利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」 金剛「…………」 二隻目

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248 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/01/31(日) 20:23:04.72 ID:K0+3EKFxo
コンコンコン──。

提督「入れ」

ガチャ──パタン

飛龍「飛龍です。ただいま夕刻の哨戒から戻ってきました」ピシッ

提督「哨戒内容と現場の報告をしろ」

飛龍「はい。──敵影は見当たらず。また、これといって変わったモノなどもありませんでした。他の艦娘たちも至って真面目に取り組んでいるようです」

提督「何も問題無いな。ご苦労だった」

飛龍「いえいえ。……ところで提督、手に持っているそれはどうしたんですか?」

提督「これか。これは、片割れのペンダントだ」

飛龍「片割れ、ですか?」

提督「ああ。このペンダントは本来、二つで一つとなる物なんだ。よく見れば分かるが、錨が欠けた物に見えるだろう?」

飛龍「言われてみれば確かに……」

提督「時に飛龍。お前は右と左、どっちが好きだ?」

飛龍「と、唐突ですね……。正直に言ってどちらも変わりは無いんですけど……強いて言うなら左ですかね?」

提督「そうか。ならば左を渡そう」スッ

飛龍「ん? んん? すみません……話の先が見えないのですが……」ソッ

提督「右側は私が。左側は飛龍が。それで意味は分かるか?」

飛龍「────────」

提督「……気に入らなかったのならば言ってくれ。センスにはあまり自信が無いんだ」

飛龍「い、いえ! そういう訳じゃなくて……! あの……なんて言えば良いんでしょうか……」

提督「正直に言ってくれ」

飛龍「いえ……あの…………なんだか、顔がニヤけてしまいそうになって……」
249 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/01/31(日) 20:23:36.85 ID:K0+3EKFxo
提督「そういう事か。ニヤけてしまっても良いんだぞ」

飛龍「…………」トコトコ

提督「む? 後ろに回ってどうした」

飛龍「……照れているのを隠す為、かな?」ギュッ

提督「なるほどな」

飛龍「えへへー……♪」

提督「喜んでくれたようで何よりだ」

飛龍「そりゃあ嬉しいですって。なんだか、特別な気分になるでしょ?」

提督「そうだな。よく分かるよ」

飛龍「……あ」ソッ

提督「うん? 離れてどうした」

飛龍「一つ気になったんですけど、これって提督にとっては二回目ですか?」

提督「……そうだな。飛龍の物とはデザインが違うが、渡している。その片割れは引き出しの奥に仕舞ってある」

飛龍「……着けているのを見た事が無いような」

提督「渡した当日に逝かれてしまったら、な。誰も知らないはずだ」

飛龍「……そういう事だったんですね」

提督「ああ」

飛龍「提督」

提督「なんだ?」

飛龍「私のも、金剛さんのも、大事にして下さいね?」

提督「勿論だ。……むしろ、お前こそ沈むなよ?」

飛龍「誰が沈んでやるもんですか。まだまだ提督としたい事があるんですから、この先八十年くらいは元気で居るつもりですよ」

提督「百までか。良いな。私も百まで生きよう」
250 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/01/31(日) 20:24:05.13 ID:K0+3EKFxo
飛龍「…………」

提督「…………」

飛龍「……何言っているんですかね、私達」クス

提督「さてな。たまには良いだろう」ニヤ

飛龍「……それにしても利根さん、あまり来なくなりましたね」

提督「あいつなりに気を遣っているんだろう。利根も私の艦娘の一人だからな」

提督「──まあ、あまり気を遣わない者……いや、そうなっても仕方の無い者は居るが」チラ

飛龍「?」

コンコンコン──。

提督「入れ」

ガチャ──パタン

ヲ級「遊びに、来たよ!」ブンブン

空母棲姫「……すみません。どうしても行きたいと言っていまして……」

飛龍(なるほど。存在を秘密にしている二人ならそうなりますよね)

提督「という事は、また何か作れるようになったのか?」

ヲ級「うん! 今日は、おせんべい、作ってみた!」パッ

提督「煎餅か。珍しいな」

空母棲姫「小麦粉を少し余らせてしまったので、それに胡麻を混ぜて練り、油で揚げてみました」

提督「ふむ。では、四人で食べるとするか。飛龍、すまないがお茶の準備を頼んでも良いか?」

飛龍「分かりました。ほうじ茶で良いですか?」

提督「ああ。それで頼む。少し冷めてしまっているだろうが、湯はあったよな?」

飛龍「はい、ありますよ。少し待っていて下さいね」トコトコ
251 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/01/31(日) 20:24:34.38 ID:K0+3EKFxo
ヲ級「お茶ー♪ おせんべー♪」ニコニコ

空母棲姫「本当、この子ったら……。ごめんなさいね……」

提督「気にしなくて良い。ヲ級の性格からして、人と触れ合いたいのだろう」

空母棲姫「……確かにそんな風に見えます。ですが……」

提督「私は困ってはいないから安心してくれ」ナデナデ

ヲ級「えへー」ニパッ

空母棲姫「……………………」

提督「溜め息を吐かなくなったな」

空母棲姫「いい加減、慣れました。溜め息を吐きそうになる事はもはや日常茶飯事なので」

ヲ級「!」ピクン

飛龍「──お待たせしました。お茶を持ってきましたよ」トコトコ

ヲ級「飛龍のお茶、私、好き!」

飛龍「ありがとうございます。私も美味しそうに飲んでくれるのは嬉しいですよ」コトッ

ヲ級「熱い?」

飛龍「熱いですよー。だから、気を付けて飲んで下さいね」ナデナデ

ヲ級「はーい!」

提督「……ふむ」

空母棲姫「? この子を見てどうかしたのですか?」

提督「なに。そろそろ皆の前に出しても良いだろうかと思ってな」

飛龍「あ、確かにそろそろ良いかもしれませんね」

ヲ級「!! もう、隠れなくても、良いのっ?」ワクワク

提督「ああ。明日の日が暮れた頃、皆の前に紹介する。それからは鎮守府内を自由に歩き回って良いぞ」

ヲ級「やった!」
252 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/01/31(日) 20:25:02.78 ID:K0+3EKFxo
空母棲姫「…………」

提督「どうした。まだ不安か?」

空母棲姫「少しだけ……」

提督「安心しておけ。この鎮守府に居る子達ならば分かってくれる」

空母棲姫「…………反論できなくて嬉しいのやらなんとやら……」

提督「良い事だ。──さて、そろそろお茶会といこうか。飛龍も座ってくれ」

飛龍「はい」スッ

ヲ級「! 今日は、提督さんと、すっごく近いね?」

飛龍「あっ」

提督「良いものだぞ」

空母棲姫「……もしかして、お邪魔でしたか?」

提督「さてな。一つ言える事は、このお茶会を楽しもうという事くらいだ」

空母棲姫「もう……。そんな曖昧な返事を……」

飛龍「…………」チラ

提督「お前はここに居てくれよ?」

飛龍「ぅ……少し、恥ずかしいです……」

提督「今日ばかりは私の我侭だ。近くに居てくれ」

飛龍「もー……」

提督「くくっ」

提督(……まあ、こういうのも悪くはない。全ての物事は、止まる事無く流れていくのだから──)

提督「幸せにしてやるぞ、飛龍」

飛龍「……提督も幸せにしますからね!」

提督「ああ、楽しみにしているよ──」
253 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/01/31(日) 20:26:41.93 ID:K0+3EKFxo
──── 利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」 金剛「…………」 IF End────

254 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/01/31(日) 20:31:32.95 ID:K0+3EKFxo
飛龍ルートはここまでです。本当に穏やかに終わっていく締め方でした。こんな平和的に終わる長編物語を書いたのってどれくらい振りだろ……。

さて、次の投下からこの物語のトゥルーのルートを書いていきます。
たぶん皆さん気付いていると思うのですが、利根さんのルートと飛龍のルートのどちらもが提督と利根の問題があやふやのまま終わっています。これを直接的に解決するのがトゥルーです。
また一週間以内くらいにくると思いますので、もう少々この物語とお付き合い下さいませ。
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/31(日) 20:39:13.83 ID:X6mqKQWxo
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/31(日) 21:10:44.17 ID:JqaNHut1o
乙乙
飛龍が可愛すぎてつらい
257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/31(日) 21:12:27.58 ID:h+goxALIO
乙デス
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/01/31(日) 22:11:19.00 ID:khtjwmJ5O
乙です
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/03(水) 00:51:11.12 ID:hQWPwPQpo
おつ
260 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/02/06(土) 18:55:34.99 ID:7SUR/2U5o
前スレ907からの分岐です。
金剛さんが正式に鎮守府の一員となる少し前に、甘くないスコーンを焼いていた辺りです。

投下していきますね。
261 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/02/06(土) 18:56:11.45 ID:7SUR/2U5o
金剛(……さて、そろそろ焼き上がる時間デス。オーブンから取り出しまショウ)スッ

金剛「ふむ……ふむふむ。見た目はグッドです。後は味の方デスが……」

金剛「…………」モグモグ

金剛「……甘味が無くて、私の口には合わないデス。メープルシロップを掛ければ美味しいと思いマスが……」

金剛「うーん……。テートクは美味しいと言って下さるでショウか……」

コツッ──コツッ──コツッ──

金剛(! テートクですかね?)ソワソワ

カチャッ……ガチャ──パタン

提督「調子はどうだ、金剛」

金剛「私は元気デス。テートクは……なんだか雰囲気が少し暗いデスね? 何かあったのデスか?」

提督「まあ……ちょっとした総司令部からの面倒事だ。段ボール箱三つ分の書類をいきなりドカンと送られてきた」

金剛「み、三つ……。大人の人でもスッポリ入れそうなアレですよね……?」

提督「そうだ」

金剛「……お疲れ様デス」ペコッ

提督「長年サボっていたツケだろう。──ところで、何か作っていたのか? スコーンを焼いているような匂いがするが」

金剛「!! 分かるのデスか?」

提督「多少はな」

提督(『金剛』がよく作っていたからな……)

金剛「ぁ……」

提督「ん? どうした」

金剛「い、いえ……」

金剛(…………きっと、テートクの『金剛』も同じようにスコーンを作っていたのデスね……。失敗しまシタ……)

提督(……ああ……この子はたぶん『金剛』の事を考えているんだな。さて……どうしようか……)

金剛「……………………」

提督「…………」

金剛「…………」

提督「…………」ポン

金剛「…………?」
262 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/02/06(土) 18:56:42.65 ID:7SUR/2U5o
提督「……ありがとう」ナデナデ

金剛「……ごめんなさいデス」

提督「どうして謝る?」

金剛「私は、気を遣わせてしまっていマス……。本当でしタラ、テートクが喜べるようにするべきなのに……」

提督「その気持ちだけで充分だ」ナデナデ

金剛「でも──」

提督「充分だよ、金剛。そう思ってくれるだけで、私は嬉しい」ナデナデ

金剛「……ハイ」

提督「なあ金剛。そのスコーン、一つ貰っても良いか?」

金剛「え──。勿論デスけど……」

提督「けど?」

金剛「…………いえ、ぜひ召し上がって下サイ! とっても久し振りデスが、上手く出来まシタ!」

提督「ああ、頂く」ヒョイッ

金剛「…………」ドキドキ

提督「…………」モグ

金剛「……お口に合いマスか?」ドキドキ

提督「……うむ。良いな、これは。美味い」

金剛「リアリー!? やったデース!」

提督「金剛、確かに防音になっているとは言ったが、少し声を抑えてくれ」

金剛「あぅ……ソーリィ……」シュン

提督「だが……」

金剛「…………?」

提督「やっぱり、お前はそうやって明るい方が似合っている。正式にこの鎮守府に籍を置く事になった時は、素を出してくれ」

金剛「──ハイッ」

提督「うむ。良い返事だ」
263 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/02/06(土) 18:57:17.06 ID:7SUR/2U5o
提督(私としても、暗い金剛を見るのは辛いからな……)

金剛(……ああ……やっぱり、私を見ると思い出してしまうのデスね)

金剛「……………………」グッ

金剛(私は、テートクの為に何かしたいデス)

金剛「テートク」

提督「ん、どうした」

金剛「ご無理はしないで下サイ。……もし、どうしても私の姿を見るのが辛い時は、そのように言って下サイ」

提督「……何かするつもりなのか?」

金剛「ホラ、髪型を変えてみるとイメージが変わるかもしれないデス」ホドキホドキ

提督「髪型を?」

金剛「ハイ。……よいしょ…………今は手で支えているだけデスが、ポニーテールです。どうデスか?」スッ

提督「より活発なイメージになったな」

金剛「こうすれば、少しは意識を逸らせるかな……と思いまシテ」

提督「……なるほどな。だが、それは気持ちだけ受け取っておく。私の事を考えてくれるのは嬉しいが、金剛は自分の好きなようにやっていてくれ。いつもその髪型で居るという事は、その髪型が気に入っているんだろう?」

金剛「確かにそうデスけど……。それよりも私の好きなようにとは……?」

提督「島に居た時にも言ったかもしれんが、ずっと出撃続きで自分のやりたい事も何も出来なかったのだろう? この鎮守府で出来る範囲だったら好きな事をやっても良いんだぞ」

金剛「…………それでは、お言葉に甘えさせて頂きマス」

提督「ふむ。何がしたいんだ?」

金剛「──私は、テートクの為に何かをしたいデス」

提督「────────」

金剛「テートクが笑顔になれるようにしたい……。それが、今の私のやりたい事デス」

提督「……そうか」

金剛「ハイ」
264 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/02/06(土) 18:57:50.48 ID:7SUR/2U5o
提督(私としても、暗い金剛を見るのは辛いからな……)

金剛(……ああ……やっぱり、私を見ると思い出してしまうのデスね)

金剛「……………………」グッ

金剛(私は、テートクの為に何かしたいデス)

金剛「テートク」

提督「ん、どうした」

金剛「ご無理はしないで下サイ。……もし、どうしても私の姿を見るのが辛い時は、そのように言って下サイ」

提督「……何かするつもりなのか?」

金剛「ホラ、髪型を変えてみるとイメージが変わるかもしれないデス」ホドキホドキ

提督「髪型を?」

金剛「ハイ。……よいしょ…………今は手で支えているだけデスが、ポニーテールです。どうデスか?」スッ

提督「より活発なイメージになったな」

金剛「こうすれば、少しは意識を逸らせるかな……と思いまシテ」

提督「……なるほどな。だが、それは気持ちだけ受け取っておく。私の事を考えてくれるのは嬉しいが、金剛は自分の好きなようにやっていてくれ。いつもその髪型で居るという事は、その髪型が気に入っているんだろう?」

金剛「確かにそうデスけど……。それよりも私の好きなようにとは……?」

提督「島に居た時にも言ったかもしれんが、ずっと出撃続きで自分のやりたい事も何も出来なかったのだろう? この鎮守府で出来る範囲だったら好きな事をやっても良いんだぞ」

金剛「…………それでは、お言葉に甘えさせて頂きマス」

提督「ふむ。何がしたいんだ?」

金剛「──私は、テートクの為に何かをしたいデス」

提督「────────」

金剛「テートクが笑顔になれるようにしたい……。それが、今の私のやりたい事デス」

提督「……そうか」

金剛「ハイ」
265 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/02/06(土) 18:58:16.79 ID:7SUR/2U5o
提督「…………」

金剛「…………」

提督「……そうだな。とりあえずは、今晩あたりで一緒にティータイムでもするか」

金剛「! ハイッ! お待ちしていマス!」

提督「金剛、何時まで起きていられる」

金剛「深夜でも問題ナッシングです。……流石に三時とかですと辛いデスが」

提督「ならば、零時にここへ来るとしよう」

金剛「ハイ! 楽しみにしていマス!」

提督「…………」ポン

金剛「?」

提督「ありがとう」ナデナデ

金剛「!」

提督「では、私は執務に戻る。また今夜に」

ガチャ──パタン

金剛「……テートクの顔、穏やかでシタ」

金剛「少しは、お役に立てているのでショウか……?」

…………………………………………。
266 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/02/06(土) 18:58:43.24 ID:7SUR/2U5o
提督「──さて、今日の執務はこれで終わりだ。ご苦労だった、飛龍」トントン

飛龍「お疲れ様です、提督」

提督「ああ。今日はもう休んで良いぞ」

飛龍「はい。──あ、そうだ。一つ良いですか?」

提督「ん?」

飛龍「これから何かご予定とかありますか?」

提督「……そうだな。一つ入っている」

飛龍「あら、そうですか……」

提督「何かあったのか?」

飛龍「ああいえ! 大した事ではありませんから」

提督「ふむ?」

飛龍「ええーっと……ただ、お酒に誘おうかなっと思っただけです。ほら、まだ日も跨いでいませんし」

飛龍(何より、なんだかいつもよりも誘いやすそうな雰囲気でしたしね)

提督「そういう事か。すまんが、それはまた今度にしてくれ」

飛龍「はい。また誘いますので、提督の都合が良い時に飲みましょう」

提督「ああ、そうしよう。──では飛龍、良い夢を見ろよ」

飛龍「はい! おやすみなさいませ」

ガチャ──パタン

提督(……さてと。約束の時間までかなり余裕があるな)

提督「……………………」チラ

提督「月夜に照らされた海、か……」

提督(そうだな。久し振りに夜の海でも眺めてみるか)

…………………………………………。
267 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/02/06(土) 18:59:10.26 ID:7SUR/2U5o
提督(……暗いな。月が昇っているとはいえ、半分だけの光では波くらいしか見えるものがない)スタスタ

提督(本当にどこまでも吸い込んでいきそうなほど黒い。……深海に沈むと、こんな風に暗くて黒いのだろうか)

響「…………」ボー

提督「む、響?」

響「! ……司令官? ビックリしたよ」

提督「私こそ驚いたぞ。こんな時間にどうしたんだ?」

響「なんとなく部屋を抜け出したくなってね」

提督「……ふむ」

響「向こうに帰りたいとかじゃないよ。それだけは先に言っておくね」

提督「ならば、他に思う所があるのか」

響「ん、そうだね……。皆が優しい所が少し辛いかな」

提督「優しい所が?」

響「うん。暁や雷、電が優しいんだ。私を相手に普通にしようと努力してくれてる」

提督「…………」

響「私を見て、話して、一緒に居て、三人は辛いはずだよ。そうだっていうのに、三人は私と普通にしてくれてるんだ。……そんな三人の姿を見るのが、私は少し辛い」

提督「だから部屋を抜け出したのか」

響「うん。ごめんよ、司令官」

提督「謝る事ではない。いずれ、三人も響も慣れる事だ」

響(司令官みたいに……とは言わないでおこうかな)

提督「響」

響「なんだい司令官?」

提督「お前には、目の前に広がる海がどう見える?」
268 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/02/06(土) 18:59:45.07 ID:7SUR/2U5o
響「……………………なんだか、私や司令官みたいに見えるよ。誰かが見ている時は至って普通のようにしているのに、夜になって見る人が居なくなったら暗くて冷えてしまっている姿を見せるから」

提督「……そうか」

響「…………」

提督「…………」

響「金剛さんや瑞鶴さんも、同じなのかな……」

提督「……それは二人に聞いてみないと分からないかもな」

響「うん……」

提督(…………ん?)チラ

長門「──二人してこんな所で何をしているんだ?」

響「! ……海を見ていたんだよ」

長門「なぜまた夜の海なんかを……。暗くてほとんど何も見えないだろう?」

響「なんとなく、かな」

提督「そうだな。なんとなくだ」

長門「……はぐらかしているように感じるが、まあ良いか」

提督「お前こそ、こんな夜中にどうしたんだ?」

長門「少し夜風に当たりたくなってな。時々だがこうやって夜、外に出ているんだ」

提督「そうか。意外だな」

長門「……意外か?」

提督「就寝と起床のどちらも規則正しくしていそうなイメージがある」

長門「なるほど。出来れば私もそうしたいものだな」
269 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/02/06(土) 19:00:14.12 ID:7SUR/2U5o
響「長門さんも休みは不定期だったからね」

提督「それで体内時計が狂ってしまったのか?」

長門「そんな所だ。何も無いのにいきなり目が覚めてしまう事もある。そういう時はこうして夜風に当たっているぞ」

提督「…………」ポン

長門「……なぜ頭に手を置いた」

提督「やはり、お前も苦労していたんだなと思ってな」ナデナデ

長門「私を子供扱いか……」

提督「ただの労いだ。素直に受け取っておけ」スッ

長門「むぅ……」

提督「──さて、私はそろそろ中へ戻るとしよう」

響「もう行っちゃうの?」

提督「金剛と約束をしていてな」

響「私も行って良い?」

提督「そうだな。金剛も喜ぶだろう。──長門、お前はどうする」

長門「ふむ……。お邪魔させてもらおうか。その内、眠気もやってきてくれるだろう」

提督「決まりだな。では、行くか」

…………………………………………。
270 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/02/06(土) 19:01:32.04 ID:7SUR/2U5o
今回はここまでです。また一週間以内くらいに来ますね。

さて、こっちはどれくらい長くなるのだろうか。
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/06(土) 19:36:19.62 ID:d+eBfmFuo
乙です
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/06(土) 19:52:32.79 ID:WC9vB3sU0
乙。誰ルートなんだろ 
273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/07(日) 03:39:21.99 ID:rBmzpgPko

言い方悪いけど轟沈三姉妹かな
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/07(日) 08:49:37.08 ID:AD2ZUQQNo
これでラストのトゥルールートだって言ってたの忘れたのか
利根ルート(エンド)じゃなかったらスレタイ詐欺だろ
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/07(日) 16:05:57.15 ID:WjnUwsH70
そう思わせて、まさかの長門エンド
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/07(日) 16:44:17.14 ID:3/TJhy67O
スレタイ詐欺も何も既にスレタイ回収してるんだから別に何でもよくね?
277 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/02/13(土) 23:07:19.03 ID:5gqbYN2eo
コツッ──コツッ──コツッ──

金剛「!」ソワソワ

カチャッ……ガチャ──パタン

提督「待たせた」

瑞鶴「お邪魔しまーす」

響「やあ」

長門(……甘い匂い)

金剛「ワォ。皆、来てくれたのデスね」

提督「外では響と長門に、廊下を歩いている途中で瑞鶴と会ってな。事情を知っている者だから誘ったんだ」

金剛「なるほどデス。では、お湯も沸いているので、すぐに紅茶を淹れるネー」ソッ

長門「……本当、随分と元気になったな」

金剛「そうデスか?」

瑞鶴「うん。あそこに居た時とはもう全然違うわよ」

響「枯れ掛けた花に水をあげたような感じだよね」

長門「うむ。確かにそのような感じだ」

金剛「枯れ掛けたって……まるでお婆ちゃんみたいな言い方デス……」

提督「流石に婆さんは無理がある。どんなに悪く見積もってもお姉さんだろう」

瑞鶴「提督さん的には今の金剛さんはどんな風に見えるの?」

提督「うら若き乙女」

金剛(……少し照れマスね)テレ

響「私は?」

提督「頭の回る聡明な子、だな」

響「ハラショー」
278 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/02/13(土) 23:07:58.15 ID:5gqbYN2eo
瑞鶴「じゃあ私や長門さんはどうなの?」

提督「瑞鶴は少女というのがピッタリと当て嵌まる。長門は……そうだな」

長門「…………」

提督「……プライドの高い女性だろうか」

長門「……なんだか私にだけ毒があるように聞こえるのは気のせいか?」

提督「まだ長門の事はよく分かっていないからどうもな。第一印象より少し踏み込んだ部分までしか判断できん」

長門「私はそんなにもプライドが高いように見えるのか……」

瑞鶴「うん」

金剛・響「…………」コクコク

提督「喋り方や仕草、自分の趣味を隠す所など特に」

長門「〜〜〜〜〜〜ッ」

提督「ついでに言うと、素直になれない不器用な子にも見える」

長門「……酷く、落ち込むなそれは…………」ズーン

響「こればっかりは性格だから仕方が無いのかな」

長門「……なるべく早く直すよう善処しよう」

提督「私は無理に変えようとしなくても良いと思うが」

長門「気休めの言葉は受け取らんぞ……」

提督「変えるなとは言っていない。そういうのはゆっくりで良いんだ。周りに迷惑を掛けている訳でもないだろう? むしろ、急に変えようとするとストレスにもなる上、周りも心配する。そういうものは自分のペースで変えていく方が上手くいくものだ」

長門「……ああ、なるほど。そういう事か」

瑞鶴「…………? 何がそういう事なの?」

長門「いや、すまん。駆逐艦の子達が揃ってこの方の事をお父さんみたいだと言っていたのを思い出してな。それでなるほどと思ったんだ」

金剛「言われてみれば確かにそんな感じもするネ。──お待たせしました。アッサムですヨ」
279 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/02/13(土) 23:08:24.29 ID:5gqbYN2eo
瑞鶴「良い香りねー。どういう紅茶なの?」

金剛「深いコクと力強い味の紅茶デス。味が強いデスので私はミルクティーが一番合うと思いマス」

響「じゃあ、私はミルクティーにするね」

瑞鶴「私もミルクティーにしてみる」

提督「私はストレートで頂く」

金剛「長門はどうしマスか?」

長門「では……ミルクティーで」

金剛「分かりまシタ。──まずは提督の分デス」ソッ

提督「ありがたい」

金剛「そして……ハイ、三人の分デス」ソッ

瑞鶴「ん? 金剛さん、なんで提督さんのと私達のでポットが違うの?」

金剛「ミルクティーにする時は茶葉の量を多くすると、とっても美味しくなるデース。飲み比べると分かるデスよ」

瑞鶴「へぇ……。あ、ミルクってどれくらい入れるの?」

金剛「お勧めは紅茶の半分くらいデス」

長門「半分……? そんなにも入れるのか」

金剛「イエス。ストレートティーに同じ量を入れるとミルクの味に負けてしまいますが、そうならないように茶葉を多く入れるのデス」

響「そうなんだ。じゃあ早速」スッ

響「……美味しい。紅茶って、こんなに美味しいんだ」

瑞鶴「何これ。支給品の紅茶と全然違う。砂糖も入ってないのに、淹れ方が違うだけでこんなにも美味しくなるんだ」

長門「これは……」パチクリ

金剛「長門も気に入ってくれたようデスね」ニコニコ

長門「ああ。こんなに美味い紅茶を飲んだのは初めてだ」
280 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/02/13(土) 23:08:51.32 ID:5gqbYN2eo
金剛「テートクはどうデスか?」

提督「ああ、美味いぞ。スコーンも頂こうか」スッ

瑞鶴「あっ私も」

金剛「瑞鶴、このスコーンはプレーンですからジャムやメープルシロップ、クリームを付けると良いデスよ」

響「金剛さんのお勧めは?」

金剛「少し悩みマスが、私はクリームを付けるのが一番だと思うデース」

瑞鶴「クリームね。分かったわ」

金剛「たっぷりと付けるのが秘訣ネ」

瑞鶴「じゃあ……このくらい?」

提督「もう少し多くするくらいだ。──ああ、それくらいだな」

金剛「!」

瑞鶴「〜〜〜〜〜〜!! 最高……っ! こんなに美味しいお菓子を食べたのって初めてかもしれないわ……!!」

金剛(……確か、テートクは砂糖が苦手だったはずデス。という事は……)

提督「どうした金剛? お前も食べて良いんだぞ」

金剛「──アハ。皆の美味しそうに食べてくれる姿に気を取られちゃったデース」

長門「これほど美味い菓子を作ってくれたんだ。私も大満足だぞ」

金剛「ありがとうございマス!」

金剛(……このティータイムは、失敗だったかもしれまセン)

提督(ふむ……)

…………………………………………。
281 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/02/13(土) 23:09:26.60 ID:5gqbYN2eo
金剛「……………………」カチャ

金剛(よく考えれば、当たり前の事でシタ……。私達はテートクの事をよく知っていませんが、テートクは『私達』の事をよく知っているのデス……)

金剛(大体の好みも、どういう事が苦手なのかも、テートクは分かっているはずデス……。だから、私が手の込んだお菓子や紅茶を用意しても、それはテートクの『金剛』が既にやっている事のはずデス……)

金剛「……辛く、思い出させてしまっただけデス。本当、私はダメな艦娘デス……」

金剛(こんなだから、私は──)

コンコンコン──

金剛(────っ? ……誰デスか? 私を知っている人ならば、誰もこんなノックなんてしないはず……)

カチャッ……ガチャ──パタン

金剛「……え?」

提督「さっき振りだな。少し時間をくれないか?」

金剛「ええ……それは構わないのデスが……何かあったのデスか?」

提督「何かがあったのは金剛、お前だろう」

金剛「────────」

提督「今回のティータイム、失敗したと思っていないか?」

金剛「……は、い…………」

提督「やはりな。途中で様子がおかしかったから、そうだと思った」

金剛(怒られるのでショウか……)ビクビク

提督「今回、ティータイムを提案したのは私だというのを忘れていないか?」

金剛「…………? あ──」

提督「ようやく気付いたようだな。そういう事だ。私は、今回のティータイムは良い時間だったと思っていた。金剛や瑞鶴、響に長門が小さいながらも喜んでいただろう? ああいう時間がお前達には必要だと、改めて思ったくらいだ」

提督「金剛が何を思って罪悪感を覚えたのかまでは分からないが、その罪悪感は杞憂だから安心しろ。実際に、紅茶を飲む私は辛そうな顔をしていたか?」

金剛「…………」フルフル

提督「そうだろう? お前は頭が回る。そして少し臆病だ。自分が悪かったと思ってしまうのも過去を考えれば仕方が無いが、そんな事はないと伝えておく」

金剛「…………」

提督「…………」

金剛「……………………」

提督「……大丈夫だ」ソッ

金剛「っ……!」ピクン

提督「大丈夫だよ、金剛」ナデ

金剛「…………」ジワ

提督「また、機会があったら美味い紅茶を淹れてくれ。楽しみにしているから、な?」ナデナデ

金剛「……はい…………っ」ポロ

金剛「はい……! はいっ……!」ポロポロ

金剛「ありがとう、ございマス……! 本当に……本当に、不安だったのデス……! 迷惑しか掛けていないんじゃないかと……余計な事しかしていないんじゃないかと……!」ギュゥ

提督「……雨が止むまで、私は傘になっておこう。雨宿りくらいならば出来るはずだ」ナデナデ

金剛「うぁぁ……ひっく…………ぁぁ……」

…………………………………………。
282 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/02/13(土) 23:12:41.32 ID:5gqbYN2eo
今回はここまでです。また一週間以内くらいに来ると思います。

いつの間にか日付が進んでいるから困る。
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/13(土) 23:40:07.63 ID:g16RVG6X0


まぁトゥルーというなら金剛ルートだろうなどう考えても…
利根はどう見ても幼馴染ポジというか滑り台というか舞台装置感ががが
ハーレムでもいいけどね(真顔
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/13(土) 23:46:51.43 ID:nC+f6krsO
乙です
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/14(日) 01:34:08.42 ID:7ae5TbEQ0
なぁに、どうせ全員消える(前作感)
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/14(日) 06:40:02.28 ID:isK6IT5Co
か、解体さえしなければ設定的には消えないから(震え声
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/14(日) 10:53:41.61 ID:swTQ0+d80
イデが発動しなけりゃへーきへーき
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/15(月) 21:04:22.85 ID:RQE/K1PN0
たのしみ
289 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/02/21(日) 01:42:19.62 ID:Y/xJyOjdo
金剛「……もう、大丈夫デス」

提督「そうか」スッ

金剛「……えへ。なんとなくデスが、分かった気がしマス」

提督「何がだ?」

金剛「今はまだ秘密、デス」

提督「そうか……」

金剛「ハイ。この先どうなるかは分かりまセンが、もしかしたら言えるかもしれないデス」

提督「ふむ」

金剛(期待すると同時に、抑えておいた方が良いかもしれまセンけれどね……)

金剛「ところで、もうこんな時間デスけれど朝は大丈夫なのデスか?」

提督「すぐにでも寝れば問題無い。心配してくれてありがとな」

金剛「いえいえ。お身体は大事にして下サイね?」

提督「ああ。皆の心配する顔はあまり見たくはない」

金剛「もう……そっちデスか」

提督「こればっかりは性分だ。諦めろ」

金剛「むぅ……──!」ハッ

金剛「ほらほら、早くスリープして疲れを取って下サイ。でなければ明日辛いのはテートクですヨ」グイグイ

提督「そうしておくか。──では、良い夢を見ろよ、金剛」

金剛「ハイッ。テートクも良い夢を見て下サイね」

ガチャ──パタン

金剛「…………」トコトコ

カチン

金剛(……さて、鍵も掛けましたし片付けの続き──は、もうこれでお終いデスね)カチャ

金剛(であれば、私もそろそろお休みするとしまショウか)パチン

金剛(よいしょ……)コロン

フワッ

金剛「あ──……」

金剛(……なぜでショウか。たまにあるのデスが、こうして横になっていると誰かに護られているような気分になりマス……)

金剛(……この鎮守府は、本当に不思議な事で一杯デス)

金剛(艦娘をあんなにも大切に扱って下さるテートクに、深海棲艦の二人、そして本当は違う提督の艦娘の私達……。どれも普通ではありまセン)

金剛(このベッドもそうデス。こんなにも心が落ち着けるなんて、本当に不思議デス)

金剛(今日も、ぐっすりと眠れそうデスね──…………)

……………………
…………
……
290 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/02/21(日) 01:42:54.62 ID:Y/xJyOjdo
提督「──さて、今日の執務はこれで終わりだ。今日はよく最後まで起きていたな、利根」

利根「まあ、そういう事もあるのじゃ」

提督(……うん?)

飛龍「それでは、私はそろそろ部屋に戻りますね」スッ

利根「む? なんじゃ。今日はやけに早く帰るのじゃな」

飛龍「加賀さんにお酒を誘われていましてね。提督と利根さんも一献どうですか? 良いお酒が入っていますよ」

利根「そうじゃのう。我輩は次に回すとするかの」

飛龍「ありゃ。用事でもありましたか」

利根「うむ。ちっとばかし厄介事がの」チラ

飛龍(ん……? 提督の方へ視線を……?)

提督(……私に関係する事か)

提督「すまんが飛龍、今ばっかりはタイミングが悪い。また今度誘ってくれるか?」

飛龍「……はい……分かりました」シュン…

提督「良い夢を見ろよ」

飛龍「はい……」

ガチャ──パタン

提督「──それで、何があったんだ利根? 今まで起きていたのもそれを伝える為か」

利根「うむ。些細じゃが気になる噂を耳にしての」

提督「噂?」

利根「なんでも、夜に幽霊が現れるらしいぞ」

提督「見間違いか寝惚けていたか、それとも誰かが面白がって流したという可能性は」

利根「無論、その可能性もあるじゃろうが、限りなく低いじゃろう。内容が内容じゃ。面白半分で流す奴なぞこの鎮守府に居らん」

提督「……何を見たと言うんだ」
291 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/02/21(日) 01:43:22.06 ID:Y/xJyOjdo
利根「……………………」

提督「…………」

利根「……金剛じゃ」

提督「なんだって……?」

利根「信じにくい話じゃが、あの金剛らしいぞ」

提督「それは、今隣に居る金剛を見掛けたという事ではないんだな?」

利根「うむ。我輩達のよく知る、我輩達が壊れる切欠となった金剛……。半分ほど透き通っており、おまけに艤装付きだったそうじゃ」

提督「…………」

利根「提督よ、我輩は幽霊というもの自体は信じておる。じゃが、金剛の幽霊となると話は別じゃ。……あやつは、沈んでしまったのじゃからな」

提督「……必ずとは言えないが、艦娘が沈めば深海棲艦となる。幽霊になるはずが無い……か」

利根「うむ。──ちなみにじゃが、その話をしておった者達にはこれ以上、話が広がぬよう口止めをしておいた」スッ

提督「良くやった。では、確かめに行くぞ」スッ

利根「うむ。……こればっかりは、真相を確かめねばならん」

ガチャ──

提督「……利根」

利根「うん? どうしたのじゃ?」

提督「もしも、その噂が本当だったらどうする」

利根「…………さあ、のう……。まずは見付けてみねば分からぬ」

利根「眺めるだけか、何をしておるのかと話し掛けるか、地に手と頭を擦り付けて謝るか……どうするのかは、分からぬ」

提督「……そうか」

利根「そう言うお主はどうするのじゃ、提督よ」

提督「…………さあ、な。私も分からん」

利根「やはりか……」

提督「……一先ず、幽霊とやらを見付けるぞ。色々と問題が起きるかもしれんからな」

利根「うむ」

──パタン
292 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/02/21(日) 01:43:52.74 ID:Y/xJyOjdo
利根「…………」キョロキョロ

利根「一応聞いておくが、この部屋に居る金剛に関する話はせぬ方が良いのじゃな?」

提督「ああ。こんな時間とはいえ、誰に聞かれるか分からん」

利根「了解じゃ。……ところで提督よ」トコトコ

提督「どうした」スタスタ

利根「なぜ、幽霊は現れたのじゃろうな」

提督「さあな……。心配で様子を見に来た……とかだったら可愛いものなんだが」

利根「……もしそうならば、提督は本当に慕われておるのう」

提督「提督冥利に尽きる」

利根「こうやって冗談を言えている内は、まだ問題無いのう」

提督「ああ……。──ちなみに、どこで見掛けたとかは言っていなかったのか?」

利根「む……すまぬ。それは聞いておらなんだ。用を足しに行った時に見付けたとは言うておったから、恐らくそれまでのどこかじゃろう」

提督「ふむ。一応、鎮守府を回って見てみるか。別の場所でも見掛ける可能性はある」

利根「うむ。そうするかの」

スタスタスタ──

────────。

??「……………………」

…………………………………………。
293 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/02/21(日) 01:45:23.39 ID:Y/xJyOjdo
今回はここまでです。また一週間以内くらいに来ますね。

幽霊に絡まれて思う事は一つ。頼むから色々と邪魔しないでマジで。
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/21(日) 02:01:24.93 ID:q4F9PmhFO
乙です
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/23(火) 00:27:18.14 ID:JRljDrWrO
乙乙
296 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/02/28(日) 20:31:43.87 ID:7Iq+mEEgo
利根「……居らぬのう」

提督「居ないな。噂は噂にしか過ぎんという事だろうか」

利根「もしくは、今日たまたま会わなかっただけかもしれぬ」

提督「その可能性も高い──が、今日はもう遅い。お前はそろそろ寝ておけ」

利根「無論、提督も寝るのじゃよな?」

提督「私の性格を知っているだろう」

利根「知っておるから念押ししておるんじゃろうが。我輩の体調を気遣うお主が、自分の体調を気遣わないとは説得力が無くなるぞ」

提督「……仕方が無いな。今日は切り上げだ。次の夜にまた探すとしよう」

利根「それがベストじゃろうな。……ところで提督よ」

提督「どうした」

利根「此度の幽霊騒動じゃが、金剛を表に出す事に影響は出ぬか?」

提督「丁度、私もその事について考えていた所だ。そろそろ金剛もこの鎮守府の一員として迎えようと思っていたが、少し難しくなった」

利根「やはりか」

提督「金剛の幽霊を見たのは利根が聞いた者だけとは限らん。その上、幽霊を見た者からすると、ここで金剛を迎え入れる事となれば不気味に思うだろう」

利根「そうなるのう。……という事は、見送りか」

提督「残念ながらな……。ほとぼりが冷めるまで、また金剛には我慢してもらうしかない」

利根「仕方が無いのう……」

提督「……もしかしたら、金剛の幽霊が現れたのには意味があるかもな」

利根「なんのじゃ?」

提督「さて。それは私にも分からない。そもそも、本当に意味があるのかすらも分からん」

利根「全ては予想でしかない、という事じゃな」

提督「そういう事だ」

利根「金剛の幽霊が現れた意味……か。何かありそうな気がするのう……」

提督「どんな意味があると、お前は考える?」

利根「漠然とありそうと思っただけじゃな」

提督「そうか」

利根「……しかし、残念じゃ」

提督「ああ……残念だ。あそこに押し込んでおくのは、金剛にとってもあまり良くない」

利根「深夜くらいは外出許可を出してみてはどうじゃ」

提督「一考しておこう」

提督(……金剛の幽霊が現れた意味、か。……私に愚痴の一つでも言いに来たのだろうか。それとも、ただ単に会いに来たくなっただけ……というのは夢を見過ぎか……)

…………………………………………。
297 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/02/28(日) 20:32:23.49 ID:7Iq+mEEgo
金剛「…………?」

瑞鶴「え、金剛さんは待機? なんで?」

響「何があったんだい、司令官」

提督「昨日、ある問題が発生した。それが原因で金剛には悪いが、もう少しここに居て欲しいんだ」

瑞鶴「問題?」

提督「ああ。この鎮守府で、幽霊が目撃された」

瑞鶴「え……」ビクッ

金剛「ゴースト、デスか」

響「……それだけ?」

瑞鶴(え、みんな怖くないの!?)

利根「ただの幽霊ならば無視して構わぬが、金剛の姿をしておるのが問題なのじゃ」

金剛「私……?」

提督「正確にはこの鎮守府に存在していた金剛だ」

響「…………ッ」

金剛「────」

瑞鶴「…………!」ビクビク

提督「もしかしたら、私に文句の一つでも言いに来たのかもしれんな」

金剛「それは無いと思いマスけど……」

利根「うむ。想像も付かん」

響「二人に同意かな。私も全然思いつかない」

瑞鶴「…………」コクコク
298 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/02/28(日) 20:33:46.81 ID:7Iq+mEEgo
提督「深く関われば相手の欠点や不満に思う部分などいくらでも出てくるものだ」

提督(無論、その部分も含めて愛おしいが)

瑞鶴「……えっと、つまり、提督さんはその金剛さんに不満とかってあったの?」

提督「ある事にはあったぞ」

瑞鶴「へぇ……どんな事?」

提督「まずは無理をしがちな所だな。しかもそれを隠そうとする。もう少しは私を頼ってくれても良いと思うのだが。それと、アイツは私に対して盲目だった。いや、盲目は言い過ぎか。並大抵の事であれば受け入れてしまうんだ。ハッキリと言う所は言うのが救いだったか。あと、私を悪くない意味で困らせる事も多々あったな」

金剛(ナゼだか私にも当て嵌まっている所があるような気がするデス……)

響「喧嘩とかもしたの?」

提督「すぐに収拾は付いていたが、たまにしていたぞ」

利根「二人が喧嘩をすると怖いのじゃぞ。誰一人、あの加賀ですら近付こうとせんのじゃからな」

瑞鶴「うわぁ……それってよっぽどよね……」

響「どっちが折れてたの?」

提督「どっちもだ。冷静に考えて、互いに自分の悪い部分を言って丸く収まっていた」

瑞鶴「何それ……すっごく羨ましい」

利根「そうなのかの?」

金剛「……私達は、あの方に逆らえまセンでシタから」

瑞鶴「…………」コクッ

響(夫婦や主従関係どころか、奴隷って感じだったしね)フイッ

響「それでも、やっぱり聞く限りじゃ文句なんて言いそうにないかな」

提督「ふむ。どうしてそう思ったんだ?」

響「勘、かな。女の勘」

提督「……響が女の勘と言うと、妙に信じてしまうな」

利根「うむ……。しかし、そうとしても深海棲艦にならずに幽霊になったのかは分からず仕舞いじゃぞ」
299 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/02/28(日) 20:34:30.44 ID:7Iq+mEEgo
瑞鶴「──え? ちょ、ちょっと待ってよ!」

利根「む?」

響「……利根さん、今の」

提督(……マズったな)

金剛「…………」

利根「む……すまぬ、提督」

提督「仕方が無い。空母棲姫やヲ級が居るんだ。いずれバレていただろう。……そういう事だ。あくまで可能性だが、艦娘は沈むと深海棲艦となる可能性が高い」

響「……どうしてそう思ったんだい」

提督「三人も薄々気付いていたと思うが、二人──特に空母棲姫はどこかで見た事のある姿と言動をしていないか」

瑞鶴「それは……思った事はあるけど……」

提督「私の予測だが、空母棲姫は加賀が沈んだ姿ではないかと思っている。深海棲艦だというのにも関わらず艦娘に詳しいのも、そう考えれば納得がいく。ヲ級は……今の所分からん」

瑞鶴「で、でも! 沈んだら確実に深海棲艦になる訳じゃないのよね? それだったら、幽霊になる可能性だってあるんじゃないの……?」

提督「今まで艦娘の幽霊というのを聞いた事が無い。私も提督だ。もしそのような事例が他の鎮守府にあれば耳へ入ってくる」

提督「……それどころか、艦娘が沈んだ後はどうなるのか──それを知っている者は誰も居ない。帰って来たという話も無い。死体として浮き上がってきたという話も無い。こればっかりは流石におかしいと思わないか?」

響「……仮にそうだったとしても、実際に金剛さんの幽霊が出ているんだよね。これはどういう事なのかな」

提督「それが分からない所だ。私の予想が外れているのか、それとも何か特別な理由があったのか……」

瑞鶴「……私は、予想が外れていて欲しいなって思う。だって、それってつまり過去の仲間を殺してるって事だし……」

提督「その点に関しては人間同様に死後、悪霊となった者が退治されるようなものだと思っていたのだが」

瑞鶴「……うん。そう思うようにするわ。……その方が、気が楽だもん」

提督「話を戻すが、最低でも幽霊騒ぎが解決するまではここに居て貰えないだろうか」

金剛「分かりまシタ」

利根「……即答じゃのう」

金剛「…………? えっと、何かおかしかったデスか?」

提督「……お前も、どことなく全てを受け入れようとする節があるな」

金剛「あれ……え……?」
300 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/02/28(日) 20:35:25.07 ID:7Iq+mEEgo
響「もう少し不満を言ったり、代わりに何かを要求すれば司令官の気が楽になるって事?」

提督「それもある。……そうだな。直接訊くのは苦手だが……何か欲しい物はあるか?」

金剛「欲しい物……」

四人「……………………」

金剛「うーん……うー、ん……?」

利根「……些か無欲が過ぎぬか?」

瑞鶴(まあ……あんな暮らしと比べたら、ここでのんびり出来るだけでも天国だしねぇ……)

金剛「…………えっと、では……時々、ここで今みたいにティータイムをしまセンか? 長門や、空母棲姫にヲ級も交えてデス」

提督「……そんな事で良いのか?」

金剛「え。これでも結構無茶を言ったつもりなのデスけど……」

利根「……感覚が大いに違うのう」

提督「……一先ずはそれで手を打とう。また何かあったら言ってくれるか?」

金剛「ハイ」

金剛(……これ以上、望む物が無いって言ったら逆に困られてしまいそうデス)

…………………………………………。
301 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/02/28(日) 20:35:54.32 ID:7Iq+mEEgo
瑞鶴「それじゃ金剛さん、おやすみ」

響「またね」

利根「温かくして寝るのじゃぞー」

提督「良い夢を見てくれ」

金剛「グッナイ、デース」

瑞鶴「……ねえ提督さん。迷惑かもしれないけど、部屋まで送ってもらって良い……? 怖くて……」

提督「そこまで苦手だったのか。分かった。送ろう」

瑞鶴「ありがと……」

ガチャ──パタン

金剛「…………」カチン

トコトコ……ポフッ

金剛「……私は、そんなにもおかしいのでショウか。……とは言っても、他にしたい事は…………」

金剛「…………テートクの為に何かをしたい……? うーん……」

金剛(……深くは考えないようにしまショウか。思い付いたものがテートクにとって困る事という可能性もありマスし)

金剛(それにしても……ゴースト、デスか……。テートクの金剛は数年前に沈んだと聞きましたが、なぜ今になって……? どんな意味があるのでショウか……)

金剛「本当にテートクへ文句を……? まさか。出会ってからまだ日は浅いデスが、とても魅力的な人だというのは分かるデス」

金剛「……それとも、こう思うのすらおかしいのでショウか。デスが、三人も文句を言いに来たとは思いにくいと言っていまシタし……」

金剛「いっそ、ゴーストと話す事が出来れば良いノニ……。そうすれば、どうしてゴーストとして現れたのかも聞けマスし……」

金剛「……寝てしまいまショウ。叶わない夢は望まない方が良いデス。……いえ、叶わないからこそ、夢というのかもしれまセンね」モゾ

金剛「……………………」スゥ

??「…………」スッ

金剛「……………………」スー

??「…………」ナデ

金剛「ん……?」パチッ

金剛(…………? 今、誰かに頭を撫でられたような……?)キョロ

金剛(……そんな訳ないデスよね。まどろみの中で、誰か優しい人が撫でてくれたのと勘違いしたのでショウ)

金剛(もう一度、さっきの夢を見たいデスね……。なんだか、凄く優しかったデス……)スゥ

??「……………………」

……………………
…………
……
302 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/02/28(日) 20:36:46.85 ID:7Iq+mEEgo
今回はここまでです。また一週間以内くらいに来ると思います。

のんびりとした平和でほのぼのとした生活が刺される24秒前。
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/28(日) 21:41:18.02 ID:+yo0g7ovo
乙です
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/28(日) 21:55:13.96 ID:dapzdRSXo
>>303
うるせぇsageろks
305 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/03/06(日) 19:00:22.66 ID:YC7of8ero
提督「…………」サラサラ

利根「……うーむ? 飛龍よ、この部分はどうすれば良いのじゃ?」スッ

飛龍「どれですか? …………ああ、先月の書類にある資料を前提としていますので、それを参考にして──」ゴソゴソ

利根「ふむ。ふむふむ」

コンコンコン──。

提督「ん? 入れ」

ガチャ──パタン

長門「失礼する」

提督「長門か。どうしたんだ」

長門「一つ、報告せねばならん事がある」

提督「報告? もう就寝時間前だというのにか?」

長門「先程、幽霊を見たと言う子が居た」

提督・利根「!」

長門「非常に怖がっていたので部屋まで送ったが、その時に私も幽霊とやらを見掛けたのでな」

飛龍「……この鎮守府に幽霊が出るなんて初めて聞きましたよ。大丈夫だったんですか?」

長門「ああ。まるでこっちが見えていないかのように廊下を歩いていたぞ」

提督「……長門」

長門「どうした」

提督「その幽霊は、どんな姿をしていた」

長門「艤装を着けた金剛だったが、それがどうした?」

提督「利根、飛龍。私は少し席を外す。そのまま執務を続けてくれ」スッ

飛龍「え? は、はい……」

利根「…………」

提督「長門、幽霊を見掛けた場所へ案内してくれないか」

長門「良いだろう。こっちだ」

ガチャ──パタン

飛龍「……幽霊ですかぁ。小さい子は怖がりそうですね」

利根「…………そうじゃの」

飛龍「? どうしたんですか利根さん? なんだか難しい顔をしていますけど」

利根「まあ、我輩にも色々とあるのじゃ」

飛龍「…………?」

…………………………………………。
306 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/03/06(日) 19:00:49.00 ID:YC7of8ero
長門「見失ったのはここだ」

提督「見失った?」

長門「ああ。どこへ行くのか少し気になったのでついて行ったのだが、ここで見失った。初めに見掛けた場所はこっちだ」スタスタ

提督「……ふむ」スタスタ

提督(こっちの方にあるのは……)

長門「この分かれ道の右で見掛けた。丁度、幽霊も曲がった所だったな」

提督「……なるほど」

長門「何か分かった事でもあったのか?」

提督「そうだな。幽霊の自室だった場所から提督室へ向かっているように思える」

長門「……その言い方をするという事は、幽霊の金剛というのは」

提督「ああ。……沈ませてしまった金剛だ」

長門「…………そうか。ならば、幽霊は何か目的があるのかもしれんな」

提督「何の目的かは分からんがな」

長門「……少し気になったのだが、貴方はまだ幽霊を見ていないのか」

提督「ああ。今回の件で提督室へ用がありそうという事は分かったが、それだったらまだ提督室付近で見ていない事から謎が深まるばかりだ」

長門「ふむ……」

提督「……………………」

長門「……それと、もう一つ気になる事があるのだが」

提督「なんだ?」

長門「その幽霊を見掛けたというのが睦月と弥生でな。酷く怖がっていた」

提督「幽霊に何かされたのか?」

長門「いや、幽霊という存在に怯えていた様子だった。まだ小さな子供だからな。幽霊が怖いのだろう」
307 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/03/06(日) 19:01:16.20 ID:YC7of8ero
提督「ふむ……。明日の演習に響いてしまいそうだな」

長門「うむ。そこで、明日の演習は二人の代わりとして私に任せてくれないだろうか。私ならば都合も簡単につけられるし、私自身がそろそろ身体を動かしたい」

提督「相手は下田鎮守府だぞ」

長門「ほう。それは良い事を聞いた。むしろ望む所だ。向こうの艦隊を教育し、尚且つあの馬鹿者の反応を窺いたい。私が演習に出る事を強く希望したと言っておいて貰えないだろうか」

提督「……お前、そんなに非道な事をする奴だったか?」

長門「指揮官があまりにも酷い事をしないのであれば、私も反発などせず従うのだと分からせたい。……気付いてくれなさそうなのが心配の種の一つだが」

提督「もしもお前の希望通りまともに指揮を執るようになるのならば、下田の艦娘の待遇も良くなるという考えか」

長門「そういう事だ。頼めるだろうか」

提督「良いだろう。この後、メンバー変更の連絡を入れておく」

長門「ありがたい。……本当、下田の提督が貴方であれば良かったのにな」

提督「代わりにこの横須賀へ下田の提督が着任していただけだ。何も変わらんよ」

長門「……それもそうだな。全ては、運命という事か……」

提督「そうだな……」

提督「ところで長門。お前はそろそろ部屋へ戻っておいた方が良い」

長門「む。どうしてだ?」

提督「明日の演習があるからだ。いつまで起きておくかは個人に任せているが、今のまま幽霊探しを続けていては部屋へ戻れるのはいつになるか分からん」

長門「ふむ、了解した。私は部屋へ戻っておこう」

提督「ああ。後は私に任せて明日への力を蓄えておけ」

長門「ふふっ……勿論だ。明日は必ず勝利へ導いてやろう」

提督「頼もしい言葉だ。──では、良い夢を見ろよ」

長門「おやすみだ」スタスタ

提督(……さて、私はもう少し探して回るか)スタスタ

提督(それとも金剛、もしかしていつものように困らせに来ただけなのか……?)

…………………………………………。
308 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/03/06(日) 19:01:43.19 ID:YC7of8ero
金剛『…………? ここは、どこデスか? 周りが真っ白で、何も見えないデス……』

金剛『なのに眩しくない……? ──ああ、これは夢デスね。こんな真っ白な空間は現実にあるはずがないデス。それに、私はテートクの隣の部屋に居るはずデス』

金剛「……………………」コツ

金剛『? ……貴女は…………』

金剛「…………」

金剛『私……? ……いえ、私ではない金剛なのデスね』

金剛「…………」コクッ

金剛『こんな事は初めてデス。ここはどこなのか、何の為にこうなっているのか、貴女は何か知っているのデスか?』

金剛「…………」コクッ

金剛『では、教えてくれマスか?』

金剛「…………」

金剛『…………?』

金剛「…………」

金剛『……あの、もしかして声が出ないのデスか?』

金剛「…………」コクン

金剛『困りまシタ……。どうしまショウ……』

金剛「…………」パクパク

金剛『……………………あ、えっと……すみまセン……。私は口の動きだけでは言葉は分からないデス……』

金剛「…………」ソッ

金剛『……あの? 私のおでこを触って、どうか──』

ズキン──!

金剛『あぅ……!?』

金剛「…………」ペコッ

金剛『い、今のは……ッ?』

ガバッ──!

金剛「はっ──! はっ──!」

金剛「……さっきの夢は一体──ッ」ズキッ

金剛「──え、これって…………まさか……?」

金剛「…………良いデスよ。お貸ししマス。でも、無理だけはしないで下サイね?」

…………………………………………。
309 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/03/06(日) 19:03:17.69 ID:YC7of8ero
今回はここまでです。また一週間以内くらいにくると思います。

いつぞやの金剛と飛龍本の文章のみの廉価版を販売する予定。
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/06(日) 19:19:15.87 ID:B9RkEemEo
金剛(故)が金剛(生)の体を借りる展開か
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/06(日) 19:21:19.04 ID:6fxtFCG9O
ビールみたいだなw
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/06(日) 19:26:48.93 ID:vfRFFgTU0

そういえば、最近出ていない姫やヲ級の補完もされるんだろうか?
ボロボロだった理由とか、人懐っこいヲ級の正体とか
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/06(日) 19:42:16.95 ID:6fxtFCG9O
人懐こいのとかはこのSSだったか違うのか前過ぎて定かじゃないが翔鶴が混じってるとかそんなんじゃなかったか?(多分
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/06(日) 20:29:05.93 ID:8xa1a/4GO
>>313
前のSSだったはず。

どうせみんな消える。
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/06(日) 21:30:12.98 ID:zqKLCOlyO
そんなssあったか?
316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/06(日) 21:52:17.52 ID:4nGBA6ZKo
乙です
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/07(月) 16:42:28.89 ID:cC74EwLqo
ヲ級の正体が翔鶴(提督の家族)だったのはバレンタインを除いて二つ前の金剛メインのSSじゃないか?
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/07(月) 17:17:49.12 ID:BpHNnh7IO
一応このSSの幽霊金剛がその金剛なわけだし繋がってて何の不思議もないわけだが
319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/07(月) 17:29:11.61 ID:Oc2vrkjZ0
どう見ても翔鶴といより蒼龍あたりの性格に近いんだが
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/07(月) 17:40:05.44 ID:dIkCU+8X0
【8:319】 利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」 金剛「…………」 二隻目

↑筑摩コラエロいよ

利根川コンゴウネキウザい

秋雲壊そうぜ
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/07(月) 18:45:10.10 ID:bXTpb8zzO
ヲ級は翔鶴じゃないだろw
322 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [sage saga]:2016/03/13(日) 21:36:43.73 ID:uwSekXP/o
すみませんが、諸事情により更新は明日になります。
もう少しだけお待ち下さいませ
323 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/03/14(月) 19:53:33.99 ID:623KBLNVo
大佐「……いやはや驚きました。あの長門が言う事を聞いているとは。どのような手段で大人しくさせたのですか?」

提督「私は特別な事などしておらんよ。逆に、どういう問題があったのか私には分からなかったくらいだ」

大佐「…………」

提督「大佐、君の鎮守府の話は聞いている。もう少し艦娘を大切にしてみてはどうだろうか。長門は大佐への愛想が尽きたとは言っていたが、まだ待っているようだったぞ」

大佐「……………………」

提督「艦娘が心を開いてくれれば、必ず大佐の良き戦力となろう。騙されたと思っても良い。まずはやってみないか?」

大佐「……考慮しておきます」

提督「そうか。……む?」

大佐「…………!」

提督(……下田の艦隊は二隻目の戦艦が大破か。残る有効的な攻撃手段は空母のみで、こちらの艦隊は損傷軽微。これは勝敗が決したか)

大佐「…………」

提督(制空権もこちらが完全に確保した。これで詰みだ。──ああ、とうとう降参したか)

大佐「…………」イラ

提督「大佐、君がどういう指示を彼女達に出したのか私は知らない。だが、数年前と今回の演習を見れば分かる。出来れば細かな指示を出してやってくれ」

提督「そうでなければ、勝てる戦も勝てなくなってしまうぞ」スタスタ

大佐(あの馬鹿共が……! こいつに勝てないのはいつもの事だが、降参するとは何を考えているんだ……!! まったくもって不愉快だ!)ツカツカ

大佐(大体こいつもこいつだ。長い間、提督の椅子から退いていたというのに、いきなり帰ってきたと思えばまた中将の椅子に座っていやがる。なんの嫌がらせだ)

大佐(ああクソが……。向こうの駆逐艦共が嬉しそうにアイツに手ぇ振っているのを見ると虫唾が走る)

大佐(はー……壊してぇ)

大佐(俺は安全な場所から姿も声も見せずにこいつらが苦しんでもがいて抗っているのを淡々と見ていたい)

大佐(はー……そんな方法でもありゃ良いのに……)

長門「…………」ジッ

大佐(……あ? 何見てんだあいつ)

長門「……………………」フイッ

大佐(クソが……。たかが兵器の分際で哀れんだ視線を送ってきやがって……。…………あー、そうか。長門は待っているとか言っていたな。俺の様子を見ていたって所か。まあ、今ので完全に愛想も尽きただろうし、もうどうでも良いわ)

大佐(はー……壊してぇ……)

…………………………………………。
324 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/03/14(月) 19:55:06.94 ID:623KBLNVo
長門「…………」トコトコ

提督「どうした長門。下田の大佐と話していたが、何かあったのか」

長門「ん……ああ、まあ……少しな……」

提督(……長門の望んだ通りにはならなかったのだろうか)

長門「……予想外だった」

提督「ん?」

長門「まさか、この鎮守府に移籍したいのならば中将と話をしてから決めろと言われるとは思わなかった」

提督「……ふむ」

長門「どういう訳かを聞いてみたが、答えずだ。貴方の許可を貰い、私が移籍を希望するのならば提督も移籍申請書を上に通すと言っていたよ」

長門「……結局、アレは何も変わらないのだな。どうして私が貴方の指示に従っているのか、まったく分かっていない。……困ったよ、本当に」

提督「お前はどうするんだ?」

長門「どうするも何も、ここへ移籍の希望を出すという手しか私には残っておらんよ。……向こうの鎮守府へ戻っても、流れ作業のように解体されるのがオチだ」

長門「……尤も、貴方が私の移籍を認めてくれるかどうかから始まるのだがな」

提督「言わずもがな認める。解体されなければ、またいつか向こうの艦娘達と顔を合わせる事もあるだろう」

長門「ありがたい……」

提督「何はともかく、演習をしてどうだった」

長門「……そうだな。本当に、何も変わらないんだなと思ったよ。まともな作戦指示を与えず、個々の力でなんとかさせているやり方は、か弱い」

提督「いや、お前自身がどう思ったかについてだ」

長門「私か? ……どうだった、か。ふむ……………………久々に戦闘が出来て良かった、だろうか」

提督「そうか。ここへ移籍となった際には出撃もしてもらうようになる。その時を楽しみにすると良い」

長門「……ああ。楽しみにしておこう」ニコ

提督「無理をして笑顔を作らなくても構わん」ポン

長門「……まったく。そうやって艦娘の頭を撫でるのは癖なのか?」

提督「私個人が好んでいるだけだ」ナデナデ

長門「……本当、不思議な人だ」

…………………………………………。
325 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/03/14(月) 19:55:33.43 ID:623KBLNVo
ヲ級「♪」パクパク

瑞鶴「ほら、口に欠片がくっついてるわよ」ソッ

ヲ級「ん、ありがと!」ニパッ

瑞鶴(……可愛いなぁ)ナデナデ

響「また美味しくなってるよ、金剛さん」モグモグ

金剛「喜んで下さったようで何よりデス」ニコニコ

空母棲姫「……どうしてこうなったんだ」

利根「何がじゃ? そんなに不思議な事かの?」

長門「……まあ、普通ではないのは確かだろう」

提督「そうだな。そこは否定しない。利根がこんな時間まで起きているのもかなり珍しい」

利根「何か目が冴えてのう」

空母棲姫「……………………。……しかし、本当に私達を呼んでも良かったのですか? 移動している途中で私達が見付からないとは限りません」

提督「なるべく見付からないよう手配している。もし見付かっても私の子達ならば理解してくれるだろう。……流石に一度に大勢へ見付かると混乱はすると思うが」

空母棲姫「もう……またそうやって楽観的に……」

利根「む? むむむ?」モグ

瑞鶴「? どうかしたの、利根さん?」

利根「いやなに。このクッキーが何かどことなく懐かしいような気がしてのう」モグモグ

響「懐かしい?」

利根「うむ。どこかで食べたような気がするのじゃが……うーむ?」

瑞鶴「提督さんも食べたら分かるのかしら」

提督「……すまないが、私は甘い物が苦手でな」

瑞鶴「あ、そうだった……」

響「こっちの甘くないのはどうかな?」

提督「ふむ。そっちはまだ口にしていないから食べてみよう」

長門「…………」

空母棲姫「どうした。今日はやけに静かだな」

長門「……まあ、私もそういう日くらいある」

空母棲姫(……何かあったのでしょうね。けれど、あまり言いたくない事なのかもしれないから、ひっそりとしておきましょうか)

利根「どうじゃ、提督よ?」

提督「……確かにどことなく懐かしいような気はするが、いまいち分からん」

利根「ふうむ……そうか……」

…………………………………………。
326 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/03/14(月) 19:56:00.28 ID:623KBLNVo
利根「では、我輩もそろそろ寝るのじゃー」

提督「ああ。良い夢を見ろよ」

金剛「おやすみなさいませ」

ガチャ──パタン

提督「──さて。全員が帰った事だし、私ももう少しすれば部屋へ戻るとしようか」

金剛「あ、少し待って下サイ」

提督「うん?」

金剛「実は、テートクに相談がありまシテ……良いデスか?」

提督「ああ構わんぞ。どうしたんだ?」

金剛「……テートクの金剛についてデス」

提督「…………ふむ」

金剛「テートクは、出来るのならば会いたいと思いマスか?」

提督「無論、そうだ。そう思わない理由など無い」

金剛「分かりまシタ。……少しだけ待っていて下サイね」スッ

提督「……む?」

提督(目なんて閉じてどうしたんだ……?)

金剛「…………」パチ

提督(……雰囲気が少し変わった? しかし、これは……)

金剛「……………………」ニコ

提督「…………」

金剛「提督、分かりますか?」

提督「────────」

金剛「あは。流石テートクです。今ので分かってくださったようデスね」

提督「まさか……こんな事が……」









金剛「第一艦隊旗艦金剛、ただいま帰投しまシタ」
327 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/03/14(月) 19:56:38.74 ID:623KBLNVo
ちょっと中途半端ですが、今回はここまでです。また一週間以内くらいに来ると思います。
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/14(月) 20:13:59.21 ID:qkkCAzPTo

金剛だけってのが悲しいような仕方ないような
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/14(月) 20:32:41.07 ID:CrQQxXxpo
乙です
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/14(月) 21:02:52.04 ID:807RwY3iO
金剛いない設定にしないと他ルート行けないから生姜ないね
え?重婚?
331 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/03/21(月) 18:59:20.71 ID:lFglZpsro
提督「……本当に、お前なのか?」

金剛「ハイ。テートクとの秘密も全部覚えているデスよ」

提督「……ペンダントはどちらを貰った」

金剛「左デス。……今は海の底に沈んでしまっているので心底悔やんでいマス」

提督「…………」

金剛「テートクは、まだ持っていマスか?」

提督「引き出しの奥へしまってある。……見るか?」

金剛「……いえ。片方が無いのは寂しいデスから……」

提督「……そうか」

提督「……ところで金剛。お前は、どうしてここへ居るんだ?」

金剛「それは分かりまセン。気付いたら海の上で立っていて……色々と悩みまシタが、鎮守府へ戻る事にシタのデス。……デスが、皆さん私の事が見えていないようでシテ。私も最近まで皆の声が聴こえなかったので、少し寂しかったデス……。おまけに、テートクもしばらく居ませんでシタし……」

金剛「デモ、最近になって声が聴こえまシタ。私と同じ声の、この子の声デス。初めは幻聴かと思いまシタがやっぱり聴こえたのデス。そして今日、身体を貸して下さいまシタ」

提督「身体を借りた理由は、私へ文句を言う為か?」

金剛「それも一つデスけど、一番はもっと別デス」

金剛「──テートクと、またお話がしたかった。私が沈む前に思った事が、今叶いました」

提督「……そうか」

金剛「……むー。テートク、なんだか反応が薄くありまセンか? 正直、今にでも抱き付こうかと思っていたデスよ?」

提督「今まで幾度と無く夢に見た、絶対に叶わないと思っていた光景なんだ。少し混乱している。あと、その身体は借り物だから抱き付くのはやめておけ」

金剛「ウー……。デハ、髪を梳いてくれマスか?」

提督「まあ……そのくらいならば許してくれるかな。ブラシを取ってくる」スッ

金剛「ハイ。待っているデース」

ガチャ──パタン
332 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/03/21(月) 18:59:49.63 ID:lFglZpsro
金剛「……………………」

金剛(……別に、抱き締めても問題無かったりするんですよね。まだ小さいですが、この子も──)

金剛(…………どうなるのでしょうかね、これから)

ズキッ──

金剛「──っう! ……やっぱり、長くは保たないデスか。無理はしない約束デス。名残惜しいデスが、お返ししマスね……」スッ

金剛「ありがとうございました──」

金剛「……………………」パチッ

ガチャ──パタン

提督「…………」

金剛「!」

提督「……………………」

金剛「……えっと」

提督「……逝ってしまったか」

金剛「い、いえ! まだ私の中に残って寝ているデス。慣れない事でシタので、お互いに耐えられなくなって……」

提督「……そうか。無理をさせてしまってすまない」

金剛「謝るのは私デス……楽しくお話させてあげたかったのデスが……」

提督「お前は何も悪い事なんてしていない。むしろ私達の為に協力してくれて、ありがとう」ポン

金剛(あ……頭、撫でて……)

金剛「……………………またっ!」

提督「うん?」

金剛「また、お話しをしてあげて下サイ。私も、お二人が気の済むまで協力しマス」
333 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/03/21(月) 19:00:30.38 ID:lFglZpsro
提督「だが、それはお前たち二人の負担になる」

金剛「私の事ならば問題ナッシン、デス。──いえ、協力させて下サイ。私も何かの役に立ちたいデス」

提督「…………」

金剛「……ダメ、デスか?」

提督「……あいつが許可を出すならば、私は止めない。だが、無理だけはするなよ?」

金剛「──ハイッ!」

提督「すまんな」

金剛「今はこれが私のやりたい事デスから」

提督「そうか。──では金剛、一つ訊ねる。お前は髪を触られるのをどう思う?」

金剛「髪、デスか? ンー……」

金剛「!」

金剛「知らない人に触られるのはディスライクですが、テートクならば別デス」

提督「……そうか。ならば、椅子に座って後ろを向いてくれるか? 今回の礼として髪を梳きたい」

金剛「リアリー? ありがとうございマスっ」チョコン

提督(……金剛もこういう反応をしていたな。ただ、こんな儚げな笑顔はしていなかったが)スッ

金剛(……嬉しくて即答してしまいまシタが、目の前で別の女性と仲良くするのって良くない事デスよね)

提督(こうして見ると、何もかも同じという訳ではなく小さな違いはあるものなんだな)

金剛(あ……とっても優しくて気持ち良いデス……。…………ごめんなサイ。今回だけ、許して下サイ……)

…………………………………………。
334 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/03/21(月) 19:00:58.15 ID:lFglZpsro
提督「…………」サラサラ

コンコンコン──

提督「入れ」

ガチャ──パタン

飛龍「おはようございます」

利根「おはようなのじゃ提督よ」

飛龍「……あれ?」

利根「ぬ?」

提督「おはよう。どうした、何かあったのか?」

飛龍「ああいえ、なんとなく提督の雰囲気がいつもと少し違うなって思いまして」

利根「飛龍もそう思うたか。どことなく別次元に居るような雰囲気じゃのう」

提督「ふむ、そうか」

提督(昨晩の事が顔に出ていたか。……後で利根にだけは金剛の事を言っておくとしよう。利根も金剛と話して心の内にある壊れた部分を直した方が良い)

利根「何かあったのかの?」

提督(……だが、今は誤魔化しておくか。実際に見た夢を話して、飛龍にも悟られないようにしなければならんな)

提督「単純に妙な夢を見ただけだから安心してくれ。私が艦娘と同じく海の上を滑って作戦指示をしている内容だったんだ」

飛龍「なんですかその危険な夢は……」

提督「私としては状況を自分の目で見れる上、随時作戦命令を伝えられて素晴らしいと思ったのだが」

利根「被弾どころか至近弾ですら身体が弾け飛ぶじゃろ。何を言うておるのじゃ」

提督「ダメか」

利根「当たり前じゃ。そんな事が出来れば人間でなく艦娘かそれに近い何かじゃぞ」

提督「残念だ。……まあ、そんな夢を見たからいつもと雰囲気が違うのだろう」
335 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/03/21(月) 19:01:43.62 ID:lFglZpsro
提督「ところで、今日は手早く仕事を終わらせるぞ。やるべき事がある」

飛龍「やるべき事ですか?」

提督「ああ。利根は覚悟しておけ」

利根「か、覚悟じゃと!? 我輩、何かやってしもうたのか!?」ビクッ

提督「その時になれば分かる」

利根「う、うぅ……怖いのじゃ……」ビクビク

飛龍「あ、あはは……。頑張って下さい……」

利根「提督よ、飛龍はどうなのじゃ!?」

提督「お前だけだ」

利根「ひぃ……。絶対に我輩が何かをやったパターンじゃ……」ビクビク

提督「まあ、そんなに怖がるな」

利根「無理じゃ……」

飛龍「て、提督……お手柔らかにお願いしますね」

提督「善処しよう」

利根「善処ってなんじゃぁあああっ!!?」

提督「利根、煩くするのならば今から吊るすぞ」

利根「…………っ!」ピシッ

提督「よろしい。──では、朝礼が始まる前に少しでも執務を片付けておこうか」

利根・飛龍「は、はい!」

…………………………………………。
336 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/03/21(月) 19:11:00.81 ID:lFglZpsro
今回はここまでです。また一週間以内くらいに来ます。

いつぞやの金剛飛龍本をラノベ風に電子書籍化させた物を二、三日以内に販売開始する予定です。本を買えなかったという方はどうぞ。
全く同じという訳ではなく、ほんの少しの添削と、オマケ小説として曙があの鎮守府にやってきたらどうなるか──というショートストーリーを追加しています。気が向いたら見てやって下さいませ。
http://www.dlsite.com/maniax/announce/=/product_id/RJ173902.html
337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/21(月) 19:16:43.19 ID:iIQtmHYho
338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/21(月) 19:57:46.70 ID:DlPOlHxlo
乙です
339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/21(月) 20:09:08.14 ID:egrSzytP0
夢って前のやつか?
340 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/03/28(月) 21:04:24.98 ID:Ugy7wxb8o
ガチャ──パタン

提督(さて、執務を進めるとするか)スッ

提督「……………………」サラ

提督「む……」

提督(……手が進まん。昼食後の軽い休憩時間はいつも執務に当てていたというのに)

提督「…………」チラ

提督(そうだな。少し金剛と話をしようか。金剛も一人で暇をしているかもしれない)スッ

ガチャ──パタン

提督(今までこんな事は無かったというのに……自分の事ながら自分の事が分からん……。…………良し。周りに誰も居ないな)

コツッ──コツッ──コツッ──

カチャッ……ガチャ──パタン

金剛「! テートク? どうシタのデスか?」

提督「執務に手が付かなくてな……。すまないが、話し相手になってくれないか?」

金剛「ハイっ。喜んで」

金剛「! ……えーっと、中でスリープしているので起こしマスね」

提督「いや、そういう意味ではない。必要以上の無理はしてくれるな」

金剛「デスが……」

提督「それは夜に頼む。その時に利根も連れて来て二人に話をさせたいんだ」

金剛「利根とデスか?」

提督「ああ。あいつも『金剛』と話をして、少しでも心を癒すべきだ」

金剛「……大丈夫でショウか」

提督「利根ならば大丈夫だ。話す事で改善されると信じれる」

金剛「そうなのデスか……?」
341 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/03/28(月) 21:05:11.60 ID:Ugy7wxb8o
提督「ああ。死者は何も口にする事が出来ない。故に残された者は死者が何を思っているのか、想像をするしか出来ないんだ。利根はあの三人が自分を責めているかもしれないと思っていて申し訳ないという気持ちが強いのだろう。それを癒せるのは、沈んでしまったあの三人の内の誰かだ」

金剛「なるほど……」

提督「頼めるか?」

金剛「勿論デス。協力させて下サイ。それが、今私が出来る事デス」

提督「ありがとう、金剛」ナデ

金剛「…………♪ ────!!」パッ

提督「どうした?」

金剛「ノー、デスよテートク。私の中にはテートクの大事な人が居るデス。頭を撫でるのは私ではなくその人の為にやるべきネ」

提督「……そうか」

金剛「…………」ズキッ

金剛(……ナゼ、胸が痛むのでショウか)

提督「すまなかった」

金剛「い、いえ。私の方こそすみまセン……」

提督「…………」

金剛「…………」

提督「……そろそろ執務に戻らるべきか。時間を取らせてしまってすまん」スッ

金剛「い、いつでも!」

提督「…………」

金剛「……いつでも、待っていマス。デスので、また来てくれマスか……?」

提督「……ああ。また来よう」

ガチャ──パタン

金剛「…………どうして私は、上手く言えないのでショウか。もっと、別の言い方があったはずなのに……」

金剛「私の中に居る人ならば、テートクを傷つけずに出来るのでショウか……」

…………………………………………。
342 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/03/28(月) 21:05:41.66 ID:Ugy7wxb8o
利根「……テートクよ? 覚悟をしろと言うておったというのに、なぜ金剛の居る部屋へ行くのじゃ?」トコトコ

提督「直に分かる」

利根「むぅ……?」

コツッ──コツッ──コツッ──

カチャッ……ガチャ──パタン

金剛「いらっしゃいデス」

提督「調子はどうだ、金剛?」

金剛「バッチリです。いつでも大丈夫デスよ」

利根「む? むむむ? 何の話じゃ?」

金剛「……テートク、良いデスか?」

提督「頼む」

金剛「はい──」スッ

利根「…………?」

金剛「…………」パチッ

金剛「──久し振りデスね、利根」

利根「んんんん? 久し振り……?」

金剛「現場の判断で私が提案シタ輪形陣。瑞鶴を中心として、先頭に私、左舷に響、右舷に利根。気を紛らわす為のお菓子の雑談」

利根「!!」

金剛「陣形はともかくとして、雑談の内容まではテートクに報告していないデスよね、利根?」

利根「……なぜお主が知っているのじゃ、金剛よ」

金剛「つまり、そういう事デスよ」ニコ

利根「……………………」

金剛「…………」ニコニコ

利根「っ!」ガバッ

金剛「ワォ!?」

利根「うぅ〜〜〜〜!!」ギュゥゥ

金剛「ふふ……。ただいまデス、利根」ナデナデ

利根「〜〜〜〜〜〜ッ!!」ギュゥ

金剛「しばらくそっとしておいた方が良いデスね」

提督「そうみたいだが……大丈夫なのか?」

金剛「あれから実は少しずつ練習をしていまシテ、慣れてきたので昨日より長く出られるデス」

提督「……ありがとう」ナデ

金剛「んー……♪」

…………………………………………。
343 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/03/28(月) 21:06:08.02 ID:Ugy7wxb8o
大佐「……はーつまらねぇ。世の中クソだな。この海みたいに真っ黒で面白い事なんてほとんどありやしねぇ……」

大佐「提督業も楽じゃねえし……。好きに出来る女に囲まれて暮らせる点については良い事だけどよぉ……中には反抗的な奴も居やがるし」

大佐「どーすっかなぁ……。また瑞鳳あたりにでも首絞めとかしてみるか? あん時の泣き顔は癒されるし。でも後が面倒だしなぁ……」

レ級「──へぇ。面白い人間じゃん」

大佐「あ? ────ッ!!?」

レ級「やあやあ人間クン。私が誰か分かるよねぇ? 君達の敵である深海棲艦! その一人だよぉ?」

レ級「実はさぁ、君がとある所の鎮守府から帰ってきた時から、ずーっと目を付けていたんだよねぇ。君、素質あるよ」

大佐「……何が言いたい」

レ級「君が大敗北しちゃったあの鎮守府……あれ、壊してみない?」

大佐「……おい」

レ級「んんー? 何かなぁ?」

大佐「その話、詳しく聞かせろ」

レ級「…………」ニヤァ

…………………………………………。
344 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/03/28(月) 21:07:10.52 ID:Ugy7wxb8o
今回はここまでです。また一週間後くらいに来ます。

物語も佳境。楽しい時間。
345 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/28(月) 21:08:02.10 ID:zjI+VkgIo
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/28(月) 22:17:06.08 ID:c8on/IPno
乙です
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/06(水) 01:00:48.30 ID:+O36/yGD0
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