八幡「やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。」凛「またね」

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212 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2016/09/12(月) 03:40:23.10 ID:I3XVCApU0



八幡「……あっと…」



「プロデューサーっ!」



俺が何か言おうとした所で、遠くの方から呼び声が聞こえてきた。
見れば、逆側の廊下の奥で凛が手を振っている。



文香「どうやら、楓さんたちも終わったようですね……」

八幡「ですね。俺たちも行きましょう」



ソファから立ち上がり、歩き出そうとする。
が、そこで今度は、鷺沢さんから呼びかける声。



文香「比企谷さん」

八幡「っと……はい?」

文香「また……機会があれば、本についてお話しませんか?」



今度は遠慮がちではない、とてもとても、魅力的なお誘い。
いや、ズルいだろ、そんなの。



八幡「……そうですね。機会があれば」



相変わらず、歯切れの悪い返答。
だが鷺沢さんは嬉しそうにまた微笑むと、「はい」と小さく返事をして先に歩いていってしまった。

……大人しそうにしても、やっぱアイドルなんだな。
破壊力抜群だぜ。

一応、頬の辺りを少し抓り、夢はなない事を確認する。
やっぱ夢でも創作の中でもなく、現実なんだよな。


これもある種のファンタジーだな等と考えながら、俺も追って歩き出した。





213 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2016/09/12(月) 03:41:30.93 ID:I3XVCApU0
短いですが申し訳ない。次はもっと早く来れるよう頑張ります!
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/12(月) 04:33:42.70 ID:xpGjPGN8o
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/12(月) 06:06:49.92 ID:/rgWRN/Zo
乙乙
文香は雪乃と会ったらどう対応するのか気になる
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/12(月) 06:15:29.45 ID:HqLXKod3o
乙です
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/12(月) 09:00:10.37 ID:9WIf8WeBo
パンさん語りにドン引き以外に何をするというのか
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/12(月) 12:10:38.87 ID:6Lj3DjzKo
やはりゴミ山とクズが浜は総武高校の癌細胞はっきりわかるんだね

え?三浦?あいつはHIVだ

当たりが強くないゆきのんは詰まるところのただの美女何ですねわかります
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/12(月) 18:25:30.12 ID:oeMy6DE50
乙ゥ^〜
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/12(月) 22:57:42.11 ID:aeOZU3azo
新キャラ考えてみた
是非このキャラを出して欲しい

厄紫 棘やくし おどろ、
黒髪オールバックに筋骨隆々な体、威圧感が素晴らしい高身長にして鋭い目つき、カラコンの為真っ赤な目をしている。 

虚嚼 業禍うつろがみ きょうか、
黒と藍色の混ざったような色の長いストレート髪に出るところは出てる体、背丈は女子では高い方でこちらもまた鋭い目つきをしている。それに加えてカラコンの為綺麗な青色の目をしている。 
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/14(水) 12:17:51.85 ID:qwXf8THcO
setuna.GNT-00002016年9月1日 18:50
> ガゼルさん
こちらケルディム、了解!狙い撃つぜ!!(。-ω・)『+』┳-━┴ ∝ ドギュ――—–…‥ ン
返信する

ガゼル2016年9月1日 18:35
> setuna.GNT-0000さん
こちらデュナメス。目標、狙い撃つぜぇ!__(⌒(_'ω')_┳━──ーーーーーーーー・
返信する

ゲーマーダイソン2016年9月1日 18:33
八幡に酷い事を言った奴を○す準備は出来てるぜ……
(;一_一)ヤレ(`・ω-)ウィッス『 』▄︻┻┳═一
返信する

setuna.GNT-00002016年9月1日 18:18
> ガゼルさん
こちら○ルディム、同じくターゲットを捕捉した。いつでもいけるぜ!(、´・ω・)▄︻┻┳═一
返信する

setuna.GNT-00002016年9月1日 18:15
> 八レイpさん
泣いてでも殴り続けます( ・ω・)っ≡つ ババババc(`・ω´・ c)っ≡つ ババババ|_↑ ∩( ゚Д゚)⊂ヽ おらっしゃあぁぁ!!! ∀`)=⊃)`Д゚);、;'.・ゴルァ!!(10コンボだドン!)
返信する

ガゼル2016年9月1日 18:11
> setuna.GNT-0000さん
こちら○ュナメス。ターゲット捕捉したぜ!__(⌒(_'ω')_┳━──
返信する

八レイp2016年9月1日 18:10
> setuna.GNT-0000さん
君がッ 泣くまで 殴るのをやめないッ!
返信する

setuna.GNT-00002016年9月1日 18:02
(現在八幡に酷い事を言った奴らを○す練習中)( ・ω・)っ≡つ ババババ c(`・ω´・ c)っ≡つ ババババ
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/14(水) 23:05:23.65 ID:U/KI77Kj0
(≧Д≦)
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/15(木) 12:08:30.40 ID:Aqlfc+1zO
渋では人気です。
良かったら評価とコメントください!
http://touch.pixiv.net/novel/show.php?id=7250493&uarea=tag&p=1
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/15(木) 16:01:37.80 ID:6aI3VLxXO
最終章予告

葉山「やったか?」

八幡(?)「GYAAAAAAAAAAA!!!!!!」

八幡「あぁ、俺は…好きなのか…。」

闇八幡「俺はお前だ!」

闇八幡「黒幕はお前をりようしている。」

八幡「俺、比企谷八幡は…を愛し続けます。これから先ずっと一緒にいてくれないか?」

そしてすべての交錯した世界は加速して行く

多重人格者の俺の復讐するのは間違っていない

最終章

『闇夜を切り裂き未来を手に掴む。』
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/16(金) 14:36:38.40 ID:9UqEJrg3O
アンチヘイトこそ世界No.1
史上最強のスパルヴィエロ大公を生み出した
頂点であり揺るぎなきネ申
異論は一切通用しない
http://touch.pixiv.net/novel/show.php?id=7254974&uarea=tag&p=1
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/17(土) 00:25:30.82 ID:A1/MwPTVo
10 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします sage 2016/09/09(金) 13:41:39.03 ID:ij/k8YcBO
魔王様「HA☆YA☆TO☆(笑)の分際で…身の程を再理解させる必要があるみたいね?」

薄化粧マッチョメン×100に囲われたHA☆YA☆TO☆(笑)「ア゛ッ゛−−−−!!!!」ズブッ… ズブッ… ズブッ… ズブッ……

何故かいるE.H(姓.名)女史「愚腐腐腐腐腐……」
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/20(火) 05:43:31.29 ID:e6C9LeX1O
良かったら評価お願いします。
http://touch.pixiv.net/novel/show.php?id=7270900&uarea=tag
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/20(火) 12:41:12.23 ID:e6C9LeX1O
コピペ荒らしの犯人 
DESU00 33歳・無職

http://www.pixiv.net/member.php?id=14314847
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/21(水) 03:03:00.33 ID:facgzs9ZO
独神先生、今まで生徒会とか生徒会長などに押し付けた仕事とかその仕事の責任から逃れて色々仕事をサボってきたようですが、ついに年貢の納め時ですな。
この大人数の生徒&校長先生と教頭などの教師の皆さんに、
八幡と城廻生徒会長の暴露情報を聞かされたらもう言い逃れが出来ないですな。
独神先生が城廻さんに辛かったらいうように発言したりしておりますが、依頼を断ろうとすると睨みつけたり、
八幡に暴力を振るうような独神先生からの依頼を断ると殴られたり、
内申書などの成績を悪く付けられたり進級や進学を出来なくさせられる事を考えると普通の生徒は逆らえなくなりますな。
まさに教師の地位を悪質なまでに利用したパワハラで御座るよ。
八幡を三発もフルパワーでドヤ顔で殴っている所を生徒&教師にも見られている上にカメラで録画されているので
これからの教師首もしくは警察の御厄介になりそうですな。八幡は平穏に暮らせそうでござるよ。

独神先生、結婚したいとかほざいておるで御座るが、
どう考えても真面な人間は刑事事件を引き起こしたような人間とは結婚したがらないでしょうから、
刑務所で結婚相手でも探す婚活とか獄中結婚でも始めるんでしょうかね?
まさに破れ鍋に綴蓋の相手が見つかりそうですな。
相手は多分ヤクザとかチンピラとか結婚詐欺師とかが結婚相手に成りそうでござる。
奉仕部の活動実績が、雪ノ下が入部してもゼロとか奉仕部を設立した独神先生が奉仕部の活動費を着服していないかも監査が入りそうですな。まるでドコゾノ政党の方々みたく叩けば埃どころか核弾頭が埋設しているような状況で御座る。
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/09/22(木) 20:45:13.07 ID:51lw+hNb0
こういうこと言われるって予測できなかったのか……
たった一人に言われたぐらいでここの住人はって一括りにされるなんてたまったもんじゃないが、僅かに残っていたまともな人もしたらばに旅立ったからここはコピペ荒らしとしたらばで仲間に入れてもらえない残念な感性の持ち主が戯れる隔離所と化した今となってはこんなところにまだ居られる人はどうかしてると俺でも思う
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/09/24(土) 03:29:21.34 ID:RvA5IiXH0
早く続きが読みたい
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/27(火) 16:33:07.65 ID:epvv/HftO
なにがこれからを願ってだ、キメェ
どれだけ他作の女キャラレイプすりゃ気がすむんだか、強姦魔こと八幡豚は
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/27(火) 16:59:38.58 ID:YOztDn6DO
そっ閉じすらできないとはね
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/10/12(水) 18:54:07.63 ID:jJaxOTJZ0
よみ
235 : ◆iX3BLKpVR6 [saga sage]:2016/11/07(月) 00:52:21.51 ID:np5bA21a0
ちょっとやばくなってきたので生存報告を……すいません。書いてはいます。
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/07(月) 01:15:09.78 ID:fg7D7ySFo
頑張って
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/07(月) 01:26:39.47 ID:YO0ycgdMO
ならよし
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/07(月) 01:33:11.15 ID:kRt/z9QMo
待つよ
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/17(木) 17:37:20.79 ID:ghx2avux0
頑張ってくれ……!!
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/08(木) 12:19:22.09 ID:zGMQomk80
赤座あかりちゃんのチンコバッキバキでワロタwwwwww
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/25(日) 15:47:55.00 ID:97vqU0P/0
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/26(月) 13:59:14.60 ID:Pnuptpkh0
1位可愛いは正義!だけど可愛いと言われるのは悪夢!
2位もしも八幡が歌い手だったら+12
3位金髪赤目のぼっちな高校生
4位八幡「ゆきのんゲットだぜ」
5位雪ノ下雪乃の半身? 第20話

25日渋の上位5位の結果だが…八結かすりもしてないんですけど…
八結合同企画は
14位のWHITE AZALEA あなたに愛されて幸せ
相変わらず順位に恵まれないな
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/06(金) 15:18:02.50 ID:B3fZWzLSO
あけおめ
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/05(日) 20:57:10.23 ID:KNYVCG8a0
保守
245 : ◆iX3BLKpVR6 [saga sage]:2017/02/06(月) 21:53:45.50 ID:fs7KMSJr0
生存報告と、今週末くらいに更新しようと思います。遅くなり申し訳ありません!
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/06(月) 22:02:17.30 ID:XdpqGYtJo
待ってます
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/06(月) 22:14:25.24 ID:yOLrqzHFo
おお!
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/12(日) 20:11:55.46 ID:be62PS7E0
まだかな?
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/13(月) 00:03:34.54 ID:8D3PUgN3o
まだだった
250 : ◆iX3BLKpVR6 [saga sage]:2017/02/13(月) 00:39:20.45 ID:7P9csR270
本当に申し訳ありません! やっぱり更新は明日になります! ごめんなさい!!
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/13(月) 00:56:55.31 ID:G7m5KkOuo
待ってる
252 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/02/14(火) 01:27:42.21 ID:VNrjHIkh0
遅くなりましたが更新します!
253 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/02/14(火) 01:29:02.15 ID:VNrjHIkh0
あと久々なのでリハビリがてら番外編です。
254 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/02/14(火) 01:31:51.76 ID:VNrjHIkh0



八幡「プロデューサーの休日」













とある日のとある朝。


いつものように目覚まし時計に起きる時間を告げられ、いつものように眠い目を擦り起き上がる。
日に日に段々と、この音が不快になっていくのが自分でも分かる。冬とか特に。布団の魔力ったらよ。

これはあれだなー、録音式の目覚まし時計とかを買って、好きな曲でも流そうか。そうすりゃ少しは気分の良い朝を迎えられるかもしれん。

そんな風にぼんやりと考え事をしながら、顔を洗い、歯を磨き、着替えを済ませる。リビングからはかすかに朝食の良い匂いが漂ってきていた。

しかし学生の頃ですらあんなに朝はキツいと思っていたのに、仕事を始めたら更にキツく感じるようになったな。世の社畜ちゃんたちへ本当に労いの言葉を送りたい。そして俺も送られたい。

だがまぁ、自分の境遇に関して言えば、俺が好きでやってる事だしな。
自業自得、って言うとあれだな。何か悪い意味に聞こえる。因果応報……身から出た錆? どんどん遠ざかってんな。



八幡「ん?」



ふと、朝食にありつこうとリビングを横切った時、テレビ画面が目に入る。

映っているのは毎朝やっている星座占い。この手の朝の情報番組じゃ定番とも言える。俺も昔は毎朝かかさず見ては一喜一憂したもんだ。いつからか憂しかない現実に嫌になって見なくなったが。


255 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/02/14(火) 01:33:21.39 ID:VNrjHIkh0



『今日の第一位は、獅子座のあなた!』



お、なんだ。俺じゃないか。よっしゃラッキー! ……別に信じているわけではないが、一位だと言われれば何となく興味を引かれる。我ながら単純だ。

席に着き、いただきますと手を合わせてからみそ汁に手を伸ばす。



『まさかのあの人と会えるかも! 憧れの人へアタックするチャーンス☆』



なんかイラッとする言い方だな。まさかのあの人って、俺からしたらそのワードは会いたくない人にしか使わないぞ。



『そして、なんだか新しいスタートの予感! その瞬間を見逃さないで!』



やけにぼんやりしてんなオイ。……まぁ占いのマジレスするのもどうかと思うが。でもたまにそんなラッキーアイテムどうすんの? ってチョイスがあるよな。あれ誰決めてんだ。



『最後に、今日のラッキーカラーは〜……』

八幡「…………」 もぐもぐ

『カラーは〜〜………』



長ぇな。



『……すばり! 蒼です!!』

八幡「……」 もぐ…



……青?



『青じゃなくて、蒼です!!』



何故か念を押すように告げ、占いコーナーは終了した。そんなに大事なことだったのか。



八幡「蒼……ねぇ」



なんだかもう、その単語じゃあいつの事しか思い浮かばない。ラッキーカラーって言うかイメージカラーだ。そう言う意味じゃ俺は今日に限らず常にラッキーカラーと行動を共にしてる事になる。ご利益感ねぇなオイ。


256 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/02/14(火) 01:34:36.91 ID:VNrjHIkh0



八幡「ごちそうさん」



朝食を平らげ、食後の茶をすする。

まぁ、占いなんて結局は気休めみたいなもんだ。良い運勢ならそれだけで人は安心し、悪ければご利益があるものを身につけ、大丈夫だとまた安心する。要は気持ちの問題。結局はそんなもん。

藤居あたりが聞いたら怒るかもしれんが、今の俺はさすがにそこまで純粋にはなれん。やるとしても精々Twitterの診断くらい。あれなんでついやっちゃうんだろうな。くやしいけどちょっと楽しい。



「あれ?」



と、そこでリビングの扉が開いたかと思うと、素っ頓狂な声が上がる。

目線を向ければ、そこにいたのは相変わらず兄のシャツを勝手に着ている我が妹小町。
小町は俺の姿を捉えたまま、不思議そうな面持ちで呟いた。



小町「お兄ちゃん、どしたの? その格好」

八幡「は?」



どう、と言われても……

視線を下げ、自分の姿を見やる。
白いYシャツに、鮮やかな色のネクタイ、黒いスラックス。片手にはジャケットを持っている。紛う事無きスーツ姿であった。



八幡「…………」

小町「明日はデレプロのお仕事お休みだから、学校行くーって昨日言ってなかったっけ?」

八幡「……あ」



慣れ、とは本当に恐ろしいものだと思う。意識がはっきりしていない朝なんかは特に。

とりあえずは静かに席を立ち、静かにその場を後にする。小町の視線は無視。
とにかく急いで制服に着替えてクラスチェンジ! やっべーそうだった! だ、大丈夫だ。幸いまだ時間には余裕がある。

でもそうかー、今日は学校かー、仕事無しかー良かった良かった。



八幡「…………」



学校、かぁ……

なんか、それはそれでやっぱりめんどくせぇわ。



そんなどうしようもない事を考えながら、俺はまたのそのそと着替えをするのであった。……やっぱ占いなんて当てになんねぇな。





257 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/02/14(火) 01:35:49.68 ID:VNrjHIkh0










家を出てチャリンコに乗り、学校へと向かう。
そんな前なら当たり前な通学が、今では何とも新鮮だ。

こうしてると、電車乗るより全然気持ちいいな。あの通勤ラッシュはマジでヤバい。痴漢保険とか入っといた方が良いかもとマジで考える。

そうして軽快に走っていると、ふと胸ポケットに入れていた携帯電話が震えだす。
なんだなんだとチャリを止めてチェックしてみると、おお、画面には我が担当アイドルの名前が表示されていた。



八幡「もしもし」

凛『もしもしプロデューサー? おはよう』



電話に出ると、聞こえてきたのは相変わらず奇麗に澄んだ声。担当アイドル渋谷凛だ。



八幡「おはようさん。ラッキーカラー」

凛「え? 今何か言った?」

八幡「何でもない。こっちの話だ。……んで? 何か用か?」



適当に話を濁し、用件を尋ねる。



凛『用っていうか、今日は随分遅いから電話かけてみたんだ。もしかして寝坊?」



ちょっとからかうかのような凛のその問いかけ。あら、これはもしや……



八幡「あー……もしかして、俺言ってなかったか?」

凛「え? 何を?」



言ってないようだった。


258 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/02/14(火) 01:36:52.68 ID:VNrjHIkh0



思い返してみれば、確かに最近は忙しくて中々休日が中々取れず、あまりそういった話をしていなかった。この休みも、凛の仕事と重なっていなかったから急遽ちひろさんがねじ込んでくれたものだしな。

とはいえ担当アイドルへ連絡していないのは完全に俺のミス。凛に説明をし、素直に謝る。



八幡「ーーと、いうわけで今日は休み貰ってたんだ。悪かったな、ちゃんと伝えてなくて」

凛『いいよ、謝らないで。昨日はお互い直帰だったし、別に私も今日はレッスンだけだったからさ』

八幡「そう言って貰えると助かる」



別に相手が目の前にいるというわけでもないのに、軽く頭を下げる。なんでこれついやっちゃうんだろうな。仕事の電話とか特に。



凛『じゃあ折角の休みなんだから、プロデューサーもたまにはゆっくり休んでね』

八幡「ああ。……と言っても、今日は学校行くんだがな」



本当であれば家でゴロゴロしようかとは思っていたのだが、最近はあまり顔を出していなかったし、ちょっとした野暮用もある。ってか、もう平塚先生に行くと言ってしまったのが大きい。なんであの時の俺はあんなこと言っちゃったかなぁ……そしてなんで当日の朝になるとあんな嫌になんのかなぁ……



凛『学校……』



と、そこで何故か凛の声のトーンが若干下がる。



凛『プロデューサー、大丈夫?』

八幡「大丈夫って、何がだ?」



もしかして、折角の休日なのに休まなくても大丈夫なのか? という心配だろうか。まさか担当アイドルにそこまで心配されるとはな。まぁ、これもプロデューサー冥利に尽きるという奴か……



凛『いや、学園ライブの事もあるし、回りから変態プロデューサーとか蔑まれないのかなって』



全然違う心配だった。ドロップキックした奴が言う台詞じゃないよね!


259 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/02/14(火) 01:37:45.24 ID:VNrjHIkh0



八幡「えらく真剣な声音で訊くと思ったらそんな事かよ……」

凛『あははは。……まぁ、プロデューサーからしたら今更かな』

八幡「おう」

凛『そこは否定してよ』



と、また凛は小さく笑う。
あまり本気で心配しているようではなさそうだ。



八幡「まぁ、奉仕部にも一応顔出しときたいしな。……一人、挨拶しとかないとうるさそうなのもいるし」

凛『誰の事だかすぐわかるね。……じゃあ、雪乃と結衣によろしく言っといて』

八幡「ああ」

凛『そういえば今日は奈……え? ああ、うん。今行く』



話してる途中で誰かに呼びかけられたのか、若干声が遠さかる。



凛『ごめんプロデューサー、そろそろ移動だから切るね』

八幡「大丈夫だ。レッスンしっかりな」

凛『うん。それじゃ』



そこで通話は切れる。
かけてきた方から電話を切る、というマナーもしっかりしていてプロデューサーは嬉しいです。



八幡「さて……」



時間を確認。予想はしていたが、ちょっとこれは怪しくなってきたぞ。
まぁでも、ほら、担当アイドルとの電話を無下にするのもね? 電話しながらチャリとか、危ないし。やっぱ電話したくらいじゃラッキーカラーとは認められないのかしら……


そんな言い訳もほどほどに、俺は全力でペダルを漕ぎ出した。坂道くぅーん!





260 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/02/14(火) 01:38:54.99 ID:VNrjHIkh0










八幡「……………………はぁー……」



つ、疲れた……
まさか、ここまで精神的にやられるとはな……俺もさすがに予想外だった。

机につっぷしていると、横から怪訝な声が聞こえてくる。



雪ノ下「そんなに干物みたいになって、どうかしたの比企谷くん。まさか本当に干されたわけじゃないでしょうね」

八幡「安心しろ。俺が言うのもなんだが、うちの担当アイドルは絶賛活躍中だ」

雪ノ下「ええ。もちろん知っているわ」



つっぷしたまま顔だけ向けてみると、雪ノ下雪乃は涼やかに笑みを浮かべていた。

ほう。冗談だとは思ったが、まさか知っていると返されるとはな。もしかして凛のことチェックしていらっしゃる?



由比ヶ浜「最近テレビでよく見るようになったよねー。録画忘れないようにするの大変だよ」



そう困った風には言うが、由比ヶ浜結衣の表情は笑顔だ。お母さんかお前は。……確かに気持ちはわかるけど。最近録画超大変。



八幡「……けどまさか、その余波を俺が食らうことになるとはな」

雪ノ下「余波?」



俺の発言に首を傾げる雪ノ下。由比ヶ浜は事情を知っているため複雑そうに苦笑している。



由比ヶ浜「確かに、今日は凄かったね。休み時間とかは特に」

八幡「別のクラスからわざわざ見に来るとはヒマなこった」



そこまで言った所で合点がいったのか、雪ノ下は納得したように頷く。


261 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/02/14(火) 01:40:14.65 ID:VNrjHIkh0



雪ノ下「成る程。……つまりは野次馬ね」



その言葉で、自然と眉をよせてしまう。

確かに変態発言と共に俺がプロデューサーである事は公表したが、まさか凛が有名になった事でここまで俺に興味が注がれるとは思ってみなかった。

クラスの奴らの視線や囁きなんてまだ良い。休み時間になれば更に多くの喧騒が廊下から聞こえてくる。調子に乗ってどうでもいい話をふっかけてくる奴も中にはいた。まぁガン無視したんだが。



八幡「もううるせぇこと。あんなに始業のチャイムが嬉しく感じた事はねぇよ」



寄ってたかって、何が楽しいんだか。しかも一目見たら勝手にあんなもんかと鼻で笑って去るんだからそういう奴が一番腹立つ。凛の前でやったら小指折るからな?



八幡「しかも、最後の休み時間とかあいつも来たからな……」

由比ヶ浜「ああ、なおちんね」



そう、奈緒だ奈緒。なんであいつ来るかなー。しかも特に用事も無くダベりに来ただけって……君アイドルの自覚ある? いや、なんか休み時間にダベるって普通の友達っぽくて、ほんのちょっと、ほーーんのちょっとだけ嬉しかったけど、アイドルよ君?

……あれ、もしかして占いの“まさかの出会い”ってこの事か? 憧れの人どころか割と普段会う人なんですが。やっぱラッキーじゃねぇ。



由比ヶ浜「でも凄かったねー。なおちんが来たら途端にざわつきが増えたもん」

八幡「そら増えるわな」

由比ヶ浜「それでいて普通にヒッキーに話しかけるんだもん」

八幡「……そら気も遣うわな」



あまりに気にしてなかったもんだから思わず小声で注意したけど、あいつは何の気無しに「ん? ああ、もう慣れたよ」って言うんだもんよ。そらお前はアイドルだからそうかもしれんけど、俺は慣れてねーんだっつーの!



雪ノ下「流石に同情に値するわね。半分くらいは」

八幡「残りの半分は何なんだよ」

雪ノ下「三割は変態発言による自業自得。二割は因果応報ね」

八幡「それ殆ど同じ意味なんですが」



あるいは、身から出た錆とも言う。


262 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/02/14(火) 01:42:13.22 ID:VNrjHIkh0



雪ノ下「でも良かったじゃない。いつもよりは短く済んで」

由比ヶ浜「そうだよ。今日来れてヒッキー運が良かったね」



そう言って、雪ノ下と由比ヶ浜はそれぞれ“弁当”へと手をかける。

そう。今は昼だ。だが決して昼休みではない。放課後だ。放課後ティータイムだ。いや違う違う言いたいのはそんな事じゃなくて……


つまり、今日は午前授業だったのである。いわゆる半ドン。


……今日び半ドンとか言わないか。平塚先生くらい?



八幡「……メシ食ったら、お前らはどうするんだ?」



自分のパンを齧りつつ、二人に尋ねる。
しかしまさか部室で三人で昼飯を食うことになるとはな。ある意味じゃとても珍しい。



由比ヶ浜「あたしはこの後優美子たちと予定あるから、食べたら行くよ」

雪ノ下「私も予定があるわ。だから部活は今日は休み。……それとも、あなただけでもやっていく?」



意地の悪いような笑みで尋ねてくる雪ノ下。俺がどう答えるか分かってて聞いてるだろお前。



八幡「遠慮しとく」

由比ヶ浜「うんうん。折角の休みなんだから、ヒッキーもたまにはゆっくりしなよ」



笑顔でそう言う由比ヶ浜。
ゆっくり、ねぇ。



八幡「…………」

由比ヶ浜「ヒッキー? どうかしたの?」

八幡「ん。いや、何でもない。食い終わったし、俺はそろそろ行くわ」



由比ヶ浜は早っ! と驚いていたが、特に気にせずゴミを片付ける。


263 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/02/14(火) 01:43:26.70 ID:VNrjHIkh0



八幡「んじゃあ、また」

由比ヶ浜「うん。たまには顔出してよー!」

雪ノ下「さようなら」



軽く手を挙げ、部室を後にした。



八幡「ふう……」



廊下は静けさに包まれており、何故だか少しだけもの寂しさを感じた。

ゆっくりしなよ、か。



八幡「……そう思って来たんだがな」



小さく呟いて、自分で自分の発言に気恥ずかしくなる。
何を言ってんだか、俺は。


これからどうしようかと考えながら、歩を進める。



とりあえず、運は良くねぇわ。やっぱ。





264 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/02/14(火) 01:44:30.29 ID:VNrjHIkh0










ちひろ「なるほど。それで寂しくなって、休みの日に事務所へ来たと」

八幡「誰も言ってません」



場所は打って変わってシンデレラプロダクションは休憩スペース。
向き合うようにソファに座るは、事務員千川ちひろさん。今は休憩中なのか珍しく寛いでいる。



八幡「俺はただ、休日だし家にいるのも勿体ないなーと思って都内に出て、近く寄ったし折角だからーって顔を出しただけですよ」

ちひろ「まず比企谷くんが家にいるのを勿体ないと思う時点でおかしいです」



そ、そんな事ないよ? 思うよ? ……いややっぱ思わねぇわ。何時間でも潰せる自信ある。



ちひろ「あと、どうせ明日また来るのにわざわざ寄る意味が分かりません」

八幡「そこまで言います?」



まぁその通りなんだけどさ。



八幡「……別に、ただの気まぐれですよ。他意はありません」



実際嘘はついていない。どうしようかと彷徨っていたら、自然と事務所へ足が向かっていたのだ。……あれ、これもしかして社畜化の予兆始まってない?



ちひろ「もう、そこは素直に寂しかったから遊び来たで良いんですよ♪」

八幡「死んでも言わねぇ」



大体、本当に寂しいなら家に帰るわ。だって家には小町がいるんだよ? これ以上の癒しがあるだろうか。いや無い! 妹最高! こっちの方が気持ち悪かった。



ちひろ「あと、それはそうと……」



ジーっと、ちひろさんの視線を一身に感じる。
しげしげと見やるちひろさんはまるで審査員のようだ。いやどっちかって言えば鑑定士?


265 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/02/14(火) 01:45:45.80 ID:VNrjHIkh0



八幡「どうしたんすか」

ちひろ「いえ。……制服姿の比企谷くんが、新鮮だなーと」



ちひろさんのその言葉に最初は何をと思ったが、言われてみれば確かにな。
よく考えてみれば、制服を着て事務所へ来たのは初めてかもしれない。



ちひろ「そうですよね、比企谷くんも学生なんですよね。変に大人びてるから時々忘れちゃいそうになりますね」

八幡「変には余計です」

ちひろ「無駄に大人びてるから」

八幡「悪化してます」



なんかこの人どんどん俺に遠慮無くなってない? いやこの人に限んないんだけどさ。最近事務所のカーストでもどんどん下へ向かっているように感じる……アイドル怖い……



「コーヒーはいかがですか?」

八幡「え? あ、どうも」



そこで割って入る甘ったるい声。急な申し出に、思わず背筋を伸ばす。これがプロデューサー経験によって培われた脊髄反射である。

コーヒーを淹れてくれたのは、何故かメイド服を着用しているポニーテールの女……の子。

ご存知我らがウサミン星のアイドル、安部菜々……さんである。



菜々「ちひろさんもどうぞ♪」

ちひろ「あ、すいません菜々さん! 私が淹れて貰ってしまって……」

菜々「良いんですよ! ちひろさんも休憩中くらいはゆっくりしてください」



なんとも和やかなやりとり。
……ちひろさんの呼び方はセーフなんだな。



菜々「砂糖とミルクはいりますか?」

八幡「すいません。頂きます」



軽く会釈して、少し多めに貰う。やっぱコーヒーは甘くないとね。うん。
しかし菜々さんは俺の言い方が気に入らなかったのか、眉をムッとつり上げ(かわいい)、抗議するかのように言ってくる。



菜々「もう、比企谷くんったら。同い年なんだから、敬語じゃなくたって良いんですよ?」

八幡「は、ははは」


266 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/02/14(火) 01:47:01.87 ID:VNrjHIkh0



やべぇ、こういう時って何て返したら正解なんだ……

しかし俺が困っていると、菜々さんの視線がやや下に向いている事に気付く。これはもしかしなくても…



菜々「わー! それ、総武高校の制服ですよね!」

八幡「え、ええ」



やはりというか、予想通り俺の格好を見ていた。



菜々「そっかぁ、比企谷くんは総武校の生徒でしたもんね。女子の制服は奈緒ちゃんがたまに着てくるけど、男子の制服は久しぶりに見たなぁ…」



まじまじと見てくる菜々さん。なんだか酷くこそばゆい。
……しかし、久しぶりとな。



八幡「あ、安部さん?」

菜々「可愛いデザインですよね〜。懐かしいなぁ……」

八幡「安部さーん…」

菜々「……ハッ!?」



と、ようやく我に返る菜々さんじゅうななさい。ちょっと遅過ぎる気もする。いや婚期がとかじゃなく。



菜々「あ、あーいやー違うんですよ? 懐かしいっていうのは、その、昔よく知ってたとかそういうんじゃなくてですね、ま、前々から、知ってたという意味で、と、とととにかく違いますからね!?」



言うや否や、ぴゅーっとあっという間に去って行ってしまった。
なんとも心配になる。あれで隠せてると……いや、皆まで言うまい。あれも魅力の一つ。



ちひろ「世の中には、知らなくても良い事がありますからね……」

八幡「このタイミングでその台詞は悪意を感じますよ」



まぁ、言ってる事には概ね同意だが。



ちひろ「それじゃあ、私もそろそろ仕事に戻ります。比企谷くんはゆっくりしていってくださいね」

八幡「ええ」

ちひろ「あ。あと知っているとは思いますけど、凛ちゃんは遅くまでレッスンなので直帰するそうですよ」

八幡「…………」



知ってると思うなら何故わざわざ言うんですかね。

悪戯っぽい笑顔を残し、敏腕事務員はデスクへと戻っていった。


267 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/02/14(火) 01:48:26.32 ID:VNrjHIkh0



八幡「さて……」



それからというもの、特にする事も無いので事務所をぷらぷら。
だがこれがまた、色んな奴に声をかけられる。


サボってる杏とダベったり。

白坂から借りたDVDをもう勘弁して下さいと頼みながら返したり。

上田の着ぐるみの修復を手伝ったり。

前川にカマクラの写真を見せて自慢したり。

蘭子に黒魔術教えたり。

城ヶ崎姉妹に制服姿でプリクラ撮ろうとごねられたり。

……なんだか不意に視線を感じたり。


いつのまにやら色々とやっていた。
こうしてみると、仕事中とはまた違った面が見えてくるな。

……最後の視線はほんと謎だが。なんかバレンタインがどうのって呟いてたような気もする。


そしてそろそろけーるかなー、と考えていた時。



「八幡P!」



背後から、またもや声をかけられる。この呼び方は…



光「制服だなんて珍しいね。今日はお休みなのか?」

八幡「光か。まぁな」



相も変わらず、やけにキラキラした瞳を覗かせる黒髪の少女、南条光。
年端もいかないように見えるが、こう見えて中学二年生である。



光「あ、そうだ! 八幡P、昨日は見た? もちろん見たよね!」

八幡「昨日?」



はて。昨日は何かやっていただろうか。もしかして占い? んなわきゃないか。



光「え。もしかして見てないの?」

八幡「悪い。何を…だ……?」



と、そこで尋ねる途中でようやく思い至る。

そうだ、話を振ってきたのは何を隠そう光だぞ? となれば、確認する番組などその手のものに決まっている……!


268 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/02/14(火) 01:49:44.92 ID:VNrjHIkh0



八幡「あ…ああ……!」

光「そうか……見逃したか」

八幡「……し、しまったぁぁぁ!!」

光「キュウレンジャー……あとエグゼイドも…」



プリキュアもなぁ!!



八幡「い、いや待て。大丈夫だ。毎週録画設定にしてあるから、ちゃんと録画されてるはず! よっしゃラッキー!」

光「本当に見てないの? ……あれ、でもさ、エグゼイドとプリキュアはともかく、キュウレンジャーは新番組だからそのまま録画されないんじゃ……いやでも、どうなんだろう。テレビによるのかな」

八幡「」

光「……ダメなんだね」



“新しいスタートを見逃さないで”って、そういう事ぉ!? ってか昨日の朝の放送なんだから既にもう見逃してんじゃねぇか!!



八幡「畜生……俺の、一週間の楽しみが……」

光「八幡P……」



がっくりと膝をつく俺に、光はそっと手を差し伸べる。



光「アタシん家のテレビ、録画してあるからさ。今度一緒見ようよ。ね?」

八幡「光……」

光「アタシは人を笑顔にする為にアイドルになったんだ……だったら、プロデューサーを笑顔にしたっていい!」

八幡「さすがにその台詞のねじ込みは無理があると思う」



とりあえず、どうにか2話から視聴という事態は免れそうだった。
これも持つべきは臨時担当アイドルという奴か……

よっしゃラッキー!



光「やっぱり本当は見てるだろ」





269 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/02/14(火) 01:51:35.21 ID:VNrjHIkh0










ゆっくりと歩みを進める。


もうすっかり夕暮れ時だ。遠くの空を見れば、微かに星空が見える。今日は天気が良かったからきっと奇麗だろうな。



八幡「……はぁ」



なんだか、どっと疲れた。

たまの休日だし、今日はゆっくりするはずだったんだがな。なんだかんだで下手したら仕事よりも活動したかもしれない。自業自得……で片付けるのはさすがにもう嫌だ。

だがまぁ、次でたぶん最後だ。
最後の最後に、もうひとイベント。



八幡「……どうしたんだ。急に呼び出して」



歩みを止め、少し先に立つ少女へと問いかける。

店の前で待っていた少女は、俺の担当アイドル。そして傍らには、その愛犬。



凛「ん。何となく、ね。迷惑だった?」



ハナコを抱え上げ、こちらへ笑顔を見せる凛。



八幡「……若干」

凛「もう。そこは少しくらい見栄を張ったら?」


270 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/02/14(火) 01:52:41.77 ID:VNrjHIkh0



呆れながらも、凛に別に怒る様子はない。



八幡「お前は知らんかもしれんが、これでも色々あったんだよ。ちょいと疲れた」

凛「ふーん。まぁ、これは歩きながら聞くよ」

八幡「歩くのは確定なんですね……」



そりゃまぁ、メールには『ハナコの散歩に付き合ってくれる?』とは書いてあったけども。



八幡「お前、レッスン終わりだろ。平気なのか?」

凛「うん、大丈夫。レッスンも思ったより早く終わったからさ。だから、久しぶりにハナコの散歩に行こうかと思って」

八幡「そりゃ、殊勝な心がけなことで」



歩きつつ、凛の隣に並ぶ。



凛「プロデューサーこそ、疲れてたなら断っても良かったのに」

八幡「生憎と帰る途中でな。家についてたら断ってた。良いタイミングだよほんと」



これはマジ。あともうちょっと遅かったら愛しの千葉へ帰ってたね。そしたらもう俺に成す術はない。家路一直線だ。



凛「そっか。じゃあ運が良かったんだね。……占いもバカにならないかも」

八幡「ん? 何か言ったか今」

凛「ううん。何でもないよ!」

八幡「あ、おい!」


271 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/02/14(火) 01:54:14.70 ID:VNrjHIkh0



ダッと、凛が駆け、ハナコもそれに続く。

俺は、それに遅れないようにと、追いつく為に走り出す。



凛「ほらほら、新しいライブも近いんだから、プロデューサーも気合い入れないと!」

八幡「俺が…走る……意味、が……っ……あんのかよ……!」



散歩だと聞いていたのに、これじゃあマラソンだ。明日筋肉痛になっていない事を祈るばかり。

本当、忙しない休日だったな。断言するが、絶対運は良くはない。こんだけ疲労困憊なんだから間違いない。


……けど、非情に不本意なことに、運が良いかと楽しいかどうかは別だしな。






凛「ほら早く、プロデューサー!」


八幡「分かってるよ! ったく……」






だからこの胸中に広がる気持ちは誰にも言わないし、言葉になんて絶対しない。



楽しかった、なんて。死んでも言ってやらねぇよ。






終わり


272 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/02/14(火) 01:55:55.86 ID:VNrjHIkh0
今回はここまで! 凛ちゃんも獅子座でしたというオチ。

前に番外編もう書かない的なことを言いましたけど、すいません。たぶんまた書きます。
273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/14(火) 02:04:28.95 ID:lnFQpONTO
おつおっつ、いつもまとめとかpixivで見てましたがついにスレでコメができた!
番外編も楽しく読めるので問題なしです、また続き楽しみに待ちます!
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/14(火) 02:06:18.20 ID:2ce3460To
乙乙
>>蘭子に黒魔術教えたり。
が目に入って時間が止まったけど八幡も昔は病気だったんだ

ところで2月14日ですね。
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/14(火) 03:51:26.86 ID:Ke8UzLFoO
リハビリがてらってまたしばらく来ないんなら意味なくね
毎回かなり期間空くんだしさっさと本編進めてほしいわ
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/14(火) 07:18:16.74 ID:wNd1wIBEO
リハビリってなんだ?
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/14(火) 07:27:40.39 ID:cvppzqyco
>>276
>>253
言葉自体の意味ならググれ
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/14(火) 10:23:14.52 ID:2G1Y2Bx+0
今回も最高でした!!
にしてもここも荒らしが増えましたね…
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/14(火) 10:46:16.11 ID:VxOJn5DUo
やみのま!
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/15(水) 03:12:44.54 ID:xNvhaTJ9o
乙です
281 : ◆iX3BLKpVR6 [saga sage]:2017/03/02(木) 23:29:38.87 ID:/EP0qo3b0
週末に更新予定です。恐らくは日曜になるかと……いつも遅れてすみません。
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/03(金) 00:03:58.57 ID:+tvKpnTqo
待ってます
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/03(金) 00:47:40.52 ID:yjJxG6A5o
ういー
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/03(金) 01:10:45.62 ID:gofuYyf/o
待ってる
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/03(金) 01:16:48.85 ID:FUTiI/JbO
完結まであと何年かな?
286 : ◆iX3BLKpVR6 [saga sage]:2017/03/05(日) 23:23:52.11 ID:w+37A3sY0
本当に申し訳ない……今日もちょっと無理そう…
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/05(日) 23:25:52.34 ID:By4GzjP9o
また待ちます
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/06(月) 00:00:28.86 ID:DqO2Cf0D0
日付変わったぞ?
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/10(金) 00:00:53.84 ID:y8ab2GDH0
気長に待ってる
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/30(木) 23:33:19.77 ID:5D1ULMucO
全然来ないな、Twitterではけっこう色々つぶやいてるが
291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/04(火) 21:49:39.60 ID:1aSLFlDs0
はやく書いてくれよな〜頼むよ〜
292 : ◆iX3BLKpVR6 [sage]:2017/05/12(金) 11:01:38.28 ID:BC4l2DEKO
生存報告です。もうしばしお待ちを…
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/12(金) 16:08:43.96 ID:lxBbKR1So
待つ
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/12(金) 16:28:07.82 ID:zKTAgIcVo
うぃー
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/05/17(水) 00:09:14.20 ID:/xlOrRna0
更新待ってます
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/05/17(水) 00:10:51.15 ID:/xlOrRna0
更新待ってます
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/05/17(水) 00:12:24.43 ID:/xlOrRna0
更新待ってます
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/23(火) 15:24:59.35 ID:DIAJgATO0
自分のペースで良いよ、ゆっくりやってくれや
299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/12(月) 19:16:02.93 ID:gvHYufLYo
うにゅ
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/03(月) 23:25:23.19 ID:wg+VCHlTO
暇つぶしにage
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/04(火) 20:49:05.07 ID:LyPttw320
Twitterは結構更新されてるんだけどなぁ・・・
終わらせてくれると良いんだが
302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/04(火) 21:34:15.78 ID:g9zNa0TZO
こんな糞スレさっさと落とせよ
303 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/07/30(日) 21:01:48.93 ID:GkWVUZ420
大変永らくお待たせしました。10時頃、更新開始します!
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/30(日) 21:37:45.28 ID:Los1KYOOo
良かった
305 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/07/30(日) 22:05:21.16 ID:GkWVUZ420










午前午後と探索を続け、時刻は既に夕方7時過ぎ。
あれから部屋を全て探索し、通路も含めてあらゆる場所を探し尽くした。だが……



楓「……やはり無いですね、どこにも」



一つ溜め息を吐き、少しだけ残念そうな表情でご飯を食べる楓さん。
あまり落胆した様子じゃないのは、恐らく見つかるとは思っていなかったからだろう。楓さんに限らず、凛や鷺沢さんも。

ちなみに夕食会場には既に全員が揃っている。さすがに昼から酒というのは自重したのか、大人組には酔っぱらった様子はまだ無い。いや、もう日本酒あけてるから時間の問題なんだけども。



早苗「ったく、これだから探偵は頼りにならないわね。やれやれだわ」

八幡「それじゃ、刑事さんは何か手がかりでも掴んだんすか」

早苗「いや全くこれっぽっちも」



ですよねー! むしろ清々しいくらいの開き直りであった。



凛「これから、どうしようか」

文香「そう、ですね……ここまで手がかりも無いと、さすがに…」



うーんと、一同がメシを突きながらも頭を悩ませる。

だが悲しいかな、その温度差が違うのが微妙に分かる。向こうの未成年側はそんなでもないけど、こっちとかトーンがガチである。マジで重要案件なんですね……


306 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/07/30(日) 22:07:02.14 ID:GkWVUZ420



早苗「まぁ仕方ないわ。一応リミット的にはまだ二日ある事だし、今夜はとりあえず……」

八幡「……とりあえず?」

早苗「飲むわよっ!!!」



ですよねぇー!! 分かってた、八幡分かってた……


その後2時間程だろうか。やんややんやと騒ぎつつ(主に大人組が)、姦しい戯れも程々に、前乗り二日目の夕食は終了した。……なんでああいう宴会場ってカラオケ常備してあるんですかね。いや、多くは語らないけども。

宴会場から出た時点で、未成年組は各々が部屋へ。案の定俺は大人組の二次会へと誘われたが、何とかかんとか頼み倒して遠慮した。単純に嫌だったという理由もあるが、うちの探偵さんの言う作戦会議があるからな。ここで連行されるわけにもいかない。単純に嫌だっていう理由がデカいが。

しかし楓さんは付いて行っていたようだったが、大丈夫なのか? まさか言った本人が忘れていたりはしないだろうな……


多少不安になりながらも自室で待機していると、先に凛と鷺沢さんが尋ねてきた。この2人も何と言うか律儀だな。



凛「楓さんはまだ来てないんだ」

八幡「ああ。忘れて飲んだくれてなきゃいいが」

凛「さすがにそれは……」



無い。とは言い切らない辺り凛にも不安が見て取れる。ってか表情に出てる。



文香「二次会に少しだけ顔を出して…その後に来るつもり、なのでしょうか……?」

八幡「まぁ、もう少し待って……ん」



と、そこで携帯が振動している事に気付く。恐らくメール。楓さんか?



八幡「………………………………」

凛「ど、どうしたの?」



携帯を見て動かなくなってしまった俺に、凛は心配するかのように尋ねてくる。俺は無言で携帯の画面を2人へと向けてやった。


307 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/07/30(日) 22:08:32.05 ID:GkWVUZ420



凛「……『申し訳ありませんが、早苗刑事に逮捕されてしまったので、あと30分程待っていて貰えますか?』……ね」

文香「……文章に反して、随分と楽しそうに乾杯する写真が添付されていますね…」



ミイラ取りがミイラに……じゃねぇな。確実に確信犯だろこれ!



八幡「本当に30分で来るのかも怪しいな……」

凛「さすがに、それは……」



無い。とはやっぱり言えないようだった。
楓さんの信頼度ェ……



八幡「……」

凛「……」

文香「……」



そして、沈黙。

え、何、このまま30分待機?



八幡「……とりあえず、トランプでもやるか?」

凛「なんで持ってるの……」



ツッコミつつ、特に反対意見は出さない凛。まぁ、ヒマだしね……
あと別に、これは俺が用意したわけではないぞ。泊まりで撮影だっつーから、小町が勝手に押し付けてきただけで。べ、別にお前らとトランプがしたかったんじゃないんだからねっ!


とまぁその後三人で何故かトランプに興じるという意味不明な時間を過ごし、楓さんがやって来たのはババ抜き3回七並べ2回を終えもう飽きつつある時であった。一時間近くかかったぞオイ……


308 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/07/30(日) 22:10:06.89 ID:GkWVUZ420



楓「ごめんなさい、最初は怪しまれない為に顔だけ出すつもりだったんだけど……ね?」



いや、ね? じゃない。そんなに可愛くウインクしてもダメ。ってか大丈夫? もう大分お酔いになられてますよね??



八幡「そんなんで作戦会議できます?」

楓「大丈夫。それよりも、比企谷くんこそ大丈夫? いつもより顔が白いけれど。まるで女の子みたい」

八幡「そっちは鷺沢さんです」



まるでっていうか女の子である。完全に出来上がってるじゃねぇか!

水を飲ませ、落ち着かせ、何とか人物の判別が出来るようになった所で、ようやく本題へと入る。ただ面子のテンションが大分どうでもよくなってきているのは秘密だ。



楓「……ふぅ。それで、今後の方針なんですけれど、私に一つ考えがあるの」

八幡「考え?」



今更そんなキリッとした表情になっても遅いですよとか、余計な雑念は頭から追い払い、探偵さんの言葉を待つ。



楓「とりあえず整理しましょうか。昨日今日と、武蔵の詮索をずっと続けていたわけですけど、結局見つからないまま……つまり、可能性としては大きくわけて二つ考えられます」



ピースを作るように、二本の指を立てる楓さん。



文香「二つ……ですか?」

楓「ええ。誰かが武蔵を持ち出したと仮定した上で、の二つですけど」



今日は二人一組による各部屋の捜索(+早苗さんの個人捜査)。そして昨日の事件発覚後にも、各自の自室を念のため軽く調査した。勿論、そこにも剣聖武蔵の姿は無かった。

旅館の方にも確認し、考えられる所は全て探した。その上で、楓さんが上げる二つの可能性……


309 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/07/30(日) 22:11:15.33 ID:GkWVUZ420



楓「まず一つは、あまり考えたくない事ですが……」

八幡「……」

楓「……あまり、考えたくはない事なんですが…………」

八幡「分かりましたから進めてください」



あくまで仮定の話だってのに、自分の考えにそんなに落ち込まないで頂きたい。



楓「……既に無い、つまり飲んでしまったか、処分してしまったという可能性、ですね」



どんより、本当に、そんな事実を認めたくないという風に言う楓さん。



楓「ただあの暗闇の間だけで全て飲み干すというのは難しいと思うので、何かに移し替えたか……」

文香「水道に、流したとか……」

楓「……」

凛「ま、まぁ確かに、それなら中身の処分は楽かもね」



また楓さんの表情が哀しげになってきたので、凛が取り繕うように話を進める。



楓「……瓶の方も、ラベルさえ剥がしてしまえば恐らく分からないと思うわ。一階の厨房の近くの廊下に空瓶置き場があったから、あそこに置かれたら気付かないでしょうね」

文香「なるほど……確かに大広間からもそう遠くありませんね…」



ふむふむと、思案するように頷く鷺沢さん。まさにその姿はさながら安楽椅子探偵のようにも見える。



八幡「ただそうなってくると……」

楓「ええ。やっぱり、動機が分からないのよね」



そう、動機。これが一番の謎だと言ってもいいだろう。
移し替えたならまだしも、処分したとすれば本当に意味が分からない。もはやただの嫌がらせだ。普通に考えれば、そんな事をしたがる奴がいるとは思えないだろう。


310 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/07/30(日) 22:14:57.39 ID:GkWVUZ420



楓「一応、動機についての予想は無いことは無いんですが……」

凛「そうなの?」

楓「…………」



視線を下げ、考え込むようにする楓さん。だが、すぐに顔を上げ笑みを浮かべる。



楓「まぁ、とりあえずそれは置いておいて、もう一つの可能性の話をしましょうか」

文香「……」 こくっ



神妙な顔つきで頷く鷺沢さん。

なんだかいつも以上に食い気味に話を聞いてるな。もしかして思った以上に推理している楓さんにミステリーを嗜む者として何か揺り動かされたのだろうか。その瞳には、心なし期待が見て取れる。



楓「もう一つは……隠し持っている、という可能性です」

凛「隠し持っている……?」



楓さんのそのシンプルな言葉に、少し拍子抜けしたように反芻する凛。



凛「それは、そうかもしれないけど……でも、殆どの場所は探したよね?」



凛の言い分は最も。さっきも言った通り、昨日、今日と、俺たちは探せる場所は粗方探し尽くした。



楓「ええ。でも、まだ探してない所もあるわよね? 例えば……」



そこで、ジッと楓さんの視線がある一点へと注がれる。
皆がそこへ同じく視線を向けてみれば、あるのは一つの旅行鞄。

つまりは、俺の荷物。



楓「……それそれ個人の荷物までは、調査はしていないでしょう?」



不適に笑う楓さん。

そう、その通りだ。確かに俺たちは各部屋の捜索はしたが、さすがに鞄などの荷物の中までは見ていない。というより、あえてしなかったと言った方が正しいか。



楓「そこまではしたくない、という気持ちが全員にありましたからね。私もそこまでするべきではないと思っています」


311 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/07/30(日) 22:16:31.73 ID:GkWVUZ420



もしも荷物の調査を、なんて言い出せば、それは疑っている事に他ならない。そこまでする必要な無いと、暗に全員が思っていた。無闇に人間関係を乱すのは得策ではない。……まぁ、その発想自体無い奴らも数名いそうではあるが。



楓「だから、これは最初に言ったようにただの可能性。実際に私物のチェックをしようなんて言いませんよ」

凛「楓さん……」

楓「しようがないですからね……ふふ」

凛「…………」



頼むからセルフで上げて落とすスタイルをやめて頂きたい。



文香「それでは、先程言っていた方針というのは……?」

楓「ええ」



楓さんの推理によってまとめた情報。可能性は二つ。
誰かが既に処分してしまったか、隠し持っているか。

だが、捜査としては私物のチェックをしない以上、これ以上手を付けようがない。

そこで楓さんが提案したのが……



楓「直接勝負と行きましょう」

凛「…………え?」



素っ頓狂な声、というのが正しいだろう。凛だけではない、鷺沢さんも、さすがに予想外だったの目を丸くしている。



凛「直接、っていうのは……」

楓「アリバイ確認をした時に嘘をついていた方たちへ、何故嘘を付いたのか訊くんです。分かりやすいでしょう?」

凛「分かりやすいっていうか……」



むしろドストレート過ぎるくらいである。それ私物のチェックさせてくださいってのと殆ど変わらない所が、むしろ酷くなってる気がするんですが……


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