文才ないけど小説かく 7

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35 :(お題:共鳴)1/4 [sage]:2016/02/12(金) 16:21:33.01 ID:5lHfbfrno

 俺の中には長いことしこりのような一つの感情が居座り続けてきた。

『幼馴染にはかなわない』

 アイツは女の身でありながらほぼ全てのスペックで俺を遙かに凌駕し続けていたのだ。
 運動も勉強も、何か一つだって勝てたためしがなかった。
 俺としては一緒にいればそれだけ劣等感が募っていくばかりだったから、

『いつまでも仲良く一緒になんていたくない、何かの縁でそのまま関係を切れればいいのに』

 なんて結構本気で考えていたのだ。そのはずだったのだ。
 なのに、現実は違う。
 すべての面で俺よりも凄かった幼馴染はもういない、いなくなった。

「なぁに、タツ。毎日毎日飽きずに見舞いに来てくれちゃって。青春が勿体ないよ?」
「統理は一人でいるといつまでもウジウジしてるからな、気を紛らわせてやろうっていう俺の配慮だよ」
「ふぅん、まぁわざわざありがとうね」
「おう、感謝しろよな」

 代わりにいるのは勉強は出来るし、運動神経もとても良い隻眼の幼馴染だ。
 それは事故だったらしい。
 夜の弓道場で備品の確認作業をしていた統理に一本の矢が飛んできて、運悪く目に突き刺さったのだそうだ。
 弓を射てしまったのは部内の三年生で腕前は五指からは少し漏れる程度だったらしい。
36 :(お題:共鳴)2/4 [sage]:2016/02/12(金) 16:22:15.73 ID:5lHfbfrno

 ついでに補足しておくと統理が入ってくるまでは大会のレギュラーだった人だそうだ。
 つまりはそういうことなんじゃないかと、俺は勝手に思っている。
だけど、肝心の統理はそれに対して何も言わないのだ、本当に何も。
 悔しいとも、つらいとも、ズルイとも、何とも言わない。
 ただ時折片目でぼぅと遠くを眺めている。

「タツは部活入らないの?」
「あぁ、そうだな。どこか入ろうかな」
「ウソ!? 本当?」

「俺が部活入らない理由もなくなったしな」
「なにそれ? どういうこと?」
「いや、こっちの話。大したことじゃない」
「あそう、言いたくないなら聞かないけど……」

 しつこく聞かれても絶対に答えないけどな、格好悪いし。

「それで、何部に入るの?」

「いや、まだ決めてないけど」

「それじゃあさ、弓道やろうよ。楽しいよ?」
37 :(お題:共鳴)3/4 [sage]:2016/02/12(金) 16:22:57.27 ID:5lHfbfrno

 統理は他人の劣等感に酷く疎い。
 俺の幼馴染は何でも即夏こなすことが出来る天才タイプだから、というわけではない。
 逆なのだ。こいつは異常なほど負けず嫌いなのである。
 誰にも負けたくないから以上に努力をする。それ自体は褒められたことだし、俺も尊敬している。

 問題はその精神性の方にあり、『努力をしないやつは悔しいともわない人間だ』そんな風に信じ込んでいる。
 つまり、打てば響くこいつにとって『やってもできないグズなやつ』ってのは本当に理解できない存在なのだ。
 優秀であるために弱者の気持ちが分からない。それが俺の幼馴染というやつだった。
 そしてそいつは、絶対に超えられない壁に直面して、それでも笑ってる。

「なぁ、教えてくれないか?」
「ん? 何、弓道?」
「違う、お前の今の純粋な気持ち」
「……、」

 何とも清々しいほどに憎々しい笑顔を浮かべる。

「正直に言えばね、すごくムカついてる。すごくすごく、ムカついてる。
だって、的の前に人がいるのに弓を引く人なんていないでしょ。普通に故意だよ、絶対。
でも何よりムカつくのはね、あの人がアタシに勝てるように努力しなかったこと。
アタシにはそれが信じられない。だって人の足を引っ張って蹴落としたところで自分は何にも変わらないんだよ」

 荒くまくし立てる統理に、俺は僅かばかり安堵を覚えた。
 あぁ、こいつはちゃんと憤れるやつなんだって、安心した。若干ずれてる感は否めないとしても。
38 :(お題:共鳴)4/4 [sage]:2016/02/12(金) 16:23:54.16 ID:5lHfbfrno

「安心した」
「何がよ!」
「お前もちゃんと人の子なんだなって思ってさ。気に食わないことに腹を立てるんだってそんなことが」
「じゃあついでにぶっちゃけるけど! アタシからずっと逃げ続けるあんたもムカつく!」
「……ッ!」

 どうやら筒抜けバレバレであったらしい。
 あぁ、クソほんとに恰好悪いな。

「だから弓道やろ?」
「結局俺はお前には一生勝てない気がする」
「タツ、そんなのは分からないんだって。今負けてるなら勝てるようになるまで努力し続ければいいでしょ?」

 あぁ、そうだよな。統理はこういうやつだ。
 そう統理は、どこまでもこういうことを本気で言うやつなのだ。
 いい加減俺もそれくらいは分かってる。

「格好悪いままだと、男としての沽券にかかわるし、本気になるよ」
「じゃあ努力の仕方から教えてあげる」

 多分俺は、一生こいつに勝てないと思う。色んな意味で
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