勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/24(日) 13:33:34.76 ID:Hj2+wdvc0
とりあえず立てただけ

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1453610014
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/24(日) 14:00:44.77 ID:ASneZxZAO
1レスだと立て逃げ扱いで処理される可能性あるぞ
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/24(日) 14:49:14.47 ID:xBfUru3/o
立て乙
余計なお世話かもしれんが一応前スレのURL張っておくぞ

勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1415004319/
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/24(日) 17:07:56.77 ID:k0CwXe5k0
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/24(日) 23:55:26.42 ID:sc5he9ZA0
おつです。
今一番期待してます!
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/27(水) 03:14:34.85 ID:Vjb0agK7o
乙!

猫ちゃんより格上っぽいけど一人で勝てるかな
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/29(金) 21:30:27.96 ID:DCYb8diXo
まだかな?
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/29(金) 21:45:32.10 ID:qVjlbi+do
間隔あくけどしっかり更新してるから気長に待とうぜ面白過ぎて待てない気持ちはよくわかるが
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/30(土) 00:16:00.96 ID:YqlbT0mpO
騎士のLevel4…魔王と戦ったような口ぶりだったな
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/30(土) 12:40:29.84 ID:sNIq/UAko
獣王と戦ってなお魔王とも戦ってるわけだ
獣王はボロ負けだったんだろな
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/30(土) 22:26:42.28 ID:dt5lkgcb0
まだかなー
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/31(日) 21:42:50.64 ID:zBP9Ql630
 強くなったつもりだった。
 多くの敵を倒し、沢山の神殿を解放して、出来る限り力をつけたつもりだった。
 実感はある。
 獣王との決着をつけたあの日の時点と比較しても、あの世界樹の森での体験を経て自分の力は跳ね上がっている。
 獣王にも到底敵わないと武の国諸侯の前で嘯いてはみたものの、その実、やりようによっては独力で打倒できるのではと思えるほどには自身に自信をつけていた。

 だけど―――――届かない。

勇者「ぐ…はっ、はぁ……! ぜぇ…ぜぇ…!」

 地面に膝をつき、剣を杖として己の体を支えながら、勇者は必死で呼吸を整える。
 相対する騎士は追撃を加えるでもなくそんな勇者をただ見下ろしていた。

騎士「どうした? もう終わりか?」

勇者「…まだ…まだぁ……!」

 乾いて貼りついた喉にごくりと無理やり唾液を通し、勇者は立ち上がり剣を構える。

騎士「はは! そうこなくっちゃなぁ!!」

 その途端に、騎士は嬉々として勇者に向かって突っ込んだ。
 騎士は精霊剣・湖月を横殴りに振り回す。
 勇者は真打・夜桜をもってそれに応じる。
 騎士は片手。勇者は両手だ。
 なのに押し負けたのは勇者の方だった。
 ギャリン、と音を立てて振り切られた騎士の剣に押された勇者の剣は流れ、勇者は無防備な体を晒してしまう。
 そこを騎士に蹴りこまれた。

勇者「げう…!」

 腹部にめり込んだ騎士の足に押され、勇者の体が後方に吹っ飛ぶ。
 ダン、と木の幹で背中を強打した。

勇者「が、は…!」

 勇者の体はそこで止まったものの、衝撃でへし折れた木はめきめきと音を立てて傾いでいく。
 苦痛をぐっと飲みこみ、勇者は顔を上げる。
 騎士が眼前に迫って来ていた。

勇者「う、お…!!」

騎士「そらそらそらぁ!!」

 防御、防御、防御―――――繰り出される連撃を勇者はひたすらに耐え凌ぐ。
 これまでの経験で培われてきた勇者の防御技術は一級品だ。
 ひとたび防御に徹すれば、どんなに格上を相手にしても打ち破られたことはない。
 かの獣王の猛攻をすら、勇者は凌ぎきってみせた。
 なのに―――!

騎士「ほらまた隙が空いたぁ!!」

 勇者の剣をすり抜け、騎士の剣の切っ先が勇者の体に触れる。
 獣王以上の威力で、獣王以上の速度で、確かな技術を持って繰り出される連撃は、勇者の防御を容易く潜り抜けた。

勇者「うおああああああ!!!!」

 無我夢中で身を捩り、勇者は騎士の剣を躱す。
 浅く裂かれた勇者の胸元からどろりと血が零れた。

勇者「ぐ……ちっくしょお!!」

 勇者は地面を蹴ってその場を離れ、騎士から大きく距離を取る。
 追撃に移らんと身を屈める騎士に向かって勇者は指をさした。

勇者「呪文・大烈風!!!!」

 勇者の指先から生まれた風の塊が騎士に向かって突っ込んでいく。
 木々を薙ぎ倒し、まともに当たれば竜の尾撃すら打ち逸らすその威力。

騎士「うざってえ!!!!」

 騎士が剣を振る。
 その余りの速度に生まれた衝撃が、迫る風の塊と激突した。
 相殺し、霧散する勇者の風の呪文。
 ――――剣のたった一振りで、勇者の呪文は無効化されてしまった。

勇者「くっ…」

 わかってはいた。
 わかっていたつもりだった。

 だけど――――こんなにも遠いのか
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/31(日) 21:43:36.62 ID:zBP9Ql630
騎士「茶番はよせよ、勇者」

 騎士は呆れたように勇者にそう声をかけた。
 勇者の肩がピクリと震える。

勇者「茶番…?」

騎士「俺はお前の事を良く知ってる。お前の性格は熟知してる。お前は臆病で―――慎重だ。お前は決して、勝ち目のない戦いは挑まない」

騎士「お前は必ず、ある程度勝ちの算段をつけてから戦いに臨む。今回だって、そのはずだ。あるんだろう? 俺を倒す、何か『切り札』のようなものが」

騎士「それを見せろよ。うだうだと、くだらねえ時間稼ぎなんてしてんじゃねえ」

 勇者と騎士の視線が交差する。
 ふぅ、と勇者は息を吐いた。

勇者「分かったよ。見せてやる。だけど、その前にひとつだけ聞かせてくれよ」

騎士「なんだ?」

勇者「騎士……お前はどうしてあの時、武の国で俺を救ってくれたんだ? どうしてわざわざ、壊れていた俺を元に戻してくれたんだよ」

勇者「お前が『暗黒騎士』だっていうんなら、俺は壊れたままでいた方が良かったはずだ。あのままだったら、俺は多分、ここまで辿りつくことは出来なかった」

勇者「そっちの方が、魔王軍として都合が良かったはずだ……なあ、教えてくれ。お前は一体どうして……」

騎士「ああ、なんだそんなことか。そんなもん決まってるじゃねえか」

 騎士はあっけらかんと笑った。

騎士「教えてやるぜ、勇者。俺の行動理念はいつだって、どんな時だって、たったひとつだ。お前を救ったのだって、それに従っての事に過ぎない」

 騎士の笑みに悪意はない。
 純真無垢とすら言ってよかった。
 だからこそ――――『有害』と彼を評した勇者の言は、正鵠を射ていたのかもしれない。



騎士「つまり――――そっちの方が面白そうだったから、だ」


14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/31(日) 21:44:21.14 ID:zBP9Ql630





第二十八章  モンスター




15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/31(日) 21:45:05.02 ID:zBP9Ql630


 滑稽な父親の死に様が愉快だった。

 泣き叫ぶ同僚にとどめを刺すのは爽快だった。

 逃げ惑う王を追い詰めた時は興奮した。


 町の住民を虐殺した時は大変だった。

 数も多いし、自分の仕業だとばれないようにするために、かなり気を遣った。

 だからこそ、成し遂げた時の達成感は一入だった。

 あの日ほど、昇る朝日を美しく思ったことはない。

16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/31(日) 21:45:55.47 ID:zBP9Ql630


 退屈が嫌いだった。

 人生を半分無駄にした分、これからを楽しまなきゃという気持ちが強かった。

 故郷を滅ぼし、後始末を終えて、やることが無くなった。

 さて、これからどうしようかと悩み―――とりあえず魔王城を目指すことにした。

 戦うことは好きだったから、暇つぶしになればと思い、魔王城に乗り込んだ。

 どこにこれだけ隠れてたんだってくらい大量の魔物が襲って来たけれど、誰も自分に傷一つつけられなかった。

 獣の王、なんて大仰に名乗った猫ちゃんは少しばかり歯ごたえがあったけど、それでも自分の全力を引き出すには遠く及ばなかった。

 そのままあれよあれよと奥に進み、遂には魔王と対面し、剣を交えて――――



 なんとまあ、驚くべきことに、そのままあっさり魔王に勝ってしまった。



 かなり拍子抜けした。こんなものなのかとがっかりした。

 同時に、こうも思った。

 これで、こんなもので、世界は平和になってしまうのか―――と。

 自分なんて世界じゃ無名もいいところだ。

 誰とも知れない人間が、いつの間にやら魔王を倒し、世界を平和にしてくれた。

 世間の人々はどう思うだろう。

 ラッキー、助かった。これで安心して暮らしていける。なんて幸運なんだ、我々は!

 ――――そう想像すると、非常に気分が悪かった。

 まったくもって気に喰わなかった。

 だから、魔王の命乞いを聞き届けた。

 仲間にならないかという誘いも受けた。

 こうして、『暗黒騎士』という魔王の側近が生まれた。

17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/31(日) 21:46:50.69 ID:zBP9Ql630


 一応、余計な波風を立たせないために魔王城内では仮面で顔を隠していた。

 魔王の新たな側近、『暗黒騎士』の正体が魔王城を半壊に追い込んだ人間だと知るのは、魔王の他には獣王といったごく一部の魔物だけだった。

 魔王の側近となって、色々と面白い話を聞いた。

 魔界のこと、大魔王のこと、それから―――『伝説の勇者』の結末。

 そんな話を聞けただけで、魔王に協力する価値はあったと思った。

 といっても、部下というよりは賓客という扱いだったから、命令は受けず、協力は完全に自由意志で行った。

 気ままに世界を旅行して回り、気が向いた時だけ魔王にとって利になる行動を取った。

 すなわち―――『魔王討伐を目的とした冒険者の排除』。

 魔王軍にとっての脅威の芽を事前に摘むこと。

 魔王討伐の旅をしている冒険者の噂を聞きつけては、様子を見にそいつの元を訪ねた。

 そして、見込みのない者には実力差を見せつけて心を折り、早々に旅を諦めさせた。

 そんなことを繰り返しているうちに―――あの町で、勇者に出会った。

18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/31(日) 21:47:36.13 ID:zBP9Ql630


 『伝説の勇者』の息子がこの町に居ると聞いて、正直言ってかなりテンションは上がっていた。

 親父が目の敵にしていた『伝説の勇者』。

 自分の人生を歪めた遠因となった男の、息子。

 別に恨みつらみがあった訳じゃない。あったのはただただ単純な、興味。

 自身と同じように、いやそれ以上に、父親の名の重圧を受けて育ったであろう男。

 果たして、どんな人間なのか―――ちょっとばかり期待を持って、接触した。


 結論から言って――――まあがっかりした。


 成程話してみると似たような境遇で生きてきた者同士、気が合う部分は確かに有った。

 だけど勇者は弱すぎた。

 父親の重圧からただ逃げて、それでへらへらしているクソ雑魚野郎だった。

 それを知って、もう全く勇者への興味を失った。

 むしろ、父の名から逃げ出したくせに中途半端に『伝説の勇者の息子』としての立場を保ち続けていることに怒りすら覚えた。

 だからもうどうでもいいやと思って、近くにいた猫ちゃんに勇者の存在を教えてやった。

 いちいちこちらに突っかかってくる猫ちゃんへの嫌がらせとして、多少話を盛って。

 それで、勇者のことは頭から綺麗さっぱり忘れてしまった。

19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/31(日) 21:48:45.82 ID:zBP9Ql630


 だから『武の国』で再会した時は本当に驚いた。

 あの程度の力量しか無かったのに猫ちゃんの手から逃れたのもそうだし、何より勇者は面白おかしい事になっていた。

 『伝説の勇者の息子』への興味は俄然復活した。

 話を聞くために、勇者を無理やり酒場に連行した。

 女二人がついてきているのには気づいていたが、どうでも良かったので気にしなかった。

 酒場で勇者の話を聞いて、ぞくりと背筋が震えるのが分かった。

 『誰も彼もが自分を「伝説の勇者の息子」としてしか見ていない。本当の自分など、周りの人間は誰も求めてはいないのだ』

 そこに至る過程に違いはあれど、勇者は自分と同じ結論に辿り着いていた。

 だのに、それから取った行動が、勇者は自分の全くの真逆。

 自分は自身を保つために周囲を拒絶した。それが普通で、正常だと思う。

 だけど勇者は周囲を優先して自分自身を拒絶した。全くもって理解が出来ない。

 百歩譲って、勇者が自分を犠牲にして周りを助けることに快感を、幸福を感じる超絶ナルシスだというのなら話は分かる。

 だけど勇者の感性は、どちらかと言えば自分と同一の物だった。

 周囲から物事を押し付けられた時に、「どうして俺が」とストレスを感じる一般的なものだった。

 それでも勇者は周囲を優先する。自身の利益を押し殺す。

 それで周囲が幸せになったとしても、勇者は幸せを感じない。

 強いてその行動による勇者の利益を挙げるなら、奴はそれでようやく多少は心の平衡を保てるようになる、といった程度だ。

 つまり、勇者はおそらく、周囲よりも自身の利益を優先させることに強い罪悪感を覚える性質なのだ。

 他人より自分を優先することは悪い事なのだと思い込んでいる。

 ―――――なんだ、それは。

 究極のお人好し―――いや、もはやこれはそんな次元ではなく―――人として、生物として、故障品ではないか。

 そこで初めて、勇者に対して強い興味を持った。

 『伝説の勇者の息子』ではなく、勇者自身に対して。

20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/31(日) 21:49:25.94 ID:zBP9Ql630


 故障品―――そんな言い方をしたが、実際の所、勇者はこの時点で半ば壊れかけていた。

 このまま壊れてしまうのは、余りに勿体無い。そう思って励ました。

 もっともっと、こいつの滑稽な人生を見ていたい。

 それは、きっとすごく楽しい。

 例えば、こんな風に自分を励ましてくれた人間が、実は魔王の側近だと知った時、こいつはどんな顔をするんだろう。

 旅を続けて、魔王を倒せるかもなんて思い上がった時に、背後から刺されたら――――こいつは、親父みたいに驚くんだろうか。

21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/31(日) 21:50:13.04 ID:zBP9Ql630


 見たい。それはすごく見たいなあ。


 ああ、勇者。俺はお前を救おう。


 お前が魔王の所まで辿りつけるように、最大限のフォローをしよう。


 だから、最高の結末を俺に見せてくれ。


 ――――そうだな、まずは精霊剣っていう神秘の存在を、お前に教えてあげるとしようか。


22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/31(日) 21:51:15.06 ID:zBP9Ql630
勇者「面白そう……か。そうだな。お前はそういう奴だよな」

騎士「本当はな、お前と一緒に魔王の所に行って、そこで正体をばらすつもりだったんだよ。その時のお前の顔を見るのが楽しみだった」

勇者「だけど、先に俺が気づいてしまった……残念だったな。お望みの顔が見れなくて」

騎士「まあ、それ以前にこんな『宝術』なんてもんを引っ張り出された時点でご破算だわな。まさか勇者以外の人間でも魔王を倒せるようになるなんてよ」

騎士「どうするかすげえ迷ったんだぜ〜? それでまあ、エルフ少女を殺して、俺をエルフ少女の傍に配置したことを後悔するお前の顔を見て良しとしようと思ったわけだ。それも全部お前の手のひらの上だったわけだけどな」

 もはや本性を隠そうともしない騎士に、勇者は呆れ混じりの笑みを浮かべる。
 いや―――違うのか。勇者はこれまでの騎士の言動を思い返す。
 騎士は元々本性を隠してなんていなかった。
 この男はいつだって倫理を無視して自由奔放に、好き勝手に振る舞って来た。
 自分の利益が最優先―――その本質を、騎士はいつだって大っぴらにしてきた。
 今はただ、今まで言ってなかったことを言っているだけ。

勇者「分かったよ、騎士」

 勇者は騎士に向かって言う。宣言する。

勇者「迷いはもう無くなった。俺はお前を殺すよ。容赦はしない」

騎士「おう、どんと来い」

 勇者の言葉を受け止めて、騎士は不敵に笑った。
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/31(日) 21:52:16.12 ID:zBP9Ql630
 勇者は騎士に向かって再びその指をさした。

騎士「……あん?」

勇者「呪文―――大火炎ッ!!!!」

 勇者の指先に魔力が集中し、業火を生み出す。
 直径三メートルにも及ぶ大火球が騎士に向かって直進する。
 しかし騎士に焦りはない。
 既に見慣れた技だ。何の脅威も無い。

騎士「何のつもりだ?」

 騎士が剣を振る。
 湖月の力を発動させるまでもない。
 ただそれだけで火球は斬り飛ばされ、霧散する。
 火球が散って、勇者の姿が騎士の目に入った。
 勇者は先ほどと変わらぬ立ち位置で、まだ騎士に向かって指を伸ばしている。

勇者「呪文・大烈風ッ!!!!」

 勇者の指先から風の塊が射出された。
 騎士はその攻撃を躱そうともしなかった。
 風の塊が騎士を直撃する。
 呪文の直撃を受けて、しかし騎士は微動だにせず、呆れと失望を顔に浮かべてぽりぽりと頭を掻く。

騎士「……で? これが何だってんだ?」

 勇者の呪文は知っている。
 そしてそのどれもが、今のようにたとえ直撃したとしても騎士の強固な精霊加護を貫けない。

騎士「剣で勝てないから呪文で勝負……まさかそんな単純な結論を出した訳じゃねえよな?」

 騎士の問いに、勇者は笑みを浮かべて答えた。

勇者「いやあ……お前の言う通りさ。剣じゃ絶対にお前に勝てない。だから―――呪文で勝負させてもらう!!」

 勇者の指先に魔力が集中する。

勇者「呪文――――」

 騎士は勇者の指先を注視した。

騎士(くっだらねえ。お前は所詮この程度なのか、勇者)

騎士(もう茶番には付き合わねえ。次の呪文を躱したら、そのままぶった斬ってやる)

 そして、身を低く構え、勇者への突撃の姿勢を固める騎士。
 同時に、勇者の呪文が完成する。

勇者「――――『大雷撃』ッ!!!!」

 勇者の指先を注視していた騎士の頭上から―――閃光と轟音を伴って、雷が降り注いだ。
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/31(日) 21:53:20.72 ID:zBP9Ql630
騎士「ぐぁっ、があああああああ!!!!?」

 ビシャァァアアン!!!! と、凄まじい衝撃が騎士の体を打つ。
 それまでの呪文二連撃によって勇者の指先に意識を集中させられていた騎士は、頭上から降り注ぐ雷に碌な反応も示すことは出来なかった。

騎士(なんっだこりゃあ!!? 今の光と音…そして、このダメージは一体…!?)

 騎士の脳裏に、武の国で兵士長と共に目撃した情景が蘇る。

騎士(雷…!? 勇者の奴、まさか雷を呼んだってのか!!?)

 呪文・大雷撃【ダイライゲキ】。雲なき空より雷を発生させる奇跡の業。
 これこそが、勇者が光の精霊より賜った呪文だった。
 精霊最上位である光の精霊の加護の下に放たれるこの一撃の前には、他の精霊の加護をどれだけ集めていようと意味を為さない。
 雷は騎士の持つ桁外れの加護すら紙のように貫き、甚大なダメージを与えた。
 この効果だけでも恐るべき呪文だが――――実はこの呪文の真価は、むしろ直撃後にこそ発揮される。

騎士(確かに大した威力だが――――意識を持ってかれる程じゃねえ!! この程度なら、十発食らったって耐えられる!!)

 歯を食いしばって痛みに耐えた騎士だったが、視線を勇者の方に戻してぎょっとした。
 いつの間に現れたのか―――戦士と武道家が、自分に向かって突撃してきている。

騎士(な―――!? こいつら、今までずっと隠れていやがったのか!!? クソ、しゃらくせえ!!!!)

 剣を握り、二人を迎撃しようとした騎士だったが、自身の体の変調に気付き愕然とした。

騎士「あ……ぐぁ、か……!?」

騎士(体が…痺れて動かねえ!?)

 そう、これこそが呪文・大雷撃の真価。
 直撃した対象を痺れさせ、その体の自由を奪う。
 無論、それで奪える時はほんの一瞬程度ではあるが―――騎士達のレベルの戦いになれば、その一瞬で十分に明暗が分かたれる。
 戦士が精霊剣・炎天を振りかぶる。
 武道家が精霊甲・竜牙を纏った拳を握りしめる。
 二人の装備は共に神秘の結晶、精霊装備。直撃すれば、加護レベルの差を覆してダメージを通すことが出来る。
 たとえ騎士のような化け物を相手にしても―――問題無く致命傷を与えることが出来るだろう。

騎士(がああああああああああああああ!!!! 動け動け動け動けぇぇぇえええええええ!!!!!!)

 騎士は己の両腕に全神経を集中する。
 引き攣ってまともに動こうとしない指先を、それでも無理やり曲げて剣を握る。
 その執念により、騎士は二人の攻撃が直撃するよりも一瞬早く、己の体の自由を取り戻した。
 だが―――二方向から同時に迫る攻撃を躱しきることは、如何に騎士といえども不可能であった。
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/31(日) 21:54:32.56 ID:zBP9Ql630
 騎士は戦士の一撃をこそ危険と判断し、その剣が向かっていた先―――己の首を両腕で庇った。
 しかし戦士もさるもの、その動きを読み、一瞬で剣を斬り返して狙いを騎士の胴体に変えた。
 ずぶり、と戦士の持つ剣の切っ先が騎士の腹に沈む。

騎士「ぐぼ…!! ……おぉぉぉおおおおおおお!!!!」

 騎士は死力を振り絞って地面を蹴った。
 それでも戦士の剣から逃れきることは叶わず、騎士の腹部は横に大きく裂かれた。
 零れ出る己の臓物を焦りをもって見つめる騎士の頭部に―――武道家の、精霊甲に硬く覆われた拳がめり込んだ。

騎士「ぶがふ」

 奇妙な声が騎士の口から漏れた。
 騎士の体が後方に吹き飛ぶ。
 騎士の頭―――額の右上辺りから武道家の拳が抜ける際、みきぱきぱきと砕けた骨が擦れる音がした。
 ねっとりと、武道家の拳と騎士の額の間に血の線が伸びる。

武道家(仕留めたッ!!!!)

 その手応えに、武道家は勝利を確信する。
 ずしゃあ、と騎士の体が土煙を上げ、横向きに地面に転がった。
 腹からは臓物が零れ、額は深く陥没して目は虚ろ。
 誰がどう見ても致命傷だ。
 その様子を見た勇者もまた、勝利を確信して安堵の息をつく。
 ごろん、と騎士の体が仰向けに転がった。
 勇者、戦士、武道家の三人は同時に異変に気付く。
 いつの間にか、騎士の口には奇妙な形のガラス瓶が咥えられていた。
 騎士の体が仰向けになったことで、重力に引かれるままに中の液体が騎士の口の中に注ぎ込まれていく。

戦士「――――ッ!!!!」

 その液体の正体に唯一思い当った戦士が駆け出した。
 騎士にとどめを刺すため、その剣を騎士の喉元目掛けて振り下ろす。
 騎士の体が跳ね起きた。

騎士「どらっしゃあ!!!!」

 戦士の剣を躱し、騎士は戦士の体を蹴り飛ばした。
 吹き飛んだ戦士の体は木の幹に衝突し、戦士はくぐもった悲鳴を上げる。

僧侶「せ、戦士!!」

 今までずっと身を伏せていた僧侶が回復の為に飛び出してきた。
 勇者と武道家は、驚愕の面持ちで騎士を見つめている。

武道家「ば、馬鹿な……確かに、致命傷だったはず……」

勇者「くそ、まさか、そんな……!」

 騎士は落としていた精霊剣・湖月を拾い上げるとコキコキと首を鳴らした。

騎士「いやー、今のはマジで危なかったぜ。虎の子の魔法薬を使っちまうことになるとは思わなかった」

 騎士の体からは、額の傷も、腹部の傷も、痕を残してこそいるものの―――無くなってしまっていた。

戦士「瞬時に体力を全快させる魔法薬……お前がまさかそれを持っていたとは……」

 僧侶による治療を終えた戦士が立ち上がり、そう騎士に声をかける。
 戦士の脳裏には、かつて盗賊の首領に無理やり魔法薬を飲まされた時の記憶が蘇っていた。

戦士「こんな事なら、確実に首を刎ねてやるべきだった……いや、そうか。だからお前は……」

騎士「そうだ。何が何でも首だけは守り通した。でも危なかったぜ。腹を切られた時、一瞬でも回避が遅れてたら体をそこで上下に両断されてた」

騎士「そうなったらゲームオーバーだったぜ。物理的に距離が離れちまえば、流石に魔法薬の効果は及ばねえ。惜しかったな、戦士ちゃん」

戦士「く…!」

騎士「さて……」

 騎士が改めて勇者の方に向き直る。
 しかしその時には、既に勇者は呪文の発動を終えていた。
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/31(日) 21:55:56.83 ID:zBP9Ql630
勇者「呪文・大雷撃ッ!!!!」

 再び天から放たれ、地面を打つ神の一撃。
 しかしそこに既に騎士の姿は無い。

騎士「不意打ちじゃなきゃ、もうそんなもん食らわねーよ」

 声のした方を振り向く。
 騎士は目にも止まらぬ速度でいつの間にやらたっぷり十メートル以上も移動し、雷から身を躱していた。

騎士「さっきの一撃で俺を仕留められなかったのは痛かったな、勇者。もうこの雷は俺には通じねえ。お前達は、真っ向から俺に立ち向かい、勝利しなくちゃならなくなったわけだ」

 勇者はごくりと唾を飲む。
 出来るのか? そんなことが。
 現に今、騎士の動きを目で追う事すら出来なかったというのに?

戦士「臆するな。気合を入れろ、勇者」

 戦士が勇者の背に手を添えた。

戦士「出来るかどうかじゃない。やらなきゃならないんだ。この戦いに世界の命運がかかっていることを忘れるな」

 武道家が拳を打ち鳴らす。

武道家「こんな状況なんて、もう慣れっこだろう? 俺達は弱くて、いつだって格上の相手ばかりしてきた。なら、今回もいつも通りやるだけさ」

 僧侶が勇者の傷を癒して言った。

僧侶「そうです、勇者様。私達なら勝てます。―――ご指示を。私は貴方を信じています」

 勇者は頷いた。

勇者「そうだな。何度も何度も思ってきたことだった。どうして俺はすぐ忘れちまうんだろう。馬鹿だよな、ホント」

 勇者は騎士を見据え、剣を構える。

勇者「―――やるしかないんだって、マジで」

 まるでその決断を祝福するように―――世界がパァ、と輝いた。





 魔大陸全土を覆う『宝術』が完成した。


27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/31(日) 21:56:46.58 ID:zBP9Ql630
 第三中継点――――

兵士A「すげえ……これが、宝術……」

兵士B「優しく包み込まれるような光だ……心地良い……」

兵士A「事前に通達されていた通りだ……回復の速度も上がってる。おい、お前助かるぞ……」

若い兵士「がふ…! ふ、フン…当然だ……この僕が、狂乱の貴公子が、こんな所で死ぬなんてことがあってたまるか……一刻も早く傷を治して、魔王討伐隊に加わらなくては……」

兵士A「はは…死に際までそんな口叩けるなら、本物だよお前。強くなるわ」

若い兵士「何を当然のことを今更……」

兵士B「でも討伐隊には加わんな。ここでじっとしてろ足手まとい」

若い兵士「ぎぎぎ……!」

28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/31(日) 21:57:24.49 ID:zBP9Ql630
 第二中継点――――

アマゾネス少女「宝術……本当に凄まじい威力。体が軽い。さっきまであんなに面倒だった魔物達がもう雑魚にしか思えない」

アマゾネス族長「アマゾネス少女、宝術が発動したということで、手筈通り私は魔王討伐隊に加わる。ここの指揮を任せて大丈夫か?」

アマゾネス少女「問題ない……もう負ける気が全くしない」

アマゾネス族長「それにしても竜神様はどこに行かれたのか……先ほどから空を見ても全くお姿を見掛けなくなった」

アマゾネス少女「心配はいらない。どうせ、作戦成功の功績をアピールするために武道家様の所にでも行っているに違いないから」

アマゾネス族長「その不遜な言い回し……竜神様の血を一番色濃く継いでいるのはお前かもしれんな。よし、次の族長はお前に任せたぞ」

アマゾネス少女「やだ。めんどくさい」

アマゾネス族長「やれやれ……」
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/31(日) 21:58:17.52 ID:zBP9Ql630
 数分前、魔大陸上空――――
 たった一人で翼持つ魔物達を相手に空を守り続けた竜神は、大地から放たれる光を興味深く見つめていた。

竜神「ふむ……これが話に聞いていた『宝術』か。エルフ共め、大した術を持っておるわい」

 ぽん、と幼女の姿に戻った竜神は、ふむふむと感心したように顎を撫でた。

竜神「魔物の力を封じると聞いて、儂にまで影響を及ぼした時にはどうしてくれようかと思っていたが、むしろ儂の力さえ底上げしておる」

竜神「これから推測するに……単純に種族ではなく、どうやら『この世界に生きる者』と『それ以外の者』とを区別して効果を与えているようじゃな」

竜神「すなわち、かつて遠い昔にも、この世界は他の世界からの侵略を受けたことがあり、当時のエルフ達がこの術を編み出した、という仮説が成り立つ」

竜神「運が悪かったの、魔王とやら。儂も知らなんだがどうやらこの世界、異界からの侵略に慣れておるようじゃぞ? よりにもよって、こんな世界を侵略の対象にするとは、ご愁傷さまじゃ」

竜神「む? いや、異界に繋がりやすく、容易く侵略に晒されてきたからこそ、こんなにもここで世界防衛のノウハウが発達したのか……ま、推測に推測を重ねても仕方あるまい」

 ぎゅん、とその背から生やした翼をはためかせ、竜神は猛烈な速度で下降する。

竜神「武道家ーーー!! 儂のおかげで術の発動が成功したんじゃぞーーー!!!! 褒めて褒めてーーー!!!!」
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/31(日) 21:59:16.86 ID:zBP9Ql630
 魔王城より僅かに離れた森の中―――勇者達が事前に造り上げていた木造の簡易基地。
 魔王討伐隊に任命された各地の精鋭たちが、翼竜の羽によって次々と基地に飛来する。
 集まった人員の指揮を執るのは、武の国兵士長だ。

兵士長「皆の者!! この宝術によって我々の力は増し、魔物の力は半減している!!」

兵士長「魔王がこの宝術に対して何ら対策を打てていないうちに、一気にケリをつける!! スピードが勝負だ!! 征くぞッ!!」

アマゾネス族長「了解だ」

武士団長「承知でござる!!」

始まりの国騎士団長「勇者様のためにも、必ず勝利を!!」

神官長「微力ながらも、全力をもって皆様を補佐します」

エルフ少年「………」

 士気高く兵士長に同調する面々の中で、唯一苦虫を噛み潰したような顔をしているのは、エルフ少女の弟であるエルフ少年であった。

エルフ少年(どーして俺がこんな責任重大な任務に参加しなきゃならないんだよ!! 普通に考えて、ここは姉ちゃんだろ!!)

エルフ少年(宝術は発動さえしてしまえば、後は魔力を通して結界を維持するだけだから、それは姉ちゃんじゃなくても出来る訳だし……)

エルフ少年(なのに姉ちゃんの奴、『私には魔王討伐より大事な用事があるから』なんて言ってさ!! 魔王討伐より大事なことなんてあるわけないじゃないか!!)

エルフ少年(姉ちゃんのサボり魔!! ばかやろーー!!)
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/31(日) 22:00:55.73 ID:zBP9Ql630
騎士「……増えたな、なんか」

 騎士は己を取り囲む『六人』の顔を見回した。
 真正面に相対するは漆黒の剣を構えた勇者。
 騎士から見て、勇者の左で真紅の大剣を構えるのは戦士だ。
 騎士は顔を左に向ける。
 先ほどがさがさと藪の中から飛び出してきたのは自身が命を取ろうと画策していたエルフ少女だった。
 エルフ少女はクルクルと手の中で二本の短剣を遊ばせている。

エルフ少女「君が勇者の言っていた騎士かい? 成程とっても強そうだ。だけどね、私もちょ〜っとは腕に覚えがあるんだよ」

 視線を騎士から見て、勇者の右側へ。
 白銀の輝きを放つ手甲を打ち鳴らす武道家。
 武道家と勇者のちょうど中間あたりで一歩下がって構えているのが僧侶。
 そして武道家のすぐ傍で、武道家の手甲と同色の輝きの髪を靡かせる、褐色の幼女。
 その手は異形の化け物―――竜の爪へと既に変貌している。
 突然上空から乱入してきたその謎の幼女は、騎士に向かって不敵な笑みを浮かべた。

竜神「はてさて、愛しの武道家の元へ馳せ参じてみれば、何やらおかしな成り行きになっとるのう。儂自身はお主に面識などないし、恨みもないが、すまんのう。儂の点数稼ぎのためにひとつ犠牲になってくれ」

 勇者は騎士に向かって口を開く。

勇者「宝術は完成し、俺達の力は底上げされ、逆に魔物の力は弱まった。これで、本当なら俺達の勝利は確定するはずだった」

騎士「確かに、すげえ術だなこりゃ。びんびん力が上がるのを感じるぜ」

勇者「そうだ。この作戦で、お前の存在だけが誤算だった。お前の存在だけが穴だった。宝術によって俺達の力を底上げしても、同様にお前の力も高まってしまう――――俺達の側の力を持ちながら、敵に回った人類の裏切者」

勇者「今、宝術の完成と共に各国から選抜された精鋭部隊が魔王の討伐に向かっている。……そしてそれはきっと成し遂げられるだろう」

勇者「だけど、たとえ魔王を倒そうと、お前を何とかしなくちゃこの戦いは終わらない」

勇者「結局、お前が最後の壁なんだ。お前を実力で乗り越えなくちゃ、この世界に平和は訪れない」

騎士「果たしてそれが出来るかな? 言っておくが俺には、わざと負けてやるとかそんなつもりは一切無いぜ?」

騎士「だってそれじゃあ――――つまらないからな」

勇者「出来るかどうかじゃない。やるしかないんだ。幸いな事にここには、俺達だけじゃなくてエルフ少女と竜神様も居る。二人とも、お前を倒すために力を貸してくれる」

勇者「これで、俺達はこの世界で最強のパーティーだ。この世界で準備できる最大戦力が、今ここにいる。この力で俺達は、お前を打ち倒す!!」

 ジャキン、と全員が武器を揃える音が重なった。
 全員の視線が集中する先で、騎士はくつくつと笑う。

騎士「世界最強とはまた大きく出たな。面白い。ならば、俺はその世界最強とやらを超えて、唯一無二とでも名乗ってみせようか」

 騎士もまた、応じるように剣を構えた。
 その動きを合図として、僧侶を覗く全員が騎士に向かって飛びかかった。
 僧侶は『身体強化』の呪文を紡ぐため、目を閉じて意識を集中させる。
 視界を閉じて、より鋭敏になった聴覚が、騎士の呟きを拾った。
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/31(日) 22:01:41.37 ID:zBP9Ql630









騎士「LEVEL―――――5」








33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/31(日) 22:02:33.55 ID:zBP9Ql630
 衝撃が走った。
 目をつぶったまま吹き飛ばされた僧侶は、たっぷりと地面を転がった後、訳も分からず立ち上がり、目を開いた。

僧侶「――――え?」

 僧侶は呆然と呟き、己の目を疑った。
 勇者が地面に転がっていた。周りには血だまりが広がっている。
 戦士も同様に、すぐ傍に倒れていた。やはり地面には血だまりが広がっている。
 武道家は木の幹に背を預けて座っていた。幹は血でべっとりと濡れている。
 幼女の姿のまま右腕と翼を捥がれた竜神が木の枝に引っかかっていた。地面に滴る紫の血がぽたぽたと音を鳴らしている。
 エルフ少女の胸に、自身が持っていたはずの短刀が突き立っていた。地面には血だまりが広がり続けている。


 血に染まった騎士が、その中心に立っていた。
 だけど彼の血だけは、彼自身のものじゃなく、すべて返り血なのだとすぐに分かった。
 何故なら彼は笑っていたからだ。
 苦悶の様子など欠片も無く、その顔はただ愉悦に歪んでいた。


僧侶「あ…あ……」

 その事実は、僧侶の頭に殊更ゆっくり浸透した。
 ようやく頭が理解に追いついて、僧侶の目に大粒の涙が浮かぶ。







 勇者達は、全滅した。


第二十八章  モンスター  完

34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/31(日) 22:03:38.05 ID:zBP9Ql630
今回はここまで

>>3
忘れてた ありがとう
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/31(日) 22:04:02.02 ID:IRCJ3tf/o

騎士強すぎだろう・・・
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/31(日) 22:22:42.64 ID:lanQFbpAO
やっぱりつえーな
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/31(日) 22:31:34.43 ID:qvUZ/ieuO
魔王すら余裕で倒してたのかw
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/31(日) 22:53:58.42 ID:MZ1ZdyVIo
鳥肌たったわ…

乙!
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/31(日) 22:59:05.33 ID:0uiCWHnUo
国レベルの加護でこんなになるならこけまで圧倒的な差が出るのか…?と思ったけど期待するしかない
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/31(日) 23:28:11.17 ID:04Xs+AEfO
え?えっ?…全滅?
相変わらず面白い!乙!
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/01/31(日) 23:53:45.37 ID:Yv8LfuzK0

魔王より強い騎士がさらに強化されたら誰も止めれるわけないか
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/01(月) 00:32:15.75 ID:MUUbwsqCO
おつ!
やはりラストバトルだったか。あと親父の結末が気になる…
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/01(月) 01:16:19.73 ID:CBkS63wSo
勇者達ざまぁ騎士一人相手に大勢で挑む卑怯者恥をしれ
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/01(月) 02:26:34.92 ID:8N5IcwKt0
>>43
騎士乙
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/01(月) 02:45:23.83 ID:Uv1hbnTKo

相変わらず熱い!
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/01(月) 06:10:48.04 ID:T1IGqcBZO
大魔王編はあるのかなぁー
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/01(月) 14:03:21.20 ID:iInamKK4o
魔王がすでに負けてて草
やっぱり桁違いだなあ……しかも強化されてるんだもんな
乙!
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/01(月) 18:52:07.09 ID:S6TnvE65O
おつ
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/02(火) 03:47:46.26 ID:PPCUkWGro
>>44
ちょっと笑った
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/02(火) 08:50:55.80 ID:FVfMQ9S7O
>>47
お互い強化されてるから、そこに差はないよね

今回早い更新で嬉しすぎ
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/02(火) 17:52:39.31 ID:3YpUFfEBO
かけ算方式なら差が広がった可能性も…底上げって言ってたからどうなのかわからんけど
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/03(水) 01:05:39.98 ID:0zX1Q01Zo
命乞いする魔王ww
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