元お嬢様「安価とコンマで最終決戦?」元メイド「8ですぅ」

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686 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:58:16.29 ID:ESfib4sto
ガルァシア「先に行け!」

ミルズ「わ、わかった!」ダッ

ガルァシアは咄嗟に停止魔法陣を出現させ、魔法弾で牽制を行う。

侍「フン!」ザンッ ザンッ

しかし、侍は魔法弾を避けもせずに突っ込む。さらに地面ごと魔法陣を斬り裂き、無効化してしまう。

ガルァシア(……先程よりも強くなっている!)

最後の抵抗。岩の壁を出現させる。

盾ではない。敵の足元に出現させ、突き上げる。

侍「ヌゥウウ!」

足を取られ、バランスを崩して前のめりになる侍は、そのまま空中で前転しながら刀を振るった。

ガルァシア(化け物め……!)

ズバッ!!


貴腐「もう六人目? 早かったね」

貴腐「侍の彼はよく頑張ってくれるなぁ。その健闘に乾杯!」

敵方の残り戦力は振り出しに戻る。魔術師100人と不死の武人3人。

対するは、たった数人の無力な少女。
687 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:58:53.25 ID:ESfib4sto
ミルズ「来る……殺される……!」

ガルァシアはほとんど時間を稼ぐことなく、殺された。

ミルズがナマクラに追いつかれるのも時間の問題だった。

ミルズ「助けて! 誰か!」

しかし、運悪く人通りのほとんどない地区。

とうとう、行き止まりに追いつめられた。塀を乗り越える体力はもはや無い。

侍「斬ル……オマエデサイゴ……!」

ミルズ(もう駄目だ)

ミルズ(これ以上無いほどの、詰み)

ミルズ(……希望なんてどこにもなかった)
688 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 20:59:48.25 ID:ESfib4sto
一方、リウムと別れたフィナは魔法街の仕立て屋に戻ってきていた。

カランカラン

クリス「いらっしゃいませ!」

フィナ「やっぱりここにいた」

クリス「あっ、殺し屋さん。さっきぶりです!」

フィナ「その呼び方やめてって言ったよね!?」

クリス「ごめんなさい! とりあえずお茶菓子持ってきますね」

フィナ「悠長にお菓子食べてる暇はないんだよ! 状況分かってる!?」

クリス「悪い人の戦いに巻き込まれて追いかけられてるんですよね?」

フィナ「えっ、分かってるの?」

クリス「分かってますっ。だからここに帰って来たんです!」

クリス「わたしの生きる理由は、このお店を営業すること!」

クリス「何があってもお店は守ります。わたしが死ぬときはお店と一緒です!」

フィナ「そっか……。オートマタだもんね」

クリス「殺し屋さんはなぜここに? 危ないですよ!」

フィナ「いろいろ考えてさ。あなたを守ることにした」

フィナ「フローラのためにね。ここ、フローラがオーナーなんでしょ」

クリス「はいっ」

フィナ「もうさ。あたしがその人のために何かしたいって、信じたいって思えるのがフローラしかいなかったんだ」

クリス「へぇ、そうなんですか」

クリス「わたしにはそういう人、誰もいません!」

フィナ「そ、そっか」
689 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:01:46.23 ID:ESfib4sto
結局、フィナは厚意に甘えてお茶菓子を食べた。

フィナ「ところでさ、あなた名前ないの?」

フィナ「呼びづらくてしょうがないんだけど」

クリス「あっ、ごめんなさい」

クリス「クリスティ 1〇〇〇です。ここに書いてあります!」

仕立て屋の娘さんは背中を指さした。

フィナ「……それって製作者と製作年度じゃない?」

クリス「はい、そうらしいですよ」

フィナ「えーと、自分だけの名前って無いわけ? フローラにはなんて呼ばれてるの?」

クリス「ああっ! 今ので思い出しました!」

クリス「初めて会った日に、オーナーさんに名前をつけてもらったんです!」

フィナ「それそれ! あるんじゃん、なんていうの?」

クリス「忘れました!」

フィナ「ズコー!」

クリス「そうでした! わたしがあまりに忘れっぽいので、いつでも思い出せるようにオーナーさんがヒントを残してくれていたんです!」

クリス「この花瓶ですっ!」バッ

フィナ「とっくの昔に枯れ果ててるー!」

クリス「これじゃわかりません。ぐすん」

クリス「こうなったら勘です。きっとわたしは……ハエトリグサ!」

フィナ「それだけは絶対にない!」


フィナ「この店、においしないね」

クリス「はい。お洋服ににおいが移るといけないので、魔法で何とかしました」

クリス「お店には入ってこれませんよっ」

フィナ「やるじゃん」

フィナ「このまま、あいつらが諦めるまで隠れられるかな?」

クリス「わかりません。でもそうだったらいいですね」
690 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:04:21.01 ID:ESfib4sto
約一時間後。

町を練り歩いていたキョウトの民達が、魔法街の広場に近づいていた。

時折、カーテンの隙間から外の様子を窺っていたフィナは、一目見てその特徴的な集団を認識する。

まず目を引くのは3mを超える巨漢のシルエットだ。腕も脚も胴回りも非常に太いが、ほとんどは筋肉によるものだ。

人間一人握りつぶせそうな大きな右手は鮮血で真っ赤に染まっている。

フィナ(さっき、誰か殺されたんだ)

その隣で早歩きで移動しているのはあまりにも小柄な少女。70cm前後、仕立て屋の娘とほぼ同じサイズしかない。

巫女の正装である色鮮やかな緋袴は動きやすいように膝下までの長さで止められており、丈夫そうな足袋が露わになっている。

フィナ(あれは、気配を消す歩法……普通の人にはそこにいる事さえ認識できない)

フィナ(見抜き方は、師匠から教わった)

その師匠と同等か、それ以上に危険な敵。

願わくば、気付かずに通り過ぎて欲しかったが……。

フィナ(あのキツネが、マリンと同じなら……)


武御霊「主ら! 見つけたぞ。あの店じゃー」

武神タケミタマはソピアの使い魔マリンと同じ風精に属していた。

風の妖精は皆、一定範囲の人間・モンスターの探知能力を有している。

オミキ「そうですね。言われなくても分かってました」

力士「なんで?」

オミキ「分かるんです。同じ……ですから」

タロウ「それって敵も分かるって事じゃないか。気を付けて!」

オミキ「はい。奇襲は諦めます」
691 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:05:19.66 ID:ESfib4sto
フィナ「……来たよ。まっすぐこっちに向かってきてる。どうする?」

クリス「迎え撃ちますっ。先手必勝です!」

ガチャッ


タロウ「き、来たよ!」

力士「手下の人形か。小癪な」

仕立て屋の扉から姿を現したのは三体のマネキン人形。

腕の先がトゲの生えた鉄球となっており、その不自然な動きは糸で操られるマリオネットそのもの。

マネキンが襲い掛かる。

オミキ「遅すぎます」ヒョイッ

力士「この程度か……壊すのも面倒だ」

しかし、キョウトの武人達は強者の勲章を得るための百兵の試練を十分に達成できるほどの猛者。

その上、貴腐のキノコによって強化されている。

付け焼刃のマリオネット操作では全くと言っていいほど攻撃が当たらなかった。

力士「ぬん!」バッ

一体のマネキンが張り手を間一髪で避ける。

しかし、ジュウリョウが踏み込んだ右足が石畳を激しく吹き飛ばし、張り手の衝撃が正面にあったカフェを破壊する。


フィナ「ああっ! 吸血鬼に壊された魔法街の修復工事が終わったばかりなのに!」

フィナ「しかもあれ、エルミス行きつけのカフェじゃん。あーあ……」


オミキ「ジュウリョウさん。不利ですけど、ここは私に任せてください」

力士「操り手を壊せば良いのか。分かった」ズシズシ

タロウ「春眠の術は生物にしか効かないんだったね?」

オミキ「ええ。しかし、加減する必要もないので……」
692 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:08:01.84 ID:ESfib4sto
クリス「おっきい人がこっちに来ます!」

フィナ「分かってる! ……ええい!」

ガチャッ

フィナ「あ、あたしが相手だ! 手出しは、させない……!」

フィナは仕立て屋を守るため入口の前に立ちはだかった。

しかし、それでも武器を握ることはできなかった。

力士「素手で俺に挑むとは、愚の骨頂」

力士「俺たちはキョウト国における徒手戦闘の頂点だ。小娘が……。舐めおって」ブォン!

フィナは素早く横に回り込み攻撃を避ける。

フィナ(手刀でも、師匠に教わった急所を突けばなんとかなるかと思ったけど……)

フィナ(敵が大きすぎて急所に手が届かない、無理!)


オミキ「朝靄の術」

フィナ「っ!」バッ ガチャッ

オミキの足元から白く濃い煙があふれ出すのを見て、フィナは即座に仕立て屋の中へ逃げ込む。

フィナ(しゃがんで気配を薄めるのが通用する相手じゃないし、逃げたらお店が危ない!)

バキン ボキッ グシャッ

衝撃音の後、軽い風が吹いてもやが晴れる。武神の能力だろう。

三体のマネキンはオミキによって破壊されていた。
693 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:09:35.44 ID:ESfib4sto
クリス「はわわ! 武器が壊されちゃいました!」

フィナ「もう立てこもってられないよ!」

クリス「はいっ! お店はわたしが命をかけて守ります!」

ガチャッ

フィナ(逃げるなんて選択肢は無い。一人でもいいから、倒す!)スッ

力士「この期に及んで手刀とは……。その腰の短剣は飾りか?」


クリス「よくも壊しましたね! えーい!」

フィナ(強力な熱線と水圧カッターの同時撃ち! しかも後方斜め上から太陽光線!)

フィナ(別々の属性の魔法攻撃でたしか全部中級以上……これができる人間の魔術師はほとんどいない)

フィナ(相変わらずとんでもないなぁ。でも……)

フィナ(頭のキノコのせいか、オミキさん、師匠より速くなってんだけど……!)

ヒュヒュヒュヒュ グイッ

オミキ「何か引っかかって……?」

クリス「かかりましたねっ。マリオネット糸! もう避けさせません!」

オミキ「鎌鼬の術」ズババッ!

フィナ(忍魂気でできた巨大な手裏剣! しかも追尾する!)

クリス「ば、バリアー!」

フィナ(ほっ)

力士「よそ見か……馬鹿にするなッ!」ブン

フィナ「うわああっ!」サッ
694 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:10:18.53 ID:ESfib4sto
力士「ううむ、すばしこい」

オミキ「ジュウリョウさん、代わってください。私の武器では、バリアが……」

力士「致し方なし。俺の速さでは攻撃が当たらん。悔しいが……交代だ」

フィナ(マズい、相性差に気づかれた……)


タロウ「タケミタマ様、手伝わなくていいんですか?」

武御霊「助けを求められていないんじゃ。恐らく、武人としてのプライドが理由で」

タロウ「そんなのどうでもいいから一気に終わらせればいいのに!」


フィナ「そのでかいのにバリアは通用しないよ、頑張って避けて!」

クリス「はーい!」

オミキ「……」テクテク

フィナ(来る!)

チリン

フィナ(後ろ!)バッ

フィナ(あれっ、鈴だけ落ちて……。やられた!)

ガバッ

フィナ「っ!?」

フィナ「えっ? ……オミキ、先輩? 抱き着……」
695 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:11:02.34 ID:ESfib4sto
オミキ「吸魂」ズオオオ

フィナ「あ、あがぁぁぁぁぁっ!!」

フィナ「う……」ドサッ

ヒュッ

オミキ「タケミタマ様。注魂です」

武御霊「来た来た! 久しぶりの生贄じゃー!」

武御霊「力が、みなぎる……!」

武御霊「狙いは……そちらじゃ。神風・野分」

ゴオオオオオ

フィナ(凄い風、倒れてなかったら危なかった……)

フィナ(周りはどうなった? あの娘は、でかい奴は、町は……)

ヒュウウウ……

フィナ「……! お店が……!」

仕立て屋および周辺の家屋は、局地的な暴風によって無残にも全壊していた。

クリス「……」

フィナ「ね、ねえ。大丈夫……?」ヨロッ

クリス「アナタ?」グリン!

フィナ「っ!?」

クリス「コワシタノ、アナタ?」カチャッ

仕立て屋人形は、人間の動きをやめた。
696 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:12:45.31 ID:ESfib4sto
力士「あれはどうしたんだ? 関節の動きも、声の抑揚もおかしい」

オミキ「人間の真似をする理由を無くしたんです」

タロウ「拠り所を失って暴走してるんだよ。もう、自分がどこの誰かも分かってないだろうね」


壊れたはずのマネキンが立ち上がる。

フィナ「な、なんであたしに攻撃するの!?」

精神力を吸われ、身体に力が入らないフィナを、パーツ単位に分かれたマネキンの打撃が襲う。

一方、それらを操る本体はキョウトの人々に狙いを定めていた。

タロウ「ひええこっち来たキモい!」

オミキ「下がってください」

人形は、後ろ向きのでんぐり返しのような動きで向かってくる。

三半規管、内臓、筋肉、その他もろもろを無視して、人体が最も効率よく前進するための動きだ。

オミキ「ああはなりたくないですね……」ヒュッ

ガシッ

オミキ「しまった……」

クリス「コワシカエシ! コワシカエシ!」

念力の一種か、オミキは見えない力で身動きを封じられていた。

素早い移動を得意とし、体重の軽いオミキにとって、捕縛は最も警戒すべき攻撃だった。

もちろん縄による拘束や魔法陣への対策はしていたが、全方向からの単純な圧力を妨害する手立てはなかった。

クリス「アナタ、コワシテ、オミセ、タテル!」

ドゥッ バキン

風魔術の直撃を受け、壁に叩きつけられたオミキ。

その狐の面が衝撃によって割れ、素顔が露わになる。

タロウ「あちゃー!」

フィナ「えっ……」
697 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:15:48.38 ID:ESfib4sto
その顔は不自然に白く。細い目にはまつ毛が無く。

オミキ「面が……。直せませんね……」

表情は変わらず、口も微動だにしていない。

明らかな作り物であった。

フィナ「二重の、お面……?」

辛くもマネキンの残骸から距離をとったフィナは困惑していた。

タロウ「知らない? 呪いのキョウト人形」

タロウ「正式名称は用途や地域別に違うんだけど、僕たちも総称するときはキョウト人形と呼ぶことが多いね」

タロウ「フルフィリア人形と違って単純な美術品じゃなく、子供の成長を願ったり、厄を祓ったりといった祭事に用いる事が多いかな」

タロウ「ちなみに商品じゃないからね!」

フィナ「……それにしては結構大きいような」

タロウ「タケミタマ様の御力だよ。オミキちゃんだけじゃなくジュウリョウさんも大きくしてもらってる!」

タロウ「ただでさえ平均身長が低い国なのに十尺もある大男なんているわけないだろう?」

フィナ(駄目だこの人……。あたしよりも口が軽い……)


力士「今ッ!」バチン

カキンッ

クリス「ランボウハヤメテー」

力士「ぬう……死角が存在しないというのは本当だったか」

オミキ「さて……どうしましょう」

人形であるオミキには急所への打撃、死角を突く移動のように人体の構造に由来する戦法が通用しない。

また、眠る事がないため春眠の術などの意識を奪う技も効果が無い。故に、忍者同士の戦いにおいてほぼ無敵であった。

しかしその特性が今、目の前に立ちふさがっている。

フィナ(筋肉を持たない魔法系モンスターのオートマタには、骨のモンスターと同様に打撃が有効)

フィナ(でもあの子には魔法があるから、大男程度の速さじゃ直前にバリアを貼られて衝撃を殺されてしまう)

フィナ(オミキさんのスピードなら攻撃は当たるけどダメージにならない。なぜなら筋肉が無いから)

フィナ(裏通りで、春眠の術はあの子には効いてなかった)

フィナ(このまま撃退できるかも……)
698 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:18:32.77 ID:ESfib4sto
武御霊「忍者の技が使えないなら、我の力を借りる他ないんじゃないか? んん?」

オミキ「うざいので絶対に頼みません」

武御霊「言ったなー!? だったら今日一日は頼んでも手を貸してやらんもんね!」

クリス「ヤッター、コワシヤスイ!」カタカタ

オミキ「人の技で対応できないのなら……」

ザワッ

オミキのおかっぱの髪が急激に伸びていき、広場を埋めていく。

オミキ「……乱れ髪の術」

フィナ(濡れてないのに、汗で頬に髪が張り付く時みたいに、じっとり絡みついてくる……!)

フィナ「嘘、切れない……」ブン ブンッ

フィナ「ぎゃあ!」グルグル

クリス「ギギギ……フジユウ」グルグル

フィナ「あの子も、飲み込まれてる……はっ!」

フィナ「よ、避けてぇ!!」

クリス「へ?」

カキンッ キンッ パリッ グシャン

力士「ふう……ついにバリアを破った」

フィナ「あ、あああ……木端微塵に……」

力士「オミキ、もう解いて良いぞ」

オミキ「はい」シュルシュル



貴腐「7人目……7個目?」

貴腐「あと1人もとっくに死んでる頃だって? それならもう少し待ってからまとめて報告して欲しかったよ」

貴腐「はい、乾杯。一杯飲んだらもう一度見てきてくれよ、せっかちなレディー」
699 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:20:01.20 ID:ESfib4sto
フィナ(終わった)

フィナ(もう逃げられない。あの子が壊された時点で詰みだった……)

力士「分かっていると思うが、逃げ場は無いぞ」のしのし

タロウ「ジュウリョウさん、ちょっと時間をちょうだい」

力士「む?」

タロウ「フィナちゃん、死ぬ前に少しおしゃべりしようよ!」

タロウ「僕としても少し惜しいんだよね。敵になってしまったけど、すごく気が合ったのは事実だからさ!」

フィナ「……さっさと殺せば。あんたたちと話すことなんて何もない」

タロウ「そんなつれないこと言わないでよ!」

武御霊「フィナ、そのほうは嘘をつかれるのが嫌いだったろう」

武御霊「すごく何か言いたそうな顔をしているじゃないか。嘘をつくのは良くないんじゃないか、ん?」

フィナ「……そうだよ。あたしは嘘つきと、人の命を軽く見てる奴が一番嫌い」

フィナ「忍者は人を殺さないなんて言って……何人殺したわけ?」

フィナ「キョウトなんて、大嫌いだ」

武御霊「そうかそうか。聞いたか、皆の衆?」

オミキ「……」

力士「妥当だ」

タロウ「ひどいなあ! さっきはあんなに興味を示してくれたのに!」

タロウ「僕たちの存在はキョウトの一つの側面に過ぎないんだからね! それで全体を嫌うなんて……君はまだキョウトを何も知らない!」

力士「おい、タロウ……」

タロウ「だからフィナちゃんにはもっとキョウトをよく知ってもらうべく……」

タロウ「ハラキリを体験してもらおうよ」ニヤリ

フィナ「……!!」ハッ
700 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:21:49.77 ID:ESfib4sto
タロウ「オミキちゃん! 脇差を一本貸してあげてよ」

オミキ「……はい」スッ コトリ


石畳に座り込むフィナの前に短い刀が置かれた。

忍魂気を纏っていない刀身は、フルフィリアの一般的な刃物とは比べ物にならないほど鋭い。


タロウ「あっ、気づいてくれた? そう、キョウトの刃物は世界一の職人技!」

タロウ「力を込めなくても軽くお腹を切り裂けるからね!」

フィナ「……」ギリッ

タロウ「なんだいその目は? その目はハラキリというものを誤解している目だ!」

タロウ「いいかい? ハラキリは名誉ある死なんだよ」

タロウ「本来なら敵にハラキリを許すということは武人としてのリスペクトを示すことに他ならないんだ」

タロウ「リスペクトされてもいない外国人のただの女の子がハラキリを許されるなんて、光栄に思うべきだよね!」

タロウ「分かったら細かい作法は抜きにして、お腹を横一文字に掻っ捌くんだ! さあ早く!」

フィナ「……!」ブルッ

力士「逃げようとしたならば、即座に頭蓋を叩き割る」

タロウ「顔も潰れてなくなっちゃうのとどっちがマシか、考えてごらんよ!」

武御霊「主ら、一人こちらに近づいてくるぞ」

力士「増援か?」

ザッ

ガドー「何やってんだ、オマエら?」

フィナ「ガドー、くん……!」バッ


彼はフィナの元師匠の後輩にあたるアサシンであり、若干15歳ながらその実力は当然フィナを大きく上回っている。

数度共に仕事をした程度の関係ではあるが、この状況においてフィナにとっての唯一の頼みの綱であった。
701 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:23:22.27 ID:ESfib4sto
ガドー「なんでボロボロ泣いてんだ? ……ああ、そういう事か」

ガドーは周囲の戦闘の痕とキョウトの民達から感じる敵意から、すぐに状況を把握した。

ガドー「安心しろ。オマエらとやりあう気はねぇよ」

フィナ「そんな事言わないで、助けてよ! 殺される……!」

ガドー「ハア……?」

フィナ「お願い! なんでもするから助けて! あたし、まだ死にたくない……」

ガドー「……なあ、オマエ誰に助けを求めてんだ?」

ガドー「アサシンのオレにオマエの命を救って何の得があるんだよ」

フィナ「得って……今それどころじゃ」

ガドー「何勘違いしてんだ。アサシン協会を裏切ったオマエはもはや同業者ですらない」

フィナ「あたしが……裏切者……?」

ガドー「そうだ。現にアサシン協会からオマエの暗殺依頼が出ている」

ガドー「フィナ、オレはオマエを殺しに来たんだよ」

その冷たい眼光に、フィナは足が震え尻もちをついた。

フィナ「ち、違う……! 裏切ったわけじゃないし……」ガタガタ

タロウ「なんだかんだ言って、君も他人の信用を失くすような事をしてるんじゃないか」

タロウ「同族嫌悪って奴だよね!」

フィナ「うるさい!」

タロウ「……立場、分かってる?」

ガドー「オマエはアサシン協会を知り過ぎた。もはやタダで関わりを断つ事はできない」

ガドー「もし生きていたらオマエの師匠、凶爪への依頼だっただろう。オレでマシだったと思え」

ガドー「だが……オレが手を下す必要もなさそうだがな」
702 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:25:11.88 ID:ESfib4sto
ガドー「オイ、オマエらの代表は誰だ」

タロウ「一応、僕だよ!」

ガドー「やる。フィナ暗殺の報酬金、30000Gだ」スッ

タロウ「い、いや……アサシン協会との縁ができるのは避けたいから、断固として受け取りを拒否するよ!」

ガドー「縁ならたった今出来ただろ?」

タロウ「だ、だけど、彼女は今からハラキリするんだ!」

タロウ「そのお金を受け取ったら僕達がフィナちゃんを殺した事になる。それは尊厳ある自死を選んだ人間への冒涜に他ならないよ」

ガドー「なるほど面倒くさい風習もあるもんだ。だが異国のしきたりを蔑ろには出来ないな」

ガドー「つまり……こうするのが正解か」スッ


ガドーは、フィナの目の前に置かれた短刀の横に30000Gを添えた。

これがフィナの命の価値。

短刀で自らの腹部を切り裂き死亡する事への対価。前払い。


フィナ「あ……」


万全の状態で一対一でも勝ち目のない敵、三人プラス一柱が周囲を取り囲んでいる。

どう転んでも無残な死。恐怖と絶望で涙が溢れる。


フィナ(何がいけなかったんだろう。何を間違えたんだろう)


なぜこうなった?

初めは、手に職をつけるために、弟子を募集していた怪しいお姉さんに話しかけた事だった。

いや、それ以前だ。ホワイトシーフギルドに所属していなければ、アサシンとも忍者とも関わる事は無かったのだ。

……全くホワイトじゃないじゃないか。

フィナは、死んで亡霊になったらホワイトシーフギルドにホワイトなんて名付けてフィナを騙した張本人を祟り殺してやろうと強く思った。
703 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:26:08.40 ID:ESfib4sto
フィナ「んぐうううう!!」


フィナは、苦悶の声を上げながら短刀を手に取った。

決心がついた。死後の目標が出来たのだ。

上手く亡霊になるための条件は分からない。だがなんとなく他人に殺されるより自分のタイミングで死んだ方が良い気がした。


フィナ「い、だああああああああ!!!!」ズプ

ズパァッ!!


深々と突き刺さる冷たい刃。背筋が凍り、全身に冷や汗が吹きだす。

続けて、短刀に力を込め、乱暴に切り裂く。

鮮血が魔法街の広場を染めた。

命の温度が失われていく虚脱感。そして耐えがたい激痛。

不鮮明な視界の中、フィナはもう一本の短刀を構えて躍りかかるオミキの姿を見た。


フィナ(ああ……自分で死なせてくれるなんてのも、嘘だったわけね)

フィナ(掌の上で弄ばれて、最低の死に方だ)
704 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:27:43.61 ID:ESfib4sto
貴腐「残りは二人。そろそろ終わりかな?」

貴腐「おっと、軍から通信だ」

貴腐「……タイミング悪いなぁ」


ざわざわ

市民「逃げろー! 貴族連中の逆襲だ!」

旅人「あわわわわ……ど、どこへ行けばいいのか……」

アナウンス『こちら陸軍本部! 市民の皆さん! 落ち着いて行動してください!』

アナウンス『ウベローゼン市北の林に武装した集団を確認!』

アナウンス『市民の皆さんは至急屋内に避難してください!』

アナウンス『貴族の反乱勢力と見られる武装集団は大勢のモンスターを引き連れています!』

アナウンス『ウベローゼン市民でない方はお近くのギルドの指示に従って冷静に行動してください!』

水魔術師「魔法局はダメ! すでに戦闘が始まってた!」

火魔術師「そうだ、俺、空から見たぞ! 講堂前で人間が真っ二つに斬られるのと、広場でオートマタが暴れているのを!」

戦士「剣士ギルド、人数オーバーで受け入れ不可! 他のギルドへ案内します!」
705 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:28:15.24 ID:ESfib4sto
女帝「ウフフッ、来たわね……」

女帝「でも私はここから動くわけにはいかないし……」

女帝「まずはさっきから町中に菌を広げて臨戦態勢の貴腐に頑張ってもらいましょう」



貴腐「うわあ貴族来ちゃったよ……面倒だな」

貴腐「いや、でもこの町には女帝が待機していたね。つまり私の出る幕は無い」

貴腐「よし、サボろう!」
706 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/08/27(日) 21:29:22.38 ID:ESfib4sto
今回はここまで。
メモ帳の貴腐の能力設定を見返したら異常にめんどくさいタイプの強敵でした。他の六勇とはここまで泥仕合にはならないと思います。
707 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/27(日) 21:32:29.40 ID:hKSbO2cro

味方の主戦力が全滅してしまった…
708 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/27(日) 22:46:42.57 ID:ssSS7ovio
おつおつ
六英雄全員とガチる√なんて>>1は想定してなかったんだろうなあ、ほんまソピアちゃん茨の道爆進してんな
709 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 04:07:10.22 ID:+NOXkZsh0
ソピア強化パートには意味があったのかだけ気になるところだなあ。色々覚えたけど果たして強い奴ら全員に対応できるのかしら
710 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 10:13:17.42 ID:T4XlW96vO
死亡フラグ折れなかった人たちがここからバッタバッタと倒されていくこと考えると心が痛む
711 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 21:12:36.45 ID:00Pwex9wO
ここんとこずっと故意に地雷踏み抜くような奴が沸いてるから最後まで非安価で書ききってほしい
712 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 01:18:56.08 ID:FcHsSlLLo
仲間たちを全員失い、行き止まりに追いつめられ、不死身の侍に必殺の剣で斬りかかられたミルズ。

彼女を救ったのは市民の善意だった。

「時よ止まれ!」

侍「ヌグッ!?」ピタッ

「「掴まれっ!」」

発光する少女と金属製の箒に乗った少女が、ミルズの手を掴み離脱する。

その背後で、巨大な樽が転がり袋小路のナマクラへと迫っていた。

ミルズ(あ、あれは……!)

侍「コノ程度!」ザンッ

カッ

衝撃を受けた樽が大爆発を起こす。

「魔法競技会ぶりだね、アンブラーズのミルズさん!」

ミルズ「き、キミたちは……!」
713 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 01:22:01.74 ID:FcHsSlLLo
「前略! 平和を守る魔法少女! キュー」 ミルズ「ダメだ!」

魔法少女s「はい?」

ミルズ「キミたちは、危ない! 敵も危ないけど、主に別の意味で危ないから! 早く立ち去るんだ!」

魔法少女青「そんなっ……君を助けるための強化魔法の反動で五感を失ったのに……!」

魔法少女赤「ならせめてこれを受け取ってくれ! 私が作った魔法少女変身アプリ、男でも魔法少女に変えられるぜ!」

魔法少女黒「……その名も、機構魔盤(マキナレコード)。時は金なり……課金すればより強く変身できるわ……」

魔法少女白「動物だってこの通り、行けツノガメピンク!」 ツノガメ少女「行くぞー!」 コケッ ツノガメ少女「躓き死んだー!」 魔法少女白「すごーい! よわーい!」

魔法少女黄「ところで今日ソフィアさんいないの? アトリエを一件譲ろうと思ったのに」

魔法少女黄「そう、言うなればソフィーの  ミルズ「そういうのが危ないって忠告したんだけど!?」

ミルズ「第一、ネタの半分くらい魔法少女関係ないじゃないか!」

魔法少女白「でも少しは恐怖も紛れたよね?」ニコッ

ミルズ「……不服だけどね」
714 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 01:27:56.03 ID:FcHsSlLLo
侍「グギィ……!」フラッ

魔法少女黄「そんな……! たる・フィナーレが直撃したのに!」

剣士「ここは僕に任せたまえ!」シャラン

ミルズ「知らない人出てきた」

剣士「フッ、ご存じないかな? 剣士ギルドの王子様と呼ばれるこの僕を☆」

ミルズ「王子!? どうしてここにっ……!」

剣士「いや違うんだ! 僕は断じてミハイ王子とは違う! 子猫ちゃんと同じ平民だからそう睨むんじゃない!」

ミルズ「前!」

剣士「おっとぉ!?」サッ


2、4スレ目に登場した、火剣士テンパラスの友人である彼は、盾を持たない細剣使い。

こう見えてそこそこ強く、特に近接攻撃の回避技術には人一倍長けていた。


キアロ「娘さん、レスキューのキアロだ。治療しよう。……不思議そうな顔をしているな」

ミルズ「だって……知らない人までボクを助けに……」

キアロ「俺達は反乱貴族の手から市民を守るべく、ギルドを超えて結成した自警団だ」

キアロ「あの男は明らかに貴族とは無関係の外国人だが、目の前で危険に晒される市民を見過ごすことはできない」

キアロ「ここにいる皆、同じ気持ちだ」

剣士「その通りさ。子猫ちゃんじゃなくても助けていたとも!」

魔法少女赤「知り合いなら尚更だな」

キアロ「さて、君は避難所へ逃げなさい。魔法局以外のギルドが避難所になっている」

魔法少女黒「……私が、運命の導き手になるわ」

ミルズ「いや、一人で行くよ。それよりもあの侍を何とか止めて欲しい」

ミルズ「あの光る剣は盾でもなんでも斬れる……十分に気を付けて」

キアロ「分かった。肝に銘じておく」

魔法少女白「みんなの力を合わせれば勝てない敵なんていない!」

ミルズ「うん、信じてるよ」タッ


剣士「この戦いが終わったらさっきの子をデートに誘うんだ……」

魔法少女黄「今日は調子がいいわ! もう何も怖くない!」

ミルズ(あっ、ダメそう)
715 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 01:30:12.32 ID:FcHsSlLLo
パン職人ギルド街『美食通り』。

いつ訪れてもパンやチーズの香りが食欲を刺激する、“表の美食家”達の集まる街だ。

ミルズ(カフェ:アンブロシアには遠く及ばないけどね)

しかしミルズは“裏の美食家”アンブラーである。もはや普通の美食の香りでは心が躍らないのだ。

ミルズ(ここに来た理由は食事じゃない。貴腐の操る菌から身を隠せるかもしれないから)

ミルズ(パン職人ギルド周辺は、他の職人たちの支配下にある菌で満たされているはず……)

フェイラン「あいやーミルズ! さっきぶりある!」

イリス「ウチらもこれから遅めの昼食なんだけど、一緒にどう?」

ミルズ「キミたちはさっきの……そうか、無事だったんだ」

ミルズ(貴腐に会ってないから狙われてなかったんだ……!)

イリス「あー、ごめんね。食事したら合流しようと思ってたんだ」

フェイラン「満腹なたら、あのでかい奴にリベンジするネ!」

ミルズ「いや、もう諦めた方がいいね。……六勇の貴腐が敵の用心棒だった」

イリス「げっ……。ま、まさか、ウチらも貴腐の標的だったり……?」

ミルズ「それは大丈夫だと思う。二人は貴腐が出てきた時にいなかったから」

フェイラン「ミルズは会っちまったあるか……」

ミルズ「うん、ボクも襲われた。けど、出てきた時じゃ…………あれ?」
716 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 01:35:36.09 ID:FcHsSlLLo
ミルズ(確かに襲われたけど、貴腐はまずボクじゃなくリウムの友達を狙って……)

ミルズ(ボクには、お茶をしようと迫ってきたような……?)

イリス「どうしたの?」

ミルズ「……いや、何でもないよ。とにかくこの件は関わってない事にして……」

フェイラン「イリス。私たち顔知られてないから不意打てるあるネ?」

イリス「だねぇ。二人で貴腐、ぶっ飛ばしてやろうじゃん?」

ミルズ(まさか、ボクはリウム達の仲間だと、貴腐には思われてない……?)

イリス「その前にまずは食事ね。ほら、ここウチの店。入って入ってー」

ミルズ「あ……お邪魔します」カランカラン

フェイラン「待つよろし! 入口の消毒ポーションで手を除菌するネ!」

イリス「決まりなんだ。菌が混じるといけないからさ」

ミルズ「…………!! 今、なんて言った!?」

イリス「この消毒ポーションで手を綺麗にしないと、パンに雑菌が付着しちゃうでしょって言ってんの」

ミルズ「消毒ポーション……医療用の……殺菌魔法!!」

ミルズ「行ってくる!」ダッ

フェイラン「どこ行くあるか!」

ミルズ「……貴腐退治っ!!」
717 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 01:49:21.88 ID:FcHsSlLLo
キョウトの民に裏切られ、アサシン協会に裏切られ、ついに自害を強いられたフィナ。

しかし彼女を救ったのもまた、一つの裏切りだった。

タンッ タンッ ズバッ

ガドー「」

力士「」

子狐「ぎええ! やられた!」

タロウ「じ、ジュウリョウさん!? アサシンのキミも!?」

タロウ「オミキちゃん、何してんの!?」

オミキ「春眠の術です」

タロウ「そうじゃなくて!」

オミキ「言いましたよね、タロウさん」

オミキ「キョウト国のために働いてくれ、って」

タロウ「そうだよ、だってそれがオミキちゃんの生きる理由なんだろう!?」

オミキ「はい。人の役に立ちたくてあなたの手伝いをしてきたんですけど……」

オミキ「よく考えたら、これ、キョウト国のためになってますか?」

タロウ「え?」

オミキ「寄ってたかって取り囲んで、泣き叫ぶ女の子に無理やりハラキリさせる事は、別にキョウトの利益にならないんじゃないかな、と」

タロウ「なるんだよ! 商売の邪魔じゃん! 然るべき所に告発されたらキョウト国全体の立場が悪くなるんだよ!」

オミキ「でしたら、普通にお天道様に顔向けできる商売をすればいいのでは……」

タロウ「夢中草! 多少リスクを冒しても夢中草を流通させた方が後々利益になるんだって!」

オミキ「神社に閉じ込めて、夢中草入りの食事を与え続けて、手駒にした方がお得なのでは……」

タロウ「ああいえばこう言う! 黙って僕の言う事を聞きなよ! 誰の持ち物だと思ってんの!」

オミキ「……私は、武御霊神社の人形供養堂で目覚めました」

オミキ「従うのは、タケミタマ様のご命令だけです」
718 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 01:50:47.42 ID:FcHsSlLLo
子狐「……昔、我はこう命じた」

子狐「『何をすれば他者の役に立てるのか、それは時と場合によって大きく変わる』」

子狐「『我の言う事ばかり聞かず、何をするべきか自分で考えて行動しなさい』」

子狐「その結果がこれじゃよ! なぜ我だけ術を使わず普通に斬った!? いやそもそも斬らんでも子狐の姿に戻した時点で無力化できてるというのに!」

オミキ「ええと……頭のキノコがそうさせました」

子狐「嘘こけい、この反抗期人形! 神で遊ぶな!」

フィナ「……」ガクガク

オミキ「大変! フィナさんが死にそうです。タケミタマ様、すぐに治療を」

子狐「今日一日はもう絶対に手を貸さんと……」

オミキ「治療しなさい」

子狐「えぇ……しなさいだと……。嫌じゃなー。やりたくないなー」

タロウ「なんだよなんだよ! まだ僕は納得してないからね!?」

オミキ「私は……フィナさんを助けた方が、キョウト国、ひいてはタロウさんのためになると思いました」

タロウ「意味が分からないよ!」
719 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 01:58:57.13 ID:FcHsSlLLo
フィナ「……オミキ先輩? 痛つっ!」

オミキ「我慢してください。綺麗に合わせないと傷が残りますので……」

子狐「修復終わり。だが、後で医者に診てもらいなさい」

子狐「あちらの人形と店は直せんなー。ちょっとバラバラにし過ぎた」

フィナ「なんで、あたしの治療を……」

子狐「実は、急で悪いがその方の陣営へ寝返ることになった」

フィナ「そっか……ありがとう」

オミキ「先程までの無礼、水に流していただけますか?」

フィナ「……いいよ、一旦ね」

タロウ「ちょっ! いやいやおかしいでしょ! また唐突に命を狙われるかもしれないよ!」

タロウ「なんたって長い付き合いの僕さえも裏切るんだからね! あっさりと立場を変える相手を信じられる!?」

フィナ「えっ……信じるけど」

フィナ「だってこいつらってそういうものだしさ」

フィナ「何考えてるか分かんないし遺恨が残る人間よりもよっぽど付き合いやすいわ!」

タロウ「ま、待ってくれ。話が見えないよ」

フィナ「へー、自分の仲間のことすらよく知らないんだね」

フィナ「キョウトの恐ろしさを教えてくれたお礼に、冒険者のあたしが魔法系モンスターの厄介さについて教えてあげる!」
720 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 01:59:33.79 ID:FcHsSlLLo
フィナ「オミキ先輩は、人形系モンスターのオートマタ」

オミキ「キョウトでは禍雛と呼ばれています」

フィナ「オートマタっていうのは、使命を持って生まれてくるわけ」

フィナ「大抵の場合は、生まれた場所を守ろうとして人間に襲い掛かってくる、理性のないモンスターなんだけど」

フィナ「生まれた場所によっては、少なくとも表面的には人間と親しくしないといけないような使命を持ったオートマタになる」

フィナ「例えば仕立て屋の子はお店を営業する事。オミキ先輩はたぶん、神社の参拝者を増やす事じゃないかな?」

オミキ「大体そんな感じです」

フィナ「オートマタは使命のために行動する。あくまで人間は利用するだけ」

フィナ「オートマタにとっては、あたしもあんたも、どうでもいい存在なんだよ! だからすぐに立場を変えられる!」

タロウ「な、なんだってー!?」

オミキ「どうでもよくはないんですけど……」


フィナ「そして神。キョウトではどうだか知らないけど、フルフィリアやノーディスでは妖精が大幅に強化された姿だと言われてる」

フィナ「でも結局のところ妖精! だから契約している木霊主には決して逆らえない!」

オミキ「キョウトでは神職です。木霊主は……確かジャルバ王国の森林地域の言葉ですね」

子狐「そう、決して逆らえない……。誰か助けて……」
721 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 02:00:30.27 ID:FcHsSlLLo
フィナ「オートマタは利害関係が一致すれば安全!」

フィナ「神は、使役してる人が仲間なら安全!」

フィナ「そういうものなんだよ!」

タロウ「で、でもまた心変わりするかもしれないだろう? やっぱりフィナちゃんを殺した方がキョウトのためになると考え直す可能性だって……」

フィナ「あっ……でも、そこまで頻繁に変わるわけじゃないと、思う、けど……」

オミキ「心配ないです。よく考えたので」

フィナ「ほら!」

タロウ「君、バカだってよく言われない?」

フィナ「ゲスよりはマシだよ!」

子狐「そんなことより、いいのか? タロウ、その方に身を守る者はいないんじゃぞ?」

力士ジュウリョウとアサシンのガドーは春眠の術で眠らされている。

オミキが解除するまで起こす方法は無い。

タロウ「……切腹が必要なのは僕の方だったか」

タロウ「キョウト男児として、甘んじて死を受け入れるよ」

フィナ「は? いやいや、それって許しが必要なんでしょ?」

フィナ「ダメだし。名誉とかなんとか言ってハラキリで逃げるなんて許さないから」

フィナ「あんたはフルフィリアの法律で裁かれなさい!」

タロウ「う、ぐぐぐ…………」

ダッ

フィナ「逃走した!」
722 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 02:02:19.26 ID:FcHsSlLLo
オミキ「追いますか?」

フィナ「いや……今は一緒にいて欲しいかな」

フィナ「お腹、痛いし……」

オミキ「……ちゃんと治療しましたか?」

子狐「した! 内臓ぐちゃぐちゃだったけどどうにか戻した!」


クリス「」

フィナ「あの子の顔……もう動かないんだ」

オミキ「ごめんなさい。もう少し早く考えがまとまっていれば……」

フィナ「あたしがハラキリするまで迷ってたんでしょ? ……しょうがない」

フィナ「先輩、どうするの? これから……」

オミキ「今まで通りです。神主さんは理解してくださるでしょうから」

子狐「我がいる側が正義じゃー。キョウトは敵にはならん」

フィナ「そっか、少し安心した……」
723 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 02:03:24.37 ID:FcHsSlLLo
パキッ

フィナ「何の音……ああっ!」

オミキの頭の上、貴腐が植え付けた身体能力強化のキノコが肥大化していた。

音を立ててオミキの頭部が割れていく。

子狐「い、いかん! はっ!」ピカッ

ボシュ

フィナ「先輩!」

子狐「おのれ、そういう仕込みじゃったか……! キノコは消したが……」

フィナ「ああ……先輩の頭が……!」

子狐「たった今……我は自由に術を行使した。そういうことじゃ……」

フィナ「嘘……仲直り、できたのに……」

フィナ「許さない……貴腐……ッ!」
724 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 02:05:12.24 ID:FcHsSlLLo
フィナ「…………」

目の前のオミキは立ったまま動かない。

割れた首から忍者の技に使用する墨色の忍魂気が漏れ出ている。

周囲には倒れたままのジュウリョウとガドー。

そして、バラバラになった仕立て屋人形クリスティと、使役していたマネキン。

フィナ「……よし」スッ

子狐「な、何しとんじゃー!?」


1.クリスティの頭部をオミキの胴体に乗せる
2.忍魂気を吸う
3.倒れた二人から装備品をはぎ取る

↓2
725 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/10/01(日) 02:05:41.01 ID:FcHsSlLLo
今回はここまで、久しぶりの選択安価。
結果は見えてますが次回ようやく貴腐との決戦です。できるだけ早めに。
726 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/01(日) 08:55:53.99 ID:jULDeyQX0
1
727 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/01(日) 15:30:30.95 ID:yGVh6AM1O

ようやく反撃だな(フラグ)
728 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/30(月) 12:19:35.84 ID:LxuuqYcWO
いちおーほしゅ
729 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/06(月) 17:24:20.19 ID:Z830dGG0O
^ - ^
730 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/22(水) 11:30:38.98 ID:KDC/pyPAO
もうそろそろ2ヶ月になっちゃう
731 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2017/11/29(水) 15:13:20.18 ID:iKiGxS3ko
全然早めに書けなかった……貴腐編ラストまで書きあがってないので保守します
732 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/29(水) 15:43:04.49 ID:uU4hob7io
乙です
ミルズもフィナも>>1もみんながんばれ
733 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/29(水) 19:47:44.71 ID:NnsqFx4AO
734 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/25(月) 23:48:42.11 ID:hNuKEn5D0
メリクリ
735 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/27(水) 16:41:01.77 ID:veIecu94O
あけおめも近い
736 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/27(水) 16:43:33.03 ID:D+zpSNwGo
新年早々におみくじでミスプリントを引き当てるソピア
737 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/30(土) 17:26:40.57 ID:pwBaJh6Bo
(運がわるいのかもうここまで来ると逆にいいのか)これもうわかんねぇな
738 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/20(土) 17:17:56.39 ID:x0AeRjwSO
一応1/29には生存報告欲しいが
739 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/01/28(日) 18:28:56.58 ID:qmvzqKdUo
生存報告。この分だといつまでも終わらせられないので六勇の半数はダイジェストで倒すことになりそうです。


>>736

フィナ「見て見て先輩ー! 大吉!」

オミキ「うちの神社、元日には大吉しか入れてないんですよ」

フィナ「なーんだ残念」

フィナ「ってことはソフィーも大吉だった?」

ソピア「ねえ……」

ソピア「『はずれ』って書いて入れたの、誰?」
740 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/28(日) 20:13:42.87 ID:luO5Tn7uO
おつん
ソピアは男性陣よりも女性陣から貰うチョコが多そう
741 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/28(日) 23:40:06.26 ID:SCoxEXjPo
草ァ!
742 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/31(水) 17:10:55.94 ID:hq4JHQYn0
もう魔人先生がパパっと全員倒しちゃえばいいんじゃないかな…
743 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/25(日) 16:14:28.93 ID:XNPyxRZL0
そろそろ保守しとく
744 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/26(月) 09:06:46.23 ID:xt5xtTsM0
いつくるのかなあ
745 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/26(月) 09:19:53.99 ID:iAB0vMML0
ageてんじゃねぇよ
746 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/16(金) 17:26:58.95 ID:TsNA4NPdO
まだ?
747 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/23(金) 13:44:59.17 ID:1VIeog2eO
あと5日したら生存報告一応くれ
748 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 18:23:11.63 ID:vJoHq88Do
子狐「な、何しとんじゃー!?」

フィナは、おもむろにクリスティの頭部を持ち上げると、オミキの残された胴体の上に乗せた。

フィナ「ちょうどサイズが合ってると思ってさ」

フィナ「ほら、違和感ないじゃん。これで直せる?」

子狐「いや部品が間違っておるし!」

フィナ「あってるよ。先輩の頭残ってないし間違えるわけないじゃん。おっかしーw」

子狐「笑いごとじゃなーい! 取り返しのつかない事になったらどうする!」

フィナ「まあまあまあまあ、とりあえず繋いでみようよ」

フィナ「何かあったらまた首を壊せば元通りだし」

子狐「倫理観がおかしい!」

フィナ「お願い! 貴腐に対抗するには戦力が必要なの!」

フィナ「どっちか復活してくれたらとっても助かるんだって!」

子狐「しかしなあ……」

フィナ「……ねえ、オートマタの中心がどこにあるか、気にならない?」

フィナ「頭なのか、心臓なのか、壊れたら消えちゃうのか、さ」

子狐「……」
749 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 18:35:07.33 ID:vJoHq88Do
数分後……

オートマタ「大変です! 混ざりましたー!」

首から上だけ西洋人形の雛人形は元気に動き出した!

子狐「ま、混ざったとは一体……」

オートマタ「わたしと私の心が混ざって一つになりました!」

フィナ・子狐「「ええええええ」」

フィナ「や、やばい……首を壊してもどうにもならなさそう」

子狐「だから言ったろうー! 取り返しのつかないことになると!」

フィナ「先輩、仕立て屋さん、本当にごめんなさい!」ペコッ

オートマタ「顔を上げてください。わたしは別に気にしてませんよ」

オートマタ「ほら、もうお面つけなくても人間らしい表情ができますし、記憶力も上がったんですよ、フィナお姉さん!」ニコッ

フィナ「う、うん、それはよかったね……」

オートマタ「グー、パー……。体はちゃんと動きます。忍術も裁縫も今まで通り使えそうですね」

オートマタ「あとあと、魔法と巫女のスキルも忘れてませんよ!」

子狐「ぐわあ! また支配下に置かれた!」

フィナ「でもフローラと神主さんになんて説明しよう……」

オートマタ「私はわたしですし、好きにさせてもらいます」

オートマタ「使命感も薄まりましたからね。わたしは……自由です!」

フィナ「そ、そっか……」

オートマタ「でもできればまたお店は持ちたいですねー。着物作ります」

オートマタ「あ、私のことはオミキでもクリスティでもミキティでも好きなように呼んでくださいね」

子狐「名前を絶妙に混ぜるな」

フィナ「もう先輩は先輩でいいや」

フィナ(でもなんだか貴腐に勝てる気がしてきた)

フィナ(だってさあ……スペック高すぎない? 忍者+木霊主+人形師+全属性魔術師だよ?)
750 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 20:30:18.49 ID:vJoHq88Do
ウベローゼン市の人気のない一画。

市民の自警団と貴腐のキノコの力でゾンビとして蘇った侍の戦いが続いていた。

剣士「そろそろ避けるのも限界だよ!」

魔法少女黄「どうすれば倒せるの……?」

キアロ「頭のキノコを狙うんだ。見覚えがある……あれがある限り何度でも復活する」

剣士「よしきた!」ガキィン

剣士「硬っ……!」

魔法少女黒「……時間を止める。ブルー、手伝って」

魔法少女青「時間稼ぎね! まっかせろー!」

侍「グッ……!」

風魔術による空気圧と、強化魔法による羽交い絞めで侍ゾンビの動きが一時的に止まる。

魔法少女黄「今よ!」

魔法少女白「私の魔法は尻からも出る!」キィィィン

魔法少女赤「まじかるー!」ボォォォ

杖と尻尾型装備から放たれる二条の光線と、魔法でも何でもない改造ガスバーナーが、侍ゾンビの頭のキノコを焼いていく。

魔法少女青「えっ何これめっちゃいい匂い!」

キアロ「やはりあれは貴腐のキノコ……例え人間をグロテスクに変異させるキノコであっても風味を追求する、職人の仕事だ……」

剣士「感心してないで次はどうすればいいか教えてくれないだろうか! 剣が効かないんだ!」ズバッ

キアロ「打撃で意識を奪えるはずだ。剣士の君に頼むべきではないが」

剣士「得意技、さッ!」ドンッ

侍「カハッ……」

魔法少女白「あ、あれは噂に聞く壁ドン!」

魔法少女黄「なんて男らしい強打なの! 壁に叩きつけられた彼の気持ちを想像すると胸のドキドキが止まらないわ!」キュン

魔法少女赤「肋骨と肺に効いてるな」

剣士「まだ足りないのかい? 欲しがりさんだね!」バキッ

魔法少女青「イケメンにのみ許される全女子憧れの顎クイ!」

魔法少女黒「あんな事されたら、頭がおかしくなっちゃいそう……」

魔法少女赤「顎へのアッパーカットだな」

侍「……」ドサッ

剣士「フッ……。おやすみのキスはいらなかったみたいだね」

剣士(勝った……! 僕は……カッコいい!)
751 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 20:31:40.67 ID:vJoHq88Do
形勢逆転されたタロウはキョウト国陣営の拠点である神社へと逃げ込んでいた。

タロウ「神主さん、大変だ!」

神主「どうしたんですかタロウ殿、騒々しい」

タロウ「オミキちゃんが裏切ったんだよ!」

神主「ふふっ……」

タロウ「なんで笑うんだい!」

神主「タロウ殿、お主には分からないでしょうな」

神主「オミキよ、よく成長しましたな……」

タロウ「僕らのフルフィリア支配計画に逆らうのが成長なもんか!」

神主「……そも、この私も祭神を侵略に用いる事に賛同してはおりませぬ」

タロウ「なんだって!? この非国民め! 恥を知れ!」

神主「否。罪を暴かれた者こそが非国民のそしりを受ける。それが私どもの国の慣例でしょう」

神主「立ち去りなさい」

タロウ「いや! まだ暴かれてないよ! なんたってこちらにはフルフィリア最強の一人、貴腐が残っているからね!」

「ほう、タロウさん。この異臭騒ぎはあなたの差し金でしたか」

タロウ「誰だ! ってなんだ、この間(2スレ目)僕の店に来てくれた旅人のおじいさんじゃないか」

タロウ「痛い目をみたくなかったら何も見なかったことにして帰った方がいいよ!」

ご隠居「いいえ。その悪行、決して見逃すわけに参りません」

ご隠居「二人とも、懲らしめてあげなさい」

付き人達「はっ!」

タロウ「こ、降参だ! 僕は丸腰なんだ!」

タロウ「いきなり上から目線で懲らしめるだなんて、なんなんだよお前ら!」

付き人「……この紋所が目に入らぬか!」

タロウ「あっ」
752 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 20:32:18.72 ID:vJoHq88Do
貴腐「ふーん? キョウトの傭兵は雇い主のサキューラさんを残して全滅しちゃったんだ?」

貴腐「心配いらないよ、レディー。私の目的はすでに果たしたからね」

貴腐「お偉いさんだか何だか知らないけど、私にカタナを向けたら次の瞬間にはレディーの魔法の餌食さ」

ミルズ(いた……!)


ベーカリーで貴腐攻略の鍵を手に入れたミルズは、細い路地で貴腐の後ろ姿を発見した。

立ち止まり一息飲み込むと、ミルズは緊張を表情に出さないように心掛けながら貴腐に歩み寄る。


ミルズ「貴腐……さん!」

貴腐「おやぁ? き、君はさっきのレディー!」

ミルズ「先程は逃げてしまってごめんなさい。驚いてしまって……」

貴腐「あはは、こちらこそすまない。目の前で人が菌に変わるのは初めてだったんだろう。刺激が強すぎたかな?」

ミルズ「それにしても、すごくいいにおい。近くで嗅いでもいいですか?」

貴腐「ウェルカム! 存分に嗅ぐといいさ!」バッ

ミルズ「殺菌魔法!」シュウウ

貴腐「ぐああああ!!」

貴腐「なっ!? しっかりするんだ、マイレディーズ!」


迎え入れるように両腕を広げた貴腐の全身に殺菌効果のある水しぶきが降りかかった。

貴腐はこの日、初めて焦りの表情を見せた。

その背筋はまっすぐに伸ばし、両の眼も見開いている。


ミルズ(効いてる! やっぱり、高所・先端恐怖症のデマを流していたのは、殺菌という分かりやすい弱点を隠すためだった)

ミルズ(致命的かつ本来ならわかりやすい、殺菌という弱点を隠す……そのために貴腐は奇妙な姿勢を取り続けていた……!)


ミルズは貴腐の背面に移動しながら何度も殺菌魔法を浴びせる。
753 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 20:39:57.41 ID:vJoHq88Do
貴腐「あぁ、お気に入りのスーツがびしょ濡れだ……」

貴腐「ねえ、そろそろやめてくれないかな? それ効かないからさ」

ミルズ「……っ?」

貴腐「着眼点はいいんだけど、私自身は人間だし、レディーも半分人間だ」

貴腐「さて、私を襲った理由だけど、リウム君の仲間って事でOK?」

ミルズ「…………」

貴腐「肯定と受け取っておくよ」

貴腐「さて、口直しのドリンクになるかレディーの一員になるか、君に選ばせてあげよう」

貴腐「私は紳士だからね」

ミルズ(……魔人先生はボクを助けた時、殺菌魔法を使っていた)

ミルズ(つまり、少なくともレディー以外の菌には効いている。殺菌魔法は使い続けるべき!)

貴腐「話を聞かない子だなぁ!」ブン

ミルズ「危なっ……!」
754 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 20:40:51.99 ID:vJoHq88Do
貴腐は手を伸ばしてミルズに触れようとした。

パン職人のスキルの一つ、『菌活性化』。

本来、短期間で良質なワインやチーズを作るための技術なのだが、貴腐は生きた人間に対してこれを使う。

さらに『操菌師』である貴腐の菌活性化は細菌にも及ぶ。

カビ類や常在細菌に対する菌活性化は、菌に変えられた100人以上のレディーと並ぶ、貴腐の強さの象徴だ。

その手で触れさえすれば、あらゆる有機物を腐らせ、分解する。

たとえその対象が山を超えるほどに巨大な生物であっても例外ではない。


貴腐「上手く避けるねぇ。しかし、精神力が切れた時が君の最期だ」

ミルズ(もう打つ手がない……。逃げようとしても後ろから菌の塊が飛んでくるかレディーの追撃が来る……)


殺菌魔法は本来攻撃用の魔法ではなく、その射程も決して長くない。

そのため、貴腐の腕を避けながら殺菌魔法を絶え間なく当て続ける行動には、相当な集中力を要した。


ミルズ(そういえばレディーが攻撃してこない)

ミルズ(横や後ろはがら空きなのに何もしてこないって事は、貴腐の近くにいる?)

ミルズ「……殺菌対策、菌は服の中に?」

貴腐「隠れているよ。で、どうするんだい?」
755 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 20:49:11.66 ID:vJoHq88Do
しばらく前……。

ラファ『惨い死に方をしてしまったのです』

ラファ『まさか白魔術師の私が幽霊モンスターになってしまうとは……。きっとこの間悪魔の力を借りてしまった影響ですね』

ラファ『ソピアと関わってからというものロクな目に遭っていないのです……』

ラファ『ん? あれは……』

日魔術師『ぐふふふ……。女の子の着替えシーンも、入浴シーンも、エッチなシーンも、幽霊なら覗き放題!』

日魔術師『ぼくちんを死なせてくれた幼女たん、ありがとう! 幽霊サイコー!』

10日前、魔法競技会の最中にヒレアに猥褻行為を働いたために爆殺された、変態の日魔術師だ。

遠くを見る魔法に長けるラファは、道行く女性を次々と全裸にしてテンションが上がっている彼の姿を目撃してしまった。

ラファ『……お久しぶりなのです。クズは死んでも治らないのですね』

日魔術師『どどど、どうしてぼくの姿が!?』

ラファ『私も死んだのです。あなたは欲望が強すぎて幽霊化したのでしょうね』

日魔術師『誰にやられたんだ!? ぼくちんが仇を討ってやる!』

ラファ『あまりに変態で忘れてましたけどあなたってたまに正義感強いところがありましたね』

ラファ『私を殺したのは巨大な男なのです。でもやめておいた方がいいのですよ』

ラファ『仲間に強力な使い魔の類と、六勇の貴腐がいました』

日魔術師『誰が相手だろうと関係ない! ぼくの魔法でひん剥いてやるー!』

ラファ『あっ、行ってしまいました……』

ラファ『でも……彼は除霊された方が世の為になりますね。放置するのです』

ラファ『私は除霊されないように気を付けましょう。復活できなくなるかもしれないのです』
756 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 20:50:15.43 ID:vJoHq88Do
日魔術師『見つけたぁ!』

日魔術師『男相手で気が乗らないけど、あいつは女の子を微生物に変えるのが趣味の変態男!』

日魔術師『生身の少女を愛するぼくちんの誇りにかけて許すわけにいきませんぞぉ!』

日魔術師『武装解除(服を消滅させる)魔法!』

貴腐は、パンツ一枚を残して裸になった!

貴腐「はあっ!?」

ミルズ「よく分からないけどチャンス!」シュウウ

貴腐「ひええ! 冷たい!」

貴腐「レディー! このままでは危ないっ、私の下着の中に隠れるんだ! 早く!」

貴腐「な、なぜ隠れないんだ!? 隠れないと無力化されてしまうじゃあないか!」

ミルズ「“レディー”だからだよ!」

貴腐「そうか! ああその通りだね!」

貴腐「これは紳士としてあるまじき失態……!」

貴腐「失敬! 私は服を着替えに戻る!」ダッ

ミルズ「えっ、脚、はやっ……!」


貴腐は体勢を立て直すべく逃走した。

今ここで仕留めなければ、広範囲の索敵能力と目に見えないレディーの奇襲によって、確実に殺される事はミルズにとって明白だった。

しかし頭頂部から生えたキノコによる身体強化の影響で、貴腐は見た目からは想像のつかない俊足を持っていた。
757 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 20:54:52.24 ID:vJoHq88Do
菌のにおいが強いエリアから少し離れた屋根の上で、機をうかがっていたフィナの下を貴腐が走り抜けていった。


フィナ「き、来た!?」

フィナ「……隙だらけ。なぜか裸だし……」

フィナ「今なら……でも……反撃されたら……」


貴腐はそこそこ脚が速いとはいえ、走る訓練を積んだフィナならば十分に追いついて攻撃できる。

しかし、二の足を踏んでいた。

相手は怪物という表現でも足りない程の強さで知られる六勇の一人。手加減をする余裕などない。

フィナには徒手で貴腐を倒すイメージなどまるで湧かず、かといって短剣を握る事もできなかった。


貴腐「反乱勢力の襲撃で皆避難している。人目が少なくて助かったな」

貴腐「レディー、すぐ目覚めさせてあげるからね……!」

一般人「き、貴腐様……!」

貴腐「おっと! こ、この格好には理由があるんだ。誤解されては困るよ」

一般人「助けてぇ……!」ギシッ

貴腐「マネキン……?」


貴腐がばったり出くわした市民の手首と足首に細い糸が巻き付いていた。

その糸は市民の背後に立っている顔の無いマネキン人形の指先から伸びている。

悲鳴を聞いてそちらに顔を向けると、避難所の建物に集まる市民を大量のマネキンが襲っていた。

それぞれが一瞬にして市民の背後に回り込み、魔法の糸で手際よく拘束する。


貴腐「反乱勢力の仲間の人形師か……? しかし人形モンスターにあのような繊細な動きは不可能なはず」

貴腐「狙いは私か。着替えは中断せざるを得ないね」

貴腐「人間使いの人形……危険だ。軍人として無視することはできない」


一瞬、普段見せない真面目かつ冷静な表情を見せる貴腐。だが内心は少々焦っていた。

何しろ頼りのレディーが活力を取り戻すまでは、肉弾戦もしくは周辺の空気や土壌に存在する菌を集めて戦うしかないのだ。

市民を人質に取られているので広範囲の菌を活性化して一掃することもできない。

貴腐は強化された肉体でマネキンの破壊を狙うが、マネキン達は巧みな足捌きでそれを回避。

どうやら操られている市民にも強化魔法がかかっているようだ。


貴腐「一人、妙に強そうな市民がいる」

筋肉「強そうではなく、強いぞー」

筋肉「ボディビルダーとやら、春眠の術であっけなく眠りはしたが良質な肉体だ。この武神タケミタマの器にふさわしい」

貴腐「……間に合った! 援護を頼むよ、レディーズ!」


貴腐が呼びかけると周囲にいくつもの菌糸体が盛り上がり、女性型に変形する。

半実体化した女性たちがマネキン軍団との戦闘に突入した。
758 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 21:13:24.50 ID:vJoHq88Do
風の刀、風の槍、風の薙刀、風の矢、強烈な張り手。

キョウト国の誇る武の数々が、武術経験の無い貴腐を容赦なく襲う。

成す術なく傷付いていく貴腐だが、強化された肉体は致命傷を防ぎ、わずかな傷も治療班のレディー達の回復魔法によってすぐに修復されていく。


筋肉「何という再生力じゃー……」

貴腐「どんなものかと思ったら、この程度耐えられないようじゃ紳士は名乗れないよ」

シュウウ

ミルズ「追いついた……!」

貴腐「また君か。しつこいレディーも嫌いじゃないけどね」

貴腐「頭のキノコに攻撃したのは当たりだけれど、消毒用の魔法程度ではねぇ」

ミルズ「っ! モンスターの群れ……!」

筋肉「安心せぇ。我らは貴腐の敵じゃー」

貴腐「全く……人間を操って戦わせるとは、なんと外道なモンスターなんだ」

ミルズ「市民を丸ごと洗脳する計画に加担したキミが言えたことじゃない!」

貴腐「ああ……それはね、仕方がなかったんだ」

ミルズ「誰に命令された?」

貴腐「いやあ。ただ、キョウト国の麹菌を手に入れるには他に手段が無かったものでね」

ミルズ「は?」

貴腐「以前は友人に頼めば取り寄せてくれたのだけれど……今、検問が厳しくなっているだろう?」

貴腐「そんな時、キョウト国に伝手があるサキューラさんと知り合って、私は仕方なく交換条件を飲んだんだよ」

ミルズ「麹菌のために……? それだけ……?」

貴腐「そう。私の菌とレディーへの情熱は誰にも止められやしないさ!」

ミルズ「そんな、小さなわがままで……六勇ともあろう人が、国を、町を売った……!?」

貴腐「大げさだなあ。領土を盗られるわけじゃあるまいし」

貴腐「私は麹菌を手に入れて幸せ、キョウト人は商売ができて幸せ、市民は夢中草で幸せ。みんな幸せじゃあないか」

ミルズ「ふざけるな!! 人の命を奪っておいて、何が幸せだ!!」

貴腐「確かに、彼らには悪いことをしたよ。けれども、多数の幸福は守られた」

ミルズ「嘘だ! キミは自分の事しか考えてない!」

ミルズ「……このことは、共和国軍に報告する」

貴腐「ふうむ……理解してもらえず実に残念だよ」

貴腐「これで私は何が何でも君の口を封じなくてはいけなくなった」
759 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 21:32:51.36 ID:vJoHq88Do
マネキン軍団とレディーズとの戦いは、レディーズが優勢だった。

無数の菌で構成されたレディーに対して物理攻撃はほとんど意味を成さない。

対するマネキンは手足の器用さこそ通常のオートマタを遥かに凌駕しているものの、魔法や忍魂気をそれぞれで使用する事はできない。

レディー達にとっては少々狙いにくい的でしかなかったのだ。

戦闘を終えたレディーはミルズへと群がり来る。


レディーA「貴女にもこの快楽を教えてあげるわぁ〜……!」

レディーB「みんな、魔法弾の一斉射撃よ!」

筋肉「我の後ろへ! ぬう、この者らも不死身かー」

ミルズ「くううううっ……」シュウウ

貴腐「菌から自分の身を守るだけで精一杯だね」

貴腐「君ももうすぐ菌になるんだよ」

貴腐「うん? なんだいレデ、ッ!?」


レディーから報告を受け、右を振り向いた貴腐は硬直した。

遠くに小さな人形のようなものが見えると思った次の瞬間には視界をそれが塞いだのだ。

見た相手の時間を一瞬だけ止める魔法と、忍者の高速移動技術を組み合わせた奇襲。
760 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 21:33:54.62 ID:vJoHq88Do
貴腐「び、びっくりした」

レディーC「私達を信じてください、貴腐様ぁ」

レディーD「貴腐様には触れさせませんわ!」

オートマタ「邪魔です!」シュッ

サッ キンッ キキン

オートマタ「この数は厳しいですね……っ!」


二体が混ざることで異常なまでの強化を遂げたオートマタだが、20人の実体化したレディーに囲まれ、攻撃を凌ぐだけで精一杯であった。

その方向に向けて貴腐が手を伸ばす。

彼女の操るマネキンと違い、オートマタは市民を抱えていない。

貴腐には、すでに膨大な数に増やした菌を直接ぶつけることが可能だった。


ミルズ「させない……!」シュウウ

貴腐「いいのかいこちらに向けて」

ミルズ「うっ!」シュウウ

貴腐「そうそう、自分に使わなきゃ。一秒でも長く生きたかったらね」

レディーE「吹っ飛べ!」ドカン

筋肉「ぬお!」

筋肉(しまった! この肉体は人質、弾き飛ばされたということは……!)


ミルズ「あっ……」ガクッ

貴腐「ようやく精神力が切れたようだね。中々よく頑張ったじゃないか」

オートマタ「魔法使いさん! ……わわっ!」

レディーF「つかまえたぁ」ドロォ
761 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 21:34:38.53 ID:vJoHq88Do
魔法の連続使用で体に力が入らなくなり倒れ伏したミルズ。

そして先程の倍の数に増えたレディーと交戦し、隙を付かれて捕まえられたオートマタ。

何人かのレディーによって貴腐から離れた場所へ運ばれた市民達。

条件が揃ってしまった。

一定範囲内をまとめて腐らせ、無に帰す、貴腐の真骨頂。

目の前で、懸命に貴腐へ挑んだ魔法使いの少女が死んでしまう。

今、行かなければ。


師匠『殺さねぇと殺される。それは言い訳じゃねぇ、真理だ』

フローラ『フィナさんもいつか、大輪の花を咲かせてくれると信じています』ニコッ


手は今なお震えている。

それでも、窓を開け放つ。

タンッ

フィナ「うあああああッ!」
762 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 21:35:11.07 ID:vJoHq88Do
フィナ「毒刃閃っ!」

ドスッ

貴腐「ぐげっ!」

フィナ「……毒抜きバージョン!」スタッ

ミルズ「キミ、は……?」

フィナ「殺菌! 早く!」ビシャッ

ミルズ「うぷっ! わ、分かった!」シュウウ


ミルズの顔にポーションをかけたフィナは、先程から建物の窓越しに戦場を見下ろしていた。

しかし、貴腐と戦う少女の窮地に恐怖を跳ね除け飛び降りたが、結局短剣を握ることはできなかった。

咄嗟に繰り出した技は、高速で斬りかかり毒を与える、殺し屋直伝の『毒爪閃』……の動きだけ真似たただの手刀。

もちろん、その程度で六勇は倒れない。


貴腐「ふふ……。よく来てくれたね、探す手間が省けたよ」

貴腐「そろそろ追いかけっこにも飽きてきた所だったよ!」

ズズズズズ

レディーG「アタシもアサシンなんだけど、ずいぶん下手クソな技ねぇ」

サナ「私がいる限り、貴腐様はいつでも体力満タン。毒も効かないよ」

女子「ミルズ、リウム……ごめんなさい。私だけこんなに幸せになってぇ♪」

レディーH「大切な貴腐様を傷つけるなんて許さなぁい!!」

フィナ「人の壁……!」
763 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 21:36:00.67 ID:vJoHq88Do
ポーションを浴びたとはいえ、ミルズは限界を超えていた。

ミルズの高い精神力を蝕んでいたのは魔法だけではない。

シュンにより告げられた、自身の出生にまつわる秘密。

家族に裏切られ、貴族の生き残りとして処刑されてしまうのなら、その前に死んでも変わらない……そんな考えさえ頭をよぎった。

だが、目の前の少女は自分の危機に駆け付けた。

そして今まさにその少女が危機に瀕している。

ならば、この場で全力で果てるのも悪くないと思った。


ミルズ「やあああ!」プシュウウウ

レディーH「キャア!」

フィナ「両手、いや、全身から……!?」

フィナ「ちょっとあんた、そんな事したら死んじゃうよ!」

ミルズ「分かってるッ!」


貴腐はそんなミルズをつまらなさそうに一瞥すると、その場から逃げ出そうとした。

彼にとって逃走は有効な戦法だ。彼の役割は司令塔。ただし極めて頑丈でいつでもどこでも無数の兵を補充できる司令塔だ。

ミルズは、走る貴腐の脚にしがみついた。


貴腐「レディーは蹴りたくないんだけど、なっ!!」ブンッ

ミルズ「うあっ!」

オートマタ「フィナさん! 春眠ですっ!」

フィナ「!!」


先程、オートマタが試みようとしてレディーに阻まれたのは春眠の術。

この術で眠らされた者は、フルフィリアの魔術師やエスパーには起こせない事を、オミキが知っていた。

フィナにとっては今日習ったばかりの技だ。

しかし、体は咄嗟に動いた。
764 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 21:36:31.96 ID:vJoHq88Do
フィナ(これなら、勝てる!)

フィナ「凶刃瞬殺舞 素手ッ! 死ねえええええ!」

ドドドドドゴッ

貴腐「いだっ、やめっ、ぎゃっ!」


凶爪瞬殺舞……人間の急所を狙って秒間10回の斬撃を繰り出す、殺し屋『凶爪』の奥義。

春眠の術……己の身から放出した力の塊である魂気を纏った武器で斬りつけて対象を眠らせる、オミキの得意技。

そしてフィナが振るっているのは手刀、ではなくグーパンチ。

フィナは師匠と先輩から習った技を即興で組み合わせ、不殺活人の暗殺拳を生み出したのだ!


フィナ「永遠に寝てろおおおお!!!」

貴腐「あぎっ、がふっ、ぐぎょっ!」


相手は、菌で肉体を強化しているものの肉弾戦の知識が全く無い貴腐。

一撃たりとも回避できず、人間の急所すべてに黒い気を纏った拳が打ち込まれる!

目、耳、顎、関節、股間、様々な臓器に、黒い気が吸い込まれていく。

本来、春眠の術はこのような使い方をするものではない。


フィナ「貴腐が死ぬまで殴るのをやめない!!!」

貴腐「ごっ、がっ、ぶえっ……」


なお、途中から武神タケミタマがフィナの肉体を強化していた。

強化された貴腐の肉体も耐えきれず、骨が砕け、関節が折れる。

もはや不殺とは程遠い、ただの暴力であった。

フィナが動きを止めた時、そこには半裸の男が見るも無残な姿で息絶えていた……。
765 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 21:41:14.38 ID:vJoHq88Do
フィナ「はあ、はあ、はあ、はあ…………。ふう……」

貴腐「」

ミルズ「貴腐が、死んだ……」

フィナ「し、死んでないから! たぶん!」

オートマタ「レディーって呼ばれてた人たちも消えちゃいました」

子狐「心拍が止まっとる。これはもう助からんなー」

フィナ「いいや死んでないね! 刃物使ってないし! 目を覚ましたら仲直り!」

ミルズ「そんな無茶な……」

フィナ「さっきの新技の名前は『春の舞』でいいかな?」

子狐「優雅さのかけらもない、ボッコボコに殴る技を?」

フィナ「あたしの流儀は不殺の暗殺術」

子狐「矛盾しとるぞー」

オートマタ「フィナさん、人を殺してしまった事を認めたくないのは分かります……」

オートマタ「でも、貴腐は私を利用してわたしのお店を壊した極悪人なんですよ! 死んで当たり前です!」

ミルズ(何言ってるんだろうこの人形)
766 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/28(水) 21:43:39.65 ID:vJoHq88Do
ミルズ「……もし、貴腐が生きていたらこれからも、自分のわがままでもっと大勢の罪のない人々を殺していただろうね」

ミルズ「キミがそうしていなかったら、ボクもキミも死んでいたんだ」

ミルズ「命の恩人を人殺しだなんて責めやしないさ。誰がその行為を責めても、ボクはキミの味方だ」

ミルズ「ねえ、名前を教えてくれないかな?」

フィナ「……あたし、フィナ」

ミルズ「ボクはミルズだ、よろしく」スッ

フィナは握手に応じなかった。

フィナ「……ごめん、あたし、初対面の人はもう絶対信用しないって決めてるんだ」

ミルズ「……そうだね。裏で何してるかなんて、身内ですら分からないものだからね」

子狐「お互い訳ありじゃなー」

オートマタ「え? 一件落着ー!じゃないんですか!?」

オートマタ「まあ一部わたしのせいなんですけどね」
767 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/29(木) 12:07:25.61 ID:Q0X/uxReO
来とったんかワレェ!
768 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/29(木) 22:12:36.79 ID:TJaEChqLo
「あいたたた……」ムクッ



フィナ「ひいっ」

ミルズ「あ、あああ……」

貴腐「君たち……よくもやってくれたね」

貴腐「特段不思議な事じゃないよ。菌はね、土の中にだっているし、風に乗って飛んでくる」

貴腐「この世に菌がいる限り、私は何度でも蘇る」

貴腐「私は不死だ」

子狐「春眠の術を克服しおった……」

オートマタ「そんな、もう倒す方法なんて思いつきません……」

ミルズ「殺菌…ぐっ」ガクン

ミルズ「だ、ダメだ……動け、動けえ!」ガクガク

フィナ「ちょっと!? 殺菌できなかったらもう攻撃が……!」
769 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/29(木) 22:13:09.81 ID:TJaEChqLo
「下着姿で……何をしているのかしら?」

貴腐「や、やあ」

フィナ「……共和国海軍の大将」

ミルズ「通称、女帝……!」

女帝「町がモンスターの群れに襲われているのに、前線に貴方の兵士が現れていないようだから様子を見に来たのよ」

貴腐「た、戦っていたさ! マネキンの残骸が見えるだろう?」

貴腐「市街戦で珍しく苦戦を強いられてね……。ただ、もう終わるところさ」

ミルズ「ち、違います……! 貴腐は……!」

ミルズ「夢中草の売人グループと組んでいて、げほっ」

ミルズ「一般市民のボク達を口封じのためにっ……。他の人も大勢殺されて……!」

女帝「そう……。それは、怖かったわね」ニタァ

ミルズ(今も怖い)

貴腐「おいおいレディー、騙されないでくれよ。衛生兵長たる私がそんな事をするわけがないだろう」

フィナ「嘘を付くな! 憲兵に神社を調べてもらえば、すぐに証拠は見つかる!」

女帝「落ち着いて。すぐに分かるわ」スッ
770 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/29(木) 22:14:08.09 ID:TJaEChqLo
女帝「嘘を付いているのはやっぱり貴方ね、貴腐」

貴腐「何を根拠に……はっ」

フィナ(今、あたし達は鞭で打たれたんだ! 女帝に操られて、ありのまま起こったことを自白させられた)

フィナ(叩かれた記憶も消されるから知っていなければ尋問されたことにも気付けない!)

女帝「貴腐、貴方は一旦元帥の家で待機。反乱を鎮圧して落ち着いてから軍法会議よ」

貴腐「惜しい……あと2人だったのに」

女帝「元帥の家で暴れたり、奥様やエイラちゃんを傷つけたりしたら…………私の拷問がマシに思えるわよ、ウフフフッ」

貴腐「ひっ……」

女帝「さあ、自分で歩いていきなさい!」パチン

貴腐「……」テクテク

フィナ(あれ、レディーにも解除できないんだろうなぁ)

女帝「フィナちゃん、ミルズちゃん、貴女たちには補償と褒美を与えたいところだけど、今は避難して頂戴。警護を付けるわ」

フィナ(名前も聞きだされてる……)

フィナ「お気持ちだけ受け取っておきます……」

女帝「そう? それならポーションを渡しておくわ。これで疲れを取りなさい」

女帝「そうそう、ミルズちゃん。菌に変えられた貴女のお知り合いは後で元に戻させるわ」

ミルズ「あ、ありがとうございます」

女帝「いいえ。この度は衛生兵長がご迷惑をかけてごめんなさい」

女帝「ではお気をつけて。ウフフッ……」

フィナ「ミルズ。……さっきは適当にかけてゴメン。ほら、ポーション飲んで」

ミルズ「ごくごく……ぷはっ!」スクッ

ミルズ「行かないと……」

フィナ「どこ行くの? まだ動かない方が……」

ミルズ「違法ハーブの元締めが残ってる……!」
771 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/29(木) 22:16:44.12 ID:TJaEChqLo
神社の周辺地区。

ギャル「げーっ……。なんでお偉いさんがタイミング良く神社に来てるワケ……?」

ギャル「タロウには悪いけど縁を切るしかないか。引っ越しかー……面倒臭い……」

バッ

フィナ「見つけた! 神社の近くを探して正解だった」

ミルズ「逃がさないよ」

ギャル「ウソっ……生きてたの? キョウトの傭兵たちは? 貴腐は?」

フィナ「貴腐はあたしが倒した。オミキさんはこちらに付いたよ」

ミルズ「貴腐は、キミに頼まれたって言ってたよ。キミも捕まえて共和国軍に引き渡す」

ギャル「ハァ!? 監獄とかチョー面倒なんですけど!」

ギャル「もしかして……アタシが弱いと思ってない?」

ミルズ「キミの実力は知ってるからね」

ギャル「ハッ、ウケる。ダサいから使いたくなかったけど、しゃーなしか……」

ギャル「秘技『死ノ薬』……!」

フィナ(ただの水弾の連射?)

ミルズ「避けて!」

フィナ「わぷっ! あれっ、別に痛くない」

ミルズ「高濃度の夢中草エキスが入ってた。あれは即席のポーションを作って連射する技。威力はなくても、当たればいいってことだろうね」

ミルズ「まあ、ボクが中和魔法で効果を消すから何の効果もないんだけど」

ギャル「ちょっ、全部無効化するとかありえんし……マジ最悪……!」

フィナ「じゃ、普通に拘束するね!」
772 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/29(木) 22:17:31.84 ID:TJaEChqLo
夢中草の売人の元締めであるサキューラはあっさりと後ろ手に縛られた。

魔法は手を使わなくても発動できるが、精神力も大きく削れる上に身体への負担も大きい。

縛られたまま走るのは案外難しいため、相手がベテラン魔術師やテレポート使いでなければ、魔法封印は必要ではないのだ。


フィナ「質問なんだけどさ。死の商人って殺し屋とどう違うの?」

ミルズ「武器商人の事。その中でも特に戦争において敵方にも武器を売る商人への蔑称」

ミルズ「殺し屋みたいに直接手を下すわけじゃないけど、間接的に大勢の命を奪ってる」

フィナ「そっかー。お金のためなら友情もポリシーも捨てる悪魔って感じ?」

フィナ「いかにもグリエール商会らしいや」

ギャル「……聞き捨てならない」

フィナ「何?」

ギャル「取り消せ! ミリエーラ様はアタシ達を救ってくれたんだ」

ギャル「アタシの親友を馬鹿にすんな! ミリエーラ様は、グリエール商会なんかとは違う!」

ミルズ「親友に様付け……?」

ギャル「兄様〜なんて言ってるアンタに言われたくないんですけど!」

フィナ「へー、ボスはグリエール商会の人じゃないんだ」

フィナ「でもさ、あんた達のしたことは、あんたが嫌ってそうな商会より酷いよ」

ギャル「……アタシだってこんなめんどい仕事やりたくなかったし」

ギャル「きっとボスにはボスの考えがある。だから言うとおりにしただけ……」

ミルズ「……やっぱり、本人に話を聞かないと解決しない、か」
773 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/29(木) 22:18:22.37 ID:TJaEChqLo
ピロピロリン

フィナ「何の音?」

ギャル「……通信。あんたらが会いたがってるボスから」

ミルズ「これ?」スッ

ギャル「耳に当てて」

ギャル「ごめん、ボス! 夢中草の仕事は失敗。市民に捕まった。フリー、マリー、ビオーラ、ディアナもたぶんダメ」

ミリエーラ『全―知っ―――す。――――成功です』

フィナ「音量上げてよ」

ギャル「えっ、そうなの? 結構稼いだけど、全体には行き渡らなかったし、何より幹部のアタシが……」

ミリエーラ『あなた方の役目は終わりました』

ギャル「……あの、どういう事?」

ミリエーラ『根無し草は枯れる運命……お疲れ様でした』

ギャル「ま、待ってミリエーラ様……アタシはまだ」

ブツッ

フィナ「捨てられてんじゃん。案の定」

ミルズ「少しだけ、同情するよ。そういえばキミは最初から全くやる気が無さそうだった」

ミルズ「やりたくもないことをやらされて、町の平和を奪い、傭兵や協力者に人を殺させた。辛いだろうね」

ミルズ「でも、キミが今更悔やんだ所で失われた命は戻ってこないんだよ!」

ギャル「うあ、あああああ!!」ガクッ

ギャル「ゴメン、リウム……! メガネ……! みんな……!」
774 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/29(木) 22:19:22.13 ID:TJaEChqLo
テレサ「ご安心ください。戻ってきますよ」

ミルズ「テレサさん……!?」


ミルズと共に夢中草の販売組織を探していた協力者である、聖教徒のテレサ。

貴腐からの逃走劇が始まった後、影も形もなかった彼女がそこにいた。


フィナ「この人、貴腐にやられたんじゃ……?」

フィナ「貴腐、あと2人だったって言ってたよね?」

ミルズ「ああ……その2人の中にはたぶんボクが入ってなかったんだよ」

ミルズ「ずっと、隠れていたんだね」

テレサ「はい」

テレサ「わたくしは、テレポートで遠くに飛ばされた後、すぐに下水道へ逃げ込みました」

フィナ「下水道って菌が多そうだけど」

テレサ「ええ。貴腐に操られていない状態の菌で満たされています」

フィナ「そうやって菌の捜索網から逃れたんだ! 頭いい!」

ギャル「それより! 戻ってくるって言ったけど、マジ!?」
775 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/29(木) 22:20:36.93 ID:TJaEChqLo
キョウトの傭兵との戦闘時、テレサはある魔法を使っていた。

生命の天使の固有魔法『サリエルプロテクション』。

この魔法には、加護を受けた対象の死を保留する効果がある。

強者の勲章を得るための百兵の試練などのように、高確率で死者が発生する場では必ず高位の聖教徒がこの魔法で保険をかける。

ただしこの魔法は、効果が続いている間、他の魔法が一切使えなくなるという弱点も持つ。

したがって、天使から貴腐が倒されたと報告を受けるまで、テレサは下水道に棲む凶悪なモンスターから逃げ回る羽目になっていた。


テレサ「すみません。回復や防御結界でサポートしたかったのですが、あの場では人数が多かったので加護を優先しました」

フィナ「いいよいいよ! あたしだって、うずくまってただけだったもん」

ミルズ「ボクなんていなかったからね」

テレサ「では……」

テレサ「生命の天使よ。絶えた命を、契約の時までお戻し下さい」


6本の光の柱がウベローゼン市を照らし、リウム、ラファ、テンパラス、ネル、バルザック、ガルァシアが生き返った。
776 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/29(木) 22:22:27.91 ID:TJaEChqLo
病院近隣。

バルザック「うっひょー! 俺、復活!」

バルザック「しっかし、流石の俺っちにも六勇を倒すのは無理があったぜ」

ネル「ンー。相手が悪かったネ。でも一番悪いのはアイツだヨネ」

バルザック「ああ。俺たちに敵の正体を黙っていた、シュンをぶん殴りに行こうぜ!!」

ガルァシア「……俺も賛成だ」


テンパラス「……テレサ殿の魔法か。今度会った時に礼を言わねば」

テンパラス「まだ、私の剣の道は続けられそうだ」



裏路地、アジト前。

ラファ「生命保険魔法。知ってたのです」

日魔術師『ぼくちんを置いていくのかぁ〜!』

ラファ「憑いてきたら除霊するのですよ。でも今回は働きに免じて見逃してあげます」

ラファ「性的な悪戯をするなら、討伐依頼を出されないようにせいぜい気を付けるのです」

リウム「……父さん」

貴腐によって苗床にされたリウムの父はそのまま残されていた。

リウム「魔法街で、魔導師の先生も死んだままだった……。姉ちゃんも帰ってこない……」

リウム「なんで俺だけ生きてるんだよ!!!」

リウム「それじゃ……意味がないだろ……」

ラファ「……今は、好きなだけ泣いていいのです」

ラファ「落ち着いたら、どこか屋内に移動しましょう。生きるのです。生きなければいけません」

悲しみ喘ぐリウムに、ラファは優しく寄り添った。

彼女もかつて家族を失った身。その心境は痛いほどに理解できた。
777 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/03/29(木) 22:23:24.51 ID:TJaEChqLo
テレサ「では、彼女の身柄はわたくしが預かります」

テレサ「お二人もお気をつけて」


サキューラはテレサが聖教会へと連れて行った。

町が落ち着いたら既に捕らえているディアナ達と共に軍へ引き渡すのだろう。


オートマタ「フィナさーん! 神主さんと話をしてきました!」

オートマタ「見違えたわたしの姿に目を丸くしておられました!」

フィナ「だろうね……。フローラはどう思うかな……」

オートマタ「あっ、オーナーさんとは今通信してます。はいどーぞ!」

フィナ「フローラ! フィナだよ!」

フローラ『ハーブの問題、解決したんですね。おめでとうございます!』

フローラ『クリスティさんは……その、災難でした』

フィナ(困惑の表情が目に浮かぶ……)

オートマタ「お店は、建て直していただいたら続けます」

フィナ「ず、図々しい」

フローラ『ちょっと、なんですか……』ガタガタン

フィナ「フローラ、どうしたの?」

クルト『聞こえるか! 一刻も早くモニターを壊すんだ!』

フローラ『クルトさん、ウベローゼンのモニターはもう壊れています』

ミルズ「兄様!? 今どこで何してるの!?」

クルト『み、ミルズか。今俺は、フローラと遊園地にいる!』

ミルズ「……は?」

フィナ「……は?」

クルト『今はゆっくり話している時間がない。また後でな!』

ブツッ

フィナ「…………なんだか、方向性の違う裏切りを受けた気分」

ミルズ「…………ボクもまったく同感」
778 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/29(木) 22:37:20.97 ID:UeGDjsBNO
きてるー!
779 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/29(木) 22:51:23.13 ID:z1oVkdIvO
なるようにしかならないんだなという謎の安心感がありますね…
780 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/30(金) 18:37:14.06 ID:VJjcSS9XO
変態はよく頑張った
781 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/04/07(土) 03:09:38.16 ID:PuEU+LE3o
女帝に避難するように言われていたが、フィナは家に用事があるらしい。

ミルズは、フィナの近くが安全だと思い、家までついていくことにした。


空き巣A「ぐへへ、町が混乱してる今が狙い時だ……」

オートマタ「こらー! 他人の物を盗ってはいけません!」

空き巣B「やべっ、逃げるぞ!!」

フィナ「……」


女性「お願いします! 子供だけでも!」

夫「駄目だ駄目だ! 知らない奴を家には上げられん!」

妻「ちょっと、ドア閉めてよ! モンスターが入ってきたらどうするの!」

女性「うちの子を押さないでください!」グイッ

妻「いたっ。何すんのよ!」

夫「妻を殴ったなテメエ!」

フィナ「……醜い」

ミルズ「急いだ方がいいかもね。家に押し入られてる可能性がある」
782 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/04/07(土) 03:10:38.24 ID:PuEU+LE3o
フィナの家は、半壊していた。家族の姿もない。


ミルズ「これは一体どういう……! 近くにモンスターはいなかったし、違法ハーブ関係の敵はもういないはず!」

フィナ「……あはは。……最悪だ」ガクッ

オートマタ「フィナさん!? ガドーという男の仲間の仕業ですね。許せません!」

フィナ「……いいよね、先輩は」

オートマタ「はい?」

フィナ「何のしがらみもなくて……夢と目標以外には無頓着で、心が痛むことなんてないんだろうね」

オートマタ「体が痛むこともありませんよ」

ミルズ「フィナ?」

フィナ「もう……嫌なんだ」

フィナ「誰かに裏切られても、家族がいなくなっても、傷付かないようになりたい」

フィナ「躊躇なく人に刃を向けるには、心を殺して人間をやめるしかないんだ!!」


悪魔『その言葉、本当だな?』

フィナ「っ!? ここは……!?」

悪魔『僕は人に非ざる者を司る、死霊・傀儡の悪魔』

悪魔『望むのならば、お前を人間でない物に変えてやってもいい』

フィナ「……この苦しみは無くなるの?」

悪魔『無くなる。ただしお前が得る物は空虚だ。もはや二度と感動することもない』

フィナ「それって……誰かと話したり、美味しいお菓子も食べられなくなるってこと!?」

悪魔『実体があればできる。どう、契約するかい?』

フィナ「実体がある形で……お願いします」

悪魔『フッフッフ……契約成立だな』

フィナ「あっ……!!」

心臓が締め付けられる感覚の後、体温が少しずつ失われる。

初めは恐怖を覚えたが、その恐怖さえも次第に薄れていった……。
783 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/04/07(土) 03:12:16.43 ID:PuEU+LE3o
ピカッ!!

ミルズ「フィナ! フィナ!」

フィナ「ふぇ……」

ミルズ「ま、間に合った……?」

オートマタ「良くないものが来てるって狐さんが言うので、ミルズさんに起こす魔法をお願いしたんです」

ミルズ「何に会ったか覚えてる?」

フィナ「…………よく覚えてない」

ミルズ「コホン。フィナ。ガドーって誰なんだい? なぜ家を襲ったの?」

フィナ「……話せない」

ミルズ「話してくれ。ボクはキミの力になりたい」

フィナ「ダメ。存在を知ったら、ミルズも巻き込まれちゃうから……」

ミルズ「大丈夫。貴腐より恐ろしい敵なんてそうそういないさ」

フィナ「ねえ、なんで会ったばかりのあたしを助けようとするの? ほっとけばいいじゃん!」

ミルズ「貴腐を倒した時にも言ったけど、命の恩人だからだよ」

ミルズ「フィナが手伝ってくれなかったら、ボクは今頃キノコの栄養分にされてた」

フィナ「…………アサシン協会」

フィナ「あたしは、アサシンの弟子になって、そして弟子をやめた。だから、狙われてる」

ミルズ「やけに強いと思ったら……そういうことだったんだ」

ミルズ「別に驚かないよ。もっととんでもない存在を知ってるからさ」
784 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/04/07(土) 03:14:14.24 ID:PuEU+LE3o
ミルズ「アサシンの弟子ってことは、ホワイトシーフだ」

ミルズ「……キミにしか頼めない事がある」スッ

フィナ「書類と封筒……あっ、ミリエーラって書いてる!」

ミルズは、シュンに教えられた衝撃の事実をかいつまんで話した。

フィナ「そっか……。ミルズのお兄さんが陰でこっそり商売をしてて、しかも死の商人の正体かもしれないんだ」

オートマタ「えー、それ絶対違いますよ。クルトさんはミリエーラさんじゃないですって」

フィナ「ちょっと黙ってて」

オートマタ「はいっ」

フィナ「だとしたらフローラが危ない! 一番ヤバい奴と一緒にいることになるじゃん!」

ミルズ「でも、この証拠は自称探偵の用意した偽物かもしれない」

フィナ「うん、確かに。あの探偵は昨日から嘘しか言ってない」

ミルズ「キミに頼みたいのは、この書類や取引記録表が本物かどうかの調査」

フィナ「うーん……書類に書かれてるジェンス魔道具店を見に行かない事には分からないけど……」

フィナ「今は状況が悪いかな。あはは……」
785 : ◆k9ih1s9J/w [saga sage]:2018/04/07(土) 03:16:05.93 ID:PuEU+LE3o
ミルズ「そうだね。今、外に居続けるのは危ない」

ミルズ「せっかくだからお茶しないかい? ボクが最近知った雰囲気のいいカフェがあるんだ。フィナもきっと気に入ると思う」

フィナ「ごめん。あたしはアサシンが怖いから人の多いところに行くよ」

ミルズはフィナの手首を力強く掴んだ!

ミルズ「まあそう言わずに! ここから近いし、強いカフェだから大丈夫」

フィナ「強いカフェって何!?」

ミルズ「行けば分かるさ」

フィナ「行かないって! 離して!」

ミルズ「ごめん……。それならボクは寂しく一人で行くよ。じゃあね……」

フィナ「も、もう……。そのカフェ、スイーツはある?」

ミルズ「スウィートな経験ができることは間違いなしだよ! さあ、行こう!」

フィナ「あのさ、先輩……」

フィナ「初対面でグイグイ来られるのって結構怖いんだね!」

オートマタ「夢中草、盛ってないんですけどねぇ」
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