0079 -宇宙が降った日-

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156 : ◆EhtsT9zeko [sage]:2017/01/28(土) 23:48:19.43 ID:mgmumeHYo
>>155
酸素足りてない口ぶりwwwwww

お待たせしました、あんまり長くはないですが、続きです。
157 : ◆EhtsT9zeko [saga]:2017/01/28(土) 23:48:55.57 ID:mgmumeHYo

 何か、冷たいものが俺の喉元に押し当てられた。

 そして、耳元で小さく囁く声が聞こえる。

「動くな」

掠れた、しかしそれでも鋭い、女の声だった。

―――しまった…!ヒューの差し金か…!?

 俺は、咄嗟にそう感じて、握っていた拳銃を腰の後ろに隠す。

 見れば、暗がりの中にも2人、人影が立っているのが見える。それぞれ、寝入っているカイルとアマンダの傍で、二人が目を覚ました際に制圧する準備をしているようだ。

―――抵抗は…無理か…

 その状況では、二人はすでに人質にとられているも同然だった。それを認めた俺は、ひとまず、努めて落ち着き、声の主に尋ねた。

「誰だ…?」

だが、その質問に声の主は答えず、

「無線機はどこだ?」

と、端的に要求を突き付けてきた。

―――無線機が、狙いか…

「ここにはない。だが、まだ完成もしていないぞ?」

俺が言うと、女は首筋に当てている冷たい何かに力を込めた。

「嘘を吐いても無駄よ。通信を傍受できる状態だってことは、分かってる」

女のその言葉に、俺は瞬間、思考を走らせる。

 その情報を知っているのは、俺達以外では、空電ノイズの音がした場面に居合わせたシンシアだけ…

 シンシアが無線修復の進捗を報告していたことになる。

 やはりシンシアは…あのヒュー達と連帯意識があるのか、もしくは、善も悪も分からないほどに混乱しているのだろう…

 だが、俺はすぐにそんな思考を頭の隅から追い出した。

 今は、俺達の身の安全を守らなればならない…

 「嘘じゃない。空電ノイズは出たが…それはスピーカーに電源が入っただけで、電波の受信機能が生き返ったのとは違う」

俺の言葉に、背後の女が、微かに動揺する気配が伝わってきた。

 カイルとアマンダの傍にいる二人も、微かに落ち着かない様子を見せて、俺の背後にいる人物に視線を送っている様子が窺える。

 「どうする…?」

二人のうち、カイルの方にいた一人がそう言葉を発した。こっちも女の声だ。

「…どちらにしても、無線機があるのはまずい」

俺の背後の女がそう答えた。

―――まずい…?

 俺は、その言葉に引っかかった。無線機の修理は、ヒューから依頼があったんだ。あってはまずいものの修理を依頼するなんてことがあるのか…?

 頭の中でその疑問の答えを探す。屁理屈をこねればいくらでも理由は思い浮かぶが、現実的に筋が通るかと考えると、どれもしっくりこないように感じる。

 「で、でも…じゃぁ、どうするの?」

不意に、今度はアマンダの傍にいるもう一人が弱々しい声色でそう意見した。こちらも、やはり女の声…

「決まってるでしょ、無線機は壊さないと…それを修理できるこの人達も、始末する…」

「だけど!そんなことしたらヒューの奴が黙ってないよ…!?」

「で、でも……くっ…」

アマンダの傍の女に言われ、背後の女がさらに動揺している。
158 : ◆EhtsT9zeko [saga]:2017/01/28(土) 23:49:32.21 ID:mgmumeHYo

 事情は呑み込めないが…こいつら、計画を立てて俺達のところへ来たってわけではないのか…?

 俺は、三人の会話を聞いて、ふと、そんなことに思い至った。

 無線があるとまずい。俺達がここにいることも好まず、しかし俺達に始末をつけると、まずい…

 「おい、一つ聞いて良いか?」

俺は、三人がつぶさに緊張するのを感じながら、そう言葉を発した。

 首筋に充てられた何かが首に押し当てられる力は強くなるが、それでも、まだ、皮膚が切り裂かれるようなことにはなる気配はなかった。

「ヒューとは、別口なのか?」

俺のその問いへの答えは、至極単純だった。

「あんなやつらと一緒にするな」

背後の女が、呻くような声色で言う。

 だが、待て…あまりうかつなことをしゃべりすぎるのもまずい…

俺達を試す、ヒューの罠ではないか、そんな疑念が俺の中に生まれて、次の言葉を思いとどまらせる。

 一呼吸おいて、俺は頭の中を整理し、言葉を言い換えて彼女たちに伝える。

「事情は良く分からないが、協力できることがあるのなら、なんでもする」

「ほ、本当!?そ、それなら…!」

「黙って、ニッキー!」

俺の言葉を聞き、何かを言いかけた弱々しい声色の方の女に、俺の背後の女が声をあげて制止する。

「でも、マーサ…この人達を簡単に殺すわけには…」

「分かってる…!」

緩み掛かった首筋の何かに再び力がこもるのが感じられた。

「軍人さん…この街から出て行ってくれない?」

…やはり、どうやら事前の密な打ち合わせがあってここへ来たのではないらしい…

「俺達は軍人だ…困ってる人がいるなら、助けになる義務がある」

しかし、あくまで俺の答えは“どちらにも取れる”回答だ。

「ね、ねぇ、マーサ…助けてもらう方が良いって」

「ミキの言うとおりだよ…」

カイルとアマンダの傍にいる二人が、口々にそう主張する。俺の背後の女がさらに激しく動揺した。

 重苦しい沈黙が、室内を包み込む。

 だが、それもほんの一瞬だった。

 不意に、ギィッと音が聞こえて、三人のどれとも異なる女性の声が、室内に低く響いた。

「動くなっ!」

三人の女達全員が、瞬間的に身体をビクリと震わせる。俺は、その瞬間を見逃さなかった。

 首筋に何かを押し当てている背後の女性の手首をつかみ、力任せに前方へ投げを打つ。女性の体は軽く、想像した以上に簡単に、彼女は俺の目の前にドシン、と腰を打ち据えた。

 俺はすぐさまその首に腕を回し、こめかみに銃口を突きつける。

「動くな、抵抗すれば、発砲する」

俺のその言葉を待っていたように、

「お前らも、動くなよ」

と、カイルの声が部屋に響く。と、ベッドに寝転んでいたカイルとアマンダが、二人の女性に銃を突きつけながら立ち上がった。
159 : ◆EhtsT9zeko [saga]:2017/01/28(土) 23:49:59.15 ID:mgmumeHYo

 俺は、それを確かめて一息、ふうとため息を吐く。

 どうやら二人とも、どこかのタイミングで眼を覚ましていたようだった。

 俺は、二人が確実に女性たちを制圧したことを確かめてから、このきっかけを作った俺達の中で最も機転の効く策謀家に、感謝の言葉を伝える。

「助かった、グレイス」

俺が頭を振ると、そこには、隣の寝室のドアを開け、女たちの注意を引くための第一声をあげてくれた、グレイスの、ホッとした表情が見えた。


 
160 : ◆EhtsT9zeko [saga]:2017/01/28(土) 23:51:15.39 ID:mgmumeHYo


 
 「それで…あんた達は、なんなんだ?」

形成が逆転した今、今度は質問するのはこちらの番だった。

 俺にカイル、アマンダとグレイスの四人で、部屋に踏み込んできた三人を取り囲んみ、電池式ランプを微かに灯らせて、それぞれの顔を確認する。

 俺の首に、裂けた鉄板の破片をナイフのようにしたものを突き付けていたマーサは、俺やカイルと同い年くらいか、やや年上に見える暗い色の髪と瞳をした細身の女性だった。

 三人のリーダー格と思われ、彼女は俺から視線を逸らし、口を真一文字に結んでいる。

 仕方なしに、俺は別の一人へと質問を投げかける。

「いったい、何が目的だった?」

カイルの制圧を担当していたミキは、若く小柄な極東アジア系の女性で、こちらも背中を丸めてはいるものの、マーサと同じように、口をつぐんで視線もあわさない。

アジア系の人間のそんな頑なな様子は、あまり追い詰めると自決でもしてしまうのではないかとすら感じる。

 それならば…と、俺は最後の一人、アマンダの制圧を担当していたニッキーに目を向ける。彼女は、声色から想像できたように、他の2人に比べても一段と幼く、そしてこの状況に怯えていた。

「無線機に、何か用があったんだな?」

俺が拳銃をチラつかせてそう尋ねると、ニッキーは身を震わせて言った。

「無線機…困るんです…」

「困る?救助を呼ばれると都合が悪い、ってのか?」

「救助が来ることが分かったら…私達、殺されちゃうから…」

「ニッキー!」

そんな彼女の名を、マーサが鋭く呼んだ。とたんにニッキーは、体をびくっと震わせて唇を噛み締めて押し黙る。

「悪いが、俺達も自分の身が大事だ。状況も分からないまま殺されるのはごめんだからな…知ってることは、喋ってもらう」

俺はマーサに視線を送って、なるべく低い声色でそう伝える。

 すると、マーサが、

「はぁ…」

とため息を吐いて

「分かった…話します…」

と何かを諦めた様子で口にした。

 「皆さんは、この街のことをきちんとご存じですか?ヒューと、消防士のゴードンと、元はナースだったっていう、マギーが牛耳ってる、ってこととか…」

マーサの話は、シンシアから概ね聞いていた。それでも俺は、警戒して、なるだけ当たり障りのないようにと

「あぁ、聞いてる」

とだけ答えた。
161 : ◆EhtsT9zeko [saga]:2017/01/28(土) 23:51:58.60 ID:mgmumeHYo

 マーサは、その返答のみで十分だったのか、さらに口を開いて話しを続ける。

「あいつらは、ただ威張ってるだけじゃないんです。人を殺したり、殺させたりもして、自分たちの立場を作ってきて、そして、維持してます」

「だからっ!無線機が直ってしまうと、私達殺されてしまうんです!」

不意に、マーサの言葉にかぶせるように、若いニッキーがそう声を上げた。

 だが、俺はまだ、頭の中で話がつながらず、

「まて、だから…それは、どうして…?」

と首をかしげてしまう。

 だが、それもほんの束の間。

「…そっか…そうですよ、アレックスさん…」

そう声を上げたのは、やはり、というか、カイルでもアマンダでもなく、グレイスだった。

「ヒュー達は…ここに、自分達が把握していないタイミングで救助隊に来られてしまうことが、一番怖いんです」

「どういう意味だ?」

俺はグレイスの言葉の先を促す。

「もしここに、突然救助が現れれば、ヒュー達は軍に、犯罪者として逮捕されてしまう…だから」

「そうか…!無線機を修理しろってのは…そういうことだったか!」

グレイスの言葉に、カイルがハッとして声をあげた。

「はい…ヒューはきっと、無線機で救助の情報を得て…もしこのバララトに救助がやってくるようなら…」

マーサが顔色を青くし、消え入りそうな声で呟いた。

「すべての証拠を消すつもり、か…そのために、無線機の修理…」

カイルがそう言い添えて、そして黙り込む。

 まさかとは思ったが…そう、考え直せば、そうなるのは自然だ。

 ヒューは救助を呼ぶことも、ここへ救助が来ることも、望んではいない。今、やつらはこの秩序を失った街で、王として君臨しているんだ。

 軍が入り、現実的な力と秩序が戻れば、それが失われるどころか、街の他の生存者たちこれまでの横暴を洗いざらい話され、逮捕は免れない…

 なぜ、考え付かなかったのだろう。ヒューが無線機の修理を求めてきた、そのときに…

「あいつらは、必ずそうします…少しでも長くここでの生活を維持して、そして確実に安全な方法で逃げおおせるために、ヒュー達は無線機が必要だった。でも、ここでヒュー達に従わなきゃいけない立場の私達は、救助が来るとなったら、きっとみんな殺されてしまう…今まで、殺されてしまった人達と、お同じようにっ…!」

マーサがそう言って、身を震わせ、ニッキーもミキも、俯いて体をこわばらせた。

 そう…だから彼女たちは、俺達を襲って無線機を破壊しようとした…無線機が音を発したという情報を仕入れて、たいした計画をたてず、慌ててここに踏み込んできたんだ…

「シンシアが言ってた…無線機は直らない方が良いのかも、って…あれは、そういうことだったんだ…」

グレイスがそう言って息を飲んだ。
 
162 : ◆EhtsT9zeko [saga]:2017/01/28(土) 23:52:25.74 ID:mgmumeHYo

 「無線機が直らなくてもきっと私達は殺されるけど…直ったら直ったで、たぶん、ここの住民と一緒に殺される可能性が高いですよね」

アマンダが腕組みをしたまま、渋い表情をして俺にそう聞いてくる、

「そうだろうな…」

おそらく、そうなるだろう。無籍が直れば、俺達は用済み。完成させられなければ、タダ飯食らい…それは、これまで想定してきたことと同じではあるが…

「本当に、私達、人質に取られてるみたい…」

以前も感じたが、いざ、こうして新たな真実を突きつけられると、ここは安息の場所でも、避難所でもなかった、ということを再認識させられる。

 本当に、とんでもないところに足を踏み入れてしまった…

「おい、マーサって言ったな」

不意に、カイルが彼女の名を呼んだ。

「はい」

と、マーサは正気を取り戻したように、目の焦点を合わせてカイルを見つめる。

「ヒュー達を良く思っていない連中は、いったいどれだけいる?」

「えっ?」

「具体的に何人で、年齢層はどれくらいだ?」

「え、えぇっと…たぶん、信用できるのは…15人、くらいは…」

「15、か…」

「カイル?」

カイルの唐突な質問に、アマンダが怪訝な様子でカイルを見つめる。

「カイル、お前、まさか…」

俺はカイルの真意を察して、息が詰まるような感覚に襲われつつ、先を促す。

 俺の言葉に、カイルはコクっと頷いて

「逃げることができないんなら、食い破る他に選択肢はないだろ。人数と、それからある程度の火力さえ揃えば…あるいは…」

と言葉を継ぐ。それを聞いたアマンダも、カイルの考えに思いが至った様子で

「…!ヒュー達を拘束するか…抵抗するなら、治安維持権限での射殺も視野に入れて…」

そうカイルの言葉の続きをなぞったアマンダが、カイルと視線を合わせて、今度は俺を見つめてきた。

「アレックス。他に何か、案があるか?」

俺は、カイルの言葉に、しばし思考を走らせる。

しかし、状況を考えて、俺達が取り得る選択は一つだった。

「やるしかないだろうな…だが、それなりの準備が必要だ。マーサ、協力してくれるか?」

俺の問いに、マーサはまるで、天使にでもであったかのような表情で、コクリと頷いてみせた。


 
163 : ◆EhtsT9zeko [saga]:2017/01/28(土) 23:52:51.56 ID:mgmumeHYo

つづく。

 
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/29(日) 16:48:50.58 ID:mVCeyrH+O
乙カレー

サプライズグレイス
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/03(金) 19:07:52.36 ID:tL0LlPeKO

ここは地獄だ……としか言いようがない詰みっぷり
166 : ◆EhtsT9zeko [sage]:2017/02/28(火) 20:55:25.28 ID:4JJXp2HZ0
保守!
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/23(火) 07:14:39.81 ID:2FMoZjLA0
ふむ…
168 : ◆EhtsT9zeko [sage]:2017/05/29(月) 12:51:22.24 ID:r0gIcZfKO
ほ…しゅ…
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/29(月) 14:55:42.97 ID:Uj2YSu7YO


お、生きてましたかw
生存報告ありがとう。
環境やモチベーション整ったらまた楽しませて下さいね
170 : :2017/05/30(火) 18:23:30.97 ID:lYZRI31K0
なんかすごい
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/04(火) 13:33:14.72 ID:w3UdhvJ3O
待つさ…
172 : ◆EhtsT9zeko [sage]:2017/11/09(木) 00:18:33.15 ID:DJ+VA71W0
書いてる…続きは、書いているの…
少しずつ、本当に少しずつ…
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/09(木) 00:50:58.72 ID:Nf5/3r6Co
まってるよー
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/28(水) 06:29:57.67 ID:bGT73T5Eo
まだかー
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/22(日) 17:56:14.28 ID:QpvkvfbKo
にゃー
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/13(水) 10:37:15.73 ID:Jz4IaFsW0
【最悪のSS作者】ゴンベッサこと先原直樹、ついに謝罪
http://i.imgur.com/Kx4KYDR.jpg

あの痛いSSコピペ「で、無視...と。」の作者。

2013年、人気ss「涼宮ハルヒの微笑」の作者を詐称し、
売名を目論むも炎上。一言の謝罪もない、そのあまりに身勝手なナルシズムに
パー速、2chにヲチを立てられるにいたる。

以来、ヲチに逆恨みを起こし、2018年に至るまでの5年間、ヲチスレを毎日監視。

自分はヲチスレで自演などしていない、別人だ、などとしつこく粘着を続けてきたが、
その過程でヲチに顔写真を押さえられ、自演も暴かれ続け、晒し者にされた挙句、
とうとう謝罪に追い込まれた→ http://www65.atwiki.jp/utagyaku/

2011年に女子大生を手錠で監禁する事件を引き起こし、
警察により逮捕されていたことが判明している。
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/08(水) 10:06:54.22 ID:LOBWR+dLO
☆★
178 :キャタピラです ◆EhtsT9zeko [saga]:2018/12/26(水) 01:04:36.87 ID:OfgSS0Ubo
新しいことを始めたいけど、新しいことを始める前に…
俺にはまだ、やり残したことがった…!
179 :キャタピラです ◆EhtsT9zeko [saga]:2018/12/26(水) 01:05:56.10 ID:OfgSS0Ubo

 

 「こっちです。足元、気を付けて」

翌日、無線の修理作業をカイルとテレンスに任せた俺とグレイスは、「見て欲しいものがある」と言うマーサに案内をされてヒュー達が根城にしているのとは別の生存者キャンプに来ていた。

 あのアパートからそれほど離れていない距離に、彼女達の住処はあった。

 崩れかけたビルの中、元はオフィスか何かだったのだろうフロアに、トタンや布で間仕切りが並んでいる空間が、それだった。

 瓦礫をまたぎながら中に入るとすぐに、昨晩俺達を襲撃してきた内の一人、アジア系のミキが小走りで俺達のもとにやってくる。

「来てくれたんですね!」

「ああ」

俺は、そうとだけ答えてフロアに目を走らせる。

ヒソヒソと囁き合う声や、小さな子供の泣き声があちこちから聞こえていた。

どうやら、間仕切りの中には、想像していた以上の生存者がいるようだ。

「ずいぶん居るみたいだな…」

「ええ。でも、動けるのは、10人…あとは、赤ちゃんのいる人とか、まだ幼い子供に…それから、怪我人が三人…」

「具合いは?」

「一人は良くありません…脚を吹き飛ばされていて…あとの二人は、骨折です」

俺の質問に、マーサは暗い表情で答えた。

昨晩は15人、と言っていたが、実働できるのは10人、か…

俺は、その情報だけを頭に刻んでおく。

「どうぞ、こっちに」

ミキがそう声を上げて、俺達をフロアの奥へと誘導する。

後ろにいたグレイスに視線を送ると、彼女は緊張した様子で俺にうなずいて返す。

相変わらず、しっかりしてて頼もしいったらない。

俺もグレイスにうなずき返して、ミキとマーサの後へと続いた。

 フロアの奥へと進むと、その先に金属製のドアが見えた。どうやら、あとから取り付けたものらしく、入り口に対して微妙にズレているのが分かる。

 マーサが手にしていたペンライトに明かりをつけてそのドアを開け、俺達に手招きをしてきた。

 俺はさりげなく腰に手を当てて、拳銃の安全装置を外してから、グレイスの手を引いて進む。

 ドアをくぐるとその先は倉庫のようで、中央に質素なテーブルが置かれ、壁際には食料らしいダンボール箱がうずたかく積まれていた。

「それで、見て欲しいものってのは?」

俺は、部屋の奥には踏み込まず、その場に立ちどまってマーサに尋ねる。

するとマーサは、

「はい、これなんです」

と言って、ダンボール箱の中から何かを取り出して、テーブルの上に置いた。

 「小銃…!?」

先にそう声をあげたのは、グレイスだった。

 
180 :キャタピラです ◆EhtsT9zeko [saga]:2018/12/26(水) 01:07:52.10 ID:OfgSS0Ubo
 彼女の言う通り、マーサがテーブルに置いたのは、連邦軍や警官隊も使っているアサルトライフルだった。

 マガジンが後方についているブルバップ式の、俺やカイルが扱いになれた、連邦軍制式、M72A1アサルトライフル…

「まだ、何挺もあります。ここのみんなが、あちこちからこっそり集めてきました」

ミキが、静かな声でそういう。

俺は、二人に警戒をしながら、そのライフルを手に取った。

 薄ら暗い室内でも、高熱にさらされて焼け焦げているのが分かった。樹脂製の部品はことごとくなくなっているし、バレルも目で見て分かるほどに歪んでいる。

とてもじゃないが、使い物にはならない…だが…

「全部で、どれくらいあるんだ?」

「たぶん…同じ型のものが全部で20挺くらいは…」

俺の質問に、マーサがミキと目を合わせてから答える。

おそらく、この街にあった駐屯基地の備品だろう。

それにしても20か…もしかすると…廃部品をバラシて組み替えれば、完動品をいくつかでっち上げられるかもしれない…

あとは、4.8ミリ口径弾があれば…

 「マーサ、この街で、銃弾が売っていたような商店や、銃砲店がどこかにあったか?」

「銃弾が売っていたようなお店…」

マーサは再びミキと目を合わせる。

二人はしばらく考えるようなそぶりを見せてつかの間、

「そういえば」

とミキが口を開いた。

「北東の郊外のあたりには射撃場があったので…もしかしたら、その周辺になら、お店があるかもしれません」

「アレックスさん、銃弾をさがすつもりですか?」

グレイスが俺に尋ねて来る。

俺はグレイスを振り返ってうなずいた。

「ああ。俺達の拳銃だけじゃ、弾があっても勝ち目は薄かったが…ライフルが使えるんなら話は別だ。隙を見て、あのアパートから狙撃もできるかもしれない」

そう、あのアパートからは、距離にして100mほど先に、ヒュー達が根城にしているアパートが見下ろせる。

このライフルの有効射程は実感では300mほど。俺はともかく、カイルの腕なら、単発で勝負を付けられる可能性がある。

それに、狙撃ではなくても、数をそろえれば武装解除を促すこともできるかもしれない…

そうすれば、俺達は自分たちの身の安全を確保するだけではなく、ここに押し込められている彼女達のことも助けることができるはずだ。

 俺の脳裏には、あの日、基地のシェルターから脱出する際に聞こえて来た無数の声がよみがえってきていた。

 
181 :キャタピラです ◆EhtsT9zeko [saga]:2018/12/26(水) 01:08:23.77 ID:OfgSS0Ubo

「…もう、誰かを見捨てるのはごめんなんだ」

「えっ…?」

「いや、なんでもない、独り言だ…」

俺は、グレイスに、自分の気持ちを悟られてはいけないような気がして、そんな言い訳をした。

 「ミキ、案内してくれるか?」

「は、はい!」

「グレイスも一緒に。それから、マーサ。やつらに気取られないように、アマンダをここに連れて来てくれないか?」

「アマンダさんを…?」

「やつに、銃の点検を頼む。メモを書いておくから、これに従うように伝えてくれ」

俺はそう言いながら、アパートの部屋からクスねて置いたメモ用紙にボールペンを走らせた。


一つ、銃器を確認し、使える部品を組み合わせて完動品を丁稚上げること。

二つ、使い方を、動ける連中にレクチャーしておくこと。

三つ、出来上がっ銃は、分散して隠すから、食糧庫か何かに入れて、運びやすくしておくこと。

 あとは…ひとまずは、不要か。

 それでも俺はしばらく書き残しがないかを考え、それでも「ない」と結論付けて、手紙をマーサに手渡した。

集まった面々に視線を送ると、みんなが俺を見ていた。

 なるほど…軍曹らしくなってきた、ってことか。皆が、引き締まった表情で俺のことを見ている。

 グレイスだけは唯一、少し不安そうではあるけど…これは、性格だから仕方ないだろう。

「…よし、それじゃぁ、準備に掛かろう」

俺がそう合図をすると、全員は静かにうなずいて、静かにその場を離れて行った。
 
182 :キャタピラです ◆EhtsT9zeko [saga]:2018/12/26(水) 01:08:51.79 ID:OfgSS0Ubo
こんな感じで、チマチマ上げていく予定なので、よろしく。
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/26(水) 09:27:36.97 ID:Ymw1bqLBo
生きてたのか! 久しぶりに乙!!
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