八幡「妖精を見るには」

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81 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/13(金) 18:57:04.78 ID:hEkiU89So
>>80
なにそれ超カッコいい
ネタとして使わせて頂きます

という訳で投下
82 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/13(金) 18:57:54.69 ID:hEkiU89So

「改めて自己紹介させて頂きます。日本海軍省、開発部の梶田です。以後、お見知りおきを」

「川崎 小町、旧姓は比企谷です。あの、それで兄の事で解った事があると……」

「はい。其方の雪ノ下さんと由比ヶ浜さんには既に説明させて頂きましたが、私どもの部署はFAF退役軍人に対する職業斡旋事業などを執り行っております。我々の方で今回、FAF側に比企谷 八幡氏の地球帰還に向けた動きがある事を掴みまして」

「兄が戻って来るんですか!?」

「小町さん」

「あ……済みません、取り乱しまして……」

「いえ、お気になさらず。お兄さんですが、我々が調査したところFAFでの階級は大尉。再来月で25歳ですから、FAFの中でもかなりの早さで昇進しておられる様です」

「大尉……比企谷くんが……」

「配属先ですが、此方も実に珍しい経歴となっておられます。パイロット適性は最高ランクのS2、入隊当初はシステム軍団に在籍。其処で新兵器の開発計画に参与していた模様です。しかし、新型機のテストパイロットを務め、実戦テストの為に前線へと移動した後、前線基地で一隊を任され飛行隊長となっております」

「隊長って、お兄ちゃんが!?」

「小町ちゃん!」

「驚かれるのも無理はありませんが、もう少しだけ御辛抱を。前線基地TAB-06で508th飛行戦隊の隊長となった彼は、其処で極めて優秀な戦果を上げています。彼が各方面から引き抜いた戦隊員もみな優れたパイロットで、508th飛行戦隊はFAF内でも3本指に入る精鋭部隊となっております」

83 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/13(金) 18:59:20.00 ID:hEkiU89So

「……その、俄には信じ難いのですが。あの比企谷くんが戦場に身を置いて……隊長にまで、なっているなんて」

「ヒッキーは……失礼しました。比企谷くんは戦闘機に乗って……ジャムの戦闘機と、戦っているんですよね? 本当に……彼が、本当に?」

「事実です。彼と指揮下の部隊は、先日のジャムによる大攻勢でもTAB-06と六大基地の1つへの攻撃を完全に阻止し、ジャムの攻撃部隊を全滅させています」

「うそ……」

「そして何より、今現在の彼の所属戦隊です。508thの戦果に目を付けた戦術戦闘航空団により、彼が特殊な部隊に配属された事が確認されています」

「特殊な部隊、ですか」

「特殊戦第五飛行戦隊。通称『特殊戦』或いは『ブーメラン戦隊』」

「特殊戦……!」

「おや、御存知でしたか」

「待って下さい! ヒッキーが特殊戦に……あんな部隊に所属しているんですか!? だってあそこは……!」

「結衣さん、落ち着いて!」

「あの、済みません。その、特殊戦って……?」

「簡単に言えば、戦場に於ける偵察任務を主体とする部隊です。絶対生還が義務付けられ、その為にFAFで最も強力な機体と武装、戦闘空域に於いて必要となるあらゆる措置を独自に実行できる権限が付与されている。
搭乗員はFAF全体の中でもトップエースに位置するパイロットと、特に情報処理能力に秀でたフライトオフィサで構成されていますが、この戦隊に配属されるには他にも特殊な条件が必要となる」

「何です?」

「他者への共感性の欠如。いわば周囲の人間に関心を抱かない孤立主義の人間である事です。先に述べた様に、特殊戦機は絶対生還が義務付けられている。その為に、戦闘空域に於いて交戦中の味方は、例え援護が可能な状況であっても見殺しが原則なのです」

84 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/13(金) 19:01:34.69 ID:hEkiU89So

「見殺しって……!?」

「特殊戦機であるスーパーシルフは、配備年数からすれば既に旧式でありながら、総合的には依然FAF最強の機体です。更に特殊戦パイロットの腕を加味すれば、戦闘への介入によって多くの味方を救う事が出来る。
しかしそれは同時に、収集した貴重な情報を要らぬ喪失の危機に晒す事にも繋がる。よって、情報を確実に後方へと持ち帰る為にも、彼等はジャムとの積極的な交戦を避け、友軍機が撃墜される様をも冷徹に記録し、そのまま基地へと帰還するのです。
その為、彼等は他戦隊の人間からは侮蔑を込めて『ブーメラン戦隊』と呼ばれています。獲物に当たる事もなく、投げられた地点まで必ず舞い戻って来る、役立たずのブーメランと」

「お兄ちゃんは誰かを見殺しになんてしない!」

「小町ちゃん! ……梶田さん、私も俄には信じられません。小町ちゃんの言う通り、彼は誰かを見殺しにできる様な人じゃありません。寧ろ、それができなかったからこそ、彼は総武高校を去ったんです」

「失礼ですが……梶田さん、その情報は何処まで信憑性のあるものなのでしょうか。FAFに関しては、広報以外に碌な情報源が無い。私は軍事や諜報には疎いですが、それでも『通路』を隔てた先の、超国家的組織の内実にまで此方の軍の力が及ぶとは思えません。
そもそも何故、軍が比企谷くんに此処まで関心を寄せるのですか。地球に戻って来る比企谷くんを、軍に引き抜こうとでも仰るのですか」

「有り体に言ってしまえば、そうなります。FAFを退役した者の殆どが、地球での就職難に苦しんでいる事実はご存知ですか?」

「いいえ」

「実際の理由がどうであれ、FAFからの帰還者は色眼鏡で見られる事が避けられません。犯罪歴があるか、或いは社会不適合者か。FAFに送られる者は、その双方が圧倒的多数を占めておりますので」

「……たとえ戻ってきても、比企谷君に居場所は無い。そう、仰るのですね」

「雪乃!?」

「はい。しかも彼は、地元であるこの千葉では悪名が轟いている。いえ、全国に散った嘗ての風評を知る方々の口から、更に広範囲へと悪評が広がっていてもおかしくはない。それは川崎さん、御結婚を機に姓を変えられた貴女が、一番よく御存知なのではありませんか」

85 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/13(金) 19:04:03.46 ID:hEkiU89So

「小町さん……」

「……確かに私は結婚に際して、両親から川崎姓となる事を勧められました。お兄ちゃんは間違った事なんかしていないと信じてはいても、今となっては比企谷の姓を持っていても良い事は無いと」

「そんな!」

「目に見える形での実害は無いし、両親の職場の同僚も含めて理解ある方々も居ます……でも、やっぱり比企谷 八幡の名に付いて回る悪意ある風評は、6年経った今でも消える事は無いんです。それが、どれだけ事実から歪められた内容だとしても」

「そして、これからも消える事は無いでしょう。そもそも事の発端が発端です、雪ノ下さん。総武高校から始まった一連の悪評は、雪ノ下議員……当時は県議でしたが、その政敵と雪ノ下建設の競合他社が組んで始まった、彼等の子息を利用した貴女への攻撃だった」

「ッ……はい、存じております」

「彼等もまた、個人的な怨恨から貴女への過激なネガティブキャンペーンを開始。その苛烈さは由比ヶ浜さん、親友である貴女をも巻き込む程だった」

「……ッ」

「無論、多くの御級友が貴女がたを守ろうと動いた事でしょう。しかし、人の口に戸は立てられない。他人の耳を愉しませるべく面白おかしく脚色されたそれは、他学年どころか卒業生、校外の第三者にまで広がる素振りを見せた。
雪ノ下議員とその奥方には珍しい事に、悪意ある広報戦で完全に後手に出てしまった……そう、雪ノ下 陽乃現社長でさえも」

「ゆきのん……」

「……ええ、そうです。両親も姉も、あの時は完全に手玉に取られてしまった。気付いた時には、もう手の施し様が無い程に」

「火を起こした側としては、そのまま雪ノ下議員と雪ノ下建設へのネガティブキャンペーンへと発展させたかったのでしょう。だが彼が、比企谷 八幡が動いた。彼のやり方は……いや、実に見事なものです。
ある火種から目を逸らしたい時には、より大きな火種を用意すれば良い。使い古されてはいるが極めて有効で、それでも実行するとなると覚悟が必要だ。しかし、彼は見事に実行してみせた。
燃え上がらんとする火種の側で、炎どころか爆発を起こして全てを呑み込んだ」

86 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/13(金) 19:05:18.97 ID:hEkiU89So

「止めて……」

「飽くまで比企谷 八幡個人としての暴走を装うべく、彼による攻撃の手は貴女がたにも及んだ。小町さん、御家族である貴女も、彼からの激しい攻撃に曝された筈だ」

「あれは私達を庇う為に……!」

「彼を良く知る者なら、そう気付くでしょう。しかし大多数の周囲は、本性を露にした異常者が一部の生徒とその家族を不当に攻撃し、更には親しくしていた者にまで牙を剥いたとしか受け止めていない。
その後に、攻撃を受けた一部の者に後ろ暗い面があったと明らかにはなっても、それが発覚する切っ掛けとなったのは異常者が起こした事件であると認識されている。
だが、その御蔭で貴女がたは、彼の関係者であった事による二次被害を免れた。周囲は彼からの非道かつ無情な攻撃を受けた貴女がたに同情し、敵意の全てを比企谷 八幡個人へと向けた」

「止めてってば……!」

「彼にはもう、居場所など無かった。死なば諸共とばかり、元凶となった一団により意図的に校外へと拡散された噂は、彼の未来を断ち切るには充分に過ぎるものだった」

「黙ってよ……!」

「そして、彼はFAFに目を付けた。地元どころか、この地球から隔絶された、異星の戦場。拭い難い悪名だけを置き去りにして、彼は―――」





「黙れッ!」


87 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/13(金) 19:06:16.00 ID:hEkiU89So

「結衣さん……」

「黙ってよ……! 皆して、何にも知らない癖に……! 何もかもヒッキーに押し付けて、自分達は知らんぷりして……!」

「結衣……」

「あたしだって……あたし達だってそう。何にもしなかった、何にもできなかった! ヒッキーが『また』あんなやり方であたしたちを救ってくれるのを、指を咥えて見てただけ!
ヒッキーを悪く言う人達なんて嫌い、顔も見たくない! でもあたしは……あたしが本当に嫌いなのは……!」

「結衣さん、落ち着いて!」



「何にもできないまま見てるだけ、そんな自分が一番大っ嫌い!」



「……」

「結衣さん……貴女も……」

「……知ってたよ、ゆきのん。ゆきのんだってあれからずっと、自分の事が嫌いで嫌いで仕方なかったんだよね。同じ部屋で暮らしてるんだもん、気付かない訳がないよ」

「……ええ、そうよ」

「雪乃さん?」

「偉そうな事ばかり言って、そのくせ肝心なところでは何もできない。何時だってそんな私を、私達を助けてくれたのは比企谷くんだった。自分を犠牲にして、そんな事は些細な問題とばかりに。
それが嫌で、認めたくなくて、彼を拒絶したりもした。彼のやり方を否定して、一度は決別しようとまでしたのよ……なのに!」

「ッ!」

「また……彼がまた同じ事をするのを、私は見ている事しかできなかった! 解っていたのに! 彼ならそうするって、真っ先に自分を犠牲にするって、解っていたのに! 私は……私は……!」

「雪乃さん……」

「御免なさい、小町さん……ごめんなさい……ごめんね……」

「ゆきのん……雪乃ぉ……」
88 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/13(金) 19:07:07.72 ID:hEkiU89So





「取り戻したくありませんか、彼を」





89 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/13(金) 19:07:59.93 ID:hEkiU89So

「……え?」

「比企谷 八幡を。彼を地球に、この地に呼び戻したくはありませんか」

「なに……言って……居場所なんて、無いって……!」

「ええ、そうでしょう。通常ならば」

「……FAFに比企谷くんを地球に戻す動きがある。貴方はそう仰りましたね、梶田さん」

「はい」

「でも、貴方の今の口振りでは、彼が地球に戻る事は確定事項でないとも受け取れるわ」

「前例がありましてね」

「前例?」

「昨年の事です。我々はFAFを退役し、地球に帰還した我が国の人間を保護すべく接触しました。しかし彼は帰国を拒否し、我々の制止を振り切って『通路』の向こうへと舞い戻って行ったのです」

「どうして……」

「彼はこう言っていました。『国家などというものの為にジャムと戦ってきたのではない、そんな原始的なものに関わるつもりはない』と。更に彼は、FAFの実働部隊による護衛まで受けていた。彼の帰国を妨げる為に、FAFが相当の労力を割いていた事は明白です」

「何で、其処まで」

「要は、情報を持った人間を地球に戻したくないのです。FAFは既に半ば以上、地球側から独立した意思の下に動いている。元より超国家的組織ではありますが、今や超地球的組織となりつつあるのです。ジャムから地球を守ろうという創設当時の意思など、今となってはどれほど残されているものやら」

「でも、お兄ちゃんは! お兄ちゃんなら、そう簡単に誰かを切り捨てたりする訳ない!」

90 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/13(金) 19:09:53.02 ID:hEkiU89So

「……これは、少しばかり情勢に明るい者なら誰でも知り得ている事実ですが、FAF入隊時に適性を測る為に用いられる高速学習装置。各国の軍隊でも用いられている代物ですが、世界で初めて実用化したのはFAFなのです」

「それが何か?」

「他の軍事技術でもそうですが、FAFの技術力は地球側の最先端技術、その数世代先に位置すると言っても過言ではない。当然、学習装置に用いられている技術にもかなりの差があるでしょう」

「何が仰りたいのです」

「学習中の対象を洗脳する事など容易い、と申しているのです」

「洗脳……!?」

「現に、軍役を終え地球に帰還した人間の内、半数以上がフェアリィ星へと逆戻りしている。地球での生活に違和感を覚え、国状に拘らず自国社会を、それどころか地球規模で人間社会を敵視し、FAFへと再志願するのです。通常の精神状態であれば、全く理解できない事だ」

「FAFが入隊者に、地球側への敵意を植え付けている、という事ですか?」

「恐らくは。そもそも彼等が強調するジャムの脅威ですが、何処まで本当かも定かではありません。先日の大攻勢にしても、独立派と反対派の内輪揉めであった可能性すらある」

「それって、つまり……」

「内戦!?」

「というより、クーデターでしょうな。現に犠牲者の中に、将官クラスの名が多すぎる。軍団総司令は疎か、六大基地の最高司令官までもが戦死しているのです。それも不自然な事に、同じ航空機での移動中に」

「……何処かへ移送すると見せかけて、纏めて処分した?」

「ゆきのん、それは……」

「それが正解でしょう。こんな手間の掛かる事を、ジャムがする訳がない。そもそも航空戦力以外にジャムは確認されていないのだから、内部工作などやり様もない」

91 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/13(金) 19:12:25.25 ID:hEkiU89So

「……FAFが戦っているのは、ジャムではない? いえ、そもそもジャムなど居ない……?」

「居る事は居るのでしょう。あの霧の柱『通路』を造り上げる事など、如何なFAFでも不可能だ。しかしジャムが実存するからといって、人類にとって最も危険な存在がそれであるとは限らない」

「ジャムよりもFAFの方が余程危険である、そう言っている様にも聞こえますが」

「そう考えている人間は世界中に多い。我が国でもそうです」

「FAFは地球に対し明確な敵意を有していて、入隊者に対し洗脳を施し地球への帰還を思い止まる様に仕向けている。たとえ地球に帰還しても、洗脳の結果として帰還者自らの意思でFAFに戻ってしまう。要約するとこの様なところですか」

「可能性の話ですが、信憑性は高いかと。彼等の目的は―――」

「情報の漏洩を防ぐ事、ですね」

「正確には各種情報の漏洩を防ぎ、地球側軍事力に対する技術面、軍事面双方での優位を保つ事でしょう。当然、比企谷大尉は帰還妨害対象の筆頭となる筈です」

「……比企谷くんは新兵器開発部署の中枢に居た。しかも新型機のテストパイロットまで勤めているし、実戦でも大きな戦果を上げている。部隊運用のノウハウも持っている訳だし、何より特殊戦という名の通り特殊な部隊に在籍している。手放して地球に帰すには、FAFにとってあまりにリスクが大きいという事ですね」

「そうなります」

「でも! でも、お兄ちゃんが本当に帰還を拒むっていう確証は、まだ……!」

92 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/13(金) 19:14:31.12 ID:hEkiU89So

「先ほど例として挙げた帰還者ですが、彼もまた特殊戦の人間です。恐らくは比企谷大尉も、同様の反応を示す公算が大きい。少なくとも数名の護衛は着けられているでしょう」

「そんな……!」

「待って、待って下さい梶田さん。そもそも何故、FAFはヒッキー……比企谷くんを地球に戻そうとしているのですか? 本人の意思による帰還なのですか」

「不明ですが、恐らくは。先述の特殊戦隊員も、自らの意思で一時的に退役し地球に戻ってきた。しかし帰国を拒否し、FAFに戻ったのです」

「目的は不明だけれど、お兄ちゃんは自分の意思で地球に戻る可能性が高いという事ですか。そして何もしなければ、そのままFAFに戻ってしまうと」

「通常のFAF軍人ならば、一時帰省という事も有り得る。しかし、比企谷大尉は特殊戦の人間だ。一時的なものとはいえ、重要情報を握る人間の地球帰還をFAFは望まない。彼は来月で軍役期間が切れる。更改をする前に、一時退役という扱いで地球に戻るでしょう」

「其処で、FAFとの契約更改を思い止まらせる事が出来れば……」

「帰国後の彼の社会的地位は海軍省が保証します。FAFは帰還を思い止まらせる為に、二階級特進を打診するかもしれない。我々はそれ以上の待遇を彼に約束します」

「……やはり、彼を軍に引き入れるのですか」

「どんな悪評があろうと、現在の軍では実力と実績が全てです。無論、後ろ盾は在るに越した事はない。彼には国家による強力なバックアップが付く。誰にも文句は言わせないし、そもそも比企谷大尉ほどの実績があれば彼を貶めんとする者など、それこそ黙っていても官民問わず一掃されるでしょう」

「お兄ちゃんに……兄に何をさせるつもりなんですか」

「社会的に極めて高いポストが、彼を求めているのです。それこそ、複数の部署から」

「つまり?」





「海軍航空隊、国防省技術研究本部、空間制御技術研究所、その他多数……国防に関わるありとあらゆる部署が、比企谷 八幡という人物の獲得を熱望しているのです」

93 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/13(金) 19:28:28.31 ID:hEkiU89So
今夜は此処まで
次回、八幡地球帰還
ついでに用語追加

【日本海軍】
旧海上自衛隊および航空自衛隊の流れを汲む日本独自の正規軍。
フェアリィ戦争勃発後ほどなくして、自衛隊は『日本軍』に改名した。
原子力空母『アドミラル56』を旗艦とする空母戦闘群を保有し、完全国産ステルス戦闘機『F/A-27C』を艦上戦闘機として運用する。
嘗て旧雪風が地球大気圏内でのエンジンテストを目的に通路を潜った際、アドミラル56は国連軍の一部として通路防衛任務に就いていた。
その際に通路を潜ったジャムと相対したが、地球で1.2位を争う性能のF/A-27Cであってもジャムには太刀打ちできず、艦隊旗艦撃沈の一歩手前で雪風によって難を逃れた。
他国軍と同様FAFの事は好ましく思っておらず、帰還者した日本国籍保有者には軍が接触、情報源かつ即戦力として囲い込みを掛ける。
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/13(金) 20:36:30.22 ID:AJQ2G8jAO
乙!
面白いぜ!
用語解説を入れてくれるのは有難い
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/13(金) 22:19:38.20 ID:c3DoWj6W0
乙、凄く面白い。
もし八幡が日本海軍に来たら・・・中佐・・・・・24歳で中佐とかトップエリートどころじゃねーよwwww
・・・・・ってかこの世界の八幡、一体何をやらかしたんだ?
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/13(金) 22:50:27.63 ID:IS9cEUZRo
乙です
97 : ◆lFp.5v7mbs [sage]:2016/05/19(木) 23:46:18.72 ID:xc/V1sFio
多忙につき投下が遅れてしまい、申し訳ありません
明日の22時頃に投下する予定なのでもう少しお待ちを
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/20(金) 00:30:15.48 ID:L0ZF7qpto
こりゃエタるな
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/20(金) 01:04:47.36 ID:yFwbxHqzo
期待
100 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/20(金) 22:13:27.37 ID:QXwV1+MVo
んじゃ、投下っす
101 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/20(金) 22:14:21.88 ID:QXwV1+MVo

「まさか、許可されるとは思いませんでした」

「深井大尉から話は聞いているだろう。以前にもやった事だ、大した問題じゃない」

「しかし、リスクを考えれば多少は拗れるものかと思っていました」

「情報漏洩の件か。君はジャムと知人が『本物』であるかどうかを確かめる為に、地球に戻るのだろう。俺としては止める理由が無い。それで、日本には帰国するのか」

「いいえ、シドニーを出るつもりはありません。あちらの広報部が動いてくれるとの事で、調査結果を確認できればすぐにでも戻るつもりです」

「結論を急ぐ必要はない、比企谷大尉。君が地球に戻り何を見て何を感じたか、其処からどんな結論を導き出すか、今はまだ何も解らないんだ。答えはその時にまで取って置くのが良い」

「帰国は考えていません。戻るつもりもない」

「何故だ。或いはジャムなど幻想だと結論付けるかもしれないし、フェアリィ星に居てはジャムに勝てないとの結論に至るかもしれない。此処と地球のどちらに『本物』があるかなど、現時点では解る筈がないだろう」

「たとえそれで地球に『本物』があったとしても、私が其処に居られるかは別問題です。だが、居なければならない場所は此処にある」

「居たい場所、とは言わないんだな。此処も、地球も」

102 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/20(金) 22:15:28.51 ID:QXwV1+MVo

「……」

「……実は先日、地球の友人から手紙が届いた。恐らくは、ジャムの脅威を地球上で最も良く知る人物だ。その人物が、最近できた友人から面白い依頼を受けたらしい」

「依頼、ですか」

「ああ。その依頼内容が、実に傑作でな」

「何です」





「『腐った目をした、底意地の捻くれた魚の獲り方を教えて欲しい』」





「……!」

「何の事か解らんが、彼女は手紙である人物の所在を訊ねてきた。FAFに比企谷 八幡という人物は居ないか、とな」

「……それが何だというのですか」

「君にとって地球側の『本物』とは、ジャムが模倣した知人の事だろう。この依頼者こそが、その知人ではないのか」

「何が言いたいのです」

「直接会って、その目で確かめてはどうかと言っている。『本物』かどうかを確かめるには、これ以上に確実な方法もないだろう」

103 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/20(金) 22:16:35.91 ID:QXwV1+MVo

「タイミングが良すぎる……情報軍団ですか」

「それは私の知るところではない。そもそも情報軍団の介入を嫌ったからこそ、君はシドニーの広報部を頼ったのだろう」

「防諜が主任務だろうと思ったからですよ。認識が甘かった。情報軍団が其処まで力を有しているとは」

「通路を通るものは何であれ、ジャムを除けば完全に把握されている。蟻一匹さえ見逃がしはしない、それが情報軍団というもの―――だと」

「FAFに関連する動きは、全て察知されていると。その真偽と裏を確かめる為にも、各国への浸透は疾うに行われている……という訳ですね」

「まあ、そういう事だ。で、どうする。情報軍団の報告だけで、君は『本物』の存在を確信できるか」

「……退役の手続きをお願いします、少佐」

「私が受け取った手紙への返答はどうする」

「どうとでも。結果は変わらないでしょう」

「そうだな、その通りだ。さて、大尉。今のFAF、そして特殊戦には余裕がない。進んで君を手放したがる人間は居ない為、帰還が遅れようとも多少の猶予はある。1週間やるから、ゆっくりと『本物』の存在を確かめてこい」

「時雨がそれだけの期間を待ってくれますかね」

「何だ、見限られそうなのか」

「いえ、あれは貪欲です。此方の教えたい事を、想定以上の速度で吸収している。未だ私に対する不信は拭えていないのでしょうが、機上の私から何かしら学べる所があると明確に理解しています。このまま学習が進めば、私がお払い箱となる日もそう遠くはないでしょう」

104 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/20(金) 22:17:31.37 ID:QXwV1+MVo

「君が我が戦隊に配属されてから、まだ3ヵ月だ。もう其処まで学習が進んでいるのか」

「私が提出した構想の通りに、時雨は学習実績を積んでいます。最近は私が操作をするまでもなく、中枢コンピュータが独自判断で動く事も多い。時雨の学習は私の……我々と時雨自身の意図する通りに進捗している」

「時雨自身の、か。君は時雨から拒絶される為に、時雨の成長を促しているのか」

「他の戦隊機も同じでしょう。いずれパイロットが機の要求に応えられなくなれば、最終的には拒絶される。過去の雪風もそうでしたが、パイロットが加齢によって戦闘機動に耐えられなくなっても同じ事が起こる筈です。
理由が異なるだけで、辿り付くところは同じだ」

「『メメント・モリ』か」

「……肉体的な死ではありませんが、そういう事になりますね」

「人として、パイロットとしての死を忘れるな。いずれは誰もが其処へと辿り着く―――君は良く似ているよ、大尉。地球に戻る動機も、何もかもそっくりだ」

「それは深井大尉に、という意味ですか」

「『本物』を確かめてこい、比企谷大尉。いずれは時雨を降りる事になろうと、君は優秀なパイロットだ。FAFに、特殊戦にとって必要であり、何よりジャムに勝つ為に必要な人間だ。『本物』を見極めて、此処に戻ってこい。
君の帰還にはフォス大尉も同行する事になる」

「大尉が?」

「目的は君のプロファクティングだ。理由はもう解っているな?」

「結果が思わしくなければ、私は時雨から降ろされると」

「余程の事がなければ、そうはならんさ」

「命令とあらば従いますが、その可能性があるならば時雨の学習を加速させねばならない。聞き耳を立てているSTCが既に出撃スケジュールを弄っているでしょうが、私と時雨の出撃回数を増やして頂きたい」

「第四飛行戦隊もだろう?」

「ええ」

105 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/20(金) 22:18:13.52 ID:QXwV1+MVo

「……君の言う通り、既にスケジュールは再調整されている。コンピュータならではの早業だな。後は准将の承認待ちだが……早いな、もう承認されたぞ」

「STCが時雨の早期学習完了を望んでいるという事でしょう」

「STCだけではなさそうだ。時雨からも出撃スケジュール調整の要求が出されている。聞かれていたな」

「内緒話も出来ませんね。プライベートを維持するだけで命懸けだ」

「生き難いな。秘密主義者には地獄の様な環境だ」

「秘密ならば口には出さず、胸の内に秘めるべきです。何も言わずに解ってくれる者が居るのなら、なお良い」

「それが単なる人間関係についての発言なら、人に多くを期待し過ぎだと窘めるところだが……君の構想を知っている身としては、薄ら寒いものすら覚えるよ。だが、実現できれば特殊戦は飛躍的に強化される」

「ええ。だからこそ、時雨の学習を遅らせる訳にはいかない」

「だからといって、君自身が犠牲になる必要はないぞ、大尉。君は地球に戻り『本物』を確かめねばならん。その前に時雨もろともジャムに殺られるなどという事になれば、他の戦隊機やコンピュータがどういった行動に出るか解ったものではない」

「命令は確実に遂行します」

「絶対に、だ。比企谷大尉、手段を問わず必ず生還せよ。ジャムからも、地球からもだ。要望ではない、これは命令だ。復唱せよ、比企谷大尉、B-13」

「B-13時雨、比企谷大尉、了解。手段を問わず生還する。復唱終わり」

「以上だ、退室して良し」

106 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/20(金) 22:21:38.73 ID:QXwV1+MVo



「どうだった、少佐」

「迷ってはいるんだろう、時雨と同じく。だが、強かな男だ。あれは外圧で折れる様な人間じゃない。結果がどうなろうと、彼は彼なりの方法で戦い続けるだろう。逃げ場など何処にも無いと、とうの昔に理解している」

「奴は特殊戦に配属されるには心の強すぎる人間だ。そんな気がする」

「俺もそう思う。特殊戦の、俺達の様な人間とはまた違った意味で、彼はスペシャルだ」

「ジャムと戦う上で有用なスペシャルなら歓迎だ。だが、不安要素もある」

「ジャムの言葉か」

「ああ。鵜呑みにするのは愚の骨頂だが、真実の一端である可能性もある」

「……だとすればだ。大尉にとっての真の理解者はFAFにも地球にも居らず、ジャムこそが唯一のそれである、という事になる」

「同種も存在はするんだろうが、少なくともFAF内部に『天然物』は居ない。だが奴の構想は、無意識に同類を『複製』しようとしているとも考えられる」

「フムン。となると、時雨はそれら『複製』の『ハブ』という事になるか。確かに、そう考えれば危険性は高い」

107 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/20(金) 22:22:40.33 ID:QXwV1+MVo

「この会話はSSCやSTCも聞いているんだろう。時雨に変化はないか」

「今のところはな。俺達が大尉と時雨を疑っている様に、向こうも俺達をジャムではないかと疑っているだろう。相互監視だ。特殊戦の任務を考えれば、寧ろ好ましい状態だろう」

「……ジャック、警告はしたのか」

「何をだ」

「惚けるなよ。彼はFAFのビルに留まる訳じゃないだろう。恐らくは俺の時と同じホテルか、違うとしても地球の本部とは別の施設に滞在する筈だ。日本政府が動かない訳がない」

「なんだ。おまえ、彼を心配しているのか。どういう心境の変化だ?」

「奴の心配ではない。大尉の身柄が押さえられ、俺達の情報が地球側に、ジャムに筒抜けになるのではないかと言っている」

「地球には既にジャムが入り込んでいる。お前、俺にそう言ったな。今でもそう思うか、ジャムとの『勝負』に勝った今でも」

「確かに、俺と雪風は『勝った』。だが、それは地球からジャムの影響力が一掃されたという意味ではない」

「日本政府がジャムの手先だとでもいうのか」

「日本だけでも、政府だけでもない。どの国家だろうと、政府だろうと民間だろうと、ジャムの影響下にない勢力は地球上に存在しない。俺は、そう思う。例外は―――」

「リン・ジャクスンか」

108 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/20(金) 22:23:51.46 ID:QXwV1+MVo

「彼女個人はな。だが、その振る舞いがジャムの想定下にないとは言い切れないだろう。彼女自身が、地球人として確固たる自己を持っているとしてもだ。彼女からの手紙にどう返信するつもりだ?」

「こう書くさ。『魚は網に飛び込んだ』とな」

「こっちから漁師を誘き寄せるつもりか。ジャック、何を考えているんだ」

「奴はFAFの、俺たち特殊戦が放つ偵察ポッドだ。トロル基地での俺達と同じだよ、零。時雨は『通路』の向こうに存在するであろう地球に対し、比企谷大尉という偵察ポッドを打ち込もうとしている」

「ジャムと戦う為に、か。だが、敵はジャムだけじゃないぜ」

「無論、彼には護衛が着く。お前の時と同じ様に。彼の意に反して身柄を拘束される様な事があれば、彼等は即座に動く」

「日本軍が同じ轍を踏むものか。俺の時と同じ様にはいかないぞ」

「承知の上だ」

「……ジャック、正直に話してくれ。大尉を地球に送ろうとしているのは、あんたや時雨だけじゃないな。情報軍団、リンネベルグ少将も一枚噛んでいるだろう」

「……リンは監視されていた。其処に、比企谷大尉の知人たちが接触してきたんだ。お前の言う通り、タイミングが良すぎる。だが少将の言葉では、それは情報軍の意図したものではなかったそうだ」

「どういう事だ。まさか本当に、ジャムの意思だとでもいうのか」

「不明だ、全く以って。だが、情報軍はそれを疑っている。SSCも、STCもだ。そして、俺も例外ではない」

109 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/20(金) 22:24:23.59 ID:QXwV1+MVo

「ジャムは何を考えている。比企谷大尉が地球の知人たちに、深い思い入れがある事は分かる。日本軍のバックアップを受ければ、彼等の干渉はより強度を増すだろう。大尉を地球に引き留めて、俺達の戦力を減じようとでもいうのか」

「あるいは、大尉のレポートにあった通りかもな。自分が予定した通りに現出した比企谷 八幡という『逸品』が、人間社会という『不良品』の群れの中で摩耗して失われる事を恐れているのかもしれん」

「もうひとつの『逸品』からは拒絶されたそうだからな。つまり情報軍は、ジャムの言う『本来的存在』である比企谷 八幡がどんなものかを探る為に『不良品』である地球人の群れの中へ彼を追い遣るというんだな」

「ああ。そして、もうひとつ探りたいものがある。これについてはSTCを介して、時雨から特別要請があった」

「なんだ」



「比企谷大尉の言う『本物』についてだ」



「……それは、俺と大尉の会話で出てきた単語か? ジャムの存在について真偽を問うものじゃなかったのか」

「違うな。彼は地球側に、何らかの『本物』が存在していると考えている。恐らくは知人たちの事だろうが、その知人の何が『本物』に当たるのかを、時雨は知りたがっている」

「存在していれば、その存在が現実のものであると大尉自身が確信できれば『本物』なんじゃないか」

「どうだかな。フォス大尉のプロファクティングが上手くいけば、自ずとその辺りも解明されるだろう」

「比企谷大尉のプロファクティングを行う事が、ジャムに対する戦術、いや、戦略偵察にもなるという事か。だいぶ話が大事になってきたな」

「そしてそれは時雨の、戦闘知性体群の更なる成長にも繋がるだろう。その結果が好ましいものかどうかは解らんが、やるだけの価値はある」

「奴が地球に留まる―――ジャムの側に付く事も考えられる」

「地球に留まったからといって、それがジャムへの寝返りを意味するとは限らんさ」

「なに? どういう事だ、少佐―――」

「いずれ、解る。『ブーメラン』ではなくなっても、奴を『知恵の狼』にする事はできる」

「……『騎士』の方かもしれないぜ。開発に係わっていた位だからな」

「彼は『騎士』ほど高潔でもなければ馬鹿でもない。あの目が示す通り、奴は骨の髄から一匹狼だよ。望む望まずとに拘らず、そうなる事を己に課しているのさ」

「馬鹿でも狼でもどっちでも良い。奴がジャムではなく、地球の連中と同じでもないと解ればな」

「すぐに解るさ。すぐに、な」

110 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/20(金) 22:27:07.26 ID:QXwV1+MVo



『わかるものだとばかり、思っていたのね……』

『寄る辺がなければ、自分の居場所も見つけられない……隠れて流されて、何かについていって……見えない壁にぶつかるの』





「違う。お前はもう、俺の思考を理解できる。言葉にする必要すらない。何かに寄らずとも、自分だけの力で『飛んで』いける」

「俺が此処に残る必要はない。だが、此処を離れる事を拒む俺が居る」

「俺は……俺が、欲しいものは……」


111 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/20(金) 22:27:58.36 ID:QXwV1+MVo



『これからどうしよっか?ゆきのんのこと……それと私のこと……私たちのこと』

『ゆきのんの今抱えている問題、私答え分かってるの。多分それが、私たちの答えだと思う。それで、私が勝ったら全部貰う』

『私の気持ちを勝手に決めないで。それに最後じゃないわ。比企谷君、あなたの依頼が残ってる』

『私の依頼、聞いてもらえるかしら』

『……うん、聞かせて』



112 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/20(金) 22:28:46.57 ID:QXwV1+MVo



『もう止めてよ、ヒッキー……! そんなの、もう誰も望んでなんか……!』

『やだよ、お兄ちゃん……置いてかないで、小町を置いてかないでよっ!』

『また、そうやって……誰にも手伝わせない、誰も信用しない……何時だって、君は……!』

『待ちなさい、比企谷くん! 依頼は、依頼はどうなるの!? あなたの依頼は……!』



「それでも」



『俺は』



「『本物が欲しい』」



113 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/20(金) 22:31:55.78 ID:QXwV1+MVo



「……お前もそうだろ?」





「時雨」





〈I have control〉



〈I wish you luck / Lt.Hikigaya〉



114 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/20(金) 22:32:30.72 ID:QXwV1+MVo





〈GOOD LUCK〉
115 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/20(金) 22:41:00.01 ID:QXwV1+MVo




『アロー4よりグール。これより当機は『通路』に突入、地球に向かう。護衛に感謝する、以上』

『グール1よりアロー4、良い旅を。『帰還』を心待ちにしている……グール1よりウィッチウォッチ。定期シャトル、アロー4の『通路』突入を確認』

『了解。ウィッチウォッチより司令部。【矢は放たれた】。繰り返す。【矢は放たれた】』

116 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/20(金) 22:41:50.48 ID:QXwV1+MVo
以上です
風呂入って来るので、後でちょっとしたアンケートをば
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/20(金) 22:48:10.11 ID:yFwbxHqzo
乙です
118 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/05/20(金) 23:52:12.98 ID:QXwV1+MVo
済みません、やはり続きは当初の予定通りに展開します
次回、シドニー編
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/21(土) 00:00:55.64 ID:/UmTJgnAO
乙!
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/27(金) 03:28:58.54 ID:Onz58a6Po
乙です
121 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/06/01(水) 22:12:33.87 ID:9uxULrJqo
ちょっとだけ投下
忙しいため短いですが、どうかご容赦を
122 : ◆lFp.5v7mbs [sage]:2016/06/01(水) 22:13:11.42 ID:9uxULrJqo



『FAFの友人から返答が来たわ。『魚は網に飛び込んだ』だそうよ』

『……では、比企谷くんは地球に戻って来ると』

『恐らくはね……ねえ、雪ノ下さん。貴女たち、日本政府の方とは接触したの?』

『何故それを?』

『……やっぱりね。なら、忠告よ。彼等は比企谷 八幡をフェアリィに戻すつもりなんか、端からありはしない。彼が帰国を拒絶するなら最悪、始末される事だって在り得るかもしれない』

『……ッ!』

『以前、私が会った特殊戦の人も、日本政府の出迎えを受けた。海軍への勧誘を拒絶してFAFに戻ろうとしたら、彼等は強硬策に打って出たのよ』

『公権力に物を言わせたというのですか』

『そう。もっとも、FAFにしても予想済みの展開だったのね。彼の護衛に阻止されて、そのまま逃げられたわ。私も、ホテルを出るまでは付き合ったのだけれど』

『……貴女は、それを良しとしたのですか』

『彼自身が決めた事だもの。それに、彼の言う事に共感もあった』

『特殊戦の人間に共感? FAFの思想誘導を受けているのに?』

『……成る程ね。それ、日本政府の方から聞いたのかしら。貴女は、それを信じるの?』

『……』

『責めてる訳ではないのよ? でも、彼等は確固たる自身の信念を持って戦っている。それを否定する事は、自らもまた否定される危険を負うという事なのよ』

『それでも……それでも、私は……私達は……』

『どうするかは貴女たちが決めるべき事よ。私と、私が出会ったブーメラン戦士との関係は、貴女たちと比企谷 八幡との間にあるそれとは違う。良く考えて決めて……後悔の無い様にね』


123 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/06/01(水) 22:13:41.20 ID:9uxULrJqo





「―――現時刻を以って、貴方は軍役を解かれます。日本国籍を有する民間人という扱いですが・・・」





124 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/06/01(水) 22:14:18.22 ID:9uxULrJqo



「比企谷大尉の所在が判明しました。ヒルトン・ホテル、スイートです」

「では、このまま接触を?」

「本来ならば先ず我々が接触し、その後に貴女がたが入室すべきであったでしょう。しかし彼は、間違いなく我々の介入を警戒している。要らぬ疑念を煽る必要はありません。先に貴女がたが接触し、日本政府と軍による支援を受けている旨を伝えて下さい」

「第一印象は穏便なものであるべきだ、と」

「その通りです」

「……そんなの……『欺瞞』じゃない」

「何か?」

「……いえ、何でもありません。私達はどうすれば?」

「大尉がFAFに戻る選択をしたとしても、再志願申請をする必要がある。我々はそれを、合法的に阻止しなければならない」

「再志願の妨害は違法では?」

「そもそもが違法な思想誘導の結果としての再志願なのです。これを阻止し、日本国民としての正当な権利を保護する為の活動は適法である、と解釈できる」

「……兄に選択の余地は無いんですね」

「では、彼の再志願がお望みですか?」

「……」

「FAFの工作を甘く見ない方が良い。前回は我々の与り知らぬところで、帰還者本人も知らぬままに再志願申請が為されていた。今回も同様の事が起こった場合、我が国は邦人保護の観点から実力行使も辞さない」

「ッ! つまり……政府公認の下での実力行使と」

「はい」

「なら、私達が比企谷くんを説得できれば問題はありませんね」

「……行こう、雪乃、小町ちゃん。梶田さん、構いませんね?」

「送りましょう」

「何処でFAFの人間に見られているか、解ったものではないでしょう。タクシーで向かいます」

「良いでしょう、これが部屋の番号です。我々は貴女がたが招き入れるまで、室外で待機しております」

「……では」



125 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/06/01(水) 22:14:58.54 ID:9uxULrJqo



「ねえ、ゆきのん……」

「解っているわ、結衣」

「……見抜きますね、お兄ちゃんなら。すぐに気付かれると思います」

「皮肉な話ね。誰よりも比企谷くんを知っていると、理解できていると己惚れていた癖に、こんな……」

「『欺瞞』か。ヒッキーはどう思うだろうね、今の私達を見て」

「……だとしても、確かめなければ。彼の『本物』が何処にあるのか、そもそも『本物』を今もまだ求め続けているのか」

「もし、その『本物』が……地球じゃなくて、フェアリィにある、と言ったら……?」

「……それを思い止まらせるのが、私達の役目よ」

「そうだね。でも、違うでしょ、ゆきのん?」

「え……」

「そうですよ、雪乃さん」

「小町さん?」

「『役目』じゃなくて『目的』でしょ? あの時からずっと変わらない……私達の『目的』」

「ふふ……小町の『目的』でもありますけどね」

「……ええ、そうね。そうだったわね」

「もう一度『奉仕部』を。あの時には戻れなくても、止まってしまった私達の時を進める為に」


126 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/06/01(水) 22:15:49.08 ID:9uxULrJqo





「私の、私達の『本物』を見付ける為に」






127 : ◆lFp.5v7mbs [sage]:2016/06/01(水) 22:16:46.81 ID:9uxULrJqo
以上です
今週中は厳しいかもしれませんが、なるべく早く再開の場面を投下します
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/01(水) 22:48:31.39 ID:4Wiw5Mpeo
私の、私達の『本物』を見付ける為に(笑)
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/01(水) 22:52:15.41 ID:BEE89zXyo
乙です
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/01(水) 23:21:26.26 ID:Xa33TXCs0
おつおつ
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/02(木) 00:09:39.72 ID:UPcVaBjAO
乙!
わくわくしてきた!
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/06(月) 02:32:45.43 ID:bnNxtUTOO
乙です!
続き、楽しみに待ってます!
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/06/11(土) 22:52:35.22 ID:SZh4xvnAO
(´・ω・`)
134 : ◆udCC9cHvps :2016/06/15(水) 21:41:14.24 ID:5cvL7LABo
お待たせしました
まだ短いですが、再会編を投下開始します
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/15(水) 21:41:55.91 ID:9tvueWPWo
やっはー
136 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/06/15(水) 21:42:25.96 ID:5cvL7LABo



『3人がヒルトン・ホテルに到着。これより接触に備える』

『前回の様な失態は許されない。突入班、警戒を密にせよ』

『了解』





「失礼します、比企谷 八幡氏の部屋で……!?」

「鍵が……開いてる?」

「ッ……お兄ちゃん、入るよ……」

「ヒッキー……居ないの?」

「……!」





『『【密偵(いぬ)】より【蔓】、【起こり】が【賊】の部屋に侵入』

『こちら蔓、【仕掛人】は配置に付いた。起こりが接触するまで待て』

『了解』





「比企谷くん……!」

「ヒッキー!」

「ッ! お兄ちゃんっ!」

「比企谷くん……っ、本当に……本当に、帰って……!」

137 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/06/15(水) 21:43:05.90 ID:5cvL7LABo





【何だ、これは】





138 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/06/15(水) 21:44:00.69 ID:5cvL7LABo

「え……」

「……ヒッキー?」

【まともな記載が何処にも無い。そもそも該当する件数があまりにも少なすぎる】

「お兄ちゃん……? 何を喋って……」

「これって……まさか、FAF語?」

【報道管制? 何の為に……いや、そもそも誰が……】

「……比企谷くん」

【やはり、これはネットそのものまで……これで利益を受ける者となれば……】

「比企谷くん!」

【五月蝿いぞ、静かにしてくれ。今、考え事をしているんだ】

「……生憎だけれど、何を言っているのか全く聞き取れないわ。私達にも理解できる言葉で話して貰えないかしら」

【何だ、その悠長な言葉遣いは。もっと簡潔に……くそ、そうか】



「……じゃあ、此処からは日本語で喋らせて貰う……綺麗になったな、小町。そして……久し振りだな、雪ノ下、由比ヶ浜」



139 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/06/15(水) 21:44:53.09 ID:5cvL7LABo

「お兄ちゃん……ッ!」

「……ええ、お久し振りね……本当に……本当に、久し振り。比企谷くん」

「ヒッキー……やっと……会いたかった、会いたかったよう……」





「で、目的は何だ」





「ッ!?」

「……え?」

「なに言って……お兄ちゃん!?」

「答えろ。此処に来た目的は何だ」

「そんなの……そんなの決まって……ッ」

「待って、小町さん」

「……雪乃さん?」

「ごめんね、小町ちゃん……いいよ、ゆきのん」

「……ありがとう、結衣。それで、比企谷くん」

「なんだ」

「……私達の『目的』はね」

「……」





「貴方の『依頼』を達成する事」




140 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/06/15(水) 21:45:38.79 ID:5cvL7LABo

「……」

「でも、それだけじゃないわ」

「……ヒッキー。私達、話したい事や訊きたい事、沢山あるんだよ。6年前の事も、この6年間の事も……今の事も」

「聞かせて欲しい事なんていっぱいあるし……聞いて、貰いたい事、だって……いっぱい、いっぱいあるんだから……嫌だって、言ったって……聞いて、貰うんだからね……お兄ちゃん」

「奉仕部に持ち込まれた依頼は、殆ど全て貴方の手で達成された。私の依頼も……でも、まだ1つ、達成されていないものがある。貴方の依頼よ」

「……『本物』が欲しい。ヒッキー、言ったよね。手遅れかもしれない。もう、そんなもの何処にも無いかもしれない。でも、それでもね」

「私達は、まだ何もしていない。その身を削ってまで、あんな自己犠牲を繰り返してまで他者からの依頼を達成し続けてきた貴方の、その依頼にまだ何も応えていない」

「だから来たんだよ、此処に。ヒッキーに会う為に。私達への依頼はまだ有効かどうか、それを確かめる為に」

「……何故、そうまで固執する」

「そうね……強いて言うなら……『本物』を欲していたのは、貴方だけではなかったという事よ」

「お前達の言う『本物』とは何だ。あの頃の二の舞を演じるのは御免だ。俺の勝手な思考を押し付けるのは」

「そうだね。お互い、勝手な思い込みで……散々、傷付け合ったもんね。ヒッキーも、ゆきのんも、私も……」

141 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/06/15(水) 21:47:57.91 ID:5cvL7LABo

「感傷はいい。要点だけ答えろ」

「っ……『何か』なんて、一言で言い表せるものではないわ。そもそも『本物』がどんな形になるのか……それが解る前に、私達は引き裂かれてしまった」

「単なる部活仲間だったかもしれない。無二の親友だったかもしれない。ひょっとしたら恋人だったかもしれない。いろんな可能性があったのに、あの事件で何もかも奪われちゃった……私が全部貰うって、宣言したのにね」

「どんな『本物』が待っていたか、本当なら今頃、私達は何らかの答えを得ていたのかもしれない。でも私達の6年間は、他者の悪意によって否応なしに奪われてしまった」

「ゆきのんも小町ちゃんも、勿論私だって、6年前よりずっと強くなったんだよ? もう、良い様に翻弄されて、誰かに頼るだけの人間じゃない。此方に悪意を向けるなら、相応の対価を払って貰う。私達の大切なものを傷付けようとするなら尚更、徹底的に叩いて潰す。そうなれる様に努力してきたし、実際にそうしてきた」

「あの事件の発端になった連中こそまだ排除できていないけれど、取り巻きはもう居ない。社会的地位は完全に失墜させたし、残った連中が破滅するのも時間の問題ね……でも、拡散された風評までは、どうにもできなかった」

「ヒッキーなら、もう気付いてると思うけど……その件について私達は、強力な後ろ盾を得たの。この場所を教えてくれたのもその人……ううん、その組織だよ」

「……日本政府、いや、軍か」

「あはは。やっぱり、気付いてたんだね……うん、そうだよ。ヒッキーが地球に戻る事も、FAFがどういう行動に出るかの予測も教えてくれた。それでこうして、接触の機会を設けてくれたの。見返りは……これも、解ってるんでしょ?」

「帰国、そして日本軍への在籍か。接触したのは海軍の人間か?」

「ええ。海軍省、開発部の方」

「俺を艦載機にでも乗せたいのか、或いは技術情報を吸い出したいのか……出涸らしにされて処分されるのがオチだ。馬鹿馬鹿しい」

「他にも、私達への見返りはあるわ。貴方の悪評を払拭する為に、軍は相応しい社会的地位を貴方に用意してくれる。貴方の実績と能力なら、彼等の想定を上回る功績だって残せる筈よ」

142 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/06/15(水) 21:49:03.17 ID:5cvL7LABo

「雪ノ下家も協力してくれてるんだよ。陽乃さんだけじゃない、ゆきのんの御両親も、隼人くんも隼人くんのお父さんも……他にもいっぱい。ヒッキーを知っている人も、知らない人も、大勢が真相を明らかにしようと動いてる。さいちゃんや沙希、いろはちゃんや生徒会に居た皆、平塚先生だって……」

「何の為だ」

「何って……ヒッキー!」

「行動の先には過程、或いは結果という形で果たされるべき目的がある筈だ。俺からの『依頼』を果たすという行為は手段に過ぎない。お前達には別の『目的』があるだろう」

「それは……そんなの、お兄ちゃんを取り戻す為に決まって……!」

「小町、黙ってろ。俺は其処の2人に質問しているんだ」

「っ! お兄ちゃん……」

「そんな言い方……!」

「もう一度だけ訊くぞ。お前達の『目的』は何だ?」

「……比企谷くん」

「どうした、答えられないのなら……」



「貴方……何を恐れているの?」

143 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/06/15(水) 21:50:11.67 ID:5cvL7LABo

「……」

「ゆきのん、何を……」

「本当の理由が知りたいと言いながら、貴方の様子からはそれが本気であるとは思えないわ。貴方、私達がこの部屋を訪れた時、妙に落ち着いていたわね」

「……予想して然るべきだろう、その程度」

「軍が貴方を引き入れる為に、私達を利用する事はね。でも、それを踏まえても貴方の落ち着き様は異常だった。貴方、今回の帰還は自分の意志によるものなのかしら?」

「そうだ」

「初めから私達と接触する事が目的だった?」

「え……ゆきのん、それって……」

「お兄ちゃん……?」

「……」

「『欺瞞』は何よりも嫌うところ、よね。貴方が『本物』の比企谷 八幡なら」

「……その通りだ。今回の帰還は、お前たちの存在を確認する為のものだった」

「確認ね。何の為にかしら」

「答える義務はない」

「あら、この程度の会話で、私達の存在を確認できたとでも言うのかしら。私達が貴方の求める『本物』だとでも? ひょっとしたら政府が用意した容姿だけ似せた別人かもしれないし、そもそも現実に存在するかどうかも怪しいものではないのかしら」

「どういう意味だ」

「貴方が受けたであろう高速学習装置による教育、その過程で施された何らかの精神操作による幻覚であるとは考えられないかしら?」

144 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/06/15(水) 21:52:04.43 ID:5cvL7LABo

「雪乃さん!?」

「……成る程、そういった可能性も考えられるな」

「……冷静だね、ヒッキー。ひょっとして、自分でもそれが有り得るって考えてた?」

「何も俺はFAFを盲信している訳じゃない。学習装置の危険性は、少なくともフェアリィでは広く知られているし、FAFも隠しちゃいないからな」

「だったら何で……」

「其処に『現実』が在るからだ。自身の見ているものが実在するものだろうが洗脳によって生み出された幻覚だろうが、それへの対処を怠った場合に齎される結果は1つしかない。過程がどうであれ、その結果だけは『本物』だ。ジャムに殺られるという結果は」

「少なくとも、貴方を害そうとする『何か』が『通路』の向こうには居る事は確か、という訳ね」

「『何か』だと? その言い分、誰に吹き込まれた……日本軍か」

「だったら……だったらさ! 尚更こっちに戻ってくるべきだよ! こっちにだって、お兄ちゃんを傷付けようとする人間は居るよ? でも、少なくとも戦闘機を飛ばしてまで殺そうとする人なんて居ない! なんで、なんでお兄ちゃんが戦争になんか……!」

「何故、だと? ジャムに負けても大した事ではない、とでも言いたげな口振りだな。それとも自分には無関係だとでも?」

「……違う星まで行って空中戦なんかして! いっぱい人が死んで、それでも止めずに30年以上も戦い続けて……! お兄ちゃんが其処に加わる理由が、何処にあるの!?」

「……小町ちゃん、駄目だよ」

「確かに、あの時のお兄ちゃんには、此処に居続ける事はできなかったかもしれないよ!? だけど、だけどさ! お兄ちゃんなら海外に行って生活する事だって出来ただろうに、よりによってどうしてFAFなんて選んだの!? どうして戦場なんか……どうして……!」

「小町さん!」

「何で、戻ってきてくれないの……なんで、殺し合いなんて……なんで……」

「小町ちゃん……」

145 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/06/15(水) 21:52:50.34 ID:5cvL7LABo

「……今のは言い過ぎだわ。でも、私達の疑問も同じ様なものよ」

「言えば良い。但し要点だけ、簡潔に」

「……貴方は自分の意思で、地球に戻ってきた。FAFとの契約も終了し、好き好んで戦場に戻る必要はない。此方での名誉も、政府の後ろ盾を得て回復する事が出来る。将来だって、貴方の能力と実績ならば安泰の筈だわ。でも、私達はFAFを退役した人間の殆どが、再びフェアリィへと戻っているという事実を知ってしまった。もしかしたら貴方もそうなのではないかと、私達は疑っているの」

「ヒッキー、特殊戦に所属してるんだってね。前に地球に戻ってきた特殊戦の隊員も、その日の内にFAFに戻っちゃったって」

「……ああ、そいつの事は知っている。だが、それに何の問題がある」

「何の問題、ですって? 知人が戦場に舞い戻ろうとしているのに、それを止めようとする事に特別な意味が必要なのかしら」

「必要だろ。そいつ自身が望んでの事なら要らぬ御節介だし、そもそも其処に理由があるとは考えないのか」

「何の理由が? そもそもジャムという敵がなぜ地球に攻め寄せてきたのか、今どんな戦略を以って何を仕掛けてきているのか、私達は何も知らない。幾ら調べても、それを知る事の出来る手段すら無かった。単に軍機というより、何らかの意図を以って情報が規制されていると考える方が自然だわ。でも、別の可能性もある」

「なんだ」

「そもそもジャムなどという敵は存在しない可能性よ」

「……」

「貴方は私達の存在を確認する為に此処に来た。では、何故その必要性が生じたのか。可能性は幾つか思い付いたのだけれど、有力な候補はこれよ」

「……」

「貴方はジャムの実存性に『疑念』を抱いている。ジャムが本当に存在する敵なのかどうか、確信が持てなくなっているのではなくて?」

「……ヒッキー、そうなの?」

「お兄ちゃん……」

146 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/06/15(水) 21:56:20.09 ID:5cvL7LABo





【今、何と言った】





147 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/06/15(水) 21:59:47.48 ID:5cvL7LABo
八幡激おこ
今日は此処まで



※FAFの人間に『ジャムなんか居ねーよ』というのは、相手によっては自分の命を危険に曝す事になるのでご注意
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/15(水) 22:20:07.91 ID:9tvueWPWo
乙でした
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/15(水) 22:35:36.45 ID:wT5MoRxpo
乙です
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/15(水) 23:12:31.81 ID:hsIMsDtlo
乙ッス!
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/16(木) 00:48:12.77 ID:2ye035tD0

続きが気になるぜ
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/16(木) 01:05:16.04 ID:3Q0crhqz0

控え目に言っても超面白い
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/19(日) 10:44:26.67 ID:F2RW84CtO

戦闘妖精の方は見たことないけどめっちゃ面白い
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/19(日) 13:11:09.72 ID:GzLYVS2AO
乙!
面白い!
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/24(金) 01:14:00.68 ID:4FVcUZ5ko
続きはよ〜♪
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/29(水) 21:44:40.71 ID:l+oEshzPO
つづきー!
157 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/07/02(土) 22:39:41.38 ID:ztKJBWszo
お待たせしました
続きを投下します
158 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/07/02(土) 22:40:15.98 ID:ztKJBWszo

「え……」

【何と言ったと訊いている】

「……比企谷くん?」

「お兄ちゃん、何を……」



【……クソッタレが、これだから『地球人』は―――】
159 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/07/02(土) 22:41:05.89 ID:ztKJBWszo

「―――何でもない。下らない事だ」

「……流石に今の一言は私でも聞き取れたよ。ちょっと発音は早すぎるけれど」

「……私の発言はお気に召さなかった様ね。それとも図星だったのかしら」

「雪乃さん、ちょっと……!」

「実際にジャムと命懸けで戦っている貴方からすれば、安全な地球でのうのうと暮らしている私達がその敵の存在を一方的に否定する様は、怒りを覚えるものでしょうね」

「……」

「自らの信じているもの、信じたいと一途に想っているものを一方的に否定されるのは、誰だって腹立たしいものよ」

「ゆきのん……」

「私の言いたい事、解っているのでしょう? 貴方が『本物』の比企谷くんであるならば、だけれど」

「……京都の件か」

「それも1つよ」

「……退学」

「ええ、それもあるわね」

「……黙って消えた事か」

「退学と一緒よ。あら、ちょっと『本物』らしくなってきたかしら。その、自分の事となると途端にはぐらかして逃げに入るところとか」

「そういうお前はどうなんだ、自分が『本物』であると証明できるというのか。その毒舌ぶりは確かに雪ノ下らしいが、それだけで『本物』であると断定はできない」

160 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/07/02(土) 22:42:02.11 ID:ztKJBWszo

「なら、どんな言葉がお望みかしら。私に自分というものが無い事で悩んでいた時期はあったけれど、それは他ならぬ貴方が解決してくれたわ。そして生憎だけれど、自分自身の存在が『本物』か『偽物』か、などと悩んだ事は無いの」

「偽物が『自分は偽物だ』と認識しているとは限らない。知らぬ間に入れ替わり、それを為した者を利する行為を自覚せずに行っている事も考えられる」

「まるで実例を知ってるみたいな口振りね」

「……」

「まただんまり? まあ、それは置いておくとして。貴方、私達の存在を確認すると言ったわね。今の会話からして、私達の存在そのものが偽りである、との可能性を考慮していたという事かしら」

「どういう事です?」

「……それって、総武高の……奉仕部の思い出が偽物かもしれないって、疑ってたって事?」

「どうなのかしら、比企谷くん?」

「……」

「うそ……まさか……」

「そう、そうなのね」

「そんなの……あんまりだよ、お兄ちゃん……!」

「ヒッキー……どうして?」

「……自分達で言っていた事だろう、学習装置を通じての洗脳も有り得ると。総武高の、あの部室での記憶がそれによって植え付けられた作り物でないと、何故言い切れる?」

「決まっているわ。私達が此処に存在して、その記憶を共有しているからよ。尤も、それを無条件で貴方に確信させる術を、私達は持っていないわ」

「なら、疑いは晴れないな」

「疑いたいならばご自由に。ただ、肝心な事を忘れてはいないかしら」

「何だ」

「貴方が私達を疑う様に、私達もまた貴方を疑う事ができるのよ」
161 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/07/02(土) 22:43:27.06 ID:ztKJBWszo

「雪乃……!?」

「雪乃さん、何を!?」

「……まあ、そうだ。俺が『本物』の比企谷 八幡ではない可能性も、十分に考え得る」

「ええ。今まさに、その疑念が色濃くなってきているわ」

「だが、その根拠は何だ。お前は言ったな。他者が『本物』であると信じているものを否定すれば、其処には反発が生じると。確かに俺は、ジャムの存在を否定され、お前たちに対して少なからず敵意を覚えた。だが、お前達が俺から『偽物』ではないかと疑われた事に対して、敵意を覚える理由は何だ」

「何だ、って……お兄ちゃん……それ、本気で言ってるの……!?」

「……落ち着いて、小町ちゃん」

「でも、結衣さん! こんなの……こんな事言われて、幾らお兄ちゃんとはいえ……いいえ、お兄ちゃんだからこそ……!」

「悔しいよ」

「っ……!」

「悔しいし、悲しいよ。怒ってもいるし……正直、失望もしてる。でも、でもね、小町ちゃん。小町ちゃんだって、知ってるでしょ?」

「……」

「ヒッキーがそういう言動をする時って、絶対に理由があるって事」

「あ……」

「そんな事も理解しようとせずに、ヒッキーを傷付けたのは他ならぬ私達だからね。悔しくても、悲しくても、衝動的に判断する事なんて、もう絶対にしない。6年前、私と雪乃が誓った事だよ」

162 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/07/02(土) 22:44:31.83 ID:ztKJBWszo

「……そういう事。貴方のやり口は、とっくに割れているのよ」

「……」

「またそれ? 一体何時まで誤魔化し続けるつもり? そもそも、私達が貴方の発言に対して覚えた感情が敵意などでない事は、貴方自身がよく理解している筈よ。それでもまだはぐらかし続ける様なら、此方も貴方が本当に理解していないと判断して、単なる比企谷 八幡の『偽物』と見なさざるを得ないわ」

「好きにすれば良い」

「あら、良いの? この事を日本軍の方に告げれば、貴方はどうなるかしら。一主権国家の国民を騙り、その安全保障機関の人間を欺こうとまでした人間が、すんなりとフェアリィに戻れるとでも?」

「脅しのつもりか」

「脅しなんかじゃないわ、警告よ……でも、そうね。貴方の言う通りだわ。貴方が『本物』であると証明する事が困難な様に、私達が『本物』であると証明する事も、また困難だわ。だって、私達が求めている『本物』の比企谷くんは、決して自身から『本物』である事を主張したりはしないもの」

「……そうだね、ヒッキーはそういう人だった。隠された意図を私達が読み取って『本物』の言葉で返さなきゃ、また修学旅行や生徒会選挙の時みたいになっちゃう」

「ええ。だから、覚悟を決めなければ。私も、結衣も……」

「……うん」

「雪乃さん……?」

「……貴方の『目的』についてはまだ不明瞭な所が多いけれど、それを訊くには、先ず私達の『目的』を明確に……建前も逃げる余地もなく、本心から伝えなければならないでしょう?」

「雪乃……」

「……良いんですか」

「比企谷くんが軍人となった様に、私達も、もう十代の少女じゃない。自分の本心さえ誤魔化して意地ばかり張り続ける歳は、疾うに過ぎたつもりよ」

「……そうだね……うん、そうだよね」

「それで、比企谷くん……私の……私達の依頼、聞いてもらえるかしら」
163 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/07/02(土) 22:45:00.42 ID:ztKJBWszo





『私の依頼、聞いてもらえるかしら』





164 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/07/02(土) 22:45:53.64 ID:ztKJBWszo

「……好きにしろ」

「……ありがとう」

「じゃあ、言うね……ちゃんと聞いててね、ヒッキー」





「貴方と、一緒に居たい。お互いが、お互いにとっての『本物』。そんな確かな繋がりが欲しい」

「6年前に途絶えた『依頼』の答えを、また3人で探していきたい。誰であろうと、今度こそは絶対に邪魔させないし、奪わせない。ヒッキー1人に背負わせて、一方的に守られるだけの関係じゃ嫌だ」

「だから、比企谷くん。今度こそ、私達の『友達』に……いいえ」





「私達の『本物』に―――」

165 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/07/02(土) 22:46:21.53 ID:ztKJBWszo





「無理だ」





166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/02(土) 22:46:51.20 ID:jzL0rVhUo
向こう側の人間を捨てろと
天秤にかけた上で捨てろと言わせるとは思い切ったな
167 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/07/02(土) 22:56:21.13 ID:ztKJBWszo

「え……」

「それは無理な願いというものだ。雪ノ下さん、由比ヶ浜さん。彼が、比企谷 八幡が求められている役職は、そう生易しい環境じゃない」

「……貴方、誰なの……何時から部屋に?」

「何時まで経っても合図が無かったもので。失礼ながら、勝手に入室させて頂いた」

「……日本軍の者か」

「そうだ。ただ『前任者』と同じ所属ではないが」

「梶田さんは? 彼は何処に……」

「彼は来ない、今は休んでいる」

「な……まさか!」

「……始末した、という訳じゃなさそうだが……別部署の人間か」

「ご明察。少なくとも開発部の人間ではないな」

「……陸軍?」

「正解だ。昔とは見違える程の察しの良さだな、由比ヶ浜さん。あんたは場の空気を読む事には長けていたが、物事の核心は悉く見落とす人間だと思っていた」

「……貴方、誰? 何で昔の私を知っているの?」

168 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/07/02(土) 22:57:16.66 ID:ztKJBWszo

「親友の助けがあったとはいえ、あんたの努力は大したものだ。雪ノ下建設に於ける、今のあんたの地位も頷ける。雪ノ下家の厚意で在学中から会社運営に関与する機会を設けられていたとはいえ、入社初年度にして事実上の社長及び次期企画部部長の私設秘書だからな」

「っ……結衣の質問に答えなさい。何故、彼女の過去を知っているの。軍とはいえ、個人の過去を其処まで調べる理由は何なの」

「で、その次期企画部部長だ。同じく在学中から家業に携わり、由比ヶ浜さんと共に其処で築いたコネを使って、あの恥知らず共を追い込む様は流石の手腕だった。2年と掛からずに3つの競合他社を規模縮小に追い込んだ功績からすれば、今の役職でもまだ不足かもしれないな」

「……派手にやってるじゃないか。流石だな、雪ノ下? まさか由比ヶ浜も一枚噛んでいるとは思わなかった」

「ッ……!」

「恐ろしきは女の執念、という奴だ。いや、この場合は怨念か。対象を周辺諸共潰すやり方は、余計な流血を伴うが確実ではある」

「黙りなさい……!」

「川崎 小町、旧姓比企谷。総武高校在学中に川崎 大志と交際を開始し、大学2年の6月に急かされる様にして籍を入れている。結婚を急いだ事と川崎姓となった理由は、両親と事情を知る知人達の勧めから。川崎家との関係は良好、特に兄の事を良く知る義姉の川崎 沙希と義妹の川崎 京華とは、夫に次いで日頃から良く行動を共にしている。その夫は、元々は医療関係の研究職を志していたが、突如として方針を転換。セル型磁気収束場連結理論による極低温環境維持の研究で頭角を現し、大学院在籍中にも防衛省技術研究本部から声が掛かる見通し。彼が国防に関わる道を選んだ理由は、妻の為に少しでもFAFの情報を得られるだろう環境に身を置く為。まあ、彼自身も義兄を尊敬している様だが。良い伴侶を得たものだ」

「貴方は……どうして、そんな事まで!?」

「3人とも素晴らしい経歴と、高い社会的地位をお持ちだ。後発ながら巨大ゼネコンとして成長しつつある雪ノ下建設、その中でも将来に於ける上級管理職と目される雪ノ下さんと、公私ともにその補佐を行う由比ヶ浜さん。自身も国内有数の大学に通いながら、将来は国防先端技術開発の最前線に立つ事となる伴侶を得た川崎さん。いずれにせよ世間一般、大多数の人間からすれば住む世界が違うとも言える立場だ。生半可な社会的地位では、並び立つ事さえできないだろう」

「……だから、何です? 何が言いたいの」

「ある人物の隣に立ちたい、共に歩みたいと考えるのならば、相応の立場というものは必要になる。その人物が社会的に重要な役職にあるともなれば尚更だ」

169 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/07/02(土) 22:58:47.91 ID:ztKJBWszo

「……如何にも昔の比企谷くんが口にしそうな言葉ね。だから貴方は『無理』だと言ったのかしら……今更、そんな言葉に惑わされるとでも?」

「比企谷 八幡の名誉は回復される。その為に国が力を貸すと約束したのは、陸と海の違いがあるとはいえ、同じ軍でしょう。今更、約束を反故にしようとでも? なら、私達がすべき事は単純です。地球に戻るか否か、ヒッキーに選択して貰います」

「な……結衣さん、何を!?」

「小町ちゃん。汚名が晴らされないのなら、戻ってきたってヒッキーにとってのメリットは無いよ。ならFAFに軍人として属していた方が、まだ幸せじゃないかな?」

「そんな……死んじゃうかもしれないんですよ!?」

「そうだね。でも、それはヒッキーが自ら望んでフェアリィに戻った結果でしょ? 無理にこっちに引き戻されて、謂われの無い悪意に曝され続けて潰されるよりは、ずっと良いじゃない」

「でも、それじゃ! 結衣さんと雪乃さんの気持ちは……!」

「それは物事の順序が違うわ、小町さん。私達の目的は比企谷くんと共に在る事だけれど、その為にも彼に付き纏う汚名を晴らす事が先決よ。私達が軍の提案を呑んだのは、私達だけではそれを為すだけの力が無かったから。だからこそ、彼を利用するという目的を知りながらも、私と結衣、そして貴女も軍が差し伸べた手を取った。でも、其処での言葉が偽りだったというのならば、彼等の目的を叶える必要は無いわ」

「ヒッキーと一緒に居られないのは悲しいし、辛いよ。でも、一緒に居て欲しいなんて私達の我が儘を叶える為に、ヒッキー自身の人生を犠牲になんてして欲しくない。そんな事をするぐらいなら、ヒッキーが望むままに生き方を決めて欲しい」

「結衣さん……」

「……」

「その、なんだ。盛り上がっているところ悪いが、私が言ったのはそういう意味じゃない」

「え……」

「話を続けるが、つまりこういう事だ。あんた達の社会的地位は高く、並大抵の人間では並び立つ事はできない。それが肉親であってもだ。好む好まざるとに関わらず、あんた達の居る所はそういう場所だ」

「だから、そんな事で……」

「だが、それだけだ」

「……何ですって?」

「私が言いたいのは、こういう事だ」

170 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/07/02(土) 22:59:33.01 ID:ztKJBWszo





「その程度で彼の―――比企谷 八幡『大佐』の傍に立てるとでも?」





171 : ◆lFp.5v7mbs [sage]:2016/07/02(土) 23:03:18.56 ID:ztKJBWszo
今日はここまで
いきなり割り込んできたのは誰か、彼の発言の意味は何か
そこら辺は次回で
大方予想は着くかもしれませんが



で、次回シドニー編クライマックス(の予定)
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/02(土) 23:05:57.24 ID:jzL0rVhUo
乙でした
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/02(土) 23:17:57.19 ID:6yCc0dj9o
乙です
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/03(日) 02:06:46.38 ID:b3Ay16re0
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/05(火) 17:53:47.38 ID:noyTZE6AO
乙!
引き込まれるな
176 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/07/13(水) 22:07:15.43 ID:rrIn7dIYo
忙しくて殆ど書けてませんが、ちょいと投下
177 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/07/13(水) 22:07:53.48 ID:rrIn7dIYo

「どうも、フォス大尉」

「緊急よ、これをフェアリィのブッカー少佐に届けて欲しいの。決して封を破らずに、そして絶対に電子的処理プロセスを通しては駄目」

「内容を窺っても?」

「何処に耳が在るか分かったものではない。これを読んで、声に出さずに。そして理解したなら、すぐに燃やして頂戴」

「……これは、本当に?」

「可能性の話よ。ただ、それが真実である確率は恐ろしく高いわ」

「……成る程、これはワーカムでは書けない。手書きで認める必要がある」

「少佐のオフィスには何時頃に?」

「明日の8:00には、必ず。次のシャトルは4時間後ですが、問題ない」

「そう……比企谷大尉の確保は可能かしら。情報軍はどの程度の戦力を配置しているの」

「前回の事も有り、派手な事はできない。最小限の人員を配置してはいますが、今回はそれが裏目に出た」

「日本軍に上を行かれたと」

「想定外の事態です。日本海軍が接触を図っていた事は察知済みでしたが、これを排除して日本の情報軍が割り込んできた」

「日本の?」

「正確なところまでは不明ですが、首都圏情報防衛軍団と思われます。電子戦のプロフェッショナルだ。それが独自に、海軍を排除してまで比企谷大尉と接触している」

178 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/07/13(水) 22:08:32.28 ID:rrIn7dIYo

「……彼等は、大尉の価値を正確に理解しているのね」

「大尉の部屋は武装した日本情報軍部隊に包囲されている。大尉を隔離する為ではなく、外部からの干渉を排除する構えだ。恐らく、此方の動向も掴まれている」

「腕利きね。オージーの軍に動きは?」

「別のホテルに誘導されています。我々の情報操作に気付いた日本側が、便乗する形で陽動を行っている。各国ともシドニー郊外のホテルに誘き寄せられています」

「相手は相当のやり手って事か。不味いわね、これでは彼等を引き離せない」

「接触状態が続けば、或いは」

「取り返しの付かない事になるかもしれない……いえ、それはそれで情報を集める事はできる。ただ、何処まで影響が及ぶか予測が付かない」

「手荒な方法は使えない、日本側は本格的な衝突も辞さない構えだ。重武装の別動隊も居る筈です」

「……幾ら比企谷大尉が重要人物とはいえ、其処までの強硬手段に出た理由は何かしら。それも情報軍が独自に、同国の海軍を排除してまで」

「不明です。ただ、指揮官らしき人物が妙に若い男であるところが気になる。比企谷大尉と同年代でしょう」

179 : ◆lFp.5v7mbs [saga]:2016/07/13(水) 22:08:58.26 ID:rrIn7dIYo

「若い男……何者なの?」

「調査中ですが、全く情報が集まらない。仕掛けた盗聴器も全て無力化されている上、ジャマーまで持ち込んでいるのか指向性マイクも使えない。遠巻きに監視するのが精一杯です」

「FAFなら兎も角……地球の軍隊で在り得る事なの? 20代半ばで情報軍部隊の指揮なんて……」

「突出した才能を有するならば在り得るでしょうが……何か、もう一押しとなる理由が必要だ。例えば、そう……接触対象の関係者である、とか」

「比企谷大尉の……つまり、高校時代までの関係者?」

「断定はできませんが、その可能性は高いかと」

「尚更不味いわ。場合によっては、その指揮官も……」

「急ぎましょう、大尉。手紙は部下に届けさせますが、貴女は?」

「私は明日のシャトルで戻るわ。できる事なら今すぐにでもフェアリィに戻りたいけれど、まだ調べる事がある」

「了解しました……大尉」

「何かしら」

「……彼等は『敵』になり得るのでしょうか?」



「今は何とも言えない……大尉も彼女達も、まだ『ボギー』よ。今のところはね」



180 : ◆lFp.5v7mbs [sage]:2016/07/13(水) 22:09:23.74 ID:rrIn7dIYo
終了
続きは来週
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