元お嬢様「安価とコンマで最終決戦?」元メイド「8ですぅ」

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606 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/06/26(月) 01:12:23.39 ID:po2J3s3to
フィナ「行っちゃった……」

テンパラス「向こうにも用事があるのだから仕方ないだろう」

神主「もし、お二人とも」

フィナ「あ、神主さん」

神主「私の神社の祭神、そして巫女と仲良くなったようですな」

フィナ「はい! とっても優しい人たちでした」

神主「それは良かった」

神主「ですが、お主に一つだけ頼みがある」

神主「どうか、お面だけは取らないようにしてあげてください」

フィナ「どうして隠してるんですか?」

テンパラス「その理由を知られたくないからだろう」

フィナ「それもそっか」


フィナとテンパラスの二人は神社を後にし、魔法街へと向かっていた。

短い数時間であったが、昨日までの経験でどん底にあったフィナにとっては希望に満ちた時間であった。

テンパラス「お前も魔法街に用があるのか?」

フィナ「友達(エルミス)が待ってそうな気がするし、誰かと話したいなーと思って」

フィナ「あ、ところで気になってたんですけど、あっぱれぬしって誰です?」

テンパラス「私だ」

フィナ「テンパラスはあくまで世を忍ぶ仮の名前だった、と……」

テンパラス「違う。あの侍、ナマクラは頭が悪いのだ」

フィナ「酷い言いざま」

テンパラス「初対面でこそ正しくテンパラスと呼んでいたが、その日の内にてんはれすに変化し、翌日には何があったのか、あっぱれぬしになっていた」

テンパラス「神主曰く、天晴主と向こうの文字で覚えたのが原因かもしれんらしい」

フィナ「なるほど。じゃああたしもこれからあっぱれぬしって呼ぶ事にしよう」

テンパラス「ふん、お前が最終的にどう呼ばれるようになるか楽しみにしておこうか」
607 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/06/26(月) 01:13:23.91 ID:po2J3s3to
フィナ「あたしは短いから関係ないもんね!」

テンパラス「いいや、余計な文字を付けたされるに違いない。私も一度、テンプラパラダイスと呼ばれたことがある」

テンパラス「事実、帰る直前の時点ですでにお前はお雛になっていたからな」

フィナ「オミキ先輩とお揃い……♪」チリン チリン

テンパラス「……」

フィナ「タロウさんとも気が合ったし、明日が来るのが楽しみだ!」

フィナ「キョウト最高ーっ!」

テンパラス「……大丈夫か? フィナよ。お前は精神的に参っているように感じる」

テンパラス「お前は軽率そうに見えて割と慎重な人間だったはずだ」

フィナ「モンスター相手ならそうですけど、喋れる人ならすぐ友達でしたよ!」

テンパラス「そうか? 人は、自分で自分の事はよく見えないものだ。私は心配だ」

フィナ「あっぱれさんの癖に、余計なお世話!」


テンパラス(昨日の今日だ……。詳しくは聞けていないが、アサシンの弟子をやめる際に一悶着あったのは間違いない)

テンパラス(そして、元師匠の死に対する自身の感情が如何なるものか、自分自身で理解できていない印象があった)

テンパラス(心に大きな隙ができている)

テンパラス(今のフィナは月魔術の類を使われずとも、恐怖に支配され、そして容易く魅了される)

テンパラス(しばらくの間、何事もない事を祈るしかない……)
608 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/06/26(月) 01:21:45.01 ID:po2J3s3to
ウベローゼン市、魔法街の広場に面した一画にある魔法の仕立て屋。

補助魔法がエンチャントされた装備品を販売しているこのお店の店主は、オートマトン(自動人形)の可憐なフルフィリア人形である。

クリス「魔法の仕立て屋、開店ですっ。今日は誰か買っていってくれるかな?」

約50年の間、彼女には名前がなかったが、ソピアを含む数名からは制作者の名前をとってクリスティと呼ばれている。

クリス「オーナーさんと月魔術師のお姉さんのためにも、どんどん売りましょー」

この店のオーナーはソピアの友人であるフローラである。

売り上げは芳しくないが、クリスティの目的はお店を存続させる事だけなので、利益は全額フローラのものになっている。

そんなのんびりとした経営競走などとは無縁のお店に、魔の手が迫っていた。


クリス「あれれ? お店のドアの前で誰か待ってますね」

カランカラン

クリス「いらっしゃいませ、おはようございますっ!」

ネル「ボクと一緒に来てもらうヨ」ガシッ

クリス「え?」
609 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/06/26(月) 01:26:30.46 ID:po2J3s3to
テレポート。

店の入り口にいたクリスティは、一瞬にして魔法街の広場に移動させられた。

クリス「え?」

バルザック「爆薬、点火だァ!」

クリス「え?」


そして広場の中央で、クリスティの足元が大爆発。

市民「おい何があった!」

魔術師「キャー!」

バルザック「魔法街のみんな! 落ち着いて逃げてくれ! モンスター退治だ!」

ネル「暴走オートマトンが出たんだヨ!」

市民「な、なに!?」

魔術師「手伝います!」

ガルァシア「……いや、良い。敵は強力だ」

ネル「キミタチには避難誘導をよろしく頼めないカナ?」

魔術師「はい!」


旅人「危険なモンスターが暴れているらしいぞ!」

カフェ店員「まさか、吸血鬼の再来なの!?」

クリスティ「……え?」

町はパニックに陥った。

クリスティはあまりに突然の出来事にフリーズしていた。
610 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 01:30:12.49 ID:JDGzuupYO
久しぶりの魔境組
611 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/06/26(月) 01:30:47.13 ID:po2J3s3to
バルザック「お、割と頑丈だな。よかったよかった」

ネル「壊れちゃったら話聞けないもんネ」

クリスティ「え?」

ガルァシア「……計算してから爆破すべきだろう」

クリスティ「あの……なんなんですか、みなさんは?」

クリスティ「わたしが腕のいい職人さんに修理してもらったばかりで、特殊なコーティングをされていたから事なきを得ましたけど……」

ガルァシア「おい、わざわざ動きを封じずとも話を聞けそうだぞ」

ネル「でも町の人に退治するって言っちゃったしネ……」

バルザック「まあ、こうなっちまったらあれだな」

バルザック「ほどほどに破壊しながら会話を試みようぜ」

ネル「賛成!」

ガルァシア「多数決ならば仕方ない」

クリスティ「なんでわたしが壊される流れなんですか!?」

クリスティ「わたしはただお店でお洋服を売っているだけなのに!」

ガルァシアが魔法陣でクリスティの脚を止める。

その周辺にバルザックが大量の爆弾を設置。

ドオオオン!

バルザック「やったか!?」

ネル「噴射魔法で逃げタ!」

ガルァシア「追うぞ!」
612 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/06/26(月) 01:35:28.65 ID:po2J3s3to
朝、唐突に始まった鬼ごっこは数時間続いた。

クリスティ「いやああああ! わたし何にも知らないんですうううう!」

ネル「いいやキミは知っていル! そう、あの事を!」

クリスティ「何をですかー!?」

バルザック「自分の胸に聞いてみやがれってんだ!」

クリスティ「わたし悪いモンスターじゃないですううう!」

ガルァシア「……確かに、全く反撃してこないようだが」

バルザック「おいガル! そっち行ったぞ逃がすな!」

クリスティ「どうしてこんなことになったんでしょう……ぐすん」


フィナ「やーいあっぱれぬしー」チリンチリン

クリスティ「ああっ! ちょうどいいところに殺し屋さん!」

フィナ「うぇ!? 仕立て屋の!?」

クリスティ「助けてくださいいいい!」

フィナ「人聞きが悪いから殺し屋さんはやめて!」

テンパラス「追っているのは、奴らか」

バルザック「俺ぁもう疲れたわ! あの赤い剣士にも手伝ってもらおうぜ!」

ガルァシア「おや……彼女は昨日カフェに来た殺し屋見習いとかいう奴だ」

ネル「ンー? フィナちゃんだっケ?」

フィナ「げっ、あんたたちは性悪名探偵の連れの!」


フィナは昨日、エルミスと共に国内ナンバーワンの名探偵が居座っているカフェを訪れていた。

そこにいた腕利きの戦士三人組が彼らだ。

酔っ払いボマーのバルザック。性別不詳エスパーのネル。比較的常識人の岩魔術師ガルァシア。

逃亡生活初めの頃のソピアにトラウマを植え付けた魔境チームである。
613 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/06/26(月) 01:44:21.89 ID:po2J3s3to
フィナ「なんで仕立て屋の子がこいつらに追われてんの!?」

クリス「聞いても教えてくれないんですっ!」

フィナ「あんたたち! 話せばわかる! 話さなければわからない! 話そうよ!」

ネル「でもその娘はオートマトン! 危険なモンスターなんだヨ!」

テンパラス「……私にはそうは思えん。邪魔をされたくなければ構えを解け」

バルザック「どうする?」

ガルァシア「……従おう。この剣士と戦う理由はない」

ネル「チェッ」

フィナ「テンパラスさん……あっぱれです!」

テンパラス「やめろ。……話ができる相手は安全だったろう?」

テンパラス「現状、この者たちの方がモンスターに見えた。それが仲裁の理由だ」

バルザック「俺っちをモンスター扱いかよオイ!」

ネル「ボクらは正義の味方なのにネー?」

フィナ「正義の味方?」

ガルァシア「……俺が代表して説明しよう」


フィナ「つまり、この町では違法ハーブが異常に流行ってて、このままじゃ流通させてる組織に町が乗っ取られるから」

ネル「ボクたちは町を守るために立ち上がった!」

バルザック「んで、シュンの奴が魔法街広場の仕立て屋にいる人形が首謀者に繋がってるなんて言うもんだからよぉ」

クリス「ひどい濡れ衣ですー!」

フィナ「シュンってあの嘘つき探偵じゃん……」

ネル「マアネ」

バルザック「でも他にヒントもねぇしさぁ」

テンパラス「真偽も分からん情報で騒ぎを起こすな」

ガルァシア「嘘、か……」

フィナ「しんみりと呟いて、何かあったの?」

ガルァシア「昨日、俺がお前の連れの腕に刻まれた、人質用のルーンを消そうとしただろう?」

フィナ「エルミスの? あの探偵に簡単に消せるって言われてた」

ガルァシア「実はあのルーン、俺の実力では到底消せるものではないということを後で知った」

ガルァシア「シュンは、ルーンを消せなくて焦る俺を眺めて楽しみたかったらしい……」

フィナ「うわぁひどい奴だ」

テンパラス「よくそんな男の発言を信じる気になれたものだ……」
614 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/06/26(月) 01:51:26.61 ID:po2J3s3to
フィナ「で、一応聞くけど、何か知ってるの?」

クリス「違法ハーブなんてものが流行ってる事すら知りませんでした! 人形嘘つかない!」

ガルァシア「悪かった。シュンには俺たちからきつく言っておく……」

ネル「なんかおかしいと思ってたんだよネ。店にはハーブの痕跡もないし、思考を読んでも心当たりなさそうだったしサ」

バルザック「仕方ねえ。今回はこの人形をぶっ壊したら大人しく帰るか」

クリス「はいっ。これで一件落、ええええええ」

フィナ「どうしてそうなるわけ!?」

バルザック「どうしてって、一応モンスターが町中にいたら討伐しとかないとだろ」

ネル「町の平和を守るのサ」

テンパラス「……確かに、町にモンスターが現れた際の通常の対応はその通りだ」

テンパラス「市民権を得ている、または人形師ギルドに所属する使役者がいるなら話は別だが……」

クリス「市民権ってどうやって取るんですか?」

バルザック「よし、やろう」

クリス「きゃーひとでなし!」


クリスティの体中に、爆弾が取り付けられる。


フィナ「待って待って! この子はあたしの親友の仲間……」

フィナ「ううん、この際所有物でいいや!」

クリス「所有物なんですかわたし!?」

フィナ「人の物を勝手に壊すのはいけないんだよ!」

テンパラス「正論だな。実際の対応は審議が必要になるであろうが……」
615 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/06/26(月) 01:54:38.50 ID:po2J3s3to
ネル「ンー、だったら交換条件でどうダイ?」

フィナ「……条件聞かせて」

ネル「キミ、殺し屋の弟子なんでショ。そのアサシンのスキルを使って、本当の首謀者の手がかりを探し出してヨ」

ネル「そしたらこのオートマトンは見逃してあげル」

バルザック「おぅ、それいいな。俺ぁ暴れたいだけだができれば悪者相手に暴れたいもんな」

ガルァシア「他に頼めそうなアサシンのガドーは近頃姿を見ないからな……」

フィナ「ぐぬぬ、何でも屋からガドーくん呼んで来ようと思ったのに」

ガドーはフィナより年下のアサシンであり、死んだ師匠の後輩であった。

テンパラス「アサシンに接触する気だったのか……?」

フィナ「そういえば不味かった。危ない危ない」

テンパラス「だが、どうするんだ。お前は今アサシンのスキルを使いたくはないだろう」

フィナ「でも、断るわけにいかないし……」

フィナ「武器を使わない技術なら、何とかなるかも……」

ガルァシア「……了承ということで構わないな?」

フィナ「ええいわかりました! 何でも屋、ホワイトシーフとして、違法ハーブの業者探しの依頼引き受けた!」

クリス「わーい! 助かったー!」
616 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/06/26(月) 02:06:36.17 ID:po2J3s3to
クリス「ありがとうございますっ、殺し屋さん♪ わたしの大恩人です、殺し屋さん♪」

フィナ「やっぱり助けるのやめようかな……」

クリス「ええっ!?」

テンパラス「彼女の事はお雛さんとでも呼べばいい」

クリス「了解です!」

フィナ「ちょっと!? じゃあこの剣士はテンプラさんでいいからね!」

クリス「はい、覚えました!」

テンパラス「何をする! そこはあっぱれで良いだろうに……!」

バルザック「こいつがむっつりさんでこいつが美少女くんだ。俺っちの事はイケメンさんでよろしくな!」

ガルァシア「バルザック貴様……!」

ネル「ウワー言ったもん勝ちダ!」

クリス「いいえ! 通り魔とはよろしくしませんっ」

テンパラス「まあ、当然そうなるな」

フィナ「うん。正解」


フィナ(もめごとには首を突っ込みたくなかったけど、この子が壊されたりしたらフローラが悲しむよね……)

フィナ(誰かを傷つける仕事じゃないし、フローラのためだから仕方ない)

フィナ(アサシンの技を活かすのは今回だけ。我慢しよう。きっと無事に終わるから……)
617 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/06/26(月) 02:09:56.61 ID:po2J3s3to
今回ここまで。
神社とタロウ再登場のキョウト回でした。フィナは今後戦う機会少なめなので安価でのスキル訓練は割愛。
ソピア不在ウベローゼン編は残り半分くらいです。
618 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 05:30:36.06 ID:Ir/jqMDyo
乙おもしろかった
619 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 09:51:06.78 ID:Fa4obMzg0
おつおつ
620 : ◆k9ih1s9J/w :2017/06/30(金) 17:07:19.75 ID:0LlyIIGIo
同刻、その首謀者を追いつめていたのはパン屋の職人見習い、イリスだった。

マリー「このマリーGG様を二度までも!」

ビオーラ「おめぇ、パン屋向いてないだ! 転職すべきだべ!」

ギャル「今治療す、ギャッ! うぜー……」

イリス「うざくて結構。あんたたちが弱いのが悪いんだよ」

違法ハーブ販売業者の元締めとその配下二人は、ただのパン屋を相手に完全に戦意を無くしていた。

ギャル「つーか、どうやってここまで……」

イリス「あ? でかぶつならフェイランに任せてるよ。十分足止めはできてるみたいだねぇ?」

イリス「さっ、親玉の死の商人とやらを呼んでもらおうか?」

ピロピロリン

ギャル「通信機……!」

イリス「貸しな」バッ

イリス「もしもーし。ウチ、イリスって言います。今さっき、サキューラちゃんをフルボッコにしました」

イリス「あんたが死の商人?」

ミリエーラ『…………』

イリス「ふーん、だんまり。だったら、子分共は大型モンスターの巣に連れて行って、アジトには火を点けさせてもらうわ」

ミリエーラ『……この計画は私が進めているものです。邪魔しないでください』

イリス「は? 私が、って何様なのあんた? ウチの知り合いじゃないでしょ」

ミリエーラ『ミリエーラです…………貴方、ゲドさんでしょう?』

イリス「おや、君だったか」

ギャル(口調が、変わった?)
621 : ◆k9ih1s9J/w :2017/06/30(金) 17:08:05.48 ID:0LlyIIGIo
イリス(ゲド?)「無闇に僕を呼び出さないで欲しいのだが」

ミリエーラ『あなたが駒を管理しきれていないのが悪いんです』

ミリエーラ『駒を増やしすぎて手にあまっているのでは?』

ゲド?「見くびらないでくれないか。わざと自由にさせているのさ」

ゲド?「駒の自由意志でどこまで君を追いつめられるかの実験。中々有意義だと思わないかね?」

ミリエーラ『分かりあえませんね』

ゲド?「そう言うな。僕たちは今まで二人三脚で動いて来た仲間じゃないか」

ミリエーラ『それが仲間をも陥れる罠を仕掛けた人の言葉ですか?』

ミリエーラ『生憎、罠はすでに解除させていただきました』

ゲド?「なんて事をするんだ」

ミリエーラ『ですから、計画の邪魔なんですよ』

ミリエーラ『もうすぐ町に“彼女”が帰ってきます。そのための仕込みが無駄になりかねません』

ゲド?「だからそれをやめて欲しいと言っているのだがね。“彼女”の身に何かあったらどうするんだ」

ミリエーラ『“彼女”があなたの罠に巻き込まれる恐れは?』

ゲド?「そうならないように僕が手引きしているんじゃないか」

ミリエーラ『とにかく、今は帰っていただけませんか?』

ゲド?「分かった。君の作戦の成功を願っているよ」

ゲド?「これ以上の邪魔が入らなければいいのだがね?」


ゲド?「では、通信機は返そう。さらばだ」

ギャル「……あんた、何? ボスの敵? 味方?」

ゲド?「仲間の敵だ。お互いにそう思っている」

ギャル「意味わかんないし……」


物陰。

フェイラン「何が起こってるあるか? イリスは敵だたある?」

フェイラン「でっかいのが追い付く前に、ここは私が追及ね!」

(今見たことは忘れたまえ)

フェイラン(頭の中に声が……!?)
622 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/30(金) 17:08:25.97 ID:fkhgfHF0O
おや、ageるの?
623 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/06/30(金) 17:10:34.21 ID:0LlyIIGIo
パン屋ギルド周辺、美食通り。

二人は、いつの間にかそこに立っていた。

イリス「あれ?」

フェイラン「あいや?」

イリス「ウチら、何してたっけ?」

フェイラン「ううむ……違法ハーブの売人のボスをとっちめに行ったところまでは覚えてるある」

イリス「あっ、確か死の商人とかいうのを追ってたんだよ!」

フェイラン「実に物騒な名前よろしね」

イリス「違法ハーブを追ってただけなのに、この件、とんでもないのが絡んでそうだよ」

フェイラン「私たちの手に負えない相手あるか?」

イリス「いいや。ちょっと食事休憩したらまた探しに行くよ!」

フェイラン「承知あるね!」
624 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/06/30(金) 17:11:40.96 ID:0LlyIIGIo
聖教会。

テレサ「では彼らをよろしくお願いします」

シスター「は、はい!」

神父「おいディアナ。怪盗なんだから縄抜けくらいできないのか?」

ディアナ「この教会ではあたくしの美しさが封じられていますわ。すなわち、不可能でございますの!」

神父「封印でブスになるのか、お前……」


リウム「とにかく、死の商人ミリエーラ・グリエールって奴を捕まえない事には解決しないらしいな」

テレサ「違法ハーブの販売を諦めさせればそれで解決ですが……」

ミルズ「まずは最低でもあのギャルを捕まえないといけない。それで諦めなかったらミリエーラもだね」

ラファ「はあ……面倒臭いのです」

再度裏路地に向かい首謀者を捕まえるべく、聖教会の入り口を抜ける一行。

そこに、教会の壁にもたれかかり水筒でコーヒーを飲む一人の男がいた。

シュン「ミルズちゃんだな?」

ミルズ「誰?」

シュン「探偵ギルドのシュン。君と話すために待っていたんだ」

ミルズ「悪いけど今は暇じゃないよ」

シュン「君達の目的にも関係あるかもしれないが、いいのかい?」

テレサ「この人……心が読めません」

シュン「思考に蓋をするのも探偵の得意技ってもんさ」

ミルズ「話したいならここで話してくれないかな」

シュン「……まずはミルズちゃんにだけ話しておきたい事なんだ」

シュン「安心してくれ。僕に戦闘能力は無い。いざとなったら僕を倒して進めばいいさ」

リウム「どうすんだミルズ? 倒すか?」

ミルズ「……先に行ってて。後で追いつく」
625 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/06/30(金) 17:14:21.55 ID:0LlyIIGIo
場面は、リウム達が再度訪れる少し前の裏路地へ戻る。

ギャル「ボス……さっきのは? 詳しく教えてよ」

ミリエーラ『彼女は単なる彼の駒でしかなかったということです』

ミリエーラ『だからこそあなたは助かりました。これ以上はナイショです』

ギャル「ま、助かったからいーけど……」

のしのし

ギャル「ジュウリョウさん、おかえりー」

力士「済まぬ、サクラ。敵を取り逃がした。よもや四股の下をくぐって行くとは……」

ギャル「そいつなら帰ったし。なんか知らんけどボスと口喧嘩して負けたらしーよ」

力士「何事もなければ良かった」

侍「桜!」

オミキ「ご無事ですか!? すいません、タロウさんから話を聞くのが遅れてしまい……」

ギャル「あー、アタシは全くなんともないから」

オミキ「妹君が気絶なさっているようですが……」

ギャル「あいつらは繋ぎってゆーか……盾だし」

ギャル「オミキさんとナマクラさんがいればもう用済み、的な……?」

タロウ「一人忘れていやしないかな! ほら!」

ギャル「あっ、ごめん! タケミタマ様も、よろー!」

子狐「うむ!」

侍「一大事なり。全戦力を結集してお守りしようぞ」

力士「我ら用心棒が揃ったからには、もはや指一本触れさせん」

オミキ「頑張りましょう、ナマクラさん、ジュウリョウさん、そしてタロウさん!」

タロウ「オミキちゃんは誰かと違って優しいなあ!」

子狐「っと、誰か来るぞ。構えよ! 我、偉い! 役立った!」

リウム「見えたのは、こっちだったな!」ダッ

ラファ「はい! ほら、いますよ!」

力士「先程逃げた内の一人だ。ここは俺が」

侍「否、全員でかかるべきだ」

ラファ「この『神の目』からは逃れられな……見つけた時より敵が増えてるのです!?」

リウム「数時間前の大男もいやがる……! テレサさん、頼んだ!」
626 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/06/30(金) 17:16:14.03 ID:0LlyIIGIo
足元に聖なる魔法陣を発生させたテレサが二人の前に出る。

テレサ「初めまして。聖教徒のテレサと申します」コォォ

テレサ「貴女のお仲間のフリー氏とディアナ氏は捕らえました。まずは話し合いを……」パァァ

力士「ぬんッ!」スパァン

侍「はっ!」シュッ

ガキィン パリン!

テレサ「うっ……!」


ラファ「あ、ありえないのです! テレサさんの聖光壁が……!」

リウム「おいお前! 何者だよこいつら!?」

ギャル「何者って……同郷の仲間って奴だし」

ギャル「アタシの本当の名前はサクラ・ユリガハラ……キョウト人とのハーフだから、捨てられたんだよ……パパに」

リウム「お前、ころころ本当の名前が変わるな……」

ラファ「あなたの本名とか過去とかどうでもいいのです」

ギャル「はあ、まあ詳細を話してやるつもりもないんだけどさ……」


力士「つっぱりつっぱりつっぱりィ!」ガッ ガッ ガッ ガッ

侍「猪突の構え…………ハァッ!」ダンッ!!

テレサ「攻撃をお止め下さい……!」サッ パリン! キンッ! パリン!


ラファ「隙あり! 聖なる裁きを食らうのです!」

チリン

ラファ「ぎゃふ! げほごほっ! 一体どこから、何を……!」

オミキ「背後から蹴りました」スゥ

リウム「い、今加勢する! グロウ!」

チリン

ズバババッ!

オミキ「芝刈りの術」シュタッ チリン

リウム「おい、今召喚したばかりだぞ……」
627 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/06/30(金) 17:18:47.76 ID:0LlyIIGIo
テレサ「きゃあっ!」ズサァ

ラファ「か、格が違うのです。全員が最低でも上位職レベル……!」

ずしんっ

力士「こっちの道は通行止めだ」

リウム(もう道は上しか残ってねぇ!)ダッ スルスル

チリン

オミキ「……仲間を捨てて逃げるつもりですか?」

リウム「どうやったら屋根の上に回り込めるんだよ……!? くそっ」スタッ

侍「辞世の句を詠むが良い」チャキ

ギャル「何か言い残すことはある?って意味だけど」

リウム「そこの仮面の奴の言う通りだ……なんでお前は俺たちを……!」

リウム「仲間だっただろ、俺たち! 一緒に馬鹿やった! 魔法競技会にもみんなで出場した!」

ギャル「いや、大事なのは……付き合いの長さ? たぶん」

ギャル「まあ……アンタたちと楽しかったのは否定しないけど」

ギャル「一番楽しかったのはミルズで遊んでる時かな。つまんない人達に邪魔されちゃったけどさー」

タロウ「あれ? ここで情けかけちゃうの!?」

ギャル「あ、それとこれとは話が別。やっちゃって」

子狐「おっと、敵さんらに朗報じゃー。強力な戦士がこっちに来てるぞ、良かったな」

子狐「いやっ、あまり良くない! この気は……」


フィナ「師匠曰く、裏路地で騒いでる変わった外見の人はその近辺の地理に詳しい」

ネル「どうやって聞き出すノ? ネー? ネー?」

フィナ「脅すか、最悪拷問するかすればいいじゃん……あんたらがね」

バルザック「俺ぁ脅すの苦手だ。その前に爆破しちまうからな!」

クリスティ「いました! 確かに変わった外見の人ばかりですっ」

オミキ「あら」

タロウ「うわっ!」

フィナ「あっ」

テンパラス「……」
628 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/06/30(金) 17:20:44.24 ID:0LlyIIGIo
侍「お雛よ。後をつけて来たのか?」

フィナ「あ、間違えました。ここじゃない」

バルザック「ちぇっ何だよ」

ネル「いや、ビンゴだヨ」

ネル「キミたちが違法ハーブ事件の首謀者とその用心棒で間違いないネ?」

リウム「み、味方なのか……!?」

ネル「その切迫した返答から察するに、キミたちを襲っている彼らがボクらのお目当てってことダ」

ギャル「はぁ……また敵増えるのダルっ。正義漢多すぎてマジ萎えー」

ギャル「はーい。首謀者でーす。別に推理とかいらねーし……」

バルザック「本当に見つけちまった! お手柄だぜ嬢ちゃん!」バンバン

フィナ「背中叩かないで苦しい!」

フィナ「……ホントに違法ハーブを流通させた首謀者を突き止めたの、あたし?」

ギャル「だからそー言ってんじゃん……」

クリスティ「おかげでわたしの冤罪が証明されましたばんざーい!」

フィナ「えっ、違うでしょ。キョウトの人たちがここにいるし……」

フィナ「あっそうか。オミキ先輩達も町を守るために急いでたんですね! さっすがー!」

タロウ「君、察し悪っ!」

テンパラス「……フィナ。この者達は町を混乱させた一味の仲間だ」

フィナ「テンパラスさん何言ってるの? あたし怒るよ?」

バルザック「なんだってそんなにこだわってんだ? 彼氏でもいたか?」

ガルァシア「バルザック、今は黙っていろ……」

フィナ「テンパラスさんってほんとに失礼ですよね、先輩!」

オミキ「……」
629 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/06/30(金) 17:22:21.86 ID:0LlyIIGIo
テンパラス「……そこの派手な女。お前が中心のようだが、説明してもらおうか」

ギャル「いーよ。そこの痛い子にさ、説明して納得させないとマジで話進まないし……」

タロウ「大丈夫! 僕が説明するよ!」

タロウ「これはいわゆる裏稼業の一環なんだ」

タロウ「ハーブの中毒者を増やして、資金を稼ぎつつ僕たちの影響力を高めていく」

タロウ「そしてゆくゆくはこの町を活動拠点に、フルフィリア国内で様々なビジネスを行うんだ」

タロウ「表向きの活動のない暴力グループは共和国軍に解体されたからね。絶好のチャンスだったんだ!」

力士「特に、どこの町にでも現れる三輪車の男がいなくなったのが幸いだな」

ギャル「説明面倒だったから助かった。ありがと。」

ギャル「ま……これで分かったでしょ。アタシらはこの町を脅かす恐るべき敵だってこと」

フィナ「……他の人はともかくオミキ先輩は偽物に違いない! 同じお面を被れば……!」

タロウ「同じ鈴つけてるじゃん! 僕はあの鈴二つしか持ってなかったよ!」

フィナ「……」

フィナ「キョウトって、礼儀正しくて思いやりに溢れた国民性だって聞いてたのに……」

タロウ「あのさあ、そういう誤解って本当困るんだよね!」

タロウ「みんながみんなござるって言うわけじゃないし、ハラキリなんて滅多にお目にかかれない!」

タロウ「古臭い物ばっかりあるわけでもなければ、フジヤマ王国なんかじゃ断じてない!」

タロウ「根っからの善人もたくさんいるけど、他国を内側から蹂躙し平和を奪って生きる事に何の躊躇いもない集団もいる!」

タロウ「それが本当のキョウト国の姿なんだ! ちゃんと理解して欲しいものだねまったく!」

フィナ「……!」
630 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/06/30(金) 17:23:59.53 ID:0LlyIIGIo
タロウ「まあ、ある意味、君が誤解しているのは正しいとも言えるんだ」

タロウ「もしも本国で僕らの悪事が公になったら、僕らはキョウト人を名乗るジャルバかどこかの外国人だったという風評が流れる」

タロウ「そうすればキョウト人は一人残らず善良だという噂は間違いじゃなくなる」

タロウ「だから君が騙されたのも仕方ない事なんだ」

侍「タロウ喋りすぎだ」

フィナ「先輩! これってキョウト式ドッキリお芝居なんだよね。そうだと言って!」

オミキ「……いいえ。すべてタロウさんのお話しした通りです」

フィナ「タロウさんも名演技でした! 舞台でも通用しますよ!」

タロウ「しつこいなあ君は!」

ガクリ

テンパラス「フィナ!」

フィナ「……違うって言ってよ! 嘘って言ってよ!」

フィナ「もう、強くても、汚い人間にはなりたくないんだから……」

オミキ「嘘だなんてことは言えませんが、よかったら私達の仲間になりませんか?」

子狐「こんな我らでよければ歓迎するぞー」

フィナ「……お断り。あんたたちもアサシン協会と同じ、他人を食い物にして生きる下衆だ……」

フィナ「そんな連中に関わって生きたくない……」

オミキ「そうですか……仲間ではない人物に知られてしまったからには、消さなければいけません」

フィナ「ははっ……師匠も似たような事言ってた気がする」

子狐「まさか断られるとは。羊羹に夢中草を混ぜておいたのに、失敗したのー」

テンパラス「フィナがやけに執着すると思えば、そういうことか……!」

テンパラス「お前たちは決して許さん!」

侍「あっぱれぬし如きが、拙者に勝てると思うか?」

テンパラス「勝てん。私一人ではな」

テンパラス「テレサ殿、フィナを頼む」

テレサ「はい!」
631 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/06/30(金) 17:25:14.84 ID:0LlyIIGIo
ネル「あ、もういいかイ?」

バルザック「この黄金トリオを相手にただで済むとは思うなよ!」

ガルァシア「主に周辺の地形が、だがな……」

リウム「できることをやるしかねぇ」

ラファ「とにかく、あなたたちがさらに悪者だってことは分かったのです」

テンパラス「外道め……我が剣で焼き切ってやろう!」

テレサ「テンパラス様、どうか油断なさらないよう……」

フィナ「……」

クリスティ「ええと、お店に帰っていいですか?」


力士「3対9だが、果たして?」

侍「相手になるのは3、4人程度でござろうよ」

オミキ「タケミタマ様、万が一の際はお力添えを頼みます」

子狐「おっ、ついに我を頼ったか! うれしい!」

ギャル「面倒だけど回復くらいはするよー」

タロウ「僕は三三七拍子で応援するからね!」
632 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/06/30(金) 17:25:53.28 ID:0LlyIIGIo
ギルド上位職6名を含む乱戦が始まった。

ソピアは何度か上位職相当の敵を倒しているが、本来ならば下位職では複数人でも相手にならない強さを誇る熟達者である。

必然的に、実力不足の者にできる仕事は限られた。

テレサ「リウムさんには負傷者の治療をお願いします」

リウム「分かった! おい、そこの。とりあえず邪魔だから下がれ!」

フィナ「……」

リウム「くそっ、ミルズなら話を聞けたかもしれねぇのに」

リウム「あいつ、遅えな……」


フィナ(みんな、あたしを裏切っていく……)

フィナ(今、あたし以上に絶望してる人なんて、きっとどこにもいない)
633 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/06/30(金) 17:30:27.92 ID:0LlyIIGIo
ミルズは聖教会から場所を移し、廃屋の隙間でシュンと向かい合っていた。


ミルズ「……どうぞ」

シュン「こほん。まず前置きから語らせてもらおうか」

シュン「僕も違法ハーブの流行にはうんざりしていてね。特に何をするでもないが眉を顰める日々が続いていた」

シュン「そんな折、違法ハーブの販売を止めるべく独自に動いている集団の存在を人づてに聞いて、僕も何かできないかと考えたのさ」

シュン「ギルド筆頭探偵たる僕も結局、ウベローゼン市を愛する市民の一人……」

シュン「町を守るためなら無償の捜査もやぶさかじゃない」

ミルズ「それで、なんでボクだけ?」

シュン「……これを見てくれ。とある武器店で発見した社外秘の書類の写しだ」


ジェンス魔導具店 代表者:クルト・○○


ミルズ「……。これは?」

シュン「君のお兄さんは、ジェンスという偽名で商人の仕事を行っている」

シュン「偽名での活動が黙認されているとはいえ、政府に提出する書類は戸籍上の名前でなくては問題になるからな」

ミルズ「……心当たりはあるよ。兄様は夜に一人でどこかに出かける事が多かった」

ミルズ「それで? これがなんだって言うの。まだ何か持ってるならまとめて出しなよ」

シュン「まあまあ。物事には順序と言うものがある。次はこれさ」

ミルズ「夢中草の取引記録票……!?」

シュン「商人、ジェンスのね」

ミルズ「まさか、何か理由があったはずだ。夢中草は必ずしも毒じゃない」

シュン「……この封筒も見つかった」スッ


通達“ミリエーラ”側の経営状況について


シュン「筆跡はどうだろう?」

ミルズ「……見間違えるはずがない。兄様の字だ……」

シュン「別の名義で活動している店舗への、手紙が入っていたように見えないか?」

ミルズ「兄様が……死の商人?」
634 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/06/30(金) 17:31:39.53 ID:0LlyIIGIo
ミルズ「だ、だけど! ミリエーラは女性名だ。少なくとも、ボクの知るグリエール商会の女性は全員ラで終わる」

シュン「そういう先入観を抱かせる名前であるとも言えるな」

ミルズ「頭のいい兄様なら……いいや!」

ミルズ「ボクは信じないぞ。大体、声はどうするんだ!」

シュン「今は直接会わなくても、価格こそ高いが通信機で会話ができる時代だ」

シュン「君は知らないかもしれないが、ボイスチェンジャーというものもある」

ミルズ「……」

シュン「君たちの父が昔ファナゼ市で商人をしていたのは知っているかい?」

ミルズ「……聞いてる」

シュン「ご友人の貴族に裏切られ、借金を返せなくなり、身売りされる寸前まで追い込まれたらしいな」

ミルズ「……父さんはグリエール商会の一人だったんだ」

ミルズ「ということは、ボクも……」

シュン「あははっ、その心配は不要さ」

シュン「君はグリエールの血を引いていない。物心ついた時からすでに金色の目ではなかっただろう?」

ミルズ「そ、それってつまり……」

ミルズ「ボクと兄様には血の繋がりがないってことじゃないか!」

シュン「……ふむ」

ミルズ「……。……?」

ミルズ「いや、デタラメ言うんじゃないよ。ボクは母さんに似てるってよく言われてたし」

シュン「その矛盾の解が一つある。考えてみるんだ」

ミルズ「……異父兄妹?」

ミルズ「いや、それもおかしい。別の父親らしき人なんていなかった」

ミルズ「先に生まれた兄様の父親が他にいるなら分かるけど、妹のボクの父親が違うのはおかしくない?」

ミルズ「だとしたら、ボクは誰なんだ……?」
635 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/06/30(金) 17:35:09.58 ID:0LlyIIGIo
シュン「もしもの話だが、先に裏切ったのが商会の側だったとしたら?」ピラッ

ミルズ「これは……。……っ!」


シュンが最後に見せた紙片は、古い写真だった。

母と見慣れぬ男性が寄り添っている。

そしてその男性の腕に抱かれる幼い自分の姿。

寄り添う二人の横に立っているのは父と、その手を握る幼いクルト。


シュン「君、お父さんにもお兄さんにも全く似てないよな。むしろ……」

ミルズ「……捏造写真だ」

シュン「僕にはそんな技術は無いし、わざわざ頼んで作るような写真じゃないぞ」

ミルズ「何なのこれ……! 悪趣味な……!」

シュン「ふうむ……目に浮かぶようだ」

シュン「一人の女を巡って争う大商人と貴族。貴族と女の間に子ができても大商人は諦めない。前の女を捨ててまで狙った女なのだから」

シュン「そして、とうとう大商人は実力行使に出た。だが、自分の仕業だと知られる事はないと慢心していたんだ」

シュン「妻と娘を奪われた貴族は、激怒した。そして莫大な借金を負わせることで大商人から地位を奪った」

シュン「しかし大商人は行方をくらまし、妻と娘を購入して取り返すことはできなかった……なんともまあ悲しい愛憎劇だな」

ミルズ「黙れっ!」

シュン「まあ、この写真を見て僕が創作した想像に過ぎないがね?」

ミルズ「もういい! 父さんに直接聞く! それで全部分かる!」

シュン「待てっ! それだけはやめるんだ! 君のために言っている!」

ミルズ「なっ……」

シュン「この話は軽々しく口外すべきじゃない」

シュン「いいかい。君は、共和国軍による処刑の対象になり得るんだ」
636 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/06/30(金) 17:37:10.56 ID:0LlyIIGIo
ミルズ「そんな馬鹿な……自覚すらないのに、共和国に逆らう理由なんてないじゃないか」

シュン「それでもあり得ない話じゃない。指名手配書は見ていないか?」

シュン「手配されている貴族の内2人は君と変わらない、一人では何もできそうにない少女だ」

シュン「しかも片方は数年前から行方不明だったんだぞ?」

シュン「共和国軍は……徹底的に王家と貴族の血を絶やすつもりだ」

ミルズ「……馬鹿げてる」

シュン「全てを知ってしまった君は切り捨てられるかもしれない」

ミルズ「共和国軍に?」

シュン「“ミリエーラ”にさ」

ミルズ「…………う、ぐっ、なんで」

ミルズ「なんでっ、それをボクに伝えに来たんだ……!」

シュン「……知っておくべきだと思ったんだ。これから戦う相手の事を」

シュン「理由も分からず、最愛の兄に、軍へ引き渡され処刑されるかもしれない……」

シュン「そんな悲劇よりは、ここで伝えるのが優しさというものじゃないか?」

シュン「では、用は済んだので僕は失礼する」

シュン「これからどうするかは、君次第だ」
637 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/06/30(金) 17:38:17.12 ID:0LlyIIGIo
ミルズ「…………」

ミルズ「もう、違法ハーブなんて追ってる場合じゃない」

ミルズ「あの探偵の言ってた事が本当かどうかはともかく、証拠品は確かにここにある……」

ミルズ「この写真を、書類を……否定してくれる誰かを探すんだ……!」

ミルズ「……」

ミルズ「……誰が否定できるっていうんだ」


クルト『ミルズ……何かあったらすぐに俺に話すんだ。言うまでもない事かもしれんがな……』

ミルズ(でも、兄様には見せられない)

ミルズ(聖教会でボクを助けたのも皆を集めて町を救おうとしたのも何か裏があったのかもしれない)


ソピア『どんな状況になっても私はあなた達の味方です』

ミルズ(でも、ソフィアは、共和国軍に認められた『英雄』だ)

ミルズ(麓町にいるのも反乱の対処のためだろうし、この書類が本物だったら、ボクは……)


ミルズ「魔人先生は、ボクの味方とは限らない」

ミルズ「会ったばかりのサナさん達も信用できるかまだ分からない」

ミルズ「……もう、誰も信じられないじゃないか」

ミルズ「……いや、一人いた」

ミルズ「キュベレさん……!」

キュベレは、茶番と圧力、そしてアフターケアでミルズを過激なイジメから救った頼れるオネエさん。

以来一度もキュベレに会っていないミルズの認識は、そこで止まっていた。
638 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/06/30(金) 17:44:08.71 ID:0LlyIIGIo
今回ここまで、ageはミス
黒幕の交友度が10以上の場合、黒幕が心から仲間になりたそうにソピアちゃんを見ています。
ソピア側がそれを裏切りだと思うかどうかは安価かコンマで。
639 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/30(金) 18:36:56.20 ID:Zd/lDYRkO

地雷に飛び降りるミルズェ
640 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/30(金) 19:42:35.34 ID:xZ5Il3Ga0

やっぱり人質作戦のほうが良かったか?
何となく誰が女帝の娘か解ったし。
このあたりの騒動に介入出来ないのも痛い。
641 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/30(金) 21:31:37.90 ID:dxpTbIoMo

キュベレはフラグおれてないんだっけか
642 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/01(土) 09:45:18.28 ID:rZyD6YOKo
おつ
クズ運ソピアちゃんは絶対疑心暗鬼になる(確信)
643 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/07/02(日) 17:18:43.60 ID:KOoRK9q/o
膝をついて動かないフィナを尻目に、ウベローゼン市民とキョウト国人の戦闘は続く。

バルザック「爆弾祭りだぜひゃっほーーーい!」ポイポイポイッ

ドドドドドド

ガルァシア「フィナとやらが邪魔だ……」

テレサ「リウムさんには負傷者の治療をお願いします」

テレサ「わたくしの役目は……加護を! サリエルプロテクション!」フォオオン

テレサを中心に巨大な魔法陣が展開し、8人の仲間全員の足元に小さな魔法陣が現れる。

魔法陣から発生した聖なる光がそれぞれの全身を包み込む。聖教徒の使用する上級魔法の一種だ。


侍「耐えられるか、ジュウリョウ?」

力士「平気だ。だが視界が悪い」

侍「おみきよ、頼む」

オミキ「ええ、ただいま」

オミキ「御神、其の御力をもって国敵を征し我らを守り給えとここにかしこみ申す」

子狐「はいよっと!」クルリ

バチバチッ!

武御霊「ふう……この姿も久しぶりじゃ」

オミキ「場を清め給え!」

武御霊「まずは軽めに、神風・春一番」

ゴウ

ネル「煙晴れるよ何やってんノ!」

バルザック「スマン! 今火薬調合すっから待……んなっ、九尾……ッ!?」

テンパラス「何か知っているのか?」

バルザック「外国行ってた頃に見たんだが、イナリっつう妖精モンスターがいんだよ」

バルザック「奴らは、尻尾が増えるほど強い! んで、あいつは最強格だ!」

ネル「バルザックの酔いが覚めるくらいには危険なんだネ」

テレサ「妖精系最上級モンスター……」

クリス「あっ、この精霊量。ラヌーンの海神さんよりもちょっと強いです」

バルザック「それが事実ならこんな町中で遭遇していい相手じゃねぇ!」

武御霊「……我は武神。臆せば臆すほど脅威となる」

武御霊「さあ思い知らせ。キョウトの武を!」
644 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/07/02(日) 17:20:04.20 ID:KOoRK9q/o
武士、ナマクラが刀を構え走り来る。

バルザック「はっ、錆びた剣なら受け止めてやる!」

テンパラス「いかん!」サッ

バギンッ!

黄金色に輝く刀身が、斜めに構えて攻撃を逸らそうとしたテンパラスの盾を容易く切断する。

テンパラス「この男は、ただの棒でさえ武魂気を纏わせ鋭く研ぎ澄ます。決して受けるな!」

バルザック「わ、悪りぃ!」ドッ

侍「ぬっ!」

謝りつつも鋭い蹴りでナマクラを大きく後退させるバルザック。

罠と爆弾だけが彼の取り柄ではない。


ずしん ずしん

ガルァシア「俺の停止魔法陣が通用しない……?」

力士、ジュウリョウは身長3mの大男である。

その驚異的な筋力は、鈍重そうな体形とはかけ離れた瞬発力を生む。

魔法陣が無ければ、ガルァシアを含む正面にいた者は一瞬の内に叩き伏せられていただろう。

ラファ「い、今なら! この聖光塊を食らいなさい!」

力士「ぐおっ!?」

聖光を武器に加工せず純粋に固めただけの聖光塊は、やや当てづらいが白魔術の中では高い威力を持つ。

魔法耐性の低い巨漢はその衝撃によろめいた。
645 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/07/02(日) 17:21:23.37 ID:KOoRK9q/o
オミキ「思うようにはいきませんね」スッ

バルザック「俺に近づくと火傷すんぜ嬢ちゃんよぉ!」

チリン トンッ

バルザック「」

ネル「げっ、バルザックがやられタ!」

鏡のように光を反射するクナイの刃は黒いもやのようなものにコーティングされている。

ネル「フウン」チラッ

フィナ「……」

ネル「忍魂気を使った、春眠の術っていうんダ? 普通に斬られるより厄介そうだネ」

ネル「そうそうボクって梅味好きなんダ。ぜひ食べさせてヨ!」

オミキ「いいですよ」

チリン

ヒュッ

オミキ「消えた?」

ネル「どこ狙ってんノ? こっちだヨ!」

オミキ「逃がしません」

動揺した対象から心の声を聞くマインドリーディング。対象が狙う相手の変更を防ぐマインドロック。そしてテレポート。

似たような魔法も存在するが、魔法ではなくエスパーのスキルであるため神や悪魔の力も精霊も用いていない。

チリリン ヒュッ チリン クルッ チリン ヒュッ

ネル(あれ、おかしーナ。バルザックに起こす念を送ってるのに全然起きなイ)

ネル(ンー。ひょっとして思ってたヨリ……)

オミキ「……タケミタマ様、ご助力を」

武御霊「早く頼らんかい」

武御霊「そろそろ容赦せんぞー。神風・木枯らし」

ヒュゴウ

テレサ「うっ……!」

ラファ「と、飛ばされるのです!」

ガルァシア「テンパラス、岩の陰に!」

チリン チリリリン
646 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/07/02(日) 17:22:24.51 ID:KOoRK9q/o
シュタッ

リウム「」

ラファ「」

ガルァシア「」

テレサ「ラファさんっ……!」

テンパラス「間一髪だ……!」

クリス「なんともありません!」

ネル「アーア。ガルまでやられちゃったヨ……」

オミキ「すいません、だいぶ外しました……」

侍「良い。四人眠らせてくれれば十分楽になる」

力士「あの小娘は……人形か」

テレサ「皆様、起きてください!」

オミキ「私が許すまで絶対に起きませんよ」

ネル「やっぱりそういう事カ……。厄介な性質の技ダ」

テンパラス「人数では勝っていたはずなのだが……」

有利な条件であったはずが、すでに苦戦を強いられていた。

キョウト勢に一切の損害はなく、一方、立っている戦力はテンパラスとテレサ、ネルの三人だけである。

クリスティにそもそも戦う気はない。フィナは双方から人数に数えられていない。

タロウ「ふふん。キョウトの武力が理解できたかな!」

武御霊「……む? まだ誰かの気配が近づいている」

ギャル「10人目ぇ? いい加減にして欲しいんだけど……」

タロウ「あれ? なんだかお酒のにおいが」

この局面で、新たな乱入者。


ズル ズル

貴腐「君たち。ケンカは良くないよ」

貴腐「ケンカをする暇があったら私の作ったお酒を飲もう」

貴腐「変なモノは入っていないからね?」

共和国軍六勇の一人、衛生兵長、貴腐であった。
647 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/07/02(日) 17:24:19.63 ID:KOoRK9q/o
テンパラス「貴腐……!? なぜこのような場所に……」

テレサ「……最悪の展開かもしれません」

ネル(六勇! 迂闊な動きをしたらやられル……)

貴腐は身なりの良い男だが、その風貌は異様の一言に尽きる。

酷い猫背であり、目は半開き。頭頂部にはその頭よりも大きなキノコが鎮座する。

その周辺に立ち込めるアルコールのにおいがプレッシャーとなり、一同にのしかかる。

貴腐「あれ? 戦ってるのは3人だけ?」

貴腐「まったく……9人で襲い掛かるなんて不公平だと思わなかったのかい?」

テレサ「……貴腐様。どういったご用件で?」

貴腐「まあ焦らないでよ。私はリウム君に用事があって来たんだ」

リウム「」

貴腐「おや、レディーにも起こせないみたいだ」

貴腐「誰か代わりに起こしてくれない?」

ギャル「オミキさん、いいよ」

オミキ「はい」

倒れた面々の体から黒い塊が抜け出し、オミキの手元へ吸い戻された。

ラファ「うっ、どうなったですか……?」

バルザック「ここは居酒屋かぁ?」

リウム「そ、その顔は!」

貴腐「初めまして、リウム君。私は貴腐という者で、共和国軍で衛生兵長をしている。どうぞよろしく」

リウム「よ、よろしく……?」

貴腐「突然だけど、これが何だか分かるかな?」

ズルッ

貴腐は左手に掴んでいた何かを暗がりから引きずり出し、一同の眼前に晒した。

クリス「キノコですか?」

ネル「うワ……!」

ラファ「う、うぷっ」
648 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/07/02(日) 17:25:51.76 ID:KOoRK9q/o
全体をキノコとカビに覆われた何か。

それは人の形をしており、よく見ると白衣を着ているのが分かる。

ウベローゼン市、聖十字総合病院の名医……リウムの父の成れの果てであった。


リウム「うあああああああああッ!!!!」

バルザック「苗床ってやつだ……トリュフみてぇな匂いがする」

貴腐「君のお姉さんから、君たち一家が私の邪魔をしてるって聞いてねぇ」

貴腐「ぜひお返しをしないといけないと思ったんだ」

リウム「ね、姉ちゃんはどうした……?」

貴腐「お姉さんには私のレディーに、って言ってもわかんないか」

貴腐「今、会わせてあげるよ」


貴腐が人差し指を立てると、そこに濁った色をした粘菌の塊が凝集する。

粘菌は貴腐の腕から垂れ落ちると、裏路地の路面に広がっていく。

ズルリ!と音を立て、水たまりならぬ粘菌たまりの中央から、女性の上半身が飛び出した。

流動する粘菌で構成された顔面は恍惚とした表情を湛えている。


リウム「姉、ちゃん……?」

サナ「あはっ、リウムゥ、見てる〜?」

サナ「みんなぁ、菌になってる部分ってとっても心地がいいんだよ……♪」

サナ「ああん……みんなも、早く菌になろうよ……♪」

ラファ「サナさんが……オェェェェ!」

サナ「貴腐様ぁ〜、早く菌に戻して〜」

貴腐「あはは、すっかり私の虜だね。あんなに嫌がってたのに、一時間もすればこの通りだ」

貴腐「ほら、私の腕にお乗り」

サナ「うふぅん♪」

ネル「悪趣味な……あれは理解できないヨ」

バルザック「あいつと酒は飲めねぇ……」

力士「サクラ、オミキ、見るな! 耳も塞げ!」

武御霊「祟りでもああはならんぞー……」


彼ら自身も悪趣味な方である魔境カフェの3人も、貴腐とは協力関係にあるキョウトの民達でさえも、顔が引きつっていた。
649 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/07/02(日) 17:26:42.05 ID:KOoRK9q/o
貴腐「まあ、そういう流れでここに来たんだけど」

貴腐「ねえ……リウム君は、トリュフと、女の子(ただし菌)と、ワインと、帽子……この中でどれが好き?」

リウム「……!」ゾッ

リウムは口を開かず、誰もが緊張感で動きを止める。

やけに長く感じられた数秒後、最初に口を開いたのはまたも貴腐だった。

貴腐「あ、でもさ。ここにいるみんなってリウム君以外も私達の障害なんだよね、サキューラさん?」

ギャル「……えっと」

しばらくの間を置いて、コクコクと頷く。



貴腐「じゃ、全員の口封じをしないとね?」



テンパラス「っ!」

ガルァシア「マズい……!」

ネル「みんな捕まれ…無理ダ! 緊急退避ッ!!」

シュシュシュシュシュッ!

貴腐「おや、消えた。今のは?」

オミキ「敵の一人が瞬間移動を使います」

貴腐「なるほどねぇ……あははっ」

貴腐「どこに隠れたって無駄だよ! 私のレディー達からは逃れられない!」バッ

貴腐「ゴー、マイ、レディーズ!! さっきのみんなを見つけて私に報告するんだ!」

100人を超える見えざる追っ手達が、貴腐の下から解き放たれる。

貴腐「いいね。追いかけっこ遊び。子供の頃を思い出すよ」

貴腐「さあ、この限られた時間をめいっぱい楽しもう!」
650 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/07/02(日) 17:27:17.04 ID:KOoRK9q/o
宿屋前。

メリル「外交官さん、修理用の部品、遅いねぇ」

メリル「……おや? 誰かパンでも焼いてるんかね?」

アフロ「WAO! 何だか変なにおいがするぞ!」

市民「でもなんだかいい感じ」

グルメ「熟成された、品のあるディナーを彷彿とさせる」

人々を陶酔させるその香りの正体は、ひとたび発酵の条件が整えば、あらゆる生き物をたちまちの内に腐敗させ得る菌の胞子。


裏路地の一画。

中毒者「これ、ハーブよりいいかも……」

不良「はっ!? 何かがオレを導いてやがる!」

メガネ「ハーブは一旦やめて、今はこの極上の夢に酔い痴れよう」エアメガネクイッ

女子「……! リウム……!」ダッ

あまねく町の隅々まで行き渡るは、死の胞子を運ぶ風。

その風、芳しく。
651 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/07/02(日) 17:31:34.93 ID:KOoRK9q/o
章タイトル?を回収しつつ短いですがここまで。
次回、貴腐との戦い。
652 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/02(日) 17:55:36.24 ID:rl6f5jUMo
おつ

あーマジで六勇誰ともコネ作れなかったソピアちゃんの運が恨めしい
653 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/03(月) 01:49:25.33 ID:HKj4DAg2O

信じて送り出したサナちゃんが
654 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/03(月) 15:56:30.97 ID:rNtZ8QkcO
更新再開嬉しいやったー
655 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/03(月) 20:46:40.49 ID:aPZ4B8uBo
貴腐思ったよりエグくてワロタ
これ戻るのか
656 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/07(金) 09:56:24.59 ID:YPJ6o8cgO
まあ、貴腐とは余程の事が無ければ交流すら無かっただろうし、倒すのは予定通りではある。
というか、この国の為にもこいつは殺さねばならん。
657 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/03(木) 11:41:55.86 ID:RsCoVdcrO
そろそろ保守
658 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/19(土) 23:40:15.30 ID:yE0BuuBP0
まだっすかね
659 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/24(木) 00:09:36.16 ID:bRlarAsn0
あと1週間で2ヶ月か。運営が気まぐれで仕事して落とされないか心配だなあ
660 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 19:55:54.66 ID:ESfib4sto
修正 >>605のタロウ、ナマクラさんも→タケミタマ様も

大変お待たせしました。戦闘回は次回で終わります。
661 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 19:57:03.92 ID:ESfib4sto
ウベローゼン市、平民住宅地。

ネル「やっちまっタ!」

ネル「緊急だったからみんな適当な場所に飛ばしちゃったヨ!」

ネル「……マー、貴腐の目の前にいるよりマシだよネ」


ウベローゼン市、商人ギルド前のオフィス街。

ガルァシア「ネルの奴め……首から下が地面に埋まっていたじゃないか」

ガルァシア「岩魔術師の俺でなければ脱出は不可能だった」

商人「なぜ彼は埋まっていたんだ?」

店員「誰か、レスキューを呼んであげてください」

ガルァシア「注目を浴び過ぎだ……」


ウベローゼン市、メカニックギルド、屋根の上。

テンパラス「どうやって降りるべきか」

バルザック「ここにいてもその内見つかるし、一か八か飛び降りるしかねぇな!」バッ

テンパラス「仕方ない……」ピョン

ドサッ スタッ

バルザック「痛ってえ! 足くじいた!」

テンパラス「では、達者でな」

バルザック「待て! 俺っちを置いてくんか!?」

テンパラス「お前が近くにいると酒臭くて、貴腐の接近に気づけない可能性が高い」

バルザック「いや分かんだろ。俺とはタイプが違う酒臭さだ」

テンパラス「確かに……貴腐に比べてお前は悪臭を放っている」

バルザック「ひでえや!」
662 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 19:58:47.35 ID:ESfib4sto
バルザック「そんなことより、作戦会議だ」

バルザック「おめぇさんも手練れだろ。こうなりゃ貴腐を討つしか生き延びる術はねぇ」

テンパラス「軍が関与していると知っていれば私も手は出さなかったのだが……」

バルザック「おいおい、後悔すんなら酒の席でな。切り替えていこーぜ」

テンパラス「しかし……相手は六勇だぞ。どうしろというんだ」

バルザック「俺ぁ貴腐の弱点を知っている」

テンパラス「有名だな。先端恐怖症と高所恐怖症だ」

バルザック「おう。それも重度のな」

バルザック「だから奴ァいっつも猫背で目を伏せて歩いてんだ」

テンパラス「つまり、不意をついて貴腐を高所に連れ出し、鋭い物を突き付ければ良いということか」

バルザック「そのためにおめぇさんの力が必要ってこった」

テンパラス「不意をついて高所へ運ぶのは……エスパーの役割か」

バルザック「死にたくなけちゃ協力するんだな。まずはネルとガルに合流する」

バルザック「こっちだ。はぐれた時は行きつけのカフェに集合するって決めてんだ」


ウベローゼン市、魔法街、屋外競技場。

ラファ「ごめんなさい。急用なので不法侵入させてくださいなのです」

ラファ「火魔術師と風魔術師が飛行訓練に使うジャンプ台、あそこなら!」

白魔術師ラファの得意とする魔法は『神の目』。

鍛えれば、双眼鏡のように一点を拡大するだけでなく、広範囲の人間の顔を一度に認識できるようになる偵察魔法だ。

ラファ「さっきまでしてた匂いも消えましたね」

ラファ「ここから敵の動きを観察して、隙をついて戦えない二人のどちらかを狙うのです」

ラファ「まさか貴腐も仲間を捨てるような畜生ではないでしょう」
663 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:00:48.19 ID:ESfib4sto
ウベローゼン市、宿屋前。

市民「腹減ってきたな」

商人「早くディスプレイの音を出してくれ、大統領選が終わっちまうぞ!」

アフロ「HAHAHA、実に済まない! 手元にスピーカーのパーツが無いんだ、辛抱してくれ」

アフロ「王都からパーツが届くまでミーにもリペアはインポッシブルなんだ。参ったね XD」

いら立つ聴衆の隙間を縫って、暗い表情の二人が鉢合わせした。

リウム「お前は、さっきの……」

フィナ「あんたもここに来たんだ」

リウム「ああ……脚を調達して町の外に逃げようと思ってな」

リウム「でも、無理だ……。この混雑じゃ身動きが取れないし、よく考えたら、軍の検問で数時間待たされてる間に捕まる」

リウム「お前も、ここにいても無駄だぞ」

フィナ「……ここが一番安全だよ」

リウム「なんでだよ?」

フィナ「貴腐って、その気になれば町丸ごと攻撃できるでしょ。ここでもにおいするし……」

フィナ「でも攻撃してこないってことは関係ない人を巻き込まない程度の良識はあるってこと」

フィナ「人混みの中のあたし達をピンポイントで攻撃することもできない。出来るならもうやってるから」

リウム「そ、そうか……。だったら俺もここにいる」

リウム「俺は……死にたくねぇ」

フィナ「……ここにいても、死ぬけどね」

リウム「なっ、お前、安全だって!」

フィナ「早いか遅いかの違い。相手は貴腐だけじゃない……誰に出くわしても、勝ち目はゼロ」

リウム「なんだよ……何なんだよ!! 俺たちが悪いのかよ!?」

リウム「世の中、力が正義じゃないんだろ!? 俺の考えは、間違ってたんじゃないのかよ!」

リウム「どうして、正しい事を言ったら、家族皆殺しにされねぇといけねぇんだよ……!」ガクッ

リウム「ふざけんなよ畜生……畜生っ!」ダンッ ダンッ!

フィナ「…………」
664 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:02:30.64 ID:ESfib4sto
路面を殴り拳から血を流すリウムを見て、フィナは細めていた目をゆっくりと見開いた。

リウム「……」

リウム「なんだよその顔」

フィナ「いや……なんか、あんたよりマシな気がしてきたから」

リウム「は?」

フィナ「あんたがまだ生きようとしてんのに、この程度で死にたい気分になってるのが恥ずかしくなってきた」

フィナ「あたしがここで諦めたら悲しむ人がいる」

フィナ「教訓! 出会ったばかりの人を信用してはいけない! よしっ!」

フィナ「じゃ、あたしはやる事あるから、これで!」

リウム「ま、待てよ!」

フィナ「あんたも信用できない。OK?」

リウム「せめて何しに行くかくらい教えろよ!」

フィナ「仕立て屋の子を助けて、逃げ切る」

フィナ「元はと言えばあの子を助けるために首を突っ込む羽目になったんだから、最後までやり遂げる」

フィナ「友達を悲しませたくないからね。数少ない、信用できる友達をさ」

フィナ「……あんたには、信じられる人残ってないの?」

リウム「……いねぇ。みんな、ハーブに奪われた。ダチには裏切られた」

フィナ「ふーん、だったら仕返ししてやろうとか思わないの?」

リウム「俺には無理だろうが! 考えなくても分かるだろ!」

フィナ「じゃ、できそうな人に頼ればいいじゃん」

リウム「だからいねぇって……! いや……いた」

リウム「キュベレさんなら何とかしてくれるかもしれねぇ……!」

フィナ「ん? キュベレさんって派手なオネエさん?」

リウム「お前も知ってんのか?」

フィナ「知ってるけど……日魔術師のキュベレさんなら今頃ファナゼにいるよ」

リウム「嘘、だろ……」

フィナ「最後に頼れるのは自分だけ、かもしれない。それじゃ」ダッ

リウム「……」

リウム「……? いや、もう一人いた」

リウム「でも……俺に、頼る資格なんて……」

リウム「だけどせめて、伝えないとな……」スクッ
665 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:03:48.51 ID:ESfib4sto
元旅人の娼婦、エリーが切り盛りするカフェ。

通称、魔境カフェ。

カランカラン

ネル「アッ、バルザック!」

バルザック「おお、いたいた!」

テンパラス「魔術師の男もちょうど来たようだな」

ガルァシア「ネル……ワープ先はもう少し考えろ。地に埋まっていたぞ。俺が岩魔術師だったから良かったものの……」

ネル「ごめんヨー」

エリー「あんたがしくじるなんて珍しいね?」

ネル「緊急だったからネ」

エリー「へえ、何と戦ってたんだい?」

ネル「え? 貴腐だヨ。六勇ノ」

バルザック「ついでにキョウト国の偉い神様もな」

エリー「あんたたち一体どこで何してきた!?」

ガルァシア「ここから歩いて10分の町中だ……」

バルザック「チンピラ退治のつもりだったんだがなぁ。あ、エリーちゃんビール一杯!」

エリー「……頭が痛いよ」

テンパラス「マスター。剣士のテンパラスだ。話し合いに使っても良いだろうか?」

エリー「いいよ。下手に避難するよりあんたたちがいた方が安全そうだからね」

ネル「今更だけど、逃げるのは悪手だったネ……」

テンパラス「私見だが、あの場面では最善手だったろう」

ネル「菌を使って遠くから見えない攻撃を仕掛けてくる敵が相手なんダ、姿を見失うのは一番危険ジャン?」

バルザック「ごくごく……プハー! あん? そういやシュンの奴はどこ行きやがった?」

ガルァシア「また、余計な事をしているのではないだろうな……」
666 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:05:58.16 ID:ESfib4sto
シュンに余計な事をされたミルズは、毎日通っている講堂の前で打ちひしがれていた。

リウム「いた……!」

ミルズ「……やあ、キミか。ボスは倒せたのかい?」

リウム「いいや。聞きたい事もあるし、言いたい事もたくさんある」

リウム「だけどまずは現状だけでも伝えないといけねぇ」

ミルズ「兄様が出てきた?」

リウム「何言ってんだ。とにかく聞け」

リウム「俺たちの敵はまずキョウト国の連中、あの3mの大男以外に、眼光の鋭いちょんまげ男、仮面をつけた赤い袴の小せえ女」

リウム「それと禍々しい鎧をつけたでかい狐人間がいる」

リウム「そして六勇の貴腐だ。頭にキノコの生えた変な奴で、遠くからでも見れば分かる」

リウム「こいつらに会ったらとにかく逃げろ、いいな!」

ミルズ「一気に言われても……って、き、貴腐だって? 貴腐がどうして……」

リウム「俺たちも分からない。ただ……俺の親父と姉ちゃんは貴腐にやられた」

ミルズ「なんだって……。そうか、この臭いは貴腐の……」

リウム「……それだけ伝えに来た。お前も気を付けて逃げろよ」

ミルズ「わざわざボクのために……?」

リウム「……悪いかよ」

ミルズ「そんなことない」

ミルズはこの講堂で水魔術を学び始めた頃からつい数日前まで、リウムとその取り巻きによる過激な暴力を受ける日々を送っていた。

そのリウムがである。家族を失ったばかりであるのにもかかわらず、敵に見つかる危険を冒してまでミルズを探して現況を伝えに来たのだ。

ミルズ「……ありがとう」

リウムのらしくない行動は、シュンによって深く深く沈められたミルズの心を、少しだけ明るくした。
667 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:07:32.92 ID:ESfib4sto
ミルズ「ボクは今、キュベレさんに会いたいんだ。何か知らない?」

リウム「キュベレさんはファナゼにいるってさっき会った奴に聞いた」

ミルズ「そう……」

リウム「それ、持ってるの何だ?」

ミルズ「ああ、今のキミには話してもいいかもしれないね。これは……。……!」

リウム「どうした?」

ミルズ「……貴腐って、あれ?」

ミルズの視線の先には、頭に大きなキノコを生やした人影。

リウム「……いや、違げぇ。でも!」


侍「桜、一人見つけたでござるが」

ギャル「あはッ、ミルズもいるじゃん……。ナマクラさん、退路を塞いで」

侍「御意」


リウム「ちっ……回り込まれた。うかつに動けねぇ」

ミルズ「ちょんまげにキノコが生えてるんだけど……どういうこと?」

リウム「知らねえよ! 貴腐がなんかしたんだろ!」

ギャル「どぉー? 仲良くやってるー? アタシも交ぜなよー」

ギャル「本場のチャンバラごっこ。遊びじゃないけどね」

侍「……」チャキッ

ギャル「ナマクラさん、早速そっちの女から斬っちゃってよ」

ミルズ「っ……!」
668 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:09:10.73 ID:ESfib4sto
水魔導師「何をしているのですか?」

水魔導師「リウム君にユーリさん……。ミルズさんへの暴力はもうやめたのでは?」

リウム「違っ、これは……」

水魔導師「また騒ぎになってお叱りを受けるのは避けたいので、その武器は収めなさい」

ギャル「うるさいな」

水魔導師「何か言いましたか?」

ギャル「……ナマクラさん」

侍「ぬうんッ!」ブンッ

スパッ!

水魔/導師「」

モブ女学生「あ、あわわ……先生が真っ二つに……」

モブ男学生「無理だ、あれはもう回復魔法じゃどうにもならない!」

岩魔術師「さっきは広場で爆発騒ぎ、今度は人斬り……!」

火魔術師「憲兵は何やってんだよ!」

ギャル「遊びじゃないってのはこういうこと……ってもうあんな所にいるし」


ミルズ「まさか、部外者の先生まで殺すなんて……」

リウム「あいつらは異常だ!」

侍「逃がさん」

リウム(速い!?)

貴腐の扱う大きなキノコには対象の身体能力を向上させる働きがあった。

また、兵士の逃亡や反乱を防ぐ目的にも用いられている。

侍「ふっ!」チャッ

ミルズ(斬られ……!)

リウム「クソがぁぁぁぁ!!」ガバッ

侍「ぬう!?」
669 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:10:39.38 ID:ESfib4sto
ミルズ「キミ!」クルッ

リウム「立ち止まんじゃねぇ!」

ナマクラの腰にしがみついているリウムは振り回されながらも叫ぶ。

リウム「俺にはもう、どうにもできないんだ……!」

リウム「後はお前に託す! 走れえええ!」

侍「ふっ!」ポイッ

ミルズ「……!」ダッ

ナマクラはリウムをふりほどくと高く投げ上げる。

そして刀の柄を掴むと、一呼吸。

リウム「ミルズ、死ぬなよ」

侍「セイッ!」

ズババッ!

リ/ウ/ム「」ドサッ バラバラ

ギャル「アハッ……リウム、アンタいい男になったじゃん。笑」

侍「まだ追いつける。走るのだ桜」

武魂気の刃は脂で切れ味が落ちることは無い。全身に返り血を浴びたままナマクラはミルズを追う。

すっかり市民のいなくなった講堂前には二つの血だまりだけが残っていた。


貴腐「ん? レディー? 何?」

貴腐「そうか。ふふっ、記念すべき一人目に、乾杯」

彼らに人を殺すことへの躊躇いなど無い。


ミルズ「はぁっ、はぁっ……!」ダッダッダッ

リウム『後はお前に託す!』

ミルズ(なんてことをしてくれたんだ)

ミルズ(わざわざボクに恩を売って……)

ミルズ(あの馬鹿のせいで……兄様が敵だとしても、逃げるわけにはいかなくなったじゃないか……)
670 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:12:24.07 ID:ESfib4sto
裏路地、サクラ達のアジト前。

そこには非戦闘員のタロウだけが残っていた。

タロウ「僕は応援担当だから、走り回らずに留守番してればいいよね!」

ラファ「そうですね。とっても都合がいいのです」

タロウ「だよね! って、うひぃ! 戻ってきた!?」

タロウ「みんなは何をやってるんだ!」

ラファ「『神の目』で全員の位置を把握していたので回避は余裕でした」

ラファ「さあ、今すぐにお仲間と貴腐に連絡して、戦闘をやめるのです。さもなくばあなたに拷問を行います」

<●><●>

タロウ「わ、わかった! だから乱暴はやめるんだ!」

派生魔法『神の目力』は、神かそれに極めて近い者に相対しているかのような凄まじいプレッシャーを与える魔法だ。

萎縮したタロウはすんなりと要求に応じた。

ラファ「さあ、早く。通信機は無いのですか?」

タロウ「もしもし、ジュウリョウさん!? 僕らの負けだ。降伏するんだ」

タロウ「うん、さもないと僕が大変な事になる。すぐに戻ってきてね!」

ラファ(ふう、何とかなったのです。でもいつでもタロウに攻撃できるようにしておかないとですね……)

ヒュウウウウウ

力士「八卦良い……」ドシン!!

ラファ(降ってきた!?)

力士「のこった」ヒュッ

ダァン!!

ラファ「がッ……!」

ラファ(速いし、目力が効かなかった……!)

タロウ「ジュウリョウさん! いやー助かったありがとう!」

力士「礼には及ばん」

ラファ「うぅ……」フラフラ

タロウ「あっ、逃げるよ! とどめを刺してよ!」

力士「うむ」
671 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:13:51.63 ID:ESfib4sto
ラファ(あっさり死んでたまるかなのです……)

ラファ(不意打ちの聖光塊!!)

ぼすん

力士「……」

ラファ「え? さっきは効いたのに……」

力士「力がみなぎるのだ。このキノコを頭に乗せてからというもの……」

力士「まったくと言っていいほど力の加減ができない」ガシッ

ラファ「は、離しなさい!」ジタバタ ボキッ

ラファ「あああああああああああッ!!!」

ジュウリョウはラファの腕を掴むと、背中を向けて腰に乗せる。

勢いあまって骨を折ってしまうがそのまま持ち上げる。

タロウ「おおお! これは……」

そして、全力で地面へと叩きつけた。

タロウ「綺麗な一本背負い!」

ベシャン!

タロウ「……前言撤回。綺麗じゃないよ! ぺしゃんこのスプラッタじゃないか!」

力士「すまん」

タロウ「しばらく僕に触らないでね! 危ないから!」

力士「承知した」

力士「だが、タロウも俺に同行して欲しい。また襲撃されてはかなわん」

タロウ「あ、ああ、そうだね。僕もついていくよ」

力士「まずはオミキたちに合流する。タケミタマ様に探してもらい一人ずつ狙った方が早そうだ」

タロウ「オミキちゃん達はどこに?」

力士「最も厄介であろう敵の人形を追っているらしい。そこまでタケミタマ様が案内してくださる」


貴腐「へえ、もう二人目かい?」

貴腐「スタート地点に戻ってくる勇気ある少女の死に、乾杯」

貴腐に強化されたキョウトの武人には、もはや抵抗すら無意味。
672 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:15:24.92 ID:ESfib4sto
ウベローゼン市、聖十字総合病院近隣。

ミルズ「何とか、まいたかな……」

ミルズ「あっ、ここは……。……」

水魔術師女子「ミルズ!」

ミルズ「キミは! ハーブで正気を失ってたはずじゃ……」

女子「そうなんだけど、この匂いで目が覚めたの」

女子「メガネ達はそのままだったけど……」

ミルズ「一人だけでも助かって良かったよ」

女子「ねえ、リウムは一緒じゃないの?」

ミルズ「……! 彼は……」

女子「どうしたの!? リウムに何かあったの!?」

ミルズ「……落ち着いて聞いて欲しい」

女子「わかった」

女子「あっ」

ミルズ「実は……え?」

貴腐「やあ、こんにちは。今日は運動日和だね」

ミルズ「きっ……!?」

ミルズ(一目見て分かった)

ミルズ(酷くにおいがキツい……)

ミルズ(こいつが、貴腐……!)

身構えるミルズを無視し、貴腐は隣の女子に話しかける。

貴腐「君は、リウム君の幼馴染の子だね」

女子「そうだけど、何……?」

貴腐「では早速……いや、君は中々美しい」

貴腐「ここで死なせてしまうのは惜しいからね。ぜひ、私のレディーになりなさい」

女子「い、意味が分かんないんだけど!」

ミルズ(嫌な予感がする……!)

ミルズ「は、走って!」

女子「!」コクリ ダッ
673 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:16:36.38 ID:ESfib4sto
考える前に体が動き、ミルズは両手を広げて貴腐の正面に立っていた。

死んだリウムの守りたかったであろう相手だからだろうか。

貴腐は焦りも驚きもせず、目の前のミルズを睨みつけた。

貴腐「おやおや、私の恋路に立ち塞がろうっていうのかい?」

ミルズ「ここは通さないよ……」

貴腐「うん、構わないよ」

ミルズ「……?」

ザァッ

ミルズの頬を風が撫でた。

遅れて芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。

女子「きゃあああ!」

ミルズ「しまった……!」

振り返ったミルズが見たのは、菌の塊が背中に命中し、体が服ごと溶け始めている女子の姿だった。

女子「痛い、痛い! 助けてぇ!」

貴腐「ふふふ。すぐに気持ちよくなるからね」

ミルズ「あ、あ、あ……」ゾッ

女子「んくっ、ひぎいい……!」ドロドロ

女子「……」ベタリ

貴腐「完成」

貴腐「皆、新しいレディーの仲間入りだ。優しくしてあげてくれたまえ!」

貴腐「さて、お待たせして済まないね!」クルリ

貴腐「君も割と好みのタイプなんだけど、この私に名前と職業を……ってあれ? あんな遠くに」

ミルズ「はぁ、はぁ……!」ガクガク

貴腐「待つんだ君ぃ〜。まずは私とお茶をしようじゃないか〜!」スタスタ

ミルズ(貴腐は姿勢が悪くて足が遅い)

ミルズ(でも、ボクの脚が震えてまともに走れない……!)

ミルズ「く、来るな……」

ドテッ

ミルズ「うぐっ!」

ミルズ(た、立たないと、来る! 捕まる!)

貴腐「あはは。つーかーまーえー、た!」

ガシッ
674 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:21:21.34 ID:ESfib4sto
貴腐「うん?」

貴腐「確かに掴んだはずなのに消えてしまった」

貴腐「私は幻でも見たのだろうか?」



ミルズ「ど、どこなの、ここは!」

魔人「安心せい。わらわの城じゃ」シュウウ

ミルズ「ま、魔人先生……」

魔人「怖いという気持ちは分かるがのう、怖い時こそ気を強く持たねばいかんぞ」

魔人「動揺してしまえばせっかくの高い精神力が無駄になる」

ミルズ「助かっ……てない!」

ミルズ「この城もウベローゼン市の中だから、貴腐の攻撃範囲だ……」

魔人「もしもあやつが町を丸ごと発酵させようとしてきたら、わらわが相手してやる」

魔人「大事な城を汚されるのは気分が悪いからな」

魔人「まあ、そんな真似はせんと思うが」

ミルズ「……魔人先生、一つ、真面目に答えて欲しい」

魔人「なんじゃ」

ミルズ「敵は、ボクよりも優秀な先輩魔術師より、さらに強いベテラン魔導師よりももっと上の、魔導長でさえも敵わない六勇の一人」

ミルズ「せっかく仲間になれたのに、リウムも死んでしまった」

ミルズ「兄様もボクの前では無関係を装っていたけれど、夢中草の売買に関与していた」

ミルズ「この写真が本物なら、命の恩人のソフィアにも命を狙われるかもしれない」

ミルズ「今……立ち向かった先に、希望はあるのかな」
675 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:22:13.10 ID:ESfib4sto
魔人「ふむ」

魔人「希望とは時に受け取り方次第。その質問の答えは分からんが、一つ断言できることはある」

魔人「立ち向かわなかった先に希望が無いことは明白じゃ」

魔人「しかし、あやつらも可哀想だの」

魔人「兄と友へのお主の信頼はその程度のものだったのか?」

ミルズ「……信頼している相手だからこそ、敵になる未来なんて受け入れたくない」

魔人「逃げ腰か」

魔人「逃げた所で現実は変わらん。さっさと真実を確かめてしまう方が楽じゃぞ」

ミルズ「……そうだね」

ミルズ「ここで兄様とソフィアを待つよ」

魔人「む? いつまでもわらわの城に留まるのは許さんぞ」

ミルズ「た、戦えって言うのかい!?」

魔人「何のためにわらわが鍛えてやったと思ってる」

ミルズ「でも、ボクは治療用の魔法しか……」

魔人「否じゃ。貴腐に勝利するための魔法もすでに教えたぞ」

ミルズ「回復魔法で攻撃できるわけないじゃないか!」

魔人「後は自分で考えなさい。くっくっく、また会えるといいのう?」パチン

魔人が指を鳴らすと、出入り口に続く城内の扉が次々と開き、ミルズは宙に浮かされるとそのまま正門の外へと放り出された。
676 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:24:33.73 ID:ESfib4sto
魔人が城を王都からウベローゼン市に移した際、選んだ場所は旧貴族の邸宅街である。

人気の無いその区域にも貴腐の放った菌のにおいは立ち込めていた。

ミルズ「魔人先生はボクを切り捨てるつもりだ。試練を乗り越えられない人に用は無いんだろう……」

ミルズ「ひとまず人通りの多い場所へ……」

ギャル「あー、こんな所にいた」

侍「好機!」

ミルズ「なっ、なんでこんな所で……!」

侍「逃がさん!」

ナマクラが遠距離から金色の武魂気を纏った刀を振るう。

ミルズの背を目掛けて飛ぶ斬撃。

ヒュッ パッ

ミルズ「えっ」

しかし、必殺の剣閃がミルズに届くことはなかった。

突如として地面が燃え上がり、現れた数人の人影とナマクラを炎の中へと閉じ込める。

侍「ぬ!?」
677 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:27:36.07 ID:ESfib4sto
テンパラス「捉えたぞ、ナマクラ。今こそ決着を付けよう」

バルザック「景気づけの前哨戦って奴だぜ!」

ガルァシア「……油断するな。貴腐には劣るだろうがこの男も十分に危険……」

ボフン!

バルザックが開幕で起爆させたのは白煙爆弾。

真っ白な濃霧が敵味方の視界を奪う。

テンパラス(この炎の輪からは出ようと思えば出られるが、無傷では出られまい)

テンパラス(仮に出られても今ある輪を消してまた新たな炎の輪を展開すれば良いだけだ。ここで絶対に仕留める)

ガルァシアは目を閉じて集中し、自身の正面に魔法陣を浮かび上がらせていた。

熟練した岩魔術師である彼には、魔法陣を杖などで直接描かずとも、地形を操作する岩魔術を応用してより短い時間で描くことが可能だった。

侍「ぬおおおお! 操気・気扇!」ブアッ

武魂気を操って起こした風が白煙を晴らすと、無防備にもバルザックは酒を飲んでいた。

隙だらけの男を狙ってナマクラは踏み込み斬りを仕掛ける。

バルザック「かかったな!」

だが、その動作こそ罠であった。

無意識に攻撃対象に選ばせる、罠士スキルの一つ、挑発。

侍「ぐ、ぬおお……!」

白煙が視界を奪っていたのはわずか数秒。だが彼らにはそれで十分だった。

朦朧魔法陣と毒煙地雷を踏みつけた、ナマクラの視界が歪み、呼吸が乱れる。
678 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:32:13.27 ID:ESfib4sto
ネル「あいつらに襲われてたってことはキミも味方だネ?」

ミルズ「た、たぶん……」

ネル「おっと。ガル達を助けに行かなくチャ!」ヒュッ

ワープを駆使して斬撃からミルズを救ったネルも、炎の輪の中へと合流する。

バルザック「おいネル、今だ!」

ネル「フッ、弱り目に祟り目ダ、サイコショックを受けてみロ!」キィィィン

侍「がああああッ!」

罠を受けて弱っていたナマクラは念波の影響を強く受け、激しい頭痛を味わう。

テンパラス(卑怯ではあるが、相手は飛ぶ斬撃でも骨ごと人体を切断し、直接の斬撃であれば鋼鉄さえ斬りかねん男だ)

テンパラス(だが、あの状態でも隙が無い……!)

テンパラスが手をこまねいている間に、ナマクラは葉を食いしばり、飛び退いて罠の影響から逃れてしまった。

それを見て、ガルァシアは焦らず、しかし急いで小さな板を地面に叩きつけた。

板に刻まれていたのは筆記のルーン。使い捨ての媒体を介して複雑な魔法陣でも一瞬にして作り出すことができる。

ドッ

バルザック「ぐう……!」

テンパラス「だ、大丈夫か!」

バルザック「割と痛てえ!」

ガルァシアの作り出した軽減魔法陣は、飛び来る一撃必殺の斬撃を鋭めの打撃に変える。

ネル「撃ち合いだネ! 負けないヨ!」

バルザックを盾にして、道端の石ころをテレキネシスで飛ばす。

テンパラスの火の玉、ガルァシアの生成した杭弾、バルザックの爆弾投げもそれに続く。

侍(物量で負けている……。桜は何をしている!)

水魔術師ギャル、サキューラの得意魔法は水属性の魔法弾連射だ。

容易く炎の輪を突破し、得意の弾幕でナマクラの助けに加われるはずなのだが……


ギャル「このワカメ女……!」

ミルズ「通さないよ」

ミルズは多少の水鉄砲攻撃を受けても即座に回復して見せた。

しかし、ここで逃げてナマクラから離れるのも危険。

取っ組み合いになってしまえばミルズだけを斬るのが困難になる。

ミルズの牽制は効果大であった。
679 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:33:05.88 ID:ESfib4sto
侍「ふっ!」

撃ち合いでの不利を悟ったナマクラは刀を構えて正面に駆ける。

一閃。二閃。

しかし、不意打ち気味に振るわれた斬撃をガルァシアとテンパラスは容易く避けてみせた。

ネル(ふふふ、不思議そうだネ)

ネル(サイコショックが決まった時点で彼へのマインドリーディングが発動しタ)

ネル(そうして読み取った攻撃のタイミングをテレパシーで仲間に伝えれば、見てからでは避けられない攻撃でも避けられるのサ)

後退した者は遠距離攻撃、狙われていない者は罠や魔法陣の準備、テレパシーを用いた連携は完璧だった。

いらだちが募るナマクラは、一人に狙いを絞ることにする。

侍「斬るゥゥ!」ギロッ

テンパラス(来る!)

その対象は、厄介な設置・攪乱技を持たないテンパラス。

バルザック「横ががら空きだぜぇ!」ペトッ

ドカン!

隙をついてナマクラの身体に直接爆弾を仕掛け、起爆。

しかしキノコの効果で頑丈になったナマクラは止まらない。

ネル(バルザック下がレ! あれは止められなイ!)

バルザック(ああ畜生! 頼んだぜ剣士さん!)

侍「ぬおおおんッ!!」

テンパラス「ハァッ!」

ズバッ!!
680 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:41:56.60 ID:ESfib4sto
テンパラス「…………」

侍「…………」

バルザック(どっちだ……?)

ガルァシア(火剣士の腹から血が……!)

ネル(……イヤ、見テ! 金色の気ガ!)

テンパラス「……フウ」

テンパラス「武魂気は防壁にもなるのだな。試してみるものだ」

テンパラス「皆、安心しろ。私が受けたのは盾さえ切断する斬撃ではない、ただの錆びた刃だ」

侍「グ……」

侍「あっぱれなり、あっぱれぬし……!」ユラリ

ドサッ

テンパラス「技を盗もうと考えて師事していたが、やはり普段の剣技が馴染む」

テンパラス「だが良い防御スキルを手に入れた。礼を言うぞ、ナマクラよ」


ミルズ「助けてくれてありがとう……」

ネル「こちらこソ! 女の子の足止めご苦労だったネ!」

バルザック「んで、そいつはどこに行ったんだ?」

ミルズ「仲間が倒れるとすぐに逃げたよ」

ガルァシア「薄情な女だ……」

テンパラス「お前もキョウトの者および貴腐と戦っているのか?」

ミルズ「そ、そうなんだ。さっきは貴腐に襲われて……!」

テンパラス「場所はどの辺りだ? 案内を頼む」

ミルズ「貴腐を、倒すつもりなのかい……!?」

ネル「秘策があるのサ」

バルザック「俺たちに任せとけい! お嬢ちゃんは隠れて見てな!」
681 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:44:14.61 ID:ESfib4sto
少し不安な顔をしながらもミルズは一行を病院の近くへ連れていった。

ミルズ「……たしか、この辺りで会ったはず」

テンパラス「助かった」

ネル「後は占いの出番だネ」

バルザック「おおっ、出るか居場所占い!」

ネル「……こっちに近づいてきてル」

ガルァシア「何だと?」

テンパラス「不思議なことはない。菌を使ってこちらの位置を把握しているのだろう」

バルザック「追いかける手間が省けたってもんだ。ガル、待ち伏せの準備だ」

ガルァシア「……分かった」



貴腐「ん? どうしたんだいレディー」

貴腐「複数人で固まってるのを見つけたって?」

貴腐「よし、散歩がてら優雅に向かうとしようか」

ピタッ

貴腐「ん?」

貴腐「んんんんんー?」

貴腐「脚が重くて動かない……」

表面に砂をかけて隠しておいた停止魔法陣は、貴腐の脚をがっちりと拘束していた。

ネル(皆、作戦開始ダ!)

シュッ

パッ

貴腐「……ひ、ひいいええええ!!!!」

テンパラス(効いたぞ!)

付近の建物の屋上。そこに待機しているテンパラスの前へテレポートで貴腐を運ぶ。

すぐさま、待機していたテンパラスが鋭い剣を貴腐の目前へ突きつける。

重度の先端恐怖症で知られる貴腐はそのまま腰が抜けてへたり込んでしまった。

完全に、作戦通りの展開であった。

テンパラス(情けない。六勇の一人ともあろう男が不意を突かれればこのザマか)
682 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:49:33.73 ID:ESfib4sto
貴腐「き、君ぃ! すぐにその剣をしまってくれ!」

テンパラス「断る。まだ死にたくはないんでな」

テンパラス(隙だらけだ……)

テンパラス(このまま斬ってもいいのではないか?)

一呼吸。テンパラスは素早く振りかぶると、貴腐を横薙ぎに斬り裂く。

続けて上段に構えて、斜めに振り下ろす。

よろめく貴腐へ向かって、踏み込みながら突きを

シュウウウ

テンパラス「グッアアアア!」

突如、テンパラスの全身が真っ赤に染まる。

熱した鉄板に水をかけた時のような激しい蒸発の音と共に、テンパラスの肉体が急速に焦げ落ちていく。

一方で、貴腐に刻まれた傷はたちまちの内に塞がり、痕一つ残さず治癒した。


別の建物の屋上から、ネルはテンパラスが骨になっていく姿を見ていた。

ネル「あのバカ!」

ネル(先端恐怖症だけど刃物自体が怖いとは限らないんだヨ!)

ネル(でもなんで、腰が抜けているのにサイコショックが効かなかっタ……?)

貴腐が、ネルを見た。

ネル(マズイ!)

菌に捕捉されている――そうとなればネルの取れる行動は一つだけだった。

テレポートで背後に移動し、即座にテレポートで上空へ連れて行く。

まさか高所からの落下だけで倒せるとは思わないが、パニックにできれば上出来だ。

ネル(どうダ!)

貴腐「えっ……うぎゃあああ!!!???」
683 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:51:19.98 ID:ESfib4sto
貴腐「なんちゃって」

ネル「ハァッ……!?」

即座に、可能な限り遠くへテレポートした。

ネル(あの男……騙しやがっタ!)

ネル(ここにいる人だけじゃない、全ての国民ヲ!)

ネル「痛っ……。……!!」

痛みを感じ、腕を見ると、ガラス質の結晶へと変化しつつあった。

テレポートは、触れた相手も共に移動する。貴腐の見えざる仲間たちはネルを捉えていたのだ。

もう、逃れる術はない。

ネル(覚えてロ……化けて出てやル!)

ネル(だってこのボクは何でもありのエスパーだからネ! だからきっと……!)

ガシャアアン!

転んだ拍子に、そのガラスの塊は路上で砕け散った。


ゴキッ

貴腐「膝打ったぁ! レディー、頼むよ」

貴腐「……これで良し。ありがとう、お礼にキスをしてあげよう」チュッ

何もない空間に向けて唇を付き出す貴腐。

バルザック「なんで起爆しねぇ……!」

貴腐の墜落する地点には大量の地雷が仕掛けられていたはずだった。

膝を痛める程度で済むはずがないのである。

バルザック「!? あの野郎……!」

違和感に気づく。

貴腐は普段の奇怪な姿勢をやめ、背筋を伸ばし、その瞳も正面を見据えていた。

人間らしい姿勢を取った貴腐は身長が高く、そして頭にキノコが乗っている点を除いて意外にも整った容姿をしていた。

バルザック「そういうことかよ……」

貴腐が、バルザックが身を隠す茂みへと近づいてくる。
684 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:55:49.22 ID:ESfib4sto
バルザック「ガル! 聞けぇ! 貴腐の弱点は嘘っぱちだァ!」ポイッ

ドォン キンッ

バルザックは意を決して飛び出し、爆弾を投げつけるが、バリアで防がれる。

バルザック(魔法だと? どうなってやがる)

バリアの魔法を使った貴腐は魔術師なのか? 否、貴腐自身は菌に指示を出す以外の戦闘用スキルを持っていない。

魔法を使ったのはレディー達だ。

菌にされた人間は、人間だった頃のスキルをそのまま使う事ができる。

流石に剣術や演奏などは体格が小さすぎるため不可能だが、魔法に人体のパーツは必ずしも必要ではない。

貴腐は主に魔術師の女性を自らのハーレムに引き入れていた。レディーとは愛人であり同時に戦力でもあるのだ。

すなわち……貴腐と戦うという事は、100人を超える魔術師の集団を相手にするに等しい。

バルザック「うおおおおお!!」ダッ

投げても途中で無効化されるため、バルザックは爆弾を抱えて自滅覚悟で突進した。

バリアを避けて回り込み、貴腐に肉薄するが……

ドォン!

バルザック「がはっ……!」

途中で起爆した。

レディーの一人が『拳』で爆弾を破壊したのだ。

菌で構成された身体を変形させれば、一部の体術や、歌唱、暗視などのスキルも使用できる。

貴腐「やあ。君もお酒が好きなんだね。においで分かるよ」

バルザック「……酒好きのよしみで見逃しちゃくれねぇか?」

貴腐「そういうわけにはいかないからさ……せめて最後に乾杯しようじゃないか」スッ

貴腐「三人目、四人目……五人目の君に、乾杯」

貴腐は懐からワイングラスを取り出して、バルザックにぶつけた。

すると

バルザック「あ、あああ、あがああああ!!」

その全身の穴という穴から液体が噴出した。

それは血でも体液でもない、人間酒だ。

バルザック「あああ……かはっ」ガクッ

貴腐「ふむ……」ゴクリ

貴腐「飲めないこともないけどあんまり美味しくないなあ」

貴腐「やはり、お酒にするなら小さな女の子か熟成されたご老人に限るね」
685 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:56:49.95 ID:ESfib4sto
ダッダッダッ

ガルァシア「…………」

ミルズ「はぁ、はぁ……どこへ行くんだ」

ガルァシア「……高所恐怖症と先端恐怖症は、恐らく貴腐の流したデマだった」

ガルァシア「一度作戦を練り直す」

ミルズ「練り直すったって、もう仲間がいないじゃないか!」

ガルァシア「それでもだ」

ガルァシア「奴らの為にも、ここで俺が死ぬわけにはいかない……」

ザッ

ガルァシア「……何?」

ミルズ「き、キミは死んだはずじゃ……!」

侍「左様……拙者は一度死んだ」

侍「だが、黄泉の国より呼び戻されたのだ……この茸によって!」

侍「斬ル、斬ル、斬ラネバナラヌ!」ダッ

テンパラスに敗北し死亡したはずのナマクラ、その刀傷はぶよぶよとした菌糸体に塞がれていた。

肌の色はくすんでおり、全身に張り巡らされた菌糸体が辛うじて瀕死の身体を動かしているようだ。

半生半死。不死の怪人と化した侍が二人の首を狙う。
686 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:58:16.29 ID:ESfib4sto
ガルァシア「先に行け!」

ミルズ「わ、わかった!」ダッ

ガルァシアは咄嗟に停止魔法陣を出現させ、魔法弾で牽制を行う。

侍「フン!」ザンッ ザンッ

しかし、侍は魔法弾を避けもせずに突っ込む。さらに地面ごと魔法陣を斬り裂き、無効化してしまう。

ガルァシア(……先程よりも強くなっている!)

最後の抵抗。岩の壁を出現させる。

盾ではない。敵の足元に出現させ、突き上げる。

侍「ヌゥウウ!」

足を取られ、バランスを崩して前のめりになる侍は、そのまま空中で前転しながら刀を振るった。

ガルァシア(化け物め……!)

ズバッ!!


貴腐「もう六人目? 早かったね」

貴腐「侍の彼はよく頑張ってくれるなぁ。その健闘に乾杯!」

敵方の残り戦力は振り出しに戻る。魔術師100人と不死の武人3人。

対するは、たった数人の無力な少女。
687 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:58:53.25 ID:ESfib4sto
ミルズ「来る……殺される……!」

ガルァシアはほとんど時間を稼ぐことなく、殺された。

ミルズがナマクラに追いつかれるのも時間の問題だった。

ミルズ「助けて! 誰か!」

しかし、運悪く人通りのほとんどない地区。

とうとう、行き止まりに追いつめられた。塀を乗り越える体力はもはや無い。

侍「斬ル……オマエデサイゴ……!」

ミルズ(もう駄目だ)

ミルズ(これ以上無いほどの、詰み)

ミルズ(……希望なんてどこにもなかった)
688 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:59:48.25 ID:ESfib4sto
一方、リウムと別れたフィナは魔法街の仕立て屋に戻ってきていた。

カランカラン

クリス「いらっしゃいませ!」

フィナ「やっぱりここにいた」

クリス「あっ、殺し屋さん。さっきぶりです!」

フィナ「その呼び方やめてって言ったよね!?」

クリス「ごめんなさい! とりあえずお茶菓子持ってきますね」

フィナ「悠長にお菓子食べてる暇はないんだよ! 状況分かってる!?」

クリス「悪い人の戦いに巻き込まれて追いかけられてるんですよね?」

フィナ「えっ、分かってるの?」

クリス「分かってますっ。だからここに帰って来たんです!」

クリス「わたしの生きる理由は、このお店を営業すること!」

クリス「何があってもお店は守ります。わたしが死ぬときはお店と一緒です!」

フィナ「そっか……。オートマタだもんね」

クリス「殺し屋さんはなぜここに? 危ないですよ!」

フィナ「いろいろ考えてさ。あなたを守ることにした」

フィナ「フローラのためにね。ここ、フローラがオーナーなんでしょ」

クリス「はいっ」

フィナ「もうさ。あたしがその人のために何かしたいって、信じたいって思えるのがフローラしかいなかったんだ」

クリス「へぇ、そうなんですか」

クリス「わたしにはそういう人、誰もいません!」

フィナ「そ、そっか」
689 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:01:46.23 ID:ESfib4sto
結局、フィナは厚意に甘えてお茶菓子を食べた。

フィナ「ところでさ、あなた名前ないの?」

フィナ「呼びづらくてしょうがないんだけど」

クリス「あっ、ごめんなさい」

クリス「クリスティ 1〇〇〇です。ここに書いてあります!」

仕立て屋の娘さんは背中を指さした。

フィナ「……それって製作者と製作年度じゃない?」

クリス「はい、そうらしいですよ」

フィナ「えーと、自分だけの名前って無いわけ? フローラにはなんて呼ばれてるの?」

クリス「ああっ! 今ので思い出しました!」

クリス「初めて会った日に、オーナーさんに名前をつけてもらったんです!」

フィナ「それそれ! あるんじゃん、なんていうの?」

クリス「忘れました!」

フィナ「ズコー!」

クリス「そうでした! わたしがあまりに忘れっぽいので、いつでも思い出せるようにオーナーさんがヒントを残してくれていたんです!」

クリス「この花瓶ですっ!」バッ

フィナ「とっくの昔に枯れ果ててるー!」

クリス「これじゃわかりません。ぐすん」

クリス「こうなったら勘です。きっとわたしは……ハエトリグサ!」

フィナ「それだけは絶対にない!」


フィナ「この店、においしないね」

クリス「はい。お洋服ににおいが移るといけないので、魔法で何とかしました」

クリス「お店には入ってこれませんよっ」

フィナ「やるじゃん」

フィナ「このまま、あいつらが諦めるまで隠れられるかな?」

クリス「わかりません。でもそうだったらいいですね」
690 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:04:21.01 ID:ESfib4sto
約一時間後。

町を練り歩いていたキョウトの民達が、魔法街の広場に近づいていた。

時折、カーテンの隙間から外の様子を窺っていたフィナは、一目見てその特徴的な集団を認識する。

まず目を引くのは3mを超える巨漢のシルエットだ。腕も脚も胴回りも非常に太いが、ほとんどは筋肉によるものだ。

人間一人握りつぶせそうな大きな右手は鮮血で真っ赤に染まっている。

フィナ(さっき、誰か殺されたんだ)

その隣で早歩きで移動しているのはあまりにも小柄な少女。70cm前後、仕立て屋の娘とほぼ同じサイズしかない。

巫女の正装である色鮮やかな緋袴は動きやすいように膝下までの長さで止められており、丈夫そうな足袋が露わになっている。

フィナ(あれは、気配を消す歩法……普通の人にはそこにいる事さえ認識できない)

フィナ(見抜き方は、師匠から教わった)

その師匠と同等か、それ以上に危険な敵。

願わくば、気付かずに通り過ぎて欲しかったが……。

フィナ(あのキツネが、マリンと同じなら……)


武御霊「主ら! 見つけたぞ。あの店じゃー」

武神タケミタマはソピアの使い魔マリンと同じ風精に属していた。

風の妖精は皆、一定範囲の人間・モンスターの探知能力を有している。

オミキ「そうですね。言われなくても分かってました」

力士「なんで?」

オミキ「分かるんです。同じ……ですから」

タロウ「それって敵も分かるって事じゃないか。気を付けて!」

オミキ「はい。奇襲は諦めます」
691 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:05:19.66 ID:ESfib4sto
フィナ「……来たよ。まっすぐこっちに向かってきてる。どうする?」

クリス「迎え撃ちますっ。先手必勝です!」

ガチャッ


タロウ「き、来たよ!」

力士「手下の人形か。小癪な」

仕立て屋の扉から姿を現したのは三体のマネキン人形。

腕の先がトゲの生えた鉄球となっており、その不自然な動きは糸で操られるマリオネットそのもの。

マネキンが襲い掛かる。

オミキ「遅すぎます」ヒョイッ

力士「この程度か……壊すのも面倒だ」

しかし、キョウトの武人達は強者の勲章を得るための百兵の試練を十分に達成できるほどの猛者。

その上、貴腐のキノコによって強化されている。

付け焼刃のマリオネット操作では全くと言っていいほど攻撃が当たらなかった。

力士「ぬん!」バッ

一体のマネキンが張り手を間一髪で避ける。

しかし、ジュウリョウが踏み込んだ右足が石畳を激しく吹き飛ばし、張り手の衝撃が正面にあったカフェを破壊する。


フィナ「ああっ! 吸血鬼に壊された魔法街の修復工事が終わったばかりなのに!」

フィナ「しかもあれ、エルミス行きつけのカフェじゃん。あーあ……」


オミキ「ジュウリョウさん。不利ですけど、ここは私に任せてください」

力士「操り手を壊せば良いのか。分かった」ズシズシ

タロウ「春眠の術は生物にしか効かないんだったね?」

オミキ「ええ。しかし、加減する必要もないので……」
692 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:08:01.84 ID:ESfib4sto
クリス「おっきい人がこっちに来ます!」

フィナ「分かってる! ……ええい!」

ガチャッ

フィナ「あ、あたしが相手だ! 手出しは、させない……!」

フィナは仕立て屋を守るため入口の前に立ちはだかった。

しかし、それでも武器を握ることはできなかった。

力士「素手で俺に挑むとは、愚の骨頂」

力士「俺たちはキョウト国における徒手戦闘の頂点だ。小娘が……。舐めおって」ブォン!

フィナは素早く横に回り込み攻撃を避ける。

フィナ(手刀でも、師匠に教わった急所を突けばなんとかなるかと思ったけど……)

フィナ(敵が大きすぎて急所に手が届かない、無理!)


オミキ「朝靄の術」

フィナ「っ!」バッ ガチャッ

オミキの足元から白く濃い煙があふれ出すのを見て、フィナは即座に仕立て屋の中へ逃げ込む。

フィナ(しゃがんで気配を薄めるのが通用する相手じゃないし、逃げたらお店が危ない!)

バキン ボキッ グシャッ

衝撃音の後、軽い風が吹いてもやが晴れる。武神の能力だろう。

三体のマネキンはオミキによって破壊されていた。
693 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:09:35.44 ID:ESfib4sto
クリス「はわわ! 武器が壊されちゃいました!」

フィナ「もう立てこもってられないよ!」

クリス「はいっ! お店はわたしが命をかけて守ります!」

ガチャッ

フィナ(逃げるなんて選択肢は無い。一人でもいいから、倒す!)スッ

力士「この期に及んで手刀とは……。その腰の短剣は飾りか?」


クリス「よくも壊しましたね! えーい!」

フィナ(強力な熱線と水圧カッターの同時撃ち! しかも後方斜め上から太陽光線!)

フィナ(別々の属性の魔法攻撃でたしか全部中級以上……これができる人間の魔術師はほとんどいない)

フィナ(相変わらずとんでもないなぁ。でも……)

フィナ(頭のキノコのせいか、オミキさん、師匠より速くなってんだけど……!)

ヒュヒュヒュヒュ グイッ

オミキ「何か引っかかって……?」

クリス「かかりましたねっ。マリオネット糸! もう避けさせません!」

オミキ「鎌鼬の術」ズババッ!

フィナ(忍魂気でできた巨大な手裏剣! しかも追尾する!)

クリス「ば、バリアー!」

フィナ(ほっ)

力士「よそ見か……馬鹿にするなッ!」ブン

フィナ「うわああっ!」サッ
694 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:10:18.53 ID:ESfib4sto
力士「ううむ、すばしこい」

オミキ「ジュウリョウさん、代わってください。私の武器では、バリアが……」

力士「致し方なし。俺の速さでは攻撃が当たらん。悔しいが……交代だ」

フィナ(マズい、相性差に気づかれた……)


タロウ「タケミタマ様、手伝わなくていいんですか?」

武御霊「助けを求められていないんじゃ。恐らく、武人としてのプライドが理由で」

タロウ「そんなのどうでもいいから一気に終わらせればいいのに!」


フィナ「そのでかいのにバリアは通用しないよ、頑張って避けて!」

クリス「はーい!」

オミキ「……」テクテク

フィナ(来る!)

チリン

フィナ(後ろ!)バッ

フィナ(あれっ、鈴だけ落ちて……。やられた!)

ガバッ

フィナ「っ!?」

フィナ「えっ? ……オミキ、先輩? 抱き着……」
695 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:11:02.34 ID:ESfib4sto
オミキ「吸魂」ズオオオ

フィナ「あ、あがぁぁぁぁぁっ!!」

フィナ「う……」ドサッ

ヒュッ

オミキ「タケミタマ様。注魂です」

武御霊「来た来た! 久しぶりの生贄じゃー!」

武御霊「力が、みなぎる……!」

武御霊「狙いは……そちらじゃ。神風・野分」

ゴオオオオオ

フィナ(凄い風、倒れてなかったら危なかった……)

フィナ(周りはどうなった? あの娘は、でかい奴は、町は……)

ヒュウウウ……

フィナ「……! お店が……!」

仕立て屋および周辺の家屋は、局地的な暴風によって無残にも全壊していた。

クリス「……」

フィナ「ね、ねえ。大丈夫……?」ヨロッ

クリス「アナタ?」グリン!

フィナ「っ!?」

クリス「コワシタノ、アナタ?」カチャッ

仕立て屋人形は、人間の動きをやめた。
696 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:12:45.31 ID:ESfib4sto
力士「あれはどうしたんだ? 関節の動きも、声の抑揚もおかしい」

オミキ「人間の真似をする理由を無くしたんです」

タロウ「拠り所を失って暴走してるんだよ。もう、自分がどこの誰かも分かってないだろうね」


壊れたはずのマネキンが立ち上がる。

フィナ「な、なんであたしに攻撃するの!?」

精神力を吸われ、身体に力が入らないフィナを、パーツ単位に分かれたマネキンの打撃が襲う。

一方、それらを操る本体はキョウトの人々に狙いを定めていた。

タロウ「ひええこっち来たキモい!」

オミキ「下がってください」

人形は、後ろ向きのでんぐり返しのような動きで向かってくる。

三半規管、内臓、筋肉、その他もろもろを無視して、人体が最も効率よく前進するための動きだ。

オミキ「ああはなりたくないですね……」ヒュッ

ガシッ

オミキ「しまった……」

クリス「コワシカエシ! コワシカエシ!」

念力の一種か、オミキは見えない力で身動きを封じられていた。

素早い移動を得意とし、体重の軽いオミキにとって、捕縛は最も警戒すべき攻撃だった。

もちろん縄による拘束や魔法陣への対策はしていたが、全方向からの単純な圧力を妨害する手立てはなかった。

クリス「アナタ、コワシテ、オミセ、タテル!」

ドゥッ バキン

風魔術の直撃を受け、壁に叩きつけられたオミキ。

その狐の面が衝撃によって割れ、素顔が露わになる。

タロウ「あちゃー!」

フィナ「えっ……」
697 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:15:48.38 ID:ESfib4sto
その顔は不自然に白く。細い目にはまつ毛が無く。

オミキ「面が……。直せませんね……」

表情は変わらず、口も微動だにしていない。

明らかな作り物であった。

フィナ「二重の、お面……?」

辛くもマネキンの残骸から距離をとったフィナは困惑していた。

タロウ「知らない? 呪いのキョウト人形」

タロウ「正式名称は用途や地域別に違うんだけど、僕たちも総称するときはキョウト人形と呼ぶことが多いね」

タロウ「フルフィリア人形と違って単純な美術品じゃなく、子供の成長を願ったり、厄を祓ったりといった祭事に用いる事が多いかな」

タロウ「ちなみに商品じゃないからね!」

フィナ「……それにしては結構大きいような」

タロウ「タケミタマ様の御力だよ。オミキちゃんだけじゃなくジュウリョウさんも大きくしてもらってる!」

タロウ「ただでさえ平均身長が低い国なのに十尺もある大男なんているわけないだろう?」

フィナ(駄目だこの人……。あたしよりも口が軽い……)


力士「今ッ!」バチン

カキンッ

クリス「ランボウハヤメテー」

力士「ぬう……死角が存在しないというのは本当だったか」

オミキ「さて……どうしましょう」

人形であるオミキには急所への打撃、死角を突く移動のように人体の構造に由来する戦法が通用しない。

また、眠る事がないため春眠の術などの意識を奪う技も効果が無い。故に、忍者同士の戦いにおいてほぼ無敵であった。

しかしその特性が今、目の前に立ちふさがっている。

フィナ(筋肉を持たない魔法系モンスターのオートマタには、骨のモンスターと同様に打撃が有効)

フィナ(でもあの子には魔法があるから、大男程度の速さじゃ直前にバリアを貼られて衝撃を殺されてしまう)

フィナ(オミキさんのスピードなら攻撃は当たるけどダメージにならない。なぜなら筋肉が無いから)

フィナ(裏通りで、春眠の術はあの子には効いてなかった)

フィナ(このまま撃退できるかも……)
698 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:18:32.77 ID:ESfib4sto
武御霊「忍者の技が使えないなら、我の力を借りる他ないんじゃないか? んん?」

オミキ「うざいので絶対に頼みません」

武御霊「言ったなー!? だったら今日一日は頼んでも手を貸してやらんもんね!」

クリス「ヤッター、コワシヤスイ!」カタカタ

オミキ「人の技で対応できないのなら……」

ザワッ

オミキのおかっぱの髪が急激に伸びていき、広場を埋めていく。

オミキ「……乱れ髪の術」

フィナ(濡れてないのに、汗で頬に髪が張り付く時みたいに、じっとり絡みついてくる……!)

フィナ「嘘、切れない……」ブン ブンッ

フィナ「ぎゃあ!」グルグル

クリス「ギギギ……フジユウ」グルグル

フィナ「あの子も、飲み込まれてる……はっ!」

フィナ「よ、避けてぇ!!」

クリス「へ?」

カキンッ キンッ パリッ グシャン

力士「ふう……ついにバリアを破った」

フィナ「あ、あああ……木端微塵に……」

力士「オミキ、もう解いて良いぞ」

オミキ「はい」シュルシュル



貴腐「7人目……7個目?」

貴腐「あと1人もとっくに死んでる頃だって? それならもう少し待ってからまとめて報告して欲しかったよ」

貴腐「はい、乾杯。一杯飲んだらもう一度見てきてくれよ、せっかちなレディー」
699 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:20:01.20 ID:ESfib4sto
フィナ(終わった)

フィナ(もう逃げられない。あの子が壊された時点で詰みだった……)

力士「分かっていると思うが、逃げ場は無いぞ」のしのし

タロウ「ジュウリョウさん、ちょっと時間をちょうだい」

力士「む?」

タロウ「フィナちゃん、死ぬ前に少しおしゃべりしようよ!」

タロウ「僕としても少し惜しいんだよね。敵になってしまったけど、すごく気が合ったのは事実だからさ!」

フィナ「……さっさと殺せば。あんたたちと話すことなんて何もない」

タロウ「そんなつれないこと言わないでよ!」

武御霊「フィナ、そのほうは嘘をつかれるのが嫌いだったろう」

武御霊「すごく何か言いたそうな顔をしているじゃないか。嘘をつくのは良くないんじゃないか、ん?」

フィナ「……そうだよ。あたしは嘘つきと、人の命を軽く見てる奴が一番嫌い」

フィナ「忍者は人を殺さないなんて言って……何人殺したわけ?」

フィナ「キョウトなんて、大嫌いだ」

武御霊「そうかそうか。聞いたか、皆の衆?」

オミキ「……」

力士「妥当だ」

タロウ「ひどいなあ! さっきはあんなに興味を示してくれたのに!」

タロウ「僕たちの存在はキョウトの一つの側面に過ぎないんだからね! それで全体を嫌うなんて……君はまだキョウトを何も知らない!」

力士「おい、タロウ……」

タロウ「だからフィナちゃんにはもっとキョウトをよく知ってもらうべく……」

タロウ「ハラキリを体験してもらおうよ」ニヤリ

フィナ「……!!」ハッ
700 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:21:49.77 ID:ESfib4sto
タロウ「オミキちゃん! 脇差を一本貸してあげてよ」

オミキ「……はい」スッ コトリ


石畳に座り込むフィナの前に短い刀が置かれた。

忍魂気を纏っていない刀身は、フルフィリアの一般的な刃物とは比べ物にならないほど鋭い。


タロウ「あっ、気づいてくれた? そう、キョウトの刃物は世界一の職人技!」

タロウ「力を込めなくても軽くお腹を切り裂けるからね!」

フィナ「……」ギリッ

タロウ「なんだいその目は? その目はハラキリというものを誤解している目だ!」

タロウ「いいかい? ハラキリは名誉ある死なんだよ」

タロウ「本来なら敵にハラキリを許すということは武人としてのリスペクトを示すことに他ならないんだ」

タロウ「リスペクトされてもいない外国人のただの女の子がハラキリを許されるなんて、光栄に思うべきだよね!」

タロウ「分かったら細かい作法は抜きにして、お腹を横一文字に掻っ捌くんだ! さあ早く!」

フィナ「……!」ブルッ

力士「逃げようとしたならば、即座に頭蓋を叩き割る」

タロウ「顔も潰れてなくなっちゃうのとどっちがマシか、考えてごらんよ!」

武御霊「主ら、一人こちらに近づいてくるぞ」

力士「増援か?」

ザッ

ガドー「何やってんだ、オマエら?」

フィナ「ガドー、くん……!」バッ


彼はフィナの元師匠の後輩にあたるアサシンであり、若干15歳ながらその実力は当然フィナを大きく上回っている。

数度共に仕事をした程度の関係ではあるが、この状況においてフィナにとっての唯一の頼みの綱であった。
701 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:23:22.27 ID:ESfib4sto
ガドー「なんでボロボロ泣いてんだ? ……ああ、そういう事か」

ガドーは周囲の戦闘の痕とキョウトの民達から感じる敵意から、すぐに状況を把握した。

ガドー「安心しろ。オマエらとやりあう気はねぇよ」

フィナ「そんな事言わないで、助けてよ! 殺される……!」

ガドー「ハア……?」

フィナ「お願い! なんでもするから助けて! あたし、まだ死にたくない……」

ガドー「……なあ、オマエ誰に助けを求めてんだ?」

ガドー「アサシンのオレにオマエの命を救って何の得があるんだよ」

フィナ「得って……今それどころじゃ」

ガドー「何勘違いしてんだ。アサシン協会を裏切ったオマエはもはや同業者ですらない」

フィナ「あたしが……裏切者……?」

ガドー「そうだ。現にアサシン協会からオマエの暗殺依頼が出ている」

ガドー「フィナ、オレはオマエを殺しに来たんだよ」

その冷たい眼光に、フィナは足が震え尻もちをついた。

フィナ「ち、違う……! 裏切ったわけじゃないし……」ガタガタ

タロウ「なんだかんだ言って、君も他人の信用を失くすような事をしてるんじゃないか」

タロウ「同族嫌悪って奴だよね!」

フィナ「うるさい!」

タロウ「……立場、分かってる?」

ガドー「オマエはアサシン協会を知り過ぎた。もはやタダで関わりを断つ事はできない」

ガドー「もし生きていたらオマエの師匠、凶爪への依頼だっただろう。オレでマシだったと思え」

ガドー「だが……オレが手を下す必要もなさそうだがな」
702 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:25:11.88 ID:ESfib4sto
ガドー「オイ、オマエらの代表は誰だ」

タロウ「一応、僕だよ!」

ガドー「やる。フィナ暗殺の報酬金、30000Gだ」スッ

タロウ「い、いや……アサシン協会との縁ができるのは避けたいから、断固として受け取りを拒否するよ!」

ガドー「縁ならたった今出来ただろ?」

タロウ「だ、だけど、彼女は今からハラキリするんだ!」

タロウ「そのお金を受け取ったら僕達がフィナちゃんを殺した事になる。それは尊厳ある自死を選んだ人間への冒涜に他ならないよ」

ガドー「なるほど面倒くさい風習もあるもんだ。だが異国のしきたりを蔑ろには出来ないな」

ガドー「つまり……こうするのが正解か」スッ


ガドーは、フィナの目の前に置かれた短刀の横に30000Gを添えた。

これがフィナの命の価値。

短刀で自らの腹部を切り裂き死亡する事への対価。前払い。


フィナ「あ……」


万全の状態で一対一でも勝ち目のない敵、三人プラス一柱が周囲を取り囲んでいる。

どう転んでも無残な死。恐怖と絶望で涙が溢れる。


フィナ(何がいけなかったんだろう。何を間違えたんだろう)


なぜこうなった?

初めは、手に職をつけるために、弟子を募集していた怪しいお姉さんに話しかけた事だった。

いや、それ以前だ。ホワイトシーフギルドに所属していなければ、アサシンとも忍者とも関わる事は無かったのだ。

……全くホワイトじゃないじゃないか。

フィナは、死んで亡霊になったらホワイトシーフギルドにホワイトなんて名付けてフィナを騙した張本人を祟り殺してやろうと強く思った。
703 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:26:08.40 ID:ESfib4sto
フィナ「んぐうううう!!」


フィナは、苦悶の声を上げながら短刀を手に取った。

決心がついた。死後の目標が出来たのだ。

上手く亡霊になるための条件は分からない。だがなんとなく他人に殺されるより自分のタイミングで死んだ方が良い気がした。


フィナ「い、だああああああああ!!!!」ズプ

ズパァッ!!


深々と突き刺さる冷たい刃。背筋が凍り、全身に冷や汗が吹きだす。

続けて、短刀に力を込め、乱暴に切り裂く。

鮮血が魔法街の広場を染めた。

命の温度が失われていく虚脱感。そして耐えがたい激痛。

不鮮明な視界の中、フィナはもう一本の短刀を構えて躍りかかるオミキの姿を見た。


フィナ(ああ……自分で死なせてくれるなんてのも、嘘だったわけね)

フィナ(掌の上で弄ばれて、最低の死に方だ)
704 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:27:43.61 ID:ESfib4sto
貴腐「残りは二人。そろそろ終わりかな?」

貴腐「おっと、軍から通信だ」

貴腐「……タイミング悪いなぁ」


ざわざわ

市民「逃げろー! 貴族連中の逆襲だ!」

旅人「あわわわわ……ど、どこへ行けばいいのか……」

アナウンス『こちら陸軍本部! 市民の皆さん! 落ち着いて行動してください!』

アナウンス『ウベローゼン市北の林に武装した集団を確認!』

アナウンス『市民の皆さんは至急屋内に避難してください!』

アナウンス『貴族の反乱勢力と見られる武装集団は大勢のモンスターを引き連れています!』

アナウンス『ウベローゼン市民でない方はお近くのギルドの指示に従って冷静に行動してください!』

水魔術師「魔法局はダメ! すでに戦闘が始まってた!」

火魔術師「そうだ、俺、空から見たぞ! 講堂前で人間が真っ二つに斬られるのと、広場でオートマタが暴れているのを!」

戦士「剣士ギルド、人数オーバーで受け入れ不可! 他のギルドへ案内します!」
705 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:28:15.24 ID:ESfib4sto
女帝「ウフフッ、来たわね……」

女帝「でも私はここから動くわけにはいかないし……」

女帝「まずはさっきから町中に菌を広げて臨戦態勢の貴腐に頑張ってもらいましょう」



貴腐「うわあ貴族来ちゃったよ……面倒だな」

貴腐「いや、でもこの町には女帝が待機していたね。つまり私の出る幕は無い」

貴腐「よし、サボろう!」
706 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:29:22.38 ID:ESfib4sto
今回はここまで。
メモ帳の貴腐の能力設定を見返したら異常にめんどくさいタイプの強敵でした。他の六勇とはここまで泥仕合にはならないと思います。
707 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/27(日) 21:32:29.40 ID:hKSbO2cro

味方の主戦力が全滅してしまった…
708 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/27(日) 22:46:42.57 ID:ssSS7ovio
おつおつ
六英雄全員とガチる√なんて>>1は想定してなかったんだろうなあ、ほんまソピアちゃん茨の道爆進してんな
709 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 04:07:10.22 ID:+NOXkZsh0
ソピア強化パートには意味があったのかだけ気になるところだなあ。色々覚えたけど果たして強い奴ら全員に対応できるのかしら
710 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 10:13:17.42 ID:T4XlW96vO
死亡フラグ折れなかった人たちがここからバッタバッタと倒されていくこと考えると心が痛む
711 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 21:12:36.45 ID:00Pwex9wO
ここんとこずっと故意に地雷踏み抜くような奴が沸いてるから最後まで非安価で書ききってほしい
712 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 01:18:56.08 ID:FcHsSlLLo
仲間たちを全員失い、行き止まりに追いつめられ、不死身の侍に必殺の剣で斬りかかられたミルズ。

彼女を救ったのは市民の善意だった。

「時よ止まれ!」

侍「ヌグッ!?」ピタッ

「「掴まれっ!」」

発光する少女と金属製の箒に乗った少女が、ミルズの手を掴み離脱する。

その背後で、巨大な樽が転がり袋小路のナマクラへと迫っていた。

ミルズ(あ、あれは……!)

侍「コノ程度!」ザンッ

カッ

衝撃を受けた樽が大爆発を起こす。

「魔法競技会ぶりだね、アンブラーズのミルズさん!」

ミルズ「き、キミたちは……!」
713 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 01:22:01.74 ID:FcHsSlLLo
「前略! 平和を守る魔法少女! キュー」 ミルズ「ダメだ!」

魔法少女s「はい?」

ミルズ「キミたちは、危ない! 敵も危ないけど、主に別の意味で危ないから! 早く立ち去るんだ!」

魔法少女青「そんなっ……君を助けるための強化魔法の反動で五感を失ったのに……!」

魔法少女赤「ならせめてこれを受け取ってくれ! 私が作った魔法少女変身アプリ、男でも魔法少女に変えられるぜ!」

魔法少女黒「……その名も、機構魔盤(マキナレコード)。時は金なり……課金すればより強く変身できるわ……」

魔法少女白「動物だってこの通り、行けツノガメピンク!」 ツノガメ少女「行くぞー!」 コケッ ツノガメ少女「躓き死んだー!」 魔法少女白「すごーい! よわーい!」

魔法少女黄「ところで今日ソフィアさんいないの? アトリエを一件譲ろうと思ったのに」

魔法少女黄「そう、言うなればソフィーの  ミルズ「そういうのが危ないって忠告したんだけど!?」

ミルズ「第一、ネタの半分くらい魔法少女関係ないじゃないか!」

魔法少女白「でも少しは恐怖も紛れたよね?」ニコッ

ミルズ「……不服だけどね」
714 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 01:27:56.03 ID:FcHsSlLLo
侍「グギィ……!」フラッ

魔法少女黄「そんな……! たる・フィナーレが直撃したのに!」

剣士「ここは僕に任せたまえ!」シャラン

ミルズ「知らない人出てきた」

剣士「フッ、ご存じないかな? 剣士ギルドの王子様と呼ばれるこの僕を☆」

ミルズ「王子!? どうしてここにっ……!」

剣士「いや違うんだ! 僕は断じてミハイ王子とは違う! 子猫ちゃんと同じ平民だからそう睨むんじゃない!」

ミルズ「前!」

剣士「おっとぉ!?」サッ


2、4スレ目に登場した、火剣士テンパラスの友人である彼は、盾を持たない細剣使い。

こう見えてそこそこ強く、特に近接攻撃の回避技術には人一倍長けていた。


キアロ「娘さん、レスキューのキアロだ。治療しよう。……不思議そうな顔をしているな」

ミルズ「だって……知らない人までボクを助けに……」

キアロ「俺達は反乱貴族の手から市民を守るべく、ギルドを超えて結成した自警団だ」

キアロ「あの男は明らかに貴族とは無関係の外国人だが、目の前で危険に晒される市民を見過ごすことはできない」

キアロ「ここにいる皆、同じ気持ちだ」

剣士「その通りさ。子猫ちゃんじゃなくても助けていたとも!」

魔法少女赤「知り合いなら尚更だな」

キアロ「さて、君は避難所へ逃げなさい。魔法局以外のギルドが避難所になっている」

魔法少女黒「……私が、運命の導き手になるわ」

ミルズ「いや、一人で行くよ。それよりもあの侍を何とか止めて欲しい」

ミルズ「あの光る剣は盾でもなんでも斬れる……十分に気を付けて」

キアロ「分かった。肝に銘じておく」

魔法少女白「みんなの力を合わせれば勝てない敵なんていない!」

ミルズ「うん、信じてるよ」タッ


剣士「この戦いが終わったらさっきの子をデートに誘うんだ……」

魔法少女黄「今日は調子がいいわ! もう何も怖くない!」

ミルズ(あっ、ダメそう)
715 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 01:30:12.32 ID:FcHsSlLLo
パン職人ギルド街『美食通り』。

いつ訪れてもパンやチーズの香りが食欲を刺激する、“表の美食家”達の集まる街だ。

ミルズ(カフェ:アンブロシアには遠く及ばないけどね)

しかしミルズは“裏の美食家”アンブラーである。もはや普通の美食の香りでは心が躍らないのだ。

ミルズ(ここに来た理由は食事じゃない。貴腐の操る菌から身を隠せるかもしれないから)

ミルズ(パン職人ギルド周辺は、他の職人たちの支配下にある菌で満たされているはず……)

フェイラン「あいやーミルズ! さっきぶりある!」

イリス「ウチらもこれから遅めの昼食なんだけど、一緒にどう?」

ミルズ「キミたちはさっきの……そうか、無事だったんだ」

ミルズ(貴腐に会ってないから狙われてなかったんだ……!)

イリス「あー、ごめんね。食事したら合流しようと思ってたんだ」

フェイラン「満腹なたら、あのでかい奴にリベンジするネ!」

ミルズ「いや、もう諦めた方がいいね。……六勇の貴腐が敵の用心棒だった」

イリス「げっ……。ま、まさか、ウチらも貴腐の標的だったり……?」

ミルズ「それは大丈夫だと思う。二人は貴腐が出てきた時にいなかったから」

フェイラン「ミルズは会っちまったあるか……」

ミルズ「うん、ボクも襲われた。けど、出てきた時じゃ…………あれ?」
716 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 01:35:36.09 ID:FcHsSlLLo
ミルズ(確かに襲われたけど、貴腐はまずボクじゃなくリウムの友達を狙って……)

ミルズ(ボクには、お茶をしようと迫ってきたような……?)

イリス「どうしたの?」

ミルズ「……いや、何でもないよ。とにかくこの件は関わってない事にして……」

フェイラン「イリス。私たち顔知られてないから不意打てるあるネ?」

イリス「だねぇ。二人で貴腐、ぶっ飛ばしてやろうじゃん?」

ミルズ(まさか、ボクはリウム達の仲間だと、貴腐には思われてない……?)

イリス「その前にまずは食事ね。ほら、ここウチの店。入って入ってー」

ミルズ「あ……お邪魔します」カランカラン

フェイラン「待つよろし! 入口の消毒ポーションで手を除菌するネ!」

イリス「決まりなんだ。菌が混じるといけないからさ」

ミルズ「…………!! 今、なんて言った!?」

イリス「この消毒ポーションで手を綺麗にしないと、パンに雑菌が付着しちゃうでしょって言ってんの」

ミルズ「消毒ポーション……医療用の……殺菌魔法!!」

ミルズ「行ってくる!」ダッ

フェイラン「どこ行くあるか!」

ミルズ「……貴腐退治っ!!」
717 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 01:49:21.88 ID:FcHsSlLLo
キョウトの民に裏切られ、アサシン協会に裏切られ、ついに自害を強いられたフィナ。

しかし彼女を救ったのもまた、一つの裏切りだった。

タンッ タンッ ズバッ

ガドー「」

力士「」

子狐「ぎええ! やられた!」

タロウ「じ、ジュウリョウさん!? アサシンのキミも!?」

タロウ「オミキちゃん、何してんの!?」

オミキ「春眠の術です」

タロウ「そうじゃなくて!」

オミキ「言いましたよね、タロウさん」

オミキ「キョウト国のために働いてくれ、って」

タロウ「そうだよ、だってそれがオミキちゃんの生きる理由なんだろう!?」

オミキ「はい。人の役に立ちたくてあなたの手伝いをしてきたんですけど……」

オミキ「よく考えたら、これ、キョウト国のためになってますか?」

タロウ「え?」

オミキ「寄ってたかって取り囲んで、泣き叫ぶ女の子に無理やりハラキリさせる事は、別にキョウトの利益にならないんじゃないかな、と」

タロウ「なるんだよ! 商売の邪魔じゃん! 然るべき所に告発されたらキョウト国全体の立場が悪くなるんだよ!」

オミキ「でしたら、普通にお天道様に顔向けできる商売をすればいいのでは……」

タロウ「夢中草! 多少リスクを冒しても夢中草を流通させた方が後々利益になるんだって!」

オミキ「神社に閉じ込めて、夢中草入りの食事を与え続けて、手駒にした方がお得なのでは……」

タロウ「ああいえばこう言う! 黙って僕の言う事を聞きなよ! 誰の持ち物だと思ってんの!」

オミキ「……私は、武御霊神社の人形供養堂で目覚めました」

オミキ「従うのは、タケミタマ様のご命令だけです」
718 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 01:50:47.42 ID:FcHsSlLLo
子狐「……昔、我はこう命じた」

子狐「『何をすれば他者の役に立てるのか、それは時と場合によって大きく変わる』」

子狐「『我の言う事ばかり聞かず、何をするべきか自分で考えて行動しなさい』」

子狐「その結果がこれじゃよ! なぜ我だけ術を使わず普通に斬った!? いやそもそも斬らんでも子狐の姿に戻した時点で無力化できてるというのに!」

オミキ「ええと……頭のキノコがそうさせました」

子狐「嘘こけい、この反抗期人形! 神で遊ぶな!」

フィナ「……」ガクガク

オミキ「大変! フィナさんが死にそうです。タケミタマ様、すぐに治療を」

子狐「今日一日はもう絶対に手を貸さんと……」

オミキ「治療しなさい」

子狐「えぇ……しなさいだと……。嫌じゃなー。やりたくないなー」

タロウ「なんだよなんだよ! まだ僕は納得してないからね!?」

オミキ「私は……フィナさんを助けた方が、キョウト国、ひいてはタロウさんのためになると思いました」

タロウ「意味が分からないよ!」
719 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 01:58:57.13 ID:FcHsSlLLo
フィナ「……オミキ先輩? 痛つっ!」

オミキ「我慢してください。綺麗に合わせないと傷が残りますので……」

子狐「修復終わり。だが、後で医者に診てもらいなさい」

子狐「あちらの人形と店は直せんなー。ちょっとバラバラにし過ぎた」

フィナ「なんで、あたしの治療を……」

子狐「実は、急で悪いがその方の陣営へ寝返ることになった」

フィナ「そっか……ありがとう」

オミキ「先程までの無礼、水に流していただけますか?」

フィナ「……いいよ、一旦ね」

タロウ「ちょっ! いやいやおかしいでしょ! また唐突に命を狙われるかもしれないよ!」

タロウ「なんたって長い付き合いの僕さえも裏切るんだからね! あっさりと立場を変える相手を信じられる!?」

フィナ「えっ……信じるけど」

フィナ「だってこいつらってそういうものだしさ」

フィナ「何考えてるか分かんないし遺恨が残る人間よりもよっぽど付き合いやすいわ!」

タロウ「ま、待ってくれ。話が見えないよ」

フィナ「へー、自分の仲間のことすらよく知らないんだね」

フィナ「キョウトの恐ろしさを教えてくれたお礼に、冒険者のあたしが魔法系モンスターの厄介さについて教えてあげる!」
720 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 01:59:33.79 ID:FcHsSlLLo
フィナ「オミキ先輩は、人形系モンスターのオートマタ」

オミキ「キョウトでは禍雛と呼ばれています」

フィナ「オートマタっていうのは、使命を持って生まれてくるわけ」

フィナ「大抵の場合は、生まれた場所を守ろうとして人間に襲い掛かってくる、理性のないモンスターなんだけど」

フィナ「生まれた場所によっては、少なくとも表面的には人間と親しくしないといけないような使命を持ったオートマタになる」

フィナ「例えば仕立て屋の子はお店を営業する事。オミキ先輩はたぶん、神社の参拝者を増やす事じゃないかな?」

オミキ「大体そんな感じです」

フィナ「オートマタは使命のために行動する。あくまで人間は利用するだけ」

フィナ「オートマタにとっては、あたしもあんたも、どうでもいい存在なんだよ! だからすぐに立場を変えられる!」

タロウ「な、なんだってー!?」

オミキ「どうでもよくはないんですけど……」


フィナ「そして神。キョウトではどうだか知らないけど、フルフィリアやノーディスでは妖精が大幅に強化された姿だと言われてる」

フィナ「でも結局のところ妖精! だから契約している木霊主には決して逆らえない!」

オミキ「キョウトでは神職です。木霊主は……確かジャルバ王国の森林地域の言葉ですね」

子狐「そう、決して逆らえない……。誰か助けて……」
721 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 02:00:30.27 ID:FcHsSlLLo
フィナ「オートマタは利害関係が一致すれば安全!」

フィナ「神は、使役してる人が仲間なら安全!」

フィナ「そういうものなんだよ!」

タロウ「で、でもまた心変わりするかもしれないだろう? やっぱりフィナちゃんを殺した方がキョウトのためになると考え直す可能性だって……」

フィナ「あっ……でも、そこまで頻繁に変わるわけじゃないと、思う、けど……」

オミキ「心配ないです。よく考えたので」

フィナ「ほら!」

タロウ「君、バカだってよく言われない?」

フィナ「ゲスよりはマシだよ!」

子狐「そんなことより、いいのか? タロウ、その方に身を守る者はいないんじゃぞ?」

力士ジュウリョウとアサシンのガドーは春眠の術で眠らされている。

オミキが解除するまで起こす方法は無い。

タロウ「……切腹が必要なのは僕の方だったか」

タロウ「キョウト男児として、甘んじて死を受け入れるよ」

フィナ「は? いやいや、それって許しが必要なんでしょ?」

フィナ「ダメだし。名誉とかなんとか言ってハラキリで逃げるなんて許さないから」

フィナ「あんたはフルフィリアの法律で裁かれなさい!」

タロウ「う、ぐぐぐ…………」

ダッ

フィナ「逃走した!」
722 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 02:02:19.26 ID:FcHsSlLLo
オミキ「追いますか?」

フィナ「いや……今は一緒にいて欲しいかな」

フィナ「お腹、痛いし……」

オミキ「……ちゃんと治療しましたか?」

子狐「した! 内臓ぐちゃぐちゃだったけどどうにか戻した!」


クリス「」

フィナ「あの子の顔……もう動かないんだ」

オミキ「ごめんなさい。もう少し早く考えがまとまっていれば……」

フィナ「あたしがハラキリするまで迷ってたんでしょ? ……しょうがない」

フィナ「先輩、どうするの? これから……」

オミキ「今まで通りです。神主さんは理解してくださるでしょうから」

子狐「我がいる側が正義じゃー。キョウトは敵にはならん」

フィナ「そっか、少し安心した……」
723 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 02:03:24.37 ID:FcHsSlLLo
パキッ

フィナ「何の音……ああっ!」

オミキの頭の上、貴腐が植え付けた身体能力強化のキノコが肥大化していた。

音を立ててオミキの頭部が割れていく。

子狐「い、いかん! はっ!」ピカッ

ボシュ

フィナ「先輩!」

子狐「おのれ、そういう仕込みじゃったか……! キノコは消したが……」

フィナ「ああ……先輩の頭が……!」

子狐「たった今……我は自由に術を行使した。そういうことじゃ……」

フィナ「嘘……仲直り、できたのに……」

フィナ「許さない……貴腐……ッ!」
724 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 02:05:12.24 ID:FcHsSlLLo
フィナ「…………」

目の前のオミキは立ったまま動かない。

割れた首から忍者の技に使用する墨色の忍魂気が漏れ出ている。

周囲には倒れたままのジュウリョウとガドー。

そして、バラバラになった仕立て屋人形クリスティと、使役していたマネキン。

フィナ「……よし」スッ

子狐「な、何しとんじゃー!?」


1.クリスティの頭部をオミキの胴体に乗せる
2.忍魂気を吸う
3.倒れた二人から装備品をはぎ取る

↓2
725 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 02:05:41.01 ID:FcHsSlLLo
今回はここまで、久しぶりの選択安価。
結果は見えてますが次回ようやく貴腐との決戦です。できるだけ早めに。
726 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/01(日) 08:55:53.99 ID:jULDeyQX0
1
727 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/01(日) 15:30:30.95 ID:yGVh6AM1O

ようやく反撃だな(フラグ)
728 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/30(月) 12:19:35.84 ID:LxuuqYcWO
いちおーほしゅ
729 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/06(月) 17:24:20.19 ID:Z830dGG0O
^ - ^
730 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/22(水) 11:30:38.98 ID:KDC/pyPAO
もうそろそろ2ヶ月になっちゃう
731 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/11/29(水) 15:13:20.18 ID:iKiGxS3ko
全然早めに書けなかった……貴腐編ラストまで書きあがってないので保守します
732 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/29(水) 15:43:04.49 ID:uU4hob7io
乙です
ミルズもフィナも>>1もみんながんばれ
733 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/29(水) 19:47:44.71 ID:NnsqFx4AO
734 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/25(月) 23:48:42.11 ID:hNuKEn5D0
メリクリ
735 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/27(水) 16:41:01.77 ID:veIecu94O
あけおめも近い
736 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/27(水) 16:43:33.03 ID:D+zpSNwGo
新年早々におみくじでミスプリントを引き当てるソピア
737 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/30(土) 17:26:40.57 ID:pwBaJh6Bo
(運がわるいのかもうここまで来ると逆にいいのか)これもうわかんねぇな
738 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/20(土) 17:17:56.39 ID:x0AeRjwSO
一応1/29には生存報告欲しいが
739 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/01/28(日) 18:28:56.58 ID:qmvzqKdUo
生存報告。この分だといつまでも終わらせられないので六勇の半数はダイジェストで倒すことになりそうです。


>>736

フィナ「見て見て先輩ー! 大吉!」

オミキ「うちの神社、元日には大吉しか入れてないんですよ」

フィナ「なーんだ残念」

フィナ「ってことはソフィーも大吉だった?」

ソピア「ねえ……」

ソピア「『はずれ』って書いて入れたの、誰?」
740 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/28(日) 20:13:42.87 ID:luO5Tn7uO
おつん
ソピアは男性陣よりも女性陣から貰うチョコが多そう
741 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/28(日) 23:40:06.26 ID:SCoxEXjPo
草ァ!
742 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/31(水) 17:10:55.94 ID:hq4JHQYn0
もう魔人先生がパパっと全員倒しちゃえばいいんじゃないかな…
743 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/25(日) 16:14:28.93 ID:XNPyxRZL0
そろそろ保守しとく
744 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/26(月) 09:06:46.23 ID:xt5xtTsM0
いつくるのかなあ
745 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/26(月) 09:19:53.99 ID:iAB0vMML0
ageてんじゃねぇよ
746 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/16(金) 17:26:58.95 ID:TsNA4NPdO
まだ?
747 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/23(金) 13:44:59.17 ID:1VIeog2eO
あと5日したら生存報告一応くれ
748 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 18:23:11.63 ID:vJoHq88Do
子狐「な、何しとんじゃー!?」

フィナは、おもむろにクリスティの頭部を持ち上げると、オミキの残された胴体の上に乗せた。

フィナ「ちょうどサイズが合ってると思ってさ」

フィナ「ほら、違和感ないじゃん。これで直せる?」

子狐「いや部品が間違っておるし!」

フィナ「あってるよ。先輩の頭残ってないし間違えるわけないじゃん。おっかしーw」

子狐「笑いごとじゃなーい! 取り返しのつかない事になったらどうする!」

フィナ「まあまあまあまあ、とりあえず繋いでみようよ」

フィナ「何かあったらまた首を壊せば元通りだし」

子狐「倫理観がおかしい!」

フィナ「お願い! 貴腐に対抗するには戦力が必要なの!」

フィナ「どっちか復活してくれたらとっても助かるんだって!」

子狐「しかしなあ……」

フィナ「……ねえ、オートマタの中心がどこにあるか、気にならない?」

フィナ「頭なのか、心臓なのか、壊れたら消えちゃうのか、さ」

子狐「……」
749 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 18:35:07.33 ID:vJoHq88Do
数分後……

オートマタ「大変です! 混ざりましたー!」

首から上だけ西洋人形の雛人形は元気に動き出した!

子狐「ま、混ざったとは一体……」

オートマタ「わたしと私の心が混ざって一つになりました!」

フィナ・子狐「「ええええええ」」

フィナ「や、やばい……首を壊してもどうにもならなさそう」

子狐「だから言ったろうー! 取り返しのつかないことになると!」

フィナ「先輩、仕立て屋さん、本当にごめんなさい!」ペコッ

オートマタ「顔を上げてください。わたしは別に気にしてませんよ」

オートマタ「ほら、もうお面つけなくても人間らしい表情ができますし、記憶力も上がったんですよ、フィナお姉さん!」ニコッ

フィナ「う、うん、それはよかったね……」

オートマタ「グー、パー……。体はちゃんと動きます。忍術も裁縫も今まで通り使えそうですね」

オートマタ「あとあと、魔法と巫女のスキルも忘れてませんよ!」

子狐「ぐわあ! また支配下に置かれた!」

フィナ「でもフローラと神主さんになんて説明しよう……」

オートマタ「私はわたしですし、好きにさせてもらいます」

オートマタ「使命感も薄まりましたからね。わたしは……自由です!」

フィナ「そ、そっか……」

オートマタ「でもできればまたお店は持ちたいですねー。着物作ります」

オートマタ「あ、私のことはオミキでもクリスティでもミキティでも好きなように呼んでくださいね」

子狐「名前を絶妙に混ぜるな」

フィナ「もう先輩は先輩でいいや」

フィナ(でもなんだか貴腐に勝てる気がしてきた)

フィナ(だってさあ……スペック高すぎない? 忍者+木霊主+人形師+全属性魔術師だよ?)
750 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 20:30:18.49 ID:vJoHq88Do
ウベローゼン市の人気のない一画。

市民の自警団と貴腐のキノコの力でゾンビとして蘇った侍の戦いが続いていた。

剣士「そろそろ避けるのも限界だよ!」

魔法少女黄「どうすれば倒せるの……?」

キアロ「頭のキノコを狙うんだ。見覚えがある……あれがある限り何度でも復活する」

剣士「よしきた!」ガキィン

剣士「硬っ……!」

魔法少女黒「……時間を止める。ブルー、手伝って」

魔法少女青「時間稼ぎね! まっかせろー!」

侍「グッ……!」

風魔術による空気圧と、強化魔法による羽交い絞めで侍ゾンビの動きが一時的に止まる。

魔法少女黄「今よ!」

魔法少女白「私の魔法は尻からも出る!」キィィィン

魔法少女赤「まじかるー!」ボォォォ

杖と尻尾型装備から放たれる二条の光線と、魔法でも何でもない改造ガスバーナーが、侍ゾンビの頭のキノコを焼いていく。

魔法少女青「えっ何これめっちゃいい匂い!」

キアロ「やはりあれは貴腐のキノコ……例え人間をグロテスクに変異させるキノコであっても風味を追求する、職人の仕事だ……」

剣士「感心してないで次はどうすればいいか教えてくれないだろうか! 剣が効かないんだ!」ズバッ

キアロ「打撃で意識を奪えるはずだ。剣士の君に頼むべきではないが」

剣士「得意技、さッ!」ドンッ

侍「カハッ……」

魔法少女白「あ、あれは噂に聞く壁ドン!」

魔法少女黄「なんて男らしい強打なの! 壁に叩きつけられた彼の気持ちを想像すると胸のドキドキが止まらないわ!」キュン

魔法少女赤「肋骨と肺に効いてるな」

剣士「まだ足りないのかい? 欲しがりさんだね!」バキッ

魔法少女青「イケメンにのみ許される全女子憧れの顎クイ!」

魔法少女黒「あんな事されたら、頭がおかしくなっちゃいそう……」

魔法少女赤「顎へのアッパーカットだな」

侍「……」ドサッ

剣士「フッ……。おやすみのキスはいらなかったみたいだね」

剣士(勝った……! 僕は……カッコいい!)
751 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 20:31:40.67 ID:vJoHq88Do
形勢逆転されたタロウはキョウト国陣営の拠点である神社へと逃げ込んでいた。

タロウ「神主さん、大変だ!」

神主「どうしたんですかタロウ殿、騒々しい」

タロウ「オミキちゃんが裏切ったんだよ!」

神主「ふふっ……」

タロウ「なんで笑うんだい!」

神主「タロウ殿、お主には分からないでしょうな」

神主「オミキよ、よく成長しましたな……」

タロウ「僕らのフルフィリア支配計画に逆らうのが成長なもんか!」

神主「……そも、この私も祭神を侵略に用いる事に賛同してはおりませぬ」

タロウ「なんだって!? この非国民め! 恥を知れ!」

神主「否。罪を暴かれた者こそが非国民のそしりを受ける。それが私どもの国の慣例でしょう」

神主「立ち去りなさい」

タロウ「いや! まだ暴かれてないよ! なんたってこちらにはフルフィリア最強の一人、貴腐が残っているからね!」

「ほう、タロウさん。この異臭騒ぎはあなたの差し金でしたか」

タロウ「誰だ! ってなんだ、この間(2スレ目)僕の店に来てくれた旅人のおじいさんじゃないか」

タロウ「痛い目をみたくなかったら何も見なかったことにして帰った方がいいよ!」

ご隠居「いいえ。その悪行、決して見逃すわけに参りません」

ご隠居「二人とも、懲らしめてあげなさい」

付き人達「はっ!」

タロウ「こ、降参だ! 僕は丸腰なんだ!」

タロウ「いきなり上から目線で懲らしめるだなんて、なんなんだよお前ら!」

付き人「……この紋所が目に入らぬか!」

タロウ「あっ」
752 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 20:32:18.72 ID:vJoHq88Do
貴腐「ふーん? キョウトの傭兵は雇い主のサキューラさんを残して全滅しちゃったんだ?」

貴腐「心配いらないよ、レディー。私の目的はすでに果たしたからね」

貴腐「お偉いさんだか何だか知らないけど、私にカタナを向けたら次の瞬間にはレディーの魔法の餌食さ」

ミルズ(いた……!)


ベーカリーで貴腐攻略の鍵を手に入れたミルズは、細い路地で貴腐の後ろ姿を発見した。

立ち止まり一息飲み込むと、ミルズは緊張を表情に出さないように心掛けながら貴腐に歩み寄る。


ミルズ「貴腐……さん!」

貴腐「おやぁ? き、君はさっきのレディー!」

ミルズ「先程は逃げてしまってごめんなさい。驚いてしまって……」

貴腐「あはは、こちらこそすまない。目の前で人が菌に変わるのは初めてだったんだろう。刺激が強すぎたかな?」

ミルズ「それにしても、すごくいいにおい。近くで嗅いでもいいですか?」

貴腐「ウェルカム! 存分に嗅ぐといいさ!」バッ

ミルズ「殺菌魔法!」シュウウ

貴腐「ぐああああ!!」

貴腐「なっ!? しっかりするんだ、マイレディーズ!」


迎え入れるように両腕を広げた貴腐の全身に殺菌効果のある水しぶきが降りかかった。

貴腐はこの日、初めて焦りの表情を見せた。

その背筋はまっすぐに伸ばし、両の眼も見開いている。


ミルズ(効いてる! やっぱり、高所・先端恐怖症のデマを流していたのは、殺菌という分かりやすい弱点を隠すためだった)

ミルズ(致命的かつ本来ならわかりやすい、殺菌という弱点を隠す……そのために貴腐は奇妙な姿勢を取り続けていた……!)


ミルズは貴腐の背面に移動しながら何度も殺菌魔法を浴びせる。
753 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 20:39:57.41 ID:vJoHq88Do
貴腐「あぁ、お気に入りのスーツがびしょ濡れだ……」

貴腐「ねえ、そろそろやめてくれないかな? それ効かないからさ」

ミルズ「……っ?」

貴腐「着眼点はいいんだけど、私自身は人間だし、レディーも半分人間だ」

貴腐「さて、私を襲った理由だけど、リウム君の仲間って事でOK?」

ミルズ「…………」

貴腐「肯定と受け取っておくよ」

貴腐「さて、口直しのドリンクになるかレディーの一員になるか、君に選ばせてあげよう」

貴腐「私は紳士だからね」

ミルズ(……魔人先生はボクを助けた時、殺菌魔法を使っていた)

ミルズ(つまり、少なくともレディー以外の菌には効いている。殺菌魔法は使い続けるべき!)

貴腐「話を聞かない子だなぁ!」ブン

ミルズ「危なっ……!」
754 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 20:40:51.99 ID:vJoHq88Do
貴腐は手を伸ばしてミルズに触れようとした。

パン職人のスキルの一つ、『菌活性化』。

本来、短期間で良質なワインやチーズを作るための技術なのだが、貴腐は生きた人間に対してこれを使う。

さらに『操菌師』である貴腐の菌活性化は細菌にも及ぶ。

カビ類や常在細菌に対する菌活性化は、菌に変えられた100人以上のレディーと並ぶ、貴腐の強さの象徴だ。

その手で触れさえすれば、あらゆる有機物を腐らせ、分解する。

たとえその対象が山を超えるほどに巨大な生物であっても例外ではない。


貴腐「上手く避けるねぇ。しかし、精神力が切れた時が君の最期だ」

ミルズ(もう打つ手がない……。逃げようとしても後ろから菌の塊が飛んでくるかレディーの追撃が来る……)


殺菌魔法は本来攻撃用の魔法ではなく、その射程も決して長くない。

そのため、貴腐の腕を避けながら殺菌魔法を絶え間なく当て続ける行動には、相当な集中力を要した。


ミルズ(そういえばレディーが攻撃してこない)

ミルズ(横や後ろはがら空きなのに何もしてこないって事は、貴腐の近くにいる?)

ミルズ「……殺菌対策、菌は服の中に?」

貴腐「隠れているよ。で、どうするんだい?」
755 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 20:49:11.66 ID:vJoHq88Do
しばらく前……。

ラファ『惨い死に方をしてしまったのです』

ラファ『まさか白魔術師の私が幽霊モンスターになってしまうとは……。きっとこの間悪魔の力を借りてしまった影響ですね』

ラファ『ソピアと関わってからというものロクな目に遭っていないのです……』

ラファ『ん? あれは……』

日魔術師『ぐふふふ……。女の子の着替えシーンも、入浴シーンも、エッチなシーンも、幽霊なら覗き放題!』

日魔術師『ぼくちんを死なせてくれた幼女たん、ありがとう! 幽霊サイコー!』

10日前、魔法競技会の最中にヒレアに猥褻行為を働いたために爆殺された、変態の日魔術師だ。

遠くを見る魔法に長けるラファは、道行く女性を次々と全裸にしてテンションが上がっている彼の姿を目撃してしまった。

ラファ『……お久しぶりなのです。クズは死んでも治らないのですね』

日魔術師『どどど、どうしてぼくの姿が!?』

ラファ『私も死んだのです。あなたは欲望が強すぎて幽霊化したのでしょうね』

日魔術師『誰にやられたんだ!? ぼくちんが仇を討ってやる!』

ラファ『あまりに変態で忘れてましたけどあなたってたまに正義感強いところがありましたね』

ラファ『私を殺したのは巨大な男なのです。でもやめておいた方がいいのですよ』

ラファ『仲間に強力な使い魔の類と、六勇の貴腐がいました』

日魔術師『誰が相手だろうと関係ない! ぼくの魔法でひん剥いてやるー!』

ラファ『あっ、行ってしまいました……』

ラファ『でも……彼は除霊された方が世の為になりますね。放置するのです』

ラファ『私は除霊されないように気を付けましょう。復活できなくなるかもしれないのです』
756 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 20:50:15.43 ID:vJoHq88Do
日魔術師『見つけたぁ!』

日魔術師『男相手で気が乗らないけど、あいつは女の子を微生物に変えるのが趣味の変態男!』

日魔術師『生身の少女を愛するぼくちんの誇りにかけて許すわけにいきませんぞぉ!』

日魔術師『武装解除(服を消滅させる)魔法!』

貴腐は、パンツ一枚を残して裸になった!

貴腐「はあっ!?」

ミルズ「よく分からないけどチャンス!」シュウウ

貴腐「ひええ! 冷たい!」

貴腐「レディー! このままでは危ないっ、私の下着の中に隠れるんだ! 早く!」

貴腐「な、なぜ隠れないんだ!? 隠れないと無力化されてしまうじゃあないか!」

ミルズ「“レディー”だからだよ!」

貴腐「そうか! ああその通りだね!」

貴腐「これは紳士としてあるまじき失態……!」

貴腐「失敬! 私は服を着替えに戻る!」ダッ

ミルズ「えっ、脚、はやっ……!」


貴腐は体勢を立て直すべく逃走した。

今ここで仕留めなければ、広範囲の索敵能力と目に見えないレディーの奇襲によって、確実に殺される事はミルズにとって明白だった。

しかし頭頂部から生えたキノコによる身体強化の影響で、貴腐は見た目からは想像のつかない俊足を持っていた。
757 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 20:54:52.24 ID:vJoHq88Do
菌のにおいが強いエリアから少し離れた屋根の上で、機をうかがっていたフィナの下を貴腐が走り抜けていった。


フィナ「き、来た!?」

フィナ「……隙だらけ。なぜか裸だし……」

フィナ「今なら……でも……反撃されたら……」


貴腐はそこそこ脚が速いとはいえ、走る訓練を積んだフィナならば十分に追いついて攻撃できる。

しかし、二の足を踏んでいた。

相手は怪物という表現でも足りない程の強さで知られる六勇の一人。手加減をする余裕などない。

フィナには徒手で貴腐を倒すイメージなどまるで湧かず、かといって短剣を握る事もできなかった。


貴腐「反乱勢力の襲撃で皆避難している。人目が少なくて助かったな」

貴腐「レディー、すぐ目覚めさせてあげるからね……!」

一般人「き、貴腐様……!」

貴腐「おっと! こ、この格好には理由があるんだ。誤解されては困るよ」

一般人「助けてぇ……!」ギシッ

貴腐「マネキン……?」


貴腐がばったり出くわした市民の手首と足首に細い糸が巻き付いていた。

その糸は市民の背後に立っている顔の無いマネキン人形の指先から伸びている。

悲鳴を聞いてそちらに顔を向けると、避難所の建物に集まる市民を大量のマネキンが襲っていた。

それぞれが一瞬にして市民の背後に回り込み、魔法の糸で手際よく拘束する。


貴腐「反乱勢力の仲間の人形師か……? しかし人形モンスターにあのような繊細な動きは不可能なはず」

貴腐「狙いは私か。着替えは中断せざるを得ないね」

貴腐「人間使いの人形……危険だ。軍人として無視することはできない」


一瞬、普段見せない真面目かつ冷静な表情を見せる貴腐。だが内心は少々焦っていた。

何しろ頼りのレディーが活力を取り戻すまでは、肉弾戦もしくは周辺の空気や土壌に存在する菌を集めて戦うしかないのだ。

市民を人質に取られているので広範囲の菌を活性化して一掃することもできない。

貴腐は強化された肉体でマネキンの破壊を狙うが、マネキン達は巧みな足捌きでそれを回避。

どうやら操られている市民にも強化魔法がかかっているようだ。


貴腐「一人、妙に強そうな市民がいる」

筋肉「強そうではなく、強いぞー」

筋肉「ボディビルダーとやら、春眠の術であっけなく眠りはしたが良質な肉体だ。この武神タケミタマの器にふさわしい」

貴腐「……間に合った! 援護を頼むよ、レディーズ!」


貴腐が呼びかけると周囲にいくつもの菌糸体が盛り上がり、女性型に変形する。

半実体化した女性たちがマネキン軍団との戦闘に突入した。
758 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 21:13:24.50 ID:vJoHq88Do
風の刀、風の槍、風の薙刀、風の矢、強烈な張り手。

キョウト国の誇る武の数々が、武術経験の無い貴腐を容赦なく襲う。

成す術なく傷付いていく貴腐だが、強化された肉体は致命傷を防ぎ、わずかな傷も治療班のレディー達の回復魔法によってすぐに修復されていく。


筋肉「何という再生力じゃー……」

貴腐「どんなものかと思ったら、この程度耐えられないようじゃ紳士は名乗れないよ」

シュウウ

ミルズ「追いついた……!」

貴腐「また君か。しつこいレディーも嫌いじゃないけどね」

貴腐「頭のキノコに攻撃したのは当たりだけれど、消毒用の魔法程度ではねぇ」

ミルズ「っ! モンスターの群れ……!」

筋肉「安心せぇ。我らは貴腐の敵じゃー」

貴腐「全く……人間を操って戦わせるとは、なんと外道なモンスターなんだ」

ミルズ「市民を丸ごと洗脳する計画に加担したキミが言えたことじゃない!」

貴腐「ああ……それはね、仕方がなかったんだ」

ミルズ「誰に命令された?」

貴腐「いやあ。ただ、キョウト国の麹菌を手に入れるには他に手段が無かったものでね」

ミルズ「は?」

貴腐「以前は友人に頼めば取り寄せてくれたのだけれど……今、検問が厳しくなっているだろう?」

貴腐「そんな時、キョウト国に伝手があるサキューラさんと知り合って、私は仕方なく交換条件を飲んだんだよ」

ミルズ「麹菌のために……? それだけ……?」

貴腐「そう。私の菌とレディーへの情熱は誰にも止められやしないさ!」

ミルズ「そんな、小さなわがままで……六勇ともあろう人が、国を、町を売った……!?」

貴腐「大げさだなあ。領土を盗られるわけじゃあるまいし」

貴腐「私は麹菌を手に入れて幸せ、キョウト人は商売ができて幸せ、市民は夢中草で幸せ。みんな幸せじゃあないか」

ミルズ「ふざけるな!! 人の命を奪っておいて、何が幸せだ!!」

貴腐「確かに、彼らには悪いことをしたよ。けれども、多数の幸福は守られた」

ミルズ「嘘だ! キミは自分の事しか考えてない!」

ミルズ「……このことは、共和国軍に報告する」

貴腐「ふうむ……理解してもらえず実に残念だよ」

貴腐「これで私は何が何でも君の口を封じなくてはいけなくなった」
759 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 21:32:51.36 ID:vJoHq88Do
マネキン軍団とレディーズとの戦いは、レディーズが優勢だった。

無数の菌で構成されたレディーに対して物理攻撃はほとんど意味を成さない。

対するマネキンは手足の器用さこそ通常のオートマタを遥かに凌駕しているものの、魔法や忍魂気をそれぞれで使用する事はできない。

レディー達にとっては少々狙いにくい的でしかなかったのだ。

戦闘を終えたレディーはミルズへと群がり来る。


レディーA「貴女にもこの快楽を教えてあげるわぁ〜……!」

レディーB「みんな、魔法弾の一斉射撃よ!」

筋肉「我の後ろへ! ぬう、この者らも不死身かー」

ミルズ「くううううっ……」シュウウ

貴腐「菌から自分の身を守るだけで精一杯だね」

貴腐「君ももうすぐ菌になるんだよ」

貴腐「うん? なんだいレデ、ッ!?」


レディーから報告を受け、右を振り向いた貴腐は硬直した。

遠くに小さな人形のようなものが見えると思った次の瞬間には視界をそれが塞いだのだ。

見た相手の時間を一瞬だけ止める魔法と、忍者の高速移動技術を組み合わせた奇襲。
760 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 21:33:54.62 ID:vJoHq88Do
貴腐「び、びっくりした」

レディーC「私達を信じてください、貴腐様ぁ」

レディーD「貴腐様には触れさせませんわ!」

オートマタ「邪魔です!」シュッ

サッ キンッ キキン

オートマタ「この数は厳しいですね……っ!」


二体が混ざることで異常なまでの強化を遂げたオートマタだが、20人の実体化したレディーに囲まれ、攻撃を凌ぐだけで精一杯であった。

その方向に向けて貴腐が手を伸ばす。

彼女の操るマネキンと違い、オートマタは市民を抱えていない。

貴腐には、すでに膨大な数に増やした菌を直接ぶつけることが可能だった。


ミルズ「させない……!」シュウウ

貴腐「いいのかいこちらに向けて」

ミルズ「うっ!」シュウウ

貴腐「そうそう、自分に使わなきゃ。一秒でも長く生きたかったらね」

レディーE「吹っ飛べ!」ドカン

筋肉「ぬお!」

筋肉(しまった! この肉体は人質、弾き飛ばされたということは……!)


ミルズ「あっ……」ガクッ

貴腐「ようやく精神力が切れたようだね。中々よく頑張ったじゃないか」

オートマタ「魔法使いさん! ……わわっ!」

レディーF「つかまえたぁ」ドロォ
761 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 21:34:38.53 ID:vJoHq88Do
魔法の連続使用で体に力が入らなくなり倒れ伏したミルズ。

そして先程の倍の数に増えたレディーと交戦し、隙を付かれて捕まえられたオートマタ。

何人かのレディーによって貴腐から離れた場所へ運ばれた市民達。

条件が揃ってしまった。

一定範囲内をまとめて腐らせ、無に帰す、貴腐の真骨頂。

目の前で、懸命に貴腐へ挑んだ魔法使いの少女が死んでしまう。

今、行かなければ。


師匠『殺さねぇと殺される。それは言い訳じゃねぇ、真理だ』

フローラ『フィナさんもいつか、大輪の花を咲かせてくれると信じています』ニコッ


手は今なお震えている。

それでも、窓を開け放つ。

タンッ

フィナ「うあああああッ!」
762 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 21:35:11.07 ID:vJoHq88Do
フィナ「毒刃閃っ!」

ドスッ

貴腐「ぐげっ!」

フィナ「……毒抜きバージョン!」スタッ

ミルズ「キミ、は……?」

フィナ「殺菌! 早く!」ビシャッ

ミルズ「うぷっ! わ、分かった!」シュウウ


ミルズの顔にポーションをかけたフィナは、先程から建物の窓越しに戦場を見下ろしていた。

しかし、貴腐と戦う少女の窮地に恐怖を跳ね除け飛び降りたが、結局短剣を握ることはできなかった。

咄嗟に繰り出した技は、高速で斬りかかり毒を与える、殺し屋直伝の『毒爪閃』……の動きだけ真似たただの手刀。

もちろん、その程度で六勇は倒れない。


貴腐「ふふ……。よく来てくれたね、探す手間が省けたよ」

貴腐「そろそろ追いかけっこにも飽きてきた所だったよ!」

ズズズズズ

レディーG「アタシもアサシンなんだけど、ずいぶん下手クソな技ねぇ」

サナ「私がいる限り、貴腐様はいつでも体力満タン。毒も効かないよ」

女子「ミルズ、リウム……ごめんなさい。私だけこんなに幸せになってぇ♪」

レディーH「大切な貴腐様を傷つけるなんて許さなぁい!!」

フィナ「人の壁……!」
763 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 21:36:00.67 ID:vJoHq88Do
ポーションを浴びたとはいえ、ミルズは限界を超えていた。

ミルズの高い精神力を蝕んでいたのは魔法だけではない。

シュンにより告げられた、自身の出生にまつわる秘密。

家族に裏切られ、貴族の生き残りとして処刑されてしまうのなら、その前に死んでも変わらない……そんな考えさえ頭をよぎった。

だが、目の前の少女は自分の危機に駆け付けた。

そして今まさにその少女が危機に瀕している。

ならば、この場で全力で果てるのも悪くないと思った。


ミルズ「やあああ!」プシュウウウ

レディーH「キャア!」

フィナ「両手、いや、全身から……!?」

フィナ「ちょっとあんた、そんな事したら死んじゃうよ!」

ミルズ「分かってるッ!」


貴腐はそんなミルズをつまらなさそうに一瞥すると、その場から逃げ出そうとした。

彼にとって逃走は有効な戦法だ。彼の役割は司令塔。ただし極めて頑丈でいつでもどこでも無数の兵を補充できる司令塔だ。

ミルズは、走る貴腐の脚にしがみついた。


貴腐「レディーは蹴りたくないんだけど、なっ!!」ブンッ

ミルズ「うあっ!」

オートマタ「フィナさん! 春眠ですっ!」

フィナ「!!」


先程、オートマタが試みようとしてレディーに阻まれたのは春眠の術。

この術で眠らされた者は、フルフィリアの魔術師やエスパーには起こせない事を、オミキが知っていた。

フィナにとっては今日習ったばかりの技だ。

しかし、体は咄嗟に動いた。
764 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 21:36:31.96 ID:vJoHq88Do
フィナ(これなら、勝てる!)

フィナ「凶刃瞬殺舞 素手ッ! 死ねえええええ!」

ドドドドドゴッ

貴腐「いだっ、やめっ、ぎゃっ!」


凶爪瞬殺舞……人間の急所を狙って秒間10回の斬撃を繰り出す、殺し屋『凶爪』の奥義。

春眠の術……己の身から放出した力の塊である魂気を纏った武器で斬りつけて対象を眠らせる、オミキの得意技。

そしてフィナが振るっているのは手刀、ではなくグーパンチ。

フィナは師匠と先輩から習った技を即興で組み合わせ、不殺活人の暗殺拳を生み出したのだ!


フィナ「永遠に寝てろおおおお!!!」

貴腐「あぎっ、がふっ、ぐぎょっ!」


相手は、菌で肉体を強化しているものの肉弾戦の知識が全く無い貴腐。

一撃たりとも回避できず、人間の急所すべてに黒い気を纏った拳が打ち込まれる!

目、耳、顎、関節、股間、様々な臓器に、黒い気が吸い込まれていく。

本来、春眠の術はこのような使い方をするものではない。


フィナ「貴腐が死ぬまで殴るのをやめない!!!」

貴腐「ごっ、がっ、ぶえっ……」


なお、途中から武神タケミタマがフィナの肉体を強化していた。

強化された貴腐の肉体も耐えきれず、骨が砕け、関節が折れる。

もはや不殺とは程遠い、ただの暴力であった。

フィナが動きを止めた時、そこには半裸の男が見るも無残な姿で息絶えていた……。
765 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 21:41:14.38 ID:vJoHq88Do
フィナ「はあ、はあ、はあ、はあ…………。ふう……」

貴腐「」

ミルズ「貴腐が、死んだ……」

フィナ「し、死んでないから! たぶん!」

オートマタ「レディーって呼ばれてた人たちも消えちゃいました」

子狐「心拍が止まっとる。これはもう助からんなー」

フィナ「いいや死んでないね! 刃物使ってないし! 目を覚ましたら仲直り!」

ミルズ「そんな無茶な……」

フィナ「さっきの新技の名前は『春の舞』でいいかな?」

子狐「優雅さのかけらもない、ボッコボコに殴る技を?」

フィナ「あたしの流儀は不殺の暗殺術」

子狐「矛盾しとるぞー」

オートマタ「フィナさん、人を殺してしまった事を認めたくないのは分かります……」

オートマタ「でも、貴腐は私を利用してわたしのお店を壊した極悪人なんですよ! 死んで当たり前です!」

ミルズ(何言ってるんだろうこの人形)
766 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 21:43:39.65 ID:vJoHq88Do
ミルズ「……もし、貴腐が生きていたらこれからも、自分のわがままでもっと大勢の罪のない人々を殺していただろうね」

ミルズ「キミがそうしていなかったら、ボクもキミも死んでいたんだ」

ミルズ「命の恩人を人殺しだなんて責めやしないさ。誰がその行為を責めても、ボクはキミの味方だ」

ミルズ「ねえ、名前を教えてくれないかな?」

フィナ「……あたし、フィナ」

ミルズ「ボクはミルズだ、よろしく」スッ

フィナは握手に応じなかった。

フィナ「……ごめん、あたし、初対面の人はもう絶対信用しないって決めてるんだ」

ミルズ「……そうだね。裏で何してるかなんて、身内ですら分からないものだからね」

子狐「お互い訳ありじゃなー」

オートマタ「え? 一件落着ー!じゃないんですか!?」

オートマタ「まあ一部わたしのせいなんですけどね」
767 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/29(木) 12:07:25.61 ID:Q0X/uxReO
来とったんかワレェ!
768 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/29(木) 22:12:36.79 ID:TJaEChqLo
「あいたたた……」ムクッ



フィナ「ひいっ」

ミルズ「あ、あああ……」

貴腐「君たち……よくもやってくれたね」

貴腐「特段不思議な事じゃないよ。菌はね、土の中にだっているし、風に乗って飛んでくる」

貴腐「この世に菌がいる限り、私は何度でも蘇る」

貴腐「私は不死だ」

子狐「春眠の術を克服しおった……」

オートマタ「そんな、もう倒す方法なんて思いつきません……」

ミルズ「殺菌…ぐっ」ガクン

ミルズ「だ、ダメだ……動け、動けえ!」ガクガク

フィナ「ちょっと!? 殺菌できなかったらもう攻撃が……!」
769 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/29(木) 22:13:09.81 ID:TJaEChqLo
「下着姿で……何をしているのかしら?」

貴腐「や、やあ」

フィナ「……共和国海軍の大将」

ミルズ「通称、女帝……!」

女帝「町がモンスターの群れに襲われているのに、前線に貴方の兵士が現れていないようだから様子を見に来たのよ」

貴腐「た、戦っていたさ! マネキンの残骸が見えるだろう?」

貴腐「市街戦で珍しく苦戦を強いられてね……。ただ、もう終わるところさ」

ミルズ「ち、違います……! 貴腐は……!」

ミルズ「夢中草の売人グループと組んでいて、げほっ」

ミルズ「一般市民のボク達を口封じのためにっ……。他の人も大勢殺されて……!」

女帝「そう……。それは、怖かったわね」ニタァ

ミルズ(今も怖い)

貴腐「おいおいレディー、騙されないでくれよ。衛生兵長たる私がそんな事をするわけがないだろう」

フィナ「嘘を付くな! 憲兵に神社を調べてもらえば、すぐに証拠は見つかる!」

女帝「落ち着いて。すぐに分かるわ」スッ
770 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/29(木) 22:14:08.09 ID:TJaEChqLo
女帝「嘘を付いているのはやっぱり貴方ね、貴腐」

貴腐「何を根拠に……はっ」

フィナ(今、あたし達は鞭で打たれたんだ! 女帝に操られて、ありのまま起こったことを自白させられた)

フィナ(叩かれた記憶も消されるから知っていなければ尋問されたことにも気付けない!)

女帝「貴腐、貴方は一旦元帥の家で待機。反乱を鎮圧して落ち着いてから軍法会議よ」

貴腐「惜しい……あと2人だったのに」

女帝「元帥の家で暴れたり、奥様やエイラちゃんを傷つけたりしたら…………私の拷問がマシに思えるわよ、ウフフフッ」

貴腐「ひっ……」

女帝「さあ、自分で歩いていきなさい!」パチン

貴腐「……」テクテク

フィナ(あれ、レディーにも解除できないんだろうなぁ)

女帝「フィナちゃん、ミルズちゃん、貴女たちには補償と褒美を与えたいところだけど、今は避難して頂戴。警護を付けるわ」

フィナ(名前も聞きだされてる……)

フィナ「お気持ちだけ受け取っておきます……」

女帝「そう? それならポーションを渡しておくわ。これで疲れを取りなさい」

女帝「そうそう、ミルズちゃん。菌に変えられた貴女のお知り合いは後で元に戻させるわ」

ミルズ「あ、ありがとうございます」

女帝「いいえ。この度は衛生兵長がご迷惑をかけてごめんなさい」

女帝「ではお気をつけて。ウフフッ……」

フィナ「ミルズ。……さっきは適当にかけてゴメン。ほら、ポーション飲んで」

ミルズ「ごくごく……ぷはっ!」スクッ

ミルズ「行かないと……」

フィナ「どこ行くの? まだ動かない方が……」

ミルズ「違法ハーブの元締めが残ってる……!」
771 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/29(木) 22:16:44.12 ID:TJaEChqLo
神社の周辺地区。

ギャル「げーっ……。なんでお偉いさんがタイミング良く神社に来てるワケ……?」

ギャル「タロウには悪いけど縁を切るしかないか。引っ越しかー……面倒臭い……」

バッ

フィナ「見つけた! 神社の近くを探して正解だった」

ミルズ「逃がさないよ」

ギャル「ウソっ……生きてたの? キョウトの傭兵たちは? 貴腐は?」

フィナ「貴腐はあたしが倒した。オミキさんはこちらに付いたよ」

ミルズ「貴腐は、キミに頼まれたって言ってたよ。キミも捕まえて共和国軍に引き渡す」

ギャル「ハァ!? 監獄とかチョー面倒なんですけど!」

ギャル「もしかして……アタシが弱いと思ってない?」

ミルズ「キミの実力は知ってるからね」

ギャル「ハッ、ウケる。ダサいから使いたくなかったけど、しゃーなしか……」

ギャル「秘技『死ノ薬』……!」

フィナ(ただの水弾の連射?)

ミルズ「避けて!」

フィナ「わぷっ! あれっ、別に痛くない」

ミルズ「高濃度の夢中草エキスが入ってた。あれは即席のポーションを作って連射する技。威力はなくても、当たればいいってことだろうね」

ミルズ「まあ、ボクが中和魔法で効果を消すから何の効果もないんだけど」

ギャル「ちょっ、全部無効化するとかありえんし……マジ最悪……!」

フィナ「じゃ、普通に拘束するね!」
772 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/29(木) 22:17:31.84 ID:TJaEChqLo
夢中草の売人の元締めであるサキューラはあっさりと後ろ手に縛られた。

魔法は手を使わなくても発動できるが、精神力も大きく削れる上に身体への負担も大きい。

縛られたまま走るのは案外難しいため、相手がベテラン魔術師やテレポート使いでなければ、魔法封印は必要ではないのだ。


フィナ「質問なんだけどさ。死の商人って殺し屋とどう違うの?」

ミルズ「武器商人の事。その中でも特に戦争において敵方にも武器を売る商人への蔑称」

ミルズ「殺し屋みたいに直接手を下すわけじゃないけど、間接的に大勢の命を奪ってる」

フィナ「そっかー。お金のためなら友情もポリシーも捨てる悪魔って感じ?」

フィナ「いかにもグリエール商会らしいや」

ギャル「……聞き捨てならない」

フィナ「何?」

ギャル「取り消せ! ミリエーラ様はアタシ達を救ってくれたんだ」

ギャル「アタシの親友を馬鹿にすんな! ミリエーラ様は、グリエール商会なんかとは違う!」

ミルズ「親友に様付け……?」

ギャル「兄様〜なんて言ってるアンタに言われたくないんですけど!」

フィナ「へー、ボスはグリエール商会の人じゃないんだ」

フィナ「でもさ、あんた達のしたことは、あんたが嫌ってそうな商会より酷いよ」

ギャル「……アタシだってこんなめんどい仕事やりたくなかったし」

ギャル「きっとボスにはボスの考えがある。だから言うとおりにしただけ……」

ミルズ「……やっぱり、本人に話を聞かないと解決しない、か」
773 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/29(木) 22:18:22.37 ID:TJaEChqLo
ピロピロリン

フィナ「何の音?」

ギャル「……通信。あんたらが会いたがってるボスから」

ミルズ「これ?」スッ

ギャル「耳に当てて」

ギャル「ごめん、ボス! 夢中草の仕事は失敗。市民に捕まった。フリー、マリー、ビオーラ、ディアナもたぶんダメ」

ミリエーラ『全―知っ―――す。――――成功です』

フィナ「音量上げてよ」

ギャル「えっ、そうなの? 結構稼いだけど、全体には行き渡らなかったし、何より幹部のアタシが……」

ミリエーラ『あなた方の役目は終わりました』

ギャル「……あの、どういう事?」

ミリエーラ『根無し草は枯れる運命……お疲れ様でした』

ギャル「ま、待ってミリエーラ様……アタシはまだ」

ブツッ

フィナ「捨てられてんじゃん。案の定」

ミルズ「少しだけ、同情するよ。そういえばキミは最初から全くやる気が無さそうだった」

ミルズ「やりたくもないことをやらされて、町の平和を奪い、傭兵や協力者に人を殺させた。辛いだろうね」

ミルズ「でも、キミが今更悔やんだ所で失われた命は戻ってこないんだよ!」

ギャル「うあ、あああああ!!」ガクッ

ギャル「ゴメン、リウム……! メガネ……! みんな……!」
774 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/29(木) 22:19:22.13 ID:TJaEChqLo
テレサ「ご安心ください。戻ってきますよ」

ミルズ「テレサさん……!?」


ミルズと共に夢中草の販売組織を探していた協力者である、聖教徒のテレサ。

貴腐からの逃走劇が始まった後、影も形もなかった彼女がそこにいた。


フィナ「この人、貴腐にやられたんじゃ……?」

フィナ「貴腐、あと2人だったって言ってたよね?」

ミルズ「ああ……その2人の中にはたぶんボクが入ってなかったんだよ」

ミルズ「ずっと、隠れていたんだね」

テレサ「はい」

テレサ「わたくしは、テレポートで遠くに飛ばされた後、すぐに下水道へ逃げ込みました」

フィナ「下水道って菌が多そうだけど」

テレサ「ええ。貴腐に操られていない状態の菌で満たされています」

フィナ「そうやって菌の捜索網から逃れたんだ! 頭いい!」

ギャル「それより! 戻ってくるって言ったけど、マジ!?」
775 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/29(木) 22:20:36.93 ID:TJaEChqLo
キョウトの傭兵との戦闘時、テレサはある魔法を使っていた。

生命の天使の固有魔法『サリエルプロテクション』。

この魔法には、加護を受けた対象の死を保留する効果がある。

強者の勲章を得るための百兵の試練などのように、高確率で死者が発生する場では必ず高位の聖教徒がこの魔法で保険をかける。

ただしこの魔法は、効果が続いている間、他の魔法が一切使えなくなるという弱点も持つ。

したがって、天使から貴腐が倒されたと報告を受けるまで、テレサは下水道に棲む凶悪なモンスターから逃げ回る羽目になっていた。


テレサ「すみません。回復や防御結界でサポートしたかったのですが、あの場では人数が多かったので加護を優先しました」

フィナ「いいよいいよ! あたしだって、うずくまってただけだったもん」

ミルズ「ボクなんていなかったからね」

テレサ「では……」

テレサ「生命の天使よ。絶えた命を、契約の時までお戻し下さい」


6本の光の柱がウベローゼン市を照らし、リウム、ラファ、テンパラス、ネル、バルザック、ガルァシアが生き返った。
776 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/29(木) 22:22:27.91 ID:TJaEChqLo
病院近隣。

バルザック「うっひょー! 俺、復活!」

バルザック「しっかし、流石の俺っちにも六勇を倒すのは無理があったぜ」

ネル「ンー。相手が悪かったネ。でも一番悪いのはアイツだヨネ」

バルザック「ああ。俺たちに敵の正体を黙っていた、シュンをぶん殴りに行こうぜ!!」

ガルァシア「……俺も賛成だ」


テンパラス「……テレサ殿の魔法か。今度会った時に礼を言わねば」

テンパラス「まだ、私の剣の道は続けられそうだ」



裏路地、アジト前。

ラファ「生命保険魔法。知ってたのです」

日魔術師『ぼくちんを置いていくのかぁ〜!』

ラファ「憑いてきたら除霊するのですよ。でも今回は働きに免じて見逃してあげます」

ラファ「性的な悪戯をするなら、討伐依頼を出されないようにせいぜい気を付けるのです」

リウム「……父さん」

貴腐によって苗床にされたリウムの父はそのまま残されていた。

リウム「魔法街で、魔導師の先生も死んだままだった……。姉ちゃんも帰ってこない……」

リウム「なんで俺だけ生きてるんだよ!!!」

リウム「それじゃ……意味がないだろ……」

ラファ「……今は、好きなだけ泣いていいのです」

ラファ「落ち着いたら、どこか屋内に移動しましょう。生きるのです。生きなければいけません」

悲しみ喘ぐリウムに、ラファは優しく寄り添った。

彼女もかつて家族を失った身。その心境は痛いほどに理解できた。
777 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/29(木) 22:23:24.51 ID:TJaEChqLo
テレサ「では、彼女の身柄はわたくしが預かります」

テレサ「お二人もお気をつけて」


サキューラはテレサが聖教会へと連れて行った。

町が落ち着いたら既に捕らえているディアナ達と共に軍へ引き渡すのだろう。


オートマタ「フィナさーん! 神主さんと話をしてきました!」

オートマタ「見違えたわたしの姿に目を丸くしておられました!」

フィナ「だろうね……。フローラはどう思うかな……」

オートマタ「あっ、オーナーさんとは今通信してます。はいどーぞ!」

フィナ「フローラ! フィナだよ!」

フローラ『ハーブの問題、解決したんですね。おめでとうございます!』

フローラ『クリスティさんは……その、災難でした』

フィナ(困惑の表情が目に浮かぶ……)

オートマタ「お店は、建て直していただいたら続けます」

フィナ「ず、図々しい」

フローラ『ちょっと、なんですか……』ガタガタン

フィナ「フローラ、どうしたの?」

クルト『聞こえるか! 一刻も早くモニターを壊すんだ!』

フローラ『クルトさん、ウベローゼンのモニターはもう壊れています』

ミルズ「兄様!? 今どこで何してるの!?」

クルト『み、ミルズか。今俺は、フローラと遊園地にいる!』

ミルズ「……は?」

フィナ「……は?」

クルト『今はゆっくり話している時間がない。また後でな!』

ブツッ

フィナ「…………なんだか、方向性の違う裏切りを受けた気分」

ミルズ「…………ボクもまったく同感」
778 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/29(木) 22:37:20.97 ID:UeGDjsBNO
きてるー!
779 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/29(木) 22:51:23.13 ID:z1oVkdIvO
なるようにしかならないんだなという謎の安心感がありますね…
780 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/30(金) 18:37:14.06 ID:VJjcSS9XO
変態はよく頑張った
781 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/04/07(土) 03:09:38.16 ID:PuEU+LE3o
女帝に避難するように言われていたが、フィナは家に用事があるらしい。

ミルズは、フィナの近くが安全だと思い、家までついていくことにした。


空き巣A「ぐへへ、町が混乱してる今が狙い時だ……」

オートマタ「こらー! 他人の物を盗ってはいけません!」

空き巣B「やべっ、逃げるぞ!!」

フィナ「……」


女性「お願いします! 子供だけでも!」

夫「駄目だ駄目だ! 知らない奴を家には上げられん!」

妻「ちょっと、ドア閉めてよ! モンスターが入ってきたらどうするの!」

女性「うちの子を押さないでください!」グイッ

妻「いたっ。何すんのよ!」

夫「妻を殴ったなテメエ!」

フィナ「……醜い」

ミルズ「急いだ方がいいかもね。家に押し入られてる可能性がある」
782 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/04/07(土) 03:10:38.24 ID:PuEU+LE3o
フィナの家は、半壊していた。家族の姿もない。


ミルズ「これは一体どういう……! 近くにモンスターはいなかったし、違法ハーブ関係の敵はもういないはず!」

フィナ「……あはは。……最悪だ」ガクッ

オートマタ「フィナさん!? ガドーという男の仲間の仕業ですね。許せません!」

フィナ「……いいよね、先輩は」

オートマタ「はい?」

フィナ「何のしがらみもなくて……夢と目標以外には無頓着で、心が痛むことなんてないんだろうね」

オートマタ「体が痛むこともありませんよ」

ミルズ「フィナ?」

フィナ「もう……嫌なんだ」

フィナ「誰かに裏切られても、家族がいなくなっても、傷付かないようになりたい」

フィナ「躊躇なく人に刃を向けるには、心を殺して人間をやめるしかないんだ!!」


悪魔『その言葉、本当だな?』

フィナ「っ!? ここは……!?」

悪魔『僕は人に非ざる者を司る、死霊・傀儡の悪魔』

悪魔『望むのならば、お前を人間でない物に変えてやってもいい』

フィナ「……この苦しみは無くなるの?」

悪魔『無くなる。ただしお前が得る物は空虚だ。もはや二度と感動することもない』

フィナ「それって……誰かと話したり、美味しいお菓子も食べられなくなるってこと!?」

悪魔『実体があればできる。どう、契約するかい?』

フィナ「実体がある形で……お願いします」

悪魔『フッフッフ……契約成立だな』

フィナ「あっ……!!」

心臓が締め付けられる感覚の後、体温が少しずつ失われる。

初めは恐怖を覚えたが、その恐怖さえも次第に薄れていった……。
783 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/04/07(土) 03:12:16.43 ID:PuEU+LE3o
ピカッ!!

ミルズ「フィナ! フィナ!」

フィナ「ふぇ……」

ミルズ「ま、間に合った……?」

オートマタ「良くないものが来てるって狐さんが言うので、ミルズさんに起こす魔法をお願いしたんです」

ミルズ「何に会ったか覚えてる?」

フィナ「…………よく覚えてない」

ミルズ「コホン。フィナ。ガドーって誰なんだい? なぜ家を襲ったの?」

フィナ「……話せない」

ミルズ「話してくれ。ボクはキミの力になりたい」

フィナ「ダメ。存在を知ったら、ミルズも巻き込まれちゃうから……」

ミルズ「大丈夫。貴腐より恐ろしい敵なんてそうそういないさ」

フィナ「ねえ、なんで会ったばかりのあたしを助けようとするの? ほっとけばいいじゃん!」

ミルズ「貴腐を倒した時にも言ったけど、命の恩人だからだよ」

ミルズ「フィナが手伝ってくれなかったら、ボクは今頃キノコの栄養分にされてた」

フィナ「…………アサシン協会」

フィナ「あたしは、アサシンの弟子になって、そして弟子をやめた。だから、狙われてる」

ミルズ「やけに強いと思ったら……そういうことだったんだ」

ミルズ「別に驚かないよ。もっととんでもない存在を知ってるからさ」
784 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/04/07(土) 03:14:14.24 ID:PuEU+LE3o
ミルズ「アサシンの弟子ってことは、ホワイトシーフだ」

ミルズ「……キミにしか頼めない事がある」スッ

フィナ「書類と封筒……あっ、ミリエーラって書いてる!」

ミルズは、シュンに教えられた衝撃の事実をかいつまんで話した。

フィナ「そっか……。ミルズのお兄さんが陰でこっそり商売をしてて、しかも死の商人の正体かもしれないんだ」

オートマタ「えー、それ絶対違いますよ。クルトさんはミリエーラさんじゃないですって」

フィナ「ちょっと黙ってて」

オートマタ「はいっ」

フィナ「だとしたらフローラが危ない! 一番ヤバい奴と一緒にいることになるじゃん!」

ミルズ「でも、この証拠は自称探偵の用意した偽物かもしれない」

フィナ「うん、確かに。あの探偵は昨日から嘘しか言ってない」

ミルズ「キミに頼みたいのは、この書類や取引記録表が本物かどうかの調査」

フィナ「うーん……書類に書かれてるジェンス魔道具店を見に行かない事には分からないけど……」

フィナ「今は状況が悪いかな。あはは……」
785 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/04/07(土) 03:16:05.93 ID:PuEU+LE3o
ミルズ「そうだね。今、外に居続けるのは危ない」

ミルズ「せっかくだからお茶しないかい? ボクが最近知った雰囲気のいいカフェがあるんだ。フィナもきっと気に入ると思う」

フィナ「ごめん。あたしはアサシンが怖いから人の多いところに行くよ」

ミルズはフィナの手首を力強く掴んだ!

ミルズ「まあそう言わずに! ここから近いし、強いカフェだから大丈夫」

フィナ「強いカフェって何!?」

ミルズ「行けば分かるさ」

フィナ「行かないって! 離して!」

ミルズ「ごめん……。それならボクは寂しく一人で行くよ。じゃあね……」

フィナ「も、もう……。そのカフェ、スイーツはある?」

ミルズ「スウィートな経験ができることは間違いなしだよ! さあ、行こう!」

フィナ「あのさ、先輩……」

フィナ「初対面でグイグイ来られるのって結構怖いんだね!」

オートマタ「夢中草、盛ってないんですけどねぇ」
786 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/04/07(土) 03:27:05.72 ID:PuEU+LE3o
店主「あなたの こころの おあしす」

店主「カフェ:アンブロシア」

店主「まちはおおさわぎでも、つうじょうえいぎょう」

フィナ(夢中草のにおいがする)

貼り紙『当店は合法です』

貼り紙『安全な調合を行っております』

フィナ(調理じゃなくて調合)

フィナ「だ、騙された。嵌められた……」

ミルズ「騙されたと思ったなら、食べてみなよ。人生変わるよ」

フィナ「あたしをどうするつもりなの!」

ミルズ「怒らないで。ボクはただ、キミに美食の向こう側を見て欲しいだけなんだ」

ミルズ「ほら、メニュー表」

フィナ「ええと…………じゃあ、これにする」

フィナ(オールドファッション。無難なドーナツなら変なのはでてこないでしょ)

フィナ(誤字が気になるけど……)

フィナ(ミルズのはコーラ? でもにおいが別物……)
787 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/04/07(土) 03:38:23.94 ID:PuEU+LE3o
店主「おまちどぅー」


☆キノコーラの材料☆
・貴腐ワイン(シスヤタ産)……こさじいっぱい
・サイケマッシュの生搾り汁……おおめ
・テングマッシュの生搾り汁……おおめ
・解毒草……ほんのりと
・夢中草……ほどよく
・塩酸……たっぷり

☆オドールファッションの材料☆
・呪われた綿……さんじゅうねんじゅくせい
・解呪薬……なくてもよい
・夢中草……ほどよく
・脱力粉……すてきなぱうだー
・特製シロップ……からだがとろけるあまさ


ミルズは体中からキノコが生えてしまった!!

フィナは踊るマネキン人形になってしまった!!


オートマタ「今までの戦いはなんだったんですかー!!」
788 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/04/07(土) 04:04:44.31 ID:PuEU+LE3o
●モンスター図鑑

>>321 焔華神。

大型モンスター化した火花の妖精。悪魔の本体の根城である魔界にはこのような妖精が無数におり、焔華神はやや弱い方。

ラヌーン国の海神よりも弱い。


>>321 インキュバス。

自分の事を聖教徒だと思っている魔族。

全身が心筋で構成されており無限に肥大することが可能。

男女問わず心筋に触れた者は激しい愛情に身も心も支配されインキュバスの言いなりになってしまう。


>>643 武御霊。

たけみたま。フルフィリアの風神に相当する大型モンスター。

複数の武神が習合した存在であるため本当はもっと長い名前。

天候操作および人の身体能力を底上げするご利益があるため、運動会の前日に参拝したい神。


>>685 ナマクラゾンビ。

貴腐の操る菌糸によってゾンビとして蘇ったキョウトの侍。高いタフネスと引き換えに思考能力は低下している。

おぞましい姿なのだが頭のキノコだけはポップで可愛らしいルックス。


>>697 神酒添禍雛。

みきそえまがひな。禍雛はフルフィリアのオートマタに相当する。

元はただ髪が伸びるだけの人形で、供え物の御神酒と一緒に武御霊神社の供養堂に納められていた。

顔が不気味。


>>749 神酒スティ雛ドール。

安易な和洋折衷を批判する現代アート作品、と言われても高値は付かない。酷いデザイン。

もし頭と胴体が逆だったら性能もポンコツだった。
789 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/04/07(土) 04:10:55.40 ID:PuEU+LE3o
●教えて魔人先生! 六勇の倒し方〜貴腐編

魔人「無数の手下を利用した広大な索敵範囲と不可視の攻撃が恐ろしい男じゃな」

魔人「とはいえ、本体は六勇最弱。武道や魔術の心得は全くなく指揮能力も優れてはおらん」

魔人「殺菌魔法担当の魔法使い2人と上位職相当の攻撃役が1人いれば、貴腐はもはや手も足も出ぬ」

魔人「しかしあやつは本来、キノコを栽培したり乳酸菌を増やしたりする生産職。戦える方がおかしいんじゃ」

魔人「そしてあやつが真価を発揮するのはやはり後方支援」

魔人「不可視の水魔術師が戦場を埋め尽くし、全ての兵士をひたすら強化・回復し続ける。さらに敵の兵士に菌を付着させて持ち帰らせ、諜報も可能」

魔人「軍勢を引き連れた貴腐は、鬼顔を除く六勇では太刀打ちできぬ事間違いなしじゃな」

魔人「ちなみにわらわなら、遠距離から雷で撃ち抜くか、超高速で接近し菌に指示を出す間すら与えずノックアウトする」

魔人「そういえばあの白魔術師のラファはいい線行っておったのう」

魔人「ソピアも菌が風で飛ばされてしまう高さまで飛行して、神の目(視力強化)で狙いを定め、強めの光線を撃ち続ければ、貴腐ごとき楽勝だったじゃろうな」
790 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/04/07(土) 04:14:28.68 ID:PuEU+LE3o
●ごちゃごちゃしてたのでまとめると

リウム達「町中ハーブ浸けにしやがって許さん」

聖教会「神父であるフリー氏が主導しました」 → 神父(フリー)「サキューラに頼まれた」

病院「軍の指示でやった」 → 軍の一部「貴腐の指示でやった」 → 貴腐「サキューラさんと取引した」

タロウ「お金になりそうだから乗った」 オミキ・侍・力士「サキューラに雇われた」

サキューラ「ミリエーラ様に指示された」


オートマタ「神社や仕立て屋から解き放たれて自由な人形になりました。今の私は極めて危険なモンスターです」

フィナ「アサシン協会に命を狙われてる。人間は信用できない。もちろんミルズもあまり信用できない」

ミルズ「兄様とソフィアに次ぐ3人目のボクの命の恩人フィナ。現状一番信用できる。アンブラーにしてあげよう」


●黒幕関連まとめ

シュン「あの人形がハーブを流行らせてる奴に繋がってる」 魔境組「人形壊そう」 クリス「冤罪でした」

シュン「死の商人の正体は君の兄かもしれないよ」 ミルズ「信じたくないけど証拠が衝撃的」

ディアナ「ミリエーラ様に頼まれて大型ディスプレイのスピーカーを壊しましたの」

ゲド?「“彼女”を傷付けないでくれよミリエーラ君」 ミリエーラ「変な罠で邪魔しないでくださいゲドさん」

イリス「なんか記憶飛んでる」 フェイラン「私もある」
791 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/04/07(土) 04:19:08.51 ID:PuEU+LE3o
ミルズ「アハハハハ! キノコが、キノコが増えていくよォ!」

フィナ「ななな、なにこれ、全身が気持ち悪い」

ミルズ「もっと食え食えほらぁ」

フィナ「の、飲み込んだらだめなのに、口が勝手に……!」

フィナ「ん、んうううううう…………ヒャッホー! 美味しい!」

ミルズ「今日からキミもアンブラー!!」

フィナ「アンブラー体操、元気にいってみよー!!」

オートマタ「いえーい!!」←場酔い

フィナ・ミルズ「わっしょいわっしょい!! わっしょいわっしょい!!」


アンブラーもしばらくすると段々落ち着く。


フィナ「あーやばい。筋肉痛無いの最高ー」

ミルズ「胞子までボクの体の延長なんだ、心地よい刺激、恍惚……」

オートマタ「お互い、貴腐と悪魔からそれぞれ助ける必要なかったんじゃないですかねー」

ミルズ「でもアンブロシアの料理はその内元に戻るからね」

フィナ「フローラも帰ってきたらアンブロシアに連れてきてあげよう」

ミルズ「その人、今、兄様と遊園地にいるんだっけ。遊園地ならファナゼ?」

フィナ「たぶんそう。あたし、昨日フローラからファナゼに行くって聞いたし」

ミルズ「兄様がなぜファナゼに……」

ミルズ「やっぱり、本当に兄様が死の商人……?」


大事にしていた妹や、仲間達を放置してクルトが商業都市ファナゼに行った理由。

その真相は昨晩に遡る。
792 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/04/07(土) 04:22:57.92 ID:PuEU+LE3o
ここまでで芳香都市ウベローゼン編はようやく終了。
この編のテーマの一つがウベローゼンオールスターでした。
出てないのはソピアが最初に出会った浮浪者の人達、骨のような女性、魔法局受付くらいでしょうか。
しかし人数が多い分過去スレを見返しながら書かなければいけない場面ばかりで、自分で自分を苦しめる結果に。
793 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/07(土) 13:25:10.65 ID:guSN3Vk/o
激しく乙です
二人とも立派になって……
794 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/07(土) 15:38:58.77 ID:PSUk1JahO
シリアスな流れでも文字通り通常営業なアンブロシアェ
795 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/18(水) 22:46:05.84 ID:bnkJ8Cj5o

更新うれしすぎる
796 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/19(木) 12:06:20.56 ID:Ds2ZTc+rO
もう細かい設定忘れちゃったな……
797 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/21(土) 22:08:26.11 ID:ZO4ozSDso
>>796
よう前回更新のときの俺
それで最初から読み直したらいい感じに細部忘れてて
新鮮に楽しめて良かったよ
798 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/21(土) 22:13:53.82 ID:MNgcxS0jO
リアルタイムで追いかけてくのと後から読み直すのだとやっぱり違うんだよな自分の場合……無意識のうちに飛ばし読みになってて細かいところまで読めてなかったりする……

読み返す事自体は楽しいけど安価に参加できる自信はないかもなぁ……
799 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/05(土) 08:50:56.97 ID:3KckSs9+0
どうにか何とかなったか。乙。

しかし、やっぱり革命軍と六勇のまともな奴で新体制作って黒幕に立ち向かうのがハッピーエンドへの道かな。
800 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/05/05(土) 18:20:24.70 ID:AvuCY+ZUo
>>797 読み直しまでしてくれるとは…これは絶対に完結させないといけませんね。
>>798 重大な安価はしばらく無いので大丈夫です。通りすがりが安価取ってもいいレベル。

気が付いたら一月経っていた。
ソピアちゃんの出番はまだです。
801 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/05/05(土) 18:22:16.48 ID:AvuCY+ZUo
ソピア、逃亡39日目の夜。

鉱山の町シスヤタ市での戦いが始まるよりも少し前。

ミルズの兄で岩魔術師のクルトは、フルフィリア市の端の方にある小さな店を訪れていた。


店番「こんばんは、ジェンスさん」

クルト「ああ。今日の成果はどうだ?」

店番「杖は2本完成しました。惑星シリーズもいよいよ揃いますね。今日の売り上げはポーションだけですけど」

クルト「構わん。大手以外では装備品はたまにしか売れないものだ」


ジェンス魔導具店。

ニッチなデザインの杖や、ボードゲーム、カードゲーム等を扱う、知る人ぞ知る小さな店だ。

入り口前にはチェスの駒を模した杖が飾られている。

別名義を使う商人はとても多い。

だがクルトは、自身が小さな店のオーナーである事を妹や親しい者にも伝えておらず、後ろめたい思いを抱いていた。


店番「明日は大統領選ですけど、ジェンスさんは誰が大統領になると思いますか?」

クルト「まあ元帥だろうな。しかし俺は明日それどころでは無さそうだ」

店番「この間言っていた夢中草の件ですか」

クルト「うちも夢中草を買っている。用途が違うとはいえミルズ達にはあまり知られたくないな」

クルト「夢中草は調合素材でもあるし、魔導具との親和性が高い繊維素材の一種だ」

クルト「仮に全面規制されれば中小魔導具店、ポーション店は大打撃を受ける」

クルト「ハーブを乱用していない俺たちの生活をも脅かす、奴らは決して許されない」

ドンドン ガチャッ

配達屋「配達屋カモメメールですー。ジェンスさんにお手紙っすー!」

店番「カモメさんが来たという事は、ミリエーラの件ですか」

配達屋「はいっす。『通達“ミリエーラ”側の新情報』ですと」

クルト「ふむ……」

店番「ミリエーラの新店舗を学園都市スクーニミー市に確認。ラヌーン戦争特需を予測していたかのような動き……」

クルト「“死の商人”らしい動きだ。まさか裏で糸を引いていたわけではあるまいが……」
802 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/05/05(土) 18:23:36.30 ID:AvuCY+ZUo
半年前、クルトの知人の防具商人が死んだ。首吊り自殺だった。

しかしクルトには腑に落ちなかった。知人が死ぬ一か月前に、知人の店のすぐ近くに別の装備品店がオープンしていたのだ。

クルトは店主の目を盗んでその店の事務所に潜入し、責任者の名を見た。

その名を一目見た瞬間、知人の死は仕組まれたものだと確信した。

以来、クルトは同業者と協力してミリエーラの動向を可能な限り探り、手紙で情報交換を行っていた。

次の犠牲者を生まないために。


配達屋「あれ? もう一通あるっすけど……」

クルト「『通達“ミリエーラ”より』……。……本人から、だと!?」

店番「封筒の中を見ましょう!」

クルト「ああ!」

『妹と仲間の命が惜しければ、誰にも告げずに一人でファナゼへ向かえ』

店番「これは脅迫状……」

クルト「店番に見せてしまった!!」

配達屋「き、きっと妹と仲間に伝えなければセーフっすよ」

クルト「配達屋にも見られてしまった!!」

店番「ど、どうしましょう。僕も殺される……!?」

クルト「……心配するな。責任者は俺だ」

クルト「俺が決着を付けに行く」

店番「それでは、妹さんたちが……」

クルト「この文面とタイミングから推測して、恐らく夢中草の黒幕もミリエーラなんだろう」

クルト「下っ端を仲間に任せて俺は黒幕を叩く。ミルズ達には……この店の事も含めて後で説明するしかあるまい」
803 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/05/05(土) 18:25:26.43 ID:AvuCY+ZUo
配達屋「大変そうっすねー。無事を祈ってます。そいじゃっ」サッ

クルト「配達屋、お前も来るんだ」

配達屋「ぎょえ! 捕まった!」

クルト「お前は旅人ギルドの所属だろう? 町の出入りにはギルド員か軍人の同行が必要になるが、わざわざ今から探すのも面倒だ」

クルト「赤の他人を巻き込むのは忍びないが、事情をよく知っているお前なら問題ない」

配達屋「カモメまだ死にたくないっすー!」

クルト「俺はお前の実力を買っているんだぞ」


配達屋のカモメは鉄鋼の町モスボラ市の旅人ギルドに所属しており、手紙や荷物の速達を請け負っている。

脚の速さと高い戦闘能力を有し、これまで一切の紛失・破損・遅配無し。ただし料金は高め。

クルトと同業者達はその実力を買ってミリエーラの動向に関する手紙をすべて彼女に頼んでいた。


クルト「お前が首を縦に振るまで、俺はこの手を離さない」

配達屋「む、無理っすよ。会長に怒られますし」

クルト「俺にはもう……お前しか考えられないんだ!」

配達屋「……もしかしてカモメ、口説かれてる?」

クルト「俺と共に行こう。さあ……!」ニッ

配達屋「はい!」

店番「ジェンスさんどうしたんだろう……」

クルト「ふっ、俺はな……。イメチェンがマイブームなのだ」

店番「そういえばメガネ変えましたね」

クルト「己の殻を破るため、色々な事を試したが、一つ達成できていないことがあった」

クルト「俺はインテリ商人からイケメン商人に転向しようと思う」

店番「えっインテリ商人だったんですか」

配達屋「あー、なるほどね。恋がしたいんすね」

配達屋「いいっすよ。カモメがファナゼに連れてってあげるっす」

クルト「よし! 一人目を落としたぞ!」

配達屋「落ちてませんけど!?」

クルト「ラミィはモンスターだったから残念ながら失敗したが、この旅で今度こそ、俺は恋愛を成し遂げる」

クルト「そして築き上げるぞ、クルトハーレム!」
804 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/05/05(土) 18:26:45.19 ID:AvuCY+ZUo
一方、フルフィリア市からファナゼ市に続く街道。

12歳の天才商人フローラは、オネエ日魔術師のキュベレが魔法で照らす道を歩いていた。

彼女はリンクス商会の経営を義父から受け継ぎ、所有する複数の店舗で冒険者のための装備品の生産・販売を行っている。

先日、義理の祖父母が開いていた雑貨店が、実の叔父によって半ば強引に潰されるという事件が起きたため……

その真意を、ファナゼにいる実の祖父に尋ねに行くのが彼女の目的だ。

祖父はフルフィリア共和国のほとんどの産業を支配するグリエール商会の会長である。


キュベレ「マニーマーケットを建てるために、ねぇ……。でも偶然とは思えないわよ」

フローラ「マニーさんは関係ないとおっしゃっていました。けれども一応、確認が必要でございます」

キュベレ「元妻の再婚相手の親にまでちょっかいかけるなんてサイテーね」

フローラ「いえ、母は結婚しておりませんの」

フローラ「彼は多くの女性と子をつくり、最も優れた子を産んだ女性と結婚したと聞いております」

キュベレ「あら、フローラちゃん優秀なのに、見る目ないわね!」

フローラ「『優秀』の条件のひとつが、男性であること、でした」

キュベレ「……古臭い男ってイヤねぇ。アタシのお父さんも男なら誰でも女より優秀って考えだし」

キュベレ「我慢ができずにすぐ暴力で従わせようとする。だから男って嫌いよ」


キュベレことジーク・オーグロスの父親はフルフィリア最強の軍人の一人、陸軍大将『鬼顔』である。

彼は同世代と比べても特に古い考えの持ち主であり、力、強さ、男らしさというものを重視し、息子のジークにもその考え方を押し付けようとしていた。


キュベレ「でもお母さんはご立派ね。今のお父さんと出会うまでは一人でフローラちゃんを育てたんだもの」

フローラ「いいえ立派ではございません。謙遜でなく、心の底から大嫌いです!」

フローラ「幼い私の面倒を見ていただいたのは保母ですので!」

キュベレ「あらら……。天才児にも反抗期はあるのね」

フローラ「私は一生反抗期でございます!」

キュベレ(寂しかったんでしょうね……)

キュベレ(フローラちゃんが今こんなに大人なのは、自立せざるを得ない環境だったことも影響してるのね、きっと)
805 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/05/05(土) 18:31:48.14 ID:AvuCY+ZUo
キュベレ「話変えましょっか! 逆に好きな人はいないの?」

フローラ「フィナさんは好きですよ」

キュベレ「そういうのじゃなくって! 恋のお相手よん♪」

フローラ「は、はい?」

キュベレ「ちなみにアタシが狙ってるのは魔法局の男の子よ」

フローラ「あの……おっしゃらなくても大丈夫ですわ」

キュベレ「アタシ言ったからね! 次はフローラちゃんの番よ!」

フローラ「ええっ……?」

キュベレ「ごめんね。早かったかしら。普通は恋をするお年頃だけど、フローラちゃんはまだなのね」

フローラ「むっ……。い、いますよ」

キュベレ「へえ、どんな男の子?」

フローラ「年上の、同業者の方です」

キュベレ「カッコいいの?」

フローラ「背が高くて、顔も整っていると思います」

キュベレ「どんなところが好きなの?」

フローラ「優しくて、理知的で、でも時に大胆なところ、でしょうか」


フローラは以前、エルミスの誕生会でソピア・フィナ・エルミスに同じ話をした事があった。

しかし、大人のオネエさんであるキュベレの『好きな人特定力』はそこらの小娘とは比べ物にならない!


キュベレ「もしかして……クルトくんじゃない?」

フローラ「んっ!? しまっ、その、コホン。ちっ違いますよ。……キュベレさんの知らない方でございます」

キュベレ「あらやだ、アタシの恋敵なのねっ!」

フローラ「うそっ……」

キュベレ「なんてね。冗談よ♪ 初恋をゲイに邪魔されるなんてトラウマになるわよ」

フローラ「どうして……クルトさんがお店を持っていることを?」

キュベレ「知ってるわよぉ。気になった子の秘密はどうしても知りたくなるものじゃなぁい?」

フローラ「……キュベレさんの顔の広さを甘く見ていました。不覚です」

キュベレ「決め手になったのはフローラちゃんがメガネフェチだってことね。この前会った時もメガネの男の子をチラチラ見てたでしょ?」

フローラ「キュベレさん、怖いです……」

キュベレ「ソフィアちゃんはトールくんとくっつきそうだから、今がチャンスよフローラちゃん! フローラチャンスよ!」

フローラ「恥ずかしいので……もう、やめてください……!」
806 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/05/05(土) 18:33:33.72 ID:AvuCY+ZUo
キュベレ(思ったより楽しい旅になりそうだけど、本題を忘れないようにしなきゃね……)

キュベレ(アタシの役目はグリエール商会の監視)


キュベレがフローラの付き添いを引き受けたのには理由があった。


キュベレ「ファナゼ市に……ですか? 強者の勲章を持つ者はシスヤタ市の監獄の警備を行うのでは?」

鬼顔「お前には期待していない」

キュベレ「力不足ですみません」

鬼顔「……グリエール商会の動きが不自然なのだ」

鬼顔「大統領選の日に家族全員が本社に集まると、俺の耳に入った」

鬼顔「迂闊な真似が出来ぬよう、お前を俺の代理として商会に派遣する」

キュベレ「まさか、グリエール商会が共和国軍へ反意を抱いていると?」

鬼顔「『造船王』パニー・グリエールは知っているな」

キュベレ「はい。陸軍および海軍に装備・兵器を納品している、製造業の有力者です」

キュベレ「彼は革命以前から現共和国軍を支持していました」

鬼顔「俺も懇意にしているが……奴は重度の兵器マニアだ」

鬼顔「大量の兵器を所有している事に加え、趣味で世界各地で起きた戦争の記録を収集している事も分かっている」

キュベレ「……パニー氏が商会を動かして国を戦争へ導く可能性がある、ということですか?」

鬼顔「一つの可能性だ。だが、仮に商会が物流を止める等の挑発を行えば、周辺諸国との緊張が高まる」

鬼顔「戦争が激化するほどに奴は儲かり、そして楽しむだろう」

キュベレ「……お父さんは、魔導帝国ノーディスとジャルバ王国の領土へ侵攻する予定があるとおっしゃっていましたが」

鬼顔「主導権を握るのは俺だ。奴じゃない」

キュベレ「……はい」

鬼顔「相手は所詮、金しか持っていない商人共。力の足りんお前でも出来る仕事だ」

鬼顔「ジーク。この程度の任務もこなせんようなら……分かっているな」ゴゴゴゴ
807 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/05/05(土) 18:38:01.39 ID:AvuCY+ZUo
それぞれの目的で商業都市ファナゼへと向かう、クルト、フローラ、キュベレ。

しかしその町ではすでに幾多の組織が動き出そうとしていた……。

陰謀渦巻くかもしれないファナゼ編、スタート。
808 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/05/05(土) 18:42:36.40 ID:AvuCY+ZUo
深夜、街道。

配達屋のカモメが暗いグレーの車を引いて走っていた。

金属光沢があるその車の中にはクルトが座っている。


クルト「ふむ、馬車より速い上に揺れが少ない。快適だ……」

クルト「車、重くないのか?」

配達屋「見た目より軽いっすよ。それに、カモメはドワーフとのハーフなんで怪力なんです」

クルト「車は岩魔術で作っているのか? 生成魔法だと思うが、俺の知らない金属だな」

配達屋「あ、企業秘密っす」

クルト「そうか。……ふわあ」

配達屋「着いたら起こしますんで、寝てていいっすよ?」

クルト「お言葉に甘えさせていただこう……」

配達屋「クッションなくてすいません。代わりに安眠魔法かけときますね」


商業都市ファナゼは早朝から賑わっている。

商人たちの朝は早い。朝市では買い付けに来た業者に交じって主婦の姿も見られる。

一方、夜間働いていた眠らぬ町の労働者たち、警備員、娼婦、パフォーマーはこれから睡眠時間だ。

今でこそ大きな都市に成長したファナゼ市だが、かつて王国東部はあまり栄えていない地方だった。

度重なる大国の小競り合いによって国境が頻繁に変わる不安定な地域であり、人々は痩せた土地に村を作り主に酪農を営んで生活していた。


今のファナゼ市を作り上げたのが、市民の誰もが知るグリエール三兄弟である。

長男、ミッキー・グリエール。モットーは『みんなの笑顔のためならなんでもする』

旅芸人達を束ね上げて芸能産業を確立、メカニックギルドに投資しテレビや遊園地の開発を支援した“芸能王”。

次男、ビリー・グリエール。モットーは『誰かが損を被る商売は長続きしない』

地道な交渉で街道と市場を整備、町の礎を作った現会長であり“ファナゼの父”。

三男、ゼニー・グリエール。モットーは『強欲は力なり』

類まれなる商才で富を増やし兄の活動を支援、行く先々で出会った女と多くの子を作りついには性病で帰らぬ人となった“絶倫王”。
809 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/05/05(土) 18:44:07.75 ID:AvuCY+ZUo
クルト「俺はファナゼに来いとしか指示されていないが、これからどうすればいいんだ?」

クルト「歩き回ってミリエーラに存在をアピールするか?」

配達屋「しっ。人前で名前言っちゃダメっすよ!」

クルト「そうか、迂闊だった」

配達屋「カモメ達が動かなくても、たぶん手紙の差出人から接触して来るんじゃないっすかね?」

クルト「ならば人の少ない場所に移動するか? ここでは差出人も話しづらいだろう」

配達屋「そんなに焦らなくても、呼んだからには無視しませんって」

クルト「そうだな……。すでに差出人の部下に見張られている可能性を考慮すべきだった」

クルト「配達屋、襲撃に備えるぞ」

配達屋「いや、襲うつもりなら街道で寝込みを襲うと思いますよ」

クルト「いつ戦闘が始まってもいいように、歩いて体を温めておこう」

クルト「地理の把握と食事も必要だ。さあ、まずは中央市場へ行くぞ」

配達屋「あれ? この人もしかして遊びたいんすか……?」


朝食と市場の物色を済ませたクルト達は、ファナゼ市立博物館を訪れた。

各国から集めた珍しい物品が保管・展示されており、考古学に興味が無くても楽しめる観光名所だ。


■ドラゴンブース

●古代竜の鱗 産出地:北サロデニア大湿原

※お手を触れないで下さい 針が刺さる恐れがあります

古代の北サロデニア大湿原には毒針を持つドラゴンが多く生息していたと考えられています。


●竜脈の模型 製作:魔導帝国ノーディス 皇都大学 ○○教授

竜脈とは、地中の奥深くに閉じ込められたドラゴンの生体です。

長く生きる程に生命力を増すドラゴンは、長期間の睡眠中に堆積した土砂や溶岩によって地中に封じられます。

竜脈には膨大な量の精霊(魔力)が残存します。一部の魔術師は竜脈から精霊を補充します。

竜脈が何らかの要因で地上に現れ目覚めた場合、古の神竜と呼称され、人類の脅威となります。


●竜の化石 産出地:プエルトマリハラ市郊外の地層

現生のドラゴンとの骨格の比較から、ファイアドラゴンの先祖と推測されています。

プエルトマリハラ市は周辺地域に比べて極めて温暖です。

魔法局は、火または日の精霊王もしくは竜脈が環境に影響を与えている学説を支持しています。
810 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/05/05(土) 18:47:03.17 ID:AvuCY+ZUo
配達屋「ドラゴンっぽいオーラの謎の精霊源を調べてみたら、本当にドラゴンだったってやつっすね」

クルト「竜脈術は俺が使っている、大地から力を借りる系統の岩魔術の延長にある」

クルト「俺も将来的にサロデニアにある竜の縦穴へ行く機会があるかもな」


■スカイブース

●魔法プリズム装置 製作:魔導帝国ノーディス 禁術研究所 所属研究員

※お手を触れないでください 手がランダムに変色し二度と元の肌色に戻りません

無水滴・無電磁気状態で、精霊操作のみで虹・オーロラの再現を試みた実験装置です。

日と風の精霊の濃度によって、光の反射率が変化し、人の認識する色が変わる事が分かっています。

色の人工的制御は困難を極めており、ノーディスでは無許可での日・風精霊合成実験が禁止されています。


●隕石 採取地:コホーテン国北部 クレーター群

この隕石は未知の金属で出来ています。

鋼鉄を上回る重量と硬度を持ち、よく磨かれた表面は鏡のような性質がありますが、通常の鏡面とはずれた景色を映します。

ぜひ持ち上げて重さを確かめてみましょう。


クルト「手が奇妙な色をしている、というのは個性に含まれるだろうか?」

配達屋「個性的じゃなくただの変な人だから展示品触らないでくださいっす」

クルト「何事も経験だ……」スッ

配達屋「絶対後悔しますって!」

クルト「おや、この隕石、お前の作る車に似ているな」

配達屋「んっ」

クルト「正面から覗くと向きによって天井、床、左右のどれかが映る鏡か。凸面鏡に似た使い道がありそうだ」

配達屋「そんな使い方できるほど隕石はいっぱい無いっすよ」

クルト「お前ならいくらでも作れるだろう?」

配達屋「うっ」
811 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/05/05(土) 18:48:53.22 ID:AvuCY+ZUo
クルト達がのんきに観光を楽しんでいる頃……

フローラとキュベレは、ファナゼ市中央の高層ビルの7階にいた。


グリエール商会本社ビル(フルフィリア共和国 商人ギルド本部)。

社員「一家の皆さんはこちらの扉の奥でお待ちです」

キュベレ「案内ご苦労さま。もう戻っていいわよ」

キュベレ(軍の施設と比べるとびっくりするくらい綺麗な建物ね。清掃員何人雇ってるのかしら)

フローラ「行きましょう? キュベレさん」

キュベレ「そうね」


扉の向こうは豪華絢爛な大広間だった。

床には高級な絨毯が敷き詰められ、天井にはシャンデリアが輝いている。

新品の真っ白なテーブルクロスがかかった長テーブルの左右には、宝石をあしらった金メッキの椅子がずらりと並ぶ。

何も知らない人が見たら、貴族、あるいは王族の晩餐会と誤解するだろう。


パニー「誰かと思えば……確か、フローラ、だったか?」

フローラ「……パニーさん、お久しぶりですね」

パニー「少し見ない間にずいぶん大きくなったな。……失敗作め」

不動産王「はははっ、父さん、それが自分の娘にかける言葉かよ!」

キュベレ(『造船王』パニー・グリエール……会長のビリーの長男で、次期会長と目されていた元不動産王)

キュベレ(フローラちゃんのお父さん、よりによってパニーだったのね……)

不動産王「で? 誰だよこいつ呼んだの。生まれながらの一家の恥を会議に招くとかどうかしてるぜ」

パニー「会長だ。忌々しいことに、会長は追放した者も血縁者だと分かれば社内へ入るのを許すんだ」

キュベレ(『不動産王』トミー・グリエール、20歳。顔は好みだけど、性格が最悪なのよね)

キュベレ(40億Gの男なんて言われてるけど、陰湿な嫌がらせで土地を奪ったり、脅して賃料を強引に釣り上げたりするのはねぇ……)

不動産王「会議じゃないなら何しに来たんだ。マニーおじさんを殺したのは私ですって自白しに来たのか?」

フローラ「……! ……私は、リンクス雑貨店を潰したのはあなたの指示なのか尋ねに参りました、パニーさん」

パニー「知るか。お前なんぞわざわざ相手にするものか」

パニー「なぜ今更金にもならない嫌がらせをせにゃならん?」

フローラ「……そうですか」
812 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/05/05(土) 18:52:29.23 ID:AvuCY+ZUo

パニー「待たせた、ジーク君。私に用があるんだろう?」

キュベレ「お世話になっております、パニーさん」

キュベレ「本日は、陸軍大将の特命で参らせていただきました」

パニー「君の父は大統領選当日で忙しいからな。君が来るのは理解できる」

キュベレ「失礼ながら、グリエール家の方々が一堂に会するのは珍しいことですね」

キュベレ「全員で一体どのような事について話し合うのか、父は大変興味を持っております」

パニー「一つは、自殺した弟のマニーの遺産分与についてだ」

キュベレ(『小売王』マニー・グリエール。会長の次男で、気のいい働き者として商会の中では市民に慕われてる方ね)

キュベレ(恨まれる人じゃないし、なんで自殺なんてしたのかしら……?)

パニー「そしてもう一つが、共和国体制における、今後の営業戦略に関する意見のすり合わせだ」

パニー「処刑された貴族の中には行政に携わる者も多かった。我々商会のノウハウを活かして今後の行政への助言ができないか、とも考えている」

キュベレ「新政府はギルドや大学と連携して改革を進めていく方針ですが、貴方がた商会の力を借りる日が来るかもしれません」

キュベレ「その時は、どうぞよろしくお願いいたします」

パニー「ああ。選挙では君の父に投票させてもらったよ。よろしく言っといてくれ」



フローラはゴージャスな装いの女性を訝しげに見つめていた。

彼女は、両手のすべての指にはめられた指輪、ネックレス、腕時計、髪飾り、靴に至るまで、大量の宝石が用いられたアクセサリで自身を飾っている。


宝石おばさん「あら、何をじろじろ見ていますの、貴女」

フローラ「いえ……。その杖、ノーディス製の魔法杖でございますね?」

フローラ「魔法使いではない方でも上位魔法が使える杖は、ノーディス国外に流通していないはずです」

フローラ「しかも危険な空間操作魔法の杖……。その杖は、どちらで?」

宝石おばさん「親切な魔導師の殿方に譲っていただいたの、オホホ」

宝石おばさん「貴女ずいぶん武器に詳しいのね? いやだわぁ物騒!」

フローラ(『宝石女王』ルブーラ・グリエール。私の叔母に当たります)

フローラ(美しいものに目がない宝石コレクターで、富裕層を相手にしか商談を行わないとか……)

フローラ(彼女も自分の子を一家から追放しているので、好きになれません)
813 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/05/05(土) 18:53:56.63 ID:AvuCY+ZUo
美食家「フローラちゃん、私のドーナツはいかがかな?」

フローラ「……よろしいんですか?」

美食家「食に差別なし! 美味しいものは分け合うべきだ。ただし通常は対価をいただくよ」

フローラ(『食の探究者』ポンディー・グリエール。私の叔父で、三男)

フローラ(フルフィリアに様々な外国料理を紹介した、商人としてはまともな人ですが、料理人ギルドには嫌われてます)

美食家「来週発売するポンディーリングのブルーベリー味だよ。変なハーブ料理より美味しいに決まってる!」

フローラ「友人へのお土産におひとついただいてもよろしくて?」


黒マント「久しいな、我が好敵手よ!」

黒マント「我は先日、ついにフルフィリアの全てのブルーベリー畑を手中に収めたぞ! 青果征服の夢もそう遠くはない……!」

黒マント「貴様はどうだ? 装備征服は順調か?」

フローラ「何度も申し上げているように、私は征服に興味がありません」

フローラ「勝手にライバル視なさらないでください。迷惑です」

フローラ(自称『青果の支配者』キノミー・グリエール。ポンディーさんの息子で私より2つ年上の14歳)

フローラ(一家の間では天才児と呼ばれていますけど、やってることは一定地域の特定の作物の畑を全部買って値段を釣り上げるだけ……)

フローラ(従わない農民の畑に薬品を撒いて、汚染された土地を強引に安く買い取る大悪党)

フローラ(結局は不動産王と同じ、家の力がないと何もできない人……)ジロッ

黒マント「そう見つめたとて、我は魅了されんぞ。控えよ」

黒マント「だが、もしも貴様が我が配下となるならば、貴様に青果の半分をやろう」

黒マント「おい、我を無視して立ち去るんじゃない。不敬なり。……待てっての!」
814 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/05/05(土) 18:56:21.63 ID:AvuCY+ZUo
パニーと不動産王に話を打ち切られたキュベレは、他の来席者から情報を探ることにした。

不動産王に次ぐ商会の年商ナンバーツー、人材派遣会社の女社長に狙いをつける。


キュベレ「共和国軍の“輝鬼”ジーク・オーグロスです。ドーラさん、お時間ございますか?」

女社長「ん? ああ。まだ会議までは余裕がある」

キュベレ(ドーラ・グリエール。故ゼニー氏の娘の一人で、職種問わずどんな依頼でも受け付ける派遣会社の社長)

キュベレ(ギルドから仕事を奪いつつも市民からの評価は上々だけど、地下の奴隷市場の元締めとしての顔もある怖ーい女)

キュベレ「失礼ながら、今日の会議ではどのような議題に関して話し合う予定があるか、お聞かせいただいてもよろしいですか?」

女社長「パニー達から聞いていないか? 議題は今後の一家の方針とマニーの遺産分与だ」

女社長「心配せずとも、パニーの独断専行は私たちが食い止める。私のように、ファナゼを戦場にされると困る家族の方が多いんだ」

キュベレ(あぁ、バレてんのね……)

キュベレ「お気遣いありがとうございます。ドーラさんは今後の方針についてどのような意見をお持ちなんですか?」

女社長「政府への全面的協力だ。ただし私たちも相応に扱ってもらわなければ困る」

女社長「共和国軍とグリエール商会、二人三脚でフルフィリアを立て直していこうじゃないか」

キュベレ(嘘偽りがあるような語りには思えないけど、この人、よくない噂いっぱいあるのよねぇ)

キュベレ(社員からもう少し情報を引き出せないかしら?)

キュベレ「お願いがあるのですが。会議の間、ドーラさんの派遣会社を見学させていただけませんか?」

キュベレ「私個人として、総合ギルドというギルドの形態に大変興味がございまして……」
815 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/05/05(土) 18:57:47.52 ID:AvuCY+ZUo
女社長「それは嬉しいな。ぜひ見ていってくれ。主任!」

社畜「はい」

女社長「お前と同じ強者の勲章をお持ちのジーク氏だ。会社の中を案内してやりなさい」

社畜「かしこまりました」

キュベレ(強者『社畜』……。百兵の試練では開始直後に100人全員が謎の力で倒され、一歩も動かずに勲章を得た男の人……)

キュベレ(派遣会社のPRのために試練を受けたのに、『私は……社畜だぁ!!』と、自ら不名誉な二つ名を要望したのよね)

キュベレ「……なんとなくシンパシーを感じるわ」



投資家「ジーク君。少し話しても構わないだろうか?」

キュベレ(投資家の……名前が出てこないわね)

投資家「オージー・グリエールだ。よろしく」

キュベレ「すみません。あまりお見掛けする機会が無いですよね?」

投資家「……ああ。今まで会食や会議に参加していないからね」

投資家「僕もゼニーの息子なんだが、実力を示して彼らの承認を得ないと本家には入れないんだ」

投資家「ようやく投資家としての功績が認められて、こうして初めて会合に招待されたのだよ」

キュベレ「グリエールの出であることを隠して暮らしている人も大勢いると噂されてますね」

投資家「ゼニーの子は多いよ。僕も全員知っているわけではないがね」

投資家「さて、本題に入ろう」

投資家「お察しの通り、僕たちは君に会議の本題を隠している」

投資家「だが僕たちの企みは、君たち、軍による統治を助けるものだ」

キュベレ「……話していいんですか?」

投資家「ジーク君には話しておくべきだ。陸軍大将を怒らせるリスクを負うのは得策じゃない」

投資家「作戦の決行は正午。大統領選の中継が始まる前に、町を離れておきたまえ」

投資家「陸軍大将に話しても構わない。まあ話す前にすべてが終わるだろうがね」

キュベレ「アンタ達、何をするつもりよ……?」

投資家「話はここまでだ。君に知るすべは無いさ」
816 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/05/05(土) 19:02:25.77 ID:AvuCY+ZUo
社畜「もうすぐ会長とミッキーさんがお着きになります……。外へ出ましょうか……」

キュベレ「そうね」

ガチャッ

着ぐるみ「ル〜ルル〜ル、ルー! シェルルーだルル♪」

会長「皆、揃っているね?」


会長は身なりのいい、けれども高級過ぎない装いの、雰囲気のいい中年男性だ。

一方、芸能王はいつも通り、ファナゼワンダーパークのマスコットキャラクター、シェルルーの着ぐるみに身を包んでいる。


フローラ「お祖父様」

会長「おお、フローラ。いらっしゃい」

フローラ「会議前にあなたにたずねたいことがございます」

フローラ「マニーさんが、ファナゼのリンクス雑貨店を潰してマニーマーケットの敷地を確保したのは、ご存知ですか?」

会長「何? 初耳だな。マニーめ、なんてことを……」

フローラ「あなたは何もご存じではなかったのでございますね?」

会長「誓うよ。命をかけてもいい。私はフローラに対する嫌がらせを決して容認しない」

会長「そもそも私はフローラに本家へ戻ってきて欲しいと思っている。それは認めてくれているね?」

フローラ「……はい」

会長「マニーが生きていたら相応の責任を取らせた。他に関与した者がいないか、私からも聞いてみよう」

着ぐるみ「YOU! 愉快な仲間たちが席について待ってるよ!」

会長「フローラ。また会議の後でゆっくり話そう」

フローラ「最後にもう一つ聞きたい事がございます!」


会長は反応しなかった。

フローラとキュベレ、社畜を残して扉が閉まる。


フローラ「大伯父様は会議中、着ぐるみをお脱ぎになるのですか!?」

キュベレ「えっ!? そんなこと!?」




着ぐるみ「……着ぐるみじゃなくって貝殻だルル!!」

扉越しに60代男性の裏声が聴こえた。
817 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/05/05(土) 19:04:06.71 ID:AvuCY+ZUo
派遣会社、ロビー。

受付「いらっしゃいませ。ご依頼の受付でしょうか?」

クルト「いや、見物だ」

配達屋「ねえこれ見て。社長の肖像画っすよ! 本人絶対こんな綺麗じゃないっすよね?」

クルト「それは分からんが……来歴も載っているな。幼少期を『契約の国』で過ごし、資本主義を学ぶ」

クルト「ギルドの権限を縮小し誰もが自由に起業できる社会をフルフィリア政府に提案し続けている、か……。若いのに立派だな」

配達屋「あれ? でもおかしいっすね。契約の国って商売人よりもむしろ詐欺師の国っすよ」

クルト「詐欺だと?」

配達屋「契約の効力が強すぎて騙したもん勝ちになってる国だって、外国を周ってる旅人さんから聞いたっす」




派遣会社 二階、総務課事務室。

女性社員「弊社が取り扱う依頼は大きく分けると戦闘系と専門系に分けられますが、ほとんどは戦闘系です」

女性社員「剣士ギルド、魔法局、何でも屋、陸軍、消防団……どこに頼めば正解か分からないという市民の声に応えるべく弊社は設立されました」

キュベレ「確かに……モンスター討伐を陸軍に頼んでいいって知らない人、多いわね」

フローラ「迷子の捜索依頼がなされた時、何でも屋は消防団に連絡すると耳にしたことがございます」

レンジャー「討伐、護衛、探索、採取、配達、何でも屋以上に何でもやらされるんだ」

弓士「何でも引き受けるからいつまで経ってもノルマが終わらねぇんだよ」

レンジャー「依頼を達成して戻ってくると、行く前より依頼の数が増えてんだよな……」

弓士「もう俺は20日も家に帰ってないぜ」

社畜「ふふ……まだまだですね……」

レンジャー「社畜さん?」

社畜「私の今週の労働時間は180時間です……」

レンジャー「っ!」ゾクッ

社畜「実質413連勤であるということも、付け加えておきましょうか……」

弓士「ま、まさかそこまでとは……!」
818 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/05/05(土) 19:14:16.99 ID:AvuCY+ZUo
フローラ「7日間は、168時間しかございませんが……?」

弓士「その気になれば一日に24時間以上働けるんだよ、この人は」

社畜「実演して見せましょうか……」

社畜「こちらの書類の山に、注目してください……」


くたびれたスーツ姿の男は、腕に装着した機械にカードを挿入し、『出』のボタンを押した。

次の瞬間、書類の山がすべてファイルに綴じられた。男は『退』のボタンに指を添えている。


キュベレ「時間を止めて作業したのね?」

社畜「いいえ……。タイムカードをご覧ください……」

『09:09-09:21 結果:書類253枚のチェック・保管』

フローラ「今は……9時10分でございますね」

社畜「仕事の結果だけを残して、仕事を始めた時間に戻ってくる……これが私の『時間外労働』……!」

社畜「私が黙々と事務作業を行っているのを、くだらなさそうに眺めていた貴方がたも存在していたんですよ……」

キュベレ「あー、『注目してください』って言った後、普通に仕事を始めたらそうなるわねぇ」

社畜「私がその場にいなければならない仕事以外は、これで終わらせるように命じられています……」

フローラ「なんとももったいない能力の使い方ですね」

社畜「もちろん、時間外労働分の給料は出ません……。この時空に労働中の私を見た者は一人もいないのですから……」

フローラ「タイムカードを提出なされては?」

社畜「社長は信じていません……。私が会社の人件費削減のために一瞬で仕事を終わらせたと、都合よく解釈しています……」

キュベレ「もう会社やめちゃいなさいよ。アナタならどこに行っても稼ぎ放題でしょ?」
819 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/05/05(土) 19:16:23.46 ID:AvuCY+ZUo
社畜「できるならそうしてますよ……」

キュベレ「そう……脅されてるのね」

社畜「いえ……そういうわけではなく……」

レンジャー・弓士「…………」

フローラ「契約書の効果で縛りつけて、逆らえなくされているのでしょうか」

キュベレ「契約書ってそんなマジックアイテムだったかしら?」

フローラ「魔法ではございませんね」

フローラ「暗示によって運命を操る占い師……その上位職の内、自分の思い込みで超常現象を起こすのが、エスパー」

フローラ「反対に相手に思い込ませて行動を操るのが、詐欺師。それが派遣会社社長……ドーラさんの正体です」

フローラ「ドーラさんより精神力が低く、契約書にサインした方は、もはや騙されたと分かっていても抜け出せません」

社畜「よくご存じですね……」

フローラ「ドーラさんについて知っている事を話すのも制限されていらっしゃったのでしょう?」

社畜「おっしゃる通りです……」

キュベレ「酷い事するものね。なんとかならないの?」

フローラ「契約書を処分するか、処分したと思い込ませるかのいずれかの方法で暗示は解けます」

キュベレ「当然本人は契約書に触れないのよね。記憶操作は高位魔法だし、難しいわね……」

キュベレ(もし商会が何を企んでいるか知っていても、契約書があるから彼らはそれを教えられない)

キュベレ(他を当たった方がいいわね)
820 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/05/05(土) 19:17:56.01 ID:AvuCY+ZUo
派遣会社 玄関前。

クルト「まだ差出人は現れないのか。いっそ派遣会社に捜索を依頼してみるか?」

配達屋「手がかりは名前しかないんすよ……。……あっ!!」

クルト「現れたか!?」

配達屋「会長! お疲れっす!」

フローラ「カモメさん!? なぜこちらに……」

キュベレ「あらぁ奇遇ね! ク……」

キュベレ(口元に指を当ててるわ。黙っときましょ)

配達屋「知ってるかもしれないっすけど、この人は配達屋カモメメールのアドバイザー、リンクス商会会長のフローラさんっす!」

クルト「ああ。前に会った事がある。印象的だったからよく覚えているぞ」

クルト「久しいな、フローラ。インテリ商人のジェンスだ」キリッ

キュベレ(その名乗りと決め顔はなんなのよ!)

フローラ「アンブラーズのクルトさんでしょう?」

クルト「うぐっ」

フローラ「新聞に載っておりましたよ。魔法競技会で優勝なされたんですね。おめでとうございます」

クルト「有名になるというのも良い事ばかりではないな」

クルト「すまない。騙す意図は無かったんだ。ただ商人ギルドに所属していないとはいえ、兼業と見られるのは世間体が悪いのでな……」

フローラ「お気になさらず。よくあることです」
821 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/05/05(土) 19:23:07.56 ID:AvuCY+ZUo
キュベレ「どういうセンスよ。インテリ商人のジェンスって……」

クルト「頭の良さそうな名前だろう?」

キュベレ「逆に頭が悪そうよ! バレバレよ!」

フローラ「そうでしょうか? 私は新聞を読むまで気づきませんでした」

キュベレ「このくらい察しなさいよ。あまりにひねりが無さ過ぎるじゃない」

キュベレ「まっ、アタシが言えた事じゃないけどね。オネエのキュベレって結構そのまんまなのよ。でもアタシはあえて分かりやすくしてるの」

キュベレ「いい? フローラちゃん。そのまんまな名前は大抵偽名よ。気を付けなさい!」

フローラ「別に偽名でもよろしいのでは? クルトさんは頭が良さそうですし、よくお似合いでした」

フローラ「とても良いセンスだと思います」

クルト「嘘を許してくれるばかりか、俺を立ててくれるとは……どこまで大人なんだ」

キュベレ(あっ違うわ、この子……偽名に気付いてたけど好きな人の肩持ってるだけよ!)


クルト「まさか配達屋があの天才少女の傘下だったとはな……」

配達屋「カモメの適性を見抜いて配達屋を提案してくれたんすよ! 会長と出会わなかったらカモメは今も浮浪者でした」

フローラ「カモメさんはリンクス商会の最高戦力ですのよ。私も頼りにしています」

クルト「そうか。年下に甘えっぱなしではないんだな」

配達屋「心外な評価っすね」
822 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/05/05(土) 19:26:06.75 ID:AvuCY+ZUo
キュベレ「ねえ、アタシ達は一応用事を済ませたんだけど、クルトくんは今から仕事かしら?」

クルト「ああ。少し急ぐ必要がある」

配達屋「ジェンスさん、じゃなくクルトさん。会長には話していいっすか?」

クルト「フローラにも無関係ではないか……」

キュベレ「なぁにぃ、仲間外れぇ? 別にいいけど」

クルト「いや、情報通のキュベレさんにも聞いてもらいたい」

クルト「聞くと危険に巻き込まれる可能性もあるが……」

キュベレ「そんな事は全然気にしなくていいわよ。聞かせなさぁい! オネエさんは強いのよ♪」


配達屋カモメが魔法で金属製の車を出現させ、全員で乗り込む。

どうやら中は防音になっているようだ。


クルト「俺は今、ミリエーラという人間を探している」

クルト「そいつから、妹の命が惜しければファナゼに来い、という内容の手紙が届いたんだ」

配達屋「いつの間にか荷物の中に紛れてたんすよ……」

キュベレ「どうして脅迫されてるのか、心当たりはあるの?」

フローラ「もう少しその方の情報はございませんか?」

クルト「武器防具屋で、同業者に何らかの圧力をかけて潰す商人だ」

クルト「俺の店も魔導具を扱っているから、恐らくそれが狙われた理由だろう」

キュベレ「グリエール商会っぽいわね。でもそんな名前の人いたかしら?」

キュベレ「パニーと売り物も被ってるじゃないの」

フローラ「無関係の方かもしれません」

配達屋「グリエール商会とお客さんが被っていない、闇の武器商人……ってことは」

フローラ「その方は地下街にいらっしゃると思います」

配達屋「行き先は決まったっすね。会長の言う事に間違いはないっす」

キュベレ「強引ねぇ……」

クルト「しかし他に当てはない。俺も賛成だ」
823 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/05/05(土) 19:31:58.89 ID:AvuCY+ZUo
地下街へ向かう道中、一行は二組に分かれていた。

男性の中でも脚の長いキュベレとクルトに対して、ドワーフとのハーフで身長が低いカモメと12歳のフローラ。

必然、普通に歩いているだけでも距離が開いてしまう。


フローラ「なぜ私の所へ連れて来たんですかっ……!」

配達屋「会長、クルトさん好きだったじゃないすか?」

配達屋「クルトさんも恋がしたいと言ってたんで、せっかくの機会なのでぜひ会長に引き合わせてあげようと」

フローラ「カモメさんにはウベローゼンで仕事を頼んでいましたでしょう?」

配達屋「クルトさんに強引にファナゼまで一緒に来るように頼まれたんすよ!」

配達屋「お膳立ては済んでますし、仕事の方はカモメ達がいなくても何とかなるでしょ」

フローラ「あなたは、いつも勝手なことをしますね……」

配達屋「会長のことを考えてのことっすよ」

フローラ「防音の車を出してください……仕事の連絡をします」


キュベレ「あら、カップル割引20%オフですって。気前のいいカフェね」

キュベレ「クルトくん、今はフリーなの?」

クルト「ああ。……俺の恋愛対象は女性だけだが」

キュベレ「今はね。いずれ必ず、アタシに落ちるわ♪ クルトくん年上好きそうだもの」

クルト「年齢は関係なく思慮深い人が好きだ。友人としてもな。だが、年上との恋愛は子供扱いされそうで難しそうだ」

キュベレ「若くて大人っぽい子がいいのね」

クルト「キュベレさんとは正反対だな」

キュベレ「ええ♪ クルトくんの言う通り、アタシは少女のように純粋な心の持ち主なのよ☆」

クルト「なんて前向きなんだ……!」

キュベレ「でもアタシ8歳の天文学者を知ってるんだけど、流石に子供過ぎるでしょ? クルトくん的には何歳までセーフ?」

クルト「そうだな…………11歳までだろうか」

キュベレ「随分守備範囲広いのねぇ」

クルト「中身は、年上とも言えるのでな……」

キュベレ「あらら、本当にいる人なのね。アタシの恋敵!」

クルト「しかし恋愛感情ではなく憧れに近いものだ。最初は侮っていたが、今では俺が目標にしている……」

キュベレ(そんなに若くて、クルトくんが認めるくらい大人っぽくて実力のある子なんて、あんまりいないわよ)

キュベレ(フローラちゃん、脈ありね♪)


残念ながら、ソピアのことである!

中身は72歳の老婆だが、見た目も心も11歳のソピアのことである!!
824 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/05/05(土) 19:38:14.69 ID:AvuCY+ZUo
ファナゼの闇、地下街。

至って平和ではあるが、表ではできないような商売が公然と行われているディープなスポットである。

派遣会社社長、ドーラによる管理の下、他国の商人たちが奴隷を売る奴隷市場が有名。

そして、闇料理研究協会という謎の組織の存在も広く知られている。


クルト「思っていたよりも随分と衛生的な環境だ……」

フローラ「下水や遺跡ではございませんもの。奴隷を使って隅々まで清掃もしているのでしょう」

キュベレ「みんな闇の商売人だから案内図は無いのね。目当ての店を探すのは骨が折れそうよ……」

配達屋「車を出せる程広くないっすね。地道に歩きましょっか」


彼らが道中で立ち寄ったのは

1.奴隷市場
2.闇料理研究協会
3.ネコかわいがり倶楽部
4.地下寝具店
5.ダークネスウェディングチャペル
6.裏芸能事務所

↓1、2、3 選択
825 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/05/05(土) 19:41:25.50 ID:AvuCY+ZUo
今回は選択まで。このレスは安価に含みません。

グロと絶望の違法ハーブ編から雰囲気を変えて、商会編はそこそこふざけた話になる予定。
黒幕の正体も2人判明&対峙します。途中で気付いてくれると嬉しい。
826 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/05(土) 20:03:54.21 ID:av/HqoCAo
ロリババアと化したソピアは合法
安価なら5
827 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/06(日) 04:12:08.15 ID:rmB4gOPDo
1は押さえとかないとかな
828 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/07(月) 02:46:16.06 ID:R0ViE1aPO
2
829 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/06/06(水) 23:58:50.60 ID:tqrCdSfho
延命報告。
830 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/07/07(土) 04:09:45.61 ID:NQa1fbLao
時間切れになってしまった&真夜中だけど投下。ダメそうなら次スレ立てます。
831 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/07/07(土) 04:10:40.97 ID:NQa1fbLao
地下街は、石のタイルが敷かれ、通路幅も広く歩きやすく整備されていた。

壁には一定間隔で魔法灯が備えられているが、地下であるためやはり薄暗い。

馬車置き場に隣接した南口のスロープから道なりに歩き進めると、柱の立ち並ぶ広間へと辿りついた。

広間には大勢の人々がおり、その中には多くの亜人が含まれていた。


ターバンの商人「手先だけは器用な草原民族の男だ。子種にどうだい?」

ローブの商人「ノーディスの白魔術都市産、身分の低いガキ共を3人セットで半額処分!」

奴隷商「いらっしゃい、観光かい? 見るだけでもいいから寄ってくれ!」


地下街の目玉、奴隷市場。

フルフィリアの富裕層も奴隷を購入しているが、どちらかといえば各国の奴隷商人同士での売買が盛ん。

人権意識の高い南のサロデニア共和国では奴隷が禁止されているため、人さらい達はここファナゼ市を拠点に活動している。

北の魔導帝国ノーディスでは亜人奴隷の人気が高く、奴隷商人達にとってはリスクを冒すだけの価値があった。

東の軍事国家ジャルバ王国では政府と繋がりの強い国民にのみ捕虜の分配がなされ、高い生産性を確保するとともに家事労働から解放されている。

権力の無いジャルバ人が裕福になるためには国外で奴隷を買う必要があるのだ。


クルト「ふむ。見てみるか」

フローラ「あら……奴隷に興味が?」

クルト「社会の事は何でも知っていて損はないからな」
832 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/07/07(土) 04:11:30.49 ID:NQa1fbLao
クルト達に声をかけてきた奴隷商は、『筋力値平均以上保証』の看板を掲げていた。

ギルドは能力値の測定基準として、一般人の平均を50と定めている。


クルト「適当に人間を売っていると思っていたが、品質にもこだわりがあるとは、意外だな……」

奴隷商「きちんと活躍できる場所で働かせてやらなきゃ意味がねぇ。家畜と同じさ」

クルト「筋肉質じゃない奴隷はどうしているんだ? まさか処分しているのか?」

奴隷商「いや、まず生まれてこない」

奴隷商「親のステータスが一定値を超えたら、子供はその半分の値を下回らない。ジャルバの中流階級以上じゃ常識だぜ」

奴隷商「一定値ってのは100な。一般的な特訓で上がる最大値。それ以上は上がりにくくなるってことはフルフィリアでも常識だろ?」

奴隷商「たまに手に入る優秀な奴隷を子種にすれば、一定の品質を維持できるってわけさ」

キュベレ「ジャルバと戦争した小国の捕虜ね……」

クルト「なるほど、子種と称して売られているのはそういう者か」

フローラ「彼らは、はじめから奴隷として生まれるのですわね……」

奴隷商「俺の祖父がマッチョな男の奴隷を手に入れたおかげで、こうして良い奴隷を大量生産できてるんだ」

クルト「奴隷を産むためだけに生かされている母親が大勢存在している事になる……。やはりろくな業界ではないな……」

奴隷商「母親も奴隷だから何も問題ねぇよ」

奴隷商「そうそう、奴隷鑑定士が数人いるから奴隷の能力値は偽れない。いろいろ言われることも多いが俺たち結構真面目にやってんだぞ」
833 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/07/07(土) 04:13:37.26 ID:NQa1fbLao
フローラ「ドーラさんが市場を開いて奴隷商人を集めた理由がよくわかりました」

配達屋「能力の高い奴隷がいたら自分の会社に引き入れて永遠にこき使おうって魂胆っすね」

キュベレ「頭のいい奴隷ってあんまりいないでしょうし、騙して契約させるならうってつけよねぇ……」


ふいに、奴隷市場の中でも特に身なりの良い男が声をかけてきた。


鑑定士「君タチ、亜人サーカス見て行かないでゲスか? 見物料は一人300Gでゲス」

クルト「サーカス……? そんなものもやっているのか」

鑑定士「適当にさらってきたものの、ステータスが低いから売り物として微妙なんでゲス」

フローラ「だから見世物に……商魂たくましいこと」

鑑定士「オヤ? あんたドワーフと人間のハーフでゲスな? 数値によっちゃ欲しいが、ドレドレ……」


男は能力解析魔法を使った。

ドワーフは西のコホーテン首長国以外ではあまり見かけない、ファナゼで活動する奴隷商人には比較的入手の難しい亜人だった。

筋力・精神力・器用さに長け、頭の回転が遅い傾向があることから、奴隷として非常に都合が良かった。


フローラ「カモメさんは売り物ではございません!」

鑑定士「売る気が無くても手段は、って……ひ、ひいっ! なんだこの化け物ども!」

キュベレ「ハーイ、化け物よん♪ 生まれつきの筋力値140。驚いた?」

キュベレ「どう? アタシを連れ去って子種にしてみる?」(^_-)⌒☆

鑑定士「滅相もございませんでゲス!」ダダダッ

キュベレ「……行きましょ。気分悪くなったわ」

フローラ「ええ。カモメさんを化け物呼ばわりされて……私も最悪の気分です」
834 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/07/07(土) 04:14:09.83 ID:NQa1fbLao
クルト「まさかキュベレさんと並び称されるほどの力の持ち主とはな……」

クルト「配達屋、お前、何者なんだ? お前の親もただ者ではないだろう」

配達屋「やっ。たぶん普通っす。というか覚えてないっす」

配達屋「カモメも親に捨てられたんすよ」

クルト「そうか……」

配達屋「そんで、コホーテン国の北の方、隕石がやたらと落ちてくる荒原でそこに暮らす魔女に育てられました」

配達屋「でもある日魔女さんは病気で死んでしまって、またカモメは一人になって、モスボラ市で浮浪者してたところを会長に拾われました」

フローラ「いい拾いものでした」

配達屋「カモメも会長からもらった名前っす。それまではコホーテン語で『半人間』としか呼ばれてなかったんで」

キュベレ「何か由来があるの?」

フローラ「当時から手紙の配達のお仕事をなさっていて、メールの子、と呼ばれていたので、少し追加して」

配達屋「配達屋カモメメールはカモミールが由来っす。花繋がりで」

キュベレ(ダジャレ!?)

クルト「いいネーミングセンスだ」

キュベレ「えぇ……?」
835 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/07/07(土) 04:14:35.58 ID:NQa1fbLao
【ダークネスウェディングチャペル】

クルト「この看板は何だ……?」

キュベレ「邪教徒のための結婚式場かしら……?」

フローラ「いいえ。ご説明いたしましょう」

フローラ「ここは、結婚相手が嫌がっている、未成年などの理由で、聖教会の神父を呼べない方々が式を挙げる場所でございます」

キュベレ「非合法な結婚式で満足するの?」

フローラ「非合法でも天使の祝福を受けたい、披露宴がしたい、そういったニーズに応えるビジネスです」

クルト「やけに詳しいな……」

フローラ「それほどでも……」ニコッ

キュベレ(調べたのね! 未成年OKの式場!)

クルト「? なぜ顔をそむける?」

フローラ「……なんでもございません」ニヤニヤ

キュベレ(ニヤけてるわ! まだ一歩も進展してないのに妄想してるわ! この子スケベね!)
836 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/07/07(土) 04:15:23.52 ID:NQa1fbLao

闇料理研究協会。

クルト「……!」ピタッ

フローラ「どうしました?」

クルト「少し、寄って行かないか?」

配達屋「闇料理……? 物好きっすねぇ」

キュベレ「別にいいけど……顔怖いわよ? クルトくん」

クルト「きっとお前たちも病みつきになる」ジュルリ


魔術師集団アンブラーズのチームリーダー、クルト。

彼もまた、特殊な料理の虜であった。


売人「クックック……いらっしゃい」

売人「ここは闇の料理人が集い己の腕を磨く、秘密結社のアジトだ」

配達屋「普通に入れるんすね、アジト」

売人「大歓迎さ、ここは勧誘の場でもあるからな」

売人「真の美食を体験していくといい」


実食。

キュベレ「あらー! たしかに地上では食べたことない味ね!」

フローラ「ええ。とても美味ですわね」

配達屋「どっすか? クルトさん」

クルト「…………違う」

クルト「味気ない! こんなもの闇の料理ではない! ハーブを足すんだ!」

闇ウェイター「ハーブ、だと……?」

闇ウェイトレス「貴様、さてはハーブ舌だな!」

闇料理人「表の料理界は腐っている! 料理に毒を混ぜ、彼のようなハーブ舌を量産している!」

闇料理人「ハーブは悪だ! ノー・モア・ハーブ!」

闇ウェイター「イエス、シェフ! ノー・モア・ハーブ!」

闇ウェイトレス「ノー・モア・ハーブ! 料理界を取り戻す!」

クルト「ハーブこそ正義だ! ノー・ハーブ・ノー・ライフ!」

配達屋「……?」

キュベレ「……何よこれ?」

クルト「お前たちも続けぇええ!」

フローラ「の、のーはーぶのーらいふ……?」
837 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/07/07(土) 04:15:54.96 ID:NQa1fbLao
闇料理人「我々はハーブ舌共から料理界を取り戻すべく結成された組織なのだ」

闇ウェイター「フルフィリアの料理界は、ハーブと調理道具捌きに頼り切り、食材を蔑ろにしている」

闇ウェイトレス「良質な食材が良質な料理を作る。そう主張し、料理人ギルドから追放されたレジスタンス、それが私達」

闇ウェイター「毒草や無機物を食材に使う国なんてフルフィリアくらいだ。我が国は大きく遅れている」

闇ウェイトレス「料理界のグローバル化を! 私達はポンディー氏の下、主張し続ける!」

闇料理人「分かったら出ていけ! このハーブ舌共め!」


キュベレ「追い出されたわ……」

配達屋「闇料理研究協会、ポンディー・グリエールが会長だったんすね」

クルト「グリエール商会が国を支配したら、カフェ:アンブロシアが潰される可能性があるのか。許せんな……」

クルト「徹底抗戦だ。俺はハーブ料理を友人に広めていこう。皆アンブラーになるべきだ」

フローラ「よく分かりませんけど、自分の信念を貫く姿勢は素敵だと思います」

キュベレ「……いい食材といいハーブを組み合わせれば一番美味しいんじゃないの?」
838 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/07/07(土) 04:16:30.96 ID:NQa1fbLao
キュベレ「結構寄り道しちゃったわねぇ」

フローラ「あら……あの屋台」

配達屋「怪しいっすね! 行ってみましょう!」

クルト「……そうか?」


闇武器店。

地下街の南口付近の広場の端にその店はあった。

看板は掲げておらず、床に敷かれたシートに各国の軍で採用されている武器や上位職ギルドで配布されている武器が並んでいる。

椅子にはクルトと同年代に見える一人の美女が脚を組んで腰かけていた。

どこかの国の女性士官制服を改造した衣装に身を包み、胸元を大きく露出させたその女は、クルトを見るなり口元を吊り上げて笑んだ。


女「ジェンス魔導具店のクルトさんですね。お待ちしておりました」

女「私が死の商人こと、ミリエーラです」

クルト「…っ!」バッ


すぐさまクルトがフローラの前に立つ。

カモメは腕をミリエーラへと向けて構えた。


ミリエーラ「構えを解いていただかなくても結構ですが、貴方達に危害を加えるつもりはありません」

クルト「……彼女らはお前の言う『仲間』ではないだろう?」

ミリエーラ「はい。私も、本当に一人で来るとは思っていませんよ」
839 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/07/07(土) 04:17:24.51 ID:NQa1fbLao
配達屋「当たりだったっすね」

キュベレ「腰に携えた革の鞭……戦争で儲ける商人、そしてその名前……」

キュベレ「人違いだったら申し訳ないんだけど、まさかアナタ、海軍大将の?」

ミリエーラ「はい。娘です。初めまして、ジーク・オーグロスさん、母がお世話になっております」

キュベレ「まさか女帝の話してたミリちゃんが、闇の武器商人だったなんてね。誰も会った事がないのも納得だわ」

配達屋「へー。あの人、娘がいたんすか」

クルト「……キュベレさん、どういうことだ?」

キュベレ「この子、あの六勇の海軍大将“女帝”フリンデルの娘なの。アタシがいれば話の通じない相手じゃなさそうよ」

クルト「いや、それは知っていたんだ。キュベレさんが軍の関係者とは初耳だ」

クルト「まさかあの陸軍大将の子だったとは……いや、特に問題は無いのだがな……」

キュベレ「アタシはお父さんとは違うわよ!」

ミリエーラ「お互い大変ですね。親の事で偏見を持たれて」

キュベレ「あら? アナタのは偏見じゃないでしょ? なんたってクルトくんを脅すお手紙を送ったそうじゃない」

クルト「ああ。よくも妹を脅しの材料に使ってくれたな……」

クルト「ウベローゼン市で違法ハーブを流行らせているのもお前だろう」
840 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/07/07(土) 04:18:54.66 ID:NQa1fbLao
ミリエーラ「夢中草の販売を指示したのは確かに私です。ですが、もうやめます」

クルト「何?」

ミリエーラ「数日後に私達死の商人グループは、フルフィリアを出ていきます」

ミリエーラ「軍とグリエール商会の影響力が拡大し、ギルドの力が低下すると、武器商人としては非常にやり辛いんですよ」

配達屋「夢中草販売の目的は、外国で活動するための資金源作り、もしくはコネ作り。そういうことっすね?」

ミリエーラ「はい。ですので、安心してください」

ミリエーラ「もう私におびえて手紙で情報をやり取りする必要も無くなります」

クルト「……お前の手によって、俺の知人は自殺に追い込まれた」

クルト「違法ハーブの騒動で、ミルズは殺されかけ、俺も一度重傷を負わされたんだ」

クルト「お前のような悪逆非道の疫病神を、責任も取らせず、外国に押し付けて満足すると思うか?」

クルト「お前の罪はこの国で裁かれねばならん。そうだろうキュベレさん!」

キュベレ「そうね……。いくら女帝の娘でも、いや、だからこそ余計に許される行動じゃないわね」

フローラ「カモメさん。この方に触れずに縛ってください」

配達屋「了解っす!」バッ


カモメが魔法で出現させた縄が、空中を自在に動き回りミリエーラを縛った。

しかし彼女は縛られながらも余裕の表情を見せている。
841 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/07/07(土) 04:19:52.58 ID:NQa1fbLao
配達屋「魔法防御みたいなのは無かったっすね……」

クルト「……俺を呼び出した理由は何だ? いなくなると宣言するだけが目的なら手紙にそう書けばよかったはずだ」

ミリエーラ「……国を離れる前に、クルトさんと話しておきたかった」

ミリエーラ「クルトさん、貴方に、ウベローゼン市の商人達が私を警戒するようになった、最初の事件について語らせてください」


彼女は、母に憧れており、母を助けられる仕事に就きたかった。

しかし彼女には体力が無かったため、軍人を目指す事はできなかったのだ。

それでも軍に関わる仕事をしたかった彼女は武器商となり、地下街やスラムなどで武器を求める人々に武器を売った。

彼女が武器を売った人々によって傷害事件が起きたこともあり、いつしか彼女は『闇の武器屋』『死の商人』と恐れられるようになっていた。


キュベレ「お母さんの強さは遺伝しなかったのね。……アタシが譲れるなら譲ってあげたいわよ」

クルト「だがやはり、ろくでもない商売人だな」


地道な行商を続け、とうとう彼女は店舗を持つに至った。

しかし、フリンデルの悪名と死の商人の肩書きは、その名を知った者に恐怖を与えた。

彼女の何気ない言動はプレッシャーを与え、近所の防具店店主は恐ろしい拷問や戦場に送られる未来を想像し、その運命が訪れる前に自ら死を選んでしまった。

クルトもまた、ミリエーラ・フリンデルの名を見て悪い想像を膨らませた内の一人であった。


クルト「俺たちが勝手に誤解しただけだと、そう言うのか?」

クルト「言い訳も大概にしろ。武器やハーブの販売を通じて、社会を混乱させたのは歴とした事実だろう!」

ミリエーラ「本当に……申し訳ございません。私は、道を誤ったんです……」
842 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/07/07(土) 04:21:34.41 ID:NQa1fbLao
クルト「では、この女を軍の基地へ連れて行こうか。全軍大忙しだろうが誰もいないということはあるまい」

キュベレ「待って。ミリちゃんアナタ、他に部下はいないの?」

キュベレ「全員ウベローゼン市に置いてきたってことはないでしょ」

ミリエーラ「いますよ。彼らには他の仕事を任せています」

キュベレ「その仕事と、部下の居場所について教えなさい。先に止めておかなきゃねん」

ミリエーラ「こちらは人を救うための仕事なので、できれば止めて欲しくないですね」

クルト「人を救う? 何を企んでいる」

ミリエーラ「私がファナゼに来たのは、亜人NGOによる奴隷解放の支援をするためです」


『死の商人』のフルフィリアでの最後の仕事は、奴隷商人たちに誘拐された亜人の解放。

しかしそれはグリエール商会への宣戦布告を意味し、同時に共和国軍を相手にすることにも繋がる。

それを避けるため、ミリエーラはこの日を狙って計画を練っていたのだ。


クルト「大統領選で軍の目が王都に集中する隙を狙ったのは、俺たちだけではなかったか……」

配達屋「しかもこのタイミングで貴族たちが反乱を起こしました。軍を出し抜くには絶好の機会っす」

フローラ「まさかとは思いますが、グリエール商会が集まっているのも、同じ理由ではないでしょうか……?」

キュベレ「そうね……」

ミリエーラ「ジーク・オーグロスさん。貴方にだけは話しておきたい」

ミリエーラ「……グリエール商会の企みを」

キュベレ「アナタ、知ってるの……!?」
843 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/07/07(土) 04:35:02.57 ID:NQa1fbLao
投資家「では最終確認です。改めて、計画に賛成の方は挙手を」


商会本部ビル。

豪華絢爛な会議室にて、その計画は賛成多数で実行される事が決定した。


投資家「反対は……ルブーラ氏、ポンディー氏、そして会長、ですか」

投資家「なぜ反対を?」

宝石おばさん「賛成には条件がありますわ」

投資家「条件を教えてください」

宝石おばさん「山人ギルドの解体。あの野蛮な鉱夫たちは、ザネッティ家が没落した後もまだ宝石集めの邪魔してきますの!」

投資家「もちろん解体は可能ですよ、マダム」

黒マント「そいつは僥倖だ。山イチゴを独占する土人ギルド員は一掃せねば!」

美食家「そんな汚い言葉使っちゃいけないよ、キノミー」

投資家「貴方はなぜ計画に反対するんですか?」

美食家「単純に気が乗らないからね。私は料理人ギルドに食材の力で勝ちたかった」

美食家「ただ、決定に文句は言わないよ。多数決だからね」

投資家「会長は、止めないのですか?」

会長「いつも言っているが、家族の意思は尊重したい。だが……とても残念だ」

会長「超能力で国民を洗脳して、全てのギルドを支配下に置き、国家の支配者となる……」

会長「それは……もう、商売とは呼べないんじゃないかね……」


投資家オージーの発案した、国家乗っ取り計画。

カギとなるのは、芸能王ミッキーが強引にアイドルデビューさせた少女、ポロ。

巷ではROKKAの芸名で知られる彼女は、歌唱によって人間の心身に影響を与える特殊能力を持つ。

もう一つのカギが、大統領選当日、すべての町に設置された放送ディスプレイ。

このディスプレイの設置には商会とメカニックギルドが協力しており、映像と音声は一度ファナゼ市のTV局本社に届けられる。


この計画では、放送の音声を編集し、共和国の初代大統領が決定する瞬間を見守る国民に、ROKKAの歌を聴かせて催眠状態にする。

そして意思薄弱状態になった国民に様々な命令を刷り込み、意のままに操るのだ。

計画が成功すれば、商会は国内のすべての業種を独占することができる。

また、商会は共和国軍に全面的に協力、軍の統治は半永久的なものとなる。

武力を持つものと財力を持つものが統治し、国民はただの駒となる、名ばかりの共和国が成立してしまう。


なお、数日前、ROKKAの持つ魔力に目を付けたラヌーン国によって計画が頓挫しかけたので、彼女を無事連れ戻したソピアは商会の恩人である。
844 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/07/07(土) 04:36:08.00 ID:NQa1fbLao
ファナゼ中央市場。

カモメが生成、発射した隕石塊が、ディスプレイとスピーカーを粉々に破壊した。


市民「な、なんだぁ!?」

剣士「誰かがディスプレイを攻撃したんだ!」

岩魔術師「弾が消えた……生成弾よ! 近くにあたし以外の岩魔術師がいるわ!」

風魔術師「気配が探れない……。どこへ消えた?」


クルト達はカモメの生成した車で即座に現場を離れていた。

仕組みは自転車と同じであり、カモメがペダルを漕ぐと車輪が回る。


キュベレ「ここまで来れば、降りてもいいんじゃなぁい?」

クルト「ふう……便利だな、この車。周囲の景色と同じ色味に変わる迷彩効果まであるのか」

配達屋「一番の自信作っす! 砲弾はもうちょっと改良できそうなんすけどねー」

フローラ「とにかく、これで催眠音声を防ぐことができました。一安心です」

クルト「ミリエーラ……危険な女だが、今回は助けられたな」

キュベレ「ありえないくらい事情通よねぇ。カモメちゃんの運ぶ手紙の内容から、商会の内情まで知ってるなんて」

クルト「大勢の内通者がいるのかもしれん。そこら辺も詳しく聞いてみるか」

クルト「配達屋。そろそろ車を消してもいいんじゃないか?」

配達屋「あっ、消し忘れてたっすね。今消します」


魔法で作った車が消えると、中に乗っていたはずのミリエーラも消えていた。


配達屋「あれっ?」

フローラ「こういう魔法って、人ごと消えるんでしょうか?」

キュベレ「見て、ロープだけ落ちてるわ!」

クルト「くそっ……逃げられたか!!」
845 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/07(土) 14:28:25.39 ID:i1Q1yrOSO
国民総洗脳とか恐ろしい計画が進んでる
それに加担したソピアちゃんマジソピア
846 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/11(水) 12:22:29.37 ID:T3B+BftIO
きてたんか
847 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/23(月) 11:37:02.62 ID:QIgte9iIo
前から思ってたけどプロっぽい
848 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/27(月) 19:08:10.40 ID:3bJ2Y21do
久しぶりに見に来たけどやっぱりおもしろいな
849 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 13:35:09.97 ID:4KDh3fE/o
850 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/12/13(木) 16:35:55.41 ID:SRTPYc1To
復旧に気付いてないのかな?
851 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/13(木) 21:16:07.38 ID:PTeZU5Wdo
そろそろ半年か……
852 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/10(日) 16:55:07.89 ID:GRSfhTNy0
お仕舞いか
おもしろかったよ
853 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/19(火) 19:44:28.32 ID:fQgrNkKb0
いつまでも待ってます
854 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/19(火) 19:56:32.54 ID:Zj4XLBjfO
更新来たかと思った
855 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/04/15(月) 04:40:08.25 ID:j1UNJ8a5o
てす
856 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/12(水) 02:14:54.76 ID:LWMlrfs8o
一応保守
857 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/21(日) 01:45:02.73 ID:j5+Yr2CY0
いつまでも待ってます
858 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/23(水) 14:41:39.52 ID:7WOb7abU0
マダカナー
859 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/12/16(月) 22:45:13.87 ID:ulbUrRJr0
あえ
860 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/19(水) 07:25:21.95 ID:Md0wuL2mo
来なくても仕方ないけど一応
861 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/06(月) 20:56:29.28 ID:ibOb17Zeo
きました
862 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/18(土) 02:27:22.90 ID:rPQJu0oPO
2ヶ月経過したなら読者の保守も無意味だぞ
863 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/06/07(日) 15:59:11.60 ID:bTcC5kafo
もうすぐ2年経つのか
864 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/09/17(木) 21:26:55.77 ID:7ykL1fNn0
865 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/23(水) 00:59:39.33 ID:nIWjWT5XO
866 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/02/24(水) 08:13:26.40 ID:IIpWgffxo
てす
867 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/07/31(土) 05:37:51.65 ID:ZbFMC15xo
マダカナー
868 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/08/29(日) 10:23:50.58 ID:MXxf43sko
まだあったの
869 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2023/07/08(土) 09:49:50.88 ID:Zg6NC9qlo
まだある?
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