文才ないけど小説かく 7

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210 :何事もなき夏の出来事(お題:ラムネ)1/8 [sage]:2016/07/03(日) 22:14:58.80 ID:vx65kHWzo
 夏の日暮れどき、縁側の網戸に丸々としたカナブンがとまっていた。居間で兄と夏休みの宿題をやっていた僕
はちゃぶ台に肘をつきながら、西日に照らされたカナブンの陰影をじっと眺めていた。隣の空き地から虫の鳴く
のが聞こえる。風が吹くと、青っぽい湿った匂いがした。目の前には絵日記が広げられているが、日付以外は真
っ白なままだ。かれこれ三日、日記をなまけている。絵にしろ文にしろ、何も書くことが思いつかなかった。
「夏祭り兄ちゃんと行っていい?」
 と僕は言った。
 兄はカリカリと数学の問題を解きながら、顔も上げずに「おう」と応えた。今年高校受験を控えている兄は、
春先から別人のように真面目に勉強をしている。進学先は偏差値の高くない地元の私立校だが、好成績で合格
し、授業料が免除される特待を取らなければならない。両親は特待でなければ私立に進むことを許さないと言っ
ている。兄はなにがしかの分けがあって、どうしてもそこへ入りたいらしい。
 受験も何もない小学生なのに、何故勉強しなければならないのかと、白紙を鉛筆で突きながら考える。それか
ら、山岸の姉のことを考える。
   +
 先週、夏休みに入ってすぐの頃、スーパーでクラスメイトの山岸に偶然出くわした。僕は母親に夕飯の買い出
しで連れてこられていたのだが、野菜を選んでいるのを見ても面白くないので、一人お菓子コーナーをうろうろ
していた。陳列棚の向こうに、山岸を見つけたのはその時だった。特に学校で親しい仲ではないが、体育のチー
ム分けや遠足のグループで同じになったことがあった。彼は背が高く、縁のない眼鏡をかけている。目立ったこ
とをしないが、勉強はできるほうで、僕が密かに一目置いている男だった。「よう」と声をかけると、山岸はポ
ケットに両手を突っ込んだまま、顔だけこちらに向けて「ああ」と応えた。少し驚いた風だったが、大して興味
もないという顔だった。「何してんの」と訊くと「なんもしてない。ただ…‥」といいかけて僕の後ろに視線を
やった。
 振り向くと、色の白い学生服姿の女の人が買い物かごを持ってこっちに向かって歩いている。「姉ちゃんだ」
と山岸は言った。彼女も気がついたようで近くまで来た。「リュウちゃんの友達?」と彼女は僕を見て言った。
僕は人見知りの質で、口を閉じていた。山岸は「ああ、クラスメイトの中川」と言いながら、姉の横についた。
僕は今更「こんちは」と頭を下げた。山岸はこれで終わりという風に「それじゃあな、中川」と背中を向けた。
山岸の姉もつられて歩き去って行った。
 また一人になったので、両手を頭の後ろに組んで、お菓子を物色しようと思った。その時、去って行く山岸の
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