姫王子「黒翼のハルピュイア娘……」青花エルフ「王子、姫になる」

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294 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/07/26(水) 18:44:44.20 ID:hpnOI0Eao



淫魔幼女の声 「…………」


ロブスターの声 「なぜそれほどまでにあの杖を欲するのかな。抜け目のないお嬢さん」


淫魔幼女の声 「……失礼ながら船長、私はお嬢さんではありません」

淫魔幼女の声 「私は旅商人。仕入れのため、秘境や魔境など、危険に飛び込まねばならぬ仕事なのです」

淫魔幼女の声 「そんな場所に、得体の知れない魔法や呪いのたぐいは欠かせぬもの」

淫魔幼女の声 「また、品物が希少なものの場合、他者と争わなければならないこともあります」

淫魔幼女の声 「魔法使いを相手取らねばならないことも少なくはない」

淫魔幼女の声 「あの魔法殺しの杖があれば、どんなに助かることでしょう」


ロブスターの声 「魔法殺しか……」

ロブスターの声 「しかし私としては、うちの小さな乗組員と同じくらい幼なそうな君が危険に飛び込む手助けを」

ロブスターの声 「したくはないというのが本音だがね」


淫魔幼女の声 「……お譲りいただけないということでしょうか」


ロブスターの声 「そこまで手元に置いておきたいものでは無いのだがね」

ロブスターの声 「むしろ無い方がありがたい」

295 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/07/26(水) 18:58:42.96 ID:hpnOI0Eao


ロブスターの声 「なるほどたしかに、あの杖は魔法殺しと言って良い」

ロブスターの声 「敵が強力な魔法使いであるほど、その力を発揮するだろう」

ロブスターの声 「そしてあの杖を作ることのできる者は、この世に誰もいないだろう」

ロブスターの声 「だからこそ、あまり世に放ちたくないのだ」

ロブスターの声 「噂とは手ですくう水のようなもの。君が持ち歩けば、きっとその身にいらぬ危険が降りかかることになるだろう」


淫魔幼女の声 「…………」


ロブスターの声 「あの鏡の魔女のような悪しき魔法使いや、よからぬ企みを持つ者の手に渡れば」

ロブスターの声 「大きな悲劇を巻き起こすかもしれない」

ロブスターの声 「一つの宝石が、国ひとつを傾けたという話もある」



姫王子 (杖……)


296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/04(金) 17:45:33.52 ID:Uo5oeg3XO
はよはよ
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/30(水) 22:03:22.20 ID:tHh3oI5PO
ワッフルワッフル
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 01:46:04.88 ID:6Zje/6w8o
間が開きすぎると話を忘れる
話は面白いんだけど…
299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/21(木) 14:58:56.63 ID:aK55TU8gO
あなたは続きを書きました
300 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/09/24(日) 23:11:32.84 ID:R8OwrII4o


姫王子 (杖とは、おれが初めて船長室を訪れたときにク魔エビ娘が使っていた、あの杖だろうか)

姫王子 (思えば、葉巻やほかの魔法使いの持っていた杖とどこか雰囲気が違っていたような)

姫王子 (いなかったような……)


悪魔紳士の声 「頑なですなあ、相変わらず」


ロブスターの声 「お互い様だ」


淫魔幼女の声 「…………」


姫王子 (戦いの報酬でもめているらしいが)

姫王子 (おれはどうするべきなのだろうな)

姫王子 (……まあ、このまま寝ている方が良いのだろうな)

姫王子 (もめている三人ともに、大なり小なり借りがある)


301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/25(月) 02:15:04.50 ID:1+0jB60N0
MOTTO!MOTTO!
302 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/09/25(月) 07:26:36.75 ID:BVJI1tB2o


姫王子 (強力な魔法のアイテムの厄介さは身をもって味わった)

姫王子 (ロブスター船長のもとで眠らせておくのが良いとは思うが)

姫王子 (胡散臭い紳士どのはともかく、小さな黒い商人には大きな借りがあるし、相談も受けてしまったし、話がこじれそうだ)

姫王子 (うん、やはりここは眠っておこう)

姫王子 (寝起きでハーピィを伴って渡り合うには厳しい相手だろうし…………)

姫王子 (ハーピィはどこだ?)


ムニ


姫王子 (……なんだか、少し苦しいぞ)

姫王子 (重たい毛布だと思っていたが、もしや)


ムニ


姫王子 (乗っている。これはきっと、乗っているな)


303 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/09/25(月) 13:55:15.95 ID:BVJI1tB2o


姫王子 「う……」


ハーピィ 「…………」


ムニ


姫王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


姫王子 (ハーピィがおれの胸に頭を置いて寝ている)


魔ーレラ 「ほれ、お前たちがもめているから病人が起きてしもうた」


姫王子 (若きマーレラ婆……)

姫王子 (船長室の天井……)

姫王子 (ここはベッドの上か)


ハーピィ 「…………」


ムニ ムニ


姫王子 (ハーピィは何をしているんだろう)

姫王子 (おれの胸の上で頭を転がして)


304 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/09/25(月) 14:01:40.56 ID:BVJI1tB2o


ハーピィ 「…………」


ムニ ムニ


姫王子 (納得いかないといった様子だ)


魔ーレラ 「お前の名前は何じゃ」


姫王子 「………名前」

姫王子 「王子だ」


魔ーレラ 「名前を鏡に奪われはしなかったようじゃな」

魔ーレラ 「生まれは?」


姫王子 「帝国の……どこかだよ」


魔ーレラ 「むう、生まれた場所は忘れてしまったか」


姫王子 「あ、いや、そうじゃなくてね……」


魔ーレラ 「お前の真実の一部を鏡に奪われるまでのことは憶えておるか?」


姫王子 「ああ。奪われたあとのことも」


魔ーレラ 「ふむ」

305 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/09/25(月) 14:11:28.12 ID:BVJI1tB2o


ハーピィ 「…………」


ペタ ペタ


姫王子 (ハーピィが心配そうに、黒い羽で頬を撫でてくる)

姫王子 「ありがとうハーピィ。大丈夫、大丈夫だよ」


ハーピィ 「…………」


ロブスター 「まだ安心するのは早い」

ロブスター 「どんなに大事な記憶も、なくしてしまえば、その記憶が大事であったことさえ忘れてしまう」


姫王子 (その場合、ハーピィはどう反応するのだろう)

姫王子 (おれがそう思い込んでいて、じつは記憶違いだったことに対して、見抜いてくれるんだろうか)

姫王子 「大事な記憶か……」

姫王子 「おれが男の中の男であることとか?」


ロブスター 「はっはっ、言いやがるな、我が弟子め」


306 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/09/25(月) 14:25:00.98 ID:BVJI1tB2o


魔ーレラ 「冗談を言う元気はあるようじゃな」


姫王子 「冗談じゃなくてね……」

姫王子 「ああ、記憶といえば」

姫王子 「おれは、どうしてここにいるんだろうか」

姫王子 「甲板の上で魔女と戦い抜いたことは憶えているんだけど」

姫王子 「そこから今までが判然としない」


ロブスター 「結んだ荷がほどけ崩れるように倒れたのさ」

ロブスター 「溜まっていた疲れにやられたのだろうとは思ったが」

ロブスター 「名高くも謎多き真実の鏡の魔力を受けていたというから、そのせいかと慌てたものだ」


姫王子 (真実の鏡……)

姫王子 「ふむ……」


淫魔幼女 「…………」


悪魔紳士 「健やかなお目覚め、めでたいことですな」


姫王子 「……大事な話の途中だったようだ」

姫王子 「もう少し、寝ていた方が良かっただろうか」


悪魔紳士 「いえいえ」

悪魔紳士 「美女の目覚めなど、私のようなつまらない男では、そうそうお目にかかれるものではございませんのでね」


姫王子 「はっは……」

307 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/09/25(月) 14:37:43.09 ID:BVJI1tB2o


姫王子 「黒王子が空飛ぶ船でやってきたのは、夢ということかな」


ロブスター 「いや…


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


姫王子 「ありがとうハーピィ」

姫王子 「夢ではないようだね」

姫王子 (鏡の魔女と、少なくとも敵対していない様子だったことも)

姫王子 (……南東地方か)

姫王子 「うっ……!?」


グラリ


ロブスター 「どうした。頭が痛むか」


姫王子 「あ、ああ……いや……これは……」

姫王子 「記憶……?」


ロブスター 「なに」


魔ーレラ 「何かの弾みで、忘れていた記憶が甦りかけているのかもしれん」

魔ーレラ 「ある魔法をかけたときに、それとまったく反対の現象がおきてしまうことがある」

魔ーレラ 「特殊な条件が重なった上で稀に起こるというが」


姫王子 「……館、古い……大きな、館……」


ロブスター 「館? 館がどうした」


魔ーレラ 「あまり外から刺激するな」


姫王子 「……寝室……ひまわりの種……大きなベッド……」

姫王子 「の下に………大量の……」

姫王子 「似顔絵……」

姫王子 「ううぅ……!!」






308 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/09/25(月) 17:06:47.69 ID:BVJI1tB2o


姫王子 「はぁ、はぁ……」


魔ーレラ 「そこまでにしておけ」

魔ーレラ 「なくした記憶を無理に呼び起こそうとすると心身への負担が大きい」

魔ーレラ 「あまり無理はせんことじゃ」


姫王子 「あ、ああ……」


ハーピィ 「………!」


ビクッ


淫魔幼女 「…………」

淫魔幼女 「大丈夫ですか。変わり果てた姿になられて」


姫王子 「……やあ、商人どの」

姫王子 (ぶどうを煮詰めたような色の液体が入った瓶を持っている)

姫王子 (ハーピィがおびえている……)


淫魔幼女 「忘れ薬です」

淫魔幼女 「あまり長くはもちませんが、魔法使いに呪文を忘れさせる程度のことはできます」

淫魔幼女 「記憶の混乱による頭痛も和らげることができるでしょう」


309 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/09/25(月) 17:20:56.29 ID:BVJI1tB2o



淫魔幼女 「あなたのいた地方で流行っていた薬に似ていますが」

淫魔幼女 「副作用はありません」


キュポンッ


淫魔幼女 「どうぞ。香りをかぐだけで効果があります」


姫王子 (葉巻の売りさばいていた薬か)

姫王子 (あれは確か粉状だったな)

姫王子 「どうも。どれどれ……」


クンカ クンカ


姫王子 「………おお」

姫王子 「澄んだ風が一筋通ったようだ。何だか、頭がすっきりした」


淫魔幼女 「それは良かった」

淫魔幼女 「二十年に一度しか摘めない花からつくられた、特製の薬ですから」

淫魔幼女 「効いてもらわねば困りますが」


姫王子 「……いくら?」


淫魔幼女 「とんでもない」

淫魔幼女 「最も脅威であったあの化物をしずめたあなたです」

淫魔幼女 「このくらいは当然のこと」

淫魔幼女 「もっと珍しいアイテムでも、ためらわず使わせていただきます」


姫王子 (……そういうことか)


310 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/09/25(月) 17:29:39.62 ID:BVJI1tB2o


淫魔幼女 「……それとは、うまくやっているようですな」


ハーピィ 「…………」


姫王子 (うかつな。まあ良いか)

姫王子 「ああ」


悪魔紳士 「ふむ。小さな商人どのと麗しき女剣士どのは、古いお知り合いなのですか」


姫王子 (女剣士……いちいち否定しても仕方ないか)

姫王子 「……まあ、日は浅いけれど、何かとお世話になっているね」

姫王子 (一度、自分の姿をよく鏡で見ておかなくてはな)

姫王子 (全身、隅々まで……)


悪魔紳士 「もしや、首輪をつけたそのお嬢さんは商人どのから?」


姫王子 (そら来た)

姫王子 「まあ、ね」


311 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/09/25(月) 17:41:36.10 ID:BVJI1tB2o


悪魔紳士 「いやあ、手広いですなあ」

悪魔紳士 「人身売買までやっておられるとは」


ロブスター 「ふむ」


淫魔幼女 「なりふり構っていられないのです」

淫魔幼女 「本当は私も、アイテムだけを扱いたい」

淫魔幼女 「頼もしい装備があれば、後ろめたい商売から足を洗って大冒険だけをしていられるのですが」


悪魔紳士 「おやおや……」


ロブスター 「大冒険か」


魔ーレラ 「何も、大冒険せんでも良いじゃろうに」


淫魔幼女 「何度も言いますが、私はお嬢さんではない」

淫魔幼女 「わけあって」この姿ですが、心は立派な男なのです」

淫魔幼女 「宝を求めて危険に飛び込む生き方しかできないのです」


ロブスター 「不器用なお嬢さんだ」


淫魔幼女 「…………」


312 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/09/25(月) 17:46:38.71 ID:BVJI1tB2o


姫王子 (やれやれ、話はもつれそうだな)

姫王子 (なあ、ハーピィ)


ナデ ナデ


ハーピィ 「…………」


スリ スリ

ムニ


姫王子 (おれのために怒ってくれたのだなあ。ありがたいことだ)

姫王子 (もう二度とないように心がけなくては)


ナデ ナデ


ハーピィ 「…………」


姫王子 (………葉巻はどうしているんだろうか)



313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 08:09:06.18 ID:dwGmG97Zo

更新きて嬉しい
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/11(水) 03:29:03.89 ID:pKkH0hVO0
たまーに見ると更新来てていいな
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/01(水) 03:34:52.30 ID:BGJiyuHb0
待ち
316 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/11/29(水) 01:05:52.22 ID:zwoZ1RE9o




姫王子 (ちゃんと、甲板に残した骨があいつの死体だということになっているんだろうか)

姫王子 (他の乗客に生きていると知られたら、厄介なことになるぞ)

姫王子 (最悪、葉巻を殺そうとする者も現れるかもしれない)

姫王子 (……ここにいる者たちはどうなんだろうか)


淫魔幼女 「じゃあ……私は故郷に、役立たずで飲み食いばかり六人前の、養わねばならない幼い家族がいるのです」


姫王子 (淫魔幼女か……どこまで知っているのやら)

姫王子 (大恩あるし、できれば敵に回したくないが、油断ならない相手だ)


魔ーレラ 「何じゃ、泣き落としか」


姫王子 (若きマーレラ婆。ロブスター船長がよく意見を求める相手だ)

姫王子 (魔法の心得があるから、葉巻の秘密に何か気づいているかもしれない)

姫王子 (彼女も油断ならないな)


悪魔紳士 「唐突ですなあ」


姫王子 (紳士どの)

姫王子 (船内の魔物たちを相手に一人で立ちまわり、甲板でも傷一つなく戦い抜いた)

姫王子 (帝国で活躍する勇者たちの噂には好意的なようだが)

姫王子 (ハの字の口ひげが油断なら無いな)


ロブスター 「幼い家族か……」


姫王子 (ロブスター。マスター・ロブ。おれの剣の師匠の一人だ)

姫王子 (器の大きな海の男だ)

姫王子 (しかしおれがこの身体になってからわずかの間に、もう何度か肩を抱かれた)

姫王子 (不覚にも、大きく厚く、そして荒々しいようで暖かい手にちょっと安心感をおぼえてしまった)

姫王子 (油断ならない相手だ)


317 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/11/29(水) 01:53:59.26 ID:zwoZ1RE9o



姫王子 (立場の違いは視点の違い。そんな者たちが集まった場所でうかつなことは喋れないぞ)

姫王子 (おれと葉巻の関係を知っているのは……全員だな。おれとあいつが一緒にいるところを一度は見られている)

姫王子 (おれの姿が変わっているとはいえ、唯一無二の愛らしさと美しさを兼ね備えたハーピィが傍にいるし)

姫王子 (何しろおれの男としての存在感は隠し通せるものではない)

姫王子 (おれが王子であるということは容易に想像できるはずだ)


ハーピィ 「…………」


姫王子 (杖を巡る三つ巴に乗じて、それとなく葉巻のことを探ってみるか?)


淫魔幼女 「…………」


姫王子 (……しかし、そうなると、おれも意見を求められるだろうな)

姫王子 (おれの一言に力は無いのだろうが、おれが誰の味方につくか明らかになってしまう)

姫王子 (もしうまくはぐらかせても、それぞれから不信を買うことになるだろう)

姫王子 (…………)


318 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/11/29(水) 02:57:18.83 ID:zwoZ1RE9o

姫王子 (ああ。旅人となっても)

姫王子 (こういった、人のしがらみに悩まされるのだろうか)

姫王子 (いや、身一つで生きていかねばならない旅人こそ、いらぬ恨みを買わないように細心の注意を払うべきなのだろう)

姫王子 (……などと、領地の人々に食わせてもらってきたおれが考えてもお粗末か)


ハーピィ 「…………」


ムニ ムニ

ムニュン


ハーピィ 「………!」

ハーピィ 「…………」


コク コク


姫王子 (あ、何か納得している。しっくりきたようだ)




319 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/11/29(水) 03:44:19.51 ID:zwoZ1RE9o





姫王子 (繊細な立ち回りは我が妹、王子姫の方が得意なんだよな)

姫王子 (忍耐と度胸もあり、人望もあつい。剣と魔法の腕もなかなかのもの。領主にふさわしいのは彼女だろう)

姫王子 (おれは馬鹿息子で通っているしな)

姫王子 (彼女が結婚を考えるであろう頃には都の王宮にとられる心配もないだろうし)

姫王子 (……女性の領主は現在どのくらいいたかな。善し悪しが極端だと聞くが)

姫王子 (まあ、うちの王子姫は間違いなく善く治めるのだろうな)


ハーピィ 「…………」


ギュウ


姫王子 (ハーピィ。君も王子姫についていれば、城で贅沢な暮らしが……)

姫王子 (できはしないか。町の商人の方が良いベッドを使っているだろう)


ハーピィ 「…………」


姫王子 (責任まみれの華やかなドレスよりも、野の花のような服の方が似合う気もする)

姫王子 (無表情なこの子が見せる豊かな表情の、なんと素晴らしいことか)

姫王子 (……ハルピュイアにとりつかれた王は)

姫王子 (果たして、どれほどの嘘を告発されるのだろうな)


ハーピィ 「…………」


スリ スリ


姫王子 (おれがこの姿になったら、くっつき方が、何と言うか強くなった気がする)


320 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/11/29(水) 04:02:20.34 ID:zwoZ1RE9o


魔ーレラ 「どうした。ボーッとしておるようだが」


姫王子 「……ん、ああ」

姫王子 「……少し、いや、いろいろと考えてしまって」

姫王子 「急に頭が冴えたおかげかな」

姫王子 「だとしたらありがとう、商人どの。素晴らしい薬だ」

姫王子 「誰とは言わないが、うちのあいつにも少しは見習わせたいね」


ハーピィ 「…………」


淫魔幼女 「いえ。重ねて言いますが、さきの戦いの最大の功労者に当然のことをしただけです」


姫王子 「はっは……」

姫王子 「ハーピィのことを始め、この旅であなたには世話になりっぱなしだ」


淫魔幼女 「ええ、不思議な縁を感じます」

淫魔幼女 「なあに、その子のことについては、私も感謝しております」

淫魔幼女 「良い人に引き取られてよかった」

淫魔幼女 「商人として失格かもしれませんが、命を扱うとなると、どうしても情がうつってしまって」


姫王子 (その子ときたか)

姫王子 「はっは……」

321 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/11/29(水) 04:14:33.80 ID:zwoZ1RE9o


姫王子 「マスター・ロブ」

姫王子 「そちらの話をさえぎって悪いけど、少し行きたい場所があるんだ」

姫王子 「退室しても構わないかな」


ロブスター 「病み上がりだ。明日の朝まで寝ていろ。このあたりの海の夜は冷えて困っていたしな」


姫王子 「船長」


ロブスター 「冗談だ」


魔ーレラ 「もう少し休んでからが良いのはそうじゃ。顔に不調のあとが色濃い」

魔ーレラ 「戦いのあとで、船内のお客の行儀は少しばかり悪くなっておるし」

魔ーレラ 「弱って見える年頃の女がふらふらと歩いておれば、すれ違う者によからぬ心が宿ってしまうかもしれん」


姫王子 (散々な言われようだ)

姫王子 「大丈夫、ちゃんと斬って捨てるから」


魔ーレラ 「それも考えて言っとるんじゃよ」


322 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/11/29(水) 04:31:53.74 ID:zwoZ1RE9o



コン コン


姫王子 (誰かが、船長室の扉を叩いている)


ロブスター 「……良いだろうか」


悪魔紳士 「どうぞどうぞ」


淫魔幼女 「かまいません」


ロブスター 「申し訳ない」

ロブスター 「……誰だ!」




???2の声 『……そういえば、本で読んだことがあります』



姫王子 (扉の向こうで誰かが話しているようだ)



???2の声 『波が荒れていても聞こえるように、ノックではなく鐘のようなものを鳴らすのです』


???1の声 『なるほど』

???1の声 『しかし、そのようなものは見当たりませんね』


???3の声 『これじゃない? なんかこの、何かひっかけたくなるような金属の』


???2の声 『これは服をかけるところでは?』



ロブスター 「大丈夫だ、ノックは聞こえているぞ。誰だ……」



???1の声 「ヘアァックション!」
323 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/11/29(水) 04:59:40.33 ID:zwoZ1RE9o



???1の声 『やだ。私ったら、はしたない……』


???2の声 『風邪でしょうか。夜通しの戦いでしたから』


???1の声 『ブラウニーさんのポカポカ汁を飲んだんですが……』


???3の声 『私、あれを瓶に入れてもらって風呂にしたわよ。もうポッカポカ』


???1の声 『まあっ、それは気持ち良さそうですね』


???2の声 『妖精さまは小さなクッキーもお腹一杯食べられて羨ましい限りです』


???3の声 『あら。あなたたちこそ、美味しいものをたくさん食べてもお腹一杯にならないなんて』

???3の声 『羨ましいわよ』


???2の声 『あやっ』


???1の声 『なるほど』


???2の声 『こりゃあ一本とられちゃいましたかね』

???2の声 『へへっ』


アハハ ウフフ



ロブスター 「おい……」



???3の声 「アヘックシュ!」


???1の声 『おや……』


???3の声 『えへへ、今さら湯冷めしちゃったみたい……』


アハハ ウフフ



ロブスター 「お……」



???たちの声 『ハックショオオオーン!』



ロブスター 「おい、どこかにあいつらに聞かせてやる鐘はないか」


魔ーレラ婆 「ないわい」


王子姫 「まさか,こちらに鐘が必要になるとは……」



324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/29(水) 19:02:46.94 ID:6/0aLHW9O
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/29(水) 20:00:20.34 ID:35WYZn+80
ワッフルワッフル
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/24(日) 05:52:36.93 ID:peIEihXe0
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/10(水) 05:47:15.92 ID:TT3X3xkY0
328 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/02/03(土) 11:53:44.42 ID:rgNF8yGoo


姫王子 (まあ、彼女たちだろうな)

姫王子 「やあ、申し訳ない」

姫王子 「扉の向こうの身内が迷惑をかけてしまっているようで」


ロブスター 「やはりそうか」

ロブスター 「なに、女性は一筋縄でいかないくらいがちょうど良い……」

ロブスター 「入りたまえ、扉の前の風邪ひきお嬢さんたち!!」



???1の声 『おや、ちゃんと聞こえていたようですね』


???2の声 『ノックじゃなくてくしゃみが良かったのかもしれません』


???3の声 『聞いた? 私たちのこと、お嬢さん、だってえ』


???2の声 『いやあ、それほどでも』


キャッキャッ


???1の声 『この船の船長どのは紳士的な方です』

???1の声 『こちらも失礼の無いよう、気をつけましょう』

???1の声 『開けますよ。準備は良いですか?』


???2の声 『あーっ、待ってください。そういえば、私は今日、下着をつけていません!』

???2の声 『何たる不覚!』


???3の声 『妖精なんだから、下着なんて気にしなくて良いでしょうに』


???2の声 『私は人間ですよう! この狐か狸かの耳にかけて!』


ワイワイ



姫王子 (扉の向こうで何をしとるんだ、何を……)


ハーピィ 「…………」


329 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/02/03(土) 12:22:15.86 ID:rgNF8yGoo


姫王子 (しかし、下着か……)

姫王子 (…………)


ユサ


谷間


姫王子 (おれも、つけなきゃならないのかな……?)



ガチャ ギイイ



姫王子 (おお、やっと入ってくるか)



ハタム カチャ

ト ト 


???1 「……失礼いたします」

貝殻の勇者 「帝国大陸北東島の港よりお世話になっております、イウシャ・オーグライです」


姫王子 (勇者どの。やはりか)

姫王子 (……偽名だな)


???3 「え、えーと……」

ろうそく職人 「付き人のローソックです」


姫王子 (別に本名で良いだろうに)


???3 「はあい、船長さん」

瓶詰め妖精 「瓶暮らしの瓶詰め妖精よ」


姫王子 (瓶は置いてきたのだな)


ロブスター 「ようこそ、おお、ようこそだ」

ロブスター 「なんということだろう、魔ーレラ。美しい女性が三人一緒に我が部屋にやってきた」

ロブスター 「どんな用かね? ぜひとも真っ先に聞かせてくれたまえ」


瓶詰め妖精 「その前になんだけど、おひげの船長さん」


フヨヨヨヨ


瓶詰め妖精 「妖精用の出入り口もちゃんと作るべきだと思うわ」

瓶詰め妖精 「それと、何か瓶は無いかしら。あなたたちで言うところの粗末な腰掛程度で構わないのだけど」


330 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/02/03(土) 12:41:41.64 ID:rgNF8yGoo


ロブスター 「それはすまなかった。何しろ小妖精のお客は、鱗の盗人くらいしか来ないものでね」

ロブスター 「君のようなヒトが来ると知っていたら、宝石つきのやつをこしらえたろうに」

ロブスター 「ちょうど机のところにいくつか置いている。どれ、取ってこよう」


瓶詰め妖精 「あら、悪いわ。自分で選ぶから大丈夫」


フヨヨヨヨ



ロブスター 「はっはっは……」


貝殻の勇者 「ああっ、瓶詰め妖精さん」

貝殻の勇者 「す、すみません……」


ロブスター 「とんでもない。彼女の言動について謝っているのなら、彼女は妖精にしてはとても礼儀正しい」

ロブスター 「それに、素晴らしい女性の無礼は男にとってありがたいものなのだよ」


貝殻の勇者 「あら、まあ。嫌だわ、ほほほ……」


姫王子 (勇者どのはこの手の軽口は好きそうではないが)

姫王子 (嫌そうな顔をしていないな。取り繕っているようでもない)

姫王子 (おれのときは露骨に嫌そうな顔をしたものだが)

姫王子 (……さすがは船長、と言ったところ……か?)


331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/04(日) 17:25:02.17 ID:BGhCA8XJO
ヒャッホーウ明けましておめでとうございます!
332 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/02/05(月) 01:16:13.22 ID:UtXHuzzPo


瓶詰め妖精 「んふ、ふ、ふーん……さっすがあ、大きな船の船長だけあって、なかなか良いのが置いてあるじゃなぁい」


カラ カラン コト


姫王子 (傾けたり、足を突っ込んだり、我が物顔で瓶を物色している)

姫王子 (それを……)


淫魔幼女 「…………」


姫王子 (不吉な商人が目で追っている)

姫王子 (つかまえて売り飛ばそうなんて考えているんじゃあるまいな)


ハーピィ 「…………」



ロブスター 「それで、何の用かね」

ロブスター 「何か飲みながら話そうか」


貝殻の勇者 「いいえ、どうやら邪魔をしてしまったようですし」

貝殻の勇者 「こちらも落ち着いてきたので、そろそろ、預かっていただいている王子どのを引き取らせていただこうかと」

貝殻の勇者 「参ったのです」


姫王子 (落ち着いてきた……何かごたごたしていたのかな)


333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/02(金) 05:03:00.10 ID:w7eWcYKe0
ほほほのほ
334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/27(火) 04:29:06.31 ID:nwzkou+x0
335 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/06(金) 10:51:22.90 ID:I8XPyAJjo


ロブスター 「かまわないが、べつにまだ預かっていても良いのだぞ」


貝殻の勇者 「ありがとうございます」

貝殻の勇者 「ですが、馬車の掃除も終わりましたので……」


ロブスター 「そうか」

ロブスター 「……だそうだが、どうかな我が弟子よ」


姫王子 「…………」


グ パ グ パ

スタ


姫王子 「よっ、とと……」

姫王子 「ふむ、大丈夫だ。今すぐにでも戦える」


ハーピィ 「…………」


336 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/06(金) 11:00:04.81 ID:I8XPyAJjo


フヨ フヨ フラ


瓶詰め妖精 「これを、いただくわぁ……っ」


星印の瓶



姫王子 (お気に入りの瓶を見つけたようだ)

姫王子 「持とうか」


星妖精 「あら、ありがと」


ヒョイ


星妖精 「割っちゃ嫌よ」


姫王子 「おおせのままに、お姫様」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


姫王子 「その通り、お姫様じゃない」

姫王子 「……ただの透明な瓶には見えないな」


瓶詰め妖精 「あんたたちにとっちゃ、ただの透明な瓶よ」

瓶詰め妖精 「あら、やっぱりあなた、背が縮んだ?」


姫王子 「どうかな。こんなもんだった気もするが」


ハーピィ 「…………」


瓶詰め妖精 「……ふうん?」


337 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/06(金) 11:17:54.17 ID:I8XPyAJjo


姫王子 「勇者どの、ろうそく職人、瓶詰め妖精、良いところで迎えに来てくれた」

姫王子 「さあ、これなら善からぬ者と一人ですれ違うこともないだろう。どうかな、美しきマーレラ?」


魔ーレラ 「まあ、良いじゃろうよ」

魔ーレラ 「どうしてもと言うならクル魔かク魔のどちらかをつけようとも思うたが」

魔ーレラ 「その娘がついておれば、お前も無茶をする心配は無かろう」


ろうそく職人 「いやあ、私たち信頼されちゃってますよ勇者さま」


貝殻の勇者 「ええ、これこそ日ごろの行いの賜物です」


ろうそく職人 「師匠も王子さまも、とんだやんちゃ者なので、そのぶん私たちが善行を頑張らなくてはなりません」

ろうそく職人 「まったく、損な役回りです」


魔ーレラ 「娘たち、とは言っておらんからな」



338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/18(水) 20:34:10.91 ID:5d9FYMkS0
おお来てた
いつも楽しませてもらってます
339 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/20(金) 00:12:22.32 ID:TAxKPZoSo


悪魔紳士 「おや、まあ! 何と言うことだ! 船上の英雄がさらに二人も!」

悪魔紳士 「できることなら、ぜひ、食事でもしながらお話をうかがいたいものです」


ロブスター 「お前が引き下がってくれれば、こちらの話はまとまるのだがな」


悪魔紳士 「おやおや、悩ましい」

悪魔紳士 「ふふふ……」



姫王子 「……話の途中ですまないが、おれは行かせてもらうよ」


淫魔幼女 「…………」


姫王子 (許せ商人どの)

姫王子 「急いでやっておきたいことも色々あるし」

340 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/20(金) 00:32:22.76 ID:TAxKPZoSo


ハーピィ 「…………」


魔ーレラ 「たしかに、今までとは勝手が違ってくるじゃろうしな」

魔ーレラ 「気をつけるのじゃぞ」


姫王子 「ああ」


ロブスター 「船中での取引も再開している」

ロブスター 「必要なものがあれば、商人区のバザーへ足を運んでみると良い」


姫王子 「たくましいな」


ロブスター 「旅商の醍醐味だからな」

ロブスター 「おれも忙しくないわけではないが、荷物持ちが欲しければ呼んでくれ」

ロブスター 「男好きする服も選んでやろう」


姫王子 「船長、おれは故郷では男の中の男、右に出る者は無いと言われた男だぞ」

姫王子 「そんなおれが、男好きする服を選ぶのに困ると思っているのか」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


姫王子 「うん。言われたこと無いけどね」


341 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/20(金) 00:44:18.17 ID:TAxKPZoSo


瓶詰め妖精 「ねえ、あいつって良いとこの人なんでしょ。どんな感じだったの」


ろうそく職人 「食べるものには困りませんでしたが、あんまり裕福じゃないとこですよ」

ろうそく職人 「そうですね……王子さまはそこで、領主一族の出涸らしと呼ばれていました」

ろうそく職人 「その勇名は帝国大陸の東に響き渡り、帝都にまで迫る勢い」


瓶詰め妖精 「ええ、なにそれ。名の知れた役立たずだったってこと?」


貝殻の勇者 「出涸らしですか。あれはあれで、良いものです」


姫王子 (なぜ迎えがこの人選なんだろうな)

姫王子 「では、失礼」



342 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/20(金) 02:59:05.98 ID:TAxKPZoSo


テク テク


貝殻の勇者 「あまり、急がずに歩いてくださいね」


ろうそく職人 「私が手を繋いであげます」


姫王子 「ありがとう。甲板ではかなり動けていたんだけどな……」


瓶詰め妖精 「転んでも良いけど、瓶は割らないでよね」


トコ トコ



淫魔幼女 「…………」


姫王子 (こっちを見ている)

姫王子 (助け舟を期待していたかな。悪いがこちらも立場があるんだ……)


淫魔幼女 「……自ら真実を失わぬよう、お気をつけください」


姫王子 「…………」


テク ピタ


姫王子 「……うん?」


淫魔幼女 「心の出ずるところ、魂は強く……しかしそれはしなやかな強さ」

淫魔幼女 「簡単に色も形も変えてしまう」

淫魔幼女 「その力は本人も驚くほど大きい」

淫魔幼女 「あなたの魂が、その肉体に見合ったものにならぬよう願うなら」

淫魔幼女 「想像以上の覚悟が必要となるでしょう」



343 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/20(金) 03:12:09.27 ID:TAxKPZoSo



ロブスターの船 船長室前




……キイイ ガチャ

テク テク テク



姫王子 「…………」

姫王子 「……ろうそく職人くん」


ろうそく職人 「はい」

ろうそく職人 「心は、ちょっとしたことでコロコロ変わってしまうもの」

ろうそく職人 「だから女の子の身体になって心を男の子のままで保つのは、とっても大変」

ろうそく職人 「頑張ってね」

ろうそく職人 「……ですかね」


姫王子 「ありがとう」


貝殻の勇者 「ろうそく職人さんに通訳のスキルが……」


姫王子 「ふむ、心か……」

姫王子 「ま、大丈夫だろう」

姫王子 「おれの男らしさはこの程度じゃびくともしない」


ハーピィ 「…………」



テク テク テク



344 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/20(金) 03:25:12.54 ID:TAxKPZoSo


ザワザワ



貝殻の勇者 「まずは、馬車へ帰りましょう」

貝殻の勇者 「黒花どのと会ってください」


姫王子 「馬車にいるのか、あいつは」

姫王子 「勇者どのに使いをさせるなんて……相変わらずのようだ」


貝殻の勇者 「いえ、使いはそうですが、馬車幽霊どのに頼まれたのです」


姫王子 「へえ……」

姫王子 「ところで勇者どの、背が伸びたかい?」


貝殻の勇者 「あなたが縮んだのです」


姫王子 「うーん、そうかな」

姫王子 「そういえば、はじめは視線の高さが変わった気がしていたような、違うような」


瓶詰め妖精 「さっそく心が身体になじんできているじゃない」


345 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/20(金) 04:03:27.37 ID:TAxKPZoSo


テク テク


ろうそく職人 「むふ、王子さまと手を繋いで歩く日が来ようとは」

ろうそく職人 「お城にいたときには思いもしませんでした」


姫王子 「はっはっは、気をつけろぉ、出涸らしがうつるぞ」


瓶詰め妖精 「気にしてんの?」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


姫王子 「その通り。たぶんうつらない」

姫王子 (ろうそく職人の手のひら……普通の人間のものだな)

姫王子 「……おや」

姫王子 「ろうそく職人、何か頭がすっきりしていないかい」


ろうそく職人 「ふっふっふ……よくぞ気づきましたね王子さま」

ろうそく職人 「髪を切ってもらったのです」


姫王子 「ほう、良い感じだ」

姫王子 「髪か……」


貝殻の勇者 「だいぶ伸びましたね、王子どの」


姫王子 「うん。なんだってこんなに急に……」

姫王子 「ハネてしまうから伸びると大変だってのに」


貝殻の勇者 「良いではありませんか」

貝殻の勇者 「これを機に、新しい髪型に挑戦なさってはどうですか」


姫王子 (牢で見たときとは比べ物にならないほど余裕があるな、勇者どの)

姫王子 「うーむ」


ろうそく職人 「勇者どの、かつてから温めていたあの髪型を王子どので試してみるというのは……!」


貝殻の勇者 「なるほど……うふふ、面白そうですね」


姫王子 (ろうそく職人を従者にした効果……か?)














346 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/20(金) 04:13:27.80 ID:TAxKPZoSo


ろうそく職人 「王子さまの髪なら、野生と母性を両立させるあの髪型を実現できそうです」

ろうそく職人 「野生さんの髪は思いのほかフワフワで、少し方向性がズレてしまいました」


姫王子 「母性はちょっと困るんだけどね……」

姫王子 「元の髪型で良いんじゃないかな」


瓶詰め妖精 「あららあ? 男の中の男が、髪型ひとつで揺らいじゃうのかしらん」


姫王子 「むっ」


347 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/20(金) 04:21:20.25 ID:TAxKPZoSo


ザワ ザワ

テク テク テク



ろうそく職人 「…………」


ジィ


姫王子 「……?」


ろうそく職人 「…………」


ジィ


姫王子 (……見てるな。胸を)

姫王子 (視線って、割と分かるもんだな)


ろうそく職人 「王子さま」

ろうそく職人 「もうこのままで良いんじゃないですかね」


姫王子 「縁起でもないことを」


貝殻の勇者 「ほほほ……」

貝殻の勇者 「と、これほど容姿が変わってしまったら、王子どのはもう仮面を着ける必要が無くなるのでは?」


姫王子 「おお」

姫王子 「……いや、やっぱり着けた方が良いかな」


貝殻の勇者 「そうですか?」


姫王子 「うん。ほら……」

姫王子 「視線がね……」


貝殻の勇者 「……?」


ハーピィ 「…………」


348 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/20(金) 04:31:53.16 ID:TAxKPZoSo


テク テク


貝殻の勇者 「下着もちゃんと選ばなくては」

貝殻の勇者 「合わないものを着けていると、動きが大きく鈍ってしまいます」


姫王子 「ふむ」

姫王子 「大変だな……」



??? 「おお、森の巫女殿……!」



姫王子 (ん?)



??? 「すみません、思わず声をかけてしまいました」

魔法使い 「お目にかかれるとは何たる幸運!」



姫王子 (ローブを着た男が近づいてくる)

姫王子 (もりのみこ?)




349 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/20(金) 04:58:24.12 ID:TAxKPZoSo


姫王子 (もりのみこって誰だ)


ハーピィ 「…………」


貝殻の勇者 「…………」


ろうそく職人 「…………」


瓶詰め妖精 「…………」


ろうそく職人 「ゥオッホン。ごきげんよう」


姫王子 (この子か)


魔法使い 「お仲間の皆さんと船内の散歩でしょうか」


ろうそく職人 「オホンッ。ええ、まあ、そのようなものですね」


魔法使い 「おお、それはそれは……せめて挨拶だけでもと思いましたが、お邪魔でしたでしょうか……」


ろうそく職人 「い、いえいえ、ええと……」


チラ


姫王子 (こちらに気を遣っている)

姫王子 「そんなことはありません」

姫王子 「ろうそく職人、気を遣ってくれてありがとうございます。おれは大丈夫です」


ろうそく職人 「えぇ……!?」


貝殻の勇者 「……そうですね。ろうそく職人さまが挨拶を受けるのは、私たちの誇りです」

貝殻の勇者 「どうか、この時間を大切になさってください」


ろうそく職人 「勇者さままで……!」



350 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/21(土) 04:05:00.37 ID:MEIGtyHho


ザワ ザワ


姫王子 (魔法使いらしき目の前の男。胡散臭い格好だが、悪いものは感じられない)

姫王子 (とりあえず警戒はしておくか)


魔法使い 「やはりというか、森の巫女どのともなると、お仲間も一味違いますな」

魔法使い 「どの方も、ただならぬ品格と美しさを有していらっしゃる」


貝殻の勇者 「ほほほ……」


ハーピィ 「…………」


姫王子 「はは……」

姫王子 (こちらへの視線がちらちらと胸元を向いている気がする)

姫王子 (うん、きっと気のせいだ)


ろうそく職人 「ええ、皆さん素晴らしいかたばかりで、ええ」

ろうそく職人 「あひゃへへ……」


貝殻の勇者 「ふふふ……」

貝殻の勇者 「(頑張って、ろうそく職人さん)」


姫王子 (ろうそく職人、焦っている。明るくなって度胸もついたようだが、こんな風に緊張はするのだな)

姫王子 (……それにしても、勇者どのが冗談に付き合ってくれるとは意外だった)

姫王子 (やはりだいぶ砕けた……それとも、もともとこういう性格だったのか?)


351 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/21(土) 04:24:05.08 ID:MEIGtyHho


魔法使い 「それにしても残念です」

魔法使い 「わたくしもあの戦いで甲板にいれば、森の巫女どのの奇跡の召喚魔法を目にできたのに」

魔法使い 「なさけないことに、臆病風に吹かれてしまい……」


姫王子 (召喚魔法。あの、光る魔ンボウを出した魔法のことか)

姫王子 (魔法使いが奇跡と呼ぶほどのものなのか)


ろうそく職人 「いえいえ、自分の命を大事にできる者がいちばん賢いのです」


魔法使い 「おお……! なんというありがたい言葉だ!」

魔法使い 「……あのう、森の巫女どのは、妖精の領域で森エルフの長老に師事し、エルフの魔法を修めたと耳にしました」

魔法使い 「森の巫女どのの才はもちろんのことですが、その魔法のことわりへの深い理解は」

魔法使い 「それも関係しているのでしょうか」


ろうそく職人 「お、修めただなんて、恐れ多いです。私もまだまだ修行の身なのです」

ろうそく職人 「たしかに、私の師匠は森エルフの長老が一人、紫煙の貴婦人黒花エルフさまです」


姫王子 「ふっっ、ぷふ……ッ!?」


352 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/21(土) 04:46:38.44 ID:MEIGtyHho


魔法使い 「?」



貝殻の勇者 「(王子どの! なにを笑っているのです!)」


姫王子 「(だ、だって、紫煙の貴婦人だなんてひどい不意打ちだもの!)」

姫王子 「(勇者どのも顔が笑っているじゃないか)」


貝殻の勇者 「(そ、そんなことはありません)」



魔法使い 「……あの、そちらのかたは急にいったい……」


姫王子 「……コホン」

姫王子 「も、申し訳ない。決して話の邪魔をするつもりでは無いのです」

姫王子 「どうぞ、お続けください」


ニコ


魔法使い 「……!」

魔法使い 「……あっ、はあ、あ、いや、はい、そうですな」

魔法使い 「そうですか、はあ、森の巫女どのはエルフの長老に魔法を、何とも羨ましい……」



姫王子 (……? 急に挙動不審になったな)


ハーピィ 「…………」



353 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/25(水) 14:51:09.87 ID:OKIsiakao
ろうそく職人の方が王子よりかしこさが高いのか
354 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/25(水) 19:01:54.17 ID:GOC8rQB+o


※ステータス別パーティ内くらべっこ


ちから  : 王子(♂)>貝殻>野生

まりょく : 葉巻.>>>馬車霊>ブラウニ
かしこさ : 馬車霊>>葉巻>貝殻≧王子

はやさ  : ハーピィ>>>>葉巻>王子(♂)
きよう  : ブラウニ>野菜鍛冶>葉巻

たかさ  : 馬車霊>王子(♂)>野生
おもさ  : 王子(♂)>野生>貝殻

うん   : ハーピィ>>>瓶詰め>種帽子
ずるさ  :王子≧葉巻>瓶詰め>ろうそく
ちゅうに : ニワトコ>葉巻>ろうそく
おおきさ : 野生>王子(♀)>ろうそく=ハーピィ


・参考…種帽子による分析とニワトコ娘の妄想

355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/25(水) 19:45:02.82 ID:yotO7DWGO
王子の賢さ勇者より低いのか…(驚愕)
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/23(水) 02:43:02.15 ID:VobCF2Cy0
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/23(土) 06:28:10.60 ID:LWOlzQbh0
待ち
358 : ◆tHMiOqNMgmiR [sage]:2018/06/26(火) 10:33:09.27 ID:sxNrRDGzo


タタタ


??? 「おお、これはこれは」

魔法使い2 「蒼き丸三角の耳さまではありませんか!」


ろうそく職人 「ゥオッホン。いかにも」



姫王子 (また見るからに魔法使いらしき人物がやってきた)

姫王子 「きせきのみみ……?」


貝殻の勇者 「甲板での戦い以降、ろうそく職人さんはこの船の魔法使いたちの尊敬を集めています」

貝殻の勇者 「通り名もたくさんいただいたようです」


姫王子 「へえ、大出世じゃないか」

姫王子 (葉巻の弟子になってあまり経っていないのに、他の魔法使いから尊敬されるほどとは)

姫王子 (すごい才能があったのだろうか。それとも、葉巻の指導の賜物なのだろうか)

姫王子 「お供が高名な魔法使いで、勇者さまも誇らしいかな?」


貝殻の勇者 「私は友の名声など気にしませんが」

貝殻の勇者 「微笑ましいというか、気持ち良いものですね」


姫王子 (妹を見守るような心境なのだろうか)

姫王子 (……王子姫、どうしているだろうな)

姫王子 (そろそろ暑くなる頃だし、また視察の途中で農家の土作りに参加して、従者を困らせているのだろうか)





359 : ◆tHMiOqNMgmiR [sage]:2018/06/26(火) 10:52:05.58 ID:sxNrRDGzo


タタタ


??? 「ややややや、これはこれは!」

太魔法使い 「隠れえぬ尻尾さまではありませんか!」


ろうそく職人 「ゥエッヘン。その通り」



姫王子 「おや、また」

姫王子 「今度はきせきのしっぽか」



タタタ


魔法使いC 「おやおやおや」


魔法使いD 「これはこれはこれは」


タタタタ


ろうそく職人 「ゥオッホン、エッヘン、アッハン」



姫王子 「どんどん集まってくるな」


瓶詰め妖精 「果物にたかる虫みたいね」


ハーピィ 「…………」


360 : ◆tHMiOqNMgmiR [sage]:2018/06/26(火) 11:30:53.38 ID:sxNrRDGzo


ワラワラ 


ろうそく職人 「ゲェーッホ、ゲホッ。その通り、いかにも……」


ワイワイ


姫王子 「すっかり囲まれてしまったな、ろうそく職人」


貝殻の勇者 「ええ。魔法使いは厭世的であると聞きますが」

貝殻の勇者 「顔を輝かせてあれこれ話す様は、まるで好奇心あふれる子供のようです」


姫王子 「ふむ……」

姫王子 「しかし困った。魔法使いたちの談義が終わるのを待っていたら、葉巻に会いに行けるのはいつになるか」


貝殻の勇者 「そうですね」

貝殻の勇者 「置いていく……のは少しかわいそうですし……」


フヨヨ


瓶詰め妖精 「じゃあ、貝ちゃんが残ると良いのよ」


姫王子 「貝ちゃん?」


貝殻の勇者 「瓶詰め妖精さん」


瓶詰め妖精 「王子さまは私がちゃんと送ってあげるわ」

瓶詰め妖精 「大事な瓶に傷をつけないか見張らないといけないし」


姫王子 「これは心外だ」

姫王子 「……貝ちゃんとは?」


貝殻の勇者 「いえ、しかし、病み上がりの王子どのを……」


ハーピィ 「…………」





姫王子 「ハーピィ」

姫王子 (身体を支えてくれているのか)


瓶詰め妖精 「ほら、この子も心配ないって言ってる」


ハーピィ 「…………」


361 : ◆tHMiOqNMgmiR [sage]:2018/06/26(火) 11:43:10.86 ID:sxNrRDGzo


貝殻の勇者 「ですが……」


ろうそく職人 「うわーん、勇者さまあ」


魔法使いF 「勇者?」


太魔法使い 「ん? よく見ると、そこの女性」

太魔法使い 「朝日の揺れる海面をとかしたような美しい髪……甲板の戦いに現れたという勇者どのでは!」


魔法使いB 「おお! よく見るとたしかに!」


魔法使いD 「やや! よく見るとそれっぽい!」


ゾロゾロ


貝殻の勇者 「え、あの……」


魔法使いたち 「勇者どの!」

魔法使いたち 「ぜひ勇者どのにもお話を!」


ワラワラ


貝殻の勇者 「ああっ!」

362 : ◆tHMiOqNMgmiR [sage]:2018/06/26(火) 12:12:29.86 ID:sxNrRDGzo


ワラワラ ヨイショ

ワイワイ ヨイショ


姫王子 「ううむ、勇者どのもあっという間に魔法使いたちに囲まれてしまった」

姫王子 「人気者も大変だ」


瓶詰め妖精 「人気が無くて良かったわね」

瓶詰め妖精 「じゃあ行きましょ」


姫王子 「うむ」

姫王子 「……では勇者さま、黒花の弟子さま、あとで会いましょう!」


貝殻の勇者 「えっ、ちょっと王子どの、お待ちなさ……」

貝殻の勇者 「きゃあっ!?」

貝殻の勇者 「誰ですか、鎧の隙間に手を突っ込んだのは!」


ワイワイ


姫王子 「うーん、やはりこの瓶、見れば見るほど、そこはかとなくそこはとない物を感じるな」


瓶詰め妖精 「ちょっと、べたべた触らないでよ」

瓶詰め妖精 「あんただって、巨人の指垢に頬ずりしたいと思わないでしょ?」


姫王子 「そういうものか。ごめんよ、布で包むとしよう」

姫王子 「して、貝ちゃんとはいったい……」


瓶詰め妖精 「ウキウキ、早く瓶風呂を試したあい」


テク テク テク



貝殻の勇者 「王子どのぉ!」



…………



363 : ◆tHMiOqNMgmiR [sage]:2018/06/26(火) 13:51:48.02 ID:sxNrRDGzo


…………


ロブスターの船

魔法の馬車へ続く通路



テクテク フヨ フヨ



瓶詰め妖精 「今回のことも吟遊詩人たちなんかは歌うでしょうね」

瓶詰め妖精 「夜の海で、恐ろしい魔女やドラゴンの群れにたちむかった人間と英雄の物語として」

瓶詰め妖精 「それが時間の流れによって磨かれ輝きを増していくか、すり潰されていくかは知らないけれど」


姫王子 「英雄の物語か……」


瓶詰め妖精 「まあ、どうでも良いことだけどね」

瓶詰め妖精 「妖精の私にとっちゃ、人間の歌声より早起きした森の音の方がまだ興味をひくわ」


姫王子 「おやおや」

姫王子 「でも、吟遊詩人は皆、君のような相棒の祝福を受けている」

姫王子 「なんて話を聞くけど」


瓶詰め妖精 「妖精の恋人ね」

瓶詰め妖精 「まあ、詩人の肩に乗っかって一緒に旅する妖精も一人や二人じゃ無いけどね」

瓶詰め妖精 「何が良いんだか。妖精の恋人どころか、妖精の変人よ」

瓶詰め妖精 「妖精の中でもはぐれ者」


姫王子 「そうなのか」


瓶詰め妖精 「人間は恋をすれば皆詩人になる、とか言うけど」

瓶詰め妖精 「人間の歌声なんて発情期の獣の鳴き声みたいなもんよ」

瓶詰め妖精 「人間以外が聞けば、間抜けでしかないもの」


姫王子 「ほう」

姫王子 (エルフの長老たちの歌が、おれたちには音痴の大合唱にしか聞こえなかったのと同じ感覚かな)


364 : ◆tHMiOqNMgmiR [sage]:2018/06/26(火) 14:25:15.32 ID:sxNrRDGzo


姫王子 (ハーピィが歌ったら、どう聞こえるのだろう)


ハーピィ 「…………?」


姫王子 (疑いようも無いな。きっと可愛らしいに違いない)

姫王子 (しかし……)

姫王子 「君は何と言うか……たくましいね」


瓶詰め妖精 「ふふん。まあ、人間ともそれなりに渡り合っているもの」


姫王子 「あはは……」

姫王子 (そう言えば、初対面のときも葉巻相手にひるまず交渉していたな)

姫王子 (物怖じせず、人の輪に積極的に入っていける性格のようだ)

姫王子 (……いっぽう葉巻は態度がでかいわりに、わりと人見知りだ)

姫王子 (人間の町で人間相手にカスみたいな商売をしていたが、人の輪に入り込もうとはしなかった)

姫王子 (酒場の隅で余裕ぶってグラスを傾けていたが、オレ以外に軽口をふっかけるところを見たことが無い)


ハーピィ 「…………」


姫王子 (…………心が弱いのだろうな)

姫王子 (態度のでかさも、人見知りの裏返しなのかもしれない)

姫王子 (そんなんだから、大事なときに人質にとられたりするんだ)

姫王子 (ひょっとして、奴に魔法の才能が無かったら、城にいた時のろうそく職人のようになっていたんじゃないか?)


365 : ◆tHMiOqNMgmiR [sage]:2018/06/26(火) 15:04:23.48 ID:sxNrRDGzo


魔法の馬車




姫王子 「……久しぶりの旅の我が家だ」

姫王子 「親しみ深い外観に魔物の襲撃の跡は無いな」


ハーピィ 「…………」


瓶詰め妖精 「到着ね」

瓶詰め妖精 「私の瓶を返して」


姫王子 「うん?」


瓶詰め妖精 「あんたはこれからあの面倒くさいエルフのとこに行くでしょ」

瓶詰め妖精 「付き合っていたら、瓶のお風呂が遠のいちゃう」


姫王子 「ははは……なるほど」


ヒョイ


瓶詰め妖精 「はい、どうも」

瓶詰め妖精 「部屋の場所は分かってるんでしょ」

瓶詰め妖精 「じゃあねえ」


フヨ フヨ フヨ……

ピタ


瓶詰め妖精 「瓶運び、ご苦労さまだったわね」


フヨ フヨ フヨ



366 : ◆tHMiOqNMgmiR [sage]:2018/06/26(火) 15:26:28.19 ID:sxNrRDGzo


魔法の馬車

廊下



テク テク テク


姫王子 「…………」

姫王子 (葉巻の部屋か)

姫王子 (……ほとんど御者台にいるから、馴染みはあまり無い)

姫王子 (むしろ、あいつが町で暮らしていたときに拠点としていた宿の一室の方が印象に残っている)


ハーピィ 「…………」


姫王子 (あいつが魔法使いだとにおわせるようなものは何も置いていなかったっけ)

姫王子 (何か窓際で栽培していると思ったら野菜だったし)

姫王子 (エルフの部屋ということで密かに幻想的な品々を期待していたら、がっかりさせられたものだ)

姫王子 (おれが魔法に疎いから気づいていなかっただけだったのかもしれないが)

姫王子 (……ああ、エルフの森ではあいつの家に世話になったんだっけ)

姫王子 (あれはさすが妖精の家、といった感じだったな)

367 : ◆tHMiOqNMgmiR [sage]:2018/06/26(火) 16:52:55.48 ID:sxNrRDGzo


魔法の馬車

黒花エルフの部屋前



姫王子 (……今回のあいつはアレだった)

姫王子 (おれに船内を無駄に走らせ)

姫王子 (しまいには錯乱して暴れて……一歩間違っていたら全滅だったんだ。友だちとしてビシッと言ってやらないと)

姫王子 「……ん?」


ガチャム

ハタハタ


ブラウニー 「……あら」


姫王子 (葉巻の部屋からブラウニーが出てきた)


ハタタタタ


ブラウニー 「帰ってきていたんですね、王子さん」

ブラウニー 「おかえりなさい!」


姫王子 「ただいま、ブラウニー」

姫王子 「さっそく働いているのかな」


ブラウニー 「おうちのことは大好きですから」

ブラウニー 「大丈夫ですか? 少し顔が青ざめていますね」

ブラウニー 「元気の出るスープを温めましょうか」


姫王子 「そんなにひどい顔色かな。見た目よりもずっと元気だよ」

姫王子 「そうだな、葉巻との話が終わったら、ぜひスープをいただきたいけど……」

姫王子 「君はよく働くね。ずっと馬車内を走り回っているんじゃないかな」


ブラウニー 「おうちのことをしていないと病気になっちゃいそうで」


姫王子 「すさまじいな……」

姫王子 (妹とは気が合いそうだな)


ブラウニー 「黒花さんとお話しですか。良いときに来ましたね」

ブラウニー 「黒花さんは今ちょうど、起きてご飯を食べたところです」


368 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/26(火) 18:29:59.80 ID:Gu5vU7DeO
ワイフの復活か
369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/27(水) 00:02:15.64 ID:5AVjbmDV0
なんという気になる引き完全にプロの仕業ですね…
370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/22(日) 09:34:29.90 ID:u9o5LeZH0
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/24(火) 22:23:50.00 ID:zaD+aTZ9o
>鎧の隙間
鎧が隠せてる部分ってそんなに無かったような
372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/22(水) 02:54:21.69 ID:7UxRVwYa0
373 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/29(水) 19:50:31.44 ID:V2wXQBLZo


姫王子 「ご飯、ね……」

姫王子 (食べる元気はあるんだな)

姫王子 (強めにビシッと言っても大丈夫そうだ)



ブラウニー 「ハーピィさんと種帽子さんは、何か食べますか?」


ハーピィ 「…………」


種帽子 「…………」


ブラウニー 「泥水ですね。あとで持ってきます」



姫王子 「さて、それじゃあ面会といきますか」

374 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/29(水) 19:55:12.21 ID:V2wXQBLZo


葉巻エルフの部屋の扉


姫王子 (…………)

姫王子 (ビシッと……)

姫王子 (ふむ……)


ブラウニー 「…………」

ブラウニー 「入らないんですか?」


姫王子 「え?」

姫王子 「入るけど、うん」

姫王子 「あいつの様子、どうだったかな」


ブラウニー 「?」


姫王子 「いつもと違う、とか、落ち込んでいる、ような……」


ブラウニー 「特に変わりは……ああー、そういえば」

ブラウニー 「角が生えていました」


姫王子 「角!」


375 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/29(水) 20:24:34.29 ID:V2wXQBLZo


姫王子 「角って、あの角かな」

姫王子 「肥溜めマイマイとか肉食ツノガイとかの頭に生えている、あの」


ブラウニー 「角です、角です」

ブラウニー 「ユニコーンとかカブトムシとかの頭に生えている、あの」


姫王子 「あいつ、角まで生えちゃったか……」

姫王子 「馬になったり女になったり、あいつも忙しい奴だが、ついに角か」

姫王子 「そうかあ……」


ハーピィ 「…………」


ブラウニー 「…………」


姫王子 「ビシッと言ったら突き殺されたりしてな」

姫王子 「ははっ」


ハーピィ 「…………」


姫王子 (あんなこと起こしたあとだしな。冗談とも言い切れないんだよな)

姫王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


姫王子 「ねえ、本当に角だった?」

姫王子 「耳じゃなかった?」


ブラウニー 「入らないんですか?」


376 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/29(水) 20:38:51.81 ID:V2wXQBLZo


姫王子 「いや、いざ会うとなると。結構なことが起きたあとだしね」

姫王子 「何を話したものやら」

姫王子 「……外見だけじゃなく、その、雰囲気的なもので、変わったところは無かったかな」


ブラウニー 「あはあ、雰囲気ですか……」

ブラウニー 「うーん、何だか落ち着きが無かったような」


姫王子 「落ち着きが……」


ブラウニー 「髪や頬っぺたを気にしていたり、毛布のすそをいじったり」

ブラウニー 「まあ、王子さんの変化に比べたら大したことありません」


姫王子 「ははは……」


ブラウニー 「今の王子さんは、野生の女さんみたいです」

ブラウニー 「とっても寝心地が良さそう」


姫王子 「寝心地」


ブラウニー 「お胸のところがフカフカです」

ブラウニー 「もうずっとこのままで良いんじゃないですか」


姫王子 「あ、言ったな、このお」


ブラウニー 「きゃー」


ハーピィ 「…………」


377 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/29(水) 21:44:28.83 ID:V2wXQBLZo


姫王子 「さてと、行くか」


ブラウニー 「私も種帽子さんの泥水を用意してきますね」


種帽子 「…………」


ウネウネ ピョン


ブラウニー 「おやや、一緒に来ますか?」

ブラウニー 「それでは、まずは野菜家事娘さんのところに行きましょう」


ハーピィ 「…………」


ブラウニー 「ハーピィさんは、本当に何もいらないんですか?」


ハーピィ 「…………」


ブラウニー 「分かりました」


姫王子 「分かるのかい」


ブラウニー 「はあ、何となく」


姫王子 (妖精には分かる何かが、ハーピィから出ているんだろうか)

378 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/29(水) 21:47:50.74 ID:V2wXQBLZo

>>377訂正ごめんなさい



姫王子 「さてと、行くか」


ブラウニー 「私も種帽子さんの泥水を用意してきますね」


種帽子 「…………」


ウネウネ ピョン


ブラウニー 「おやや、一緒に来ますか?」

ブラウニー 「それでは、まずは野菜鍛冶娘さんのところに行きましょう」


ハーピィ 「…………」


ブラウニー 「ハーピィさんは、本当に何もいらないんですか?」


ハーピィ 「…………」


ブラウニー 「分かりました」


姫王子 「分かるのかい」


ブラウニー 「はあ、何となく」


姫王子 (妖精には分かる何かが、ハーピィから出ているんだろうか)


ブラウニー 「五回に一回は当たります」


姫王子 「勘か」


ブラウニー 「それではー」


ハタタタタタ



…………


379 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/29(水) 21:52:25.57 ID:V2wXQBLZo



姫王子 「……さて」


コン コン


姫王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


姫王子 (返事がない……)

姫王子 「おや?」


カチャ キイ


姫王子 (扉が勝手に開いた。入れってことか?)

姫王子 「入るぞ」


キイイ

ト ト ト 



380 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/30(木) 01:41:52.06 ID:vmRWZ2txo


ト ト


姫王子 「……これは」



黒花エルフの部屋



姫王子 (壁の模様や、部屋のにおい……エルフの森にある、葉巻の家みたいだ)

姫王子 (広くはないが、馬車の中とは思えない)

姫王子 (木の息遣いが聞こえてきそうなテーブルと椅子……窓際にベッド。ベッドの上には……)


幼竜エルフ 「…………」


姫王子 (……いる。また姿が変わっているが、きっと葉巻だ)

姫王子 (窓の外を見ている)


ハーピィ 「…………」


姫王子 (ここは、葉巻の寝室なのか。魔法で繋げたのだろうか)

姫王子 (ブラウニーたちの馬車とも繋げたのだし、できてもおかしくは無さそうだが)

姫王子 (だとしたら何でもありじゃないのか)


幼竜エルフ 「…………」


姫王子 (窓の外は……あの森でも、船の中でもない)

姫王子 (夜の海だろうか)

姫王子 (……どこの?)


381 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/30(木) 04:17:56.47 ID:vmRWZ2txo


幼竜エルフ 「……行儀が良いじゃないか、王子さま」


姫王子 (葉巻の声だ)

姫王子 (姿形は変わっても、耳と声は葉巻なのだな)

姫王子 「葉巻」


幼竜エルフ 「ノックをするなんて」


姫王子 「……これでも領主の息子なものでね」

姫王子 (もっとも、おれの知る葉巻が真実なのかは知らないが)

姫王子 (先生の声も簡単に真似るような奴だ)


幼竜エルフ 「剣を振り回すのが好きなくせに」

幼竜エルフ 「ろくな領主にならないぜ」


姫王子 「たいへん優秀な妹君がいましてね」

姫王子 「鼻は高いが肩身がせまいよ」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


姫王子 「うん。ちっとも気にしていない」

姫王子 「どうでも良いことさ」

姫王子 「おれがいてもいなくても、帝国北東領はうまくいくのさ」


幼竜エルフ 「あきれた王子さまさ」

幼竜エルフ 「そう、どうでも良いんだ」



382 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/30(木) 04:41:25.88 ID:vmRWZ2txo


姫王子 (こっちを向く気配が無い)


幼竜エルフ 「お前の国のこと、魔王の軍勢のこと」

幼竜エルフ 「この世界のあらゆることがどうでも良いんだ」

幼竜エルフ 「善悪どちらがのさばろうが、おれは知ったこっちゃない」

幼竜エルフ 「本当に、どうでも良い」


姫王子 「おいおい、勇者どのが聞いたら穏やかじゃないぞ」

姫王子 「どうでも良いのは構わないが、だからって船を丸ごと腐らせようとするなよ」


幼竜エルフ 「お前のせいだよ」


383 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/30(木) 15:32:54.74 ID:vmRWZ2txo


姫王子 「…………」

姫王子 「おれ?」


幼竜エルフ 「…………」

幼竜エルフ 「こんな腐った世界だが」

幼竜エルフ 「いてもいなくても良いお前がいなくなると、いよいよどうでも良くなるんだ」

幼竜エルフ 「おれでも、オレでも、どうでも良い」

幼竜エルフ 「水面を跳ねる魚の一匹も我慢ならないくらいに、どうでも良い気分になるんだ」


姫王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


幼竜エルフ 「……お前が悪いんだ」

幼竜エルフ 「お前が死ぬから……」


姫王子 「葉巻……」


幼竜エルフ 「お前が勝手に死ぬから」


姫王子 「おい」


384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/30(木) 23:09:36.47 ID:ILwn2ai+0
待ってました!流石の正妻パワーがすごい
385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/31(金) 11:57:35.27 ID:0Wk854Syo
まだー?
386 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/31(金) 18:51:46.90 ID:TaTeWAENo


姫王子 「散々人を駆けずり回らせておいて、それは無いだろ」


幼竜エルフ 「おれと一緒に行動したのはお前の判断だろ」


姫王子 「その通りだけども」


ハーピィ 「………」


幼竜エルフ 「森の館のときだって、腹に穴を空けたままのこのこ地下までやってきやがって」


姫王子 「腹の穴が何だ。北東領の男は、首を落とされても平気で百歩は歩けるようにできているんだ」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


姫王子 「うん、首を落とされたら無理だね」

姫王子 「まあ、そのくらい丈夫なんだよ」


387 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/31(金) 19:22:14.27 ID:TaTeWAENo


幼妻エルフ 「胸に大きな脂肪の塊を二つぶら下げて、何が男だよ」


姫王子 「これは……一時的なものだよ」


幼妻エルフ 「どうだか。髪もだらしない伸ばし方をしやがって」

幼妻エルフ 「どっかの娼婦が、お前の首巻きをかっぱらってきたのかと思ったぜ」


姫王子 「仕方ないだろ、切る暇なんて無かったんだから」

姫王子 「近く切るか整える見込みだよ」


幼妻エルフ 「その声」

幼妻エルフ 「無理して低くしているのがバレバレだぜ」


姫王子 「それは……」

姫王子 (普通に喋ると、混乱するんだよな)

姫王子 (聞けば聞くほど、今までのおれの声と違う、女の声なんだ)

姫王子 (おれが考えて話す言葉が、女の声で聞こえ続けると、おれが分からなくなりそうになる)

姫王子 (元のおれの声を意識して話している)

姫王子 「……葉巻、お前は本当のお前の声をおぼえているのか」


388 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/31(金) 19:24:24.49 ID:TaTeWAENo


>>387訂正ごめんなさい夏だからごめんなさい




幼竜エルフ 「胸に大きな脂肪の塊を二つぶら下げて、何が男だよ」


姫王子 「これは……一時的なものだよ」


幼竜エルフ 「どうだか。髪もだらしない伸ばし方をしやがって」

幼竜エルフ 「どっかの娼婦が、お前の首巻きをかっぱらってきたのかと思ったぜ」


姫王子 「仕方ないだろ、切る暇なんて無かったんだから」

姫王子 「近く切るか整える見込みだよ」


幼竜エルフ 「その声」

幼竜エルフ 「無理して低くしているのがバレバレだぜ」


姫王子 「それは……」

姫王子 (普通に喋ると、混乱するんだよな)

姫王子 (聞けば聞くほど、今までのおれの声と違う、女の声なんだ)

姫王子 (おれが考えて話す言葉が、女の声で聞こえ続けると、おれが分からなくなりそうになる)

姫王子 (元のおれの声を意識して話している)

姫王子 「……葉巻、お前は本当のお前の声をおぼえているのか」
389 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/31(金) 20:15:27.67 ID:TaTeWAENo


幼竜エルフ 「本当のオレの声?」


姫王子 「お前は姿と一緒に声も変わるが、いつの間にか、おれの知っているお前の声で話している」

姫王子 (ついでにいつの間にか耳も尖っている)


幼竜エルフ 「これは、お前が初めてオレと会ったときの声を出してやっているだけだよ」


姫王子 (……ということは、やはりおれは葉巻の真実の姿をまったく知らないということか)


幼竜エルフ 「頭のかたい、友だち、に対する、オレなりの気遣いさ」

幼竜エルフ 「オレがどんなに姿を変えようと、お前にとってのオレはいつまでも、酒場で会った美少年なのだろ」


姫王子 「そりゃどうも……」

姫王子 (ずいぶん刺のある言い方だな)


幼竜エルフ 「さてね、どんな声で、どんな姿だったかな」

幼竜エルフ 「どうでも良いことさ」


姫王子 「そんなものなのか」

姫王子 「おれは、自分の声を忘れるんじゃないかと思うと、良い気分じゃないよ」

姫王子 「今はまだはっきりとおぼえているが、頭の中でだけなんだ」

姫王子 「はっきりとした形を捉えきれない。できたと思っても、声を出した途端にあやふやになる」

姫王子 「このまま今のおれの声が頭に響き続けると、消えてしまう気がする」

姫王子 「そして、一緒におれそのものも、だ」

姫王子 「現に、筋骨隆々で強さと逞しさを備えていた本当のおれの姿を、今はもう幽かにしか思い出せない……」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


幼竜エルフ 「いないんだよ、その本当のお前は」


390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/31(金) 22:06:42.16 ID:8fv8igUjO
疲れててもツッコミを忘れない姿勢は素晴らしい
391 : ◆9eN28dDkrjul [saga]:2018/10/19(金) 18:49:21.03 ID:ls7xm4I90
復活おめでとんかつ
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/01(木) 02:46:49.73 ID:eCTm90ty0
待ち
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/16(日) 06:25:44.19 ID:PVpupeCc0
うむ
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