の方が上だってこと!?」
823 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:46:01.29 ID:abMfBsPXo

人間は決して人間の域を超えることはできなかった。
春香は確かに賢者の石の力を持ってして妖精に進化することはできていた。


だけど、元をたどれば賢者の石のおかげで進化することができた。


だからこそ、春香の魔法は賢者の石の魔力より劣っていたのだった。


春香の魔法では賢者の石の魔力を総裁することができなかった。
生みの親を超えることなど到底できなかった。


そして、春香は封印される。

824 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:47:07.02 ID:abMfBsPXo

「い、嫌……! 許さない……! 絶対許さないから……」

「あなたが望んでいたことよ」





「あああああああああああああああああああ」


「あああああああああああああああああああ」





「さあ、春香。一つになりましょう」




春香はその身体をボロボロと崩しながら
断末魔の叫びをあげる。


その悲鳴は城の中はもちろん、
この帝都全域にさえ広がるのではないかという勢いの叫びだった。
825 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:48:12.34 ID:abMfBsPXo



――! ―! ―――ッッ!


いいえ、出さないわ。
あなたは私と……これからずっと一緒にいるのよ。
もう一生顔が見られないのは残念だけど。


それでもあなたが望んだこと。


――――――――ッ! ――ッ!!



頭の中に響く春香の叫び声や罵倒。
頭ががんがんする。
826 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:51:56.19 ID:abMfBsPXo

気絶する四条さんにもう一度血をかける。


「き、……傷を……治し……」


だ、だめ。もう限界。意識が。


城は揺れる。外からの攻撃を防ぐ術も持たず、
ただ陥落するのを待つかのように。


私は床に倒れ、その振動を身体で感じ、
遠くなる意識の中でもう何も考えることはできなかった。



こうして、私、如月千早はクロイ帝国帝都で意識を失った。



827 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:57:22.31 ID:abMfBsPXo



………………
…………
……







〜〜萩原雪歩Side〜〜






こんにちは。こんばんは。それともおはようございます、かな?
萩原雪歩です。


私は今、アズミンの自分の教会にいます。
もうすぐ私の月に一回ある魔術講座にたくさんの生徒さんが来るんです。


828 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:58:05.91 ID:abMfBsPXo


「雪歩さん、そろそろ時間ですよ!」

「はい。ありがとう。行ってきます。お祖父様」



お祖父様と和解してから何年経ったのでしょう。
もう分かりません。
お祖父様は私の念写によって描かれた一枚の大きな紙に飾られて
もうその身はどこにもありません。


私が帰ってきたことに安心したのか、その後、数年して亡くなってしまいました。
お祖父様は私のために無理をして魔法で自分の身体を
誤魔化して何年も寿命を伸ばしていたそうです。
829 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:58:54.39 ID:abMfBsPXo

あ、紹介し忘れてました。
さっき私を呼びに来たのはアシスタントの高槻やよいちゃんです。


私とやよいちゃんで町の出入り口の方へと行くと
馴染みのある山のように荷物を詰んだ貨車が見えて来ました。


「おーい! やよいっちーー! ゆきぴょーん」

「お疲れ様亜美ちゃん。真美ちゃんは中?」


「うん、真美は中だよ。やっぱりこの荷車を運搬に使うのは厳しいかなぁ?」

「そう? 結構いいアイディアだと思うよ?」

「まぁ、月に一回だしね」
830 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 15:59:56.12 ID:abMfBsPXo

荷物の中からはぞろぞろと子供達から大人まで様々な人が
顔を出して降りてきました。


「今日もよろしくね」

「先生! 炎の魔法また教えてね!」

「今日は何教えてくれるの!?」


と口々に私に挨拶してからそれぞれ私の教会の中に入っていきます。


元々やよいちゃんはこの生徒の中の一人だったんですけど、
その強い一心でどんどん上達していって、本当にすごいんです。


確か、
炎の魔法、水の魔法、雷の魔法で、生活費が……。
ってすごい気合でした。でもそれで上達しちゃうんだもんなぁ。
831 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:00:33.44 ID:abMfBsPXo

私なんかだめだめで小さい頃がずっとやってたのに怒られてばかりで。
今は怒ってくれるお祖父様はいなくなってしまって少し寂しいです。


「ハム蔵もお疲れーーっ!」


そんなやよいちゃんは貨車を引いて歩いてきていたハム蔵ちゃんの頭を撫でる。
大きな身体のハム蔵ちゃんの頭には届かないのでぐーっと背伸びをしていると
自分で屈んで頭を出してくれます。


やよいちゃんに撫でられるのは好きみたいです。
私は怖くて触れませんけど。
832 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:01:33.90 ID:abMfBsPXo

このハム蔵ちゃんはもちろん響ちゃんの召喚獣です。
召喚士である響ちゃんの契約から解き放たれたハム蔵ちゃんは
今では亜美ちゃんと真美ちゃんの荷物を引く役目を追っています。
どうしてそんなことをしてくれるのか、それは私達にもわかりません。



だって私達の誰も彼女ではないから。



亜美ちゃんと真美ちゃん。
彼女達は復活した水瀬グループの元、営業販売、
町から町への運搬業もこなしています。
二人共まだまだ働き盛りで、二人だからやっていけるそうです。
833 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:02:22.32 ID:abMfBsPXo

伊織ちゃん。
伊織ちゃんは義勇軍として、ナムコ王国、クロイ帝国のこの二国を飛び出して
世界中で起きている戦乱の地域を転々とし、戦争経済の波に上手く乗っているそうです。
もちろん国の中で起きる内紛には一目散に駆けつけてくれます。


特に未だに根強い両国の先代の王達の熱烈な支持者達は
現在の律子さんや天ヶ瀬冬馬さんのことをよく思っていないようで
よく反乱が起きます。



それを収集する伊織ちゃんの軍の中でも若き将軍として大活躍している高槻長介くん。
彼がいるといないとじゃ大きく戦争が左右されるとか。


今じゃその活躍が有名になりすぎて、
水瀬グループよりもあの将軍がいる、という印象の方が強くなっていて
伊織ちゃんはそれに対してちょっと怒っていました。


今では彼のファンクラブもあってすごいことになっているのだとか。
834 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:04:32.62 ID:abMfBsPXo

新堂さんはさすがに戦地へ直接赴いて戦うという業務は引退したみたいですが
未だに伊織ちゃんの傍は離れないみたいです。
もちろん伊織ちゃんも新堂さん以外は置かないとか。



その長介くんの活躍を耳にした小鳥さんは
長介くんについて延々と熱く語っている本を出版した所、
これが結構売れているらしいです。


私の所に一度だけ魔法を教わりに来ましたが
20分経たずに断念してしまいました。
魔術講座に来てくれた生徒の中では歴代最速です。
私がもっと教え方に工夫しないとだめですよね。


お迎えを済ませて生徒達と坂を登って私の教会に向かう途中、
亜美ちゃん達が運んできた私の生徒のうちのある子ども達が
私に突然あることを聞いて来ました。
835 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:05:31.03 ID:abMfBsPXo

「ねえねえ先生。先生ってあの伝説の”勇者-アイドル-”とお友達って本当!?」

「一緒に旅してたって聞いたよ!?」

「ふふ、秘密」



元気にしてるかなぁ。






………………
…………
……
836 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:06:05.36 ID:abMfBsPXo

あのあと、私は千早ちゃんが倒れているのを発見しました。
そして、四条さんが無事でいることを確認しました。


また城に異常がないことも。


ただ、千早ちゃんは気絶しているのにも関わらず
白目をむいてうわ言のように何かを呟き続け、
ずっと耳を塞いでもがき苦しんでいました。


「真ちゃん……! 大変。早く回復を!」

「雪歩。貴音にお願いしよう」


真ちゃんの咄嗟の判断はとても正しかったのですが、
私達では言うことは聞いてくれませんでした。
837 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:06:47.28 ID:abMfBsPXo

なのでまずは四条さんを起こすことにしました。


「四条さん、起きてください」

「貴音、起きて!」


何度か頬の辺りをぺちぺちと叩く。


「……ん。こ、ここは……」

「貴音! 起きて! 千早を治して欲しいんだ」

「……なんと」

「アルカディアの血なら千早からでているのを使って」

「分かりました」


そうして四条さんはすぐに千早ちゃんの血を止めました。
だけど、千早ちゃんはもがき苦しんだままでした。
838 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:07:31.22 ID:abMfBsPXo

そして程なくして、
天ヶ瀬冬馬さんがこっちにやってきました。


「な、なんの用だ……!」

「ま、真ちゃん……!」


私と真ちゃんはアイコンタクト一つですぐに戦闘モードに入りました。
しかし、天ヶ瀬冬馬さんは両手をあげるだけで何もしませんでした。


「代表に取りつないで欲しい。クロイ帝国は……
 ナムコ王国と和平協定を結びたいと思う」


「な、なんだって」

「本当だ。だから両手を縛るなりでもしてくれて構わない」
839 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:07:59.57 ID:abMfBsPXo

「急いでそっちの代表に繋いでくれ。この戦争を止めたいんだ」

「で、でも」

「早くしやがれ! こうしてる間にも血が流れてるんだぞ」

「四条、連れていけるか」

「……はい」


四条さんはすぐに千早ちゃんの血を手のひらいっぱいにつけて
お祈りするように胸の前で手を組みました。


万物の頂点に立っていたのは賢者の石であり、
その存在を何者も超越することはできない。
840 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:08:41.97 ID:abMfBsPXo

四条さんの身体は淡い光を帯びて私達は
すぐに城ではないどこかに飛ばされました。
目を開けるとそこには律子さんの後ろ姿があり、
指揮をとっています。



「おい、秋月」

「ひゃぁっ!? な、何!? なんであんたたちがここに。
 た、貴音までいるし……」


律子さんは振り返り城の中に突入したはずの
私達を見てすぐに作戦が成功したのだと察したようでした。
841 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:09:42.50 ID:abMfBsPXo

千早ちゃんは重症ですが。


「話があるんだ、聞いてくれ」

「な、何よ」


律子さんはかつて操られて城の反乱を起こしてしまったことから
少し天ヶ瀬冬馬さんには抵抗があるようです。


「帝国はナムコと和平協定を結びたいと思っている。黒井のおっさんは死んだ」

「なっ!? そ、それは本当なの」

「うん、ボク達からもお願いなんだ。千早が……ここまで漕ぎ着けてくれたんだ」


私達に聞いてくるけれど、すぐに私も真ちゃんも頷きました。
そして、それを見て信用してくれたのか
842 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:10:11.54 ID:abMfBsPXo

「そう。わかったわ。なら早くこの戦いを終わらせるわよ」

「おう」

「急いで。こっちの船に乗って」


それから私と真ちゃん、律子さん、天ヶ瀬冬馬さん、四条さんは
あずささんが用意してくれていた宙を飛ぶ船に乗り込んで
一番戦闘が激しい部分に向かいました。


それから上空で私の音声拡大の魔法を使って
国の代表者二人が話を始めました。


「止まりなさい国王軍!」

「帝国軍、お前らもだ!」
843 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:10:48.76 ID:abMfBsPXo

「我々、我々クロイ帝国は先ほど帝王黒井の死去により
 その権限を全て俺が受け持つことになった!」

「それに伴い、今、この時を持ってナムコ王国と和平協定を結ぶことを誓う!」

「我がナムコ王国もそれに応じることにしたわ!」

「だからもう戦う必要はないんだ!」

「武器を置いてみんな! 回復薬を持っている奴はすぐに重傷者に使ってあげて!」

「皆で協力して怪我人を救ってやってくれ」



戸惑いどよめき戦地は誰しもが二人の言葉を耳にしていた。
武器を持つものは一人、二人と減っていき。


その動揺から漏れる声は戦争の終結。
平和の訪れから大きな歓声に変化していきました。
844 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:11:31.11 ID:abMfBsPXo

こうして、後に教科書にも載るようになった長きに渡るナムコ・クロイ間の戦争は
この時を持ってようやく終焉を迎えることとなりました。


一度目は賢者の石巡る戦争。
二度目は賢者の石が奪われた戦争。
そして、この三度目は賢者の石を取り戻した戦争。



兵士達は家に帰れることを喜び、
仲間の死を悲しみ、それぞれがそれぞれの思いを口々に言葉にしていました。



私も真ちゃんと目が合うと、
真ちゃんは満足そうに、でもどこか淋しげに


「やっと……。終わるんだね」


と。


「うん。そうだよ。真ちゃん」
845 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:12:17.66 ID:abMfBsPXo

律子さんと天ヶ瀬冬馬さんは
もうすでに今後の二国のことについて話し合いをしていました。



クロイ帝国とナムコ王国の両国は
2年前に起きていた戦争。高木元国王が亡くなったあの戦争。
これによって奪われたナムコ王国の領地をクロイ帝国は返還することになりました。
国境は元通りになりました。


国境の整備も順調に進み、今では3ヶ月に一度は
国の代表者は直接会って会談をしているそうです。


前回の会談ではあの紛争地帯、ニゴとクギューウの間の整備が
決定してやっとの思いであの区間は元の姿に戻っていくそうです。


また、千早ちゃんの弟の優くんが入れられていたあの水槽の液体。
あれの使用費を決めていたそうです。
846 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:13:10.33 ID:abMfBsPXo

他にはちひゃーちゃん、たかにゃちゃん、みうらさん達がいた
不思議な種族の村をしっかりと開拓してあげようと決めたそうです。
なんでも律子さんの狙いはあの可愛い子達を観光スポットにしたいとかなんとか。



私達は国の申し出を断りました。
知っている人だけが知っていればいいと話し合った結果です。
国は私達を盛大に表彰したいと言ってくれました。


私はそんなの恥ずかしくてだめだし、
真ちゃんもそんな私を気遣ってくれました。


帝国の野望を阻止して欲しいと頼んできたあずささんは
その任務を終えるとまた空へ帰って行きました。
そのあと、きっと天空街で私達のことを見守っていてくれてるといいな。
847 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:13:36.68 ID:abMfBsPXo

私達は千早ちゃんが起きるまで首都のバンナムにて
ずっと看病をし続けていました。



律子さんの提案を断って程なくして、ついに。


「……うるさいっ!」


ガバッ、と急に起き上がるものだから運んでいたお茶を
落としてしまい、グラスを割ってしまいました。
848 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:14:10.90 ID:abMfBsPXo

「……ハァ、ハァ」


息を荒くして少し長い眠りから目覚めた千早ちゃんは
ずっと頭を抑えていました。


「だ、大丈夫……?」

「ハァ、ハァ。萩原さん? こ、ここは? 帝国は?」


頭を抱えるようにしながら私に聞く千早ちゃんは実に何週間ぶりに起きました。
千早ちゃんはずっと小言で誰かと会話をしていますが、
私には誰と話しているのかなんて到底分かりません。


そして、そこには踏み入ってはいけない、そんな気がしていました。
849 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:15:07.98 ID:abMfBsPXo

それからベッドの上で頭を抱え丸くなっている千早ちゃんに
あのあと起きたことを全て報告しました。


「……そう。お別れは済ませたのだし。これでいいんだわ」


千早ちゃんがずっと探していた弟の優くんとは
どんな手段を使ったのかは私は詳しくは知りませんでしたが、
ちゃんとお別れを言えたみたいでした。


生きて連れ戻すことができなかったのが残念ですが、
千早ちゃんはもうそのことに関しては自分の中で決着がついている様子でした。


だから私は何も言いません。
850 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:16:05.83 ID:abMfBsPXo

「四条さんは?」

「今は真ちゃんと外にいるよ。お買い物に行ってもらってるの」


万物にして、戦争の原因である賢者の石、四条貴音。
四条さんは律子さんにお願いして私達の元に預からせてもらうことになりました。


「そう。じゃあもう壊さないと」

「ま、待って。まだ安静にしてなくちゃだめだよ」


起き上がってベッドから出ようとする千早ちゃんを止める。
少し鬱陶しそうにそこをどいて欲しいと目で私のことを睨みつけてきます。


うぅ、こういう時の千早ちゃんは本当はちょっと怖い。
けれどもう慣れっこなので、じっと堪えて見つめ返しますと、


「はぁ。わかったわ。安静にしてるわよ」


そう言って折れてくれます。やっぱり千早ちゃんは優しい。
851 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:16:39.99 ID:abMfBsPXo

しばらくすると真ちゃんと四条さんが帰ってきました。


「ですが、あれは知らなければ大変なことに」

「それはこっちの台詞だよ!」

「おかえりなさい。どうしたの?」


何か言い合いながら帰ってきた二人に聞いてみる。


「あぁ、ただいま。貴音が店頭においてある食べ物食べちゃうんだよ」

「うぅ、はしたなくてすみません」

「ふふ、しょうがないよ。そういうのも知らなかったんだから」

「恥ずかしながら」

「あれ? あぁ、千早。おはよう。調子はどう?」


起きている千早ちゃんに気がついたみたいでベッドの脇に立つ真ちゃん。
その後ろにそっと立つ四条さん。
852 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:17:28.36 ID:abMfBsPXo

「あまりよくはないわ」

「そっか。無理しないで寝てなよ?」

「えぇ。そうする」


真ちゃんと入れ替わりで千早ちゃんの前に立つ四条さん。
真剣な表情で、でもどうやって伝えたらいいのかわからない、
といった様子で少しおどおどしている。


「あ、あの。千早。目が覚めて早々で恐縮ですが、お願いがあるのです」

「なにかしら」

「わたくしは常々思っていました」
853 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:18:02.27 ID:abMfBsPXo

四条さんはゆっくりと、たどたどしい所はありながらも
自分の言葉で。生きる自分の意志で思いを語り始めました。


「わたくしは賢者の石として生まれながらこのように自我を持っています」

「ですが、わたくし自信を皆が求めたのではなく
 求めていたのはわたくしの持つ魔力。賢者の石の力でした」

「そのことが原因で此度の長きに渡る戦が起こってしまいました」

「そんなこと……」


と反論する千早ちゃんもその言葉はあまりにも無責任すぎると思ったのか
すぐに口を閉じてしまった。
854 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:18:51.81 ID:abMfBsPXo

「わたくしは……わたくしのこの力を求める者の気持ちがわからなかったのです」

「わたくしを我が娘のように愛し何もかも教えてくれた
 高木殿は亡くなり、そして響も……」

「わたくしを求めるために人は殺し合い」

「わたくしを使い人は殺す」

「大切な人を失って気がついたのです。どうしてこのようなことが起こりうるのだろうか」

「だから、わたくし自信でわたくしを土に還すのです」

「そのために千早の血が必要なのです」
855 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:19:42.02 ID:abMfBsPXo

「誰かがわたくしを求めて、傷つくのはもう見たくありません」

「そんな風に争いの原因を生むのがわたくしであるのならば
 わたくしはいっそのこと野に咲く花になりたいのです」

「世の汚れ、人の心の汚れを知ることなく雄々しくも美しい花に」


千早ちゃんはそっと四条さんの手を取り
少し強引に引っ張って抱きしめ優しく撫でました。


「そんなことを思う必要はもうないわ」

「あなたは賢者の石だろうけれど、その心は立派な人間じゃない」
856 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:20:19.61 ID:abMfBsPXo

その言葉に対して今まで無表情で微動だにせず
淡々と言葉を紡ぐだけだった四条さんの目からは
大粒の涙がこぼれていました。


「こ、これは……」

「涙よ」

「涙も出れば人のために悩み、大切な友達を思い苦しんでいる」

「あなたはもう立派な人間なのよ」


その言葉を聞いて四条さんは初めて少し嬉しそうな表情をして
お礼の言葉を言った後、


「だからこそ、わたくしは人々のために
 いなくなるべきだと思います。どうか手伝ってくださいませんか」

「……」
857 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:20:53.82 ID:abMfBsPXo

千早ちゃんは少し悲しそうに俯いてから私と真ちゃんの方を
それぞれ見ました。


「分かったわ。最後は静かに終わらせましょう」






それから私達はいつか千早ちゃんが見たというとある場所へ行きました。


千早ちゃんと真ちゃん、それから私と四条さんは
3ヶ月ほどの旅路を行った後、千早ちゃんの目的地へと到着しました。


そこは千早ちゃんだけでなく、私も真ちゃんも見たことがある場所でした。
858 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:21:25.21 ID:abMfBsPXo

見渡す限りの花が咲いた千早ちゃんが育ったミンゴスの近くにある場所でした。


私と真ちゃんはいつか千早ちゃんの夢の中に入った時に
見た花がたくさん咲いているあの場所と同じだということを
景色を見た瞬間に思い出しました。



本当はもうすっかり忘れていたはずなのに。
あまりにも綺麗だったあの景色を。
きっとどこかで覚えていたのかもしれません。


「わたくし、ここでこの綺麗な花たちと共に
 永久に美しく咲いて、秋には枯れ、また春にはこうして咲きたいです」


四条さんは綺麗な花を一本だけ摘み
大事に両手で包み込んでその場に座りました。
859 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:22:19.34 ID:abMfBsPXo

「四条さん、私はあなたのこと忘れないわ」

「うん、ボクも絶対に忘れない」

「響ちゃんが起きたら、伝えておくからね」



「ふふ、みな、ありがとうございます」


四条さんはそっと目を閉じてゆっくりと口を動かした。


「響。ごめんなさい。最後にお会いできなくて」

「わたくし、四条貴音はここに眠ります」



千早ちゃんは戦争は終わったというのに
持ち歩いている剣を抜き、自分の手の平を斬り、
四条さんの持っている花に血を垂らしていきます。
860 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:24:22.16 ID:abMfBsPXo

真っ赤な血は四条さんの持っている白い花を
赤に染めて、ゆっくりと四条さんの手に垂れました。


「賢者の石よ。四条貴音をこの世から抹消して」


千早ちゃんの声は驚くほど冷静でした。
それでも涙を流しながら段々と光の粒に足元から変わっていく
四条さんを誰よりも悲しそうに見ているのは千早ちゃんでした。


こうして四条さんは綺麗な花に囲まれて、
その姿は少しずつ光の粒となり消えて行きました。



頬を撫でる風は冷たく、
花一面の景色は誰に語ることもなく、
そっと静かで、私達は何の言葉を交わすこともなく、
その場を離れて行きました。
861 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:25:08.01 ID:abMfBsPXo

ミンゴスの町へ戻ってきて一晩宿を取ることにしました。
そこで私達は最後に


「これからどうするの?」


という真ちゃんの切り出した話題を語り明かすことになりました。


「真ちゃんはどうしたいの?」

「……ボクは旅を続けるよ。色んな所へ行きたい」

「帝国以外にももっと外の国に。
 ボクはまだ”真の勇者-アイドルマスター-”には程遠いからね」

「それに外の国に行けば響が目を覚ます方法も見つかるかもしれないし」

「そっか」
862 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:26:06.98 ID:abMfBsPXo

でも私もずっとずっと旅をしながら気がかりだったことがありました。
それが今のやっていることです。
教会を継いであげたい。


「あ、あの……私は自分の町に帰るね」

「千早ちゃんが眠っていた2年の間の侵略されていた時代にも
 町へ戻っていたんだけど。私はやっぱりあの教会の娘なんだなって思ったの」

「で、私もやりたいことがあるからそこで挑戦してみようと思うんだ」

「何を?」

「魔法の先生」


少し照れくさかった。
でも二人共笑わないでいてくれてよかった。
それどころか二人共すごく褒めてくれたのが嬉しかったなぁ。
863 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:26:46.09 ID:abMfBsPXo

「すごいよ雪歩! ぴったりだよ!」

「そうね。きっと向いてると思うわ」

「えへへ、ありがとう。……千早ちゃんは?」

「私は」




「私はもう剣を握るのをやめるわ」




それは私と真ちゃんにとって本当に衝撃でした。

864 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:27:35.73 ID:abMfBsPXo

「ど、どうして」

「本当に探していた物はもう見つからないし手に入ることはない。
 だけど、その最期がきっちりと見れたことに私は満足しているのよ」

「戦争は収まったし、私はもう剣を手にする理由がなくなってしまったの」


千早ちゃんは本当に満足気に言ったので
私と真ちゃんはそれを否定することはできませんでした。


何より私達自信が心のどこかで彼女には
もう剣を握らずに幸せに暮らして欲しいと思っていたから、
というのもあったのかもしれない。

865 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:28:17.19 ID:abMfBsPXo

「真みたいに我那覇さんが起きるのを手伝いたいけれど、
 私には何もできないし、かえって邪魔になるだけだと思うの」

「そのことに関しては天ヶ瀬冬馬に任せてあるし、
 きっと我那覇さんは起きるって信じてる」


「だから私はもう剣を握らずにゆっくり待つことにするわ」


「……じゃあ、お別れなのかな」

「そうね」


しばらくの沈黙。
夜も深まって一層気持ちが沈んでくる。
866 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:29:30.56 ID:abMfBsPXo

「ねえ千早ちゃん、良かったら私の」

「ねえ千早、良かったらボクと」


真ちゃんと被ってしまった。
多分言いたいことも一緒。


私の家に来ない。なんてもう言えない。
よく考えてしまったら私は千早ちゃんのその意志を踏みにじってまでも
私のワガママを通す自信がなかった。


それに私だってこの千早ちゃんの意志を尊重したかった。
867 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:30:03.35 ID:abMfBsPXo

「二人共ありがとう。私は誰も知らないような場所で一人で住むわ」

「……いえ、二人で」


千早ちゃんは胸の辺りできゅっと手を握り目を閉じました。


それから私達はいつかのように
千早ちゃんを真ん中にして3人で寝ました。


千早ちゃんは私と真ちゃんの手を優しく握って、
私と真ちゃんは千早ちゃんに寄り添うようにして眠りました。


もう私達の間に多くの言葉はいらない。
868 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:30:39.29 ID:abMfBsPXo

翌朝、
それぞれの荷物を持ってミンゴスの町の入り口に立っていた私達は
いきなりそれぞれの進行方向が違っていました。


「これで会えなくなる訳じゃないのよね」

「当たり前だよ」

「うん、また会えるよ」


意外なのは千早ちゃんからそんなことを言い出したことだった。
でも私もそんなこと考えてたからそれが嬉しかった。


誰も涙はしなかった。
笑って3人で拳を付きあわせて
869 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:31:18.44 ID:abMfBsPXo

「千早ちゃん、絶対お手紙書いてね」

「か、書くわよそれくらい」

「どうかなぁ? わかんないよ千早のことだし」

「真こそどうやって連絡取ればいいのよ」

「うーん、どうしよっか」

「響ちゃんが起きたら私と響ちゃんで真ちゃんを探しに行くね」

「そしたらボクと雪歩と響で千早の家に行くよ」

「ええ、じゃあずっと待ってるわね」
870 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:32:07.53 ID:abMfBsPXo

「じゃあ、またね!」

「うん、ばいばい。千早ちゃん、真ちゃん」

「うん。……二人共!」



「……ありがとう!!」



こんな所でそんなこと言われたら……
せっかく踏み出した脚、戻したくなっちゃうよ。
871 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:33:15.31 ID:abMfBsPXo


「千早ーー! ありがとう!」


「千早ちゃん、私もありがとう!」




千早ちゃんは最後に私達にとびっきりの笑顔を見せてくれて
私も真ちゃんもそれに答えるように笑ってみせた。


振り返り、誰もいない道を一人歩く。
横には誰もいなくて。
後ろにも前にももう誰もいない。


私達4人の旅は一人欠けたまま、
静かに朝日を浴びながら幕を閉じたのでした。







………………
…………
……
872 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:33:44.25 ID:abMfBsPXo

「――い?」

「――先生?  どうしたの?」

「えっ!? あぁ、ごめんなさい。ちょっと思い出してて」


子供達に声をかけられてやっと我に返った私を
不思議そうに見上げる子供達。


「じゃあちょっとだけ先生の昔話してあげるね」

「本当!? それってもしかして伝説の”勇者-アイドル-”と旅してた頃の!?」

「ふふ、どうかな?」

「珍しいですね。雪歩さんがその話するの」
873 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:34:25.37 ID:abMfBsPXo

やよいちゃんが横で驚いていました。
あの頃やよいちゃんはまだ少し幼い部分があって
あの戦争がどれだけすごいものなのかを全く理解していなかったみたいで
今ではその戦場に自分もいたことが信じられないみたいです。


私もあの時の話はいつもは自分だけの宝物で
大事にしてるんだけど、
不思議と今日は気分が乗ってるみたい。


「それにしても雪歩さん」

「何?」
874 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:35:39.20 ID:abMfBsPXo

「良かったんですか?
 千早さんの弟さんが長年浸かっていたあの液体から
 目が覚めたのに、一人で行かせちゃって」

「どうしても待てないって言ってたからね」

「真ちゃんが異国の魔術医学を持ち帰ってきてくれたから起きれたんだし」

「その真ちゃんが一緒だし大丈夫だよ」

「私も月に一度しか無い講座をサボるわけにもいかないし、
 すぐにあとから魔法使って追いつけば大丈夫だよ」
875 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:36:11.83 ID:abMfBsPXo

「そっかー。そうですよね!」

「それじゃあ今日も頑張りましょう! はい、ターッチ!」

「いぇい!」


やよいちゃんの手のひらは温かく
気持ちのいい音が鳴り響く。



元気にしてるかなぁ。







………………
…………
……



876 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:37:34.64 ID:abMfBsPXo








「早く早く! こっちだってば!」


「はぁっ、ま、待ってよお姉ちゃん……」


「遅いよ! もう!」


「はぁ、はぁ。ど、どこいくの?」


「えへへ、”勇者-アイドル-”のお家」


「ええ!? あそこに住んでる女の人は変だから
 近寄ったらだめってママが言ってたよ……」


「もう、そんなんだからいつまで経ってもお友達に馬鹿にされるんだよ?」


「うぅ……お姉ちゃん……とは違うもん」


「それに、あの人は全然変な人じゃないよ?」
877 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:38:36.69 ID:abMfBsPXo

「でも」


「森に入って狼に襲われたのを助けてくれたのはあの人じゃない」


「そ、それはそうだけど」


「気絶してたから聞いてなかった歌を
 そんなにすごい歌なら聞いてみたい! って言ってたから連れてきたのに」


「確かに言ったけど、町の外れの家の人のことだなんて思わないよ」

878 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:39:12.62 ID:abMfBsPXo

「すごかったんだよ? 歌を唄いながらカッコよく睨みつけるの!」


「そしたら狼たちがサーッと逃げていったんだよ!?」


「確かにすごいけど……でもやっぱり……」


「ほら、見えてきたよ」


「こんにちはーー!! 千早お姉ちゃんー!」
879 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:39:44.64 ID:abMfBsPXo

「はい、どちら様? あら、また来てくれたの? ……って、そちらは?」


「えへへ、私の弟!」


「……ふふ、こんにちは。いらっしゃい」


「えっと、こんにちは」


「今、お茶を淹れるわ。中に入って」


「はーい」


「……はい」
880 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:40:18.05 ID:abMfBsPXo

「ほら、優しい人じゃん」

「う、うん」



――――。


「え? 何よ。もう、まだ怒ってるの?」


――。 ――――、―――――――?


「違うわよ。そうじゃないわ。別にいいじゃないそれくらい」
881 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:41:15.81 ID:abMfBsPXo

「ひ、一人で誰かと喋ってるよ……」


「千早お姉ちゃんはたまにそうなんだよね。
 なんかね、誰とお話してるの?
 って聞いたらとっても大切な人って言ってた」


「大切な人?」


「うん、確か……春香って人」




――。―――――。――――?

「何? もしかしてヤキモチ?」


――!? ―――、―――――。


「嘘よ嘘。冗談。ふふ、分かってるわよ」
882 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:43:37.02 ID:abMfBsPXo

……………………



「ほら、早く! あの家だよね!? 二人共急いで急いで!」


「ハァ、ハァ。む、無理だって、自分病み上がりなんだぞ!」


「そんなに急がなくても大丈夫だと思うよ?」


「すぐに会いたいって言ったから来たんだろ!?」


「うぎゃー! そうだけど、ちょっとは自分のことも考えてよ!」


「もう、二人とも喧嘩はよくないよぉ。大丈夫? ちょっと身体強化しとく?」


「だめだぞ。自分の足で会いに行くって決めたんだから……」



……………………
883 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:45:01.61 ID:abMfBsPXo


「あ、ごめんなさい。二人共。はいどうぞ。熱いから気をつけてね」


「ありがとうございます!」


「……ありがとうございます」


「それで、今日はどうしたの二人共?」


「えっと」


「ほら、お願いしなよ。自分で」


「で、でも」


「あのね、千早お姉ちゃん。この子、千早さんの歌が聞きたくて来たんだよ」


「まぁ。嬉しいわ」


「ほら、ちゃんと千早お姉ちゃんお願いしなさい!」


「う、唄って! 唄ってお姉ちゃん!」



「えぇ。もちろんいいわよ」
884 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 16:48:08.18 ID:abMfBsPXo


いつかいた一面の花を思い出す。
母に持っていくために二人で駆けたあの花畑。


空は青く、春は訪れ花が咲く。
枯れた花はいずれまた彩り春を描く。


両の手は歌に合わせて舞い、
鉄の固まりも握ることはない。


訪れた小さな二人の観客を前に
自分と私の中にいるもう一人だけが住む
理想郷-アルカディア-というステージで。


私はただ、私であるために。
歌を唄った。






キサラギクエスト   Last Episode     arcadia編      END
885 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/30(火) 16:48:53.46 ID:pJOXMxUHo
乙!
面白かったです!
886 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/30(火) 16:54:16.66 ID:phtBkgzJo
乙!ここまで読んできて本当によかった!
887 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 17:01:45.62 ID:abMfBsPXo
お疲れ様でした。
今まで応援してくれた方々大変ありがとうございました。
最後の最後で乱文大変失礼しました。
これで終わりたいと思います。

感想を教えていただければ幸いですし、
宜しければどのエピソードが一番好きだったとかこのシーンが好きだったとか
教えて頂けると嬉しいです。
また質問でも気になる所があればお答えします。






888 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 17:12:39.05 ID:abMfBsPXo
最初期のプロットのメモを見つけてが全く違ってちょっと面白いので
ここまで読んで頂いた方は
ちょっと楽しめるんじゃないかという需要に淡い期待を抱いて貼ってみますね。
存在しないエピソードや、エピソードの順序が大幅に違ったり、
書いてない設定があったり設定超適当だったり。

書いてなかったり中途半端に書いてあるのは全部後付けです。
読みづらいのは自分が分かるメモのせいなのとそのまま張ってるからなんでご勘弁。





社長(国王。失敗だと思っていた賢者の石を奪い成功に導いた。)
律子(城の大臣。超強い)
亜美真美(旅商人兼シーフ生き別れ?)
やよい(町娘。伊織に拐われるが理由は遊びたいため。)
伊織(富豪。寂しがり。)
春香(千早の師匠。死んだはずが、黒井に用心棒として引き抜かれる)
小鳥(天空街への架け橋の役目を果たす超重要人物))
あずさ(天空街の娘。森で見つかる。町の名前は誰も知らないからとりあえず連れて歩く)
黒井(王。賢者の石を制作した)
貴音(捕らわれ姫。賢者の石そのもの。)
冬馬(三幹部の一人。剣士)
翔太(魔法使い)
北斗(戦士)
美希(シーフ。響を差し向ける。賢者の石が目的。オーバーマスターの使い手でなんでも人の能力を奪うことができる)
響(途中で裏切る。ハム蔵の救出のために一人頑張っている。封印解除の魔術書を入手すると裏切る。)




〜真Side〜
〜〜

回想『』


通貨:ヴァイ

勇者王である春香の一人弟子、千早は
黒井に拐われる姫、貴音の救出に向かう。
千早の目的は徴兵、名目で私兵団に囚われた弟を助けること。
また春香は黒井のに殺されている。(本当は生きてる)
旅の途中で仲間になる、真、雪歩、響。

シーフ、美希(武器、ダガーナイフ)に遭遇する。
真が仲間になるのが先。
真は真の男になるために。
BBAになって真を騙す。
(金品の没収)

美希が千早を気に入る。

響(召喚師)が鬱陶しく着いてくる。
(美希の差し金。最高に使えない)

男、真編(真)
889 : ◆tFAXy4FpvI [sage saga]:2013/04/30(火) 17:13:54.57 ID:abMfBsPXo
協会のヒーラー、雪歩編
とある町に寄り協会からヒーラーを雇うことを決めるが、協会は魔術ヤクザそのものの集団だった。
ヤクザ間の抗争に巻き込まれつつも雪歩を救出する。その時に真に惚れる雪歩。
旅を共にすることを決意する。

やよい伊織編
長介に刀を飯屋で盗まれる千早。問い詰めるとこの武器で
やよいを助けに行くとのこと。
かすみを連れて伊織邸に行くが伊織は昔遊んだやよい
ともう一度遊びたいだけだった。

天空の迷い子あずさ編
次の町を目指す途中の森で見つける。とりあえず着いてくることに。
しかし、次の街で調査をした所あずさの住んでいる場所は天空街であった。
生き方もわからずに途方にくれる一同。

国家展望編(律子編)

あずさ、小鳥を仲間にし、ジュリキチの村へ。そこはぷちどる達の村だった。
みうらさんの転送を使い、なんとか首都バンナムに到着。
そこではかつての繁栄していた町が嘘のように戦火に包まれていた。
城へ戻ると高木はいなく律子が王座に。
私が代理で、というが律子が企てたものだった。
かつての律子を討伐しにでる一行。

そこには冬馬が。冬馬にそそのかされた律子の愚行だった。

王の買い物編(社長)

裏切りの召喚師編
王宮の地下書庫からハム蔵を助けるのに必要な魔術書を発見。
美希の侵入を許し王宮が大混乱。

双子の商人編
いつも片方ずつ現れる亜美と真美。町で
リンチされてる亜美を発見。
話を聞くと姉がどこかで死刑になりそうだとのこと。両翼をかたほうずつ持つ二人。片方の生命の危機を感じることができる代物。
しかし、売っていた物は全て盗品だと発覚。盗まれた所がバレてボコられ大事羽を捕られる。
真美の消息も気になる亜美は羽を取り返し亜美のもとへ。
翔太が捕まえていた。刑務所に囚われてる真美を助けに行くが捕まる。牢屋にいたら殺されにいく真美に遭遇する。
ギリギリで響が助けてくれる。

堕ちた貴族編(伊織)
春香の差し金であったために伊織は没落していた。
再び黒井に向かう所でまたやよいに出会う。伊織を助けてくれ、と頼まれる。

千早過去編(千早春香)
春香に遭遇した千早はショックを受ける。
千早が抱える過去とは。
楽しく暮らす千早はある日、弟を町の徴兵だと言われ捕らわれる。
北斗の所有地こそが千早の故郷だった。
そこに立ち寄ることになったみんな。千早は乗り気ではなかった。


千早の過去
家族仲良くくらしている所、突如村は山賊に襲われる。
山賊はクロイの手下で領土拡張のため。
父親はそれで亡くなる。領土を守ることに成功。
しかし、次にクロイの人間が来た時にすべて破壊される。
母親は千早と優をとある商人に農奴として売り飛ばす。
しかし、それはお金がないからではなく守るためのものだった。
奴隷として働く一方で千早は優だけがいればいいと思うが。
唯一の弟はクロイ側に連れ去られた。
クロイだとは知らない千早。

連れ去られた優を助けるために旅へ。
そこで春香と出会う。空腹で旅の途中の春香を襲いその強さに圧倒され弟子入り。
そして成長した春香に止められるも首都バンナムに乗り込む。
そこで律子と死闘を繰り広げるが、敗走。
逃げた先にはちょうどナムコに攻め込む所のクロイの軍勢。
囲まれる千早を助ける春香。そして死亡。

優の場所もわからず、春香も死に途方にくれる千早。
そこへ、律子が現れ国で働け、と言う。
そこに何かあるかもしれないと


最終決戦編
春香を殺す。貴音助けるが貴音は賢者の石。
賢者の石を破壊。
890 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/30(火) 17:26:24.69 ID:JdjhKAxzo
りっちゃん適当すぎてワロタwww

本当に面白かった!
亜美真美のか千早の過去が好きでした!
891 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/30(火) 17:30:59.63 ID:me7ijmpm0
最初から追い続けてきた甲斐があった!
本当に面白かった、乙!
892 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/30(火) 21:01:18.37 ID:N9yRad/do
壮大な物語だった、かけ値なしに乙

響の裏切り編は衝撃的だったけどそこら辺から一気に面白くなったわ
893 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/30(火) 21:06:15.10 ID:Px6Qk0Oto
乙!
最初から最後まで本当に面白かった!
特に亜美真美の話と千早の過去の話が良かった

リアルタイムで追えてよかったよ


894 :名無しNIPPER [sage]:2013/05/01(水) 01:44:04.22 ID:LYhi/MxAO
乙です!
本当に面白かった!
美希は最初から最後までチートくさくていいボスだったな
895 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/05/03(金) 14:18:31.76 ID:UHIpyntDO
一部誤字とか一文字多かったりしてるけど面白かった!
春香が自分が黒井さんに助けられたのを話してる時に黒井帝王とかと呼ばず社長と呼んでたのは誤字かな?そのあとは帝王と普通に呼んでたし…
あと初期プロットの亜美真美の部分で「真美の消息も気になる亜美は羽を取り返し亜美のもとへ。」とあるけど真美のもとへじゃないん?
一番好きな話はいっぱいありすぎて決められないが決めるとするならやっぱ響の故郷での戦いかな
あの時は響の最期に泣いたがやっぱ契約解除してハム蔵を逃がしたところが印象強い
896 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/05/03(金) 22:09:08.88 ID:lDrdaBiZ0
乙でした!
賢者の石とか隣国との戦争とかそういった王道的な物語で、
すごく読んでて楽しかった!

読後感も爽やかでよかった、本当にお疲れ様でした!
897 : ◆tFAXy4FpvI [sage]:2013/05/04(土) 03:03:46.60 ID:CdyqAKC7o
皆さん本当にありがとうございます。次の励みになります!


>>895
誤字等は本当に言い訳できません。
呼称には気をつけていたのですが、呼称表にも載らない呼称を自分でやりだしたせいで
ぐちゃぐちゃになっていたんだと思います。
あとは扱いを見ていただければ分かりますが黒井社長自体に
重きを置いていなかったのも原因の一つです。


初期プロット読んで頂いてありがとうございます。

読んでいただいた通りまたごっちゃになってますね。
結果として本編でもかなり間違えてましたけど、
今となってはプロットの話よりも本編ので良かったと思ってます。


あのシーンは僕も作中でもトップクラスで好きなシーンです。
指摘ありがとうございました。

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