勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編

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618 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 23:49:25.10 ID:nFtkUw1uO
ぱらすと
くらす
619 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/01(金) 11:39:24.73 ID:1Ra9XN3jO
わくわく
してる
620 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/01(金) 11:51:23.69 ID:Xhs7r51Mo
べねろぺ
くるす
621 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/02(土) 10:11:36.02 ID:G6JnVIavO
ぺろぺろ
なめる
622 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/03(日) 22:22:27.06 ID:py456L/90
まってる
いまも
623 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/10(日) 04:25:35.59 ID:irX6ciHK0
今日こそくるかな…?
624 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/10(日) 18:14:02.66 ID:Nw5kVm3IO
いつまでも待つよー
625 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/17(日) 22:56:03.87 ID:nz21bom+0
こにゃにゃちわー
626 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/19(火) 01:42:43.92 ID:Bl40M0PW0
2017.11.3で丸3年
それまでに完結できるかな
627 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/19(火) 03:26:18.94 ID:9X0WJMMxo
>>626
急かしてもしょうがないし、俺は>>1の書きたいようにして欲しいと思ってる

完結はして欲しいが
628 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/19(火) 10:49:38.54 ID:lOl5buAVO
クオリティを維持して書いてくれるのが一番嬉しいからじっくり煮詰めて作者さんが納得できる内容で投下してほしい

俺はいつまでも待つ
629 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/21(木) 02:01:22.98 ID:coSzobIE0
わたしま〜つ〜わっ
630 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/21(木) 03:54:27.22 ID:9IwMAyQB0
いつまでもまーつーわっ
631 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/25(月) 01:37:10.48 ID:TvIpqrIW0
日曜日 毎週ここに きてがくり
632 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/25(月) 11:54:29.29 ID:eCB3RYkA0
なんだage荒らしか
633 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/01(日) 00:39:40.06 ID:O0PeR8qD0
今年中には来るかな?
634 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/10(火) 03:02:59.14 ID:rMYs8FzC0
8月中には更新します(今年の8月とは言ってない
635 :1です [sage]:2017/10/17(火) 18:38:47.73 ID:69W6nJ2Q0
>>634
ぐふっ…面目ねえ…面目ねえ……
あと少しだけお待ちくだせえ……
11月3日…丸三年経つまでには何とか……!
636 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/17(火) 19:27:23.84 ID:Q5wdCRAA0
忙しいときは2ヶ月に1回の保守の書き込みしてくれりゃ落ちないから頼むぞ
637 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/17(火) 22:05:54.62 ID:/o/2iyQ+0
>>635
うおお!生存報告だけでもありがたい!
どうでもいいけどこのss読み始める頃にはまだ学生だったのに今じゃ社会人なのは感慨深い
638 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/18(水) 00:11:39.26 ID:2jR8OWo8O
待つよ
639 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/18(水) 01:52:56.00 ID:CjahGib80
まつ!!
640 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/18(水) 08:41:39.72 ID:u64BqXDwo
もちろん待つよ
641 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/19(木) 19:50:24.69 ID:bskH5GU40
最終章ラストを目前にして読み直してみたがとんでもねぇストーリーだな改めて思う
凄すぎるよリアルタイムで読めたことを光栄に思うよ
642 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/28(土) 23:32:53.66 ID:rR8D/t7h0
今日もこないかあ…
どうでもいいけど、この勇者何処と無く横島くんっぽい
643 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/29(日) 00:21:29.74 ID:JCKqljucO
11月3日の3周年は祝日やな
お祝いしよう
644 :1です [saga]:2017/10/30(月) 19:05:48.46 ID:X1ID+g1h0
目処が立った…目処が立ったぞ……!

丸三年かかってしまったけど、11月3日、完結します!
645 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/30(月) 19:19:34.35 ID:2hdhU/0Wo
おおおおおおおおいわああああああああああああい
646 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/30(月) 19:22:29.60 ID:XjlNOC2ao
(゚∀゚ 三 ゚∀゚)
647 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/30(月) 19:35:54.59 ID:CT3COYoPO
やったぜ
648 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/30(月) 19:50:46.25 ID:FP+IuOA3O
キター!!!
649 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/30(月) 19:55:21.22 ID:nDieHJFDo
やったぜ
650 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/30(月) 21:07:24.67 ID:aSQNH06uO
うおおおおおおおおお!!!!!!!
651 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/31(火) 02:07:51.56 ID:yWpJkGT30
おおおおおおおおお(泣

うわああああああああ!
嬉しいけど終わるの悲しい
652 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/31(火) 08:33:18.59 ID:qsJXtJHg0
寒いから薄着待機して待つ!
653 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/31(火) 08:43:37.48 ID:l6MfoZIco
キタァァァァァァァァ
654 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/31(火) 13:04:57.87 ID:twebUpqUo
マジか!!!!!
655 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/01(水) 00:17:19.47 ID:70X6RJz20
うぇ?うぇぇええええええええいっ!うぇいうぇい!
656 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/01(水) 08:13:29.98 ID:eoh/mpFj0
俺「うえいあおぇあああああああああああああああああああ!!!!!!」
657 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/01(水) 19:37:13.95 ID:70X6RJz20
>>656
僕「なんやこいつ…」
658 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/01(水) 20:08:01.03 ID:oXRzz/JA0
>>656
獣王「懐かしいわ」
659 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/02(木) 00:52:45.49 ID:FWg7IRBqO
>>656
そのシーンすげぇ好き
660 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/02(木) 11:25:22.68 ID:2+n2CiQkO
さて、明日に備えて最初から読み直してくるか
661 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 01:00:16.79 ID:iF0c+y3X0
いよいよ終わっちまうのか…少し悲しいな…
662 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 01:54:43.55 ID:xAx1+w5n0
婆さんや、投下はまだかのう
663 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 02:43:38.32 ID:RBIXGmx60
とりあえず3周年おめでとう!
664 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 02:58:54.10 ID:b990MdY6o
このssはここに来て初めて読んだ話だな
この3年間色んな所でssを読んだけどこれが一番面白いよ
完結寂しいけど最後まで頑張れ!
665 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:17:34.54 ID:uAQKxthS0
1です

今回は故あってトリップ付き

最後の投下を始めます
666 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:18:11.03 ID:uAQKxthS0







 ―――――三十年後。







667 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:18:47.13 ID:uAQKxthS0
 ――――雲一つない青空。
 一面に広がる黄金色の小麦畑。
 涼やかな風がたわわに実った穂を揺らした。
 荷台にくくられた馬は、たてがみを靡かせながら街道沿いでのんきに草を食んでいる。

「んしょ。んん…!」

 小麦畑には、うんうんと唸りながら収穫作業を行う二人の少年の姿があった。
 二人とも顔立ちがよく似ている。きっと兄弟なのだろう。
 年の頃は―――兄が10歳ほどで、弟はその二つか三つ下といったところだろうか。
 二人とも額に汗をかきながら一生懸命小麦を掴み、鎌を振るっている。
 ふと、ごろごろと雷の音が聞こえて、弟は空を見上げた。
 天気は変わらず快晴で、雨雲らしきものはひとつも見当たらない。
 弟は怪訝に思って周りを見回すが、兄も、少し離れたところで作業をしている父も雷の音を気にした素振りは見せず、急な雨を警戒する様子もない。

弟「……?」

 首を傾げる弟だったが、すぐにその疑問は彼の頭から消えた。
 道の向こうに、彼の敬愛する祖父の姿を見つけたからだ。

弟「うわあ〜! じいちゃん、すっげえ〜!!」

 弟も兄も、実に子供らしく大はしゃぎで声を上げた。
 彼らの祖父は、なんと2m四方に及ぼうかという小麦の束を担いできたのだ。
 重さは500s以上あろう。
 およそ人が持ち上げられる重さではない。いわんや、担いで歩こうなど。

兄「俺も早くじいちゃんみたいに力持ちになりたいなぁ〜」

 兄が無邪気に願いを口にした。
 荷馬車の荷台に収穫した小麦を下ろしながら(それは片腕で抱えられるほどの量で、精々2〜3s程度だ)、父は苦笑して言った。

父「じいちゃんみたいには無理だよ。あの人は、ちょっと特別だからな」

弟「とくべつ?」

 弟が聞き返した。

父「ああ、特別だ。なんせあの人は、大魔王を打倒してこの世界に真の平和をもたらしたあの勇者様のパーティーの一員だったんだからな」

668 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:19:29.38 ID:uAQKxthS0


 ―――この平和な世の中に、魔物の姿はもはや無い。


 つまりそれは、『精霊の加護』という現象の消失をも意味していた。


 土地を害する魔物が姿を消した今、精霊が人間に力を貸す義理はない。


 さりとて精霊は個々人に既に与えられていた加護を殊更に取り立てるような真似もしなかった。


 この世界にわずかに残る、その身に精霊加護を宿した人間は、治水工事や農地の造成、その他都市建設などの分野において大いに活躍した。


 しかしながら、更にあと三十年も時が経過すれば、加護を持つ人間はこの世に一人もいなくなるだろう。


669 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:20:14.16 ID:uAQKxthS0



 かつて勇者が断行した武力の根絶により徴兵制が廃止になり、多くの人材が野に下ったことで人々の生活文化は目覚ましく発展した。


 例えば、元兵士であった者の多くは冒険家となり、世界各地を探検した。


 その結果、これまで人類未踏の地とされていた地域が次々と開拓され、新種の動植物や鉱物が数多く発見された。


 国家による過度な徴税が禁じられ、衣食住に余裕が出来たことで研究に没頭できる学者も増えた。そういった者たちの手によって前述の新しく発見された動植物、鉱物の研究は進み、様々な利用法が開発された。


 また、探検・開拓が進んだ副産物として、地図の精度が格段に向上したこともこの三十年間の特徴の一つと言えよう。


670 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:20:49.87 ID:uAQKxthS0



 生活水準が向上し、医療技術も発展したことで世界人口はどんどんと増加していた。


 増加する人口を賄うため、土地開拓は進み、人々の生活圏は広がっていった。


 開拓の拠点として集落が生まれ、多くの人の交流点では街が発展する。


 そうして目まぐるしく進む開拓の中で、国境線はあやふやになりつつあった。


 いつか人類は、境界線をめぐって隣人と争いを起こすことになるかもしれない。


 しかし今のところ、世界は確かに活気に満ちていて、人々は熱気に溢れていた。


671 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:21:32.60 ID:uAQKxthS0

「ああ……確かに、世界は平和で、人々は幸せなのだろう。だがな……」

 背負っていた小麦を下ろし、汗をぬぐって初老の男性は―――かつて勇者と共に旅をした男―――武道家は、ぽつりと呟いて空を見上げた。
 澄み渡る青空の下にありながら、武道家の顔は暗い。
 それはきっと、収穫作業の疲れだけが原因ではなかった。
 雲一つない青空に、遠雷が響いている。

武道家「お前の幸せはどこにある? お前は今、笑っているのか? ――――勇者」

 今もどこかで、平和維持のための断罪装置として彼はその力を振るっている。
 ふぅ、と武道家は深く長くため息をついた。

672 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:22:25.48 ID:uAQKxthS0
 港町ポルトでは、近年になって実用化された蒸気機関を搭載した船―――『蒸気船』が盛んに行き交っていた。
 その船の一つから、港町ポルトに降りる影がある。
 肩のあたりで切り揃えられた水色の髪。
 優しいまなざしに、老いてなお瑞々しく張りを保つ豊かな胸。
 かつての勇者パーティーの一人―――――僧侶だ。

「相変わらず若々しいわね。羨ましいわ」

 僧侶を出迎えたのは、腰まで伸びた艶やかな黒髪が特徴的な女性。
 かつてこの地で僧侶の友となった『黒髪の少女』だ。
 この少女も美しく年を重ね、今はもう『黒髪の貴婦人』といった様子だ。

僧侶「あなたこそ。相変わらず素敵な黒髪ね」

 笑みを浮かべ、言葉を交わした二人は肩を並べて歩き始めた。

僧侶「この町も相変わらずね。素晴らしい活気だわ――――お仕事は順調?」

黒髪の貴婦人「ええ、とても。この町が想定外のスピードで発展を続けるせいで、家の仕事はもうてんてこまいといったところだけど、それも嬉しい悲鳴として享受しているわ」

僧侶「お手紙が少なくなったのは寂しかったけれど、それもお仕事が順調な証だと喜んでいたわ。あなたが仕事を継いで、今やご実家はこの町最大手の商会にまで発展したものね」

黒髪の貴婦人「私に商才があったなんて、我ながら意外だったけれど。お手紙の返事が遅くなったことは本当にごめんなさいね。お詫びに今日は美味しいケーキを御馳走するわ」

僧侶「あら、それは楽しみ」

 三十年―――彼女たちはあれからずっと親交を深めてきた。
 近況を報告し、悩みを共有し―――――互いを導きあってきた。

僧侶「……旦那さんとは、うまくやってる?」

黒髪の貴婦人「ええ、とても……こんな私をずっと愛してくれて……本当に、ありがたいことだわ」

 仲睦まじくケーキをつつき、和やかに談笑していた二人だったが、いつしかその顔は神妙な面持ちになっていた。
 きっかけはきっと、さっき遠くで聞こえた雷の音。

黒髪の貴婦人「幸せにならなくてはならないと思った。あの人が平和にしてくれた世界で、幸せになる努力を怠ることはひどい裏切りだと思った。そう思ったから、二十年前に夫のプロポーズを受けた」

 黒髪の貴婦人は、かつての『黒髪の少女』は、きゅっと唇を引き結ぶ。

黒髪の貴婦人「けれど私は未だにあの人を吹っ切ることが出来ずにいる。この遠雷の音を聞くたびに胸がぎゅうと締め付けられる思いがするわ。そんな私を、夫がどんな思いで見ているのか……とても不安だわ。とても不安で、とても申し訳ない……」

僧侶「いいのよ」

 黒髪の貴婦人に、僧侶は柔らかな笑みを向けた。

僧侶「私たちは人間で、ましてや女なんだもの。感情を完全に整理することなんてできないわ。大事なのは、今確かにある想いを見失わないこと。旦那さんのこと、愛してるんでしょ?」

黒髪の貴婦人「もちろんよ。それだけは断言できるわ。でなきゃ、体を許して子供を産むなんてことするものですか」

僧侶「ならいいの。女なら誰だってたまには甘やかな初恋の記憶に浸りたいものよ。あなたが特別なことなんてな〜んにも無い」

 胸を張ってそう断言する僧侶に、黒髪の貴婦人はくすりと笑顔を見せた。

黒髪の貴婦人「本当に強い人ね。あなた、昔っからちっとも変わらないわ」

僧侶「うふふ。こう見えても私、世界で二番目に強い女よ? それに、もう六人も孫のいるおばあちゃんなんだから! 強くなきゃ、やってられませんっての!」

黒髪の貴婦人「そうそう。実はね、私も来年にはおばあちゃんになるのよ」

 僧侶は目を丸くする。
 黒髪の貴婦人は悪戯っぽい笑みを浮かべた。

僧侶「うわぁ〜!!!! いつ!? 予定日はいつになるの!? 私絶対お祝いに行くからね!!」

 まるで我が事のように喜び、僧侶は肩を弾ませる。
 机の上のケーキはまだ半分以上残っている。
 淑女二人のお茶会はまだまだ終わりそうにない。

673 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:23:09.91 ID:uAQKxthS0
 『第六の町』の西に位置する大森林。その奥深くに存在する『エルフの里』。
 エルフの里も、この三十年で大きく変わりつつあった。
 魔王との決戦の際の共闘がきっかけで、人間との共存の道を探ろうという気運が高まったのだ。
 このエルフの歴史の大きな転換点を迎えて、エルフの長老は長の座から身を引き、年若いエルフの少女が新たな族長となった。
 新たな族長となったエルフの少女が元々人間に対してかなり好意的であったことも手伝って、エルフと人間の交流は進み、エルフの里の存在は公になりつつあった。

エルフ少女「ああ〜もう! 人間滅ぼしちゃおっかなぁーー!!!!」

エルフ少年「うわぁ!! いきなり何言ってんだ姉ちゃん!!」

 椅子の背もたれに思いっきり背を預けながら両手両足を伸ばし、新たな族長、『エルフ少女』は叫んだ。
 族長補佐という立ち位置についたその弟、『エルフ少年』はその突飛な発言にただただ目を丸くするばかりである。

エルフ少女「…………ダメか〜。二十年くらい前まではこれ言うと目の前に飛んできてくれたけどな〜。もう相手にしてもらえなくなったか〜」

エルフ少年「そりゃおんなじ手口を何年も使ってりゃあそうなるよ。ってか、姉ちゃんそのうちマジで裁かれるぞ。あの手この手で勇者様を呼ぼうとして……」

エルフ少女「だぁって彼ったら全っ然こっちに顔出さないんだもん。こっちから行こうにも居場所全くわからないし……ここまで世界開拓が進んだこのご時世で、未だに影も形も掴めないなんて信じられる?」

エルフ少年「簡単に手が届く場所に居ちゃ、威厳が損なわれる。そう考えてのことじゃないかな。もっともあの人の場合は、どこにでも現れすぎて逆にどこにいるのか分からなくなっちまってるパターンだと思うけど」

エルフ少女「……ほんとに、どうしてそこまで自分を犠牲にしちゃえるんだろうね。ずっと一人で、孤独に役割に徹して……馬鹿だよねえ、ホント」

エルフ少年「……姉ちゃん」

エルフ少女「いくらエルフが人間より長生きだって言ったって私の寿命は精々あと150年程度……永遠を生きる彼には到底寄り添うことは出来ない。ならばせめて、私は私に出来ることで彼の手伝いを―――なんて、柄でもない族長なんて立場を引き受けちゃったけどさ」

エルフ少年「……正直、ちょっと意外」

エルフ少女「何がよ?」

エルフ少年「勇者様のこと、結構本気だったんだな、姉ちゃん」

エルフ少女「好きでもない男に肌を晒すほど、私は軽薄な女じゃないよ」

エルフ少年「今明かされる衝撃の事実……姉は勇者様に裸を見せていた……いや、それを何で今更弟に言うんだよ……リアクション困るよ……」

エルフ少女「結局あれからいい男も見つからずに三十年間も独り身のまま!! あ〜あ、族長なんて辞めて婚活の旅に出ようかな〜」

エルフ少年「焦るなよ。俺だってまだ独り身だ。今みたいにエルフの発展の為に頑張っていれば、きっとこの先いい出会いもある」

エルフ少女「う〜ん……今から10歳くらいの杜氏の子を探して手をつけちゃおうかしらん」

674 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:24:06.04 ID:uAQKxthS0
「長、ご報告が」

 固い声が部屋の中に響いた途端、それまでの弛緩した空気は一気に打ち切られた。
 報告を聞いたエルフ少女とエルフ少年の二人は、真剣な面持ちのまま視線を交わらせた。

エルフ少年「……今年に入ってもう五回目だ。人間たちが取り決め以上の量の木々を伐採している」

エルフ少女「……若い衆を何人か集めて、現地に向かわせて。出来るだけ口が達者な者がいい」

エルフ少年「腕の立つもの、じゃなくてか?」

エルフ少女「武力による排斥は絶対に禁止だ。それをすれば、現在狩りのためとして最低限所有を認められている武具すら取り上げられる可能性がある。それだけならまだしも、私たちエルフそのものが粛清の対象になる可能性だって……」

エルフ少年「――――絶対中立の制裁装置、か。やれやれ……俺も現地に行くよ」

エルフ少女「ごめんね。お願い」

エルフ少年「人間は、数を増やして、ただでさえ薄かった精霊信仰の意識がますます希薄になってきてる。そこあたり、俺たちの言葉が伝わってくれればいいんだけどな……中立の神様にも」

エルフ少女「………」

 エルフ少年が立ち去り、一人になった部屋でエルフ少女はひとつ大きく息を吐いた。

エルフ少女「いや〜、平和ってのも大変だね、こりゃ。最近は竜神ちゃんとこのアマゾネスも色々大変だって聞くし……」

 いつもの明るい調子ではなく、ほんの少し疲れを滲ませた笑みをエルフ少女は浮かべる。

エルフ少女「人間なんて滅ぼしちゃおっかな……なんて、私が本気で口にしたとき、果たして君は――――」

 ぶんぶんと、エルフ少女は大きく頭を振った。
 ぱん、と両手で頬を叩いてエルフ少女はニカッと笑う。

エルフ少女「ま、君も頑張ってるんだ。私だって、やれる限り頑張らなきゃだ!」

 殊更に明るい声で、自分を鼓舞するようにエルフ少女は言った。
 どこか遠くで、どことも知れないところに落ちる雷の音が聞こえた。

675 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:24:45.33 ID:uAQKxthS0
 大陸南端に位置する霊峰ゾア。
 その山頂で、空を走る遠雷を苦々しく睨みつける影があった。

竜神「勇者よ。貴様がアマゾネスの試練を禁じてから、より良き子種の選別が出来なくなった我が子らは確実に力を弱めておる。種族として、弱体化の一途をたどっておる」

 銀色の鱗が雷光を反射する。
 唸りを上げる竜神の口からは、鋭い歯がこぼれ見えている。

竜神「貴様は我らアマゾネスの風習に手を突っ込んだ。我らアマゾネスの在り方を捻じ曲げた。結果がこれじゃ」

竜神「貴様の前でとても竜の神などとは名乗れぬ無様を晒した儂じゃ。今は従ってやる。しかし言わせてもらうぞ。聞こえておるのじゃろう?」

竜神「貴様は力をもって我らを管理する。貴様の価値基準に則って、有無を言わさず」

竜神「我らはこのままではいずれ滅ぶ。人との融和は我らの種としての優位性、独自性を失わせ、アマゾネスという種は緩やかに死へと向かっておる」

竜神「はてさて、貴様、何様のつもりじゃ?」

竜神「貴様にとって、我らは滅ぶべき悪であると、そういうことか?」

竜神「貴様が儂らをそう断じるのであれば、儂らにとって貴様は―――――」

676 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:25:35.39 ID:uAQKxthS0
 勇者の故郷、『始まりの国』。
 もっとも、当時の国家は解体され、今は名を変えているが―――そこに、ひとつの墓があった。
 墓に刻まれている名前は、もはや世界の誰もが知っているもので。
 つまるところ―――世界を救った勇者、その母の名前がその墓には刻まれているのであった。
 『伝説の勇者の息子』を正しく育て導いた者として、『聖母』と崇められすらした女性の墓前に、武道家の姿があった。
 武道家はこうして足繁くこの墓に通い、その維持管理に務めている。
 それは、本来それをすべき彼の役目を肩代わりするかのように。

武道家「……こうしてここに来るたび、あなたの死に顔を思い出します。とても満ち足りた、悔いなど欠片もないような顔……」

武道家「人々はあなたを讃えました。実際、あなたは正しかったんでしょう。あなたが居なければ、きっと今の世の平和は無かった」

 墓前に花を添え、武道家は黙とうする。
 深くしわの刻まれた目が、ゆっくりと開いた。

武道家「だけどね……俺はやっぱりアンタを許せない。どうしてこんなことになっちまったんだって、いつも思っちまうよ……おばちゃん」

 そう言って立ち去る武道家の脳裏に浮かぶのは、勇者の母が死んだ日のこと。
 死ぬ間際に、勇者の母が口にした言葉。

『ああ、勇者……私たちの息子……私はあなたを本当に誇りに思います……』

 武道家は親指で目元を拭う。
 目頭が熱くなったのは、悲しみからでも、ましてや感動からでもない。
 煮え滾りそうになる感情を武道家は努めて押し殺す。

武道家(―――どうして、どうしてたった一言―――――)





 もういいのだ、と―――――あいつに言ってやらなかったのか。



677 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:26:22.26 ID:uAQKxthS0
 世界の中心、地球のへそというべき場所に存在する『世界樹の森』。
 常人では決して到達することの出来ない、その森の最奥に勇者はいた。
 膝ほどの高さの岩に腰かけ、目を閉じて瞑想している。
 傍には半ばで折れた精霊剣・湖月が打ち捨てられていた。
 伝説剣・覇王樹も血錆に塗れ、かつての輝きを失い、今はもうただの鈍らと化して転がっている。
 だけど、それで別に問題は無かった。
 今の勇者には剣など必要ない。
 なにせ今の勇者は腕の一振りで何十もの人間を同時に肉塊と変えてしまえるほどの膂力を備えている。
 ぴくり、と勇者の肩が震えた。

勇者「……少し、眠ってしまっていたか」

 そう呟き、勇者は目を開けた。
 勇者の目の下には色濃く隈が刻まれているけれど、三十年の月日で勇者の顔にあった変化と言えば逆にそこくらいのものだった。
 光の精霊の言葉の通り、勇者は老いることなく、かつての姿のまま今を生きている。
 勇者は腰に下げていた水筒を手に取り、ぐい、とあおって喉を潤した。

勇者「……疲労感が強いな。もう少し、休む必要があるか……」

 勇者は不老ではあっても不死ではない。
 命の理すら捻じ曲げる大量の精霊加護によって、勇者の体は物理的なダメージや病魔を跳ねのけることが出来る。
 出来るが、それだけだ。
 飢えれば死ぬし、寝なくても死ぬ。
 蓄積された疲労によって体調も悪くなる。
 備蓄していた食料に手を伸ばすために立ち上がろうとした勇者の足ががくりと崩れた。

勇者「ふ、ふふふ……」

 勇者から自嘲の笑みがこぼれる。

勇者「たかだか三十年だぞ……これからあと何年この状況が続くと思ってんだ。気合い入れろ、馬鹿野郎……」

 がつんと己の膝を殴りつけ、勇者は立ち上がる。
 干し肉を噛み、水筒をあおって無理やり喉の奥に流し込んだ。
 そこで、勇者ははたと気づいた。

678 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:27:13.90 ID:uAQKxthS0
『気づいたかね?』

 勇者の脳裏に直接響いてくるのは『光の精霊』の声だ。

光の精霊『君ともあろうものが随分と迂闊だったな。いつもならば十里も寄れば気配を察知して即座に身を隠していたろうに。何者かに近づかれたぞ―――もはや視認することすら可能な位置にまで』

勇者「………」

 気づいていたなら声をかけてくれれば―――そう言いかけて、勇者は口を噤んだ。
 光の精霊は、勇者の生き方・在り方を面白がってちょっかいをかけてきているだけで、別に仲間という訳ではない。
 光の精霊は誰の味方もせず、誰とも敵対せず、ただ好奇心のままに動く特異な精霊だ。
 勇者は思考を侵入者の方に戻す。
 確かにお互いの姿を視認できるまでに近づかれたのは迂闊だったが、今から逃げればいいだけのこと。
 今の立場になってから、勇者は誰とも関わりを持とうとはしない。
 それはいつまでも絶対中立の装置であり続けるために。

勇者(あの人影がこちらに駆け寄ってくる十数秒の間に俺は万里の彼方まで離れることが出来る。何も問題は無い。とはいえ、この世界樹の森の最奥までたどり着くとは、並の者ではないな)

 勇者は侵入者の正体を探ろうと人影に目を凝らして、固まった。
 長く動かしていなかった心を鷲掴みにされたような気分になった。

 鷲掴みにされて、揺さぶられた。

 人影はほんの一瞬の間に、もう勇者の目の前まで迫っていた。
 完全に想定外の速度。かつ放心した虚を突かれた勇者は、その動きに碌な反応も出来ず。
 勇者はその人影にがっしりと腕を掴まれてしまった。

「ようやく……ようやく見つけた……!」

 はぁはぁと息荒く口を開いた人影の正体は金髪の美しい女性だった。
 勇者は掴まれた腕を振り払うこともせず、硬直してしまっている。
 勇者は混乱していた。
 突然目の前に現れた、年の頃およそ二十の半ばに見えるその女性は。
 かつての仲間に。
 かつての最愛の人に。
 三十年前に袂を分かったはずの。

 ―――――戦士に、とてもよく似ていた。

679 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:28:06.02 ID:uAQKxthS0
 だけど、この女性が戦士であるはずはない。
 三十年。三十年だ。
 あれからもう三十年もの月日が経過している。
 つまり戦士はもう五十歳に届こうかという年齢になっているはずだ。
 目の前の女性の年代は二十の半ばから、どんなに多めに見積もっても三十の前半だ。
 だから、この女性は戦士本人ではない。
 だとすれば、そう、この女性の正体は―――――

勇者「もしや君は―――――戦士の子供なのか?」

 ぴくり、と女性の眉が上がった。

勇者「は、はは……」

 勇者の胸中に複雑な思いが溢れた。
 けれど、様々な感情がない交ぜになって込み上げる中で、最も大きかったのは――――安堵の気持ち。

勇者「……良かった。幸せになれたんだな、彼女は……」

女性「おい…」

 眉根にしわを寄せて、女性は勇者の顔を覗き込んだ。
 勇者の目には、これ以上ないほどの慈しみの感情が満ち溢れている。

勇者「ふふ……俺に、こんなことを問う資格なんて無いんだけど……正直、気になってしょうがないな。教えてくれないか? 戦士は、君の母さんは……一体どんな奴と結婚したんだ?」

 ビシィ!と空気に緊張が走った。
 女性のこめかみに血管が浮かび上がり、ひくひくと蠢いている。

女性「おい…!」

 それは地の底から響いてくるような、低くドスのきいた声だった。

勇者「……ん? あれ?」

 様子を一変させた女性の剣幕に、勇者は恐怖を覚え後ずさりする。
 しかし腕を掴まれた勇者は逃げられなかった。
 はう、と息を飲む勇者。全身を突き抜けていくこの絶体絶命感。
 それはすごく――――――ものすごく、懐かしい感覚だった。

勇者「もしかして……」

 女性は掴んでいた勇者の手を放し、がしりと胸倉を掴みなおした。
 そして、女性はすぅ〜、と息を吸い始めた。
 吸って、吸って、吸って―――――そして。

680 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:28:50.95 ID:uAQKxthS0






「誰がお前以外の男と結婚するかッ!!!! この大馬鹿たれがぁぁぁああああああああああああ!!!!!!」





 鼓膜よ破けよとばかりに勇者の耳元で思いっきり叫んだ。






681 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:29:35.53 ID:uAQKxthS0
 キーン、と響く耳鳴りに勇者は目を回す。
 はっと我に返って、勇者は女性を振り返った。

勇者「戦士…? まさか、戦士なのか!?」

 勇者の問いに、女性は――――かつて勇者の仲間であり、恋人でもあった戦士は頷いた。

戦士「ああ、そうだ。正真正銘、私だ」

 勇者は信じられない、という風に頭を振った。

勇者「馬鹿な…ありえない。三十年だ。三十年だぞ? どうして君は、そんな若々しい姿のままなんだ? 君のもつ精霊加護の量では、寿命に影響なんて無いはずだ」

戦士「奇跡を起こすのは精霊の専売特許というわけではあるまい? 少なくともお前はそれを知っているはずだ。他ならぬお前自身がその身で味わったことなのだからな」

勇者「何…?」

戦士「『狂剣・凶ツ喰(キョウケン・マガツバミ)』。覚えていないか?」

 勇者は目を見開く。
 当然、その名前には覚えがあった。
 忘れるはずもない。
 『狂剣・凶ツ喰』。
 竜に殺意を燃やす人間の狂気が生んだ、呪いの剣。
 装備した者を不死に近い回復能力を持った狂戦士へと変貌させる―――人の怨念が生んだ、奇跡の産物。

戦士「苦労したぞ。あの時お前に拒絶されてから、私はお前と同じ時を生きる方法を探し続けた。探して、探して―――――そして、遂に見つけたんだ」

 戦士は勇者の目の前に左手を差し出した。
 その中指には、一目で分かるほど禍々しい気配を放つ指輪がはめられていた。

戦士「『死者の指輪』という。この指輪には不老不死の呪いがあり、これを装備した者は永遠に老いず、永遠に『死ねない』。一体どれほどの怨念、情念が込められればこんな馬鹿げた一品が生まれるのか……想像もつかないよな」

 戦士はそう言って悪戯っぽく笑った。

勇者「そ、そんな……」

 わなわなと、勇者は肩を震わせている。

戦士「12年。この指輪を発見するまでに12年もの時を要してしまった。だから、私の肉体年齢はお前より12年分年上になってしまったけど……まあ、自分で言うのもなんだけど、綺麗に成長できただろう? 胸も、ほら、僧侶ほどじゃないけどちょっと大きくなった」

勇者「馬鹿野郎!!!!」

 戦士の言葉は勇者の怒号で遮られた。

勇者「なんて…なんて馬鹿なことを!!!! どうして、こんな……俺は、お前に普通に幸せになってほしくて、だから、俺は……!!」

 勇者の目に涙が浮かぶ。
 実に三十年ぶりに流す、人間としての涙。
 しかしそんな勇者の様子に、戦士はふんと鼻を鳴らした。

戦士「言っておくが、この件についてお前にどうこう言う資格はないぞ。三十年前、今のお前のように叫んだ私達の気持ちを、お前は蔑ろにしたんだ」

勇者「そ、れ…は……」

戦士「いいんだ。今更責めるつもりはない。私の願いはひとつだけ。ひとつだけなんだ、勇者」

 戦士は再び勇者の手を取った。
 今度は優しく―――温もりを共有するように、柔らかく―――手を握る。

682 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:30:28.09 ID:uAQKxthS0





戦士「いつも肝心な時に私はお前の傍にいられなかった。今度こそ…今度こそ、だ」



戦士「誓うよ。私はお前の傍を離れない。私はお前を絶対に一人にはしない」



戦士「死すら、もう私達を分かつことは出来ない」




戦士「共に生きよう。今度こそ、一緒に―――ずっとずっと、一緒に」





683 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:31:34.68 ID:uAQKxthS0
 長い沈黙があった。
 そして―――ぽたぽたと、勇者の頬から大粒の涙がこぼれ始めた。

勇者「お、俺は…俺は、自分が情けない……!」

 嗚咽を漏らし、言葉を詰まらせながら、勇者は心中を吐露する。

勇者「本当は駄目なのに……俺は独りでなくてはならないのに……だけど、嬉しくってしょうがない…! 戦士の気持ちが、ありがたくってしょうがない……!!」

 戦士は微笑みを浮かべ、勇者の手を引き、その体を抱き寄せた。

勇者「うぐ、うぅ…! なんて体たらく…! 何が神だ……俺は、無様だ……!!」

戦士「いいんだ。いいんだよ、勇者。ずっと、どんなことがあっても、私だけはお前の味方だ」

 ぐしゅぐしゅと、勇者は子供のように泣きじゃくる。
 戦士もまた、その目にうっすらと涙を浮かべて、勇者の頭を抱きしめた。

戦士「不死になるために12年。それからも18年もの間、お前を探し求め続けたんだ……やっと、やっとこうしてこの手で抱きしめることが出来た……!」

勇者「ごめん…! ごめんよ……戦士……!!」

戦士「ううん、いいよ……愛してる、勇者……」






 これまでの空白を埋めるように、二人は熱く抱擁を交わす。


 しかし、もう間もなく、人の世で新たに罪を犯す者は現れる。


 そうなれば、勇者は裁きの為にこの地を離れなくてはならない。


 現在、勇者は自らが生きる時間のほとんどを裁きの執行に費やしている。


 勇者と戦士、共に生きると誓っても、これから先二人が蜜月の日々を送ることはない。



 それが、絶対の罰則装置として君臨することを選んだ彼の運命。


684 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:32:36.22 ID:uAQKxthS0










 だけれども、ほんの僅か、一日のうちほんの僅か数分だけでも。


 彼が人としての幸せを享受することを、どうか許してほしい。


 それが、長い長い旅路の果てに彼に与えられた、唯一の報酬だろうから。





685 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:33:18.26 ID:uAQKxthS0






戦士「ところでお前、この三十年でまさか浮気とかしていないだろうな?」


勇者「見くびらないでほしいですぅ〜!! 僕まだ童貞ですぅ〜!! は!? まさかそういう戦士は…!」


戦士「処女だよ大馬鹿野郎!!!!」


勇者「ヒィ! サ、サーセン!」





686 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:34:24.56 ID:uAQKxthS0






 願わくは―――――少しでも長く、彼らが笑顔で過ごせる日々の継続を。





 これにて、『伝説の勇者の息子』として生を受けた、とある少年の物語は終幕とする。






687 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:38:31.19 ID:uAQKxthS0























 だから―――――ここから先は、見なくていい。









688 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:39:15.42 ID:uAQKxthS0





 物語の結末としては、これで十分だ。




689 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:40:10.92 ID:uAQKxthS0




 ただ―――――語り部の義務として、彼の人生の結末をこれから記す。


 だけど、見なくてもいい。


 知る必要はない。








 きっと―――――気分のいいものではないだろうから。


690 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:41:22.68 ID:uAQKxthS0

















































 
691 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:42:24.96 ID:uAQKxthS0






 ―――――人間は住処を作るのに森を切り開いたり川の流れを好き勝手に弄繰り回したりするでしょう?



 ―――――いつか人間は精霊様の住処を悉く奪い尽くすって、長生きのお爺ちゃんお婆ちゃん達は危惧しているんだ。






692 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:43:30.44 ID:uAQKxthS0
 彼のおかげで、世界は長く平和であった。

 平和であったから、人は増えた。

 人が増えたから、土地が必要になった。

 人は木を切り、山を拓き、川を曲げ、海を埋めて生活圏を拡大していった。

 当然に、森に生きるエルフ、山に生きる竜種などの亜人種との衝突が起きた。

 しかし彼によって彼らは平和であることを強制された―――あらゆるいざこざを、力尽くで収束させられ続けた。

 『繁栄を妨げる邪魔者』として、人は彼を嫌った。

 『人に肩入れする不公平な偽神』と、エルフは彼を憎んだ。

 人食を禁止されたこともあり、竜種は元より彼を快く思ってはいなかった。

 結果として彼は排斥された。

 その気になれば彼はその排斥に抗うことも出来ただろう。

 その力を十全に振るえば、彼に敵対する悉くを打ち倒すことが出来ただろう。

 しかし彼はそれをしなかった。


 彼に剣を向ける者達を―――――新たな『勇者』として擁立され、彼に立ち向かってくる少年を―――――彼は、どうしても薙ぎ払うことが出来なかった。


 敗北した彼は世界の果てというべき場所へと追いやられた。

 歯止めの利かなくなった人と他種族の生存競争は、その圧倒的な数の差により人が圧勝した。

 エルフや竜種などの亜人種は歴史から消え去り、人はなお一層勢力を拡大していった。

 木々は減り、山は姿を変え、精霊は眠りにつき世界から姿を消した。

 それは、あの光の精霊であっても例外ではなく。

 勇者の力の源として、世界樹の森は徹底的に破壊されてしまった。

 精霊加護を失った彼は、いつしか普通に年老い始めた。

 そして、やがて彼は病に侵され、程なくして――――普通に、死んだ。



 それは、彼によって大魔王討伐が為されてから、およそ二百年後のことであった。


693 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:44:14.18 ID:uAQKxthS0





 ―――――まるで自分は世界にとって有益だとでも言いたげだな。


 ははっ。


 笑わすんじゃねえよ―――――勇者。




694 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:45:07.07 ID:uAQKxthS0





 今際の際に、彼の耳に蘇ったのは――――いつかどこかで誰かが口にした、嘲るような声だった。




695 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:46:03.85 ID:uAQKxthS0





   Epilogue of this story.



   >> http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509262850/




696 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 18:55:48.60 ID:uvAjTAQkO
勇者に惜しみない乙を。
697 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 19:37:00.76 ID:HNsEy8QEo

戦士の登場からなんとなく既視感があったけどあのSSが続きだったのね…
698 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 20:01:38.81 ID:RBIXGmx60
丸3年ほんとうにお疲れ様でした
最高の物語をありがとう!! ラストも予想を超えてた。いいラストでうれしい
また新たな物語を書き続けてください。
楽しみにしてます!
699 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:01:40.80 ID:uAQKxthS0







   − Last episode −






700 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:02:21.78 ID:uAQKxthS0
 ポチャン、と鼻先に落ちた水滴がきっかけだった。
 久方ぶりにまぶたを刺激する陽光に、戦士は目を開いた。
 すっかり闇に慣れきってしまった瞳はうまく光を感じ取ることが出来ず、視界は白く塗りつぶされてしまっている。
 瞳が光に順応するまでの間、戦士はぼんやりと考える。
 こうやって思考を巡らせることも、ずいぶんと久しぶりだ。

 ――――この目が光を捉えるのは、一体何年振りのことだろう。

 幾百、幾千、幾万―――はたまた幾億年ぶりなのかもしれない。
 長い―――ずっと長い時間を、一人で旅をしてきた。
 一人だ。
 呪いに侵された我が身は子を成すことが出来なかった。
 食物すら拒絶する我が身に、愛する者の種など到底受け入れられるはずもなかった。
 一人で―――長い時を、不老不死の呪いを解く方法を探してさ迷い歩いた。
 しかし如何なる方法をもってしても肉体は死せず、あらゆる外法に手を出しても五体は無事で――――いつしか、心だけが死んでしまった。
 既に遥か昔のことになるが、天変地異が起きて人の世は滅んだ。
 それからはじっと目を瞑って眠ることが多くなった。
 雨が降ろうと、大地が揺れようと眠り続けた。
 砂が被さり、体が土の下に埋まってしまっても、起き上がろうとはしなかった。
 当然、息が出来ずに死ぬ。しかしこの身に宿る不死の呪いは魂を無理やりに引き戻す。
 そうして延々と繰り返される死と再生の苦悶の果てに、いつしか考えることすらやめてしまった。
701 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:03:26.63 ID:uAQKxthS0
 ようやく光に目が慣れて、ぼやけていた視界が輪郭を取り戻す。
 戦士の目の前に広がっていたのは、巨大な植物群だった。
 色鮮やかな、生命力溢れる緑、緑、緑―――――
 どうやら大量の木々が密集する密林地帯にいるようだ、と戦士は自身の置かれた状況を把握する。
 そこで気付いたが、戦士は巨大な木の根にその身を絡めとられていた。

戦士「いよ、っと……」

 戦士はその身を束縛していた木の根を引きちぎり、立ち上がった。
 地面に降り立ち、体を捻る。ぱきぽきと小気味良い音が鳴った。
 まともに体を動かすのも、随分と久しぶりだ。
 バキバキと首を鳴らしながら、戦士は周囲の様子を見渡した。

 ――――しかし、植物の力とはすさまじいものだ。

 かつて起きた、人類を絶滅に追い込むほどの天変地異は、植物界においても甚大なダメージを与えた。
 すっかり荒野と化した地上の光景を、戦士は確かに目にしている。
 それでも長い年月をかけて植物は成長し、勢力を拡げ、かくも雄大な自然の様相を再び創りあげた。
 鳥や獣の鳴き声が森の中に反響する。この森には多くの命が息づいているのだ。
 戦士はふと、自分が全裸であることに気付いた。
 まあ当然か、と戦士は思う。
 自分の知る景色から激変した周囲の状況を見るに、自身が土に埋もれてから相当な期間の年月が、それこそ少なくとも数千年規模で経過しているはずだ。
 身に着けていた衣服などとっくに朽ちて無くなってしまっただろう。
 とはいえ、人類が絶滅して久しい。
 はしたなくはあるが、今更人の目など気にする必要もあるまい。
 戦士は気にせずそのままの姿で行動することにした。
 行動―――といっても、陽光に誘われて気まぐれに起きただけだ。
 やるべきこと、やりたいこと――――どちらも特に無い。
 強いて言えば、体にへばりつく土と埃っぽさが気にはなった。
 戦士は清流を求めて密林を探検することにした。
 川はすぐに見つかった。
 川の水に身を浸しながら、戦士は考える。
 これからどうしようか。これから、何をすべきか。
 気まぐれではあるが、久しぶりに身を起こした手前、少しは行動を起こしてみようという気にはなっていた―――これも、気まぐれだが。
 今の世界の様子がどうなっているのか、歩いて見て回ってみようか。
 目の前に広がるこの雄大な大自然の姿に、死んだはずの心が少しは動かされたから。
 なにしろ、これ程の大自然はかつて自分が真っ当に生きていた時代ですらお目にかかったことはなかった。
 真っ当に、生きた時代――――今もなお色褪せることのない、輝かしい思い出。
 じんわりと、戦士の目に涙が浮かぶ。
 戦士はバシャバシャと水で顔を洗った。


 歩き続けよう―――――戦士はそう思った。


702 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:04:30.40 ID:uAQKxthS0


 世界中を歩いて回って―――――変わってしまった世界で、それでもかつての面影を探し続けよう。


 この記憶が決して色褪せないように。


 この胸に、永遠に彼らの――――彼の姿を思い描けるように。


 歩いて、歩いて、進み続けよう。


 いつか、彼のいる場所にたどりつけることを夢見て。


703 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:05:28.38 ID:uAQKxthS0
 戦士がそんな風に考えていた時だった。

『×××、××××××』

 耳慣れないが、それでも人間の言語であることは明白な声が聞こえた。
 戦士は両手で秘所を隠し、咄嗟に体を川の水の中に沈める。

『△△△? 〇〇〇〇〇』

『”’&%$#$’&%|=`{*?><!!!”#$???』

『faygfiugiuhvnaurygoahviuaga?jdfgyrwyaiyegyaugwe?』

 謎の声は連続した。
 戦士とて悠久の時を生きてきた中で、それなりに多くの言語を体得している。
 それでも、声が次々に異なる言語に切り替わっていることを掴むのが精一杯で、言葉の意味まではわからなかった。

戦士「何者だ?」

 周囲の気配を探りながら、戦士は問う。
 これだけはっきりと声が聞こえながら、周囲に人、あるいはそれに類するものの存在を一切感じることが出来ないのが不可解だった。

『――――何者だ。おはようございます。ありがとう。こんにちは』

 再び声が聞こえた。
 今度はわかった。意味の分かる言葉を聞き取れた。
 しかし文脈が意味不明だ。
 戦士は首をひねった。

戦士「何だ? 何を言っている。訳がわからんぞ」

『――――あぁ、そうだった。この言語だったな。ようやく行き当たった』

 声はようやく明瞭な響きをもって戦士に応えた。

『何者か、と君は私に問うたな。さて、私は果たして何者であったか。君たちは、私をなんと呼んでいたのだったか』

『私の中に累積する記録に劣化はない。しかし何しろ量が膨大だ。検索するにも時間がかかる――――あぁ、そうだ。見つけたぞ。私は、そう』

704 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 20:06:09.17 ID:YJYdW6wwO
3周年おめでとう、そしてありがとう。
最高のSSでした。
705 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:06:22.80 ID:uAQKxthS0










『私は―――――かつて君たちが光の精霊と呼んでいた存在だ』









706 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:07:28.68 ID:uAQKxthS0
光の精霊『君たちのことは実に印象深く私の記録に刻まれている。幾星霜の時を超えてまさかまたこうして邂逅することがあろうとは』

光の精霊『驚きを感じるよ。これが縁というものなのかな。久しぶりだな。かつて我が加護を一身に受けた者―――その伴侶、戦士よ』

 戦士は驚きにぽかんと口を開けたまま、ぐるりと周囲を見回す。

戦士「光の精霊…? ならば、ここはもしかして、あの世界樹の森なのか?」

光の精霊『君の知る当時とは場所はかけ離れているがね。海も大地も大きく動いた。それだけの時が経ったのだ』

光の精霊『そういえば、君には礼を言わなくてはな。まさしく奇縁というものか。この森の復活の一因を担ったのは君だった』

戦士「……? 何のことだ?」

光の精霊『忘れているのならいい。遥かな昔の、ほんの小さな物語だ』

光の精霊『それよりも、それこそ覚えている範囲で構わない。私に話して聞かせてくれないか? 戦士。ここに至るまでの旅路を――――悠久の時を生きた、君の物語を』

戦士「………」

 まあいいか、と戦士は思った。
 どうせ時間はたっぷりとある。
 誰かとコミュニケーションをとるのは本当に久しぶりだ。
 その相手がまさかあの『光の精霊』というのは甚だ意外ではあったけれど。
 これも、いい暇つぶしになるだろう。

戦士「いいだろう。話してやる。そうだな、とはいえ、どこから話したものか――――」

707 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:08:39.57 ID:uAQKxthS0
 ――――長い時間が過ぎた。
 あれから、夜の帳が下りてなお戦士の話は尽きず、結局、戦士が一度話を区切りとしたのは実に15回目の太陽が昇った時だった。
 戦士は樹皮をほぐして得た繊維を編み込んで作った簡易的な服を身にまとっていた。
 永遠に近い時間を旅してきた彼女だ。こういった生活のノウハウはもうすっかりと身についている。

光の精霊『ありがとう。実に面白い話だった』

戦士「どういたしまして。私もいい頭のリハビリになったよ」

光の精霊『それで、これからまた旅に出るというのか? それだけの苦難を経験しながらも、なお諦めずに?』

戦士「まあ、折角目を覚ましたからな。また飽きるまで、しばらく頑張ってみるさ」

戦士「それに、希望が全くないというわけでもない。これだけ自然に満ちた世界だ。どこかに何かとんでもないパワースポットみたいなものが出来ているかもしれないじゃないか」

光の精霊『確かに、我ら精霊の力は今が最盛と言っても過言ではないが……ふむ。いいだろう。本来、我らのようなものが人間にここまで肩入れすることなどあり得ないのだがね』

戦士「ん?」

光の精霊『興味深い話を聞かせてもらった礼だ。何か願いをひとつ言いたまえ、戦士』










光の精霊『それが如何なる願いであったとしても――――私は、その願いを叶えよう』






708 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:09:28.56 ID:uAQKxthS0
戦士「……………なに?」

 ぶるり、と戦士の体が震えた。

戦士「それは、私を殺してくれるということか?」

光の精霊『違う』

 光の精霊は戦士の言葉を否定する。

光の精霊『君の願いは他にあるはずだ。真なる望みを言うがいい』

戦士「………呪いを、解きたい」

光の精霊『違う。繰り返すが、我らの力は今が最盛。およそ不可能なことなど無い』

光の精霊『―――――君の、真なる望みを言うがいい』

戦士「―――――!」

 戦士は息を飲んだ。
 その瞳に、大粒の涙が浮かぶ。



戦士「――――――会いたい」


709 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:10:11.92 ID:uAQKxthS0












戦士「勇者に会いたい。勇者に会って、普通の人間として二人で生きていきたい」










710 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:11:03.94 ID:uAQKxthS0
 ――――瞬間、世界が輝いた。
 その様子は、かつて『宝術』が発動した時に似ている。
 大地から立ち昇る光は、まるで世界全体が輝きに満ちているかのような錯覚をその中に居る者に与える。
 しかし光の強さがかつてとは桁違いだ。
 周囲の景色はもはや白銀の一色で塗りつぶされ、視認できるのはかろうじて自分自身の体のみ。

戦士「――――あ」

 戦士の目の前で、中指にあった『死者の指輪』が、高熱に焼かれた木くずのように灰と化した。
 涙が溢れる。
 歓喜に震え、戦士は己の肩をかき抱く。

 ――――その手の甲に、そっと重ねられる手があった。

 どくん、と心臓が跳ね上がる。

 ごくり、と戦士は息を飲みこむ。

 ゆっくりと―――戦士は後ろを振り返った。

711 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:12:01.86 ID:uAQKxthS0

















勇者「………よう」











712 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:13:52.64 ID:uAQKxthS0
 抱きしめた。
 言葉も出なかった。
 涙は滝のように溢れ、嗚咽が怒涛の如く込み上げた。

戦士「えぐ、うぐ、ふぅ、う、うぅぅ〜〜〜!!!!」

勇者「ごめんな。ずっと辛い思いをさせちまった」

 戦士は勇者の胸に顔を埋めながら、ううんと首を横に振る。

光の精霊『感動の再会に水を差すようで申し訳ないが、少しいいかな。戦士』

 光の精霊の声が響く。
 ぐしゅ、と鼻をすすり上げて、戦士は勇者の胸から顔を上げた。

光の精霊『実はね、先ほどは不可能など無いと嘯いてみせたが、遠い過去に死んで、魂すら失せた人間を今更生き返らせることなど、いくら今の私でも出来ないのだよ』

光の精霊『通常は、だがね』

光の精霊『それが可能となったのには理由がある。要はだね、勇者の魂は消えることなく君の傍らにあったのだ。魂が今もなお存在していたからこそ、私は願いを叶えられた。なにしろ肉の器を用意するだけでいい。その程度であれば今の私の力なら容易いものだ』

 光の精霊の言葉の意味を理解した戦士は、目を大きく見開いて勇者の顔を見上げる。
 勇者は照れたように、あるいはばつが悪そうに、ぽりぽりと頬を掻いてはにかんでいた。
 戦士の目から、ぽろぽろと大きな涙が次から次に零れ落ちる。

戦士「ずっと―――ずっと傍にいてくれたのか。今までずっと……ずっと――――!!」

勇者「だって、お前ときたら、本当に俺の為だけに生きてるんだもんな。途中でお前が俺のことを忘れて他の奴になびいてたりしたら、俺もこう、気兼ねなく成仏的な感じになろうと思ってたのに――――」

 ―――――勇者の言葉は戦士の唇で遮られた。
 最初は驚きに目を見開いていた勇者も、やがて目を閉じ、戦士の体を抱きしめる。
 長い間、二人は互いの体を強く抱きしめたまま、口付けを交わしていた。

713 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:14:47.13 ID:uAQKxthS0







「子供を作ろう――――たくさん、たくさん子供を作ろう」




「幸せになろう―――――今まで歩んできた道のりに比べたら、ほんの短い、一瞬のような時間かもしれないけれど、精一杯幸せになろう」






714 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:15:44.23 ID:uAQKxthS0







 二人は寄り添いあって、これまでのことと、これからのことを話し続ける。




 時折、思い出したように口付けを重ねながら。





715 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:16:46.68 ID:uAQKxthS0





 これにて、彼と彼女の長きにわたる物語に幕を引く。



 那由他の時の果てに、彼らは遂にめぐり逢った。



 永劫に渡る暗闇の道を踏破した、彼らの不屈の魂に喝采を。



 そして―――――――これから歩む、二人の未来に祝福を。









716 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 20:17:48.49 ID:uAQKxthS0















勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」




 ―――――以上、完全終了。



717 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 20:19:47.21 ID:oR1kwtCT0
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