【ガンダム00】沙慈「僕の義兄はフラッグファイター」

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116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/01(土) 07:34:59.42 ID:AdFl6cWAO
宇宙ネズミ「そんなの当たり前じゃん」
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/01(土) 11:38:36.05 ID:ReziDA1jo

沙慈くんはシスコンだなぁ
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/01(土) 20:05:29.38 ID:3jjdMafTO

ついにトランザムか!(まだ早い)
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/03(月) 11:28:39.91 ID:rsShT9KP0
もう来週だぞ…!私は我慢弱い。
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/03(月) 11:57:42.06 ID:5NVuRwgpo
声優つながりだがアルトもこれくらい飛ぶことへの渇望があればなあ…
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/03(月) 12:07:00.12 ID:cWmp8XBpo
>>115
そう書くとアインが糞ザコに聞こえる不思議
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/03(月) 14:24:51.72 ID:5NVuRwgpo
まあ一番阿修羅ってた時期だからしょうがないね。
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/03(月) 16:09:16.91 ID:SKNCyAmGO
ぎっちょんマダ?
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/04(火) 00:53:42.57 ID:h5AGFNCso
そういやハムって孤児だからサジの姉ちゃん取られる!って感情まったく理解できないだろうな
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/04(火) 21:16:13.27 ID:kIuvujcT0
まぁ恋い焦がれた空をガンダムにとられたとか、苦楽を供にした部下をガンダムにとられたとかに例えればサジの気持ちも解るんだろうか…
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/04(火) 21:18:38.41 ID:fzOci5N90
尚それを愛に変換してしまう変態の模様
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/09(日) 19:49:23.58 ID:YNsxxza30
後4時間で今週終わっちまう...
まだかな
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/12(水) 20:26:23.77 ID:BDpNw325o
ガンダムの長編は基本完結しないからな
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/19(水) 16:59:54.59 ID:IzDAIJbl0
少年!!!!続きはまだか!!!!
130 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/10/20(木) 03:01:29.43 ID:w48dJ83y0
ううむ、なかなか思ったようには仕上がらない
なもんで試し試しになりますがご容赦を。
約束破ってごめんなさい
131 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/10/20(木) 04:29:26.01 ID:w48dJ83y0

――MSWAD基地・上空――




 陽は既に直上。
 雲一つない蒼天に、影は三つ、翻る。
 見上げる者は数知れず、固唾を呑んで影の一つを目で追っていた。
 
 行われているのは特殊なペイント弾を使用した模擬戦闘。
 二機のユニオンフラッグを相手取り、一機の特殊仕様フラッグの試運転が始まっていた。


「やれますかね、教授」

「分かってて言うのは意地が悪いぞ、カタギリ君」

「失敬。ですが、今回ばかりは鬼胎も芽生えるというもので」

「はっは、こればかりは、我らのさがよな」


 緊張感さえ漂う周囲の空気をよそに、椅子に腰掛け脚組みしながらの観戦に興じる技術者師弟。
 黒の一機を執拗に追い回す淡水色の二機は、旋回と加速を繰り返す標的に食らいついて離れない。
 だが、それでも先行する機体には一発の弾痕さえ確認できず。
 現在発射数、二機を合わせて三十五。
 空に映えるEカーボンの黒色装甲は、ただの一撃さえ許していないという何よりの証拠であった。

 大きく弧を描く三機が空に白を塗りつける。
 制動後に三発、続けて五発。
 追跡者の放った模擬弾は、舞うように回る獲物のすぐ横を通り抜けて、一定距離を進んでから自壊し散った。
 またもや魅せた見事な回避と、オーディエンスは沸き立ち騒ぐ。
 依然、憮然の師弟二人。
 不満げにグラスの氷が音を立てた。


「反応は上々、横ブレも少ない。綺麗な操縦です、が」

「遊んどるんじゃよ、あの阿呆。お上品な運転をしおってからに」

「珍しいですね。社交界デビューのお嬢さまかな?」

「羊の皮にはご退場願え。あやつの本性に付いていけないようでは乗せん方がずっと良い」

「合点承知。十二時の鐘の音は聞こえたね、グラハム?」


『了解した――とくと御覧じろ、御二方』
132 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/10/20(木) 05:01:29.10 ID:w48dJ83y0

 歓声がどよめきに変わり、師弟の顔には笑みが浮かぶ。
 漆黒の機影が、一度再加速を始めた瞬間に、それは起こった。
 一挙に、瞬く間に、追随する二機が離されたのだ。
 
 その速度差、優に倍以上。
 二機のフラッグのぶれが、パイロットの動揺を感じさせた。

 そして次の瞬間、どよめきは歓喜の絶叫に変わる。
 師弟は、コーラの入ったLサイズグラスを優雅に傾け乾杯。

 機首を上げた特殊仕様フラッグ。あまりの上昇速度に二機の反応さえ置き去りにして。
 幾多の視線の目の前で、収納されている四肢を大気に投げ出し、一瞬のうちにスタンド・モードへと移行したのだ。
 高速飛行からの、急上昇中に見せつけられた、流れるような空中変形。

 これこそ、人呼んで【グラハム・スペシャル】
 
 フラッグファイター最優のトップガンにのみ操れる、世界最高峰のMS変形マニューバである。


『勘弁して下さいよ、隊長……!!』

『二階級……特進か……!?』
 

 飛び上がってからの変形、宙返りのように三次元的な旋回を果たすフラッグ。
 虚空に確かに腰を据えるような安定機動、その足の真下を通過しつつある二つの機体を見据え、武器を構える。
 左手に握ったリニアライフル【XLR―04】が火を噴けば、回避機動さえ読み切った四発が一機を真っ赤なペイントに染め上げる。
 たまらず右旋回で遠のく残存機に、彼は悠々堂々と構え直す。
 コンソールが【最大充電】のマークを躍らせれば、引き金とともに飛び出す一撃は先程のそれとは比較にならぬ高初速。
 酷く外した狙いから放たれた一射は、吸い寄せられるように射線に逃げてきた機体を撃ち据えて。

 ふざけて鳴らされたホイッスルを合図に、模擬戦を性能証明と兼ねて終了させるのだった。


 ・
 ・
 ・
 ・



ビリー「やあやあ。お疲れ様、グラハム」ファサ

グラハム「ああ、助かる。カタギリ」ハシ

グラハム「どうだったかな、狼の牙の切れ味は?」

ビリー「最高。そっちはどうだい、こいつの乗り心地は」

グラハム「申し分ない。考えうる限り最強のMSと言えような、このカスタマイズドフラッグは」

ビリー「ガンダムを除けば……だけれどね」フフフ

グラハム「言うな盟友、威光が陰るわけでもあるまいに」 
133 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/10/20(木) 05:06:14.41 ID:w48dJ83y0

また今夜。
戦闘はもっと明瞭にやっていけたらと。
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/20(木) 11:49:02.95 ID:GI10gMcuO
ウッヒョ-!
まってた
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/20(木) 15:20:57.57 ID:Lv6/1k6P0
待ちわびたぞ少年!!
136 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/10/22(土) 02:49:57.95 ID:yAMUn+DQ0


ダリル「隊長、お疲れ様です!」

ハワード「お疲れ様です!」

グラハム「うむ。ご苦労だった、フラッグファイター諸君」

ビリー「いやいや、お見事だったよ二人とも。グラハムの反応に合わせて調整したフラッグに、最高速を出されるまで並んでみせたんだから」

グラハム「あそこまで食いつかれるとは思わなんだ、驚嘆に値する。背を預けるに十全の力量、誇らしいよ」


ダリル「隊長が三連戦の後でなければ、賛辞も心から受け取れるんですがね」ハァ

ハワード「こちとら必死になって追っかけてたってのに、最後はあっさりですもんね。格の違いを見せつけられましたよ」ハハッ


グラハム「おっと、それ以上は非MSWAD隊員の心象を悪くする。静粛に頼むぞ」

ハワード「はっ、失礼いたしました」

ビリー「前半戦はグラハムスペシャルですら出さないままだったからねえ」

ビリー「……というか、君が彼らの段階で本気と性能を見せてくれていれば済んでた話なんだけれども?」チラッ

グラハム「この性能に相応しい対象、状況というものがあるものだよカタギリ」

ビリー「おっと、それ以上は非MSWAD隊員の心象を悪化させかねない。静粛に頼むよ?」シー

グラハム「はは、これは失敬」


グラハム「では、少し汗を流してくるとしよう。後は任せる」

ビリー「ごゆるりと、Mrスペシャル」


ビリー「……ん」


『いやあ、素晴らしかったですね教授!!』

『これなら提供した甲斐以上があったというものです!』


ビリー「さて……あっちの相手もしてくるかな」スタスタ





137 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/10/22(土) 03:03:59.56 ID:yAMUn+DQ0
エイフマン「ふむ、ふむ……」

技師「従来とは一線を画す大出力バックパックスラスター、そして新機軸の特殊電磁加速砲【XLR―04】」

技師「ティエレンだって抜いてみせるこいつの最大出力射に倍以上の足回り、そして中尉の技量ならガンダムにだって遅れを取りませんね!」

アイリス社重役「どうでしょう、このままこの特殊仕様を正式量産型のラインナップに……」

ホーマー「……選択肢には、入れておこう」

エイフマン「ふん……相手は数世代先をゆく正真の怪物じゃ」

エイフマン「これらを数揃えたところで、どこまでやれるかどうか、な」

技師「はぁ……」

ビリー「教授、運び込み、終わりました」

エイフマン「ご苦労。では、今日は失礼する。調整が山積みでね」

エイフマン「……本気に受け取るなよ」ポン

ホーマー「馬鹿になされるな。分かっております」

アイリス社重役「は、失礼致します。では、吉報をお待ちしていますよ」

ホーマー「ビリー、私は戻るが、やつの首輪は確かめておけよ」

ビリー「了解、善処します……と」




ビリー「技師の人、苦い顔してましたね」

エイフマン「それはそうだろうよ、現行機を凌駕するこのカスタムフラッグに賞賛が無いのだからな」

ビリー「素直に言ってみたらどうです、【このフラッグですら、ガンダムには遠く及ばない】って」

エイフマン「儂はグラハムとは違う。他人に事実のみをぶつけて泣かせる趣味は持ち合わせておらん」

エイフマン「……だが、この事実をぶつけねばならん相手は、少なからずおったようじゃがな」

ビリー「正式量産……これを集めても被害総額に上乗せが入るだけですね」

エイフマン「あくまでコイツを完全に操れる中身あっての話よな」


パサッ


ビリー「……それは?」

エイフマン「先日の三点同時武力介入における各地域の被害状況、そして現状かな」
138 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/10/22(土) 03:07:54.74 ID:yAMUn+DQ0
エイフマン「ガンダムは資源採掘場と麻薬生成地域を攻撃、そしてセイロン島への再度の武力介入に踏み込んだ」

エイフマン「テロリストの資金源、国家の運営資金、そして二国への介入行動で事態を悪化させた人革連、全てへの抑止及び警告行動を取ったわけじゃな」

ビリー「結果、世界的にテロ行為、紛争地域の活動自粛、無期限停止宣言が広まりつつある……と」


エイフマン「それはそうじゃよ……本来紛争とは【窮鼠の足掻き】なのじゃ」

エイフマン「政治的、経済的に追い詰められた民族、集団が意地を通す最後の手段。それが通らねば文化も共同体も霧散し、アイデンティティを毟られる、そういうものなのじゃ」

エイフマン「あのような圧倒的な存在に自分らの経済基盤ごと粉砕されるとあっては、もとよりやせ細ったねずみでは牙さえ向けられまい」

ビリー「その足掻きで稼ごうと大国は支援という名の経済活動を行い、弱みに付け込むテロの無差別攻撃が無辜の人々の安息を脅かす。彼らの活動自体には、考えさせられるものがありますが」

エイフマン「奴らに対抗しうるのもその二つだけかな。三大国に国際テロネットワーク……さて、誰が先に牙を剥くか、誰に牙が剥けられるか」

ビリー「――少なくとも【誰かが誰かを直接的に殺害する行為】への嫌悪はあっても、【資金や産業を持たず飢えて死ぬ結果】への呵責は、持ち合わせていないように感じます」フイッ


エイフマン「見せしめじゃな。此度の武力介入、あらゆる手段で紛争継続を阻止するという、公開処刑じゃ」

エイフマン「その結果、経済が崩壊しようとも……いや、むしろそれが狙いなのか……」

エイフマン「まあともかく、ガンダムの思想には大局的とはいい難い思考も見られる……が、かねがねインテリジェンスから生まれた行動ではあるな」

ビリー「全ての武力が戦争幇助に繋がるという行動だけはしていないから、ですか」

エイフマン「武力の一切放棄から転ずる完全平和主義(もうげん)なんぞ唱えはしないかとヒヤヒヤしておったが、まあ、今は様子見かな」



ビリー「はてさて、この介入に対しいち早く行動を見せたのはAEUでしたね」

エイフマン「PMCへの働きかけの強化、イナクトの集中配備。近日間違いなくソレスタルビーイングへ挑発行動を取るだろうよ」

ビリー「結果は、吉と出るか凶と出るか」

エイフマン「こんなもの、ババしか残らんカードゲームじゃ」

エイフマン「だが、こちらも当初の【フラッグ計画】を見直さねばならんかも知れん。時勢を見誤れば奈落、いつの時代もな」
139 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/10/22(土) 03:12:58.02 ID:yAMUn+DQ0
ビリー「おや、【グラハム・エーカー量産計画】と呼ぶと決めたんじゃあないんですか? 教授」

エイフマン「それは我々の間での裏コードのようなものよ。そんなものを上には見せられまい」ワッハッハ

エイフマン「難しくはないはずなのだがな、空中変形の制動解析、OSへの登録……全機体の空中変形の半自動化、な」

ビリー「現状、一回やるだけで関節への負担で機体を丸々調整しなきゃならなくなりますからねえ」

エイフマン「これが完成すれば、運用面でフラッグはイナクトを凌駕し、ティエレンを歯牙にもかけぬ存在になるはずだったのじゃがな」

エイフマン「故に、欲しくもなろうというものよ……」

ビリー「ガンダムの性能……その秘密、ですね」



グラハム「カタギリ」

ビリー「おや、早かったじゃないか。どうしたんだいグラ……」

バサッ

ビリー「……ははは、見てくださいよ教授」

エイフマン「ん?」

グラハム「JNNの広報用ポスター、ソレスタルビーイング特集の一面を印刷してきました」

グラハム「ここに大きく載った画像こそ、我々が彼女に提供したうちの一枚なのですよ」


エイフマン「え、何? まだ続いとったの、お主ら」

ビリー「今更そこですか教授?」

グラハム「ふむ、しかし流石はマスメディアだ。あの中から確かに一番と思える一枚を選択している」

ビリー「ブレと掠れ具合がかえって躍動感を煽るような映りに変わっているね」

グラハム「先程通信を受けたよ、酷く喜んでおられた」

グラハム「甲斐があったとはこのことだな。ふふ、妙にむず痒い」

ビリー「自分たちで撮ったわけじゃあないけれど、もともと余りの画像だし、有効活用は嬉しいもんだねぇ」

グラハム「次は更なる朗報を聞かせられるよう精進せねばならんな!」

エイフマン「……」

エイフマン(何と言おうか)

エイフマン(飼い猫がネズミとか獲って飼い主に持っていくような、そんな空気じゃな)

ビリー(でかいネコだなあ……豹かな?)
140 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/10/22(土) 03:24:27.81 ID:yAMUn+DQ0
エイフマン「……」ハァ

エイフマン「そのための力ならくれてやる、努々努力を怠らぬようにな」

グラハム「上等、一層の高みでもってその施しを受け止めましょう!」バッ

ビリー「お次は何処へ? フラッグファイター」

グラハム「今度こそシャワールームだ!」

ビリー「二度目のごゆるりと、グラハム」


エイフマン「元気なものじゃな。他の兵士などは、命惜しさに軍を抜けようとさえしておるというに」

ビリー「グラハム・エーカーとはそういう男なんでしょう。二の次なんだと思います……そんなものでさえ」


エイフマン「……そのための力か……むしろ、この程度しかくれてやれん己の無力さに歯がゆくなるよ」

ビリー「彼なら大丈夫ですよ教授、概算される敵機の速度には追随可能です、後は……」

エイフマン「足らぬさ。追いつけても決定打にはならず、機動性は言わずもがな」

エイフマン「此方は可能な限りの軽量化のつけで、紙くず同然の装甲で飛ばしているというに」

エイフマン「奴らはティエレンの長距離砲ですら弾いてしまうのだからな」

ビリー「……」

エイフマン「あぁ……奴は止まらない」

ビリー「そこが彼の強さであり、脆さでもある」

エイフマン「かつて話した通りだよカタギリ君。支えてやれ、出来る限りを尽くしてな」

エイフマン「たった一人、されど一人……時代の流れに、ああいう男は居た方が面白い」ニヤリ

ビリー「ええ……全面的に同意いたしますよ、プロフェッサー・エイフマン」ニコリ

 ・
 ・
 ・



絹江「いーそーがーしいー……!!!」グデー


――JNN――


同僚「どうしたっすか絹江さん、せっかくボーナス入ったってのに」ズズー

絹江「コヒー、ちょうだい」

同僚「一ドル」

絹江「ケチ!」

同僚「自費のお高いやつっすから」ズゾゾ
141 :同僚その一(♀)黒ロング小柄三白眼 ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/10/22(土) 03:32:22.29 ID:yAMUn+DQ0
絹江「ええ、ええ! おかげさまでもっと画像や情報ねだれって上からもせっつかれる毎日よ!!」ずずー

同僚「まいどー。いいじゃないっすか、ねだれば。友達なんでしょ、その人」

絹江「あの人にそんなことしたらどうなるか……ゴミでも見るような目で着信拒否が残当よ……!」ガクブル



想像上のグラハム『資本主義の豚め』ジトー



同僚「あの人」

絹江「あー……知り合いの軍人さんよ。気にしないで」

同僚「ふーん……」


同僚「その人、大丈夫、なんすかねえ」ズズー


絹江「え?」


同僚「だって、ガンダムでしょう? 相手は」

同僚「ぶっ壊された最新鋭MSのイナクト、乗ってたパイロットはAEUでも指折りのエースだって話ですよ」

同僚「そんなすごい組み合わせでもあんなに簡単に壊されちゃうってんだから、軍人さんは保険に入れなくなるんじゃないかって、うちの旦那が」

絹江「……だ、大丈夫よ、その人、フラッグに乗ってるし……」

同僚「性能調査で、イナクトとほぼ同等だったらしいっす、フラッグ」

同僚「悪いこと言わないから、軍を辞めといたほうがいいんじゃないですかね。このご時世、どうなるかわかったもんじゃないっすけど」


絹江「……私が、どうこう言えることじゃあないわよ……そんなの」


絹江(ええ、そう……言えたもんじゃあない、私なんかが)


絹江(これだけ短時間の関係でも分かる……あの人は、グラハム・エーカーという人は、たとえ死ぬかも知れなくても飛ぶことを止めない人)

絹江(そうね……生きがいを無くすか、死ぬかなら、気持ちだけは分かる気がする)

絹江(沙慈がいる手前、同じようには生きられないけれど……)

絹江(でも……)



絹江「――なんかやる気、出てきた」

同僚「へ?」
142 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/10/22(土) 03:48:08.45 ID:yAMUn+DQ0
パシンッ

同僚「おぉ?!」

絹江「っつうう……」

絹江「――!」グビッ

絹江「あちゅいっっ!!」ギャー

同僚「コントっすか?」

絹江「……よしっ!」

絹江(軍人だろうとジャーナリストだろうと、生き甲斐への情熱で誰かに負けてなんかいられない……!)

絹江(今起きていることはここ百年の中でも最大級の事件。スクープを目の前に及び腰なんて!)

絹江「父さんに合わせる顔がないんだから……!」


同僚2「どうしたの? また荒れてんの?」

同僚「知らね。なんかいきなりやる気出してる」

絹江「やるぞー!」ウオー

同僚「がんばれー」オー


PPPPPP!!!

『速報!! タリビアが声明発表! ユニオンからの脱退を表明した!!』

絹江「!」

同僚「うお、マジか……!」



「ユニオンが、ガンダムとぶつかるぞ!!」

絹江「始まる……のね……」


 ――タリビアは、ユニオンの太陽光発電の送電権がアメリカの一存で決められていると主張。

 ――自国が送電線の近隣にあることを活かし、ユニオンの脱退と電力の独自使用権を行使すると宣言した。

 ――即日、ユニオンはMSを搭載した空母艦隊をタリビアに派遣。

 ――タリビア危機、と後世では【揶揄】されるこの一件。

 
 ――世界は、ソレスタルビーイングの対応に注目、緊張は最高潮に達していた。

143 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/10/22(土) 04:53:44.18 ID:yAMUn+DQ0



――が。


 ――タリビア・近海――


ダリル「軍は撤退を始めるそうです。ガンダムもいなくなった以上、ここにいる必要もありませんからね」

グラハム「熟知している。やはり、というべきなのだろうな」

ハワード「【ソレスタルビーイングは現在存在している紛争には介入できるが、存在しない紛争には介入できない】」

ハワード「それへの答えがこれというわけですか」

ダリル「今回の一件は、タリビアを紛争の発生原因として介入行動に出ましたが」

グラハム「タリビアがユニオン脱退を取り消した以上、介入は無用と引き返した」

グラハム「もっとも、あの一瞬の間で市街地のMS部隊は相当数が撃破されたと聞く」

グラハム「きっかけさえ掴めれば挑発行為にすら介入できる、いかなる場合でも、いかなる相手でも。それを示したわけだが」

グラハム「ただ、今回一番の利を得たのは……」


――――

絹江「ユニオンだった……というわけね」

沙慈「?? どういうこと?」


――自宅――

絹江「今回、ガンダムはタリビアの軍を攻撃。少なからず死傷者が出たわ」

絹江「タリビアを支援する名目でそのままユニオンはガンダムへ攻撃指示、以降の支援行動も相まって二国の関係は劇的な改善を見せた」

沙慈「雨降って地固まる、ってやつかな」

絹江「ええ、でもね沙慈。もともとタリビアは反米感情の強い、ユニオン加盟国の中でも対米勢力の一角だったのよ」コポポ

沙慈「ありがとう……それで?」

絹江「これでユニオン軍は自国領土へ攻撃されたわけでもなく、タリビアという自分たちの敵を味方に引き入れることに成功した」ズズ

絹江「対ガンダムを名目に送電ラインの安全強化が出来るというおまけ付きでね」

絹江「そして【紛争のきっかけを作ってもガンダムは介入行動に出る】という結果によって、他小国の脱退や二国への寝返りも抑制できるというわけ」

沙慈「タリビアはそれでいいの……?」ズー

絹江「ピエロを演じた見返りは、ユニオンとの関係を強めて送電量の優遇、現政権の支援と安泰、といったところかしら」

絹江「ソレスタルビーイングの行動は読まれていた……それを政治的に活用した【ユニオン】という連合母体がまんまと利を得た」


――――

エイフマン「だが、彼らもまた大きなものを得た」

ビリー「ですね」ハグハグ
144 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/10/22(土) 05:33:10.49 ID:yAMUn+DQ0

――MSWAD基地――


エイフマン「今回ソレスタルビーイングが示した【紛争のきっかけを潰す介入行動】は、彼らを軽んじる芽を尽く潰すだろう」

エイフマン「二の轍を踏めば、今度はタリビアが得た利益の後追いから間違いなく【被害と利潤の追及】が発生する」

エイフマン「高度な政治的判断によって兵士が【捧げられた】のだからな。人命を利用し国家が利益を食らう……」

ビリー「政権維持どころか、そのまま大国に見捨てられて政権崩壊が関の山ですね」

ビリー「おまけにこのことにソレスタルビーイングは糾弾さえ受けない。彼らは昆虫的な目的遂行に殉じただけですから」

エイフマン「もう同じことはできん。見事よな、一回限りの博打にタリビア政権は勝ったのじゃ」

ビリー「タリビアの行動はそういった意味でも完璧だったわけですね。出来レースには無い、思惑の一致から来る最高の連携だった」



エイフマン「まあ、【利潤から来る紛争】に関しては答えは出たと言っていい」

ビリー「彼らがいる以上、封じられていると言っていい……か」

ビリー「フリでも、宣言を出せば国家の信用と威信が懸かる。国と個人の差が、彼らの行動の正確性を上げてしまうのですね」


エイフマン「まあ、それはさておき、我々が考える必要があるのはわずか一分足らずの邂逅の方じゃ」

ビリー「彼は無傷、ガンダムの一機と接触し最大出力のリニアライフルをヒットさせたものの、海中に逃走され戦闘終了」

エイフマン「通用はしてみせたか……【作戦遂行に支障が無い程度の存在】と認知されたら、交戦され撃破されるおそれがあるのだからな」

ビリー「少なからず抵抗し苦戦もしく持ちこたえられると判断させられた、という証拠になりますからね。大いなる一歩でしょう」

エイフマン「雲の上まで続く階段に対する一歩とは……謙虚にも限度があろうな」


――――


グラハム「後は任せる。何か連絡があれば、室内回線でな」

ハワード「はっ、お疲れ様です! 隊長!」


――ロッカールーム――


ガチャ
ガサガサ


グラハム(通用はしてみせた……が、やはり圧倒的だ)

グラハム(航空戦特化の変形ガンダム、あれとまともに対峙できなくてはフラッグが通用していると真に評価することは出来ない)

グラハム(だが……これ以上は私の肉体が限界か。死なば諸共と散華出来るほど人生に悔いているわけでもないのだ、このグラハム・エーカーは)

グラハム(……ん?)
145 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/10/22(土) 05:49:05.09 ID:yAMUn+DQ0
グラハム「携帯端末……」ピ

グラハム「!」


グラハム(着信件数が三十を超えている……)

グラハム(カタギリがふざけて入れたアプリ。着信件数で待ち受け画面のミニリアルドが重なっていくのだが)

グラハム(重なりすぎて画面外から落ちてくる……酷く猟奇的なアプリもあったものだ)


グラハム(送り主は……)

グラハム「!」

グラハム「……ああ、そうか。リアルドが桃色なのはそういう……」

グラハム「……ふっ……」



――――

アーイーヲ、シラーズッ

絹江「! 来た!!」ガバッ

沙慈「わ?!」

絹江(良かった……生きてたんだ)ホッ

絹江(あんな話しされた後じゃ気になって気になって仕方なかったけど……流石に電話しすぎたかな)

沙慈「……姉さん?」


デデデデッデデ(鳩が飛ぶ音)


絹江「ごめん沙慈、ちょっと部屋行ってるから! ご飯食べてて!」ダダッ

沙慈「あ……!?」


沙慈「……電話……」



沙慈「また、アイツか」
146 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/10/22(土) 05:53:51.36 ID:yAMUn+DQ0
ここまでデデデ
次回金曜にまた

147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/22(土) 12:05:22.22 ID:CZbb2jDL0
視聴当時はガンダムカッケーフラッグかっけーで見てたけど
こういう解説(?)付きで振り返ってみると『ガンダム』って作品がいかに
よく出来てるかが分かるわ

アニメや漫画ってこういうのが良いんだよな。子供のころはかっこよくて面白いし
大人になって改めて見るとリアリティさにも惹かれる
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/23(日) 21:28:00.68 ID:yUXMzv/Mo

絹江さんが命より生き甲斐というと洒落にならない……
149 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/10/29(土) 03:50:35.79 ID:Le6+ubIv0
絹江「もしもし!」

グラハム『おはようございます、絹江さん』パッ

絹江「ひゃ?!」ビクゥッ

グラハム『おっと』PP

『失礼しました。モニター表示がONになっていたようで』サウンドオンリー

絹江「あー、はは……いいですいいです。モニター出しててください、ちょっと驚いただけですから」

絹江「というか、私の方は基本オンにしてあるので、そっちがむしろ構わないならって話なのですが?」

『ふむ、言われてみれば最初以外は特に理由がない』

グラハム『てはお言葉に甘えて、女史のご尊顔を拝見すると致しましょう』ヴンッ

絹江「貴方にそれ言われると、何だか皮肉っぽいなあ……?」


絹江「……なんか、血色良くなってませんか?」

グラハム『そうでしょうか。思い当たれば先程は久方ぶりのスクランブル、心が滾らなかったといえば嘘になりますが』

絹江「スクランブルって……貴方らしいっちゃらしいですけど、一回の出撃でそんなに元気になるもんですか?」

グラハム『他者が如何様かは存じませんし興味もわきませんが……』

グラハム『少なくとも私は打撲と風邪程度なら飛んでいれば完治いたします』キリッ

絹江「うん、貴方だけです、それ」
150 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/10/29(土) 03:52:19.27 ID:Le6+ubIv0
絹江(いや、ま……久しぶりに見たのは確かなんだけど)

絹江(あれよね……ほんと、顔は、顔だけはいいのよねえ)ムー

グラハム『! ……』スッ

グラハム『  』ニヤッ

絹江「ッ?!」ドキ

グラハム『――どうでしょう、顔立ち幼いなりに男前というものが演じられていましたでしょうか?』

絹江「っ、エイフマン教授ですね!!そのニヒルでキザでステレオタイプなワルイ顔! エイフマン教授の入れ知恵ですよね!!?」バァンッ

グラハム『正解。流石は絹江さんだ、あの方をよくご理解されていらっしゃる』ハッハッハ

絹江「何要らんこと教えてあのおじじぃ……!」

絹江「貴方も! 教えられたからってそんな悪巫山戯を……もう!」

グラハム『ははは、重ねて失敬! いえ、聞かされていたもので、物は試しにと思いまして』

絹江「? 何をです?」

グラハム『いえ……第一印象こそそこまででありましたが、絹江さん』


グラハム『私の顔立ちだけは褒めていただいていたようでしたので、後は魅せ方だとプロフェ「グラハムさん」はい、何でしょう』

絹江「……だれに、ききましたか」

グラハム『プロフェッサーが、沙慈くんから聞いたと』

絹江「……そうですか」

グラハム『絹江さん?』

絹江「はい」

グラハム『風邪ですか。お顔が真っ赤だ』

絹江「だいじょうぶです、つづけてください」カァァ
151 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/10/29(土) 03:57:46.73 ID:Le6+ubIv0
グラハム『ええ、ですがご無理はなさらぬように。とはいえ、まだ始めてもおりませんでしたね』

絹江「〜〜〜〜〜!!」ジタバタ

グラハム『ではご報告をば。貴女の着信で墜落したリアルドたちの死を無駄にしないためにも』

絹江「え」ガバッ

グラハム『……あ』


【(==○=)<只今誤解を解いてます、しばしお待ち下さい】




グラハム「……」

絹江『では、まとめます』ムスッ

グラハム「……どうぞ」

絹江『重ねてお聞きしますけれど、貴方はガンダムを追撃し、交戦』

絹江『一撃を加えはしたものの、そのまま海中への逃走を謀られ、断念』

絹江『ユニオン軍への被害は 皆 無 であると!!』

グラハム(目が据わっておられる。ご自身の勘違いが起因というに……)

グラハム「……相違ありません」

絹江『結構、大変に結構!!』

グラハム(まあ、きっかけを生んだのは自分の迂闊な発言にある。猛省しよう)

絹江『それで……どうでしたか?』

グラハム「ガンダムの性能、ですか?」

絹江『それも勿論……ですけれど、カスタマイズされたフラッグでしたら、戦えそうですか? ガンダムと』

絹江『……撃墜は、避けられそうですか?』

グラハム「……」
152 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/10/29(土) 04:12:14.33 ID:Le6+ubIv0

グラハム「ありがとうございます。空を飛ぶものとして、帰還を願ってくださる友情は無上の追い風に値する」

グラハム「故に偽り無く告げるなら……未だもって、ガンダムとの性能差著しく、一瞬の過ちが死出の導きになりうることは言うに及ばず」

グラハム「仮に一切しくじらず立ち回れたとして、単騎での撃退は不可能に近いと断言いたします」

絹江『……っ』

グラハム「女性にそのような顔をさせてしまうというのは心苦しいものです。ですが……」

絹江『降りてくれ、なんて立場じゃあありませんもの。言うわけがないじゃないですか』

グラハム「ええ、これはライフワークです。変えようもない」

グラハム「無論。死ぬつもりも毛頭ありません」

絹江『そこまで命かけられたんじゃ、こっちも黙ってられませんからね!』

グラハム「ほう、ソレスタルビーイングへの新たなる決意というわけですか」

絹江『ええ、どっちが金星上げられるか、競争です!』

グラハム「仮にも精強極まるフラッグファイター最優を自負するこのグラハム・エーカーへの挑戦状……安くはありませんが、覚悟の程は?」

絹江『……な、なんでも来いや! です!!』

グラハム「よろしい。相応のものを考えておきましょう、見合うものを、ね」

絹江『……お手柔らかに……!』

グラハム「勿論。全霊を賭けましょう」

絹江『……単騎で勝てないってわかってるんなら突っ込んだりもしないでしょうし、ねえ?』

グラハム「ノーコメント」

絹江『こーらー?』

グラハム「ノーコメントです」

絹江『もう! ……ふふっ』
153 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/10/29(土) 04:37:31.57 ID:Le6+ubIv0
――――

ルイス『でね、沙慈ー、今度の軌道エレベーターの実習なんだけどね』

沙慈「……」

ルイス『……どったの? 体調でも悪い?』

沙慈「! あ、うん、何でもない。ごめんルイス、ボーッとしてた」

ルイス『例の件? まだ続いてるんだ』

沙慈「……分かるんだ」

ルイス『伊達に沙慈のガールフレンドしてませんから』

沙慈「そっか……ルイスはスゴイね」


ルイス『言いたいこと、言えないんだよね』

ルイス『あたしだったら、どうせ言いふらす相手もいないからさ。言ってほしいな』

沙慈「……うん、ありがとう」

沙慈「でも大丈夫。どうせ、そう長くは続かないと思うしさ」

沙慈「ただのお友達で終わるんなら、むしろ……ね」

ルイス『うそ』

沙慈「……」


ルイス『沙慈、何か感づいてる』

ルイス『私たちにはわかんないこと、お姉さんのこと、気づいてる』

沙慈「……かもしんない」

ルイス『詮索、しないよ』

沙慈「ありがとう。多分、言いたくなる時が来るよ、きっと」

ルイス『ん、待ってる』

沙慈「個室、姉さんにお願いしてみるよ」

ルイス『! あたし、何も言ってないんだけど!?』

沙慈「伊達にルイスのボーイフレンドしてないからね、このくらいはさ」

ルイス『沙慈すごーい……!』

沙慈「そこまで感動されることかな……」アハハ

沙慈「…………」

沙慈(姉さん、気づいてる?)

沙慈(同じなんだよ……あの人は……)
154 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/10/29(土) 04:42:28.55 ID:Le6+ubIv0
絹江さんってものすごく着痩せしている気がする秋の夜長です
今日はここまで
次回はまた金曜日に
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/29(土) 10:00:17.68 ID:pDHNDu1x0
単騎で突っ込むんだよなぁ・・・(遠い目)
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/29(土) 16:27:22.85 ID:zON8nxynO
少なくともこのままだとエクシアと相打ちで瀕死なんだよなあ...
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/29(土) 16:47:18.23 ID:FmXogxCuo
それより前に絹江さんが…
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/02(水) 00:22:35.68 ID:YWJrzcN40

絹江さんも割と無茶してたというか単騎で突っ込んでたような
159 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/05(土) 04:21:31.72 ID:WmzGXm470


――世界は、ソレスタルビーイングに対して疑念の眼差しを送っていた。

――タリビアの一件も、「紛争を誘発しただけの矛盾行為」と深く考えない民意が大半。

――その行為の意味も思惑も理解されぬまま、日々は上辺の平穏を崩さず流れていく。



――この日が、来るまでは。



――人革連領内・軌道エレベーター【天柱】――



絹江「じゃあ、私はこっちの支社に用事があるから。しっかり勉強してくるのよ」

沙慈「わかってる。ありがとう姉さん、個室を予約してくれて……」

絹江「お嬢さまの仰る通りってね……庶民には手厳しいことで」

絹江「ま、感謝するのならグラハムさんにしてね。あの人のお陰でこれの代金まるまる浮いたようなもんなんだし、気にしないで」

沙慈「……【中尉】に、ね……」


ルイス「お待たせしました、お姉さま〜!」

絹江「いーえ、お気になさらず。今日は頭上のお猫様もおとなしめのご様子で?」

ルイス(うええ、人見知りバレてるぅ……!)

沙慈(ジャーナリストを甘く見るから……)

絹江「――沙慈、頑張ってくるのよ」

絹江「あなたの夢、父さんもきっと応援してくれてると思うから、ね」

沙慈「! うん、いってくる」

絹江「いってらっしゃい、沙慈」チュ

沙慈「ん……!」

ルイス「おでこ!!!?」

沙慈「姉さんは、もう……僕だって子供じゃないんだから」

ルイス(おでこ!!)

絹江「ふふ、母さんの代わりだもの、ねえ?」

ルイス(ODECO?!)

絹江「じゃ、後はよろしく!」バシンッ

ルイス「おでこっ!?」


沙慈「いこう、ルイス」

ルイス「…………」ブッスー

沙慈「機嫌直して。姉さんの最大限の譲歩だよ、個室も、同乗もさ」

ルイス「……まさか、お姉様に先制攻撃されるとは思わなかったっ」ツーン








160 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/05(土) 04:43:07.71 ID:WmzGXm470
沙慈「ふふふ……でも、結構気に入ってるみたいだよ。ルイスのこと」

ルイス「ふえ、本当……?」

沙慈「本当。無理やり着いてきた甲斐はあったんじゃない?アメリカまで……」

ルイス「やったあああ……!!」ジーン

沙慈(って、聞いてない……)


《本日は、天柱交通公社E603便にご乗車いただき、誠にありがとうございます》

《本リニアトレインは、低軌道ステーション真柱直行便です。到着時刻は18時32分、グリニッジ標準時、翌日3時32分になります。》


ルイス「そういえばさ、沙慈」

沙慈「ん?」

ルイス「沙慈のお父様って、早くにお亡くなりになったんだよね」

ルイス「沙慈が宇宙で働きたいのって、もしかしてお父様のお仕事の影響?」

沙慈「そうでもないよ。父さんはジャーナリスト、影響をもろに受けたのは姉さんのほうさ」

沙慈「姉さんが言ってたのは……」



沙慈「父さんの最後の仕事が、【ユニオンの宇宙開発事業に関係すること】だったってだけのこと」


ルイス「ふぅ〜ん……」



――JNN・天柱極市支社――


絹江「そうですか、誤情報……だったと」

支局長「わざわざ来てもらったのに済まないね。こんなガセを掴まされたとあっては、お父上に顔向けできんよ……」

絹江「いえ、裏付けも待たずに駆け込んだ私の方こそ、ご無礼を」

支局長「……しかし、彼女の情報を今更ながら探しているなんてね」

支局長「やめた方がいい、とは言わないが……仇討ち、かね」

絹江「そんなつもりはありません。ですが……【真実】への未練と言われれば、頷くしか無いものです」




「――マレーネ・ブラディの、消息。父が追った最後の事件の、最後の生存者への」
161 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/05(土) 05:21:06.27 ID:WmzGXm470


――MSWAD基地――


ビリー「へえ、そりゃあ意外だ。そこまでやるかい、あのテストパイロット?」

グラハム「ああ、もしガンダムが来なければ……私はあの会場に出向いた最大の価値を、彼の戦術飛行の観覧と称したことだろう」

グラハム「パトリック・コーラサワー……模擬戦全勝、スクランブル二千回の英雄は伊達ではないということだ」

ビリー「君にも引けを取らない数字だねえ……もっとも、君のように空中変形はできないようだけどね」

ビリー「もし対ソレスタルビーイングで共闘することがあるならば……」

グラハム「この上ない戦力となることは想像に難くない。あの解体劇は相手と状況の不運に過ぎんよ」


グラハム「はは、しかし模擬戦無敗か。偉大な功績だな。無論技量と空への想いでは勝っていると信じたいが」

グラハム「……私は、模擬戦において46敗を喫しているからな。覆すのは、厳しいかな」

ビリー「……」

グラハム「ん?」

ビリー「ん、あぁ、何でもないよ。グラハム」

グラハム「ふ……気にするなカタギリ、事実は事実。私の血肉を今更分けては考えられんだろう」

グラハム「――背負っていくさ。今となっては、悪名だけが私とあの方の繋がりなのだから」

ビリー「…………」


ウィィ……ン


エイフマン「グラハム!! ビリー君!!」

グラハム「! プロフェッサー……!?」

ビリー「ど、どうしました教授……すごい剣幕で……」

エイフマン「ニュースを見ろ! 速報じゃ、軌道エレベーター【天柱】で事故が発生した!」

ビリー「事故、ですか?」

エイフマン「正確には低軌道ステーションでな……じゃが、まずいことになっておる」

グラハム「……!!」

ビリー「まさか、いるんですか!? 僕らの知り合いが、そこに?!」

グラハム「我らの共通の知人……よもや、そんなことが……ッ」ピッ


《真柱の速報です。現在安否が確認されていない不明者リスト一覧です》


《……アリスン・モーリー……チャド・チャダーン……》


《……サジ・クロスロード……ルイス・ハレヴィ……アンリ・ヤマムラ》


グラハム「ッ……神よ……!!」



 ・
 ・
 ・

162 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/05(土) 05:25:41.96 ID:WmzGXm470
ん、間違えたかな?

予定を変更し、また明日続きを投稿します。

オリジナル要素が詰め込まれ出しますので、苦手な方は深呼吸もしくは座禅と併用して閲覧ください。
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/05(土) 06:53:35.27 ID:sxUhtEN70

ところでマレーネって刹那やロックオンみたいなコードネームじゃなかったっけ?

まあ本名らしきものがなけりゃそれまでだけど
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/05(土) 07:15:38.13 ID:tnhF5iU/O
不明者リストの中に鉄血のチャドさんがいるのは作者のお遊びか?
165 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/05(土) 10:32:11.30 ID:WmzGXm470
>>162
はい。その通りです。
00Pでは調べたフォンが「名前も分からぬ女性」と言っているため、執行直前で消息を絶ったにも関わらず「事件」「裁判」以外の彼女の情報と痕跡が完全に消されている「はず」なのです。
シャルやルイードもそうであるように彼女もこれが本名ではなさそうなのですが。
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/05(土) 11:29:52.12 ID:fpdmw+TK0
おつ
行方不明リスト円盤で確認したらチャドではあったなwwww名字が違うからお遊びかな
167 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/12(土) 01:47:50.36 ID:Tix+lRGV0
「姉さん、今日なんの日か知ってる?」

「なにそれ? 私寝てないの、手短にね」

「ポッキーの日なんだって。ほら、これ上げるからあの人にさ」

「ポッキーゲームね……うん……よーく知ってる……よーくね」

「?」


冬場ですので、火の用心
再開をば
168 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/12(土) 02:16:22.11 ID:Tix+lRGV0

――天柱の低軌道ステーション【真柱】の重力ブロック、落脱。

――各部門の専門家、多少の計算が出来る者たちならば、それがどれほど恐ろしい事故か容易に想像できた。

――地球に近く、微重力に引かれ続けるその場所で繋がりを失うということは、大気圏への墜落を意味する。

――問題は【近すぎること】であった。落ち始めて、限界点に到達するまでが、三十分もないという、あまりの近さ。

――ブロック数は三つ。MSや牽引可能な船舶が多数必要であること、そしてそれが駐留している施設から如何に急ごうと――到底間に合わないこと。

――この三点が示すのは、実に容易に想像しうる、簡潔な絶望であった。


エイフマン「……ッ」

ビリー「教授、これは……どう計算しても……!」

エイフマン「速報を待とう、カタギリ君」

エイフマン「奇妙だと思わんか……もし、想定通りに最悪の結末になっておれば、もう連絡があってもいい頃合いのはずじゃ」

エイフマン「それが無いということは、運良く付近を通過していた何らかの艦船、機体が救助行動に出ているということではなかろうか?」

ビリー「し、しかし……事態が好転しているなら、それも連絡されて良いはずです」

ビリー「それがないということは……」

エイフマン「予断を許さぬ状況……もしくは、連絡できぬ何かが現場にあるということか」

ビリー「ガンダムが関係している可能性は……?」

エイフマン「考えすぎじゃろう。とかく、他国の軌道エレベーター圏内では我が軍もAEUも関与できんし、間に合わん」

ビリー「待つしか無い……ですか……?!」


グラハム「ッッ…………!!!!!」ギリッ


ビリー「グラハム……」



169 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/12(土) 02:36:57.62 ID:Tix+lRGV0

グラハム(――無力だ)

グラハム(何も出来ない。距離も、国境も、立場も、時間も!)

グラハム(全ての要素が、悲劇に向かって一歩一歩踏みしめるさまを悠々と見せつけてくるようだ……!)

グラハム「予測不可能な事態……だがこればかりは……」

グラハム「諦観を受け入れろというのか、このグラハム・エーカーに……ッ!」



――幾度となく、何度も、何度も、彼女に連絡を試みた。

――だが、何を言えばいい? 慰めに何の意味がある? 楽観的な言葉を無責に吐くことの意義は?

――握りしめた携帯端末が、悲鳴を上げる。

――潰しかねないその左手を、盟友が止めた。


ビリー「グラハム、それ以上はいけないよ」

グラハム「……私は我慢弱い……」

ビリー「知ってるよ、よく、知っている……」

ビリー「だからこそ、待とう。もし最悪の事態が訪れているなら、もう観測ができているはずだ」

ビリー「それがないということは、何かが起きているということだよ。祈るくらいしか……出来ることはないけれど」

グラハム「っ……平静を欠いて、利き手を潰す理由にはならない、だな?」

ビリー「気持ちは、わかっているつもりだよ。ごめんよ、こんなことしか言えなくて」

グラハム「いや、感謝する、カタギリ。そうだな……」

グラハム「――待とう、奇跡を」

エイフマン「……神よ……どうか……!」




《緊急速報、緊急速報》


グラハム「?!」


《現在アラスカの偵察部隊より、人革連領内から上空へ、謎のエネルギー光が発射されたとの観測情報》

《その観測情報より、ガンダムの出現が危惧される。ガンダム調査隊は直ちに警戒態勢に入れ》

《繰り返す》

《ガンダム出現の可能性有り、各隊員は直ちに……》


エイフマン「天使の……来臨か……」
170 :ほんと視聴者目線じゃないと意味不明過ぎる事件 ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/12(土) 03:21:01.93 ID:Tix+lRGV0

――ガンダムの出現情報、そして、大気圏内からの超長距離粒子砲狙撃。

――それから、速報からの事態収拾。

―― 一連までの悲劇への流れは、あまりに見事な力押しで容易に落着と相成った。

――今まで無力に嘆いていた者たちに安堵を与えつつ、矜持を踏み抜いて。

――その圧倒的な力が初めて【単純な人命救助】に使用されたことに対する世界の反応は、まさしく種々雑多であったが。

――誰しもが、改めて、思った。思ってしまった。


――欲しい! この力が! と……


ビリー「……………………」

エイフマン「……………………」

ビリー「教授、どっからどう話したものか……一気にコトが起こりすぎてパンクしそうですよ……」

エイフマン「ううむ儂もじゃよカタギリ君。老骨のCPUでは熱暴走必至じゃなあこれは」

ビリー「えーっと? 順序よく行きましょう、まずは……事故の発端と経緯」



ビリー「原因不明の低軌道ステーション重力ブロックの落脱事故が発生……当然救助隊が発進するも間に合うはずもなく」

エイフマン「しかし、現場に確認できたMSは宇宙用ティエレン一機のみ……つまり、何らかの方法で支えていたわけじゃな」

エイフマン「そして事故発生から間もなくして、地上からの超長距離ビーム砲射撃」

ビリー「これにより三基存在していたブロックは中央の一基を残して分解、以後正式発表で行方不明者全員の生存確認、救助完了……」

ビリー「……教授、これは、私見なのですが」


ビリー「この事件、ソレスタルビーイングの自作自演ではないでしょうか?」

エイフマン「…………」
171 :ほんと視聴者目線じゃないと意味不明過ぎる事件 ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/12(土) 03:56:39.44 ID:Tix+lRGV0
ビリー「まず、人革連は正式に発表していませんが、この重力ブロックの脱落を維持していたのは間違いなくガンダムであったと思います」

ビリー「現場にて粒子の光が離脱していくのを低軌道ステーション内の民間人が何人も目撃しています」

ビリー「彼らの推力なら、並のMS数機分の働きをするのは容易なことでしょう」

ビリー「ですが、そもそもあの場に、即座に彼らが現れたというのは辻褄が合いません」

ビリー「ましてや! 今回彼らの利に働くようなことは一切ない、ただの事故であって紛争ですら無いのですよ?」

ビリー「これは世論の心象操作を目的として、予め準備していたと考えるのが自然かと思われます」

ビリー「これはテロです、ソレスタルビーイングが起こした……マッチポンプ!」


エイフマン「いやー、ないない。ありえない。絶対ない」ハァ〜

ビリー「……やっぱりですかあ」ハァ〜


エイフマン「そりゃあそうじゃろう、今回彼らは【大気圏外への攻撃手段】という虎の子まで見せておる」

エイフマン「これによりまず【粒子砲の特性】と【ガンダムの性能】が白日のもとに晒されたわけじゃ、流石に割に合うまいよ」

ビリー「結果的に我々に絶望の上乗せしてきたようなもんですけどね……どうしろっていうんですかあんなもん」

エイフマン「逆もできるとは言え、単独では不可能であることは明白」

エイフマン「つまり厳重警戒の只中で使えば、何らかの大型装備鹵獲のチャンスが巡ってくるわけじゃ。奴らも乱用はできんし、我々は足回りさえしっかりしていれば対処など易い易い」

ビリー「……これを晒すことで我々に示威をしたという可能性は」

エイフマン「くどいのお……こんなもの、使った以上持ち運ばねばならんのじゃよ? 初お見えならまだしも、もう次は発射地点に殺到しておしまいじゃよ」

エイフマン「もうこれを以降の作戦に組み込めん可能性まで考えて、出さねばならん。そういうものなのじゃよ、この砲狙撃手段はな」
172 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/12(土) 04:12:21.56 ID:Tix+lRGV0

エイフマン「まあ、そうじゃな……」カリカリ


1:あの宙域にガンダムが介入するはずの目標(人革連の秘匿兵器?)が存在していた。

2:ガンダムはそれに介入、交戦したがその結果重力ブロックが脱落する事故に発展。

3:ガンダムは人命救助を優先、結果、超長距離砲狙撃の露見に踏み込んで同目標を救出した。


エイフマン「こんなところかのお」

ビリー「え、人革連の秘匿兵器って……そこまで分かるんですか?」

エイフマン「テロ組織による破壊工作ならまず声明が発表されて然るべきじゃ、それがないとやった意味がないからの」

エイフマン「仮に目的違い、失敗などを理由に黙秘していても、人革連側が黙っている理由にはならん。つまり……」

ビリー「事故の原因は人革連側が隠したいもので、それがソレスタルビーイングの介入に足る何かであった……?」

エイフマン「おおよそ人革連側が原因であるがゆえに発表もせなんだろうさ、ガンダムの兵器でどうこうなったなら間違いなく喧伝しておる」

ビリー「しかし、現場周辺は施設も少なく、ガンダムが交戦すれば粒子ビームの軌跡など、発見されやすいものですが……」


エイフマン「うーむ……これ以上は妄想になろう。憶測の限界よな」

エイフマン「むしろ、我々が考えるべきは、事態発生から彼らの動向の素早さ、大型支援兵器と類推される存在の輸送手段、その全てを実行可能にした要因よな」

ビリー「……そうか、彼らの動きに無駄がないということ以前に、そんなものを一箇所から持ち運んでいるわけがないんだから……!」


エイフマン「――世界中、あらゆる地域、国家に、奴らの支援施設、支援母体が存在すると見て良いじゃろうて」


ビリー「ある意味、どの国家が母体となっているかという陰謀論は唱える必要がなくなったわけですね」

エイフマン「おそらくは……三大国の中枢にさえ食い込んでおろう、儂はそう考えておる」
173 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/12(土) 04:44:36.73 ID:Tix+lRGV0
エイフマン「それとじゃな、儂はこのガンダムによる救助行動……」

エイフマン「ガンダムのパイロットによる【独断行動】ではないかと、推測しておる」

ビリー「……いやー、いやいやいやいや」

ビリー「それは希望的観測というやつでしょう教授、いくらなんでも……」


エイフマン「儂がもし、ソレスタルビーイングの指揮官であったなら……今回の一件は無視して帰投させておる」


ビリー「きょ、教授……穏やかじゃないですね?」

エイフマン「当然じゃろう。超長距離射撃……これは見せんことであらゆる作戦に対し一手が打てる魔法のような能力じゃ」

エイフマン「彼らの行動理念、武力による紛争根絶に犠牲はつきものじゃ。たかが二百人程度、いやこれが千人であったとしても」

エイフマン「法と秩序に背を向けた私設武装組織が、ただでさえ不可能であろう目的に使える手札を見せてまで救う価値がある数字ではない」

エイフマン「紛争ではないのだからな……事故で死のうが、自分らの起こした経済崩壊で餓死しようが、どうでも良い、そういう組織じゃろう? ソレスタルビーイングとは」

ビリー「っ……はい……」


エイフマン「そも、これを救って心象を改善したところで、やることが変わらないのであれば大した効果もないしのう」

エイフマン「パイロットの自己満足を、組織が致し方なく救った……と見るべきだとわしは思う」

エイフマン「つまりつまり……あのガンダムとパイロット、代えが無いと見るべきじゃ、なあ?」

ビリー「……打つ手が増える、そうおっしゃりたいように見受けられますね」

エイフマン「守るやり方を知るには、殺すやり方も知らねば不十分じゃろう?」

エイフマン「善人で人道的な敵なぞ、悪党の味方よりよほど怖いものよ……やることも、目指すべきものも、変わりはせん」



エイフマン「手はあるということじゃ……あの天使気取りの悪鬼を討つ、銀の弾丸の造り方ぞ」


――――


174 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/12(土) 05:20:31.53 ID:Tix+lRGV0
――人革連・天柱極市市内ホテル――

沙慈「……姉さん」

沙慈「姉さんってば」

沙慈「はー……ね・え・さ・ん?」


絹江「……グス……」ギュー


沙慈「抱きついてないで、そろそろ離してよ。トイレ行きたいんだけど」

絹江「ごめん……でも、本当……ね?」

絹江「うぐ……よかった……よかったよさじ……おねえちゃん、しんぱいしたんだからぁ……」ヒーン

沙慈「あー、もう……分かったよ、僕も、また姉さんに逢えて良かった」

絹江「さじぃ…………」ボロボロ

沙慈(あ、これ長いやつだ……昔交通事故で引っ掛けられたときもこんな感じだったなあ)

沙慈(もし、僕が死んでたらどうなってたんだろう)

沙慈(姉さん、後追ったりしないよな……一人になったら、どうしたんだろうな)

沙慈(……ぼくが死んでも、世界は、変わったりしないんだろうな……)



沙慈「――大丈夫だよ、姉さん。僕はここにいる。何処にも、行かないよ」



――――

――別室――


ルイス「…………」

ルイス「泣いてないもん」

ルイス「お姉さまの気持ちもわかるし、あたしだって寂しいけど、仕方ないし」

ルイス「顔合わせた途端いきなり号泣されて抱きつかれてる沙慈に、構ってとか、言えないし」

ルイス「…………」グス


ルイス「泣いてないもんっ!!!!!!」バァンッ

壁「ありがとうございます!」
175 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/12(土) 05:54:17.30 ID:Tix+lRGV0


――翌朝――


絹江「ん……ふぁ……」モゾ

絹江「……んむ……」ポー


絹江「朝……か」


絹江(本当に、色々なことがあったな)

絹江(沙慈が事故に巻き込まれて……周りの人は生存は絶望的だって言ってて)

絹江(でも、奇跡みたいにみんな助かって……ガンダムの存在が確認されて)


絹江(……私たちが変わらず過ごせている日々ですら、簡単に壊れてしまう、たったひとつの出来事で、全て)

絹江(原因とか、ソレスタルビーイングの関与とか、調べなきゃならないことなんて山ほどあるのに)

絹江(駄目だな、私は……しばらく頭が動きそうにないや)


絹江「……あら?」


絹江(携帯に着信履歴……それとメールも、一件ずつ)

絹江(……あ……!)


――――

From:Graham Aker

件名:天柱事故に関して

沙慈・クロスロード、及びルイス・ハレヴィ両名の息災を、心よりお慶び申し上げます。
そして、何一つお力添え出来なかった我が不徳と無能を、お許し下さい。


――――


絹江(……電話、すぐに切ってるんだ)

絹江「気にしてくれてたんだ……でも……」


――――

pppp

ビリー「グラハム? お呼び出しのようだけど」

グラハム「……構わない」

ビリー「え……?」


グラハム「どの面下げて、顔を合わせろというのだ……」


 ・
 ・
 ・
176 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/12(土) 06:05:43.41 ID:Tix+lRGV0
今日はここまで
次も金曜日にまた。

前回の質問でしたが「ここではマレーネを当人の本名として扱う」とします。
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/12(土) 23:08:58.35 ID:9Mkw3HvA0
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/13(日) 01:40:26.25 ID:4nwZ3xKyo

ルイスかわいそうでかわいい
179 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/19(土) 02:13:03.98 ID:F+KdDTDb0
マイスターたちの出番が無いとお嘆きの紳士淑女の皆様
ごめんなさい、これからも多分ないです

では続きを。
180 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/19(土) 03:48:36.86 ID:F+KdDTDb0


――そして、何やかんやあってAEUとモラリアがボコられて数日――


コーラサワー『何じゃそりゃあああああああ!!!』ヒューン……


――――


――MSWAD基地――



ゴウッ……


絹江「わぁ……!」

絹江(大きな管制塔、あっちが技術研究棟ね。流石はMSWAD、見事な設備だわ)

兵士「こちらです、ここからはお車で中までご案内いたします」

絹江「ありがとうございます、何から何までご丁寧に……」ペコ

兵士「いえいえ、プロフェッサー・エイフマンのご紹介とあれば、このくらいは」

兵士(可愛いなあ……日系人は肩幅がちっちゃくていいよ)ニヘラ

絹江「えっと、それで教授はどちらに?」

兵士「え、あ、はい! 今MSドックの方で点検作業中とのことで、どうぞ此方に」


 ・
 ・
 ・
 ・

エイフマン「ふぅーむ」カタカタ

ビリー「どうでしょう、教授。装弾数の増加を見込めれば、あのミサイル攻撃には……」

エイフマン「現実的ではないのう。グラハムがシミュレーターで出した数値であれば、ミサイル攻撃に変形から即時対応ができよう」

エイフマン「だが大きく出遅れる。その後、やつに狙われた際は確実に落とされような」

ビリー「後手の対応では、ガンダムには勝てない……ですか」

エイフマン「攻め手で何とか出し抜かねばな」


兵士「失礼致します、プロフェッサー」

エイフマン「おぉ、来たかね!」

ビリー「? 来客ですか」


エイフマン「デートじゃよ、別嬪さんとな」ニヤッ

181 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/19(土) 04:04:28.26 ID:F+KdDTDb0

――――

絹江「お久しぶりです、エイフマン教授」

エイフマン「うむ、健勝何より。連絡が来てから数日かかると見込んでおったが、手早いの」

絹江「【拙速は巧遅に勝る】……ですよね?」

エイフマン「はっは! 孫子の引用か。君、我が部隊の戦術予報士として招聘される気はないかな?」

絹江「ご冗談を。たかが22の小娘に精鋭の命運は背負えませんわ」

エイフマン「はは、才能に年齢は関連せんさ。さて、立ち話は老体には堪える……」

絹江「……」チラチラ

エイフマン「! ふふ、奴なら足早に兵舎に引き篭もりおった。何かあったかな?」

絹江「え?!」

エイフマン「うら若き乙女の視線が揺らぐのは、意中の騎士を探すときと相場は決まっておる」クックック

絹江「そんなんじゃあありませんよ……ただ」

エイフマン「ん?」

絹江「例の一件以来、ご連絡も無く、此方からも繋がらなくて……」

絹江「なにか粗相をしてしまったかと……ええ、気が気でないのは、確かなんです」

エイフマン「ふうむ……?」


――――
ビリー「もしもし……あぁ教授」

ビリー「はい、いますよ。奥の方でトレーニング中です」

ビリー「お使い頼めなんて言わないでくださいよ? だいたい彼が奥にいるときは機嫌がひどく……」

ビリー「……え? まあいいですけれど……あ、切れた」

ビリー「……何か企んでるよなあ、これ」
182 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/19(土) 04:27:24.76 ID:F+KdDTDb0

――オフィス――


エイフマン「ほう、特番」

絹江「はい、ソレスタルビーイングに関するものを、それも」

エイフマン「イオリア・シュヘンベルグの軌跡を追う形で彼らの実態に迫りたい……じゃろ?」

絹江「! お察しのとおりです、よくお解りに……」

エイフマン「ふっふ、自慢に聞こえたら申し訳ないが、こういう場合【思考回路が近しい存在】から近似を探るというやり方もあるからのう」

絹江「本当に、私などが一個人でお話できるようなお人ではないと……今この時が夢のようです」

エイフマン「おいおい、あまり老骨を本気にさせんでくれよ。こう見えて、惚れやすくての」

絹江「うふふ、お上手ですこと」

絹江「ですが、一ヶ月半で一時間分をかき集めなくてはならないので――お覚悟の程は?」ニッコリ

エイフマン「ひい、老人虐待じゃ!」ハッハッハ


エイフマン「……しかし、あの人嫌いの偏屈、稀代の大天才に並び称されるとなると、儂とて帽を振り捨て平伏せざるを得んな」フウ

絹江「機械工学、材料工学、電子制御工学……その他工業部門においては博士号でドミノが出来る御方のご謙遜、頂きました」ウフフ

エイフマン「はっは……戦術予測の方もかじっておる、今からでも教えを請う気はないかな?」スッ

絹江「あら、その口説き文句、まだ続いてたんですか?」クスクス

エイフマン「ははは! いやいや、一本取られたか。これを見抜いた速さなら、秘書についで僅差の二番目じゃ」

エイフマン「おっとっと……閑話休題としよう。さて……」

絹江「はい……では、レイフ・エイフマン教授」


絹江「ソレスタルビーイングの目的は、紛争根絶にある。是か非か、お答えください」



エイフマン「無論、否じゃ」
183 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/19(土) 05:06:09.83 ID:F+KdDTDb0

絹江「……その理由は」


エイフマン「絹江くん、君の家の隣で喧嘩が起きている」

絹江「はい?」

エイフマン「AとB、と仮称しよう。彼らの喧嘩の原因は、Aの好きな音楽をBが侮辱したからだそうだ」

エイフマン「どちらもが介入無しには絶対に止める気がないとした場合……君はどうする?」


絹江「……警察に連絡を」

エイフマン「残念! 警察に払うお金は膨大で、君には支払えない」

絹江「付近の住民を集めて、停戦勧告を」

エイフマン「いっときは止めたが、虎視眈々とお互いが狙い合っている。これ以上は、周りも付き合いきれんと匙が飛ぶとしよう」


絹江「……Bを糾弾し、Aの側につく……?」


エイフマン「では、Bはとある音楽を家族代々、心から愛していて……」

エイフマン「Aの好きな音楽は、その音楽を真っ向から否定した観点から創られているとしたら?」

絹江「っ……」


エイフマン「……これに、AB双方が立てなくなるまで殴りつけることで解決しようというのが、ソレスタルビーイングのやり方じゃ」

エイフマン「一理ある、が、馬鹿らしいとは思わんかね。儂でなくとも、これだけで争い事が無くなるとは到底思えんのは道理じゃ」

絹江「……Aの音楽も、何かを否定しているからと言って悪いわけではない、ですものね」

エイフマン「まあ、暴力行為を起因にAB双方の立場から争いを起こされることは、目に見えておろうな」

エイフマン「何かを論ずれば、別の立場からの反論があって然るべき。全てを画一化することが相互理解であるというのは、おおよそ機械の思考……いや嗜好じゃな」

絹江「……どうしようもないじゃあないですか、こんなの」

エイフマン「そう、どうしようもないんじゃよ、こんなことはな」

エイフマン「この程度のことがわからないイオリア・シュヘンベルグではないはずじゃ。つまり……」

絹江「イオリア・シュヘンベルグの計画において、武力介入はあくまで布石」

エイフマン「本来の目的とする部分……ソレスタルビーイングの存在理由が、他にあるはずじゃ」
184 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/19(土) 05:26:24.55 ID:F+KdDTDb0


エイフマン「考えうることとして……」カリカリ

絹江(わ、講義受けてるみたい。背筋伸びちゃう)

絹江(実際、この人の講義ってやるたび大講堂が満員になって立ち見続出、AEUや人革連からも学生が来るほどスゴイのよね……)


1:紛争が起こった場合の弊害が、彼らの目的の妨げになる

2:紛争行為が起こっている地域に目的がある

3:紛争行為に割かれているリソースを目的に割り振らせたい

4:武力介入を通じて自分たちの敵の力を削ぎたい


5:武力介入を隠れ蓑に、自分たちの真の目的を安全に進めたい


絹江「5……!?」

エイフマン「おおむね、儂は宇宙開発に彼らの興味があるのではないかと思ってはいるんじゃよなあ」ウーム

絹江「それは、何故でしょうか!?」

エイフマン「要は、現状の産業分布にあるわけじゃ」ピピピ

エイフマン「ほれ、これが三大国のGDP成長率、各産業分けした内約、その他含めて諸々な」

絹江「………………大半が横ばい、ですね」

エイフマン「宇宙開発部門、及び軌道エレベーター関連においては向上も見込めるが、おおむね地上において旨味はもう無くなっていると言っていい」

エイフマン「そんなゼロサムゲームのまっただ中、どの国家も平均的に利益が上げられている産業が……」

絹江「! 軍需産業……!!」

エイフマン「耳が痛い話になるが……儂の開発したフラッグも、その一因であろうな」
185 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/19(土) 05:51:31.33 ID:F+KdDTDb0
エイフマン「まあ、これを叩いて、主にモラリアのような軍需産業特化の国家が転進による生き残りを図った場合……」

絹江「そうか、これだけのリソースを注ぎ込めて利益を得られる余地があるのは……宇宙産業しかない」

エイフマン「無論、そういった部分を無視して、ただひたすら紛争理由を攻撃しているだけの恐れもあるがな」

絹江「……そうなのですか?」

エイフマン「これだけ長く……正確には二百年、奴らの計画がバレなかった一因として」

エイフマン「【それがソレスタルビーイングに関することと知らないまま加担している人員】の存在があると思う」

絹江「そんなのがあり得ると? いくらなんでも……」

エイフマン「仮にな絹江くん、君が宇宙開発事業勤務で」

絹江「はい」

エイフマン「お給料も一般的な額を払い、福利厚生を完備し、特に情勢に影響を受けない、受けてもその変化に対応できる企業に勤めているとしたら」

エイフマン「君、疑問を抱くかのう?」

絹江「……何も考えず定年まで働くと思います……」

エイフマン「じゃろうて。定年まで働けば、ヒューマンエラーが無くとも四十年くらいはいてくれような」

エイフマン「儂がイオリアとして動くなら、まずは疑念や猜疑を最初から生めぬように取り計らうさ」

絹江「宇宙開発なら、引き継ぎを転々と回すことで【何処を開発するつもりなのか】なんて分からないものですものね……」

エイフマン「未だもって、専門知識のいる高度な宇宙開発技術者は、宇宙労働者の全体の1%にも満たん」

エイフマン「かつての悪名高い火星圏アステロイドベルト開発事業から連綿と続く悪習じゃ……奴隷操業に近いと言っていい」

絹江「……教授……」

エイフマン「……あぁ、君のお父上の追った事件も、そうだったな」

エイフマン「あれは……本当に……」

絹江「私事です、どうか、お話の続きを」

エイフマン「済まない、続けよう……」
186 :これほんと反則だと思う ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/19(土) 06:12:47.17 ID:F+KdDTDb0

エイフマン「つまり、当時も今も、作業の手が多く、疑問を抱ける知識がない労働者に取り入って、計画を遂行することは不可能ではないと言いたいのじゃよ」

エイフマン「それだけではない。【組織に参加してはいるが、目的よ行動を何も把握していない存在】」

エイフマン「【一族で組織に参加しているが故、生まれてからこのかた組織以外を知らない子供】なども挙げられよう」

絹江「おぞましい話です。もしそうなら実態はテロリストの暗部そのものでは……!?」

エイフマン「どうじゃろうなあ。しかし、そういった予測と仮説でも、儂は人員からの情報流出が一切ないのは異常だと考えておる」

エイフマン「これなあ……どう見積もっても、ソレスタルビーイングは数万人規模の組織になる。おかしいんじゃよなあ……」

絹江「各国の情報機関ですら糸口がつかめないのは、確かに異常ですが……」

エイフマン「水際ではないな……何処か、根本的な部分で完全にせき止められていると思っていい」

エイフマン(何処だ……国家に、産業に、宗教に依存せず、網羅された情報を管理し統合できる、そんなソースが……?)


PC「…………」ヴンッ


絹江「……教授?」


エイフマン「! おおっと、すまんすまん。美女を前に思案に溺れては無礼というものじゃな」

絹江「いえ、此方こそ……何か掴めそうでしたら、私はお暇致しますが」

エイフマン「それほどのことではないさ。お気遣い感謝するよ」

エイフマン「続けよう。すぐに終わらせておかんと……【次】が詰まっておるからのう」

絹江「次……?」


 ・
 ・
 ・
 ・

グラハム「カタギリ、プロフェッサーはまだか?」

ビリー「いやぁ、そろそろ約束五分後ってところだねえ」
187 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/19(土) 06:51:19.32 ID:F+KdDTDb0
グラハム「……私は我慢弱い」イライラ

ビリー「わーかってるよ、君のトレーニングを切り上げさせたのも、遅めの昼食をお預けさせているのも悪いと思ってる」

ビリー「付き合ってあげれば、それも工面してくれるそうじゃないか。あの人の舌を満足させる食事にご同伴なんて、羨ましいことだよ?」アッハッハ

グラハム「男やもめで馳走を期待など、ご老体相手に下卑た発想だ」

ビリー「うぐ」

グラハム「無論、お前がそんなことを真意に語っているとは思っていない。苦労をかけるな、カタギリ」

ビリー「あー……うん」

ビリー(早く来てくれないもんかな……こうなったグラハムはすっごく面倒くさいんだ)ハァァ


「すいません、お待たせいたしました!!」


グラハム「……え」

ビリー「あ……」


絹江「はぁ……はぁ……」


――――

ビリー《それじゃあ、グラハムには外出準備をするよう伝えておきますので》

エイフマン『おう、ではな』ピッ

絹江『教授、今回はありがとうございました』

エイフマン『おうおう、少しは足しになったかのう? それならばしわがれた声を嗄らした甲斐があったというものだ』

絹江『この上なく。本当に感謝いたします、プロフェッサー・エイフマン』ペコリ

エイフマン『ほれほれ、頭を上げて先を急がねば。先ほど連絡があってな』

絹江『れ、れんらく?ですか。何方からでしょう』

エイフマン『君の黒衣の騎士殿からだよ。これから、もし空きがあるなら……とな』

絹江『?! ほ、本当ですか』

エイフマン『ほんとうじゃよー、きょうじゅ、うそつかんよー』

エイフマン『ふふ、君が非礼があったなら詫たいと言っていたと、少し口添えをな……節介が過ぎたかの』


絹江『教授……ありがとうございますっ!』


エイフマン『……やれやれ。やつもひどく手間がかかる』

エイフマン『友情の維持くらい手前で何とかせんもんかのう……ったく』ブツブツ


――――

グラハム「――――ッッ!!」ジロッ

ビリー「ひぃ!? ぼ、僕知らないよ! 本当だよ?!」

188 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/19(土) 07:08:20.60 ID:F+KdDTDb0
絹江「グラハムさん!」

グラハム「ッ……」タジ

絹江「! あ……」ジリ

グラハム「……!」タジ


絹江「……???」ジリジリジリ

グラハム「……!!!」タジタジタジ


ビリー「何やってんの君たち?」


グラハム「……絹江さん……?」

絹江「グラハムさん、私は……えっと」

絹江「っ……ごめんなさい!」ペコ

グラハム「?!」


絹江「あれから何度もご連絡差し上げて……何も返答がいただけなくて」

絹江「何がいけないんだろうって、思い返しても分からなくて、でも……」

絹江「私が何かされたことはないし、もし、何か失礼なことしてたらって……ずっと、思ってて!」

絹江「理由がわからないのに謝るなんて最低だけれど……本当に、ごめんなさい……!」

グラハム「き、きぬ……え……」

グラハム「…………!!!」


グラハム「〜〜〜〜ッッ!!!」バッ

ビリー「そこ、助け求めちゃう??」

ビリー「はぁ……対話だよグラハム、問題の九割はまず対話でコトが済む」

ビリー「丁度良かったじゃないか、外出許可は降りてる、君は外行きの装い、彼女もこれからフリー……」

ビリー「何を迷う必要があるんだい? 友人とドライブだ、楽しんできたまえよ、フラッグファイター」


グラハム「……お顔をお上げください、絹江さん」

絹江「……」

グラハム「ええ、そうですね……これから、お時間よろしければ」



グラハム「私に、貴女のお時間を、お預けいただきたく……そう願います」スッ

絹江「……よ、喜んで」キュ


189 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/19(土) 07:21:46.78 ID:F+KdDTDb0
今日はここまで。

作中時点で全コンピューターは元を辿ればイオリアが設計したモデルで、それらはヴェーダの子機になる並列コンピューターとして設計されているらしく、ネットに繋がるものは全てヴェーダであり、情報も完全に筒抜けになる、そうです。
分かるかこんなもん。

ではまた金曜日に
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/19(土) 10:05:28.02 ID:HGUgpvG70
教授が段々ノブノブに見えてきた…
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/19(土) 10:43:58.42 ID:pvbzlMbZ0
>>189
何そのSons of Patriot
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/19(土) 11:10:55.34 ID:YjnpceE+o
>>189
反則ゥー!
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/19(土) 13:25:19.90 ID:7qGl0tXoo
やっぱり想定外の事態に狼狽してビリーを見るハム公はかわいいな
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/21(月) 03:32:49.13 ID:TiQyFydKo


>>189
ハナから勝負にならんやんこんなの……
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/21(月) 10:01:42.18 ID:jAfR/guI0
やっぱりヴェーダ最強なんすねぇ・・・
よく2期戦えたな
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/21(月) 12:19:16.90 ID:+6fZIId+0

昨日劇場版見たけどヴェーダによる情報統制で漏洩はまず無い言ってたのはそういうことか
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/21(月) 14:18:31.53 ID:ZT/dNIXxo
ヴェーダに勝つためには完全独立したネットワークシステムを作る必要があるって無理じゃん
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/21(月) 22:49:07.81 ID:nbE97BAko
独自ネットワークを作ろうとしてもヴェーダ媒体がどっかに引っかかる恐怖
199 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/23(水) 02:30:33.25 ID:0vrNeivJ0
ちなみにヴェーダはその性質上
「一切ネットに繋がってない機器には干渉できない」
「紛争極貧地域やスラムのような干渉可能機器の少ない地域の情報が不足しやすい」
という特徴があります。
そこを補うために数万人のイノベイド(と総数不明のエージェントイノベイド)が、自分を人間と刷り込まされ、数年単位で記憶をリセットされ、潜在的にヴェーダに情報を送り続けています。
喧嘩売るならこれ全部敵になる

11/22は欠かしてはいけないと思ったので続きです
200 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/23(水) 02:53:52.34 ID:0vrNeivJ0


――基地より最寄り、アメリカ西部のとある都市――


ウェイター「では、どうぞごゆっくりおくつろぎくださいませ」

グラハム「ありがとう」

絹江「…………」ソワソワ


――喫茶店――


グラハム「落ち着きませんか?」

絹江「え、いや、あはは……こういうお高いとこはなかなか……っ」ソワソワ

グラハム「私もです」

絹江「え」

グラハム「此処はプロフェッサーのお付きの時くらいでしか来ない、あの御方の行きつけの喫茶店」

グラハム「今回は企みに肖って、敢えて選択しましたが……ふふ、腰が浮いている心地ですよ」

絹江「企み………」

絹江「…………」



絹江「 ま た だ ま さ れ た ? ! 」

グラハム「……絹江さん」シー

絹江「ゴメンナサイ……」カァァ


――――

エイフマン「わっはっはっはっは!」

ビリー「うわ、なんですかいきなり」

エイフマン「いや、今頃絹江くんが儂の策に気づいてぐぬぬーってなっとる頃合いと思うてな」ニヤニヤ

ビリー「我が師ながら流石の悪趣味ぃ」
201 :胃「俺が飲んでいたのはコールタールの上澄みだった」 ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/23(水) 03:14:45.51 ID:0vrNeivJ0

――――

グラハム「…………」ズズ

絹江「……」モグモグ

絹江(わー、このタルトすごい美味しい。果物がぷるぷるしててあまーい)

グラハム(うむ、流石に別格。基地のあれがただでさえ薄めた泥濘に近しい代物だけに、胃が驚嘆に跳ねている気さえする)

グラハム(とと、横道に逸れてはいけないな。話を進めよう)


グラハム「絹江さん」

絹江「! はい」

グラハム「……沙慈くんと、ルイス嬢は、お変わりありませんか」

絹江「えぇ、おかげさまで……特に事故を思い出すようなこともなく、いつものあの子達に戻っています」

絹江「……あのガンダムに救われたというのは意外でしたが……」

絹江「正直に、感謝しています。助けてくれたパイロットに」


グラハム「……その素直な感情は貴女の美徳だ。固定観念に縛られず物事に向き合う姿勢、尊敬いたします」

絹江「大げさですよ……私なんて、身内びいきの弟離れが出来ない、ただ一人の女です」


グラハム「――お許し下さい、絹江さん」

スッ

絹江「!?」

グラハム「私は今回、貴女に何一つ、お力添えすること叶わなかった」

グラハム「友人の不幸を遠巻きに見ていることしか出来なかった」

グラハム「挙句、ガンダムの跋扈さえ許した。本当に、申し訳ない」
202 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/23(水) 03:39:38.80 ID:0vrNeivJ0

絹江「……ええっと……」

絹江「グラハムさん、もしかして、ずっと? そのこと、考えていたんですか」

グラハム「滑稽と、笑われることは覚悟しております」

絹江(あ、頭上げた)

グラハム「天柱は人革連の軌道エレベーター、そして状況は地上からの支援など夢物語の大気圏外」

グラハム「えぇ……私がどのように権力を有していたとしても、助力不可能の事故であることは明白」

グラハム「ですが私は……そのことに怯え、無力であることをいいことに……!!」


「貴女に、ただ一言の言葉をかけることすら躊躇ったのです」



絹江「――――あ」


グラハム「……」ゴク

グラハム「私は、たとえ気休めにしかならずとも、解決の糸口にさえならずとも、あの時こそ貴女にご連絡差し上げるべきだったのです」

グラハム「それが友情であるはずです、必要な心馳せであるはずです! 全く……なんと矮小な肝を持ったものか、我ながら呆れ果てる!」

グラハム「……もっとも、本当に無能の戯言以上が言えたとは今でも思えませんが」

グラハム「……申し訳ない、少し熱狂に過ぎた……」ゴク

絹江「…………」


絹江(……聞いてからも、そんなことってしか思えないし、ぶっちゃけ何言ってるか理解できないけど)

絹江(そっか、グラハムさん、あの日、事故があったあの時間)


絹江「励まそうと――してくれてたんですね。貴方は」

グラハム「……笑ってください、それっぽっちさえ為せぬ、ユニオンのエースのざまを」

203 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/23(水) 04:11:07.47 ID:0vrNeivJ0

絹江「ううん、そんな必要ない、笑われるべきなんてことは有り得ません」

絹江「だって……今、嬉しいんです、私」

グラハム「!」

絹江「だって、そうじゃないですか」

絹江「どこか遠くの友達が、自分が苦しんでることを知って、心配してくれてた、気にかけてくれてたんですよ?」

絹江「誰かに想われてたってことは、生きていていいって言われているみたいなものでしょう?」

絹江「それが、本人から聞けたんです。大事にもならなくて済んだ上、こんな特報まで……」


絹江「ありがとうございます、グラハムさん。今日は本当に素敵な日になったわ」ニッコリ


グラハム「――――あ」


絹江「グラハム、さん……?」

グラハム「……ふふっ、全く」

グラハム「貴女は卑怯な方だ。叱咤か絶句かと恐々に肩を窄ませていれば、まさか感謝を受けるとは」

絹江「姑息な女は、お嫌い?」クスッ

グラハム「何が姑息なものか、真正面から堂々と、貴女はこのグラハム・エーカーの奸計をねじ伏せたのです」

グラハム「お見事、本日は完敗です。潔く認めましょう」




絹江「うふふ、でもここ数日の着信無視の分はまだ消化されてないんですけれどね」

グラハム「ぐ」
204 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/23(水) 04:29:25.68 ID:0vrNeivJ0


グラハム「……ここのお支払は、もとより私が受け持つ予定です。他のもので咎を償いましょう」

絹江「あー……言われちゃった。潔すぎるのも考えものですね」

グラハム「首を差し出し続けるのも辛いものです、慈悲があるなら、ひと思いにどうぞ」

絹江「……じゃあ……」


絹江「ねえ、【グラハム】」

グラハム「……は……?」

絹江「お互い、堅苦しく話すのは、終わりにしない?」

グラハム「……と、言うと……」

絹江「敬語抜き、てこと。勿論、親しき仲でも尽くすべき礼儀は欠かすつもりはなくてよ?」

絹江「ふふ、年上の男のひとにこういうのはちょっと恐縮って感じだけれど、今ので分かったの」

絹江「あなたとは、もっと仲良くなりたい。そういう価値がある人だってね」

グラハム「っ……」

絹江「あ、勿論……馴れ馴れしいのは嫌って言うなら……止めるけれど」

グラハム「っ、私が、そう呼ばれるのは構いません、ですが……」

絹江「?」


グラハム「私も、そう呼ぶべきなのでしょうか?」



絹江「……駄目?」



グラハム「ッ……!!」ビキッ


205 :ようやく、知人脱却 ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/23(水) 04:43:14.43 ID:0vrNeivJ0


グラハム「この、そういう、あぁもう……ッ!」

絹江「???」

ウェイター(あざとい)

ウェイトレス(あざとい)

マスター(あざとい)


グラハム「ゴホン……分かった、承諾しよう!」ガタ

絹江「!」

グラハム「――改めて、良い関係を祈念させていただく。よろしく頼む、絹江・クロスロード」スッ

絹江「えぇ、こちらこそ。よろしく、グラハム・エーカー!」ギュ

グラハム「…………」

絹江「…………」


グラハム「……慣れるまで、しばし沈黙が常となりそうだ」フゥー

絹江「あー……そこはご愛嬌ってことで」アハハハ


 ・
 ・
 ・
 ・


206 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/23(水) 05:03:06.95 ID:0vrNeivJ0

――市街――


 時刻は、既に夕刻に差し掛かる頃合い。
 あれから慣れぬなりに会話を重ねた二人は、喫茶店を後にして車へと歩み始めたばかり。
 赤らんだ光に照らされているからか、話し込んで熱を帯びたからか、はたまた。
 二人の頬に差した朱が意図を見出すまでには、今しばらく時とコトが必要になるであろう。


絹江「でも、良かったの? お勘定、随分いってたみたいだけど」

グラハム「馬鹿にしてくれるな、こう見えて士官級の給与は得ている」

グラハム「たかが高給喫茶で談笑した程度で明日が霞むほど、窮した生活は送っておらんよ」

絹江「そうだとしても……ちょっとね、申し訳ないっていうか」

グラハム「全く……日本人は気を遣いすぎる。次は……」

絹江「……グラハム?」

グラハム「……」


 会話の端を留めたまま、グラハムが、止まった。
 それは、獣が何かを嗅ぎ分けるがごとく、焦点を合わせるように何かを探っていた。
 違和感。
 目の前にある、【それ】に、彼の眼は釘付けになっていた。


絹江「違法駐車?」

グラハム「…………」


 視線の先には、青色の普通車が堂々とバス停に陣取っていた。
 呆れたように二人の警官がその回りを観察し、通行人やバス待ちのサラリーマンたちは知らん顔で携帯を弄っている。
 ネームプレートなし、あまり綺麗とは言えない有様のそれ。
 絹江もため息とともにそれを見る。
 いつの時代もルールを侵す人間はいるもので。
 それだけならば、よくあるありきたりな日常の一枚に過ぎない。


グラハム「……!」


 それだけ、ならば。
207 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/23(水) 05:22:18.65 ID:0vrNeivJ0

 クラクションの音が二回、バス停の更に先から響いてきた。
 本来普通車が陣取っている場所に収まるべき、路線バスの一台が寄ってきたのだ。


グラハム「くっ……!」

絹江「え、なに、ちょ……」


 まずグラハムは、前へと走り出そうと試みた。
 バスへ駆け寄ろうとしたのだろうか。
 しかし、すぐにそれを止めた。

 バスは乗用車に横付けし、すれすれに寄りつつ降車待ちの乗客を降ろし始めていた。
 警官らはガムでも噛みながら乗用車に寄りかかり、その様子を眺めている。
 小学生低学年ほどの男女児童、けんけんをしながら笑いあって降りてきた。
 微笑ましいその姿に、老齢の男性が帽子を振って挨拶をした。

 ――間に合わない。

 ――無理だ。

 ――救えない。

 彼の直感が、はっきりそう告げた。


グラハム「絹江さん!!」

絹江「きゃ……っ?!」


 とっさのこと、グラハムは絹江に飛びつき、覆いかぶさって倒れ込む。
 彼女は、グラハムに押し倒されながら、何か、視界が明るく広がっていくような感覚を覚えた。

 そして、次の瞬間、衝撃。
 二人の体は宙に浮いて数メートルは後方に吹き飛ばされ、転げ落ちた。


グラハム「ぐ――ッ!!」

絹江「きゃああああーっ!!!」


 背を撫でる熱風、殴りつけてくるようなつぶての雨。
 耳は一瞬の内に音を感受することを拒否し、喉は吸い上げた砂埃を排除しようと咳き込み、むせた。
 しっかと抱きしめるグラハムの腕と、顔に感じる生暖かな雫の熱。
 その液体が赤い色をしていることに気づいた頃に、それは夢のように通り過ぎ。

 起き上がったときには、凄惨な現実だけをばらまき散らかしていた。


絹江「――――」

 

 耳がおかしくなっているのだろう、辺りの音は聞こえない。

 そこは、ただ、車と、建物と、標識と――人の。

 残骸が転がるだけの、地獄に様変わりしていた。
208 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/23(水) 05:24:00.60 ID:0vrNeivJ0
今日はここまで。

また金曜日に。
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/23(水) 05:31:56.40 ID:HsSAeYIY0
ラ・イデンラか
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/23(水) 09:29:14.69 ID:GU6yyFSg0
乙乙
おちゃめに過ごしてる教授見ると先が怖くなるな
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/23(水) 12:53:15.45 ID:C8iiKYtSo

天国から地獄……
212 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/26(土) 05:03:52.99 ID:9H/9bfXg0



――――


グラハム「ぐ……う……ッ」


 全身を万力で締め上げられたような激痛。
 顔を上げると、切れた額から血が滴り落ちる。
 呼吸を意識する。
 ゆっくり吸い上げた空気を少しずつ吐いていく。
 地面に叩きつけられた上、庇った分の体重も加味した衝撃は相応のダメージを総身にもたらしていた。
 が、そんなことはどうでもいい。
 意を決し立ち上がる。

 眼前には、地獄が広がっていた。


グラハム(……酷い、な)


 退勤時間の路線バスを狙い撃ちにした、計画的な爆破テロ。
 横転したバスに薙ぎ払われた通行車両が道をせき止め、現場は阿鼻叫喚。
 爆心地は、衝撃の凄まじさを物語るように、綺麗な円形の無をそこに表していた。


グラハム(あの場にいた者達は……即死だろう。威力が高すぎる、バスが多少離れていてもどうにかする意図があったはずだ)

グラハム(ならば、恐らくは時限式。リモコン操作による二次被害狙いは恐らくはないはず……)


 痛む膝を庇う猶予もない。
 事態は一刻を争うからだ。
 急がねばと、一歩を踏み出した。

――その隣を、更に速く、駆け出した影があった。


絹江「―――」

グラハム「な……!?」


213 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/26(土) 05:09:38.79 ID:9H/9bfXg0
 とっさに、手を掴んで制した。
 危険性は薄い、しかし確証が持てない以上、近づくのは危うい。
 軍人たる自分が、まずは行くべきだと、言おうとした。
 が、言葉を発する前に、彼女が振り返る。
 潤んだ瞳が、真っ直ぐに、見つめてくる。


絹江「――離して!」


 気圧された。
 視線に胸を穿たれたような錯覚をも見た。

 腕は、震えていた。
 一筋の雫が、頬を下っていった。
 噛み締めた唇からは血が滲んでいる。

 怯えているのだ。
 間違いなく、彼女は怯えているはずなのだ。
 だのに、その眼は、言いようのないほど雄弁に私に咆哮していた。
 
 【救ける】のだ、と。



グラハム「……」


 自然と、手を離した。 
 圧倒されたからではない。その望みのために、託したのだ。
 すぐに彼女はヒールのかかとを折って、残骸散る惨劇の場に駆け出していった。
 ならば、自分は自分の成せることを為そう。
 目指す途中で、携帯端末に手を伸ばす。
 落ち行くリアルドの待受など目もくれず、着信履歴に指を滑らせた。


214 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/26(土) 05:35:05.92 ID:9H/9bfXg0


――――


絹江「っ……ごほ……けほ」


 吸う度、肺に飛び込む塵に呼吸が乱れる。
 見えるもの、見えてしまうものに眼差しは敢えて直視を避け、それが何であるか理解する前に焦点を外す。
 以前、薬品輸送のトラックが事故で爆発した現場に立ち会ったときは、運転手の見るも無残な有様に卒倒してしまったものだ。
 今、此処で、同じ轍を踏む訳にはいかない。
 今は、一瞬一秒が何より惜しい。
 すくい上げられる命があるなら、それが出来るのは自分だけなのだから。


絹江「誰か……誰か、いませんかー! 怪我をしている人は、助けが必要な人はいませんかぁーっっ!!」


 ありったけ、今出せる声で、叫んだ。
 崩れた壁や割れたガラス、道路標識、木々。
 倒れて死角になっているところに向けて、見逃さぬよう目を凝らす、可能な限りを正気と天秤にかけて。

 しかし、見つからない。
 そこに多々【ある】のは、明らかに終わってしまった命の残滓に過ぎない。
 こみ上げる胃液を、無理やり両手で喉奥に押しとどめる。
 見るな、まだ、今は、止まってはいけない。
 念じながら、まだあるかもしれない可能性を探そうとした。
 
 瞬間、顔が朱に、熱に照らされる。


絹江「ひ……っ」


 燃え盛る爆弾車が、小さく火を天めがけ吐き出す。
 驚かされた猫のように飛び上がり、身が竦む。
 肩が、震える。
 一気に涙が溢れ出す。
 怖いという感情が、心臓を痛いほどに叩き鳴らす。
 車が爆発する可能性も考えれば、長居なんて出来ない。
 先ほど、グラハムが制止したのもきっとそのためだ。
 

絹江(でも……っ)


 それでも、あぁそれでも。
 此処で尻込み、退いてしまったら。
 自分は一生後悔すると、そう思うから。
 二の腕に爪を立てた。
 涙を拭った。
 胸を叩き、感情を叱りつけた。
 
 今、「救ける」ために。
 

「……――……」

絹江「え……?」
215 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/26(土) 05:58:59.09 ID:9H/9bfXg0

 呼ばれた?ような気がして、振り向く。
 焼けたフレームと、剥がれて積み重なった壁面のタイル。
 転がったモノ達の、一番遠くに、焦点があった。
 何かを、抱えるように倒れている、影。
 それが、今目の前で、明らかに揺れたのだ。


絹江「――!!」


 無我夢中になって、駆け出した。
 少し、足元を蹴ってしまったかもしれない。
 踏んでしまったかも。
 でも、多分、それは、何もかもの感情を押しのけて認識をさせなかった。

 近寄って、それが何であるかようやく認識できた。
 老齢の男性……爆風と破片に無残な姿になった、犠牲者。
 しかし、その傍らに、確かに抱いたもの。
 砕けた身で、あぁ、こんな状態になっても……!!


絹江「あぁ……神様……っ!!」


 二人の、あの児童二人を、抱きかかえている……!


グラハム「絹江さん!!」


絹江「!」


 彼の腕から二人を取り上げ、寝かせていると、声がした。
 グラハムが、額をハンカチで押さえながら駆け寄ってきた。
 その傍らには、白いフレームに赤十字のマークを添えた医療用オートマトン。
 いち早く近隣の緊急用オートマトンを起動させてくれたのだろう。
 
 二人の児童は痣だらけで気絶こそしているが呼吸も脈もあった。
 何故、どうやって、あの爆発で彼はこの子達を庇えたのか。
 血相を変え駆け寄ったグラハムに何かを察したのだろうか。
 人混みが、盾になったのだろうか。
 爆風が発生した位置が関係しているのか。
 一気に色々な考えが噴出して、それはまるでそれらの答えたり得ないものに一掃されていく。


絹江「良かった……ほん……とうに……っ」


 感謝と、安堵。
 眠っているかのように瞳を閉じる子らを見つめながら、乾いてしまいそうなくらい、涙が流れてきた。
 
 そう、して。
 ゆっくり、風景が傾いて、暗くなって。

 そこで、記憶は、途切れて、消えた。


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