勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編

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485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/28(火) 22:11:51.44 ID:S/o644Qso
そもそも最近は処理が滞ってるから処理順が回ってくるのはかなり先になる見込み
油断は禁物だけど
486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/01(水) 11:36:26.08 ID:EdQQ/4dZ0
消えるまであと2日……いい作品だっただけに残念
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/01(水) 15:24:49.12 ID:MipLymWao
俺がss速報を初めてしって初めて読んだ作品だから是非完結して欲しいなぁ
今まで読んできた作品で一番面白いし本当に楽しませて貰ってる
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/01(水) 15:42:20.06 ID:9P5nXIId0
前もギリギリで来たし、心配しなくても待ってりゃちゃんと来るよ。
489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/02(木) 00:06:05.57 ID:NIE0JB2cO
信じて待つ
過ぎてもすぐ消される事はないと思うけど
490 :1です [sage]:2017/03/02(木) 23:47:32.32 ID:HKwm73a90
色々人生の転換期的なことで休日が潰れて全然書けずにおりました

今週日曜に時間ができるのでそこでできる限り書いて、何とか投下したいと思ってます

待ってくださってる人はホント申し訳ない

頑張ります
491 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/02(木) 23:54:23.27 ID:dRYu6vkIo
おお、無理しないでね
492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/03(金) 00:09:17.77 ID:4McmASEB0
待ってたよー!
生存確認さえ出来れば全然いくらでも待つのでしっかり書いてほしー!
493 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/03(金) 01:41:26.35 ID:nw2JKW9B0
494 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/03(金) 18:48:26.38 ID:yYDN73IRo

待ってるので、1のペースで書いてね
495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/03(金) 18:58:06.55 ID:gva96uQw0
ほら、ちゃんとこの1は来てくれるんだよ
496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/03(金) 19:57:52.45 ID:kCNANEBVO
楽しみにしてます
497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/05(日) 11:45:41.33 ID:3XqftyFuO
いえーい
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/06(月) 08:20:03.43 ID:0QWIThxKO
無理すんなよ
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/11(土) 14:14:06.64 ID:jOcj1noZ0
まだ?
500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/11(土) 23:57:27.29 ID:9OMk0m/Y0
よかったー生きてた!
長く開いても生存がわかればいくらでも待てるよ!
楽しみに待ってる!
501 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/13(月) 00:23:04.78 ID:W0Enfy7N0
日曜ダメだったか……
502 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/14(火) 00:45:49.91 ID:GfQfcKqr0
まぁ生存確認できてるし、後はゆっくり体調とかいろいろ気をつけてくださいな。ここへのうpは全ての後回しで全然構わぬ。
503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/19(日) 02:40:01.52 ID:/MNrJMoV0
このペースなら完結まであと8年くらいだな
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/19(日) 03:04:02.36 ID:UDj6MXCLo
8年も続くとかそれはそれで嬉しい
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/28(火) 04:11:42.52 ID:nfrl1yVo0
待ち遠しい
506 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/02(日) 03:47:38.31 ID:yYrnJz490
追いついたーと思ったらまだ終わってなかった・・・
待ってるよ!
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/06(木) 00:42:18.61 ID:d+old9Cq0
1生きてるかな、心配になってきた
508 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/09(日) 23:18:31.70 ID:dtlUaW1I0
1,構想は練ってるけど書く暇が無い
2,構想は練ってるし書いてるけど筆が進まない
3,構想すら練る暇が無い
4,色々あって書く気が無い
5,色々あって書く気が無いけど言い出せなくて有るフリしてる
509 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/10(月) 03:18:51.81 ID:SjtgqjMDO
6,このスレ(作品)をもう忘れてる
7,病んでいる(色んな意味で)
8,息をしていない(まるで屍の様だ)9,実は最初から尻切れトンボで終わらす予定で読者の反応を見てニヤニヤしてる(ドS)
10,Rに移った(笑)
510 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/10(月) 14:20:58.62 ID:WH12Be+50
仕事で書く時間ないんでしょ。俺も遅筆だからわかるけど、まとまった時間ないと筆進まない。
511 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/10(月) 19:56:02.19 ID:gqqGvlU3o
触んな触んな
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/11(火) 02:08:32.29 ID:vTDXMJjDo
いや最悪亡くなってるって考えもあるからね
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/23(日) 01:46:39.94 ID:0q0vdcMb0
あと最終章だけだったんだが…書き上げれば書籍化レベルだと思うだけどなぁ
がんばってほしい
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/23(日) 12:00:32.45 ID:l2/JCMz+0
>>490も乗っ取りっぽい気がするけどね
515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/23(日) 19:40:06.67 ID:BdN+SkUEo
皆さんの熱いエールで日々スレが埋まっていきます!本当にありがとうございます
516 :1です [sage]:2017/04/23(日) 21:21:54.89 ID:xBFqsMNN0
>>509
11.ボチボチ書いてるけどなんかどんどん膨れ上がって全然終わんない

最終章なんかすげえ長くなってるよ……最終章なんて言わずにもうちっと分割すればよかったよ……

まあ、ホントちょこちょこですけど時間見つけて書いてはいますんで、気楽にお待ちください
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/23(日) 21:39:48.10 ID:kkMuFZlao
了解
気長に待ってます
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/23(日) 22:24:02.31 ID:0d8izdaA0
最終章分割掲載でもかまわないから待ってる
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/23(日) 22:31:52.77 ID:hTWe3MaCo
無理にまとめなくてもいいんですぜ
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/23(日) 23:59:26.26 ID:ulTKtysDO
おおお!待ってる!
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/24(月) 02:47:03.27 ID:662cNxa50
期待
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/24(月) 03:44:11.61 ID:2HOfvy2C0
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/24(月) 12:19:04.24 ID:th/2XQSsO
期待!
524 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/05(金) 23:52:13.22 ID:vXdxIx1qO
期待!
していた
525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/05/08(月) 02:01:31.70 ID:NYdeBst60
追いついた!!
乙&期待!!
526 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/08(月) 02:20:44.14 ID:7KVQ0sJA0
>>525
ROMってsageを覚えようか
527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/09(火) 06:17:04.87 ID:uKxg9+UHO
sage厨きめぇwww
528 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/16(火) 01:28:24.93 ID:+wkCbYY60
もう待ちきれなくて、最初から読み直しちまったYO!
やっぱり、おもしろいYO!
529 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/05(月) 23:21:38.13 ID:M2HNGvveo
あえての保守
530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/06(火) 21:41:26.91 ID:+lxgHHTKO
残念だけど失踪ぽいね
勇者ものでダントツに面白かったのに
531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/06(火) 22:00:14.43 ID:tbVkuD5Wo
まだあわてるような時間じゃない
532 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/07(水) 00:26:50.92 ID:PnBnUoIuO
信じてる
>>1に言いたい本当ダントツに面白い。モチベ上げて頑張ってくれ
待ってるから
533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/15(木) 22:25:04.71 ID:5mmRgp530
最初から読み直しちゃったよ。
もう我慢出来ん、小出しで良いから続きを…
534 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/15(木) 22:45:03.08 ID:ECf58T/3o
前回の更新から半年以上経っちゃってるね
あと、そろそろ生存報告も必要か

自分も読み返して気持ちを昂らせておくことにする
535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/16(金) 00:46:51.37 ID:503IuTlgO
騎士倒したところで一旦終わらせておけば、纏められて凄い話題になったろうに…。その後続きを書く感じにしておけば…って今更だけどな
536 :1です [sage]:2017/06/19(月) 19:13:35.10 ID:fdZaLZL+0
スンマセン

マジスンマセン お待たせしてます

次の日曜日に出来てるところまで投下します

待ってくださってる方々、申し訳ない

おかげさまでホントにちょっとずつですが、続きを書けてます

感謝です
537 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/19(月) 19:20:44.75 ID:1k0KH6XEO
マンスジに見えたのは置いといて

大変だろうけど応援してるよー待ってる!
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/19(月) 21:35:32.46 ID:3bQ0pa/no
来たぞ来たぞー
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/19(月) 22:02:03.01 ID:MNaMEkhz0
うおおおお!
楽しみ!


>>537
笑わすなや
540 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/19(月) 23:19:02.92 ID:CQ6OBjtKo
ゆっくりでも完結してくれたらそれでいいのさ
待ってるよ
541 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/19(月) 23:37:05.36 ID:dJvXKLdWo
この時をずっと待っていた
楽しみにしていますのでがんばってください!
542 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/20(火) 02:10:16.53 ID:HqswwN9Io
おぉ 楽しみに待ってる
543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/25(日) 09:38:39.02 ID:cPz8kRZa0
やったぜ
544 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 10:16:43.01 ID:qW5FppWfo
来たぜ日曜
545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 10:58:53.25 ID:2YuEJWq7O
今日来たら8ヶ月ぶりや
待ってたよ
546 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 13:55:32.08 ID:atnUNgOIo
今日来なかったら今までのやつ偽物確定だな
547 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/25(日) 16:05:30.63 ID:dyU/3Fo20
『「伝説の勇者」の伝説は我が子によって首を刎ねられて終わりを迎えた。ふむ、なんとも痛ましいものだ。己が父の首を刎ねた時、君は一体何を思った?』

「特に、何も」

『強い覚悟をもって事に臨んでいたということかな。何が起きても心が揺らがぬよう、君は心を決めていた』

「いいや、違う。そんなんじゃない。ただ、本当にどうでもよかった。俺は、どちらでもよかったんだ」

『どちらでも、とは?』

「勝っても負けても、どちらでもいいということさ。親父が大魔王の手先として剣を取り、俺の前に立ちふさがった時点で、俺と親父のどちらかが死ぬことは決まってしまった」

「親父にそんな意図は全くなかっただろう。あの臆病なお人よしは、あの場に及んでさえ俺との間に平和的な解決があるものと、きっとそう考えていた」

「あいつは、何も知らなかったから」

「この世に『加護の継承の例外』なんてものが存在することを知らなかったから」

「迂闊にも、その時俺は運命というものを信じてしまいそうになったよ」

「俺は知っていた。知ってしまっていた。その現象を、騎士に教えてもらっていた」

「知っていたから、自暴自棄というのかな、もうどうなってもいいと思ってしまっていた。ああ、誤解はしないでほしい。どうでもよくなったのは、自分の命に関してだけだ。『伝説の勇者の息子』としての使命は、変わらずこの胸に抱いていたさ」

「俺が死んでも、親父が死んでも、その加護は生き残った方に集中する。たとえ親父が生き残ったとしても、流石に俺の力をまるごと継承すればもう一度大魔王に挑もうという気概も沸くはずだ。俺はそう思った」

「……結果は知っての通りさ。俺は親父の首を断ち、その加護を、つまりはあんたの加護を丸ごと継承した。死んでも構わんと捨て身でかかる俺と、何とか俺を殺さず無力化しようと手加減していた親父じゃ、この結果も当然と言えるのかもしれないが」

『しかし、君は父の死に対して随分と淡泊な印象を受ける。普通の人間ならば、自らの手で父を殺めたことをもっと気に病みそうなものだが』

「あの親父のせいで今まで散々苦労を背負わされてきて、それでいて魔界であんな手酷い裏切りを受けたんだ。親子の情なんてきれいさっぱり無くなっちまうさ」

『「伝説の勇者」の責務も何もかもを放り投げ、魔界で隠遁していたという話か。なるほど確かに、これはひどい話だ。捨てられた本人である君が憤るのも理解できる』

『しかし、そんな彼の心情を最もよく理解できるのもまた、君なのではないかな?』

「……はあ?」

『彼は「伝説の勇者」としてその身に大きな使命を背負っていた。世界中の期待を一身に請け負っていた。それはどれ程の苦悩であったことか。それを、諦めていいのだと、そう思った時に彼が覚えたであろう安堵の気持ち……君こそが、一番わかってあげられるのではないか?』

「冗談はやめてくれ。俺とあいつは全然違う。そりゃ、『伝説の勇者』の名前の重圧に、皆の期待に雁字搦めにされていたってのは一緒なのかもしれないが、それでも」

「あいつは、望んでそうなった。何でもなかった一青年から、本人の意思で『伝説の勇者』になったんだ」

「俺は違う。俺は生まれた時から『伝説の勇者の息子』だった。俺に自身の在り方を選択する余地なんてなかった」

『周囲の期待も何もかもを投げ捨てて生きるという選択肢もあったはずだ。現にそうして生きた青年がいたことを君は知っている。「伝説の勇者の息子」としての人生を全うすると選択したのは、まぎれもなく君の意思であったはずだ』

「………」

『責めているわけではない。君がそういう人間であるということを改めて確認しただけだ』

『自己犠牲を嫌いながら、それでも他者を優先してしまう善性の塊。極めて特異な「勇気ある者」』

『実に、実に興味深い』

『さあ、もっと聞かせてくれ』



『「伝説の勇者」の息子―――――――勇者。君の物語を』


548 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/25(日) 16:06:22.42 ID:dyU/3Fo20









     最終章










549 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/25(日) 16:06:57.96 ID:dyU/3Fo20
 爆ぜる衝撃が戦士の頬を撫でた。
 勇者の体を中心に荒れ狂う嵐が『大魔王の間』の広大な空間を切り裂いていく。

勇者「『呪文・極大烈風』」

 勇者の魔力によって生み出された風の塊は、まるでそれ自身が意思を持つかのように唸りをあげ、その様相は風でかたどられた龍の姿を幻視させた。
 荒れ狂う暴風の龍は勇者の指さす先、大魔王へと襲いかかる。

大魔王「風刃(ふうじん)」

 大魔王がその腕を振るうとまるで巨大な獣の爪に引き裂かれたように風の龍の体は千切れ飛んだ。

勇者「『呪文・極大火炎』」

 間髪入れずに勇者は次なる呪文を紡ぐ。
 極大火炎の名のもとに生み出された火球はまるで太陽が地上に顕現したかのようで、並の者ならば直撃を受けるまでもなくただその場に居るだけで焼け溶けていただろう。

大魔王「虚空(こくう)」

 大魔王の手から放たれた暗闇が極大火炎を飲み込んだ。
 火球の放つ光と熱に照らされていた『大魔王の間』に一瞬の静寂が訪れる。

勇者「『呪文・――――極大雷撃』!!!!」

 轟音と烈光が静寂を引き裂いた。
 突如現れ瞬時に部屋全体を蹂躙した雷光は、流石の大魔王といえども完全に躱しきることは叶わなかった。
 端が焼け焦げたマントを払い、大魔王は勇者を睨め付ける。
 勇者と大魔王、二人の戦いに戦士はただただ圧倒されていた。
 勇者の放つ魔法は人知を超えた威力で、大魔王城が今も形を保っていることが奇跡に思えるほどだ。
 しかしそれを、大魔王は事も無げにいなしている。
 がり、と戦士は奥歯を強く噛みしめる。
 レベルの違いを痛感した。
 この二人の戦いに、自分の力量では割って入ることは叶わない。
 これはもはや――――神々の領域の戦いだ。

勇者「戦士。大魔王の相手は俺に任せて、君は先に城を離れるんだ」

 いつの間にかすぐ傍まで戻ってきていた勇者の言葉に、しかし戦士は首を振った。

戦士「いやだ。誰がお前を一人で戦わせるものか。私はずっとお前の傍にいる」

 勇者は困ったような笑いを見せた。
 戦士とてわかっている。
 この局面において、自分はもうただの足手まといにしかならない。
 それでも、今の勇者を。
 父をその手にかけ、深く―――とても深く傷心しているだろう勇者を一人にすることは耐え難かった。
 ――――それでも。

戦士(私がここにいれば、巻き込むことを恐れて勇者は本気を出せない。それに、大魔王のあの得体のしれない術に私が捕まれば、人質として利用されてしまう可能性すらある)

 そんな戦況も、戦士にはよく理解できていた。
 嫌だ嫌だと喚く自分の感情に蓋をする。
 たまらず涙が込み上げてきた。
 弱い自分に、この一番大事な時に、大切な人の傍に立てない自分の弱さにはらわたが煮えくり返る思いだった。
 ぐっ、と戦士は爆発しそうになる感情をこらえ、こぼれそうになっていた涙をぬぐう。

戦士「勇者、約束しろ。―――――必ず、絶対に戻ってこい」

勇者「ああ。わかったよ。約束する。必ず戻るよ、戦士」

 戦士はその場を立ち去ろうとして踏みとどまり、床に転がっていた『伝説の勇者』の首を胸に抱え上げて駆け出した。
 勇者は戦士が『大魔王の間』から出て行ったことを横目で確認し、大魔王へと向き直る。

勇者「随分と素直に行かせるんだな」

大魔王「お前を刺激するような真似はせんよ。俺たちにはまだ交渉の余地がある。そうだろう?」
550 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/25(日) 16:07:35.39 ID:dyU/3Fo20
 大魔王は勇者に問う。

大魔王「なあ、勇者。俺のやっていることは悪か? 俺がこの胸に抱き、叶えたいと望む願いは断罪されるべきものなのか?」

大魔王「だって、見てみろよ。この魔界の荒れ果てた様を。新たな命など芽吹くはずもない荒涼とした大地を。こんなの、誰が見たってこう思うだろう」

大魔王「『何とかしなきゃ』、と」

大魔王「後に生きる者のため、健全な世界を残したいと思うのは、今を生きる者として当然の感情だ。いや、もはや義務と言ってしまってもいい」

大魔王「だから俺は行動を起こした。確かにお前たちの世界に迷惑をかけていることは認めよう。しかし俺たちには他に手段が無かったのだ」

大魔王「……あと少しなのだ。あと少しで俺の魔界再生計画は成る。頼む、勇者。異なる世界に生きようとも、俺たちの根底にある思いは同じのはずだ」

大魔王「『皆が幸せになる世界を作る』―――――俺たちは、手を取り合って共存できるはずだ。それともお前は、それでも俺たちを否定するのか。一匹残らず滅び絶えろと、俺たちにそう言うのか。勇者よ」

 大魔王の言葉を受けて、勇者はしばし目を瞑り、それから大きく息を吐いた。
 そして、勇者は口元に笑みを形作る。

勇者「そうやって、親父も丸め込んだのか?」

 なるほどな、と勇者は愉快そうに呟いた。
 そして、勇者は大魔王に返答する。

勇者「確かにお前は間違っちゃいないよ、大魔王。お前のその思いは当然だ。お前の立場なら、自分の世界を救いたいと願うのはひどく真っ当な感情だ」

勇者「だけどな、やり方が悪いよ。わかるぜ? 人の家の庭を見て、芝が青いなと憧れるのは、羨ましがるのはしょうがねえ。でも、だからって、テメエんとこの庭のゴミをこっちに投げ込まれちゃたまったもんじゃないんだよ」

勇者「どんなに綺麗ごとを並べても、お前がやってることってのは結局そういうことなんだ。 そりゃゴミを投げ込まれた俺たちはキレるだろ? それをなんだ? 『あと少しでこっち側も綺麗になるんですからあとちょっとだけ辛抱してくださいよ』って? 馬鹿言ってんじゃねえよ」

勇者「お前たちは自分たちが生きるために俺たちを犠牲にしようとした。だから俺たちは反撃した。それだけのことだろうが。どれだけ高尚な言葉を並べ立てようと―――つまるところ、これはただの生存競争。望む結果を得たいなら――――それに反発する俺たちを駆逐してみせろ」

551 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:08:33.42 ID:dyU/3Fo20

 戦士は大魔王城を脱出し、城の南西に位置する小高い丘の上にいた。
 ある程度の距離が離れたこの場所にまで伝わってくる大地の鳴動が戦いの激しさを戦士に伝えている。
 光の柱が大魔王城の壁を突き破って噴出した。
 勇者の呪文・極大雷撃だ。

戦士「勇者……」

 戦士は祈るようにその手を胸の前で握りしめ、ただ勇者の無事を願った。

552 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:09:15.92 ID:dyU/3Fo20
 勇者が大魔王に肉薄し、剣を振る。
 一度、二度――――三度、四度、五度。
 絶え間なく繰り出される連撃を、大魔王はその腕で打ち払う。
 大魔王の腕は理外の強度を誇り、今の勇者の剣をすら両断されることなく受け止めている。
 衝突、衝突。そのたびに巻き起こる空気の爆裂とそれに伴う轟音。
 大振りになった大魔王の腕をかいくぐり、勇者が懐に入り込む。

大魔王「ぬう!?」

 大魔王は勇者と自分の間に、空間転移魔法・虚空を発動させる。
 だが間に合わない。
 『暗闇』が生じた時にはすでに勇者の剣はその場所を通り抜け、大魔王の体に迫っていた。

大魔王「ぬがぁ!!」

 大魔王は慌てて勇者の剣を右腕で防御する。
 肘のやや下あたりに勇者の剣がめり込んだ。

勇者「はああ!!」

 これを機と見た勇者の全霊の剣。
 いかに強固な大魔王の腕といえども受け止めきれるものではなく、その刃はずぶずぶと肉と骨を裂き進んでいく。
 ズバン! と勇者の剣が振り切られ、大魔王の右腕が宙を舞った。
 勇者は即座に剣を切り返し、続けざまに大魔王の首を狙う。
 ぞくり、と勇者の背に怖気が走った。
 勇者の第六感が危機を告げている。
 よく目を凝らせば、宙を舞う腕に大魔王の体から魔力の糸が伸びていた。
 直後、大魔王の右腕から四方八方に槍のような刃が飛び出した。
 勇者は身をかわし、心臓と頭への直撃はまぬがれたものの、左肩と両足を貫かれてしまう。

勇者「ぬ…ぐ…!!」

 勇者は大魔王から距離をとり、己に刺さった刃を剣で叩き折った。
 大魔王の右腕はもう元の形に戻っており、床に転がっている。
 眼前に立つ大魔王。その腕の切断面からは血液が零れる気配がない。

勇者「その手……義手か。道理で、馬鹿みたいに固いわけだ」

大魔王「ふん。してやったり、と高笑いのひとつでもしてやりたいものだが」

 勇者に一杯食わせたはずの大魔王の表情は渋い。

勇者「『呪文・極大回復』」

 その理由は、先ほどから負ったダメージを瞬く間に治してしまう勇者の治癒呪文にあった。
 今しがた負わせた肩と両足の傷も、綺麗さっぱりと無くなってしまう。
 その様子に、大魔王は歯噛みした。

大魔王(……これ程とは、な)

 攻撃力や防御力、或いは魔力―――両者の単純な戦闘能力は互角といっていい。
 しかしながらその力を活かす戦闘技術において、勇者と大魔王の間には雲泥の差があった。
 それは常に格上を相手にしてきた勇者と、常に君臨してきた大魔王との経験値の差。
 大魔王は、これ程実力が伯仲した相手との戦いになると、己の空間魔法が全く戦闘の役に立たなくなることを知った。
 ひとつの暗闇を生み出す間に、10も20も攻撃が飛んでくるのだ。それだけの速度差があっては、空間魔法を攻撃や防御に利用できるはずもない。
 大魔王ははっきりと自覚した。

大魔王(認めざるをえまい……勇者の力は、すでに俺を上回っている……!!)


553 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:10:39.90 ID:dyU/3Fo20
 大魔王は戦闘態勢を解き、再度勇者に語り掛けた。

大魔王「勇者よ……これが最後だ。今一度問う。剣を収める気はないか?」

大魔王「このままだと、俺は奥の手を使わなくてはならなくなる。これをしてしまうと、俺もお前も絶対にただではすまん。そうなる前に、平和的解決を模索したいのだ、俺は」

勇者「下手な脅しだな。まあいい。言ってみろよ、お前なりの折衷案ってやつを」

大魔王「これ以上お前の世界を侵攻することはしない。その代わり、俺の強権をもって、あらゆる不平不満を鏖殺して魔物を一つ所に集めるから、そ奴らをお前の手で始末してほしいのだ」

勇者「もうなりふり構わず有害な魔物を駆除してしまおうって腹か。別にやってやってもいいが、それだと巨大な毒沼が俺たちの世界に出来上がってしまう。やるなら魔界でだ」

大魔王「……それは出来ん。血気盛んな魔物を一つ所に集めるためには、全軍総突撃のためという大義名分がいる。その為にはお前の世界でなくてはならぬ。集合地を魔界にすれば、それは全軍退却の意味を孕んでしまう。それでは奴らは聞かんのだ」

勇者「なら交渉は決裂だ。魔界のゴミをこちらが引き受けてやる義理はない」

大魔王「そうか……ならば……やむをえん、な……」

 大魔王は残った左腕を前に向かって掲げた。
 勇者は油断なく剣を構え、大魔王の様子を注視する。
 何か妙な動きがあれば、即座に首を切り飛ばしにかかるつもりであった。



大魔王「『奈落(ならく)』」


554 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:11:45.38 ID:dyU/3Fo20
 唐突であった。
 ほんの僅か、ほんの数ミリほど、大魔王の左手の先に暗闇が生じた瞬間。
 大魔王の左腕がもぎ取られ、その穴に吸い込まれていった。

大魔王「ぬ、ぐ…!!」

勇者「な、あ…!?」

 目の前で起きた現象に理解が追い付かず、逡巡した一瞬の間に、その穴は拡大した。
 今までに生じた暗闇とは違う。
 あらゆるものを飲み込まんと口を開けたその穴は、凄まじい吸引力で周囲にあるものを吸い込んでいく。
 勇者は咄嗟に床に剣を突き立て、吸い込まれないように踏ん張った。

大魔王「かつて、空間魔法の能力を自覚したばかりの俺は、とにかくいろんな世界に穴をあけてはその世界の様子を見てまわっていた。ある時だ。いつものように適当に世界を繋げた瞬間、俺は両腕を持っていかれた」

大魔王「あらゆるものを飲み込む深淵の闇。そんな世界がどうやらどこかには存在していたようなのだ。あらゆる命の存在を許さぬ暗黒空間。さしずめ、ブラック・ホールとでもいうべきか。その時はとにかく必死で門を閉じて、両腕の犠牲だけで済んだのだが」

 大魔王は地に伏せ、必死で『奈落』の吸引に抗っている。
 両腕を失くし、それでもなお地面にしがみつく。
 如何にしてそんな芸当を可能にしているのか―――その秘密は床にあった。
 いつの間にか、床の一部が突出しており、触手のように大魔王の体に巻き付いていた。

大魔王「先ほど見せたように、俺の義手は特別製だ。俺の魔力に反応し、任意にその形を変えることが出来る。そしてだな、実はこの大魔王城も同じ材質で出来ているのだ。俺の魔力が通っている間は途轍もなく頑丈になるし―――こんな芸当だって、可能になる」

 大魔王が嗤った。
 大魔王の体から発せられた魔力に反応し、勇者の足元の床が輝く。
 剣を突き立てて踏ん張る勇者の足元が爆砕し、勇者の体が宙に投げ出された。

勇者「な、に…!?」

大魔王「さよならだ、勇者。出来ることなら分かり合いたかったぜ」

 宙に浮いてしまっては、どんなに強大な力を持っていようと踏ん張ることは出来ない。
 虚空を泳ぐように手足をばたつかせたって、『奈落』の吸引に抗うだけの推進力を得られるわけもない。
 だというのに、勇者は笑った。
 こんな状況もまた、勇者にとっては慣れっこのものだった。

勇者「『呪文・極大烈風』!!!!」

 勇者は己の体に風をぶつけ、空中での推進力を得る。
 これは勇者が今まで好んでよく使っていた戦法だった。
 しかして呪文の威力はこれまでとは比にならず。
 その威を得た勇者はもはや一筋の流星となって大魔王の元へと突進する。

大魔王「なに!?」

 驚愕する大魔王。着弾する流星。
 大魔王の体を支えていた床は爆散し、大魔王の体が宙に投げ出される。
 その体を、勇者が両腕でがっしりと拘束した。

勇者「行くなら一緒に行こうぜ。奈落の底ってやつによ」

 勇者と大魔王は二人して宙を舞い、『奈落』に向かって吸い込まれていく。
 両腕を失くした大魔王に、勇者の体を振りほどく術はない。
 この状況では、如何に床から体を繋ぎとめるための楔を伸ばそうと、勇者によって切り離されてしまうだろう。

大魔王「ぬああ!!」

 大魔王は慌てて『奈落』を閉じた。
 『奈落』の吸引によって宙を舞っていた大魔王の体は落ち、背中を強か地面に打ち付けた。

大魔王「ぐ…ぬ…」

 苦痛に顔を歪める大魔王。
 ごほっ、とひとつ咳をして、大魔王は咄嗟に閉じてしまっていた目を見開いた。


 ―――大魔王の目に飛び込んできた光景は、自身に跨って剣を振りかぶる勇者の姿だった。

555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:12:26.58 ID:dyU/3Fo20
 ドスン、と肉を裂く音がする。
 大魔王の心臓を、勇者の剣が貫いていた。
 がふ、と大魔王は血の塊を吐き出す。

大魔王「…そうか……」

 大魔王はぼぅ、と視線を虚空に彷徨わせ、呟いた。
 しかしその後には再び爛と目を輝かせ、にやりと笑ってしっかりと勇者の顔を見据える。

大魔王「お前の勝ちだ、勇者。俺はもう死ぬ。俺の魔界再生の夢は儚くもここで志半ばに散るというわけだ。はっはっは。あっはっはっは!!」

 大魔王が背にしていた床が輝いた。
 ボン! と音を立てて飛び出した鎖が勇者の体を絡めとる。

大魔王「先ほども言ったがこの城は俺の魔力でその形を自由に変える。つまり、『壊すのも自由というわけだ』。俺の夢を、魔界の未来を潰したお前だけは絶対に生かして帰さん。ここで潰れて死ね、勇者。俺と共に」

 大魔王の背から伸びる光が、城中に広がっていく。
 それはまるで、波にさらされた砂の城に罅が刻まれていくように。






大魔王「奈落の底まで付き合ってくれると、そう言ったよな? 勇者」














 勇者を待ち続ける戦士の目の前で、大魔王城が崩落する。


 ―――――戦士は勇者の名を絶叫した。

556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:13:14.79 ID:dyU/3Fo20
 時を大魔王城完全崩壊の直前に巻き戻す。
 勇者は大魔王の拘束を解き、出口に向かって城内を駆けていた。
 振動は絶え間なく続き、頭上からは次々と巨大な瓦礫が降り注いでくる。
 その内のひとつが勇者の体を直撃した。
 しかし勇者はあっさりとその瓦礫をひっくり返して立ち上がり、再び駆け出す。

勇者「崩壊するまであと十数秒ってところか……」

 そう呟く勇者の顔に焦りは無い。
 それは例え脱出が間に合わず、崩壊に巻き込まれようと、先ほど瓦礫を押しのけたように簡単に生還できることが分かっているからだ。
 そこで、勇者ははたと気づいた。

勇者(……大魔王は、どうしてこんな真似をした?)

 大魔王の最後の様子を見れば、なるほど確かに、狂乱の果てにこんな自爆紛いのことをしたのも納得できる。
 しかし、本当にそうなのだろうか?
 大魔王は賢しい。この程度では今の勇者にダメージを与えられないことなど、百も承知のはずだ。
 あの男が、こんな無意味な真似をするものだろうか?
 死の際に乱心したのだと結論付けるのは簡単だ。
 だがもし、そうではないとしたら?
 この行動にも、れっきとした意味があるとしたら?
 城を崩壊させたのは、勇者の命を奪うためではないことは明白。
 だとしたら、他にどんな理由が―――――
 勇者は踵を返し、再び大魔王城の奥へと舞い戻った。
 直後に大魔王城は崩落し、勇者の姿は瓦礫の中に消えた。

557 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:14:07.37 ID:dyU/3Fo20
 ―――――全壊したはずの大魔王城において、ひとつだけ傷ひとつ入っていない部屋があった。
 室内には円柱形の水槽が三本立っており、それぞれに魔王と同じ姿をした魔物が浮かんでいる。
 壁際の本棚には手垢で汚れた様々な書物がみっちりと並んでおり、その中には勇者の世界の言語で記された物もあった。
 たくさんの資料が綴られた分厚い冊子を片手に、魔王のサンプルを観察する少女がいた。
 ゆるくウェーブがかった黒髪を肩甲骨の辺りまで伸ばしている。
 その額の両端からぴょこんと小さな角が二本飛び出していること以外は、その見た目に人間との大きな差異は見当たらなかった。
 年の頃は、人間でいえば12〜3歳といったところか。
 部屋の入口のドアが開き、入ってきた者の姿を見て、少女は驚きに目を見開いた。

「お父様!!」

 部屋に入ってきたのは、血にまみれた大魔王だった。

大魔王「娘よ、すぐに室内の資料を持ち出す準備をせよ。上の城を崩壊させた。ここはもう研究室として機能できん」

 娘はまず、何より目についた大魔王の傷―――無くなった両腕を補うため、新しい義手を部屋の奥から持ち出してきた。

娘「一体何があったのですか?」

 義手を大魔王に取り付けながら、娘は問う。

大魔王「勇者だ。俺たちの理想郷に住む人間たちの代表。奴にやられた」

娘「信じられません……神の如き力を持つお父様を凌駕する人間がいるなど……」

大魔王「しかし事実だ。くそ…『伝説の勇者』と奴を接触させたのが最大の間違いだった。まさかこんなことになるとは……これで、計画は10年単位で遅れてしまうぞ」





「いや――――やっぱりここで終わりなんだよ。その計画は」



558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:15:03.51 ID:dyU/3Fo20
 室内に響く、もう一人の男の声。
 大魔王の顔が凍り付いた。
 大魔王が恐る恐る部屋の入り口に目を向けると――――そこには、勇者が立っていた。

勇者「お前が城を崩落させた意味を考えた」

 一歩、勇者は歩みを進める。

勇者「俺を殺すためじゃない。であれば、考えられるのは俺をあの場から離れさせるため。ならば、俺をあの場から離れさせる理由は? 可能性として考えられるのは、俺にあの部屋から奥に進んでほしくなかったから」

 さらに一歩。
 大魔王の肩が震えだした。

勇者「お前があんなはったりをかましてまで守りたいもの。それは何かを考えた。候補として浮かんだのは研究成果。試験都市フィルストを造り上げた、魔界再生のための叡智の結晶。そういうものが、残っているんだと考えた」

 さらに一歩。
 勇者は遂に大魔王とその娘の眼前に。

勇者「だけど、そんなもんじゃなかったな――――成程、受け継ぐ者がいたって訳だ」

大魔王「ま、待て!! 待ってくれ!!!!」

 大魔王は激しく狼狽した。
 大魔王の視線は勇者の持つ剣に釘付けになっている。

大魔王「わかった!! 終わりだ!! 全ての計画は棄却する!! 二度とお前たちの世界には関わらない!! お前たちの世界に残っている魔物たちも責任をもって俺が全て処理する!! だから―――」

 大魔王は地面に膝をつき、首を垂れた。

大魔王「だから……娘の命だけは助けてくれ……」

娘「お父様…!」

大魔王「何も言うな。頼む、勇者……この通りだ……」

 しばしの沈黙が部屋に満ちる。
 チャキ、と勇者が剣を揺らす音が響いた。
 大魔王はぎくりと肩を震わせる。

大魔王「待て!! 待ってくれ!! 勇者!!!!」

勇者「聞けないよ、大魔王。お前の娘、ばっちりお前の助手やってますって感じだ。お前の計画の理念も骨子も理解できているものだと、そう判断せざるを得ない。であれば、お前の娘を見逃すことは後に大きな禍根を残すことになる」

大魔王「誓う!! 絶対に娘には計画を受け継がせない!! この研究室も今からお前の目の前で破壊する!!」

勇者「駄目だ。大魔王再誕の可能性は万に一つも残せない。お前の娘は見逃せない」

大魔王「が…か…!」

 大魔王は思案する。何とか異世界への扉を開き、娘だけでも逃がすことは出来ないか。
 駄目だ。勇者の速度は身に染みてわかっている。
 異世界への穴が開き切る前に、勇者の剣は娘の喉元を切り裂くだろう。
 煩悶の末に、大魔王の目尻から一筋の涙が零れ落ちた。
 大魔王はその顔に慈愛に満ちた笑みを浮かべ、娘の頭にぽんと手を置いた。

娘「お父様……?」

大魔王「事ここに至ってはもはやお前の命だけが全てだ。ただお前が生きてさえいれば、俺はそれでいい。苦労ばかりかけたな。すまなかった」

娘「お父様、まさか!!」

大魔王「全てを忘れ、人として生きよ。愛しているぞ、娘よ」

 バヂン、と電気が流れたように、娘の体が跳ねた。
 大魔王が娘の頭から手を離す。
 虚ろな顔でしばらく虚空に視線を彷徨わせていた娘だったが、やがて目の焦点が合うとキョトンと首を傾げた。

娘「あーうー?」

 まるで赤子のような声を発しながら、娘は部屋中を見回している。

大魔王「見ての通りだ」

 大魔王は憔悴した笑みを浮かべ、言った。

大魔王「俺が他の生物の脳に干渉できるという話はしたな。今、俺は娘から全ての記憶を奪った。この子はもはや言葉を発することすら叶わぬただの赤子だ。俺の跡を継ぐことなど出来ようはずもない」

 大魔王は指先を娘の鼻先に近づけ、くるくると回してみせた。
 娘は不思議そうにその指の動きを目で追って、やがてきゃっきゃと笑い声をあげた。
 大魔王は目を細める。穏やかなその顔は、かつての幼い娘との日々を思い返しているのかもしれない。

大魔王「だから勇者、あらためて頼む。俺の首は自由に持っていけ。だが、哀れなこの子の命だけは、見逃してやってほしい」
559 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:16:17.64 ID:dyU/3Fo20
 ――――沈黙。
 長い、とても長い沈黙があった。
 やがて、勇者が口を開く。伏せられたその顔からは、表情が読み取れない。

勇者「……そうだな。確かに、もうその子がお前の計画を継ぐなんてことは無理なんだろう。俺たちの世界に連れ帰り、人として育てれば、魔界なんて世界があることさえ知ることなく生きていくことも出来るかもしれない」

 勇者が顔を上げた。
 勇者の顔には笑みが浮かんでいた。
 だけどもそれは、とても寂しくて、大事な何かを諦めてしまったような、そんな力の無い笑みだった。



勇者「だけどな――――それでもゼロじゃない。いつかその子は何かのきっかけで記憶を取り戻して、俺たちの世界に牙をむくかもしれない。そんな可能性が万が一にも存在している以上――――この子を見逃すことは出来ないんだよ、大魔王」



 大魔王の顔が凍り付く。
 勇者が一歩を踏み出した。

大魔王「うおあああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 奇声を発し、半狂乱で暗闇を発動させる大魔王。
 そして、娘の手を引き、その暗闇に押し込もうとして――――ごとり、と大魔王の首が地面に転がった。
 一拍遅れて噴き出した鮮血が娘の頬を濡らす。

娘「うゆ?」

 どさりと大魔王の体が崩れ落ちた。
 首を失くし、地面に血の水たまりを広げ続ける己の父の姿を、娘は不思議そうに見つめている。
 勇者は振り切った剣をもう一度構えなおした。
 娘が勇者の気配に気付く。キョトンと目を丸くし、首を傾げながら娘は勇者の顔を見上げている。
 剣を振りかぶる勇者の姿を見ても、娘は逃げようとしない。

娘「あう。うー! うー!」

 娘は勇者に向かって両手を伸ばした。
 まるで、抱っこをせがむ赤子のように。
 勇者の目から大粒の涙がこぼれた。







 そして勇者は剣を下ろした。



560 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:17:12.36 ID:dyU/3Fo20
 ―――――試験都市フィルスト。

 勇者の実家を模した家の中で、魔族の娘が窓越しに空を見上げている。
 物憂げなその表情からは、彼女が己の父―――『伝説の勇者』の安否を心配していることが容易に読み取れた。
 はぁ、と魔族の娘は大きなため息をつく。
 どうしてこうなってしまったのだろう。本当なら今頃は、家族三人で仲良くピクニックに行っているはずだったのに。
 自分が初めて作ったお弁当を、自慢気に父に披露するつもりだったのに。

「お父さんのことが心配?」

 かけられた声に振り向く。
 いつの間にか、母が部屋の中に入ってきていた。

魔族娘「心配だよ。パパ、すごく怖い顔してた。あんな物々しい格好までして…」

魔族母「大丈夫よ。あの人はとても強いもの」

 母は娘を抱き寄せ、安心させるようにその背を撫でる。

魔族母「あの人は大魔王様と戦い、それでも生き残った唯一の人。敵であったはずの私達を慮って剣を振れなくなった優しい人。本当はもう戦いたくなんてないのに、誰かの命を救うためにもう一度立ち上がった勇気ある人―――『勇者』、なんだから」

 娘は母に背を預け、ふうと息をつく。

魔族娘「……パパが助けに行ったあいつ。あいつも、パパの子供なの?」

魔族母「そう……そうね。そのようだわ」

魔族娘「ママは知ってたの? パパに他の子供がいるってこと」

魔族母「知っていたわ。それでも、ママはパパを愛した。戦いに傷つき、魔界と自分の世界との間で葛藤するあの人を救ってあげたかった」

 魔族の母は、かつて大魔王との戦いに敗れ瀕死となった『伝説の勇者』の世話役として、彼と共に過ごした日々に思いをはせる。
 『伝説の勇者』はずっと自分を責めていた。ずっとずっと誰かに謝っていた。
 その姿を見て、胸が締め付けられるような切なさを感じた。
 キュンと締め付けられた胸の熱は庇護欲をそそり、母性を刺激し、やがて大いなる愛情となった。
 ほう、と魔族の母は熱のこもった息を吐く。

魔族母「パパはきっとあの子を連れて帰ってくる。ねえ、○○。どうかあの子と、パパのもう一人の子供と仲良くしてくれないかしら?」

 娘は頬を膨らませた。
 父を殴りつけた勇者の姿を思い出して怒りを再燃させたのだろう。
 しかし娘はぷしゅーと息を吐くとにこりと母に微笑みかけた。

魔族娘「しょうがないなぁ。ママと、何よりパパのためだもの。我慢して、仲良くしてあげる」

 それは、母譲りの慈愛に満ちた笑みだった。
 娘は窓の向こう、空の彼方を見据え、父に思いを馳せる。

魔族娘「……あれ?」

 広い空の下、小高い丘の上。
 娘はそこに、何だか見覚えのある人影を見たような気がした。

561 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:18:17.60 ID:dyU/3Fo20









     「『呪文・―――――極大雷撃』」








562 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:18:52.66 ID:dyU/3Fo20



 轟音が鳴り響き、烈光が迸る。



 極大の熱量が、フィルストの街を焼き尽くした。


563 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:19:27.20 ID:dyU/3Fo20
 パチパチと、火の手が家屋を燃やす音がする。

魔族娘「痛い……痛いよ……ママ…どこ……?」

 衝撃に家ごと吹き飛ばされた魔族の娘は、痛む体を引きずって瓦礫の隙間から這い出した。
 烈光をまともに直視してしまった彼女は既に視力を失ってしまっている。
 だから、彼女はすぐ傍で物言わぬ肉塊となっている母の姿に気付けない。
 暗闇の世界を、母を求めて彼女はただひたすらに手探りで進んでいく。

「ぎゃあ!!」

 遠くで悲鳴が聞こえた。
 びくり、と彼女は肩を震わせる。

「やめ、たすけ…あぁぁ!!!!」

 すぐ近くで悲鳴が聞こえた。

魔族娘「なに…? なんなの…?」

 目は見えなくなってしまったけれど、皮膚に伝わる熱が燃え盛る街並みを彼女に想像させる。
 轟々と燃える炎の音の中で、小さくサクリと草を踏む音が聞こえた。

魔族娘「誰…?」

 返答は無かった。
 そしてそれが彼女の最後の言葉になった。

564 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:20:09.36 ID:dyU/3Fo20
 魔族娘の喉に突き立てた剣を引き抜き、勇者は剣についた血を払う。
 勇者の腰には二つの首が――――大魔王と、その娘の首が下げられていた。

戦士「ここまで……ここまでする必要があったのか?」

 勇者の背後から、神妙な顔で戦士が声をかけた。

勇者「あったさ」

 勇者はとても平坦な声で戦士に返答した。

勇者「この試験都市フィルストに住む者は皆知性の高い高位の魔族ばかりだ。ここに住む者は誰しもが第二の大魔王に成り得る。残しておけば必ず後の禍根となる。親父の家族なんて、その最たるものだ。とても生かしておくことなど出来なかった」

 勇者は戦士に向かって振り向いた。
 血と煤で汚れた顔が、炎の赤い光に照らされている。

勇者「親父の首もここに埋めていく。本望だろ。愛する家族と一緒に眠れるんだ」

 そんな勇者の言い草に、戦士は何だかとても泣きたい気持ちになった。

勇者「なんだよその顔……いいんだぜ、別に。もうついてこなくたって」

 勇者は戦士に背を向けた。
 そして、言った。
 震える声を、必死に押し殺して。






「正直、もう無理だろ。こんな奴」



565 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:20:45.61 ID:dyU/3Fo20
『―――それで? 彼女とはその後、どうなったんだ?』

 光の精霊の荘厳な声が、神話の森に響く。

勇者「別に、どうも。特に会話もなく、俺たちは地上に戻ってきた。今頃彼女は武の国で体を休めているんじゃないかな。明日からの祝勝パーティーに備えて」

光の精霊『勝利に浮き立つ城を抜け出し、君はここに来たというわけか。しかし、城を出たのは皆が寝静まってからだろう? そう考えると、君はほんの僅かな時間でこの森の最奥までたどり着いたことになる』

光の精霊『数多の精霊の加護に加え、私の加護を完全に得た君は、まさしく神の如き力を得たと言えるだろう』

勇者「そうだ。俺はその点で確認したいことがあってここに来たんだ」

光の精霊『何かな? 面白い話を聞かせてもらった礼だ。何でも答えようじゃないか』

勇者「俺は魔界で親父に会った時、一目でそれが親父だと分かった。五年以上の歳月が経過しているにも関わらず、『親父は余りにも昔のままの外見をしていて、俺の記憶にあるそのままの姿』だったからだ」

勇者「そこで仮説だ。つまり光の精霊。アンタの加護を得た者は老化を抑えることが出来るんじゃないか?」

光の精霊『ご明察だ。強大に過ぎる私の力は、生物を命の理から外してしまう。老化を抑える、どころではない。不老だ。私の加護がある限り、君に老いによる死は訪れない』



『まさしく―――――神の如き力を、君は得たのだ』


566 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:21:23.61 ID:dyU/3Fo20
 武の国は連日、祭りの如き喧騒に包まれた。
 何しろ、世界に真の平和が訪れたのだ。
 人々は一様に、その顔に笑みを浮かべていた。
 感激の涙を流している者さえあった。
 酒に顔を赤らめて、陽気に肩を組んで踊る男たちがいる。

「「「世界に平和が訪れた。恐ろしい魔物の王はもういない。一体誰がしてくれた。一体誰が、こんな偉業を成し遂げた」」」

「「「勇者、勇者だ、『伝説の勇者』の息子、勇者様! 親子二代に渡って人類悲願の世界平和を成し遂げた! おお、なんたる献身、なんたる勇気!!」」」

「「「『伝説の勇者』、万歳!! 『伝説の勇者』の息子、万歳!!!!」」」

 人々は声高に歌い、勇者の偉業を讃えた。
 詩人はこぞって勇者の冒険譚を謳い上げ、勇者は瞬く間に幼子まで憧れるような英雄へと祭り上げられた。
 世界中から人々が集まった武の国の盛り上がりは、今、最高潮を迎えていた。
 何故なら今宵、大魔王討伐を成し遂げた勇者が遂に民衆の前に姿を現すことになっているからだ。
 武の国中央広場は、世界を救った英雄を一目見ようと集まった群衆によって埋め尽くされていた。
 広場の北側に用意された舞台上には、武王を始めとした諸国の王が並び、大魔王討伐記念のセレモニーが進められている。
 ざわ、と広場の前列から声が上がり、やがてそれは歓声の波となって民衆の最後尾まで到達した。
 楽団による演奏と共に、勇者が壇上に姿を現したのだ。
 中央広場は割れんばかりの歓声に包まれた。
 勇者はいつもよりは小奇麗にしているものの、華美な衣装は身にまとわず、およそいつもと変わらぬ風体をしていた。
 豪華な衣装も準備されてはいたが、どうしても袖を通す気にはなれなかったのだ。
 勇者は眼前に広がる人々の姿を―――自分が救った人々の姿を目に納める。
 盛り上がる広場の熱気に酔い、やや興奮しすぎの様子ではあるものの、皆その顔に笑みを浮かべていた。
 それを、素直に嬉しいと勇者は思った。
 ごほん、と勇者が咳払いし、武王が民衆を手で制した。
 途端にしん、と広場に静寂が満ちる。
 聴衆は皆、勇者の言葉を聞き漏らすまいと、じっと耳を傾けていた。
 勇者は一度深々と頭を下げてから、語り始めた。

勇者「今日は、私の口から皆さんに改めてご報告をさせていただきます」

勇者「大魔王は倒れました。もう、獰猛な魔物が皆さんを脅かすことはありません」

 歓声が上がった。
 人々は口々に勇者の名を連呼し、褒め称えた。

勇者「ありがとうございます。しかし、この平和を手にするまでに多くの苦労がありました。本当に―――沢山の、辛いことがありました」

 勇者は目を閉じた。
 脳裏には、これまでの旅路が走馬灯のように駆け巡っている。


567 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:22:41.70 ID:dyU/3Fo20


 旅の当初によく起きていた、戦士との衝突。


 第六の町での、騎士との出会い。


 獣王との邂逅。瀕死の傷を負い、死の恐怖に打ちのめされた記憶。


 エルフ少女との出会い。


 母に追い詰められ、自身の価値を喪失した。


 盗賊との争いで、初めて人間を殺めた。


 心の均衡を保てず、仲間を困惑させた。


 善の国での人身売買撲滅活動で、自身に似た境遇に生きた『神官長の息子』を死に追いやった。


 武の国で参加した武闘会では、騎士に手も足も出なかった。


 アマゾネスという部族の存在を知り、ハーレムの実現を夢想した。


 そしてその夢は武道家に丸ごとかっさらわれた。


 狂剣・凶ツ喰――――呪いまで生み出すほどの人の執念を知った。


 呪いを解くために海を越えてはるばる倭の国を目指した。


 道中、かつて救った黒髪の少女との再会があった。


 端和で、とある武器職人家族の末路を知った。


 神を騙る竜との激戦があった。


 かの獣王との決戦があった。


 神話の森の冒険があった。


 魔王討伐のための大作戦があった。


 己の分身ともいえる男との――――騎士との、決着があった。


 父との決別があった。


 大魔王との戦いがあった。




 ―――――心に反した、苦渋の決断があった。


568 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:24:01.20 ID:dyU/3Fo20


 勇者はゆっくりと目を開けた。



勇者「……どうか、お願いです。ようやく実現したこの平和を、たくさんの犠牲があってようやくたどり着いたこの幸せを、どうか永久のものとしてください」




勇者「本当に、本当に……苦労したんです。どうか、皆が笑顔で過ごせるこの日々の継続を。誰かが夢見た理想郷を、この世界に実現させましょう」




勇者「もしもちっぽけな我欲のためにこの平和を脅かす何者かが現れた時―――――私は、その存在を決して許しはしません」




 その言葉をもって、勇者のスピーチは終わった。

 これからも平和の為の献身を続ける宣言とも取れるその内容に、聴衆は熱狂したのだった。

569 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:25:14.01 ID:dyU/3Fo20
「何だと!!?」

 大声が上がったのはセレモニー後の武の国大会議室だった。
 そこには、勇者の要望により世界各国の代表が集められていた。

「一体何を仰るのだ! 勇者殿!!」

 泡を吹く勢いで勇者に詰め寄っているのは武の国の大臣だ。
 ひどく慌てた様子の大臣とは対照的に、勇者は冷静に先ほど行った各国への通達を繰り返した。

勇者「ですから、これより全ての国において武力の保有を禁ずると申し上げたのです。この世界から魔物は消え、もう人々が武器を持つ意味も無くなった」

勇者「であればもう武器など無用の長物。いやむしろ徒に人の命を奪う害悪。故に、破棄を命じます」

国王「馬鹿な!!」

 反論の声を上げたのは誰あろう、勇者の故郷である『始まりの国』の国王だった。

国王「気は確かか勇者! 魔物はいなくなっても悪事を働く盗賊などの犯罪者は依然存在する! 国家が武力をもって治安維持に務めねば、住民の安寧を維持することなど出来ん!!」

勇者「その役目は私が負います。今の私は万里先の事象を見通し、千里の道すら一歩で駆けることが出来る。この世界のどこにおいても、罪を犯した者の前に瞬時に姿を現し、裁きを下すことが可能です」

国王「ば、馬鹿な。そんなことが出来るはずが……」

勇者「疑われるのならここの地下牢を見学に行くとよろしい。戦勝に酔う人々の隙をついて盗みなどの不逞を働こうとした者達を私の手で捕らえております。既に収容するスペースが足りないほどだ。悲しいことにね」

国王「な……」

 国王は武王の顔を見た。
 武王は苦々しげに頷いてみせる。

国王「し、しかし、軍事力の無い国などというものはそもそも成立しない! 税の徴収などに強制力を持たせていられるのは、あくまで国家の武力が背景にあってこそなのだ!!」

勇者「その程度で成立しなくなる国なら無くなってしまえばよろしい。民の不満を武力で押さえつけていた無能領主をあぶりだすいい機会となるでしょう。例えば善の国などは、きっとこの程度のことで揺らぎはしない」

善王「買い被りが過ぎるぞ。勇者殿」

勇者「そうかな? 罪を犯した者に対する苛烈な罰則。それが私の裁きという形態で存続する以上、あなたの国政には武力の有無はさして影響しないはずだ」

武王「影響があるのは強大な武力で国力を維持していた我が国が最たるものだよ、勇者。お前は我が国の勇壮な兵士達に路頭に迷えと言うのか?」

勇者「逆に聞くがこれからの世界で勇壮な兵士の剣は誰に向かって振るわれるというのだ? 人々を脅かす魔物はもういない。他の国々が一斉に武力を放棄すれば他所に侵略される恐れもない」

勇者「あなたが持つ兵士の強靭な肉体は、これからは畑を耕すことや土地の開発を行うことに使ったらいい。そしてその改革は、決して難しいことではないはずだ」

国王「民は混乱する。そんな大規模な改革を行えば、せっかくお主がもたらしたこの平和も露と消えることになるぞ!!」

勇者「混乱は私が収束する。必要となれば、私が一時的に世界を統一して導く役割として君臨しよう。何しろ、実際に私にはその為の力が備わっている」

 勇者のこの言葉に反応したのは善王だった。
 ずっと難しい顔で思案していた善王は、抱いていた疑問を勇者に投げかける。

善王「勇者殿。君は罪を犯した者に対する罰則装置になると言ったな。確かに、大魔王を倒した今の君ならば、そんな途方もない芸当も可能なのだろう」

善王「だが、君亡き後の世はどうなる? 君ほどの男が、こんなことにすら思い至らず、短絡的に物を述べるはずがないと様子を伺っていたが……先程の発言、君はもしや……」

勇者「やはり貴方は優秀だ、善王様。私の望む治世には今よりもっと整備された法の存在が必須。貴方にはその制定に存分に手腕を発揮していただきたい」

勇者「ともあれ貴方の疑問に答えよう、善王様。お察しの通りだ。余りに多量の精霊加護が集中したことで、私は人の理を外れた。私に寿命は存在しない。未来永劫に渡り、罪に対する抑止力として存在することが可能だ」

善王「それは想像もできない、したくもない、茨の道のりだ。君は感情ある人間だ。神ではない。己の意に反した決断を迫られることもあろう。それが、どれほど君の心を削り取っていくことか」

勇者「なに、心配には及ばない――――『もう慣れた』さ、そういった類のことは」
570 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:27:08.37 ID:dyU/3Fo20


国王「ふざけるな……ふざけるな!!!!」

 『始まりの国』の国王は、勇者を指差し、弾劾するように叫んだ。



国王「何たる不遜な物言い…!! 神を気取るか、痴れ者が!!!! それでもお前は、あの『伝説の勇者』の息子か!!!!」







 その言葉に、ぴくり、と勇者の肩が震えた。



 そして、勇者は笑い始めた。



 大口を開けて、大声をあげて、笑い続けた。



 とても楽しそうに。腹の底から愉快気に。



 その異様な雰囲気に、誰も口を挟むことが出来ない。



571 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:28:01.84 ID:dyU/3Fo20





 ――――どれほどの時間が経ったのだろう。




 やがて―――笑みがやんだ。




 そして勇者は、ゆっくりとその場に集まった者たちの顔を見回し――――――――







 ―――――――その口を、開いた。



572 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:28:56.40 ID:dyU/3Fo20











     最 終 章










573 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:30:04.14 ID:dyU/3Fo20











   『伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件』










574 :1です [saga]:2017/06/25(日) 16:31:22.16 ID:dyU/3Fo20
次回、エピローグ

本当はそこまで仕上げて一気に投下したかった

ホントにラストだ 頑張ります
575 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 16:35:14.36 ID:6CGuFjMTo
どうなっちまうんだ…!


乙……!
576 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/25(日) 16:36:20.97 ID:lS9dLEc5O
お疲れ
投下が来て本当に良かった
577 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 16:38:05.98 ID:LX9140jTo
ひええ……
578 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 17:02:19.46 ID:qW5FppWfo

展開がまた予想できない方向に……
579 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 17:48:32.36 ID:nG346ZDq0
マジで書籍化レベル
凡百のファンタジー小説よりよっぽど優れている
最高です
580 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 18:34:10.76 ID:XyiWzxOTo

いやあ、やっぱしスレタイ回収は胸熱だわ
581 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/25(日) 20:33:34.95 ID:Q/o2K5v20
戦士ちゃんとどうなるのか…
582 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 20:51:29.88 ID:/NtEJLLlO
583 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 21:18:09.76 ID:I9cQXz8R0
乙!
ほんと面白い、エピローグはどうなるんだ……
584 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 21:40:39.10 ID:F1anB7Nko

もう期待しかない
585 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 23:28:35.29 ID:C16Ps+j1o

まじリアルタイムで読んでてよかったわ
終わるの惜しいけど、エピローグ楽しみだ
586 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 00:10:43.04 ID:5XZGPOa4O
おつ…
本当に毎回期待を上回ってくれる
このSSは伝説になるよ必ず完結させてくれ
587 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 00:31:45.08 ID:OYSOlJlGo
乙乙乙!
最終章がマジ楽しみとしか言いようがない
588 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 01:53:50.58 ID:YB4iZI2Q0
東京オリンピックまでには完結しますように
589 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 02:00:59.27 ID:XTbDv7jto
ここ数年で一番の高翌揚感
590 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 03:13:04.01 ID:ojsMeE7TO
正直スランプを心配していたけど期待以上のクオリティーで安心した
591 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 13:21:15.64 ID:rPwqEQNR0
ずっとおいかけていて、親父殺してから続きまだかな、と思っていたら来ていた。
こうなって欲しい、という思いがいつもあるなか逆に進む(ある意味では真っ直ぐだが)ブレなき話の進め方が特に面白い。
どんな結末になるのか、楽しみにしています。
592 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 20:48:16.13 ID:x2aK7fkPO
おつつつt
593 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 20:52:23.61 ID:CRrNwbL4O

納得行くまで十二分に練ってから終わらせて欲しい
最初から楽しく読ませて貰ってるし何時までも待つ
594 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/28(水) 02:05:16.50 ID:A39SGyzLo
おつです
魔界での選択はなるべくしてなったものだよなぁ、もうそうするしかないっていう
この最後にタイトルがでるとか超熱いのにどうしようもなくひたすら心が痛い
595 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/02(日) 12:22:43.16 ID:km73S/R5O
おつおつ
久しぶりの更新に心震えた!
596 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/03(月) 01:43:00.17 ID:cmKZfODQ0
すげぇ…
マジすげぇ…
すげぇとしか形容できない…
鳥肌もののすげぇだわ…
597 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 15:11:54.94 ID:ssjy+CH00
>>594
素直にとれば、伝説の勇者の名が偉大すぎて勇者になろうとするがなりきれずにあがく息子って意味だと思っていたが
この最終局面で出てくると神なの!?魔王なの!?ってまったく印象が変わってしまうんだもんなぁ…
勇者の中で必要性があるからそうするんだろうけど、最後まで自分のやりたい事をやりたいように出来ないもんかなぁ、騎士のように。
598 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/10(月) 23:17:36.66 ID:igzfx1JqO
必要性っていうか、勇者はずっとやり方変えてないと俺は思うけどね
少しでも可能性があるなら摘み取る…って部分
やりたいようにやってるんじゃないかな
599 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/14(金) 23:36:40.36 ID:lNow/SDw0
>>598
いや最初からってわけじゃあないだろう
獣王に敗れて母からの手痛い仕打ちがなければ、きっと手を取り合えてたんじゃないか?
600 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/17(月) 11:20:02.28 ID:S2u9sModO
名作すぎて何度も最初から読み直してしまう
戦士たんと幸せになってほしいじゃないと勇者が可哀相すぎると思いつつもハッピーエンドにならなさそうな雰囲気しかしない
601 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/30(日) 18:12:48.04 ID:DxLynjAX0
続け
602 :1です [sage]:2017/08/11(金) 13:38:37.90 ID:6WWetJv00
8月中の投下を目指して鋭意製作中です

申し訳ありません しばしお待ちを
603 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 15:37:40.58 ID:55sfy/1gO
>>602
楽しみに待ってます!
604 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 15:56:59.02 ID:7uSaTHBso
待ってるよ〜
605 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 12:18:05.85 ID:5Qa2Xop80
まつよ!
606 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 22:00:41.61 ID:KhSh8jNG0
>>602
やったー
607 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/20(日) 16:12:39.76 ID:bkDYjIGno
ひゃっほいありがとう
608 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/20(日) 18:01:17.96 ID:Sy8cVnTM0
来週の日曜あたりかな
609 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/21(月) 15:35:06.99 ID:ycfMcVDsO
きたあああああああああああ!!!







まだか
610 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/26(土) 10:43:01.57 ID:7atVpcZjO
わくわく
611 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/26(土) 22:52:22.89 ID:evy7owEB0
wa-i
612 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/27(日) 23:26:03.35 ID:IPOps15EO
どうやらまだのようだ…
613 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/27(日) 23:48:55.48 ID:AqqPyejPO
待機…
614 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/28(月) 11:51:21.54 ID:p1X+NqAnO
きたーーーーーーーーー!!!

きてなかった
615 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/29(火) 20:15:48.10 ID:sX5SkYXX0
おいおいおい…そう焦らすな焦らすな
616 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/30(水) 02:41:20.12 ID:6tkRcW1lO
あせらす
じらす
617 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 12:15:00.92 ID:HMrmcyW70
しらすと
くらす
618 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 23:49:25.10 ID:nFtkUw1uO
ぱらすと
くらす
619 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/01(金) 11:39:24.73 ID:1Ra9XN3jO
わくわく
してる
620 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/01(金) 11:51:23.69 ID:Xhs7r51Mo
べねろぺ
くるす
621 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/02(土) 10:11:36.02 ID:G6JnVIavO
ぺろぺろ
なめる
622 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/03(日) 22:22:27.06 ID:py456L/90
まってる
いまも
623 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/10(日) 04:25:35.59 ID:irX6ciHK0
今日こそくるかな…?
624 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/10(日) 18:14:02.66 ID:Nw5kVm3IO
いつまでも待つよー
625 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/17(日) 22:56:03.87 ID:nz21bom+0
こにゃにゃちわー
626 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/19(火) 01:42:43.92 ID:Bl40M0PW0
2017.11.3で丸3年
それまでに完結できるかな
627 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/19(火) 03:26:18.94 ID:9X0WJMMxo
>>626
急かしてもしょうがないし、俺は>>1の書きたいようにして欲しいと思ってる

完結はして欲しいが
628 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/19(火) 10:49:38.54 ID:lOl5buAVO
クオリティを維持して書いてくれるのが一番嬉しいからじっくり煮詰めて作者さんが納得できる内容で投下してほしい

俺はいつまでも待つ
629 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/21(木) 02:01:22.98 ID:coSzobIE0
わたしま〜つ〜わっ
630 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/21(木) 03:54:27.22 ID:9IwMAyQB0
いつまでもまーつーわっ
631 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/25(月) 01:37:10.48 ID:TvIpqrIW0
日曜日 毎週ここに きてがくり
632 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/25(月) 11:54:29.29 ID:eCB3RYkA0
なんだage荒らしか
633 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/01(日) 00:39:40.06 ID:O0PeR8qD0
今年中には来るかな?
634 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/10(火) 03:02:59.14 ID:rMYs8FzC0
8月中には更新します(今年の8月とは言ってない
635 :1です [sage]:2017/10/17(火) 18:38:47.73 ID:69W6nJ2Q0
>>634
ぐふっ…面目ねえ…面目ねえ……
あと少しだけお待ちくだせえ……
11月3日…丸三年経つまでには何とか……!
636 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/17(火) 19:27:23.84 ID:Q5wdCRAA0
忙しいときは2ヶ月に1回の保守の書き込みしてくれりゃ落ちないから頼むぞ
637 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/17(火) 22:05:54.62 ID:/o/2iyQ+0
>>635
うおお!生存報告だけでもありがたい!
どうでもいいけどこのss読み始める頃にはまだ学生だったのに今じゃ社会人なのは感慨深い
638 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/18(水) 00:11:39.26 ID:2jR8OWo8O
待つよ
639 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/18(水) 01:52:56.00 ID:CjahGib80
まつ!!
640 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/18(水) 08:41:39.72 ID:u64BqXDwo
もちろん待つよ
641 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/19(木) 19:50:24.69 ID:bskH5GU40
最終章ラストを目前にして読み直してみたがとんでもねぇストーリーだな改めて思う
凄すぎるよリアルタイムで読めたことを光栄に思うよ
642 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/28(土) 23:32:53.66 ID:rR8D/t7h0
今日もこないかあ…
どうでもいいけど、この勇者何処と無く横島くんっぽい
643 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/29(日) 00:21:29.74 ID:JCKqljucO
11月3日の3周年は祝日やな
お祝いしよう
644 :1です [saga]:2017/10/30(月) 19:05:48.46 ID:X1ID+g1h0
目処が立った…目処が立ったぞ……!

丸三年かかってしまったけど、11月3日、完結します!
645 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/30(月) 19:19:34.35 ID:2hdhU/0Wo
おおおおおおおおいわああああああああああああい
646 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/30(月) 19:22:29.60 ID:XjlNOC2ao
(゚∀゚ 三 ゚∀゚)
647 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/30(月) 19:35:54.59 ID:CT3COYoPO
やったぜ
648 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/30(月) 19:50:46.25 ID:FP+IuOA3O
キター!!!
649 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/30(月) 19:55:21.22 ID:nDieHJFDo
やったぜ
650 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/30(月) 21:07:24.67 ID:aSQNH06uO
うおおおおおおおおお!!!!!!!
651 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/31(火) 02:07:51.56 ID:yWpJkGT30
おおおおおおおおお(泣

うわああああああああ!
嬉しいけど終わるの悲しい
652 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/31(火) 08:33:18.59 ID:qsJXtJHg0
寒いから薄着待機して待つ!
653 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/31(火) 08:43:37.48 ID:l6MfoZIco
キタァァァァァァァァ
654 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/31(火) 13:04:57.87 ID:twebUpqUo
マジか!!!!!
655 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/01(水) 00:17:19.47 ID:70X6RJz20
うぇ?うぇぇええええええええいっ!うぇいうぇい!
656 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/01(水) 08:13:29.98 ID:eoh/mpFj0
俺「うえいあおぇあああああああああああああああああああ!!!!!!」
657 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/01(水) 19:37:13.95 ID:70X6RJz20
>>656
僕「なんやこいつ…」
658 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/01(水) 20:08:01.03 ID:oXRzz/JA0
>>656
獣王「懐かしいわ」
659 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/02(木) 00:52:45.49 ID:FWg7IRBqO
>>656
そのシーンすげぇ好き
660 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/02(木) 11:25:22.68 ID:2+n2CiQkO
さて、明日に備えて最初から読み直してくるか
661 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 01:00:16.79 ID:iF0c+y3X0
いよいよ終わっちまうのか…少し悲しいな…
662 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 01:54:43.55 ID:xAx1+w5n0
婆さんや、投下はまだかのう
663 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 02:43:38.32 ID:RBIXGmx60
とりあえず3周年おめでとう!
664 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 02:58:54.10 ID:b990MdY6o
このssはここに来て初めて読んだ話だな
この3年間色んな所でssを読んだけどこれが一番面白いよ
完結寂しいけど最後まで頑張れ!
665 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:17:34.54 ID:uAQKxthS0
1です

今回は故あってトリップ付き

最後の投下を始めます
666 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:18:11.03 ID:uAQKxthS0







 ―――――三十年後。







667 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:18:47.13 ID:uAQKxthS0
 ――――雲一つない青空。
 一面に広がる黄金色の小麦畑。
 涼やかな風がたわわに実った穂を揺らした。
 荷台にくくられた馬は、たてがみを靡かせながら街道沿いでのんきに草を食んでいる。

「んしょ。んん…!」

 小麦畑には、うんうんと唸りながら収穫作業を行う二人の少年の姿があった。
 二人とも顔立ちがよく似ている。きっと兄弟なのだろう。
 年の頃は―――兄が10歳ほどで、弟はその二つか三つ下といったところだろうか。
 二人とも額に汗をかきながら一生懸命小麦を掴み、鎌を振るっている。
 ふと、ごろごろと雷の音が聞こえて、弟は空を見上げた。
 天気は変わらず快晴で、雨雲らしきものはひとつも見当たらない。
 弟は怪訝に思って周りを見回すが、兄も、少し離れたところで作業をしている父も雷の音を気にした素振りは見せず、急な雨を警戒する様子もない。

弟「……?」

 首を傾げる弟だったが、すぐにその疑問は彼の頭から消えた。
 道の向こうに、彼の敬愛する祖父の姿を見つけたからだ。

弟「うわあ〜! じいちゃん、すっげえ〜!!」

 弟も兄も、実に子供らしく大はしゃぎで声を上げた。
 彼らの祖父は、なんと2m四方に及ぼうかという小麦の束を担いできたのだ。
 重さは500s以上あろう。
 およそ人が持ち上げられる重さではない。いわんや、担いで歩こうなど。

兄「俺も早くじいちゃんみたいに力持ちになりたいなぁ〜」

 兄が無邪気に願いを口にした。
 荷馬車の荷台に収穫した小麦を下ろしながら(それは片腕で抱えられるほどの量で、精々2〜3s程度だ)、父は苦笑して言った。

父「じいちゃんみたいには無理だよ。あの人は、ちょっと特別だからな」

弟「とくべつ?」

 弟が聞き返した。

父「ああ、特別だ。なんせあの人は、大魔王を打倒してこの世界に真の平和をもたらしたあの勇者様のパーティーの一員だったんだからな」

668 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:19:29.38 ID:uAQKxthS0


 ―――この平和な世の中に、魔物の姿はもはや無い。


 つまりそれは、『精霊の加護』という現象の消失をも意味していた。


 土地を害する魔物が姿を消した今、精霊が人間に力を貸す義理はない。


 さりとて精霊は個々人に既に与えられていた加護を殊更に取り立てるような真似もしなかった。


 この世界にわずかに残る、その身に精霊加護を宿した人間は、治水工事や農地の造成、その他都市建設などの分野において大いに活躍した。


 しかしながら、更にあと三十年も時が経過すれば、加護を持つ人間はこの世に一人もいなくなるだろう。


669 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:20:14.16 ID:uAQKxthS0



 かつて勇者が断行した武力の根絶により徴兵制が廃止になり、多くの人材が野に下ったことで人々の生活文化は目覚ましく発展した。


 例えば、元兵士であった者の多くは冒険家となり、世界各地を探検した。


 その結果、これまで人類未踏の地とされていた地域が次々と開拓され、新種の動植物や鉱物が数多く発見された。


 国家による過度な徴税が禁じられ、衣食住に余裕が出来たことで研究に没頭できる学者も増えた。そういった者たちの手によって前述の新しく発見された動植物、鉱物の研究は進み、様々な利用法が開発された。


 また、探検・開拓が進んだ副産物として、地図の精度が格段に向上したこともこの三十年間の特徴の一つと言えよう。


670 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:20:49.87 ID:uAQKxthS0



 生活水準が向上し、医療技術も発展したことで世界人口はどんどんと増加していた。


 増加する人口を賄うため、土地開拓は進み、人々の生活圏は広がっていった。


 開拓の拠点として集落が生まれ、多くの人の交流点では街が発展する。


 そうして目まぐるしく進む開拓の中で、国境線はあやふやになりつつあった。


 いつか人類は、境界線をめぐって隣人と争いを起こすことになるかもしれない。


 しかし今のところ、世界は確かに活気に満ちていて、人々は熱気に溢れていた。


671 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:21:32.60 ID:uAQKxthS0

「ああ……確かに、世界は平和で、人々は幸せなのだろう。だがな……」

 背負っていた小麦を下ろし、汗をぬぐって初老の男性は―――かつて勇者と共に旅をした男―――武道家は、ぽつりと呟いて空を見上げた。
 澄み渡る青空の下にありながら、武道家の顔は暗い。
 それはきっと、収穫作業の疲れだけが原因ではなかった。
 雲一つない青空に、遠雷が響いている。

武道家「お前の幸せはどこにある? お前は今、笑っているのか? ――――勇者」

 今もどこかで、平和維持のための断罪装置として彼はその力を振るっている。
 ふぅ、と武道家は深く長くため息をついた。

672 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:22:25.48 ID:uAQKxthS0
 港町ポルトでは、近年になって実用化された蒸気機関を搭載した船―――『蒸気船』が盛んに行き交っていた。
 その船の一つから、港町ポルトに降りる影がある。
 肩のあたりで切り揃えられた水色の髪。
 優しいまなざしに、老いてなお瑞々しく張りを保つ豊かな胸。
 かつての勇者パーティーの一人―――――僧侶だ。

「相変わらず若々しいわね。羨ましいわ」

 僧侶を出迎えたのは、腰まで伸びた艶やかな黒髪が特徴的な女性。
 かつてこの地で僧侶の友となった『黒髪の少女』だ。
 この少女も美しく年を重ね、今はもう『黒髪の貴婦人』といった様子だ。

僧侶「あなたこそ。相変わらず素敵な黒髪ね」

 笑みを浮かべ、言葉を交わした二人は肩を並べて歩き始めた。

僧侶「この町も相変わらずね。素晴らしい活気だわ――――お仕事は順調?」

黒髪の貴婦人「ええ、とても。この町が想定外のスピードで発展を続けるせいで、家の仕事はもうてんてこまいといったところだけど、それも嬉しい悲鳴として享受しているわ」

僧侶「お手紙が少なくなったのは寂しかったけれど、それもお仕事が順調な証だと喜んでいたわ。あなたが仕事を継いで、今やご実家はこの町最大手の商会にまで発展したものね」

黒髪の貴婦人「私に商才があったなんて、我ながら意外だったけれど。お手紙の返事が遅くなったことは本当にごめんなさいね。お詫びに今日は美味しいケーキを御馳走するわ」

僧侶「あら、それは楽しみ」

 三十年―――彼女たちはあれからずっと親交を深めてきた。
 近況を報告し、悩みを共有し―――――互いを導きあってきた。

僧侶「……旦那さんとは、うまくやってる?」

黒髪の貴婦人「ええ、とても……こんな私をずっと愛してくれて……本当に、ありがたいことだわ」

 仲睦まじくケーキをつつき、和やかに談笑していた二人だったが、いつしかその顔は神妙な面持ちになっていた。
 きっかけはきっと、さっき遠くで聞こえた雷の音。

黒髪の貴婦人「幸せにならなくてはならないと思った。あの人が平和にしてくれた世界で、幸せになる努力を怠ることはひどい裏切りだと思った。そう思ったから、二十年前に夫のプロポーズを受けた」

 黒髪の貴婦人は、かつての『黒髪の少女』は、きゅっと唇を引き結ぶ。

黒髪の貴婦人「けれど私は未だにあの人を吹っ切ることが出来ずにいる。この遠雷の音を聞くたびに胸がぎゅうと締め付けられる思いがするわ。そんな私を、夫がどんな思いで見ているのか……とても不安だわ。とても不安で、とても申し訳ない……」

僧侶「いいのよ」

 黒髪の貴婦人に、僧侶は柔らかな笑みを向けた。

僧侶「私たちは人間で、ましてや女なんだもの。感情を完全に整理することなんてできないわ。大事なのは、今確かにある想いを見失わないこと。旦那さんのこと、愛してるんでしょ?」

黒髪の貴婦人「もちろんよ。それだけは断言できるわ。でなきゃ、体を許して子供を産むなんてことするものですか」

僧侶「ならいいの。女なら誰だってたまには甘やかな初恋の記憶に浸りたいものよ。あなたが特別なことなんてな〜んにも無い」

 胸を張ってそう断言する僧侶に、黒髪の貴婦人はくすりと笑顔を見せた。

黒髪の貴婦人「本当に強い人ね。あなた、昔っからちっとも変わらないわ」

僧侶「うふふ。こう見えても私、世界で二番目に強い女よ? それに、もう六人も孫のいるおばあちゃんなんだから! 強くなきゃ、やってられませんっての!」

黒髪の貴婦人「そうそう。実はね、私も来年にはおばあちゃんになるのよ」

 僧侶は目を丸くする。
 黒髪の貴婦人は悪戯っぽい笑みを浮かべた。

僧侶「うわぁ〜!!!! いつ!? 予定日はいつになるの!? 私絶対お祝いに行くからね!!」

 まるで我が事のように喜び、僧侶は肩を弾ませる。
 机の上のケーキはまだ半分以上残っている。
 淑女二人のお茶会はまだまだ終わりそうにない。

673 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:23:09.91 ID:uAQKxthS0
 『第六の町』の西に位置する大森林。その奥深くに存在する『エルフの里』。
 エルフの里も、この三十年で大きく変わりつつあった。
 魔王との決戦の際の共闘がきっかけで、人間との共存の道を探ろうという気運が高まったのだ。
 このエルフの歴史の大きな転換点を迎えて、エルフの長老は長の座から身を引き、年若いエルフの少女が新たな族長となった。
 新たな族長となったエルフの少女が元々人間に対してかなり好意的であったことも手伝って、エルフと人間の交流は進み、エルフの里の存在は公になりつつあった。

エルフ少女「ああ〜もう! 人間滅ぼしちゃおっかなぁーー!!!!」

エルフ少年「うわぁ!! いきなり何言ってんだ姉ちゃん!!」

 椅子の背もたれに思いっきり背を預けながら両手両足を伸ばし、新たな族長、『エルフ少女』は叫んだ。
 族長補佐という立ち位置についたその弟、『エルフ少年』はその突飛な発言にただただ目を丸くするばかりである。

エルフ少女「…………ダメか〜。二十年くらい前まではこれ言うと目の前に飛んできてくれたけどな〜。もう相手にしてもらえなくなったか〜」

エルフ少年「そりゃおんなじ手口を何年も使ってりゃあそうなるよ。ってか、姉ちゃんそのうちマジで裁かれるぞ。あの手この手で勇者様を呼ぼうとして……」

エルフ少女「だぁって彼ったら全っ然こっちに顔出さないんだもん。こっちから行こうにも居場所全くわからないし……ここまで世界開拓が進んだこのご時世で、未だに影も形も掴めないなんて信じられる?」

エルフ少年「簡単に手が届く場所に居ちゃ、威厳が損なわれる。そう考えてのことじゃないかな。もっともあの人の場合は、どこにでも現れすぎて逆にどこにいるのか分からなくなっちまってるパターンだと思うけど」

エルフ少女「……ほんとに、どうしてそこまで自分を犠牲にしちゃえるんだろうね。ずっと一人で、孤独に役割に徹して……馬鹿だよねえ、ホント」

エルフ少年「……姉ちゃん」

エルフ少女「いくらエルフが人間より長生きだって言ったって私の寿命は精々あと150年程度……永遠を生きる彼には到底寄り添うことは出来ない。ならばせめて、私は私に出来ることで彼の手伝いを―――なんて、柄でもない族長なんて立場を引き受けちゃったけどさ」

エルフ少年「……正直、ちょっと意外」

エルフ少女「何がよ?」

エルフ少年「勇者様のこと、結構本気だったんだな、姉ちゃん」

エルフ少女「好きでもない男に肌を晒すほど、私は軽薄な女じゃないよ」

エルフ少年「今明かされる衝撃の事実……姉は勇者様に裸を見せていた……いや、それを何で今更弟に言うんだよ……リアクション困るよ……」

エルフ少女「結局あれからいい男も見つからずに三十年間も独り身のまま!! あ〜あ、族長なんて辞めて婚活の旅に出ようかな〜」

エルフ少年「焦るなよ。俺だってまだ独り身だ。今みたいにエルフの発展の為に頑張っていれば、きっとこの先いい出会いもある」

エルフ少女「う〜ん……今から10歳くらいの杜氏の子を探して手をつけちゃおうかしらん」

674 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:24:06.04 ID:uAQKxthS0
「長、ご報告が」

 固い声が部屋の中に響いた途端、それまでの弛緩した空気は一気に打ち切られた。
 報告を聞いたエルフ少女とエルフ少年の二人は、真剣な面持ちのまま視線を交わらせた。

エルフ少年「……今年に入ってもう五回目だ。人間たちが取り決め以上の量の木々を伐採している」

エルフ少女「……若い衆を何人か集めて、現地に向かわせて。出来るだけ口が達者な者がいい」

エルフ少年「腕の立つもの、じゃなくてか?」

エルフ少女「武力による排斥は絶対に禁止だ。それをすれば、現在狩りのためとして最低限所有を認められている武具すら取り上げられる可能性がある。それだけならまだしも、私たちエルフそのものが粛清の対象になる可能性だって……」

エルフ少年「――――絶対中立の制裁装置、か。やれやれ……俺も現地に行くよ」

エルフ少女「ごめんね。お願い」

エルフ少年「人間は、数を増やして、ただでさえ薄かった精霊信仰の意識がますます希薄になってきてる。そこあたり、俺たちの言葉が伝わってくれればいいんだけどな……中立の神様にも」

エルフ少女「………」

 エルフ少年が立ち去り、一人になった部屋でエルフ少女はひとつ大きく息を吐いた。

エルフ少女「いや〜、平和ってのも大変だね、こりゃ。最近は竜神ちゃんとこのアマゾネスも色々大変だって聞くし……」

 いつもの明るい調子ではなく、ほんの少し疲れを滲ませた笑みをエルフ少女は浮かべる。

エルフ少女「人間なんて滅ぼしちゃおっかな……なんて、私が本気で口にしたとき、果たして君は――――」

 ぶんぶんと、エルフ少女は大きく頭を振った。
 ぱん、と両手で頬を叩いてエルフ少女はニカッと笑う。

エルフ少女「ま、君も頑張ってるんだ。私だって、やれる限り頑張らなきゃだ!」

 殊更に明るい声で、自分を鼓舞するようにエルフ少女は言った。
 どこか遠くで、どことも知れないところに落ちる雷の音が聞こえた。

675 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:24:45.33 ID:uAQKxthS0
 大陸南端に位置する霊峰ゾア。
 その山頂で、空を走る遠雷を苦々しく睨みつける影があった。

竜神「勇者よ。貴様がアマゾネスの試練を禁じてから、より良き子種の選別が出来なくなった我が子らは確実に力を弱めておる。種族として、弱体化の一途をたどっておる」

 銀色の鱗が雷光を反射する。
 唸りを上げる竜神の口からは、鋭い歯がこぼれ見えている。

竜神「貴様は我らアマゾネスの風習に手を突っ込んだ。我らアマゾネスの在り方を捻じ曲げた。結果がこれじゃ」

竜神「貴様の前でとても竜の神などとは名乗れぬ無様を晒した儂じゃ。今は従ってやる。しかし言わせてもらうぞ。聞こえておるのじゃろう?」

竜神「貴様は力をもって我らを管理する。貴様の価値基準に則って、有無を言わさず」

竜神「我らはこのままではいずれ滅ぶ。人との融和は我らの種としての優位性、独自性を失わせ、アマゾネスという種は緩やかに死へと向かっておる」

竜神「はてさて、貴様、何様のつもりじゃ?」

竜神「貴様にとって、我らは滅ぶべき悪であると、そういうことか?」

竜神「貴様が儂らをそう断じるのであれば、儂らにとって貴様は―――――」

676 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:25:35.39 ID:uAQKxthS0
 勇者の故郷、『始まりの国』。
 もっとも、当時の国家は解体され、今は名を変えているが―――そこに、ひとつの墓があった。
 墓に刻まれている名前は、もはや世界の誰もが知っているもので。
 つまるところ―――世界を救った勇者、その母の名前がその墓には刻まれているのであった。
 『伝説の勇者の息子』を正しく育て導いた者として、『聖母』と崇められすらした女性の墓前に、武道家の姿があった。
 武道家はこうして足繁くこの墓に通い、その維持管理に務めている。
 それは、本来それをすべき彼の役目を肩代わりするかのように。

武道家「……こうしてここに来るたび、あなたの死に顔を思い出します。とても満ち足りた、悔いなど欠片もないような顔……」

武道家「人々はあなたを讃えました。実際、あなたは正しかったんでしょう。あなたが居なければ、きっと今の世の平和は無かった」

 墓前に花を添え、武道家は黙とうする。
 深くしわの刻まれた目が、ゆっくりと開いた。

武道家「だけどね……俺はやっぱりアンタを許せない。どうしてこんなことになっちまったんだって、いつも思っちまうよ……おばちゃん」

 そう言って立ち去る武道家の脳裏に浮かぶのは、勇者の母が死んだ日のこと。
 死ぬ間際に、勇者の母が口にした言葉。

『ああ、勇者……私たちの息子……私はあなたを本当に誇りに思います……』

 武道家は親指で目元を拭う。
 目頭が熱くなったのは、悲しみからでも、ましてや感動からでもない。
 煮え滾りそうになる感情を武道家は努めて押し殺す。

武道家(―――どうして、どうしてたった一言―――――)





 もういいのだ、と―――――あいつに言ってやらなかったのか。



677 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:26:22.26 ID:uAQKxthS0
 世界の中心、地球のへそというべき場所に存在する『世界樹の森』。
 常人では決して到達することの出来ない、その森の最奥に勇者はいた。
 膝ほどの高さの岩に腰かけ、目を閉じて瞑想している。
 傍には半ばで折れた精霊剣・湖月が打ち捨てられていた。
 伝説剣・覇王樹も血錆に塗れ、かつての輝きを失い、今はもうただの鈍らと化して転がっている。
 だけど、それで別に問題は無かった。
 今の勇者には剣など必要ない。
 なにせ今の勇者は腕の一振りで何十もの人間を同時に肉塊と変えてしまえるほどの膂力を備えている。
 ぴくり、と勇者の肩が震えた。

勇者「……少し、眠ってしまっていたか」

 そう呟き、勇者は目を開けた。
 勇者の目の下には色濃く隈が刻まれているけれど、三十年の月日で勇者の顔にあった変化と言えば逆にそこくらいのものだった。
 光の精霊の言葉の通り、勇者は老いることなく、かつての姿のまま今を生きている。
 勇者は腰に下げていた水筒を手に取り、ぐい、とあおって喉を潤した。

勇者「……疲労感が強いな。もう少し、休む必要があるか……」

 勇者は不老ではあっても不死ではない。
 命の理すら捻じ曲げる大量の精霊加護によって、勇者の体は物理的なダメージや病魔を跳ねのけることが出来る。
 出来るが、それだけだ。
 飢えれば死ぬし、寝なくても死ぬ。
 蓄積された疲労によって体調も悪くなる。
 備蓄していた食料に手を伸ばすために立ち上がろうとした勇者の足ががくりと崩れた。

勇者「ふ、ふふふ……」

 勇者から自嘲の笑みがこぼれる。

勇者「たかだか三十年だぞ……これからあと何年この状況が続くと思ってんだ。気合い入れろ、馬鹿野郎……」

 がつんと己の膝を殴りつけ、勇者は立ち上がる。
 干し肉を噛み、水筒をあおって無理やり喉の奥に流し込んだ。
 そこで、勇者ははたと気づいた。

678 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:27:13.90 ID:uAQKxthS0
『気づいたかね?』

 勇者の脳裏に直接響いてくるのは『光の精霊』の声だ。

光の精霊『君ともあろうものが随分と迂闊だったな。いつもならば十里も寄れば気配を察知して即座に身を隠していたろうに。何者かに近づかれたぞ―――もはや視認することすら可能な位置にまで』

勇者「………」

 気づいていたなら声をかけてくれれば―――そう言いかけて、勇者は口を噤んだ。
 光の精霊は、勇者の生き方・在り方を面白がってちょっかいをかけてきているだけで、別に仲間という訳ではない。
 光の精霊は誰の味方もせず、誰とも敵対せず、ただ好奇心のままに動く特異な精霊だ。
 勇者は思考を侵入者の方に戻す。
 確かにお互いの姿を視認できるまでに近づかれたのは迂闊だったが、今から逃げればいいだけのこと。
 今の立場になってから、勇者は誰とも関わりを持とうとはしない。
 それはいつまでも絶対中立の装置であり続けるために。

勇者(あの人影がこちらに駆け寄ってくる十数秒の間に俺は万里の彼方まで離れることが出来る。何も問題は無い。とはいえ、この世界樹の森の最奥までたどり着くとは、並の者ではないな)

 勇者は侵入者の正体を探ろうと人影に目を凝らして、固まった。
 長く動かしていなかった心を鷲掴みにされたような気分になった。

 鷲掴みにされて、揺さぶられた。

 人影はほんの一瞬の間に、もう勇者の目の前まで迫っていた。
 完全に想定外の速度。かつ放心した虚を突かれた勇者は、その動きに碌な反応も出来ず。
 勇者はその人影にがっしりと腕を掴まれてしまった。

「ようやく……ようやく見つけた……!」

 はぁはぁと息荒く口を開いた人影の正体は金髪の美しい女性だった。
 勇者は掴まれた腕を振り払うこともせず、硬直してしまっている。
 勇者は混乱していた。
 突然目の前に現れた、年の頃およそ二十の半ばに見えるその女性は。
 かつての仲間に。
 かつての最愛の人に。
 三十年前に袂を分かったはずの。

 ―――――戦士に、とてもよく似ていた。

679 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:28:06.02 ID:uAQKxthS0
 だけど、この女性が戦士であるはずはない。
 三十年。三十年だ。
 あれからもう三十年もの月日が経過している。
 つまり戦士はもう五十歳に届こうかという年齢になっているはずだ。
 目の前の女性の年代は二十の半ばから、どんなに多めに見積もっても三十の前半だ。
 だから、この女性は戦士本人ではない。
 だとすれば、そう、この女性の正体は―――――

勇者「もしや君は―――――戦士の子供なのか?」

 ぴくり、と女性の眉が上がった。

勇者「は、はは……」

 勇者の胸中に複雑な思いが溢れた。
 けれど、様々な感情がない交ぜになって込み上げる中で、最も大きかったのは――――安堵の気持ち。

勇者「……良かった。幸せになれたんだな、彼女は……」

女性「おい…」

 眉根にしわを寄せて、女性は勇者の顔を覗き込んだ。
 勇者の目には、これ以上ないほどの慈しみの感情が満ち溢れている。

勇者「ふふ……俺に、こんなことを問う資格なんて無いんだけど……正直、気になってしょうがないな。教えてくれないか? 戦士は、君の母さんは……一体どんな奴と結婚したんだ?」

 ビシィ!と空気に緊張が走った。
 女性のこめかみに血管が浮かび上がり、ひくひくと蠢いている。

女性「おい…!」

 それは地の底から響いてくるような、低くドスのきいた声だった。

勇者「……ん? あれ?」

 様子を一変させた女性の剣幕に、勇者は恐怖を覚え後ずさりする。
 しかし腕を掴まれた勇者は逃げられなかった。
 はう、と息を飲む勇者。全身を突き抜けていくこの絶体絶命感。
 それはすごく――――――ものすごく、懐かしい感覚だった。

勇者「もしかして……」

 女性は掴んでいた勇者の手を放し、がしりと胸倉を掴みなおした。
 そして、女性はすぅ〜、と息を吸い始めた。
 吸って、吸って、吸って―――――そして。

680 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:28:50.95 ID:uAQKxthS0






「誰がお前以外の男と結婚するかッ!!!! この大馬鹿たれがぁぁぁああああああああああああ!!!!!!」





 鼓膜よ破けよとばかりに勇者の耳元で思いっきり叫んだ。






681 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:29:35.53 ID:uAQKxthS0
 キーン、と響く耳鳴りに勇者は目を回す。
 はっと我に返って、勇者は女性を振り返った。

勇者「戦士…? まさか、戦士なのか!?」

 勇者の問いに、女性は――――かつて勇者の仲間であり、恋人でもあった戦士は頷いた。

戦士「ああ、そうだ。正真正銘、私だ」

 勇者は信じられない、という風に頭を振った。

勇者「馬鹿な…ありえない。三十年だ。三十年だぞ? どうして君は、そんな若々しい姿のままなんだ? 君のもつ精霊加護の量では、寿命に影響なんて無いはずだ」

戦士「奇跡を起こすのは精霊の専売特許というわけではあるまい? 少なくともお前はそれを知っているはずだ。他ならぬお前自身がその身で味わったことなのだからな」

勇者「何…?」

戦士「『狂剣・凶ツ喰(キョウケン・マガツバミ)』。覚えていないか?」

 勇者は目を見開く。
 当然、その名前には覚えがあった。
 忘れるはずもない。
 『狂剣・凶ツ喰』。
 竜に殺意を燃やす人間の狂気が生んだ、呪いの剣。
 装備した者を不死に近い回復能力を持った狂戦士へと変貌させる―――人の怨念が生んだ、奇跡の産物。

戦士「苦労したぞ。あの時お前に拒絶されてから、私はお前と同じ時を生きる方法を探し続けた。探して、探して―――――そして、遂に見つけたんだ」

 戦士は勇者の目の前に左手を差し出した。
 その中指には、一目で分かるほど禍々しい気配を放つ指輪がはめられていた。

戦士「『死者の指輪』という。この指輪には不老不死の呪いがあり、これを装備した者は永遠に老いず、永遠に『死ねない』。一体どれほどの怨念、情念が込められればこんな馬鹿げた一品が生まれるのか……想像もつかないよな」

 戦士はそう言って悪戯っぽく笑った。

勇者「そ、そんな……」

 わなわなと、勇者は肩を震わせている。

戦士「12年。この指輪を発見するまでに12年もの時を要してしまった。だから、私の肉体年齢はお前より12年分年上になってしまったけど……まあ、自分で言うのもなんだけど、綺麗に成長できただろう? 胸も、ほら、僧侶ほどじゃないけどちょっと大きくなった」

勇者「馬鹿野郎!!!!」

 戦士の言葉は勇者の怒号で遮られた。

勇者「なんて…なんて馬鹿なことを!!!! どうして、こんな……俺は、お前に普通に幸せになってほしくて、だから、俺は……!!」

 勇者の目に涙が浮かぶ。
 実に三十年ぶりに流す、人間としての涙。
 しかしそんな勇者の様子に、戦士はふんと鼻を鳴らした。

戦士「言っておくが、この件についてお前にどうこう言う資格はないぞ。三十年前、今のお前のように叫んだ私達の気持ちを、お前は蔑ろにしたんだ」

勇者「そ、れ…は……」

戦士「いいんだ。今更責めるつもりはない。私の願いはひとつだけ。ひとつだけなんだ、勇者」

 戦士は再び勇者の手を取った。
 今度は優しく―――温もりを共有するように、柔らかく―――手を握る。

682 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:30:28.09 ID:uAQKxthS0





戦士「いつも肝心な時に私はお前の傍にいられなかった。今度こそ…今度こそ、だ」



戦士「誓うよ。私はお前の傍を離れない。私はお前を絶対に一人にはしない」



戦士「死すら、もう私達を分かつことは出来ない」




戦士「共に生きよう。今度こそ、一緒に―――ずっとずっと、一緒に」





683 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:31:34.68 ID:uAQKxthS0
 長い沈黙があった。
 そして―――ぽたぽたと、勇者の頬から大粒の涙がこぼれ始めた。

勇者「お、俺は…俺は、自分が情けない……!」

 嗚咽を漏らし、言葉を詰まらせながら、勇者は心中を吐露する。

勇者「本当は駄目なのに……俺は独りでなくてはならないのに……だけど、嬉しくってしょうがない…! 戦士の気持ちが、ありがたくってしょうがない……!!」

 戦士は微笑みを浮かべ、勇者の手を引き、その体を抱き寄せた。

勇者「うぐ、うぅ…! なんて体たらく…! 何が神だ……俺は、無様だ……!!」

戦士「いいんだ。いいんだよ、勇者。ずっと、どんなことがあっても、私だけはお前の味方だ」

 ぐしゅぐしゅと、勇者は子供のように泣きじゃくる。
 戦士もまた、その目にうっすらと涙を浮かべて、勇者の頭を抱きしめた。

戦士「不死になるために12年。それからも18年もの間、お前を探し求め続けたんだ……やっと、やっとこうしてこの手で抱きしめることが出来た……!」

勇者「ごめん…! ごめんよ……戦士……!!」

戦士「ううん、いいよ……愛してる、勇者……」






 これまでの空白を埋めるように、二人は熱く抱擁を交わす。


 しかし、もう間もなく、人の世で新たに罪を犯す者は現れる。


 そうなれば、勇者は裁きの為にこの地を離れなくてはならない。


 現在、勇者は自らが生きる時間のほとんどを裁きの執行に費やしている。


 勇者と戦士、共に生きると誓っても、これから先二人が蜜月の日々を送ることはない。



 それが、絶対の罰則装置として君臨することを選んだ彼の運命。


684 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:32:36.22 ID:uAQKxthS0










 だけれども、ほんの僅か、一日のうちほんの僅か数分だけでも。


 彼が人としての幸せを享受することを、どうか許してほしい。


 それが、長い長い旅路の果てに彼に与えられた、唯一の報酬だろうから。





685 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:33:18.26 ID:uAQKxthS0






戦士「ところでお前、この三十年でまさか浮気とかしていないだろうな?」


勇者「見くびらないでほしいですぅ〜!! 僕まだ童貞ですぅ〜!! は!? まさかそういう戦士は…!」


戦士「処女だよ大馬鹿野郎!!!!」


勇者「ヒィ! サ、サーセン!」





686 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:34:24.56 ID:uAQKxthS0






 願わくは―――――少しでも長く、彼らが笑顔で過ごせる日々の継続を。





 これにて、『伝説の勇者の息子』として生を受けた、とある少年の物語は終幕とする。






687 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:38:31.19 ID:uAQKxthS0























 だから―――――ここから先は、見なくていい。









688 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:39:15.42 ID:uAQKxthS0





 物語の結末としては、これで十分だ。




689 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:40:10.92 ID:uAQKxthS0




 ただ―――――語り部の義務として、彼の人生の結末をこれから記す。


 だけど、見なくてもいい。


 知る必要はない。








 きっと―――――気分のいいものではないだろうから。


690 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:41:22.68 ID:uAQKxthS0

















































 
691 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:42:24.96 ID:uAQKxthS0






 ―――――人間は住処を作るのに森を切り開いたり川の流れを好き勝手に弄繰り回したりするでしょう?



 ―――――いつか人間は精霊様の住処を悉く奪い尽くすって、長生きのお爺ちゃんお婆ちゃん達は危惧しているんだ。






692 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:43:30.44 ID:uAQKxthS0
 彼のおかげで、世界は長く平和であった。

 平和であったから、人は増えた。

 人が増えたから、土地が必要になった。

 人は木を切り、山を拓き、川を曲げ、海を埋めて生活圏を拡大していった。

 当然に、森に生きるエルフ、山に生きる竜種などの亜人種との衝突が起きた。

 しかし彼によって彼らは平和であることを強制された―――あらゆるいざこざを、力尽くで収束させられ続けた。

 『繁栄を妨げる邪魔者』として、人は彼を嫌った。

 『人に肩入れする不公平な偽神』と、エルフは彼を憎んだ。

 人食を禁止されたこともあり、竜種は元より彼を快く思ってはいなかった。

 結果として彼は排斥された。

 その気になれば彼はその排斥に抗うことも出来ただろう。

 その力を十全に振るえば、彼に敵対する悉くを打ち倒すことが出来ただろう。

 しかし彼はそれをしなかった。


 彼に剣を向ける者達を―――――新たな『勇者』として擁立され、彼に立ち向かってくる少年を―――――彼は、どうしても薙ぎ払うことが出来なかった。


 敗北した彼は世界の果てというべき場所へと追いやられた。

 歯止めの利かなくなった人と他種族の生存競争は、その圧倒的な数の差により人が圧勝した。

 エルフや竜種などの亜人種は歴史から消え去り、人はなお一層勢力を拡大していった。

 木々は減り、山は姿を変え、精霊は眠りにつき世界から姿を消した。

 それは、あの光の精霊であっても例外ではなく。

 勇者の力の源として、世界樹の森は徹底的に破壊されてしまった。

 精霊加護を失った彼は、いつしか普通に年老い始めた。

 そして、やがて彼は病に侵され、程なくして――――普通に、死んだ。



 それは、彼によって大魔王討伐が為されてから、およそ二百年後のことであった。


693 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:44:14.18 ID:uAQKxthS0





 ―――――まるで自分は世界にとって有益だとでも言いたげだな。


 ははっ。


 笑わすんじゃねえよ―――――勇者。




694 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:45:07.07 ID:uAQKxthS0





 今際の際に、彼の耳に蘇ったのは――――いつかどこかで誰かが口にした、嘲るような声だった。




695 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:46:03.85 ID:uAQKxthS0





   Epilogue of this story.



   >> http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509262850/




696 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 18:55:48.60 ID:uvAjTAQkO
勇者に惜しみない乙を。
697 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 19:37:00.76 ID:HNsEy8QEo

戦士の登場からなんとなく既視感があったけどあのSSが続きだったのね…
698 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 20:01:38.81 ID:RBIXGmx60
丸3年ほんとうにお疲れ様でした
最高の物語をありがとう!! ラストも予想を超えてた。いいラストでうれしい
また新たな物語を書き続けてください。
楽しみにしてます!
699 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:01:40.80 ID:uAQKxthS0







   − Last episode −






700 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:02:21.78 ID:uAQKxthS0
 ポチャン、と鼻先に落ちた水滴がきっかけだった。
 久方ぶりにまぶたを刺激する陽光に、戦士は目を開いた。
 すっかり闇に慣れきってしまった瞳はうまく光を感じ取ることが出来ず、視界は白く塗りつぶされてしまっている。
 瞳が光に順応するまでの間、戦士はぼんやりと考える。
 こうやって思考を巡らせることも、ずいぶんと久しぶりだ。

 ――――この目が光を捉えるのは、一体何年振りのことだろう。

 幾百、幾千、幾万―――はたまた幾億年ぶりなのかもしれない。
 長い―――ずっと長い時間を、一人で旅をしてきた。
 一人だ。
 呪いに侵された我が身は子を成すことが出来なかった。
 食物すら拒絶する我が身に、愛する者の種など到底受け入れられるはずもなかった。
 一人で―――長い時を、不老不死の呪いを解く方法を探してさ迷い歩いた。
 しかし如何なる方法をもってしても肉体は死せず、あらゆる外法に手を出しても五体は無事で――――いつしか、心だけが死んでしまった。
 既に遥か昔のことになるが、天変地異が起きて人の世は滅んだ。
 それからはじっと目を瞑って眠ることが多くなった。
 雨が降ろうと、大地が揺れようと眠り続けた。
 砂が被さり、体が土の下に埋まってしまっても、起き上がろうとはしなかった。
 当然、息が出来ずに死ぬ。しかしこの身に宿る不死の呪いは魂を無理やりに引き戻す。
 そうして延々と繰り返される死と再生の苦悶の果てに、いつしか考えることすらやめてしまった。
701 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:03:26.63 ID:uAQKxthS0
 ようやく光に目が慣れて、ぼやけていた視界が輪郭を取り戻す。
 戦士の目の前に広がっていたのは、巨大な植物群だった。
 色鮮やかな、生命力溢れる緑、緑、緑―――――
 どうやら大量の木々が密集する密林地帯にいるようだ、と戦士は自身の置かれた状況を把握する。
 そこで気付いたが、戦士は巨大な木の根にその身を絡めとられていた。

戦士「いよ、っと……」

 戦士はその身を束縛していた木の根を引きちぎり、立ち上がった。
 地面に降り立ち、体を捻る。ぱきぽきと小気味良い音が鳴った。
 まともに体を動かすのも、随分と久しぶりだ。
 バキバキと首を鳴らしながら、戦士は周囲の様子を見渡した。

 ――――しかし、植物の力とはすさまじいものだ。

 かつて起きた、人類を絶滅に追い込むほどの天変地異は、植物界においても甚大なダメージを与えた。
 すっかり荒野と化した地上の光景を、戦士は確かに目にしている。
 それでも長い年月をかけて植物は成長し、勢力を拡げ、かくも雄大な自然の様相を再び創りあげた。
 鳥や獣の鳴き声が森の中に反響する。この森には多くの命が息づいているのだ。
 戦士はふと、自分が全裸であることに気付いた。
 まあ当然か、と戦士は思う。
 自分の知る景色から激変した周囲の状況を見るに、自身が土に埋もれてから相当な期間の年月が、それこそ少なくとも数千年規模で経過しているはずだ。
 身に着けていた衣服などとっくに朽ちて無くなってしまっただろう。
 とはいえ、人類が絶滅して久しい。
 はしたなくはあるが、今更人の目など気にする必要もあるまい。
 戦士は気にせずそのままの姿で行動することにした。
 行動―――といっても、陽光に誘われて気まぐれに起きただけだ。
 やるべきこと、やりたいこと――――どちらも特に無い。
 強いて言えば、体にへばりつく土と埃っぽさが気にはなった。
 戦士は清流を求めて密林を探検することにした。
 川はすぐに見つかった。
 川の水に身を浸しながら、戦士は考える。
 これからどうしようか。これから、何をすべきか。
 気まぐれではあるが、久しぶりに身を起こした手前、少しは行動を起こしてみようという気にはなっていた―――これも、気まぐれだが。
 今の世界の様子がどうなっているのか、歩いて見て回ってみようか。
 目の前に広がるこの雄大な大自然の姿に、死んだはずの心が少しは動かされたから。
 なにしろ、これ程の大自然はかつて自分が真っ当に生きていた時代ですらお目にかかったことはなかった。
 真っ当に、生きた時代――――今もなお色褪せることのない、輝かしい思い出。
 じんわりと、戦士の目に涙が浮かぶ。
 戦士はバシャバシャと水で顔を洗った。


 歩き続けよう―――――戦士はそう思った。


702 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:04:30.40 ID:uAQKxthS0


 世界中を歩いて回って―――――変わってしまった世界で、それでもかつての面影を探し続けよう。


 この記憶が決して色褪せないように。


 この胸に、永遠に彼らの――――彼の姿を思い描けるように。


 歩いて、歩いて、進み続けよう。


 いつか、彼のいる場所にたどりつけることを夢見て。


703 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:05:28.38 ID:uAQKxthS0
 戦士がそんな風に考えていた時だった。

『×××、××××××』

 耳慣れないが、それでも人間の言語であることは明白な声が聞こえた。
 戦士は両手で秘所を隠し、咄嗟に体を川の水の中に沈める。

『△△△? 〇〇〇〇〇』

『”’&%$#$’&%|=`{*?><!!!”#$???』

『faygfiugiuhvnaurygoahviuaga?jdfgyrwyaiyegyaugwe?』

 謎の声は連続した。
 戦士とて悠久の時を生きてきた中で、それなりに多くの言語を体得している。
 それでも、声が次々に異なる言語に切り替わっていることを掴むのが精一杯で、言葉の意味まではわからなかった。

戦士「何者だ?」

 周囲の気配を探りながら、戦士は問う。
 これだけはっきりと声が聞こえながら、周囲に人、あるいはそれに類するものの存在を一切感じることが出来ないのが不可解だった。

『――――何者だ。おはようございます。ありがとう。こんにちは』

 再び声が聞こえた。
 今度はわかった。意味の分かる言葉を聞き取れた。
 しかし文脈が意味不明だ。
 戦士は首をひねった。

戦士「何だ? 何を言っている。訳がわからんぞ」

『――――あぁ、そうだった。この言語だったな。ようやく行き当たった』

 声はようやく明瞭な響きをもって戦士に応えた。

『何者か、と君は私に問うたな。さて、私は果たして何者であったか。君たちは、私をなんと呼んでいたのだったか』

『私の中に累積する記録に劣化はない。しかし何しろ量が膨大だ。検索するにも時間がかかる――――あぁ、そうだ。見つけたぞ。私は、そう』

704 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 20:06:09.17 ID:YJYdW6wwO
3周年おめでとう、そしてありがとう。
最高のSSでした。
705 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:06:22.80 ID:uAQKxthS0










『私は―――――かつて君たちが光の精霊と呼んでいた存在だ』









706 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:07:28.68 ID:uAQKxthS0
光の精霊『君たちのことは実に印象深く私の記録に刻まれている。幾星霜の時を超えてまさかまたこうして邂逅することがあろうとは』

光の精霊『驚きを感じるよ。これが縁というものなのかな。久しぶりだな。かつて我が加護を一身に受けた者―――その伴侶、戦士よ』

 戦士は驚きにぽかんと口を開けたまま、ぐるりと周囲を見回す。

戦士「光の精霊…? ならば、ここはもしかして、あの世界樹の森なのか?」

光の精霊『君の知る当時とは場所はかけ離れているがね。海も大地も大きく動いた。それだけの時が経ったのだ』

光の精霊『そういえば、君には礼を言わなくてはな。まさしく奇縁というものか。この森の復活の一因を担ったのは君だった』

戦士「……? 何のことだ?」

光の精霊『忘れているのならいい。遥かな昔の、ほんの小さな物語だ』

光の精霊『それよりも、それこそ覚えている範囲で構わない。私に話して聞かせてくれないか? 戦士。ここに至るまでの旅路を――――悠久の時を生きた、君の物語を』

戦士「………」

 まあいいか、と戦士は思った。
 どうせ時間はたっぷりとある。
 誰かとコミュニケーションをとるのは本当に久しぶりだ。
 その相手がまさかあの『光の精霊』というのは甚だ意外ではあったけれど。
 これも、いい暇つぶしになるだろう。

戦士「いいだろう。話してやる。そうだな、とはいえ、どこから話したものか――――」

707 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:08:39.57 ID:uAQKxthS0
 ――――長い時間が過ぎた。
 あれから、夜の帳が下りてなお戦士の話は尽きず、結局、戦士が一度話を区切りとしたのは実に15回目の太陽が昇った時だった。
 戦士は樹皮をほぐして得た繊維を編み込んで作った簡易的な服を身にまとっていた。
 永遠に近い時間を旅してきた彼女だ。こういった生活のノウハウはもうすっかりと身についている。

光の精霊『ありがとう。実に面白い話だった』

戦士「どういたしまして。私もいい頭のリハビリになったよ」

光の精霊『それで、これからまた旅に出るというのか? それだけの苦難を経験しながらも、なお諦めずに?』

戦士「まあ、折角目を覚ましたからな。また飽きるまで、しばらく頑張ってみるさ」

戦士「それに、希望が全くないというわけでもない。これだけ自然に満ちた世界だ。どこかに何かとんでもないパワースポットみたいなものが出来ているかもしれないじゃないか」

光の精霊『確かに、我ら精霊の力は今が最盛と言っても過言ではないが……ふむ。いいだろう。本来、我らのようなものが人間にここまで肩入れすることなどあり得ないのだがね』

戦士「ん?」

光の精霊『興味深い話を聞かせてもらった礼だ。何か願いをひとつ言いたまえ、戦士』










光の精霊『それが如何なる願いであったとしても――――私は、その願いを叶えよう』






708 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:09:28.56 ID:uAQKxthS0
戦士「……………なに?」

 ぶるり、と戦士の体が震えた。

戦士「それは、私を殺してくれるということか?」

光の精霊『違う』

 光の精霊は戦士の言葉を否定する。

光の精霊『君の願いは他にあるはずだ。真なる望みを言うがいい』

戦士「………呪いを、解きたい」

光の精霊『違う。繰り返すが、我らの力は今が最盛。およそ不可能なことなど無い』

光の精霊『―――――君の、真なる望みを言うがいい』

戦士「―――――!」

 戦士は息を飲んだ。
 その瞳に、大粒の涙が浮かぶ。



戦士「――――――会いたい」


709 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:10:11.92 ID:uAQKxthS0












戦士「勇者に会いたい。勇者に会って、普通の人間として二人で生きていきたい」










710 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:11:03.94 ID:uAQKxthS0
 ――――瞬間、世界が輝いた。
 その様子は、かつて『宝術』が発動した時に似ている。
 大地から立ち昇る光は、まるで世界全体が輝きに満ちているかのような錯覚をその中に居る者に与える。
 しかし光の強さがかつてとは桁違いだ。
 周囲の景色はもはや白銀の一色で塗りつぶされ、視認できるのはかろうじて自分自身の体のみ。

戦士「――――あ」

 戦士の目の前で、中指にあった『死者の指輪』が、高熱に焼かれた木くずのように灰と化した。
 涙が溢れる。
 歓喜に震え、戦士は己の肩をかき抱く。

 ――――その手の甲に、そっと重ねられる手があった。

 どくん、と心臓が跳ね上がる。

 ごくり、と戦士は息を飲みこむ。

 ゆっくりと―――戦士は後ろを振り返った。

711 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:12:01.86 ID:uAQKxthS0

















勇者「………よう」











712 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:13:52.64 ID:uAQKxthS0
 抱きしめた。
 言葉も出なかった。
 涙は滝のように溢れ、嗚咽が怒涛の如く込み上げた。

戦士「えぐ、うぐ、ふぅ、う、うぅぅ〜〜〜!!!!」

勇者「ごめんな。ずっと辛い思いをさせちまった」

 戦士は勇者の胸に顔を埋めながら、ううんと首を横に振る。

光の精霊『感動の再会に水を差すようで申し訳ないが、少しいいかな。戦士』

 光の精霊の声が響く。
 ぐしゅ、と鼻をすすり上げて、戦士は勇者の胸から顔を上げた。

光の精霊『実はね、先ほどは不可能など無いと嘯いてみせたが、遠い過去に死んで、魂すら失せた人間を今更生き返らせることなど、いくら今の私でも出来ないのだよ』

光の精霊『通常は、だがね』

光の精霊『それが可能となったのには理由がある。要はだね、勇者の魂は消えることなく君の傍らにあったのだ。魂が今もなお存在していたからこそ、私は願いを叶えられた。なにしろ肉の器を用意するだけでいい。その程度であれば今の私の力なら容易いものだ』

 光の精霊の言葉の意味を理解した戦士は、目を大きく見開いて勇者の顔を見上げる。
 勇者は照れたように、あるいはばつが悪そうに、ぽりぽりと頬を掻いてはにかんでいた。
 戦士の目から、ぽろぽろと大きな涙が次から次に零れ落ちる。

戦士「ずっと―――ずっと傍にいてくれたのか。今までずっと……ずっと――――!!」

勇者「だって、お前ときたら、本当に俺の為だけに生きてるんだもんな。途中でお前が俺のことを忘れて他の奴になびいてたりしたら、俺もこう、気兼ねなく成仏的な感じになろうと思ってたのに――――」

 ―――――勇者の言葉は戦士の唇で遮られた。
 最初は驚きに目を見開いていた勇者も、やがて目を閉じ、戦士の体を抱きしめる。
 長い間、二人は互いの体を強く抱きしめたまま、口付けを交わしていた。

713 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:14:47.13 ID:uAQKxthS0







「子供を作ろう――――たくさん、たくさん子供を作ろう」




「幸せになろう―――――今まで歩んできた道のりに比べたら、ほんの短い、一瞬のような時間かもしれないけれど、精一杯幸せになろう」






714 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:15:44.23 ID:uAQKxthS0







 二人は寄り添いあって、これまでのことと、これからのことを話し続ける。




 時折、思い出したように口付けを重ねながら。





715 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:16:46.68 ID:uAQKxthS0





 これにて、彼と彼女の長きにわたる物語に幕を引く。



 那由他の時の果てに、彼らは遂にめぐり逢った。



 永劫に渡る暗闇の道を踏破した、彼らの不屈の魂に喝采を。



 そして―――――――これから歩む、二人の未来に祝福を。









716 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:17:48.49 ID:uAQKxthS0















勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」




 ―――――以上、完全終了。



717 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 20:19:47.21 ID:oR1kwtCT0
718 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 20:19:52.03 ID:YJYdW6wwO
途中でレス挟んで申し訳ない。
改めて言わせてください。最高でした
719 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:20:23.50 ID:uAQKxthS0
というわけで、終わりです

演出なども色々頑張ってみたつもりですが、いかがだったでしょうか?

コメント、乙をくださった皆さんのおかげでやりきれましたよ〜

特に最初からずっとコメをくれてた方には感謝してもしきれません

三年間、見捨てずに見てくれて本当にありがとうございました!!
720 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:21:52.69 ID:uAQKxthS0
>>718
いえいえ、お気になさらず

読んでくれてありがとう
721 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 20:24:47.84 ID:RBIXGmx60
乙でした
切ないラストで終わっちゃったと思って泣きながらコメしたら続きがあって感激した。こんなどんでん返しラストかい…
凄すぎるよ。本当にお疲れ様です!本当にありがとうです!
722 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 20:29:39.12 ID:SKIi1To70
乙。
期待を遥かに超える最終回だった。
待ってたかいがあった。
723 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 20:31:11.21 ID:oR1kwtCT0
最高に面白かった!
特に騎士との戦いとかほんと良かった。
改めて乙です!
724 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 20:37:39.87 ID:HNsEy8QEo
バッドエンドだけど仕方ないかな、と思ってたら…
最高のSSでした!3年間本当にお疲れ様でした!
725 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 21:17:15.96 ID:iF0c+y3X0
綺麗なオチだった
結局人間は大衆は利己的な行動を取り続けたが故に滅んじゃったんだな…
726 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 21:44:30.10 ID:Vkh0iqipo
乙乙
この読み応えはアルファベット以来だった
3年間追っててよかったー
727 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 22:25:51.30 ID:JTj/PRpco
おつでした
728 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 22:44:18.64 ID:WxOQDlfyo
狂おしいほどに乙
729 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 22:44:45.69 ID:S4CHzBhG0
おつでした!!
勇者の長い長い旅が戦士と一緒になることで終われて本当によかった!戦士も報われてよかった…いいラストでした!
完結は嬉しいけど寂しいから、この後も1か気になるところは加筆修正となして欲しい
本当におつでした
730 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 23:01:45.39 ID:+DFOs4+BO
やべぇ最後泣いたわ…よかった、ハッピーエンドでほんとによかった

凄く良かった
1よ、3年間楽しませてくれて本当にありがとう!
731 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 23:07:16.76 ID:iF0c+y3X0
クッソ下手で申し訳ないけどどうしても描きたくなってfa描かせてもらいました!
https://i.imgur.com/yjNnWne.png
本当に今まで読んできた物語の中で五指に入る名作でした!このssに巡り会えて本当に良かった
732 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/04(土) 00:20:01.43 ID:t4zEPA1v0
うわああああああああああおわったああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!盛大に乙!!!!!!最高だった!!!!!!!!
733 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/04(土) 00:31:14.34 ID:K1eGm02xo
長い旅路の果てに乙
734 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/04(土) 00:37:32.69 ID:ERE8ywCt0
もうまとめられてるね
しっかり余白とかカットされずにまとめてることに感謝だ
735 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/04(土) 02:07:19.16 ID:93zKM9Plo
本当に乙…!!
正直VS騎士を見たときあまりにも熱い戦い過ぎてここがピークだここで終わるべきなんじゃとか思ったんだけどそれを遥かに上回る面白さ予想を上回る展開に本当に楽しませて貰った
初めて出会った未完ssが3年の月日を経て完結したことに本当に感動してる
この作品に出会えて良かったありがとう

いくらでも感想書けそうだけど長すぎるんで自粛します重ね重ね乙!
736 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/04(土) 06:50:46.39 ID:xQv3SkRYO
感動した
もう言えるのはそれだけだわ
737 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/04(土) 08:31:34.34 ID:oiEeMIEno

これは実に良い物語でした
738 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/04(土) 08:57:40.45 ID:71dtCEdwO
過去作に元ネタわかるSSが一つもない…ぜひまた勇者物かオリジナル書いてくれ
739 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/04(土) 10:32:23.58 ID:N3//x3zn0
勇者のいない戦士のその後見て驚愕……現代日本とは……。

勇者の父親の血筋について何かほのめかしてたように見えたけど、あれは結局なんだったのかなあ。
とりあえず乙!面白かった!
740 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/04(土) 22:57:26.82 ID:Mdh8WUvz0
乙、非常に読み応えがあって面白かった
741 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/04(土) 23:05:51.10 ID:cRH1dkrMo
HTML化依頼まだ出してないっぽい?
742 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/05(日) 07:58:10.09 ID:nomxXCWB0
本当に面白かった
でもやっぱり騎士が大魔王に挑まなかった理由が気になるなあ
743 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/05(日) 08:13:40.64 ID:3UT3WA5G0
>>742
騎士「つまり――――そっちの方が面白そうだったから、だ」
744 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/05(日) 15:09:10.89 ID:bS53fc1Io

リアルタイムでずっと追い続けて本当によかった本当に心から乙です
本当にただただ乙でした最高でした
745 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/05(日) 21:14:31.98 ID:b/94U51RO
乙!長い事楽しませて貰った
746 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/06(月) 18:56:01.37 ID:XhEObYCP0
たまたま見つけたこのssがこんなに長編になるとは思ってなかった。まじ面白かったわ完結おめ
747 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/07(火) 00:59:25.68 ID:AVXhUHZ7o
本当に乙でした!
俺が読んで来た中で間違いなく一番の作品です
748 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/07(火) 11:43:41.69 ID:IO+cYn6U0
騎士の葛藤は日本の自衛防衛についての示唆か?
また断罪装置に関しては沈黙の艦隊を思い出した。
それにしてもほんと良SSでした!
749 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/09(木) 15:36:54.75 ID:lmCTzhq9O
数日前に見つけて一気に読んだ
今まで見逃してたのが不思議でならない
素晴らしいSSをありがとう
3年間お疲れ様でした
750 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/23(木) 01:22:17.12 ID:XvO2v+8bO
今日一気読みして来た
もう>>1も見てないかもしれないけど感謝の念を伝えたい
文句なしにあらゆるssで最高傑作だよ
こんな素晴らしい作品をありがとう
751 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/23(木) 15:12:31.49 ID:+NovRAbJO
お疲れ様でした。もっと言いたい言葉があるはずなのに言葉になりません。そのくらい衝撃な感動でした。繰り返しになりますが三年という長い間本当にお疲れ様でした。
752 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/02(火) 01:42:23.80 ID:MKIj349wo
長く乙言えなかったけど今更ながらおつんつん!
またがんばってな
753 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/05(金) 01:22:37.01 ID:6eLG2VkuO
今更だが見つけてイッキ読みした
最高に面白かった
754 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/06(水) 20:36:17.45 ID:HQU7EfNfo
すげぇ面白かった、おつ
755 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2023/06/24(土) 01:36:50.37 ID:qXPgJMxx0
よかった
756 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2023/07/20(木) 03:47:02.95 ID:aKS4++Bg0
これだけの大作をエタらないで書き上げてくれた作者さんにたくさんの感謝と労りを
まとめ管理人さんにも感謝おかげで作品に出逢えた
勇者と戦士には永久に幸せで健康で楽しくこの楽園で暮らしてほしい
757 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2023/07/20(木) 03:50:34.95 ID:aKS4++Bg0
これだけの大作をエタらないで書き上げてくれた作者さんにたくさんの感謝と労りを
まとめ管理人さんにも感謝おかげで作品に出逢えた
勇者と戦士には永久に幸せで健康で楽しくこの楽園で暮らしてほしい
758 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/07/21(金) 09:24:36.95 ID:U3xnsamz0
死体蹴りまでして言うことか?
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