用心棒「派手にいくぜ」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/03/13(月) 00:07:47.02 ID:pbQc97HN0


 ギギギギギ…


用心棒「おっ、外だ」


 ザザア… ザザア…


少年「本当に港のそばですね……」

相棒「蔵は……」キョロキョロ

用心棒「船着き場の向こうに、一つだけあるな……行くぞ」


用心棒(夜はまだ深く……紺碧の海に引き立てられて、闇は一層深い……まだ何か、一悶着がありそうだ)

用心棒(しかし日が昇らないことはない。女神様が閉じこもった岩戸……こじあけてやるとも)

用心棒(……〈大駒〉でな……)
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/03/13(月) 00:09:03.39 ID:pbQc97HN0
今日はここまで
次回四天王戦です
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/15(水) 21:44:01.60 ID:fRFSAlCpo
楽しみ
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/03/18(土) 17:50:15.78 ID:chnP0r8j0


 蔵


「……」

(所せましと大小さまざまな木箱が置かれた蔵)

(その中央、人の背丈ほどもある大きな木箱の横に、俺は居る……)


(ーー鍛冶屋の仕込み箪笥の中にあったあの手紙……)

(俺と同じように見つけられたなら、用心棒は必ずここに来る)


<ザザア… ザザア…


「……」


用心棒「そこのお前。動くな」ジャキッ

「!」ピクッ

用心棒「振り向くのも駄目だ。少しでも身じろぎしたら撃つ」


用心棒(まさか先客が居たとはな……しかし、どういうわけか無警戒に突っ立っていたおかげでこの位置を取れたぜ)


「……」


用心棒(……この男。背後から見た限りでは、そこそこ身だしなみの整った侍、といったところか)

用心棒(覆面ヤローではない……不気味に先回りしている人影ーー奴かと思ったのだがな)


侍?「……何か言うことはないのか?」


用心棒(……この余裕)

用心棒(上っ面だけではないな)
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/03/18(土) 17:51:19.88 ID:chnP0r8j0

用心棒(ーー掴みかかられるほど近くはない。不意に横っ飛びされた程度では急所を外さん)

用心棒(撃鉄を戻す隙を与えないために……撃つとなれば必殺、一発で仕留める)


用心棒「……この場所をどこで知った」

侍?「……鍛冶屋さ。仕込み箪笥の中の文……」

用心棒「!……」

用心棒「……貴様が、鍛冶屋を?」

侍?「……ふん。日陰者も少しは賢くなきゃあな」

用心棒「……そうか」ジャキッ

侍?「まあ待てよ用心棒……」


侍?「耳を澄ましてみろ」

侍?「匂いを嗅いでみろ」

侍?「目を凝らしてみろ」


侍?「全てがこの出逢いを引き立てているんだぜ」

用心棒「……?」


侍?「波の音」

侍?「潮の香」

侍?「そして……高窓の月光!」ピカッ


用心棒(うっ!?奴、いつのまに手の中に鏡をーー月光の目くらまし!)

用心棒「このァ!」バアンッ!

侍?「フッ」シュバッ

用心棒(くっ、バカでかい木箱の陰に隠れられた……)

用心棒(ーーまだだ!裏口から入り込んだ相棒が背後から斬る!)
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/03/18(土) 17:52:31.67 ID:chnP0r8j0

侍?「用心棒。正直俺は最初はお前のことを見くびっていたよ」

侍?「だがお前は剣士、槍使い、大男を下した。素晴らしい!俺でも容易にはいくまい」

用心棒「な、何を……」

侍?「そう思ったからわざわざ部下ーーあの鉄砲を振り回す替え玉に待ち伏せさせ、騒ぎを起こして……」

侍?「抜け道、そして邪魔の入らないこの戦場に誘導したんだ!」

相棒(完全に背後をとった……狩る!)シュザッ

侍?「ーーだから」ジャキインッ ズドオンッ!


 チュイーンッ


相棒「ぐ!?」バスッ ガクッ

用心棒「!?」


侍?「せいぜい楽しませてくれよ」


相棒「くっ……物陰に……」ズルルッ

相棒(ーー馬鹿な!跳弾が、私の脇腹に……)

相棒(奴は前を向いたままだったのに……まるで狙いすましたかのように……!)

用心棒(ーーこの特殊技能ッ……それに『武士』と名乗っていた奴を『替え玉』と……)

用心棒(そうか、こいつは……!)


武士「ーーこの武士様をよォ!」

162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/03/18(土) 17:53:57.62 ID:chnP0r8j0


 鍛冶屋の抜け道 出口


 ギギギ……


?「……」スタスタ

?「……」キョロキョロ

?(チッ……用心棒たちの行方を見失ってしまった……)


?(鍛冶屋の店に入るまでは把握していた)

?(しかし鍛冶屋が死んでいる以上、そこに有益なものは無いはず)

?(すぐに移動すると思い、周辺に網を張っていたんだが……こんな抜け道があったとはな)

?(奉行所の連中が居なくなった後探し回ってようやく見つけたはいいが……)

?(今からではどこを探したらいいかもわからん……)


?「……」

?(用心棒の行方を把握するのは不可欠なことではないとはいえ……)

?(奴らが、俺の予想を超えてきた)

?(俺の計画が、崩れたーー?)

?(ーーまさかな)


 スタスタ……

163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/03/18(土) 17:54:46.15 ID:chnP0r8j0


武士「そら踊れっ!踊れっ!踊れーーっ!」ズドオンッ! ズドオンッ! ズドオンッ!

 カキーンッ! バキーンッ! ガシューンッ!

用心棒「うおおっ!?」サッ

 キューンッ プシューンッ

バキャッ!

用心棒(ヒャッ!耳のすぐ横に着弾しやがった!)


相棒「喰らえ……!」ビュンッ

武士「おっと。投剣か、いい腕だ!」サッ ズドオンッ!

相棒「チッ」サッ

 カキーンッ

相棒「!」サッ ヨロッ

相棒(うっ、脇腹の傷が……!)ドタッ

武士「少し早いが終わりだな!」ジャキッ


用心棒(相棒の投剣から逃れようとして俺の射線上に出てきた!ーーそれにお前はもう六発撃ち切ったじゃないか!馬鹿め!)

用心棒「くたばれ!」バッ ジャキッ

武士「おおどうした!お前が先かァ!」ガシャーンッ! ジャキンッ!

用心棒「!?」

用心棒(奴の袖から弾丸が沢山ついた鉄の棒が出てきて……短銃に弾を込めるカラクリか!)

用心棒(しかし撃つのは俺のほうが早い!奴の眉間に一発ーーぐっ!?)ズキッ

用心棒(あちこちの傷が、今に、なって……!)

用心棒「う、おあああああ!」バアンッ!
武士「そらよっ!」ズドオンッ!
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/03/18(土) 17:55:25.27 ID:chnP0r8j0

 キューンッ

武士「ぐっ……!」バスッ

武士(おのれ、左腕を……!)


 カキーンッ

キュイーンッ

 キーンッ

用心棒「ぐふっ!」バスッ

用心棒(い、いかん……右脚に……!)


武士「……フフフフフ」サッ

武士「フフフフフッ!いいぞ!久々に血が沸き立つようだ……!」

武士「さあ、まだまだ夜は長いぞ……!」ジャキッ


相棒「……!」

用心棒「……上等、じゃあ、ねえかッ!」
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/03/18(土) 17:58:43.28 ID:chnP0r8j0
今日はここまで
格ゲーになったら槍使いが強キャラだと思います
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/26(日) 17:46:39.30 ID:6Kxv031So
格ゲーになったら大男が最弱だろうなぁ
リアルではとんでもなく強いと思うけど
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:27:02.39 ID:wQDFMVRx0


 蔵の外


<バアンッ!バアンッ!
<ドキューンッ!カキーンッ! ドキューンッ!
<ドカッ! ドキューンッ!


少年(銃声が……すごい戦いみたいだ)

少年(相手はそんなに強いのだろうか?第一用心棒さんたちは傷だらけだ……!)ハラハラ


 ……ザッ ザッ ザッ


少年「!」ササッ


侍丁「……もう始まっているようだな。大分激しいようだ」

怪しい男「なに、俺たちは武士様に言われたとおり周りを固めるだけさ」


少年(武士……?中にいるのは四天王の一人、武士なのか!)

少年(こうしちゃいられない、僕も何かお二人の手助けを……)


侍丁(……ん?蔵の角の向こうのほうへ、足跡が続いている。それも新しい……)

怪しい男「!……おい」

侍丁「ああ」ゴソゴソ ジジジ……


少年(……ん?何の音だ?)


侍丁「……」コロロ…


少年(顔が出せないからわからないが……奴等、何かこちらへ転がした?)

少年(ーー導火線の音?−−)

少年(ハッ!爆弾!)ダッ

168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:28:23.78 ID:wQDFMVRx0


 蔵


用心棒(あちこちに積まれた木箱……)


用心棒(その山の陰一つ一つが、夜の森の茂み……死の潜む闇……)


用心棒(どこから来る……右か……左か……)

 チカッ

用心棒(む、あの木箱の上に置いてあるのはさっきの鏡?ーー見ている!奴が!)

用心棒(銃弾の軌道は――!?)

 ビューンッ

用心棒「うおっ!?」バッ

 ズドッ!

用心棒(これは、槍?奴め、鏡越しに槍を投げてきやがったのか!)

用心棒(そうか、周りの木箱に武器が――ハッ!)


武士「飛び出してきたな――今度は鏡無しで見える」ジャキッ

用心棒(まず――)
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:29:23.37 ID:wQDFMVRx0


 ズドオンッ!


武士「うおっ!?」フラッ

用心棒「おおっ!?」フラッ

用心棒(煙が――爆弾か!?)

武士「くそっ、逃さん!」ジャキッ

相棒「撃たせない……!」バッ ビュンッ

武士「ぐっ!」ズバッ

武士「痛ぇなあ!」ドキューンッ

相棒(木箱から見つけた盾で……!)ガシャッ

 カキーンッ

  キュイーンッ

相棒「がっ……!」バスッ

武士「盾など通用せんなあ!とどめ喰らえッ」ジャキッ

用心棒「バカめ!後ろだ!」ジャキッ


<タタタタタ

<ダダダッ マテ!クソガキ!

<ニカイニニゲタゾ!オエ!


用心棒(――爆発の粉塵の中から、坊主が!それに追手が――)
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:30:46.98 ID:wQDFMVRx0

武士「……へっ」ニヤリ

武士「俺の背後は死角じゃあねえぜッ!」ドキューンッドキューンッドキューンッ

用心棒「はっ!?」サッ

 カキーンッ
キュイーンッ
 バキーンッ

用心棒「ぐ」バスッ

武士(――?避けても二発は当たる計算だったんだが……ッ!)

相棒「……」ガシャッ

武士(こ、こいつ、弾丸に盾を当てて軌道を……!)

相棒「ふんっ」ブンッ ビューンッ

武士「チッ!」ゲシッ

 ガランッ

相棒「隙あり」シュバッ

武士「うっ!?」

 ザシュッ!

武士「ぐふっ……退け!退けッ!」ドキューンッ ドキューンッ
 
相棒「……」サッ

武士「……くく、く……」サッ

武士(最高だ……これほど死を……生を間近に感じたことはない……!)ガシャーンッ ジャキッ!


用心棒「はあ……はあ……」

用心棒(よし……物陰に隠れた。また……振り出し……)

用心棒(――いや、坊主が……!)
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:31:35.93 ID:wQDFMVRx0


 蔵 二階


少年「うわわわわ……!」タタタ

侍丁「待ておらァ!クソガキ!何してやがったッ!」タタタ

怪しい男「クソッ、木箱が邪魔だ……おい!挟み撃ちだ、お前はそっちから回り込め!」タタタ

侍丁「わかった!」クルッ タタタ…


少年(ううっ……このままじゃ捕まってしまう……!)タタタ…

少年(そうだっ!洋式短銃!)ゴソゴソ

少年(仕方ない、仕方ないんだ、これで……)ジャキッ

少年(……ん?)ガチャガチャ

少年(火薬が湿気てる――!)ガーンッ

少年(ど、ど、ど、どうしよう……いや、撃てなくて気づくよりはよかったと考えよう!)

少年(周りに何か……)キョロキョロ

少年(!……この木箱は……?)

172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:32:35.66 ID:wQDFMVRx0


 一階


用心棒「……」

用心棒(相棒は……どこだ……)

用心棒(奴は……どこだ……?)

 ガタッ!

用心棒「!」ジャキッ

鼠「チューチュー!チチチ」

用心棒「ふう……」

<ドキューンッ

 カキーンッ

  キュイーンッ

鼠「ギッ」バシュッ

鼠「」コロッ

用心棒「!?」

用心棒(音だけを頼りにここまで精密に……!?)

用心棒(……動けば死ぬってか……!)

用心棒(ッ)クラッ

用心棒(……クソッ。しかしいい加減止血をしなくちゃあ冗談抜きに死にかねないぜ……!)

173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:33:18.55 ID:wQDFMVRx0


 二階


侍丁「……」シャキンッ


侍丁「……」スタ… スタ…


侍丁「……」スタ… スタ…

 ググッ

侍丁(!足元に、縄が――!?)

 バララッ

侍丁「はっ!」バッ

 ガタタタンッ! カランッ…

侍丁(槍の束が倒れてくる仕掛けか……あのクソガキ、よくも……!)

<ギシッ…

侍丁「!そこか!」バッ


少年「!」


侍丁「浅知恵は今ので終わりか……?」

侍丁(追い詰めたぞ……クソガキの後ろは吹き抜け。奴に飛び降りる度胸なんてあるまい……)


怪しい男「さ、侍丁……」ヨロヨロ

侍丁「おお、挟み撃ちは成功……ゲッ!何だお前……ゲホッ!ゲホッ!何でそんな粉まみれなんだ!?」

怪しい男「張ってあった縄に引っかかって……」

侍丁「……」
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:36:30.97 ID:wQDFMVRx0

侍丁「……」

少年「……」

侍丁「……ク・ソ・ガ・キィーッ!」シャキンッ ダッ


少年「今だ!」ゴソッ グッ

侍丁(む?クソガキが床に何かを押し付けて――あれは短銃か?)

侍丁「何かわからんが喰ら……?」カチッ

侍丁「うおっ!?足が!?」ガグンッ

少年(最後の足止め……狩猟用の罠!)

少年「今だ!」ガチンッ

侍丁(クソガキが短銃の火打石の部分を押し付けて、床に火を――)

 シュボッ

怪しい男「こ、これはッ!?」

侍丁(うっ!?暗くて気づかなかったが、床に火薬の粉が一直線に敷いてある!)

 ボボボボボボボボボ……

侍丁(その先には――その先の木箱は――!)


『火薬』


侍丁「ぬおあああ――ッ!こんのクソガキィ――ッ!」ビュンッ

少年(!?か、刀を投げ――)
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:42:50.17 ID:wQDFMVRx0


 一階


<クソガキーッ!


用心棒(……?)

 ガランッ

用心棒(刀が落ちてきた?)

少年「わーっ!南無三宝!」ドターッ

用心棒「げっ!?」

少年「あっ用心棒さん……刀!刀刺さってませんか!?」

用心棒「な、何を言ってん……」

<ドキューンッ

用心棒「!しまっ――」

 カキーンッ
キュイーンッ

用心棒「ごふっ!」バスッ

少年「ああっ!?」

武士「勝った!直接ド玉をぶち抜いて終わりだあああっ!」バッ ジャキッ


 ド ゴ ォ ン ッ


武士「うおおおっ!?またかッ!」フラッ

謎の男「うぎゃあ――っ!死んだ――っ!」ドターッ

武士「うおっ!?射線を塞ぐなバカが!」

武士(落ちてきたバカと粉塵でよく見えんが、用心棒の場所はわかっている!壁に反射させて撃ち込む!)

武士「最後の一発!喰らえ!」ドキューンッ!


カキーンッ

バスッ

「ぐうっ」


武士(当たった!)
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:44:19.84 ID:wQDFMVRx0

侍丁「あ、悪魔め……」ガクッ

用心棒「……」


武士(――バカな!落ちてきた侍丁を盾に!?)

武士(まだだ、部下が射線を塞いでいる……この隙に狙いを付け直して――)ジャキッ


用心棒「悪魔で結構……!」ジャキッ バアンッ

 カキーンッ

武士「ぐおおっ!?」バスッ

武士(お、俺の軌道を利用しやがっ――)

 ドスッ!

武士「がっ……!?」

相棒「……」

武士(こ、この、女……!)

武士(だが……後ろから刺された衝撃で、さっきの軌道からは脱した!)

武士(探せ、新しい軌道……俺の、勝利への軌道――)

 バアンッ

怪しい男「こ、今度こそ死ん……だ……」ドタッ

武士(――!射線がッ!)


用心棒「死んで仏になるよりも」ジャキッ

用心棒「生きて悪魔になってやる!」バアンッ


武士「――」バスッ


武士(死に近づこうとした俺に、生を渇望するあいつを殺せるわけもなし、か……)

武士(構わんさーーああ、楽しかった)

177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:45:16.80 ID:wQDFMVRx0


相棒「……死んだ……」ブンッ

武士「」ドシャッ

用心棒「……そう、か……」ガクッ

相棒「……」ガクッ


少年「よ、用心棒さん!相棒さん!怪我が……大変な……!」

用心棒「……ああ、鉛玉は……好みじゃないんだが……もう、腹いっぱいだ」

用心棒「……相棒、お前は……」

相棒「……」

用心棒「……」

相棒「……」

用心棒「……何か喋れ」

相棒「……腹が減った」

用心棒「今か?」

少年「あ、あの……鍛冶屋の家から持ってきた握り飯なら、いくつか」

相棒「食べよう」

用心棒「今か?」

相棒「嫌か?」

用心棒「……」

用心棒「とりあえず……申し訳程度にでも、傷の手当てをしてからにしよう」
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:46:09.35 ID:wQDFMVRx0


 ゴソゴソ ガサガサ…


用心棒「モグモグ……さて、これからどうしたものか……」

相棒「モグモグここは危険……か……ハグハグ」

用心棒「ああ……そろそろさっきの爆音を聞きつけた野次馬が集まってくるだろう……」

用心棒「それに混じって油商人の手の者も……な。モグモグハグハグ……ゴクンッ」

相棒「モグモグ……この体で……どこまで行けるか。モグモグゴクン」

用心棒「……厳しい、だろうな……」

用心棒「どこかに……隠れなければならないんだが――くっ」ズキッ

用心棒「人心地ついたら……いよいよ痛み出してきやがった……」ズキズキ

相棒「……」

相棒「……?坊主は……」

用心棒「ああ……?さっき、蔵の中を見てくるといって……」


<ガタンッ!


相棒「ッ!?」チャキッ

用心棒「何の音だ!?」ジャキッ


用心棒「――あれは!?」

179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:47:11.54 ID:wQDFMVRx0


 日の出後


 蔵の外


 ガヤガヤ ザワザワ


魚屋(朝一で仕入れをしようと海沿いを歩いてきたら……なんだこの人混みは?)

反物屋「うーん、ここからじゃ何も見えんなあ……」キョロキョロ

魚屋「あっ反物屋!」

反物屋「あっ魚屋!」

魚屋「また何かあったみたいですなあ、今度は何だっていうんです?」

反物屋「どうもそこの蔵で爆発があったらしい。それも続けて二度……」

魚屋「爆発?ここは花火でも収めてるんですかねえ?」

反物屋「いや、そういうわけじゃないようだが……おっ見なよ、町奉行のお出ましだ」


町奉行「全員整列ッ!」

侍甲「はっ!」
侍乙「はっ!」
侍丙「はっ!」

町奉行「……ん?全員整列!」

侍甲「はっ!」
侍乙「はっ!」
侍丙「はっ!……あれ?町奉行、侍丁のやつが居ません!」

町奉行「何?……ふむ、まあいい。これから状況を説明する!」

町奉行「今日の未明、この蔵で二度の爆発があったとの情報が入った!昨晩の鍛冶屋での事件との関連も疑われる!」

町奉行「これより蔵に突入、関係者及び証拠物件の確保を行うーーさすまたァ!」

侍甲「準備よし!」ガチャッ

町奉行「十手ェ!」

侍乙「準備よし!」カチャッ

町奉行「提灯ッ!」

侍丙「準備よし!」スチャッ
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:48:12.73 ID:wQDFMVRx0


 蔵 一階


町奉行「御用だ――ッ!」ズバーンッ

侍甲「うおっ!凄い火薬の臭いだ……」

侍乙「……木箱だらけだな」

侍丙「……どうも、南蛮渡来の品も混じっているようだ……」


町奉行「――うおっ!?これは!」

侍甲「一体何です――ああっ!?」


侍丁「」


町奉行「さ、侍丁!――駄目だ、死んでいる!」

侍乙「何だって!?侍丁がなぜここに!?」

侍丙「あっ、見てください!他にも死体がっ!」

侍甲「生きている者はいないのか?」

侍乙「いや、死体だけです……」


町奉行(攘夷を叫ぶ連中の影も無いのに、ここ最近の物騒さは何だ!?)

町奉行(その上奉行所の役人までが――!)

侍甲「町奉行、如何しましょう!?」

町奉行「……」


町奉行「これより箝口令を発する!鍛冶屋の事件、そしてこの蔵の事件に関する情報を絶対に漏らさぬよう心せよ!」

町奉行「こちらの動きを掴ませず、電撃!下手人をひっ捕らえるのだ!」
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:49:32.68 ID:wQDFMVRx0
今日はここまで
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/08(土) 15:31:30.66 ID:X8URUWc0O
乙。
夢中で読んでしまった…次の更新を待ってます
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/08(土) 16:56:02.47 ID:9LRxmq4TO
少年いらない
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 19:50:43.47 ID:/8aX4q490


 蔵


 地下


用心棒「……上が騒がしい。どうやら奉行所の連中が到着したようだな……」

相棒「……」キョロキョロ

用心棒「気にするな相棒。奴ら、この秘密の地下室に気づきやしないさ」

用心棒「坊主が入口を見つけなきゃ、俺たちも気づかなかっただろう……」

少年「僕も驚きました……まさかとは思いましたが、ここにも隠し部屋があったなんて」

用心棒「ああ……しかし手紙にこのことが書いていなかったことからして、鍛冶屋もこの部屋のことは知らなかったんだろう」

用心棒「おそらくこの隠し部屋は闇社会には関係ない、この蔵を建てたやつの趣味なんだ」

用心棒「それにしては実に丁寧な作りのようだが……」

少年「え?……あ、そういえば、息苦しくないような……」

相棒「潮の匂い……」クンクン

用心棒「どこかに空気穴が開いてるようだな。僅かに風が通っているおかげでホコリも積もっていない……」

用心棒「ちょっとばかし気は滅入るが上等な隠れ家だ。これで布団があれば言うことはないんだが……」

少年「布団ですか……あっ!見てください、あっちに寝台があります!」

用心棒「寝台?――おおっ、本当だ!」

用心棒「坊主、一日だけここで休むことにしようじゃねえか。相棒も――」

相棒「スー… スー… ムニャムニャ…」

用心棒「早いな!?」

用心棒「くそっ、俺ももう寝るぜ……痛みもあるが、それ以上に、くたくた、だ……」ドサッ

用心棒「グゴゴゴゴゴゴゴゴ…」

少年(早いなあ……)

少年(ああ、でも僕もすっかり疲れてしまった……)ドサッ

少年(すえた臭いのする布団だけど……なんとか……人心地……つい……て……)

少年「グウ…グウ…」
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 19:52:37.03 ID:/8aX4q490


 昼


 油商人の屋敷


油商人「闇商人!どうするんだッ!」

油商人「武士が行方知れずだ……きっと奴も用心棒に敗れたんだ!」

油商人「用心棒たちは今にも私たちを殺しに来るかもしれんぞ!」

闇商人「油商人様……どうか落ち着いてください」


闇商人(やれやれ……えらい慌てようだ、みっともない)

闇商人(この部屋まで来る途中もこれでもかというほど警備が配置されていたし……)

闇商人(それはそうと、四天王をことごとく破るとは……用心棒の奴めそうとう発奮しているな)

闇商人(しかし奴も相当の傷を負っているはず。無敵などでは決してない……)


油商人「落ち着けだと!?どうやって落ち着けというんだ奴を倒す手段すら無いというのに!」

闇商人「そんなことはありません、油商人様。実はこういうときのために、江戸でも一、二を争う腕の殺し屋の二人組を雇っておいたのです……」

油商人「何だと!?」

闇商人「その二人組ーー『赤袖』と『青袖』といいますがーーここに連れてきておりますが、お目にかけましょうか?」

油商人「無論だ!入れ!」


赤袖「失礼致ぁーすぅぅう!」ガラーッ ダダンッ!


油商人「うわっ!?なんだこいつは!?」

油商人(鮮やかな赤の狩衣を着た男?太刀まで履いている……一体いつの時代の服装だ!?)

赤袖「拙者が闇商人殿のご依頼に応じっ……不貞の輩を除くためぇぇ〜」

赤袖「巷の闇より参上した陰の士ーー赤袖でございまするぅぅぅッ!」ババンッ!
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 19:53:47.45 ID:/8aX4q490

油商人「……闇商人」

闇商人「う、腕前は折り紙つきでございます!おい!青袖もご挨拶するんだ!」

青袖「どうも、連れがご無礼を……」スタスタ

油商人(紺の着物の女……女、か)

油商人(頭のおかしい時代錯誤野郎と、特別大柄なわけでもない女の二人組……)

赤袖「むぅ?油商人殿、拙者共の力をお疑いになりますかぁぁぁ!?」

赤袖「さすればこの場で鎌倉の昔より伝わりし剣の舞をご覧に入れーー」

青袖「フンッ」ドッ

赤袖「」ガクッ

青袖「申し訳ありません。今日は相方の調子が悪いようなのでここで失礼します」

闇商人「……では、私もこの辺で」

 ガラッ スタスタ

 ピシャリ

油商人「……」


?「……」コソッ
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 19:55:11.07 ID:/8aX4q490

?(何だあいつらは……あんなふざけた奴らが江戸で一、二を争う殺し屋だっていうのか?)

?(知恵遅れの大男よりあてになるまい。計画には変更なしだ)


<聞いたか?武士たちが行方不明だとよ

<それは本当か?鍛冶屋を始末した後帰ってきたのは見たが……


?(おっと、巡視か)サッ


警備一「その後部下を連れて出かけて、それっきりさ。用心棒にやられちまったのかね?」スタスタ

警備二「うーん、そうとも限らんぜ。何せ武士とその直属の部下たちは無断で動くことが多かったからなあ」スタスタ

警備一「それもそうだな。秘密行動というのも不思議じゃあない……武士の部下の中には奉行所に潜り込んだ密偵も居たらしいし」スタスタ

警備二「ふうん、じゃあ奉行所の方向から武士たちの情報を仕入れられるんじゃないかね?」スタスタ

警備一「いや、それが……奉行所の連中、どうもピリピリしていてな。とても調べられる状況じゃあないらしい」スタスタ

警備一「それだけじゃあない、どこで何があったからそんな状況なのかも徹底的に隠していやがる……」スタスタ


<なるほどな……

<何かあるぜこれは……


?「……」
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 19:59:15.56 ID:/8aX4q490


 昼過ぎ


 闇商人の屋敷・門前


闇商人「ケッ、お前らよくもまああんな印象最悪の登場ができたものだ」スタスタ

赤袖「ふうん。人の欲を喰らい生きる下衆が……」スタスタ

闇商人「何だと?きさま雇われの分際で……もう一度言ってみろ」

赤袖「人の欲をモゴモゴ」

青袖「失礼。相方は見ての通り戦い以外はからきしなもので」グイグイ

闇商人「チッ……まったくそうみたいだな」


闇商人「これから行く私の蔵で、契約通り予備の武器と弾薬はくれてやる」スタスタ

闇商人「それが終われば油商人の屋敷へ戻って警備につくんだ。いいな」スタスタ

青袖「承知しました」スタスタ

赤袖「承服しよう……渋々」スタスタ

闇商人「いちいち一言多いやつだな……む?」スタスタ ピタッ


少年「ええと……あっちかな」キョロキョロ

少年「……ふぁあ……」スタスタ


闇商人(……あのガキ、どこかで見たような?)

闇商人(そうだ!この前、物騒な臭いのするところを見て回ってるときに見かけたんだ)

闇商人(あれはたしか、油商人に目を付けられていた武士の家のせがれだったか……)

闇商人(……む?そういえば、あの家は一人残らず殺されたと聞いたような……?)

闇商人(死んだはずの人間……それも、油商人に恨みを持つ……)

闇商人(――臭い!臭いぞ!)


闇商人「赤袖、青袖……あのガキの後をつける」ヒソヒソ

赤袖「む?小童の後を追うとはモゴモゴ」

青袖「もうあんたは何も喋らないでよ」グイグイ

闇商人「とにかく!ついてくるんだ……」

闇商人(もしかしたら用心棒と相棒の居場所を突き止め、息の根を止めてやれるかもしれん……!)ジャキッ
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:00:31.83 ID:/8aX4q490


 武家屋敷


少年「……」スタスタ


闇商人「武家屋敷に入っていくぞ……」コソッ

赤袖「あのような小童が、なにゆえ……?」コソッ

青袖「小遣いでももらいにいくのかしら」コソッ


少年「ええと……一、二、三軒目……ここか」スタスタ

少年「……」キョロキョロ

闇商人「!」サッ

青袖「!」サッ

赤袖「いよっ!」サッ

少年「……」キョロキョロ

少年「……」スタスタ

闇商人(尾行を警戒したな……)


少年「ごめん!」

 ガチャガチャ ギイ…

下男「はいはい、どなたさま……ん?なんだおまえは?」

下男「ふるくはノブナガコーのチスジの『発明家』さまのオヤシキに、おまえのようなこぞうがなんのようだ?」

少年「とある重要な要件です……用心棒からの遣いだ、とお伝えしてください」

下男「ヨウジンボーカラノツカイ……?しばらくまて」

下男「ヨウジンボーカラノツカイ…ヨウジンボーカラノツカイ…」ブツブツ

 バタンッ ガチャッ


闇商人「もはや間違いない…奴は用心棒の手先!」

青袖「始末しようか?」チャキッ

闇商人「バカやめろ!用心棒たちの目的と居場所を探り出してからだ……!」

赤袖「ふん、さかしい……」

闇商人「言ってろ。先回りしてこの屋敷に忍び込むぞ、ついてこい!」
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:02:25.15 ID:/8aX4q490


 発明家の屋敷


発明家「……」ペラ… ペラ…

発明家(ふっふふふ……読める、読めるぞ……)ペラ… ペラ…

発明家(物理、化学、生物……南蛮渡来の本には見たことも聞いたこともない事実が盛りだくさんだ)ペラ… ペラ…

発明家(まったく、蘭語を習ってよかった……)ペラ… ペラ…

下男「シツレイします発明家さま」ガラッ

発明家「ん?なんだ?」パタン

下男「……ええと……」

下男「あれ?なんだったかな?」

発明家「おいおい、またか……よく思い出してみてくれ」

下男「うーんと……あ、そうだ」

下男「ヨウジンボーのツッカイボーというものがたずねてきたんでした、どうしましょう」

発明家「『用心棒』の『つっかい棒』だと?」

発明家(はて、そんな扉を必死に抑えてそうな名前の知り合いはいないはずだが……?)

発明家「まあいい、通してやってくれ」

下男「ショーチしました」スタスタ ガラッ
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:03:12.63 ID:/8aX4q490

 門前


 ガチャガチャ バタンッ

下男「はいれ」

少年「よかった、失礼します」


 スタスタ…

少年「……見事な庭ですね……」

下男「ブシのヤシキだぞ。トウゼンだ」フンス

少年(なんでこの人が威張っているんだろう……)


鹿?「……」キョロキョロ

少年「あっ!鹿!?」

下男「よくみろ。カラクリだ」

少年「え?……あっ、本当だ」

少年(よく見ると水車が接続されている。その動きを首に伝えているんだ……)

下男「発明家さまがおつくりになったのだ。発明家さまはカラクリをたしなみなさる」

少年(教養のある方なんだな……用心棒さんが『あの件』を頼むために僕をやったのも頷ける)
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:06:36.34 ID:/8aX4q490


 屋敷内


下男「発明家さまがいるのはこのおくだ」スタスタ

少年(屋敷自体も、派手ではないがなかなか立派だ……この廊下一つとってもかなり広いし)スタスタ

下男「おっと。ここはみぎのカベギワをあるけ」ヒョイッ スタスタ

少年「ええ?なぜ?」ヒョイッ スタスタ

下男「発明家さまはナンバントライのめずらしいものをたくさんもっている。それをまもるためのしかけがあるのだ」スタスタ

少年(仕掛け……?)スタスタ


闇商人「いったか……」コソッ

赤袖「早速後をつけるとしようぞ」コソッ

青袖「……それにしても、仕掛け、か……」コソッ

青袖「庭のからくりといい、この館の主は相当な変人のようだ」

闇商人「そんな奴に用心棒の遣いが何の用なのか……おい、聞いたな。右の壁際を歩くんだぞ」

青袖「承知――おい赤袖!」

赤袖「む?何だと?」ズカズカ

 カチッ パカッ

ヒュウウウウウウ…
<ウアアアアアアアアア…

闇商人「あっ!?」

青袖「落とし穴だ!」

next
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:07:50.00 ID:/8aX4q490


 庭


 パカッ

赤袖「うおおおおお!?」ゴロゴロゴロッ

 ドボーンッ

赤袖「ぐあっはっ!」ザバア

赤袖(ここは池か!なんの、泳いで抜け出すのにわけはない――む!?)

赤袖(なんだこの水は!?『重い』ぞ!?)

赤袖「ぬおおおおおお――!」バシャバシャ

194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:10:23.61 ID:/8aX4q490


 屋敷内


下男「つぎはひだりをとおれ」ヒョイッ スタスタ

少年「左側ですね……とすると、右側には?」ヒョイッ スタスタ

下男「しかけがある。発明家さまがナンバンからてにいれた『おもいみず』のいけのなかにドボンだ」スタスタ


闇商人「……返す返す憎い、あの脳足りんめが……」コソッ

青袖「……ん?」コソッ

青袖「外からその脳足りんの声がするような……」ガラッ

<ヌオオオオオー!

青袖「……」

闇商人「……どうやら床下の坑道を転がって池に落ちたようだな」

闇商人「お前の相棒だろうが、迎えに行っている時間はない。もう少し水遊びさせていても構わないか?」

青袖「ええ。しばらく頭を冷やさせておきましょう」ピシャッ

闇商人「……あっ、しまった――この俺としたことが!」

闇商人「また仕掛けの種明かしをしていたかもしれんのに、あの二人から目を離してしまった……!」

青袖「右に同じ、不覚ッ」

青袖「……とすると、右か、左か……もしかしたら仕掛けはあれ一つかも?」

闇商人「よし、二人で同時に行こう。俺は左、お前は右だ」

闇商人「せーの!」
青袖「せーの!」

 カチッ
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:11:36.95 ID:/8aX4q490


 庭


 パカッ

青袖「ぎゃあああああ!」ドボーンッ

青袖「ここは池?――うわっ、なんだこの水は!?」バシャバシャ

赤袖「やあやあ我が相棒、地獄へようこそブクブクブク」

青袖「じょ、じょ、じょ、冗談じゃあないっ!」バシャバシャ
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:12:30.11 ID:/8aX4q490



 屋敷内


闇商人「ふう、やはり罠があったか……」

闇商人(帰りに殺し屋二人組を拾ってやらなくちゃあ、くそ)

闇商人(しかしガキと下男は屋敷の主の部屋に到着したようだ。仕掛けはもうないだろう)

闇商人(俺はせいぜい近づいて耳を澄ますとしよう……)
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:13:49.34 ID:/8aX4q490


 発明家の部屋


発明家「おや、『用心棒のつっかい棒』氏とは子供だったのか?」

少年「『用心棒のつっかい棒』?私は『用心棒の遣い』と名乗ったはずですが……」

発明家「ははあ、あの下男が間違ったな。まったく困ったもんだ……」

少年「はは……」

発明家「それで、『用心棒の遣い』というのは……」

発明家「おや!用心棒ってあの用心棒かい?いや、久しぶりにその名前を聞いたな」

少年「お知り合いなんですか?」

発明家「聞いていないのかい?うーん、まあ、昔ちょっとあったのさ……」

発明家「それよりどういうご用件だね?」

少年「はい、詳しく話すと長くなるのですが、今私や用心棒さんたちは危ない状況に居まして……」
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:14:26.79 ID:/8aX4q490

少年「……ということなのです」

発明家「なるほどな。またあいつは危ないことに足を突っ込んでいるのか……」

発明家「しかし君も災難だね……母上と父上の冥福をお祈りするよ」

少年「……はい」

発明家「あいにく僕は彼のように強くはないし、疎遠とはいえ親族もいる……」

発明家「あまり表だって動くことはできないが、それでもよければ喜んで協力するよ」

少年「そうですか、ありがとうございます!」

少年「では本題に入らせていただきますが、用心棒さんはこれについて詳しく知りたがっているのです」ガサッ

発明家「なんだいこれは?」

少年「鍛冶屋が持っていた切り札……と思われるものに付属していた説明書です」

少年「しかしどうも南蛮渡来の品らしく、説明書きも全部、漢字とも仮名ともちがう外国の言葉なのでさっぱり……」

少年「そこで用心棒さんがあなたなら読めるだろう、と……本人たちは怪我がひどいので、僕を寄越したんです」

発明家「どれどれ……」
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:15:20.10 ID:/8aX4q490


 部屋の外


闇商人(なるほど、事態の推移は丸ごと理解できたぞ……まさかあのタンスの中に隠れていたとはな……)

闇商人(しかし、鍛冶屋の切り札とは一体……?)

<スタスタ

闇商人(!)サッ


下男「……」スタスタ カチャカチャ

闇商人(チッ、一番聞きたいところで茶を持ってきた下男が……早く行っちまえ、くそ!)

鼠「チューッ!」チョロチョロッ

下男「あ……これはこのあたりにおいておいて、と……」カチャッ

下男「まて、このチクショウ!」バタバタ

鼠「チュー、ヒー、ヒー!」チョロチョロ

闇商人(ぐあああああ畜生は手前だ!鼠なんてどうでもいいだろうがっ!とっとと失せやがれ!)


下男「どこだ?どこにいった?」キョロキョロ

発明家「いったい何の騒ぎだ?」ガラッ

下男「発明家さま、ネズミがでたんです」

下男「あんチクショウ、このまえころしたやつでサイゴだとおもってたんですが」

発明家「鼠か……今度南蛮渡来のネズミ捕りを試してみるかな」

下男「あ、そういえばおちゃをおもちしたんでした。どうぞ」

発明家「おお、気が利くな。あとは僕がやる、戻っていいぞ」

下男「ショーチしました」スック スタスタ

 ガラッ ピシャリ


闇商人(いったか……池で溺れてる殺し屋を見つけないといいんだが)

闇商人(どうも一番肝心なところを聞き逃したような気がするが、とにかく盗み聞きに戻ろう)コソッ
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:16:20.14 ID:/8aX4q490


 発明家の部屋


発明家「粗茶だが、よければ」スッ

少年「あっ、ありがとうございます」

発明家「さて、説明書の翻訳に戻ろう……」カキカキ


発明家「……」カキカキ

少年「……」


発明家「……」カキカキ

少年「……」ズズズ


発明家「……」カキカキ

少年「……」


発明家「よしっできた!これでこの秘密兵器の使い方はすっかりわかる」

発明家「これが翻訳した文章だ、間違いなく用心棒に渡してくれ……おっと、原本も返すよ」スッ

少年「はい、たしかに受け取りました……」
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:18:16.48 ID:/8aX4q490


 部屋の外


闇商人(結局秘密兵器の正体は聞き逃してしまったか……まあいい)

<ドタドタ

闇商人「!」サッ

下男「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ」ドタドタ

闇商人(なんだこいつ、こんなに慌てて……まさか!)


ガラッ

下男「タイヘンです発明家さま!」

発明家「なんだ、どうした!」

下男「イケにおかしなレンチュウがいます、それもふたり!」

発明家「池!?池に落ちてるってことは――罠にはまった侵入者だ!」

少年「侵入者!?まさか油商人の――」


闇商人「まあそんなところだ」バッ グイッ

下男「うぐっ!」

少年「!?」
発明家「!?」

闇商人「おっと動くなよ、こいつの頭に風穴を開けたくなきゃあな……」ジャキッ

下男「ぐぐぐ……」

発明家「し、従ったほうがいいかもしれん、少年!この男の目は本気だ!」

少年「くっ……!」

発明家「……しかし、人質の選び方は下手なようだが……」ボソッ

少年「……?」
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:19:14.74 ID:/8aX4q490

少年(そういえばこの男、たしか隠れ家へ行く途中の茶屋で――!)

少年「闇商人か!よくも用心棒さんたちを裏切って――」

闇商人「はん、何が裏切りだ。こっちの世界をちょっと覗いたくらいで一人前に口をきくんじゃない……」

闇商人「商人の才覚も特別ないうえに、油商人の手下どもより弱い俺を前にして手も足も出ないようじゃあ発言権なんて無いんだ、こっちの世界ではな!」

闇商人「よし、まずはその翻訳書を……」

下男「えっ」

闇商人「ん?何だ?遺言か?」

下男「おまえ、そんなによわいのか」

闇商人「何だと?貴様、この状況でよくもそんな……」

下男「……えいっ」グイッ

闇商人「うおっ!?」ドタッ

闇商人「き、貴様、なんだその力は――!?」ジャキッ

下男「……」ガシッ

 ギギギギギギギ

闇商人(あああっ!?俺は夢でも見ているのかっ……!?)

闇商人(こいつ、鉄砲を飴のように捻じ曲げやがった――!)

下男「ほんとうだ、すごくよわい」ポイッ

闇商人「うおおおお、くそっ!」ゴロゴロッ シュタッ
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:20:03.22 ID:/8aX4q490

下男「発明家さまをおどしたツミはおもいぞ……!」ズカズカ

闇商人「き、き、き、き、き、貴様は一体――!?」

?「退け!闇商人!」

闇商人「!?」サッ

 ズダンッ!ズダンッ!

下男「!」シュバッ

赤袖「おのれ……鬼神の如き剛力、その動きは電光石火……さては妖怪変化の類か?」ジャキッ

青袖「その冗談笑えない」チャキッ

闇商人「おお、赤袖!青袖!」タタッ

闇商人「早く、早くその化け物を挽肉にしてしまえ!」

赤袖「応!妖怪変化は成敗されるものと相場が決まっている、神妙にせい!」ビシッ

青袖「……まあ、正直あの忌々しい池のせいでだいぶくたびれてるんだけど……」チャキッ

下男「ふふん、イヌども。ひねりつぶしてやる」
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:20:34.17 ID:/8aX4q490

発明家「今だ少年、下男が食い止めているうちに逃げよう!」

少年「しかし、下男さんは……」

発明家「大丈夫だ、あいつは死なない。自信作なんだ」

少年「……?」

発明家「早く!」

少年「は、はい……」タタッ

発明家「あれと、これと、それと……」ゴソゴソ

発明家「よし、僕も逃げよう」タタッ

205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:21:42.84 ID:/8aX4q490

下男「くらえ!」ビュンッ

赤袖「ぬおっ!」サッ

 ガシャーンッ!

青袖「青袖様のクナイを受けてみなさい……!」ビュビュビュンッ

下男「オモチャであそぶとしじゃないだろう」パシパシパシッ

青袖「ああもうやんなっちゃう」

<タタタタタ…

闇商人「ハッ!いかん!ガキどもが逃げるぞ!」

赤袖「追う余裕があると思うてか!?」ズダンッ!ズダンッ!

下男「ふんっ!」サッ ビュンッ

赤袖「おおおおお!」サッ

 バキャーンッ!


闇商人「チッ!じゃあお前らはそいつを始末したあと、直接油商人の屋敷に戻れ!」

闇商人「あのガキに用心棒たちの居場所を吐かせれば予備の弾薬など必要無い……!」ダッ

赤袖「承知!」
青袖「了解!……あ、いや、始末は無理――」

下男「からだのほねぜんぶおれろ!」サッ ビュンッ

青袖「折れかねない!」サッ
赤袖「南無三!?」

 ドガーンッ!
<ギャアアアア!
<アカソデーッ!
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:23:45.17 ID:/8aX4q490


 発明家の屋敷の門前


発明家「はあはあはあ、よし、ここで二手に分かれよう。追いかけてくるかもわからない!」

少年「わかりました、では私はこっちに!」

発明家「――おっと、その前にこれをあげよう。『三枚のお札』だ」スッ

少年(差し出されたのは、硯ほどの大きさの三つの木箱……)

少年「――『お札』、ですか?」

発明家「そうだ。追いかけてくる山姥から君を助けてくれる……と、思う」

発明家「印のない札を使うには、札を掲げて、『身代わり、出でよ』と叫べばいい」

発明家「青い印のついた札を使うには、札を掲げて、『大きな川、出でよ』と叫べばいい」

発明家「赤い印のついた札を使うには、札を掲げて、『火の海、出でよ』と叫べばいい」

発明家「だけど気を付けるんだ。実際に身代わりや川や火の海が出るわけじゃないし、札はそれぞれ一回しか使えない」

少年「わかりました!重ね重ねありがとうございます、ではお達者で!」

発明家「ああ――おっと、待ってくれ!」

少年「なんでしょう?」

発明家「君の叔父がどんな人か聞いてもいいかい?」

少年「え?叔父上ですか?――ええと、体つきは並で……鼻が高くて、顎のところにホクロがあるのです」

少年「叔父上がどうかしたのですか?」

発明家「いや……わかった、ありがとう。引き留めてすまなかった」

少年「……?はい、ではこれで!」タタタタ…

発明家「僕も逃げなくては……!」クルッ タタタタタ…

発明家(話を聞いた時点でもしや、と思っていたが……間違いない!)
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:24:11.75 ID:/8aX4q490


 裏路地


少年「はあ、はあ、はあ……ここまで来れば……」


「ここまで来れば……なんだって?」


少年「!?」クルッ


闇商人「ゼエ…ハア…追いついたぜ……ゼエ…ハア…」

少年(し、しまった……!逃げるのに必死で、わかりやすい道を使いすぎたんだ!)

少年(きっと途中で先回りされて差を詰められてしまったにちがいない!)

少年(そのうえ、どこから調達してきたのか――闇商人は刀を一振り、持っている!)

闇商人「ゼエ…ハア…逃がしはしないぜ、二度と……!」シャキンッ ジリジリ

少年(逃げなければ……どうにかして……!)ジリジリ

少年(しかし、闇商人……息を切らしてはいるが、隙が無い)

少年(考えなしに逃げ出して、無防備な背中を見せるわけには……!)

少年(――!そうだ!)


少年「『身代わり、出でよ』!」サッ

闇商人「!?」

 カチッ!

バシュッ!

少年「うわっ!?」

闇商人「ぐおっ!?光弾かッ!?」クラクラ

少年(ぼ、僕も目がくらんでしまっているけど……こっちはやたらめったら逃げればいいんだ!)

少年(でもあいつは逃げる僕を見なければ、追いかけることはできない!)ダダッ

闇商人「おのれガキがぁーッ!畜生、畜生、畜生ッ!」クラクラ
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:30:47.39 ID:/8aX4q490
今日はここまで
「?」の正体を見抜ければ賞金が出ます(大嘘)
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/13(土) 19:26:59.89 ID:0M/94IVxo
おつおつよ
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/25(木) 22:39:33.45 ID:+Yl+qJuEo
分かったぜ!!
奴の正体はインテロゲーションマークだ!!
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/22(木) 18:46:33.68 ID:hiKEVRaA0
多忙につき生存報告だけさせていただきます
落ち着き次第続きを投下します
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/27(日) 00:15:25.24 ID:CB2hRmw+0


 夕方


 油商人の館


油商人「何ィ!?鍛冶屋!?それに下男だと!?まだ敵がいたのか!」

青袖「はい……私たちもほうほうのていで逃げてきて、ようやく人心地ついたところです」

赤袖「あの物の怪めが……あの力は一体……」ブツブツ

油商人「くそっ、くそっ、くそっ!私は油商人だぞ!?」

油商人「天下の夜の太陽はすべて私が握っているのに、それがなぜこれほど怯えねばならんのだ!」


<油商人様!闇商人でございます!

油商人「!?入れ!」

 スパーンッ!

闇商人「!?赤袖、青袖!あの化け物はどうした!?」

青袖「打ち捨てて逃げてきました」

赤袖「やんぬるかな……」

闇商人「チッ!何たる怠慢!」

油商人「そんなことはどうでもいい、一体何事だ闇商人!?」

闇商人「用心棒の協力者が判明しました!貴方が以前手討ちになさった一家のせがれです!奴は生きていたんです!」

油商人「以前手討ちに……まさか、あの一家か!?生き残ったのは叔父ではなかったのか!?」

闇商人「わかりません……しかし、せがれといってもほんのガキです。用心棒たちを雇う金を持っているはずはありません」

闇商人「おそらくそいつと貴方の因縁の中で、何かの手違いで用心棒たちを狙うこととなってしまったのかと!」

油商人「では剣士の報告は一体……?」

闇商人「……?そんな些細なことは後です、油商人様!奴らは金ではなく自分の報復のためにこの館に殴りこんできます!」

闇商人「もはや戦あるのみです!もっと手勢を集めねばなりません……」
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/27(日) 00:15:53.19 ID:CB2hRmw+0


 門前


<ガヤガヤ…
<ザワザワ…

門番甲「西日が眩しいな……」

門番甲「……?おい、なんだか中が騒がしくないか?」

門番乙「そうだな……さっき闇商人が泡を食って駆け込んでいったじゃないか、あいつが何か持っていたに違いない」

門番甲「何かって?」

門番乙「用心棒の首とかか?」

門番甲「そりゃあ嬉しくないな。臨時に雇われただけの俺たちはまた浪人に逆戻りだ……ん?」


酔漢「ういー、ひっく……おお、お侍さん方!よろしくやっておられますかあ!」フラフラ


門番乙「うへえ、こいつこんな時間から一杯やっていやがる!」

門番甲「オイコラ、この薄汚いフーテン野郎!あっちへ行け!」

酔漢「そう邪険にしなくたっていいじゃありませんかぁ〜ささ、一杯、いかがですぅ?」フラフラ

門番甲「うるせえ、とっとと消えねえとぶち転がすぞ!」

門番乙「うわっ酒臭ぇな!」

酔漢「えぇ?私、そんなに臭いですかぁ?」フラフラ

門番乙「ああ、鼻がねじ切れそうだ!」


酔漢「じゃあいっそねじ切ってやろう」ガシッ

門番乙「うおっ――」

 ボギッ!

門番乙「ぐわあああああ――っ!」ドターッ

門番乙「鼻が!俺の、鼻が……」ゴロゴロ

門番甲「!?――貴様ッ!?」シャキンッ


酔漢「俺か?俺は一杯やりにきた酔漢さ……」バサッ

用心棒「手前らの主人の首をつまみになぁ!」ジャキッ

 バアンッ!バアンッ!
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/27(日) 00:16:33.30 ID:CB2hRmw+0


 廊下


警備甲「銃声!門のほうだ!」ドタドタ

警備乙「用心棒の野郎、いよいよ来やがった!」ドタドタ

警備丙「警報の鐘を鳴らさなければ……」ドタドタ


用心棒「ふんっ!」ゲシッ

玄関番「ぐわーっ!ま、待て、話せばわかる!」ドタッ

用心棒「問答無用!」ジャキッ!

 バアンッ!


警備甲「!用心棒ッ!」シャキンッ

警備乙「死にぞこないめが、こんなところにまで……!」シャキンッ

警備丙「今本当に殺してくれるわ!」ガシャッ

用心棒「新手か!さっきの奴の後を追わせてやろう!」

警備丙「ぬかせ!」ジャキッ
用心棒「そら、一丁!」ジャキッバアンッ!

警備丙「ゴボッ……!?」ドタッ

警備甲「クソッ!喰らえ!」ダダダッ ビュンッ!

用心棒「おっと!」サッ クルッ

警備甲「おのれ……!?」クルッ

用心棒「後ろだ!」ドカッ!

警備甲「ごふっ!?」ガクンッ

警備乙「この下郎めが!」ビュンッ!

用心棒「ふんっ!」サッ ジャキッ

 バアンッ!バアンッ!バアンッ!

警備乙「」ドシャッ

用心棒「ハエが止まるぜ」

警備甲(な、何て奴だ……しかし奴の短銃はもう弾切れ!)

警備甲「死ね!用心棒!死ね――ッ!」ビュンッ!ビュンッ!

用心棒「おっと!そう慌てるなよ……」ガシャーンッ!ジャキンッ!

警備甲(弾を込めるカラクリ!あれはたしか武士殿の……!?)

警備甲「ウオオ――ッ!」ビュンッ

 バアンッ!

警備甲「」ドシャアッ

用心棒「結果は同じだ」

用心棒「……」

215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/27(日) 00:17:30.14 ID:CB2hRmw+0


 時は巻き戻り……

 昼過ぎ


 蔵


 ガチャッ バタンッッッ!

少年『はあ、はあ、はあ、はあ、はあ……』

少年(完全に撒いた!)

少年(しかし闇商人に見つかったということは、すぐに油商人のところにも情報がいくはずだ……!)

用心棒『どうした坊主、泡を食って!』ドカドカ

相棒『おちおち眠れない……』ドカドカ

少年『ああ、用心棒さん!例の図面の訳書はここに!』

用心棒『よし、よくやった!』

少年『し、しかし途中で闇商人と、その手下二人に見つかってしまいまして……』

用心棒『なんだと?手下というのはどんなやつだ?』

少年『赤い狩衣の短銃使いと、青い小袖の剣士です!』

相棒『赤袖と青袖!』

用心棒『ああ。奴め、江戸一の殺し屋を引っ張り出してきやがった』


用心棒『つけられてはいないだろうな?』ガチャッ キョロキョロ

少年『それは大丈夫です、発明家さんが役立つものをくれたので!』

用心棒『ヘン、相変わらず変な気の利く奴だ……』バタンッ


用心棒『だがこれで油商人もすべてに気が付いただろう』

用心棒『近衛四天王は既に亡い。奴がいよいよ守りを固める前に館に踏み込み、叩く!』
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/27(日) 00:18:18.79 ID:CB2hRmw+0


<バアンッ!バアンッ!

増援甲「ええい、好き勝手させおって!浪人どもは一体何をやっているんだ!」ドタドタ

増援乙「やはり雇われはあてにならん、我々、油商人様の警護隊がなんとかしなくては……」ドタドタ

用心棒「フン、次から次へと!」サッ

増援甲「あっ貴様!」ジャキッ ズドンッ!
増援乙「死ね!」ジャキッ ズドンッ!

 チュイーンッ チュイーンッ

用心棒「危ねぇな……お返しだ!」ポイッ

 ゴロリ

増援甲「むっ!?これは!?」

増援乙「まずい、下がれ――」


 ドゴオンッ!

217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/27(日) 00:19:05.96 ID:CB2hRmw+0


<ドゴオンッ!

油商人「ひいっ!」

闇商人「いよいよ来たな、あのバカどもめ……!赤袖!奴を迎え撃て!」

赤袖「承知!」シュバッ スパアンッ! タタタタタ…

油商人「お、おい闇商人!玄関からここまでは一本道だぞ!?」

油商人「私は逃げるぞ、こんなこともあろうかと、向こう部屋の床の間に隠し通路を作っておいたのだ!今こそ!」

闇商人「ええ?よくもまあそんな金のかかりそうなものを……」

闇商人「しかし油商人殿、貴方がここを動かれては士気にかかわります。青袖が護衛致します、安全です!」


「――それに、私もおります、油商人殿」

油商人「お、おお!そうであった!」

闇商人「……」

青袖(!私が気配を感じなかった……?)

青袖(全身を……顔まで包帯で覆い、その上から小袖を着た男……)

青袖(……こいつ、手練れか)


包帯男「私は館の搦め手の守りに就きましょう。奴らは別行動です、きっともう一人が搦め手……もしかすると隠し通路から、突入してきます」


青袖「なぜそう言い切れるのです?」

包帯男「……」ニヤリ

青袖「……?」
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/27(日) 00:20:03.05 ID:CB2hRmw+0
今日はここまで
新キャラは出てません
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 23:53:39.15 ID:yLZaPSG20


 バサッ! バサッ! バサッ!


用心棒『こっちがあの覆面野郎が寄越した図面。こっちは江戸の地図。こっちが〈切り札〉の図面と、その訳書だ』

少年『……』ゴクリ

相棒『……』

用心棒『まず、覆面野郎の寄越した図面だ』

用心棒『玄関から最奥、主人の間まで、角が一つあるきりの一本道だ』

用心棒『殴りこむには手ごろな形だ……俺は正面から突入する。奴らの裏の裏もかけるかもしれん』

相棒『囮か』

少年『囮……大丈夫なんですか』

用心棒『心配しなくても死ぬつもりは無いぜ……死んだ武士から拝借したカラクリと、鍛冶屋の蔵にある武器をしこたま持って行くさ』


用心棒『……そして』

用心棒『さっき見ていて気付いたんだが、地下一階のこの部分……妙な空白がある。それも一直線に』

相棒『……確かに』

少年『……隠し通路』

用心棒『ああ。奴らの中でも一部しか知らない、秘密の脱出路ってとこだろう』

用心棒『そして隠し通路がだいたい一直線に伸びているとして、江戸の地図を比較してみると、隠し通路の先は……』

用心棒『〈潮光寺〉!油商人の氏寺だ、ここが脱出路の出入り口で間違いない!』
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 23:54:30.76 ID:yLZaPSG20


 潮光寺


?「……」ザッ

?(用心棒……それに相棒も、いないようだな)

?(しかしいずれ奴はここに来る。しかしたら用心棒と相棒のどちらかが陽動を仕掛けるかもしれんが、本命は間違いなくここに来る)

?(抜け道から突入し、油商人の首をとるために……そのことが俺の思惑とも知らずにな)

?(油商人の屋敷の図面を渡したのは、秘密通路の存在に気づかせ、そこに誘導するため)

?(俺はそれを確認し、後をつけ、そして……)

221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 23:55:38.38 ID:yLZaPSG20


 油商人の屋敷


 ドキューンッ バアンッ
ズドンッズドンッ バアンッ

傭兵甲「なんてやつだ、あいつは!あれだけ居た兵が今では半分だ!」ドキューンッ

傭兵乙「クソッ、こうなりゃ意地だ!絶対に仕留める!」ズドンッズドンッ

用心棒「いい気概だ!それを遂げることなく死ぬのが残念だな!」バアンッバアンッ

 バキャン バキャン

傭兵甲「ほざけ!狙いが逸れてやがるぜ、欄間なんか撃ってどうしようって……」

 グラッ ガタタンッ!

傭兵乙「うおっ障子が!?くそっ!」バサッ

用心棒「バカめ……!」ダダッ バアンッ

傭兵乙「おごっ!?」ドターッ

傭兵乙「」ガクリ

傭兵甲「なにい!?こん畜生!」シャキンッ

用心棒「トロいぞ!」ゲシッ

傭兵甲「ぐわっ!」ドタッ

用心棒「ふんっ!」ガシッ

傭兵甲「ぐっ!?ご、ががががが……」ジタバタ

用心棒「はあっ!」グイッ

傭兵甲「が」ゴキャッ
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 23:56:45.31 ID:yLZaPSG20

傭兵甲「」ドシャッ

用心棒「……とりあえずひと段落、か……」

用心棒(一本道は一本道だが想像以上に敵が多いな……とりあえず装填だ)ガシャン

用心棒(爆弾はあと一つ、銃弾は……)ゴソゴソ

用心棒「ッ!?」サッ

 ズダンッ!

赤袖「避けたか。それでこそだ、用心棒とやら」ザッ

用心棒「赤袖……薄汚い殺し屋が商人の奴隷になったのか、笑える話だ」

赤袖「貴様こそ。穢れた人斬りが童の敵討ちなど、ずいぶん気取ったものよの」

用心棒「そうとも。俺は気取り屋なんだよ」

赤袖「では武士(もののふ)にも人斬りにもなれんな。そして何者にもなりきれぬ貴様に某は殺せん」チャキッ

用心棒「じゃあ精々試してみるとするか!」チャキッ バアンッ

赤袖「無駄なことよ!」シュザッ ズダンッ

用心棒「フン、どうだか……」サッ

用心棒「俺の鉛玉を味わってから判断しな!」バアンッバアンッバアンッ

赤袖「そんなことは――」タッ クルクルッ ダッ

赤袖「するまでもないッ!」スタッ ズダンッ!

用心棒「う、うおおっ!?」サッ

用心棒(こ、こいつ、今壁を蹴って、天井を蹴って――三角跳びならぬ『四角跳び』を!?)

用心棒(あんな動きづらそうな狩衣でなんて軽快な動きをしやがる!)

用心棒「こンの……!」バアンッ!

赤袖「これが!」シュバッ ズダンッ!

用心棒「おのれ!猿かッ!」サッ バアンッ!

赤袖「答えだ!」ダッ ガッ スタッ ズダンッ!

用心棒「ちょこまか、と――!」ガシャンッ

赤袖「隙あり!」ゲシッ

用心棒「ぐおっ!?」ドガッ ドターンッ

赤袖「庭に転げ落ちてひっくり返ってカエルの如き無様よの!そのまま死ね!」ズダンッ

用心棒「御免被るぜ!」シュバッ

赤袖(むっ!屋根の上に逃げたか……)カチャカチャ

赤袖(弾込めよし!奴を追う!そして殺す!)シュバッ
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 23:58:00.25 ID:yLZaPSG20


 ドサドサ
ガチャガチャ


相棒『有用な武器はこれで全部』

用心棒『おう、有難う』

少年『あれ?これは……刀ですか?』

相棒『いや……』ガチャガチャ シャキーンッ!

相棒『こうすると鉄砲になる』

少年『変形するんですね!』

用心棒『面白いな。一応持って行くか……』


用心棒『打ち合わせを再開するぞ。まず、例の秘密通路だが……』

用心棒『使わん』

相棒『何故?』

用心棒『怪しいからだ。あの頭巾野郎の意図を感じる』

用心棒『それでも使わなければならない状況もありえただろうが……俺達には鍛冶屋が遺してくれた秘密兵器がある』

用心棒『相棒。お前はそれを使って油商人の屋敷に侵入するんだ』

相棒『……』コクリ

少年『……』


少年『……用心棒さん、僕も行ってはいけませんか』

用心棒『……何故だ?』

少年『油商人は……油商人は、僕の父と母の仇でもあります』

少年『この戦いは僕の戦いでもあるんです。黙って見ているなんて……できません』

用心棒『……』

相棒『……用心棒』

用心棒『……わかった。行くがいい……』

用心棒『相棒がお前を油商人のところまで連れて行くだろう』

少年『……ありがとうございます』

用心棒『礼を言われる筋合いはない。……死ぬなよ』

少年『はい』

用心棒『……で、鍛冶屋の秘密兵器の使い方だが……』

224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 23:58:37.43 ID:yLZaPSG20


 油商人の屋根


 屋根の上


赤袖「……遁走しなんだか。見直したぞ」

用心棒「言っただろうが……お前を殺せるかどうか試すってな!」ダッ バアンッ!

赤袖「まだわからんとは!浅はか!」サッ ズダンッ!

用心棒「浅はかなのはお前だ!」シュザッ バアンッ!

赤袖「童じみた問答は無用!」サッ ズダンッ!

用心棒「ならよく考えろることだな!今の!自分の状況を!」シュザッ バアンッ!

赤袖(……!?押されている!?)サッ ジリジリ

赤袖(壁や天井が無いが場所に誘き寄せられたために今までのような動きができぬ!)

赤袖「た、たばかりおったなァ!」ズダンッ!

用心棒「そうだ。貴様は――」シュザッ

用心棒「負けたんだ!」バアンッ!バアンッ!バアンッ!

赤袖「ぐおおおあああああッ!」バスッバスッバスッ グラリ


 ヒュウウウウ… ドボーンッ


用心棒(池に落ちたか……)

用心棒(こいつには青袖とかいう相棒がいたはず。そいつはどこに……?)

<ヒュンッ

用心棒「ッ!?」サッ


 …カツーンッ カラカラカラ…


用心棒(今、何かが……)

「ほう、避けたな」スタスタ

用心棒「!」ガシャンッ

棒使い「私は棒使いだ。貴様を殺しに来た」ザッ

用心棒「……次から次へと」ガシャーンッ

用心棒「ちなみに今のは何だ?」

棒使い「さあな。天狗礫ではないか」チャキッ


 …ヒュウウウウウウウウウウ


棒使い「……?この音は……?」チラッ

用心棒(来たか――相棒!坊主!)

用心棒「喰らえ!」シュバッ ゲシッ!

棒使い「ぐわっ!?」ドタッ
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 23:59:33.75 ID:yLZaPSG20


 油商人の屋敷


 上空


 ヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ……
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……


少年「うわっ!うわわあっ!落ちる!落ちるぅ!」グラグラ

相棒「暴れるな、本当に落ちる」

少年「こ、こ、これ……『ぐらいだあ』!南蛮どもはこんなもので、空を飛ぶって……ひいいいい!」

少年「な、なんで相棒さんは平気なんですか!?というより、なんで乗りこなせるんですか!?」

相棒「説明書を読んだ」

少年「そ、それだけですか!?やっぱり駄目です僕は!もう降ります!」

相棒「我慢しろ。あとは屋敷の中に落ちるだけだ」

少年「落ちる!?落ちるんですか!?」

相棒「当たり前だ。いつまでも飛んでいられるものか」

相棒「……おや、用心棒だ」

少年「えっ!?用心棒さんが!?」

相棒「屋根の上」

少年「あっ本当――」

 ゴオオオオオオオオ――ッ

 グラグラグラグラ

相棒「横風だ。落ちる」

少年「ひ、ひいいいいいいいい――っ!」


 ヒュウウウウウウウウ…

 ガシャーンッ

226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/01(金) 00:00:30.10 ID:SwMJ31590


 屋根の上


棒使い「い、一体あれは――!?」

用心棒「お前には関係ないものだ!死ね!」チャキッ

伏兵「フッ!」ヒュンッ

用心棒「うぐっ!?」グサッ

棒使い「せいやァ!」ビュンッ

用心棒「ぐはあっ!」ドタッ


用心棒「……っく」スック

用心棒「吹き矢か……ずいぶんせせこましい真似をするんだな」

棒使い「せせこましい真似も、極めれば武器となる」

伏兵「ククク、吹き矢の毒が回るまでせいぜい足掻くがいい……」


用心棒(クソッ、一度見せられていた不意打ちをむざむざと喰らうとは……)

用心棒(相棒たちの到着で冷静さを欠いたのは俺のほうだな。冷静にならねば)

用心棒(これはまだ最後の戦いではないかもしれないのだから……!)
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/01(金) 00:01:51.51 ID:SwMJ31590

用心棒「毒が回るまで……か」チャキッ

用心棒「それまでに貴様らは死ぬことになる……!」バアンッバアンッバアンッ

棒使い「やってみるがいい!」ギュイーンッ

 カキンカキンカキンッ!

用心棒(!?棒が目にも止まらない速さで回転して――銃弾を弾き飛ばした!?)

伏兵「フッ!」ヒュンッ

用心棒「はっ!」サッ

用心棒(そうだ!冷静になればあんなもの俺には当たらない)

棒使い「私のことも忘れるなよ!」ビュンッ

用心棒(あとはこいつの棒の分析だ……)サッ バアンッバアンッ

棒使い「無駄なことを!」ギュイーンッ

 カキンカキンッ!

用心棒(むっ、よく見ると奴の腕輪と棒が妙な動きを……)

伏兵(再装填完了!もらった!)チャキッ

用心棒「ふんっ!」チャキッ バアンッ

伏兵「がはっ!?」バスッ

伏兵「」ドサッ

棒使い「チッ……!」チャキッ


棒使い「喰らえ!」サッ ギュイーンッ

用心棒「なんの!はあっ!」サッ ゲシッ

棒使い「フンッ!」サッ

用心棒「……やるな」ガシャーンッ チャキッ

棒使い「……そちらこそ。もう少し疲れているのかと思ったが……面倒だ」チャキッ


用心棒(腕輪と棒が、互いに退け合うような奇妙な動きをしている)

用心棒(その力で棒を回転させているようだな……攻撃にも応用できるようだ)

用心棒(しかし、仕組みは皆目見当がつかんな。材質がその秘密だろうか……)

棒使い(……どうも手の内がばれたようだな)

棒使い(吹き矢の毒が回るまで奴の攻撃を捌けるか……?それも、割れた手札で!)
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/01(金) 00:02:44.04 ID:SwMJ31590


 江戸市中

 とある長屋の玄関先


発明家「頼む!お前がかくまっている『あいつ』の居場所をすぐに教えてくれ、一大事なんだ!」

下男「おしえろ」

学者「わ、わかったわかった!教えるから頭を上げてくれ!」

学者「しかしくれぐれもよそで喋らないでくれよ……あいつは油商人の手の者に狙われているんだ」

発明家「無論だ!」

下男「はやくおしえろ」

学者「『藤屋』のところの角を曲がった先だ、そう遠くはない……」カキカキ

学者「これが地図だ。これも使い終わったらすぐに処分してくれよ」サッ

発明家「かたじけない!」ダッ

下男「かたじけない」ダッ

学者「やれやれ、一体何だって言うんだ……?」


発明家(あの少年……あんな子供が殺し合いに巻き込まれるなんて、あってはならないことだ!)タタタタタ

発明家(僕は用心棒たちに比べれば非力だが、できることはあるはず……!)タタタタタ

下男「発明家さま。きこえます」タタタタタ

発明家「何がだ!?」タタタタタ

下男「ジュウセイ……バクオン……チョウチョウハッシ……アブラショウニンのヤカタのほうから」タタタタタ

発明家「くそっ、始まってしまったか……!」タタタタタ


発明家「この家だな!……地図を処分して、と!」グシャグシャビリビリ

発明家「もしもし!」バンバン

髭面の男「学者か?」ガラッ

髭面の男「むっ!?誰だお前は!?さては油商人の……!?」

発明家「違う!話を聞いてくれ!」
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/01(金) 00:03:34.21 ID:SwMJ31590
今日はここまで
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/08(金) 23:41:10.05 ID:3RHbwx/h0


 油商人の館


 油商人の部屋


<ヒュウウウウ…
<ガシャーンッ!

油商人「ひいっ!」ビクッ

闇商人「何の音だ今のは!」チャキッ

包帯男「庭からでしたな」

青袖「何か大きなものが落ちたような……?見てきましょうか」

闇商人「よし行け!」

青袖「はっ」

 スパンッ タタタタタ…


油商人「くそっ、くそっ、くそっ!」ウロウロ

油商人「いったい何なんだ、次から次へと私に不都合なことが……!」ウロウロ

闇商人「……」

包帯男「そういえば、赤袖はまだ戻らないのでしょうか?」

油商人「そ、それもそうだ!棒使いも増援に差し向けたのにいくらなんでも遅すぎる!」

包帯男「ではそちらは私が見てきましょうか」

油商人「やめろ!私を一人にするつもりか!」

闇商人「一応私もいるのですが……」

油商人「黙れ薄汚いちっぽけなヤクザ商人め!貴様などハナからアテになどしておらんわ!」

闇商人「……」

包帯男「しかし用心棒がここに乗り込んできてからでは手遅れです。私は行きます」

包帯男「油商人様は例の隠し通路で脱出なさっては?」

油商人「な……し、しかし……」

包帯男「警備兵も、減ってはいますがあちこちに残っております……何かあればそちらに」

包帯男「では私はここで」

 スパンッ タタタタタ…

包帯男(……フッフッフッフ……用心棒、あの戦いは無効試合だ。今度こそ決着をつけようぞ……!)タタタタタ
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/08(金) 23:41:35.92 ID:3RHbwx/h0


 庭


少年「……い、いてててて……相棒さん、大丈夫ですか……」ヨロヨロ

相棒「大丈夫だ」スック

少年「『ぐらいだあ』は……完全に壊れてしまいましたね」

相棒「帰りは血路を開いていく。問題無い……」

相棒「!」チャキッ


青袖「……相棒、だったかしら。噂は聞いているわ、あなたと用心棒の腕前は裏社会でも有名だもの」

相棒「……」

青袖「そしてそっちは……あのときの子供ね。なぜついてきたの?こんな危ない凧にまで乗って……」

少年「……僕も、この戦いを引き起こした者の一人だからだ」

青袖「そう。まあ何にせよあなたたちを生かしておくわけにはいかないわね。そういう契約なの」チャキッ

相棒「……坊主。先に行け」

少年「はいっ!」ダッ

青袖「通すと思う!?」ダッ

相棒「フンッ!」ビュンッ

青袖「ッ!?」サッ

相棒「……お前の相手は、私」チャキッ

青袖「……それなら精々、一対一の対決を楽しむとしましょうか」チャキッ
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/08(金) 23:42:18.94 ID:3RHbwx/h0


 廊下

少年(油商人はどこだ?……いや、会ったところでどうする?)タタタタタ

少年(決まっている。鍛冶屋の蔵で、用心棒さんに火薬を詰めなおしてもらったこの洋式短銃で……)タタタタタ

少年(……僕に、できるのか?)タタタタタ

少年(いや、やるしかないんだ。もう後戻りできないんだ!)タタタタタ


少年「油商人は……この部屋か!?」スパーンッ

 ガラーン

少年「居ない……!」ダッ
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/08(金) 23:42:52.42 ID:3RHbwx/h0


 縁側


敗残兵「ハアーッ!ハアーッ!ハアーッ!ハアーッ!」ダダダダダ

敗残兵(死んだ!みんなみんな、死んでしまった!用心棒に殺された!)ダダダダダ

<ガシャンッ!ガシャンッ!ガシャンッ!

敗残兵「!?何だ、屋根の上から……?」


用心棒「はあっ!だあっ!らあっ!」ブンッブンッブンッ

棒使い「ぐわあっ!があっ!ごほおっ……!」ガシャンガシャンガシャン


敗残兵「ああ!ああ!」ブルルッ

敗残兵「だ、駄目だ、駄目だ、駄目だあああっ!」ダダダダダ…


用心棒「うおおっ!おおっ!おおあああっ!」ブンッブンッブンッ

棒使い「ゴボッ……待っ……ゴボッ」ガシャンガシャンガシャン


用心棒「ハアーッ……ハアーッ……ハアーッ……」スック

棒使い「……ゴボッ……」グッタリ

用心棒「ハアーッ……ハアーッ……」ジャキッ


 バアンッ


棒使い「」

用心棒「……ハアッ……ハアーッ!」

用心棒(息……息が……毒!クソッ……!)
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/08(金) 23:43:21.70 ID:3RHbwx/h0


 廊下


少年「油商人は……この部屋か!?」スパーンッ

 ガラーン

少年「居ない……!」ダッ
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/08(金) 23:43:50.61 ID:3RHbwx/h0


 庭


相棒「フッ……!」ビュンッ

青袖「ふんっ!はあっ!」カキインッ ビュッ

相棒「ハッ……ハアッ!」キンッ ヒュッ

青袖「せいやァッ!」ブウンッ!

相棒「!」サッ

青袖「ふうーっ……!」サッ

相棒「ハッ!」ビュンッ
青袖「セイッ!」ビュンッ

 カチインッ!

相棒(クナイ手裏剣……か)チャキッ
青袖(こいつ投剣もやるのか……!)チャキッ

相棒「……」ジリジリ

青袖「……」ジリジリ

<チャプ…

青袖(……?池に何か……)チラッ


赤袖「」グッタリ


青袖「!?」

相棒「隙あり」シュバッ ヒュッ

青袖「!?くっ!」カキインッ

相棒「甘い」ヒュンッ

青袖「ぐっ」ズパッ

相棒「……」サッ チャキッ

青袖「……」サッ チャキッ


青袖「……どうやら、負け戦みたいね」ジリジリ

相棒「……」

青袖「白星をくれてやるのは惜しいけど……こっちも、命あっての物種なのよね」ジリジリ

相棒「……つまり?」

青袖「こういうことよ!」ゴソッ ブンッ!

 ボンッ!モクモクモクモク…

相棒「!」チャキッ

相棒「……」キョロキョロ

相棒(……逃げたか。赤袖を担いで……)

236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/08(金) 23:44:44.45 ID:3RHbwx/h0


 廊下


少年「油商人は……この部屋か!?」スパーンッ

包帯男「ん?油商人様ですか?今支度中で……」クルッ

少年「うわっ!?何だお前は!?」ビクッ
包帯男「うおっ!何だ貴様!?」ビクッ

包帯男「こっちのセリフだ!さては貴様例の生き残りの坊主だな?話は聞いているぞ!」シャキンッ

少年「うわわわわ……!あっ、そうだ!」ゴソゴソ

包帯男「……!」ピクッ

包帯男「させん!」ビュンッ!

少年「うわっ!」ガンッ ポロッ

少年(『大きな川』の『お札』が!――でも!)

少年「『火の海、出でよ』!」サッ

 ボシュウッ!

包帯男「うおっ!?ゲホッゲホッ!煙幕か!?」

包帯男(一つは察知できたんだが……もう一つあったとは!)

包帯男「ガキめ、小癪な真似を……」スック

包帯男「ぬうっ!?」フラッ

包帯男(こ、この煙は一体……!?)フラフラ


少年(これは光弾じゃなかったのか……!)タタタタタ

少年(でも光弾だと思っていたおかげで使うと同時に顔を覆ったから、煙にまかれずにすぐ逃げ出せたぞ!)タタタタタ

包帯男「ヌウウ……!待て坊主……!」フラフラ
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/08(金) 23:45:20.90 ID:3RHbwx/h0


 油商人の部屋


敗残兵「あ、あ、あ、油商人様……!」ドタドタ

油商人「!な、何だ!今度は!」

闇商人「仕留めたか!?」

敗残兵「と、とんでもない!棒使いさんが、棒使いさんが……!」

闇商人「棒使いがやられたのか!?……となると赤袖も……!?」

敗残兵「早く増援を!殺されてしまいます、早く!」

闇商人(油商人……手勢は、もう……!)チラッ

油商人「ああ、ああああ!逃げる!私は逃げるぞ!」

油商人「今あの隠し通路を使わずにいつ使うんだ……そうだ!そして私は生き残り、またいつもと同じように……!」

敗残兵「!?ふざけるな!」ジャキッ


 バアンッ!


油商人「」ドサッ

闇商人「……な」

敗残兵「……こ、こいつが……こいつがいけないんだ……」ブルブル

敗残兵「これだけ味方を殺しておきながら、そんな身勝手な……!」ブルブル

闇商人(……油商人が、死んだ!)

闇商人(俺は、俺は……どうすればいい!?どうすれば奴らの追跡から逃れられ――)
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/08(金) 23:46:04.52 ID:3RHbwx/h0


 ドスドス スパンッ


?「……!?これは!?」

闇商人「!?貴様は!?」ジャキッ

敗残兵「!?」ジャキッ

?「……」

闇商人「……ん?あんた、たしか……」

?「五月蠅い!」ビュビュンッ


 シュバアーッ ズバッ
シュバアーッ ドウッ


闇商人「ぐはっ……!?」ドサッ

敗残兵「」ドサッ


?「……何たることだ……何たることだ!」

?「彼奴ら、俺の筋書きを破ったうえ糞までかけていきやがったな!許せん!」


 ドスドス ガラッ ドスドス…


闇商人(ば、馬鹿な……あいつは……味方のはず……)

闇商人(いや、そもそも、あいつは……)
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/08(金) 23:50:46.44 ID:3RHbwx/h0


 庭


用心棒「ハアーッ……ハアーッ……」フラフラ

相棒「!用心棒!」タタタ

用心棒「……よお、へへ……少し、ドジを踏んじまった」フラフラ

相棒「……あとは油商人だけ」

用心棒「ああ。終わったら、しばらくは……休めるだろう……」


?「あいにくだが、そんな機会は永遠に来ない。ここで死ぬからだ」ザッ


用心棒「!?」
相棒「!?」

用心棒「その頭巾は……覆面野郎!なぜここに……」

?「貴様らが……貴様らが、筋書きに従ってれば……全ては丸く収まったのに!」シュルッ


 パサッ


用心棒「……!?」
相棒「!?」


用心棒「バカな……そんな、バカな!き、貴様は――ッ!」




用心棒「『剣士』!?」





?→剣士「……いらん知恵を蓄えて、何もかも台無しにしてくれたな」

剣士「代償は支払ってもらう……!」チャキッ

240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/08(金) 23:52:11.73 ID:3RHbwx/h0
今日はここまで
消去法で包帯男の正体が推理できるんだけどわかるかな
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/10(日) 21:19:26.08 ID:KwZuNL3X0


用心棒「じょ、浄瑠璃書き気取りか……死ね!」バアンッ

剣士「貴様らが誘導通りに抜け道を使っていれば――」スッ

用心棒「!?」

用心棒(何だあの動きは!?まるで銃弾の動きを予測しているような……!?)

用心棒(武士……いや、槍使いの技か!?)

剣士「油商人の目前で私が貴様らの前に立ちはだかり、貴様らを殺し――」ツカツカ

相棒「ッ……!」ジリジリ

用心棒「クソッ……!」バアンッ

剣士「私は油商人から重用されるようになり、やがては跡継ぎとなれたのに――」スッ

用心棒「当たれッ!」バアンッ

剣士「そのために私がどれほど貴様に手を貸してやったか――」スッ

用心棒「な、何なんだ……」バアンッ

剣士「そもそも私はそのために油商人の配下になったのに――」スッ

用心棒「何なんだ貴様はッ!?」バアンッ

剣士「全てを!全てを無駄にしてくれたな――」スッ

用心棒「うおお――ッ!」バアンッ

剣士「断固!殺す!」キインッ!

用心棒(バカな!?銃弾を刀で――)

相棒「!危ない!」

用心棒「ぐふっ!」バスッ

用心棒「……かはっ……」ドサッ
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/10(日) 21:19:52.24 ID:KwZuNL3X0

相棒「……!」ダッ

剣士「向かってくるか、バカめ……『飛閃』!」ブンッ シュバアーッ

相棒「!?がっ……」ズバッ

相棒(こ、これは大男の……!?)

相棒「は、はあっ!」ビュンッ

剣士「!これは!」カキインッ

相棒「たあっ……!」ビュンッ

剣士「草薙流、か!」カキインッ

相棒「そうよ……覚悟はいい!?」ビュンッ

剣士「お前も草薙流の使い手だったとはな……しかし!」カキインッ

剣士「ぜいッ!」ビュンッ

相棒「!?」カキインッ

剣士「そうだ!俺も!草薙流!」ビュンッビュンッビュンッ

相棒「そ、そんな……!」カキインッカキインッカキインッ

剣士「そしてお前のその歳では……俺のほうが兄弟子だろう」パッ

相棒「……だから?」チャキッ

剣士「なに、もしかすると道場で会ったことがあるかもしれんと思ったんだ――そしてッ!」シュバッ

相棒(!この踏み込みは以前戦ったときの――いや、キレが数倍!?)


剣士「はあっ!」ビュンッ
相棒「やッ!」ビュンッ


剣士「……」

相棒「……」


相棒「ぐ」ドサッ

剣士「弟弟子……もとい、妹弟子では、兄弟子に敵わないのが道理だ」
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/10(日) 21:20:22.32 ID:KwZuNL3X0

相棒「……ゴボッ……」ピクピク

剣士「フン、全てが終わってしまった今では慰めにもならんが……トドメだ」チャキッ

用心棒「待て……!」ヨロヨロ

剣士「……おや、もう死んだと思っていたんだが……お前からにするか」クルッ

用心棒「喰らえ!」ポイッ

剣士「ぬうっ!?これは――」


 ボガーンッ!


用心棒「ハアーッ……ハアーッ!相棒ッ……!」ヨロヨロ

相棒「……よ……よう、用心棒……ゴボッ」

用心棒「や、やめろ……喋るな、傷が……!」

相棒「……用心棒!まだだ!奴は!」

用心棒「――ッ!?」ガシャーンッ クルッ
剣士「『飛閃』!」シュバアーッ


 ガシャーンッ!


用心棒「た、短銃が……!」

剣士「おまけだ!」シュバアーッ

用心棒「ぐはっ!」ズバッ ドターッ

剣士「驚かせやがって。どうだ!どうだ!オラッ!」ゲシッゲシッゲシッ

用心棒「がっ……ぐっ……」ガッガッガッ

剣士「痛いか。痛いだろうな。だが私はその何倍も痛いんだ、貴様の勝手のせいでな!」ゲシッゲシッゲシッ
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/10(日) 21:20:54.13 ID:KwZuNL3X0

用心棒「……」ピクピク

相棒「……よ、用心棒……ゴボッ」グッタリ

剣士「フウーッ……おや?用心棒、お前ちゃんと刀を持っているじゃないか。短銃使いのくせに……殊勝な心がけだな」

剣士「……フム。そういえば、ただ殺してもつまらないしな……」


相棒「……用心棒……逃げろ……お前だけでも……」

用心棒「……そんなことが……できるか」

用心棒「こんな……クソ野郎に、お前は殺されて、俺だけ、逃げろってのか……」


剣士「なんだお前ら結構元気だな……フウーム、ではこうしようじゃないか、用心棒」

剣士「五歩の距離で見合って、俺が投げたこの石が地面に着いたらお互い抜刀して、最終決着だ」

剣士「形の上だけでも正々堂々の勝負としよう……おい立てるか?できないならこのまま蹴り殺すぞ」


用心棒「……ああ、できるさ……できるとも。ぶっ殺してやるぜ、クソッたれ」フラフラ

剣士「フン……」ザッザッザッザッザッ
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/10(日) 21:21:23.11 ID:KwZuNL3X0

剣士「この石が合図だ。いくぞ」ポイッ


 ヒュウウウウウウウウ…


剣士(用心棒……滅茶苦茶やってくれたお前もこれまでだ。俺は大阪ででもやりなおすとするさ……)

剣士(幸い、四天王から吸収した技の数々がある。これがあれば新設されるという噂のある京都警備隊あたりで成りあがれるだろう)

用心棒(……最後の一手も、奴の目には通じるまい)

用心棒(万事……窮す、か……)

相棒「……用心棒ッ!」

用心棒「相棒ッ……先に行って、待ってるぜ!」


 ポトンッ


用心棒「ウオオオオーッ!」シャキンッ
剣士「『飛せ』――!?」シャキンッ
少年「うわあああああああ――っ!」ジャキッ


 ズダンッ!ダアンッ!

246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/10(日) 21:22:08.31 ID:KwZuNL3X0


 ……


剣士「……」


用心棒「……」


少年「……」


相棒「……」


 ドシャッ


剣士「」

用心棒「……」

用心棒「……やった。殺した……俺が」

相棒「……ゴボッ……その、刀、は……」

少年「……あのときの?」

用心棒「……ああ。鉄砲に変形する刀……」ポイッ

 ガランッ

用心棒「……最後の最後で、こいつは読み間違った」

少年「……僕の、弾丸は?」

用心棒「……バカめ。鉄砲ってのは……一朝一夕で、当たるようになるもんじゃ、ねえんだ……」

相棒「……」
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/10(日) 21:23:46.42 ID:KwZuNL3X0

少年「……あっ!用心棒さん、相棒さん、その傷は!?大丈夫なんですか!?」

用心棒「大丈夫なわけ……ねえだろッ!クソッ!クソ痛ぇ!」

相棒「まったく……ね……」

相棒「……私、ちょっと……眠っても、いい?」

用心棒「おい」

相棒「バカ……死ぬわけ……な……」

相棒「……」ガクッ

少年「相棒さん!?」

用心棒「相棒!?おいっ!」ユサユサ

相棒「……!死なないから、眠らせろって、言ってるだろッ!」ブンッ

用心棒「ぐわっ!?」ガンッ

相棒「……起こすな……」ガクッ

用心棒「……」

少年「……」

用心棒「……ははっ」

少年「……えへへ」

用心棒「……行くぞ。表には奉行所の連中がいるだろう、裏から出よう」

少年「はい!」

用心棒「よいしょっと」グイッ

相棒「……うーん……」
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/10(日) 21:24:16.65 ID:KwZuNL3X0


 裏門


発明家「用心棒ッ!」

用心棒「うわっ……発明家!?なんでここに……?」

発明家「こんなドンパチやってればツンボでも気づく。その傷は……!」

用心棒「大丈夫だ……ほっとかなければ、死ぬ傷じゃあない」

相棒「……死なないって……」

用心棒「わかったわかった」


発明家「君も……いたのか、この鉄火場に」

少年「はい……お札、ありがとうございました。無かったら僕、おかしな包帯男に殺されていました」

用心棒「包帯男だと?」

少年「あっ、はい。全身包帯でぐるぐる巻きの男です」

少年「途中で出くわして……発明家さんからもらったカラクリで撒いたのですが」

用心棒「……」

用心棒(そういえば……槍使いは死体を確認していないが、剣士と同じようなことは……)

用心棒(……まさか、な)


発明家「……そして、少年。君に会わせたい人が居るんだ」

少年「え?」

発明家「……出てきてくれ」

髭面の男「……」ザッ

少年「……!あなたは!」


髭面の男「うおおーッ!少年ッ!」ガシーッ
少年「叔父上ーッ!」ガシーッ
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/10(日) 21:24:51.24 ID:KwZuNL3X0

髭面の男「うおお、うおっ、うおおおおーっ!少年、少年……」

髭面の男「ああ、見つけてやれなくてすまない、俺は君が兄上ともども死んだものとばかり……」

少年「僕もです、僕もなんです、叔父上……きっと生きていると自分に信じ込ませようとしてはいたけど……どうせ殺されてしまったんだろうと!」

髭面の男「いいんだ、いいんだ、そんなことは……」

髭面の男「少年、俺と肥前に行こう。俺の死んだ妻の家が肥前にあるんだが、彼らが俺たちを受け入れてくれると言っている……」

少年「はい、もちろんです……もちろんですとも!ご一緒します!」


用心棒「……大団円だな」

相棒「……うるさい……」

発明家「……さあ、そろそろここを出よう。奉行所の連中が来ると面倒だ」


用心棒「……じゃあ、少年。ここでお別れだ」

少年「え……」

用心棒「……俺たちとお前の生きる道は違うんだ。交わっちゃならないんだ、それは」

少年「……もう、会えないんですか」

用心棒「……少年。俺たちは傷を癒したら、闇商人を殺しに行くんだ」

用心棒「そういう世界だ、俺たちが生きているのは。お前もこの何日かでよくわかっただろう」

少年「……」

用心棒「……まあ、覚えとくさ。ちょっとでも俺たちと一緒に戦った奴が、肥前にいるってな」

用心棒「あばよ、少年」ザッ

少年「……!」

少年「用心棒さん!僕も……僕も、忘れませんよ!」

少年「相棒さんも!僕を助けてくれた人たちが、江戸に居るって……僕、絶対忘れませんから!」

少年「本当に、本当に……ありがとうございました!」ペコリ


用心棒「……おう」スタスタ

相棒「……ええ」


発明家「……さあ、行こうか」

髭面の男「……格好いい人たちだな」

少年「……はい。善い人じゃありませんが、格好良い人たちです」

少年「……!あっ!」

少年「用心棒さん、僕のこと、坊主じゃなくて少年って……!」
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/10(日) 21:25:23.39 ID:KwZuNL3X0


 路地


用心棒「闇医者は……向こうだったか……?」スタスタ

相棒「……そこ、右」

用心棒「ああ、そうか……」

用心棒「……あの、バカめ。絶対忘れねえとよ」

用心棒「忘れたほうが……平和だってのによ」グスッ

相棒「……用心棒」

用心棒「うるせえ。泣いてねえよ」グスッ

相棒「……違う。最後の、一発」

用心棒「ん?……」

相棒「……剣士を殺した銃弾、本当にお前が撃ったのか」

用心棒「……」

用心棒「どっちだっていいだろ」

相棒「……そうね」


用心棒「……ああクソ、この道やけにドロドロだな……雪がまだ残ってやがる。足袋が汚れて仕方ねえ」

用心棒「日陰だからかな。ひでえ道だ」

相棒「……下ろして」

用心棒「ん?大丈夫なのか?」

相棒「大丈夫。私も、一緒に歩く」
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/10(日) 21:26:04.87 ID:KwZuNL3X0


 潮光寺


包帯男「着いた……とりあえずここに下ろすぞ」

闇商人「ああ、優しくやってくれ、やさしく……あいててて!」

闇商人「……ああ、助かった。何分この刀傷だ」

闇商人「あんたがこうして抜け道から運び出してくれなければ用心棒に見つかって……なすすべなく殺されていたかもしれん」

闇商人「本当に感謝するよ、槍使いさん」

包帯男→槍使い「……まあ、一度命を救われた恩があるのは事実だからな」

槍使い「しかし、剣士の奴が生きていたとは……」

闇商人「何も変わらん、何も変わらんよ槍使いさん。用心棒は奴を二度殺すだろう」

槍使い「……その言い回しは私もぞっとしないが」

闇商人「そうか?すまんな……ところで」

槍使い「何だ」

闇商人「用心棒の奴がいるせいで江戸で暮らしにくいのは俺もあんたも一緒だ。そうだろ」

槍使い「……私は奴に負けたわけではないのだが……まあ、傷も完全に癒えたわけでないしな」

闇商人「そうだろう?そこでだ……」


闇商人「俺と一緒に神戸に行かないか」

252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/10(日) 21:40:27.55 ID:KwZuNL3X0
以上で完結です。
劇中では10日と経過していませんが、執筆には1年半近くかかってしまいました。
最後まで読んでいただいた方、ありがとうございました。
依頼も忘れずに出しておきます。

ちなみに自分の中でのベストバウトは槍使い戦です。
皆さんは如何だったでしょうか。
その他感想、ご指摘等あれば一言だけでも書き込んでいただければ今後の参考にさせていただきます。
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/13(水) 00:18:45.94 ID:NB59WfFCo
赤袖、青袖にポンコツ具合を帳消しにする見せ場が無かったのが残念だけど
引き際を心得てるのが好き
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/13(水) 20:08:19.66 ID:FL+FVaUao
生き残るのが第一
死んだら終わり
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/13(水) 21:10:44.11 ID:06GxWdKvo
乙乙
いいくらいの長さ
次も待ってる
228.74 KB Speed:0   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)