【ガンダム00】沙慈「僕の義兄はフラッグファイター」

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190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/19(土) 10:05:28.02 ID:HGUgpvG70
教授が段々ノブノブに見えてきた…
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/19(土) 10:43:58.42 ID:pvbzlMbZ0
>>189
何そのSons of Patriot
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/19(土) 11:10:55.34 ID:YjnpceE+o
>>189
反則ゥー!
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/19(土) 13:25:19.90 ID:7qGl0tXoo
やっぱり想定外の事態に狼狽してビリーを見るハム公はかわいいな
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/21(月) 03:32:49.13 ID:TiQyFydKo


>>189
ハナから勝負にならんやんこんなの……
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/21(月) 10:01:42.18 ID:jAfR/guI0
やっぱりヴェーダ最強なんすねぇ・・・
よく2期戦えたな
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/21(月) 12:19:16.90 ID:+6fZIId+0

昨日劇場版見たけどヴェーダによる情報統制で漏洩はまず無い言ってたのはそういうことか
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/21(月) 14:18:31.53 ID:ZT/dNIXxo
ヴェーダに勝つためには完全独立したネットワークシステムを作る必要があるって無理じゃん
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/21(月) 22:49:07.81 ID:nbE97BAko
独自ネットワークを作ろうとしてもヴェーダ媒体がどっかに引っかかる恐怖
199 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/23(水) 02:30:33.25 ID:0vrNeivJ0
ちなみにヴェーダはその性質上
「一切ネットに繋がってない機器には干渉できない」
「紛争極貧地域やスラムのような干渉可能機器の少ない地域の情報が不足しやすい」
という特徴があります。
そこを補うために数万人のイノベイド(と総数不明のエージェントイノベイド)が、自分を人間と刷り込まされ、数年単位で記憶をリセットされ、潜在的にヴェーダに情報を送り続けています。
喧嘩売るならこれ全部敵になる

11/22は欠かしてはいけないと思ったので続きです
200 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/23(水) 02:53:52.34 ID:0vrNeivJ0


――基地より最寄り、アメリカ西部のとある都市――


ウェイター「では、どうぞごゆっくりおくつろぎくださいませ」

グラハム「ありがとう」

絹江「…………」ソワソワ


――喫茶店――


グラハム「落ち着きませんか?」

絹江「え、いや、あはは……こういうお高いとこはなかなか……っ」ソワソワ

グラハム「私もです」

絹江「え」

グラハム「此処はプロフェッサーのお付きの時くらいでしか来ない、あの御方の行きつけの喫茶店」

グラハム「今回は企みに肖って、敢えて選択しましたが……ふふ、腰が浮いている心地ですよ」

絹江「企み………」

絹江「…………」



絹江「 ま た だ ま さ れ た ? ! 」

グラハム「……絹江さん」シー

絹江「ゴメンナサイ……」カァァ


――――

エイフマン「わっはっはっはっは!」

ビリー「うわ、なんですかいきなり」

エイフマン「いや、今頃絹江くんが儂の策に気づいてぐぬぬーってなっとる頃合いと思うてな」ニヤニヤ

ビリー「我が師ながら流石の悪趣味ぃ」
201 :胃「俺が飲んでいたのはコールタールの上澄みだった」 ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/23(水) 03:14:45.51 ID:0vrNeivJ0

――――

グラハム「…………」ズズ

絹江「……」モグモグ

絹江(わー、このタルトすごい美味しい。果物がぷるぷるしててあまーい)

グラハム(うむ、流石に別格。基地のあれがただでさえ薄めた泥濘に近しい代物だけに、胃が驚嘆に跳ねている気さえする)

グラハム(とと、横道に逸れてはいけないな。話を進めよう)


グラハム「絹江さん」

絹江「! はい」

グラハム「……沙慈くんと、ルイス嬢は、お変わりありませんか」

絹江「えぇ、おかげさまで……特に事故を思い出すようなこともなく、いつものあの子達に戻っています」

絹江「……あのガンダムに救われたというのは意外でしたが……」

絹江「正直に、感謝しています。助けてくれたパイロットに」


グラハム「……その素直な感情は貴女の美徳だ。固定観念に縛られず物事に向き合う姿勢、尊敬いたします」

絹江「大げさですよ……私なんて、身内びいきの弟離れが出来ない、ただ一人の女です」


グラハム「――お許し下さい、絹江さん」

スッ

絹江「!?」

グラハム「私は今回、貴女に何一つ、お力添えすること叶わなかった」

グラハム「友人の不幸を遠巻きに見ていることしか出来なかった」

グラハム「挙句、ガンダムの跋扈さえ許した。本当に、申し訳ない」
202 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/23(水) 03:39:38.80 ID:0vrNeivJ0

絹江「……ええっと……」

絹江「グラハムさん、もしかして、ずっと? そのこと、考えていたんですか」

グラハム「滑稽と、笑われることは覚悟しております」

絹江(あ、頭上げた)

グラハム「天柱は人革連の軌道エレベーター、そして状況は地上からの支援など夢物語の大気圏外」

グラハム「えぇ……私がどのように権力を有していたとしても、助力不可能の事故であることは明白」

グラハム「ですが私は……そのことに怯え、無力であることをいいことに……!!」


「貴女に、ただ一言の言葉をかけることすら躊躇ったのです」



絹江「――――あ」


グラハム「……」ゴク

グラハム「私は、たとえ気休めにしかならずとも、解決の糸口にさえならずとも、あの時こそ貴女にご連絡差し上げるべきだったのです」

グラハム「それが友情であるはずです、必要な心馳せであるはずです! 全く……なんと矮小な肝を持ったものか、我ながら呆れ果てる!」

グラハム「……もっとも、本当に無能の戯言以上が言えたとは今でも思えませんが」

グラハム「……申し訳ない、少し熱狂に過ぎた……」ゴク

絹江「…………」


絹江(……聞いてからも、そんなことってしか思えないし、ぶっちゃけ何言ってるか理解できないけど)

絹江(そっか、グラハムさん、あの日、事故があったあの時間)


絹江「励まそうと――してくれてたんですね。貴方は」

グラハム「……笑ってください、それっぽっちさえ為せぬ、ユニオンのエースのざまを」

203 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/23(水) 04:11:07.47 ID:0vrNeivJ0

絹江「ううん、そんな必要ない、笑われるべきなんてことは有り得ません」

絹江「だって……今、嬉しいんです、私」

グラハム「!」

絹江「だって、そうじゃないですか」

絹江「どこか遠くの友達が、自分が苦しんでることを知って、心配してくれてた、気にかけてくれてたんですよ?」

絹江「誰かに想われてたってことは、生きていていいって言われているみたいなものでしょう?」

絹江「それが、本人から聞けたんです。大事にもならなくて済んだ上、こんな特報まで……」


絹江「ありがとうございます、グラハムさん。今日は本当に素敵な日になったわ」ニッコリ


グラハム「――――あ」


絹江「グラハム、さん……?」

グラハム「……ふふっ、全く」

グラハム「貴女は卑怯な方だ。叱咤か絶句かと恐々に肩を窄ませていれば、まさか感謝を受けるとは」

絹江「姑息な女は、お嫌い?」クスッ

グラハム「何が姑息なものか、真正面から堂々と、貴女はこのグラハム・エーカーの奸計をねじ伏せたのです」

グラハム「お見事、本日は完敗です。潔く認めましょう」




絹江「うふふ、でもここ数日の着信無視の分はまだ消化されてないんですけれどね」

グラハム「ぐ」
204 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/23(水) 04:29:25.68 ID:0vrNeivJ0


グラハム「……ここのお支払は、もとより私が受け持つ予定です。他のもので咎を償いましょう」

絹江「あー……言われちゃった。潔すぎるのも考えものですね」

グラハム「首を差し出し続けるのも辛いものです、慈悲があるなら、ひと思いにどうぞ」

絹江「……じゃあ……」


絹江「ねえ、【グラハム】」

グラハム「……は……?」

絹江「お互い、堅苦しく話すのは、終わりにしない?」

グラハム「……と、言うと……」

絹江「敬語抜き、てこと。勿論、親しき仲でも尽くすべき礼儀は欠かすつもりはなくてよ?」

絹江「ふふ、年上の男のひとにこういうのはちょっと恐縮って感じだけれど、今ので分かったの」

絹江「あなたとは、もっと仲良くなりたい。そういう価値がある人だってね」

グラハム「っ……」

絹江「あ、勿論……馴れ馴れしいのは嫌って言うなら……止めるけれど」

グラハム「っ、私が、そう呼ばれるのは構いません、ですが……」

絹江「?」


グラハム「私も、そう呼ぶべきなのでしょうか?」



絹江「……駄目?」



グラハム「ッ……!!」ビキッ


205 :ようやく、知人脱却 ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/23(水) 04:43:14.43 ID:0vrNeivJ0


グラハム「この、そういう、あぁもう……ッ!」

絹江「???」

ウェイター(あざとい)

ウェイトレス(あざとい)

マスター(あざとい)


グラハム「ゴホン……分かった、承諾しよう!」ガタ

絹江「!」

グラハム「――改めて、良い関係を祈念させていただく。よろしく頼む、絹江・クロスロード」スッ

絹江「えぇ、こちらこそ。よろしく、グラハム・エーカー!」ギュ

グラハム「…………」

絹江「…………」


グラハム「……慣れるまで、しばし沈黙が常となりそうだ」フゥー

絹江「あー……そこはご愛嬌ってことで」アハハハ


 ・
 ・
 ・
 ・


206 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/23(水) 05:03:06.95 ID:0vrNeivJ0

――市街――


 時刻は、既に夕刻に差し掛かる頃合い。
 あれから慣れぬなりに会話を重ねた二人は、喫茶店を後にして車へと歩み始めたばかり。
 赤らんだ光に照らされているからか、話し込んで熱を帯びたからか、はたまた。
 二人の頬に差した朱が意図を見出すまでには、今しばらく時とコトが必要になるであろう。


絹江「でも、良かったの? お勘定、随分いってたみたいだけど」

グラハム「馬鹿にしてくれるな、こう見えて士官級の給与は得ている」

グラハム「たかが高給喫茶で談笑した程度で明日が霞むほど、窮した生活は送っておらんよ」

絹江「そうだとしても……ちょっとね、申し訳ないっていうか」

グラハム「全く……日本人は気を遣いすぎる。次は……」

絹江「……グラハム?」

グラハム「……」


 会話の端を留めたまま、グラハムが、止まった。
 それは、獣が何かを嗅ぎ分けるがごとく、焦点を合わせるように何かを探っていた。
 違和感。
 目の前にある、【それ】に、彼の眼は釘付けになっていた。


絹江「違法駐車?」

グラハム「…………」


 視線の先には、青色の普通車が堂々とバス停に陣取っていた。
 呆れたように二人の警官がその回りを観察し、通行人やバス待ちのサラリーマンたちは知らん顔で携帯を弄っている。
 ネームプレートなし、あまり綺麗とは言えない有様のそれ。
 絹江もため息とともにそれを見る。
 いつの時代もルールを侵す人間はいるもので。
 それだけならば、よくあるありきたりな日常の一枚に過ぎない。


グラハム「……!」


 それだけ、ならば。
207 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/23(水) 05:22:18.65 ID:0vrNeivJ0

 クラクションの音が二回、バス停の更に先から響いてきた。
 本来普通車が陣取っている場所に収まるべき、路線バスの一台が寄ってきたのだ。


グラハム「くっ……!」

絹江「え、なに、ちょ……」


 まずグラハムは、前へと走り出そうと試みた。
 バスへ駆け寄ろうとしたのだろうか。
 しかし、すぐにそれを止めた。

 バスは乗用車に横付けし、すれすれに寄りつつ降車待ちの乗客を降ろし始めていた。
 警官らはガムでも噛みながら乗用車に寄りかかり、その様子を眺めている。
 小学生低学年ほどの男女児童、けんけんをしながら笑いあって降りてきた。
 微笑ましいその姿に、老齢の男性が帽子を振って挨拶をした。

 ――間に合わない。

 ――無理だ。

 ――救えない。

 彼の直感が、はっきりそう告げた。


グラハム「絹江さん!!」

絹江「きゃ……っ?!」


 とっさのこと、グラハムは絹江に飛びつき、覆いかぶさって倒れ込む。
 彼女は、グラハムに押し倒されながら、何か、視界が明るく広がっていくような感覚を覚えた。

 そして、次の瞬間、衝撃。
 二人の体は宙に浮いて数メートルは後方に吹き飛ばされ、転げ落ちた。


グラハム「ぐ――ッ!!」

絹江「きゃああああーっ!!!」


 背を撫でる熱風、殴りつけてくるようなつぶての雨。
 耳は一瞬の内に音を感受することを拒否し、喉は吸い上げた砂埃を排除しようと咳き込み、むせた。
 しっかと抱きしめるグラハムの腕と、顔に感じる生暖かな雫の熱。
 その液体が赤い色をしていることに気づいた頃に、それは夢のように通り過ぎ。

 起き上がったときには、凄惨な現実だけをばらまき散らかしていた。


絹江「――――」

 

 耳がおかしくなっているのだろう、辺りの音は聞こえない。

 そこは、ただ、車と、建物と、標識と――人の。

 残骸が転がるだけの、地獄に様変わりしていた。
208 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/23(水) 05:24:00.60 ID:0vrNeivJ0
今日はここまで。

また金曜日に。
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/23(水) 05:31:56.40 ID:HsSAeYIY0
ラ・イデンラか
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/23(水) 09:29:14.69 ID:GU6yyFSg0
乙乙
おちゃめに過ごしてる教授見ると先が怖くなるな
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/23(水) 12:53:15.45 ID:C8iiKYtSo

天国から地獄……
212 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/26(土) 05:03:52.99 ID:9H/9bfXg0



――――


グラハム「ぐ……う……ッ」


 全身を万力で締め上げられたような激痛。
 顔を上げると、切れた額から血が滴り落ちる。
 呼吸を意識する。
 ゆっくり吸い上げた空気を少しずつ吐いていく。
 地面に叩きつけられた上、庇った分の体重も加味した衝撃は相応のダメージを総身にもたらしていた。
 が、そんなことはどうでもいい。
 意を決し立ち上がる。

 眼前には、地獄が広がっていた。


グラハム(……酷い、な)


 退勤時間の路線バスを狙い撃ちにした、計画的な爆破テロ。
 横転したバスに薙ぎ払われた通行車両が道をせき止め、現場は阿鼻叫喚。
 爆心地は、衝撃の凄まじさを物語るように、綺麗な円形の無をそこに表していた。


グラハム(あの場にいた者達は……即死だろう。威力が高すぎる、バスが多少離れていてもどうにかする意図があったはずだ)

グラハム(ならば、恐らくは時限式。リモコン操作による二次被害狙いは恐らくはないはず……)


 痛む膝を庇う猶予もない。
 事態は一刻を争うからだ。
 急がねばと、一歩を踏み出した。

――その隣を、更に速く、駆け出した影があった。


絹江「―――」

グラハム「な……!?」


213 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/26(土) 05:09:38.79 ID:9H/9bfXg0
 とっさに、手を掴んで制した。
 危険性は薄い、しかし確証が持てない以上、近づくのは危うい。
 軍人たる自分が、まずは行くべきだと、言おうとした。
 が、言葉を発する前に、彼女が振り返る。
 潤んだ瞳が、真っ直ぐに、見つめてくる。


絹江「――離して!」


 気圧された。
 視線に胸を穿たれたような錯覚をも見た。

 腕は、震えていた。
 一筋の雫が、頬を下っていった。
 噛み締めた唇からは血が滲んでいる。

 怯えているのだ。
 間違いなく、彼女は怯えているはずなのだ。
 だのに、その眼は、言いようのないほど雄弁に私に咆哮していた。
 
 【救ける】のだ、と。



グラハム「……」


 自然と、手を離した。 
 圧倒されたからではない。その望みのために、託したのだ。
 すぐに彼女はヒールのかかとを折って、残骸散る惨劇の場に駆け出していった。
 ならば、自分は自分の成せることを為そう。
 目指す途中で、携帯端末に手を伸ばす。
 落ち行くリアルドの待受など目もくれず、着信履歴に指を滑らせた。


214 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/26(土) 05:35:05.92 ID:9H/9bfXg0


――――


絹江「っ……ごほ……けほ」


 吸う度、肺に飛び込む塵に呼吸が乱れる。
 見えるもの、見えてしまうものに眼差しは敢えて直視を避け、それが何であるか理解する前に焦点を外す。
 以前、薬品輸送のトラックが事故で爆発した現場に立ち会ったときは、運転手の見るも無残な有様に卒倒してしまったものだ。
 今、此処で、同じ轍を踏む訳にはいかない。
 今は、一瞬一秒が何より惜しい。
 すくい上げられる命があるなら、それが出来るのは自分だけなのだから。


絹江「誰か……誰か、いませんかー! 怪我をしている人は、助けが必要な人はいませんかぁーっっ!!」


 ありったけ、今出せる声で、叫んだ。
 崩れた壁や割れたガラス、道路標識、木々。
 倒れて死角になっているところに向けて、見逃さぬよう目を凝らす、可能な限りを正気と天秤にかけて。

 しかし、見つからない。
 そこに多々【ある】のは、明らかに終わってしまった命の残滓に過ぎない。
 こみ上げる胃液を、無理やり両手で喉奥に押しとどめる。
 見るな、まだ、今は、止まってはいけない。
 念じながら、まだあるかもしれない可能性を探そうとした。
 
 瞬間、顔が朱に、熱に照らされる。


絹江「ひ……っ」


 燃え盛る爆弾車が、小さく火を天めがけ吐き出す。
 驚かされた猫のように飛び上がり、身が竦む。
 肩が、震える。
 一気に涙が溢れ出す。
 怖いという感情が、心臓を痛いほどに叩き鳴らす。
 車が爆発する可能性も考えれば、長居なんて出来ない。
 先ほど、グラハムが制止したのもきっとそのためだ。
 

絹江(でも……っ)


 それでも、あぁそれでも。
 此処で尻込み、退いてしまったら。
 自分は一生後悔すると、そう思うから。
 二の腕に爪を立てた。
 涙を拭った。
 胸を叩き、感情を叱りつけた。
 
 今、「救ける」ために。
 

「……――……」

絹江「え……?」
215 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/26(土) 05:58:59.09 ID:9H/9bfXg0

 呼ばれた?ような気がして、振り向く。
 焼けたフレームと、剥がれて積み重なった壁面のタイル。
 転がったモノ達の、一番遠くに、焦点があった。
 何かを、抱えるように倒れている、影。
 それが、今目の前で、明らかに揺れたのだ。


絹江「――!!」


 無我夢中になって、駆け出した。
 少し、足元を蹴ってしまったかもしれない。
 踏んでしまったかも。
 でも、多分、それは、何もかもの感情を押しのけて認識をさせなかった。

 近寄って、それが何であるかようやく認識できた。
 老齢の男性……爆風と破片に無残な姿になった、犠牲者。
 しかし、その傍らに、確かに抱いたもの。
 砕けた身で、あぁ、こんな状態になっても……!!


絹江「あぁ……神様……っ!!」


 二人の、あの児童二人を、抱きかかえている……!


グラハム「絹江さん!!」


絹江「!」


 彼の腕から二人を取り上げ、寝かせていると、声がした。
 グラハムが、額をハンカチで押さえながら駆け寄ってきた。
 その傍らには、白いフレームに赤十字のマークを添えた医療用オートマトン。
 いち早く近隣の緊急用オートマトンを起動させてくれたのだろう。
 
 二人の児童は痣だらけで気絶こそしているが呼吸も脈もあった。
 何故、どうやって、あの爆発で彼はこの子達を庇えたのか。
 血相を変え駆け寄ったグラハムに何かを察したのだろうか。
 人混みが、盾になったのだろうか。
 爆風が発生した位置が関係しているのか。
 一気に色々な考えが噴出して、それはまるでそれらの答えたり得ないものに一掃されていく。


絹江「良かった……ほん……とうに……っ」


 感謝と、安堵。
 眠っているかのように瞳を閉じる子らを見つめながら、乾いてしまいそうなくらい、涙が流れてきた。
 
 そう、して。
 ゆっくり、風景が傾いて、暗くなって。

 そこで、記憶は、途切れて、消えた。


 ・
 ・
 ・ 
 ・


216 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/26(土) 06:27:07.68 ID:9H/9bfXg0

――ユニオン、AEUの主要都市七ヶ所における、時限式IED(即席爆発装置)を使用した爆発テロ行為。

――それは、ガンダムを有し世界中に武力介入を繰り返すソレスタルビーイングに対する【報復行動】を銘打ったものだった。

――ガンダムを放棄し、武装解除するまでは無差別に繰り返す、と声明が発表される。


――それは、国際テロネットワークによる、天上人への宣戦布告であった。



エイフマン「やはり来たか……」


ホーマー「三大国の一柱、AEUと傭兵国家モラリアで全く相手にならないガンダムには正攻法では戦えない」

ホーマー「故に、無辜の民を人質にして、神が如く屈服を要求する」

ホーマー「数百年変わらない、奴ららしいやり方です。自身らを正義と謳い、平然と邪悪を成すのですから」

エイフマン「全くもって、はらわたが煮え繰り返る気分じゃ」

エイフマン「確かにソレスタルビーイングは脅威に他ならん、だが、全くもって……!」

エイフマン「あの外道ども……【目的の完遂まで自分たちの行為を大国が黙認する】とでも思っておるのか!!」バンッ

ホーマー「このタイミングで仕掛てきたのは、ガンダムによる被害のため大国が及び腰になるタイミングを狙ってのこと、でしょうな」

ホーマー「しかし……」

ホーマー「内情見えぬテロ組織にではなく、市民の矛先はガンダムを倒せぬ我々にも否応なく向いてきましょうな」

エイフマン「ソレスタルビーイングとともにな。不甲斐なさは甘んじて受け入れよう……が」

ホーマー「あのくそったれ共の中指までは、我々も容認は出来ませんな」

エイフマン「へし折ってくれる、何としてでも、真っ先にな」


PPPP


エイフマン「カタギリ君か」


ビリー『はい、教授。消防隊と協力して、作業用メカでの廃車の移動と処理は終了しました』

217 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/26(土) 06:51:33.60 ID:9H/9bfXg0
エイフマン「現場は……どうだ」

ビリー『死者38名、重軽傷者数は70人は下りません』

ビリー『酷い有様です。目も当てられない、ここだけまるで戦場だ』


エイフマン「……神よ、どうか御霊を安らかに、御身の下で受け入れたまえ」スッ

ホーマー「ビリー、グラハムはどうした」

ビリー『陣頭で基地の作業班と消防隊の連携を指揮した後、治療のため病院に向かいました』

ホーマー「あいつめ、何をやっている……」

ビリー『あはは、不思議とみんな従ってましてね、結果的にはスムーズに進みましたよ』

エイフマン「あやつらしいと言えばらしいかな、ユニオンの大尉だしのう」

ビリー『打撲と裂傷で血まみれのまま、オートマトン借りて重傷者の治療も兼ねてやってましたからね。戻るのはしばらくは……あぁ、いや』

ホーマー「あぁ、しばらく休めと伝えろ。此方で手続きは済ませておいてやる」

エイフマン「まあ、無駄じゃろうて」

ホーマー「でしょうが、ね」

ビリー『クロスロード女史は気絶して同じ病院に搬送されたそうです、グラハムが後で送迎するって』

エイフマン「ほれ、入院する気がないぞ、あやつ」

ホーマー「……はぁ〜……」

エイフマン「何がともあれご苦労だった、整備は引き継いでおく故、戻ってきたらゆっくり休むといい」

ビリー『了解です、ではまた』ピッ


エイフマン「さて……どう動く、ソレスタルビーイング?」



――――

ベシンッ

グラハム「いっ……!?」

看護師「痛くて当然! こんな傷、今の今まで放置して!」ガミガミ

グラハム「…………」
218 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/26(土) 07:09:25.53 ID:9H/9bfXg0
今日は此処までで
金曜日前に一回、そして金曜日にまた。

再来週はもしかしたら厳しいかも。
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/26(土) 09:18:37.59 ID:t09SyVFXO

無茶をする、というと二人とももう一人ほどじゃないと返しそう
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/26(土) 20:16:15.53 ID:fUV5Q5BA0
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/26(土) 21:11:21.06 ID:tqB762Xt0
キャプテン・ユニオン??????
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/27(日) 02:56:25.23 ID:MM9MVQUQo
盾は置いていけ、父さんが作った盾だ!

いやぁサーシェスがそんな殊勝な事言うとは到底思えんなあ。
223 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/30(水) 12:38:13.12 ID:De6Dw/k10
申し訳ない、厳しいのは今週でした。
再来週にまとめて一気に投稿致します。
224 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/03(土) 04:58:46.53 ID:L9MABg3m0
うっわ、すいません>>217のエイフマンの「大尉」はミスです。ごめんなさい。
無視していただくしかありません、反省いたします。
225 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/10(土) 03:35:29.17 ID:RH91ZoO/0
エイフマン「あやつらしいと言えばらしいかな、どこぞで活躍した星条旗の英雄どののようだのう」

ホーマー「階級が一つばかり足りないようですが、ね」


としておけば……大丈夫でしょう。
ネタでしくじるなど言語道断ですね……申し訳ないです。

では続きを。
226 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/10(土) 03:56:13.04 ID:RH91ZoO/0

――市内病院――

医師「傷の縫合と打撲部の治療は完了いたしました」

医師「特殊生体縫合糸と部分薬液注射、即席培養皮膚組織移植に体液滞留型シートも使いましたから、傷は全く残りません、保証いたしますよ」

グラハム「感謝いたします、ドクター」

医師「仕事ですから。もう少し早く来ていただけたなら、痛い思いもさせずに済んだのですが?」

グラハム「お手数をおかけしたことは謝罪いたします、ですが、私も職務を全うしたまでです」

医師「とやかくは言いません、生きてこの病院に来ていただけたなら全力を尽くすまでです」

グラハム「……ドクター、医療行為は甘んじて受けました、ですので」

医師「ん、あぁ、ジャーナリストのパートナーと二人の子供の件ですね」

グラハム「友人です。治療が先決とのことでしたので、早速」

医師「ふぅーむ……」ポリポリ

医師「彼女の方は外傷は皆無、精神面での治療は専門外ですが、足繁く通っていただければ提示できる医療は数多くあります」

医師「催眠療法、VR、長期睡眠夢想療法……ええ、【貴方が多く活用している】これらのものでもすぐに手配できましょう」

グラハム「はは……軍の取り決めです、私自身は……」

医師「ええ、ええ。一定期間の長期軍務に従事した者への法律的義務、滞りなく受けていただけているようで何よりです」

医師「ですが前例……すっぽかしの前科がありますゆえ、一応ね。はい」ppp

グラハム(ぬう……先ほどの看護師といい、軍に近い病院は妙に熟れていてやりにくいことこの上ない)

グラハム(二年ほどだまくらかしたくらいで酷い言われようだ……!)


医師「子どもたちの件ですが、一時間ほど前に手術室にて処置を終え、病室でお休みになられています」

グラハム「手術の必要性が……?」

医師「……ええ、まあ……発見が遅れていれば相応には」

グラハム「!!」
227 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/10(土) 04:12:35.80 ID:RH91ZoO/0
医師「腹部強打による内蔵出血だそうです。搬送中に車両の検査機器が発見し、到着と同時に施術を」

医師「ふたりとも検査段階で発見が遅れていたら……という程度には危険だったようです」

グラハム「ッ……」

医師「今では完全に安定し、個室でゆっくりと休んでおられます。無論、関係者以外にはご内密に」シー

グラハム「は……ですが申し訳ない」

グラハム「私はかの子らとはなんら無関係で……」

医師「ですが、その子供らを発見してくださった女性とはご友人なのでしょう?」

グラハム「あ……」

医師「……生きてここに来てくだされれば、力も尽くせます」

医師「手足がなくなっても、内臓が欠けても、人らしい生活への助けを今の医療なら提示できるのです」

医師「ですが、たどり着くまでに亡くなられた場合、我らにも、悼むことしか出来ません」

医師「ご友人に、医師一同、御礼を言っていたとお伝え下さい。彼女が繋がねば、幼い命は人知れず散っていただろうと」ペコリ

グラハム「……確かに、承りました」


 ・
 ・
 ・

《犯行声明文は以下のとおりです》


グラハム「……」


「さっきモールの手前のバス停でテロがあったって!」

「怖いねえ……ソレスタル何とかってのが何かしたのかい?」



《……私設武装組織ソレスタルビーイングによる武力介入の即時中止、及び武装解除が行われるまで、我々は報復活動を続けることとなる》

《これは悪ではない》

《我々は人々の代弁者であり、武力で世界を抑えつける者達に反抗する正義の使徒である》


グラハム「よくもそのような詭弁を……ッ!!」

グラハム「……くっ……」
228 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/10(土) 04:30:23.10 ID:RH91ZoO/0
――病室――

絹江「……ん……?」

グラハム「! 起きられましたか、絹江さん」

絹江「――――」ボー

グラハム「あ、こほん……此処は病院で、君は搬送された。もう安心だ」

グラハム「外傷は問題ないそうだから……!」


絹江「――!」ガバッ

グラハム「ま――!!」


ガシッ


絹江「離して、まだ――っ!!」

グラハム「ま、止まって……ッチ、あぁもう……!」

絹江「――!!」ジタバタ


グワシッ


グラハム「私を見ろ、絹江!!!」

絹江「っ?!」

グラハム「もう終わった、終わったんだ! 救えたものは救った! もういない!!」

グラハム「もう、探さなくても、いい……ッ!」

絹江「……終わっ……た?」

グラハム「そうだ、終わった……!」

絹江「……あ……あ、あ」


「わああぁぁぁ…………っっ!!」


グラハム「……」ギュゥ

229 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/10(土) 04:42:01.45 ID:RH91ZoO/0



 ・
 ・
 ・


絹江「……ごめんなさい、迷惑かけちゃって」

グラハム「何も問題ありません。落ち着きましたか?」ギュー

絹江「はい、おかげさまで……ありがとうございました」

グラハム「なんの。むしろあの状況でよくぞあそこまで耐えられました」ギュー

グラハム「胸を張って欲しい。貴女にはぜひとも伝えなくてはならないことがあるのです」ギュゥゥ


絹江「っ……えっと、あの……っ」

グラハム「? なにか?」ギュー


絹江「は……離してもらえると……嬉しいなぁって……あ、はは」ジュゥゥ

グラハム「……失敬」パッ

絹江「っ……」ササ



――病室外――


看護士「チッ……」

看護師「チッ……」

看護士「……どうしましょう」

看護師「違うとこ先回るわよ、患者さんは大勢いるんだから」

看護士「うっす」


――――

230 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/10(土) 05:05:09.39 ID:RH91ZoO/0


絹江「そうですか、あの子達は無事に……」

グラハム「少なくとも、瓦礫とご老人の下で守られていた二人を発見するのは至難の業であったと私は思います」

グラハム「貴女が恐怖と戦った価値はあった。無論、その行為だけでも賞賛されるべきことではありますが」

絹江「でも、土壇場で倒れていたんじゃあ……ね」

グラハム「その後を私が引き継いだのです、貴女から託されたのだと私は奮い立ちましたが?」

絹江「むう……」

グラハム「何より、結果が伴った以上、卑下はかえって失礼に当たりましょう」

グラハム「彼らを救った老紳士から貴女に、貴女から私に……救急隊員、医師と繋がった、それで良いのでは?」

絹江「ふふ……駄目ね。何を言っても褒められちゃいそう」

グラハム「言っているでしょう? 賞賛されるべきだと」

絹江「はいはい……謹んでお受けいたします、と」


絹江「それにしても、ついに現れましたね」

グラハム「国際テロネットワーク……独自の情報網と上位存在による命令系統を持たない、国家なき軍隊」

グラハム「脳から神経に伝わるような従来の方針ではない、言うなれば昆虫の神経節のような存在」

絹江「ソレスタル・ビーイングを目標とみなして……自らの力ではなく、国家の威信と存在意義を揺さぶることで攻勢に出た」

グラハム「黙っている訳にはいかない、しかし打つ手があればそも早急に、早々に打っているのも事実」

絹江「実質、隠れ潜む彼らが見つけられるならガンダムに苦しんでいる道理もない……」

グラハム「厄介極まりないが、奴らは大きな失敗をしました」

絹江「それは……?」


グラハム「ガンダムでもない輩が、今回は三国を同時に、明確に敵に回したのです」

グラハム「見誤っているといっていい。奴らは、世界を舐めた」



231 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/10(土) 05:27:33.73 ID:RH91ZoO/0

オモイハ- セキバクノヨゾラ-ニ- マイアガリー

絹江「!」

グラハム「む」


絹江「私の携帯……あぁそっか、そういえば沙慈とかにも連絡……」ガサゴソ

絹江「……あれ、あれれ……?」ガサガサ

絹江「ベッドの下とかに落としたのかな……すいません、グラハムさ」


グラハム「はい、こちら絹江・クロスロードの携帯です」ピッ

絹江「なにやってんですかあんたぁぁぁぁぁああ?!!!」


グラハム「何って、無論、貴女がお休みになっている間の応対を」キリッ

絹江「何であなたがそれをやるのって……ちょ、まさかデスクとかから来てないですよね?!」


グラハム「ご安心下さい、しっかりと対応しお休みを勝ち取っておきました」ニッコリ

絹江「何を言ったあああああ?!!」


グラハム「む、失礼、電話のお相手が先ほどから無言だ。もしもし?」

絹江「返してくださいってば、ちょっと……!!」


『……で……!』

グラハム「ん?」


沙慈『なんで姉さんの携帯にお前が出るんだッッッ!!!』キィーン


絹江「沙慈?!!」

グラハム「……絹江さん」


グラハム「いつの間にか彼の私に対する対応が劣悪化しているのですが、私は何かいたしましたでしょうか……?」オマエッテ…

絹江「しない!! フォロー不可!!」パシッ



――――

232 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/10(土) 05:40:21.29 ID:RH91ZoO/0
デスク「絹江ー、連絡まだかー」

グラハム『お久しぶりですデスク。グラハム・エーカーです』

デスク「えっ」

グラハム『いつぞやは大変失礼いたしました、この場をお借りしてお詫びを』

デスク「あぁいえ、ご丁寧にどうも……」

グラハム『彼女ですが、現在(テロに巻き込まれたため病院に搬送されていて)私の隣(の医療ベッド)で(点滴など投与され)おやすみ中でありますゆえ、ご用件などあれば伝言としてお承り致しますが』

デスク「え……」

グラハム『……どうかなされましたか』

ですく「あっはい、なんでもないですごめんなさい」

グラハム『そうですか? 彼女は昏倒こそ致しましたが、要件であればしっかりと私が……』

デスク「(昏倒?!) あ、いえ、彼女には休暇も与えますから仕事は気にせずしっかり休めとお伝え下さい」

グラハム『左様でありますか、委細承知いたしました』

デスク「ええと、お大事にと」

グラハム『確かに』

ピッ


デスク「……これだから欧米の男ってのは……」


同僚「どうしたんスかー」ズズー




233 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/10(土) 05:40:56.33 ID:RH91ZoO/0
今日はここまで

また金曜日に
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/10(土) 08:00:57.03 ID:kSiQvCI90
これは みんな ひどい w
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/10(土) 09:02:07.29 ID:Qt8K/bnkO
>>232

デスクがですくになってる

236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/10(土) 09:33:21.35 ID:RwoTcnAAO
仕事人間がイキナリ金髪アメリカンに落とされたんだ
ひらがなネームにもなろうよ
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/10(土) 19:43:55.90 ID:Yd4RWjyDO
ですく

(・_・)

な顔してそう
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/10(土) 20:02:06.34 ID:7F4K+1Doo
小学生並の感想しか出なかったからね
しょうがないね
239 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/17(土) 03:28:11.79 ID:df44zdVk0


――――

絹江「……ねえ、本当に大丈夫なの……?」

沙慈『学校は臨時休業、病院に行くような怪我もない。姉さんのほうがよっぽど酷いよ』

沙慈『お休み貰ったんでしょ? だったら休んでよ……もし無理して倒れたら、そっちに飛んでいってやるからね!』

絹江「ふふっ、それは困るわね。勉強放り出されたらたまったもんじゃないもの」

沙慈『へー、別の意味じゃなくって』

絹江「……さーじー?」


沙慈『それで、ご理解はいただけましたか? ミス・絹江?』

絹江「近くに本人いるんだから、そういうことしないの……もう」

絹江「はいはい、了解いたしました! こっちで一日休んでから、そっちに戻るわ」

絹江「何かあったら連絡はして。宅配代はいつもの冷蔵庫の横、それと極力自習もすること。あと……」

沙慈『はいはい……了解いたしました! いつもの延長だよ姉さん。こっちは心配しないで』

沙慈『帰ったら、改めて話をしてよ。今回ばかりは、結構……考えさせられた』

絹江「……そう、私もよ……」


沙慈『そうだ、姉さん』

絹江「ん、まだ何かあった? なに?」


沙慈『グラハムさんに、代わってほしいんだ』

絹江「……え?」


――――

240 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/17(土) 03:51:19.33 ID:df44zdVk0


――室外・廊下――

絹江「えっと……それじゃあ、お願いします」

グラハム「ええ、お預かりします」

グラハム「終わり次第そちらにお返しします、どうぞ、お休み下さい」

絹江「……沙慈……分かってるわね?」

『……』



グラハム「さて、君から私に話すこととは、恐縮の至りだな」

『……お久しぶりです、先ほどは……申し訳ありませんでした』

グラハム「構わない。君に対し好感を持ってもらえる行いは絶無」

グラハム「そしてファーストコンタクトの所業を思い返しても、君に軽蔑される要素は片手には余る」

グラハム「済まないね、沙慈君。君の姉上を私事で連れ回した、これは報いかも知れん」


『それは、言わないであげて下さい』

『姉は最近良く笑います。貴方のことだけじゃなく、エイフマン教授とか、色々なことで』

『貴方が、悪いと思って姉と関わったりすると……その、同情とか、人に気を遣われたりとか、駄目な人だから……』

『えっと……姉の友人関係にまで、口とか出す気はないので、余計っていうか、あの……』

グラハム「ふふ……理解した。彼女には今まで通り、友人としての距離と関係で接していくとしよう」

『……はい、すいません……口下手で』

グラハム「なに、同じユニオンとは言えテロの災禍に巻き込まれた兄弟同士、彼女の心痛と同じ重みを君は感じているだろう」

グラハム「想いの大きさがときに唇を重くすることもある。そのような関係……羨望を抱くよ、沙慈・クロスロード」


『重ね重ね、申し訳ありません……』

グラハム「敢えて言おう、気にするな、と」

グラハム「私も他者に誇れる見栄を持っているわけではない。誤解だと憤慨するには外界への努力が足らない男と自覚もしている」

グラハム「気まずさに拳を握ろうと、その場で謝罪しようと試みる君の誠実さ……それを知れたことで報いと思って欲しい」

『え?! あ、あの……見えてました? 僕の手って……』

グラハム「男にしかわからん共感のようなものだ、私にも経験がある」

『っ……』

グラハム「――そうやって紅潮するさまは、姉上にそっくりだ。実に奥ゆかしい」

『……それ、どういう意味です……?!』

グラハム「? そのままの意味だ、額面通りに受け取ってくれ」
241 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/17(土) 04:11:22.85 ID:df44zdVk0

『……エーカー中尉』

グラハム「何かね」

『姉を、絹江を助けていただきありがとうございました』

『貴方が助けてくれたから、痣一つなく済んだんだって、姉が言っていました』

『僕にとっては、たったひとりの家族なんです。本当に、ありがとうございました』

グラハム「――その一言を聞けただけでも、彼女を助けた甲斐があったというものだ」

グラハム「身を挺して牙無き市民の身命と財産を護る……久々に軍人の本懐を全うした心地だよ」

グラハム「護れてよかった。そして……護れなかった命もあった。せめて一つ、零さずに救えたのは幸運だった」

『……戦争に、なるんですか』

グラハム「ならんさ。国家が国家に相対した政治の一手段が戦争だ」

グラハム「奴らは国家ではない。政治も解さない。ただの害虫だ、必ず掃滅する」

グラハム「それが我々フラッグファイターの使命なのだから」

『…………』


グラハム「君には、変わらぬ日常を過ごしていてもらいたい」

グラハム「テロに遭遇した以上、すぐには難しいかもしれないが……それが絹江さんの望みであると私も確信している」

グラハム「そのために私は……」


グラハム「……?」



『中尉?』

グラハム「!」

グラハム「……あぁ、いや……そうだな、奴らの正体は三国も総出で捜索しているだろう」

グラハム「すぐに沈静化しよう、そうなる努力は惜しまんさ」

『……はい、待ってます』

グラハム「警戒だけはしておいてくれ……っと、これでは先ほどの言葉とは矛盾するかな」

『いえ、普段通りに、少し気を張るだけにしておきますから』

グラハム「柔軟な対応、感謝するよ」
242 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/17(土) 04:27:36.10 ID:df44zdVk0


『それじゃあ、姉にはよく休むように言っておいて下さい』

グラハム「ああ、教授には私からも感謝の意を伝えておこう」

『失礼しま……え……?』

グラハム「ん?」

『どうして、エイフマン教授が僕に連絡したって知ってるんですか?』

グラハム「男の勘だ。教授が私に伝えていたというオチはないよ」

グラハム(もっとも、デスクにはテロの詳細を伝えていたか自分でも怪しいところだからな……)

『……わかんない人……』

グラハム「ふふ、そうでなくては姉上には釣り合うまい?」

『……明言は避けます。じゃあ、いずれまた』

『改めて、ありがとうございました。中尉』


プツッ


グラハム「……そのために…………?」


グラハム「そのために、私は……飛ぼうとしたのか、今?」


グラハム「自分のことだけを考えて、自分のためだけに飛んでいた、その私が、建前にも他者のために?」


グラハム「いや、あれは……建前ではなく……」


グラハム「っ、気の迷いか……飛ぶ前に払拭しておかねば、な……」


――――


絹江「あ、戻ってきた」

グラハム「端末は無事ですよ、ご心配なく」

絹江「人間関係の方は?」

グラハム「ふふ……崩壊寸前を上手く補強出来たと自負します」

絹江「そう? まあいいわ、嘘じゃなさそうだし」
243 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/17(土) 05:06:20.57 ID:df44zdVk0


グラハム「…………」

絹江「何かあった? なんだか落ち着き無いけど」

グラハム「いえ、私事です。彼との会話は得るものしかなかったと言っていい」

絹江「そんな大層なこと言える子じゃあないけれど……あなたがそう言うなら、そうなのかも」

グラハム「男子三日会わざれば刮目して見よ、帰宅すれば一皮むけた弟君に会えましょう」

グラハム「携帯です、ありがとう――」




――――


絹江「――――」

グラハム「……絹江、さん?」


 差し出された右手の携帯端末。
 それに交差して、自然と左手が彼の顔に差し出されていた。
 視線は、彼の右こめかみの包帯とガーゼから。
 痛々しく擦り切れた右頬、唇へと。
 どれを見ても、胸の奥で何かが刃を滑らせる。

 私のせいで、ついた傷だと。

 罪悪感が、鼓動とともに痛みを流す。


グラハム「……男の勲章だ、ますますいい男になってしまった」

絹江「ごめんなさい、私のせいで――!」

グラハム「言わないでくれ、そんなことを言わせるために……」

グラハム「そんな顔をさせるために、君を助けたんじゃあない」


 少し屈んだ彼の顔に、そっと彼の手が私の手のひらを導いた。
 触り心地のいい包帯の感触と、熱いくらいの体温。
 まだ少し震えるままで、少し撫でるように動かしてみる。
 意外そうに目を丸くした彼は、すぐにいつも見ないような柔らかい笑顔を見せてくれた。


絹江「っ……うふ、なに、その顔……」

グラハム「師の教えさ。笑って欲しいときはまず自分が笑え……久しく忘れていたことだったが」

グラハム「君たちといると、新しいこと以上に過去から思い出す気がする。大切なことを、ずっと前に教わったことを」

絹江「その人は素敵な人ね……私にも分かる」

グラハム「ああ、本当に素晴らしい人だった」

グラハム「教えを乞うた側が偏屈では意味も薄かったろうに……根気強く教えてくれたよ、【最期】まで」


 そう言った彼の笑顔は、ひどく寂しそうだった。
 私は知っている、その人の名前を。
 言っていい、聞いていい名前ではないことも、知っていた。
244 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/17(土) 05:27:35.27 ID:df44zdVk0



絹江「……ありがとう、グラハム。あなたのおかげでこうして笑ってられる」

グラハム「謹んで受け取ろう、絹江。こうして君の笑顔が見られた、代金はそれで構わない」


 言うべきことを告げると、刃は朽ちて、胸の中で人知れず散っていった。
 釣られて笑う。
 彼も笑う。
 その日はそれで終わり。
 彼は帰路について、見知らぬ天井を見上げての一夜となった。


一つだけ、気になった。
 その人の名前を、話したことを、教わったことを……いずれ、私に教えてくれることはあるのだろうか、と。

 一つだけ、また、気になった。
 そんな権利なんて無いと、どこかで分かっているはずなのに。

 ――いつか、教えてくれる日が来るのではないかと。期待する自分がそこにいると、いうことに。

 
 一つ、分からなかったことだと、後で分かった。

 そう思った意味、その感情の名前。

 今、この瞬間に、芽吹いたものなのだと。


――――


――全世界を巻き込んで、天上人に闘争を引き起こした国際テロネットワーク。

――少数の無差別テロ、三百年以上も続く不動の手段を用いて凶行を繰り返す彼らに、三大国であっても足取りの捕捉は困難を極めた。

――そうして、世界はあることに気づいた。気づいてしまった。


――唯一、法も国境も無く、情報のみを頼りに動くことが出来る存在に。

――彼らの敗因は、たったひとつ。

――世界にとって、彼らはソレスタル・ビーイング以上に【無用】の存在だったことである。


――――


――東海岸・空母――

ダリル「聞きましたか、隊長。ガンダムが南米に出たって……」

グラハム「認識はしている。だが出撃命令は出ていなかった」

グラハム「つまりはそういうことだ。恐らく例の害虫どもの巣があったのだろう」

ハワード「ラ・イデンラ……ですか」

グラハム「害虫には高尚に過ぎる名だ、呼ぶ価値もない」

ダリル「同感です、隊長」

ハワード「なるほど、だから今回【尻尾が掴めた】わけですか」

グラハム「巣から追い出されて焦っているということだろう。慈悲など無い、職務をこなすまでのこと」


ハワード「ガンダムは、来ますかね?」

グラハム「今回ばかりは……出逢いたくはないな、機ではない」


 ・
 ・
 ・
 ・
245 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/17(土) 06:22:40.22 ID:df44zdVk0
寝てました
今日はここまで
また明日。
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/17(土) 07:44:56.33 ID:X/Stbb0mO
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/17(土) 16:05:41.41 ID:kgzUSINxO
おつおつ
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/17(土) 23:26:29.29 ID:JXnuR+Q60
やはり軍人のグラハムはカッコいいな
ブシドー?知らない人ですね
249 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/18(日) 05:11:14.90 ID:Zkz/GkR90

――マーシャル諸島、陸上第一拠点。

――跡形もなく壊滅したその場所で、途方に暮れるテロリストを襲撃したのは人革連の無慈悲な大規模掃討部隊。

――抵抗した者はその場で鉄と火によって、降伏した者は後に荒縄を以て大衆の面前でその罪を裁かれた。



――アフリカ西部海域、海上第二拠点。

――その影響下にあったアフリカの小拠点群は、艦船から引き上げられたデータを元に尽く磨り潰された。

――最大効率の電撃戦、見事な戦術予測を駆使したAEU・MS部隊の強襲を防ぐ手だてなど、彼らはもとより持ち合わせてはいなかった。



――そして南米、山岳第三拠点。

――彼らは集結の後、ガンダムを恐れ部隊を分けること無く動かした。

――それゆえに筒抜けとなった動向は直ちにユニオン軍に伝達。

――彼らを迎えたのは、ガンダムとの遭遇戦を想定した、まさかの最精鋭。

――MSWAD・フラッグファイターであった。



250 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/18(日) 06:02:34.19 ID:Zkz/GkR90

――南米・密林地帯――

 鬱蒼と覆い茂る熱帯雨林の上空、高度を維持しつつ偵察機の示した目標ポイントへと急ぐ。
 天候は絶好のフライト日和。
 当初懸念されていた悪天候にも見舞われず、信心浅い自分でも天啓にうたれた心地になるというものだ。

 偵察機による哨戒網はしばし監視を続け、状況の確定を判断した後出撃命令を下していた。
 電波妨害、確認できず。
 その一報にため息を漏らす自分と、胸をなでおろす己を胸中に見た。


『隊長、目標を確認』

グラハム「こちらでも視認した。予定通りポイント到着と同時に急襲をかける」
 
『制圧はお任せいたします、露払いは我々が!』

グラハム「その旨を良しとする。一気呵成に畳み掛ける、続けよ!」

『『了解!』』


 レーダーに感、サブモニターを拡大する。
 ヘリオン二機、アンフ三機。他車両数台、歩兵数十名。
 縦列で鈍重極まる死の行軍を続けていた。
 目指す場所があるわけでもない遠征、されど眺めたままで済ませる慈悲などもう残ってはいない。
 僚機が指定ポイント到着を告げる。
 作戦行動、開始。

 操縦桿のセーフティロックを解除。
 火器管制システムの正常動作を確認。
 リニアガンのメインチャージ開始。

 大きく、息を吸う。
 吐く間も惜しみ、一気に機体を急降下させた。

 
 拡大モニターの敵が、こちらを見上げたのを確認。
 解除と同時にミサイルのロックをヘリオンに合わせ、僚機と同時に発射した。
 即座に反応したヘリオンが飛び退き、射角の足りぬアンフがもたもたと列を乱し逃げ惑う。
 自身のミサイルは出遅れたヘリオンの上体を吹き飛ばし、僚機のものはアンフを木々より高々吹き飛ばした後、爆発四散させてみせた。

 アンフ自体は北米において輸入鹵獲実験機体以外の軍用登録がされていない希少機体である。
 南米にはユニオン加盟以前から使用されていたものがまだあると聞いていたが、出来の悪い花火が末路では笑い話にもなるまい。
 その劣化フレアの残煙を起点に旋回、機体をMSモードへと変形させた。
 残り、二機。微動だにしないアンフに、動きのマシなヘリオン。
 それと僚機の砲弾に逃げ惑うその他大勢。
 既に制圧用の部隊はこちらに向けて移動している最中。
 余計な手間は省くのが上策。
 そして何より……

 こればかりは、自分の手でケリをつけておきたいことだった。
251 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/18(日) 06:38:00.45 ID:Zkz/GkR90


グラハム「こちらは米軍第一航空戦術飛行隊である」

グラハム「武器を捨てて投降せよ。諸君らの身柄は国際法……」


 ここまで言葉を繋げて、すぐに機体を大きく左に傾けた。
 ヘリオンのリニアライフルが有無を言わさず火を噴き、返答の代替としたからだ。
 アンフの滑空砲が動いたのを確認し、パイロットの生存と機体の稼働を認知する。
 無論、そんなものに当たれるほど寝ぼけた操縦はしていない。
 砲弾を右、左と小刻みに動かし回避してから、通常出力の砲弾で四肢を砕き、無力化する。

 すぐ横の唯一の友軍が沈黙したのを見て、腹が据わったのだろうか。
 ヘリオンは防御ロッドを構えつつソニックナイフを抜き放ち、吶喊を敢行した。
 ジェット噴射と飛び上がりを併用しての陸戦挙動。
 相応の心得を思わせる戦術が、まっすぐ自分の命を狙ってくる。

 突っ切ってきたヘリオンの右腕が、奇声を上げるナイフを胴体めがけ延ばす。
 それを右回りに回転しつつ、プラズマソードの抜刀に合わせて横をすり抜けかわした。
 すれ違いざま、がら空きの腹を焼き切る光線の刃。
 幾ばくかの抵抗を操縦桿で感じ取りながらも、交錯は一瞬。
 Eカーボンを溶断されたヘリオンが二等分され、密林の湿った大地に倒れ伏した。


『お見事です、中尉』

グラハム「改めて思うが、ただの弱い者いじめだな。感慨も湧かん」

『連中には相応しい結末というやつです。市民を狙って上前をはねようなどと!』

グラハム「制圧部隊の到着を待ってから帰投する。周囲の警戒を怠るな」

『現れませんでしたね、ガンダムは』

グラハム「残飯には目もくれぬということだろう。肥えた舌の持ち主ということだ」

グラハム「まあ……おかげで一応の面目は立っただろうが。おっと」


 不穏な動きを見せたトラックの荷台の乗組員に、銃口を向け威嚇。
 飛び上がり両手を挙げた連中の手から対地ロケットが転げ落ちる。
 馬鹿馬鹿しい、と、自然に声を出していた。
 

 この一戦以降、正式にユニオンは声明を発表。
 ラ・イデンラによるテロ行為の沈静化、そしてソレスタル・ビーイングに対する国家としての方針。
 【自国領内での介入行為にのみ防衛行動を取る】という、対決回避の姿勢を見せたのだった。

 何れにせよ、彼らとの対決は遠のくばかり。
 ガンダムと一度も対峙していない対ガンダム部隊、そう揶揄されても何も言い返せない状況は暫く続くといえるだろう。
 しかし、何故だろう。
 こうしている間にも、その時が刻一刻と迫っているような気がしてならなかった。

 まるで、運命に導かれているかのような、赤い糸の手繰る感触を。
 感じずにはいられなかったのだ。


――――


252 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/18(日) 06:48:14.90 ID:Zkz/GkR90
一応対峙だけはしてるけど逃げられてる対ガンダム部隊。
今日はここまで
年内にはアザディスタン入りしたいがどうか……

ではまた
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/18(日) 14:58:59.20 ID:zk5eRor6o
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/25(日) 22:53:13.03 ID:41lxTgKk0
更新待っとるぞ〜
255 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/10(火) 10:53:27.64 ID:r9XeeAwj0
あけましておめでとうございます
年末年始の地獄からようやく人心地ついた頃合い、いかがお過ごしでしょうか。

今週金曜日からまた再開いたしたく思います。
よろしければまた見てやって下さい。
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/10(火) 12:10:36.25 ID:oHw56coUO
あんたのssを待ってたんだよ!
257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/10(火) 12:26:32.34 ID:mbn+pA4G0
待ちわびたぞっ!少年!
258 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/14(土) 05:47:19.61 ID:9HfvohLM0
おはようございます。では再開をば
今更ながらこのSSの設定はフィクションです。本編と合致しない点、創作、多々あります。
適度に突っ込んでいただければ幸いです
259 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/14(土) 05:48:34.87 ID:9HfvohLM0

――――

「――私だ」

『例の件についての調査報告が挙がった』

「! お前たちか……で、どうだった?」

『あぁ、クロだったよ。君の言うとおり、あの【ご老人】は我々の計画の本流へ指先を触れさせつつある』

『言われねば気付けなかったかも知れん。彼の観察眼は触れてすらいない粒子の片鱗に既に届いていると言っていい』

「やはりか……老骨と侮るなと呈し続けた甲斐があったというものだ」

「テラオカノフなんぞとの比肩に終わる器ではない。このまま放置すれば間違いなく核心に触れてくるぞ」

『ふむ……君の彼への見解は実に的確だ、その案は多少の無茶を通しても実行に移す必要があるだろう』

『だが、こちらの手を煩わせずとも、君の距離ならある程度聞き出せたのではないかな?』

「怠惰の恨み節は勘弁被る」

『ッチ……こちらの手札ではヴェーダの情報開示にも制限がある』

『同じ【監視者】なら分かっているはずだが、思慮が及ばないかね?』

「ふん……尚の事分かっているだろう。あの老人は私を警戒こそすれ信用などしておらん」

「下手に嗅ぎ回ってみろ。逆にガードを固められるのがおちというものだ」

『しかし……』

「甘く見るな。あれの眼はかつてのイオリアの腹心、E・A・レイに及ぶだけのものがある」

「鬼札がある以上、それを使って確実に尻尾を掴んでおかねばならん。それだけの相手だということだ」

『…………』

「実働部隊編成における招聘・勧誘の段階で名前が挙がったとき、声を嗄らして反対したのもゆえあってのこと」

『覚えているとも。あの偏執狂(パトリオット)を御せる手綱がない以上は……』

「あぁ」


「我らが唯一の汚点……忌まわしい【島国の鼠】の再来になる、とな」
260 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/14(土) 05:51:37.75 ID:9HfvohLM0

『はは……監視者の全会一致否決決定を食らったただ一人の存在が、ユニオン関係者というのは、誰も彼も……』

「自虐かね」

『そう取ってもらって結構。では、伝えるべきは伝えた』

「うむ」

「人革連の襲撃は」

『退けた。だが大荒れだ』

「鹵獲者が?」

『辛うじて脱出はした、が……【ナドレ】の存在と【キュリオスの対GNフィールド装備】の露呈がね』

「……だから言ったのだ、不完全な改造兵士と身元一切不明の若造に任せるなどと……」

『【彼】を準備できなかった君の言うことかね?』

「あのご老人とも繋がり深い男だ、どだい無理だったのだよ、あれはな」

『今度の彼は、期待できるんだろう?』


「くく……飛ぶことしか能がない獣だ。期待はしておいてくれ。直に飼い慣らすさ」



――――


――MSドック――



ビリー「聞いたかい、グラハム。例の宇宙の一件」

グラハム「あぁ。人革連がソレスタルビーイングへ大規模報復行動に出たという、あれか?」

ビリー「現場には二十機以上のティエレンの残骸とおびただしい数の通信装置が散らばっていたらしい。デブリ回収業者がこぞってゴールドラッシュの再現に走っているそうだよ」

グラハム「なるほど……あの粒子の通信遮断能力を逆手に、大規模広範囲かつ短距離の通信領域を構築」

ビリー「その遮断範囲をもとに彼らの居場所を特定、宇宙型ティエレンにより強襲を仕掛けたと、そういうわけだね」

グラハム「我々の予算では厳しい作戦だな」

ビリー「止めよう、この話……金勘定は心が荒むよ」

グラハム「同感だ、友よ」


『一番機の模擬弾補充まだかー!!』

『撃ってねえっすよ一番機!』

『はぁ?! 模擬戦してたろ!!』

『だぁから撃ってねえっすってば!!』

『???』
261 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/14(土) 05:53:18.08 ID:9HfvohLM0

グラハム「勝利宣言がない以上大失敗に終わったというところか……空恐ろしい、相手があの【宇宙の青鬼】だと言うのにな」

ビリー「フラッグが出来るまで、宇宙戦闘であれと対峙できるMSはどこにも存在しなかったからねえ」ハハハ

グラハム「重量による反応速度や移動範囲の制限が無い宇宙では、機動力の優位性が軽減する」

グラハム「地上でさえ頑強さと攻撃力で並び立つ奴らに、宇宙用ヘリオンやリアルドで対抗できるわけもないのは道理だが……」

ビリー「例の新型リニアライフル、オービットパッケージのフラッグに搭載が決定しているそうだよ」

グラハム「妥当だな。もし宇宙でやりあう場合、あの貫通力がないとフラッグとて打つ手に欠ける」

ビリー「もっとも、宇宙でやりあう想定も少ない現状、そうそう数は増えないだろうけど」

グラハム「荒事を抱えていないというのはいいことだ。フラッグの数が少ないということ、即ちユニオンの治世が二国に勝る言外の証明と言えよう」

ビリー「君らしいお褒めと、素直に受け取っておこうかな」



――日本――


『ワイワイキャッキャッ』

沙慈『……というわけなんだ……』

絹江「ふうーん」

沙慈『……姉さん……?』

絹江「そのまま連れて帰ってもらったら?」

ルイス『お姉さまひどぉい?! アメリカ汲んだりまで応援に行った義妹を見捨てるんですか!?』

沙慈『はい?!』

絹江「だぁれが義妹じゃ!! 第一私が知らないうちに食材は減ってるわお菓子と茶葉が減ってるわ、何かあったとは思ってたけど……!」

絹江「沙慈、お姉ちゃん流石にガールフレンドの母親まで連れ込んでいいとは言ってないからね!」

沙慈『連れ込んでなーいっっ!!』

ルイス『大丈夫! さっき胃袋は掴んでおきました!』グッ

絹江「何が大丈夫!?」

同僚「絹江さ〜ん、出ていきましたよ、連中」

絹江「! すぐ行く!」

絹江「もう……失礼だけはないようにね。粗相も!」

沙慈『……は〜い……』


ピッ


絹江「ふう……」
262 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/14(土) 05:54:36.70 ID:9HfvohLM0

同僚「弟さんっすか?」クチャクチャ

絹江「うん。でも大丈夫、あの子はしっかりしてるから」

同僚「なら結構。これからしょっぴかれても平気っすね」プー

後輩「えぇ!? やっぱりそういう案件なんですかこれ?!」

同僚「そりゃあね、ユニオン安全保障局(NSA)のケツ追っかけて取材でしょ? 連中に目ぇつけられたらどうなるかってねえ」パァン

後輩「ひぇぇ……せ、先輩……今からでもUターンってのは……」

絹江「……車は?」

同僚「ドローンで確認済み。大通りの方曲がってった」パチンッ


絹江「よし――行くわよ!!」


同僚「んむ……うっす」

後輩「全然聞いてねえ……!!」

同僚「諦め給えよ後輩くん、男だろぉ」ポン

同僚「特集ボーナスに釣られた者同士、せいぜいこき使われようではないか、なー」

後輩「国に睨まれてまでやることじゃないですよぉ……」



――――


グラハム「……」ピ

ビリー「! 例のラ・イデンラに関する彼女の記事かい」

グラハム「図らずとも当事者となった者の書く記事だ、反響は大きいが、彼女はあくまで本命を追い続けるつもりのようだ」

ビリー「ソレスタルビーイング……か、200年前のセキュリティではデータの信憑性なんて毛ほども残っちゃいまいだろうに、剛毅なことだね」

グラハム「まだ追う糸口はあるようだ。彼女の眼は先を見据えている」

ビリー「……ふぅん」
263 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/14(土) 05:57:17.65 ID:9HfvohLM0
ビリー「……随分肩入れしているようだね、君も」

グラハム「どうした、少し呼吸が乱れたぞ」ピピ

ビリー「いや、なんでも。ただ僕と君の会話で空とガンダムが介在しないのは彼女くらいのものだからね」

グラハム「ガンダムは関わっているぞ」ピッ

ビリー「そういうことじゃあ……あぁ、うん、いいよ。僕のほうが纏まらないようだ」

グラハム「改めて纏まったら聞かせてくれ、戦友に対する盟友の見解を、私も所望する」

ビリー「戦友……ね」

ビリー(はてさて……【障害】にならなければいいけれど)


グラハム「……」

「【英雄無き町】……か」



 《私が発見した前述の二児をかばっていたA氏の奥方、彼女は私が止める間もなく安楽椅子から立ち上がり、両の手を握って、微笑んだ》

 《私のダーリンは格好良かったでしょう、と。あの人は私のヒーローだったの、と。》

 《感謝の言葉とともに重ねられた思い出の端々は、掠れて、震えていたように思える》



ルイス母「A氏はメディア、ネット、内外で身を呈し子供らを救った英雄と称えられている」

ルイス母「だが……彼女の言葉から思い起こされるA氏の人物像は、おおよそテロから児童を救ったヒーローには程遠い」

沙慈「……」

ルイス母「昼は友人とカフェでチェスをたしなみ、夜は彼女の焼くパイと珈琲を読書のともに」

ルイス母「過ぎゆく時に微睡む、一人の老人の等身大の生活そのものだった」

ルイス母「毎晩、うたた寝に沈む彼の膝に毛布をかけるのは孫の日課だったそうだ」

ルイス母「軍人でもない、ましてや若い頃も文筆業で本の虫だった彼に戦うすべはなかった」

ルイス母「そんな彼を【英雄】に変え葬ったのは、誰か」


ルイス母「そんなものは、本当に彼とその家族にとって必要な肩書であっただろうか……」


沙慈「……」

ルイス母「大変だったわね、お姉さんも、あなたも」

沙慈「ありがとう、ございます」

ルイス母「もう少し、ここで読ませてもらってもよろしいかしら」

沙慈「願っても、ないことです」

ルイス母「……ありがとう」


ルイス(私の端末……)
264 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/14(土) 05:59:03.56 ID:9HfvohLM0
 《ガンダムが取りだたされ、世界の目は新たな楔に向いている》

 《だが、あのようなものを生み出したのは我々が目を瞑り続けた醜悪であり、聴くことを避けてきた悪辣な悲鳴そのものである》

 《戦うべきはそれらである、と私は考えている。国際テロネットワーク、弱者の生命のビジネス循環という三百年間の汚点こそ、我らの対峙すべき悪であるはずだ》

 《ある人は囁く。ガンダムが、ソレスタルビーイングがそれを為すならば、その存在意義はあるのかも知れないと》

 《ならば私はこう叫ぼう。とんでもない、それを成すのは我々であるべきだ。繋がり、語り合い、助け合っていくべき我々が為していくことだ、と》


 《この世界に英雄は要らない。怠惰の犠牲、悪意の贄を許容し続ければ、次の百年をまた無為に重ねるだけに終わるだけだ》


グラハム「…………」ピッ


「やってくれたのう、彼女も」


グラハム「……」ニコッ

エイフマン「……」ニヤッ


エイフマン「彼女は【ソレスタルビーイングを受け入れつつ否定】しておる」

エイフマン「彼らがなそうとする目的に添いつつも、その存在自体は赦しておらん」

エイフマン「ゆえに彼らの活動を【世界の怠惰の犠牲】と称した……なるほど、らしいのう」


グラハム「彼らの存在意義を断ってしまえば、ソレスタルビーイングの存在自体が不要になる」

グラハム「確かに、テロリストを追っていたほうが勝ち目がない怪物相手に槍を向けるよりは有用でしょう。ガンダムは、民間人を攻撃しないのですから」

エイフマン「今回ユニオンとAEUの示した領域外不干渉宣言に関してはこれに近しい部分もある……が」

グラハム「これはそれ以上の狂気……日本人らしい発想だ」パシンッ

エイフマン「あぁ」


グラハム「彼女は、【国境を無くせ】と言っているのです」
265 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/14(土) 06:07:17.50 ID:9HfvohLM0
 エイフマン「くっくっ……今回ソレスタルビーイングが上手くハマッていたのは、国境という境界と情報の軋轢の影響を受けない立ち位置に寄るもの」

グラハム「それすらも否定するのであれば、何としてでも避けねばならないのはこのままソレスタルビーイングが例外の機構として収まってしまうことであるが」

エイフマン「その枠を埋め、かつ彼ら無くして解決し得なかった問題を解決し続けるためには、垣根をなくし情報伝達をスムーズにすること。単純な話よな」

エイフマン「この歴史の大事件を利用しろと言外に言っておるわ、この娘は」

グラハム「紛争根絶は不可能でも、その努力をする枠組みに彼らを据えてはならない」

グラハム「その役割を今までになってきたもの達が変わらず、英雄ではなく兵士として取り組むべきと、そう述べているように感じます」

エイフマン「そういう、お前さんはどうなんじゃ」

グラハム「私、ですか?」

エイフマン「とぼけるでない、彼女の忌避する英雄そのものじゃろう、お前さんは」

エイフマン「誰も到達し得ない領域で、未知の境界にひたすら挑み続けるその様を、古来より人は英雄と称えた」

エイフマン「誰も助けられぬ果で朽ちる定めを嘲笑いもして、な」

グラハム「……私は、己が市民らに尊敬されうる人格と考えてはおりません」

グラハム「仮に誰も届かぬ空で死ぬのであれば、それは本望というものでしょう。望むべくして辿った末路です」

エイフマン「……絹江嬢には言うなよ、結果が見えておる」

グラハム「ええ……口が避けようとも口外は出来ません」


グラハム「……国境、といえば」

エイフマン「ん?」

グラハム「かつて、国家が統合され経済特区に変わってしまう兆しの折、日本人はそれを大した混乱もなく受け入れたとされます」

グラハム「結果、流入する文化の蹂躙の尽くをねじ伏せ、むしろユニオン領内に広く自文化を拡散してさえ見せた」

グラハム「驚異的なメンタルと努力です。彼らは国家を無くした代わりに、文化共有圏を国土の数十倍に拡げてみせたのですから」

エイフマン「知っとるか? タコヤキはテキサス固有のフードではなく、元々日本の文化なのだそうだ」

グラハム「……それは、初耳です……本当ですか?」

エイフマン「マジマジ、本当と書いてマジじゃ」

エイフマン「ふふ、彼女の精神性にその片鱗を見出すか?」

グラハム「……日本人は学んでいたのかもしれません。【文化と国家は同一ではなく、合一されるものでもない】と」

グラハム「故に彼女のように、それを忌避することこそ怠惰の悪習とさえ言い切ってしまうのやも」

エイフマン「一愛国者としては耳が痛い……ユニオン結成に於いても、国家を守り中心に据えたアメリカ合衆国民としては、容易くは学べんメンタルじゃ」


エイフマン「くふふ……全く、よく似たもんじゃ……」

グラハム「え?」

エイフマン「んっん、失言じゃ。忘れろい」

グラハム「……?」
266 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/14(土) 06:20:04.90 ID:9HfvohLM0
エイフマン「まあ早急にはいかんだろうが、ほれ」

グラハム「む」

グラハム「……っ?!」

エイフマン「大統領直々のお呼び出しでな。明後日からしばらく人革含めて密談タイムじゃ」

グラハム「高度な政治判断にプロフェッサーの叡智が活用されると?」

エイフマン「まさか。あの戦車擬人化フェチの変態(テラオカノフ)と意見を交わす程度じゃよ」

グラハム「ふふ……お二人は相変わらずの仲のようで」

エイフマン「ワシのことを年寄りの冷や水扱いしてきおったら、リニアライフルを叩き込んでやってくれ」

グラハム「そうなったら、ロシアの荒熊との一騎打ちでしょうかね」



エイフマン「ドリームマッチは結構じゃが……【勝てるのか】?」ニヤリ

グラハム「【今ならば勝機あり】、そうお答え致しましょう」ニコリ


――――

絹江「……ありがとうございました」


パタン


同僚「んー……手がかり、なんすかね、これ」

絹江「手がかりも手がかり、重要な足取りよ」

絹江「二百年前、この松原氏の曽祖父は材料工学の権威だった」

絹江「その権威が何の前触れもなく、身辺を整理し蒸発」

絹江「これを彼らNSAが追っているのであれば間違いない」

絹江「ソレスタルビーイングは、当時の事実を辿ることでのみ真実に近づける――!」


同僚「それから、どうするんです?」

絹江「え?」

同僚「いや、ね……連中が本当にしたいこと、そしてその欺瞞を暴きたいってことは分かるんですけどね」

同僚「今、何が起きているかってとこに重点がないと、軽いんじゃないかっていうんですかね……例の記事も、簡単に言っちまうなあって、思っていたりなかったり」

絹江「……貴女のそういうとこ好きよ。忌憚ない意見ってやつ?」

同僚「どーも」

同僚「これで、特集番組は組めそうで?」

絹江「お陰様で。まだまだ裏付けは必要だけれどね」

同僚「じゃー前夜祭で焼肉行きましょ焼肉。最後のシャバの飯になるかもだし」

後輩「最後?! 最後ナンデ!?」


絹江「……今の目が足らない、か……」
267 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/14(土) 06:21:03.86 ID:9HfvohLM0
ここまで
また来週
ようやくアザディスタン
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/14(土) 08:55:58.21 ID:e3UkeF3O0
超乙

たこ焼きがテキサスのソウルフードになってるとか、ちょっとあり得そうだなw
テキサスコーンのタコヤキ味しか知らないけど
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/15(日) 01:16:26.11 ID:nNE2UGnXo
なんかグダグダになってきたな
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/16(月) 10:35:27.35 ID:kzfR4E0S0
テキサスでタコヤキってタコスと混じった結果か?
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/17(火) 18:56:11.01 ID:1wyRuMJPO
タコってついてるし似たようなもんだなきっと
272 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/21(土) 09:29:37.32 ID:xXnfJEIM0


――――


 時計を、眺めていた。
 長い、長い、長針の傾きの度にため息を漏らす。
 何時間にも思える一分を積み上げて、日は昇り、傾き、朱に染まり――夜が訪れる。


「……行こうか」


 予定時刻にはまだ早く、長針の半周を待つ必要があった。
 だが、自分は我慢弱い。
 猶予という名の焦りに背を押されるまま、部屋を後にする。

 休暇を空の下で過ごす、中々にない経験だ。
 堪能させてもらおう。我が戦友よ。


――――


絹江「…………」

グラハム「…………」


絹江「……なんでもういるのよ……」ガクッ

グラハム「それはこちらの台詞だ、予定集合時間より45分も早い」

絹江「そりゃあ移動手段とかタイミングとか……まぁ、楽しみだったし、色々よ。色々」

グラハム「それは良かった。少なくとも両者ともにこの時間には意欲的らしい」

絹江「そういうことね。じゃあ、エスコートはお任せしても?」スッ

グラハム「承った、姫君。かぼちゃの馬車は裏に停めてあります、どうぞこちらへ」スッ

絹江「ふふ……よしなに」


 ・
 ・
 ・
 ・

 
273 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/21(土) 09:53:38.26 ID:xXnfJEIM0


――ユニオン領内・某ホテルBAR――


絹江「…………」キョロキョロ

グラハム「予約していた者だ」

バーテンダー「照合が完了いたしました。いらっしゃいませ、Mr.エーカー」

グラハム「行こうか。窓際の席になる、高所が苦手でなければいいが」


絹江「予想はしてたけど……ほんっと全力ね……貴方」ハァ

グラハム「こういうところは得意ではなかったかな?」

絹江「いいえ、でも格好だけまともにしてきて良かったわ」

絹江「……今回は、ちゃんと自分の分は支払うからね?」

グラハム「結構。それも想定済みだ」

絹江「あら意外、すんなり引き下がったわね」

グラハム「金だけで矜持を示すほど、薄い男になったつもりはないさ」


グラハム「では、いい夜にしよう」

絹江「乾杯」


 ・ 
 ・
 ・

グラハム「例の記事を読んだ」

絹江「どうだった?」

グラハム「あの後、彼の家族に会っていたというのは初耳だった」

絹江「男性のご家族に問い合わせて、二人の子供の家族と会ってもらってた合間に、少しね」

絹江「二人を救えたのは彼の献身あってのこと、それを知ってほしかっただけだったんだけど」

絹江「付け込んだインタビューって、言われたりもしてね。要反省よね、こればっかは」

グラハム「君は正しいことをした、そう確信できる内容だった」

絹江「……ありがとう、グラハム」
274 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/21(土) 10:26:38.98 ID:xXnfJEIM0

グラハム「……教授から」

絹江「ん?」

グラハム「プロフェッサー・エイフマンから、指摘を受けた」

グラハム「君の記事にある英雄不要論だが……私自身、その英雄の条件に合致しているのではないか、という指摘だ」

絹江「……」

グラハム「私は、この指摘が正鵠を射ていると思っている。少なくとも、君が意図したものに対して、だがね」

絹江「……流石は教授ね、見透かされているってわけか……」

グラハム「私自身は疑問視している」

絹江「そうね、世界のためにその身を捧げる存在……英雄をそう定義するなら、軍人をその枠にあてがうのは正しいとは言い難くもある」

グラハム「そうだな、あくまで身命を担保に給金を得る存在、そのような者も多く、私も……」

絹江「あなた達軍人は軍事力として平和と治安維持に貢献するもの」

絹江「故に法と秩序を護るものであり、かつそれらに護られるものでもある。捧げられるものではなく、そうあるべきものでもない。それが大きな違いよ」

グラハム「……興味深い答えだ」


絹江「まあ、そういった条件を無視しても……かねがねご指摘通りってところかしらね、ヒーローさん?」チン

グラハム「過大評価だ、私は自分の欲求に殉じて飛んでいる。高尚な理念も持ち合わせず、人間的な魅力にも欠落した異常者だ」チン

絹江「そういうところが、英雄らしいと言えばらしいのよね?」

グラハム「ふ、玩具を振り回して遊ぶ幼児と同格の精神構造のこの私がかね?」

絹江「でも、貴方は言ったわ。それでも、誰かを護るために、相手が何であってもその前に立つって」

グラハム「!」

絹江「貴方の言葉だからこそ信頼できるのよ。嘘が下手な、貴方だからこそ……ね」

グラハム「ッ……」グイッ

グラハム「ふぅ……褒め上戸のようだな、君は。酔いが回っていると見える」

絹江「あら、まだ駆けつけ三杯にも及ばないわ」クスクス
275 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/21(土) 11:10:23.20 ID:xXnfJEIM0

絹江「……聞いたわ。人革連とユニオンの上層部が秘密裏に会合を重ねているとか」

グラハム「秘密裏とは何だったか、という気分だな」

グラハム「情報においては君のほうが精度は上だろう。間違いはあるまい」

絹江「むー……なんか知ってるわね、その口ぶり」

グラハム「仮に認知していても守秘義務がある、我が口は貝の如しだ」

絹江「知る権利!」

グラハム「ははは、部外者に口を滑らせる馬鹿はユニオンにはおらん」

絹江「だいぶブーメラン投げてない? それ」

グラハム「あぁ、既に手遅れという奴だ。だが、正確な情報はこちらにも降りては来ていない」

グラハム「仮に共同戦線ともなればこれ以上無い心強さだが……なにせ我らは自国領内以外での武力介入には介入しないと宣言してしまっている」

絹江「やるからには、相応の搦手が必要……か」


絹江「……」

グラハム「何を考えているかは分かる。肝心要の搦手がどうなるか、だろう」

絹江「可能性として一番考えられるのは、ユニオン側が他国の治安維持に乗り出すパターンね」

グラハム「世界の警察機構を自認し、国連軍とも関係深いユニオンであるからこその手段だな」

絹江「分かっているつもりなのよ、そういうの……ありきたりなものだってね」

絹江「でも……それは対象国の内情を考慮されて行われるわけじゃあない」

グラハム「熟知している」

絹江「貴方は……どう思うの?」

グラハム「……私の存在意義は、ガンダムの打倒と機体の回収にある」

グラハム「舞台を整える力もない以上、与えられた環境に異を唱えることは単なる自己否定以上の矛盾だろう」

絹江「でも……!」

グラハム「絹江」

グラハム「私は、軍人だ。命令には従う、それだけだ」
276 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/21(土) 11:38:46.19 ID:xXnfJEIM0
絹江「っ……」グイ

グラハム「……」コク

絹江「……」チリンチリン

バーテンダー「お伺いいたします」

絹江「ギムレットを」

グラハム「私はマティーニを頼む」

バーテンダー「かしこまりました」


絹江「はぁ……そうね、そう……軍人だもの、貴方は」

グラハム「現実は虚構のようには行かないものさ」

絹江「その現実を知らない以上何も言えやしない、ええ、そうなのかもね……」

絹江「でもね、グラハム……私は……貴方に、自分を誇れないような戦場に立ってほしくないのよ」

絹江「素晴らしい人だって知っているし、それに……」


絹江「……それに……私は……」


グラハム「そこまでだ。これ以上は杯にばかり手が伸びてしまう」

グラハム「なに、私は十分すぎるほど報われている。このような落伍者を気にかけてくれる友人にも恵まれた」

グラハム「こうしているだけで、いいのだ。飛ばぬときにも安らげる、それだけで、いい――」

277 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/21(土) 12:27:37.75 ID:xXnfJEIM0

絹江「ッ……駄目ね、私。世間知らずってのがバレバレ」

グラハム「過ぎた謙遜だ。見知った世界の広さなら、同年でも君に並びうる者はそうはおるまい」

絹江「うん、言い換える。きっと、もっと知りたいんだわ、私」

絹江「もっと知りたい……もっと見たい……もっと解りたい。だから、焦ってる」コク

グラハム「は……その様子だと何か言われたか。構うことはないよ、君はまだ若く、学ぼうという意欲も総身に滾って余りある」

グラハム「足元を疎かにして駆けずり回っても、ひとたび転げ回れば全て台無し。よくある話だろう」

絹江「……」コク

グラハム「一歩一歩、踏みしめていくべきだ。ただでさえ君の歩幅は常人の倍はあろうというのに」

絹江「……」コク


グラハム「せっかくの視野と見地まで投げ捨てて……?」


絹江「……」コク


グラハム「……絹江」

絹江「……」

グラハム「それは私のマティーニだ」

絹江「……」

グラハム「…………」


絹江「  」グラァ


 ・
 ・
 ・
 ・

グラハム「君といると、本当に飽きることがない」

絹江「……ごめんなざい……」グター

グラハム「気にするな、皮肉だ」
278 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/21(土) 12:55:22.46 ID:xXnfJEIM0
――車内(グラハムのマイカー)――


グラハム「飲み方は、手慣れていると感じた」

絹江「……」

グラハム「だから、君は飲めるものだと考えた。いける口だとね」

グラハム「私も飲むときはそこそこに飲む質だ、だから……勢いもそのままに来てしまったんだが」

グラハム「いや、言い訳はいい……済まなかった。付き合わせてしまったのだな、君には……」

絹江「あなたに、ね」

グラハム「!」

絹江「電話で話してて、このお誘い受けた時、正直、舞い上がったの」

絹江「こういう経験、あんまりないから。貴方と行くところって普段行かないようなところばかりだし、それもコミコミ」

グラハム「……そうか」

絹江「でもね、いざ行こうかってなった時、何でかしらね……足がすくんじゃって」

絹江「……うん、先に、煽ってきてたの。それなりに」

グラハム「……何だ、それは……」ハハッ

絹江「気づかなかったでしょ……貴方は、一歩引いて接してくれるから」

絹江「香水強めにしなくても大丈夫って思ってたら、足元を掬われたわ……ほんと、馬鹿な話ね」

グラハム「なに、気にするな。それなりに長くいた、話もした。楽しい夜だった……気分は?」

絹江「だいじょうぶ・・・」

グラハム「休んでいてくれ、宿泊先に着いたら起こすさ」

絹江「ん……」


(まあ……)

(言いかけた言葉に……何を言いそうになってたかってことに……)

(自分で動揺して、こうなったとは、言えないわよね…………)


 ・
 ・
 ・

279 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/21(土) 13:11:33.86 ID:xXnfJEIM0
――翌日・早朝――


絹江「…………」





絹江「どこ、此処?」



――マンション・グラハム宅です――


絹江「それはどうも……」

絹江「……」


絹江「……ええ……?」




280 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/21(土) 13:30:11.72 ID:xXnfJEIM0
――――

同僚「ここんとこ、もうちょいわかりやすく行けないかな……表現硬いよね」

後輩「やってみます!」


PPPP


同僚「おっ……はいはい、私ですよっと」

同僚「あぁ……ええ、やっておきましたよ。いつも通りに、滞りなく」

同僚「えぇ、またタダ働き? 休暇もなくこんなこと……へいへい了解」

同僚「……は、んなわけ無いでしょう。一番知ってるくせに」


P

同僚「ったく……絹江サンはうちらに任せてどこで何やってんだか」

後輩「例の失踪者、ユニオン西海岸で一番新しい人がいるんですってよ」

同僚「口実でいちゃついてんじゃねえだろうね全く」

後輩「あっはっは、まっさかー」


――――


「おう、お前ら。準備しろ、移動を再開する」

「了解」

「ジジイはどうだ?」

「相変わらずですね、荷物の一部です。ピクリともしねえ」

「ほっときゃいいさ。肝心なのはこっからだ」

「向こうの諜報役にも指示は出しといた、内情は筒抜けだ」



サーシェス「さあ、掻き回してやるぜアザディスタン……誰も彼も死に腐る、泥沼の内戦までなぁ!!」
281 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/21(土) 13:32:11.88 ID:xXnfJEIM0
ここまで
アザディスタンまでいってない?なんのことだか
次は日曜日〜月曜日に一回。次金曜日。
ではまた
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/21(土) 14:41:11.55 ID:iBSk43y30
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/22(日) 07:49:05.99 ID:muF8UBlE0
カボチャの馬車って言い回しすこ
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/27(金) 19:59:30.74 ID:5KMFN7fGO
12時に魔法が解けて酔い潰れてしまったんやな
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/29(日) 10:09:38.56 ID:++HKK52Ao

ハムさん飲酒運転って思ったけど、アメリカは飲酒運転も問題ないか
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/31(火) 10:05:05.67 ID:PCBtRqAP0
子ブッシュは飲酒運転で切符切られた経験あるとマジレス
たぶん自動運転なんだろ
287 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/02/18(土) 01:17:28.96 ID:zSFv4luf0
済まない、罵倒してください
では続きを
288 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/02/18(土) 01:26:54.85 ID:zSFv4luf0
――――

絹江「……」

絹江(殺風景な部屋、ベッドとクローゼット、時計に鏡、目立つ小物は殆ど無し)

絹江(時間はお昼前……すごいな私、半日近く爆睡してたってわけ)

絹江(……えーーーっと)ポリポリ

絹江(ここがどこかなんて、考えられるとすれば一つだけだけど……)


絹江「……」ササッ

絹江(よし、はいてる。上着だけ、脱いでる。あ、壁に掛かってた)

絹江(まー、なんかあったとかって感じじゃないし、あの人に限ってそういうのは有り得ない訳だけど)

絹江「……なんでまた……??」

絹江「!」

絹江(……大きいベッド……きれいなシーツ)シュル

絹江「……いつもここで寝てるのかな……」


絹江「……」クン

絹江「…………」クンクン


ガチャッ


ビリー「……あれ?」

絹江「」マンマル

『どうだ、カタギリ』

ビリー「ん〜、まだ寝ているみたいだ。物音がしたかと思ったんだけれどね」

『疲労が溜まっているのだろう、そっとしておいてやってくれ』

ビリー「そうしよう、レディの寝所を覗いた不届きを自ら晒すほど僕も命知らずじゃない」


パタン


絹江(いるんならノックして……っ!!!!)


『さて、何処まで話したんだっけ』

『我が不貞の濡れ衣を晴らす途中だったと記憶しているが』

『あぁ、OK』

絹江「……」
289 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/02/18(土) 02:27:25.99 ID:zSFv4luf0
――――

ビリー「昨晩、酒気を漂わせた君から救難連絡を受けたときは何ごとかと思ったけど」

ビリー「叔父さんも空気の読めないお人だよ、君の逢瀬の最中に呼び出しとはねぇ」

グラハム「タイミングとしては最悪だった。自動運転では法定速度以上を出さない上に、彼女のホテルは基地と正反対」コポポ

グラハム「将官殿を一時間以上待たせる度胸は私も持ち合わせていない、故の援軍、感謝するよカタギリ」カタン

ビリー「なんのこれしき、君と僕の仲だろう、盟友?」ズズ

ビリー「うーん、良いブレンドだ。相変わらずあの喫茶から買い付けているのかい、グラハム?」

グラハム「休暇中くらい真の珈琲を飲まねば、基地で頂く融かした暗黒物質をそれであると脳が誤認しかねん」

ビリー「同感だ。これが貰えただけ一晩アシを務めた甲斐があったというもんだよ」コク


――――

絹江「……」コソコソ

絹江(そういうことか……確かに夜間市街地でも30マイル出ないもんね、あれ)


『しかし、君に付き合えるとはね。想定外の酒豪のようじゃないか、クロスロード嬢は』

『お前が言うか? その顔で毎回平然としているのだからな、全く』

『いや、はっは。正直ね、君がぐったりしている彼女を抱いて車から出てきたときは、【シット、この野郎やりやがったな】って中指立てたもんだけど』

『正直も過ぎると友情破綻のきっかけになるぞ、カタギリ』

『杞憂で良かったよ、そういう輩は教授の逆鱗のお隣さんだからねえ』

『私も鉄面皮ではない。あのまま基地に向かうことの危険性と無人さは理解しているつもりだ』

『ほう?』

『ほう、じゃない。後部座席に寝かせた紅頬の絹江嬢を見られて、弁解だけでどうにか出来るはずがあるまい?』

絹江(一応そういう体面気にするだけの常識は持ち合わせてたか……)

『一応そういう体面気にするだけの常識は持ち合わせてたか……』

『思考が完全に射出されているぞ、カタギリ』


絹江(でも、深夜にホーマー・カタギリほどの大物が彼を呼び出すって……?)

――――

ビリー「それで、いよいよだけれど、どうするんだい? グラハム」

グラハム「どうもこうもあるまい。軍人である以上、職務と命令に殉じるのみ」

ビリー「その割には、司令に随分突っかかっていたみたいだけれど……」

グラハム「考慮すべき点を予め確認していたに過ぎんよ」

ビリー「そう、そこだ」

グラハム「?」

ビリー「君はいい意味で人の話を聞かない男だ。【予測不可能な事態に対処する】、その二言なしの思念に基づき無用な心配は聞く耳さえ持たない」

ビリー「その君が、作戦概要なんて【想定通りのことに固執した】から、叔父さんは怪訝な顔をしたんだよ」

グラハム「…………」

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