元お嬢様「安価とコンマで最終決戦?」元メイド「8ですぅ」

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650 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/07/02(日) 17:27:17.04 ID:KOoRK9q/o
宿屋前。

メリル「外交官さん、修理用の部品、遅いねぇ」

メリル「……おや? 誰かパンでも焼いてるんかね?」

アフロ「WAO! 何だか変なにおいがするぞ!」

市民「でもなんだかいい感じ」

グルメ「熟成された、品のあるディナーを彷彿とさせる」

人々を陶酔させるその香りの正体は、ひとたび発酵の条件が整えば、あらゆる生き物をたちまちの内に腐敗させ得る菌の胞子。


裏路地の一画。

中毒者「これ、ハーブよりいいかも……」

不良「はっ!? 何かがオレを導いてやがる!」

メガネ「ハーブは一旦やめて、今はこの極上の夢に酔い痴れよう」エアメガネクイッ

女子「……! リウム……!」ダッ

あまねく町の隅々まで行き渡るは、死の胞子を運ぶ風。

その風、芳しく。
651 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/07/02(日) 17:31:34.93 ID:KOoRK9q/o
章タイトル?を回収しつつ短いですがここまで。
次回、貴腐との戦い。
652 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/02(日) 17:55:36.24 ID:rl6f5jUMo
おつ

あーマジで六勇誰ともコネ作れなかったソピアちゃんの運が恨めしい
653 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/03(月) 01:49:25.33 ID:HKj4DAg2O

信じて送り出したサナちゃんが
654 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/03(月) 15:56:30.97 ID:rNtZ8QkcO
更新再開嬉しいやったー
655 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/03(月) 20:46:40.49 ID:aPZ4B8uBo
貴腐思ったよりエグくてワロタ
これ戻るのか
656 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/07(金) 09:56:24.59 ID:YPJ6o8cgO
まあ、貴腐とは余程の事が無ければ交流すら無かっただろうし、倒すのは予定通りではある。
というか、この国の為にもこいつは殺さねばならん。
657 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/03(木) 11:41:55.86 ID:RsCoVdcrO
そろそろ保守
658 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/19(土) 23:40:15.30 ID:yE0BuuBP0
まだっすかね
659 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/24(木) 00:09:36.16 ID:bRlarAsn0
あと1週間で2ヶ月か。運営が気まぐれで仕事して落とされないか心配だなあ
660 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 19:55:54.66 ID:ESfib4sto
修正 >>605のタロウ、ナマクラさんも→タケミタマ様も

大変お待たせしました。戦闘回は次回で終わります。
661 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 19:57:03.92 ID:ESfib4sto
ウベローゼン市、平民住宅地。

ネル「やっちまっタ!」

ネル「緊急だったからみんな適当な場所に飛ばしちゃったヨ!」

ネル「……マー、貴腐の目の前にいるよりマシだよネ」


ウベローゼン市、商人ギルド前のオフィス街。

ガルァシア「ネルの奴め……首から下が地面に埋まっていたじゃないか」

ガルァシア「岩魔術師の俺でなければ脱出は不可能だった」

商人「なぜ彼は埋まっていたんだ?」

店員「誰か、レスキューを呼んであげてください」

ガルァシア「注目を浴び過ぎだ……」


ウベローゼン市、メカニックギルド、屋根の上。

テンパラス「どうやって降りるべきか」

バルザック「ここにいてもその内見つかるし、一か八か飛び降りるしかねぇな!」バッ

テンパラス「仕方ない……」ピョン

ドサッ スタッ

バルザック「痛ってえ! 足くじいた!」

テンパラス「では、達者でな」

バルザック「待て! 俺っちを置いてくんか!?」

テンパラス「お前が近くにいると酒臭くて、貴腐の接近に気づけない可能性が高い」

バルザック「いや分かんだろ。俺とはタイプが違う酒臭さだ」

テンパラス「確かに……貴腐に比べてお前は悪臭を放っている」

バルザック「ひでえや!」
662 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 19:58:47.35 ID:ESfib4sto
バルザック「そんなことより、作戦会議だ」

バルザック「おめぇさんも手練れだろ。こうなりゃ貴腐を討つしか生き延びる術はねぇ」

テンパラス「軍が関与していると知っていれば私も手は出さなかったのだが……」

バルザック「おいおい、後悔すんなら酒の席でな。切り替えていこーぜ」

テンパラス「しかし……相手は六勇だぞ。どうしろというんだ」

バルザック「俺ぁ貴腐の弱点を知っている」

テンパラス「有名だな。先端恐怖症と高所恐怖症だ」

バルザック「おう。それも重度のな」

バルザック「だから奴ァいっつも猫背で目を伏せて歩いてんだ」

テンパラス「つまり、不意をついて貴腐を高所に連れ出し、鋭い物を突き付ければ良いということか」

バルザック「そのためにおめぇさんの力が必要ってこった」

テンパラス「不意をついて高所へ運ぶのは……エスパーの役割か」

バルザック「死にたくなけちゃ協力するんだな。まずはネルとガルに合流する」

バルザック「こっちだ。はぐれた時は行きつけのカフェに集合するって決めてんだ」


ウベローゼン市、魔法街、屋外競技場。

ラファ「ごめんなさい。急用なので不法侵入させてくださいなのです」

ラファ「火魔術師と風魔術師が飛行訓練に使うジャンプ台、あそこなら!」

白魔術師ラファの得意とする魔法は『神の目』。

鍛えれば、双眼鏡のように一点を拡大するだけでなく、広範囲の人間の顔を一度に認識できるようになる偵察魔法だ。

ラファ「さっきまでしてた匂いも消えましたね」

ラファ「ここから敵の動きを観察して、隙をついて戦えない二人のどちらかを狙うのです」

ラファ「まさか貴腐も仲間を捨てるような畜生ではないでしょう」
663 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:00:48.19 ID:ESfib4sto
ウベローゼン市、宿屋前。

市民「腹減ってきたな」

商人「早くディスプレイの音を出してくれ、大統領選が終わっちまうぞ!」

アフロ「HAHAHA、実に済まない! 手元にスピーカーのパーツが無いんだ、辛抱してくれ」

アフロ「王都からパーツが届くまでミーにもリペアはインポッシブルなんだ。参ったね XD」

いら立つ聴衆の隙間を縫って、暗い表情の二人が鉢合わせした。

リウム「お前は、さっきの……」

フィナ「あんたもここに来たんだ」

リウム「ああ……脚を調達して町の外に逃げようと思ってな」

リウム「でも、無理だ……。この混雑じゃ身動きが取れないし、よく考えたら、軍の検問で数時間待たされてる間に捕まる」

リウム「お前も、ここにいても無駄だぞ」

フィナ「……ここが一番安全だよ」

リウム「なんでだよ?」

フィナ「貴腐って、その気になれば町丸ごと攻撃できるでしょ。ここでもにおいするし……」

フィナ「でも攻撃してこないってことは関係ない人を巻き込まない程度の良識はあるってこと」

フィナ「人混みの中のあたし達をピンポイントで攻撃することもできない。出来るならもうやってるから」

リウム「そ、そうか……。だったら俺もここにいる」

リウム「俺は……死にたくねぇ」

フィナ「……ここにいても、死ぬけどね」

リウム「なっ、お前、安全だって!」

フィナ「早いか遅いかの違い。相手は貴腐だけじゃない……誰に出くわしても、勝ち目はゼロ」

リウム「なんだよ……何なんだよ!! 俺たちが悪いのかよ!?」

リウム「世の中、力が正義じゃないんだろ!? 俺の考えは、間違ってたんじゃないのかよ!」

リウム「どうして、正しい事を言ったら、家族皆殺しにされねぇといけねぇんだよ……!」ガクッ

リウム「ふざけんなよ畜生……畜生っ!」ダンッ ダンッ!

フィナ「…………」
664 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:02:30.64 ID:ESfib4sto
路面を殴り拳から血を流すリウムを見て、フィナは細めていた目をゆっくりと見開いた。

リウム「……」

リウム「なんだよその顔」

フィナ「いや……なんか、あんたよりマシな気がしてきたから」

リウム「は?」

フィナ「あんたがまだ生きようとしてんのに、この程度で死にたい気分になってるのが恥ずかしくなってきた」

フィナ「あたしがここで諦めたら悲しむ人がいる」

フィナ「教訓! 出会ったばかりの人を信用してはいけない! よしっ!」

フィナ「じゃ、あたしはやる事あるから、これで!」

リウム「ま、待てよ!」

フィナ「あんたも信用できない。OK?」

リウム「せめて何しに行くかくらい教えろよ!」

フィナ「仕立て屋の子を助けて、逃げ切る」

フィナ「元はと言えばあの子を助けるために首を突っ込む羽目になったんだから、最後までやり遂げる」

フィナ「友達を悲しませたくないからね。数少ない、信用できる友達をさ」

フィナ「……あんたには、信じられる人残ってないの?」

リウム「……いねぇ。みんな、ハーブに奪われた。ダチには裏切られた」

フィナ「ふーん、だったら仕返ししてやろうとか思わないの?」

リウム「俺には無理だろうが! 考えなくても分かるだろ!」

フィナ「じゃ、できそうな人に頼ればいいじゃん」

リウム「だからいねぇって……! いや……いた」

リウム「キュベレさんなら何とかしてくれるかもしれねぇ……!」

フィナ「ん? キュベレさんって派手なオネエさん?」

リウム「お前も知ってんのか?」

フィナ「知ってるけど……日魔術師のキュベレさんなら今頃ファナゼにいるよ」

リウム「嘘、だろ……」

フィナ「最後に頼れるのは自分だけ、かもしれない。それじゃ」ダッ

リウム「……」

リウム「……? いや、もう一人いた」

リウム「でも……俺に、頼る資格なんて……」

リウム「だけどせめて、伝えないとな……」スクッ
665 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:03:48.51 ID:ESfib4sto
元旅人の娼婦、エリーが切り盛りするカフェ。

通称、魔境カフェ。

カランカラン

ネル「アッ、バルザック!」

バルザック「おお、いたいた!」

テンパラス「魔術師の男もちょうど来たようだな」

ガルァシア「ネル……ワープ先はもう少し考えろ。地に埋まっていたぞ。俺が岩魔術師だったから良かったものの……」

ネル「ごめんヨー」

エリー「あんたがしくじるなんて珍しいね?」

ネル「緊急だったからネ」

エリー「へえ、何と戦ってたんだい?」

ネル「え? 貴腐だヨ。六勇ノ」

バルザック「ついでにキョウト国の偉い神様もな」

エリー「あんたたち一体どこで何してきた!?」

ガルァシア「ここから歩いて10分の町中だ……」

バルザック「チンピラ退治のつもりだったんだがなぁ。あ、エリーちゃんビール一杯!」

エリー「……頭が痛いよ」

テンパラス「マスター。剣士のテンパラスだ。話し合いに使っても良いだろうか?」

エリー「いいよ。下手に避難するよりあんたたちがいた方が安全そうだからね」

ネル「今更だけど、逃げるのは悪手だったネ……」

テンパラス「私見だが、あの場面では最善手だったろう」

ネル「菌を使って遠くから見えない攻撃を仕掛けてくる敵が相手なんダ、姿を見失うのは一番危険ジャン?」

バルザック「ごくごく……プハー! あん? そういやシュンの奴はどこ行きやがった?」

ガルァシア「また、余計な事をしているのではないだろうな……」
666 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:05:58.16 ID:ESfib4sto
シュンに余計な事をされたミルズは、毎日通っている講堂の前で打ちひしがれていた。

リウム「いた……!」

ミルズ「……やあ、キミか。ボスは倒せたのかい?」

リウム「いいや。聞きたい事もあるし、言いたい事もたくさんある」

リウム「だけどまずは現状だけでも伝えないといけねぇ」

ミルズ「兄様が出てきた?」

リウム「何言ってんだ。とにかく聞け」

リウム「俺たちの敵はまずキョウト国の連中、あの3mの大男以外に、眼光の鋭いちょんまげ男、仮面をつけた赤い袴の小せえ女」

リウム「それと禍々しい鎧をつけたでかい狐人間がいる」

リウム「そして六勇の貴腐だ。頭にキノコの生えた変な奴で、遠くからでも見れば分かる」

リウム「こいつらに会ったらとにかく逃げろ、いいな!」

ミルズ「一気に言われても……って、き、貴腐だって? 貴腐がどうして……」

リウム「俺たちも分からない。ただ……俺の親父と姉ちゃんは貴腐にやられた」

ミルズ「なんだって……。そうか、この臭いは貴腐の……」

リウム「……それだけ伝えに来た。お前も気を付けて逃げろよ」

ミルズ「わざわざボクのために……?」

リウム「……悪いかよ」

ミルズ「そんなことない」

ミルズはこの講堂で水魔術を学び始めた頃からつい数日前まで、リウムとその取り巻きによる過激な暴力を受ける日々を送っていた。

そのリウムがである。家族を失ったばかりであるのにもかかわらず、敵に見つかる危険を冒してまでミルズを探して現況を伝えに来たのだ。

ミルズ「……ありがとう」

リウムのらしくない行動は、シュンによって深く深く沈められたミルズの心を、少しだけ明るくした。
667 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:07:32.92 ID:ESfib4sto
ミルズ「ボクは今、キュベレさんに会いたいんだ。何か知らない?」

リウム「キュベレさんはファナゼにいるってさっき会った奴に聞いた」

ミルズ「そう……」

リウム「それ、持ってるの何だ?」

ミルズ「ああ、今のキミには話してもいいかもしれないね。これは……。……!」

リウム「どうした?」

ミルズ「……貴腐って、あれ?」

ミルズの視線の先には、頭に大きなキノコを生やした人影。

リウム「……いや、違げぇ。でも!」


侍「桜、一人見つけたでござるが」

ギャル「あはッ、ミルズもいるじゃん……。ナマクラさん、退路を塞いで」

侍「御意」


リウム「ちっ……回り込まれた。うかつに動けねぇ」

ミルズ「ちょんまげにキノコが生えてるんだけど……どういうこと?」

リウム「知らねえよ! 貴腐がなんかしたんだろ!」

ギャル「どぉー? 仲良くやってるー? アタシも交ぜなよー」

ギャル「本場のチャンバラごっこ。遊びじゃないけどね」

侍「……」チャキッ

ギャル「ナマクラさん、早速そっちの女から斬っちゃってよ」

ミルズ「っ……!」
668 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:09:10.73 ID:ESfib4sto
水魔導師「何をしているのですか?」

水魔導師「リウム君にユーリさん……。ミルズさんへの暴力はもうやめたのでは?」

リウム「違っ、これは……」

水魔導師「また騒ぎになってお叱りを受けるのは避けたいので、その武器は収めなさい」

ギャル「うるさいな」

水魔導師「何か言いましたか?」

ギャル「……ナマクラさん」

侍「ぬうんッ!」ブンッ

スパッ!

水魔/導師「」

モブ女学生「あ、あわわ……先生が真っ二つに……」

モブ男学生「無理だ、あれはもう回復魔法じゃどうにもならない!」

岩魔術師「さっきは広場で爆発騒ぎ、今度は人斬り……!」

火魔術師「憲兵は何やってんだよ!」

ギャル「遊びじゃないってのはこういうこと……ってもうあんな所にいるし」


ミルズ「まさか、部外者の先生まで殺すなんて……」

リウム「あいつらは異常だ!」

侍「逃がさん」

リウム(速い!?)

貴腐の扱う大きなキノコには対象の身体能力を向上させる働きがあった。

また、兵士の逃亡や反乱を防ぐ目的にも用いられている。

侍「ふっ!」チャッ

ミルズ(斬られ……!)

リウム「クソがぁぁぁぁ!!」ガバッ

侍「ぬう!?」
669 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:10:39.38 ID:ESfib4sto
ミルズ「キミ!」クルッ

リウム「立ち止まんじゃねぇ!」

ナマクラの腰にしがみついているリウムは振り回されながらも叫ぶ。

リウム「俺にはもう、どうにもできないんだ……!」

リウム「後はお前に託す! 走れえええ!」

侍「ふっ!」ポイッ

ミルズ「……!」ダッ

ナマクラはリウムをふりほどくと高く投げ上げる。

そして刀の柄を掴むと、一呼吸。

リウム「ミルズ、死ぬなよ」

侍「セイッ!」

ズババッ!

リ/ウ/ム「」ドサッ バラバラ

ギャル「アハッ……リウム、アンタいい男になったじゃん。笑」

侍「まだ追いつける。走るのだ桜」

武魂気の刃は脂で切れ味が落ちることは無い。全身に返り血を浴びたままナマクラはミルズを追う。

すっかり市民のいなくなった講堂前には二つの血だまりだけが残っていた。


貴腐「ん? レディー? 何?」

貴腐「そうか。ふふっ、記念すべき一人目に、乾杯」

彼らに人を殺すことへの躊躇いなど無い。


ミルズ「はぁっ、はぁっ……!」ダッダッダッ

リウム『後はお前に託す!』

ミルズ(なんてことをしてくれたんだ)

ミルズ(わざわざボクに恩を売って……)

ミルズ(あの馬鹿のせいで……兄様が敵だとしても、逃げるわけにはいかなくなったじゃないか……)
670 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:12:24.07 ID:ESfib4sto
裏路地、サクラ達のアジト前。

そこには非戦闘員のタロウだけが残っていた。

タロウ「僕は応援担当だから、走り回らずに留守番してればいいよね!」

ラファ「そうですね。とっても都合がいいのです」

タロウ「だよね! って、うひぃ! 戻ってきた!?」

タロウ「みんなは何をやってるんだ!」

ラファ「『神の目』で全員の位置を把握していたので回避は余裕でした」

ラファ「さあ、今すぐにお仲間と貴腐に連絡して、戦闘をやめるのです。さもなくばあなたに拷問を行います」

<●><●>

タロウ「わ、わかった! だから乱暴はやめるんだ!」

派生魔法『神の目力』は、神かそれに極めて近い者に相対しているかのような凄まじいプレッシャーを与える魔法だ。

萎縮したタロウはすんなりと要求に応じた。

ラファ「さあ、早く。通信機は無いのですか?」

タロウ「もしもし、ジュウリョウさん!? 僕らの負けだ。降伏するんだ」

タロウ「うん、さもないと僕が大変な事になる。すぐに戻ってきてね!」

ラファ(ふう、何とかなったのです。でもいつでもタロウに攻撃できるようにしておかないとですね……)

ヒュウウウウウ

力士「八卦良い……」ドシン!!

ラファ(降ってきた!?)

力士「のこった」ヒュッ

ダァン!!

ラファ「がッ……!」

ラファ(速いし、目力が効かなかった……!)

タロウ「ジュウリョウさん! いやー助かったありがとう!」

力士「礼には及ばん」

ラファ「うぅ……」フラフラ

タロウ「あっ、逃げるよ! とどめを刺してよ!」

力士「うむ」
671 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:13:51.63 ID:ESfib4sto
ラファ(あっさり死んでたまるかなのです……)

ラファ(不意打ちの聖光塊!!)

ぼすん

力士「……」

ラファ「え? さっきは効いたのに……」

力士「力がみなぎるのだ。このキノコを頭に乗せてからというもの……」

力士「まったくと言っていいほど力の加減ができない」ガシッ

ラファ「は、離しなさい!」ジタバタ ボキッ

ラファ「あああああああああああッ!!!」

ジュウリョウはラファの腕を掴むと、背中を向けて腰に乗せる。

勢いあまって骨を折ってしまうがそのまま持ち上げる。

タロウ「おおお! これは……」

そして、全力で地面へと叩きつけた。

タロウ「綺麗な一本背負い!」

ベシャン!

タロウ「……前言撤回。綺麗じゃないよ! ぺしゃんこのスプラッタじゃないか!」

力士「すまん」

タロウ「しばらく僕に触らないでね! 危ないから!」

力士「承知した」

力士「だが、タロウも俺に同行して欲しい。また襲撃されてはかなわん」

タロウ「あ、ああ、そうだね。僕もついていくよ」

力士「まずはオミキたちに合流する。タケミタマ様に探してもらい一人ずつ狙った方が早そうだ」

タロウ「オミキちゃん達はどこに?」

力士「最も厄介であろう敵の人形を追っているらしい。そこまでタケミタマ様が案内してくださる」


貴腐「へえ、もう二人目かい?」

貴腐「スタート地点に戻ってくる勇気ある少女の死に、乾杯」

貴腐に強化されたキョウトの武人には、もはや抵抗すら無意味。
672 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:15:24.92 ID:ESfib4sto
ウベローゼン市、聖十字総合病院近隣。

ミルズ「何とか、まいたかな……」

ミルズ「あっ、ここは……。……」

水魔術師女子「ミルズ!」

ミルズ「キミは! ハーブで正気を失ってたはずじゃ……」

女子「そうなんだけど、この匂いで目が覚めたの」

女子「メガネ達はそのままだったけど……」

ミルズ「一人だけでも助かって良かったよ」

女子「ねえ、リウムは一緒じゃないの?」

ミルズ「……! 彼は……」

女子「どうしたの!? リウムに何かあったの!?」

ミルズ「……落ち着いて聞いて欲しい」

女子「わかった」

女子「あっ」

ミルズ「実は……え?」

貴腐「やあ、こんにちは。今日は運動日和だね」

ミルズ「きっ……!?」

ミルズ(一目見て分かった)

ミルズ(酷くにおいがキツい……)

ミルズ(こいつが、貴腐……!)

身構えるミルズを無視し、貴腐は隣の女子に話しかける。

貴腐「君は、リウム君の幼馴染の子だね」

女子「そうだけど、何……?」

貴腐「では早速……いや、君は中々美しい」

貴腐「ここで死なせてしまうのは惜しいからね。ぜひ、私のレディーになりなさい」

女子「い、意味が分かんないんだけど!」

ミルズ(嫌な予感がする……!)

ミルズ「は、走って!」

女子「!」コクリ ダッ
673 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:16:36.38 ID:ESfib4sto
考える前に体が動き、ミルズは両手を広げて貴腐の正面に立っていた。

死んだリウムの守りたかったであろう相手だからだろうか。

貴腐は焦りも驚きもせず、目の前のミルズを睨みつけた。

貴腐「おやおや、私の恋路に立ち塞がろうっていうのかい?」

ミルズ「ここは通さないよ……」

貴腐「うん、構わないよ」

ミルズ「……?」

ザァッ

ミルズの頬を風が撫でた。

遅れて芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。

女子「きゃあああ!」

ミルズ「しまった……!」

振り返ったミルズが見たのは、菌の塊が背中に命中し、体が服ごと溶け始めている女子の姿だった。

女子「痛い、痛い! 助けてぇ!」

貴腐「ふふふ。すぐに気持ちよくなるからね」

ミルズ「あ、あ、あ……」ゾッ

女子「んくっ、ひぎいい……!」ドロドロ

女子「……」ベタリ

貴腐「完成」

貴腐「皆、新しいレディーの仲間入りだ。優しくしてあげてくれたまえ!」

貴腐「さて、お待たせして済まないね!」クルリ

貴腐「君も割と好みのタイプなんだけど、この私に名前と職業を……ってあれ? あんな遠くに」

ミルズ「はぁ、はぁ……!」ガクガク

貴腐「待つんだ君ぃ〜。まずは私とお茶をしようじゃないか〜!」スタスタ

ミルズ(貴腐は姿勢が悪くて足が遅い)

ミルズ(でも、ボクの脚が震えてまともに走れない……!)

ミルズ「く、来るな……」

ドテッ

ミルズ「うぐっ!」

ミルズ(た、立たないと、来る! 捕まる!)

貴腐「あはは。つーかーまーえー、た!」

ガシッ
674 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:21:21.34 ID:ESfib4sto
貴腐「うん?」

貴腐「確かに掴んだはずなのに消えてしまった」

貴腐「私は幻でも見たのだろうか?」



ミルズ「ど、どこなの、ここは!」

魔人「安心せい。わらわの城じゃ」シュウウ

ミルズ「ま、魔人先生……」

魔人「怖いという気持ちは分かるがのう、怖い時こそ気を強く持たねばいかんぞ」

魔人「動揺してしまえばせっかくの高い精神力が無駄になる」

ミルズ「助かっ……てない!」

ミルズ「この城もウベローゼン市の中だから、貴腐の攻撃範囲だ……」

魔人「もしもあやつが町を丸ごと発酵させようとしてきたら、わらわが相手してやる」

魔人「大事な城を汚されるのは気分が悪いからな」

魔人「まあ、そんな真似はせんと思うが」

ミルズ「……魔人先生、一つ、真面目に答えて欲しい」

魔人「なんじゃ」

ミルズ「敵は、ボクよりも優秀な先輩魔術師より、さらに強いベテラン魔導師よりももっと上の、魔導長でさえも敵わない六勇の一人」

ミルズ「せっかく仲間になれたのに、リウムも死んでしまった」

ミルズ「兄様もボクの前では無関係を装っていたけれど、夢中草の売買に関与していた」

ミルズ「この写真が本物なら、命の恩人のソフィアにも命を狙われるかもしれない」

ミルズ「今……立ち向かった先に、希望はあるのかな」
675 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:22:13.10 ID:ESfib4sto
魔人「ふむ」

魔人「希望とは時に受け取り方次第。その質問の答えは分からんが、一つ断言できることはある」

魔人「立ち向かわなかった先に希望が無いことは明白じゃ」

魔人「しかし、あやつらも可哀想だの」

魔人「兄と友へのお主の信頼はその程度のものだったのか?」

ミルズ「……信頼している相手だからこそ、敵になる未来なんて受け入れたくない」

魔人「逃げ腰か」

魔人「逃げた所で現実は変わらん。さっさと真実を確かめてしまう方が楽じゃぞ」

ミルズ「……そうだね」

ミルズ「ここで兄様とソフィアを待つよ」

魔人「む? いつまでもわらわの城に留まるのは許さんぞ」

ミルズ「た、戦えって言うのかい!?」

魔人「何のためにわらわが鍛えてやったと思ってる」

ミルズ「でも、ボクは治療用の魔法しか……」

魔人「否じゃ。貴腐に勝利するための魔法もすでに教えたぞ」

ミルズ「回復魔法で攻撃できるわけないじゃないか!」

魔人「後は自分で考えなさい。くっくっく、また会えるといいのう?」パチン

魔人が指を鳴らすと、出入り口に続く城内の扉が次々と開き、ミルズは宙に浮かされるとそのまま正門の外へと放り出された。
676 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:24:33.73 ID:ESfib4sto
魔人が城を王都からウベローゼン市に移した際、選んだ場所は旧貴族の邸宅街である。

人気の無いその区域にも貴腐の放った菌のにおいは立ち込めていた。

ミルズ「魔人先生はボクを切り捨てるつもりだ。試練を乗り越えられない人に用は無いんだろう……」

ミルズ「ひとまず人通りの多い場所へ……」

ギャル「あー、こんな所にいた」

侍「好機!」

ミルズ「なっ、なんでこんな所で……!」

侍「逃がさん!」

ナマクラが遠距離から金色の武魂気を纏った刀を振るう。

ミルズの背を目掛けて飛ぶ斬撃。

ヒュッ パッ

ミルズ「えっ」

しかし、必殺の剣閃がミルズに届くことはなかった。

突如として地面が燃え上がり、現れた数人の人影とナマクラを炎の中へと閉じ込める。

侍「ぬ!?」
677 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:27:36.07 ID:ESfib4sto
テンパラス「捉えたぞ、ナマクラ。今こそ決着を付けよう」

バルザック「景気づけの前哨戦って奴だぜ!」

ガルァシア「……油断するな。貴腐には劣るだろうがこの男も十分に危険……」

ボフン!

バルザックが開幕で起爆させたのは白煙爆弾。

真っ白な濃霧が敵味方の視界を奪う。

テンパラス(この炎の輪からは出ようと思えば出られるが、無傷では出られまい)

テンパラス(仮に出られても今ある輪を消してまた新たな炎の輪を展開すれば良いだけだ。ここで絶対に仕留める)

ガルァシアは目を閉じて集中し、自身の正面に魔法陣を浮かび上がらせていた。

熟練した岩魔術師である彼には、魔法陣を杖などで直接描かずとも、地形を操作する岩魔術を応用してより短い時間で描くことが可能だった。

侍「ぬおおおお! 操気・気扇!」ブアッ

武魂気を操って起こした風が白煙を晴らすと、無防備にもバルザックは酒を飲んでいた。

隙だらけの男を狙ってナマクラは踏み込み斬りを仕掛ける。

バルザック「かかったな!」

だが、その動作こそ罠であった。

無意識に攻撃対象に選ばせる、罠士スキルの一つ、挑発。

侍「ぐ、ぬおお……!」

白煙が視界を奪っていたのはわずか数秒。だが彼らにはそれで十分だった。

朦朧魔法陣と毒煙地雷を踏みつけた、ナマクラの視界が歪み、呼吸が乱れる。
678 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:32:13.27 ID:ESfib4sto
ネル「あいつらに襲われてたってことはキミも味方だネ?」

ミルズ「た、たぶん……」

ネル「おっと。ガル達を助けに行かなくチャ!」ヒュッ

ワープを駆使して斬撃からミルズを救ったネルも、炎の輪の中へと合流する。

バルザック「おいネル、今だ!」

ネル「フッ、弱り目に祟り目ダ、サイコショックを受けてみロ!」キィィィン

侍「がああああッ!」

罠を受けて弱っていたナマクラは念波の影響を強く受け、激しい頭痛を味わう。

テンパラス(卑怯ではあるが、相手は飛ぶ斬撃でも骨ごと人体を切断し、直接の斬撃であれば鋼鉄さえ斬りかねん男だ)

テンパラス(だが、あの状態でも隙が無い……!)

テンパラスが手をこまねいている間に、ナマクラは葉を食いしばり、飛び退いて罠の影響から逃れてしまった。

それを見て、ガルァシアは焦らず、しかし急いで小さな板を地面に叩きつけた。

板に刻まれていたのは筆記のルーン。使い捨ての媒体を介して複雑な魔法陣でも一瞬にして作り出すことができる。

ドッ

バルザック「ぐう……!」

テンパラス「だ、大丈夫か!」

バルザック「割と痛てえ!」

ガルァシアの作り出した軽減魔法陣は、飛び来る一撃必殺の斬撃を鋭めの打撃に変える。

ネル「撃ち合いだネ! 負けないヨ!」

バルザックを盾にして、道端の石ころをテレキネシスで飛ばす。

テンパラスの火の玉、ガルァシアの生成した杭弾、バルザックの爆弾投げもそれに続く。

侍(物量で負けている……。桜は何をしている!)

水魔術師ギャル、サキューラの得意魔法は水属性の魔法弾連射だ。

容易く炎の輪を突破し、得意の弾幕でナマクラの助けに加われるはずなのだが……


ギャル「このワカメ女……!」

ミルズ「通さないよ」

ミルズは多少の水鉄砲攻撃を受けても即座に回復して見せた。

しかし、ここで逃げてナマクラから離れるのも危険。

取っ組み合いになってしまえばミルズだけを斬るのが困難になる。

ミルズの牽制は効果大であった。
679 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:33:05.88 ID:ESfib4sto
侍「ふっ!」

撃ち合いでの不利を悟ったナマクラは刀を構えて正面に駆ける。

一閃。二閃。

しかし、不意打ち気味に振るわれた斬撃をガルァシアとテンパラスは容易く避けてみせた。

ネル(ふふふ、不思議そうだネ)

ネル(サイコショックが決まった時点で彼へのマインドリーディングが発動しタ)

ネル(そうして読み取った攻撃のタイミングをテレパシーで仲間に伝えれば、見てからでは避けられない攻撃でも避けられるのサ)

後退した者は遠距離攻撃、狙われていない者は罠や魔法陣の準備、テレパシーを用いた連携は完璧だった。

いらだちが募るナマクラは、一人に狙いを絞ることにする。

侍「斬るゥゥ!」ギロッ

テンパラス(来る!)

その対象は、厄介な設置・攪乱技を持たないテンパラス。

バルザック「横ががら空きだぜぇ!」ペトッ

ドカン!

隙をついてナマクラの身体に直接爆弾を仕掛け、起爆。

しかしキノコの効果で頑丈になったナマクラは止まらない。

ネル(バルザック下がレ! あれは止められなイ!)

バルザック(ああ畜生! 頼んだぜ剣士さん!)

侍「ぬおおおんッ!!」

テンパラス「ハァッ!」

ズバッ!!
680 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:41:56.60 ID:ESfib4sto
テンパラス「…………」

侍「…………」

バルザック(どっちだ……?)

ガルァシア(火剣士の腹から血が……!)

ネル(……イヤ、見テ! 金色の気ガ!)

テンパラス「……フウ」

テンパラス「武魂気は防壁にもなるのだな。試してみるものだ」

テンパラス「皆、安心しろ。私が受けたのは盾さえ切断する斬撃ではない、ただの錆びた刃だ」

侍「グ……」

侍「あっぱれなり、あっぱれぬし……!」ユラリ

ドサッ

テンパラス「技を盗もうと考えて師事していたが、やはり普段の剣技が馴染む」

テンパラス「だが良い防御スキルを手に入れた。礼を言うぞ、ナマクラよ」


ミルズ「助けてくれてありがとう……」

ネル「こちらこソ! 女の子の足止めご苦労だったネ!」

バルザック「んで、そいつはどこに行ったんだ?」

ミルズ「仲間が倒れるとすぐに逃げたよ」

ガルァシア「薄情な女だ……」

テンパラス「お前もキョウトの者および貴腐と戦っているのか?」

ミルズ「そ、そうなんだ。さっきは貴腐に襲われて……!」

テンパラス「場所はどの辺りだ? 案内を頼む」

ミルズ「貴腐を、倒すつもりなのかい……!?」

ネル「秘策があるのサ」

バルザック「俺たちに任せとけい! お嬢ちゃんは隠れて見てな!」
681 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:44:14.61 ID:ESfib4sto
少し不安な顔をしながらもミルズは一行を病院の近くへ連れていった。

ミルズ「……たしか、この辺りで会ったはず」

テンパラス「助かった」

ネル「後は占いの出番だネ」

バルザック「おおっ、出るか居場所占い!」

ネル「……こっちに近づいてきてル」

ガルァシア「何だと?」

テンパラス「不思議なことはない。菌を使ってこちらの位置を把握しているのだろう」

バルザック「追いかける手間が省けたってもんだ。ガル、待ち伏せの準備だ」

ガルァシア「……分かった」



貴腐「ん? どうしたんだいレディー」

貴腐「複数人で固まってるのを見つけたって?」

貴腐「よし、散歩がてら優雅に向かうとしようか」

ピタッ

貴腐「ん?」

貴腐「んんんんんー?」

貴腐「脚が重くて動かない……」

表面に砂をかけて隠しておいた停止魔法陣は、貴腐の脚をがっちりと拘束していた。

ネル(皆、作戦開始ダ!)

シュッ

パッ

貴腐「……ひ、ひいいええええ!!!!」

テンパラス(効いたぞ!)

付近の建物の屋上。そこに待機しているテンパラスの前へテレポートで貴腐を運ぶ。

すぐさま、待機していたテンパラスが鋭い剣を貴腐の目前へ突きつける。

重度の先端恐怖症で知られる貴腐はそのまま腰が抜けてへたり込んでしまった。

完全に、作戦通りの展開であった。

テンパラス(情けない。六勇の一人ともあろう男が不意を突かれればこのザマか)
682 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:49:33.73 ID:ESfib4sto
貴腐「き、君ぃ! すぐにその剣をしまってくれ!」

テンパラス「断る。まだ死にたくはないんでな」

テンパラス(隙だらけだ……)

テンパラス(このまま斬ってもいいのではないか?)

一呼吸。テンパラスは素早く振りかぶると、貴腐を横薙ぎに斬り裂く。

続けて上段に構えて、斜めに振り下ろす。

よろめく貴腐へ向かって、踏み込みながら突きを

シュウウウ

テンパラス「グッアアアア!」

突如、テンパラスの全身が真っ赤に染まる。

熱した鉄板に水をかけた時のような激しい蒸発の音と共に、テンパラスの肉体が急速に焦げ落ちていく。

一方で、貴腐に刻まれた傷はたちまちの内に塞がり、痕一つ残さず治癒した。


別の建物の屋上から、ネルはテンパラスが骨になっていく姿を見ていた。

ネル「あのバカ!」

ネル(先端恐怖症だけど刃物自体が怖いとは限らないんだヨ!)

ネル(でもなんで、腰が抜けているのにサイコショックが効かなかっタ……?)

貴腐が、ネルを見た。

ネル(マズイ!)

菌に捕捉されている――そうとなればネルの取れる行動は一つだけだった。

テレポートで背後に移動し、即座にテレポートで上空へ連れて行く。

まさか高所からの落下だけで倒せるとは思わないが、パニックにできれば上出来だ。

ネル(どうダ!)

貴腐「えっ……うぎゃあああ!!!???」
683 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:51:19.98 ID:ESfib4sto
貴腐「なんちゃって」

ネル「ハァッ……!?」

即座に、可能な限り遠くへテレポートした。

ネル(あの男……騙しやがっタ!)

ネル(ここにいる人だけじゃない、全ての国民ヲ!)

ネル「痛っ……。……!!」

痛みを感じ、腕を見ると、ガラス質の結晶へと変化しつつあった。

テレポートは、触れた相手も共に移動する。貴腐の見えざる仲間たちはネルを捉えていたのだ。

もう、逃れる術はない。

ネル(覚えてロ……化けて出てやル!)

ネル(だってこのボクは何でもありのエスパーだからネ! だからきっと……!)

ガシャアアン!

転んだ拍子に、そのガラスの塊は路上で砕け散った。


ゴキッ

貴腐「膝打ったぁ! レディー、頼むよ」

貴腐「……これで良し。ありがとう、お礼にキスをしてあげよう」チュッ

何もない空間に向けて唇を付き出す貴腐。

バルザック「なんで起爆しねぇ……!」

貴腐の墜落する地点には大量の地雷が仕掛けられていたはずだった。

膝を痛める程度で済むはずがないのである。

バルザック「!? あの野郎……!」

違和感に気づく。

貴腐は普段の奇怪な姿勢をやめ、背筋を伸ばし、その瞳も正面を見据えていた。

人間らしい姿勢を取った貴腐は身長が高く、そして頭にキノコが乗っている点を除いて意外にも整った容姿をしていた。

バルザック「そういうことかよ……」

貴腐が、バルザックが身を隠す茂みへと近づいてくる。
684 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:55:49.22 ID:ESfib4sto
バルザック「ガル! 聞けぇ! 貴腐の弱点は嘘っぱちだァ!」ポイッ

ドォン キンッ

バルザックは意を決して飛び出し、爆弾を投げつけるが、バリアで防がれる。

バルザック(魔法だと? どうなってやがる)

バリアの魔法を使った貴腐は魔術師なのか? 否、貴腐自身は菌に指示を出す以外の戦闘用スキルを持っていない。

魔法を使ったのはレディー達だ。

菌にされた人間は、人間だった頃のスキルをそのまま使う事ができる。

流石に剣術や演奏などは体格が小さすぎるため不可能だが、魔法に人体のパーツは必ずしも必要ではない。

貴腐は主に魔術師の女性を自らのハーレムに引き入れていた。レディーとは愛人であり同時に戦力でもあるのだ。

すなわち……貴腐と戦うという事は、100人を超える魔術師の集団を相手にするに等しい。

バルザック「うおおおおお!!」ダッ

投げても途中で無効化されるため、バルザックは爆弾を抱えて自滅覚悟で突進した。

バリアを避けて回り込み、貴腐に肉薄するが……

ドォン!

バルザック「がはっ……!」

途中で起爆した。

レディーの一人が『拳』で爆弾を破壊したのだ。

菌で構成された身体を変形させれば、一部の体術や、歌唱、暗視などのスキルも使用できる。

貴腐「やあ。君もお酒が好きなんだね。においで分かるよ」

バルザック「……酒好きのよしみで見逃しちゃくれねぇか?」

貴腐「そういうわけにはいかないからさ……せめて最後に乾杯しようじゃないか」スッ

貴腐「三人目、四人目……五人目の君に、乾杯」

貴腐は懐からワイングラスを取り出して、バルザックにぶつけた。

すると

バルザック「あ、あああ、あがああああ!!」

その全身の穴という穴から液体が噴出した。

それは血でも体液でもない、人間酒だ。

バルザック「あああ……かはっ」ガクッ

貴腐「ふむ……」ゴクリ

貴腐「飲めないこともないけどあんまり美味しくないなあ」

貴腐「やはり、お酒にするなら小さな女の子か熟成されたご老人に限るね」
685 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:56:49.95 ID:ESfib4sto
ダッダッダッ

ガルァシア「…………」

ミルズ「はぁ、はぁ……どこへ行くんだ」

ガルァシア「……高所恐怖症と先端恐怖症は、恐らく貴腐の流したデマだった」

ガルァシア「一度作戦を練り直す」

ミルズ「練り直すったって、もう仲間がいないじゃないか!」

ガルァシア「それでもだ」

ガルァシア「奴らの為にも、ここで俺が死ぬわけにはいかない……」

ザッ

ガルァシア「……何?」

ミルズ「き、キミは死んだはずじゃ……!」

侍「左様……拙者は一度死んだ」

侍「だが、黄泉の国より呼び戻されたのだ……この茸によって!」

侍「斬ル、斬ル、斬ラネバナラヌ!」ダッ

テンパラスに敗北し死亡したはずのナマクラ、その刀傷はぶよぶよとした菌糸体に塞がれていた。

肌の色はくすんでおり、全身に張り巡らされた菌糸体が辛うじて瀕死の身体を動かしているようだ。

半生半死。不死の怪人と化した侍が二人の首を狙う。
686 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:58:16.29 ID:ESfib4sto
ガルァシア「先に行け!」

ミルズ「わ、わかった!」ダッ

ガルァシアは咄嗟に停止魔法陣を出現させ、魔法弾で牽制を行う。

侍「フン!」ザンッ ザンッ

しかし、侍は魔法弾を避けもせずに突っ込む。さらに地面ごと魔法陣を斬り裂き、無効化してしまう。

ガルァシア(……先程よりも強くなっている!)

最後の抵抗。岩の壁を出現させる。

盾ではない。敵の足元に出現させ、突き上げる。

侍「ヌゥウウ!」

足を取られ、バランスを崩して前のめりになる侍は、そのまま空中で前転しながら刀を振るった。

ガルァシア(化け物め……!)

ズバッ!!


貴腐「もう六人目? 早かったね」

貴腐「侍の彼はよく頑張ってくれるなぁ。その健闘に乾杯!」

敵方の残り戦力は振り出しに戻る。魔術師100人と不死の武人3人。

対するは、たった数人の無力な少女。
687 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:58:53.25 ID:ESfib4sto
ミルズ「来る……殺される……!」

ガルァシアはほとんど時間を稼ぐことなく、殺された。

ミルズがナマクラに追いつかれるのも時間の問題だった。

ミルズ「助けて! 誰か!」

しかし、運悪く人通りのほとんどない地区。

とうとう、行き止まりに追いつめられた。塀を乗り越える体力はもはや無い。

侍「斬ル……オマエデサイゴ……!」

ミルズ(もう駄目だ)

ミルズ(これ以上無いほどの、詰み)

ミルズ(……希望なんてどこにもなかった)
688 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:59:48.25 ID:ESfib4sto
一方、リウムと別れたフィナは魔法街の仕立て屋に戻ってきていた。

カランカラン

クリス「いらっしゃいませ!」

フィナ「やっぱりここにいた」

クリス「あっ、殺し屋さん。さっきぶりです!」

フィナ「その呼び方やめてって言ったよね!?」

クリス「ごめんなさい! とりあえずお茶菓子持ってきますね」

フィナ「悠長にお菓子食べてる暇はないんだよ! 状況分かってる!?」

クリス「悪い人の戦いに巻き込まれて追いかけられてるんですよね?」

フィナ「えっ、分かってるの?」

クリス「分かってますっ。だからここに帰って来たんです!」

クリス「わたしの生きる理由は、このお店を営業すること!」

クリス「何があってもお店は守ります。わたしが死ぬときはお店と一緒です!」

フィナ「そっか……。オートマタだもんね」

クリス「殺し屋さんはなぜここに? 危ないですよ!」

フィナ「いろいろ考えてさ。あなたを守ることにした」

フィナ「フローラのためにね。ここ、フローラがオーナーなんでしょ」

クリス「はいっ」

フィナ「もうさ。あたしがその人のために何かしたいって、信じたいって思えるのがフローラしかいなかったんだ」

クリス「へぇ、そうなんですか」

クリス「わたしにはそういう人、誰もいません!」

フィナ「そ、そっか」
689 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:01:46.23 ID:ESfib4sto
結局、フィナは厚意に甘えてお茶菓子を食べた。

フィナ「ところでさ、あなた名前ないの?」

フィナ「呼びづらくてしょうがないんだけど」

クリス「あっ、ごめんなさい」

クリス「クリスティ 1〇〇〇です。ここに書いてあります!」

仕立て屋の娘さんは背中を指さした。

フィナ「……それって製作者と製作年度じゃない?」

クリス「はい、そうらしいですよ」

フィナ「えーと、自分だけの名前って無いわけ? フローラにはなんて呼ばれてるの?」

クリス「ああっ! 今ので思い出しました!」

クリス「初めて会った日に、オーナーさんに名前をつけてもらったんです!」

フィナ「それそれ! あるんじゃん、なんていうの?」

クリス「忘れました!」

フィナ「ズコー!」

クリス「そうでした! わたしがあまりに忘れっぽいので、いつでも思い出せるようにオーナーさんがヒントを残してくれていたんです!」

クリス「この花瓶ですっ!」バッ

フィナ「とっくの昔に枯れ果ててるー!」

クリス「これじゃわかりません。ぐすん」

クリス「こうなったら勘です。きっとわたしは……ハエトリグサ!」

フィナ「それだけは絶対にない!」


フィナ「この店、においしないね」

クリス「はい。お洋服ににおいが移るといけないので、魔法で何とかしました」

クリス「お店には入ってこれませんよっ」

フィナ「やるじゃん」

フィナ「このまま、あいつらが諦めるまで隠れられるかな?」

クリス「わかりません。でもそうだったらいいですね」
690 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:04:21.01 ID:ESfib4sto
約一時間後。

町を練り歩いていたキョウトの民達が、魔法街の広場に近づいていた。

時折、カーテンの隙間から外の様子を窺っていたフィナは、一目見てその特徴的な集団を認識する。

まず目を引くのは3mを超える巨漢のシルエットだ。腕も脚も胴回りも非常に太いが、ほとんどは筋肉によるものだ。

人間一人握りつぶせそうな大きな右手は鮮血で真っ赤に染まっている。

フィナ(さっき、誰か殺されたんだ)

その隣で早歩きで移動しているのはあまりにも小柄な少女。70cm前後、仕立て屋の娘とほぼ同じサイズしかない。

巫女の正装である色鮮やかな緋袴は動きやすいように膝下までの長さで止められており、丈夫そうな足袋が露わになっている。

フィナ(あれは、気配を消す歩法……普通の人にはそこにいる事さえ認識できない)

フィナ(見抜き方は、師匠から教わった)

その師匠と同等か、それ以上に危険な敵。

願わくば、気付かずに通り過ぎて欲しかったが……。

フィナ(あのキツネが、マリンと同じなら……)


武御霊「主ら! 見つけたぞ。あの店じゃー」

武神タケミタマはソピアの使い魔マリンと同じ風精に属していた。

風の妖精は皆、一定範囲の人間・モンスターの探知能力を有している。

オミキ「そうですね。言われなくても分かってました」

力士「なんで?」

オミキ「分かるんです。同じ……ですから」

タロウ「それって敵も分かるって事じゃないか。気を付けて!」

オミキ「はい。奇襲は諦めます」
691 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:05:19.66 ID:ESfib4sto
フィナ「……来たよ。まっすぐこっちに向かってきてる。どうする?」

クリス「迎え撃ちますっ。先手必勝です!」

ガチャッ


タロウ「き、来たよ!」

力士「手下の人形か。小癪な」

仕立て屋の扉から姿を現したのは三体のマネキン人形。

腕の先がトゲの生えた鉄球となっており、その不自然な動きは糸で操られるマリオネットそのもの。

マネキンが襲い掛かる。

オミキ「遅すぎます」ヒョイッ

力士「この程度か……壊すのも面倒だ」

しかし、キョウトの武人達は強者の勲章を得るための百兵の試練を十分に達成できるほどの猛者。

その上、貴腐のキノコによって強化されている。

付け焼刃のマリオネット操作では全くと言っていいほど攻撃が当たらなかった。

力士「ぬん!」バッ

一体のマネキンが張り手を間一髪で避ける。

しかし、ジュウリョウが踏み込んだ右足が石畳を激しく吹き飛ばし、張り手の衝撃が正面にあったカフェを破壊する。


フィナ「ああっ! 吸血鬼に壊された魔法街の修復工事が終わったばかりなのに!」

フィナ「しかもあれ、エルミス行きつけのカフェじゃん。あーあ……」


オミキ「ジュウリョウさん。不利ですけど、ここは私に任せてください」

力士「操り手を壊せば良いのか。分かった」ズシズシ

タロウ「春眠の術は生物にしか効かないんだったね?」

オミキ「ええ。しかし、加減する必要もないので……」
692 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:08:01.84 ID:ESfib4sto
クリス「おっきい人がこっちに来ます!」

フィナ「分かってる! ……ええい!」

ガチャッ

フィナ「あ、あたしが相手だ! 手出しは、させない……!」

フィナは仕立て屋を守るため入口の前に立ちはだかった。

しかし、それでも武器を握ることはできなかった。

力士「素手で俺に挑むとは、愚の骨頂」

力士「俺たちはキョウト国における徒手戦闘の頂点だ。小娘が……。舐めおって」ブォン!

フィナは素早く横に回り込み攻撃を避ける。

フィナ(手刀でも、師匠に教わった急所を突けばなんとかなるかと思ったけど……)

フィナ(敵が大きすぎて急所に手が届かない、無理!)


オミキ「朝靄の術」

フィナ「っ!」バッ ガチャッ

オミキの足元から白く濃い煙があふれ出すのを見て、フィナは即座に仕立て屋の中へ逃げ込む。

フィナ(しゃがんで気配を薄めるのが通用する相手じゃないし、逃げたらお店が危ない!)

バキン ボキッ グシャッ

衝撃音の後、軽い風が吹いてもやが晴れる。武神の能力だろう。

三体のマネキンはオミキによって破壊されていた。
693 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:09:35.44 ID:ESfib4sto
クリス「はわわ! 武器が壊されちゃいました!」

フィナ「もう立てこもってられないよ!」

クリス「はいっ! お店はわたしが命をかけて守ります!」

ガチャッ

フィナ(逃げるなんて選択肢は無い。一人でもいいから、倒す!)スッ

力士「この期に及んで手刀とは……。その腰の短剣は飾りか?」


クリス「よくも壊しましたね! えーい!」

フィナ(強力な熱線と水圧カッターの同時撃ち! しかも後方斜め上から太陽光線!)

フィナ(別々の属性の魔法攻撃でたしか全部中級以上……これができる人間の魔術師はほとんどいない)

フィナ(相変わらずとんでもないなぁ。でも……)

フィナ(頭のキノコのせいか、オミキさん、師匠より速くなってんだけど……!)

ヒュヒュヒュヒュ グイッ

オミキ「何か引っかかって……?」

クリス「かかりましたねっ。マリオネット糸! もう避けさせません!」

オミキ「鎌鼬の術」ズババッ!

フィナ(忍魂気でできた巨大な手裏剣! しかも追尾する!)

クリス「ば、バリアー!」

フィナ(ほっ)

力士「よそ見か……馬鹿にするなッ!」ブン

フィナ「うわああっ!」サッ
694 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:10:18.53 ID:ESfib4sto
力士「ううむ、すばしこい」

オミキ「ジュウリョウさん、代わってください。私の武器では、バリアが……」

力士「致し方なし。俺の速さでは攻撃が当たらん。悔しいが……交代だ」

フィナ(マズい、相性差に気づかれた……)


タロウ「タケミタマ様、手伝わなくていいんですか?」

武御霊「助けを求められていないんじゃ。恐らく、武人としてのプライドが理由で」

タロウ「そんなのどうでもいいから一気に終わらせればいいのに!」


フィナ「そのでかいのにバリアは通用しないよ、頑張って避けて!」

クリス「はーい!」

オミキ「……」テクテク

フィナ(来る!)

チリン

フィナ(後ろ!)バッ

フィナ(あれっ、鈴だけ落ちて……。やられた!)

ガバッ

フィナ「っ!?」

フィナ「えっ? ……オミキ、先輩? 抱き着……」
695 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:11:02.34 ID:ESfib4sto
オミキ「吸魂」ズオオオ

フィナ「あ、あがぁぁぁぁぁっ!!」

フィナ「う……」ドサッ

ヒュッ

オミキ「タケミタマ様。注魂です」

武御霊「来た来た! 久しぶりの生贄じゃー!」

武御霊「力が、みなぎる……!」

武御霊「狙いは……そちらじゃ。神風・野分」

ゴオオオオオ

フィナ(凄い風、倒れてなかったら危なかった……)

フィナ(周りはどうなった? あの娘は、でかい奴は、町は……)

ヒュウウウ……

フィナ「……! お店が……!」

仕立て屋および周辺の家屋は、局地的な暴風によって無残にも全壊していた。

クリス「……」

フィナ「ね、ねえ。大丈夫……?」ヨロッ

クリス「アナタ?」グリン!

フィナ「っ!?」

クリス「コワシタノ、アナタ?」カチャッ

仕立て屋人形は、人間の動きをやめた。
696 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:12:45.31 ID:ESfib4sto
力士「あれはどうしたんだ? 関節の動きも、声の抑揚もおかしい」

オミキ「人間の真似をする理由を無くしたんです」

タロウ「拠り所を失って暴走してるんだよ。もう、自分がどこの誰かも分かってないだろうね」


壊れたはずのマネキンが立ち上がる。

フィナ「な、なんであたしに攻撃するの!?」

精神力を吸われ、身体に力が入らないフィナを、パーツ単位に分かれたマネキンの打撃が襲う。

一方、それらを操る本体はキョウトの人々に狙いを定めていた。

タロウ「ひええこっち来たキモい!」

オミキ「下がってください」

人形は、後ろ向きのでんぐり返しのような動きで向かってくる。

三半規管、内臓、筋肉、その他もろもろを無視して、人体が最も効率よく前進するための動きだ。

オミキ「ああはなりたくないですね……」ヒュッ

ガシッ

オミキ「しまった……」

クリス「コワシカエシ! コワシカエシ!」

念力の一種か、オミキは見えない力で身動きを封じられていた。

素早い移動を得意とし、体重の軽いオミキにとって、捕縛は最も警戒すべき攻撃だった。

もちろん縄による拘束や魔法陣への対策はしていたが、全方向からの単純な圧力を妨害する手立てはなかった。

クリス「アナタ、コワシテ、オミセ、タテル!」

ドゥッ バキン

風魔術の直撃を受け、壁に叩きつけられたオミキ。

その狐の面が衝撃によって割れ、素顔が露わになる。

タロウ「あちゃー!」

フィナ「えっ……」
697 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:15:48.38 ID:ESfib4sto
その顔は不自然に白く。細い目にはまつ毛が無く。

オミキ「面が……。直せませんね……」

表情は変わらず、口も微動だにしていない。

明らかな作り物であった。

フィナ「二重の、お面……?」

辛くもマネキンの残骸から距離をとったフィナは困惑していた。

タロウ「知らない? 呪いのキョウト人形」

タロウ「正式名称は用途や地域別に違うんだけど、僕たちも総称するときはキョウト人形と呼ぶことが多いね」

タロウ「フルフィリア人形と違って単純な美術品じゃなく、子供の成長を願ったり、厄を祓ったりといった祭事に用いる事が多いかな」

タロウ「ちなみに商品じゃないからね!」

フィナ「……それにしては結構大きいような」

タロウ「タケミタマ様の御力だよ。オミキちゃんだけじゃなくジュウリョウさんも大きくしてもらってる!」

タロウ「ただでさえ平均身長が低い国なのに十尺もある大男なんているわけないだろう?」

フィナ(駄目だこの人……。あたしよりも口が軽い……)


力士「今ッ!」バチン

カキンッ

クリス「ランボウハヤメテー」

力士「ぬう……死角が存在しないというのは本当だったか」

オミキ「さて……どうしましょう」

人形であるオミキには急所への打撃、死角を突く移動のように人体の構造に由来する戦法が通用しない。

また、眠る事がないため春眠の術などの意識を奪う技も効果が無い。故に、忍者同士の戦いにおいてほぼ無敵であった。

しかしその特性が今、目の前に立ちふさがっている。

フィナ(筋肉を持たない魔法系モンスターのオートマタには、骨のモンスターと同様に打撃が有効)

フィナ(でもあの子には魔法があるから、大男程度の速さじゃ直前にバリアを貼られて衝撃を殺されてしまう)

フィナ(オミキさんのスピードなら攻撃は当たるけどダメージにならない。なぜなら筋肉が無いから)

フィナ(裏通りで、春眠の術はあの子には効いてなかった)

フィナ(このまま撃退できるかも……)
698 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:18:32.77 ID:ESfib4sto
武御霊「忍者の技が使えないなら、我の力を借りる他ないんじゃないか? んん?」

オミキ「うざいので絶対に頼みません」

武御霊「言ったなー!? だったら今日一日は頼んでも手を貸してやらんもんね!」

クリス「ヤッター、コワシヤスイ!」カタカタ

オミキ「人の技で対応できないのなら……」

ザワッ

オミキのおかっぱの髪が急激に伸びていき、広場を埋めていく。

オミキ「……乱れ髪の術」

フィナ(濡れてないのに、汗で頬に髪が張り付く時みたいに、じっとり絡みついてくる……!)

フィナ「嘘、切れない……」ブン ブンッ

フィナ「ぎゃあ!」グルグル

クリス「ギギギ……フジユウ」グルグル

フィナ「あの子も、飲み込まれてる……はっ!」

フィナ「よ、避けてぇ!!」

クリス「へ?」

カキンッ キンッ パリッ グシャン

力士「ふう……ついにバリアを破った」

フィナ「あ、あああ……木端微塵に……」

力士「オミキ、もう解いて良いぞ」

オミキ「はい」シュルシュル



貴腐「7人目……7個目?」

貴腐「あと1人もとっくに死んでる頃だって? それならもう少し待ってからまとめて報告して欲しかったよ」

貴腐「はい、乾杯。一杯飲んだらもう一度見てきてくれよ、せっかちなレディー」
699 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:20:01.20 ID:ESfib4sto
フィナ(終わった)

フィナ(もう逃げられない。あの子が壊された時点で詰みだった……)

力士「分かっていると思うが、逃げ場は無いぞ」のしのし

タロウ「ジュウリョウさん、ちょっと時間をちょうだい」

力士「む?」

タロウ「フィナちゃん、死ぬ前に少しおしゃべりしようよ!」

タロウ「僕としても少し惜しいんだよね。敵になってしまったけど、すごく気が合ったのは事実だからさ!」

フィナ「……さっさと殺せば。あんたたちと話すことなんて何もない」

タロウ「そんなつれないこと言わないでよ!」

武御霊「フィナ、そのほうは嘘をつかれるのが嫌いだったろう」

武御霊「すごく何か言いたそうな顔をしているじゃないか。嘘をつくのは良くないんじゃないか、ん?」

フィナ「……そうだよ。あたしは嘘つきと、人の命を軽く見てる奴が一番嫌い」

フィナ「忍者は人を殺さないなんて言って……何人殺したわけ?」

フィナ「キョウトなんて、大嫌いだ」

武御霊「そうかそうか。聞いたか、皆の衆?」

オミキ「……」

力士「妥当だ」

タロウ「ひどいなあ! さっきはあんなに興味を示してくれたのに!」

タロウ「僕たちの存在はキョウトの一つの側面に過ぎないんだからね! それで全体を嫌うなんて……君はまだキョウトを何も知らない!」

力士「おい、タロウ……」

タロウ「だからフィナちゃんにはもっとキョウトをよく知ってもらうべく……」

タロウ「ハラキリを体験してもらおうよ」ニヤリ

フィナ「……!!」ハッ
700 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:21:49.77 ID:ESfib4sto
タロウ「オミキちゃん! 脇差を一本貸してあげてよ」

オミキ「……はい」スッ コトリ


石畳に座り込むフィナの前に短い刀が置かれた。

忍魂気を纏っていない刀身は、フルフィリアの一般的な刃物とは比べ物にならないほど鋭い。


タロウ「あっ、気づいてくれた? そう、キョウトの刃物は世界一の職人技!」

タロウ「力を込めなくても軽くお腹を切り裂けるからね!」

フィナ「……」ギリッ

タロウ「なんだいその目は? その目はハラキリというものを誤解している目だ!」

タロウ「いいかい? ハラキリは名誉ある死なんだよ」

タロウ「本来なら敵にハラキリを許すということは武人としてのリスペクトを示すことに他ならないんだ」

タロウ「リスペクトされてもいない外国人のただの女の子がハラキリを許されるなんて、光栄に思うべきだよね!」

タロウ「分かったら細かい作法は抜きにして、お腹を横一文字に掻っ捌くんだ! さあ早く!」

フィナ「……!」ブルッ

力士「逃げようとしたならば、即座に頭蓋を叩き割る」

タロウ「顔も潰れてなくなっちゃうのとどっちがマシか、考えてごらんよ!」

武御霊「主ら、一人こちらに近づいてくるぞ」

力士「増援か?」

ザッ

ガドー「何やってんだ、オマエら?」

フィナ「ガドー、くん……!」バッ


彼はフィナの元師匠の後輩にあたるアサシンであり、若干15歳ながらその実力は当然フィナを大きく上回っている。

数度共に仕事をした程度の関係ではあるが、この状況においてフィナにとっての唯一の頼みの綱であった。
701 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:23:22.27 ID:ESfib4sto
ガドー「なんでボロボロ泣いてんだ? ……ああ、そういう事か」

ガドーは周囲の戦闘の痕とキョウトの民達から感じる敵意から、すぐに状況を把握した。

ガドー「安心しろ。オマエらとやりあう気はねぇよ」

フィナ「そんな事言わないで、助けてよ! 殺される……!」

ガドー「ハア……?」

フィナ「お願い! なんでもするから助けて! あたし、まだ死にたくない……」

ガドー「……なあ、オマエ誰に助けを求めてんだ?」

ガドー「アサシンのオレにオマエの命を救って何の得があるんだよ」

フィナ「得って……今それどころじゃ」

ガドー「何勘違いしてんだ。アサシン協会を裏切ったオマエはもはや同業者ですらない」

フィナ「あたしが……裏切者……?」

ガドー「そうだ。現にアサシン協会からオマエの暗殺依頼が出ている」

ガドー「フィナ、オレはオマエを殺しに来たんだよ」

その冷たい眼光に、フィナは足が震え尻もちをついた。

フィナ「ち、違う……! 裏切ったわけじゃないし……」ガタガタ

タロウ「なんだかんだ言って、君も他人の信用を失くすような事をしてるんじゃないか」

タロウ「同族嫌悪って奴だよね!」

フィナ「うるさい!」

タロウ「……立場、分かってる?」

ガドー「オマエはアサシン協会を知り過ぎた。もはやタダで関わりを断つ事はできない」

ガドー「もし生きていたらオマエの師匠、凶爪への依頼だっただろう。オレでマシだったと思え」

ガドー「だが……オレが手を下す必要もなさそうだがな」
702 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:25:11.88 ID:ESfib4sto
ガドー「オイ、オマエらの代表は誰だ」

タロウ「一応、僕だよ!」

ガドー「やる。フィナ暗殺の報酬金、30000Gだ」スッ

タロウ「い、いや……アサシン協会との縁ができるのは避けたいから、断固として受け取りを拒否するよ!」

ガドー「縁ならたった今出来ただろ?」

タロウ「だ、だけど、彼女は今からハラキリするんだ!」

タロウ「そのお金を受け取ったら僕達がフィナちゃんを殺した事になる。それは尊厳ある自死を選んだ人間への冒涜に他ならないよ」

ガドー「なるほど面倒くさい風習もあるもんだ。だが異国のしきたりを蔑ろには出来ないな」

ガドー「つまり……こうするのが正解か」スッ


ガドーは、フィナの目の前に置かれた短刀の横に30000Gを添えた。

これがフィナの命の価値。

短刀で自らの腹部を切り裂き死亡する事への対価。前払い。


フィナ「あ……」


万全の状態で一対一でも勝ち目のない敵、三人プラス一柱が周囲を取り囲んでいる。

どう転んでも無残な死。恐怖と絶望で涙が溢れる。


フィナ(何がいけなかったんだろう。何を間違えたんだろう)


なぜこうなった?

初めは、手に職をつけるために、弟子を募集していた怪しいお姉さんに話しかけた事だった。

いや、それ以前だ。ホワイトシーフギルドに所属していなければ、アサシンとも忍者とも関わる事は無かったのだ。

……全くホワイトじゃないじゃないか。

フィナは、死んで亡霊になったらホワイトシーフギルドにホワイトなんて名付けてフィナを騙した張本人を祟り殺してやろうと強く思った。
703 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:26:08.40 ID:ESfib4sto
フィナ「んぐうううう!!」


フィナは、苦悶の声を上げながら短刀を手に取った。

決心がついた。死後の目標が出来たのだ。

上手く亡霊になるための条件は分からない。だがなんとなく他人に殺されるより自分のタイミングで死んだ方が良い気がした。


フィナ「い、だああああああああ!!!!」ズプ

ズパァッ!!


深々と突き刺さる冷たい刃。背筋が凍り、全身に冷や汗が吹きだす。

続けて、短刀に力を込め、乱暴に切り裂く。

鮮血が魔法街の広場を染めた。

命の温度が失われていく虚脱感。そして耐えがたい激痛。

不鮮明な視界の中、フィナはもう一本の短刀を構えて躍りかかるオミキの姿を見た。


フィナ(ああ……自分で死なせてくれるなんてのも、嘘だったわけね)

フィナ(掌の上で弄ばれて、最低の死に方だ)
704 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:27:43.61 ID:ESfib4sto
貴腐「残りは二人。そろそろ終わりかな?」

貴腐「おっと、軍から通信だ」

貴腐「……タイミング悪いなぁ」


ざわざわ

市民「逃げろー! 貴族連中の逆襲だ!」

旅人「あわわわわ……ど、どこへ行けばいいのか……」

アナウンス『こちら陸軍本部! 市民の皆さん! 落ち着いて行動してください!』

アナウンス『ウベローゼン市北の林に武装した集団を確認!』

アナウンス『市民の皆さんは至急屋内に避難してください!』

アナウンス『貴族の反乱勢力と見られる武装集団は大勢のモンスターを引き連れています!』

アナウンス『ウベローゼン市民でない方はお近くのギルドの指示に従って冷静に行動してください!』

水魔術師「魔法局はダメ! すでに戦闘が始まってた!」

火魔術師「そうだ、俺、空から見たぞ! 講堂前で人間が真っ二つに斬られるのと、広場でオートマタが暴れているのを!」

戦士「剣士ギルド、人数オーバーで受け入れ不可! 他のギルドへ案内します!」
705 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:28:15.24 ID:ESfib4sto
女帝「ウフフッ、来たわね……」

女帝「でも私はここから動くわけにはいかないし……」

女帝「まずはさっきから町中に菌を広げて臨戦態勢の貴腐に頑張ってもらいましょう」



貴腐「うわあ貴族来ちゃったよ……面倒だな」

貴腐「いや、でもこの町には女帝が待機していたね。つまり私の出る幕は無い」

貴腐「よし、サボろう!」
706 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:29:22.38 ID:ESfib4sto
今回はここまで。
メモ帳の貴腐の能力設定を見返したら異常にめんどくさいタイプの強敵でした。他の六勇とはここまで泥仕合にはならないと思います。
707 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/27(日) 21:32:29.40 ID:hKSbO2cro

味方の主戦力が全滅してしまった…
708 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/27(日) 22:46:42.57 ID:ssSS7ovio
おつおつ
六英雄全員とガチる√なんて>>1は想定してなかったんだろうなあ、ほんまソピアちゃん茨の道爆進してんな
709 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 04:07:10.22 ID:+NOXkZsh0
ソピア強化パートには意味があったのかだけ気になるところだなあ。色々覚えたけど果たして強い奴ら全員に対応できるのかしら
710 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 10:13:17.42 ID:T4XlW96vO
死亡フラグ折れなかった人たちがここからバッタバッタと倒されていくこと考えると心が痛む
711 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 21:12:36.45 ID:00Pwex9wO
ここんとこずっと故意に地雷踏み抜くような奴が沸いてるから最後まで非安価で書ききってほしい
712 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 01:18:56.08 ID:FcHsSlLLo
仲間たちを全員失い、行き止まりに追いつめられ、不死身の侍に必殺の剣で斬りかかられたミルズ。

彼女を救ったのは市民の善意だった。

「時よ止まれ!」

侍「ヌグッ!?」ピタッ

「「掴まれっ!」」

発光する少女と金属製の箒に乗った少女が、ミルズの手を掴み離脱する。

その背後で、巨大な樽が転がり袋小路のナマクラへと迫っていた。

ミルズ(あ、あれは……!)

侍「コノ程度!」ザンッ

カッ

衝撃を受けた樽が大爆発を起こす。

「魔法競技会ぶりだね、アンブラーズのミルズさん!」

ミルズ「き、キミたちは……!」
713 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 01:22:01.74 ID:FcHsSlLLo
「前略! 平和を守る魔法少女! キュー」 ミルズ「ダメだ!」

魔法少女s「はい?」

ミルズ「キミたちは、危ない! 敵も危ないけど、主に別の意味で危ないから! 早く立ち去るんだ!」

魔法少女青「そんなっ……君を助けるための強化魔法の反動で五感を失ったのに……!」

魔法少女赤「ならせめてこれを受け取ってくれ! 私が作った魔法少女変身アプリ、男でも魔法少女に変えられるぜ!」

魔法少女黒「……その名も、機構魔盤(マキナレコード)。時は金なり……課金すればより強く変身できるわ……」

魔法少女白「動物だってこの通り、行けツノガメピンク!」 ツノガメ少女「行くぞー!」 コケッ ツノガメ少女「躓き死んだー!」 魔法少女白「すごーい! よわーい!」

魔法少女黄「ところで今日ソフィアさんいないの? アトリエを一件譲ろうと思ったのに」

魔法少女黄「そう、言うなればソフィーの  ミルズ「そういうのが危ないって忠告したんだけど!?」

ミルズ「第一、ネタの半分くらい魔法少女関係ないじゃないか!」

魔法少女白「でも少しは恐怖も紛れたよね?」ニコッ

ミルズ「……不服だけどね」
714 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 01:27:56.03 ID:FcHsSlLLo
侍「グギィ……!」フラッ

魔法少女黄「そんな……! たる・フィナーレが直撃したのに!」

剣士「ここは僕に任せたまえ!」シャラン

ミルズ「知らない人出てきた」

剣士「フッ、ご存じないかな? 剣士ギルドの王子様と呼ばれるこの僕を☆」

ミルズ「王子!? どうしてここにっ……!」

剣士「いや違うんだ! 僕は断じてミハイ王子とは違う! 子猫ちゃんと同じ平民だからそう睨むんじゃない!」

ミルズ「前!」

剣士「おっとぉ!?」サッ


2、4スレ目に登場した、火剣士テンパラスの友人である彼は、盾を持たない細剣使い。

こう見えてそこそこ強く、特に近接攻撃の回避技術には人一倍長けていた。


キアロ「娘さん、レスキューのキアロだ。治療しよう。……不思議そうな顔をしているな」

ミルズ「だって……知らない人までボクを助けに……」

キアロ「俺達は反乱貴族の手から市民を守るべく、ギルドを超えて結成した自警団だ」

キアロ「あの男は明らかに貴族とは無関係の外国人だが、目の前で危険に晒される市民を見過ごすことはできない」

キアロ「ここにいる皆、同じ気持ちだ」

剣士「その通りさ。子猫ちゃんじゃなくても助けていたとも!」

魔法少女赤「知り合いなら尚更だな」

キアロ「さて、君は避難所へ逃げなさい。魔法局以外のギルドが避難所になっている」

魔法少女黒「……私が、運命の導き手になるわ」

ミルズ「いや、一人で行くよ。それよりもあの侍を何とか止めて欲しい」

ミルズ「あの光る剣は盾でもなんでも斬れる……十分に気を付けて」

キアロ「分かった。肝に銘じておく」

魔法少女白「みんなの力を合わせれば勝てない敵なんていない!」

ミルズ「うん、信じてるよ」タッ


剣士「この戦いが終わったらさっきの子をデートに誘うんだ……」

魔法少女黄「今日は調子がいいわ! もう何も怖くない!」

ミルズ(あっ、ダメそう)
715 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 01:30:12.32 ID:FcHsSlLLo
パン職人ギルド街『美食通り』。

いつ訪れてもパンやチーズの香りが食欲を刺激する、“表の美食家”達の集まる街だ。

ミルズ(カフェ:アンブロシアには遠く及ばないけどね)

しかしミルズは“裏の美食家”アンブラーである。もはや普通の美食の香りでは心が躍らないのだ。

ミルズ(ここに来た理由は食事じゃない。貴腐の操る菌から身を隠せるかもしれないから)

ミルズ(パン職人ギルド周辺は、他の職人たちの支配下にある菌で満たされているはず……)

フェイラン「あいやーミルズ! さっきぶりある!」

イリス「ウチらもこれから遅めの昼食なんだけど、一緒にどう?」

ミルズ「キミたちはさっきの……そうか、無事だったんだ」

ミルズ(貴腐に会ってないから狙われてなかったんだ……!)

イリス「あー、ごめんね。食事したら合流しようと思ってたんだ」

フェイラン「満腹なたら、あのでかい奴にリベンジするネ!」

ミルズ「いや、もう諦めた方がいいね。……六勇の貴腐が敵の用心棒だった」

イリス「げっ……。ま、まさか、ウチらも貴腐の標的だったり……?」

ミルズ「それは大丈夫だと思う。二人は貴腐が出てきた時にいなかったから」

フェイラン「ミルズは会っちまったあるか……」

ミルズ「うん、ボクも襲われた。けど、出てきた時じゃ…………あれ?」
716 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 01:35:36.09 ID:FcHsSlLLo
ミルズ(確かに襲われたけど、貴腐はまずボクじゃなくリウムの友達を狙って……)

ミルズ(ボクには、お茶をしようと迫ってきたような……?)

イリス「どうしたの?」

ミルズ「……いや、何でもないよ。とにかくこの件は関わってない事にして……」

フェイラン「イリス。私たち顔知られてないから不意打てるあるネ?」

イリス「だねぇ。二人で貴腐、ぶっ飛ばしてやろうじゃん?」

ミルズ(まさか、ボクはリウム達の仲間だと、貴腐には思われてない……?)

イリス「その前にまずは食事ね。ほら、ここウチの店。入って入ってー」

ミルズ「あ……お邪魔します」カランカラン

フェイラン「待つよろし! 入口の消毒ポーションで手を除菌するネ!」

イリス「決まりなんだ。菌が混じるといけないからさ」

ミルズ「…………!! 今、なんて言った!?」

イリス「この消毒ポーションで手を綺麗にしないと、パンに雑菌が付着しちゃうでしょって言ってんの」

ミルズ「消毒ポーション……医療用の……殺菌魔法!!」

ミルズ「行ってくる!」ダッ

フェイラン「どこ行くあるか!」

ミルズ「……貴腐退治っ!!」
717 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 01:49:21.88 ID:FcHsSlLLo
キョウトの民に裏切られ、アサシン協会に裏切られ、ついに自害を強いられたフィナ。

しかし彼女を救ったのもまた、一つの裏切りだった。

タンッ タンッ ズバッ

ガドー「」

力士「」

子狐「ぎええ! やられた!」

タロウ「じ、ジュウリョウさん!? アサシンのキミも!?」

タロウ「オミキちゃん、何してんの!?」

オミキ「春眠の術です」

タロウ「そうじゃなくて!」

オミキ「言いましたよね、タロウさん」

オミキ「キョウト国のために働いてくれ、って」

タロウ「そうだよ、だってそれがオミキちゃんの生きる理由なんだろう!?」

オミキ「はい。人の役に立ちたくてあなたの手伝いをしてきたんですけど……」

オミキ「よく考えたら、これ、キョウト国のためになってますか?」

タロウ「え?」

オミキ「寄ってたかって取り囲んで、泣き叫ぶ女の子に無理やりハラキリさせる事は、別にキョウトの利益にならないんじゃないかな、と」

タロウ「なるんだよ! 商売の邪魔じゃん! 然るべき所に告発されたらキョウト国全体の立場が悪くなるんだよ!」

オミキ「でしたら、普通にお天道様に顔向けできる商売をすればいいのでは……」

タロウ「夢中草! 多少リスクを冒しても夢中草を流通させた方が後々利益になるんだって!」

オミキ「神社に閉じ込めて、夢中草入りの食事を与え続けて、手駒にした方がお得なのでは……」

タロウ「ああいえばこう言う! 黙って僕の言う事を聞きなよ! 誰の持ち物だと思ってんの!」

オミキ「……私は、武御霊神社の人形供養堂で目覚めました」

オミキ「従うのは、タケミタマ様のご命令だけです」
718 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 01:50:47.42 ID:FcHsSlLLo
子狐「……昔、我はこう命じた」

子狐「『何をすれば他者の役に立てるのか、それは時と場合によって大きく変わる』」

子狐「『我の言う事ばかり聞かず、何をするべきか自分で考えて行動しなさい』」

子狐「その結果がこれじゃよ! なぜ我だけ術を使わず普通に斬った!? いやそもそも斬らんでも子狐の姿に戻した時点で無力化できてるというのに!」

オミキ「ええと……頭のキノコがそうさせました」

子狐「嘘こけい、この反抗期人形! 神で遊ぶな!」

フィナ「……」ガクガク

オミキ「大変! フィナさんが死にそうです。タケミタマ様、すぐに治療を」

子狐「今日一日はもう絶対に手を貸さんと……」

オミキ「治療しなさい」

子狐「えぇ……しなさいだと……。嫌じゃなー。やりたくないなー」

タロウ「なんだよなんだよ! まだ僕は納得してないからね!?」

オミキ「私は……フィナさんを助けた方が、キョウト国、ひいてはタロウさんのためになると思いました」

タロウ「意味が分からないよ!」
719 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 01:58:57.13 ID:FcHsSlLLo
フィナ「……オミキ先輩? 痛つっ!」

オミキ「我慢してください。綺麗に合わせないと傷が残りますので……」

子狐「修復終わり。だが、後で医者に診てもらいなさい」

子狐「あちらの人形と店は直せんなー。ちょっとバラバラにし過ぎた」

フィナ「なんで、あたしの治療を……」

子狐「実は、急で悪いがその方の陣営へ寝返ることになった」

フィナ「そっか……ありがとう」

オミキ「先程までの無礼、水に流していただけますか?」

フィナ「……いいよ、一旦ね」

タロウ「ちょっ! いやいやおかしいでしょ! また唐突に命を狙われるかもしれないよ!」

タロウ「なんたって長い付き合いの僕さえも裏切るんだからね! あっさりと立場を変える相手を信じられる!?」

フィナ「えっ……信じるけど」

フィナ「だってこいつらってそういうものだしさ」

フィナ「何考えてるか分かんないし遺恨が残る人間よりもよっぽど付き合いやすいわ!」

タロウ「ま、待ってくれ。話が見えないよ」

フィナ「へー、自分の仲間のことすらよく知らないんだね」

フィナ「キョウトの恐ろしさを教えてくれたお礼に、冒険者のあたしが魔法系モンスターの厄介さについて教えてあげる!」
720 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 01:59:33.79 ID:FcHsSlLLo
フィナ「オミキ先輩は、人形系モンスターのオートマタ」

オミキ「キョウトでは禍雛と呼ばれています」

フィナ「オートマタっていうのは、使命を持って生まれてくるわけ」

フィナ「大抵の場合は、生まれた場所を守ろうとして人間に襲い掛かってくる、理性のないモンスターなんだけど」

フィナ「生まれた場所によっては、少なくとも表面的には人間と親しくしないといけないような使命を持ったオートマタになる」

フィナ「例えば仕立て屋の子はお店を営業する事。オミキ先輩はたぶん、神社の参拝者を増やす事じゃないかな?」

オミキ「大体そんな感じです」

フィナ「オートマタは使命のために行動する。あくまで人間は利用するだけ」

フィナ「オートマタにとっては、あたしもあんたも、どうでもいい存在なんだよ! だからすぐに立場を変えられる!」

タロウ「な、なんだってー!?」

オミキ「どうでもよくはないんですけど……」


フィナ「そして神。キョウトではどうだか知らないけど、フルフィリアやノーディスでは妖精が大幅に強化された姿だと言われてる」

フィナ「でも結局のところ妖精! だから契約している木霊主には決して逆らえない!」

オミキ「キョウトでは神職です。木霊主は……確かジャルバ王国の森林地域の言葉ですね」

子狐「そう、決して逆らえない……。誰か助けて……」
721 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 02:00:30.27 ID:FcHsSlLLo
フィナ「オートマタは利害関係が一致すれば安全!」

フィナ「神は、使役してる人が仲間なら安全!」

フィナ「そういうものなんだよ!」

タロウ「で、でもまた心変わりするかもしれないだろう? やっぱりフィナちゃんを殺した方がキョウトのためになると考え直す可能性だって……」

フィナ「あっ……でも、そこまで頻繁に変わるわけじゃないと、思う、けど……」

オミキ「心配ないです。よく考えたので」

フィナ「ほら!」

タロウ「君、バカだってよく言われない?」

フィナ「ゲスよりはマシだよ!」

子狐「そんなことより、いいのか? タロウ、その方に身を守る者はいないんじゃぞ?」

力士ジュウリョウとアサシンのガドーは春眠の術で眠らされている。

オミキが解除するまで起こす方法は無い。

タロウ「……切腹が必要なのは僕の方だったか」

タロウ「キョウト男児として、甘んじて死を受け入れるよ」

フィナ「は? いやいや、それって許しが必要なんでしょ?」

フィナ「ダメだし。名誉とかなんとか言ってハラキリで逃げるなんて許さないから」

フィナ「あんたはフルフィリアの法律で裁かれなさい!」

タロウ「う、ぐぐぐ…………」

ダッ

フィナ「逃走した!」
722 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 02:02:19.26 ID:FcHsSlLLo
オミキ「追いますか?」

フィナ「いや……今は一緒にいて欲しいかな」

フィナ「お腹、痛いし……」

オミキ「……ちゃんと治療しましたか?」

子狐「した! 内臓ぐちゃぐちゃだったけどどうにか戻した!」


クリス「」

フィナ「あの子の顔……もう動かないんだ」

オミキ「ごめんなさい。もう少し早く考えがまとまっていれば……」

フィナ「あたしがハラキリするまで迷ってたんでしょ? ……しょうがない」

フィナ「先輩、どうするの? これから……」

オミキ「今まで通りです。神主さんは理解してくださるでしょうから」

子狐「我がいる側が正義じゃー。キョウトは敵にはならん」

フィナ「そっか、少し安心した……」
723 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 02:03:24.37 ID:FcHsSlLLo
パキッ

フィナ「何の音……ああっ!」

オミキの頭の上、貴腐が植え付けた身体能力強化のキノコが肥大化していた。

音を立ててオミキの頭部が割れていく。

子狐「い、いかん! はっ!」ピカッ

ボシュ

フィナ「先輩!」

子狐「おのれ、そういう仕込みじゃったか……! キノコは消したが……」

フィナ「ああ……先輩の頭が……!」

子狐「たった今……我は自由に術を行使した。そういうことじゃ……」

フィナ「嘘……仲直り、できたのに……」

フィナ「許さない……貴腐……ッ!」
724 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 02:05:12.24 ID:FcHsSlLLo
フィナ「…………」

目の前のオミキは立ったまま動かない。

割れた首から忍者の技に使用する墨色の忍魂気が漏れ出ている。

周囲には倒れたままのジュウリョウとガドー。

そして、バラバラになった仕立て屋人形クリスティと、使役していたマネキン。

フィナ「……よし」スッ

子狐「な、何しとんじゃー!?」


1.クリスティの頭部をオミキの胴体に乗せる
2.忍魂気を吸う
3.倒れた二人から装備品をはぎ取る

↓2
725 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 02:05:41.01 ID:FcHsSlLLo
今回はここまで、久しぶりの選択安価。
結果は見えてますが次回ようやく貴腐との決戦です。できるだけ早めに。
726 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/01(日) 08:55:53.99 ID:jULDeyQX0
1
727 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/01(日) 15:30:30.95 ID:yGVh6AM1O

ようやく反撃だな(フラグ)
728 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/30(月) 12:19:35.84 ID:LxuuqYcWO
いちおーほしゅ
729 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/06(月) 17:24:20.19 ID:Z830dGG0O
^ - ^
730 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/22(水) 11:30:38.98 ID:KDC/pyPAO
もうそろそろ2ヶ月になっちゃう
731 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/11/29(水) 15:13:20.18 ID:iKiGxS3ko
全然早めに書けなかった……貴腐編ラストまで書きあがってないので保守します
732 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/29(水) 15:43:04.49 ID:uU4hob7io
乙です
ミルズもフィナも>>1もみんながんばれ
733 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/29(水) 19:47:44.71 ID:NnsqFx4AO
734 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/25(月) 23:48:42.11 ID:hNuKEn5D0
メリクリ
735 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/27(水) 16:41:01.77 ID:veIecu94O
あけおめも近い
736 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/27(水) 16:43:33.03 ID:D+zpSNwGo
新年早々におみくじでミスプリントを引き当てるソピア
737 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/30(土) 17:26:40.57 ID:pwBaJh6Bo
(運がわるいのかもうここまで来ると逆にいいのか)これもうわかんねぇな
738 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/20(土) 17:17:56.39 ID:x0AeRjwSO
一応1/29には生存報告欲しいが
739 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/01/28(日) 18:28:56.58 ID:qmvzqKdUo
生存報告。この分だといつまでも終わらせられないので六勇の半数はダイジェストで倒すことになりそうです。


>>736

フィナ「見て見て先輩ー! 大吉!」

オミキ「うちの神社、元日には大吉しか入れてないんですよ」

フィナ「なーんだ残念」

フィナ「ってことはソフィーも大吉だった?」

ソピア「ねえ……」

ソピア「『はずれ』って書いて入れたの、誰?」
740 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/28(日) 20:13:42.87 ID:luO5Tn7uO
おつん
ソピアは男性陣よりも女性陣から貰うチョコが多そう
741 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/28(日) 23:40:06.26 ID:SCoxEXjPo
草ァ!
742 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/31(水) 17:10:55.94 ID:hq4JHQYn0
もう魔人先生がパパっと全員倒しちゃえばいいんじゃないかな…
743 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/25(日) 16:14:28.93 ID:XNPyxRZL0
そろそろ保守しとく
744 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/26(月) 09:06:46.23 ID:xt5xtTsM0
いつくるのかなあ
745 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/26(月) 09:19:53.99 ID:iAB0vMML0
ageてんじゃねぇよ
746 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/16(金) 17:26:58.95 ID:TsNA4NPdO
まだ?
747 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/23(金) 13:44:59.17 ID:1VIeog2eO
あと5日したら生存報告一応くれ
748 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 18:23:11.63 ID:vJoHq88Do
子狐「な、何しとんじゃー!?」

フィナは、おもむろにクリスティの頭部を持ち上げると、オミキの残された胴体の上に乗せた。

フィナ「ちょうどサイズが合ってると思ってさ」

フィナ「ほら、違和感ないじゃん。これで直せる?」

子狐「いや部品が間違っておるし!」

フィナ「あってるよ。先輩の頭残ってないし間違えるわけないじゃん。おっかしーw」

子狐「笑いごとじゃなーい! 取り返しのつかない事になったらどうする!」

フィナ「まあまあまあまあ、とりあえず繋いでみようよ」

フィナ「何かあったらまた首を壊せば元通りだし」

子狐「倫理観がおかしい!」

フィナ「お願い! 貴腐に対抗するには戦力が必要なの!」

フィナ「どっちか復活してくれたらとっても助かるんだって!」

子狐「しかしなあ……」

フィナ「……ねえ、オートマタの中心がどこにあるか、気にならない?」

フィナ「頭なのか、心臓なのか、壊れたら消えちゃうのか、さ」

子狐「……」
749 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 18:35:07.33 ID:vJoHq88Do
数分後……

オートマタ「大変です! 混ざりましたー!」

首から上だけ西洋人形の雛人形は元気に動き出した!

子狐「ま、混ざったとは一体……」

オートマタ「わたしと私の心が混ざって一つになりました!」

フィナ・子狐「「ええええええ」」

フィナ「や、やばい……首を壊してもどうにもならなさそう」

子狐「だから言ったろうー! 取り返しのつかないことになると!」

フィナ「先輩、仕立て屋さん、本当にごめんなさい!」ペコッ

オートマタ「顔を上げてください。わたしは別に気にしてませんよ」

オートマタ「ほら、もうお面つけなくても人間らしい表情ができますし、記憶力も上がったんですよ、フィナお姉さん!」ニコッ

フィナ「う、うん、それはよかったね……」

オートマタ「グー、パー……。体はちゃんと動きます。忍術も裁縫も今まで通り使えそうですね」

オートマタ「あとあと、魔法と巫女のスキルも忘れてませんよ!」

子狐「ぐわあ! また支配下に置かれた!」

フィナ「でもフローラと神主さんになんて説明しよう……」

オートマタ「私はわたしですし、好きにさせてもらいます」

オートマタ「使命感も薄まりましたからね。わたしは……自由です!」

フィナ「そ、そっか……」

オートマタ「でもできればまたお店は持ちたいですねー。着物作ります」

オートマタ「あ、私のことはオミキでもクリスティでもミキティでも好きなように呼んでくださいね」

子狐「名前を絶妙に混ぜるな」

フィナ「もう先輩は先輩でいいや」

フィナ(でもなんだか貴腐に勝てる気がしてきた)

フィナ(だってさあ……スペック高すぎない? 忍者+木霊主+人形師+全属性魔術師だよ?)
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