ほむら「巴マミがいない世界」

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1 : ◆c6GooQ9piw :2016/02/20(土) 11:09:49.59 ID:8m/ElpKNO
まどマギSS
叛逆の内容は含みません

シリアス系
地の文ありです

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1455934189
2 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 11:11:28.17 ID:8m/ElpKNO
それは、ひとつの可能性

ほんのひとつの歯車がずれただけで、未来は大きく変わっていく

だからこそ、私は何度でも繰り返す

ほむら「暁美ほむらです。よろしくお願いします」

──今度こそ、あなたを救ってみせる

これは、どこかにあったかもしれない、ひとつの世界の物語
3 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 11:14:00.08 ID:8m/ElpKNO
出だしはいつも通りだった。

何度目かもわからない自己紹介を済ませ、伝わらないとわかっていながらまどかに忠告も済ませ、ほむらは拳銃を片手にキュゥべえを追っていた。

ほむら「このっ……待ちなさい!」

QB「」スタタタ

既に何発か命中しているはずなのだが、全く気にしている様子はない。
感情を持たない相手を痛覚で怯ませることは不可能だが、かと言って拳銃で物理的に止めることも難しい。

ほむら「くっ……」

そうこうしているうちに、いつもの場所が近づいてきた。

軽快に走っていたキュゥべえが、急にスピードを落とし、よたよたと歩きだす。
ほむらには追いつかれず、まどかにはそれがバレない最適な位置だ。
そのことが、ほむらを更にイラつかせる。
4 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 11:18:28.80 ID:8m/ElpKNO
QB「」ヨタヨタ

まどか「誰? 誰なの?」

まどか「……!」

まどか「あなたがわたしを呼んでいたの? ひどい、怪我しちゃってる……」

まどかとキュゥべえが接触する。
全てキュゥべえの思惑通りだ。

まどかがほむらの存在に気づく。

まどか「え……ほむらちゃん? どうしてここに……」

ほむら「……」

接触されてしまった以上、キュゥべえを狙っても意味はない。
ほむらは、自分の心象を悪くすべきでないことも考え一瞬ためらったが、やはり放ってはおけないと口を開く。

ほむら「そいつから離れなさい、鹿目まどか」

少しきつい言い方になってしまったが、あいつの危険性を伝えないわけにもいかない。
5 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 11:19:51.39 ID:8m/ElpKNO
まどか「どうしたの? ほむらちゃん……ダメだよ、こんなことしちゃ……」

ほむら「そいつは……」

しかし、ほむらの言葉がそれ以上続くことはなかった。

突然、ほむらの視界が白く染まる。

ほむらは、消火器を構えるさやかの姿を目の端に捉えた。

さやか「まどか、こっち!」

まどか「さやかちゃん!?」

さやか「早く!」

ほむら「……」

状況がわかっていても、この視界ではどうしようもない。
ほむらは、一旦追跡を諦めた。
6 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 11:22:24.57 ID:8m/ElpKNO
ふたりが逃げた先は、いつものように魔女の結界内だった。

これまでの傾向からすれば、ほぼ100%、巴マミが内部の魔女を倒すのでそれほど心配する必要はない。

が、やはり万が一ということもあるので、ほむらは様子を見にいった。



魔女の反応が消えた。
やはり、巴マミが魔女を倒したのだろう。

ここで巴マミに会うのは気が進まないが、まどかに一言でも言っておきたい。

ほむらは、とりあえず様子をうかがった。
7 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 11:23:28.86 ID:8m/ElpKNO
さやか「本当に、ありがとうございました!」

まどか「あ、ありがとうございました!」



杏子「いいって、怪我はなかったか?」



ほむら「あれ!?」

そこにいたのは、巴マミではなかった。
8 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 11:25:22.94 ID:8m/ElpKNO
さやか「あ! そいつがさっき話した、キュゥべえを狙ってた奴です!」

ほむらの声が聞こえたらしい。
思わず声を上げてしまったことを悔やむ。

まどか「ちょっと、さやかちゃん……」

杏子「あいつが……?」

杏子が、怪訝な目でほむらを見つめる。

杏子「おい、あんたらもう帰りな。あたしはあいつと話がある」

まどか「え、でも……その子、うちのクラスメイトで……」

まどかは、言外に自分も無関係ではないと伝えたかったのだろう。
だが、杏子はまどかに振り返り、一言だけ答えた。

杏子「……だから?」

まどか「っ」ビクッ

杏子にしては軽い威圧を込めただけのつもりだろうが、普通の女子中学生には少々刺激が強過ぎる。

言葉を詰まらせたまどかに、さやかが助け船を出した。

さやか「あ、あーわかりました! じゃああたしたちはこれで…」

まどか「え、でも…」

さやか「いいから行くよ!」

まどか「あ、待って…」

さやかが、まどかの手を引いて走り出す。

去っていくふたり。
残されたのはふたりの魔法少女。

キュゥべえは、いつの間にかその姿を消していた。
9 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 11:27:16.87 ID:8m/ElpKNO
杏子「さてと…」

杏子はほむらに向き直り、警戒心をあらわにして問いかけた。

杏子「何者だ、なんて聞く必要もねーよな。あんたも魔法少女だろ?」

ほむら「えぇそうよ。じゃあ私もこれで…」

杏子「待てよ。逃がすわけねーだろ。なんでキュゥべえを狙ってた?」

ほむら「……」

正直、この予想外の展開に対して考える時間が欲しかった。
状況の把握すらろくにできていない。

杏子「おい、聞いてんのか?」

この時点で、佐倉杏子がこの町にいるということは……巴マミは一体どうしたのだろうか。

杏子「おーい」

……ほむらは、時間を止めて逃げることを少々真剣に考えた。
10 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 11:28:55.35 ID:8m/ElpKNO
業を煮やしたのか、杏子はため息をつき、わずかに語気を弱めて再度ほむらに問いかけた。

杏子「はぁ……あのさ、お前も魔法少女なんだろ? だったら、キュゥべえがいなくなったら困るだろうが?」

ほむら「……そうね」

杏子「あいつには、孵化寸前のグリーフシードを処理してもらう役目がある。お前がまだキュゥべえを狙うというのなら、ここで相手になるぜ」

ほむら「……」

佐倉杏子は魔法少女らしい魔法少女で、合理的な考え方を好む。
ならば、ここはこう言っておくべきか。

ほむら「安心しなさい。私がこれから先キュゥべえを狙うことはないわ」

その理由は先ほど失われた。
とはいえ、状況によってはそうでもないが。
11 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 11:32:23.23 ID:8m/ElpKNO
杏子は大して気にもせず、話を続ける。

杏子「ふぅん……ならこの件はいい。問題は次だ。お前、まさかこの町に住んでるわけじゃないよな?」

ほむら「……だったらどうなのかしら」

杏子はほむらの言葉を聞き、舌打ちをした。

杏子「マジかよ……キュゥべえの奴、テキトーなこと言いやがって。おい、この町はあたしの縄張りだからな。魔女を狩りたいんだったら、他の町に行きな」

ほむら「わかったわ」

その必要もない。
グリーフシードの予備は十分にある。

杏子「……自分で言っておいてなんだが、本当にいいのか? 明日には行方不明になりました〜じゃ、こっちだって寝覚めが悪いぜ」

ほむら「じゃあ、この町を譲ってくれるのかしら」

杏子「いや? ただ、狩り場ってのは魔法少女にとっては死活問題だろ? それを脅かしてんだから、あたしだってここでお前と殺し合う覚悟はあった。それなのに、やけにあっさり了承したなって思っただけさ」

やはり合理的な考え方をしている。
ただし彼女の場合、美樹さやかが絡むと必ずしもそうではない。
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/20(土) 11:32:30.46 ID:1Hgpt+qEO
期待
13 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 11:33:54.02 ID:8m/ElpKNO
ほむら「私のことはいいわ。それより、聞きたいことがあるの」

杏子「なんだ?」

ほむら「あなた、巴マミという少女を知っているかしら」

杏子「……!」

杏子は顔を強張らせた。

質問が少し正確ではなかった。
佐倉杏子が巴マミを知っている、ということは知っている。
問題は、今、巴マミがどうしているか。

杏子「てめえ、マミの知り合いか?」

ほむら「いいえ……ただ、話に聞いたことがあるだけよ。この町に住んでいたはずなのだけど」

佐倉杏子と巴マミには少々複雑な事情がある。
わざわざ余計なトラブルを起こしたくはないので、ここは他人の振りをしておく。

杏子「……お前、知らないのか?」

ほむら「……?」
14 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 11:36:29.29 ID:8m/ElpKNO


杏子「マミは死んだ……らしいぜ。あたしも実際に見たわけじゃないし、キュゥべえから聞かされたんだけどよ。世間的には行方不明扱いだ」

15 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 11:37:51.85 ID:8m/ElpKNO
ほむらは絶句した。

初めてのケースだ。
今まで、こんなことは一度もなかった。

杏子「どんな魔女に殺されたのかも知らねーよ。興味もねーし」

ほむら「……そうね。あなたはそういう人間よね」

杏子「……初対面で、何を人のことわかったような口聞いてんだ?」

先ほどまどかに見せた眼光とは違い、本気で睨まれる。

今日のところはこれくらいにしておくべきか。
ほむらは盾を構えた。

ほむら「また会いましょう……佐倉杏子」

杏子「……!」

ほむらは能力を使い、その場を後にした。
16 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 12:15:23.15 ID:8m/ElpKNO
***

まどか「待ってよ、さやかちゃん」

まどかは、未ださやかに手を引かれていた。
いつものじゃれあいとは違い、なかなか足を止めてくれない。

いつもの通学路に出てから、ようやくさやかが立ち止まる。
まどかは、息を整えてから彼女に話しかけた。

まどか「……どうしたの、急に」

さやか「まどかー、あれはヤバいって。ああいうのには関わらない方がいいよ」

彼女なりに、何かを察したのだろうか。

まどか「でも、ほむらちゃんが……」

さやか「あの転校生? 夢の中で会ったとか言ってたけど、それだけじゃないの?」

……それだけだ。
自分でも、なぜこれほど関心を持つのかわからない。

まどか「……うん、それだけのはずなんだけど、なんか気になるっていうか……」
17 : ◆c6GooQ9piw [saga ]:2016/02/20(土) 12:17:17.73 ID:8m/ElpKNO
さやか「……」

さやかが黙り込む。
一瞬、呆れられてしまったかと思ったが、どうやら状況の整理をしていたらしい。

さやか「あの人、魔法少女……って言ってたよね。詳しくは教えてくれなかったけど、あの転校生もそうなんじゃない?」

まどか「魔法少女、か……」

キュゥべえによれば、あのような化け物……魔女と戦う存在を、そう呼ぶらしい。
それ以上の説明もしようとしていたが、あっという間に魔女を倒した赤髪の魔法少女に、止められていた。

さやか「……あのふたりが何の話をするかは知らないけど、魔法少女じゃないあたしたちが、口出しできることじゃないと思うよ」

……正論だ。

そもそも、まどかとほむらの関係も、クラスメイトという響きが示すほど近いものではない。
何せ、ふたりは今日が初対面だったのだから。

まどか「うん、そうだよね……」

さやか「元気出しなって! どうしても気になるんなら、明日学校で聞いてみたら? あいつが素直に教えてくれるかはわからないけどさ」

気を使ってくれている。
彼女の明るさには、いつも助けられる。

まどか「……ありがとう、さやかちゃん」

さやか「いえいえ!」
18 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 12:20:32.70 ID:8m/ElpKNO
***

自分の狩り場に現れた、得体の知れない魔法少女。

考えてわかるものでもないので、杏子はキュゥべえを待っていた。

QB「やぁ、杏子」

杏子「来やがったか……おい、聞きたいことがある」

QB「なんだい?」

杏子「決まってんだろ? あの魔法少女のことだ。お前、この町にはもう魔法少女はいなくなったって言ってたよな?」

責めるような口調で問いかけたが、キュゥべえはまるで気にしていない。

QB「僕にもわからないんだ。あの魔法少女は、あらゆる意味でイレギュラーだ」

答えになっていない。
杏子は苛立ちを押さえつつ、質問を続ける。

杏子「あいつがお前と契約したのはいつなんだ? ひよっこには見えなかったぜ」

珍しく、キュゥべえは答えに迷う様子を見せた。

QB「……信じてもらえるとも思えないけど、僕にはあの子と契約した覚えがない。君と同じく、今日が初対面だったんだ」

杏子「はぁ? そんなことがあり得んのかよ?」

QB「普通ならあり得ない。だからこそイレギュラーなんだ。たとえば、契約後にその記憶を魔法で消されたとか……予想はいくつかできるけど、今の段階ではなんとも言えないね」

キュゥべえは基本的に嘘は吐かない。
それが本当なら、確かにイレギュラーと言える。
19 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 12:22:45.28 ID:8m/ElpKNO
杏子「まぁ、あたしの邪魔をしないってんならそれでいいんだが……どうにも不気味だな」

QB「不気味どころか、僕は初対面で突然発砲されたんだけど」

杏子「もうしませんごめんなさいって言ってたぜ。気にすんなよ」

QB「気にしないわけにはいかないし、そんな言い方はしていなかったよね」

台詞とは裏腹に平坦な口調だ。
というか……

杏子「てめえ、やっぱ隠れて聞いてやがったな?」

QB「おっと」

杏子「まぁ隠れる気持ちもわかるけどな」

襲われた直後なのだから、のこのこと姿を見せるわけにもいかなかったのだろう。
20 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 12:24:20.49 ID:8m/ElpKNO
今度は、キュゥべえが杏子に問いかけた。

QB「彼女、マミを知っているらしいね。心当たりはないのかい?」

杏子「……」

杏子もわかってはいたが、キュゥべえにはデリカシーというものがない。

杏子「ねーよ。あれ以来、マミとは一切関わってねえ。お前も知ってんだろうが」

QB「そうだったね。僕はそれからもマミと会っていたけど、あの少女の話なんて聞いたことがない。案外、本当にただ話に聞いただけなのかもしれないね」

杏子「……どうでもいいさ」

本心からの言葉だった。

もうマミは死んだんだ。
気にしていても仕方がない。
21 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 12:30:12.51 ID:8m/ElpKNO
QB「ところで、僕からひとつ頼みがあるんだ」

杏子「あ? なんだよ」

QB「今日、杏子が魔女から助けたふたりの少女……覚えてるかい?」

杏子「あぁ……あいつらがどうかしたのか?」

QB「あのふたりには、魔法少女の素質がある」

杏子は思わず頭を抱えてしまった。
突然謎の魔法少女が現れたと思ったら、さらにふたりも増える可能性があるって……?

杏子「マジかよ……そういやなんか話してやがったな」

QB「ふたりともかなりの素質を持っていたけれど、特筆すべきは鹿目まどかだね。あれほど凄まじい素質を持った少女を見たのは初めてだ」

杏子「鹿目まどか……どっちだ?ピンクの方か?」

QB「そうだよ。ちなみに、もうひとりの子の名前は美樹さやかだ」

杏子「あの青い方か……」

QB「鹿目まどかが契約してくれれば、僕としてはうれしい限りだね。というわけで、彼女たちに魔法少女の素晴らしさを教えてあげてくれないかな」

バカかこいつ、と杏子はキュゥべえにあきれた目を向ける。

杏子「……お前、あたしがそんなことするとでも思ってんのか?」

QB「しないだろうね」

杏子「わかってんなら言うんじゃねーよ。そもそも、その鹿目まどかって奴は契約しないと思うぜ?」

QB「どうして?」

杏子「見るからに、私は今幸せですって面してやがったからさ」

別に妬んでいるわけではない。
ただ単純に、生きる世界が違うと感じたのだ。
22 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 12:32:03.48 ID:8m/ElpKNO
QB「そうなのかい? だったら、契約は望み薄かな。でも、願いがないほどに幸せというなら、それはそれで素晴らしいことだよね」

杏子「……よく言うぜ」

あまりの白々しさに思わず笑ってしまった。
杏子も、キュゥべえの胡散臭さには当然気づいている。

杏子(利用できるから利用してるだけだ。間違っても、無条件に信用できる奴じゃない)

QB「? 何か、おかしかったかい?」

杏子「別に」

杏子は、今日出会ったふたりを思い返していた。
まどかに関しては、先ほどキュゥべえに言った通りだ。
彼女のような人間は、魔法少女になるべきではない。

だが、もうひとりに関しては……

杏子(美樹さやか、か……)

QB「?」

杏子「……なんでもねーよ」

杏子は、嫌な予感を感じていた。
23 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 12:55:57.65 ID:8m/ElpKNO
***

ほむら「……」

軽く調べてみたが、巴マミが魔女に殺されたのは間違いないようだ。
家族がいないからかあまり注目されているわけでもないようだが、行方不明扱いならそんなものなのかもしれない。

行方不明になってから、それほど日数が経っているわけではない。
せいぜい、一週間前といったところだろうか。

気の毒ではあるが、彼女も魔法少女なのだから覚悟はしていただろう。

ほむら(今更私にできることはない。ここは割り切って考えるべきか──)

……いや、正確には、巴マミを救う手段がないわけではない。

ほむらが一月後過去に戻れば、巴マミが生きている可能性は高い。
彼女の死が完全に確定するのは、ほむらが過去に戻らなかった、そのときだ。

しかし──

ほむら(もし、この時間軸でまどかを救うことができれば、私は過去には戻らない)

ほむらは既に、まどかを誰よりも優先すると心に決めていた。
幾多の時間軸を渡り歩いてきた彼女は、今更その程度の決断では揺らがない。
24 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 12:58:04.79 ID:8m/ElpKNO
自分の意志を再確認し、思考を切り替える。

ほむら(……さて、どう動くべきか)

巴マミはいない。
この時点で、この町に佐倉杏子がいる。
今日のまどかと美樹さやかの反応から考えれば、あのふたりが巴マミを知っているとは思えない──

状況を整理し、分析する。
この時間軸での最適解を模索するために。

ほむら(……まず、デメリットは、巴マミという戦力の喪失だ)

巴マミの戦闘能力は相当なものだ。
ワルプルギスの夜を倒すために、彼女の力を借りられればかなり助かっただろうが、それはもうできない。

とはいえ、ほむらと杏子のふたりなら、ワルプルギスの夜を相手にしても全く勝機がないわけではない。

ほむらの能力は本来サポート向きだ。
やり方次第ではいくらでも強くなる。
ここはとにかく試してみるしかない。
25 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 13:00:52.98 ID:8m/ElpKNO
ほむら(逆にメリットは、まどかと美樹さやかが契約する可能性が、大きく減少したことね)

巴マミとは違い、杏子は他人に契約を勧めることはまずないだろう。
ほむらにとってはありがたいことだ。

ほむらは、これまでの経験から、まどかだけではなくさやかの契約も阻止すべきだと判断していた。

さやかが契約すれば、まどかに悪影響を及ぼす。

魔法少女に興味を持たれることはもちろん、最悪、さやかを救うためにまどかが契約する、なんてこともあり得る。
更には、杏子の死の要因にすらなり得てしまう。

魔法少女になった美樹さやかを利用して、『ソウルジェムの正体は魔法少女の魂を抜き出して具現化したもの』『魔法少女はいずれは魔女になってしまう』等のデメリットを突き付け、契約させないという手もなくはないが……

やはり、やめておくべきだろう。
そもそもさやかとは違い、まどかにはこれといった願いはないのだ。
わざわざ新しい願いを考えさせる材料を与えることはない。
魔法少女に関わらせないのが最良だ。

ほむら(……実際に、巴マミ抜きでワルプルギスの夜を倒せるかどうかはわからない。でも、そこは問題じゃない。まずは、私と佐倉杏子でワルプルギスの夜に挑める状況を、確実に作ることだ)

現状の把握はできた。
今後の方針も決まった。

ほむら(早速、明日から動きましょう)
26 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 14:59:41.11 ID:8m/ElpKNO
***

目覚まし時計の音が聞こえる。
また、奇妙な夢を見てしまったような気がする。

まどか「むにゃ……朝……?」

QB「おはよう、まどか」

まどか「……」

QB「……」

まどか「えっ!?」

どうやら、昨日のことは夢ではなかったらしい。
27 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 15:00:58.51 ID:8m/ElpKNO
まどかは、キュゥべえを肩に乗せて通学路を歩いていた。

さやか「おはよ、まどか」

まどか「おはよう、さやかちゃん」

QB「おはよう、さやか」

さやか「あ、昨日の……なんで一緒にいんの?」

まどか「朝起きたら隣にいたの……びっくりしちゃった」

さやか「へぇ……キュゥべえ、まどかのパジャマは何色だった?」

まどか「突然何聞いてるの!? もう、キュゥべえ、答えなくていいからね?」

キュゥべえ「黄色だったね」

まどか「なんで答えたの!?」

さやか「黄色かぁ……元気のあるところをアピールしているのかな? でも、それをパジャマで表現するなんて、まぁ、まどかったら……」

まどか「やめてよもう!」

さやかは、昨日のことは特に気にしていないようだ。
彼女のいつも通りの姿が、まどかは妙にうれしかった。
28 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 15:02:37.32 ID:8m/ElpKNO
まどか「全く、さやかちゃんったら……」

さやか「ごめんごめん。でも、まさか家の中にいるなんてね。おばさんは何も言わなかったの?」

まどか「それが、キュゥべえってわたしたち以外には見えないらしいの。おかげで、朝から寝ぼけてると思われちゃった」

さやか「あぁ、道理で……ここ、通学路で結構人通り多いのに、誰もキュゥべえのこと気にしてないもんね。でも、なんであたしたちふたりだけ?」

一応軽い説明は受けたが、まだそれほど詳しくは教えてもらっていない。
まどかがどう答えるべきか迷っていると、代わりにキュゥべえが答えてくれた。

QB「正確には、僕の姿が見えるのは、魔法少女か魔法少女の素質を持った少女だけに限られる。そう滅多にいるものじゃない。思春期の少女の中でも、ほんの一握りだよ」

さやか「魔法少女の素質って……まさか、あたしたちが?」

QB「そう、君たちには、魔法少女になれる才能がある」

QB「なんでも願い事を叶えてあげるよ。だから……」

QB「僕と契約して、魔法少女になってよ!」
29 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 15:05:15.12 ID:8m/ElpKNO
まどか「……」

さやか「……」

QB「……」

沈黙が訪れる。
最初に口を開いたのはさやかだった。

さやか「……とりあえず、その話は昼休みにでもしましょ。遅刻しちゃう」

まどか「そうだね」

QB「そうかい。だったら、昼休みにまた来るよ。詳しいことはそのときに話そう」

まどか「昼休みは、たぶん屋上にいると思うよ」

QB「わかったよ。じゃあ、また」

まどか「またね」

キュゥべえはトコトコと歩いていった。
あれでは移動が大変なのではないだろうか。

まどかは、先程のキュゥべえの言葉を思い返していた。

まどか「う〜ん、わたしたちが魔法少女になれるなんて、本当かなぁ。あんな風に戦うなんて、できっこないと思うけど……」

さやか「……」

まどか「さやかちゃん? どうかしたの?」

さやか「あ、ごめん。ちょっと考え事してて……なんでもないよ」

まどか「そう? ならいいけど……」

キュゥべえの言葉に、思うところでもあったのだろうか。
しかし、さやかがそれ以上魔法少女の話をすることはなかった。
30 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 15:07:34.72 ID:8m/ElpKNO
***

まどかとさやかが、教室に入ってきた。
キュゥべえは見当たらない。

ほむらは、さっそくふたりに声をかけた。

ほむら「鹿目まどか、美樹さやか、ちょっといいかしら」

まどか「ほむらちゃん? どうしたの?」

さやか「何よ?」

ほむら「魔法少女に関する話よ。ここではちょっと……」

さやか「……」

まどか「じゃあ、廊下で話す?」

ほむら「そうしてもらえると助かるわ」
31 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 15:12:31.31 ID:8m/ElpKNO
場所を廊下に移し、ほむらは会話を再開した。

ほむら「ふたりに聞きたいのだけど、キュゥべえに何か聞かされたかしら」

まどか「ちょっとだけね。私とさやかちゃんが、魔法少女になれるってことくらい」

ほむら「魔法少女がどんな存在かについては、まだ聞いてないのね?」

まどか「魔女と戦う存在だって聞いたよ。あと、なんでも願い事を叶えてあげるとか言ってたけど」

ほむら「そう……」

ほむらは、キュゥべえの相変わらずの行動の早さに歯噛みする。

ほむら(でも、まだ十分間に合う)

ふたりに契約させないために、どう切り出すべきかを考えていると、さやかが口を開いた。

さやか「……私も、転校生に聞きたいことがあるんだけど」

ほむら「何かしら」

さやか「転校生は、魔法少女……ってことでいいんだよね?」

ほむら「そうよ」

さやか「魔法少女になるのに必要な契約……それが、願いを叶えてもらうこと、という認識で合ってる?」

ほむら「……そうね」

ここを否定しても仕方がない。
ほむらにしてみれば、そもそもふたりには魔法少女に興味を持ってほしくすらないのだが、キュゥべえが勧誘する以上、何の説明もなしに契約を阻むことはできない。

まどかは、なんとなく納得した表情をしている。
32 : ◆c6GooQ9piw [saga ]:2016/02/20(土) 15:16:34.91 ID:8m/ElpKNO
更に、さやかがほむらに問いかけた。

さやか「なら、転校生はどんな願いで魔法少女になったの?」

ほむら「……」

ほむらが魔法少女になった理由は、言うまでもなく、まどかを救うためだ。
しかし、それをこの場で話してもふたりに不信感を抱かせるだけだろう。
何せ、ほむらとまどかは昨日が初対面だったのだから。

かといって、答えないのも印象が悪い。

ここは、ある程度ぼかして答えるのがベストだろうと、ほむらは判断した。

ほむら「ある人を、救うためよ」

さやか「……」

ほむらの答えを聞き、ふたりの反応は別れた。
まどかは、ほんの少し、申し訳なさそうな顔をしている。
話したくないことを口にさせたように感じたのだろうか。

さやかは、わずかに不信感を強めたらしい。
どうも信じていないようだ。

ふたりに構わず、ほむらは話し出した。

ほむら「私がふたりに伝えたいことは、たったひとつだけよ」

ほむら「絶対に、魔法少女にはならないで。キュゥべえを信用してはいけないわ」

ふたりが眉をひそめる。

まどか「……どうして?」

ほむら「魔法少女には、決して看過できない秘密があるからよ」

さやか「秘密って何よ?」

ほむら「……今は、言えないわ」

信用してもらえるとも思えない。

ふたりとも、それぞれ思うところはあるようだったが、なんとなく、そこで会話は終わった。
33 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 15:18:53.32 ID:8m/ElpKNO
ふたりは教室に戻ったが、ほむらは廊下で考え事を続けていた。

信用されてなくても、このタイミングで忠告ができたのは幸いだ。
普段なら、キュゥべえが張り付いていてなかなか話ができないのだが、今回はラッキーだった。

ほむらはそこまで考えて、ふと、ある考えに至った。

まさか……

QB「なるほど、やはりそれが君の目的か」

はっとして振り向くと、そこにはキュゥべえの姿があった。

ほむら(……私の目的を知ることが、こいつの狙いだったのか)

ほむらは敵意を隠さずにキュゥべえに答えた。

ほむら「そうよ。絶対に、ふたりを魔法少女にはさせないわ」

QB「なぜだい?」

キュゥべえが、心底不思議そうにほむらに問いかけてくる。

本当に癪に障る奴だ。

ほむら「あなたが隠していることを、私は知っているからよ」

QB「何を知っているっていうんだい?」

わざわざ答えてやる必要もない。
ほむらは無視して、教室に向かった。

QB「わけがわからないよ」

そんな声が、ほむらの背後から聞こえた気がした。
34 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 15:25:34.70 ID:8m/ElpKNO
***

昼休み、まどかとさやかが屋上で食事をとっていると、約束通りキュゥべえがやってきた。

キュゥべえは、ふたりに魔法少女のことを一通り説明した。

QB「……まぁ、とりあえずこんなところかな」

まどか「えーと、ソウルジェムに、グリーフシードに、魔女の口づけに……」

さやか「……覚えることが多いなぁ」

丁寧な説明ではあったが、一度に理解するのは難しい。
契約しなければ必要のない知識ではあるが、契約するかどうかを考えるためには、やはりある程度知っておかなければならない。

さやか「それよりも、契約だよ。本当に、なんでも願いが叶うの?」

QB「もちろんさ。契約する人間の素質にもよるけど、大抵の願いは叶えられるよ」

まどか「……すごい話だよね」

なんでも願いが叶うというのはもちろん魅力的だが、だからこそ、そう簡単に決められるものではない。
少なくとも、今のまどかにはとても決められそうになかった。
35 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 15:27:36.91 ID:8m/ElpKNO
さやか「キュゥべえ、質問があるんだけど」

QB「なんだい?」

さやか「願いは、自分に関することじゃなきゃダメなの? たとえば、他の誰かのために契約するとか……」

QB「可能だよ。前例もある」

さやか「……」

まどかは、ふたりの会話を聞いていて、ひとつの考えに思い至った。

まどか「さやかちゃん、もしかして、上条くんのために契約しようと思ってるの?」

さやか「……あー、バレちゃった?」

ふと、まどかの心がわずかにざわめいた。

直感的にではあるが、他人のために契約することに、漠然とした不安を感じたのだ。
しかし、それを具体的な言葉にするのは難しく、まどかは別のことを口にしていた。

まどか「さやかちゃん、今日、ほむらちゃんに言われたこと覚えてる?」

さやかの表情が、わずかに固まった。

さやか「まどかは、あいつの言葉を信じてるの?」

まどか「……わからないよ」
36 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 15:29:26.51 ID:8m/ElpKNO
キュゥべえが、ふたりの様子をうかがって問いかけてきた。

QB「何の話だい?」

一瞬話してもいいものか悩んだが、まだキュゥべえが根っからの悪人だと決まったわけではない。

それに、まだ情報が少なすぎる。
それぞれの話を聞かなければ、どちらを信用すべきかの判断すら下せない。

まどか「ほむらちゃんがね、わたしたちは、魔法少女になってはダメだって言っていたの」

QB「ふーむ」

キュゥべえは相変わらず無表情だ。

QB「理由があるとすれば、グリーフシードの分け前が減ってしまうことかな。魔法少女が増えれば安全にはなるけど、その分自由に魔法を使うことは難しくなるからね」

理屈は通っている。
さやかは一応納得したような表情だ。

QB「あまり気にしない方がいい。そんな魔法少女も珍しくはないからね」

まどか「……でも、誰かと一緒に魔女と戦った方が、安全なんじゃないの?」

まどかは思わずキュゥべえに問いかけたが、その答えは望んでいたものではなかった。

QB「基本的に、複数の魔法少女が協力して戦うことは少ない。むしろ、敵対することの方が多いよ。前例がないわけじゃないけどね」
37 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 15:30:30.51 ID:8m/ElpKNO
まどか「……」

まどかは、昨日助けてもらった赤髪の魔法少女のことを思い出していた。
確かに、彼女からもそのような雰囲気を感じた。

まどかが気落ちしているのを知ってか知らずか、今度はキュゥべえがまどかに問いかける。

QB「まどかには、これといった願いはないのかい?」

まどかは改めて考えてみたが、やはりこれといった願いは思い浮かばなかった。

まどか「……うん、思いつかないや」

QB「そうかい。契約はいつでもできるから、願いが決まったらいつでも呼んでくれ」

まどか「わかったよ」

願いが見つかることと契約することはまた別の話だが、さすがにまどかがそれを口にすることはなかった。
38 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 15:36:56.90 ID:8m/ElpKNO
それから数日、キュゥべえはほとんどまどかと行動を共にしていた。
魔法少女に関しての話はなかったが、キュゥべえがふたりに契約を急かすような素振りはなかった。

そんなある日、学校からの帰り道で、ひとつの事件が起こった。

そのとき、キュゥべえは何かに気づいたようだった。

キュゥべえが、まどかとさやかに声をかける。

QB「まずいよ、ふたりとも。あそこにいる人を見て」

キュゥべえのただならぬ様子に、まどかは思わず身構えた。

さやか「え? 急にどうしたの? 確かに、様子はちょっと変だけど……」

まどか「あれ? あの人、首筋に何か……」

印のようなものが付いているのを見つけ、まどかに戦慄が走る。

まどか「まさか、前に話してた、魔女の口づけ……!?」

さやか「えっ!?」

QB「そうだよ。このままじゃあの人が危ない」

まどか「キュゥべえの話が本当なら、あの先に魔女がいて、あの人、殺されちゃうんじゃ……ど、どうしよう……」

さやか「……放ってはおけないよね。とにかく、追いかけよう!」

まどか「う、うん!」

魔法少女ではないふたりに、できることがあるかどうかはわからない。
もしかしたら、何もできないかもしれない。

しかし、だからと言って見殺しにするわけにはいかない。

この先に、以前見たような怪物がいると思うと、まどかの体が震えた。

QB「いざとなれば契約することもできる。覚悟はしておいてくれ」

さやか「そのときは、あたしが契約するよ。一応願いも決まってるわけだしね」

だが、ふたりが魔女の姿を見ることはなかった。


「その必要はないわ」


ひとりの魔法少女の声が聞こえた。
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/20(土) 15:58:32.15 ID:uesFMNybo
見てるよ
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/20(土) 16:08:37.58 ID:/FWk6iE9O
杏子は魔女化の事実を知ってもマミみたいに半狂乱にはならないメンタルあるからなぁ
思いきってまどかとさやかに魔女化の事話してもいいと思うけど
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/20(土) 16:26:47.38 ID:iYNneBHDO
ss見るたびに、ワルプルギスが来ることとワルプルギス倒すまで契約しないで欲しいことを伝えればいいのにって思っちゃう
ループの中で信用して貰えなかった経験からそうしてるのは分かるけど
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/20(土) 17:09:17.35 ID:5eXMlF+Zo
>>41
ワルプルギスが来ること伝えられたら
むしろ戦力増やすために契約しようさせようとなるだけじゃないか
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/02/20(土) 17:17:11.38 ID:pJ4r6u5Q0
今回は『正義の魔法少女』たるマミがいないから、まどかが魔法少女に憧れを持ってないんだよね
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/20(土) 17:48:00.91 ID:R2M8cqA0o
紙メンタルのマミさんが居ないなら
QBの前で二人に知ってる事話せばいいと思う
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/20(土) 17:52:40.79 ID:cTt2ZayqO
>>42
マミさん相手に、手を組んでも九割負ける戦いに二人を巻き込むつもり?って言えば納得してくれると思う
九割は自分のイメージだけど、伝える時に嘘言っても問題ない
杏子はどっちか分からん
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/20(土) 17:55:10.69 ID:SYyOLdrwo
んなことしなくても

基本的にQBはうそはつかないんだから
「魔女が何から生まれるのか。そしてその何かは魔法少女がどうなったものか」と訊ねてみろ

で終わる話だろ
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/20(土) 17:56:00.02 ID:SYyOLdrwo
自分を信じてもらえなくても、相手の信頼関係の中で答えを見い出してもらえばいいだけの話
48 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 17:57:28.79 ID:8m/ElpKNO
***

全く、魔法少女でもないのに無茶をする。
念のために尾行しておいてよかった。

これは、巴マミがいなくなった影響だ。
もし彼女がいれば、ふたりと一緒に帰っていただろう。

まぁ問題はない。

ほむら「ここは私が引き受ける。あなたたちはもう帰りなさい」

返事も聞かずに、踵を返して先へ向かう。

どうせ彼女たちが追いつく頃には終わっている。
49 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 17:59:04.33 ID:8m/ElpKNO
大して強い魔女ではなく、戦闘はすぐに終わった。

結界が消え、グリーフシードが残る。

「おい、何してんだてめえ」

ほむらは思わずため息をついた。

振り向かずともわかる。
佐倉杏子だ。

杏子「前に言ったよな? この町はあたしの縄張りだって。人の獲物を横取りしてんじゃねーよ」

ほむら「不可抗力よ。一般人が襲われそうになっていたから、仕方なく……」

杏子「はぁ? そんなのほっときゃいいだろ。その分、いいグリーフシードが手に入るんじゃねーの」

ほむら「……」
50 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 18:01:55.76 ID:8m/ElpKNO
佐倉杏子は、自分のためにのみ魔法を使うことを信条としている。
そこには、彼女の過去が関係していることは知っている。

だが、目の前で魔女に殺されそうになっている人間を見捨てられるほど冷酷ではない。
昨日、ふたりを助けたのもそのためだ。

もっとも、彼女の中では助けたわけではなく、たまたま魔女を倒しているときにふたりが居合わせた、とでも変換されているのかもしれないが。

要するに、今の佐倉杏子の台詞は、半ば売り言葉に買い言葉というか、決して本心からの言葉ではなかったということだ。

……つまり、全てはタイミングが悪かったのだ。



さやか「ちょっと! それどういうことよ!」
51 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 18:04:20.14 ID:8m/ElpKNO
杏子「……?」

先程の杏子の言葉を聞いたのであろうさやかが、激昂して叫んでいる。
いつの間に追いついたのだろう。

さやか「あんた、魔法少女なんでしょ!? 人が殺されてもいいって、本気で言ってるわけ!?」

まどか「さ、さやかちゃん……」

杏子はわずかに目を見開いたが、その後口角を上げてさやかに答えた。

杏子「魔法少女なんでしょ、ね……お前が、魔法少女の何を知っているっていうんだ?」

さやか「えっ……?」

杏子「魔法少女を、正義のヒーローか何かと勘違いしてんのか? おめでたい奴だな」

さやか「っ……」
52 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 18:16:30.32 ID:8m/ElpKNO
ほむら「……」

この時間軸のさやかは、魔法少女という存在をほむらと杏子でしか知らない。
恐らく、どちらに対してもいいイメージは持っていないだろう。
そしてその評価は、そのまま魔法少女への評価となる。

だがその場合、魔法少女になるかならないか。
これは考え方によっては、どちらにも転び得る。
彼女なら、果たして……

さやか「確かに、あたしは魔法少女のことを知らない。魔法少女じゃないあたしが、つべこべ言えたことじゃないのかもしれない……」

杏子「……そういうことさ」

杏子は目を伏せて答えた。
これで会話が終わったと思ったのだろう。
この直後のさやかの言葉は、予想もしていなかったようだ。

さやか「だったら! あたしが正義の魔法少女になってやる! 絶対に、あんたみたいな奴にはならないわ!」

杏子「なっ……!」

杏子の表情がゆがんだ。
だが、返すべき言葉が見つからなかったようだ。

杏子「……勝手にしろよ」

そう言い残し、彼女は去っていった。

ほむら(……最悪だ。なんとかしなくては)
53 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 18:19:54.73 ID:8m/ElpKNO
***

まどかはさやかと帰路に着いていたが、さやかは足を踏み鳴らし、ひどく怒っていた。

さやか「あいつ……ムカつく! 信じらんない!」

まどか「さ、さやかちゃん落ち着いて……」

さやか「人が殺されても構わないなんて、魔法少女以前に、人としてどうなのよ!」

……まどかとしても、そこには異論はない。

しかし、以前ふたりを助けてくれたときには、そこまで冷たい人間には見えなかった。

さやか「魔法少女なんて、あんな奴ばかりなの!? どうせ、あの転校生も同じなんでしょ!」

まどか「……」

結局、ほむらが魔女を倒したのは、杏子との獲物の取り合いに過ぎなかったのだろうか。

まどかは、ほむらがそういう性格で、自分のためだけにまどかとさやかに契約しないように言っていた可能性を考えてみて、自分が予想以上に激しくショックを受けたことに驚いた。

だが、それも当然のことかもしれない。

もしそうなら、ふたりのことを思いやってくれていた態度が、全て演技だったということなのだから。
54 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 18:21:38.52 ID:8m/ElpKNO
まどかの様子を見て、さやかは多少冷静になったようだった。

さやか「ごめん……まどかにこんなこと言っても仕方ないよね」

まどか「ううん、いいよ。それより……」

まどかにはまだ、ほむらの言葉が全て嘘だとは思えなかった。
だからこそ、これだけは聞いておかなければならない。

まどか「……さやかちゃん、本当に契約するの?」

さやか「……」

さやかは、少し悩んでこう答えた。

さやか「……まだわからないよ。さっきは思わずああ言ったけど、まだ、そこまでの覚悟はできてない。誰かが目の前で魔女に襲われてるとか、そういった切っ掛けがあれば契約するかもしれないけど」

まどか「……そっか」

誰を信じるにせよ、これは軽率に決めていいことではない。

まどかは、自分もきちんと考えておかなければならないと、より一層心に誓った。
55 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 18:24:36.26 ID:8m/ElpKNO
***

杏子はお菓子を貪っていた。

どうにも気分が晴れない。
イライラする。

自分でも、原因はわかっている。
そのことに、また苛立ってしまう。

さやかとかいう奴の言葉が、耳から離れないのだ。

『正義の魔法少女』

その言葉は、杏子に否応なく、ひとりの少女のことを思い出させた。

杏子(……あいつは死んだんだ)

だが、それは必ずしも彼女が間違っていたことを意味しない。

逆に言えば、死ぬ間際まで自分の生き方を貫いたということでもあるのだから。
56 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 18:27:56.80 ID:8m/ElpKNO
かつて、その姿に憧れたこともあった。

その後、彼女を否定するようなことを言ってしまったが、結局彼女は、全てを承知の上であのように生きていたのだろう。

今なら、それぞれの信念があっただけのことだと 客観的に思えなくもない。

杏子(……あたしは、生き方は違えど、マミのことを認めてはいたんだ)

しかし──

多分さやかは、そこまで深く考えて『正義の魔法少女』という言葉を使ったわけではないだろう。
魔法少女がどのような存在か知らないのだから、仕方のない話ではある。

だが、杏子はさやかに、昔の自分と似たような甘さを感じていた。
無邪気に正義を信じていた、あの頃の自分と重なって見えたのだ。

杏子(……だからといって、あたしには、あいつに何か言ってやる資格はない)

あたしはもう、自分のためだけに生きると決めたのだから。
57 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 19:39:35.76 ID:8m/ElpKNO
***

次の日の放課後、ほむらはさやかを喫茶店に呼び出した。

主題はもちろん、昨日の彼女の発言についてだ。

ほむら「悪かったわね。こんなところまで呼び出して」

さやか「別に……それで、何の用?」

どう見ても友好的とは言えない態度だ。
ほむらとしても、その方がやりやすい。

ほむら「忠告よ。あなた昨日、魔法少女になるとか言っていたわね」

さやかに主だった反応はない。

ほむら「はっきり言っておくわ。魔法少女になるのはやめておきなさい。契約なんてしたところで、いいことなんてひとつもないわよ」

さやか「……魔法少女のあんたに言われてもね」

さやかはまるで、ほむらの用件がわかっていたかのような表情だった。

ほむら「……私は純粋に善意で言っているの。後悔したくなかったら、素直にいうことを聞いておきなさい」

さやか「信用できると思う?」

ほむら(……なんでこんなに嫌われているのかしら)
58 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 19:41:53.75 ID:8m/ElpKNO
さやか「……」

さやかは、少し考える素振りを見せてから、ほむらに話し始めた。

さやか「あのさ……あたしも、これは軽い気持ちで決めてはいけないことだっていうのはわかってる。でも、だからこそ、真意も読めない他人の言葉に左右されて決めていいことじゃない。あたしもまどかと相談くらいはするけど、最終的には自分で考えて決めるべきことだって、少なくともあたしはそう思ってる」

ほむら「……」

ほむらは、少々感心してしまった。
意外とそれなりに考えてはいるようだ。

しかしほむらにも事情がある。
やはり、契約は阻止しなければならない。

だが、ここで魔法少女のデメリット……ソウルジェムの正体や、その行く末を話したところで信じてもらえるとは思えない。なら、ここは……

ほむら「……それなら、貴女が契約するべきかどうかの判断材料になる話を、ひとつしてあげるわ」

さやか「……伝わらなかった? あんたの言葉は、信用できないって言ってるんだけど」

ほむら「なら勝手に疑ってなさい。後でキュゥべえにでも確認すればいいでしょう」

さやか「……」

さやかは、不満がないわけではなさそうだが、一応は話を聞く気になったようだ。

ほむらは、できるだけ感情を乗せないように注意しつつ、話し始めた。
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/02/20(土) 19:41:53.97 ID:pJ4r6u5Q0
魔女化のことはともかく魂がソウルジェムになってゾンビみたいになること、そんな大事なことをキュウベェが黙っていたことは話してもいいんじゃないかな?
60 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/20(土) 19:45:37.15 ID:8m/ElpKNO
ほむら「……ほんの一週間ほど前までかしら。この町には、あの赤髪の魔法少女……佐倉杏子ではなく、もうひとりの、別の魔法少女がいたのよ」

ほむら「その少女の名前は……巴マミ」

ほむら「彼女は、自分で望んで魔法少女になったわけじゃない。ある日、家族全員で事故に遭い、死にそうになっていたところにキュゥべえが現れ、契約により自分だけ生き残ってしまったのよ」

ほむら「その後は、魔法少女として数年間、ひとりきりで魔女と戦い続けることになる。こう言ってはなんだけど、こんな境遇の魔法少女としてはよく生き延びた方だと思うわ」

ほむら「境遇自体は、魔法少女としてはそれほど珍しくない。しかし、それほど経験を積んだ彼女でも、結局は魔女に殺されてしまった。それが、一週間前の話よ」

さやか「……待ってよ、この町にいたなら、この学校の生徒じゃなかったの? 誰かが死んだなんて話、聞いたことないけど」

ほむら「魔女の結界の中で殺されれば、死体は絶対に見つからない。彼女は、永久に行方不明者のままよ」

さやか「そんな……」

ほむら「わかったでしょう? 魔法少女なんて、そんなにいいものじゃない。たった一度の願いのために、一生後悔することになるわよ」

さやか「……」

さやかは少し間を置いて、口を開いた。

さやか「……その巴マミって、どんな魔法少女だったの? やっぱり、あいつ……佐倉杏子みたいな、自分勝手な奴だったの?」

一瞬、返答に詰まった。

ほむら「……知らないわ。私も、会ったことがあるわけじゃないもの」

さやかに契約させないためには、巴マミもそのような魔法少女だったと答えるべきだったが、何故か、それを口にすることは躊躇われた。

さやか「……」

ほむら「話は以上よ。貴女が愚かな選択をしないように、祈っておくわ」
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/20(土) 19:58:33.87 ID:wiQFkF+40
マミさんがいないとかずみが生まれなんじゃないか?
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/20(土) 20:26:37.89 ID:qXbm1AWAP
>>61
ミチルを助けたのはだいぶ昔の話だからセーフ
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/20(土) 21:29:24.17 ID:BOtYVt2V0
マミ消えたの一週間前なのか
64 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/21(日) 12:30:09.21 ID:7abQ0VEBO
喫茶店を出て、ほむらは思考を巡らせていた。

昨日のことがあったから、今日改めてさやかに忠告したわけだが、実際にはまだそれほど心配する段階ではない。
なぜなら、さやかは契約する確率は高いが、契約のタイミング自体はそれほど早くないからだ。

巴マミがお菓子の魔女に殺されたときでさえ、さやかが契約したことはない。
もっともそれは、その直後に拘束の解けたほむらがお菓子の魔女を倒すからだが、これからもそうしていけば問題はない。
同じ条件を整えれば、同じことが起こる。

さやかが契約するにしても、まだ先の話だ。
今日や明日に契約することはまずないだろう。
まだしばらくは猶予がある。

まどかについては、契約する可能性はさやかよりさらに低い。

これといった願いがないまどかが契約するとすれば、魔法少女絡みだ。
しかし、この時間軸でまどかが知り合った魔法少女は、ほむらと杏子のみ。
どちらも、たった一度の願いを捧げられるほど友好的な関係ではない。

だが、仮にまどかが魔法少女のシステムを知れば、契約する可能性は跳ね上がる。

その場合、願いによってはほむらの時間溯行が使えなくなる可能性すらある。

それだけは避けなければならない。

そして、まどかが魔法少女について知るとすれば、巴マミがいない以上、それは契約したさやかからということがほとんどだろう。

そのリスクを減らすためにも、絶対にさやかを契約させてはならないのだ。
65 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/21(日) 12:33:43.07 ID:7abQ0VEBO
***

ほむらと別れたあと、さやかは病院へ向かった。
目的は、恭介のお見舞いだ。
ほむらとの待ち合わせがあったので、まどかには先に帰ってもらっていた。

さやかは、ほむらに言われたことについて考えていた。

結局ほむらが言いたかったことは、さやかは契約するべきじゃないということだった。

ほむらは、巴マミという魔法少女の話をすることで、さやかに契約しないように訴えたが……

さやか「……」

さやかには、あの話はいかにも建前じみていたように思えた。
さやかに契約させたくない本当の理由を話しているわけではなく、とりあえずさやかが契約を躊躇いそうな話をしてみた、という感じがしたのだ。

さやか(……たぶん、他にも契約を止める理由があるんだろう)

大体、魔法少女が魔女と戦う存在だというのはさやかもわかっていたことだ。
実際に魔女に殺された魔法少女が身近にいたという事実はショックではあるが、改めてその危険性を知らされたところで、やはり契約を躊躇う理由としては弱い。

もし、魔女と戦い続けなければならないということ以外にも、魔法少女になることで発生するデメリットが存在するのだとしても、さやかにそれを伝えない理由がわからないし、既に魔法少女になっているあのふたりがいる以上、説得力は薄い。
66 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/21(日) 12:35:20.00 ID:7abQ0VEBO
そもそも、ほむらがさやかに契約しないように言うのは、とても良心からだとは思えない。

話していてわかるのだ。

さやかとほむらの仲はそれほどいいものではないが、それを抜きにしても、ほむらが純粋にさやかのことを思いやって忠告しているようには、さやかには思えなかった。

やはり、さやかが契約することで、ほむらに対しても何かしらのデメリットが発生するのだろう。

それが、キュゥべえの言っていた、グリーフシードの分け前が減ることなのだろうか。

そこまではまだわからないが……

さやか「……」

いずれにせよ、何らかの思惑があることは確かだ。

さやか(……結局、それがわかるまでは、安易に契約するべきじゃないかな)

ほむらの意図した形ではなかったが、さやかに契約を躊躇わせるという目的自体はおおよそ達成できていたのだった。
67 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/21(日) 12:37:19.60 ID:7abQ0VEBO
病室に入ると、恭介はさやかを歓迎してくれた。

恭介「こんなに何度もお見舞いに来てくれて、本当に助かるよ。ありがとう」

さやか「何言ってんのさ、水くさいよ」

さやかは、買ってきたCDを取り出し、恭介に手渡した。

さやか「ほら。これ、聞きたかったんでしょ?」

恭介「……本当にありがとう、さやか」

恭介がプレイヤーを準備しているのを見て、自分が見舞いに来ているのにこの場で聴くのかと苦笑しそうになったが、片方のイヤホンを差し出されて、戸惑う。

恭介「どうしたのさ、一緒に聴こう?」

さやか「……うん」

気持ちが高揚するのを抑え切れず、恭介から目を背けつつイヤホンを耳に当てる。

何やらクラシックが流れてくるが、全く曲に集中できない。

心臓の音がうるさい。
恭介にバレやしないかと不安になる。
68 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/21(日) 12:38:35.79 ID:7abQ0VEBO
さやか(……やっぱり、あたしは恭介が好きなんだ)

自分の気持ちを再確認したさやかは、ふと、恭介の顔を横目で見てしまった。

さやか「……!」

衝撃を受けた。
冷水を浴びせられたかのような錯覚を感じた。

恭介は泣いていた。
向こうを向いていたが、その頬には涙が流れていた。

曲の良さに感動したというわけではないだろう。
恭介ならそんなこともあるかもしれないが、この場での涙が別の意味を持つことくらい、さやかにもわかる。

そして、さやかは気づいてしまった。

さやか「……」

自分がうじうじと悩んでいる限り、恭介は永遠に救われないのだということに。
69 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/21(日) 12:44:21.58 ID:7abQ0VEBO
***

ほむらは、とある病院の前にいた。

つい先程、さやかが中に入っていった。
恐らく、上条恭介のお見舞いだろう。

この数日間、ほむらはこの病院の周辺をマークしていた。
その理由は、この辺りに高確率で出現する、とある魔女を倒すためだ。

……魔力の反応だ。
やはり、この時間軸でも現れた。

できれば杏子が来る前に終わらせたかったのだが、今回は彼女も早く嗅ぎ付けたらしい。

ほむら「こんにちは、佐倉杏子」

杏子「……なんでお前がここにいるんだ?」

杏子はうんざりした調子で呟いた。
しかし放ってはおけない。

戦うのが巴マミじゃなくても、この魔女はやはり危険だ。
今彼女に死なれては困る。

ほむらは、無駄だと思いつつも杏子に忠告した。

ほむら「今回の魔女は、今までの魔女とは違う。侮っているとやられるわよ」

ほむらの言葉を聞き、杏子はほむらに目を剥いた。

杏子「てめえ……私が負けるとでも思ってんのか?」

ほむら「その可能性があるというだけの話よ」

できれば始めから共闘したいところだが、この場で説得するのは難しい。
この忠告をしておくだけでも十分だ。
杏子が一瞬でやられることさえなければ、ほむらの能力ならいつでも割り込める。
70 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/21(日) 12:46:16.70 ID:7abQ0VEBO
それよりも、ひとつ気になることがある。

時期的に考えれば、そうでない可能性も高いのだが……

ほむらは、キュゥべえに問いかけた。

ほむら「キュゥべえ、もしかして、この先にいる魔女が巴マミを……」

QB「……君には本当に驚かされるね。一体どこからそんな情報を得たんだい?」

杏子「な……」

QB「そうだよ。マミはこの先にいる魔女に殺された。お菓子の魔女、シャルロッテにね」

やはり……

巴マミを倒したはいいものの、傷を癒すためにこれまでは隠れていたといったところだろうか。

杏子「へぇ……マミに勝った魔女ね。面白そうじゃねーか」

ほむら「わかったでしょう? 油断していて勝てる相手じゃないわ。ここは協力して……」

杏子「うるせーな。そいつはあたしひとりでやる。手を出すんじゃねーぞ」

ほむら「……そう。せいぜい、殺されないように気をつけることね」

杏子「ふん、黙って見てな」
71 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/21(日) 12:50:18.31 ID:7abQ0VEBO
大した使い魔もおらず、ふたりは難なくお菓子の魔女のもとにたどり着いた。
その姿を見た杏子が眉をひそめる。

杏子「あいつがその魔女か……? 全く強そうに見えないんだが、間違いないのか?」

ほむら「間違いないわ。見た目に惑わされてはダメよ。ああ見えて、恐ろしい魔女なのよ」

杏子「どうだかね……あんなのに殺されるなんて、マミもヤキが回ったんじゃねーの?」

ほむら「……最後まで気を抜かないことね」

杏子「あいよ」
72 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/21(日) 12:52:12.80 ID:7abQ0VEBO
杏子はシャルロッテに攻撃を仕掛け始めた。

杏子の基本的な戦闘スタイルは、槍を用いた近接戦闘である。

攻撃を受け、シャルロッテは逃げようとするが、杏子がそれを許すはずもない。

圧倒的なスピード差により、シャルロッテにダメージを与え続ける。

杏子(なんだよ……こんなもんか?)

戦局は変わらない。

杏子「うらあっ!」

ドガァッ

杏子の攻撃は、シャルロッテを壁まで吹き飛ばした。

杏子「もう終わりにしてやるよ……とどめだ!」
73 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/21(日) 12:53:44.91 ID:7abQ0VEBO
杏子が最後の攻撃を仕掛けようとした、その直前であった。

シャルロッテに、異変が起こる。

杏子「……!?」

シャルロッテの姿が変わる。

その姿は、ほむらには見慣れたものであったが、初めて見る者には衝撃的だ。
これまで何匹もの魔女を葬ってきた杏子も、例外ではなかった。

杏子「なっ……!」

シャルロッテ「ガアアアアアアッ!」

シャルロッテは、杏子に突進した。
単純な物理攻撃ではあるが、その威力は半端なものではない。

杏子「ぐっ……!」

正面から受け止める杏子。
しかし、直後に選択を誤ったことを自覚する。

杏子(まずい……こいつ、重すぎる……!)

このままでは押し切られてしまう。
そうわかったところで、この状況ではどうすることもできない。

杏子「く、そおおおっ!」
74 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/21(日) 12:57:04.78 ID:7abQ0VEBO
と、次の瞬間。

何の前触れもなく、シャルロッテの胴体の数ヶ所が爆発した。

シャルロッテ「!?」

杏子にはもちろん、シャルロッテにもその攻撃の仕組みはわからない。
しかしシャルロッテは、その攻撃の主を本能的に察知した。

シャルロッテ「グアアアアアアッ!」

大口を開け、ほむらに向かうシャルロッテ。
しかし不思議なことに、シャルロッテが噛みつく直前にほむらはその姿を消した。

そして……

ほむら「終わりよ。何度目かしらね、あなたを倒すのは」

激しい爆発が起こった。

煙が立ち込める中、勝利を確信したほむらは、武器をしまおうとする。

しかし──

杏子「まだだ!」
75 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/02/21(日) 12:58:19.58 ID:7abQ0VEBO
ほむら「!?」

煙の中からシャルロッテが姿を現す。
そのまま、再びほむらへと突進した。

シャルロッテ「ガアアアアアアアッ!」

不意を突かれ、時間停止も間に合わない。

だが、シャルロッテの狙いはわずかに逸れた。

杏子が、今度は横から衝撃を与え、軌道を逸らしたのだ。

杏子「人に言っといて、自分が油断してんじゃねーよ!」

ほむら(これまでの時間軸と同じなら、今ので十分倒せていたはず……それが、なぜ……!?)

杏子は、激しく動き回り撹乱する戦法に切り替えていた。
シャルロッテを翻弄し、確実にダメージを与えていく。

そして、決定的な隙が訪れる。

杏子「今だ! ほむら!」

ほむら「……!」

再び激しい爆発が起こる。
しかし先程とは違い、そこには確かにシャルロッテの断末魔が響いていた。
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/21(日) 14:58:55.88 ID:Gtv/rvRb0
結局ほむらが何を言ったところで信用してもらえなきゃ意味ないし、信じてもらえたら今度はまどかが契約する可能性が出てくるのね
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